腐っても剣聖 ~勇者パーティを首になった剣聖はダラダラと自由気ままに暮らします~

腐った剣聖追放される

「ソード、お前は今日限りでこのパーティー銀嶺の翼を抜けて貰う」

村から出て野営中に勇者であり、このパーティーのリーダーである、セトからそう言われた。

一瞬、頭の中が白くなったが、僕ちゃんは持ち前の気力で持ち直した。

「何で、僕ちゃんが首になるのかな? 可笑しいよ?」

「俺たち「銀嶺の翼」は只のパーティーじゃない、勇者パーティーなんだ!解っているよな? 勇者、聖女、賢者そして不本意ながらお前、剣聖からなるパーティーなんだぞ?」

「そんなの僕ちゃんは解っているさ..選ばれた者の集まりなんだ」

「そうだ、だがお前は何をした?」

「僕ちゃん、何かしたの?」

「お前、村を救った対価にお金を貰っただろう? そればかりかまだ幼い子に体を求めたそうだな!身に覚えはあるだろう?」

そうだね..確かに僕ちゃんは貰った。女の子も抱いた。

だけど、悪い事じゃないと思うんだけど。

「貰ったし、確かに若い子を抱いたけど、悪い事じゃないよ! だって僕ちゃんは選ばれた人間なんだから!」

「お前!駄目だ此奴はゴミだ!」

「ゴミは可笑しいよ! 僕ちゃんはしっかり戦ったじゃないか!」

僕ちゃんは剣聖だから何時だって一番最初に斬り込んでいたし、この間だってしっかりと守った。

「貴方みたいな女の敵に守られたくはありません! それに私だって自分の身位は守れます!」

聖女ルシオラちゃん..僕ちゃん君が危ない目にあわない様にいつも盾になっていたよ。

炎だって何回も代わりに浴びて怪我したこともあったよ..

「僕ちゃんは、ルシオラちゃんを」

「その、僕ちゃんて話し方気持ち悪いわ、しかも戦った対価に体を求めるなんて…最低です、見たくもありません」

「ユシーラちゃんも何とか言って」

「ソードキモい、女の敵は死ぬべき」

「ユシーラちゃんも僕は要らないの?」

賢者のユシーラちゃん..僕は何回も君の詠唱時間稼ぐために危ない目にあったのに..

「…要らない」

「そう、皆僕ちゃんの事は要らないんだね..いいよ出て行く」

「待て、お金と装備は全部置いていけ」

「せめて剣位は..」

「その魔剣グラッドもパーティーで手に入れたんだ、置いていくのが当たり前だろう?」

「そうよ、図々しい何で持って行けると思っているの?」

「置いていくのが当たり前」

こうして僕ちゃんは独りぼっちになった。

僕ちゃんの言い分

僕ちゃんがお金を貰うのにはちゃんとした理由があるんだよ?

それは僕ちゃんだけ他の三人よりお金が無いからだ。

だって、さぁ

勇者は国が後ろ盾になるからお金が使い放題。

勇者保護法とかあってお金は使い放題、更にセトの実家は貴族だから「勇者」になったセトには幾らでも支援するんだ。

聖女には教会が後ろ盾になっているんだ、聖なるが売りだから、贅沢は出来ないけど、困らない金額が何時も支援される。

教会が行く先々で困った事が起きると、支援してくれるから全然お金に困らない、教会から良く金貨入りの袋を貰っている。

賢者は魔道研究所やアカデミーが支援しているから研究と言う名目でお金が使い放題。

毎月決まった金額が入ってきている。

それに比べて僕ちゃんは孤児だったから支援してくれる人は無い。

国から、僅かなお金が貰えるだけなんだよ。

しかも、このパーティー、貴重な素材が手に入っても「王が必要だから」「教会で必要なの」「アカデミーで要請が入っています」なんて言ってお金に変えないで送ってしまうんだよ。

だから、素材のお金は僕ちゃんには入って来ない。

勇者の使っている聖剣は手入れしなくても自動修復がついているし、聖女や賢者の杖は手入れが基本要らない。

だけど、僕ちゃんの使う剣は手入れも必要でお金が掛かるんだ。

簡単に言うと「剣聖」の僕ちゃんだけお金が無いのに支出が凄く多い。

他の三人の様にお金なんて要らないとは言えない。

この間の村のオークの巣の討伐だって、僕ちゃんが無理やりお金をとった訳じゃないよ。

余りにお金を持ってない僕ちゃんが不憫だから村長が「これを使ってくだされ」と銀貨2枚くれただけなんだよ?

一応、僕ちゃんも断ったよ?だけど、「どう見ても剣聖様の方がお金にお困りですから」と渡されたんだ。

「幼い子に体を求めた」だって誤解なんだよ。

あの子はああ見えて16歳で未亡人なんだ。

(注意:この世界では15歳で成人です)

セトは良いよね、聖女も賢者も恋人だから毎晩の様に部屋でアンアンギシギシやっているし。

この旅を初めてもう3年、毎日の様にそれを聞かされている僕ちゃんはどうすれば良いんだよ。

村で泊っている時にいつもの様にやりだしたから、外に出たんだよ。

そうしたら、「剣聖様、いつも1人でお辛そうですね」と彼女が声を掛けてくれたんだ。

生まれて初めて女の子を抱いた。

だけど、何だか悪い事したのかな? そう思って聞いたんだ。

「僕ちゃん、みたいな男の相手なんて嫌じゃ無かったの?」

「うふふ、嫌だったら誘いませんよ? それに剣聖様って話し方は変ですけど、お綺麗ですよ! 綺麗な銀髪に女性みたいに白い肌、本当に帝都の役者さんみたいです..寧ろ私みたいな田舎娘で未亡人が相手では勿体ない位です」

「そんな事ありません、君は凄く可愛いと思うよ!」

「本当に? だったら夜は永いですから朝まで一緒にね!」

生まれて初めて女の子と経験した。

何回か体をを重ねた後、聞いたんだ。

「僕ちゃんが剣聖だから相手してくれたの?」

「ソード様位お綺麗な方なら村人でも関係ありませんよ..だけど剣聖様だからという下心もありますね」

「どうして?」

「だって、剣聖様との間に子供が生まれたら必ず剣術系のジョブがつくんですよ、そんな子供、女だったら欲しいに決まっていますよ」

話を聞くと勇者、聖女、賢者の三大ジョブは「魔王討伐の為のジョブ」だから子供には引き継がれない。

だけど、剣聖は「常時ジョブ」だからかなりの確実で生まれた子に剣術系のジョブがつくのだそう。

「それなら良かった」

「全く、魔王討伐の旅をしていないなら、夫になって貰いたい位です!もう少し剣聖様は自分の魅力に気が付くべきですよ!」

「ありがとう、本当にありがとう」

「嬉しいのは私の方です..それじゃもう少し頑張りますか?」

気が付くと朝になっていた。

「魔王討伐が終わったらもう一度ここに来ても良い?」

「剣聖様が覚えていてくれたら寄って下さい、これからも過酷な旅を続けるんですから忘れても文句言いませんわ、うふふふっ」

もし子供が出来ていて彼女が一人だったら僕ちゃん、結婚を申し込んでも良いかも知れない。

魔王討伐で死ぬかもしれないから「待って」とは言えないけどね。

これが何で僕ちゃんが悪い事になるんだろう。

話し方が気持ち悪いって言われても。

僕ちゃんは孤児だったんだ。

育ててくれたシスターが敬虔な人で「俺」って言うと「ソード君が不良になった」って騒ぐから「僕ちゃん」を辞めれなかった。

まぁ今でも「ソード君可愛い」って連呼する人だし、育てて貰った恩があるから「俺」って言えなくなっちゃったんだよ。

勇者であるセトより弱いのは仕方ないと僕ちゃんは思うよ?

聖剣に守られているんだから、木刀勝負なら僕ちゃん負けた事は無いよね?

いつも僕ちゃん、ルシオラちゃんもユシーラちゃんも守ってあげたよね?

回復魔法も、防御魔法も最低限しか掛けて貰えなくても..何時も傷だらけになってさぁ。

セトにはすぐに魔法を使うのに僕ちゃんは薬草でいつも賄っていたよね。

それでも、駄目だったのかな。

魔剣グラッドだって僕ちゃんが1回だけ貰った物じゃないか。

3年間旅をしてたった1回貰っただけの物..それすら僕ちゃんから取り上げるんだ。

もう良いや..三人に何を言っても無駄だよね..

どうせ僕ちゃん、要らない子なんだよね..

「お世話になりました..さようなら」

三人から返事も無かった..そのまま、僕ちゃんは立ち去った。

僕ちゃん 盗賊を倒して商人を助ける
これからどうしようか?

ルビナスさんの居る村には帰りにくいよ。

だって、泣きながら見送ってくれたんだからさぁ。

僕ちゃんを解雇するなら、村で解雇してくれれば良かったのに、そうしたらそのまま居たのに。

そう考えたら凄く意地が悪いよ。

しかも僕ちゃん一文無しだし、村長がくれた銀貨2枚も持っていかれちゃったからさぁ。

今思えば、誤魔化せば良かったのに。

正直者は損をする世の中って僕ちゃん的には良くないと思うな。

結局、僕ちゃんが思いついたのは、村ではなく街まで戻る。

そうする事にした。

食料も水もお金も無いけど..どうにかなるよね..僕ちゃん剣聖なんだから。

「はぁはぁ、ゼイゼイ..」

何とかなる訳が無かった、僕ちゃん最初から解っていたよ!

だけど、そう思わなくちゃやってられないからね。

山道をひたすらとぼとぼ歩いていると助けを呼ぶ声がしてきた。

「誰か助けて、助けて下さい!」

僕ちゃんは急いで駆け付けた。

様子を見て見ると行商人の家族が盗賊みたいな奴らに襲われている。

周りを見ると冒険者に警護をお願いしたらしいがもう全員倒されて伸びている。

「こんな山道誰も助けになんて来るわけねぇだろうが!」

「馬鹿じゃねぇか無駄だ」

盗賊らしい男達は15人、行商人は親子だろうか?

男1人に女1人..そして子供が1人。

「私はどうなっても構いません、妻と子供だけは助けて下さい!」

「子供だけ子供だけは助けて下さい」

「馬鹿じゃないか? 女子供が高く売れるんだぜ! 見逃がす訳ないだろうが」

「そんな」

良し助けに入ろう。

「辞めろ、今なら見逃してやる! とっとと失せろ!」

これで決まりだ、蜘蛛の子を散らすように..あれっ?

「鴨がまた一人来たぜ?」

「驚いてみて見ればたった一人だぜ..馬鹿が」

「僕ちゃんを怒らせると怖いぞ..」

あれっヤバイ、僕ちゃん..剣持って無いじゃん..

「彼奴馬鹿じゃんやっちまえ!」

「割と顔は良さそうだから、女子供と一緒に売れるかもな」

一斉に襲い掛かってきた。

ヤバイヤバイヤバイ..僕ちゃん剣が無いと駄目なんだよ

「何だ此奴、カッコつけて出てきた割には逃げてばかりだな!」

「何だ弱っちいぞ此奴」

ヤバイヤバイヤバイ..あっ!

「捕まえたぞ、ほらよ!」

バキッ

「ぐふっ」

「おらよ、もう一発いくかおらっ」

「グボッ…うえぁぁぁっぁぁ」

「何だ此奴全然弱いじゃん、警戒して損したぜ」

親子の行商が此奴なんで出て来たんだって顔をしている。

仕方ないよ、僕ちゃん剣が無ければ役立たずだもん。

冒険者の方に突き飛ばされた..あっ剣がある。

僕ちゃんは気絶していた、冒険者が握っていた剣を無理やり奪い取った。

「おーおーいっちょ前に剣何か構えやがって、捨てないと只じゃ置かないぞ!」

「それを持っちゃ、殺すしかないかもな..今なら命だけは助けてやるから捨てろ」

「僕ちゃん、謝るよ! 僕ちゃんは剣が無いと弱いから..君達みたいな奴は殺しちゃうしかないんだよ! ごめんね!」

剣聖も剣が無ければ只の人 剣聖が剣を握れば竜殺し..

僕ちゃんは思いっきり走っていき剣を振るった。

「えっ」

「あっ」

その瞬間二つの首が宙に舞った。

「何、間抜けな顔をしているんですか? 盗賊なんだから死ぬ覚悟位しておくべきです」

そのまま、固まっている場所に剣を振るった。

その距離は剣が届く場所では無い、普通なら無傷な筈だ、だが風が刃となり切り裂いた。

また、三人の首が宙にまった。

「これで5つですね..もう1/3を狩っちゃいましたよ? 逃げるにしても戦うにしてもぼさっとしていて良いのですか?」

「お前ら、掛れ!」

「嫌だ、こんな奴と戦いたくない..嫌だ」

「俺も嫌だ」

「お前ら、逃げると殺すぞ!」

「お頭よう、俺が此奴仕留めたら娘の方をくれないか?」

「やる、俺は実力主義だ、新参者でも有能な部下は優遇する、此奴を仕留めたらお前の奴隷にしていいぞ」

「やる気でたわ、お前ついてないわ、俺は少し前まで騎士をしていたんだ、しかもジョブは上級剣士だお前は終わったな」

「そんなんで、僕ちゃんに勝てるつもり? 掛かってくれば?」

「抜かしたな! これが剣の才能のある者のみ身に着く斬鉄斬りだ」

「何で武器を壊そうとするかな? そんな遊びの剣を自慢されても僕ちゃん困っちゃうよ!」

「馬鹿な、剣が折れない」

「そんな遊びの剣じゃなくて、戦う時はこうしないと」

「ただの上段斬りじゃないか!」

だが、受けた剣は無事なのに頭から下まで亀裂が走った。

そのまま、真っ二つに切り裂かれた。

「馬鹿な…」

男はそのまま死んだ。

「さてと僕ちゃん..逃がさないよ!」

結局、盗賊団はそのまま皆殺しにされた。

「謝るよ..僕ちゃんは剣を手放すと弱いから捕らえる事が出来ないんだ..だから1人だと殺しちゃうしかないんだ」

えーと、冒険者は生きてそうだからこの剣は返さなくちゃね。

此奴は盗賊だし死んでいるから此奴の剣は貰って良い筈だよね..

「剣士様、危ない所を有難うございました」

「別に良いよ、僕ちゃんもこうして剣が手に入ったし」

元騎士だけあって鋼鉄の剣だ、割と良い物持っていたな..お頭の剣は安物だけど魔剣だね、ただ殆ど魔法が使えない安物魔剣だけど。

「剣士のお兄さん、ありがとう..その凄くカッコ良かったよ」

「僕ちゃん、お嬢ちゃんの前で沢山殺しちゃったのに..ありがとう..怖い思いしなかった?」

「ううん、王子様みたいでカッコ良かった…有難う、チュッ..これはお礼!」

「有難う」

「本当に有難うございました…何かお礼をしたいのですが生憎持ち合わせが余り無くて」

「そうしたら、近くの街まで送ってもらえますか? そうしたら僕ちゃん護衛しますから!」

「良いのですか? それは寧ろこちらからお願いしたい位です」

「それじゃお願い致します」

盗賊は殺しても問題無いし、持ち物を奪っても問題無い。

お頭が収納袋(中)を持っていた以外目ぼしい物は無かった。

お金も食い詰めていたのか全員のお金をかき集めても銀貨4枚にしかならなかった。

僕ちゃんは無一文だから余裕が無いので全部貰った。

護衛の冒険者3人は気絶した振りをしていたので..そのまま1人殺した。

「剣士様、何故..」

「すぐ、後ろへ僕ちゃん気が付いちゃったよ..お前ら盗賊とグルだよね?」

「「……」」

盗賊と戦ったのに傷が無いし、行商の主人を殺そうとしたのに冒険者が怪我したり死んだりしない方が可笑しい。

「返事しないなら良いよ..このまま僕ちゃん殺しちゃうからさぁ!」

「クソッ..バレちゃ仕方ねぇ」

「死ね」

そのまま二人を斬り捨てた。

これで良質な剣が3本手に入った、お金も金貨が1枚だけどあるじゃん..うん僕ちゃんラッキーだ。

「また、危ない所を有難うございました」

「僕ちゃん護衛するって約束したからね..気にしないで」

「危ない所を本当にありがとうございました!」

「お兄ちゃんありがとう」

「ぐーっ」

「お腹が空かれているようですね、それじゃ場所を変えて食事にしますか?」

「ありがとうございます」

こういう所が僕ちゃんは冴えないんだよね。

久々に食べるシチューは凄く美味しかった。

勇者パーティーの時も含んで、普段から粗食だったから感激しちゃう。

野営やパーティー、依頼を受けた時、以外は別々に食事を取るんだけど何時もお金がないから安い物で済ますしかなかった。

「このシチュー凄く美味しい、ありがとうございます」

「護衛をして貰っているんですからこの位はさせて下さい!冒険者に出す筈だった分が沢山ありますから沢山食べて下さい」

「それじゃ遠慮なく頂きます」

凄く美味しい、肉がしっかり入っていて本当に旨い。

「そういえばお兄ちゃん、何の仕事しているの?」

勇者パーティーを追い出されたから…無職になる。

そうか? 僕ちゃん無職だ。

「えーと、無職だよ」

「そうなんだ、だったらお兄ちゃん冒険者になれば..あんなに強いんだからさぁ」

あれ、そう言えば僕ちゃん冒険者登録はしてあったな。

「そういえば僕ちゃん冒険者登録はしてたよ」

「それなら無職じゃないよ?」

「そうだね」

流石の勇者パーティーも冒険者証までは取り上げなかったな。

良かった、僕ちゃんこれで働ける。

僕ちゃんは黒い冒険者証を取り出した。

「見せて貰っても良いかな? 黒いのなんて珍しいね」

NAME:ソード

JOB:剣聖

RANK:SS

PRRTY:銀嶺の翼

PARTYRANK:SSS

MEMBER:セト、ルシオラ、ユシーラ

MONEY:0

「お兄ちゃん、剣聖ソードだったの?」

「驚いた? 僕ちゃんはソードだよ?」

可笑しいよ? 剣聖のソード様ってかっこ悪くて性格が悪くて、マザコンな筈だよ?

気持ち悪くて話したく無い人、そういう噂なのに。

どう見ても、このお兄ちゃんは綺麗にしか見えない。

話し方は少し可笑しいけど、この容姿ならそんなの関係ないと思うよ。

サラサラした銀髪に女の私より白い肌、美しい顔、幾ら眺めていても飽きない程綺麗なのに。

何であんな「女なら嫌わずにはいられない」なんて噂しかないのよ..可笑しいよ。

「うん、驚いたよ、剣聖なんてルー吃驚した」

「驚かせてごめんね」

「ソード様は剣聖だったんですねお強い筈だわ」

「それなら盗賊位簡単ですね」

「まぁね僕ちゃんは強いから」

「「「あはははははっ本当にそうだ(ですね)(だよ)」」」

「この辺りで今日は野営にしましょう」

森の中の開けた場所で休むことになった。

予定では明日の朝まで休んでも明日の夜に辺りにつくそうだ。

「ソード様はお疲れでしょうから先に休んでください、何かあったら起こします」

「悪いですね、すみません」

「あれの何処が気持ち悪いのか俺は解らないんだが!」

「お父さんもそう思うよね!凄く綺麗だし、話し方は変だけど、優しいし凄く良い人だよね?」

「お母さんもそう思うわ!話し方は変だけど凛々しいわね…しかも剣聖なのよ? なんで気持ち悪いなんて噂が流れているのかしら..解らないものね」

「多分ひがみじゃねえのかな?..「女なら惚れずにいられない」なら解るが「女なら嫌わずにはいられない」なんて可笑しいだろう」

「そうだよね!絶対に可笑しいよ」

「ははあーん、さてはルー惚れたな?」

「好きにならない訳ないよ?二枚目でしゃべり方は可笑しいけど優しいし剣聖なんだよ?」

「お母さんも解るわ、あと10歳若ければ.」

「おいお前!」

「ふふ冗談よ、冗談、だけど本当に信じられないわ..噂って信じちゃ駄目ね?」

「本当にな!」

どうしてなのか解らないが、ソードの悪い噂のみが流れていた。

【閑話】 無様でも良い お前は生きろ! (勇者セトサイド)
これで彼奴は生きる事が出来る。

これで良い..

恥辱にまみれようと生きている方が良い。

俺の名前はセト、勇者だ。

だが、実質は無惨な死が確定している、棺桶に片足突っ込んでいる男。

恐らく世界で一番怯えている男。

それが俺だ。

俺はクンドルム王国の伯爵家の四男に生まれた。

貴族の次男以降は、長男のスペアだ。

長男が死んだ場合以外は基本必要とされない。

長男のカインは疫病になる事は特に無く無事成人した。

次男のアベルは寄り子である騎士爵の家に養子入りが決まった。

そして三男のミールはカインの副官になった。

これは当人の希望によるものだ。

俺は四男、何も貰えない代わり自由がある。

ミールの様に学問が得意でなく体を動かす事の好きな俺は「冒険者」になる道を選んだ。

政略結婚の話も特になく、自由ににして良いと許可を貰った俺は、同じく冒険者を目指すメグと付き合っていた。

成人したら一緒にパーティーを組み、ゆくゆくは結婚を考えていたが..

「セト様、貴方は女神様の啓示で勇者に選ばれました」

女神の啓示で俺は勇者になってしまった。

聖剣を手にしたら光り輝いた、間違いないな。

父上や母上も表向きは喜んでいたが、実際は違う。

俺の事を心配している。

特に母上は泣いていた。

今の魔王は歴代最強と言われている。

20年前に戦った勇者をあっさり殺して、その首を晒しものにした。

しかも、それから更に強くなっていると聞く。

そう、この旅はただ死ぬだけの旅になる。

簡単に言えば、絶対に勝てない相手に女神と人類の意地で戦う..それだけだ。

勇者に選ばれた俺はメグと別れなくてはならなかった。

「勇者様になったんじゃしょうがないね..」

彼女は泣いていた。

別れの事で泣いていたんじゃない、俺が死んでしまう未来を考えて泣いてくれたんだ。

こうして、死での旅立ちに俺は行く事になった。

行く先々で「勇者様万歳」と歓迎を受けたが俺には「私達の為に死んでください」そうとしか聞こえなかった。

1人が3人になった頃。

聖女のルシオラとも良く話した。

彼女は教会で育ったから外の事は知らない女だった。

聖女のジョブを授からなければシスターとして一生を終える人間だった。

話を聞けば彼女も捨て石..そう言う事を解っていたようだった。

簡単に言えば「愛し子を産んで、その後は魔王と戦って死ね」..それが彼女の使命だった。

今回のパーティーは魔王には絶対に勝てない。

だから、負けた後の希望として「勇者と聖女の子供、愛し子 という神に愛された子」という名目の子供を作り、次の勇者が決まるまでの希望にするのが教会の方針らしい。

実際は勇者も聖女も遺伝はしない。

「絶望時代の希望の神輿になる人間を作れ」そう言う事だ。

彼女は教会で育ったせいか男を知らないし、興味も薄い。

だから、男女の営みも作業的な物だ。

俺は残念な事に本当の男女の営みを知っている。

メグとしていた物とは別物だ。

こんな「子供が必要だから仕方なくしている物」とは絶対に違う。

ルシオラも良く

「義務を果たして子供を作って、万が一魔王に勝てたら、ちゃんとした女の生き方がしたいわ」

そう言っていたから多分同じだ。

つまり、これはお互い只の義務だ。

賢者のユシーラは俺たちの中で唯一戦う意思があった。

「私達が勝てないのは解っています、だからアカデミーでは人工勇者を考えています」

「何だ、それは」

「勇者のホルムニクスを量産出来れば..そう考えています」

「それは実現できるのか?」

「無理ですね..でも未来に希望は繋ぎたいのです!」

此処にも愛はない。

あっても俺はまだメグに気持ちがあるから困る。

結果、精液を搾取してアカデミーに送る。

その手伝いをした。

勿論一線は超えていない。

彼女にあるのは幼い頃に殺された家族の復讐..それだけだ。

俺のパーティーをハーレムパーティー何て呼ぶが..中身はこれだ。

誰も想像がつかないだろう。

この三人に後から剣聖のソードが入ってきた。

暫く、様子を三人で見ていた。

「僕ちゃん」と気持ち悪く話すがなかなか良い奴だった。

だから、虐めて抜けさせる、そう決めた。

ルシオラもユシーラも同じ意見だった。

「剣聖」は強いジョブだが三大ジョブと違う。

過去に勇者と一緒に戦っただけで、絶対に必要ではない。

「嫌いな奴なら一緒に死ね、良い奴なら逃がしたい」最初からそう思っていた。

だが、剣聖を辞めさせるには理由が必要だ。

その一つが「俺たち三人に嫌われる」だ。

三人に嫌われ連携の妨げになる、大きな理由になるだろう。

ソードには一切手柄を与えない、そうして悪口を周りの人間に吹き込む。

勇者パーティーに相応しくない、そういう評価も必要だ。

お金に困っているのも知っていた。

素材さえ敢えて与えない。

そんな生活をさせれば逃げ出すだろう。

逃げ出せば、「捨て置けば良い」。

その後に「逃げ出すような奴は俺のパーティーに要らない、追う必要も無い」

そう言えば、終わりだ。

お前には実力がある、此処でどれだけマイナスを背負っても実力で取り返せる。

だが、命は取り返せない。

お前は最後まで逃げなかったな。

だから濡れ衣を着せる事にした。

お金の流れも女と合意だという事は解っていた。

だが、知らない事にした。

ルシオラもユシーラも協力してくれた。

ソードお前がどう思っているかは俺は知らない。

だが、俺にとってお前は弟のような唯一の男友達なんだ。

だから、恨まれても、嫌われても良い..お前には生きていて欲しい、そう思ったんだ。

魔剣を残したままならお前は追ってくるかも知れない..だからお前の宝物の魔剣も取り上げた。

俺はお前を死の運命から逃がしてやる。

無様で、罵倒され情けない人生がお前の再スタートかも知れない。

だが、死ぬよりは良いだろう?

これからお前は自由に生きて、愛する女を見つけて結婚するんだな..

俺が出来なかった楽しい人生の中で…生きろ。

じゃあな..親友 ソード。

ギルドへ! 謎の金貨1枚
近くの街にようやくついた。

街の名前はアルフ、大昔に勇者が住んで居た街だ。

勿論、今の勇者ではなく、300年くらい前にいた勇者ルードルが魔王討伐後に住んで居たらしい。

まぁこれは、僕ちゃんが助けてあげた商人の娘、ルーが教えてくれた事だ。

門を通り街に入った。

本来なら面倒臭い検問があるが、僕ちゃんが冒険者証を出すと素通りできた。

勿論馬車事いっしょだ。

「それではソード様、此処でお別れです」

「送ってくれてありがとうございます!」

「こちらこそ、護衛してくれてありがとうございました」

「ここ暫くは市場に居ますから良かったら顔出して下さい、サービスしますから」

「寄らして貰います」

「ソード様、ルーはね、まだ子供だけど大きくなったらお嫁さんになってあげる!」

「あはは、無理しなくて良いよ、僕ちゃん気持ち悪いのは良く解っているからさ! でも有難う!」

「ソード様、ルーは本当に」

「そういう事は、本当に好きになった人が出来たら言うんだよ! 僕ちゃんみたいな気持ち悪い男に言ったら一生付きまとわれるから気を付けた方が良いよ」

「一生…」

「それじゃね」

一生傍に居て貰えるなんて..素敵だよね。

さてとこれからは1人だ、冒険者ギルドに行って登録変更をした方が良いだろう。

「アルフ冒険者ギルドへようこそ! 本日は依頼でしょうか?」

「僕ちゃん、パーティを抜けたから登録変更に来たんだ」

「解りました、それではカードをお願いしますね」

「僕ちゃんだって、僕ちゃん役立たずだから追い出されちゃったんでしゅね」

「お前、良い歳して僕ちゃん、冒険者なんて辞めた方が良いぞ」

「いい歳して僕ちゃん..あー恥ずかしい」

「顔は良いのに残念ね! 僕ちゃんは無いわ」

ブラックカードの冒険者証、世界で4枚しかない特別な物。

「おいっ冒険者黙りなさい..黙らないなら資格停止しますよ」

「ラビィちゃん、何言っているんだ、顔が良いからって庇うなよ..ギルド特権かよ」

「黙りなさい! この方に文句を言うならギルドは敵になるそう思いなさい」

「何をむきになっているんんだよ優男だからってよ! ギルマスに言いつけるぞ!」

「ギルマスが知ったら本当に除名されちゃいますよ..良いから黙って下さい..この方はSSランク冒険者 ソード様ですよ!」

「余り怒鳴らないであげて! 僕ちゃんが嫌われ者なのは知っているから..皆もごめんね」

可笑しいな、ソードと言えば剣聖なのを鼻にかける嫌な奴だって聞いてたけど..

「すまない、馬鹿にして悪かった、ごめんな」

「あたしも悪かったわ」

「俺も」

「良いよ、良いよ気にしないで良いよ、気持ち悪がられる事には慣れているから、折角楽しんでいたんならそのまま続けて..受付のお姉さんもこれは無かった事にしてあげてね」

「ソード様が言うなら勿論です..それじゃせっかくなのでサロンの方でお話を聞きます」

綺麗な個室に通された。

ここは上級冒険者にのみ許される特別な部屋「サロン」だ。

上質なお茶にお菓子、望めば食事まで用意される..最も勇者パーティーは忙しいので余り使わない。

「それではギルマスを呼んできますので暫くお待ちください」

「どうしたんだラビィ? 何があったんだ」

「SSランクの冒険者、ソード様が来られました」

「剣聖ソードが来ただと? 直ぐに準備する」

暫くするとギルマスがきた。

僕は自分の現状について話した。

「それは大変でしたな、まぁ勇者パーティーで無くなってもソード様は個人ランクでSSですから問題ありません、SSランクのソロの冒険者として扱います、ご安心下さい」

「そうですか? 助かりました」

「暫くはこの街に滞在ですか?」

「多分、居ると思います」

「それではこの街に居る間はラビィを専属受付にしますので何なりとお申しつけ下さい」

「有難うございます」

「早速ですがカードの更新をしますのでもう一度カードを貸して下さい」

「はい」

更新されたカードには

NAME:ソード

JOB:剣聖

RANK:SS

MONEY:0

と記載されていた。

随分、寂しくなった感じがするが仕方ない。

「お間違いは無いでしょうか?」

「はい、間違いないです」

「ソード様、このギルドには塩漬けの依頼も結構あります、今度相談させて下さい」

「解りました」

「やばいよ俺、剣聖ソードを馬鹿にしちゃったよ」

「僕ちゃんって言った時に気が付くべきだったんだ」

「あああたしなんて、残念とか言っちゃったよ」

気にしなくて良いって言ったのに。

僕ちゃんは笑顔でギルドを後にした。

宿屋を探す途中で串焼きを買う事にした。

ポケットの中のお金を見ると…

可笑しいな? 僕が盗賊を倒して手にしたお金には金貨は1枚しか無かった。

なのに、何故か金が2枚入っている。

きっと勘違いだろう?

だけど、どんなに考えても金貨1枚増えている理由が解らなかった。

【閑話】 1枚の金貨と手に入らない人  (聖女 ルシオラサイド)

私の名前はルシオラ。

聖女をしていますが、貧乏くじを引いた女だと思っています。

私の両親は敬虔な女神教の教徒で私が小さい頃死んでしまいました。

その後はずうっと教会で暮らして居ます。

私は小さい頃に一番欲しかったのは「王子様人形」です。

勿論、教会で育てられている私は買う事も、買って貰う事も出来ません。

ただジョーウィンドウに飾られているお人形を見ているだけです。

暇さえあれば見ていましたが、暫くしたら売れてしまいました。

私の欲しい物は何時も手に入りません。

小さい頃はそれなりに、色々な憧れはあったけど流されるようにそのまま、シスターになってしまいました。

私はこの先、1人前になったら何処かの街にシスターとして派遣され、そこでの生活が始まります。

大した事ではありません、ですが初めてその時に僅かな自由が手に入るのです。

小さい頃は王子様に憧れましたが、そんな夢は諦めました。

絵本の中の王子様は絶対にこの世には現れません。

天使のような男の子もこの世には居ません。

そんな物は絵本の中にしか居ないのです。

何しろ、聖職者ですら醜い権力争いをしているのですから。

ある時から、「私が憧れるような素晴らしい人間は居ない」そう思う様になりました。

それでも自由な生活は楽しい筈です。

シスターになり、これから田舎の街に派遣される。

ようやく、恋愛をしたり、外の世界を見たり 人らしい生活が始まるのです。

そんな時期に神託が降りてきて..聖女になってしまいました。

頭の中が真っ白になり、女神様を心底恨みました。

何故、私ばかりに女神様は貧乏くじを押し付けるのでしょうか?

女神様を信仰していた両親は若くして死にました。

その後の私は教会に居たから救われたのかも知れません..ですが自由が無かった。

友達を作り、恋愛もしたかった..ですがシスターになる修行の為、私にはそんな自由は許されません。

そして、ようやくシスターになり、人間らしい生活が始まる。

そんな時に死刑宣告です。

何故なら、今の魔王ゾルダは、最強の魔王と言われています。

昔に戦った勇者は殺され首を晒しものにされ、聖女の体は真っ二つに切断され捨てられていたそうです。

今の勇者様の実力は解りませんが恐らくは勝てないでしょう。

皆は「おめでとう」って言いますが、その目は「私で無くて良かった」そう物語っています。

そして、他の聖女には無い、私だけに更に辛い試練を教会は課しました。

それは顔すら知らない「勇者との間に子供をつくる」という事です。

「愛し子」と言うのだそうです。

これは勇者と聖女に間に生まれた子が、その昔、暗い時代に人々を導いたと言う事から教会に強いられました。

その勇者と聖女は愛し合っていたのでしょう!

私は違う..顔も知らない男と子作りなんて嫌です。

だけど、その運命から逃げる事は出来ない。

私の人生は、「好きでもない男に抱かれて、残酷に死ぬ」それだけです。

私は聖女、だけど私に辛い人生を歩ませる女神が嫌いです。

だから、教会に約束をさせました。

魔王と戦っている間は莫大なお金を私に払う事。

そして、「全てが終わったら教会の意思や王族すら無視して自由にして良い」そういう約束です。

司祭様どころか教皇様がサインしてくれましたね。

まぁ、聖女ですから「支援は当たり前」

魔王を倒した後は「どんな願いもきく」のが当たり前ですから当たり前の事です。

そして、勇者セトと出会い旅に出ます。

魔王の情報を聞き絶望しました。

魔王所か四天王にすら自分達は勝てそうにありません。

更に賢者のユシーラと会い、それは更に確信に至りました。

戦況分析にたけた賢者が「絶対に勝てない」「四天王の一番弱い者相手にも絶望的」なのだそうです。

仕方なく、「愛し子」の話を二人にしました。

そうしたらユシーラも「人工勇者」の話をしてきました。

正直ユシーラが羨ましい。

彼女は精液の採集で良い。

ですが私は妊娠しなくてはいけないのです。

勇者であるセトは「俺には心に決めた女が居る」そう言いました。

「だが、義務である以上は仕方ない」そう言って受けてくれました。

私は彼で良かった、少しだけそう思いました。

それは私が彼との行為で感情を出さないように彼も感情を出さないで抱いてくれるのです。

つまり、恋愛では無く、ただ「愛し子」を作る仕事として行為をしてくれているのです。

彼は良い人です..ですがこんな始まりでは恋愛感情なんて湧きません。

信仰という名の元に強制された行為なのですから。

ただ、普通とは違うのは相手も強要されている..そういう事です。

お互いに愛していない、そんな親から生まれた子は可哀想に思います。

多分、私は生まれた子を愛する事は無いと思います。

まぁ教会が育てるから問題は無いでしょう。

何とかお互いが割り切れるようになり三人で仮面が被れるようになった。

そんな時にまた試練が訪れます。

ソードが仲間になったのです。

ソードの容姿は「綺麗な銀髪に女性みたいに白い肌」小さい頃に憧れた王子様に似た容姿をしていました。

話し方は変だけど優しい方でした。

私には解ってしまった。

私はソードを愛し始めている..多分時間が経てば本当に好きになってしまう。

今迄、何事も無くセトに抱かれていた事が凄く不快感に感じ。

セトが行為の時に幼馴染の女を思い浮かべるように私はソードを思い浮かべてしまう。

だけど、それは昔と同じ「私にとって決して手の届かないショーウィンドウの中の人形」と同じです。

私が好きになってもソードを手にする事は出来ない。

そう考えたら気が狂いそうになる。

いっそうの事彼を殺して私も死んでしまおうかな?

彼に一緒に逃げて、そう言ったらどういうかな?

それは決して許されないけど..そんな事ばかり考えてしまいます。

セトから相談を受けました。

「彼を追放したい」と。

理由は知っています、私もセトもユシーラも彼が好きだからです。

セトは親友か弟の様にソードを思っている。

ユシーラも同じ様に弟の様に思っている筈です。

私のは..多分異性に対する愛だと思います。

理由はともかく皆が彼が好きです。

だから、この計画に乗りました。

私は前もって金貨を1枚彼の上着ポケットに入れておきました。

これ位あれば暫くは暮らせる。

本当はもう数枚入れてあげたいけど何枚も入れたらバレるだろうしな。

追放当日私は自分感情が抑えられなくなりました。

若い子を抱いたですって…

「貴方みたいな女の敵に守られたくはありません! それに私だって自分の身位は守れます!」

「その、僕ちゃんて話し方気持ち悪いわ、しかも戦った対価に体を求めるなんて…最低です、見たくもありません」

私には言う資格は無い、それは解っています。

彼の横で好きではないとはいえ他の男に抱かれているのですから。

しかも、貴方が聞いているのが解って、あえて声をあげた事もあります。

その声は貴方を意識した物だけど…そんな物は貴方は解る筈も無いですよね。

本当に最低なのは私です..

多分、暫くしたら私は愛する事も無い子供を産んで、その後は殺されます。

もし、奇跡的に助かったら、そうね残りの人生は貴方を遠くから見て生きようかな?

奇跡が起きて助かっても私はきっと五体満足では無い..迷惑は掛けないから遠くから見る位は許してくれるかな。

忘れられた聖剣
僕ちゃんは今、丘に来ている。

それは、今日朝飯を食べている時に面白い噂を聞いたからだ。

その内容は、大きな石に聖剣が刺さっているそういう噂だ。

その聖剣はその昔、勇者ルードルが石に突き立てた物らしい。

今ではこれが観光になっていて、銅貨3枚で剣を引き抜く事に挑戦する事が出来るとの事だった。

勇者ルードルが剣を刺した後に「この剣に俺の全てを残した、相応しい者が手にした時にこの剣は抜けるであろう」そう言ったそうだ。

その為、この剣を抜けば「勇者になれる」とか剣の達人になれる。

そういう伝説があるそうだ。

僕ちゃんの剣聖は凄く費用対効果は悪いんだ。

剣を完璧に使いこなす代わりに剣を限界まで使いこなすから剣が直ぐに壊れてしまう。

だから壊れない丈夫な剣は喉から手が出るほど欲しい。

「さぁ見て行ってくれ、銅貨3枚で聖剣にチャレンジ出来るぞ、見事抜く事が出来れば聖剣は貴方の物、もしかしたら勇者になれるかも知れない」

この商売が始まって250年誰も抜けない。

そういう話らしい。

良い商売だよね、だけど聖剣かどうかは解らないけど、250年経ってこの状態なら自動修復が付いているに違いない。

普通に250年経っているなら錆びて朽ちる。

朽ちないという事は最低でもミスリルレベルの素材は確定だろう。

思ったより繁盛していない。

多分もう抜けないと諦めているんだろう。

「僕ちゃんも挑戦して良いかな?」

「はいよ銅貨3枚ね..抜けたら勇者だよ、頑張って!」

僕ちゃんは剣聖だ。

聖女よりも賢者よりも勇者よりも剣聖が優れた点が一つある。

それは剣だ。

剣だけなら僕ちゃんは誰にも負けない。

「はい、3枚」

「頑張ってね」

僕ちゃんは剣を握り、剣と心を併せるようにした。

他の人間には感じられないかも知れないけど、剣には心がある。

良い剣には作り手の想いが込められている。

その剣の想いに答えるように振る。

それが重要なんだ。

見つけた。

そんな声が聞こえた気がする。

その瞬間、剣が光り輝き岩からスルリと抜けた。

「うん、抜けた..これでこの剣は僕ちゃんの物だね!」

「そんな、そんな、剣が抜けちまうなんて..あああっ俺の商売が終わってしまった..ああ250年の我が家の歴史が終わった」

何だか可哀想になったから収納袋から一番安い鉄の剣を刺してあげた。

「僕ちゃんの名前はソード、剣聖だから、剣聖が刺した剣として商売すると良いよ」

まぁ錆びるけどね。

まだブツブツ言っていたのでそのまま立ち去った。

この剣を知る為に街の外に出た。

しかし、凄い剣だ、僕ちゃんが今迄手にした剣で一番かも知れない。

セトが持っていた聖剣より上かも知れない。

軽く振るだけで、大木が斬れた。

強く振ると風が起り、更に強く振ると風の刃が木を切り裂く。

同じ事が他の剣で出来るかと言えば出来るが、鋼鉄の剣でも同じ事を2回もすれば恐らく壊れる。

それなのに、この剣は刃こぼれもしない。

僕ちゃんは 鑑定(剣特化)を使った。

これは剣聖のジョブを貰った時に身に着いた物。

他の物を鑑定したら名前位しか解らない。

だけど、剣に関してなら 鑑定(上級)すら上回る。

忘れられた聖剣(真聖剣)

攻撃能力 SSS(1万)魔族を斬る時上昇値あり。

特殊能力:不破(人界に置いて壊す事は不可能) 自動修復 極み(粉々に破壊されても復活する)

     聖なる加護 聖魔法付与 光魔法付与

所有者:ソード(他の者が振るう事は出来ない)

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##############

##############

###############

可笑しい、僕ちゃんの 鑑定(剣特化)でも読み取れない何かがある。

更に言うならこの剣の由来が何も読み取れない

だけど読み取れた情報だけでも凄い、どう考えてもセトの持っている聖剣を越えている気がする。

これがあれば、多分セトには負けない気がする。

少なくとも勇者ルードルが振るっていた剣だから聖剣。

だけど、忘れられた聖剣、その意味が解らない。

この場所に聖剣がある。

それは皆が知っているし、勇者ルードルの剣と言うのは有名だ。

なら「忘れられていない」

それなのに「忘れられた聖剣」というのはどう考えても可笑しい。

まぁ、解らないし僕ちゃんが考えても仕方ないよね?

今はこの素晴らしい剣が手に入った、それだけで良いよー

偽聖剣物語
「本物の聖剣が消えただと!」

「はっ」

「それで持っていったのは勇者なのか?」

「違うようです」

「なら問題ない、大方封印が緩まって剣の上級者が持っていったのだろう? 気にする必要は無い..だが念の為行方を追ってみてくれ」

「はい」

勇者ルードルが聖剣を岩に刺した。

聖剣が要らなくなり平和な時代が訪れた時、聖剣はその使命を終え眠りに入る。

その時の眠らせ方は勇者が選ぶ、教会に預ける者、湖に沈める者、聖剣に思いを込め眠らせる事が多い。

ルードルは聖剣を相棒の様に思っていて「見守って欲しい」そう考え、自分の故郷であるアルフの大岩に突き刺した。

こうして聖剣は次の魔王が現れるまで眠りについた。

魔王が居ない以上、ルードルでももう聖剣は抜けない。

この聖剣が必要になる時は魔王が復活した時だ、そう考え自分のスキル等も剣に付与し、自分は残りの生涯を農夫として過ごした。

それから月日が流れ、再び魔王が復活した。

その魔王の名前はマーケル、自分自信が今迄で最弱の魔王である事を知っていた。

だが、この魔王は能力が無い物の魔族を凄く愛していた。

どうせ戦っても自分は殺されるだけだ、そう思ったマーケルは此処で思い切った手を使った。

それは、聖剣そっくりな剣を作らせ、本物の聖剣とすり替える方法だった。

聖剣とすり替えるのだから鈍らでは直ぐ気づかれる。

だから、その素材に自分を使い、そしてその能力の付与に攫ってきた聖職者20名の魂を使った。

魔界1の職人に最強の剣として打たせた。

更に、聖の力が使える堕天使に聖印を刻ませ、鑑定であっても絶対に見破れない偽聖剣を作った。

そして、聖都教会への帰還能力も付与した。

自分が現れた..だから勇者に選ばれた者があの聖剣を抜きに行く。

そのチャンスこそがすり替えるチャンスだ。

聖剣はそれこそ神でも無いと壊せないし、場所も動かせない。

なら、その聖剣を偽物としてしまえば良い。

人間が魔王を倒すには 聖剣 勇者 聖女 賢者が必要だ。

その中から「聖剣」が無くなれば、魔王は倒せない。

やがて勇者が現れ聖剣を抜こうとした。

大岩から聖剣を抜こうとしたが抜けない。

勇者ロウガは慌てだす。

抜ける筈は無い…魔王が死んでしまった今、聖剣もまた眠りについた。

もう魔王が死んでいる以上、本物の勇者でも抜けない。

今回の作戦の為にこの街の聖職者を殺して入れ替わった。

「勇者様、聖剣が入れ替えられた可能性がございます」

ついていた、今回の勇者は1人で剣を抜きに来た。

「何だって! それで本物の聖剣は何処に!」

「それがこれが本物だという者がおります」

ロウガがその剣に触ると剣は光り輝いた。

「これこそが本物に違いない!」

偽の聖剣は魔王から作られている、だからこそ勇者を感じて光る。

用意周到に魔族は魔王が居るように装って戦った。

それがマーケルの意思だった。

そしてロウガはその策略にまんまと嵌り用意された偽の魔王を倒し凱旋した。

偽の魔王を倒した偽聖剣は、聖都教会へと自ら帰還した。

これが、人類で最後に魔王に勝ったとされる勇者ロウガの真相だ。

これ以降、勇者が魔王に勝てることは無くなった。

この偽聖剣は凄く質が悪い事に、魔王と戦う時までは、聖職者と堕天使のせいでほぼ聖剣なのだ。

魔王と戦う時に本来今まで以上に力を発揮する筈の聖剣が裏切る。

見かけは今迄と同じに光り輝く、だが元の剣の1/50以下の力に落ちる。

魔王が強いのではない、只の鈍らで斬りつけるからこそ通用しない..それだけだ。

だが、この真相を知る者は人間には居ない..

僕ちゃんは依頼を受ける..そして女を助ける。

僕ちゃんは冒険者ギルドに来た。

手持ちも余り無いのでこの前聞いた「塩漬け」依頼を聴くためだ。

扉を開けると何も言う前に受付のお姉さんが走ってきた。

「ソード様、良くお越しになりました、サロンの方でお話させて下さい!」

勇者パーティーと違い時間は幾らでもある、僕ちゃんはゆっくりと聴く事にした。

「最近、高位冒険者が皆、他に行ってしまって困っていたんです」

話を聴くとこれでもかという位にあった。

その中で、普通じゃまず難しいのは多分この4つだと思う。

ゴブリンの洞窟の討伐、キング種がいる可能性あり。

オークの集落、キング種含みおおよそ100以上の個体が確認。

ワイバーンの岩場、つがい+αの確認。

ドラゴンゾンビの調査

とりあえず、この4つを受けて見るか?

「とりあえず、この4つを受けるよ! その代わり収納袋(特大)を貸して貰えるかな?」

「塩漬けを受けて頂けるのですから、その位はさせて頂きます!」

「終わったら、他の塩漬けも受けるから宜しく、特に魔族やドラゴン..到底考えられない様な依頼があったら受けたいから用意お願いね」

「解りました」

ゴブリンの洞窟まできた。

ゴブリンなんて、只のオモチャだよね、僕ちゃん剣聖だからね。

ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン

狩って、狩りまくって片っ端から収納袋に放り込んでいった。

ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン
ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン ゴブリン
ホブゴブリン、ナイトにアーチャー、メイジゴブリン、ゴブリン ホブゴブリン ゴブリン ゴブリン ホブゴブリン、ゴブリン

あははははっ、これじゃ散歩と同じだよ。

聖剣って凄い..今迄よりも格段と強くなった気がした。

倒すより、寧ろ死体を収納袋に納める方が面倒な位だ。

もう行き止まり、この奥に恐らく彼奴がいる。

ゴブリンキングだ!

「ぐわああああっ 人間、よくぞ」

そのまま、首チョンパっと。

態々、馬鹿の脅しを聴いてやるほど僕ちゃんは暇じゃ無いんだよ?

ゴブリンキングを倒した後、奥にある部屋を探索した。

二つ部屋があった、一つは宝物庫。

期待はして居なかったけど、本当にガラクタしかない。

もう一つの方は、多分、苗床だった場所だ、可哀想にもう皆死んでいた。

こういうのを見てしまうと、ゴブリンなんて生きる価値は無い、本当に僕ちゃんはそう思うんだ。

近くに子供のゴブリンも居たけど、躊躇なく殺せる、命乞いなんて意味はないよ?

お前らはだだの害虫みたいな者だから。

さぁ次は..オークの集落だ。

生意気に村を作って..ブタが良くやるよ。

しかし、ゴブリンもそうだけど、此奴らはなんで人間の女を攫って犯すのか解らない。

僕ちゃん、獣人ならいざ知らず、モフモフした動物が幾ら可愛くても、そういう対象には見えないよ。

遠くから見ると村で仲良く暮らしているみたいに見える。

メスも居て、子供もいる、平和な村に見える。

だけど、オークのオスは人間の女を犯し苗床に持ち帰るんだ。

本当にゴミみたいな生き物だよ。

聖剣を抜いてそのまま、突っ込んでいった。

僕ちゃんは剣聖、元からオークなんて相手じゃないんだけど、これは凄いよ、驚いた!

だって斬っている感覚が全くないんだよ。

素振りをしたら相手が死んでいく、そんな感じなんだ。

しかも、全然疲れない。

多分、「聖なる加護」があるからかな、これならただ日常を過ごしているのと全く同じ。

しかも、多分寝ないで戦っていても大丈夫なのかもしれないね。

確かに、魔王城に入ったら、休む間もなく連戦するんだから、こういう力が無いと無理だよね。

魔剣じゃ無理な筈だ。

さてと、

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大量虐殺..

だけど心は痛まない、人間でも数人女を犯せば貴族でもない限り死刑だ。

同じ事しているんだから、殺されて当たり前だ。

命乞い? するだけ無駄だよ? 僕ちゃんは経験を積んで強くならなくちゃならないんだから、見逃す意味がない。

途中に牢屋があった。

その中には、女の子が三人居た。

だけど、その姿は裸に近く悲惨だ。

「助けて下さい…」

「うん、助けるよ」

僕は牢屋を切り裂き、外に彼女達を出した。

「ありがとうございます、本当にありがとう」

「助かった」

「ありがとう…」

話を聞くと1人は冒険者だそうだ。

他の2人は商人の奥さんと子供だ。

僕はポーションとさっきゴブリンの宝物庫で手に入れた服をあげた。

「あの、街までは連れていって貰えないのでしょうか?」

「僕ちゃんが連れていくと、巣を潰した戦利品扱いになるから僕ちゃんの奴隷になっちゃうんだよ!」

「それでも良いですよ..苗床になっていた女なんて人生終わりです」

「養って貰えるなら..それでも」

「何、馬鹿いっているの? 僕ちゃん怒るよ! 街に居づらいなら他の街に行けば良いんだよ! 良い? 生きていられるだけ幸せなんだよ!」

「そんなの詭弁です」

「僕ちゃんの知り合いには、死の運命が待っているのに、恋愛も諦めて戦っている人が居る、好きな人と結婚して子供まで作った、お姉さんの方が絶対幸せだよ! 奴隷なんて駄目だよ..自由に生きれる..それが幸せなんだ」

「「「ごめんなさい」」」

「良いよ、別に」

僕は冒険者のお姉さんに鉄の剣も一本あげた。

「強く生きて」

そう言い残し僕ちゃんは先に進んだ。

オークキング..お前はついてないよ!

僕ちゃんに嫌な物を見せたんだ..

嫌な事を思いださせたんだ..

楽には殺してあげないよ..

多分、この大きな建物にオークキングは居る。

ドアをけ破り中に入った。

「おのれ人間風情がっ」

キング種になると大体が喋る事が出来る。

僕ちゃんは聞く耳は持たない。

素早く近づくとそのまま足を切断した。

「貴様、平和に暮らしていた」

「….」

サクっと目を片方貰った。

「ぶぶぶぶぶひぃ..いやがややや」

「豚が口を聞くなよ、僕ちゃん怒っているんだよ」

少しずつ、いたぶる様に耳や腕を斬り落としていく。

「殺せ」

「お前達は何をした? 楽になんて僕ちゃん殺さないよ? 」

「辞めろぶひぃぃぃぃぃ..殺して、殺してくりゅぇぇぇぇ」

「女を犯してごめんなさい、人を殺してごめんなさい、それを言えば楽に殺してあげる」

「おおおんなをおかかして、ひとここころしてごめんなさいいい」

僕は首を跳ねた。

そして、そのまま急いで街に向った。

さっきの三人が何となく気になったから。

「へへへ、女三人で何やっているんだ!」

「一人歳食っているけど、まぁまぁじゃないか?」

「その剣を捨てろ、さもないと殺しちゃうよ」

こんな事が起きて無ければ戦えたのかも知れない..

だが、体力が衰え、精神的に参ってしまっている、だから彼女は剣を捨ててしまった。

「それで良い、楽しんだ後は奴隷として..へっ」

走ってきたソードに首を跳ねられた。

「お前達はオークと同じだね、僕ちゃんは大嫌いだ」

「けけ剣聖ソード..」

「だから何?」

ソードはそのまま間に入り、その場の3人の首を跳ねた。

「待て、剣を捨てろ、捨てないと此奴の命が」

「そういう奴が僕ちゃんは一番嫌いなんだよ..」

此奴だけは首を跳ねない、両方の腕が宙に舞った。

「おお俺の腕が..ないいいいいいっ」

「苦しみながら死んじゃえ!」

敢えて苦しむ様にお腹を斬った、お腹から腸が落ちだすが両手が無いから押さえる事も出来ない。

「いてぇ.いてえええええええええええええっ、殺してくれ、いたああああんだぁ」

馬鹿だよね、苦しめる為にやっているんだよ、殺してなんてあげないよ。

「待て、待て降参だ、降参する! 衛兵に突き出してくれ、なぁなぁ頼む」

「盗賊は殺しても良いんだよ..ごめんね、君達が更生する姿が思い浮かばない」

命乞いを無視して残りの三人も首を跳ねた。

盗賊もお金になるから死体も全部収納袋に突っ込んだ。

「あの、わたわたし」

「せっかく拾った命なんだから、大切に生きないとね」

「だけど、私は、あの街では暮らせません」

「苗床になっていた女なんて..真面な人生なんて送れません、お願いです奴隷で構いません、お傍に置いて下さい」

「解ったよ..だけど僕ちゃんは性格が悪いから言う事聞かないと知らないよ?」

「何でもします、絶対に逆らいません」

「解ったよ」

三人を連れてアルフの街に帰ってきた。

直ぐに僕ちゃんが泊っている宿に連れていった。

「三人とも直ぐにシャワーを浴びて」

「「「解りました」」」

「いきなりかぁ、まぁ苗床だった位だからよいけどさぁ」

「うふふっ、だけどソード様は凄くお綺麗だから、寧ろこれで良いならね」

「うん、お母さん、私は奴隷で嬉しいかも..寧ろついているかな」

「まぁな、苗床になった女に縁談なんて来ないから、これもありか!SS級冒険者の愛人奴隷なら充分だ」

「あの白い肌、綺麗よ本当に」

「うん、本当にそうだね」

僕ちゃんは女達がシャワーを浴びている間に服屋に行った。

今回は時間が無いからオーダーは無理だから古着。

後は靴と、バックとポーション類..こんな物かな。

僕ちゃんが戻ると三人が裸でいた。

「ソード様、その準備が出来ました」

「あの、優しくして下さい」

「….」

「そう、それなら服を買ってきたからこれに着替えて」

「あの、されないんですか?」

「僕ちゃんの奴隷なら口答えしない」

「解りました」

「解りましたわ」

「うん」

正直、女性経験1の僕ちゃんには目の毒だ。

「それじゃ出かけようか?」

「あのどちらへ?」

「良いからついて来て」

何されるのかな? 

まさか奴隷として売られてしまうの?

そうじゃなくちゃ服なんてくれないよ?

酷い、酷いよ

人生がおわりましたね。

性処理奴隷..なのかな..

「着いたよ!」

「此処は乗合馬車の停車場」

「どうされたんですか?」

「ソード様?」

僕ちゃんは行者の方に近づいていった。

「今から出る馬車で、何処か過ごしやすい街に行く馬車はある?」

「なら、この馬車が良いと思います、ホルンの街に行きますだ」

「あそこなら治安も良いし仕事もあるね..冒険者カード払いは可能かな」

「C級以上なら可能ですだ」

行者にでは無く停車場の責任者に冒険者カードを見せて切符を三枚買った。

「はい」

「これは何ですか?」

「ホルンへの切符だよ? あそこは凄く過ごしやすいよ」

「どういう意味でしょうか?」

「この街で過ごせないなら、他の街でやり直せば良いだけだよ、ホルンは遠いから多分三人を知る人は居ないと思う、頑張ってね」

「あの、私達は奴隷になるのではないのですか?」

「そう、僕ちゃんの奴隷、だから命令するよ、ホルンに行きなよ、着いたら力を併せて頑張って生きる事!それが僕ちゃんの命令だ」

「あのそれは」

「口答えは許さないよ、後これは路銀だよ」

僕は金貨1枚と銀貨2枚残して残りのお金を全部渡した。

「そんな、頂けません」

「此処までして頂いて、更にお金なんて」

「きみは僕ちゃんの奴隷でしょう? 逆らう権利なんて無いんだよ!命令する、持っていく事」

「解りました」

「それじゃ、僕ちゃんはもう行くね、頑張って生きるんだよ! 」

「「「はい」」」

はぁーちょっと勿体なかったかな..

だけど、心が傷ついた女の子を抱くなんて幾ら僕ちゃんが酷い人間でも出来ないよ。

元気でね..生きれる選択がある、それが一番だよ!

【閑話】 貴方への愛は… (賢者ユシーラ サイド)
私の名前はユシーラ。

巷では「賢者」なんて呼ばれているけど本当の姿は本が好きな引き籠り。

本に囲まれて生活出来れば他は何も要らない。

ただ、それだけじゃ死んでしまうから研究者をしてお金を貰っている。

確かにアカデミーに論文を発表したりして「天才」と呼ばれているけど別に興味はないの。

ただ、本を読んで、部屋から出ないで生活出来れば後は何も要らないのよ。

最近ではちょっとした研究が上手くいき特許をとれたので死ぬまで生活に困る事は無くなった。

これで、本に囲まれた生活を送れる、そう思った矢先だったの。

とんでもない貧乏くじを引いた。

何で私が賢者な訳?

まぁ理由は解るけど、この世で一番知識がある者が選ばれるなら、確かに私になるわね。

仕方ないわ。

だけど、ここぞとばかりにアカデミーや魔道研究所が仕事を押し付けてくるのは頂けないわ。

勇者絡みだから欲しい物が沢山あるから。

上層部は、地位もお金もある、欲しいのは「何を犠牲にしても知識」だなんて本気で言うキチガイだからお金は幾らでもくれる。

だけど、これはアカデミーに居る者は殆ど同じだわ。

例えば、もし、これしかない貴重な素材があったとするわ。

「乞食の性奴隷になって1か月過ごせばやる」と言ったらアカデミーなら半分以上の女がやるわね。

その位可笑しいのよ、アカデミーって。

そんなアカデミーが欲しがった物の中に「勇者の精子」があった。

どうしようか、流石に言いにくい。

どうしようか途方にくれていたら、ルシオラが「愛し子」の話をしてきたから、こちらも切り出せた。

セトもルシオラもしっかり話を聞いてくれて受け入れて貰えた。

私は正直言うと別に気にならない。

人間では無いけど動物実験ではしていた事だから。

薬を飲んで貰って刺激して採取すれば良いだけだわ。

だけど、ルシオラはそうもいかない、妊娠しなければいけないのだから。

しかもセトも何だか悲しそうだ。

このままでは精神が可笑しくなりそうだから薬を処方してあげた。

そんなある日の事、新しく「剣聖のソード」が加わった。

本当にルシオラは可哀想だった。

まさかこのタイミングで初恋に落ちるなんて..神とは碌なもんじゃないわ。

セトもゲスではない、その事を何となく察したのだと思う。

そしてセトにとってもソードは親友と呼べるくらい仲が良かった。

ますます、2人は精神が可笑しくなっていきそうだった。

仕方なく、私は2人に違うタイプの薬を渡した。

それは「行為の間、相手が理想の人間に見える幻影薬」

傍から見ていると凄いのよ ルシオラは「ソード」の名前を呼んでいるし、セトは「メグ」の名前を呼んでいるの。

まぁこれでルシオラは本気でソードが好きなのは解っちゃったわね。

あんな「僕ちゃん」なんていい歳して言っている奴の何処が良いのかな?

そう思って見ていたら..はぁはぁ、可笑しいな凄く愛おしく思えるわ。

私は自分が1番、二番が知識まぁ本ね、男とか性欲なんて全く価値を感じていない筈なのに。

そりゃ昔はそれなりに恋愛も燃えるような恋もしたけど..もう燃え尽きた。

此処で暴露するけど、私は転生者なの。

大昔、不老不死を研究する手伝いをした時に偶然、転生印が刻まれてしまい、以来死ぬたびに知識を持って生まれかわるわ。

親も選べないし、余り凄いとは思えない。

知識だって人間の脳の構造のせいか新しい物を覚えると古い何かを忘れている気がする。

多分合計で200年から300年分の知識しか覚えられない構造なのかなと思うわ。

そう考えると学者3人分の知識があるだけ、凄くも何ともない。

話を戻すけど、今の私は生まれながらに枯れているのよ。

女としての幸せはもう経験済みだからもう要らないわ。

最後は悲惨だったけど、燃えるような恋をして子供まで作った事もある。

だから見た目は15歳の少女だけど、心はお婆ちゃんに近いわね。

そんな私がソードを見ていると体が熱くなる、本当に可笑しいわ。

理由が解らないけど、もやもやする。

研究者はこの「もやもや」が嫌いなのよ。

解るまで、納得するまで考え込むの。

最近ではルシオラに「貴方も、ソードが好きなのですか?」と言われる事もある。

「解らない」としか答えられない。

考えた末、たどり着いた答えは「昔(前の人生)の恋人にそっくり」という事だった。

そりゃ気になる訳だ、大恋愛の末、同棲迄して子供を作った相手そっくりなんだから。

あれは悲しい恋だった。

相手の名前はアラン。

ベルサ侯爵家の次男だったけど、愛人の子で家督を継がないのが決まっていた。

だから、アカデミーに研究者として入ってきた。

まぁ、私の後輩だったのよ。

私達は似た者どうしで、お互いに本が好きだった。

いつしか、磁石が引き合うようにくっつき、同棲しはじめた。

一緒に研究して、一緒に本を読んで暇さえあれば一緒に居た。

そして、男女の中になり、子供が出来た。

転生を繰り返して生きた中で、研究より大切に思った相手は、このアランと間に生まれた子、マリアンだけだ。

最も、ベルサ侯爵家で長男が死んで、アランに跡取りの白羽の矢が立ち別れる事になったのよ。

その時にまだ赤ん坊だった、マリアンも取り上げられたわ。

貴族には良くある話。

だけど、それ以来、私は恋愛をする事は無くなった。

それは何回、転生をしても同じね。

多分、心がババアなのよ..まぁ生きた年齢を合計すれば恐らく1000年近くになるから当たり前と言えば当たり前。

あっ、ババアとかロリ婆とか呼んだら殺すからね。

実際はそうでも、見た目は10代の少女なんだから。

大昔の事だから、忘れ掛かっていたけど、そのアランに見れば見るほどそっくり..気になる筈だわ。

あの時は気にもしてなかったけど、アランって凄い美形だったのね。

見れば見るほど、そっくり、気が付くと見てしまっている。

ルシオラが偶に凄く嫌な顔をするほどに、良いじゃない私はただ見ているだけなんだから。

まぁルシオラも、今の状況じゃ同じか。

これじゃ頭の中の「もやもや」が半分しか消えない。

不味い事に、知識も魔王もどうでも良くなった。

ソードの事が気になって仕方ない。

食事の時に過去について聴いてみた。

「ソードは孤児だったと聞きましたが、その前の事は解らないのですか?」

「解らないよ、僕ちゃんはこれと一緒に教会の前に捨てられていたんだ」

ソードはペンダントを見せてくれた。

ペンダントにはベルサ侯爵家の紋章が入っていた。

確信してしまったわ、間違いなくソードはアランやマリアンの子孫だ。

という事は私の子孫でもあるんじゃないの..

「うーうーあーあー、悩むわ」

「貴方が悩むなんて珍しいですね」

「私だって悩む時はあるわ」

「私はいつも悩みっぱなしです」

「まぁ悩んでも仕方ない事なのよ」

「それは私も同じよ」

肉体的には赤の他人。

そう考えたら、恋愛対象にはなる。

だけど、精神的には子孫、これはお婆ちゃんと孫みたいな関係でもある。

一番愛した男性の面影に、目に入れても痛くない子供の面影、どっちの意味で好きなのか解らない。

だが一番の問題は魔王に勝てないという事だ。

人工勇者の完成は恐らく、早くて次世代。

現状戦力を分析すると、どうあがいても勝てない。

負けた勇者の中にはセトより遙かに強い勇者も居た。

聖剣の強化は教会の物だから出来ない。

正直、私はこの旅で死ぬ気でいた。

死んでもどうせ私には次がある。

一緒に死んであげれば、セトやルシオラにも義理は果たした事になる。

だけど、私は..ソードには死んで貰いたくない。

自分が傍に居てあげれなかったマリアン、愛したアラン。

二人にしてあげれなかった事が沢山ある。

その分は彼に返してあげたい。

命を捨てれば守れるならそうする。

だけど、それも出来ない。

もし、私の「転生」をあげられるならあげたい。

だけど、それも出来ない。

私は薄情なのかも知れない。

セトやルシオラが死ぬ事には何とも思わなかった。

だけど、ソードだけには死んで貰いたくない。

セトから相談を受けた。

「彼を追放したい」と。

助かった、だけど、そんな期待も元から少しはあった。

何故なら、

セトは親友か弟の様にソードを思っている。

ルシオラは1人の男性としてソードを愛している。

私はどういう意味で愛しているのか解らないが彼には死んで欲しくない。

理由はともかく皆が彼を愛している。

渡りに船だった。

「ソードキモい、女の敵は死ぬべき」

心無い言葉をぶつけた。

「ユシーラちゃんも僕は要らないの?」

彼の目が涙ぐんでいる。

今直ぐ、「貴方は大切、私の人生に必要なの」そう言って抱きしめたい。

だけど、引き留めたらソードには死しか無い。

「…要らない」

これしか言えなかった。

今度の戦いで多分私は死ぬ。

もし、生まれ変わって貴方の子孫に会ったら。

次こそは違った関係を築く、もし拒絶されたら一生掛けて見守るわ。

私の気持ちはその時まで持ち越しにするね。

さようなら 愛しのソード

剣聖、ギルドに査定を出す

早速。冒険者ギルドに行った。

ギルドカードの口座にお金を入れないと馬車のお金の請求が来た時に困る。

「ソード様、もしかして早速依頼に取り掛かって頂けたのですか?」

「うん、こなして来たよ」

「それでは、討伐の証明になる物と素材をお願いします」

「此処で出すの?」

「お願い致します」

僕は素材を全部出した。

袋の中の素材でギルドが埋め尽くされていく。

「ちょっと待って下さい、待って下さいってば」

「これで全部だよ」

カウンターから始まって、酒場部分も含んで入口近くまでゴブリンやオークの死体で埋めつくされた。

その中にはオークキングやゴブリンキング、そして盗賊まである。

「これは」

「うん、ゴブリンの洞窟の討伐、キング種ありと オークの集落、キング種含みおおよそ100以上 こっちも討伐しておいた、報酬はカードに振り込んで置いて、僕ちゃんお金が無いから急ぎでお願いね」

「ちょっと、そんな困ります」

「何が困るの? 誰も受けない塩漬けを僕ちゃんが受けた..此処にいる人は誰もやってくれなかったんだよね? だったらこの位優先しても良いんじゃない?」

「ですが、こんな大量の査定、普通に数日かかります、そんな事をしていたら他の仕事が出来なくなります」

「知らないよ..だけど君は王様より偉いのかな?」

「何を言うのですか? いきなり」

「僕ちゃん、剣聖なんだよ? 僕より偉いのは 神、勇者、聖女、賢者、そして教皇、王様だけだよ? 全部無視してやれよ!当たり前だろう」

僕ちゃん、なんて言っていたからつい、忘れていた。

此奴、いやこの方は剣聖だった。

只のSS冒険者じゃない。

「剣聖に誰も引き受けない塩漬け依頼を受けて貰った」それなら最優先にするのは当たり前だ。

「申し訳ございません、すぐに査定して口座に振り込んでおきます..ただギルマスを呼んできますので少しだけお待ちください」

私は直ぐにギルマスを呼びに走った。

「一体何が起こったんだ!」

ギルマスはギルドの惨状を見て驚いている。

驚かない訳はない、ギルドが埋め尽くされているんだから。

ギルマスが何か言おうとした。

「待って下さい! 相手は剣聖様です、王を相手にお話しするつもりでお願い致します」

これでようやく状況が解る筈です。

「剣聖様有難うございました! 直ぐに査定をさせて頂きますが、明日迄お待ちください!」

「そうだよね、僕ちゃん、塩漬けの依頼を受けたのに、優先する位当たり前だよね! それじゃ後はお願いするね!」

ソード様はそのまま笑顔で立ち去った。

「どうしましょうか..これ!」

「今日のギルドの仕事は1/5で回して、残り全員で解体して査定..間に合わない分はそのまま通常査定するしか無いだろうな…ゴブリンは兎も角、オークは食材だ、腐らせないように急ぐしかない..まぁ全員徹夜だ、あと肉屋も問屋を通して集めろ、通常より2割安く卸すから解体させてそのまま買う分を持ち帰らせろ」

「解りました」

この日ギルドは…地獄の様な忙しさに襲われた。

査定地獄と剣聖の怒り
ギルドには悪いけど僕ちゃんには時間が無い。

折角、こんな強い聖剣が手に入ったんだ、僕ちゃんを馬鹿にした、勇者セトや聖女ルシオラ、賢者ユーシラに仕返しをしたい。

僕ちゃんを馬鹿にした報いを思い知らせてやる!

馬鹿にして! 馬鹿にして! 馬鹿にして!

聖都にこれからセト達は行く。

そこで、叩きのめしてやる。

思いっきり恥をかかせて二度と勇者なんて呼ばれないようにしてやる。

もう、僕ちゃんは勇者セトより強い。

だけど、相手には賢者と聖女が居る。

僕ちゃんは1人だ。

三人相手にするにはまだ強くならなくてはならないし、アイテムも必要だ。

場所は、聖都、時間は勇者達が教皇に会う時、そこで思い知らせてやる。

僕ちゃんはワイバーンの岩場に来ている。

情報通り2体のワイバーンが飛び回っている。

ワイバーンの討伐は意外に簡単なんだよ、上級冒険者でパーティーなら1体は簡単。

空に飛びあがる前に殺しちゃえば良いんだ。

だけど、2体になると極端に難しくなる。

一体を倒している時にもう一体が飛び上がる。

そして襲ってくる。

その為、2体相手となると20人以上のA級で襲い掛かるのが通常。

最も、岩場に陣取られると近づいてくるのが解るから、討伐は凄く難しくなる。

恐らく討伐はまず無理だ。

だが、僕ちゃんは違う、1人で戦いを挑むから関係ない。

岩場に隠れながら近づき一気に斬り捨てる。

可能ならこの時にもう一体のも、無理なら襲ってきた時にそのまま殺す。

それだけで良い。

見つけた..一気に距離を詰める。

まだ相手には見つかっていない..

「ぐわあああああっ」

もう遅い、そのまま一気に斬り掛かる。

狙うはオスの大型個体、あっけなく首がそのまま摺り落ちた。

メスが飛び上がる前にそのまま切り伏せる。

風の刃で斬れる、この聖剣だからこそ出来る事だ。

以前はワイバーン相手に4人で苦戦した。

それが僕ちゃんだけで倒せる、亜竜とはいえこんな簡単に倒せるなら、行けるかもかも知れない。

そのまま収納袋に突っ込み、次に向かった。

次が今回の本番、ドラゴンゾンビだ。

本来なら臭気をまき散らして近づくのも困難。

剣聖だけなら無理。

だがこの聖剣には「聖なる加護」がある。

肉体のあるドラゴンなら怖い。

だが肉体の無いゾンビならブレスも吐かないしタダ強いだけだ。

なら巨大なスケルトンみたいな物だ。

依頼は調査だけだけど、そのまま討伐して帰れば良いはずだ。

確かに大きいし臭気をまき散らしている。

普通ならこの臭気に触れたら死んでしまうけど、聖剣がある。

実際に此処まで苦しくないのだから守られているのだろう。

だったら、簡単だ、むき出しになっている、コアをただ破壊すればそれで良い。

それだけで終わる。

ちゃっちゃと終われせて次の塩漬け依頼を聴かないと、時間から考えて余り時間はとれない。

大物を倒して更に実力をつけないと..

僕ちゃんはギルドに戻ってきた。

「剣聖様、はぁはぁどうにか査定も終わりまして、ギルドカードに振り込み終わりました」

「うん、ご苦労様、それで今日も終わらしてきたんだけど、査定と買取お願いね、流石に今日のは此処に入らないから、裏で出すよ」

「….入らないのですか?」

「うん、入らない」

だったら昨日も裏に出してくれれば良いじゃないですか?

まぁ言えませんが。

「それじゃ出すよ」

何よこれワイバーン2匹にドラゴンゾンビの死体..どうしろって言うの?

だだでさえ、昨日のオークの肉を凍らせて倉庫に保管しているのに、これじゃ倉庫も一杯になるわ。

「さすが噂に聞く収納袋(特大) こんなに入るなんて僕ちゃん思わなかったよ?」

「そうですね、あはははっ ギルマス呼んできますね! 少し待って下さいね!」

もう、どうしようもありません。

「また大変な事になりました、直ぐに来てください!」

「あのよ、剣聖様絡みかな?」

「そうです!」

「行きたくない」

「駄目です!」

「仕方ないな」

「剣聖様、これは一体!」

「この間受けた、ワイバーンの討伐とドラゴンゾンビの調査です、まぁ面倒くさいからドラゴンゾンビは討伐しちゃったよ」

そんな簡単に討伐する物じゃないだろう?

ワイバーンは兎も角ドラゴンゾンビは勇者パーティーが全員揃ってなければ討伐なんて依頼しない、だから調査なんだが。

「有難うございます、剣聖様、早速今日も徹夜で査定させて頂きます」

「うん良い心がけだね! それで相談なんだけどさぁ、僕ちゃんこんな雑魚の討伐じゃ満足できないんだ..この辺りで一番の大物を教えてくれない?」

「強さなら、黒龍様です」

「黒龍様? 何で龍に様をつけるの?」

「それは一部の者が神として崇めているからです」

「そう? 解ったよ、それじゃ査定宜しくね」

ギルドを出た後、僕ちゃんは教会を訪れた。

この街の責任者はローアン大司教、教会重鎮だ。

だから、殆どの情報は把握している筈だ。

勇者達について、聴きたい事があるから聴きに行った。

こういう時剣聖が便利だ、立場が形上だから直ぐにトップに会える。

「これはこれは剣聖様、当教会には何か御用でしょうか?」

「勇者パーティーについて知っている事を教えてくれるかな?」

「勇者様の事? はてさて何の事でしょうか?」

「とぼけるなら」

「おや、剣を抜くのですか? 腐ってもこのローアン、そんな物は恐れません、斬るなら斬りなさい」

鎌をかけて正解だった。

命に代えても守らなければならない秘密がある。

そういう事だ。

「流石は聖職者だ、死を恐れないなんて感心しちゃうよね、だから僕ちゃんはローアンには手を出さない、娘と孫に手を出すよ、お孫さん可愛いよね? 8歳位かな? いきなりお母さんと性奴隷として売られちゃったら泣くんじゃないかな?」

「貴様、それでも剣聖か? 恥を知れ!」

「だけど、そうされる位の事があるんじゃないか? それに僕ちゃんがそれを行っても多分罪には問われない可能性も高いよ..どうする?」

動揺してるね、僕ちゃんが言った事に怒りじゃ無くて動揺..これは有罪だ。

「私は反対したんだ..」

ローアンは話だした。

話し出すと教会の事からアカデミーの事、勇者の生い立ち迄全部話した。

「女神も教会もゴミだね..ただでさえ命を捨てさせたのに、それで聖職者? まぁいいや僕ちゃんには関係ないから!」

「これで娘や孫には手を出さないでくれますよね?」

「何で? 世界を救うために犠牲に成れと言うのが教会の考えなら、ローアンも犠牲になれよな? 娘と孫を売ったお金で僕ちゃんは防具を買うからさぁ、ローアンも世界平和の立役者じゃないかな? 万が一魔王を倒せたら、ローアンが家族を犠牲にして防具を買ってくれたと言ってあげるよ!」

「や、辞めて下さい」

「僕ちゃんは小さい頃、牧師さんに人の嫌がる事をしちゃいけませんって教わったよ? 自分がされたら嫌でしょう?…だからこれで許してあげるよ」

僕ちゃんはローアンが付けている女神のペンダントを引きちぎって床に投げ捨てた。

「これを踏んづけて、糞女神って言ったら辞めてあげるよ」

「それは..出来ない..」

「なら、娘と孫は諦めて、おじいちゃーんと泣きながら売られて行くけど良いよね?」

「糞女神…これで良いのですか?」

「あーあ、大司教が信仰を捨てちゃった..良いよ、許してやるよ、だけど自分の胸に手を当てて考えてね! 貴方達がどれ程クズなのか?」

「私は、私は..」

「あのさぁ 三大ジョブでは無いけど、僕ちゃんは剣聖で女神に祝福されているんでしょう? だから僕ちゃんが言うよ、お前達は間違っているよ!」

さぁ、黒龍ぶっ殺してから勇者達を半殺しにしないとね。

勇者達も教会も国もアカデミーも全部ムカついたよ..僕ちゃん、初めて本気でムカついちゃったよ。

VS 黒龍
僕ちゃんは黒龍の討伐に向った。

この獲物はギルドに渡す気はない。

僕ちゃんに必要だから。

黒龍の討伐、僕ちゃんは少し気が引ける。

何故なら、ギルドの依頼にない様に此奴は温厚だからだ。

別に悪い事はしていない、だが今の僕ちゃんにはどうしても此奴が必要だ。

此奴が救いの道だから。

僕ちゃん、お前にだけは謝るよ。

ごめん。

黒龍は森の奥の岩場に住んでいる。

噂では黒龍や白竜は魔王に匹敵すると言われている。

僕ちゃんや勇者は、もうオーブでは強さを計れない。

多分オーブで計れる強さを越えているんだ。

だったら、強さを測るにはより強い者と戦うしかない。

此奴がもし倒せるなら、魔王と戦っても勝てる可能性がある。

そして、もう一つの事実からどうしても此奴を倒さなくてはならない。

岩場で彼奴は寝ていた。

小山程あるその巨体、魔王に匹敵する。

その理由も解る。

「黒龍、僕ちゃんはお前を討伐しに来た」

此奴は悪い事をしていない、殺すのは僕ちゃんの自分勝手だ。

だから不意打ちなどしない、正面から堂々とそれが礼儀だ。

「人間よ我は討伐される様な事はしたか? 自分からは人を襲った事は無いのだぞ!」

「僕ちゃんも解っている、だがお前、いや貴方は強い、だからこそ戦う、それだけだ」

「成程! 理解した、若い龍がその強さを誇示する為により強い龍と戦うのは良くある事だ、我とて若き頃は戦った、なら受けない理屈は無い」

生まれて初めて戦う絶対強者との戦い。

体がガタガタ震えだす。

だが、聖剣が輝き始める。

やはり聖剣は特別だ、心の迷いや恐怖が一瞬で無くなる。

黒龍はどっしりと構えている。

僕ちゃんは素早く走り、聖剣を使い斬り掛かる。

ドラゴンゾンビの骨を簡単に砕き、ワイバーンをあっけなく切り裂いた、それ以上のスピードだ。

だが、黒龍の鱗は僅かに傷ついただけだった。

「ほう、人間の分際で我に傷をつけるとはお前は勇者か?」

「違う、僕ちゃんは剣聖だ」

「ほう、中々の強者だな」

黒龍はブレスを吐いた。

僕ちゃんには効かなかった。

多分、本当なら僕ちゃんは黒焦げで骨も残らない。

これはあくまでも聖剣が僕ちゃんを助けてくれた、それだけだ。

「これでも死なないとはお前は本当に人間か?」

「僕ちゃんは人間だね」

黒龍は巨体を使い押しつぶそうと迫ってきた。

僕ちゃんは交わして剣を振るう。

もうこれは勝てない。

僕ちゃんの剣は精々鱗が落とせる位だが黒龍の一撃は当たれば終わりだ。

詰んだ

「人間、もう終わりか?」

もう、精も根も尽きた。

「僕ちゃんの負けだ..好きにすると良いよ」

「そうか、良く戦った人間、褒美にこれをやろう」

そう言うと黒龍は自分の爪で体に傷をつけ何かを取り出した。

「これは?」

「我の肝だ、我が認めた人間にのみ与えるのだ、さっさと食え」

龍の肝を食う、そういう伝説を聴いた事がある。

そうすると考えられなく位強くなると聴いた。

僕ちゃんは貰った肝を食べた..凄いなこれは今迄と比べ物にならない位力が漲ってきた気がする。

「肝は龍を倒して食らう、そう聴いた気がするが」

「このたわけ者が、亜流は兎も角、龍を倒した人間は居ないわ!」

「だけど地龍は」

「たわけ者があれはトカゲだ龍でない」

話を聴くと亜流や我々が狩っている龍は..龍では無く似て異なるものという事だった。

「それでは龍を倒した伝説は」

「全て、人間や魔族が流した嘘じゃな..強者の多くもブレスで焼いたら死んだ」

「だけど、僕ちゃんは無事だったけど?」

「たわけ者、それは正々堂々と正面から来たから、手加減した..あれはそうじゃ龍で言う所のじゃれあいじゃ、下位の龍が噛みついて強さを示す、そういう物と同じじゃな、殺し合いまではせぬ、本気のブレスであれば街一つ簡単に吹き飛ばせるわ」

良かった、卑怯な方法取らずに本当に良かった。

「人間に肝を渡すなど数百年ぶりじゃよ」

「有難うございました」

「それじゃ、我はまた眠る、肝をやったから流石にな..とっと立ち去れ」

確かに強くなった気がする。

勇者パーティーには勝てるだろう。

だけど..魔王と戦って勝てるかと言えば、多分無理だ。

VS 勇者 クライマックス
黒龍の鱗のうち小さい物を2枚貰った。

聖剣ですら傷がつかない鱗だから、体に晒しで巻き付ける位しか出来ない。

けど前と後ろに巻き付ければ、強力な一撃も防げる。

冒険者カードには沢山のお金がある。

これで街に戻って、教会で良質のポーションを買えば準備OKだ。

教会に来た。

ローアン大司教は顔色が悪い。

そうだ..

「ローアン大司教、良かったら聖都まで旅行に行くと良いですよ」

「剣聖様、それは一体どういう事でしょうか?」

「運が良ければ教皇に成れるかも知れないよ」

「それは何かあるのでしょうか?」

「今は言えないけど、チャンスはあるよ? 信じるかどうかはローアン次第さぁ、じゃぁね」

そのまま、ポーションを大量に買い込み、僕ちゃんは聖都に向った。

聖国ユーラシア。

文字通り、女神を信仰する国で王では無く教皇が治める国。

魔王討伐の際はこの国の判断が優先される。

此処に、勇者達は一回赴き、教皇に挨拶をしてそれから正式に魔王討伐の旅にでる。

今迄が未熟な勇者が己を鍛える期間だとすれば、この儀式の後は一人前の勇者として扱われる。

世界中の国や重鎮が集まる、恐らくは世界で1番重要な儀式と言える。

ソードが言った

「僕より偉いのは 神、勇者、聖女、賢者、そして教皇、王様だけだよ?」これは正しい。

だが、この儀式の前ならまだ勇者達の序列は教皇や王様よりは下になる。

剣聖の位は、三大ジョブとは違うが、魔族と戦う重要なジョブ、そしてソードは実績もあるから、大国の公爵以上王未満。

そんな扱いだ。

だから、何処でも基本顔パスで入れる。

ふぅ、勇者達より早く着く事が出来て良かったよ、遅れたらと思ったら僕ちゃん焦っちゃった。

到着したのは、勇者達が到着する僅か前だった。

急いで僕ちゃんは、聖都の大広場に向った。

小規模なら王城で行うが世界中から人が集まる為、民衆が見れるように此処で行うのが通例だ。

問題は起きるのか?

まず起きない、此処で問題を起こせば、重罪になるからだ。

勿論、一般人は此処まで来れない。

此処に居られるのは上位貴族だけだ。

僕ちゃんは顔を隠しながら此処に来た。

普通に考えて怪しいが、注意を受けたら顔を見せる..それだけで問題は無かった。

「剣聖様ですか」

多分、僕ちゃんが追い出された事を知っているのか、複雑そうな顔をするだけだった。

壇上には既に 教皇やアカデミーの統括、幾つかの国の国王が待っている。

そこにゆっくりと、セト達、勇者パーティー銀嶺の翼の面々が現れた。

三人はゆっくりと壇上へ歩いて行く。

「教皇様や王お待ちください!」

「何奴だ! このセレモニーを妨げるとは..何、剣聖ソードだと!」

帝国の皇帝ルビス3世が声を荒げた。

セトをはじめ、ルシオラにユシーラは驚いた顔でこちらを見ていた。

だが、流石に此処で声を出す訳にはいかず、立ち止まった。

僕ちゃんは黙っていた。

聴かれるまでは、相手は王達だ声を出せない、さっきの一言も重大な違反だ。

それは勇者達も同じ、「まだ教皇や王より身分は下だ」

「何があったのか知りませんが、セレモニーを止めて迄の事発言を許します」

この場で一番偉い、教皇が許可を出した。

「感謝致します、私はそこの勇者パーティーを追放された時に違和感を覚えたのです! 魔王と戦うには優秀な前衛が必要な筈、それが何故追放なのか?」

「それは素行の悪さと聴いていますよ?違うのですか?」

「違います、これは大きな陰謀だったのです! 教会、アカデミーの上層部迄が魔族とグルになり、偽の勇者パーティーを仕立て上げたのです」

「それは..にわかに信じられません、何か証拠はありますか? もし、無いのであれば如何に剣聖でも死罪は免れませんよ!」

「あります、それを証明する前に、彼らの弁明を、偽の勇者パーティーは悪くありません、恐らくは教会、アカデミー関係者から洗脳を受けた可能性もあります、その事は頭に置いて下さい」

「解りました、ならば、早速、証明してみせて下さい..出来なければ..」

「はい、勇者パーティー全員対私で決闘をします、本物の勇者パーティーなら遅れをとる事はありません、勿論、聖剣や聖なる武具を使って構いません! その状態でただの剣聖に勝てないならそれは偽物です」

「成程、聖剣の加護や聖なる武器の加護を受けた状態の勇者パーティーなら万に一つも無いでしょう..確かに証になります、認めましょう..但し違っていたら」

「死を持って償います! 私の見立てでは聖剣すら偽物の可能性もあります」

セト達は驚きを隠せないでいる。

《ソード、お前は馬鹿なのか? せっかく命を助けたので自分から捨てるのかよ!》

《私がどんな思いで送り出したか貴方は知らないのでしょうね、貴方が生きる事が私が唯一残せる生きた証だったのに》

《何で戻ってくるの? 生き残るチャンスなのに、人の気持ちを》

「勇者パーティ銀嶺の翼よ、信じてはいますよ! ですが、剣聖であるソードが命を懸けての訴えです、聴かない訳にはいきません、今直ぐ立ち会いなさい」

「ソード、そこ迄腐ったか、今直ぐ成敗してくれる!」

《人の気持ちも知らないで》

「本当、貴方って最低だわ!」

《貴方には生きて欲しかったの、だけどこれじゃ…恩赦で死刑だけはさせないわ》

「馬鹿..」

《はぁ..どうしようか? 死刑になんてさせられないわ》

「僕ちゃんに恐れを抱いているのか? さっさと掛かって来て」

「本当に馬鹿につける薬は無いな..命だけは助けてやる」

セトは疾風の様に斬り込んできた。

やっぱり遅い。

剣だけじゃ無く、力その物が僕ちゃんには及ばない。

簡単に躱せる。

「聖剣が力を貸した勇者の一撃を剣聖が交わしたぞ」

「そんな訳あるか? あれは小手調べだ」

「大口叩くだけあるなソード! 行くぞ」

「それなら、僕ちゃんはそろそろ、偽の聖剣の破壊を行うとします」

僕ちゃんは「斬鉄斬」を放った。

これは技術でも剣その物が上回っていなければ成功しない。

セトの聖剣は真っ二つに折れた。

だが、これでは終われない、そのまま勇者の右腕を斬り落とした。

「うわあああああああっ」

《ごめん》

悲鳴を聞きながら、そのままルシオラに接近して聖なる杖を叩き切り、そのまま右手を切断。

「きゃあああああああああっ私の右手が」

《ごめん》

そしてユシーラの破魔の杖も切断しそのまま左手を切断した。

「手が無い..痛いの」

《ごめん》

これしか皆を助ける方法は無かった、僕ちゃんは死ぬ程考えたんだ。

聖剣を壊しても、セトはSSS級で他の2人はS級冒険者だから、この薄汚い奴らに利用されてしまう。

それを終わらせるには「能力を落とすしか方法が無かった」これならA級位だ替えがいる状態になる筈だ。

痛い思いさせてごめんね..

僕ちゃんは君達が大好きだ、だから、「これは一緒に死んでくれ」そう言ってくれなかった僕ちゃんの復讐。

君達は僕ちゃんにそれを言わなかった、だから僕ちゃんと一緒には死なせてあげない。

僕ちゃんは三人の切断した手を放り投げると聖剣で細切れにした。

《手を奪ってごめんね..だけど死の運命や嫌な運命は終わらせてあげたよ》

「素晴らしい、ソード! これでそこの銀嶺が偽物なのは解りました、それで本物の勇者達は何処に!」

《此処からが第二ラウンドだ》

「多分、死んでこの世に居ません、だからこそ、次の勇者には私が選ばれました」

「成程、あの偽の聖剣を折ったのは本物の聖剣だったからですね..ソード、いやソード様を勇者として認めましょう」

「有難うございます」

《勇者パーティーが偽物だった、ここで彼を取り込まないと立場がなくなります、更にあの戦力が人々には必要です》

「それで銀嶺の翼ですが」

ふざけるなよ、治療位直ぐにしてやれよ。

「即刻、死刑にします」

「教皇、勘違いしないで下さい! 彼らは洗脳されて利用されただけです、直ぐに手当てをお願いします! それに私と一緒に勇者の様に戦ったのです! 処罰でなく褒美が必要だと思いますが如何でしょうか?」

「褒美ですか..それが勇者様のお気持ちなら、それで何を与えれば良いのでしょうか?」

「そうですね、帝国の外れにリアスの街があります、セトはそこのギルマスにしたいと思うのですが、ルビス3世如何でしょうか?」

「勇者、ソード様の意向ならお聞きします」

「それじゃ、それで」

どうやらちゃんと治療して貰えたみたいだな。

「セト、僕ちゃんの慈悲でギルマスにしてやったぞ!小物のお前にはふさわしいだろう! ちょっと耳貸して」

「お前は」

《そこで、メグちゃんは冒険者をしているってよ! まぁ彼氏が居たり結婚してても僕ちゃんは知らないけどね》

「うぬぼれないでね! 適材適所って言葉知っているよね? セトにはギルマス位がお似合いだよ!」

「剣聖様、いや勇者ソード様、感謝します」

だけど、ソード、お前は死んじゃうじゃないか?

「勇者ソード様、謝礼を頂けるんですか?」

「まぁ、それなりに役に立ったからね、ルシオラは何か望む物はありますか」

「私は、ソード様にこのまま仕えたいです!」

「それじゃ意味が..」

「ソード様、ちょっと耳貸して下さい」

《私は教会にしか居場所が無いのよ、今の私が教会に帰れるわけ無いでしょう? 乙女の手まで奪ったんですから責任とってよね?》

《ううっ解った》

「教皇、本物の聖女は居ないからルシオラを引き取っても構いませんか?」

「教会的には、そんな者より優秀な者を用意したい所ですが、勇者様がそれで良いなら、それで構いません」

「ユシーラは何かありますか?」

「私もルシオラと一緒、このままソード様に仕えたい」

「それは褒美にはならない」

「耳貸して」

《私もアカデミーに席がなくなる、行き場のない私を見捨てるの? この手じゃ研究もできない》

《本当に良いのかな》

《当然》

「アカデミー的には問題ありませんか?」

「特に問題は無いが、勇者様の方こそ良いのでしょうか? 望むなら優秀な者に変えますよ!」

「それなら貰い受けます」

「色々ありましたが、まだ時間はあります、今日を逃すと儀式が」

「まだ、終わりじゃありません」

「勇者様、何があると言うのですか?」

「まだ、教会とアカデミーの魔族の内通者を罰していません」

「何と、勇者様にはその内通者が解るのですか?」

「ああ解るよ、お前だよ教皇!」

僕は、聖剣で教皇の首を跳ねた。

そして、その足でアカデミー総括の首を跳ねた。

皇帝ルビス3世が声をあげた。

「勇者様一体何をするのだ、乱心したか!」

「違います! 先程言いましたよ? 内通者がいるって」

「確かに」

「聖剣のすげ替え、勇者達の入れ替え、そんな物が出来る人間は上層部の人間しか居ないでしょう!」

「それが2人なのですか?」

本当は違う、僕が彼らを殺したのはゲスな人間だからだ。

「愛し子」「人工勇者」 死を決して戦う女の子..ただでさえ幸せを捨てている女の子の尊厳を踏みにじった。

こんなゲスな事をやらせる人間が僕ちゃんは許せなかった。

「ローアン大司教」

「勇者様?」

「貴方の話では、偽の聖女が優秀だと解ると、その聖なる力を奪う為に恐ろしい計画を練っていた..そういう話でしたよね」

《「愛し子」の話を聖女の「聖なる」を抜き出して解釈したのですね..これがチャンス、そういう事でしょうか》

「はい女性相手に本当におぞましい話でした」

「これは本当に非道な話なので、此処では口に出しません、ですがその件に関わった者は全て責任を取らして下さい、ローアン大司教お願い致します」

「はい、アカデミーにも話して必ずや対処させて頂きます」

ローアン大司教は教会のナンバー2だ、これで教皇になる筈だ。

「愛し子」に関わった人間は教皇派だから喜んで粛清するだろう、アカデミーにも顔が聞くからそちらもどうにかするだろう。

結局、儀式は一番の大国、帝国の皇帝ルビス3世が行った。

セトもルシオラもユシーラも「勇者達」では無いから壇上には上がらず僕ちゃんだけが上がった。

こうして長かった僕ちゃんの戦いはひとまず終わった。

救えたのはセトだけ..二人とも何を考えているんだよ。

僕ちゃんの好意を…

和解と旅立ち
無事セレモニーは終わった。

だが、その後の会食等の行事は中止となった。

それは僕ちゃんが辞退した事もあるが、大きく変わった魔王軍との戦いについて練り直す必要があるからだろう。

勇者になってしまった僕ちゃんも出席を促されたが、辞退した。

「教皇と総括が魔族と通じていました、だからそちらの粛清を終わらせてから私が加わった方が良い」

そう僕ちゃんは伝えた。

これで、「愛し子」「人工勇者」の話に加わった者は、無罪の罪だが教皇の仲間として粛清されるだろう。

ローアンとしても反勢力の教皇派を粛清するチャンスがあるのだ殺さない訳はないだろう。

宗教者はお金には汚く無いが、権力と名声には汚いからな。

もう既に吟遊詩人に、僕ちゃんとの出会いの歌を作らせている。

「運命に導かれ、真の勇者と出会った」だって嘘じゃん。

そして、僕は時間がたっぷりあるので元のパーティーのメンバーと話している。

「ごめんなさい」

僕ちゃんは謝る事にした。

事情は事情だけど、片腕を全員から奪ってしまったのだから。

「気にする必要は無いぞ! 此処までしなければ多分俺はまだ戦い続けさせられただろうからな!」

「見抜かれてたのかな!」

「ああ、聖剣が壊された後だが、あそこからお前が俺を攻撃する理由はこれしかないな、俺もお前を追放で無く片腕を斬り落とせば..遅いな、俺はこれで良い、まさかお前に助けて貰えると思わなかった、そしてすまない、お前達はまだ死の運命から逃れられないのに俺だけが」

「うん、平和に暮らせるね、大体可愛い女の子とイチャイチャしていたのに苦しい顔をしているなんて僕ちゃんは気にくわない、書類もあるんだからさっさと行っちゃえよ! まぁ可哀想だから、リアスの街まで送っていくよ、これがセトと過ごす最後の時間だからね」

「俺の方こそすまないな!」

「謝る事は別に無いよ? 僕ちゃんは剣聖で勇者だからセトと違って いつかは魔王を倒すからね」

「お前なら出来るさ」

《馬鹿だな、それでも勝てないのはお前が一番知っているんだろう!》

「私は責任をとって貰えれば良いわ!」

「ルシオラ、さっきも言っていたけど、責任って僕ちゃんは何をすれば良いのかな?」

「私は手が使えないし、本物の聖女なのに偽物にされたかたら教会には居場所が無くなってしまいました!だから死ぬまで面倒みて下さいね!」

「死ぬまで..」

「当然でしょう? 私食事も旨く食べれないのよ? しかも住む場所にも困りそうだからね..その代わりちゃんと面倒見てくれるなら、お返し位はするわ!」

「お返しって何?」

「余伽..馬鹿じゃないの? お返しはお返しよ!」

「まぁ良いやルシオラと一緒に居るのは苦痛じゃないし楽しそうだからね」

「そう? 楽しそうね、うんそうかもね」

「私もルシオラと同じで良いわ、似たような物だからね」

「そう? だけど研究はしなくて良いの?」

「どの口が言うの? 片手が無くちゃ薬品も併せられないわ、少し落ち着いたらソードに助手をして貰うわ」

「それで良いの?」

「それで良い」

「ただ、2人とも僕ちゃんと一緒に居るという事は魔王と戦うという運命が待っているんだよ? そこには当然死もあるんだ」

「ソードばかりに押し付けられないって」

「そうだわ」

「俺だけすまないな」

「セトは気にしないで良いよ!本当に僕ちゃんにとって大切なのは此処にいる3人とルビナスさん位しか居ないからね」

「お前、今そんな事言うと、ほら」

「破廉恥ですわ、あの未亡人がそんなに良いのですか? へぇーそんなに!」

「未亡人でロリ、あれは可笑しい」

「あのさぁ..二人とも幼い子って言って無かった?」

「知らないわ」

「私も知らない」

これは確実に知っていたな..まぁ良いけどさ。

「まぁ良いや、だけど僕ちゃんにとっては大切なのは4人しか居ない、そう考えたら案外魔王との戦いも楽だよ」

「俺も加えてくれているんだな?」

「まぁ僕ちゃん変わり者だから、男の友達はセトしか居ないからさぁ」

「そうか、ソードは変わっているからな!」

「勇者なのに友達が居ないセトに言われたくないな」

ローアンとルビス3世に、肩慣らしでセトをリアスの街まで送っていく話はしてある。

「ゆっくりされたら如何ですか?」

「そうですぞ、ここ暫くイレギュラーばかりお疲れでしょう?」

「うん、だから半分は旅みたいな物だよ、ルシオラもユシーラも片手だから何処まで戦えるか様子を見たいんだ、それにセトとはもうお別れだしね!あれでも友人だからさぁ」

「偽物に勿体ない、ですが、それなら良いでしょう? 気分転換と連携の練習をしたい、そう言った事ですな」

「その通りです」

「まぁ、勇者様は本来は王や教皇より既に上です、「やる」そう言えば良いだけです」

「ありがとう、それじゃ3か月程出てくるよ、その頃にはこの騒ぎを治めて置いて下さいね?」

「「任せて下さい」」

教皇と統括が死んだんだ、正常に戻るまで1か月位は掛るだろう..そこから、まぁ良いや。

直ぐに旅の準備に移った。

「あのよ、ソードこのポーションの凄い数は何だ、まるで討伐に行く準備みたいじゃないか?」

「収納袋は皆持っているんでしょう? 別けてあげるからね」

「ただの旅に大袈裟だと思うわ」

「私もそう思う」

「うん、あくまで御守り、片手が使えない皆に何かあったら怖いからね」

「そう、随分心配性になったのね」

「ソロだったからなのかな」

「勇者のソードが居るし、片手が無くても俺たちは普通の冒険者よりは強いと思うが必要なのか?」

「だから御守り..あと、セトは有事の際に後方を頼むからこれを渡して置く」

「これは、龍の鱗..」

「そう、黒龍の鱗、服の下に巻き付けて置くと良いよ2枚しかないから1枚、背中か腹か自信がない所に巻き付けて置いて」

「解った」

「あとは魔剣グラッドはまだ持っている?」

「ああ、あるぞ」

「ならもう聖剣が無いんだから、それを使えるように腰に差しておいて、ルシオラもユシーラも一応杖は使えるようにしておいてね」

「「解った(わ)」」

「所でソード話し方が少し変わったな?」

「そうかな、何か可笑しい?」

「いや、前よりは良くなったと思う」

「そうね、まだまし」

「確かに前よりはまし」

「そう? なら良いや」

その日のうちに僕ちゃん達は旅立った。

第三ラウンドの開始だ。

世界を巻き込む 
アルフでこの「忘れられた聖剣」を抜いた時からつけられている事は知っていた。

魔法を使わない状況なら斥候以上に気配の察知ができる。

これも剣聖が優れている点。

セトから勇者を取り上げて僕ちゃんが勇者になった後は普通なら死ぬ運命しかない。

今の魔王は異常な程強いのだから。

だけど、これは「自分の幸せを捨てて戦う」からの話だ。

自分達が良ければそれで良い。

そう考えれば、幾らでも戦い方はある。

世界全員で戦えば恐らく人数の多い人間が勝つ様な気がする。

命を懸けて戦う事を強いられた少女にした事を僕ちゃんは忘れない。

ローアンから聞いた教皇派の良い訳は「世界を救う為に必要な犠牲だ、1人の犠牲で世界が救われる」だそうだ。

世界を救うために犠牲になれ、それが皆の考えなら同じ様に僕ちゃんも考える。

だから僕ちゃんは聖都の人間430万人..これを魔王軍にぶつける。

常に見張りが居たから、情報を流すのは簡単だ。

簡単に言うなら「聖都ユーラシアに各国の精鋭を集める、そしてその精鋭を持って魔族の討伐を行う部隊を作り攻め込む」そういう嘘の計画を流した。

《最早、勇者等は飾りに過ぎない》

《数で圧倒すれば魔族など簡単に倒せる》

《幾ら、魔王が強くても6000人の聖騎士なら倒せるだろう、最早勇者や剣聖が戦う必要が無い》

こんな情報を織り交ぜながら、そしてその為に各国の王がユーラシアに集まるのが..今回。

という感じだ。

この情報を流した後、見張りの気配が消えた。

どう動くか解らないが、これで魔王に話は届くだろう。

最高のシナリオは、聖都を魔王軍が本気で襲う事。

これで、魔王軍の戦力が削がれれば、魔王にたどり着くまでの過程が楽になる。

もし、そうならなくても我々以外にも魔王軍は警戒し戦うだろうから、僕ちゃんたちにくる何割かは他に流れる。

それで、何人死のうが僕ちゃんは知らないけど、人に押し付ける事が間違いだと僕ちゃんは思う。

「自分でもちゃんと戦ってね」それしか言わないよ。

「勇者様頑張って」と死ぬ運命に送り込んだ他人なんて、何人死のうと僕ちゃんは痛くない。

どうなっても、僕ちゃんには良い事しかない。

僕ちゃんの予想では大群で襲ってくる可能性はかなり高い。

普通なら、それで聖都は終わる。

だが、今の聖都には各国の王が居る。

だから、各国の精鋭部隊を引き連れてきている。

聖都には、「麗しの聖騎士オルト」率いる聖騎士隊が居る。

「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊。

それに今なら、帝国からは「血狼のフォング」率いる疾風騎士団。

王国の「インペリアルプリンスのアルト」率いる王宮騎士団。

他にも沢山の有名な騎士団や魔術部隊が居る。

自国の王が居るのだ、死ぬ気で戦うだろう。

これなら、案外良い戦いが出来るんじゃないかな?

たった3人で頑張る必要は無い、全世界を巻き込めば良いんだよ。

聖都で間に合わないなら、次は帝国の王都、全世界を巻き込んで戦えば良いんだよ。

全世界がボロボロになる位になったら魔王軍も弱体化するから、その時になってから魔王については考えれば良いんだよ。

それでもまだ手強ければ、死ぬまで逃げていれば良いんだよ。

だって、僕ちゃんなら、魔王以外なら対処できるんだから。

強くて勝てないなら、魔王城に行かなければ良いんだよ、それだけだよね。

これが第三ラウンド、聖都VS魔王軍。

まぁ確定じゃ無いけどさぁ。

僕ちゃんたちにとっては、「聖都を離れて情報が届きそうもない、安全な場所に行く」場合によってはやり過ごす。

リアスは魔族領と反対側だから、比較的安全だと僕ちゃんは思う。

だけど、万が一全方位囲まれて居たら困る。

最悪、こちら側にも魔族軍が居る可能性があるが、僕ちゃんや片腕を無くしても銀嶺の翼はAランク位の力はある。

ちゃんと準備はしたから突破は余裕だと思う。

どう転ぶのかな? 僕ちゃん的には 聖都VS魔王軍が起ると良いな。

だってその方が後は楽なんだからね。

戦わないで済んだ
僕ちゃんたちはリアスに向って旅立つ。

パレードや見送りは遠慮して貰った。

だって、僕ちゃん以外は、偽物扱いなんだから嫌がらせがあるかも知れない。

だから、こっそりとした旅立ちだ。

門を出て暫く歩くと森が広がっている。

《物凄い数の魔族や魔物が居る、こっち側にこれ程居るという事は、確実に聖都を攻めるんだろうな》

「どうしたのよ? ソード何か勘づいたの?」

「何か感知したのか?」

「魔法要る?」

「魔法は要らないよ、ただ考え事してただけだよ!気にしないで!」

そのままやり過ごした。

《お払い箱の勇者様~田舎の街に逃げ帰り、魔族相手に戦わないで イチャコラとー》

ワザとおちゃらけた歌を歌った。

恐らく、あの森の魔族が聴いたら、流した噂と重ねて、勇者がお払い箱になった。

そう考えてくれるかも知れない。

準備はあるとはいえ、僕ちゃんは怪我なんてしたくないのだ。

結果は..見逃されたようだ。

これで、用意したポーションも使わないで済むし、誰も傷つかない。

良かった。

「ソード! 今の歌は俺の事だよな?」

セトに頭を小突かれた。

「うん、セトそれで良いんだよ? 僕ちゃんとセトは親友だろう!」

「そうだな、うんそうだ」

「私の歌は無いの?」

「わたしのはありますか?」

「無いよ? だってルシオラもユシーラも怒らせたら怖いからね」

「別に怖くないわよ」

「わたしだっていきなり殴ったりしませんよ」

「それじゃ、今度考えておくよ」

この三人は僕と違って凄いお人よしだ。

多分、聖都がこれから襲われると知ったら、必ず戻ろうという筈だ。

だから、気がつかれない様にやり過ごさした。

もし、戦う事になっても魔族が来た方向に向かうように誘導するつもりだった。

魔族もまだ包囲網を完成させる前なのかも知れない。

だったら、此処で知られない方が良いと判断したのか戦闘に成らなかった。

お払い箱になった勇者より、自分達を襲ってくる者の方を優先したのかも知れない。

僕ちゃんの第三ラウンドはこれで無くなった。

ポーションは無駄になったけど腐らないから良いや。

どのタイミングで戦いが始まるかは解らない..どのみち早くここを離れた方が良いだろう。

リアスにセトを送り届けてた後、リアスを離れて連絡がつかない場所で過ごす。

森でも迷宮でも構わない。

そうすれば結果は出ているだろう。

【IFの世界】 ダラダラと生きて行こう (短編で終わらした場合のエンディングでした)もう関係ありませんが
無事セレモニーは終わった。

だが、その後の会食等の行事は中止となった。

それは僕ちゃんが辞退した事もあるが、大きく変わった魔王軍との戦いについて練り直す必要があるからだろう。

勇者になってしまった僕ちゃんも出席を促されたが、辞退した。

「教皇と総括が魔族と通じていました、だからそちらの粛清を終わらせてから私が加わった方が良い」

そう僕ちゃんは伝えた。

これで、「愛し子」「人工勇者」の話に加わった者は、無罪の罪だが教皇の仲間として粛清されるだろう。

ローアンとしても反勢力の教皇派を粛清するチャンスがあるのだ殺さない訳はないだろう。

宗教者はお金には汚く無いが、権力と名声には汚いからな。

もう既に吟遊詩人に、僕ちゃんとの出会いの歌を作らせている。

「運命に導かれ、真の勇者と出会った」だって嘘じゃん。

そして、僕は時間がたっぷりあるので元のパーティーのメンバーと話している。

「ごめんなさい」

僕ちゃんは謝る事にした。

事情は事情だけど、片腕を全員から奪ってしまったのだから。

「気にする必要は無いぞ! 此処までしなければ多分俺はまだ戦い続けさせられただろうからな!」

「見抜かれてたのかな!」

「ああ、聖剣が壊された後だが、あそこからお前が俺を攻撃する理由はこれしかないな、俺もお前を追放で無く片腕を斬り落とせば..遅いな、俺はこれで良い、まさかお前に助けて貰えると思わなかった、そしてすまない、お前達はまだ死の運命から逃れられないのに俺だけが」

「うん、平和に暮らせるね、大体可愛い女の子とイチャイチャしていたのに苦しい顔をしているなんて僕ちゃんは気にくわない、書類もあるんだからさっさと行っちゃえよ! まぁ可哀想だから、リアスの街まで送っていくよ、これがセトと過ごす最後の時間だからね」

「俺の方こそすまないな!」

「謝る事は別に無いよ? 僕ちゃんは剣聖で勇者だからセトと違って いつかは魔王を倒すからね」

「お前なら出来るさ」

《馬鹿だな、それでも勝てないのはお前が一番知っているんだろう!》

「私は責任をとって貰えれば良いわ!」

「ルシオラ、さっきも言っていたけど、責任って僕ちゃんは何をすれば良いのかな?」

「私は手が使えないし、本物の聖女なのに偽物にされたかたら教会には居場所が無くなってしまいました!だから死ぬまで面倒みて下さいね!」

「死ぬまで..」

「当然でしょう? 私食事も旨く食べれないのよ? しかも住む場所にも困りそうだからね..その代わりちゃんと面倒見てくれるなら、お返し位はするわ!」

「お返しって何?」

「余伽..馬鹿じゃないの? お返しはお返しよ!」

「まぁ良いやルシオラと一緒に居るのは苦痛じゃないし楽しそうだからね」

「そう? 楽しそうね、うんそうかもね」

「私もルシオラと同じで良いわ、似たような物だからね」

「そう? だけど研究はしなくて良いの?」

「どの口が言うの? 片手が無くちゃ薬品も併せられないわ、少し落ち着いたらソードに助手をして貰うわ」

「それで良いの?」

「それで良い」

「ただ、2人とも僕ちゃんと一緒に居るという事は魔王と戦うという運命が待っているんだよ? そこには当然死もあるんだ」

「ソードばかりに押し付けられないって」

「そうだわ」

「俺だけすまないな」

「セトは気にしないで良いよ!本当に僕ちゃんにとって大切なのは此処にいる3人とルビナスさん位しか居ないからね」

「お前、今そんな事言うと、ほら」

「破廉恥ですわ、あの未亡人がそんなに良いのですか? へぇーそんなに!」

「未亡人でロリ、あれは可笑しい」

「あのさぁ..二人とも幼い子って言って無かった?」

「知らないわ」

「私も知らない」

これは確実に知っていたな..まぁ良いけどさ。

「まぁ良いや、だけど僕ちゃんにとっては大切なのは4人しか居ない、そう考えたら案外魔王との戦いも楽だよ」

「俺も加えてくれているんだな?」

「まぁ僕ちゃん変わり者だから、男の友達はセトしか居ないからさぁ」

「そうか、ソードは変わっているからな!」

「勇者なのに友達が居ないセトに言われたくないな」

ローアンとルビス3世に、肩慣らしでセトをリアスの街まで送っていく話はしてある。

「ゆっくりされたら如何ですか?」

「そうですぞ、ここ暫くイレギュラーばかりお疲れでしょう?」

「うん、だから半分は旅みたいな物だよ、ルシオラもユシーラも片手だから何処まで戦えるか様子を見たいんだ、それにセトとはもうお別れだしね!あれでも友人だからさぁ」

「偽物に勿体ない、ですが、それなら良いでしょう? 気分転換と連携の練習をしたい、そう言った事ですな」

「その通りです」

「まぁ、勇者様は本来は王や教皇より既に上です、「やる」そう言えば良いだけです」

「ありがとう、それじゃ3か月程出てくるよ、その頃にはこの騒ぎを治めて置いて下さいね?」

「「任せて下さい」」

教皇と統括が死んだんだ、正常に戻るまで1か月位は掛るだろう..そこから、まぁ良いや。

セトを送って行ったら、一度、聖都に戻ってから旅に出かけよう。

「魔王討伐」という名目の楽しい旅。

僕ちゃんより強いのは魔王だけ、そして魔王は滅多な事が無い限り魔王城からは出て来ない。

ならば、魔王城に近づかなければ良い。

ダラダラと楽しく旅を続けながら魔族を倒していく。

国がお金を出してくれるから、一番良いホテルに泊まって、見たい物を見て、ルシオラやユシーラには欲しがる物を全部買ってあげよう。

あそこ迄の事をさせていたんだから、それも良いだろう?

とりあえずは、リアスでダラダラしよう、肉料理が美味しいというから食べて温泉に浸かろう。

それが終わったら、北の大地にでも向かおうかな。

あそこは四天王最弱のルーダルが居る。

四天王討伐という名目なら誰も文句は言わない。

あそこは海に近いから魚が美味い。

適当に弱い魔族を倒しながらダラダラと人生を楽しめば良い、お金なら各国が全部出してくれる。

僕ちゃん気が付いたよ!

魔王は居るから僕ちゃん達は価値がある。

なら、魔王を出来るだけ倒さないでいた方が楽しい時間が続くんだ。

世界が僕ちゃん達に死を押し付けるなら、僕ちゃん達も他の人の事なんか考えなくても良い。

何人死のうが何万人死のうが気にしなくて良い..

義務として魔族を倒していれば良いんじゃないかな?

沢山楽しい時間を過ごして、満足したら魔王に戦いを挑もう。

勝てないようであれば、人が滅多に来ない魔族領の近くで暮らせば良い。

もう無理をする必要は無い。

これからの人生は「魔王討伐」ではなく「自分達が楽しむ」時間を過ごす。

「それじゃ行こうか?」

「そうね」

「うん」

「そうだな」

ダラダラと楽しい人生は続く。

FIN

魔王と魔族

「人間側が戦力を集結しているだと」

「はい魔王様」

人類は何を考えているんだ..そんな事をしたら神と戦った時の神魔戦争と同じになるでは無いか。

あの時は神も邪神も魔族も滅びかかった。

さしずめ相手が人間だから人魔戦争という事になるのか。

全面戦争、それだけは避ける不文律があった。

特に取り決めは無いが、お互いに全滅を避けるための常識があった筈だ。

だが、実際に各国の強者が終結している。

もしかしたら、聖剣の入れ替えがバレたのか?

確かにあれは常識破りだ。

あれが元で全面戦争になるのか?

聖剣と勇者パーティーが勝てないならそうなるのかも知れぬ。

我々魔族は勝ち過ぎたのかも知れぬ。

原因が我々にある、だが、このまま座している訳には行かない。

もう、「何でもあり」の戦争が始まる。

ならば、こちらも手をこまねいている訳には行かない。

「その話が真実なら、大量転移魔法を使え! 各国が手をとり合い我らを襲って来るのならその前に叩かないといけない」

「はっ」

「魔族を動員して聖都を襲い、各国が手をとり合う前に始末をつけるのだ!」

こうして聖都の周りには魔族の軍隊が転移されていった。

ただ、真実かどうかは慎重に考えなくてはならぬ。

もし、全面戦争を人間側が考えて無いなら、これは行ってはいけない事だ。

魔族側が全面戦争の引き金を引く事になる。

「魔王様、部隊の一つから連絡がありました、勇者パーティーが去っていくから攻撃するかどうかの指示が欲しいとの事です!」

状態について詳しく聴いてみた。

勇者パーティーは全員片腕がない状態でしかも聖剣を持った者も一緒。

そして魔族領と反対側に歩いていっている。

何かが可笑しい。

これは、本当に勇者や聖剣に頼らずに戦う、そういう決意なのでは無いか?

《最早、勇者等は飾りに過ぎない》

《数で圧倒すれば魔族など簡単に倒せる》

《幾ら、魔王が強くても6000人の聖騎士なら倒せるだろう、最早勇者や剣聖が戦う必要が無い》

その情報から考えるなら、勇者達はその責任を取らされ、その処罰として腕を失った。

そして追放された。

そう考えるなら、人間が勇者では無く、「数の暴力」で戦う事にした。

それしか考えられない。

如何に余でも6000人の聖騎士は相手に等出来ぬ。

情報が欲しい、少しでも情報が欲しい。

「それで勇者たちの様子はどうだったのだ」

「それが案外陽気で《お払い箱の勇者様~田舎の街に逃げ帰り、魔族相手に戦わないで イチャコラとー》と歌を歌っていたそうです!」

合点がいくぞ!

もう戦う必要が無くなったからなのだろう。

魔王にしても勇者にしても常に死を背負い生きて行かなくてはならない。

その重責から完全に解き放たれたのだろう。

「捨て置け、最早勇者には何の意味も無い! それより今は人間たちに感ずかれる方が不味い! 包囲を完成する方が先だ」

勇者よお前達の戦いは今終わったのだな..これからは人類が魔族の敵だ。

最早、お前達が余の前に立つ事は無いのだろう。

「勇者よ待ちかねたぞ」

もうその言葉を言う事は無い。

だが、それを余は寂しく思う。

それから3週間後、聖都は大量の魔族に襲われる事になる。

セトの旅の終わり
リアスに無事着いた。

当たり前だよね、僕ちゃんが居るし、他のメンバーだってAランク以上。

そのメンバーなら大通りを歩いていれば何も起こる訳はないよね。

まぁゴブリンにオーク、オーガは居たけど、全然問題ない。

「着いた、着いた、まずは宿を取ろうか? 今迄みたいに質素な所じゃ無くて一番豪華な宿が良いな」

「ソード急にどうしたのよ!」

「セトどうした」

「倹約位はした方が良いぞ!」

ここははっきりさせた方が良い。

「皆に言うけど、勇者も聖女も賢者も教皇より偉いんだよ..これ位は当たり前だよ」

「だが、俺たちのお金は税金や支援者が集めた物だ」

「そこが僕ちゃん間違いだと思うんだ、セトもルシオラもユシーラも良い人だから洗脳されちゃっていたんだよ?」

「洗脳? 俺がか?」

「私がですか?」

「私が?」

「そうだよ!僕ちゃん達は既に対価を払っているんだよ、誰もが嫌がる魔王討伐という対価をね! 命がけの仕事の対価なら幾ら貰っても良いんじゃないかな?」

「確かにそうかもしれないだが、なんだか使いづらかったな」

「教会育ちの私は、そう言う事に疎くて」

「私も基本研究畑なので」

「そう言う所に漬け込まれたんだよ! 実際に僕ちゃんは皆と別れて冒険者をしたけど、普通に依頼を受けるだけで大金を掴んだよ! たかだか、ワイバーンの依頼だって高額なんだから、魔王を倒せなんて指名依頼を冒険者として受けるなら、国ごと全部貰ったって釣り合うと思うんだ! だから幾ら贅沢しても良いと思わない?」

「ソードはそうだけど、私は元聖女だわ」

「私も元賢者」

「それは気にしないで良いよ?二人が欲しいなら王女のティアラだって国宝級の宝石だって僕ちゃんが貰ってあげるよ」

「そんな幾ら何でも」

「そこまでしなくても」

「もう決めたんだ、自分にも、仲間の為にも妥協も安売りも僕ちゃんはしないって」

「解ったわ、ソードに任せるわ」

「ソードが好きなようにして良い」

「それじゃ任せてね」

結局、僕ちゃんはリアスで一番高級なホテルの最高の部屋を一つとった。

本当は3部屋とろうとしたんだよ?

だけど、頑なにルシオラもユシーラも反対するんだ。

「これからの旅は三人で連携するんですから1部屋で充分です、それに片手ですから離れたら不便です」

「私もそう!片手じゃ不便だから」

「だけど、女の子なんだからそんな」

「責任とる約束です! だから良いんです! まさか責任取らないつもりですか?」

「まさか約束やぶるの?」

「はぁ、2人が良いならそれで良いや」

結局、勇者の身分証を出して国払いで宿を取った。

セトはこういう勇者の身分証明の使い方をしなかったが、僕ちゃんは使う。

「そんな使い方があったのか?」

「セトは知らなかったのか?」

「お金も送金されていたからな」

本当に彼奴らはクズだ、まぁ聴かないセトも悪いんだけど。

「次はセトをギルドに送り届けたらゆっくりしよう?」

「そうね、先に終わらせちゃおう」

「そうだね」

「それじゃ行こうか? セトちゃんもしかして僕ちゃん達と別れるのが辛いのかな?」

「辛いな」

そんな真面目な顔で言うなよ..

「そうか? だったら2日間位はまだこの街に居るから、勇者とか剣聖とか聖女、賢者じゃなく、普通の友達として遊ぼうよ! どうだ」

「良いな、それ、うんそうするか?」

「僕ちゃんは、メグちゃんに会うのが楽しみだ!」

「おい..」

僕ちゃん達はセトをギルドに送って行く。

これで、セトの旅は終わる。

親友セトの為に ちょっときつい展開があります
セトをリアスの冒険者ギルドに送り届けた。

こじんまりしたなかなか良いギルドだ。

此処ならセトも楽しく暮らせそうだ。

魔族領とも離れているからこの先も安全だし。

小さいとはいえ街だから充分生活には困らない。

うん、良い街だ。

「さてと、メグちゃんは何処にいるのかな?」

「お前な..」

「何だ、どうしたんだセト!」

目の前に仲の良い冒険者の男女が居た、男の腕に女がしがみ付く様に腕を絡めている。

「メグ..」

「嘘、セト..ごめんね..」

「嘘だ.うそだ..」

セトは泣きながら走っていってしまった。

「悪い、ルシオラ、ユシーラ!セトを追いかけて」

「解ったわ」

「解った」

2人が出て行くのを見てから僕ちゃんは話しかけた。

「ちょっと話がある」

メグを後ろに男が話した。

「何があったか解らないが、今はメグは俺の女だ、遠慮して貰いたい」

「もう、セトとは終わった事です」

「そう、僕ちゃんは勇者ソードなんだけど? それでもそれを通すのかな? 斬り捨てても良いんだけど?」

「勇者様..すみませんでした、話を聞きます」

今のギルマスに話をし部屋を一つ用意して貰った。

「…..」

「……..」

流石に僕が勇者だと聴いて震えている。

しかも剣聖の時の悪評を聴いているから余計怖いだろうね。

「僕ちゃんはね、メグ君を凄く評価してたんだ」

怒鳴られないと解ると少し顔色が明るくなった。

「勇者様がですか?」

「セトは偽の勇者だったけど、本当に凄く戦っていたよ? そして何時か君の元に帰るんだって言っていた」

「ごめんなさい、私、セトはもう死ぬんだって思って、そうしたら凄く寂しくて…」

「そう、それで人類の為に戦っているセトを捨ててそんな男を選んだと?」

「そう、メグを責めないで欲しい、俺が誘ったんだ」

「きみは?」

「俺の名前はガンダル、メグとパーティーを組んでいる」

「それで、セトが帰ってきたんだけどどうする?」

「俺とメグは付き合っているんだ」

「セトには謝るしかありません」

「そう、ガンダルを取るんだね? 後悔しない? それは真実の愛なのかな?」

「俺はメグを愛している」

「私もガンダルを愛しているんです」

「なら良いけど? 一応二人がそのまま付き合った場合と、別れてセトと付き合った場合について話すね」

「幾ら聴いても俺の気持ちは変わらない」

「私も変わりません」

「まぁ、聴いてよ! まず、そのまま付き合った場合ね、君達はもう冒険者は辞めた方が良い!」

「何でそうなるんだ」

「セトは此処のギルマスになるんだよ..居ずらいでしょう?」

「なら、他のギルドへ行くわ」

「暫くはそれで良いよ? だけど、僕ちゃんがセトの後見人になるからセトは出世するよ! 将来的には全ギルドの統括になるかも知れないよ? そんな彼を振るんだ、ギルドでの立場なんて君達にあると思う? 多分上級ランクには慣れないよね?」

「それは」

「酷いです、そこまでする何て..」

「だけど、それ以上に君たちは辛くなるよ? 此処のギルドのギルマスになったのは、メグ、君が居るからなんだ、これは教皇から世界各国の王が知っている、それなのにセトを振ったらどうなるのかな? 今の君は死に物狂いで戦っているセトを待っている少女、だがそれがセトが命がけで戦っている間に浮気した女になってしまう。 これを僕が教皇や帝国のルビス3世に報告しなくちゃいけないんだ…世界の国王全員に嫌われるね、教皇も多分怒るから..君達も君達の家族や知り合いももう教会で治療は受けられないかもね? 多分ポーションももう買えないね! 帝国の優れた武器も買えないから冒険者は辞めた方が良いね!」

嘘だけど、その気になればこれ位僕ちゃんは出来る。

「そんな、冒険者でいられなくなるんですか? 俺」

「そんな夢を諦めるなんてしたくない」

「それで終わらないよ? 僕ちゃんにとっても顔が潰されて、親友を振った女なんて他人だから助けないよ! 僕ちゃんの友達にいつも悪口や愚痴位は言うと思う! 友達って教皇や国王ね? 仕方ないよね..嫌いな相手の悪口位人なんだからさ! だけどそうすると世界の貴族全員に嫌われて市民扱いされなくなるかもね?スラムに住むしかないんじゃないかな? まぁ盗賊や娼婦になって生きるしかないんじゃない?」

まぁ教皇や王様に悪口言えばそうなっても可笑しくないよね?

「あの、勇者様、それ本当に俺にするんですか?」

「私はもう生きていけない、そう言う事なの..」

「真実の愛を貫いて、それしか僕ちゃん言えないな..で今度は君がセトを選んだ場合ね!」

「…..」

「……どうなるんですか?」

「セトはギルマスだから、可能なら冒険者は辞めて欲しい、だけどセトってSSSランクの冒険者これはまだ生きているね! まぁ片手無いから実質Aランクだけど、安全な場所だから昔の約束の様にパーティーを組んでも良いんじゃない? 君のランクは知らないけど最高峰のSSSランクパーティーのメンバーになるよね?」

「SSSランクパーティーのメンバーですか…」

「それだけじゃないよ? 僕が手が足りない時に力を借りるから勇者パーティの補助メンバーだね」

「勇者パーティーの補助メンバー」

嘘でしょう、これは冒険者を極めたそういう状態じゃないの。

「それに、僕ちゃんが聖都に帰った時に君の事を伝えるよ、勿論浮気は口を噤む! だから教皇も各国の王も君の名前を覚えるね!」

「凄い..」

世界中に私の名前が知れ渡るの..

「多分、吟遊詩人が歌を作ったりするんじゃないのかな? それにセトは何時かは総括になるから総括夫人に将来なるね」

「あの」

「それだけじゃない! その結婚式には僕ちゃんが参加するから、当然式は教皇が挙げる! 更におまけだけど、片手が無いセトでもワイバーン位は狩れるから、大きな屋敷位直ぐに買える、何だったら僕ちゃんが将来貰ってあげる」

「本当?」

「勿論、あっそうか? セトは勇者じゃないから、今度話し合って何処かの国の爵位でも貰ってあげようかな? そうしたら子爵夫人とか?」

「爵位..」

これでどうだ? 見た感じガンダルが鉄の剣でメグが銅の剣だ..お金が無いのは直ぐに解る。

これでもガンダルを選ぶならそれで良い。

勿論手出しなんて絶対にしない、助けもしないけどね。

此処まで言っても動かないなら、それは真実の愛なのだろうから諦めるしかないな..

「さぁ、メグ、どっちを選ぶか聴かせて欲しい、意思は尊重するよ!」

「私が間違っていました..私は今でもセトが好きです! ううん愛しています!」

「良かった、これで僕ちゃんの顔も建つ、ありがとうメグ、君は仲間だ!」

「私が勇者様の仲間!」

「セトの恋人なんだからそうでしょう?」

「そうですね!」

「おい、メグお前は俺を..いや、それより俺はどうなるんですか? 絶対にセト様や勇者様に嫌われましたよね!」

「そうだね! 今君は何ランク?」

「Dです」

本当に低いな…生活に困る筈だ。

「それなら、そうだ、君はメグを妹のように思ってパーティーを組んだ、そう言う事にして貰おうかな? その代わりB級の推薦状を書くよ、悪いけど聖都で頼むね、流石にセトに会わせたくないからさぁ..どう?」

「良いのですか?」

「良いよ、それにこれとこれとこれもあげるよ…ちょっと待ってね!」

僕ちゃんは収納袋から 鋼鉄の剣、ポーション、金貨3枚をとりだした。

鋼鉄の剣の柄には、剣聖ソードと彫ってあげた。

剣なら、勇者よりこっちの方が良いだろう。

「鋼鉄の剣に高級ポーションに金貨..」

「更に柄には僕ちゃんの名前を書いておいたよ! 剣聖の愛刀を貰ったって自慢になるよね? これでどうかな?」

「充分です、有難うございます」

安い愛だね..これでセトが喜ぶなら充分だ。

「それじゃ、ガンダルはもう行ってくれるかな? 早目に此処を出て行ってくれると助かる」

「直ぐに宿を引き払っていきます」

「そう、それじゃ悪いから馬車のチケット代にもう1枚金貨だすよ、これなら今日中に出ていけるよね?」

「はい、直ぐに出て行きます」

「あの、私はどうすれば良いのでしょうか?」

「仲間がセトを連れにいったから、セトと上手くやって! ガンダルは?」

「お兄さんみたいで世話になった人でパーティー仲間」

「さっき謝ったのは?」

「セトが大変な思いしていたのに自分だけ楽しい生活を送っていたから、でどうでしょうか?」

「うん、良いんじゃない!」

それから暫くしてルシオラとユシーラに連れられてセトが帰ってきた。

あはは泣いてやんの!

「今更、話す事は無い、俺は遅すぎたんだ..」

「セトは何を泣いているのかな? 悪い癖だよ! 何時も僕ちゃんの言う事聴かないで突っ込むよね? 誤解みたいだよ!ちゃんと話して!」

「誤解? 」

「そうだよ!ちゃんと話して! メグもあの場合は直ぐに追いかけなきゃ駄目だよ!」

「ごめんなさい!」

少し、話しているとセトの顔が笑顔になった。

メグも..顔を赤くして凄い笑顔だ。

女って怖いな、本当にそう思った。

だけど、セトが幸せそうだからそれで良いや。

メグは僕ちゃんにとって仲間じゃない。

しいて言えば、セトの飼っている猫みたいなものなんだよ!

親友が飼っている猫ならエサやおやつをあげるよね?

だけど、知らない猫にはエサなんてあげない..それだけだよ!

本当の事を知ったらセトは怒るだろうな!

だけど、セトは僕の親友だから、セトが欲しがるなら王女だろうが王妃だろうが貰ってあげるよ。

それだけの事はもう世界に対してしているんだから。

これは僕ちゃんが死ぬまで黙っていれば良い事だ。

僕ちゃんは馬鹿だからこんな事しか出来ないんだ..悪いね。

お買い物と素直な気持ち
セトの幸せそうな笑顔に見送られて僕ちゃん達はギルドを後にした。

これから引き継ぎをしてセトは此処のギルマスになる。

その引継ぎをセトは少しだけ後に伸ばした。

まぁ、此処まで戦い漬けの毎日だったから少しは休みたいのだろうと思っていたんだが

違っていた。

「もう最後だから、お前達と過ごそうと思ってな」

それもいいかも知れない。

2日間位は此処にいるし、場合によっては更に数日位なら問題は無いと思う。

戦いが始まる前には出て行けば良い。

「そうだね僕ちゃん達には少し休む時間が必要だね」

「そうだな」

「私は余り休日という物を楽しんだ事はありません..」

「そう言えば私も研究ばっかりで無かったな(今世はね)」

「無理をしないで好きな事を自由にすれば良いだけだよ」

今日はこれでセトとは一旦お別れ。

何故か、ルシオラとユシーラはセトに金貨を渡して何かを頼んでいた。

メグとの時間を取り戻す(笑)時間が必要だろう。

絶対、僕ちゃんは明日「昨夜はお愉しみでしたね」って言ってやる。

「それじゃどうする? 二人がやりたい事があるなら付き合うよ?」

「やりたい事ですか? 困りました、私は聖女たれと言われていたので楽しみ方が解りません」

「私は本が見たいな、最もこんな所の本屋に欲しい物は無いと思うけど」

リアスの街には本屋は1件しか無く見てみたが、ユシーラの目に叶う本は無かった。

2人とも他は見たい物がないらしい、困った。

仕方なくブラブラと街を歩いた。

僕ちゃんは昔なら武器屋だが、聖剣がある今、行く必要は無い。

二人の聖なる武器は破壊したが、教会とアカデミーが聖なる武器以外では最高の物を用意しているので必要ない。

そう考えると僕ちゃんの頭では、洋服屋と宝石屋しか思いつかない。

2人を連れて洋服屋に行った。

「あの当店は高級店に御座います、お買い求めは難しと思いますよ? 古着屋なら」

うん、舐められた。

確かに僕ちゃんは服に無頓着、ルシオラは聖女だったから質素、ユシーラは僕以上に無頓着だ。

確かに見た目からお金があるようには見えない。

無視して話した。

「ルシオラはどんな服が欲しいかな? ユシーラは?」

「私はこういうのは不得手でして、ソードが好みの物で良いです」

「私も任せるよ! ほら本来研究者だから、苦手だから」

「そんな事言うと結構セクシーな服にしちゃうよ? 下着だって知らないよ?」

「わわ、私は生涯ずっとソードにお世話になるのですから構いません、不本意ですが良いですよ」

「私も良いわ! この後、沢山お世話になるから良いよ」

「あのお話を聴いていましたか? 当店は高級店でして」

「あのさ、僕ちゃんがこの店で買えないなら誰が買うの?」

「当店は、大商人、貴族の方でも子爵様や伯爵様までもが買う一流のお店です、貴方じゃ無理でしょう?」

「それじゃ高級な物で幾ら位」

「そうですね金貨2枚位しますよ? 諦めがつきましたか?」

これで諦めがついたでしょう。

「それなら、金貨100枚あげるから僕たち三人に10枚ずつ作って、彼女達に似合う様に可愛らしくて綺麗な服、それでいてセクシーで清楚な感じで、あと下着も上質な物でお願いするよ」

「はぁ冗談はよして下さい..怒りますよ」

流石に頭に来たから勇者の身分証を出した。

「僕ちゃんは勇者ソード、この支払は各国の王が払う、さらに僕ちゃんの地位は教皇より上なんだけど? なんでお前は伯爵や子爵より下に見るんだ?」

顔色が見る見る青くなっていく。

「ゆゆゆ勇者様..お許し下さい」

「良いよ..ただ罰として明日までに30着を用意してさっきの条件の物をね..僕ちゃん達は戦づくだから、今みたいに思われてしまう、だからそう見られない服をお願い」

「そんな明日まで何て無理です」

「あのさぁ、僕ちゃんの知り合いにルビス3世っていう人がいるんだけど知っている?」

「はい皇帝様ですよね、知っております」

「頼んだ軍服を期日に間に合わせなかった服屋がいてさぁ、どうなったと思う?」

「どうなったのでしょうか?」

「家族事死刑だって」

「ひぃ」

「貴方は僕ちゃんにこの店は一流だと言ったよね? 聖都や帝都のお店なら王様に頼まれたらこれ以上の注文も受けるんだ、出来ないじゃ済まさない」

「明日のお昼までお時間を下さい、必ずや仕上げます」

「良く言った、それなら約束通りに仕上げてきたらルビス3世やローアンにも良い店だって紹介してあげるね、あと会議の時に着て行って貴族や王族に聞かれたら、この店で作ったと紹介してあげるよ」

これは凄い話だ、絶対に失敗は出来ない、お金の問題じゃない、成功すれば本当の一流店だ、それこそ王都や帝都、聖都に進出できる。

だけど失敗したら、全部無くす。

そう言う事だ、今から作り始めて、この街の職人全てに頼めばどうにかなる。

やるしかない。

「それではこれから採寸します」

凄いスピードで採寸していった。

ルシオラやユシーラは目を丸くしていた。

よく考えてみたら、僕ちゃん達は急ぎの旅だったから服は古着ばっかりだった。

もしかしたら二人とも採寸は初めてかも知れない。

折角なので今展示してある服で三人が着られそうな服を見繕ってもらって簡単に寸法を直して貰って着替えた。

「綺麗だ」

それしか僕ちゃんには言えなかった。

古着や質素な服を着ていても綺麗なんだから、その彼女達が綺麗な服を着ていたら綺麗なのは当たり前だ。

「そう?ソードにとってそう見えるならこういう服も良いかも!」

「そう、少しは身だしなみも気をつけるわ」

2人とも顔が少し赤くなった気がする。

以前の旅ではこんな顔をした二人を見た事が無い。

セトも含んで全員死んだ顔をしていた。

これからは、彼女達には何時でもこういう顔をしていて貰いたい、そう思った。

「あの、ソード貴金属店に行く前にちょっと話を聞いてくれますか?」

ルシオラが真剣な顔をしていた、悲しそうにも見える。

断る理由は無い、重要そうな話なので近くにカフェがあったので入った。

店員に聞いたら別料金で商人が使う個室があり、空きがあったのでそこを借りた。

部屋に入ってからルシオラは黙ってしまって話さない。

ユシーラも黙ってしまった。

暫く待つとようやくルシオラは話し始めた。

「私の両親は小さい頃に死んでしまって、教会で育ったの!」

黙って聞く事にした。

「だから、自由が無くて外の世界の事は何も知らなかった、そんな私がようやくシスターになり少しだけ自由が貰えるそういう矢先に聖女になってしまったのよ….私にとっては本音で言うなら、貧乏くじだと思ったわ、ようやく自由が手に入る、そう言う時に聖女? これからの時間を束縛されて死ぬ運命に変わってしまったのよ..」

頷くしか無かった。

「それだけなら、まだしも聖女なのに、本当は聖なる女なのに、魔王に勝てない聖女だからって教会はもう一つ私に命じたの、さっきのが人としての人生の終わりなら、今度のは女としての人生の終わり、本当に笑っちゃうわよね..だけど、世界の為だと言われて教会しか行き場のない私は断る事が出来なかったの! その時は私まだ、本当に人を好きになるそういう事も解らなかったのよ、だから凄く悲しくて、寂しくて、辛くても我慢できた、自分を愛してない男にお願いして、自分も愛してない男に抱いて貰うのよ! 最低だよね」

僕には何も返せなかった。

「私が知っている世界に男は2人しか居ない、貴方とセトだけなのよ! それで私はね貴方にあって気づいてしまったのよ! 私が好きなのはソード貴方の方だって、だから、貴方が私の手を斬り落とした時につけ込んだのよ、責任取りなさいって、本当は私の命を助けるためにしてくれたのに、最低だよね、散々貴方の親友に毎日の様に抱かれていて、そんな資格私にはないのにさぁ..こんな汚れてしまった体なのに..」

「もう、私は聖女でも無い、只の回復魔法が使える女、そして貴方の親友に抱かれていた女、気持ち悪いでしょう..だから捨てても良いよ」

《そしたら、死ねるもの》

「あのさぁ、僕ちゃんの事をルシオラは好きだって事で良いんだよね? だったら別れる気はないよ! だって約束したよね!思い出して」

「何の事?」

《私は教会にしか居場所が無いのよ、今の私が教会に帰れるわけ無いでしょう? 乙女の手まで奪ったんですから責任とってよね?》

《ううっ解った》

「あれはルシオラだから言った事だよ、もし他の人だったら解ったって言えなかったと思う、僕はあの時からルシオラの手になろうと思っていたんだ、手は死ぬまで絶対に離れない物だよね..それに僕ちゃんはルシオラの為に教皇まで斬っちゃったから..」

「今、何と言ったの?」

「あれはルシオラだから」

「違うわ、教皇様を私の為に斬っちゃったって言わなかった?」

「言ったよ! 魔族と通じているだけなら国外追放でも良かった筈じゃない!だけどルシオラに酷い事をした元締めが教皇だと解っていたから裁判送りじゃなくて殺しちゃった」

「そうなんだ、ソードはこんな私の為に..そんな事までしてくれていたんだね..」

「ルシオラが汚れているって言うなら、僕ちゃんの手だって血で汚れているよ! 教皇にアカデミーの総括に盗賊、剣聖の僕ちゃんは血で汚れている、ルシオラ達と違って人間も殺すのが剣聖だから」

「ソードは汚れていないわ」

「なら、ルシオラも汚れてなんていないよ! もし汚れたってシャワー浴びたら綺麗になる、それで良いんじゃない?」

「ソードはそれで良いのね?」

「うん」

「ありがとう..ソード、本当にありがとう!」

「あー、ちなみに、ルシオラの心はずうっと、ソードだけの物だったわ! だってセトに抱かれている時もソード、ソードって言っていた位だからね、あとセトは、メグ、メグって見ていて気持ち悪かったわ」

「ちょっとユシーラ 」

「まぁソードが気にしないなら、ずっとルシオラの心はソードの物だった! それで終わりで良いんじゃない!」

「はぁ、そうね…」

「それで、今度は私の番ね、私はルシオラみたいに最後まではしていないけど、精液の採取はしていた、だけど私は研究家だから気にはならない、だって研究の為に豚や牛、場合によってはオークやオーガの精液まで使うんだから..だけど、男は気にするんじゃないかな」

個人的には、ルシオラと違ってセトが被害者に聞こえてしまうのは何でだろう? オークやオーガと同じ、可哀想だ。

「そういう仕事だって考えるなら気にならないよ、だって僕ちゃんは剣聖、さっきも話したけど人殺しが半分仕事なんだから」

「そう言って貰えると思ったわ、だったら私も気にならない! 私もソードが好き、二つの意味で好き!」

「二つの意味で?」

「そう、一つはルシオラと同じ意味、男性としてね、もう一つは母親みたいな気持ちで何故か好きなのよ!」

「母親?何で?僕ちゃんが子供? 何で年下なのに?」

「それは解らない..だけどそう言う事ね!」

今思えば、思い当たる節がある。

やたら僕ちゃんを膝枕したり、頭を撫でたりしていた、こういう意味だったんだ。

「ユシーラって変な性癖があったのね」

「ルシオラ、これは性癖じゃない、愛よ ちゃちゃ入れないで、それで、ソードは孤児だったんでしょう、だから私はお母さんを兼ねるわ、良いわよね」

「チビで胸無しなのに?」

「ルシオラ、覚えてなさい」

「良いよ、だけど僕ちゃんは家族を知らないから、お母さんって解らない、それで良いなら良いよ」

「充分だわ」

「僕にとって大切な人は世界に4人しか居ない、そしてその中の2人はルシオラにユーシラだよ! 自分の命より大切なんだ、余り恥ずかしいから言いたくないけどね」

解っているわよ..それじゃなくちゃあんな事しない。

うん知っているよ。

だけどさぁ、だけどさぁ..

だけど

《未亡人は要らないわよ》

《未亡人要らない》

「「ありがとう」」

「どういたしまして」

三人は初めて素直になれた気がした。

僕ちゃんは仲間の為なら「世界なんて」幾ら犠牲にしても良い..本当にそう思えた。

ギルド婚
貴金属店に立ち寄った。

此処では特に舐められる事も無く、声を掛けて来ない。

普通に眺めている事が出来た。

やはり、僕ちゃん達は余りこういう物は得意じゃないな。

宝石や指輪は綺麗には見えるけど、余り欲しいとは思わない。

多分、ルシオラもユシーラも同じ様な気がする。

ただ、此処で僕はもう買う事を決めた物がある。

てっきり、ルシオラは知っていて告白したんだ、そう思っていたけど違うみたいだ。

よく考えたら教会で生きていたルシオラは知らないかも知れないし、知っていても結び付けなかったのかも知れない。

僕ちゃんは意を決して買う事にした。

「すみません」

「はい、何でしょうか?」

「此処にある貴金属で高級な物って何になりますか?」

「ご用命は何になりますか?」

「指輪です」

「指輪ですか? もしかしてお連れの方とお揃いの物でしょうか?」

「はい」

《三つお揃いで出来たら他には無い物が良いのですよね》

「その通りです」

「あるにはあるのですが、今当店にあるのは凄く高級な物になります、お客様で手が届くかどうか? もし手が届かないようであれば他の金属でお作りします」

「かなり高いのですか?」

「はい、何しろ使っている金属が特殊でしてレインボーオリハルコンになります」

「レインボーオリハルコン? オリハルコンじゃなくて?」

「はい、オリハルコンの中にごく稀に虹色に輝く物があるんです、それを使った指輪になります。デザインは勿論の事、他に見た事が無いので素材その物がこの3つしか存在しない可能性も御座います」

「凄いね」

「更に古代の魔法が掛かっていて一度つけたら他の方にはもう嵌める事が出来なくなります、指輪の所有者は生涯この指輪の所有者になります、デメリットとしてはそう言う物なので転売が出来ない事でしょうか? あと、所有者が亡くなると砕けるという話も聞きますがこれは本当かどうか解りません」

本当に良いなこれ。

「それで金額はどの位になるのでしょうか?」

「はい、金貨100枚になります」

「それじゃ買わせて貰うよ、その代わり立会人もお願いして良いですか?」

「やはりギルド婚をお考えだったのですね、書類を用意して、オーナーを呼んできます、すみませんがお支払いをお願いして良いですか?」

「これで大丈夫ですか」

「これは勇者の身分証明ですね..勇者様でしたか? 大丈夫ですよこれ程信頼のある物はありません」

「何か買われたのですか」

「あれっソードは欲しい物があったんだ意外」

「うん、指輪をちょっとね」

「指輪を買われたのですか?」

「へぇーそう言う趣味もあったんだね」

「違うよ、あのさぁ、さっきの話なんだけど、2人ともこれから死ぬまで一緒に居たいそう言う事で良いんだよね?」

「そう言う事よ、まさか今になって違うとでも言うの?」

「もしかして怖気づいた?」

「違うよ! それなら良かった、そうじゃないと指輪を買った事が無駄になるから確認しただけだよ?」

「指輪と私達が関係あるのですか?」

「指輪?」

やっぱり、知らないんだな、まぁ聖女や賢者じゃ解らないのも当然かな。

「ソード様、準備が出来ました」

「僭越ながら、立会人の欄には私オーナーのゼンドルと先程ご案内したマリルのサインをして置きました、こちらにサインしてギルドに提出すれば、登録が終わります、まずはサインをお願いいたします」

「ソード、いったいこれは何?」

「さっきの指輪と関係あるの?」

「ずっと一緒に居るんだから、結婚した方が良いと思わない? だから、これはその為の書類!」

「けけ結婚ですか!ですが結婚とは教会で行う物では無いのですか?」

「普通は教会でするんじゃないの?」

結婚には二通りある。

一つは教会で愛を誓いあいするもの、多分多くはこっちをイメージする。

もう一つはギルド婚と良い、立会人つきでギルドに結婚届を出すもの。

ギルド婚はどちらかと言えば冒険者や庶民が行う事が多い。

忙しく働く者が利用する物で、立ち合い人の前で愛を誓いあい、自分達と立会人の署名が入った書類を所属するギルドに提出する。

その方が財産を共同で管理できたり、亡くなった場合の残りの財産の所有がしっかりしているので便利だったりする。

その際に、お揃いの物を身に着ける者が多い。

本来は指輪だったのだが、時代と共に変わってきて今では剣を揃えたり、お揃いのスカーフをもったりするようになった。

ちなみに、友人が少ない等の理由で立会人が用意出来ない場合は、今回の様に物を買う時に頼む事も多い。

「教会ではお互い嫌な思い出しか無いでしょう?だからギルド婚にしようと思ったんだ」

「「ギルド婚」」

僕ちゃんはギルド婚について説明した。

「嘘っ..ソード、私をお嫁さんにしてくれるの?」

「さっきの今で結婚、嬉しいけど..ソードってせっかち?」

「確かに唐突だけど僕ちゃん達はこれから又旅を続けるんだからさぁ、ゆっくりできる時に、そう思ったんだ」

まぁ、今後急ぐ事はまず無いけどね。

「そうね、うん、そう言う事なら今しか無いよね!」

「言われて見ればそうだよ、うん」

書類にサインをして、指輪を貰った。

「ソードそれでこれどうするの?」

そうか、彼女達は片手が無かった。

「これはね、左手薬指に嵌めるんだ..ルシオラ嵌めてあげるよ!」

「ありがとう、だったらソードのは私が嵌めてあげるね!」

「ありがとう」

「….」

「どうしたんだユシーラ? ユシーラも嵌めてあげるよ!」

「ソード、私、私、左手が無い、結婚出来ないの..」

「あっゴメンね、その場合は右手の薬指に嵌めるんだよ? 嵌めてあげるね」

「そうなんだね!良かった」

指輪を身に着け、書類を貰った。

「それじゃ、今直ぐギルドに行こう!」

「うん、それが良い」

「いや、まだ..」

「ソードはまだ結婚したくないの?」

「違うよルシオラ、そんな訳ないよ..そうだよね?」

まるで、戦闘の時のような目になっている。

これは…今行くしかないな。

「そうだね、今行こうか?」

「うん、それじゃ直ぐに行こうね」

「うん、最速でいこう」

本当はセトがギルマスになったら一番に提出しようと思っていたんだが…

まぁ良いか..2人とも笑顔だし今更言う必要も無い。

結局、そのまま、三人で書類を出しに直ぐに行った。

これは贅沢では無いよ
本当はセトがギルマスになってから出すつもりだったんだが。

無事、届け出をだした。

これで、正式に結婚した事になる。

教会の結婚より事務的だが、亡くなった後の対応等はこちらの方が便利なので冒険者はこちらを選ぶ場合が多い。

この世界の結婚は一般的には一夫一妻、だけど地位が上がると少し変る。

例えば男爵など下級貴族は一夫二妻、伯爵以上の上級貴族は一夫四妻、王族は一夫十妻となる。

これは世継ぎに関する事情によるものだ。

ちなみに剣聖は一夫四妻、上級貴族と一緒で勇者は王族と同じ一夫十妻となる。

昔は勇者は幾らでも妻を娶れたらしいが、余りに多くの妻を迎えた勇者が居たのでこの様になった。

ちなみに妻が多くの夫を持つのは基本禁止。

基本というのは女王の場合等幾つかの例外があるから。

一応、僕ちゃんは「勇者」だから、教会宛にも結婚の書類を作り郵送を頼んだ。

ここの教会でも良いが、ローアン宛に送った方が義理的に良いだろう。

二人は凄く笑顔だ。

セトへの報告が明日になってしまうがこの笑顔が見れたなら、まぁ良いや。

「ルシオラ様、調査の依頼の報告書が出来ています」

「ありがとう、流石に速いわね!」

「まぁ、簡単な調査ですから、それとおめでとうございます」

「ありがとう」

何の報告書だろうか?

まだ、この辺りでは勇者パーティーだと知られてない。

だから、この通り普通に行動出来ている。

素性がバレない様にしてくれる、案外このギルドは優秀なのかも知れない。

「さて、そろそろ美味しい物でも食べに行こうか?」

「確かに、お腹もすいたわね」

「ペコペコだよ」

「それじゃ行こうか?」

「また随分、凄い所で食べるんだね」

「凄いね、此処は」

「その件についても入ってから説明するね」

「「解った(わ)」」

今回は、服を着替えた後だから止められなかった。

多分、最初の服装だったら入れて貰えなかったかも知れない。

余り高級店で食べた事が無いから、最初から勇者の身分証明書を出して個室にして貰った。

「最高の肉料理をコースでお願いします!」

「勇者様のお気に召すように、精一杯のおもてなしを致します」

「少し、話をしたいから料理は15分後からでお願いします、飲み物を先にお願い致します」

「畏まりました」

「それでこの凄い贅沢には何か理由があるのですか?」

「知りたい」

「僕ちゃん達は馬鹿だったんだよ! 」

「それはどういうことなの?」

「何かあるの?」

「簡単に言うとかなりの額をピンハネされていたんだよ、僕ちゃん達が稼いだ額ならこんな生活死ぬまでしても使いきれないよ」

「そうなのですか?」

「本当?」

お人よしの勇者セトに、世間知らずの聖女に研究者じゃ、気が付かないよね。

まぁ、その生活ですら、僕ちゃんは羨ましい位貧乏だったけどさぁ。

「まずは、これを見て貰える?」

「袋ですね、金貨が一杯入っていますね、このお金がどうかしたの?」

「凄い大金だね..これだけあれば良い研究資金になるよ」

「これね、ただのワイバーン2体の討伐金、解りやすい様に降ろしてきたんだ」

「ワイバーンの討伐ってこんなにお金になるんですね」

「こんな金額になるんだ」

「あと、ドラゴンゾンビの討伐にオークキングの討伐、ゴブリンキングの討伐も受けたんだけど、それだけでもう10年は暮らせるお金になったんだ」

「そうなんだ、凄いね」

「うん、流石ソード」

「違うって、そこじゃなくて、セトと一緒に僕ちゃんたちはどんな仕事していた? 同じようなレベルの仕事をずうっとしていたじゃない?」

「確かにそうだね」

「うん、していたね?」

「僕ちゃん達が手に入れた秘薬、王城並みに高いらしいよ? セトがタダで送っちゃったけど! その他にも高額で貴重な素材も全部アカデミーや教会に送ってたよね」

「確かに送っていたわね」

「確かに高額な素材だった」

「それらを普通に計算するともう四人で一生贅沢しても使いきれない金額、いや同じ人生をもう一度歩んでも使いきれない金額は稼いでいるんだよ!」

「それ程なのですか」

「確かに高額な物も沢山あったかも」

酷い話だよ、命がけで戦って、あんな事までさせられて、ピンハネされて僅かなお金で誤魔化される。

簡単に言えば、金貨1000枚位稼いでいて金貨10枚渡される、そんな仕事してたんだ。

「そう、だからこれは自分達が稼いだお金をただ使っているだけなんだ」

「そうだったのね」

「言われてみるとそうだね」

「そう、あいつ等は勇者の支援団体だとか聖女の支援は教会がするとか賢者の支援はアカデミーなんて言いながら、本当は寄生虫の様に僕ちゃん達に寄生していたんだよ..実質は、魔王退治を頼んで死に物狂いで戦っている僕ちゃん達から更にお金を巻き上げていた..それに最後はあれだ、酷くないかな?」

「ちゃんと考えて見たら酷い話ね、本当に馬鹿みたいだわ」

「本当にそうだね、冷静に考えたら酷いねこれ」

「そうでしょう? だから僕ちゃん達はこれからは自由にして良いと思うんだけどどうかな?」

「そう考えたら、そうだね、うん当たり前だよ」

「そうだね、私も欲しい物があったら我慢しないよ、だけど文句言って来るかもよ?」

「そうしたら簡単だよ? 「魔王と戦うのを僕ちゃん辞めた」そう言えば文句言わなくなると思うよ?」

「確かにそう思うけど良いの?」

「それで良いのかな?」

「良いんじゃない? それに何時も今日みたいな生活送るって訳じゃないよ? 食べたい物を食べて泊まりたい所に泊まる、その中に贅沢を我慢しないって言う事を加えただけだよ」

「うん、そうだね、自分達で稼いでいるんだから文句言われる筋合いは無いわ」

「私もこれからは欲しい本や道具があったら我慢するのを辞めるわ」

「うん、それで良いと思うよ!」

この日を境に僕ちゃん達は我慢をする事を辞めた。

三人の夜

食事は個室にして正解だった。

貴族だったセトは兎も角、僕ちゃんもルシオラもユシーラも正式のマナーを知らない。

しいて言えば、ルシオラはまだ綺麗に食べるが、僕ちゃんもユシーラも綺麗とは言えない。

しかも、よくよく考えればルシオラもユシーラも片手が無いんだから更に上手くは食べられない。

当たり前だ、僕が直ぐに気づくべきだった。

「ルシオラ、ユシーラ食べさせてあげるよ!」

「「えっ」」

「それじゃ、ルシオラから、ほら、あーん」

ルシオラは恥ずかしそうに顔を赤くしながら、口を開けた。

「あーん」

嬉しいけど、何だか恥ずかしいわね、これ。

「次はユシーラね、はい、あーん」

「あーん、もぐもぐ、これはこれで良いわね..」

これはこれで何だか嬉しい。

うん、幸せを感じる。

《こんな事をして貰えるなら片手が無くても良いかもしれない》

《いいいな、これ》

「気が付かなくてごめんね! 次からはフォークで食べられるように、ちゃんと切った状態にして貰うから」

「えっ、そうよね..」

「あはは、そうして貰えると助かる」

食事を終えて宿に帰ってきた。

つい意識してしまい、どうして良いか解らなくなる。

何か話さないと、間が持たない。

どうしようか? 考えていると、ルシオラが話しかけてきた。

良かった。

「あのさぁ、ソードはい! これ読んで!」

「これはさっきの報告書だよね! 解ったよ」

報告書の内容はルビナスさんについてだった。

僕ちゃんの子は身籠ってなくて、今現在はもう既に再び嫁いだそうだ。

「まぁ、彼女は未亡人だし、次の男性を探すのは仕方ない事よ」

「そうだね..うんそうだ」

「まぁ、帰れる可能性がある旅では無かったん、だから仕方ないよ」

「うん、ちょっとがっかりしたけど、結婚したなら多分幸せになれるだろうから良いや!」

「そうそう、もうソードは2人もお嫁さんを貰ったんだから、気にする必要は無い筈よ..それより私達の事を考えてね!」

《いや、それもそうだけど、ルシオラが依頼したのは多分、この街にきてセトと別れた時だこんな短期間で調査して連絡が取れるのだろうか?》

「あっ、ソードが寂しそうな顔をしている! そんなに未亡人が良かったの?」

「ソードーっ」

「違うよ、その話はもう大丈夫だから..そうじゃなくて、多分その調査依頼を頼んだのは此処についてからセトに頼んだんだよね? 凄く速いなと思って」

連絡が速い..それも頭に入れないといけない。

「普通じゃない? ギルドからギルドへオーブで連絡をして貰って、そこの冒険者にお願いして状況を聴いて来て貰うだけなんだから」

「オーブってそんな使い方しちゃいけないんじゃないか? 本来は緊急連絡だけだよね?」

「それは元勇者でこれからギルマスになるセトですからどうにかなるわ」

「それに勇者絡みなら使っても問題無し」

「そうか、オーブか、すっかり忘れていたよ」

オーブの連絡速度、それも今後考えないと不味いな。

「確かに、そうそう使わないわね…そうだ、多分二枚目に彼女からの言付けが書いてあるはずよ!」

あの日は私には夢の様な一日でした、気に掛けて頂き有難うございます。

でも夢は覚める物です。あれは平凡な女と英雄がすれ違った一夜の夢です。

夢から覚めた私は現実世界で生きて行かねばなりません。

頑張って生きていきます。

勇者になられたそうですね、おめでとうございます!

だから勇者様も頑張って生きてください!

オーブは長い時間は使えない、多少は端折られているかも知れない。

ただ、一杯一杯だった、僕ちゃんを体を使ってまで慰めてくれたのは事実だ。

「頑張って生きて下さいか」彼女らしいね。

愛ではないのかも知れないけど「恩」は忘れないよ。

君は打算でなく僕ちゃんに接してくれた数少ない人だからね。

「もう良いんじゃないかな?」

「うん、さっきも言ったけど、幸せならそれで良いよ..」

また会話が止まってしまった。

よく考えてみたら彼女達と夜を過ごした事は無い。

テントも別だった。

「さてと、最初はルシオラに譲るわ、ソードはさっさとシャワーを浴びてきなさい!」

「えーと」

「さっさと行く!」

「はい!」

「ユシーラ」

「ほら、お待ちかねのソードだよ? そんな顔しないの! 過去は過去!これからはソードだけの物になるんだから!」

「それもあるけど、私何すれば良いか解らないのよ、前の時はそのね」

そうか前は、薬使って無理やりしていたんだっけ。

「やりたいようにやれば良いのよ..貴方がソードにしてあげたい事全部してあげれば良いわ、それにソードだって2回目で、最初の相手は見栄えは兎も角未亡人だったんだから問題無いんじゃないかな? 折角、最初を譲ってあげたんだから楽しみなさいよ..あっ終わったら呼びに来てね! 隣の部屋で待っているから!」

「あの、一晩譲ってくれるんじゃないの?」

「そこ迄は優しく無いわよ! 私も..最初を譲ってあげただけでもかなり妥協しているのよ!」

「そうね..ごめんなさい」

ルシオラが乙女になっているわね、耳まで赤くして可愛いわね。

前とは全然違うわね。

こうなるまで辛い事ばかりだったんだから..

「それじゃ、私はもう隣の部屋に行っているから後でね!」

「もう少し、ユシーラお話しない?」

「ソードが出て来た時二人いたら気まずいでしょう? 良い!しっかりして、ソードがシャワーから出て来たら今度はルシオラがシャワーを浴びるのよ、解っているよね?」

「ううっその位は解る」

「それじゃ頑張って」

行っちゃった..どうしよう?どうしよう?私ちゃんとしたのって、した事ないのに..

「ルシオラお待たせ」

出てきちゃった。

「わわわ私もシャワー浴びてくるわ」

ルシオラは今迄悲惨だったから最初は経験豊富な女として(前世)譲ってあげないとね。

上手く行かなかった場合も慰めてあげれるから後を選んだんだよ。

聴くのも悪いわね、ノック以外は聴こえないサイレスの魔法を掛けた。

随分頑張るのね、本2冊も読み終わっちゃったわよ。

トントン..トントン

ようやく終わったのね。

「ソードは?」

「シャ、シャワーを浴びているよ」

「どうだったのかな?」

嬉しそうなのは解る、だけどどうして此処まで顔が赤いの?

凄く恥ずかしそうに俯いているけど..まさかソードがアブノーマルだったとか?

「うううっ凄く恥ずかしかったの、嬉しいけど、凄く恥ずかしいのよ、結婚しているけどお嫁さんに行けない位恥ずかしいの..」

まぁルシオラは本当の意味では初めてだからそうよね。

「まぁ良かったじゃない! それじゃ選手交代ね」

まぁ私は取り乱したりしないよ…

「ううん、頑張ってね..」

何を?

「それじゃ終わったら今度は私が呼びに来るから三人で一緒に寝ようか?」

「うん、ありがとう…頑張ってね」

だから何を?

「あっ、ソードシャワーから出たんだね?それじゃ私も浴びてくる」

「うん」

あれっ何でソードもついてくるんだろう?

「ソード、流石にシャワーを見られるのは恥ずかしいからベットで待っててくれる」

「えっ、まぁ良いや..暫く此処で待っているから問題が起きたら声かけてね」

「えー、まぁ良いや覗かないでね」

シャワー浴びている間も待ちきれないのかな? 

可愛いわね、本当に!

あっ! あれっ! 私片手しかないから真面にシャワー浴びれないじゃない…

「ソード..ゴメン!」

「言わなくて大丈夫だよ、さっきもうそうだったから」

「ごめん」

さっきのルシオラの気持ちが凄く解ったわ。

満足に体が洗えないから、最初のシャワーでソードに全部洗って貰って。

いたした後の片付けも全部ソードがして..凄く恥ずかしい。

そして、一番恥ずかしいのは、終わったあとの体も全部ソードに洗って貰わなくちゃならない事だ。

しかも下半身まで。

トントン、

「終わったよ」

「どうだった? 恥ずかしかったでしょう? 」

「ルシオラが言っていた意味が解った..これは本当に恥ずかしいわ..」

手が片手無いから、いたしている時も上手く隠せないし、恥ずかしくても顔も全部は隠せない。

「そうでしょう? 私さっきは顔から火を吹いちゃうかと思った」

「そうだよね、だけどこれは慣れるしかないと思うよ」

「そうだね、それでソードは?」

「もう寝ちゃったから、左右に分かれて川の字で寝ない?」

「うん、それが良いね..」

こうして三人の夜は過ぎていった。

2人が、2人で入って協力して体を洗えば良いという事に気が付くまで一か月も掛かった。

仲間たちの休日
朝一番に約束通りセト達と合流した。

メグとの様子を見るとちゃんと上手くいっているようだった。

今だから言える言葉を言ってみた。

「昨夜はお愉しみでしたね!」

「お前もな!」

うっ、よく考えて見れば解る事だ。

僕ちゃんがセトの様子を見て、上手くいっている。

それが解るのだから..セトが解らない筈が無い。

「もう、その話は辞めよう」

「そうだな」

メグもルシオラもユシーラも顔が赤くなっている。

辞めた方が無難だ。

「しかし、皆、水臭いぞ! 結婚するなら呼んでくれよ!」

「実は、ルシオラもユシーラもギルド婚を知らなかったみたいでさぁ、指輪と書類だけ用意するつもりがそのまま」

「流されたんだ..まぁ解るよ!ソードだしな!」

「私達は、この後また旅に出ますから、急がないとね」

「そうそう」

「だけど、1日位待てなかったのか?」

「仕方ないじゃない?」

「善は急げだよ?」

「まぁ良いや..結婚おめでとう!」

「「「ありがとう」」」

「それで、セト達は何時結婚するんだ?」

「あの、勇者様! いつが宜しいでしょうか?」

「何で僕ちゃんが決める流れになっているの?」

「流石に教皇様のご予定とかあるんじゃないですか?」

うん? 教皇?

《「それだけじゃない! その結婚式には僕ちゃんが参加するから、当然式は教皇が挙げる!」》

これか? これの事か?

僕ちゃんは勇者だから落ち着いたら教会での式をしなくちゃいけない..

それと併せてで良いんじゃないかな?

「教会式で教皇に挙げて貰うには、聖都まで行かなくちゃいけないから..まだ先で良いんじゃないかな?  先にギルド式で挙げちゃうのも手だよ!」

「そうですね!どうしようかセト?」

「どうするメグ?」

「えーセトが決めてよ」

「メグが好きな方で良いよ!」

《あつあつですね》

《何か初々しい》

ルシオラやユシーラと違い、僕ちゃんには生暖かく感じる。

「それじゃ、指輪を僕ちゃんが2人に買ってあげるから今日は貴金属店にまず行こうか?」

「おい!良いのかそんな無駄遣いして!」

このお人よし勇者が! まぁそこがセトの良い所なんだけどね!

ルシオラとユシーラはこれからも僕ちゃんと居る。

だから、これからも幾らでも欲しい物が買える。

だけど、セトと過ごすのはもう暫くだけだ。

そう考えたら、セトが欲しい物は出来るだけ買ってあげた方が良いだろう。

「詳しい事は後で話すよ! 欲しいかどうかだけだよ! メグはどうかな?」

メグはセトの方をちらっと見た。

セトがやれやれと言う様な仕草をすると..

「私は欲しいです…指輪とか考えた事もないけど、お揃いの物を身に着けるのって素晴らしいと思います」

さっき指輪を見ていたから、僕ちゃん達が身に着けているのを見て羨ましくなったのだろうな。

「それじゃ買いに行こうか?」

「有難うございます」

「すまないな」

昨日来た貴金属店に来た。

「これはこれは勇者様、今日も何かお求めですか?」

昨日買ったから勇者だと解っている。

だからなのか最初から話しかけてきた。

「今日は友人の指輪を購入しにきました! お勧めの物はありますか?」

「昨日程の物は流石にありませんが、やはりオリハルコンがお勧めですね! 今だと珍しいブルーオリハルコンの物があります、ペアで金貨30枚ですね、今ある物だとこれが最高の物です」

僕ちゃん達と差があり過ぎる気がするけど無い物は無いのだから仕方ない。

セトに聞くと、遠慮しそうだからメグに聞いてみる事にした。

「メグ、これでどうかな?」

「どうかなって金貨30枚ですよ!良いんですか?..凄い金額なんですよ?」

「流石に贅沢しすぎ..」

「それじゃこれでお願い致します」

「おい、大丈夫なのか?」

「それについては後で説明するから待って」

「解った」

うん、やはり普通の女の子ってこんな反応するんだな。

凄く嬉しそうに手に嵌めた指輪を眺めている。

僕ちゃん達はお揃いという意味では嬉しいけど、それ以外に「価値」としては余りない。

ただ、世界に3つしか無い物を一緒に付けられる、それ以外に価値を見出せない。

「気に入って貰ったみたいで良かったよ」

「だってこんな高価な物、普通に冒険者やっていたら絶対に買えませんから..」

「本当に良いのか?」

「それについては後で説明するよ..それでどうする? 書類は作って貰う?」

「そうだな、メグ作って貰おうか?」

「うん!」

二人は書類は作って貰ったが、登録はセトがギルマスになってから行うそうだ。

自分の最初の仕事にするそうだ。

「悪いけど、次は洋服屋に付き合ってくれないかな?」

「解ったよ」

「はい」

「これはこれは勇者様、何とか間に合わせましたよ! どうですか!」

ルシオラのはセクシーでありながら清楚。

ユシーラのは可愛いらしいけどちょと大人っぽい。

そんな感じの服だ。

しかも下着は絹を使っているそうだが色々な色がある。

ただでさえ綺麗な彼女達がこれを着たら..凄く綺麗としか思えない。

「やーね、あの二人侍従かしら?」

「違うわ、多分護衛か何かじゃない?」

「それにしても低ランクなんじゃないのかな? お金があるならもう少しマシな服着ているわ」

ムカつく、折角の楽しい一日が台無しだ。

メグは恥ずかしそうに俯いちゃったし、セトも居心地悪そうだ。

「気にするなよ? 昨日僕ちゃん達も経験したから..客からじゃ無くてこの店からね」

「ひぃ!」

「そうだよ」

「そうそう」

「それで、店主さんこの二人には金貨60枚で10枚づつ服を作ってくれるかな?」

「また急ぎでしょうか..」

「二人はこれからこの街で過ごすからゆっくりで良いですよ! ついでに紹介すると彼はセト、この街の新しい冒険者ギルドのマスター、そして世界に1人のSSSランク冒険者です」

「ご丁寧に有難うございます..これからも御贔屓にお願い致します」

「それで、悪いけど、この二人にも展示品の服を譲って貰えないかな?」

「勿論構いません…直ぐにご用意致します」

ワザとSSSランクを強調して話した、ムカつく奴らは恥ずかしそうに店を後にした。

メグは新しい服に着替えるとポーズをとっている。

凄く喜んでいるのが解る。

やはり、僕ちゃん達は感覚が麻痺している。

僕ちゃんが服を買ったのは下に見られたくないからと、これを着たルシオラやユシーラが可愛く見えると思うからだ。

ルシオラやユシーラは恐らく僕ちゃんの目を楽しませる為だ。

多分、「この服が着れて嬉しい」そういう感覚は無い。

上手く、言えないが服単体に価値を誰も思わない。

やっぱり一般人と感覚がずれている。

服や指輪で喜ぶメグを見る度にそう思った。

「それじゃ、そろそろ食事にしない?」

「良いね、俺もお腹が空いた」

これも昨日と同じ高級なお店で個室にして貰った。

「また、贅沢な..どうしたんだ、ソード」

「それはこれから話すよ! 」

「そうか? 解った」

高級なコースを人数分頼んだ。

今日はルシオラやユシーラに恥をかかせない様にあらかじめ切って貰ってフォークで食べやすいようにして貰った。

「メグ、普通の冒険者がワイバーン2体倒したらどの位のお金になる?」

「多分、10年は遊んで暮らせると思います」

「秘薬エリュクサーの値段は」

「伝説の薬ですよね? 王城並みの金額って噂です」

この話をしたあと僕ちゃんはルシオラやユシーラに話した内容を話した。

「なるほどな! 本当にピンハネされていたんだな」

「そうだよ、だからこれは正当なお金の使い方だと思う」

「確かに俺が甘かったのかも知れないな」

「そうだよ、僕ちゃん達はこれから取り返すつもりだけど? セトはもう無理じゃないかな?」

「まぁな」

「だから..僕ちゃんはセトにもう一軒付き合って欲しいんだ」

「解った、どうするんだ」

俺の親友ソードが俺に買ってくれたのは、物凄く大きな豪邸だった。

金額は金貨3000枚..この街で領主の家を除く一番大きな家だった。

何でも、俺たちの結婚祝いだそうだ..

だけど、ソードも結婚したよな?

お返しに何返せば良いんだ…

【閑話】 金貨2枚だけ返しますね
私の名前はルビナス、昔に夫を失ってしまった女です。

前の夫は農夫をしていて小さいながら土地を持っていました。

ごく平凡に小さい頃に村で出会い幼馴染になりそのまま結婚しました。

貧しいながらも楽しく暮らして居たのですが、ゴブリンに殺されてしまいました。

小さな村ではよくある事です。

この村では、当番で2人組で夜警をします。

主人ともう一人が夜警をしている時に..複数のゴブリンと遭遇してそのまま殺されました。

それだけの事です。

何処にでも良くある話ですね。

そして、私は未亡人となりました。

これから私は1人で生きて行かなくちゃいけません。

親類も家族も居ないから本当に独りぼっちです。

女一人にこの村は冷たかった。

だれも手伝ってくれないから、畑や田んぼも手が足りないですし

お金が無いと解ると畑や田んぼを二束三文で買い叩かれました。

この村は男女の数は釣り合っています。

だから、未亡人になった私には需要が無いのです。

今の私は、運が良くて後添いに入れれば良い方ですね。

それすら、多分あり得ない事かも知れません。

ある日の事、勇者パーティーがこの村に来ました。

離れた所にあるオークの集落の駆除とついでに近隣のゴブリンを狩ってくれる。

そういう話でした。

勇者だから無料でしてくれるんだから村は大喜び。

ですが、これからが不安で私は眠る事が出来なかった。

村に籍は置いているけど私は独りぼっちなのですから。

その日も、寝付けないから夜風に当たりに外に出ました。

外に出ると まるで王子様か役者の様な綺麗な男性がいました。

寂しかった私が見た幻なのかな?

そう思っていたけど..違っていて、勇者パーティーの剣聖様でした。

剣聖なんてジョブを貰ったら幸せは約束されたような物。

住む世界の違う、物語の主人公の様な人…そんな人が寂しそうに月を眺めていたのです。

私何かと違う、夢の世界の人。

そんな人が寂しそうにしている。

重ねてはいけないけど、まるで今の自分みたいになぜか見えました。

だからなのかつい声を掛けてしまったのです。

村人が剣聖に声を掛ける、普通じゃありえない事。

だけど何故か声に出てしまいました。

「剣聖様、いつも1人でお辛そうですね」

月明りで見た剣聖様は儚げでこのまま消えてしまうんじゃないか?

本当にそう思えたのです。

女の私よりも肌が綺麗で本当に綺麗な男性ってこういう人の事を言うんだと思います。

はしたないけど、気が付くと私から誘っていました。

私には多分未来も無い、そして今の魔王は強い、多分剣聖様にも未来は無いのかも知れません。

只の村娘と剣聖、身分が違い過ぎる。

結ばれるような未来があるのは物語の中だけ…

たった一晩の夢物語。

それで本当に良かったのです。

「僕ちゃん、みたいな男の相手なんて嫌じゃ無かったの?」

この方は何を言っているのかしら? 貴方みたいな綺麗な男性なんて見た事ないのに..

「うふふ、嫌だったら誘いませんよ? それに剣聖様って話し方は変ですけど、お綺麗ですよ! 綺麗な銀髪に女性みたいに白い肌、本当に帝都の役者さんみたいです..寧ろ私みたいな田舎娘で未亡人が相手では勿体ない位です」

剣聖で美少年、そんな人の初めての相手が私なんて寧ろ申し訳ない位だわ。

だけど、これ程綺麗なのに何で自分に自信が持てないのか解りません。

「そんな事ありません、君は凄く可愛いと思うよ!」

嬉しいわ、女として貴方は見てくれるのね。

「本当に? だったら夜は永いですから朝まで一緒にね!」

まだ、私の夢は続くみたいです。

何回も体を重ねた後、急に剣聖様が聴いてきたのです。

「僕ちゃんが剣聖だから相手してくれたの?」

なんで此処まで卑屈なのかしら? こんな美少年村に居たら間違いなく引っ張りだこなのに。

「ソード様位お綺麗な方なら村人でも関係ありませんよ..だけど剣聖様だからという下心もありますね」

村人でも関係は無いけど、更に剣聖様という魅力がプラスなのは事実ですから。

「どうして?」

「だって、剣聖様との間に子供が生まれたら必ず剣術系のジョブがつくんですよ、そんな子供、女だったら欲しいに決まっていますよ」

だって、生まれてくる子は絶対に優秀、それにこれだけ美形なら子供も奇麗な筈です、そんな息子が居たら、ムスコンになっちゃうんじゃないかしら?

「それなら良かった」

「全く、魔王討伐の旅をしていないなら、夫になって貰いたい位です!もう少し剣聖様は自分の魅力に気が付くべきですよ!」

「ありがとう、本当にありがとう」

お礼を言いたいのは私の方。

「嬉しいのは私の方です..それじゃもう少し頑張りますか?」

気が付くと朝まで..こんな経験は初めてです。

これでも私はこういう事には淡白な筈なのです。

「魔王討伐が終わったらもう一度ここに来ても良い?」

「剣聖様が覚えていてくれたら寄って下さい、これからも過酷な旅を続けるんですから忘れても文句言いませんわ、うふふふっ」

これは一夜の夢。

剣聖様が再び此処に来る事は無いと解っています..それでも嬉しかった。

それから暫くして、私は再婚しました。

女一人で生きていく事は出来ないから仕方のない事なのです。

歳は20も離れていて父親にしか見えませんでした。

それでも、貰って貰えるだけありがたい。

そう思って受けるしかなかったのです。

だけど、

「それじゃ、俺は街に行ってくるからよ! お袋を頼むわ」

「街に何をしに行くのですか?」

「酒飲んで女を買うに決まっているだろう?」

「私は妻では無いのですか?」

「一応はな、ただガキ見たいな体じゃ抱きたいとは思わねえよ? それとも抱いて貰いたいのか?」

「馬鹿にしないで下さい!」

「うるせーよ!」

思いっきり顔を殴られた。

「何をするんですか!」

「お前は寝たきりのお袋の看病の為に貰っただけだ、はっきり言えば俺の好みじゃないんだ、好みなら性処理も任せて抱いてやるが、抱きたいともおもわねえんだよ..未亡人のお前をよ貰ってやったんだ、有難く思えよ!」

「そうですか..解りました、なら生涯私は抱かない! それで良いのですね!」

「ああ約束してやるよ、そんな貧相な体じゃ抱きたいなんておもえねーな」

「…」

正直これで良かったのかも知れません。

私だってこんな父親の様な年齢の男の相手などしたくはないのですから。

「ルビナス、ルビナス..熱いのよ」

夜中なのに起こされ一晩中義理のお母様にあおがされた事もありました。

「ルビナス、ルビナス」

オムツを変える等の下の世話も私の仕事です。

殆ど寝る暇も無く看病しています。

《何のために結婚したのか解らない..メイドみたいな物じゃない..》

多分、私は食事だけで使えるメイドみたいな者ね。

「おい、ルビナスなんで畑仕事しないんだ!」

「それは、貴方の仕事なのではないですか?」

「馬鹿やろー、何の為にお前を貰ってやったと思っているんだちゃんとしろよ!」

「解りました」

只でさえ寝ないで看病しているのに更に働けっていうの?

口答え出来ないのが..辛いわ。

ある日の事、畑仕事をして疲れ果てて帰ってくると..

「お前、何しているんだ?」

「言われた通り、畑仕事をしに行ってきました」

近くで、義母さんが泣いていました。

何も言わずにいきなり殴られました。

「お前が居ないから、お袋のおしめが濡れていて気持ち悪がっていたぞ! 俺のお袋を泣かすなよ」

「ですが、畑仕事が」

「口答えするな!」

私の体は一つしかない、二つの事はどんなに頑張ったって出来ません。

流石にこれは無理です。

「だったら、街に遊びに行かなければ良いんじゃですか?」

「馬鹿野郎が、お前に魅力が無いから他の女を抱くしか無いだろうが、魅力が無いお前みたいな女貰ってやったんだ文句言うんじゃねー」

此処からが地獄でした。

「ルビナス、ルビナス」

「何でお前は仕事もお袋の面倒も見れないんだ」

殴られ、怒鳴られ..しかも僅かに残っていた、私の畑や田んぼも気が付いたら男の物になっていました。

「何で私の畑が貴方の物になっているの?」

「うるせーよ」

私が気が付いた時には飲み代や遊ぶお金の為に近所の人に売却された後でした。

《私の最後の持ち物だったのに》

しかも、面倒見ている義母も

「なんであんたみたいな人が嫁なのかしら、もう少しマシなのは居なかったの!」

「仕方ねーだろう、俺もこの歳なんだから」

「だけど、あんな後家なんか、貴方が不憫だわ!」

頑張ってもだれも認めてはくれない..だけど女が生きていくには我慢しかない。

生きる事は辛い事..今の私にはそれしか無いのです。

そんなある日、ギルドが私の近況を聴きに来ました。

剣聖様が勇者になり、その仲間が私の事を知りたがっている、そういう事でした。

《嬉しい、こんな私を気にしてくれていたんだ》

心配させたくないし、こんな見っとも無い話はしたくないから、「結婚した」と伝えて下さい。

そう伝えて伝言を頼んだのです。

あの日は私には夢の様な一日でした、気に掛けて頂き有難うございます。

でも夢は覚める物です。あれは平凡な女と英雄がすれ違った一夜の夢です。

夢から覚めた私は現実世界で生きて行かねばなりません。

頑張って生きていきます。

勇者になられたそうですね、おめでとうございます!

だから勇者様も頑張って生きてください!

それだけをお願いしました。

剣聖様との一夜は、今となっては夢だったような素敵な思い出です。

私の毎日はこれからも変わらない。

地獄は何時までも続く。

今思えば、私に興味が無いのは良かったわ..あの夢の様な1日を忘れないで済みます。

それから暫くして再びギルドの方がみえました。

「すみませんが、ギルド迄来て頂けないでしょうか?」

仕事をしてもしなくても同じ様に殴られる、なら関係ないと思いました。

「お伺いさせて頂きます」

何故か馬車に揺られてギルド迄連れてこられました。

村人にこの待遇は普通は絶対にあり得ません。

「ルビナス様、こちらにご記入をお願いします!」

「これは何でしょうか?」

「これは、貴方へのソード様の想いです」

何が何だか解らない..恥ずかしい話、村人だから文字も読めません。

だけど、ソード様の想い?

剣聖様がする事なら、サインすれば良い、そう思いました。

何より、今より悪くなることは奴隷にでもされない限り無い..下手すれば奴隷の方が幸せかも知れません。

そんな生活なのですから。

さすがに、名前位は書けます。

これを書いたら何かが変わるのかな?

期待しても良い事なんてありませんね。

「有難うございます、これで貴方は冒険者です、ランクは一番下のGですが」

「…..」

冒険者になって何をしろというのかな?

「パーティーは銀嶺の翼、勇者パーティーです」

「あの、何がなんだか解りません」

「つまり、貴方はランクは一番下ですが、勇者パーティーに入った、そういう事です」

何がなんだか解らない。

薬草でも集めて暮らせ..そう言う事なのかしら?

「それで、何かが変わったのでしょうか?」

「変わるも何も、勇者パーティーのメンバーですよ? 凄い出世じゃないですか?」

「出世? 私が..」

「実感が無いでしょうね? そうですね、例えば貴方が王様にムカついてポカリと叩きました..どうなりますか?」

「死刑ですね」

「普通は、当たり前です貴族でも結末は同じです、ですが、貴方は「何をするのじゃ」で済んでしまいます、まぁ勇者様に話はいくでしょうが」

「本当ですか?」

「はい、しかも何かあったら冒険者ギルドまで来てくれれば、全て無料で依頼を受けます、最もそのお金は勇者様が払います」

「はい?」

「あと、そのカードには金貨2000枚、ソード様が振り込んであります、足りなくなったら追加で入れてくると思いますよ」

解らない..簡単に纏めると王様を殴っても許される権力、困った事は全部ギルドが解決、そして遊んで暮らしても無くならないお金もくれた。

そう言う事なの?

「勇者様は、「あの日救って貰ったから今がある、だからその事は忘れない」だそうです 以上です」

何で自分にこんな事をしてくれたかは解らない。

だけど、こんな事をしてくれた人は私の人生の中でソード様しか居ない。

だったら、この恩なのか愛なのかわかりませんが、そのお気持ちに答えなければいけない、そう思いました。

「あの、法律に詳しく力もある冒険者を貸して頂けないでしょうか?」

「ご依頼ですね」

「お願い致します!」

「ルビナス、お前はお袋を置いて何やっていたんだ!」

「本当にお前は人で無しだよ..」

「私だって出かける用事はあります、赤の他人に何で指図されなくちゃいけないんですか?」

「うるさい! 嫁に貰ってやった恩を忘れやがって」

「嫁? 誰がでしょうか?」

「何を言っているんだ..」

顔色が変わった気がします。

後ろから男が入ってきました。

私が雇った冒険者です。

「失礼します」

「お前は何だ?」

「私はトーマス、Bランク冒険者です! 貴方はルビナス様を嫁と呼んでいますが、村にもギルドにも教会にも届をだしていませんね?」

「だから何だ?」

「しかも、ルビナス様の土地を勝手に売ってしまった」

「だから何だ? 俺の勝手だろうが!」

「これは結婚詐欺ですね、大方嫁にしないで財産を奪い、こき使って使い潰すつもりだったのでしょう? だから手続きをしなかったに違いない、しかも日常から暴力を振るっていましたね?」

「出し忘れただけだ..これから出す」

「もう遅い、お前はこれから役人に突き出すからな! 多分10年は出て来れないと思え!」

「なっ、」

「ルビナス、お前からも何か言っておくれ」

「私は嫁ですら無かったみたいですよ? 赤の他人に何を頼むのですか?」

「貰ってやった恩を..」

「いい加減にして下さい! 手続きを忘れた? 人の土地を売り払う手続きはしたくせに? それが本当なら大馬鹿ですね?」

「貴様!」

「嫁の分際で!」

「ですから、手続きしてないから嫁じゃないんですよ! 私は..嫁にしないで貴方の息子は私の財産を奪っただけのゴミです..」

「だから、それは忘れただけなんだ、嘘等言っていない」

「そうよ息子は泥棒なんてしていないわ」

「まぁ良いわ、私の土地がどうして勝手に貴方の物になって売り払われたのか? 何故手続きされなかったのか? それは役人が調べる事ですから、私は知りません」

「まぁ、詐欺を行い、財産をだまし取って、暴力迄振るっていたのだから、10年は出て来れないな、覚悟しておけ!」

「そんな10年も..俺は、こんな事誰もがやっている事だろうが!」

「村に良くいるクズの典型なのは確かだが、悪い事したら法律で裁かれる当たり前の事だ..他にも居るなら言えば良い..最もそれでお前の罪が軽くなる事は無い」

「そんな…」

「ちょっと待って、私はどうなるの? ルビナスさん面倒は見てくれるのよね!」

「厚かましいですよ? なんで赤の他人の面倒を見なくてはいけないのですか?」

「そんな、死んでしまうわ…こんな体で一人で生きて何ていけないわ」

「そのまま死ねば良いじゃないですか?」

「ああああ」

その後、役人が来て連れて行った。

話は直ぐに終わり、簡易裁判で30年間恩赦無しの牢獄送りとなった。

何故ここまで罪が重くなったのかは解らない。

土地はもう売られてしまい別人の物になってしまったから取り返す事は出来ないそうだ。

代わりに、今の家と土地を貰ったが、必要無いのでギルドに任せて売る事にしました。

売れたら、あの婆も追い出されるんじゃないかしら?

そして、

私、何か只の村娘、未亡人..処女ですら無いから奴隷にした所で金貨2枚の価値もない筈です。

なのに..何で金貨2000枚なのか..解りません。

勇者になったのだから女なんて不自由しない筈です?

それに金貨100枚も詰めば、私何かじゃなくてだれが見ても美女の奴隷だって買える筈です?

それなのに、たった一日体を重ねた私になぜあなたは、此処までしてくれるのでしょうか?

だけど、私にこんな価値つけたる人なんて他には絶対に居ません。

女としての自信も取り戻せました。

ソード様にとって、私はそんなにも価値があるのですね。

2000枚の価値をつけたのはソード様だから1998枚はそのまま貰います。

だけど、金貨2枚は私で返します。

多分、それが私の本当の価値です..生涯ソード様のお傍で仕えさせていただきます!

うふふ、金貨2000枚..そこ迄、大切に思ってくれたんだから、拒む事は無いはずですよね?

「さて、冒険者ギルドにお願いしてソード様の傍に行かないと」

こうしてルビナスはソードの元へと旅立っていった。

ソードの旅立ち
セトからはネックレスを貰った。

三人お揃いの聖銀で出来たネックレスで女神が彫ってある。

勇者らしい贈り物だ。

これでセトとはお別れとなる。

僕ちゃん達は旅を続けないといけないから、もう簡単には会えない。

塩漬け依頼があったら解決してから行こうと思ったがそんな事は無かった。

最もセトなら大概の事は上手くやるだろう。

「それじゃ、セト達者でな!」

「お前達もな!」

「セトもお元気で!」

「元気でね」

「ああっお前達も元気でな!」

「勇者達さまもお元気で」

「メグもな!」

何時まで話していても仕方ない。

僕ちゃん達は旅立った。

四天王、最弱のデルタを倒す為に北の地へ。

勿論、セトに行く先は告げてある。

聖都にはセトのギルドから報告を頼んだ。

これで良い!

聖都は恐らくこれから火の海になる。

本来ならその時にいち早く駆け付けなくてはならない。

だが、そんな事をすれば、僕ちゃんは兎も角、ルシオラやユシーラの命が危なくなる。

だから、最初に聖都の人達に戦って貰うのだ。

その為の時間稼ぎ、それがデルタ攻めだ。

北の地は遠い、恐らくはたどり着く前に報告がくるだろう。

そこから、引き返して聖都に戻るまでかなりの日数が掛かる。

その日数を延ばせば延ばすほど僕ちゃん達の安全が高くなる訳だ。

沢山の死人が出るかも知れないが、僕ちゃんは知らない!

見知らぬ人が何万人死んだ所で別に何とも思わないよ!

誰だって同じ筈だよ!

例えば、遠くの国で数万人の人間が疫病で死んでいたりする事を知っていても助けに行く人って少数しか居ない。

だけど、自分の家族が死ぬとなれば、財産を投げうってでも助けるよね?

それと同じ。

王様や貴族が全財産無くす気で分け与えればスラムなんて多分無くなる。

だけど、どんな賢王でもそんな事はしない。

孤児だった僕ちゃんにとって、王妃様や王子、そして家族がルシオラやユシーラ、セト、そして恩があるのがルビナスさんだけ。

この人たちの命の方が教皇なんかより遙かに高い..それだけの事なんだよ。

大切な家族の命は晒せない、だけど家族の命が大丈夫な状態なら戦ってあげる。

だから僕ちゃんの方がこれでも遙かに優しいと思うんだ。

「「「それじゃ行ってきます!」」」

「「いってらっしゃい!」」

こうして僕ちゃん達は北の地へデルタ討伐に旅立った!

鉄壁のアルガード (聖都攻防戦スタート) 残酷な描写が此処から少し増えていきます。

その日は何時もと違っていた。

聖都を襲うのに必要な数の魔族や魔物が揃い、最終段階に進み、大規模な結界を魔王軍が張った。

聖都を覆い尽くす結界、そんな物は誰も想定はしていない。

もしそんな物が作れるなら、聖都に用意しない筈が無い。

だが、魔族は作る事が出来た。

それをこの戦いに投入してきた。

結界に包囲されるなか魔族の軍団が聖都に現れた。

今迄とは違う、見渡すばかりの魔族に魔物。

そのつなぎ目が何処にも見えない。

その事に気が付いたのは勿論見張りだった。

聖都の門の横にある、物見やぐらからそれを発見した彼は直ぐに門番に報告した。

「解った、俺に任せてお前は直ぐに報告に行け!」

「大丈夫なのか?」

「任せろ! 俺に任せれば大丈夫だ!」

「そうだな、お前なら、解った」

「俺と部下2人は門の外に出る、出たらしっかりと門を閉めてくれ」

「本当に大丈夫なのか?」

「ああっ俺に任せてくれ!」

普通の門番ならこんな事は言わない!

だが、この門番は違っていた。

昔、Aランクパーティーに勇者の集いというパーティーがあった。

やがてSランクに至ると言われたそのパーティーはある1人の男を追い出した事により瓦解する。

勇者の様と言われるリーダーマイトに聖女並みの回復魔法を使うと言われたルル、そして賢者並みと言われたリタ、そのメンバーの仲間に盾役の彼が居た。

勇者の様に戦う彼らに、ただ立っているだけの彼は不要、そう言うと リーダーは彼を首にした。

他の2人のフォローも無かった。

生活に困った彼は冒険者を辞め、此処聖都で衛兵の試験を受け門番となった。

そして彼が門番になってからは聖都は昔以上に平和になった。

過去に魔族や小型の龍種が襲ってきた時さえ彼は1人でそれを退けた。

それと同時に「勇者の集い」は彼を追い出した後、依頼を真面にこなす事が出来なくなり、とうとうC級の依頼すら失敗するようになり瓦解していった。

彼らが依頼をこなせたのは彼のお陰であった。

彼がヘイトを使い、自分に常に攻撃が集中するようにしていたのだ。

だからこそ、彼らは誰にも攻撃される事なく、攻撃が出来ていた。

そう、彼が居たからこそのAランクパーティーだった。

聖都の門番では通常あり得ない龍華勲章も貰った彼を尊敬を込め人々はこう呼んだ!

「鉄壁のアルガード」と。

彼がいる限り、この門はいかなる悪も通さない。

それが皆の常識だった。

「行くぞ、2人とも俺たちが居る限りはこの門は絶対に通させない」

「アルガードさんが居るなら大丈夫ですね」

「雑魚は私達にお任せ下さい」

遠くから土煙が上がった。

無数のシルバーウルフが疾走してきた。

「シルバーウルフか、厄介だ」

この程度では彼はひるまない。

だが、その後ろを見た瞬間に彼は恐怖するしか無かった。

「こんなのをどうしろって言うんだよ!」

後ろの門はもう閉まってしまって入れない。

直ぐに報告に行かせるべきでは無かった。

ちゃんと、門を閉めてから数の確認をするべきだった。

自分ならどうにかなる。

そんな甘い考えが死を招いた。

何処までも続く魔物や魔族の行軍、切れ目は見えない。

命がけでヘイトを使い仲間を守ろうとしたが、無理だった。

「きゃあああああああっ」

「うおぉぉぉぉぉ」

百の魔物を彼が集めようが数が違い過ぎたのだ。

仲間の2人は既にシルバーウルフに襲われ食料になっていた。

可愛らしい新たな仲間の剣士は既に下半身が喰われて無くなっていた。

美しい斧使いは逆に上半身を食われて、足が片方しか残っていない。

彼らには一度悲鳴をあげる事しか出来なかった。

「貴様らは許さない、許さんぞ!」

ぐちゃり…

何者かがアルガードの頭を殴った。

その瞬間にアルガードの頭は体にめり込み..死んだ。

死んだ、アルガードをシルバーウルフは一斉に食べ始めた。

アルガードを殺したのはただのオーガだった。

ウルフやゴブリンでは門が破れない、そう考え数体のオーガが前に出て来た。

ただ、それだけ、それだけの事で「鉄壁のアルガード」は崩れ落ちた。

血狼のフォング 子供にすら勝てない
門が破られるまでそんなに時間は掛らなかった。

オーガの攻撃には耐えられたものの、小型の龍種の一撃で門は簡単に破壊された。

そればかりか、城壁迄あちこちで悲鳴をあげるように罅が入り始めた。

城壁の上からはメイジが攻撃するが数が多い為に一向に敵が減る様子が見えない。

ゴブリンがあちこちで梯子をかけ始める。

それを壊したり、登ってくるゴブリンにファイヤーボールを投げかけての攻防が始まった。

教皇になったローアンは勇者を呼ぶためにオーブを使ったが、何時もは光り輝くオーブが光らない。

魔王軍が張った結界は通信さえも遮断する物だった。

世界各国の王は教皇を含み城への籠城を決めた。

高位貴族もこぞって籠城する中、1人外に残る王が居た。

帝国の王、ルビス3世その人だ。

帝国は強者を好む国だ。

その長である自分が逃げる等もっての他、そう考えた。

「血狼のフォングよ、目障りな魔物を駆逐しろ! 相手は魔物だ何をやっても構わん」

「王よ! 本当に良いんだな! 血に飢えた俺たちは相手を殺し尽くすまでもう止まらねーぜ!」

「血狼のフォング」率いる疾風騎士団。

彼らは変わった経歴を持つ。

本来彼らは騎士等には成れない。

何故なら、その殆どが血に飢えた犯罪者なのだから。

特に隊長を務めるフォングは盗賊のリーダーの義理の息子だった。

沢山の犠牲を出し捕らえた盗賊大蛇の牙、その全ての人間の死刑が決まっていたが、フォングは命乞いをしてきた。

「俺はこの盗賊に世話になり子供の様に育てて貰った、だから助けてくれないか!」

確かに、フォングは盗賊の子供であって盗賊行為はしていない。

だからと言ってその親を許す事は出来ない、盗賊なのだから。

ただ、此処は帝国、強者は尊敬されるそんな国だった。

また、帝王は更にその中でも脳筋だった。

「ならば一か月の期間をやる、もしその間に龍種を1体狩って来たらお前の仲間の命を助けよう! 出来なければお前にも死んで貰う! どうだやるか?」

これは、諦めさせる為にいった方便であった。

だが、フォングはそれをやってのけた。

倒した龍種はポイズンドラゴン、小型ではあるが毒を持ったドラゴンだ。

こうして、フォングは命を助けられ、そのまま仕える事になった。

フォングの仲間はその時の父親も含む盗賊たち。

勿論、礼儀も何もあった物じゃない..盗賊なのだから。

だから、帝王は彼らを使う時は「相手に何をしても良い」そういう時にしか使わない。

慈悲など一切与える必要がない敵、そう言う相手にしか使わない。

疾風騎士団、またの名を残虐騎士団。

彼らは敵に対しては一切の慈悲は無い。

女であれば犯して殺す事や、気に入らない敵は四肢切断の拷問を加えて殺す事さえある。

だが、それを許される理由は、今迄殺せなかった相手が居ない事。

確実に全てを殺してきた。

今、その血に飢えた獣が野に放たれた。

彼らの裏の顔を知らない帝都の住民は歓喜の声をあげていた。

「騎士団が来てくれた」

「屈強な帝国騎士が来たんだ。これで大丈夫だ」

門を破られ中に入ってきたとはいえ、入口で衛兵がくいとめている。

だから、民衆はまだ、恐れていなかった。

ここは聖都、魔族に等蹂躙される街では無い。

安心しきっていた。

そこに、帝国の騎士団がきた、その安心感から見物する者まで現れた。

「何だ、これじゃただ殺すだけしか楽しめねぇ―な、魔族の女もいやしねぇ」

「流石に、いねえだろう? だけど殺し放題じゃないか?」

「まぁ良いや、倒していれば、何処かで出会うだろうよ」

門から入って来る相手をただ殺す。

アルガードと違い一方向に集中すれば良いから虐殺も難しくは無い。

ウルフ系の魔物とゴブリン系の魔物を狩っていたが、一向に数は減らない。

そんな中に魔族の女が歩いてきた。

「さっきから女、女煩いわね? そんなに相手にして貰いたいのかしら?」

「いい、女だな殺してしまうのが勿体ないな..だが魔族は殺す..ただその前に少し遊ばせて貰おうか?」

「へぇー貴方がね..良いわ」

「違うぜ、全員だ」

「いたいけな女に酷いのね!」

「魔族は人間じゃねえからな、お前ら全員で掛かるぞ、魔族はそう簡単に死なない、手足を切断して楽しもうぜ」

「「「「「「おおおおおおっ」」」」」」

「そう、出来るかしら?」

フォングは自信があった。

過去に何人もの魔族を殺してきた。

そしてこっちは沢山の人数が居る、万が一は無い。

しかもこの魔族の女はスタイルが良く面が良い、既に戦う事よりも、慰み者にして楽しむ事を考えていた。

風の様に戦う、それがフォングの戦闘スタイル。

このスピードには帝国の他の騎士で追いついた者は居ない。

そして、部下たちも同じように素早い。

この陣形になったら、なます切りになって死ぬ運命しかない。

ただ、今回は…直ぐに命まではとらない、そうしたら弄ぶ事が出来ない。

「この陣形からは逃げられた魔族は居ない」

「そうかしらね? 本当なのかしら!」

魔族の女は自らその陣形に突っ込んでいった。

そしてつまらなそうに手を数回振った..その瞬間、幾つかの腕と首が飛んだ。

「羽虫を潰すみたいな物ね」

魔族の女を囲んでいたうち仲間の数人は悲鳴をあげずに死んでいった。

「何が起きたんだ..」

「貴方は魔族を殺した事があるの?」

「ああ、何人もな」

「何処で?」

話を聞いた魔族は笑い出した。

「あはははははっ可笑しいの? それ魔族じゃないわよ?」

「嘘だ」

確かにあいつ等は魔族のはずだ..

「本当の魔族は魔族領から滅多に出ないのよ! 他で出会ったならそれは魔族であって魔族で無いのよ」

「何を言っているんだ」

この女が何を言っているのか俺には理解できなかった。

「もし人間の領地に魔族が居るとしたら、それは魔族領で生活出来ない程弱い魔族なのよ!..つまり弱すぎて魔族と認められない者なのよ」

淡々と話すなか、仲間が次々に殺されて行く。

「俺の名前はファング、疾風のファングだ! お前が魔族だと言うなら名前を名乗れ!」

「あたし? あたしはミルクよ」

「ふぅ、俺は此処で死ぬのか? お前の様な強者と戦って死ぬなら本望だ..」

「えっ..私の事? 私は只の子供だよ、人間で言うなら、そこで怯えて泣いている女の子と同じ」

「何だと!」

「魔族領に居る一番弱い魔族だと思うな? ワンコを殺す人間がムカつくから来ただけなのよ..まぁ淫魔の血が入っているからセクシーに見えるのかしら?」

「そんな馬鹿な」

「それじゃ死んで..」

魔族とは此処まで種族の違いがあるのか..

失意の中でフォングは死んでいった。

「エサには丁度いいわね」

ただの少女が犬にエサを与えているような光景にしか見えない。

だが、その光景に希望は一切無かった。

自分達はそのエサなのだから….

広がる絶望
門が破られ、街に魔物や魔族が流れ込んできた。

最早、門番や警備兵は役に立たなかった。

責任感のある者はそのまま殺され、責任感の無い者は放棄して逃げ出した。

「うがぁぁぁぁぁぁ」

「助けてくれー」

「聖都が襲われるなんて、何が起きたんだ」

ただただ、惨劇が続いた。

魔族や魔物に入り込まれた聖都は悲惨だった。

貴族階級以上は、民衆を見捨てて貴族街に逃げ込み、王城に逃げ込んだ。

そして、本当の地獄が始まった。

魔族はおろか魔物とすら戦う力の無い人が取り残され餌食になっていた。

冒険者も逃げ出そうとする者、戦おうとする者も全て餌食になっていった。

「妻だけは、妻だけは助けて下さい」

「子供だけは助けて」

命乞いの言葉は届かない。

本来、ゴブリンやオーク等は女が犠牲になれば助かる場合もある。

だが、今回は後ろに更に強者が控えている。

その為、女子供関係なく殺していくゴブリンもオークも殺戮マシーンにすら過ぎない。

本来なら王と言う名前を冠するゴブリンキングやオークキングすら雑魚なのだ。

その下の者には何も決める権利は無い。

人の死体が無造作に道に捨てられている。

数の暴力で殺されたから女性が凌辱されていない…それだけが唯一の救いなのかも知れない。

さっき迄串焼きを売っていた店の前では串焼きと一緒に子供の足を食べているゴブリンがいる。

頭が潰れた死体を抱えるオークはこれから食べるのか大事そうに抱えている。

道に捨てられている死体は..恐らく彼らの食糧になるのだろう。

その中で普通に人間の家で食事して居る者も居る。

多分、彼らは魔族なのだろう。

今迄、此処は人間の国だった。

見渡す限りの人間が居た。

だが、最早ここは人間の国には見えない。

誰が此処が聖都だと解るのだろうか?

知らない人が見たら魔都にしか見えないだろう。

恐らくは、今では王城に閉じこもっている人間と魔族や魔物なら後者の方が遙かに人数は多いだろう。

聖都の王城では大騒ぎになっていた。

「勇者達を呼び戻すしかない..」

「それは竜騎士に頼むしかない」

「今のところは空から来ていないが、相手は魔族だ、空を飛べる者も大勢いるのだ、竜騎士が居なくなったら終わりだ」

「だが、オーブが使えない今、それしか連絡のとりようが無い」

「だが、勇者が来てどうにかなるのか?」

「無理だ…」

此処にも絶望が広がっていった。

僕は知っている! 
「うわああああああああああああん」

僕は泣きながら走っていた。

僕の目の前で、お母さんとお姉ちゃんが殺された。

少し前の事だ

沢山の魔族が王城に向っていく中、そいつは居た。

「本当に酷いわ、私が一番乗りしたからって、子供に嫉妬するなんてね」

荷物に僕たち親子は紛れて隠れていた。

入口から沢山の魔族や魔物が次々に聖都に入っていった。

このままやり過ごす事が出来れば逃げるチャンスがあるかも知れない。

甘かった、臭いをかぎ分け狼みたいに見える魔物に見つかった。

「ガルルッ」

「あらっまだ虫けらが居たのね?」

「この子、この子だけは助けて下さい!」

「弟だけは助けて!」

僕を庇うようにお母さんとお姉ちゃんが抱きしめてくれた。

「そう、それで良いのね?」

その女の魔族は笑うと、お母さんとお姉ちゃんの首を跳ねた。

首が2人とも静かに落ちた。

お母さんとお姉ちゃんはそれでも僕を抱きしめていた。

「なぁに、その目は私達魔族はね約束は結構守るのよ? 約束通り貴方は行って良いわ」

「お母さん..お母さん、お姉ちゃん、おねえーちゃん」

「あーあ泣いちゃってまぁ」

「お母さんやお姉ちゃんが何をしたって言うんだよ..何もしてないじゃないか..」

「そんな事言うけど、人間は魔族って言うだけで殺すでしょう? 魔物のオークを殺して食べるし、オーガを殺して角をとるわ、そこの馬車の敷物はシルバーウルフだわ、同じじゃない?」

「…..」

「自分達が殺す癖に私達が何で殺しちゃいけないのかしら?」

「だったら、僕が今度はお前を殺す..」

「あんたが? 無理ね! 1000人居ても無理、さっき偉そうにしていたのは英雄らしいけど、ただの虫けらだったわ」

「僕じゃ殺せない…だから殺せる人を連れてきて殺して貰う」

面白そうね…さっき虫けらを殺したら褒めて貰えたわ、そいつは強いのかしら?

また褒められるかな。

「良いわ、連れてくれば! 私はミルクよ、まだ暫く此処にいる..逃げて良いわよ!ワンコにも手を出させない..その強い人をね、それまで殺さないであげるわ」

僕は、死んでいるお母さんの懐から財布を取り出した。

あと、近くにある幾つかの死体からもお財布を貰った..商人の財布には沢山のお金があった。

これで足りる。

「何をしているのかしら?」

「その人を連れてくるにはお金が必要なんだ」

「そう、なら持っていくがいいわ..」

「あの人ならお前なんて必ず殺してくれる」

「そう、さっさと行きなさい」

僕は無言で走り出した。

隣町に行けばあの人が居る。

あの人は最初お姉ちゃんを見ていた。

「あの、何か御用でしょうか?」

無視すれば良いのにお姉ちゃんが話し始めた。

「いや、最近別れた恋人にあんたが似ていたんだ」

「まぁ」

結局、お母さんもお姉ちゃんも話し始めた。

変な奴だったらどうするんだ?

だが、僕は見てしまった..腰に差している剣に、剣聖ソードって書いてあった。

「嘘、おじさんが剣聖ソードなの?」

「違うぞ、坊主、これは剣聖ソード様から頂いたんだ」

「本当に貰ったの?」

「まあな」

「凄いんだね、おじさん」

「まぁな」

僕は大きくなったら冒険者になる。

それが夢だった。

だから、剣聖が自分の名前が入った剣を渡す、その意味を知っていた。

? 自分の弟子で免許皆伝

? 何か手柄を立てて恩を感じたからあげた

? 試合等をしてその腕を認めた

その三つしかないんだ。

剣聖ソードが剣を譲った事は聴いた事が無い。

だから、この人は凄い人の筈だ。

恐らくは勇者と剣聖を除けば最強の人はこの人だ。

この人なら、あんな魔族殺してくれる。

「剣聖ソードが認めた唯一の男、ガンダルさん」が必ず仇をとってくれる。

僕はお金を握りしめ泣きながら走った。

約束
「はぁはぁはぁはぁ..ようやくついた」

殆ど休まずに、隣町まで走り続けた。

聖都と違いここはまだ平和だった。

街中探し回った、大通り沿いでガンダルさんを見つける事が出来た。

「はぁはぁはぁ、ガンダルさん!」

「どうしたんだ坊主! 聖都に行ったんじゃ無かったか?」

「ガンダルさん、お母さんが、お姉ちゃんが..」

「何があったんだ、急ぐ話か!」

「はい!」

「金はあるか?」

「あります!」

ガンダルは少年の様子から「急ぐ」話と判断した。

盗賊などに襲われたり、連れ去られた時は一刻を争う。

詳しい話は馬で聴けば良い。

そう考えた。

これは、通常なら正しい判断だった。

ガンダルは馬を借りに行った。

「この馬で良い、1週間借りる聖都で返す形で大丈夫か?」

「ああ構わない」

「それじゃ、支払いは坊主頼んだぞ」

「解りました」

ガンダルと一緒に少年は馬にまたがり聖都を目指した。

ガンダルはソードの推薦でB級に上がる事が決定している。

だから、ギルドを通してギルドで実績を上げても暫くはランクは上がらない。

だから、直で受ける事にした。

その方が相手の財布にも優しいだろうから…

馬上にて話を聴く事にした。

「それで坊主一体何があったんだ」

「お母さんとお姉ちゃんが殺されたんだ..だから敵討ちをして欲しい..僕じゃ勝てないんだ」

何てこった、急いできたが最初から間に合わない話だったか。

だが、相手は誰だ?

盗賊団か? 人数が多いなら対処できないな。

「それで、相手は何人なんだ?」

「一人です」

1人ならどうにかなるな、様子を見て勝てないなら逃げれば良いだけだ。

「どんな相手なんだ」

「少女です、見た目はかなり若い年齢の魔族です」

子供の魔族?

何かの間違いだろう?

魔族何て滅多にいない筈だ、だが本当に魔族ならこれはチャンスだ。

魔族は人間領には殆ど居ない。

居たとしても大人の魔族しか居ない。

1人はぐれた子供の魔族なら俺でも狩れるだろう..

「解った、引き受けよう! それで報酬だが幾ら払えるんだ」

「これでお願いします」

マジか、金貨迄入っているな。

だが、此奴にはもう親も居ない..これで良い。

俺は金貨1枚だけ取ると残りを返した。

「これで充分だ!」

弱い魔族を狩るだけだからこれでも貰い過ぎだ。

「ありがとう、おじさん」

「おじさんは辞めてくれ、お兄さんにしろ」

「解ったよ」

しかし、聖都で一体何が起こっているんだ?

子供の魔族が居たとしても聖騎士が沢山居るんだ直ぐに狩られて終わるだろう。

「なぁ、所で何で俺に助けを求めたんだ? 近くの衛兵所かギルドに行けば良かったんじゃないか?」

「それが..」

「どうしたんだ?」

「衛兵も、冒険者も皆殺しにされました、恐らく貴族街から外の人間は皆殺しにされたかも知れない..」

此奴は何を言っているんだ?

聖都だぞ! 

そう簡単に落ちるわけが無い..

「何があったんだ詳しく話してくれ!」

駄目だ、これじゃ俺の手に負える話じゃない。

「なぁ少年、それで何で俺なんだ?」

「だってお兄さんは剣聖ソードが認めた唯一の剣士、勇者達を除けば最強な筈です..だから敵を討てるのはガンダルさんしか居ません」

「弱った」かと言ってお金を貰ってしまったから遣らない訳にはいかない。

相手は子供だ置き去りにすれば良い。

いや、お金を返して断れば良い。

幸い報酬は金貨1枚、キャンセル料に金貨1枚足して2枚返せば法律的にも問題が無い。

だが、それで良いのか?

此奴は俺を頼ってきたんだ..

偽勇者のセトはどうだった?

勇者でも無いのに、人々の為に剣を振るってきたんじゃないか?

剣聖で勇者のソードはどうだ?

同じ様に剣を振るっていた筈だ。

俺はメグを諦めなければいけなかった。

この剣を貰ったからか?

金貨に推薦を貰ったからか?

違う、俺は逃げたんだ。

メグはあれで情が深い女だ、あの場で泣いて縋れば俺の方に来た可能性はある。

だが、そうした場合はどうだ?

死ぬまで、セトと比べられるんだぜ。

才能に恵まれ後ろ盾のあるセトと..

そして、何時か言われる時が来る「セトを選べば良かった」「幸せになれなかった」と。

だから、俺は逃げたんだ。

それだけじゃ無い..魔族と戦う為に命がけで戦っていた男から女を奪う最低男にもなりたくなかった。

いずれにしても「メグ」からも「セト」からも俺は逃げ出すしか無かった。

だが、そんな俺に剣聖ソード様はこれを寄こした。

これは勝手な思い込みかも知れない。

だが、「チャンス」はくれてやった…そういう風に俺はとった。

ランクも貰った、武器も高級な物になった。

その俺が逃げて良い訳が無い。

「その魔族は入口近くに居るんだよな?」

「はい」

「流石の俺も、複数の魔族は相手に出来ない、だからそいつを狩ったら、即離脱それで良いか?」

「はい、それで構いません」

「解った」

この選択が今後二人を地獄へと陥れた。

そいつは門の前で待っていた。

どう見ても綺麗な大人っぽい少女..但し体が青い事を除けば。

「あらっ本当に連れて来たのね?」

「此奴で良いんだな?」

「はい..」

ガンダルは門の外から聖都を見た。

聖都の街に人間は居ない様に見えた、その代わり魔物が闊歩している。

そこには絶望しかなかった。

「それが私を殺せる強い人なのかしら?」

「そうだ、この人こそが剣聖が認める男..」

「はぁー馬鹿みたい..もう死んじゃったじゃない!待って損したわ」

少年が見た物は首が無いガンダルだった。

「これは羽虫以下だわ、それにしても馬鹿だわ、貴方は母親とお姉さんが自分の命と引き換えに助けてくれたのに」

「ああああああっ」

「その命をこんな虫けら以下の男に掛けるなんてね、本当に馬鹿だわ..それじゃ約束は守ってね」

少女の可愛らしい笑顔、それが少年が見た最後の光景だった。

四天王よりシチューが怖い
可笑しいな?

まだ、何も連絡が来ない何て、何があったんだ?

北の地について、僕ちゃん達はもう既に四天王の一人デルタの攻略にあたっていた。

僕ちゃんの予想では此処につく前に連絡が来て聖都に呼ばれる。

そう思っていた。

北の地についてそのまま、デルタが住むという古城に向った。

最初の攻略に此処を選んだのは、連絡がつきにくいからだ。

拠点に出来る街はおろか村も無い。

魔族の四天王が近くに住んで、場所と重要でない。

それなら人が近づかないのは当たり前の事だ。

「それじゃルシオラやユシーラはこの辺りで休んでいて」

そう言いながら僕ちゃんは収納袋からコテージを取り出した。

お金は幾らでもあるのだからと、リアスの街から此処に来るまでの間に目にした収納袋で一番大きい物を買った。

そこに、コテージを作らせて収納している。

昔なら考えられない事だが、世界を救うのだから、これ位当たり前だ。

まぁ、この収納袋を手放す話の時に商会はかなり抵抗したが、

「だったら、シェワード商会が魔王討伐に非協力だったと教皇他、各国の王に伝える」と言ったら譲ってくれた。

僕ちゃんは言いたい、代わりに魔王を倒すんだから、必要な物は何でも差し出せ、本当にそう言いたい。

セトと一緒に初めて戦いに出る時に言われたけど「貴方達は希望の光なのです」なんて言っていた。

希望の光なら、輝かす為に支援するのは当たり前だと僕ちゃん思うな?

「あの、休んでいてって私は行かないで良いのですか?」

「それなら私だって」

「いいよー..戦うのは僕ちゃんの役目、2人は僕ちゃんの癒しだから、傍に居てくれるだけで良いんだ、此処からは危ないから僕ちゃん1人で行ってくる」

「あのですね、私は聖女なのですよ? 貴方を癒すのは私の仕事です」

「私だって賢者..」

「その前に君達は妻だから僕ちゃんが守るのは当たり前の事、だから待っててね! サクッと倒して帰ってくるからさ」

「そう、解ったわ」

「行ってらっしゃい」

「あのさぁ、私達これで良いのかな?」

「もう諦めた方が良いよ..聖女や賢者じゃなくて他の事を頑張れば良いんじゃない」

「多分、歴史上一番過保護な勇者です」

「そうね、戦わないで良いよ、何て聖女と賢者に言う勇者は居ないよね」

「それはそれで寂しいのですが」

「確かに」

「ですが、これが女の子という扱いなのでしょうね」

「そう言う事だよ..」

「聖女で無くて女の子、その扱いが嬉しいと思ってしまうのは何故でしょうか?」

「女なら、皆そうだって…まぁこれから、普通の男女交際を楽しめば良いんじゃない?」

「ですが、私は料理に掃除、家事が全然出来ません」

「あはははは、私もだね」

「これは女の子としても不味いのでは無いでしょうか?」

「それはボチボチとやっていけば良いと思う」

その日の夜遅く、ソードは帰ってきた。

「ただいま」

「「お帰りなさい」」

「ふぅ疲れた!」

「それで、どうでしたか? 調査の結果は!」

「何とか狩れたよ..ほら」

僕ちゃんは収納袋からデルタの首を取り出した。

「えっ! もう倒されたのですか?」

「首です..ね」

「うん、此奴じたいは大したことは無かったけどアンデッドを沢山使うから少してこずったかな?」

四天王を大した事無い..多分それセトと三人掛かりで倒せないと言われていたんだけどな?

私達が弱いんじゃないよ、凄いのはソードだし。

「そう、おつかれ、シチューに挑戦したんだけど」

「まぁ初めてだから、それなりなんだけど」

デルタよりも、この黒いシチューの方が僕ちゃんには強敵だった。

しかし、聖都は無事なのだろうか?

丁度、デルタも思ったより簡単に倒せたからこれからリアスの街に寄ってから聖都に行って見るか。

「どうしたの? 手が止まっているけど」

「ちょっと疲れたみたい」

「そう、それじゃ私が癒してあげるから、それから食べれば良いわ」

このシチューはどうしても食べなくちゃいけないみたいだ。

懐かしい
リアスの街に帰ってきた。

本当に可笑しい!

まだ連絡が無いなんて可笑しすぎる。

まずはセトの所に顔を出して見るか?

ギルドの扉を開けて中に入った。

《すげー勇者パーティーだ》

《あれが、剣聖から勇者になったソード様か凄くカッコ良いな》

《だけど、横に居るのは2人とも偽物なんだよな》

《馬鹿、それを言うなよ! ここのギルマスは偽勇者だったんだから》

正直、余り気分が良く無いな。

自分達は戦わない癖に人の批判ばかりクズにしか見えない。

いちいち文句言っても仕方ないから無視した。

「セトは居るかな?」

「ソード様ですね! 直ぐに呼んできます」

「久しぶりだな! 随分早かったじゃないか? 流石に四天王は難しかったか?」

僕ちゃんは大きな声で言った。

「簡単だったよ! 勇者の僕ちゃんとS級が2人も居るんだ難しくなんて無かったな」

気まずそうに陰口を叩いていた人間は目を伏せた。

僕ちゃんは本当にこういう奴らって馬鹿だなと思う。

偽勇者、偽聖女、偽賢者かも知れないけど、セトは世界で1人のSSS級だし、ルシオラやユシーラはS級。

ギルドではランクが高い者を尊敬するなら、これ以上の人間は居ないのに。

A級やB級ですら選ばれた人間しかたどり着けないなんて言うのなら、もっと敬えと言いたい。

少なくともC級風情が馬鹿になんてするなよな..馬鹿にするならお前達で魔王と戦ってくれ。

そう言いたくなる!

「馬鹿にするなら代わりに魔王と戦ってくれ」本当にそう言いたくなるよ。

僕ちゃんはテーブルの上にデルタの首を置いた。

「それはデルタ…本当に倒しちゃったのか?」

「まぁね..」

本来三人掛かりで負けると言われたデルタをこうも簡単に倒すなんて、スゲーな!

「それじゃ、この首はこちらで預かり報奨金の手続きをしておくよ」

「金貨3万枚位頂戴って言って置いてね?」

「善処するとしか言えない」

「セトはただ伝えてくれれば良いんだよ」

「解ったよ..それでソードにお客さんが来ているよ? 今迎えに行かせた」

「誰だろう?」

「それは内緒だな」

「それで聖都で何か問題が起きて無いか?」

「何か掴んでいるのか? 今何故か聖都と全く連絡がつかないんだ」

今迄静かにしていた、ルシオラやユシーラも話に加わってきた。

「聖都と全く連絡がつかない? そんな事今迄無かったわ」

「ありえない」

「それが、何回か冒険者に確認の依頼を出したんだが帰って来ないんだ」

「急ぎじゃ無いなら、少し休んだら聖都に行くつもりだから僕ちゃんが見て来ようか?」

「そうして貰えると助かる」

多分、聖都は大変な事になっていると思うな。

ただ、魔王は城からは出て来ない。

なら、勇者の僕ちゃんに勝てる魔物は居ない筈だ。

ただ、「僕ちゃん達だけ」に押し付けるんじゃなく、自分達も少しは血を流せ。

それだけ言いたいだけだ。

勇者に戦いを押し付けて日々遊んで暮らす…どう考えても可笑しいよね。

そんな事しないで、弱くても良いから魔物の1匹でも毎日倒せって言いたい。

案外、子供がゴブリンと戦うのと僕ちゃんが魔王と戦うのは同じ位のリスクはあると思うな。

「お久しぶりです、剣聖様! 勇者様!」

「えっルビナスさん!」

「ロリ未亡人が何故此処に」

「何で此処にいるんですか」

懐かしい顔に久々に会った。

新たな仲間?

「ルビナスさん! 何で此処にいるんですか?」

「ソード様、貴方を追ってきました」

ルビナスは自分の身について話した。

「ルビナスさんも苦労されたんですね」

「はい!」

「ちょっと待って! それでなんで貴方は此処にいるの?」

「何で居るの?」

「追ってきたに決まっているじゃないですか!」

「どうして? あれだけあれば割と幸せに暮らせると思うんだけど!」

「はいそうですね! だけど、私みたいな平民の女奴隷で幾ら位で買えると思いますか?」

「何の話?」

「うふふっ、金貨2枚位の価値しか無いんです! それなのに金貨2000枚何て、私一生所か何回生まれ変わっても仕えなくちゃ返せません!」

「ちょっと待って、あれはルビナスさんを買ったお金じゃないんです! あの時、僕ちゃんは一杯一杯で、それを救って貰えたから純粋なお礼なんですよ」

「ちょっと待ちなさい!金貨2000枚も仕送りしたの?」

「私も常識知らずだけど、ソードは可笑しすぎ」

「あの、それじゃソード様、あれは私へのお礼という事で宜しいのでしょうか?」

「そうですよ、奴隷になんてとんでもありませんよ」

「あのたった1日に金貨2000枚もくれたのですか?」

「そうですよ」

「それじゃ、金貨2枚だけ私もお礼として返しても良いでしょうか?」

「はい」

「それじゃ一生お仕えさせて頂きます」

「あの、何でそうなるんですか?」

「村人が奴隷になって一生買われるお金が金貨2枚ですから..」

「僕ちゃんはルビナスさんには幸せになって欲しい、そう思っています、だから奴隷になんてする気はありません」

「うふふっ、私の人生はもうソード様に差し上げましたから、どうするかはソード様が決めて下さい! 」

「それでは」

「離れてと言うのは無しですよ?」

「だけど、僕ちゃんは魔王討伐の旅をしています、ルビナスさんを危ない目に合わせたくありません」

「そうよ、私達でも危ない旅なのよ」

「そうですよ、しかもただの平民の貴方にする事はないよ」

「私だって出来る事はある筈です」

「何が出来るっていうの?」

「村人に出来る事は何もない」

「私は料理を含み、家事が出来るんです!」

「過酷な旅で良いならお願いします」

これで、あの黒いシチューからも逃げられる。

「はい喜んでお世話させて頂きます!」

「駄目、駄目、本当に危ない旅なのよ、連れていけないわ」

「本当に危ない」

「あの、私介護も得意なんです! ルシオラ様やユシーラ様のお世話もさせて頂きます! 絶対ご不自由にさせませんのでどうかお願い致します!」

「本当に?ちょっと良い?」

《服の着替えやシャワーのお手伝いもして貰える? 特に片手じゃ着替えられない下着の着つけとかも良い?》

《うふふっお手伝いさせて頂きますよ》

《あの、夜の営みの前のシャワーや終わったあとの片付けも良い》

《はい、勿論です》

「そうね、確かに必要かも知れないわね..私も賛成するわ」

「私も賛成」

こうしてソードのパーティーに新たな仲間が加わった。

人類最大の危機

聖都ユーラシアは既に魔族の手に落ちた。

そう言っても良い状態になっていた。

外で果敢に戦っていた者は全て死に絶え、帝国の皇帝ルビス3世とその側近も王城へ落ちのびて来るのが精一杯だった。

「俺の精鋭部隊が、帝国の誇る騎士達がこう簡単に殺されるなんて..」

皇帝ルビナス3世が王城に駆け込む時に見た光景は無惨に殺された騎士達の死体だった。

最早、聖都で生き残っているのは此処王城に居る人間だけだった。

ここ王城がまだ落とされない理由は2つ。

此処には「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊が居る。

本来は癒しの力を振るう彼女だが、その力の全てを結界を張る事に使っていた。

「ラララララーラララララー」

聖歌姫が歌う、その歌を呪文に載せて結界を張る。

王城を囲む程の結界を彼女達は張り続けた。

彼女の部隊が張るこの結界こそが最後の砦。

「麗しの聖騎士オルト」率いる聖騎士隊。

王国クレの「インペリアルプリンスのアルト」率いる王宮騎士団。

魔道公国マロウの「黒魔術士オルトル」率いる暗黒魔術師団。

傭兵王国グルノの「英雄オウダ」率いる特殊師団。

それらが外を固め、城の中には高位貴族や王族、教皇になったローアンが居る。

だが、既に聖都の人間430万人のその殆どが殺され、此処に居る人数は3000人も居ない。

打って出た所でただ殺されるだけだ。

殺された中には英雄と言われる者や凄腕と言われる者も居た。

それらの強者が簡単に殺されていった様子から見て、如何に各国の英雄クラスの人間や伝説と言われる者が居た所で最早抵抗するすべはない。

だが、降伏する訳には行かない。

ここに居る人間が滅んでしまったら、「人間の世界の指導者」が全滅してしまう。

故に負けを認める訳には行かない。

だが、それも「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊の喉が枯れるまで、終わりの日は近い。

その時こそが人類の指導者たちの滅ぶ日となる。

勇者絶対主義
「もうおしまいだ…」

城の中は絶望に染まっていた。

「女神よ..我々を見捨てられたのか!」

ローアンは見捨てられても仕方ない。

そう思っていた。

折角、女神が神託で選んだ人間に何をさせていたのか?

そう考えたら当たり前だ。

我らが信仰する女神は処女神だ、聖女に対してあの様なおぞましい事をさせた者を救おうと思うだろうか?

奇跡の存在の勇者を人工的に作ろうとした我々を救いたいと思うだろうか?

私の祖父は女神絶対主義、勇者絶対主義だった。

「良いかローアン、勇者とは絶対の存在なのじゃ、この世の全ての者は勇者に全てを差し出さなくてはならぬのじゃ」

「何故でございますか?」

「ローアンよ勇者とはどんな者だと思う?」

「はい、この世で一番勇気のある者です」

「違うぞ! 勇者とは魔王すらも殺せる最強の兵器なのじゃ」

「兵器?」

「そうじゃ! 人間がどんなに努力しても敵わぬ魔王すら殺せる兵器、だがこの兵器は心を持っておる」

「….」

「その心を満たす為には、人間は全てを差し出さなければならぬ!」

「全てでございますか?」

「そうじゃ、王女が欲しいと言えば差し出す、抵抗するなら裸にひん剥き勇者様の部屋に放り込めば良い..王妃であるなら王を殺しても渡すのじゃ」

「それは神の御心に背くのでは無いですか?」

「良いか? 大好きな王女に振られて落ち込めば、その落ち込んだ気持ち分勇者が弱くなる可能性がある、それに勇者は命すら掛けてこの世の天敵と戦うのじゃ..全てを差し出すのが正しいのじゃ」

「そうなのですか?」

「そうじゃ、聖女に賢者もそうじゃ、決して平民の為に、いや王に対しても魔法など使わせてならぬ」

「何故ですか?」

「勇者という最強の武器に罅が入った時に治すのが聖女じゃ、そして勇者という武器を守るために魔法を使うのが賢者じゃ、もし誰かを救った為に勇者の治療が遅れたら、大変な事になる..勇者にだけ使えば良い」

「それは」

「今は別に良い、だが、勇者達は女神様達の次に偉い、そして世界で一番強く、他の誰も敵う敵から守ってくれる存在..欲しい物は何でも差し出す..それは当たり前の事、それを忘れるで無いぞ」

「はい」

あの時は、ただ聴いただけだった。

だが、今この時を迎えて初めて解った。

弱い勇者ばかりで忘れていた。

彼らは、この恐ろしい敵に3人、ないし4人で何時も戦ってくれていた。

英雄でも敵わないから、女神様が勇者を遣わしてくれている。

人間が勝てるなら、そんな存在は要らない。

これほど犠牲を出しても敵わない敵をたった数人で倒す存在、それが勇者達だ。

430万の命と同等、そんな存在は居ない。

もし、それをやってのける存在が居るなら、世界中の人間は欲しがる物を全て差し出すべきなのだ。

勇者ソード様..もしこの窮地を貴方が救うのであれば、このローアンは「勇者絶対主義」を掲げ、この世の全てを差し出させます。

ローアンは女神像に祈りを捧げた。

三人目

「これは、恩を返すどころかどんどん恩が増えているような気がします..」

「諦めた方が良いわ、ルビナス」

「そうそう、気にしたら負けだよ」

食事をし話が終わったら、何故か三人は複雑な顔をしていた。

たかがレストランで高級な食事をしただけなのに。

話が纏まった後、ソードが向ったのは貴金属店だった。

「また、指輪が欲しいんだけど!」

「指輪ですか? どの様な指輪がご希望でしょうか?」

「無いと思うけど、僕ちゃんが買ったのと同じ指輪があると良いんだけど..流石に無いよね?」

「あの追加で欲しい?そう言う事でしょうか」

「あと一つ欲しい」

「一つで宜しいのであれば、ちょっとオーナーに聞いてきますね」

「ソード様、前の指輪と同じ物がもう一つ欲しいという事ですか」

「あくまで出来ればと言う事だよ、貴重な物で手に入らないのは僕ちゃんも聞いているからね」

「その方ともご結婚、そういう事ですか?」

「うん、そうなんだよね! 可能なら同じ物が希望なんだけど無理だよね!」

「本来は無いのですが..特別にこちらを提供させて頂きます」

「これは..僕ちゃんには同じに見えるけど!」

「少しだけ作りが甘いのです、このリングはそちらを作る時に最初に作った試作品です」

「試作品?」

「はい、貴重なレインボーオリハルコンを加工するのですから一発本番じゃ怖いと職人が言うので練習で作った物なのです」

「見た目変わらないし、それを譲って貰えるかな?」

「本来はこの様な試作品は売らない物なのですが、勇者様ですから特別にお譲りします」

「ありがとう..それで幾らになりますか?」

「無料でございます」

「いや、それは申し訳ない」

「これは貴重ではありますが、あくまで試作品! お値段はつけられません」

「ありがとう」

「どう致しまして」

「あのルビナスさんは一生僕ちゃんの傍を離れない、そう言う事で良いんだよね?」

「はい、一生お仕え致します!」

《多分、彼女驚くわね!》

《私が驚いた位だからね》

「僭越ながら、前回と同じ様に立会人の欄には私オーナーのゼンドルと先程ご案内したマリルのサインをして置きました、こちらにサインしてギルドに提出すれば、登録が終わります、まずはサインをお願いいたします」

「それじゃ、ルビナスさんこの書類にサインして」

「これは何の書類ですか?」

「良いから、良いから」

「解りました」

ルビナスさんがサインした後、僕ちゃんもサインした。

「はい、それじゃこの指輪をあげるから左手を出して!」

「あの、ソード様、先程のサインとこの指輪には一体どういう意味があるのでしょうか?」

「ずっと一緒に居るんだから、結婚した方が良いと思わない? だから、これはその為の書類!」

「結婚ですか!私と、勇者様のソード様とですか?..私は物凄く嬉しいですが..他の方は宜しいのですか? 私ただの村人、平民ですよ」

「良いんじゃない? 私としては勇者って10人も妻を娶る事が出来るから1枠でも減った方が嬉しいわよ、それに貴方は介護もしてくれるのでしょう? 良いわ..言っとくけど生涯貴方は私の介護から逃げられないのよ..終わったわね」

やはり聖女様なんだ、こんな事言っているけど、目が凄く優しい..今迄の人とは全然違う。

「ルシオラ様、有難うございます」

「良いのよ、それに貴方にはこれから家事から何から全部押し付けるんだから感謝する必要は無いわ」

「それでも有難うございます」

「そうそう、私は介護の他にも落ち着いたら研究も手伝って貰うから覚悟してね」

「ユシーラ様、有難うございます」

よく考えたら、私は今迄友達って居なかったのかも知れません。

言っている事は辛辣ですが、自分の親も含んでこの方たちが一番優しいのですから。

ギルドに書類を出しに行った。

「ほうー、もう三人目か? 昔、俺にハーレム野郎とか言っていたのは誰かな?」

「僕ちゃんだね! だけど、僕ちゃんはセトと違ってちゃんとしているよ? 全員結婚しているんだから」

此奴は懐に入れた人間には異常な程優しい。

何しろ、全員の共通の口座以外に、ルシオラにユシーラにルビナスの口座を作って考えられない程のお金を積み立てている。

俺のは頼んで辞めて貰った。

最も、貰った時点で既に金貨2000枚積み立てられていたんだが。

過保護すぎる、本当にそう思うがそれが彼奴の想いなんだろう。

「言う事はそれだけか?」

「それだけだね!」

「僕ちゃんは1人だけを生涯愛するんだって言っていた、可愛い弟みたいなソードはもう居ないんだな」

「そう言えば、そんな事言ってましたわね」

「言っていたね」

「解った、解った、僕ちゃんが全部悪い..これで良いんだろう」

「まぁな、だけど、良かったな、ちゃんと家事が出来る仲間が出来て」

「本当にそう思うよ!」

「セトにソード、それは一体どういう事かしら?」

「私達が出来ないと」

「あのさぁ、俺が食事をソードに作らせていたのは、お前らの食事が作れないからだ、決して虐めじゃ無いんだぞ」

「成程、あれはそう言う事だったんだ」

「そういう事だ」

「仕方ないじゃないですか? 私は教会に居た時から不得手でしたから」

「研究者は拘らないから」

「皆さん、本当に仲が宜しいんですね!」

「「「「勿論」」」」

こんな素晴らしい輪の中に入れるなんて思って居ませんでした。

ただお仕えするだけで良かったのに..

これじゃ私の借金は膨らむだけで生涯どころか未来永劫返せませんね!

こうしている間にも膨れ上がっていくんですから。

「うふふっ」

「どうかしたの? ルビナス!」

「何でもありませんわ、ルシオラ様」

「そう、なら良いわ」

こんな輪の中に村人の私が居るんて夢の様にしか思えません。

自分が偉くなっていたのに気が付きませんでした
ルビナスさんの服を買いにまた洋服屋に来た。

「これはこれは勇者様、ご来店有難うございます」

流石、商売人今度はちゃんとした対応をしている。

直ぐに奥に通され、お茶とお菓子が出て来た。

多分、これが本来の上客に対する対応なのだろう。

直ぐに商談には入らない、世間話をしてそれからようやく商談に入った。

「それで、勇者様、本日はどういったご用件でしょうか?」

「新しくパーティーに入ったルビナスに服を買いに来たんだ、また金貨30枚で10着位と下着を数着お願いしたい」

「その方にですね」

「ルビナスには家事などもして貰うから、そう言う事も考えた服も幾つか入れて欲しい」

「最初に言って置くけど、ルビナスも私と同じソードの妻だから、そのつもりでデザインお願いしますね」

「私と同じ」

《言わないで良かった..警戒していて良かった..危うく使用人や雑用と間違える所でした》

「大丈夫です! 魅力を引き立てるご洋服を用意させて頂きます、それで幾日位でご用意すれば宜しいのでしょうか?」

「この間みたいに無茶は言わないけど、この後、聖都に向うから急ぎでお願いします」

「それなら、3日間位頂けますでしょうか? あとお許し頂けるならこれを店頭に掲げたいのですがお許し頂けますか?」

「勇者ソード様ご用達の店」と書いてある看板だった。

「確かにご用達だから掲げても良いよ、3日間なら問題ないよ」

「有難うございます」

「それで今回も展示品の手直し品を先に一枚譲って貰えますか?」

「畏まりました、直ぐにご用事致します」

素早くルビナスを採寸していき、それに合わせて展示品の服を手直ししていく。

流石に手早い。

完成すると早速ルビナスに着替えて貰った。

「それで、こちらの服は如何なさいますか?」

「もし出来るなら手直しして綺麗に出来る」

「勇者様、これを手直しするのですか?」

「ソード様、新しい服も買って貰ったので、それは要りませんよ」

「だけど、僕ちゃんがルビナスに出会った時に着ていた服だから何となく処分するのが勿体なくて」

「うふふっ、確かにそうですね」

「それじゃ、金貨2枚出すから、その服のクリーニングと手直しもお願いします」

「畏まりました」

私なんて金貨2枚の価値も無いのに..実際に今迄、そういう扱いしかされた事は無い。

そんな私のお洋服に金貨32枚何て。

「また、そんな顔しているのね!」

「だって、私なんて只の平民で村人なんですよ! それなのにこんな..」

「解って無いわね? 私だって元聖女よ..元なの、つまりそれだけなら只の平民、良い所シスターね」

「私も元賢者で、今は賢者じゃない」

「そんな、詭弁です、お二人はそれでも凄い人じゃないですか?」

「そう凄いわよ? 今の私達は聖女や賢者と同じ位の力があるわ! 貴方にもね」

「気が付いていないの?」

「私に何があるのでしょうか?」

「あるわよ! 勇者の妻という凄い地位がね!」

「やっぱり気が付いて居なかった..今の貴方の地位は帝国の王妃や王国の王妃以上! いやソードの性格だと何かあったら力を貸すから帝王や教皇より上なのかも知れない」

「あはははっ、うふふふふ、そんな事ある訳ないじゃないですか?」

「あるわよ! 紙切れ1枚書いただけだから実感が湧かなかったのね? 世界で1番偉い人間は誰かしら?」

「勇者様..ですね」

「その勇者の妻が、たかが王の妻より身分が低い訳が無い…貴方は今、身分で言うなら世界でもしかしたら4番目に偉い」

「ユシーラ様!」

「様は要らない、同じ妻なのだから! だけど、多分世の中で私に様をつけないで呼べる人間は数少ない、その中の一人が貴方…」

「あれっ..本当にそうなります..ね」

「今頃気が付いたの? 貴方はもう平民じゃないわ! 貴族を通り越して、王族を飛び越えて「勇者の家族」になったのよ、もう自分を平民とか村人なんて呼ぶのは辞めなさいね」

「わわわっ私が、そんな出世していたなんて気が付きませんでした!」

《気が付いて無かったのね..》

《暫くからかうのに面白い..》

「これからもっとカルチャーショックを受けるわよ?」

「覚悟は必要」

「解りました」

「ルビナスの洋服が仕上がったら、聖都に行くよ、過酷な旅になる可能性もあるから、思いっきり羽目を外そう」

「「うん」」

今迄で羽目を外していないなら、羽目を外すとどうなるんでしょうか?

元、村人の私には想像もつきません。

ソード、聖都へ
いよいよ聖都へ旅立つ。

恐らくは聖都は今は凄く大変な事になっていると思うな。

僕ちゃんはしっかりと準備した。

ポーション類は元より、食料にルビナスの装備。

何かあったらいけないので、ミスリルで一式オーダーで作って貰った。

かなり驚いていたけど、知らない。

そして、旅立ちに用意したのは龍車。

これは小型の竜に引かせた馬車みたいな物だ。

竜が引く事によって警戒して魔物が現れなくなる。

「こんな凄い物、簡単に使って良いのでしょうか?」

「龍車は流石に..ない」

もう慣れた筈のルシオラやユシーラも驚いている。

セトに至っては

「何か掴んでいるのか?」と頻りに聴いてくる。

「僕ちゃんの予想では、恐ろしい事が起きている気がする…間違っていたら、まぁ無駄遣いしている、それだけで済むから用心した」

と伝えた。

セトが「それなら俺も」と言い出したが、「もうギルマスなんだから勝手に動いちゃ駄目でしょう」とたしなめた。

折角、幸せな未来が用意出来たんだ、僕ちゃんとしてはメグと一緒に子供でもコロコロ産んで幸せな生活を送れば良いんだよ。

もう、こんな危ない事しなくて良いんだからさぁ。

まぁ、ついてきても一切戦わせないつもりだけどね。

「それじゃ、セト行ってくるね!」

「ああ、何でそこ迄の装備で行くのか解らないが、行ってこい!」

「次は私も連れて行って下さいね!」

「セトにメグ達者でなー」

「何が何だか解りませんがいってきます」

「行ってくる」

「行ってきますね」

龍車は勿論、御者が操縦するからやる事は何も無い。

ただ、話したり、トランプしたりしながら移動するだけだ。

龍車は本来、王族が載る様な物だから快適だ。

走る応接室、そんな感じだ。

魔物も竜を恐れて余程の物じゃ無ければ出て来ないからやる事も何も無い。

「これは流石にやり過ぎなのでは無いですか?」

「流石に、そう思うよ」

「私の考え違いでは無かったのですね..もしかしたら皆さんには当たり前なのかな、そう思っていました..良かった」

「僕ちゃん達は勇者パーティーなんだから、これからはこれ位は当たり前、そう思われるようにしようと決めたんだ、だから慣れてね」

ルビナスは何だか落ち着きが無いしルシオラもユシーラもちょこんと隅に座っている。

折角なのだから、お茶でもしながら寛いでいれば良いのに..

聖都近くまで特に問題が無く進んでいた。

「平和に見えるわね..やはりソードの思い違いじゃない」

「今の所、問題は無い」

「思い過ごしだと良いね」

多分、思い過ごしじゃない、既に違和感が現れている。

聖都方面からくる人が異常に少ない。

聖都の門の近くまで来た。

異様だ、人間の声がしないで魔物の雄たけびが聴こえる。

龍車から降りてコテージを用意する。

このコテージはあの後、お金に飽かせて鬼の様に改造してある。

大量の聖水を滲み込ませて分厚いミスリルで補強してある。

最早、これはシェルターだ。

これに賢者のユシーラとルシオラが結界魔法を掛ければ魔王でもない限り壊せないだろう。

勇者の目は遠くまで見通せる。

聖都は魔族の手に落ちていた..いやまだ王城は落ちていないだろう。

ここから晩回戦だ。

「皆は此処で待っていて、何があってもこのコテージから出ちゃ駄目だよ!」

「ソード、あれは1人じゃ無理だよ私も行く」

「結界魔法が必要、賢者の出番」

「ユシーラ、ルシオラ、来ちゃ駄目だ、そんな事したら僕ちゃんは戦えない、それにこんな所にルミナス1人置いておけない」

「どうして、こんな時の聖女じゃない..勇者と共に私は」

「そう、だよ賢者は」

「ごめん、2人が来るなら、僕ちゃんは戦えない..人なんて何人死んでも構わない..此処にいる3人とセトだけが生きていれば良い、2人が来るなら僕ちゃんは聖都を見捨てる、2人が死ぬ可能性があるなら逃げるよ」

どうしてこんな過保護になっちゃったのかな..多分私が付いていくって言ったら、本当に見捨てちゃう気だ。

賢者としては寂しいけど..妻..そう言う事だよね。

「解ったわ、頑張ってねソード! その代わり何かあったら絶対に帰ってくるのよ! 聖女の名に懸けて死んでさえいなければ絶対に治すわ」

「ここは私が結界をはる..賢者が本気で張った結界は絶対に壊れない..何かあったら此処まで死ぬ気で帰ってきて」

「私は何も出来ませんが、美味しい食事を作って待ってます」

「うん、行ってきます」

ソードは三人の妻にそう伝え聖都の門へと向かっていった。

勇者剣聖VS魔族ミルク
勇者でもあり剣聖でもあるソードが聖剣を呼び出した。

他の剣と違いただ身に着けているだけでも超人的パワーを引き出す。

「あら、また羽虫がきたのね」

「魔族の子供か? そこを通してくれ..随分人を殺したんだな?」

「いけないのかしら?」

「殺した理由は?」

「人間だって魔物を殺すでしょう? 同じじゃない?」

「同じだな! だけど、人間は理由があって殺す..お前にも理由はあるのかな?」

「私の大切なワンコを虐めるから..」

「その周りの狼型の魔物の事か?」

「そうよ..」

「それなら正しいのかな?」

その周りの狼が僕ちゃんにとってのルシオラ達と同じなら当たり前だ。

「人間の癖に良く解っているわね」

「それでどうする?」

「人間なんだから殺すわ」

僕ちゃんは近くを見渡した、そこには見知った男と剣が落ちていた。

「そう、僕ちゃんにも戦う理由が出来たわ」

「そう良かったわね!」

素早い動きでミルクは襲い掛かってきた。

だが、ソードにとっては止まっているように見える。

本当に手加減して軽く小突いた。

「きゃああああああああっ」

そのまま、塀にぶつかった。

「あなた、何者なの? 来ないで、来ないで..来ないでよー」

殺されると思ったのか涙ぐんでいる。

そのまま近づき、足を握って釣り上げた..

「嫌だ、嫌だ、嫌だ..」

そしてパンツをはぎ取った。

「辞めて、辞めて..まさかしないよね..犯したりしないよね」

「しないよ」

「あっ」

パンッ、パンッ..僕ちゃんはお尻を叩いた。

「嫌だ、痛い、痛い..辞めてよ!」

「そこに転がっている奴な..僕ちゃんの知り合いだったんだ」

パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン

「痛い、凄く痛いよ、辞めてよ、もう腫れあがっているよ..茶色くなって腫れちゃっているじゃない、痛いのよ」

パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン、パーン

「ごめんな..さぁい..辞めて、辞めてってたら」

「これは魔族だからじゃない! 人間の子供が悪い事したらするお仕置きだ..魔族だからしているんじゃない..人間だって悪い事したら同じ様にする」

「ひく、グス、スンスン、もう辞めて..スンスン」

「良いよ、終わりにしてやる..だが覚えておいて、君は僕ちゃんの知り合いを殺した..その君を僕ちゃんはお尻叩きで許した..僕ちゃんだって知り合いが殺されたら怒るし悲しい..君がワンコが死んだら悲しいのと同じだ..だけど、許した..その意味を考えて」

「解ったよ..お兄ちゃんが正しいよ..ひくっスン..魔族は強い方法が正しい..そうだよ..」

「だったら、魔族領に帰れ、それでおしまいで良い」

「解った」

ミルクはそのまま、シルバーウルフを含む魔物を引き連れ去っていった。

今回、僕ちゃんは魔族を極力殺さないで戦おうと決めていた。

相手は殺しに掛かってきた、それに対してこちらは極力手を出さないで返した。

この意味を解って貰う為だ。

殺されたのがガンダルで良かった、もしルシオラ達だったら魔族は皆殺し..そうなったと思う。

ガンダルは気の毒だ..結局はセトにメグを譲ってくれた。

恩はある。

僕ちゃんは首を埋めてやり、あげた剣をそのまま墓標代わりに近くの大岩に突き立てた。

それから数十年後、魔族の女で命はとらないが、そいつに負けると二度と座れない程お尻を痛めつける魔族が現れたがそれがこのミルクかどうかは解らない。

ガンダルの墓標は勘違いから、剣聖ソードが唯一とった弟子のお墓として剣を目指す者は敬い拝んだ。

多分、天国でガンダルは困っているだろう..D級冒険者レベルなのに騎士見習いや上級冒険者に拝まれているのだから..

そして僕ちゃんは聖都の門を潜り抜けた。

此処からは恐らくもっと強い魔族が居る筈だ。

薔薇は美しく散って汚名を残す..ソード突撃
やはり僕ちゃんの勘は正しかった。

聖剣を持った勇者にはどんな魔族も勝てない。

恐らくは、魔王と魔族は対の存在の様な気がする。

多分、僕ちゃんを殺せるのは魔王だけだ。

だからこそ、無双できる。

魔物は片っ端から殺す。

魔族は基本殺さない、どちらか解らない相手は放置。

それで良い筈だ。

「我こそは勇者ソード、逃げる者は追わない、だが挑んでくる者は五体満足でいられると思うな!」

そのまま突っ込んでいった。

遠くから聖剣を軽く振っただけで魔物も魔族も吹き飛んだ。

だが、その場に留まった者が居る。

「貴様、何者だ!」

「もう名乗っただろう!僕ちゃんは 勇者ソードだ!」

「勇者ソード? 勇者はセトの筈だ」

「僕ちゃんはセトの次の勇者だ」

「だったら怖くねぇな..魔王様だって生まれて直ぐは強くはねぇー 生まれたての勇者等..えっ」

力の加減をする、聖剣はほぼ使わず、収納袋から普通の剣を取り出した。

聖剣は他の剣と違って持っているだけで充分能力を発揮する様だ。

これでいい。

聖剣を使うと多分、簡単に殺してしまう。

だが、それでも、それでも勇者の一撃は簡単に魔族の牙を折る。

「お前達は、多くの人間を殺した..だけど僕ちゃんは殺さない..手加減はしてあげる、だけど、それでも死んでしまったら ごめん」

胴体は狙わない、足や手を狙う。

それでも、どんなに手加減をしても、足は千切れたり腕は飛んでいってしまう。

「僕ちゃんはお前達と違う、喜んで殺したりはしない..逃げるなら追わない..消えろ!」

「ばばばば化け物だ.」

「逃げろ、逃げるんだ..死んじまう!」

風で吹き飛ばされた五体満足な者からこぞって逃げ出した。

王城は正に落ちる寸前だった。

此処には「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊の結界も歌いどうしでもう歌えなくなる寸前だった。

王国クレの「インペリアルプリンスのアルト」率いる王宮騎士団。

魔道公国マロウの「黒魔術士オルトル」率いる暗黒魔術師団。

傭兵王国グルノの「英雄オウダ」率いる特殊師団。

彼らは健在であったが、この結界が崩れた後、自分達では守れないのを悟っていた。

平民が多いとはいえ430万近い人間が死んだ。

その中には冒険者、騎士も含まれる..何より恐怖なのは自分達と同格の英雄クラスの人間が玩具の様に死んだ。

死を覚悟するしか無かった。

「アルト殿一体何をしようとしているのだ」

「クレ王..もう終わりです..これが私の最後の仕事です..未熟な私をお許し下さい」

「アルト殿、それが君の判断なら、仕方ない…それが一番僕の幸せなのでしょう」

「はい」

アルトは剣を抜き、その剣でクレ王の首を跳ねた。

「魔族に蹂躙されて殺される位なら..楽に死なせました..僕はこのまま死にます..お前達は好きにしなさい..一緒に死ぬも良し、逃げるのも自由です..今迄ありがとう」

そう言うと、その剣で自分のクビに刃を当てそのまま引き抜いた..

「インペリアルプリンスのアルト」率いる王宮騎士団は全員がそれに追従するように死んだ。

惨めに死んでいくよりは美しく死にたい。

薔薇の様に華がある、そう言われた騎士団は魔族軍と戦いもせずに、文字通り散った。

彼らは知らなかった..死ぬことは無かった。

何故なら、勇者が既に聖都に到着し戦い始めていた。

ただ、後数時待っていたら..その報告を受ける事が出来た。

その為、英雄と言われ、クレ王国の薔薇と呼ばれたアルトは後の世でこう呼ばれる事となる。

「美しいだけの人形の様な役立たず」と..

子供達は、後の世で歌う。

英雄アルトは役立たずー美貌があっても強さは無いー..だから魔族と戦わず..王様殺して死んじゃった。

そして、能力が無いのに美貌だけで出世する人間を「アルト」みたい..そう呼ぶようになった。

逆転..勇者に全てを捧げるのは当たり前…
ローアンや各国の王は遠見の鏡で様子を見ていた。

世界が終わる、この世の地獄絵を見ている..殆どの人間が絶望しかなかった。

「聖歌姫ことロザリア」率いる癒し手部隊の結界が終わる時、それが自分たちの命が終わる時だ。

だれもがそう考えていた。

だが、門の方で土煙があがった。

そして、そこには剣聖いや勇者ソードがそこには立っていた。

それを見て、希望を見出した者は..少なかった。

勇者程では無いが、英雄級の者や上級冒険者もあそこには居た。

それがなすすべも無く死んでいった。

430万人、それをこうも簡単に殺す様な敵に..ただ1人の勇者が勝てるとは思わなかった。

それでもローアンは大きく声を張り上げる。

「勇者様だ、勇者様が来てくれた」

それでも絶望は消えていかない..

だが、戦いが始まると様子が変わっていく。

帝国の王、ルビス3世は驚きを隠せない。

血狼のフォングが簡単に殺した相手を一瞬で倒し、子供扱いしていた。

あの恐ろしい魔族が、ただの無力な少女にしか見えない。

お尻を叩かれ泣いている姿はただの母親にお尻を叩かれて泣いている子供だ。

「あれが勇者か..最早人間とは思えない..」

あれと張り合おうと思っていたのか..人間の強者等、比べられるわけが無い。

「弱い勇者ばかりで、忘れていた、勇者とはああいう者を言うのだ」

当たり前だ、誰もが敵わない相手だからこそ、勇者が必要なのだ。

人が敵う相手なら勇者など必要が無い。

その事を彼らは忘れていた..

勇者が剣を振るう度に魔族が大怪我をして逃げ出していく。

ただの剣はその力に耐えきれず簡単に折れる。

だが、幾らでも変わりはある。

聖剣を使って無い..それなのに魔物は真っ二つ..魔族は次々と敗退して逃げ出す。

「オルトルよ、もし勇者と戦うとしたらどう戦う!」

「不謹慎ですぞ! マロウ殿!」

「不謹慎なのは承知の事..だが、魔族に本当に対抗できるのかそれを余は知りたいのだ..オルトル」

「はっ、どうにも出来ません!」

「それはどういう事だ!」

「今現在私の率いる暗黒魔術師団300..それを30万人に増やして、私と同等の魔術師1000人居れば..それでも無理..そうですね..あれじゃ」

鏡にはまるで玩具の様に魔族や魔物が飛んでいく姿が映っていた。

あの中の一体ですら騎士団等皆殺しにされる相手だ。

戦いにもなって無い。

ただ、剣を振るうだけで、簡単に弾き飛ばされていく。

「あれは、人では無い..そういう事だな」

「一番近いのは..」

「魔王..では無いですかな?」

「ローアン殿、それを聖職者の貴方が言うのですか?」

「今、思い出したのだ..私の祖父は勇者絶対主義でして」

「勇者絶対主義..」

「勇者とは何か? それは勇者とは魔王すらも殺せる最強の兵器なのです」

「それは」

人間がどんなに努力しても敵わぬ魔王すら殺せる兵器、だがこの兵器は心を持っている。

その心を満たす為には、人間は全てを差し出さなければならない。

王女が欲しいと言えば差し出せ、抵抗するなら裸にひん剥き勇者様の部屋に放り込めば良い..王妃であるなら王を殺しても渡せ。

大好きな王女に振られて落ち込めば、その落ち込んだ気持ち分勇者が弱くなる可能性がある、それに比べれば王女など幾らでも渡せ、王女など只の女なのだから、それに勇者は命すら掛けてこの世の天敵と戦う、その対価には些細な物なのだ。

だからこの世の全てを差し出して当たり前なのだ。

聖女に賢者も同じだ、決して平民の為に、いや王に対しても魔法など使わせてならない。

勇者という最強の武器に罅が入った時に治すのが聖女、そして勇者という武器を守るために魔法を使うのが賢者。

もし誰かを救った為に勇者の治療が遅れたら、大変な事になる..勇者にだけその能力は使えば良い

勇者達は女神様達の次に偉い、そして世界で一番強く、他の誰も敵わぬ敵から守ってくれる存在..欲しい物は何でも差し出す..それは当たり前の事。

「今思い出しまして..ソード様こそが、勇者の本質だ..あれこそが魔王すら殺せる最強の兵器..それ以外の何者でもない」

「全てを差し出せと言うのか..王である私達が?」

「逆らえるのですか? 430万を簡単に滅ぼせる相手をたった1人で戦える者に..あれは1人で一国所じゃない」

「認めるしかないだろうな、ドラゴンが蟻を助けてくれるんだ、蟻は砂糖でも何でも差し出すべきだ」

「ルビス3世殿?」

「帝国は強い男が好きだ、勇者がこの世で一番強いなら膝磨づくのも悪くは無い」

「私もそう思いますよ」

「教皇であるローアン殿までがその様な戯言を..」

「教会は女神に仕える物、その女神の使者は王より偉い、当たり前の事ですよ」

「それは建前であって..実際は、勇者は象徴みたいな物.そういう不文律があった筈だ..」

「誰が、その様な事を..あの勇者達を陥れた不穏分子たちと同じ考えなのですか? 教会から破門しましょう..」

「帝国はその様な建前は知りませんぞ」

「オルトも同じだ」

「解りました..私の勘違いだった」

「賢明ですな」

教皇や王たちがこんなに余裕があるのには理由がある。

それは遠見の鏡で、見るソードが無双しているからだ。

次々に敗走する魔族、それを見下ろす勇者ソード..最早勝敗は勇者側に傾いた。

このまま..行けばもう勇者側の勝利は固い。

そう思っていた。

既に敵は..王城ではなく全て勇者ソード側に向っていっている。

こちらには必要最低限の包囲する者しか居ない..

だが、次にローアンが鏡越しに見た光景は..

「流石に僕ちゃんも疲れた..帰る」

魔族に宣言して帰って行くソードの姿だった。

戦争終結
「ふうっ疲れた..ただいま!」

「お帰りなさい、ソード」

「お帰りなさい」

「お帰りなさい、ソード様」

普通に仕事をして帰ってきたようにソードは帰ってきた。

外には魔族が沢山居る。

だが、強化されたコテージに賢者が本気張った結界に手が出せるわけが無い。

そして疲れて来たら交代可能な聖女が居るし、疲れてきてもお互いがお互いを癒せる。

「聖歌姫ことロザリア」にすら出来る事を、本物の聖女や賢者が出来ない事は無い。

無詠唱でそれこそ年単位で張っていても問題は無いだろう

しかも城でなく小さなコテージだ。

最早要塞としか言えない。

遠見の鏡で見ていたローアンや王族は飽きれていた。

「流石は勇者殿だ..普通に家に帰るように帰っていったな」

粛清が終わった教会と違いアカデミーは落ち着かない。

「賢者も、聖女も偽物というが、その偽物もまるで化け物では無いか?」

「ええっ、そしてあの二人、に一人平民が加わり、それが勇者ソードの愛おしい女性です。 教会は「愛し子」計画の者は粛清して全員処刑しましたよ、今でも勇者ソードはその事を怒っていますからね..アカデミーはどうでしょうか? 「人工勇者」の関係者の処分は如何かな」

「ローアン様..それが..」

「今直ぐ殺しなさい..そうしないと貴方の命も保証できません」

「各国の王は知らない..それを貫きとおした方が良いでしょう」

「「「「「解りました」」」」」

「あれ程の魔族に囲まれていても問題が無い..最早別次元の存在としか思えない」

「恐らくは中で食事をとり休息をとっているのでしょう?」

それは正しかった。

「このシチュー凄く美味いね」

「はい、腕により掛けましたから..喜んでもらえて私も嬉しいです」

「ありがとう」

「しかし、魔族と戦っている中で食事するなんて考えられないわね」

「同感..周りが全て魔族に囲まれているなんて信じられないね」

「平和としか考えられません」

「これは、僕ちゃんじゃ無くてルシオラとユシーラだからね」

「本当にそうだね」

「気が付かなかったな」

「そうでしょう? 僕ちゃん達だけなら、人類が全員死んでしまっても平和に生きていけるよね」

「結界を張っていれば良いんだ」

「それだけで安全この上無い」

「うふふふ、此処は本当に安全なんですね..勇者様が居て、賢者様や聖女様が居る、世界で一番安全な場所ですね」

「当然だわね」

「うん、当然」

食事をして歓談して、睡眠をとり、シャワーを浴びてソードは再び出かける。

「行ってきます」

「「「いってらっしゃい」」」

外は魔族ばかりだから狩るのは簡単だ、昨日と同じ様に淡々と作業をこなす。

場所が変わっただけで、同じ事をしていく。

そして…僕ちゃんは叫んだ。

「何度も僕ちゃんは言うけど、魔族を殺すつもりは無いんだよ..今迄何で勇者達は少人数で戦っていたか考えてよ..お互いに犠牲を出さない為だろう! 僕ちゃんはお前達を皆殺しに出来る、だけどしたくないからこうしているんだ..」

黙って魔族は聴いている。

「お前達だって家族はいるだろう? こんな大虐殺で殺されたらどう思う? こういう大規模な事を人類が起こした事はあったか?」

「我は、魔族の公爵で、ゾルである..勇者の言い分は聴いた..どうやら齟齬があるようだ、明日一日戦闘を中止しよう..私が魔王様に状況を説明して進言する、明日一日休戦してくれないか?」

「受け入れるよ..吉報を待っている」

明後日 ゾルは約束通り現れた。

「魔王様もこれ以上の戦闘は望まない…これより兵を引かせるから追撃はしないで欲しい」

「約束するよ..今回の責任は!」

「それはこれから魔国に帰ってからだ..だが、魔王様は少なくとも謝罪はするそう言っていた」

「信じるよ」

「勇者ソード..極力殺さず戦ってくれた、そなたに私個人として敬意を表する..さらばだ」

「僕ちゃんも、貴方の英断に感謝だ..さようなら」

人類の存亡をかけた戦いはこうして幕を閉じた。

勇者の国 
魔族達は約束通り去っていった。

聖都はもう王城以外には人は居ないだろう。

僕ちゃんは門の前に立ち全員が引いていくのを見送った。

そして、ルシオラとユシーラ、ルビナスを伴って城へと向かう。

そして事の顛末を教皇であるローアンや各国の王に伝えた。

「馬鹿な430万人も殺されたのに..ただで返したのか?」

何処かの王が馬鹿な事を言い出した。

「それなら別に良いよ? もう僕ちゃんは手を出さないから、自分達で魔族と戦えば良いさ…折角戦いが終わったのに、戦いたいなら魔族に戦争仕掛ければ良いんじゃない? それじゃ」

「待って下さい..ソード様、何処に行くのですか?」

「いや、魔族と戦争したいみたいだから出て行こうと思って..どこか辺境で楽しく暮らすよ! それじゃね..」

「待って下さい..」

「ローアン..僕ちゃんが戦争を止めたのは迷惑だったみたいだね..次は止めないから頑張って殺し合えばいいさ..」

「待って下さい..貴様、お前は破門にする、何処の王だが知らないが顔も見たくないわ..これで、これで許して貰えませんか?」

「ローアン様、破門は」

「可哀想だから許してあげて、話を聞いてあげるから」

「解りました..勇者様に感謝するのだぞ」

「有難うございます、勇者様」

もう解ってしまった。

此処にいるのは、もう自由に文句等言えない人物なのだと。

見捨てられれば、即死につながる実力者なのだと。

「魔族側からは魔王の謝罪と何だかしらの償いが来る..それで終わりで良いんじゃないかな?」

「聖都が壊滅したのですぞ..それが謝罪と償いで終わりにしろ…そう勇者様は言うのですか?」

「そうだよ」

「ですが、それでは死んでいった者は浮かばれません」

「責任転換は良くないよ..市民は兎も角、騎士や戦える人は弱いから死んだだけでしょう? それだけだよ」

「幾ら何でもそれは言い過ぎです」

「同じでしょう? 命を懸けて戦って死んだ勇者を「弱い勇者」って貴方達は言っていただろう! 少なくとも今回死んだ人間より遙かに強くて、世界の為に死んだ人達をそう言ってたんだ..同じ扱いにしなければ可哀想でしょう」

言ってしまっていた、勇者側がその理屈を言い出せば…そういう扱いをしていたのだから当然だ。

「言っておりましたな..」

「ならば、弱いから死んだ、それだけで片すべきですよね」

「そうだ、死んでしまった人間より、セトの方が何万倍も強いし手柄も立てていたよね? 僕ちゃん実感したよ..そうだ、小さな国の王様にしてくれないかな?」

「幾ら何でも言いすぎです、死んだ者への敬意も払えないのですか、勇者だろうが!」

「敬意? 払う必要が何処にあるのかな? 僕ちゃん達勇者は今回戦った様な奴と戦い続けてきたんだ、なぁ..たった1回の経験なんてお試しみたいな物だよ…同じような事を僕ちゃん達は何十回も経験してきた..そんな仲間に酷い事したんだよ..お前らが反対すればやれなかったんじゃないのか?  何度でも言ってやる..たった1回経験しただけで偉そうな事いうな..今回起こった事が僕ちゃん達の日常だった..そんな事を黙認したお前らの部下に敬意なんて必要なのかな? 弱いからさせたんだろう? 弱いからだ..なら弱いから死んだ人間に敬意なんて要らないよな!」

「その通りです! 確かにセト殿は今回死んだ者や残っている者より強いのでしょう..解りました、この聖都の一部に自治区を作り国と認めましょう..それで如何ですかな!」

「流石、ローアン話が早いね..これで聖国ユーラシアはセトの同盟国だから何かあったらすぐに飛んでいくよ..あっそうか、僕ちゃん達がそこに住めば目と鼻の先だからもう此処には絶対に安全だね」

「そうですな、国の王は2人にしてソード様とセト様..国の名前は 勇者の国ソートとか良いかも知れません、勇者様達は忙しいから、優秀な代官も教会から派遣しましょう..聖都の城にような立派な城もつくらせましょうぞ」

「流石、ローアン教皇だ..ありがとう..」

「寧ろ小さくて申し訳ない位です..では国作りは私にお任せ下さい..同盟国と後ろ盾は聖国ユーラシアで良いですよね」

「良いよ、任せる」

「それでは、勇者様はお疲れでしょう..貴賓室を用意しましたから、奥方様とごゆるりとお休みください」

「ありがとうローアン..そうだ、落ち着いたら僕やセトの結婚式をお願いするよ」

「立ち会人は私がしよう、第二同盟国は帝国が勤める..宜しいかな?」

「帝王もありがとう」

「いえいえ、当然の事だ..勇者の宣言も私がやったんだからな」

「そうでしたね」

「さぁ..疲れたでしょうゆっくりお休みください」

「ああ、ありがとう」

「はぁ、貴方達は何も学習していないのですね..話が分かっていたのはルビス王だけですか!」

「本当に馬鹿だな」

「何を言っているのか解りません」

「良いですか? 勇者という物は世界の為に戦ってきた..それなのに死んでしまうと「弱い勇者」と馬鹿にしてきた。 それならば、たかが魔族との戦いに死んでしまう人間は、それ以下だから敬意なんて必要ない…そういう事でしょう?」

「だが、何人もの騎士や冒険者が死んだんだ」

「それを言うなら、何人もの勇者が死んでいる..しかも弱い勇者や聖女だからって、死に物狂いで戦っている仲間に、あんな事を強要していた..そんな扱いをしたんだから..弱い人間に敬意を払う必要は無い..それを当たり前の主張にしてしまったのは我々ですよ」

「だからって」

「貴方達は勘違いしている..430万人を殺す様な相手を一人で倒す..そんな人間にだれが文句いえるんですか? もう貴方の国には勇者達は行ってくれないかも知れませんね..それでいいならどうぞ..勿論、教会は貴方達の国の人は破門します」

「不敬を解って言う..魔王より怖い人間に逆らうな..そういう事なんだぜ」

「ええっ、そして神が選んだ勇者に文句を言うな..そういう事です」

ここでようやく意味が解った..つまりは勇者を怒らせるという事は魔王を怒らせるのと同じ事なのだと。

「それで、勇者の国ソートを建国するのに反対の者はおりますか?おりませんね」

誰も反対をする者は最早居なかった。

終わり
それから暫くして魔王から書状が届いた。

その中には僕ちゃんへの詫びとお礼も含まれていた。

「命を奪わなかった..それが功を奏したな」

「魔王から手紙を貰う勇者…考えられないわね」

「剣聖で、勇者で今度は国王、本当に忙しいね..」

「まぁ、セトも一緒に国王だけどね」

「うふふ..今度は王妃ですか..何が何だか解りません」

「あの、言葉に騙されちゃ駄目よ? 勇者の妻の方が遙かに地位は上なんだから」

「そうなのですね..はははそうです」

「これからは行儀とか大変かもね」

「そうなんですか」

結局、僕ちゃんが魔族を殺さず終わったから、魔族側が自分の非を認めて魔王が謝罪。

今回の戦の賠償について話し合いが行われた。

「勇者様なのですから話の中心になって下さい」

実質、魔族が怖くて仕方いからついて来て下さい..そういう事なのだと思う。

魔国との境界にテントを張って行われた。

先方は魔王がきていたので、誰も話さないから僕ちゃんが中心に本当に話す事になった。

まずは賠償だが..

お金という概念が魔族には無い。

結果、魔族には余り価値が無く人間に価値がある金や銀、宝石を貰う事と魔国の近くの森での採集権で話がついた。

まぁ魔族にとっては半分ガラクタ..人間にとって国宝級の物、丁度良いかも知れない。

これからは、魔族も人間も揉めたら話し合う…そういうルールが出来た。

最も、魔物は魔族では無いから防げないし見分けがつきにくい魔族もいる、人間にも盗賊が居るからそれまでの話だ、折り合いがつかなかったら争うのは仕方ないだろう。

そして三百年間、お互いの国境を越えて争わない、そう言う決まりが出来た。

境界があいまいな所は知らないが、そこでも話し合いがある、そう考えたらかなり安全だ。

これで、勇者と魔王が戦う事は僕ちゃんの代では無い。

三百年も僕ちゃん達は生きれない..だから、これで僕ちゃんの戦いはもう終わりだ。

そして、魔王を倒さないという事は聖剣の力も失われない..僕ちゃんには都合が良い。

今は沢山の死体の弔いと瓦礫の片付けがようやく始まった。

殆どの人間が死んでしまったから人を集めるのに随分手間取っているようだ。

小さいながら、僕ちゃんとセトの国が此処に出来る。

セトとメグは驚くだろう..何しろいきなり国王と王妃になるのだから..そして結婚式も待っているんだ..

勿論、教えてあげずにただ呼んだだけだ。

これが僕ちゃんが望んだ未来、勇者が魔王の抑制力になり、魔王が勇者の抑制力になる。

戦わない未来..

これが僕ちゃんが考えていた理想の未来..死の運命から完全にこれで抜けられた。

残りの人生は..綺麗で可愛い奥さん3人と親友と面白可笑しく暮らそう..

毎日、遊んで、欲しい物を手に入れて..面白おかしく暮らそう..

ダラダラしながらゆっくり暮らせば良い..

もう僕ちゃんは戦うのはコリゴリだからね..

まずは、親友のセトが付いたら..思いっきり驚かせてやる..

僕ちゃんの戦いは

「どうかしたの?にやにやして」

「笑っているなんて珍しいね」

「うふふ笑顔も凄く素敵ですね」

これで本当に終わった..後は楽しく生きて行けば良いんだ..彼女達や親友と共に..

(FIN)

あとがき
今迄読んで頂き有難うございました。

私の多くの作品で常連さんに人気があるのは5万文字位の作品になります。

個人的にはその位で納めるのがすきなのですが..もう少し長く読みたいそういう方も多くいました。

そこで、長く書くか短く書くか読んで下さっている皆様にアドバイスを頂きました。

今回ハイファンタジーで書きましたが、このジャンルを選ぶと、ランキングにもまず入りません。

他のジャンルなら日間1位や週間1位も頂きましたがここは花形やはり難しい。

特に今回は10万文字(単行本1冊分)を目指したから余計に..とくに後半は感想欄からの応援が無かったらきっともっと早く打ち切ったと思います。

本当に応援有難うございました..

テンプレが嫌いなので..テンプレに沿えばもう少し好感度が上がると思いますがあえて

嫌われる..僕ちゃんと言う主人公、 非処女で片腕でしかも最初の相手が親友のヒロイン、同じく親友の性処理をしていたヒロイン、未亡人の村娘ヒロイン

そのキャラクターで書いてみました、なかなか無い設定だと自分では思っています。

これからもテンプレ通りにならない..隙間小説を書いていきますので宜しくお願い致します。

私は闘病生活者です..皆様の感想が半分お見舞いみたいな物で楽しみでした。

感想をくれた方..本当に感謝です。

有難うございました。