第1話 俺が死ぬ少し前
パーティーリーダーであり勇者のジョブを持つリヒトが告げる。
「悪いが今日でクビだ」
「いきなり、何故俺がクビにならなくちゃいけないんだ」
リヒトとは幼なじみだ。
「今迄ずっと仲間で支え合いながらやっとここまで来た」俺はそう思っていた。
俺は幼馴染4人の様に優れたジョブは持っていない。
だけど、その分は家事や他の事で貢献して来た筈だ。
そんな風に思っているのは、俺だけなのか?
剣聖のエルザ
聖女のクラリス
賢者のリタ
五人揃って勇者パーティー『光の翼』そう呼ばれていた。
やや中二病な名前だがまぁリヒトは勇者だし、剣聖や、聖女、賢者まで居るから可笑しくないな..
本当に俺は4人と比べれば能力は無い。
この世界は女神から貰ったジョブで半分人生は決まる。
4人のジョブは4職(勇者、聖女、賢者、剣聖)
それに対して俺はポーター(荷物運び)だ。
ジョブの差で成長した3人に能力が追いついていないのは当たり前だし仕方がない。
だから、その分は雑用で賄っていた。
素材の解体、料理、各種手配…全部俺が行ってきた。
更にお金だって俺は他のメンバーの1/3も貰ってない。
それなのに…なんでクビになるんだ…
俺が居なければ、ギルドの交渉や雑用で困る筈だ。
「ついて来れないのは分かっているだろセレス!」
「そうだな、確かにポーターの俺じゃ普通にはついていけない、だけど悪までポーターという事なら優秀な筈だよ。」
勇者パーティについて行けるポーターなんて俺しか居ない筈だ。
リヒトの狙いは解っている、このパーティをハーレムにしたいんだ。
勇者パーティだからと言って4人はいつも高級ホテルに泊まる。
俺はお金が無いから安い宿に泊まっている。
リヒトの首筋や他の3人にキスマークがついていたのを見た事があるから、間違いないよな。
「勇者とし大きく飛躍するには大きな手柄が必要なんだ。残念ながらお前を連れてじゃ無理なんだ。なぁ分かってくれよ、パーティを抜けてもお前が親友なのは変わりないからな。」
「そんな事を言って俺を捨てるつもりなんだろう? なぁ雑用は必要な筈だ、俺はポーターとしては優秀な筈だ…考え直してくれないか…なぁ親友だろう」
「お前、俺がオブラートに包んで言っているのが解らないのか? なぁ…余りキツイことは言いたくは無いんだ」
他の仲間、他の仲間はどうなんだ?
俺は幼馴染であり、兄妹のように過ごしていたリタの目を見た、彼女ももう昔の優しい目をして居ないしリヒトの女になっているのも知っている。
だが、それでも追放には反対してくれると思っていた。
「私もリヒトの意見に賛成だわ!貴方はもうこのパーティについていけないじゃない。きっと近いうちに死ぬか大怪我をするわ..さっさと辞めた方が良い…これは貴方の事を思って言っているのよ! セレス」
「リタ…お前も俺が要らないって言うのかよ」
俺と目も合わせないのか…
ふと、リタの左手に目が行く。
薬指には見覚えのない指輪があった、これは多分リヒトが買い与えた物だろう。
俺の側につく訳がないな。
他の2人も同じ指輪をはめていた。
ハーレムパーティに俺は要らない、そう言う事なのかよ。
「なぁ、エルザにクラリスも同じなのか?」
「私は嘘は嫌いだ、だから本当の事を言うよ? お金が溜まって魔法の収納袋を昨日買ったから荷物持ちはもう要らないんだよ! 気の毒だと思うが本当に要らない、もうセレスは役立たずなんだよ」
「俺は荷物持ちだけしていたわけじゃないだろう、エルザ」
「女々しいですわよ!セレス…全員が要らない、そう言っているのよ!いい加減にして欲しいですわ」
そうかよ…
このパーティで俺が不必要というのは解った。
だが、このタイミングは無いだろう。
此処は死の森、4人なら兎も角俺には凄く危険な場所だ。
しかも近くの街は、高ランクの冒険者のみが集まる街、ゼノン。
ゼノンの街に戻ってもポーターの俺じゃ仕事も少ないし、お金を貯める事も出来ないから、安全な村や街に行けない。
だから、此処でパーティを追い出される訳にはどうしてもいかない。
「なぁ、俺は、ポーターなんだよ、ここで追放されたら街に帰る前に死ぬかも知れないし街に帰っても仕事も無い、せめて平和な街に着くまで手伝わせて貰えないかな..幼馴染じゃないか」
「それは、幾ら何でも出来ませんわね、ゼノンの街までならいざしらず、図々しいですわ!」
「クラリス、幼馴染じゃないか?この通り頭を下げるから頼むよ…なぁ」
「そんな頭、下げられてもね意味ありませんわ」
「そんな事言うなよ…なぁ本当に頼むよ」
「頭をあげなよ! 男がそんな事しちゃ駄目だ!」
「エルザ…ありがとう」
「頭を下げても何も変わらないんだから無駄なんだから下げても意味は無い」
「リヒト、親友だろう! 昔何度も助けてあげたじゃないか、なぁ、なぁ助けてくれよ」
「ハァ~だから、役立たずのお前を使ってやってただろう?、もう充分借りは返した筈だ」
「だけど、こんな所で置いていかれたら俺は終わりじゃないか? 本当に何でもするから安全な場所まで頼むよ…この通りだ」
土下座の状態で、俺はリヒトの足に縋りついた。
「辞めろ、汚いな」
リヒトが剣で俺を殴ってきた。
だが、止める訳にはいかない。
「今迄、無料同然で幼馴染だから手伝ってきたんだ、最後の我儘くらい聞いてくれても良いだろう..お願だ、お願いしますから」
「やめろよ、汚いな離せよ」
ゴッ..鈍い音がした。
「不味いよ、リヒト! 荷物持ちは簡単に死んじゃうんだから、あっ」
リタが青い顔で此方を見ている。
「リヒト…」
「本当に不味いですわ、これじゃ回復魔法を掛けても無理ですわね」
クラリス、何を言っているんだ…
「たすけ…てくれ」
なぁ、リヒトこれで良いのか?
なぁ…本当に。
「助からないんじゃ仕方ない、それにもし治ってもギルドにでも言われたら不味い、幸い此処は人気が無い、横の林に放り込んでいこう」
そうか…『お前も俺を殺すんだな』
「もう助からない捨てていくしかないな」
「それしかなよね」
リヒト、お前は友達だと思っていたんだぜ…
それなのに『俺を殺した』
お前の人生はもう終わりだ。
第2話 死んだのは
可笑しい…
なんで俺が頭から血を流しているんだ。
なんで…3人で俺の手足を持って放り出そうとしているんだよ?
『あれっ』
俺がセレスを殺した筈だよな…なんでそこに居る?
何でそこに『俺がいるんだ』
しかし、頭が痛い…
訳が解らない…俺がセレスを殺した筈なのに…
嘘だろう…なんで俺がセレスになっているんだ。
頭が痛い…このままじゃ俺、死んでしまうじゃないか…
『リタ、助けてくれ、クラリス、エルザー――っ』
嘘だろう声も、もう出ないのか…
何だよ…おい、そんな必要ない者を見る目で俺を見るな…
俺を見捨てないでくれ…
死にたくない…
その時俺と目があった。
俺の顔をしたそいつは口端を釣り上げて笑った。
この笑い方は…セレス。
『俺を殺したからこうなったんだ』
俺の顔をしたセレスがそう口パクで答えた。
俺は…それを見て絶望して…死ぬしか無かった。
第3話 俺の正体
俺には前世の記憶がある。
俺の前世は日本という国に住んでいた。
元は妖怪であったが人間と交配しその能力を失った一族。
元の妖怪は『牛鬼』だが、時代が変わり妖怪が生きられない世界が来た為、変化能力を身に着け人間と交配をし…半妖となり、更に交配を続け、血は薄くなり今や普通の人間と同じ…
人間と交配しその能力を失った一族、それが俺の一族だった。
一族の殆どにはその能力は無くなっていたが、俺は先祖返りなのか一部の能力が宿っていた。
牛鬼という妖怪はどういう者なのか?
本来、牛鬼という妖怪は死なない。
正確には死なないのではなく、殺した人間が『牛鬼』に代わってしまう。
簡単に言えば殺した人間の体に乗り移り自分の物にしてしまう。
そういう妖怪だった。
本来はその姿は牛鬼になる筈だが…俺の場合はそうはならない。
人間と交配をした結果、牛鬼の血は薄くなり、性質が変わったせいか相手の姿のままだ。
まぁ、殺した相手と入れ替わってしまう、そんな感じだ。
恐らく相手は死に掛けの俺の中で死んでいくのだろう。
しかも、この世界のジョブやスキルの仕組みは解らないが、前のスキルやジョブは持ち越せるし、相手が持っていたスキルやジョブもそのまま残る。
これが俺の今の能力だ…
セレス
ジョブ 勇者(ポーター)
スキル 聖魔法 光魔法 聖剣の使い手 限界突破 剣の才能(極)
(固有スキル 【牛鬼亜種】)
この固有スキルや( )の中は他人にはなぜか見えない。
俺は本来は牛鬼という妖怪なのかも知れない。
能力があるという事は最低でも妖怪の血は混ざっている筈だ。
だが、この世界に転生した時から、その前もほぼ人間として過ごしてきたから人間として生きたい…そう俺は思うんだ、だからこの能力を自分から使ったことは無い。
リヒト、お前が俺を殺さなければこんな事にはならなかった。
リヒト、お前の人生は俺が代わってやるよ。
第4話 自分自身と宝石商
「リヒト気にしても仕方が無いだろう、冒険者同士の揉め事にはギルドは介入しないし、お前は勇者だ、セレスには気の毒だが、もう気にしない方が良いぞ」
俺を気遣って言ってくれているのだが、中身がセレスの俺からしたら少々複雑だ。
「ああっ、そうだな…だがあいつは幼馴染でもあったんだ、少しだけ放って置いてくれないか?」
「ああっそうだな、私だって少しは思う所もある…私はそうだ素振りでもしてくる」
そう言うとエルザは出て行ってしまった。
多少は罪悪感があったのだろう…それに比べ…
「そんなに気にする必要は無いですわ」
「そうだよリヒト、確かに幼馴染かも知れないけど、ただのポーターだよ? そんな悲しむ事ないよ」
「それでも、彼奴は幼馴染だ」
「幼馴染って言うなら私達も同じですわ、それにセレスは私達にとって邪魔ですわ」
「そうそう、他の男がいたんじゃ落ち着いていちゃつけないじゃない?」
俺はそんな事の為に追放され掛かっていたのか、少しでも気に掛けてくれたのはエルザだけ、あと二人には此処迄嫌われていたのか?
まぁ仕方が無い。
今の俺はセレスじゃないリヒトだ気持ちを切り替えなくちゃな。
「そうだな…だが法的にも問題が無くても、罪悪感があるんだ、少し1人にしておいて欲しい…」
「解りましたわ…ですが優しすぎますわ、まぁそんなリヒトを私は愛しているんですけど…」
「そうだよ、だけどリヒトって優しいよね…解った、今日は極力話しかけないよ」
仲間を殺す奴の何処が優しいんだ。
俺は一人、散歩に出かけた。
◆◆◆
昨日、俺が放り込まれた林の近くに来た。
俺だった奴の死体は既になかった。
血だまりが出来ていたから、多分死体はゴブリンにでも食べられたのだろう。
俺と入れ替わっている以上は『確実に死んでいる』のは間違いない。
俺は前世の風習に合わせて手を合わせた。
相手が如何に悪くとも死んでしまったのには間違いないのだから…
さて、俺はこれからリヒトとして生きなければならない。
これが、村人、せめて冒険者なら『周りと接触しないで静かに生きる』
そういう選択もあるがリヒトが冒険者である以上それは無い。
まずは自分がどれ位の事が出来るのか試す必要がある。
◆◆◆
林から奥にきた。
此処迄くればまず人は来ないだろう。
軽く聖剣を振るってみた…凄いな、これ。
剣の才能(極)があるせいか、剣をどう使えば良いか体が教えてくれる。
まさにチートだ…剣を振るった事が無い俺がどう動かせば良いか全て解る。
事実、目の前の大木があっさりと斬れた。
魔法だって同じだ…呪文なんて知らない俺が…どうしたら発動するか解る。
使うタイミングまで解るんだからスキルって凄すぎる。
しかも、ジョブのせいか体力も筋力も数倍早く動ける。
頭の中に『超人』そんな言葉が動く位凄い。
リヒトは細マッチョな体だ。
こんなスリムな体で恐らくは通常の人間の数倍の力が出せるなんて物理的に可笑しすぎる。
まぁ…それが『勇者』そういう事なのだろう。
これで、戦闘に置いて困ることは無いだろう。
あとは記憶だ。
『牛鬼』の能力を持ってしても記憶までは手に入らない。
相手と入れ替わるのだから仕方が無い。
記憶迄完全に手に入れたら…それは最早合体になる。
それは自分で無くなる事を意味する。
まぁ、どうにかするしか無いな。
◆◆◆
近くにオークの集落がある。
当然、リヒトなら余裕で狩れる筈だ。
俺は試しにオークの集落を襲ってみた。
集落とはいえ小さめだから精々が20位しか居ない。
それでも、街人からしたら脅威だし、冒険者も単独では無理だ。
だが『勇者』は違う。
俺は聖剣を片手に斬り込んだ…そして次々に倒していく。
「光剣」
光魔法を聖剣に掛け切れ味が増す技だ。
まるで包丁で野菜を斬る位簡単にオークの首が跳ね飛ばせる。
この集落にはキングは居なかった。
ものの20分で終わった。
討伐証明部位である鼻を斬り落として、魔法の収納袋に入れた。
確かに大量の物が入るのだろう…俺がクビになるわけだ。
余裕があるので20体のオークも入らないか試したら全部入った。
ポーターなんて要らない…仕方ないかもしれないな。
◆◆◆
冒険者ギルドに顔を出した。
「勇者リヒト様…討伐ですか? それとも」
「オークを討伐してきた、褒賞と査定を頼む」
「解りました、すぐに査定します」
これも勇者の特権の一つだ、他の人間を差し置いても優先的に、褒賞や査定をしてくれる。
「宜しくお願いします」
「はい」
直ぐに査定に取り掛かり、報奨金と査定の金額が決まったようだ。
「オーク1体当たり金貨1枚で20体ですので金貨20枚(約200万)になります、素材の方が全部で金貨5枚(約50万)ですので合計金貨25枚です、お支払いの方はどうしますか?」
「金貨10枚だけ貰って残りは俺の口座にいれてくれ」
「畏まりました」
嘘だろう…彼奴金を誤魔化していたのか…
今は俺の口座になったリヒトの口座には金貨3600枚(約3億6千万)も入っていた。
パーティ口座は別だからこれはリヒト自身の財産だ。
良く考えて見れば、彼女達三人は質素で金を使っている所を見たことが無い…俺だけじゃない、三人にはしっかり金を渡しているみたいに思っていたが違ったようだ。
まぁ良いや…すぐ変わるのは可笑しいから少しづつ変わっていけば良いか。
俺は金貨10枚を受け取り冒険者ギルドを後にした。
◆◆◆
自分がそれ以下だったから気がつかなったけど、三人とも三職(聖女 賢者 剣聖)にしては身なりは貧相に思える。
綺麗なのはリヒトだけだ。
お金も入ったし、何か買って帰るか…
俺は宝石商に寄ってみた。
「これは、これはリヒト様、今日も何かお買い求めでしょうか?」
今日もだと…三人は指輪以外の貴金属は持っていない。
しかも、見た感じ露店で売られているような安物だ。
「済まない、戦闘で頭を強く打ってな記憶が曖昧なんだ、俺何か買った?」
「はぁ、大変ですね…数日前に飲み屋の女性2人を侍らせて『好きな物買ってやる』と指輪を2つ買われたじゃないですか?」
リヒト…お前、そんな事していたのか?
「そうだったな、今日は1つ金貨2枚の予算で赤、青、緑をモチーフにしたネックレスが欲しい」
「解りました用意します」
エルザは髪が赤く、情熱的だから赤い宝石が似合う気がする。
クラリスは青髪で癒し系だから青の宝石。
リタは濃い緑の髪にグリーンアイだから緑の宝石が似合うだろう。
「お待たせしました…こちらが予算の中でご用意できる物でございます」
俺は、適当に3つ選び…宝石商を後にした。
第5話 関係が解らない
良く考えてみるとリヒトはかなり贅沢をしていたが、3人は贅沢している様子は無かった様な気がする。
装備は三職だから一流品…これは国や支援団体が寄越すから当たり前だ。
記憶を辿ってみると…可笑しいな?
普段着は粗末な物しか着ていない気がする
俺自身が洗濯もしているが、粗末な物しか洗った記憶が無い。
しかも、下着も随分と古いままの様な気がする。
自分が余りにも待遇が悪いから気がつかなかったが…充分彼女達も待遇が悪いな。
自分が不幸にいると…周りの不幸に気がつかない。
恐らく、リヒトは勇者だから外面を良くするために、宿屋や食べ物は良い物を与えていた。
だが、眼のつかない物は…粗末な物のままだ。
良くこれで嫌われなかったものだ…
まぁ良い…俺は冒険者ギルドに戻り、金貨2枚を追加で降ろした。
この世界…服はオーダーメイド、それ以外は古着だ。
古着屋にも高級店があり、高級店では洗濯した物が綺麗にアイロンをかけて売られている。
流石に下着は新品が必要だな。
俺は古着屋に行くと1人に2着ずつ似合いそうな服を選んだ。
下着も新品で売っていたので購入…とは言っても貴族用の店にでも行かなければ前世の様な下着は無い、子供が履く様な白い下着とジュニア用の胸当て位だ…高級下着は貴族や王族、もしくは娼館に居るような高級娼婦しかこの世界の人間は履いていない。
「おばさん、この服とこのサイズの下着を各サイズ5着位下さい」
ストレージに突っ込むんだからこの位は別に問題は無いだろうな。
「…」
あっそうだ…寝巻も買っていくか?
「ついでに女性用の寝巻も3つ…これで良いや、下さい」
「勇者リヒト様が、女性用の服や下着を買うんですか?」
「なにか可笑しいか?」
「いえ…随分家庭的になったなと思いましてな」
確かにリヒトじゃしそうも無いな…
「まぁ、偶にはそういう事をしたい時もあるものさ」
「そういうもんですかな?」
「そういうもんだ」
◆◆◆
「ただいま」
「おかえり、リヒトどうだ、少しは気分が晴れたか?」
「顔色が幾分か良くなっていますわね…心配しましたわ」
「本当に心配したんだよ…もう大丈夫なのかな?」
リヒトって良いな…
こんなに心配して貰えるんだから。
「ああっ、かなり気分は良くなったよ、ありがとうな!」
「それなら良かった、あれは事故だ、気にするなとは言わないが忘れた方が良い」
「そうですわ、確かにリヒトも悪いですがセレスも悪いのですわ」
「うんうん、理人が一方的に悪いわけじゃ無いよ」
俺という存在を殺してしまったのに…誰も責めない。
ハァ~忘れよう。
今の俺はリヒトだ、もうセレスじゃない。
「心配掛けてゴメン、それで、これ良かったら受け取ってくれる」
「「「えっ」」」
「いや、今着ている服も草臥れているし、下着だって古いだろう?俺が選んだ物だから、似合うかどうか解らないけど、良かったら着てくれると嬉しい…」
やばっ、女にプレゼントなんてあげた事がなかったら少し顔が赤くなった。
「この服、私の為に買ってくれたのか? ありがとう…何で買ってくれたか解らないがリヒトからのプレゼントだ、大切に着させて貰うよ…本当にありがとう!」
「態々、リヒトがこれ買ってきてくれましたの…服なんて貰うの初めてですわ、一生大切にしますわね」
「えへへっ、これ私に似合うかな? うんうん、大切にするよ」
確かに古着としては高級品だが、平民が普通にきる服なのにこれなのか?
なんだ、顔まで赤くして、こんな顔俺は見たことが無い。
同じ幼馴染なのに…此処迄に差があるのか。
これで此処迄喜んで貰えるなら…これあげたらどうなるんだ。
「それだけじゃ無いんだ、もう一つプレゼントがある」
「まだ…あるのか? リヒト」
「服を貰えただけで私は幸せですわ」
「無理しないで良いよリヒト」
無理…何言っているんだ?
此奴、まぁ今は俺だけど、凄い金額ピンハネしているぞ。
「この長い冒険が終われば、俺は三人を側室として娶るんだ…いわば婚約者だろう…」
「嘘、ちゃんと私をそういう目で見ていてくれたんだ、リヒト、私、私はっ『そう言う目で見れない』そう言われて不安だったんだ『男みたいにしか思えない』そう言われて何度、泣いたか解らない『女らしくない』『オーガみたいだ』…そう言われてどれ程傷ついたか…だけど、違ったんだね…あれは幼馴染のじゃれあいみたいな物だったんだな…信じてあげられなくてゴメン…婚約者…そう思っていてくれたんだ、嬉しいよ…本当に嬉しい…ありがとう」
え~と…なんだこれ、明らかに貶していたようにしか思えない。
エルザはポニーテールで背が高く、少し浅黒いが、健康的で凄く可愛い女の子だ、前世でいうなら陸上少女に近く手足もスラってしている、多少筋肉質なのは剣聖だから仕方ないだろう…
「嬉しいですわ、私『目がキツイ』『狐目で怖い』いつもリヒトにそう言われて悲しかったのですわ…だけどあれリヒトにとってはじゃれあいでしたのね、婚約者なんてはっきり言って貰えるなんて思っていませんでしたわ、いつも『俺を睨みつけるな』『顔が怖い』」『俺に恨みでもあるのか』そう言われて本当に死にたい位でしたわ…だけど、違ったのですわね…嬉しいですわ、リヒト…本当に嬉しいですわ」
クラリスは確かに冷たそうだけど…かなりの美人だ。
確かにやや目が吊り上がっていてキツそうだけど…そこがクラリスの良い所だと思うのだが…リヒトには違ったようだ。
クール系悪役令嬢、可愛いと言うよりは綺麗、眼が少し三白眼だが凄く綺麗だと思う。
「あの『チビ』とか『ガキ』って良く怒られたから僕、凄く心配していたんだよ、他の二人と違って…あっゴメン」
「リタは別に口調を無理する事ないよ」
「ありがとう…僕ね、他の二人に比べて、その子供っぽいでしょう?『ガキと遊ぶ趣味は無い』とか言われて髪の毛引っ張られたり僕1人はぶられて悲しかったけど…ううっ、ううん、ちゃんと見ていてくれたんだ、婚約者だなんて僕嬉しいよ…ありがとう、ありがとう、リヒト」
リタは童顔で背が低くいけど、それが本来は魅力だと思う。
笑顔が可愛い女の子、そんな感じだ。
だけど、可笑しい。
俺が見たキスマークはなんだったんだ?
もっとも、勇者パーティは一線は超えられない…
妊娠でもしようものならその後の旅に響くからな。
もっとこう、仲が良いハーレムみたいな物をイメージしていたのだが違うのか?
「話続けるぞ…それでな、一応、俺なりに気持ちを込めてプレゼントを買ってきたんだ、貰ってくれ」
「服だけでも嬉しいのにプレゼント? この箱は、嘘ちゃんとした宝石屋の物じゃ無いのか?」
「凄いですわ、本当にこれを私にくれますの? リヒト…本当にありがとうですわ」
「あの、僕これ一生大切にするね…ありがとうリヒト」
「こんなの大した物じゃないよ…また買ってやるよ」
「「「嘘っ…リヒト」」」
なんで涙ぐむんだ。
「こんな事で何で泣くんだよ」
「だって、だって嬉しいんだから仕方ないじゃないか」
「嬉しくて、嬉しくて仕方ないのですわ」
「僕…僕、こんな物まで貰えるなんて凄く幸せ…ありがとう」
俺は実際に除け者だったから、何が何だか解らない。
様子を見ながら関係を計っていくしかないな…
第6話 更に関係が解らない。
今の俺はリヒトの金があるし、稼ぐ気になれば幾らでも稼げる。
しかし、俺は『ハーレムパーティを作りたくてリヒトに追い出された』
そう思っていたが…三人とリヒトの関係はどうやら違うようだ。
今迄の話からだと三人はリヒトの事が好きだが、リヒトは嫌っていた様な気すらする。
リヒトに嫌われていたのは俺だけじゃないのか?
解らない事が多すぎる。
一人ベッドに横になりながら考えていた。
この部屋も可笑しい。
三人は一緒の部屋で俺事リヒトだけ別の部屋。
最後の一線は超えてないにしても『それなりの関係』に遭った筈だ。
イチャついていたし、俺が殺されるあの時もキスマークがあった。
何で4人部屋じゃないんだ?
偶にリヒトはクラリスの服に手を突っ込んで胸を揉んでいたのは見た。
全然解らない…
それに今現在も可笑しい…俺はあの後部屋に戻ってから三人に会っていない。
時間的にはそろそろ夕飯の時間だ。
仕方ない…俺から訪問してみるか?
トントン
「今、大丈夫か?」
「嘘、リヒト訪ねてきてくれたの? どうかしたの?」
リタがドアを開けてくれた。
「いや、そろそろ夕飯の時間だろう?」
「僕たちはこれから、何か買ってこようかと思っていたんだけど…」
多分お金も余り持って無さそうな気がするな。
「そうか、まず三人にお金を渡さなくちゃな…玄関先でなんだが…はい」
「嘘だろう、金貨じゃないか?」
「金貨ですわね…くれるのですか?」
「リヒト…いったいどうしたの?」
可笑しいな、皆にはそれぞれ支援する団体もついている。
エルザには傭兵ギルドと冒険者ギルド。
クラリスには教会
リタには魔法アカデミーだ。
それが何で金貨1枚(10万円)位で驚くんだ。
「あのさぁ、良かったら外食しないか? 俺が奢るから」
「リヒト…私を食事に誘ってくれるのか…うん、勿論行くよ…嬉しいな!」
「本当に誘って下さるのですわね..嬉しいですわリヒトと食事なんて本当に久しぶりですわ」
「リヒト…本当に僕の事嫌いになったんじゃないんだ…うん直ぐにしたくするね」
益々解らない。
俺は何時も街で別れ安宿に泊まっていた。
昔の4人は仲良く食事していたし、今もそうだと思っていた。
流石にホテルの中までは知らないが…普通に一緒にホテルに入れば、それなりの関係だと思うだろう。
何時からこうなったんだ…記憶を引き継げないのがもどかしい。
少し、揺さぶりを掛けるか?
◆◆◆
「あの、リヒト本当にこんな場所で良いのか?」
「ここ高いんじゃないんですの?」
「此処は凄く高いと思う、もっと安い所で良いよ」
何てことは無い…泊っているホテルのレストランだ。
見栄なのか解らないがリヒトを含む4人が泊っているホテルは高級ホテル…勿論、高級レストランもある。
「失礼ですがお客様、ご予約は?」
「ありません」
「当レストランは高級店でございます、ご予約の無い方はご遠慮願います…貴方は兎も角、お連れの方の服装では、予約があったとしてもお断りいたします」
「私達ではお客として不服だと言うのですか」
「はい、簡単に言うなら…貧乏人は帰れという事でございます」
「リヒト、もう良い他に行こう」
「此処じゃなくても良いですわ」
「そうだよ!」
だが、この態度が少し腹がたった。
「その言葉、死んでも言えるのかな?」
俺は聖剣レガリアを抜いた。
「脅しですか…衛兵と警備員を呼びますよ」
「これは聖剣レガリアだ…俺の名前はリヒト、勇者リヒトだ! 勇者の俺は『斬り捨てゴメン』を法で認められている…俺はお前を気に食わない、だから殺す事にした」
「ゆゆゆ、勇者様でしたか…お許しを…」
「それじゃ…此処のレストランで最上級のコースとワインを用意しろ…無料でな!」
「しょ食事はご用意しますが、最上級は無理でございます、予約でいっぱいで…」
「謝って誰か4人分をこっちに回すんだな…勇者保護法に『勇者達には最上級のもてなしを無料でする事』とある…法律で決まっているんだ、無理なら良いんだ…お前を含みコックからメイド、お客迄全員皆殺しだ!」
嘘の様な話だが、本当にそう言う法律がある。
これは大昔に魔族と戦い、負け負傷した勇者が困った事から出来た法律だ。
その勇者は再び奮起して魔王を倒したのだが…負傷し、命からがら逃げた勇者に金が無いからと泊めなかった宿屋や食堂があった事を国に訴えた為に出来た法律だ。
「そんな…何故そこ迄するのです…確かに法律にありますが、そんな無体な勇者等いませんでした」
「それにこれから挽回しないと大変だぞ! 可哀そうだから手は出さないでやる…だが口は出す…さっきお前が貧乏っていった三人は『聖女』に『剣聖』に『賢者』だ、馬鹿にされたと教皇様や各国の王に伝える事にしよう…これなら無体じゃないよな? 真実を伝えるだけだ…このまま帰って良いんだな?」
「おおおお、お許し下さい…最上級のおもてなしをさせて頂きます」
「それが当たり前だ…行こうぜ」
「「「う、ううん」」」
やはり可笑しいな…此処迄無体な事をすれば、リタは兎も角、エルザとクラリスは正義感が強いから必ず諫める筈だ。
だが、傍観していて動かなかった。
もし諫めないにしてもエルザはその性格から立ち去る筈だが…
本当にどうなっているんだ。
第7話 リヒトの罪
脅しが効いたのか、個室が用意された。
所謂VIPルームってところだ。
正直これは助かる…俺は前世でのマナーしか知らないし…三人は三職だが、元は村娘、マナーなんて解らないだろう。
良く、アニメやライトノベルで主人公のパーティが貴族と会食するシーンがあるが、普通は出来ないのが当たり前だ。
エルザはフォークでぶっ刺して食べているし、クラリスは上品に食べているが良く食べ物を落とす、リタは…うん口を良くあけるから口の中の食べ物が良く見える。
まぁ、野営の時によく見る光景だ。
折角の個室だから…色々と聞いてみるか?
「どうかしたのか? 折角の食事に手を付けないで」
「随分と難しい顔をしていますわね」
「折角の料理が冷めちゃうよ」
ばれる訳はない。
少し、嘘も混ぜて聞いてみるか?
「俺、皆に何かしたのか?」
少し重い感じで口を開いた。
「どうしたんだ…いきなり急に」
「エルザ、なんとなくだが、三人と距離があるような気がするんだ」
「距離を取りたいと言ったのはリヒトですわ」
「そうだよ? 暴力迄振るって…お金迄管理すると言い出したんじゃない?」
え~と…何故リヒトはそんな事をしたんだ?
意味が全く解らない。
「ごめん…実はセレスを殺してしまってから、記憶が虫食いなんだ、だけど、皆への愛おしさだけは忘れてない…今後は絶対にしないから…俺が何をしていたか教えてくれないか?」
「忘れてしまったって、大丈夫なのか?」
「体の調子が悪いのでしたら、休んだ方が良いですわ…これから気を付けて頂ければ、別に構いませんわよ」
「そうだよ…もう気にしないで良いよ…今後しないなら、うんもう気にしないから…忘れて良いよ」
忘れるも何も俺は『知らない』だからこそ、知る必要がある。
他人の人生を生きるという事は…栄光だけでなく、その罪も一緒に背負う事になる。
そういう事だ。
だからこそ、知らなくてはならない。
リヒトが何をしたのかを…
「俺は本当に記憶が曖昧なんだ、多分取返しのつかない事をしたのだと思う…教えてくれ…今後の戒めにするから」
「今のリヒトは気のせいか真面に戻っている気がする…もし今のお前が昔の優しいリヒトに戻っているなら…かなり酷な話だ」
「そうね…でも聞きたいなら言うしかありませんわ」
「あの…もう終わった事だから…聞かなくても良いんじゃないかな…今から取り戻せば良いんだよ」
「それでも、俺は、俺がどんな奴だったのか知りたいんだよ…」
「仕方ないな…心して聞けよ、お前はクズだよ!」
「そうですわね、クズですわ」
「僕はそこ迄言わないけど、碌でもない人間だと思う」
「あのよ…クズなら、何で俺の傍に居てくれるんだ」
「ハァ~あのな、私は剣聖だ、リヒトが魔王を討伐した後は、側室になるんだぞ…解っていると思うがその後もおいそれとは別れられない」
「それにリヒト、貴方は可笑しくなっていたのですわ、勇者で良かったですわね…尻ぬぐいは教皇様や教会が全部してくれましたわ…相手は恨んでも居ませんわ…ですがした事は最低ですわよ」
一体俺が何をしたっていうんだ?
「僕たちは出来る範囲でリヒトの希望は聞いていたんだよ…だけどリヒト、君は…犯罪者みたいな事ばかりしていたんだ」
俺は街の中では一緒に居なかった。
お金が無いからスラムよりの安宿で暮らしていたからな。
見ていれば自分が惨めになるからと関りを避けたのが恨めしい。
「本当に済まない…本当に虫食いで覚えてないんだ、自分がした事なのに棚にあげて済まないが、教えてくれないか?」
「今のお前が聞いたら、後悔するぞ」
「良いですわ、リヒト…私がはなしますわ。驚かないで下さいね、簡単に言えば、婦女暴行に金品強奪…殺人以外は殆ど全部していましたわ…その殺人も私が居なければ…死んだ人間もいましたわ」
嘘だろう?
もし、それをしたとしたら、エルザかクラリスが命がけで止めるだろう…流石にリタだって注意位はするだろう。
「あの…もし俺がそんな事をしたなら、皆が止めるだろう? 可笑しくないか?」
「最初は止めていたさ!」
「ですが…リヒト、貴方はそこで気がついてしまいましたのですわ」
何に気がついたというんだ…まさか…
「リヒトが言ったんだよ…『だったら俺は魔王討伐をしない』って、俺に逆らうなら止めるって…そして『それはお前のせいだ』『世界が滅びるのはお前のせいだ』って…誰が注意できるのかな?…悔しいけど本当の事だもん…魔王を倒したり封印するのは『聖剣を持った勇者』しか出来ないんだから…だれも逆らえないよね…」
そうか…本当にリヒトはクズだったんだ…
待てよ…婦女暴行って…なんだよ。
それって…
「婦女暴行…ってなんだよ!」
「それも忘れたのか…私達の前で、何人も女を犯したろう? 『お前達は俺の相手が出来ない、だから他の女を抱くしかない』そう言ってな」
「そうですわ…恋人の前、旦那や家族の前でも気に入った女は手当たり次第に犯しましたわ…さっき言ったのは私達だけにじゃありませんわ」
「それって」
「リヒト…リヒトは犯す時にこう言っていたんだよ、僕たちに言ったのと同じに…『お前が逆らうなら魔王討伐を止める…それが嫌なら自分からしろ』って『もし拒むならこの村が襲われても誰も助けが来ない様にしてやる』だってさぁ…自分のせいで家族が村人全員が死ぬかもしれないんだから拒めないよね?泣きながら、服を脱いで相手していたよ…」
リヒトは…俺が知っている以上にクズだった。
自分がやった事ではない…だけど、俺はこれからどうすれば良いんだ…
俺が償うしか無いよな…
第8話 狂った村
「俺は、そんな事をしていたのか? それはどのくらい前からなんだ…ゴメン…教えてくれないか」
「かなり前からだな」
「ですが、本当に女として許せないと思ったのは、この街の前の村ですわ」
「見ていた僕も痛ましくて…涙が出てきたよ…旦那と息子の前で母親を犯し…父親や他の村の人がいる場所で若い子を犯したんだから」
「そうか…ゴメンちょっと出かけてくる…」
そこ迄していたのか…リヒトの馬鹿野郎っ…
「だが、それは」
「もう終わった事ですわ」
「そうそう…もう話が」
だが俺の気が済まない…
俺は三人に背を向けレストランを後にした。
◆◆◆
馬を調達して来てしまった。
トナル村…俺が来た所で困るだけだろう。
あんな残酷な事をした人間なんて顔も見たくないだろうな…
だけど、俺は償わないとならない…
やったのは俺でない…だが…
俺は村に入った。
もし、石をぶつけられようが怒らない。
罵詈雑言は覚悟の上だ…
「勇者様…また来られたのですか?」
老人が俺の所に来た…多分この人が村長なのかも知れない。
周りには沢山の人間が集まってきた。
「ああっ、済まない事をしたと思う…謝って」
「あの、あれはボタンのかけ間違いです、気にする事は必要ないですじゃ…もし女を抱きたいなら、今度は儂の家を使って下さいな…流石に外は破廉恥ですぞ」
可笑しい…凄く可笑しい…
「あっ、勇者様…その節は私を使って下さってありがとうございます」
「はぁ…」
なんだ…
「あの良かったら今日もお相手させて下さい…私知らなかったんです…勇者様も本当に口下手なんですから…経産婦ですけどまだ捨てたもんじゃなかったでしょう? 今からします?」
何だ…これ全く解らない。
「今日は止めませんし、泣きませんから…どうぞ妻を使ってやって下さい…なんなら3日間位、いえ1週間でも1か月でも貸しましょうか?」
「そんな…貴方は何とも思わないんですか」
「はい、勇者様ですから」
「あの…この前は取り乱してごめんなさい、是非ママを使ってあげて下さい」
「勇者様、ママを妊娠させて…勇者様とママの子の弟欲しいな」
何を言っているのか解らない…
「ああっ、やはり草臥れ女より私の娘の方が良いでしょう? 勇者様、そんなババアより、若くて可愛い私の娘にしましょう…娘も喜びます」
俺は…もしかして変な世界に転移でもしたのか?
「勇者様、この前は嫌々したり泣きながらしてごめんなさい…今日は張り切ってしますから…私としましょうね…」
多分、この二人が話の流れからしてリヒトが犯した女に違いない。
土下座をしに来たのだが…何が起きたんだ。
「ちょっと、二人はもう経験したんだから、此処は他の人に譲る物よ…リヒト様、お話がありますの? お話しながら、そのままね…」
「ルカちゃんズルい…私だって勇者様としたいもん」
「私だって」
「村長、これは…」
「この村には8歳から34歳まで居ますぞ…さぁ勇者様、好きな子と楽しんで下さい…頑張れるなら全部で32名全部いっちゃいますか?」
駄目だ…本当に解らない…
俺は狂ってしまったのか…
少なくとも…雰囲気からして嫌われていなくて償う必要もなさそうだ…
「急用を思い出した」
「そうですか…残念です、また何時でもお越し下さい」
「はぁ…解った」
本当に訳が解らない。
第9話 謝罪は出来ない。
「行ってしまったな」
「そうですわね…だけど行ってから困惑しますわね」
「あれは無いよ…」
私は…村に行って、困るリヒトの顔が目に浮かんだ。
◆◆◆
時間は少し遡る。
「勇者 リヒトが女性を犯したですと?」
「はい、教皇様…聖女クラリス様、剣聖エルザ様、賢者リタ様から連名で連絡がありました、しかも手紙ではなく緊急連絡用の通信水晶で、です」
たかが女の百や二百くれてやれば良い。
私は常にそう思っています。
勇者という者は『女神の使い』他の人間と同じにしてはいけません。
『勇者』という使命を貰った時から『戦う』それ以外の人生は無いのですから、優遇して当たり前なのです。
話を聞けば…一見クズみたいな話ですがこれは『正当な権利』です。
勇者が負ければ、世界は闇に閉ざされ、数万単位の犠牲が最低でもでます。
『戦いたくないなら戦わないで良い』
これを誰も言えない以上…戦いを押し付けているのですから『大概の事は許す必要があるのです』
たかが女の一人や二人…犯すのでなく殺してしまっても…黙っていなさい…そう思います。
何故なら勇者は何万、何億の人を救うため戦う人類の代表なのですから。
とは言え…このまま『勇者リヒト』の名前が地に落ちるのは良くありません。
直ぐに手を打つことにしました。
「10大司教と通信水晶を繋ぎなさい」
「はっ教皇様」
このロマーニが、何があっても『勇者』の名を落とさせません。
◆◆◆
直ぐに話し合いをはじめ…半日掛りで今後の対応を決めました。
1. 勇者に抱かれる事、もしくは自分の配偶者、家族を抱かせる行為は『魔王討伐に参加した物とみなす』
これは勇気ある行いである
2. 勇者は女神の使いであるから人間の範疇に無い為、抱かれることは不貞ではない
女神の使いで神に近い存在だから姦淫ではない
3. 勇者に抱かれた女性には無条件で中級信者の地位を与え金貨10枚を与える。
また勇者の子供を妊娠した者には一時金として金貨100枚(約1千万)を与える…要鑑定。
また、自分達で育てたくない場合は教会が金貨500枚で教会が貰い受ける。
4. 勇者が抱いた女性の家族には免罪符を2枚与えいかなる罪も許される様に大司教が女神宛に文をしたためる…法的には許されないが死後の世界で通用する。
※この世界で免罪符はほぼ発券されなくお金に変えられない価値があります。
「教皇様、この通達で如何でしょうか?」
「まぁ、こんなものでしょう…これなら勇者の行動を問題視しないでしょう」
「他の強盗に近い話や暴行についてはどうしますか?」
「奪ったお金の三倍を払って、討伐に必要だったと司祭から謝れせて…怪我させた者には手厚くしなさい…勇者が魔族と交戦後で気が立っていたで通すように…今後は潤沢に勇者にお金が行くようにすれば…きっと問題は起こさないでしょう」
「そうですな」
「はい…私の家は代々『勇者絶対主義』ですから」
「そうですね、勇者様は『常に正しく気高い』それで良いのですね」
「はい」
狂った信仰が全てを許し…歪める。
第10話 何処までも甘い勇者の世界
村を後にした時、様子は可笑しいが許しては貰えたようだ…やはり俺の気が済まない。
だから、近くのオークを片っ端から狩った。
近くの洞窟までいき、巣ごとオークを駆逐した。
多分、今の俺に出来る最大の罪滅ぼしがこれだ。
沢山のオークを狩って、オークの倉庫の宝を持って村に行った。
ストレージからオークと宝を出して山積みにした。
宝はガラクタだが、少しは金になる、苗床の女が居たら、助けた事で更に気が安らぐが、それは居なかった。
オークは食料としても有効だし…少しは罪滅ぼしになるだろう。
「これで勘弁してくれ」
そう言うと村長に驚かれた。
「あの…勇者様、我々は感謝しています…」
「ああっ、その話はさっき聞いた…だが、俺は…まぁ良い、これは俺からの寄付だ、これでオークの脅威は少しは無くなっただろう?」
「はい…ですが宜しいのですか?」
「何が?」
「いえ、これだけあれば、村人全員の4か月分の生活費になります…宜しいのですか?」
「ああっ構わない」
「それじゃ…そうです…当人が良いと言うなら、この前抱いた女性を差し…」
「それは良いから…それじゃ俺は行くからな…じゃぁ」
これ以上此処に居ると、頭が可笑しくなる。
女性を押し付けられると困るから…急いで村を後にした。
◆◆◆
結局、往復の時間を合わせて3日間で宿屋に帰ってきた。
「どうだ? 誰も文句一つ言わなかっただろう?」
「ああっ、凄く可笑しいんだ! 女を犯すような最低な事をした筈なのに…感謝されていた…意味が解らない」
「そうでしょうね…あの内容なら感謝されますわね」
「あれは…幾ら何でもやりすぎだと思う」
「何か知っているのか?」
明らかに可笑しいこの状態の事をなにやら知ってそうだ。
「まあな…話してやるよ」
エルザから聞いた話は、とんでもない物だった。
勇者絡みだと、教会は此処迄するのか?
確かに教皇のロマーニは勇者絶対主義…勇者を溺愛していると聞いた。
だが、免罪符や中級信者の地位に『魔王討伐への参加』…そこ迄されたら誰も文句なんて言わないだろう。
これって実質『やり捨てゴメン』…つまり貴族階級の女性ですら上級貴族でもない限り拒めないんじゃないか?
寧ろ不味いのが、これが知れ渡ったら…俺の体が狙われるんじゃないかという事だ。
「それじゃ、俺の知らない所で全部償いは終わってしまった…そう言うことか?」
「そう言うことですわ、ですから今更リヒトがすることは何も無い…それでも気が済まないなら、教皇様に謝る事ですわね」
だが、それって…教皇様は勇者絶対主義だから…
「意味無いよね? 笑いながら許す、そういうだけだもの」
「そうだな」
それでも俺は謝りたかった。
◆◆◆
俺は通信水晶でロマーニ教皇に連絡を取った。
勇者でも無い俺が連絡を取るのは気が引けたが仕方が無い。
顔は平常心だが…心臓はバクバクだ。
「お久しぶりですな! 勇者リヒト殿? また何か困りごとですかな?」
此処迄したリヒトに笑って対応する…凄いな、噂では孫の300倍勇者が好きだと言うのも頷ける。
「いえ、今回は凄く迷惑をかけたのでせめてお詫びをと思いまして」
「何を言われるのですか? リヒト殿は勇者です、これから沢山の人を救われるのです…それに今までだって数百単位の人を救ってきたのですから女の数人位は気にしなくて構いませんよ…しかも殺したわけでもないのですから…」
「ですが…」
「リヒト殿、普通なら青春を謳歌して早い者は結婚を意識し子供が居る…それを犠牲にしているのですから…当然の事です…あと、もし気になるなら、シスターはどうですか? 勇者様の事を理解しております、事件の事を伏せて話をした所6割のシスターからOKの返事を頂いております…勿論、お金も不自由はさせませんし、そういうお店や他の人間が良いなら、それも…」
何でも許されてしまう…
「教皇様…俺を助けて下さりありがとうございました…これからは勇者としてこれまで以上に邁進いたします」
「これからも期待していますよ」
「ありがとうございます」
何処までも甘く許される。
幾ら俺がした事じゃ無くても…気が咎めてしまう。
第11話 これで良いんだ
次は彼女達だ。
「エルザ、クラリス、リタ、話があるから聞いて欲しい」
他の償いは教会がしてくれた。
俺が今更何も出来ない…
これから償いをするというのなら…彼女達にだろう。
「どうしたんだ? 暗い顔して、今更自分がクズみたいな奴だって気がついたのか?」
「ああっ、嫌って程にな」
「それでどうしますの? 償いももうできませんわ、それに幼馴染まで殺してしまって…まぁこれは半分は私達のせいですわね」
「私達に話があるんだから…何かあるんだよね」
「ああっ…これからは馬鹿な事はしない、自分がクズだったという事も良く解った、だから、もし俺なんかもう一緒に居たくないというなら、このパーティは解散で良い…三人は好きな様に生きてくれ」
「あのさぁ、リヒト、私達にそんな生き方出来る訳ないだろう?」
「そうですわ…四職である以上、その様な生き方は許されませんわ」
「そうだよ」
確かにそれは出来ない…普通なら。
だが、俺が『全部背負えば』それは可能となる。
「もし、皆が、望むなら俺は『単独勇者』を選ぶ、そうすれば俺と違い三職である、皆は生き残る事が出来る」
単独勇者とは「三職」に頼らずに一人で戦う勇者だ。
四職のなかのリーダーが勇者だからこそ『その選択が出来る』
「リヒト、冗談はよそうぜ、責任を感じているなら、もうそれで良い」
「それは確かに私達の理想ですができませんわ…冗談はやめて欲しいのですわ、そんな夢みたいな話は止めて欲しいですわ」
「戦わない日常は確かに夢だよ…出来もしない事は言わないで」
「そう解った」
彼女達への償いは『これで良い』
彼女達が戦わない未来…それをプレゼントする。
それでリヒトが行った事への償いが出来る。
◆◆◆
俺は一人、教会に行き単独勇者の手続きを取った。
教会の司教は驚いていたが…
「勇者様が言われるなら」と手続きを行ってくれた。
冒険者ギルドにてパーティの解散手続きをして
皆には一人当たり金貨1200枚(約1億2千万)を彼女達の個人口座に移した。
それでも金貨数十枚(約数百万)はあるから大丈夫だ。
前の世界と違いこの世界なら金貨の500枚もあれば生涯暮らせる。
これで三人は幸せに暮らせるだろう。
「彼女達へ伝言を頼めるかな?」
「どんな伝言ですか? 基本的に銅貨3枚で手紙にして渡す形になりますが…」
「それじゃ、それで『楽しかった、ありがとう』そう伝えて下さい」
「リヒト様…冗談ですよね…まさか死ぬ気ですか」
「はい…銅貨3枚」
「…解りました」
俺はギルドを後にした。
彼女達も優しいがあれは、俺でなくリヒトへの『愛情』だ。
リヒトの償いもあるが…幼馴染だいつかバレるかも知れない。
これで良いんだ。
第12話 消えたリヒト
リヒトが帰ってこないのですわ。
此処暫く、妙に優しくそして暖かい…何故かそう感じていたのに…
帰ってこないのですわ。
「元に戻ってしまったのか…夜遊びもしないで真面になった、そう思っていたのにな」
「だけど、セレスを殺してから随分、真面になったのに、結局はなんも変わらなかった…そう言うことですわね」
「そうだね…だけど、私達もクズじゃないのかな?セレスが死んだのにそのままにしたよね? 確かに法律的には冒険者の揉め事だから罰されないし、ましてリヒトは勇者なんだから問題はないよ、だけど、埋めてあげて花位はあげてあげるべきだったのじゃないのかな?」
「そんな物は必要ないだろう? 村人や普通の人間ならそうだ、だが我々は勇者パーティだ!戦の中で死んだら、そのままにして突き進むのが使命だ」
「偽善ですわね、セレスが戦場で亡くなったのならそうですわ! ですがセレスが亡くなったのは戦場ではありませんわ…しかも殺したのは魔族でも無くリヒトですわ」
「だったら!お前はあの時に、ちゃんとしろと」
「いってませんわ! ですが、真実を捻じ曲げるのは馬鹿がする事ですわよ! ポーターのセレスじゃあの場所で置いていかれたら只じゃすまなったのですわ…だから泣いて縋ってきた、それを事故で法律的には問題が無いとはいえ殺してしまったのですわ…確かに問題はありませんわよ? 勇者のリヒトに問題はありませんわ、ゼノンの街までなら兎も角、安全な街に戻る旅なんてしたくないのは当たり前ですわね」
「何が言いたいんだ! クラリス…」
馬鹿ですわね。
「勇者パーティの判断なら間違っていないのですわ…ですが幼馴染としての判断ならどうなのでしょうか? 」
「さっきからネチネチと何が言いたいんだ…」
「あそこは安全な場所なのですわ、幼馴染として埋葬してあげる位の優しさは持つべきでしたわ」
「そうだよ」
「なんだよ…私だけが悪者かよ」
「違いますわ…皆が悪者ですわね、エルザもリタも私もですわよ…エルザ、貴方は母親が亡くなっても埋葬もしませんの」
「しない訳ないだろう」
「ではセレスは?どうなのですの? 小さい頃から一緒に居て家族同然の筈ですわ…それが死んでも『ただ捨てただけ』勇者のリヒトとは一生の付き合いが決まっていますわ、まぁ魔王を討伐した後、結婚する運命ですわね…だから忖度した!違います?」
「だけど、それはクラリスも一緒でしょう」
「ええっ、そうですわね…私にとっても邪魔者ですわ、セレスは、将来家族になるリヒト…勇者のリヒトと天秤に掛けてリヒトをとりましたわ…ですが反省と弔い位はするべきでした…それ位はわかりませんの?」
「そうだよね」
「今更、どうしようもないだろう…」
「そうね…」
「話が随分それましたわ…幼馴染を殺して、罪悪感を感じていそうですわよリヒトは、今のリヒトが果たして夜遊び等すると思いますの?」
「だが帰ってこないだろう」
「そうだよ」
今のリヒトが元のクズに戻るとは思えませんわ。
◆◆◆
ギルドの職員が訪ねてきましたわ。
「どうかしました…こんな夜にまさか魔王絡み?」
「何かあったのか? リヒトが留守なこんな時に」
「直ぐに準備します」
「いえ、違いますリヒト様から伝言がありました『楽しかった ありがとう』だそうです」
「あの…それはどういう事ですの?」
「ギルドでパーティの解散手続きをしましてお金の大半は皆さま三人の口座にわけています…理由を聞いたら、これから『単独勇者』になる…だそうです」
まさか…本当に…そんな事を。
たった一人で魔王と戦おうというのですか?
「そんな、あの話は冗談じゃなかったのか…死ぬ気かよ」
「嘘だー-っ! 嘘、私が出来もしないなんて言ったから…そんな、リヒト…」
「あのリヒトの行先は解りますわね」
「解りません…これは本当に…ですが、もし知っていても同じパーティで無い、貴方達には言えません」
「私が追い詰めたからですわ」
「私が悪いんだ…」
「私も…」
三人で街中探したが…何処にもリヒトは居ませんでしたわ。
第13話 後はリヒトを殺すだけだ
これで大方の事は終わったな。
セレスとしての俺はリヒトに殺された。
セレスとしての俺の死を悲しむ者は少ない。
正直に言えば俺は勇者パーティと一緒に旅なんてしたくなかった。
俺には前世の記憶があり、幼くしてこの世界での両親を亡くした。
この世界の両親は牛鬼ではない気もする。
牛鬼は前世の日本に居た妖怪だからだ。
それはさておき、この世界で両親を亡くした俺に村の人達は優しかった。
最も、前世の記憶を持った孤児だから、一生懸命働いたからかも知れない。
だが、嫌われたくない俺はやりすぎたのかも知れない。
その結果…村の人間から信頼されるようになってしまった。
そして、勇者パーティに組み込まれてしまった。
リヒトやクラリスの親から「息子(娘)を頼む」そういわれて断れなかった。
今回は俺が単独勇者になることであの三人がもう戦う事はない。
これで責任は果たしたと言えると思う。
リヒトは俺を殺したんだから…流石に…もう良いだろう。
これで最後にリヒトを『かっこよく死なせれば』だれもが納得する終わり方では無いだろうか?
リヒトがカッコよく死ねる大舞台で…尚且つ俺が納得できる相手との死闘の末の死…これが幼馴染のリヒトにやる…最後の温情だ。
※話は凄く短いですが、区切りをつけるために更新しました。
第13話 VSバルモン
身の丈2メートル70?の大男。
その拳は火竜をも殴り殺す。
魔法も、技術も関係ない。
ただ、ひたすら暴力につぐ暴力…それで無敵と呼ばれる最強と言われる男。
四天王の一人 破壊のバルモン。
数多くの勇者や英雄が戦うも1度の敗北も無い。
殆どの勇者や英雄はバルモンを避けて魔王に挑んだ。
その動かない事実が…『魔王より強い』『真の魔王』と呼ばれる所以。
そして人類最強である勇者の中でバルモンに戦いを挑んだ者は全員が死んだ。
ある者は首を千切られ鎖で城門に括りつけられていた。
聖女はバラバラにされ手足が千切られ胴体の上に首が置いてあった。
勇者の中の勇者と言われたロトマも頭をトマトの様に潰され死んで居た。
純粋な人類の敵…それがバルモン。
バルモンが戦いを欲する時…それは都市が壊滅し全滅する。
騎士団…魔術大隊…そんな物じゃ此奴は止まらない。
リヒトになった俺が戦う相手には此奴がふさわしい。
負けて当たり前…最強の魔族に戦いを挑み…死ぬ。
それが良い。
勇者パーティは解散。
だが、彼女達にはジョブがある。
勇者が死んだとき…ともに授かった3人のジョブは変わり、その後の生活が出来るように『通常のジョブ』になる。
その後の生活は…考える必要は無いな。
◆◆◆
俺はバルモンを探した。
探すのは難しくない。
情報は何処にでも飛ぶ、逃げる為に。
「お前がバルモンだな!」
凄いな…城塞都市ギルメガが滅ぼされていた。
生き残りは居るのかも知れないが、最早廃墟だ。
「ほう、俺と知って声を掛けてくる人間が居るとはな、何者だ!」
「俺の名はリヒト…勇者リヒトだ」
「ほう…勇者か、楽しめると良いな…何処からでも掛かってくるが…貴様、いきなり斬ってくる等」
「甘い、甘いー-っ魔族と人間に語り等要らない、ただ殺しあうそれだけだ…」
顔色が変わった。
それで良い…さぁ殺しに来い。
「ふわぁはははははっ気に入った、その通りだ」
バルモンが殴りかかる。
俺は『空歩』というスキルを使い空を歩くようによけ頭を聖剣で斬りにかかった。
聖剣とバルモンの角がぶつかる。
まさか、聖剣ですら角が折れないのか。
「聖剣ですら斬れぬのか」
「魔族の角は力の象徴、その程度の力量では斬れぬわ」
確かに恐ろしく固く斬れないな。
「ならば、これを受けてみるが良い…これが勇者リヒトが使う究極の奥義光の翼だぁぁぁぁー――っ」
聖剣から左右7本ずつ14本の翼を持つ光の鳥がバルモンに襲い掛かる。
これがリヒトの持つ、最強の技だ。
だが…流石はバルモン。
避けもしない。
「確かに、凄い技だが…俺には通じないな」
ぶつかった光の鳥が消えるまでバルモンは受け続けた。
やがて光は消えて光の鳥は消えた。
これで終わりだ。
もうやれることは無い…後は死ぬだけ。
そうすれば…俺はきっとバルモンになる。
そうすれば『リヒトは死んだ事になる』
勇者としての名誉は守った…俺を殺したんだ、これで良いだろう。
エルザ、クラリス、リタ…お前達はもう戦う事は無い。
ただの村人だ…大好きなリヒトは魔族に殺されたのに、戦いもしなかった不名誉を押し付けた…だが『命は助けてやった』『戦わない人生はやった』
これらは復讐でもあり『幼馴染への思い』でもある。
自分でも最早気持ちは解らない。
だが…それもこれで終わる。
「後は接近戦しかないな」
「ほう…俺と接近戦、面白い奴め」
遊んでいる…避けもしない。
「聖剣でも皮一つ斬れないのか…」
「気が済んだか…それじゃこちらから行くぞ」
只の正拳突き…だが掠っただけで腕が千切れた。
前世で言うならシャチとそのエサのアザラシの子供。
その位差がある。
これで死ねる…
「さぁ、バルモン俺を殺すが良い…」
「貴様、何者だ、人間じゃないな」
「俺は人間だ」
「何処の世界に一瞬で手が生え変わる人間がいるんだ」
何故だ…
俺はリヒト相手に簡単に殺された。
牛鬼には確かに再生能力もあったと伝聞がある。
何故…いまその能力が…解らない。
そんな能力があるなら、あの時死ぬわけが無い。
「それでも俺は人間だー-っ」
頭の中が真っ赤になった。
周りが見えない。
痛い、痛い、痛い…
ただ、ただ赤い…赤い光景だけが映し出される。
何も見えない、赤い、赤い…ただ赤い空間に俺はただ1人いる。
痛みを感じると俺はその方向に攻撃を仕掛けた。
ドスドスドス…ただ殴り返す…誰を。
恐らくバルモン。
見えない、ただただ…赤い。
手が痛いから聖剣でなく素手で殴っている気がする。
痛みはどんどん小さくなり…今では全然痛くない。
ドスドスがぺちぺちに変わっていく。
もう…何もしてこない。
ふと俺は意識が遠くなり眠くなってきた。
『この化け物がー――っ何が人間だ』
その声が聞こえた時…俺は眠さが増し…意識を手放した。
◆◆◆
どの位寝てたのか…
少し肌寒い…月が出ている。
もう夜か…
ぴちゃっ…
ん? 俺は何を持っているんだ。
生暖かい…そして大きい。
俺の手が握っていたのは…バルモンの首だった。
リヒトの首じゃない…バルモンの首。
「嘘だぁぁぁぁぁー――――――っ」
俺は死ぬはずだったのに…何でこうなったんだー――っ。
第14話 死にたかっただけなのに
俺は死ぬつもりだった…
俺が死ねばリヒトという存在はこの世から居なくなり…すべてが終わる筈だった。
三人の戦いも終わり…俺はバルモンとして生きていく…それで良かった。
だが…現実は違う。
勝てない筈のバルモンに勝ってしまった。
俺のこの体はバルモンの攻撃にも耐え…勝ってしまった。
可笑しい。
此処迄体が強いなら、なぜ俺はリヒトに殺された。
その理由は…解ってしまった。
『聖剣』だ。
鞘に入ったままだったとはいえ、俺を殴ったのは聖剣。
それにより、本来の牛鬼の力を出せずに…俺は死んだ。
最も殺した人間に乗り移り自分の者にしてしまう能力はそれでも防げなかった。
だが、それでも『聖剣』は俺にとって致命傷になりうる物なのかも知れない。
◆◆◆
森に入り走り回った。
バルモンを倒してレベルが上がったのもあるが、体の中の野生が目覚めたのか…異常なほどの力が目覚めた気がする。
何しろ周りが止まって見えるほど素早く動け、更にジャンプすれば木々を飛び越え手で飛んでいる鳥が捕まえられる。
「ハァー――っハァー-ツ」
直径で2メートルは超えるだろう大木ただ力任せに殴ったら、その大木だけでなく直線上にある9本の大木も吹き飛ばした。
最早、この力、勇者じゃなくバルモンすら超えたのではないか?
そう思える程に凄い。
そして、何より『聖剣』が効かない。
レベルが上がり進化したのか、この体が勇者であるリヒトの物が原因なのか、前と違って聖剣は致命傷にならない。
あてがって引いてもまず斬れないし、斬れても直ぐに再生する。
最早自分が『邪』なのか『聖』なのか解らない。
魔族でも神でも人間でもない…新たな生物になった、そんな気がしてならない。
聖剣を火山にでも放り込もうかと思ったが…その必要は無さそうだ。
◆◆◆
近くの街に立ち寄った。
バルモンによって破壊の限りを尽くされていたが…それでも生き残りは居た。
「勇者様…」
「遅かったです…」
「リヒト様でも…バルモンは…化け物」
弱いという事は辛い事だ。
この世界は弱い者にとって『生きる事は辛い事だ』
この間まで弱者だったからこそ知っている。
だから、収納袋から、バルモンの首を出した。
語る必要は無い。
ただ、大きなバルモンの首を掲げながら教会に歩いていった。
「バルモンをあの家族の仇を討って下さったのですかー――っ」
「よく見ると勇者様も血だらけじゃないですか、お休みに…」
俺は討伐に来たわけじゃ無い。
自殺に来たのだ…
だが、こんな物でも慰みになるならとつい出してしまった。
「これで妻も娘も浮かばれます」
「ありがとう…本当にありがとう」
俺は感謝なんてされる様な奴じゃない。
そのまま教会に行った。
司教とヒーラーが沢山の怪我人を治療していた。
「勇者…リヒト様…バババルモンを討たれたのですか?」
「ああっ、手を止めるな!治療中だろう…中央に報告して欲しいバルモンは俺が単独で討ち取った…このまま俺に仲間は邪魔だから『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けるとな…」
「なっ…確かに街は壊れてしまっていますが、歴代勇者の中でバルモンを討ち取れるような存在は居ませんでした、一度、聖都に戻られては如何でしょうか? 恐らく褒賞や地位を」
「要らないよ…要件は伝えた、報告だけ頼む…俺は勇者だ魔族は倒せても人を癒す事は出来ない…頑張れよ」
そう声を掛けて俺はそそくさと立ち去った。
自殺しようとした結果生き残っただけだ…
後ろから「「「「「勇者万歳」」」」」 「「「「「リヒト様万歳」」」」」
声が聞こえてきたが…むなしいだけだ。
◆◆◆
私は信じられない報告を聞きました。
「あのバルモンを討ち取った…そういう事なのですか?」
緊急時しか使えない通信水晶が光るから私自らでたら…そんな報告を受けました。
あのバルモンを討ち取った存在がいる…そんな人間が居る訳はありません。
過去に帝国の連勝将軍と言われたブライが3万の兵を率いて戦ったのですが、1日で全滅です。
国単位で戦っても勝てない存在…
バルモンに襲われたら見捨てるしか無い…それがバルモンです。
帝国では確か、もし討ち取る存在があれば侯爵の爵位に王女との婚姻の褒賞も掛けていた筈です。
それでも誰も恐れて戦い等、挑みません。
「何処の誰が…あの化け物を倒したと言うのですか? 一体何人で?5万ですか10万ですか…」
優秀な将軍が3万を率いて全滅。
帝国辺りが総攻撃を掛けたのでしょうか?
ですが、そんな話は聞いていませんよ。
「戦ったのは勇者リヒト、たった1人です」
「冗談を」
「冗談ではありません…これを…」
水晶越しに私が見たのは大きなバルモンの首でした。
「これを、あの勇者リヒトがやったというのですか?」
「はい」
私はあの日、勇者リヒトが誓った言葉を信じていませんでした。
私にとって勇者は孫よりも愛しい存在。
だからこそ教会をあげて尻ぬぐいをしましたが…私は少し、ほんの少しだけ失望していたのです。
あの勇者が真面になるまで…落ち着いた大人になる迄まだまだ時間が掛かると思っていました。
あの日、私と約束した
「教皇様…俺を助けて下さりありがとうございました…これからは勇者としてこれまで以上に邁進いたします」
あの言葉に嘘は無かった。
今の彼は、本物の勇者様になられた。
「それで勇者様は何か言われていましたか?」
「はい『『単独勇者』を続ける…間違ってもエルザ、クラリス、リタを戦いに引き込むな…それさえ守ってくれるなら…俺はこのまま魔王討伐の旅を続けると』とおっしゃっておりました…そして褒賞や地位は要らないと」
この暫くの間になにが起きたのでしょうか?
『素晴らしい』
まるで別人のようです。
ならば、私も彼の願いを叶えるべきです。
『単独勇者』それにふさわしい功績まであげて、望むのですから。
第16話 救われた? 三人
幾ら探してもリヒトは見つかりませんでしたわ。
やはり、セレスを殺してしまったのはショックだったのかも知れませんわ。
あの時から様子は変わってきていました。
クズの様な性格は収まり…私達に対しても尽くすような感じに変わっていきました。
それは、悪い部分を消し去り…綺麗な部分が残った様感じさえしましたわね。
この青い宝石…私の事を考えて一生懸命選んでくれたのですね。
服にしたって良く似合う服を選んでくれたのが良く解りますわ。
『暖かい』
元からリヒトはカッコ良いのですが…
今のリヒトは、それに優しさが加わり、完全に私のドストライクになりましたわ。
だけど…だけどね…カッコつけすぎですわ。
『単独勇者』
なんて…
四人で挑んでも勝てない存在に一人で挑もうというのですか…
それは『死』しかありませんわ。
財産の殆どを私達に置いていく…
もしかして…ううん…今のリヒトなら絶対にそう…
『死にに行く』
そうとしか思えませんわ。
全ての責任を自分の命で償う為にたった一人で死の旅に向かったのですわ。
「行きますわよ、エルザ、リタ」
「何処に行くんだよ…リヒトの居場所は解らないだろう」
「そうよ、何処に向かったかの手がかりすらないんだから」
「だから、教会に行くのですわ…もし解らなくても聖女の私が依頼をすれば探して貰えますわ」
「そうだな」
「うん行こう」
私達は教会に向かいましたわ。
◆◆◆
「よくぞ来られました、聖女クラリス、剣聖エルザ、賢者リタ…貴方達の長い旅は此処で終わりました…今迄ご苦労様でした、たった今よりその任を解きます…これからは自由に生きるのです、街で暮らすも良し、田舎に帰るも良し、自分の夢を追いかけるのも良し…その全てに教会や国が手を貸しましょう」
「あの司教何を言われていますの…可笑しいですわ」
「まるで、旅をしないで良い、そう聞こえるぞ」
「あの…解任、魔王討伐にそんな事があるのでしょうか?」
あり得ない話ですが…まさか!
「リヒト殿が『単独勇者』を望みました」
「確かにその話は聞きましたわ…ですが、それがもし認められても魔王の旅から私達が離れるだけで魔族との戦いをする義務がある筈ですわ」
「確か、戦闘義務、それがある筈だ…それに私達はリヒトを探し合流するつもりだ」
「そうよ」
「その戦闘義務はもう無くなりました…勇者リヒトが命がけでバルモンと戦い…命がけの死闘の末勝利…その手柄と引き換えに『貴方達の戦闘に関わらせない未来』を望んだのです、これを教皇様と諸国の王が正式に認めました…これからは普通の少女としてお過ごし下さい」
「待って私はリヒトに…リヒトに会いたいのですわ…何処にいるのか場所を」
「それは出来ません、今の貴方は『聖女』ではない…それは勇者様が望んだ事です…教会も何処の国も、もう貴方達は決して戦闘には関わらせない…それが勇者リヒトの思いなのですから」
「そんな、リヒトが…」
「リヒトにもう会えないの…」
「個人的に言わせて貰います…命がけで愛して貰ったんですから、その気持ちを踏みにじらないで下さい」
『命がけの愛』
「命がけの愛…どういう事ですの?」
「バルモンとの死闘…いかな勇者すら逃げる相手の死闘です…如何に勇者リヒト様でも絶対に勝つなんて保証は無いでしょう、いえ負ける算段の方が高かったでしょう…貴方達を自由にしたい、その思いから…その死地に向かって、奇跡的な勝利を拾った…その思いを踏みにじらないで下さい」
そんな…そんな愛されていたなんて知りませんでしたわ。
それはエルザもリタも一緒ですわ。
「そんな、なんで…言わないのですわよ…グスッ」
言われてみれば様子が可笑しかったのですわ。
今迄、こんな高価な宝石なんてくれませんでしたわ…
服だって買って貰った事は無かったですわ…
食事だって…
これは『お別れ』を考えての事だったの?
命がけで愛されていたなんて…知りませんわよ。
「私…愛されていたんだ…あははははっ、私本当に馬鹿だわ」
「酷いよ…ちゃんと言ってくれなくちゃ…わかんないよ…鈍感なんだから…私」
「「「うわぁぁぁぁぁん、ヒク、グスッすんすんうわぁぁぁん」」」
「好きなだけ泣くと良いですよ…此処を去ったら『普通の幸せ』の中で生きて下さいね…決して勇者リヒトの気持ちを踏みにじらない様に」
今の私達には泣く事しか出来なかった。
第17話 化け物
「なんなんだ彼奴は…全く…水臭い」
そうエルザは怒っていますが…もう解っている筈です。
「エルザも解っているでしょうに…全部リヒトが背負ってくれた…そう言うことですわ」
「だからってこんなのは無いよ」
あの後、教皇様のサインの入った書類を貰いましたわ。
全ての義務から解放される代わりに、全ての特別な権限がなくなりましたわ。
◆◆◆
まぁ、それでも冒険者としてのSランクは残るから問題はない筈でしたが…
「えっ討伐の依頼は受けられませんの?」
「なんでだ? 可笑しいだろうが」
「そうよ…私たちはSランク冒険者なのよ」
「これは教皇様や諸国の王…そして勇者リヒト様の意思です、今後貴方達を一切の戦闘に関わらせない…それがリヒト様がこの世界を守る唯一の望んだ報酬です…ギルドは本来は中立ですが、殆どすべてのギルマスが感動されまして…今回初めて、個人の願いをきく事になりました…今後はもし誰かが襲われていても救護の義務もありません、見捨てて貰って結構です、その義務も免除します…その代りギルドは討伐の仕事も一切受けさせません…採取であっても危ない場所の仕事は一切受けさせません」
「ちょっと待って欲しいのですわ…それじゃ私達はどうやって生活すればいいのです?」
「生きていけないだろうが…ふざけるな」
「そうだよ、それじゃS級の意味ないじゃない」
「ハァ~ 元からあったリヒト様のお金は殆ど全て三人に譲られていますよ…それと今回のバルモンの討伐報酬のお金は、勇者パーティは本来譲られませんが、特別に教皇様達から貴方達の口座に振り込まれていますよ」
「そんな話は聞いておりませんわ」
ですが…口座の残高を見てみると私の口座には金貨8000枚(約8億円)も入っていました。
「何これ…金額がおかしいですわ」
「これ…なんだ…」
「とんでもない大金」
「これで解って頂けたでしょうか? 勇者であるリヒト様は貴方達を愛している…だから、一人で全てを背負って戦う事を決めた。そして世界がそれを認めた、もう貴方達は聖女でも剣聖でも賢者でも無い…どうか田舎にでも帰って幸せに暮らして下さい…これは私達ギルド職員もそう思っています。今までご苦労様でした」
「そうですか…もう私達は要らないのですわね」
「剣聖に引退もあるんだな」
「普通は無いよ…リヒトが凄かったそれだけだよ」
結局『戦う事』しか出来ない私たちは…その日から結局実質無職になりましたわ…まぁお金には一切困りませんが…
◆◆◆
ハァハァハァ…牛鬼の殺戮本能が表に出てきている。
殺したくて、殺したくて仕方が無い。
「貴様、何者だ…俺の名は魔戦大隊隊長ゾ…」
レベルが上がったから強くなった。
それはこの世界の理に適っている。
だが、本来の牛鬼の能力まで身につき始めているのは何故だ。
俺は今、攻撃を仕掛けていない。
ただ、此奴らを敵と認定しただけだ。
その瞬間に呪いに掛かり病に掛かったように血を吐きながら死んでいく…
それだけじゃない…
「貴様、大隊隊長の仇――っ ぐはっ」
当人には攻撃していない…俺はただ、そいつの影を攻撃しただけだ。
「貴様何者なんだー-っ、魔族なら魔族らしく…魔王様に従えー-っ」
「俺は…これでも人だ…人なんだー-っ」
「睨みつけるだけで呪いを発動させ魔物や魔族を殺す…それが人の訳ない…ハァハァ高位魔族の俺ですら油断をしたら意識が飛ぶんだ…まさか」
「まさかなんだ!」
「お前は…いや貴方様は魔王種…魔王様の一族なのでは…ないですか…ぐふっ…ぐぁぁぁぁぁー――っ」
沢山の魔物、魔族の死体が転がる中…何かを察したように、まるで忠誠を誓うように魔族が膝を折った。
「煩い..俺はそれでも..それでも人間なんだー-っ」
暴力を振るい、殺しているにも関わらず…魔族は決して俺と戦おうとしないで無言のまま死んでいく。
駄目だ…また目の前が真っ赤になった…
また、ただただ…赤いだけの光景が見える。
気がつくと俺はまた眠っていた。
眠りから覚めた時…俺の周りには恐らくは数万の魔族の死体が転がっていた。
俺の正体は…あはははははっ、牛鬼だ。
人でも魔族でもない…妖怪化け物だ。
◆◆◆
俺は偉そうな方から順番に首を斬り落とし収納袋に放り込んだ。
収納袋は持ち主の魔力によってその容量は変わる。
試しに首以外の体も放り込んだら…全部入ってしまった。
うふふふふっあははははっこんな魔力もう魔王…いやそれですらない化け物じゃないか?
俺は人間だ…
人間で居たいんだ…
ギルドに来た。
「勇者リヒト様…どうかされたのですか?」
「魔族の討伐をして来た…褒賞については教皇様に聞いて、その全額をエルザ、マリア、リタの三人に振り込んでくれ」
「解りました…それでは魔族の首を…」
「かなりの数がある、此処では無理だ」
「そうですか、それでは裏庭の方へお願い致します」
「解った」
裏庭なら流石に、全部出せるか…
「さぁどうぞ…」
「ああっ」
俺は収納袋から次々と魔物と魔族の死体を出していく。
「ちょっ..ちょっと待って下さい…裏庭が裏庭が全部埋め尽くされていく…そんな倉庫まで…一体どれだけ…あっあっあああー-っ」
裏庭とは言うが、大きさで言うなら前世で言う学校の校庭並みの大きさがあり訓練場もある、そこが覆いつくされていく。
「なんだ、この魔族の死体は…これは魔戦大隊隊長ゾルベック…まさか大隊事潰してきたのか…四天王は居ないが…魔族の四大大隊の一つだぞ…これは査定が大変だ、何週間掛かるか解らないぞ…一体何人でこれをしたんだ」
「マスター…それが勇者リヒト様1人です」
「お前…冗談はよせ、こんな事最低数千は…マジかよ…そんな事出来る奴は、最早化け物じゃねーか」
「マスターシィーッ、しーっ」
そうか…俺は化け物か…
「それじゃ…後は頼んだ…」
「勇者様…何処に行かれるのですか?」
「ああっ…魔族を狩りに行く…それだけだ」
三人への仕送りは…止めない…恐らくこれを止めた時、俺は本物の化け物になってしまう…そういう気がするからな…
第18話 娼館にて
ハァハァ…駄目だ体の火照りがおさまらない。
「お客さん凄すぎっ、ハァハァ、良かったら私の男にならない」
「お兄さんなら…働かないで良いよ…私が養ってあげる」
「ハァハァ凄い、凄すぎるよ…こんなの初めて、これがSEXだって言うなら…今迄のはナニ…はぁはぁ…好きだよ…これ本音よ」
体が火照り、性欲が増した…だから娼婦を買った。
牛鬼が精力絶倫なんて話は聞いたことは無い。
最も 牛以上の精力はあるだろうからこんな物か。
お金を弾む約束をして3人の娼婦を買った。
此処迄してもまだ俺の精力は収まらない。
こっちも本当に化け物だな。
「此処の宿屋は明日迄取ってあるから、ゆっくり休むと良い…」
「待って何処行くの?」
「流石にもう満足したハァハァよね」
「もしかしてだけど…まだ足りないの? ハァハァ」
「ああっ済まないな…少し色を付けておくから」
俺は1人当たり、金貨2枚を置いて宿屋を立ち去った。
◆◆◆
ここか…
『高級娼館 サキュバスの館』
全ての娼婦がサキュバスというとてつもない風俗。
「いらっしゃい…お客さん初めて」
受付からしてとんでもなくエロい。
スケスケのネグリジェ以外に何も身に着けていない。
「ああっ」
「そう…それなら、そう初心者用の子つけてあげる…それでも初めてなら1週間は性欲が無くなる事は請け合いよ…それで良いわよね?、銀貨5枚…」
「もっとハードなのは無いのか?」
「通常コースで一番凄いのはベテランサキュバス2人と2輪プレイ…だけど下手したら腹上死…はっきり言って同種族しかお勧めできない…インキュバスですら3日間は精力が無くなるわ」
いや…それでも足りない気がする。
それに、俺が知りたいのは…精力の限界だ。
うんっ…これなんだ?
『挑戦者求…挑戦料金無料…達成者には『素晴らしい特典あり』』
「この挑戦者求ってなんだ」
「ふふふっ、これはね特別企画なの…この館のサキュバスだけじゃない、近隣のサキュバスや精を必要とする低級精霊…そして最後にはSEX無敵のサキュバスクイーン全てを相手にやり続けるコースよ、泣いても喚いても、始まったら止まらない…生きて最後まで終わればお客様の勝ち…死んでしまえばお客様の負け…死んじゃうから無料なのよ」
「何でこんなコースがあるんだ、物騒だろう!」
死ぬような商売不味く無いのか?
「やる人いないし…まぁ、私たちにとって本当に必要なのは『精』お金はあくまでついでなの…本当に満足させてくれる存在がいるなら、仕えても良い位だわ…それが一番なのだからね…これはサキュバスの夢なのよ…まぁ…挑戦者は過去3人、全員精を搾り取られて死んで居るわ。まぁそのうち2人は自殺志願者だったんだけど…泣いて止めてくれって叫んでいたわ…案外数をこなすのって苦痛よ」
「それはテクニックとかは要らないのか?」
「ええっマグロでも構わないわ…精は私達の食事だもの…」
「ならばやる」
「マジで? 貴方自殺志願者…始めたらもう止まらないわ」
そう言いながら彼女は入り口の札を「CLOSE」に変えた。
「もう、後戻りはできないわ…うふふっまずはこの娼館所属のサキュバス26人がお相手よ…大丈夫?いま通信水晶で連絡入れるから後から、沢山来るからね…頑張って」
そう言いながら部屋に案内された。
部屋は凄く大きく、前世でいうラブホテルその物だ。
「うふふっ随分と可愛らしい挑戦者ね」
「あら、若くて外見も私好みだわ」
「お兄ちゃん可愛いっ」
サキュバスって言っても、随分色々タイプがいるんだな。
俺は先にシャワーを浴びて、ベッドに座った。
「それでどうするの? 最初くらいは相手を選んでも良いわよ、人数もね」
「うんうん、良いよ」
「まぁ此処にはお好みのサキュバスがいるわ…最初はどんなタイプを選ぶ?」
俺はベッドに横たわった。
「誰もが可愛くて綺麗だから問題ない…出来る数の上限で来てくれ」
全員でも構わないが…どう考えても一度に出来る人数には限界があるだろう。
「ふぅ…言ったわね、サキュバスの誇りに掛けて殺すわ」
「あははははっお兄ちゃん、もう手加減なんてしてあげないから」
「快楽のなかで悶え死んじゃえ」
「あらあら…少しは楽しめるのかしら?」
◆◆◆
目の前で26人のサキュバスがひくついている
「ああ…あああ、もう駄目、あああっお腹いっぱい」
「もう、駄目…何これ…凄い精…もっと欲しい..だけどああっあああっ」
「おにいひゃんもっと…もっとちょうだい…がくっ」
「これなんなの…最高のごちそうを無理やり胃袋の破裂寸前まで詰め込まれた…うふふ、凄すぎるわ」
26人のうち話せるのは数人しかいない。
後は体を引くつかせて痙攣をおこして倒れている。
中には白目を剥いている者も居る。
これでも精力は収まらない。
下品な言い方なら『ビンビン』だ。
少し、汗をかいたからシャワーを浴びた。
「お客さん『邪精霊』の方が来ました…生きて…なにこれ?」
「皆頑張ってくれてな…楽しかったよ」
「楽しかった…ですか?」
《嘘でしょう…これオークキングでやインキュバスでさえ腹上死する人数なんだけどな…》
「うん…ただこのベッドじゃ気持ち悪いから部屋変わってよいか?あと皆お腹が大きくなっているんだけど…妊娠とか大丈夫ですか?」
「あはははっ、それは『精袋』が一杯になっているだけなので気にしないで下さい…人間で言うとお腹いっぱいの状態です」
「そうか…なら良いや」
俺は隣の部屋に移ると沢山の妖精が流れ込んできた。
但し、少し浅黒く、瞳が淀んでいる気がする。
「凄いねキミ…サキュバスを26人も満足させたんだって…今度は私達108人が相手だよ…さぁ」
いや…これ入らないだろう。
前の世界のフィギュア位の大きさしか無いからな
「いや、これ入らないだろう」
「はぁ~伸びるから大丈夫だし…私達の種族は口も得意よ!」
そう言うと彼女は舌なめずりをした。
確かにう言うだけあって気持ちは良い。
まるで生きている…オナ…これは失礼だな。
「もう駄目だよ…ハァハァ一杯…一杯はぁぁぁぁう」
「うぷっ駄目、胃から逆流してきて吐いちゃうよ」
108人はお腹を膨らませながら嬉しそうに吐いている。
「大丈夫か?」
「うぷっうげえええええええっぷはっ気にしないで…人間で言うなら高級ブッフェで食べ過ぎて…吐いているだけだから…」
「そう…なら良いけど」
此処迄しても、まだまだ精力は有り余るほどある。
「ええっ邪精霊の皆さんも…貴方何者ですか? 流石に次は『この辺りのサキュバス全員』と『サキュバスロード4人です』」
「なかなかの強者ですね…ですが私たち上級種には通じませんわ」
「うんうん…私達にはつうじないな」
「ロードだもん、私たちは」
「インキュバスでも死んじゃうんだよ…まぁ最高の快楽は約束してあげる」
「あら、上級種の方だけじゃありませんわよ…精々満足させて下さいな」
ロード4人にサキュバス50人…なかなか…
「はぁはぁ、ナニコレ凄すぎる、吸っても吸っても吸いつくせない…なんて男なの」
「ねぇねぇ…ハァハァ、私の者にならない? 欲しい物なんでも買ってあげるから…」
「もう駄目…こんな精を食べさせられたら…もう他のじゃ満足できない」
全員が、倒れていて体を痙攣させている。
しかも、最初のサキュバスや邪精霊も復活してきては吸っているし、行為もしているが…その都度痙攣をおこし倒れている。
何だ、これ…
良く考えてみたら勇者は実際にはとてつもなくスタミナがある。
大昔の勇者には60日間休まず戦い続けた存在がいた。
その勇者の肉体がバルモンを倒してレベルがあがり…牛鬼の力がプラス…あっちの方も化け物かよ…
「うわぁぁぁー-っ、サキュバスロードにこれだけのサキュバスに邪精霊の皆さんがー――っ」
「あの…お姉さんは加わらないの?」
「そうですね…あはははっ、もしクィーンを相手にしても出来たら相手しますよ…はい」
この子…普通っぽいな。
「わらわはサキュバスクィーンの雅じゃ…ふん、なかなかの精力じゃな」
「雅ってまるで日本人みたいな名前だな」
「ああっ大昔に人間から貰った名じゃ」
凄く綺麗な女性だ、黒髪の綺麗な髪…まるでそうかぐや姫みたいだ…
「綺麗だな」
「そりゃそうじゃ…クィーンだからな」
そう言いながら雅は服を脱いだ…白い肌に黒い髪…自信があるのも頷ける。
「さぁわらわを楽しませてくれ…」
◆◆◆
頭の中がピンクになり雅の体を貪った。
「ああー-っなんじゃこれは…だめじゃ…こんなの吸わされたら、もう他のじゃ満足できぬ…はぁはぁ」
自分でも何をやっているのか解らない。
ただただ腰を動かし…全てを味わい尽くすしょうにしている気がする。
気がつくと…雅は体を火照らせ横で寝ていた。
「お主、何者じゃ…こんな存在世の中にいるのか? 凄まじいのぉ」
横で受付のお姉さんも倒れていたが…すぐに復活してきた。
「あはははっ、1回でこれですか…思わず気を失ってしまいました」
「そうですか…満足したせいか、少し眠くなってきました…眠らせて…」
「そうじゃな、ならばわらわの胸の中で少し眠るが良い…何回も失神させられた…この勝負、そなたの勝ちじゃ」
「それじゃ…商品引き渡しの為に血を少し頂きますね…」
そのまま俺は眠りについた。
この体はやはり化け物だ…
こんな体じゃもう…幼馴染を嫁…なんて無理だ。
サキュバスですら手に負えない精力…
俺は目立たないで良い。
畑を耕し、仲間と安いエールを飲んで。
普通の嫁を貰って生活する…そんな日常が欲しかった。
此処にいるサキュバスは皆、凄い綺麗だ。
サキュバスには変化に近い能力持ちもいるから、外見だけなら三人に近い容姿にもなって貰えるかも知れない…
だが…今の俺にはもう…日常は手に入らない…
「なぁお主…泣いているのか?」
今はただ…眠い…
第19話 逃げ出す
「ご主人様…そろそろ起きたらどうじゃ」
ああっ…少し眠ってしまったようだ。
雅に抱き着かれて寝ていたようだ…流石サキュバスクイーン気持ちが良い。
「眠ってしまったのか…う~ん久しぶりにゆっくり眠った気がする」
「まぁわらわ達は夢魔でもあるのじゃ…初対面だから記憶は覗かなかったが…寝やすい様にはしておいたぞ」
「ありがとう…」
「いえいえ、これから生涯世話になるのじゃ、容易い事じゃ」
今、何を言った?
生涯? そう言ったよな?
「え~と 生涯?」
「パンパカパーン! これが『素晴らしい特典』サキュバスクィーンやロードを含む今回倒されたサキュバスや邪精霊たち全員は貴方の奴隷になりました…凄いでしょう!」
受付のお姉さんが笑顔でそう言ってきた。
「嘘だろう?」
「嘘じゃありませんよ! 驚きですよね? こんな凄い特典が貰えるなんて思わなかったでしょう? 約200人のサキュバスの奴隷…しかもその中の一人はクィーンで4人はロード…他のサキュバスは基本逆らえないので、世の中の奴隷になってないサキュバス全てが貴方の物なのです…お好みならエルフからダークエルフに擬態すらします…世界の美女を全部手に入れたと言っても過言じゃありません」
「冗談だよな…幾らサキュバスでもだからって奴隷は嫌だろう?」
「何を言っておるのじゃ? お主の『精』は最高に美味じゃ…サキュバスは人間と仲良く人権を持っているが『魔』じゃから貪欲じゃ、その貪欲の対象は『精』…精が全てに優先するのじゃ」
「そうなのか?」
「ええっお恥ずかしながら…私だって同じですよ! 他の皆さんもです…こんな最高の『精』見逃すわけないじゃ無いですか? これが手に入るなら人殺しを始め、どんな犠牲も厭いません」
「それって特典じゃなく『押し付け』っていうんじゃないか?」
「あははっそうとも言いますね?」
此奴開き直ったぞ…
「あの…俺は勇者だから、もし俺の奴隷になるなら魔王と戦う事になるぞ」
「それは構わぬよ…其方の『精』は最高じゃから…それが貰えるなら魔王と戦う位何ともないわい」
「冗談だろう?」
「冗談ではありませんよ…その位リヒト様の『精』は凄いのです」
「それにじゃ…其方が寝ているうちに、全員が『奴隷紋』を刻んでおる…もうとっくに成立済みじゃよ」
なに勝手な事をしているんだ…
「それじゃ、勝手に奴隷紋を刻んで奴隷契約をしたって事か?」
「はい、そういう事ですね」
「はぁ~もう良い解った」
「それじゃあ」
「終わった事は仕方が無い…それじゃ俺は此処を出て行くから自由に今まで通り生活してくれ」
「なんじゃそれは」
「いや…よく考えたら奴隷になっても命令しなければ良い…それだけじゃないか?」
「待て、それは無いのじゃ…これからわらわ達と酒池肉林の生活をじゃな」
「それは今は良いや…それじゃ俺は出て行くから、そのまま動くなよ」
「待て、せめてわらわだけでも連れて行って欲しいのじゃ」
「雅様ズルいです」
「自分だけなんて…酷い」
揉めている間に俺はその場を後にした。
第20話 偽りの世界
戦闘本能が…抑えられない。
「正々堂々戦いましょう」
「何者だ!」
「私の名は魔族四天王の一人黒騎士 ナイツ」
前世持ちの俺からすると 騎士 騎士で可笑しいがそんな事言っても仕方が無い。
「正々堂々とはどう戦えば良いんだ…」
「一対一で戦えば良いだけだ、武器は自由」
「解った、受けて立つ」
魔族とはいえ凄いイケメンだ…良いなぁ、多分楽しい人生を送っていたんだろうな。
「我が音速の剣、受けてみよ」
これが魔族四天王とは最早驚かない…スロー過ぎてあくびが出る。
しかも、これ受けても痛くないかも知れない。
わざと剣をそのまま受けてみたが…あっ折れた。
「受けてやったが折れたぞ…次はどうするんだ?」
「嘘だろう、魔剣グランドが簡単に折れるなんて…」
「次は何をするんだ?」
「…」
「今は命を助けてやるから…仲間を集めて来い…それで雌雄を決しよう」
「解った」
駄目だ…最早この程度じゃ戦闘本能の疼きを止められない。
◆◆◆
「約束だ、連れてきてやったぞ、我が魔族大隊、地上の魔族最強の騎士を集めた魔王騎士団、その数…その団長でもあるのだ、我を愚弄した罪、その命で償え」
「そうか…だったら掛かって来い」
「我が剣は炎…全てを焼き尽くす」
魔法剣か、だが…今の俺には効かない…
避けるのすら面倒なのでひたすら攻撃をした。
見た目は人間のままなのに、攻撃が一切通らない。
試しに目で剣を受けたが…剣が折れた。
ただ軽く手を振っただけで鎧を着た騎士が数十メートルは飛んでいき鎧が砕ける。
ああっまただ目の前が赤くなる…
「たた助けてくれー―――っ」
「馬鹿者、敵に背を向けるなー――っ死ぬぞ」
「こんな物いったいどうしろと言うんだよ」
「こんな奴に勝てるわけが無い」
「嫌だ嫌だぁー――殺さないで、殺さないでくれー―――っ」
「降伏する…降伏するからやめろー――――っ」
目の前の赤い光景が晴れた…
ぴちゃん、ぴちゃん…俺の手はナイツの髪を持っていた。
しかも首から下は随分と離れたところにある。
◆◆◆
暫く魔王軍とぶつかっていると…魔王軍から降伏宣告をされてしまった。
魔王直々の書簡に『好きな物、好きな地位、好きな女…全てをやるから進行を辞めて欲しい』と書かれていた。
もう魔族は戦ってくれないようだ。
流石に降伏してきた者に攻撃をし続けるのも、心が痛んだ。
四天王であの程度であれば…もう戦闘本能を鎮める意味はなさない。
結局俺は…
魔国の国の一部に領地を貰い、そこにサキュバスたちを呼び寄せ一緒に暮らす事にした。
勇者リヒトは魔王に負け殺された事にして貰い…余生を送る事にした。
ただ、牛鬼は不老不死という話もあるから…この後の事は知らない。
「なんでわらわが、畑など耕さなければならぬのだ」
「働かざる者食うべからず」
「わらわは食事は要らぬ…ただ夜の相手だけしてくれれば良いのじゃ」
「雅さま…それは私達でいう食事ですから…その権利を捨てるという事で良いんですよね?」
「やった、これで順番が」
「お前ら~ふざけるでない…わらわもちゃんと耕すから…な」
「それなら良いや…頑張れよ」
もう、俺は幼馴染と一緒には暮らせない…だが遠くから幸せを祈っている。
サキュバス達には…村人の様な生活を送って貰っている。
この偽りの世界で…人間らしく生きていく…
そうしないと化け物になって…
「また、難しい顔をしておるな、また化け物じゃとかの悩みか?『化け物』で良いじゃないか? お主は…サキュバスとはいえこれだけの女子に愛されているのじゃから」
「食料としてだろう?」
「否定はせぬが…サキュバスをこれだけ相手に出来るのじゃ、充分化け物じゃ」
「そうだな」
化け物の人生を楽しんで生きていく
FIN
あとがき
あとがき
この作品は…こんな感じで終わらしました。
主人公の設定を強くしすぎた為に…此処から先はもう、苦労しないだろうな…そう考え、そんな形に…
ありがとうございました。
一応、今日の夜から明日の明け方にかけて、リクエストを頂いた『男女比物』と『異世界熟女物』を書く予定があります。
ありがとうございました。