最悪の異世界召喚! 奴隷として異世界に召喚されましたが…幸せだと思ってしまうのは何故だろうか?

世界で最も醜く不運な少年
この世の中にはどんなに努力しても報われない者もいる。

彼は生まれながらにして運に恵まれて無かった。

子供が生まれると一番最初に祝福するのは両親だ。

だが、彼の両親は祝福を一切しなかった。

何故なら彼は他の子と違っていたからだ。

目は左右対称で無く、鼻の位置もずれていた。

背骨は曲がっていて、まるで背虫男の様であった。

手足も曲がっていて他の子供と比べるのも烏滸がましい位醜かったのだ。

「こういった奇形児は長くは生きられません」

医者は、その両親に伝えた。

彼を連れ帰った後、彼を見たくないから、父親は仕事に没頭して家に帰らなくなった。

母親は暇さえあれば、彼に虐待をした。

ある時はタバコの火を押し付け、ある時は顔を叩いた。

そして何時も金切声で「あの人が帰って来なくなったのはお前のせいだ」と罵り続けた。

祖父も祖母も虐待には加わらなかったものの、一度彼を見てからは滅多にこの家に寄りつかなくなった。

「直ぐに死ぬ」そう医者に言われた彼は意外な事に死ななかった。

本来は彼の様に生まれたならば、ハイハイはおろか真面に動く事すら出来ない。

だが、彼は曲がった手足でまるで芋虫の様に器用に動いて見せた。

彼が動く姿が気にくわなかったのか母親は犬用の首輪とリードを着け家の中につないだ。

そして虐待を続けた。

普通これ程の事をされれば赤ん坊なのだから泣くはずだが、彼は泣く事も出来なかった。

声帯すらもおかしな体だったからだ。

だが、彼はその可笑しな声帯で一生懸命唸り続けた。

それが気持ち悪いと「化け物みたいに唸るな」と叩かれても辞めなかった。

普通の子供が走り回る様になり、自由に喋れるようになる頃、彼はようやく足を震わせながら歩き、片言の言葉を話せるようになった。

母親はこれ幸いと彼を外に出し夜まで家にいれる事はしなかった。

これが更なる彼の悲劇と変わっていった。

最後まで報われない
彼が外に居るとやがて近所の子供達から化け物と呼ばれ石をぶつけられる様になった。

動きの遅い彼では避ける事も出来ずに毎日かれは怪我をした。

だが、母親は一切の治療をしないで彼をそのまま放置した。

本来は助ける筈の大人も誰も彼を助けなかった。

警官がその様子を見ても助けもしなかった。

大人も子供誰1人彼を人間とみて無かったのだ。

全ての人間が気持ち悪い化け物そういう扱いをした。

それでも彼は努力をし続けていた。

そして、その努力はほんの少しだけ実を結んだ。

走る事はままならないが、何とか歩けるようになった。

ゆっくりではあるが喋る事も出来るようになった。

だが、どれだけ努力してもそれまでだった。

それ以上、彼が変わる事は無かった。

小学生になり彼は1人の少女に恋をした。

彼女は決してかわいい子では無く、普通の子だった。

彼が転んで動けなくなったいた時に保険の先生を読んで来てくれた。

それだけで不幸だった彼は好きになった。

普通の人間だったら当然の事だが、彼にとってはたった一度の人の優しさだった。

彼は彼女が好きになった事は誰にも言わない。

自分が好きになると言う事はそれだけで、相手に迷惑を掛ける事を知っていたから。

そして伝えたとしても決して叶わない事を知っていたからだ。

そんなある日、彼が歩いていると好きになった少女を見かけた。

だが何時もと違い彼女の後ろから大きなトラックが走って来ていた。

そして彼女はその事に気がついていない。

大きな声を出そうにも彼は真面に喋れない。

だから走った…元々走れない足….すぐに足が悲鳴をあげ罅が入ったのか痛みが彼を襲う。

それでも彼は走った。

そして彼女を何とか突き飛ばす事には成功したが自分はそのままトラックに轢かれて死んだ。

そんな彼を彼女は他の人が見るような目で見ていた。

「化け物がしんだ、カエルみたいにキモイ」

そう呟くと関わりたく無いのか走ってその場から居なくなった。

そう、彼は死ぬまで何一つ手に出来なかった。

それを見ていた二人が行動を起こした。

それでも僕は幸せです!

微睡みのなか僕は目を覚ました。

何処かは解らないが何故か見知らぬ場所で寝ていたようだ。

僕が目を覚ますと二人の男女が僕を覗き込んでいた。

「目を覚まされましたか?」

「此処は何処でしょうか?」

「此処はあの世とこの世を繋ぐ世界の間です、そして貴方は死にました」

「ああっそれではトラックに敷かれたのは夢では無かったのですね? 彼女は無事ですか?」

「はいっ! 彼女は怪我一つなく元気です」

「それは良かったです、僕の死は無駄では無かった」

こんな人生を送っていたのに死んでまで他人を気遣うのですね。

「貴方の死は無駄では無かった…それは私が保証します」

「所で貴方達は誰なのですか?」

「私は女神ヘラ、貴方の大ファンです!」

「同じく、神エローズ僕も君の事は大好きだね」

「僕のファン? それよりも女神ヘラ様と神エローズ様ってまさか?」

「恐らく君の考え通りだよ!」

「そんな偉い神様が何で態々僕の所にきて下さったのでしょうか?」

「その事について説目をさせて頂きます! 本来は貴方は生まれてくる命ではありませんでした」

「それって?」

「本来は母親の胎内で死産になる筈だったのです!」

「だけど僕は生まれてきました」

「それが凄い奇跡なのです! 本来は生まれて来ない命が自分の力で死の運命を乗り越えたのです、勿論、死ぬ運命だった命なのですから生まれてきても直ぐ死ぬ筈です!ですがそこでも貴方は自分の力で死の運命を乗り越えました、そして何者からも祝福を貰わずに成長しました」

「祝福って何でしょうか?」

「本来、人を含む全ての生き物は神からの祝福、才能の様な物を必ず与えられます! ですが、貴方は生まれて来ない筈だった命なので何も与えられていません! だから、どんなに努力をしても決して何も出来ず、普通であれば歩く事も出来ず寝たきりになり、死ぬ筈なのです!」

「ですが、僕は人並みではありませんが歩けました」

「それは貴方が努力で勝ち取った物です、決して普通では無いのです」

「……」

「本来生まれなかった命がもがき苦しみながら欠けてはいるものの体を作り自分だけの力で生きれるようになった!そして、誰からも祝福を受けない者が絶望もせず、何も羨まずに生きた、これは誰にも出来ない事です! 恐らく勇者…いえ神であっても決して出来ることではありません」

「ただ生きることに精一杯だった、それだけです!」

「そうでしょう! ですがその精一杯の姿が私達の心を打ったのです、貴方には次の人生が約束されています!今回の人生が不幸だった分次の人生は幸せに生きて下さい! 私も、いえ私達神々も応援させて頂きます!」

「不幸ではありませんでした」

「えっどう考えても貴方程不幸な人はいません」

「だって一生懸命生きていたからこそ死んだ後、ヘラ様とエローズ様に出会えた、これは僕の誇りです、だから僕の努力は無駄では無かった、普通は勇者でもない限り神様になんか会えないでしょう?」

「確かにそうです…それでもそれだけしか貴方には無いのですよ?」

もし、女神という立場が無ければヘラは泣いていたかも知れない。

そしてエローズは思った、何で自分は何もしなかったのだろうか?

少なくとも僕は一つだけは出来た、彼の好きなあの子に矢を放ち恋愛を実らせる事は出来た。

だからその後悔から自然と口に出た。

「何かして欲しい事は無いか?」

「何もありません! ですがもし許して頂けるなら、私は今世では母にも友人にも恵まれませんでした。ですから、この魂が消え、次の人生が始まるまで、ヘラ様の面影を母と、エローズ様の面影に兄弟や友人を重ねる事をお許しください…化け物みたいな僕にそんな風に思われるのは嫌ですか?」

「そんな事はありません! 貴方は化け物なんかじゃありません!」

「僕も君に兄弟の様に思って貰えて誇りに思うよ」

「有難うございます」

「今は来世に備えてゆっくりお休みなさい…私の息子よ!」

「今はお休み剣!」

母性と友情に目覚めた神の暴走

「さぁエローズ行きますよ!」

「ヘラ様、何処に行かれるのですか?」

「あの子は「私を母と思い、貴方を兄弟と思わせて欲しい」そう願いました」

「確かにそれが唯一彼が望んだ事でしたね」

「ならば、女神ヘラの息子、神エローズの兄弟に相応しい体を授けなくてはいけない! そう思いませんか?」

ヘラはエローズにそう告げるとオリンポスに戻っていった。

「それは何でしょうか? ヘラ様!」

「ヘラクレスの灰です!」

「ヘラクレスの灰ってヘラクレスが体を焼いた時に残ったというアレですか?そんな物をどうするのでしょうか?ヒュドラの毒は危なすぎます」

「毒はヘラクレスがその身を焼いた時に無くなった筈です! 神の部分はそのまま神格化したのでありませんが、少なくともヘラクレスの体だった灰なのですから人間としては最高の素材の筈です」

ヘラはエローズと共にその灰を神ヘポイストに持ち込んだ。

「これで、最高の人間の体を作って欲しいの! 貴方なら出来るわね!」

ヘポイストは訝しんだ。

今迄、そんな依頼を受けた事は無い。

だが、材料を見た瞬間に気が変わった。

「こ、これはヘラクレスの灰…」

「その通り、これを使って人間の体を作って欲しい」

「確かに毒は抜けているが、血肉が無い、肉は兎も角血が無くては無理でございます」

「ならば私の血を使いなさい」

女神ヘラは短剣で腕を傷つけ血を与えた。

その横でエローズも自分の手を傷つけた。

「僕の兄弟でもありますから」

これでヘポイストの職人の地に火が付いた。

ヘラクレスの灰に神の血。

これ程の素材で物を作る事はまず無い。

だが、それだけでは終わらなかった。

偶然、ヘラとエローズを見た、アポロン、アテナ、アフロディーテ3人の神が顔を出しにきたのだ。

「「「何か面白そうな事をしていますね」」」

結果、アポロンとアテナは同じ様に血をアフロディーテは美しい神を差し出した。

彼らはエローズやヘラと同じ様にファンだった。

ヘポイストがそれらの素材元に最高の体を作り上げた。

その肉体に剣の魂を吹きいれた。

そこにはまさしく「新しい神」が居た。

神が造ってしまった者は想像を超える者でした。
沢山の神々が剣を見て騒いでいた。
そこに全知全能の神ゼウスが現れた。
「何をしているんじゃ。」
ゼウスは剣を見た瞬間絶句した。
暫く唖然としていたが、正気にかえると雷を落とした。
「馬鹿者、お前らは何という事をしてくれたんだ。」
ヘラは悪びれることなく答えた。
「私達は生前一生懸命生きた者にそれに見合った肉体を授けただけです。」
「反省はないのか?」
「何を反省しろというのですか?」
ゼウスはため息をついた。
「確かに彼は普通では考えられない程努力をした。それは儂にもわかる。少し位、何かしてやる位じゃ文句は言わない。だがこれはなんだ!」
「ええ、ですからこの体を」
ゼウスはヘラの話しを遮り話始める。
「半神半人だった勇者の灰。ヘラ、エローズ、アポロン、アテナの血。そしてアフロディーテの髪。そこから何が生れると思う。元々の灰に人間の血を混ぜただけで確実に英雄となる。そこになんじゃ神々の血と髪。もはやそれは英雄や勇者ではなく神じゃ。」
「だったらどうだと言うのですか?ここで私たちと暮らせさせればいいじゃないですか。」
「事はそう簡単な事じゃない。この馬鹿者が。」
ゼウスがヘラに対してここまで怒る事はかって無かった。
ゼウスは話を続けた。
「アテナよお前にこの者を与えると言ったらどうするよ。」
「それは勿論、伴侶として迎えて生涯を伴にに暮らします。」
「ゼウスは何を言い出すのですか?剣はこのヘラの大事な息子なのです。」
「勝手をいって貰っては困ります。彼の美しさはこの美の女神アフロディーテの者です。」
「誰のもとに居ても構わないが、このエローズの親友にして兄弟でもあるのをお忘れなく。」
「それは、このアポロンとて同じ事。」
そしてその周りにいる他の神々も自分にこそふさわしいと主張し始めた。
ゼウスは再び雷を落とすと話し始めた。
「ほれ、見て見ろ。処女神のはずのアテナが伴侶に臨み、ヘラすら魅了する。下手に神界に置いていては神々の殺し合いにすら、なるやもしれぬ。それが解らんのか。」
「では彼をどうするというのですか!」
「お前らに任せると何をしでかすか解らん。だから、次にどこかの世界で召喚魔法が行われたら記憶を消してそこへ送るとする。そして、お前らの干渉は一切許さない。」
殆どの神がゼウスを睨みつける。その眼にはあきらかに「不服だ」という思いが宿っていた。
(主神たる儂にさえそんな目をむけるその異常さが解らんのか)
ゼウスは頭を抱えた。

召喚先では奴隷扱いでした。
そして遂に召喚魔法を唱える国が現れた。
ゼウスはその召喚魔法に併せるように剣を送り出した。

(召喚した国サイド)
「シュベルターへようこそ奴隷の諸君、、、あれ?一人しか居ないじゃないか?」
 豪華な服を着た明らかに身分が高そうな男が落胆の表情を浮かべながら横の男に目を向けた。
「あれっ、おかしいですね、この術式なら最低でも10人多い時には30人以上の召喚がなされるはずなのですが」
「だが、実際に1人しかおらぬではないか? 幾ら取り繕うと失敗ではないのかね。」
「ですが、失敗したのなら普通は誰も召喚されないはずです。」
「確かに、1人しか召喚されなかった事はないが、、、おいお前!」
「僕でしょうか?」
「お前以外誰が居るというのだ。前の世界での名前と何をしていたのかを言え!」
「えっと、、、あれ解りません。」
「本当に解らないのか? ならばこの水晶に手を当てて解らないと言ってみろ。」
「解りません。」
 水晶が青白く光る。
「青い光、どうやら本当のようだな。まぁいい」
「あの、僕はこれからどうなるのでしょうか?」
「お前は此処へ奴隷として召喚したんだ、なので適正をみてから働いて貰う。」
「そうですか。」
(この男は何なんだ。今まで奴隷として召喚した者は皆んな反抗的だった。怒鳴り散らす者、泣き喚く者。色々いたが、どれも自分の境遇を認めない者だった。何故この男は冷静でいられる。しかもよく見れば鍛えぬいた体に気品さえ見られる。本当に何者なのだ。)
「所で、あぁ記憶が無いのだったな。その体つきからすれば、恐らくお前は騎士か戦士だったのだろう。だが、記憶の無い者を戦場に送るのは流石に気が引ける。とりあえず鉱山に送る事とする。」
「解りました。」
「ちゃんと働くなら 衣食住の保証はしてやろう。 あと、奴隷ではあるがこの国の奴隷はお前が思っている程悲惨ではないぞ。 ちゃんと賃金は貰えて一定以上の金額を貯めれば自分を購入して解放出来る。」
「解りました。」
「何を言っても解りました。しか言わぬのだな。まぁ反抗的な態度を取るより良いが。 名前が無いと不便だろう。だから名前をつけてやろう。」
「ありがとうございます。」
(いきなり召喚したのにありがとうだと、何故この状態でお礼が言えるのだ。)
「お前の名前はソードだ。」
「ソードですか?」
「あぁ、お前を見た時に騎士か戦士の様に見えたから付けた名前だ。奴隷には過ぎた名前だぞ。」
「ありがとうございます。」
「本当に感謝を言うのだな。まぁ頑張れよ。」
そして、ソードは鉱山へと送られていった。

この国の事情 召喚と奴隷について。
この国の奴隷は実は思ったよりも待遇は良い。
それはこの国では奴隷は国や個人の財産として扱われ、厳寒なルールがある。
貴族であっても奴隷を傷つけたら、国もしくはその奴隷の主に賠償金を払わなくてはならない。
又「奴隷=財産」という考えが強いので自分の奴隷をむやみに傷つける者は殆どいない。
終身奴隷という制度は無く、犯罪奴隷であってもせいぜい奴隷に落とされるのは15年が最大。
殺人を犯した者でも余程の大罪で無ければその範囲である。
奴隷の立場であってもお金で地位を買ったり、手柄を立てれば開放されるのである。
これは召喚者であっても同じだ。
平気で誘拐同然に人を召喚するのであるが、この辺りはきっちりしていた。
ちなみに彼らは「この世界の民と全く同じ扱い」をしているつもりなので決して召喚して奴隷にする事を悪いと捉えない。
「弱い者が攫われたり、戦争で負けた国の者が奴隷にされるのは普通。」そういう考えがあるからだ。
その割に奴隷に対してきっちりとしているのはこの国が抱える幾つかの理由がある。
一つ目の理由は、この世界の民のうちの年寄りの少なくない数が召喚者である事。
もう一つの理由が男女比に偏りがあり男女比1対3と偏りがあるからだ。
ハーレム状態とまでは言わないが男に産まれれば女に比べれば人生が楽なのは間違いない世界だ。
その為、男女比が半々の確率で召喚できる魔法がこの世界では重宝されていた。
昔はかなり重要視されていたが多少人数が増えても対した改善にはならない事。
コストがかかる事。多少の男性の人数が増えても焼き石に水でしか無いので、今では実は殆ど行われていない。
たまにどこぞの偉い人や研究者がその技術のロストを恐れ行う位である。
ちなみに初期の召喚では、国賓待遇として扱い、準騎士爵の地位を与えて貴族にしていたが、余りに、態度の悪い者が多かったので、今の様に奴隷からスタートとなった。

奴隷になって初めての夜
「私についてこい。」
「畏まりました。」
ソードは頷くと彼女の後についていった。
「ここがお前の部屋だ。他の奴隷と違って男だから1人部屋だ。」
「ベットと毛布がある。」
「あるに決まっているだろう。」
「有難うございます。」
「お礼を言われるとは思わなかったな。だが、殊勝な心掛けだ。あとで食事を届けさせる。今日はそれを食べたら休んで良いぞ。明日からは死ぬほど働いて貰うからな。」
「はい」
暫くすると別の看守らしき女性が固いパンとスープを届けにきた。
ソードはそれを泣きながら食した。
看守は「奴隷の食べ物はその程度だ、早くなれる事だな。食器は明日にでも戻しておけ。」そう言い残して立ち去った。
だが、看守は本当の意味でのソードの涙の意味を勘違いしていた。
ソードは嬉しかったのだ。
記憶は失っていたが、恐らく剣であった時の経験が体に残っていたのかも知れない。
個室を与えられて満足な食事を与えて貰った。これは剣として生きていた時には無い事である。
この国の最低の生活が、ソードにとっては前世を含んだ人生で一番幸せだった。
だからこそソードは幸せを感じて涙を流した。
ソードにとって召喚されてから、今まで出会った人は、前の人生を含んで良い人としか思えなかった。

ソード最初のお仕事。
次の日からソードの奴隷生活が始まった。
この世界の男は働かない者が多く、召喚した者は男女構わず働かない。
それがこの世界に生きる女達の普通の考えだ。

早朝にウロウロしているソードを看守が見つけた。
まさかこいつ、初日から逃亡する気なのか、そう思い様子を見ていた。
だが、ソードがニコニコしながら近づいてきた。
「おはようございます。えーと」
「マチルダだ。」
「おはようございます、マチルダ様。」
「こんな早朝からどうした、まさか脱走でも考えてたか。」
この時にはもうマチルダは本気で脱走を考えているとは思っていない。
「違います。目が覚めたのですが落ち着かなくて。そうだ、何かお仕事があったら頂けませんか?」
マチルダはニヤリと笑うと「そうだな、ではトイレ掃除でも頼むか。」そう答えた。
「はい、畏まりましたマチルダ様。」
ここシュベルターの下水事情は簡単に言うと物凄く汚い。
それはトイレに入ると糞尿の匂いが充満している。王城ですら未だにポットン便所だ。
まして鉱山にある施設なんて言ったらそれこそ、鼻が曲がる程臭くて汚い。
「掃除に使う水は井戸から汲んできて使え。トイレの瓶には必ず水を一杯に満たしておくように、道具は隅に有るものを自由に使ってくれ。」
「はい、頑張ります。」
そう元気よく答えるとソードは不慣れな手つきでトイレ掃除を始めた。
(まぁ下手だが文句言わずやるとはな)
「おいソード、トイレは此処以外にも沢山ある。今日は一日トイレ掃除だけしていればいいぞ。」
マチルダはあえて一番嫌がる仕事をさせてみた。
ソードは周りの者から素直そうだと聞いた。だが、その素直さが逆に怪しすぎる。
過去には従順な振りをして色々とたくらむ者もいた。
その様子を見る為にあえて一番嫌がる仕事をさせてみたのだ。
ソードが悪戦苦闘しながらトイレを掃除していると、結構時間が経ったのか一人の奴隷がトイレに入ってきた。
「あれっ!ここ今掃除しているんだ。ってお男。」
「すいません、、おはようございます。えーと」
「うん、おはよう私はマリー」
「おはようございます。マリーさん。」
「同じ奴隷なんだからマリーで良いよ。君、それより男だよね。」
「女に見えますか?」
「見えない、見えない。でも男なんて滅多にこんな所にいないからさぁ、もしかして君って噂の召喚奴隷かな」
「噂のかどうか解りませんが、召喚奴隷ですよ。」
(こうして見ると凄い美形じゃない。筋肉もしっかりあるし、顔は王都の男優と比べても遜色ない位じゃない。 そういえば召喚者は男なのに女に優しいんだっけ。)
「トイレ掃除慣れていないね?教えてあげるよ。」
「えっ良いんですか?」
「うん、良いよ。あと同じ奴隷なんだから敬語は無しで宜しくね。」
「ありがとう」
「うん」
マリーはまずトイレに木札を掛けた。
「この木札はトイレ掃除をしています。って意味。これが掛けてあれば皆んな他の所に行くから掃除中は必ず掛ける事。良い? 特に男の貴方が掃除している姿を見たら皆んな吃驚しちゃうからね。」
「はい、解りました。」
「じゃぁ、掃除の仕方を教えるね。」
マリーはソードの手を握りながら体を密着させながら掃除の仕方をレクチャーした。
ちなみにこの国の男であれば確実に睨みつけられ痴漢扱いされる行為だ。
(流石、召喚者、嫌な顔一つしないなぁ。もっと触っていたいけど、そろそろ頃合いかな。)
「ごめんねソードもう少しついていてあげたいけど、そろそろ私も行かないと」
「もう充分ですよマリーさん。」
「マリーさんでなく、マリー」
「ありがとうマリー」
「うん、どういたしまして。」
マリーは上機嫌でスキップしながらトイレを出て行った。

マチルダから見たソード
その日の夕方マチルダがトイレに入っていると物凄く綺麗になっている事に気が付いた。
まさかと思いながらトイレを見て回ると一つのトイレに木札がかかっている事に気が付いた。
なかを覗いてみる。
「おいソードお前は何をしているんだ?」
「はい、マチルダ様頑張ってトイレ掃除をしているのです、なかなか綺麗にならなくて。」
(まさか今までずっと掃除をしていたのか。)
「そうか、所でお前食事はどうした。」
「いけない忘れていた。」
「そうか、次からはちゃんと食べろよ。もう今日は終わってよいぞ。あと、お腹がすいているだろうから夕食は私の名前を出して大盛りにして貰え。」
「マチルダ様 ありがとうございます。」
「例には及ばん、後悪かったな。」
「えっ何がですか?」
「嫌、何でもない。」
色眼鏡で見るものではないな。ソードは他の男や召喚者とは違う男のようだ。ただ物事に一生懸命なだけかも知れない。マチルダはソードの評価を少し上げた。

食堂にて
ソードは食堂につくと食事を貰いに行った。
「あの、新しく入ったソードと言います」
「おや、男の子かい珍しいね」
「はい、実は朝と昼食べそこねちゃって」
「はいはい、マチルダから聞いているよ、沢山盛ってあげるからたんとお食べよ。」
「ありがとうございます」
これでもかと盛り付けられた食事を受け取るとソードは急いで食べた。
食事が終わるとソードはそのままカウンターに戻る。
「おや、足りなかったのかい?」
「いいえ、充分足りたし、おいしかったです。」
「そうかい、そうかい、それは良かった。」
(奴隷の食事がおしいいなんておかしな子だねぇ)
「所で、何かお手伝いできる事ありますか?おいしい物を頂けたのでお手伝いさせて下さい。」
「奴隷だからってそんな事、気にしないでいいんだよ? それに食事はここでは数少ない楽しみだから皆んな量とかにもうるさいんだよ。だから全部職員がやっているんだよ。」
「そうですか。」ソードは残念そうな顔をする。
「でもせっかくだから後ろで皿洗いでもして貰おうか。」
「はい、がんばります。」
最初はぎこちない手つきでお皿を洗っていたソードであったが、暫くすると手慣れたのか手際よく作業をするようになった。
少し前まで、苦笑しながらその作業をまわりの者は見ていたのだが、今ではその作業スピードに目を見張るばかりだ。
「すっ 凄い貴方はどこかでコックの見習いでもしていたのかしら?」
「それが記憶が無くて解らないんです。」
「そういえば、そうだったわね。でもなかなか筋はいいわよ、そうだ、今度は教えてあげるから野菜を刻んでみるかい?」
「はい、宜しくお願い致します。」
これも又最初は危なげな手つきで野菜を刻んでいたのだが、今ではもう手慣れた手つきで刻んでいた。
それこそ、タタタタタンという音が途切れない。
(絶対にこの子は調理経験があるわ)
「もう、その位でいいわ。貴方多分、記憶を無くす前はきっと調理の仕事をしていたかも知れないわね。きっと、体が覚ええているそんな感じかしら。」
「そうなのでしょうか?」
「もし良かったら何か一品作ってみない? あくまで練習だからその辺の余った肉切れと野菜以外は使っては駄目よ!出来たら試食させて貰うわ。」
「自信無いですけど頑張ります。」
記憶が無いからソードは解らない。だが、ソードがまだ、剣であった頃。彼は自分が食べさせて貰えないにも関わらず母親に料理を作らされていた。もっとも体が不自由だった為物凄く時間がかかり、怒られてばかりだった。
その経験が生きていたのだろうか、最初は戸惑っていたが、落ち着くとしっかりと料理を作りはじめた。
「ふうっ 出来ました。」
「あらっスープを作ったのね、、、どれどれ」
「どうでしょうか?」
「味は独特だけど、これはこれで旨いわね。これではっきりしたわ。貴方はしっかりした料理の修行をしていた。間違いないと思う」
「ありがとうございます。」
「そうで無くとも貴方が筋が良いのは間違いないわ、、、今日は手伝ってくれてありがとね。」
「こちらこそ、お世話になりました。」
(手際が凄くいいわ、少し教えればすぐに一人前に成れそうね。調理に回して貰えるように頼んでみようかしら。

朝の調理場の出来事
次の日、ソードは太陽の昇る前からトイレ掃除をしていた。
やり方のコツを掴んだソードにとっては最早大変な仕事では無かった。
昨日、1日掛かったのが嘘のように僅か2時間ちょっとで掃除を終えた。
それが終わるとソードは調理場へと向かった。
「昨日はありがとうございました。又何か手伝う事はありませんか?」
「おはようソード、ずいぶん早起きなんだね。今は仕込みの最中だから幾らでも仕事はあるけどねぇ、でも、ソードも今日は食事が終わったら仕事を割り振られると思う。だから食事の後は休んだ方が良いわよ。」
「だったら急いで食事をとるので、その後少しだけ手伝わせて頂けませんか?」
「そうかい。悪いわね。じゃぁ少しだけ手伝ってもらおうかね」
ソードは朝食を急いで食べるとそのまま手伝いに入った。
まだ、外は暗く、食堂にはソードと給食係の者しかいない。
「随分とたった1日で手際が良くなったもんだね」
ソードは片っ端から野菜を刻んでいく。その速さに驚き周りは手を止めて見ていた。
「ほらほら、手を止めないの、ソードを見習いな。おやっもう今日の分の野菜は全部カットし終わったのかい。」
「はい、ここにある分は全部終わりました。」
「まだ、時間もあるね。もし、良かったら昨日のスープ作って見ないかい? 試しに今日の朝食で出してみようと思うんだ」
「ありがとうございます。」
(奴隷に出すスープを作らせてあげるだけで、ありがとうかい? 本当に仕事が好きなんだ。)
ソードは大鍋でスープを手際よく作った。
(記憶喪失が残念だね。ここまで手際が良いなら、元の世界では名の知れたコックかも知れないね。そう考えるとあの味なんとなく、貴族が食べる高級な物に近いかもしれないね。)
「今日もありがとうね。そろそろ部屋で休んでいた方が良いと思う。少ししたら誰かが呼びに行くと思うよ。」
「はい、それでは失礼します。」
「しかし、ソードは料理が好きだね。次来た時ににはお礼に幾つかの料理を教えてあげるよ。」
これには周りは驚いた。
今まで、ここの責任者のウイズリーが、こんな簡単に調理をやらせたことは無い。
今でこそ、こんな所の責任者だが、昔はれっきとした貴族お抱えのコックだった。
絶世期には王族を招待した晩餐会も仕切っていたと聞く。噂では最愛の旦那を失って自暴自棄になってこんな所まで落ちてきたという事だった。
だが、数年前から立ち直り、今では昔のように仕事をしている。
最も、もう歳なのか表舞台に立つ気はないようで、最近では安い食材からおいしい食事を作る事に没頭している。
だが、立ち直った後のウイズリーは料理に昔しの様に厳しくなった。
実際に半年たっているのにまだ、皿洗いしかさせて貰えてない子も居る。
それですら、ウイズリーのお眼鏡にかなって採用された子だ。
だが、ソードって男性には簡単に皿洗いをさせていた。
だがこれは解る。異世界から召喚された人だから彼女なりに同情があったのかも知れない。
まして、あんな見目麗しい男なのだから、多少はひいきにするだろう。
だが、その先は異常だ。会って初日の彼に包丁を使わせたのだ。
最初は遊びだったかも知れないが、途中からはしっかりと仕事を任せていた。
その後にはとうとう一品作らせて審査していた。
そして味見をしたあと褒めていたのだ。
そして何と今日は出す料理を作らさせていた。はっきり言って異常だ。
もしかしたらウイズリーは男に目がくらんだのかそう思う程に、まぁ怖くて言えないけど。
私たちはこっそりとソードの作ったスープを味見してみた。
飲んだ事ない味だったが洗練されたとても美味しいスープだった。こんな美味しいスープを作れる者が素人の訳ない。
記憶を失っていると聞いたがそれでも舌と体が調理を覚えていたのだろう。
決してウイズリーが男に目が眩んだ訳では無かった。
だったら、私達も明日からこの美麗のコックの復活に手を貸そうでは無いか。
というか、料理が出来る美麗な男性。こんな良い男を目の前にして手を出さないのは勿体ない。

女神様の勘違い。或いは幸せな女神様
私の名はマイン。この世界を管理している女神だ
この世界は魔族は居るものの魔王は大昔しに倒されていない。
しかも、境界がはっきりと決まっていてもう永い事、魔族と人間の争いはない。
人間同士、たまに戦争はしているけど、私が介入するレベルでは無い。
到って平和な世界だ。
私はこの状況に満足している。
この世界は一神教で神は私しかいない。
私が、他の神に会ったのは大昔にシュベルターという国が勇者召喚をやらかした時だ。
異世界の重要な人材を勝手に召喚した事に腹を立てた、その世界の神が怒ってきた。
その時だけ。
シュベルターが勝手に行った事だが、女神という立場上謝る事しか出来ない。
思ったより話しの解る神で、魔王討伐後に当人が望めば返す約束と、こちらにその者たちが住む場合は全力でバックアップする。と約束したら許して貰えた。
その後、召喚魔法を衰退させ、力のある者や優秀な者を呼べないようにした。
そして対価も高くしたから、今ではごくたまにしか使われなくなった。
文明は進んでいないものの緑が多く安定したこの世界を私は好んでいる。
ただ、最近少し残念に思うのは私への信仰心が以前より落ちた事だ。
聖女や宗教家の一部は熱心に信仰してくれるが、魔王が倒されて数百年一般人の信仰は酷い物だ。
苦しい時だけ私に頼るのはどうかと思うが、今では人間とはそう言う者だと割り切れるようになった。
だから聖女や熱心な宗教者の祈りには耳を傾けているが、それ以外の祈りはあまり聞かず自由な時間を過ごしている。
女神の力は信仰の力によるものだ。だから、信仰が少なければ弱体する。
だが、世の中が安定しているなら女神の力は要らない。寂しいと思わなくもないが、これはこれで良いのだと思えるようになった。
だが、最近聖女すら上回る感謝の祈りが届くようになった。
他の者の様に対価を求める祈りでは無く、純粋に全てに感謝している、何とも気持ちの良い祈りだ。
私はこの様な祈りをする者がどのような人生を歩んでいるのか気になり下界を覗いてみた。
すると驚く事に彼は奴隷だった。しかも召喚奴隷だった。
本来、このような者が召喚されたなら、相手の世界の神に恐ろしい程の対価が必要になる。
だが、何処からも何も言ってこない。
だから、私は何処かの高位の神が頑張っている私に贈り物をくれたのだ。そう考える事にした。
女神にだって解らない事はあるのだ。
時間のある度に私はソードを見続けていた。正直、昔の勇者だってこんなには見ていない。
何故か気になって仕方が無いのだ。
見続けていて解かった事がある。それは魅力がこぼれださない様にされている事だった。
だが、そんな物は女神の私には通じない。
流れるような髪は女神の私より美しいと言えるかも知れない。
そして勇者のようなオーラ。
「あぁぁぁぁl」
私は女神であるにも関わらず声を上げてしまった。
「彼の中に神の力が宿っているわ。まだ小さな力だけど、その力はいつか彼をここに連れてきてくれるはず。」
この世界に神はマインしか居ない。自分では満足していたはずだが、そうでは無かった。
女神である彼女が本当に欲しかったのは、傍に居てくれる者だった。
聖女であろうと自分が会える時間は顕現している僅かな時間のみ。
それも余程の事が無いと使えない。
それ以外は精々が神託として一方的に与えるのみ。
(やはり、一人で居る私を不憫に思った更に高位の神が彼を送ってくれたんだ。)
そう思うのも仕方のない事だった。
実際にマインがソードを造れと言われても作れない存在なのだから。
だから、マインはソードを送ってくれた者に感謝をする。
それと同時に将来自分の傍に居るであろうソードに何かあげたいそういう気持ちになる。
「さて何の加護をあげようかしら。」そう呟くと今日の聖女の祈りの時間に神託をだそう。
そう決めた。
その笑顔は実に女神らしいこの世のすべての男が虜になるであろう。そう思えるほど美しかった。

女神と聖女
私はマリア、一応聖女をしています。
聖女と言っても魔王が居た頃の様に勇者を支援する様なことは無く、名ばかりの名誉職です。
たまに、女神様の神託を聞くだけで、他のシスターと殆ど変わりません。
その神託も、ごくたまに女神様の愚痴を聞くようなものしかありません。
まぁ、愚痴の内容は女神様の信仰に関わる事なので口が裂けても言えません。
勇者と冒険、憧れはありますが命がけの戦いなんて私には出来そうにありませんので、これで良かった。
本当にそう思っています。
今日も何時もの様に礼拝堂でシスター達と祈りを捧げていると神託ではなく、女神マイン様が顕現されました。
神託ではなく顕現、私が聖女になってからは初めての事であり、知る限り数十年は無い事です。
「ま、マイン様げ顕現、まさか魔王が復活したの」
「天変地異が起こるお告げ」
周りのシスター達がざわつきはじめます。
「マイン様の前ですよ。静かになさい」私は声を張り上げました。
皆が静かになるとマイン様は話し始めました。
「聖女マリアありがとう」
「マイン様がお姿を現すという事は私が聖女になって初めての事です。一体何が起きているのでしょうか?」
「最初に言いますが、世界の危機そんな事ではありませんのでご安心なさい。どちらと言えば喜ばしい事です。」
「一体何があったと言うのですか?」
「この世界に聖なる者が召喚されたのです。」
「聖なる者とは勇者様、もしくは賢者でしょうか?」
「その辺りの事はまだ判断がつきませんが、聖なる者には間違いありません。」
(まだ、何の加護を与えるか決めていませんから)
「女神様でも解らないのですか?」
「これは物凄く重要な事です。ここに居る者以外は決して他言無用でお願い致します。これは女神の力で誓約させて頂きます。」
「誓約が必要なレベルなのですね。解りました。」
「では話をさせて頂きます。彼は今は普通の人間ですが、来世に置いて一柱の神になる可能性があるのです。」
これにはシスター全員はざわついた。この世界が出来て以来神は、女神マイン以外に神は居ない。
それなのに、もう一人神が生れる可能性がある。これは考えられない事だった。
「それで、私達は一体何をすれば良いのでしょうか?」
「とりあえず彼、ソードを教会で保護して欲しいのです。」
「彼、いや、ソード様はどちらにおられるのでしょうか?」
「シュベルターの鉱山で働いています。」
「まさか、奴隷召喚ですか?」
「その通りです。ですがあれは勇者召喚に近かったはずです。」
「畏まりました。勇者召喚であればそれは教会の管轄です。それを盾にシュベルターと交渉して保護いたします。」
「場合によっては私も力を貸します。最優先で対応お願い致します。」
「畏まりました。教会の威信にかけて保護してまいります。」

マリアは聖女になって初めての大仕事に体を震わせた。

鉱山にて ソードの力
ソードが部屋で休んでいるとノックが聞こえてきた。
「はい、どちら様ですか?」
ソードは男なのでこの辺りはしっかりしている。
責任者のマチルダとはいえ男のソードの部屋を訪れるにはノックが必要だ。
「マチルダだ。ソードお前は今日もトイレの掃除をしたのだな。別に今日はしなくても良かったんだぞ」
「汚れてしまうと落とすのが大変そうだったので、問題が無いなら定期的にさせて頂こうと思っています。」
「そうか、すまないな」
「いえ、別に好きでやっている事ですので気にしないでください。」
「そうなのか、そういえば食堂の方も手伝っていると聞くが大変では無いのか?」
「別に大変とは思いません。好きでやっていますので」
「それも好きでやっているのか」
「はい、食堂の人には大変良くして貰っています。昨日はお皿の洗い方と野菜の切り方を教わりました。手際が良いと褒めて頂いて、今日はスープも作らせて頂いたんです。」
「そうか、良かったな。」
「はい、今日のスープは結構自信があるんです。」
「そうか、後で食べさせてもらうよ。」
(嬉しそうだな。後で貰ってみるか)
「有難うございます。」
「そんな朝から頑張っているソードには大変すまないのだが、今日はこれから鉱山へ行ってもらう。」
「鉱山ですか?」
「あぁ、ここは鉱山で働く者の施設だからな。そこでの仕事が本当の仕事だ。」
「頑張ります。」
「だが、無理をしなくて良いぞソードは男だからな、出来る事だけして休み休みすれば良い。」
「有難うございます。」
マチルダは普通ならこんな事は言わない。普通は奴隷とはさぼる者だからだ。だが、一つ言えば十行動するソードに対してだからこその労いだった。
マチルダに連れられて鉱山へと向かう。
馬車は使わず歩いて20分位の場所に鉱山はあった。
鉱山に着くと管理者の詰め所による。
「ソードを連れてきた。後は頼んだぞ」
「はい、お任せ下さい。」
「マチルダ様、有難うございました。」
「道案内も仕事だ気にするな。」
「はい」

「君が召喚奴隷のソード君だね、宜しくね」
「はい、宜しくお願い致します。」
「私の名前はクラウドと言います。クラウドと呼んで下さい。」
「はい、クラウド様 所でクラウド様、僕は此処で何をすれば良いのでしょうか?」
「様はつけないで良いよ。私はマチルダ様みたいな貴族じゃないからね。君は鉱山でただ一人の男だから重作業では無く軽作業をして貰おうと思う。」
「畏まりました。」
「後、何かトラブルが起こると困るから、私達が離れて見ているから困ったら頼ってもらって構わないよ。」
「はい、有難うございます。」
鉱山の作業場につくとソードは大きい声で挨拶をした。
「ソードと申します宜しくお願い致します。」
一瞬周りの奴隷が手を止める。
マリーだけが面識があったせいか手を止めずにすぐに挨拶を返した。
「ソード君、二日ぶり宜しくね。」
それで皆が膠着から戻った。
「「「宜しくね、ソード君」」」
「自己紹介はすんだな。男が居るからって色目を使わずしっかり仕事しろよ。」
そそくさと奴隷たちは作業へと帰って行った。
「軽作業と聞きましたが、僕はいったい何をすれば良いのでしょうか?」
「うん、とりあえずは此処で作業を見ているだけで良いよ。まぁここがどんな仕事をしているか知って貰うのが目的だからさ」
「はい、、」
だが、暫く作業を見ているとソードはそわそわし始める。
「あの、クラウドさん、僕も作業に加わらせて貰えませんか?」
(マチルダ様のいう様な性格ならやっぱりそういいだすよな)
「うん、解ったよ。無理はするなよ。ここから見ているから、他の人に聞きながら出来る事だけすれば良いからね。」
「はい、頑張ります。」
(良い笑顔だな)

ソードはまず最初に、小さい少女がトロッコの様な物を押している場所へ走っていった。
「それ重そうだね」
「うん、大丈夫仕事だから。」無口な少女の顔に少し朱が入った。
「ちょっと押させてくれる?」
「どうぞ、、、頑張って」
(だけど、これ普通の人には押せないんだけど)
「うん、大丈夫それ程重くない、、、手伝うね」
「えっ そうありがとう」
(おかしい、それとても重いのに)
「君はまだ小さいんだから無理しちゃ駄目だよ。」
(そ、そうか勘違いしちゃってるんだ。これは私の種族の特徴なんだけど、、、でも、こんな美形の男の人の傍に居られるならいいかな)
「うん、お兄ちゃんありがとう」
「じゃぁお兄ちゃん頑張るよ」
ソードが剣であった頃誰にも頼られるようなことは無かった。まして家族の笑顔なんて経験が無い。記憶が無くても体とても嬉しがっていた。だからソードは必要以上に頑張った。
小さな少女に良い所を見せたい。
だから、彼女より何倍も大きな石を持ち上げ片っ端からトロッコに押し込んで、押していった。
彼女はと言うと「お兄ちゃん凄い、凄い」とはしゃいでいた。
気が付くとソードは大量の鉱石を積んだトロッコを20往復させていた。
「凄いねお兄ちゃん今日のサヤの分のお仕事全部終わっちゃったよ。はい、お水」
「ありがとう」さり気なくソードはサヤの頭を撫でた。
サヤは顔を真っ赤にすると「今日はありがとうねお兄ちゃん、またねー」手を振りながら去っていった。
クラウドはそんな様子を驚き見ていた。
(サヤはハーフドワーフだぞ、ハーフだから本当のドワーフより力は劣るが、それでも300?のハンマーが使える。そのサヤが半分の鉱石を積んでどうにか押す事の出来るトロッコを山ほど積んで軽々なんで押せるんだ)

次にソードは鉱山の深い部分へと向かって行った。
離れてクラウド達もついていく。
ソードは奥でツルハシを使っている人を見つけると近づいていった。
「それって振るの大変ですか?」
「あぁ重いし大変だな、、、えっ男? 何でいるの?」
「召喚奴隷のソードと申します。えーと」
「私はアマンダだよ」
「それちょっと持たせて貰っても良いですか?」
「あぁ別に構わないけど、怪我しないようにね」
「あっ思った程重くないですね。これなら僕でも充分使えます。」
「そっそうか」(それ優に100?超えているんだけど、、、)
「じゃぁ少し休んでいて下さい。僕がやりますから」
「えっ休んでいいの? じゃぁお願いしようかな。」
(私の仕事を変わってくれるような奴なんて居ないと思っていたよ。しかも、それが美形の男、多分十分と続かないと思うけど、その気持ちだけでうれしいな)
「はい頑張ります」
だが10分はおろか1時間たってもソードはツルハシを振るっていた。
「君は凄いね」
「まだまだ大丈夫ですよ」褒められたソードは更にそのスピードを上げる。
結局ソードは2時間の短時間でその場所を掘りつくしていた。
「本当に凄い、、、まさか最後までやり遂げるとは、私以外でここが務まる人は居ないと思っていたんだけど、、、」
「また今度手伝いに来ますよ」
「悪いな」
ソードは手を差し出す。
「えっ何?」
「握手です。」流石のソードも自分より背の高い女性の頭は撫でなかった。
「わ私とか?」
「あぁ本当に今日はありがとうな」アマンダは顔を赤くしながらしっかりとソードの手を握った。
そして去っていくソードをずうっと見つめていた。

今度も又クラウドは驚いていた。
(アマンダはスタイルが華奢に見えるが、ここに来る前は一流の冒険者だったと聞く。しかもパーティでの仕事はタンク役で重装備を装備していた。その力を羨んだ者たちは陰口でオーガとのハーフだなんて言いまわっていた位に力があった。実際にはオーガの血なんて入っていないが、素手でオーガを仕留めた事もあったらしい。実際にはオーガ以上の化け物だったわけなのだが、足に事故で怪我を負い引退。戦闘しか出来なかった彼女はここまで落ちてきた。だが、力だけなら当時と変わらないはずだ。そのアマンダがようやく使える特注性のツルハシをソードは使っていた。そんな力のある男は見たこと無いよ)
「おーいソード今日はもう終わりにしようか」
ソードが足を向けていた選別の仕事をしていた女性たちが悔しそうな顔をした。
「あと少しだけ、あそこを手伝っちゃ駄目ですか?」
「ソードが良いなら別に構わないけど。」

「ようやくここへ来たねソード君」
「あっマリーさん宜しくお願いします。」
「うん任せて」

30分後、、
「いや、筋がよいね、もう教える事何もないや」
「マリーさんのおかげです」

「ソード流石にこれ以上は駄目だ、他の者の仕事が無くなる。」
「はいクラウドさん」

「じゃぁ皆んなまた明日」
「「また明日」」
ソードは鉱山を後にする。

クラウドはマチルダに今日の事をしっかりとソードについて報告書を提出した。勿論、褒めちぎって。
この報告書を見てマチルダが頭を抱えるような事になるとはクラウドは思っていなかった。

マチルダの憂鬱
マチルダはクラウドの報告を聞くと頭を抱えた。
ソードの事を考える。
男なのに性格は良く誰にでも優しい。
努力家で誰もが嫌う様な事でも率先してやる。
ここまでなら、素晴らしい男だな、それだけの評価だ。
実際に厳しい仕事も一生懸命するソードの姿には心が痛んだ。
こういう者を召喚して奴隷にするのは如何なものなのか?そう思った。
だが、ここからはそうは言ってもいられない。
ドワーフを超える怪力に一流の冒険者を超える体力。
そこから導きだされる答えは一つしかない、勇者だ。
実際にどういう奴隷なのかソードについて調べると、どうやらソードは貴族の遊びで呼び出されたようだ。
ソードについての名簿を見ても、貴族による召喚。そう書かれているが、それを命じた者の名前も家名すら伏せられている。
その事から考えるとあくまで憶測だが、召喚魔法を見たい。そう思った貴族の子供が魔術師に頼んで召喚を行ったのだろう。
そして、色々と事後処理が面倒くさくなったので、適当な事を言って鉱山へ送った。
その辺りが真相のような気がする。
これだけの美形なのに気が付かないのは気になるが、貴族はいちいち奴隷を調べたりしないので見落とされたのかも知れない。
名簿を見るとソードの召喚した内容が書かれている。
でだ、いったいこの魔術師は何なのだ?きっとアホに違いない。
30人以上が召喚される魔法で1人しか召喚されなかった。
それはソード一人で30人分の価値がる。そう考えられないだろうj。

「そんな事も解らんのか。」

とりあえず、この話は立場として上にあげる。
間違ってソードを召喚してしまった貴族の事などは知らない。

「勇者召喚の可能性のある者が居る。」

私はソードについて書くといそいで王宮へと送った。

聖女とシスター
女神マインが去った後すぐに聖女はシスター達と会議を開いた。
「皆様、先程のマイン様の話は聞かれましたね。我々は一刻も早く行動を起こさなくてはなりません。」
「女神様が顕現されてまでの事、これは教会にとっては最重要事項です。」
「まず、私は聖女の名前でシュベルターの国王に手紙を書こうと思います。その内容は、女神様が顕現され、聖人が召喚された事。そしてその聖人がシュベルターの鉱山で不当に働かせられているので保護したい。そういう内容です。来世に置いて神になるかも知れないそれだけは伏せさせて頂きます。」
「ですが、シュベルターが聖人様の保護を渋ったら如何なさいますか?」
「その時には聖人を国賓扱いではなく奴隷として扱った事への追及。及び勇者召喚に近い状態の召喚をしたのに教会に報告しなかった事を追求します。場合によっては国王の破門も視野に入れて交渉します。」
「はっ破門ですか? 流石にそこまでの事はしなくても良いのではないですか?」
「貴方は何を聞かれていたのですか?やがて彼は一柱の神になるとマイン様は言われたのですよ。もし、マイン様が誘拐されて奴隷にされていても貴方は同じ事が言えますか。」
「私が間違っていました。そんな人間がもしいたら死をくれてやります。」
「そうです。それこそ立派なシスターです。」
「話を続けます。そして手紙を送ってから1日後に私と、教会の主だった者はシュベルターへと向かいます。」
「待って下さい。通例では返事を待ってから向かうのではありませんか。」
「シュベルターの国に考えさせてはいけません。とは言え聖騎士を含み押しかけるのですから、混乱を起こさない為、1日遅れとしました。」
「聖騎士まで繰り出すのですか?」
「何を言っているのですか? 将来の神を迎えに行くのですよ?それは伏せていたとしても聖女が聖人を迎えに行くのです。聖騎士の100や200連れて行くのは当たり前でしょう? 聖女以外の者が現れたのです。大昔に勇者が現れていらいの事ですよ。貴方たちは歴史的瞬間に立ち会うのです。その事を考えて行動しなさい。」
シスター達はその聖女の言葉を聞くと感動に打ち震えた。
そして、すぐに行動に移すのである。

ああ聖女様
聖女とは女神マインより祝福を受け誕生する。
この世界に1人しか居ない存在、そして勇者や賢者、大魔道を導く崇高な存在である。
勇者と聖女はどちらが偉いか?その話は良く持ち上がり、勇者の方が偉いという話もあるが実際には聖女が導く事から同等と扱われる事の方が多い。
だが、勇者や賢者、大魔道は、この世の危機が起こらないと現れない。だが、聖女は女神マインの元必ず現れる。そして長い間、平和が続いたので、聖女以外は現れいなかった。
その為、聖女の権力は凄まじく、この世界においては王ですら頭が上がらない。
この世界は一神教の為全ての人々は女神マインを崇拝している。
例え、国王に忠誠を誓った貴族や騎士であっても女神マインを崇拝している。
つまり、周りに居る者すべてがマイン教徒だ。
その為、国王であっても聖女や教会を敵に回したら相次ぎ離反されるので王ではいられなくなる。
だが、聖女とは聖なる女性である。決してその権力を振るうことは無い。
女神マインの願いや人々の平和という例外を除けば。
女神マインが顕現してまでの願い。自分以上の存在。聖女がそれを振るわないわけが無かった。

聖女の名前の元に集められた聖騎士は総勢500名
その総ての騎士がミスリルの鎧を身に着けて白馬に乗っている。
その中央に聖女とその御付きのもののみが乗る事が許されるユニコーンの馬車が鎮座していた。
又、その後ろには聖職者が乗る馬車6台が連なっていた。
これを用意するのに半日しか掛からなかった事でも聖女の権力がどれほど強いのかが解る。

そして、そんな権力を持つ聖女はと言うとソードの事で頭が一杯だった。
マリアは生まれてすぐに祝福を受けた。
聖女として祝福を受けたマリアは両親と離れ教会で生活を送る事になる。
両親との絆はその瞬間から無くなる。今後一切マリアと会う事が出来ないその条件が課されたが
マリアの両親は教会から貰った莫大なお金の為、悲しむことは無くむしろ喜んだ。
教会では女神マインと教義を勉強する。
その勉強が済み女神から神託を受ければもう既に聖女として扱われる。
その瞬間からこの世界の総ての者はマリアより下の者となる。
例えまだマリアが幼女であったとしても実質、ナンバー1の実力者となる。
これが人類に危機的状況が迫った状態であれば 勇者、賢者、大魔道が現れる。
そうすれば対等な存在も現れるのだが、平和なので居ない。
この世に存在する聖なる者はマリア一人だ。
その特別な扱いをされることがマリアには苦痛だった。
まだ、マリアが小さかった頃、抱っこされている子供を見た。
マリアもまだ子供だったのでシスターに抱っこをねだった所「聖女様を抱きしめるなんて滅相もありません。」その一言でとりあってくれなかった。
又、他のシスターが恋愛の話をしてていたので加わろうとしたら「聖女様は清いままで居なくてはいけません。」そう言われ妙齢のシスターに手を引っ張られた。
女神マインの教えは意外にゆるくシスターといえども自由に恋愛は出来る。
最も、男性が圧倒的に少ないので忙しいシスターは圧倒的に恋愛弱者なのだが、それでも建前上は自由だ。
ただ、この自由恋愛が出来ないたった一人の存在が居る。
それが聖女だ。
聖女だけが神聖視されて自由に恋愛が出来ない。
最も、もし自由な恋愛を聖女が許されても、誰も彼女の相手は出来ないだろう。
もし王族に生れ、更に貴重とされる男に生れても神に最も近いマリアの相手は出来ないだろう。
もし、悪い事をした場合は女神マインに話がいってしまい、神罰が下るかも知れない恐怖は計り知れない。貴族や王族等地位の高い者程、マリアを怖がるだろう。
だから、マリアは女としての幸せは諦めて聖女として生きる事を決めていた。

ただ、そんな聖女マリアでも女らしさを見せる事がある。
それは勇者の伝説を読む時だ。
勇者の伝説は昔の聖女が書いたとされている。昔は本当にあった事とされていたが近年になって実は創作だと分かった。それは聖女と結婚した勇者が居なかったからだ。
内容は簡単で、簡単に言うと勇者と聖女が冒険をし、苦難の末結ばれる話しである。
この聖女が結ばれる。そのたった一文がマリアにとって唯一のラブロマンスだった。
つまり、聖女の恋にとって唯一許される恋愛が、対等の存在である、勇者や賢者との恋愛だった。
(大魔道は魔法使いなので教会では余り評判は良くない。)
ソードであれば、間違いなくそれらのうちの一つは貰えるはず。
その事を考えるとマリアはつい口元が緩んでしまう。
「ソード様、今マリアが参ります。」
聖女は教会の者を引き連れシュベルターへと向かって行く。

ベルハイム国王は青くなる。
私はシュベルターの国王ベルㇺハイム シュベルター ドレイクである。
今私は大変胃が痛い思いをしている。
鉱山を任せているマチルダ卿から手紙が届いた。
ただの手紙で無いのは見ただけで解る。
いつもの報告書と違いロウ印でしっかりと封がしてある。
これはつまりこの国の正式な書面となる。
つまりは重要文書という事だ。
重要文書とはいえ鉱山の事だどうせ奴隷が逃げたそんな所だろう。
そう思い封筒を開いた。
その瞬間私は手が震えた。
(勇者だと、、、これはまずい、まずすぎる)
奴隷召喚位であれば正直どの国でも行われている。
教会は余り良い顔をしていないが、文句は言ってこない。
だが、勇者に限っては別物だ。
勇者召喚は基本教会以外行う事は出来ない。
又、勇者、賢者、の所有権は教会にあり、王族と言えども所有する事は出来ない。
しいて言えば大魔道のみ教会が嫌うので王家に限り所有が認められる。
もし、間違って召喚した場合は教会にすぐに報告する義務があり、教会に引き渡す間は国賓として扱うと決められている。
実際に大昔に賢者の召喚に成功した国王が教会に報告せずに所有しようとした事があったが、その時は教会は国王を破門した。 その結果、その国の国王のいう事を家臣は聞かなくなり引退を余儀なくされた。正直それでも甘いという者も居たのだ。
今回の召喚に関わった貴族と魔術師は重罪にするとして、勇者かも知れない青年にはきっちり詫びなくてはならない。そして教会に引き渡す時にはこちらの弁護をしてもらう必要がある。流石に勇者その者が許してくれていれば、罪は問われないだろう。
その為には教会に引き渡す前に彼に会い、その後は快適に暮らして貰う必要がある。
(今すぐ鉱山に行かなくては)そうベルㇺハイムが考えていると侍従が入ってきた。
「なんだ、この大変な時に」
「国王様、教会の聖女様からお手紙が届きました。」
私は恐れ恐れ手紙を開いた、、、まずいまずすぎる、、聖女はソードの存在を知っていた。
そしてこちらに向かっている。
今は少しでも挽回する為に行動をしなくてはならない。
「今すぐ鉱山へ行く、宝物庫から宝剣と宝杖も持ってこい。」
「何故王自ら、鉱山へ行く必要があるのですか? そして何故に国宝を二つも持ち出すのでしょうか?」
「今は、時間が惜しい、詳しくは馬車で話す。近衛の中でも見栄えの良い者を揃えろ」
「畏まりました。」
「後、テレジアは今どうしている?」
「王女様であれば多分今は座学の時間だと思います。」
「一緒に連れて行く、一番上等なドレスを着させるように。」
「畏まりました。」

シュベルターには2人の王女が居たが今は長女は嫁いで居ない。
本来なら婿を取るのが当たり前なのだが先方の王家がどうしても王子を手放さなかった
国としてはどうしても同盟を結ぶ必要があったので嫁として出した。
最も、長女本人が相手にベタ惚れしていたから問題は無い。
ただ、残念な事にこの国は8歳のテレジアしか王女はいない。
これではソードを篭絡は出来ない。
だが、ベルハイムは聖人と思われるソードと少しでも縁が持てればと思い連れていく事にした。

ベルハイムはテレジアを連れて近衛兵30名と共に鉱山へと向かった。

馬車の中にて(国王サイド)
テレジアは驚いていた。
今まで母王様がこんなに動揺している姿は見た事が無い。
過去、どんなに困った事があろうと毅然としている母王の姿はテレジアにとって憧れの姿だった。
父が無くなって、姉が他国に嫁いでからはいっそう母王への思慕の思いは強くなった。
それが、いつも冷静な母王様がこれ程取り乱している。
そんな姿をテレジアは初めて見た。
「母王様、いきなり鉱山へ行かれるなんてどうなさいましたの?」
「馬鹿貴族の息子がやらかした。」
「いったい、何をやらかしたのですの?」
「聖人様を召喚した。」
「それは教会に恩を売るチャンスなのではないですか?」
「すぐに報告があればそのように出来た。だが、馬鹿貴族の息子は報告もせずに聖人様をそのまま奴隷にして鉱山へ送ってしまった。」
「なっ聖人様を鉱山へ送るなんて何を考えていますの。シュベルターを潰す気なのかしら?即刻処分すべきですわ。一体何処の誰がそのような馬鹿な事をされたのですか?」
「それはテレジアが知る事ではない。今頃にはもう処分が終わっている頃だ。」
「解りましたわ、聞かない事にいたしますわ」
「テレジアは聞き訳がよくて助かる」
「それで呼び出された聖人様は何の聖人様ですの?」
「教会の手紙には書かれていないが、マチルダ子爵の報告では勇者様ではないかという事だ。」
「勇者様ですか? あくまでマチルダ子爵の考えだ。だが聖人様である事は変わりない」
「何故、祝福の儀式も受けて無い人が聖人様とわかりましたの」
「直接マイン様が見られたそうだ」
「マイン様がその眼で見られたのですか?」
「あぁそして聖女様やシスターに顕現してすぐに保護するように頼まれたそうだ」
「そんな話しは聞いた事がありませんわ」
「だが、聖女様は嘘をつく事はありえない。そして、、明日には王宮にくるそうだ」
「聖女様が呼び出すのではなく、こちらに来られるのですか? しかもそんな急なお話しなのですか?」
「本当に早急な話しなのだ。だからこそすぐに聖者様を保護しなくてはならない。そして少しでもこちらの心象を良くしなくてはならない。」
「だから、私もなのですね」
「そうだ、王族二人で誠意を尽くす。まずはそこからだ」
「そうですわ。少しでもシュベルターを好んでいただけるように頑張りますわ」
「それもそうだが、テレジアよせっかく聖人様に会うのだから顔をしっかりと覚えて貰うように」
「はい母王様。わたくしも聖人様とお友達になりたですわ」

流石のドレイクでも8歳のテレジアに篭絡しろとは言わない。だが将来この国の王になるテレジアに聖人様に顔を覚えて頂く事は絶対にプラスになる。もう既に奴隷として扱ったのだからマイナスだろう。ここから少しでも国益になるようドレイク王は考えた。
だが、考えは良い意味で裏切られる事になるのだが、、、

鉱山パラダイス
ソードは今日もきっちりと掃除をし食堂の手伝いを終えるとマチルダには何も言わずに鉱山へと行っていた。
何も言われなくても直ぐに行動に移す。それこそがソードだった。
これは前世ではどんなに頑張っても何も出来ず、そして誰からの感謝もされなかった。
それが記憶に無くてもソードの中にあるのかもしれない。
ソードはただ、感謝される。笑ってくれる。それだけで嬉しいのだ。

「あっお兄ちゃん」サヤはソードを見つけるとあざとく走ってきた。
「そんなに急いで来なくても逃げやしないよ。」
ソードは優しく微笑む。
「うん、だけど少しでも早くお兄ちゃんに会いたかったから。今日もトロッコを押してくれる!」
「うん、いいよ!」
「わーいありがとう」サヤはソードに飛び込むように抱き着いた。
ソードはそんなサヤの頭を優しくなでる。
トロッコ置き場につくと、ソードは昨日以上に手早く重い鉱石をトロッコに詰め込んでいく。
「あの、お兄ちゃんサヤは何をしたらいいの?」
「サヤちゃんはまだ小さいんだからその辺りで遊んでたら良いと思うよ。」
「でも、そんな事をしたら怒られちゃうよ」
「じゃぁその辺りで休んでいてトロッコに積み終わったら一緒に押していこう。それなら怒られないでしょう」
「うん、お兄ちゃんありがとう」
(こ、心が痛い。だって私はドワーフなんだよ。本当はソード君よりずっと年上だし。でも言えないわ。こんなに綺麗な男の子に抱きついて怒られないんだもん。辞められないわこれ)
てきぱきと鉱石を積む、それが終わると
「それじゃぁサヤちゃん行こうか?」
「えっえっ何、、、お兄ちゃん」
サヤを抱き上げるとトロッコへと載せる。
「それじゃぁ行くよー」
「えっえっ お兄ちゃん速い、速い」
「まだまだ、速くなるよ」
「お兄ちゃん凄い、凄すぎるよ」
その光景を周りの奴隷は微笑ましく、、、見ていなかった。
(何、あのロリばばあ、、、本当はこの中で一番年上だろうが)
(何が、兄ちゃんだよあいつ30過ぎのばばあじゃん。10代のソード君がお兄ちゃんの訳ないだろう)
結局、今日一日分のサヤの仕事はものの一時間で終わってしまった。
そんなサヤを睨め付けている奴隷が沢山居た。
その事にはサヤもしっかりと気が付いていた。
ソード程の男を独り占めしていたのだから当たり前だ。
ソードとはまだ一緒にいたい。だけど周りの皆んなに嫌われたら困る。
だから、サヤはソードの手を引く。
「お兄ちゃん、サヤのお仕事手伝ってくれてありがとう。もう終わったから、今度は一緒にあのお姉ちゃんの所の仕事を手伝いに行こうよ」
「うん、サヤちゃんは偉いね、行こう行こう」
(あのロリばばぁ 解っているじゃん)
(流石サヤ、分かち合いの精神をわかっているね)
(サヤが一番ソード君と仲が良いね。皆んなサヤとも仲良くしよう)
(そうだね)
サヤと仲良くしてればソード君と仲良くなれるチャンスが貰える。
そう解ると、皆んなはサヤと口ぐら合わせをした。
「サヤちゃん、今日もソード君に手伝って貰ったんだ。良かったね」
「うん、おかげでもうお仕事が終わったから手伝いにきたんだよ」
「悪いねサヤちゃん、ソード君も本当にありがとうね」
「そんな事ないですよ」
「じゃぁ、昨日と同じく仕分けをお願いね」
「それじゃ、マリーさん達は少し休んでいてよ」
「えっ悪いよ」
「さっきから働き詰めでしょう。少しは休んでください」
(まだ1時間しか仕事をしてないんだけど)
「そっ そうじゃぁ少しだけ休ませて貰おうかな」
ソードは周りの皆んなと話しながら作業する。その仕事の正確性と速さは周り者は驚くばかりだった。
「すっすご過ぎる」
「お兄ちゃん本当に凄い」
「ソード君 凄い 速すぎるよ」
結局ソードはものの一時間で仕分けの作業の総てを終わらせた。
仕分けの作業を終わらせるとソードは鉱山の奥へと向かっていく。
サヤやマリーがついていこうとするがソードに止められる。
「駄目だよサヤちゃん怪我したらどうするの?」
「大丈夫だよお兄ちゃん」
「ほらっ手だって足だって擦り傷だらけじゃない。」
(ふぇ、手を握られちゃったよ。鉱山なんだから擦り傷なんて当たり前なのに)
「でもね、、」
「でもじゃないよ。サヤちゃんが怪我すると僕は悲しいよ。」
「わかったよ、、、ソードお兄ちゃん。」
「うん、せっかく今日の仕事が終わったんだからゆっくりしなきゃね」

「じゃぁ私達は大人だから手伝っても良いでしょう?」
「マリーさん達は可愛い女の子なんだからダメ」
「ほら、足もすりむいているし、手だって切っているじゃない、せっかく休んで貰いたいから頑張ったんだから水浴びでもして休んでいて」
(なっ私手を握られちゃった)
(私は足を触られちゃった)
(私、もしかして大切にされている)
「でも」
「いいから、いいから」
「「「うん、わかったよ」」
皆んなは顔を赤くして近くにイスに座った。
奥につくとソードはすぐにアマンダの手伝いに加わる。
アマンダは驚いた。ここ程きつい場所の手伝いに2日間連続で来るとは思わなかったからだ。
「アマンダさんは少し休んで」
「まだ始めたばかりなんだが」
「まぁそう言わずに」
「そ、そうかじゃぁ少しだけ休ませてもらうよ」
「はい、ゆっくり休んでください」
ソードはツルハシを昨日よりも速く振るった。
「おっ凄いなソードは」
(流石にこのペースじゃ途中でばてるだろう)
だが、ソードのスピードは速くなり止まらない。気が付くと2時間程ですべての仕事を終えていた。
「本当に凄いな、今日の分は終わってしまったよ」
「頑張りました」
「それじゃぁ他を手伝いにいくかな」
「アマンダさん、他も終わっているから休んでて」
「いや、幾らなんでもまだお昼だぞ」
「でも本当に終わってますよ」
「ソードがそう言うならそうなのだろうな、ではゆっくりさせて貰うよ」

結局、この日の仕事はお昼前に終わってしまった。
クラウドが少し目を離したすきに全ての仕事が終わってしまった。

鉱山の仕事は割り当てせいだ、その日の割り当てられた仕事が終わってしまえばその日の仕事は終わりである。
体を休めたい。そうは思う物のここを離れたらソードは帰ってしまう。
皆んなの視線はサヤに集まっていた。
サヤはそれの意味する事を理解すると
「お兄ちゃん遊んで」
「じゃぁ皆んなで遊ぼうか?」
「うん」

奴隷たちは遊び始める。

ベルハイム王鉱山に来る
その日マチルダはソードを探しまわっていた。
またトイレを掃除しているのかと思いトイレを見て見れば、今まで以上にピカピカに既に磨き上げられていた。
そして食堂に立ち寄りウイズリーに話を聞いたら既に手伝いを終えて何処かへいってしまったとの事だった。
「何処に行ったか解らないか?」
「解らないね。凄い勢いで野菜のカットを終えて。料理を少し教えたらすぐに物にして、スープ1品とメイン1品作ったら休まずすぐにいっちゃいましたよ。」
「まだ早朝だぞ、もうソードは手伝いを終わらせたのか?」
「あぁ 凄いですよ。ソードはちょっと野菜の切り方を教えたら、すぐにマスターしましたから。今日なんて4人がかりで数時間かけてカットする野菜や肉を1人で1時間かからずにカットし終わり、スープは昨日の物より数段美味しい物を作って、ちょっと基本を教えたらメイン料理を人数分きっちり作りあげました。」
「そう、、なのか」
「あれは記憶喪失になる前は相当やりこんでましたね。少し余分がありますから味見していきますか?」
「じゃぁ少しだけ、、、なっこれ、貴族の食べ物に近いじゃないか?」
「だろう?材料が悪くてこんだけの味をだすんだ。王都でも通用するよ? 私に預けてくれないか?」
「考えておく」
(多分、無理だが、まだ勇者とは決まってない。もし違ってたらウイズリーに預けるのも良いだろう。)
「あと、おせっかいかも知れないけど、ソードはきっと仕事をしていると思う。あの子がさぼる姿なんて思い浮かばないわ。」
「なるほど。」
(となると、後は鉱山か?)
マチルダは私室に戻ると鉱山に行く支度ををしていた。
ふと窓からそとを見て見ると、白馬に乗った近衛兵とその中央に白い豪華な馬車が見えた。
(王家の紋章の入った馬車だと、おかしい今日来るなんて何も聞いていない。しかも手紙を送った時期から考えると、届いてすぐに来たとしか思えない。つまりは、、、ソードが勇者だと王も考え、すぐに来たとしか考えられない。)
マチルダは傍に居る者だけに声を掛けて急ぎ馬車を迎える準備をした。
馬車がつくとマチルダは片膝をつきドアが開くのを待った。
「国王様には「マチルダ子爵殿急ぎだ、礼は要らぬ」」
「はっ」
(侍従が話もせず、ドアも自分で開けられて出て来られた、しかもテレジア王女までエスコート無しで降りてこられた)
「マチルダ子爵殿、すぐに聖人様に会わせてくれないか」
(勇者で無く聖人、、、だが間違いなくソードの事だ)
「それが、、、その」
「マチルダ子爵殿如何なされました?私も直ぐに聖人様に会いたいですわ」
「それが、、、今鉱山にいらっしゃいます。」
「鉱山にいらっしゃるのか? 子爵殿、何故手紙を送ってすぐに待遇を変えなかった?」
「私が気が付いたのは昨日です。今日の朝から待遇を変えようと思った矢先に、、、鉱山へ向かわれました。」
「ならば、そこに私も案内してもらおう」
「母王様、私も行きたいですわ」
「今回は特別許す、一緒に行こう」
「ありがとう母王様」
「済まぬが子爵急ぎ鉱山へ連れて行ってくれ」
「はっ、ただ鉱山へ馬車ではいけません。徒歩になりますが、、」
「徒歩でも構わぬ。急ぎ案内を頼む」

鉱山につきベルㇺハイムやテレジアが見ていると、そこには仕事もせず遊んでいる奴隷が沢山いた。
何やらトロッコに荷物も載せずに載せて貰って押して貰っている。
他の奴隷はその順番待ちで並んでいた。しかも、管理側のクラウドもそこに並んでいた。

時は少し遡る。
「所で遊ぶっていっても何して遊ぼうか?」
「あの、、、もしお願い出来るならさっきサヤちゃんにやっていた事お願いできませんか?」
「えっトロッコ遊びの事?」
「「「「「はいそれです。」」」」
「うん、いいよ」

そして今に到る。
「マチルダ子爵殿、ここでは奴隷を遊ばせているのかね、何だか楽しそうだの」
マチルダは顔が青ざめていた。だが正気に戻るとすぐに大きな声でクラウドを呼んだ。
クラウドはようやく自分の番が来て乗ろうとした時に声を掛けられたから嫌そうな顔で振り向いた。
振り向くと、そこにマチルダ、ベルㇺハイム国王、テレジア王女が居たので急速に顔を青ざめさせて。
「クラウド君らしくないな。これはどういおう事なのか説明して貰おうか?何故奴隷に遊ばせていたのか?」
「はいっ、今日の分のノルマを奴隷が終わらせたので自由にさせておりました。」
「マチルダ卿、鉱山の仕事はそんなに楽なのかね」
「いえ、そんな事はありません。日が暮れるまでどっぷり掛かる仕事です」
「でも、実際に仕事を終わらせて楽しそうに遊んでいるではないか?」
「クラウド、どういう事なのか説明を頼む」
「本当に昼過ぎには仕事を終わらせておりました。、、、正確には殆どソード君一人で、、、」
「マチルダ子爵、、、ソードとはもしや」
「はっ、手紙でお伝えした勇者の疑いのある者です」
「ならば、とりあえずここで様子を見てみようじゃないか?」

テレジア王女は話が面白くなかったので会話には加わらず、トロッコへ向かっていた。
「もしかしてトロッコに乗りたいの?」
周りは驚いていた。こんな鉱山に王女が居るのだ、周りを見ると国王まで居るでは無いか。
マチルダは止めに入ろうとしたが目でベルㇺハイムに止められた。
テレジアはベルㇺハイムを見たが笑っていたのでそのまま乗る事にした。
「えぇ乗せて頂けますか?」
「特別に先に乗せてあげるね」ソードは手をテレジアの脇にまわすと抱き上げ乗せた。
(なっ何て綺麗な髪なのかしら?王女の私よりお綺麗です。しかも、何て整ったお顔をされているのでしょう。まるで物語の王子様か勇者様ですわ。そそ、この方が聖人様に間違いありませんわ。何て凛々しいんでしょう)
そしてトロッコをソードは何時ものように押していった。
「凄いですわ、まるで風になったみたいですわ」
テレジアが一通り楽しんだ後、マチルダは声を掛けた。
「ソード様、お愉しみの所申し訳ないが良いかな?」
「あれっ マチルダ様は何で僕に敬語を使われているのですか?」
「その事についてもお話ししたいから一度私の部屋に来て下さい。」
ソードは奴隷の皆んなに「またねー」と笑顔で声を掛けると去っていた。
奴隷の皆んなも「ソード君またね」と寂しそうな笑顔で返した。
そしてソードが去っていた方向をいつまでも見ていた。

閑話 ある領主と魔法使い
私は村では珍しいメイジだ。
私は決して裕福で無い村の子供として生まれた。
普通に育てば恐らく、村人として農民か狩人になっていたはずだった。
私の運命が変わったのはブラックウルフの討伐にきた冒険者に両親が宿を貸した時だ。
両親は、村の為にブラックウルフの討伐にきてくれたのだから、宿代は要らないと代金の支払いを拒んだ。
冒険者も義理固いのかそれでは悪すぎると頑なにお金を支払おうとした。
結果、お金を支払わない代わりに冒険者は鑑定の魔法が使えたので私を鑑定してくれるという事で落ち着いた。
そして、私には人並み以上に魔力がある事が解かった。
その事がやがて男爵である領主様に伝わった結果。何と王都にある魔法学院に通わせて頂ける事になった。
魔法学園の成績は決して良い方では無かったが、領主様はしっかりと3年間の生活を見てくれた。
そして私は3年間の勉強をおえて村へと帰ってきた。
村へ帰ると両親は元より村人から領主様まで歓迎をしてくれた。
そして領主様には
「息子の片腕になって欲しい」と直々に頼まれた。
勿論、私はその場で了承した。
ただの村人だった私が将来の領主様の片腕になる。村一番の出世と言っても過言ではない。
領主様の息子様は貴族特有の傲慢さはあるものの、決して悪い性格では無かった。
そして何より可愛らしい少年だった。
領主になる男性の片腕たるメイジ、こんな幸せ普通はまず掴めないだろう。
だからこそ、自分の有能さを少しでも見せたくて、領主様や息子様の望むままに魔法を使ってみせた。
その都度頂ける称賛は大変ここちの良い物だった。
そして、領主様と息子様に「奴隷召喚を行って欲しい」そう頼まれた。
召喚魔法はどれも難易度が高い。
だが、奴隷召喚はその中では難易度は低く、莫大な対価が必要な代わりに成功率は高い。
最も、今では失われてしまった勇者召喚のように優秀な物はまずこない。
その替わり人数だけは多く召喚できる。
私は実は召喚魔法はまだ行ったことは無い。高い対価を持ち合わせてなかったからだ。
だが、奴隷召喚位なら失敗はしないだろう。
そう思い行う事にした。
この村は人口が少ない、対価を払っても人手は欲しいのだ。
奴隷召喚を行った。
奴隷召喚とは異世界から無理やり人を呼び寄せる魔法だ。
その事への詫びとして最初の挨拶は身分の高い物が行うのが習わしだった。
「シュベルターへようこそ奴隷の諸君、、、あれ一人しか居ないじゃないか?」
(おかしいあいさつの後の領主様の目が泳いでいる。)
「あれっ、おかしいですね、この術式なら最低でも10人多い時には30人以上の召喚されるはずなのですが」
私がその様に答えた後領主様はこの魔法を失敗と決めつけ話しを進めた。
更に私が「ですが、失敗したのなら普通は誰も召喚されないはずです。」と答えたら
もう、私には何も聞かずに召喚された奴隷と話し始めた。
領主様は召喚奴隷に記憶が無い事を知ると少しほっとした顔をされた。
その後は領主様は捲し立てるように説明をすると彼を鉱山送りにした。
これに私は違和感を覚えた。
この世界の男女比は1対3である。
男の多くは貴族や王族に好待遇で使えていたり囲われていたりする。もしくは夫として裕福な者に養われている者が多い。奴隷であってもそれなり好待遇に扱う。
例えば、この美麗な男を家臣に与えたら生涯の忠誠を得るのはたやすいだろう。又冒険者ギルドや商業ギルドに貸し出せば看板男になり、その収入は馬鹿に出来ないはずだ。
いずれにしても鉱山等に送る必要はない。又少なくとも私自身も鉱山に送られた男など知らない。

だが、今になってその男を鉱山送りにした理由が解かった。
国王様より領主様が勇者召喚を行った咎で罰を受けたからだ。
恐らく領主様は私が何かの間違いで勇者召喚を行ってしまった事に気が付いたのだ。
もし、他の貴族や実力者にその事がばれたらまずい事になる。そう考え鉱山送りにしたのだ。
普通であれば勇者の素養があっても祝福の儀を行わなければ勇者にはならないはずだ。
ならば、鉱山に送ってしまえば、まず他の貴族にはばれないだろう。
ソードという奴隷には過ぎた名前を与えたのは領主様なりの罪悪感からなのかも知れない。
だが、これは悪手だったらしく 何故かすぐにばれてしまった。
領主様は「すべての責任は自分にある。」そう伝え引退をした。
何も反論もせず自分が身を引く事ですべてを丸く収めたのだ。
私や息子様を庇う為に1人で罪をかぶったのだ。
幸い爵位も下げられずに隠居で済んだのは私が言う事でないかも知れないがついていたのかも知れない。
そして息子様が当主となられた。
本来一番責められる立場の私をお二人は責められなかった。
それ処か「勇者を呼べるようなメイジを従えられるなら安いもんさ」そう微笑まられたのだ。
私はこの方達に一生使えて行こうとそう思った。
元当主様は落ち着いたらソード様に謝りにいくそうだ。
その時に、もし私も同行させて頂けるなら一緒に誠心誠意謝ろう。そう思った。

さよなら鉱山
部屋につくといきなり三人から頭を下げられる。
「マチルダ様これって一体どうなされたのですか?」
「私から話しをさせて下さい。聖人様」
「聖人!僕は聖人様ではないよ」
「いえ、貴方様の事ですわよ。ソード様」
「貴方は?」
「お初にお目に掛かります。この国の王女をしております、テレジア.シュベルター.ベルクですわ」
「えっお姫様だったのですか?気が付かずに「待って下さい」」
「やめて下さい。ソード様、ソード様の方が私より立場が上でしてよ」
ソードは訳が解らず困りだす。
「とりあえず、何も言わずに私の話しをお聞きください。」
「わかりました」
「まず、貴方は奴隷では無く聖人様として召喚された事が解りました。」
「そうなのですか? 何か違いはあるのですか」
「全然別物です。聖人様とはこの世界において女神マインの使徒として召喚された者の事をを言います。」
「聖人様と言われても僕は何も出来ませんし、女神様についても知りません。
「その事については明日聖女様が来られて詳しくご説明頂けると思います。」
「そうですか? ですが、何も知らないと言うのも不安なので解る範囲で構いません教えて頂けないでしょうか?」
「解る範囲で宜しいのであれば」
「まず、聖人様とは、勇者、聖女、賢者、大魔道の4つの職業を指します。そして聖女様は必ずこの世に生れるのですが、その他の3つの職業を持つ者は何かが起こらなければ現れないと言われています。」
「では今この世界に何かが起こっているのでしょうか?」
「いえ、私の知っている範囲では何も起こっておりません」
「では、何故」
「それが全く解らないのです。聖女様のお話しでは女神様が顕現されて神託だそうです。ですが、今回の様なお話はソード様がはじめてです。」
「どこが違うのですか?」
「すべてが、、、違うとしか思えません。昔にあった勇者の召喚はこんな小さな規模ではなく、国レベルで行ったとされています。そしてピンポイントに勇者の資格のある者を呼び出します。」
「確か僕は奴隷として呼ばれたと思います。」
「それもおかしいとは思いますが、それよりおかしな事は女神様の祝福の儀を行わずに力を使われたことです。」
「僕は何もしていませんよ」
「あの、ソード様が押していたトロッコは物凄く重く、普通に推せるものではありません」
「ですが、あれはサヤちゃんという幼い少女でも押せるものですよ」
「マチルダ卿、説明をしてくれるかな?」
「はっ ソード様あのトロッコは自重が重く、通常は3人以上で押されるものです。」
「ですが、サヤちゃんは1人で押していました」
「サヤはドワーフですから、見かけとは違って1人で3人以上の力があります」
「そうなのですか」
「はい、そしてソード様が振るったツルハシも鍛えられた冒険者や騎士ですらようやく震える物です」
「ですが、そこまで重くは感じませんでした」
「それがおかしいのです。勇者様であっても普通は考えられない事なのです」
「マチルダ卿、そこからは私が話す。普通は聖人様でも召喚された直後ではそんな力が無いのが普通です。例えば勇者様を召喚された時は最初は普通の人でした。それが祝福の儀を行い勇者となり、初めてさまざまな能力を開花されたと伝え聞きます」
「でも僕は祝福の儀を受けていませんよ」
「それがおかしいのです。祝福の儀を受けた直後でも勇者は一般的な騎士に遅れを取っていました。強くなる為には数々の修行が必要であったと聞きます」
「僕も全然強くはありませんよ」
「少なくとも力は相応に強いと思いますよ」
「そうでしょうか?」
「そういう訳でソード様はかなりのイレギュラーなのだ。それはさておき、奴隷として扱っていた事をお許し下さい。この通りだ」
「私も一緒に謝りますわ」
「いや、国王や王女様は悪くはありません。責められるのはここの責任者の私だ」
三人して再び頭を下げた。
普通は王族は間違っても謝る事はない。仮に謝るとしても「ゆるせ」の一言で終わりだ。
「別に何も怒ってません。それに毎日が楽しかったです。頭なんて下げないで下さい」
「そっそうなのか、、、これはマチルダ卿一体」
「ソード様は確かに奴隷の生活を楽しまれてました」
「奴隷生活を楽しんでいたのか」
「そういえば、さっきのトロッコ遊びは面白かったですわ、王都でもあんなに楽しい遊びは無かったですわ」
「遊んだのは今日が始めてですが、皆んな良い人ですよ。トイレを掃除しても料理を手伝っても皆んなが褒めてくれました。奴隷の皆さんも皆んな良くしてくれました」
「マチルダ卿、これは本当の事なのか?」
「えぇ、、私が言うのもなんですが、率先して色々な仕事をしてくれました。これ程優れた奴隷は初めてです。私が怒鳴ったり、ムチを使わなかった奴隷はソード様がはじめてです。」
「おい」
「はっ申し訳ございません」
「それは良かった。所でソード様見た所鍛えられた体をしているが、もしかしたら前の世界では戦士や冒険者だったのではないか」
「僭越ながら、ソード様は記憶が」
「そうであったな」
「もし宜しければ国宝の宝剣と宝杖を持ってきたのだが試しに振って頂けないだろうか?」
最初にベルㇺハイムは宝剣を渡した。この剣は聖剣とは流石に比べられないが不破の術式が組み込まれた最高級の一振りだ。名前もこの国の名前を取り「シュベルター」と呼ばれている。
ベルㇺヘルムは近衛隊の隊長に目配せをした。
その様子をみた隊長は
(多分素人です)
そのように国王に耳打ちした。
だが、ソードの体の半分は勇者の物、そして流れている血には軍神アテナの血が混ざっている。
その体が血が戦い方を伝えた。
気が付くとソードは理想的な型で剣を振り始めた。
「綺麗」
思わず、テレジアが呟いた。
近衛隊の隊長は意見を撤回した。
「国王様、先程の話は撤回します。」
「どうしたのだ?」
「ソード様は多少変則ではありますが間違いなく一流の騎士です。」
「そうなのか? ソード様もう休んで下さい」
「はい」
「だが、お前と比べたらどうだ? 流石に倒せるのではないか?」
「お恐れながら、私はおろかここに居る全員で掛かっても正面からでは勝てないでしょう」
「それ程なのか?」
「ええ、伝説の勇者様は元より、子供の物語りに出てくる剣聖だと言われても納得するレベルです。」
「おおうそうか」
「流石はソード様ですわ」

「それでは今度は杖を振るってください」
この杖は名品ではあるが銘がある程ではない。
ソードが杖を持つと眩い光が発された。
これには、近衛隊の魔術師が反応した。
「光の属性、流石は聖人様」
「感動している所悪いが、説明をしてくれぬか?」
「はっ あの光は大昔しに勇者様のみが使われた光魔法に似ています。この世界には使える者は私を含めおりません。」
ソードの血には太陽神アポロンの血が流れている。光の属性があるのは当たり前だ。
「魔法は剣術と違いスペルが必要です。流石の聖人様でも使える物ではありません。」
だが、ソードはどうせ発動しないならと杖を上に掲げた。
その瞬間、光はまるで太陽のように輝き頭上で爆発した
「使えているようだが」
「無詠唱であの威力ありえません。 あれまともにぶつけたら城でも瓦解します。」
「見ればわかりますわ」
「あぁ凄まじいの一言につきる」
(ほ欲しい、何故これ程の者が自分の物にならないのだ。これでは又聖女のいや聖国に戦力を与えただけではないか?)
「母王様?」
「いや、何でもない。所でソード様、その剣と杖は献上致します。」
「こんな大切な物は頂けませんよ」
「確かに杖はともかく、その剣はシュベルター二つとない宝剣だ。だからこそソード様に刺して欲しいのだ、詫びの意味も含めてな」
「お似合いですわソード様、それに私もソード様に貰って頂きたいのです。」
「そこまで言われるなら」
ソードは笑顔で受け取った。
「色々と済まなかった、ソード様、これより私どもと一緒に王宮に帰ろう。勿論、最高のおもてなしを約束しよう」
ソードは悲しそうな顔になった。
「あのここに居てはいけませんか?」
ベルヘルム王は困った顔になった。
「ソード様一緒に王宮に参りましょう。最高のおもてなしを私もしたいですわ」
「解りました、、、ただ少しだけお別れの時間を下さい」
ソードは挨拶をしに戻っていった。
食堂につくとウイズリーに別れを告げる。
「ソード様か」
「いえ、貴方は料理の師匠だからソードで良いですよ」
「そうかい? ではソードこれを上げるからしっかり勉強するんだよ」
「これは一体なんですか?」
「私のレシピだよ。まぁ全部じゃないんだけどね」
「ありがとうございます」
一流の料理人のレシピは魔導書並みの価値がある。そう言われる。そのレシピを上げるという事はこの世界の弟子にとっては最高の事だ。そんな貴重な物をあげてしまう程にウイズリーは気に入っていた。
次に鉱山へ向かい、すべての奴隷に挨拶をした。
「今日は作業は終わっているのだろう? 少し位別れを惜しんでもよいぞ」
マチルダがそう言うと奴隷たちは泣きながら別れを告げる。
聖人様であればもう自分たちと会う事はないだろう。
時間が許す限り別れを惜しんだ。
最後にマチルダに
「お世話になりました」そう告げるとソードは王家の馬車へと向かっていった。

テレジア8歳のプロポーズ
王宮に着くとこれでもかと歓迎された。
騎士は元より身分の高そうな貴族まで頭を下げる。
僕は最初、ベルヘルム国王やテレジア王女に頭を下げていたのかと思っていたがそうでは無かった。
僕に対しても頭を下げていた。
「今日はささやかな宴を用意させて頂きました。ゆっくりと楽しんで下さい」
そうベルㇺヘルム王は言っていたが全然ささやかでは無かった。
どう見てもその場所には500人以上の人が居るし、食事は立食式で豪華な物が並んでいた。
「これでささやかなんですか?」
「聖人様の歓迎会なのですのよ?これなんてささやかな物ですわ」
壁に寄りかかりながらテレジアと話しをしていると貴族らしい人たちがこちらに来た。
テレジアは王女として間に入った。
「待って下さい!聖人様はお疲れなのです。明日は王女様にお会いする大切な日なのですわ」
「ですが、テレジア様自己紹介位宜しいでは無いですか?」
「そう言われると思いまして、入口の右側にペンと紙をご用意しましたわ。それにお名前や領地やアピールを書いて横の箱に入れて下さい。そうしたらその手紙は必ず聖人様にお渡ししますわ」
それなら、自己紹介より良いかもしれない。そう考え貴族は入口に向かった。
「凄いね、これはテレジア様が考えたの?」
「様は要らないのですわ、、、」
「じゃぁテレジアが考えたの?」
「そうなのですわ、私はこれでも王族なので昔からパーティで煩く付きまとわれますのよ。純粋に楽しみたかったので、手紙に書いて置いておけば見ます。そう伝えてから、手紙を書いたほうが得と思ったのか政治的な話は侍従に手紙を書いて渡されるようになりましたの。その応用ですわ。最も求婚者だけは今でも付きまとってきますわね」
「求婚って結婚の申し込みの事だよね。テレジアってまだ子供じゃないの?」
「ええっまだ8歳の子供ですわね。ですが貴族や王族ならこの位の歳で婚約者がいるなんて普通の事ですのよ。しかも男性が少ないから皆んな焦って婚約しますの。私としてはせめて15才までは結婚なんてしたくありませんが。決まってしまえば、王族なので義務として受け入れるしかありません。最も相手がソード様なら望んで婚約いたしますが」
「駄目だよ、テレジアみたいに綺麗で可愛い女の子がそんなこと言っちゃ」
「何いってますの。ソード様には比べ物にもなりませんわよ。美しい御髪に整ったお顔、引き締まったお体。そしてお優しい性格女性なら誰だって憧れますわよ」
「有難う嘘でも嬉しいよ」
「嘘ではありませんわ。私はこういう事では嘘は言いませんわ」
(絶対本気にしてませんわね)
「だったら本当にうれしいよ」
(まっまさかの脈ありですの)
「本当にそう思って頂いていますの?だったら私からプロポーズいたしますわ」
「まっまって、少し待って」
本気なのはわかったけど、これは多分憧れなんだと思う。
僕なんて愛してくれる人なんて居る訳ない。
多分、今は子供で勇者や聖人に憧れているから勘違いしているだけなんだ。
そしていつかそれから冷めたら嫌われる。
ソードはそう考えた。
(最も、他の者がそんな事を聞いたら貴方を愛さない人なんて居ない。そういいいきると思うが)
記憶はなくとも前世で剣だった心が自分の評価を下げる。呪縛のように愛されたりしないと思ってしまうのだ。
だから、自分に自信の無いソードは旨く答えられない。
考えた末にソードは行動する事にした。
「あのっ僕にもペンと紙をくれませんか?」
「ペペペンと紙ですわね すぐに持ってきますわ」
侍従に頼まずテレジアは自分自ら取りに行った。
ソードはペンと紙を受け取ると手紙を書き始めた。
書いた内容は
(もし、テレジアが15歳になっても僕の事が好きだったらその思いを受け取る。」そう書いた。
多分1年もしたら僕の事なんて忘れてしまうと思う。
だけど、プロポーズなんて凄くうれしい。
多分、僕はテレジアの事は一生忘れないと思う。
そんな事を今まで言ってくれた人は誰も居なかったんだから。
(あれっ僕は誰にも愛された事はなかったのか、どうして、、)
剣であった過去が自分を下へ下へと下方修正する。
だが、そんな悲しい心にソードに流れるヘラの慈母が答えない訳がない。
そして流れている愛の神エローズが答えない訳がない。
周りの人間は驚く。そこには神々しいまさに聖人がいた。
テレジアはその姿に見ほれる。そして目が離せなくなった。
「テレジア、これが僕の気持ちだ。ちょっと恥ずかしいけどね」
その笑顔に魅了されながらも受け取る手が震える。王女の戴冠の儀式以上に緊張しながら手紙を受けとった。
そして、手紙を受け取った瞬間顔は赤くなり、涙が止まらなくなった。
「ソード様、ありがとうございます。」
そう何とか返事をすると手紙を宝物のように抱きかかえた。
「あの」
「わたわたくし、母王様にご報告に行ってきます」
そう答えるとテレジアは走っていってしまった。

もうテレジアには他の男性は目に移らないだろう。
この世で一番美しい男性にプロポーズを受け入れられたのだから。
ソードは子供と考えていたかも知れない。
直ぐに忘れてしまうそう思ったかもしれない。
だが、テレジアの心が変わる訳はない。
正に物語のなかの聖人様が自分の所まで降りてきて受けてくれたのだから、、、

「はっ母王様」
「どうしたのだテレジアノックもせずに、お前らしく無いじゃないか」
「それ処じゃありませんの、、、ここれ」
「手紙だな、そんな重要な手紙なのかな」
「はっっはい」
「走ってきたのか?王族なのにまぁ良い見せて貰おう。何だ、ただの恋文ではないか、しかも何だこの上からの内容はは15歳まで気持ちが変わらないなら? まるでテレジアが懸想しているようじゃないか?で、何処の馬鹿貴族だ」
「ちち違いますの」
「貴族でもないのか、良し成敗だな。これは王家への侮辱だ、誰か教えてくれないか」
「ソ、ソード様、聖人様なのですわ」
「へっ」 ベルハイムは頭をフリーズさせてイスから落ちた。
「ここれをソード様から頂いたのだな、、詳しい経緯を教えてくれないか」
「わかりました」
「成るほど」
ソード様はテレジアを子供だと思って傷つかないようにこの様な手紙を書いたのだな。
確かに7年も先なら子供は忘れる。
だが、それは平民ならばだ、王族や貴族の子は約束は忘れない。
場合によっては生まれる前から婚約が決まり、その後結婚を前提に愛を育むのだ。
あの聖人様は何故か自分を下方修正する。
あの美しさにあの優しさ、確実に自分の物に出来るなら7年はおろか20年だってこの世の総ての女性は待つだろう。私だってもし自分の婚約者が彼だったら喜んで7年や10年待つさ。
「どうなさいましたの母王様?」
「いやぁテレジアは素晴らしい娘だ。そう思っただけだ」
成程な聖人様を篭絡するのは色気でもなんでも無かった。
良く考えれば鉱山にヒントはあったのだ。気を許していた者はみな純粋そうな者だった。
特にサヤという女性に気を許していたように思える。
純粋な者を好むか、、、まさに聖人様らしい。
居たのがテレジアで良かったのだ。
「母王様難しい顔をしてどうなさいましたの?」
「おい、、、急いでソード様を呼んできてくれないか?」
「はっ只今」
「テレジア、この話しはまとめて見せる。後は私に任せろ」
「はいっ母王様」

 ソードはベルハイムの部屋を訪れた。
凄く上機嫌なベルハイムと顔を真っ赤にさせて座っているテレジアが居た。
「いやぁソード様が娘と婚約して頂けるとは今日は何てめでたい日なのだ」
(さぁーどう答えられるのかソード様、、軽い気持ちでとか言うのだろうな)
「先に聞くけど、テレジアは僕で良いの」
「私は、ソード様が良いです」
「婚約って言っても7年もあるし、テレジアには他にもっと良い人が現れるかも知れないよ」
(やはり断り文句が出たな)
「私がソード様以外に目移りするわけありませんわ、、、だだだからこれは婚約なのですわ」
(ソード様は自分を下に見すぎだな、、お主を見たあとじゃ他の男はガラクタにしか見えんと思うぞ)
「困ったな」
(断れずに困っているのか、この辺りで一言言って奴隷召喚の詫びと相殺にしようか まぁテレジアは暫く落ち込むが仕方ないな)
「ソード様は私がお嫌いなのですか?」
「嫌いな訳ないよ。ただ本気で好きになったら歯止めが利かないと思うから、、」
小さくソードは答えた。
(なっ何だと)
「えっえっえー歯止めが利かないってなんですの?」
テレジアはトマトの様に顔を赤らめた。まるで火を噴きそうだ。
ソードはテレジアの手を取ると自分の胸にあてがう。
「ねっテレジアの事を考えると胸のドキドキが止まらなくなるんだ。」
「そっそっそそうなのでか、でもそれは私にとっては嬉しい事ですわよ」
「そう、なら良いんだけど、でもねきっと僕テレジアにデレるよ」
「ソード様がデレるのですか? それは私にとってうれしい以外の何物でもありませんわ」
「他の男性としゃべっているだけで不機嫌になるかもよ」
「仕事以外ではしゃべりませんわ」
「いつも傍にいたがるよ」「えぇっずうっと一緒ですわ」
テレジアはベルハイムの隣からソードの元に行くと抱きついた。
「私は、髪の毛一本からつま先まですべてソード様の物ですわ」

「コホン、何やら二人で楽しそうじゃのう」
「す、すいません、」
「7年何か待つ必要は無いのじゃないか」
「そうですわねソード様」
「そうですね」
「だが、テレジアよ幾らソード様が許されても第一婦人には成れないのはわかっておるか?」
「わかっておりますわ、、、聖女様の為に空けておく必要がありますものね」
「ちょっと待って下さい、、テレジアはそれで良いの」
「良いに決まってます。確かに独占したくないとは言いませんが、出来ない事はわかりますわ」
「なんで」
「ソード様が聖人様だからですわ」
「それが解っているならよい。ではソード様の第二婦人としての婚約で良いですか?」
「ちょっとまって、本当にテレジアはそれで良いの?」
「はい」
「じゃあ決まりだ」
何という行幸なのだ、テレジアが第二婦人になれば、聖女様やソード様に続くこの世界の3番目の権力者になる。これで喜ばぬ王族はおるまい。更に第一婦人の座をあけて置いたのだ聖女様を建てた事になる。何しろ聖女様は、聖人様クラスの者としか結婚は出来ない。 最初、奴隷召喚をした時にはどうしようと思ったが、落ち着いて見ればついていたとしか思えない。これで枕を高くして眠れる。ベルヘルㇺは要約落ち着く事が出来た。

聖女王都につく
聖女マリアは鉱山に着いていた。
だが、すぐには王城には行かず、状況を聞くためにシスターと聖騎士数人を鉱山へ向かわせた。
そして、マリアはその結果を持ちシスターが帰ってきた。
「私し、涙が止まりません」
「どうなさったと言うのですか? 何故貴方がなくのですか」
「鉱山へ行った時の事ですがまるで葬儀の時の様に静かでした。」
「鉱山ってそういう所では無いですか?」
「ですが、昨日までは違ったそうです。ソード様が居たおかげで明るかったそうです」
「そうなのですか?」
「はい、ソード様は誰よりも早く起きるとトイレ掃除をし、食堂の手伝ってから笑顔で鉱山へ行くのだそうです」
「聖人様であるソード様がですか?ですが私の知る限りでは異世界人は気位が高いと聞いたのですが」
「マリア様 恐らくはソード様の気位や気高さは他にあると思います。」
「今の話しの何処にそれがあるのですか?」
「マリア様、鉱山を侮ってはいけません。奴隷の作業の中で1番大変なのが鉱山です。トイレ一つとっても教会等比べ物にならない程多いし、作る食事の量もけた違いです。」
「それがどうしたと言うのですか?」
「皆が起きる前からしなくてはトイレ掃除は終わりません。しかもそれを1人で行うのです。そしてそれが終わったら、食堂へ行き手伝いをして料理まで作る。」
「ちょっと待って、男なのに聖人様は料理をされるのですか?」
「ええ 中々の腕前らしいですよ。」
「そして、その後に鉱山に行くのです。 すごいですねー」
「ただの土堀でしょう」
「何度も言いますが一番厳しい仕事が鉱山なのです。そこを誰に言われる事もなく進んで手伝っているのです」
「そうなのですか」
「はい、それも態々きつい仕事を選んで手伝うのだそうです。」
「凄いわね、それ」
「ドワーフの少女が困っていると、何百キロもあるトロッコを一人で押して、80キロもあるフルハシを振るい、皆んなで1日掛かる仕事を一人で半日で終わらたそうですよ」
「嘘ですよね、まだ祝福の儀も終えてないんですよ」
「全部、本当ですよ。サヤというドワーフの話しでは自分でも持ち上がらない物を楽々運んでいたそうです」
「ドワーフが持ち上がらない物?をですか」
「流石に時期に神になる方そう考えるべきだと思います。 そして何よりソード様の事になると鉱山の奴隷があんなに明るく話すのです。
「そうなのですか」
「はい。サヤという奴隷の話しではまるで兄妹のように扱って貰ったそうです」
「ちょっとまってドワーフなら子供に見えて大人よね」
「はい、でも彼女は言っていましたよ」

 本当の歳なんて言えなくなるじゃない。こんな薄汚れた奴隷のドワーフの頭を喜んで撫でてくれるのよ?私お風呂何て入って無いから臭いよね?それなのに家族の様に扱ってくれるの。シスターには解らないでしょうね。お兄ちゃんというだけで、こんな臭い女を抱きしめてくれるのよ私の人生で最高の幸せだったわ。

「そうですか、、、誰にでも優しく働き者なのですね」
「ええ、多分奉仕に身を捧げているシスターでもここまではしないと思いますよ。」
「そうだ、シスターもう一回鉱山に行ってくれます?」
「今からですか」
「そう。そのサヤってドワーフとソード様は兄妹のように過ごしていたのでしょう? そのまま従者にしたら喜んでくれると思うの」
「名案です。」
「これが教会に引き込む一歩かも知れません。頼みましたよ」

シスターは鉱山に行くとマチルダにサヤを譲って貰えないかと交渉した。
マチルダは困り、ベルㇺハイムに魔道具で連絡をとった。
ベルㇺハイムは「テレジアの付き人になるかも知れないから無料で渡しなさい。」
そう言うとサッサと切ってしまった。
困ったマチルダは
「無料で良いそうです。ただ条件があるそうなのでその辺りは直接国王様にお聞きください」
そうい答えた。
サヤはというと教会に行かされると聞くと渋った。
「私に力仕事や鍛冶以外の仕事が出来ると思う」
「ソード様のおつきの仕事だぞ」
「えっ、今すぐ連れて行って、何でもするよ?私」
急に掌を返した。
他の奴隷に挨拶に行った時に背中を思いっきり叩かれていたがその顔はとても幸せだった。

王城での話し合い 気がついたらお見合いにされていました。
聖女マリアは王城に向かう。
王城に着くと聖女マリアは休むのを惜しんで直ぐに話し合いの場を設けるよう頼んだ。
マリアは少しでも早く同じ聖人であるソードに会いたかった。
それは唯一自分が結婚出来るかも知れない男性への、女としての気持ちがあったのかも知れない。

マリアは聖女、この世界では1番偉い存在。勿論上座に座る。
向かい側にベルヘルム国王、ソード、そして何故かその横にテレジアが座っていた。
「所で、何でこの席にテレジア王女がおられるのですか?」
「その事については私からご説明致します。実はテレジアは昨日ソード様と婚約が決まりました。だから、ここに居させました」
「ご、ご婚約ですかへぇー でもテレジア王女は随分幼そうに見えますが、、幾つですか?」
普段冷静な聖女が動揺していた。
「8歳になります」
「8歳で婚約ですかへー」
(こんな子供に先を越されるなんて)
頭が旨く回っていない聖女にベルハイム王は話しを続けた。
「勿論、我が国は聖女様を蔑ろになんてしません。ちゃんと第二婦人で話しを納めました」
「第二夫人ですか?」
「ソード様は聖人様なんですよ、第一婦人はマリア様に決まっているではないですか」
「えーと、そそそそそうですね」
マリアはソードを見つめる。その人は女神より美しくその眼は湖のように澄んでいた。
「ソード様から見てマリア様はどうですか」
「凄くお綺麗ですね。」
「はぅ」
「そうでしょう、女神に仕えるこの世で一番尊い方です。こんなに美しい方が婚姻が結べないんです」
「結婚ができないのですか?」
「聖女様は基本、聖人様としかご結婚は出来ないのです ただ一人の存在ソード様を除いて」
「それって」
「はい、ソード様以外の方とは結婚が出来ないのです」
ソードは考え込んでいた。
「どうですかマリア様は結婚相手として」
「正直僕はまだマリア様の事は解りません。ですがこれ程美しく気高そうな人を僕は知りません。ただ、これ程の方が僕との婚姻を望む訳がございません」
(この方はどうして自分を下にみるのだろうか)
「ソそそそそソード様わたわたわた私しはソード様が宜しいのでしたらそのっ 結婚したいです。私は女神様に仕えているので他の男性とは恋愛も結婚も出来ません。どうか私を貰って、、、」
「良いですよ、そんな事まで言わなくても大丈夫です。勿論受け入れます。僕で良いんですか?」
「貴方が良いです」
「では結婚して下さい」
「はい」
「なにやら楽しそうですね、無事に話が済んだ事ですし正式に取り交わしをお願いします。」
結局、話は結婚の話しにすり替えられベルヘルム王の望むように進んだ。
祝福の儀も三人の結婚式もシュベルターで行う事になった。

マリアが我にかえった時は全てが終わり印鑑を押した後だった。

怒っていたのは
「マリア、貴方は一体何を考えているのですか」
シスターたちの元へ戻ると年老いたシスターに怒られる事となった。
「だって」
「だってじゃありません。祝福の儀も結婚式もシュベルターで行うのですか?」
「すいません」
「すいませんじゃありませんよ。しかも勇者召喚は追求は何もしないで、終わった事になってしましました」
「重ね重ねすいません」
「まぁ、しっかりと教会印を押して聖女様がサインをしてしまった以上もう教会は追及できないんですけど。」
「わかりました」
「何、不貞腐れているんですか」
「不貞腐れていません」
「そんなにソード様はお綺麗でしたか」
「ええっそれはもう、女神さまよりも美しい髪にりりしいお姿、聖女に生れて良かった。本当にそう思いました。」
「そうですか、終わってしまった事を文句いっても仕方ありませんね。聖女様も女って事で今回は許しましょう」
「ええ」
どうにかシスターに謝り、いつもの様に女神に祈ると、神託が降りてきた。
「マリア、聖人様の保護は如何なさいましたか?」
「無事保護しました。ご安心下さい。」
「そうですか、それはご苦労様でした」
「で祝福の儀は何時何処で行うのですか?」
「シュベルターの教会で行います。日時についてはこれから決めます」
「他に報告する事は?」
「、、、、」
「何故黙るのですか?」
「、、、、」
「聖女マリア、私は女神ですよ。すべて見ていました」
「そ、、うですか」
「結婚良いですねー」
「ありがとうございます」
「第一婦人ですか」
「はい」
「女神と聖女ってどちらが偉いんでしょうかね?」
「マイン様何を言っているんですか?」
「別に、聖女ってマリア以外でも良いんですよね」
「あの、怒ってませんか?」
「サヤって奴隷の子でしたっけ、健気そうですよね、聖女にしたら第三婦人になって第一婦人は譲ってくれそうですよね」
「、、、、」
「その前に聖女じゃなくなったら第一婦人は空きますね」
「すみません、マイン様、私はマイン様のお気持ちが解りませんでした。」
「だったら、行う事は解りますね。」
「はい、私が第二婦人になり、第三婦人をテレジアにそして第一婦人はマイン様、そういう事にすれば良いのですか」
「流石、マリアは聖女です。良く分かりましたね。」
「ですが、マイン様、神と人間って結婚できるのですか?」
「ソード様なら多分大丈夫です。」

マリアは仕方なくもう一度、夜中なのに王城へ向かった。ベルヘルム王はこれを了承した。そして前代未聞の祝福の儀と女神を含んだ結婚式が行われるようになった。

前代未聞の祝福の儀
前代未聞の1日が始まる。
まずは、祝福の儀が行われる事になる。
教会の中は王族、聖職者、貴族でごったかえしていた。
くだんのソードがどんな人物なのか見る為に仕事よりも何よりも優先して見に来た。
そして男女ともにその美しさに見ほれた。
そんな中、女神マインが顕現する。
普通は神託のみで行われるのだが、何しろ自分や聖女の夫になる相手なのだ大判振舞だ。
「ソード、さぁそこに膝磨づきなさい」
「はい、マイン様」
(なななな、なんて美しさなのだろう。実際の彼は遠目でみた彼とは比べ物にならない)
「それでは貴方に職を与えます。貴方はそのまま目を閉じて心静かにしていなさい」
女神の杖がソード方に置かれる、その瞬間眩ゆい光がソードの体から発された。
その光は一瞬爆発するような光となり誰もが目をつぶった。
「さぁ 聖女マリアよ彼の職を読み上げるのです」
(私があげたのは勇者、勇者なら女神との結婚も叶うはず)
「これ、本当に読み上げて宜しいのでしょうか?」
「勿論です。さぁ」
(勇者の職に驚いているのですねふふっ)
「はい、では読み上げます。ソード様の職は: 軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神、そして真の勇者です」
「へっ、、、そうですか」
(そうでしたか、基から神だったのですね。どこの高位神様でしょうか?私に眷属か自分の御身内を結婚相手として記憶を消して送ってくれたんですね。)
「女神様、、、どうされました」
「いえっ 聞きましたか? ソード様は私し女神マインの夫として存在する為に現れた神です。
今後は私に接するように接しなさい。 本来、神と人との結婚は認められぬ物です。ですが、ソード様は神になられる前に私以外に二人婚約者がおりました。その二人のみ私の名で認める事に致します。

そして結婚式へと進む。

結婚式
そのまま結婚式へと進行していった。
出席した者は動揺を隠せない。
女神が結婚するだけでも異常な事だ。
だが、出席者の多くは女神との結婚を甘く見ていた。
女神に愛されるからには勇者の素養があるのか程度に思っていた。
だが、よくよく考えて見れば今までの勇者で女神と結婚したなんて話は聞いたことが無い。
女神と結婚出来るという事は同じように神かも知れない。そういう事を考えてなかった。
ベルハイム国王は有頂天だ。
何しろ神と自分の娘を結婚させたのだ。
しかも、義理の姉という関係に女神と聖女までいるのだ。
逆に他国の王は苦虫をすり潰した様な顔へとなる。
今までシュベルターを下に見ていたが、これからはそうはいかないだろう。
しかも、新しいソード様は 軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神、真の勇者 と複数の職業だ。
真の勇者と言うからには今までの勇者以上の力があるのだろう。そういう予想がつく。
軍神なんて物騒な神に戦いを挑むバカな国はいないだろう。
そのソード様に女神マイン様、聖女マリア様この3人いや二柱の神に聖女、事実上この世界の最強戦力だ。

もし、魔王がこの世界に再び現れても最早恐れる事はなだろう、簡単に倒して終わってしまうのではないだろうか?
マイン様とマリア様とソード様は結婚するのだから、恐らく落ち着くのは聖国イスタリアだろう。
ただでさえ聖女マリアが居る国だから頭が上がらない。

そんな各国の首脳が悩んでいるなか結婚式は進んでいく。

そして愛の誓いに進んで行ったのだが、ここでシスターは困った事になった。
「あの誰に誓えば良いのでしょう」
4人は話し合った結果、この世界に誓った。
そして3人と1人は口づけを交わし無事夫婦となった。

全ては夢だった。
結婚式が終わり、無事に初夜を過ごして僕は眠りについた。

そして目を覚ますと僕は白い世界に居た。
「あれっ僕は結婚して、、どうしたんだろう」

「目覚めたかな?」
「貴方は誰ですか?」
「僕は夢の精だよ」
「夢の精」
「君はね女の子を助けて死んだんだ。」
「そうですよね、そして別の世界に転生したんですよね」
「良い夢をみたね」
「夢」
「そう夢、君の人生は絶望しかなかったろう? それじゃ次に何の希望も持てないだろう。だから夢を見て貰ったんだ」
「そうですか、本当に素晴らしい夢でした。」
「そうだろう、現実に恵まれない人程よい夢がみれるんだよ」
「そうですか、僕はどうなるのでしょうか?」
「普通に輪廻の輪に加わる事になる」
「そうですか」
「だけどね、そう悪くないぞ、君は今世で不細工だったから、飛び切りの美形にして貰えると思う」
「そうですか」
「まるっきり愛されなかったから、愛に恵まれた人生が送れるだろう」
「本当に」
「あぁ、しかも方輪だったからスポーツも万能だろう」
「そうかぁ、、ソードのようになれるかな?」
「努力すればなれるとも」
「ありがとう」
「うん、、、頑張れよ」

続行のお知らせ
先日、夢落ちで終わらせてしまったのですが、感想から励ましてくれる方がいました。

応援して頂き有難うございました。
この作品は昔にノートの走り書きに書いた物です。
体の弱かった私は(いまは逆に元気すぎる位です)小説を読むのがすきでした。
ですが、気に入らない結末や悲しい結末を読んだ時に、それを納得できずに「覆してくれるヒーロー」として作ったのがこのソードです。
最初の頃は旨く書けていたのですが、いざ自分で小説を書いて見ると世界をつくるのがこれ程難しいと初めて解りました。二次作品は他の人の世界に異物を放り込むだけで良いのに、一から小説をつくるというのは世界をつくる大変な作業なんだ。そう思いました。他の方の小説を読んでみると100位や300位でも物凄い世界観が広がります。

先日、感想欄から励ましの言葉を頂きました。だから書けないなりに頑張っていこうと思います。駄作になるのが怖く一旦終われせてしまいましたが、再開します。応援ありがとうございます。

ゼウスの苦悩
「ゼウス様、こんな仕事はもう2度とはしませんからね」
「夢の精、済まなかった」
「済まなかったじゃありませんよ、あんなに不幸だった剣がソードに生まれ変わって頑張っていたのに無理やり終わらせるなんて、、」
「仕方がないだろう? 勇者ならまだしも神だぞ、眷属とかなら良いがよりによって血や髪を分けた神の全部の力に目覚めた。軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神、そして真の勇者だぞ、、そんな者を他の世界にやるなんて大問題だ」
「だからって勝手に終わらせて良いんですか?」
「儂は全知全能の神ゼウスじゃ」
「私みたいな精霊が言う事じゃないかも知れませんが、神でも身勝手な事をしたらそれなりに報いを受けるかも知れませんよ」
「精霊のくせに、、、、」
「確かに私は神でなく精霊です。今回の件は神が動かせないから私に頼まれたのでしょう? この事をヘラ様やエローズ様が知ったらどうなるでしょうかね? 他の神もそうですよ。」
「何が起こるというのじゃ、、、何か知っているのか」
「良いですか、まず軍神の力があるのですよ?」
「それがどうしたというのじゃ」
「アテナ様はソードの事が好きだったから自分と同じ力に目覚めたソードと結婚を望むんじゃないですかね、、」
「、、、」
「美の神なんて大変ですよ。美の女神アフロディーテは自分の美しさが自慢です。そして今まで自分に釣り合う男なんて居ない。そう思っていたかも知れません。 そこに美の神が現れた。さぁもうその方しか見えなくなる。きっとソードの為なら何でもするでしょうね」
「確かにそうなるかも知れぬ」
「他の神だってソードのフアンが多い、、、どうなるか知りませんよ」
「だが」
「それにあちらの神はどうしますか。結婚したのに取り上げたのだから、最悪戦争になるかも知れません、体を与えたのはこちらかも知れませんが加護を与えたのはあちらのマイン様、、どうするんですか」
「なぁ、、、どうすれば良いんじゃろうか」
「あんた全知全能でしょう自分でどうにかするんですね」

女神マインの怒りと悲しみ
あの人は消えてしまった。
私はずうっと一人だった。
何もない暗い空間にただ一人生れた。
私は何をしたら良いんだろうか? 誰も教えてくれない。
長い長い月日を暗い中で過ごしていた。暗いのは嫌だった。
だから光を作った。
そして光を作ると白い世界になった。それでも私は一人だ。
毎日がつまらなかった。
私は一人が寂しかったから同じような者を造ろうとした。だが、どうやっても造れなかった。
一度、どうにか自分に似た生物を作ったが、一切自分に逆らわず従うだけだったので破棄した。
自分と違った考えをもった存在が欲しかった。だから、私は世界を作った。
そして放置した。私が掛かりつけで居ると自立心が育たないからだ。
どの位たったろうか? 
多分、数万年が過ぎた頃だろうか?ようやく自分たちで考え動く生物が現れた。
それらの生物を私は人と呼ぶ事にした。他にも生物は生まれたが、魔族と人族以外は知能が低く。見ていてもつまらない。
そのうち人族の中に私と会話出来る者が現れた。
今まで誰かと会話したことは無かった。
だが人族の中で喋れる者を見つけた。それが嬉しかった。
だから私はえこひいきをしてたまにお願いを聞いていた。するとその人物は私に多大な感謝をしてくれた。
その感謝の思いは凄く嬉しかったのでそれまで以上に保護した。
いつしかその人物は聖女と呼ばれるようになった。
そして人々から私は女神マインと呼ばれるようになった。
だが、そこからは何も起きなかった。どんなに頑張っても聖女以上の者は現れなかった。
聖女が幾ら気に入ったとしても所詮は人、精々が話が出来るだけだ、、、人間にとっての金魚と一緒だった。
ただお気に入りの金魚。ただ喋れるだけの金魚、、、それでも少しだけは気がまぎれた。
だが、そんな感じで人間を見ていると凄く悲しくなる。人間は結婚して子供を作り幸せに暮らす。
だけど私は一人ボッチだ。だから結婚も出来ないし家族も持てない。
仕方がない事だ、この世に神は一人なのだから、、、、
だがいつもの様に人間を見て見ると、1人異物が混ざっている事に気が付いた。
その異物は、聖女並みいや、それ以上に輝いていた。私の眼は彼から離れなくなった。
こんな生物は私には造れない。
そして見続けていると、彼の魅力がこぼれ出さないように何かされているようだった。
どこかの勇者が間違って召喚されたのか、、そう思って見たら、、神の力が宿っているのが解った。
 私は寂しさから解放された。いつまでも続く独りぼっちの世界、そこからようやくいつの日か抜け出せる。そんな希望が見つかったのだ。 
あぁすぐに自分の物にしたい。だけど、彼がここに来るのは多分人生が終わってからだ。
だが、あと80年位待てばこの孤独は終わる。待ち遠しくて仕方がない。だが待てない程じゃない。
そうだ、彼の人生を楽しい物にしてあげよう。奴隷何てさせてられない。
すぐに私は神託を卸した。しかも顕現までして、聖女に保護まで頼んで、、聖女が婚約して第一婦人と聞いた時には加護を取り消してやろうかと思う程、嫉妬した。
こんな事は初めてだった。 
そして、祝福の儀の時にはソードには沢山の神と名がつく職種があった。
嬉しかったもう待つ必要はなんいんだ。
だって同じ神なんだもの。神なら、私の世界でも暮らせる。
もう一人じゃない。そしてソードと私は結婚をした。まぁ余計な者二人も居るけど。
そして不思議な事にソードの加護のせいなのか時間切れもなく、人間界で生活が出来ていた。
そして彼ととうとう一つに成れた。その喜びは今迄味わった事はなかった。
最初は少し痛かったが彼に抱かれていると快感が混み上げてきてこれ以上ない程の幸せを味わった。
彼は慈愛の神であり、愛の神なのだから当たり前かも知れない。
二人もきっと同じだろう。最もテレジアはまだ子供なので先に寝かしつけたけど。
だから、私はソードをくれて私を幸せにした神に感謝したんだ、この上なく感謝したんだ。
だけど、朝起きたら私は又この白い世界に独りだった。
人間界を見ても泣いている二人はいる物のソードは居なかった。
二人は私がソードを奪って逃げたと思ったらしく怒っていたが、、神託を卸し事情を説明した。
私は許さない。私のソード、いやソード様を奪った者を、、、絶対に奪い返す。そう心に誓った。

変わる女神と聖女の心
マリアとテレジアは茫然としていた。
朝起きるとマインとソードが居なかった。
最初、女神であるマインがソードを独り占めしたくて自分の世界にお持ち帰りしたのかと疑ったがそうではなかった。
直ぐに神託が降りてきて、何者かにソードが連れ去られたという話しがあった。
その声は怒りに震え悲しみに満ちていた。
私達以上にこの神は怒っていたのだ。
「それで、相手は何者なのでしょう?」
「恐らく、私より高位の神」
「神なのですか?」
「そうよ、神の力を持つソード様を、女神の私から奪うなんて事それ以外の者に出来る訳がないわ」
「それでどうするのですか?」
「取り戻すに決まっているわ。例え相手を殺しても」
「か神を殺すのですか?」
「場合によってはね」
「そんな事はでき、、」
「そう出来ないのね? ならいいわ。別に一人でやるから、でも貴方の愛なんてそんな物だったのね」
「そんな事はありません。私はソード様を心より愛しております」
「そう、じゃあ、私と一緒に神を殺す、殺して殺して殺しまわれる」
「神を殺すのですか」
「うるさいわね、場合によると言っているでしょうに、だけどそこまでの覚悟が必要なのよ。相手は高位の神なのよ? 今の私では歯が立たないわ。そいつと並び立つにはね。私の神格を上げなくてはならないの。その為には優しい聖女なんかじゃ役に立たない。神を殺すのは貴方には無理。でもその覚悟は必要な事なの」
「解りました。テレジアと相談させて下さい。」
「そう、相談がいるのね。でも永くは待てないわ。」
マリアは驚愕した。ここまで恐ろしい神託ははじめてだった。あの優しいマイン様の面影はまったくなかった。
だけど、もっと怖かったのは自分も同じだった事だ。私は聖女だ、神殺しはおろか人だって殺したくはない、、、はずだった。だがマイン様から話しを聞いてからは、その神を殺したくて溜まらない。体の中をどす黒い物が支配している。冷静になろう。とりあえずもう一人の当事者テレジアと話し合わなくては。

テレジアの思い。そしてマリアも腹をくくる。
「そうですか、だった殺しましょう」
そんな言葉がテレジアから出た事にマリアは驚きを隠しきれない。
「あのテレジア、貴方8歳ですよね? 決断が早くないですか?」
「マイン様とマリア様は良いですよね? ですが、私はまだ8歳だからお預けです。」
「それが、、、」
「つまり、私だけソード様と繋がりが無いままなんですわよ、酷いですよね」
「だから、、何です」
「さっさと取り返して、せめて頭でも撫でて貰わなければ気が済まないですわ」
「それは、良いとして、貴方に神や人は殺せるの」
「技術という事なら殺せません、だけど、気持ちという事なら簡単ですわよ」
「何で?」
「私はシュベルターの王族ですわよ。我が国がどの位評判が悪いかご存知ない訳ないですわね。そこの後継ぎとして学んだ私が躊躇すると思うのがおかしいのですわ。ソード様の為なら人なんて何人いや何千人死んでも気にしないですわね。」
聖女マリアは忘れていた。テレジアは幼く可愛くても、あの好ましくない奴隷召喚を平気でする国の王族だった。
「さぁ、マリア様。私達が何をしなくてはいけないのか?どうすればソード様が戻ってくるのか?マイン様に聞いて下さい。ソード様が帰ってくるなら私何でもしましてよ。」

マリアは思う。三人の中で一番想いが弱かったのは自分だったと。私だってソード様が好きだ。聖女マリアは腹をくくる。彼女達と同じように何でもしようと。

その頃ソードは
ゼウスはというと、いざ回収してみると実に困った事に直面していた。
まず、最初に困った事は、ソードの能力が開花した原因は異界の女神の力によるものだったからだ。
つまり、向こうの女神にも所有権の主張が出来る。しかも、女神なのだソードに魅力を感じてない訳が無い。
更に困った事に、あちらとこちらで術式が違うのか、ソードの職業の封印が出来なかった。
この状態で送ってしまったら、先方の神に確実に見つかり、先方はもろ手で喜ぶだろう。
つまり、もう転移は出来ないのだ。
その為、夢の精がソードに伝えた事が出来ない。

神との約束は絶対だ。ソード当人が神の自覚がなかったとしても、夢の精とソードの間には約束が成立している。
その約束が果たされない今、夢の精がどう動くか解らない。
そして、ソードの魅力だ、、ここに居るのがばれたらオリンポスの神もやばい。

今になってみればただ放って置けば良かった。なのに神の力に目覚めたからという事から慌てて回収してしまった。
仕方なくゼウスはソードを氷漬けにして隠す事にした。

一神(ひとり)と二人の話し合い。
聖女マリアは神託を使いマインに連絡した。
「マイン様、話し合いは終わりました。」
「そう、だったらこれから顕現するから、それから話し合いをしましょう」
「顕現ですか?」
「そうよ、そうしないとテレジアと話せないし、これからの話は世界に関わる重要な物なのですから」
光が輝き女神マインが降臨する。
「マイン様、私たちは何をすれば良いのですか」
「まずは、世界各国に邪神にソード様が奪われた事を通達して下さい」
「ちょっとまって下さい。ソード様を奪ったのは高位の神なのですよね」
「黙って話を聞きなさい」
「良いですか? 今の私じゃ高位の神に戦いを挑むどころか、あちらの世界に行く事すらできない。だから神格をあげるしかないのよ」
「ですが、邪神にする意味が解りません」
「神の力は信仰によるものが多いわ。邪神にされて恨まれれば高位の神とはいえ力は弱まるの、、最もゴミみたいに微々たるものだけどね、、そして、その邪神を倒して貰いたい、そういう思いが私の力になるのよ」
「成るほど、敵の力を削ぎつつ自分の力が増える。理想的ですわね」
「流石、テレジア話が早いわね」
「それで、私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「戦争、そう戦争を起こして下さい」
「戦争?」
「魔族との戦争です。それが一番神格があがるのですよ。まずはそこからです」
「戦争、それでは罪もない人々に多くの犠牲が出てしまいます」
「構わないじゃないですか? 何人死んでも」
マインは何を言っているのだ。そういう顔でマリアを見つめていた。
「そうですわ、何をおっしゃってますのマリア様? ソード様に比べたら1万や2万死んだ所でどうでも良いと思わないのですか?その覚悟もないんですの?」
「まぁ、貴方もソード様が気に入っているから何も言いませんが、聖女なのですよ? 世界より私の為に働くのが貴方の勤めでしょう?」
「ですが、それではソード様が帰って来た時に嫌われてしまいます。」
「何を言っているのですかマリア様は、そんな姿はソード様に見せるわけないのですわ。どんなに手を汚しても好きな方には綺麗な面しか見せませんわよ。何万人殺そうとソード様の前では無邪気に可愛く笑ってみせますわ、、、そうですわねマイン様?」
「貴方は本当に聡明ですね、、私だって同じ、ソード様の前では慈悲深き女神しか見せません。あと数年早ければ、貴方を聖女にしたと思うわ」
「ちょっとマイン様」
「冗談よ、、だけど気を付けないと冗談は本当になるかも知れないわね」
「的外れな発言は辞めた方が良いですわ」
本来綺麗な二人の笑顔がマリアには怖い物に見えた。

動乱の始まり。
次の日には聖女マリアの名前によって各国に邪神の存在が通達された。
邪神の存在は魔王等比べ物にならない程の脅威であるという事。
そして、その存在には魔族が絡んでいる。
そして、その邪神により、新たなる神ソードが誘拐されてしまった。
そこまでの内容が王だけでなく、世界中に伝えられた。
そして聖地には女神マイン自身が顕現までしてお願いをした。
聖女マリアの落ち込んだ顔に、女神マインの悲しい顔は充分に民衆の同情を引いた。
「邪神許すまじ」
「魔族は殺せ」
等過激な発言も飛び交う状態となった。
そして、その注目召喚の国シュベルターへと向かう事になる。
この現状をどうにかしてくれる存在、、、それは勇者だ。
召喚についてはどの国よりもシュベルターが優れている。
そしてシュベルターの王女テレジアは
「女神マイン様と聖女マリア様のご意向であれば勇者召喚を行う」
と宣言した。

悲劇の拡散
聖女マリアやテレジアの宣言は大きな影響をこの世界にもたらした。
例えば、冒険者だ。
今迄はただ、生きる為やお金を稼ぐために魔物を狩っていた。
魔族にあっても基本は手を出さない。そうすれば争うことなくお互いに被害が出なくて済む。
だが、魔族を完全に悪い者と捉えた彼らは今迄手を出さなかった魔族も狩りだした。
又、ギルドも魔族を殺した者には高額な報奨金を出すようになった。
その結果がもたらした物は、、、完全なる敵対だ。
魔族にしたら、今までは襲ってこなかった人間が襲ってくるのだ、対応をしない訳がない。
殺しに来るから殺す。それだけの事だ。
その結果、人間と魔族はお互いに完全なる敵と認識するようになった。
僅かな期間で森は争いの場となった。
今ではもう新人冒険者や下級冒険者は入れないような場所となっていた。
今迄なら、薬草を取る時等、魔族に出会ってしまっても相手は襲ってこない事が多かったが今では確実に襲ってくる。
その為、ある程度自分を守れる、中級冒険者クラスで無いと森には入れなくなった。
その中級ですら、複数の魔族に嬲り殺される事も少なくない。

今迄は安全な村も今では魔族の脅威にさらされていた。
相手が自分たちを襲って殺しに来るのだ。その仲間を殺すのは当たり前だ。
だが、人間は、いや人類はそんな事は知らない。

邪神をの手先の魔族が、自分たちの新しく神になるハズだった者を攫い、災いをもたらしている。
そう考えていた。

女神や聖女が言うのだからそれは当たり前のように信じられる。

魔族に襲われれば襲われる程、人々は女神に救いを求める。
魔族を恨めば恨むほど人々は居もしない邪神を恨んだ。
これこそが、正に女神マインの考えていた事だった。

救いを求める人々の祈りは、女神マインの神力を高める事になる。
そして邪神を恨む気持ちが敵の神の力を奪う事になる。
全ては女神マインの思う方に転がりはじめた。

全てが偽り、その事を知らずに悲劇は拡大されていく。

まだまだ足りない。 最後の良心
「まだまだ足りないわ、、こんなゴミみたいな神力じゃ全然足りないわ」
優しさの欠片もない女神マインの言葉に聖女マリアは驚きを隠せない。
自分は聖女だ、修道女時代から女神は神聖な物そう教わってきた。
慈悲深くその考えは何処までも崇高なのだ。
そう教わってきた。
だが、ここに居る女神はどう見ても俗物にしか見えなかった。
ソードは確かに愛する人だ自分だって取り戻したい。
その為だったら何でもするつもりだった。
だが、、、その為に此処まで犠牲にして良い物だろうか?
恐らく、、、まだ正式に魔族の討伐がはじまった訳ではない。
ただ、お触れがでただけである。
その状態で魔族領に隣接した村は襲われ多くの村人が死んだと聞いた。
冒険者も何人も犠牲がでている。
人間側で数百単位の人が死んでいるのだから、魔族側も恐らくかなりの人数が死んでいるのだろう。

しかも、その全てが偽りで。
私は聖女で修道女だ、小さい頃から人を救う事を教えられてきた。
そして、その為には女神への信仰こそが必要なのだそう教わった。
だが、今はどうだろうか?
自分が好きになった人を取り返すために沢山の人を死に向かわせている。
そして、それを望むのは自分が信仰する女神マインなのだ。
心がチクりと痛んだ。
このままで良いのか? そう思った。、、、、、、だが、、、

これで良いのだ。ソード様は神だ。
何人死のうが、いや何十万人死のうが本物の神がもう一度戻ってくるなら、その方が人間いや人類にとって良いに決まっている。
その考えは最早、聖女ではない。ただの狂信者だ。その事に当人は気づいていない。
自分はまだ、まともなんだそう思っている。

聖女マリアの心の痛みは最後の良心だったのかも知れない。
「そうですね、全然足りていないなら魔族と全面戦争をしましょう。勇者を召喚して魔族をもっともっと殺せば良いのではないでしょうか?」
「そうですわね。」
「そうですよ、、魔族の半分も殺した後にマイン様が降臨して戦いを諫めるもよし、そのまま皆殺しにして人類の守護神として尊敬されるのも良いかも知れませんね。」
「、、、、、」
「いっそ、全人類を魔族事殺してしまって生贄にして、マイン様が強大な邪神となって高位の神と戦って頂くのも良いかも知れませんね。ここまですれば勝てますかね?」
「マリア、、、貴方おかしくなってない?」
「おかしいですか?、、、別におかしくなんてなって無いと思いますが、おかしいですか私?」
「なんでもないわ、、気にしないで頂戴」
「? 解りました」

最早ここには、慈悲深き崇高な女神も 優しく清廉な聖女もいない。
ただ、ただ一人の男性を求める。嫉妬深い女が二人居るだけである。

狂人3人
勇者召喚について話し合う中、マリア様のこの一言に思わず私とマイン様は固まってしまいました。
「一万人は捧げましょう」
「いっ一万人ですか?そんな人数を勇者召喚の生贄にするのですか?幾ら悪名高いシュベルターでもそんな事した事はありませんわよ?」
「別にいいじゃないですか、生贄には罪人をあてれば良いのです。国内の総ての罪人、もし足りないなら他の国の犯罪者も全部集めれば良いでしょう?、、それで足りないのであれば狩ってくれば良いのです。盗賊とか邪魔な連中は全員この際、捕まえて生贄にしてしまいましょう。善良な人を守れて悪人が減るのですから良い事ですね。」
「マリア様、それをシュベルターにさせますの?」
「良いじゃありませんか、、シュベルターは召喚の国、、まして今回は世界を救う勇者の召喚、、何も問題は無いはずですよ。」
「ありますわ。幾ら犯罪者とは言え一万人も何で殺しますの?まるで殺戮者か暴君ですわ。過去の勇者召喚でも精々が数十人ですわよ」
「ただの勇者じゃこまるのです。魔族を皆殺しに出来るような存在複数。そして出来るなら邪神に対抗できるような存在が必要なのです」
「邪神なんて居ないでしょうに、、そんなに生贄を使ってしまったらシュベルターは沢山の恨みを買いますわよ。 それに国内、国外問わずに反対者が無数に現れますわ」

「邪神はいますよ。我々からソード様を奪った高位の神こそ邪神です。この私、聖女マリアが認定します。もし、名前が解ったら、、、総ての教会でそう伝えます。  それに反対者が出たら好都合です、邪神を崇拝し、女神マイン様を冒とくした者として教会を破門。生贄にしてしまえば良いだけですよ」

「生贄の人数だって正直に知らせる必要なんて無いのです。公式には少なくしておいて後は各国の王の懐でごまかしておけば良いだけでしょう」
「流石に一万人は私も多すぎると思うのだけど」
「マイン様は神力が欲しいのではありませんか? その為一万や二万の犠牲なんて微々たるものですよ? マイン様の信仰を増やし、邪神を倒す。その為の聖女です。何も可笑しくも無いと思いますよ」
「そうですわね、、、、確かにそうです」
聖女マリアは狂ってしまったのかも知れない。そう女神マインもテレジアも思った。
だが、ここで生贄の人数を減らしてしまったら、、、ソードが帰って来ない事に繋がるかも知れない。
そう思ったら王女も女神も止められなかった。そして、それを止めない自分たちも狂ってしまっている事に気が付いていなかった。

勇者召喚の儀式 現れた者は、、
勇者召喚の儀式の為に数多くの生贄が集められていった。
シュベルターのベルヘルム王が今回の召喚の儀式を娘と聖女が中心に行う為に積極的に罪人を集めた。
自国の罪人は勿論、お金を使い他国からも罪人を購入した。そして、今回の召喚に異を唱える者を全て罪人に落とし人数を集めた。
当初、シュベルターに罪人を売ってしまった国は後にこれが教会の肝入りの勇者召喚だと解ると困った事になった。罪人を売ってしまったので差し出せる罪人が少ないのだ。、、、結局、最初の罪人の代金を請求しない事と、無理やり罪人に落とした者を提供する事でその体面を保った。
かくして1万人を使った前代未聞の召喚魔法が行われる事になった。

その召喚の様子を見た者は余りの惨たらしさに顔をしかめる。
罪人とはいえここまでの人数を集めたのだ、本当の罪人も居るかも知れないが、冤罪の者や、パン1個盗んだだけの者までいるのだ。それなのに等しく死んでいく。
今迄沢山の処刑を行っていた者、何人もの敵を斬り続けてきた騎士ですら、その光景を直視できなかった。

だが、その儀式の中、何故か一部の者だけは何も異常が起きずにそのまま佇んでいた。
この儀式で呼ばれる者が受け付けない。そう拒んでいるように思えた。
結局、不思議な事に400名弱の人間がこの召喚の儀式で生き残っていた。
これには、召喚を行っていた、聖女マリア、王女テレジアも驚きを隠せない。
今迄、召喚の儀式で生贄にされ生き残った者は居なかった。

魔法陣が閉じ、その中央から呼び出した人物が現れる。

はずなのだが、、、召喚された者が何処にも居なかった。

新たな勇者。
おかしい。
召喚した者が居ない。
今迄はこんなことは無かった。
聖女マリアと王女テレジアは慌てた。
ここまで、大掛かりな召喚をしたのに失敗したでは済まされない。
だが、何人かの生贄の生き残りが居るのだから失敗したのかも知れない。
状態を確かめる為に一人の騎士が生き残りの生贄に近づいた。
すると、その生贄の隅で頭を押さえガタガタ震えている人物がいた。
近くに寄ると、失禁までしていた。
恐らく、軽犯罪者か無理やり罠に嵌められ連れられてきたのだろうか?
もう儀式は終わった。それならば後で釈放されるかも知れない。
声を掛けよう、そう思い、騎士が近づいた瞬間。自分の腰の剣が無くなっているのに気が付いた。
そして、気が付くと自分の首が宙に舞っていた。
取り押さえようようと他の騎士が包囲するが、その人物は次から次へと反撃をしてくる。
その攻撃は恐らく鎧を着て無ければ何人被害が出たか解らない。
これ程の事をするのだ、恐らくは連れて来られた犯罪者の中でも凶悪な奴だったのだろう。
だが、その人物を見た時に不思議な事に気が付いた。
黒髪、黒目なのだ、この世界で黒髪、黒目の人物は余り見かけない。
少なくとも、集めた人物の中には見かけなかった。
とすれば、この少年は何処から来たのだろうか?
考えられる事は一つだ、召喚されたのがこの少年だ。
「その少年をとらえなさい、その少年こそが勇者です。傷つけてはなりません。慎重に」
聖女マリアがそう激を飛ばす。
結局、この傷つけてはならない。その言葉を守った為に2人の騎士が死に6人の騎士が重傷を負った。
捕縛された少年を見た時に聖女マリアは寒気が止まらなかった。
黒髪、黒目で線が細く見目麗しいのだが、その眼は何処までも暗く明るさを映してない。
過去、復讐に手を染め処刑された罪人と話した事があった。一番近い者はそれだ。
召喚されたのはこの少年で間違いないだろう。
あの何事にも動じないテレジアが固まっている。
仕方ない、私が対応しよう。
「よくぞ召喚に応じてくれました。勇者様、私は聖女をしております。マリアと申します」
「聖女? 何の事、それに僕は召喚なんかに応じた覚えはないんだけど」
「あの、先に話しだけでも聞いて頂けませんか?」
「聞くだけならね」
マリアは現状について話をした。
「なるほど、大体のことは解ったけど、、」
「お願いです。どうかこの世界を助けると思ってお願い致します。」
「報酬なら幾らでも出します」
「僕が欲しい者はお金でも地位でもないんだ、、、だけど、それが用意できるなら何でもする。だから、女神様を呼んでくれないかな」
「解りました、今すぐ神託をしてみます」
、、、、、、、「大丈夫ですよ聖女マリア、全部見ていましたから」
女神マインが顕現した。
「異界の勇者よ貴方の望みは何なのでしょうか?」
「僕の望みは死者の蘇生だ。彼女はもう死んでいて遺体も無い。彼女の復活が出来るなら、、なんでもする」
「本来はそれは女神の力を持ってしてもできません」
「ならば、用はありません。元通り死なせて下さい。」
「本来はと申したはずです。今回の場合は違います。敵は魔王ではなく神。神を殺した後ならその願いは容易いでしょう」
「なら、僕はこれから貴方の為に何でもします。その代わりその話が嘘だった場合はタダでは済ましません」
「良いでしょう。」

通常は女神だからと言っておいそれとは死者の蘇生は出来ない。この世界で死んだのであれば自分の管轄なので莫大な犠牲(生贄)があれば可能だ。だが、今回のケースは異界で死んだ人間。しかも遺体もない。なら本来は不可能。だが今回のケースだけは大きく違う。行きつく所は神々の戦いになる。この場合は勝てば相手の世界が丸々手に入る。勇者召喚でこの少年が来たからには、この少年のいた世界はソードの居た世界に近いかも知れない。もし、違っていても近くには違いないはずだ。 そして何よりも神を倒すという事は相手の世界が手に入るという事だ。つまり生贄は使いたい放題。これなら死者蘇生でも可能だろう。また案外もっと簡単に相手の神に無理やり蘇生させれば済むかも知れない。だからこそ女神マインは約束をした。
「所で、貴方の名前は?」
「セレス 黒木セレス」
「ならば、セレス、こちらの目的が成就できた暁には貴方の望みは女神の名において必ず叶えると約束しましょう。」
「ならば、僕は貴方達の望むままに行動する事を約束しよう」

ここに新たな勇者召喚が無事行われた。

勇者逃亡
本来、勇者になった者は騎士団や宮廷魔術師に技を習い技量を高める。
召喚された者は勇者とはいえ、最初の段階ではただの素人、場合によっては衛兵にすら勝てない位弱いからだ。だが、最初から騎士団の者を殺せるような者ならばこの訓練は必要ないだろう。そうマリアやテレジアは判断した。だがセレスは訓練を望んだ。
「セレス殿には剣の才能はありません。確かに短剣の使い方は天性の物がありますが、体力も人並みで初撃以降の戦闘は全くの素人です。」
「魔力は確かにありそうですが、精神的な集中に難があります。かなりの課題が必要です」
その評価がこれだ。
これにはマリアもテレジアも頭を抱えた。
一万もの生贄を使い、呼んだ者がこの程度の者だったのか。正直言って使えないにも程がある。
昨日のやり取りは何だったのだ。
正直、感動した。もし自分たちがソードに会って無ければ一目ぼれしたかも知れない。
それが、、こんな者だったなんて、悪夢としか思えない。
しかも当人は笑いながら「訓練って意味無さそうだからやるだけ無駄だね」
と、もう、訓練じたい放棄している。
今、考えても仕方ない。二人は考える事を先延ばしした。
そして、当の本人はと言うとけろっとした顔で「欲しい物があるのでお金をください」
お金を無心してきた。
「大した働きもしないのにお金の無心ですか?まぁ良いでしょう一応勇者なのですから」
マリアは金貨入りの袋をセレスに投げつけた。

そしてお金を受け取った勇者セレスは逃亡した。

卑怯者の経験値稼ぎ
セレスは訓練をしながら考えていた。
正直、全然訓練について行けない。確かに僕は武術を学んでいる。だけど暗殺拳だから持久力が無い。
ここにきて卑怯道の弱点が浮き彫りにされる。
「卑怯道に二手は無し」つまり持久力なんて要らない一撃必殺の拳それが卑怯道だった。
だから、スピード以外は全く鍛えていなかった。
正直、普通の剣ですら重く感じる。

魔法は魔法でさっぱり解らない。魔法陣を覚えれば良いらしいが意味が解らない。
結局、初級魔法のファイヤーボール位しか覚えてない。

だが、この訓練の時にセレスにとっては貴重な話しを聞いた。
「それでは、魔物や魔族を倒して経験値を稼ぐ事ができませんよ。」
そういう話しだった。
つまり、話はこうだ。
魔物や人、魔族を殺せば経験値という見えないポイントが加算される。
そして、その経験値が増えるとレベルがあがり強くなる。
そういう事だった。
なんだ、これ、要はステータスが見えないが内容はゲームと同じではないか?
ならば、訓練など必要ない。卑怯な方法で経験値を稼げば良いだけだ。
暫くすると僕は自分から訓練を辞めた。
「訓練って意味無さそうだからやるだけ無駄だね」
そう言った時の反応は面白かった。
そしてお金の無心をした時の反応
「大した働きもしないのにお金の無心ですか?まぁ良いでしょう一応勇者なのですから」
まるでゴミを見るような目だったな。

だけど、僕はこんなにゆっくりとはしていられない。
さっさと目的を終えて、愛しい人に会いたいんだ。

お金を手に入れた僕は早速行動を開始した。
僕は街にいって大量の遅効性の毒を購入した。
そしてその毒をもって森の水場にいき一気にばらまいた。
この水場はオアシスのような物で、魔物や魔族が水を補給する場所だった。

そして、僕は近くに隠れて様子を見ていた。
早速、小さな小鬼のような魔物が水を飲んでいる。
その様子を見て僕はその場を後にした。

4時間位たっただろうか、僕は体の芯が熱くなるのを感じた。
多分、これが経験値だ。毒殺で手に入るならこんな簡単な事はない。
距離とか制限があるのかも知れない。そんな事も考えていたが、そんなことは無かった。
死んだ起因が自分に有れば問題なく自分に経験値がはいるようだ。

だっら簡単だ、水場に毒を片っ端から入れていけば良い。
森を焼いて、そこにいる者の経験値が入るのなら焼いてしまおう。
洞窟に居るのなら穴を塞いで火を焚ければ窒息する。

簡単ではないか? その悉くをセレスは実行した。

閑話:冒険者ギルドの苦悩
おかしい、おかしすぎる。
最近、異常な程に魔物の買取が多い。
しかも、その魔物の買取を持ち込む者が下級の冒険者なのだ。
この間などは一番下の銅級冒険者がマンティコアを持ち込んでいた。
マンティコアクラスになれば金級冒険者数人掛で倒す魔物だ。
それを銅級クラスが二人で倒したなど考えられない。
だが、素材を持ち込み倒したと言われれば討伐金も素材の報酬も払わなければならない。
マンティコアを倒した報酬は贅沢しなければ1年近く遊んで暮らせる金額になる。

これ一件だけであればまだまだビギナーズラックとして考えられたのだが、次々毎日のように素材が持ち込まれた。 
まだ、駆け出しの少年少女の二人が20匹近くのゴブリンの耳を持ち込んだ。
確かにゴブリンは弱い。2体1なら簡単に倒せるだろう、だが駆け出しの冒険者が二人でこんな数倒せる訳がない。
 更に万年銀級の老いた冒険者が魔族二人を持ち込んだ。腐っても魔族だ。それを倒すのならミスリル級でも命がけになる。
おかしい、おかしすぎる。ここの所、おかしな買取が多すぎる。

そんなある日、ギルドに対して肉屋からクレームが入った。
ギルドから手に入れた肉を販売した所、食べた者が死んだ。そういう内容だった。
まずい、まず過ぎる。 力のない者が強者を倒す。そう考えたら毒を使うのは良い手段だ。
だが、ギルドではそれを許していない。
毒で殺した魔物の肉は今回のように素材として使えない。
もし使った場合はその報告が必要だ。そして素材は角や爪等毒の影響のない物以外は破棄される。
 恐らく、彼らは毒で死んだ魔物を持ち込んだのだろう。だが、誰もが討伐したとして報告してきた。
そして、それはもう上にあがってしまった。
 つまり、ギルドの決まりを破り毒を使って魔物を倒し、何食わぬ顔して素材を売った者として処分をしなければならない。
最低でも冒険者の資格はく奪は免れないだろう。
 だが、彼らがそんな事をするとは思えない。
確実に自分の首を絞める事になるのは誰でもわかるはずだ。 
では、その魔物を毒殺した人物はどうか? 何も罪には問われないだろう。
例えば魔物に襲われた旅人が毒で魔物を殺した。そしてそのまま魔物を放置した。
何処に問題がある、ない。 
彼らは素直に「死んでいた魔物がいたので素材を拾ってきた。」そう申告すればよかったのだ。
それなら功績も付かないけど、素材買取の責任はギルドにあった。
だが討伐したという報告した以上はその責任は個人が負わなければならない。
ギルドの受付嬢は毒の素材を放置した人物に恨み言が言いたかった。
仲の良い冒険者にきつい処分が降るのは明白だ。
だが、よく考えれば誤魔化した冒険者が悪いのだ。
私はただの受付嬢だ、処分はマスターが考えるだろう。
ただ、あそこにいる地竜を得意げに持ち込んだ少年少女の絶望に変わった顔を見るのが辛く思えた。

勇者無双 但し死んだのは味方
勇者セレスは2週間ほどで帰ってきた。
「貴方はいったい何をしていたのですか?勇者としての自覚がないように思います」
「私から見ても遊び歩いているようにしか見ませんわ」

「いい加減にしませんか? 大切な人を奪われているのでしょう?僕なら最短で行動します。僕が遊ぶと思っているのですか? 大切な人が帰ってくるかも知れない。そんな状況で遊ぶわけがありません」

「逆キレですか?だったら貴方はいったい何をしていたのですか?」

「強くなれるように努力していましたよ。信じられないならゲームしましょう?」

「ゲームですか、この期に及んで」

「この城をがっちり警備して下さい。集められるだけ集めて、そしてこの場所謁見の間がゴールではどうですか」

「それはいったいどういう事なのですか?」

「この位の城なら単独で落とせる位には強くなった。そう言っているんですよ」

「妄想はお辞め下さい」

「妄想、そう思うならそれで良いでしょう? では2時間後に正面から正々堂々と打ち破って見せますよ。
但し、何人かは死人が出るでしょうがそれは許して下さい」

「ちょっとお待ちなさい」

2時間後、セレスの進行は始まった。
聖女マリアと王女テレジアはセレスが増長している。そう思っていた。
だが、ここでその増長を止めてやろうと城に居る騎士から魔法兵団まで用意した。

だが、セレスはそれらを簡単に倒しながら普通に歩いている。
しかも、よく見ると、、、手加減等一切しないで殺しながら歩いてくる。
気が付くと、短時間に下にいた兵士は死ぬか方輪になっていた。
そして、恐ろしい事にそれらの行為は剣等使わず小さな短剣だけで行われていた。
流石にまずいと思ったのか騎士団と魔法兵団が共同で戦いに赴いた。
だが、恐ろしい事に、武装した騎士の鎧の僅かな隙間から短剣を差し込むように騎士は簡単に殺されていった。セレスにとって鎧は重しにしか過ぎない。そう考えるた騎士は前衛が防いでいる間に鎧を脱ぎ捨てた。魔法兵団は魔法を放っていたが、騎士を盾にされ悉く魔法を交わされるので被害を防ぐために今は様子見している。

「少し見ないうちに随分腕をあげたな」
「そうですかね」
「あぁ、こちらも本気で行かせてもらう」
「では僕も少し本気で」
騎士団長を含む精鋭が本気で掛かっていった。
そしてその全員がセデスによって殺された。

「こここ殺した」
魔法兵団はパニックになった。
下の兵士が死ぬのはあまり気にならなかった。エリートの自分たちからしたらただの雑兵だ。
だが、騎士たちまで殺しに来るとは思わなかった。
騎士を殺すのであれば魔法兵団だって殺すだろう
そこでも、まだ自分は大丈夫。そういう甘えがあった。少なくとも自分と騎士団長は彼の顔見知りだ。
だが、騎士団長は無残に殺されてしまった。 だったら、自分も殺される。
ならば、本気で殺しにかからなければならない。
だが、魔法をかいくぐって襲ってくる。詠唱など到底間に合わない。
仲間にあたる事も気にせず魔法を放っていた。
それでも「遅いですね」気が付いたら私の腕は宙にまっていた。
そして、そのまま首筋を斬られた。

「騎士団団長も、魔法兵団団長も余り経験値にならない。殺さなくても良かったかな」

セレスは総てを終わらせて謁見の間を訪れた。
「遅かったですわね、流石に勇者相手じゃ時間が、、」
「テレジア様、ちょっと遅かったか知れませんね」
「えっ、勇者セレスって事は」
「はい全滅です」
「嘘ですよね、城丸ごと相手してまだ1時間も経っていません。」
マリアとテレジアは謁見室を出て城を見回した。
すると、執事や怯えるメイドが目についた。
それ以前に戦える者が見えない。どこにも居ない。
下の階に降りると、死体の山が見えた。生きている者も居るかも知れないがもう騎士としても魔法兵団としても戦えないだろう。
「せ、セレスいったいこれは」
「経験値にさせて貰いました。」
「幾ら何でも酷すぎます。殺す必要が何処にあるのですか?彼らはこちらの味方です」
「同じですわ、こんなの殺戮者と同じですわよ」
「二人ともソード様を愛しているのでしょう?ならば切り捨てなければいけませんよ。少なくとも彼らじゃ神とは戦えない。ならば最短を進む為に経験値の足しにさせて頂きました。最も余りに低くて役に立たなかったですが」
「だからって言ってこんなに人を殺すなんて」
「大切な者を守るのに躊躇なんてしていたら守れなくなります。犠牲なんて幾ら出しても構わない。そうじゃなきゃ神を倒すなんて夢で終わるでしょう。 そんな覚悟もなく」
「わかりましたわ、私の間違いですわね。貴方を呼ぶために1万人も生贄を使ったのに身近な者を失って気が動転しましたわ。、、申し訳ありませんでしたわ、、勇者セレス」
「犠牲など恐れていてはソード様は取り戻せない。そう考えたら祝福すら受けないでこれをやれたセレスを評価するべきでした」

騎士や魔法兵団は魔族に襲われて殺された事にされた。
執事やメイドには口封じを行い。
生きていた者はそのまま止めを刺された。
死んだ者には十分な恩給が出された。これが唯一聖女や王女の良心だったのかも知れない。

ヒステリックな女神様
「貴方達は一体何をしているのですか?」
神託を降ろした瞬間、女神マインから怒られた。
「何か私達は間違った事をしたのでしょうか?」
「マリア、貴方は聖女でしょう?他の者ならいざ知らず何をやっているのですか?」
「何のことでしょう?」
「良いですか?黒木セレスはまだ、祝福の儀前なんですよ? つまりは私から何も祝福を授けて無いのですから、その活躍は神力として還元されません。」
「ああ、そうですね」
「私は見ていましたが、卑怯な方法とは言え、既に勇者セレスは数々の魔物を倒しています。」
「あれ程の強さを見せたのですからそうなんでしょう。」
「そうなんでしょう。じゃないです。ちゃんと祝福の儀後であれば私の神力にプラスになったでしょう。それに彼自身の強さにも補正が掛かって更に強くなったでしょうね」
「それは、そうかも知れません。」
「少しは彼のストイックさを見習った方が良いですよ。どんなに手を汚しても、どんな卑怯な事をしても最短をいこうとする。多分それは取り戻したい愛の為なんでしょうね? 」
「確かにそう思います」
「なら、貴方はしっかりと役目を果たしなさい。別に私は良いのですよ?女神ですから長生きですからね。ですが、貴方やテレジアは人間ですよ。せっかくソード様を取り戻してもお婆ちゃんじゃ嫌でしょう?」
「それは嫌です」
「だったら、彼の様に最短を目指しなさい。とりあえず今は早急に祝福の儀を行う事。良いですね。」
「解りました」

聖女マリアは思った。
安らぎが全くない。
昔は、女神マイン様の神託は聖女として聞けるのは誉れだった。
だが、最近は殆どがヒステリックな話だ。
さっきまで、勇者セレスが殺してしまった人の隠ぺいで大変だった。
私だってソード様の妻なのだ、少しでも早く取り戻したい。
最近は聖女って何だろう?女神って何なんだろう?
そう思うようになった。
ソード様が帰ってくれば全てが元に戻るのかな?
聖女の苦悩は続く。

祝福の儀と消えた神
勇者セレスの祝福の儀はひっそりと行われた。
当初、大々的に行う予定であったが、セレスが人を殺しているのを考えてどんな職業がでるか解らない。
その事への考慮である。
聖女マリアが祈りを捧げて女神マインが顕現する。
本来は他の聖職者が読み上げるのだが、今回はテレジアにこの役目は任せていた。
セレス様の職は: 復讐の神、無慈悲の勇者、卑怯を極めし者、暗殺者,です。
この事に女神マインは喜んだ。
「流石は勇者セレス。私の望む能力を持っていますね。特に復讐の神は凄いです。これなら案外、敵の神界に攻め込むのも早いかも知れません。」
「ありがとうございます。マイン様。僕は自分の持つ全力を持って貴方の期待に応えます。その代わり貴方の願いを叶えた時には」
「大丈夫ですよ。勇者セレス。私は決して貴方との約束をたがえる事はありません。」
「神、神なのですか?」
「聖女マリア、セレスは、復讐の神なのです。勇者の称号もありますが、それ以上に神の称号もあります。これからはちゃんと仕えるように、、、聖女マリア」
「、、、畏まりました」
「すごいですわ。これなら必ずソード様の救出も達成できそうですわね。復讐の神。まさしく今必要な者ですわ」

この祝福の儀の事はすぐさま伝えられた。
卑怯を極めし者、暗殺者は伏せられて、復讐の神、無慈悲の勇者のみ強調するように伝えられる。
これにより民衆は歓喜した。新たなる神であるソード様を取り上げられた事による怒りで現れた神。そう伝えられた。
これにより、思った以上にセレスに神力が集まった。
冤罪なのだが 民衆の邪神への復讐心や魔族への復讐心が全てセレスに集まった。

そして力の強まったセレスは、すぐさま宣言する。
「この世界の神であるソード様を取り戻します。」宣言した。
「さぁマイン様行きますよ。」
「何処へ?」
「ソードを取り戻しに」
「へっ」
二人の神は消えた。

オリンポスへ
「神セレスここはどこなのでしょうか?」
「女神であるマイン様に神と呼ばれると恥ずかしくなります。セレスと呼んで下さい。」
「ではセレスここは何処ですか?」
「僕のいた国ではオリンポスと言われている場所です。」
「ここにもしかしてソード様が居るのですか?」
「正直言って解りません。ですが、僕の知る限りの神話では 軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神、が出てくるのはここオリンポスの神話位しか思いつきません。 もう一つ可能性がある物もありますがそちらは神でなく仏と呼んでいます。」
「案外いい加減なのですね?」
「それでも貴重な手がかりです。もしここで違っていたら他をあたって見れば良いだけです」
「確かにそうかもしれませんが」
「良いですかマイン様、一番悪い事は頭で考えて何もしない事です。もし、ソード様に何かあったらどうするのですか? 僕はすぐに行動を起こさなかった事を後悔した人間なのです。行動が先です」

「ほう、ここオリンポスに侵入してくるとはいい度胸だな。名を名乗れ」
「僕の名前は黒木セレス。人を探しています。」
「ここオリンポスで人探しだと良い冗談だ。」
「本当にそうなのです」
「ならば、一体誰を探していると言うのだ」
「軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神、様です。」
「そうか、ならば喜べ俺の名前はアレス、軍神だ」
「そうですか、それではアレス様、教えて頂きたい事があります」
「何で俺がお前に教えなければならない、もし教えて貰いたいなら戦え、もし俺に勝つ事が出来たら教えてやろう」
「解りました。それで教えて頂けるなら」
セレスは短剣を抜いた。
「セレス、勝算はありますの」
「無いです。何処にも隙がありません」
「軍神である俺に隙などあるものかたかが人間の強者ごときが勝てる訳などない。さぁ掛かってこい」
セレスは、人間の限界の力まで己を高めると戦いを挑んだ。
だが、相手は神、その技が届く事はない。
「何とも不思議な技を使う者よ、惜しいな人間なら間違いなく強者だろう。相手が悪かったな」
そこからはセレスは防戦一方となり手が出せなくなった。
そして肩で息をして碌に動けなくなったセレスに無造作に剣を振るった。
「これで終わりだ」
「、、、」
セレスの短剣がアレスの胸に突き刺さっていた。
「何故?」
「僕も一応神なのでね」
「そうか、そうだったのか。お前の勝ちだ」

軍神アレスはそのまま倒れた。

オリンポスへ(裏)
「無いです。何処にも隙がありません」

確かに隙は無い。だがギリシャ神話の神で良かった。
これが仏とかなら悟りとかの境地で隙を絶対に作らないだろう。

「軍神である俺に隙などあるものかたかが人間の強者ごときが勝てる訳などない。さぁ掛かってこい」
セレスは、人間の限界の力まで己を高めると戦いを挑んだ。

やはり驕りがでたな。僕を人間として認識している。
ならば、ここは人間のレベルで戦おう。

だが、相手は神、その技が届く事はない。
「何とも不思議な技を使う者よ、惜しいな人間なら間違いなく強者だろう。相手が悪かったな」
そこからはセレスは防戦一方となり手が出せなくなった。

奢れ奢れ奢れ、お前が奢り切った時にこそチャンスがある。

そして肩で息をして碌に動けなくなったセレスに無造作に剣を振るった。
「これで終わりだ」
「、、、」

今がチャンスだ神の領域の力で行く。

セレスの短剣がアレスの胸に突き刺さっていた。
「何故?」
「僕も一応神なのでね」
「そうか、そうだったのか。お前の勝ちだ」

軍神アレスはそのまま倒れた。

これこそが自分の力を弱く見せる卑怯道の戦い方なのだ。

マインとアテナ
「セレスとか言ったな異教の神だったのか道理で強いはずだ」
アレスは短剣を痛そうに抜くと語り始めた。
「凄い物ですね。心臓を突かれてその程度で済むなんて」
「我々オリンポスの神はネクタルを食べているからな。基本は不死だ」
「そうですか」
(あのまま続けていたら負けていたという事だな)
「さぁ、お前は俺に不意打ちとは言え勝ったのだ。何でも聞くがよいぞ」
セレスはソードについて聞いた。
「軍神、慈愛の神、美の神、愛の神、太陽神の加護を持った人間か?ソードと言う名前には聞き覚えは無いがその加護を貰ってそうな人間いや神だったかな?なら心当たりはある。」
「本当ですか?軍神の加護を貴方が与えて下さったのですか?」
「この女神はだれだ?」
「ソード様の妻の女神でマインと申します」
「困った事になったかも知れない。とりあえず我が姉、アテナの所に参ろう。」
「アテナ様とは」
「うむ、もし件の人物が同一人物なら軍神の加護を与えた者だ。話を聞いて見るのがよかろう」
「有難うございます」

「アレス、その者たちは誰だ?」
「アテナ、この者たちは姉上の思い人の手掛りを持っていそうなので連れてきたのだ」
「えっ剣の手掛かりをか? どんな情報なのかすぐに言え」
「えっあ、はい」
「いや、直接、頭の中を覗き込ませて貰って良いかな」
「それなら僕よりマイン様の方を覗いてみた方が良いと思います。僕はソード様と面識が無いので」
「そうなの、覗かせてもらう」
アテナはマインの頭の中を覗かせて貰った。
「つ剣だ、、、、」
アテナは涙ぐんだ。そこには楽しそうに過ごしていた剣が居たからだ。
「間違いない断言しよう。ソードは間違いなく私の血を与えた剣だ」
「良かったですね、マイン様手掛かりがありましたね」
「えぇ本当にセレスに頼んで良かったわ、、ありがとう」
「なぁ、所でマインとセレスは何でここに来たんだ」
「そこまでは見ては無かったのですね」
「余り除くのはプライバシーもあるしね」
「そうですか、実は」
「そうか、二人はソードを探しに来たのだな、解った」
「何処に居るのか心当たりはございませんか?」
「あると言えばあるのだが」
「教えて下さい」
「正直に言えば、心当たりはあるが確証がない。こちらで探してやろう」
「是非お願い致します。」
「その代わり二つのお願いがある。」
「ソード様が帰って来るなら、私は何でも致します。」
「では一つ目の願いは私を含む何人かの神のそちらの世界への移住だ」
「神が増えるのは私にとっても願ってもない事です。もう一つは何でしょうか?」
「それはソードを取り返してからお願いする」
「解りました。ソード様が帰ってくるのであれば何でも致します。」
「契約成立だな」
アテナは幸せそうに笑った。

夢の精は怒っていた。
夢の精は怒っていた。
ゼウスは剣に人間としての幸せな一生を約束した。
だからこそ、本当に気が進まなかったが嫌な仕事を引き受けた。
だが、その約束は守られなかった。
未だに氷漬けのまま剣はここに居た。
私にはこの氷を壊す事は出来ない。
だが、私は夢の精だ。
氷漬けになっていようが夢に入る事なら出来る。
「ソード様」
「君は夢の精ですね。どうしたのですか?」
「剣様、ごめんなさい。さっきのは嘘です」
「嘘って」
「剣様はソード様として転生をしたのです。ですが、全知全能の神ゼウスが神を作った事を問題にしてここに回収されてきました」
「そうなんだ、だけどそんな事を僕に教えて大丈夫なの?」
「解りません、ですがゼウス様は私に嘘をつきました。」
「嘘?」
「詳しくは話せません」
「そうなのかい、僕はこれから何をすれば良いの?」
「私はとりあえず他の神の助力を求めてきます」
「ソード様はこのまま氷の中で眠った振りをしていて下さい」
「解った」

先に約束を破ったのはゼウス様だ。
これならば、自分から約束を反故にした訳ではない。
約束を反故にしたのはゼウス様だ。
これで堂々と告げ口をする事が出来る。
夢の精は意気揚々と部屋を飛び出した。

神々の話し合い
アテナは事情を話しにヘラの元に訪れていた。
オリンポスで一番頼りになる女神はヘラだ。
そして剣の回収をしたのがゼウスなら自分の手に余る。
だから助力を求めに来たのだ。
「アテナ、貴方が私の所に来るなんて珍しいわね」
「実は剣について情報がありまして」
「まぁ剣についての情報、是非聞きたいわね」
アテナはマインやセレスから聞いた情報をそのままヘラに伝えた。
「それは許せない行動ですね。良いですわ。私も貴方に助力します。」
「有難うございます」
「お礼はいいわよ。それよりこの事は今回の件の当事者全員に説明した方が良いのではないですか?」
「そうですね」
「ええ、異界の神が出歩くのは何かとまずいでしょうから、時間を見て貴方の屋敷に全員で伺う事にしましょう」
「そうして頂けると助かります」
「では、後で」

その日の夜アテナの屋敷にヘラ、エローズ、アポロン、アフロディーテ、ヘポイストが集まった。
「まさか私の剣がそんな事になっていたなんて」
「誰の剣ですかアフロディーテ?別に剣は貴方だけの物ではないですよ」
「それより話しを進めませんか?先程、夢の精が剣のいる場所を教えてくれました。」
「でかした、エローズ、だったら回収してきてここから逃げれば良いだけだ」
「ですが、氷漬けはどうする?」
「アテナ、何を言っているのだ、私は太陽神なのだぞ、どんな氷も溶かして見せる」

セレスは驚いていた。神話で語られる神が目の前に居るのだ。
だが、ここで気が付いた。自分の願いはどうなるのだろうか? 
ここの神と和解して終わったら、女神マインの力は強くならない。
それでは自分の願いは叶わないのではないか?
「あの、マイン様、僕の願いはどうなるのでしょうか?」
「セレスの願いですね。そうだ、直接こちらの神に聞いてみましょう」
(忘れてましたね。マイン様)
「あの、神様達」
「神様達? お前も神だろうが何だ」
「オリンポスの神々達で良いですか? 実は僕は元々は地球出身の人間なんです。」
「そうなのですか?普通の人間が異世界で神になったのですね立派です。ところで、それがどうかしたのですか?」
「実は、私の望みは1人の少女を蘇らせる事なのです。その願いを叶える為にマイン様を手伝ってきました。ですが」
「さてはこちらを倒して、、そう考えていたのか?」
「その通りです。アテナ様」
「正直に話したな。ならばその願いは叶えよう」
「叶えられるのですか?」
「普通なら絶対に叶わないな、だが今回はこのアポロンとアテナがいる。造作もない」
「そうなのですか?」
「あぁ通常なら神々でも叶えて貰えないが今回は特別な事情だから簡単だ」
「有難うございます」
アテナ、ヘラ、エローズ、アポロン、アフロディーテ、ヘポイストの話し合いは遅くまで続いた。
そしてマインとセレスを含む今後の未来がこの時に決まった。

運命の一日 取り戻した彼女
アテナの屋敷にヘラ、エローズ、アポロン、アフロディーテ、ヘポイスト

ヘラとエローズ、アテナはソードの回収に向かった。
ゼウスはこの時、愛人の所にいると言う情報を掴んでいたので何だ問題はない。
もし、何かあって鉢合わせするような事があっても、愛人と遊んだ後にヘラと出くわすのだ。逆に逃げるだろう。もし揉めてもその時はアテナが居る。対処は万全だ。

逆に アポロンとセレスはハーデスの所に水野裕子を貰いに行く。
アフロディーテとマイン、ヘポイストは留守番である。

アテナ達回収班は無事にソードを回収してきた。
途中何も問題が無く無事回収してきた。
後は、アポロンが戻り次第、氷を溶かすだけである。

そしてアポロンとセレスのハーデスとの交渉が始まった。
「久しぶりですね叔父様」
「アポロンか久しいな、ゼウスに付いているお前が此処に何かようか?」
口調とは裏腹に憎々しくアポロンを睨みつけている。
「実は、1人の少女を黄泉の国から貰い受けたくてね」
「ほう、少女をな確かに死後の世界は俺の物だがただではやれんぞ、対価に何を差し出す?」
「対価?」
「そう対価だ、人一人の魂安くはない」
「そうだな、この世界全部が叔父の物になる」
「へっ、、何だそれ」
「まず、いつも叔父に対して睨みを利かしているアテナ軍が居なくなる」
「それは、アテナも納得しているのか?」
「勿論さぁ」
「なら少女の一人位造作もない返してやる」
「それだけではないよ? 僕がこの世界から居なくなる」
「それってどういう意味だ」
「僕は他の世界に行くことにする」
「おい」
「そう二度と太陽は登らない。闇の世界は叔父の世界、つまりはこの世界の総てが叔父の物になる。」
「本当に良いのか?たかが少女一人にそんな対価で、儂に出来る範囲なら他の願いも聞こう」
「だ、そうだセレスくん、お願いを聞いてくれるってさ」
「あの、水野裕子さんという少女を返して下さい。」
「解った。おい、水野裕子という少女を連れてきてくれ、間違うといけないからお主の名前を教えてくれないか?」
「黒木セレスと申します」
「解った、黒木セレスと仲の良かった水野裕子だな」
「はい」
「他は?」
「もし可能ならで構わないので僕に彼女を合わせる前に彼女に傷があったら治療をしてくれませんか?」
「解った、だったらネクタルを食べさせよう。それで良いか?」
「ありがとうございます」
「アポロン、ここまで進めて嘘等とは言わぬよな?」
「本当だ、明後日には居なくなるさ」
「本当にそれだけで良いのか?他には無いか?対価が少なすぎるが、、」
「あの、もし該当の魂がこの世に存在したら、マイン様の世界に来て頂けるように伝えて頂けますか?」
「これは、、」
「存在するかどうか解らないので存在したらで構いません」
「居たら伝えて、当人たちが行きたいと言うなら行かせる事を約束しよう」
「有難うございます」
「では、約束の水野裕子を連れてきたぞ、彼女で間違いないか?」
「水野さん」
「嘘っセレスくん」
「うん、勝手に死んじゃうなんて酷いな」
「ご、ごめんね」
「今度こそどんな物からでも守って見せる。そのチャンスを僕にくれませんか?」
「はい」
「僕ね君にあったら伝えたい事があっったんだ」
「うん、私もあるよ」
「「愛している」」

「あのさぁそういう事は二人でやってくれないかな」
「そうですね。すいません」
「ごめんなさい」
「さぁアテナの所に戻ろう」
二人は手を繋ぎながらアポロンの後をついていく。
その手をもう二度と離す事はないだろう。

亡命
マインは焦っていた。自分より高位の神が自分の世界に亡命してくるというのだ。
「本当に良いのでしょうか?」
「良いに決まっている。それに私とアポロンはこちらに居てはまずい、セレスくんの恋人の対価に居なくなる約束をした」
「そうですか。それは有難うございます。ですが、他の方は?」
「私もね、もう夫にはあきあきしました。それに息子や娘がこれだけそちらに移るのなら寂しくないしね」
「僕も同じ、それに剣、ソードは僕の弟だからな」
「ソードの髪みた。綺麗でしょうあれは私があげたのよ。勿論亡命するわ」
「そうですか? ヘポイスト様は」
「儂はどっちでも良いのだが、まぁいくよ。皆んなが行った後に残ってゼウスに目を付けられたら事だ」
「そうですね。それなら皆さんの亡命を女神マインの名の下で認めます」
「それよりソードの氷が解けたぞ」
「ソード様、私は私は」
「マイン様、僕も会いたかったです」
「ソード様」
「「「「、、、、、、、」」」」
「とりあえず、そちらの国へ転移しましょう」
「あのもう一つのお話しは」
「「「「後で」」」」

ハッピーエンド(最終話)
アテナ、ヘラ、エローズ、アポロン、アフロディーテ、ヘポイスト、等、オリンポスの神々と女神マイン、復讐の神セレス、その恋人水野裕子、そしてその中心であるソードはここ女神マインの神界へ帰ってきた。

「それでアテナ様、もう一つの願いとは何でしょうか?」
「多分アフロディーテも同じだと思うけど、私たちの要求はソードとの結婚の権利です」
「そういう事ね」
「えー、それは」
「ねぇマイン様、ここは貴方の世界だから貴方が第一婦人で良いわ。だけど貴方は軍神である私に勝てるのか」
「そうね、私を怒らせるなら、その美貌を取り上げようかしら?」
「ソード様、セレス」
「マイン様、良いじゃない。僕を作ってくれたんだから一緒に暮らしても」
「ですが、」
「僕なら頼っても無駄ですよ。もうお互いの約束は終わっていますから」
「そうですね、仕方ありません。後でもう二人の婚約者たちと話し合いましょう」
「「「そうですね」」
「所で、他の方達は」
「私はね慈愛の女神なのよ。だから貴方も含んで子供と思い見守るつもり」
「ありがとうございます(この方が一番まともそうだ)」
本当は一番怖いのだけどね、本当ね。
「アテナ、アフロディーテ何か言いましたか?」
「「いえ何も」」
「僕は恋愛の神だから、この世界の愛を応援するよ、ソードの中に僕の血も流れているからソードの兄弟と思ってくれれば良いよ。」
「そうですか助かります」
「僕は太陽神アポロン。この世の中を照らしす。後は薬学に詳しい。ソードの兄弟そう思ってくれて構わない」
「儂は物造りが好きだ。適当に何か作って貢献しよう」
「宜しくお願いいたします」

「良かったですね、皆さん。所で僕たちは一体どこで暮らせば良いのでしょうか?」
「そうねセレスは一応神だからここで暮らせば良いと思うわよ、水野さんもネクタルを食べたのだから神の一員になっていると思うからここで良いはず」
「水野さん、それで良い」
「うん、私はセレスくんが居るならそこが居場所だから」
「僕も同じ、だけど、せっかくだから一度この世界見て歩かない?」
「セレス君が案内してくれるの?」
「僕も詳しくないから一緒に見て回ろう」
「うん」

「「「いいなぁ、あれ」」」

「そうだ、ソード様私と一緒にこの世界を見て回りませんか」
「そうだね楽しそう」
「マイン、私も来たばかりでこの世界に詳しくなんだが」
「私も同じよ」
「じゃぁ皆で見て回るのが良いかも知れないね」
(何でこうなるのよ、新婚なのに)

この後、マイン様は人間界に居る。もう二人の婚約者、聖女マリアと王女テレジアと話し合いをしたらしい。話し合いの末、結婚の序列は 第一婦人マイン様、第二婦人アテナ様 第三婦人アフロディーテ様 第四夫人 マリア 第五夫人がテレジアとなった。いきなり五人と結婚した僕は最初大変だったが少しづつ慣れつつある。 最もエローズ様やアポロン様、ヘラ様にも連れ出されているので、毎日が忙しい。

セレスはと言うともっぱら今迄の時間を取り戻すように水野さんと遊びまわっている。
ただ、二人で神界で過ごしていると、女神たちの不満を聞かないといけないので、
人間界に居る事も多いようだ。

オリンポスとの間には神たち全員で結界を張ったのでこちらにはもう来れ無いと思う。
恐らく、暗黒世界になってしまったのでゼウスの力も弱まったし、ハーデスにもお願いしたらしいからもう大丈夫だと思いたい。 そっちの世界がどうなったか興味ないから知らない。
僕を騙して妻から引き離した者に興味はない。

僕は未だに思う。この幸せな日々が夢なのではないだろうかと。
だから起きるたびに幸せを感じているんだ。
だから、この幸せを皆んなに分ける為に僕は神として頑張る。そう決めている。

エピローグ
結局、僕は再度結婚式を追加で行う事になった。新しく妻として加わったのは 軍神のアテナと美の女神アフロディーテだ。

そして、お披露目にてヘラ、エローズ、アポロン、ヘポイストがこの世界に移り住む事になった事を伝える事になった。

教会は今迄マイン様しか神像が無かったので、この際に纏めて像を作ってしまおうという事になり、大掛かりな工事が必要になった。又一神教から、多神教に変わったの教義の擦り合わせが必要で、聖女マリアが奔走する事となった。
マリアは、「何で私だけこんなに忙しい思いをしなくちゃいけない」とぼやいていたが
「聖女だから」の一言でかたずけられていた。
僕も含み、新たに8人も神が加わってしまったのだから仕方ないと思う。

セレスくんは復讐の神なので、「悪い事するとセレス様に罰が当てられるぞ」と子供に言う親をみて傷ついていた。
当人曰く「そんなに僕って怖いのかな?」だそうだ。
普通に怖いと思う。
その恋人の水野さんは「まだ、神様ではないので」と言って神像を断っていたが、実は既に作成済みで二人の結婚式の後に飾られる事になっている。

セレスくんがハーデス様に頼んでいた「あの、もし該当の魂がこの世に存在したら」というのは自分の名前の元になった、セレス.ヘンドリック達の事だったが、調べた結果、何処にも魂が存在しなかったので架空の存在であると確認された。
まぁ小説の主人公の名前だから普通に考えて居ないと思う。

そして、僕は5人の妻たちに囲まれて楽しく過ごしている。

この楽しい日々が明日も明後日も続くように僕は願っている。
ただ、祈っていると神のくせにだれにと茶化されるのだが、、、、

                                END

後書き
応援有難うございました。
楽しんでは頂けましたでしょうか?
応援を頂きまして「夢落ち」から話しを続けさせて頂きましたが、正直迷走につぐ迷走でした。
他の作品と違い、何故かこの作品の自分の作ったキャラクターは自己出張してくれません。
何度も、「夢落ち」のままの方が良かったのでは思いました。
正直、頑張るだけ、頑張りましたが、、、余りの完成度の低さに自分でも悲しくなりました。
他の方の作品の方がしっかりとした世界観があります。
やはり私は、長文や長い作品を書くセンスは無さそうです。
後は、時間を見て誤字脱字の修正をしてこの作品の完成とさせて頂きます。

読んで頂いたすべての方へありがとう。

                    石のやっさん

これは大昔に書いた私の作品です。

ファンの方の為にアップしましたが、殆ど当時のままの原稿で載せています。

誤字脱字もそのまま、ですのでお許し下さい。

石のやっさん