お月様が綺麗
「助けて」
幾ら助けを求めても誰も助けてくれない。
「助けて」
誰も私を助けてはくれない。
昔、私を助けてくれようとした人は殺された。
最初に殺されたのはお母さん。
私に馬乗りになり顔を傷つけようとしたお姉ちゃんから私を助けようとして、殺された。
「助けて…」
次の犠牲者になったのは小姉ちゃん。
私の二人いる、お姉ちゃんのうちの私に歳の近い方のお姉ちゃん。
お姉ちゃんから私を庇った結果。
口を裂かれた、その結果、同じような化け物になってしまった。
「京子、逃げるんだ~」
そして、今目の前で、お父さんがそう叫びながら、殺された。
お父さんと一緒に逃げたが無理だった。
何処までもお姉ちゃんが追ってきた。
警察に頼っても何処に頼っても無駄だった。
助けようとしてくれた人はただ、殺されるだけだった。
後ろから髪の毛を振り回しながらお姉ちゃんが走ってくる。
幾ら逃げても無駄だった。
「京子~姉妹の中でお前だけが綺麗なままなのは許せないのよ~」
「お姉ちゃん、あの時京子を助けたから、こんなになっちゃったのよ~京子~」
「ハァハァ~助けてお姉ちゃん!」
「「駄目」」
私は2人のお姉ちゃんに押さえつけられた。
そして、お姉ちゃんは私に覆い被さると、私の口を裂いた。
「痛い、痛いよぅ、きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーーーうわぁぁぁぁぁぁぁーー」
「あははははっ、これで三姉妹同じ顔だわ、きゃははははははっ」
「そうね、これで良いわ、もう貴方は追いかけない、同じ顔になったからね」
顔を血だらけにして見た、お姉ちゃんは恐ろしいほどに怖かった。
本来なら痛くてたまらないはず。
だけど、この時の私には『もう追いかけて来ない』その安心感の方が強かった。
「お月様って綺麗なんだ」
裂けて醜くなった顔で見た月はとても綺麗に見えた。
私の居場所は此処には無い
口を裂かれた私には居場所がなかった。
一度は児童養護施設に保護されたけど…
「化け物、気持ち悪い、あっちに行け」
「化け物なんて死んじゃえ」
此処にも私の居場所は無かった。
トイレに入れば上からバケツ一杯の水が降ってくる。
学校に通う為に必要な教科書も鞄も私には無い。
本当はあったのだけど、同じ施設の誰かに捨てられたんだと思う。
その事を施設長に相談しても駄目だった。
「皆が言っているわよ、自分で捨てたって、嘘は駄目よ」
だれが大切な物を自分ですてるのだろうか?
だけど、私が幾ら言っても無駄だった。
『本当は私が正しい』のは誰もが知っている。
だけど、私が『醜い』から『口が裂けている』から助けてくれない。
頭の中に悪い考えが浮かぶ。
『ほらね、醜いとそうなるのよ? だから、皆の口も裂いて同じ顔にすれば良いのよ』
『皆が醜く成れば誰も貴方を虐めないわ』
そんな声が聞こえてくる。
駄目、そんな事しちゃ。
それは悪い事だから。
此処には私の味方は居ない。
それにこのまま居ると、きっと私は誰かの口を裂いてしまう。
だから、私には逃げるしかなかった。
◆◆◆
こうして私は浮浪者生活を送っている。
しかし、神社の裏や、公園、案外住むのには困らない。
他の浮浪者の様に空き缶を集めてお金を貯めて何かを買ったり。
棄てられている物を拾って食べる生活にはなれた。
しかも、今はインフルエンザが流行っているから、マスクしている人も多いし、マスクも棄てられているから困らない。
それに醜いと言う事で得する事もある。
「家出したのか?お兄さんの家に来ない?」
「可愛い、女の子がこんな所に居ちゃ危ないよ?」
「そうそう、お兄さんと一緒に行こう、泊めてあげるから」
こんな人間について行ったら、絶対に変な事されるに決まっている。
「私、可愛い?」
「うん、凄く可愛いよ、なぁ」
「うんうん、可愛いよな」
「うん」
「そう? これでも『可愛いい』」
そう言って、マスクを外して見せた。
私の顔を見た男たちは震えだした。
「くくく口裂け女」
「たたたたた助けて、助けて、助けて」
もう一人は無言で走って逃げた。
「今回は見逃してあげるよ? だから、とっとと消えてくれないかな」
「「はははいーーっ」」
慌てて逃げ出した。
女の子には綺麗だからこそ陥る罠がある。
空を飛べる蝶々だからこそ蜘蛛に捕まる、地を這う虫は蜘蛛の巣に掛からない。
醜いからこそ助かる事も少しはあるのだ。
◆◆◆
「今日も碌な物はないなぁ~」
私はゴミ箱を漁っていた。
最近になって少し解ってきた事がある。
もしかして私は人間じゃなくなってきているんじゃないかな?
本当にそう思う時がある。
食欲も余りない。
何故か素早く走れる。
そして力も信じられない程強くなっている気がする。
まぁ、それはどうでもいいんだけどね。
「さてと、本当に碌なものないな、肉が食べたいな、お腹は何故か空かないけど、味がしっかりした物が食べたい」
あっ不味い、学生さん達が要る。
何処かに隠れないと。
私は咄嗟に木の陰に隠れた。
いいなぁ~、普通の学生さんは、綺麗な服着て楽しそうで。
『私だってお姉ちゃんが『口裂き女』じゃ無ければ今頃は女子学生としてああいう生活が』
そんなこと考えても無駄だよね。
だって私はこんな顔なんだから。
マスクしているから、多分口の裂けている事は解らない。
だけど、見ていても惨めなだけだよね。
そう思いながらも目を離せず見ていると、その日は違っていた。
大地が割れる様な大きな音がした。
空が暗く曇り、その中暗闇の中から光が降り注いできた。
『一体何が起きているの』
「きゃー、なんでいきなり暗くなったの」
「一体何が起きているんだ」
「こんな感じの空なんて見たことが無い」
学生さん達もパニックに陥っていた。
この場所から逃げた方が良い。
そう思い走り出そうとしたけど、何かにぶつかり逃げられなかった。
『嘘、なんで?』
見えないバリアの様な物に阻まれて何処にも逃げられない。
学生さん達は、嘘だ、気を失っている。
一体、何が起きているの?
光が大きくなって私の所まで広がってきた。
その光に包まれると私は意識を手放した。
女神様と何も貰えない転移
此処は何処だろう?
何も無い白い空間みたいだ。
学生さん達はまだ気絶している。
兎に角隠れなくちゃ。
周りをキョロキョロ見回しても隠れられそうな場所は無い。
一生懸命探しても見つからないから出来るだけ距離をとってうつ伏せになった。
私の目は異常に良い。
そして耳も、そのまま今後どうなるか様子を見る事にした。
暫くしたら、学生さん達が起きはじめていた。
皆の前にいきなり美しい女性が現れた。
自分の事を女神だと言っているのが聞こえる。
そして、集中して聞くと、どうやら異世界で生活するのに必要な『スキル』と『ジョブ』を与えているようだ。
「浅川、起きろ」
「浅川くんで最後だから早く女神様の所にいって」
「えっ女神様? 何があったの」
「浅川くんが寝ているときに異世界に召喚で呼ばれたんだ、そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルを授けてくれているんだよ」
「そうなのか」
「それじゃ、先に行くぞ、お前もジョブとスキルを貰ったら来いよ」
学生さんの会話から考えると…どうやら、ジョブとスキルを貰った人から先に転移していくみたいね。
彼も、女神様らしい女性のいる列に並んだし。
学生さん全員がジョブとスキルを貰っていき、全員が魔法陣の中に入り転移していった。
「そこに隠れている女の子! 貴方にもジョブとスキルをあげるから出て来なさい」
流石は女神様だ、私が隠れているのに気が付くなんて。
「はい」
「貴方にも、ジョブとスキルを…あれっおかしいな、ちゃんと人数分ジョブとスキルは用意したはずなのに…なんで一人分足りないの?」
「あの、女神さま?」
女神様の顔色が変わった。
何が起きているの?
「貴方…人間じゃないわね?」
「はい」
「そうか、人間じゃ無いのね! だから貴方の分のジョブもスキルもないのね」
私は化け物、悔しいけど仕方ない…
お姉ちゃん達を思えば、只の化け物だもん。
「それなら、元の場所に返してくれればいいですよ、お手数を掛けました」
「そういう訳にいかないのよ『異世界で魔王が現れ困っている、そしてその国の王族が勇者召喚をして皆を呼ぼうとしたのよ.」
「何となく物語とかで聞いた話に似ていますね」
「同じような物語は沢山あるよね! まさにそれ! それで私は女神イシュタリカって言うのだけど、そのまま行ってもただ死ぬだけだから、向こうで、戦ったり暮らせるようにジョブとスキルをあげていたのだけど…」
「そうなのですか?」
「困った事に私は人の女神だから、貴方にはスキルもジョブもあげられないのよ。」
「あの、女神様?さっきから言っている通り、私は返してくれて構いません、化け物ですから」
「そういう訳にもいかないのよ…どうしよう?」
「私に聞かれても困ります、ですが本当に返してくれて構いません」
「本当に、困ったわ…このままだと貴方だけ何もない状態で行かなきゃならなくなる」
「元の世界に戻す事はもしかして出来ないのですか」
「この魔法はあの場に居た全員に掛かっているから無理だわ」
「そうなのですね…じゃぁ私だけ何もない状態で行くしかないんですね」
「本当に、ごめんなさい」
「良いですよ…私が行かないと勇者が召喚できなくて困るんですよね? 私が行けば…それで助かるんでしょう?…行きますよ…どうせ、何処に行っても同じですから、私は…」
「あの、本当にごめんなさい…貴方は人では無いけど、向こうで化け物扱いされて殺されると可哀想だから、特別に私が洗礼してあげるわ。これで鑑定を受けても『イシュタリカ教徒』としっかり出るから虐待はされないと思う、後は翻訳、これは無いと話せないからあげる、これ以上の事は出来ないわ、ごめんなさい」
「出来ない物は仕方ありませんから気にしないで下さい」
何かしようとしてくれるだけ、女神様は良い人だと思います。
「これだと私から何もあげてないのと同じだから神託で教会に貴方の名前を伝えて力になってあげるようにお願いしてあげる…これで許してね!」
「解りました、逆に迷惑をお掛けしました」
「良いのよ..私のミスだから…では京子さん、辛いと思いますが強く生きて下さい」
流石女神様、名乗っても居ないのに、私の名前が解るのですね。
「あの、女神様、流石に『学生さん達と一緒は辛い』ので場所だけでも変えて貰えませんか」
「そうね、確かに、王城は辛いよね、解ったわ、街の人が居ない場所に転移させてあげる」
「有難うございます」
「良いのよ」
こうして私は異世界へと転移した。
転移後、冒険者ギルドにて
再び私が目を覚ますと其処は、異世界だった。
中世というか大昔の街並み…まるで外国に来たみたいだわ。
此処でこれから過ごすのか。
前より暮らしやすいと良いなぁ~
服は、多分こちらの服なのかな、旅人が着る様な服になっているわ。
そしてポケットには革袋があり、お金が入っていた。
あとはナイフと手紙もあった。
あの女神様は割と親切なのかも知れない
取り敢えず、ポケットに入っていた手紙を開いてみた。
『まずは、冒険者に登録してから教会に行きなさい』
こんな感じに書いてあった。
街を歩いて近くの子供に冒険者ギルドの場所を聞いた。
「この先の剣のマークがある場所がそうだよ」
可笑しいな?
私を見ても怖がらない…なんでだろう?
まぁ普通に話して貰えるなら、それに越した事はないよね。
「ありがとう」
「どうしましてお姉さん」
その女の子は手を振って笑顔で去っていった。
えーと、なんで?
私を見ても怖く無いの?
何だか心が温かくなるよ『普通に誰かと話した』なんてどの位ぶりかな。
◆◆◆
冒険者ギルドにて。
見た感じは酒場が併設されていて、いかにも荒くれ者が集う場所…そんな感じに見える。
本当に大丈夫なのかな? 嫌われてお酒を頭から掛けられたりしないかな。
考えていても仕方ない。
私はは意を決してカウンターへと向かって行った。
「初めて見る方ですね!今日はご依頼ですか?」
怖がってない…普通に話してくれるんだ。
違う、ちゃんと言わないと。
「登録を頼みたいのですが、お願い出来ますか」
「はい、登録ですね、こちらの用紙にご記入お願いします。文字は書けますか?」
「はい大丈夫です」
大丈夫な筈よね?
私は何故かひらめいた文字をそのまま書いた。
「これで宜しいでしょうか?」
私が書いたのは
京子
職業 鎌使い。
家族は居ない。
それだけしか書いていない。
実際は解らないけど、横の書いている人が剣士って書いていた。
私は今迄使った事は無いけど、多分使える様な気がする
私の中には鎌を持った怖いお姉ちゃんの姿が焼き付いている。
これ位しか思い浮かばない。
「構いませんよ、冒険者ギルドは来るものは拒まずです。 訳ありの方でも犯罪者で無い限りどなたでもOKです、ですが、鎌使いですか? 鎌とはあの農民が使う鎌ですか?
「はい、そうです」
ちなみに、どういう仕組みか解らないが犯罪歴があると紙が赤くなり、ギルマスと面接になるらしいわ。
軽い犯罪なら、なれると考えると案外敷居は低いのかも知れないわね。
「それじゃ、これで登録しますね」
「ありがとうございます!」
「但し、冒険者は、自己責任の厳しい世界だという事は頭に置いて下さい」
「解りました」
「それではご説明させて頂きます」
説明内容は、
冒険者の階級は 上からS級、A級、B級、C級、D級、E級、F級にわかれている。
上に行くのは難しく、B級まで上がれば一流と言われている。
殆どが、最高でD級までだそうだ。
級を上げる方法は依頼をこなすか、大きな功績を上げるしか方法はない。
B級以上になるとテストがあるそうだ。
ギルドは冒険者同士の揉め事には関わらない。
もし、揉めてしまったら自分で解決する事。
素材の買取はお金だけでなくポイントも付くので率先してやる方法が良いらしいわ。
死んでしまった冒険者のプレートを見つけて持ってくれば、そのプレートに応じたお金が貰える。
そんな感じだった。
「解りました」
「はい、これがF級冒険者のプレートです、再発行にはお金が掛かりますので大切にお持ちください」
これが、私のプレート、身分証明になるのね。
そう思うと、凄く感動した。
「ありがとうございます」
お礼を言い立ち去ろうとすると受付嬢が話し掛けてきた。
「此処帝国では、帝王様は『強い人間』を好みます、実績があれば上に昇り詰められます、頑張って下さい」
励ましてくれているのかな?
「はい、頑張ります」
帝国という事は、他の国についても今度調べないとね。
ついでに住む場所についても聞かないと。
まぁ最悪は野宿でもいいけどさぁ。
とりあえず、お金もあるし、今日は遅いから、明日から色々頑張ろう。
その為にはとりあえず宿について聞かないと..
「この辺りで安く泊まれる宿はありますか?」
「それなら、当ギルドの仮部屋は如何ですか? 1日2食付いて小銅貨6枚、これは地方から出て来た初心者冒険者の支援だからかなりお得ですよ…但し最長で10日間まで、依頼を2日間で1回は受けて貰えなわないと出て行ってもらう条件です!」
何だか凄く親切な気がします。
「お願いします」
「場所はすぐ裏です。食事はここの酒場で冒険者カードを出せば貰えます。便利でしょう」
「本当に便利ですね」
「あくまで支援ですので」
「ありがとうございました」
私は、酒場で早速、食事を貰った。
凄く美味しい、流石に残飯とは比べ物になる訳はないよね
パンにミルクの様な物、何かの焼肉、スープがついている。
うん、凄く美味しい、量も沢山あって満足、満足と。
それを平らげると部屋に早速行ってみた。
あらかじめ部屋番を教わり、鍵を貰っていたので部屋に入った
部屋の広さは狭く、ベットとテーブルだけで一杯一杯だ、ベットには毛布がある。
狭いかも知れないけど、屋根があって暖かい毛布もある、うん凄く幸せだな~。
銅貨6枚で食事つき、これからは今迄とは違う。
働ければお金が貰えるんだ。
逃げ回らなくても、隠れなくても生活ができる。
『う~ん、最高』
女神様は謝っていたけど、元の暮らしを考えたらうん、凄く幸せだ。
何故か、皆が私を怖がらないしね。
明日になったら誰かに聞いてみよう。
まずは、此処を10日間で出ないといけないから、生活が出来るように明日から頑張るぞと。
此処は、私にとって天国
朝起きた。
ベッドで寝られるなんて、凄く幸せだぁな~。
しかも、これから『ご飯』が食べられるんだか、前とは大違いだ。
前はお金があっても、ご飯が食べられない時もあったしさぁ~。
お金があってご飯を買いに行くと、私の顔を見た途端、怖がって売ってくれなかったり、水を掛けられたりしたな。
何時も本当にお金が無い、私が必死で手に入れた500円。
それでも誰もご飯を食べさせてくれない。
お店には入れないで、良くてお弁当が買えるだけだった。
それが…
「う~ん美味しい」
「あんた、本当に美味しそうにご飯食べるね!」
「だって、本当に美味しいよ、このご飯」
「嬉しい事言ってくれるね、だったら特別に、黒パンサービスだよ、バターもたっぷり塗ってあげるさぁ」
「おばちゃん、ありがとう」
この世界の人は私を怖がったり、蔑んだりしない。
どうしてだろう?
口裂け女は知らないのだろうけど、それでも口が醜く裂けた少女を怖くはないのだろうか?
◆◆◆
受け付けのお姉さんに依頼について聞くついでに、聞いてみよう。
掲示板を見るとランク事に貼られていた。
Fランクで出来る依頼は『ドブ攫い』常時依頼は『ゴブリンの討伐』『薬草の採取』だけだ、その他にも『お使い』『犬の世話』なんかもあったみたいだけど、誰かが下半分持っていったらしく千切れていた。
これは依頼を受けた後だと思う。
ドブ攫いでも良いんだけど、常時依頼は『依頼を受ける必要が無い』自己責任ではあるけど、失敗しても責任は問われないみたいだ。
それならば、初日だしこれを受ける事にしよう。
まぁ、私は本来は人間じゃないし、多分人間より強いから大丈夫じゃないかな?
「あの、少し教えて下さい」
受け付けのお姉さんのうち暇そうな人が居たので、捕まえて話し掛けた。
「うん、なんかようかい?」
「初めて依頼を受けるのですが、ゴブリンの討伐と薬草採取について教えて貰えますか?」
「うん、初めて、まぁ簡単に言うとゴブリンは子供みたいな魔物ね、左耳を斬り落として持ってくればお金になるよ、薬草はこれに書いてある薬草を持ってくればお金になる、そんな感じ~ まぁこれあげるから持っていきなあ~」
なんだか気だるげに話す人だな。
「あの…」
「どうした~ 新人さん」
私は、自分の顔について話した。
どうして、怖がられないのか、気持ち悪くないのか、等についてだ。
「おやまぁ、随分と田舎、もしくは閉鎖的な所から来たのかな~ まぁ冒険者なら皆気にしないよ、少なくとも表向きはね」
冒険者なら気にしない?
なんでだろう?
「不思議そうな顔をしているね、確かに田舎の村なんかじゃ仕方ないか、王国は解らんけどさぁ、ここ帝国では女だろうが、男だろうが『強い奴』は尊敬されるのさね」
えーと。
「それはどういう事なのかな」
「直接見た方が良いかな、あっ『アマゾネス』のエルザがきた、おーい」
「何だい、ミランダさん、あたいに用事があるのかい? もしかして指名依頼とか?」
「違うよ、この新人さんが顔の傷の事を気にしているから、少し話して欲しんだ」
「何だい指名依頼じゃないんだ、あっ、その口の傷かい? 確かに裂かれていて大変だね」
えーと『大変だね』それだけなのかな。
「あの、それだけですか?」
「はぁ~同情でもして貰いたいのかい? ならお門違いだよ、私達の一族にとって、傷は自慢だからね」
自慢? 何で? 解らない。
「いや同情じゃ無くて、この新人さん、顔が気持ち悪いかって聞くからさぁ」
「そういう事? 確かに顔に傷があると男にモテなくなるわね…だけど冒険者というなら、普通でしょう? 気にしなくて良いよ」
「本当ですか」
「あのよー、あたいを見て見ろよ! まぁ口では無いけど、顔に大きな傷があるだろう? だけど、女の戦闘民族である、アマゾネスじゃ、これは誇りなんだ、より強い相手と逃げずに戦った証なんだ」
「誇りですか?」
「そうよエルザさんの二つ名は『スカーフェイスのエルザ』この顔の傷にちなんだ字(あざな)なのよ、凄いでしょう、ちなみに字は強い冒険者になると自然につくのよ」
「まぁな、あたいは強い、だけど、見渡して見てみな、あそこの冒険者は片腕が無いだろう?あれシルバー狼と戦った時に食いちぎられたんだぜ、あそこの女冒険者は足が義足だ」
言われて見れば、怪我した人も沢山いる。
「本当にそうですね」
「冒険者やってりゃ、こんなもんさね、傷や怪我は当たり前の商売、あたい達程じゃないが、誰もが怪我や傷なんて気にしねーよ! この国の帝王様も顔に大きな傷を持っているんだ。まぁ、なよなよした王国や聖教国は解らねーが、まぁこの国で冒険者しているなら、問題無いよ」
「有難うございます」
「それによ、もし、その傷が気になるなら、金さえ払えば、凄腕のヒーラーが治してくれるさぁ、まぁ金貨が飛ぶけどなぁ」
この国は『私を蔑むような存在』や『恐れる存在』は居ないと言う事?
此処は私にとって『天国』だ。
私はミランダさんとエルザさんにお礼を言ってギルドを後にした。
異世界の化け物ゴブリンVS日本の化け物『私』…勝ったのは私!
さて、『ゴブリンの討伐』と『薬草の採取』かぁ~
まずは…
「鎌ですか? それは武器になるのでしょうか?」
私は武器屋に来ている。
だが、此処には売ってないみたいだ。
「あの、私はそれを戦いに使いたいのですが、何処かに売っていないでしょうか?」
「確かに田舎では農耕具を武器に戦う農民が居ると聞いた事がありますね、農工具ですので武器屋ではなく、道具屋の扱いになりますね」
「よく考えたらそうですね、有難うございました」
「良いのよ、鎌以外の武器が必要になったらまた来てね」
可笑しいな、このお姉さんも親切だぁ。
そんな訳で私は今度は道具屋に来た。
「鎌で戦う? ああっ姉ちゃんは田舎の出身なんだなぁ~ 解る解る、だがナイフや剣を使ったらもう鎌なんて使わなくなるよ」
「ですが、慣れた物で戦いたいんだけど?」
「どうしてもと言うならこれかな?」
他の鎌より少し大きくて立派な感じがする。
「大鎌って言うんだ、普通の鎌より大きいし、これは剣やナイフを打つ人間が作ったから丈夫だ、まぁその分少し高いけどな」
高い、そう言うが凄く安く感じる。
「まぁ、所詮は鎌だからな」
私は大鎌と、素材の回収や薬草の採取に使う腰袋を購入して店を後にした。
ちなみに冒険者ギルドのお姉さんには薬草かポーションを買うように言われたけど買わない。
何故か口だけは治らないが、体の傷は何時も寝ていれば治るからね。
◆◆◆
私は今、ゴブリンの草原に来ている。
この場所にはゴブリンが沢山いるそうだ。
ギルドのお姉さんには『ゴブリンの森は危ないから、近くの森で狩った方が良いよ』と言われた。
だけど、私は敢えてこっちに来たんだ。
日本の化け物と言われた『口裂け女』その能力がこちらの化け物に通用するかどうか?
もしこの世界の化け物に私の能力が通じないなら、諦めて『薬草採取』もしくは『ドブ攫い』でもしながら生活して『就職』を目指すよ。
だって此の世界…『私を誰も怖がらない』んだから。
それでも幸せだ。
だけど、もし通用するなら、冒険者を頑張るのも良いかも知れない。
さぁ..勝負だよ。
暫く探すとゴブリンが三匹居た。
人間の子供に近いと言うから『もし可愛かったら殺せない』なんて思ったけど、あれは見た目からして化け物だぁ。
私と違い人間ぽくもない。
しかも知能も低いらしい…うん、あれなら狩れる。
私は思いっきり走り出すと鎌を振り上げた。
「キシャァァァァァァーーッ」
気が付いたがもう遅い。
私が鎌を振り下ろすと簡単にゴブリンの首は落ちた。
残る2匹もそのまま、ただ鎌を振るだけで首が飛んだ。
私の体は不思議だ。
理由は解らないが『鎌を持つととんでもない力』が使えるようになる。
そして走るスピードはオートバイより早く走れる。
750CCのオートバイ相手に0~400(ゼロヨン)を仕掛けても余裕で勝てる。
だが、お姉ちゃん二人は新幹線より速いから勝てないけどね。
異世界の化け物ゴブリンと日本の化け物『私』の勝負は私の勝ちだった。
私のスピードにはついて来れずに、ゴブリンは完全に『私の獲物』に過ぎなかった。
暫く狩り続けていると、少し大きなゴブリンが2体居た。
だけど、その大きな個体も『少し強く感じた位』だった。
結局私は合計23体のゴブリンを狩ってこの日の狩は終わった。
初めての報酬
「凄いわね、貴方1人でゴブリンを23体も狩って来るなんて、見誤っていたわ」
うん、この位は楽勝だけど、この世界では凄いんだなぁ。
「どうにか狩れました」
ゴブリンは1体辺り銀貨7枚(7000円位)と討伐報酬は低い。
だが23体となると銀貨161枚(16万1千円)となった。
うん、たった1日で稼いだとなるとこの先の生活は成り立つ。
良かった~。
「それで、お金はどうする? ギルドカードを使ってギルドに預ける事は出来るよ」
「それなら無くしちゃうと困るから、銀貨20枚残して預けます」
「そう、それならお預かりしますね、あと、今回の討伐でランクが上がりましたFからEに変わります、良かったですね」
何だか誰かに認めて貰えるのって嬉しいな。
「おっ、京子、討伐してきたのか、ゴブリンとはいえ、その数を狩れるのはなかなか凄いな」
「頑張りました」
「アマゾネスで通用する位だな、あっ京子は田舎者だから、男に気を付けるんだぞ」
「男ですか?」
これはリップサービスだよね?
幾ら何でも私が男に..なんてない。
「何、変な顔しているんだ? いいかい? あんたが住んでいた場所と違って冒険者は強い人間がモテる、それに貴方は凄く可愛い、確かに口の傷は凄いが、逆をかえせばそれしか欠点が無い」
「あははははっ、そんなまさか」
「あのさぁ、田舎でもしかしたら単立民族の村にいたんじゃないのか? 帝国には獣人、エルフ、ドワーフを始め沢山の民族がいる、種族によってはそんな傷気にしない」
「本当にそうなのですか?」
「ああっ、私は女だが、お前を男にした感じの人間が好みだ、だから冗談じゃ無くて気をつけろよ」
「解りました」
私がモテる?
信じられないな。
幸せだよ
「京子ちゃん、良かったらこっちきて飲まない?」
えーと、これは私に言っているのかな?
こんな時どうして良いか私には解らない。
「早く、早く、お酒もつまみも全部奢るから」
「待ちなよ!京子は私の妹分だからね」
「げっエルザ」
なんでだろう? エルザさんが声を掛けたら皆がそそくさと居なくなった。
「あのさぁ、京子、前にも言ったけど、あんたは『凄くモテる』んだ。だから気をつけなよ」
「それがどうしても、信じられないんですよ」
「あのね、強くて可愛くて、金が稼げる、そんな女、冒険者が放って置くと思う? その辺のゴブリンも真面に狩れない奴や、パーティーで頑張ってもオーク10匹も狩れない冒険者からしたら欲しくてどうしようもない人間なんだからね」
未だにこれが信じられない。
「もう危なくて見てられないから、うちのパーティーに形だけ所属しな」
「良いの」
「ああっ」
こうして私はエルザさんのパーティーの一員になりました。
◆◆◆
口が裂けている。
お姉ちゃん達と違い、私はなにも悪くない。
ただ、お姉ちゃんに口を裂かれただけで、何も悪い事はしていない。
それなのに、前の世界は私を化け物として扱った。
それに比べて、この世界は凄く暖かい。
「京子、今日はオークを狩りに行くよ」
「了解」
此の世界には私を友達として扱ってくれる人もいる。
「京子ちゃん、可愛いね、僕とデートしない」
「ごめんなさい、これから狩りに行くの、そうだエルザさんと一緒なら夜、お酒位付き合うよ」
「げっ、エルザと一緒、まぁ良いや、それじゃ約束だよ」
「うん」
此の世界なら私は『女の子』で居られる。
この世界に来られて良かった。
私は今…凄く幸せだよ。
FIN