貰いたくても貰えない…
僕たちはいつもの様に授業を受けていた。
どこにでもある何時もの光景。
この学校は進学校ではない、かといって不良校でもない。
皆んなは、普通に授業を静かに受けている。
そして、授業が終わり昼休みがきた。
仲の良い者同士が集まって昼飯を食って、その後は仲の良い者同士で集まって楽しそうに話をしている。
僕はというと弁当を急いで食べると、教科書を枕に寝ていた。
別に虐めにあっている訳でもない。
仲間外れにあっている訳でも無い。
みんなは僕の事情を知っているので放って置いてくれているだけだ。
「なぁ、黒木が寝ているぜ、静かにしてやろうよ」
「黒木君、大変だもんね…あっちにいこうよ」
そう、あくまで僕の睡眠を妨げないようにしてくれているだけだ。
何故、そうしてくれているのか?
それは、僕が苦学生だからだ。
僕の両親は、災害で死んだ。
幸いな事に、田舎の祖父母に引き取って貰えたけど、このご時世、普通の老人は暮らすので精一杯だ。
二人は優しく僕に接してくれる…だがお金の余裕は無い。
「「お金の事は心配しなくて良いぞ(のよ)」」
そうは言ってくれるけど、家計が苦しいのは解りきった事だ。
年金暮らしできついのに高校に行かせてくれる。
そして、足りないお金を稼ぐためにバイトやパートをしている祖父母。
少しでもお金を稼いで楽をさせてあげたい。
だから、僕は高校に通いながら働く事にした。
僕は「高校を辞めて働く」と言ったが、祖父に怒られた。
そして「働くのは良いが、高校は卒業しなさい」そう祖母に言われ今に到る。
最初は皆が僕に話し掛けてくれていたし、遊びにも誘ってくれていた。
だが、僕の事情が解ると、今の様になった。
みんなは僕に優しい。
僕が放課後、倉庫整理の夜勤で働いている事を知った結果、勝手に担任とクラス委員が話して、僕は放課後に残らなくてはならない日直は免除された。
同じく、放課後に残る掃除当番も免除だ。
そして、僕が少しでも休めるようにうちのクラスの人間の多くは、休み時間なのに騒がない。
正直済まない気分で一杯だ。
だが、そう思う反面《普通に接して欲しい》そう思う僕が居る。
多少体がきつくても義務である、日直や当番をしたかった。
義務を果たして普通の生活を送りたかった。
だれもが僕に優しい…その反面….
《皆んなから可哀想な子》そう思われているような気がして仕方が無い。
だから…僕は友人1人出来ずに孤独だと思うようになった。
そんな僕にも1人だけ友達? 友神?が居て密かな楽しみがある。
それは、この街から自転車で少しいった所にある、廃村の祠にお祈りする事だ。
此処の祠には「くくり姫」という神様が祭られていて、何故か僕には声が聞こえる。
姿はぼんやりとしか見えないが…恐らくは凄い綺麗な少女のような気がする。
僕に霊能力が無いのか…それとも他にお参りする人が居ないのか…時間は僅か数分。
それも耳を澄まさなければ聞こえない程の声で…片言の声が聞こえるだけだ…
「ありがとう」とか「きみは優しいね」とか…
まぁ幻覚や幻聴かも知れないけど…別に良い…だって僕には聞こえるのだから。
その日もいつものように教室で寝ていた。
昨日の倉庫整理は大物が多くて疲れた。
そのせいで熟睡していたようだ。
だがこの日はいつもと違っていた。
「黒木、起きろ」
「黒木くんで最後だから早く女神様の所にいって」
「えっ女神様? くくり姫! 何が…」
「黒木が寝ているときに異世界の召喚で呼ばれたんだ、そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルをくれるって。」
「冗談は…」
僕は周りを見渡した。 白くて何もない空間のようだ。
嘘ではない、僕をだますためにこんな大掛かりな事はしないだろう。
「それじゃ、先に行くぞ、お前もジョブとスキルを貰ったら来いよ」
そういうと彼らは走っていってしまった。
どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に転移していくみたいだ。
僕は、女神様らしい女性のいる列に並んだ。
くくり姫じゃ無いよな…くくり姫が和の神様だとすると、此処の女神様は…洋風の神様だ。
次々にジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後の僕の番がきた。
「貴方は異世界で生きる為にどんなジョブが欲しい?どんなスキルが欲しいのかしら…望みなさい…全ては叶えられませんが、この女神イシュタスが…」
頭の中にくくり姫の顔が浮かんだ…
くくり姫はきっと…この女神イシュタスより神格は下だと思う…まして異世界じゃ助けてくれないだろう。
だけど、あの神様の信者? 友達は僕しか居ない..
だから…うん、裏切れないよ…僕にとって唯一の友達で神様なんだから…
「あの、女神さま…どうしても異世界に行かなくてはなりませんか…何も要らないから返してくれませんか….」
「ごめんなさい…それは出来ないの…」
「何でですか?」
「異世界で魔王が現れ困っている、そしてその国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとした…解る?」
「何となく小説とかで読んだ話に似ています」
「うん、同じような小説が最近はあるよね! まさにそれ! それで私は女神イシュタスって言うんだけど、そのまま行ってもただ死ぬだけだから、向こうで戦ったり暮らせるようにジョブとスキルをあげているのよ…」
「そうですか」
「だから、貴方も彼方で活躍出来るように…ジョブとスキルをあげるわ…望むなら勇者、賢者、剣聖 聖女 以外何でもなれるわ…さぁ望みなさい」
「あの、それじゃ..要りません」
「えーと要らないって言ったの?聞き違いよね?」
「要らないって言いました…」
「どうしてよ! 危ない世界なのよ? 能力も持たずに行ったら死ぬわよ!」
仕方ないじゃないか…くくり姫の寂しい顔が浮かぶんだから…
貴方は沢山の信者が居て…能力もあるだろうね…
だけど、くくり姫には僕だけしか居ない…
「僕は貴方からジョブもスキルも貰わない、どうしても、元の世界に戻すのは?難しいですか」
「この魔法はクラス全員に掛かっているから無理だわ…」
「そうですか…じゃぁ僕だけ何もない状態で送り込んで下さい」
「あの、どうしても、そうしろと言うのですか? 女神である私に貴方を見殺しにしろと!」
「良いですよ…僕が行かないと勇者が召喚できなくて国が困るんですよね? 僕が我慢すれば…それで助かるんでしょう?…行きますよ…ただどうしても僕は貴方から、何も受け取らない!」
「仕方ありません…そこ迄言うのなら…そうするしか無いでしょう…他に何も出来ませんが、死んだらその魂だけは元の世界に返します…約束します…だけど、何も与えないという事は言葉も通じない…それで良いのですね…死にますよ」
「それで結構です」
「そう、女神の祝福も要らない! 貴方は私の使徒じゃない…そういう事なのですよ? 良いのですね」
「死んだら元の世界に魂だけでも返してくれる…それで結構です」
「黒木、礼二…それでは異世界にお送りします」
こうしてクラスの最後の1人として僕は異世界へと転移した。
くくり姫
くくり姫は凄く不幸な女神だ。
もし幸せな神なら、僕は普通にあの女神からジョブやチートを貰った。
今のくくり姫には僕しか居ない…もう会う事は無いけど…どうしても僕はくくり姫を捨てられなかった。
くくり姫は生贄から生まれた女神だ。
日本の神には案外禄でも無い神が居る。
神話の中にも生贄を求める神が沢山いるのは知っていると思う。
そういうのを悪神というのだが…なかにはその悪神の慰み者になる為に生まれた神もいる。
それが「くくり姫」だった。
簡単に言うと、この村を守ってくれている悪神は、村の繁栄を約束する代わりに、若い娘を生贄に求めた。
この悪神は、生贄を散々嬲り者にして…飽きると食べてしまうという最悪の神だった。
沢山の生贄を悪神に納め続けていたが…ある時、高名な術師が訪れた時に、村人は娘を生贄にしない方法が無いか相談をした。
その術師が考えた方法は、今迄慰み者にされて死んでいった娘達の魂から…女神を作り出す..そういう術だった。
生まれた時から、悪神の慰み者になるだけの存在…それがくくり姫だった。
「私は何で此処にいるのでしょうか?」
「何だ、これが俺への生贄か? これはまた、随分器量よしを寄こしたもんだ..」
「いきなり、何をするのですか…」
「お前はこういう事をする為に送られて来たんだ」
「嫌、嫌、嫌いやあああああああああああっ」
これがどれだけの地獄か解るか?
生まれて直ぐ..それから犯され続ける..それだけの存在。
悪神の祠の傍にある小さな祠…それが彼女を縛り付けた。
神と言われながらも…ただ犯されるだけの存在。
「嫌、嫌、嫌ああああああああっ」
彼女がどれだけ悲惨かは誰も知らない…
生贄の代わりにただただ、犯され嬲られる存在…それが「くくり姫」だった。
毎日の様に犯され嬲られるだけの存在…神と言いながら何の力も無い存在…それが「くくり姫」だった。
これがくくり姫に僕が告白した時に聞いた話だった。
「私はね、神と言われながらも、こんな汚れた存在なのよ? それでも好きなの?」
その顔は、凄く寂しそうに見えた。
それでも好きだと言うと…消え入りそうな声で…
「本当に馬鹿ね…大体、私半透明だから触れないでしょう? それにもう神格も無くなってきているから消滅するのも時間の問題よ!」
「解っているよ」
悪神は善神に討伐された…その後はくくり姫を哀れと思った村人は供物を捧げ続けたという…だが村は過疎化が進み、今や廃村。
誰も拝む人が居なくなり…くくり姫は消え入る寸前だった。
「だったら、貴方はそうね神主兼、氏子になりなさい…まぁ残り僅かだけど…もう私を祭る人は他に居ないから…それで私の全てを手に入れた事になるわよ…どうかな」
神と人間は結婚なんて出来ない…それにくくり姫に触る事は出来ない、神と人間そう考えたら、これは受け入れて貰えた、そういう事だろう。
「そうだね、そうするよ」
「解ってくれて、ありがとう」
くくり姫は半透明で幽霊の様にしか見えない…もう居なくなる日も近いのかも知れない。
だけど、それまでは僕は傍にいる…そう決めたんだ。
要らないと言ったのに…
僕が目を覚ますとクラスのみんなは既に一か所に集まっていた。
その前に、明かに中世の騎士の様な恰好をした人物がいて、その先には綺麗な少女と多分王様なのだろう、偉そうな人物が椅子に座っていた。
「最後の一人が目覚めたようです」
騎士の報告を受け、王の前にいた美少女がこちらの方に歩いてきた。
「ようこそ、勇者の皆さん、私はこの国アレフロードの王女マリンと申します、後ろ座っているのが国王エルド六世です」
担任の緑川が代表で一歩前に出た。
「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も…だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」
「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」
「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、他の皆はどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」
同級生が色々な事を聞いていた。
どうやらここは魔法と剣の世界、僕の世界で言うゲームの様な世界だった。
クラスメイトの一人工藤君が質問していた。
「ですが、僕たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かにジョブとスキルを貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」
「大丈夫ですよ、ジョブとスキルもそうですが召喚された方々は召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」
「それなら安心です…有難うございました」
「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください…測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」
測定する必要は無い、そう思ったが…ジョブやスキルが無いとどれだけ違うのか見た方が良いだろう。
その後すぐに水晶による能力測定の儀式が始まった。
これは異世界から召喚した者たちのスキルとジョブ、能力が見て取れるものだそうだ。
僕も並んだ。
測定を終えた者は皆、はしゃいでいた。
「僕は聖騎士だった、しかも聖魔法のジョブがあったんだこれアタリじゃないかな?」
「私も魔導士だった、最初から土魔法と火魔法が使えるみたい」
「いいなぁ私は魔法使いだって、どう見ても魔導士より下よね、魔法も火魔法しか無いんだもの」
《そうか、てっきりみんな自分のジョブやスキルは解っていると思っていたんだけど、何を貰ったのかここに来るまで解らなかったんだ…そう言えば全ては叶えられないませんが、そう言っていた気がする…測定して初めて解るそう言う事か?》
「気にする事はありませんよ! この世界では魔法使いになるには沢山の修行をして初めてなれるのです。魔法使いでも充分に凄い事です。」
「本当? 良かった!」
会話を聞く限り、魔法使いや騎士等が多いみたいだが、それでもハズレではなくこの世界で充分に凄いジョブらしい。
そしてアタリが恐らく、魔道士や聖騎士なのだろうか、そう考えると大当たりは勇者、聖女、賢者、剣聖、確かあの女神は僕の段階では与えられません…そう言っていた。
実際には、聞き耳を立てて聞いている限りでは、凄いと思えるようなジョブは今の所「賢者」と「聖騎士」位しかでて無さそうだった。
「やった、私、賢者だってさ、魔法も最初から4つもあるよ..当たりかなこれは」
《どうやら魔法を使う、最高のジョブは賢者か、そうすると魔導士は中アタリだな、大アタリは 勇者、聖女、賢者、剣聖だ。賢者のジョブの平城さんを見た時に担当の人が驚いた表情を見せていたから》
《大当たりがどの位凄いのか知りたい》
「平城さん、賢者なんて凄いね…僕はこれからなんだけど、どれだけ凄いのか気になるから教えてくれないかな?」
「礼二君かー 良いよその代わり礼二君の測定が終わったら私にも見せてね」
「うん、わかった」
「はい」
平城 綾子
LV 1
HP 180
MP 1800
ジョブ 賢者 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1
「比べる人がいないから解らないけど..何だか凄そうだね」
「うん、賢者だからね!だけど、まだ他のジョブ 勇者も聖女も剣聖も出ていないから礼二君にもチャンスはあると思う」
「それはね、無いんだ..何故なら僕はスキルもジョブも貰わなかったからね」
「冗談だよね?」
「本当だよ..」
平城さんの顔が哀れみに変わったが気にはならない。
だって、僕は皆とは違った道を歩むのだから。
そして、僕の測定が始まった。
その結果は…
黒木 礼二
LV 1
HP 18
MP 0
ジョブ 無し 日本人
スキル:翻訳
要らないと言ったけど…あの女神、翻訳だけは勝手にくっけてきやがった。
成程…この世界の言葉が解る筈だ。
僕は何も要らないと言ったのにだ..まぁだけどこれは無いと困るから仕方ないのかも知れない。
「すみませんが、貴方だけ後でお話があります」
言われると思った…覚悟はしていた事だ。
「解りました」
それだけ答えると僕は平城さんの元へ向かった。
別に親しい訳じゃない…ただ、ジョブやスキルを見せる約束をしたから…見せに行くそれだけだ。
冒険者登録
1人だけ別部屋で過ごしている。
クラスの皆は大広間で今後の事の説明を受けて…その後は歓迎会をするそうだ。
僕は、まぁ歓迎されないだろうな?
しかし、あの女神は凄く気になる事を言っていた。
《死んだらその魂だけは元の世界に戻します…約束します》
つまり、僕以外の魂は元の世界には帰れない。
死んだ後…クラスの皆はもう家族や友人に会えないそう言う事だ。
良いのか? あいつ等…まぁ僕には関係ない。
ようやく騎士の様な人と神官の様な女性が現れた。
「少し、お聞きしたい事があります…何故貴方には女神の祝福であるジョブやスキルが無いのでしょうか?」
詳しい事情について話した。
「それは弱りましたね、この国アレフロードは女神イシュタス様を信仰する一神教なのです! その為、他の神を信仰する事は大罪なのです」
「僕は来たくて来た訳じゃありません! それに他の皆も違う神を信仰しています」
「それは本当ですか? それなら何故、他の皆さんには祝福の証たるジョブやスキルがあるのでしょうか?」
「くれると言うから貰っただけだと思いますよ? 後で聞いてみては如何ですか?」
この話が後で大変な話になるとはこの時の僕は思ってもいなかった。
「そうですか! それは後で調べます、それで貴方の事ですが、確かに何かの間違いで呼び込まれたのはこちらの落ち度と言えます…だから貴方には身分証明書と1か月分の生活費を渡しましょう…」
「それでどうすれば良いのでしょうか?」
「冒険者ギルドでまず登録しなさい! 冒険者なら他国の者の滞在も可能、証明書に日本人と記載されますので他国の人として扱い滞在も可能になります、ただそれでも住みにくいのも確かなので、多宗教の国、帝国へでも行かれては如何でしょうか?」
これは、僕が読んだ事がある、小説よりは余程良い判断をしてくれている。
これ以上の待遇は無理だろう。
「有難うございます、それでは準備ができ次第、僕は立ち去ります…それで良いですか?」
「貴方の事情は解りますが、お許しください!」
お金と身分証明と手紙、ナイフを貰った。
これで此処とはお別れだ…もう来ることは無いだろう。
冒険者ギルドに来た。
「王都のギルドへようこそ! 本日はどの様な依頼ですか?」
「すみません、登録をお願いします」
「あっ登録ですね、解りました」
僕は貰った身分証と手紙を渡した。
「あのぉ…事情は分かりましたし、登録も終わりました! ですがこれでは真面な依頼は受けれませんよ?」
解り切っている、僕の能力は恐らくこの世界では農民とか町民の普通…いや、農家の人は案外力がある。
一般人…その中でもかなり弱い方になるだろうな。
「何となくは解ります…能力の低さですね」
「はい、貴方の能力は子供以下です」
そうか、スキルやジョブが無い分…更に弱いそう言う事だ。
「それで、僕に出来る仕事はありますか?」
「多分、貴方はゴブリンにも勝てない…出来る仕事は、薬草の採取とか街のドブ掃除しかありません」
今から出来ると言うので、ドブ掃除の依頼を受けてみた。
かなりきつくて臭い仕事だったのに…貰えたお金は銅貨4枚。
「参考までに教えて下さい! 銅貨4枚ってどの位の価値がありますか?」
「そうですね…エール一杯か串焼き1本位です」
えーと、ビールが大体居酒屋で300円~800円、縁日で売っていた大きな串焼きが500円~1000円。
半日働いて1000円未満…不味いなこれ…
「有難うございました」
何か考えないと直ぐにスラム行きになりそうだ。
涙がとまらない…
とりあえず、今夜は安宿に泊まる事にした。
お金の大半はギルドに預けたから問題はないだろう。
大体、この宿に泊まって銀貨1枚。
そう考えると貰った金額だと串焼きを1日3本食べて、此処に泊まると大体40日位でお金がなくなる。
頑張って働いても日本円で1000円、1日じゃ生活が厳しい。
ホームレスになるのは時間の問題だ。
考えても仕方ない…寝よう。
しかし、くくり姫は大丈夫なのか…僕が居ないと悲しむんじゃないかな…
今日はお供えも持っていけなかった…
考え事をしていたら何時しか僕はうとうとと眠ってしまった。
どの位寝ていただろうか?
急に夜中に下半身への快感と体重を感じた。
何かがモソモソと僕の体を触っている。
僕は欲求不満なのかな…こんな幻覚を見るなんて。
「えっ…くくり姫?」
「ようやく目を覚ましたわね..」
「何でここにくくり姫が居るの?」
「貴方を心配してに決まっているでしょう? こう見えても私は貴方の神様なのよ!」
「そうでした」
「貴方が来ないから、心配して探したらこんな所に居るじゃない心配したのよ..何があったの?」
僕は今までの経緯を話した。
「貴方は本当に馬鹿だわ…もう消えかかった私なんかの為に…もう私は居なくなるのよ? 貰えば良かったじゃない」
しかし、くくり姫がこんなにくっきり見えるなんて…あれしかも触れているじゃないか…
「僕はくくり姫が好きだから…そんな事は出来ないよ」
「そう、そうよね…だからね、その来たのよ! 此処には私はそう長くいる事は出来ないわ、だから私が貴方の最初の女になってあげる…そして貴方はそう、私の最後の男にしてあげるわ…」
いきなりくくり姫に押し倒された。
「うぐうううっ」
唇を押し付けられた..その感触が凄く心地良い。
僕はくくり姫の綺麗な髪に触れた…サラサラしてて、それでいてしっとりしていて何時までも触っていたい…本当にそう思った。
「うん、くすぐったいわ」
そう言いながらくくり姫は嬉しそうだ…
くくり姫が僕を触る度に快感が頭から足まで走る…僕は初めての経験だけどこんな快感は絶対に無い。
「くくり姫、そこは..」
「気にする事は無いわ…私はそういう神なんだから、しっかりと味わいなさい」
キスをされ、舐められ、触れる度に…とんでもない快感が走る。
だから、僕も同じ様にくくり姫にする事にした。
「そんな事しなくて良いわ…貴方は私を感じるだけで良い..うううん..のよ」
「違うよ、僕がしたいだけだから」
「全くもう…」
触り方が優しい..凄く大切に思ってくれているのね…こんな優しくされた事は生まれてから1度も無かったわ。
こんな風にされるのって….初めてだわ。
礼二が…私を愛してくれているから…そうなんだ。
「くくり姫…好きだよ」
「好きだよ」と言われるたびに嬉しくなってしまう。
全身で私を感じて欲しくて…幾らでも淫らに、はしたない事を自分からしてしまう。
私はこういう事の為に生まれた神…だけど「こういう行為」を楽しいと思った事は一度も無かった。
それが…今は凄く楽しい…何時も嫌で嫌で仕方なかった行為が…終わって欲しくない。
本当にそう思えた。
「くくり姫…」
「私も愛しているわ、礼二!」
気が付くともう朝になっていた。
そろそろ、終ね…多分私はもう暫くしたら消えてしまう。
体ももう透けてきた…恐らく私の未練は「愛されたかった」それだけなのかも知れない。
「うふふ…神と言われても能力も無い…ただの未練であそこに留まっていたのね」
「くくり姫…体が透けてきている」
「そうね、だけどこれは私にとっては不幸じゃないのよ? そうね幽霊で言うなら未練が無くなって成仏するような感じかしら?」
「そうなんだ…良かった…それじゃ僕が死んだらまた会えるよね!」
「それは無理よ! その為に生まれた私は使命が終わったから消える運命にあった、だけど未練があったから今迄存在したのよ…その未練も礼二が満たしてくれたから….そう消えちゃうのよ」
「消えるって」
「そう、この世から居なくなるのよ…まぁ存在しなくなるのね」
「そんな!」
「ほうら、そんな顔をしないの…私気持ち良かったでしょう? そういう神だからね…貴方の初めての女が女神でしかもその女神の最後の男…それで満足しなさいな…ねぇ」
僕とくくり姫には最初から終わりが見えていた。
僕が悲しい顔をしていたら…彼女の笑顔が曇ってしまう…笑って..そうするしかない。
「そうだね、初恋は叶った…普通では叶わないような女神相手の恋が実った…うん満足だよ」
あははっ本当に馬鹿だわ、泣きながら言っても説得力ないわ。
本当に馬鹿なのよ…イシュタスからジョブやスキルを貰って幸せに暮らせば良いのに…
私に操なんて立てても…私は何もあげられないのに…
どうせ消滅する存在…そんな私の為に…
私が何かあげられる物は無いの…そうだ、どうせ消えてしまうなら…この容姿をあげれば良いわ。
一応、女神だから綺麗な筈だわ…男の子の姿にしても綺麗な筈よね…
あとはそう…私の力で「括ってあげる」貴方を死ぬまで「括ってあげる」
それしか私には出来ないから….
「そう良かった…それなら消えるまで抱きしめてくれるかな…」
「いいよ」
くくり姫は姿が薄くなり…消えていった…
泣いちゃだめだ…泣いちゃ駄目だ…なのに涙がどうしても止まらなかった。
僕だけが違う世界
くくり姫はもう居ない。
だけど、最後に僕の恋は実った、それだけで良いじゃないか!
残りの人生はそれを胸に頑張れば良いじゃないか?
広場に出て飯替わりに串焼きを買った。
「お兄ちゃん綺麗だね…1本サービスしてやるよ!500円ね」
「ありがとう! おばちゃん」
可笑しいな、僕は別にカッコ良い訳じゃない、良い事でもあったのか?
しかも、この串焼き美味しい!
どう見ても縁日や繁華街で販売されている物だ、多分牛串だと思う…まぁ似た物があるのかも知れない。
そのまま、ギルドに向った。
今日は「薬草採集」の依頼を受ける為にカウンターに並んだ。
何だか女性の冒険者がこちらを見ているが…まぁ異世界人が珍しいのかも知れない。
「薬草採集の依頼を受けたいのですが」
「はい、薬草採集ですね…って貴方は礼二さんなんですか? そちらが本当の姿なんですか?」
「はい、礼二です」
何故か、対応が違う…
「礼二さんの薬草採集ですが…日本に括られていますので日本の常識的金額が適応されます。日本の研究所などの依頼金額が薬草の売値から考えて1本650円+交通費として320円が別途支給されます…ご依頼を受けられますか?」
何が起きたのか解らない。
括られている? くくる? 理由は解らないがくくり姫が何かしてくれたに違いない。
「お願いします」
可笑しいな…ポケットの中のコインが…全部日本円になっている。
そういえば、朝も日本円で払ったよな…
ギルド証の残高が46万円になっている。
まぁ有難い事に違いない…僕はそのまま森に向った。
思ったより薬草は見つかり16本採集出来た。
これだと、10400円+320円=10720円になる。
くくり姫は土地に括られた神様だった。
本当の所は解らないが、「日本」に括ってくれたのかも知れない。
薬草採集の帰りにゴブリンの集団にあった。
明かに人が襲われている…だけど僕には助けることは出来ない。
凝視しすぎていた。
僕に気が付いたゴブリンが襲い掛かってくる。
詰んだ..
あれっ…ゴブリンが襲い掛かってきたが、僕には触れられない。
そうか、日本にはゴブリンが居ないから襲われない。
だから、これも日本に括られている僕には無効なのか?
だったら…
「助けて下さい..お願いします」
ゴブリンに連れ去られそうな女の子の手を引っ張る…うん触れる。
ゴブリンは触れない…
これなら…
「痛い、痛い..死んじゃうよ..」
「だけど、手を放したら…ゴブリンに連れ去られちゃうよ?」
「だけど..痛いよ」
ゴブリンは僕には触れられない…逆に僕はゴブリンに触れられないし攻撃も出来ない。
お互いに触れられないから自然と女の子の引っ張り合いになる。
そしてこの勝負負けたのは…僕だ。
痺れを切らしたゴブリンが女の子を攻撃しだした。
このままだと死んでしまう。
僕は手を放すしかなかった。
女の子は絶望したのか黙っていた。
結局、僕は見捨てて帰る事しか出来なかった。
冒険者ギルドに帰ってきた。
「お帰りなさいませ、礼二様!」
何故か、また女性冒険者の視線が僕に集まる
何でだろう?
それに何故か受付のお姉さんが優しい…態々走って来る事もないのに…
「ただいま」
素材をそのまま出したら直ぐに査定してくれた。
「状態も問題ありません、報奨金と交通費を併せて10720円になります」
「有難うございます」
僕はゴブリンに攫われた女の子について話した。
「冒険者の命は自己責任です! 死のうと生きようとギルドは関与しません。ですが礼二様は日本人ですので礼二様が行方不明になった場合は自警団と衛兵による捜索が行われ、飛竜による捜索も行われます。これは日本人の礼二様だけなので他の人間とは異なります」
確かに日本なら山で遭難しても救助隊がでるしヘリコプターも出る。
そう言う事だ。
世知辛い…そう思うけど仕方ない。
僕はギルドを後にした。
近くにある食堂に入った。
驚いた事にメニューまで日本仕様になっていた。
僕は980円のステーキセットを頼んだ。
メニューには豪州ビーフってあるから恐らく元の世界の物だ。
他のお客が食べている物とは明らかに違う…そして他のお客は水もお金を取られているのに僕はとられていない。
表通りのホテルに来た。
「いらっしゃいませ…どの様な用途の部屋が必要ですか?」
そうか、日本の場合は、旅館、高級ホテル、ビジネスホテル、ラブホテルと色々なホテルがある。
その事かな。
「普通のビジネスホテルでお願い致します、可能なら5000円位の部屋で」
「畏まりました、日本のビジネスホテルで5000円位であれば、部屋にお風呂があり、トイレも完備されています、そして空調もあります。そこから考えると同じ条件の部屋は貴族様用の特別室しかありません….広さは違いますが、それは無い為サービスにします。この部屋で宜しいでしょうか?」
「はい、是非お願い致します」
そうか、日本だと安い部屋でもトイレやお風呂は当たり前だけど、異世界では余程の部屋じゃ無いとついてない…電気なんて無いから空調なんて貴重品だろう」
凄いなこの部屋は…該当する部屋が無いから無理やり合わせてきたのかな前の世界で言うロイヤルスイートに近いかも知れない。
服を脱いで..お風呂に入る…流石に高級な部屋…鏡がある。
一瞬、鏡を見て目を疑った。
くくり姫…いや違う、くくり姫を男にした様な美少年が映っていた。
あははっこれじゃ女の子が振り返る筈だ。
もう居ない…それは解っているけど僕はくくり姫に祈りを捧げて…床に就いた。
【閑話】 王宮では
これは由々しき事態だ。
何の祝福も持っていないから解放した少年の話では…此処にいる異世界人は「女神イシュタス様」を信仰していない。
何の冗談かと思ったが確認してみたら…
「うちですか? うちは仏教と言って仏様を崇めていますね…」
「うちは無宗教に近いけど…正月にお参りに行くから神道かな」
「私はキリスト教ですね」
なんなんだ…イシュタス様から恵まれた、ジョブやスキルを貰っているくせに…他の神を信仰しているのか?
イシュタス様について聴いてみたら。
「確かに美人だけど…私の方が綺麗よ」
「ああいう美人と一夜を共に出来たら..」
「彼女にしてみたいですね」
神を愚弄しているのか?
こんな人間が何で女神の使徒なのだ…これは不味い…王に報告しなければならない。
「何じゃと! それは誠か!」
「ハイ、この目で見て聞いた事に御座います」
「何たることだ、女神の使徒として降臨された方が、他の神を信仰しているとは…」
「お父様…」
「マリンよ不本意ながら約束は反故にするしか無い、違う世界であってもイシュタス様を信仰している世界なら…お伺いを立てて転移も可能かもしれぬが…他の神の世界では無理だ…」
「お父様…ですが約束しております」
「宮廷魔術師師長よ…どうじゃ?」
「無理でございます…イシュタス様の恩恵を預かった者はイシュタス様の世界から出られなくなるのが道理でございます」
「だろうな…まぁ無理な物は無理じゃ、第一あれ程の恩恵に預かりながら他の神を信仰するなど言語道断、他の神を信仰するなら、出て行った1人のようにジョブやスキルを受取らないのが筋じゃ..あの時はあの者を疎ましく思ったが、真相を知れば、あの者の方が清廉潔白じゃよ…残った者の待遇は変えねばならぬ…まぁ明日にでも再び話すとしよう」
次の日の朝早く、召喚された者達は起こされ再び広間へと集められた。
「こんな朝早くから、どうかされたのですか?」
「緑川殿…どうやら約束が守れそうも無いので説明をしようと集まって貰ったのじゃ」
「約束が守れない? それはどういう事でしょうか?」
周りがざわつき始めた。
「まず、貴方達はもうこの世界から帰る事は出来ぬ」
「何故…約束を反故にするのですか?」
「反故も何も絶対に出来ぬから伝えたまで..お前達はイシュタス様の治める世界から来た者ではない…ゆえにその世界に帰る事は出来ぬ」
「ですが、こうして来れたのですから…帰る事も出来る筈です」
「無理だ…他の神が治める世界など私達は知らない…そしてイシュタス様の寵愛まで受けていながら帰ろうとするお前達の様な存在等知らぬ」
「そんな、元の世界に帰れないの…」
「お父さんやお母さんに会えない」
「嘘だろう…俺の彼女は此処には居ないんだぞ…」
「弟に会えなくなるなんて」
「そんな、我々は女神から、その様な事は聞いていない!」
「それは嘘では無いのか? レージと言う少年が居たが、信仰する神が居るからとスキルもジョブも受け取らなかったそうだ…事実、スキルもジョブも無くあったスキルは…」
「翻訳のみでございます」
「そうだ、女神イシュタス様が慈悲で渡した、翻訳しか持っていなかった…イシュタス様との約束でその代りこの世界で人生を全うした後はあちらの世界に魂を返して貰える約束をしたそうだ」
「それでは我々は死んだ後もこの世界に魂まで縛られる、そう言う事ですか!」
「そうなるであろうな」
「そんな事って無い」
「そんな話は聞いて無いわ」
「嘘でしょう…死んでも家族に会えないなんて」
「女神もこの世界も我々を騙したのか…」
「聞き捨てなりませんぞ…ちゃんとレージという者はイシュタス様と話し合い、信仰を捨てずに子供なのに生きていく選択をしている…他の信仰なのが残念であるが…彼の信仰している神がイシュタス様であれば、恐らく誰もが賞賛する…ああいう者にこそ、我らは迷惑を掛けた…心底詫びねばならぬ…身分証明書と僅かな生活費しか渡さなかったのに、お礼まで言って立ち去ったと聞く、それをお前達は..何を言っておるのだ!」
「ですが、我々は好きでこの世界に来た訳ではない」
「そうかも知れぬ…だが、充分な報酬を既に幾つか貰っているではないか? 強力なジョブにスキルだ、誰もが羨む成功への切符だ!違うか?」
「それはそうかも知れませんが」
「お前達の世界で、貴族になれる程の才能を持っている者は居るのか? 恐らく、此処に居る者はそうなれる可能性のある切符は貰っている」
「ですが、それでも…」
「なら、もう余は何も言わぬ…気に入らない者は出て行くが良い、先程の少年と同じように身分証明書と僅かなお金は渡そう…明日までに残るか去るか決めるが良い…」
「そんな無責任ではないですか?」
「どうとろうと構わぬ…好きにするが良い」
話しは終わったとばかりに王たちは立ち去った。
取り残された者は絶望に染まった。
日本に奴隷制度はありません…
朝食を食べに街に出た。
定食屋に入ってみたら…
「いらっしゃいませ! 礼二様は日本人ですので、モーニングセットは2種類になります。 焼き鯖定食かスクランブルエッグ朝食になります」
原理は解らないけど…此処でも特別だった。
「それじゃスクランブルエッグ朝食で」
「はい、プラス100円でコーヒーが付きますが如何でしょうか?」
「お願い致します」
これは一体何なのか解らないが…僕だけが日本と同じ待遇になっている。
この世界では水すら有料なのに、僕は無料でしかも、氷入りの冷たい水が出てくる。
食事は割高で不衛生なのだが、僕にはどう見ても日本にある物が日本の料金で出てくる。
「はい、こちらがモーニングになります」
スクランブルエッグにソーセージ、サラダにパンケーキが2枚、しかもメイプルシロップ付き。
そして、コーヒー。
「有難うございます」
「コーヒーはお代わり自由ですので、お代わりが欲しければ申しつけ下さい」
周りと全然違う…しかも僕だけが待遇が違うのに誰も文句を言う様子も無い。
ここに来る前に、紙屋に寄って来たら、僕に大学ノートにボールペンを薦めてきた。
この世界では、混ざり物の多い紙に羽ペンが標準なのに…僕だけこれだ。
此処までの経験で解った事を書き留める。
?僕にだけ「日本」のルールが適用される
?恐らく日本に存在しない物や者はお互いに干渉できない。
これはゴブリンとの遭遇で経験済み…何処まで適応されるか解らないが、ゴブリンのナイフや矢も僕にあたらなかった。
逆に僕はゴブリンに触れることが出来なかった。
?お金のレートや待遇は日本と同じ、もしくは同等となる。
賃金も日本に合わせられているようだし、部屋もそうだ。
凄いな…日本国民、異世界転移の話を良く小説で読んだが、こんな幸せな生活捨てさせられるんだ。
成功して貴族になってようやく同等じゃないか?
ちなみに、流石にトイレにはウオシュレットはついていない…だがホテルの個室のトイレにはついていた。
此処まで違うんだよ…
それは兎も角…今日も薬草採集しなくちゃ、生活が出来ない。
それにもしゴブリンが居たら…昨日の彼女も気になる。
まぁ、今の僕の立場は、派遣社員、もしくは請負。
そういう事なのだろう…
「おはようございます」
「おはようございます、礼二様、今日もお仕事頑張って下さい」
ただの薬草採取なのに、凄い笑顔だ…多分この容姿によるものだと思う。
「はい、頑張ります! あと今日は遅くまで仕事をしますので、明日提出します」
「解りました、あと、こちらをお渡し致しますので…月末までに納付お願いします」
「なんですか? これ!」
「日本で言う所の国民年金と健康保険です、宜しくお願い致します!」
約日本円で2万円の請求だ…だけど、うん? 待てよこれを納めれば年金が貰えるし、医療費は3割負担で済むのか?
まぁ良いや…だけど何処まで対応されているんだ、この不思議な待遇は。
昨日の薬草採取場所にきた。
この辺りはゴブリンがやオークが出るから、階級の下の冒険者は来ないそうだ。
勿論、階級が上がれば討伐をした方が実入りが良いから薬草採集なんてしない。
そう考えると正に僕だけの為にある場所だ。
朝からスタートしたから、あっという間に42本採取できた。
これで交通費併せて27620円…うん美味しい。
だが、これは群生地を知っているだけで、数日もしたらもう終わり。
さっさと年金を払って、その後はまた倹約した方が良いだろう。
さてと…
僕はゴブリンを探している…昨日の女の子が気になるからだ。
もし、巣があったら救出をしてみようと思う。
この為に今夜は寄らないとギルドに伝えた。
そうしないと日本人の僕の捜索が行われる可能性がある。
僕にとって恐らくゴブリンの巣は、嫌な言い方だがアトラクションだ。
お互いが触れられないし危害が与えられないのだからお化け屋敷と一緒だ。
今日の分の収穫があったのでゴブリン探しをしてみた。
案外、この辺りはゴブリンは簡単に見つかった。
こっそりと後をつけて洞窟の場所を特定する…
後は夜を待って忍び込むだけだ…
僕に関して言うなら見つかっても問題無い。
問題なのは女の子だ…つまり彼女にたどり着く前なら幾らでもチャレンジ出来る。
逆に女の子を見つけた後であれば、僕は大丈夫でも女の子の死活問題になる。
夜になるまで洞窟の近くの茂みに隠れていた。
地味に蚊に刺されて痒い。
僕の括りは「日本」…だから蚊とか日本に居る物は普通に刺される。
熊や猪はどうなるのだろうか?
此処にいるバグベアーとかいう6本腕の熊やグレートボアという猪の化け物は無効になるのだろうか?
調べてみないといけないな。
月も隠れていて丁度良い。
日本人の感覚で言うなら深夜1時そんな時間だろうか?
取り敢えず…入口から中を覗いてみた。
結果は拍子抜けした。
ただの洞窟だった。
ほぼワンルームみたいな大きさで…全て見渡せる。
彼女は、やられ終わった後みたいで、手を縛られて猿轡を掛けられた状態で転がっていた。
満足したのか、彼女の横で3匹のゴブリンが寝ている。
この洞窟の中のゴブリンは5匹…見張りも居ないで寝ている。
静かに彼女に近づき担ぎあげた。
「うううーむ!」
「静かにして、助けにきた」
良かった、気づかれていない。
そのまま…彼女を担ぎ上げ走った。
ひたすら走った…追って来る気配は無い。
ここまでくれば大丈夫だろう?
彼女を降ろして…猿轡と縛られていたロープを解いた。
「大丈夫?」
「大丈夫な訳ないでしょう…」
彼女は凄く臭いし…破られた服に白い液が沢山ついている。
そして、下半身からは血と同じく白い液体が太腿を伝わり流れ落ちた。
「ごめん..」
「良いのよ…冒険者は自己責任、助けようとしてくれて、そして助けに来てくれた…よく考えたら貴方はお人よしな位だわ」
あの時は考える余裕が無くて気が付かなかったけど…凄い美形じゃない!
「そう、それなら良かったよ…頑張ってね!」
あれっ…それが目当てじゃないの? まぁ私みたいなブサイクじゃ…そういう訳無いかな…
「何言っているのよ! 人を救出したらギルドに届け出出さなくちゃいけないのよ!」
そうなのか知らなかったな..
「解った…だけど、その状態じゃ..」
「良いの..状況説明に必要だから…恥ずかしいけど我慢する…夜中だからね?」
「なら良いけど…」
話を聞くとギルドは基本24時間、酒場も日本感覚で夜中2時には閉まるからこの時間は外に人は居ないらしい。
「お帰りなさいませ…礼二様..その女なんですか?」
「私はサナと申します…さっき迄ゴブリンの苗床になっていました…この人に助けて貰ったので、戦利品扱いで奴隷になります!」
「ちょっと、何を言い出しているんだよ! 僕は奴隷なんて要らないよ、そんな事しなくて良いよ!」
「君は知らないんだよ? 苗床から助けた女性は戦利品なんだよ! もう好きにし放題…嬉しくないの?」
うっ一瞬想像しちゃったじゃないか…
「えーとサナさん、女の子なんだから自分を大切にしなくちゃ…」
「ううん、良いのよ、貴方凄く優しそうだしご主人様に申し分ないわ、ちゃんと一生仕えるわ」
ゴブリンに犯された時点で女としては終わり…だけど、私はついているわ、こんな凄い美形の奴隷になれるんだから…
この女狐助けて貰った事を良い事にそのまま礼二様の所に転がり込むつもりですね…
「申し訳ございませんが、礼二様は日本の方なので奴隷は所持出来ません..ついてますねサナさん、奴隷にならないで済みますよ! 良かったですね」
死にそうな顔でサナはこちらを見つめていた..
折角なので換金を済ましてギルドを後にした。
ひたひたひた….
「あの、何でついてくるのかな?」
「いいじゃない…私、あんな事があったのよ..一日位付き合ってよ」
確かに、あんな事があったんだ女の子だったら心細いか..
「解ったよ、あっ手は絶対出さないから安心して」
「….」
「礼二様…本日はお二人、しかもお相手が女性ですのでラブホテルの料金が適用になります…1泊辺り8800円になります」
「解りました…はい」
地味に3800円余分に掛るのが痛いな。
部屋に入ると…なにこれ薄さ0.002?のゴムが2個と簡単に沸かせる小型ポットにティーバック…歯ブラシが2本にガウンが2着。
各種整髪料…完全なラブホテルじゃん
しかもルームサービスでコーラが220円 多分レトルトなんだろうなカレーライスがとれる。
可笑しい…何処からこれが届くんだ。
まぁ部屋は貴族用の貴賓室だけど…
「凄いね..うふふ、なんだ礼二もその気があるんじゃない! わざわざ私の為にこんな部屋借りる位だもんね…ありがとう!」
確かに元の世界の常識じゃこんな部屋に連れ込んだら、そう思うよな…
「違うって…そのお風呂が必要だからだよ」
「はいはい、そう言う事にしておくね…どっちみち、今日は私礼二としなくちゃいけないから…だけど気を使ってくれてありがとうね」
「何、それ…」
「私、お風呂に入ってくるわね」
「しなくちゃいけない」…何で?
彼女を抱く意味
サナさんが言っていた。
「しなくちゃいけない」って何でだ…
「凄いね、ここ気遣ってくれてありがとう…礼二さんもお風呂入ってきなよ」
言われるままにお風呂に入った…さっきの言葉が気になって仕方ない。
ゆっくり浸からず…カラスの行水で出た。
「早かったね…」
既に証明はやや暗くしてあった。
貴族用の物らしく恐らく魔石等を使って照明にしているのか…薄暗くなっている。
「あの…するってあれだよね」
「うん、そうだよ..早くしよう」
頭がパニックになる…確かに助けたし、彼女は可愛い。
だが、何で直ぐにこんな事になるんだ…股から血を流していたから経験も殆ど無い筈だ。
「何で..」
「あっ、礼二は日本人だから知らないのか…ううっ話したくは無いけど仕方ないな」
サナはゴブリンに犯されて、妊娠する可能性がある。
ただ、異種族の精子より同族の精子の方が強いので、同じ人間と交わればゴブリンの子を孕む事は無い。
その為に、今日だけで良いから相手して欲しい。
そういう事らしい。
確かにゴブリンの子供なんて孕みたくないだろう…だけどそれだと僕の子供を孕んでしまう可能性があるんじゃないのか?
「ちょっと待って! それだと僕の子供を孕んでしまう可能性があるんじゃないか?」
「それなら大丈夫…人間用なら避妊薬があるし持っているから…後で飲むわ」
こういう理由なら仕方無いのかな…
「解った、だけど僕はそんなに経験無いからな」
「うん、良いよ…私は、あはははっゴブリンだけだし..」
何、何、何…頭を撫でられるだけで..ふぁぁぁぁ何だか安心する。
経験なんてない…だけど、それでもこれが普通じゃないのが解る。
誰が見ても、2人と居ない程整った顔で…こんな事されたら…駄目だ、離れたくない…奴隷でもなんでも良いから傍に居たくなる。
「はぁはぁはぁ..何だか凄く手慣れていない…体が普通じゃ無くなるよ…」
「そう?僕は全く経験が無いから解らない」
礼二はくくり姫を信仰していた。
その神主で氏子…ずっと拝み崇めていた礼二に何もご利益が無い物だろうか?
たかが受験で拝むだけの存在にご利益がある…そう考えたら、たった1人の神主で氏子。
その礼二には、ご利益が無い筈がない…そのご利益はくくり姫の存在から考えると…性的な物。
まして、神道では「まぐあい」は大切な儀式である。
「そんな可笑しい…可笑しいよ…これがそう言う事なら、嫌がる女なんて居ない筈だよ..気持ち良くて切なくて..あああああっ」
「終わったよ…これで良かったのかな…」
「礼二..これで良いんだけど? もうちょっとしない?」
「サナさぁ…ちゃんと自分は大事にした方が良いよ? 今回は仕方ないけど、誰かの奴隷になろうとしたり、好きでもない男に抱かれようとしたり…気持ちは解るけど、自暴自棄になっちゃ駄目だよ…」
礼二が何を言っているのか解らない…私がそんな事する訳がないじゃない…こんな良い男逃がしたくないからやっているのに。
「確かに、多少は自暴自棄になっているけど、誰にでもこんな事しないよ? 相手が礼二だからだよ! カッコ良いし…優しいし、正直ドストライクだからね」
確かに、この姿はくくり姫そっくりだ…間違いなく美男子だ。
だけど、それを言うならサナは…銀髪にやや赤い目、普通に美少女だよな。
こんな容姿の子がモテない訳が無い、だけど1人で活動していた。
と言う事は、パーティーを組んでいないのか?
可笑しいな?
「確かに僕は容姿はそれなりに良い方だと思うけど、それを言うならサナだって充分綺麗でしょう?」
秋葉原とかに居る美少女コスプレイヤーに見える。
しかも髪も目も本物なんだから…まぁ、くくり姫に出会ってなければ間違いなく1番だ。
「はぁ~っ…何言ってるのかな? 銀髪赤目の私が綺麗な訳無いでしょう? 奴隷として売られても不人気で買う人が居ないわよ?」
「どうして?」
「そうか、礼二はこの国の人じゃ無いから、知らないんだね! 目が赤いと不吉とか言われて嫌われるんだよ…まぁ迷信とは解っているんだけど傍にいると運が逃げるとか言われてね」
「僕はそうは思わないよ…友達や仲間も居ないの?」
「居ないわ」
「そう、それじゃ友達になろうか?」
「嘘、なってくれるの?」
「良いよ」
「ありがとう…それじゃ奴隷にして頂戴」
「無理なのは知っているよね?」
「それじゃパーティー組んで」
「無理」
「お嫁さんにして」
「いまの所は無理」
「あのさぁ…礼二本当は私の事嫌いなんじゃないの?」
「そんな事は無いよ?」
「はぁ良いわ…腕枕してくれる?」
「それ位なら良いよ」
「ありがとう!」
そのまま二人で眠った。
朝起きた礼二が起きた時、サナは居なくなっていた。
奴隷の代わりに「愛人契約」と「雇用契約」を結びました。
朝起きたらサナが居なくなっていた。
僕は日本人…特殊な存在。
パーティーを組んであげたくても、僕は戦う事が出来ない。
ゴブリンからもサナを守ってあげることは出来ない。
収入も多分討伐が出来ないから、たかが知れている。
そう考えたら下限が高い分上限は低い。
そんな僕が誰かと一緒になんて出来ないな…
僕は前の世界も、今も1人ボッチだ。
くくり姫が傍に居てくれたけど…他には爺ちゃんと婆ちゃんしか居ない。
爺ちゃん、婆ちゃんはきっと僕が居なくなって悲しむだろうな…
だけど、僕が居なければ、生活は潤う…そう考えたらこれで良かったんだろう。
さてと今日もまた薬草の採集をしますか、まずはギルドでと…
あれっ、サナがギルドの受付で話し込んでいる…なんだあれっ。
「礼二、朝からずうっとギルドで話し込んでたんだけど…あったよ! 私が奴隷になる方法!」
「すいません礼二様…朝からしつこくて申し訳ございません、ギルドとしては答えない訳にはいかずに…」
「あの、何でそこまで僕の奴隷に拘るの? 自由に生きた方が幸せだよ…絶対に!」
「それじゃ、話を聞いてくれる?」
「解ったよ…」
サナは目が赤いから元から嫌われていて、恋愛も友人つきあいも無い。
その様な状態で、ゴブリンに犯されてしまったから…もう絶対という程男性付き合は出来ない。
そう言う話らしい…
「昨日も言っていたけど、サナは可愛いからそんな事無いって」
「私の事を知らないからそんな事言えるんだよ…礼二の国じゃ知らないけどさぁ…私の容姿だとこの国じゃ性処理奴隷としても値段がつかないんだよ」
マジか? 元居た世界なら秋葉系アイドルが出来そうなんだが…
嘘かも知れないな..受付のお姉さんに聞いてみた。
「赤目と銀髪はこの国だと女として終わってますね…お金を取る所かお金を貰っても抱きたいと思う男性は少ないですね..」
本当なんだな..
「あのさぁ…どうしても僕の奴隷になりたいの?」
なんだか、昔の僕みたいだな…いやそれ以下か…
「うん、礼二と一緒に居たいんだ…私の為に何かしてくれたのは礼二だけだから」
このまま異世界で一人で居るのもな..正直ここ迄言ってくれる相手にはもう出会えないかも知れない。
うん、待て僕は王宮からお金貰って居たよな?
すっかり忘れていたよ…
幾らだったかな?
ギルドの残高は46万円ってことは賃貸が借りられるじゃないか?
僕の住んでいた地域の1か月の家賃がバストイレ付きで4万円位..敷金が2つ礼金が1つ謝礼金1つ前家賃1つ6か月分で考えて24万円。
どうにかなるか…
サナは昔の僕やくくり姫と同じなんだ…痛いけど仕方ない…ここで見捨てるなんて出来ないな。
「そんなに成りたいなら良いよ、その方法が有るんなら良いよ!」
「そう、あはははっ凄く嬉しいよ..ありがとう礼二!」
「それでは、礼二様とサナさんの同意がありますので、愛人契約と雇用契約を結ばせて頂きます」
えっ、そういう契約になるのか?
「「はい」」
「まず、礼二さんが助けたサナさんの価値ですが、腎臓一個 約2600万円、肝臓 約1570万円、心臓 約1200万円、肺(片方) 約1000万円、骨髄(1g) 約200万円等、から人間の価値を見出すとおおよそ30億円になります。 但し、保険から計算するなら2000万~2500万になります。攫われて殺されたり、食べられる事からの換算方法が日本にはありません…そこで一番多い解釈の人間の価値は2億円で計算させて頂きます」
(注意:人間の価値の計算方法が下は1万円以下~31億円まで所説あるのですが…ここでは2億円にしてみました)
「そういう計算になるのですか?」
「私は生涯奴隷のつもりなので幾らでも構いません」
「まぁ、こういう契約は日本では公共良俗ギリギリなので法的には微妙です…ある事はあるという解釈でお願いします」
「「はい」」
結局、僕はサナとの間に「愛人契約」と「雇用契約」を結ぶ事になった。
サナが僕に助けて貰えなければ「死んでいた」そう言う事からの換算で2億円の借金を「愛人」と「雇用」で払うそういう内容だ。
だけど、これって確か、昔「愛人」を商売にしていた人が行っていたけど…確か裁判で、有効かどうか争って全部は認められなかった筈だ。
まぁ一部は認められたから..有効という判断になったのか…
まぁ僕には解らないな。
どうも基準が解らない。
「それでは、こちらの書類はギルドが証人になりますので3万円ギルドが頂きます..この金額は公証人費用から考えた金額です」
(この金額は出鱈目です)
そうか…僕が納めないといけないのか..仕方ない。
「はい、お金を降ろしてきます」
「あの、説明が終わったのなら、私は少し席を外して良いですか?」
「どうぞ!」
「はい、3万円です!」
「はい徴収しました」
「ついでに保険料も納付させて頂きます」
「有難うございます」
「あの…ギルドは日本人に対して役所の殆どを兼ねるので、こういう話を聞かれたのでしましたが…宜しかったのですか?」
「何の事でしょう?」
「いや、ギルドの人間が言う事では無いですが、礼二さんはそのお綺麗ですし…凄くモテますよ? わざわざあんなに醜い奴隷を持たなくてもパーティーを組みたい女性も選び放題だし、交際したいなら幾らでも相手に困らない筈です」
そうか? くくり姫の容姿だから当たり前かっ。
「僕の場合は特殊だからね…」
「あの、収入の事なら年上の女性と付き合って養って貰えば良いんですよ..私もギルドなので高収入」
「それはギルドの職権乱用になるんじゃないのかな?」
「失礼しました、これで手続きは完了です…では失礼します」
チィ奴隷の癖に…
「何処に行ってきたの?」
「これ入れて来たの!」
サナの胸の上側に入れ墨が入っていた。
「何それ?」
「ほら、日本人相手の奴隷契約の場合は奴隷紋を入れないから、そっくりなのを入れてみたんだ..ちゃんとレージと入っているんだよ」
そんなに奴隷になるのが嬉しいのかな…まぁ良いか? 喜んでいるし..
「あのさぁ…何で奴隷になっているのに嬉しそうなんだ?」
「そりゃ礼二と一緒に居られるからね?」
だけど、本当ならこの契約、まるで詐欺師が女を追い込むような物なのに…
「そう?」
「うん!」
サナがこれで嬉しがっているんだから良いんだよな…
考え事していたら、頭の中にアナウンスが流れた。
《サナを日本に括りますか?》
「サナって家族とか居るの?」
「居ないよ? 私こんなだから捨てられたからね?」
「どうやって生きて来たの?」
「物乞いや、かっぱらい…あっ冒険者に成れてからはちゃんと薬草採取やドブ掃除とかかな?」
「なら、僕と同じになる?」
「礼二とお揃い? 何を言っているのか解らないけどなるよ!」
(括る)そう願うと….
《サナさんを日本に括りました、尚これは内縁関係が解消されますと自動的に解消されます》
内縁…愛人だからか?
まぁ良く解らないけど…良いや。
賃貸もやはり得だった…
ギルドで不動産屋の場所を聞いて向かった。
サナが腕を絡めてくる。
それがちょっと嬉しい。
「どうしたのかな礼二? 顔が赤いよ?」
「そりゃ、サナが傍に居るからね!」
「そう?」
顔を赤くして俯いているサナが凄く可愛く思えた。
暫く歩いていると、レンガ作りの建物が見えてきた。
此処が多分不動産屋だ。
「礼二、部屋を借りるつもりなの? 部屋の借り賃って結構高いと思うよ?大丈夫なの?」
「うん、正直言って解んないな…最悪見るだけになるかも知れない」
「そりゃそうだよね!」
とはいう物の僕の中では恐らく「余裕で借りられるだろうな」そう思っている。
「いらっしゃいませ! 今日はどういったご用件でしょうか? 賃貸ですか? 物件の購入でしょうか?」
「賃貸の物件でお風呂とトイレが付いた物で、狭くて良いんでセキュリティーがある程度高い物を見せて下さい!」
「畏まりました」
「礼二、そんな貴族や上位冒険者が借りる部屋、勿体ないよ! トイレは兎も角お風呂なんて貴族でも無ければ水浴びか公衆浴場に行くのが当たり前なんだよ!」
「まぁ見るだけ見てみようよ!」
お風呂とトイレが付いた物件その物が少なく、あっても屋敷が多かった。
お風呂とトイレがついていて部屋だけを貸す様な物は6件しか無かった。
その中の一つが僕には凄く便利に思えた。
「すみません、これの借り賃は幾らですか?」
「こちらですか? この国の人間が借りるのであれば1か月あたり金貨8枚ですが、礼二様は日本人なので日本の金額が適用されます。王都とはいえ人口は20万人以下なので日本の都心部とは一緒に出来ません、精々が日本の地方都市レベルです。そう考えますとおおよそ月2万5千円位が妥当ですが…キッチン、トイレ、お風呂、魔法石の空調はありますが、日本では当たり前のネット環境とテレビはどうしてもつけられません…その分の減額として1か月の家賃が1万5千円になります」
思ったより安い…そうか王都とはいえ人口から考えたら東京とは全く違う田舎街扱い、そういう事か?
まぁ理屈は解らないが得だから良いや…
「それじゃ、これに決めようと思います!」
「畏まりました、こちらは日本で言うと条件が悪い部屋になりますので敷金が1 礼金が1 前家賃1 取引手数料が0.5 今月の家賃が1ですので合計6万7千500円になりますが宜しいでしょうか? 管理費も込になります」
保証人が必要という事だったが、国が発行してくれた身分証明書を提出した事で、別に家賃を1か月分預ける事で問題無く契約が終わった。
合計8万5千円を支払い…鍵と契約書を貰った。
「さてと家具や生活に必要な物を買いに行くか?」
「礼二って凄く金持ちなんだね! あんな貴族じゃなくちゃ、借りないような部屋をあっさり決めちゃうなんて!」
「金持ちと言うよりは国の制度で恵まれているんだと思う…」
「凄いね、それ」
「サナにも適応されるみたいだよ!」
「そうなの?」
「後で試してみようか」」
「うん」
家具屋に買い物に来た。
この世界の家具は一般人用の物は中古品を使い回すのが普通だ。
「そうか、家具も買わないといけないんだね」
「最初は、ベッド二つテーブルに椅子2個…ソファ位かな」
「やっぱり礼二は良い所の出なんだね…ソファなんて普通の家に無いよ..」
一緒に家具を見て回った。
「これとこれで良いか?」
「ベッドは大き目の物一つで良いよ…後は予算があるだろうから礼二に任せるよ!」
「解った、それじゃさっき見た物でベッドだけダブルベッドにすれば良い?」
「うん」
「すいません」
「はい、ただ今…どれかお買い上げですか?」
「はい」
店員に自分の欲しい物を伝えた。
「はい、日本で言うとこちらのお店はリサイクルショップになります。礼二様の場合は日本の価格が適応されます。作りを比べた場合、作りが悪いので…リユース家具としては不良品みたいな扱い…ジャンクになりますので全部で1万5千円…配送料に8000円、頂きますので2万3千円になりますが宜しいでしょうか?」
「それじゃお願い致します…夕方の届けは可能ですか?」
「はい可能です」
「凄いね、此処でも即買い上げなんて」
いや、これ物凄く安いんだが…まぁ確かにウミアや二ドリに比べたら質は悪いし、倉庫市場とかオンハウスだと確かにこの位の物だろう。
「凄いのは多分、僕の国だから」
「凄いね、礼二の国って凄く幸せな国なんだね」
「うん、僕もそう思うよ」
その後、食器やナイフ等生活に必要な物を揃えたが…100円ショップより質が悪いと判断されたのか殆どが100円以下。
以外にも高額だったのは寝具だった、確かに天然物だから仕方ないだろう…それでも質が悪いと判断されたのか一式1人4000円だった。
二人の洋服も上下で1000円以下、下着に至っては300円位だった。
「ふぅーこれで一式揃ったかな?」
「今日一日で随分お金を使ったみたいだけど大丈夫なの?」
20万も使って無いけど、この先を考えたらもう無駄使いはしない方が良いだろう。
「結構、使ったな…まぁ新しい生活だから仕方ないよ! 今日は家具が届いたら外食をして、その後はサイフの紐を締め付けるよ! 明日からはお仕事頑張ろうね!」
「うん」
家具が届くと、サナと一緒に部屋に配置していった。
余りに嬉しそうだから、話を聞いてみたら、サナは安宿に泊まるか、お金が無いと路上生活をしていたとの事だ。
「よくそれで襲われなかったね!」
「また、忘れている…銀髪、赤目の女なんて襲う訳ないよ!」
「だけど、僕から見たら普通に可愛いから目の毒だから気をつけてね」
「気をつける必要無いよ? 私は礼二の奴隷なんだからいつでもウェルカムだから!」
礼二は自分が凄い美少年だと言う事を良く忘れる…なんでかな?
「解った…それじゃ何か食べに行こうか?」
「うん」
二人で定食屋に入るとやはり、日本人専用メニューになっていた。
「どれが良いか解らない…何でオークのステーキとか注文出来ないんだろう?」
「まぁ日本人だからね、僕に任せて貰って良い?」
「解らないから、良いよ任せる…日本人ってこういう所は不便なんだね」
だったら、これだ。
「すみません、ステーキセット二つ!」
「ステーキって何の肉なのかな?」
「食べてのお楽しみ!」
届いた肉を見て最初警戒していたけど、僕が食べ始めるとサナも食べ始めた。
「このお肉、何のお肉…オークどころかミノタウルスより美味しい…こんなの初めて!」
「牛というミノタウルスに似た生き物だよ…まぁ味は凄く美味しいでしょう!」
「桁違いに美味しい…凄い」
一心不乱に肉を頬張るサナを見て、やはり食事も日本の方が美味しいんじゃないかな?
本当にそう思った。
ごく当たり前の幸せ!
横を見るとサナが寝ている。
僕にとっては空調があるのも、お風呂があるのも当たり前の生活なのだが、サナには違うようだ。
ネットも無ければテレビも見れない生活…明らかに前より良くない。
それなのにサナは感動している。
お風呂に感動して2時間近く入ってのぼせたり、空調の前に座り込んで「凄く涼しい」と感動していた。
僕からしたら固い布団もサナは「ふかふかだーっ」と喜んでいた。
やはり、「日本で暮らしている」それは素晴らしい事なんだと再認識した。
「おーい、サナ朝だぞ! 起きろーっ」
「うーん、礼二、おはようーって…見た?」
「何を?」
「わたしの寝顔…見たわよね!」
「ああっ「涎垂らして寝ている」のなら見たけど?」
「それは恥ずかしいから、見ないでくれるとありがたいな?」
「それじゃ、そうする!」
「あれっちょっと違う反応…まぁ良いか!」
サナからすれば、蛇口をひねれば水が出るのすら感動物らしく、顔を洗う時に何度も出したり止めたりしていた。
横のボックスに水をあらかじめ入れて置けば、温度調整出来ないがお湯も出る。
僕には不便だがサナは凄く感動していた。
蛇口を捻れば水が出る…そんな当たり前の事が此処では金持ちで無いと手に入らない。
一般人は井戸で水を汲んできて瓶の中に入れて柄杓で掬って使うのだから結構不便だ。
「それじゃ、朝食を食べてから、ギルドに行って仕事をしよう!」
「うん、ご飯も凄く楽しみ!」
「いらっしゃいませ! 礼二様達は日本人なので日本人専門のモーニングメニューからお選びください!」
昨日と同じ店に入ったのだが、今日はメニューがあった。
ドリンクバーとスープバーが無いのを除けばほぼファミレスメニューだ。
「絵で見る限り美味しそうだけど、解らないから礼二が決めて」
僕は焼き魚朝食を頼んだけど、サナは恐らくご飯とか食べた事は無いだろうから、エッグ朝食にした。
焼き魚朝食は鯖の塩焼き、みそ汁、ご飯、おしんこ、小鉢、生卵のセットだ。
サナのエッグ朝食は、スクランブルエッグにソーセージ、生野菜、パンケーキ2枚にオレンジジュース付き。
どちらも550円、実にお得だと思う。
少なくとも、周りの人間が食べている、固そうなパンと野菜のスープとは段違いだ。
「昨日も凄かったけど!これって貴族の食事並みなんじゃないのかな? 本当に食べても良いの?」
「うん、食べて良いよ!」
だって、この食事は薬草1本採取分の金額なんだから。
「だけど、礼二は随分質素なんだね? 私だけ豪華にして…お金が余りないとか?」
「これ、同じ料金だから気にしないで良いよ」
「同じ料金…なら絶対にこっちの方が良いよ、次はこっちを選んだ方が絶対お得だって」
「なら、次はそうするかな?」
「いらっしゃいませ礼二様? 今日もお仕事ですか?」
「はい、薬草採集をお願い致します」
「はい畏まりました、サナさんの収入も雇用契約により礼二様の物となります、薬草採集ですと交通費がそれぞれ320円、薬草1本あたり650円レートは昨日までと変わりません、頑張って下さい」
サナと一緒に森に入った。
サナはあんな事があったせいかかなりビクビクしている。
「礼二大丈夫! この辺りはゴブリンを含み魔物が出るのよ! 本当に 大丈夫なの?」
「最初会った時にほら、ゴブリンが僕に触れなかったでしょう?だから大丈夫だよ! 寧ろ怖いのは虫や動物、盗賊かな?」
「それなら安心だよ!王都が近いから盗賊はまず居ないし、動物は魔物が発生する場所は嫌いだから居ない!居ても精々猪だからこっちを見たら逃げ出すよ」
「それじゃ、安心だね!」
よく考えたら、サナは薬草探しやドブ掃除は僕と違って慣れている。
効率が全然違った。
「凄いねサナ!」
「そんな事無いよ!こんな事しか出来ないし、ただ薬草とドブ掃除だけで生きて来たような物だからね!」
サナと一緒に薬草探しをしたら130本も薬草の採集ができた。
「そろそろ帰ろうか?」
「えーまだ130本しか採取して無いよ? これじゃ宿取って食事をしたら終わりだよ! 200本は目標にしないとね!」
よく考えたら、初めてギルドで登録した時は、半日ドブ掃除して銅貨4枚だった。
これが1000円だとするとあれっ凄いブラックなんじゃないかな?
「サナ、薬草って普通は幾らで買い取って貰えるの?」
「10本で銅貨1枚位が多いよ、だから頑張らないと!」
10本で銅貨1枚…そう考えたら100本で銅貨10枚。
ドブ掃除で得たお金が銅貨4枚で1000円位と考えたら、200本で銅貨20枚で価値は5000円にしかならない。
サナの言う通りだ、この位のお金は稼がないと食事に安宿代も稼げない。
結局、その後は数が伸びずに、170本。
だけど、日本人の僕らは170本で110500円、これに交通費の320円×2=640円が足されるから111140円
5千円と11万1千140円じゃ全然違う。
異世界ってとんでもないブラックなんじゃないか…
サナは170本しか採集できなくてがっかりしている。
逆に僕はホクホクだ。
「あのさぁ、サナ…がっかりする必要は無いよ!」
「えっ、だけど170本だよ! 礼二はお金があるから気にならないかも知れないけど、これじゃ1人分の宿賃と食事代にしかならないよ!」
「サナ…これって日本人なら結構な稼ぎだから、充分だよ!」
「日本人って不思議だね…だけどこんな稼ぎじゃジリ貧になるよ」
説明するのが難しいな、おいおい慣れて貰えば良いや。
ギルドに戻ってきて薬草の買取をして貰った。
「品質には問題はありません、合計11万1千140円の金額になります、宜しいでしょうか?」
「宜しくお願い致します!」
「はいこちらになります、サナさんが日本人扱いになりますので年金と国保の納付書もお渡しします」
「それじゃ、今回の報奨金からお支払いします、あと、手持ちに3万円だけ残して残りは預け入れお願い致します」
「畏まりました」
「今日は頑張ったから、何か買ってあげるよ!」
「あの、サイフ引き締めるんじゃ無かったの?」
「そうするつもりだけど…今日は特別に良いよ!」
薬草採取で10万円も稼げるなら少し位良いよな…
しかも、サナは僕と違って薬草の取れる場所を沢山知ってそうだし。
「そう、ありがとう!」
サナと一緒に色々見て回った。
折角だから、今後の事を考えて調味料を購入した。
「本来はコショウは貴重品で一瓶で金貨3枚、塩は一袋銀貨1枚になりますが、礼二様達は日本人なのでどちらも100円になります」
確かに調味料は大昔は貴重品だって聞いた事がある、コショウは同じ重さの金と交換されていたそういう話も聞いた事がある。
だけど…うん確かに日本なら100円均一のお店に置いてあるな。
「はい、200円」
「有難うございます!」
「礼二…今買ったのコショウだよね? あんな高価な物良く買ったね」
「日本人だからね!」
「日本人って、こんな貴族みたいな生活何時もしているの?」
「まぁね…」
貴族みたいな生活か、言われて見れば、日本に生まれて普通に生活していれば、この世界のレベルなら貴族レベルかも知れないな。
暫く歩いているとサナの足が露天商の前で止まった。
「どうしたの?」
「いや、凄く綺麗だなと思って…行こうか」
「欲しいんじゃないの?」
「礼二、流石に宝石は分不相応だよ、凄く高いしね!」
「そう、それじゃ、もし将来、そうだね何かのご褒美で買ってあげるとしたらどれが欲しい?」
「そうだね…ああいうネックレスが欲しいな! まぁ何時か私が凄い手柄でも立てたら買ってね!」
「あのこれは幾らですか?」
「このネックレスはフローライトにシルバーで出来ています、金貨5枚で此処で一番高い品ですが、礼二様は日本人なので日本の価格が適応されます、日本ではフローライトは安く販売され、この程度の加工と素材であれば道端でアクセサリーと販売されている商品以下です…更に良い物が1万円以下なのでそれより質の悪いこちらは7千円が妥当だと思います」
「それじゃ7千円で良いって事?」
「はいそちらで大丈夫ですよ、如何でしょうか?」
「それじゃ下さい!」
「有難うございます!」
「あのさぁ…良いのこんな高価な物買って貰って!」
「今日一日頑張ったからご褒美って事で良いんじゃない?」
「本当に有難う…」
「そんな泣く程の事じゃないよ」
「だって、だって嬉しいんだもの」
「そんなに喜んで貰えるならまた買ってあげるよ」
「そういう意味じゃ無いんだけどな…全くもう!」
こういう所…本当に礼二って天然だよね…
【閑話】王宮 出て行く者
その後も王宮では担任の緑川との間で話し合いが続いていた。
最初は生徒たちや他の者も話し合いの場に居たのだが、生徒からは泣き出す者や激高する者が出た事と、その様子を見て立ち去る者も多く、結局護衛を除き、国王であるエルド6世、王女マリンと担任の緑川との三人になってしまった。
冷静な三人になる事により幾ばくか静かに話し合いが出来たのが唯一の僥倖かも知れない。
「うむ、信じられぬ、緑川殿の世界では信仰の自由があり「好きな神を自由に信仰出来る」そういう事なのだな!」
「はい、そうでございます!」
「それなら仕方が無い事だ…儂も理解はした、理解はしたが、これでは大きな支援が出来ないのだ!」
「何故、支援に問題が起きるのでしょうか?」
「この世界で一番の地位がある者は誰だと思われる?」
「それは王ではないのですか?」
「違うぞ! 現時点では教皇様なのだ! 先程、そちらの生徒が怒鳴り散らした際に立ち去った方がそうなのだよ!」
「それは、執り成して貰う事は出来ないのでしょうか?」
「無理だ! ローアン教皇様は今日と言う日を楽しみにされていたのだ! 女神の使徒たる勇者様達に出会う今日と言う日をな!」
「それはどう言う事ですか?」
「異世界から来た方は「女神の御使い」とりわけその中でも「勇者」「聖女」「賢者」「剣聖」は教会にとって特別な存在なのです!」
「特別な存在とは一体何なのでしょう?」
「そこからの説明が必要なのだな!」
王に変わってマリアが説明しだした。
召喚された者のうち「勇者」「聖女」「賢者」「剣聖」はこの国では聖人扱いとなり「女神の次に偉い存在」として扱われる。
実際の権力は別として形上は教皇の上、つまりこの世界の最高権力者になる筈だった。
だが、それは「女神の御使い」つまりは「女神様が地上に遣わした者」その意味が大きい。
それなのに、生徒の大半が公式な場で「女神の悪口を言い続けた」
それでも司祭は宥めながら話を聞き、教皇様も混乱しているのだろうと我慢して聞いていた。
だが、勇者である祥吾が「イシュタスに騙された、絶対に彼奴は許さない! 何時か報復してやる!」と怒鳴ってしまった。
この一言が許せず、聖職者が全員席を立ち帰ってしまった。
「この者達は、女神様の使徒では無いのですね! 仕方ありませんね! イシュタス様がお嫌いな様ですので教会は関わらない事にします!」
「教会は勇者とは認めない、本来は他の神を信仰するなら破門にする所ですが、特別な慈悲で一般教徒扱いにします!これが教会からの最後の慈悲です」
これが、ローアン教皇と司祭がエルド6世とマリアに去り際に言った言葉だった。
「そんな、それで私達はどうなってしまうのでしょうか?」
「見ての通り、教会を怒らせてしまったから、教会を恐れた他の貴族も立ち去ってしまいましたわ」
「起こってしまった事は仕方がない…だがこれでは教会はもう手を貸して貰えぬし、貴族からの支援も期待は出来ぬな…支援は国のみとなってしまった」
「…」
「心配はなさるな! 召喚したのはこちらだ、当分の間は食客として扱う事は約束しよう!」
「そうですわね! 2週間期間を設けましょう! その期間のうちに立ち去るか残って魔王と戦ってくれるか決めるのは如何でしょうか?」
「2週間ですか…随分と短い様な気がします」
「ですが、こちらも戦って貰えない場合は軍の編成をしたり、各国と連携して魔王に対処する方法を考えなければなりません」
「解りました」
「立ち去る者にも暫くの生活費と身分証明はお約束致します」
緑川はこれ以上話してももう無駄なのだと考え、それを飲む事にした。
この亀裂が更に大きな亀裂になって行く。
緑川は生徒に話し合いの結果を伝えた。
「先生、それは何一つ好転しなかった…そういうことじゃねぇ!」
「緑川さぁ…もう此処じゃ先生じゃないんだから、勝手な事しないでくれないかな?」
解ってはいたが聞きたくはなかったな。
「そうか…解ったよ…そうだな、後は自分達で決めれば良いよ」
「ちょっと待って先生…何を言い出すんですか?」
「先生、しっかりして下さいよ」
緑川は解ってしまった。
最早自分ではどうする事も出来ない事を…
自分のジョブは「上位騎士」確かに恵まれてはいるがこの中では下の方だ。
不良やクラスの中心人物の中には上のジョブの者が多くいる。
学校という後ろ盾の無い自分では教育等は出来ない。
だが、教師としての最後の意地が言葉を繋いだ。
「私はもう道は決めた…聴きたい者は来てくれ」
緑川についてきた者は僅か6名、その中に平城綾子も居た。
7名は話し合いの結果、第三の道を選ぶ事にした。
そして、その道とは…
「それが貴方達が考えた道なのですね…解りました尊重しましょう!」
緑川達が選択した道は「就職」という道だった。
魔王との危ない戦いはしたくない…反面、ただこの世界に放り出されるのは怖い。
そこで緑川が考えたのは「職を得る」だった。
しかも、この考えには別の考えもあり、生徒の中には性格の悪い者も多くいる。
そこから逃げる…その為でもあった。
7名は紹介状と支度金を貰い…国を出て行く。
「流石に平城は凄いな、アカデミーの研究補助か?」
「先生は、辺境で騎士見習いでしたっけ?」
「まぁな…田舎町なら魔王との戦いに巻き込まれないだろうと思ってね」
「喧嘩が嫌いな緑川先生らしいね…」
「俺も、お前みたいに魔法使いが良かったよ…研究職の俺がなんで上級騎士なのか解らないな」
「それを言うなら、剣道部キャプテンの私が魔法使い、これも可笑しいよね?」
「まぁ、私は司書になるのが夢だったから王立図書館への推薦で満足です」
「希望の仕事に就けて良かったな!」
「うん」
「それじゃ頑張れよ!」
「「「「「「はい」」」」」」
7名はそれぞれの道を決め旅立っていった。
生理用品とトイレットペーパー
朝起きるとサナが、オムツの様な物をしていた。
実際にはオムツでは無いが、厚手のふんどしのような物をつけて上からオムツみたいなパンツを履いている。
「サナ…おはよう!っていうか何…それ!」
「どわっ! 礼二はデリカシー無さすぎ! 私女の子の日が来ちゃったから…というか恥ずかしいから見ないで!」
成程…生理だ。
しかし、何だあれっ! 厚手のふんどしみたいなのをベルトに装着して、上から厚手のオムツみたいな物をつけている。
しかも、悩ましい事に、良く見ると血液が染み出している。
「あのさぁ…それ蒸れて暑苦しくない?」
「暑苦しいし、この時期汗疹も出来るけど仕方ないよ…流石に…というか何見ているのか! 恥ずかしいから見ないでよ!」
「あっゴメン…だけど、今日は後で薬品店に行ってみようか?」
「薬品店? 体調が悪いの? まぁ良いけど!」
僕は男だから詳しくないけど…これが暑苦しくて辛そうなのが解る。
僕たちは日本人だから多分ある筈だ。
「いらっしゃいませ!」
えーと、此処は一体なんなんだ!
サナは僕以上に驚いている。
だって此処、殆どドラックストアみたいな品揃えなんだから。
何が基準で、此処の世界の物で我慢するのか日本の物が手に入るのか解らない。
「凄いね!」
「はい、礼二様達日本人は衛生基準がこちらと違いますし、薬も違いますので日本の物をご用意してあります」
サナが起動した。
「礼二これ何?」
「うん、日本人向けの薬屋さんだね…どう、凄いでしょう?」
「何が何だか解らないけど、凄いのだけは解るよ!」
お目当ての物は「生理用ナプキン」と「生理用ショーツ」だ。
他に生理痛用の薬も買って置いた方が良いだろう…あっトイレットペーパーもある。
これも買って置かないとな。
他に風邪薬や包帯、消毒液など、救急箱に入っていそうな物を一式買った。
部屋に戻って、「生理用ナプキン」と「生理用ショーツ」を渡した。
「えーと何かな? これ!」
流石に説明するのはちょっと恥ずかしい。
「それは、女の子の日…生理の日に日本で使う物なんだよ! 流石に恥ずかしいから説明書読んで」
「礼二…私日本語読めないんだけど?」
僕は赤くなりながら読んで説明した。
「本当かな? こんな小さい物で大丈夫なの?」
「大丈夫だと思うよ!」
サナはトイレに入って着替えてきた。
「凄いね、これ全然違うよ、凄く快適」
「そう? 良かったね…だけど態々見せないでも良いよ!」
「そう?だけどこのショーツだっけ…凄く可愛くない?」
「確かにそうだね」
ついでだから、トイレについても説明した方が良いかも知れない。
此処のトイレは、貴族用の建物なので水洗だ。
日本の水洗、程では無く、横にバケツがありその水に水を貯めて置いて、用をたした後バケツで流すと流れていく。
そんな感じ。
食堂や他の場所がボットン便所なのを考えると高級な部屋だからの特別装備ともいえる。
ただ、問題なのは紙が無かった。
宿を借りた時は完全日本仕様なのかトイレットペーパーとウオシュレットがついていたが、流石に賃貸には無い。
サナにさり気なく聞いたら、この世界の人間の多くは都心部を除いて「外で普通にするらしい」そして葉っぱで拭いたり、尖っていない石で拭くのだそうだ、ボットン便所でもある事自体が凄いらしい。
都心部では桶にして纏まったら捨てるらしい…拭くのは手で拭いて洗うか、木のヘラを使うのがオーソドックス。
僕は昨日は食堂で済まして、紙を使った。
ただ、この紙は一生懸命くしゃくしゃにして拭くのだが、ぢになるんじゃないかって言う位固い。
拭いたらお尻が痛かった。
これからはトイレットペーパーが使えるかと思うとちょっと嬉しい。
サナにトイレが終わった後は「これで拭くんだ」と恥ずかしいけど説明した。
「嘘だよ、こんな高級な物で拭けないよ…これ絶対に王族でも使わないよ!」
「サナ、拭き残しがあると汚いから、絶対つかってね」
「そう言われると使わざる得ないけどさぁ、こんな白くて綺麗な紙をお尻拭くのに使うなんて日本人って凄いね」
僕は本当は+ウオシュレットが欲しいんだけどね…これは手に入らないだろうな。
だけど、皆は大丈夫なのかな…あのオムツみたいな生理用品とか女子が絶対に怒りそうな気がする。
まぁ、考えても仕方ないんだけどね!
【閑話】王宮 肉料理の憂鬱
「国王エルド様、永らく仕えさせて頂きましたが、お暇を頂けないでしょうか?」
「どうしたというのじゃ!父の代から仕えていたお前が何故辞めるのじゃ! 理由を申してみよ!」
その日、宮廷総料理長ミクニは辞職を願い出た。
「私にはどうしても、異世界人の方々の食事が作れません」
総料理長であるミクニは、異世界から来て大変だろうと思い、毎回の食事を王族並みの物を出していた。
貴重なホロホロ鳥の肉を買い込み、貴重なスパイスを使い料理して出していた。
味付けもかなり気をつかっていた。
だがある時、勇者を含む異世界人から文句を言われた。
「おっさん、この料理いい加減にしてくれないか?」
「何かお気に召さない事でもありましたか?」
「こんな鳥料理ばかりでしかも味も薄い! お気に召さない所かはっきり言ってしまえば不味い! 我慢していれば毎日鳥ばかりいい加減にしろよ!」
肉で一番美味いのは鳥なのに、何をいっているんだ? しかも味が薄い? これ程までにスパイスが効いているのに!
「勇者様達はどの様な料理をお望みですか?」
「肉と言えば牛が良いに決まっているだろうが! どうせお前らじゃ碌な料理を作れないだろうからいいや…牛肉のステーキを作ってくれ!」
「畏まりました、明日の昼食にお出しします」
変っているな、肉と言えば鳥が最高の物、牛など不味くて食べないのに、それを好むなんて。
普通に考えて 鳥→豚→羊やヤギ→魔物の肉→牛 肉としては牛は最低なのにそれが食べたいのか、まぁ住む世界が違えば食文化が違う、そういう事だな。
「チェ! 用意出来るなら最初から用意しろよな!」
「すみません…祥吾の奴召喚されてからイライラしている物ですから」
「いえ、良いんですよ!」
貴族ですら喜ぶ鳥料理をこんなに残すなんて勿体ないな。
まぁ賄いとしてこちらで食べる分には皆が喜ぶから良いか。
「ふぅーやっと牛のステーキが食べられるのか! 最初からこれ出せば良いんだよ!」
「お気に召した様で何よりです!」
牛で満足してくれるなら助かる、安くて済むし、肉の確保にお金を余り使わないで済む。
朝から市場で食材の確保に走り回るより、近隣の農家で使い潰した牛を安く買ってくれば良い!
「何だよ、この肉、物凄く固いし脂気もなくパサパサしているぞ!」
「本当にまるでゴム食べているみたい」
「此処まで不味いステーキを食べたのは初めてよ!」
「肉を噛むのも一苦労だ」
一斉に不満の声があがった。
誰1人として美味しいという者は居なかった。
「これは俺に対する嫌がらせなのか? 俺はとびっきり美味しい物が食べたいって訳じゃない! 普通の物が食べたいそれだけなんだ…」
「ですが、牛の肉は私の知る限りでは固いのは当たり前の事です、だから高貴な方の食卓には出さないのですが、勇者様の世界では違うのですか?」
「俺の知っている牛肉はなぁーーっこんなに固く無いし柔らかいんだ! 全く違う!」
「ちょっと待って! 芹沢くん、この人の言う事は正しいわ!牛肉が美味しいのは品質改良されているからよ! 元々は凄く固くて美味しくないって聞いた事があるの、確か 鳥→羊、ヤギ→牛…こんな感じだったかな? うろ覚えだから自信無いけど、牛が一番美味しくないのは確かよ!」
「何だそうなのかよ! おっさん悪かったな! じゃぁ鳥を出してくれたのは親切心だった、そういう事なのか?」
「そうよ!」
「しかし、この世界はクソだな、こんな飯が不味いなんて!」
「ふふふっ! 芹沢くん、私は誰でしょう?」
「山本だろう? それがどうかしたのか?」
「そう、私は 山本真理子…またの名を料理研究会の部長よ! まぁこのクラスには部員も居ないから私こそが最強の料理人ね!」
「そうか! 俺は今初めて、山本が凄く見えたよ!」
「この学校にたった5人しか居ない料理研究部の頂点…真理子様降臨だ!」
「そう、たった5人しか居ない! うん?それって廃部寸前なんじゃない?」
「仕方無いじゃない? 料理研究部、人気無いんだからさぁ、おじさん私がこのステーキアレンジしても良い?」
「構いません、私も異世界の方の料理が学べる機会が頂けて嬉しく思います」
「何じゃ? 別に悪い話じゃない様な気がするが」
「此処からでございます」
「山本殿、牛のステーキは回収して来ました、皆も山本殿から学ばせて頂くように」
「「「「「はい」」」」」
「任せておいて、そうね、まずはそのステーキ肉、全部潰してくれるかな?」
「「「「「「解りました」」」」」」
「調味料ってどんなのがあるのかな?」
「こちらに御座います」
果汁、オリーブオイル、ショウガ、ワイン、砂糖、シナモン、ナツメグ、クミン、そして高級品の黒コショウに同じく高級品の白塩、サフラン他各種スパイス。
此処までの物はまず無いはずだ。
「あっそうか、此処にはケチャップもソースも無いんだ、しくじったわ! マヨネーズ、そうよマヨネーズ…作り方解らないわよ、だって売っているだから」
「どうかなされましたか?」
「大丈夫よ!そうね、さっきの潰した肉に仕方ないわ、黒コショウを入れて塩とオリーブオイルを入れる! 仕方ないからこの辺のスパイスを入れてと、」
「「「「「「「……」」」」」」」
「そうだ、トマトとニンニクがあるわ、これを刻んで煮込んでくれる? 味付けは私がするから、本当に不便ねIHとは言わないけどガスコンロ位は欲しいわ」
「煮れば良いのですね」
「そうよ」
「総料理長様、宜しいのですか? 金と同等のコショウをあんなに使って」
「それが異世界の料理なのだ」
「あの、貴重なサフランや白塩があんなに」
「仕方ないのだ、それが異世界の料理なのだ」
「あんなに油を入れたら体に悪いのでは無いですか?」
「異世界の料理なのだーーっ」
「さっきの肉を丸めて焼いて、皿に盛りつけて置いてね」
「解りました」
「さっきのスープの味付けをするわ、まずコショウ―ね、それからスパイスを効かせて煮立たせる」
「そしてこの肉に掛けて、真理子特製スープハンバーグの完成ね!」
「これなら食えるな…おっさんこれからは、こういう味を頼むよ!」
「これなら食べれるけど、自慢する程じゃないわよ、ファミレスの方が何倍も良いわ」
「仕方ないじゃない! 調味料も余り無いし、コンロなんて炭火なのよ、文句言わないでよね!」
「はいはい」
「何処にお主が辞める話があるのじゃ!」
「この料理1人分に掛かる費用がたった1品なのに金貨4枚なのでございます」
「金貨4枚?」
「はい、異世界の方は今現在27人居ますので全部で金貨108枚、それが1食で飛びます、金貨4枚を稼ぐのに庶民がどれだけ大変なのか? それを考えたら私にはこれを作るのが苦痛なのです」
「そうか? 相解った…決意は固いのだな!」
「はい」
「長い間ご苦労であった、暇をとらせよう!」
しかし、1食辺りで金貨100枚以上掛かるのか…
どうしたものかの…
税金は怖い (感想欄からの半リクエストです)
今日は1人でギルドに来ている。
急に頭の中に「税金」という考えが浮かんだからだ。
「税金についてですか?」
「はい、ふと考えてしまい怖くなったので聞いて置いた方が良いかと思いまして!」
此処まで日本と同じに括られているのだから、あっても可笑しく無い。
いや、寧ろ、あると考えなければいけない。
「まずは住民税ですが、これはこの国ではありませんので払わないで結構です。日本の方も日本の公共施設を半永久的に使わない事から恩恵に預かれませんので特例で無税です…かなり特例ですが「使い道が公共」の為礼二様が日本の施設を使え無いのでという判断によります」
住民税は無くて良いと。
「次に消費税なのですがこれは年金にも使われているので納めて頂きます。ただ、この国には消費税と言う制度が無い事と日本人向けの商品は礼二様の物だけなので全てのお店が免税業者扱いとなります。但し冒険者ギルドからの仕事は請負の仕事なので「対価」としての消費税の支払いは必要になります」
一体幾らになるんだ…解らない。
「そして、礼二様はどう考えても収入が多いので確定申告をして所得税の納税があります…1日10万円と考えて22日で一か月220万それを12か月で考えて2640万、そこから考えると40%で1056万納めて貰う計算になります。勿論収入が増えればもっと高くなります、これは毎年2の月~3の月に申告して納めて貰う事になります、日本にお住まいでなく日本の恩恵に預かれない部分もあるので若干の特例を入れるかも知れません」
「あと、サナさんの申告も勿論、必要になります!」
1056万…すごい金額だ、自分だけでなくサナも必要なのか、サナが出来る訳ないよな!
「あの、税金が凄く苦手でどうしたらよいですか?」
「それでしたら、日本の場合は税理士がいますが、この国には無いのでギルドが代行しますよ? 本来なら帳簿のチェックと確定申告で普段の帳簿は自分でつけて年30万が相場なのですが、礼二様は帳簿は苦手ですよね? 全部やって年間49万2千円で良いです! 今直ぐはこんなお金が無いと思いますから、分割で1か月4万1千円でいかがですか?」
解らないからやって貰った方が良いだろうな?
「お願いします!」
「この世界の農民は4:6で、国が6割持っていきますからね、多分礼二様の方が得だと思います」
確かにそうだな…うん待てよ!
「冒険者は無税なんじゃないのかな?」
「実は、お支払い金額その物が既に税金を引いた金額になります」
「そうですか」
だからあそこ迄低いのか!
「あと、仕事で経費として使った領収書があれば随時受付にお出し下さい! 確定申告の時に使います」
「有難うございます、そうしますと、大体手に入れた金額の半分位を預けて置けば問題無い、そういう解釈で良いですか?」
「大丈夫だと思います!」
うーん、税金の話になったらなんだか急に楽しさが減ってしまったな。
だけど、「安全な生活で括って貰っている」し仕方ないな…少なくとも異世界の人より遙かに恵まれているんだから、納得するしかない!
注意:感想欄から「税金が」そういう話が出たのでリクエストに応えて書きました。
ただ、私は税金は全くの素人です…凄く出鱈目感がありますが、そこはファンタジーって事でお許し下さい。
スクラップ
サナに税金について話した。
「私は奴隷だから礼二の好きな様にして良いよ! それに日本だったっけ? 凄く恵まれているからその位当たり前じゃないの?」
「そうかな? 結構とられるけど」
「大体農家や商売をしたら最低でも売り上げの半分近くは国や領主に持っていかれるよ? それで困った時に助けて貰えないから奴隷になったりするんだよ! あんなに優遇されるんだから仕方ないと思う」
「確かにそうかも知れない」
今日はサナと一緒に冒険者ギルドに来ている。
「えーと礼二は、薬草採取をすれば結構な金額が稼げるのになんでドブ攫いをしようとしているのかな?」
「実際はしないけど、聞いて置く必要があるからね、多分引き受けないと思うけど!」
「ドブ攫いですか? ドブ攫いは時給換算なので、そうですね、礼二様もサナさんも日本人扱いなので、礼二さんの住んで居た場所の最低自給848円が時給計算の基本になります。 汚くて日本だとやる方が少ない仕事から考えて時給1400円計算×6時間なので8400円、9300円以下なので所得税も掛かりません」
やっぱり、税金をとられる事から考えると、時給も改善されている。
そう思ったけど、その通りだった。
「あと、素材の回収や採集の仕事で割の良い仕事ってありますか?」
「ありますよ! ただ、最初に本を買う必要があります、価格は3万円程ですが買いますか?」
「それはどういった物でしょうか?」
「図鑑兼、ギルドで買い取りする物が挿絵つきで書いてあります。例えば、毒気消し草やポーションの材料の植物等が載っています」
「それは、何で最初から言って貰えないのですか…」
「本は貴重品ですから高額です..日本人の礼二さんだからの価格です、更に言うなら幾ら絵があるとはいえ間違いもあるので持ってきた素材を弾く事も多い、トラブルも多いんですよ」
「そうですか?」
「はい、採取専門というか、採集を本業にしようと考えている、礼二様だからこそ話しました、他の方はさっさと採取なんて辞めて討伐に移っていきますから」
確かに討伐が出来るなら実入りはそっちの方が良いんだ…異世界人としては当たり前か!
「有難うございます」
お礼を伝えギルドを後にした。
今日はサナには薬草収集をして貰う。
明日からは一緒に収集するにしても試してみたい事があった。
これがもし出来れば、かなり収入が稼げる。
「今日は私一人なの? 少し怖いんだけど!」
確かにゴブリンに攫われた経験があるんだから怖いのは当たり前だ。
「だったら今日は休みでも良いよ!」
「礼二は、何をするのかな?」
「今日はゴブリンの巣に行こうと思う!」
「何で、そんな所に行くの?」
「試したい事があるんだ」
僕は計画を話した。
「それなら、私はまだ薬草の採取が良いかな!魔物には絶対に襲われないんだよね?」
「それは大丈夫だよ、だけど、盗賊、動物、虫は怖いから気をつけて!」
「うん、解ったよ!」
僕がこれからやろうとする事。
それはゴブリンからの強奪だ。
サナの時に見たのだが、明かに倉庫らしい物があった。
あそこには恐らくゴブリンの宝の様な物があるのかも知れない。
僕は触れられないから…盗む事が出来るかも知れない。
洞窟の中を覗き様子を見る。
運が良く今は居ない様だ…
そのまま中に入り倉庫らしい物の扉を開いた。
中には色々入っていたが、どれもガラクタばかりだった。
綺麗な石が幾つかあったが、僕には持てなかった。
あんまり時間を掛ける訳にはいけない。
結局、僕は鉄の剣2本と銅の件2本、銅のナイフ1本しか持ちだせなかった。
サナより先に僕はギルドに帰ってきた。
「すみません、ゴブリンの巣から手に入れた物の買取をお願いいしたいのですが」
「はい畏まりました…まず「これが拾得物の横領にあたるか」自治体にもよりますが、普通ゴミについては、「置いた時点で所有物の存在しないもの」扱いになると言う事なのでこれを適応しますので問題ありません、リサイクル品の売り買いと考えた場合…これらの「生活用動産の譲渡による所得」では無いので非課税にはなりません、「雑所得」扱いなので税金が掛かります、 それでは査定させて頂きます」
ようは税金が掛かるけど買い取って貰えるという事だ。
これで、収入アップの目途がたった。
「買取金額が出ました、これらの物は日本の基準では剣というレベルではありません、また美術品とも言えないのでスクラップです、鉄の剣が1本1.5キロで2本で3キロ、鉄の買取金額が1キロ18円で54円、銅の剣が1本1.3キロ ナイフが0.6キロ 銅の剣2本とナイフ1本で3.2キロ 銅の買取金額が1キロ580円なので1856円…合計1910円になります」
なんだこれ、駄目じゃないか? 多分これ異世界人なら「剣4本とナイフ」だからそこそこお金になる筈だ…
待ち合わせしたサナがギルドに戻ってきた」
「礼二、どうだった?」
「駄目だった…」
「そうだったんだ、残念だね!」
サナの薬草の買取金額は5万を超えていた。
魔法絡みの物は日本に無いから掴めない、逆に鉄や銅は作りが甘いから…魔物の宝物庫漁りは諦めるしかないだろう。
【閑話】王宮 幸せ異世界人 (表)
約束の2週間が経った。
今現在、最初に去った礼二、その次に出て行った緑川、平城を含む7名、合計8名以外の27名は王城に残っていた。
此処には、国王エルド6世、王女マリン、ローアン教皇他教会の関係者に貴族迄集まっていた。
国王エルド6世が口を開いた。
「さて、今日で約束の2週間たったが、どうするかは決められましたかな?」
不安そうな顔で転移者たちは顔を見合わせた。
ついで王女マリンが口を開いた。
「まず、私から説明させて頂きます! 皆様が死後の世界についてはご存知ですか?」
「何、それ…死後の世界なんて」
「ちょっと、待って此処は女神様の居る世界なんだからあるんじゃない?」
「確かに神様が居るんだからあるんだろうよ! 聞こうぜ!」
「有難うございます! まず、貴方達は女神の御使いとしてこの世界に現れました! だから、死後の世界では、貴方達の話で言う天国行きが確定しています! そこはありとあらゆる夢が叶った世界なのです! 生きている間は「女神の戦士」と扱われ、死後は天国での生活が約束されている、貴方達の神はそんな約束してくれますか? イシュタス様はそこまでの約束をして下さったのですよ」
「嘘、本当にそうなの? 死んだ後も天国に行けるの?」
「そんな約束もされているのか?」
「勇者である祥吾様如何でしょうか? 生きている時の保証もされ、死後の面倒も見て下さるし、そして天国から転生して生まれ変わった後も成功を約束してくれている女神様をまだ許せないでしょうか?」
「それは本当なのか?」
「はい、特に勇者である祥吾様は、先々神にすらなるかも知れません..そこまでの約束がされています」
「それをちゃんと説明して欲しかったな! なんだか喚いていた俺が馬鹿みたいじゃないか、俺は口が悪い! ローアン教皇様悪かったな…」
「良いのですよ! 貴方は勇者様なのですからお気になさらずに!」
「そう言ってくれると助かる!」
「他の皆さまは如何ですか? この国は一神教ですが、貴方達には、女神イシュタス様が未来永劫の幸せを保証して下さっています! もし前の神様との繋がりが薄いのであれば、イシュタス様を信仰して頂けませんか?」
「そうだな…女神様にこれからもお世話になるんだ..俺は信仰するよ」
「俺も」
「僕も」
「有難うございます…全員が信仰なさって下さるなんて…父もこのマリンも感謝しかありません」
「色々とありましたがお互い水に流しましょう、教会は貴方達、異世界の戦士に協力を惜しみません」
「それでは皆さん…全員が残る、そう言う事で宜しいでしょうか?」
「俺は残るぞ!」
「私も」
「俺も」
「皆さん本当に有難うございます! 此処からは本当の意味でこの国の仲間と思い接させて頂きます! これからは残って下さる方への提案です! 王宮では「勇者様」「聖女様」「剣聖様」の支援を中心にさせて頂きます! 「賢者様」が居なくなってしまったのは残念ですが…そしてその他の方は貴族の方で支援させて頂きます」
「ちょっと待って下さい…それは王たちは僕らの支援をしない…そういう事ですか?」
「違いますよ! 各地域でも魔族の進行で困っているのです! そこで各貴族の方から、救世主が欲しいという話が来ているのです…そして各貴族の方々が、子息や子女を連れて此処に来ています、その方達は貴方達のこれから戦うパーティーメンバーなのです!」
「パーティーメンバーであり…将来は婚約、なんて事もあり得ますよ? 半分お見合いだと思って頑張って下さいね…さぁ大広間に行きましょう!」
此処には貴族の子女が多く集められている。
しかも、最低でも男爵階級以上の本当の貴族達の子息子女。
「初めまして 異世界の戦士様、私はキャロラーユ子爵の三女コーマと申します…お話ししませんか?」
「えっ僕ですか?」
「はい、戦士様、お名前は何とおっしゃいますの?」
「えーと水野春樹と申します」
「春樹さまですか? 凄く綺麗な目をしていますね」
「マドモアゼル、私はロードマン伯爵家の四男スポークと申します…少しお話ししませんか?」
「マドモアぜルって、あたあたしの事?」
「そうですよ、マドモアゼル他に誰が居るっていうんですか?」
1人の異世界人に数人の貴族の子女、子息が群がっていった。
「えーっ、これって1人を選ばないといけないんですか?」
「はい! 順子様…私を選んではくれないのですか? 私はどうやら貴方に一目惚れしたみたいだ..将来」
「ちょっと待ちたまえ! 順子様は私が幸せにするのだ」
嘘でしょうこんなイケメンが私を取り合って喧嘩しているなんて…もしかしてこれは私が主人公の話なのかな!
「ちょっと待ってくれ…あれに俺たちは参加出来ないのか?」
「勇者様達も参加した方が良いかも知れませんね! それぞれ上限2名づつでパーティーに誘うのも良いでしょう! 行ってらっしゃいませ!」
「「「はい」」」
「こんな、素晴らしい事があるなら来て良かったわ」
「本当にそうだな…この俺がこんなにモテるなんて」
パーティーは2日間続き。
それぞれが、各貴族に引き取られて行った。
引き取られていった異世界人は誰1人として不安そうな顔はしてなく幸せな笑顔だった。
【閑話】王宮 幸せ異世界人(裏?) 王の計画
2週間という時間は人を見るのには充分な時間だった。
まして儂は王なのだ人の見極めが出来なければならぬ立場にある。
最初に城を出て行った礼二なる者のように信念を持ち神を信仰しているのかと思いきや、此処にいる者達は全てエセ信者だった。
何しろ、信仰している神の教義を、それとなく聞き出そうとしたら「誰も答えられない」呆れて物も言えぬ。
これなら、簡単じゃ…如何に、此方の宗教が優れているか話せば簡単に改宗するじゃろう。
奴らの都合の良い解釈で話して「自分達は幸せを約束されている」そういう甘い言葉一つで簡単、そう見た。
教会としても、「勇者」「聖女」が存在しない状態は困るから、「多少教義と外れていても信仰するなら問題ない」と許可は得ておる。
後はマリンに「都合の良い」話を中心にイシュタス様の教えを伝えれば良い、それだけだ。
一番滑稽なのは「緑川」と「賢者達」だったな。
何しろ、自らの価値を自分で下げおった。
本来なら、王宮で生活出来る物を、「仕官の道」を選ぶなど愚の骨頂としか思えん。
儂としては、融通の利かない「緑川」達が一番始末に置けなかった。
緑川以外は直接こちらに働きかける者はおらぬ。
つまり、此奴が居なくなれば、不平不満があっても、儂に迄話をしに来る存在が居ない事になる。
更に言うなら、案外頑固で緑川一派は欲望で転ばない可能性が高い。
頭の中で「居なくなって欲しい」そう思っていたら…一番儂にとって最高の道を選びおった。
「仕官」じゃ!
緑川は辺境で騎士見習いからスタート。
ジョブがあるから直ぐに騎士になるじゃろうが「騎士爵」を与えて終わりじゃ。
王宮に残って活躍すれば、上級貴族に成れる道があった物を…本当に馬鹿じゃ。
しかも、田舎を望みおったから、辺境伯の所を紹介した。
今の世の中魔族との戦いは何処も同じじゃ…田舎だから平和と言う事は無い。
「騎士」になったのだから、死ぬ気で死ぬまで戦うのが当たり前、そういう人生しかないのじゃ。
「賢者」に戦いにでて貰えないのは残念であるが、アカデミーに送り込んだからそれはそれで良い。
アカデミーは「賢者」を欲しがっていたから、良い貸しができた。
対価として貴重な「大魔導士6名」差し出してきた。戦力としてはこれで釣り合いがとれる。
また「賢者」のジョブを持った者をアカデミーで使い潰せるなら、それは僥倖じゃ。
国に役立つ様々な物を提供してくれるじゃろう!
他の者も騎士見習いや、戦闘魔法使い等に送り込んだのだから、こちらとしては願っても無い。
まぁ、1人王立図書館勤めがいるが、話を聞くとその仕事が本当に好きなのだから仕方ない…まぁ此奴だけは自分で道を切り開いた。
そう言えるかも知れぬ。
「異世界から来た者」がこちらの人間と同じ報酬で、仕事をするのじゃから…実に良い話であったとしか言えない。
緑川から得た情報は実に美味しかった。
何故なら27名の殆どが欲の塊だからじゃ。
「女が欲しい」「男が欲しい」「金が欲しい」「地位が欲しい」 特に緑川は、男子のかなりの人数が「女に目がなく危ない」と助言をしておった。
事実、目をつけられて危ない女性を引き連れて出ていった。
それとなく、様子見を頼んだら、メイドや女官を好色そうな目で見ている者や、見目麗しい騎士を見ている女が居ると言う情報が得られた。
これなら簡単に異世界人をばらせる。
沢山の者が固まっているから金も掛かるし、文句も出る、バラバラにして1人にしてしまえば「たかが子供」なんとでも言いくるめられるだろう。
沢山の貴族が「異世界人」を欲しがっておるのだから、王宮から「下賜」してやれば良い。
異世界人に掛かるお金は、貰った貴族が払う。
そして、貴族はその「異世界人」を使い魔族と戦う…その結果、国が助かる良い話だ。
「勇者」「聖女」「剣聖」は流石に国と教会が押さえて置かなければならぬが、その他の人間は「下賜」すれば良い。
儂は、貴族に通達をした…「見目麗しく、戦える継承権の無い子息、子女をパーティーに寄こせ」と…そして異世界人を落とせとな。
あ奴らにして見れば必死であろう…
継承権が無いから「今は貴族の子だが、このままでは貴族ですらなくなる」それがだ、異世界人を射止めれば、「貴族のままで居られる」のだ。
しかも、異世界人の間に生まれた子は「優秀な子」が多い。
体だろうが、戯言の愛だろうが差し出すのは当たり前じゃ…目の前の「貴族で居られるチャンス」を逃す馬鹿はおらぬよ!
「女に目が無い」のなら恰好のエサだろう?
異世界には居ない…本物の貴族の女、男…まるでお姫様や王子様みたいに見えているであろうな。
だが、貴族の娘や息子に手を出せば、そのまま婚姻じゃよ!
しかも、1人も味方が居ない状況じゃ、もう終わりじゃな!
そこは貴族、手を出したら最後、最初は「純潔」について語り、場合によっては死罪を持ち出し…
最後には娘や息子が「心から愛しています●●様を殺すなら、私も死にます」
と異世界人を庇い…娘や息子が言うから仕方なく婚姻を認める話しをし…
それでも渋るなら「娘の純潔を奪いながら」「息子の純真な気持ちを踏みにじって」と脅す。
こうなるのが見えておる。
そして、異世界人を手に入れた者は、パーティーを組み死地へと異世界人と共に赴く。
当然じゃろ?
異世界人を手に入れて、手にした物は貴族としてはまだ下の「男爵」じゃ貴族の子息、子女なら上を目指す。
勿論、儂は過去には「公爵までなった者が居る」その様に話してあるから、貴族なら狙うのは当たり前じゃ。
「勇者」「聖女」「剣聖」は教会が支援する話になれば、金など気にする必要は無い。
全部、狂信気味の教皇や司祭が払ってくれる、何でも教会払いにすれば良い。
緑川は特に「勇者である祥吾はかなりの女好きだから気をつけるように」と忠告していたが気にする必要などない。
「勇者」であれば、「女神の御使い」教会のシスターを始め、何万もの女が股を開くのだ…どんな女好きでも問題無い。
そんな生活長く続けば、「女嫌いになるんじゃないか」 寧ろ、そちらが心配だ。
勇者の子供を身籠るだけで、沢山の保護が付くのだ、教会などは「勇者の子供を産めば、どんな人間でも上級シスター扱いで死ぬまで月金貨2枚貰える」そういう保証をしている。
「勇者」「聖女」「剣聖」はそれこそ、砂糖に群がる蟻の様に異性が寄ってきて肉体関係を迫られる。
出来るわけ無いが、勇者の子であれば国としても歓迎だから、千でも2千でも孕ませて貰いたい物だ。
つまり緑川の心配は全く無いと言える。
そして、この話の一番良い所は国も儂も何一つ、異世界の戦士に強制していないと言う事だ。
今回の召喚は大成功といえよう。
【閑話】王宮 幸せ異世界人(裏?)槍のリタの成り上がり
私は自分の人生が心配で他ならなかった。
私はユーラシア男爵家の三女として生まれた。
だが、妾腹だった為に良い生活等した記憶がない。
男爵家といってもユーラシア家の土地は内陸にあり海も無い場所だ。
そして森はあるが、さほど恵まれた場所で無い。
何が言いたいのかと言えば、貴族なのに貧しいのだ。
領主である父と正室であるフェリシア様、そして長男であるサードルの食卓は貴重な食材の鳥がつく。
だが、その他の家族には鳥が付く事はまず無い。
それこそ、誕生日に鳥のもも肉が貰えるだけ…1年に一度しか鳥は食べれない。
そして、家のなかでの私の立場は、恐らく一番低い。
妾の子で背が高くて器量が良くない娘。
政略結婚にも使えない娘。
貴族の娘としては何の価値も無い…あはは、本当に駄目だ。
だから、私は15歳の成人に備えて「槍」を使いこなせるようにした。
母が居なくなった今、貴族では居られない。
貴族で居られなくても、元貴族の為仕事が狭まる。
冒険者にでもなるしかない。
「何だ、リタか? 本当に使えない娘ね!」
「此処まで器量が悪いと、手柄を立てた者に報奨として妻に与える事も出来ぬ」
「犬以下だ」
母さんも死んだし、此処に私の居場所は無い。
そんな私に王からの召喚状が来ていた。
どう考えても器量など良くない…手違いだろうな?
王からの召喚状…行かない訳にはいかない。
「召喚状が来たから行かせぬわけには行かない…最低限のドレスは用意しなくてはならないな」
「本当に、ドブに捨てるような物ね」
「どうして、真面な妹を置いて置かなかったんだ…こんなチャンスに」
結局一番安いドレスを買い与えられ望まぬパーティーに行く事になった。
他には器量良しが居るのだから…まぁ行くだけ無駄だが、美味しい物が食べられるだけよいか?
王宮には
他の家の者の中には、家族全員で来ていた者も居た。
親の期待度が解る。
やがてパーティーになり、「異世界人」に皆が群がるが、私は辞めて置いた方が良いだろう。
どうせ、私が行った所で無駄だ。
さて、飯でもくって静かにしているか?
その後は壁にでも貼り付いていれば良いさ。
うん? なんで彼奴は1人で居るんだ?
隠れるようにバルコニーの柱の所に居る…
「どうかしたのかな?」
「はははっ見つかっちゃいましたか! 僕はこういう所が苦手でね」
「もしかして、此処に居たく無いのか?」
「まぁね…だけど相手が見つからないと此処から出れないようなんだ!」
まぁ異世界人と「話しをすれば義務は果たした」そう言えるだろう。
「だったら、私と裏庭でも行くか? これでも女だ文句は言われまい」
「宜しいのですか?」
「ああ、構わないよ!」
しかし、異世界人なのに何で此奴には誰も寄りつかなかったんだ。
「あのさぁ! 行かなくて良いのか? 重要な相手を決める大切なパーティーだろう?」
「そういう貴方は行かなくて良いのですか?貴重なパーティーなんでしょう?」
「見ての通りの大女だ! 行くだけ無駄だって! そう言えば名前も名乗ってなかったな! 私はユーラシア男爵家の三女リタだ!」
「ご丁寧に僕は、中村翔太、異世界人でジョブは聖騎士!」
聖騎士だって! 四職のすぐ下…貴族が手に入れられる異世界人の最高峰の一角じゃないか…
「翔太、こんな所で油を売っていては駄目だ! お前ならブリジット公爵家の令嬢やタイヤー侯爵家の令嬢も色目をつかって来る筈だチャンスを逃しちゃ駄目だ!」
「あの、ユーラシア男爵家ってどんな所にあるのですか?」
「凄い辺境の貧乏な家だ、唯一の取り柄は何も無いから魔族が攻めて来ない、それだけだな!」
魔族が攻めて来ないなら…最高じゃないか!
「リタの所も異世界人は欲しんじゃ無いのかな?」
「確かに欲しいと思うが! 私と将来の結婚を踏まえて付き合い、パーティーを組むんだぞ! 嫌だろう?」
背が高いけど、僕の目から見ればかなりの美形だ。
背の高いモデルか、異世界の話なら女性クルセイダー見たいな感じだ。
そして貧乏でも平和な領地、最高じゃないか…僕は戦いは嫌いだ。
「解った、それじゃ僕は、ユーラシア男爵家の世話になるよ! 潜伏を使って隠れていたかいがあった」
「おい、それは私と結婚を前提に付き合いパーティーを組むという話になるんだぞ」
「リタが良ければそれも構わない」
「おい、そんな簡単に決めて良いのか? 明日もあるのだぞ」
「もう決まったのだから明日はゆっくりしようよ」
「翔太…ありがとうな!」
さて困った、相手が出来ると思ってないから馬車も何も用意してない。
直ぐに手紙を書いて手配しないといけない。
緊急事態だ、親類のロードマン男爵にでも頼り借りるしか無いだろうな…
この事態だ許して貰えるだろう。
手紙を書き、ギルドで早便で出した。
その際にロードマン男爵家に馬車を借りる旨を手紙に書いた。
翌々日、ロードマン家は馬車を王宮に従者と共に届けてくれた。
これで、体裁は保てる。
明かに、異世界人を手に入れられなかった者の嫉妬をかっていそうだが仕方ない。
しかし、何で自ら…そうか? ロードマン男爵も縁を結びたいのだな。
「しかし、リタ様この度はおめでとうございます」
「リタ様?」
「何を驚いているのですか? 今はまだ同じ男爵ですが、すぐに子爵、伯爵と駆け上がって行くのですからな」
そうか、異世界人を迎えるって言う事はそういう事なんだ。
「リタ? こちらの方は?」
「フロント男爵、親類にあたるわ!」
「これは、これは中村様、お初にお目に掛かります、ロードマン家の当主フロントと申します」
「これはご丁寧なあいさつを中村翔太と申します」
王都から馬車に揺られて1週間、のどかで何も無いユーラシア男爵家についた。
珍しい、お父様が外で出迎えに立っている。
「お父様、今帰りました!」
「おお、リタよ、流石は私の娘だ、帰りを待ちわびたよ!」
「あの、お兄さまとフェリシア様はいらっしゃらないのですか?」
「ああっリタが気にすると行けないからからな、サードルとフェリシアは追い出したよ…次期当主を中村殿とお前にする事に反抗したからな、追放したからこの土地には二度と来ない、安心してよいぞ!」
そうか、私達は今は男爵だが伸びしろがある。
ユーラシア家はずうっと男爵、爵位を上げる為に躍起になり失敗した。
確実に爵位を上げるであろう私達を取り込むために斬り捨てたんだわ。
「解りました、お父様、ユーラシア家の為(適当に)頑張ります」
「お世話になります!」
「こちらこそ宜しくお願い致します」
笑顔で握手をしたが、その思惑は2人とも別の物であった。
【閑話】王宮 幸せ異世界人(終) 異世界人と言う名の家畜 本編は続きます。
王宮主催のパーティーに我が家は三人の娘と一人の息子を送り込んだ。
パーティーとはいう物のこれは「婚活」であり「爵位」の争奪戦だ。
しかも、「優秀な孫」の争奪戦でもあるのだ。
「異世界人」と言うのは我々貴族からしたら喉から手が出る程欲しいのだ。
武力系であれば、半年も鍛えれば、その力は此処にいる騎士団長並みの力は最低でも身に着ける。
ヒーラー系であれば、教会で高額で治療を施す高位ヒーラ位の能力が身に付く。
良いか…これは最低でもだ。
あそこに居る者の中でハズレを引いてもその位の能力はある。
逆にアタリは聖騎士やクルセイダーにアークプリースト等、この国数人しか居ないジョブ持ち。
その辺りになれば、どれ程領地の為になるか解らない。
しかも、今回の異星人の男の多くは「女性にだらしない」と聞く。
実に結構…娘があぶれたら、全部嫁がせてみれば良い。
それでも足りないなら、教会にでも行き、養女として引き取り好きなだけ抱かせれば良い。
別に強制ではない…事情を話せば自分から股を開く。
何しろ、異世界人との間に生まれる子供は皆優秀だ。
優れたジョブや、優れたスキルを全部とは言わないがかなりの率で引き継がれる。
優秀な孫を儂にくれる実に良い息子でもある。
つまり異世界人とは…
戦わせて良し!
仕事をさせて良し!
そして欲望に溢れていて使いやすい。
そして、子作りさせて良し。
異世界人とは我々貴族にとって…実に良い家畜なのだ!
死ぬ程戦って貰うか…働いて貰い。
思う存分、女を抱いて繁殖させ..その子供までもが使い続けられる。
最高の家畜…それが「異世界人」だ!
貴族や王にとっては最早、異世界人は..裏で家畜の様に扱う。
その方向性で決まった。
爵位を与えても、重要な役は与えない。
贅沢をさせ、女を宛がい…それ以上の利益を出させる「金の卵を産む鶏のような家畜」
それが異世界人という名の家畜。
だが、それに気がつかない異世界人にとって、それは幸せな事にしか思えないだろう。
幸せ日本人 日本に生まれる事の幸せ…
今日は朝から壮行会が行われていた。
僕以外の異世界人が、王都から出て行く。
「勇者」「聖女」「剣聖」以外の異世界人が豪華な貴族の馬車に乗り王都から出て行く。
異世界人の殆どに男爵位が与えられたのを聞くとちょっと羨ましく感じた。
だけど、彼らはこれから戦いの人生が始まるんだ。
綺麗な女の子に囲まれて、馬車から手を振る彼らを見て更に羨ましく感じた。
だが、それは「魔族や魔物と戦う」その義務が生じる。
勿論、戦う能力はあるのだろうが…僕はゴブリンを見ただけで嫌気がさした。
サナの味わった地獄を考えるなら、「それと無関係で居られる」人生の方が良い。
そう思う…前の人生で、僕がどん底の時に「哀れみ」からだが、僕の事を考えてくれた。
姿形が変わってしまったから、もう僕には気がつかないだろうな…
僕は彼らの人生に幸せがある様に…最後に祈った。
これから彼らと会う事は無いだろう…もし、どこかですれ違っても相手は僕に気がつく事は無い。
この間、他の冒険者と揉めて、先方の冒険者が決闘を言い渡した途端に「決闘法違反」として連行されていった。
更にサナに絡んできた相手を止めた時に相手が「殺してやる」と叫んで抜刀した瞬間に連行されていった。
連行していった警備兵の話では、「暴行未遂」か「殺人未遂」かどちらかの罪に問われて、投獄されるそうだ。
魔物も魔族も日本には居ないから僕たちには何も出来ない…恐らく魔王の攻撃すら僕には通じないだろう。
そして、この世界の人間はどうか?
日本にはジョブやスキルの恩恵は無い…だから、僕を相手にはそれが使えなくなる。
「だから、只の人間になってしまう」
勿論、僕は只の人だから、剣で刺されれば死ぬ。
だが、この世界の強い武器は魔法や魔力があるから僕には通じない。
そう考えるなら「聖剣を持った勇者」ですら僕の前では只の人だ。
サナや僕が病気になれば、病院に行くだけで抗生物質の薬が処方される。
この分なら、大きな病気の場合は外科手術も望めると思う。
僕はこの異世界で日本人として生活が出来る…スキルもジョブも無いから大きな活躍は絶対に出来ない。
その代り、日本に守られている僕には、異世界は手を出せない。
それは「魔王」も「勇者」も関係ない…僕にとっては殆ど他人事だ。
クラスメイト達はこれから活躍して栄誉を手に入れるかも知れない。
勇者が活躍して表彰されれば羨ましいと思うかも知れない。
だけど、それは「命が無くなる」その賭けに勝った結果だ。
だから、僕は皆に言いたい。
「自分が恵まれて居ない」 そう思っているかも知れない。
だけど、「日本」に住んで居るだけで恐らく幸せだ。
異世界の宿屋なんて、漫画喫茶の方がマシな場所ばかりだ。
バス、トイレ付きの部屋に住んでいるだけで充分勝ち組なんだぞ…
君が普通に食べている、カレーや牛丼、安物ステーキは異世界で貴族が食べている物より多分上だ。
ハーレムや奴隷は成功すれば手に入るだろうが…それまでが大変だ。
娼婦を買っても、高級な店じゃ無ければシャワーすら無いんだ!酷い所だと、他の男性に抱かれた後、汚いまま抱かなくちゃならない。
運良く貧乏な状態で、奴隷を手に入れても、お金が無ければ、シャワーなんてついた部屋なんか借りられないから、汗くさい状態で…下手したら下半身やお尻なんか汚い状態で犯る事になる。
それなら風俗で衛生的な女の子と楽しんだ方が良くないか?
勇者になる位なら、日本で頑張って「医者」や「政治家」「実業家」になった方が絶対に良い生活を送れると思うよ?
異世界は医療費が高くて、病気の時にお金が無いと死ぬしかない…日本はどうだ? 違うだろう?
僕は異世界で運よく「日本の生活」をしているけど…
異世界なんて不便で悲惨な事ばかりだ。
勇者になろうが…恐らくは日本人のちょっとした成功者の方が恵まれていると思うよ!
だから、もしこれから先「女神様から話をされても」断れるなら断った方が良いよ!
多分、今の生活の方が遙かに幸せだからね!
「どうしたの礼二?」
「いや、僕は幸せだなと思ってさぁ!」
「当たり前じゃない! 礼二は「日本人」という特権階級なんだから!」
「そうだね」
「そうだよ」
僕は今日も、サナと一緒に安全な「採集」の仕事をしている。
僕たち「日本人」には魔王も勇者も関係ないのだから…
(第一章 完)
続行のお知らせ(あとがき→訂正)
この作品のテーマは「異世界より日本の方が遙かに良い」そう言う事です。
私はライトノベルもアニメも見るのですが…
馬車に乗っている主人公を見た瞬間…うちの軽自動車の方がエアコンもついているし、DVDも見れて快適そう思いました。
他にもアニメの描写では…こんな世界に行く位なら、絶対に日本の方が良い、その思いから書き始めました。
そして、此処に出てくる「くくり姫」ですが、結構、日本の神話だと酷い話があり…
神になった者には悲惨な者も多く居たのでこの様な話に…
この後、お礼を書いてあとがきにしたのですが、感想欄から続きや続行を望むこえが多かったので続行して書く事にしました。
【サイドストーリー】種馬戦士 和樹物語 (リクエスト作品)
【お報せ】
一旦、完結をしたのですが、続投、短編の希望を感想欄から頂いたので、アンコールにお答えしました。
ただ、他も執筆した後なので更新はゆっくりになります。
御理解下さい
「お父様、先程14名の異世界人からの資格剥奪届けが出されました」
「まぁそうじゃろうな…仕方ない受理しとくように」
「はい、その様にします」
「しかし、これで彼らは苗床人生しか無い事に気が付いていないのだろうな」
「良いんじゃないんですか? ハイゼ伯爵の所にいた広川様..いえもう「異世界人」じゃないから広川を見た時に「ハーレム来た」とか喜んでいましたから…」
「まぁ、貴族に異世界の力を持った血が入るのは良い事じゃ…だが」
「王であるお父様が気に病む話ではありませんわ」
「うむ、そうだな…だが、異世界人としての光り輝く未来が家畜の人生に変わってしまったかと思うと王ではなく男として不憫でならぬ」
「女の私には理解できません」
「そうじゃろな」
パーティが終わり、異世界人を国と貴族で分け終わった
国側と教会は「勇者」「聖女」「剣聖」を主軸に戦う事が決まった。
リーダーは勇者である祥吾、それぞれ3人には貴族から2人ずつ合計6名優秀な者がつき。
アカデミーからは「賢者」の代わりに代替で来た、「大魔導士」6名が加わる。
合計15名が魔王討伐のメンバーと決まった。
実はこれは完全に出来レースだ。
まず一番成績の優秀な者は勇者側に来るよう、あらかじめ国から圧力が掛かっていた。
その為、元からこれに加わる資格の無い者は寄らない様に言いくるめてある。
魔王を倒すのに優秀な者が必要、当たり前の事だ。
その為にはまず一番優秀な者をその任につけなくてはならない。
その話を聞いた貴族の子女、子息たちは落胆したが元々の約束で決まっていた事だから仕方ない。
実質、勇者とその仲間15名で魔王を戦って貰おう…それが殆どの貴族の考えだ。
勿論、金銭的な援助やバックアップは別にする。
残りの異世界人はどうしたいのか?
ここに全てと言って良い程の貴族は集中する。
結論から言うと婿や養女にして種馬や苗床にしたいという貴族が多い。
この世界の優秀な人間は性格的に歪んでいる者が多く…そして人を馬鹿にしている傾向が多い。
庶民の男ですら優秀なジョブを持つ者は将来が約束されるので…貴族令嬢のプロポーズを断る事もある…そんな世界だ。
庶民の男で不細工であってもジョブさえ優秀なら、種馬になりほぼ仕事はしないですむ、そんな生活もあり得るのだ。
庶民の男でそこそこ綺麗で優秀なジョブだったら…確実に玉の輿に乗れる。
最も、実際の所は、「確実にジョブが引き継がれる」事は無い。
優秀で無い子も沢山産まれているのが悲しい現状だ。
では異世界人だったら…「最低でも一つ下のジョブの子が生まれる」それが絶対とは言わないが、ほぼ確定している。
子供をガチャ扱いするのは問題だが、本人がSSアイテムなら、ガチャの中にはS級のアイテムしか入って居ない。
貴族がこれを欲しがらない訳は無い。
恐らく、貴族達には「王族」との結婚ですら天秤にかける程価値がある。
最も、戦力としての価値も充分あるが、それは二番目。
殆どの貴族が欲しい一番の理由はこれだ。
その為、実はこの貴族の子息、令嬢たちの中には…強くもなんともない…美しいだけの人間も実はかなり、混ざっている。
何故、そんな人間を王の命令を無視してまで貴族が出したのか?
それは、初対面の一発勝負なら外見だけで勝負が決まる…そう考える貴族が居たからだ。
だから上は侯爵、下は男爵まで戦闘力の無い美男美女がかなり混ざっている。
ちなみに、男爵以下には参加資格は認められておらず、公爵家が参加しないのは結婚していない子息、令嬢が居ないとういう理由からだ
殆ど、我々で言う所の合コンに近い感じで種馬獲得を隠したパーティ選別が裏ではあった。
綺麗な令嬢がハイエナの様に本性を隠して襲い掛かる。
「初めまして勇者様、綺麗な黒髪ですね…私剣技には自信があります、身も心も全て捧げます…だからパーティの末席で構わないので仲間にして下さい」
「私は回復魔法が得意です、是非お仲間にして下さい..仲間にしてくれるなら私を自由にして貰っても構いません」
彼女達は決して剣も魔法も出来ない…全部嘘だ。
だが、最後に言っている身も心も捧げますだけは本当だ。
そして、この集団合コンならぬパーティ選別の儀で少ない者で3名…多い者で10名近くのパーティを組んだ。
ここも実は巧妙なのだ…例えば1人の令嬢をパーティに加えたとする。
「ありがとうございます…勇者様、必ずや私の剣が貴方を守ります…ですがパーティには火力も必要です…もし宜しければメイジも仲間に加えるべきです…あっあそこに灼熱のレディスがいます…まだ何処にも入っていない..チャンスです声を掛けてきて宜しいでしょうか?」
勿論、凄いメイジではないただ、初級の火魔法が使えるだけの令嬢だ。
「レディス…貴方程の方がまだパーティが決まらないの?」
「私は主を選ぶのだよ」
「まだ、決まって無いなら、私の異世界の戦士様に会って貰えないですか」
「会うだけなら」
「ほう、こちらの異世界の戦士様がそうか…初めましてレディスです…流石、疾風が選んだ相手、、私が仕えるのにふさわしい!」
「疾風って…」
「知らなかったのですか…そこの剣士、疾風のライヤですよ」
彼女は疾風どころか、そよ風以下…現状ゴブリンにも勝てない。
こんな風に仲の良い貴族の令嬢同士が保険を掛けて、自分が失敗した時の為に同盟を組んでいた。
かくして、何も知らない異世界人達は勝手に仲間を増やされていく…実際に戦えない性欲まみれの令嬢を抱えながら…自分では美しくて強い仲間を手にしたと言う幻想を見ながら。
貴族の屋敷に、異世界人は移される。
その屋敷はパーティの貴族の中でも位の高い者の屋敷が選ばれる。
他の令嬢も同じパーティメンバーはこの屋敷で過ごす。
実は、この前の時点で、貴族の上下関係で正妻や側室が決まっている。
中には、主家と従家で囲い込みをしている場合もある。
そこでは前の世界では考えられない程の歓迎を受ける。
我々の世界で言うなら、何も知らない美少女を家に呼んで複数のハイエナの様な男性で囲んでいる状態に近い。
違いは紳士的かどうかの差だけだ。
メイドから令嬢迄が際どい服装で虎視眈々と狙っている。
勿論、部屋の鍵は誰も掛けていない。
ここで、殆どの者は落とされる。
そのまま夜這いをかけてしまう者。
意思が多少は固く廊下をウロチョロしている者…全て食われてしまう。
「貴方なら…」
なんて甘い声で誘ってくるが…実はこの世界の処女は異世界人限定なら前の世界の童貞位価値はない。
生まれてくる人間が確実に「医者」「弁護士」以上になる可能性が高い。
そんな将来が約束された「種付け」なのだから。
そして、その後は当主から
「うちの娘(使用人)を傷物にしたな…責任を取ってくれるか?」
これで終わってしまう。
異世界でここを出て行ったら行く先は無いのだ。
この時点で婚約まで結ばされてしまう。
そして、婚約をしたが最後、側室迄決まってしまう事が多い。
その後は、異世界人の肩書をどうにかして無くしたい貴族の策略が始まる。
異世界人は国が保護している、最悪気にくわなければ出て行き、優秀なだけに何処でも暮らせる。
その為、どうにか資格を失わせたいのだ。
一番多いのは、最初からオークを狩りに行く方法だ。
ゴブリンを飛び越してオークと戦わされる。
パーティのメンバーで異世界人は、行っているつもりだが、実は違う。
離れた所で、貴族の持つ騎士団がしっかりと警護している。
そして、令嬢たちの装備は見栄えは悪いがかなり上等な物。
逆に異世界人の装備は…見栄えは良いが粗悪な物を用意する。
結果…異世界人が足を引っ張り…惨敗。
その際に異世界人が怪我をする事は確定、必ず大怪我するまで戦わされる。
心を折る為に。
場合によっては令嬢の1人位は怪我をさせて、更に異世界人を追い込む。
全てが終わって屋敷に帰り…令嬢たちは全員が泣く…瞼が腫れる位泣く。
その後で泣きはらした姿で現れる。
「私は、貴方無しでは生きていけない…貴方はこのままでは死んでしまう…だから…戦うのを辞めて下さい…例え..私がどうなろうと…王家に指一つ触れさせないから…」
怪我をして自信を無くした異世界人はこの誘いは断れない、自分の身を案じてくれる彼女達の姿に救いを感じてしまう。
それで異世界人が感動している所に…当主が現れる。
「娘が此処まで愛しているのだ…当家の名前に掛けて、戦いを辞退できるようにしよう…その後は娘達と幸せに暮らせば良い」
更に感動して、その提案を飲んでしまう。
優しい提案に思えるが実はここからが地獄なのだ。
異世界の特権を辞退した後は…苗床の様にただただ、肉体関係を重ねるだけになる。
例え、最初が3人だったとしても…従家の貴族の娘も加わり…側室が増えていく。
そして…朝から夜まで何回もの肉体関係を続けなければならない。
一族に固有の魔法や優秀なジョブが欲しい為、容赦なく肉体関係が続く。
ただ、相手が美しい..それだけが唯一の救い…恐ろしく怖い美人局みたいなものだ。
だが、ジョブや固有魔法は伝わらない事も多い…実際の所は元異世界と結婚した、そのステータスが欲しいだけなのかも知れない…
14名の異世界人は今日もハーレムを楽しんでいるだろう…種馬扱いされているとも知らずに…そしてその楽しみがいつか苦痛になろうと引き返せない…そんな事も知らずに
【サイドストーリー】 種馬戦士 和樹物語 安らかな死…
僕の名前は 和樹。
元は日本人で今は貴族の見習いをしている。
最初僕は「異世界の戦士」として戦う為にリットン辺境伯に引き取られたが、僕にはその資質が無かったらしい。
一回目の狩でオークに負けてしまった。
その後は、なしくずしでそのまま辺境伯の娘の婿になった。
オーク如きに遅れを取る様な無様な戦士の僕に周りは優しかった。
こんなハズレの異世界人を掴んだのに、リットン辺境伯は優しく僕をライヤの婿に迎えてくれた。
ライヤも本当に優しく、役立たずの僕の為に泣いてくれ、僕が死んでしまうからと戦いを辞めて欲しいと嘆願してくれた。
異世界の漫画や小説なら放り出されてしまう場面だろう。
そして、こんな役立たずの僕の為に 疾風と言われる剣技の持ち主ライヤも灼熱と呼ばれるほどの魔術師レディスも戦うのを辞めて傍に居てくれた。
彼女達の未来を潰してしまった、それなのに何も言わずに優しく微笑んでくれた。
僕が心細い時にはいつも抱きしめてくれた。
そして体さえも使って僕を慰めてくれた。
だから、僕は戦士に成れないならせめてこの領地を豊かにしたい、そう考えリットン辺境伯の仕事の手伝いを始めた。
幸い、僕はクラスでは頭は良い方だったので、書類の手伝いや計算など出来たので重宝がられた。
恐らく僕はここで….甘かった。
ここは異世界だ…そして魔王や魔物が居る場所だ。
今、リットン辺境伯領は魔物に取り囲まれている。
リットン辺境伯の指揮のもと、騎士団や魔法兵団は元より領民までもが戦っている。
残念ながら勝てないだろう。
何しろ見渡す場所全てに魔族がいる。
何倍もの数で囲まれている。
悲鳴しか聞こえてこない。
もう充分生きた!
普通じゃ考えらえない位愛された
これはここに来なければ無かった事だ。
ここに来なければ地味な僕は童貞のままだったろう…
「ライヤ、レディス…僕は臆病だけど、君達の死ぬ姿は見たくない」
だから…「いくよ」
この屋敷にいる人たちは君達以外も僕にとっては大好きな人たちだから
「僕が戦う事で、死ぬことで君たちが1分でも1秒でも永く生きれるならそれで良い」
勝てる? 勝てる訳ない…ただの意地だ。
和樹は剣を取り屋敷を出て行く、1人でも多くの魔物を倒す為に。
和樹は戦った。
戦士としての素質があったのかも知れない。
魔族二人を切り捨てた。
碌に修行もしなかったのにオークにさえ遅れをとった和樹が魔族を倒せたのは僥倖と言えるかも知れない。
だが、そこまでだった。
十人を超える魔族や魔物に囲まれた。
もう死ぬのかな
もう和樹は戦う力は残ってない。
後は死ぬだけだ。
終わりだな….さようなら…
「私の剣は貴方を守る為にあります」
「ライヤ?」
「私の灼熱の炎は貴方の敵を焼き尽くすでしょう」
「レディス? 何で」
「何回体を重ねたと思っているんですか! 死ぬなら一緒です。実力はともかく私の剣は貴方を守るためにある..その言葉に嘘はありませんよ」
「私の炎は貴方の敵を焼き尽くす為にある…その言葉に嘘はない」
「ありがとう」
「「こちらこそ」」
リットン辺境伯の領地はこうして滅びた。
あっさりとすべての人間が殺されてしまった。
だが、その中に不思議な事に笑顔で笑っている男女三人の死体があった。
全てに満足したようにお互いがお互いを庇い合うように折り重なりながら手を握り…
【サイドストーリー】絶望の勇者パーティー
勇者 藤堂 祥吾
聖女 水上 静香
剣聖 東郷 梓
この三人にアカデミーからの大魔導士6名に貴族から選ばれた6名
合計15名が魔王討伐に選ばれたメンバーだ。
だが、此処に来て、静香と梓の気分はすぐれなくなっていた。
その大きな理由として自分達を除く24名(最初に緑川と居なくなった6名は別)のうち、既に14名が亡くなったと言う話を聞いたからだ。
最初に居なくなった礼二を入れると合計34名…そのうち14名が亡くなってしまったのだ。
残りは20名だが、そこから、最初に離れて行った礼二1名、更に緑川達6名は戦いと無縁の場所に行ったのかも知れない。
20名から7名を引くなら13名。
そう考えるなら戦いを選んだ者の半数以上が死んでしまった事になる。
此処に来て2名は気がついてしまった。
これは小説の様な話ではない…
リアルな話なのだと。
静香は思い出す…自分が読んだ小説の中に「聖女」が死ぬ話があった。
梓は思い出す…自分の見たアニメでは剣聖が犠牲になって仲間を助ける話があった。
それは、物語だから楽しく見ていただけで、自分が登場人物だったらそうは思えない。
「ねぇ梓!私聞いてしまったんだけど既にクラスの皆のうち14名が死んだらしいよ」
「うん、余り知られない様にしているみたいだけどね…」
「それでね、私達は大丈夫なのかな? 強い筈の仲間が皆死んでいくんだからさぁ」
「多分かなり危ないんじゃないの! 私達は確かにクラスメイトより強いと思うけど…相手は一番強い魔王なんだよ! 勝てる保証は無いんじゃないのかな!」
「実際は、今戦えば確実に恐らく負けるのはこちらだと思う…多分普通の魔族にすらまだ勝てないらしいよ!」
「それ、凄く不味いんじゃないかな?」
「不味いと思う! 今の祥吾は騎士とようやく互角なんだから、自分達が勝てないから私達を呼んだのに…そこの人間にすら勝てない」
「それって」
「そう、今の所私達は役立たず…このまま行くと魔王が勝って人類が終わるのかも知れない」
「多分、そうはならないよ! 今迄勇者が勝っても魔族は滅んでいない…逆に魔王が勝っても人類は滅びてない! 大きく世界の均衡が傾くだけ」
「だけど、私達は必ず死ぬという事だわ」
「そうよ…私達は魔王と決着を付けなくてはならないから「生死」を掛けた戦いをしなくちゃならない」
「結局、何が言いたいの?」
「私達三人は、最早逃げる事は出来ない…そして今のままだと死ぬのは多分私達、そう言う事だわ」
「それでどうするの?」
「どうする事も出来ない…だけど、死の覚悟は必要そう言う事よ」
「はぁ…もうどうする事も出来ないのかな..」
「仕方ないよ…此処しか居られる場所が無いんだから」
「異世界転移…碌な事じゃないよ」
「小説やマンガみたいな話じゃないね…」
二人はようやくこの世界が本物なのだと気がついた。
再開のお話し
この作品を楽しんで頂いて有難うございました。
この作品を書いていた時の私は6万文字の壁を越える事が出来ず、続きを書く事がどうしても出来ませんでした。
その後、皆さまの熱い感想を元に、長文を書く癖をつけるようにしまして、今ならもしかしたらこの続きも書けるのではと思う様になりました。
完結した作品なのに、ずっとブクマを外さないでいてくれた方、本当に有難うございます。
再開致します。
石のやっさん
此処はただのお化け屋敷ですね
人間が、草を取りに来るから、この場所は我々にとっては最高の狩場だ。
だから、この草が増えるように他の動物が近づかないようにしていた。
柔らかそうな肉と遊び道具になる人間が簡単に手に入る、貴重な場所だ。
ここに来る人間は弱いから簡単に殺せる、そして我々にとって貴重なメスも多いから貴重な狩場だ。
だがここに来る獲物の数が減っている。
この前に攫ったメスも何人も子供を産ませたから、壊れてきている。
犯そうが何をしようが反応しないから面白くない…そろそろ次を見つけて食べる時期だ。
次を探さなくてはいけない…だがここ暫く、避けるようにこの辺りに人間が来ない。
今日もまた….イタゾ…オモシロイオモチャが1ヒキに、ニクが1ヒキ…ナカマをヨボウ…狩の時間だ。
「礼二…本当に大丈夫なのよね!」
「そうだね! 普通の人間なら人生終わるけど、僕たちにはただのお化け屋敷だね!」
既に周りを魔物たちが取り囲んでいるのは知っている。
だが、僕たちは気にする必要は無い…どうせ触る事は出来ない、最もこっちも攻撃できないけど…
「お化け屋敷? 不味いよ礼二、とり殺されて死んじゃうよ?」
そうか、この世界にはアトラクションみたいなお化け屋敷は無いのか?
「間違えた、ただの見世物小屋だ」
「それなら良いんだけどさぁ!」
結局、採集でも問題が起きた。
多分だけど、日本に無い物は採集出来ない。
薬草は多分、名前が違うだけで日本にも生えている植物かも知れない。
他に「毒消し草」「痺れ草」「月光草」この辺りしか今の所採集できる物は無い。
その他は見えているのに採集出来ない、そんな草ばかりだ。
そして、この場所には一番高く売れる「月光草」が大量に生えている。
その金額は1束何と3万円…来る価値は充分あるだろう。
勿論、この場所に沢山生えているのに人が来ない理由はちゃんとある。
それは…オークの巣が近くにあるからだ。
しかも、このオークの巣には100以上居るとされているから誰も近づかない。
だが、そんなの僕たちには関係ない!
周りから、オークが現れた!
「ニンゲンガ..ココ二クルトハナ…バカガ!」
多分、あれが上位種なのだろうか? 片言だが言葉が喋れるという事はそう言う事なのだろうな!
「礼二さん! 礼二さん、本当に大丈夫ですよね、死んじゃいます! これ、もし間違っていたら死んじゃいますよ!」
「大丈夫だよ!」
僕はそのまま上位種のオークに突っ込んでいった。
そうしたら、体がすり抜けた。
「ニンゲン…」
その後もこの喋れるオークを無視して「月光草」を採り続けた。
「本当だ、礼二さん、本当に触る事もできないんだ」
当たり前だよ…日本にはオークは居ない。
だから、日本に括られている、僕達を触る事など出来る訳が無い。
大量のオークが攻撃を仕掛けてきたが、触る事が出来ない。
その状態が恐ろしくなったのか、オークたちは恐ろしい者でも見るような顔でその場から立ち去った。
「さてと月光草を集めようか?取り放題だよ!」
「うん、何も出来ない相手を怖がる必要はないね!」
二人は山ほどの月光草を採取して帰った。
その後、オークの間には触れない人間にすり抜けられると寿命が縮むという話が伝わった。
だが、そのせいで、オークは人間の男に出会ったら、すぐに、「こん棒で殴り確かめる」という考えが凝り固まりより被害が増えることになった。
この世界で手に入りにくい物
「凄いですね、月光草が2人で84本ですか? これは恐らく最高記録かも知れません」
ギルドの受付嬢が驚いている。
まぁ普通に考えたら、物凄く危ない場所だからいけないよな。
「今回はサナと一緒に頑張ったからね」
「かなり頑張ったんですね、月光草が1本3万円で84本で252万円に交通費360円×2=720円、合計252万720円になります」
「有難うございます、それじゃ、20万円降ろして、残りは貯金に回して下さい」
僕とサナは日本に括られているから、異世界なのに快適に暮らせる、その反面日本人の義務である税金を納めないとならない。
だから、ある程度の金額をギルドの口座に入れて置かないと怖くて仕方ない。
しかし、今回は凄い収入だな、《月光草》恐らく違う名前で日本に存在して、恐らく日本でも高額で取引されているんだろうな…
うん、待てよ、もしかしたら…待て、ぬか喜びに終わるかも知れない…今度やってみよう。
「礼二、換金はもう終わったの」
「ああっバッチリと終わったよ」
サナの顔は疲れたし、美味しい物食べたい、と言う様な顔をしている。
「今日は結構頑張ったから、美味しい物でも食べに行こう、その前にはい、お小遣い」
僕は1万円札5枚をサナに渡した。
「えっこれ…ああっ日本のお金だね」
「そうだよ、これでサナも好きな物買ったりすると良いよ」
「ありがとう、えーとこれどの位価値があるの?」
確か、この前サナに買ってあげたアクセサリーが7000円だったよな。
そこから考えると…
「この前、サナに買ってあげたアクセサリーあったじゃない?」
「嘘、このお金であれが買えるの…悪いよ」
「そうだね7個買えるよ!」
「えっ、あれが7個も買えるの? 勿体ないよ貯金に戻そう、うん凄く勿体ない」
この異世界で出会って仲間になったのがサナで良かった、本当にそう思う。
周りにいる人間は見た感じ、肉食系の人間が多い。
冒険者は力やお金が全て、そんな感じの所がある。
多分、世界そのものが日本に比べて貧しく保証が無いから、生きるのに必死なんだろう。
例えば、この世界の女は、《美しくて美形だけど稼ぎが無い男》と《醜いけど稼げる男》なら庶民でいうなら、後者を選ぶ。
何故なら、稼げないというレベルは毎日生きるのに困るレベルだ。
それ程までに稼げないなら悲惨な事になる。
サナが日本人になるまでどれ程過酷か考えれば解るだろう。
皆が生きる為に必死…それがこの世界。
男だって同じだ《美形で生活に苦労する様な女》と《お金が稼げるゴリラみたいな女や貴族の豚の様な女》なら後者を選ぶ者の方が多い。
だからこそ、生きる為に、生活を良くするために肉食系の人間ばかりだ。
きっと今の僕なら、かなりモテルと思う…それは安定した収入があるからに他ならない。
きっと、サナみたいなパートナー探すのは難しい。
「どうしたの礼二?」
「いや、サナは可愛いなと思って」
「そう、礼二ありがとう!」
こういう関係って凄く楽しい。
魔剣無効
僕が食事をしているといきなりテーブルに銀貨1枚置かれた。
サナは、お小遣いを貰ったのが余程嬉しいのか買い物に出かけている。
「あの教えて欲しい事があるんだけど」
髪の毛が茶髪で、薄着の服を着た踊り子風の冒険者がそこには立っていた。
「何か聞きたい事があるのかな?」
冒険者にとって情報は貴重で有料、だからこそ《何か教わるならお金を出す》それが当たり前だ。
銀貨1枚…まぁまぁな額だ。
「あのさぁ、昨日、月光草を大量に昨日持ち込んでいたよね? 何か情報をくれないかな」
「う~ん、大した情報が上げられないから、この銀貨は要らないな、とってきたのは《オークの森》だよ」
「オークの森?だけどあそこはオークの集落があり討伐が難しい位のオークが居る筈だけど」
「うん、そうだね、だけど、僕とサナのスキルに、あるアイテムがあるとオークから嫌われる方法があるんだ」
彼女は残念そうな顔をすると席を立った。
「冒険者だから、スキルやアイテムの活用方法は教えられないよね」
「そうだね、ただ、固有のスキルでレアだから、多分出来る人間は居ないと思うな」
「何かヒントだけでも教えて貰ないかな…」
まぁ良い、このまましつこく来られるのも不味いな。
「それじゃ、その銀貨は貰うとして、最悪、その魔力の宿ったナイフを無くしてしまうかも知れない、それで良いなら教えるよ? どうする?」
「それは、この魔剣から作ったナイフを差し出せと言う事、ふざけないで、これは凄く高いのよ!」
「違うよ、そのナイフは僕が貰うんじゃなくて、多分僕がスキルを使うと壊れてしまう可能性があるからね…それだけ」
彼女は暫くナイフを見て考えていたが、最後に頷くと…
「良いわ、お願いする」
「解った」
「それじゃ、錬成場に行こうか?」
僕がそう言うと彼女はついてきた。
「あのさぁ、此処で一体何をするの?」
「大した事じゃ無いよ? そのナイフで僕を斬りつけて…ただそれだけだよ、ただ此処で起きた事は他言無用でおねがいする」
「貴方、ふざけているの? これは壊れた魔剣から作られたナイフなのよ? 小さいとはいえ魔力が宿っているの? その魔力は氷、これで斬られたら凍り付いてその部分は壊れるわ」
「多分、それは僕には通用しない」
多分、起きる可能性は3つ。
日本には魔剣なんて存在しない、その結果起きるのは
?通用しないですり抜けるだけ。
?魔力が失われ消えてしまう。
?ナイフその物が失われてしまう
そのどれかだ。
つまり2/3の確率で彼女は損害を被る事になる。
正直言えば良心の呵責はあるが、一度は誰かにやらなければならない…
そうしないと、多分情報を聞きたがる者はこれからも増え続けるから。
一応心の中で《ごめん》と謝る。
「どうなっても知らないからね、一応手加減はするけど」
そう言うと彼女は僕に斬りかかってきた。
僕にナイフが触れると…ナイフはそのまま霧の様に霧散して無くなった。
この辺りのルールが今一解らない。
オークのこん棒はすり抜けるだけだったのに…
仮説だけど、恐らくは《魔剣》その物が日本に存在しないからこうなったのか?
「嘘、嘘、私のナイフが、魔剣の力を持ったナイフがいやぁぁーーーっ」
「詳しくは説明できないけど、相手の攻撃を一定時間無効に出来るスキルがあるんだ、これで納得してくれた?」
「どうしてくれるの? あのナイフ、お金出しても手に入らない貴重品なのよ」
「ギルドに言うしか無いんじゃない?…最初に僕はナイフが壊れる事は説明したよね?」
「ううっ…確かにきいたけどさぁ、ギルドって知っていたの?」
「まぁね」
うん、解るよ、だって冒険者が情報を買うときは、礼儀として《名前》を名乗る。
それをしないと言う事は名前を教えたく無いか、関わりたくないという事だ。
そして、そこにギルドの受付嬢のお姉さんが居るんだから。
「見えているよ、お姉さん」
「あはははっ見つかっちゃったか…うんこれはギルドから、そちらのターニャさんに依頼したのは、うんギルドですよ」
普通に事情は解る。
討伐は全くしていない僕やサナが《いつも危ない場所》から貴重な薬草を採取してくれば不思議に思っても可笑しくない。
「まぁ確かに怪しいですよね、だけどこれで疑問は解消されましたか?」
「成程、発動条件は解らないけど、ある種の特殊防御スキル、それなら危ない場所からでも採取は可能ですね、攻撃スキルが無いから討伐は無理、納得です」
「余り知られたくないから、内緒でお願いしますね」
「解っているわ、本来はギルドはこういう事には関与しないのよ…ただ今回の件は余りに可笑しすぎるからギルマスから調査するように言われただけ…流石に討伐ゼロの冒険者が、ベテラン冒険者ですら恐怖する様な場所から採取してくれれば疑うのも当然でしょう?」
「確かに不思議に思っても仕方ないですね」
「でしょう…確かに凄いわ、それは、それで良かったらお姉さんと付き合わない?」
うん、名前を言わないから社交辞令だ。
「そういう冗談は本気にするから止めた方が良いですよ」
「….私はアイカです、うふふっ、それじゃね礼二くん」
名前を言うと言う事は…まさかね。
【ターニャとアイカ】
「あのアイカさん、この魔剣のナイフギルドで保証してくれますよね?」
「うふふっ、何を言っているんですか?ターニャさん、依頼の最中に剣を折ってもそんな保証ギルドはしません、今回も同じです!」
「ですが、銀貨の片手間仕事で、こんな事になるなんてあんまりだーーーっ、追加報酬下さい」
「うふっ、無理ですよ~ これしっかりと依頼ですからね」
「そんな~」
「まぁ、依頼は成功と言う事でハンコは押しておきますね…それじゃ」
「あんまりだよ、銀貨8枚のお小遣い程度の仕事で…魔剣のナイフを無くすなんて…ヒクッグス」
オークの一撃を喰らっても平気なターニャが泣いていた。
リア充登場! オークマン登場
久しぶりにギルドの酒場にきた。
「すみません、礼二スペシャルお願いします」
「礼二、相変わらず酒じゃないんだな…あいよ、サービスでジョッキで出してやるよ」
実は、初めて、これを注文した時は大変だった。
「すみません、フレッシュオレンジジュースお願いします」
「此処は酒場なんだぜ、兄ちゃん!それになんだ!その飲み物は、どんな田舎の飲み物なんだ」
「がはははっガキくせーな」
「そんな飲み物聞いた事も無いな」
男の冒険者に思う存分馬鹿にされた。
知らないと言う事はこの世界に《オレンジ》が無いのかも知れない。
やっぱり、ミルクとでもいうべきだったかな。
「おい、いいじゃねーか? お前等だって最初は田舎者だったんじゃないか、礼二、そんな飲み物、ここらへんじゃ無いんだ、どんな奴なの」
「えーとですね、果物を潰して、飲むような感じです」
「そうなの? 果物を擦りつぶして飲むんだ、珍しいね….その果物ってこの中にある?」
似ている様で同じ物は無かった…だから、オレンジとレモンを合わせた様な果物を指さした。
「だって、マスター、どうする? 作る作らないはマスターの自由だけど」
「大した手間じゃないから、作ってやるよ」
「よかったね、作ってくれるって」
「有難うございます」
ただ、飲んでみた感じはオレンジというよりグレープフルーツみたいな味だった。
この世界に、果物ジュースという概念は無く、体の調子の悪い時に飲む、薬代わりそんな感じの飲み物だった。
そして…
「これ、すっぱくて美味しくないわね」
「まぁ体に良いのは解るが飲みたいと思わないな」
余り人気は無い様だ。
そして、この飲み物が解りやすい様に《礼二スペシャル》と呼ぶようになった。
まぁ僕だけしか飲まないけど《礼二スペシャル》美味しいのに…
今日は顔見知りと会う約束がある…
奇妙な縁で、オーグ事、オークマンと会う約束をした。
【過去 オークマンとの出会い】
オークマンとの出会いは最悪だった。
「きゃぁ、何するのよ!」
バチンッ…
「痛えっ、何するんだ」
いきなりサラのお尻を触った、その男がオークマンだった。
「お前こそ、何しているんだ、僕の連れに」
「あっこの子、相手が居たんだな、悪かったな」
まるでオークの様な気持ち悪い男が謝ってきた。
だが、直ぐに、遠くから見ていた憲兵が駆けつけてきて、オークマンを取り押さえた。
「この世界ではこの位貴族で無ければ見逃されるし問題にならない、まして貴方はモテて、相手はブスだ、だがサナさんは日本人なので日本の扱いが適用される、日本ではどんなブスが相手で、触ったのがイケメンでも痴漢行為は赦されない」
何だか被害にあったサナが悲しそうな顔をしていた。
それと同時に僕から見たら…どう見てもオークに似てて不細工な相手が《モテている》その現実が信じられなかった。
話は続いた。
「それでは、サラさん訴えますか? 訴えるなら直ぐに拘束します」
「結構です…」
サラは俯いている。
僕は少し腹が立ったのと、このオークマンに興味を持った。
まぁ、サラが良いと言うなら、それで良いだろう。
まぁ、体を触わられる位はこの世界では余り問題視しないみたいだ….
確かに日本も昔は結構寛大で昭和の時代なら
「ちょっと何するのよ変態」とかですんでいた。
昔のアニメの鬼娘がビキニで出るヒロインの漫画の主人公は…こんな事は日常茶飯事にやっていたよね。
多分、サラもオークマンに触られたより憲兵に言われた《ブス》の方がショックが大きいだろう。
「まぁ、悪気が無いみたいだから僕も良いですよ」
そういって解散した。
ただ、こんな男がどうしてモテるのか気にはなった。
暫くしてオークマンと再び会った。
まぁ冒険者で同じギルドだから会うのは当たり前だな。
「よう、兄ちゃんこの間は悪かったな、嬢ちゃんには詫びて置いたぜ」
サナにも謝ってくれたのならわだかまりを持つ必要もないだろう。
「謝ってくれたのなら、もう良いよ、サナも気にしてないみたいだし、だけど何であんな事したんだ」
「がはははっ俺は女は皆、幸せになって貰いたいんだよ」
「何いっているか解らないよ」
「だって…可愛そうじゃないか」
オークマンの話しによると、目の前に凄く不細工な女が居た。
男に縁が無く可愛そうな容姿をしていたので、元気を分けてあげようと思い、お尻を触ってあげた。
そういう事らしい…
俺から見たら、サナは、凄い美少女で、あまぁ秋葉系美少女アイドルに見えるが、確か…
「はぁ~っ…何言ってるのかな? 銀髪赤目の私が綺麗な訳無いでしょう? 奴隷として売られても不人気で買う人が居ないわよ?」
「どうして?」
「そうか、礼二はこの国の人じゃ無いから、知らないんだね! 目が赤いと不吉とか言われて嫌われるんだよ…まぁ迷信とは解っているんだけど傍にいると運が逃げるとか言われてね」
そうか、この世界では違っていたんだよな…
成程《凄く不細工な女の子が可哀想だから、ちょっとイケメンの俺が触ってやった》そう思っていたのか?
いや、此奴がイケメンなら解るよ、イケメンなら、だけど僕から見たら、凄く不細工なんだよ此奴。
前の世界の学校に居たなら、絶対に不細工ナンバー1だよ…信じられない。
だが、憲兵が言っていた《貴方はモテて》と間違いなく。
それだけが信じられない。
「だけど、僕はかなり離れた国の出身だからかな、貴方がモテるって言うのが信じられないな」
「俺の容姿がこれだからか? それは違うぞ貴族ならいざ知らず、冒険者なら、男は金だ、金と実力だ~っ!」
本気で言いやがった、此奴最低だな。
「ごめん、それでも信じられないよ」
「ならば、俺がどれだけモテるか教えてやるぜ、そうだ今度一杯ご馳走してやるよ、いやぁ他人の女の尻触っちまったからな」
「そうか? ならばどんだけモテるか見せてくれるのか?ありがとうな」
まさか、この男が本当にモテるなんてこの時の僕には信じられなかった。
オークマンは凄い男
「よう! 礼二」
近くで見ると結構迫力があるな。
何せオークマンは身長が2mある大男だしかも顔はどう見ても30過ぎの親父に見える。
太っている事もあってついた字がオークマンだ。
まぁ当人が気に入っているらしいけど。
「こんにちは、ども」
「どうしたしけた面して、元気がねぇーな、俺は何時でも元気だぜ!がははははっ…夜の方もビンビンだぜ!」
どうしても、此奴がモテるとは思えないな。
「夜、夜ってお前の相手をする人間がいるのか…」
「がははははっ! 俺は沢山の妻がいるからな!相手なんて沢山居るに決まっているじゃないか?」
何? 沢山居るって1人じゃ無いって事か…
そうか…奴隷だな、奴隷であれば金があれば買える。
「そうだ!奴隷だな、奴隷であればお金で買える」
「飲もうぜ…礼二、確かに奴隷もいるが、それを別にしても、俺は凄くモテるんだぜ! そりゃねえぜ!」
「嘘だろう、そんなにカッコ良く見えないのに!」
「はぁ~ 何言っているんだ礼二…女にモテるのにカッコ良さ、なんか関係ないだろう?」
「それじゃ、いったい、何が必要なんだよ」
「力と金だ! 当たり前だろう? 面なんて二の次三の次だろうが…頭大丈夫か?」
此奴やっぱり、最低だな!
金や力で女を手に入れているのか?
まぁ見栄だよな、きっと金に物を言わせて奴隷を買っている…そうに違わない!
「ふん、口だけなら何とでも言えるさ! 本当にモテるって言うなら実際の彼女の一人も連れてきなよ!」
「まぁ良いや…やっぱりお前、頭が可笑しいぞ…それでお前が理解してくれるなら連れてきてやるよ!」
「オークマンの妻です!」
「オークマンの妻でーす!」
「オークマンお兄ちゃんは僕の夫ですよ」
凄く可愛い子ばかりじゃないか? これ全部、妻だ何て..
「おいっ! 奴隷をこんなに買ったのか?、それとも、まさか、魅了スキル持ちなんじゃ?」
「お前さっきから本当に失礼だな…もしかして何処かの貴族か王族なのか?常識が無さすぎるぞ! なぁ此奴、女にモテルには力と金だと言っても信じないんだ…言ってくれよ」
「あの、礼二さん、夫の言う事は間違ってないですよ! 冒険者なんですから…死なない事、生活費が稼げる事、この二つが無ければ恋愛の対象になりませんわ」
「そうだよ、前に付き合った奴は交際して3日間でオーガに殺されちゃった…私もやっぱり苦い経験をしたから強く無いと論外かな」
「僕も同じ、僕を守ってくれて少し位の贅沢をさせてくれる…それが出来ない相手は対象外だよ!」
マジか? うわぁー全然日本と違うじゃないかー…この世界、イケメンより、金や権力、力なんだな。
そう言えば、戦時中は日本だってそれに近いと聞いた事はあるな。
「そうか、男はやっぱり生活力が必要なんだ…納得したよ、何だかごめんオークマン」
「これで解かったろう? やっぱりお前かなり良い家の出じゃないのか? 確かに貴族階級なら、お前の言う事も解らなくないぜ」
「そうだな、確かに、住む場所が変われば価値観は変わる、本当に悪かった」
「いいさ、気にすんな」
確かに性格も悪くない…僕の完全な勘違いだ。
「あのさぁ…礼二さんは顔は驚く程、美形だけど、討伐はどの位できるの?」
「苦手だから逃げてばかりかな」
「それでモテないから、そう思ったんだ…確かに貴族や商人だったらモテるかも知れないから勘違いしたのも解るよ?」
「面目ない」
「確かに外見だけなら、僕の好みかな、まぁ、経済力が無い時点で、無理だけどね」
「確かにそうかも知れない」
よく考えたらオークマンは家庭の為に稼ぐ…父さん見たいな良い男じゃないか。
「なぁ…これで解かっただろう? 世の中、力と金だぜ」
「確かにそうだな」
【受付嬢乱入】
「あのちょっと良いかな?」
「あれっ、受付嬢の…」
「モームって、言います、そう言えば礼二さんに名前を言うのは初めてですね…オークマン様の奥様に言われてへこんでいる様なので一言宜しいでしょうか?」
「うふふっ、私からもいいかしら?」
「貴方はこの間の」
「はい、アイカです」
「へぇー、受付嬢さんにモテているじゃない…そうかギルドの受付嬢はお金があるから、そうだね外見優先なのかな?」
「お金があって潤えば話は違う訳ね、納得」
「確かに僕と考え方は違うかな」
「守秘義務があるから、詳しくは言わないけど、この間、1日で礼二さん、オークマンさんの一か月分以上の金額を稼いでいましたよ」
「うふふ、そうね、簡単な模擬戦ですけど、あのターニャさんに勝ちましたよね」
「嘘、礼二さん、そんなに美形で、そんなに稼いでいるの? もう少し前に出会いたかったな」
「完璧じゃないの…あのターニャさんに勝つなんて凄いわ、運命って怖いわ」
「僕も人妻になる前に出会いたかったよ…あははっうん…凄く残念」
こういう事を言いながら《別れるから》とは言わない、如何にオークマンが家族に尽くしているかが良く解る。
「何だか悪い」
「なんだ、なんだ、礼二はちゃんと稼げているんじゃないか? なら直ぐにモテる様になるぜ…それじゃ三人はもう帰って良いぞ、悪かったな、今日は俺は礼二と過ごすから」
「ええっ解っているわ、貴方」
「行ってらっしゃい」
「僕待っているから、夜中までには帰って来てね」
もう充分モテているのが解ったから良いや。
「それじゃ、私達もこの辺りで」
「うふふ、仕事に戻りますね」
受け付けの2人も仕事に戻っていった。
「それじゃ、礼二、かしを替えるぞ」
「もう充分、オークマンがモテるのが解ったから良いよ」
「いや、世間知らずなお前が凄く心配だ、もう一軒つき合え」
奴隷商に連れていかれた…やっぱり此奴最低だ。
「最悪、本当にモテなければ此処で買えば良いさ、エルフ以外なら直ぐに愛してくれるようになるさ」
奴隷だろう、お金で売られて契約で縛られるんだ…幾ら何でもこれは《愛》じゃなくて《服従》だ。
何か違うのか…
「何でだ?」
「金で此処に売られてくるような奴だぜ、苦労している奴ばかりだ、ちゃんと普通の生活を送らせてやればそれだけで、本当に愛して貰えるぞ…そうだよな親父」
「絶対ではありませんが…不幸な人生を送っていますから、普通にありかと、実際にオークマン様の6人の奥様は当店から提供しましたが皆、オークマン様と良好な関係です」
6人買ったって…何処のマンガ。
「あの、オークマン、お前妻が何人居るんだ!」
「あー気がついたら16人だ」
「すごいな…だけど僕は奴隷はまだ買えないな..」
「あのよー、サナって嬢ちゃんは奴隷だろう?」
「たしかにそうだけど」
「なぁさっき凄く稼いだんだろう」
「月光草を84本手に入れた」
「人族の奴隷なら選りすぐっても3人は買えるぜ」
「マジ?」
そんなに人間が安いのか、そんな価格で売られるなら確かに、その人生は悲惨だったんだろうな。
「そうですな、この辺りの奴隷なら3人どころか5人買えますぞ」
だけど、駄目だ…僕は日本人だから奴隷は買えない。
サナは特別、サナは特別…あんな契約を何人もするのは駄目だ…だけど此処にいる女は皆、不幸せなんだな…幸せにするなら良いのかな。
落ち着け、自分。
うん、ちょっと待て…あれっ
「あの奥は」
「あの奥に居るのは、今日仕入れた奴隷ですね、まだ汚い状態なので、今日洗ってから明日お出しします、ですが殆どが廃棄奴隷で真面なのは数人しか居ません、まぁ殆どが廃棄品碌なもんじゃありませんよ」
「明日は何時からやってますか?」
「大体10時位ですかね」
「明日なら見せて頂けますか?」
「気に入った奴隷がが居たのですか?あっ確かに凄いのが1人いますし、2人そこそこのが居ましたね なら9時30分位に来て下さい、オークマンさんの友人なら優先してお見せ致します」
「お願いします」
「お待ちしております」
「がはははっ礼二もようやく俺の言う事が解ったようだな、親父、此奴は俺の知り合いだ吹っ掛けるなよ」
「ええ、解っております」
しかし、歳下だとは思わなかった、嫁さん16人も居て親父みたいな喋り方する奴がまだ15歳なんてな…
「どうした礼二? 明日は此処に奴隷を見に来るんだろう?」
「まぁな、礼を言うよ…ありがとうな…」
「がはははっ俺の言った通りだろう?」
「ああっ、所でまた、何で食い入るように見ているんだ?」
「もう一人妻を増やそうと思ってな」
「また増やしたのか?」
「ああっ、これが俺の生きがいだ」
一夫多妻とはいえ凄いな…まぁ稼いで食わせているならいいのか?
「子供は?」
「ああ15人居るな」
本当に凄いやオークマンは…
奴隷購入
サナは買い物を楽しんだからか凄く上機嫌だった。
「礼二、ありがとう」
「どう致しまして…それでお願いがあるんだけど、話を聞いてくれる?」
「お願い?、私は奴隷だよ? 礼二の好きにして良いよ」
「ああっ、それでお願いなんだけど、奴隷を買おうと思う」
サナの顔色が変わった。
「礼二、私に飽きちゃったの? 私なんでもするよ? そうだ夜のお勤め全然してないよね? 興味が無いのかな…幾らでも頑張るから捨てないで…お願い…お願いだから」
「違うよ、サナの事は凄く好きだし、絶対に飽きたりしない…それに凄く大好きだし」
「えへへ、好きなんだ、それなら良いや…あっそうか、オークマンみたいに、何人か妻みたいな存在が欲しくなったのかな、まぁ一番愛してくれるなら良いよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
僕は、何故奴隷を買う気になったか話した。
「そうか、そういう事なんだね、それなら仕方ないよ」
「それで僕の事は内緒…日本人って言うのは暫く内緒にしたいんだ」
「まぁ解ったから大丈夫だけど、直ぐにバレるんじゃないのかな?」
「そうだね…そうしたら擦り合わせしよう」
「うん」
【奴隷商にて】
僕は約束通り9時30分に奴隷商に行った。
実は僕にはこの時間に聞こえるが、実際には違う。
解りやすい様に《こういう風に見えて聞こえる》
「礼二様、おはようございます、昨日の裏に居た奴隷で気に入ったのが居たのですね…まぁ解ります、あそこにはなかなか居ないエルフが居ましたからね? しかも銀髪に肌の色は透き通るような美人」
「ごめん、その子じゃない?」
「そうですか?、それじゃ昨日仕入れた奴隷、全員見せましょう、6人居ますよ」
貴族風の奴隷が6人居た…男4人に女二人、確かに気品があるが違う…
「あの、その人じゃ無くて、黒毛、黒目の人が居たんだけど」
「確かに…居ますが、あれは…まぁ興味あるなら特別にお見せしますが、裏で見て下さいね、お店には出せませんから」
そのまま奴隷商の主人の後についていった。
明かに商品の入っている檻と違う。
商品の奴隷が入っている檻は綺麗で檻というよりは展示室に近い。
刑務所より遙かに上等な気がする。
だが、此処は…本当の檻、昔話で聞いたハピーミル(子犬工場)みたいに見える。
動物園の様に糞尿臭いし…服も着せられていない。
「これは廃棄奴隷です…まぁ死ぬのを待つ奴隷です」
「これは売らないのか?」
「本来は売りません、世の中に表向き殺せない相手がいます、その為《奴隷落ち》という罰を下す事があります」
「どんな」
「まぁ、戦争に負けて火傷して顔に傷を負った女貴族とかですね…商品価値は無くても貴族に死刑はないですからね」
「他には」
「英雄みたいに戦った者ですか…負けたら敵からしたら一番憎い敵、だけど名前が通った敵は簡単に殺せませんから表向きは《奴隷落ち》です」
「だけど、この状態じゃ」
「苦しみながら死にます…本来は私どもも欲しくない存在なのですが、他の奴隷と一緒に押し付けられるんです、殺すのに自分の手を汚したくないからって感じなのかも知れません」
「あの、見せて頂いても良いですか?」
「こんな汚くて臭い者、見たいんですか? 良いですよ…もしかして知り合いか恩人ですか? 私は外にいますから、もし見つけたら声を掛けて下さい、お譲りします」
そう言うと奴隷商は店に戻っていった。
一つの檻に数人裸で入っている、男女は別けてあるが糞尿は垂れ流し。
あちこちにして、かたずけて無いから、ウンコを踏みながらしか歩けないし、寝るのは糞尿の上で寝るしかない…此処は本当の地獄だ。
探して、探して、探して…ようやく見つけた。
本当は居ないで欲しい、そう思っていた….
居なかった方が幸せだった。
元剣道部 主将 三浦陽子
クラスメイトの 湯浅真理
そして…二人とも両腕は肘から先は無い、足はあるが、アキレス腱でも切られているのか立っていない、しかも体もかなりの火傷に怪我をしている。
この分だと多分顔も…
この小屋には2人しか居ない。
僕が覗き込んでいるのが解ると二人がこちらを見た。
「た.す.け.て…買ってくれたら…何でもします..だから、だから…しょくじも、残飯1日1回でいい」
「何でもします…夜の相手でも、やれと…いうなら、お尻だって…だからたすけてください…ゴミのように扱ってもよい…ですよ」
あの凛々しく輝いていた《美しすぎる少女剣士》と言われた、三浦さんの姿は何処にも無い。
地味だけど可愛い小動物の様な湯浅さんの姿も無い。
駄目だ、現実逃避しちゃ駄目だ…助けなくちゃ。
僕は頭がパニックになるのを押さえて、店主の所に行った。
「二人、買います…お願いします」
「うわぁ、本当にこれ買うんですか? 廃棄中の廃棄、本当のゴミですよ」
「はい、彼女達は知らないと思いますが縁がある人です」
「そうですか…貴方はあのオークマン様より更にお優しいのですね…本来は奴隷には3か月生体保証をつけます、寿命の保証ですね、まぁ直ぐに死ぬ存在は流石に売れません名誉がありますから、ですが、彼女達にはその保証はつけられない…元々元貴族の奴隷と一緒に押し付けられた者です…無料で良いですよ…ただ、書類代金は頂きます」
あれっ、不味い僕は《奴隷》を持てないしこの世界のお金は持って無い。
「あの…」
「日本人の礼二様は奴隷を所有できないので二人とは《愛人契約》を結ばせて貰います、ただこれは公共良俗に反する契約なので、裁判等になっても参考にしかされません、法的効力は凄く薄い物と考えて下さい、そして働かせる為には雇用契約が必要ですが、どう考えてもこの方達には無理です。よって《愛人契約》2人分の契約代金8万8千円だけで結構です」
良かった、日本人モードになった。
これで助けることは出来る。
「それで、服も欲しいのですが」
「流石に廃棄奴隷でお金を貰うのは忍びないので、一般奴隷用の服を差し上げます…それで申し訳ないですが、こんな者を売ったと思われたくないので、裏からお願いします」
「馬車もお願いして良いですか?」
「それは大丈夫です」
多分、お店としてかなり融通してくれたんだろう。
《物》として扱われるのは嫌だが…奴隷商からしたら価値は無いよな…
「迷惑掛けました」
「残酷な言い方ですが、こちらは2人の処分代が減り、書類作成の利益が入りました、僅かですが利益が入りましたので、気にしないで下さい」
「ありがとうございます」
「いえ、ただ、もしちゃんとした奴隷が必要になったら、当店を思い出して下さい…それで充分です」
「はい」
僕は2人を抱え馬車に載せた。
「この距離ですと日本のタクシーを基準に考えて2020円になります…ただ、それは余り」
「悪いね…これでどうにかして欲しい」
僕は1万円札を渡した。
「本来は遠慮したいのですが、これだけチップを弾んでくれるなら、私が後で室内を清掃しておきます…ただこれは特別、内緒でお願いしますね」
「解った」
2人を馬車に載せて家に向った。
彼女達二人は譫言の様にブツブツ言っている。
良く聞くと
「いやいや….いや、たすけて」
「た.す.け.て」
多分意識が混乱している、その声を聴くたびに僕は悲しくなり、彼女達を抱きしめ涙が止まらなくなった。
良くないけど良かった。
家まで馬車で帰ってきた。
御者に更に1万円のチップを弾んで三浦さんを僕が運んで、御者に湯浅さんを運んで貰った。
お金を払うと現金な物で、部屋まで笑顔で運んでくれた。
「サナ、悪いベッド借りる」
サナは真っ青な顔をしている。
「すみません、そっちのベッドに寝かせて貰えますか」
「解りました、それじゃ私はこれで失礼致します」
危ないなこの状態じゃ。
「サナ、薬草を飲ませるのを手伝って」
「うん、解った」
この間、採取した月光草のうち売り物にならない物と薬草で売り物にならない物が運よくあった。
それを煎じて飲ませないといけない。
口に含んで飲ませていると、サナが横で同じ様に飲ましてくれた。
「うぐっうぐげほっ..」
なかなか飲んでくれない
「礼二、こっちは大丈夫…どうにか飲んだよ」
良かった。
まだ二人ともうなされている、時間が無かったから良く体を見て無かった。
元同級生の裸を見るのは良く無いのは解っているが、そんな事は言ってられない。
サナと二人で服を脱がして体を見た。
やはり目立つのは両腕が肘から先が両方無い事だ。
よく考えたら、斬られっぱなしなら、出血多量で死んでいるだろう、手当がしてあった。
足は両足とも踵に大きな痕があった、恐らくは逃げられない様にアキレス腱でも切ったんだろう、大きな傷だ。
そして体は…酷いな。
体中が痣だらけで、ナイフや剣で斬った後がある。
乳首も片方が2人とも無いし、焼きごてでも押し付けられたのか、明かな火傷がある。
しかも女の子なのに顔にも火傷があった。
一体何があったのか解らない、ただ不幸中の幸いなのが、これらの拷問のあとが一応は治療が終わっている事だ。
これなら、多分、助かる。
もし、ポーションが必要なレベルだったら、何か手を考えなくちゃいけなかった。
恐らく、日本人の僕やサナは、魔法薬は触れられない。
だから、購入しても持つ事が出来ない…もし必要ならだれか他の人間の力を借りなくてはいけない。
それじゃ、僕やサナが入った時、ドラッグストアになるお店の薬はどうだろうか?
サナが日本に括られてからオークの攻撃や魔法の攻撃が一切効かない。
それじゃ、日本人で無くなくなった二人は? 逆だと考えたら僕たちが手に入れる日本の薬が使えない可能性が高い。
多分、お店に入っても、そのままで日本仕様にならない可能性がある。
今は2人とも眠っている。
良かったと言っちゃいけないが、傷は治療済みだ…まるで拷問にあった後みたいだが、治療は終わっていた。
日本人で無くなった彼女達には日本の薬や治療は通じない可能性もある。
「た.す.けて、.ころさ..ないで」
「いや、いやいやああああああああああああっ」
相変わらず、うなされている。
「何があったのかな、戦争にでも巻き込まれたのかな」
「解らないよ」
「礼二…彼女達はもう…」
サナが言う事は解っている、此処まで大怪我していたら《仕事》は出来ないだろう。
ただの役立たずだ…だが、それでも僕は彼女達を見捨てる事が出来なかった。
「サナごめん…」
彼女達を養うと言う事はサナの取り分が減る事になる。
僕から見たら同級生だけど、サナにとってはただのお荷物だ。
「謝る事は無いよ、寧ろ私は安心したよ…私いつか礼二に捨てられる時がくるかなと思った事がある…だけど礼二の優しさが今回の事で良く解ったから」
「僕がサナを捨てるなんてあり得ないよ」
「うん、そうだね、安心したよ、だけど、私は心配だったんだ、だって礼二って凄く綺麗だし、お金だって稼げる…そして何より凄くモテるから」
「確かにモテるね」
この姿はくくり姫の姿だもん、当たり前だよ。
「あっそこは否定しないんだ」
「そうだね、だけど、サナだって僕からみたら凄い美少女だよ」
「それは嘘だよ…私は化け物みたいだもん」
「ハァ~、この際だから正直に言うね、僕が遠い国の出身なのは知っているよね」
「うん、日本という不思議な国なんだよね」
「そう、だから美的感覚が凄く違うんだ…サナがもし日本に居たら、そうだね歌姫や舞台女優が出来る位の美少女だよ」
「本当? 礼二から見てもそう思う?」
「うん、もし日本に居た時にサナみたいな女の子の告白なんてされたらもう一日中舞い上がっちゃうかな」
「そう、それなら良かったよ…あっそうだ、2人の着替えとか買ってくるよ」
「それは僕が行くよ」
「ううん、礼二は2人が心配でしょう?そのままついてあげて」
「解った」
サナはそのまま出て行った。
一体彼女達に何が起きたのか…まさか魔族と戦ったのか…起きるまで解らない。
だけど…平気なのかな他の同級生は。
【閑話】彼女達に何が起こったか?
「しかし、仕える相手はどんな人かな」
「まぁ考えても仕方ないよ」
「そうだね」
二人は担任の緑川と一緒に、第三の道を歩む事にした。
お城に残って魔王軍と戦うのでなく、礼二みたいに全く関係なく生活するのでなく、就職先の世話を頼んだ。
その際、2人は仲が良かったので同じ職場で働きたいという希望を出した。
更に、魔王軍と戦わないで済むような仕事という注文をつけた。
その結果、2人の仕事の斡旋先は地方領主のハルテン男爵家となった。
ハルテン男爵家は魔族領から離れた位置にあり、ハルテン男爵領に行くには王都を通らなければならない。
その為、魔族との戦いからは一番かけ離れた場所と言えた。
異世界人を国から斡旋して貰うのには莫大なお金が掛かる。
ましてハルテン家は男爵、普通ならそんなお金は無駄だから出さない。
出すからにはその理由がある。
ハルテン家は確かに魔族領から遠いが他の者と揉めていた。
それは、蛮族が作り上げた盗賊団だった。
盗賊団と言っても規模が桁違いに違う、蛮族と言う事から解る様に王国とは関係ない人間、野蛮な民族が集まり、そこに犯罪者が合流してできた物だ。
その数は数千、しかも地の利はむこうにある。
ハルテン家の領地は、略奪に合う事が多い。
対抗するために騎士団や自警団を出すも、追い返すのが精一杯だった。
そこで、王国に手紙を書き援軍を求めた所《異世界の戦士》のうち何人かが仕事を欲しがっていると聴き、莫大なお金を払い頼んだ。
そして、ハルテン男爵家に来る事が決まったのが
湯浅真理と三浦陽子だった。
《異世界の戦士》は一騎当千、これで盗賊団をどうにか出来ると思っていた。
特に、魔法使いの陽子と上級剣士の真理は元が親友と言う事もあり相性が良かった。
運が悪かった…
過信しすぎた….
確かに異世界の戦士は考えられない程強くなる。
しかし、強くなるには時間が掛かる。
だが、いきなり二人は騎士団に入り一緒に戦った。
三浦陽子は魔法使いのジョブだが元剣道部、実戦こそないが体を動かすのが得意だった。
そして、剣士でなく魔法使いだから直接戦わない…だから躊躇なく攻撃ができた。
逆に湯浅真理は、三浦陽子が呪文を唱える間守るのが仕事だが、他に沢山の騎士がいるから実質何もしていない。
運が悪く、最初に戦った敵が数だけ多い烏合の衆だった。
その為、2人の活躍が本当は大した事無いのに…大手柄の様に見えてしまった。
また、相手からしたら強敵が出現したようにとらえられた。
そして悲劇が起きた。
幻影盗賊団は異世界の戦士を含む騎士団を潰すために数の暴力を使った。
その数、約2000人、それに対してハルテンの騎士団や自警団は800人。
最初こそ、活躍はした物の…数の差に次第に押され、最後にはハルテン男爵は全面降伏する事になる。
その結果、何が起こったのか…
湯浅真理も三浦陽子も活躍しすぎていた。
盗賊団からしたら、自分の仲間を沢山殺した憎い相手…しかも運が良いのか悪いのか殺した中にはリーダーの弟が居た。
「よくも、弟を仲間を殺してくれたな、地獄を味わせてやる」
降伏したハルテン男爵家や騎士団の前で二人への凌辱が始まった。
沢山の男により、彼女達二人は裸に剥かれて投げ出された。
「何だ、異世界の戦士って言ってもただの女じゃないか? 結構良いつらしてんじゃないか?」
「止めろ、殺してやる…絶対に赦さない」
「…」
「裸の女に何が出来るんだ? そうだ、ハイテン男爵と騎士団を連れて来い」
「へい」
「ハルテン男爵に騎士団…俺たちの前でこの女達犯して見せろ」
「そんな事できるか…」
「死んでも出来ない」
「そうか、そうか、ならお前達の家族は犯した上に皆殺しだ、仕方ないな」
「貴方助けて」
「お願い、子供を助けて下さい」
「パパ、死にたく無いよ..」
何人かの家族が、見せしめの為に目の前で殺された。
「止めてくれ、解ったから、解ったから」
ハルテン男爵が一番最初に覆いかぶさった。
「いやいや止めて..何でよ、いやぁぁぁぁーーーーーっ」
それを皮切りに生き残った300人の騎士や自警団が彼女達に襲い掛かり犯した。
「いやいや、嫌ぁぁぁぁぁぁぁっ、私は貴方達に頼まれて守っただけなのにぃーーーーー」
「仕方ない、仕方ないんだ」
「家族の為だ済まない」
そうは口では言っているが実際は獣だった。
二人は美少女だった…
それを公然と犯せる理由が出来た。
だから次々と獣の様に覆いかぶさっていった。
「あはははっ此奴股から血が出ている、処女だったのか」
「痛い、痛いよ本当に痛いの止めて、止めて本当に痛いのよ、痛いよーーーーっ許してよ仲間…うぐぅ」
「よーし噛むんじゃねーぞ…噛んだら歯を叩き折るからな、家族の為だ仕方ないんだ」
「うぐうぐうん…ぷはぁ、苦しい、止めて、止めてうんぐうううんっうううんん…はぁはぁ汚い、いやぁぁぁぁぁーーーっ」
「口も使えないし下も使えない、なら俺は尻でも使わせて貰うか」
「うぐうぐうううんっぷぁ..痛い、痛いのあああああっ」
「口、はなすんじゃねーよ」
「嫌だ汚いもう嫌ぁぁうんぐうううんうん、うん…はぁはぁうううん」
「陽子ちゃぁぁぁぁん、嫌だよ助けていやぁぁぁぁっ」
「馬鹿だな、お前の仲間はあの状態なのに助けられるわけねーだろうが」
「嘘でしょう、何であんたが…」
「悪いな妹の為だ…」
「いやぁぁぁぁぁ、痛い、痛いよ…弘樹助けてぇぇぇぇぇっ」
「何だ此奴、あっちと違って処女じゃねーじゃん、地味な顔してやる事やっているんじゃないか?」
「やめてよーーーーっ汚いのは嫌、うんぐもぐうんぐううううん」
「何だ、そんな事言いながら此奴結構しゃぶるの旨いじゃん」
犯され続け殴られ続けた彼女達は直ぐに無抵抗になった。
「も.う.や.めて…いううとおおりしまうから、な.ぐらないで」
「せめて…やあしくしてください」
300人に代わる代わる犯された二人はもう抵抗する事も完全に諦めてしまった。
美少女だった顔は犯す時に言う事を聞かなかった為殴られ、倍位に腫れていた。
口は切れてその端からは精子が流れている。
そして股もお尻の穴もだらしなく開きっぱなしになって、コポコポと白い精子と赤い血が混ざって垂れ流されている。
体中が痣だらけで最早痣が無い場所は無い…
「所詮は女、こうなったらただの性処理便器だな…スゲー汚いな」
リーダーがそう言うと、盗賊団もハルテン男爵たちも厭らしい笑みで笑った。
ハルテン男爵の領の人間の目にもあれよりはまし…そういう馬鹿にした目が多い見られた。
「こんな便器みたいな女でも《異世界人》だこの先力をつけると面倒だ、そうならない様に両手を斬り落として足の腱をきっておけ」
「いややあああっ、いやあああああ、たしゅけて…もうさかるない。さからうないからーーーーっ」
「あはははっ何言っているのか解らないな」
「ぎゃぁぁぁぁぁっぁーーーーーーっ、手、わうたしのてーーーっおうして。かうして」
「うん? 返してやるから受取れ」
「あああああああう、あああああ」
腕がそもそも無いのだから受け取れるわけが無い、斬られた腕は胸にあたり地面におちた。
「うわたしのうでぇええええええええっうで」
座り込み必死に腕を抱え込もうとしていた。
「いやや、いやああああっ、なうでもするよ、ほんとうになんでもすうから、手いやぁぁぁぁ」
「友達が可哀想でしょう、お揃いじゃなくちゃね」
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁっいたうい、痛い、たふけて」
無惨にも真理の腕も宙に舞っていた。
「良い玩具が出来たな、腕にポーション振りかけておけよ、死なすんじゃないぞ、後、足のアキレス腱はちゃんと切って歩けなくするんだ」
「わかりやした」
「それが終わったら、そうだ自由に使えるように便所の横に鎖でつないで置け」
「だけど、こんな者使う奴いるんですか」
「まぁ目をつぶれば見えねーから、本当の性処理道具で良いんじゃないか? 女不足だからな、下っ端で寂しい奴は使うんじゃねーか」
「俺はごめんですぜ」
「俺も嫌だなきたーねもん….まぁ俺たちは真面な女を抱けばいいさぁ、これを見たら逆らわないだろうからな」
「あはははっ違いない」
こうして二人は、便所の横に繋がれた。
「ひぃ、逆らわない、逆らわないから殴らないで」
「そうか、ならしゃぶってくれ…急いでな」
「はい」
「いひひ、口が埋まっているなら俺は下半身使うよ」
「うぐううううんん、うううんううん、はぁはぁ….ううん…はぁはぁごくっ」
「それじゃ、おれはこっちを使おうかな」
「はぁはぁ解りましたうぐうううううんん」
「ほらよ、今日の飯だ」
「「有難うございます」」
まるで豚のエサの様な残飯が日に1度でる。
それも偶に悪戯で尿や精子が入っている事もある。
だが、それでも生きる為に彼女らはそれを食べて続けた。
女気が無いからからか手が無いこんな状態であっても使う者は多かった。
裸で繋がれ、暇さえあれば毎日犯されていた。
だが、沢山の人間に犯され続け体のラインは崩れ、衰弱のせいか動かなくなる頃、流石に飽きたようだ。
「此処まで気持ち悪くなったら抱けねーな」
だれかがそう言いだすと…今度は性処理道具じゃなく、暴力の捌け口のオモチャとして使われ始めた。
「いやぁぁ熱い、熱いやめて、やめて」
「何だ火であぶれば、少しは真面な反応するんだな」
「いやぁぁぁ痛い、痛いよーーーっ、ちゃんとしているの何でなぐるの、私悪い事してないよ」
「いや、最近リーダーに怒られて無茶苦茶腹が立つからサンドバックになってね」
「私のせいじゃない」
「関係ないな」
「うぐっげほうげええええええっ」
「汚いゲロしやがって、ちゃんとかたずけろよ」
「どうやうて」
「食べれば良いじゃん?」
「ううううぅまうりちゃん、だいじょうぶ」
「だいじょううじゃなうよ ようこちゃん…」
彼女達は苦痛から逃れるために女神に祈った。
「イシュタス…さ.またしゅけて」
「イシュタ..たすけて」
此処に来て、盗賊団は恐怖を感じた。
この二人は、女神の使いだった…
この世界は一神教…悪人でも女神を信仰している….
もう手遅れかもしれない、だがこの状況を女神が見たら..そう考え、死なない様に手持ちのポーションを振りかけた。
治る訳が無い、この世界に四肢欠損を治す方法はない。
傍に置かない方が良い…そう考えた盗賊団のリーダーはハルテン男爵たちを売る際に二人の処分を奴隷商に頼んだ。
ハルテン領の人々は盗賊になるかどうか話をし、盗賊になる者は生かされ、それ以外は殺された。
ただ、女子供を含み殆どの者が盗賊団に入った。
お風呂タイム 三浦陽子
ようやく落ち着いたのか、2人とも息が整って静かに眠っている。
僕が見つけて買った時は、糞尿まみれの檻の中に居た。
普通に考えて、あんな所にいるだけで地獄の筈だ。
あの場所の環境は刑務所所の話ではない、しかも奴隷商の話では《死ぬのを待つ》そういう状態だった筈だ。
何故、こんな事になったのか…考えて見たが解らない。
ただ、傷や状態を考えると、恐らくこれをやったのは《人間》だ。
湯浅さんも三浦さんも《人間》によって拷問に近い事をされた可能性が高い。
しかも、明かに白い粉の様な物や異臭に男性特有の物があった。
それは犯された事を意味する。
昔、教室でみた笑顔は何処にも無い。
あの恐怖に満ちた目に言葉…信じられない程の事をされたのは直ぐに解る。
どんな状況か解らない、だが、こんな事をした人間を僕は許せそうにない。
「ううん、はっ此処は…何処…嘘、嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」
先に目を覚ましたのは三浦さんだった。
「大丈夫かな?」
「嘘、逆らいません、何でも言う事聞きます、だから、だから、酷い事しないでーーーっ」
「酷い事しないから落ち着いて、お願いだから」
「ハァハァハァ…本当、本当に、酷い事しない? しない?」
「うん、だから落ち着いて…ねぇお願いだから」
「…..うっうん」
「僕の名前は礼二、君達と同じ《元、日本人》だよ」
「ううっ…確かに、うん日本人だ…ね」
「うん、絶対に酷い事はしないから、安心して」
「ううん、信じる…大丈夫、今迄以上の地獄にはならないもの」
今の所、湯浅さんの方はまだ起きて来ない。
「それで、ごめん…お風呂行こうか?」
「….解った、ちゃんとするから、酷い事しないで…お願いよ」
僕は、そのまま、いわゆるお姫様抱っこをして三浦さんを運んだ。
さっき、運んだ時は感じなかったけど、いざ冷静になって考えると、信じられない程、三浦さんは軽かった。
三浦さんは女子剣道部で、女の子にしては背が高かったし肉つきが良かった、デブという意味で無く筋肉がついていた、と言う意味で、まぁ凛々しい女の子だった。
「酷い事なんてしないよ」
「ちゃんと、言う事聞くからね? だから、だからお願いよ」
多分、誤解されている。
だが、今はまだ弁解しない…
裸の女の子とお風呂にはいるんだから、誤解されて仕方ない。
この後の行動で示せば良い。
「ねぇ、私は、何をすれば良いの…ちゃんとするからね」
「そうだね、力を抜いて」
「…解った」
三浦さんの体が震えている。
お湯はさっき沸かした。
まずはシャワーで体を洗ってあげた方が良いだろう。
お湯の温度を調整して、から、頭にからお湯を掛けた。
「きゃぁ…シャワー…」
「うん、髪の毛、洗ってあげるから、ちょっと待ってて」
「…うん」
凄く汚れている、一度じゃ綺麗にならない、完璧じゃないけど4回洗ってようやく綺麗になった。
「これで、少しは綺麗になったかな」
「…ありがとう」
「今度は体を洗わなくちゃね…ごめん体触るね」
「酷い事しないなら…いいよ…痛い事しないなら…自由につかって」
「今は弁解しない、後で纏めてするから」
「….やっぱり、酷い事するんだ、少し位の痛いのは我慢するよ…平気」
完璧な誤解なんだけどな…
「違う…まぁだけど良いや」
あかすりを使おうと思ったけど、体が痛々しい、下手すれば瘡蓋を剥がしてしまう可能性が高い。
女の子にこれは無いのは解るけど、仕方ない。
僕は直接、石鹸をつけて洗い始めた。
「あっあああっうん、くっくくぅーーーーっ」
ただ、洗っているだけなのに、何だか艶のある声を上げ始めた。
「あの、洗っているだけ、洗っているだけだから、ちょっと声を押さえて…お願い」
《男なんて汚らわしいし獣なのに…何でこうなるの…》
「わかったわ…うん、うぐっすんすん…あーっあああ」
体は5回洗ってようやく綺麗になったような気がする。
だけど、流石に…仕方ないと言えば仕方ないけど股の間の穴からお尻の穴まで洗うのは気が引けた。
しかも、本当に艶のある声をあげるから…立っちゃってるし、生理現象だから仕方ないよね。
「ハァハァハァ…ああああっあんあん、気持ち良い…💛」
こんな声聞きながら女の子の体洗うんだよ、本当に仕方ないと思う。
綺麗に石鹸を流してから再びお姫様抱っこをした。
「あっあああああん、あっ💛」
もしかしてこれも後遺症なのか、まるでエッチな事しているかの様な声をだすんだから…だけど三浦さんの境遇を考えたら仕方ないのかも知れない。
どういう風に入るか考えた末、対面よりはましと言う事で後ろから三浦さんに抱き着く感じではいった。
僕の股間が三浦さんにあたるのは勘弁してほしい。
「すん、すん、すん、グスッすん、すん」
「ちょっと、嫌かも知れないけど、泣かないでくれると助かる」
「別に嫌じゃないです…凄く親切で、綺麗にしてくれて…こんな風に大切に使ってくれるのが嬉しくて」
まだ、完全に誤解したままだ。
「ちょっと話聞いてくれる?」
「はい💛 口でしてあげてからの方が良いですか? もう使いたいなら…どうぞ、多分準備も大丈夫です💛」
目がとろーんとして口があいている。
「ちょっと待って、僕はそう言う事しないから、安心して」
「あの、本当にしてくれて良いんですよ」
「まだ、名前も知らないし(本当は知っているけど)」
「私の名前は三浦陽子って言います💛 礼二様」
多分、これは酷い事されて体が可笑しくなっているのかも知れない。
もしかして催淫の魔法とかかもしれない。
「そうだね、そうだ、まず友達から、友達からスタート」
「はい、礼二様…は本当にゴブリン以下の糞みたいな獣と違うんですね…神様みたいです…ですが本当に無理しないで下さい」
「あの…ね」
「それとも、沢山の男に抱かれて、手垢まみれになった私じゃ嫌かな?」
「そんな事ない…だけど僕は女性経験が少なくて、友達からでお願いします…ねっ」
「本当に奥ゆかしいんだね」
礼二は勘違いしていた。
少なくとも、三浦陽子はあそこ迄された事により、男はゴキブリ以下、ゴブリン以下とさえ思っている。
こうなるのは、あくまで礼二限定と言う事に礼二はまだ気がついていない。
お風呂タイム 湯浅真理
お風呂から艶のある陽子ちゃんの声が聞こえてくる。
ベッドの上で寝ているけど…そうね、そうだよね、手も無い歩けない私達なんか《そう言う目的》以外で買う訳無いよね。
何度、舌を噛んで死のうと思ったか解らない。
だけど弱くて勇気の無い私には出来なかった。
恐らく、陽子ちゃんは自分だけならさっさとそうして自殺したと思う。
私の事を考えて陽子ちゃんは死ななかった、いや死ねなかったんだと思う。
あの子、は優しいからね。
私は、周りをキョロキョロ見回した。
シャワーとお湯の音がして、そこからは艶やかな陽子ちゃんの声がしてきている。
こんな体じゃ、もうこう生き方しか出来ない、生涯性奴隷として生きていくしかない。
檻の中で助けを求めた…多分幻想でも見たのかな、私が前の世界で読んでいた、アダルト小説の神様みたいな男の子が見えた気がした。
あんなのは幻想だよ、助けを求めて私が見た夢だ。
現実の男なんて虫以下、気持ち悪い生き物、もう誰にも触られたくない。
男なんて、男なんて、ゴミ、クズ、真面な奴なんて居ない。
ただ、ただ、女が抱きたいだけのクズだ。
「すん、すんぐすっ、ぐすっ」
多分、あそこで陽子ちゃんとしている男だってきっと気持ち悪い奴に違いないよね。
気分次第で自分が満足したいだけに女を抱いて、何回もされて擦れて血が出て痛いのに構わないで腰を振るゴミ。
そして、気分次第で暴力を振るって笑っているクズしか居ない…知っているわ…もう解ったから。
だけど…多分私達を買ってくれたのは…かなりましなクズだと思う。
少なくとも、お風呂に入れて貰えるようだし…まぁその分激しいんだと思うけど。
同じ女だから解るわ、あの声は酷い事はされていない、えーと喘ぎ声….酷い事されていない?
横であんな声上げていた陽子ちゃんは聞いた事も見たことも無い。
何かな…まぁどっちにしても、体目当てに女を買う、クズには違いないよね。
だけど、多分このクズは凄くましな部類なのかも知れない。
ちゃんとベッドに寝かせてくれるし、毛布迄掛けてくれているようだし。
そういえばキスされたような、まぁこんな肉便器奴隷にキスなんてしないわ。
そうあくまで性処理便器…苦い…薬草なのかな。
と言う事はキスは夢でなく、薬を飲ませてくれたの?
良いクズなのかな…私の人生はもう性処理便器確定、これはどうしようもない…なら少しでも環境の良い場所にいたい。
少なくともこのクズは、今迄のクズの中で一番良い。
媚びないと…
「すん、すんぐすっぐすっ」
媚びないと、泣いてちゃ駄目だ。
「すん、すんうぇーーっぐすっ、げええええええっ」
駄目だ、媚びないといけないのに吐いちゃった…不味い、不味い殴られる、怖い怖い怖い。
お湯の音が止まった。
不味い、どうにかしないと…食べていれば、食べてれば許して貰えるかな…私は吐いた物を舐め始めた。
大丈夫、前にも何回もした、はやく、はやく綺麗にしないと。
「そんな事しなくて良いよ、具合が悪かったんだよね、大丈夫」
聞き違いかな…バスタオルを巻いた陽子ちゃんをお姫様抱っこしたランディウス様みたいな男の子がいた。
幻覚? 自分に手が合ったらきっと目を擦っている。
「三浦さん、ちょっと待って、手際悪くてごめん、固いけどちょっと床に置くね」
「気にしないで下さい💛礼二様」
あれれ…嫌嫌じゃない、なんで陽子ちゃんメスみたいな顔してんの?
クズだと思ったのに、凄く綺麗、神の子ランディウス様が本当に存在していたら多分こんな感じだ。
多分、中身はクズの筈…あはははっ中身がクズでも器が良ければ、ましに思えるのね。
綺麗なクズはシーツを交換するとその上に陽子ちゃんを寝かして毛布を掛けていた。
「少し休んだ方が良いよ」
「はい💛 礼二様、真理ちゃん、この人は全然違うから安心して良いよ」
安心なんて出来ない、確かに容姿は良いけど中身は同じだ。
ただ女が抱きたいだけでしょう。
えっ、お姫様抱っこ…なんだか凄く優しい。
騙されちゃ駄目…どうせ、どうせ。
「はい、口あけて、気持ち悪いでしょう?」
そういうとランディウス様に似たクズは私の口に指をいれシャワーで流してくれた。
しかも口の周りから胸にかけて綺麗にしてくれた。
「あの、そのね」
こんな事された事が無い、前は口に突っ込まれて苦しくて吐いたら、綺麗にしろと食べさせられて、何回も吐きながら食べさせられた。
「あっそうだ、自己紹介がまだだったね、僕の名前は礼二って言います、苗字は捨てました」
「私は湯浅真理って言います…」
《まぁ、知ってはいるんだけどね、今の僕は完全に別人からね》
ちゃんと名前で呼んでくれるんだ《肉便器》とか《便所》じゃなくて…
「それじゃ、頭からね」
優しいな、4回も頭を流してくれて、虫までついていたのに嫌な顔しないで…洗ったのどの位ぶりかな?凄く気持ち良い。
「今度は体ね、横になって」
「解りました…これで良いですか」
「うん、大丈夫」
石鹸つけて手で洗うんだ、たしかに、あかすりとかじゃ傷だらけだから痛いから仕方ないかな。
「あっあああっあはんっんっああっ」
駄目、なにこれ、クズたちと違う、絶対に違うよ~ 触られるだけで、なんで、なんでこんなになるのよ。
「ごめん、擽ったかったかな」
「ううん、そんな事ない、そんな事無いですよ、ハァハァハァ~」
《やっぱり、何か薬とか飲まされているのかな、様子がおかしい》
何なのかな、これ、全然違う、全然違う、今迄のとは全然違う…今迄は苦痛しかなかったのに..これはうっとりするほど気持ち良い。
「あの、少し声を押さえてくれるかな」
《三浦さんもそうだけど、不味いってこれ、正常な男だと体が反応しちゃうよ》
「うっうん、解ったうん、うんうふううん」
《流されない様に気をつけながら、体を洗った、かなり汚いし、股間のデリーケートな所からお尻の穴まで洗わなくちゃ綺麗に出来ない》
嘘、汚いとか汚物みたいな言い方されていた、私のそんな所まで触って洗ってくれるの..ほんとに汚いのに、あああっ駄目だ。
「あん、ああんあっあっふぅーハァハァ、ああああーーーーっ」
全然違うよ、これ、これが多分私がこの世界に来る前に好きだった小説の世界…はぁはぁ駄目だよ、頭の中が可笑しくなる。
体が嬉しくて、嬉しくて顔が赤くなっちゃうよ…しかも駄目だ目が合わせられない、こんな凄い美少年が、私の汚い所を指をつかって綺麗にしていくなんて…ばっちいのに..
「あの」
《さっきから、体がピクピクして洗いにくい》
「あっ…..ごめん、良かったら私も何かしてあげようか? 口が良いかな? 上手く動けないけどしたいなら、自由に使ってくだ…さい」
何を言っているのか解らない、私の体は何百人の相手をして何千回と犯されている。
だけど、私は一つだけしなかった事があるのよ…それは幾ら殴られても酷い目に遭っても自分からは誘ったり、自分からした事はないよ。
それだけが最後の意地だった。
だけど、駄目、こんなに優しく、宝物みたいな触られ方したら…それを差し出したくなっちゃう。
「無理しなくて大丈夫だよ」
「無理なんてしてないから、本当に…それに辛いでしょう」
「だけど…」
「そうか、沢山の男に抱かれた中古女なんて抱きたくないよね? 手も無いし気持ち悪いよね」
「そんな事無いよ、凄く可愛いと思う」
可愛い、そんな事言われるだけで、顔が凄く真っ赤になっちゃう。
「可愛い? それなら良いじゃない」
「今の真理さんは傷ついているんじゃないかな? そうだな、これから一緒に生活して傷が癒えた時に言って欲しいな」
なにこれ、全く別の生き物じゃないかな? 男は全てクズ、そう思っていたけど、礼二さんは別…うん神様とゴキブリ位差がある…
勿論、礼二さんが神…なんでこんな優しいのよ、こんなゴミみたいな女と一緒に生活してくれてるって言うの? 性処理に使わないなら只のお荷物抱え込んだだけなんだよ、本当に良いの?
駄目じゃんもう…全く。
「それじゃ湯船に入ろうか?」
「うん、礼二さんあたっているよ」
「ごめん」
「良いよ、私は何時でも準備OKだから、その気になったらいつでも声かけて」
「傷が癒えたらね」
あはははっ、私って凄く現金で強かったのかな。
まさか、あんな地獄の様な記憶が、もう幸せに変わっちゃうなんて…うん凄く幸せ。
女神が嫌いになった
どうしようか?
凄く悩んでいる、三浦さんに湯浅さんをこれからどうした良いのだろう?
どう考えても二人は詰んでいる。
走る所か歩く事も満足に出来ない、それに両腕が無い。
この世界の考えではどうだろうか?
あくまで何となくであるが、多分治らない気がする。
四肢欠損を治す方法は無い。
いや、実際はあるが、事実上不可能だ、
治す方法の一つは聖女が使うパーフェクトヒール。
これなら、死んでなければどんな物でも治せると言われている。
たしか、水上 静香が聖女だったはずだ。
僕は姿が変わってしまったが、三浦さんも湯浅さんは同級生だ、心優しい彼女なら多分使ってくれるだろう。
だが、問題なのはこのパーフェクトヒールは聖女なら確実に覚える訳では無い。
才能ある聖女が運が良ければ魔王討伐ギリギリで覚える。
才能ある聖女、此処がミソで覚える確率が1/5しかも魔王と戦うギリギリに覚える。
1/5の確立プラスに勇者パーティーが魔王に勝利して凱旋する。
そこ迄の事が無いと無理だと言う事だ。
勇者パーティーが魔王を倒す為の旅は過去の話では早くて3年、遅くて10年掛ったらしい。
しかも当然負けた事もある。
最低3年~10年待つ、気の長い話の上負けたら終わりだ。
そして、奇跡の秘薬エルクサイヤー。
これは全ての病、怪我を治すらしいが、この世界に9本しか存在していなくその値段は王城と同じ位だ。
到底手が出ない、王族でも購入が難しい物を手に入れるなんて無理だろう。
それじゃ、もし、何かの偶然で二人が《日本人》になったら。
駄目だ、日本の技術では腕が斬り落とされてすぐなら接合してリハビリと言う事も可能かも知れない。
だが、無くなった腕を再生する方法はまだ確立されて無かった。
それで今度は足だ。
腕が無いから彼女達は車椅子を押す事が出来ない。
まぁ、僕やサナが押す分には楽だが。
アキレス腱の修復だが、これは恐らく手術で治るのでは無いか?
そう思っていたが…ちがう、周りの肉事えぐり取られている。
簡単に言うとサメが噛みついて肉事食べられたような感じだ。
だが、足を切断しても実際には義足で歩ける。
そう考えたら、案外リハビリ+何かの道具で歩けるようになるのかも知れない。
ネットがあれば調べられるが、流石に無いから、駄目だ…調べようが無い。
もし、彼女達が《日本人》になれたら診療所に行って相談してみよう。
それで、今は、三浦さんや湯浅さんはサナが買ってきてくれた頭から被るワンピースに着替えている。
お風呂に入って綺麗になった二人は腕が無いだけで凄く綺麗で可愛い。
「それでこれから礼二どうするの?」
「どうするのって言っても、2人はこの状態だから、此処に住んで貰って、まぁ色々アドバイスでも貰えればって感じかな」
「確かに、そうだね、足が悪くて手も無いんじゃしょうがないよね」
「本当にご迷惑かけてすみません」
「あの…買って貰って助けて貰いましたが、これで良いんでしょうか?」
三浦さんも湯浅さんも、すっかり猫被っているな…クラスメイトの時はもう少し違ったんだけどなぁ。
「ああっ気にしないで、この世界には日本人って余り居ないでしょう? だから傍に居て話してくれるだけで嬉しいから気にしないで」
「礼二さんもよく考えたら日本人なんですね、あの日本人の召喚って結構あるんですか?」
「私もそれ聴きたいですね」
やばいな、早速だ…本当は勇者召喚位だから数十年に一度位しか無い。
だから嘘をつくしかない。
「僕は召喚じゃなくて迷い人なんだよ」
「「迷い人」」
「そう、迷い人、召喚されたんじゃなく迷い込んだ…そんな感じ」
「あの、それって何か違いがあるんですか?」
「召喚とはどう違うんですか?」
どう説明しようか…サナは無責任に椅子に座ってウトウトしているし
「あのさぁ、召喚って女神様からジョブやスキルを貰って魔王を倒せって感じでしょう?」
「「確かに」」
「迷い人はただこの世界に迷い込んだだけ、だからジョブやスキルは貰ってない」
「そんな、それじゃ大変じゃないの」
「あの…凄く危険なんじゃない」
「たしかにそう、だけどそれなりに便利な面もあるんだよ…まぁ余り言えないけど迷い人さながらの特典がね」
「何かあるんですね」
「もしかして凄い力があったりしますか」
「全然、ショボいよ…簡単に言うと偶に日本の物が特典の様に手に入る、この辺りはちょっと秘密だけどね」
「あっだから、お風呂に日本製の石鹸とシャンプーがあったんだ」
「あの生理用品があったのも、そのおかげなのかな」
「そう言う事だね…それで、君達に何があったの? 勇者召喚でこっちに来たなら待遇は良い筈だよね」
「うん、余り話たくないけど、話さないと不義理だよね」
「やっぱり話さないと駄目だよね」
二人は重い口を開いた。
まさか、そんな事があったなんて…ふざけるなよ、人間の争いに巻き込まれて、そんな事になるなんて。
女神イシュタル、異世界人は魔王を倒す為に呼び出されたのだろう…
この世界に来なければ二人はそのまま大学に進学して
体育大学で三浦さんは剣道を続けていただろう。
湯浅さんは文学部に進学して趣味の小説を書いていた筈だ。
その運命を狂わせやがって…
しかもあの女神は馬鹿なのか?
望むようなスキルをくれると言いながら三浦さんに《魔法使い》
湯浅さんに《上級剣士》
絶対にそんなジョブなんて望む筈が無い。
剣道に青春の全てを掛けてきた三浦さんは絶対に剣のジョブが欲しかった筈だ。
逆に湯浅さんは近接戦闘なんてしたく無いから遠距離系の《魔法使い》を望んだ筈だ。
これで解かった、あの女神イシュタルは凄くいい加減なんだ。
そして、多分思った程の力は無い。
風の噂で既に同級生から死人が出ているという話を聞いた。
なんて無責任なんだ…自分達の世界で勝てない魔王と戦わせるなら、もっと底上げしろよ。
少なくとも最初から、人類相手に負けるような能力にするな。
日本は平和で安全な国なんだ。
その国から連れ出して危ない事させるなら、あんなジョブやスキルじゃ足りない。
最初から無双出来る様にしろよ。
全ての人間が敬う様にしろ、王ですら教皇すら逆らえない権力を与えるべきだ。
だってそうだろう?
この世界の人間が出来ないから、呼んだんだろう。
ならば、全てを寄こすべきだ。
もし教皇が全ての王が口を揃えて《異世界人は神に等しい》とか《女神に一番近い》そう教えていたら、この世界は一神教こんな事は起きなかった。
魔族に負けるのは仕方ない…だがこの世界の人間が傷つけるのは可笑しい。
そんな事が起きないように女神なら手を打つべきだ。
僕は…女神イシュタルが嫌いになった。
復讐の行方 ハルテン篇
考えれば、考える程腹が立つ。
だが、僕は勇者で無ければ、剣聖でも無い。
乗り込んでいって殺す事なんて出来ない…僕はただの無力な日本人だから。
だからって泣き寝入りはしない、きっちりと復讐はしてやる。
「どうしたの?礼二、顔が怖いよ」
「大丈夫ですか? 顔がまっさおですよ」
「何だか元気ないですが平気ですか?」
「大丈夫だよ」
勤めて笑顔で振舞ったが、心は腸が煮えくり返っている。
「ちょっと出かけてくる」
そう言うと、僕はその足でまず奴隷商に向った。
「あぁ、礼二様いらっしゃいませ、今日はどういったご用件でしょうか?」
「実は、昨日の貴族の奴隷の兼でお願いがあってきました、あの奴隷の身元とかは解りますか?」
「トラブルがあるといけませんから保証はしませんがハルテンという貴族とその家族ですね」
やはりそうだ、同時期に持ち込まれた貴族…やはりそうだったか。
「差額は出しますから、彼等を最低の環境で買い戻し出来ないような地獄に追いやる事はできませんか」
「成程、貴方が買った奴隷が知り合いで、あの奴隷に酷い事をしたのがあの奴隷達…大方そんな所でしょうか?」
やっぱり勘付かれたか…
「その通りです」
「だったら、貴方は何もしないで良いと思いますよ、あの奴隷のうち女二人は《性処理可能NGなし》男の奴隷も《一切のNG》無し扱いですから」
「それはどういう意味でしょうか?」
「貴族の奴隷で性処理奴隷、娼館がかったら、その名前を晒しながら一生娼婦です。また金持ちの方は貴族に対しての不満が多いので、毎日不満のはけ口に使われる事が多いです、まぁ暴力を振るわれたり、辱められたり酷い人生を送るに違いません」
「この世界…確かにありそうですね」
「だから、奴隷に落ちた貴族の事等忘れてしまいなさい…地獄の様な毎日を送るだけの人生しかありません、少なくとも奴隷に落ちた貴族が這いあがったそんな話は私は聞いた事ありません」
「そうですね」
なんだか、もやもやするが言われてみればそうだな…
すると復讐相手と言う事あれば、盗賊だけだ。
「あの、それでこの奴隷を売った相手は、よく此処に来られるのですか?」
「それを聞いてどうするんですか?」
「いえ、黒目、黒髪は同郷の友人が多いので他にも居ないか、聞いて見たかったからです」
「そういう事なら、後で聞いておきましょう、お金の受け取りにもう暫くしたら来る筈ですから」
「どの様な方でしょうか?」
「守秘義務があるから、本来言えませんが、有名人だから良いでしょう、悪名高い盗賊王ダモン、別名魔剣のダモンです。まぁ一般人は関わらない方が良いでしょう」
話を聞けば、ダモンはお金の受け取りには基本的に自分が来るそうだ。
一目顔を見てやる…今は出来なくても…いつかこの報いを受けさせてやる。
礼二の戦い方
盗賊王ダモン、魔剣のダモン、どんな奴なのだろうか?
名前からして凄く強そうだ。
何のジョブやスキルも無い、僕には戦う事ができないだろうな…
多分、見たら一発で解るだろう。
そう思いながら、見張っていた。
頭は坊主で筋肉隆々な男、体には無数の刺青が入っている。
多分、此奴だ、どう見てもザ悪人。
そして、日本に居たなら絶対に関わらない相手、俗にいう半グレに見える。
こんな奴と戦いたくはない。
日本に居たなら…目を背けて逃げる。
だが…駄目だ、三浦さんと湯浅さんのあの状態が頭に浮かぶ。
此奴、相手に戦うなら、剣聖のジョブが最低欲しくなる。
目の前に 勇者 藤堂祥吾が居たとしても勝てないと思う。
まぁ、それは力を得る前の話で今なら確実に勝てるだろうけどね。
何が言いたいかと言えば、…正義感が強く、喧嘩も強い 藤堂が勝てないその位の実力者。
そして、僕は《日本人》 ジョブも、スキルも無い。
相手なんて出来る訳が…無い、逃げるが勝ちだ。
だけど、気がついてしまった。
気がつくと僕は体動いていた。
そのまま、僕はダモンにぶつかった。
「痛てーな、クソガキ」
「げっ、此奴ダモンじゃないか?」
「ほう、俺の事知っているのか? クソガキ」
間違いない、此奴がーーっ 三浦さんを湯浅さんにあんな酷い事を許せない。
「知っているよ、凄くゴミみたいな盗賊団のリーダーだっけ? 糞野郎のダモンですよね? よくこんな王都歩けますね」
「ほぉ~、ただな俺は手配されてねぇーからな、証人が居ないのよ? 仲間になるかか、死んじまっているからな」
「此処にいますよ? 俺が衛兵所に駆け込みますかね」
「そっちにも顔がきくから、問題はねぇーが、気に食わないな? 俺を脅そうと言うのか? それがむかつく、潰してやんよ」
「どうするつもりだ?」
「簡単だ、決闘を申し込む」
「受けない」
「この腰抜がーーーっ、だが無駄だぜ、決闘は宣言した、これで俺はお前を殺しても許される、冒険者なのだろう、冒険者の命は自己責任、商人じゃ無いから無駄だ」
掛かった…周りの人間もこちらを見ていて《決闘》が今から始まるから、周りの人間が集まってきていた。
「僕は決闘を受けない」
「うるせーな、お前は冒険者だろう..ぶはははっ回避できないぜ」
これで良い、これで。
ダモンは魔剣を抜いて斬りかかってきた。
僕はひたすら逃げる、情けなくてよい躱す。
「たーすけて..」
棒読みで充分、ひたすら情けなく逃げる。
「あはははっ、情けない奴め、クソガキが、おらおらおら」
これで良いんだ、これで…相手はこれでも遊んでいる。
だから、躱せる、それに相手が持っているのは魔剣、もし僕にあたってもダメージを喰らうのは魔剣だ。
惨めで良い、情けなくてよい。
これで良い…
転がりながら、地べたを這いつくばりながら逃げて、逃げて逃げまくる。
「助けてくれーーーっ 死にたくない」
「ははははっおら泣けやーーーっ、殺してやる」
そうこうしているうちに、憲兵や騎士団が駆けつけてきた。
「貴様ら何をしている」
「うるせー、これは立派な決闘だーーーっ」
勝った…僕の勝ちだ。
「確かにこの世界ではそうだ、だが、礼二さんは日本人だから日本のルールが適用される…」
きたきたきたーーーっもう終わりだ。
「何だそれは、俺は知らない」
「知らんじゃ済まされない、まず、日本では決闘法により決闘は違法行為だ、それに、その刃渡りの物を振り回せば銃刀法違反になる」
「何だ、それ」
「しかも、殺すと言ってそんな長い刃物を振りまわせば、殺人未遂の可能性もある」
「そんな決まり、俺は知らない、何なんだそれは」
「まぁ、かなり重い罪になるだろう、礼二さんもすみませんがちょっと話を聞かせて下さい」
「はいっ、私の友人の民事での争いの相談、そして《その男はかなり危ない事をしているので周りの人間もしっかり取り調べ、裁きお願い致します》」
「解りました」
これが僕の戦い方だ…日本で同じ事をやれば、間違いなく逮捕される。
僕の勝利だ。
分捕る
【憲兵の詰め所にて】
「これで取り調べは終わりです」
「それでダモンはどうなりますか?」
「そうですね、現状でも、殺人未遂に銃刀法違反に決闘罪、かなり重い物になるのは確実ですね」
これで少なくとも何年も拘束はされるだろう、日本でいう留置所みたいな所にな。
「それは良かったです、それで民事でも訴えますので、そちらの方もお願い致します、代理で届を出したいのですが良いですか?」
「はいっ事件の話は聞きますが、そちらは弁護士あれ、冒険者ギルドで雇いまして、そこから訴えた方が良いでしょう…最悪裁判所、あれ王城で裁判をする形になると思います」
「はい、そうさせて頂きます」
その日はそれで終わった。
「ただいま~」
「お帰り、随分汚れているね、どうしたの?」
「まぁ色々、あってね、シャワー浴びてから話すよ」
「お帰りなさい」
「お帰りなさい」
まだ、2人は元気ないな、まぁあんな事があったんだ、元に戻るまで時間は掛かるだろうな。
火の魔石に水の魔石に入った箱のスイッチを入れてお湯を出しながら浴びる。
少し、長い話になるが、しっかり二人にも話した方が良いだろう。
さっぱりした所で部屋に戻った。
「「「………」」」
《うわぁ~シャワー浴びた後は破壊力凄すぎだわ…見慣れていても駄目》
《凄く美形だとは思っていたけど、シャワー浴びた後は凄すぎるわよ…水も滴る良い男ってこういうのを言うんだね》
《たまりません、これは本当にたまりませんね》
「どうした..あっゴメン、直ぐに服着るからね」
「だだ大丈夫だから」
「そうそう、居候させて頂いている身だから気にしなくて良いよ…私剣道部だから余り気にしないし」
「うん、風呂上りだから暑いでしょう、気にしないで良いからね」
「そう、それなら薄着で悪いね」
暫く涼んだ後に今日の事出来ごとについて話した。
「そうだね、そんな条件で奴隷になったんじゃ人生も終わりだよ、うん」
「だけど、礼二さん、そんな無茶を私の為にしてくれたんですか?、お体は大丈夫なの」
「ありがとう、本当にありがとうございます」
「うん、逃げ回っていただけだからね、まぁ二人にした事を考えたら甘すぎるけどこれで勘弁して」
「何いっているんですか? こうして居候させて頂いているだけでも充分迷惑かけているのに、そんな仕返しまでしてくれるなんて」
「そうですよ、誰も助けてもくれなかったのに、助けて頂いたうえで、こんな事までして頂けるなんて、何て言って良いのか、本当にありがとうございます」
正直言えば、物足りない。
日本は凄く罪にたいして寛大な国だ。
それは罰よりも更生させると言う目的が大きいからだ。
だが、これが日本の法律だと思えば仕方ない。
少なくとも牢屋の中で何十年もこれから彼奴が過ごすと考えたら少しは溜飲も下がる。
多分、三浦さんや湯浅さんがいい歳になるまでもう彼奴に会う事はない、僕ももう会う事はない、この時僕はそう考えていた。
自分が何を言ったのか忘れて。
「それじゃご飯にしようか?」
勿論、2人は家事は出来ない。
サナも出来ないから、僕がしないときはお弁当になる。
今日のお弁当はロコモコ丼。
三浦さんも湯浅は手が使えないから、僕たちが食べさせてあげないといけない。
「それじゃ、はい、あーん」
「あーん、すいません、お手数をかけまして」
「困った時はお互い様だから」
「ですが…」
「気にしないで良いんだ、日本の話ができる数少ない仲間だからね」
「あまり羨ましそうに見ないで、ほら湯浅さん、あーん」
「そんな羨ましそうになんて見て無いですよ…あーん」
「そう?だけど、交代交代だから、夕飯は湯浅さんが礼二にあーんして貰えるんだからいいじゃない」
「あーん、…そうですけど」
「私んなんて、いくら待っても順番が回ってこないんだからね」
「あははっ 何だかすみません」
サナと二人は上手くやっているようだ。
可愛い女の子が三人もいる生活…これだけで凄く幸せに思える。
うん…
そんな事を考えていると、ドアのノックの音が聞こえてきた。
親しい人間は凄く少ない。
その中でも家までくる人間はまずいない。
何だろう?
そう考えて出てみると、そこにはギルドの職員が立っていた。
何かの依頼なのかな?
「はーい今あけます」
「礼二様、実はダモン様から和解交渉の調停の依頼があり来たのですが、如何なさいますか?」
成程、この世界は弁護士が居ない、もしかしたら《弁護士》の代わりが《ギルド》になるのかも知れない。
部屋の中の様子を見ると三浦さんも湯浅さんも少し震えていた。
「勿論、そのつもりですが、2人の黒髪、黒目の女性の示談も代理人として話す形で宜しいですか?」
「はい、その様に伝えておきます」
用件だけ話すとギルド職員は帰っていった。
話を聞いていた二人が震えていたが、おそるおそる聞いて来た。
「今の話しってなんでしょうか?」
「私も会わないといけないのですか?」
「裁判になれば、会わないといけないけど、今回は和解交渉だから、代理人でも大丈夫みたい、罪を認めさせて思いっきりボッタくるからね」
「大丈夫なのでしょうか? その逆恨みでまた襲われたり」
「復讐されたりとかは平気ですか」
「良く解らないけど、現状相当長く入る事は決まってそうだから大丈夫だと思うよ、それにもしそうなりそうなら、他の国に引っ越せば良いよ」
「そうですね、それじゃお任せします」
「私もお任せします」
そうか、確かに裁判前の弁護士立ち合いの和解交渉…日本ならありそうだな。
【和解交渉前】
僕はギルドに行って担当ギルド職員を雇った。
「シバータと申します、この世界には弁護士が居ないですから、職員が兼ねます、私はトラブルに強いので任せて下さい」
シバータさんと一緒に家に帰り、三浦さんと湯浅さんと話して貰う。
彼女達は悲しそうにシバータさんと話した。
全て聞いたシバータさんは「お辛いのに全部話して下さって、そんな女の敵懲らしめる為に莫大な慰謝料を請求してやりましょう」
「「お願い致します」」
力強いシバータさんに元気に二人は答えていた。
そして、シバータさんは代理委任状を出し、正式に代理人になった。
それから、何回も僕はシバータさんと話し合い、いよいよ和解交渉(示談交渉)の日を迎えた。
【和解交渉当日】
現れたダモンはかなり窶れていた。
何が何だか解らない…そんな感じだったに違いない。
最初に言ったのが…
「礼二さん、特権階級だったんですね、しかもあの女性二人もお知り合いだったなんて、心から反省しています、ごめんなさい」
正直、気持ち悪い小声でシバータさんに話すと《多分、心象を良くするために、相手側職員に言われたのでしょう》
「謝罪は結構です、こちら側からの請求は1人当たり10億円、二人で20億円、そして私には1千万の賠償金の支払い、一括請求でそれが取り下げる条件です」
これは記憶から考えた最大金額だった。
確か、前に事故で両腕が無くなった女性の慰謝料が意外に安く3千万だった。
あと、暴行にあい医者が体が動かなくなった時の慰謝料が3億円越えだった気がする。
日本は恐ろしく賠償金が低い国そんな気がする…ただ実際は認められなくても金額は幾ら吹っ掛けても自由だ。
僕の考えでは二人は《異世界人》女神が凄いジョブを与えた人物…そう考えたらこの世界の重要人物だと思う。
上場会社社長やアスリートやアイドルより上と考えた、これがアメリカとかなら50億とか言える。
だけど、日本はそんな金額まず取れない…だけど凄く悪質だと思ったから、彼女達の無念さを考えて10億にした。
まぁ値切られて3億円以下になるかも知れないが。
そして、僕の方は恐らく怪我もしてないし、本来は30万もいかないだろうが、こちらも吹っ掛けて1千万にした」
「解った、その金額を俺は払う、だからこのえーと裁判」
「ちょっとダモンさん、少しは」
「馬鹿野郎が、お前や此処の奴が言っていたじゃないか、裁判だっけやったら俺は死刑になる可能性があるんだろうが、黙っていろ」
「ですが」
シバータさんが割って入った。
「加害者のダモンさんがこちらの条件を飲むっていったんですから、それで合意します」
「あのダモンさん落ち着いて」
「これで、俺は助かるんだな」
「…さぁ、それは解りませんが心象は良くなります」
「金なら又稼げばよいんだ、俺に命より大切な物は無い」
簡単に調印が終わった。
「本当に馬鹿な奴で良かったですね、殆ど言い値で通りました楽な案件でしたね」
「本当にそうですね」
「それじゃ、これで私は」
「有難うございました」
シバータさんと握手をしてその場を離れた。
ダモン、これで終わりじゃ無いんだぜ? これは僕達が民事裁判をしない和解だ。
お前には刑事裁判がまだ待っている。
僕は足取り軽く家に帰っていった。
(法律については作者は素人です、あくまで創作の話と割り切って下さい)
お金と皆殺し
家に戻ってから戦勝報告をした。
「どうだった、上手くいったの?」
サナが心配そうに話してきた。
「まぁまぁ上手く言った方だと思う」
「あの…礼二さん大丈夫でしたか?」
「大変な事になりませんでした? お任せして本当にすみません」
2人とも体が震えていた。
「うん、結構うまく言った方だと思うよ…だけど、こんな金額じゃ地獄を味わって腕まで無くして歩けない二人には全然足りないと思う、ごめんね」
「金額なんてどうでもいいよ、礼二さんが私を助けてくれて、彼奴に立ち向かって分捕ってくれたんだから、それで充分!」
「そうだよ、彼奴が捕まっただけで、本当にせいせいしたんだよ、だけど礼二さん危ない事しないで、礼二さんが死んだら私は生きていけません」
2人とも目を潤ませながら僕を見ていた。
「それで幾ら貰ったの?」
サナの一言で感動話は飛んでいった。うん。
「三浦さんと湯浅さんはそれぞれ10億円、あっ額面は10億だけどシバータさんに1割払うから9億円、だけど税金がそこからとられるから、半分位で考えた方が良いと思うよ? だから手取り4億円位って考えたら良いんじゃないかな」
「あの、あの10億円ってあの10億円」
「えーと、それは日本のお金換算で良いっていう事ですか」
「そうだよ、これで何時でも、やりたい事出来るし、生活に困らないよね」
「あの、それはもしかして、私にお金ができたんだから生活に困らないから出ていけって事なのでしょうか?」
「そんなぁ…そう言う事なの…」
「違う、違う、僕は二人と一緒に居られて凄く嬉しいし、そんな事無いから、ただ自由に生活する選択がある、それだけだよ」
「あれっ、真理ちゃん、よく考えたら私達って奴隷だったよね?」
「そうだよ陽子ちゃん、私達って奴隷だよ、いやぁ忘れてたね~」
「二人ともそんな風に思って無いから…何言い出すの?」
僕はそんな風に思ってない。
「奴隷の物は全部ご主人様の物ですよ💛」
「そうそう、その代わり、ご主人様には奴隷に関してお世話をする義務があるんですよ」
「だから、僕はそんな風に思っていないから」
「お金はぜーんぶ礼二様にあげます、だってそれは礼二様が買ってくれなければ手に入らなかったし、今頃死んでいましたからね、真理ちゃん」
「そうですよ、だから私も全部上げますよ、だから、ちゃんと私が死ぬまで責任もってお世話して下さいね」
まぁ良いや、介護施設、そんな感じで世話をして行けばよいか。
お金は別けておいて彼女達が本当にやりたい事、したい事が出来た時に使えば良いよね。
「気持ちは解ったよ…ただこのお金はそのまま貯金して置くから、使いたくなったら何時でもいってね」
「それはもうあげた物だから、私はもう忘れました」
「私もです」
これ以上言っても無駄だな。
「とりあえず、これは預かっておくよ」
「あっそうだ、それなら私の介護費用の対価として払います、だって私多分死ぬまでお世話になりそうだから」
「そうだね、それなら受け取って貰えるよね、その代わりお婆ちゃんになっても面倒見てよね」
こう言われたら受け取らないと不味いか…
2人とも確かに頑固だからな。
「そう言う事なら受け取らせて貰うよ」
「「はい」」
それから数日後、慰謝料は無事口座に振り込まれた。
ギルドの職員曰く、商業ギルドや冒険者ギルドに預けてあったお金全部に、自慢の魔剣、そして足りない分はダモンに委任状を書かせて、ハルテンの領地から金品を含み全部徴収してきたそうだ。
「まぁ、まだハルテンに居る部下たちは、ダモンが捕まっている事を知らないので素直に何でも差し出しましたよ。ハルテン男爵の資産もダモンの物になっていたし、奴隷売買のお金まで全部徴収しました、土地家屋も差し押さえしましたから、もう財産はほぼ無いでしょうね」
「それでダモンは?」
「もう死刑になりました」
「えっ? どうしてですか?」
幾らなんでも死刑になるのか…示談が終わっているのに。
無期懲役とかじゃないのか…
「礼二さん言っていたじゃ無いですか《ぞの男はかなり危ない事をしているので周りの人間もしっかり取り調べ、裁きお願い致します》って調べたらハルテン男爵を奴隷にして売り払い、その領地を奪っていまして、そしていつかはこの国を自分達の物にするんだと、ダモンは言っていたそうです、しかも、その先の帝国にも通じていたそうです」
「それで死刑ですか?」
「はい、日本に直すと、県知事を捕らえて人身売買をして沢山の人間を殺しました、そして県を乗っ取り、将来は国を自分の物にするんだという宣言までしたそうです、国家転覆罪、そして他国と繋がっていたから「外患誘致罪」が適応されます、まぁ「内乱罪」とどちらにするか揉めたらしいです」
「国家転覆罪?」
「えーと、この罪は死刑しかありません、それに牢屋も足りなくなるかも知れないので」
「ダモン一人でですか?」
「いえ、国家転覆罪、扱いですからハルテン領の人間ほぼ全員が対象です、まぁ仲間になる人間以外は、全員皆殺しにしたか奴隷として売ったとダモンが言っていましたから、全員が容疑者です、今朝、王国軍に招集をかけて、皆殺しにする為にもう向かったそうですよ」
「まじ、ですか」
まさか、こんな結末になるなんて僕は知らなかった。
日本凄い。
(法律は作者は素人なので矛盾点はお許し下さい)
【閑話】死ぬ者達
はぁ~凄く頭が痛い。
ダモンが捕まって、処刑されてしまった。
まぁそれは良い、良い仕入れ先であるが、うちは潜りで無くしっかりした奴隷商。
ちゃんと目利きをして奴隷を買っているそれだけの関係だ。
それより問題なのは、この6人の奴隷だ。
男が4人に女が2人、元ハルテン男爵とその仲間だ。
ハァ~どうしたものかな?
まさか、こんな事になるなんて思わなかった。
仕入れた奴隷が大きな犯罪に絡んでいたとはな。
ただの犯罪なら良い、ただ問題が王家絡みの犯罪で国王から嫌われている奴隷だと言う事だ。
はぁエルフ程じゃないけど、貴族って事で高かったんぞあいつ等。
チクショウダモン、最後の最後でこんなのを掴ませやがって。
奴隷商は国の許認可しっかりした商売。
だが、国が許認可を取りやめたらもう商売は出来ない。
国王が自ら裁いた裁判でダモンは死刑になった。
※この世界は本来貴族しか裁判権は無く、決定権は王にしかない為裁判長が王だっただけです。
一時とはいえ、此奴らは仲間になっていた。
しかも、あの両手のない奴隷にも関与している様だ。
痛いが、此処で損切りしないと後が大変だ。
僅かなお金を惜しんで、大変な事になったら事だ。
「お前等を奴隷にするのは止めだ」
「どうしたんだ、解放してくれるのか?」
「貴方、良かったわ」
「まぁな、よく考えたら貴族だ国王に渡す事にする、後は国王に頼むんだな」
「そうか、確かに私は男爵だ、失態があったとはいえ国王に引き渡した方が得だな、無事貴族に返り咲いたら褒美をやろう」
こうして、ハルテン男爵は王城に連れていかれた。
「どうしたんだ、奴隷商、何の用事だ」
「実は…」
「成程、ハルテン男爵様を連れてきたと言う事か? 確かにその方がトラブルが少ないな、解った私が王の元にお渡ししよう」
「宜しくお願い致します」
けっ、無駄金つかわせやがって。
「ハルテン男爵、よくぞ来られたな」
「はっ王、助けて」
「良い」
「…」
「お前は死刑だ、連れていけ」
「なっなっ何故でございますか?」
「貴族という者は国を守る者、それがこの国を転覆させる者に一時とはいえ汲みするとは言語道断、しかも助かる為に随分と恥知らずな真似迄したそうだな」
「それは」
「私は優しいぞ、辱めなどせず楽に殺してやる、貴族の体面の為にギロチンで良い…すぐにハルテンを連れていけ」
「そんな」
その場で死刑を言い渡され、その日のうちに家族6名がギロチンにかけられた。
【旧ハルテン領】
「王国軍が直ぐそこ迄来ているっていうのか?」
「ああっ、さっき林で見た、凄い人数だった」
「ようやく、ようやくこの暮らしが終わるのか、長かった王国軍が来てくれるなんて」
「魔王との戦いばかりで見捨てられたと思っていた…ようやく元の農夫に戻れる」
「あなた、良かったわね、この子ももう10歳、いつ奴隷に売られるかと」
「これで助かるんだ…いいか悟らせないようにしないと、ダモンの仲間に知られないようにするんだ」
「そうね、解ったわ」
その日のうちにその噂は流れた。
「おい、何をするんだ」
「王国軍が直ぐに踏み入れられる様に裏門の楔を抜いて置くんだ」
「そうか、お前頭がいいな、たしかに直ぐに入れるようにした方が被害が少ないな」
「そうだ」
「なら、俺は西門を開けて置く」
「それが良い」
「これで助かるわ、これであのならず者の相手をしないで済むのね」
「ラルフの元に帰れるのよ、悪夢はもう終わり」
「これで旦那と娘に会えるのね、あんな奴に抱かれないですむのね」
何時、王国軍が助けに入ってくるのか、期待を胸に待った。
外から勇敢な兵隊と騎士の足の音が聞こえてきた。
多分包囲が終わり踏み込んでくるのだろう。
もうこれで大丈夫だ…少しでも早く逃げられる様に門の近くに…
確かにダモンの仲間は膨れ上がり4000近くいる。
だが、その中でダモンと意思を同じくして悪行を働く者は500位しか居ない。
他の3500人以上はダモンとその仲間が怖くてしたがって居る者が殆どだ。
その中には勿論ハルテン領の人間も多くいる。
門があき、期待の王国軍が流れ込んできた。
恐らく1万近く居るだろう、これなら助かる、ようやく終わるんだ。
「助けにきてくれて….」
「何で…」
「敵は殲滅、女子供まで皆殺しだ、国の転覆を計る危険人物達の集団だ1人残さず殺せーーーっ」
「「「「「「「「「「うおーーーーーーっ」」」」」」」」」」」
「何でだ、俺は俺は」
「私はここに攫われてきて」
「「「「「「「「「「「殺せー、殺せ、殺せーっ」」」」」」」」」」
「違う、違う」
「私は…子供、子供だけは…助けて」
「惑わされるな、こいつ等は国を滅ぼそうと思っているゴブリン以下の存在だーーーっ 赤子であろうと容赦するなーーっ」
「「「「「「「「「「「おおーーーーーっ」」」」」」」」」」
彼等は知らなかった。
自分は被害者だ、そう思っていた。
だが、ダモンを恐れ同じような事もしていた。
怖さから命じられるままに人を殺した。
おこぼれにあずかり、犯されて泣いている女を犯した者もいる。
子供を守るために犯された女をくずの様に扱い殺した者。
妻と子供を逃がす為に時間を稼いでいた夫とその父親を殺した者。
そんな者が被害者と言えるのか…言えるわけが無い。
1人の騎士見習いだった少年は本物の騎士に殺されつつある。
その刹那に考えた…自分は何を間違ったのだろうか?
本当なら、あっち側の人間だった….少し前までは俺はこの盗賊団と戦っていたんだ。
解ってしまった…命欲しさに泣きじゃくる仲間の少女を暴力で犯した。
あの時から俺は騎士ではなく盗賊だ。
腕を斬り落とされ地獄の様な日々を送る彼女達を汚いと罵り、あまつさえ使った。
しかも、自分が憧れた女をだ…
俺は盗賊だ、殺されて当たり前だ、どうせ死ぬならあの子を守って死ぬべきだった。
多分、あの二人は衰弱して死んだだろう、多分俺の事も恨んでいる。
死んでも許されないな…もし死んであの世に行っても、女神の慈悲でも、俺には救いは無い。
抵抗しないで死んでいくそれだけしか俺に出来ることは無い…クズの盗賊に成り下がったのだから。
人数を考え1万5千人で来ていた王国軍に流石の蛮族の荒らしい盗賊も歯が立たず、僅かな時間で全滅した。
その中には女子供、赤子さえいたという。
この地、ハルテンはこれより暫くの間誰も住まない不毛な土地となった。
長い夜の始まり
夜僕が寝ていると下半身に重さと温かみを感じた。
何だろうか?
「うん、ペロ、うううん」
「チュパ、チュパハァハァ~」
そう考えながら眠い目を擦り目を覚ますと裸になった三浦さんと湯浅さんが下半身の所にいて口で舐めていた。
確かに最近、女の子三人と暮らしながら蛇の生殺し状態だ、欲求不満でこんな夢をみたのかな…
夢なら良いかと手を伸ばしたら、可笑しい感触がある。
「目を覚ましちゃいましたか?」
「無理しなくて良いんですよ…そのままで」
【時は少し遡る】
「あの、サナさんお願いがあるんです!」
「お願いを聞いて頂けないでしょうか?」
礼二が居ない時、真剣な表情で、三浦と湯浅がサナに話し出した。
「いきなりどうしたの? まぁ礼二に話しにくい事なら聞くけど」
「お願いです、今日の夜礼二さんを貸して下さい」
「サナさん、お願い致します」
「えっ嫌だよ、私だって礼二とイチャイチャしたいんだよ」
「そこを何とかお願い、私たちこんなだし、少しでも絆や繋がりが欲しいんです」
「お願いします、サナさんみたいに可愛く無いし、本当にお願いします」
可愛い、もしかして本当に私は日本人にとって可愛いの。
「ちょっと聞いて良い? 私って三浦さんの国では可愛いの?」
「凄く可愛いですよ、男の子が振り返る位」
「私が読む小説のヒロイン位可愛いです」
「そうかぁ~可愛いか、うんうんそれなら、良いよ解ったよ、ただ今日だけだからね」
「有難うございます」
「ありがとう」
よくよく考えたら、この子達も私と同じだ。
ゴブリンに連れ去られ犯されて、礼二が救ってくれなければ、多分私は今も1人ボッチだった。
誰からも必要とされない存在。
誰も見てくれない…その辛さは誰よりも解るよ。
私も礼二と良好な関係になるまでは焦っていた。
それにしても礼二は自分の事を知らなすぎる。
まず容姿だが、誰からも愛される凄い美人だ。
イケメンと言わないで美人って言葉を使うのは礼二の美しさはイケメンの中に納まらない。
男から見てもすごく綺麗に見えるらしい。
この間なんてA級冒険者のハロルドさんが女と間違えて求婚していた。
「僕は男です」と礼二が言ったら「こんな綺麗な子が男なんて嘘だぁぁぁぁーーーっ」と泣きながら去っていった。
実際に収入のあるギルドの女職員や、商業ギルドの女職員なんかには凄く人気があるのに、当人は気がついていない。
受付嬢のモームさんやあの女狐のアイカさん達なんて「養ってあげれば結婚してくれるかな」何て言ってたらしいからね。
玉の輿狙いの強い受付嬢だって狙い始めている。
礼二よりカッコ良い男っているのかな?
考えてみたんだけど《皆の憧れ、王子フレデリック様》絵でしか見たこと無いけど礼二の勝ち。
《凛々しき赤髪、帝国の将軍 フリード様》この程度か…
版画絵迄売られている美少年より、はるかに綺麗。
これだけでも凄いのに…性格が真面目で優しく、そしてしっかりとお金を稼ぐ。
そんなまるで物語の様な美少年が…優しい。
これで好きにならない女なんて居ないよね…
ただ、不思議な事に、当の礼二はその事に無頓着なんだよね。
そればかりじゃない、礼二に触られたりすると体が可笑しくなる。
上手く言えないけど、体が熱くなって体の芯というか奥底というか、そんな所から何とも言えない気持ちが込み上げてくる。
多分、私は決してふしだらな女じゃない筈。
その証拠に礼二以外にこんな感情は抱かない…と思う。
まぁ経験が少ないから解らないけど、多分礼二相手だったら半年、いや下手すれば死ぬまででも《そう言う行為》が続けられる様な錯覚に陥る。
本当に喜んで出来そうで怖くなる。
簡単に言えば、今の私は礼二だけ居れば、それで良い。
死ぬまで愛してくれるなら水や食料さえ要らない…本当に可笑しい。
話は戻すけど…礼二はその位私にとって価値がある。
そして、その礼二の傍に居る私は…礼二の世界では美人らしいが、この世界じゃ不細工だ。
礼二が空にさんぜんと輝く太陽なら、私はその辺の虫けら。
そう思った事が何回もある。
《いつか捨てられるんじゃないかな?》《礼二の居ない世界になったら多分生きたくない》そんな恐怖で一杯だった。
多分…彼女達も同じだと思う。
私からしたらかなり美人だけど、手が無くて真面に歩けない。
かなりの不良物件だ。
しかも沢山の男に使われた女というレッテルもある。
私は汚い女だ…
礼二が、他に奴隷を迎えると聞いた時、本当は凄く嫌だった。
自分以外が愛される姿を見たく無かった。
彼女達の姿を見た時は凄くホッとした。
手が無い姿にホッとした….
だけど、気がついた、気がついてしまった。
彼女達は私と同じ。
此処を追い出されたら行くところはない。
私と全く同じ…ううん、真面に歩けない、手が無い分、私より酷い。
私は何を考えていたんだろう?
礼二は彼女達を助けると決めている、手を差し伸べた。
私は手を差し伸べて助けられた人間だ、そして礼二の…まぁ良いや。
そんな私が礼二が助けると決めた人間に手を差し伸べなくちゃ、女として終わりだ。
決めた…礼二が私にしてくれた事を彼女達にしてあげよう。
礼二程の人…一人で独占なんて出来ないんだから…
「解った、手伝ってあげる」
私は笑顔でそう答えた。
【直前】
礼二が寝るまで待たないといけない。
どうやら礼二は寝た様だ、今日礼二と一緒に寝ている湯浅さんが目くばせをした。
ベッドは二つ…一つは礼二で一つが私。
二人は交代で変わるが、私の一緒に寝る順番は来ない、今日助けてあげるんだから、交渉しようかな。
私は手早く三浦さんのワンピース型のパジャマを脱がし、下着も脱がした、そのまま手を貸して湯浅さんの反対側に寝かせた。
そして反対側に周り今度は湯浅さんに手を貸し裸にした。
「それじゃ頑張ってね」 小声で声を掛けたら二人は声で返さず首を縦に振った。
今日はこのままふて寝しよう。
二人はごそごそと動き始めた。
夢で無い事は解かった。
2人が裸になれるわけが無い、そう思ったから夢かと思ったが。
寝相の悪いサナが壁を向いて眠っている。
完全に共犯者だな、サナが手伝わなければ無理だ。
男だから僕だってしたいかどうかって言えばしたいに決まっている。
だが、心が折れてボロボロの女の子に付け込みたくは無い。
三浦さんも湯浅さんも《此処しか居場所が無い》
だからって考えると切ない物がある。
僕がどんなに嫌な奴でも生きて行く為に拒めない。
そんな状況じゃフェアじゃない。
僕が起きている事に気がつくと二人が話しかけてきた。
「礼二さん、また複雑そうな顔して、これは礼二さんが思っている様な事じゃないですよ」
「全く、恥をかかさないで下さい、うむん」
「だけど僕はこんな事しないでも、一緒にいるから大丈夫だよ、だから無理しないで..平気な訳無い」
「あの、礼二さん? あんな事言われて私がときめかないと思いますか? 最初に言っておきますが あむっ、ペロペロ…礼二さんだけですよ、少なくとも自分から望んでこんな事した人は礼二さんしかいません」
「そうだよ、うんうんハァハァ、こんな事私からしたりは他には絶対ありませんから、殴られ無理やりは別ですがあむ、むちゅ」
「だけど、大丈夫だって、僕は2人が好きだから、そんな事しなくても、絶対に捨てたりしないから我慢しないで良いって」
「間違っていますよ、あむううん、私は三浦陽子は貴方を愛しているから、あむっハァハァしているんです。大体、礼二さんは、自分が何を言って、何しているか? もう少し考えて下さい、あむっあむうんぐ、うんぐ」
「全く、何なんですか、礼二さんは全くもう、ペロぺるちゅばっ…これで好きに…ならない訳ないでしょう?」
「ちょっと待って、ちょっと離して、話聞くから」
正直名残惜しいが二人を僕は引き離した。
「全く無自覚なんですね、その代わり腕枕して下さいね」
「あっ、それ私もお願いします」
確かに嬉しいし下半身は爆発しそうだけど…これは違う気がする。
人の弱みになんてつけ込みたくない。
「あのね、礼二さんは私の面倒一生見る、そう言いました…しかも私はこんなだから、体は一生不自由なままだと思います、それってとんでもない事だと思いませんか?」
「だけど」
「だけどじゃ無いですよ、そうですね、私はこの世界に来る前は女子高生でしたが、もしその時に彼氏がいて、今の私の様な状態になったとしたら礼二さんみたいに下の世話までしてあげれる自信はないです…それなのに礼二さんは嫌な顔しないでお世話してくれて、優しく女の子として扱ってくれる」
「人として」
「出来ません、私は優しい人間だと思いますが、礼二さんみたいな事出来ません、あんな糞尿まみれで汚い人間、腕が無く真面に歩けない役立たず、誰も買おうとは思いません、例え買ったとしても性欲処理で使ってポイだと思いますよ」
「…」
納得してしまった、確かにそうだ。
「それでね、礼二さん、そんな私に一生面倒見る、そんな事言ったらどう思いますか? 私は手がありません、真面に歩けません、日本でいうなら要介護、しかも重傷人ですよ? これって考え方によっては《結婚》以上じゃないですか? 凄い愛だと思います…しかも嘘じゃないんだから、そんな愛を囁かれたら何でもしたい、そう思うと思いませんか?」
「それで良いの? 後悔しない」
「今が一番幸せですよ💛 わたし」
「ようやく陽子ちゃんが言い終わったね」
「あの湯浅さん…湯浅さんも同じ?」
「そうですね、私はもう少し打算的でしたね、最初は正直言えば、ましなクズだと思っていました、あんな状態で買ってくれて有難いと思いましたが、奴隷を買うんですからそういう人なのかと」
「普通そう思うよね」
「だけど、直ぐに違うって解りましたよ? こんな介護が必要な女、態々お金出して買いません…凄く優しいって、今でも何で此処まで優しいのか解りません。 私のなかで貴方は《男》じゃありません、礼二っていう名前の別の生き物です、多分。今でも私は男は嫌いです、暴力的で酷い事してクズだと思います、顔を見たら震えるかも知れません…だけど礼二さんは違います、もしかしたら私が触れても大丈夫な唯一の男性かも知れません」
「それ本当?」
「はい、一生面倒見てくれるなんてプロポーズみたいな物ですよね…そんな礼二さんに私が出来るような事は少ないんです、だからこれは私が自分の意思で、大好きな礼二さんにしたい事なんです…それでも拒みますか?」
此処まで言われたらもう拒めないな。
確かに一生面倒見ると約束したし、逆に断った方が傷つくかも知れない。
「うん、解った受け入れるよ」
「「有難うございます」」
長い夜は始まったばかりだ。
地獄から天国 三浦陽子篇
「嫌ぁぁぁぁやめて」
幾ら叫んでも止めてくれない。
此処はこの世の地獄だ…
敵に辱められるのは解る。
何人も殺したのだから仕方ない。
だけど、私は貴方に頼まれたから戦っていたのよ…それが何で!
ねぇ、貴方は私に憧れている、そう言っていたよね…
貴方は、私を好きだって言っていた。
「止めてーーーーっ許して下さい、いやぁぁぁぁぁっ」
皆、嘘つきだ。
「赦して、もう許してよーーーーっ痛いの、本当に痛いのよ」
好きだと言った人間が私を守ってくれないんだから…あははははっだーれも助けてくれる訳無いよね。
《好きだ》《憧れている》みーんな嘘。
守ってあげたのに、助けてあげてきたのに…こんなのって無いよ..グスグスッ。
クズ…クズ…恨んでやる…
何人の男に犯されたか解らない。
私、初めてだったのに..横で真理も同じ様に倒れている。
穴という穴から白い液体を垂らしながら、体中が土と精子の臭いでむせ返る。
60人迄は数えたけど、後は解らない。
多分、その何倍もの人数に犯された。
前も後ろも口も全部汚された…
もう良いでしょう…もう…
私はふらふらと立ち上がった。
これでもう終わりだよね、何処かに捨てられて終わるのかな…
遠くから私達の事を便器とか性処理便器と罵っている声が聞こえた。
「こんな便器みたいな女でも《異世界人》だこの先力をつけると面倒だ、そうならない様に両手を斬り落として足の腱をきっておけ」
嘘だよね…嫌だ、嫌だ、大きな声を絞り出して叫んだ。
「いややあああっ、いやあああああ、たしゅけて…もうさかるない。さからうないからーーーーっ」
「あはははっ何言っているのか解らないな」
だが、笑いながら男は私の腕を斬り落とした。
「ぎゃぁぁぁぁぁっぁーーーーーーっ、手、わうたしのてーーーっおうして。かうして」
私は気が狂ったように叫んでいた記憶がある。
「うん? 返してやるから受取れ」
「あああああああう、あああああ」
腕がそもそも無いのだから受け取れるわけが無い、斬られた腕は胸にあたり地面におちた。
「うわたしのうでぇええええええええっうで」
座り込み必死に腕を抱え込もうとしていた。
多分殺されて終わるんだ、そう思ったら違った。
私も真理もそのまま、便所に繋がれた、裸のままで。
此処までされていれば、何をされるか解る。
私達は性処理便器になったんだと…
罵倒され犯されていく日々は狂わなければ生きていけない。
怒らせると顔の形が変わるまで殴られたりする。
笑いながらナイフを突きつけられたら、従うしかなかった。
「うぐうううん、ううん」
言われるままにやるしかなかった。
そうしないと暴力をどれだけ振るわれるか解らない。
妊娠もしたのかもしれないが、暴力的に抱かれたから流れたと思う。
途中男が「お前は妊娠しなくなったからな…女じゃない本当の性処理道具だって言っていた」
貰えるのは残飯。
これでもまだ良かった…そう言える地獄がさらに待っていた。
男たちは《とうとう私達に飽きた》 これで終わり?
そんなに甘く無かった…
「これもう使えないよな」
「こんな精子の臭いがこびり付いて虫までたかっている女なんて抱く奴いる?」
「いや、こんなの抱く位なら自分でしたほうがましだ」
そりゃそうだ、髪も洗ってくれない、精子は掛けっぱなしで、あまつさえ糞尿も拭かない。
うん、私は豚以下だ…
そこからは本当の地獄だった。
抱く事に飽きた私達は食事もままならなくなり、残飯も貰えない。
偶に残飯を貰えてもワザと糞尿が入っていたり、精子が入っていた。
それを見ながら「野良豚飯だ」
手が無くはいつくばって食べている私達を笑いながら見ていた。
私だけなら死んでも良い…そう思ったが、真理が心配だ、彼女は多分死ねない。
その頃になると最早性処理便器ですら無くサンドバック扱いになっていた。
「止めてよやめて…わたし、なにもしてない..よ」
「うるせーなゴミ女、いまむしゃくしゃしているんだ殴らせろ」
「いやぁぁぁぁぁ、何でもしますから…やめて」
とうとう、私も真理も体が衰弱して動かなくなった。
そうしたら、今度は火であぶったりし始めた。
体を動かす事すらままならない私が遅れて熱がるのを面白そうに見ていた。
こいつ等は人間じゃない…いっそ殺して…
そう思っていたが、まだ私で遊び続けている。
何時までも開放してくれない。
「イシュタス…イシュタス…呪う」
私がこんな思いしているのはあの糞女神のせいだ..彼奴が居なければ今頃、私は女子高生だった。
毎日、女神を呪っていると、馬鹿な男たちが騒ぎ出した。
「不味いぞ、あいつ等は異世界人だ、女神様に頼んで俺たちを呪うつもりだ」
「あいつ等、死んだらイシュタス様の所に行くんだ…不味い」
腫れものを扱う様になり、多分此処で死ぬと不味いのね、少しだけ食事が真面な残飯になった。
やがて、私達二人は負けた途端に命欲しさに、犯した貴族達家族と一緒に奴隷として売られた。
此処でも私達は惨めだった。
私達を犯したあいつ等は綺麗な檻にはいって店内にいるのに…私達は裏側のカーテンが閉まった暗い場所にいた。
初めてここに来た時、無造作に担いで投げられた瞬間に解った。
此処は死ぬ場所何だと。
食事は出る、前よりはまし…だが檻の中にはトイレが無い。
他の檻の者は手で外に出していた。
同じ様に大き方は手で出そうと思っても…手は使えない、しかも私も真理もたつ事はできないから動く時は蛇の様に這いずるしか出来ない。
自然と体は糞尿まみれになる。
水も真面に貰えない…体なんてもう数か月下手すれば年単位で洗って無いから汚い。
「た.す.け.て…」
もう声も出なくなった、死を覚悟した時カーテンが開いた。
そこには、神様が居た。
あんな糞女神じゃない、黒髪の中性的な神様。
私、死ぬんだ、だから、日本から神様が迎えにきてくれたんだ、一瞬そう思った。
違う、この人は神様じゃない…お客だ。
こんなチャンスはもう二度と無い、こんな部屋に来る客はいない…最後の声を振り絞って懇願した。
「二人 買います」
その声を聴いて私は意識を手放した。
だけどこれは夢だったの…嫌だ、嫌だ、何でまた私は繋がれているの?
「嫌、嫌いやーーーーーっ」
違った、悪夢を見ただけだった。
知らない天上…ベッド?
気がつくと誰かにみられている。
「ううん、はっ此処は…何処…嘘、嫌ぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」
「大丈夫かな?」
「嘘、逆らいません、何でも言う事聞きます、だから、だから、酷い事しないでーーーっ」
「酷い事しないから落ち着いて、お願いだから」
困った顔で私に話しかけてきた..優しそうな顔、だが信じられない。
「ハァハァハァ…本当、本当に、酷い事しない? しない?」
「うん、だから落ち着いて…ねぇお願いだから」
「…..うっうん」
「僕の名前は礼二、君達と同じ《元、日本人》だよ」
「ううっ…確かに、うん日本人だ…ね」
「うん、絶対に酷い事はしないから、安心して」
「ううん、信じる…大丈夫、今迄以上の地獄にはならないもの」
此処にはベッドがある、そこで私を寝かせてくれていた。
それだけでもあいつ等よりまし。
例え奴隷でも大切にしてくれそうな気がする。
「それで、ごめん…お風呂行こうか?」
「….解った、ちゃんとするから、酷い事しないで…お願いよ」
お姫様抱っこ…私こんなに汚いのに、多分する事はするんだろうけど…
優しいなこの人、捨てられたくない、ここは前に比べれば全然良い…だからどんな事でもしないと。
「酷い事なんてしないよ」
「ちゃんと、言う事聞くからね? だから、だからお願いよ」
暴力振るわないでくれるんだね…ならちゃんと言う事聞くよわたし..
お風呂場につれて来られた。
汚いままじゃない、少なくとも便器扱いじゃない気がする。
奴隷に格上げなのかな?
頑張らないと、人に戻れるチャンスだ。
「ねぇ、私は、何をすれば良いの…ちゃんとするからね」
何となく彼は彼奴らと違う気がする…
同じ抱かれるにしても優しさがある。
「そうだね、力を抜いて」
「…解った」
ちゃんと女として扱ってくれるんだ…
今迄が酷かったせいか、こんな事が何だか嬉しい。
「きゃぁ…シャワー…」
髪なんて洗って貰った事無いよ。
恥ずかしいな、多分私の髪は汚い物が沢山ついてる。
「うん、髪の毛、洗ってあげるから、ちょっと待ってて」
彼の手が優しく髪を触る。
「…うん」
気のせいなのは解る、だけど凄く優しく髪にお湯を掛けて宝物のように洗ってくれるんだもん。
何だか愛されている様な気がする。
殺伐とした心が何だか溶けるような気がし始めた。
そして彼は…まるで神様の様な美しい姿をしていた。
そんな彼が何回も何回も洗ってくれた。
洗われる度に、こびり付いていた糞や精子が流れていき、本当に申し訳ない気になり、恥ずかしさが込み上げてくる。
「これで、少しは綺麗になったかな」
まるで宝物を綺麗にしたかのように言うんだもん。
ドキドキしたってしょうがないと思うな。
「…ありがとう」
恥ずかしいな、だけど凄く可笑しい。
男なんて、獣、触られたくない、そう思っていたのに…この人に触られるのは嫌じゃない。
多分、他の男相手なら今の私はお礼何て言わないで、悲鳴をあげると…思う。
「今度は体を洗わなくちゃね…ごめん体触るね」
「酷い事しないなら…いいよ…痛い事しないなら…自由につかって」
自由に使って、何いっているの…脅されてもいないのに、自分から《自由につかって》可笑しい。
「今は弁解しない、後で纏めてするから」
「….やっぱり、酷い事するんだ、少し位の痛いのは我慢するよ…平気」
やっぱりするんだ、だけど別に良いよ…少なくとも貴方は優しいから、あはははっ私同意すらこの人以外から求められた事は無かったよ。
こんな風に言われた事は無いから少し恥ずかしい。
「違う…まぁだけど良いや」
何がちがうのかな? しない、そんな事無いよね…
男なんだから。
何?直接、手に石鹸をつけて洗い始めた。
「あっあああっうん、くっくくぅーーーーっ」
何で、こうなるの? 触られても苦痛しか感じたことはないのに…この人だと何だか気持ち良い。
ただ、洗われているだけなのに、声がでちゃう。
「あの、洗っているだけ、洗っているだけだから、ちょっと声を押さえて…お願い」
男なんて汚らわしいし獣なのに…何でこうなるの…こんなの可笑しい
「わかったわ…うん、うぐっすんすん…あーっあああ」
私、凄く汚かったんだ、何回も何回も手で洗ってくれた
他の男の物がこびり付いた股の間の穴から汚物がこびり付いたお尻の穴まで洗うんだから。
本当に申し訳ない気がして仕方ない。
しかもこんな汚い体を大切そうに洗うんだから、可笑しくなるのも仕方ないと思う。
私はこんな女じゃない、男に抱かれてもこんな声絶対にあげなかった、だけど駄目、本当に気持ち良い。
彼の股間もたっているのが解る。
「ハァハァハァ…ああああっあんあん、気持ち良い…💛」
こんなに優しくしてくれた人は今まで居なかったよ。
うん、こんな大切にしてくれるなら…良いよ、ちゃんと受け入れてあげよう。
綺麗に石鹸を流してくれる、うん気持ち良いな。
再びお姫様抱っこだ、あははっまるで恋人みたい、夢みたい。
「あっあああああん、あっ💛」
苦痛でしか無かった性行為が、全然違った物に思えてしまう。
男じゃない…この人が違うんだ。
そのまま後ろから優しく抱きしめるように湯船に入れてくれた。
全然違うじゃん…今迄のと全然違うじゃん、何で私はこの人に最初に会えなかったのかな…
こんな恥ずかしい状態でこんな理想の男性に会わなければいけなかったのかな?
こんな汚い体でなんて…凄く悲しくて仕方なくなった。
レイプされ輪姦監禁された…そんな状態の体…すごく汚いよね。
「すん、すん、すん、グスッすん、すん」
考えると涙が出て来た。
「ちょっと、嫌かも知れないけど、泣かないでくれると助かる」
そんな訳無い、こんなに大切にしてくれて嬉しいだけだよ。
「別に嫌じゃないです…凄く親切で、綺麗にしてくれて…こんな風に大切に使ってくれるのが嬉しくて」
こんな優しい人を今の私が受け入れない訳無いよ…うん。
「ちょっと話聞いてくれる?」
優しいから言いづらいんだろうな、もうあんなになっているんだから。
この人なら良い、私の初めてをあげる、私こんなだけど自分からは誘った事は一度も無い。
ささやかな初めてだけど、この人にその最後に残った唯一の《初めて》をあげたい。
本当にそう思った。
「はい💛 口でしてあげてからの方が良いですか? もう使いたいなら…どうぞ、多分準備も大丈夫です💛」
初めて告白した、出来るだけ熱い視線を送って口を開けた。
「ちょっと待って、僕はそう言う事しないから、安心して」
えーとそれは本心なのかな?
「あの、本当にしてくれて良いんですよ」
こんなに優しくしてくれたんだから答えてあげたい。
「まだ、名前も知らないし」
名前ね、確かに言ってない…うんこれだけであいつ等と違う…もしかしてまさかね。
「私の名前は三浦陽子って言います💛 礼二様」
「そうだね、そうだ、まず友達から、友達からスタート」
友達から….こんな私に? まさか
「はい、礼二様…は本当にゴブリン以下の糞みたいな獣と違うんですね…神様みたいです…ですが本当に無理しないで下さい」
こんな私とまさか恋愛したいの? そんな事無いよね
「あの…ね」
何で顔を赤くするのかな? まさか、本気。
「それとも、沢山の男に抱かれて、手垢まみれになった私じゃ嫌かな?」
否定されるよね? 恋愛相手にこんな中古女選ばないよね
「そんな事ない…だけど僕は女性経験が少なくて、友達からでお願いします…ねっ」
あはははっ本当に恋愛がしたいみたいだ…良いのかな?
私凄く手が掛かるよ。
「本当に奥ゆかしいんだね」
奇妙な恋愛がスタートした。
だけど、これって恋愛じゃないと思う。
サナさんが居ないときは本当に大変だった…恥ずかしい事を頼まなくちゃいけない。
だって私は手が無い、真理も同じだけど、トイレに行きたくなったらパンツの上げ下げから全部して貰わないといけない。
小さい方ならまだ良い…大きい方の時は拭いて貰わないといけない、しかもこの世界にはウオシュレットは無いからしっかり紙で。
老人なら兎も角私はまだ高校生の年齢だよ…まぁ今迄も檻や便所の横で裸でしていたけどさぁ…こんな綺麗な礼二さんにさせるのは凄く恥ずかしい。
昔、大物女優が入院中にオムツを替えた旦那を見直したって言うのもわかるよ。
昔の私がこんな事できたかと言ったら、多分出来なくて別れると思う。
自分でも気がついていないと思うけど…しょっちゅう《一生面倒みる》なんて言っているし、私達の代わりに敵討ちまでしてくれて、お金迄取ろうとしない。
これで何処に私が拒む理由があるのかな?
だってこれプロポーズしている様なものじゃない?
こんな手足に欠陥のある女に《一生》を誓ったのよ?
しかも、こんなに幸せにしてみせたのよ?
何しても良いに決まっているじゃない?
あれだけの美少年相手なんだから寧ろ私の方が悪いわよ….
結婚て本来はお互いに対価を払う物だと思うの….
礼二さんが私にくれたのは《救済、敵討ち、未来》私はその一つも返せないわ。
だから、私の全ては礼二さんの物で良い…ううん、それ位しないと申し訳ない。
結婚以上の約束したんだから、それ位じゃないと申し訳なさすぎるわよ。
家事も何も出来ない、こんな女なんだから。
何時抱いて貰っても良い…
ううん、抱いて貰いたい、礼二さん限定で私は男の恐怖がなくなったし女になれる。
だけど、窓から見た男は…やっぱりクズにしか見えないわ..礼二さん残して他の男は死んでも良いんじゃないかな…
うん。
地獄から天国 湯浅真理篇
「嫌ぁぁぁぁやめて」
横で陽子ちゃんが泣き叫んでいる。
「止めて、止めて、やめてよぉーーーーーーっ」
幾ら叫んでも止めてくれない。
そんなのは解っている…今回程ではない。
だけど、私はこれと同じ経験があるのだ。
私が犯されるのはこれで2回目だ。
前に私を犯したのは幼馴染の2人、しかも幼稚園から一緒に育った二人だ。
泣いている私を笑いながら犯した。
そんな事しなくても二人とも幼馴染だ、どちらかと言われれば困るが《好き》だった。
ちゃんと告白してくれて付き合った後なら、そういう関係になるのも仕方ない、とは思う。
私は性的な事は嫌いだが、男の子が興味深々な事くらいは解る。
本位は読んだことがあるし..
だが、大きな声で泣いていたから帰ってきた幼馴染の親が見つけてくれた。
だが、その時は全て終わった後だった。
直ぐに幼馴染の親たちは幼馴染を連れ謝りに来た。
「本当に息子が申し訳ない」
土下座して謝っていた。
私のなかでは半分許そうと思っていた。
うちの親も《結婚》もしくは《婚約》を対価に許そうという話で考えていた。
共に過ごした10年以上の月日は、憎しみだけで満たせなかった。
だが、話を聞いて愕然とした。
二人は私なんて好きでは無かった。
2人とも他に、好きな人が居て、その娘と体験する前に童貞を捨てたくて私を犯した。
そう言う事だった。
しかも、その理由は「真理なら泣き寝入りすると思った」そんな事だった。
おじさん二人は怒り狂ったように幼馴染を殴りつけていたが…もうどうでも良かった。
おばさん達は「学校にだけは連絡しないで欲しい」と言っていたが、逆におじさん達が「このクズには責任を取らせる」と警察にも学校にも連絡した。
その結果、2人は高校退学になり勘当されて家を追い出された、警察の方は初犯と言う事もあり、うちが被害届けを出さない事で不起訴となった。
僅かな慰謝料を貰い話は終わった。
学校側はこの事はばれない様に考慮した。
だが、これで話は終わらない。
このクズの幼馴染は、追い出された後近くの街でフリーターをしていたのだが、「この話を自慢げに話していた」
女と違い、家を追い出され半グレになりつつあった幼馴染にとって「女を犯した」のは自慢だったのだろう。
私は犯されたのが学校にバレ、その後の生活は被害者なのに…悲惨な生活になった。
一応進学校だったから嘲笑とスカートめくり、嫌がらせですんではいるが身の危険を感じる毎日だった。
引き籠りになり、リスカを繰り返していた。
その事を知った、幼馴染のおじさんやおばさんは、今思えば良い人だったのだろう。
何回も私に謝りに来た。
私は壊れていた…
「あんなクズお前達が産んだから…こんな事になった..赦さない、一生許さない」
「あはははは、責任とるの? なら晴美ちゃん(幼馴染の妹)を貴方が犯してみせて、ねぇ、これでおあいこだよね、やれよ、やれ」
「ばーか、ばーか、出来もしないのに…嘘ばっかり、せめてクズを殺してから詫びに来い」
そんな声を浴びせていた。
その結果、幼馴染の一人のおじさんは、半グレ集団を息子事車でひき殺そうとして死亡、息子や半グレ達は命は助かったが息子は一生車椅子生活になった。
そしておばさんは、晴美ちゃんを殺して首を吊って自殺した。
もう一人の幼馴染の家族は、この街を出て行っていた。
「二度と息子をお嬢さんの視界に入れない」そういって海外に勤務を希望して赴任していったらしい。
だけど、こんなのは償いじゃない、そう思った。
だって、こんな馬鹿な事したから…噂が大きくなり、余計私の事件は広まった。
しかも、死人が出たから、私への同情は小さくなり「ゆるしてあげないから自殺した」と加害者扱いだ。
そして、私達家族は逃げるように引っ越した。
幸い、そこには私を知っている人はいないので、幸せに過ごす事ができた。
リスカの後だけを残して。
此処からは始まるのは地獄だ。
敵では無く、最初に私達を犯したのは仲間だった人達だった。
「何だ此奴、あっちと違って処女じゃねーじゃん、地味な顔してやる事やっているんじゃないか?」
「やめてよーーーーっ汚いのは嫌、うんぐもぐうんぐううううん」
「何だ、そんな事言いながら此奴結構しゃぶるの旨いじゃん」
私を馬鹿にする声が聞こえてきた。
犯された事の悪夢が蘇ってきた。
やはり、クズだったんだな…女神はなんでこんなクズ達を助けるんだろう。
まぁ10年以上過ごした幼馴染もクズだった…男はやっぱり嫌い。
敵に辱められるのは解らなくも無い。
何人も殺したのだから仕方ない。と思う。
だけど、私はね貴方達に頼まれたから戦っていたのよ…くーず!
ねぇ、貴方は陽子に憧れている、そう言っていたよね…
貴方は、陽子を好きだって言っていた。
「止めてーーーーっ許して下さい、いやぁぁぁぁぁっ」
やっぱりゴミじゃない、貴方なんか陽子が好きになる訳は無いよ。
貴方は私が好きだって言っていたよね?
やっぱり犯すんだ…
「陽子ちゃぁぁぁぁん、嫌だよ助けていやぁぁぁぁっ」
「馬鹿だな、お前の仲間はあの状態なのに助けられるわけねーだろうが」
これで犯すなんてやっぱりクーズ。
私の為に犯さないで死を選んだら…好きになったかもね。
「嘘でしょう、何であんたが…」
「悪いな妹の為だ…」
クーズ…私に告白してきてこれなんだね..やっぱりクーズ。
「いやぁぁぁぁぁ、痛い、痛いよ…弘樹助けてぇぇぇぇぇっ」
弘樹くんは唯一あの後も普通に友達でいてくれた…元気かな。
「何だ此奴、あっちと違って処女じゃねーじゃん、地味な顔してやる事やっているんじゃないか?」
「やめてよーーーーっ汚いのは嫌、うんぐもぐうんぐううううん」
そう、残念だったね、あはははは…元通り壊れれば良んだ…それだけだ。
「赦して、もう許してよーーーーっ痛いの、本当に痛いのよ」
駄目だよ陽子ちゃん…こいつ等、クズだから許す訳ないよ..ゴミだもん。
何人の男に犯されたか解らない。
横で陽子も同じ様に倒れている。
多分、陽子は初めてだから、私以上に傷ついたんだろうな。
穴という穴から白い液体を垂らしながら、体中が土と精子の臭いでむせ返るわね、気持ち悪い。
「うえぇぇぇぇ」私は吐いた。
80人迄は数えたけど、後は解らない。
多分、その何倍もの人数に犯されたわね。
前も後ろも口も全部汚された…
もう終わりだわね…どうなるのかな、私達。
私はふらふらと立ち上がった。
これでもう終わりだよね、何処かに捨てられて終わるのそれとも殺されるのかな…禄でも無い事は確かだわ。
遠くから私達の事を便器とか性処理便器と罵っている声が聞こえる…そうね、あはははっそうだわ。
「こんな便器みたいな女でも《異世界人》だこの先力をつけると面倒だ、そうならない様に両手を斬り落として足の腱をきっておけ」
「いややあああっ、いやあああああ、たしゅけて…もうさかるない。さからうないからーーーーっ」
「あはははっ何言っているのか解らないな」
嘘でしょう? そこ迄なんでするの…笑いながら1人の男が陽子の腕を斬り落とした。
「ぎゃぁぁぁぁぁっぁーーーーーーっ、手、わうたしのてーーーっおうして。かうして」
陽子は気が狂ったように叫んでいた。
「うん? 返してやるから受取れ」
「あああああああう、あああああ」
腕がそもそも無いのだから受け取れるわけが無い、斬られた腕は胸にあたり地面におちた。
「うわたしのうでぇええええええええっうで」
陽子は座り込み必死に腕を抱え込もうとしていた。
何が起きたか解らず茫然としていた。
「いやや、いやああああっ、なうでもするよ、ほんとうになんでもすうから、手いやぁぁぁぁ」
「友達が可哀想でしょう、お揃いじゃなくちゃね」
「ぎやぁぁぁぁぁぁぁっいたうい、痛い、たふけて」
多分殺されて終わるんだ、そう思ったら違った、此奴らはとんでもないクズだった。
私も陽子もそのまま、便所に繋がれた、裸のままで。
此処までされていれば、もう解るわ解る。
私達は性処理便器になったんだと…
罵倒され犯されていく日々は狂わなければ生きていけない。
元々狂った事がある私には解る…むかし以上に狂わないと多分心が持たない。
陽子は反抗して顔の形が変わるまで殴られていた。
クズからは逃げられないよ…逆らうだけ無駄だよ。
ナイフを突きつけられたら、従うしかないよね。
「うぐうううん、ううん」
どうせ、しない訳にいかないんだ、逆らうだけ無駄だよ…..
しないと暴力をどれだけ振るわれるか解らないんだから、陽子ちゃん、陽子、諦めなよ、私は陽子が酷い目にあう所を見たくないよ。
あはははっ、本当にクズだ、妊娠した女の腹を殴るなんて。
「お前は妊娠しなくなったからな…女じゃない本当の性処理道具」だって…あんた家族が居たわよね、娘の前で奥さんの前でそれが言えるのかな?
貰えるのは残飯だけ、異世界のご飯は不味いのに…更に残飯、お魚とみそ汁が食べたいな。
まだ地獄が続くのね。
《とうとう私達に飽きた》 これで終わり?終わる訳ないよね…だってクズだもんね。
ゴミだもんね..
「これもう使えないよな」
「こんな精子の臭いがこびり付いて虫までたかっている女なんて抱く奴いる?」
「いや、こんなの抱く位なら自分でしたほうがましだ」
当たり前でしょう、髪も洗ってくれない、精子は掛けっぱなしで、あまつさえ糞尿も拭かない。
手の無い私達がどうやって綺麗でいられるの、馬鹿じゃない…
クズは何処まで行ってもクズだった。。
抱く事に飽きた私達は食事もままならなくなり、残飯も貰えない。
偶に残飯を貰えてもワザと糞尿が入っていたり、精子が入っていた。
それを見ながら「野良豚飯だ」と放り投げるクズ。
手が無くはいつくばって食べている私達を笑いながら見ていたわ。
陽子ちゃん、もう陽子で良いかなこの人は私の数少ない親友だし、多分私を心配しているんだろうな。
わざと心配させたままにするしかない。
そうしないと、陽子は自殺するから、剣道少女は潔さそうだからね。
こんな状況でも私は陽子に死んで貰いたくないんだ…ごめんね。
その頃になると最早性処理便器ですら無くサンドバック扱い。
「止めてよやめて…わたし、なにもしてない..よ」
「うるせーなゴミ女、いまむしゃくしゃしているんだ殴らせろ」
「いやぁぁぁぁぁ、何でもしますから…やめて」
反抗的な陽子ちゃんは良く殴られていたな。
私の倍は殴られていると思う…だけど、凄いなまだ陽子ちゃんは戦っているんだね。
陽子、陽子ちゃん、もうどっちでもいいや、頭が働かない。
とうとう、私も陽子も体が衰弱して動かなくなった。
飯も真面に食べられずにこれじゃ当たり前だわ。
そうしたら、今度は火であぶったりし始めた..く~ず。
体を動かす事すらままならない私達がが苦しむのを面白そうに見ていた。
こいつ等は人間じゃない…もし逃げだせたら、あんたの娘や奥さんに同じ事をしてやるわ。
あんたの娘まだ赤ちゃんだよね、同じ事目の前で…出来なこと考えても仕方ないわね。
何時までしても開放してくれない。
「イシュタス…イシュタス…呪う」
陽子が言い出した。
それを見た男たちが不気味がっているのが解った。
囁かな嫌がらせと自己防御の為、私も真似した。
私がこんな思いしているのはあの糞女神のせいだ..間違いない、彼奴が居なければ今頃、私は女子高生だったのよ。
毎日、女神を呪っていると、馬鹿な男たちが騒ぎ出した。
「不味いぞ、あいつ等は異世界人だ、女神様に頼んで俺たちを呪うつもりだ」
「あいつ等、死んだらイシュタス様の所に行くんだ…不味い」
そうよ、私はあの馬鹿女神の使いだったわ。
やがて、腫れものを扱う様になり、多分此処で死ぬと不味いのね、少しだけ食事が真面な残飯になった。
そして私達二人を負けたら命欲しさに犯した貴族達と一緒に奴隷として売られた。
ざまぁみろ。
ぎゃははははっお前達も奴隷だ。
だが、私達を犯したあいつ等は綺麗な檻にはいって店内にいるのに…私達は裏側のカーテンが閉まった暗い場所。
無造作に担いで投げられた瞬間に解った。
此処は死ぬ場所何だと…とうとう終わりが近づいてきたのね。
結局私がこの世で手にしたのは【三浦陽子】という親友だけだったのかも知れない。
食事は出る、前よりはましだ…だが檻の中にはトイレが無い。
他の檻の者は手で外に出していた。
同じ様にしたくても手が無い私や陽子には出来ない、しかも私も陽子もたつ事もできないから蛇の様に這いずるしか出来ない。
次第に檻の中は糞尿だらけになる。
水も真面に貰えない…体なんてもう数か月単位で洗って無い。
「た.す.け.て…」
もう声も出なくなった、死を覚悟した時カーテンがあいた。
そこには、とんでもない美少年が居た。
まるで前の世界の小説から出て来た様なとんでもない美少年。
違う、この人は夢なんかじゃない…お客だ。
こんなチャンスはもう二度と無い、こんな部屋に来る客はいない…最後の声を振り絞って懇願した。
「何でもします…夜の相手でも、やれと…いうなら、お尻だって…だからたすけてください…ゴミのように扱ってもよい…ですよ」
「二人 買います」
その声を聴いて私は意識を手放した、これでまだ生きれる…そう思った。
気がつくと私はベッドで寝ていた。
檻じゃない、便所でも無い、綺麗な部屋の見知らぬ天上…何処だろう?
お風呂から艶のある陽子ちゃんの声が聞こえてくる。
ベッドの上で寝ているけど…そうね、そうだよね、手も無い歩けない私達なんか《そう言う目的》以外で買う訳無いよね。
だけど、このクズはかなりましな気がする。
陽子ちゃんの声からして酷い事されてなさそうな気がする。
少なくとも人として扱ってくれていそうな感じだ。
何度、舌を噛んで死のうと思ったか解らない。
だけど弱くて勇気の無い私には出来なかった。
恐らく、陽子ちゃんは自分だけならさっさと自殺したと思う。
私の事を考えて陽子ちゃんは死ななかった、いや死ねなかったんだと思う。
私は陽子ちゃんに死んで貰いたく無いからあえて、そこに付け込んだ。
あの子、は優しいからね。
私は、周りをキョロキョロ見回した。
シャワーとお湯の音がして、そこからは艶やかな陽子ちゃんの声がしてきている。
多分扱いは性処理奴隷なのかも知れない。
だけど、あの声は今迄とは違う…多分今度のクズは真面なのかも知れない。
こんな体じゃ、もうこう生き方しか出来ない、生涯性奴隷として生きていくしかない。
檻の中で助けを求めた…多分幻想でも見たのかな、私が前の世界で読んでいた、アダルト小説の神様みたいな男の子が見えた気がした。
あんなのは幻想だよ、助けを求めて私が見た夢だ。
現実の男なんて虫以下、気持ち悪い生き物、もう誰にも触られたくない。
男なんて、男なんて、ゴミ、クズ、真面な奴なんて居ない。
ただ、ただ、女が抱きたいだけのクズだ。
「すん、すんぐすっ、ぐすっ」
多分、あそこで陽子ちゃんとしている男だってきっと気持ち悪い奴に違いないよね。
だけど、そんな人間でも、今迄の悪魔みたいな奴に比べたら…ましな人間なんだ..そう思うしかない。
男なんて、気分次第で自分が満足したいだけに女を抱いて、何回もされて擦れて血が出て痛いのに構わないで腰を振るゴミ。
そして、気分次第で暴力を振るって笑っているクズしか居ない…知っているわ男なんて全部同じだ…もう解ったから。
だけど…多分私達を買ってくれたのは…かなりましなクズだと思う。
少なくとも、お風呂に入れて貰えるようだし…まぁその分激しいんだと思うけど。
同じ女だから解るわ、あの声は酷い事はされていない、えーと喘ぎ声….酷い事されていない?
横であんな声上げていた陽子ちゃんは聞いた事も見たことも無い。
何かな…まぁどっちにしても、体目当てに女を買う、クズには違いないよね。
だけど、多分このクズは凄くましな部類なのかも知れない。
ちゃんとベッドに寝かせてくれるし、毛布迄掛けてくれているようだし。
そういえばキスされたような、まぁこんな肉便器奴隷にキスなんてしないわ。
そうあくまで性処理便器…苦い…薬草なのかな。
と言う事はキスは夢でなく、薬を飲ませてくれたの?
良いクズなのかな…私の人生はもう性処理便器確定、これはどうしようもない…なら少しでも環境の良い場所にいたい。
そう思うのは仕方ないと思う。
少なくともこのクズは、今迄のクズの中で一番良い。
もう、そんな生き方しか自分には無い…手も無い歩く事も出来ないんだから。
媚びないと…
「すん、すんぐすっぐすっ」
媚びないと、泣いてちゃ駄目だ。
「すん、すんうぇーーっぐすっ、げええええええっ」
駄目だ、媚びないといけないのに吐いちゃった…不味い、不味い殴られる、怖い怖い怖い。
お湯の音が止まった。
不味い、どうにかしないと…食べていれば、食べてれば許して貰えるかな…私は吐いた物を舐め始めた。
大丈夫、前にも何回もした、はやく、はやく綺麗にしないと。
クズがこっちに気がついた…ククク..ズ? 美少年、それも比類無い位に綺麗な…
「そんな事しなくて良いよ、具合が悪かったんだよね、大丈夫」
聞き違いかな…バスタオルを巻いた陽子ちゃんをお姫様抱っこしたランディウス様(真理の創作小悦の主人公)みたいな男の子が優しく語りかけてきた。
幻覚? 自分に手が有ったら間違いなく、目を擦っている。
「三浦さん、ちょっと待って、手際悪くてごめん、固いけどちょっと床に置くね」
「気にしないで下さい💛礼二様」
あれれ…嫌嫌じゃない、なんで陽子ちゃんメスみたいな顔してんの?
しかも優しいいーーーーっ!
クズだと思ったのに、凄く綺麗、神の子ランディウス様が本当に存在していたら多分こんな感じだ。
だけど、奴隷を買う位だ、中身はクズの筈よ…あはははっ中身がクズでも器が良ければ、かなりましに思えるのね。
綺麗なクズはシーツを交換するとその上に陽子ちゃんを寝かして毛布を掛けていた。
「少し休んだ方が良いよ」
「はい💛 礼二様、真理ちゃん、この人は全然違うから安心して良いよ」
安心なんて出来ない、確かに容姿は良いけど中身は同じだ。
ただ女が抱きたいだけでしょう。
えっ、お姫様抱っこ…なんだか凄く優しい。
騙されちゃ駄目…どうせ、どうせ、この人だって男だ。
「はい、口あけて、気持ち悪いでしょう?」
そういうとランディウス様に似たクズは私の口に指をいれシャワーで流してくれた。
しかも口の周りから胸にかけて綺麗にしてくれた。
「あの、そのね」
こんな事された事が無い、前は口に突っ込まれて苦しくて吐いたら、綺麗にしろと食べさせられて、何回も吐きながら食べさせられた。
「あっそうだ、自己紹介がまだだったね、僕の名前は礼二って言います、苗字は捨てました」
「私は湯浅真理って言います…」
ちゃんと名前で呼んでくれるつもりなんだ《肉便器》とか《便所》じゃなくて…
「それじゃ、頭からね」
優しいな、4回も頭を流してくれて、虫までついていたのに嫌な顔しないで…髪なんて洗ったのどの位ぶりかな?凄く気持ち良い。
「今度は体ね、横になって」
「解りました…これで良いですか」
「うん、大丈夫」
石鹸つけて手で洗うんだ、たしかに、あかすりとかじゃ傷だらけだから痛い…そんな事まで気をつけてくれたのかな。
「あっあああっあはんっんっああっ」
駄目、声が出ちゃう、こんな大切そうに触られた事は無いよ、クズたちと違う、絶対に違うよ~ 触られるだけで、なんで、なんでこんなになるのよ。
「ごめん、擽ったかったかな」
「ううん、そんな事ない、そんな事無いですよ、ハァハァハァ~」
何なのかな、これ、全然違う、全然違う、今迄のとは全然違う…今迄は苦痛しかなかったのに..これはうっとりするほど気持ち良い。
「あの、少し声を押さえてくれるかな」
「うっうん、解ったうん、うんうふううん」
嘘、汚いとか汚物みたいな言い方されていた、私のそんな所まで触って洗ってくれるの..ほんとに汚いのに、あああっ駄目だ。
「あん、ああんあっあっふぅーハァハァ、ああああーーーーっ」
全然違うよ、これ、これが多分私がこの世界に来る前に好きだった小説の世界…はぁはぁ駄目だよ、頭の中が可笑しくなる。
体が嬉しくて、嬉しくて顔が赤くなっちゃうよ…しかも駄目だ目が合わせられない、こんな凄い美少年が、私の汚い所を指をつかって綺麗にしていくなんて…ばっちいのに..
「あの」
「あっ…..ごめん、良かったら私も何かしてあげようか? 口が良いかな? 上手く動けないけどしたいなら、自由に使ってくだ…さい」
何を言っているのか解らない、私の体は何百人の相手をして何千回と犯されている。
だけど、私は一つだけしなかった事があるのよ…それは幾ら殴られても酷い目に遭っても自分からは誘ったり、自分からした事はないよ。
それだけが最後の意地だった。
だけど、駄目、こんなに優しく、宝物みたいな触られ方したら…それを差し出したくなっちゃう。
「無理しなくて大丈夫だよ」
「無理なんてしてないから、本当に…それに辛いでしょう」
「だけど…」
「そうか、沢山の男に抱かれた中古女なんて抱きたくないよね? 手も無いし気持ち悪いよね」
「そんな事無いよ、凄く可愛いと思う」
可愛い、そんな事言われるだけで、顔が凄く真っ赤になっちゃう。
「可愛い? それなら良いじゃない」
「今の真理さんは傷ついているんじゃないかな? そうだな、これから一緒に生活して傷が癒えた時に言って欲しいな」
なにこれ、全く別の生き物じゃないかな? 男は全てクズ、そう思っていたけど、礼二さんは別…うん神様とゴキブリ位差がある…
勿論、礼二さんが神…なんでこんな優しいのよ、こんなゴミみたいな女と一緒に生活してくれてるって言うの? 性処理に使わないなら只のお荷物抱え込んだだけなんだよ、本当に良いの?
駄目じゃんもう…全く。
「それじゃ湯船に入ろうか?」
「うん、礼二さんあたっているよ」
「ごめん」
「良いよ、私は何時でも準備OKだから、その気になったらいつでも声かけて」
「傷が癒えたらね」
あはははっ、私って凄く現金で強かったのかな。
まさか、あんな地獄の様な記憶が、もう幸せに変わっちゃうなんて…うん凄く幸せ。
手が無い、歩けない…それが何?
今の私は凄く幸せだよ。
だって夢のなかから出てきたような美少年との生活、楽しいよ。
もしかして私は小説のヒロインなのかな?
そう、錯覚しちゃう…タイトルは「勇者召喚かと思ったら残酷系恋愛小説だった、ダルマ少女は黒髪の美少年に愛されて」なんて感じかな? まぁ足があるからダルマまでいかないけど。
だけど、これって対等な恋愛じゃないと思う。
サナさんが居ないときは陽子も私も…恥ずかしい事を頼まなくちゃいけない。
私は手が無い、陽子も同じだ、トイレに行きたくなったらパンツの上げ下げから全部して貰わないといけない。
小さい方ならまだ良いよ…大きい方の時は拭いて貰わないといけない、しっかり紙で。
現実は小説やドラマじゃない、凄い美少年に用をたしたあとのお尻を拭いて貰う、凄く悲しい気分になる。
たしかに、少し前までは檻で垂れ流し、その前は便所で垂れ流し状態で生活していたよ…人前でさぁ。
だけど、こんな美少年に拭かれるの絶対に…嫌だけどどうしようもない。
手が無いんだから…
親戚のお婆ちゃんのオムツをおばさんが替えていたが、多分私には出来ないと思う。
礼二さんなら…うんしてあげる、まぁ手が無いから出来ないけどね。
礼二さんはこんなに私を好きにさせて何がしたいのかな?…しょっちゅう《一生面倒みる》なんて言っているし、私達の代わりに敵討ちまでしてくれて、お金迄取ろうとしないんだよ。
これの何処に私が抱かれない要素がるのかな?
嫌いになる要素なんて何処にあるのかな?
手も無ければ、真面に歩けない、そんな女を一生みる? そんな覚悟まで決めた男性を受け入れ無い訳ないじゃない。
もし、礼二さんがオークみたいに醜くても受け入れるわ。
だって彼はこの世界で唯一クズじゃない男なんだから。
プロポーズ以上よ、介護が必要な女を一生みるなんて、前の世界だってこの世界だって言える男はいないっーの。
こんな手足に欠陥のある女に《一生》なんて言っているのよ?
しかも、ちゃんと嫌がらないで介護しているのよ?
何しても良いに決まっているじゃない?
あれだけの美少年相手なんだから寧ろ私の方が悪いわよ….
はっきり言ってしまえば1000万円だして死に掛けの犬や猫を買ったのよ…
歩けないし、ご飯も真面に貰えないで虐待を受けた犬や猫。
そんな犬や猫に暖かい家と、抱っこされるぬくもり、高級フードにお風呂。
そんな物与えたらご主人様が大好きになるでしょう?
ちゃんとお世話までして愛されたら、どんな犬でも猫でも懐くわよ。
恋愛って本来はお互いに対価を払う物だと思うの….
今迄のクズはただで無理やり奪っていったのよ…だから0.
だけど礼二さんはそんな私に、考えられない高額をつけたのよ?
全然釣り合いなんてとれない、そんな事されたら身も心も差し出したくなるわよ…まったくもう。
礼二さんが言っている事は《結婚して専業主婦にしてあげる》それより重い言葉ばかり。
それなのに、私は家事も真面に出来ない女、介護が必要な女。
何時抱いて貰っても良い…それでも足りない。
嫌な話し、そっちの経験だけは多いから何でもしてあげる。
私に出来るなら何でもよ…
いや、逆かもしれない、あれだけの美少年…抱いて貰いたいのは私…あはは仲良く成れば成る程、うっ借金が増えていくのかな?
兎も角、私は礼二さん限定、何でもする女なのよ…
他の男?
ハァ~クズしか居ないでしょう? 視界にもいれたくないわね。
長い夜の終わり
僕は0.001?のゴムを取り出した。
この世界には避妊魔法があるが、多分僕には使えない可能性があるから買っていた。
「それは要りません」
「私も要りませんよ、大丈夫です」
「だけど..あっ」
二人はあんな状態だった。
もしかして子供が出来ない状態なのかも知れない。
「気にしないで良いですよ? 想像通りです」
「あははっ避妊しないで大丈夫ですからね? 生で思いっきり楽しみましょう、あーむレロレロ」
正直僕は経験が少ない、どうして良いか解らない。
何をして良いか解らないから頭を撫でてあげた。
「あっあああああーーーーっ」
《これは何、ただ頭を撫でられただけなのに体の底から暖かくなる》
「あんあんハァハァ」
《これ絶対に今迄とのは違う、下半身が熱くなる、何なのこれ、こんなの知らない》
正直触るのが怖い、三浦さんも湯浅さんも多分トラウマを抱えている。
出来るだけ優しく触らないと…
「あーあんあん、あんあむぬちゅうハァハァハァ」
《一体何が起きているのか解らないわよ、全然別物だよ..こんな体が溶けちゃいそうなの絶対に違う》
「ぬちゃペロあーーっはーはー」
《駄目だ、ただ触られているだけで体が感じちゃう、これは私からの…駄目、何も出来なくなっちゃう》
「礼二さん、あああーっ、これ凄いうううん、はーはーああああーーーっ」
「これなんなんですか?これこれーーーっ」
えーとこれは何なのかな?
僕は人生でこんな経験は2回しか無い。
そんなに上手いとは思ってない。
頭を触って、ちょっと触っただけなんだけど、まさか変な薬とか呪いとか掛かっているのかな。
「うん、2人とも可愛いからつい頭を撫でて頬を触っただけなんだけど」
「可愛いですか、嬉しい有難うございます」
「ありがとう、本当にうれしいです」
《可愛いって言われちゃった、だったらもっと頑張らないと》
《私が可愛いんだ、うん、そんな事言われたら、もう、こうしちゃうから》
信じられない、三浦さんは剣道少女で何時も光り輝いていた。
苦学生の僕と違い、部活に真剣に打ち込む姿は凄く綺麗に映っていた。
湯浅さんはおとなしい子だったけど、本を何時も読んでいたっけ。
そんな二人とこんな関係になるなんて…
「二人とも凄く綺麗だよ、本当にそう思うよ…」
《嘘、そんな汚い所まで触ってくるなんて、真顔で綺麗なんていわれたら、可笑しくなっちゃうよ》
《私が綺麗な訳ない、無いのに~真顔で言われたら、駄目、本当にそう思われている気がしちゃうから》
「あっあっああああーーーっ、そんな所まで」
「あっ、それ駄目、ああああん、そこは汚いから汚いよ」
別に気にならないな。
「好きな人に汚い所なんて無いよ」
「そんな、そんな礼二さんうますぎる、うますぎるよぉ~」
「凄く経験があるのかな? ハァハァ~駄目ああああああっ」
「経験なんて余り無いよ、片手で納まる位しかない」
少しサバを読んだ、流石に2回とかは恥ずかしいから。
「そんな、嘘…本当?ほんとう? あああああっ、そんな信じられない、それでこれ? あああっだめ」
「そんな、そんな、それでなんでこんな、なの?おかしい、可笑しいよ」
「僕は大好きな二人が喜ぶ顔が見たいからしたいようにしているだけだよ?」
だけど、可笑しい…どうしたら喜ぶのか何故だか解る。
「ああああっ駄目ああああーーーーーっいくいくいっちゃうよー」
「私もいくいくいく、ああああーーーっいっちゃう、いっちゃうんだからーーーっ」
二人の体がビクンと飛び跳ねた、その瞬間ぶしゅーと音をたてて二人の股間から潮がふいた。
「はぁはぁはぁあっ礼二さん」
「はぁはぁ駄目、もう礼二さんしか見えない、見えなくなるよ」
《これが本当のSEXなのかな? これがそうだとしたら今迄のは何、こんなに気持ち良いなら世の中に拒む女なんて…いない》
《私が淫乱なんじゃない..はぁはぁ礼二さんが気持ち良いんだ…絶対他の男じゃこんな気持ちにならない》
【三浦陽子SIDE】
頭を撫でられるだけで気持ち良い…まるで宝物を触る様に触るんだから。
「はぁはぁ、気持ち良い..うんああああっ」
頬っぺたにキスされた、こんな事をされた事無かったのかも知れない。
顔がこれだけで赤くなる。
同じ様に真理も顔を赤くしている。
礼二さんの手が胸に触れた瞬間に顔はゆでだこの様に真っ赤になる。
体が熱くなるような気がした。
さっき迄、礼二さんを気持ちよくしようとしていたのに、体が硬直して動けない。
触られたくて触られたくて…ハァハァハァどうしようもない。
それと同時にとんでもない快感が押し寄せてくる。
気がついたら私は自分から股間を押し付けていた。
本当に厭らしく、自分が凄く淫靡な存在になった気がする。
本当は私が、私が礼二さんを気持ちよくしたい、私がしなくちゃいけないのに…
駄目…快感に夢中になって貪りたい気持ちが止まらない。
これは何、なんなの、こんな経験今迄に無い、これがそうだというなら、今迄のは全部違う。
今迄の不幸がたったこれだけで全部消えていっちゃう。
今この瞬間がハァ~幸せ。
「あん、そんな所汚いよ、本当に」
「気にならないから、大丈夫だよ」
「ああああっあああああん」
そんな汚い所舐めるなんて…しかも大切にそうに、そんな。
優しすぎる、幸せすぎるから~ああああ~っ。
駄目、駄目、体が緩んじゃうよ、とろとろに緩んじゃうよ~。
こんな思いが出来るなら…手も足も要らない…
結局、私はだらしなく涎を流して股間が緩んだ状態になっても快感から逃げられない、いや貪っていた。
「ああああん、あは~んあああああっ」
【湯浅真理SIDE】
頭を撫でられただけで、体が熱くなる。
火照るとういうのはこの事だと思う…こんな感触があるなんて知らなかった。
「ああ~ん礼二様、ああああっ」
こんな事だけで可笑しくなってしまう、今私は自然と《様》と言っていた。
SEXとか性的な物は苦痛でしか無かった。
昔、こっそり読んでいたレディース小説の様な事は空想にしか過ぎない、そう思っていたのに…本当に..ハァハァあるんだ。
違う、違う、これはお礼なんだ、私がしてあげなくちゃいけないの…
「礼二様、あっあっあああああん、、私が、私が..しハァハァ駄目ーーーーーっ」
私が、私が…する、ああん駄目だ、触れるのが気持ち良い、唇が当たるだけで駄目だ。
気がつくと私は礼二様の唇を貪り股間を手に押し付けていた。
駄目贖えない、快感から逃げられない。
これが本当のSEXなのかも知れない、奪うのじゃなく与える物..
「ハァハァハァ…駄目、そんな所駄目だよ…」
汚いと罵られた所に唇が当たる、そのまま舌が差し込まれる。
何で、そんな事ができるの? そこは…駄目、そんな所、汚いのになんで大切そうに舐めるの?
そんな事されたら、私、私は~ぁ
「好きになったら気に何てならないよ」
「ハァハァハァ、ああああっあんあっ」
舐めちゃいけないと言いながら、私はなにしているの? 押し付けているよね、駄目離さないと、だけど止められない、ごめんなさい。
この性欲が止まらないの~多分私はもう狂っちゃったよ…この快感から逃げられない。
他の男がもし私を抱こうとしたら…殺しちゃうかも知れない。
それが敵わないなら、死ぬかもしれない..
「大丈夫?」
「へっへーきです…はぁはぁやめないで、もっと、もっとーーーっ」
駄目だよ、こんなの、こんなの、そんな所まで舌を差し込まれたらあああああん。
礼二様のが凄いなんて…はぁはぁ知っていたよ。
だって、愛情が無ければ、あんな介護なんて出来ない。
排泄した女のお尻なんて拭けない、多分、あの時点で愛されていたんだ。
あんな事出来る礼二様が…此処までするのは当たり前だ。
愛って凄い、凄すぎる~
最早私には何も出来ない。
「あっあっああああああん」
ただただ、快感を貪るしか出来なかった。
【二人 陽子SIDE】
私は気を失っていたみたい。
あんな快感の渦に巻き込まれてんだ仕方ない。
「はぁはぁ凄すぎるよ、ニヘラ~あああん」
凄く酷いありさまだね..口から涎れがたらしっぱなしで足がひらっきぱなしになっている。
まるでレイプされた後の様に悲惨だ、だけどまだ快感が走っている。
油断すると体から直ぐに力が抜けていて快感の渦にまた撒き込まれる。
終わった後迄続く快感ってなにこれ…まだ欲しがるの私、どんだけ淫乱なの…
そうだ、真理ちゃんは
「ううん、はぁはぁしゅごい、しゅごすぎるよハァハァ駄目」
全く同じ様に股を開いて涎垂らしている。
私も真理ちゃんも毛布が掛かっていた。
本当に優しいんだから…駄目、私何やっているのかな?
礼二さん一回もいってないじゃん。
多分、私は50回以上はいかされっぱなしだった。
途中からは数えて無いけど、それ位はいった気がする。
駄目じゃん、これじゃ。
「真理ちゃん」
「うん」
真理もどうやら気がついたみたいだ、
礼二さんは眠っていた。
私が礼二さんの唇を貪り、真理が乳首を舐め始めた。
「うん、うんうん」
「ぺろぺろチュパっ」
こういう時に手が無いのが切ない。
あればあと4か所も触れるのに。
驚いた顔で礼二さんが目を覚ました。
そして、手が私の股に伸びてきた。
多分これを受け入れたら、また同じになっちゃう。
「ぷはっ、駄目ですよ礼二さん、今度は私達の番です」
「そうですよ、じっとしていて下さい、今度は私達が気持ちよくしてあげますからね」
そのままキスを続けていたが…何この臭い、凄く良い匂い。
嘘…昨日より私敏感になっているの? こんなの可笑しい、今日は汗の臭いが凄く良い臭いに感じる。
唾液が、唾液が美味しい。
「うぐっうううん、ぷはっ、うんちゅるっ」
私の体可笑しいのかも知れない、股間が濡れだして洪水みたいで恥ずかしい。
まるで礼二さんの涎や汗が媚薬みたいに感じる。
頭が蕩けるようになる。
だけど、それは真理も同じようだ。
顔がとろーんとして涎が垂れてきていた。
このままじゃまた、私達だけが気持ち良くなるだけ。
そう思った私は腰を下ろしていった。
なかなか入らない。
手が無いのはこういう時不便だ…本当にそう思う。
礼二さんは、手を添えてくれた。
そのまま私は座ると無事に受け入れることが出来た。
「陽子、ずるいよ」
真理のそんな声が聞こえて来たが、今の私には余裕なんて無い。
腰を振る事で精いっぱいだ。
「あん、あんあんああああっ、あ.あああああーーーっ」
これ、何なのかな? 今迄受け入れて気持ち良い事なんて一度も無かった。
信じられない、ただ入れただけで、信じられない程感じてしまう。
今迄のも凄かったけど…これはこれは…ああああっ何も考えられなくなる。
頑張って腰を振り続け、気がつくと8回も私はいっていた。
そこまで頑張ってようやく礼二さんをいかせる事ができたみたいだ。
「はぁはぁはぁ、凄すぎる、礼二さん…好き」
「僕も好きだよ」
そのまま私は横にずれた。
【二人 真理SIDE】
酷い、先を越されちゃった。
暫く私はお預け状態だった。
だけど、陽子ちゃんの様子を見ていると、凄い快感に飲まれているのが解る。
凄くエロくて、恍惚に満ちた顔をしている。
体がビクビク震えていて、多分その度にいってしまっているのだろう。
だけど、冷静に見ると、あの陽子ちゃんが雌の顔をしている。
気持ち良くて自分から腰を振る。
そんな事想像なんて出来ない。
剣道小町とか言われて凛とした陽子ちゃん。
高校の同級生時代はカッコ良くて剣道一筋、性欲の欠片も見せなかった。
此方に来てからは、苦痛な顔しか見たことはない。
だけど、幸せなのは解る。
早く私の番にならないかな。
ようやく私の番がきた。
横にずれてくれた陽子ちゃんの代わりに私が跨った。
「あああっあああああああーーーっ」
一回終わった後なのに、全然元気なままだった。
それより、陽子ちゃんを見ていて想像はついたけど…
「ググツグゥーーーーッ」
「大丈夫?」
「うん、平気…ハァハァ」
入れただけでこれ…動かしたらどうなっちゃうのかな?
ハァハァ、陽子の気持ち、良く解るよ。
これ凄く気持ち良いーーーっ。
礼二様の為なんて言うけど..腰が腰が止まらない。
「あへっああああああっ」
夢中になり気楽を貪る。
もう6回はいっているのに、礼二さんはまだいってない。
結局、8回もいかされながらようやく私も礼二様をいかせる事が出来た。
嫌いな精子が好きな人の物だと好きに思えるのは…不思議だ。
「礼二様、愛しています」
「僕も愛しているよ」
【???SIDE】
ようやく満足させてあげられお互いの顔を見た。
これで…
「何をしているのかな? 寝たふりのままなんて出来ないじゃん」
「ごめん、サナだけどサナは共犯だろう、そうじゃなくちゃ」
「ええ、そうですよ、だけど、三浦さんに湯浅さん、常識を考えて下さい」
「あの、ちゃんとサナさんにお願いしたよ?」
「うん、筋は通したよね?」
「あのね常識で考えてね!今は何時なのかな?」
「4時だね」
「4時ですね」
「4時…」
「あのね、朝の4時じゃないのよ? 夕方の4時なの? 流石に寝たふりも大変なのよ、お腹は空いたし、トイレだって我慢したんだから」
「「「なんだかごめん(ね)(なさい)」
《あれっサナさんの下着が》
《濡れているわね…そう言う事だね》
「礼二さん、サナさんの手を持って」
「こう三浦さん?」
「ちょっと待って、何するの?」
「そのまま礼二様引っ張って下さい」
「えっ」
「ちょっと、何….」
「サナさんもしたかったんですよね」
「そうですよね…」
「そんな事…あるけど..私はあんな激しいのは」
「「礼二さん(様)剥いちゃいましょう」」
「ちょっと待って、礼二は良いけど女の子は駄目、駄目だよ、私はノーマルだから」
「そうですか?」
「そうなんですかレりレロ」
「ちょっと止めて、ねぇうぐっうううんぷはっ 止めて」
「変なサナさん…私手が無いんですよ? 本当に嫌なら簡単に振りほどけるよね?」
「そうですよね、こんなに濡らしちゃってまぁ…礼二様どうぞ」
「ちょっと礼二恥ずかしいよ、あっあっあっだから恥ずかしいからあっあっあああああーーーん、ハァハァ」
「ごめん嫌だったら止めるよ」
「つ.づ.けて」
「えっ?」
「もう、嫌だ、続けてって言っているのよーーーっ言わせないで凄く恥ずかしいから」
結局、彼等がベッドから出たのは夜10時を廻ってからだった。
※ さん、様、呼びつけに口調が変わるのは間違いで無く、感情によるものです。
(約2話~3話で第一章とでもいう部分が終わります)
括ってくれてありがとう。
結局、起きてすぐに夕食を済ませて、そのまま寝ることになった。
だけど眠れない。
右側が三浦さん、左側が湯浅さん、そして上にサナが乗っている。
「ごめん、流石に重くて眠れない」
「それじゃサナさん退いてあげて下さい」
「そうですね、礼二様が重そうです」
「そんな、今日は私二人より凄く少なかったんだからこの位良いじゃない…ねぇ礼二」
サナが涙目になっている。
どうしようかな?
「不公平だから、今日は僕はソファで寝るから、ベッド二つは三人で使って」
「そんなぁ」
「そうですよ、これからしないんですか?」
正直言えば病みつきになる。
だけど、真面目に生活しないと不味い。
働かないと…お金があるからって流されちゃ駄目だ。
「今日は止めておくよ…あれだけ過激なサービスしてくれたらもう満足だよ」
本当は違う…僕はとんでもない位にドスケベだったようだ。
まだまだしたくて仕方ない。
だが、こんな肉欲に溺れちゃだめだ。
だけど、何を勘違いしたのか三人は顔が真っ赤になりおどおどしだした。
「あの、違うんですよ? あんな事していて何ですが、私は決して淫乱とかビッチとかじゃないんです…ああああっあんなになるのは礼二さんだけですからね…本当に違いますから」
うん、竹刀振るっている姿を見ていたから知っているよ。
「私だってあんな淫乱じゃ、ないです、礼二様にしかあんな事しません…だけど礼二様には淫乱女で良いです、何でもしたくなりますから、うん何時でもして良いですよ」
知っているよ、文学少女だもんね、凄く清楚だったの覚えているから。
「わ..私は礼二が初めてだし(人間では)解っているでしょう」
そうだね。
「「「だからーーっ本当に違います(よ)(から)(ね)」」」
「うん、解ったよ、そんな三人が僕にだけそうなるなら…嬉しいから」
「「「ありがとう」」」
こっち迄顔が赤くなるよ…まったく。
次の日、ギルドに能力測定用紙を買いに行った。
「能力測定用紙は日本にはありません、強引に会わせると健康測定になりますが、こちらの方が精度が高いので1枚8万円になります」
触ると効果が無くなりそうだから、持って行った風呂敷に包んで貰った。
本当は湯浅さんや三浦さんに頼めば良いが、歩行困難で手が無い…そして男性恐怖症だから無理だよね。
「ただいま」
「お帰り、礼二」
「お帰りなさい礼二さん」
「お帰りなさいませ礼二様」
うん、家に誰かが居るって凄く嬉しく感じる。
それが美少女三人なんて嬉しすぎて堪らない。
「それで、今日は能力測定用紙を買ってきたんだ、今の三浦さんや湯浅さんに異常がないか知りたくてね」
「確かに、あんな事があったから能力に変化があっても可笑しく無いかも」
「うん、手が無くなってから、体力が無くなったかも知れない」
「それじゃ試してみようか」
本来は手で握っていれば良いが、彼女達は手が無いから口で加えた。
案外口で紙を加えている少女って可愛いかも知れない。
よく考えたら、前に王城の時に僕はこれを使った記憶がある。
そう考えたら此処まで慎重でなくても良かったかも知れない。
だが、念の為、見るまでは触らない様にしよう。
2人が口から離した後見たステータスは
三浦 陽子
LV 8
HP 58
MP 0
ジョブ 無し
スキル:翻訳
湯浅 真理
LV 8
HP 50
MP 0
ジョブ 無し
スキル:翻訳
「嘘でしょう、私HPは200近くあったし、MPは300位あったよ…しかもジョブも無くなっている」
「私はMPは余り無かったけどHPは350あったのに…何でまぁ使えないから回収でもしたって事」
あの糞女神やってくれる、2人は用なしですか…そうですか。
ますます僕は女神が嫌いになった。
うん、待てよ…女神から恩恵を受けていないなら、2人とも《日本に括れる》のではないかな。
そう考えていたら。
頭の中にサナの時と同じアナウンスが流れた。
あれっサナはこの世界の人間なのに、今思えばよく括れたな。
どうしてだろう?
まぁ良いや、今はそんな事より二人だ。
《三浦陽子を日本に括りますか?》
《湯浅真理を日本に括りますか?》
「あの二人ともちょっと話があるんだけど良いかな」
《まさか、此処までの無能だからまさか、捨てられちゃうのかな》
《違うよね、そんな事しないよね》
「なんで涙目になっているか解らないけど、異世界人じゃ無くなったなら《日本人の迷い人》にならない?」
「それって礼二さんやサナさんと同じになるって事ですか?」
「そう言う事ですか?」
「うん」
「礼二さんと同じになれるなら嬉しいです」
「私も同じです、是非お願い致します」
僕はそのまま《日本に括る》を選んだ。
《三浦陽子は日本に括られました》
《湯浅真理は日本に括られました》
うん、無事に括られた様だ。
「うん、終わったよ」
「えっ、何か変わったのでしょうか?」
「何も変わったきがしませんが、本当ですか?」
「外に行く事が出来れば実感できるんだけど、難しいよね」
「すみません、怖くて」
「私も男性が怖くてごめんなさい」
サナが袖を引っ張った。
「どうした?」
「私に二人と話させて貰って良いかな?」
「別に良いけど?」
「じゃぁ少しだけ席を外して貰えるかな?」
「了解」
【女三人で】
「どうしたんですかサナさん」
「礼二様抜きなんてどうしたんですか?」
「あのさぁ、こんなチャンス逃して良いの?」
「チャンス?」
「チャンスって何かあるの?」
「外に出掛けるのを1人にすれば礼二とお出かけ…デートだよね? しかも歩けないならおぶって貰って、私ならこんなチャンス逃したくないけど」
ハァ~また私だけ適用外…詰まんないな。
「はぁ~気がつきませんでした、一緒じゃ無くてバラバラにすれば、確かに二人っきり、しかもおんぶで…ううっどうしよう」
「礼二様がずうっと密着したままで半日、そんな快楽もう溜まりませんよ…頑張ってみようかな」
「それでどうするのかな?」
「そうですね、何時かは治さないといけないと思うから挑戦しようかな?」
「私も頑張ってみます、無理なら礼二様に帰ってきて貰えば良いんです」
「そう、なら直接外出したいって伝えてね」
「「はい」」
【翌日】
「サナさん騙しましたね?」
「サナさん、酷いです…そんな」
サナは車椅子を2台用意していた。
昨日のうちに、礼二に楽に足の悪い人を連れだせる道具が無いか聞いてみた。
この世界には無くても日本という凄い国にはあるかも知れない、そう思ったからだ。
そうしたら案の定あった。
早速、朝一で見に行って2台買ってきた。
馬車代(タクシー代)は勿体なかったが、2人きりのデートが防げるなら安い物だ。
まぁサナにとってはだが…
確かにこの世界にも車椅子はあるが、これは別物、こんな凄い物があるなんて、日本って凄い…サナは本当に思った。
「それじゃ行かないの? 確かにグレードは下がったかも知れないけど? 二人が来ないなら良いや、今日は思いっきり礼二に甘えちゃおう」
「「うぐっ」」
成程、これはサナの策略なんだな、よく考えた物だ。
なんだかんだ言ってサナは2人に優しい。
ちゃんと二人の世話をしているし、今日だって早起きしてあの車椅子を買ってきた。
「私が礼二さんと一緒に出掛けない訳ないじゃないですか」
「私だってそうです!」
結局4人で出かける事になった。
これも、多分日本に括られているからか、周りに注目される事は無かった。
二人が気がついたようだ。
「礼二様、この車椅子..メイドインジャパンって書いてある」
「嘘…本当だ、しかもこれどう見ても新品だよね、タイヤのメーカーも日本の会社だし…何で」
二人して僕の方を見て来た。
「これも迷い人の力かな、あはははっ」
「迷い人って何なんですか?」
「よく考えたら、あの部屋にある物、殆ど日本製でしたね? シャンプーにリンス、挙句は石鹸迄、しかも毛布にはウールマーク、布団にはダウンのパーセント表示がありました」
「口で説明しにくいから、今日実際に経験してみてよ」
「何が経験できるんでしょうか?」
「何か解りませんが面白そうですね」
サナが自慢げな顔をしていた。
「それで一件目なんですが、良いお店みつけたので、そこに付き合って下さい、その後は礼二にお任せで良いので」
「解ったけど、どんなお店行くの」
「内緒です」
路地裏の奥に来た。
サナはニコニコしながら歩いているけど変な場所な気がする。
看板も出てない、お店に案内された。
「礼二ここです、此処」
「何のお店?」
「此処凄いんですよ? 車椅子を探していたら辿り着いたんです、凄く良い物が沢山あるんですよ」
入って見ると此処は介護用品店? なのかな、流石の僕もこう言ったお店には入った事が無いから解らない。
「いらっしゃいませ」
「礼二さん、もしかして日本に帰ってきたんですか…日本のお店ですよね此処」
「そうなのかな、あれ、少し違う様な気もしますよ」
驚くよな、これ、僕も驚いたよ。
「家に帰ってから詳しく話すから《迷い人》生活を今は楽しもう」
二人はぽかーんと口をあけたまま、首を縦に振った。
「礼二、これこれ、これを二人に買ってあげたかったんだよね」
サナがバイクの時に履くようなプロテクターブーツ? みたいな靴を持っていた。
「それは何?」
サナに聞いたのだが、店員さんが答えてくれた。
「それはですね、下肢装具って言いまして歩行を補助する物になります。その中でもそれはかなり固定力が強い物になります」
成程、2人は足を斬り落とされた訳じゃ無いから、こういった補助器具をつければ歩けるそういう事か。
「確かに、それをつければ歩けるかも」
「うん、歩けるね」
「それじゃ、それを2人分下さい」
「左右揃えて2足ですね、有難うございます」
良く見ると、周りには他にもいろんなタイプの下肢装具があるがこれが一番良さそうだ、その分金額も高い。
高いとはいえ二人分で10万円もいかないからそれ程痛い金額じゃない。
その足で、ギルドに向った。
二人の体が少し震えていたが、幸い中途半端な時間なので冒険者が少ない。
かなり顔が青い二人の傍で年金と保険の申請をした。
全く持って未だに仕組みは解らないが…
「これで申請が終わりました、これは仮の保険証になります、正規の物は後日、ご自宅にお送りしますね」
「有難うございます」
その際に二人の税申告もギルドの職員にお願いした。
お金は僕の口座に入っているので、そこからのやりくりで頼んだ。
今度は診療所に向った。
日本の技術なら彼女達の腕はどうにかなる、そう思っていたからだ。
理由は、僕の頭の中には、何といったら良いのだろうか?
ロボットの腕の様に自分の意思で動く義手があったからだ。
とはいえ、記憶にあるだけで、本当の所は映画だったのかも知れない。
自信が無い。
「嘘でしょう、診療所が中に入った途端に何で病院になるんだろう」
「これどんな原理なのかな…」
二人は驚きの表情を隠しきれない。
外科の受付けをして暫く待つと順番が来て呼び出される。
「見た感じ、全部治療は終わっているみたいですよ…上手とは言えないようですが」
二人も同じ考えの様だ。
「あの、勘違いかも知れませんが、ロボットの様に動く義手があった気がするのですが」
「ああっ筋電義手の事ですね、確かにこのケースなら使えるかな」
「そんな物があるんですか?」
「言われて見れば、昔テレビで見た気がする」
サナが驚くなら解るが、日本人の三浦さんや湯浅さんが何で驚くんだろう。
色々話し合い、利き腕側は筋電義手にしてもう一つの腕はシリコン製の見た目が殆ど自分の腕にしか見えない義手にする事にした様だ。
話を聞くと、義手の代金はいったんは納めなければならないが後でお金は申請すればかなり戻ってくるらしい。
その後は、四人で店を回った。
薬品店に入った途端に中がドラックストアになったのを見て三浦さんも湯浅さんもさっき以上に驚いていた。
「あはははっ、これ凄いですね…」
「こっちの方が、変なジョブ貰うより遙かに良いや」
三人は凄く楽しそうに店内を回っていた。
僕は例のゴム製の薄い物を気がつかれない様にこっそり買った。
二人は兎も角、サナには必要だ。
しかし、此処が一番凄いな…テン〇まであるし。
しかし、女の子は買う物が多いんだな…化粧水に抑汗スプレーにリップに生理用品に次々とカゴに入れていく。
最も入れていくのはサナで二人は膝の上にカゴを載せているだけだ。
会計になると。
「3万2千800円になります」
結構な金額になった。
二人は…
「支払いも円なんだ、迷い人って凄い」
「どういう仕組みなのか、全然解らない、こんな事どうしたら再現できるんだろう…」
確かに驚くよね…仕組みは聞かれても解らない。
しかも、その日の夜に届く宅配サービスまであったので頼んだ。
その後は道具屋によったら、端っこに日本人専用コーナーがあった。
「このコーナーの物は《日本人》の為の物で他の方は物理的に購入できなくなっています」
そういう説明がなされた。
あったよ、ウオシュレット、電気が無いから魔石を使うみたいだけど、何故かメイドインジャパンのTO社製。
炊飯ジャーもサイ印、電子レンジは無かったけど、オーブンはあった。
全部買って送って貰う事にした。
ちなみに、魔石は僕でも触れる、多分電気の代替だからかも知れない。
流石にPCやテレビ、スマホ等の情報グッズは無かった。
まぁ発信者が居なければ使えないし、あったら、別のラノベの主人公に…触れちゃいけない。
その後は食事を買って帰った。
もう暫くしたら街は混みだす…男が嫌いな彼女達には辛いだろう。
家についてから、僕は今の状況について話した。
僕の正体以外を全部。
「凄いね、勇者の聖剣も魔王の攻撃すら効かない可能性があるんだ」
「その代わり、熊や猪に負けるけどね」
「オークやオーガーは攻撃事すり抜けるんだね…無敵..」
「盗賊の錆びた剣でも死ぬけどね」
そう、今回の2人の災難は《日本人》でも防げなかった…あれっ違うな。
もし、僕が遭難したら《日本人》だから捜索隊がでる。
そう考えたら、最初の悲劇は起きても、その後は奪還作戦が起きて助け出されたはずだ。
誘拐、監禁を許す様な日本警察じゃない。
こんな物騒な世界だからだ。
まぁ日本だったら事件そのものも起きない可能性がある。
「成程ね、礼二さんの女神様は凄く優しいんだね」
「本当に何処かの馬鹿女神と大違いだよね《くくり姫様》自分が消滅しても礼二様を守ろうとするなんて、正に本当の女神様だよね」
くくり姫を褒められて凄く嬉しい。
僕も本当にそうだと思う。
くくり姫はもう居ない…だけど、僕はくくり姫の最後の神主だ。
今も僕や仲間を守ってくれているくくり姫、絶対に忘れない、周りの笑顔を見ながら心からそう思った。
【予告】
次回が第一章の最終回です。
その後、あとがきを書く予定です。
第一章の終わり(エピローグ)こんな地獄の異世界に行きたいのかい!
家の中に小さな神棚が作られている。
勿論、異世界だから、こんな物は売って無いから手作りだ。
この世界の名工に作らせた逸品だ。
この神棚は、くくり姫への感謝の為に皆で考えた物だ。
僕はくくり姫は居ないって事を伝えたが…
「こうして幸せに生きていけるのはくくり姫様のお陰じゃない?」
「そうだよ、神様は解らないけど、人間が本当に死ぬのは《誰からも忘れられた時》だから心の中でまだ生きていると思う」
「私は日本の事は知らないけど、この世界の女神イシュタスは私には何もくれませんでした、そんな私にこんな幸せをくれたのは礼二とくくり姫様です、死ぬまで私は感謝を忘れないよ」
《そうか、この世界の人間でもジョブやスキルも貰えない事があるのか…女神から恩恵を貰って無い、だからサナは簡単に括れたんだな》
「皆、ありがとう」
嬉しくて涙が出て来た。
僕はくくり姫の神主だった。
氏子が3人もできた…本当に嬉しい。
くくり姫は僕たちの心の中に生きている。
確かにそうだ、今でもご利益を頂いている。
皆に考えて貰いたい事がある。
もし皆の前に女神が現れて異世界の誘いがあったら…考えて欲しい。
成功する人間なんてごく一部だ。
恐らく、勇者になれても、多分日本でフリーターの方が遙かに幸せだ。
エアコンのある部屋にネットやテレビ、異世界には無い。
もし、あったとしても、それは特権階級しか使えない。
飯は不衛生で不味い…法律は整備されて無いから《悪人天国》
俺俺詐欺なんて、まだ優しい。
この世界の悪人は、平気で人を殺す盗賊だ。
女の子なんてもっと最低だ、負けたら孕むまで犯される可能性がある。
こんなゴミの様な世界に甘い言葉で君達を誘おうとしているんだ。
女神って酷い奴だと思わないか?
言っていることは、少し支援してやるから戦争しろって言っているんだ。
善良な女神が居たとしても恐らく魔王に勝てる確率は半分位かも知れない。
そんな世界に何でいくの…辞めた方がよいよ。
異世界で努力するなら日本で努力しようよ?
勇者で活躍する、半分の努力で多分弁護士や医者に成れる。
うん…絶対に見合わないと思うよ。
三浦さんや湯浅さんにサナが歌い始めた。
「イシュタスは糞女神~本当の女神はくくり姫~」
「世界何か関係ない~ くくり信者は怖くない、魔族の世界も怖くない」
「本当の男は、礼二だけ…男は皆クズばかり~」
…余り良い歌じゃない気がする。
だけど、言っている事は僕の事以外はあっている。
「くくり姫様の計らいで平穏に過ごしています、魔王? 勇者? あははっ僕達には無関係ですね!」
僕たちが括られなかったら地獄の世界…君達はそれでも、いきたいのかな?
あとがき 第二章のお報せ。
第一章のあとがきです。
読んで頂き有難うございます。
この作品は一回6万文字ちょっとで終わった作品でした。
当時の私にはどうしても続きが書けなかったのですが、続きを読みたい。
そう思い待ってくれている方がいたので、続きを書いてみました。
この作品のテーマは
異世界より日本で暮らした方が遙かに良いよ、です。
私はちょっとした病持ちなので、多分異世界に無理やり転生させられたら死んでしまう。
狭いけど私の部屋にはエアコンがあり、テレビやPCもある。
解らない事があればスマホで調べ、お腹がすいたら夜中でもコンビニに行けばお弁当やカップ麺が買える。
そう考えたら、絶対に異世界より上の生活をしている。
確かに異世界に行って、勇者や英雄になれば幸せなのかも知れない。
だけど、そんな努力を今の世界ですれば、医者や弁護士になってタワマンに住めそうな気がする。
利益だけ考えたら、いかない方が良い。
本当にそう思いました。
そんな考えがこの作品のスタートです。
そして此処でどうにか形になったと思います。
第二章は実は少し迷っています。
タイトルは
「どうしても女神様からジョブもチートも貰えない僕は、他の女神様の計らいで平穏に過ごします、魔王? 勇者? あははっ僕には無関係ですね!」
です、ですが、皆が知りたいのは多分《勇者》達がどうなるか? 魔王は?だと思います。
悩んだ末書く事にしました。
タイトルと少しずれますが…第二章(仮)悲しみの勇者篇 って感じに考えています。
少し、休みますがこれからも応援お願い致します。
第二章スタート前 礼二の考察
簡単なリハビリを続け、ようやく三浦さんと湯浅さんが下肢装具を使い早歩き位は出来る様になった。
そして筋電義手を使い簡単な家事は出来る様になった。
最初二人は片手のみだったが、思ったより使い勝手が良かったらしく、もう片腕追加して両手とも筋電義手にした。
多分最初に片腕をシリコン製の物を選んだのは《見た目》だったんだと思う。
女の子だから、両腕機械仕掛けみたいな義手は抵抗があったのかも知れない。
僕からしたら…カッコ良いんだけどな、まるでアンドロイドや、何処かの錬金術師みたいだ。
二人は器用にこれを使いこなして、身の回りのお世話をしてくれるようになった。
とはいえ、重い物は持てなかったり、水仕事までは構造上出来ないし、お風呂の時は外してから洗ってあげないといけない。
まぁ半分、役得もあるから…こんな事を考えちゃいけないけど。
多分、彼女達にとって、羞恥の時間だったトイレがウォシュレットと義手のお陰で自分で出来るのが一番大きいと思う。
あれだけ激しかった、性欲の方だが今は随分落ち着いた。
三浦さんも湯浅さんも普通の女の子の様になり、僕の方もまるで性欲の塊から通常の状態に戻った。
一時期は本当にどうなるかと思った。
自分で自分が解らなくなり、暇さえあれば体を合わせていた。
特に最初の2週間は、食事、トイレ、お風呂の時間以外はやりっぱなしだった。
良く猿のように、なんていうが、猿なんて比べ物にならない…本当に凄かったとしか言えない。
幾ら何でも可笑しい…僕は此処までスケベじゃないと思いたいし、僕は兎も角、熱血剣道少女の三浦さんや、あの大人しい湯浅さんがあそこ迄乱れるなんて可笑しすぎる。
サナも巻き込んでやっていた事は…AV所の内容じゃない。
二人に聞いてみても、薬物や魔法は使われて無い様だ。
もしステータス異常なら記録紙に記載が見られないのも可笑しい。
そこで本当に深く考えたら…僕の、この容姿はくくり姫から貰った物だ。
更に言うなら、僕は神主だった。
くくり姫は《女性を守る為に生まれた女神だ》そして《悪神の慰み者になる為に生まれた女神》でもある。
《生贄の代わりにただただ、犯され嬲られる存在》 《毎日の様に犯され嬲られるだけの存在》とくくり姫も言っていた。
神である以上はなんだかの能力はある筈だ。
事実、くくり姫は異世界に迄会いに来てくれて、死後も僕たちを括ってくれている。
だが、どう考えてもこれはくくり姫の能力の一つで本来の能力で無い気がする。
《それじゃくくり姫の能力は何か考えたら》簡単に結論が出た。
余り考えたくないが…性的な物だ。
直ぐに女を壊してしまう、性欲の塊の悪神が何百年、もしかしたら千年近くの間、1人の女神くくり姫に夢中になった。
そして、他の女に目もくれないで犯し続けた。
この能力こそがくくり姫の女神としての力なのかも知れない。
性において《相手を魅了する能力》と《相手を喜ばせる能力》それがくくり姫の本来の能力かも知れない。
その力に《女性を守る》そういうくくり姫の使命感の様な物が重なり起きた事。
そう考えれば、辻褄は合う。
事実、性欲が収まった時には二人には男性への恐怖は無くなっていた。
その代り、凄い憎悪が時々見られるけど。
「礼二さん以外は…そうですね豚ですよ、豚」
「礼二様は女神様の御使いじゃないですか? いやですね男じゃなくて《礼二様》ですよ? 男ハァ~虫けらでしょう、ゴキブリ以下ですよ、良いですか? 礼二様は男じゃなくて《礼二様》という生き物なんですよ」
2人とも男に対する恐怖は無くなったが、男嫌いは余計酷くこじらせている。
特に湯浅さんは酷い物がある。
くくり姫って多分男があまり好きで無い様な気がする、これもまさかくくり姫の影響…とは思いたくない。
事実は解らないが、余り的外れで無いと僕は思っている。
日本に居る時ちょっとだけ勉強した、神道に置いてSEXを「まぐあい」といい、神を生み出したりする神聖な物で儀式でもあった。
(※諸説ありますが主人公はこの説を信じています)
その儀式の力できっと二人の心を救ってくれたんだ。
それでい良いと思う。
最も、これは誰にも話しはしない。
本当の所は解らないからね。
第二章 悲しみの勇者篇 聖女静香 今夜も眠れない。
私の名前は 水上静香、異世界に来て聖女をやっています。
ただ、此処で問題を感じるようになりました。
本当に私達が、魔王に勝てるかどうかです。
どう考えても、祥吾や梓が魔王に見える未来が見えない。
頭の中では死んでしまう夢ばかり見る。
こんな時、《平城綾子》が居ないのが痛い。
脳筋の2人と違ってもし居てくれたら、冷静に考えてくれそうな気がする。
本当に、女神はしっかりと考えてジョブをくれたのだろうか?
《藤堂祥吾》は解る、文武両道を地で行く人物だから勇者と言うのは解る。
では、《東郷梓》はどうだ? 少なくとも彼女は剣なんて振るった事は無い。
どちらかと言えば、インドア派でスマホの恋愛ゲームに嵌っていた。
そんな子の何処を見て剣聖にしたのだろうか…
少なくとも、あの場所には剣道小町と言われる三浦陽子が居た。
小さい頃から、竹刀を握り剣道に生きて来た、彼女こそが誰もが剣聖だと思っていたが…剣聖は梓だった。
あの女神イシュタスは、一体何を基準にジョブを決めたのだろうか?
なんで聖女が私なのかも解らない。
私は医療行為なんてした事が無い。
そんな高校生は居ないが、たしか青柳さんは医者の娘だった。
余程そちらの方が潜在能力が高いと思う。
そもそも、同じ高校生でそんなに能力に差なんて無い筈だ。
確かに省吾は凄いと思うけど、もし不良が徒党を組んできたら負けるだろう。
所詮高校生何て五十歩百歩、どんな違いがあるのだろうか?
強い戦力が欲しいなら武道家でも呼べば良い。
たしかに、祥吾も梓も強くなり騎士と戦ってもひけはとらない。
だが、強い騎士や字持ちの騎士にはまだ勝てない。
戦闘訓練の時に指導係から褒められるが…
この世界の人が勝てないから私達を呼んだのだろう?
それが騎士と競っている時点で希望は無い。
これから成長したら変わるのかな?
今日も同級生が1人死んだ。
死んだ中には聖騎士のジョブ持ちも居た。
少なくとも良いジョブを貰っても死ぬ時は死ぬ世界なのは解る。
平城さん….皆は笑ったけど、逃げ出した貴方の勝ちなのかも知れない。
黒木くん、僅かなお金で出て行ったと聞いたけど、ただの市民には戦う義務はない。
少なくとも貴方は、死んでいった同級生よりましな人生を歩んでいるわ。
例え、地位など無くても、死なない人生の方が良いと思う。
私達の未来は決して明るくない。
魔王討伐後には莫大な報奨が貰え、祥吾は第二王女と結婚して王の一族に連なる。
だけど、それは…あくまで《勝った場合》 負けたら死ぬし、もし死ななくても多分罵倒され此処には居られない。
祥吾、梓…なんでそんな楽観的なの?
私は心配で今夜も眠れない。
まさかの状況
頭の中を整理してみた方が良いと思うのよ。
召喚されたのが全員で37名
そのうち勇者パーティーが私を含み 3名
信仰の理由で出て行った人が 1名
仕事の斡旋を受けた人が 6名 (2名行方知れず)
貴族と伴に出て行った人が27名 (17名死亡)
こんな時、聖女って言うのは凄く都合が良い。
教会関係者に聞けば《内緒ですよ》と言いながら大抵の事は教えてくれる。
まだ、そんなに月日はたっていない。
それなのに、もう17名が死んでいる。
この間は14名と聞いていたのにまた3名増えた。
これで半分が死んだ事になる。
更に言うなら行方不明の2名は死んでいるんじゃないかな?
信仰が違うと出て行った黒木君だって死んでいるかも知れない。
もし、3名が死んで居たらもう20名が亡くなった事になる。
何で死ぬのかな?
女神様から戦えるように凄いジョブを貰った筈だ。
そして、仲間は凄腕ばかりが集まっていた筈だ。
あのお見合いの様な仲間を集うパーティーでかなりの数の人が《字:あざな》持ちだった。
騎士に聞いた所、字を持つのは強者の証で《強い人間》は自然と字で呼ばれるらしい。
確かに、和樹くんの所の話を聞いていたら「疾風」「灼熱」なんてとんでもない字持ちとパーティーを組んでいた。
和樹はどんなジョブか解らないけど、仲間の2人どう考えても強い筈だ、そんな凄い字を持つ人と組んでたら、簡単に負ける訳が無い。
和樹の話を聞いた所…
「あそこの領地には強い人はいないからですよ、如何に異世界の戦士でも周りが弱ければ足を引っ張られる事もあります」
そんな風にシスターが言っていた。
なんで…なんでそんな嘘の噂が広がっているのかな?
あそこには少なくとも、疾風の何だっけ? 風の様に早い女の剣士と灼熱の…凄腕女メイジが少なくとも居たはず。
話だけ聞いたら、勇者パーティーの劣化版みたいな感じだった。
それがあっさりと死んだ。
しかも、その事を隠そうとしている節がある。
その事から考えられる事は….
魔族と人間の間には想像を超える程の差がある。
そう考えなければならない。
多分、この戦いは負け戦、勇者は魔王に勝てない。
そして人類は魔族に対抗できない位弱い…まさかそういう事なの?
考えたくないが…そうとしか考えられない。
聖女の王都見学1日目
1週間後にはお城で壮行会が行われる。
結局、祥吾も梓も勝てない騎士が多くいる中、1週間後には冒険の旅に出ることになった。
本当にこれで大丈夫なのかな?
特に騎士団団長のプラートさんには三対一で戦っても勝てない。
こんなんで本当に良いのかな?
祥吾は一対一で勝てない人間が多分10人以上いる。
梓に至っては50人近く居るかも知れない。
「流石は勇者様です、既に中級を越えて上級騎士にすら手が届く位です…素晴らしい」
たしかに上級騎士にも勝ったよ…だけどそれはジョブは上級騎士だけど恐らく実戦経験が無い人だと思う。
テクニックみたいなものがある人には翻弄されて勝てない。
裏で卑怯といっていたけど、魔族は全員卑怯じゃ無いの?
戦争しているんだからさぁ。
多分、経験が足らない。
そんな経験、簡単に身につくの?
恐らく永い間戦いの末に身につくんじゃない?
その事が心配でプラートさんに相談したら「勇者様だから大丈夫ですよ」だって。
信じられない。
この城には治療師が沢山居て、魔法を教わったけど、この城の治療師は切断した腕や足すら繋ぐことが出来るのに、私はそこまで出来ない。
その事も相談したら「いつかは聖女様はハイヒールを覚えますし、もしかしたらパーフェクトヒール迄覚えますから大丈夫です」だって
それは何年後の事? そこまで生き残れるの?
剣だってそうだ。
最初に渡されるのは「ミスリルソード」らしい。
ミスリルって言えば凄いと思うかも知れないけど、上級騎士ならこの世界結構持っている。
お金のある冒険者も持っている。
ちょっと調べた…この城にある装備はプラートさんが持っている「アイスソード」倉庫には「白き癒しの杖」 宮廷魔道士長が持っている「破壊の魔杖」がある…欲しいと言ったら、プラートさんは「これは家宝なので譲れません」だって同じ理由で宮廷魔道士長も断ってきた…それじゃ倉庫にある「白き癒しの杖」だけでもと言ったら…
「歴代の聖女様はそんな卑しい事は言いませんでしたよ」
だって…ふざけるな…この世界、魔王が勝つと危ないんだよね?
最高装備渡すのが当たり前じゃないの…何で他人事みたいに言うの。
しかも私がこんなに言っているのに…祥吾も梓も他人事みたいに言うのよ。
「聖女なんだからみっもない、余り物欲しそうにするなよ」
「そうよこっち迄品格が疑われるわよ」
あの…何考えているの?
負けたら死ぬのよ、小説とは違うの。
戦う相手は、魔王なのよ、強い装備が欲しいというのは可笑しな事なの。
プラートさんに聞いてみた。
この国で一番強い人は誰かって….そしたら自分だって答えた。
他の騎士も同じ事を言った。
そしてその次に強いのは宮廷魔道士長のプラナさん。
そしてその次は同行してくれる大魔導士6人のリーダーらしい。
プラートさんの字は「人類最強」で本当に強いのだと思う。
お酒を飲ませてプラートさんと話しをした。
私は聖女だから襲われたりしないから安心だ。
「プラートさんは人類最強なんですよね、今迄で最高どんな魔物を倒したんですか?」
「俺は凄いぞ、トロールキングを一人で倒したんだぞ」
「ドラゴンとかじゃ無いんですか?」
「ドラゴン? そんな者誰が倒せるっていうんだよ」
「人類最強なんでしょう?」
「俺は人類最強…ドラゴンなんか無理だな、そんなの成長した勇者でも勝てない」
おい、今なんて言った!
魔王に仕える幹部にはドラゴニュートが居るって聞いた事がある。
かなり酔っているわね、今なら聞けるかな。
「祥吾や梓は歴代勇者達の中でどれ位強いと思う?」
「う~ん弱いんじゃないかな? 前の勇者が召喚されたのはもう何代か前だけどさぁ~1週間で城でだれも勝てなくなったって書いてあったから」
本当に詰みなんじゃないかな…泥船確定だよ、不味いわ。
次の日から1週間、自由な時間を貰った。
王都を離れたら結構不自由な生活を強いられるからという心遣いらしい。
祥吾と梓に一緒に行こうと誘われたが断った。
幾ら話しても話を聞いてくれない…頭の中で可哀想だがもう斬り捨てた。
親友って程でも無いから良いだろう。
警告は何回もしたけど、結局は話を聞かない。
まず最初に私は平城さんに会いに行った。
王都には平城さん位しか居ない。
少し前まで王立図書館に鈴木さんが居たそうだが…死んだらしい。
図書館に勤めて何で死ぬんだろう…これも調べたいが今は時間が無い。
平城さんはある意味、本当に賢者に相応しい位頭は良いし、仲は良かった。
「お久しぶり、水上さん」
久しぶりにあった平城さんは、髪がボサボサで目に隈があり、少し老けた気がした。
「どうしたの 平城さん、ヒール、どう少しは楽になった」
「ありがとう」
「何があったの?」
「私、ほら魔王と戦うのを放棄して就職を選んだじゃない…だからもう「賢者」とは扱われないんだってさぁ、朝から晩まで仕事して余り眠らせても貰ってない」
「だけど、貴方は凄く優秀じゃない」
「うん、だけど私が抜けたせいで優秀な魔導士6名持っていかれたって…それに此処を出たら私行く所無いし」
そんなの平城さんに関係ないわよ
横から男が入ってきた。
「おいクズ..喋ってないでこれすぐやれよ…さっさとしないと今日も徹夜させんぞ」
その男の周りに6人の男女が居た。
頭にきたわ..
「何、あなた?」
「なんだお前このクズの知り合いか? さっさと喋るの止めろ、この糞女」
「いい加減邪魔なのよ」
「ほら平城仕事に戻れ」
本当に頭きたわ..いいわ丁度よいわ
「ホーリーサークル」
「こんな所でそんな物使ったら死刑だぞ、止めろ今直ぐ、今なら許してやる」
「私は人なんか殺しても許される存在なのよ、私が貴方を殺しても王様も教皇様も許してくれるわ、ついでに女神様もね」
「何を言っているんだ、狂っている」
「平城さんは私の友達なのよ、その友達にはそういう事を許される存在がいる事忘れたの?」
「そんな」
「罪状、聖女侮辱罪、更に聖女の友人である、平城綾子を虐めた罪により…死刑」
そのまま杖を振り下ろした。
光のサークルがそのまま飛んでいき7名の首を跳ねた。
この状況に慌てて上司らしい男が駆けてきた。
魔法が使えそうな人間も数名いる。
出来損ないの聖女でもこれなら勝てる。
私は祥吾や梓と違う、生き残る為に努力する。
そうしないと死が待っている。
これは人だからと躊躇しない訓練。
プラートさんは言っていた。
初めて人を殺そうとした時、戸惑いが生じたと…
なら、安全に殺せる場所で《人を殺す経験》をした方が良い。
一応は女神の使徒である私には、勇者保護法が適用される。
だから、これは罪にならない…そして私に傷をつければ死罪だ。
「暴漢が職員を殺した、今直ぐ取り押さえろ」
「「はい」」
「私の名前は水上静香、聖女よ! この職員は私を糞女って呼んで馬鹿にして、友人の平城さんを馬鹿にしてこき使ったんだけど悪いのは誰かしら」
「せ..聖女様でしたか、ですが殺すなんてあんまりじゃ無いですか? 酷すぎる」
「この平城さんの窶れよう、酷いわよね? 友達なのわたし…こんな事するゴミ殺してもいいわよね」
「だからと言ってこれは」
「解ったわ、私から王に言うわ、アカデミーは賢者をこき使った挙句、聖女を馬鹿にしたって、ああっやっぱり、教皇様に言って、此処にいる者全員破門してもらいまっしょう…それが良いわ」
「これはアカデミーは関係ない、勝手にこのゴミがした事です」
「それで」
「平城くんにはもっと楽な部署で休日も保証します、私が必ずそうします」
「そう…なら週休3日、一日の労働は5時間以内でどうかしら? あと時々1か月単位のまとまった休み上げてね、月の給料は金貨6枚」
「そんな働き方ありません、理不尽すぎます」
「散々、理不尽な事していた貴方達が言うの? 駄目なら貴方殺してもっと上に掛け合うわ」
「や、約束しますから」
「そう、それならこのゴミかたずけておいてね…私がね平城さんにまた酷い事をした事を知ったら、貴方殺すわよ」
「解りました」
「あと言って置くけど、平城さんはまだ賢者なのよ! 国は何時か戻って欲しいから席は残してあるの…平城さんも私と同じ事しても許されるからね」
「嘘、私、そうなのですか?」
「そうよ、だから、頭にきたら灼熱呪文でも唱えて殺しちゃいなさいな」
「そんな…」
「あと6名の最強魔導士は私と共に旅に出るのよ、怒った平城さんに意見できる存在はアカデミーに居ないわよね? アカデミー長官も良く私のご機嫌をとるわよ」
「ごめんなさい…家族がいるんです、赦してください」
「なら平城さんにも謝って」
「平城くん悪かった」
「平城くんって何様…ムカついたわ」
私はホーリーサークルを放ち、一人の男を殺した。
さっき、馬鹿にした目で平城さんを見ていた奴だ。
「平城様、お許し下さい」
「まぁ良いわ、平城さんこれで、あら気絶しちゃったわね…今日は彼女休ませて頂戴」
「解りました」
もうこれで、平城さんは大丈夫かな…
私は冒険者ギルドに立ち寄った。
意外にも王都には他にも日本人らしい人が3人居ることが解った。
アポイントをお願いして明日又来る事を伝えた。
同級生の誰かかしら、もしかしたら、違う異世界人がいるって事。
貴重な情報が聞けるかも知れないわ。
もっと情報を集めないと…そうしないと詰んでしまう。
王城に帰ったが、何も問題になって無かった。
多分、聖女と賢者を恐れて内々に処理したのかも知れない…
だけど…ここで経験して良かった。
さっきから、吐き気がして体が震えている。
これが、人を殺したって事なの…さっきの光景を思いだし、恐怖の夜が訪れた。
怖くて寂しい夜が…
聖女の王都見学2日目 狂信者?
夜一人で眠ると、凄い罪悪感と恐怖が襲ってきた。
飛び散る首や内臓…ホラー映画の世界を実際に目にした。
しかもそれを行ったのはモンスターで無く自分。
だけど、仕方ない…この世界は命が軽い世界なのよ。
こうしないと死んでしまう。
もう、祥吾と梓は諦めることにした。
幾らいっても解らない。
今日もお小遣いが沢山あるからと王都で贅沢三昧をしていたらしい。
祥吾は多分、終わる気がする《弱い者いじめが嫌いで優しく、博愛の塊》確かにそうだけど、あの優しい祥吾が人を殺せるのか?
人の言葉を話す魔族を斬れるのか…無理じゃないかな?
女に手を挙げない信条の彼が、魔族のサキュバスやダークエルフを斬り殺せるのか…無理何じゃないかな。
梓はどうだろう、基本彼女は努力しないで何でも諦めるタイプの人間だ。
「スマゲだけしてたいわ~」
と勉強も碌にしない。
一応、進学を目指しているが、それは進学すれば《4年間働かない期間》が増えるからだ。
そんな彼女が、戦いの人生を送れるとは思えない。
此処はゲームや小説じゃないのよ…もう同級生が何人も死んでいる。
《自分達は違う》何て言い切れる訳は無い。
しかも、恐らくだけど、異世界人は、表向き大切にしているが、本当はそんなに大切にには扱わない。
多分、役に立つ最高の道具の一つなんだと思う。
ただの道具…此処をでて仕事の斡旋も意味がない…平城さんを見れば解る。
あそこはアカデミーだから、この世界ならかなり良い場所の筈…それがあれだ。
ならば、此処から逃げる方法は、黒木みたいに、縁を切るように居なくなるしかない。
だけど…こんな世界で《1人で生きていけるのかな?》
多分、無理だ。
明日は、この世界で生きている、日本人に会えるかも知れない。
もし、此処を飛び出して生きて行く方法があるなら、その方が良いかも知れない。
【二日目】
祥吾も梓ももう駄目かも知れない。
祥吾は婚約者の第二王女のアイシャ姫とデートに出るそうだ。
アイシャ姫は確かに綺麗だ…だが所詮は第二王女政には参加しない、そしてその周りにはアイシャ姫のお付きこれまた凄い美女に囲まれている。
多分アイシャ姫は…生贄だ。
恐らくは祥吾を落とす為だけに存在している、そう言っていい位《それしかしていない》
他の王族が仕事をしているなか、彼女とその取り巻きだけが《何も仕事をしていない》
梓はと言うとイケメンの貴族の男に言い寄られている。
スマホの恋愛ゲームが好きな女の子がこんな状況に何時までも居られないだろう…落ちるのは時間の問題。
そして、妾腹の実は王族の血が入っているテデュークまで加わってきた。
こっそり王が梓に「あの子が不憫で」と言っていた。
高貴な血が入った、薄幸の王族…まるで、梓の物語から出て来たような人。
恐らくは《梓の好み》の男性を用意したんだと思う。
距離さえ置いて冷静になれば..解る事だ。
だが、2人は終わった。
もう駄目だと思う、幾ら祥吾でも、あれは拒めないだろう。
秋葉系のアイドル48人全員あげます…高校生の男の子が拒めるわけ無い。
そして、絶対に手に入らない夢の世界にいる梓…こちらも駄目なんだろうな。
私はもう二人は見捨てる事にした。
私は単独行動をして、冒険者ギルドに来た。
受付で話を聞くと、何でも怪我が元で外にいけないから、家に来て欲しいという事だった。
何でも、先方は私の名前を聞いてから了承してくれたそうだ。
私が聖女だからだろうか?
結構良い部屋に住んでいるんだな。
私は軽くドアをノックした。
「水上さん、お久しぶり、元気だった?」
「何だか元気ないみたい」
なんで二人が此処にいるのよ。
「三浦さんに湯浅さん…生きていたんだ、良かった~」
「まぁ、物凄く悲惨だったけど、今が幸せだから良いかな」
「うん、あれは地獄だった」
二人の目が凄く淀んで行くのが解った。
それより、嘘、両手とも義手なの…どれだけ大変な事があったのだろう。
良く見たら足も器具がついている。
どう考えても満足な生活を送れている様には思えない。
「何があったの?」
「それを聞きたいという依頼だから仕方無いか」
「もう吹っ切れたからいいよ」
2人が話した話したはこの世の地獄だった。
やはり、この世界は冗談では無い位に狡猾だ。
これじゃ、沢山の仲間が死ぬ筈だ…
しかも、この世界は魔族だけでなく…人の敵も沢山いる。
こんな世界、来るべきじゃ無かった。
あんな女神の話に乗るべきでなかった。
此処に来なければ、私は女子高生として、平和な世界に暮らせたのに、あの女神に騙された。
こんな話し聞いたら、もうどうして良いか解らない。
2人が味わった様なことは恐らくは日本なら味わなかった筈だ。
此処は地獄だ。
女神イシュタスは、私にとって最早悪魔にしか思えなかった。
だけど、三浦さんも湯浅さんも凄く幸せそうなのは何故だろう?
両手を失い、真面に歩けない、それなのに幸せに見える。
良く見たら、髪の毛も綺麗に手入れされている。
私より手入れが行き届いているかも知れない。
そんな地獄の様な思いをしていたのに…何で笑っていられるのかな?
「その割には凄く幸せそうだけど?」
「えへへ、まぁね…うん、今の私は凄く幸せだよ..うん」
「私もね..」
「あっ、もしかして彼氏でも出来た?」
二人は顔を赤くしている。
どうやら図星の様だ。
「うん、出来たよ」
「うん、凄く素晴らしい人」
二人を見れば解る、高級そうな義手に歩行道具、それに清潔な服に行き届いた手入れ。
うん、きっと良い人なんだろうな…
「素敵な人みたいね、もしかしてその人も日本からきたの」
「そう、礼二さん…凄く綺麗で優しい人よ」
「凄くカッコ良いの…」
「嘘、ここに黒木君がいるの?」
「あっ違う、礼二違いだよ、別の人」
「たしかに雰囲気は似ているけど違う人だよ」
そうか別人…ん、その人は、私達と違う日本人だ。
「ねぇ、その人に会えたりするかな?」
「あっ、奥にいるから呼んであげる」
「そうそう、水入らずに話せばって仲間と奥に居るから」
「そうなんだ」
はぁ~幸せな筈だわ、とでもないイケメンじゃない…あの祥吾が確実に見劣りする。
というか、これより綺麗な人なんて存在するのかな、あの自称女神よりも絶対綺麗だわね。
貴族や王族ですら…この人の前では石ころに見える。
「初めまして、礼二です」
「貴方が礼二さんですか」
「はい」
こんな人に出会って助けて貰えて、介護して貰っているから、多分幸せなんだね。
うん、この世界じゃ珍しい、良い人だ。
礼二さんは《迷い人》だそうだ。
本当に良い人だ。
嫌な言い方だけど同郷の人間なのか凄く優しい、この世界の人間とは違うな。
この人なら安心だ。
何より、三浦さんも湯浅さんも凄く幸せそうに笑って居る。
奥から覗いている子も同じだ。
「いいなぁ、此処は本当に、楽しそう」
三浦さんも湯浅さんが一瞬、礼二さんの方を見た。
彼は頷いた。
「ねぇ、水上さんもし本当に困ったら頼ってきて」
「そう、助けてあげるからね」
「あの、私は聖女だから…」
私の不安な気持ちが読み取られたのかな…
確かに落ち込んでいたよね..
友達って有難い…
「私は聖女だから、他の人みたいに多分抜けられないわ」
「ねぇ、水上さん、神様って信じる?」
「信じるに決まっているわ、見たでしょう?」
「あんな糞みたいなのは女神じゃないわ、あれはクズ女っていうのよ、ねぇ真理」
「ええっそうね、くくり様とあんなクズ比べるだけ無駄よ」
《なんかどんどん、酷くなっていくな》
「まって、この国はイシュタス様しか居ない…」
「だから、あれはクズなのよ、クズ、神なんかじゃわ」
「そうよくくり姫さまこそ神なのよ…唯一絶対神なのよ」
嘘、狂信者なの…あんな事があったから心が壊れたのかな。
日本にも居た…だけど、あそこ迄不幸だから仕方無いかもね…これが心の支えなら。
「そうくくり姫様ね解ったわ」
そういうしか無かった。
最後に平城さんの事を頼んで此処を後にした。
私が王都から旅に出たら、また何かされるかも知れない。
それなら、可笑しな宗教を信仰していても、この人たちは守ってくれそうな気がする。
居もしない、くくり姫なんて信仰しているが…教義は悪くないと思う。
だが、可笑しな事に、さっきから黙って話を聞いている礼二さんが、平城さんの話を聞いた時に顔を顰めていた。
如何にこの人がお人よしでも只の人間がアカデミーを敵にはできないよね。
たぶん、三浦さんも湯浅さんも誇張している。
自分を助けた男性をヒーローの様に思っているだけだ。
それだけだ…
だけど、もし、本当なら、平城さんや私も助けて欲しい…無理だよね。
今迄黙っていた礼二さんが私に微笑んだ。
「もし、貴方が女神を捨てても助けて欲しいと言うなら、僕が絶対に助けてあげる」
これが方便なのは解る、そんな事は…だけどその言葉は凄く魅力的だった。
賢者解放
水上さんから話を聞いた僕は平城さんが凄く気になった。
一応は釘をさして、問題のある人物は粛清されたかも知れないが。
恐らくは、そんな小物じゃ無くて、もっと上が絡んでいる筈だ。
推理してみれば解る。
恐らく今回の黒幕はアカデミーその物に、大物貴族、場合によっては王族、王まで関与している可能性が高い。
これはあくまで僕の考えだが、三浦さんと湯浅さんは払い下げ、つまり貴族に売られてしまったような物だと思う。
勿論、全部がお金と言う訳でなく、貴族としての忠誠等が絡んでいる気がする。
そして平城さんは水上さんの話だと虐められていた。
理由は多分《賢者》だからだ。
恐らくは苛め抜いて値をあげるのを待っている。
普通に考えて、態々元、賢者の彼女を虐める訳が無い。
最初に平城さんのステータスを見た時に凄い物だった記憶がある。
アカデミーが魔法を基盤にした組織なら、そんな人間は凄く貴重な筈だ。
優秀な人間に対するやっかみはあるかも知れないが、普通なら貴重な人材の彼女を庇う人間もいる筈だ。
水上さんは平城さんの賢者としての席が残っていると言っていた。
そこから、考えられるのは…
《徹底的に苛め抜いて、泣きついて帰ってくるのを待っている》
そうとは取れないだろうか?
アカデミーに居場所が無くなれば、平城さんはこの世界に頼る人は居ない。
そこに付け込んで、国に戻し《賢者》にしよう、そんな所じゃないかな。
そう考えたら、恐らく周りの人間は虐めを止める事が出来ない筈だ。
昨日、聖女である、水上さんが、人を殺して脅し迄かけた。
今なら、多分綻びが見えるかも知れない。
残念ながら、僕の容姿は変わってしまったし別人として生活しているから関与が難しい。
だが二人は同級生だ。
三浦さんと湯浅さんと一緒に行ってみるしかない。
二人に話をしてみたら…
「良いですよ、だけど、礼二さんって凄く優しいんですね」
「会った事も無い平城さんの為に動くなんて」
「いや、2人が頼まれていたし、話を聞いたら放っておけなくて」
こういうしかない。
「確かに、様子位は見に行った方が良いかも知れませんね」
「そうですね、私達の問題に巻き込んですいません」
確かに平城さんと僕は《接点がない》事になる。
まぁ良いや…兎も角状況を見に行った方が良い筈だ。
【アカデミーにて】
やはり様子がおかしい。
面談を申しこんだが、やんわりと断られた。
仕方ないから水上さんの名前を出した。
「仕方ない、聖女の水上さんから様子を見に行くように言われてきたけど、会わせて貰えなかったって伝えるよ」
「そうだね、そう言うしかないね」
「ちなみに、私達が会えなかったら、明日水上さんが来るから、後の対応頼みます」
「聖女様と知り合いなんですか? 平城とどういう関係ですか?」
既に、メッキが剥がれてきた《平城》って呼びつけだ。
「僕は違いますが、この二人は同じ異世界人です、水上さんとも、平城さんとも親友という仲です、もう関係ないか? 多分今日報告したら明日には聖女の水上さんが来ます…一緒にもし僕が来る事になったら《貴方が会わせてくれなかった》と伝えますね? 死なないと良いですね」
「あの、それって…止めて下さい、私にだって家族が居るんです」
「そうですね、ですが、聖女である水上さんは、既に貴方達が平城さんにしていた事について知っていますよ?後は確証を掴むだけです」
「本当ですか?」
「誰が関わっているか、解らないですが、かなり酷い事をしていたみたいですね…かなり上まで絡んでいるみたいですが、無駄です、水上さんが報告する相手は教皇様らしいですからね、まぁどちらにしても僕はもう関係ありません、正直言えば私はトカゲのしっぽ切りで殺される方が可哀想だから、まず平城さんに話を聞いて、実行犯を教えて貰って、指示していた人を聞くつもりでした…あっ実行犯は余程酷く無ければ、罰は無いようにしようという考えもあったんですよ…ただ命令に従ったのに、死罪とかかわいそうですよね」
「そこ迄、聖女様は掴まれていたんですか…それじゃ、私達も、そんな」
掛かったな、既にあらかじめ用意していたボイスレコーダーを回している。
「それじゃ、僕は帰ります、明日聖女の水上さんが来ますから…それじゃ」
三浦さんも、湯浅さんも席を立とうとした。
「家族がいるのに可哀想じゃないですか?」
「仕方ないんじゃない? まぁこの人だけで済めば良いけど、多分水上さん怒っていたから、家族も多分…行こう」
「仕方ないですよね…可哀想に」
水上さんは昨日人を殺したのだから…これで充分な脅しになる筈だ。
「待って下さい!あの、正直に話せば、温情は貰えますか? 私はスミマセン指示していた人間です、ですが私は逆らえないんです…しっぽなんです」
「解りました教えて下さい…貴方のお陰だと言う事も水上さんに伝えますから、安心下さい」
「助かります、あとスミマセン」
「他の方に恨まれないように匿名にしますから、そちらもご安心下さい」
「有難うございます…部下たちも助けて下さい」
「なら、助かりたいならその方達も連れて来て下さい、その方達も素直に話すなら、処分が無いようにします」
何だこれは…22人もいるじゃ無いか?
これが全部、加害者か、こんな環境で働いていたら精神が可笑しくなる。
聞けば聞く程酷い話だ。
朝5時から夜中の1時まで働かせていた。
活躍が出来ないように《魔法を教えない》
賢者なのに平城さんは呪文も教えて貰えてなかった、そうする事により此処から出て行かなくする為だ。
仕事は事務職のみで、難しい仕事を与えていた。
現地人じゃない平城さんでは理解が困難な仕事を優先させて与えていた。
そして失敗すると人格を否定する様な罵詈雑言を浴びせていた。
そしてパワハラにセクハラ。
蹴ったり、殴るのは当たり前、人前で服に手を入れられ胸を揉まれたり、股やお尻も直接手を突っ込んで触ったりしたそうだ。
更にトイレやシャワーも数人の男性で覗き…寝ている平城さんに抱き着いたりしていた。
「まさか、犯したりして無いだろうな…そうだったら」
「それは絶対にしていません、王からの達しで《絶対にそれをしてはいけない》と命令がありましたから」
王まで関わっていたのか…最悪だ。
命令されていたから、命や操は大丈夫…だけど、その事を平城さんは知らない。
知らない平城さんは、毎日が怖くて仕方なかっただろう。
女子高生が逃げ場所が無い状態で、こんな事されていたら怖くて仕方なかっただろうな。
「解りました、貴方達は正直に話したから、聖女様にも教皇様に言わないように伝えます、後は平城さんに会わせて下さい、現状確認させて頂きます」
「有難うございます、私もこんな事したく無かった…おい、直ぐに平城さんをお連れしろ」
「はい」
「あのぉ、本当に助けて貰えるのでしょうか?」
「ええっ約束しますよ」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「有難うございます」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
直ぐに平城さんが連れて来られた。
僕が見た平城さんは前に見た時と違って窶れていて、見た感じ20代後半に見える位老けていた。
綺麗な黒髪はフケが浮いていて、目には凄い隈が出来ていて少し窪んで見えた。
多分、洗い物する時間も無かったのかも知れない。
襟裳が垢だらけだった。
これがこの世界のやり方か…
法整備されていない、これが異世界なのだと解った。
「暫く、僕ら4人にして下さい」
そう言うと、安心した様に彼らは去っていった。
《自分達は助かった》そう思ったのだろう。
【平城さんと】
「あれっ、湯浅さんに三浦さん…嬉しいな会いに来てくれたんだ、だけどその腕大丈夫?」
「そうね、大丈夫とは言えないけど、今は幸せかな?」
「私ももう走れないけど、今は幸せだよ」
今の僕は黒木礼二じゃない。
平城さんにとっては初めての人間だ…三人で話させた方が良いだろう。
三人は自分達の境遇について話していた。
暫く話すと三人は抱き合って泣いていた。
特に平城さんは鼻水まで出しながら泣いていた。
「平城さん、初めまして礼二と申します」
頃合いを見て挨拶した。
「初めまして、平城綾子と申します、2人を助けてくれてありがとうございました..」
「いえ、同じ日本人ですから当然の事です」
「そうですか…」
多分遠慮しているんだろうな…彼女は奥ゆかしい子だから。
「それで、本題ですが、僕たちの助けは必要ですか?」
「あの…それでは迷惑を掛けてしまいます」
「僕は水上さん、三浦さん、湯浅さんに頼まれて此処に来ました…貴方が僕たちを信じてくれるなら、寝床に充分な睡眠、食事、住む場所は保証します、勿論無償ではありません、働いて貰います、だがそれはほぼ日本に近い生活でです」
平城さんは戸惑っている。
確かにこの環境じゃ、そうなって仕方ない。
「あの…何かリスクがあるんじゃないでしょうか」
「多分、魔法が使えなくなります、あと女神への信仰を捨てて貰います」
平城さんは驚いた顔をしている。
「それだけですか? それだけで良いならお願いします」
多分、日本に括れない人は《女神への信仰》が強い人だ。
この世界の人間は一神教だから、ほぼすべての人間が信仰している。
ジョブも女神が与えた物だから信仰が薄くなると消えるのかも知れない。
馬鹿な異世界人だ…
こんな馬鹿な事しているから、平城さんはもう既に女神が好きでない。
恐らく、魔法を使わせても、賢者の力はおろか、真面に魔法も使えなかった可能性もある。
だって《平城綾子を日本に括りますか》そう僕には聞こえてきたから。
勿論《括る》を選んだ。
「それじゃ平城さん帰ろうか?」
「何処に行くのですか?」
「僕らの家に」
「此処から勝手に出て行って大丈夫なのですか?」
「勿論、もう平気だよ…そうだ」
横を見ると三浦さんも湯浅さんも頷いていた。
「「「日本へようこそ」」」
そのまま不思議な顔をした平城さんを連れて僕たちはアカデミーを後にした。
不完全燃焼
多分、これから揉める事になる。
だから、先に手を回す。
平城さんと一緒に警備隊の詰め所にいった。
「あの礼二さん、三浦さん、湯浅さん…アカデミーの関係は詰め所に訴えても無駄ですよ」
「今迄はね…とりあえず見てて」
「はい」
《無駄だよ、取り合ってなんてくれない》
「平城綾子さんは日本に括られたのでこれから先であれば、暴行や傷害等で訴える事もできますが、その時は《日本に括られていません》その為我々は動けません」
そうか、確かにあの時はまだ《日本に括られていない》過去の賠償は出来ないのか…
「ねぇ言った通りでしょう?」
「ですが、このデーターはしっかりと把握しておきます、同じ事が今度起きたら、直ぐに対応致します」
《嘘、次は対応して貰えるの?》
一応、冒険者ギルドに顔を出した。
弁護士の代わりがギルド職員だから、民事でと思ったが…
無理だった。
「その時はまだ《日本に括られていませんから無理です》 ですが、もうアカデミーに行かないで済むようには出来ます。日本には職業選択の自由があります。まして今回の様な場合は、身を守るために直ぐに辞めるのも良くあることです。 また今後一切アカデミーは平城綾子さんに関わらないという念書を書かせる事も可能です」
待てよ、そうか…三浦さんや湯浅さんは現在進行形で苦しんでいたから、ああなったのか。
それに対して、平城さんは《日本に括られて》からは被害にあっていない。
だから、こういう判断になるのか。
何だか判断基準が解らない。
納得いかない…何かないか?
「待って下さい! 平城綾子は《日本に括られてからも》精神的苦痛を負っていて私生活に影響があります」
「それは請求が可能ですね、それでは《即時退職》《関わらない》《少額の慰謝料》それらの交渉で良いですか?」
本当はもっと罰をくだして貰いたい、だけどそれしか出来ないなら仕方ない。
こういう所は何故か日本は弱かった気がする。
日本にだってブラック企業勤めは多い…仕方ないか
【平城さんと】
一旦家に帰ってきた。
取り敢えず、シャワーを浴びてゆっくりして貰ってから今後について考えようと思う。
まぁ、平城さんは健康だから僕とサナと一緒に薬草の採取を手伝って貰おうと思っている。
「その人が…」
「そうだよ」
「初めまして、平城綾子と申します、お世話になるね、えーと」
「私はサナ、宜しくね」
案外サナは人見知りしない…本当に助かる。
「あの、この部屋は何で日本製の物ばかりなの? どうやって手に入れたの?」
「それなら、これから先、平城さんも手に入りますよ」
「だって平城さんも日本人になって括られたから、買えるよ、詳しくは後でね」
「そう、解った、ありがとう」
シャワーを嬉しそうに浴びて、疲れていたからかベットを使って良いと言ったら、ダイブして眠ってしまった。
折角だから、その日夕食を外で食べたら、平城さんはカレーライスがある事に驚いていた。
平城さんは余程カレーライスが好きなのか、カレーライスを5回もお代わりしていた。
そしてドラッグストアに入ると…もっと驚き。
「日本に帰ってきたの」と誤解をしていた。
説明するとガッカリしていたが、飲料水の棚からコーラを買っていた。
「まさか、また飲めるなんて」と凄く感動していた。
僕は、仕返し出来ない事で不完全燃焼だったが…少なくとも平城さんは救えた。
そう思い満足する事にした。
【後日談】
ギルドの職員は弁護士としても優秀なのかも知れない。
即時退職の手続きの代行に、今後一切かかわらないという念書に慰謝料30万を翌日には持ってきた。
そして、凄い事に《今後一切かかわらないという念書》には何と王の名前すらあった。
これで晴れて、平城さんは抜け出せた事になる。
そして、聖女も賢者も居なくなった。
水上静香は、平城綾子が心配だった。
よく考えたら《魔法を教わる前》に城から出て行った記憶がある。
自分が居る間は手を出さないかも知れないが、出て行ったらどうなるか?
早くても数年は帰って来ない。
多分、元通りになるかも知れない。
だったら、自分が一番影響を与えることができる教会に移せば良い。
そう考えた。
それなら、まずは身柄の確保に行かなくちゃ。
そう思い、アカデミーに向った。
「おや、聖女様、如何なさいましたか?」
可笑しい、ついこの間の事なのに、なんで平然としてられるのかしら。
「平城さんに会いたいんだけど?」
「ああっ平城なら此処には居ませんよ」
頭の中が暗くなった。
恐らく、私なんかが手の届かない何処かに連れ去られたんだ。
「平城さんの居場所を教えなさい…何かしてたら許さない」
「怒らなくてもお教えしますよ」
「さっさと教えなさい」
「はいはい…あっそれと聖女様、平城の事は示談が成立していますから、もう文句は言えませんよ、ですが、良いですねあんた達は、誰かが介入したんですか? 私達は全員命は助かりましたが、罰則で給料4割カットで暫く家には帰れません、ハァ~上のいう事を聞いただけなのに暫くは地獄ですよ」
良く見ると、薄っすらと隈が出来ている。
私と揉めたから、枢機卿辺りが動いてくれたのかも知れない。
「それで何処にいるの?」
「礼二様が引き取られました」
この間の男の所だ。
もしかして、あの男は…凄く女癖が悪い奴だったのかな。
三浦さんや湯浅さんは仕方ない…あの体じゃ1人で生きていけない。
だから、世話する人が必要だ。
しかも、かなり性格が可笑しくなっていたが、2人が彼を好きなのは解った。
奥に隠れていた女の子を含んで3人も愛人がいる可能性が高い。
それなのに又1人加えようと言うの。
良い人なのかも知れないけど…女たらしだ、女たらしに違いない。
まぁ、あれだけのイケメンだから仕方ないのかも知れないけど、釘止め位はした方が良いだろう。
そう思い、再び彼の家に突入した。
「いらっしゃい」
「ちょっと上がるわね」
彼を押しのけ上がらせて貰った。
そこで私が見た物は…
「何でカレー南蛮を食べているのよ?」
美味しそうにカレー南蛮を食べている平城綾子だった。
「水上さん、どうしたの?」
何がなんだか解らなくなった。
【礼二SIDE】
2~3日は平城さんに休ませてあげようと考えダラダラする事にした。
丁度、お昼になりあらかじめ、朝頼んでいた出前が届き、皆で食べていた。
しかし、出前は不便だ。
日本と違い、電話が無いから誰かが頼みに行かないとならない。
電話が欲しいな…
ドアがノックされたから開けたら、そこに居るのは水上さんだった。
僕がドアを開けて挨拶をすると、その横を「ちょっと上がるわね」と言って強引に部屋に入っていった。
僕は何か悪い事でもしたのか? 少し表情が怖い。
そこで水上さんは平城さんを見つけて驚いていた。
「何でカレー南蛮を食べているのよ?」
「水上さんどうしたの?」
可愛らしく平城さんが首を傾げた。
そして…
「嘘でしょう? 何で天丼に中華丼にカツ丼があるのよ…可笑しいわ」
ちなみに、僕とサナが中華丼、三浦さんがカツ丼、湯浅さんが天丼を食べている。
しかし、平城さんはカレーが本当に好きなんだな、今日はカレー南蛮だ。
「これはですね、くくり姫様を信じているからこそ起こる奇跡なのよ」
「そうなんですよ、くくり姫様からの恩恵ですね」
「ちょっと待って、三浦さん、湯浅さん、それはどういう事なの?」
《この部屋を見た瞬間から違和感があった…いまそれに気がついた、この部屋の中の物は多分《日本製》の物ばかりだ、この世界の物は殆ど無い、パナビニックにカエレヤ、日本のブランドじゃない》
「「詳しくは礼二様に聞いて下さい」」
水上さんが僕の方を見ている。
結局丸投げじゃないか….
僕はまた《迷い人》の話をして、今現在どんな恩恵があるのか? 逆にどんなデメリットがあるのか話した。
「魔物に襲われなくなるの?」
「うん、だけど熊や猪に襲われたら普通に死ぬよ」
「こんな風に日本の物が買えるの」
「その代わり、異世界の物が手に入りにくくなるよ」
《後でこんな筈じゃ無かった》そう言われない為に悪い事中心に話した。
水上さんは聖女、この世界で凄く優遇された存在。
魔王に勝てさえすれば、僕らと違い、最高の幸せが貰える。
そう考えたら態々こちらに来る事はない。
「だったら、私も迷い人になるわ、女神への信仰を捨てれば良いのね」
「そうだけど」
「だったら捨てるわ」
そういうが、僕の目の前に《日本に括りますか》の文字はなかなか現れない。
水上さんは聖女そう簡単にはいかないのかも知れない。
「ごめん、多分水上さんは女神への信仰が捨てきれていないと思う」
「そんな…」
泣きそうな顔で水上さんは飛び出していった。
【水上さんSIDE】
羨ましかった。
死の運命も関係なく、笑っていられる生活…
あそこは本当の意味での天国だった、あそこに加われるのなら何でもしたい、そう思う位に。
あそこのリーダーの礼二さんは凄く大人だ。
そして凄く優しい人だ、たらしなんかじゃない。
解ってしまった。
三浦さんも湯浅さんも最初会った時から凄く綺麗だった。
平城さんと違って、2人は腕が無い、だったら誰がそれをしているんだ、考えたら彼ともう一人の女の子しか居ない。
確かに二人は凄く可愛い、だが此処は異世界だからエルフも居る、普通ならそっちを選ぶだろう。
だが、礼二さんは2人を選んだ…そこには介護も含まれる。
お婆ちゃんが自宅介護の時にオムツを変えたことがあったが嫌で仕方なかった。
お風呂に入れるのも一苦労だった。
私は偶に手伝うだけなのに、それでも嫌だった。
髪は綺麗だし手入れが行き届いていた。
あんな、綺麗な男性が世話してくれるなら、惚れるのは当たり前だ。
平城さんにしても、もう一人の女の子も彼をチラチラ見ていた。
解る気がする。
祥吾なんかと違う《本物の美少年》なんだから。
祥吾が幾らカッコ良いと言っても、芸能人の中を漁れば、幾らでもそれを越える美形は頭に浮かぶ。
だが、礼二さんより綺麗な人って言われたら《だれも頭に浮かばない》
ヤバイ、彼は私の理想の男性だった。
少なくとも外見だけは、そうだ…
本物の美少年…平和な生活、全て諦めきれない。
私は教会に走った。
【再び礼二SIDE】
ドアが再びノックされた。
可笑しいな此処に来るような人間は居ないん筈だけどな…
ドアを開けると其処に居たのは水上さんだった。
「どうしても、試したい事があったの、もう一度チャンスくれないかな?」
何か思い詰めている気がする。
「うん、良いよ、あがって」
水上さんは何かを袋一杯持って来ていた。
湯浅さんも三浦さんもサナも僕も水上さん座って見ていた。
何だか、かくし芸を見ている…そんな感じだ。
「ジャジャジャジャーン…女神イシュタスの絵画ぁ~」
何をするんだ。
「水上静香…女神イシュタスの絵画を踏みます…このこのこのこのっ」
昔のキリシタン狩りを思い出す..
「「「「おおーーーっパチパチパチ」」」」
此処にはイシュタスが嫌いな人間しかいない。
だから思わず、声援と拍手をしてしまった。
「女神イシュタスの像~っ」
水上さんはイシュタスの像を手にすると手足をもぎ取り足で踏みつけ始めた。
「死ね死ね死ねしねーーーーっハァハァゼイゼイ」
「「「「おおおーーーっ凄い」」」」
「ジャジャジャジャーン 聖書ーーっ」
今度は聖書を破り始めた。
凄いな、この世界で本来は一番信仰が厚い筈の聖女が女神像を壊し、絵を踏みつけ聖書を破る。
多分、教皇や司祭が見たら気絶するんじゃないかな?
「うん合格だよ、迷い人の世界にようこそ!」
「本当….ありがとう」
実は絵画を踏み始めた辺りから既に《日本に括りますか》という表示は出ていた。
だけど、つい面白いから見続けてしまっていた。
「「「「良かったね、これで仲間だよ」」」」
だけど、これで大丈夫なのかな。
聖女に賢者が居なくなっちゃったけど、もう魔王に勝てないんじゃないかな。
まぁどうでも良いけどさぁ。
ある意味、女神も困るんじゃないか。
まぁ、それは僕にとっては凄く喜ばしい。
無事逃げられた。
水上さんとサナと街にでた。
三浦さんと湯浅さんは立ち直ってはいるけど男嫌いではある。
だから、用事が無ければ外に出ない。
まずはギルドに行き、水上さんの今後を考えないといけない。
ギルド職員が弁護士を兼ねているが
「困りましたね、水上静香さんの場合は先方に落ち度が見つかりません」
確かにそうだ、他の皆と違って酷い思いをしていない。
「その場合はどうなりますか?」
「法律としては2週間前の告知、一般的には1か月前の告知が必要です」
「そんな..」
「あの、このまま戻らなければ懲戒解雇になりませんか」
「それは勧められないのは解りますよね?」
確かにそれは良い事では無い、逆にお金をとられるかも知れない。
「うん、そうだ、そう言えば雇用契約書もかわして無いですよ、そうだよね水上さん」
「うん、書類なんて何も交わして無いよ」
「あの、雇用に雇用契約書は必要ないんですよ…あれっもしかして先方は労働条件の明示もされて居ないんじゃないですか?」
「それはどういう意味ですか?」
「雇用契約書は無くても良いですが、労働条件の明示は必要ですね、何か確認はされた記憶はありますか」
「魔王を倒す手伝いとしか聞いていません」
「その際の報酬は…」
「確かに勇者の祥吾はあるけど…私には無かったような気がします」
「それじゃ、それを元に先方に話してみますか、労働条件の通知書が無いんで、どうにかなりそうですね」
確かに僕が倉庫整理した時も細かい書類にサインをしていた。
当たり前だ。
「有難うございます」
よく考えたら…あれっ雇用であれば給料がある筈だ、多分全部未払いだ。
「あの、そう言えば、給料はどうなりますか? 平城さんも含めて教えて下さい」
「多分、平城さんの給料は恐らく礼二さんの口座にそろそろ入る筈ですよ、勿論水上さんも払われると思います、そうだ、今迄の給料未払いも止める原因にできますね」
大丈夫そうだ…後はギルドに全部任せよう。
その後、やはり水上さんは驚いていた。
「どんな仕組みでこんな事になるのよ」
「それは僕にも解らないけど、日本の生活に括られた感じかな」
そりぁそうだ。
僕だって最初は驚いた。
薬やに入ればドラックストア。
道具やに入ればコンビニやホームセンター。
「これって異世界に居ながら日本の生活が送れるって事だよね」
「全部じゃないけどね」
そう言いながら、水上さんはソフトクリームを食べている。
「やっぱり異世界って禄でもないよね、日本の方がずうっと良いや」
「僕もそう思うよ」
そう言いながら家に戻っていった。
そろそろ、家も小さく感じるようになった。
大きい場所に引っ越そうか真剣に考えよう。
【翌日】
「お話は全部終わりました、結論から言えば《本人都合の退職扱い》になりました」
「有難うございます」
「労働条件の提示が無かったので、そこから話をしまして、先方も2週間居て貰ってもまだ遠征先につかないから意味がないとの事でした」
確かに平城さんと違って事務仕事じゃないから、意味がないな。
「本当に良かったです」
「これで、私正式に聖女じゃ無くなったの?」
「そうだよ」
それを聞いた水上さんは安心したのか、涙を流していた。
《良かったね》本当にそう僕は思った。
僕の友達ではない。
恐らく、王都で勇者達が過ごすであろう最後の日、僕は藤堂と東郷に会う為に街にでた。
ギルドであらかじめ彼らの行動について調べて貰っていた。
水上さんは下手したら恨まれている可能性がある。
だから、平城さんに一緒に来て貰った。
姿形が違う僕には会っても誰か解らないだろう。
買い物途中に偶然を装い会う。
「あれっ藤堂君に東郷さん」
「平城さん、そう言えばアカデミーにいるんだっけ久しぶり」
「本当に懐かしいね…その横の人はもしかして」
「うん、私の将来の旦那さん」
《平城さん何を言っているんだ…》
《お芝居ですよ、お芝居》
なんだお芝居か、驚いたな。
「へぇー中々のイケメン…と言うか凄いイケメンじゃない、私は東郷梓、剣聖をしています、良かったら愛人、ううん旦那にならない? 私剣聖をしているんだ、生涯楽させてあげるよ」
変わってしまったな、昔は自由奔放で我儘だったけど、こんな権力や金を使う様な奴じゃ無かった。
そしてもう一人…藤堂、お前はそれを見て何とも思わないのか?
「勇者様もそう思いますか?」
「ああっ梓は剣聖だ間違いないぞ、それが良い」
「惜しかったな、もう既に僕には平城さんが居るから」
「そう、だけど、そこ子と違って私は正式な剣聖よ帰って来たら貴族確定、私にした方が良いわよ」
「俺もそう思うぞ、帰ってきたら俺は王族だ、顔を覚えておいてやるぞ」
本当にもう、昔の藤堂や東郷じゃない。
最早、権力の虜になっている。
権力に取りつかれ、その能力に取り込まれたなら好きにすれば良い。
少なくとも友達の旦那を権力を使い奪い、それに抵抗が無いならもう仲間じゃない。
ここには正義感が強かった藤堂も我儘だけどどこか憎めなかった東郷も居ない。
「すみません、本当に、既に家族に紹介済みですから申し訳ございません」
「そうか、それじゃ仕方ないな」
「ちょっと、藤堂…」
「その位の男、手柄を立てた後なら買って貰える、市民の平城の男なんだから諦めろよ」
「でも…」
「エルフの男でも買って貰えば良いだろう…エルフに勝てる美貌の男は居ないらしいから」
「そうね…解ったわ、そんな男要らないわ、それじゃあね、平民の平城さん」
この世界の女神イシュタスの名前と権力を行使する…なら義務を果たすしかないな。
此処に居るのは僕の友達じゃなくて、只の勇者と剣聖だからな。
【閑話】この世界に救いは無い。
今日はギルドに相談をしに来た。
日本には沢山の制度があり、当然僕はその全てを把握していない。
少なくとも、湯浅さんや三浦さんは日本でいうなら障碍者だ。
確か、日本には様様な優遇制度があった筈だ。
でも、僕は《身体障碍者手帳》位しか思いつかなかった。
この世界では全ての窓口が冒険者ギルドになっている。
ある意味凄く楽だ。
「はぁ、日本人特有の制度ですか、ちょっとお待ちください」
話を聞けば、《医療費限度額認定証》と言うのがあり、保険だけでありがたかったが、これを一緒に医療機関に出せば自己負担限度額で納まるという物だった。まぁ申請すれば後で帰ってくるお金だけど、支払いが少ないのは良い事だ。
勿論、《身体障碍者手帳》の申請もした、色々と手続きは大変だが1級の申請が通りそうだった。
一番のメリットは交通費だが…この世界だと馬車しかない、劇場の割引きもあるが余り見たいと思わないだろう。
ただ、税制のメリットもあるから申し込んでおいた方が良さそうだ。
心身障害者等福祉手当があった。
僕達が住んで居た場所の自治体にはこの制度があり、適応可能との事。
1人15500円、2人で31000円支給されるらしい。
義手はちょっと損をした。
先に身体障碍者手帳を取得してから申請して買えば、かなりの金額を補助して貰えたそうだ。
ちなみに他にも沢山の支援はあったが居住3年以上とかの制限があったので無理だった。
少なくも僕たちは何かあったら必ず、《ギルドに相談》
そういう癖をつけた方が良いかも知れない。
日本ってやっぱり素晴らしいと思う。
この世界では日本と違い手足の無い者など凄く多い。
スラムに行けば普通にいるし、物乞いしている者の多くは必ずどこか欠損している。
逆に言えばこんな世界だ、体が不自由でなければ同情なんてして貰ず、お金なんて恵んで貰えない。
女ならお金が無くなれば娼婦になるのが当たり前。
金が無いなら奴隷になるのが当たり前。
その奴隷でもまだ幸せだと言える。
顔に傷を負った女や、三浦さんや湯浅さんみたいな状態だと奴隷で無くても恐らくスラムでも地獄の様な思いをして死ぬ。
手が無ければ、弱ければ娼婦になってもお金を踏み倒されたり、払わないで逃げるような最低な男が多い。
実際に、権力のある人間や貴族が、娼館でやり逃げした話も聞いた事がある。
力が無い者は泣くしかない。
冒険者ギルドの依頼に《取り立て》もある位だ。
勿論、強い方、弱い方両方からだ。
魔王以前に女神イシュタスはこの現況をどうにかしろと言いたい。
魔王と戦う前に…既に貧困で死ぬ人間が多いこの世界を。
良く勇者が奴隷の少女を救い出す話もあるが…たった1人救った所で何が変わるんだ。
恐らく何も変わらない。
その裏で何百、何千の奴隷が死んでいく。
そんな救いに何の意味もない。
ただの美談の裏で惨劇は終わらない。
まぁ数人しか救おうとしていない、僕が言えた義理ではないが。
※ 各種制度はネットで聞きかじり程度です。
現実とちがってもお許し下さい。
大いなる力
僕達は離れた所で藤堂くんと東郷さんを見送っている。
勇者パーティーだから派手に送り出されていた。
これでもう会う事は無いだろう。
同級生だから心配ではあるが仕方ない。
討伐に向うのは勇者 祥吾 剣聖 梓 アカデミーが誇る大魔導士隊6名 教会からは戦闘ヒーラー4名彼らは戦いながら回復魔法を使うエキスパート。
合計12名で戦いに挑む。
恐らくはこの戦いは破綻する。
僕が考えるより魔族が頭が悪い、そう思いたい。
【王宮、教会SIDE】
一体何が起きたのか解らない国王エルド6世は焦っていた。
何故、聖女も賢者も手放す事になったのか…正直解らない。
自分で許可などする筈はない、だが知らないうちに許可をしていたらしい。
「お父様自ら許可して王印を押してサインをしていましたよ」
そう、王女であるマリンが言っていた。
確かにその後、書類を見たが全て自分のサインがしてあった。
どう見ても自分のサインにしか見えない。
そして何よりマインや信頼できる家臣が見ているのだ偽造ではない。
何が起きているのか解らない…まさか何かの呪いなのか?
もしやと思い、教皇様に相談をしたら、教皇様の身にも同じ事が起き、聖女を諦めたのだそうだ。
私になら解る、だが、この世界で一番信仰心が高い教皇様に同じ様な事が起きたのだ。
呪いなどではない筈だ。
「教皇様も身に覚えがないのですか?」
「はい、私にとって聖女様は勇者様の次に大切な存在、それゆえ問題は全て押さえました、なのに突然抜けられてしまい…しかもそれを私が知らないうちに許可していたのです」
「それは一体何が起きたのでしょうか?」
「考えられる事は、女神様の怒りです」
「女神様の?」
「はい、今回の召喚した者で調べた所亡くなった者が多すぎます」
「それは」
「解りませんか? 異世界人は女神様が直に会い力を与えた者です、彼等を粗末にした結果お怒りを買ったような気がします」
「あの、異世界人はどの位亡くなったと言うのですか?」
「そんな事も調べていないのですか? こんな短時間で約半数が亡くなっています…そして消息不明も多い」
「そんなに!」
「そんなにではない! 恐らく女神イシュタス様はお怒りだ! 聖女様も賢者様そして数人の者を我々が手が届かない所で守られている」
「どういう事でしょうか?」
「聖女様が魔王との戦いを辞めたい、そう思われたら、もう説得も何も出来なくなった」
「そんな馬鹿な事ができるのでしょうか?」
「貴方も感じている筈だ、大きな力で自分が捻じ曲げられる、どうでしょうか?」
確かにある、自分が自分じゃない時がある。
「確かに御座います」
「多分、それがイシュタス様のご意思なのだ、そうで無ければこの不思議な力は解らない」
「それでは、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「逆らわなことです、大いなる力には…それが良いと思います」
「解りました」
自分達がした事を考え《罰があたった》そう教皇と王は考えた。
その結果、あり得ない現象をそのまま受け入れてしまった。
※悲しみの勇者篇、終了まであと数話、そして最終章がその後始まります。
絶望と悲しみ 第二章終わり
祥吾たち勇者が旅立ってから2週間が過ぎた。
旅に出た祥吾たちは城塞都市ギルガムに向っていた。
ギルガムは四方を大きな塀に囲まれた城塞都市だ。
そして、その入り口には巨大なミスリルゴーレムが2体居て警護している。
此処を拠点にしてレベル上げをしていくそう言う予定だった。
祥吾たちがギルガムに着いた時、明かに異変があった。
本来なら年に入るまで検閲の為行列が出来ている筈だが、それが無い。
しかも、ミスリルゴーレムが破壊されていた。
「何があったんだ…」
大魔導士隊の一人が言った。
どう見てもそこはゴーストタウンにしか見えなかった。
ここは王都に次ぐ巨大都市、こんな静かな訳は無い。
恐る恐る中に入り進んでいった。
すると街は破壊され尽くされていた。
「おい、これがギルガムだって言うのかは? どうみても誰も住んで無いぞ」
「私にもそう見えるわ」
城塞都市の門が閉まった。
「ようこそ勇者殿、我は魔族四天王の一人、マーモンがお相手いたそう、我とお前ではハンデがある、全員で掛かって来るが良い」
「勇者様が出る事はない、我ら魔導士隊6名がお相手いたそう」
「ならば準備が出来たら掛かって来るが良い」
6名が杖を取り出し、六芒星の方向に距離をとる。
この距離からの遠距離攻撃、相手が1人であれば確実の葬り去れる彼らの自慢の戦法だ。
「成程、距離をとったか?」
「行くぞ、炎で纏めるぞ」
「「「「「了解」」」」」
「「「「「「灼熱地獄炎」」」」」」
6人全員で一つの魔法を放つ、彼等最大の魔法。
オーガ亜種ですら消し炭になる…最強呪文…
「人間にしては、確かに凄いな、悪魔神官クラスって事か? それではこちらから行くぞ」
マーモンが動いた。
身長は2m50位、まるで巌の様に鍛えられた体なのに風の様に走り出した。
もし時間を計れば僅か数秒…
一番最初にマーモンの手が頭に触れた者はそのまま、頭が千切れるように体が飛んでいった。
マーモンの蹴りが当たった者はそのまま胴体が真っ二つに千切れて別れて明後日に飛んでいった。
「こんな物か実に詰まらない」
そう言うとマーモンは手を無造作に振り回した。
残り四人はその手に触れた瞬間…あたった部分から先が引き千切れるように飛び散った。
ビチャ、ビチャ、ビチャーーーツ
一番近い表現は、木刀で豆腐を殴った、だから簡単に壊れた。
それが一番近いかも知れない。
一瞬で最強の魔導士部隊は肉片になってしまった。
それを見た、戦闘ヒーラー4人はホーリーの呪文を唱えて勇者である祥吾と剣聖である梓に結界を張った。
「さぁ勇者様、今です」
「祥吾ーーーっ」
意外にも動けない祥吾に対して梓は動けていた。
剣聖は切り込み隊長の役もある…もしかしたらジョブの恩恵もあったのかも知れない。
「斬鉄斬りーーーーっ」
鉄を斬る、剣聖の必殺技が決まる…だが。
「確かに鋼鉄なら斬れるかも知れぬ、だが我の体はオリハルコンより固いらしい…効かぬよ」
「そんなっ」
マーモンは梓の剣の柄を手ごと掴んだ、そしてそのまま振った。
それだけで梓の腕は肩の付け根から千切れて飛んでいった。
「ぎぁややややややややーーーーっ私の腕ーーっ」
「梓さまーーっ」
戦闘ヒーラーがハイヒールを掛ける。
もし手が近くにあれば繋ぐ事が出来たが、手ははるか遠くだ、命を救うには仕方ない事だった。
「邪魔だ」
そうマーモンは言うと二人の戦闘ヒーラーを蹴飛ばした。
その瞬間内臓が飛び出し、2人は絶命した。
梓は反撃しようとしたが…
「腕も、剣も無い..嘘っーーーっ、助けて祥吾っーーー」
此処でようやく祥吾が動き出した。
だが、遅かった、マーモンは軽く飛び上がるとそのまま梓の両足を踏んづけた。
その瞬間、梓の両足が膝から下が千切れた。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっ、足、私の足ーーーーーーっ」
「本来、我は人肉は好まぬ、だが強者の肉は体に宿る、そういう考えが我が一族にはあった、お前にはその栄誉を与えよう」
そういうとマーモンは梓の足を片方とり、食べだした。
「あっあっ…私の足、返してーーっ、返してよ、足」
まるで動物園の白クマが肉を齧るように梓の足の肉を食べていたマーモンがその足を放り投げた。
片足だけでなく、両足共に肉が削り取られていた。
戦闘ヒーラーの一人が梓に駆け寄り、ハイヒールを掛けた。
「勇者より勇気を持つ者よ、敬意を払おう、楽に殺してやろう」
そう言うとヒーラーの首を持ちそのまま握りつぶし耳を千切って食べた。
「勇者様、早く、早く戦って下さい」
片手しかない梓を見て、祥吾はガタガタ震えていた。
「祥吾、祥吾ーーーっ助けてっ、助けてって言っているのよーーーーっ何しているの? 早くーーっ」
「勇者様っーー早く、ぐふっ」
飛んできた石で戦闘ヒーラーの頭が潰れた」
「最早、戦える者はお前しかいない、まだ震えているようだな、お前は勇者にあらず」
「助けてっ..助けて…」
片手しか動かない状態で梓は這いずりまわっていた」
「ふんっゴミが」
「ゴミだと? 俺は勇者だっーーーーっ」
「勇者だと? お前の様に弱い勇者は見たこと無いわ」
マーモンの腕が祥吾のお腹から生えていた。
祥吾の死体と梓を担ぎ上げるとマーモンは鎖で門の上に縛り上げ飾った。
「たす、助けて、助けてーーーっ」
「勇者や剣聖は世界に愛されているのだろう? ならば誰かがおろしに来るだろう…その為に生かしておいたのだ、最も俺が戦い足りないからだがなっ」
《水上さん、意地汚いって思ってごめんなさい》《平城さん逃げたって思ってごめんなさい》貴方達が正しかったよ…
鎖で吊るされながら梓は思った。
【第二章 終わり】
第二章 あとがき
第二章はこんな感じで終わりました。
昭和の時代のアニメや小説の言い回しに「幾多の勇者、英雄が挑みども」こんなフレーズが結構ありました。
つまり、1人の勇者や英雄が活躍する中、小説やアニメでは語られない沢山の勇者や英雄が死んでいったり挫折している訳です。
今回の勇者は、その挑んだけど勝てなかった勇者です。
悲しみの勇者というサブタイトルは「活躍出来なくて悲しいな」そんな思いでつけたタイトルです。
と、言いながら殆ど魔族や勇者でて来ないで進んでいますが…
次回、最終章のサブタイトルは(仮)「くくりの逆襲」「逆襲のくくり姫」を予定しています。
この章は長くない予定です。
後、少しお付き合いください。
石のやっさん
礼二VS四天王マーモン
その日訃報の知らせが配られていた。
その内容は、勇者が負けたという話だった。
祥吾はやはり…負けたか。
僕の中に確信はあった。
ただでさえ不利な状況で《聖女》に《賢者》が抜けた。
恐らく、4名で戦う事に理由があった筈だ。
勇者の戦い方は隠密性に優れていたんじゃないかと思う。
4名だからこそ目立たない。
それが10名以上で目立って行動すれば、そこを攻めてくるのは当たり前だ。
人数で押し切るなら、数千、数万の軍勢で攻めれば良い筈だ。
戦い方が中途半端すぎる。
それこそ歴戦の将軍に万の兵隊を任せて戦えばそれで勝てると思う。
僕はステータスは平城さんの物しか詳しくは知らないが《確かに超人的だが無敵には思えなかった》
100人居れば倒せそうな気はした。
勇者1人が多く見積もって200人の力があるとしても…それ以上なら負けるだろう。
書かれていた内容は《魔族の四天王》に殺されたとの事だ。
これが当たり前だ、成長する前に叩く、僕だってそうする。
さて問題は《東郷 梓さん》だ。
勇者の死体と一緒にギルガムの街の入口高くに鎖で縛られているらしい。
そして治療はすんでいるが、足は両足が無く腕も一本しかない。
三浦さんや湯浅さんの時の事を考えたら、かなり酷い状態だろう。
その状態で四天王が下で待ち構えていて《助けたければ俺と戦え》とほざいているらしい。
やはり、この国も女神も…禄でもない。
見捨てる様に動かない。
ただ、その話も仕方ない。
マーモンとは四天王の中でもかなり強く、山ほどの騎士を繰り出しても勝てる見込みがないらしい。
だから、この触書には《誰か助けてあげて欲しい》と書いてある。
もし救出できたら、自分の者にしても良いとも書いてある。
剣聖で女性とはいえ、手足が無い状態、報酬にならないだろう。
もう見捨てた、そういう事だ。
結局は使い捨て、そういう事ですか…
東郷梓は、この世界を選んだ、関係ない。
と言えたら、凄く楽だった。
だけど、日本から召喚された人間はもう、梓以外は生きていない。
ギルドで調べたが、もう既に死んでいた。
行かないという選択は僕には無い。
サナや湯浅さんや三浦さんはトラウマがある。
平城さんもようやく立ち直ったばかり。
水上さんは、戦いたくないからこそ聖女を捨てた。
なら、僕がやるしかない。
少なくとも、僕達は怖いだけで済むはずだ。
三浦さんと湯浅さんに切り出した。
「梓さんを助けに行こうと思う」
「そう言うと思いましたよ、礼二さんはお人よしですからね」
「そうですね、私達に言うのはズルいですよ礼二様は、あとで皆で叱りますからね」
「ごめん、伝えておいて」
僕はワザと三浦さんと湯浅さんにだけ伝えた。
二人は僕について来れない、他の仲間は《心配だからついてくる》そう言いだす可能性がある。
だからこうするのがベストだ。
途中道具やでチェーンクリッパーを購入してギルガムに向った。
ギルガムまでの一本道では誰にも会わなかった。
ギルガムについた、何も声が聞こえない。
四天王のマーモンとはとんでもない化け物だ。
これ程の街を単騎で滅ぼしたんだ…そんな存在に勇者が勝てるわけが無い。
腐肉の臭いが此処まで匂ってくる。
大きな門に鎖でつながれた梓さんがいた。
喉も枯れているのか声も出ないようだ。
ただ耳を澄ませば「た.す.けて」と風に混じり声が聞こえてきた。
生きている良かった…
だが、見た感じでは最早女の子の尊厳は無く、更に虫の息だ。
「ほう、ようやく助けようとする者が来たか」
「その話だと、僕が初めての様に聞こえるが」
「お前以外は来てない、正確には遠巻きに様子だけ見て帰っていった者は居たがな」
やはりこの世界はクズばかりだ。
無様とはいえ、世界の為に戦おうとした者を誰も助けようとしない。
「そうか…居なかったのか」
「そうだ」
「それで四天王のマーモン様、少しハンデをくれないか?」
「貴様は敵に対してその様な事を言うのか?」
「ああっ、僕は勇者どころか騎士でもない、だが幼馴染のそいつは助けたい、魔物にしたらゴブリン対ドラゴンだ、少しで良いハンデをくれないか?」
マーモンは噂では正々堂々を地で行く奴だ、乗る可能性はある。
「ほうっ、それではゴブリン並みの力の奴が我の前にたったと言うのか、話して見ろ」
「マーモン様から逃げられた者は居ないと聴きました、そこで僕は彼女を助けるために門まで走ります、門までたどり着ければ僕の勝ちと言う事で見逃して下さい、もしたどり着けなければ、殺して貰って構いません」
「それで良いなら受けてやる、だが我は今迄誰も逃がした事はない…この街から誰も逃げ出せずに死んだんだぜ、良いのか?」
「お願いします」
掛かった。
「それなら良い、受けてやる」
「それじゃ行きます…くくり神拳奥義、天翔ける羽の舞い」
僕はそのまま走り出した、目の前に指一本を突き出し目突きをしながら。
「むっ、逃げるのではなくこちらに突っ込んでくるとは、確かにその指が目に刺されば我とて目に怪我を負うかもな、だが拳で頭が吹き飛ぶ」
「ならやってみる事だ」
普通に僕には触れることは出来ない筈だ。
だが、このネタはバレたくはない。
だからこうした…どんな生物でもこの状態なら目をつぶる。
マーモンの拳は僕の頭をすり抜けた。
そして、こちらの指に対して目を守る為に目をつぶった。
そのまま、走り去る、ただそれだけだ。
マーモンが目を開けた時には僕は…既に門にたどり着いた後だった。
「僕の勝ちだ」
「確かに約束をした…さぁその女を助けるが良い」
「た..すけて..」
「もう大丈夫だよ、東郷さん」
僕はよじ登り、持ってきたチェーンクリッパーで鎖を斬った。
そのまま東郷さんは落ちてしまったが、まだ剣聖だから大丈夫だろう。
ただの僕には人を抱えてこの高さから降りるすべはない。
「痛い..」
「ごめんね、ほら水だよ飲んで」
「ありがとう…」
両足は膝から下が全くない。
片腕は肩から無い…ある意味、三浦さんや湯浅さんより酷い。
そして、凄く臭い。
勇者の死体と一緒に鎖で絡まれていたから腐肉の臭いがする。
しかも糞尿垂れ流しだから、多分浮浪者より臭い。
特に腐肉の臭いが酷く、吐きそうになる。
《日本に括りますか》
こんな思いをしたから女神の信仰心などもう無くなっていたようだ。
勿論括った。
東郷さんを我慢して背負おうとした時にマーモンから声が掛かった。
「名前を名乗れ」
「礼二だ」
「それでは礼二、第二ランドスタートだ、我が名はマーモン、魔族四天王の一人だ」
「待て、見逃してくれると約束したはずだぞ」
「見逃したでは無いか? その女を鎖から外して降ろすまで見逃しただろう」
「魔族四天王ともあろう者が、そんな誤魔化しをするのか?」
「我は四天王のうち破壊を司る、お前みたいなやり手を潰したくなるのは本能だ」
もう東郷さんも括った、ただ逃げるだけで良い…だが此奴はきっと王都迄追ってくる。
ならば此処で此奴を納得させる必要がある。
「マーモン、お前が破壊を司るなら、僕は護身だ、どんな者からでも体を守る事が我がくくり神拳の戦いの神髄、提案がある」
「おもしろい、話を聞こう」
「ならば、僕はお前の攻撃をそうだ5分凌ごう、僕は一切攻撃をしない、もし凌げたら僕の勝ち、凌げなかったら死ぬから関係ないか…幸い、あの時計台は生きているようだ」
「ほう、面白い奴、我が破壊に対してお前は護身、良いだろう受けた、あの時計の長身が8を差すまで逃げ切ったらお前の勝ちを認めよう」
「今度は、さっきみたいなのは無しだ良いよな」
「心得た」
次の瞬間、凄い拳が飛んできた。
こんな攻撃、初めてみた。
あたっても問題はないが…避けた振りはしないと不味いだろう。
「ほう、当たった筈だがダメージ無いとは、護身とはよく言った物だ」
不味いな、何か言い訳位しよう。
「我が体は羽、ただただ舞う羽、いかな攻撃もただ勝手に避けていくだけ」
マーモンは、拳を振り上げ攻撃をしてくるが、勿論僕の体をすり抜ける。
僕にとっては最早、マーモンはただのVR恐怖動画にしか過ぎない。
「これが効かぬだと、何だその技はどんな原理だ」
「これは真に悲しみを背負った物のみが身に付けられる究極の護身、お前には理解できぬ」
「なんだと?」
「護身とは強い者より身を守る力、ウサギの様な弱い生き物が狼より身を守る事の集大成、ゆえに強者のお前は知る事が出来ない」
「ほぉー、それは凄いな」
「さぁ掛かって来るが良い」
「遠慮なく」
マーモンは怒涛の攻撃を繰り返すが僕には効かない。
「光栄に思え この技は過去に居た銀嶺の勇者を頬むる為に身に着けた最強の技だ、もしこれをお前が防げたなら 滅亡の炎、メギド」
マーモンに強い力が集まる…多分この都市が滅ぼされたのはこれだろう。
そうで無ければ誰1人逃げずに皆殺しなんて出来ない。
光が炎になりこの身に振り注いだ。
僕には害はない、そう解っていても怖い。
光と炎に包まれる…痛くも痒くもないが視覚的に怖い。
やがて光と炎が収まり…全てが終わった。
すげーなこれ、周りにクレーターが出来ている。
その癖どういう訳かその外側の木々は燃えていない。
対象相手だけを焼き尽くす…恐ろしい技だ。
「それじゃ、マーモン約束の時間だ、僕はいかせて貰う」
「これすら防いだのか? お前は…その髪は黒く染めていて本当は銀髪では無いのか?」
「違う、これは地毛だ、僕は魔族の敵に成ろうとは思ってない」
「そうか」
「ああっ、仲間と楽しく暮らす、それ以上は望んでないよ」
「解った、もう行くが良い…護身」
「それじゃぁな、破壊」
僕は東郷さんを背負いながらその場を去った。
もうマーモンは僕に何か言う事は無かった。
【閑話】私の王子様でヒーローは逃げ出した。
マーモンとの戦いで、水上さんが言った事が解ってしまった。
ずうっと水上さんは言っていた。
今のままじゃ戦えないと….
生きる為に、最高の武器を寄こせと言うのは当たり前だ。
人や生物を殺した事が無ければ、体が動かない。
水上さんは何も間違ってなかった。
その結果がこれだ…
祥吾は経験が全く無かった。
まさか、あそこ迄動けないとは思わなかった。
勇者とは勇気がある者の事を言うんだと思う。
祥吾は日本と言う治安が良い場所でのみ輝ける存在だった。
虐めに立ち向かい、危ない人間から弱い者を守ったスーパー高校生。
そんな祥吾に私は憧れていた…だが、それは学校、警察を後ろに持っていたからこそ輝いていたんだと思う。
本当に弱肉強食の世界になったら…あははははっ笑える、全然動けないの。
まだ、私の方が動けるって…しかも私を見殺しにしてさぁ、100年の信頼も一気に冷めたわ。
というか、恋ではないけど、信頼はあったんだよ、必ずあんたなら世界を救うかもってさぁ。
飛んだ馬鹿だわ私…水上さんや平城さんが全部正しかった。
あんたはただカッコつけていたかっただけのクズ男だよ…信じた結果が…これ。
手足もがれて、死体のあんたと繋がれているの?
腐ってきて気持ち悪いよ?
今の私にとって、あんたよりキモイ男はいないわ、まぁあんたは死体だけど。
この世界の人間もクズばかり…確かに役立たずだよ、私….
だけど、誰1人助けに来ない…
片手無くして、両足無くして戦ったのに…何が剣聖様よ、私と結婚したがっていた貴族の馬鹿はどこ行ったの?
今、助けてくれたらポイント高いわよ、多分感謝してプロポーズ受けちゃうと思うわ。
無理ね、手足が無いから、もう…
あははははっ、女神イシュタス、あんたが私を此処に連れて来なければ、今頃私は女子高生として遊んでた。
あんたはゴミだ、他の小説の女神様みたいに無双できるスキル寄こしなさいよね…なにこの剣聖って名前のゴミスキル。
私はもう終わり…手足が無い、死体と繋がっている、糞尿垂れ流しで喚く…見た目は、まるで都市伝説のダルマ女…
これ、もう終わりだ。
誰も助けに何てこない…
マーモンが可哀想な奴を見る目で見てくる。
惨めだわ….
どれだけ、助けを求めたか解らない、もう大きな声も出ない。
マーモンが動いた。
「ほう、ようやく助けようとする者が来たか」
「その話だと、僕が初めての様に聞こえるが」
「お前以外は来てない、正確には遠巻きに様子だけ見て帰っていった者は居たがな」
助けは来た…だけど、居たのはたった1人。
しかも、私を振った、あの時のイケメンだった。
「そうか…居なかったのか」
「そうだ」
だれも来なかったよ…この世界の人間はクズだもん。
貴方は何故此処に来たの?
死んじゃうよ…勇者も剣聖も玩具に出来る様な奴だもん。
「それで四天王のマーモン様、少しハンデをくれないか?」
「貴様は敵に対してその様な事を言うのか?」
「ああっ、僕は勇者どころか騎士でもない、だが幼馴染のそいつは助けたい、魔物にしたらゴブリン対ドラゴンだ、少しで良いハンデをくれないか?」
「ほうっ、それではゴブリン並みの力の奴が我の前にたったと言うのか、話して見ろ」
「マーモン様から逃げられた者は居ないと聴きました、そこで僕は彼女を助けるために門まで走ります、門までたどり着ければ僕の勝ちと言う事で見逃して下さい、もしたどり着けなければ、殺して貰って構いません」
「それで良いなら受けてやる、だが我は今迄誰も逃がした事はない…この街から誰も逃げ出せずに死んだんだぜ、良いのか?」
「お願いします」
あなたは知恵を絞って戦おうって言うのね。
しかも、こんな私の為に…
※これは梓が見た妄想です。
戦いが始まった。
逃げて欲しい、死なないで欲しい、本当にそう思った。
だって、私はお姫様の資格はないんだもの…ガラクタだから。
「くくり神拳奥義、天翔ける羽の舞い」
彼の体が光り輝いて見えた。
神々しい、あれは、そう…こんな世界の偽物じゃない《本当の救世主》
私が日本に居た時に憧れた、本当のヒーロー。
※ただの妄想です….
凄い、凄すぎる。
勇者も私も手も足も出なかったあのマーモンが、翻弄されている。
まるで私が読んだ漫画の伝説の暗殺者か一子相伝の拳法使いみたいだ。
そんな本物のヒーローがハンデを貰ってようやく相手出来る…そんな者に祥吾や私が勝てるわけ無いわ。
「むっ、逃げるのではなくこちらに突っ込んでくるとは、確かにその指が目に刺されば我とて目に怪我を負うかもな、だが拳で頭が吹き飛ぶ」
「ならやってみる事だ」
あの化け物相手に真っ向から戦うなんて…カッコ良いなぁ、本当に。
まるで加速が増したようにすり抜け、彼は私の下に居る。
※妄想です
「僕の勝ちだ」
「確かに約束をした…さぁその女を助けるが良い」
彼は私の鎖を断ち切ると優しく降ろしてくれた。
※妄想です
彼は優しく、私に水を飲ましてくれて、優しく微笑んでくれた。
だが、これで終わらない。
卑怯にもマーモンはそんな彼に対して約束を守らなかった。
「名前を名乗れ」
「礼二だ」
「それでは礼二、第二ランドスタートだ、我が名はマーモン、魔族四天王の一人だ」
「待て、見逃してくれると約束したはずだぞ」
「見逃したでは無いか? その女を鎖から外して降ろすまで見逃しただろう」
「魔族四天王ともあろう者が、そんな誤魔化しをするのか?」
「我は四天王のうち破壊を司る、お前みたいなやり手を潰したくなるのは本能だ」
「マーモン、お前が破壊を司るなら、僕は護身だ、どんな者からでも体を守る事が我がくくり神拳の戦いの神髄、提案がある」
「おもしろい、話を聞こう」
「ならば、僕はお前の攻撃をそうだ5分凌ごう、僕は一切攻撃をしない、もし凌げたら僕の勝ち、凌げなかったら死ぬから関係ないか…幸い、あの時計台は生きているようだ」
「ほう、面白い奴、我が破壊に対してお前は護身、良いだろう受けた、あの時計の長身が8を差すまで逃げ切ったらお前の勝ちを認めよう」
「今度は、さっきみたいなのは無しだ良いよな」
「心得た」
抗議虚しく、再び彼はマーモンと戦う事になった。
彼の瞳が私を見つめる。
私に《大丈夫だよ助けるから》
そう瞳が語っていた。
※ 妄想です。
そこからは本当に一方的だった。
マーモンの攻撃を彼は遊ぶように全部躱していた。
防御しないでただただ、遊ぶように…
「我が体は羽、ただただ舞う羽、いかな攻撃もただ勝手に避けていくだけ」
「これは真に悲しみを背負った物のみが身に付けられる究極の護身、お前には理解できぬ」
「護身とは強い者より身を守る力、ウサギの様な弱い生き物が狼より身を守る事の集大成、ゆえに強者のお前は知る事が出来ない」
私みたいなパチものじゃない…本当のヒーローだ。
カッコ良い…本物は凄いなぁ…
※ あくまで妄想です。
だが、現実は残酷だった。
マーモンが恐ろしい魔法を放った。
「光栄に思え この技は過去に居た銀嶺の勇者を頬むる為に身に着けた最強の技だ、もしこれをお前が防げたなら 滅亡の炎、メギド」
こんな物があったのか…これじゃ終わりだよ。
可笑しい、私は何故死なないのかな?
まさか、私を守るために結界を張っていたの?
こんな都市ごと破壊する魔法から守る結界…私のヒーローはどれだけ凄いんだろう。
「それじゃ、マーモン約束の時間だ、僕はいかせて貰う」
そう言いながら、私を担いで歩き出した。
彼こそが私のヒーロー
私の王子様….
そして私の王子様は….今。
「礼二さん、なぁーに、体の不自由な女の子を裸にして洗おうとしているのかな?」
「いや、洗ってあげないと、可哀想じゃない?」
「湯浅さんや三浦さんは兎も角、サナさんも含んで健康な女の子が三人も居るんですよ! 礼二様…なんで頼まないんです? 私は信じていますよ? だけど、普通の方は、その…不潔だと考えますよ」
「その前に何で礼二は私に黙って、そんな危ない事しているのかな? 言ってくれれば一緒に行ったのに」
「あっゴメン、今日僕オークマンと飲む約束していたんだ」
「「「「「ちょっと待ちなさい(て)(って)」」」」」
どうやら私のヒーローで王子様は今、もっと怖い敵から逃げていった。
ここは凄いな…こんな世界の中で此処だけは明るい。
早く逃げ出せば良かったな、心底そう思った。
勘違い
「礼二とか言ったな彼奴は…」
俺は今迄《強い》と思った相手に出会った事はない。
単純な強さなら俺はこの世の中で最強だと思っていた。
四天王では一番強いし、正面切った戦いなら魔王様にだって負ける気はしねー。
だが、彼奴とやりあったら間違いなく100日戦争になる。
本当に100日じゃないが確実に長引く…そしてその最後に立っているのは彼奴…無様に負けるのは俺だ。
彼奴にはどんな攻撃も効かない。
彼奴は俺に攻撃を仕掛けて来なかったが、どんなに弱い者にも攻撃手段はあるはずだ。
彼奴はウサギって言っていたが、ウサギだって噛みつく事は出来る。
絶対に攻撃が当たらない狼とウサギ…死ぬ気でぶつかれば最後に勝つのはウサギだ。
「ちっ…最強のウサギじゃねーかよ」
あの勝負は本当に危なかった…メギドを使って倒せねーなら今の俺には無理だ。
彼奴は…平和が好きで魔族とは関わらないつもりなのだろう。
じゃ無ければ、あんな風に勝ちを譲らない。
圧倒的な能力を持ちながら…始終低姿勢だった。
多分、あの《剣聖の女》は彼奴にとっては大切な者だった。
だから、我と戦った、そんな所だろうな。
まぁ、魔族に関わって来ないのなら、気にしなくて良い。
くくり神拳、その伝承者の礼二か…ただの人が武術を極めるとあそこ迄出来る様になるのか?
「ぶあっははははっ勇者も剣聖も詰まらなかったが良い戦いができたわ」
だが、あの分じゃもう表にでては来ないだろうな…
だが、この事は魔王様には伝えなければならぬ。
この世の中の何処かに《護身》を極めて、我でさえ手が出せぬ男がいる。
恐らくは暫くの間はぶつかる事は無いだろう。
だが魔族が魔王様がこの世界を掌握するなら、最後に立ちふさがるのは多分、あの男礼二だ。
人類最強は勇者でも英雄でもない《くくり神拳伝承者 礼二》この身に刻もう。
人とは寿命が短い、再び戦う事は無いかも知れぬ。
俺は更に修行をする…決めた。
もし再び戦う事があれば、俺は狼でなく獅子になり《最強のウサギ》に挑んでやる。
マーモンは魔王に告げた、世の中には信じられない強者が要る事を…
魔王は恐れた、マーモン程の強者を翻弄する存在に、その事がこの先人類を恐怖に陥れる事になる事を誰も知らない。
【最終章スタート】 お前を許さない。
この世界は糞だ。
この世界の人間は悪人が多い。
勿論、全部じゃない、そんな事は解っている。
だが、僕たちを人間となんて思って無いのだろう?
37人居た僕たちが、今は
僕、三浦陽子、湯浅真理。水上静香、平城綾子、東郷梓 しか居ない。
つまり、37名のうち生き残ったのは6名…あとの31名は死んでしまった。
東郷さんや水上さんの話では、世界が危ないって言うのに、家宝だからって武器を渡さない者がいた。
僕たちはお前達が《敵わない者》を倒さなければいけないから召喚したんだよな。
ならば、全部差し出せよ…少なくとも金と必要な道具は全部差し出せ…
お前らが呼ばなければ全員が幸せに今でも高校生だった。
僕の周りを見てみろ。
三浦さんと湯浅さんは両手が無くなり歩くのにも支障がある。
こんな所に来なければ三浦さんは今頃剣道少女として活躍してインターハイで活躍していた筈だ。。
湯浅さんはきっと文学少女としてやがてはキャンパスライフを歩んでいた筈だ。
東郷さんは片手が無くなり、両足は膝から下が無い、三浦さん達以上に酷い。
まぁ東郷さんは…あははっ合コンでもして男遊びしていたんじゃないか
平城さんはお前らのモラハラ、セクハラの被害者だ。
成績優秀な平城さんは進学するにしても就職するにしても幸せは約束されていただろう。
本当の意味で無事なのは僕と、水上さんだけだ。
悪いのは魔族じゃない。
この世界全てが悪い。
武器を渡さなかった奴ら。
助けようとしなかった奴ら。
こんな世界に呼んだ女神イシュタス。
一番悪いのはイシュタスお前だ…
これから、僕はお前を女神の座から引き摺り降ろしてやる。
優しい顔して僕らを騙し、地獄に落としたお前を僕は許さない。
今から、僕の敵は、女神イシュタスお前だ!
31名、殺したんだお前やお前の世界は…僕はお前らを絶対に赦さない。
世界が変わる 第一歩
僕は皆に相談してみることにした。
助かったとはいえ、改めて見て見ると悲しくなる物がある。
僕の日本での生活は、苦学生だった。
底辺とは言わないがかなり、きつい物だった。
そんな僕が生活しやすい様に気を使ってくれたのが同級生や担任の先生だった。
日本と言う社会は、そんな僕に手を差し伸べてくれる、そう言う社会だ。
同級生はもう今は此処にいるだけしか居ない。
しかも、皆がボロボロだ。
この世界は弱者には悲惨な世界だ。
ギルドの受付嬢が「冒険者の命は自己責任です」だと
馬鹿な話だ、何も保証しないって事だ。
命が軽過ぎる…
世界が魔王によって「滅びるから助けて」と言っている癖に…
盗賊が跋扈して、悪人がはびこり、それを見て見ぬ人ばかりだ…
この世界の本当の敵は、僕から見たら…心が醜い人間だ。
そして、そんな人間の味方をするイシュタスこそが諸悪の原因だ。
もうこの世界から出られないなら…壊してやる。
「聞いて欲しい、僕は女神イシュタスが嫌いだ、皆に酷い事をするこの世界が大嫌いだ」
「うん、それは当たり前だよ、私も真理もこんなになったんだから」
「だから、僕はこれから、元日本人だけでなく、この世界で恵まれない人を括っていこうと思う」
日本に括ってしまえば、貧しい人は助かるし、例え悪人が居たとしても、その悪人も日本の法律で括られているから、この世界の様に馬鹿は出来ない。
ある意味、悪人は厳しく善人や弱い人間には優しい世界になる筈だ。
「そうだね、礼二さんにはその力がある物ね、それで私達は何をすれば良いのかな?」
「とりあえずは1人でやってみるよ、下手したらこの世界その物を敵にしかねないからね、まぁ大丈夫だと思うけど、不味いようなら他国に逃げ無くちゃいけないかも」
以外にもすぐに賛成してくれたのは梓だった。
「私は、礼二さんが言うならそれで良いよ、片手に両足まで無くしたからね、乗った」
「それであの糞女神が困るなら言う事ないな」
「平城さん、何だか怒っている?まぁ私も同感だけどね」
「私は、礼二に会わなければスラム暮らしだった、スラムの辛さは知っているよ…だから賛成」
「それで具体的に何をしようって言うのよ」
「うん、くくり姫を主神に据えた、宗教団体を作って賛同してくれる人を信者として括って行こうと思う《くくり教》という新しい宗教を作ろうと思う」
「「「「「「えーっ」」」」」」
「まぁ、何かあるといけないから、最初は僕1人でやるから軌道に乗って来たら手伝って」
こうして僕は《くくり教》を作る事にした、ささやかな抵抗の始まりだ。
大学ノートに《教義》と《利益》を書いた。
まぁこんな感じで良いだろう。
教義
1.女神イシュタスは糞女神、嘘をついて人を騙す。
2.あの世で幸せな人間は居ない、だって悪事をしない人間なんてこの世に居ないのだから
3.女神イシュタスは人間を救わない、だって誰も女神に助けて貰えた人が居ないのだから
4.勇者を呼ぶのは女神の遊び、だって勝っても負けても女神は関係ないのだから
5.女神は誰も救わない、だから本当に救ってくれる女神を探さなくちゃならない、その神こそは「くくり姫」
利益
1.くくり教を信じる者は魔族なんて怖くない、だって信じる者は《くくり姫》に守られ魔族は手を出せなくなるのだから
2.《くくり姫》こそが真の女神、あの世なんて行く前に、現世利益を与えてくれる、幸せに人が成れる事を見せてくれるのだから。
3.くくり教を信じる者は現実の中に天国が現れる、真の幸せな世界で加護の中暮らせる。
4.正義を貫く限りくくり姫は微笑続ける、そして悪人はその前に無力になる。
折角なので冒険者ギルドで宗教法人でも作ろうと思ったが、
「この世界であれば死刑になるかも知れない話ですが、日本人には宗教の自由がある為問題ありません、但し宗教法人になるには2年の宗教団体としての実績が必要です、ちなみに宗教団体は、特に縛りは無く、同じ様な考えの方が集まって勝手に初めてもらって結構です、ただ団体の段階は、個人なので、税金は普通に掛かります」
僕はスラム街にある倉庫を借りて拠点にして《個人商店の開業届け》を出して帳簿はギルドに丸投げする事にした。
管理まで任せたら、宗教法人の資格を満たしたら教えてくれるそうだ。
※この内容は出鱈目です、あくまで小説と言う事で見逃して下さい。
一神教のこの世界に小さな穴が空き、この瞬間から世界が変わり始めたのを誰もまだ知らなかった。
イシュタスなんて要らない
スラム街の倉庫を簡単に改造してくくり姫の像を安置した。
勿論、赤い鳥居も忘れない。
本物の神社と言うよりは遊園地のアトラクションに見えるのは仕方ないと思う。
体制は整った、これから布教をスタートする。
だが、我が教団には最大の壁があった。
その壁は入信しないと何も与えられないと言う事だ。
炊き出しした所で、日本の料理は、彼等には触れられない。
仕方ないから、イチかバチかでカレーライスを作ってみた。
だが、異世界人にはこの香ばしい臭いも届かないのだろう、見向きもしない。
倉庫の前で深呼吸した。
これが僕の最初の第一歩だ。
「あなたは、くくり姫を信じますか? 悪神イシュタスをまだ信じますか? 信じた末に殺されますか?」
大きな声で叫んだ。
この世界は一神教…こんな事言う奴はいない。
暫く、同じ様に叫んでいると、直ぐに人が集まってきた。
「イシュタスは人間を愛していない、嘘をついて人を騙すだけだ」
直ぐに反論がかえってきた。
「女神様は、全ての人を救って下さる、そんな訳は無い」
「それが嘘なんです、この中に幸せな人は居ないだろう?もしイシュタスが本当に幸せをもたらすなら、貴方はなんでスラムで暮らしているんですか?」
「そうか、確かに幸せじゃないな…それでお前が言う神様を信じたら、助けてくれるのか?」
「はい、くくり姫様は《あの世》でとか《来世》なんて嘘をつきません、現世利益それこそが教えです、信じた瞬間から貴方を全力で救ってくれます」
「そうか」
「是非入信下さい」
「解った、それでどうすれば良いんだ」
「このイシュタスの像を壊して、女神に呪いの言葉を掛ければ…良いんです、多分それで」
「お前、そんな事したら呪われる」
「そんな魔族の様な所業俺には出来ない」
「お前は人間なのか?」
集まった人は蜘蛛の子を散らすように居なくなった。
一神教は思ったより根深いな…
だが1人の子供がこちらを見ていた。
「お兄さん、もし、私が入信したらお母さんを助けてくれる?」
「そうだな、状況次第だけど、もし動かせるならお母さんと来てくれるかな?」
「解った」
暫くして、母親とさっきの娘が此処に来た。
「あの、娘から、此処にくれば助けて貰えると言う事でしたがどういう事でしょうか?」
顔色は凄く悪い、僕が言ったから死ぬ気で此処まで歩いてきた。
そんな気がする。
話を聞けば、母親が一人で稼いで暮らしていたが具合が悪くなり働けなくなった。
娘が冒険者になったが、まだ子供だから稼ぎが無い、だから医者にも掛かれないし、誰も助けてくれない。
僕は【くくり教団】の話を簡単にした。
後は彼女達が決める事だ。
「女神イシュタス様は皆を」
「しっかりしてお母さん、女神は私達に何をしてくれたの? お父さんが死んでもお母さんが病気で苦しんでも助けてくれない、あんなの神じゃない」
「だけど、私は何時も祈っていたわ、信じているの」
残酷だと思うが言わなくてはいけない。
「ならば死ねば良い、偽りの神を信じて苦しみながら死ね…可哀想に貴方が死んで、その子の将来は売春婦か奴隷だね、それで良いなら僕は手を貸さない」
「そんな」
「この街を見て見な、皆がそうじゃないか? 誰かイシュタスが助けてくれた人が居るのかな? 貴方にはいま、くくり姫様が手を差し出した、その手を拒むかどうかは貴方が決めれば良い」
悩んだ末彼女は信仰を捨てたようだ。
【アリナを日本に括りますか】
【アナを日本に括りますか】
もう結論はでた。
「娘が助かるなら、信仰を捨てます」
「私も捨てる」
「ならば、貴方達にくくり姫の祝福を与えます」
【括る】
「何か変わったのでしょうか?」
「お兄さん、何も変わった事は無いと思うけど」
一応教会を作る時に車椅子も用意していた。
アリナさんを座らせるとそのまま診療所に運んでいった。
「アナも行こう」
「うん」
《あれっ、このお兄さん、何で私の名前を知っているんだろう》
「あの、お金が無くて診療なんてして貰えなかったんですよ」
「お兄さんがお金を貸してくれるの?」
「さぁ、くくり姫様が如何に素晴らしいか、解る瞬間です、驚かないで下さいね」
「「ハァ…えーーーーーーーーっ」」
驚くよな、ただの診療所の扉の向こうが総合病院になっているんだから。
「驚いたでしょう? くくり姫様を信仰するとくくり姫様が治める国、日本の待遇があちこちで受けられる」
《まるで神殿か王宮みたいな建物…神々しさすら感じるわ》
《どんな奇跡なの…》
そのまま診療を受けた。
心配だから一緒に話を聞いたら、過労と栄養不足だった。
ついでにアナも見て貰ったら、同じく栄養不足だった。
点滴を打って貰い3日間の入院が必要だった。
だが、此処で僕は失敗した事に気がついた、危ないと思い直ぐに此処に来たが、先にギルドで保険の申請をしておくべきだった。
一旦二人を置いて、冒険者ギルドに行った。
こういう時に全部の手続きがギルドで出来るのは便利だ。
「国民健康保険の書類を下さい」
そう言いながら、書類一式を貰い、委任状があれば代理申請が出来る事を聞いた。
その書類を持って病院に行き、内容を説明して書いてもらった。
二人は内容が解らないようだったが毎月僅かな金額の掛け金で病院代が安くなると説明したら書いてくれた。
それを持って行くと 仮の保険証(資格証明書)を貰った。
これで一安心かな…お金の支払いは、日本で括られているせいか、事務所で話し合い、元気になってからの返済プランを提案された。
二人は診療費が後払いで良く、金額が思った程で無いのに驚いていた。
医者から聞いた話では…
栄養不足や過労が思ったより深刻な事を聞いた。
僕は日本人の感覚でいたが…話を聞くと自分が思ったより結構深刻だった。
餓死者が出る国なんだ…全然話は違う。
「知らない人の中で心細いと思いますが3日間位で退院できるみたいです…僕はこれで失礼します」
「あの、この凄い診療所は何でしょうか?」
「こんなの見たことがないよ」
「これはくくり姫様の世界の診療施設です、くくり姫様は慈悲深く神の世界の診療も一部提供してくれます」
「確かに、針を刺されたりしましたが、高価な薬品が体に入っていくのも感じました」
「しかもご飯迄でて凄いよ」
「どうです」
「信じられません、しかも良く解りませんが今回は後払いでよくて、私何かの為に支払いが分割で良い何て」
「普通はどんな治療も前払いなのに」
「これが、くくり様の世界なのです、勿論無料では無いので後で支払いは必要です、ちゃんとお金の稼ぎ方も教えますから安心して下さい」
高価な月光草を採りにつれて行けば多分返済はどうにかなるだろうな。
【3日後】
話を半信半疑で聞く人は多いが《証拠を見せろ》という人が多い。
皆に相談したらポスターやビラを作ってくれると言うので、それに期待したい。
10時位になったら、アリナさんとアナさんが来た。
「お世話になりました」
「お兄さん、ありがとう」
すっかり顔色が良くなり、見違えた位だ。
「すっかり良くなったようですね、お体は大丈夫ですか?」
「はい、すっかり元気です」
「私も、体が調子悪かったのが凄く解ったよ」
アリナさんは前は顔色が悪くかなり年寄りっぽく見えたのに、今見たら20代の女性に見える。
アナも凄く健康的な女の子だ。
ただ、服が汚いし、身なりが悪い。
今回は本格的に活動した第一号の仕事だ、全部面倒みようと思う。
多分、この分だと住む所も無かったのかも知れない。
仕事について話したら…
「お恥ずかしい話し、生活に困っているので、すぐにでも働きたいです」
「私も…」
確かに今日一日で生活の基盤を作る必要があるかも知れない。
「それじゃ、お金を稼ぎに行きましょう」
話を聞けば、アナだけでなくアリナさんも冒険者の登録があるそうだ…
なら簡単。
一緒にギルドに行き、薬草採取の依頼を受けた。
「あの、薬草採取じゃ、稼げないと思うんですが」
「私もそう思うよ」
「いいですか? くくり神様を信仰すると世界が変わるのです」
2人とも半信半疑だったが…
「薬草採集ですが…日本に括られていますので日本の常識的金額が適応されます。日本の研究所などの依頼金額が薬草の売値から考えて1本650円+交通費として320円が別途支給されます…ご依頼を受けられますか?」
「はい、あと月光草はまだ買取値段は3万円から崩れていないですか?」
「はい、そのままです」
「それでは、積極的にそれも狙おうと思います」
「頑張って下さい」
「さぁ一緒に薬草採取に行こう」
「あのさっきの話は…円て何ですか?」
「良く解らなかった」
「うーん、お金の支払い方がまるっきり変わるんだよね、そうだ二人はお金を持っている?」
「殆ど無いですが…あれこれ何でしょうか?知らない銅貨が」
「私も変な銅貨になっている」
2人とも10円玉しか持ってないなんて…
「そうだね、それが僕たちくくり姫の信者のお金、それで同じ様に買い物ができるよ」
「そうなんですね」
「信じられない」
「そう、それじゃ何か買ってみようか?」
僕は1000円札2枚出して串焼き三本買って1本ずつ手渡した。
「その紙もお金なのですね」
「不思議、紙なのに本当に交換できた」
「ちなみにこの紙のお金は2枚で大体、薬草3本位」
「そんな…たった薬草3本で串焼きが3本も貰えるんですか」
「信じられない」
「お釣りが貰えるよ、それに結構おいしくない?」
「信じられない位…美味しいです」
「お肉が柔らかい」
まぁ牛だからね….
【森にて】
「あの、此処は凄く危ない場所ですよオークが大量に出るんです」
「知っているよ」
「オークなんかに出会ったら男は殺されて、女は..帰りましょう」
「大丈夫、オークならそこに居るから」
「「ヒィ」」
僕はオークに近づいた。
オークは僕を殴ったがそのままこん棒はすり抜けた。
「ヤハリ、マタオマエカ」
「それオークジェネラルですよ…」
「そんな、だったらこの周りはオークに囲まれて…終わりですもう…」
「くくり姫様は、どんな魔物からも守って下さいます、ただ動物と盗賊は別ですけどね」
恐らく20位のオークが僕を殴りに来たが効かない。
ただ、体をすり抜けるだけだった。
「モウ ヨイ…タダツカレルダケダ」
行きがけの駄賃で二人にもこん棒で殴りつけて来たが素通りした。
「凄い…」
「魔物の攻撃が一切効かないなんて」
「くくり姫様は全ての魔族から救って下さいます、例え四天王だろうが魔王だろうが、くくり姫様を信仰する者には手も出せません」
ギルドに帰ってきて驚いた。
教主様は今回の報酬を全部私達にくれた。
教主様のお話しでは241万8千200円と言う事だった。
病院への支払いが12万円、もう完済してしまった。
そして教主様が間に入って部屋まで借りてくれた…
しかもお風呂がついた立派な部屋なのに、たったの月2万円だって…
これで慎ましく生活すれば1年暮らせるそうだ。
お母さんは教主様から貰った くくり姫様の像に手をあわしている。
私も同じだ…
魔族から守ってくれて、生活まで守ってくれる、教主様の言う事には悪い人からも守ってくれるそうだ。
こんなに慈悲深い女神様が存在したのに今迄気がつかなかった。
それに比べたら、イシュタスは碌な神じゃない。
どんなに苦しい時に祈っても助けてくれなかった。
もし、くくり姫様に祈りを捧げたら助けてくれた筈だ、あの病院という凄い診療所ならお父さんはきっと助かった。
「きっと教皇は悪魔神官みたいな奴だったの…イシュタスだって邪神と大差ないわ」
「そうだね、私もそう思う」
お母さんはイシュタスのペンダントを引き千切った。
これは宝物みたいに大事にしてた…
「こんな物もう要らないわ」そういうと何度も踏みつけた。
私も憎しみを込めて踏みつけた。
こんな助けてくれない女神なんて要らない…だって本物の女神様、くくり姫様が見守って下さるのだから。
小さな始まり
チラシを書いて貰ったが受け取る人は居なかった。
これで布教は上手くいかないと思っていたが…そんな事は無かった。
アナが子供冒険者を3人連れてきた。
「お兄さん…じゃない教主様、信者希望者を連れて来たよ!」
教主様と呼んだのには驚いたけどアリナさんからそう呼ぶように言われたそうだ。
「アナから聞いたんだけど、イシュタス様を捨ててくくり姫様という神様を信仰するだけで幸せになれるって本当か?」
「幸せになれるとは言いませんが、確実に今よりは良い生活を送れる様になると思いますよ」
「あの、私子供だから冒険者してても稼げないんだけど、ご飯毎日食べられる様になる」
「その位は確実になれますよ」
「本当に、イシュタス様を捨てるだけで幸せになるの?」
「はい」
その後どういう信仰をしてどんな事が起きるのか説明した。
こうは言っているけど、既に信仰は捨てているみたいだった。
その証拠にさっきから…
【三人を括りますか?】
そいう文字が頭に浮かんでいる…
名前で無く人数になっている、もしかしたら《括る力》に何かが起きたのかも知れない。
勿論【括る】を選んだ。
「さぁ、くくり姫様にお祈りしなさい、そうすればくくり姫様が必ずや貴方達を救って下さるでしょう」
「何も変わらないじゃねーか」
「これで何かが変わるの?」
「騙したんじゃないのか」
「そうですね、とり合えず、ご飯食べていって、カレーライスって言うんだけど、その後は一緒にギルドに行こうか?」
「何だか凄く美味しそう」
「私、お腹が減っていたんだ…ありがとう」
「ご飯は3日間ぶりだぁ」
凄いな子供、4人でカレー全部終わっちゃったよ….
4人を連れてギルドに行く、途中お菓子屋さんに入ったら、完全に日本仕様だった。
「これ、どんなカラクリ? いきなり凄いお店になった」
「明るいし、知らない物ばかり」
「嘘、王様が食べるみたいなお菓子がある」
「これがくくり姫様の世界のお店です、普通に働けば此処にある物は充分買えます、今日は私が奢ってあげましょう」
そう言うと僕は棒のついたアイスを4本買った。
皮をむいて渡した。
「それじゃ冒険者ギルドに行きましょうか?」
「ちょっと、これ凄く冷たいんだけど」
「凄く甘いし、これチョコレートって言うんでしょ、貴族しか食べれない高級菓子だ」
「凄く美味しい」
チョコはあったんだな、だがアイスは無かった筈だ。
「それはこの世界じゃ 大金持ちも王女でも食べれないお菓子、アイスクリームだよ、ちなみにそれ、薬草1本分もしない」
「これが薬草1本の金額で買えるのか…疑って悪かった、教主様、僕くくり姫様を信じるよ」
「私も」
「僕も」
その後は、ギルドで保険やその他の手続きをした。
税金や保険で揉めるかと思ったが
「教主様、何を言っているの、この国は商人で5割。農家になれば年貢で6割5分持っていかれるんだよ、これ位当たり前どころか得だと思うよ、ただ俺は馬鹿だからギルドに税金申告の丸投げ依頼を頼むことにした…税金は怖いから」
結構酷い事に、税金を払えないと奴隷にされるのが当たり前の社会だった。
なら、そう思うのかも知れない。
騙されまいと真剣に話を聞いていた。
子供だと思ったけど、冒険者だからか、凄く事細かに話を聞いていた。
ある意味プロだ、理解が凄く早い。
後はアナに任せた、一緒に薬草採りに行くそうだ、魔物と遭遇した時は驚くだろうな…動物や盗賊からは守ってくれないという事を念押しした。
僕は手を振ると子供冒険者と別れた。
午後になると今度はアリナさんがお客を連れてきた。
連れて来たのはアンデルさん…驚いた事にシスターだった。
最初文句でも言いに来たのかと思ったら違った。
「あのお~本当にイシュタス様への信仰を捨てれば、救って貰えるのでしょうか?」
「はい、内容によりますが、今よりは過ごしやすくはなると思います」
「私は今本当に神を信じて良いのか揺らいでいます」
ぽつりと彼女は話し始めた。
彼女はスラムにある教会で布教していたそうだが、此処は孤児院も兼ねていた。
父である神父が死んだ後教会を継いで頑張っていたそうだが、教会本部からの援助も真面に貰えず、子供達に満足に食事も与える事も出来ない、そんな状態だった。
これはどうなるか正直僕も解らない。
だが、何もしてくれない現状であれば確実に今よりは良くなる筈だ。
「もし、貴方がイシュタスへの信仰を捨てくくり姫を信じるなら、必ずやくくり姫は貴方や教会を救って下さいます、もし本気でお考えなら子供も全員、お連れ下さい、直ぐに救って差し上げますから」
「本当ですね、子供を飢えさせないで、幸せな未来を約束をして下さるなら、私は地獄に落ちても構いません、お願い致します」
暫く待つと、アンデルさんは子供達22名と一緒に来た。
此処に来る前に信仰を捨てて来たのだろう、アンデルさんを始め、全員、括れる状態だった。
直ぐに【括る】を選択して括り、あらかじめ買って置いたおにぎりを2個ずつ渡した。
何だよこれ、子供は皆、凄く痩せていた、まるで難民みたいに見える。
そのまま、最初にギルドに相談しにいった。
「成程、本来なら日本には児童養護施設がありますが、今現在此処にはありません、許認可や色々な手続きが必要ですが無いといけない施設なので今回はそのまま施設として認め、直ぐに補助する様に致します」
「あの教主様、これって」
「良かったですね、補助金が降りるみたいです」
その後は保険やその他の手続きをして、診療所に一応行った。
「あの、この凄い施設は何でしょうか?」
「くくり姫様は人を救うのが好きで、自分が治める地の診療施設を提供下さいます」
「それがこれですか?」
「はい、さっき保険の手続きをしましたよね、これから先怪我したり病気になったら此処に来れば良いでしょう、本当に安い金額で治療をしてくれます、早速、子供達の中で体調の悪い者は見て貰いましょう」
「本当に宜しいのですか? 診療所や教会のヒーラーは前金で凄く高額なんです」
「それでアンデルさんや子供達ははヒールは?」
「魔法は誰も使えません」
良かった、つい確認しないで括ったけど、魔法が使える人だった場合は使えなくなる。
すっかり失念していた。
「それは良かった、くくり姫様は魔法を嫌っていますから」
「何故ですか」
「くくり姫様は全ての人間が幸せに暮らせる世界が好きなのです、その為その世界に魔法が使えるような特権階級は不要と考えています」
「そうですか、ですがくくり姫様は本当に素晴らしい女神様ですね、この様な奇跡の御業を惜しみなく使われるなんて、素晴らしい女神様ですね」
「私もそう思います」
結局子供たちのうち、10人は栄養不足で危ない状態だった。
念の為、一泊入院する事になった。
その支払いが後払いで大丈夫と聞き、アンデルさんはほっとしている様だった。
しかも、金額もそんなに高くないと聴き更に驚いていた。
アンデルさんはまだ手元にお金が無いのが心配らしいので、そのまま元気な子を連れていき、薬草を採取した。
途中、オークに遭遇したが何時もの様にその攻撃はすり抜けた。
「これはいったいどういう事なのでしょうか?」
「くくり姫様はあらゆる魔物から人をお救いになります、それが相手が魔王であっても真にくくり姫様を信じるなら手も触れる事も出来ません」
「ああああっ何と素晴らしい女神様なんでしょう、そんな神が存在していたなんて、これから先私の人生の全てはくくり姫様に捧げますわ」
「有難うございます」
「あの、小さくてボロボロですが、倉庫よりはまだマシだと思いますので、教会を使って下さい、邪神イシュタスの像は焼き捨てますので」
凄いな、これ..
「有難うございます」
礼二は気がついていない、小さいとはいえ教会を持ち、神職者がその宗教を捨ててしまったその意味を。
変わりだす世界
数日後、アンデルさんの教会に児童養護施設の支援金が入った。
しかも、子供達も安全が確保されたから、冒険者登録をしたらしい。
日本に括られているから、薬草を採取しようがドブ攫いをしようが真面なお金が貰える。
食べる物も無かった子供達が今は真面な服を着て、チョコレートやアイスを食べている。
食卓もご馳走が並ぶ様になった。
「まさかこんな夢の様な生活が待っているなんて」
アンデルさんは凄く喜んでいた。
アナやアリナさんも良く此処に遊びに来ているようだ。
僕が顔を出した時の事だ、アンデルさんと子供たちは教会の中央に鎮座していた2m位のイシュタスの像を引き倒した。
「教主様、この悪神は滅びるべきです、私達を騙していた此奴は、邪神や魔王と同じです」
まさか此処まで憎みだすとは思わなかった。
もう、アンデルさんにとってイシュタスは邪神や魔王と同じにしか目に映って無いようだ。
当たり前だ、本当に存在しているくせに、何一つ救おうとしなかった馬鹿な神。
恩恵に預かって無い者からしたら《依怙贔屓》していただけの存在、嫌われて当然だろう。
イシュタスの像はそのまま床に倒された。
その像にアンデルさんや子供たちが鉈や斧を持って襲い掛かった。
「お前が不幸の現況だったんだ、よくも神を名乗って私を騙しましたね? 騙した分死ぬまで呪ってやるわ」
「僕のお父さんを見殺しにしたお前は一生許さない…この悪魔」
「私は、貴方に祈ったのに、お母さん死んじゃったんだよ…死んじゃえ、お母さんと同じに死んじゃえ」
今迄の不幸が全部イシュタスのせいだったという様に見るも無残にイシュタスの像は破壊された。
アンデルさんが子供達が何時も磨いていた綺麗な女神像のこれが最後だった。
最早僕はもう、布教する必要は無くなってしまった。
街の子供冒険者は数日後には行列を成していた。
これは、アナや教会の子の力が大きい。
彼等だって素人だけど、アンデルさんが布教する姿を見ていたから、僕よりは上手かった。
しかも、子供冒険者にとっては高級品の串焼きをご馳走して
「くくり姫を信仰したらね、こんな物何時でも食べれる様になるんだよ? 更に薬草採取するだけで、貴族が食べるようなお菓子も食べれるの」
こんな風に誘っていったらしい。
詳しい事はアナやアリナさんが説明していたが、今では教義が簡単なせいか知っている人が、僕の代わりに教えてくれるようになった。
ギルドへの保険や税金の話もアンデルさんやアリナさん、アナは出来る様になり、僕は括ることだけに専念する様になった。
アンデルさんは、普通に布教する以外にも他の教会を次々に口説き落としていった。
孤児院を兼ねていた教会や、老人等を引き取って暮らしていた教会は、あっさりとアンデルさんの誘いに乗った。
多少渋っていたシスターも、アンデルさんの教会の子供達を見たら、「裕福な家の子かと思った」と驚き…自分の保護している子が頭に過ったらしく涙を浮かべていた。
「子供たちが幸せなら、私は悪魔にでも魂を売ります」
そう言っていたのに…3日後には
「イシュタスに騙されていました、あれは邪神と同じです、誰も救わない、私は真の信仰に目覚めました」
と言い出し、イシュタス像は焼いていたそうだ。
子供達も現金な物で、燃えているイシュタス像に呪いの言葉を投げかけていたらしい。
今迄ボロを着ていて、食べる物に困っていた子供が、新品の服を着て、ご馳走を食べてチョコを齧る生活になる。
これは当たり前の事だ。
冒険者ギルドの子供冒険者の多くは信者になった。
また、討伐が苦手なランクの低い冒険者も信者に加わりだした。
魔物が狩れる冒険者はジョブの恩恵に預かれるから今迄通り討伐をしていたが、下級の魔物を狩って生活する者が減った。
今迄弱い魔物を狩って生活していた冒険者も《命の保証があり生活が安定するなら》と信者に加わりだした。
その結果…Cランク以下の冒険者はかなり多くの者が信者になった。
更に事態は進み、Cランク以下の冒険者が信者になり、日本に括られた事で《討伐》が出来なくなった。
そのせいでゴブリンやオークが増えだした。
商人は《護衛依頼》を出したいが、頼める相手はBランク以上で高額。
その結果、商人からの信者の申し込みも増えてきた。
だが、商人は迂闊に括れない。
この世界特有の物、例えば、魔剣や魔法薬を使う者は括ってしまうと商売が出来なくなる。
奴隷商人も同じだ。
仕方なく「くくり姫様は魔法が嫌いで平等主義」という話をした。
それでもという者のみ括る事にした。
野菜や食材を扱う商人たちは喜び直ぐに信者になった。
逆に、魔法薬や武器を扱う商人は信者にならなかった…だが、彼等はやがて商売が出来なくなって行き、倒産してしまった。
くくり姫を信仰する者は《魔物が襲えないから》強い武器は必要ない。
魔法薬もくくり姫を信仰する者はドラッグストアで薬は買えるし、病院にも掛かる事ができるから必要ない。
最早スラム街を中心に《くくり教団》は一大勢力になっていった。
今日も朝から晩まで、信者になりたいと行列が出来ていた。
僕は括る事に専念して、説明はアンデルさん達に丸投げした。
最近は此処に 湯浅さんや三浦さん、平城さん、水上さんに東郷さんにサナが加わった。
異世界人(日本人)が加わる事により、更に信仰に拍車が掛かった。
彼女達の傷や過去がイシュタルの酷さを更に広げていった。
「今日は此処までとします、また明日宜しくお願い致します」
周りはざわめいているが仕方ない…僕の体は一つしかない。
「ふぅ、疲れた」
「教主様の体は一つですから、大変ですよね【括る】という偉業は教主様しか出来ませんからね」
もう教会で括り続けるのは無理がある。
そう言えば、この国にはコロシアムがあったな。
あの位の広さがあれば沢山一遍に括れるのに…
「コロシアムって高いのかな?」
「コロシアムって闘技場の事ですか?」
「そう」
「それじゃ今度聞いてみます、それはそうと教主様、そろそろ教皇を名乗られては如何ですか?」
最近、アンデルさんや教会関係者から信者に替わった者から良く言われる。
《教皇》と言うのはこの世界で実質一番偉い人だ…
どうした物かとつい躊躇してしまう…
「私はあの様な邪悪な神を祀る者が教皇を名乗るのが許せません」
「邪教を広める諸悪の根源が、多分今の教皇こそが悪です」
そう請われ《教皇》を名乗る事になってしまった。
余り関心は無いが、教皇は割と真面な人だと聞いた事がある。
だが、もうこの流れは既に僕には止められなかった。
世界は思った以上に大きく変わりつつあった。
女神イシュタスの楽しい一日
「イシュタス、凄く綺麗だね、うん驚いたよ」
今日は神々が集うパーティーに遊びに来ている。
一神教の世界を任され見守っているとはいえ、付き合いが全く無い訳では無い。
孤独になりがちな、神や女神を考えこの様なパーティーを開く神もいる。
「ゼクトが私を褒めるなんて珍しいわね」
私は女神、男の神と違って女神で醜い者等、殆どいない。
「どうしたんだろう? 今迄俺は君の魅力に気がつかなかった、君は美の女神にでもなったのかい?」
最初の一言なら理解できるわ、だけど二言目は解らない。
一言目なら、遊び好きのゼクトの事だから揶揄ったのかも知れない、だが態々此処に踏み止まって話している訳が解らない。
例え、私がどんなに美しくても男の神は深くは付き合わない…それは解っている。
何故なら私は処女神だからだ。
生まれながらに《清く生きる事しか許されない》そんな存在。
だから、恋愛をしても先が無い、どんなに愛を囁かれてもキスに抱擁、その位しか無い。
本当に私を愛する神が居たら、裸で抱擁する位まではしても良いという気持ちはあるのよ。
だけど、そこから先は多分どうやっても出来ない。
もしする事があれば禁句に触れ、恐らく私もその相手も消滅すらする可能性もある。
最も、多分したくても出来ない、何かしらの邪魔が自然と入るとは思うけど…
「ゼクト、貴方は私がどんな存在か解っている筈よ」
「ああっ解っている、それでも…まぁ気の迷いだな、忘れてくれ済まない」
《俺は何をしているんだ、処女神を口説こう等とお互いに困るだけだ》
「そうね、だけどゼクトありがとう、お世辞でも嬉しいわ」
《何て顔をするんだ、これがあのイシュタスなのか? ただ美しいだけの処女神の筈だ》
「…」
「どうしたのよ、ゼクト? 私を見つめて」
「嫌、何でもない、少し話さないか?」
《可笑しい、イシュタルは処女神だ確かに神々しいとか少女の様に綺麗に思った事はある…だが今日のイシュタスは艶やかなまるで娼婦の様な大人の魅力がある》
「うふふ、別に良いわよ? どうせ何時も壁の花だから、私と挨拶以上の話をする男の神は少ないわ」
「そう、それじゃ少しだけ」
何があったのかしらね…
まぁ、女好きのゼクトの事だから女神を口説くのは日常の事だわ。
だけど、残念ながら私は処女神《絶対に口説き落とせない存在》
ゼクトがキスと抱擁だけで満足するとは思えない。
気まぐれだと思うけど、歯の浮くセリフって聞くのは初めてだわね…
流石に顔が赤くなってきたわ。
だけど、これが本心で万が一押し倒されたら《二人して消滅》だわ。
「ゼクト、話してくれて凄く嬉しいけど、ほらあそこで怖い顔をしてマルシスが睨んでいるわ、行って来ないで良いの?」
「あっごめん、それじゃイシュタス、またな」
《またな》ですって、処女神相手にゼクトは何を言っているんだか…やれやれです。
「あらっイシュタス、少し背が低くなった?」
「何をおっしゃっているのアテス、女神の容姿が変わる訳ないでしょう」
「そうね、受け持ちが変わらない限り変わる訳ないわね、まして貴方は一世界の一神教の女神、勘違いだわね」
「全く、アテスは冗談が好きなんだから」
「貴方、最近自分の世界に何かしたんじゃないの?」
「そう言えば、最近、異世界人たちを勇者とその仲間として送ったわ」
「それだわ、きっと多分感謝の気持ちが貴方に届いているんだと思うわ」
「そうかしら? 私は余り人間に興味ないから、勇者は出すけど後は基本放置なんだけど…ここ暫く邪神が気合い入れていて勝ってないわよ」
「偶に異世界人で知恵を絞って、実力以上の敵を倒す存在もでるわ、最近では《Kの都市伝説》があるわね」
「何、それ?」
「ケインとか黒川とか黒木とか、その辺りの名前の転生者が良く運命を覆すようよ?」
「あははっ、そんなのあるんだ、残念ながら、送った勇者はそんな名前じゃ無かったわ」
「そう? だけど、様子位見て見たら?」
「ええーーっ面倒くさいから良いよ、だって魔王に勇者が負けた後に神託なんて降ろそう物なら《助けて下さい》の嵐なんだから」
「そりゃそうでしょう、当たり前じゃない」
「だけど、1度勇者達を送ったら、次は10年は待たないと出せないんだから、意味無いじゃない」
「ハァ~ そりぁそうだけど、もう少し人間に寄り添ってあげるべきじゃない? 勇者は送れなくても、英雄を選別したり、次の勇者召喚までの希望をつなぐ事は出来る筈だわ」
「私の世界は一神教だから、私以外に神は居ないわ…だからそんな必要は無いよ」
「このブルジョワ女神、良いよね一神教は、私みたいに複数女神がいる世界だと信者を大切にしないと直ぐに離れちゃうのに」
「そうよ、私は一神教の女神イシュタル、唯一絶対神なんだから」
「くそーっ 貴方の世界に布教しにいってやろうかしら?」
「出来ないよね」
「そうよね、貴方が信者を招き入れない限り布教なんて出来ない…本当に羨ましいわ」
「そうそう、私が異教徒なんて受け入れるわけ無いわ」
【???】
私は、どうして此処にいるのだろう?
私は消滅した筈なのに…此処はどこかしら
「イシュタスどうしたの?」
「いえ、大した事無いわ少し立ち眩みがしただけですわ」
「もしかして私言い過ぎちゃった、気分を害したならごめんね」
「そんな事無いわ、貴方は私の数少ない友達ですから気にしないで」
「なら、良いわ、それじゃイシュタスまたね」
「また」
《可笑しいな、今迄は大人っぽかったのに何故か少女に思える…気のせいよね》
「お久しぶり、イシュタス、今日も又壁の花でいるつもりかい? 偶には僕と踊らない?」
「私にダンスのお誘い、珍しい事もあるわね、ソムラ」
「何でかな、今の君を見ていると誘いたくなってね」
「そう、珍しい事もあるものね、良いわよ一曲位踊っても」
「それじゃマドモアゼル」
「喜んで」
何が起きたのでしょうか?
この後も、沢山の神からダンスの申し込みがありました。
まさか、あの勇者が魔王でも倒して神格が上がったのでしょうか?
信じられませんわ..
【神SIDE】
「なぁ、イシュタスは処女神の筈だよな」
「確かに、それは間違いないが、今日のイシュタスは何故かそそられる」
「俺だけじゃ無かったか、普通はそうならない様になる筈なんだが」
「ああ、何故か惹かれる物がある」
「あれは、そう色欲の女神とかそう感じる様な」
「まぁ気の迷いだろう」
「そうだな…あれじゃまるで別の女神だ」
女神イシュタスが知らない間に何かが起きていた。
国王の最後
この場所では多くの人が括れないと考えコロシアムをどうにか出来ないか考えていたら、あっさりと手に入ってしまった。
コロシアムの所有者は驚く事に《くくり教徒》だった。
コロシアムの様な物を経営する人物なら、絶対にイシュタスの信者がと思ったのだが、コロシアムを持っていた地主の子供が病気を患い、死に掛けていて教会のヒールも回復薬でも治らなかった、そこで一縷の望みに掛けて、アンデルさんの教会に頼ったら、僕の前に連れて来られ、知らない間にオーナーと子供を僕が【括って】いたらしい。
まぁ日本に括られてしまったら、コロッセオ等経営出来ないのと、子供が病院に入り見事に治った事もあり…寄進してくれるそうだ。
これは実にありがたい。
大きな場所があれば一遍に沢山の人を括れる。
これにより【括れる】人数が凄く増え、今迄と違い、1000人単位で括れるようになった。
括り残しがあると怖いから、床のタイルの一部にイシュタスを彫刻してコロシアムに入る為には何回も踏みつけなければ入れない様にして貰った。
僕の仕事はと言うと、最早【括る】以外の仕事が無くなってしまった。
何もしなくても本職のシスター達が教義を伝えて、解らない所だけを僕に聞く。
手続きで解らない事はギルドで聞く。
流石、プロだけあって抜かりなく進めてくれる。
凄く優秀だと思い聞いて見たら、イシュタル教に比べればはるかに覚えることも少なく楽だそうだ。
そして、まだ教本も無いからこれもまた、作ってくれるみたいだ。
人任せで本当に申し訳ないと思う。
だが、「何を言うのです、我々は偉大なるくくり姫様の聖書を作る事に参加できるのです、こんな光栄な事はありません」
と言われてしまった。
そんな事もあり、今では僕が思った以上の速さで《くくり教》は広まっていった。
そして驚く事に、とうとうエルド6世を含む王族が《くくり教徒》になった。
これは、この世界の仕組み上王は、くくり教徒になるしか道は無かった。
今迄は裁判の権利は貴族にしか無く、その裁判は王がしていた。
つまり、裁判官は王だった。
ここで、矛盾が生じた。
日本に括られている、くくり教徒は裁判権があり、日本の法律で裁かれる。
つい最近の事だ、オルディアン公爵の乗る馬車が平民を跳ねた。
今迄なら当然の様に泣き寝入りになるが、この跳ねられた平民がくくり教徒だった。
その為、跳ねた馬車に乗っていたオルディアン公爵の御者が、裁判で裁かれる事になった。
貴族の身内が訴えられて平民に裁判に掛けられるのも苦痛なのに…裁判長である王の判断は実刑判決。
御者は救護措置をしなかった、馬車が街中を凄い速さで走っていたから危険運転致死傷罪に問われた。
公爵は乗っていただけだから罪には問われなかったが、事前に王に頼みお咎め無しの約束だったのに、蓋をあけてみたら、自分の御者は牢屋に繋がれた。
面目を潰された公爵は王家に恨みを持つようになった。
酒癖の悪いドルヒト伯爵の長男が、花売りの少女を仲間と襲い三人で犯した。
普通なら、平民に裁判の権利は無く、泣き寝入りの筈が、何故か王によって裁かれ牢に繋がれる事になった。
伯爵が王に慈悲を請うたが、そのまま数年牢に繋がれる事は覆らなかった。
そんな事が度重なり、王が貴族を守らない事から、貴族と王との間に亀裂が生じた。
多分王は、裁判長になり日本の法律に括られたから、貴族に便宜が図れなくなっているんだと思う。
その結果が、王自らが身を守る事が出来なくなり、くくり教徒になるしか無かったのかも知れない。
だが、これで良かったのか?
この国アレフロードは勇者召喚国だった筈だ、僕らが目を覚まして最初に目にしたのは王女マインと国王エルド6世だ。
教皇でも枢機卿でも無くこの国の王族だった。
括られる為に訪れた王族に会った瞬間、三浦さんも湯浅さんも水上さんも平城、東郷さんも能面の様な顔になった。
殴りかかったり、怒鳴ったりしないだけ良いと思う。
普通に考えたら、王族が黒幕と考えて良いのかも知れない。
だが、話を聞いて見ると、勇者召喚は持ち回りでおおよそ、10年から20年に一度各国の持ち回りで行うそうだ。
ならば、召喚は仕方ないだろう…
だが、その後の対応は最悪だ、この国のせいで皆んなが不幸になった。
他の皆は兎も角、勇者の祥吾を見捨て、あんな姿になった東郷さんを見捨てた事は絶対に言い逃れは出来ない。
しかも、会った時に王たちははすぐに【括れる】状態だった。
国王は勇者召喚で多かれ少なかれ利益を得たはずだし、王女マリンはかなり信仰していた筈だ。
立場が変わるだけで、これなのか?
だが【括らない】訳にはいかない…こいつ等を括る事はこの国を変える為には必要な事だ。
無念さを噛みしめながら、僕は王族を括った。
これで良い…そう自分に言い聞かせ【括った】
これで此奴はもう名ばかりの王だ、日本に括られた以上は《日本人》そう思うしかない。
「あの、私はこの様な惨い目にあっていた何て知りませんでした、お詫びします、本当にすみませんでした」
「余も知らなかったのだ本当にすまない」
形だけの詫びなんて要らない…
「そんな嘘はどうでも良い、他の者は兎も角、元剣聖である東郷さんは確実に貴方達が見捨てた、ですが【くくり姫様】は慈悲深い女神、そんな貴方達ですら救いになられる、私は貴方達を冷静に見ることは出来ない、ちゃんと教徒にしましたから後は他の者から説明を受けて下さい」
見ているのも不愉快だったので、アリナさんに後を任せて僕達は元王に背を向けた。
【礼二SIDE】
「ごめん、国王は罰せなかった」
「仕方ないよ、【括る】それしか出来ないんだから」
平城さんや水上さん、東郷さんは本当に悔しそうな顔をしている。
だけど、悲惨な目にあった筈の三浦さんや湯浅さんは思った程悲しそうな顔をしてない。
一番悔しそうなのは東郷さんだった、当たり前だ彼女は手足を失ったのだから。
だが、事態は思った以上に違った展開になっていった。
何やら元王とギルド職員が揉めていた。
【王族SIDE】
「エルド様、マリア様、貴方達は日本に括られました、日本には王族はおりません、正確には皇族はおりますが、貴方達の血脈にその資格はありません。日本に照らし合わせて考えた場合は、総理大臣と最高裁の裁判官を合わせた地位がエルド様の地位になります、その為エルド様は総理大臣兼最高裁裁判官となります、マリア様他王族は議員扱いとなります、この先、選挙や国民審査にて地位を失う事もあるとお考え下さい。また今後の収入は国庫に納められ、そこから総理大臣の年収4000万 最高裁裁判長として2400万合計6400万のみエルド様に支払われます、マリア様達王族は今回は議員扱いとして暫定的に給料が支払われますが、これは選挙が行われるまでの暫定処置となります、王宮やその他の施設で公共で使える物はそのまま、議事堂や裁判所の扱いで国の物になります、逆に明らかに私邸扱いになる物は個人所有となりますが固定資産税が今後掛かります…とはいえ直ぐには難しいのでこれらは順次行って行く事になります」
「それはどういう事なのだ? 良く解らぬ」
「その話では私は王女で居られない、そう言う事でしょうか?」
「はい、日本には【王族】は居ませんし、税金を払わないで済む存在はおりません」
「そんな、王で無くなるなら余は、くくり教徒等になるつもりは無かった」
「私だって、そんな…」
「衆議院の議員選挙までの暫定処置なので4年後には、今の地位も無くなる可能性があります」
「お前が何を言っているのか解らぬ」
「そうよ、本当に解らないわ」
「もし解らなければ、冒険者ギルドが今、全てを賄っていますので、そちらで聞いて下さい」
「ギルドの責任者はギルマスだろうが、王に意見等は出来ぬ筈だ」
「貴方はもう、王ではありません、ですが、何故私もギルドがこんな事をしているかは説明がつきません」
「もう良い不愉快だ帰る」
「私も帰ります」
この瞬間から、この国から王族は居なくなり、貴族もその役職に合わせた議員の扱いに変わってしまった。
※余り専門的な話を入れると面白みが欠けるのでこんな風にさらっとしました。
かなりいい加減なのはお許し下さい。
スミマセン、他のエピソードを入れたくなったので教皇の登場は数話遅れます。
悪夢
私に何が起きているのか解らない。
気がつくと、綺麗なブロンドの色の髪が夜の闇の様な黒い色に変わっていた。
しかも、目の色も黒目になってしまった。
背も少し低くなった気がする。
可笑しい、悠久の時間を過ごす中で姿が変わるなんて事は無かった。
天使等では堕天することが稀にある、そう聞いた事があるが、神にまで昇華した私には無縁の物だ。
多神教では、他の神に争いで負けて姿が変わる事があると聴いたけど、一神教の世界を統べる私には関係ない。
しかも、女神である私が、毎晩とんでもない悪夢に教われる。
毎日の様に大柄の醜い男の神たちに犯され嬲り者にされる夢。
口から股、果てはお尻の穴まで突っ込まれ惨めに精液を垂らしながら泣いている夢。
私は女神…こんな事実はある筈がない。
私にこんな事が出来る存在等、居る訳は無い…
だから、これは空想上の事の筈。
だが、何故かこれが本当に起こった事の様に思えて仕方ない。
そして何時しか私は男神に快感を与える為に自ら奉仕をし、腰を振る女神になった。
男神に屈服したのでは無い…無力な私は、性の能力を身に着け何時しか相手に大きな快感を与える存在になっていた。
その能力を身に着けた事で苦痛は無くなったが、大事な何かを無くし心が壊れた気がする。
そんな辛い目にあった私は助かり、小さな祠に祭られたが、いつしか信者がいなくなり、消えていく。
そんな中で最後の救いは…消える前に1人の人間が自分を本気で愛してくれた…そんな夢。
物凄く悲惨で、救いがなく悲しい夢。
これを毎日の様に見る。
私は一神教の女神、この世界で至高の存在、そして処女神…神になる前から清らかな存在。
そんな私にこんな事が起きている訳は無い。
これは妄想なのだろうか?
だが、こんなリアルな妄想をする物だろうか?
この夢を見る度に心が痛む。
それと同時に、自分の中にもう一人の自分が居る様な気がして仕方ない。
夜中に目が覚め、自分の姿を鏡に映した事があった。
一瞬、背の低い黒髪の少女が映った気がした。
その少女は私を死んだような目で見つめていた…
《気のせいよね》
此処は私の住む世界、此処には魔王は勿論悪魔や邪神も入る事は出来ない。
まして死霊の類等、結界に触れただけで消える。
自分が可笑しくなってきたのかも知れない。
偶に記憶が飛んだり、過去を思い出せなくなる事もある。
ここ最近は起きるのすら辛く感じることもある。
まぁ良いわ、休んでればよくなる筈だわ。
女神の私が病になる…そんな事は無いのだから。
囁かな復讐
この国の殆どが【括られて】しまった事でこの国の全てが変わってしまった。
国王や貴族が無くなり暫くしたら街並みが変わってしまった。
「何だよ…これ」
僕が見た物は街その物がかなり日本に近くなっていた。
とはいう物の住居や王宮などは変わらないが、街のお店とかがどう見ても日本のお店にしか見えなくなり、看板も日本語表記になっている。
簡単に言うと日本に異世界が飲み込まれる様にこの国が変わり始めた。
街にはクレープ屋の屋台があり串焼き屋は、どう見ても日本の屋台の様にしか見えない。
今迄は店内に入ってから中だけが変わったのに、今はお店その物が原理は解らないが日本の店その物に見える。
スラムには安く入居が出来る様にするのだと、国営の団地まで作り始められていた。
この前の立ち聞きした話では、国王や貴族は総理大臣や議員になった様で心配して居たら…日本に括られてしまった事で、何故か日本の政治家の様な仕事を可笑しな事にしているらしい。
ただシュールなのは、本物の日本と違い、車は無く馬車が走り、警官ではなく衛兵隊が居る。
何とも和洋折衷ならぬ、和異折衷の様な感じになっている。
このまま、日本化が進めば、完璧な日本に…ならない様な気がする。
流石に東京タワーや50階を越えるマンションは無理な気がする。
多分外人から見た日本の様なそんな感じで落ち着くような気がする。
まるで、リトル東京とか外国にある日本人街だな、そう思う。
くくり教徒になる為に今は、この国だけでなく、この世界のあちこちから訪れる様になってきた。
日本にある様な物はくくり教徒しか触る事が出来ない。
今や普通に子供冒険者が食べている、アイスクリームやチョコレートもくくり教徒じゃ無ければ食べられない。
その結果、他国からの旅行者や商人も入信しだした。
特に商人にとっては《旅行中魔物に確実に襲われない》その安心を得るために、くくり教の入信はかなり魅力だったようだ。
他の国の人間を括るのは少し、抵抗があった。
もし、帝国や聖教国に帰って向こうで効果が無かったら…範囲外だったらと悩んだ。
だが、どうやら括る力は何処でも通用して、帝国や聖教国でも同じ様に薬屋に入ればドラッグストアになり、治療院に入れは総合病院になるという現象は健在のようだ。
最初お願いして他国の入信者から連絡を貰うまでは気が気でなかった。
何千人とひたすら括る毎日の中で、もうどれだけ括ったか解らない。
とうとう来るべき物が来た。
聖教国の中央教会が、くくり教に入信した者は《破門》とする、そういう触れ書きを出した。
だが、そんな物の影響は全く無かった。
破門は恐怖の対象だったが、くくり教徒は日本に【括られている】ので全てが無効化される。
破門されると誰も物を売ってくれない → お店に入った途端別の店になるから関係ない。
というか、今ではお店の人もくくり教徒ですよね。
破門された人は人と扱わない → 括られた人は日本の法律で守られているから関係ない。
つまり、何の影響も起きない。
それどころか、くくり教徒は《今更何言っているんだ、もうとっくにこっちは離団しているよ》という状態だった。
イシュタスを信仰する教会は、商人を始めとする沢山のお金を納める信者が大量に居なくなり貧窮するようになったようだ。
相変わらず原理は解らないが日本化が進み、祭事事でも、火葬場や葬儀屋が出来てきて、綺麗な霊園までとうとう出来始めた。
最早、イシュタスを信仰する教会の優位性は一般人にとっては皆無に等しかった。
中央教会は各国の国王やギルドに働きかけるも《宗教の自由は法律で認められている》そう言われるばかりでとり合って貰えず。
今や聖教国以外の地域では圧倒的にくくり教徒の方が多くなった。
最も、都心から離れた様な田舎は未だに状況が掴めていないらしい、だがその辺りにもシスターや司祭がこれから布教に行くそうだ。
実際に試しに行った近隣の幾つかの村からは《税金が安くなった》《農協が出来て親身になってくれる》等感謝の手紙が送られてきた。
ちなみに、今迄高価だった手紙も葉書なら63円と日本と同じになっていた。
どんどん、日本化が進んでいるとしか思えない。
そして、僕の所に使いが来た。
教皇が自ら此処に来ると言うのだ。
《何故来るのか》不思議に思った。
本来なら、呼びつけられる筈だが、その理由が解った。
アンデルさん達に聞いた所、
「前に一度来るように手紙が届いていましたが、邪宗のインチキ宗教者の所に行く必要が無いと思いまして、会いたいなら、そっちから来いと返事しておきました」
「そうですわ、この世の中に教皇は礼二様ただ御一人です、何故教皇を名乗っているのか解りません」
「邪教の責任者、教皇を名乗るペテン師こそが最大の敵です」
邪教、邪宗のオンパレードだな…教皇は本当の所は解らないが、聞いた話だと心優しい方だと聞いた。
もし本当にそうなら、少しだけ気が咎める。
だが、イシュタスを信仰する総本山の親玉だ仕方ない。
人間の僕にはこんな事しか出来ない。
直接戦う事は出来ない、女神という存在。
これで、何か影響を与える事が出来るか解らない。
だが、この世界にお前を信じる者が居ない、そんな状態にしてやる。
そんな事してもお前に多分お前に影響は無いだろう、解っているさ。
それが囁かな僕の復讐だ。
教皇
「私は、確信した、この世界を救うのはイシュタスでは無い、くくり姫様だと、どうか私も貴方のお手伝いをさせて下さい」
「どういう事でしょうか?」
何が何だか解らない、今こんな事言っているのが、この世界で一番偉いという教皇、ロマーニ8世だ。
てっきり、文句を言われる、そう思っていた、罵られる位は当たり前、場合によっては殺されるそう思っていた。
このロマーニ8世は慈悲深く聖人と言われている、その反面、女神イシュタスの信仰にその生涯を捧げていると聞いていた。
そんな人が信仰を捨てるととは思わない。
しかも、教皇だけでなく、その周りの聖騎士や教会関係者たちも揃って入信したいと言う事だ。
正直何か裏があるのかと思わざる負えない。
【教皇SIDE】
「そんな不心得者が居るのですか?」
「はい、女神イシュタス様を邪神呼ばわりして魔族と同列として糾弾しております」
「捨て置きなさい、此方が手を下さずとも、この世界がそんな存在許さないでしょう」
この世界はイシュタス様が見守り導いてくれる世界。
そのイシュタス様を拒絶するなど間違いの極み。
魔族が跋扈し魔王が存在する中、勇者や強い戦士を呼び寄せ、光を見せてくれるのがイシュタス様だ。
勿論、私もその手伝いをし、救いきれなかった者を救うためにその命を賭ける、それが私の使命だ。
事実、ロマーニ8世は清貧教皇と呼ばれ、教皇として必要な物以外は、粗末な机とベッドに姿見位しか部屋には無い。
「何ですって! その異教徒たちが増えているというのですか?」
「はい」
何たることでしょうか? イシュタス様を信じずに邪神もしくは居もしない神を信じるなんて、なんて罰当たりな。
「暫く様子を見て、反省しないようなら、破門も考えなくてはなりません…ですが」
「解っております、反省したらすぐに破門を解ける様に同時に手配をします、教皇様は破門が嫌いなのですよね」
「出来る事なら、破門はしたくはないのです…」
「その優しさが通じると良いですね」
だが事態は収まらなかった。
「国王のエルド6世が入信したのですか? あの国の王女マインは私が洗礼した敬虔な信徒ですよ、しかも勇者召喚の儀式まで取り仕切った存在、信じられません、詳しく調べて下さい」
調べたら…それは真実だった。
「その教団の責任者を呼びなさい、私は会う用意があります、何を考え、何をするつもりなのか? 聞かなくてはなりません」
「はい」
だが、返ってきた答えは…
「どうでしたか?」
「《邪教の偽物の教皇に真の教皇が何故会いに行かなくては行けないのか》そういう答えでした」
「ならば、致し方ありません《破門》です…ですがそれが元で死人が出られても困りますから、私が直に見に行きましょう、反省の色が見えたら直ぐにその場で破門は解きます、民を飢えさせる訳にはいきません」
教皇ロマーニ8世は目を状況を見る為に教皇専用の馬車で無く普通の馬車で旅立った。
共の聖騎士や司祭やシスターも、本来の煌びやかな物じゃなく粗末な物にした。
聖都を離れてから暫く行くと…
「危ない、ロマーニ様少し此処を離れます」
聖騎士ロバートが見た物は、ゴブリンに囲まれた少女だった。
駄目だ、間に合わない、だがその瞬間奇跡の様な事が起きた。
何と、ゴブリンが振り上げたこん棒が少女の体をすり抜けた。
しかも、よく見ると少女の傍にはもっと幼い子も居て…ゴブリンを無視して薬草を詰んでいた。
「一体、何が起きたと言うんだ…」
あのゴブリンは幻だと言うのか? これは夢だと言うのか?
気がついたゴブリンはこちらに来た。
ロバートは剣を抜き斬ると…斬れた。
本物だ、ならばあの子供達は、何者なんだ。
「ロバート何があったのですか?」
ロバートは今見たことを話した。
「そんな事があったのですか?」
「はい」
幾多の奇跡を書物で読んでいた私でもそんな話は知りません。
「その少女と話をさせて貰えませんか」
「では通り道ですので、直ぐに追いつくでしょう」
「居ました、あの少女です」
「そこの君、少し話を聞かせて貰って良いかな?」
「別に良いよ」
「そこのお兄さんから聞いたのですが、ゴブリンのこん棒がすり抜けたと聞いたのですが?」
本当に可笑しな少女です、まるで貴族の娘の様に綺麗な服や靴を纏っているのに共も居ません。
横の子供も、同じ様に裕福に見えます。
ですが、貴族の子女が薬草など採りに来る訳がありません。
「もしかして、お爺ちゃんは邪神イシュタスを信仰している邪教徒なの?」
周りが凍り付く中、私は手で制しました。
「うん、お爺ちゃんはイシュタス教徒なんだよ…くくり教徒の事が知りたくてね、王都に行く最中なんだ」
「そうかぁ~ なら良いや、教えてあげる、くくり姫様を信仰すると全部の魔族から守ってくれるんだよ」
「全部…ですか?」
「うん、教皇の礼二様なんて、あの四天王のマーモンすら寄せ付けなかったんだって」
マーモン…確か魔族四天王の一人で魔王並みに強いという話でした。
「それは本当なのでしょうか?」
「お爺ちゃん、もっと勉強した方が良いよ? 勇者が死んで剣聖が捕らわれていたでしょう? その剣聖を救ったのが教皇の礼二様なんだよ、凄いよね、マーモンの攻撃が全く通じないなんて」
「それは本当の事かね、信じられないんだが」
「お兄ちゃん、私は聞いただけ、だけど本当だと思うよ! だって、村がワイバーンに襲われた時もお家は壊れちゃったけど誰も怪我しなかったんだよ」
「ワイバーンですって」
「うん、しかも、くくり姫様を信仰していたから、災害支援って言うのが届いて生活に困らなかったし、しかも新しい綺麗なお家迄作って貰えたんだよ、お風呂がついているし、今度のお家は【括られている】からもうドラゴンだろうと魔王だろうと壊せないんだって」
そんな神が世の中に居るのでしょうか?
ワイバーンの攻撃を無効化した話やマーモン相手に怪我もしないそんな力がある、それだけでも凄いのに、その力を惜しみなく与える女神。
しかも魔王にすらその力が通じる可能性があるなんて…
もし、そんな力があるなら、勇者は要らないし、人々は安全に暮らせる。
「ありがとう、お嬢ちゃん、これをあげる、弟さんと食べると良いですよ」
「私はくくり教徒だから、イシュタス教徒から物は貰えないんだ、だけどお菓子なら沢山あるからいいよ」
やはり裕福ない家の子なのか。
「お嬢ちゃんのお父さんは貴族なのかな?」
「うちはお母さんも居ないよ!そうかイシュタスなんて邪神を信じているから知らないんだね、くくり姫様の世界じゃ、恵まれない子なんて居ないんだよ、誰もが綺麗な服を着れて幸せなの、イシュタスなんて死んじゃえば良いんだよ、だってくくり姫様が助けてくれるまで、毎日が地獄だったんだもん、お爺ちゃんも早く王都に行って【括って】貰うと良いよ、幸せになれるから、それじゃね」
私は夢を見ているのか?
そんな世界があるとしたら、神が暮らしている天国しかない。
この世にある筈がない。
だが….
何故ですか、イシュタス様を心から信じる者が住む、聖都より王都ですら無い村の少女の方が幸せそうに見えます。
「この村の建物はどうされたのですか?」
「くくり教徒だったので、建てて貰えたんです」
ワイバーンに襲われた村には綺麗な家が沢山建っていた。
しかも、そんな災害の後なのに怪我人一人居ないで幸せそうにしか見えない。
私が心から祈り、世の中を助けようとしても、私財を投げうっても、寄付を集めても…こんな事は出来ない。
女神イシュタス様、貴方はなんで人に慈悲をくれないのでしょうか…
その後もよる街や村は幸せそうでした…貴族の横暴は許さず、スラムなんて何処にも無い。
皆が幸せそうに笑って、親の無い子供ですら施設で健康的に暮らしている。
しかも「此処ではね只のドブ攫いしているだけで、お風呂付の家に住めるんだぜ」
聖都じゃそんな事しても小銭しか貰えない…
イシュタス様、貴方に今迄何人の教皇が祈りましたか?
私は小さな時から入信し…世界を救って下さいってどれ程祈ったか知っていますか。
「教皇様、何で泣いているのですか?」
「教皇様、どうされたのですか」
私を気遣ってくれます…ですが悔しくてたまりません。
此処には私が理想とした世界以上の物があります…こんな幸せな世界想像も出来ませんでした。
イシュタス様、歴代の教皇達がどれ程、貴方に祈りましたか?
我々教会は気の遠くなる程の月日貴方を信じ慕って参りましたよ….
「お前達、これが本当の幸せな世界じゃ無いのか….」
「教皇様」
「こんな世界、イシュタス様は、イシュタス様はくれなかった…そう思いませんか」
「無礼を承知で言わして貰いますが、こんな世界があったなんて」
「私もそう思います…すいません」
「良いのだ、私すらそう思うのだから」
そして彼らが王都で見た物は、彼等の理想とする皆が幸せそうに生活する天国の様な世界だった。
そこには魔物の怯える存在もいない、横柄な貴族も見当たらない。
子供も老人も綺麗な服を着て、美味しそうなご馳走を食べている。
皆で見て歩くが、不幸そうな人間は殆ど居なかった。
「イシュタス様、貴方はどれだけの時間我々を苦しめてきた…くくり姫という女神は僅かな期間でこの幸せな世界を作ったのに…」
「教皇様…」
「教皇様、それは」
「もう良い、私は気がついてしまった、イシュタス様、いやイシュタスは碌な女神では無い、邪神でなければ無能の神だ…私は教皇を名乗る資格は無い、この世界に導いた礼二という少年こそが相応しい」
「それで、どうすると言うのですか?」
「私は教皇を辞めるつもりだ、そしてその少年が受け入れてくれるなら、司祭になり支えて行こうと思う…お前達は自由にして良い、だが中央教会と聖教国、それを出来るなら受け渡したい…聖教国を此処みたいに幸せな世界に変えたい出来る事ならついて来て欲しい」
そして、ロマーニは礼二に会う事になった。
見た瞬間に解った、礼二は異世界人(日本人)だ、傍には手足の不自由な少女が居た。
その中には、あの剣聖だった少女もいた。
彼こそが恐らくは《救世主》だったのかも知れない。
イシュタスという怠惰な神を追い出す為に現れた救世主に違いない。
私は教皇だった…彼の中に異国の女神の姿が一瞬重なった。
彼こそが教皇に相応しい、今存在する人間で一番上の存在が教皇なら彼以外には居ない。
「私は、確信した、この世界を救うのはイシュタスでは無い、くくり姫様だと、どうか私も貴方のお手伝いをさせて下さい」
心の底からこの少年に仕えてみたい…そう思った。
くくり姫の復活
「ハァハァ一体私に何が起きているの?」
誰もいない、私だけの空間で私は怖さからつい口に出た。
髪の毛は漆黒の様に黒くなり、目も黒目になっていた。
背は少し所でなく確実に縮んでいる。
豊穣の女神の様に豊かだった胸は気がつくと随分小振りになった気がする。
今の私を見て、イシュタスと気がつく者は居ないだろう…明らかに違う容姿に変わった。
忌々しい悪夢は続き、何故か体に疼きが起きた。
私は処女神、性欲何て存在しない筈だ、その私が気がつくと指先が股や胸に伸びる。
誰かが呪いを掛けたのか?
そんな訳は無い。
この世界は一神教の女神である私の世界。
この世界には例え創造神ですら入って来れない。
鏡の中の目が死んだような様な少女が語りかけてきた。
《何で奪ったの?》
《私は貴方から何か奪った事なんて無いわ》
《貴方は私の全てを奪ったのよぉぉぉぉぉぉぉーーーーっ!》
《何でそんな恨むような顔で私を見るの? 私は女神、人を幸せにこそして不幸に等しない》
だが、その死んだ目の様な少女は私を睨みつける。
《奪った奪った奪った奪った奪った奪った奪った奪った奪った奪った…私の唯一の神主、唯一の氏子…そして唯一愛した存在…》
《そんな者を奪って無いわ、私は女神、人を幸せにする存在なの》
《なら、私から奪った…それが解ったら…償う?》
《いいわ、女神たる..私が…嘘》
《彼が、礼二の姿、奪ってないわけない..奪ったよね?》
知っていた、私から何も受け取らずにいった少年。
そんな存在は彼しか今迄居なかった。
そうか、あの子はこの子の為に何も貰わず…に
「償う約束をしたから、貰って」
《貰って何を…》
「貴方の全てを、この世界、この体、そして貴方の神力をね」
《私が悪かったのは謝るわ、だけど私は一神教の女神なの、この世界は私だけしか神が存在しない世界なの無理よ》
「もう、世界なら貰ったわ、貴方にも最後に見せてあげる」
《そんな馬鹿な、私の世界、私しか信仰されない世界の筈なのに》
「貴方が招き入れたからじゃない? 私の神主、私の氏子をしかも貴方から祝福を受取っていない、完全な自由な状態で」
《それじゃ、私は…自ら?》
「そう言う事よ? まさか礼二に此処まで愛されているなんて思わなかったわ、これ程感謝してくれているなんて、神の力は信仰の力、今の私なら当時私を犯した悪神なんて1000人束になったって敵わないわ、凄いのね一神教、小さな島国をやおろずの神で納めているのとは大違いだわ」
《何を考えているの》
「私ね、実は礼二にはこの世界で生き延びて欲しくて、自分の容姿、そう自分の体をあげたのよ、僅かに残った神の力も含んでね、そして最後の術式を組んで【括って】あげたの」
《それはどういう事?》
「私は体を礼二にあげて滅んだ筈だけど、多分矛盾が起きたのね、礼二の体は男だから女神じゃない、だけど女神の意思は漂っている」
《訳が解らないわ》
「そうね、私も解らない、だけど一神教だから女神は1人しか居ない筈だからなのかな? 貴方の体に私の意思が取り込まれたみたいね」
《だから、何、私は女神イシュタス、お前なんか》
「気がつかないかな? 今話しているのは私、この容姿も私の昔の姿に似ているわ、長かったわ~貴方の体の大半を乗っ取るの…もう殆どこの体は私の物ね、そして貴方の神力も私の物」
《馬鹿な、体が動かないわ》
「みーつけた…貴方の最後の意思は此処に居るのね」
元イシュタスだったくくり姫は胸を引き裂き、心臓を取り出した。
《嘘…》
「この心臓が今の貴方の全部…流石に痛いけど、流石一神教の女神もう傷が塞がって治っていくわ…さようなら」
《助けてお願い、たすけて…そうだその体はあげる、だから端っこで良い私を住まわせて》
「駄目よ、私は敵にはチャンスなんてあげない、私が出来た事が貴方に出来ないという保証はないわ」
グシャッ…くくり姫は心臓を潰し、火で焼き尽くし灰にして風で飛ばした。
これで幾ら貴方が女神でも復活は無いわね。
この心臓の傷が癒えたら、礼二に神託を卸そうかな?
いきなり顕現したら驚くかな?
お別れした後の続きをして見るのも良いわね、礼二とならあれも苦痛じゃ無いわ…
鏡を前に踊ってみる。
凄いわこの体、神力が漲っているわね、悪神1000人所か天照すら超えているかも知れないわ。
姿を失って久しいけど、多分私ってこんな感じで良い筈だわ…
ちょっと前より綺麗に見えるけどこれは礼二から見た私なのかしらね。
私は寛大な女神よ、人間界に居る間は礼二には好き勝手して貰って、ふふふ。
礼二には私の残っていた力をあげたからきっと、あっちの方も凄いわ。
ここに礼二が来たらめくるめく快感の日々が始まるわね…きっと礼二なら飽きずにずっと出来るわ筈だわ。
イシュタスは何だか処女神が行為をすると、消滅する様な事を言っていたけど、礼二は昔の私の能力も薄いけどあるし、私は元々あれの女神だからこんな障害、乗り越えられる筈よね
この体…処女神…処女神って…処女神って…穴が無いの?
嘘でしょう? 性器その物が無い何て….
イシュタスを滅ぼし体を手に入れたくくり姫はただ一つの誤算をした、それがこれだった。
此処まで応援してくれてありがとうございます。
後数話で完結します。
他の更新よりも暫くはこちらの完結を優先させて頂きます。
括られる
《自分達にに何が起きたのか解らない》
S級パーティ ドラゴンの牙の俺たちが、まさかオークに負けるなんて。
ついさっきまで殆ど壊滅まで追い込んでいた。
攻撃魔法が得意な魔導士ルミナ
回復魔法が得意なリオ
攻守ともに優れた魔法戦士の俺リスナ
酒場で出会いパーティーを組んでからはどんな敵も怖くは無かった。
リオが自分とルミナに結界魔法を張り、俺には防御力と攻撃力のブーストの魔法を掛ける。
そして、俺が戦いながら後方支援でルミナが攻撃魔法を放つ。
これが俺たちの戦い方だ。
この戦い方で戦うならオークはおろか、オーガの群れすら怖くない…その筈だった。
だが、何が起きたのか解らない。
リオが張った結界が突然消えた。
「リオ、何をしているんだ、早く結界を張り直せ」
「嘘…出来ない、幾ら頑張っても張れない…糞、張れないよーーーっ」
嘘だろう、何だこれは体が重い、さっきまで楽に振っていたミスリルの剣がまるで岩に刺さったのかと思う位重く感じる。
オークの斧を受けた筈が、腕があらぬ方向に曲がっていた、恐らく骨折したんだと思う。
「うぐっ..ルミナ、魔法だ此奴に魔法を」
ルミナの方に目をやると…オークに服を千切られ覆いかぶさられて泣き叫けんでいた。
「嫌っ嫌嫌ぁぁぁぁぁぁーーーっリスナ助けてーーっ」
そんな、そんな…あの天才魔導士ルミナが正にオークに犯されそうになっていた。
そしてリオはもう既に犯されていた、口にも突っ込まれていて喋れない、下半身には他のオークの物が突っ込まれ血が出ていた。
抵抗して足をバタつかせているが、抵抗になっていない。
《助けなくちゃ》
俺は剣を持ち二人の元に行こうとしたが…
グチャッ 目の前が突然赤くなった。
頭にこん棒の一撃を喰らったに違いない、リオが回復魔法を掛けられない今、死ぬしかない。
俺は死んでも良い、男だからただそれだけだ…だが俺の仲間は女なんだよ、この後は死ぬより辛い地獄が待っているんだ。
「イシュタス様…どうか、お救い下さい」
そう呟きながらリスナは死んだ、祈っても無駄だ、この世界にイシュタスは最早居ない。
たった今その女神はこの世から消えたのだから。
「何故だ、急に体が重くなったぞ」
「そんな、何で針が思う様にふるえないの」
「ファイヤーボールが使えないなんて」
「私の魔法が、魔法が何も使えない」
イシュタスが居なくなった事で、この世からジョブやスキルが突然消えた。
更にこの世界の人間側の世界から魔法そのものが消えてしまった。
その結果、イシュタスを信仰していた教会は完全に破綻した。
怪我の治療をしたくても、回復を担っていた治療師がヒールすら発動しなくなった。
そして、くくり教に入信していなかった、S級からB級の冒険者も見る影もなく落ちぶれていった。
魔法が使えず、ジョブやスキルの恩恵に預かれない状態の彼らは最早、魔族はおろか魔物にも歯が立たない。
今迄ドラゴンにすら勝てた英雄も今はせいぜいオーガ1体倒せれば良い方だ。
多くの冒険者はゴブリンやオークにすら遅れをとる様になっていた。
彼等の悲劇は、その多くが活動の場所を、礼二が居る王国から離れ聖教国周辺等に置いていた事だ。
王都に向う旅の途中で、その多くの者が犠牲になっていった。
恐らく無事にたどり着き、くくり教徒に成れた者は1割にも満たなかったかも知れない。
【礼二SIDE】
今迄以上に日本化が進んでいる気がする。
気がつくとギルドの職員の一部が、水道局の職員になり水道工事を行い始めた。
どんな原理か解らないが、今迄と違い蛇口から出る水の多くはこの水道に繋がっている。
今迄、魔石を販売していたお店が、何故かプロパンガス屋になって給湯器の販売をし始めた。
元からついていた魔石を使った給湯器はサービスでガスを使った給湯器に交換しに来た。
この給湯器がどう見ても、日本で使ってたのと全く同じで、会社名が違う以外同じにしか見えなかった。
「今日から魔石システムが電気に変わりましたので配線工事にきました」
これまたどういうシステムか解らないが、屋内配線工事で電気が使える様になり、殆どの家には 水道メーター ガスメーター 電気メーターが取り付けられていった。
最早、此処が異世界にすら見えなくなってきた。
日本の田舎だと説明されたら「そうなんだ」と納得する位日本に見える。
多分、他に行けば違うのかも知れないが、少なくとも王都はそうとしか思えない様に様変わりしていた。
教皇達は括った後、直ぐに聖教国へと再び戻っていった。
直接、ロマーニ8世達が説得して中央教会の受け渡しの話と、僕こそが教皇だと言う事を大司教達に話に行くそうだ。
この旅にはくくり教信者がアンデルさんを含め30名程同行する。
「貴方達もようやく、真の宗教者に目覚めたのですね、これからは同士です、共に真の世界平和の為に頑張りましょう」
アンデルさんは張り切っている。
此処を初期の段階から取り仕切ってくれた、アンデルさんとアリナさんに大司教になって貰った。
2人とも凄く感動し、アンデルさんは涙すら流していた。
そしてロマーニ8世にも司教になって貰った。
本当は大司教で打診したのだが「新参者でまして他宗から移ってきた私にはその資格はありません」と断られた。
そこで一段落として司教でどうにか受けて貰えた。
今現在【括る】という仕事もようやく落ち着いて来た。
ロマーニ8世が、教会側を説得して中央教会に僕がいった時、恐らくこの世界で最後の【括る】仕事がスタートするのかも知れない。
ちなみに、くくり教徒同士、もしくは片親がくくり教徒で子供が出来た時はその子供も【括られた状態】で生まれてきた。
案外【括る】という仕事は思ったより疲れる。
泥の様に疲れてベッドで寝ていると下半身に重さを感じた。
その後、更に下半身に生々しさを感じ、目を開けたらそこに、梓が居た。
「えっ…東郷さん? 何しているの?」
「あははっ、もう気がついちゃったんだ、良いからそのままでいて」
そう言いながら、梓は口に再び含み始めた。
「あの、これはどういう事かな」
「私、まだ貴方にお礼をしていなかったから、お礼を兼ねてね、私こんな体だから、もうこんな事でしかお礼出来ないからさぁ」
「お礼と言う事なら、もう充分だよ、良く手伝って貰っているし」
だが、梓は止めようとはしない。
「あーむ、そんなんじゃ足りないよ、悪魔のようなマーモンから助けてくれて、こんな体の私に居場所をくれた、何をしても返せないよ」
「僕はもう充分」
「あむっ、ううんうぐうううん、ぷはっ…そこから先は言うの無しね、お礼って言うのも半分は違うかな、好きって事よ、少なくとも貴方じゃなくちゃ此処まではしないわよ」
「そこ迄、好かれる様な事をした記憶がない」
「ハァ~、謙虚も此処までくるとなんだかなぁ~ 私を救う為にあんな化け物と戦ってくれて、こんな状態の私に居場所をくれて、面倒みてくれる、もう充分すぎるでしょう?」
《本当に馬鹿なんじゃないかな? 三浦さんや湯浅さんからも聞いたけどさぁ、これで惚れない女は居ないって言うの》
「東郷さん、それ本当?」
「本当…それに、私見た目通り遊び人だからさぁ、経験ならあるよ、本当に申し訳ない位価値無いけどさぁ、貰ってくれるかな…こんな物で悪いけどさぁ」
「余り、そう言うのは気にしないよ」
「そう、良かったよ、中古は要らないとか言われたらどうしようかと思ったよ、あははっ、と言っても私の体はこんな状態だから、此処から先は、貴方ににして貰うしかないんだけどね」
僕は彼女を寝かせると優しくキスをして覆いかぶさっていった。
多分、皆は(日本人)は共犯だ、その証拠に誰も此処に来ない。
今日みたいな日は、湯浅さんや三浦さんがいつ来ても可笑しくないのに。
少なくとも彼女達は共犯だな。
「どうしたの?」
「何でもないよ…」
《やっぱりそうだ、三浦さんが言っていた通り《本当に体が可笑しく感じる》これがSEXだと言うのなら今迄のは何だったのかな、偽物だとしか思えないよ》
「梓、凄く可愛いよ」
「そう言うの、余り真顔で言わないで、明日あった時どんな顔をして良いか解らなくなるから」
《もう、どんな顔をして良いか解らないわ、昔面白半分で脱法ドラッグやマジックキノコを使った事があるけど、そんな物と比べ物にならないわ、頭からつま先まで触られるだけで、快感の波が押し寄せて来ちゃう、流石にそんな事はした事無いけど、麻薬でもきっとこんな感覚にはならないと思う》
「今迄通りで良いんじゃないかな」
「ハァハァ~アハっ、ああああーーーっ 何で、何で貴方は普通でいられるの、こんな、私はこんなにもあああーーーん」
《もう、何がなんだか解らないよ《今迄の嫌な記憶が全部薄れていっちゃう、最近負った記憶だけじゃなく過去の物まで全部》こんなのって絶対にただのSEXじゃない、幸せすぎるの、これが貰えるなら、ブランド物もお金も要らないよ~、ううん、それ所か最後の手すら無くしても良い、本当にそう思っちゃう》
「そんな事無いよ、僕はそんなに経験がないから、結構一杯一杯なんだけど」
「ハァハァ、可笑しいよ、私なんて私なんて、さっきから油断すると意識が…意識があああーーん駄目になりそうなのに」
《三浦さんや湯浅さんが、彼としているのを覗いた時に目をとろーんとして涎を垂らしながら快感を貪っていた…まさか薬でもやっているのかな? そう思ったけど..あああっ、こんなだったんだ、真面目なあの子達があそこ迄可笑しくなるんだから、多分これ麻薬以上だよ絶対にそう…こんなの病みつきになる…体的に本能的に、その証拠に私はそんなに濡れる体質じゃ無いのに恥ずかしい位濡れている》
「ぼくだってカッコつけているけど同じだよ」
《絶対にそんな事は無い…三浦さんや湯浅さんが言っていた通りだった、私は何でそんなに笑ってられるのか聞いたら《礼二さん(様)に抱かれると辛い事なんて全部忘れちゃうからって》…確かにそう言う事で嫌な事を忘れるって事は聞いた事があるわ、だけど、こんなのって、絶対に無い、そんな物じゃない…頭の中がもうわかんない、さっきから頭のなかで謎のピンクの像が走っているし、体は体で全身でぴくんぴくんしている、可笑しすぎるよ…辛い…あはっ何それ、もう幸せ~、多分これが幸せ~あはっあはは、もう駄目だぁ~これがあれば、礼二さんが相手してくれるなら、もう一生寝たきりでもいいや~あああっ、うん幸せ過ぎるよ」
「しゅごい、しゅごいよ礼二さぁ~ん、もっともっと」
《これ凄いわ~こんな事多分、他の男じゃ味わえないわ~ もうどんな男にも抱かれたいなんて思わない、男は礼二さん…あははっ礼二だけで他は要らないわ、あははっ》
結局そのまま流されて12回もやってしまった。
梓は満足したように横で眠っている…だけど明日は早く起きてこれを全部一人で綺麗にしないと…
「可愛らしい笑顔、何でかな、湯浅さんや三浦さんも偶に凄く愛おしく思える時がある」
あれっ、どうしたんだ…体が冷たくなった。
【くくり姫SIDE】
「久しぶりだね、礼二…本当に懐かしいね」
僕は目を疑った…目の前にはくくり姫がいた。
多分、これは夢だ、くくり姫は消えてしまった筈だ。
「くくり姫なの…本当に…」
「礼二、私が他の誰に見えるのかな? 貴方が信仰する女神でしょう」
夢ではない気がする、それだけは解った。
「本当にくくり姫だ、消えたんじゃ無かったんだ…本当に..本当に心配したんだ」
「解っているよ、礼二が泣いている姿が見えたから」
「何だか、恥ずかしいね」
「あのね、その後も何故か意識だけはあったんだ、まぁ暗い所に居る様な感じかな、だけど、礼二は凄いね、この世界で生きていくだけでなく、教団まで作っちゃうなんて」
《まさか、こんな事する何て信じられないわ》
「うん、この世界が本当に嫌になったからくくり姫から貰った能力【括る】力で変えて行こうと思ったんだ」
「まさかね、それを宗教にまでする何て思わなかったわ、知っている? 神の力って信仰なのよ?こんなに信仰されたら復活もするわ」
「良かった、くくり教団を作って本当に良かったと思う」
「うん、そうね、お陰ですっかり復活っていうか…もう消え掛けの女神じゃなく、一神教の女神になったわ、最早、悪神どころかその気になったら天照だろうが須佐王だってフルボッコ出来るわね」
凄く元気になったんだ…良かった。
「それは凄いね、本当に良かった…本当に」
「うん、暗い世界に居る時から聞こえていたよ、礼二の声が、知っている信仰って凄く恋愛に近いんだ、全く礼二はどんだけ私が好きなのよ、祈る為に《好き》って気持ちが伝わって来たわよ」
「僕は、くくり姫が…」
「言葉なんか要らないわ、礼二と私は繋がっているから、思っただけで全部伝わるから」
「そうなんだ、ちょっと恥ずかしいな」
「そうね…今は閉じておいた方が良さそうね」
知らないうちに僕は涙が出ていた。
拭っても拭いきれない程の涙が次々と流れていった。
「ねぇ、礼二、貴方の最初の女は私だったわ…それでね最後の女も私で良いわよね、私にとっても最後の男は礼二が良いわ」
「それって」
「何時かの貴方への気持ちの答えよ…口に何て出さないで良いわ、もう解っているからね」
「ありがとう」
「良いのよ、そうね、貴方が天界に来れる様になったら括ってあげるわ、一生離れないようにね」
僕のくくり姫は、僕を生涯括ってくれるそうだ。
※これで、礼二とくくり姫の恋愛の話の大筋は終わります。
此処からも本編はもう少しだけ続きます。
くくり姫と
復活したくくり姫は一度だけ顕現してみせた。
この世界の何処からでも見える様に、人々を日本という桃源郷の様な世界に【括る】事を宣言した。
今迄が不幸過ぎた世界の人は、その姿に感動して涙した。
僕はと言うとまたくくり姫の作った神界に来ていた。
「本当に暇ね」
くくり姫は畳に座布団を敷いて座りお茶を飲んでいた。
「そうですね」
呑気に僕もお茶を飲んでいたが、不思議に思った事がある。
「くくり姫様、此処って神界ですよね、人が入れる場所なんですか?」
「何言っているのよ、此処は私が作った世界よ、人所か他の神も入って来れないわよ」
人、神…入れない? なら何故僕は入って来れるのだろうか。
「あの。くくり姫様、なら何で僕は入って来れるのでしょうか?」
「(様)はつけないで良いわ此処では、貴方は私の男なんだから、だって、貴方はもう殆ど人間じゃないわ」
「嫌だな、僕は人間ですよ」
「あ~やっぱり気がついて無かったんだ」
くくり姫が言うには、僕と交わった時にこの容姿をくれたそうだ、そして僕が安全に暮らせるようにと【括って】くれた。
そこ迄は解るけど…
「あのね、容姿をあげたという事はその容姿になる様に私の体をあげたという事なのよ…つまりその体は人間と神が交わった感じの体なのよ」
「そうなんですね」
「此処は私も解らないけど、この世界は神にとって恵まれた世界なのね、それで終わった筈なのに、貴方の体の中で【くくり姫】の能力は次第に力を取り戻していったのよ…下手すれば日本に居た時の私以上の力をね」
「えーと、それは、どういう事?」
「簡単に言うなら、今の礼二は半人半神しかも、私の体から作られているから、此処にも自由に入れるって事なのよ」
半人半神ってヘラクレスみたいな者なのか…そんな大それた話し、あるわけ無い。
「あのさぁ、礼二、何を考えているか解らないけど、普通の人間が【括る】なんて事出来ないと思わない? こんな事、安倍晴明だって出来ないわ」
「確かにそうかも知れない…確かに括るって凄い事だ」
「そうよ、その分じゃもう一つの能力も知らなそうね」
他にも何か出来たのか? 気がつかなかった。
「まぁ、余り言いたくはないけど【その体はくくり姫の力が宿っている】今の私の体はイシュタスの体がベースだからもう、無いけどね」
《もう振り切れているけど、何だか恥ずかしいわね》
「それはどんな力ですか」
「デリカシー無さすぎ、まぁ良いわ、礼二だし。 その体は悪神が幾ら抱いても飽きない位の体なのよ? 神と呼ばれる者が何百年と他の女の事が考えられない位に嵌る程の快感を与え続ける程のね…簡単に言うなら、それが本来のくくり姫の能力なの」
凄く悲しい事だけど、そういう女神だった。
「そういうのは良いからね、今の私は、その貴方が好きだから…言いたいのは、今の礼二はそう、SEX(まぐわい)については神を含んで無双できる位凄いって事よ」
「まさか」
流石にそれは無いと思う。
「それは無いって事は無いわ、神って自分の持つ能力はほぼ無敵なのよ、例えばギリシャ神話にエローズという恋愛の神が出て来るでしょう、あの矢には他の神々ですら逆らえず、嫌いな相手でも好きになってしまう…それと同じ。貴方の場合はその体を使ってSEXするなら女神だって嵌ってしまうわ」
「あの、それって…」
「あはははっ、男の夢ね、貴方には強姦罪はないわ、だって貴方に抱かれたら、貴方を好きになり自分から求めてくるんだからね、性欲が尽きるまでずうっと…まぁ礼二は根が善人だからそんな事しないだろうけど」
可笑しい、僕にそんな力があるなんて思えない。
「あのさぁ、礼二、女の子の事舐めている? 手足を失うような残酷な境遇で犯され続けた女が、たかが理想のイケメンにちょっと抱かれただけで笑顔になるなんて可笑しいと思わない? 男が怖くて仕方ない人間があんなに淫らに抱かれたいと思う様にならないと思わない? あの子達今、凄く幸せそうじゃない? 梓だっけ? 貴方に抱かれてから凄く良い笑顔を貴方に向けないかな?」
「言われて見ればそうかも知れない」
「言われて見れば、そうかも知れないじゃないわよ? もうあの子達メロメロだからね、それに貴方が欲しくて、欲しくて堪らない状態だから」
そういう事だったのか、それじゃ。
「ちゃんと愛しているわよ、それに貴方が抱いてあげなければ確実に廃人になっていたわ…良い事をしたのよ あとあの子達が抱かれたいのは負い目やお礼じゃ無いから、本当に貴方が好きで抱かれたくて仕方ない、そんな状態だからね、毎日でも相手してあげた方が良いかもね」
「そういう事だったんだ…だけどくくり姫はそれで良いの?」
「貴方は死んだら此処に来て私と二人で暮らすんだから、まぁそれまでは良いわよ」
「どうして、そんな事言えるのかな」
僕だったらそんな事言えない、好きな人がそんな事する何て考えたら嫉妬してしまう。
「この体は処女神イシュタスの体なのよ、穴も無いし多分子宮その物が無いし、性欲その物も随分なくなったわ、それに神に成ったら悠久の時間を一緒に過ごすんだから100年やそこらなんでも無いわ」
あれっ、女神イシュタスはどうなったんだ。
「それでイシュタスはどうなったんだろう」
「あはははっ多分消滅しちゃったんじゃないかな? 私はしーらーない」
「そうですか」
その後色々話し合った。
死んでしまった同級生の魂は日本に戻したそうだ。
そこからは日本の神の領域だからくくり姫にはどうする事もできないらしい。
そして平城と水上さんは記憶を消して日本に戻す事にした。
時間も併せて イチゴ狩りに行く途中でバスが事故を起こしてクラスの皆が事故に遭い死亡、その生き残りが平城さんと水上さんという形にするらしい。
忌々しい事にイシュタスには帰還させる能力もあった。
これは恐らく勇者達が魔王を倒して帰りたいと願ったら行う手段だったようだ。
三浦さんと湯浅さん、そして東郷さんは此処に残す事になった。
その理由は五体満足の状態に戻して元の世界に戻すのが難しいのと僕と交わってしまった為に【縁】が出来ている事。
そして僕を愛して、既に幸せだからという事からだ。
《礼二とやっちゃったらもう他の男じゃ満足できないからね》というと、くくり姫はニタニタしていた。
「それはそうと、イシュタスが居なくなって、ジョブや色々な物が返ってきたからこんなの作ってみた」
「凄い剣ですね」
「そうなのよ、日本にだって聖剣はあるわ【草薙の剣】がね、それを模倣してつくったのがそれよ、それも貴方に括ったから、必要になったら何時でも呼び出しなさい」
「括られている僕に必要なのかな?」
「一応、念には念をいれてね、あと、この世で貴方だけにジョブを与えるわ、まぁもう半分神だからその位良いでしょう、ジョブの名前は【尊(みこと)】 日本の半人半神が名乗っていたから貴方にも資格があると思うわ」
大和武尊の【尊】の事かな。
「うん、【命】にするか【尊】にするか悩んでそっちを選んだのよ…余り私が独占しちゃうと悪いからそろそろ戻してあげるわ」
結局僕はくくり姫に全てにおいてお世話になっていたんだと本当に思った。
VS 魔王
「全ての魔物や魔族の攻撃が一切効かない存在が居るだと」
余にその様な報告が上がってきた。
最大の敵である勇者をマーモンが討ち取ってから数多くの話があがってくる。
しかも、その件数はうなぎ上りで増えていった。
考えられる事は、新たな結界魔法だが、不意をついて後ろから攻撃しようが長時間攻撃しても通用しないと言う事だ。
しかも、阻まれるのでなく、完全にすり抜けるという異常な状態が起きるという報告だ。
こんな馬鹿な話は無い。
もし人間がこんな結界を持つなら、何故勇者達は使わなかったのか、少なくとも異世界から来た者はそんな事が出来なかった。
四天王を招集してその対応をしなくてはならない。
空の女王、破壊の王、破滅の孤王、地獄の皇王 を招集した。
すると、全員がその存在を聞いた事があり、特に破壊の王を名乗るマーモンは戦った事があるとの事だ。
「マーモン、お前は件の者と戦った事がある、そう言う事か?」
「恐らくはそのリーダーの様な男と戦った、その技を奥義と言っていたから、そいつかその師匠が広めたのだろう」
「それで、強さはどうだった、無論お前が余裕で勝ったのだろう? 手ごたえは?」
「いいや、勝ってねーよ! 引き分け…考え方によっちゃ、俺の負けだな」
今、何と言った?
負けたと言ったのか?
「お前は勇者パーティーを潰し、勇者を殺しギルガムの街を皆殺しにした筈だ、その時勇者はオモチャ以下と言っていたな、お前の話なら勇者より強い奴が居た、そうとれるが?」
「ああっ、勇者を殺して、遊びで剣聖の女を鎖で吊るしていたんだが、その時に来たんだ、何でも【剣聖の女の幼馴染】とか言っていたな」
「ほう、それでどうした」
「そいつの名前はレージ、何でもくくり神拳という凄い拳法の伝承者らしい」
「それで戦ったお前から見てその強さはどうだ」
「勇者なんて目じゃねーな、彼奴は恐ろしく強い、何しろ俺の全ての攻撃を無効化したんだぜ、本気でやりあったら100日戦い続けても決着はつかねーと思った、まぁ人間にしておくには惜しい位の奴だから、そのまま痛み分けだ」
「成程、何かハンデをやってその結果と言う事か、本気で戦った訳ではあるまい」
「ああっ、確かにハンデはくれてやったが、メギドを喰らわしたが、それでもピンピンしていた…スゲー男だ」
【空の女王】
マーモンが言う事が本当なら、私では到底敵わない存在じゃない。
メギドを私が喰らえば、確実に死が待っている。
しかも、今の話が本当なら、私の高速の攻撃すら無効にされる可能性もある。
そんな恐ろしい力を持つ人間が、その技を広げ始めたのだとしたら…魔族はどうなる。
勇者所じゃない脅威じゃない…
【破滅の孤王】
儂の力はマーモンに似る所がある。
そしてメギドは使えない…儂の敗北は濃厚だ。
そんな存在に出会いたくは無い。
【地獄の皇王】
我の軍団すら通用しない可能性が高い。
そもそも、言う話が本当なら勇者じゃなく、恐らく人類最強の男はそいつだ」
「マーモンよ、そいつこそが最大の強敵では無いのか? 何故余に報告を怠った」
「レージは言っていた、俺が破壊というなら、自分は護身なのだと、自分をウサギに例えてな、俺がどんな物も壊すハンマーなら彼奴はどんな攻撃も通じない盾だ…最強の盾はハンマーすら防ぐ、だが盾はハンマーを殴ってこない、故に攻撃をしない彼奴は敵にはならない…俺はそう思ったぜ、だから報告しなかった…多分彼奴は俺たちを敵と思ってない可能性すらあるし、理性的だ、剣聖と幼馴染なら勇者とも顔見知りの筈だ、なのにあの状況でも、戦いは避けたんだ。 まぁ本音までは解らないが」
幾ら、そいつが戦いを避け、理性的でも【人間】には間違いないだろう。
もし、人間との争いが起きたら、勇者が居ない今なら、そのレージとやらが出て来るに違いない。
マーモンから聞いた話からすれば勇者なんかより遙かに手強い。
四天王で話をした結果、マーモン以外の賛成により魔族による総攻撃を加える話になった。
「馬鹿め止めておいた方が良いぞ、折角ドラゴンが寝ているんだ起こす必要はないだろう」
だが、その警告虚しく、魔王を陣頭に総攻撃を加える事になった。
その攻撃の先は、聖教国だった。
今迄の魔族の中で、自分達と敵対する人類の要は此処だと解っていた。
そして、魔国から近い事もある。
魔王の決断は早かった。
流石に全軍は出ない物の約半数の魔族を率いて出軍をした。
【人類SIDE】
「司祭様、魔王が軍を率いて此処に来ています」
元教皇ロマーニの説得により、中央教会は今後、くくり教に引き渡される事になり、今正にイシュタスの像が壊された所だった。
これが王国、それも王都近くであれば、最早都市ごと【括られている】から破壊は不可能だが、ここ聖都はこの世界の建物ばかりだ。
しかも、今だ数多くのイシュタス教徒がいる。
「礼二教皇に連絡を頼みます」
「司祭様はどうされるのですか?」
「今こそ我々の信仰が試させる時が来たのです、くくり教徒が出ないで誰が出るのですか?」
その声の元に門の内側に信者たちが集まった。
その中には勿論、アンデルさんが居た。
今まさに門の外には魔王を先頭に数万の魔族が聖教国を取り囲んでいた。
既にイシュタス教徒は裏から逃げる様に指示した、此処にいるのはくくり教徒しか居ない。
だから、手は出せない筈だ。
「薄汚い魔族め、何とも醜悪な顔をしておる」
平然とロマーニは言い切った、彼は元教皇、魔族を一番憎む存在。
そして、くくり教を心底信じていた、故に一切の恐れは無かった。
そしてその傍にいる、アンデルも一緒だ。
「何だ、お前は、これ程の魔族を前によくも言えた物だ、後ろには魔王様もいるんだぜ、今からお前達に真の恐怖を教えてやろう」
「私はくくり教の司祭、魔族など恐れはしない」
そうロマーニが叫んだと共に、巨人の様な魔族の持つこん棒が振り落とされた。
だが、そのこん棒はそのまま地面を叩いた。
「そんな、俺のこん棒は間違いなくお前を捕らえた筈だ」
「私が信じる偉大なる女神、くくり姫はいかなる魔族からも守ってくれる、お前等等恐れない」
「馬鹿な、ならこれなら、獄炎の炎だ..あっ」
「私の信じる教皇様が言ったわよ、もしくくり姫様を心から信仰するなら魔王からですら守って下さるって、だからそんな物は通じないわ」
最初はその見た目に恐怖していた人々が、ロマーニや勇ましいシスターの様子を見て、その恐怖はどんどん薄れていった。
「くくり姫様は本当に魔族から我々を守って下さるんだ」
「魔王なんて恐れる必要が無い」
「魔族は立ち去れ」
「魔王は消え失せろ」
勝利の雄たけびが聞こえてきたが…
【魔王SIDE】
何て事だ、この世界の女神はイシュタスだった筈だ、それが違う神に信仰が変わっていた。
しかも、この女神を信仰するとあらゆる攻撃が効かなくなるのか…
手強い、イシュタスなんて比べ物にならない。
炎のブレスに、魔法、単純な暴力全てが無効にされる。
こんな物、誰がどうにか出来ると言うんだ…待てよ、此奴らに手を出せなかったが《物は壊せるじゃないか?》
門は明かに崩れている。
なら、簡単だ、此処を荒野の様に破壊尽くせば良い。
こちらも手を出せないが【あいつ等にも攻撃手段は無い】
ならば、それを止める手立てはない筈だ。
魔王は顔をゆがめ笑った。
「攻撃目標を変えろ、人ではなく物や建物を破壊しろ」
そう命令をだした。
此処が王都なら最早この攻撃すら効かないかも知れない…
だが、此処は聖教国の聖都、まだ街並みは日本化されていない…
魔王の目論見通り、街は破壊できた…
今まさに聖都の破壊が始まった。
【人類SIDE】
「ロマーニ様、これは」
「やはり気がつかれてしまった」
我々には手が出せない、王都の様にくくり姫様が守護している街では無い。
此処は、イシュタスの街のままだ。
「俺の家が、止めて、止めてくれ」
「私の、私の…お店が」
次々と街が破壊されていく。
「わはははっ、お前達には手が出せない、そしてお前達は我々に手が出せない…ならばお前達の大切な物を奪えば良い」
魔王の高笑いが続き、魔族の咆哮が鳴り響く。
ロマーニ達は教会まで後退していた。
此処は、教皇礼二様に住んで貰う場所、くくり姫様を祀る中心の教会になる場所、彼等にとってはかけがいの無い場所だった。
今まさにその場所に魔族が踏み込んでこようとしていた。
「その場所がお前達のかけがいの無い場所か…壊してやろう」
お互いに手が出せないと見た、魔王は後方でなく、前線に来ていた。
「ここは、ここだけは手を出させない」
ロマーニが両手を広げ、アンデル達シスターも同じ様に立ち塞ぐも、魔族や魔物達は体をすり抜けていく。
だが、その魔族の前に1人の人物が立ち塞がった。
「魔族は余程死にたいらしいな」
そこには日本の神のいでたちをした、礼二が立っていた。
「教皇様、来て下さったのですか? ですが…」
「教皇様」
「此処からは僕が変わります、皆は休んでいて下さい」
「はい、教皇様ですが…」
「大丈夫ですから、安心して下さい」
礼二の顔を見ると張り詰めた糸が切れたかのようにロマーニやシスターたちは座り込んだ。
「随分とやってくれましたね」
「貴様は何者だ」
「くくり姫の使徒、教皇を務めている、礼二」
「貴様が【護身】を語り、マーモンと戦ったというレージだな、だがどうだ、お前の護身では身は守れても大切な物は何も守れぬ」
「ならば、俺はお前から大切な物を奪わせて貰おう」
「ふっ、お前は究極の盾だ攻撃は出来ぬのであろう」
そう、僕はゴブリンにすら攻撃は出来ない。
恐らくマーモンもそうだ…だが魔王からなら奪える。
僕が走ると魔族が壁になった。
馬鹿な奴、そんな物は意味がない。
そのまま、魔王に近づく。
「どうせ、何も出来ぬのであろうが」
僕はそんな話を聞かないで、魔王の衣を握りしめた。
その瞬間魔王が着ていた衣が霧散した。
「貴様一体何をした、余の、闇の衣が」
そう、他の者は魔具をそんなに身に着けていない。
だが、魔王は勇者等から身を守る為に貴重な魔具を山程身に着けている。
日本に無い魔剣は触ったら霧散した、同じ事が魔具にも起きるであろうかとは想像がついた。
此処からは暫く、魔族には残酷ショーを見て貰う。
空の女王が空高く飛び立ち、その爪で攻撃を仕掛けてきた。
だが、それは僕の体を素通りする。
「お前達は僕の大切な者を傷つけ奪った、だが僕はそれでも平和な道を模索した、マーモンが幼馴染に酷い事をしたのに我慢した…奪われても奪われても我慢してやったんだ…それなのにまだ奪おうと言うなら、僕がお前から全てを奪ってやる」
「闇の衣は代々魔王に伝わる大切な物、それを奪った事は許さぬ、死を持って償え」
魔王は僕に殴り掛かってきたがそれも通りぬけた。
「そう、そんなガラクタより、僕の友達の手足は数百倍の価値がある…今度は此奴を貰うぞ」
僕は魔王の手を握った。
「ああっああああーーっ余の、余のデーモンズリングが、デーモンズリングが」
魔王の指に嵌っていた指輪が霧散した。
周りの魔族が止めに入ろうが片っ端から魔王の身に着けている高級そうな魔具を掴んでいく。
触れた瞬間にそれらの魔具が消えていく。
時間がたった時、そこに居たのはただの大きなスケルトンにしか見えない存在だった。
「余の大切な宝具が…貴様、赦さん、赦さんぞ」
「赦さない? 散々、僕から大切な物を奪ってきたお前が?今更だな、僕は魔族にだって命があるそう思って我慢してきた、だがそれでもお前は更に奪おうとした、なぁ、お互いが触れることも出来ない、これが理想だとは思わないか? 互いに争わないで暮らせるそうは思わないか?」
「我は魔王、人類は敵だ!」
「ならば、僕はお前を殺し、この世界を平和にしよう、ジョブ【尊】発動、草薙の剣召喚」
目の前の礼二が光り輝く、そしてその手には、神々しい剣が握られていた。
「待て、貴方、貴方様は…もしや人間ではなく、神なのでは無いですか?」
まぁ、僕は半人半神、間違ってはいない。
「だから、どうした、お前は人類の敵、そして僕は人類を守る存在関係ない」
そう言って僕は草薙の剣を軽く振るったら、簡単に魔王の腕は斬り落とされ、その余波で後ろの魔族数十体も吹きとんだ。
「やはり、神、そしてその手にあるのは神器、神よお願いがございます、余の身一つで魔族の命はお許し願いたい、余はどうなっても構わない」
「そうか、ならば…これで終わりにしよう、お互いに触れられないのだから、声を掛けるもよし、無視をするのも自由の筈だ、争わないで生きていけるだろう、魔王よ今の世界は弱い魔物も人間に狩られる事も無い世界でもあると思うぞ、冒険者や英雄が存在しないから、魔族や魔物も生き生きとし伸び伸びと生きれる筈だ、違うか?」
「貴方程の神が仕えるというくくり姫様という女神は魔族の事まで考えてくれていたのか、ならば余も考え直さなくてはならない」
「今迄が今迄だから直ぐにはむずかしい、だがまぁ気の許せない隣人からスタートさせれば良いと思いますよ、これで軍を引き上げてくれませんか」
「はい、今直ぐ軍を引き上げます、皆行くぞ」
魔王軍はそのまま全軍瞬く間に撤退していった。
「成程、道理で俺が勝てなかった筈だレージは神だったのか..がははははっ」
マーモンが高笑いをしながら帰っていた。
そして、僕もそのまま帰ろうとしたのだが…
元教皇のロマーニやアンデルさんが膝磨づいていた。
「何事ですか?」
「 礼二様は、礼二様は神だったのですね、道理で神々しい筈です」
「やはり、そうでしたのね、普通の人間に【括る】と言う様な奇跡の行為が出来る筈がありません」
「出来るだけ大事にしないで下さいね」
そう言い、立ち去ろうとしたが、裏から逃がした筈の、イシュタスの信仰者が戻っていた。
何でも裏側も魔族が居て逃げられなかったそうだ。
「教皇様が、神だったなんて、我々は何て事をしていたんだ」
「魔王ですら本当に寄せ付けない、これこそが真に守ってくれると言う事なのね」
「お願いです、私達を括って下さい」
望まれたので、此処で全員【括って】あげた。
これで恐らく、田舎や辺境にいる人は解らないが主要な国の殆どの人は【括った】状態になった筈だ。
「それじゃ今度こそ、帰りますね、これもくくり姫様に返さないといけないし」
「その乗り物は何でしょうか?」
「天の鳥船と言う物です、急いでくる必要があると言ったらくくり姫様が貸してくれました」
「流石は神…空を飛ぶ船に乗るなんて」
「これは本来は私ではなくくり姫様の乗り物なんです、今回は特別に借りただけです」
「そうですか、流石は女神です」
「神迄も降臨させて魔王と戦わせてくれるなんて、やはりくくり姫様は素晴らしい神様です」
「イシュタスなんて信仰していた私は飛んだ道化ですな」
何時までたっても終わりそうに無いので僕は強引に話を終わらせ帰った。
暫くして落ち着き、中央教会に再び来た時に僕は愕然とした。
くくり姫の像の横にその1/3の大きさで【神:礼二の尊の像】と書かれた像が作られていた。
「これは何でしょうか?」
「私は大司教です、神が目の前に存在するのに祀らない訳にはいきませんわ、神:礼二様」
「えっかみ、れいじ…様」
「そうですよ、神:礼二様、このロマーニ生きている間に神に仕えられるなんて思いませんでした、これからはより一層心から仕えさせて頂きます」
何でだろうか…僕は大事ににしないで欲しいと言ったのに、これ充分大事じゃないか、最早笑うしか出来なかった。
幸せくくり姫
「あははっ礼二らしいわね」
くくり姫に僕の像が出来てしまった事を話したら笑われてしまった。
ちなみに【天の鳥船】は僕専門に作ってくれた物だ。
だが、只でさえ大きな話になりそうだったので借りた事にした。
「笑いごとじゃないよ…最近では何処を歩いても手を合わせられるんだから」
「でも良いじゃない? 神や仏になって手を合わせて貰えない人生なんて地獄よ?」
その事は嫌と言う程知っている。
信者が居なくなったせいで、最初に会った時くくり姫は消えかかっていた。
「また、そんな悲しそうな顔をして…もう終わった事だから気にしないで」
「確かにそうだね」
「まぁ、どうせ礼二は此処に来るんだから、丁度良いわよ、二つの像が並んで夫婦みたいで凄く良いわね」
「それでね、礼二お願いがあるの!」
【魔王.魔族SIDE】
「これで邪神との付き合いも終わりだな」
「魔王様、それは一体どういう事でしょうか?」
「終わりにするしか無いだろう? もう人間を生贄にする事も出来ないし、襲う事も出来ないんだから仕方なかろう」
「確かにそうですね」
「お前は他人事で無いだろう? 悪魔神官だろうが?」
「何をおっしゃいますか? 邪神を祀らないのであれば私はお役御免ですよ」
「だな、最早人間が我々を襲う事も無ければ、我々が人間を襲う事も無い、確かに平和な世界だ、そこにはもう邪神は入り込む余地は無い」
「そうですな、ならば、我らは何を祀れば良いのですかな?」
「くくり姫という神は人間の神、そう考えたらあの男の神でも祀るか?」
「レージですか?」
「結局はあの男、いやあの神は魔族を平和にしてくれた、それにもし、邪神が何かしでかした時には守ってくれる神が必要だ」
「それでは、邪神像を破壊して、あの神の像をを作って祀ると言う事で良いのですか?」
「まぁ話が纏まってからだがな」
結局この魔王の判断は簡単に受け入れられた。
「レージなら俺は歓迎だ、俺より強い神なんだぜ、あの陰気な邪神よりよっぽどましだ」
「儂も同じだな、あの状態から誰も殺さずに戦を納めた、惚れ惚れする様な男神じゃ、生贄を寄こせという奴よりよっぽど良い」
「あははっ私も同じね、敵じゃないって考えたら、あの神様凄く可愛いよね、陰気で気持ち悪い邪神よりずうっと良いわ」
「我が軍は数の暴力、弱い者も多い、あの男神の世界なら戦う事無く平和に眠る事ができる、賛成だ」
四天王は全員、礼二を神として祀る事に賛成した。
そして強い魔族は魔王との戦いを見て、その強さと魔王を殺さない懐の深さから、理想の神と考え、弱い魔族はこれで人間の脅威から守られたと考え感謝した。
結果、理性のある種族は全て、礼二を祀る事に賛成した。
魔族だから礼二と言う発音が難しいのかレージというのはご愛敬だ。
礼二は知らない間に邪神の後釜に座ってしまった。
【邪神SIDE】
何が起きたのか解らない、日に日に体が弱体化していく。
この世界の魔族の神は我しか居ない、だから魔族からの信仰は我に来る。
弱体化などする筈がない。
魔王に神託を降ろすも声も届かない…何が何だか解らない。
こんな急激に神力が無くなる物なのだろうか?
まさか魔王が勇者に倒されたのか?
いや、それは考えられない、今の魔王は生贄を使う事で考えられない位に強い。
それに魔王が負けた位では此処まで弱体化はしない筈だ。
まるで、そう、魔族が皆殺しにされて、我の信者が誰もいなくなった。
そう言うレベルの話だ…もう既に結界も維持できない…
誰かが来た、イシュタスか、あるいは勇者か、不味いぞ今なら我は討伐されてしまう。
「み~つけた」
黒髪の死んだような目をした少女、恐らく女神がそこにいた。
一見愛らしい少女に見えるが、その目の奥には光が無く、恐ろしい者に見える。
されど、我も邪神、怯える訳にはいかぬ。
「どこから入ってきたのだ、見た所神のようではあるが、人の世界に入るなど無粋ではないか」
「確かにそうだね」
「ならば出て行くが良い」
「女が押しかけるなんてはしたないと思うわ…だけど愛なのよ、愛の為なら仕方が無いの」
何だ、この女神、会った事が無いが我を愛しているのか。
「我を愛している?」
「馬鹿言わないでふざけているの? 私が愛しているのは礼二だけよ」
何を言っているのか解らない、この女神は狂っているのか。
「何を言っているのか解らぬ」
「礼二を愛しているの、だから貴方には何も恨みは無い…だけど、礼二との愛の為に貴方を頂戴」
そう言うと、死だような目をした女神の目が更に腐った様な目に変わった気がする。
そしてその女神は禍々しい刃物…鉈の様な物を取り出して私の首を跳ねた。
我は邪神、例え首を跳ねられようが脳味噌を破壊されようが核がある限り死なぬ。
だが目の前で体の中のの核が取り出された。
「此処に邪神の心が宿っているのよね、これは邪魔ね…悪いけど壊すわ」
なっなっそれを壊されたら我は我は消滅する。
「これで、邪神は消滅したはずだわ、この肉体を礼二に取り込めば邪神に礼二は成れる筈だわ」
《邪神、貴方は悪くはない、だけど、神になっても礼二は下級神、物凄く永くは生きられるけど何時かはお別れがくる、それが3000年後なのか900万年後なのかは解らない、だけど、確実にその時がくる、多分私はその時の寂しさに耐えられない…だからごめんなさい、貴方は私から何も奪っていない…だけどこの体…は貰っていくわね》
【くくり姫、礼二SIDE】
「どうしたの改まって」
「そのね、今日は礼二の為にご飯を作ったのよ」
「くくり姫の手作り? 凄く嬉しい、ありがとう」
「神は食事は要らないから、普通は作らないんだ、だけど礼二は凄く頑張っていたから作ったのよ…凄く美味しくないけど、神力の回復に必要だから食べてね」
「嘘、不味いの?」
「多分、凄く不味いと思う、だけど礼二には必要だからお願い」
「解った」
どれだけ不味いのか解らないけどこんな顔で言われたら食べるしか無いだろう。
「ありがとう、礼二、はい、あーんほら食べさせてあげる」
思った程不味くはない、何だか臭みがある肉だけど、それだけだ。
「思った程は不味くないよ」
「そう良かったわ、それでねこれはこの鍋全部食べないといけないから残さず、吐かないで食べてね、はいあーん」
「うん、解ったよ、所でこれは何の肉?」
「うふっ内緒」
《これで未来永劫、礼二と居られるわ、夫婦になって、邪神になった礼二と女神の私でこの世界を永遠に治めていくの…うん本当に幸せ》
くくり姫は可愛らしい笑顔で礼二に微笑んだ。
※寿命の話は神でなく仏からとっています、上の神が無限に生きられるというのは独自解釈です(諸説ありますが帝釈天には寿命がありますが、大日如来は寿命が無い、この辺りからの考えです)
おおよそ終わりまであと2話あと少しお付き合いください。
【最終話】日本の様な平和な世界を…
凄い高揚感に襲われた。
何でも出来るんじゃないか?
本当にそう思える、そしてそれは気持ちだけでなく、事実出来るんじゃないか、そう思う。
くくり姫が作ってくれた料理は何だったのかな?
凄い料理だった…
しかも神力が増しただけでなく、何故だかとんでもない知識まで流れ込んできた。
「くくり姫様、この料理はいったい何だったんですか?」
「私が愛情たっぷり込めた料理よ、ただそれだけよ」
「だけど、何故だか凄く力が漲っている気がする…今なら何でも出来そうな万能感があります」
「そう、それは良かったわ…だけどそれは恐らく貴方が魔族の神になったからね」
《料理の材料は…いう必要は無いわね》
「それって…」
「これは礼二がいけないのよ? 貴方が魔族も守っているみたいな事言うから、邪神から貴方に神を乗り換えたんじゃないかな?」
「神を乗り換える?」
「だって魔族からしたら仕方ないじゃない、人間が襲えないから生贄が出せないんだもん、苦肉の策ね」
「それで神になったら、何をすれば良いの?」
「さぁ、そのうち祈ってくるから、真摯に相談でも乗れば良いんじゃない?」
「そうか…そうだね」
「それでね、この世界の女神は私で、邪神は貴方、世界はもう二人の物だから結婚しない?」
「え~と、良いけど…」
「まぁ礼二は人間として面倒見なくちゃいけない子が居るのよね? だったらそうね…100年間は人間界で暮らすのを許してあげるわ、その後は此処で一緒に暮らそう?どうかな?」
確かにそれなら問題は無いな、三人も最後までしっかり面倒もみれるし、うん問題無い。
「うん、それなら…寧ろお願い致します」
「ありがとう、礼二」
くくり姫の行動は凄く早かった。
僕が答えたら直ぐに【神託】で全世界に婚約の事を伝えた。
しかも魔族に対しても正式に僕が邪神を引き継ぐ事まで添えて。
二人で世界を治めていくと言う事は、今迄は一神教と言いながら、実質は魔族は邪神、人類は女神と別れていたがこれからは信仰の全てが統一されて行く事になる。
「それじゃ、礼二またね」
「うん、また」
これで100年間もう会えないのかと思ったらそう言う事では無いらしい。
僕も神だから、何時でも会う事は可能だ。
簡単に言えば、人間の寿命分、自由をくれたそういう事だ。
嫌な言い方であれば本妻が期間限定で愛人を認めた様な物なのかも知れない。
神界から戻って来た。
活動場所を王国から聖教国に移し中央教会に引っ越す為の準備で大忙しだ。
此処にはもう、水上さんも平城さんも居ない。
彼女達は記憶を消して日本に戻す事にくくり姫と話し合い決まった。
ここでの記憶は辛い事ばかりだから、消してしまった方が良いに決まっている。
会うと別れが辛そうだから、きっとくくり姫が気を回して送還してくれたのだと思う。
僕は、三浦さん、湯浅さん、東郷さんを部屋に集めた。
「礼二さん久しぶりです」
「礼二様、忙しいのは解りますが、もう少しお時間を下さると嬉しいです」
「今日は、どうしたのかな? 二人きりじゃ無いんだね」
三人を集めたののは理由がある。
邪神の力を手に入れた僕は今迄出来ない事も出来る筈だ。
手足を生やせる様な神は意外な事に居なかったが…不思議な事に悪魔や邪な存在には居た。
手足を人間に売りつける悪魔や無理やり足をつける婆さん。
その根源んたる邪神に自分より身分が遙かに劣る者が出来る事が出来ない事は無いと思った。
「ちょっと恥ずかしい思いをさせるけど、ごめんね」
「礼二さん、まさか、4人でしようって言うんですか、ちょっと恥ずかしいです、抵抗はあります…ですが、したいなら仕方ありません」
「礼二様、あのぉ凄く恥ずかしい…解りました、ただ凄く本当に恥ずかしいんで目を目を瞑らせて下さい」
「流石にこんな経験は無いけど? 4人ってどうすれば良いのかな…本当にわかんないから教えてくれる」
僕は三人の義手や義足を外して下着姿にした。
そのまま三人を見ながら、彼女達の腕や足をひとりずつイメージする。
「礼二さん、このまま放置はハァハァ…寂しいんですけど」
「あの、これは放置プレイなんですか? ああん、どうすれば良いんですか」
「この状態でおねだりすれば良いのかな? ハァハァ..ちょうだい…」
頭の中がピンクになるのを我慢して集中しなくちゃ《大丈夫、僕は出来る子なんだから》、暫くイメージを実体化。
そうすると、女性の手足が空中から落ちて来た。
此処までは成功したようだ。
しかし、もう少しスムーズに手足を生やすとか出来ないのか?
漫画の中の某天使長は簡単に手足を生やしていたのに…
落ちて来た手足を、どれが誰の分か整理して4本づつ組み合わせる。
肌の色や長さはどうしても僕のイメージだから少し違うけど仕方ない。
一応、当人に聞かなくちゃいけない。
「手足…いるか! ごめん、何か嫌な言い方だけど、態々聞かないといけないみたい…ちゃんと答えてね」
「礼二さん、ありがとうございます、下さい」
「礼二様、要ります」
「まさか、本当に、また手足が元に戻るの、ありがとう」
「だけど、一瞬で済むからごめんね…許して」
「「「えっ」」」
出現した腕や足は根元から、だから残った部分を一回全部千切って切断面を綺麗にしなくちゃならない。
「まずは、三浦さんから、はい」
「あの、礼二さん…何で手を…うんぐっ」
「これから僕は凄く痛い思いをさせるからね、痛かったら遠慮なく噛んで、嫌な事も思い出すかも知れないしね」
「うぐっ」
僕は草薙の剣を使い腕と足の残った部分を切除した、もう一度斬られるのだから痛いと思う。
元は悪魔の儀式だから仕方ない…多分手足を失った事も思い出すかも知れないし、痛さも凄いと思う。
だから、少しでも僕も痛みを味わう為に手を差し出した。
「うぐうううううっあむっ」
彼女は優しい、噛まない様に口に力を入れない様にしている。
そのまま、新しい4本の手足を片手で繋いでいったら黒い靄の様な物が出てきて繋がった様だ。
「終わったよ…暫く休んでいてね」
「ハァハァハァ…はい…」
「それじゃ湯浅さん」
「私は手は噛まないよ…血が滲んでいるから、私の為にしてくれるのに礼二様の体を傷つけるなんて出来ないから」
「解った」
「ううううっーーーん」
歯を食いしばって必死に耐えている。
同じ様に草薙の剣で残った手足の部分を切断して新しい手足を繋いだ。
三浦さんで慣れたせいか、案外素早く済ます事が出来た。
「良く頑張ったね」
「有難うございます、礼二様….ほんとうにありがとう」
「それじゃ東郷さん」
「私は、そうだキスが良いや..はいうぐっ」
何だか、東郷さんらしい。
そのままキスをしながら、両手で東郷さんの片手と両足を切断、手が無い部分も傷をつけ、新しい手足を繋いだ。
「ぷはっ、終わったよ」
「ううん、もう終わり…ハァハァ」
しかし、この部屋見た感じスプラッタだな….手足の肉片に血だらけの下着姿の少女。
まるで惨劇の後みたいだな。
「礼二さん、この手足…まるで夢みたいです、有難うございます」
「礼二様、ありがとう」
「まさか、もう一度五体満足になれるなんて、思わなかった…ありがとう」
「うっ、どう致しまして!」
何だろう、何だか随分悩ましい感じで、まるで猫みたいな感じに三人がにじり寄ってきた。
「あの、今迄は手足がないからして貰ってばかりだったけど、今日からは私からしてあげるね」
「今迄して頂いた分、今度は私が奉仕してあげますね」
「そうね、他のお世話もしてあげるね」
結局押し倒されて、この日は今迄とは逆に三人から、思う存分されてしまった。
多分、今迄は手足が不自由だった為に出来なかった事が出来るのが嬉しいのか、信じられない程の事をされてしまった。
今迄は僕がしてあげていた事を逆に彼女達がしてくれる。
自分が何もしない…そういう事は今迄無かった、だけど、これは凄い。
自分の上に女の子が跨り腰を振るうなんて…まるでAVの様だ。
そのまま流されて気がついたら夕方になっていた。
「う~ん凄く満足、手足があるってこんなにも違うんだね」
「これからは私からもさせて貰うわね」
「う~ん本当に最高」
自分の存在意義が解る、自分の中に存在するくくり姫から貰った力のせいかもしれない。
三人の笑顔が、本当に幸せなのが良く解った。
「手足が戻ったからって日本に返すのは止めて下さいね」
「もう私にとって礼二様は家族なんて比べ物にならない存在なんですからね」
「そうだよ、まぁ私にとって向こうは禄でも無い世界だからこのまま宜しくね」
くくり姫から話も聞いているし、自分を本気で好きな人間と別れる必要は無い。
ただ、それが自分の体のせいだと思うと…少し悲しい。
「解ったよ、そんな事しないと約束する」
「「「ありがとう」」」
しかし、良かった、彼女達の手足を治してあげる事が出来て…
多分、これは今限定の僕の能力だ。
この世界の邪神であっても、世界が日本に括られたら、くくり姫の様な日本の神になる様な気がする。
魔族が信仰した【礼二の尊】はくくり姫が括った事に対する感謝によるところが多い。
そう考えたらいずれ、邪神の力も変っていく可能性が高い。
イシュタスにできてくくり姫には出来ない事も多い事から、解らないが信仰によって能力は変わってしまう可能性が高い。
だから、この能力は今だけかも知れない。
だから万が一に備えて、直ぐにする必要があった。
そして、問題なのが、これからの100年だ。
くくり姫が100年経ったら僕と結婚する事を神託で伝えた時に他にも伝えた事がある。
この100年間は人としても僕が生活すると言う事を伝え、そしてその期間に限り《人としての恋愛、婚姻をくくり姫が許す》という事だった。
これは恐らく、サナや三浦さんや湯浅さん、東郷さんが僕と付き合っている事で迫害されない為なのかも知れない。
だが、このせいで…
「神:礼二の尊様、私の孫は嫁に如何ですかな?信仰深く凄く可愛い娘です、沢山の貴族からも婚姻の申し込みがありましたが、全て断っております」
「お久しぶりですね、神:礼二様、マリンです、最早王女ではありませんが、良かったら娶って貰えませんか?」
こんな感じに沢山の婚姻話しが持ち上がってしまった。
正直言えばもう今の三人で充分だ、確かに僕にはSEXの神力があり幾らでも相手は出来る。
しかも、くくり姫の話では【抱いてしまえばどんな女性も好きになって貰える】だが逆を返せば、抱いてしまったら最後別れる事は無い。
だからこそ慎重にしなければならない、しかも時間は有限、一度そういう行為に嵌るとかなりの時間を使ってしまう。
沢山の嫁を貰ったら、多分他の事が出来なくなってしまう。
凄く残念だがこれ以上増やす事は保留だ。
【魔王.魔族SIDE】
成程、神になったからこういう事になるのか?
祈りが届き力が貰える、そのおかげで三人を救う事が出来た、その代わりこう言う事にもなるんだ。
呼びかけに答えたらこの場所に来てしまった。
「見知らぬ神殿だ」
多分これが顕現という事なのだろう。
「神:レージ様、顕現して下さるなんて、至極の極みです」
魔王が居て、四天王が居る。
そしてその前で杖を持ち祈っているのが恐らく神官なのだろう。
神なのだから威厳を持たなければならない。
「そうだね、それで何か問題が起きた?、私は神になって間もない、何かあれば聞かせて欲しい」
「はい、神:礼二様は我々に何を望みますか?」
どういう事だ…
「特に何も望まないな、しいて言うならただ拝んでくれればそれで良い」
「あの、生贄とか望まないのでしょうか?」
「特には必要ない、逆に魔族は私に何を望むのでしょうか?」
「我々の望みですか?」
「そうだ、神を祀る以上は何か願いがあるんじゃないか?」
「魔族の願いと言うならば、人間の様な生活を送りたい、そういう希望は長年ありますが…」
「何故」
「人間は明るく光の中で生き、我ら魔族は暗い闇の中で生きる、それが納得できないから我々は…」
「人を嫌っていると…」
「我らとて人間の様に生きたい、それが敵わぬから闇に生きているのだ」
待てよ…今迄は邪神と女神が争う世界だった。
だが、くくり姫と僕は仲が良い。
そして、この世界は日本化が進んでいる。
日本には魔物や魔王は居ない…妖怪等は居るのかも知れないが、僕は見たことが無い…
それじゃ…もし魔族を【括ったら】どうなるのか。
今の僕は魔族の神だ、もしかしたら魔族の希望を叶える事が出来るのでは無いか?
「魔王よ、ならば人間になってみたらどうだ、但し人間は寿命が短い、貴方が知らない苦労もある、それでも憧れるのか?」
「それは我々が人間に成れる、そう言う事でしょうか?」
「解らない、だがもし望むならやってみようと思う…だが成功するかどうか解らない、もしかしたら犠牲がでて終わりかもしれない」
「ならば是非」
「魔王のお前が犠牲に成ってどうする? そう言うのは俺の仕事だ」
「マーモン、お前」
「俺は神:レージに牙をむいた男だ、だから此処で罪を精算したい」
信仰が僕に向っているからか【括りますか】その表示が出ている。
だが、括った後の事が解らない…もし妖怪にでもなったらどうして良いか解らない…
まさか、魔王を括ったらぬらりひょんにでもなったら困る。
「マーモン、これは賭けだ、それでも良いのか?」
「俺は、神:レージを信じている、死のうが文句は言わない」
「解った」
【マーモンを括りますか】
【括る】
「体が熱い..何だこれは」
上手く言った様だ…人間になるとこうなるのか? 騎士団団長の様な感じの姿だ。
「成功したようだ」
「まさか、本当に人間になるとは」
「これで大丈夫なようですね…ただ、人になると言う事は人の理に縛られる」
恐らく人間になってしまったら、お互いに傷つける事も可能だ。
ならば、人間の世界から【常識人】を連れてきて世の中の事を教えなくてはならない。
「今直ぐ、人間にする事は可能だが…人は魔物と違う、その常識を覚えるまで此処から出ないで欲しい、それは守って欲しい」
結局、全ての魔族を人間にしてしまった。
ちなみに、魔族だけでなく魔物も人型の物は括れた、人型で無い者は日本にいる一番近い生物になった。
ここ魔国にロマーニやシスター達に在住してもらい、人の常識を数年に渡り教えて人の社会の常識を覚えたら各国に自由に出かけて良いと許可を出す事にした。
そして、数年がたった。
今では魔族はすっかり人間に溶け込み、普通の人間として暮らしている。
まぁ元魔族というだけで、全員が最早人間だ。
世界はドンドン日本化が進んで行く、今もし日本人がこの世界に来て見たとしたら、タイムスリップして過去に行ったか、並行した世界に迷いいこんだとしか思わないだろう。
まだスマホは無いけど黒電話はいつの間にか普及していた。
テレビは無いけどラジオはいつの間にか出来ていた…まぁ放送局がまだ1つしかないが。
まだ5階建ての建物までしかないが団地の様な建物が出来て来た。
僕が、くくり姫と暮らすまでの100年で何処まで日本化が進むのか楽しみだ
まぁ僕には永遠の時間がある。
いつかこの世界に大きな遊園地や東京タワーや高層ビルが出来るのが楽しみだ。
もう魔族も全員括ったから僕の仕事は殆ど無い。
この日本の様な異世界で楽しみながら生きて行こうと思う。
「礼二」
「礼二さん」
「礼二様」
「礼二さん」
今日も平和で楽しい【日本】に括られた日々が始まる。
異世界に胸を弾ませるのも良い。
勇者に憧れるのも良いかも知れない…だが文明の遅れた世界。
人身売買が行われる様な世界には想像もつかない恐怖で満ちている。
少なくとも僕は…そんな世界より日本の方が、安全で暮らしやすいと思う。
だから、僕は くくり姫と共にこの世界を日本の様に平和な世界にして行く。
それが神になった僕の目標だ。
【FIN】
※ これで本編は終了します、この後に閑話を一話書いて、あとがきを書いて終わりにします。
【閑話】誰も愛せなかった…
何が起きたのか解らない…気がつくと私はベッドで寝ていた。
腕に点滴が刺さっていたから、此処は病院なんだそう思った。
横のベッドを見ると水上さんが同じ様にいた。
彼女は先に目覚めたみたいだ、だがその顔は不思議そうな顔をしていた。
「平城さん、目が覚めたんだ」
「うん、だけどどうして病院にいるのな」
「それはイチゴ狩りをしに行く途中でバスが転落事故を起こしたんだって」
「嘘、私寝ていたのかな? バスに乗った記憶しか無い」
「私も同じ…それでね、重要な事なんだけど、私達二人を除いて全員が死んだらしいよ」
「嘘、それ本当..」
「うん、私も聞いたばかりだけど冗談では無かったわ、下のロビーで沢山の人が泣いていたから」
「だけど、私見た感じ怪我をして無いんだけど」
「私も同じよ..これ週刊誌」
「これって」
驚いた【奇跡の女子高生】ってタイトルで私達が書かれていた。
記事の内容によると他の皆んなはかなり無惨な死に方をしていたらしい。
4人、黒木礼二 湯浅真理 三浦陽子 東郷梓が行方不明らしいが恐らく絶望だろうと書かれていた。
「そうよ助かったのは2人だけ、他の皆んなはさっき話した通り…理解できた」
「理解できた…だけど可笑しい、私はクラスメイトが死んだと言うのに、何で涙が出ないのかな?、悲しくない」
「多分、ショックを受けているんじゃないかな? 不思議な事に悲しみが無い、しいて言うなら死んでしまった人達より礼二くんが気になる」
「あれ..何で…何で可笑しいよ、私礼二さんと仲なんてそんなに良くなかった、それなのに、何で礼二って名前を聞くと悲しくなるの?」
「平城さんも?どうしたのかな、私は祥吾が好きだった筈なのに、祥吾はどうでも良くて何故か礼二の名前を聞いた時だけ悲しくなるの..変だよね」
「何故か私も同じ…」
その後、体が回復してクラスメイトの葬儀が行われたけど、涙は一切出なかった。
《冷たい人間》そう思われると思ったが《世間は案外同情的でショックで感情が可笑しくなった》そうとってくれた。
だが、この時より私も水上さんも異性に何も関心が持てなくなった。
芸能人は勿論、私が好きな小説の主人公さえ…好きでなくなってしまった。
水上さんは私と違って人気があり、交際を申し込まれる…だがその全てを断っていた。
水上さんとは今でも仲の良い友達だ。
結局大学に行っても、社会に出ても、どんな異性と出会っても好きになれない。
私は事故で頭がおかしくなっているのかも知れない。
偶に夢の中に黒髪の男の子が出てくる…良く顔は見えないが凄い美少年なのは解かった。
私は現実の男に益々興味が無くなり、その夢の男の子に恋するようになった。
どうしても彼の事を絵で書きたくなり、気がついたら漫画家になっていた。
「異世界に行って酷い扱いを受けているヒロインを助けてくれる男の子の話」
アニメにはならなかったけど、プロの漫画家にはなれた。
ただ、驚いたのはこの漫画を親友の水上さんに見せたら…
私の漫画の主人公みたいな人が水上さんの夢にも出て来たそうだ。
やがて30歳になって家族からお見合いを進められたが気が乗らない。
可笑しな事に水上さんも未だに独身だ。
私は兎も角、水上さんは大病院の息子や御曹司からの求婚も断ったそうだ。
そのせいで両親と揉めて一人暮らしをしている。
40歳になったが未だに結婚する気は起きず、一人だと先が心配なので水上さんと住み始めた。
二人で暮らすようになり下の名前で呼ぶように成った。
その後も男を寄せ付けない生活を送っていたら68歳の時、静香が無くなった。
ただ一人の親友でお互い独身…家族からも、良縁を断り続けていた静香は嫌われていて私が葬儀の喪主をした。
お骨の引き取りても無かったから…私が納骨堂を買って永代供養を頼んだ。
私も独身だ、ついでに自分の物も生前予約した。
気がつくと私は84歳…寝たきりになっていた。
漫画で稼いでいたのと静香が遺産を私にくれたから老人ホームに入れたから特に困らない。
だが、死期が近く成れば成る程、あの少年の顔が思い出される。
「ショタ所じゃ無いわね、いい歳したお婆ちゃんが少年の夢を見るなんて」
私は…意識が無くなった。
「本当に静香って子といい、貴方もだけど凄いわね」
目の前に、可愛らしい女の子がいたが…それが絶望に変わった。
嘘でしょう…私が追い求めた夢の美少年は女の子だったの…こんなのって無いわ。
「それは勘違いよ、私は貴方の想い人にそっくりなだけよ」
この声は聞いた事がある気がする。
「そう、良かったわ、それで私はこれからどうなるの?」
「貴方の想い人に会わせてあげる」
「ありがとう、あの人に会えるのね…思い出してきたわ、礼二様、私の想い人の名前」
ドンドン私の体が若返っていく…多分この女神様がそうしてくれているのね…ありがとう、礼二さんの前でお婆ちゃんの姿じゃ嫌だわ…
今の私はそう多分16歳位に見える。
女神様ありがとう…ああっ礼二さん…礼二さんだ、私の目は涙に濡れて彼が見えない。
「礼二さん…」
私が彼の胸に飛び込もうとしたら、頭を誰かに掴まれた。
あれっ、さっきの女神様だ…
「言って置くけど、礼二の妻は私よ? あんたは側室それも5番目ね」
側室? 5番目? …あっ
「何で、サナさんに静香に三浦さんに湯浅さん東郷さんが居るのよ」
「久しぶり、平城さん」
「礼二さん」
思い出した、全部思い出した。
「ごめんね、わ.た.し.の.婚約者の礼二の能力を侮っていたわ、まさか記憶を消しても心に残るなんてね」
「あの、私お婆ちゃんになって死んだ筈なんだけど、皆んなは何で若いままなんですか?」
「礼二と私は神だから、他の皆んなは可哀想だから【若返りの水】をあげたのよ、貴方や水上さんは魂を貰ってきたから年齢はまぁ一番自分が好きだった年齢になったのかな」
「そんな、何か私だけ長生きして損したみたいですよ、湯浅さんや三浦さんに東郷さん…あれ、死んでいたよね」
「そうね、私はあのまま礼二さんと暮らしていました」
「私も礼二様とごめんね」
「あはは、何かごめん」
「ちょっ待って、それズルくない」
「まぁ良いんじゃない、これから取り戻せば」
「静香…私貴方が死んで悲しみながら納骨までしたよ…幸せになっていたなら、私の悲しみ返して」
「そんな事、言わないで…今日は、礼二様をくくり姫様が一晩貸してくれるから..まぁ私はもうとっくに経験しているけど?」
「静香…」
「怒るなら、サナさんに三浦さんや湯浅さん東郷さんにしたら?10代からしっかり楽しんでいたんだから」
「まぁ良い…今日は礼二を独り占めさせてあげるから…機嫌を直しなさい…84歳で処女の平城さん、それじゃ、ほら行くよ」
「くくり姫様酷い」
意地悪い笑顔で皆は出て行ってしまった。
「本当に懐かしいね平城さん」
「礼二様…私」
時間がゆっくり動き出した…84年間操を守っていた私は…その日乱れに乱れた。
次の日【84年間】だからね…と皆から生暖かい顔で見られて赤面する位に….
あとがき
この作品を最後まで読んで頂き有難うございました。
この作品は、最初6万文字で書けなくなり一度終わらせた作品です。
ですが、その後、続きが書ける位に精神が落ち着き、未だに応援してくれた方がいたので続きを書き始めた。
アダルトな描写を入れて驚いた方も多くいたと思います。
ですが、あの状態からの復活にはどうしても必要な描写でした。
後半まで行くとようやく「その意味が」解る感じの作品の為仕方ない描写です。
書いている私も、説明してしまうと面白みが欠ける、本当にそう思い、我慢しました。
最後までお付き合いして下さってありがとうございます。
長文が苦手な私が22万文字も書けていました。
これは「感想欄」から励ましてくれた方のお陰です。
本当にありがとうございました。