僕の瞳は腐っている! 2  ~ダイヤよりゴミの方が僕には価値がある~

いわゆる一つの寝取られ話です。
この話の途中までは、私の他の作品の引用です。
2話からオリジナルになります。

僕の名前はセイル、辺境の村アイシアに生まれた。

小さい頃に母親が亡くなり、その後父親が亡くなり1人で暮らしている。

この村は、助け合いの精神が強く、子供一人でも生活に困らない位豊かな村だった。

僕には、幼馴染がいる。

彼女の名前はユリア、凄く可愛い女の子で僕には勿体ないと皆んなが言う..

小さい頃から一緒にいて、ユリアはまだ子供なのに僕と結婚したい、そう言っている。

ユリアと仲良くしながら、田んぼを手伝ったり、村にたまに現れる魔獣を狩る日々も本当に悪く無い。

ユリアの両親も優しいし、一生をこの村で過ごすのも悪く無い、そう思った事もある。

この村では、15歳になったら、成人の儀式を行い、職業ジョブを貰う。

このジョブが重要でその後の人生を左右する。

僕とユリアは15歳、明日この成人の儀式をする。

そして成人の儀式の朝になった。

「どうしたのセイル、眠れなかったの?」

「うん、眠れなくて..」

「それで昨日の夜抜け出したんだね…お互い良いジョブが欲しいね」

「セイルは何のジョブが欲しいのかな?」

「そうだな、猟師でも良いし、冒険者でも何でも良いよ..」

「そうかー、セイルらしいね、私もセイルと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」

「希望のジョブだと良いね」

僕のジョブは冒険者だった。

冒険者は実は余り良くない、多様性はあるが戦闘職の中では器用貧乏で大成しない。

「セイル、らしいジョブだね…」

「うん、ありがとう」

「どうしたの、セイル、あっもしかして騎士や魔法使いに憧れていたとか?」

「そんな物成りたくないよ、これで充分だよ」

いよいよ、ユリアの番だ。

僕の時と同じように近隣からきた5人と一緒にユリアが並ぶ。

神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げる。

すると、紙に自分のジョブが出てくる。

普通、それだけだが、ユリアの時は天使が降りて来た。

周りの人は嬉しさで興奮している。

天使が降りてきて…真っすぐにユリアの方に向かった。

天使はユリアの手をそっと握った。

これは4大ジョブのうち3つのジョブの場合に起こる現象だ。

恐らく、ユリアは「聖女」「賢者」「剣聖」のどれかのジョブになる。

ユリアのジョブは「聖女」だった。

「これは凄い、何とユリア、いやユリア様のジョブは聖女だ」

「えっ聖女って」

ユリアは戸惑いのなか、司祭や他の皆んなに囲まれていた。

うん、良かったね ユリア。

次の日にはユリアの両親から僕に遠回しにユリアに近づかないで欲しいと言われた。

《僕に家族が居ないし、ただの冒険者だ当たり前だ》

《大丈夫、もう気持ちは決まった》

そして1か月がたち勇者達がユリアを迎えに来た。

直ぐに旅立つと思ったが、勇者達は直ぐに旅立たなかった。

ユリアは未練があるようで僕の方を何度も見ていた。

《もう、僕なんて見ないで良いよ…君は勇者を愛しな、さようなら》

僕は知識として勇者には「魅了の祝福」が掛かっているのを知っている、暫くしたらもう僕の事なんかそっちのけになる。

数日後、ユリアと勇者の逢瀬も見てしまった、それで良いんだよ..

「お前が、セイルだな..決闘を申し込む!」

何でだ? ユリアなら譲ったし、俺が勇者に嫌われる要素は無い筈だ。

「勇者ルディウス様に聞くが、何で僕が決闘しなくちゃいけないんですか?」

「それはユリアだ、聖女のユリアにお前が色目を使うからだ」

「確かに幼馴染で子供の頃は仲良かったけど、聖女様になってからは口も聞いていません」

「だが、ユリアの心の中にはお前がいる」

「ですが、僕の心の中にはユリアは居ません」

「何で、どうしてなの? セイル..」

「解かっているさ、もうユリアは勇者の物だ、もし僕が気にくわないなら直ぐに僕は出て行くよ!」

「セイル、もう私なんてどうでも良いの?」

「ああっどうでも良い! 聖女の君には勇者が相応しいと思うよ..」

「そ、それは..だけど、私はセイルにも傍に居て欲しい」

「それは断らせて欲しい..君には勇者がお似合いだよ..それじゃ」

「まだ、話は終わっていない..お前はやっぱり気にくわない..決闘だ」

どうしようか?

普通に考えたら、勇者には勝てない..

だが、僕には万が一なら勝てる可能性もある..

勝てなくても..善戦してしまうと..勇者やユリアに気に入られて連れて行かれる可能性もある。

二人と一緒に何て居たくない…

仕方ない、更にピエロになろう..

「ルディウス様、僕はこれ以上惨めになりたくない、許して貰えないだろうか..」

周りには村人が集まり始めた。

「勇者と聖女..ルディウス様とユリアは本当に..本当にお似合いです、そこには僕の居場所はありません..それでも僕は..」

「あのよ..」

「これ以上..惨めになりたくない..惨めになりたくないんだ..」

これで良い、これなら、僕は助かるだろう。

「解った、俺が人の気持ちを考えなかった..すまなかった」

ルディウスは自分に酔っていたように見える、心の広さを見せたいはずだ

「セイル..」

「ユリア、これ以上男に惨めな思いさせるな..もういってよいぞ..明日には村を出て行く..じゃぁな」

勝った..僕は運命に勝ったんだ。

これで、僕はユリアと別れられる。

勇者は死を選んだ
僕はいわゆる転生者だ。

他の世界から来たのではない、そういう勇者もいたらしいが、僕はこの世界で前世は勇者だった。

最近の勇者は仲間と一緒に戦うが、僕の時代の勇者は1人で戦う。

己の力を限界まで鍛えあげ、ただ一人で魔王討伐の旅をする今となっては可笑しい話だ。

苦しい旅の末、僕は魔王までたどり着いた。

魔王との戦いは激闘につぐ激闘だった、だが僅かに僕の方が実力が上回りどうにか勝つことができた。

だが、その際に僕は呪いを掛けられた。

「勇者よ、お前の目から見たらさぞかし、我らは悍ましく映っているのであろうな..だが、余からすればお前達の方が醜いのだ、余は死ぬ..だが、余はお前のその清らかな目が世界で一番嫌いじゃ..奪ってやろう」

「うがああああああああああっ」

目が焼けるような痛みが数時間続いた。

目がくり抜かれたのかと思った..だが違った。

「可笑しい、ちゃんと見えている」

そのまま、魔王城を歩いて行くと途中に鏡があった。

自分の様子を見る為に鏡を見た。

そこに映ったものは世にも醜い怪物だった。

これが魔王の呪いなのか?

自分で言うのも何だが..僕は美貌には自信があった。

プラチナブランドの髪に鳶色の瞳。

王女や貴族の令嬢ですら魅了する美貌..それが「銀嶺の勇者」と呼ばれる僕だった。

だが、鏡に映る、その姿は、ゴブリンすらまだ綺麗、そう言える程の醜い男だった。

これが魔王の呪いなのか..

この姿で生きるのはこの世の地獄だ..

あれが「銀嶺の勇者」だと言われたくない。

それより、何より、ルール姫にこの姿を見られたくない。

ならば、この場で死のう..

銀嶺の勇者は魔王と死闘の末相打ち..それなら綺麗な物語で終わる筈だ。

こうして前世の僕は、死ぬことを選んだ。

子供時代? 真相
僕は目を覚ますと赤ん坊になっていた。

今回は、転生するときに女神様には会わなかった。

という事は勇者ではないのだろう。

目の前に居るのが…母さんなのか?

嘘だろう..どう見ても化け物だ、..これならまだゴブリンの方が綺麗に見える。

父さんは..もっと駄目だオークの方がまだましだ。

魔王を倒すときに、呪いを掛けられた。

その時の呪いで僕は化け物にされた。

その呪いが今も続いていて、今度は化け物の子として生まれたのかもしれない。

これが銀嶺の勇者と言われた僕の次の人生なのか、あんまりだ。

「セイル、貴方は本当に可愛いわ、お父さんの綺麗な目そっくり」

「この髪はライラに似ているな..絶対に美形に育つな」

可笑しいだろう、これ程醜いのに..もしかしてこの姿は、この化け物の種類では美形なのか?

3歳になった。

どうやら、僕は化け物の子供ではなく、人間の子供に生まれたらしい。

しかも、化け物のように見えた両親はかなりの美形なのだという。

最初は何の冗談か、そう思ったが..村人の様子を見ると本当にそうみたいだ。

父さんにも母さんにも良く、「綺麗」「羨ましい」なんて言葉を使う相手が多かった。

最初は嫌味なのか、そう思ったが、本当にそう思っているようだった。

そして、僕の姿は..勇者の時に呪いを掛けられ醜くなった姿を、子供にしたらこんな姿になる。

そんな姿だった。

こんな姿じゃ..絶望しかない、そう思っていた。

隣にはユリアという女の子が住んでいた。

見た瞬間に「この子も絶対幸せになれない」そう思った。

僕程ではないが、化け物みたいに醜かった。

はっきり言う..もしも、ゴブリンとユリア、どっちと結婚をするのか?

そういう二択なら、誰もがゴブリンを選ぶ、そう思うほど醜い。

僕は自分の醜さが解っているので引き籠っていた。

「セイル、本ばかり読んでないで外で遊びなさい」

母さんに、そう言われ外に出された。

途方に暮れていた。

そんな所をユリアに見つかった。

「セイルくんだよね?」

「そうだけど?」

「うわぁ..セイルくん、近くで見るとうん、凄く綺麗だぁー…王子様みたい」

「そう?」

この子も醜いから友達が居ないんだろうな…だからお世辞を言っているのかな..そう思った。

「うん、本当に綺麗、プラチナブランドの髪に鳶色の瞳..神秘的…凄いな..」

えっ、可笑しいな?

僕にはそうは見えない…だけど、その容姿は銀嶺の勇者と呼ばれていた時の僕の姿だ。

「本当にそう見えるの?」

「うん..あのね..ユリアも良くお姫様みたいって言われるんだよ?」

「そうなんだ」

「あれっ、何だか気が無い返事..可愛くないかな、ユリア?」

ゴブリン娘とは言えないな…

「うん、可愛いよ」

最初はただのお世辞だと思っていた。

だが違っていた。

「ユリアちゃん、僕のお嫁さんになってよ」

「嫌だよ..わたしは、セイルくんみたいなカッコいい人じゃなきゃ結婚しないよ」

「セイルくん、お芋半分あげるよ」

「ありがとう」

「ちょっとブスのくせにユリアのセイルくんに手を出さないでよ」

ユリアは可愛いというのは本当だった。

そして僕は、本当に美形らしい。

だけど、僕の目には..醜く見える。

ここで僕は魔王の言葉を思い出した。

「勇者よ、お前の目から見たらさぞかし、我らは悍ましく映っているのであろうな..だが、余からすればお前達の方が醜いのだ、余は死ぬ..だが、余はお前のその清らかな目が世界で一番嫌いじゃ..奪ってやろう」

魔王の呪いは..僕を醜くするのではなく、美醜が逆転するそういう呪いだったんじゃないか?

ようやく気が付いた。

確かめるために、ませているトードに美少女ランキングを聞いてみた。

ほぼ逆転していた..

「だけど、ダントツの1番はユリアちゃんだけどね」

やはり、そうだ。

だけど、この目は酷すぎる。

この村でぼくに一番可愛く見える子(実際は一番不細工)な子でも普通の子位にしか見えない。

つまり、余程の不細工でなければ…美人には見えない..そういう事だ。

5歳になった。

僕の母さんが死んだ。

森に山菜を取りに出かけた時にバインドベアーに襲われた。

他に沢山の死傷者がでた。

ユリアのお母さんが「これからはうちの子になったつもりで甘えて良いのよ」

そういっていた。

父さんは猟師なのであまり家に居ない。

自然とユリアの家で過ごす事が多くなった。

ユリアは凄く優しかった。

だけど、僕には友達までしか思えなかった。

この目じゃなければ、好きになったかもしれない。

だけど、どんなに優しくても人間は獣とは恋をしない。

7歳になった。

父さんは母さんの仇を討ちたかったのか、ずっとバインドベアーを含む魔獣を狩っていたらしい。

だが、そんな無茶なことしたから、最後は魔獣の群れに囲まれて死んでしまった。

嫌な事に母さんの時と同じで僕は悲しくなかった。

それは僕の目に、父さんや母さんが、人間として映ってないからなのかも知れない。

そんな自分が嫌だった。

僕にはこれで家族が居ない。

自分の家にはいるものの..その殆どの時間をユリアの家で過ごす事になった。

おじさんもおばさんも凄く優しい。

特におじさんは、化け物に見えない、だから凄く嬉しかった。

「ぶぅー何でお父さんばっかり話すの?」

「おばさんにも甘えても良いのよ?」

「がははははっ、男は男同士だ..ようやく家にも俺の味方ができたな」

女の子の友達は出来なかった。

他の女の子と話すとユリアが不機嫌になる。

それにユリアは女の子の中心にいるから、文句を言う女の子は居ない。

「セイルくん..大きくなったら…」

「ごめん、ようがあるから」

この先に言う事は解る「お嫁さんにして」だ。

だから言われる前に逃げた。

「もう..セイルは奥手なんだから」

周りは僕もユリアの事が好きだけど、照れて逃げている。

そう思っている。

正直、逃げたい。

だけど、育てて貰った恩があるから、そんな不義理な事は出来ない。

諦めないといけないのかな..

いっそう、目を潰そうかな…

ユリアが優しいのは解る。

だけど..本当に気持ち悪いんだよ..

目さえ潰せば..そう悩むようになった。

子供時代? 寝取ってくれてありがとう!
14歳になった。

ユリアのお父さんは農夫だった。

だから、僕はその手伝いをしながら、お父さんの形見の猟銃で狩をしていた。

勇者だった時のスキルの殆どは失っていたが、体の鍛え方や知識は頭にあった。

勇者にはならないと思うが、その知識を元に体は鍛え続けてきた。

多分、通常の人間の中では、そこそこ強いと思う。

恐らく、騎士とならやり合える位には強い筈だ。

多少独占欲が強いけどユリアは僕に凄く優しい、だが化け物にしか見えない。

だけど、幼馴染でユリアの家には恩がある。

9年近くも家族の様に接してくれたのだ、ユリアを傷つけるような事はしたくない。

だからと言って、結婚は無理だ。

幾ら優しくて良い子だって頭で知っていても..僕にはゴブリン以下にしか見えない。

そんな子と子作りが出来るのか..出来ない。

キスですら、無理だ。

子供の時に目を潰せば、そう思った時があるが、それも今更無理だ。

いまの僕には、醜いユリアの姿がもう沁みついている。

目を潰した所で、ユリアの声を聴けばその醜い姿しか思い浮かばないだろう。

成人の儀式まで後、1年。

ユリアは恐らく、その後に結婚を申し込んでくるかも知れない。

自分の性格が嫌になる。

全て捨てて逃げたいが、逃げられない..ジレンマだ。

15歳になった。

とうとう成人の儀式の日が来た。

「そうかー、セイルらしいね、私もセイルと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」

セイルと離れたくない..恐らく、終わったらお互い大人になったからと結婚を申し込んでくるかもしれないな。

僕の番が来た。

冒険者だった、少し助かった気がした。

これなら、一緒に居る時間が少なくて済む。

よいジョブでは余り無いがギルドに所属して、護衛依頼を受ければ、家に居ない時間も沢山作れる。

いよいよユリアの番になった。

女神は僕を見捨てなかった。

ユリアは聖女になった。

これで僕は逃げられる。

多分、ユリアは勇者を好きになる。

僕が勇者だった時代は無かったが、勇者がパーティーを組む様になってから、大体の勇者は3大ジョブの女性とハーレム状態になる。

元勇者だったから理由は解る。

勇者には人に嫌われない様になる「魅了の祝福」という能力がある。

これにより勇者は無茶苦茶な事をしても嫌われない。

多分、これが三大ジョブには強力に掛るのだろう。

万が一にも、剣聖や聖女が裏切ったら大変な事になる。

だから裏切らない様に、好きになる..そういう事なんじゃないかな。

聖女になった時点で、そうなる運命が決まったようなもんだ。

本当に良かった。

次の日にはユリアの両親から僕に遠回しにユリアに近づかないで欲しいと言われた。

僕には家族が居ないし、ただの冒険者だ当たり前だ。

勇者は魔王を倒せば、貴族になる事は確定している、しかも領地持ちのだ。

そして、聖女は勇者と結ばれる事は少なくは無い。

そりゃ親からしたら、勇者と是非結ばれて欲しいだろう。

良かった、向こう側から言い出したのだ..これで僕は「恩知らず」にならないでユリアと別れられる。

しかも、相手は勇者、優良物件間違いなし、幸せに成れるだろう。

異性として嫌いなだけで、家族の様に思ってはいたんだ、「本当に良かった、おめでとう」

勇者と楽しんでいる声も聞けたし..うんうん順風満帆だ。

「お前が、セイルだな..決闘を申し込む!」

何でだ? ユリアなら譲ったし、俺が勇者に嫌われる要素は無い筈だ。

なぜこうなる?

「勇者ルディウス様に聞くが、何で僕が決闘しなくちゃいけないんですか?」

「それはユリアだ、聖女のユリアにお前が色目を使うからだ」

使うわけない..異性を感じて無いのにな..

わざと惨めさを見せる演出をした。

勇者である以上..弱い者いじめはしにくいだろう?

「これ以上..惨めになりたくない..惨めになりたくないんだ..」

こう言えば、被害者は僕にしか聞こえないだろう..

真実はともかく、当人も村の皆んなも「勇者がユリアを僕から寝取った」そう思っている筈だから。

ユリアは僕に未練があるようだったけど…自分から勇者に行ったんだ、これで終わりで良いよね…

「ユリア、これ以上男に惨めな思いさせるな..もういってよいぞ..明日には村を出て行く..じゃぁな」

勇者、君に感謝だ..ユリアを引き取ってくれてありがとう。

恩知らずにならずにすんだ、被害者にしてくれてありがとう。

別れ
次の日、勇者とユリアは王都に旅立っていった。

ユリアはキョロキョロ周りを見渡している。

これで最後だ..異性として好きには慣れなかったが家族ではあったんだ。

良い思い出として残すのも良いだろう。

「ユリア、最後だから見送りに来たよ」

わざと昨日は寝なかった..これなら目を腫らしているように見える。

「セイル..あのね..」

「何も言わないで良いよ…幸せにな」

「ありがとう..」

「勇者ルディウス様、ユリアを宜しくな! 僕にとっては大切な家族だったんだ 頼んだよ」

「ああっ任せろ」

「それじゃぁな」

僕は背を向け村に戻ろうとした。

余り、長く話すとボロが出るかも知れない。

「待て、セイル..これをやる」

「えっ、スケルトンナイフ?」

勇者時代なら幾らでも手に入った。

だが、今の僕じゃ手に入らない..中級冒険者の装備だ。

「冒険者になるんだろう? やるよ」

思ったより良い奴だ。

「ありがとう、ルディウス様なら絶対に魔王を倒せるよ..応援しているよ」

「ああ」

僕は背を向け走り出した。

「セイル..」

「良い奴だな、ユリアが好きだったのも頷ける」

「今でも好きよ、それは変わらないわ」

「おい、ユリア!」

「だけど、ルディウスの方がもっと好き..安心した?」

「ああ」

こうして二人は旅立っていった。

さてどうするか?

僕ももう少ししたら旅立とう。

冒険者になるなら、ギルドのある街に行かないとならない。

この村から出て行き、街で暮らした方が良いだろう.

だが、その為のお金を僕は持っていない。

暫くは、猟師のように狩をしてお金が溜まったら出て行く、それが良いだろう。

そのまま今日も狩に出た。

この辺りは、魔獣はいるが魔物は余り居ない。

魔獣とは魔物はほぼ、同じだが魔物の中で獣形態の姿をした物を魔獣と呼んだ。

森の中で、いたいけな少女を大人の男が殺そうとしていた。

少女は貧相なボロボロの服を着ている。

助けに入らなければ..

だが、可笑しい、あの冒険者はロブさんだ、良く村に来るし、酷い事をするような人間じゃない。

良く様子を見ていた。

「キシャ―グググ、ギャォォォォ」

可愛い少女が恐ろしい声で唸っている。

僕は、持っている僅かなスキルのうち「鑑定(小)」を使った。

勇者の時には「鑑定(極)」を持っていた。

これはどんな職業でも持っていると便利だから、訓練して身に着けた。

(小)なので解かる事は少ない。

「ゴブリン」

それしか解らないが、充分だ。

僕が、綺麗だと思うレベルの人間はゴブリン並みに醜い女の子じゃ無いと駄目、そういう事だ。

ゴブリン相手なんだ..立ち去るしかない。

村に帰ってきた。

ユリアの両親が僕の所に来た。

「あの、セイル本当にごめんなさい…」

「娘が..本当にすまないな」

正直言えば、謝られる筋合いは無い。

今迄、育ててくれた、それだけで感謝だ。

しかも僕は、ユリアと別れられて幸せなんだ。

「気にする必要は無いですよ、今迄育てて貰えて感謝しかない」

「だが、ユリアが」

どう繕うか? 嫌いだったとか言っても信じないだろうし、余計罪悪感が湧くかも知れない。

「これで良かったのかも知れません」

「貴方だってユリアが好きだったんでしょう」

違う言えないよな..

「好きでしたが、ユリアの好きとは違う..妹としての好きが一番近いと思います」

「そうか..成程..だからか!」

「貴方どういう事なの!」

「いやぁ..ユリアが良く、キスしようとしたら逃げたとか言っていたし、妙によそよそしいから、これで解かった、兄妹そう思っていたんなら、思い当たる節が幾つかある」

「そういう事だったのね..それなら良かったわ」

これで上手く納まるだろう。

「そうか、それじゃこれを渡そう」

革袋を渡された、中にはお金が詰まっていた。

沢山の銀貨や銅貨が入っている。

「これは?」

「成人の儀式が終わって二人が結婚したら渡そうと思っていたのよ」

「ユリアはお金が必要なくなったから、セイルにやろうと思う、冒険者になる準備金にしてくれ」

「これは必死に貯めた物ですよね」

「良いんだ..持って行ってくれ」

土で汚れたお金..苦労が良く解る。

「これは受け取れない..」

「良いんだ..だって」

「そうよね、貴方」

どうしたんだ..

「だって、ユリアが聖女になったから、凄いお金が貰えたのよ」

「一生生活に困らない位にな」

何だかな..僕はお金を貰う事にした。

冒険者ギルドへ
これで、お金の心配をする必要は無くなった。

ユリアの両親にお礼を言い、アルマンの街に向った。

恩を返す必要も..無さそうだ、どう見ても成金みたいにしか見えない。

何処にも質素という様子はない。

最初王都に行こうかと考えたが、勇者やユリアが向っている。

なら、王都を除いた最大都市で、冒険者に住みやすいという噂のアルマンを選んだ。

アルマンへは馬車で2週間掛かったが、周りの人間が気持ち悪い..それ以外は問題無く着いた。

直ぐに冒険者ギルドにむかった。

ギルドに着きギルドの大きな扉を開いて中に入った

絡まれるような事は起きなかった。

僕からみて化け物に見える女の受付と男の受付は凄く混んでいる。

男の受付は沢山の女が並んでいる

女の受付を見ると、、普通の女性と不細工な女性が並んでいる。

不細工な女の受付は沢山の男が並んでいる。

そして、僕は一際人気の無いだれも並んでいない受付に向かった

「冒険者ギルドへようこそ! 本日はご依頼ですか?それとも登録でしょうか?」

「登録をお願いします。」

「登録には銅貨1枚掛かりますが宜しいでしょうか?」

僕は銅貨1枚を渡した。

「所でご説明は必要ですか?」

登録に来る人間の中には冒険者を目指して「お手伝い」をしている人間も多い。

そういう人間に説明は不要だ。

「何も解らないので細かくお願い致します」

「畏まりました」

説明内容は、

冒険者の階級は 上からオリハルコン級、ミスリル級、金級、銀級、銅級、鉄級、石級にわかれている。

そして、案外上に行くのは難しく、銀級まで上がれば一流と言われていて、この街には金級以上の冒険者は居ない。

殆どが、最高で銅級までだそうだ。

級を上げる方法は依頼をこなすか、大きな功績を上げるしか方法はない。

銀級以上になるとテストがあるそうだ。

ギルドは冒険者同士の揉め事には関わらない。

もし、揉めてしまったら自分で解決する事。

素材の買取はお金だけでなくポイントも付くので率先してやる方法が良いらしい。

死んでしまった。冒険者のプレートを見つけて持ってくれば、そのプレートに応じたお金が貰える。

そんな感じだ。

「後は大丈夫?」

「はい」

「それでは、冒険者証が出来たから渡します。 初めてだから石級からスタートです。頑張って下さいね!」

僕はお礼を言うとギルドを後にした。

そして、僕はスラム街に向った。

実際にはスラムの近くの宿屋だ。

スラム街近くの宿屋は凄く安く、月単位~年単位で泊まる事も出来る。

普通の宿屋でもそれは可能だが、かなり高くなる。

結局、僕は少し広めのスラム近くの安宿を借りた。

色々な宿にこちらの条件を伝えた。

殆どの宿は僕の要望は聞いて貰えず、この宿のみがOKを出してくれたからだ。

1階が空いており直接出入りできる部屋が空いていた、本当に好都合だ。

「まぁ、うち見ての通りだから家賃の滞納さえしないなら、娼婦だろうと何だろうと構わない..部屋に男を連れ込む娼婦も住んでいる位だからね」

とはおかみさんの話だ。

凄くボロボロだが、家賃が月銀貨1枚と安く、部屋にシャワーもトイレもついている。

こんな設備がある理由を聞いたら、「ここは元娼館だったからね」だそうだ。

納得だ..だがこの安さでトイレとシャワーがあるのはついていた。

正に都合が良い。

部屋を掃除して(安い部屋は自分で掃除するのが当たり前だ)荷物を片づけると僕は目的の場所に向った。

廃棄奴隷 
目的の場所とは奴隷商だ。

村を出たのは初めてだが、僕には前世の知識がある。

その為、奴隷について知っていた。

だから、奴隷商に向った。

当然、奴隷は高い..だから、スラムの近くの店構えの余り良くない店を狙う。

それでも…

「いらっしゃいませお客様….」

ほらね、嫌な顔になった。

そりゃそうだ、普通に考えて貴族でもない限り15歳位で奴隷なんて買わない。

しかも村民にしか見えない僕等は、お客では無い..そう思うだろう。

「見せて貰えないかな!」

「買うお金はあるのでしょうか? ご予算は?」

奴隷商と言えば、危ない商売を考えるかも知れないが実際は違う。

金持ち相手の商売をするのだ案外、しっかりしている。

「初めての奴隷で、僕は余りお金がありません..廃棄奴隷から見せてくれませんか?」

「ほぅ..廃棄奴隷からね..解った、それじゃついて来てくれ」

廃棄奴隷とは売り物にならない奴隷だ。

犯罪者で売れなかったり、女なのに醜い等買い手がつかない者をいう。

普通の奴隷なら、エルフの美しい女性なら金貨1000枚は下らないし、その中でも美しい者は3000枚付く事もある。

過去には2億枚なんて金額が付いた者もいる。

男の戦闘奴隷等で強ければ金貨500枚位。通常の戦士でも100枚前後が相場だ。

通常の村娘でも若ければ金貨10枚を切る事は無い…35歳位でも普通に女であれば金貨5枚はする。

その位奴隷は高価だ。

では廃棄奴隷とは幾らなのか?

大体が金貨1枚以下になる。

奴隷商はワザと高価な奴隷の近くを通る。

これは態と見せるのだ、例えば女の性処理可能な奴隷を買った人間が居たとしよう..最初に高価なエルフを見せていれば、満足できなくなり買い換える者も多い。

僕には..残念ながら 化け物にしか見えない。

ただ、明かにユリア以上の化け物が10人近くいる。

これは恐らく凄い美人なのだろう..価格は金貨5000枚に8000枚…スラムの近くとは考えられない品揃えと言える。

「凄いな..」

こういう所では褒めるのが礼儀なのだ。

「スラムの近くだから質の悪い奴隷が多い、そう思われましたか?」

「すみません、たしかにそう思いました」

「他の都市はそうかも知れませんが、ここアルマンでは当てはまりません..何しろ此処には奴隷商は3件しかありませんから」

「そうなのですか?」

たしかに僕はアルマンは初めてだ

「成程、もしかして、誰かに奴隷について習われたのですか?」

「はい、ですが教えて下さった方が、かなり高齢なので、知識が古いかも知れないとも言っておりました」

僕の知識は転生前の知識だから恐らくかなり古い、食い違いもあるだろう。

「ですが、間違っていません、お客様の姿から見て冒険者になるのでしょうか?」

「はい」

「なら、最初は、廃棄奴隷で病人じゃない者を購入して、使い方を覚え慣れたら次を買う..理に叶っております。 昔居た、奴隷王という伝説の冒険者もスタートは廃棄奴隷です」

リチャードの事か懐かしいな..僕に奴隷について教えてくれたのは彼だ。

「奴隷王リチャードの事ですか?」

「知っているのですか!」

「名前だけですが」

「一般の方からその名前が出るとは、かなり勉強していると見ました..つきましたこの奥が、廃棄奴隷です。 臭いは覚悟して下さい」

辺りを見回すと女が1人に男が2人居た。

「話しかけて宜しいでしょうか?」

「ご自由にどうぞ..おい、喋って良いぞ..」

3人と話したが、駄目だ。

女は性病持ちだった。

男の2人は片方が腕が無く、片方は足が無い..しかも冒険者経験もない人間だった。

容姿は僕の目から見たら真面だが..

「これはハズレだな..」

「そうですな、まぁ使い物にならないのが廃棄奴隷ですから」

此処で、奴隷商にもう一度聞いて見る事にした。

「混ざり物でも良いんだが体の丈夫な者は居ないのか?」

「混ざり物..かなり勉強されていますね..昔はともかく、最近は生まれた時点で処分する事が多いのでまず出ません、ですが今は1人だけいます」

「居るのなら見せて欲しい」

「最初に言っておきますが..人間です..ですが見た目はモンスターにしか見えません..良いですね」

混ざり物とは半分化け物の血が入った人間だ。

例えば、ゴブリンやオークの苗床にされていた女が子供を産む..普通は人間で無くゴブリンやオークの子供になるが..稀に人間が混ざったような子供が生まれる。

これが混ざり物..例外なく醜い者が多い、中には殆どモンスターにしか見えない者もいる。

本物のモンスターの力程では無いが能力に優れた者もいる、だが、誰もが醜いモンスターと一緒に居たいとは思わない。

その為、購入する者も少なく価値も殆どない。

これが、僕の知っている混ざり物の知識だ。

ちなみに「物」というのは人で無いから「者」じゃないというスラブでもある。

「あの、その前に教えて貰っても良いですか?」

「はい、なんなりと」

「混ざり物は今では処分されてしまうのですか?」

「ああっやっぱり、かなり知識が古いのですね..昔と違い今では、救出された女性が孕んでいた場合、お腹にいるうちに処分します。 また、産んでしまっても鑑定前に処分..そういう暗黙の了解が出来たのです、その為今ではまずいません」

「やはりかなり知識に違いがありますね」

「はい、私どもにしても売っても二束三文、更に置いているだけで顔をしかめるお客様も多く居ます。しかもどう考えても混ざり物は真面な人生は歩めません、鑑定前に処分する、そういう暗黙の決まりがあるのです..鑑定して人間という事になれば、混ざり物とはいえ人間です、そう簡単に殺せませんから」

「それでは、もう混ざり物は手に入らないのでは!」

「普通はそれで正しいと思います…今回の混ざり物は、人間の女で無く..モンスターのメスのお腹に居たのです」

「それはどういう事ですか?」

「ハーピーと言うモンスターは知っていますか?」

「はい」

「そのモンスターを討伐して素材を丸ごと納めた冒険者が居たのですが、そのハーピーのお腹に居たのが今回の奴隷です..しかも価値を調べるためにギルドの鑑定士が、ハーピーと共に鑑定してしまった為に処分出来ません..その為うちで引き取る事になりました」

そうか、ハーピーは男を攫って犯して食べる..そういう事もあるのか..だがハーピーの混じり物は初めて聞いたな。

前の世界でも、混じり物の多くはゴブリンかオークだ。

「知能はありますよね」

「普通に話もできます」

「ならば、見せて下さい」

「解りました..本当に覚悟をして下さいね..殆どハーピーにしか見えません」

今迄の場所も臭かったが、更に異臭がした。

その奥に彼女が居た..

背中には羽があり、天使や女神を彷彿するような長い金髪..彼女が女神を名乗ったなら僕は信じるだろう。

此処まで綺麗な女性を見た事が無い。

しかも、転生して初めて見た美少女..だから余計感動する。

「貴方もどうせ、見世物代わりに見に来たのね..どう醜い私が見れて良かったわね..見たんだから帰れば?」

まだ買う前だ…彼女を気に入った事を奴隷商に知られたら値が釣り上げられるかも知れない。

「流石に、混じり物は安いんだろう?」

「本当に欲しいというなら無料でございます」

マジか? 商人なら口に出した事はたがえない筈だが…幾らなんでも無料は珍しい。

前の世界の記憶では、ゴブリンとのハーフが銀貨2枚だったのに

「本当に無料なんですか?」

「はい、上等な奴隷を買い取る際ギルドに押し付けられて、正直、処分に困っておりました、ただ、奴隷紋を刻むのに銀貨1枚、彼女はどう見てもモンスターにしか見えないので奴隷の身分証明の首輪が必要です。それが銀貨3枚..銀貨4枚は掛かりますよ」

「だったら、買った!」

「本当に? 返品は効きませんよ..それでもどうして返品したいという時は金貨5枚貰いますが、その条件ですが宜しいですか?」

「構わない」

「その条件も、しっかり証文に書きますよ..本当に良いのですね」

「大丈夫です」

「ちょっと待って…本当に私を買ってくれるの?..嘘や冗談で無くて..」

「そのつもりだよ」

「そう、物好きね…」

「さぁ準備が出来ました、まずはこの証文を確認してください..問題無いならサインお願い致します」

僕は直ぐにサインした。

「後はこちらに血を1滴たらして下さい..奴隷契約をして奴隷紋を刻みます、これを刻む事で奴隷は主人に逆らえなくなります..ご存知ですよね」

「大丈夫です」

「後はこちらの首輪をして終わりです、この首輪は彼女が人間である事を現しています、見た目がモンスターなのでこれが無いと殺される可能性もあります。この首輪は教会が作った物で魔法が掛かり外れなくなっています、そしてここに所有者として貴方の名前も記載されています」

「この首輪は見た事がありませんので説明をお願い致します」

「モンスターと混ざり物を間違えないように作られた物です..昔は無かったし..最近は生まれない様に処分されるのでまず見かけないでしょうね..」

「有難うございます..それで、このままだと目の毒なので、お金を払うから安い服を譲って下さい」

「解りました、銅貨5枚で譲りましょう」

「お願いします」

こうして、僕は奴隷を購入した。

奴隷商を出た後..広場で串焼きを4本買った。

本当はお店に連れて行ってあげたいが..僕にとって美少女でも彼女は混ざり物だ。

多分、入れないだろう。

だから串焼きを2本渡した。

彼女は不思議そうな顔をした。

「それは..くれるの?」

「そう、君の分だ」

「そう、ありがとう..」

奴隷商で購入した服は奴隷用のみすぼらしい服だ。

服も買わないといけない。

スラムの古着屋に来た。

「ひぃ..ハーピー..何だ、混ざり物か」

「すいません、おばさん、彼女は僕の奴隷なんです..驚かせてすみません、彼女の服が欲しいのですが」

「そうかい、お客なら大歓迎だ、これなんかどうだい?」

「それじゃ、同じサイズで3枚下さい」

「あいよ、3枚で銀貨1枚だよ」

「はい.銀貨1枚です、それでこれから先彼女に買い物を頼む事もあるので、少し話を広めて置いて貰えますか?」

「解った、知り合いの店には言っておくよ」

「ありがとうございます」

普通の場所じゃこうはいかない、スラムだからこれで良い。

廃棄奴隷か混ざり物を買う、そう考えた時から此処を拠点にするそう決めていた。

生活に必要な物を一式買うと僕たちは部屋に戻った。

最初に、おかみさんに話を通した。

「契約の時に聞いてたからね..実際に見ると凄いわね、そうかい、それで1階の部屋を選んだんだね..うちは家賃さえ払ってくれれば問題無いからね..大丈夫だから安心おし」

断られたら、そう考えて1か月分しか払わなかったが、万が一払えなくなると困るから1年分前払いした。

まだ、お金は残っているが..そろそろ引き締めよう。

「さぁ、これで大丈夫だね、部屋に行こうか?」

「…本当に良いの?」

「勿論」

多分、今日は僕は眠れない気がする。

初めての夜
これでようやく、人生で一息つける。

永かったな、化け物に囲まれて15年ようやく美少女に出会えた。

流石、魔王の呪いだ。

せめて、人間の中での美酒逆転にして貰いたかった。

恐らく振り幅が可笑しすぎる。

凄い美人、美少女 →ゴブリンやオーク何か比べ物にならない位醜い。

二目と見れない不細工な女→ 二目と見れない不細工な女

化け物にしか見えない → 凄い美少女

僕の目にこう見える。

不細工で行き遅れと言われる「豚姫」事マリア姫。

公爵令嬢で「ゴブリン令嬢」と言われる、ルイス。

その似顔絵で「普通の子」それ位にしか見えない。

この二人は歴史的にも不細工で有名なんだ..それが、その程度。

つまり、僕にとっては化け物レベルでないと可愛く見えない、そういう事だ。

前世の知識であった、混ざり物に期待を込めたが、今の時代では出会う事は殆ど無いみたいだ。

一応、奴隷商の主には、もし入荷する事があったら「声を掛けてくれ」と頼んだ。

「一応、気には止めて置きますがまず、無理でしょう」

そう、言われた。

だから、これでもかという位に美しい彼女が 今僕の傍に居る事は…女神に祈る位に嬉しい。

もし、ユリアが彼女の容姿だったら、勇者と間違いなく決闘していたと思う。

そして女神の様な天使の様な美しい女性が今目の前にいる。

僕が知っている女性で一番綺麗な女性は、前世で会った、ルール姫だが..それすら霞む。

「買ってくれてありがとうって言うべきかしら?」

「それは気にする必要はないさ、僕がいっしょに過ごしたいから買った、それだけだよ」

「そう、本当に物好きね..こんな化け物を買う何て、それで貴方はどうしたいの?」

「どうしたいのって?」

「私みたいな化け物は、見世物位しか使い道が無いわよ?、もしくは何かの囮にでもするのかしら?」

「僕は冒険者なんだ、もし良かったら一緒にパーティーを組んでくれないかな?」

「冒険者って何かしら? パーティーって?」

「それはおいおい説明するよ..もしやってみて出来なかったら、その時は出来る事だけやってくれれば良い」

本音で言えば彼女が傍に居てくれるだけで充分だ。

「あのさ!」

「どうかした」

「私は奴隷なのよ..他の事はともかく、その身分についてだけは聞いたわ」

「それで?」

「ご主人様には逆らってはいけない、そう教わったわ!」

「確かにそうだな」

「それなのに、何で貴方は「命令」をしないの?」

「そうだな、本当の意味で友達になって欲しいからかな?」

「友達って何かしら?」

「友達って言うのは..何て説明すればいいのかな..うん、僕は君を大切にするという事だよ」

「そうなの…ありがとう!」

「そう言えば、名前を聞いてなかったね、名前は?」

「名前..ないわ」

「そうか..それじゃ、僕がつけて良いかな?」

「良いわよ」

「それじゃ..スワニーでどうかな?」

「どういう意味なの?」

「スワンっていう白くて綺麗な鳥が居て、そこからとったんだ」

「へぇー 綺麗な鳥なのね..良いわ」

「僕の名前はセイルって言うんだ、宜しくねスワニー」

「宜しくセイル」

「所で、スワニーは何歳なのかな?」

「多分、1歳位ね」

1歳..そうか、モンスターは成長が早いから1年もしないで大人になる。

普通に考えれば生まれて15年も売れなければ、処分するだろう。

ギルドの時点でお腹にいたのなら..そうなるな。

1年間、しかも外の世界を何も知らない..一から教えないといけないのか。

「さてと、そろそろ遅いから寝ようか」

「解ったわ」

スワニーはそのまま床で眠ろうとした。

「そこにベットがあるから、使ってよ」

「これは私が使ってよいの? これは「高い商品」しか使っちゃいけないと聴いたんだけど..私は「混ざり物」だから毛布も駄目って聴いたわ」

「ああっ!言ったろう? 友達になりたいって」

「そう、大切にしてくれるのね…ありがとう..」

「明日は街を見て回るからね..お休み」

「お休み」

ただただ話しただけなのに、夜中になっていた。

お返し (スワニーSIDE)
気が付くとここに居た。

生まれてすぐにここに居た。

私には価値がないらしい。

私は「商品にならないらしい」それがどいう意味かよく解らない。

だけど、「商品にならない」者は扱いが悪くなる、それだけは解った。

耳の長いメスは「商品の中でも一番価値があるらしい」だから、柔らかそうな寝床があって、美味しい物を食べている。

私の目は凄く良い。

私の耳も遠くの声まで聞こえる。

良く見ていると、私に近く成るほど「商品にならない」者の様な気がする。

実際に、隣の三人は他の人に比べると凄く「商品にならない」のだと思う。

「体が痛い」「体が痒い」いつもそう言っていたけど..それを幾ら言っても何もして貰えてない。

だけど、耳の長いメスが具合が悪くなると果物が貰えていたし、心配そうに見る人間もいた。

だけど、隣の三人より、私は更に扱いが酷い。

隣の三人にはボロキレがある。

寒い時はそれを被っているけど、私には無い。

だから、寒くてもそのまま我慢するしかない。

隣の三人にはパンとスープがあったけど..私はパンしかない。

だから、私が此処で一番「商品にならない」それだけは解った。

「他の商品は買われていく」だけど、私と三人はここに居るだけ。

偶に見に来る人は居た..三人には話しかけるけど..私には話しかけない。

ここに居たくない..どうすれば、「買って貰えるのだろうか?」

よく考えて見たら、私は喋れなかった。

話掛けられても話せない..どうせならと、耳の長い女の声を聴き話し方を覚えた。

これで、買ってくれる人が出るかもしれない。

だけど、私はおろか、その手前の三人まですらくるお客は少ない。

来なければ買って貰えない..だから声を出した。

「私を買って下さい!」

お店の人も来た人も驚いていた。

「なんだ..凄く綺麗な声だ..奴隷商さんも人が悪い、当たりの廃棄奴隷が入荷したなら教えて下さいよ」

(やった、これで買って貰えるかも知れない)

だが、私を見るなり「何でハーピーみたいな化け物がここに居るんだよ..」そのまま帰ってしまった。

「ただでさえ迷惑なのに、商売の邪魔するなんて」

そう言われ、鞭で叩かれた..その日から3日間、パンが貰えなかった。

三人の奴隷は私に慣れたのか話しかけて来るようになった。

私が売れない理由が解った。

私の外見が、人間で無く化け物だからだ..

確かに、他の人達と姿形が違う..

言われて見れば、他の者は何となく似ているが…私だけは全く違う。

お客が居ないときは自由に話が出来る。

だけど、私と3人はこの部屋から出る事は許されない。

だから、4人で話す事しか出来ない。

私と違って3人は外で生活していた事があるそうだ。

羨ましい…私は此処から出た事が無い。

外には楽しい物が沢山ある。

見て見たい..

「私は、病気持ちだから、多分買い手がつかないね..」

悲しそうに、女性は笑っていた。

「僕らも手足が不自由だから無理だな、せめて農民じゃなくて「冒険者」だったら買い手が..考えても無駄だな」

「君はまだ、買い手がつくかもな! 見世物小屋とかの人が買う可能性がある」

「見世物ってなに?」

「皆んなから笑いものにされて馬鹿にされてお金を貰う仕事さ」

「そんな生活したくないわ」

「だけど、それでも此処よりは幸せになれるよ」

「そうなんだ..」

「後は、君は多分鳥のモンスターみたいに見えるから、冒険者が囮役として買うかもな」

「囮?」

「まぁ碌な仕事では無いよ! だけど、此処に居るよりはまだましさ」

「そう、そう、太陽の下で生活出来る」

「暖かい布団で眠れる」

「そうよね..ただそれだけでも、幸せだわね」

「本当に此処は地獄だから..ね」

偶に、此処までくる人が居たが私を見ると怖がったり、不機嫌な顔になるので、更に奥の物置き見たいな部屋に移された。

三人と一緒に居た時は、偶にドアが開くとお店の中が見える。

そこから、見る景色が唯一の楽しみだったから..凄く残念だわ。

私の楽しみは、三人と壁越しに話す事だけになった。

ただでさえ、此処までお客は来ないのに..これじゃ絶対に買って貰えないじゃない。

私の所にはお客は殆ど来なくなった..

偶に来ても、馬鹿にして帰っていく..

既に自分が「見世物」になっている事に気が付いた。

買う気なんて皆んな無い。

ただ、化け物の私を見て..馬鹿にするなり、蔑むなりして楽しんでいるだけ..

三人を見た男だろうか 「これはハズレだな..」という声が聞こえてきた。

三人がハズレなら、私の所には来ないだろう。

「混ざり物でも良いんだが体の丈夫な者は居ないのか?」

混ざり物? 私の事だ。

「混ざり物..かなり勉強されていますね..昔はともかく、最近は生まれた時点で処分する事が多いのでまず出ません、ですが今は1人だけいます」

「居るのなら見せて欲しい」

来る、来る、私を見に来る。

色々話が聴こえてくるが..うん、見に来てくれる事が決まったようだ。

「解りました..本当に覚悟をして下さいね..殆どハーピーにしか見えません」

ドアが開いた..

駄目だわ、固まっている..しかも全身舐めまわすように見ているわ。

この人は私を買う事は無いだろう。

期待したのに..裏切られてばかりだわ..

「貴方もどうせ、見世物代わりに見に来たのね..どう醜い私が見れて良かったわね..見たんだから帰れば?」

憎まれ口位叩きたくなるわ..後でムチで打たれるわね

あれっ 話し始めた。

「流石に、混じり物は安いんだろう?」

「本当に欲しいというなら無料でございます」

交渉しているわ..交渉していた人は1/3は買っていたような気がする。

「本当に無料なんですか?」

「はい、上等な奴隷を買い取る際ギルドに押し付けられて、正直、処分に困っておりました、ただ、奴隷紋を刻むのに銀貨1枚、彼女はどう見てもモンスターにしか見えないので奴隷の身分証明の首輪が必要です。それが銀貨3枚..銀貨4枚は掛かりますよ」

「だったら、買った!」

「だったら、買った!」 嘘、買ってくれるの?

「本当に? 返品は効きませんよ..それでもどうして返品したいという時は金貨5枚貰いますが、その条件ですが宜しいですか?」

「構わない」

「その条件も、しっかり証文に書きますよ..本当に良いのですね」

余計な事言わないで、気が変わったらどうするのよ!

「大丈夫です」

信じられない..

「ちょっと待って…本当に私を買ってくれるの?..嘘や冗談で無くて..」

「そのつもりだよ」

「そう、物好きね…」

なんで憎まれ口が出ちゃうのよ..耳の長いメスの言葉遣いのせいだわ..

奴隷紋は痛いし、首輪も嫌だけど..ようやく此処から出ていける。

三人の前を通った時、目でおめでとうと言ってくれた気がする。

生まれて初めて服を着た。

三人ですら着ていて、私だけが貰えなかった物だ。

話に聞いた、空は凄く綺麗だった。

お店という場所で彼が串焼きを4本買った。

お肉だ、羨ましい..奴隷だから私は多分食べれられない..いつかは食べれると良いな。

彼が二本..差し出してきた..えっ..

「それは..くれるの?」

「そう、君の分だ」

貰えると思わなかった。

「すいません、おばさん、彼女は僕の奴隷なんです..驚かせてすみません、彼女の服が欲しいのですが」

「そうかい、お客なら大歓迎だ、これなんかどうだい?」

「それじゃ、同じサイズで3枚下さい」

「あいよ、3枚で銀貨1枚だよ」

あの綺麗な服..私に買ってくれたの?

「さぁ、これで大丈夫だね、部屋に行こうか?」

「…本当に良いの?」

聞き返さずにはいられない…

自分が聞いていた話と違うわ。

「買ってくれてありがとうって言うべきかしら?」

何で、「ありがとう」って素直に言えないのよ..真似した耳長性悪女のせいかしら。

「それは気にする必要はないさ、僕がいっしょに過ごしたいから買った、それだけだよ」

「そう、本当に物好きね..こんな化け物を買う何て、それで貴方はどうしたいの?」

「どうしたいのって?」

「私みたいな化け物は、見世物位しか使い道が無いわよ?、もしくは何かの囮にでもするのかしら?」

それでも構わないわ..

だけど、気になる..これが「奴隷」では無い気がする、少なくとも聴いた話とは全く違う。

聴いてみた。

「私は奴隷なのよ..他の事はともかく、その身分についてだけは聞いたわ」

「ご主人様には逆らってはいけない、そう教わったわ!」

「それなのに、何で貴方は「命令」をしないの?」

そうしたら、

「そうだな、本当の意味で友達になって欲しいからかな?」

私には「友達」の意味が解らない。

だけど、絶対に「奴隷」よりは良い事だけは解る。

「さてと、そろそろ遅いから寝ようか」

彼が言い出した。

奴隷は床で寝る..そう教わったわ

床で寝ようとしたら..

「そこにベッドがあるから、使ってよ」

だって

「これは私が使ってよいの? これは「高い商品」しか使っちゃいけないと聴いたんだけど..私は「混ざり物」だから毛布も駄目って聴いたわ」

信じられないわ、ベットまで使って良いの?

「ああっ!言ったろう? 友達になりたいって」

「そう、大切にしてくれるのね…ありがとう..」

凄く大切にしてくれているわ、それだけは解る。

だから真剣に「友達」になろうと思う..

友達が何かは解らないけど。

まずは..そろそろ寝たわね..

私は自分のベッドから出てセイルのベッドの前に来た。

そして服を脱いでそのままセイルのベッドに入った。

これで良いのよね?

「一緒に寝てあげると男は喜ぶ」って言っていたわね。

「一緒に寝るなんて、好きな男相手じゃ無ければ出来ません!」

泣きながら、訴えてた女もいたわ。

凄く、大切にしてくれたから、一つ位はお返しくらいしなくちゃ..

(おやすみなさい..セイル)

私はそのままセイルと同じベッドで眠りについた。

楽しい日常

朝、目を覚ました。

えっ、僕は..えっ..何で..横にスワニーが居るんだ..しかも裸だ。

昨日の僕は確かにテンションが上がっていた。

寂しい気持ちが満たされる気がした..

やってしまったのか…あれっ、スワニーは裸だけど僕はしっかりと服を着ている。

これはやってない..大丈夫だよな。

うん。

「おはよう、セイル早いのね!」

見れば見るほど、綺麗で可愛い。

しかも、ハーピーの混ざり物だから、声も可愛い。

僕にとってはパーフェクト美少女だ。

「おはよう!スワニー..何があったのかな?」

「私、セイルに凄く大切にして貰っているのがわかるわ..だから少し位お返しがしたかったの!」

そういう事か? 幾ら美少女でも、本当の年齢は1歳だ。

最も、犬や猫と同じで魔物は半年位で大人になる。

「それで、何で裸なのかな?」

「一緒に寝ると男は喜ぶって聞いたわ、それに好きな男じゃないと寝ないとも、私はセイルが好きだから寝たのよ?」

これを聞いて喜ばない男は居ないだろう..

本当に「好き」が解って言ってくれたなら凄く嬉しい、だがスワニーはまだ本当の「好き」は知らない筈だ。

「スワニーありがとう..凄く嬉しいよ、だけど服を脱ぐのは「大好き」になってからで良い、一緒に寝てくれるのは嬉しいけど、次からは服を着てくれる?」

「解ったわ..「大好き」になるまで寝るときは服を着る..それで良いのね?」

「うん、それで良い」

美少女の添い寝を、全部断る事が出来ないのは..僕の心の弱さだ。

スワニーを連れて冒険者ギルドへ行った。

スワニーを連れて歩いているのに、可笑しい目で見られなかった。

(あの美少年、魔物使いだったんだ)

(残念、魔物使いはパーティー組まないから諦めるしかないのかな)

そう言えば、「魔物使い」という職業もあったな。

だけど、魔物使いは職業的に好かれない、そう思っていたんだけどな? 今は違うのか?

この前と同じ様に空いている女性のカウンターに行った。

受付のお姉さんはスワニーを見ると

「もしかしてパーティー申請ですか?」

多分、スワニーの首輪を見たんだろうな..流石はギルドの受付だ。

「はい、お願いします」

「見た所、彼女は奴隷という事で間違いないですか?」

「はい」

「では、こちらの方のの用紙になります」

普通のパーティー申請と違い、奴隷の場合は「手に入れた物が主人の物になる」そういう一文が入っている。

それ以外は普通のパーティ申請と同じだ。

ちなみに4人パーティーになるとパーティー名の登録も可能だ。

書類を書き上げたが、スワニーは文字が書けない。

スワニーの欄をどうするか聞いたら。

「それでは、私が見届け人の場所にサインしますから、人差し指の拇印で大丈夫です」

これで、スワニーも冒険者になった。

石級だけど。

「これで、私も冒険者なのね..良く解らないけど」

スワニーは何かを貰えるのが嬉しいらしく、冒険者証を大切そうに握りしめている。

僕の記憶では、「魔物使い」は余り歓迎されない職種だった筈だ。

魔物をつれて街を歩くから、嫌われていた印象が強い。

だから、その事について聴いてみた。

何て事はなかった。

この街で最高位の金級冒険者にエドガーさんという人が居て魔物使いだからだそうだ。

確かにそれなら、魔物使いでも禁忌されない訳だ。

そう言えば、昨日串焼きを食べてから何も食べてない。

折角だから、スワニーにも何か美味しい物でも食べさせてあげようかな。

「あの、それで魔物使いでも外食できそうな店ありませんか?」

「それなら、テラス席があるお店なら多分大丈夫だと思います。エドガーさんの影響で作られた施設ですから..魔物使いは勿論、獣人族でも普通に食べれますよ」

エドガー、様様だな。

「スワニー 飯食べに行くよ!」

「嘘..またご飯が食べられるの?」

スワニーに聞いてみたら、奴隷の時は1日にパンが一個貰えるだけだった。

ありえない、人間だって全然足りない、ましてハーピーの血が入っているなら余計に足りない筈。

「ああ、これからは1日3食、忙しい時で2食は食べさせてあげるからな安心して良いよ」

(やっぱり、奴隷の扱いじゃない..奴隷はあの耳長以外は、1日1食だって聞いたわ..友達って凄いわね)

「ありがとう」

僕はスラム近くのテラス席のあるお店に行く事にした。

幾らエドガーさんの影響があるからと言っても限界もあるかも知れない。

それに可能なら「行きつけ」に出来るようなお店が欲しい。

「ここ、彼女と一緒でも大丈夫ですか?」

「じゅう..じゃ無かった、テラス席なら何処でも大丈夫ですよ!」

多分、従魔と勘違いされそうになったんだな..

スワニーと一緒にテラス席に座った。

スワニーは周りをキョロキョロ見回している。

「スワニーは何を食べたい?」

「何でも良いわ、任せるわ」

(固いパンと肉しか食べた事ないし、知らないわ)

「それじゃ、任された、すいません、オークのステーキ2つとコーンのスープにライス下さい」

「畏まりました」

やっぱり、この扱いは違うわ。

あそこに居て立っている人、私と同じで売られていた人だわ。

お店よりはマシだけだけど、ボロボロの服を着ているし立っているだけで食事もさせて貰えてない。

あれが本当の奴隷の扱い…それもまだましな扱いな筈だわ、だってあの人は「価値がある人」だったんだから。

「お待たせしました」

「嘘、凄く美味しそうな臭いがする..食べて良いの?」

「勿論、食べて良いけど、食べ方は僕の真似をして」

「どうして?」

「食べ方にルールがあるからね」

そう言えば、耳長は金属の棒をつかって食べていたわね。

「解ったわ」

スワニーに睨まれながら食事をした。

旨く食べられないのは、初めてだから仕方ない。

文句言わず、真似ようとしているのはスワニーが真面目な証拠だ。

だけど、美少女が無言で睨んでいるのは..余り食べた気がしない..

その後は日常品を買って回った。

勿論、その際には挨拶とスワニーの紹介を忘れない。

しかし、エドガーさんは凄い..どこの店もスワニーに対して寛容だった。

エドガーさんの影響のおかげの様な気がする。

日常品と冒険者に必要な最低線の物を揃えると夕方になった。

もうそろそろ、お店によっては閉まる時間だ。

スワニーが一軒のお店を見ていた。

ガラス細工の店だ。

ガラス細工と言っても高級店で無く、色のついたガラス玉をアクセサリーとして売っているお店だ。

おもちゃみたいな物だから安い。

「どうした?」

「何でもないわ」

どう見ても赤いガラス玉のペンダントを見ている。

「その赤いペンダント下さいな」

「はいよ..銅貨5枚ね」

「あの、それ..」

「スワニーが欲しそうにしていたから、はいあげる」

「うわぁ、ありがとう」

多分、僕が今迄みた中で最高の笑顔だった。

こんな笑顔を見れるなら、こんな物安い物だ。

「どう致しまして」

その後は、住んでいる宿から近い事もあり、さっきと同じ店で夕飯を食べて帰った。

今迄とは違う..何をしても凄く楽しい。

だからか..気が付いたらもう暗くなっていた。

「そろそろ帰ろうか?」

「そうね」

僕はスワニーと手が繋ぎたくなった、だから手を握った。

「これって何か意味があるの?」

「仲の良い男女がする事だよ..嫌なら辞めるけど」

「嫌じゃないわ、セイルがしたいなら良いわ」

「ありがとう」

セイルの言う、「友達」「好き」「大好き」の意味が私には解らない。

だけど、セイルとずっと一緒に居たい..そう思った。

さてと..セイルは寝たわね、「大好き」なら裸で寝るのよね?

幾ら考えてもセイルより好きな人は居ないわ..というか他の人はどうでも良い人だもの。

セイルより好きな人は居ないから、これは「大好き」って事だと思うのよ。

だったら..

スワニーは裸になりまたセイルのベッドに潜り込んだ。

エドガーとファング
朝起きると横でスワニーが寝ていた。

また、裸の状態で..

理由を聞いてみると..

「セイルから「大好き」になったら裸で一緒に寝るって聞いたわ、私はセイルが大好きだわ」

思わず、顔がニマニマしてしまう。

心の問題を教えるのは難しい..仕方ないと思う。

決して嬉しいから後回しにした訳じゃない。

まぁ常識についてはおいおい覚えて貰うしかない。

まだお金に余裕はあるが、早めに仕事をした方が良いだろう。

今日から仕事だ。

今日は初日だから、「薬草の採集」ともし出て来たら「ゴブリンの討伐」をしようと思う。

どちらも常時依頼だから、ギルドに顔を出さないで良い。

「スワニー今日から仕事をするよ!」

「仕事って何?」

何から説明して良いか解らないな。

「そうだ、お金..これなんだけど、色々な商品と交換してたの覚えている?」

「見ていたわ」

「これを貰う為に働く事だよ」

「何となく解ったわ」

本当に解ったのかな..怪しいが、今はこの程度で充分だろう。

仕事に行く前に、昨日の食堂で食事をする事にした。

食堂の名前は「野良猫庵」という名前だ。

「スワニー、まずは腹ごしらえしようか?」

「うん、楽しみだわ」

野良猫庵に行ってテラス席を見ると今日は先客がいた。

狼型の従魔を2匹従えている。

見た感じから、その風格が漂ってくる。

もしかしたら、この人がエドガーさんなのかも知れない。

席に座り、つい見てしまった。

「なんだ、お前人の事ジロジロ見やがって」

「いや、もしかして貴方がエドガーさんなのかなって思いまして」

「エドガーさん? 俺が? 俺はファングって言うんだ、まぁエドガーさんと同じ魔物使いだ」

「そうですか、すいませんジロジロ見て」

「良いぜ、エドガーさんは魔物使いの英雄だ、エドガーさんと間違えられるなんて光栄だ、もしかしてお前も魔物使いか?」

「違いますが、パーティの相手が..」

「へぇー混ざり物か珍しいな? それが何でエドガーさんを?」

今迄の経緯を話した。

そして

「彼女と一緒に楽しく過ごせるのは、エドガーさんのおかげだと思ったので一言お礼が言いたかったんです」

「そうか、たしかにエドガーさんが活躍するまでは、こんなテラス席も無かったからな、俺もエドガーさんには凄く感謝しているんだ!」

「僕もです」

「まぁ、ある意味、お前も魔物使いか..エドガーさんが今、店に入っていったぞ..」

「あっ..それじゃ行ってきます」

「おう!」

「貴方がエドガーさんですか?」

「俺がエドガーだが、売り込みか? 俺は魔物使いだからパーティーは募集してないぞ!」

「違います、あったら一言、お礼が言いたかったんです」

「俺、お前に何かしたっけ?」

「直接では無いですが..」

僕はエドガーさんにこれ迄の事を感謝の気持ちも含めて話した。

「そうか、そうか、俺は魔物が好きなんだよ..混ざり物も半分魔物みたいなもんだ..お前達みたいな奴が住みよい世界に俺が一役かれたんならそれで良いんだ」

「ありがとうございます、本当にこの街は良い街です」

「そうか? ほら、お前の所の料理が出来たみたいだぞ」

「本当にありがとうございました」

魔物が好きな奴は皆んな仲間だ。

セイルとか言っていたな..彼奴は除外だ。

「セイル、もう食べて良い?」

「待たせてごめん、それじゃ食べよう!」

今日は朝から有意義だったな、魔物使いとは本当に仲良くなれる気がした。

まだ、2人しか会って居ないけど..本当に良い人が多いな。

薬草取りだが..問題が無かった。

正しく言うなら、何も気にせずに薬草を取れば良い。

意外にもスワニーは一度薬草を教えたら、間違わずに薬草を取っていた。

よくよく考えたら、スワニーはハーピーの混じり物だ。

しかも、本当の姿はそれだ..ハーピーはゴブリンよりもオークより強い。

自分より強い魔物を見かけたら..逃げるよな! 当たり前だ。

だから、気にせずに幾らでも摘める。

ゴブリン狩りは問題なく行えた。

よくよく考えたら、ゴブリンの多くは男だ。

だから、女の子に見える事は無い。

間違いが起こると不味いから常時鑑定をした状態で狩る。

すると、相手の横に種族だけが浮かぶ。

見た目は、ショタだが..ゴブリンだ。

最初の1人を狩る時は少し躊躇したが、「キシャ―」とかいうので気分は悪魔憑きの人間狩だ。

問題無く狩れた。

これがもし、幼女に見えたら..殺すのにもっと葛藤があったかも知れない。

ショタで良かった。

スワニーも流石にハーピーの混ざり物だ..ゴブリン何か簡単に狩れる。

ただ、スワニーはあくまで混ざり物なので本物のハーピーよりは確実に弱い。

その辺りの力の見極めも必要だと思う。

とはいえ、ゴブリンやオークよりは確実に強いと言えると思う。

多分、今日一日で5日間分の生活費は稼げたと思う。

ギルドに行き換金した。

「新人にしては凄いですね、初日にこんだけ稼いだ人は居ませんよ」

いまの僕は勇者では無い、ただの冒険者だ! そう考えたら生活だけ考えれば良い。

自分にとって最高に綺麗で可愛いスワニーがいる…それだけで充分だ。

新人(ルーキー)狩り 【残酷注意】

野良猫庵に寄って行こうとしたら声が聴こえてきた。

「獣臭いったらありゃしないわ」

「本当に魔物使いって、何なんだ、自分は戦わないで代わりに魔物を戦わせるなんてゴミだな」

「そう、思わないか?」

「あははははっ本当は魔物じゃ無いのかな? どうみても貴方は人間よりも魔物の方が友達が多いでしょう?」

暴力こそ振るって無いが、明かに侮蔑している。

スワニーとパーティを組んでいる俺としては

見てられないな..

折角、今日は美味しい物食べて帰ろうと思ったのに..

「スワニー、後でご飯買って帰るから、先に宿に帰ってくれるかな?」

「解ったわ」

スワニーを言葉で傷付けられると困るから宿に帰した。

文句を言われているのはファングだ。

間に入ったら..間違いなく喧嘩になる..だから、僕は店に入りまずは飲み物を注文をした。

そして..

「なぁ、あそこだけど、何であの3人摘まみださないんだ?」

店員に文句をいう事にした。

「それは…その」

うん、解かって言っている。

冒険者、しかも明らかに柄がわるそうだし怖いだろうな。

だが、今の僕は客だ、しかもこの店はテラス席を売りにしている。

つまり、魔物使いにも対応しているのが売りだ。

それなのに、あの暴言は許しちゃ駄目だろう?

「あのさぁ..ここはギルドでも従魔を連れて入って良い店として紹介しているよね? しかも、エドガーさんも行きつけなんだよね」

「はい..」

「なら、注意する義務があるんじゃないかな」

「解りました..注意してきます」

店員が注意してもやめようとしない..仕方ないから間に入るしか無いか。

「ちょっと良いか?」

「何だ、お前!」

「何かお姉さんにようかな? お酒のお誘いなら受けるけどちょっと待ってくれる?」

「あのさぁ..出て行ってくれないかな..」

「お前、何言っているんだ! 」

「此処は、冒険者ギルドで、魔物使いも使えると言われているお店だよ、嫌なら他に行けば良いんじゃないか?」

「はぁ、何それ、俺は獣臭いから文句いっているんだ、出て行くのはあっちだろうが..」

「なら、僕はギルドに抗議に行きますが良いですか? 冒険者ギルドがテラス席があるお店は従魔を連れて入って良いって言っていたんですから」

「もう、良い..行くぞ」

「そうじゃなくて、名前を教えてくれませんかね! ギルドに報告しますから」

「そこまでにしなくて良い..悪かった」

「めんどくせーな..もうこんな店こねーよ、それで良いだろう」

「あーあ、つまんない..もうこんな店こないわ、美味しくないし」

結局、三人は謝らないでそのまま帰った。

「ファングさん、大丈夫ですか?」

「セイルか、かっこ悪い所見せちまったな..」

「そんな事ないですよ、ファングさん従魔を庇う為に動かなかったんでしょう…カッコ良いですよ」

「そういう、お前も巻き込まれない様にスワニーを家に帰したんだろう? 同じだよ」

「そうですね」

「ありがとうな」

「お互い様です、だけど僕たちが生活しやすいのはエドガーさんだけじゃなく、他の魔物使いの方の努力の上に成り立っている、それは良く解りました」

「そうか..お前は良い奴だな! 今度酒でも奢らせて貰うよ..今日は用事があるじゃぁな」

「はい、また」

僕はスワニーと食べる為に揚げ鳥を1羽買って帰る事にした。

ダンジョンにて..

「助けて下さい..たすけて、たすたすたす….たすたすたすたすたすたすけてぇぇぇぇぇぇぇー」

「俺たちは獣みたいな物だからなわかんねーな..」

「俺たちが悪かった..もう二度と言わない、だから許してくれ」

「知らねーよ..大した実力も無い癖に、人を馬鹿にするからこうなるんだよ..大した事ねーな」

「そうだ、お前..そこのブルーウルフとまぐわって見ろよ! 面白かったら助けてやるよ」

「嫌嫌嫌いやあああああああああっ..あああ、あああああっ….これ以上はいやああああっ..やめて..もうやめて、せめて、せめて..人間にしてください..」

元は綺麗な顔をしていたのかも知れない。

街を歩けば、沢山の男が振り向く、そういう美貌だったのかも知れない。

だが、沢山の暴力を受けたのだろう..その顔は、鼻は潰れて、前歯も一部無く1.5倍位に吹腫れあがっていた。

裸に近い程、引きちぎられている服から見えるその肌は..痣によって紫に見えた。

「おい、誰かこの女抱いてみたい奴いるか?」

「どうみても、ゴブリン以下..抱きたくねーや」

「俺もパス」

「オークのメスの方がまだましだな」

「だ、そうだ..お前の相手してくれそうなのは..従魔位しかいねーな..それに躊躇していていいのかな? 急がないと二人死んじゃうよ?」

男の1人は多分、剣士だったんだろう..近くに食いちぎられた、腕が剣を握ったまま落ちていた。

自慢の美しい顔は、鼻が食いちぎられていた、足も既に片方無い。

ただ「ヒューヒュー」と苦しそうに息をしているだけだ。

もう一人の男は多分、リーダーなのだろう、大怪我はしているが今のところは無事だ。

ひたすら「俺たちが悪かった」「許してくれ」と連呼している。

「嫌、嫌、嫌..」

「どうでも良いけど? 早くしないと二人が死んじゃうよ」

「アルト..シャル..見ないで..」

彼女は諦めた様に..裸になると四つん這いになりお尻をブルーウルフの方に突き出した。

「それじゃ2匹だ..2匹、相手を終えたら、命は助けてやる」

直ぐに一匹は、彼女に跨り犯したが、もう一匹は彼女を見ても何もしなかった。

「あーあっ、こんな女、従魔でもやりたくなんだな..本当に使え無いな」

「うっううう..そんな..なんで、なんで」

(馬鹿な女、ゴブリンやオークでも無い魔物が人間を犯すかってーの、1匹は事前に発情薬を打ってあるからしただけだって)

「あああっ可哀想に、ブルーウルフにまでそっぽむかれて..」

「それ以前に犬みたいな魔物とするなんて、犬以下じゃね? よく魔物使いが臭いなんて言えたよな」

「さて、結局、1匹しか相手出来なかったな..」

「許して、許して..いやぁぁぁぁぁ..殺さないで、アルト、シャルぅうう..」

「もういいや、許してやるよ..」

「本当、本当?」

「ああ、今なら謝れば許してやる」

「ごめんなさい.ごめんなさい」

「違う、謝るなら土下座だろう」

「ううっ..わかりました」

土下座して謝ったが…

「ああっお前遅すぎたわ..可愛そうにシャルだっけ? 出血多量で死んでるわ、さっさとしないからこうなるんだよ!」

「そんな、シャルぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ..何で、何で..」

「アルトだっけ、こっちは舌噛んで死んでるな」

「アルト、アルト…そんな..何で死んじゃうの..私は私は..」

「お前が彼氏の前でブルーウルフと楽しんでいたからじゃねーの」

「可哀想に、魔物に彼女を寝取られて..自殺、これはお前を恨むんじゃね?」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

「さてと飽きたから、これで終わりで良いわ..お前達はどうだ」

「犬みたいな魔獣、相手に腰振る不細工見てても仕方ねぇー帰るか」

「だ、そうだ..じゃぁな、約束だ、姉ちゃんの、命はとらねーよ、これで少しは気は納まったかファング」

「はい、エドガーさん」

女一人を除き、全ての人間と従魔が去っていった。

「アルト.、シャルぅぅぅぅぅ..」

だが、魔物の住むダンジョン..血と肉の臭いが魔物を呼び寄せる。

「嘘、ゴブリン、でもゴブリン位なら..無い、無い、私のナイフも弓も無い..」

三人いれば造作もない、1人だって4体のゴブリンならどうにか狩れる..それは武器があればの話だ。

「嫌嫌嫌いやああああああああああああああああっ」

その後、彼女がどうなったのかは想像がつくだろう

ファング
あれから、随分ファングとは仲良くなった。

ファングは銀級冒険者だ、その事が解ったから「さん」をつけて話したら。

「そう言うのは良いから」と言われてしまった。

だから、「ファング」と気さくに呼んでいる。

「しかし、お前随分変わっているよな..まるで奴隷の扱いが恋人みたいだぞ」

「まぁな、スワニーは半分恋人みたいな物だ」

まぁ、見ていればいずれ解る事だからな。

「混じり物なのにか? 俺やエドガーさんは確かに従魔を家族のように思っているけど..お前はそれ以上な気がする」

可笑しいな、なぜかファングが僕を試しているような気がする。

「僕は確かにスワニーが大好きだよ..ちょっと依存しているかな」

「どういう事だ..」

美少女に見えるというのは内緒にしたいし..嘘をつくしか無い。

「あのさぁ..僕はまず小さい頃に家族を失った」

「そうなのか?」

「そこはそれ程の事じゃない..その後、仲の良い幼馴染の家に引き取られたんだ..まぁ相手は可愛い女の子だよ」

「それで」

「僕と結婚したいと言っていたが、聖女になって勇者を好きになって振られた..」

「何だか意味が解らない」

仕方ない..もう少し詳しく話すか。

「成程、お前、あの可愛いって評判の聖女の幼馴染だったって訳だ..だけどそれが何かあるのか?」

「1人が嫌だった…家族でも恋人でも良い、何があっても傍に居てくれる人が欲しかった」

「それがスワニーか?」

「そうだよ」

「納得..お前にとって家族で恋人、そう言う訳だな」

「そういう事だな..まぁ向こうはどう思っているか解らないけどな」

「一緒に居れば仲良くなるさ..それで奴隷商で聞いたんだが、混じり物が他にも欲しいって本当かよ!」

「うん、すぐじゃ無いけど出来たらね..これはファングだから言うけど、混ざり物達とパーティーを組んでいきたいんだ」

「何だ、それ一般の冒険者から嫌われるぜ..魔物使いみたいに扱われるぜ」

魔物使いか..羨ましいな、確実にハーレムじゃないか..いまの僕が一番憧れる職業だ。

「良いな、魔物使い。正直成れるなら今からでも成りたい位だ..」

(本気で成りたそうだな..)

「この街は別だが、他の場所じゃ蔑まれて嫌われるんだぞ!」

「それでも、魔物と仲良くなれるんだ..羨ましい」

「まぁ、ジョブが違うから成れないな..残念だな」

(魔物使いに成りたいか..だから此奴が気になるわけだ)

「本当に残念だ」

「そう言えば、話は戻るが、嘘じゃないんだな、混じり物の話し…」

「ああっ、本当だ、ただ欲しいのはメスだけだけどな」

「お前、まさか変態か?」

「違う..ただスワニーを見ていると何だか母性があるような気がしたんだよ」

「成程、確かにメスの方が優しい感じはするな..」

「そうだろう」

「解った..だったら、俺たちも見つけたら、手に入れるようにするよ、そしてそうだな、銀貨5枚程度で譲ってやる、どうだ?」

「それは凄く有難い..だが残り2体位だけど良いのか?」

「おいおい、そんなに期待するなよ…滅多に手に入らないんだからな」

「解った、期待しないで気長に待つよ」

(エドガーさんが気に入る訳だ、俺も気に入ったよ..魔物使いに憧れるかよ、此奴の前では俺も優しい先輩になれるな)

【閑話】 迷走勇者物語 こんな聖女要らない

俺の名前はルディウス、成人の儀式で勇者に選ばれた者だ。

この間、アイシアという村に聖女を迎えに行った。

聖女に選ばれたのはユリア、凄く可愛らしい女性…

ユリアにはセイルという名前の恋人がいた。

将来を誓い合っていたらしい..

だが、俺は勇者だ結局、ユリアは恋人より俺を選んだ。

そして、相手の男は惨めに俺からの決闘から逃げた。

見てて哀れんでしまう位に惨めだった。

流石の俺もこれ以上追い込むのは可哀想、そう思う位に。

涙ぐんでいる彼が可哀想だから、本来はあと2~3日位は居る予定だったが、決闘騒ぎの翌日には村をでた。

だが….

これからは俺の辛い日々の始まりだった。

勇者は聖女を迎えに行き王都にエスコートする、そういうルールがある。

王都では 賢者と剣聖が待っていて2人を伴い..王に会う。

王都迄の旅は今後の活動を考えて勇者と聖女の2人だけで旅をする。

ある意味、半分ご褒美的な旅の筈なんだが..

「ユリア、そろそろ飯を食って野営の準備をしようか?」

「そうですね、私も疲れました、お腹もすいてきたし、そろそろ食べて休みますか」

幾ら待っていても何かしようとしない。

何でだ?

「ルディウス..ご飯の準備しないんですか?」

「ああ、そうだな俺はまきでも拾ってくる..」

「はい、ついでにほろほろ鳥もお願いね!」

「ユリア、それはどういう意味だ!」

「お肉が食べたいからお願いしたのよ、何か可笑しいのかな?」

話を聞いたら、今迄火すら起こした事が無い事が解った。

「ユリアだって村で暮らしていたら野営位は経験があるだろう?」

「勿論、ありますよ」

「だったら、その時にユリアだって何か手伝っていたんじゃないのか?」

「全部、セイルがやってくれるから、座っていただけよ! 私が微笑むと直ぐに飛び出して全部してくれました」

マジか?

本当に何もする気がないらしい..

仕方ない、俺がするしか無いのか?

「まきを拾ってくる」

「はい、いってらっしゃい」

嘘だろう? 何も準備してない。

「お帰りなさいルディウス、ほろほろ鳥は獲れた?」

「そんな短時間で獲れる訳は無いだろう」

「そうなのかな、セイルは10分もあれば、鳥やウサギを狩ってきてたけど..」

俺はまきを置いて、鳥を捕まえに行った。

「遅かったわね、ルディウス..ほろほろ鳥は捕まった?」

「なに、それグレーバードじゃない? それ美味しくないのに」

「悪かったな」

しかし、まきはそのまま、火も起こしていない。

「本当に美味しくない..ほろほろ鳥が食べたかったのに、しかも味付けもしてない何て」

「街に着いたらご馳走するよ..」

「そう、それまで我慢しなくちゃいけないんだ..」

「…….」

まきを一人で拾ってきて、鳥を捕まえて..それなのにこれなのか?

「ところでルディウス..テントは張らないの?」

「テント? 普通は持ち歩かないだろう?」

「テントが無くちゃどうやって寝るのよ?毛布は?」

「無いが..」

「まさか、虫よけのお香も無い何て言わないよね?」

「無いが」

「それでどうやって野営するのよ」

詳しく話を聞いてみた。

「嘘だろう..野営の時、それ全部セイルがやっていたのか?」

「そうよ、いつも10分も掛からずやっていたから、大変な事だなんて思ってなかったんだけど」

なんだ、此奴、何も出来ないじゃん..

どこのお嬢様なんだよ..ただの村人の筈だろう?

貴族出身の騎士だってもう少し出来るぞ..

セイルって奴がそれだけ優秀って事か?

いや…違うな、セイルは此奴を愛していたんだろうな..だから此処まで尽くしていたんだろう。

僅か1日だが、此奴の底が見えた気がする。

「多分此奴はこれからの人生で何もやる気が無い」

つまり、此奴と付き合うという事は「奴隷の様になるしかない」

そして、そこまで尽くしても感謝はしない。

多分、セイルと比べて不平不満を言うに決まっている。

確かに顔は良いし、外面も良いが..ただ、それだけの女だ。

魔王と戦う為に必要だが「女」としては要らない。

返そう..

此奴を返してセイルに来て貰おう。

此処まで尽くした女を俺が取り上げたのに..彼奴は文句を言わなかった。

ユリアが魅力的に見えたのは全部セイルのせいだ。

それに俺は自分で言うのもなんだが性格が悪い。

だから、友人は居ない..だが、彼奴なら仲良くなれそうな気がする。

しかも、かなり優秀なポーターみたいじゃないか..

お前の大切な彼女を奪って悪かった..まだ手を出していない..お前の気持ちに打たれたから返そう。

ただ、俺たちは魔王を倒す旅をしなくちゃ行けない、一緒に来て貰えるか?

これで大丈夫だ..行ける筈だ。

彼奴は感謝して俺も困らない、よく考えれば確かに可愛いが俺は勇者だ此奴以上に綺麗な女が選び放題だ。

中身がこれなら..要らない..此奴返して優秀なポーターが手に入るなら、その方が絶対に良い。

「ポーターとしてセイルが必要だな一旦村に引き返そう」

「そうね、やっぱり旅にセイルは必要よ..うん一緒に連れて行こう」

喜んでいるな..あそこ迄尽くされていたんだ..これで良い。

直ぐに引き返した。

「セイルなら冒険者になるって旅立ちました」

「何処に行ったか解るか?」

「確か、アルマンに行くと言ってました」

「そうか、解った。ところでこの村で一番早い馬を買いたい、すぐに手配してくれ、あと手紙を送りたい」

「解りました」

こうして、俺たちは王都に向う前にアルマンへと行く事になった。

取り返した??? 幼馴染 【グロ注意】
アルマンに着いた。

セイルは冒険者ギルドに所属している筈だ、だからギルドで聞けば解る筈だ。

だが、可笑しい普通は俺たちが来ると歓迎ムードだが、此処は何かが違う。

ギルドの受付で尋ねた。

「勇者様と聖女様ですか? どういったご用件でしょうか?」

「セイルという冒険者に逢いたい」

「セイルさんに? それはご依頼ですか?」

「いや違う」

「なら、もう良いじゃないですか? 放って置いてあげてくれませんか?」

「何だ、その口の利き方は」

「俺が代わるよ」

「何だお前は」

「俺はファング、セイルの友達だ、なぁ勇者さん、俺が話を聞くよ、だが皆んなが怒っているんだ、その聖女さんによ..理由位は聴きたいよな? こっちも言いたい事がある!」

ファングは勇者達の言い分を聞いた。

「まぁあんた達が根っからの悪人じゃない、それは解った、それじゃ今度はこっちの話を聞いてくれ!」

俺は説明してやった。

聖女に振られてセイルが人間を信じられなくなった事。

1人ボッチになったセイルが混ざり物を買って一緒に暮らして居る事。

そして怪物王子と呼ばれている事。

「丁度これから彼奴に会う約束をしている、だが、悪いが声を掛けずにそこから隠れて見てくれ..話はその後だ」

「解った」

「解ったわ」

2人が見た物は、化け物と仲良くしているセイルだった。

しかも、それだけじゃ無く、ファングとも楽しそうに話している姿だった。

(嘘だわ、あんなセイルの笑顔..見た事無いわ)

(化け物みたいな女に対して、優しくしているな..まるで恋人みたいだ)

「じゃぁなセイル」

「またな」

「もう出てきて良いぞ、あれが今のセイルだ、あんたに捨てられ人間が信じられなくなったと言っていたぞ」

「だからって化け物みたいな女と何で付き合うんだ」

「可笑しいわよ、セイルならもっと真面な女と付き合えるのに..」

「なぁ聖女さんよ..あんた恋人だと思っていたのか?」

「そうよ恋人だったわ!」

「セイルはそうは思っちゃいねーよ」

「嘘よ、嘘だわ」

「恋人以上だ..」

「えっ?」

「恋人以上だって言ったんだ!」

「それはどういう事なの?」

「セイルは小さい頃に両親を亡くした..だから、あんたを家族だと思っていたんだよ」

「それは恋人と違うの?」

「違う、彼奴にとってただ一人の家族だ、それこそ彼奴にとっての宝物、それがあんただった」

「そう..なんだ」

「だが、あんた、彼奴になにをした?」

「私は..」

「そっちの勇者に乗り換えたんだよな…」

「私は、そんなつもりは無かった、引き留めてくれれば」

「出来るかよ..勇者が相手で、自分を育ててくれたあんたの親も乗り気だ..別れて欲しいって言われりゃ..断れるわけ無いだろう」

「お父さんとお母さんが..そんな」

「なぁ、勇者さんに聖女さんよ…あんた達が奪っちまった物はよ..彼奴にとっての大切な家族だ、独りぼっちの男にとって命より大事な たった1人のな」

(なら、納得がいく..だからあそこ迄甘やかしていたんだ..此奴の為なら..何でもする、そこ迄だったんだな..)

「今直ぐ、セイルに会う..土下座でも何でもして許して貰うわ..」

「もう、遅いんだよ..彼奴はもう、あんたを見ていない..あのハーピーみたいな女スワニーが、彼奴の大切な家族だ」

「何で..何で..」

「俺も言ったよ..お前位器量があれば、幾らでも女にモテるだろうってな..実際に彼奴が好きな女はギルド内にも結構いたんだぜ」

「だったら、何でなの?」

「スワニーは絶対に裏切らない..何時も傍に居てくれるって嬉しそうに言っていたよ」

「そんな..」

「もう、遅いんだよ..正直俺はあんた達が大嫌いだった..だがな、思った程嫌な奴じゃ無かった..だから話した..これで納得したか? とっと帰ってくれ」

「いや、セイルに逢いたい」

「おい、やめろよ…話を聞いたろう」

「いやだ、いやだ、いやだ..セイルに会う」

「やめて置け、今の彼奴に俺たちは会わない方が良い..そんな事も解からないのか?」

(何処までデリカシーが無いんだよ..少しは人の気も考えてやれよ)

はぁ、声が聞こえてきているよ..ここで決着つけた方が良いよな..

「声がしているからみて見れば、勇者ルディウス様に聖女ユリア様じゃないですか?」

「セイル…お願いだから、一緒に行きましょう..ねっね、本当に悪かったから」

「何も解っていないんだね..残念だよ..」

「何が言いたいの..何だか声が冷たいよ!」

「それじゃ言わせて貰うけど、聖女になった以上は勇者以外を愛しちゃいけない..そんな事も解からないのか?」

「セイル、それは違う、俺はまだユリアに手を出していない..お前に返そうと…」

「ルディウス様..それは駄目だ、それじゃユリアに聞く、僕とルディウスが死に掛けていたらどっちを救う?」

「私は、今なら解る、セイルを救うわ」

(何言ってくれているんだユリア)

「見損なったよ..なぁ、ルディウスは世界を背負っているんだよ? 僕が死んでも世界は変わらない、ルディウスが死んだら大変な事になる、だから救うならルディウス..いやルディウス様だ..そんな事も解からないの?」

「いや、待てセイル、それは勇者という仕事に対する考えで愛とは違う..一緒に旅をして終われば元に戻る、それで良いんじゃないか? なぁ」

「ルディウス様まで…そんな考えだったの..良いかな? 聖女はこれから沢山の人を救うんだ、そして賢者も剣聖もね、そしてそれを率いるのは貴方だ..命より大事にしろとは言わないよ..だけど、その3人は世界中の誰よりも大切にしないといけない、これからお互いに自分の命を預ける相手なんだよ? 違うかな」

「そんな事は解っている、だが」

「解ってない..僕にとっては大切な家族だった..そう言っただろう?」

「ああ」

「その時、何て言ったか思い出して下さい」

「任せろって言ったな」

「その言葉の意味を考えて下さい..あの時僕はユリアへの気持ちを捨てたんだ」

「じゃぁ、どうすれば良かったの..どうすればセイルは、私の傍に居てくれたのよ」

「勇者が来る前に僕と駆け落ちする、それしか無かったな」

「それなら..」

「だけど無理、もしユリアがそれを言い出しても僕が断ったから」

「それじゃ、どうしたって無理じゃない..」

「今なら手はあるよ、ルディウスを殺せば良い」

「お前、何を言い出すんだ..可笑しいぞ、その話は捨て置けない」

「出来ないよ..そんな事…私」

「だったら、僕に、ルディウスを殺せって言うだけでも良いよ」

「言えない..」

「意地悪をしてすまなかった、それで良いんだよ、君は聖女だ勇者と一緒に居なくちゃいけない」

「おい、今の話しに何の意味があるんだ、俺を殺すなんて幾らなんでも可笑しすぎるぞ、流石に捨て置けない」

「ユリアにはその覚悟が必要だって教えたかった..謝ります」

「どういう事だ」

「簡単ですよ..もし今僕を選ぶならその方法しかないからです」

「解る様に説明してくれ」

「勇者相手に聖女は勝てません、だから戦えば死にます」

「そうだな」

「そうすれば、僕は後を追って死にますから結ばれた事になるんじゃないでしょうか?」

「….」

「逆に僕が勇者を殺しに掛かれば確実に殺されます..その死体を抱きしめてユリアが死ねば僕はユリアの物です」

「いいかい、ユリア! 聖女が勇者でなく僕を選ぶという事は世界を敵に回す事なんだ、だってそうだろう? 魔王に対して切り札を失う、しかも、その後救えるかも知れない命を見捨てる、そういう事なんだから…死ぬしかないんだ…だけど、僕は君には生きて貰いたかった..これで良いかな」

「….それじゃ、聖女になった時点でもう無理、そういう事じゃない?」

「2回はチャンスはあったよ..勇者が来る前と、今だ」

「出来る訳ないよ..」

「そうだね、それが正しい..罰なら幾らでも受けますよ、ただ知って貰いたかった、聖女にとって勇者は誰よりも大切な人じゃなくちゃいけない、逆に勇者にとって聖女や賢者、剣聖は誰よりも大切な人じゃなくちゃいけないってね」

「そうだな」

「と言う訳で、今度こそ本当のお別れです..もし今度会う事があっても、勇者様と聖女様そう思います、幼馴染のユリアはもう居ない、そうやっと思えるようになったのですから」

「俺はまたお前の気持ちを傷つけたんだな..すまない」

「もう良いですよ、前にナイフも貰ったしね」

「セイル..私は、それでも」

「ユリア様、貴方は聖女です..もう二度とそれ以外の者としては見ません..お別れです」

「セイル..嫌だよ、いやだ」

「すみません..」

「おい、いい加減にしてくれ..セイルの気持ちも考えてやれよ..もう良い、ユリアは押さえて置く、行ってくれ」

「ありがとうルディウス」

「嫌だ、セイルと一緒に行く」

「それは辞めろよ…さっき聞いただろう」

「あそこ迄私が好きだったのよ..だったら私、聖女なんて辞めるわ」

「だから、それは無理なんだ..セイルが言っていただろう」

「嫌よ」

「いい加減にしないかな、セイルの気持ちを考えてくれないか…聖女さんよ覚悟が足りねーよ」

「覚悟ならある..」

「どんな覚悟があるんだ」

「セイルが私と一緒にいてくれるなら何でもするわ」

(はーっ さっきセイルがあそこ迄したのに..俺が引導渡してやる..そうしないとまだあと引きそうだな)

「本当だな? 此処に王硫酸という薬品毒がある」

「それがどうしたの?」

「これを顔に浴びれば、皮は溶け肉も焼けただれる、そして二目と見れない化け物みたいな顔になる」

「だから、それがどうしたのよ!」

「そんな化け物みたいな顔じゃ、聖女なんて勤まらない、確実に聖女辞められるぜ」

(どうせ、お嬢ちゃんには出来ないだろうな..これでもうセイルに付きまとう事は辞めるだろう)

「だったら貸して..」

「馬鹿..やめろ」

ユリアは瓶をひったくり顔から毒液を浴びた..

「嫌ぁぁぁぁぁっぁぁいやああああああああ熱い、熱い、熱いわー」

「直ぐにポーション振りかけて、教会からヒーラーを連れてきて..」

ユリアは気を失った。

「駄目だ、顔が肉ごと溶けているからもう治療しても無駄だ」

「それじゃもう..」

「聖女の力であろうが、エリクサイヤーでも治りません」

「なんて馬鹿な事を、これじゃまるで化け物じゃないか..ゾンビと同じだぞ」

「顔が完全に溶け落ちている、命が助かっただけで奇跡だ」

記録水晶で映像を王宮と法皇に送った。

話し合いの結果、聖女は襲われて死んだ者とする事に決まった。

ルディウスはその知らせを聴いてほっとした。

ユリアの姿は見るに堪えない程醜くなっていた。

ボロ布を着て、頭から麻袋を被った女がいた。

良く見ると目の所に穴が空いている。

「馬鹿な事をしたもんだ、聖女として華々しい人生が歩めたろうに..自ら捨てるなんて..目ざわりです何処にでも行くが良い..そんな顔じゃ思い人も相手なんかしないだろうに..」

聖女は辞められた..だけど、ゾンビすら顔をそむけたくなる顔..もう誰も私なんて見てくれない。

勢いで本当に馬鹿な事をしたわ…あははは..勢いって怖いわね..今の私はあの化け物以下ね。

もう死のう..それで良いわ..

だけど、死ぬ前に..もう一度セイルに会いたいよ..

私は、未練がましくセイルを探し見ていた。

これで良い..後は死ぬだけだわ。

あそこで袋を被った女がいる..多分ユリアだ。

ギルドで事件があったらしいが僕にはお茶を濁して教えてくれなかった。

しかし、何で袋何て被っているんだ..あんな物で誤魔化せる訳ないのに..服までボロにしたって解るよ。

いい加減にして欲しいな。

僕はユリアが目を離した隙に後ろに回り込んだ。

「いい加減にしてくれないか」

僕はユリアの被っている袋を引っ張りとった。

「嫌やあああああああああああっ、返して、返してよ..」

そこには、凄く美しい聖女のような美少女が居た。

「ユリア..なのか?」

「……そうよ…見られたくなかった..セイルにだけはこの顔を見られたくなかったのに..」

「何があったか教えてくれるかな?」

「良いわ..あの後の話を教えてあげるよ..」

ユリアはその後の事を事細かに説明した。

「そうか、そんな事があったんだ」

「それじゃ..さようなら..」

「行く所はあるのか」

「無いわ..化け物だもん..こんな顔で生きていけない..死にたい..ううん死ぬしかないよ」

「それは僕が傍に居ても?」

「同情はもっと辛いよ」

「前に話したよね..ユリアが僕を手にする方法..」

「それがどうかしたの?」

「僕は、死体になったユリアでも愛せる..そうともとれないかな..」

「えっ..」

「例え、どんな姿でもユリアなら愛せる..その顔でもね」

嘘だけどね..今の君は、凄く綺麗だよ

「本当に? 私化け物みたいだよ?」

「もう一人の家族も化け物みたいって言われるよ」

「そんな事言って知らないよ」

「僕の渾名知らないの? 怪物王子って言うんだ..だからお似合いだと思わない?」

「セイル..知らないよ? そんな事言ったらもう私セイルから離れないよ」

「良いよ」

「何だか凄く遠回りした気がする」

「そうだね」

こうしてユリアが仲間として加わった。

怪物王子と元聖女

「そうか、セイルに、そんな事があったんだ…」

今迄は一部の者しか知らなかった話だが、事件の後大きな話題になっていた。

「彼奴はジョブこそ魔物使いじゃないが、魔物使いみたいな物ですね」

「家族が死んで、幼馴染の聖女を勇者にとられて、行きついた先があれか!」

「魔物使いが「従魔は裏切らないから信用する」、彼奴にとって、「混ざり物で奴隷だから裏切らない、だから好き」似ていますね」

「だから、家族..俺らと同じじゃないか? そう思わないかファング!」

「そう思いますよ、エドガーさん」

「まるで、昔の「ミーシャとマモルの物語」みたいじゃないか?」

「盗賊ギルドの処刑人が勇者に恋人の混ざり物が殺されて復讐する話しですよね..俺も好きですよ」

「混ざり物か..まぁ俺も気には留めて置くとしよう..苗床があるゴブリンやオークには心当たりがあるからな」

「そうですね..例の女達も多分苗床にされて居るでしょうから」

今日もいつもの様にギルドに来ていた。

今日はユリアの登録と討伐証明、収集した薬草の買取りをお願いしに来た。

流石に、まだ休んでいた方が良いと言ったのだが、ユリアが聴かなかった。

まぁ、登録だけでもすぐにしたいのだろう。

ユリアが居るから今日はそれが終わったらお休みする予定だ。

最初は驚いていた物の、今ではスワニーを連れて歩いていても誰も驚かない。

この街は本当に住みやすい。

袋女状態のユリアも大丈夫だろう。

「あの、その袋を取って貰わないと登録が出来ません」

流石にボロ布じゃ可哀想だから、服を買って着替えて貰った。

この姿じゃ、幾らギルドの受付嬢と言えども同じ人物とは思わないだろう。

流石に人前じゃあの顔を見せるのは嫌だろう..僕にとって美少女に見えるという事は..物凄い醜女と言う事だ。

「訳ありなので、奥で登録して頂けないでしょうか?」

「解りました..何か事情がありそうなので特別です」

「ひぃ..聖女様」

「良く、解ったわね..この顔なのに」

「そのご事情は知っておりますから..」

「あと、聖女じゃ無くて元聖女よ..昨日正式に教会から言われたからね」

「そうですか、それなら..ただそれじゃ石級からスタートになりますが宜しいでしょう?」

「構わないわ」

「解りました、早速登録します」

ユリアが奥に行っているので、カウンターでスワニーと手持ちぶたさで居ると顔見知りが声を掛けてきた。

「おっ、随分と頑張っているな、怪物王子」

「ケムさん、おはようございます!」

「ケムで良いって言うのに..」

「流石に父親みたいな年齢のの人を呼びつけ出来ませんよ..」

「まぁ悪い気はしないが..」

「今日は誰を連れてきているんですか?」

ケムさんは銅級の魔物使いだ、当人曰く強い魔物を従えられないから三流なのだという。

だが、それでも俺からしたら羨ましい。

強い魔物を従えられない..だからゴブリンや小振りなオークが混ざっている。

10体位の従魔を持っているが…常時従えられるのは2体だ。

10体の中にゴブリンのメスが1体にオークのメスが1体混じっている。

どちらも、若干だけどレアだ。

僕から見たら、ゴブリンのメスは可愛らしい幼女、オークのメスがセクシーなお姉さんに見える。

今日は、ゴブリンの方が居た。

ケムさんに許可を貰って、高い高いをした。

ちなみにメスだけにしていると不味いのでオスにも同じ事をしている。

だけど、幾ら見た目が可愛くても「キシャ―」しか言わないからやはり、混じり物の方が良いけど目の保養にはなるのだ。

「しかし、セイルは本当に魔物が好きなんだな..ゴブリンを子供のようにあやしたり、オークを触りたがったり..まぁ事情はファングから聞いたが..」

流石に本当の事は言えないな..

「ええっ、結構1人1人表情が違っていて味がありますね…特にこのゴブリンや、この間の小振りなオークは愛嬌がありますよ」

「お前が魔物使いなら譲ってやりたいが..まぁ一般人じゃ無理だな、そいつが大人しいのも俺のスキルのせいだしな」

「解っていますよ..魔物と意思疎通が出来るのは、魔物使いだけですからね」

「ああっ..本当にセイルは..まぁ良いや、それじゃ俺はダンジョンに行くからな、またな」

ちなみに、怪物王子と言うのは僕の「字(あざな)」だ。

魔物を可愛がっている姿を見た人達から付けられた、字だ。

スワニーは僕が喋っている時は余り喋らない。

これももしかしたら、奴隷の教育なのかも知れない。

空いた時間に、昨日はユリアの事件があったので出来なかった、ショタ(ゴブリン)狩りの討伐証明の耳の提出、収集した薬草をギルドの買取りをお願いした。

「おめでとうございます、鉄級になりました」

「ありがとうございます」

石級から鉄級に上がるのは簡単だ。

石級が見習いだとすれば、鉄級は新人という感じだ。

ここから、銅級に上がるのが難しいのだ。

冒険者を続けていても、生涯銅級という者が大半だ。

そういう意味では銅級になれば、一人前、そう考えても良いのかも知れない。

「スワニー、ユリアが戻って来たら飯にするか?食べたい物はある?」

「お肉が食べたいわ」

「お肉か..野良猫庵で良いか?」

「うん..だけど、ミノが食べたいんだけど..大丈夫かしら?」

「昨日、頑張ったから、入荷していたら良いよ」

「ありがとう」

スワニーが言う、ミノとは「ミノタウルスの肉」だ、強い魔物なので肉の価格も高い。

どの位かというと、オークの肉の4倍位する。

ここの所調子よくいっているから、ご褒美には良いだろう。

そうこうしているうちにユリアの登録が終わったようだ。

「お待たせ、セイルにスワニー」

「ユリア、スワニーと話していたんだが、これから飯を食いに行こうと思う」

「そうね、いこうか」

ちなみに、教会の治療は凄い..聖女だったせいか、薬品が使い放題のヒーラーが使いたい放題だったからか治療は終わっている..ただ、醜い事を除き、痛みも無いそうだ。

「残念ながら、今日はミノは入ってないのよ、ごめんね!」

スワニーの顔がこれでもかって言う程落胆している。

何時もある物でないから仕方ない..

「ミノはないのね..仕方ないわ、オークを頂戴..」

「それじゃ、オークのステーキ3つとパンをお願いします」

「畏まりました」

「セイル、私..本当にごめんね..」

「何も言わないで良いよ、辛いのは解るからね」

正直、僕には言う資格はない昔のユリアだったら僕は仲間になんてしようと思わなかった。

今の姿だからこそ、仲間にした。

そう考えたら、他の男と何も変わらない。

「綺麗な女に優しく、醜い女に冷たい」ただそれが逆転しているだけだ。

「スワニーは思うわ、私は生まれた時から価値がなかったわ、そして怪物みたいに醜いわ」

「そうだ..ね」

「ユリアは元が綺麗だったかも知れないけど..今はスワニー位に醜いわ」

「何が言いたいのかな」

「スワニーは馬鹿だから上手く言えないけど、セイルが傍にいてくれる..それだけで幸せだわ」

「だから! 何が言いたいの!」

「ユリアはセイルが居てくれるだけじゃ幸せじゃないの?」

そうか、スワニーは元から今の私と同じなんだ。

「そうね、幸せなのかも知れないわ」

「だったら、スワニーみたいに明るい方が良いわ」

「そうね」

不思議だ、スワニーが凄く面倒見が良いように見える。

「オークのステーキお待ちどうさまでした!」

「さぁ、食べようか?」

「うん」

「凄く美味そう」

まさか、ユリアとこんな風に過ごす日が来るなんて夢にも思っていなかった。

聖女の死と勇者とお祭り
聖女が死んだ。

その事実は世界に思った以上に大きくのしかかった。

そして、その影響は勇者であるルディウスにも..

実際は生きている。

だが、醜くなった聖女では求心力は無い。

だから、廃棄せざる負えなかった。

だが、今考えれば..凄腕のヒーラーとして残すべきだった。

今となってはそれは出来ない、馬鹿なアルマンの司祭が追い出してしまった。

もう戻って来る事は無いだろう。

不格好だが教会からは高位のヒーラーと王家辺りから宮廷魔術師の中で回復魔法に優れた者を出して補うしか無いだろう。

聖女は最初は役に立たないが、育てば結界魔法に最高位の回復魔法を身に着ける。

その代わりとなれば、30人位は必要になるだろう。

「勇者ルディウス…今からでも彼女を戻す気にはなれませんか」

無理だ..性格的に好きになれない。

それにあの醜さが加わるなら..絶対に一緒に居たくない。

今でも、あの顔にうなされる位だ。

「お恐れながら、あの姿は魔物以上だ..無理だ!」

「王自らが頼んでもですか?」

「お許し下さい」

「それだと、貴方には聖女を失った罰を与えなくてはなりません」

あの女とこれで縁が切れるなら..構わない。

「謹んでお受けします」

「なら、魔王討伐後に与える爵位だが、侯爵から子爵に落とす、与えるべき領地も一部減らす、そうなるが構わないか?」

「構いません」

俺は彼女の顔を見た。

彼奴と一緒に居る事を考えたら..罰の方がましだ。

「仕方ありません」

どうせならと、宮廷魔術師率いるヒーラー部隊30人

剣聖率いる騎士小隊30人

賢者率いる魔術攻撃小隊30人

世話を担当する侍従部隊10人

合計100人で戦う事になった。

そしてそれを率いるのが勇者ルディウス..

勇者達が尊ばれるのはたった4人で魔王に挑むからだ。

それがこの人数で挑むとなると勇者は最早、ただの象徴に過ぎなくなる。

剣聖や賢者は、ほっとした反面活躍の場を奪われたとも考えていた。

「なぁ剣聖メルダ..あの勇者をどう思う?」

「あれは本当に勇者なのか? みすみす聖女を失って逃げ帰り、この人数で討伐に向う..私は納得できないわ」

「私もそう思うよ? 人海戦術で戦うならそれこそ、ゾディバ将軍辺りが率いた方が絶対に良い、あの人は歴戦の猛者だ」

小さな不満が溜まり..やがてそれは勇者へと重くのしかかってくる。

その事をルディウスはまだ知らない。

その頃、アルマンはお祭り騒ぎだった。

冒険者ギルドに口止めのお金が王城から支払われていた。

その口止めのお金をギルドは飲食店に使った。

ユリアの件はかなりの冒険者が目にしていた。

いちいち口止めするのも難しいので大きく「ここで見た事は口を噤め、その代わり3日間殆どの飲食はギルドが持つ」

そういうふれを出した。

事情を知る者、知らない者が全て恩恵に預かれる。

これなら、後から事情を知った者も口は噤むだろう。

最も洩れた所でギルドは手を打ったと言えるし、「死んだ聖女が生きていた」なんて信じる者は居ない。

更に保険として「ここで自殺した」そういう情報も流した。

その隠ぺいの為..そう思う者も多いだろう。

「これは複雑だよね」

「スワニーはミノが食べ放題だから満足だわ」

「まぁ気にしないで良いんじゃない、ここに居るのは聖女で無くただの幼馴染のユリアなんだから」

「そうだよね..気にしないで良いよね..お姉さんこっちにもミノステーキ」

「あいよ、今日から3日間、ギルド持ちだからたんとお食べ」

「はい」

スワニーは幾らでもミノが食べれると聞いてご機嫌だ。

ユリアにしても袋から口だけ出して器用に食べている。

僕も今日は肉を食いながら、エールを飲んでいた。

「よう、怪物王子、凄く嬉しそうだな!」

「ファング..楽しいに決まっているさ」

「そうか、そのなんだ、それで良かったのか?」

「はい、家族が一人増えましたから..」

「そうか、そのな、悪かったなあんな事して、恨まれても仕方ないな」

「恨んでいないから安心して..言った事に嘘はなかった、実際に私、セイルの横に居られるんだから」

「だが、女としてそのな..」

「結局は自分で選んだのよ! 最初は死のうと思ったけど…セイルの傍に居られるし..もう良いのよ」

ファングはその場で土下座をした。

「俺はあんたをいや、ユリアを過小評価していた、好きだなんて言っても、どうせ嘘だそう思っていたんだ、だがそこまでセイルの事を好きだったんだな..謝るよ」

「周りが見ているからもう良いよ..結局、今私はセイルの隣にいる、死ななければ手に入らなかった筈の物を手にしている..それで良いわ」

「そうか? ありがとうな! 何かあったらセイルと一緒に頼ってくれて構わないぜ」

「そう、それなら早速良い?」

「ああ二言は無い」

「回復魔法を教えてくれそうな人紹介して」

「ユリアって(聖女)だろう」

「これから教わる所だから、まだ何も出来ないのよ..」

「それなら簡単だ、ギルドで頼めば教えて貰えるぞ」

「そう、ありがとう」

「それじゃ、俺はあっちでエドガーさんと飲んでいるわ」

「あっ、それじゃ俺たちも挨拶に行った方が良いんじゃないか」

「良いって、明日で、エドガーさんから俺も家族団らんを壊すなって言われたからな..明日もどうせどんちゃん騒ぎしてるんだ、今日はせっかく取り戻した幼馴染と一緒に楽しむと良い」

「むぅ..スワニーが外れているわ」

「うわっ、ごめん、セイルとスワニーとユリアで楽しく過ごしてくれ..じゃぁな」

「良い友達ね」

「うん、スワニーにも優しいし、ここの皆んなは僕にも優しい..本当に過ごしやすい街だよ」

「だけど、何故か魔物使いが多いわね」

「うん、だからかな..多分ユリアも過ごしやすいと思うよ」

「そうだわね..化け物だもん」

「そんな事無いよ」

「セイルはスワニーにも、もっと構うべきだわ」

「ごめん、スワニーも大好きだよ」

「当然だわ、スワニーもセイルが大好きだわ」

「セイル、私も、好きなのかな」

「今はもう遠慮しないで言える..好きだよ」

「そう、好きなんだ良かった」

「むぅ..セイルはスワニーは大好きなのだわ」

「何が言いたいのかな? 鳥女」

「セイルはスワニーは大好きなのだわ..だけど袋女はただの好きなのだわ」

「セイル..私の事も大好きだよね!」

「大好きなのはスワニーだけなのだわ」

「セイル?」

「セイル!」

「ごめん、僕やっぱりエドガーさんに挨拶に行ってくる」

「「セイルー」」

その後、僕はエドガーさんの所に逃げ出そうとしたが、その前にケムさんとファングに捕まり戻された。

こんな幸せな日々を過ごせるなんて少し前の僕には想像がつかなかったと思う。

見せしめのエルザ?
「結局、混ざり物は見つからなかったか?」

「あれだけ苗床女が居たら、1人や2人居ても可笑しくないと思ったんだがな」

「ケムさんの方はどうだった?」

「死体だった..恐らく女の近くに転がっていた死体が混ざり物だったのかも知れないな」

「混ざり物は生まれても食われてしまう..それじゃ無理だな」

「まぁ 今は聖女も加わったみたいだからある程度大丈夫じゃないかな?」

「ある意味、凄く楽しそうだしな」

「しかし、幾ら元が好きだった相手でも顔があれですよ!」

「スワニーを大切にしている時点で、彼奴には姿形は関係ないのかも知れないな」

「まぁここ迄しても無駄だったんだ、ファング諦めようぜ」

「エドガーさん、そうですね」

「ちょっと話聞いて貰えるかな?」

「どうした、ケム?」

「彼奴は外見は関係なく、自分に対する愛情で見ているんじゃないかな」

「どうしてそう思う?」

「いや、彼奴は殆どの魔物が好きだが、特に気に入った奴は彼奴によく懐いている二匹だった」

「そう言えば、スワニーもそうだな」

「なら、魔物に限る必要は無いんじゃないか?」

「そうかもな?..それで」

「エルザはどうかなって思うんだがどうだろうか?」

「見せしめのエルザ….彼奴か..だがあれは酷すぎるだろう」

「だが、セイルのパーティーはあれだぞ..なぁあそこに真面なメンバーは入ると思うか?」

「そうだな、悪いが俺でも無理だ」

「彼奴は本当に凄いよ..あんなメンバーでハーレムに居るみたいに笑っているんだ」

「だったら、混ざり物が手に入らなかった報告と一緒に情報だけ伝えてみるよ」

「ケム、それじゃ頼むわ」

「ああ、だが彼奴でも..まぁ決めるのは彼奴だな」

見せしめのエルザ? 光と影 【残酷注意】
小さな小国、スェルランド。

そこの公爵令嬢にバラに例えられる令嬢が居た。

名前はミランダと言った。

ミランダはとても美しくスェルの薔薇と呼ばれる美貌を持っていた。

そして、第二王子フリードと婚約も決まり幸せに成る筈だった..

だが、王立学園での生活も残す事後3か月となり、学園主催のパーティーが開かれた時の事だ。

「数々のエルザへの陰湿な嫌がらせ。申し開きはあるか、ミランダ」

エルザへの嫌がらせ…覚えは全く無い。

何かの間違いに違いないわ。

「エルザへの嫌がらせ…身に覚えは無いのですが?」

本当に身に覚えは無い…確かエルザは騎士爵の令嬢で一度挨拶を交わしただけの筈。

「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながらお前という女は良心が全く無いのか!」

本当に身に覚えが無い…そもそも騎士爵の令嬢なんて下の身分、そうそう会う事も少ない。

「フリードさま…本当に何の事か解りません」

 周りは静まりかえり、生徒たちは距離を置いて私たちを見ている。

 誰もが、黙ってその様子を見ていた。

「フリード殿下何を言われるのですか? 私は嫌がらせ等受けておりません!」

そうよ、私は何もして無いわ。

「エルザ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」

 フリード殿下の言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出す。

「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」

解ってしまった。

これは茶番だフリード様は心変わりした..だからこんな事をでっちあげたんだ..

「では、フリード殿下はどの様にしたいのですか!」

「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」

「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」

 殿下は雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。

 まるで舞台に立つ役者のよう。

「今日この時より、フリード・ルーランはミランダ・ポートランドとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにエルザ・クロウエルとの婚約を宣言する」

この婚約破棄はあり得ない..王子と言えど勝手に貴族と王族の婚約を破棄など出来ない。

ましてこの婚姻は王が決めた物、何人もそれを買える事は出来ない。

その結果、第二王子のフリードは捕らえられ処刑されてしまった。

ミランダは代わりに第一王子と結婚する事になった。

エルザはただ王子が片思いしていただけで、きっぱり「虐められてない」と証言したから無実が証明されお咎めはなかった。

本来なら、これでハッピーエンドの筈だ..だがこの物語はこれで終わらない。

ミランダはフリードを愛していた。

フリードは美しく、スェルに咲く白百合と呼ばれていた。

そして、ミランダは薔薇..いつか二人で花園ような生活を送るのが夢だった。

小さい頃から許嫁となり、その人生しか考えて無かったミランダ..

彼女はフリードを愛するように教育されただから、他の男性等愛せない。

しかも、第一王子は、フリードと違い…醜かった。

そんな男に抱かれて子供を作る人生は彼女にとって地獄しかない。

そして彼女は歪んでいった。

寝取っても居ない..それどころか自分の無実を証明した「エルザ」に逆恨みした。

彼女さえ居なければ、幸せだったのに..と。

王族は自分の息子の不始末から、責任として結婚する前から「王女」を名乗る事を許した。

ミランダは王女の地位を利用して、自分を助けたのだからとエルザに騎士の地位を与えた。

だが、これは巧妙な罠だった。

エルザに復讐する為に「騎士にした」これでエルザは自分の手駒どうとでも出来る。

すぐさまエルザを一番過酷な地に行かせた。

そこは今まさに隣国と戦争の最中だ、無事には済まない..筈だった。

だが、エルザは剣の才能に恵まれていた、エルザのジョブは「姫騎士」だった。

姫騎士は「剣聖」の次に優れたジョブ..激戦の地でも仲間を助け導き勝利を納めた。

多分、ここでエルザが泣きを入れたか、あるいは相手側の人間に犯されでもすれば、それでミランダの気はおさまったのかも知れない。

だが、エルザは勝利してしまった。

しかも敗戦濃厚な状態から勝利したから「戦場の女神」とまで言われる程人気が出た。

美しくて強い、そんな彼女には沢山の貴族から婚約の申し込みがくるのは誰でも解る。

だから、ミランダは更に歪んだ。

練習試合という形で騎士団長をぶつけた。

その際に勝ったらエルザを犯しても良いと伝えた。

エルザにその旨を伝えたら

「成程、戦場であれば犯され殺される..同じですね」

そう言って涼しく流された。

結果は、エルザの顔に大きな傷は出来たが..騎士団長は腕を失い死んだ。

本来ならエルザに咎めなど無い..自分を犯す..そう言う条件なら真剣勝負の筈だ。

「エルザ、何ていう事を..剣の指導をしてくれた相手を殺すなんて」

「待て、これは決闘の筈だ、私は無実だ..」

「私は練習試合と申し上げましたよ..何を馬鹿な事を..」

「嵌めたのだな..許せぬ..」

エルザはミランダに斬りかかった..だが複数の騎士に囲まれ捕らえられた。

エルザが目を覚ますと..そこは地下牢だった。

「目が覚めたようね..どう? 少しは惨めな気分になったかしら?」

「何故だ、私はミランダ様に嫌われるような事をした覚えは無い」

「私の人生は終わりだわ、大好きなフリードは殺され、ガマガエルような第一王子と結婚して子供を作らなくちゃならない..あんたに想像がつくかしら」

「つかないな..私なら嫌なら断る」

「私は貴方みたいに強くない..そんな事出来ないわ」

「逆恨みするな」

「そう、これは逆恨みよ..解っているの!だけどあんたが壊れない限り止まらないわ..その目が嫌いなのよ..」

「それで、私をどうするんだ?」

「3か月此処に閉じ込めるだけ..終わったら外に出すわ..そして貴方の人生にはもう干渉しないわ」

「本当だな」

「約束するわ」

此処は地下深くの特別監獄..日の光は一切届かない..どんな屈強な人間でも数日で壊れた。

終わりよ、終わり。

1日目..監獄なのに、食料も水も出て来ない..騙された。

彼奴は此処で私を餓死させる気だ..

2日目..喉が渇いた、だが此処は暗くて湿っている..見えないが探せば上から雫が落ちてくる場所があった。

そこの下で口を開いて居れば..水は手に入る。

だが、食料は手に入らない..

3日目…お腹が空いた..だが食べる物は無い..幾ら目を凝らしても何も見えない。

手を動かすと偶に何かがぶつかる..トカゲか? 私はそれを手に取ると口に運んだ。

生臭い血の味がしたが背に腹は代えられない

4日目..暗いのは嫌だ..

「だれか助けて、助けてくれー」幾ら叫んでも助けは来ない..ただ喉が痛いだけだ。

5日目..暗いのは嫌だ..

「たずけて くれ」喉が枯れた..もし助けてくれるなら、愛人だろうが奴隷だろうがなる..「たすけて…」

6日目…死んだ方がましだ..

だが死ぬ方法が無い..当たり構わず頭をぶつけるが痛いだけで死ねない..鼻も額もぶつけて血が出ているが死ねない。

7日目..死にたい

誰か殺してくれ..そう心で叫んだが、そんな者居ない..解り切っている。

8日目..棒を見つけた。

顔も痛いし体も痛い..だが、死にたいとは思わなくなった。

だったらどうする、この棒でも剣の代わりに振るう..それしかやる事はない。

2か月後..心眼に目覚めたのかも知れない。

トカゲの動きが見切れる..他に居た虫も見切れた。

見えないのに何処に居るかが解る..トカゲを食べるのに飽きた..虫は不味い

だけど..死ぬという恐怖はもう無い

3か月…彼奴がきた

彼奴がきたという事は此処から出られるという事だな。

「ひぃ..化け物..」

「化け物とは随分ご挨拶だな..約束だ、だして貰うぞ」

「いやあああっ来ないで..いやああ」

「貴様ぁああああああ出さないなら殺す」

私はミランダ相手に持っていた木の棒を振った、その枝が目に入りミランダは片目を失った。

怪我したことで冷静になったのかミランダは話し始めた。

「よよよよくも、私の目を..良いわ出してあげるわ..自分の姿を見て絶望するが良いわ..」

「約束は守るんだな」

「奴隷に落としてやる..それも他国に」

化け物..自分の姿に気が付いて居ないのね..老婆の様な白い髪に、岩にぶつけたのでしょう潰れてしまった顔。

最早人間には見えないわ..まだオーガやゴブリンの方が真面よ。

「ほう、戦闘奴隷にでもするつもりか? 」

「さぁね知らないわ..そんな事..あんたなんて買い手はつかないわ..銀貨1枚でもね」

「馬鹿な、私はこれでも騎士だ..」

「そう、売れると良いわね..」

私は樽に詰められ他国に奴隷として売られた。

何時か、ミランダは殺してやる..その復讐心は絶対に忘れない。

「しかし、この樽の中身はどんな奴隷なんですかね」

「女の奴隷だそうだ..廃棄奴隷として売って欲しいそうだ」

「廃棄、それじゃ..性病女..」

「違う、処女らしいぜ..」

「処女で廃棄信じられねー..それじゃババアか?」

「それが16歳らしい」

「何だそれ、掘り出しもんじゃないか..」

「良いか、商売物に手を出すなよ」

「解っているさ..引き渡すまで手を出さない..でも廃棄奴隷で訳ありなら銀貨5枚もしないだろう..みて良かったら売って貰うよ」

「そうか..それなら問題無いな」

途中問題も無く奴隷商について奴隷を引き渡した。

「輸送料は払ったぞ、何か用があるのか?」

「その樽の中の奴隷をみて見たい..」

「あっ女だからだな…確かに廃棄奴隷なら女でも金貨1枚しない..欲しいのか?」

「見てからだ」

「それじゃ開けてやる..」

「うわぁぁぁぁぁぁぁっ、」

「おい、これが欲しいならタダでやる」

「いいいいいらねぇ..いらねぇええよ..」

「畜生..此奴を押し付けたかったから他の奴隷が安かったのか」

「私がどうかしたのか?」

そこには顔が潰れて老婆の様な白髪の化け物が居た。

見せしめのエルザ? 怪物使い
エルザは奴隷として繋がれる事になった。

だが、買い手が来ない..しかも自分は「姫騎士」

護衛としても使えて、嫌な話だが性の相手もさせられる奴隷としては最高の筈だ。

絶望しか無い..だがあの暗闇の中の絶望に比べれば良い..

何でもする..男の相手でも何でも..そして自分を買い戻して、何時かミランダを殺す。

だが、私の所には誰も来ない..

手前では間違いなく商談されている。

だが、私の居る扉は開かれない..

16歳の処女で姫騎士..売れない訳が無い。

実際に騎士の時は沢山縁談がきていた。

此処にもミランダの手が回っていたのか..

食事はパンと水..トカゲよりは良い、だが、幾ら何でも可笑しい..

こんなんでは美貌は保てない…

水を飲む為に顔を近づけた..そこには..顔が潰れた老婆の様な顔が映った。

そうか..あははははは…そうか…私は死のうとして何度も顔を打ち付けていた。

しかも、恐怖で白髪になって老婆みたいになったのか…

何だ..終わっているんだ..あははははっ

私は此処で死ぬんだ..誰にも買われずに..

「処女で16歳、性病無し」

しかも、銅貨2枚、それに釣られて見に来るものも居る。

だが顔を見るなり

「ひぃいいいいいいいいいいっ」

「だから、言ったでしょう? 買いますか?」

「かかかか買う訳無いだろう..こんな化け物」

豚の様な男も

カマキリみたいな男も

どう見ても最低の男でも私は買いたくないらしい..

自分が男だったら..買わないなこんな女..

もう諦めがついた..

此処で誰にも買われない化け物みたいな奴隷として死んで行く..それが私の運命だ。

「すまねぇ..セイル、苗床の心辺りがあったから探してやったが、混じり物は見つからなかった」

エドガーさんにファングにキムさん、それだけじゃ無い、他の魔物使い達が必死で探していてくれた事は解る。

何故なら、討伐が凄く多い..特にゴブリンとオークがそれが全部とは言わないが、少しは関係あるのだろう。

「逆に気に掛けて貰ってすみません」

「良いんだよ、セイル、俺にとってあんたは子供みたいなもんだ」

「子供?」

「万年銅級、しかも魔物使いの俺じゃ家族なんて持てねぇからな」

「いや、たしかに裕福じゃ無いけど暮らせるんじゃないか」

「あのよ..お前から見たら違うかも知れないが…魔物使いは モテないんだ..娼婦すら嫌うんだぞ」

「そんな事」

「あるんだ、ファングをみて見ろ! 銀級だぞ..しかもセイル程じゃないがイケメンだ..なのに彼奴は女が居ないんだ」

「そうかな、狼系を従えている彼奴はカッコいいと思うよ」

正直顔は全員醜くしか見えないから解らないが..

「だがな、そんな彼奴も本当にモテない..それどころか臭い、汚いと嫌われる」

「可笑しいだろう」

「それを可笑しいと言うお前が可笑しい..だがな、本心からそれを言うお前に救われているんだ、「冒険者」のジョブなのに「魔物使い」に憧れているお前にな」

「そうか..ただ僕はスワニーやユリアと楽しく過ごせる街を作ってくれた「あんた達」に感謝しているだけなんだよ」

他にいったら、「気持ちがられる」だけだ。

「まぁ、良いや、俺たちはお前が気に入っている、それだけだ」

「それなら、僕も皆んなが好きだ..それだけだよ」

「そうか、それなら..そうだ、実は情報があるんだ」

エルザの事について話を聞いた。

「本当なんですか?」

「ああ、間違いない..言っちゃなんだが、スワニーやユリアが居るんじゃ真面なメンバーは集まらないだろう..だが、大丈夫か?」

「何がですか?」

「エルザはスワニーやユリアより..恐らく醜いと思うぞ..見てないから知らないが、人によっては気絶するらしいからな」

「本当に?」

「ああっ実際に、金の無い奴で性欲が強い奴がいて買おうとしたが…顔を隠しても怖くて出来ない、そう言っていた」

「本当に」

「ああっ、実際にそいつは遠征の際に性欲に負けてゴブリンのメスを使って性処理して性病に掛かったアホだ..そいつがそう言った」

凄いじゃないか..

「直ぐに行ってきます」

「おい、話を聞いていたのか?」

「はい」

いっちまったな。

本当に怪物王子とはよく言ったもんだ、男なら皆んなが憧れる「女神の宴」のパーティー入りを断り。

「赤髪のジル」の相棒も断る..名だたる美人冒険者がお前を狙っていたんだぜ..

尤も、スワニーやユリアを仲間に選んじまったから..離れて行ったけどよ..

「魔物使い」に憧れるって言うがお前は「怪物使い」だな..まぁ憧れはしねぇが、完全に仲間だよ。

見せしめのエルザ? 購入と勘違い
今迄で最高のスピードで走った。

恐らくは前世で魔王と戦った時以上のスピードが出たと思う。

大通りの大きな奴隷商にやっと着いた。

「すみません..ハァハァぜぃぜぃ」

「どうされました、お客様?」

「エルザ、エルザは居ますか?」

「エルザ..おりますよ」

(馬鹿な奴がまた来たな..16歳処女の奴隷が銅貨2枚、その情報だけを友人に伝えて、笑いものにする..その手の被害者ですかね)

「だったら、すぐに見せて欲しい」

「最近は彼女を見世物感覚で見に来る人も多いです、だから銅貨2枚預からせて貰って良いですか?」

「それはどういう意味ですか?」

「これは彼女、もしくは他の奴隷を購入されるならお返しします..購入されない場合は見物料金です」

「解りました」

(どうせ見たって買わないんだ小遣い位稼いでも良いだろう)

「それではご案内いたします」

前に行った奴隷商と同じで高価な奴隷の前をわざと通っていく。

僕から見たら、まさにお化け屋敷、前世の魔王城の方がまだましだ。

こんな化け物に金貨8000万枚なんて払うのは..可笑しく…無いのか?

俺にとってここまでの化け物..絶世の美人なのだろう。

(いいなぁ..彼凄くカッコ良い)

(買ってくれないかな..買ってくれたら何でもする..いやしてあげたい)

(だけど、無理..お金なさそう..なんで私奴隷なの)

スワニーと違い部屋は真面だった。

ただ、一番奥でカーテンで仕切られていた。

これは見せない為だ..恐らく此処をお客に見せない為に手前側4つの檻も空けているのだろう。

「入ったらカーテンを閉めてくださいね」

「来ないんですか?」

「すみません、私は見たくないのです..今でも夢でうなされます」

「解りました」

さて、お客が来たのか。

今日のお客は何秒持つのかな..5秒か10秒か..

どうせ買わないだろうし、話もしないだろう..

「貴方がエルザさんですか?」

(嘘でしょう..なんでこのタイミングなの、可愛くてカッコよい、もっと前に会いたかった..騎士だった時に)

「私がエルザだ」

凄い、僕の目にはクルセイダーか戦天使、戦乙女にしか見えない。

しかも、胸が大きく、スワニーやユリアと違ってエロイ、ビキニアーマーとか着ていたら目が釘付けになる。

胸が大きく、お尻も大きい、それなのに下品さもない、その筈なのに下品でもある、そしてエロイ。

自分が何を考えているのか全く解らなくなる..正直、スワニーみたいに布団に入って来たら拒む自信がない。

(逃げ出さないが固まったか..終わりだな)

「エルザさんって元騎士だったりする」

「えっ、まぁジョブは姫騎士だが..」

「仕えるのは貴族じゃ無くて平民でも大丈夫かな」

「こんな私だ相手は選ばない」

(嘘だろう、普通に話してくれているぞ..しかもまるで仕官の面接みたいだ)

「それは僕でも大丈夫」

「充分だ」

(充分すぎる..いいのか..私は化け物だぞ)

「それで、もし僕がビキニアーマーを着て欲しいって言ったら着てくれる?」

「ビビ..ビキニアーマー..見たいのか? 昔ならいざ知らず、今の私は..ああっ見たいなら着てもいいぞ」

(冷やかしだな..戦力としてならともかく、今の私にそんな需要がある訳が無い)

「そう、いいなそれ」

「おい、冷やかしなんだろう..今の私は化け物だ、だが話してくれて嬉しかったよ..普通に話すなんて久しぶりなんだ..ありがとうな」

「決めた買うよ..その代わり、ちゃんと仕えてくれよ、あとビキニアーマーも宜しくな」

「えっ..えっ..」

「主人、エルザを貰う事にしたよ、銅貨2枚で良いんだよな?」

「あの、本当に買って頂けるのですか?」

「ああ、買うよ」

「なら、銅貨も要りませんよ..その代わり返す場合は引取り賃は金貨30枚です、それでも良いですか? 実質絶対に引き取らないそういう意味ですよ?」

「それは良いが、なんでそんな契約になるんだ」

簡単に言うとこうだった。

奴隷にも人権があり殺す事や捨てる事も出来ない。

まして自分は奴隷商、違反を犯せば免許を取り上げられる。

だれも買わない商品なのに、食事に糞尿の世話をしなければならない..

そして何より彼女が檻を一つ占有しているから、奴隷の展示できる枠が一つ減る。

しかも隔離する為に手前の檻も4つ空けていたから5つの損失。

そういう事だった。

「そういう事でございます」

「奴隷が無料なのは解ったが、他に費用は掛かるんだろう?」

「全部無料で結構、奴隷紋もです…その代わり返す場合は金貨30枚頂きます、しかも彼女は悪名が知れ渡っていますかうち以外は引き取りません」

「エルザは悪い事をしたのか?」

「いいえ、奴隷商の噂で最悪の商品と呼ばれているだけでございます」

「なら良い..決めた買う..じゃなくて頂きます..それで銀貨1枚払うから彼女にシャワーを使わせて貰えないか?奴隷服も欲しい」

「解りました、言い値の銀貨1枚で融通しましょう」

「ありがとう、さっきの銅貨2枚もチップとして置いていく」

「ありがとうございます」

奴隷紋を刻み込んで貰い、店を後にした。

流石は騎士、僕と並んでも背は同じ位ある。

顔を見つめると恥ずかしそうに眼を反らす。

その仕草が凄く可愛い..

さっきはビキニアーマーって言っていたが、買えなくも無いが思ったより高価だ。

とはいえ、彼女は装備が無いと戦えないので、中古の皮鎧と鉄の剣を買った。

お店の人が何か言いたげな顔で見ていた。

「ビキニアーマーは良かったのか?」

「見たいけど、また今度にするよ..お金に余裕が余りないから」

「そそそそうか..うん残念だ..」

「悪いな、そんな装備で」

「私はセイル殿の奴隷だ、気にする必要は無い」

まだ、お祭り騒ぎは終わって居ない。

飲食店も無料だ。

野良猫庵に立ち寄った。

スワニーとユリアが肉を食べていた。

この街なら二人が出歩いても問題無い。

本当に良い街だ。

「セイル、もうミノは売り切れだわ..所で誰?」

「セイル、もしかして仲間?」

「うん、エルザって言うんだ、元騎士だから前衛に丁度良いだろう?」

「そうね..はい」

「それ何?」

「あの、セイル、私は貴方が好きよ..だから何をしても文句言わない、だけど常識を考えなさい」

「それ、マスクだよね」

そうだ、僕にこんだけ綺麗に見えるんだ、だったら彼女は..

「ごめんユリア失念していた」

「解れば良いのよ? だけど、あんたよく我慢していたわね」

「いや、セイル殿に醜い私を連れまわしたい、そういう性癖があるのかと思ってな」

「そう、セイルはノーマルよね?」

「そうだよ..うん」

「いや、違うぞ、セイル殿は私にビキニアーマーを着せたいらしい..さっきは金子の問題で買わなかったが..惜しんでいられた」

「セイル、偶には幼馴染どうしでお話しようか?」

こうして僕に3人目の仲間が見つかった。

そして、その日の夜は眠らせて貰えなかった。

羨ましい? 違うよ..ユリアに説教されていたんだ朝まで。

【新章スタート】 怪物王子(視点の違い)
今の僕は最高の仲間に囲まれている。

幼馴染で聖女のユリア。

まだ、修行中で魔法が使えないが、使えるようになれば最強のヒーラーだ。
その容姿は正に聖女、彼女が微笑んでくれるならどんな苦労も厭わない。
正に光に愛されたような少女だ。

女神の様なスワニー

素早く動き、敵を倒すその姿は背中の羽と重なって正に戦天使に見える。
その笑顔をみた男性はどんな人間でも虜にするだろう。
正に女神か天使それにしか見えない。
それでいて豪快に肉を頬張るおちゃめな面もある。
最高のパートナーだ。

姫騎士のエルザ

剣の凄さは折り紙付き。姫騎士だから凄く品があり、剣の動きは華麗でダンスの様だ。
顔を見れば、騎士に相応しく美人に尽きる。
目が合うと恥ずかしそうに反らすのは凄く可愛い。
しかも、体型は出る所は出ていて、引っ込む所は引っ込んでいる..一言でいうならエロイ。
物凄くエロイ..是非お金に余裕が出来たらビキニアーマーを買いたい..男の夢が詰まっている。

これが僕のパーティーだ..凄いだろう!

何より、本物の「聖女」に「姫騎士」が居るんだ。

こんなパーティは勇者しか持って無いだろう。

                             セイル

私達女冒険者は今悪夢を見ている。

冒険者には碌な男は居ない、だがそんな私達にも希望の星が現れた。

それはセイルくんだ。

美少年と美青年の中間の綺麗な顔、傍に居るだけで癒してくれる優しさ。

幾人もの美しさ自慢の冒険者が撃沈している。

怪奇袋女のユリア。

ヒーラーの素質があるという噂だが、まだヒールの呪文も知らないクズ女。
どう見てもお荷物だろう。
噂ではセイルくんを捨てた癖に泣いてよりを戻したらしい。
顔に凄いやけどがあり、見た物は「ゴブリンやゾンビの方がまだまし」そういう位に酷い顔だ。

怪鳥女スワニー

素早く動き、敵を無惨に殺していく姿は情け容赦ない正に魔物の姿だ。
その姿を見た物は残忍な魔物にしか見えないだろう。
どう見てもハーピーにしか見えない、彼女を森で見たら人間と思う物は少ないだろう。
豪快に肉を頬張る姿は魔物にしか見えない
子供でも食べないか心配に思えてしまう。

姫騎士のエルザ

剣の凄さは上手いのが解る。
だが、その姿は魔女すら美しく見えるほど醜い、一番近い者は顔を潰された老婆かも知れないが、それすらまだ優しい言い方だ。
セイルくんと目が合うと不気味に笑う..その姿は見ている者を凍り付かせる。
確かにスタイルは良いのかも知れない、だが手足は傷だらけであの顔ではそれですら不気味に見える。
どんなにスタイルが良かろうが、顔が潰れている老婆に見える顔の人間には需要がないだろう。

これがセイルくんのパーティーだ..美貌の美少年セイルくんが率いる「怪物パーティ」

セイルくんとはお近づきになりたい。

だが、このパーティーでやっていく自信は無い。

皆んなの王子様が…いつの間にか「怪物王子」になってしまった。

友人には臭い「魔物使い」が多い。

セイルくんは好きだ..だがあそこに入っていく事は私には出来ない。

いつか目を覚まして欲しい…そう思う。

                           セイルくんを愛していた美しき冒険者

                                  

暗殺
エルザに今迄の経緯を聞いた。

「ちょっと護衛依頼を受けたから10日間位留守にするね」

「セイル、まさか居なくなったりしないよね?」

ユリアは幼馴染、こういう時は妙に感が良い。

「違う、違う、ファングの依頼に付き合うだけだよ」

「そう、なら良いわ」

「スワニーはちゃんとお留守番しているわ」

「危ない仕事じゃないのか? 私が付き合った方が良いんじゃないか?」

「ただの商隊の護衛だよ、男ばかりだから、皆には遠慮して欲しい..」

(こんな私に男が何かするわけ無いのに)

(私を相手する男など居ない)

(だけど、それを言うのは無粋だ)

「それじゃ無理だね..留守番しているわ」

「男ばかりじゃ仕方ないな」

ファングには口合わせして貰っている。

「たまには男として羽を伸ばしたい時もあるよな」

と違う意味で誤解していたが、そのままにした。

獣道を進み、3日も掛からずスェルランドについた。

僕が聞いたミランダという女は粘着質だ。

エルザを不幸にする事に固執していたようだ..

もしかしたら、エルザが購入されて幸せになったら、また邪魔してくるかも知れない。

それ以上に誰かに見張らせていた可能性もある。

エルザを買ったのが禄でもない男なら..そこで終わったかも知れない。

だが、僕は出来るだけ幸せにするつもりだ。

もし、僕たちが成功したら邪魔するかも知れない。

その時は「僕の家族が危ない」

僕が見てない所で手をだして来たら守れない。

だから、先手を打つことにした。

スェルランドの城でまだ式を挙げて居ないのに王女の様に振舞っている。

そこまで解れば充分だ。

前世では単騎で魔王城に押し入り戦った。

当時の様な能力は無い。

今の僕の能力は、騎士団団長位の力だろうか。

ただ、これは大国のとつく国のレベル、小国のスェルランドなら無双できる

恐らく、城には100人も居ないだろう..

しかも正面から行くのでなくただ一人女を殺して出てくる、それだけだ。

門番が居るが、視界に入らない様に回り込む。

2人しか居なければ、視界の隙間を抜ける事など簡単だ。

そのまま、忍び込む…運悪くメイドと出くわしてしまった。

直ぐに声を出されたら困ったが、戸惑ってくれた。

その合間に首に手とうを打ち込み眠らせた。

そのまま夜に隠れるように塔を登る。

魔王に比べて本当に人間の王族は馬鹿だ。

高い所に居を構える。

小さな城等は外観から何処に住んでいるかおおよその場所が解る。

ある意味、城の役割を果たしていないともいえる。

王族が住むであろうフロアに来た。

さっきのメイドとは違うちゃんとした警備の為の騎士がいる。

平和ボケしているからか緊張していない。

可哀想だが死んで貰う。

殺してやるのがある意味慈悲になる。

生き延びてしまったら「王族を死なせた騎士として死よりも辛い日常が待っている」

ナイフを使い首掻っ切った。

異変に気が付きもう一人の騎士が襲ってきた。

王宮騎士は騒がない。

大きな声を出して王族に知らせるのは愚とする事が多い。

気が付かないうち「処理」するそれが王宮騎士だ。

良かった..此奴はプロだった。

だが、おかげで騒がれずに済ます事が出来た。

後は運だ。

王女だから小さい部屋の可能性が高い。

一番小さい部屋から調べる..2か所目の部屋に、ミランダが居た。

「だ」

言わせない様に口を塞いだ。

「首を振る事で答えろ、エルザを知っているか?」

首を横に振った…

嘘だろう、あれ程の事をして忘れているのか..

「良く思い出せ」

今度は縦に首を振った。

「なら、俺が何故此処に来たかわかるな..さよならだ」

首を掻っ切った、あっさりと死んだミランダの首を切り落としてこれで終わりだ。

そのまま首を包んで持って帰る。

来た時と同じ獣道を進んで帰ってきた。

門の近くで帰りのファングに合流してこれで終わりだ。

「羽は伸ばせたか?」

「まぁな」

「それは良かったな」

エルザの為に
「ただいま」

普通に帰ってきた。

「セイルお帰りなさい」

「お帰りだわ」

「セイル殿お帰り」

「それで、セイル、お土産とかは無いの?」

「ごめん、忙しくて買う暇が無かったよ..」

「セイルにしては珍しいね」

「ごめん、今日の夕飯は、ミノでも奢るから」

「ミノ、スワニーはそれが一番嬉しいわ」

「まぁ良いけどね」

「セイル殿、私に何か用なのか?」

「まぁね、そうだ、この後用事ある?」

「私は暇だ」

そりゃそうだ..パーティで行動を起こさない限り暇な筈だ。

「それじゃ出かけないか?」

僕は木刀と包みを持った。

「いいな、久しぶりに私も体を動かしたいからな」

ちなみに、スワニーとユリアは来ないのを知っている。

以前に付き合って貰ったらすぐに飽きてしまったから。

門を出て外に行った。

「もうこの辺で良いんじゃないか?」

「ちょっと森迄付き合って欲しい..」

「森になにかあるのかな?」

この辺りまでくればもう人は来ないだろう。

「あのさ..エルザは復讐がしたいんだよな」

「ああっそれだけは譲れない..いつかセイル殿に恩を返したら、自分を買い戻す、そして自分でかたを付ける気だ」

「僕はエルザと別れたくない」

「こんな容姿になってしまった私にそんな事を言ってくれた人はセイル殿だけだ..女としては凄く嬉しい、だが復讐心は忘れられない」

そう言うと思った。

「それに、セイル殿にはスワニーやユリアが居る、私が欠けても大丈夫だ」

「僕は贅沢なんだ、一旦手に入れた物は手放したくない」

「私は買われた身だからな..それには従う、だが復讐心は忘れられない..それに相手は王族だ..セイル殿にも迷惑が掛かるかも知れない」

やはりこうなると思った。

「僕は何があろうとエルザもスワニーもユリアも手放さない、死ぬまで一緒に居る気だ」

「そうか、なら私は復讐心を抱え生きていくしか無いんだな..嬉しい気持ちと悲しい気持ちが押し寄せてくる、複雑だ」

「だから、これを受取ってくれ」

「これは?」

「良いから見てくれ」

「こ、これはミランダなのか?」

「まぁな」

「どうしたんだ、これ…まさかセイル殿がやったのか?」

「ああ」

「どうしてだ、相手は王族だぞ..どうするんだ..」

「暗殺したから問題ない..目撃者も殺した」

「何故..何故ここ迄してくれるんだ」

「僕は贅沢なんだ..そして寂しがりやだ、こうでもしなければエルザは離れて行く、失いたくないだからした事だ気にしないで良いよ」

「だが..私は何を返せば良いんだ..この身もセイル殿が買った身だ、返せる物が何もない」

「だったら、心をくれれば良い..僕の望みは4人で面白可笑しく暮らす事..それ以外は何も無い」

「それが望みなんだな、その望みが叶うように精一杯頑張らせて貰う」

「ありがとう」

「お礼を言うのは私だよ」

エルザはミランダの首を放り投げると木刀で殴った。

流石は姫騎士、首はスイカを割った様に砕けた。

この首から誰かは解らないだろう、それに此処には獣も多い直ぐに食われてしまうだろう。

「セイル殿行こうか」

「そうだな」

エルザの顔にはもう翳りは無くなっていた。

王の判断
スェルランドのお城は大騒ぎとなっていた。

王宮騎士2人が殺され、王女は首が無くなっていた。

メイドが不審者に気が付いたが気絶させられ、全く手掛かりが無い。

これでは全く手のつけようが無い。

大きな騒ぎに成るかと思われたが..

スェルランド王、ジョセフ三世は涼しげな顔で腹心達に伝えた。

「いい機会です、ミランダの実家、スオード公爵家を切り捨てましょう..今直ぐ軍を編成して送り込みなさい」

「王よそれはどういう事でしょうか?」

「一石二鳥です。スオード家はミランダが正式に王女となった時に裏でこの国を自分の物にしようとしていた節があります」

「ですが、それは噂であって真実は解りません」

「だが、国の貴重な「姫騎士」への迫害、他の貴族の令嬢への虐待の証拠はある..黒で良いんじゃないですか?」

「しかし、証拠が」

「あるじゃないですか? ミランダが私を殺そうとして、それから守るために王宮騎士2人が死んだ、充分です」

「な!..ですが、首の無いミランダはどうするのですか?」

「燃やしてしまいましょう..それで終わりです」

「ですが」

「良いですか? もしこれが賊による物にしたら、騎士団長を含み何人処分しなくちゃいけないのでしょうか? そんな事は私はしたくありませんよ! 腹心の貴方を牢につなぐなんて私はしたく無いのです..」

「そうですな..王宮騎士2人は名誉の殉職、スオード公爵家に今直ぐ軍を送り更迭します」

「さすがスベル卿、頭の回転が速い」

「御意」

どこの賊か知りませんが感謝しかありませんね。

第二王子フリードが馬鹿をしたから、強く出られない事を良い事にやりたい放題。

せっかく、第一王子と婚約させてやったのに..拒んで、裏で馬鹿にしている様子。

第一王子のジークにしたって他に思い人は居たのです。

ですが王家の償いとして諦めさせた。

王家や貴族には義務があります、すぐに愛せとは言いませんが、その努力を怠ってはいけません。

まぁ賊にしたって、私や王妃、王子に手を出さなかったのなら..ただの私怨でしょう。

案外、本当はスベル卿あたりが裏でかたずけてくれたのかも知れませんね..

私が困っているのは腹心なら皆な知っていましたからね..

いずれにしても事態を収束させて終わり..それが良いでしょう。

ミランダは沢山の恨みをかっていた。

それゆえ、大事にはならず..全てが終わった。

【閑話】今ここにある危機
勇者ルディウスが率いる100人の部隊は快進撃をしていた。

だが、未だに四天王には遭遇しておらず、強い魔族には当たっていない。

勢いづく勇者達、仮初の勝利は彼らの警戒心を解いていた。

その為、考えれば解る事に誰1人気が付かない。

何故、昔の勇者は1人だったのか?

人数が増えても4人だったのか?

その理由を考える者が一人も居なかった。

快進撃の触書はここアルマンにも来ていた。

「これは不味い事になるな..」

「セイル殿、どう見ても快進撃の事しか書いて無いが」

「まぁいいさ、僕たちには関係ない事だ、気にしても仕方ない」

「もう勇者は関係ないからね、行きましょうセイル」

「スワニーは美味しい物が食べれればどうでもいいわ」

そう、僕たちには関係ない、勇者が負けようがここアルマンまで魔王軍が来る可能性は低い。

実際に魔王を倒しても、魔族は生きているし、過去には何度も勇者が負けた事もあったが人間は滅んでいない。

精々が境界線が大きく動く、それだけだ。

勇者が倒されても、直ぐに新しい勇者が決まる。

ただ、その期間が絶望に染まるだけだ。

だが、これは僕たちや冒険者には関係ない。

農家や領主は「その土地から逃げられない」

だが、僕らは何処にでも行ける、魔族達が進行してきたら捨てて逃げれば良いだけだ。

今の僕は勇者じゃない..戦う理由などないのだから。

尤も、アルマンには来ない可能性が高い。

王都から離れているし、魔族領からの進行とは逆の地にある。

魔族が敵にしているのはこの国だけでは無い。

態々、王都を滅ぼした後に此処まで襲う意味は無い。

そんな事している時間があれば、他の国に向うだろう。

あくまで、僕の勘だが。

「さてと、今日はエルザもいる事だし、ミノタウルスを狩ってみようと思う」

「ミノ..スワニーも狩る、美味しそうだわ」

「私は、ヒールを覚えたから、早速使ってみるわ、魔力の底上げもしたいからね」

「ミノタウルスか腕がなるな、だがセイル殿? ゴブリン、オークといったら次はオーガが定番なのに外すんだ?」

「まぁオーガは集団戦闘があるから..ミノタウルスは多くても4匹位しか群れをつくらないからね」

本当は違う、ゴブリンやオークはオスのみ..だがオーガはメスもいる。

僕の目からは ゴブリン(ショタ) オーク(ぽっちゃりボーイ) オーガ(筋肉男) オーガメス(筋肉お姉さん)

に見える…筋肉お姉さんは殺すに忍びない。

だから逃げた。

ちなみにミノタウルスのメスは..胸の大きいお姉さんに見える可能性もあるが、余りメスは見かけないのでこっちにした。

そのうち、耐性をつけないと不味いのかも知れない。

その頃魔族は..

馬鹿な人間が来る..人数が解っていて、進行方向が解れば恐れるに足らず..

敵が100人で来るなら1000..いや1万の軍勢を率いれば良い。

「四天王、剛腕のマモン」

「御意」

「四天王 魔将軍ゾルバ」

「はっ」

「四天王 不死の軍団長スカル」

「はっ」

「三人には1万の軍勢を率いて勇者討伐を命じる」

勇者達は..いや国や世界が勘違いしていた。

勇者達の強みは「どこから来るか解らない」その事が強みだった。

どこから来るか解れば、幾らでも手を打つ方法はあるのだ。

100人での行軍等、中途半端な事はするべきでは無かった。

やるなら、軍を編成するべきだった…その甘い考えのつけは..命で支払う事になる。

その事にまだ誰1人気が付いていなかった。

【閑話】勇者達 旅の終わり

1万の魔王軍に包囲された勇者ルディウス達の状況は悲惨その物だった。

剣聖率いる騎士小隊30人には不死の軍団長スカルが率いる不死身の軍団総勢3000人余りが対峙した。

剣聖であれば通常の魔族の100人位はどうとでも成る。

だが、数は3000..幾ら優秀な騎士を抱えていても1人の英雄が居てもどうする事も出来ない。

「剣聖様..助けて、助けて..助けて下さい!」

「メルダ様、助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて」

「ふあっはははははは..剣聖と言えど、不死身の軍団の前では他愛も無い..ただのゴミの様だ」

剣聖は死に物狂いで剣を振るった。

「竜巻切り」

近くのスケルトンが10体吹き飛んだが..すぐに再生してしまう。

相性が悪すぎた..物理攻撃が主体の剣聖に不死身の軍団。

数が150位ならそれでも勝利を納められたかも知れない..相性が悪い上に、多勢に無勢..しかも地の利は無効にある。

「どうしろって言うんだよ..」

無数のスケルトンに組み付かれ、剣聖は錆びた剣で串刺しにされ..首を切り落とされた。

首を槍に刺し、高々とスカル達の雄たけびがこだました。

宮廷魔術師率いるヒーラー部隊30人は更に悲惨極みなかった。

剣聖達の守りが無くなった為に、そのまま軍団が押し寄せてきた。

聖なる呪文を駆使する彼女達は本来なら天敵の筈だった。

ただ、多勢に無勢..数で蹂躙されていった。

ただ、皮肉にも、剣聖たちが200も倒せなかった不死身の軍団相手に彼らは善戦した。

その結果、不死身の軍団は1500迄数を減らしていた。

「もはや、此処までの様ですね..せめて、一人でも多くの魔族を道連れに死ぬ事にしましょう..私が道は切り開きますから逃げれる者は逃げて下さい」

「魔術師長様..嫌です、我々も逃げたくありません」

「ならば、共にいきましょう..光臨.」

自己犠牲呪文..彼等はそれを使い..500の魔族を道連れに死んでいった。

「自己犠牲呪文、光臨ですか..私の不死身の軍団を相手に此処まで戦うとは….なかなかの者達ですね..死体は回収してアンテッド材料にしましょうか」

「最早、これまででしょう..勇者ルディウス、私達が切り開きますから、逃げて下さい」

「賢者ルビナス…」

「貴方が倒れたら..大変な事になりますよ! お辛いでしょうが..お逃げ下さい」

「解った..すまない」

「これでは俺たちが出る幕が無いじゃないな?」

「そうでもないぞ、あそこから勇者が逃げ出そうとしている」

「それでどちらが行く?」

「どうせ、マモン殿が行きたいのでしょう? 譲るとしよう」

「ほう、良い心がけだな」

戦闘狂が、譲らなければ気が済まないくせに..

しかし、よくやるよ、一対一で強者を葬るのが正しい等と..

そうだ、儂は余興でも楽しむとしよう。

「スカル、遊びをしないか?」

「ちょうど飽きてきた、聞こうじゃないか」

「おい、人間の賢者よ..」

「魔族が私になんの用があるんですか」

「あそこで勇者がマモンと戦う、もし勇者がマモンに勝つことが出来れば、お前たちの命を助けるとしよう」

「何か裏があるのだろう?」

「もしマモンが勝ったら、お前を貰う」

「慰み者にでもする気ですか」

「凌辱などはせん、お前は我らから見たら薄汚いメスにしか見えん…ただそこのスカルは改造が好きでな..お前を改造させろ..それだけだ」

「勇者は一対一なら誰にも負けません、その勝負、載りました」

「良し、成立だ…賢者とその仲間を囲んでおけ」

「約束は守るのでしょうね」

「ああ、魔族は約束はたがえぬ..安心するが良い」

「勇者よ..そういう事だ」

「約束は守ってもらうぞ」

「ああ、守るとも..俺に勝てたならな」

「二言は無いな」

「無い」

勇者ルディウスは疾風のように走り剣を振るった。

狙いはマモンの首だ。

ぶつかった瞬間激しい音がした..

ルディウスは、その衝撃に負け聖剣を落としてしまう。

「そんな物で儂は斬れぬ..ほらもう一度やってみろ」

マモンは聖剣を投げ返した。

「その余裕がお前の命取りだ..これが奥義、光の翼だ..」

凄まじい光が聖剣を輝かせる..龍種すら斬り裂く勇者の奥義がさく裂する..

だが、ガキッ..

「うわああああああああああああああっ」

聖剣はマモンを切り裂かなかった..聖剣は折れなかったが、その反動でルディウスの腕が折れた。

「悪いな、俺の体はミスリルよりも固い..切り裂いた者等はおらん..さぁ今度はこっちから行くぞ」

此処からは一方的だった。

ルディウスが腕で庇おうがお構いなしにマモンは殴りつける。

庇った方の腕が半分以上千切れ掛かった…かろうじて繋がっているだけ..もう手は動かないだろう。

「うがっっ」

「流石は勇者、遊びがいはある…だが両手が使えないなら次は何をするんだ? 勇者!」

「貴様…俺は勇者だ..」

「両手がないその状態でどう戦う?」

「もう無理だ..助けてくれ..二度とは戦わない..だから、だから辞めてくれ」

「それで、仲間はどうする」

それに答えず、ルディウスは後ろを向いて走り出した。

「お前は勇者にあらず」

そう言うと、マモンは走り出し、勇者の足を掴んだ、力任せに叩きつけられた勇者の体は叩き付けられるたびに肉片が飛び散った。

「賢者の女よ..勇者は負けて逃げだそうとした、我々の勝ちだ」

「一体、何をしようと言うのです」

「楽しい、改造の時間だ..」

「ふっ、そんな事される前に私は自害を選びます」

「そういうと思って、お前の仲間を残しておいたのだ..お前が自害を選ぶならこの5人も殺すとしよう」

「「「ふっふうううううー」」」

猿轡をされた魔導士が5人転がっていた。

「わかったわ..私がその改造を受け入れれば、5人は助けてくれるの..約束したわ」

「解れば良い」

スカルは、賢者ルビナスをこれでもかという程いじくりまわした。

「うぐっうぐぐっ..あああああっ」

「何を恨めしそうな顔をしておる、醜いお前の姿を魔族の様に美しい姿に変えてやろうというのだ有難く思え」

「おい、これは不味いだろう」

「此処は魔族でも無い..顔が崩れているぞ」

「いや大丈夫だ..これで」

「お前、これは..昔いた、北の大陸の魔女の顔を再現しようとしているのか?」

「そうだ、見た物は、その恐怖で心臓が凍り付き死んだというあれだ」

「出来るのか..魔王ですら、心臓が氷つき死ぬというあの容姿…再現など出来ぬであろうな」

「うううっうぐう」(何を言っているの?)

「勿論、出来ない..だがどれだけ近づけるか再現してみたかったのだ..流石にむやみやたらにはこの改造は出来ないからな」

「確かに、もし完成したら存在その物が恐怖だ」

「だろうが、此奴なら人間社会に送り込めば済むが..やはり再現は無理だな」

「ここまでしても..無理なのか..」

スカルはルビナスに仮面をつけて離した。

「おい、そこの5人..」

「「「「「はい」」」」」

「お前らは、証人として生かして置いた、そこの勇者の死体とこの賢者を持ち帰るが良い..そして逆らうとこうなると伝えるのだ」

「わわわ解りました」

魔族達が去り賢者1人と5人のヒーラーが残された。

賢者は改造の為かピクリとも動かない。

5人のヒーラーは考えた、国に戻っても、何だかの責任を取らされるに違いない。

だが、此処には、高級な装備が沢山落ちている。

それらを拾っていき、お金にすれば一財産稼げる

話し合いの末彼らは..賢者を放り出し、武器や装備を拾い集め逃亡する事に決めた。

4人目

ケムとファングは「戦場漁り」に来ていた。

戦場やダンジョンで武器やアイテムを拾ったら自分の物に出来る。

そのルールから案外行う者は多い。

まして相手が魔族であれば殺した相手の装備や武具がまるまる、捨て置きされる事もある。

凄く美味しいのだ。

通常なら、怖くて戦場には出れない。

しかし、魔物使いなら自分の従魔に見張りをさせて安全な所で戦が終わるのを待てばよい。

だからこそ恰好の金儲け手段でもある。

「流石に、聖なる武器はないな」

「だけど、ミスリルの剣があるぞ..まぁ折れているがミスリルだそこそこのお金になる」

「こっちは金貨だ..相手が魔族だから拾い放題だな」

「なんだ、この仮面の女は..」

「案外美人なのかもしれないな..見て見るか?」

「これは、うぇ..混ざり物だな」

「ああっ混ざり物だ、しかしどんな混ざり物ならこんな顔になるのか..とても醜いな」

「これはセイルのお土産に良いんじゃないか?」

「そうだな、拾った混ざり物は拾い主の物..セイルにやろう..最近世話になっているからな」

「ああ、此奴にとってもこんな顔じゃ行先も無いだろう、怪物王子の傍が一番幸せだ」

「騒がれても面倒だ、このまま寝かしておいて奴隷商で引き渡してやれば良いんじゃないか?」

「眠り草も捨てるほど捨ててある..それで良いんじゃないか」

「しかし、流石は魔族..死体は惨たらしいな」

「だがこのお宝が手に入るんだ辞められないな」

「戦場漁り」はいかに早く漁るかだ。

他の者に先を越されたら良い物は手に入らない。

更に遺体が腐敗してきたら疫病のの元になる。

そういう意味で彼らは慣れていた。

沢山のリュックに戦利品を詰めて従魔に運ばせ、ケムとファングは2週間掛けアルマンに帰ってきた。

拾ってきた女と戦利品をギルドに見せる。

そのまま、戦利品はギルドで1か月預ける。

これは絶対では無いがギルドに預ければ、遺族等が買い取り依頼をしてきた場合高く売れる可能性がある。

また、ゆくゆく自分の物にした後の所有権のありかがしっかりと証明できる。

「はい、こちらが預かり目録です..あと、その女性は..混ざり物ですから、連れてきてしまった以上は責任が発生します..奴隷にするにしても、しないにしても保護して貰う事になりますよ」

「そそ..そうですか」

(おい、もしセイルが引き取ってくれないと..まずいぞ)

(すぐに、セイル呼んでくる)

「混じり物が手に入ったぞ、セイル」

「本当ですか? 皆ちょっと行ってくる」

「ちょっとセイル待ちなさい」

「ごめん、お説教なら後で聞くから…ごめんね!」

「セイル殿..」

「セイルスワニーはお土産が欲しいわ」

「解った..」

俺はケムさんの後に付いていった。

冒険者ギルドに行くとファングが居た。

近くには奴隷商らしき男と顔に面をつけた女の子がいた。

「この子が..混ざり物ですか?」

「よかったな、ようやく約束が果たせそうだ、ただもう見つかる事は無いかも知れないな」

「ありがとう、ファング」

「良いんだ、俺たちには全く価値が無いものだからな..ただ、最初に言っておくがかなり酷いぞ..お前の所の仲間と比べても更に数段酷い」

そこまでの美人なのか..

仮面をずらして見た瞬間、体がぞくりとした。

凍てつくような美人と言うのか..最早人間ではない、幻想の世界の女神のようだ。

スワニーが人間的な女神なら..これは神世界の玉座に座る様な女神だ..神秘的そうとしか言えない。

この世界にこれ以上の美人は居ない..そう言われても信じてしまう。

「本当に良いのか?」

「買って貰えないと俺が困るんだ」

「直ぐに、ファングに金貨1枚払った」

「おい、約束は銀貨5枚だぞ、こんなには貰えない」

「良いんだ、余分な分はケムさんと酒でも飲んでくれ」

「お前、本当に醜い女が好きなんだな..お前位の美貌があれば綺麗な女だって離れていかないぞ」

「ファング..もし、僕が醜くなったら..五体満足で無くなったらどうだ..そういう女は傍にいてくれるか?」

「そりゃ解らないな」

「だろう?」

「この寂しんぼめ..まぁお前がどうなろうと俺やケム..エドガーさんだって友達のつもりだぜ」

「ありがとう」

「さぁ..とっと奴隷登録しちまいな」

「お願いします」

「奴隷紋に銀貨1枚..此処まで醜いと首輪が必要だから銀貨3枚、合計銀貨4枚になりますが宜しいですか?」

「はい、銀貨5枚払います..1枚はチップです」

「おおっ来たかいがありました..有難うございます」

店に居れば商品が売れるかも知れないのに出張してくれたんだこの位のチップは弾むべきだ。

ケムやファングだって彼女を連れ帰らなければ戦場漁りでリュック2つ多く持ち帰れた筈だ。

本当ならあんな物じゃ足りない筈だ..友情価格、そう言った所だろう。

奴隷紋が刻まれ、首輪が装着された

勿論、変な事はしないが、こんなに綺麗な子が自分の物になったかと思うと凄く嬉しい。

「ありがとうファングにケムさん..このお礼は何時か返すよ」

「気にするな、金貨1枚も貰ったんだ…貸し借り無しだ」

「こっちもな…それでまだ混じり物は探すのかい?」

「流石に5人パーティーになったから充分だよ..結構バランスも良いしね..二人も世話して貰って申し訳ない」

「良いんだぜ..しかし、本当に魔物使いになっちまったな」

「どういう事だ?」

「いや、混ざり物二人に、その醜い女二人..正にそうだろう..なぁケム」

「そうだな、俺のパーティー以上に凄い絵面だな」

(僕にはハーレムパーティーだ..とは言えないな)

「そうか? 俺には大切な仲間だ」

「そういう所が、魔物使いなんだ、俺の連れているウルフ系は渋いが、ケム何てオークやゴブリンだぜ」

「おい、ファング幾らお前でも許さんぞ」

「冗談だよケム、だけどほら、ケムにとっては従魔だからオークでもゴブリンでも大切なんだ..お前があの醜い奴らが大切なようにな」

「そうだな」

「そうだ、お前は魔物使いのジョブこそないが立派な魔物使いだ..俺が保証してやるよ」

「何だか、仲間みたいな気がして嬉しいな」

「そうか良かったな」

(魔物使いの仲間になれて嬉しいなんて奴はお前しか居ないけどな..大切そうに抱きやがってよ、ミスリルの装備一組捨てたかいがあったぜ)

(お前にとっては俺の従魔と一緒、そういうこったな)

「ありがとう」

こうして、僕に4人目の仲間が加わった。

話し合い

「それで又、奴隷を買ってきたのね…」

「うん、そうなんだ、ミノの串焼きを買ってきたから、食べながら話そう」

「スワニーは肉が貰えるなら問題無いわ」

ふぅスワニーは楽で良いな、大概の事はご飯で済ませられるからな。

「私はセイル殿のやる事に文句は無い..主に文句を言う騎士等居ないからな」

「そうか助かるよ」

エルザは騎士の考えが強いから比較的僕のやる事に文句は言わない。

問題はユリアだ。

「まぁ良いわ、美少女でも買ってきたなら、泣きが入る位文句を言うけど、どう見ても違うわね」

僕にとっては究極の美少女だとは言わない。

「そうだね」

「それで彼女はどういう人なの?」

「それが寝ている状態で引き取って来たから解らないんだ」

「なに? それ、奴隷にするなら身元位は..あっごめん!」

(まだ、私の事が尾を引いているのかな…)

「何を思い出したのか何となく解かるけど、それは気にしなくて良いよ…ただ、僕は」

「贅沢で寂しがりや何だろう? セイル殿は、それじゃ仕方ないな」

暫く、彼女が起きるのを待った。

余程辛い事があったのだろう、彼女は泣いていた。

「ここは..私はいったい、そうだ私は..ひぃあれっ魔族じゃない..」

「酷いわね、貴方は私以上の化け物じゃない!」

「化け物? 賢者たる私が化け物?..えっ..鏡、鏡、鏡を頂戴..お願いお願いよ!」

「そら鏡だ、鏡がどうしたんだ!」

嘘、これが私なの! 本当だった..本当だったんだわ..あははははははぁぁ

こんなの私の顔じゃない..こんな醜いなんて..何でよ、何で..こんな思いしなくちゃいけないのよ..

本当に、本当に改造されちゃったんだ、魔族だって顔を背けるようなこの姿..夢じゃなかったんだ..

こんな姿でどうやって生きて行けばいいのよ..私より醜い者なんて、もう何処にも居ないわよ..

あははははっ駄目だ私..人生終わっているわ。

「おい、大丈夫か?」

私は賢者、賢者..落ち着かなくちゃ。

「貴方達はいったい誰なんですか?」

「私はセイル殿のパーティーでエルザと言う..」

「私はどうして此処にいるんですか?」

「それは僕が話す」

僕はこれまでの経緯を解りやすく話した。

「ははははっ…奴隷ですか..奴隷、賢者迄なった私が、醜くなって奴隷なんて、なんてあははははっそうなのね..」

「賢者? 貴方賢者なの?」

「そうですよ! この姿じゃ誰も信じないでしょうけどね!」

「という事は貴方がルビナスなのね」

「何で、私の..まぁ賢者だから知っていて当たり前か」

「それもあるけど、もしかしたら仲間になる相手だったからね」

「まさか? 私は賢者なのよ?」

「元でしょう? 私だって一応は元聖女だわ」

「嘘でしょう! ユリア聖女なら死んだ筈ではないですか」

「生きているわ! まぁこの通り醜くなったけどね」

「貴方がいれば、こんな事には..」

「関係ないわ..私は教会を追い出された身なのですからね」

「ですが、まぁ言っても仕方ない事ですね..それでこの仲間は何の仲間ですか? 見世物小屋ですか?」

「違うよ..僕たちは冒険者パーティーだ..しかし、賢者だったんだね..それでどうしたい?」

「どうしたいとは..私はもう貴方の奴隷じゃないですか?」

「いや、もし仲間の所に帰りたいというのなら解放するよ」

「無理だわ..この醜い姿では何処でも相手はしてくれない..死にたい位だわ..まぁ貴方がどうしてこんな化け物を奴隷にしたのか知りませんが」

「それは仲間にしたいからだよ」

「仲間?..誰がこんな私を仲間にしたいの? ねぇ..私化け物よ..魔族やモンスターすらまだ私に比べたら真面だわ」

「そうね、言いたいのはそれだけ? 確かに貴方は群を抜いて酷いけど、此処に容姿に恵まれた者など居ないわよ」

私は、周りを見た。

どう見てもハーピーにしか見えない鳥人間。

老婆の顔を潰したような無駄にスタイルだけは良い女。

聖女と名乗っている、顔が溶けた女。

「確かに、皆が酷い容姿だわ」

「あんたもね!」

だけど、何でこの少年はこんな化け物女みたいな者ばかり集めているのか解らない..

見れば見るほど綺麗だ、賢者の時の私だって彼から告白でもされたら拒み切る自信はない..

「それは解ったけど、その、なんでご主人様は..こんな仲間で冒険者をしているのでしょうか?」

「それはね」

「セイルは良いから、少し外に出ていてくれる?」

「何で?」

「女の子同士の話し合いだから..良いよね」

ユリアが凍った笑顔の時は逆らったら怖い。

「解った、それじゃちょっとギルドに顔を出してくる」

「ありがとう」

「態々、ご主人様を追いだしてまでの話なの?」

「まぁね..話すとちょっとセイルにとって嫌な話になるから..」

「そう?」

私は自分の話からセイルの考えについて話した。

「成程ね..心に傷を負って..ずっと一緒に居てくれるそういう仲間を探していた訳だ」

「そうよ」

「確かに、こんな姿だもの、行く所は無いし、あんだけの美少年がそばに居て大切にしてくれるなら居たいよ..まぁそれ以前に、彼程の美形なら賢者の時だって充分付き合いたいと思うわ」

「そうだろう、私もそう思うぞ」

「貴方は?」

「姫騎士だった..エルザという」

「嘘、姫騎士?..なんで此処にいるのよ」

「わけあってな」

「それはそうと、ユリア、貴方最低ね..だけどそのおかげで、今の私にも居場所がある訳ね」

「それは自覚があるよ..自分も含めて周りがこんななんだからさ..セイルなら普通に綺麗な彼女を作って幸せになれるのに..私が可笑しくしちゃったのだから」

「そうね..まぁ考えても仕方ないわ..だけど、貴方達は大丈夫なの?」

「何が?」

「彼、他に女が居て、浮気したりしないわけ」

「無いな」

「無いね」

「セイルはスワニーが大好きだからね」

「まぁ、私は奴隷だし、行く所もないからお世話になるわ」

「それじゃ、セイルの所に行こうか?」

「そうね..うん、ちゃんと挨拶しないと」

しかし、凄い絵面だな..正直四天王より凄いわね..自分も含んでモンスターの小隊みたいだわ。

アイル
えーと私は奴隷な筈なんだけどな..

「古着やさんで買ってきたんだ、とりあえず好きなのに着替えてね」

「着替えて良いの?」

良く見ると皆の洋服が掛かっている、どれも上等な服だ。

貴族みたいな服では無いが平民が着るにしては上等だ。

「これは、全部 ルビナスの為に買ってきたんだから好きなの選んでね」

「解った..」

三着もある。

しかも、洋服掛けの中に私のスペースもちゃんとある。

更に言うなら、昨日シャワーを浴びさせて貰った。

正直、こんな醜い私に気を使う必要は無いのに、私や他の者が浴びている間は態々外出していた。

ユリア以外は全員奴隷だ..もしそう言う事がしたいなら、やっても誰も文句は無い。

最も、こんな醜い女抱きたいとは思わないだろうが…

それは別としても態々気なんか使わなくて良い筈だ。

これではまるで奴隷ではなく男と同棲しているみたいじゃないか?

昔の私なら解らなくはない..自分で言うのもなんだが、「青髪の美少女」とか「図書館の天使」なんて言われて告白も何回もされた。

まぁ..胸が小さくて背が小さい以外は..うん可愛いかった。

だが、今は..化け物なんだ、なのに..待遇が良すぎる。

しかも、食事に行くと聞いてついて行ったら..セイルが椅子を引いてくれたんだ。

奴隷は普通は立っているか床に座るのが当たり前の筈だ。

実際に、他の奴隷はそうしていた。

身なりの良い女、恐らくは性処理目的の奴隷だって同じだ。

こんな扱い、奴隷なら高額なエルフの奴隷位な筈だ。

だが、此処で更に驚かされる。

「スワニーはミノが食べたい」

「今日は新しく、ルビナスが入った記念だ良いよ..お姉さんミノのステーキ5人前、あとエールも5個お願い」

いや、可笑し過ぎる、ミノタウルスのステーキは高級食だ、奴隷が食べれる訳が無い。

多分、エルフの奴隷でも食べれない。

しかも、あの様子だと常に食べているみたいだ。

「あのご主人様」

「セイルで良いよ?」

「それじゃ、セイル様、私は奴隷なんですよね?」

「一応、そうなるかな?」

「なのに、この扱いはどうしてなのでしょうか?」

正直、信じられない..まるでこれは、そうまるで付き合っているような扱いだ..

服を買ってくれて、御馳走を食べさせて貰って優しくされて..他には考えられない。

「セイル殿はいつもこうだぞ」

「スワニーが大好きだからね」

「多分、当人はお金で家族を買った..そう思っているのよ」

他の奴隷が羨ましそうに見ている。

そりゃそうだわ..奴隷なのに良い服を着てテーブルについて最高のメニューを食べる。

しかも相手は美少年..羨ましいに決まっている。

だれが見ても奴隷じゃない..これって恋人扱いじゃないか?

少なくとも、今迄の人生でこんな大切にされた記憶はない。

この後、お小遣いまで貰った。

銀貨5枚..皆同じ金額。

賢者の時は色々な人が傅ていたが..それは戦うという対価があったからだ。

そりゃあ、命がけで戦うんだから当たり前の事。

恋愛にだって打算はある。

それが肉体が欲しかったり、優秀な私に養って貰いたいなど下心が一杯だ。

だけど、セイル様は..無償じゃないかな。

私は奴隷なのだから、抱きたければ何時でも抱ける。

こんな醜い女が抱きたいかどうかは別だけどね。

戦いに加勢して欲しいなら何時でも命令できるよね。

それ所か、私を働かせて遊んでいる事も出来る。

つまり、私は既に、セイル様の物なのだ。

それなのに..こんなに待遇が良い。

この醜い顔じゃ無ければ、解らない訳じゃない。

だけど…私より醜い女等、何処にも居ないんじゃないかな..そこ迄醜い私。

そんな女に優しくしたって何も….得なんかしない、絶対に得なんかしない。

それなのに..凄く優しい。

考えれば考えるほど解らない。

だけど、セイル様や..私と同じ様に醜い仲間が..私の居場所を作ってくれた。

何が返せるかは解らない..だけど返せる物があるなら何でも差し出したいと思った。

「さてと、これからどうしようか?」

私は賢者だ..まずは戦う事で返す事にしよう。

「セイル様さえ良かったらギルドで登録したいと思います」

「それじゃ今から行くか?」

「はい」

冒険者ギルドに着いた。

名前が同じだと賢者だとバレるかも知れない。

功名心がセイル様にあるならそれも良いが、静かに暮らしたいなら名前を変えた方が良いと思う。

「こちらに名前を書いて頂けますか?」

「はい」

私は名前の欄に「アイル」と書いた。

「アイル様ですね」

「はい」

アイルの名前は..「愛してますセイル様」から浮かんだ名前だ。

後ろのユリアさんから凄く冷たい冷気を感じますが..気にしません..私、賢者ですから。

アイル?
勇者ルディウスが死んだ。

話したことはあるし、知り合いなんだから悲しいかどうか..と言えば..

そんなに悲しくはないな。

「お前可笑しいだろう?」そう言うかもしれないけど..本音だ。

だって、暫くしたら転生しているからね。

まぁ僕は魔王討伐の際の特典に「前世の記憶」を貰っているから前世の記憶がある。

多分、他の勇者はそんなの貰ってないから、記憶は無くなるだろうけど..

時間軸のズレで数十年後になるけど、赤ん坊からスタートだ。

まぁ勇者では無いのかも知れないけど、勇者になったもので転生しない事は無いから大丈夫だ。

剣聖も同じだ。

次の人生が約束されているんだから..悲しむ必要は無いだろう。

(次の人生は幸せに)

それだけ願ってやれば良いさ..

アイルに魔族の事について聞いてみた。

「こんな姿にされたんです..憎いです..だけど、もう関わりたくはありません」

「そうだな..もう忘れる事だ..これからは一緒に面白可笑しく過ごそう..嫌な事は全部忘れるくらいにな」

「そうですね、今は毎日が楽しいです..こんな幸せ今まで無かったですから、きっといつかは忘れるそう思うくらいに..」

「スカルか?」

「はい..この姿にされた時の恐怖が頭から離れません..ですが、何時かは忘れられると思います」

「マモンは?」

「私は薄情なんでしょうね…一対一で正々堂々と戦ったのだから、ルディウスの死を仕方ないと思ってしまいます。しかも最後に勇者は私たちを見捨てて逃げようとしました、そして私の仲間もです」

「仕方ないさ、怖かったんだろうな?」

「それでも、逃げて欲しくなかった..無理な話でしょうが勝って欲しかった..そうすれば私はこんな姿に成らなかった..死んだ者にそう思ってしまう私は..優しくないのでしょう」

ユリアに聞いたらアイルも凄い美少女だった..それが僕にとって此処までの美少女に見えるという事は「凄く醜い姿にされた」という事だ。

悪いが、アイルの美しさは他の三人の比ではない…「これ以上美しい女性は絶対に居ない」そう思える程だ。

という事は「これ以上醜い女はいない」そこまでにされてしまった..そういう事だろう。

「おかげで、アイルが傍にいてくれる、そう思ってしまう僕も酷い男なんだろうな」

「まったく、セイル様は可笑しな人ですね、昔の私ならいざ知らず..こんな..化け物女に傍に居て貰いたいなんて..頭が可笑しいんですか? 目が腐っているんですか!」

正解だ、とは言えないな。

また、嘘を重ねるしかないな…

「僕は酷い奴なんだよ..一人になるのが怖いんだ..君たちなら絶対に離れていかない、だから凄く大切に思っているそうなんだ」

「それはどういう事ですか? 解るように教えて下さい」

「僕にとって一番重要なのは「傍にいてくれて離れていかない事」なんだ、美しさは二の次だ、もし絶世の美女が居ても離れていく可能性のある人なら、他の人を選ぶ位にね」

(これって、普通じゃないですか? 好きな人に傍に居て欲しい..離れないで欲しい、当たり前のことだ)

「それって、遠回しに私に一生傍に居て欲しい..そういう事ですか?」

「そういう事だよ..好かれたいから優しくするし..楽しく一緒に過ごしたいから頑張っている..打算的だよね」

(それを打算なんて言うなら..打算的じゃない男なんて居ませんよ..というか、セイル様は、本気で私たちが好きなんだ..納得したわ、恋人みたいにじゃなくて本当に恋人のように思ってくれた、そういう事だ)

「他の方は知りませんが、そういう事言って知りませんよ? 私もうセイル様から離れませんよ!」

「手放す気は無いよ」

(凄く嬉しい反面、ユリアに殺意が沸きました..此処まで人の気持ちを壊してしまって良いのでしょうか? こんな美少年が「離れて行かない事が一番」そう思うくらいにユリアはセイル様に孤独と絶望を植え付けたのですね? ファイヤーボールで燃やしてやろうかな..まぁしませんが)

「だったらもう死ぬまで一緒ですね!」

「ありがとう」

(これは三人にも教えてあげません、本当はセイル様が私たちに異性として恋しているなんて..特にユリアには黙っておきましょう)

魔王より怖い
「また5週間ばかり行ってくる」

「また護衛依頼か?」

「また随分と急な話だね? なんでそんな依頼を受けたの?」

「悪い! 色々あって受けざる得なかったんだ!」

流石に急すぎるよな、気が付くか。

「相変わらず、セイル殿は人望があるな、色々と世話になった相手じゃ仕方ないな」

「セイル、本当に護衛依頼なの? 男同士でいかがわしい所に行くんじゃないでしょうね?」

「少し寂しいけど仕事じゃ仕方ないわ、スワニーは我慢するわ」

「セイル様..働きすぎですよ..」

うん、大丈夫そうだ。

「如何わしい所に行く必要は無いでしょう..これだけの女の子に囲まれているんだからさぁ、まぁ、流石にこの次からは長期の予定を入れる時はちゃんと事前に話すよ..ゴメン!」

「まぁ良いわ、信じてあげるわ」

「…..」

「せっかくパーティー組んだのですから次からはパーティで出来る依頼を受けて下さいね」

ここまでくれば一安心だ。

だが、門の所でエルザが待っていた。

「セイル殿、流石に2回目だ、行くのだろう?」

「エルザ、何の話?」

「私の時と同じ様にアイルの敵討ちでもするんじゃないのか?違うのかな」

「違うよ、今日はケムさんと一緒に」

「なら、ケムさんが来るまで待たせて貰う」

二回目じゃバレるか仕方ないな。

「まぁ2回目じゃバレるよね…その通りだ」

「セイル殿、まさか魔王軍とやり合うつもりか?」

「それはしないし出来ない」

「じゃぁ..」

「狙いは不死の軍団長スカルのみ、他は相手にしない」

「それは魔王軍とやり合うという事ではないか、それなら私も行く」

「それは駄目だ!」

「これでも、私は姫騎士だぞ..戦える、主を守らないで何が騎士だ」

「駄目だ、エルザが居ると戦えないからな…」

「何故だ!」

「それはエルザが俺にとって大切な存在だからだよ」

「それは..卑怯だ」

「僕は正々堂々と戦う気はない..ただ殺すだけだ、正面から行ったらまず勝てない..薄汚い戦い方でいく、だからエルザには見せたくない」

「それでも護衛は必要だ」

「暗殺者に護衛は必要ない」

「なら、行くのを辞められないか? アイルなら別にスカルを倒さなくても時間を掛ければ元気になるだろう」

「いや、駄目だな..昼間は元気でも、アイルは夜中に良くうなされている」

「それだって時間が解決してくれるだろう」

「なぁエルザ、これは簡単な話しなんだよ? 大好きな女の子に好かれたいから、ただ男が頑張る、それだけの話だ」

「ただ、それだけの為にするのか…四天王だぞ」

「それだけだよ..だけど、これ凄いんだぞ」

「なにが?」

「姫騎士ですら好きになって貰えるんだ」

「あっ..」

私は自分の時に救って貰った。

そんな私が行くなとは言えないな。

「それじゃ行ってくる」

「セイル殿、必ず生きて帰って来いよ」

「ああ」

「この事はユリアやアイル、スワニーに話すからな..帰って来たら二度としないようにお説教だ」

「わ、解った」

ユリアのお説教か..その方が魔王より怖いな..

帰ってくるのが怖い..

見殺し
良かった、相手がマモンであれば..どうやっても勝てない。

これはマモンが「単純に強い」からだ、ウサギがどれだけ強くなっても熊には勝てない。

単純に強い…それこそ此奴を倒すには、相手がしたように「数の暴力」で戦うしかない。

しかも、1000や2000じゃない万単位じゃなくちゃ正面からは戦えないだろう。

その昔、正面から戦った猟師が相打ち覚悟で戦い、聖剣を打ったというハンマーと聖弾を使い重傷を負わせた。

そんな話もあるが、都市を丸々潰した後だった。

そんな手傷を負ったマモン相手に勇者達は苦戦した。

ジェイクと言う勇者の中の勇者が全盛期に戦い苦戦したんだ..今の僕じゃ逆立ちしても勝てない。

正面切って戦うなら…並みの勇者じゃ相手にならない相手、それがマモンだ。

しかし、魔族という者は怖い。

そこまでして殺したマモンが数百年たった今蘇ってきている。

恐らく、魔族側も僕と同じ様に転生して居るんじゃないか? そう思う。

それではゾルバはどうか?

魔将軍と言われていて、マモン程じゃないが単体でも強い。

恐らくマモンが10だとしたら7位の強さはある。

マモンのように単体で戦う事は無い。

しかも沢山の屈強な部下を連れ歩いている。

これは凄く骨が折れる。

「単体で強い」これがいまの僕にはどうする事も出来ない。

そして、その二人より遙かに強い奴が四天王に居る。

これは正体が解らない..だが魔王に容姿が酷似しているらしい。

どっちみち、マモンにもゾルバにも勝てない僕じゃ手も足も出ないだろう。

そして、スカルだ。

此奴は不死の軍団を率いている。

単体では強く無く、正に「数の暴力」を地で良く奴だ。

弱いと言ってもマモンが10だとしたら3位の力はある。

3じゃ大した事無い..そういうかも知れないが、四天王を除く他の魔族が強くても1だと考えればその強さが解るだろう。

だが、僕なら勝てる。

何故なら僕が前世で戦っていた時に此奴を倒した者が居たからだ。

しかし、人間側に何故こういった貴重な情報が失伝してしまっているのか..解らない。

王都に近づくにつれ、死体が増えていった。

村人、衛兵らしき者、冒険者、騎士、沢山の死体がある。

ファングが「戦場漁り」をする訳が良く解る。

高級な装備やお金が拾い放題だ。

多分、何処かの騎士なんだろうか..ミスリルの剣と軽装だがミスリルのハーフアーマーを着ている。

手を合わせてから、貰う事にした。

金貨も財布ごと頂いた。

僕には異空間収納(小)がある。

時間を見て修行してようやく(小)が身に着いた。

勇者の時には(無限)だったが、加護が無い今じゃ(無限)には絶対にならない。

だけど(小)でも馬車2個分位は入る。

商人なら涎ものの価値がある。

正直驚かせられる。

楽して金目の物が手に入るのだ。

ファングやケムさんが「暫くは働かないで遊んでいるからな」そう言っていた意味が解った。

折角だから、仲間の装備やお金も此処で集めて行こう、拾い放題だ。

その代り、これは死と隣り合わせの危ない仕事だ。

一式装備を着こんでみた。

これなら、上級冒険者か騎士に見える筈だ。

ようやく戦場に追いついた。

やっている、やっている。

加勢をしないのか?

答えから言うならしない。

此処で戦っているのはゾルバだ、恐らくしんがりを務めているのだろう、まるでおもちゃの様に騎士や兵隊が殺されていく。

勇者は本当に辛いと思う。

昔の僕ならあれに飛び込まなくてはならない..

逃げる選択が出来るのは、案外幸せなんだ。

更に進むとマモンが居たが..関わらない。

まだ、僕は死にたくない。

森を迂回しながら、ようやく先頭についた。

先頭集団の中央、そこにスカルは居た。

此処が一番戦闘が激しい。

そりゃ当たり前だ此処が最前線なのだから。

戦っている集団の中に飛び込んだ。

乱戦しているから僕に気を止めた者はいない。

スカルを殺そうと突き進む一団に加わった。

「お前は?」

「私はシルバー..助太刀する」

「ありがたい」

偽名を使い、仮初の仲間になった。

不死の軍団、確かに不死だが..脆い、ゾンビやスケルトンだこれ位ならどうにかなる。

「悪い、俺が先に行く」

この一団のリーダーが剣でスカルに斬りかかった。

ガキンと音がなり響くがそれまでだった。

三人で取り囲み斬ろうとするが斬れない。

「骨だから脆いと思ったか? わが体は鋼鉄並みに固い..勇者でも無い限り効かんよ..それに斬っても再生するから無駄だ」

あっと言う間に形勢は逆転して、4人はスカルの剣で切り裂かれた。

「スカル..僕が相手だ」

「ほう、人間の癖に? 面白い相手してやろう殺した後は実験体として..」

何故か、スカルの動きが止まった。

僕は瞬歩を使い近づき..後ろに回り込む。

そのまま、剣でスカルの首の関節部分から斬り捨てる。

「スラッシュ」

スカルの弱点の一つそれが首だ。

これは昔の英雄がスカルを倒した方法だが、知っていても普通は使えない。

その後、悲劇が起るからだ。

そのまま、首を袋に放り込み..僕は走り出した。

首を失い、体は暴走して暴れまわっている。

そして不死の軍団もそれ以上に暴れまわっていた。

今迄拮抗していた戦いは大きく魔族に傾くと思う..

ただでさえ狂暴な魔族が暴走して狂暴化しているのだから。

知らないな…僕にとって「知らない人間」が何人死のうと関係ないし心は痛まない。

それに「いつかは不死の軍団は瓦解する」から人類全体なら得な筈だ。

しかも、今の僕の目には人間は醜く映り、魔族が綺麗に映っている。

余計に心は痛まない。

無惨に殺されていく人々を無視して僕はその場を離脱した。

生き埋め
スカルの首を異空間収納に入れないのはスカルが生きているからだ。

不死の軍団の団長が簡単に死ぬわけはない。

首を切り落とそうが此奴は死なない。

生き物は異空間収納に入らないから袋にいれてもっか走っている。

「貴様、私をどうするつもりだ!」

「そうだな、死より辛い日常が待っている、そう思った方が良いな」

「ならば、一思いに殺せ..それで良かろう..武人として..」

「騙されないよ? この頭を壊すと体からまた頭が生えてくるんだろう?」

「貴様が何故それを知っている」

「さぁな、だからこのまま痛みつける..」

「血も涙もない奴だな..何時か魔人に殺されるが良い」

(もう一つの秘密は知らないようだ..このまま胡麻化せば問題ない)

「言って置くが俺は魔王軍と戦う気はない..お前にだけ復讐したからこれで終わりだ..だから死ぬ気はさらさら無い」

「私はお前など知らん」

「まぁ、俺は知っているけど..今回は違う、知り合いの復讐だ」

「私は魔族だ、なら仕方ないのだろうな」

袋越しに話してもつまらないので猿轡して再び放り込んだ。

しかし、この目は酷いな..スカルがロマンスグレーのおじ様に見える。

女だったら..考えるのはやめておこう。

ようやくアルマンの街についた。

入口の近くにいる、子供冒険者に声をかける。

こういった、街の入り口には子供冒険者が居る事が多い。

子供冒険者とは冒険者見習いだ。

将来、冒険者になりたい子供が小遣い稼ぎでしている、何でも屋だ。

「なんか俺にようがあるのか? 仕事か?」

「仕事を頼みたい..僕の仲間をここに呼んで来てほしい」

「怪物王子の仲間って..」

「頼んだぞ、ほら代金の銅貨3枚だ」

普通なら、ただ呼びに行くだけで銅貨3枚なら美味しい仕事だ。

だが、僕の仲間は普通の人間からしたらアレだ。

とはいえ、仕事だ。

子供冒険者は嫌な顔をしながらも銅貨を受け取り。

「ありがとう..」

お礼を言うと走り出した。

まぁ、ちゃんとした仕事だ..頑張れ..今夜悪夢を見ようが僕は知った事ではない。

暫く、待っていると4人全員が此処に来た。

「セ.イ.ル、話はエルザから聞いたわ」

ユリアの声が怖い…かなり怒っているのがわかる。

スワニーを見た。

「今回はお肉でもダメだわ..スワニーも怒っているわ」

今回はスワニーも買収には応じてくれないらしい。

「まぁ私は立場的には怒れないが、悪いが助けもしない」

いや、エルザは騎士だよね? 忠誠心があるなら助けて欲しいな..

「それでなアイル」

「危ない事はしないでください」

「いや、だけど」

「仇討ちをしてくれるのは嬉しい..ですがセイル様が死んだり、怪我したりするのは辛いんんです」

流石に泣くのはずるい、何も言えなくなる。

「解ったよ..もう危ない事はしない..約束する」

「解ってくれれば良いんです..仇何て打たなくて良いですから..私は大丈夫ですから」

あれっ..もしかして仇を討ってないと思っているのかな..

「じゃじゃあん」

「なんですか? その袋は..私の話を聞いてください」

「これは、スカルの首です!」

「「「スカルの首」」」

スワニー以外は驚いたようにこちらを見ている。

「ちなみに、まだ生きています」

「セイル殿、確かにスカルの首だが、まさか本当に倒したのか?」

「流石スワニーのセイルだわ..本当に強いわ」

「セイル、そんなに強いならなんで同行してくれなかったの?」

「ユリア、それについては後で話す」

「そう、ちゃんと納得いく説明をしてくれるのよね?」

「ちゃんとする」

怖いよ、真面目に怖い、マモンよりも遥かに怖く感じる。

これは..刷り込みなのか..

「それで、その首をどうするのですか?生かしておく意味があるのでしょうか?」

「アイル、此奴はな不死なんだ、実はこの首を殺せば、残った体から首が生えてくる」

「そうなのですか?」

「そうだ、この首を殺すことはある意味こいつを助けた事になるんだ」

俺は此処でスカルの猿轡を外した。

「ほう、その娘の関係者か、なら恨むのも仕方ないな…だが私は不死だどうやって仇を討つのだ..無理な話だ」

「いますぐ殺してやりたい」

「それじゃ助けたことになるんだ、このまま何処かに埋めてしまう、そうすれば一生此奴は暗い中でただいるだけだ」

「ほう、そこに気が付いたか..人間とは恐ろしい事を考える者よ..確かにそれが一番」

「それしか無いのですね」

「スカル..バーカ、その手には乗らない、このまま頭を生かしておけば体が暫くしたら死んで新しい体が生えてくるのだろう?」

「お前、知っていたのか?」

「ああ知っていたよ..だからこいつが一番嫌がる方法を考えていたんだ」

「嫌がる方法ですか?」

「だってこれはアイルの復讐なのだからどれ程残酷にしても足りない」

「それでどうするんですか?」

「運よく、途中で良い物が見つかったんだよ..これだよ..」

「箱ですか?」

「死んでいた商人の馬車の中にあったんだけど、貴重品を入れる為なのかかなり頑丈だ」

「そんな物をどうするんだ」

「凄く分厚いなこれ、此処にスカルの頭を入れて土に埋める..それだけだ」

「それだけなのですか?」

「良いか、これはかなり残酷だぞ..スカルの体は一瞬で生えるわけではないから箱の中で徐々に生えてくる」

「お前まさか.」

「そうだ、体が滅んだあとはこの中で体が生えてくる..いかに強靭な体でもこの箱の強さには敵わないから変形していくだろうな..痛みも伴って」

「それは面白そうですね」

「箱の中でこれでもか痛みを伴い変形して奇形になって生き続けるか..はたまた押しつぶされて死ぬ、体全部が揃っているならいずれにしても此処からは出られない…こんな物でどうかな」

「それしかなさそうですね…」

僕はスカルの首をアイルに渡した。

「はい」

「やめろ、やめてくれ..頼む、なぁ..」

「貴方は私が泣き叫んでもやめなかった…そんな私が辞めるとでも?..さようなら」

「いやだああああああああああああああっ」

アイルは箱の蓋を閉じて施錠した。

そして、その後皆んなで深く穴を掘り埋めた。

「ふぅー疲れた、今日はシャワーを浴びて美味しい物でも食べに行こうか?」

「何をいっているのかな?セイル..今日はこれから長いお.は.な.しがあるのよ..食事はまた今度だわね」

多分、スカルの次に不幸なのは僕だ…

ohanasiにならない
私は自分の不死が恨めしい。

魔族だから暗闇は怖くない。

だが、これから自分に起こる事を考えたら恐怖でしかない。

箱に閉じ込められた挙句、奇形になり死んでいく..

私はこの地獄を大昔に体験した。

その時は、苦しさから「心から死を望んだ」

人の命を弄ぶのは好きだが自分がされると苦痛だ。

あの時、あの女を殺すか、情けを掛けていれば起こらなかった。

今となっては何時解放されるか解らない恐怖の中で此処にいるしかないのだ。

「何であんたが邪魔をするの?」

「あたりまえでしょう? セイル様は私の為に命がけでスカルと戦ってくれたのですからね!」

「今は、私が話があるのよ!」

「どう見ても怒っていますよね? 私の髪からつま先まで全部セイル様の物です。そんな私の為にセイル様は命がけで戦って下さいました。あとは差し上げられる物は心しかありません!」

「何が言いたいのよ!」

「つまり、私の全てはセイル様の物なのです! 私の全てを捧げているセイル様に暴言を吐こうとするユリアを捨て置く訳がないでしょう?」

「怒るのは当たり前だわ、たった一人で危ない事して死んだらどうするのよ..それが言いたいだけよ? 私が間違っているっていうの!」

「言い方の問題です、「貴方が心配だからもうしないで」それだけで済む事でしょう? それをネチネチと女の腐ったみたいな言い回し..見てて愉快じゃありませんよ!」

「エルザ、貴方からも言いなさいよ!」

「エルザ、貴方もセイル様に仇を討って貰いましたよね? しかもセイル様の騎士ならどちらに着くか解りますよね?」

「私は..」

何で私に振るんだ..

「私は、セイル殿の味方だ、だが危ない事は余りして欲しくない」

「あらっ、エルザさんはセイル様を信じてないのかな? 私はセイル様なら魔族如きに遅れなど取らないと信じていますがエルザさんは違うんですね!」

「私は信じている」

「可笑しいなぁ? 信じているなら危ないなんて言わないでしょうに..」

「そうだな..うん、そうだ」

正直どちらも正論だ、私には振らないで欲しい。

「だけど、セイルは勇者でも剣聖でもないのよ..死ぬ事だってあるわ!」

「確かにあるよ、だけど、人類最強のセイル様に、心配なんていらないと思います..そうよねスワニー」

「セイルは強いわ」

「ほらね?」

「人類最強って何よ、セイルはセイルはね..普通の男の子だわ!」

「剣聖も、勇者も、沢山の騎士も四天王には敵わなかった、勿論私もね..だけどセイル様は倒しました..確信しました、セイル様こそが賢者たる私が真に仕える方なのだとね」

アイルは凄い..あのユリアが言い負かさられている。

このまま見ていたいけど..後が怖い。

「皆、心配かけてごめん!僕が悪かった」

「セイル様が謝る事はありません、ユリアを除き此処に居る物は全員セイル様の物なのですから」

「その言い方、妙に引っかかるわね..私だけ仲間外れにする気なの?」

「そんな気はありませんよ! 私達は奴隷ですから、それこそ身を捧げるのが当たり前なのですよ、セイル様さえ良ければ夜の相手もするのが当たり前、最もセイル様程のお相手ならこちらからでも喜んでします..まぁユリアみたいなおこちゃまと違う関係なのです」

「おこちゃま! ふざけないで!」

「ねぇエルザ..貴方はどうなのかしら?」

「私はセイル殿が望むなら喜んでするな」

「スワニーはもう相手しているわ」

えっ、この鳥女..もう経験済みなの?

待って、先越されたの?

嘘だろう..

「「「セイル(殿)(様)どういう事(なのかしら)」」」

「待って話すから」

事細かに事情を話した。

「そう一線は越えてないのね」

「ですが、裸で、そうですか? それじゃ今夜は私が」

「添い寝か..そうだな、私もする事にしよう」

また更に揉めそうだ。

元の話に戻すとしよう。

「もう一度言うけど、もう危ない事はしないから安心して欲しい」

「約束するならもう良いわ..はぁ二人の時は良かったわ、ここはアウェイだから誰も味方がいないし..」

「本当にしないから機嫌なおして貰えないかな、頼むよ」

「それでセイル様は魔王を討つのですか? やるのなら賢者の私が」

「聖女の私が手伝うわ!」

「ユリア、私にかぶせないで下さい!」

「えっ戦わないよ? 勝てないもの」

「だけど、セイル様はスカルに勝ったじゃないですか?」

「アイルには申し訳ないが僕はそんなに強くない、多分、マモンと戦ったら秒殺だと思う、そんな僕が魔王軍と戦う何て自殺行為だよ」

「ならば、何で戦ったのですか?」

「アイルの為だよ..こうでもしないと夜泣きが止まらないかなと思って」

「私だけの為..」

「そうだよ..前から言っているじゃん、僕は勇者じゃない、此処にいる4人や友達が大事なだけだ..例え何万人死のうがどうでも良いんだ」

「勿体ない、英雄にでも成れるかも知れないのに..」

「そんなもの興味ないよ..英雄になれても、此処にいる誰かが欠ける未来なんて要らない..世界が魔族に飲まれようと此処の4人やファングたちが生きれる世界ならそれでいい..そう思っている」

「ありがとう、セイル様」

「どうしたんだアイル」

「私の為に、戦ってくれて、やはり私はアイルになって良かった…」

「それはどういう事?」

「だって、アイルって「愛してますセイル」の略ですから」

アイルの顔はほんのりと赤くなった。

「やっぱり、そうだったのね!、その名前変えてきなさい!」

「無理ですよ? もうギルドで登録しちゃいましたから」

「うぐぐぐ..アイルなんて大嫌いだわ」

「奇遇ですね私も同じです」

だが、これで口争いは終わった。

それは4人ともセイルがどう思っているか気が付いたから。

「そうだよ..前から言っているじゃん、僕は勇者じゃない、此処にいる4人や友達が大事なだけだ..例え何万人死のうがどうでも良いんだ」

「そんなもの興味ないよ..英雄になれても、此処にいる誰かが欠ける未来なんて要らない..世界が魔族に飲まれようと此処の4人やファングたちが生きれる世界ならそれでいい..そう思っている」

(セイルは天然すぎるのよ..何万人の命より世界より私が大切なのね..)

(世界より大切..これはセイル様のプロポーズなのでしょうか?)

(これで落ちない女がいる訳が無い..セイル殿..世界より大切なのか私は..)

(周りのメスも気がついたのかしら..セイルは元からそうだわ)

「どうかしたの?」

「「「「何でもない(わ)」」」」

無自覚とは怖い、そうセイルが気が付くのはその日の夜だった。

譲れないもう一つの戦い
「そう言えばお土産があったんだ」

「そう何ですかセイル様、態々スイマセン」

「お肉はあるのかしら」

「ごめん、スワニー肉は無いよ!」

「それは残念だわ」

「それでセイル殿、何を買ってきたのですか」

「セイル、楽しみだわ」

「それじゃ出すね」

(セイル様..異空間収納まで持っているなんて流石です)

(セイル殿は本当に冒険者なのか? 収納持ちなんて冒険者なんて居るのか?)

「セイル、収納持ちだったの? 私は知らないわよ」

「なんだ、幼馴染なんて言っても全然何も知らないのね、ユリアは」

「アイル煩い..」

「それで買ってきたんじゃないけど..せっかく戦場に行くんだから「戦場漁り」もしてきた。今から出すから、皆で必要な物を分けてくれ」

「なっなななな何なの..これ、流石に聖女の装備には及ばないけど..回復の杖や、白魔法の杖迄あるじゃない」

「ミスリルの剣にミスリルアーマーまで..あっビキニアーマーもある」

「漆黒の杖がありますね..流石に衣は今の衣以上の物はありませんね」

「どうしたんだ?スワニーは欲しい物が無いのか?」

「初めて見るので何が必要だか解らないのだわ」

そうか、スワニーは「道具」すら見た事が無いんだな。

「それじゃ、スワニーの必要そうな物は僕が選んで良いかな?」

「任せるわ」

結局、僕はスワニーにスピード重視の装備を選んだ。

「しかし、凄いなこれは、ミスリルの装備なんて姫騎士でも装備しないな」

「そうなの? 凄い装備が貰えそうだけど?」

「ユリアは聖女だからそう思うかも知れないが、姫騎士とはいえ「騎士」なんだ爵位で言うなら騎士爵、一番下だぞお金だってたかが知れている、特に私は嫌われていたからな..」

「ユリアや私は四大ジョブだから恵まれていただけだよ」

「そうなのかな?」

「ユリアが身に着けていた装備一式で大きな屋敷が3つは買える位なのよ」

「えっ、そんなに価値があったんだ…あの装備」

「まぁ、ユリアは実戦に出る前に取り上げられたからその価値が解らないのね」

とにかく、機嫌が良くなって良かった。

皆が、それぞれの装備や宝飾品等を見てうっとりしている。

僕? 僕は最初に着込んだミスリルの装備をそのまま着ている。

嫌な話であるが、「戦場漁り」は凄く割が良い。

普通に考えて何年も掛けて購入する装備が..そこら辺に転がっているのだから拾い放題。

死体が着ていた..その事は黙っておこう。

懐も温かくなったので、最近では当たり前の様になった「ミノのステーキ」を食べて帰ってきた。

そして夜になった。

「セイル、昔を思い出して一緒に寝ようよ」

ユリアは薄い生地の可愛らしいピンクのパジャマを着て誘ってきた。

「待て、ユリア、添い寝だったら私がする、ビキニアーマーを着て添い寝するのは私が購入された時からの約束だったのだ..今ビキニアーマーがこの手にあるんだ..今夜は譲ってくれ」

エルザはとにかくエロイ..ビキニアーマーは大切な所こそ隠れているが殆ど裸に近い。

ただ、そのビキニアーマーは首チョンパされた女が着ていた物なのだが..まぁそれは今回は関係ない。

「エルザが約束したのはビキニアーマーを着る事でしょう..ここは私の為に戦ってくれたセイル様を癒す為に私が添い寝します」

アイルが着ているのは何処で買ってきたのか紫色のスケスケのベビードールだった。

「なんて物着ているのよ!このエロ賢者!」

「夜の私は賢者じゃありません! やっぱりユリアはおこちゃまね..そんな色気の無いパジャマで癒してなんて上げられないわよ」

「何ですって!」

「いや、2人とも肝心の胸が無いだろう? 男は胸に癒しを感じるんだ..私が適任だ」

「そんな脂肪が大きいだけで勝ち誇るの..脂肪の塊じゃない」

「無い奴に言われても..」

「そうです、私の様にスレンダーな方がセイル様は好みな筈です」

凄く、嬉しいし目の保養になるが..誰を選んでも明日が怖い..此処は逃げるが勝ちだ。

ゆっくりと扉の方に近づき..逃げる準備をする..だが

「セイルの考える事はスワニーにはお見通しだわ..だれかと寝るならスワニーが一番だわ」

扉の前にはスワニーが座っていた。

これで僕は逃げられなくなった。

アイルが杖を持ち、エルザが剣を持とうとした所で

「あの、じゃんけんで決めてくれないか」そう僕は意見した。

じゃんけんを制したのは..エルザで今日の添い寝はエルザと決まった。

王都の惨状
王都は滅んでしまった。

まぁ四天王のうち3人が出張ってきたんだ無理もない。

だが、四天王のうち1人は騎士団が命がけで倒した、そこだけが美談として書かれていた。

王都は滅んだというが、別に何かが変わる訳ではなかった。

王族と貴族が処刑されて代わりに魔族が支配する土地となったそれだけだ。

異形の物が歩き回るだけで、他は無にも変わらない。

蹂躙は殆どされなかった。

税金の納め先が変わるだけだ。

王族や貴族がアホな事して重税を課していたから…寧ろ楽になるんじゃないかと思う。

それなりの地位にいた者は困るが下の者は支配者が変わるだけでそれ程変わらない。

王族や貴族、教会、財産のある商会等は殺されたり、財産を奪われるだろう。

だが、それらは恐らく全体の10%位だ。

9割以上の人間には殆ど影響は無い可能性がある。

僕には寧ろ都合が良い。

僕の仲間は..僕にとって美人だが、他の人間にとっては醜い。

だから、魔族に混じった方が良い様な気がする。

勇者が居ないからこれから先は魔族が納める国が多くなるだろう。

そんな世界なら「魔物使い」も嫌われないような気がする。

僕の目から見たら、今の世界より魔族の治める世界の方が都合が良い気がする。

何しろ僕の目には人間より魔族の方がまだ綺麗に見える。

人間が少なくなって魔族が多く成れば成程住みよい、美しい世界なのだ。

このまま、魔族の侵略が進めば..そう思ってしまう程に王都の話は魅力的だった。

騙し…
王都に最近、高札が掲げられていた。

内容は(銀嶺なる者よ、もしこの世界に生まれているのなら余は会う用意がある)そういう内容だった。

「銀嶺」とは僕が勇者だった時の呼び名だ。

転生の軸がずれているのか、この名前はもう言い伝え程度にしかこの時代には伝わって無い。

だが、明かにこれは僕の事だ。

この国の領主は既にゾルバになっていた。

上に魔王が居るのだ領主という言葉が一番正しいだろう。

国中、いや世界中を探されては困った事になるかも知れない。

先に、こちらから出向く事にしよう。

「ちょっと王都まで行ってくる」

「また、セイル様は1人で行かれるのですか?」

「そのつもりだけど?」

「何故、私達に頼ろうとしないのだ..私は騎士だ」

王都で会うのは恐らくゾルバに魔王は確実だ。

他に四天王のマモン、そして謎の彼奴が居る。

だから、場合によっては死ぬこともありうる..だから今回ばかりは今迄以上に連れて行く訳にはいかない。

「静かに聞いて欲しい..今回の旅は自分の過去と向き合う旅だ..だからどうしても一人で行かなくてはならない」

「理由はあえて聞かないが..どう考えても危ないのだろう?」

「本音で言うと解らない、だが危なかった場合は、姫騎士に賢者に聖女が居ても役には立たない」

「命が掛かっているならセイル様、私はついていきます」

「私もだ」

「スワニーも行くわ」

「絶対についていくわ」

「そうしたら、僕は危なくなった時に戦えない..だから駄目なんだよ」

「どうして、駄目なんだ!」

「セイル様..可笑しいよ、その考えは」

「どうしようも無い位に皆が大切だからさ、今の僕には命より大切なんだ、例え僕は腕が切り落とされても足が無くなっても戦える..だが君たちが人質に取られたら..もう死ぬしかない、だから待っていてくれないか?」

「気持ちは解るが、それでも」

「スワニーは待っているわ」

「私もそこまで言うなら待っています..セイル様ならきっと無事で帰ってくるはずです」

「そうね、私も信じる事にするわ」

「それじゃ行ってくる」

「「「「待っている(わ)」」」」

さてと、王都に行くにしても手土産が必要だ。

こういう時に「不死身」というのは便利だな、掘り起こして持って行くとしょう。

「スカル…元気か?」

「おおおおお前は..何故、掘り起こした..どうするつもりだ」

もう体が胸の上まで生えてきている..もう一度切断しよう。

「なっ、また..」

「気にするな、持ち運ぶのに便利だからまた首だけにするだけだ」

アイルには悪いが、スカルは何かあった時の交渉に使う..

そのまま、王都に向い..僕は進んでいった。

「なぁ何故だ! お前達はセイル殿を愛していないのか? あの顔は事情は解らないが何かに巻き込まれている..なぜ」

「エルザ、あの場合はああ言っておかないと埒が明かないわ..女心と秋の空..私は気が変わりましたこれからセイル様を追いかけます」

「私もそうね、気が変わったわ..王都に買い物に行こうかな? スワニーも行くわよね」

「スワニーも王都に肉を食べに行くついでに、セイルを助けるわ」

「そのつもりだったのか?」

「これだから騎士は真面目すぎて困るわね」

結局4人は少し遅れてセイルを追いかけていった。

魔王と
王都に着いた。

途中、盗賊に会ったが、大した数で無いので返り討ちにしただけだ。

(これが今の王都か!)

今の僕には天国にしか思えない。

人が普通に見える。

多分、魔族なのだろう、衛兵はよくいる厳つい男だし。

八百屋のおばさんも綺麗だ。

最も1/4だけで3/4は以前と同じ化け物だ。

僕の目から見たら、魔族は美しく見えると言う、そう言う事だ。

隠れてコソコソしていても仕方ない。

そのまま、城に向った。

凄くイケメンな門番に声を掛けた。

「銀嶺が来たと伝えて貰えないだろうか?」

「お前が銀嶺? どう見ても冒険者にしか見えない」

「今の僕は冒険者だ..勇者じゃ無い」

「ならば少し待て」

門番はオーブを取り出してかざして見せた。

「目が赤い..解った、此処を通そう..銀嶺殿、王都へようこそ」

「….」

「変な顔をしているな?この後は知らんが、今は客人だ..礼位は尽くすさ」

門を通り過ぎると、他の兵隊が引き継ぎ案内してくれた。

此奴もイケメン..メイドも可愛い子ばかりだ..良いな此処に住めば普通の生活が送れる..

昔、戦った魔王の中で世界の半分という取引きを言ってきた魔王が居たけど..今ならこの城を貰うだけで手を打ちそうだ。

但し、家来やメイドつきで。

「どうしたのだキョロキョロした顔をして」

「いや、イケメンや美女揃いで驚いているんだ」

「ほう..やはりな」

「どうかしたのか?」

「いや詳しい事は魔王様から聞いてくれ」

「解った」

そのまま大広間に通された。

そこには、マモンにゾルバ、謎の四天王に…魔王が居た。

今はゾルバは此処の領主..そう考えたら膝をつくのが当たり前だ。

「銀嶺..ことセイル、召喚に応じて参りました」

「ほう、久しいの銀嶺..言われて見れば面影はある」

ゾルバがしげしげと見ている。

僕はこの中でゾルバだけは面識がある..

「そいつが銀嶺なんだな..前の時は俺の方に来なかったからな..なかなか強そうだ」

「お戯れを」

「どうだ、少し俺と遊ばないか?」

今の僕じゃ普通に死ぬよ。

「まぁ良い、そう固くならんでも..普通にして良いぞ」

「そうですか、それは助かります」

「それでじゃ、儂はお前に聞きたかったのだ..儂の祖先が掛けた呪いはどうじゃ?」

「魔王の呪いだけに凄まじい物ですね、世界が変わって見えた」

「そうであろうな..それでその目で見た世界はどうだった」

「最初は恨んだが..違うな..本質がようやく解ってきた、魔族も人間も変わらない..いやこの目のせいか魔族が美しく見え、人間が醜く見えるせいか魔族の方が好きになりそうだ」

「その目はな、実は呪いでも何でもない、儂の祖先の目じゃ..今の儂以上に醜い者を愛し美しい者を嫌ったという最も醜い魔王。そして、これは眉唾だが、伝承によれば、醜女で見た物は恐怖で死ぬという「死の女王コーネリア」ですら愛でたという話すらある。今お前に見えるのはその祖先から見た美醜感覚だ、その醜さは戦った其方の方が詳しかろう」

「そうか..確かにあの時の魔王は「勇者よ、お前の目から見たらさぞかし、我らは悍ましく映っているのであろうな..だが、余からすればお前達の方が醜いのだ」 そう言っていた」

「それでどう思った」

「少なくとも今の僕には、あなたは老人に見え、マモンは歴戦の戦士に見え、ゾルバは知将に見える..僕は偏見に満ちていた、少なくとも問答無用で斬りかかって良い存在じゃない」

「そうか、それを知ってくれたんなら、祖先も本望だろう..なら、その目を元に戻してやろう」

「必要ない..僕はもうこの目に慣れた..このままで良い」

「それでどうする、また余の敵になるのか?」

「多分、もう知能の高い魔族は殺せない..ゴブリンやオークのオスですら殺すのが辛いんだ」

「そうか、マモン..」

「魔王様..嫌だ、あれは」

「マモン!」

「ちっ、解ったよ..だがな銀嶺、此処までして今度敵になったらただじゃ置かないからな」

そう言うとマモンは腹を指で斬って中から内臓を取り出した。

「いてーよ、痛っ..悪いが俺は一度退席させて貰う」

「さぁ、食すが良い」

「これは?」

「マモンの肝だ、これを食えば、魔物は襲ってこないし意思の疎通も出来る」

正直、食べたくない、だがマモンが腹をかっさばいて用意した物..無駄にしたら不味いだろう。

僕はそれを食べた..

「体が熱い..騙したのか..」

「騙してない..体になじむ為だ」

「ハァハァ..嘘じゃないようだな..」

「それでじゃ..実は最近四天王のうち一人スカルが倒されたのだ..空きが一つある、四天王に任ずるから世に仕える気は無いか?」

忘れていた。

「すみません..スカル、いやスカル殿をお返しいたします..いや..すみません、忘れていました」

俺は袋からスカルを取り出した。

「どうするつもりだ人間..えっ魔王様..」

「いや、ただ返すだけだ..」

「そうか、スカルを倒したのはお前だったのだな..魔族は力の世界、言った言葉に二言は無い..しばらくは王都に滞在して考えてくれ」

「解りました」

「そうだ、話も円満に終わったし、其方の仲間の4人も返そう..今日は宴を開くゆえ、仲間と存分に楽しむが良い」

怖ええ..流石魔王だ、温和に見えても..これだ。

もし、敵意を見せていたら..全員殺されていたかも知れない。

魔獣大隊
結局、僕は魔王に仕える事にした。

四天王は五魔(いつま)と名前が変わり5人目の幹部として仕える事になった。

魔族側から、反発が起きるかと思われたが、何も起きなかった。

今では仲間となったマモンやゾルバ曰く「魔族は力が全て、強ければ尊敬される」との事だった。

案外すんなり、受け入れて貰えた。

マモンの肝を食べたせいか殆どの魔物と意思疎通が出来てしまう。

こうなると、もう魔物を狩る事が出来ないと思う。

最もダンジョンですら敵が襲って来ないので、最早散歩にしか過ぎない。

4人の仲間はと言うと特に問題無く受け入れて貰えた。

「私は騎士だ、仕えているのがセイル殿だから問題無い」

「正直、複雑ですが..こうなってしまったら受け入れるしか無いでしょうね..スカルさんも詫びていましたし、何よりこの姿がセイル様にとって絶世の美女なら問題ありません」

アイルは絶対に受け入れないそう思っていたがそうでも無かった。
スカルが最初、責任を持って元に戻すと約束したが、「だが、そうした場合はセイルががっかりすると思う」と口を滑らした。アイルが詰め寄り目の秘密がバレた。その結果、アイルは治療を拒んだ。
目の秘密はアイル以外はまだ知らない..
「私だけが知っているセイル様の秘密うふふふ..」
あのスカルが恐ろしい物を見るような目で見ていた。

「此処に居れば一番安全だし、爵位で言うなら公爵や侯爵になったみたいな物だから出世なのかな..」

「スワニーは仲間が増えて嬉しいけど、もうミノやオークが食べれないから複雑だわ..まぁ牛がもっと美味いから良いんだけど」

これから先、少しづつ受け入れて貰えるだろう…と思ったら。

「ここに住んで良いの?」

ゾルバ直々に案内されてきたのは旧公爵の屋敷だった。

「マモンは一か所に住むのを嫌いそこら辺で寝ているし、スカルは城の研究室にいる、俺も昔の騎士団長室に居るから使って無いんだ」

これに気を良くした、ユリアは。

「魔王様の方が素晴らしいわね、もし魔王討伐が出来ても良くて子爵、下手すら騎士爵だから..今思えばケチだわね..しかも聖女じゃ贅沢は出来ないし」

「私も、宮廷魔術師として飼い殺し..この方がよっぽど良いわ」

「騎士爵から…公爵婦人か侯爵夫人、大出世だな」

スワニーだけが余り解らず首をかしげている。

「使用人も明日から来るから安心するが良い」

しかも、中に入ると美術品や財宝もそのままだった..

勇者なんかより余程待遇が良いじゃないか…

一旦、アルマンに帰り、ファングやエドガーさんケムさんにも報告位しないと…

そう思ったが、何故か隠れるようにしているファングを見かけた。

「ファングどうしたんだ?」

「なっ..なんだセイルか? 何かあったのか?」

「お前なら良いか?..実は悪事がバレてな今は逃走中なんだ」

「もしかして、冒険者を殺していた事か?」

「知っていたのか?」

「まぁな..それで、皆はどうしたんだ?」

「とりあえず、この王都に逃げて来たんだ..此処は魔族に支配されたから、アルマンの冒険者ギルドの威光(?)も届かない」

ファングやエドガーさんにケムまで居ないならもうあの街に帰る必要も無い。

ファング達が幾ら人を殺しても無視していた。

僕たちに住みよい街をくれた、僕の為に本気で怒ってくれて、仲間を紹介してくれた。

大切な人間の前には「自分達を嫌う人間」の命など価値は無い。

「なら、僕の屋敷に来ないか? 今後の話はそれからで良いんじゃないか?」

「屋敷って何だ..」

これまでの事を話した。

「すげーな..それ」

「旧公爵館に後で来てくれ、エドガーさんやケムさんももし連絡がつくなら一緒にな」

「恩にきる」

「恩なんか要らない..仲間だろう」

「…そうか..そうだな」

エドガーさんやケムさんも合流して今後について話あった。

僕からも幾つか提案をさせて貰った。

1. 全ての罪を許され冒険者を続ける

この街のギルドの所属になり、僕が後ろ盾になれば可能だろう。

貴族の後ろ盾がある冒険者みたいなものだ。

2. 僕の家臣になる事

正直、仲間を下に見るのは嫌だが信じられる仲間は欲しい。

他で悪人であっても僕には本当の親友と呼べる人間はこのメンバーしか居ない。

「信じられない程の提案だな..良いのか?」

「エドガーさん、これは恩返しだ気にしないで欲しい」

「なら、俺は家臣になるぜ! 貴族のお抱え、ある意味冒険者としてゴールだ」

「俺も良いのか?」

「ケムさんのお陰で仲間が増えたんだ..当たり前だ」

「だったら、俺も家臣だ..安定した生活が送りたいからな..これで嫁さんも貰えるだろうから」

「そうか、だったらそっちも」

「要らない」

「いや、その位は」

「要らない..その他は最高だが..女は..そのなすまない」

「いや、良い..そうだな..」

「ファングはどうする?」

「セイル、俺はお前にとって必要か?」

「ああっ親友だろう..大切な仲間だ」

「なら、俺も家臣になろう」

この仲間を中心にセイルは魔王軍の第五の勢力「魔獣大隊」を作り上げる。

更なる忠誠を誓う事で仲間は全員魔族になり..力をつけ、次の勇者も葬りさった。

これが世にいう..暗黒世界の始まりだった。

FIN

裏1
「しかし、ゾルバよ上手くいったようだな」

「はっ、魔王様、あの「銀髪の勇者」を取り込めるなら安い物です」

「なぁゾルバ、「銀髪の勇者」はそこまでの相手なのか?」

「ああ、強い、彼奴の強さは..上手くは言えぬが怖いのだ、単純な力なら俺にも敵わない、ましてマモンであれば絶対に負けていない」

「なら殺せば良かったのではないか?」

「それが、不思議と戦うと勝てぬのだ…訳が解らん」

「たしか、過去の魔王を倒した多くは「銀髪」だったと聞く、まさか全部が彼奴か?」

「全部とは言わないが、恐らくは多くは彼奴の前世だろう」

「それが忌まわしいあの伝説か?」

「そうだ、「勇者の髪の毛が黒なら怖くない、だが銀髪なら魔族に恐怖が訪れる」 その銀髪の勇者が彼奴の前世だ、恐らくな」

「そうか、戦ってみたいな..彼奴と」

「まぁそれも良かろう..だがお前の肝を食ったから、もう彼奴は更に強くなっているぞ」

「だからこそだ」

「祖先が自分の目を贈っても取り込みたかった、その気持ちも儂には解る..だが可笑しいと思わぬか?」

「どこか、ふに落ちない事でもおありでしょうか?」

「ふむ..咄嗟に誤魔化したが..あの目は魔王の目なのだろうか?」

「何故、その様に?」

「元賢者のアイルだが世には化け物にしか見えなかった..余の目から見て美しく見えたのは..まぁ鳥としてだがスワニー、どうにか真面に見えたのはエルザだがそれでも醜女だ、あとの二人は化け物だ」

「ああっ」

「スカル、説明はつくか?..この中にセイルと代わりたい、そう思う者はおるか? 余はあの中に居たいとは思わぬ..あれが魔王の目なら、美女に見えている筈じゃ」

「確かに..」

「確かに祖先の魔王は醜かったが美的感覚までは狂っておらん、あれは方便じゃ..少なくとも、「死の女王」を愛でるような存在じゃない」

「たしかに」

「では、失敗作とはいえ、それに似た女を愛でる彼奴の目は何なのだ」

「解りません、転生の際にイレギュラーが起きたのでしょうか?」

「まぁ良い..強い味方が出来、「銀髪の勇者」が二度と現れない、その事を祝おうじゃないか?」

「そうですね、あの者ならプリンスの片腕にも良いかも知れません」

「そう思うか?」

「はっ」

「これで息子の代に勇者が生まれても安心だ」

「「はっ」」

目の理由は解らない、だがセイルが愛した者は魔族から見ても醜かった。

裏2
「女神イシスよ..「銀嶺」の癒しは終わったのか?」

本来はセイルはこの時代にも勇者として生まれる筈だった。

だが、魔王により目を変えられてしまった為、勇者に出来なかった。

その為、1時代を捨てて「目を癒す事にした」

「はい、ジョブを冒険者にして、美醜が逆転する様にしました」

「今、何といった?」

「はい、美醜が逆転する..」

「何を言っているんだ、美醜逆転した目を更に逆転すると元に戻る、たしかにそう思う者も多いが、美醜が歪んだ目を逆にしても更に酷くなるだけだぞ..まさか、癒しではなく、そんな事をしておるまいな!」

「はい、大丈夫です..ちゃんと「癒し」を施しております」

「うむ、銀嶺の勇者の魂は一番の実績がある..他の者で代替は利かない、しっかり癒して次の時代に転生させて今回の負けを取り戻さなくてはいけない、解るな?」

「はい」

不味い、不味い..私は「癒し」ではなく「逆転」にしてしまった。

この失敗が元で優秀な勇者の魂を失ったイシスは..300年後女神の地位を追われる事になる。

あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。

「美醜逆転」「復讐」この二つは私が書いた中で応援してくれる方が多いテーマです。

今回も沢山の方に応援頂き感謝しかありません。

美醜逆転だと、「本当は綺麗な女の子が評価されない世界」それが殆どだと思います。

だからこそ、違う作品が書きたかった…そこから生まれたのが 私の他の作品で書いている。

「腐った目です」 「本当は醜い女の子」が綺麗に見える。

そこに行きつきました..この目なら「寝取られてもブスが奪われただけ」「醜い奴隷が美人に見えるから、安く買える」 案外面白い..ですが今回も上手く書けていません。

いつか、また力をつけ書いてみたいと思います。