追放
パーティーリーダーであり、勇者のジョブを持つガイアに告げられた。
「悪いが今日でクビだ、異世界転生者なのに役立たずなお前が悪いんだ」
「ああ、今迄ありがとう」
ガイアとは幼なじみだ。
小さい頃から一緒の村で育った。
僕はいわゆる転生者で生まれてから僅かな間に言葉を喋れるようになり、昔の記憶もしっかり持っていた。
前世の僕は半分オタクに足を突っ込んだ人間だった。
家族が居るからグッズやフィギュアには手を出さなかったけど、漫画やライトノベルは山ほど持っていた。
此の世界ではごく稀に僕の様に前世の記憶持ちが稀に生まれる。
そして、そういう人間の多くは優れた存在が多い。
ガイアは僕に目をつけ仲間に誘った。
だが、僕にはどうやら『ガイアの思っていた様な能力が無かった』
「今迄ずっと仲間で支え合いながらやっとここまで来た」僕はそうは思っていない。
そんな風に思っているのは、お前達の方だけだ。
剣聖のランゼ
聖女のマリー
賢者のミルダ
五人揃ってSランクパーティー『ホーリー』そう呼ばれていた。
やや中二病な名前だがまぁガイアは勇者だし、剣聖や、聖女、賢者まで居るから可笑しくないな..
確かに最近の僕は取り残されていた。
僕のジョブは『ソードマスター(侍)』
珍しいジョブで強いジョブだが、四職じゃない。
しかも剣聖からしたら下位交換だ。
ジョブの差で成長した3人に能力が追いついていないのは事実だ仕方ない。
別にクビになっても良いと思っていた。
だってそうだろう? 腐ってもSランクパーティーのメンバーなんだぜ、僕も。
此処を出れば、幾らでも次がある。
こいつ等が凄いだけでAランクまで落とせば恐らく引くてあまただ。
その位の価値は僕にはあるんだよ。
「ついて来れないのは分かっているだろ聖夜」
「そうだな、確かにソードマスターの僕じゃ皆について行くのは…難しいね」
一応こう言って置いた方が良いだろう。
顔を立てておいた方が何かと良い。
ガイアの狙いは解っているさ、このパーティをハーレム状態にしたいんだろう。
「勇者とし大きく飛躍するには大きな手柄が必要なんだ。残念ながらお前とじゃ無理なんだ。なぁ分かってくれよ、パーティーを抜けてもお前が親友なのは変わりないからな。」
リーダーが言うなら仕方ないな。.
他の奴はどうなんだ。
幼馴染のミルダの目を見た、彼女ももう昔の優しい目をして居ないしガイアの女になっているのも知っている。
「私もガイアの意見に賛成だわ!貴方はもうこのパーティについてこれないじゃない。きっと近いうちに死ぬか大怪我をするわ..さっさと辞めた方が良いわね…これは貴方の事を思って言っているのよ」
「ガイア…そうだよな…ありがとう!」
まぁ、そう言うだろうな!ガイアの女なんだから。
ふと、ミルダの左手に目が行く。
薬指には見覚えのない指輪があった、これは多分ガイアが買い与えた物だろう。
他の2人も同じ指輪をはめていた。
ハーレムパーティに僕は要らないな。
そう言う事だ、一応確認はしておくか?
「まぁ、ガイアは良い奴だ、皆幸せになれよ!」
「「「し..知っていたの?」」」
「ガイアは勇者だ…他の男なら腹がたつが、ガイアなら諦めもつく」
「「「ごめんなさい!」」」
「気にするな」
元からこうしたいなら仲間になんかするなよ。
「大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティでも探すんだな」
「そうだな、色々考えてみるよ」
親友だと思っていたのにな…
ガイアは勝ち誇った顔で僕を見ている。
悪い奴じゃない…親友だ、だけど此奴女が絡むと、昔から優越感に浸りたくなるんだな。
何をしても優秀で、顔も良くて、強くて、おまけに勇者に選ばれた。
そんなお前が、僕は自慢だったんだ。
少しでもお前達の役に立ちたくて…手伝ってやっただけだ。
お前のパーティに居なければ、多分恋人だって出来た筈だ。
勇者パーティは旅から旅…しかも幼馴染の3人はお前が好きなんだから、僕が楽しいと思うの?
僕にはガイアが一番の親友だから此処に居ただけだ。
本音で言えよ。
もう要らないんだって。
「「「「さようなら」」」」
4人の幼なじみが一斉にお別れの言葉を言ってくる…思ったより堪えるなこれ..
「じゃぁな!」
「すまないな聖夜」
「気にするな!今度会った時は笑って話そうな…世話になったな。四人とも幸せに暮らせよ!」
「それじゃ、パーティから抜けてくれるんだな!ちゃんと退団金は出すし、装備もそのままやるよ」
「ありがとう。お前達は頑張れよ、僕は自分がやれそうな事を探すよ」
これで良い…だが何でだろうか胸に穴が空いたように虚しく。
目から涙がこぼれて来た。
イクミとの出会い
結局退団した僕に残ったのは『お金と剣』だけだ。
ガイアは『女に対する独占欲』と『やたらと自分を大きく見せたがる』その二つを除けば案外良い奴だ。
これは幼馴染だから言える事だ。
実際に彼女をとられたり、自慢ばかり聞かされた奴からしたら、クズだと思うだろうな。
最後の最後まで彼奴の傍に居たのは…クズじゃない、その辺りを僕は知っているからだ。
本当のクズなら、装備や金を取り上げるだろう。
前世で見たライトノベルなら確実にそうだ。
だが、魔剣も手元に残してくれたし、退団金も金貨20枚(約200万円)くれたし、鎧は元から着ていないから、僕の持っていた物は、必要な物以外は全部くれた事になる。
彼奴は…女と名誉に汚いだけでクズじゃない…少なくとも僕はそう思っている。
一緒に居る時は最後の方は…あいつ等全員、どうでも良い奴、そう思っていたけど…
案外1人は寂しい…
まぁ仕方ないな…生まれてから今迄あいつ等4人と何時も一緒だったんだからな。
『しかし、暇だ』
今迄一人で雑用全部していたけど…何もやる事が無い。
宿屋の予約とったら…もう今日は何もやる事が無い。
久しぶりの自由だ、散歩でもするか。
何も考えずに一人寂しく歩いているとのぼりに目が留まった。
『奴隷市場』
そうか、今は奴隷市場の開催中なのか。
奴隷市場とは奴隷商の組合が開催している物で、この場所だと大体2か月に1度程の頻度で開催される。
エルフみたいな高級奴隷から鉱山奴隷迄オークション形式で出品される。
一般人も入口の奴隷商にお金を払い鑑札を貰えば参加できるが、どちらかと言えば奴隷商が商品の仕入れをする目的で使う物だ。
どうせ暇だし『覗くだけ覗いてみるか』、そう思って入口に向って行ったら…入口から横に沢山の檻があるのに気がついた。
「お客さん…もう競りの殆どは終わっちまったよ、後は鉱山奴隷のオークションだけだ。入りたいなら本来銀貨1枚だが銅貨1枚で鑑札を発行するよ」
まぁ、鉱山奴隷しか居ないなら、そりゃそうだ。
「流石にそれじゃ良いや…所であそこに居る檻に入った奴隷って何ですか?」
「あれは、売れ残りや奴隷商組合の品質基準を満たせなかった為に出品出来なかった奴隷を売っているんだ…まぁ碌な奴は売っていない」
「市場の周りでやっていて良いんですか?」
「ちゃんとした奴隷商ではあるんだから問題無い…遠い場所から来た者なら、連れ帰る手間を考えたら安くても売り払いたんだろうな、ただオークションじゃないし店舗で買ったわけじゃないから、あそこで買うと本来はつく生体保証の3か月が無いぞ」
生体保証とは購入して3か月、普通の取り扱いをしていて奴隷が死んでしまったら同じ金額位の奴隷を貰えるという保証だ。
「説明ありがとうございます。オークションを見てももう仕方ないので、檻をみて回ります。有難うございました」
僕はお礼をいって銅貨3枚チップとして渡した。
「まぁごく稀に掘り出し物も居るみたいだから、見るのも悪くないかもな」
僕はお礼を言い、檻の方に向っていった。
「すこし、見せて頂いてよいでしょうか?」
たしか、ちゃんと店主に声を掛けてから見るのがマナーだ。
奴隷商らしき人が3人居るから、全員に声かけた。
「あははっ此処は店でないから自由に見て良いよ、青空だからね」
「そうそう、自由に見て良いよ」
「品質は保証はしないけど、気に入ったのが居たらお得だよ…まぁ難しいかも知れないけど」
言っていた意味が解った。
どうみても病気を患っていそうな者、隻腕の者。
確かに商品価値は低い者しかいない。
しかも見た感じ全員男しか居ない様に見える。
半分暇つぶしに見ていたら…
一つの檻にシートが掛けられているのを見つけた。
『何でこの檻にだけシートが被せてあるんだ』
好奇心からめくってみた。
「嘘だろう…この世界にはこれ程の美少女が居るのか…」
その檻の中にいた少女は、綺麗な長い黒髪に透き通るような黒み掛ったグリーンアイ。見つめていると吸い込まれる様な錯覚を覚える程澄んでいる。
体はスレンダーで手足がすらっとしている。
前世の記憶の中にもこんな美少女は居ない。
そして、今この世界…エルフやダークエルフが居る此の世界でもこんな美少女は見たことが無い。
まるで物語の主人公が…アニメやマンガライトノベルのヒロインにしか見えない。
奴隷なので話さない様に言われているのか…話してこない。
この子はどう考えても売れ残りじゃないな…一体幾らするんだ…確か、ガイアが昔、凄く綺麗なエルフが金貨5000枚(5億円)で買われたなんて話があった。人族だからそこ迄いかなくても、流石に金貨20枚じゃ駄目だろうな…態々シートで隠していたんだ、もしかしたらすでに売約済みかも知れない。
無理なのは解る…だけど、諦めきれない。
自分の人生で二度とこんな美少女には絶対に逢えない。
聞くだけ聞いてみよう。
もし足りなかったら何とか分割に出来ないか交渉しよう。
「すみません、この子幾らですか?」
店主は他のお客と話しをしていた、だからこちらを見ないでぞんざいに答えた。
「此処に居るのは市場におろせないレベルの奴隷だから、欲しいならどれでも銀貨3枚で譲るよ」
嘘だろう。
多分、他の奴隷との間違いだ。
「このシートの掛かっている子の事だよ」
「すまないねー、奴隷は銀貨3枚以下にはならないんだよ…だから銀貨3枚だ」
聞き間違いじゃ無いようだ。
このまるで二次元から現れた様な美少女が銀貨3枚。
ちゃんと、確認はした。間違っていたとしても向こうのせいだ。
「だったら、この子買います、買いますから直ぐに手続きして下さい!」
横槍が入ったら大変だ。
僕は大きな声で叫んだ。
「購入されるのですね! はい…それですね…解りました直ぐに手続きします。まぁ女ではあるから..掘り出し者なのかな…あはははっ」
「ちょっと待て女が居たのか」
ヤバイ、向こうの男もこっちに来た。
「すみません、もう購入の意思を示した後です。」
「うるせーな! ちょっと見せろ…あっ悪い邪魔したな」
そう言うと、男はそそくさと立ち去った。どうかしたのか?
「すみません、奴隷の方は銀貨3枚これが奴隷の最低価格です。此処は奴隷市場内でないので生体保証はつきません。あと、この奴隷に限り、買い戻しはありません」
「別に構いません」
僕が欲しいのは彼女であって、他の奴隷じゃない。
彼女を見てしまった今、伝説のハイエルフだって霞んで見える。
「有難うございます、あと奴隷は銀貨3枚ですが、奴隷紋、契約に銀貨3枚掛かります。まぁ今回はこちらでサービスします。こちらを銀貨2枚にしますので、合計銀貨5枚になりますが宜しいですか?」
「宜しくお願い致します」
「畏まりました、それでは手続きさせて頂きますので、テントの方へどうぞ」
よく見ると、少し離れた所にテントがあった。
そこで契約するようだ。
奴隷商の用意した書類にサインして、血が必要と言う事で剣で右手の親指を傷つけて、奴隷商が彼女の背中につけた印に言われるまま、その指の血を擦り付けた。
無事に紋様が浮かび上がり奴隷紋が刻まれた。
「これで手続きは終わりです…この度は有難うございました」
僕は銀貨5枚を払った。
「話ししても良いですか?」
「もう契約も終わりましたし、その奴隷は貴方の者です。ご自由にどうぞ! あと少しで今日は終わりですから、それまでテントを使って頂いて構いません」
「あの…買って頂き有難うございました…」
声まで凄く可愛い…ヒノキボイスと鋲宮ボイスを足したような…声優の様な澄んだ声だ。
「こっちこそ…その君みたいな凄く可愛い人にでうわわえて(噛んじゃったじゃないか)幸せだふ。 名前を教えてくれまふか。」
見れば見る程綺麗で可愛い。
汗がさっきから止まらない。
こんなに緊張したのは火竜に遭遇した時以来だ。
「…自分でも解っていますから、気を使わなくても平気ですよ…私気持ち悪いですよね…奴隷としても価値が無いから…真面に扱ってもらっていません…実の母親からも気持ち悪いって…頭すら撫でて貰ったことも無いんですよ…村でも良く石をぶつけられていましたから…別にお金に困って無いのに、私の事を気持ち悪いって..見たくないって…ううっ実の母親に売られたんですよ…正確にはお金払えないという女衒に「無料で良いから」って」
僕には彼女は凄い美少女にしか見えない。
「あのさぁ、転生者って知っている?」
「転生者ですか…別の世界の記憶があるっていう、あれですか?」
「そう、それ、僕は転生者だ」
「そうですか…転生者なんですね…」
う~ん、どう伝えれば良いのか。
「転生者には前の世界の記憶があるのは知っているよね?」
「はい…」
「その前の世界なら、君は間違いなく美少女、だから僕には、綺麗な女性にしか見えない」
「私が美少女で可愛い…嘘でもそんな事言ってくれたのはご主人様だけです」
「何と言おうと僕には君が美少女にしか見えない。僕の名前は聖夜、宜しく」
「嘘でも嬉しいです…私の名前はイクミと申します。宜しくお願い致します..」
2次元から現れた様な理想のイクミ…それが何でここ迄自信がないのか…僕には本当に解らない。
バラ色生活の始まり
イクミが傍に居る事で、全てがバラ色の様に感じる。
こんな美少女が傍に居てくれる。
こんな幸せは感じたことが無い。
幼馴染の3人も確かに美少女だがレベルが違う。
ランゼ達が、前世で言うクラスの中で可愛いレベルだとしたら、イクミは芸能人を遙かに超える。
だってコスプレじゃなくて『本物のアニメキャラクター』がそこに居る。
そうとしか思えない。
『だれかに攫われたら怖いな』
「イクミ、手を繋いで良いか」
「あの…ご主人差が穢れちゃいますよ…」
「僕の事は気にしないで良いから…僕が手を繋ぎたいんだ」
「それなら..良いです..」
そう言えば、この世界で女の子の手を握ったのは…子供の時以来だ。
凄く柔らかいな。
ハニカミながら下を向くその仕草も、本当に可愛い。
「それじゃ行こうか?」
「あの…ご主人様どちらへ行くのでしょうか?」
「洋服屋さんだよ…そのままじゃね」
この世界の洋服屋は古着屋だ。
新しい物はオーダーで何日も掛かるから、取り敢えずは古着屋に行くしかない。
「そんな、勿体ないですよ…私なんてボロキレで充分です…」
イクミの着ている服は、奴隷の中でも更に酷い物だった。
イクミ程可愛いのなら、ちゃんとした服を着せたら直ぐに売れるだろうに…
しかも、お風呂や行水もさせて貰えてなかったのか..髪にはフケが浮かび、少し臭い。
それでも、僕が『手を繋ぎたい』そう思える程可愛い。
「いや…それじゃ不味いでしょう? イクミは綺麗なんだから服も綺麗にしないと」
「あの…そんな訳無いですよ。私は醜いです。私なんか…生きている価値もないんです…
」
イクミは何故か自分に本当に自信がないみたいだ。
「まぁ、何処に行くのにも、それじゃ困るだろう? それに目のやり場に困るから、取り敢えず服を買おう」
「そうですよね…私の肌なんて見たくも無いですよね…」
いや、見たいけど..それは言えないな。
「まぁ良いや、取り敢えず服は買う事は決定」
「そんな、本当に勿体ないですよ..私なんか…私なんかに」
話していても仕方が無いので…僕はイクミの手を引きながら古着屋に向った。
◆◆◆
「いらっしゃい…」
「どうかしましたか?」
「いえ、何でもありません。それで今日はどう言った物をお求めですか?」
何故か一瞬顔が曇ったのは何故だ。
まぁ良いや。
「彼女に似合いそうな服を3着位、欲しい。あと下着とか靴下も3組位欲しいんだ」
「そんなご主人様..本当に、本当に勿体ないですよ…綺麗な服が汚れちゃう」
「あの…どうしますか?」
「必要な物ですから下さい」
僕はイクミの声を遮って服を頼んだ。
下着や靴下は勿論新品だ。
「こんな感じでどうだい?」
「もう少し可愛らしい感じの方が良いんだけど」
「それは、今時の子が着る様なデザインの物が欲しいって事かい?」
「そうだよ」
なんでこんな変な服を出すんだ。
どう見ても地味で年寄りが着そうな服を選んだんだろう。
「これでどうだい?」
「ありがとう」
「あの、ご主人様、本当に、私にそんな服に合いませんよ…一番安い服か奴隷用で良いんです…それでも勿体ないです…」
「これは…違うよ。僕が可愛らしい服を着た、イクミの姿を見たいんだ」
「…そうですか…なら良いですが…似合わないと思います…し、私に綺麗な服着せても…勿体ないですよ..私醜いですから」
「そんな事無いよ..それじゃおばさん、それを貰うよ」
「ありがとう」
古着屋を後にした僕は今度は宿屋に向った。
イクミは恐らくかなり前から風呂や水浴びをしていないのか結構汚い。
だから、体を洗った方が良い。
ちょっと奮発して高級宿屋に向った。
「いらっしゃい…聖夜様」
また一瞬変な顔をしたな。
そうか、確かにイクミは汚れているから、確かにこういう扱いされても仕方ないな。
さっきの古着屋も同じだ。
これでも元勇者パーティだ…文句は言って来ないだろう。気がつかない振りして押し通そう。
そうしよう。
「すみません、今日はお風呂付の部屋でお願い致します」
風呂付の部屋はこの世界では高級な部屋で、高級宿屋でも数は少なく高価だ。
「畏まりました。所で横の方は…ああっ奴隷ですね。畏まりましたご用意させて頂きます」
「ついでに食事のルームサービスを二つお願い致します」
「一つは奴隷用ですね」
「いいえ、二つとも普通の物でお願い致します」
「…畏まりました」
案内された部屋はかなり豪華な部屋だった。
「ご主人様…あの私を抱きたいのですか? 気持ち悪いから止めた方が良いですよ…化け物みたいな私何かにそんな事したら、ご主人様が汚れて穢れてしまいます。 そんな事してもらえる資格なんてない女なんです」
「イクミみたいな美少女、確かに抱きたいとは思うよ…だけどそれはイクミが僕を好きになってからで良い、今はお風呂で綺麗にしてきて」
思わず、想像しちゃったじゃないか。
「お風呂? どうすれば良いのですか?」
イクミに話を聞いたら、そもそも水浴びやお風呂に入った経験が殆ど無いみたいだ。
「本当に無いの?」
「はい、私家族といた時も豚小屋暮らしでしたし…そういった事をした記憶はないです」
仕方が無い。
僕が洗ってあげるしか無さそうだ。
「それじゃ、服を脱いでくれるかな」
「はい」
イクミは凄いな。
お風呂に入った事も無い。
そんな状態なのに色白に見える。
手足はすらっとして長く。
胸は小さいが、スレンダーな綺麗な体をしていた。
「綺麗..あっゴメン」
「目を汚してごめんなさい…気持ち悪い体ですよね。ごめんなさい」
「本当に綺麗だよ」
「本当に…嘘ですよね」
「そんな事無いよ…それじゃお風呂に入って。洗ってあげるから」
「はい」
イクミは凄く汚れていた。
髪の毛なんて10回洗ってようやく綺麗になった。
体も最初は洗った水は泥水の様な色をしていた。
何回も洗って、ようやく綺麗になってきた。
「ご主人様駄目です…そんな汚いですから…そこは特に」
「我慢して..」
体も10回洗ってようやく擦っても垢が出なくなった。
「はい、これで終わり、後は拭いてあげるからほら」
「…有難うございます」
「別に良いって…」
お風呂に入っていた時にルームサービスが届いていたみたいで、配膳迄されていた。
「それじゃ食べようか?」
「あの…私の食事が無いみたいですが…」
「目の前にちゃんとあるじゃ無いか?」
「床に無いです…パンがありません」
「違うよ、ほらそこのテーブルにあるのが君のだよ」
「それはご主人様が食べる分ですよ…」
「違うよ、ちゃんと別に盛り付けられているだろう? そっち側のはイクミの分だから全部食べて良いんだよ」
「…こんな食事初めてです。ここ暫くはカビたパンしか食べていませんでした…本当に良いんですか?」
「それは君の分だよ」
「ありがとう..ございます」
そう言いながらイクミはようやくテーブルの食事に手を伸ばした。
多分、今迄真面な食事を食べた事が無いのか…手掴みで食べている。
まぁ此処には僕とイクミしか居ないから、別に構わないな。
かなり豪快な食べ方であっと言う間に食事は無くなった。
「ごちそうさまでした」
「ごちそう…さまでした」
これからはテーブルマナーについても教えなくちゃな。
◆◆◆
「それじゃ、寝ようか」
「はい…あの私、本当に醜いし、抱いても楽しめません…それで良いなら…どうぞ..」
服を脱ぎ始めた。
手足が長く..スリムな凄く綺麗な…違う。
「違う。違うって…普通に寝るだけ…寝るだけだって」
「そうですか..そうですよね..私なんて、そういう価値もないですよね…なんで勘違い」
「違う、違う…充分魅力的だけど、そういうのは、普通まだ先..」
「そうですか…それじゃ」
イクミはその場に寝ようとし始めた。
確かに言われて見れば…奴隷は床で寝る物だけど…そんな事を僕は考えていない。
「床じゃ無くてベッドが二つあるんだから、そっち使って大丈夫だよ」
「…あの、本当に良いんですか? 私、毛布すら貰えなかった..のに」
「うん、気にしないで、そのまま使って、おやすみなさい」
「おやすみなさい…」
寝ているとイクミの泣き声が聞こえてきた。
布団を握りしめ、泣きながら寝ていた。
今迄、何があったのか解らない。
今日はこのまま様子を見た方が良いだろうな。
【過去】奴隷商
私の名前はイクミ。
ごく平凡な農村に生まれた。
そして両親も普通に農民をしていた。
そんなに裕福でも無く、かといって貧乏でもない本当に普通の家。
姉が1人いて普通の3人家族。
4人家族じゃないのか?
違うよ…私は家族として扱って貰えない『家畜』扱いだから。
だから、私には『金持ち』でも『貧乏』でも関係ない。
「ほら、とっと働かねーか、オラよ!」
「ぐふっ…はい」
このおじさんは、何かにつけ私に暴力を振るってくる。
本当はお父さんだけど…間違っても『お父さん』とは呼べない。
呼ぼうものなら、鉄拳制裁が下される。
小さい時に『お父さん』って呼んだら…
「この化け物がお父さんって呼ぶな! お前みたいな気持ち悪い奴は俺の娘じゃない。今度そんな呼び方をしたら殺すぞ」
そう言いながら木の棒で何回も叩かれた。
おばさんも同じだ。
お母さんって呼べない。
おばさんって呼ばないと駄目。
何時も私に…
「お姉ちゃんは美人なのに何で貴方はそんな醜いのよ…あんたみたいな子産んだなんて解ったら、周りから馬鹿にされるわ…絶対にお母さんなんて呼ばないで頂戴」
そう言っていた。
私はおじさんとおばさんの子供なのに…『お父さん』『お母さん』じゃない。
近所の人には『親が死んだ遠縁の子を引き取った』そう言っていた。
お姉さんはお姉さん…ややこしい。
家族の『お姉さん』『お姉ちゃん』じゃなく他人の『お姉さん』
そういう感じで話さないといけない
私を何時も嫌な目で見てくる。
「あんたみたいな化け物の姉だとバレるのが嫌なのよ…本当に貴方キモイわね、見たくも無いわ」
家族から嫌われているから私は家には入れて貰えない。
寝場所は…豚小屋の中のわら。
そこが私の暮らす場所。
1日頑張って仕事して…蒸し芋2個、それが私の食べ物。
スープもパンも無い。
水だけは自由に汲んで飲ませて貰える。
家では普通にご飯を食べているけど『私は家族じゃない』から関係ない。
この汚い豚小屋のわらが私の寝場所。
冬は暖房も無いから死ぬほど寒い。
だけど..毛布も無いし焚火も許して貰えない。
夏は臭くて暑くて寝苦しい。
此処が私の寝場所。
ただ朝から夕方まで死ぬ程働いて芋二つ。
それだけが…私の毎日。
機嫌が悪いと憂さ晴らしで暴力を振るわれる…それが私の毎日。
「豚は高値で売れるけど、お前は売る事も出来ねーからそれ以下だ」
「あんたみたいな化け物…なんで生まれて来たのよ」
「間違っても姉妹なんて思わないでね…此処に居られるだけ幸せだと思いなさいね、気持ち悪い化け物さん」
私に家族なんていない…化け物だから。 醜いから。
なんで私はこんな姿に生まれてきたんだろう。
綺麗になんて望まない。
『普通で良い』『ううん不細工でも良い』人間扱いされる位で良いんだよ..
なんで私は…私はこんなに醜いの…
◆◆◆
私の居場所がないのは家の中だけじゃない。
村の中にも居場所がない。
「化け物が来たぞ~やっけろ~っ」
「そら、そら…」
「やめてっ」
ただ村を歩いているだけで子供が石をぶつけてくる。
「そんなバケモンに構ってないでお手伝いしな」
「何だい、その目は! ただそこに居るだけで気持ち悪いんだよ、石をぶつけられても仕方ないだろう? 化け物なんだからね」
逆らっても余計酷い思いするだけだ。
しかも、仕事が遅れると、おばさんやおじさんから木の棒で殴られる。
「ごめんなさい…ううっ」
私は悪くない…だけど、それを言っても誰も助けてくれない。
だから…謝るしかない。
私は…私は..豚以下の存在なんだから…
◆◆◆
奴隷商人がこの村に来た。
女の子の泣き声が聞こえる。
「お父さん、お母さん嫌だーーーよーーっ奴隷なんて、私、良い子になるから」
「許してくれーーっ許してくれ、売るしかないんだ」
「許してけろ、許してけろ…すまねー」
「お父さん、お母さん..奴隷は嫌だよー」
「お前を売らないと、家族が死ぬしかないんだ…本当にすまない」
「解かったよ…もう行くしか無いんだね」
そんなに奴隷になるのが嫌なのかな…
奴隷がどんな物か知らないけど…
その子の他にも複数の子が奴隷として売られていった。
◆◆◆
「此奴も売れませんか?」
「これは駄目だな」
「これでも一応、女ですし、初物です」
私もどうやら奴隷として売られるらしい。
「流石にこれじゃ…幾ら女でも価値が無い…体のバランスも悪いし、顔も化け物じゃないか、これじゃ銅貨1枚払えないな」
「そんな…」
「悪いな、此方も商売なんだ」
「おい、その女無料ならどうだ?」
「おい、勝手な事言うなよ」
「あのよ…迷惑なんだよ! そんな化け物みたいな女見るだけで嫌な気分になる」
「そうじゃ、居なくなった方がええ」
「いや、無料でも欲しくない…商売なんだ売れない者は要らない」
「なぁ奴隷商さん、この村は何時も人を売る時、貴方に頼んできた。買う場合もな。もしこれを連れていってくれないなら、次からは他の奴隷商を頼む事になる。それでも良いんか?」
そうか…私って無料でも要らないんだ。
そんな価値がないんだ…豚だってお金になるのに…私はお金になる所か…無料でも要らない存在なんだ…あはははっ家畜以下だったんだ…
「仕方ないな…仕方ないから無料で引き取ってやるよ、そこの化け物女、馬車に乗りな」
こうして私は奴隷として売られていきました。
奴隷って意味も解らないけど…今よりは幸せになれるのかな?
【過去】奴隷
手鎖をつけられて馬車で数日。
奴隷商のお店に着いた。
それから私は、檻の中に閉じ込められて出して貰えなかった。
他の奴隷の檻には毛布があるのに私は貰えない。
こんな意地悪は慣れっこだから別にこたえない。
寧ろ、家で暮らしているより幸せだった。
ただ寝ているだけで…大きな声を出さなければ怒られたりしない…
一日パン1個だけど…前と変わらないよ…
だけど…辛い。
「幾ら何でもこれは無いな…化け物じゃないか?」
「この顔じゃ、性処理になんて使えないだろう..」
「若い女の奴隷が銀貨3枚で買えるなんていうから見に来たら…詐欺じゃねーか」
ただ、ただ馬鹿にされるだけ。
私を見るとお客様が不機嫌になるからと…一番奥に置かれ、シーツが掛けられるようになったよ。
ただでさえ暑いのに…風が一切入らないから…地獄…
きっと私は…このままパン1個死ぬまで食べながら、見世物として生きていくしかないのかな…
◆◆奴隷商人SIDE◆◆
偉い物引き取っちゃったな…
売れる訳ねーよ…
一つ一つのパーツは悪くねーがバランスが悪すぎる。
特に可笑しいのは目だ。
目の大きさが通常の人間の2倍いや3倍近く大きい。
頭も気持ち普通の人間より大きい。
鼻も口も小さくて、それ単体で見れば小さくて良いのかも知れねーが小さすぎだ。
鼻なんて穴が小さすぎて鼻があいているのか解かんねー。
口も小さすぎるぜ。
それに体だってよー体、本体は普通の人間より小さくて、そのくせ手や足は長い。
まるで呪われた人間かよっていう程だ。
あの村長、無理やり押し付けやがって…こんな奴隷誰が買うかよ。
店に置いていても売れないし、奴隷保護法があるから、最低下食事は与えないといけないし…完全、赤字だ。
いっそう、死んでくれないかな。
本当は無料でも良い位…いや貰ってくれるなら金すら払っても良いが…
奴隷販売法で銀貨3枚以下じゃ売れねーし。
本当に腹がたつわー。
仕方なく『奴隷市場』に連れていった。
今回の俺の仕事は奴隷の処分だ。
奴隷市場の使い道は二つあって価値のある奴隷を高く売る事と、要らない奴隷をオークションに出し処分する事とある。
だが、ここで問題が起きた。以前とは違い『出品基準』が厳しくなり出品すら出来ない奴隷が6人も居た。
仕方なく、俺は市場の方に行き、従業員に奴隷市場の外で売らしておいた。
奴隷市場の周りは『基準を満たしていない』奴隷を売っている者が多く居る。
これは、一応奴隷市場から見逃されているので…問題はない。
◆◆◆
「売れたか?」
「1人だけ売れました…」
「まぁ売れただけましだ…それで誰が売れたんだ」
「…化け物です」
「そうか…まぁ一応女だからな、よく考えれば、面でもつければ出来なくも無いか?」
「俺は無理ですね、体も妙にバランス悪いですから」
「まぁ良い…一番要らない奴が金になったんだ良かったよ…さぁ帰るか」
「はい」
テントを畳み、残り5人の奴隷を連れて俺は故郷に帰っていった。
【イクミSIDE】 買って貰えた。
まさか自分が買って貰えるなんて思わなかった。
私は気持ちが悪いらしく…お店でも売れなかったし、ほぼ見世物扱いだった。
そこ結果、奴隷市場のオークションに掛けられる事になった…
だけど、
「チェッ、こいつ等オークションにも掛けられないのかよ」
奴隷商人が私の檻を蹴った。
「此奴がいると他の客が寄り付かねーから、シートでも被せておけ」
「此奴どうしますか?」
「まぁ、生涯倉庫にでも突っ込んで餓死でもして貰うしかねーな。本当に保護法でよ処分も出来ねーしな」
私は本当に誰からも必要とされない。
奴隷にすら成れないのか…
もうきっと…空も見れない。
◆◆◆
何もやる事が無いから、ただ寝ていた。
せめてこのシートが無ければ外を見る事は出来るのになぁ。
今はただ寝ながら音を聞く事しか出来ないな。
「すこし、見せて頂いてよいでしょうか?」
声が聞こえて来た。
どうせ私には関係ない。
私みたいな化け物…買うわけが無いからね。
「あははっ此処は店でないから自由に見て良いよ、青空だからね」
「そうそう、自由に見て良いよ」
「品質は保証はしないけど、気に入ったのが居たらお得だよ…まぁ難しいかも知れないけど」
どうやら見て歩いているみたい。
あれ、すぐ傍まで来ているのかな。
よく見るとシートの下から足が見える。
『何でこの檻にだけシートが被せてあるんだ』
あれっ、シートが外れた…嘘、私を見るの。
見ても無駄だよ…此処に居るのは、確かに女ではあるけど。
化け物だもん。
「嘘だろう…この世界にはこれ程の美少女が居るのか…」
美少女…誰の事だろう。
私の事じゃないよね..だけどこの近くに女は私しか居ない。
まさか…私…間違ってもそんな事は無いよね。
「すみません、この子幾らですか?」
まさか買ってくれるの?
だけど、この人、今迄の人達とは全然違う。
今迄の人は見た瞬間から目をそらしたり、興味なさそうに直ぐに歩いていっちゃったけど…この人私の事をずうっと見ている。
何だかちょっと恥ずかしい。
「此処に居るのは市場におろせないレベルの奴隷だから、欲しいならどれでも銀貨3枚で譲るよ」
無料でも要らない、私が銀貨3枚。
買う訳無いよね。
「このシートの掛かっている子の事だよ」
多分、銀貨3枚なんてしないと思ったんだよね。
そうだよね、だってこの中で一番価値がないのは私なんだから。
「すまないねー、奴隷は銀貨3枚以下にはならないんだよ…だから銀貨3枚だ」
「だったら、この子買います、買いますから直ぐに手続きして下さい!」
嘘、買ってくれるの?
本当に…私買って貰えるの。
信じられない。
「購入されるのですね! はい…それですね…解りました直ぐに手続きします。まぁ女ではあるから..掘り出し者なのかな…あはははっ」
お店の人も嬉しそうだ。
今日から怒鳴られないで済むし、私も嬉しい。
「ちょっと待て女が居たのか」
あれっ、他にも居るの?
「すみません、もう購入の意思を示した後です。」
「うるせーな! ちょっと見せろ…あっ悪い邪魔したな」
普通そうだよね…欲しい訳無い。
化け物なんだから。
「すみません、奴隷の方は銀貨3枚これが奴隷の最低価格です。此処は奴隷市場内でないので生体保証はつきません。あと、この奴隷に限り、買い戻しはありません」
「別に構いません」
「有難うございます、あと奴隷は銀貨3枚ですが、奴隷紋、契約に銀貨3枚掛かります。まぁ今回はこちらでサービスします。こちらを銀貨2枚にしますので、合計銀貨5枚になりますが宜しいですか?」
「宜しくお願い致します」
「畏まりました、それでは手続きさせて頂きますので、テントの方へどうぞ」
どうやら無事買って貰えるみたい…
久々に檻から出られて凄く嬉しい。
本当は直ぐに話したいけど、奴隷だから話しちゃ駄目。
背中側の服がめくられて紋が刻まれた。
何だか恥ずかしくて、血を垂らされたら体の芯から熱くなってきた。
「これで手続きは終わりです…この度は有難うございました」
お金も払われたみたいだし…うん買って貰えたみたい。
だけど、私なんで買って貰えたんだろう。
化け物だから見栄えは最悪だし…何させられるんだろう?
「話ししても良いですか?」
「もう契約も終わりましたし、その奴隷は貴方の者です。ご自由にどうぞ! あと少しで今日は終わりですから、それまでテントを使って頂いて構いません」
もうお話しして良いんだ。
そうだ…俺言わなくちゃ。
「あの…買って頂き有難うございました…」
余り喋らないから上手く話せない。
人と真面に話すのってどのくらいぶりかな。
「こっちこそ…その君みたいな凄く可愛い人にでうわわえて(噛んじゃったじゃないか)幸せだふ。 名前を教えてくれまふか。」
ご主人様も余り話した事がないのかな。
話すの下手…ちょっと私に似ているのかな。
だけど…可愛い、そんな訳無い。
だけど、嘘でもお世辞でも嬉しいな。
「…自分でも解っていますから、気を使わなくても平気ですよ…私気持ち悪いですよね…奴隷としても価値が無いから…真面に扱ってもらっていません…実の母親からも気持ち悪いって…頭すら撫でて貰ったことも無いんですよ…村でも良く石をぶつけられていましたから…別にお金に困って無いのに、私の事を気持ち悪いって..見たくないって…ううっ実の母親に売られたんですよ…正確にはお金払えないという女衒に「無料で良いから」って」
話していて悲しくなる。
だけど、私が可愛いいなんてどう考えても可笑しいし、あり得ないよ。
「あのさぁ、転生者って知っている?」
「転生者ですか…別の世界の記憶があるっていう、あれですか?」
「そう、それ、僕は転生者だ」
『転生者』優れた能力を持っているという人達だよね。
それが何で私なんか買ったのかな。
「そうですか…転生者なんですね…」
どうしたのかな、考えているみたいだけど。
「転生者には前の世界の記憶があるのは知っているよね?」
「はい…」
「その前の世界なら、君は間違いなく美少女、だから僕には、綺麗な女性にしか見えない」
そんな世界があるなんて信じられない。
「私が美少女で可愛い…嘘でもそんな事言ってくれたのはご主人様だけです」
だけど、こんな事言ってくれる人は今迄居なかった。
「何と言おうと僕には君が美少女にしか見えない。僕の名前は聖夜、宜しく」
「嘘でも嬉しいです…私の名前はイクミと申します。宜しくお願い致します..」
私の目を見つめて話してくれる人。
生まれて初めて可愛いって言ってくれた人。
今迄会った中で…こんな優しくしてくれた人なんていない。
少なくとも今迄より幸せに…なれるよね。
何をしよう
朝目が覚めた。
昔の習慣でつい早く起きてしまう。
もう仲間は居ないんだし早く起きる必要は無いのに。
そうだ、イクミ…
良かった。
横のベッドでスヤスヤ寝ている。
しかし、見れば見る程凄く可愛い。
此処が秋葉原なら、色付きのウイッグとかコスプレ衣装を買ってくるのに。
まだ、起きそうもないな。
朝市に行って何か食材でも買ってくるか。
前世なら冷蔵庫もあるのにこの世界には無い。
そのくせ、宿屋には何故かキッチンがついている。
まぁ、本当に不便な物だけどな。
朝市にやって来た。
肉と野菜を買ってスープでも作って、後はパンで良いか。
イクミは昨日、あの後盛大に吐いた。
話を聞くと、今迄真面に食事をとった事が無かったそうだ…
多分胃も弱っていたに違いない。
残念ながらこの世界に米は無い。
だからお粥が作れない。
必要な物は買ったからこれで良いだろう。
ついでにクリーム菓子でも買って帰るか。
◆◆◆
「ご主人様…ご主人様が居なーーーい。 嘘…何処に、何処に行っちゃったの…ううっしくしく」
「どうしたんだ?」
「居なくなっちゃったと思って…心配して…心配してううっしくしく」
「ごめん」
「ううん、私..ごめんなさい、だけど居なくなっちゃったと思って、悲しくてごめんなさい」
「心配しなくて良いよ。僕は何処にも行かないから」
「本当?」
「本当だから、安心して」
「良かったぁーーっ」
泣いている姿も可愛いかったけど、笑顔はその何倍も可愛いな。
「それじゃ食事を作るから待っていてくれる」
「えっ、ご主人様が食事を作ってくれるの…えへへっ凄く嬉しいな」
そう言えば、俺今迄幼馴染の飯作っていたのに感謝なんてされた事無かったな。
ただ、お礼を言われるだけでもこんなに嬉しいものなのか。
嫌違う…相手がイクミだから余計に嬉しんだ。
「ああっ、今から作るから待っててくれ」
「はーい」
そう言いながらイクミは僕の横に座りながら頬杖をついて鍋を見ている。
こんな可愛い子が何故…あそこ迄酷い事になっていたのか本当に不思議で仕方が無い。
野菜の皮をむいて刻んで、肉と一緒に調味料で煮込んだだけのスープにバターを塗ったパン。
暫くはこんな物だな。
「さぁ、出来たよ」
「うわぁ、美味しそう」
「熱いから、ちゃんと冷ましながらスプーンで食べるんだよ」
「?」
イクミはキョトンとした顔をしながらこっちを見ている。
よく考えたら危ないので冷めてから食べさせた方が安心だな。
「少し冷めるまで待とうか?」
よく考えたら、スプーンすら真面に使えないのにこのまま飲ませたら危ないな。
「はい…」
そう答えながらもイクミの顔はお預けを喰らった犬みたいにスープとパンから目を離さない。
そうだ。
「パンは食べても良いよ。僕の真似をしながら食べて」
「うん」
急に笑顔になった…やはり凄く可愛い。
僕はパンを契りながら食べて見せた。
「さぁ真似てみて」
「解かった…うん凄く美味しい」
普通に市場で売られているパンなのに嬉しそうだ。
柔らかくない硬いパンなのに。
「スープも冷めたみたいだ、これも僕の真似をしながら食べてね」
「うん、解った」
食い入る様に見ながら、一生懸命真似ながら食べている。
たどたどしい食べ方が寧ろ庇護欲をそそり、凄く可愛らしく見える。
「こんな感じに口に流しこむようにね」
「うん…」
1時間位ゆっくり時間を掛け食事が終わった。
テーブルは結構ビシャビシャだ。
テーブルを拭いたら…今日は何をしようかな?
あれっ『何をしよう?』
こんな事を考えたのはどの位ぶりだろう。
今迄の僕は『何をしよう』そんな事も考えられない位てんぱっていたのか。
「イクミ今日は何をしようか?」
「えっ…そうですね」
イクミと一緒なら何をしても楽しそうだ。
閑話 勇者達
「ガイア、聖夜を追放して良かったのか?」
剣聖のランゼが言い出した。
言いたい事は解かる。
聖夜は幼馴染だし気心は知れている。
戦いでは役に立たなくても、雑用という面では使える男だった。
戦いだって俺達4人が強いだけで、彼奴が特別に弱い訳じゃない。
まぁジョブの差でついて来れなかっただけだ。
『幼馴染』それが大きな問題、それだけだ。
簡単に言うと、小さい頃から今迄の長い付き合いがある。
それが問題なんだ。
5人だけでの付き合いが長い。
ランゼ、マリー、ミルダにとって1番は間違いなく俺だが、もし2番目の男をあげるなら自然と聖夜になる。
聖夜は俺みたいに派手なタイプでこそ無く一見地味だが顔だって悪くない。
俺にとっても、親友みたいに思える所は沢山ある…いや、男では唯一の友人だ。
親友で幼馴染、そんな奴の傍で他の幼馴染と流石に『イチャつけない』だろう!
三人にしたって、もう一人の男の幼馴染、しかもそこそこイケメンにそういう行為を見られたらと思うと気が気でないだろうしな。
頭の中は四人とも板挟みで困っていたのだ。
他にも問題はある。
もし、将来村に帰ったら、俺も三人も避難されるかもしれない。
俺一人が三人を独占して結婚。
彼奴が独り身。
彼奴は、よく子供の頃から大人のお手伝いをしていたから、村で評判が良いんだ。
三人の親も俺の親も彼奴をべた褒め状態で、早くに親を亡くしたあいつを冗談で婿にしたいと言っていた。
『邪魔だけど、大切な幼馴染』それが一番近い間柄だ。
そして今、雑用が得意な聖夜を追い出したつけが出てきた。
「だけど、これどうするの?」
「マリ―の言う通りだよ」
確かにその通りだ。
野営の準備から焚火まで全部、聖夜が一人でやっていた。
この中に真面に野営の準備をしていた者はいない。
「誰か、調理が出来る奴はいないのか?」
「やった事ないな、私は剣以外の事は不器用だ」
「そんな事言いだしたら、私だって回復魔法しか出来ないわ」
「賢者って常に勉強なんだよ」
駄目だな…こいつ等。
「しかたねー、これからは当番制だ、今日は俺がやる…材料は?」
「野菜が少しあるだけだな」
「ランゼ…そう言えば誰が食材の買い出しをしていたの、私はして無いわ」
「マリ―…思い出してみて、買い出しは聖夜がしていたし、聖夜は依頼の傍ら鳥やウサギをとって良く調理していたよ」
「嘘、そんな事していたの」
「マリ―がウサギが可哀想って言うからこっそり隠れて解体していたぞ」
「なら、今日は肉無しで野菜のスープだな」
「「「えーっ」」」
流石にこの時間から獲物を取りに行きたくないしな…
「今度からは、ちゃんと狩るから勘弁してくれ」
折角作ってやったのに…不味そうに喰うなよ。
◆◆◆
結局1週間もしないで聖夜のありがたみが良く解った。
まず、三人が見る影もなく汚らしくなってきた。
イチャついても臭いし、触ったりしたら垢が出るし髪も汚い。
お互いに余り触りたいとか抱きしめたいという気持ちは無くなった。
なんでこうなったのか考えたら、当たり前だった。
いつも聖夜は、夜、水を汲んできて、ハーブを混ぜた水を作り、皆に体を拭くようにタオルと一緒に渡していた。
髪がべたついてきたら「髪を洗った方が良いよ」と川から水を汲んできてきたり、蚊よけのハーブを用意したりしていた。
男なのに全員の洗濯までしていた。
『身綺麗で綺麗な幼馴染』は彼奴がいたからこそ存在したんだ。
そして俺も『カッコ良い勇者』で居られてのは彼奴のお陰だ。
髪を整えてくれて髭迄剃刀で剃ってくれていた。
今のこのパーティは…もうキラキラしてない。
髪の毛ボサボサの剣聖。
蚊に刺されて体をポリポリ掻く聖女。
顔に疲れが出ている賢者。
まるで魔族と戦い負けた様な状態にしか見えない。
勇者はこの世界に何人も居る。
だが、俺だって魔王を倒せる可能性を秘めた一人だ。
それが…これで良いのか?
駄目だ…今の俺達を見て子供が平民が憧れるだろうか?
憧れなどしないだろう。
「なぁ、聖夜を迎えに行こうか? 彼奴は俺達に必要な人間だった」
「そうだな」
「そうね」
「賛成」
やはり、聖夜は俺達に本当に必要な人間だった。
「それで今後はどうする?」
その問いに誰も暫く答えなかった。
勇者である以上魔王城を目指さなければならない。
そしてその旅は勇者の誰かが魔王を倒すまで続く。
5年、10年、いやそれ以上の旅になるかも知れない。
その旅に男2人に女3人…流石に俺一人が全員を抱え込むのは世間的にも体裁が悪いだろうな。
【ランゼの場合】
そういう事なら、私がパートナーになるしかないな。
そう思う。
『多分、皆の中で聖夜が一番必要なのは私だ』
私は他の人間と違い、聖夜がかなり必要なのだ。
他の人間の武器は、手入れが必要無い。二人は杖だし、ガイアの聖剣は手入れを必要としていない。
だが、私の武器の魔剣は、手入れが必要となる。
その手入れも聖夜は夜良くしていた。
今の私の魔剣は明らかに手入れ不足で切れ味が悪い。
自分の手入れじゃ聖夜が手入れしていた程の性能にはならない。
私は、ジョブの関係で彼奴と肩を並べて戦う事も多い…だれか一人が聖夜と結ばれなくてはいけないのなら、それは私で良い。
【マリ―の場合】
そういう事なら、やはり私が聖夜の恋人になるべきかも知れない。
確かに私は美人だけど、維持するのに聖夜が必要なのが今回の件で嫌になるほど解かったわ。
この数日で自分が綺麗でなくなっていったのが良く解ったのよ。
今、私が好きなのはガイアで間違いない。
でも私を幸せにしてくれるのはきっと聖夜だ。
私を綺麗なままで居させてくれて、料理を作ってくれて、暖かい家族として暮らせる未来。
それはきっと聖夜としか築けない気がする。
聖夜が居なくなっただけで、毎日が楽しく感じられないんだから、きっとそうだ。
あの二人がガイアを選ぶなら、私は聖夜を選ぶ…それで良いかも知れないわ。
【ミルダの場合】
誰か1人が聖夜を選ばなくてはならない。
それなら…その相手は私だね。
ガイアは確かに好きだけど…未来はどうなのか?
そう考えたら聖夜を選ぶ選択もある。
私は研究職だからね。
傍で世話をしてくれる人が必要だもん。
もし、村で生活していたら迷った末選んだのは聖夜だと思う。
そう考えたら…私が聖夜に寄り添うのが正しいのかもしれない。
ガイアに対する気持ちが憧れなら、聖夜に対する気持ちはなんなんだろう。
解らない、だけど、こうして聖夜と付き合うと考えたら浮かんだ光景は私に笑いながら紅茶を入れてくれる彼の姿だった。
この未来は捨てがたいよ。
「まぁ、これから先、旅は長いその中で、新たに人間関係を作れば良い…まずは彼奴を、幼馴染の彼奴を連れ戻しに行こう」
「「「そう(ね)(だね)(だな)」」」
◆◆◆
「今日も快調だ」
僕は久々に狩りに出た。
獲物はワイバーンだ。
今の僕に狩る事が出来る最大の獲物がこれだ。1羽倒すだけで金貨50枚(日本円で500万)これを月2で狩れば生活も潤うし…イクミと暮らす家も遠くないうちに買えるだろう。
毎日一緒に過ごして、毎日笑って…そうだ。
明日はイクミと一緒にギルドに行ってパーティ登録しよう。
誰かに喜ばれて過ごす生活がこんなに楽しいなんて…全く思わなかった。
多分、僕は誰かに必要として欲しかったんだな
うん、凄く幸せだ。
決着はついたんだ…同情は要らない。
「聖夜ちょっと話があるんだ」
ギルドから出た所でガイア達に捕まった。
もう用事は無い筈だ。
「どうしたんだ、何かあったのか? てっきり旅立った後だと思ったんだけど?」
「いや、それが色々問題があってな、この通り頭を下げる。戻ってきてくれないか?」
「私も悪かった。聖夜が居ないと本当に困るのだ」
「本当に謝るわ…ごめんなさい」
「私も…ごめんなさい」
「別に謝る必要は無いよ」
別に悪い事された訳じゃない。
謝られるのは筋違いだろう。
「そうか、それじゃ戻ってくれるんだな、助かったよ」
「そうか戻ってくれるのか? 助かる」
「戻ってくれるのね、ありがとう」
「戻ってくれるんだ、ごめんね」
何を考え違いしているんだ。
僕は『怒って無い』と言っただけだよ。
戻る訳ないじゃないか。
幼馴染のハーレムパーティに何で戻る、と思っているんだろうか?
「いや怒って無いだけで、パーティには戻らない」
「ちょっと待てよ! 怒って無いなら何で戻らないんだ? 可笑しいだろうが…やっぱり怒っているんだろう?」
「そうだろう、戻ってくれるなら幾らでも謝る」
「ごめん、本当に悪かったわ」
「ごめん…本当に反省しているから」
本当に怒って等、いないんだがな。
ただ、そこに僕の居場所がない、それだけだ。
「いや、本当に怒っている訳じゃないよ、ただこのパーティが僕の居場所ではない。それだけだよ」
「お前、それどう言う事だよ」
「そうだ、此処こそが聖夜の居る場所だろうが」
「私達は小さい頃からの幼馴染でしょう? 此処こそが貴方の居場所じゃない」
「そうだよ」
僕は大きく溜息をついた。
余り話たく無かったな。
「あのさぁ、なんで僕がハーレムパーティに居ないといけないのかな? 追放されなくても自分から辞めるつもりだったんだよ」
「やっぱり恨んでいたんだな…改善はするから…」
「違うよ、まったく惨めになるから言いたく無かったんだけどな。 正々堂々どころか僕は結構卑怯な事した。それでも届かなかったからな、諦めがついたんだ」
「一体、何をしたんだ…卑怯って!てめー何かしたのか!」
「「「何をしたのよ!(んだ!)」」」
僕は今迄ため込んだ、自分の気持を吐き出した。
◆◆◆
「僕は小さい頃から努力していたんだ…僕は転生者だからおぼろげながら、前世の記憶がある。いいかい? 村社会では小さい頃から嫁とりは始まるんだ」
「何をいっているんだ」
「良いから黙って聞いてくれるか?全部正直に言うからちゃんと聞いて欲しい」
「「「「解かった(わ)(よ)」」」」
村には同世代の男2人に女3人。
他は歳が離れた人間しか居ない。
僕は悲しい事に小さい頃に親が亡くなってしまったから居ない。
普通に考えたら…女の子の方が1人余る。
だが、僕は親が居ない。
これは村では凄いハンデだ。
努力するしか無かった。
『子供の頃から頑張るしかなかった』
前世の僕は今世の僕と同じで家族に恵まれず、結婚も出来なかった。
独りボッチは嫌だった。
三人なんて言わない、1人で良いんだ。
僕を選んで欲しかった。
だから、親に好かれる事から始めた。
村のお手伝いは率先してやった。
親の残してくれた畑もしっかり耕して、村では評判の働き者として過ごした。
「それの何処が、卑怯なんだ?」
「問題無いじゃ無いか?」
「良い事じゃないか?」
「別に悪い事なんてしてないよね?」
「まだ続きがある…」
13歳になりジョブを貰う儀式の時に、僕の努力は全て意味が無くなった。
幼馴染が『勇者』『剣聖』『聖女』『賢者』になってしまった。
ただでさえイケメンのガイアは勇者になり、他の幼馴染も何故か四職だった。
正直女神を呪ったよ…なんで三人全員が四職なんだろう…1人位農民やお針子のジョブでも良いじゃ無いか。
皆して村を出ていくジョブだ…もう村で頑張って来た僕の努力は無駄だ。
あと2年で成人。15歳になったら全員旅立ってしまう。
『勇者パーティ』だから国から援助金を貰って旅立ってしまう。
なんで僕のジョブはソードマスター(侍)なんだ。と呪った。
一層の事農民とか猟師なら諦められた。
周りの人も幼馴染と別れて別の人生を勧めて来たかも知れない。
だが…頼まれてしまった。
しっかり者だったのとs、そこそこ強いジョブが災いしたんだ。
『子供達を頼むって』 皆の親からな。
その後、ガイアに誘われた。
此処で断れば良かったんだ…だが未練たらたらだったから『断れなかった』
幼馴染は3人いる。
1対1なら2人余る。
勇者やそのパーティの仲間は多数婚が許されている。
だが、3人全員がガイアを好きになるとは限らない。
ならば、頑張れば良い。
皆に好いて貰える様に頑張れば良い。
旅立ち迄の2年間、家事から野営の仕方まで冒険者の方から習い、その傍ら、それぞれのジョブの手伝いが出来るようにしっかり勉強した。
剣の手入れからハーブティの入れ方、美味しい調理の仕方から解体まで学べることは全部学んだ。
女性の下着まで洗うのは流石に少しためらったが、それすらも頑張った。
全員の好みを把握して、どうしたら困らないか、喜ぶかを死ぬ気で考えた。
強くなる為に村の冒険者に学び刀を振り続けた。
旅に出てからも
レベルが低く、ランゼが困った時には自分が怪我するのも構わず命懸けで助けた。
大怪我したり、病気になった時には徹夜で看病もした事もある。
妖蛾の毒に犯された時には下の世話までした。
マリ―が怪我をして歩けないときは1人で背負って山道を歩いた事もある。
ジャイアントビィーに体中刺されて醜くなったマリーの体の膿を針を抜きながら全部すいだした事もあった。
ミルダにだってそうだ。
レベルが低く体力が無かった時には何回も背負って歩いた。
敵の炎のブレスを浴びて顔に大やけどを負った時、マリーでさえ見放したから、自分の持ち物を売って金を作り、街中探して秘薬を手に入れ治療した。
ガイアにだってそれなりに尽くしてきたはずだ。
「…それの何処が卑怯なんだ?」
「解らないな」
「本当に解らないわ」
「解らないよ」
仕方ないな…
「要は打算なんだよ、打算、誰か1人で良いから僕を好きになって貰いたくて頑張っていただけだよ…」
「なぁ、それの何処が卑怯なんだよ」
「何処にも悪い話は無いな」
「私もそう思う」
「同じく、そう思う」
「そう言ってくれるならそれで良いや。簡単に言えば誰か1人で良いから振り向いて貰いたくて、形振り構わず頑張った末、誰1人振り向いてもらえず…その3人の好きになった相手が自分でも納得行く位の男だった。それだけだよ…もう良いかな? 全部話した。 これ以上惨めになりたくない」
「ちょっと待って私が…私が貴方を好きになれば…それで良いんじゃないか? 同じ剣士だ。私はお前なら背を任せられるんだ」
「待ちなさいよ…私だってちゃんとこれから貴方の事考えるわ」
「私だって感謝の気持ちが沢山ある、ちゃんと考えるから」
「これからも旅は長い、まだ時間はたっぷりあるんだ、もう一度一からやり直そうぜ」
「ガイアが言わせてるのか? もう決着はついたんだ。幼馴染3人はお前を選んで僕は追放された。それで良いじゃ無いか!」
「良くない…背中を預ける、そう言ったじゃないか?」
「ちゃんと考える、私もそう言ったよ」
「感謝しているんだよ…本当に、だからちゃんと聖夜の事考えるよ」
「考えた末ガイアをまた選ぶんだろう…もう良いよ、同情はまっぴらごめんだ!なぁ僕が何が欲しかったか解るか?1人で良い『ありがとう、好きだよ』そう言ってくれる幼馴染だよ。『助かったよ』そう言って笑いあえる親友だ。このパーティじゃ絶対にそれは手に入らない。
追放されて暫くは何も考えられなくて苦しかった、死にたいとさえ思ったよ! もう誰も好きにならないとさえ思った…ようやく新しく恋をして、新しい道を歩きはじめられたんだ…もう構わないでくれ!」
後ろで4人が何か言っているが…聞こえない振りしてその場を去った。
言いたい事は全部言ったが…今の僕はもう悲しくなんてない。
本当に欲しかった。
たった1人の存在はもう傍に居るのだから。
閑話 勇者達? もう遅いかも知れない
「それでガイアどうするんだ!」
「ランゼ、どうすると言われても、あの状態じゃもうどうしようもないだろう」
「確かにそうだね…だけど聖夜が居ないとこのパーティはおしまいだよ!」
「うん、私もそう思う。奴隷にしたってパーティメンバーにしたって私達の旅についてこれて荷物を守りながら自分の身も守れる存在なんて他に絶対にいないから」
そんなのは解っている。
実際に経験するまで、口に出されて言われるまで気がつかなかった。
彼奴は卑怯だというが…違うだろう。
小さい頃から、全ての仲間にとって必要な人間になる。
それがどれ程大変な事なのか、聞いただけで解かった。
好きな人間の為に努力する事が卑怯なら、この世の中で卑怯じゃない人間なんて殆ど居ない。
ただ、これで本当に困った事になった。
四人で話あった結果、聖夜に変わる存在は絶対に世の中に居ない。
それがまじまじと解ってしまった。
『子供の頃から性格を知り尽くしていて、まるで尽くす事を前提に自分を磨き上げた人間』
そんな存在は他には居ない。
もし同じような人間が居たとしても聖夜と同じ様になれるには10年は掛かる。
まぁ、その前にそんな報われる可能性が少ない事に10年も使う奴は絶対に居ない。
「この際仕方ない。この中の誰かが聖夜と結婚するしかないんじゃないか? そうでもしないと無理だろう? 実際にその位聖夜は皆に尽くしてくれていたと私は思う」
「ランゼの言う通りね、誰かが聖夜と結婚するしかないんじゃないのかな?」
「漠然とした物じゃ駄目なのかも知れないね、私達は既にガイアを選んで聖夜を半ば追放しちゃったんだからさぁ。今迄聖夜がしてくれていた事を考えたら…うん誰かが結婚するしか無いのかも知れない」
確かにそうだろうな。
彼奴の欲しかったのは『感謝して愛してくれる幼馴染』なんだからな。
「確かにそうだ。だが一体誰が聖夜に行くんだ。俺から離れて彼奴を愛する事が出来るのか?」
「それなら、この際だ、私が行こう」
「ランゼ、お前それで良いのか? 俺じゃ無くて聖夜と付き合い結婚する事になるんだぞ」
「構わない…私だって未練はあるよ。だが、私のジョブは剣聖だ、私生活以外にも剣の手入れ等、聖夜に世話になってばかりだ、聖夜には、これからも世話を掛けるから私が行くのが妥当だ」
「待ちなさいランゼ、それは違うわ。攻撃手段が少なく回復魔法がメインの私こそ聖夜に迷惑を掛けているし、今後の事を考えたら聖夜の元に行くのは私だわ」
「ランゼ、マリーよく考えてよ、私は詠唱が長いから、時間稼ぎの為に聖夜に守って貰っていたわ。そしてこれからもね、だから誰か1人聖夜とと言う事なら私が適任だわ」
どうしたんだ?
何故か全員が聖夜の所に行きたがっている様に聞こえる。
断腸の想いに違いないよな…
だが、問題は他にある。
『新しい恋をして新しい道をあるきはじめた』そう言っていた。
「皆の気持は良く解った…だが、少し調べてみよう…ギルドに頼んで彼奴の今の生活を知ってから考えよう」
他の皆は感情が高ぶっていて、気がついていない。
多分、少し前なら、三人のうち誰かが聖夜と付き合う事で解決できたかも知れない。
だが、もしかしたら…もうそれですら取り返しがつかないのかも知れない。
閑話 勇者達? 壊れてしまった幼馴染
「あの聖夜さんの事はもう放って置いてあげてくれませんか」
ギルドに聖夜の近況を聞こうとしたら、いきなり受付嬢に言われた。
しかも、受付嬢だけでなく、冒険者たちも同じような事を周りで言い出した。
「あんたは勇者だ、俺達からしても憧れの存在だ。だが、これだけは言わして貰う。頼むから、聖夜さんに構わないでやってくれ」
「「「「「そうだ、そうだ」」」」」
「何でそうなるんだ、説明してくれないか?」
意味が解らねー
「解りました、説明致します。 まず、聖夜さんは貴方達からしたら未熟なのかも知れませんが世界有数のSランク冒険者です。今はこの街のこのギルドに所属してくれて、困っていたワイバーンを1人で狩ってくれています。冒険者ギルドもこの街の領主であるワルド伯爵も感謝している、この街には本当に必要な人間なんです」
「待ってくれ! 聖夜は1人でワイバーンを狩っているのか?」
「はい、それが何か?」
ランゼが驚いている理由は俺にも解る。
普通はワイバーンを1羽狩るのに騎士団が必要とされる。
当然我々4人なら簡単に狩れる。
だが、それは複数でという条件付きだ
ランゼがもし1人で狩るとしたら、スピードで翻弄して狩るしか無い、運が悪く攻撃を外せば反撃にあい、大怪我もしくは死ぬかも知れない。
マリ―は回復や防御専門だから1人じゃ狩れない。
ミルダの場合は魔法一発で狩れるが、詠唱中に襲われたらひとたまりもない。
俺だってランゼと同じだ。
つまり、2人いれば片方が防御して片方が攻撃すれば良いから楽勝だが、1人で狩るなら俺達でも難しい相手だ。
だが、受付嬢は『1人で狩っている』そう言っていた。
「本当の事なの?」
「ええっ、調子の悪い時で1羽、調子の良い時には5羽狩って来た事もあります。まさに聖夜様様です…しかも狩ってくる度に、聖夜様はギルドの酒場をその日1日全額奢りにしていますから、この街の冒険者は全員、聖夜様の味方です。貴族にギルドに冒険者を敵に回す覚悟はありますか?」
パーティにもう一度誘うなんて言えない雰囲気だ。
三人も明らかな敵意を感じたのか話しに加わらない。
だが…惜しい。
このまま手放したら、俺のパーティはどうなるか解らない。
「そちらの事情は解かった、俺はパーティを離れた後の彼奴の近況を取り敢えず知りたいんだ」
「あそこ迄人を追い詰めた貴方達が言いますか?」
追い詰めた?
俺達が聖夜を追い詰めた…
「そこからは、俺が話そうか? ギルドとしては話しずらいだろうからな!」
「あんたは?」
「オークマンって呼ばれている、このギルド所属の冒険者だ。ただあくまで予想も入っている。そう思ってくれ、その代わり情報料金は要らねーよ」
「「「「解かった」」」」
◆◆◆
「あんたらが、彼奴を追放したから、聖夜はもう壊れちまったんだよ」
「「「「壊れた」」」」
信じられない位大変な話だった。
聖夜をこの街で見かけた時、誰が見てもボロボロの状態だったという。
それこそ何時死んでも可笑しくない位に、涙こそ出ていないが泣いて見える程何時も落ち込んでいたそうだ。
「そんな事があったのか」
「まぁな…」
どうやら俺が思ったよりも彼奴の中では追放されたのがショックだったようだ。
だが、そこからは俺達が思っていた以上に驚かされた。
「それでよう、聖夜の奴、奴隷を買ったんだよ。多分一人が嫌だったんじゃねーかな! それで、2人で仲良く暮らしてようやく落ち着いてきたんだ…放って置いてやれよ。なぁ」
ふざけんじゃねーぞ。
そうか、そういう事か…俺達が辛い旅を続ける中彼奴は、美人の奴隷を買っていちゃついていたのか? そうかよ!
そりゃぁ…もう幼馴染なんか関係ねーわ。
金さえ積めばエルフでも何でも買えるんだからな。
チクショウーーっ。
彼奴だけ良い思い、何てさせねーよ。
心配した俺が馬鹿みたいじゃ無いか。
「聖夜…最低だな奴隷を買うなんて」
「ふんっ!幼馴染を捨てて、美人の奴隷を買った訳ね…何が恋よ馬鹿じゃないの」
「私より奴隷…多分美少女、本当に頭に来た」
「何だそれ…なぁ今の話の何処が彼奴が壊れた話なんだ! 美少女の奴隷を買って幸せに暮らしている!そういう話だろうが!そんな事なら魔王討伐優先だ。無理にでも連れていく!」
「あのよう…お前凄く勘違いしているぞ! 聖夜が買った奴隷は凄く不細工だ。最早化け物にしか見えねー位にな。このオークマンが見た奴隷の中じゃあれより醜い女を見たことがねー。奴隷商に入り浸っている俺が言うんだから間違いねーよ」
「「「「えっ」」」」
嘘だろう。
彼奴はそこそこ顔も良い。
実力だってある。
そんな奴隷を買う位なら何処かのパーティに入る筈だ。
「嘘だろう、大袈裟に言っているだけだ」
「真面目な話だぜ…だってその奴隷はたったの銀貨3枚で売られていたんだ。女なのに鉱山奴隷より安いんだ。その酷さが解かるだろう」
俺は信じられなかった。
他の三人も同じだ。
「嘘だろう」
「だったら、見て見れば良いじゃねーか? 流石に聖夜は会いたくないだろうから、そこら辺に隠れたら良いぜ…ほら二人が入って来た」
俺はオークマンという男の言う通り、置いてあった観葉植物の後ろに隠れた。
遠目で見た聖夜の連れている奴隷の姿は…まさに化け物だった。
しかも仲良さそうに笑いながら手を繋いで、それこそ宝物でも扱うかの様にに寄り添っている。
『嘘だろう』
『嘘よ』
『嘘だーーーっ』
俺は…なんて事をしてしまったんだ…
壊れている…本当に壊れている。
こんな事になるなんて…
「これで解かったろう! 聖夜は言っていたよ。何時もイクミは感謝してくれる。傍に居て喜んでくれるってな。完全に壊れているよな…あれ程のイケメンの相手があの化け物なんて…だがよう…凄く幸せそうだろう? だからもう構わないでやってくれ、頼むこの通りだ」
『あっああああーーーっ、聖夜..ごめんよーーーっ』
俺は本当に幼馴染を壊してしまった。
他の三人もその場でへたりこみ立てない。
「「「「ごめんなさい」」」」
幾ら謝っても…もう遅い。
オークマン
「おう、聖夜、こっち、こっち」
僕は今日、久々に1人で夜に家を出た。
久しぶりに男同士飲みに行く為だ。
相手はオークマン『奴隷ハーレム』を持つ男。
見た目はオークの様なデブで親父面。
まさか此奴が15歳だったなんて知らなかった。
だって妻を9人も持っていて子供が4人も居る奴が15歳だなんて誰も思わない。
見た目だって中年にしか見えないしな。
「何時もすまないな。気を使ってくれて」
「良いって事よ。お前のお陰でこのギルドじゃ週に2回も飲み放題、食べ放題の日があるんだからな、ちっとは返させて貰うぞ…がはははははっ」
相変わらず豪快に笑うんだな。
僕はオークマンによって助かっている。
僕にとってイクミは最高の女性だが…色々と問題があった。
その解決の方法を考えてくれたのが彼だ。
『奴隷を大切にするやつは仲間だ』を口癖にしているオークマンが、イクミが困らない様に冒険者やお店の人に話してくれた。
僕にとって美少女のイクミも他の人達からはオドオドした性格のせいか嫌われている。
そんななか、上手く取り持ってくれたのがオークマンだった。
俺が留守の間寂しくないようにオークマンの妻たちがイクミの相手をしてくれている事もある。
だからイクミは寂しい思いをしないですんでいる。
ギルドで行っている、食べ放題、飲み放題を習慣化したのもオークマンがヒントをくれた。
冒険者と仲良くなっていれば、何かあった時に助けて貰える。
その事を教えてくれたのもオークマンだ。
奴隷を買ってハーレムを築く最低野郎という奴もいるが、オークマンが買っている奴隷は人族で元が結構不幸な女性ばかりで、オークマンの妻になって幸せになっている。
僕から見れば…器の大きな男に見える。
まぁ老けて見えるから実際は年下なのに親父に思えてしまう。
「そう言って貰えると気が楽になる」
「そうか、それでどうだ。もう一人奴隷を迎える気にはまだならないのか?」
「僕はイクミが凄く好きだからな、同じ位愛せる相手は多分無理だと思う」
「そうか? まぁ暫くは良いが冒険者の妻として奴隷を扱うなら2人以上がお勧めだ。留守の間寂しい思いもさせないで済むし、防犯って意味でも安全性が高まる。更に聖夜は強いから関係ないかも知れないが、冒険者は死と隣り合わせだ、もしもの場合、1人で取り残されるより複数居た方が彼女達の為でもあるんだぜ」
オークマンにもう一人奴隷を購入する事を勧められている。
最初はどこぞの奴隷商の営業かと思ったが…『何処で』とは一切言わないから親身に思っての意見だと言う事が解かる。
言っている事は解かる。
だが、イクミ程の美少女は絶対に居ないと思う。
もし無理して買って、イクミばかり可愛がっていたらもう一人に申し訳ない。
オークマンの様に沢山の妻を持って全員同じ様に愛するなんて、恋愛初心者の僕には出来ない。
だが、言っている事はその通りだ。
確かにオークマンに頼りきりも良くないと思うようになった。
「確かに、俺が居ない間寂しい思いをさせているかもな」
「まぁ、暫くはうちの奴らに行かせても良いけどな、ただ何時もお土産を貰うのも悪いからよ…頭の片隅で考えた方が良いぞ。直ぐで無くても良いけどよ」
「ああっ考えて置くよ、まぁ僕が仕事をするのは週に二回と考えているから暇はある、そのうち奴隷商でもまた見て見るよ」
「そうか、それなら今度良かったら奴隷商を案内してやるよ…」
「買わないオークマンをつき合わせるのは悪いからいいや」
「…」
「おい、まさかまた買おうって言うのか? もう9人も妻が居るのにか」
「俺は10人の妻を娶るのが目標だからな」
そう言えば、勇者パーティに所属でもしない限り複数婚は許されていない筈だ。
もしかしてオークマンって勇者なのか?
「確か勇者パーティにでも所属して無いと複数婚は出来ないよな…まさか勇者なのか?」
「あのよ…オーガを狩れない奴が勇者の訳無いだろう? 昔勇者の手伝いをした事があり、一時的にパーティに所属した事がある。それだけだ」
「そうか」
「まぁな…流石に遅いし帰るか」
「そうだな」
まだ、時間的には早い。
だが、オークマンは妻を大切にしているから深酒は決してしない。
飲むにしてもこんな風に早目に切り上げる。
多分、僕を気にして誘ってくれたに違いない。
まぁ此処までオークマンが勧めるんだ。
少しは気にかけて見ようかな。
散歩
さてと、今日のご飯は、卵焼きにカリカリのベーコンとパンにサラダとスープ。
こんな物で良いだろう。
しかし、料理を作るのがこんなに楽しいなんて思わなかった。
「イクミ~ご飯が出来たよ!」
「う~ん、聖夜様、おはようございます…」
寝起き姿も凄く可愛い。
前は料理を作る事が凄く苦痛だったが今は凄く楽しい。
朝が弱いらしくイクミはぬぼ~っとしているがこれも凄く良い。
「はい、おはよう! それじゃ早速食べようか?」
「はい」
「「いただきます!」」
これは僕の前の世界で食事をする前の挨拶だ。
イクミに教えたら、普通に言ってくれる。
ガイア達は…
「なんだ、それは必要ない」
「私もそうおもうぞ」
「そうね」
「要らない」
こんな風に言ってくれなかった。
たかが挨拶、だけどただ言ってくれるだけで凄く気持ちが良い。
あれから数日、イクミは普通のフォークやナイフでたどたどしいが食事が出来ている。
「ほお~ら、口にソースがついているよ?」
「ありがとう…聖夜様」
う~ん本当に可愛いな。
あれからイクミに頼んでご主人様から名前で呼んで貰うように頼んだ。
聖夜で良い。
そう言ったんだけど、なかなか様は外して貰えない。
「そう言えば、昨日もオークマンの妻たちが来てくれたんだろう? 何していたんだ」
「はい、料理を少し教えて貰って、その後はカードゲームで遊んで貰いました」
「良かったな。今日も来てくれるから、遊んで貰うと良いよ」
「あの…今日は聖夜様はお暇じゃないんですか?」
「お昼までは暇だけど、昼過ぎからはちょっとオークマンと出掛けてくる」
「そうですか…残念です」
ちょっと悲し気な顔も凄く可愛い。
この顔をされると少し後ろ髪をひかれるが、今日は約束があるから仕方が無い。
「お昼まで時間があるから少し散歩でもするか?」
「はい」
イクミは前みたいに自分を卑下する事は随分無くなった。
だけど、その分感情の起伏が無くなってしまった気がする。
話を聞くとかなり過酷な生き方をしてきたようだから仕方ないのかも知れない。
いつか普通に笑えるようになってくれると良いな。
二人で散歩して色々見る。
お金にはかなり余裕があるから高級な店でも構わないが、イクミは市場の様な庶民的な店が好きなようだ。
露店で売っている、袋詰めのクッキーの様なお菓子を買って、色々見て回った。
「イクミ、ただ見て回るだけで良いのか? 欲しい物があるなら買ってあげるよ」
「聖夜様、私見て回れるだけで嬉しいんです。小さい頃に街に来た時には、重い荷物を持たされていて、自由に見る事も出来ませんでしたから…」
イクミは本当に見ているだけで嬉しそうだ。
偶に、物を欲しがる時もあるが、串焼きとか安い物ばかり。
買ってあげると。
「まさか、たべれる日が来るなんて思いませんでした」
と喜んで食べている。
色々と見て歩くと露店のアクセサリーショップでイクミの目が留まった。
目線の先には赤いガラス玉の嵌め込んだネックレスがあった。
「もしかしてイクミ、それ欲しいのか?」
「いえ、こんな贅沢な物、私には似合いません」
銅貨6枚。
ちゃんとした宝石商の商品じゃない。
「欲しいなら買ってあげるよ、うんイクミに似合ってそうだから」
「あの、聖夜様、本当に良いんですか?」
「ああっ、おばちゃん、そのネックレス下さい」
「あいよ、はい、銅貨5枚にサービスだ」
「はい銅貨5枚」
「まいど」
ネックレスをイクミに渡すと大切そうにしながら身に着けた。
こんなに喜ばれると買ってあげて良かったと本当に思う。
どこぞの幼馴染みたいに金貨2枚もするアクセサリーを誕生日にあげても感謝しない奴らとは大違いだ。
「聖夜様ありがとうございます。これ一生大切にしますね」
珍しく会心の笑顔だ。
こんな笑顔が見られるなら、金貨を払っても惜しくもないな。
オークマンと奴隷商にて
「よう!」
「態々、本当に悪いな」
「良いって事よ!どうせついでだよ、ついで」
そうは言っても決して『ついで』ではないのが解かる。
オークマンには9人の妻が居る。
オークマンの目標は10人の妻だ…つまり多分次に求める奴隷が最後の奴隷になる。
そう考えたら厳選して選びたいだろうし、9人も居るから急いで探す必要もないだろう。
一人で寂しそうなイクミと、奴隷探しの初心者の僕の為に時間を割いてくれたのは言われなくても解かる。
「それじゃ、そういう事にして置くよ。だが他にも世話になっているから、今度家族全員に飯でも奢らせて貰うよ」
「そんな気にする程の事でもねーよ」
「そうはいかないさぁ、他にも世話になっているからね」
「相変わらず聖夜は固いな…あのよ、ただ飯ならもう奢って貰っているから要らないな、週二回、食べ放題に飲み放題やってるじゃないか? 何時もあれを家族で利用させて貰っているからな…借りとか言い出したらこっちの方が多いんだぜ」
「そう言う事なら甘えさせて貰うよ」
長い時間一緒に過ごしてきた幼馴染より、オークマンの方が一緒に居て楽しいと思うのは何故だろう。
多分、此方が一方的に何かをさせられるのでなく、やってあげた分はしっかり返してくれるから気持ちが良いからだ。
別にお返しが欲しい訳じゃない。
だが…やはり人だから…キャッチボール出来る関係の方が楽しいと感じてしまうのは仕方ないだろう。
「着いたぞ、此処が、俺のお勧めの奴隷商だ」
他の奴隷商に比べて規模は小さい。
店自体も少しくすんだ感じがして何だか拍子抜けした。
「随分、小さ目のお店だな」
「まぁな、だけどこういうお店の方がきっと聖夜好みの奴隷が居る筈だ。俺には解る。多分聖夜が欲しいのは『愛の筈』だ」
目をキラキラさせたオークマンに引っ張られるようにお店に入った。
「いらっしゃいませ、オークマン様、おや今日はお連れの方が居るのですね」
「がははははっ今日は俺より此奴がメインだ。最も見させて貰うだけで終わるかも知れないが」
「構いません! オークマン様が居るなら説明は不要ですか?」
「まぁ、俺から話すから良いぞ」
「それじゃ、そうさせて頂きます。購入が決まったらお呼びください。それではじっくりとご見学下さいませ」
「まぁ、自由に見れば良いんだ、此処に聖夜が買えない奴隷は無いからな、聞きたい事があったら何時でも声を掛けてくれれば良い」
そう言われたので、適当に見て回った。
エルフもダークエルフも確かにいる。
もし、イクミに出会う前ならきっと感動したかも知れない。
確かに美女だが、それだけだ。
確かに長命なのかも知れないが金貨200枚は流石に驚く。
人族の奴隷も確かに居るがパッとしない。
オークマンは人族の奴隷の檻がある場所から動かない。
実はオークマンの奴隷にはエルフ等、亜人はいない。
不幸な人族を引き取り幸せにする男。
それがオークマンだからだ。
多分、此処に居る奴隷は、ぱっとこそしないがそこそこ質が良く外見も良いからきっと僕が買わなくても誰かが買うと思う。
なら、無理して買う必要は無い。
周りを見ていると奥にカーテンがあった。
「オークマン、このカーテンの敷居から先にも奴隷は居そうだけど、なんでカーテンに仕切られているんだ」
「ああっ、そこから先は、廃棄奴隷や鉱山送りの奴隷がいる場所だ、金額は物凄く安いが…見るなら覚悟した方が良いぞ…俺はもう見ないようにしているんだよ…惨いからな、特に毛布が被せてあるのは廃棄奴隷、見たら後悔するぞ」
そう言えばイクミは銀貨3枚だった。
案外、こう言う場所に凄い奴隷が居たりしてな…
そう思いカーテンをめくり中に入ると…
黒髪、黒目の女性が、戦メイドシエスタが…居る訳がない、あれはストーンヤツザンの架空の話だ。
そんな事は無い。
今は殆どの檻には誰も居ないようだ。
檻を1つ1つ見ていくと毛布が被さっている檻があった。
多分これが廃棄奴隷だな。
毛布を上に上げて中を覗いた。
髪の毛の色が青と紺の中間位のロング
目がイクミみたいに大きい。
あれっ…まただ。
イクミみたいな子はもう他には居ないと思っていたけど…いた。
但し、イクミとは逆だ。
頭がやや大きく体は4等身? どう見ても5等身はない。
デブではないが異常に胸が大きい。
目のやり場に困る位にでかい。
これってエロ漫画とかその手のゲームや同人誌に出てくる『巨乳小学生』にしか見えないな。
凄いな異世界…漫画の人が現実に居るなんて。
「子供なのかな?」
「えっ…私はこれでも16歳だから、子供じゃないよ…まぁそう見えるよね」
「そうか子供じゃ無いなら良いのかな」
「何が? その前に良く私とお話しできるね。キモイ、死ねとか何時も言われているのに」
マジか?
イクミと違う意味で美少女…まぁ、外見だけで言うなら手を出したら前世なら確実に犯罪になる少女にしか見えない。
人気のない公園に居たら『ハァハァ、お兄ちゃんと遊ばない』と変質者に声を掛けられそうなタイプだ。
イクミが恋人なら、この子は、そう妹として仲良くなれそうだな。
「僕から見たら、凄く可愛い女の子に見えるんだけど…買っても良いのかな?」
「あの..買ってくれるの? 嘘…冗談じゃ無くて…こんなにキモイのに? 頭も大きしいチビなのに胸も大きくて豚みたいなのに」
「勿論、お兄ちゃんと呼んでくれるなら喜んで買うよ」
「お兄ちゃん…これで良いのかな?」
「買ったーーーっ」
「やったぁーーお兄ちゃんありがとう!」
「オークマン、欲しい子が居たからお願いして良いか」
「おっ、聖夜気に入った子が居たのか、誘ったかいがあるな、今奴隷商を呼んできてやるよ」
「ありがとう」
「廃棄奴隷コーナーですか? 今あそこに誰かいたかな? オークマン様間違いじゃ無いのですか?」
「いや、流石にそんな筈ないだろう」
暫く待つと二人が檻の前に来てくれた。
「この子を買おうと思うんだけど」
「「本気(マジ)」」
「ええっ」
なんで変な顔しているんだ?
◆◆◆
「廃棄奴隷なんだから無料で良いんじゃないか? 奴隷紋の代金銀貨3枚だけでいいだろう」
「いや、幾ら何でも無料は酷いですよ。此処はそうだ銀貨1枚でどうですか? 普通はどんな奴隷でも銀貨3枚はするんですから」
いや、普通に銀貨3枚プラス奴隷紋代金の銀貨3枚位払うって。
「だけどこの子じゃ市場で競りにも掛けられないだろう?そうしたら困るんじゃないか?」
「ううっ…それじゃ銅貨5枚+奴隷紋の代金銀貨3枚でどうですか」
「どうする聖夜、まだ粘れるが」
「それで良いですよ。何だかスイマセン」
「構わないですよ、オークマン様が言うのも一理ありますから…お買い上げ有難うございました」
「それじゃ、これでお願いします」
何だか凄く悪い気がしたので銀貨4枚奴隷商に渡した。
「これは…」
「差額はチップです。お釣りは要りません」
「有難うございます」
銀貨4枚(4万円)でも安すぎるだろう。
レア?
「無事に二人目を迎え入れて良かったな、取り敢えずはあと1人迎え入れて後は聖夜しだいだぜ」
今一人迎え入れたばかりなのに、何故もう一人必要なんだ。
これでイクミも寂しい思いをしないで済むし必要ない様に思える。
「なんで三人目が必要なんだ…普通に考えて二人いれば寂しくないだろう?」
「まぁ、普通はそう考えるよな? 一般人は。だが奴隷の扱いの上手い人間『3人以上がベスト』そう考えるんだ」
「理由はあるのかな?」
「ああっ、2人だと喧嘩や揉めた時に結構後を引くし、最悪仲違いしたままになる事もある。だが3人以上だとそれが緩和されて揉め事が少なくなるんだ。更に言うなら奴隷が2人だと2人が大きく揉めた時は主人が仲裁に入るしかないから、片側は不満が積もる。だから3人以上が良いんだ。これは俺だけじゃなくて奴隷を扱っている者なら皆思っている事だ」
確かにガイアのパーティもそうだった。
ランゼとミルダ、マリーの仲はさほど良くなかったが3人のせいか、案外揉めなかったな。
僕とガイアの関係ももう一人誰か男が加わっていたら…追放されなかった可能性が高い。
「確かに考えてみればその通りだ、確かにそうだね」
「だろう? まぁこれは急ぐ話じゃないしゆっくりと決めれば良いと思うぜ」
「そうだな」
「それじゃ、今日はこの辺りで一旦お開きとするか? 俺はようを済ませたら妻を後で迎えに行く」
「ああっ待っているよ」
世話になりっぱなしじゃ悪いから、今度ドーナッツでも作って渡してやるか。
まぁ輪では無いけどな。
◆◆◆
しかし、3人目か…
これは凄く困ったな。
こんな奇跡は滅多に起こらないようだ。
奴隷商で聞いた話だと…
「聴きにくいのですが、こう言った感じの女の子、偶には入ったりするんですか?」
「まず無いですね…金額がつかないから値段がつかないし、それに…」
何か奴隷商の顔が暗くなった気がした。
「言いにくい話ですが、生まれた子に問題があれば基本的に産後に間引かれる筈です。普通の親ならその子の人生がどうなるか考えてそうします。 そして運よく間引かれなくても虐待で死ぬかも知れないし、村とかで自分の扱いに悲観して死ぬかもしれない。今回のケースはレアなんです」
「レア?」
「はい、産んだのが村長の娘で、産んだこの子を見て頭が狂ってしまったそうです。無理やり引き離そうとすると『マトイをかえせー』と暴れたそうで、5歳位まで蔵で親子ともども牢屋に閉じ込められていたみたいです」
「そんな事が」
「まぁ、その母親も5歳の時病で死んで、その後は隠すようにして、家畜小屋で家畜の世話をさせていたみたいですね…最も、それを他の村人に見つかったから、あわてて私を呼んだみたいです、だからこういう子はまず生きている事が奇跡なんですよ。更に言うなら、こんな商品を買ってくれる方は居ませんから、奴隷として引き取りません。今回は他の奴隷を引き取る際に、村長から無理矢理引き取りをさせられた、そんな感じです。まぁ5人の奴隷を引き取る話があった中で引き取らないなら他の奴隷も売らないと言われたので仕方なくですね」
「そうですか…」
あんなに可愛いのに…
「ええっ、だけど買って頂いて実はホッとしています」
「なぜ」
「幾ら化け物みたいだからって、パンと水だけ与えて檻に死ぬまでいれて置くなんて、少しは良心が痛むのです。お金は払いませんが感謝はしていますよ」
参ったな…これじゃ3人目なんてまず無理だ。
それに、恐らくは全部がイクミや今回の子みたいに可愛い訳じゃない。
お願いして置いて連れて来たら買えないとは言えないから…頼んでおくのも無理だ。
此処までは凄く運が良かった。
そう思った方が良いだろう。
◆◆◆
「それじゃマトイちゃん行こうか?」
先にオークマンが行ってしまったので僕はマトイの準備が整うまで待っていた。
奴隷紋を入れて貰い、手続きをした。
「お兄ちゃん、マトイはまだお兄ちゃんの名前も聞いて無いよ?」
よく考えたら、奴隷商から話を聞いたから、此方は名前を知っているけど、自己紹介もしていなかったな。
「僕の名前は聖夜、冒険者をしているよ」
「そうなんだ、お兄ちゃん、なんでそんなに急いでいるの?」
「時間が無いからね…行くよ」
「うん、解った、優しくしてね」
そうか、等身に問題があるから歩くのが苦手なのかな。
なら、仕方が無いな。
僕はマトイをお姫様抱っこした。
「おお!お兄ちゃん、そんなに待ちきれないの」
「ああっ待ちきれないよ」
「まぁ、お兄ちゃんなら良いや」
顔を真っ赤にしていた。
確かにお姫様抱っこは恥ずかしいよな。
だけど、急がないと古着屋と雑貨屋が閉まっちゃうから仕方が無い。
此の世界に24時間スーパーは存在しないし、前の感覚で18時にはしまっちゃうからな。
「そう言ってくれると助かるよ」
そのまま僕は走り出した。
マトイの過去
私は外の世界を知らない。
小さい頃はお母さんと一緒に暗い蔵に閉じ込められていた。
「お母さん、外に出たいよ~」
「駄目よ、マトイ、外の世界はマトイの敵しか居ないの、だから此処から出ては駄目」
お母さんは何を言っても外に出してくれなかった。
蔵の中の牢屋には小さな窓があって、そこから外が見られる。
それが私が見られる唯一の外の世界。
良いな…皆は自由に外に出られて…
此処には何もない。
お母さんと私しか居ない…
最近は、ご飯を少しだけ残して、窓に置くと鳥さんが食べにくる。
良いなぁ~ 鳥さんは空が飛べて。
此処にはお母さんと私しか居ない。
偶にお父さんが来るけど…
「そのガキをいい加減放せ…そうしたらどうにかするから」
「マトイは、私の子供です…絶対に放さない、放さないんだからーーーっ」
そう言うとお母さんは私を痛い位抱きしめる。
「そんなガキが俺の息子だと解かると不味いんだ…殺すしかないんだ」
「そんな事私が許さない..」
お父さんとお母さんが何時も言い争っていた。
こんな化け物みたいな子産みやがって。
これが解ったら我が家は破滅だ。
やがて…お母さんが死んだ。
お母さんが死んだ、その日、お父さんが此処にやってきた。
「お前が、お前が全部悪いんだーーーっ ううっううっお前が生まれなければ彼奴も病む事が無かった!」
そう言いながら、お父さんは私の首を絞めた。
「お父さん…ハァハァ、苦しい、止めて…」
なんでか知らないけど、お父さんは首を絞めるのを止めてくれた。
「チクショウ、俺には殺せない…」
そう言いながら、私を豚小屋に閉じ込めた。
「ちゃんと豚の世話をするんだ、良いか? お前より豚の方が売れるだけ価値がある。ちゃんと世話をしろ、そうしたら飯をくれてやる」
そう言うと、私は豚小屋に繋がれて豚のお世話が始まった。
臭いし、気持ち悪かったけど、慣れると其処まででもない。
ただ、お父さんに何か話すと「キモイ、死ね」そう言われるのが一番つらい。
気に入らないとお父さんは木の棒で私を叩く。
泣いても止めてくれないから、泣くのは止めた。
蹲って黙っていれば…直ぐに終わるから。
ご飯はジャガイモや野菜でお母さんと一緒の時と違う。
パンもスープももう2度と出て来なかった。
逃げたくても鎖があるし、逃げられない。
大きい声出してもきっと誰も助けてくれない。
だから無駄だよね。
仕方なく、私は豚の世話をしてご飯を貰う生活をするしか無かった。
外に出たいな…外に出たい。
なんで、私は化け物に生まれてきたんだろう。
美人なんかじゃ無くて良いの。
普通で良い。
ただ、普通に村の中を歩く自由…それすら私には無い。
豚と一緒に暮らしてただご飯を食べて生きていくだけ。
自由は全く無い。
ある日の事、私は鎖が緩んでいるのに気がついた。
逃げるなら今がチャンスだ…
そのまま豚小屋から逃げた。
逃げた先には人が居た。
大丈夫…お父さんじゃない。
初めて見る外は臭く無くて、空は青くて凄く綺麗だった。
「綺麗…」
「ば…化け物だーーーーっ」
その声を聞いたお父さんに見つかって私は結局豚小屋に戻る羽目に…
そして、暫くして私は、他の女の子に紛れて売られていきました。
「あの、私の毛布」
「お前は何を言っているんだ…お前は廃棄奴隷、売り物じゃない」
廃棄奴隷?
「売らないなら何で此処に私は居るの? 要らないなら捨てて下さい」
「あのなぁ、本当はそうしたいが奴隷にしてしまったら最低限の奴隷としての人権があるからそれは出来ない」
「それじゃ…」
「まぁ、誰かが買ってくれれば此処から出られるが…死ぬまで此処から出る事は無いだろう」
「そんな…」
あははははっ、そうだよ。
私、化け物みたいに醜いんだもん。
誰も買う訳ないよ…
奴隷なんて最低の生活でも更に序列はあるんだよ。
高額の奴隷の部屋にはソファーまである。
安物の奴隷でも毛布は貰えるのに私にはそれすら無い。
他の奴隷はスープとパンなのに、私はパンだけ…水は流石にくれるけど…それだけなんだ。
そして…お前には何も見せないと言わんばかりに毛布が檻に掛けられた。
あはははっ、もう何も見るなと言う事なんだね。
周りには何人か人が居たけど、もう見る事も出来ない…
私を見て怖がるからかな…
私は此処で、このまま死んでいくのかな…
そう思っていた。
◆◆◆
あれ…毛布が少し空いている。
何でだろう?
めくっている人と目が合った。
もしかして…この人がお客さんなのかな?
買って貰えれば、外に出られるのかな。
じっと私を見ている。
化け物だから?
なんか違う…私を見る嫌な目じゃない気がする。
「子供なのかな?」
私はチビだからそんな風に見えるのかな。
あれ…化け物、キモイじゃなくて…子供可笑しいな、あれっ。
「えっ…私はこれでも16歳だから、子供じゃないよ…まぁそう見えるよね」
うん、子供では無いんだよ…小さいけど。
「そうか子供じゃ無いなら良いのかな」
何が良いのかな? それよりこの人私と普通に話してくれるけど…良いのかな?
「何が? その前に良く私とお話しできるね。キモイ、死ねとか何時も言われているのに」
「僕から見たら、凄く可愛い女の子に見えるんだけど…買っても良いのかな?」
可愛い…私が?
そんな訳無いのに…それより、今買ってくれる?間違いなくそう言ったよね。
「あの..買ってくれるの? 嘘…冗談じゃ無くて…こんなにキモイのに? 頭も大きしいチビなのに胸も大きくて豚みたいなのに」
「勿論、お兄ちゃんと呼んでくれるなら喜んで買うよ」
え~とそれだけで買ってくれるのかな?
その前に私がお兄ちゃんって呼んで良いのかな?
お父さんだって嫌がって「豚以下の癖に娘面するな」って怒ったのに…良いの?
「お兄ちゃん…これで良いのかな?」
いいのかな~。
「買ったーーーっ」
「やったぁーーお兄ちゃんありがとう!」
思わず叫んじゃったよ…買って貰えたんだもん。
その後お兄ちゃんは太ったおじさんと奴隷商人のおじさんと話しあって本当に私を買ってくれた。
奴隷紋を刻まれた時は痛かったけど、私を必要としてくれるお兄ちゃんを思ったら、うん気にならなかった。
「それじゃマトイちゃん行こうか?」
そういえば、私お兄ちゃんの名前も知らないや。
「お兄ちゃん、マトイはまだお兄ちゃんの名前も聞いて無いよ?」
「僕の名前は聖夜、冒険者をしているよ」
聖夜…それがお兄ちゃんの名前。
だけど、なんで急いで出ようとしているのかな?
「そうなんだ、お兄ちゃん、なんでそんなに急いでいるの?」
「時間が無いからね…行くよ」
え~と、もしかして奴隷商人のおじさんが他の女性に言っていた。エッチな事をしたいのかな?
あれは私は売れないからって教わって無いんだけど、大丈夫かな?
どうしようかな?
身を任せれば良いのかな。
「うん、解った、優しくしてね」
私が歩き出すとお兄ちゃんはいきなり、お姫様抱っこしてきた。
うん、凄く嬉しいけど…そんなに私としたいのかな?
背は低いし、不細工だし、胸とお尻は大きいし、化け物みたいなんだよ。
「おお!お兄ちゃん、そんなに待ちきれないの」
「ああっ待ちきれないよ」
お姫様抱っこしてくれているし、何だろう?
なんだか、凄く嬉しくてポカポカしているからいいや。
「まぁ、お兄ちゃんなら良いや」
いやだ、なんでか知らないけど顔が赤くなっちゃった。
「そう言ってくれると助かるよ」
お兄ちゃんは私を抱っこしたまま凄く速く走り出した。
景色が代わって行くのが凄く綺麗だし、夕焼けで赤い空も凄く綺麗だった。
それよりもまるで宝物のように抱っこしてくれるお兄ちゃんが…凄く嬉しい。
エッチな事と言うのは何か解らないけど。
なんでもしてあげたい。
本当にそう思った。
だけど…
「え~とお兄ちゃん、なにこれ?」
「古着屋さんだよ、取り敢えず6着位、似合いそうなのを買おうか?」
「古着屋さん?」
「そうだよ、服を買ってあげるから、好きなのを選んで」
「え~とお兄ちゃん解らない」
「それじゃ、店員さん、この子に似合いそうな服を適当に選んで欲しいんだけど」
「えっ…はい、今日はイクミさんじゃないんですね。ただ、その方の服は普通じゃ無いですから簡単な手直しが必要ですよ」
「どの位時間が掛かりますか?」
「それは大丈夫です。私はお針子のジョブ持ちですから、30分も掛かりません」
「それじゃ、それでお願いします」
「はい、畏まりました」
「その間、ちょっと他の買い物をしてきて良いですか?」
「大丈夫よ」
「それじゃマトイちゃん行こうか?」
「あっ、はい」
え~とエッチな事じゃないのかな。
奴隷の勤めじゃない様な気がする。
それどころかさっき買ってくれた服かなり豪華に見えるんだけど…
「それじゃ、次は雑貨屋さん、食器に歯ブラシ…後はまぁ良いや、纏めて買わないと」
「お兄ちゃん?」
「適当に必要な物買うからね、欲しい物があったら言ってね」
「うん」
「こんな感じで買ったんだけど良いかな?」
「解らないからお兄ちゃんに任せるよ」
「そう、解かった…次は寝具屋さんに行くよ」
「うん」
「すみません、オーダーでく出来あいの布団ってありますか?」
「少し割高ですかがありますよ」
「それじゃ一式下さい」
「お兄ちゃん、これ、まさかマトイのなの?」
「当たり前じゃん」
嘘、こんなフカフカな布団買ってくれるなんて…
「さぁ、どうにか間に合ったね、これで最後に服を取りに行けば終わり」
「あの、お兄ちゃん急いでいたのって」
「うん、お店が閉まっちゃうから…ね」
「そうだったんだ」
「そうだよ…さぁ服も買ったし、宿に帰ろうか」
「はい、お兄ちゃん」
お兄ちゃんは今迄の人達と違う…
なんでか知らないけど凄く優しい。
どうして良いか解らないけど、凄く高そう物も沢山買ってくれて。
私どうしたら良いんだろう。
こんなに大切にされた事なんてない…どうしてあげたら良いのかな。
お兄ちゃんの為なら何でもしてあげたい。
本当にそう思った。
イクミとマトイ
「聖夜様、その人誰ですか?」
「お兄ちゃん、その人誰?」
家にマトイを連れ帰った瞬間、2人してこっちを見ている。
気のせいか、火花が散ってそうだ…なんて事は無かった。
「ああっ、多分、その方がさっきお話しした、イクミちゃんの友達ですよ?」
この子はメロロちゃん、オークマンの妻の1人だ。
オークマンがイクミが寂しくないようにと遊びにこさせてくれた子だ。
日替わりで誰か派遣してくれるのだから本当に頭が下がる。
「そうなの?」
「そういう事だよ」
「ちょっと待ってお兄ちゃん、それじゃ、その子も私と一緒に暮らすのかな?」
「そうだよ」
イクミの方はフォローされていたみたいだけど、マトイの方は、これから話さないとな。
「初めまして、私はマトイって言います。お姉ちゃんは?」
「イクミ…」
「イクミお姉ちゃん、お姉ちゃんって呼んで良いかな?」
「別に良いよ」
「それじゃ、お姉ちゃん宜しくお願い致します」
「宜しくね」
特に、その後は問題が無く、オークマンが迎えに来るまでの間、カードゲームで4人で遊んでいた。
ハァ~オークマン凄いな。
嫁さんをかんして、しっかりフォローしてくれているなんて…凄いな。
メロロは僕の方に向ってブイサインをしている。
忘れないうちに渡しておこう。
「はい、これお駄賃」
「ありがとう」
銅貨3枚を渡した。
いつもお世話になりっぱなしなので前に銀貨3枚渡したら、オークマンに怒られた。
『あのよ…友情には金は必要ない』だそうだ。
だが、一方的にお世話になるのは悪いので、話した結果お駄賃程度、銅貨3枚に落ち付いた。
「どう致しまして!」
そろそろオークマンが迎えに来る頃だな。
暫くするとノックの音がした。
「よう、聖夜、迎えにきたんだ、どうだ上手くやっているか?」
「ああっ、少し前までメロロちゃんと一緒にカードゲームをしていたんだ。そう言えば、こう言うの何処で売っているんだ!」
「何処にって、普通にその辺で売っているだろう?」
「その辺って何処で?」
「遊具を売っている屋台とかだな? しかし聖夜は何も知らないんだな?」
「ああっ、今迄はずっと旅から旅だし、雑用に追われていたから、必要な店しか行った事無いんだ」
「勇者パーティも難儀だな、まぁこれからは暇なんだし、取り返すように楽しむんだな。一緒に生活してくれる家族も出来た事だしな…」
「ああっありがとうな」
オークマンはメロロを連れて帰っていった。
さてと…どうしよう。
イクミと二人でもまだ緊張するのに…マトイまで加わったんだ。
凄く楽しいけど、うん、緊張するな。
◆◆◆
「さてと、三人揃った所で、自己紹介でもしようか?」
「イクミです…聖夜様の奴隷をしています…毎日が楽しいです」
「マトイです…今日からお兄ちゃんの奴隷になりました」
「え~と、聖夜です。冒険者をしています」
ああっ、僕はなんて馬鹿なんだろう。
2人とも楽しい思い出なんてなんて無いに決まっているのに…何を聞いているんだろう。
「え~と、一応二人とも奴隷だけど、僕は奴隷だなんて思ってないよ。そうだな一番近い関係だと家族かな? そう二人とは家族とか恋人みたいな関係に慣れたらと思っている。
「あの聖夜様、私の家族は私の事を気味悪がっていました…」
「お兄ちゃん、私のお父さんは私を見る度に『キモイ、死ね』っていつも言っていて殺されかけました」
「…」
ヤバイ、なんて言えば良いのだろう。
家族の愛情すら無かった二人にこれじゃ説明が出来ない。
「上手く言えないけど、これからは一緒に楽しみながら暮らして行こう! 沢山美味しい物食べて、面白い物見て…幸せって思う位の毎日を一緒に過ごして行こう…あはははっ僕は本当に口下手だけど、一緒に、そのね」
「聖夜様、私凄く幸せですよ! 毎日が凄く楽しくて、美味しい食べ物に綺麗な服に、ベッドまである生活、化け物みたいな私には信じられない程の毎日です。しかも一緒に暮らしているのが『貴公子聖夜』様なんですから…夢みたいなんですよ..何時も寝るのが怖くて、起きたらまたそこは檻の中なんじゃないかって…怖い位なんです」
貴公子聖夜ってなんだ?
「私はまだ会ったばかりだけど、お兄ちゃんと一緒だと楽しそうなのは解かるよ。豚以下とキモイとか死ねと言われていた私に可愛いって言ってくれたのはお兄ちゃんだけだし、それにね、あんなに沢山物を買って貰ったのは初めてだもん。だけど、お兄ちゃん、『貴公子聖夜』なんて字カッコいいよね」
だから貴公子聖夜ってなに?
「あの、貴公子聖夜ってなに?」
「サイカさん(オークマンの妻の1人)から聞いたんです。聖夜様は勇者パーティのメンバーで、そう呼ばれていたって。困っている人が居ると放って置けなくて何時も飛んでいって貴族以上に凛々しい姿から『貴公子』と呼ばれているって聞きました。 今のギルドでもナンバーワンの実力の持ち主なんだって…」
「私は奴隷商のおじさんが、お兄ちゃんが『貴公子聖夜』なんだって聞いただけだよ」
そんな風に呼ばれているのか…恥ずかしいな。
「勇者パーティだったのは元だから、そんなに凄く無いよ。あと、2人は他の人から見たらどうかは知らないけど、僕から見たら、本当に勿体ない位に可愛くて綺麗な女の子なんだから、一緒に居てくれて凄く嬉しいんだ。だから、自分で化け物とか言わないで欲しい」
「そんな事いってくれるのは聖夜様だけです」
「うん、お兄ちゃんしかいないな」
「まぁだけど、本当の事だから…」
「「ありがとう(ございます)」」
「それじゃ、これから夕飯の支度をするから、暫くゆっくりしていてね」
「えっお兄ちゃんが作るの?」
「そうだけど?」
イクミとマトイが何やら話している。
もう打ち解けたみたいだ…良かった、良かった。
感謝と愛
あれっ、柔らかい。
手を握ったり、開いたりしているとフニフニと何とも言えない柔らかい感触がする。
左手が小さくて、右手が大きい。
「うんっ」
慌てて飛び起きると、左にイクミ、右にマトイが寝ていた。
毛布を慌ててめくると二人も裸だった。
昨日はお酒は飲んでいない。
まさか、やってしまったのか?
嫌、そんな幸せな記憶は無い。
周りをキョロキョロと見回し、ベッドも見る。
多少の汗はあるけど、そういうことした形跡は全くなかった。
『良かった』
いつかはそういう関係になるかも知れないが、それはお互いが好きになった時だ。
今はそういう時じゃない。
人の不幸につけ込むみたいで絶対に良くない。
「お~い、イクミにマトイちゃん、これは一体?」
「う~んおはようございます…ご主人様ぁ~」
「おはよう、お兄ちゃん! 嬉しい?」
相変わらず、イクミは朝が弱いな。
それと『嬉しい?』と言う事はこれはマトイのせいと言う事だ。
「え~とこれはどう言う事なのかな?」
「うん、奴隷商のおじさんが他のお姉さんに言っていたんだよ。捨てられないように気に入られたいなら、そういう方法が一番だって」
「そういう方法?」
「うん…裸になって、男の人に「好きにして良いよ」って言うとか、後は「色々させてあげたら良い」とか…えへへへっ私、毛布を被らされていたから、見て無いから良く解らないんだ、聞いていただけで、それでねお兄ちゃん…よかったら、好きにして良いよ」
なんだ、解らずに言っていたのか…
「聖夜様…私も好きにして良いんですよ」
ハァハァ、これじゃ精神が持たない。
「あの…そう言うのは、本当に好きな人とする事だよ」
「私、お兄ちゃんの事好きだよ」
「私も聖夜様の事好きですよ」
どう説明すれば良いんだ…
「そうだ、そう言うのは一番好きな人とする事なんだよ」
「マトイが一番好きなのはお兄ちゃんだから問題ないよね!」
「私も聖夜様が一番好きだから問題ありません!」
ああっ顔が緩んできちゃうな。
だけど、これは駄目だ。
2人とも意味が解らずに言っている事だ…
「そうだね、2人とも本当に有難う…嬉しいから今日の朝は気合入れて美味しい物作っちゃうから、取り敢えず服を着ようか?」
「「は(~)い」」
取り敢えず、今日は誤魔化せた。
三人目の奴隷を買うなら、こう言う常識を教えてくれる人間が良いのかも知れない。
今日も料理を作りながら、彼女達を見ている。
こんなに楽しい毎日が自分にも訪れるなんて少し前は思っても居なかった。
◆◆◆
「何だぁ~ 二人が裸で寝ていたぁ~、なら喰えば良いだけだろうが?」
「いや、そうは言うが、あれは感謝であっても恋とか愛じゃないだろう?」
どうして良いか解らず、僕はオークマンに相談した。
今現在、親友と言えるのは彼しか居ないからな…負担になるのは解っているけど。
「いや、感謝から次第に愛に変わっていくもんだぜ。なぁ、考えても見ろよ! 奴隷になるような奴は大概が不幸な女が多い。しかも買われた後もそのまま不幸な人生を送る者が殆どだ。そんな奴隷に優しくすれば、感謝されて好きになって貰える。当たり前だろう?」
解らなくはないが、本当にそれで良いのか?
「そういう物か」
「あのよ、俺が不幸な女の奴隷を買うのは愛して欲しいからだ。俺はこの通りオークマンって言われるほど醜い。真面な恋愛なんて普通じゃ絶対出来ねーからな….だからこそ、俺は出会いのきっかけが欲しくて奴隷を買うんだ。尽くして、幸せにして、好きになって貰って笑顔になる。それが好きなんだよ」
これがオークマンのポリシーなんだな。
「言っている事は解かるんだが…まぁ」
「ハァ~、まぁ聖夜がまだ感謝だと思うなら仕方ないが、腹を括った方が良いぜ。一生面倒見る気で買ったんだよな」
「勿論、そうだよ」
「それによ、俺と違って聖夜は二枚目だからな…普通にモテるんだ。別に奴隷じゃなくてもお前はモテるんだから、2人が好きになるのは当たり前だと思うぞ。まぁ自分で納得できたら、ちゃんと向き合ってやるんだな」
「そうだな…感謝が愛に変わった時か? 流石はオークマン良い事言うな…ありがとう」
「まぁ困った事があったら何時でも相談に乗るぜ…」
これで年下だなんて本当に思えないな。
ギルドと勇者
「良いですか、皆さん一緒に、イクミさんは綺麗、マトイちゃんは可愛い」
「「「「「「「「「「イクミさんは綺麗、マトイちゃんは可愛い」」」」」」」」」」
今、冒険者ギルドでは、これを徹底させる為に手の空いた冒険者たちに復唱させている。
勿論、受付の顔である私ミランダも一緒に復唱している。
「なぁ、これ必要なのか? 此処にいる冒険者は皆、週二回の食べ放題、飲み放題の恩恵に預かっているんだぜ、聖夜さんがあの二人を好きなのは解っているから、誰も何もしない、いや困っていたら助かるだろう」
「それは解っていますが、領主様からの依頼なのですからやるしかありませんよ。これを徹底して下さい」
「ふぇ、領主様からの依頼な訳」
「はい、領主様はS級冒険者の聖夜様にこの街に居ついて欲しいのです。その為には聖夜様に過ごしやすいようにして欲しいという依頼です」
「成程、理由は解りませんが、聖夜様はあの二人にべったりですからね」
「確かに、貴公子と呼ばれた聖夜様が何故か、そこだけ壊れてしまっているからね」
「その気になればハーレムすら楽勝なのに残念だよね」
「そういう事は言うんじゃねーよ! 絶対にな」
「「「「「ギルマス」」」」」
「壊れて居ねーよ、2人は美女とまではいわねーが、普通の少女だ、それを忘れるな…これは商業ギルドと他のギルドを含んでの対応だ、よそから来た人間は仕方ねーが、それでも極力悪口は言わせないようにしろよ」
「そこ迄しなくてはならないのですか」
「あのよ~週に何回もワイバーンを含む大物を納めてくれるんだ、聖夜1人でこのギルドの底上げがされているんだぜ。しかも週二回食べ放題、飲み放題の代金を払ってくれるからな、駆け出し冒険者や低級冒険者は凄く助かっているんじゃねーかな。田舎から出てきた奴や体を壊した奴が、必ず週に二回はたらふく食って飲めるんだぜ。俺としてもそちらも感謝だ」
「確かに助かっているな」
「僕も自分じゃあんな料理の代金払えないもん」
「私もよ」
「そうだろ、そうだろう?だから聖夜に離れて貰っちゃ困るんだ。それでな、ここからが問題なんだ。勇者ガイアがよう、自分から追放した癖にまたパーティに誘っていやがるんだ」
「あの幼馴染ハーレムパーティのいかれた勇者か…聖夜を傷つけた癖にまだ居るのか?」
「オークマン、相手は勇者だ言葉は選べよ」
「ああっ、だがよ」
「俺だって気持ちは同じだ、直接見たわけじゃないが、大方ハーレムにでもしたくて聖夜を理由も無く追い出したんだろうな。ここでの活躍をみれば彼奴が凄いのは解かる。そしてあの性格だ、絶対に落ち度なんかねーよ」
「だけど、それじゃなんで聖夜さん取り戻そうとしているのかな?」
「大方惜しいと思っちゃんじゃねーのか…聖夜は家事も完璧みたいだし、まぁ解らないが…兎も角、勇者が狙っているのは確かだ、悪いが此方も目を話さず気にかけてくれ!何かあったらギルドまで連絡くれ」
「「「「「解りました」」」」」
◆◆◆
「早く、聖夜を口説かないと不味いだろうが…この際仕方ない、誰か色仕掛けでもして来いよ」
「ガイア、それで良いのか? 冗談でも言って良い事と悪い事があるぞ」
「あのさぁ、ガイアはそれで良いの?」
「愛しているって言ったのに、それ? 信じられない」
そうは言うが、彼奴が居ない事には旅は続けられない。
それに悔しいが彼奴の実力は最早、俺すら凌いでいる。
ギルドで聞いた話では1日でワイバーンを今では8羽狩っているそうだ。
しかも週2回。
これは勇者として有名な北の勇者と言われるカイゼルに匹敵する。
勇者で無いのに此処までの奴は絶対いない。
何故、そこ迄急に化けたのか解らない。
だが、パーティから抜けた時から彼奴は更に強くなった。
今の俺にはこいつ等より聖夜の方が欲しい。
勇者として魔王を倒せば、金も名誉も女もついてくる。
「仕方ないだろう…俺だって辛いんだ。だが、彼奴は壊れてしまったんだ。もし彼奴が正常に戻るとしたらお前達しかないだろう? 異常になる前に拘っていたのは皆なんだからな」
「確かにそうだな…だが私は色仕掛けは好かない」
「ハァ~ それじゃ私がやるしか無いのか」
「あのさぁ~放って置いてあげるという選択は無いのかな」
「ミルダ、それは駄目だ」
「確かに壊れているのかも知れない。だけど聖夜凄く幸せそうだったよ。あのまま放って置いてあげた方が良いんじゃないかな」
「ミルダ、それじゃ困るから戻ってきたんだろう」
「そうだけどさぁ…私達勝手過ぎるよ」
「まぁな、だが聖夜が必要なんだ。私は戻ってきてくれるなら土下座でもなんでもするつもりだ、だが放って置く事は出来ない」
「そうねランゼの言う通りね、許してくれるなら私も同じ、なんでもするわ」
「ガイアも同じなの?」
「そうだな、土下座位はするし、最悪お前達が欲しいって言うなら、お前達次第だが聖夜と付き合って欲しい全部俺が悪かったんだ」
今の彼奴なら魔王討伐も夢じゃない。
魔王を討伐した勇者なら貴族の娘、場合によっては第三王女でも手が届くかも知れない。
なら、こいつ等を全部渡しても問題無い。
今はどんな犠牲を払っても彼奴が必要だ。
女達
「ハァ~気が重いわ」
マリ―の言うのも解かる。
なんで勇者パーティの私達が色仕掛け等しなくちゃならないんだ。
しかも、私達に「愛している」そう言ったガイアに頼まれてだ。
「解かるよ。壊れているって言うけど聖夜、今の方が幸せそうだよ!私としては放って置いてあげたいんだけど…駄目なのかな?」
ミルダの言う事は解かる。
今の聖夜の顔は幼い頃、私達を見ていた顔に近い。
あんな楽しそうな笑顔、どの位見ていなかったんだろうか…
昔は、優しそうに何時も微笑んでくれていた。
かなり嫌な事をさせた記憶も沢山あるし、剣の修行で怪我をさせた事もあった。
それでも、聖夜は笑っていた。
だけど、旅の途中から聖夜は笑わなくなった。
理由は解かる。
ただ一人除け者状態だったからだ。
私達四職は国からお金が支給される。
だが、聖夜にはそれは無い…だから自分で金を稼ぎながらついてきてくれた。
そんな自分で稼いだお金でも、誰かが困ると惜しげなく使っていた。
誕生日には豪華な食事やプレゼントも何時もくれた。
聖夜は今思えば、既に家族以上に扱ってくれていたのだ。
聖夜は魔王なんて関係ない。
四職でない以上戦う義務もない。
義務が無いから国からお金も貰えない。
それじゃ、なんで傍に居てくれたのか?
心配だから…それと好きだったから、それだけだ。
しかも、聖夜は男と女という愛情だけでなく、友情という意味でガイアをも支えていた。
それを…斬り捨てた。
ガイアの言う、色仕掛けなんかで戻るわけが無い。
「ミルダ、私だってそうしてあげたい、だけど戦力的に無理だ」
「ランゼの言う事は解かるよ…だけど聖夜が欲しい物を私達はあげられるのかな? ねぇ、よく考えて私達ゼロじゃないんだ…マイナスなんだよ? 解っているの? 心を傷つけてあんなに尽くしてくれた聖夜を斬り捨てた…もう関わらないであげるのが優しさだよ」
「ミルダ、それは解かるんだ、だがこれから先、必ず聖夜が必要になる。実際どうだ! ボロボロじゃないか!」
「聖夜の欲しい物を全部あげれば良いじゃない…」
「マリ―、それが出来るなら、私だって放って置くなんて言わないよ。無理でしょうが」
「ミルダ、それは覚悟の問題よ!幸いガイアが勇者という事もあり、最後の一線は超えてないわ。聖夜が欲しいのは『自分を認めて愛してくれる存在』なのよ…だったら全部捧げてしまえば良いのよ、心も体も全部ね」
「それはどう言う事だ」
「マリ―、頭が可笑しいの?」
「あんた達馬鹿なの? 貴方達の中で聖夜が嫌いな人はいるの?」
「そんな訳無いだろう…私は好きだ」
「私だって、ただもう手遅れなだけだよ」
「だから、この話はそもそも逆なのよ。聖夜が好きだったのは『元』。今はもう好きじゃないかも知れない。だったら聖夜が好きな私達がアタックすれば良いだけだわ。恋愛は自由なんだから、何時までも上から目線じゃ駄目なのよ。好きなのは聖夜じゃ無く私達なの。その意識を持って行動しなくちゃ! 聖夜を見習わないと駄目なの!『好きになって貰える』その確証が無くても聖夜は尽くしてくれた。同じ事をしなくちゃ始まらないよ」
「そうか…確かにそうだな」
「そこから頑張らないと駄目なんだね」
「そうよ…それで覚悟はあるの?」
「「覚悟?」」
「そう…今回の場合は前とは違う。聖夜を好きになるって事はガイアを好きにならないと言う事よ。前の時はガイアをとって聖夜を追放した。もし聖夜を今回取るなら、ガイアに今後指一本触らせない。その覚悟が必要よ…二人とも大丈夫なの? 両方好きっていうなら…多分無理だわ」
「そう割り切れるのか?」
「難しいよ…」
「そう…だけど、もう私は割り切れたわ。ガイアじゃ無くて聖夜をとる。ここ暫くの態度で決めた。幾ら聖夜を取り戻したいからって、ガイアは『色仕掛け』しろとまで言ったわ。考えてみて、聖夜とはいえ、私が他の男に抱かれても良いって事でしょう。ふざけるな!って感じよ。そこ迄馬鹿じゃないわ。もう決めたわ」
「ハァ~ そこから目を離そうとしたんだが…そうだよな、うんそうで無ければ駄目だ」
「そういう事だよね…ガイアは元からそんなに私達が好きで無かった…うん認めたく無いけど、そうじゃないかな」
「それでね…私はもう場合によってはこの旅を辞めても良いと思う。だって、ガイアはアホみたいな事を言っているけど、人の心を取り戻すなんて時間が掛かる事だもん。場合によっては年単位掛る事だよ」
「そんなに掛かるのか?」
「あの…それで良いのかな」
「聖夜が尽くしてくれた期間は10年越えているのよ…あくまで心の問題よ」
「もうどうして良いか解らないが、聖夜を望むと言う事はそういう事だな」
「ねぇ、そこ迄考えるならもう放って置いてあげた方が良いんじゃないのかな」
「それは無い…ガイアが本気で私を好きでないなら、聖夜しか居ないもの…だから私は聖夜がどう思っているかじゃないわ、私が好きなのよ」
「そうか…私も腹を括るべきだな…解った。ガイアは私を本気で好きでは無い。それを認めたうえで聖夜を狙う、そういう事だな」
「いい加減にしてあげて、もう聖夜はもう自由にしてあげようよ」
「それじゃミルダはもう聖夜は良いの」
「ううっ…」
「なら頑張るべきね」
話しているうちにガイアへの想いが無くなっているのが何となく解かった。
女達?
「聖夜~私が悪かったわ…謝るから、本当に謝るから戻ってきて、お願いよ」
「私が悪かったんだ、二度と裏切ったりしないから、頼むこの通りだ」
「私が悪かった…ごめん」
この人たちは何を言っているのだろう?
別に僕は怒ってもいないし、悪い事された訳じゃない。
他の人間を好きになるのが悪なんて事は絶対にない。
まして僕は、彼女達の婚約者じゃないし、恋人でもない。
ただ好きになって貰いたいから努力したに過ぎない。
努力した結果、負けたから去った。
それだけの事だ。
「別に、僕は怒ってもいないけど…しつこいから言ってあげるよ『許すよ』これで良いかな? それじゃ忙しいから…じゃぁ」
確かに男女としての扱いは酷かったが、他は問題無い。
まぁ、前世で言うなら、会社の社長が人気者で『好きな女の子を全部取られた』それだけだ。
この場合、全部取られた会社員は溜まったもので無いが、給料と福利厚生がしっかりしていたら、社長に文句等言えない。
だから、僕は恋愛で負けただけ、誰も悪くない。
「ちょっと待ってよ! 幾ら何でも投げやり過ぎない!」
「せめてちゃんと話を聞いてくれ!」
「私達が嫌いなのは解かるけど…話くらいは聞いて欲しい」
話す意味がない。
前世で好きの反対は嫌いじゃなく無関心と聞いた事があるが正に今がその状態だと思う。
袂をわけた今『どうでも良い』
「ハァ~…もう無理なんだって。謝る必要は何度も言うけど無いよ。ただ、もう一度前の関係になる事は絶対にない。悪いけどもう、命懸けで愛せない、それだけだ」
「命懸けだと」
「この際だから言うけどさぁ…普通に考えたら皆を好きになるのは地獄への片道切符だろう? 今迄はまだ大した事無かったが、此処から先は地獄なんだよ。魔国に攻め入ってたった数人で魔王を倒す、棺桶に片足突っ込んだようなもんじゃないかな。『一緒に死んでも良い』そこ迄の気持が無ければ皆とは恋愛なんて出来ない『幸せにする』そんな生ぬるい考えじゃ出来ないそう言う恋愛だったんだ。恐らく、最後は4人とも死んで終わり、そこに自分が加わる覚悟が必要なんだよ。沢山いる勇者の中でガイアは強い方じゃない、恐らく魔王所か幹部にも勝てない」
「なんで今更そんな事言うんだ? 私達はこれでも精一杯頑張っているんだ」
「そうよ、幾ら何でも言い過ぎだよ」
「そこ迄言わなくても良いじゃ無い」
仕方ない、最後だと思って付き合うか。
◆◆◆
「こんな所に連れてきて…散歩でもしたかったのか?」
「そうね、偶にはこう言う散歩も良いわね」
「うん」
何を考えているんだ…
違う、僕は彼女達を叩きのめす為に此処に来た。
彼女の親達への恩があるから、ただ死なせる訳にはいかない。
「なにを言っているんだ! これから僕と立ち会って貰おうか…三対一で構わないよ」
「冗談は止めろ…私は剣聖だ一対一でも聖夜には余裕で勝てるわ」
「私は聖女、戦いは得意では無いわ、それでも貴方には勝てる…四職なんだから!」
「馬鹿にしないで、私の魔法一発で終わりよ」
本当にそうなら僕は要らない筈だ。
三人なら勝てるそう思っているのか、本来の僕は実力では敵わない。
だが、四人相手でもガイアのパーティ限定なら勝てる。
「なら、こうしよう。もし三対一で僕に勝てたら、パーティに帰る事も真剣に考えるよ」
万が一があると困るから戻るとは言わない。
あくまで「考える」だ。
「そうか、ならばやるしかないな」
「そうね」
「幾らなんでも舐めすぎだよ」
~15分後~
「何で私の剣が通じないんだ」
「そんな、ファイヤーボールを避けるなんて」
ランゼが鞘から抜かない状態だが斬り込んでくる。
あたればこれでも骨折する。
普通の冒険者はまず躱せない。
本来の僕レベルの冒険者なら大怪我だ。
だが、ランゼ限定ならば僕の場合、話は違う。
何故なら彼女と共に戦う為に練習してきたからだ。
ランゼがどう言う風に剣を振るい、間合いが何処までか全部知っている。
連携を組む為、彼女の邪魔にならないよう、訓練してきた。
故に簡単に避けれる。
ミルダも同じだ。
どれだけ、魔法の練習に付き合ったと思っているんだ。
癖迄全部解かるんだから相手にならない。
だが、此の種は敢えて言わない。
そろそろ反撃にでるかな。
「ランゼ、下半身が甘い」
僕は足を引っかけてランゼを転ばして軽く頭を触った。
「これが剣かナイフなら死んでいただろう」
「…ああ、そうだな」
ミルダが杖を構えるが、もう遅い。
そのまま踵を返しミルダのお腹を撫でる。
「なっ」
「これがナイフなら腹を刺されて死んでいるぞ」
そして攻撃手段を持たないマリーに近づき軽く肩を小突いた。
「これが剣なら袈裟斬りで死んだな」
簡単だ、全部パターンが読めるんだから。
「そんな三人掛かりで敵わないなんて」
「どうして…」
「信じられない」
別に圧倒的に強い訳ではない。
『常に見ていたから』動きの予測が簡単につくだけだ。
もし、これが初見なら僕は確実に死ぬだろう。
「これで解かっただろう? 僕にすら勝てないんだから魔王になんて絶対に勝てない。北の勇者のパーティは寝る間も惜しんで訓練し、ダンジョンすら幾つも攻略した。いまだ、聖剣すら持たず。三対一ですら僕に勝てないパーティじゃ魔王なんて絶対に無理だ。解散して村に帰った方が良い」
「「「…」」」
「それじゃもう、僕に構わないでくれ、新しい生活を始めているんだからな」
何も返事が無いから、きっと諦めてくれたんだろう。
これでようやく一息つける。
◆◆◆
「負けたな」
「ええっ」
「清々しい位に負けましたよ」
「それでどうするんだ?」
「辞めた方が良いのかもな、旅そのものを」
「確かに聖夜にすら勝てないなら無理な話だよね」
「それでどうするんだ? マリーは」
「そうね、私はこの街の教会にでも相談してヒーラーになるわ…教会を通して言って貰えば、国も無理に旅を続けろと言って来ないと思うから」
「マリ―、私も旅を辞める、その事も教会を通して伝えて貰って良いか?」
「私も、流石に国に旅を辞めるって言いずらいから、お願いできないかな?」
「別に構わないわ」
「「それじゃ頼む(よ)」」
「解かったわ」
彼等の旅は此処で終わったのかも知れない。
閑話:シシリアの物語
奴隷として生かされていますわ。
それが凄く不名誉で辛いでのです…わ。
私の名前はシシリア。
少し前までは地方貴族の子供として生活をしていましたわ。
貴族と言っても、田舎貴族ですから殆ど平民と変わりませんわ。
更に言うなら、私は何故か小さい頃から部屋から出して貰えず、仮面をつけて生活をしていたのですわ。
仮面をつけさせられて外に出られない理由をメイドに聞いてみましたわ…メイド曰く。
『私は凄く美しいのだそうです』わ。
それとまぁ、体が弱いので出して貰えない、そういう事なのですわね。
ですが…何故か…私は凄く健康に思えるのですわ。
体も丈夫だし、プロポーションも悪くありませんわ。
どうして部屋から出られないのか
余り、納得できませんわね。
◆◆◆
「初露の儀(はつつゆのぎ)、まさか、それに我が娘が選ばれたのですか? そんな」
国王が私に頭を下げた。
この国で国王は頭を下げない。
ただの一つの行事を除いては…
「この通りだ済まぬ!」
本当に頭を下げている。
これを拒む事は貴族でいる以上断る事は出来ない。
態々国王自らが馬車で王宮を離れ、我が館迄来る。
たかが男爵の家に来て国王自らが頭を下げるのだ…絶対に断れない。
これによって娘が死ぬ運命になっていても。
「我が家にはそれを受ける気持ちはあります…ですが、我が家の娘は顔が醜いのです、それがバレたら王子は不味いのでは無いですか?」
「それなら、気にする必要は無い…初露の儀は最初から最後まで仮面を外さずに行われる。 故にバレる事は無い」
「仕方ありませぬ…謹んで、その儀お受け致します」
醜いとは言え、死んでは貰いたくない。
だが、この儀式は受けない訳にはいかない。
すまない…シシリア
◆◆◆
【初露の儀】とは?
初露の儀…これは王族が童貞を捨てる為の儀式だ。
王族である以上下賤の者に相手をさせる事は出来ない、その為貴族の令嬢から選ばれる。
それに加えて王族が『おさがり』の相手をする事は出来ないという考えから処女である事が必衰になる。
更に王族の相手をする以上『傷物』ではいけないから奴隷紋は刺青なので入れられない。
それでは…儀式が終わった女性はどうなるか?
儀式が終わった後…100人以上の男に輪姦される。
その人間には騎士や使用人等お城の関係者が多く参加する。
その理由は…継承権の問題が起きる為だ。
万が一初露の儀の相手の女性が身籠った場合、王位継承権が発生してしまう。
その為、子供が誰の子か解らない様にする為だ。
昔は此処で終わった。
その後、その女性は教会に入り生涯シスターとして生活する人生が待っていた。
だが、最近では後の憂いを断つために『殺す』ようになった。
つまり
『悪いが息子の童貞を捨てさせる為にお前の娘を使うよ。その後は大勢の男に犯させて殺すからな』
こういう内容だからこそ王が自ら頭を下げるのだ。
勿論、大貴族は根回しをしたり、お金を積んで逃げる。
その為、これで死ぬのは自然と弱小貴族の娘になる。
◆◆◆
「初露の儀、私がその相手をしなくてはいけないのです」
「すまない」
そんな、私はまだ殿方を知らないのですわ。
それが将来、王族とは言え一生を共にしない相手と一夜を共にするなんて考えられませんわ。
「お父様、将来私は夫になる人間に、この事をどう説明すれば良いのでしょうか? そんな事出来ませんわ」
「だが、この通りだ頼む」
お父さまは私の前で土下座していますわ。
私はこの儀式の意味を知っていますわ。
昔、メイドから聞いた事がありますわ。
この儀式の相手になってしまったら汚されまくった上に『殺される』と言う事を。
名誉なんて全く無い、まるで肉便器のように扱われ、汚物の様になり死ぬ運命しかありませんわ。
だけど、私が引き受けなかったら…恐らく貧乏男爵である我が家は終わりになりますわね。
私一人の命と家全部…私が死ぬ。
それしか方法は無いのかも知れませんわ。
「解りましたわ、その役目、引き受けますわ」
泣きたい気持ちを押さえて私はお父様に微笑みましたわ。
◆初露の儀当日◆
私は大きなお風呂に入れて貰っていますわ。
私一人に侍女が三人つきまして体の隅々まで洗われていますわ。
正直、凄く恥ずかしいのですが…仕方ありませんわ。
気がつくと私は悲しくなってきましたわ。
この後、私は王族とはいえ面識の無い男に犯され純潔を奪われ、汚されまくって死ぬのですわ…
「お嬢様、泣かないで下さい…お気持ちは解りますが」
気がつくと私は泣いていましたわ。
「そうね…ごめんなさいですわ」
「泣いても仕方無い事です…黙っておりますから今は泣いていても良いですよ」
「見ていません」
「だけど、此処から出たら涙は禁物ですよ」
私は建前上、好きでも無く初めて会う男に喜んで抱かれないといけないのですわ。
「解りましたわ」
気持の整理がつく間も無く時間は過ぎていきましたわ…そして。
「お前が僕の相手をする女だな、宜しく頼むよ…うむ、なかなかのプロポーションだな、良い体をしている」
気持ち悪い、ガマガエルの様な男が私を舐め回すように見ていますわ。
ですが、私には逆らう事は出来ませんわ。
「はい…宜しくお願い致しますわね」
名前は名乗らないで良い決まりですからこれで良い筈ですわ。
「緊張するなよ…それよりも、そ~れ」
嫌、いきなり何をしますの…そんな、いきなり服を千切ってくるなんて。
「いやぁぁぁぁぁーーー止めて下さいーーっせめて普通に」
「なに言っているんだ、普通になんてしても面白くないだろうが、お前は明日の朝まで余の物だ、思う存分犯してやるからな」
そう言いながら、私はドレスを無理やり破かれ、半裸になっていましたわ。
「別に逆らいませんわ…ですからせめて、せめて…ベッドにベッドにお連れ下さい」
「それは後でするが…今はこの場で泣きじゃくるお前が見たいんだよ…なかなか良い体をしているじゃ無いか? その分だと面も良いんだろうな? もし面を見せてくれたら、特別に命を助けてやるぞ」
「ですが…それはこの儀式の違反になりますわ」
「お前だってこの儀式の後は知っているのだろう? お前は全てを失うんだぞ」
この男の話ではどうしても、私が泣く顔が見たいのだそうですわ。
全裸にされて私の体は震えていますわ。
嗜虐心が強いのでしょう..
「私には…それは出来ませんわ…もし見たいならばこの仮面をはぎ取れば良いのですわ…よ」
男の手が私の仮面に手が伸びますわ。
正直言えば見られたくはありませんわ…
顔が見られない…汚される私に関係は無いかも知れませんわ。
でも同じ汚されて殺されるなら、顔なんて見られたくありませんわ。
ですが『命が助かる』その可能性があるなら…それに賭けてみたいのですわ。
助かってもガマガエルの様な人間に犯され多分奴隷の様な人生を歩むのが決まっていますわ。
ですが…それでも、それでも沢山の男に犯されゴミのように殺されるよりはマシなのですわ…
生き汚い…それでも死にたくはないのですわ。
私は『凄い美人の筈ですわ』それならきっとこのガマガエル男も気に入る筈ですわ。
体が震えていますわ…
時間が凄く長く感じますわ…
ガマガエル男の手が近づいてきましたわ。
私の仮面が剥がされます…
「お前…なんだーーーっこの化け物はーーっなんでだーーっ ブクブク」
何が起きたのでしょうか?
ガマガエル男は泡を吹いて気絶してしまいましたわ。
※ 感想欄からのリクエストに応えて三人目は貴族風娘にしてみました。人数を余り多く出す予定が無いので、聞けないかも知れませんが参考にはさせて頂きます。
有難うございました。
元貴族令嬢、無料?
ガマガエル男の悲鳴を聞いてメイドやら執事が駆けつけてきました。
「お前…何をうぷっ」
「仮面を剥がされたのですが、それは儀式違反です…なんてことを…」
私が自分で剥がしたんじゃない。
ガマガエル男が無理やり剥がしたのですわ。
「私が自分から剥がしたのでは…ありませんわ」
「まぁ、現状をみれば解る、王子にも困ったものだ」
「まぁ引き千切られた服に裸の貴方と王子をみれば大体の状況は解ります」
その後、私は牢屋に入れられましたわ。
初露の儀の事をどうするかについて話し合いをし、その後私がどうなるか決まるそうですわ。
結局、私は…
「王子が自分からお前の仮面を剥がした事を認めた。儀式の失敗は許されないので『無事終わった』事にする…そしてお前の様な化け物は私も含んで誰も抱きたくはない。戯言とはいえ王子が『命を助ける』そう約束をした。それを全部考慮した結果がこれだ」
結局私は…そのまま奴隷として売られる事になりましたわ。
此処で私は自分の勘違いを認めないといけませんわね
『美しい』そう思っていたのは間違いで『醜い』という事ですわ。
しかも、誰からも抱く価値が全く無い…そこ迄酷い女….うふふふ、そういう女なんですわ。
◆◆◆
「聖夜、奴隷の面白い情報を掴んだんだ」
オークマンが僕に話し掛けてきた。
鼻息が荒い。
「どうしたんだ、急に…」
「いやぁ、この間の奴隷商がな、隣町の奴隷商に変わった奴隷が入ったという情報が入ったんだ」
態々、僕に言ってくる必要があるのか。
オークマンの事だ、何か意味はあるのだろう。
「それで、それはどんな話なんだ」
「それがな、その奴隷というのが元貴族なんだ」
元貴族? そんなに珍しい事じゃないだろう。
元貴族、そんな肩書の奴隷はこの間オークマンと一緒に見に行った奴隷商にも2人居た。
「それの何処が面白い情報なんだ? 今のご時世貴族の奴隷だって数は少ないがいるだろう?」
「だが、その奴隷なんだが…実は変わった容姿をしている。話を聞く限りだと目が大きくてぎょろってしているそうだ」
「目が大きい? それがどうかしたのか?」
「その、なんだ、ちょこっとだけよ、イクミちゃんやマトイちゃんに似た雰囲気だから好みじゃねーかなってな」
二人に似ている?
マジか…マジかな。
本当に似ているなら本当に運が良い。
オークマンも三人が良いと言っているし、もし話が本当なら絶対に良い話だな。
「それじゃ、今から行って見るよ」
「待てよ、俺も一緒に行ってやるよ」
「すまないな」
「良いって事よ」
しかし、オークマンは本当に面倒見が良いな。
◆◆◆
「オークマン様、その方がお話しをしていた奇特な方なのですか?」
「最初に言って置くが必ず買うとは限らないからな」
「それは解っております。ですが、さる高貴な方から無理矢理押し付けられて本当に困ってしまったのです…しかも、まぁ良いです見て下さい」
俺とオークマンは一緒に奥に通された。
相変わらず暗い場所だな。
マトイに出会ったのもこんな場所だったな。
鉱山奴隷が居る場所のその奥に檻があった。
周りの檻に数人の奴隷が入っているがその檻と目をあわさないようにしている。
イクミやマトイは街で普通に生活している。
そして、本当に綺麗で可愛い。
少なくとも街に彼女達を悪く言う人間は居ない。
マトイの時と同じ様にシートが被さっていた。
俺は恐る恐るシートをめくった。
「駄目だ、聖夜、これは酷すぎる..帰ろう」
「オークマン様、もしかしたら引き取って貰えるかもって言ったじゃないですか?」
「だが、限度がある…これはまるで伝説のメデューサみたいじゃないか…なぁ聖夜」
「オークマン? 何を言っているんだ?」
綺麗だ…
可憐だ…
でも凄みもある。
かなり汚れてくすんではいるが、金髪の縦巻きロールに前髪と後ろ髪はフワッてした感じ。
明るい所で見たらさぞかし綺麗だろうな。
目はやや三白眼気味だけど大きく意思が強い目をしている。
凄いな…この子。
少女漫画で言う正統派ヒロインにも見えるし、見方によっては悪役令嬢にも見える。
正統派少女漫画なら、彼女の後ろに沢山のバラが見えそうだ。
逆に悪役令嬢なら、後ろに無数の蛇が見えそうだ。
貴族…いや王女にすら見える。
「聖夜…まさか、お前、これもいけるのか?…なぁマジか?」
「お客様、大丈夫ですか…気を失ったんじゃ..」
「もう私を見ましたわよね? 醜くて気持ち悪い顔が見られて満足ですわね…さぁさっさと立ち去って欲しいですわ」
ああっ声も溜まらない。
少しドスが効いていてそれでいて澄んだ声。
まるでアニメの様な劇の様な声。
「見た所、貴族の令嬢だったように思えるのですが」
「ええっ確かに私は貴族の出ですわ。まぁ貧乏男爵で田舎者ですからほぼ平民と変わりませんわ」
「そうでしょうか? 僕には貴族の令嬢にしか見えません」
「まぁ、貧乏で売られた様な身ですが、令嬢と言えば令嬢ですわね…それより貴方良く私の顔を見て話せますわね」
「まさか、石になるとか? 伝説のゴーゴンじゃあるまいし普通に見れますよ」
というか目が離せなくなる位に綺麗だ。
イクミが同じ位の年齢の美少女。
マトイが年下の美少女。
だとしたら、少し年上の綺麗なお姉さん…美女と美少女の中間に見える。
「幾ら、化け物みたいだからって、そんな本物の化け物と一緒にするのですか酷すぎますわ…もういい加減にして欲しい…のですわ」
「すみません、ですが聞いて下さい! メデューサもゴーゴンも髪こそ蛇ですが、顔は女神より美しいと言われた化け物です…僕から見た貴方はそう、それに匹敵する程綺麗です」
「お世辞も同情は要りませんわ…私は飛びぬけて醜いのは解ってますわよ」
「転生者ってご存知でしょうか?」
「話しには聞いていますが..どうかされましたの?」
「僕は転生者です。そのせいかも知れませんが僕には貴方がとんでもない美少女にしか見えません」
「それは本当ですの? 嘘とかではありませんわよね」
「はい…それで僕は王子様でも貴族でもないただの冒険者です。それに他にも二人暮らしている女性がいます。そんな僕でも貴方を引き取らせて貰って宜しいでしょうか?」
「聖夜…本当に良いのか? なぁ…マジでいけるんだな…おいどうやら大丈夫そうだぞ、約束通りで良いよな」
「勿論、お約束通り無料で結構でございます。今回は更に奴隷紋もサービスで構いません」
「あの..私は構いませんわ、ですが本当に宜しいんですの?」
《寧ろ、本当に私を引き取ってくれますの? 冗談とかからかっているとかじゃ無さそうですわ…ですが、どうしてこれ程の美少年が不細工の私を引き取ってくれますのか解りませんわ。もし、そう言った事のお相手でしたら….私からでも出来そうな位ですわよ》
「はい、それじゃ引き取らせて貰います。お願いいして宜しいでしょうか?」
「はい、有難うございます、今回は全部無料です。その代わり、再度引き取って欲しい。そういう場合も基本買い取りは不可です。逆にそう言った場合は金貨3枚貰う事になりますが宜しいですか?」
「構いません」
「僕の名前は聖夜って言います…えーと名前は?」
「シシリアと申しますわ…ご主人様」
なんでこんな美人が無料なんだよ…まさかこの世界、エロゲーの世界だったりしないよな。
『はぁ~これでまたギルドの定期集会で「シシリアは美人!」とか加えさせられそうだな』
シシリア
本当に聖夜は変わっている。
彼奴はもしかしたら美醜が逆転しているのか?
そう思ったら違っていたんだ…流石の俺も訳が解らない。
実際に街で可愛くない女を指さして聞いたら、そう思うと言っていた。
イクミもマトイも、気になったから他の転生者に見て貰ったら…
「普通に気持ち悪い」そう言っていた。
ブス専なのでは?
そういう噂が流れて、容姿に自信のない女冒険者がアタックしたが全員撃沈したんだぜ。
つまり、何か条件があった時にだけ…聖夜には最上級の女に見える。
そういう事だ。
「聖夜、良かったな、三人目を無事迎えられて…」
「ありがとう、オークマン。恩に着るよ」
「さて、これで『オークマン流の奴隷生活』の基本は出来た訳だ。此処からは聖夜の好きな形で仲間を増やしていけば良いと思うぞ?」
「そうなのか?」
「ああっ…聖夜と最初会った時、俺の事を羨ましいと言ったよな? 俺からしたら面が良くてS級冒険者の聖夜の方が遙かに羨ましかったんだ…だがよ、お前と話していると何故か自分のように寂しい人間に思えて手を貸したんだ」
「おい、気のせいか『もう手を貸さない』『付き合わない』そう聞こえるぞ」
「ああっ、そうするつもりだ。『嫌われ者の醜いオークマン』と聖夜じゃ釣り合えねーよ、だからよ、この辺りでお別れだ」
「あのなーーっ僕はそんな事は気にしない。オークマンと友達を辞める位なら他の仲間なんて要らない。今の僕にはガイアよりお前の方が遙かに仲が良い親友なんだよ。だから、そんな事言うなよ」
オークマンは僕にとって…恩人であり、まぁある意味師匠だ。
「ちぇっ…勇者以上とか言われたらよーっ付き合わない訳にいかねーじゃないか」
「本当の事だから、仕方ないだろう? 恋人兼将来の結婚相手は三人も出来たけど、今の所親友は2人…いやオークマン1人しか居ないんだからな」
「親友かよ…本当に聖夜は変わっているなぁ…まぁ良いや、後はもう大丈夫だろう?それじゃ俺はこの辺で失礼するぜ、また明日な」
「また明日」
オークマンはがははは笑いをしながら去っていった。
◆◆◆
「聖夜様、準備が出来ました、さぁ血を少し下さい」
僕は指をナイフで切った。
「さぁ、この呪印の上に血をお願いします」
これで手続きは終わった。
「あの、流石にこの服じゃかわいそうだから、お金を出しますからお披露目服をお願い致します」
「銀貨2枚になります」
「宜しくお願い致します」
シシリアが無料だったんだ、この位は出さないと申し訳ない。
「それじゃあ、シャワーを浴びさせて支度させますので今暫くお待ちください」
「はい」
暫くしてお披露目服に着替えたシシリアは凄く綺麗だった。
「ご主人様、どうでしょうか?」
「うん、凄く綺麗だ」
「ありがとうですわ」
「それじゃ急ごうか?」
「どうして急がないといけないんですの?」
「いや、俺の住んでいる街は隣町だし、服や下着、食器に寝具を買わないといけないから」
「そうですわね…それは急がないといけませんわ」
「それじゃ行こうか」
「はい」
嬉しそうに手を出すシシリアの笑顔は正に王女か貴族令嬢にしか見えない位凄く綺麗だった。
勇者とハイエルフ
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
「行ってらっしゃい!お兄ちゃん」
「行ってらっしゃいませですわ」
朝からテンションが上がる。
絶対に出会えない筈の幻のように綺麗な彼女達。
ボカロが本当に居てくれたら…
アニメのヒロインが、ライトノベルのヒロインが本当に居てくれたら…
それが叶ってしまった。
しかも、三人も一緒にだテンションが上がらないわけが無い。
「それじゃ、今日は私が見ておきますから安心して下さいね」
「宜しくお願い致します」
今挨拶したのはオークマンの妻の1人のテルミさん。
相変わらず、オークマンはうちを気にしてこうして妻を遊びに来させてくれている。
テルミさんは熟女って感じのなかなかセクシーな女性だ。
オークマンは、恐らく僕に4人目を買わせようとしているのが何となく解かる。
最も、オークマンが親友な時点で『奴隷商通い』や『奴隷市場』に足を運ぶ事になる。
それがオークマンの趣味であり日常だからだ。
まぁ、家に遊びに来る嫁が、敢えてうちに居ないタイプなのは…そういう事だろう。
◆◆◆
折角テンションが上がったのに駄々下がりだよ…
「おい、聖夜顔を貸せ!」
なんでまだ此奴が此処にいるのか、さっぱりわからない。
「僕はこれから仕事なんだよ。何かようか?ガイア」
「ようがあるから声かけたんだろうがっ」
大通りで揉めていても仕方が無い…僕はガイアについて行く事にした。
直ぐに傍の酒場に入った。
「お前、何してくれたんだ…パーティが解散しちまったじゃねーか」
三人は、話を聞いてくれたんだな。
これで一安心だ。
あとは無事に村に帰ってくれれば、皆の親に顔向けできる。
僕は、彼女達の経緯についてガイアに話した。
「まぁ、こんな感じかな」
「ふざけんじゃねーよ。それであいつ等、解散なんて言い出したのか?どうしてくれるんだよ!」
「どうするも何も、解散したなら旅は終わり…それだけじゃないか。その後は自分がやりたい事をすれば良い。それだけだろうが…」
「俺は勇者以外の人生は考えてねー。なんでお前は邪魔すんだよ。追放した嫌がらせか!」
「だったら、なんでお前は僕に構うんだよ、追放したんだから放って置けば良かっただろう。こちらからは話し掛けてもいないんだよ。散々遠回しに『戻らない』そう言っただろう。しつこいからこうなったんだ。僕のせいじゃないだろう」
「確かにそうだ…だがよーっこんなのはあんまりだ! 頼むよ、お前が戻れば三人も戻ってくる、この通りだ」
ガイアが頭を下げた。
「なぁガイア、僕は旅には出ないよ。普通の生活が楽しいんだ。元から僕は魔王討伐の栄光なんて望んでいない。ただ村の皆から頼まれたのと、幼馴染が心配だからついてきただけだ」
「そんな事言うなよ…なぁ、三人ともお前にやるからさぁ、それで良いだろう、なぁもう追放なんてしねーし、副リーダーの地位も保証するかよ。それに魔王を討伐出来たら、お前にもちゃんと貴族籍を貰ってやるからよ」
ガイアってこんな奴だったのか?
三人をやる…ふざけんな!
皆、自分の意思でお前を選んだんだぞ…
貴族? あんな面倒臭い者になんでならなくちゃいけないんだよ。
確かに特権階級だけど…義務も山ほどあるんだよ…
もういいや…ガイアのお母さんやお父さんに頼まれたから…これはしたく無かった。
「ガイア、ちょっと付き合え」
「ああ」
◆◆◆
「聖夜、此処は何処だ?」
「奴隷商だが?」
「これはこれは聖夜様、いらっしゃいませ」
「今日は見学だけど良いでしょうか?」
「オークマン様と仲が良い貴方様なら構いません」
「聖夜…これは一体」
僕は知っている。
幼馴染だし、前に僕を追い出した通り、ガイアの中で一番を占めているのは『女』だ。
「なぁ、ガイアもう魔王討伐なんて止めても良いんじゃないかな? ガイアの名前は既に有名だし…その気になれば女性だって思いのままだ…ほらっ」
「此処が奴隷商…折角来たんだ…おい、これって」
「綺麗でしょう? ハイエルフですよ、古くはエルフの王族の血を引くものですよ」
「こっちは?」
「ダークエルフですね、褐色の肌が綺麗でしょう」
まるで子供のように高級奴隷を見ながらはしゃいでいる。
まぁ、勇者の場合は色々と汚点を残せないから娼館にも行けないし…幼馴染とも妊娠を恐れて最後の一線を越えていない。
そんな童貞に…まぁ僕も言えないが、良い女が金で買えるんだ。
そういう事実を教えてやれば…もしかしたらもう旅を辞めるんじゃないかな。
勇者は沢山いるから辞めてもお金と地位が無くなるだけでジョブが無くなる訳じゃない。
何と言えばよいのかな…辞めたら国の勇者じゃなくて野良勇者になるそんな感じだ。
そう言えばランゼ達はどうしたんだ…あのまま野良になってくれれば、まぁひとまず安心だな…もしかしたら今頃村に帰っているんじゃないかな?
「凄いな~こんな綺麗な女性が居るのか?」
「まぁね(イクミ達程じゃ無いが)凄い美人も多いでしょう?」
「まぁな、だけど高くて買えねーよ」
「いや、勇者辞めたら、ガイアなら余裕だよ…毎日ワイバーンかオーガを狩っていれば2か月位で買えそうだよ」
「マジか…実は、あの子がどうしても欲しいんだ…」
どれだ…やっぱりそうか、ハイエルフだ。
「奴隷商の主人に聞いてみたらどうかな?」
「あの、この子…」
「凄いでしょう? ハイエルフなんて30年いや50年に一度出るかどうかの品でして、まるで生きている美術品見たいでしょう」
「まぁな…それで幾らなんだ」
「金貨2万枚です」
え~と嘘、20億円じゃ無いか。
ワイバーン1羽500万だとして400羽、1日1羽計算だとざっと1年ちょっとで払える。
だけど、これは利子も入って無いし、365日1日の休みも無く働いた計算だ。
前世と違って利子は膨大だし、幾ら勇者とはいえ休みは必要だろう。
そう考えたら、上手く行って倍の2年下手したら4倍の4年は掛かるかも知れない。
だが、前世で考えて見たら20億円を手にする可能性があるだけでも…うんとんでもない話だ。
「聖夜、金貸してくれないか?」
マジか…マジで言っているのか?
「いや、流石に持ってない…」
「そうか…分割とかできないかな…」
なんで奴隷商の方を見ているんだ…まさか本当に買うのか?
それは身の破滅だよ…いやよそう…もしイクミが同じような金額で売られていたらきっと僕だって同じ事を考える。
『止めろ』そう言う資格は僕には無い。
「本来はこんな高額な貸し付けはしないのですが…相手が勇者様ですから『血証紋』つきで仕事以外でこの街から出ないという条件であれば分割で構いませんよ」
血証紋、約束を違えたら血を噴き出して死ぬという商業ギルドの最高の呪術契約。
「それで良い、買わせて貰えないか」
「解りました、お譲り致します」
てっきり僕は金貨100枚~500枚位のエルフとかダークエルフ位かと思ったのに…ガイアが此処まで思い切った事をするとは流石に思わなかった。
※金額を考えたら…かなり矛盾が出ていたので3回ほど訂正しました。
楽しい日常
「おはようございますですわ、聖夜様」
「おはよう、シシリア」
「はい」
「そう言えば、2人は」
「まだ寝ていますわ」
相変わらず二人はまだ寝ている。
朝はかなり弱いみたいだ。
「それじゃ紅茶でも入れるか? シシリアも飲むよな?」
「ええっ頂きますわ」
しかし、見れば見る程綺麗な貴族令嬢にしか見えないな。
髪を綺麗に洗い上げただけで、上流階級の人間にしか見えない。
そんな彼女と二人が起きるまで過ごすお茶の時間は凄く楽しい。
まるで自分が貴族にでもなったみたいだ。
「紅茶と昨日焼いたクッキーで良いかな」
「はい、ですわ」
紅茶を飲む姿もやはり絵になる。
まるで、少女漫画のワンシーンを見ているみたいだ。
「どうかされましたの? そんなじーっと見つめられまして」
「いや、流石貴族、令嬢絵になるな、そう思って」
「そんな嫌ですわ、元貴族と言っても田舎の弱小貴族ですわ、実質裕福な平民となんだ変わりませんわ…それに私は部屋から出たことが余りありませんから、何も知らないと同じですわ」
確かに、シシリアは知らない事が多い。
だが、本を沢山読んでいたせいか、詳しい事も多い。
イクミやマトイに色々教えてくれていて助かる。
「あの…聖夜様、私本当に何もしないで宜しいんですの?」
「イクミやマトイちゃんも同じだけど…ただ一緒に暮らしてくれるだけで凄く毎日が楽しいんだ」
「それなら良いんですが…今迄と違って私は毎日が凄く楽しいのですわ、殿方が凄く怖かったのですが…不思議と聖夜様にはそういう気が起きませんわ。それに奴隷なのに前の生活以上に贅沢させて貰えて、本当に夢のようですわ」
結構、奴隷商の話では酷い環境だと聞いていたから…うん良かった。
「そう言ってくれると助かるよ。それじゃ僕はこれから朝食の準備に入るから」
「あの…手伝わなくて宜しいのですか?」
「大丈夫だから気にしないで…読書でもしててよ」
「はい、有難うございますですわ」
やはり、僕もかなり現金なのかも知れない。
幼馴染の時と違って、お世話するのが凄く楽しい。
多分、料理の腕もかなり上がった気がするし…どんな調味料が美味しいとか工夫もしている。
こんな事は前はしていなかったな。
今日の料理は、鶏肉のソテーに目玉焼きに野菜のスープに白パンだ。
案外、この白パンがこの世界では高かったりする。
まぁワイバーンが狩れる時点で経済は余り気にしなくて良い。
普通の冒険者が狩れない物が狩れる、その時点でお金は幾らでも稼げる。
ガイアが普通では余程の金持ちじゃなくては買えないハイエルフが分割とはいえ狩れるように。
「さぁ、出来た、シシリア、2人を起こしてきてくれ」
「畏まりましたわ」
寝ぼけ眼で二人が起きてきた。
「おはようございます…ご主人様」
「おはよう、お兄ちゃん」
三人と食べる朝ごはん、今日も楽しい一日の始まりだ。
◆◆◆
買われた身分で言う事ではないと思いますが…
私は本当に奴隷なのでしょうか…
可笑しいのですわ。
幾ら世間知らずでも奴隷がどんな者か知っていますわ。
人間としての最底辺。
ボロを着て、これ以上ない位惨めな存在の筈ですわ。
それが…本当に可笑しいのですわ…
買ってくれたご主人様は…凄く綺麗な方で聖夜様です。
少し地味ですが、整ったマスクにすらっとした体形。
誰もが憧れる容姿を持っていますわ。
奴隷なんて買わなくても、絶対に女なんかに不自由しませんわ。
まるで、物語の王子様や騎士にしか見えませんわ。
街で噂を聞いたら…本物でしたわ。
『貴公子 聖夜』
元勇者パーティに所属し…今ではS級冒険者。
そしてその稼いだお金の一部を貧しい者を救う為に使っているそうですわ。
そんな方に…買われただけで、私は凄く幸せなのですが…
どう考えても『恋人』のように扱われている様な気がして仕方ありませんわ。
綺麗な殿方に蕩ける位優しくされてときめかない訳がありませんわ。
本当に現金な者ですわね…ガマガエルや私を馬鹿にするような目で見る男のせいで男性不審になりましたが…聖夜様相手だと全然気になりませんわ…それ所か望むなら何でもしてあげたくなりますわね、それが夜伽であってもですわ。
いや、寧ろ…これは言えませんわね。
「常識を教えてあげて欲しい」
「常識を教えるのですわね」
「そうなんだ、男として嬉しいんだけど、朝起きると、ベッドに裸で寝て居たりと色々あるから教えてあげて欲しい。頼むよ」
「解りましたわ」
えーと…今の何処が可笑しいのでしょうか? 解りませんわ。
私達は奴隷ですし、望まれれば伽をするのも当たり前の事ですわ。
ましてここ迄、好かれているのでしたら、お礼として自分から求めるのもありだと思うのですわ。
ましては相手は、あの綺麗な聖夜様です…嫌々でなく喜んですると思うのですわ。
もしかして、朝が問題なのですわね。
夜伽という位ですから、時間が問題なのですわね。
夜にすれば良いのでしょうか? 多分そうですわね。
間違ってない…そう思いますわ。
過去の女より今の親友
これでガイアはもう大丈夫だな。
ガイアを連れていった奴隷商はシシリアの居た奴隷商。
つまり…隣町だ。
偶然だけどハイエルフの分割購入条件が『仕事以外でこの街を出ない』。
だから、此方迄来る事は最低1年は無いだろうし…まぁ実際に毎日狩りに出るのは無理だし、金利もあるだろうから顔をあわす機会は相当少ない。
隣だから全くという事は無いだろうが…かなり機会は減るだろう。
まぁ、それ以前に『もう勇者としての活動』はしないから誘われる事も無い。
奴隷を買う為にローンを組む事はどうかと思うが、これで魔王と戦う事が無くなったのだから一応はガイアの安全は確保できたことになる。
これでガイアのお父さんとお母さんへの義理は果たした事になるか。
多分、これでパーティも完璧に解散。
もう、余り関わる事はないよな…
◆◆◆
「同じ冒険者仲間としてこれからも宜しくな!」
「ヒーラーに成ろうと思ったけど二人に誘われてね、冒険者になる事にしたのよ」
「二人が心配だから…」
え~とランゼ達はなんで此処にいるのかな?
態々、僕と同じギルドに居る必要は無いよな。
「そう、何だ、宜しくね!」
「そうね、宜しく頼む…それでね、良かったらうちのパーティに来ないか?」
「いや、僕はソロの方が良いから今のままで良い」
「まぁ、急に言われても困るだろうから、ゆっくり考えてくれ」
「解かった」
そうだ、ガイアについて教えてやれば良いか。
隣町で冒険者をして事を伝えれば、あっちに行くかな。
「そう言えば、ガイアが今隣町で冒険者活動しているから誘ってあげたらどうかな」
これで良い…魔王を倒さないなら僕は要らない。
元々は好きあっていたんだから…向こうに行ってくれる…筈だ。
「ガイアは必要ないな」
「そうね、要らないわ」
「私達に必要なのは家事や雑用も上手く出来る仲間だもん」
なんだ、それなら別に僕である必要は無い。
幾らでもいるじゃ無いか。
「それなら、幾らでも居るから安心だね。聖女がいるんだから幾らでも募集掛ければ集まるよ」
「私は聖夜がつくる、魚料理が食べたいんだが」
「私は野草のスープが飲みたいのよ」
「うん、お肉料理も食べたいかな」
そんなに気に入ってくれたんだな。
「そう、それなら、今度レシピをあげるから作ってみると良いよ」
そう言い、直ぐにその場を後にした。
「いや、そうでは無くてな」
「ごめん、これから用があるから…」
「少しで良いから、さぁ話を聞いて」
「ごめん、これから約束しているから、また今度」
「「「そんな」」」
◆◆◆
「それでオークマンは10人目の妻は見つかりそうなのか?」
「それがなかなかな…幾ら俺が絶倫でも10人が限界だから、なかなか決められないんだ…がはははははっ」
「そうか、金とかなら貸そうか?」
「聖夜…一般の奴は奴隷といえば、エルフだダークエルフだ騒ぎ出すが俺は『人族』限定なんだぜ」
そう言えば、オークマンの奴隷にはエルフをはじめ亜人は居ない。
「確かにそうだが…何でだ」
「あのよ~エルフとかは1000年近く若いままで生きるんだぜ、これは俺のエゴだが、一生を面倒見れない相手を迎え入れる事はしない」
そう言えば外見が親父みたいだからつい忘れるがオークマンは15歳だから、殆どが姉さん女房という事だ。
しかもギルドには少しずつだが金も溜めている。
産んだ子供もちゃんと育てているし…15歳とは本当に思えないな。
「確かにそうだったな」
「ああっ、まぁ最後の1人だゆっくり探すさぁ」
「まぁ僕も暇だから付き合うよ」
「ほう、聖夜も、もしかしたら4人目が欲しくなったのか…」
「考えてはいないけどな、もし迎えるなら、そうだな、テルミさんみたいなタイプかな」
「テルミは俺の妻だ、幾ら聖夜でもやらないぞ」
うん、解っている、オークマンは奴隷、いや妻を大切にする男だ。
大切な幼馴染すら差し出そうとするガイアとは違う。
「そんなの解っているさ。僕は親が居なかった、だから母性溢れる人が居たらそう思っただけだ..だが別に必要という訳じゃないから、オークマンに付き合うついでに見るだけだな」
「そうか、安心したぜ。だがよう、本当にお前は俺に似ているな、テルミは27歳まぁ女の奴隷じゃ性処理にも使えないから安値だ。だが料理は美味いし気が凄くつく。俺の9人の妻のリーダーみたいな存在でテルミに甘える妻も多い」
「まぁ、理想の母親、そんな感じだな」
「そうだ、良く解っているな」
此の世界は男尊女卑に市民は近い。
そんな中で此処まで女を大切にしている男は少ない。
オークマンは本当に良い奴だ…だが。
「それじゃ、今日は東の奴隷市場に行くから付き合ってくれ」
「ああ、解った」
遊びに行く先が『奴隷』関係しかないのが…ちょっとな。
まぁ10人目が見つかったら…そこからは普通の趣味を一緒に探すか。
エロ漫画(劇画)のヒロイン
今日ギルドを通してガイアから手紙が来た。
仕方なく出向く事にした、ランゼ達三人も一緒らしい。
何を頼まれるかおおよその予想はつく。
恐らくはワイバーンを狩らないで欲しいという話か、パーティを組みたいと言う様な話だろう。
ガイアや他の仲間が単独で狩れる相手はワイバーンが限界。
火竜>>水竜>>>地竜>>>>>>>>>ワイバーン
こんな感じにワイバーンから上は一挙に難しい相手になる。
地竜ですら、恐らくガイア一人では狩れない可能性が高い。
但し、パーティなら別だ。
例えば、ガイアが攻撃と防御を担ってミルダが攻撃魔法を仕掛ける。
ランゼと一緒に戦って手数を増やす。
マリーに回復魔法を使って貰い、持久戦に持ち込む。
これなら、火竜は難しいが水竜までなら手が届く。
お金が欲しいガイアならせめて一人は仲間が欲しい…筈だ。
◆◆◆
「あのよ、済まないが暫くワイバーンを狩らないでくれるか?」
まずはそっちか?
幾らワイバーンが沢山居ても、僕も相当乱獲していたし、ランゼ達もそれなりに狩っていたから、かなり減少しているのだろうな。
まぁ、それ以前に幾ら、ワイバーンが知能は低いと言えど…毎日仲間が殺されていれば、その場所から居なくなるだろう。
「ハァ~何でガイアに言われなくちゃならないんだ」
「狩は自由な筈よね」
「そうだよ、元勇者でもそんな権限は無いよね」
「確かにそうだが、お金に困っているんだ…頼むよこの通り」
しかし、ガイアも窶れているな…
気のせいか10才以上この数日で老けた気がするな…
まぁ良いか…そろそろ家が買えるお金も溜まったし…後は生活と貯金。
そう考えたら月に少し稼げれば良い。
まぁ…すでに地竜すら狩れる力もあるかもしれないしな…
「僕の方はそうだな、月に2羽位でい良いや、それ以上は特別な場合以外狩らないようにするよ」
「ああっ、済まないな、ありがとな」
「僕の用事はこれですんだのか?それじゃこれで失礼するよ」
「いや..ちょっと待ってくれ、もう魔王を倒すなんて言わない…もう一度一緒にパーティを組まないか?」
「そうだな…それは良いな」
「うん、良いね」
「確かに、今の私達ならそれも良いよね」
まぁ、確かにそれも良いかも知れないな。
但し…僕抜きでね。
「良いんじゃ無いかな、ただ僕はもう一緒にパーティを組む気にはならないから4人で組むと良いよ」
「そんな、お前も加わってくれよ…この通りだ」
「そうだよ、頼む」
「私達には貴方が必要なの」
「お願い」
こいつ等、僕が何で必要なのか忘れているのか?
日帰りクエスト中心のパーティに僕は要らない。
旅だからこそ必要なだけだ。
多分、それに気がついたらポイされておしまいだ。
「あのさぁ、日帰りクエスト中心なら、僕は居ても居なくても同じじゃないか」
「確かにそうだな」
「今迄は旅ばかりで楽しい事は何も出来なかったんだ、旅が終わった今、自分がやりたい事をした方が良いよ…もう僕らを縛るものは何も無いんだから」
「確かにそうだ…聖夜引き留めて悪かったな」
「ああっ、お前も頑張れよ」
「聖夜はパーティに加わらないのか…ならこの話は無しだな」
「そうね、私も同じ」
「そうだよね、女同士の方が気楽でいいかな」
「そうか…なら仕方が無いな…皆も来てくれてありがとう」
「「「まぁ幼馴染だからね」」」
ガイア…お前…ランゼ達を説得しないで大丈夫か。
ワイバーンが狩れなくなったら…支払いがとん挫するぞ。
◆◆◆
「今日は西の市場か…」
「まぁな…此処の市場は少し規模が大きいから見どころがあるからな…しかし、何時も済まないな」
「別に構わないよ、男の友人はオークマン位しか居ないし、僕の留守の間は嫁を寄こして貰っているから、僕も安心して外に出られるからな」
「そう言ってくれると助かる…まぁ俺と付き合ってくれる物好きは聖夜しか、いねーからな」
イクミ達と親友と酒、これだけあればもう後は全ておまけだ。
今の僕にはこれだけで良い。
後は家があれば尚更良い。
「そうか、これはこれで楽しいが、今度そうだ一緒にバーベキューパーティでもするか」
「良いな、それやろうぜ」
雑談をしながら目的の市場についた。
「それじゃ、聖夜はまた廃棄奴隷の方を見て回るのか?」
「年上の女性はこっちの方に居る可能性が高いだろう?」
「まぁな…しかしよく見て回るよな、それじゃ俺は人族限定の競を見てくる」
オークマンは凄いな、こと奴隷に関してはプロだ。
奴隷商ばかりしか入れないこんな場所に顔パスではいれるんだからな…
普通の人間も入れなくはないが金が掛かるのにオークマンは顔パスだ。
「ああっそれじゃ行ってくる」
オークマンは人族専門のオークションに参加する。
僕はオークションに出されない、廃棄奴隷を見て回っている。
イクミやマトイの様な、本物の美少女は多分、此処にしか居ない、そう思うからだ。
「怪物王子、どうぞ見て回って下さい」
何故か奴隷商の間で僕は怪物王子と呼ばれるようになってしまった。
オークマンの親友とイクミ達の容姿が絡んでいるそうだが、オークマンは兎も角、イクミ達は可笑しな気がする。
お陰で廃棄奴隷を自由にみられるからいいんだけさぁ…
あれから、幾ら見て回ってもイクミ達の様な綺麗な女性には出会えていない。
まぁ、滅多に居ないという事だから、オークマンに付き合いながら、ただ見ているだけだ。
見ているというが、そんな真剣には見ていない。
あくまで『廃棄奴隷』まず女は居ないから適当に回っているだけだ。
「旦那も奇特ですね、廃棄奴隷の女性なんてまずいませんし…居たとしても問題がある女ばかりですぜ」
今迄見た感じでは老人か、病に犯された者しか見ていない。
「聖夜様…あっちの業者が豚みたいな女の引き取り手を探していましたよ…ただし年を食っていて、更に言うなら中古みたいですが…」
豚みたい…そう言えばマトイもそう言われていたよな…
あたりかも…な。
「旦那、こっちですぜ」
確かにシートが掛かっている。
三人の時と一緒だ…
「あの、見せて貰っても?」
「ああ、構わないよ、噂は聞いているよ、本当にあんたなら気持ち悪い奴でも買い取ってくれるのかい」
「取り敢えず見せて貰えるかな」
「どうぞ、どうぞ…ただ本当に気持ち悪いから吐き出すなよ」
シートを外してみた瞬間。
うわぁ、エロっ。
胸が可笑しな程大きく、お尻も物凄く大きい。
そんな状態なのにお腹はへこんではいる。
デブではなく本当の意味のぽっちゃり。
正にエロ漫画の人、その物だ。
胸の巨乳はあり得ない程大きく前世の巨乳アイドルより更に数周りも大きい。
エロ漫画、劇画の綺麗な未亡人や後家さん…オバサンだ。
「あの..これ」
「やっぱり旦那でも無理ですよね…前の持ち主が死んで、自分から奴隷になりたいと村で騒いでいたんですよ。うちの馬鹿が、無料だからってそのまま連れて来たんですよ、こんな下品でキモイの誰も買わんでしょう」
「あの、少し話をさせて頂いても」
「ああ、構いませんよ」
「あの…家事とか出来ますか?」
「買ってくれるのですか。一応、使用人経験はありますから出来ますよ…ただこの体型ですから手際は良くは出来ませんが、一通りは出来ます…まぁオバサンですけど、夜もちゃんと出来ますよ…気持ち悪くないなら使って下さいな…」
しかし、胸がでかい…お尻もでかい。
凄いなぁ~ しかも顔も凄い美人だ。
美熟女ってこんな感じか…
「それで幾らですか?」
「奴隷は無料で結構です。市場が近いので貰うと銀貨3枚の最低価格を貰わないとならないですから。その代わり奴隷紋の書き換え代金として銀貨3枚頂きます」
「お願い致します」
思わず衝動買いしてしまったが…
今迄と違ってけた違いに…凄く気恥ずかしい。
どう考えても彼女は…エロ漫画のヒロインだ。
アヤノ
オークマンはまだ競りに参加中だ。
恐らくはあと2時間近くは戻って来ないだろう。
前回と同じ様に市場の外のテントを貸して貰った。
奴隷紋を刻むのでなく、書き換えなので手続きは凄く簡単だった。
どう言う仕組みか解らないが、書き換えは主人が無くなっているか、主人の立ち合いが無いと出来ない。
この辺りはこの世界では奴隷=財産という事も有り徹底している。
「聖夜と申します、宜しくお願い致します」
しかし、見れば見る程、凄いな。
此の世界にカップという考えはないから大きさを例えられないが、前世の記憶にあるGカップより大きいな…ホルスタインという言葉が頭に出る位に…それでお尻も大きいのにお腹はへっこんでいる。
「あの..こんなお若い方に買って貰えるなんて思っても居ませんでしたわ、あのアヤノって申します…自分から言って置いてなんですが、その本当に…宜しかったのでしょうか? 多分、私お母さんの年齢に近いかもしれませんよ」
年齢的には30歳位なのかな。
良く販売されている、エロ漫画の熟女物のヒロインに見える。
黒髪のウェーブに整った顔立ち、切れ長の目で小顔。
それなのに..体はぽっちゃり。
自然の摂理を越えた体型、ボンキュッボンって言うが、その中のボンが桁違いに大きい。
「いくつかは敢えて聴かないけど、年齢は気にしないから大丈夫だよ。今回は年上の女性を探していたから」
「そう、それなら良かったです。私はその…容姿も凄く悪く、化け物みたいですが、本当に宜しいのでしょうか…」
いや、凄い美人というか色っぽいというか…エルフと対極の美女だ。
豊満と妖絶…ピンクのネグリジェとかベビードールを着せたら凄く似合いそうだ。
黒とか紫のスケスケの穴あき下着も似合いそうだし…清楚な恰好してもエロくしか見えない。
「うん、構わないよ、というか僕には美女にしか見えない」
「美女ですか…そんな事はお爺ちゃんでも言ってくれなかったですよ」
「お爺ちゃん?」
「はい、私の前のご主人様です」
「あの、前のご主人様って…年寄りだったんだ」
「あはははっそうですね、もう65過ぎのお爺ちゃんでしたが凄く絶倫でしたね」
当人は笑っているが..なんだか目が悲しそうだ。
これは聞いても良いのだろうか?
「あの聞いても良いかな?」
「別に構いませんよ…結構長くなりますが良いですか?」
「それじゃ、お願いするよ」
「はい」
アヤノはポツリポツリと話し始めた。
◆◆◆アヤノの話◆◆◆
私は前のご主人様に引き取られる前までは、農村で暮らしていました。
ですが、26歳の時に此処とは違う奴隷商に売られてしまったんですよ。売られた理由は簡単で、この顔と子供が出来なかったからですね。
その時はまだ、ここ迄体は酷く無かったです、少し胸が大きなという位ですね…顔は今と同じで不細工でしたけど。
農家にとって子供が作れない嫁は価値が無いそうです。確かに、跡取りがいないと本当に困ってしまう、それは解らなくもないのですが..ですが、多分、原因は私ではなく旦那の方かも知れません。
前のご主人様との間には子供が出来ましたから…すぐに堕胎させられましたけど。
20歳位迄に子供が出来ないからとまるで、馬のようにこき使われ、それでも頑張って尽くしてきた結果が奴隷される。
本当に酷い男でしたよ。
しかも、私はただの農民でスキルも「裁縫」しかないから奴隷として価値がありません。
売る位ならこき使った方が得です。
きっと醜い私に嫌気がさしたのかも知れませんね。
まぁ、泣いている私の横で、クズの旦那と義母は「少しでも高く買って貰えませんか?」と交渉していましたよ。
「人間の26歳じゃ女としてもう価値がないからな..だが性処理可能でNG無しなら銅貨3枚おまけしてやるよ」
「待って下さい! 性処理までは我慢します、だけどNGなしだけは許して下さい」
NGなしなんて本当に怖くて、怖くて仕方ありませんでした。
「煩いわね..最後位少しは役に立ちなさい」
「お前は只でさえ価値がないんだ口出しするな..」
結局、私は26歳という高齢なのに「性処理可能 NG無し」の奴隷として売られてしまいました。
しかも私を売った金額は銀貨1枚+銅貨3枚..本当のはした金です。
売られた後に解ったのですが..私には売られるのを拒む権利があったようです。
それは後で知ったんです。
『夫婦でも納得いかなければ売られる事を拒めるし、それを理由に離婚しても問題が無かった』
あははは..馬鹿ですね、村娘だったから、そんな事も知らなかったんですよ。
それからは、奴隷としての辛い日々が始まりました。
貰えるのは一日 パン1個と水。
だけど、これが前と全然変わらないのは思わず笑えてしまいましたね。
ただ、本当に辛いのは「性処理可能 NG無し」のプレートを首から下げている事です。
普通私位の年齢なら、「家事奴隷」として売られているのに…これのせいで若い子に混じって居なければなりません。
しかも…この顔ですから絶対に購入者は現れないでしょう。
他の奴隷からも蔑まれる毎日でした。
「どうせ、おばさんは不細工だから、売れないから端にいなよ..私を売り込む邪魔になるでしょう?」
「その齢で 性処理奴隷? 売れる訳ないじゃない..しかもNG無しなんて凄い変態で淫乱なんだー」
「ちがっ」
「NG無しなんだから、違う訳ないじゃない? 変態BBA」
そうですよね、確かにこの歳で性処理奴隷でNGなし..変態以外考えられないし..そういう人生送ってきた。
そう見られて当たり前ですよね。
だから、私は奴隷の中でも最底辺なんです..奴隷商人だって、高く売れる若い子には少しは優しいですが..
安くて、なかなか売れない私に優しくなんてする訳もありません。
私は多分売れない…一生此処で馬鹿にされながら生きていくんだ..
そう思いました。
だって、若い子は次々売れていくのに、私は顔合わせすらほとんどなく..
偶にあっても
「これじゃな..」
「幾ら性処理可能でも..これは無いわ」
「無料でも要らない」
そんな事しか言いません。
まぁ誰だってオバサンで不細工な奴隷を買う訳はありませんよね…
恐らくは客寄せ..性処理奴隷が銀貨3枚で買える..その看板の為に居るような物です。
大体のお客にさらっと私を見せて、他の子に連れて行くんだからまず間違いないと思います。
「奴隷以下の見世物なんだ私..うふふふっ不細工なうえに..おばさんじゃ..誰も買わないよね」
そんなある日の事、お爺さん、前のご主人様が店に入ってきました。
みすぼらしいお爺さんだし、見栄えも良くないから、女の子も静かで商人も余り乗り気じゃ無いように見えました。
「お客様、今日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」
その奴隷商の言葉にまえのご主人様はしっかりと言っていました。
「そうじゃな、性処理奴隷で..」
私以外の奴隷が目を伏せていました..お爺ちゃんの性処理はしたくない…そう言う事だと思います。
「歳がたっている方が良い..なかなか性処理奴隷で年配はいないと思うけど、そういうのが居るかな?」
チャンスです、こんなチャンス二度とはないでしょう。
だから、ルール違反なのは解っていましたが猛アピールしました。
「買って下さい、私で良ければ..誠心誠意尽くさせて貰います」
その結果…前のご主人様に買って貰えたんです。
体は本当に老人とは思えない位鍛えられた体をしていましたね。
奴隷としてはお肉も食べられてお風呂にも入れて、まずまず幸せでした。
ですが、他の奴隷に無くてあの店で私にあった物。
それは、「性処理奴隷 NGなし」なのです、その為、何でも応えなければいけません。
これは、どんな事でも出来るという事です。
多分、ご主人様は凄スケベなのかも知れません。
折角買ってくれたんだから…出来る限りの事はしてあげたい。
ですが…『私、何をして良いか解りません』でした。
行為自体はこの時でも解ります。
ですがもう何年もしてない状態でした。
経験のあるのは凄く淡泊な15分で終わってしまう様な物です..多分「NGなし」だから買ったのだとしたらがっかりさせてしまうそう思いました。
ですが…そんなのは気にする必要はありませんでした。
前のご主人様は、本当に獣でしたから。
夕方位から朝までひたすらやりっぱなし…それが私の毎日でした。
凄く性欲のある方で、それ以外の仕事は本当に簡単な家事しか私はしていません。
聞いた話だと、前に付き合っていた女性が2人いて、前のご主人様以上に絶倫だったそうです。
妻と愛人だったのだそうですが…訳ありの女性で、性的な事を毎日し続けなくてはならなかったそうです。
その理由は最後まで教えて貰えませんでした。
まぁ、そのせいで前のご主人様は歳をとっても絶倫のままで…その結果、私を買ってくれたのだそうです。
◆◆◆
「それじゃ、アヤノさんは前の主人を愛していたんですか」
「それはありませんね…体の関係だけでしたから、少なくとも結婚していた旦那みたいにクズじゃなかったですが…それだけですよ…貪る様な行為の後は淡泊になり、普通の使用人扱いですから…ベッドの中では好きとは言ってくれましたが、日常生活で失敗したら普通の怒られましたし…しいて言えばメイドとして、使用人として扱ってくれていた、そんな感じですね。それでも村に居た時と違って、暖かいスープやパンを貰ってましたから、奴隷としては幸せなのかも知れません」
「少しも無いの?」
「はい…子供も出来ましたがすぐに堕胎させられましたし…何より死んだ後に私には遺産を私には何一つ、残しませんでした…あくまで『性処理奴隷』と主人。それだけの関係ですよ。実際に体は信じられない位重ねましたが、外に一緒に出たこともないし、ベッド以外ではキスも手を繋ぐのも嫌がりましたから…あははっ誤解してキスをしてビンタされた事もありましたよ」
「何か、ごめん」
「良いんですよ..私顔だけじゃなく、今じゃ体も汚いでしょう? 沢山したせいか、胸も大きくなって垂れてきているし、お腹も少し弛んでいる気がします。お尻だって大きいし、太腿だって..こんな豚みたいです」
幾ら言われてもグラマラスな美女にしか見えないし…
だけど…どう接してあげたらよいか…考えないといけないな。
「少なくとも僕はアヤノさんと奴隷ではなく、家族の様になれたらと思っています」
「家族ですか…家族ってなんなのでしょうか?」
そこから始めないとならないんだな。
これから作れば良い
オークマンが競りから帰ってきた。
「どうだった? 10人目は見つかったのかな?」
「今日も駄目だな、悩んだ末見送る事にしたよ、それで聖夜の方は…ああっ買ったのか?」
「まぁな、オークマンにやられた感じかな…結局は迎え入れてしまった。僕はこれで打ち止めにするよ、分不相応な程綺麗な女性に囲まれた状態になったしな。これで4人これからは少し地に足をつけた生活をしようと思う…あっ、オークマンの10人目までは付き合うからそれは安心して」
「ああっ、そうだな、だけど全く女の好みが合わない友人って言う者は良いもんだな、喧嘩にならねーから」
「本当にそう思うな、僕はそれが元で幼馴染を失ったからね」
「そうだな…(しかし、聖夜の美的感覚は、可笑しすぎるな…今日のは最早人間に見えない顔は兎も角体は、人の好みはそれぞれだ、完璧に見える聖夜の欠点、それはこの異常な美的感覚かもしれねーな)それで、幼馴染や勇者はどうすんだ…」
「もう恋愛感情は無いな、ガイアにしても友情と聞かれたら困る位色々と破綻した状態だ…だけどまたいつか、友達と呼べるようになれたら、その位は思っているさ」
「そうか…まぁそうだよな」
「今の方が楽しいからな、ちょっと変わった親友ができた。そして何時も自分を見てくれる女がいる…これで充分だ」
今の俺が毎日楽しいのはオークマンのお陰でもあるんだ。
「なぁオークマン、今迄仕事の事は余り話した事は無かったが、オークマンは何時も何を狩っているんだ?」
「うわっははははっ、なにを言っているんだ! 俺のあだ名はオークマンなんだぜ、容姿の事もあるが『オーク狩り』の達人だから、オークマンなんだぜ」
「成程、そうか」
「まぁ、流れてきた聖夜は知らなくても仕方無いか」
「そうだったのか…実はガイアの事情で暫くはワイバーンを狩れなくなったんだ。良かったら暫く一緒に狩りしないか? まぁ良かったらだが」
「おい、S級の聖夜が俺と狩をしてくれるのか?あり得ない話だが本当に良いのか」
「ああ、全然かまわない、そうだなオークマンがオーガマンに成れる位にはどうにかしてあげれるかもな」
「そうか、正直凄く有難い、もし俺がオーガが狩れる様になれば、更に嫁が5人増やせるかも知れないからながははははははっ」
「あのさぁ、オークマンは嫁とはプラトニックじゃないよな」
「当たり前じゃ無いか? 夜の方もビンビンだぜ!」
「大丈夫なのか? 体は? そんなに出来るものなのか?」
「俺は特別なんだ、性欲の塊みたいな奴なんだ。恥ずかしいから言えないが、まぁそういうジョブ持ちなんだよ。だからな、まぁ恥ずかしい話、夜は必然的に凄い物になるんだ。1日3人掛かりじゃ無ければ俺の相手は勤まらない…だからこそ、その相手をしてくれる嫁を大事にするんだ」
「そういう事だったのか」
「まぁな…それじゃあな、また明日な」
「また明日」
しかしアヤノは本当に凄いな。
さっきから三歩下がって歩いている。
本当に良妻賢母みたいだ。
「それじゃ、アヤノ買い物に行こうか?」
「買い物ですか?」
「そう、寝具に下着…洋服に日常用品が必要だろう」
「そうですね…ですが宜しいのですか? 私みたいな者にそんなにお金を掛けて、安物奴隷ですよ? 私…」
確かに、奴隷はそんな事をしなくても従順だ。
だが…それは僕が欲しい者とは違う。
それで手に入るものは『愛』とかじゃない…ただの従順なだけの感情の無い人形みたいな物だ。
僕が欲しいのはそれじゃない。
オークマンの嫁の様に、笑顔が素敵で家族の様な存在。
それが…僕の理想だ。
「アヤノさんは確かに奴隷だけど、僕が買ったのは家族、そして恋人、妻そういった存在だ」
「はい?」
今は解らなくても良い。
これから、一緒に色々な事を覚えて作って行けば良いんだ。
ガールズトーク
「この人が新しく仲間になった、アヤノさんだ皆宜しくね」
「新しい仲間が増えましたのね」
「えーとアヤノお姉ちゃんと呼んだ方が良いかな?」
「アヤノさん…覚えた」
オークマンから言われた事がある。
新しく奴隷を迎え入れた日は、暫く奴隷同志で話をさせた方が良いらしい。
◆◆◆
「お嬢様方、これからお世話になります、アヤノと申します、宜しくお願い致します」
「アヤノお姉ちゃん、間違っているよ」
「うん、間違っている」
「間違っていますわ…私達三人とも奴隷ですのよ?」
「はい?」
どう見ても奴隷には見えませんし…てっきりお嬢様か奥様だと思ったのですが…
違うようですね。
だけど、どう見ても奴隷には見えませんよね。
「ですが、皆さん、凄く綺麗な服着ていますし奴隷には見えませんが…」
「そうね、明かに奴隷とは違う扱いをされていましわ…貴族だった頃より今の方が良い生活なんですの」
「本当にお兄ちゃんには困るの」
「本当に困る」
これはどう言う事なのでしょうか?
お気に入りの性処理奴隷には優しくなる。
そういう話は聞いた事がありますよ。
だけど、それは道具としての筈です。
エルフ等の高級奴隷には優しく恋人みたいに扱う場合もあるとお聞きしましたが….
此処の皆さんは私と同じ醜女です。
「何を困っているのですか?」
「ご主人様には本当に困っていますの…何から何までして下さって、凄く幸せな毎日を過ごしていますのに、何も返させてくれませんのよ」
「私だってお兄ちゃんに何かしてあげたいのに、何もさせてくれないんだよ」
「ほんとにそう困る」
「はい?」
えーと奴隷ですよね…
何でしょうか?
確かに優しそうですが…これは異常です。
本当に家族が欲しいという事なのでしょうか?
困りましたね…私は家族の愛情は知りませんから..
そうだ…性処理、性処理かも。
「あの、性処理で皆さん頑張っていらっしゃるから、そのお礼で」
「ハァ~違いますわ。私が来る前にそちらの二人が試したのですわ、ニコリと笑って『そういう事は本当に好きな人にしかしちゃいけない』そう言われたらしいのですわ。 私も凄く大切にしてくれましたからお相手をしようとしましたら『心の傷につけ込む事はしたく無い』と爽やかに笑われまして…本当に困りましたのよ」
「はい?」
何だか幸せそうですね~ 心がほっこりしますが…
「お兄ちゃんって凄い美少年だよね…お兄ちゃんにされるなら寧ろご褒美なのに…」
「困る事に、何故かそうならない..それにこれ」
お財布に金貨が3枚入っていますが、それが何でしょう?
「一か月のお小遣いですわ…しかも無くなったらご主人様がまた足してくれますの…貴族の時より待遇が良すぎますのよ」
「あの、それじゃ皆さんは何をしてらっしゃるのでしょうか?」
「何もしないで遊んでいるだけですわ…まぁ私は少し二人に一般常識と勉強をさせていますがそれだけですわね」
「そうなんですか…凄いですね」
「貴方も、買って貰った服とか見て見れば解りますわ」
「見てみます」
買って貰えた嬉しさでぼーっとしていましたが。
全て高級なものですね、下着なんかシルクです。
ただ、随分派手なのはまぁ殿方ですから当たり前ですね。
オバサンなのにスカートが短いのは何ですが…全部高級品です。
これ…奴隷の物じゃありませんね。
「それで皆さんはどの様にご主人様に接しているのでしょう?」
「「「それは…えへへ」」」
三人の顔が赤くなりましたが…
ただ、甘えているだけなんだそうです。
ですが…私は彼女達と違いオバサンです。
同じでは無いでしょう。
取り敢えず家事と性処理辺りを頑張ってみますかね…
他にとりえも無いですし…
勇者SIDE:確かに綺麗だし、凄い美人だ。
今日はランチをオークマンと過ごしている。
オークマンは面倒見が良い、何時も困ると相談に乗ってくれる。
多分、こう言うの関係が本当の友達なのかも知れない。
貸して返してのキャッチボールだ。
今迄みたいに投げたら帰って来ない関係とは違う。
「流石に今日は俺のおごりだ」
「いや別に割り勘で良いよ」
「いや、今日は俺が聖夜に教わってオーガ狩を狩ったんだ、これ位はさせて欲しい」
「それじゃご馳走になるよ」
「好きなだけ食ってくれよ」
今日の予定では、この後はお互い別れて家族サービスだ。
オークマンは『部屋にこもる』そうだ。
まぁ、しかたないな。
別に羨ましくなんて…ない。
「そうか、それじゃ思いっきり食うからな」
「ああ、幾らでも食え」
◆◆◆
僕が三枚のミノタウルスのステーキを平らげたあと、オークマンから聞かれた。
「そう言えば、勇者はどんな奴隷を買ったんだ」
「ハイエルフのなかなかの美人だ、まぁうちの家族程じゃ無いけど」
「あん、やっちまったな!」
何かオークマンの顔が曇った。
何か問題があるのか…
「何か問題があるのかな」
「そりゃ問題だらけだぞ、エルフに愛されるのはな『トカゲがドラゴンになるより難しい』と言われているんだぜ。一生を相手に捧げて、死ぬ間際に愛して貰えたら良い方だな」
「そこ迄大変なのか?」
「エルフにとって余程の人間でない限り、俺達から見た猿と一緒だ。猿を俺達がペット以外で愛するのは難しいだろう? それと同じだよ。それに愛して貰えても元が淡泊だから夜の営みに淡泊になるし、食い物の味付けも薄味だ。まるで聖人になった様な生活になるぜ」
ガイア…大丈夫なのか?
彼奴は人一倍女に煩いからな。
「なんだか、心配になって来たな」
「ああっ、それに売られているエルフは基本的に人間を恨んでいるからな、心を開くのは大変だぜ」
そうか…エルフは森の民だ、それが人間の住む街に居ると言う事は『攫われた可能性が高い』
「確かにそうだな」
「ああっ、更に買ったのはエルフの中でも希少なハイエルフなんだろう? 恐らくエルフの貴族階級、下手したら王族だぜ。それが奴隷になっているんだぜ…隙があれば奴隷紋で死ぬの覚悟で殺してくるかも知れねーし、場合によっては森でそのハイエルフを探している部下に襲われるかもしれねーよ」
本当にやばそうだな。
こう言う話を聞くとエルフは完全にハズレの様な気がし始めた。
まるで地雷だな。
「そう聞くとエルフは地雷の様な気がしてきた」
「地雷が何か解らねーが、まぁハズレだ。どうしてもというならダークエルフだな。まぁ多少気位は高いが、エルフに比べると仲間意識は弱いから頑張れば愛して貰える、だが人族に比べれば、それでも数倍大変だがな」
しかし、オークマンはこと奴隷には奴隷商より詳しい。
「それじゃガイアは凄く大変そうだな」
「ああっ後悔しているかも知れねーな」
◆◆◆
「いい加減、名前位教えろよ」
「何でわらわが、お前如きに名前を名乗らねばならんのだ」
「お前は俺の奴隷だ。俺に尽くす義務がある」
「ふんっ、勝手に攫ってきて奴隷にする等、蛮族の極みだ。誰がお前などに従うか…うっハァハァ」
馬鹿な奴だ。
逆らえば奴隷紋が痛みを与える。
「お前は奴隷なんだ、俺には逆らえないぞ」
「卑劣な人族め、わらわに何をする気だ」
「それは、色々だ」
「色々とは奴隷商が言っていた好色な事か」
「それも…含む」
「ハァ~こんなババアを抱きたいとは人族とは何処まで好色なの…わらわはもう2千歳近くでとっくに生理も上がっている」
2千歳? ババア? どう言う事だ?
「お前、何を言っているんだ? どう見ても若いじゃ無いか」
「人族からはそう見えるのかも知れないが…エルフではもう老人ですよ?流石に同族では抱こうと言うものは居ません…お婆ちゃんも良い所ですから」
確かに綺麗だし、凄い美人だ。
だが…老人だと言われると…どうして良いか解らなくなった。
それじゃぁなガイア
駄目だ..もう此奴がお婆ちゃんにしか見えなくなった。
確かに凄く綺麗だ。
こんな美女は他には居ない…
だが、性格や仕草を見たら。
本当に駄目だ、もう女として終わっている。
「ガイア坊やどうした難しい顔をして、難しい顔をして」
「いや、何でもない、ターニャ」
そう言いながら、此奴は茶を啜っている。
顔も容姿も綺麗だが、その仕草は…うん老人だ。
あの後、それとなく打ち解けた。
「まぁ、もう齢だからな、お前さんがどうしても儂が好きなら仕方が無いわらわも愛でてやろう」
折角大金を掛けたんだ、仕方がない。
俺はずうっと拝み倒して、どうにか和解して貰った。
まだ、手を出してはいない。
それで、奴隷でなく接する話をしたら…ガイア坊呼ばわりだ。
昨日は同じベッドで寝たんだ。
先に寝たターニャの寝言を聞いていたら…
「う~ん、孫はどうだ、元気か..私はもう腰が痛くてのう…そろそろ歳じゃなむにゃむにゃ」
「ばぁばと遊びたいのか? よしよし遊んでやろう」
寝言が完全にお婆ちゃんだ。
『ばぁば』まぁ2千年も生きていればそうだろうな…普通のエルフが800~900歳が寿命だと考えたらもうエルフとしてもお婆ちゃんだ。
横のベッドで寝ていたが…
「ババアの臭いがする」
これは多分加齢臭なのだろう。
長生きしているからか人間の老人より臭い。
我慢して寝るしかないな。
「おはようガイア坊」
「ああ、おはようターニャ」
「それじゃ起きるとするか、よっこらしょっと」
「待て、ターニャ、森の民は機敏な動きの筈じゃ」
「ハァ、わらわはもう2千歳じゃ、老い先短いんだ、普通の人間以下の動きしか出来んよ」
老い先短い身?
ちょっと待て、ターニャはあとどれ位生きるんだ。
「待て、ターニャはあとどのくらい生きるんだ」
「老い先短いわらわに酷い事聞くんだな…早ければ明日死ぬかも知れぬし、100年位は生きるかもしれんな…まぁ人間で言うなら60歳の状態だな」
※この世界の人族の寿命は60歳前後です。
それじゃ何時死んでも可笑しくないじゃないか?
「そんな..」
「ガイア坊にはわらわは幾つ位に見える」
「まだ10代にしか見えない」
「そうか、だがエルフの者が見ればわらわは老婆だよ..もうわらわはきっと森には帰れないだろう…そうとう遠くから何度も売り買いされてきたから今では自分の森も解らない。人族に捕らえられてから数十年経つ…もう帰れない、もう死ぬのは何時か解らんからな、いがみ合っても仕方ない…だから仲良くしても良いぞ」
駄目だ、確かに綺麗だが…仕草や動作、喋り方がババア臭い。
どうすれば良いんだ。
気がつくと俺はターニャをお婆さん扱いすようになった。
これなら、あの三人の方がまだましだ。
「ターニャ、済まない」
「やっぱり、そうじゃろう…お店に戻すんじゃな」
駄目だ、本当に…今の俺には此奴がただの婆さんにしか見えない。
◆◆◆
「買取ですか? はぁ~特別に金貨1万枚で良いですよ」
「おい、まだ買ってから数日だぞ、幾ら何でも半額は酷いんじゃないか」
「奴隷の買い取り値段が、売った時の半額以下になる、それは常識ですよ…相手はガイア様ですからこれでも上限で対応させて頂いているんですよ」
そんな決まりがあったのか?
ならば仕方ない。
「今は保留だ」
売っても半分にしかならないのか…
◆◆◆
「なんだかんだ言っても、その程度の男だったのだな…」
なんだ、その目は…
この間奴隷商に行ってからターニャの様子が可笑しい。
また元どおり..いやそれ以下に戻ってしまった。
「何だよ、その目は」
「別に…なんだかんだ言っても、気に食わなければ売り飛ばす存在なんだろう?もうわらわが歩み寄る必要はないよな、お前とは奴隷と主人、それしか無い、逆らえばこの奴隷紋がわらわに苦痛を与える…それだけの関係だ」
俺は何で此奴を買ってしまったんだ。
一緒に居ると苦痛しかない。
これじゃ一緒に居る意味なんてない。
家事も出来ないし…何も此奴は俺にしてくれない。
奴隷紋があるから、此奴を犯す事は出来るが…絶対に楽しい事にならない。
なんでこうなったんだよ…
彼奴が、彼奴が悪い。
聖夜が俺をあんな所に連れていかなければこんな事にならなかった。
◆◆◆
「聖夜、お前ふざけるな…こんな粗悪品掴ませやがって」
なんでこんなに怒っているのか解らない。
大体、僕は奴隷商に連れていっただけで…その娘を選んだのは俺じゃない。
「あのさぁ、その娘を選んだのはガイアだろう? 僕じゃない。それなのに何で僕のせいになる訳」
それにガイアはやはり人の気持ちが解らないな。
さっきから、その子の目が死んだようになっているじゃ無いか?
「あああっ、だけどこの糞ババアはもう寿命がそんなに永くない。それなのにあんな大金で売りつけやがって…あんな悪徳な奴隷商に連れていったお前が悪い、覚えていろよ…こんな目に合わせやがってお前も、仲間も絶対に許せねー」
此奴は自分が奴隷商人から買った時の約束を忘れているのか?
隣町から用事がなければ出てはいけない筈だ。
だが、此奴『仲間』を許さないと言っていたな。
オークマンかイクミ達の事か。
まぁ良い。
最近は体の調子が良い。
収納袋の中には、水竜も地竜も入っている。
水竜を手放せば余裕で金貨2万枚になるな
屋敷分はもう溜まっているし、まだ地竜があるから普通の生活には困らないだろう。
水竜だって…暇を見て狩れば良いか。
「なぁガイア…お前はどうしたら納得するんだ」
「お前が、このババアの金を払ってくれるなら…良いぜ」
「解かったよ…そうしてやるよ。その代わり僕はお前を心底、嫌いになる。もう顔も見たくない、二度と友達ずらしないで、この近隣から居なくなるなら、買い取るよ…それで良いのかい?」
「解かった、もし買い取ってくれるなら、もうこの街から出ていく、そしてお前には二度と関わらない」
「解かった」
◆◆◆
「ガイア、奴隷商と話しをしてくるから待っていてくれ」
「解かった…逃げるなよ」
僕は隣町の奴隷商に入って行った。
「これはこれは、聖夜様、今日はどう言った御用でしょうか?」
僕は奴隷商に経緯を話した。
「それは酷い言いがかりですね…それでどうするのですか?」
「仕方ないから金貨2万枚で僕が買い取るよ…だが彼奴に僕がお金を持っているのを知られたくない。だから金貨2万枚相当の物を僕は渡すけど、表向きは彼奴の借金を肩代わりして彼女の所有権を渡した、そういう感じに話をして欲しい」
「解りました…ですが金貨2万枚相当の品とは何ですか? 美術品を持ち込まれても鑑定が出来ないので困ります」
「大丈夫、だれが見ても価値が一目でわかるものだよ…大きな物を出せる倉庫みたいな場所はありますか」
「裏に一応、檻を入れている倉庫はありますが」
「それじゃそこに案内してくれるかな」
僕は収納袋から水竜を取り出した。
「どドラゴン…」
「これなら、素材だけで2万は超えると思いますが…」
「幾ら分野が違ってもドラゴンの価値位解ります、地竜ですら金貨2万枚を越えます、ましてこれは水竜..3万枚にも手が届くかも知れない…」
「余り、目立ちたくないから、口止め料込でこれでお願い出来るかな?」
「喜んで受けさせて頂きます」
◆◆◆
「ガイア…奴隷商と話はついたぞ..早く来いよ」
「本当か? これで俺の借金はなくなるんだな」
「ああっ」
「それでは、ガイア様から聖夜様にこの奴隷の所有権を移します…同時にこの借金は無効にします…いまここで借証書を破る事で宜しいですか?」
「ああっ構わない」
「それじゃあ破棄しますので、まずはガイア様の血を下さい」
「こうか?」
「はい、それでは聖夜様の血を続いて下さい」
「はい」
奴隷紋が書き換えられて模様に刻まれた所有者の名前が変わった。
「これで終わりました、それじゃガイア様」
「これは?」
「今迄お支払い頂いた金額です」
「そうか」
これで良い、手切れ金と思えば安い物だ。
「先程、借金の証文は破きました、お支払い頂いた分も戻しました…あとはガイア様これを」
「何だこの書類は」
「聖夜様と約束したのは、奴隷の買取だけじゃない筈です。この近隣の街から居なくなる事です。この書類は領主様にも提出します」
「ああっ約束したな、書くぜほら」
ガイアにとって僕はその程度の存在だった…それだけだ。
なぁガイア…実質俺たちは絶交したんだよ…よくそんな普通で居られるな。
「それじゃぁなガイア」
「あばよ、聖夜」
これでもうガイアに会う事は二度と無いだろう。
取り敢えず宜しく頼むのじゃ」
「お前良かったのか?」
「何の事でしょうか?」
「老い先短いわらわをあんな大金で買いおって、話を聞く限りどう考えても、お前に落ち度はないだろう?」
話は聞いていたが酷い話だな。
「まぁ、良いんじゃないか? それより、もう老い先短いとか寿命とか暗い話しは止めよう。残り時間が短いと言うなら、幸せに最後まで過ごせるように僕が頑張るからさぁ…齢とって動けなくなったら僕が介護位してやるよ」
「なぬ…お前それで良いのか?」
「転生者って知っている?」
「生まれ変わりって話のあれか?」
「前世はお婆ちゃんっこだったし、此の世界では早くに親を亡くしたから、まぁ家族気分で頼むよ…えーとターニャさん」
「他人事じゃが…お前本当にお人好しか?」
「そうかな…そんな事無いと思うけど…まぁ良いや、それじゃ行こうか?」
「何処に行くというんだ」
「いや、買い物をして、その後は僕の家だけど…」
「成程」
◆◆◆
「また、増えた」
「お兄ちゃん、また買ってきたの?」
「新しい方ですの?」
「新しい仲間ですね、宜しくお願い致しますね」
ここ迄増やしてしまったせいか、動揺してないな。
「ターニャと言うんだ、宜しく頼むね。あと見た目は凄く若いけどアヤノさんよりかなり、年上だから、少し気を使って欲しい…それじゃ行こうか?」
「何処に行くというんじゃ…」
「お風呂だよ」
「なぬ?いきなり何をするんじゃ…この変態」
「はいはい、良いから脱いでね、ほら…」
僕は手際よく服を脱がした…
「やめろ…なぁやめて..幾らなんでも、こんな人前で嫌じゃ~嫌じゃ~」
「良いから大人しくして」
「わらわは嫌じゃ~、お前は最低だーーーっ」
「いい加減、諦めて…」
なんでそんな腐った魚みたいな目になるのかな。
「仕方ない…奴隷だから仕方ない…ヒクッ…仕方ない…また..解かった…抵抗しないから余り酷い事はしないで…くれ」
◆◆◆
「ふぅい~気持ち良いのぉ~」
帰って来たのは夕方だから、お風呂を沸かしてあった。
まぁ家族の事を考えて風呂付の部屋にして置いて良かったな。
「どうかな、ハーブ入りのお風呂は…エルフは香草が好きだって聞いたからな」
「確かに、わらわ達は香草は好きじゃな…だが暖かい湯に浸かるのがこんな気持ちが良いとは思わなかったぞ」
自然で暮らすエルフは水浴びしかしない。
此の世界の人間もシャワーで済ます人間が多く湯船には浸からないみたいだからな。
高級な宿屋でも無い限り湯船なんて無い。
しかし、結構垢が溜まっているんだな。
湯船には垢が浮いて、お湯は直ぐに黒くなった。
「さぁ、湯船から出て」
「解かった…今度は何をするのじゃ」
「髪を洗ってあげるから」
「髪をか…そうか任せる」
髪も酷いもんだな…一見綺麗だけど。所々絡まっているな。
あらかじめ汲んで置いたお湯とシャボンで何回も流した。
此の世界にはシャンプーが無いから仕方無いか。
「綺麗な髪をしているんだな」
「まぁわらわの自慢の髪じゃな…しかしお前は..まぁ良い」
何回も洗っていたら本当に綺麗な髪になった。
エルフの魅力はこの髪にある。
その理由が解った。
「さぁ綺麗になったな、後はそこに横になってくれ」
「仕方が無いのう、わらわはもう老人じゃ…お前等でいうババアじゃよ」
「そんな事は無いよ、まだまだ若いよ」
「人族から見たら、そうなのじゃな…まぁ良いわ、聖夜、お前は誠意を尽くしてくれた、奴隷だしこれからも死ぬまで一緒に暮らすのじゃし、受け入れてやろう…ほれ、だがエルフのそれは淡泊じゃからな、自由にして良いぞ…わらわはこう言うのが苦手じゃ」
「そう..それじゃ、そうさせて貰うよ」
なんで目を瞑るんだろう…まぁ良いや。
「痛っ..痛い..ってなんじゃそれは?」
「垢すりだけど…ターニャさん、奴隷生活が長いから、結構汚れているからこれで綺麗にするんだよ」
「なに?」
「まぁ、かなり痛いけど、その分綺麗になるから、我慢して」
イクミ達、他の奴隷は雑に扱われていたから、かなり汚かったな。
皆、こうやって綺麗にしてあげてた。
だけど…ハイエルフは高級品なのに、なんでこんな扱いだったんだろう。
まぁ良いや…
「痛いっ…痛いのじゃ…」
「我慢して欲しい、ほら…」
「痛いのじゃ…別の意味で…」
「まぁ、終わったら、ちゃんとローション塗るから、少し我慢してくれ」
「解かった、だけど、そこは良い、そんな所は自分でするのじゃ」
「駄目だよ…ほら垢がこびり付いているんだから…」
「ほら、終わったよ、湯を張り替えておいたから、もう一度浸かって、その後はローションを体に塗ったら終わりだから」
しかし、ハイエルフって凄いな。
これで…老婆だなんて…見た目で言うならイクミやシシリアと変わらないな。
やはり凄いなハイエルフ。
多分、イクミ達と出会わなければ、凄い美少女だ。
まぁ、イクミ達は僕の妄想がまるで実現した様な存在だから比べちゃ駄目だけど。
ターニャはアイドルみたいで別の可愛らしさと綺麗さがある。
「今度はそれをわらわに塗るのか?」
「そうだよ、このままじゃヒリヒリして痛いだろう?」
「まぁな、解った塗ってくれ」
「はいよ」
「そんな所まで塗る必要はないのじゃ…恥ずかしいのじゃ」
「まぁ良いから気にしないで、そのままじっとしてくれ」
「仕方ない、解ったのじゃ」
「はい、これで終わりっと…どうかな」
「綺麗にして貰ったのは良く解ったのじゃ、お前の性格もな、わらわ個人からしたら、もう齢だから、そういう行為は好まぬが、ここ迄大切にしてくれるなら、わらわもしっかりと..」
「そう言うのは良いよ…そういう事は本当に好きな者同士がする事でしょう? 僕が買ったのは時間」
「なぬ? 時間とな」
「そう、男だからそういう事に興味がないとは言わない…だけど自分を好きでもない女の子を無理やり抱こうとは思わない。そういう事は好きになってからで良いと思う」
「聖夜か…お前は他の男と違う様な気がするのう。取り敢えず宜しく頼むのじゃ」
「宜しくな、ターニャ」
気がついたら5人目か。
何だか気がついたらオークマンみたいになってきたな。
もうこれ以上増やさない様に気をつけよう。
本当に朴念仁じゃな。
「お前は一体なんなのじゃ!」
「ターニャさん、一体どうしたんだ急に」
何か怒らせる様な事したのか?
三人も驚いた様な顔で見ている。
「どうも、こうも無いわ…このメンバーで金を稼いでいるのは誰じゃ」
「まぁ、僕ですね」
「そうじゃろう? しかもS級ランクで竜種すら狩れる実力者じゃ、しかも【貴公子】と呼ばれて人気者じゃな、まぁ女性関係から別の呼び名もあるのは…この際関係ない」
「それがどうかしたのですか」
「ハァ~それで家事をしているのは誰じゃ?」
「僕が多いですね、だけどアヤノさんも偶に作ってくれていますね」
「わらわが見ている限り、ほぼ聖夜じゃ」
「そうかもそれませんね」
「それでじゃ、聖夜お前は一体他には何をしているのじゃ…」
「皆の買い物に付き合ったり、オークマンと飲みに行ったりしていますかね」
「それもそうじゃが、良く美容と称しては香油でマッサージしてくれたり、この間は珍しい薬草を使ったパックまで全員にしておったな。 ちょっと買い物にいって帰ってきたら、薬湯入りの足湯でマッサージ…なんじゃこれは」
「え~と皆さん凄く可愛いくて綺麗なのでお世話のしがいがあるかと…」
「可笑しいじゃろ?」
「なにがですか?」
「ハァ、無自覚じゃな..皆は一体何をしているのじゃ」
「イクミはお兄ちゃんの話し相手と偶に膝枕している…」
「お兄ちゃんに膝枕してあげて耳かきと、お話合い相手、あと買い物に…一緒に行くよ」
「私は、そう三人に勉強を教えてあげていますわね、あと膝枕ですわ」
「私は少しは家事を手伝って…そうですね、偶に膝枕していますよ..そう言えば添い寝もありましたよ」
「可笑しいと思わんのか?」
「「「「何が?」」」」
「あのな…聖夜、お前は奴隷を買って何がしたいのじゃ」
「毎日楽しく暮らしたいですね」
「楽しく…それは解かったが…これではお前が奴隷みたいじゃないか…」
「そうですか? 僕はこれで楽しいですよ」
醜女4人に見た目だけが良い中身老婆のただお世話する生活が楽しい。
完全にお人好じゃな。
「それが本心なのは解るのじゃが…エルフと言う者は、心を読み取るのに優れているからのう」
「そうですか」
「エルフと言うのは自分の中で貸し借りを考える種族でもあるのじゃ」
「貸し借りですか?」
「そうじゃ『何をして貰ったから、相手の願いを聞いてやろう』そういう人間関係を構築していくのじゃ…まぁあくまで考えのひとつじゃが…だが、聖夜、お前とわらわの関係はわらわの方が一方的に借り、借り、借り、借りとまるで借金が雪だるま式に増えておる」
「借りだなんて思わないで良いですよ。僕が好きでしている事ですから」
それが本心だから困るのじゃ。
「はぁ~まあ言っても無駄じゃな。わらわで良ければ何時でも使ってくれて良い。正直借りが多すぎて気持ち悪いのじゃ。気持ちとか言うのは無しじゃ、わらわは聖夜を気に入っただから聖夜を『嫁』として見る事にしたのじゃ。それだけじゃ」
「うふふふっ、お年寄りのエルフが何をいっているのかしら? そういう相手なら私の方が慣れていますよ」
「私だって元貴族ですわ、上品に官能の世界に連れていって差し上げますわ」
「お兄ちゃん、最初は私が良いよね」
「最初に奴隷になったのはイクミ、初めては私…」
「ちょっと待つのじゃ…お前達誰もそういう関係になってないのか」
「「「「うっ…」」」」
「聖夜、これはどう言う事なんじゃ、まさかお主不能とかじゃないのか?」
「そういう事は無いですが…そういう行為は好きになって貰ってからで充分だと思いますよ」
重傷じゃ。
わらわは兎も角、この四人は確実に惚れているじゃろうが。
しかも、どっちが主か最早解らぬわ。
なんなんじゃこの聖夜って男は。
最早、こんなのは奴隷じぁ無い。
まるで尽くす為に奴隷を買っているとしか思えん。
「全く、本当に朴念仁じゃな。まぁ、よいわ…兎も角。わらわは聖夜を気に入った。だから、嫌々ではなく、もし求めてくるなら伽の相手もしても良い。更に言うなら『嫁』として見ても構わぬ」
「嫁? 僕は男ですが…」
「わらわの部族の婚姻は、年齢の下の者を嫁と呼ぶのじゃ。まぁ最後の男にしても良い…その位の好意はある」
「有難うございます」
最早借りが多すぎてどうして良いか解らぬ。
エルフの長(女王)をしていた時以上の待遇じゃ。
もし、若い時であっても、中身を知っていたら心が動いたじゃろうな。
はぁ~これ程の人間が何故こうも恋愛に積極的で無いのか、解らんな。
「それは逆じゃ、わらわを買ってくれてありがとう」
本当に朴念仁じゃな。
幸せなハッピーエンド
「良かったな、あいつ等とうとうこの街を出ていったぜ」
オークマンが指を立てて笑顔で笑っていた。
誰が出て行ったと言うんだ。
「あいつ等ってまさか?」
「そう、剣聖に聖女に賢者だ」
「本当に?」
「ああっ本当だとも」
今迄あれ程しつこかったのに、なんで出て行ったんだろう?
「理由が良く解らないな」
「なぁに、簡単な事だよ! 聖夜がハイエルフを迎え入れたからだ」
オークマンの話ではターニャを僕が迎え入れた事により彼女達は『諦めた』という事だ。
どう言う事なのだろうか?
「どうしてターニャを迎え入れるとランゼ達が諦める事になるんだ」
「流石は聖夜、女心が解ってねーな。エルフって言うのは悠久の時を美しいままで生きるんだぜ。その傍に居ようなんて女性はまずいねー。だって自分が老婆になって醜くなっていくなか、相手は10代の美しいままで傍にいるんだ。いたたまれないぜ、特に自分自身が美しいと思っている女にはよ。まして『自分が生涯傍に居たい』そういう相手の傍に若いまま居続ける存在が居たら…多分地獄だ」
そう言う事か。
確かに、まだ幼馴染どうしで居た時に僕が歳をとっていくのに、ガイアだけが歳をとらなければ..かなり辛いな。
「確かにそうだな」
「それでよ、俺が友人だからって伝えて欲しいと伝言をギルドを通してもらったんだ」
「どう言う伝言?」
「それじゃ言うぜ『幼馴染よりエルフをとるなんて馬鹿ぁぁぁぁぁぁ』だそうだ」
「それ」
いや、俺を捨てたのは4人だし…いったん捨てた人間が何でもう一度自分の元に戻ると思っているんだろうか?
「聖夜が言いたい事は解かる。だがもう出て行っているから言うだけ無駄だ。それにこれで縁が切れたんだから、それで良いんじゃないか?」
「確かに…そうだな」
「そうだろう」
兎に角、これで危機は去った。
ようやく、ゆっくりとした生活が送れる。
◆◆◆
今日、俺は皆を連れて冒険者ギルドに来ている。
勇者問題もようやく片付いたし、念願の家を購入しようと思ってきた。
「今日はなんで冒険者ギルドなんですか?」
「お兄ちゃんとお出かけなのに冒険者ギルド?なんでかな?」
「聖夜様、いったい何の御用でギルドに行かれるのですか?」
「全員で出かけようって珍しいですね」
「で、本当の所はどうなのじゃ?」
「今日は家を買おうと思って皆に来て貰ったんだ」
「「「「「家」」」」」
流石に驚いているな。
サプライズにして良かった。
「そう、皆で暮らす家。皆それぞれの部屋があって、一生仲良く暮らす為の家」
「一生…暮らすって事はこれはプロポーズ…そうよね」
「お兄ちゃん、それは間違いなくプロポーズだよね」
「まさか、奴隷に落とされた後にこんな素晴らしい事になるなんて思っていませんでしたわ」
「私、かなり年上ですが…宜しくお願い致します」
「ハァ~ 此処までとは全く恐れいる。ここ迄されたら、もう負け、負けなのじゃ、宜しく頼むのじゃ」
此の世界に不動産屋は無い。
不動産の斡旋も冒険者ギルドで行う。
◆◆◆
「家ですか?」
「はい」
「実は聖夜様から家の相談が来たら、此方を紹介するように領主様から言われていました」
「そう、なのですか?」
凄いなこれは部屋が12部屋あって大きなリビングに倉庫、庭まである。
「確かに凄いがこんな屋敷だと流石に手が出ないな」
「いえ、このお話は領主様が聖夜様の為に自分の手持ちの屋敷を差し上げるという話なのです」
「あの…何でそんな事に流石に信じられません」
「貴重なワイバーンを沢山狩って頂き、最近は竜種まで、この街の反映に手を貸してくれたお礼だそうです」
「そうですか…確かに凄いけど…皆どうかな?」
「すごいですね…大きなお風呂があるんだね」
「お兄ちゃん、凄く大きなお庭があるんだね」
「凄いですわね、これ完全に貴族の御屋敷ですわ」
「こんな大きな家に住めるなんて…信じられません」
「すごいのじゃ…これは凄い」
「それじゃこれで決まりだ。これお願い致します」
こうして、目標だった家は簡単に手に入った。
◆◆◆
「がはははっ、とうとう家を買ったのか…それでもう一線は越えたのか?」
「まぁな」
家を買い、引っ越した後、その場の勢いで、とうとう一線を越えた。
イクミやマトイやシシリアも凄いが…アヤノさんは、獣のようだった。
話を聞くと過去の経験からか…本当に凄いとしか言えない。
それに巻き込まれターニャも加わり。
今では家に帰れば…派手な下着姿の嫁が5人も待っている。
人生は愛する人と親友…そしてお酒があれば僕は満足だ。
FIN
あとがき
この話は久々に書いた美醜逆転物でした。
そして…オークマンが沢山出てきます。
実は幾つかの話でオークマンを出したのですが…凄い人気でオークマンのリクエストを幾つも貰いました。
ですが、この男…本当に主役に向かないので困り果ててこの作品に出してみました。
私は美醜逆転が好きなのですが…このジャンルの書籍化は茨の道であると大昔に編集さんから聞いた事があります。
ですので半分趣味で書いています。
尚新作は、先程投稿しましたので宜しければこちらもお目汚し下さい。
最後まで有難うございました。