私の隣に暗黒騎士団団長がいます!
私の隣の席には物凄い中二病の男の子が座っています。
学生服も改造された物で上から二つまでボタンがありません。
髪は染めているのか、色を抜いているのか銀髪です。
顔は黙っていればイケメンなのに、喋ったら台無しになります。
何しろ…
「沙也加..俺はな異世界に住んでいたんだよ、凄いだろう!」
「そうなんだ、良かったね..」
「そこで、俺は姫様に仕えていてな、暗黒騎士を率いる、暗黒騎士団の団長をしていたんだ」
完全な中二病です。
周りの人間は生暖かい目で見ています。
《また始まったよ..》
《暗黒騎士団..その割には、全然痩せているよね》
《まぁ、沙也加にはお似合いだから良いんじゃね》
実は私には友達が居ません。
理由は多分、私の足にあります。
片足が不自由で杖をついて歩いています。
怪我が原因で片足が全く動かないのですが、小さい頃からなのでもう慣れました。
ただ、嫌なのは、この足が原因でいじめにあっている事です。
「びっこ」
「クズ」
「トロいんだよ」
昔は、そういう心ない言葉をよく掛けてきましたが、今では無視される事の方が多いです。
その理由は、私が学園一の美少年、大澤くんの交際を断った事にあります。
これにはしっかりと裏があります。
男子の間で遊んでいて、ゲームに負けた大澤くんが罰ゲームをする事になりました。
その罰ゲームの内容が「私へのデートの誘い」でした。
裏庭に呼び出され
「沙也加、俺、お前の事好きだったんだ、だから今度の日曜日デートしてくれないか」
近くに他の男の子が居るのは見え見えの悪戯でした。
だから、
「ごめんね、大澤くんは好みじゃないから」
そう答えました。
だって、ここで「良いよ」って答えたら、男の子が出てきて今馬鹿にされるか、日曜日に種明かしされて馬鹿にされるに決まっています。
どっちにしても良い事はありません。
そこ迄、されたくないし私にも意地はあります。
「俺が、お前に告白なんてするわけ無いだろう? 罰ゲームだったんだよ..ブース」
これで終わりだから良いや。
そう思ったのですが、かなりプライドを傷つけられたのか、私を突き飛ばしていきました。
「あーあ、詰まらない..」
「本当に使えないな」
他の男子もつまらなそうに去っていきました。
ただ、大澤くんは本当に面白く無かったのでしょう…結論から言えば、素直に騙された方が良かったのです。
次の日学校に行くと、私が大澤くんに告白した事になっていて..ここからが本格的な虐めのスタートです。
学園の人気者を敵に回した、私からは1人、1人友達は離れて行き完全に1人になりました。
虐めといっても今のところは、物が隠されたり、無視されたり、陰口を叩かれる程度です。
そんなある日、私のクラスに転校生が転入してきました。
それが、血我吹田くん、まぁ自称、暗黒騎士団団長です。
見栄えが良かったので最初は、女の子にも人気があったのですが、告白してきた三上さんを振った事が原因で嫌われていきました。
その時の振り方が「沙也加の方が好みだから」っていう飛び火まで撒いていきます..
三上さんは、クラスの人気者なので、ますます私は嫌われていきます。
そして、吹田くんは、中二病の発言を繰り返して、めでたく「頭が可笑しい子」として扱われ始めました。
だから、私と話してくれるのは、中二病で頭が可笑しい血我吹田くんしか居ないのです。
まぁ、吹田くんも頭が可笑しい子扱いになり、今となっては話し相手は私しか居ません。
「暗黒騎士団って割には吹田くんは余り筋肉がついてないし、体力がなさそうだよね」
「それは俺たちが戦う時は暗黒闘気を使うからだ、とくに俺が団長でいるのは剣技でなくこちらが強いからさ」
まぁこういう話しばっかりなんだけど、話が出来るだけ嬉しい。
それが今の私の日常です。
そんなある日、私への虐めが過激になっていきました。
理由は解りませんが、今迄の無視ではなく、物理的な物に..
廊下で突き飛ばされたり、後ろから殴られたり、トイレで水を掛けられたり..
今迄も物を隠された事はありましたが、前とは違い、壊れた状態で発見されたりします。
「沙也加? 大丈夫か?」
「うん、何時もの事だから..」
教師に相談しても、親に相談しても無理なのは解かっています。
「子供の遊びでしょう」で済まされます。
「本当に困ったら俺にいえよ…どうにかしてやるから」
「解った..ありがとう」
吹田くんにお願いしても無駄でしょう..本物の暗黒騎士団長な訳でないのですから..
裏庭に呼び出されました。
行きたくありませんが、同じ学校で逃げ場はありません。
そして、行かないと余計酷くなるので行きました。
「来た来た、此奴なら何しても女子は黙っているからさぁ」
三上さんや、その取り巻きが笑いながら、私をみています。
「それなら、助かるな..沙也加、裸見せてくれよ」
「あっ、俺も見たいな、沙也加ちゃんのストリップ」
男子が10人以上いました。
私は青ざめて何も喋れません。
「脱がないなら、無理やり脱がすよ..その場合は制服は破いちゃうけど」
これ..虐めじゃない…裸になって終わるとは思えない
「やめてよ、大体、私はブスだから無視している..それだけで良いんじゃない..」
「他の女に何かしたら問題だけど、沙也加なら何しても女子たちが文句言わないっていうからさぁ」
私は走って逃げようとしましたが
「無駄だって、囲まれた時点で終わりだっていうの」
「はい、選択時間終了..皆んなで脱がすの決定」
押さえつけられて、顔を殴られました。
「嫌、いあああああだ、助けて吹田くん」
「呼んだ?」
「助けて、吹田くん」
「解った、これはもう虐めや悪ふざけじゃないよな..」
吹田くんは静かに話していますが..怒っているようでした。
「馬鹿じゃないの? 1人で何が出来るっていうんだ」
「そうだ、此奴もボコって、目の前で 沙也加にしている所見させない?」
「それ、面白そう..中二病の癖に、私を振って何様のつもり..私も見たい」
私の目は絶望していたと思います。
はっきりと、裸にする以上の事をする、そう言っているのですから。
「そうか、言いたい事はそれだけ..それじゃ、さようなら、フロート!」
「えっ」
「「「「「「「「「「「「「「「えええっ」」」」」」」」」」」」」」」」
吹田くんが指を鳴らすと、その場に居る全員が空に浮かんでいます。
その高さは5階建ての校舎の高さより高く..
「ちょっと、何だよこれ」
「何で体が浮いているんだよ..」
「辞めて、やめて、死にたくない..おろして」
「てめぇ、降ろせよ、やめろよ」
「煩いな、サイレント」
もう声が聞こえてきません。
「それじゃ、沙也加ちゃん、あっちに行こうか?」
「あの、あれ、どうなるの!」
「暫くしたら、落ちる..」
「それで?」
「あの高さから落ちたら、死ぬんじゃないの? 此処までくれば血とか飛んでこないし安心だな..」
二人して校庭まできました。
「殺しちゃうの?」
「殺さないよ..落とすだけだから..フォール」
裏庭から凄い音が次々した。
「落としたら死んじゃうんじゃ無いの?」
「多分ね..あっ、あの場所恐らく悲惨な状態だから見に行かない方がいいね..」
「本物だったんだ..暗黒騎士団団長って..それで何で助けてくれたの?」
「助けてって言ったからさ..困ったら俺に言えって言っただろう?」
「確かにそうだけど」
「まぁ良いや…これ以上は内緒だ、何時か、その足について思い出したら続きを話そうぜ、フローラ、フォロリスト」
「何、それ..」
「はい、これでこの話はおしまい..ただ、俺の能力については他言無用で」
「解ったわ」
沢山の人を殺した、本物の暗黒騎士団団長が怖い物でなく、優しい人に何故か思えた。
それに他にも「愛おしい」そう思えた。
私は自分の虐めの事について彼の事を除いて話した。
結局、彼らは「自殺」で片づけられた。
理由は、虐めの発覚を恐れた為の自殺。
そして、私は今日も、隣の暗黒騎士団団長とお話をしている。
私の隣に暗黒騎士団団長がいます! エピローグ
沢山の人が死んでから3日後、合同葬儀が行われた。
同じクラスだった者は全員参加だそうだ。
本音で言うなら、行きたくはない。
本当は彼らは自殺ではなく、血我吹田くん、暗黒騎士団団長が殺したんだから..
そして、私は彼らに虐められていた..
しかし、強制的だから行かなくてはならない。
当然、私を彼らが虐めていた事は親たちも知っている。
うちの親が学校に抗議をして何回かは呼び出したから、私は面識がある。
彼らの親は「子供の遊びでしょう」で済ました。
私はその時に憎しみをこめて、睨みつけていたから相手も記憶にあるだろう。
私が葬儀場に現れると、今度は相手が憎しみの篭った目で私を睨みつけてきた。
仕方ない事だと思う、結局は私のせいで皆んなが死んだんだから。
「あなたのせいで、貴方のせいで私の息子が自殺した..帰って」
「人殺しが、良く此処に顔を出せたな..死んじまえ」
「恨んでやる..一生恨んでやる」
私はどうして良いか解らず茫然と立ち尽くすしか無かった。
そこに吹田くんが来た。
「沙也加さんが何をしたっていうんですか? ただ虐められていただけでしょう!」
「ただの遊び、なのに..教師や親に言いつけて追い込んだから娘は死んだのよ」
「息子は野球推薦が決まっていた..虐めが発覚したら終わってしまう..だから怖くて自殺した..その子のせいだ!」
「言いたいのはそれだけ? 自分の子供がした事が遊び? そう、遊びなんだ..へぇ」
俺は、葬儀に参列していた「遊び」と言っていた母親の子供に近づいた..そして服を掴み引きちぎった。
「嫌ぁああああああ、何するの..」
「公開レイプ..だよ、皆んなの前で犯してやんよ」
「何するの! 娘に..」
「これがアンタらの子供がした事だ…幸い助けが入ったけど、助けが入らなかったらレイプしていたかも知れないんだよ!」
これで、参列者に、此奴らの子供が、犯罪を犯していたとんでもない子供だったと刷り込まれた筈だ。
死んだ者への同情や、沙也加の事情を知らない人間からの嘲笑や風評は起きないだろう。
「うちの子が..そんな」
「これは警察にも証拠は残っているし..自殺に追い込もうとして凄い虐めをしていたんだよ!」
「娘がそんな事をする訳がない」
「いや、してたね..そして、「助けてくれと沙也加さんは学校を通してSOSを出していた」何回も学校にあんた達も呼び出されたろう?」
「それは..」
「だけど「子供の遊び」で済ませたんだよな! あんたらの子供は..卒業が近くなり、自分達の虐めがばれるのが怖かった、そりゃそうだ、自分達の未来が潰れるからな」
「だからって、家の息子は自殺したのよ? そこまで追い詰める事はないでしょう!」
「違う..ばれるのを恐れた、あんたたちの子供は沙也加さんを苛め抜いて自殺に追い込もうとしていたんだ、ここ暫く、今迄以上の虐めをしていた、これも警察に証拠は山ほどある」
「それだって虐めの範疇だ..その子が、死ぬような事はしてはない筈だ」
「あのさぁ..万が一そうだとしても、沙也加さんは手を出してない..ただ虐めに耐えていた、だがあんたらの子供は沙也加さんが死ぬか、確実に発覚しない御守りが欲しかったんだろうな..」
「何をいっているんだ..」
「だから、沙也加さんが自殺しないから、レイプしてその動画を撮って、虐めを訴えられないようにしようとしたんだよ」
「そんな..嘘だ..」
「全員が関わっているとは言わない、だけど、この中の主犯は確実にそれをしようとしてた..そしてそれが失敗したから、警察にバレるのを恐れて発覚する前に自殺したんだよ、これが真相だ!..これでも沙也加さんが悪いのかな? 悪いって言うなら俺がアンタらの子供に同じような虐めをするよ」
「解ったよ..その子は悪く無い..だが息子が死んで悲しいんだ..今は静かにしてくれないか?」
「俺が言いたいのは..本当に悪いのは、誰とは言わないが、主犯の人間なんだ..、その悪人に他の生徒は巻き込まれただけ、多分、良心の呵責に耐えられない優しい生徒が自殺を選んだんだと思う..だからこの中の多くの死んだ人は悪く無い..本当はしたく無いのに、虐めに巻き込んだ人間が、殺したような物だ..そう言いたいだけだ」
「そうか、そうだな、手を出してもいない人間に文句を言うのは間違いだった」
「息子は良い子だった、確かに悪の道に引きずり込んだ奴が悪いな..沙也加ちゃんすまなかったな」
「うちの娘もそうだわ..虐めなんか嫌いな娘だった..ごめんなさい」
「言い過ぎました、俺も謝ります..沙也加さんと一緒にご焼香させて頂いても良いでしょうか?」
「お願いします」
「ほら、行こう」
「うん」
これで良い..
沙也加も俺もこの街で暮らしていかなくてはならない。
沙也加が被害者だとしても「それが原因で死んだ家族」の怒りは沙也加に向く。
また、沙也加がレイプされた、そんな噂すら流れるかもしれない。
今回の話は
?沙也加は未遂でレイプされてない
?あくまで、自分達が悪い
それを自殺者の家族や周りの人間に知らしめる必要がある。
?はともかく?は認めないだろう。
だから、自分達の子供でなく「そそのかした人間が悪い」そういう構図を作った。
その結果、自分達の子供も「そいつの被害者なんだ」そういう構図にした。
これで、怒りの矛先は..「そそのかした奴」に向う。
多分、三上か大澤辺りの親に矛先は向かうだろう..
これで、沙也加も俺も静かに暮らせる。
本音で言うなら、人を虐めるようなクズで、その矛先が沙也加に向ったから殺した。
それだけだ。
俺が守るのは沙也加だけ..他は知らない。
「あの、吹田くん..本当に良かったのかな..」
「気にしなくて良いよ、殺したのは俺だし..」
「そうか、吹田くんは暗黒騎士団団長だから..殺す事に抵抗が無いんだね..」
「そうでも無いさ…だがな、沙也加の命は..全ての命より重い..それだけさ」
私の為に人が沢山死んだ..そして殺したのは吹田くんだ。
何故、吹田くんが私をここ迄大切にしてくれるか解らない。
だけど、私は未来永劫、彼と一緒に居る..そんな気がした。
そして、この暗黒騎士騎士団長の隣に居る事が幸せなんだ..そんな気がした。
私の隣に暗黒騎士団団長がいます! 前世
私の名前はフローラ.フォロリスト.ド.モンテローザ。
モンテローザ帝国の第四王女だ。
第四王女と言えば聞こえは良いが…その地位に価値は無い。
この国の王族には男子が産まれていない。
だから、第一王女には沢山の男性が群がる。
第一王女を射止める事が出来れば王配に成れるのだから当たり前だ。
文武に優れ、正に女王の風格を備えている。
第二王女はスペアだ。
だが、第二王女はめでたく第一王女が王位を継ぎ女王となった時には、腹心となる。
その際には、女公爵の地位が約束されている。
その為、王配に成れない地位の貴族や、爵位が侯爵以下の者に人気がある。
第三王女は本来は何も無い。
だが、彼女には美貌があった。
愛くるしいその笑顔は見る者全てを虜にする。
その為、今の爵位で満足している者や元から地位の高い者に人気がある。
実際に宰相の息子等ですら熱をあげている。
そして本当に何も無いのが
第四王女の私だ。
地位も何も元から無い第四王女。
それなのに、私には美貌すらなかった。
悪魔の様に尖った耳。
老婆の様に白い髪。
魔獣の様に金色の目。
これ程醜い女は何処にも居ない。
鑑定の魔法があるから、前王の娘と証明されたが..そうで無ければ..廃棄されたかも知れない。
そんな私を皆は、侮蔑して「化け物王女」と呼ぶ。
王家に生まれながら何の価値も見い出されない..それが私、フローラ.フォロリスト.ド.モンテローザ。
そんな私は今窮地に立たされている。
王女である以上支持者や後ろ盾が必要なのだ。
そして、その後ろ盾になる者は15歳の誕生日に候補者を募る。
沢山の貴族や実力者が王女からの条件や提案を聞き後ろ盾になるか挙手する。
手が上がらなければ..事実上王族追放となる。
だが、私にはそんな者は居ない。
恐らく、ここで王族としての人生が終わり、準女男爵になるだろう。
そのまま辺境の領地へ飛ばされ人生が終わる。
政治的利用価値もない、女としての魅力もない。
私に取り巻き等出来はしない。
唯一の救いは姉妹が私に優しい事だ。
「大丈夫ですよ、貴方にもきっと支持者が見つかります」
「うん、頑張ればどうにかなる」
「もし、どうしようもなかったら、王族を辞て辺境の領主になるのも悪く無いのですわ、第三王女の私も何時かは出て行く身なのです、遅かれ早かれですわ」
私はどう考えても彼女達を脅かす存在ではない。
また、自分の陣営に引き入れても何も得は無い。
つまり、どうでも良いから優しいと言う事だ。
暗殺されたり、何かされるよりよっぽど良い。
実際に上の三人はお互いに暗殺者を送りあったりしながら裏で殺し合いをしている。
それぞれに優秀な取り巻きが居るから全部未然で終わっている。
そして、いよいよ私の15歳の誕生日が来た。
多分、これが私の最後の王族として過ごせる時間だ。
盛大なパーティーにダンスが行われた。
私はそれを楽しんだ…今日だけは私が主役、そして..今日で終わり。
時間が経ち、いよいよ、私の後ろ盾を決める時間がきた。
一応、王族の儀式、貴族の1/3は来ている。
だが、他の王女の時は「ほぼ全員が来ていた」その事から、此処に居るのは貴族の最低限の義務で来たもの達だろう。
「王女、フローラ.フォロリスト.ド.モンテローザ様、貴方は忠誠の対価に何を与える、そしてどのようにその忠誠を求める」
ここで、私は条件を伝えなければならない…実に嫌な儀式だ。
私に与えられるような物は何も無い。
第一王女の様に女王になった時の約束や金品の約束、第二王女の様な政略的な対価は差し出せない。
第三王女の様に美貌があれば「愛」を対価にする事も出来る。
だが、私には「差し出せる物が何もない」
「私には何も差しだせる物はありません、だがもし、忠誠を誓う者が現れるなら、欲しがる物全てを差し出しましょう」
これは王女としての意地..これでも誰も現れないだろう。
本来はこれで挙手も無く終わる…そう思えた。
「フローラ王女は…その意味がお解りか? 全てを差し出すという意味を..それは御身も含まれるそういう意味である事を」
これは只の嫌がれせだ。
此奴は、第二王女に後ろ盾を断られたランドワーク家の者だ。
「そのつもりですが」
「そうであるならば、その決意を見せて頂こう」
意趣返し位はしても良いだろう…
「ならば、その決意を見せたなら、貴公は私に忠誠を誓うのでしょうか?」
「一考しよう」
私は、護身用に持っているナイフを取り出した。
従者すらいない私は、身を守るすべとしてこの小さなナイフの所持を認められている。
「ひっ」
私はそのナイフを自分の右足に突き立てた。
「王女足る、私が自分の足にナイフを突き立てたのです..これで証明になりませんか?」
「うむ、フローラ王女の意気込みは感じる物があった、そして言われた言葉に嘘は無いのであろう..だが、自分で自分の体を傷つけるような王女を当家は主君に望めません」
元からその気など無いのです。
解かっていてした事..ランドワーク家は伯爵、今は私の地位の方が上ですが後ろ盾が居ない状態で此処を出たら準女男爵..だから何をしても許される..そう思ったのでしょう。
だから、これは第二王女に袖にされた事への只の八つ当たり。
だが、意地はある..少なくともこれで私は嘘等ついていない..そう証明はされた筈です、名誉だけは守られた。
結局、手は上がらなかった..これで..終わり..
「待って下さい」
嘘だ、手が上がったわ..誰なの一体誰?
「私は隣国の者ですが、その資格はあるのでしょうか?」
「少し待たれよ..過去にその様な例があったらしいですぞ..王が認めたならという条件ですが..」
王は少年の顔を見ると直ぐに口を開いた。
「構わん、許す」
「王が認めたので正式に認められます、貴公の家は」
「私はブラッド.ド.ワイター隣国で侯爵の地位を貰っています。 皆さんには暗黒騎士団を率いている立場、そう言った方が解るでしょう」
「暗黒騎士団..」
「あの勇者殺しの集団…その1人1人が竜より強いという..」
「侯爵でありながら、王をしのぐ権力を持っているという、あの」
「知られているようですね」
「それでは、フローラ王女..貴方の後ろ盾になる対価は、「欲しがる物全て」で間違いないですか?」
「はい、間違いはありません」
「なら、貴方の心、その体、貴方の全てを望みます..その代わり、私は貴方を傷つける全ての者から貴方を守る事を約束しよう..それで宜しいでしょうか?」
「はい、それで間違いありません、後ろ盾になって頂きありがとうございます..」
「それでは、まず、その足のナイフを抜いて血止めをしましょう」
彼の体から黒い靄が出てくると私のナイフを引き抜き傷口を塞いだ。
「これは魔法ですか?」
「似たような物です..さてと!」
ワイターが睨みつけていると、ランドワークの両足が爆ぜた。
「うわぁぁぁぁぁぁっ」
ランドワークは転げまわっている。
「何をされているのですか! ワイター卿!」
「王よこの国では貴族が王族を蔑む事は許されるのでしょうか?」
お前が何を言うんだ..そう思っても言えない。
「許されていないな..」
王はそう答えないなら殺される、そう感じた。
「なら、王女はランドワーク卿が元で足に傷を負った..ならその責めは両足を差し出す事でしか償えないのではないでしょうか?」
「その通りだ」
「なら、これは正当な事..間違いないですね?」
「うむ、認める」
結局、私はワイター卿の後ろ盾を持つ事で「そのまま王女」で居られる事になった。
だが、私は王城にはもう居ない。
ワイター卿の持つ城で暮らしている。
だが、どう見てもおかしな事に、ワイター卿の城の方が大きい。
そして、隣国でも私の国でも王よりも誰よりもワイター卿の方が偉そうにしている。
理由は、ワイター卿率いる「暗黒騎士団」の存在だ。
「勇者が逃げ出したから魔王を倒した」
「勇者が魔王と戦っている、その裏で大魔王と戦っていた」
そんな手柄で貴族になった人物だった。
だから、彼を恐れて王ですら面と向かっては逆らわない。
「何で、私何かを欲したのですか?」
どうしても聞きたかった..英雄以上と言われる彼なら、大国の姫だろうと望めば手に入るだろう。
「それは、フローラ姫が私の理想だからね」
悪魔の様に尖った耳。
老婆の様に白い髪。
魔獣の様に金色の目。
そして胸すら貧相で小ぶりだ。
これ程醜い女は何処にも居ない、そう言われた私が?
「そうですか..ワイター様は変わっていますね!」
「そんな事はどうでもいいさ、私だって怖がられて恐れられている..私にとって最高の女性、それじゃ駄目かな?」
「それなら結構です..私の心も、体ももう既に貴方の物ですから..その代り…」
「生涯..いや未来永劫、貴方を私は守ります」
表情が変わらない彼の顔が真っ赤になった気がした。
私の顔も真っ赤だと思う。
しかし、フローラ姫の姿は
綺麗に尖った耳。
美しいプラチナブランド
綺麗な金の目..
俺には伝説のエルフにしか見えないんだが..あれ程の美女は何処を探しても居ないよな..