勇者、幼馴染でも何でもあげる…だって君は勇者だから!

勇者、幼馴染でも何でもあげる…だって君は勇者だから!
僕の名前はセイル、辺境の村アイシアに生まれた。

小さい頃に母親が亡くなり、その後父親が亡くなり1人で暮らしている。

この村は、助け合いの精神が強く、子供一人でも生活に困らない位豊かな村だった。

僕には、可愛いい幼馴染がいる。

彼女の名前はユリア、凄く可愛い僕には勿体ない女の子..

小さい頃から一緒にいて、僕たちはまだ子供なのに将来は結婚するのかな..そう思っていた。

ユリアと仲良くしながら、田んぼを手伝ったり、村にたまに現れる魔獣を狩る日々も本当に悪く無い。

ユリアの両親も優しいし、一生をこの村で過ごすのも悪く無い、そう思った。

このままが一番良い。

この村では、15歳になったら、成人の儀式を行い、職業(ジョブ)を貰う。

このジョブが重要でその後の人生を左右する。

僕とユリアは15歳、明日この聖人の儀式をする。

そして成人の儀式の朝になった。

「どうしたのセイル、眠れなかったの?」

「うん、眠れなくて..」

「それで昨日の夜抜け出したんだね…お互い良いジョブが欲しいね」

「セイルは何のジョブが欲しいのかな?」

「そうだな、猟師が良いかな..村で生活出来るし」

「そうかー私もセイルと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」

「そうだね、お互い希望のジョブだと良いね」

やはり、僕のジョブは猟師だった。

無難が一番だ。

「良かったねセイル、希望のジョブで」

「うん、ありがとう」

「どうしたの、セイル、あっもしかして騎士や冒険者に憧れていたとか?」

「そんな物成りたくないよ、無難が一番だよ」

いよいよ、ユリアの番だ。

僕の時と同じように近隣からきた5人と一緒にユリアが並ぶ。

神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げる。

すると、紙に自分のジョブが出てくる。

普通、それだけだが、ユリアの時は天使が降りて来た。

周りの人は嬉しさで興奮しているけど..僕にとっては余り良くない。

天使が降りてきて…真っすぐにユリアの方に向かった。

天使はユリアの手をそっと握った。

これは4大ジョブのうち3つのジョブの場合に起こる現象だ。

恐らく、ユリアは「聖女」「賢者」「剣聖」のどれかのジョブになる。

ユリアのジョブは「聖女」だった。

「これは凄い、何とユリア、いやユリア様のジョブは聖女だ」

「えっ聖女って」

ユリアは戸惑いのなか、司祭や他の皆んなに囲まれていた。

うん、これで終わりだ。

次の日にはユリアの両親から僕に遠回しにユリアに近づかないで欲しいと言われた。

《うん、仕方ないな…僕に家族が居ないし、ただの猟師だ当たり前だ》

《大丈夫、もう気持ちは決まった》

そして1か月がたち勇者達がユリアを迎えに来た。

直ぐに旅立つと思ったが、勇者達は直ぐに旅立たなかった。

ユリアは未練があるようで僕の方を何度も見ていた。

《もう、僕なんて見ないで良いよ…君は勇者を愛しな..辛いのは少しだけだから》

僕は勇者には「魅了の祝福」が掛かっているのを知っている、暫くしたらもう僕の事なんかそっちのけになる。

数日後、ユリアと勇者の逢瀬も見てしまった、流石に落ち込んだが、それで良いんだよ..

男としての悔しさはあるが..別に構わないさ。

「お前が、セイルだな..決闘を申し込む!」

何でだ? ユリアなら譲ったし、俺が勇者に嫌われる要素は無い筈だ。

「勇者ルディウス様に聞くが、何で僕が決闘しなくちゃいけないんですか?」

「それはユリアだ、聖女のユリアにお前が色目を使うからだ」

「確かに幼馴染で子供の頃は、結婚の約束もしましたが、聖女様になってからは口も聞いていません」

「だが、ユリアの心の中にはお前がいる」

「ですが、僕の心の中にはもう、ユリアは居ません」

「何で、どうしてなの? セイル..」

「解かっているさ、もうユリアは勇者の物だ、もし気にくわないなら直ぐにユリアを連れて村から出て行ってくれないか? 追いかけないからさ」

「セイル、もう私なんてどうでも良いの?」

「ああっどうでも良い! それはユリアも同じだろう? ちゃんと見たからあきらめもついた」

「そ、それは..そうなんだ、それなら仕方ないね」

「ああっ別に責めはしない..相手は勇者だからな..それじゃ」

「まだ、話は終わっていない..お前はやっぱり気にくわない..決闘だ」

「解った..ただの猟師の俺が決闘するんだ…条件がある!」

「何だ! 言ってみろ!」

「僕が勝ったら、一週間二人を自由にさせて貰う」

「それは..」

「俺は命を掛けるよ..負けたら殺してくれて構わない」

「何いっているの、セイル、相手は勇者なのよ..死んじゃうよ」

「何だ..未練たらたらじゃないか? いいぜ..載ってやる」

大騒ぎしたから村人が集まってきた。

その中にはユリアの両親もいた。

「馬鹿な事を..」

「殺されちゃうんじゃないか..」

「だけど、セイルの気持ちを考えたら、仕方ないんじゃないか」

「いいぜ、猟師..何処からでも来な」

「解った、行くぞ..空歩」

僕は空を歩くように走り、そのまま勇者の背後に立った。

「お前..」

そのまま軽く勇者を殴ると勇者はそのまま倒れて起き上がって来なかった。

「俺の勝ちだな、約束を聞いて貰うぞ」

「セイル、凄いね..こんなに強かったんだ、だったら一緒に行こう..」

「ユリア、何を勘違いしているか解らないけど、1週間はいう事を聞いて貰う」

そう言うと、俺はユリアの服をはぎ取った。

「ななな、嫌嫌いやあああああああああっやめて、やめてよ!せめて人前じゃない所で..」

「煩い」

「セイル、娘になにするんだ」

「これは勇者に決闘で勝って貰った正当な権利だ..文句言うなら決闘だ」

「そんな、私達..貴方を子供のように思っていたのに」

「縁を切ったのはそっちだ」

気絶している勇者の服も剥ぎ取り、ユリアと勇者を手錠でつないだ。

そこで、勇者を起こした。

「ほれ、起きろ」

「貴様はいったい、嘘だろう..俺の前で、これからユリアを辱める気なのか?」

「いや、いや、こんなの嫌..セイル許して」

「俺は何もしない..お前らまだやってないんだろう? やれよ..」

「お前がやるんじゃないのか?」

「ユリアはお前の物だ、お前がやるんだ..そら、そこの小屋があるからさっさと済ませろ..やらないと殺すぞ」

「そんな酷い、酷すぎるよ..」

俺は勇者とユリアを小屋に放り込んだ。

ぎしぎし、音がするからやっているんだろうな…

村人は顔をしかめるとその場から立ち去った。

ユリアの両親は殺すような目でこちらを見ていたが知らない..

「おーおー終わったようだな」

「お前は最低だ..」

「そうか」

「…..見ないで、見ないでよ..」

女ならやった後裸でいるのは見られたくないよな..

「嫌だね」

そう言って俺は勇者のもう片方の腕を鎖で小屋につないだ。

ちなみに手錠も鎖もミスリルで小屋には楔を打ち込んでいるから勇者でも壊せない。

「セイル..トイレに行きたいの..これ外して」

「おい、お前..外してくれ」

「駄目だな..勇者に良く見て貰うんだな」

「セイル、冗談やめて、嫌嫌..謝るから、あやまる..だから外して..いや」

「別に悪くないから謝る必要は無い」

そう言って俺は立ち去った。

次の日、小屋に行くと泣いているユリアと何とも言えない顔の勇者が居た。

目の前には大きい方も小さい方も排せつ物がある。

「ここまですれば満足だろう..外してくれないか..」

「此処まですれば満足でしょう..気もすんだでしょう..いいでしょう」

「あと6日間ある..そら朝食だ食いな」

「何だ、この臭いのは」

「ゴブリンシチューだ」

「ゴブリン何て食べれない..」

「だったら食わないで良いが…他には何も出さない」

「お水、せめてお水を頂戴」

「俺も水をくれ」

僕は黙って小屋の中の水たまりを指さした

3日間が経った..もう裸でいなくちゃいけない事には慣れたようだ。

そして、お互いの前で排泄するのも諦めたのか慣れたようだ。

「ゴブリンシチュー」も平気そうだ。

ここで、次の物を出す。

「今日の飯は美味しいぞ..」

「ゴブリンじゃ無いのか?」

「違うなら良いわ….」

「ダークエルフの焼き物、お頭つきだ」

「うげええええええええっ」

「うっ..嫌嫌嫌….いやああああああああああっこんなの食べられないいや」

「食べるまでおいて置く」

それで1週間が過ぎた。

新品の服とブーツ。

1級品のミスリルのナイフ

2級品の鋼鉄の剣

薬草10個

ハイポーション5個

を俺は用意した。

そして、出来る限りのご馳走を用意した。

これで僕の貯金はすっからかんだ。

手錠で繋がれた鎖を引っ張りながら温泉に連れて行く。

そして、体を洗うように言った。

「今日で終わりだ」

「ああっそうだな」

「何でこんな酷い事をしたの..」

「勇者にユリア..聞く気があるなら聞いて欲しい」

僕は説明した。

魔王討伐が綺麗ごとじゃない事を。

人間の領域の戦いは良い..だが魔族の領域に近づくにつれ平穏は失われる。

火を炊く事も出来ずに暖を取る為には「裸で抱き合う」のが一番良い。

そして、そんな時でも警戒し続ける為には「裸」につね日頃から慣れなくてはならない。

異性の裸だからって意識していたらその瞬間に狙われる事もある。

排泄だってそうだ、「恥ずかしい」からって1人になったら殺される可能性は高まる。

食料だが、魔族の領域に入ったら「人側の支援は貰えない」だから、現地調達だ。

魔物を食べたり、場合によっては「魔族の食糧としている物」を食べなくてはならない。

その中には人間に近い物も含まれる。

そして、仲間がオークやゴブリンに犯されそうになっても、冷静にいられるようにする為には常日頃から、肉体関係を結んで置いた方がよい。

「こんな、所だ、さぁごちそうもあるし、良かったら食ってくれ」

「ああっ」

「セイル…」

「勇者や聖女だから、もっと良い装備をそのうち貰えるだろうが、これらもやる、持っていけ」

「お前、これはどうやって手に入れたんだ」

「ユリアといつか結婚する..そう思ってお金を貯めていたんだ..それで買った」

「セイル..私、私は」

「何も言うな、お前達は勇者と聖女だお似合いだよ…」

「ちょっと何処に行くんだ..おい、まさか死んだりしないよな..」

「しない..頼んだよ、勇者セディウス、ユリアは僕の宝物だったんだ、守ってくれよ」

「セイル..」

「頼んだぞ..」

「すまない…解った約束する」

セイルは直ぐに村を旅立った。

その後、セイルを見かけた物は居ない..

セイルが何故、勇者の生活に詳しかったのかは解らない。

ただ、大昔の勇者の物語に白銀のセイルという物語があり、その主人公は邪龍を倒したが大切な仲間を全部失った..そういう話があった。

その後、セディウスとユリアのパーティーは魔族と戦いその中で死んだ。

セイルは知っていたのかも知れない..勇者や聖女が過酷な生活を送り、死と隣り合わせだという事を。

そしてその運命から逃げられない事を..

少しでも生き残れるように、心を鬼にしたのかも知れない。

自分の持っている物を全て渡したのは大好きだったユリアと死ぬかもしれない勇者への餞別だったのかもしれない。

全ては謎のままこの物語は終わる。

第二章
勇者、幼馴染でも何でもあげる…だって君は勇者だから【勇者になりたくないセイル物語】 勇者は死ぬ
勇者に恋人を取られたセイル、だけど彼は勇者を許します。

(酷い事はしましたが)
何故許せたのか..その理由は彼は「勇者」ほど過酷な物は無いと知っているからです..回答編みたいな物です。

僕は勇者に何かなりたくない。

平凡が一番だ。

この世で勇者程、不幸な人生は無い。

だから..勇者にだけはなりませんように、何時も祈っている。

僕の名前はセイル、辺境の村アイシアで猟師をしていた。

今はわけあって放浪の旅をしている。

恋人で幼馴染のユリアが聖女だった為に勇者にとられてしまった。

ユリアは昔の僕にとっては全てと言って過言では無かった。

だけど、「勇者から取り返す」そんな選択は無い。

勇者の過酷さ、運命、それを知っている僕には「そんな事は出来なかった」

僕は他の人と違い見えないスキル「神の寵愛」がある。

その為、転生すると大体が「勇者」になる。

本当に神が僕を愛してくれているなら「王子にでもして貰いたい」だが、そう願うと

(神は愛する者には試練を与えるのです..その先にある栄光を掴むために)

なんて声が聞こえてくる。

神に愛されるスキルだというが個人的には否定したい..いつも僕は不幸になるから。

僕が初めて勇者になった時だった。

僕は凄く浮かれていた。

だって、農夫の子供がいきなり「勇者」に選ばれたんだ。

今迄、馬鹿にしていた地主や領主までもが僕に跪くんだ。

そして、王や王女ですら僕には「殿」をつけて話す。

この時の聖女は、今迄手も届かないと思っていた、貴族のロザリーだった。

婚約者は、第二王子だったが「聖女」になった途端にその婚約が破棄された。

そして、今は僕の傍にいる。

第二王子とは相思相愛で仲が良い..そう聞いていたが..ロザリーは僕に夢中になっていった。

勇者が最初に出会うのは必ず「聖女」だ。

そして、聖女を迎えに行き王都にエスコートして連れて行くしきたりがあった。

ロザリーを迎えに行き、王都へ向かう途中だった。

山中で一泊する事になり野営の準備をした。

「私は聖女なのですから、勇者の傍に居るのは当たり前の事なのです」

そういって一緒に寝ようとしたロザリーに気恥ずかしさから

「離れたテントで寝るよ」

そう伝えて逃げるようにして別の場所にテントを張った。

ロザリーは凄い美少女だ..童貞で女の免疫のない僕には、一緒に寝る勇気が無かった。

騎士も6人居てロザリーを守っているから大丈夫だろう。

甘かった…

その夜、オークの群れが襲ってきた。

騎士達は殺され、ロザリーは連れ去られた。

すぐに気づいた僕はテントを飛び出した、20メートル先に連れさられていくロザリーを発見した。

「邪魔だ、死ね」

「ぶびぎいいいいっ」

「ぶぶぶぶぶっ..ぶぎー」

間には沢山のオークがいた、

殺して、殺して、殺しまくったが。

既に、ロザリーはオークの巣に連れ去られた後だった。

単身でオークの巣に乗り込み..とうとう深層までたどり着いた。

そこには、犯され..変わり果てたロザリーが居た。

もう冷たくなっていた…そして周りは同じ様に沢山の女が死んでいた。

「僕が..僕が一緒に寝ていれば..こんな事にはならなかった..ごめんよロザリー」

ロザリーは何も言わなかった..

ドガッ..強い衝撃を受け僕は壁に飛ばされた。

「うすぎたない..にんげんがなにをしている」

オークキング..僕が倒した中に居なかった、そしてその横にはオークジェネラルも2体居た。

いまの僕にとっては敵う敵では無いのかも知れない。

まだ、殆ど戦った事が無い「勇者」なのだから..

ここで、僕の物語は終わる、そう思った。

オークジェネラルに斬りつけると剣ごと首を跳ねた。

聖剣とただの剣の差だ、もし同じ剣なら僕の方が押されていた。

その返す剣でもう一体のジェネラルを斬りつけた。

「ぶぶぶぶぶ」

「うるせぇーよ..ブタは死んでいろ」

「おのれ、にんげんめ..よくも..やってくれたな」

「お前達が先にやったんだろうが! 俺の..」

「にんげん、たしかにおでたちは、おまえのつがいをころした..だが、ここまでするひつようはあるのか?」

「何を言っている?」

「われわれは..1り、ころされても、むらをおそったりしない..がまんする..だがにんげんは1り、しんだだけでみなごろしにするのか? ききたい..」

「教えてやる! その1人が大切な人なら、やる..死ね」

「そうか」

オークキングは強かった。

勝つには勝ったが、こん棒で殴られた肩は千切れていた。

足も片方は千切れている..死ぬのは時間の問題だ。

ごめんね、ロザリー..僕が君を拒ばなければこんな事にならなかった..

せめて一緒にいこう..僕ははいずっていきロザリーに覆い被さった。

「ヘルファイヤー..」

炎に包まれて僕の初めての「勇者」の物語は終わった。

彼女から愛を奪い殺してしまったのは僕だった。
僕には他の勇者には無い「神の寵愛」というスキルがあった。

これは「神に愛された者」そういう意味だ。

このスキルのせいか、死んだ後僕は、神に出会う事が多い。

初めて勇者になって、死んだ時に初めて女神にあった。

「ここは何処なのだろうか?」

「ここはこの世の間です」

見た瞬間から僕にはこの方こそが女神なのだ、そう解った。

「すみません、折角勇者に選ばれたのに何も出来ませんでした」

「仕方のない事だわ…貴方はまだ未熟なのですから..」

「死んでしまった、ロザリーはどうなったのでしょうか?」

「あの子の魂は、もう次の転生に向って旅立っているでしょう..どういう形であれ、王子の魂と出会いきっと添い遂げると思います。まぁ、貴方には関係のないお話ですね」

「それはどういう事なのでしょうか? ロザリーは僕が好きだった筈です」

「「魅了の祝福」という能力が勇者には自動的につきます」

「それはいったいどういう事でしょうか?」

「簡単に言えば、勇者は世界に愛されています。勇者が気に入った時点で、相手がどれだけ好きな人が居ても勇者を愛するようになります」

「そんな、それではロザリーは僕の事なんか本当は愛して無かった…そういう事ですか?」

「いいえ、愛していましたよ! 勇者ですから」

「それは偽りの愛ですよね?」

「違います、勇者は本当に愛されますから、本当の愛です。 私と一緒です」

「どういう事でしょうか?」

「貴方は私を愛している筈です」

そういえば、初めて会ったはずなのに、好きだと思う..誰よりも。

「そういえば、そうです」

「はい、女神ですからね..この世の人間は私になんて会った事は無いですが..愛されています」

「あれ?どういう事でしょう?」

「つまり、女神という物は、全ての人間に愛されているのです..そこ迄ではありませんが「勇者」にも同じ事が言えます」

「結局は偽物という事では無いのですか?」

「違います、神への愛は偽物ですか? 違いますよね? 同じように勇者への愛は本物なのです!」

「よく解りません」

「つまり、勇者に好かれた者は、他に誰か好きな者が居ても必ず勇者を好きになります」

「それは、勇者じゃない男にとって酷く無いですか?」

「そうは思いません..だって勇者は、世界を背負って戦うのです..私は嫌いだからしませんが、神によっては願い事を叶える代わりに生贄すらとるんですよ? その位の良い事がなくては可哀想です」

「ですが..」

「だから、その次の人生では、好きだった相手との出会いを約束しています」

「それでは勇者は必ず次の人生で1人になりませんか?」

「その魂が一番好きだった者と出会います..勇者が一番好きになっていたら勇者に成るかも知れませんね..まぁ貴方は直ぐに死んでしまいましたがあのまま旅を続けていれば王子以上に愛された可能性もあった筈です」

「やはり、勇者は」

「勘違いしてはいけません! 勇者は世界を救う為に自分の全てを犠牲にする可能性があるのです..心、体 命、全部ですよ..だったら世界が勇者に優しくても良いと思いませんか?」

僕は何も言えなかった。

解った事は「人間が神を愛する」ように勇者に好かれた者は「勇者を本当に愛してしまう」そういう事だ。

僕は、ロザリーを好きだった..僕の横恋慕が彼女を王子から奪ってしまった。

そして、僕の甘さが彼女を殺してしまった。

寝取りたくないが寝取ってしまった
再び、僕は転生した。

何故か前の記憶はあった。

「神の寵愛」を持っている僕はかなりの確率で「勇者」になるかもしれない。

だから、僕は小さい時より体を鍛えた。

親は「猟師」だったので好都合だった。

小さい時は友達も作らずにウサギを追いかけていた。

野生動物と追いかけっこするのは実に体つくりには良い。

4歳にしてウサギに追いつき捕まえるようになった。

そんな僕を両親は凄く喜んだ。

「がははははっ、流石は俺の息子だ最高の猟師になるぞ」

褒めてくれる。

もし「勇者」にならないなら猟師になっても良い。

そう思えた。

僕は暇さえあれば山に居た。

もし、僕がまた勇者になった場合に誰かの女性を奪いたくない。

だから、極力人との付き合いを避けた。

僕が綺麗だ…そう思った為にロザリーが聖女になってしまったのだから、もうそんな事はしたくない。

毎日、猟に明け暮れていた。

猟といっても僕は銃を使わない。

基本、ナイフ一つで敵を仕留めていた。

このまま勇者にならない人生..そんなことを夢見ていた。

だが、無情にも..成人の儀式前に僕が勇者になるかもしれない。

それが解ってしまった。

それは、僕が「空歩」が出来てしまったからだ。

その技は文字通り、空を歩く事が出来る。

このスキルは騎士であっても身につかない勇者固有のスキルだ。

人里に出るのが怖くなった。

僕にはロザリーの死んだときの顔が色濃く記憶に残っている。

だから、「女の子とは関わらない」そう決めた。

自然に決まってしまった「聖女」や他のジョブの人までは責任は持てない。

「凄く、仕事熱心なのは関心だけど、母さん、貴方が心配なのよ! 友達と遊んでも良いのよ」

「僕は父さんみたいに魔獣すら倒せる猟師になりたいんだ..」

「がははははっ..えれえぞセイル」

「貴方、だけどそれじゃセイルの嫁はどうするの? 近くの女の子と遊ばないと将来が心配だわ」

小さな村では、かなりの率で幼馴染と結婚する場合が多い。

「大丈夫だよ母さん、僕は母さんの子だもん」

「そう..そうよね」

「セイル、それはどういう事だ」

10歳にして猪の変異種の魔獣すら狩れるようになった。

14歳の時にはこの山の主すら狩った。

ゴブリンにオークも狩った。

沢山、沢山狩った。

もし、僕が勇者になったら..国からお金は出るけど、自分の手で親に何か残したかった。

そして15歳になった。

成人の儀式

近隣からきた5人と一緒に僕は並ぶ。

神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げる。

すると、紙に自分のジョブが出てくる。

普通、それだけだが、僕の時は女神が降りて来た。

周りの人は嬉しさで興奮しているけど..僕にとっては余り良くない。

女神が降りてきて…真っすぐに僕の方に向かってきた。

女神は僕の手をそっと握った。

これは勇者のジョブの場合に起こる現象だ。

「これは凄い、何とセイル、いやセイル様のジョブは勇者だ」

僕は戸惑いのなか、司祭や他の皆んなに囲まれていた。

うん、これで終わりだ。

直ぐに王宮から使いがきた。

サザンベールの村に「聖女」のジョブを持つ少女が誕生したために使者の騎士たちと迎えに行く。

村人や父さん、母さんは祝福してくれたけど..気が重い。

少しでも強くなるために、騎士に混じって討伐しながらサザンベールを目指す。

前の勇者の時の二の鉄は踏まない。

「勇者様は馬車でお休みください..露払いは我々が致します」

「僕は少しでも強くなりたい…だから肩を並べて戦う事をお許し下さい」

「流石は勇者様です」

サザンベールにつく前には、既に前の勇者時代より倍近く強くなった気がする。

聖女が生まれた家に挨拶をしに行った。

「勇者様、待ちかねておりました」

村長が同席してあいさつされた。

「ご挨拶有難うございます」

「勇者様、初めまして、私がリアリーです..その聖女になりました」

「そうですか..僕がセイル、勇者になります」

「少し、二人でお話しさせて下さい」

「解りました」

「リアリーさんは好きな人がいますか?」

「はい、幼馴染のジム君が好きです、この旅から帰ってきたら結婚する約束をしています」

「なら、そのジム君を呼んでください」

「はい」

ジムという青年をリアリーさんが連れて来た。

「僕からの提案があります」

「なんでしょうか?」

「ジム君と二人で駆け落ちしてください」

「勇者様、なぜそのようなことを言うのですか..それでは世界が大変な事になってしまいます」

「俺もそう思う、なぜそんなことを」

「リアリー、ジム君、討伐の旅は、凄く過酷なんだ…綺麗ごとじゃない、帰ってこれない可能性すらある」

「そんな事は知っています..ですがそれでは世界が困ってしまいます」

「それでも俺は無事を信じてリアリーを待つ」

それは無理なんだ..帰ってきた時にはもう彼女は君を愛していない。

「今から僕のいう事を聞いてほしい..ジム君、これは意地悪じゃないんだ..」

「解りました」

「これから、リアリーと僕は旅に出る、魔王討伐の旅だ」

「解っています」

「賢者や剣聖と共にな、そうするとどうなると思う?」

「解りません..」

「必ず、愛し合うようになる..絶対にな」

恨まれたくはないから「勇者」をとは言わない。

「そんな事はありません、リアリーと俺は愛し合っています」

「悪いが、そんなものは壊れる、戦うという事はお互いに命を預ける事になるんだ、魔王すらと戦える連携が出来るくらいにな、それがどういうレベルか解るか?」

「勇者様が何を言っているのかわかりません」

「私も..」

「4人は一つの生き物に近い状態になる、右手が左手を嫌いになっても離れていかないのと同じだ「そうなるように選ばれたんだ」」

「勇者様は何が言いたいのですか」

「つまり、君がリアリーと一緒になれるチャンスは今しかない」

「そんな、俺はリアリーを愛している、リアリーも一緒です」

「勇者様には悪いですが、私の気持ちはジムの物です」

「ここには1週間居る、その間に決めて欲しい..駆け落ちしても構わない、最後に思い出を作るのも良いだろう、男女の中を深めるために肉体関係になっても咎めない…但し残るなら避妊だけはしてくれ」

「どうして、勇者様はそんな事を俺に言うんだ」

「どうして話されたのですか?」

「昔の事だ、本当に仲の良い男女が居たんだ..婚約迄して楽しそうに暮らしてたよ、だけど、女が聖女に選ばれて、勇者が迎えにきた。そこから可笑しくなったんだ..聖女は勇者を選び、男と女はわかれた、本当にお似合いの二人だったのにな」

「そんな嘘だ」

「そんなの嘘です」

「信じる、信じないも自由だ..伝える事は伝えた..後は自分で考えろ」

俺は二人に近づかない事にした。

村長やリアリーの両親に、不思議がられたが、「魔王討伐の旅に出たら会えなくなるから二人を自由にさせて欲しいと頼んだ」

リアリーの両親は嫌がっていたが、俺からお願いした。

村長の家で美味しい物が食べられ、歓迎されているから、そっちを楽しんだ。

子供と遊んだり、大人とゲームして楽しんだ。

1日目

「リアリーどうしたんだい?」

「何でもないわ..ジム」

何でなのかしら、ジムが全然頼もしく思えない、傍にいても不安だらけになる。

「それで、勇者様の話しなんだけど..」

「ありえないわよ、駆け落ちなんて..そんな事したら村が大変な事になるわ」

「そうだよな」

「ええ」

どうしてなんだろう..ジムが好きな気持ちが薄れてきている気がする。

2日目

「朝から何の用なの?」

「リアリーに会いたいから来たんだ」

「そう?それで」

「それでってどうしたんだよ..もうじき長い間会えなくなるから会いに来たんだ」

「そうよ、そうよね..うんごめんジム」

「別にいいよ..それで今日はどうする、森でも散歩しないか?」

「ごめん、何か疲れているから休むわ」

「あの..今からでも駆け落ちしないか?」

「そんな事しないわ..世界が大変なのよ..していいわけが無いわ」

「そうだよな…うん、そうだ」

私はどうしてこんな人を好きなんだろう..

一緒に居ても苦痛しかない。

それに比べて、セイル様の凛々しさ..世界の為に頑張っているのに、私の気持ち迄考えてくれる。

あれっ..これがもしかしたら、勇者様のいう事なのかも知れない。

これは偽りの気持ちなのかもしれない。

だけど、私が居なくなったら勇者様はどうなるの? 他の仲間は..絶対に苦しむことになるわ。

場合によっては死ぬかもしれない..それなのに、セイル様は逃げていいって、命懸けで私の事を考えてくれたんだわ。

始まりは偽りかも知れない..だけど、ものすごく優しい人なんだ、セイル様はそれだけは真実だわ。

3日目

「ジム別れましょう..」

私はジムに別れを切り出した。

「何でそんな事を言うんだ、俺は待っているって」

「待つ必要はないわ..ねぇ..何で待つの?」

「何でって..」

「私が死にそうになって戦っている間、ジムは平和な村で過ごすんじゃない? ただただ、畑耕して安全な場所にいるだけじゃない?」

「リアリー待ってくれ…だったら今からでも良い駆け落ちしよう..」

「もう無理よ..セイル様は私の事やジムの事を考えてくれたわ、逃げて良いってね..だけど私とジムが駆け落ちしたらどうなるの? 本当は犯罪者になるわ」

「それでも俺は」

「普通に考えて幸せになんてなれない..だけど勇者のセイル様が言ったから目こぼししてくれるかも知れない」

「そうだ、セイル様が言ったんだから大丈夫だ」

「それで、セイル様はどうなるの?」

「どうなるかって?…」

「聖女が居ないパーティーで魔王と戦う事になる..傷ついても誰も治してくれない状態で世界を背負って戦うのよ! 死んじゃうかも知れないじゃない」

「リアリー」

「それでも駆け落ちして良いって..そんな優しい人に私は死んで欲しくない、ううん本当に私の事を思ってなければ言えない言葉だよ」

「リアリー、それでも俺は..」

「ジム、同じ事言うわ..待たないで良い..他の誰かと幸せになって…さようなら」

その日の夜、リアリーは俺の部屋に来た。

「何でここに来たんだ」

「自分で考えた末に来たんです、これは勇者様の言うようなことでありません」

「リアリー、ちゃんと考えろ…俺についてくるという事は地獄のような旅に出る事なんだ..それが解っているのか?」

「はい」

「魔王なら俺がどうにかする..大丈夫だ」

「嫌です..私は聖女です、勇者様一人に押し付けてのうのうと生きていこうとは思いません」

「そうか解った」

「…..」

「気持ちは解ったから帰っていいよ、もう駆け落ちしろとか言わない、ジムと一緒に..」

「ジムとは別れてきました…勇者様! 確かな絆を私にください」

俺はリアリーに押し倒された。

そして、俺は受け入れた。

前の時に恥ずかしがって、その結果大切な人を失った。

リアリーを守ることを誓い、熱い夜を過ごした。

次の日、俺は朝早くリアリーと共にこの村を出た。

騎士に何故急ぐのか聞かれたが理由は言わなかった。

ジムの悲しい顔を見たくないからが本当の理由だ..

リアリーは俺の腕の中にいる..こんな姿を..彼に見続けさせたくはない。

送ってくれた村人の中に居ないが、木の陰からジムが見える。

泣きはらした目をしながらこっちを見ている。

彼にひどい事をしているのは解っている。

だが、これは僕にはどうしようも無い事なんだ…

ただ約束するよ..

もし、転生して僕に同じ事が起きたら..ジム、君のように泣きながらでも愛する人を送る。

約束する..

美少女の裸を見れたんだから、死んでも良いよね?
リアリーを連れて王都に向う。

今度は油断しないように、傍に居た。

それこそ、リアリーがトイレをしている時も近くにいた。

流石に見はしないが..

勇者という者は凄い、本当なら変態みたいな行為なのに

「勇者様は心配性なのですね」

で済んでしまう。

最初、リアリーは恥ずかしそうにしていたが、数日で慣れたのか

「勇者様のいう事はこういう事なのですね..」

と理解してくれていた。 最も顔は納得したというより、諦めた顔だが。

自分がしている時に、リアリーが近くに居た時は、顔が真っ赤になった。

自分が見ているのと、見られるのは違うという事だ。

「勇者様も慣れないといけないと思います」

というリアリーの顔は何処か嗜虐性のある顔に見えた。

毎日、同じテントで過ごし、トイレから何から生活は一緒、そういう生活をしてるのに慣れた。

それを見た騎士達はほっとしていた。

「勇者様はよくわかってらっしゃる」

「何がですか」

「私達もたまに女騎士と共闘する事がありますが、日常を晒せる位になるか、男と女の関係で無いなら真の連携は取れません」

「僕もそう思うよ」

流石にそれで失敗したからとは言わない。

「昔し、性豪のエルザという女騎士がいまして、まぁ今は食堂のおかみやっているんですが、街に着くと毎日乱交パーティーをしていました」

「凄い人も居た物だな」

「俺、気になったから聞いたんですよ..どうしてそんな事をしていたのかって」

「気になるな」

「そうしたら、あっけらかんとして、どうせ、騎士からそういう目で見られていたし、キャンプじゃ裸もトイレすら見られるんだし、相手してやる事で連携も楽にとれるからね!と答えましたよ」

「そうか、そうだよな!」

「ですが、まだ続きがあるんですよ」

「他に何て言ったんだ?」

「「男って馬鹿だからさぁ..体を許した女を優先的に守ってくれるんだ「俺の女」そう思い込んでさぁ..実際に私は35歳で騎士を辞めるまでこの通り五体満足だ..私の為に何人もの男が死んで守ってくれたからね」 そう言ってましたよ」

「そうか、たしかに思いあたるな」

「勇者様? 初めて村を出たはずでは?」

「ああっ何でもない..物語を思い出しただけだ」

「どんな話しですか?」

「良くない話だ、聖女も守れず、死んだ勇者の話さ」

「確かに、嫌な話しですね」

ロザリーが一緒に寝たがったのは今なら解る..絆が欲しかったのだろう。

今回は無事に王都についた。

王都では勇者である僕と聖女であるリアリーの歓迎の準備がされていた。

門が開くと沢山の歓声が聞こえてくる。

「勇者万歳、聖女万歳」

そんな声が沢山聞こえてくる。

そして、王の元に行く前に「賢者」と「剣聖」と会った。

2人とも見目麗しい女性だった。

「賢者に選ばれました、レイラと申します、勇者様」

「剣聖になりました、ルイーダです、勇者様」

「聖女のリアリーです」

「勇者のセイルです」

見た瞬間から頭が痛くなった。

せめて1人は男が居て欲しかった。

その場合は、残り二人でペアになって「俺たちみたい」になって貰えば良い。

仕方ない..旅立つ前に荒療治が必要だ。

王と謁見が終わった後、王に俺は頼み事をした

最初、王は渋っていたが、真剣に話すと俺の頼みを聞いてくれた。

「そこまで過酷にしなくてはいけないのですか? そこまで」

「俺は仲間を失いたくないだから..頼みます」

「解りました、だがこれは..何も言いますまい..ただ彼女達には地獄じゃないでしょうか..」

「ここで終わるならそれまで..命がなくならないだけましだと思って貰うしかない」

「解りました」

闘技場に男の犯罪者が300人、いずれも名うての犯罪者だ。

その前に、リアリーにレイラ、ルイーダが裸でいる。

リアリーは冷静だ..旅で少しは慣れたからかも知れない。

「セイル様、これはいったい何なのですか..また試練なのでしょうか?」

勇者様でなくセイル様と言う時は真剣に話をするときが多い。

「勇者様、なんで、こんな酷い事するの? こんなの酷いよ、私、湯あみしていたらいきなりそのまま連れてこられて..」

「勇者、私は人前に肌を晒した事なんかない..場合によっては勇者でもただでは済まさんぞ」

そう、彼女達は湯あみをしている所を此処に連れてこられた、バスタオル一つ身につけさせてはいない。

剣聖、聖女、賢者なんて言っても武器を持たずにレベルが低いうちはこんな物だ。

「あそこに居るのは犯罪者だそれも凶悪な者ばかりだ..死刑囚が多い、そして彼らには伝えてある、勇者パーティーのうち誰か1人でも犯すか殺したら恩赦で罪を許して解き放つと」

「嘘、嘘ですよね..セイル様」

「何で、何でそんな事するの? 嫌、嫌です..」

「ふざけるな? 剣聖の私がなんでこんな恥ずかしい事をさせられるんだ」

やっぱり覚悟が足りない..負けて犯されるかも知れない..そんな事すらまだ頭が回って無い。

同じ条件の為、俺もふるチンだ。

ただ、俺たちの理は武器を持っている事だけだ。

扉が開いて囚人が入ってくる。

「あーん、綺麗な女を犯して命も助かるんだいいな」

「聖女を犯せるなんて..二度とないチャンスだぜ」

「全員、死ぬまで犯してやるぜ」

「たまんねぇ..犯し放題の殺し放題だ..」

「お前ら腑抜けているな来たぞ」

聖女は仕方ない、俺はリアリーを守らないといけないだが、既にリアリーは押し倒されていた。

「げへへ、たまんねぇな..この胸..ぐはっ」

俺はリアリーを押し倒していた囚人の首を跳ねた。

首はリアリーの横に落ちて、そのまま首の無い体がリアリーの上にのしかかってきた。

「ひぃ..ひぃ..嫌、嫌いやあああああああああああっ」

「リアリー、直ぐに立て、攻撃が出来ないのは解るが、せめて杖を振り回すなり、ナイフを構えるなりしろ」

「いや..」

「だったら、犯されて死ぬんだな..俺も一緒に死んでやるから」

「セイル様が..死ぬ..それはもっと嫌..」

持ちこたえた、杖を前に構えた..これで良い。

だが、あっちはもっと駄目だ。

「馬鹿野郎、胸を隠してどうするんだ、そんな胸も股も好きなだけ見せてやれ、前衛のお前が守らないから、レイラが大変な事になっているぞ」

「チクショウ..」

「剣聖といえ女だ、犯してから殺してやるよ」

「しかし、胸がでかいな..犯しがいがあるぜ」

「ああっ泣き喚く顔が見て見たい」

片手で胸や股を隠しながら戦っているから、折角の剣聖なのに、致命傷を与えていない。

囚人は、ニタニタ笑いながら、遠巻きから疲れるのを待っている。

そして、レイラは詠唱も出来ずに震えていた。

周りを取り囲まれているから、犯されるのは時間の問題だ。

俺は斬って斬って斬りまくった。

囚人の多くは俺やリアリーの方には来ない。

そりゃそうだ、確実に殺してくる相手より、覚悟の無い相手から殺していく..当たり前だ。

俺はルイーダを見捨て、先にレイラを助けに入った。

もう既に押し倒されていて、犯されるのは時間の問題となっていた。

「嫌、嫌、嫌..私まだ経験ないの、嫌だよー」

「うるせいな、黙っていろ」

殴られてレイラは目から涙を流している。

馬鹿だな、此奴は「賢者」なんだぜ..お前の能力は..そんな奴より上だ。

レイラの周りの男達を殺し..レイラに馬乗りになっていた男を後ろから袈裟切りにした。

男はズボンに手を掛けてフルチンだ..実に間抜けだ。

そのまま男がレイラに倒れる。

「嫌、嫌、いやぁあああああああ」

「いい加減にしろ、レイラ、旅に出ればこれ以上の事が起きる..もし戦えないなら、出ていけ」

「ひくっひく..帰れません..」

「なら戦え..お前の呪文ならこんな奴ら、だだのゴミだ」

「はい..ファイヤボール」

「ああああああああっやめろ、やめてくれ」

「容赦するな!」

「解りました..皆んなゴミ..ゴミは死んじゃえ..死んじゃえ..死んじゃえ..ファイヤーボール..あははははっ燃えている、燃えているよゴミが」

俺が思った以上に可笑しくなっているが、もう大丈夫だ。

「レイラ、リアリーを頼んだ」

「はい、勇者様..ゴミは串刺しなんだ..死んじゃえアイスニードル..あははははっあはははははっ」

どっちが悪役か解らない..

「焼かれるのも、串刺しも嫌だ..勇者様..せめて剣で殺してくれ」

「解った」

俺の方に来た囚人を首を跳ねた。

もう、俺やレイラやリアリーの元には来ない。

犯すのも殺すのも1人で良い..なら一番弱い者の所にいく

ルイーダは未だに片手で胸や股を隠しながら戦っているから1人も殺してない。

駄目だ、此奴は俺と同じで「斬り込む」役目だ。

「勇者、お願いだ、お願いだ、助けてくれ」

「お前は剣聖なんだ..助けない」

「勇者は手を出さないのか?」

「そうか..おおーい、勇者は剣聖を助けないそうだ、犯し放題犯して..ここから出て行こうぜ」

「嫌だ、やめろ、許して、許して」

「あーん、許してだ..だったらまずその剣を捨てろ..それからだ」

「おい、その剣を手放すなら、俺はお前を剣聖と見ない..よく考えろ」

「チクショウ..あれっ」

目の前の男が真っ二つになった..当たり前だ、目の前の女は剣聖なのだから

「簡単に斬れた」

「お前は剣聖なのだからな」

「勇者..そうだ、そうだよな..あはは」

「この女、全員でやるぞ..」

「ああ、此奴さえ犯せば、恩赦なんだ.」

「クズが口を聞くな..私の綺麗な体を見て死ねるんだ..幸せだなお前達は….あはははははははははっ死ね..あははは!」

「やめろ、やめてくれ」

「私の裸を見たんだ..代金は命だよ..安いよなあははははははっ」

うん、壊れた..もう皆殺しまで時間の問題だ。

王と王妃は顔をしかめた。

「あれが勇者なのですか..」

「余には恐怖しかない」

「お恐れながら」

「騎士団長、許す」

「理に叶っております、オークやゴブリンその他にも人を集団で襲い犯す魔物は山ほど居ります、盗賊でも似たような事をする者もおります」

「そうか..そうであったな」

「人の理から外れた者と戦って貰う、仕方ない事なのですね」

「その通りでございます」

闘技場の中には血にまみれた4人が笑っていた。

この事が後で災いを起こす事は勇者でも..解らなかった。

勇者パーティは地獄だった。
無事討伐を終えて帰ってきた。

勇者が帰ってくる。

その知らせを聴き王都は沸き返っていた。

勇者が無事魔王を倒して帰ってくる..

白馬の馬車で使者が迎えに行った。

そこで使者が見た物は、目の焦点が合わない薄汚い男だった。

「勇者様、よくご無事で」

「…..無事…」

勇者は何も語らない、背中に荷物を背負っているが取ろうとすると暴れる。

結局、そのまま王城迄、連れてきた。

誰もがこのまま王に会わせて良いのか迷った。

目の焦点は合っていない..口から涎を垂らして..その姿はどう見ても狂人だった。

風呂にも入ろうとしないからそのままだ。

だが、

「勇者をねぎらうのは王族の務め」

その王の一言でこの謁見は実現した。

「勇者よ、よくぞ帰られた」

「うけけけっ俺は帰ってきた、そうだ、帰ってきたんだ..仲間と一緒に..」

そう言うと、勇者セイルは三つの髑髏を並べた

「セイルどのその汚い物を..」貴族の一人が言おうとした。

「黙りなさい..この者を退場させて」王妃が叫んだ。

王や王妃、王女は気が付いてしまった。

「仲間と」そう言っていた。

この髑髏こそが、仲間なのだと..

罵っていい訳が無い、国の為に死んだ者を。

「それが、聖女様や賢者様に剣聖様なのですね..」

セイルは頷くとぽつり、ぽつりと話し始めた。

王族も貴族も、勇ましく戦う勇者パーティーしか知らない。

魔族領に入ってからどうなったのか、それは誰も知らないのだ。

勇者は語る。

魔族領に入ってから、人間のお金では何も買えなかった。

だから、食料を得るためには山で獣を狩ったりしながら生きていくしかなかった。

だが、その間はまだ幸せだった。

お風呂も入れない、川で行水するだけ..それでもましだった。

魔王城が近づくにつれ狩れる物はいなくなっていく。

街が拓けていく..

生活する為には「盗賊のようになるしか無かった」

魔族を襲い殺し..金銭や物を盗んで生きていく..

「セイル殿、それは仕方のない事じゃ..自分を責められるな…」

「子供の前で親を殺したよ..もし、逃げて駆け込まれたら追手がくる..仕方ないんだ」

勇者は語る。

魔族と言っても高等な物は、見た目は人間に近いんだぜ..角があったり翼があったりするだけでな。

それを来る日も来る日も殺して生きていくんだ..

場合によっては、「そいつらを食べるんだ」どっちが魔族か解らない。

そして言うんだよ..あいつら..

「いつか魔王様がお前達を殺してくれる」

「お前らは盗賊のような事をして、人を殺して恥ずかしくないのか」

「子供、子供だけは助けて下さい、私はなんでも致しますから」

ってな。

勇者っていう奴には過去には最低の奴もいたそうだ..女の魔族を犯した挙句殺したような奴もな。

王は黙って聞いていた。

勇者は語る。

ここでは勇者は悪の象徴だった。

そりゃそうだ、自分達を殺し金品を奪い、女を犯す犯罪をしていたんだ、我々の言う魔族よりよっぽど酷い。

強い魔族が現れると、英雄を見る目で見ていたぜ。

「ゾルゲ様..勇者を勇者を倒して下さい」

「俺がきたから大丈夫だ」

葬り去った..その時の魔族の目は絶望していた。

何時もの様に村を襲い、子供の魔族を家族ごと殺した。

そんな時に、剣聖のルイーダが言い出した。

「もうこんなのは嫌だ..剣聖なんて言ってもやっている事は野党と同じだ..」

この頃からルイーダは壊れていった。

「あははははっ私は野党だ、野党、何だ」

「違う、剣聖だ」

「そう、剣聖と言う名前の野党だ..うふふふ」

「我こそは四天王の1人ゾーディア、悪の勇者を滅ぼしてくれよう」

「セイル..私は疲れた、もう..此奴を倒して終わりにしたい..」

そう言うと、ルイーダは1人で戦った。

恐らく、本気で戦えば勝てたと思う。

だが、ルイーダはあえて相打ちにして死んだ。

恐らく、剣聖という名前を汚さず、今の生活を終わらせる為に、選んだ死に方だったのだろうと思う。

「そのような事が…」

「まだ終わりじゃない..」

勇者は語る。

魔王城にたどり着き、そのまま踏み入った。

正直言えば、三人ともどうなっても良い..そう思っていたのだと思う。

魔王を必死に守る魔族を殺して進んだ。

「此処にいる皆んなと同じだった..自分の王を、自分達の英雄を守るために必死だった」

「…..」

「人間よ、何故我ら魔族に此処までの事をするのだ」

「それは魔族が人間を襲うからだ」

「襲った? 確かに一部の種類はそうだ、ゴブリンやオークは欲望に忠実だ..だが、高等魔族はそんな事はしない」

「だが、俺は戦った事がある」

「自国の王を殺しにくる、蛮族と人間は戦わないのか?」

「戦うな..」

「民を殺し、金品を奪い幼子まで殺す..放って置くか?」

「おかない」

「なら、同じではないか? ゴブリンやオークは、お前達でいう、盗賊や猿のような物だ、完全な仲間では無い..余のいう事すら聞かない、お前達の王は、その土地の猿や盗賊のした事まで責任はとるのか?」

「とらない」

「高等魔族は、人間の様に殺した者の牙や頭髪は奪わない..人間は牙も皮も奪う..違うか?」

「…」

「勇者、お前は此処に来るまで、どれだけの魔族を殺した..一人で此処まで殺した魔族はいたのか? 少なくとも我は女子供を殺さないように命令していた..聴かない者もいたが..お前に比べたらまだ優しいとは思わぬか?」

「….」

「教えて欲しい..人と魔族、どっちがより惨い事をしている!」

魔王の言う方が正しい..そう思える、少なくとも 賢者や聖女はそう思った筈だ。

「….」

それでも死闘の果てに魔王を倒したんだ。

後は帰るだけだ。

次に可笑しくなったのは賢者だった。

食べる物が悪かったんだろうな、人間用じゃない食べ物を食べ続けていたから体を壊していたよ。

「あははは、魔王を倒せるまで持って良かった..これで安心ですね」

「そんなこと言うな..後は帰るだけなんだからな」

「もう、わかってますよ..リアリーの魔法で無理ならどんな人間も治せません」

「そんな事言わないで..教会にさえ行けば、完全回復薬があります」

「治らないと思うよ…もう良いんだ…疲れたよもう..」

俺の背中でレイラは死んだよ..

魔王討伐って..心が壊れていくんだよ..帰る時は特に..

そりゃ王様で英雄の魔王を殺したんだ..恨まれもするし、石も投げつけられるって..

逃げて逃げて逃げまくって..殺して、殺して殺しまくる。

しかも、頭が解ってしまったんだよ..相手の言い分の方が正しいって。

女子供まで殺しながら奪って、食べて 逃げているんだ..盗賊だよこれじゃあな。

恨まれて当たり前だ..レイラは、体もそうだが、精神的に耐えられなかったんだと思う。

精神が生きる事を拒絶したんだ。

そして、リアリーだ

リアリーは多分一番壊れていた。

だけど、俺の為に最後まで生きてくれていたんだ。

あと少しで魔族領を越える、そこまできた時に、最後に倒した魔族の治療をしたんだ。

治さなければ、多分俺の横に居たと思う。

だけど、彼奴の良心が許さなかったんだな..

結局、治してやった魔族に殺された..

そりゃそうだ、体を治してくれたって..大勢の仲間を殺した奴なんて感謝しないし..殺すさ。

「勇者よ..すまなかった..それしか余に言えん..いや言えない」

「仕方ない..解っているさ」

「勇者よ何を望む..姫が欲しいなら、どちらでも、いや両方をあげても良い..王になりたいなら、余の後を継いで貰って構わない」

「何でも良いのか?」

「余で出来る事なら」

「なら、死を望む..」

それだけ伝えると…僕は自分の首を掻っ切った。

幾ら勇者でも聖剣なんだ死ねるだろう..

「勇者! 何をしている!」

「哀れと思うなら、この骸骨と一緒に景色の良い場所に弔ってくれ…じゃぁな」

僕は知っていた..城を出る前から貴族や一部の人間に嫌われ、恐れられていた事を。

僕が生きていると怖がる人がいる..

これで良いんだ..

後悔
死んだ俺は再び女神に会った。

この場所が何処なのか察しが付く、そして目の前の女性が誰なのかも解る。

この前の女神とは違う、だがその神々しさは女神以外に考えられない。

「この度の活躍は素晴らしい物でした..流石は勇者に選ばれる事はあります」

「沢山の魔族を殺しました..子供も女も..」

「気にする事はありません..加護の無い者など人では無いのです」

「人では無い?」

「はい、神からすれば喋るだけの虫です。幾ら殺しても貴方が気に病む必要はありません、私に逢えているのがその証です」

「そうなのでしょうか?」

「はい、死んでから私に逢えるという事は、素晴らしい人生を送ったという事なのです、自殺という罪すら許される程の手柄を立てたから此処に貴方はいます」

「あの、リアリーやレイラやルイーザはどうなりますか?」

「勇者と共に戦った英雄です..そして彼女達は皆んな貴方を愛しています..次も聖人として生まれて、貴方と共に魔を砕くでしょう」

「女神様、お願いです..彼女達に平穏な人生を送らせて頂けませんか?」

「本来は、勇者とはいえ、そんな事はきけません..ですが私は貴方の苦悩を知っています、その願いを叶えましょう、その代わり貴方の「勇者」これは変えれません…そして聖人で無い以上は貴方とあの子達の縁は切れます、良いのですか?」

「はい」

(リアリー、レイラ、ルイーザ..幸せにな..)

「それでは、勇者、セイルお行きなさい!」

それから僕は何度生まれ変わっても「勇者」だった。

勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者勇者

「神の寵愛」のせいなのか、記憶が持ち越されている。

能力はリセットされてしまうが、効率の良い体の鍛え方や強くなる方法が知識としてある。

だから、前より上手く戦えた。

だが、心はどんどん壊れていく..

仲睦まじい恋人を引き裂き。

平和に暮らす、魔族達を容赦なく殺し、食べて..

仲間の死を見て、仲間が壊れていく姿を何回も見た。

そんな事の繰り返しだ..

どんな美女と暮らしても、王に成ろうが、貴族になろうが心は癒せなかった。

だから、僕はある時から祈るようになった。

「次こそは勇者になりませんように」

何時も祈り続けた。

そして何時も思うようになった。

無難が一番だって、平凡が一番幸せなんだって..

そして、ようやくその願いは叶えられた。

ようやく、「猟師」という平凡なジョブが貰えた。

だが、幼馴染のユリアが聖女になった。

諦めるしかない..聖女は勇者を好きになる..そういう運命だから。

僕は、勇者になりどれだけの恋人を奪ったか解らない..そんな僕が「奪わないでくれ」そんなこと言えない。

勇者ルディウス..君がこれからどう生きるか考えたら、返して欲しいなんて言えないさ..

だが、俺から見て ルディウスは甘い人間だった。

死んで貰いたくない、ユリアを守って欲しい..その気持ちから、手ほどきをした。

恨んで良い、ユリアの親に恨まれても構わない..

良い奴だった..あんな酷い事したのに解ってくれた。

僕が死ぬか心配までして..俺はお前の方が心配だ。

「死ぬなよ」 今の俺には言う資格は無い..ただ、勇者ならユリアだけは守ってくれ。

言う資格は無い解っているさ。

「すまない…解った約束する」

これで良い..

俺は、村からも嫌われただろうな..

旅にでもでるさ..なぁに魔族の領地に比べれば何処も天国だ。

甘かった、甘すぎた。

ルディウスもユリアも死んでしまった。

勇者になる事を拒んだ俺が、初めて、勇者にならなかった事を悔やんだ。

猟師の死
最早、俺は勇者ではない。

今迄は、運命に縛られて戦っていた。

今迄で初めて、自分の意思で魔族を殺そう..そう思った。

勇者で無いから、強靭な力も無い。

勇者で無いから聖剣も使えない。

だが、それでも良い..魔王を倒すわけではない…魔族を1人倒すだけだ。

殺した奴は解っている。

有名な魔族なので簡単に解った。

勇者に勝ったのだ..話題にならない訳が無い。

「勇者殺しのアムラ」そう名乗っている。

冒険者ギルドに依頼を掛にいったが、何て事は無かった。

ゼルトの街が襲われるから防ぐ為の仲間を募っていた。

つるむ気はない。

だから、俺はゼルトに向う途中の一本道で待ち伏せする事にした。

堂々と歩いてきた。

アムラは恐ろしく強い、そして仲間すら殺す位残虐だ、だから1人で何時も行動している。

ただ、此奴は女を凌辱したりはしていない…ただただ人を殺す、それだけだ。

何故、この様な事をしているのかは解らない。

「お前が、勇者殺しのアムラだな..」

「お前はなんだ、ただの人間か…失せろ殺さないでやる」

「何故、俺を殺さないんだ..皆殺しにしているんじゃないのか? 俺はお前を殺しに来た..」

「ほう、たかが人間がか..良いぜ、殺してやる、お望み通りにな」

俺は、空歩を使い空を歩いた。

「ほう、可笑しな技を使うんだな」

アムラは俺の目の前に居た、空を飛べるのか?いや、ただジャンプしただけだ。

不味い、空の理が使えない。

アムラが殴りかかって来るのを体を捻って躱した。

「俺の一撃を躱したのはお前が初めてだ、良く躱したもんだ、勇者ですら躱せなかったのにな」

俺は聞きたい事があった

「アムラ、お前は、女子供は殺さないと聞いた、それなのに何故、勇者の連れを殺したんだ」

「彼奴は聖女だった、四大ジョブは皆殺しにする、そう決めていた」

「そうか? もう聞く事は無い..いくぞ」

「ああ」

アムラはただ、殴りかかってきた。

勇者なら剣で戦えるだろう、だがただの猟師じゃ無理だ。

だから、とっておきの物をお見舞いする。

ズガアアアアアン..

「そんな物効かんな..何、俺の、俺の目が」

通常の弾丸なら魔族には効かない。

目ですら効かない..だがこの弾は特別製だ。

魔獣殺しに使う銀の弾を司祭に清めて貰った物だ。

だから、魔族にもある程度効く。

魔族によっては体を再生させるものも居る…だが、目を再生させたものはいない。

「その弾は特別なんだ、魔族でも潰れた目は戻らない」

「ほう..目を潰すか..良いなお前..」

アムラは本気になったのだろう..直ぐには襲ってこなかった。

俺は次の手段としてナイフで斬りかかった。

「俺の体はミスリルですら斬る事ができない無駄だ」

「そうか?だが自慢の角は折れているぜ」

「俺の角が..面白れぇ..面白れぇよ..お前..」

俺が気が付いた時には既にアムラは俺の目の前に居た。

そして、力任せに俺を殴りつけた、体を躱したが間に合わない..掠っただけなのに、俺の左手は千切れていた。

これが普通だ..勇者だから、剣を使い真っ向から打ち合えた..

だが、これで終わらせない、右手で持っていたナイフでそのまま残った目を狙う。

このナイフが何故アムラに効くのか?

これには種がある..此奴は、聖剣の欠片だ。

今の時代のじゃない..大昔しの聖剣だ..何故壊れていたのか解らないが街でガラクタとして売られていた。

「おっと、二度目はきかないぞ..あぐっ」

目を守ろうと手を出したからガラ空きの口にナイフを突き立てた..だが、そのまま手を食いちぎられた。

「これで終わりだな、両手が使えないんじゃ無理だろう..終わりだ」

アムラが俺に殴りかかってきた。

俺は最後の手段、起爆石を使い自爆した..

終わった、もう何も出来ない..

両手も使えなければ..今の爆破でもう体も火傷した..アムラは..

「人間良く戦った..誇ってよいぞ..」

ユリア、ルディウス..すまない..俺は敵もとれなかった。

エピローグ
アムラはゼルトの街を襲わなかった。

片目を失い、角を失った為じゃない..戦いに満足したから襲わずに帰った。

それが真相だ。

この戦いが元で更に研鑚をし、魔王すらも殺し魔族に君臨した。

そして、「真魔王」を名乗る事になる。

アムラは9つの国を魔族を率いて滅ぼした。

その際に必ず触書をだした「俺と一対一で戦い勝利した者が居たら、その国には二度と魔族は襲わない」そういう触れだ。

沢山の英雄と言われる者が戦いを挑んだが、傷さえつけれる者はいなかった。

ただ、人類には希望があった、あのアムラの目と角を奪った、凄腕の勇者がいる..そういう希望だ。

その人間は勇者ではなくとっくにアムラに殺されている事を知らない。

これから後10年、人類にとって暗黒の時代と呼ばれる事になる。

その間にも勇者が現れたが、アムラには敵わなかった。

だが、10年後、セイルと言う名の勇者が現れた、その勇者の隣にはユリアと言う名の聖女が居た。

その勇者は剣聖や賢者、聖女の手を借りず、単身、アムラに戦いを挑み勝利した。

殺された、アムラは満足そうに死んでいた。

その勇者が猟師のセイルだったのか同名の別人なのかは誰も知らない。

あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。

私の中で実は勇者の待遇を考える時、二つの考えがありました。

一つは「勇者だから何をしても良い訳じゃない」

これについては、私も「勇者への復讐物」を書いていますし、なろうでも沢山の人がテーマにして書いています。

よくある話です。

ですが、私は捻くれているのでしょうか?

もう一つの考えが浮かんできました。

「勇者は何をしても許される」です。

私の代弁者が実はリアリーです。

「私が死にそうになって戦っている間、ジムは平和な村で過ごすんじゃない? ただただ、畑耕して安全な場所にいるだけじゃない?」

世界の為に、全てを犠牲にしているのが「勇者」だと思います。

本当の討伐は地獄だと思いますよ、まして敵国に侵入して、そこの王をたった4人で殺してこい。

貴方が言われたらどうします? 逃げたいですよね..しかもその運命から絶対に逃れられない。

だから、その話がどれ程の地獄なのか、それを書いてみました。

恐らく、なろうの小説で「復讐された沢山の勇者」もこういう困難を乗り越えて帰ってきた筈です。

恋人が寝取られたからって、復讐して良いのでしょうか?

ズルい方法でその能力を奪って良いのでしょうか?

 
「平和な場所で暮らして、のどかに彼女の帰りを待っている奴」

より沢山の苦労をしている筈です。

今回の話は、勇者側にたってその苦労を書かせて貰いました。

勇者の辛さを知って貰いたかったのです。

また何処かで、..

石のやっさん