リリ 勇者と一緒に行かないで…

リリ 勇者と一緒に行かないで…
僕の名前はルディ..普通の村の村人の息子に産まれた。

僕には、可愛いい幼馴染がいる。

彼女の名前はリリ、凄く可愛い僕には勿体ない女の子..

小さい頃から一緒にいて、僕たちはまだ子供なのに将来は結婚するのかな..そう思っていた。

少し前まではそうだった…

だが今の僕は…彼女を諦めている。

僕と彼女は絶対に結ばれることは無い

………………..
………..

10歳の誕生日に僕は昔の記憶を取り戻した。

昔の僕はいわゆるオタクだった。

そして、その時に気が付いてしまったんだ..此処が「白銀の勇者」という小説の中の世界だという事を。

そして、リリはヒロインで将来、聖女になる。

僕は、猟師になって、勇者にリリを寝取られる役回りだ。

物語通りに話が進めば、僕とリリは婚約をする。

だが、その後にこの村から聖女が誕生するという女神の神託が降りる。

リリは聖女になり、その後、迎えに来た勇者一行と旅立つ。

その時に僕は裏切られて振られる。そして、後に勇者とリリが結婚する。

しかも、勇者に嫌われる事を危惧した僕は村を追い出される。

そんな話だ。

その記憶を取り戻した時は涙が止まらなかった。

僕は前世の記憶を取り戻してもリリが好きだった。

近くにいれば居るほど手が届かないもどかしさに包まれた。

勇者さえ死ねば..そう考えた事もあるが..そんな事をしたら世界が終わってしまう。

いっそ、リリを殺して死のうか..そう考えたけど出来なかった。

リリの笑顔を見たら出来なかった。

だから、諦めるしかない..ようやくそう思えるようになった。

リリが好きで好きで仕方ない…だけど、絶対に結ばれることは無い。

しかも、勇者が魔王を倒して帰ってきた時にはもうリリも僕も24歳だった。

この世界は、前の世界と違い、24歳と言えば子供の2人もいるのが当たり前だ。

それから、結婚相手を探すのは至難の業だ、猟師だった僕は..最後はスラムで死んだ。

リリ以外にも嫁が沢山居て、ハーレムで暮らしている勇者とは大違いだ。

結局、僕はリリを諦める事にした。

リリが聖女になって、勇者が迎えに来る時まで笑って過ごそう…そう思っていた。

しかも、前世の記憶ではヒロインの名前はリリではなく、リリアだった記憶がある。

もしかしたら、リリと違う女性かも知れない。

だから、僕は思った。

もし、リリが聖女に選ばれたら、黙って村をでよう。

幸い、僕が得られたジョブはその物語では猟師だった。

村人や農夫じゃない、だから他の土地でも生きていける。

リリが悪い訳じゃない。

二人が14歳になるまで、楽しく生活すれば良いじゃないか?

こんな可愛い子が一時とは言え、僕を好きになって傍に居てくれるんだ。

それで良いじゃないか?

そのまま、僕は12歳になった時にリリから結婚を申し込まれた。

これは、ぼかして誤魔化すつもりだったが駄目だった。

結局、僕は受けいれてしまった。

これが、もしかしたら物語補正なのかも知れない。

物語のヒロインのリリと寝取られ役の僕は…何があっても勇者に寝取られるまでは別れないのかも知れない。

2人の歳が14歳になった。

ますますリリは綺麗になった。

あと半年で僕やリリは大人になる。

そして、その時に、僕は猟師のジョブを貰い、リリは聖女のジョブを貰う。

もう半年、そこでお別れだ。

大好きだけど..好きだけど..今は愛してくれているけど裏切る女。

こんなに大好きなのに…愛してくれているのに..不幸しかない未来。

いよいよ、明日が成人の儀式、ジョブを貰う日だ。

明日儀式でリリは聖女になる。

そして僕は猟師になる。

そして一週間後には、彼女は勇者と旅立ちもう僕の元には帰ってこない。

僕の初恋は実った。

もういい、僕は信じられない程幸せだった。

それだけで良いんじゃないかな…少なくとも前世も含んでこんな幸せな時を過ごしたことは無い。

明日は、精一杯祝福しよう。

そして、勇者とリリが旅立つ時には、精一杯笑顔で送ろう…その後は

旅にでも出ようかな..そうしよう。

僕は、幸せだ…

なのに、さっきから何で涙が止まらないんだろう。

幸せなのに、こんなに幸せなのに…なんでだ。

僕は井戸で顔を洗った。

《リリ..思い出をありがとう…本当にありがとう..愛しているよ》

…………………………..

……….

そして成人の儀式の朝になった。

「どうしたのルディ、眠れなかったの?」

「うん、眠れなくて..」

「お互い良いジョブが欲しいね」

《君は大丈夫だよ..聖女のジョブを貰うから》

泣きたいのを我慢して笑顔を作る。

この一週間がリリと過ごす最後の一週間だからだ。

「ルディは何のジョブが欲しいのかな?」

「そうだな、猟師が良いかな..生活に困らないし身も守れるし」

《猟師、確定だけどね》

「そうかー私もルディと離れたくないからお針子とか機織り娘とかが良いな」

「そうだね、お互い希望のジョブだと良いね」

……………………………..

…………

やはり、僕のジョブは猟師だった。

「良かったねルディ、希望のジョブで」

「うん、ありがとう..」

「元気ないね、ルディ、あっもしかして騎士や冒険者に憧れていたとか?」

《笑顔でいなきゃ..彼女の笑顔を壊したくない》

「うん、ジョブなんて実は何でも良いんだ..リリと一緒に居られさえすれば」

「そうなんだ…何だか照れちゃうよ..ありがとう!」

いよいよ、リリの番だ。

僕の時と同じように近隣からきた5人と一緒にリリが並ぶ。

神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げる。

すると、紙に自分のジョブが出てくる。

普通、それだけだが、僕が読んだ本ではリリの時は天使が降りて来た。

《やっぱり》

周りの人は嬉しさで興奮しているけど..僕にとっては悪夢だ。

天使が降りてきて…真っすぐにリリの方に向かった。

《リリ、幸せにね..》

天使はリリの前に手をだすと優しくリリを抱きしめた。

そして、暫くすると帰っていった。

………………………

………

「これは凄い、何とリリ、いやリリ様のジョブは聖女だ」

「えっ聖女って」

リリは戸惑いのなか、司祭や他の皆んなに囲まれていた。

うん、僕の初恋はこれで終わった。

次の日にはリリの両親から僕に正式に婚約を断る話がきた。

《うん、仕方ないな…僕に家族が居ないのははついている、泣く事も出来るし、何時でも旅立てる》

《大丈夫、もう気持ちは決まった》

そして1週間がたち勇者達がリリを迎えに来た。

直ぐに旅立つと思ったが、勇者達は直ぐに旅立たなかった。

数日後、リリと勇者の逢瀬も見てしまった。

流石に落ち込んだ。

リリから直接、別れ話が出た、「もう、聞いているから」静かに答えて後にした。

優しい顔で勇者を見ていた。

僕の見ている前で、流石にリリから勇者にキスした時には泣きそうになったが…知っていた事だ。

これから彼らは過酷な旅の末に魔王を倒すのだ…諦めよう。

「しかし、勇者ケイン様はかっこ良いわね」

「流石、勇者ケイン…俺も大きくなったらあんな風になるんだ」

《勇者ケイン? おかしい、僕が知っている勇者の名前とは違う》

何かが可笑しい…何が可笑しいんだ、僕の記憶にある「白銀の勇者」の勇者はプラチナブランドの髪をしていた。

なのに、あの勇者は茶髪だ…可笑しい。

そして、思い出してしまった….この世界はまだ、本当の勇者が現れる前の世界だ。

勇者ケインは慢心して、魔王はおろか四天王にも勝てずに殺される。

《勇者ジェイクなら、リリを任せて良かった…だけど、勇者ケインじゃ任せられない》

僕はリリに縋った、惨めでも何でも良い…リリが生きているならそれで良い。

「リリ、君が旅立たないでくれるなら何でもする…だから行かないでくれ!」

「ねぇ、ルディ、貴方は何を言っているの? 勇者や私が戦わないと世界が困るのよ..」

「戦いなら他の勇者や騎士団に任せれば良いじゃないか? ここで暮らしてくれないか…頼むよ..」

僕は必死に頭を下げた。

「他の勇者なんて居ないじゃない…それに私はケインを愛しているわ…私が愛してるのは勇者ケイン…貴方じゃない」

「僕を愛してくれなくても構わない…だから行かないでくれ」

「はぁ-見苦しわ…ルディ、本当に見損なった、何で貴方が好きだったかわからないわ、目の前から消えてくれる」

「何でもするから、お願いだから行かないでくれ」

そこに勇者ケインがやってきた。

「男として最低だな…お前はりりに相応しくない、消えろ」

「頼むから、リリを巻き込まないでくれ」

「消えろって言っただろう…いい加減にしろ」

「私の思い出迄、壊して貴方は何がしたかったの? 本当に馬鹿みたい..もう顔も見たくない」

「未練がましい男だな…流石に腹がたったよ」

勇者ケインは僕を殴りつけた。

「ただの猟師のくせに、難癖付けるから..そうなるのよ? もう話し掛けないで、もう顔も見たくないわ!」

「全く、本当に最低の男だな…見苦しい」

「リリ…行かないで…」

勇者に殴られた僕は気を失った。

僕が目が覚めたのはそれから2日後だった。

すでに、勇者とリリは旅立った後だった。

村の皆んなは、恋人だったリリを失った僕に優しかった。

その事が、僕がやはり正しかった事を思い知らされた。

もし、これが正しい話なら僕は村人に嫌われたはずだから…

だから、これは「白銀の勇者」の前の話だ…だから、彼らは死んでしまう。

「リリ….」

僕の死っている物語でケインは殺されていた。

それは数行の事だ…案外リリは生き延びたかも知れない。

それから3か月が過ぎた。

知らせが入った。

勇者ケインの死とリリの死だ。

魔王四天王の一人「剛腕のマモン」相手に戦い殺された。

その死はすさまじく、ケインは手足と頭を潰された状態で、リリは顔半分が焼かれて、裸に剥かれた状態で手足が引きちぎられ、城壁に鎖で吊るされていたそうだ。

《だから僕は止めたんだ…》

僕を捨てた女の事なんか忘れろ….何回も思った..だが忘れられない。

気が付くと僕は魔物ばかり狩っていた。

猟師で強くなりたいなら魔物を狩れば良い…通常の動物を狩らずに魔物を狩れば強くなれる。

狂った様に狩って狩って狩りまくった。

月日がたち、いつの間にか僕という言葉使いが俺に変わった。

片目はブラックベアーと戦い潰された..だが魔道具の目を入れたから見える。

シルバーフォングの群れを倒した時に片足は無くした…だが、高いお金を払ってミスリルの義足にしたからより強くなった。

俺は何をしているんだ…女々しい…

ギルドにお金を払い「剛腕のマモン」の情報を探して貰った。

そして、剛腕のマモンが城塞都市ギルメドを襲う情報を掴んだ。

ギルメドは高い城塞に囲まれている、そして強力な騎士団とゴーレムを使う魔術師が居るので有名だ。

流石のマモンとてただでは済まないだろう。

俺は、ギルメドの近くの森に陣取った。

《悪いな、俺は勇者じゃない…だから助けには入らない》

如何にマモンといえど、都市の一つも潰した後なら怪我くらいするだろう…そこを叩く。

こいつは、自分の強さに自信を持っている…だから他の四天王の様に部隊では動かない…いつも一人だ。

だからこそのチャンスだ。

自分の復讐の為に…

マモンは情報通り、ギルメドを襲った。

城塞都市から悲鳴がこの森まで聞こえてきた。

どの位、時間が経ったのだろうか…マモンが出て来た。

《無傷だと!》

だが、行くしかない、今を逃したらもうマモンと戦う機会は無いだろう。

「魔王四天王のマモンだな! 決闘を申し込む!」

「ほう、人間の分際で我に決闘とは…面白い受けて…」

その瞬間、俺は猟銃をぶっ放した…俺の猟銃から出た弾がマモンの右目を潰した。

この弾は、魔族や魔物に有効な銀の弾を多額な報酬を払い教皇に直に清めて貰ったものだ。

それに猟師の最高スキル「必中」を使い打ち出した、如何にマモンでも目位なら潰せる筈だ。

《虫けらが強者に挑むんだ…これ位はしないとただ死ぬだけだ》

「貴様…まだ、名乗りも済ます前に攻撃してくるとは卑怯だぞ..残酷に殺してやる!」

マモンが襲い掛かってきた。

俺は咄嗟に猟銃を前に構えて受けたが、その猟銃ごとマモンは俺の右手を掴み引き千切っていった。

「もう、お前の武器は無い…ただ、我に殺されるだけだな…この目の代償は大きい..いたぶって殺してやる楽に死ねると思うなよ!」

「ふっ、やれるものならやってみな! 口だけ魔族が」

《俺は何をやっているんだ…自分を捨てた女なんかの為に..あらかじめ、麻酔草を使ったポーションを大量に飲んで居なければ気を失っているな》

マモンは俺の頭を潰そうとしてきた。

俺は残った左手で腰のハンマーを抜いてマモンの角に振り落とした。

角は魔族の象徴であり、力の源だ。

「はははは、魔族の角がそんな簡単に折れると思ったか? お前如きの力で折れる訳など無いわ」

「そうか…だがお前の頭の角は折れているが..お前は魔族で無いのか?」

確かにマモンの言う通りだ、魔族の角など聖剣でも使わなければ折れないだろう。

俺は猟師だ聖剣等手に入らないし使えない、だから探した、聖剣に勝る武器を..そして見つけたのがこのハンマーだ。

このハンマーはドワーフの村の長が聖剣を鍛えるために使ったハンマーだ、最初「幾らお金を詰んでも売らない」と言われた。

だが、何回も足を運ぶうちに、何に使うのか聞かれた。俺が「マモンの頭に打ち込む」と言うと笑いながら譲ってくれた。

「貴様…俺の角を、俺の力の象徴を良くも..許さん」

「なぁ..いい加減にしてくれるか..さっさとかかって来い」

もう、俺にはなすすべも無かった、突っ込んできたマモンはいとも簡単に俺の左手を千切った。

俺の左手はハンマーごと宙を舞っていた。

「両手が無いんじゃ何も出来ないな」

「そう思うならかかって来い!」

マモンはそのまま突っ込んできた…俺はミスリルの義足をそのまま併せて蹴りを入れた。

だが、ミスリルの義足はあっさり砕けて、俺のお腹からマモンの手が生えていた。

マモンは俺を無視して立ち去った…

これが俺の精一杯だ、角を無くし、目も片方失った彼奴は最早、四天王では居られないだろう。

ただ、それだけだ、それだけの為に命を捨てた。

《全く、自分を愛してもくれなかった女の為に俺は何をしているんだ…》

リリ、俺はお前の敵も討てなかった…

俺の気持ちも知らないで、お前は天国でケインといちゃついて居るんだろうな…

本当に俺は….馬鹿だ….

「酷いよルディ…せっかく迎えに来てあげたのに」

そんな声が風に乗って聞こえて来た….多分、俺の..気のせいだ..

彼の死に様を隠れて見ていた少年が居た。

絶対強者の「剛腕のマモン」に真っ向から立ち向かい、角と目を奪った人間がいた。

その姿に少年は物語の勇者を見た。

そして、その少年は何時しか、「彼の様に強くなりたい」そう思うようになった。

その少年の名はジェイクと言った。

リリ 勇者と一緒に行かないで… リリサイド 
私の名前はリリ、普通の村娘だった。

私には大好きな男の子がいる。

近くに住む、ルディ凄く可愛らしい男の子だ。

本当に凄く綺麗で可愛いんだよ?

肌なんか私より白いし…目が凄く澄んでいるの。

正直、ルディと幼馴染の私ってついていると思う。

だって、ルディがもっと大きな村で、沢山女の子の居る場所に生れたらモテモテだと思う。

だから、いつも私はルディの傍に居る..そうしないと他の女の子に取られちゃうから。

こんな小さな村にもライバルは何人か居るの…まぁ歳が少し離れているから、私が一番有利なんだけどね。

だけど、最近、ルディが元気が無い。

せっかく、仲良くなれたのに、実質上の彼女に馴れたのに….いつも寂しそう。

私の傍に居るのに…居ない…そんな感じがしてならない。

ルディは何時も私に優しい…なのに何故か寂しそうだ。

12歳になった時、私から強引に結婚の約束を切り出した。

何故か彼は拒んでいたけど..最終的には婚約してくれた。

これで、もうルディは私の者だ….安心。

それからも二人で楽しく過ごしていた。

だけど、何故かルディは前以上に寂しそうな顔を良くする。

私が傍にいるのに、寂しそうな顔をする。

だけど、そこが惚れた弱みなのかな…その儚げな横顔にも見惚れてしまう。

それから時がたち、2人とも14歳になった。

明日は成人の儀式だ…つまり大人になる。

何が言いたいのかと言うと…ルディとの婚約が結婚に変わる日だ。

待ちどうしくてしょうがない。

だって、明日が過ぎれば…何時でも結婚出来る。

きっと奥手のルディの事だ…告白はしてくれない。

だから、私からプロポーズする!

ルディがジョブを貰って、私がジョブを貰ったらプロポーズするんだ….もう決めた。

わたしは何のジョブを貰うんだろう…一番欲しいのは「お針子」だって良くルディは服を破るから。

そして、運命の日が訪れた。

やはり、ルディのジョブは猟師だった。

「良かったねルディ、希望のジョブで」

ルディが猟師のジョブを欲しがっていたのは知っていた..なのに何で悲しそうなの?

「うん、ありがとう..」

《何で泣きそうなの?》

「元気ないね、ルディ、あっもしかして騎士や冒険者に憧れていたとか?」

「うん、ジョブなんて実は何でも良いんだ..リリと一緒に居られさえすれば」

《どうしよう?顔が赤くなる…私らしくないよ…不意打ちはずるいと思う》

「そうなんだ…何だか照れちゃうよ..ありがとう!」

いよいよ、私の番だ。

ルディの時と同じように近隣からきた5人と一緒に並んだ。

神官様から紙を貰い神官の杖に合わせて祈りを捧げた。

そうしたら何故か天使が降りてきて…真っすぐに私の方に来た。

知っている..これって聖女や勇者のジョブの時に起こる事だ。

《嫌だ…来ないで..ルディの傍に居られなくなる》

天使は私の前に手をだすと私を抱きしめた。

そして、暫くすると帰っていった。

………………………

私は茫然としていた。

《何で、何で私なの…》

………

「これは凄い、何とリリ、いやリリ様のジョブは聖女だ」

「えっ聖女って」

私は戸惑いのなか、司祭や他の皆んなに囲まれていた。

聖女になるって事は誇りに思わなければいけない….泣きたい気持ちを押さえて笑顔を作った。

家に帰って思いっきり泣いた。

泣きながら私は婚約の破棄をルディに伝えて貰うように両親に伝えた。

両親はもうどうする事も出来ないのを知っている…

《何でこの子が聖女なんだよ》

そうお父さんの言葉が聞こえてきた。

《貴方..》

悲しい顔で引き受けてくれた。

そして1週間、私は未練がましく遠くからルディを眺めていた。

直接話す勇気は無かった。

そして勇者ケインが私を迎えに来た。

これからの人生はこの人と過ごさなければ成らない…私の女としての人生もルディに対する思いも捨てなければいけないのかな….

だが、違っていた。

この人、勇者ケインも別に好きな人が居た。

「だけど、俺は勇者だから、彼女の事は諦めるしか無いんだ…だけど万が一早く魔王を倒せたら..その時に彼女が一人だったら…うんプロポーズする」

私はルディの事を話した。

いつも彼は黙って聞いてくれた。

そして、私はケインにお願いをした。

ルディが見ている前で彼にキスをした。

泣き顔でルディは走っていった。

「これで良かったのか?」

「ええ、だってルディには幸せに成って欲しいから…こうでもしないと彼義理堅いから一生独身で過ごしそうだもん」

「それが君の幸せじゃないのかな?」

「彼、モテるんだよ! 私が居なければ…きっと他の子と幸せになれる….だから」

「そうか…お互い辛いな」

彼と私は同じだ..そう思った。

ルディは別れが近くなると急に変わった。

何が何でも私と別れたくない、そういう感じになった。

《嬉しくてしょうがない…もし出来るなら抱きしめてあげたい..だけど出来ない》

あのルディがこんなにも私を望んでくれる、嬉しくない筈がない。

だけど、私は聖女になった、私やケインが戦わないなら世界が終わる。

仕方ない…

「リリ、君が旅立たないでくれるなら何でもする…だから行かないでくれ!」

《ありがとう..でもそれはどうしてもできないの、自分の気持ちを押さえて言い訳をした》

「ねぇ、ルディ、貴方は何を言っているの? 勇者や私が戦わないと世界が困るのよ..」

《私だってルディと居たい…このまま一緒に居たい》

「戦いなら他の勇者や騎士団に任せれば良いじゃないか? ここで暮らしてくれないか…頼むよ..」

《それが出来るならするよ…》

「他の勇者なんて居ないじゃない…それに私はケインを愛しているわ…私が愛してるのは勇者ケイン…貴方じゃない」

《私、貴方が大好き…だけどね、貴方には幸せになって貰いたいの…だから私の事なんて忘れて》

「僕を愛してくれなくても構わない…だから行かないでくれ」

《そこまで心配してくれるの…残れるなら貴方を愛すよ…貴方を愛さないならここに居る意味もないよ》

「はぁ-見苦しわ…ルディ、本当に見損なった、何で貴方が好きだったかわからないわ、目の前から消えてくれる」

《気持ちに反した言葉を言うのは辛い..もう辞めて》

「何でもするから、お願いだから行かないでくれ」

《嬉しい、だけど答えられない….私は一生貴方を忘れない..さようなら》

そこにケインがやってきた。

悪い事をした、彼は憎まれ役を買ってくれた。

ルディを罵倒して殴りつけてくれた。

《これで良い..》

「ただの猟師のくせに、難癖付けるから..そうなるのよ? もう話し掛けないで、もう顔も見たくないわ!」

《これで本当に嫌われるわよね、私なんか忘れて幸せになってね》

「全く、本当に最低の男だな…見苦しい」

「リリ…行かないで…」

《最後まで……心配させて》

ケインと話し合い直ぐに旅立つ事にした。

「本当に良かったのかい?」

「仕方ないじゃない…ルディの顔を見たら涙が止まらなくなりそうなんだから」

「そうだね…彼も泣きそうだな」

「そうね」

「そうだ、男の俺から教えてやる…彼は君に一途だ、多分死ぬまで君を待っていると思う」

「そう?」

「そうと決まったらさっさと魔王を倒してお互いに愛しい人の元に戻ろう」

「うん」

少しでも早く強くなりたかった。

無理に無理を重ねた。

そのせいか、既に魔族ですら倒せる位になった。

そして、救援の知らせが騎士団経緯で届いた。

正直、この城の貴族を殺してやりたくなった。

相手が誰か聞いたら来なくなる、そう考えた領主は誰が攻めてきていたのか隠した。

街は破壊され、城に居たのは「剛腕のマモン」だった。

出会ってしまったからは戦うしかない…他のジョブなら助かるかも知れない..だが、勇者と聖女のジョブ持ちを魔族が逃がす訳はない。

未熟な勇者と未熟な聖女…歯が立たなかった。

ケインの聖剣は簡単に折られ、剣技や魔法も歯が立たない。

私の結界は簡単に砕かれ、回復魔法じゃ追い付かなくなる位の攻撃を食らった。

ケインはマモンに腕を潰され、次に頭を潰され死んだ。

次は私の番だ…

「女、俺は女をいたぶるのは好かない」

私は、服を剥かれ裸にされた。

「聖女である、お前が人前に肌を晒したんだ..負けだ..何処へでも逃げるが良い」

《好きな人を諦めて、同行した勇者が死んで、逃げても私の人生は終わりだ、ここを生き延びてもこの街は終わっている、だれも助けもこない….魔物に犯されて死ぬか..もし生き延びても…野盗に犯され死ぬか…そこを逃げ延びても、逃げ帰った聖女にはどんな人生が待っているんだろう..》

「マモン、貴方との戦いを望むわ」

「ならば死ぬが良い…」

マモンは人間を虫けらにしか思っていない…残酷な殺され方をしても凌辱はしない。

人は虫けらそれが此奴の考え、過去に美姫が色仕掛けで命乞いをしたが「虫を抱きたい人間は居ないだろう」と殺されたらしい。

《これで、女としての尊厳だけは守れるわ》

まるで、虫けらの様に焼かれて、手足をもぎ取られた…もう終わりね…痛さより何より..ルディ、貴方に会いたい…

《ここは何処なの?》

「天界よ」

「貴方は誰ですか?」

「私は女神イシュス、貴方を聖女にした女神です」

「私は…聖女に何かなりたくなかった!」

「知っています…勇者ケインも貴方もなりたくはなかったのよね…ごめんなさい!」

「謝って貰っても仕方ないわ」

「そうね..だからお詫びに一つ願いを叶えてあげるわ」

「どんな願いでも?」

「ええ…勇者ケインは愛する彼女の元へ行ったわ」

「そんな事できるんですか?」

「勿論、だけど、体が無いから、彼女の近くに子供として生まれることになるわね」

「…..」

「私は、ルディと結婚して幸せに暮らしたい!」

「そう、それなら彼が死んで天界に来るのを待ちなさい…そして二人で転生すれば良いわ」

「良いの?」

「まぁ役立たずだったけど…頑張ったから良いわよ…その人生を奪ったような物だから」

「じゃぁ、お願い」

「彼が此処に来るまで待っていてね…サービスで彼の人生が見れるようにしてあげる..案外他の方と結婚してたりして!」

《この女神…結構意地悪だ》

ルディが見える水晶を貰った。

水晶を覗いてみた。

《嘘、何でそんな事をしているの? 猟師の貴方が魔物を狩るなんて…何故…まさか私の為..》

あんな酷い事したのに、それでもまだ、私を思ってくれてたなんて….

「彼、凄いわね…猟師のジョブなのに、まるで聖騎士並みの強さだわ、こんな事って..あり得ない…」

「私のルディは凄いでしょう…」

「ええっ、何で勇者のジョブが彼を認めなかったのかしら? 能力なら確実にケインより上なのに」

《何で、そんなに一生懸命なの..凄く嬉しい、だけど…そんなに無茶しないで…》

「…..」

《何でそんな悲しい目をしているの..ねぇ、私が居ないからなの?》

「解かったわ…彼凄い精神力、多分貴方の為に強くなったのね…神や邪神の考えを越えて強くなっているわ」

《嘘….マモンと戦うの..何で?》

「解っているでしょう? 貴方のかたき討ちね…凄い気迫…でも駄目、猟師のジョブじゃ無理だわ」

「煩いわ…黙って」

《やっぱり、ルディ貴方は…》

「彼…猟師なのにマモンの目を奪ったわ….凄い…凄い執念…勇者も聖女も傷すら与えられなかったのに」

《凄い、あんな戦い方があったんだ》

「正に知恵ね…だけど、もう手が片方無いし、頼みの猟銃も無い…終わりよ、終わり」

「静かにして…」

《何で、私が傍に居られないの? 私が居れば回復させてあげれるのに》

「凄い…マモンの角を折っちゃった、 勇者にも聖騎士にも出来ない事を…..猟師の彼が、信じられない、だけど、流石に此処までね」

「彼の傍にいきたい…直ぐにいきたい…謝りたい…そして癒してあげたい…労ってあげたい」

「良いわ..迎えに行ってあげなさい…良い物を見せて貰ったわ…その駄賃に許してあげる」

「はい」

《私が貴方を愛してくれてないって?酷いよルディ…せっかく迎えに来てあげたのに》

《リリなの….本当に?》

《うん、ごめんなさい….そして愛しているわ、ルディ》

《僕だって愛しているよ….リリ何処にも行かないで》

《うん何処にも行かないよ…ずうっとリリはルディの傍に居るからね》

                                  真END

女神イシュス

「可笑しいわ、普通の人間が、ただの猟師が 四天王をあそこまで追い込むなんてありえないわ」

《あら、あそこに居るのは…まだ光は弱いけど..凄い光…彼こそが恐らく闇を切り裂き平和を作る本当の勇者だわ》

「そう、そういう事なの…ルディという少年は….導き手だったのね…気が付かなかった」

《だけど、何処の神が送り込んでくれたの…..誰が私を助けてくれたの?、この世界を救ってくれる手助けをしてくれたの? 解らないわ》

ルディ、私は貴方に感謝します。

勇者ジェイクが作る平和な世界で二人で幸せに暮らすと良いわ…「猟師」と「お針子」としてね。