殺すと大変! 全部無くしますよ? 全て根こそぎ奪う凶悪なスキル

お別れから始まる新しい物語
「ケイン今迄ありがとう..私は凄く幸せだったわ」

「クエラ、今ケインって呼んでくれたよな! もしかして知っていたのか?」

「気づかない訳無いわ…毎日の様に体を重ねていれば気がつきますよ! 女ってそんな物ですよ!メールも知っていたわよ..ただ、貴方が必死でアールで居ようとしてくれていた事が嬉しかったからメールはは黙って逝っただけだわ…」

「そうか、だったら俺はもっと早く打ちあけるべきだったんだな..」

「それも難しいわ、恐らく早い時期に打ち明けられたら、貴方を殺して自殺したかも知れない..」

アールが好きなのにアールの姿の他の男に抱かれる.確かにそうなっても可笑しくは無い。

「そうか」

「ええっ、私達が好きだったのがアールという器だったと気が付くまで凄く時間が掛かったのよ」

うん..?

「それはどういう事?」

「料理にすると、アールという器が一番重要で、料理は不味くても良かった」

あれっ..?

「それではケインとしての僕は?」

「ケインという器に盛られている以上、永遠に手を付ける事は無かった料理だと思うわね..」

何それ..

「だけどね、アールという器に盛られたアールという料理は凄く不味くて食べられた物じゃない..だけどアールという器が一番欲しいから不味い料理でも食べなくちゃならないのよ..」

「あの..それどういう事?」

「アールと言う器が欲しいから不味い料理を我慢して食べていたら、何があったか解らないけど、不味いアールの料理がケインという凄いご馳走に変わったのよ..奇跡的にね」

「それだと、アールという器とケインという料理なら..アールの器を選んだ…そう言う事!」

「そうよ..だけど貴方より好きな性格の男性は居なかったわ..」

「だけど、その性格以上にアールの容姿が好きと言う事なんだよな」

「国宝級の最高の器..そう言う事ね」

「はああっ」

「見た目はアール、心はケインそれが私達には最高の物だったのよ」

「……」

「何落ち込んでいるの! 嘘よ、嘘..私もメールもケイン、貴方に本当はメロメロだったわ..途中から私もメールも自分たちの見る目の無さに落ち込んだのよ、ただ認めるのが怖かったのよ、それは自分達の過去全てが間違っていたという事だからね、それだけよ…今度もし生まれ変わっても絶対貴方を選ぶわ、例えケインという貧相な器に乗っていてもね..過ごした時間、体を重ねた時間..他の男なんて選べるわけ無いわ」

「そうか」

「本当にこんな我儘な私に人生付き合わせて悪かったわ..」

「楽しかったよ..大好きな女の子と過ごした人生楽しくない訳無いよ」

「だけど、気が付いていたんでしょう? 肉欲しか私達が無い事に、よくまぁ、最後まで出来たものね、こんなおばさん相手に」

「君達がそれしか望まないからね..それにクエラもメールも今でも最高の女だよ」

「そうね..それなら良かったわ…あ.り.が.と.う..ケイン」

「おい..おいってば!」

「楽しかったよ…..ケイン..間違いなく幸せ..だったよ」

「クエラ!」

「全く最後の最後まで..でも知っているよ、僕が悲しまない様に苦しくても、笑顔で話してくれたんだろう..最後の最後まで僕なのかよ」

良かった、僕の愛は報われたんだ..ちゃんとケインとして愛して貰えていたんだ。

クエラ60歳、永眠。

メールは既に2年前に他界している。

そしてアール(ケイン)60歳

この物語は60歳になったケインの新しい物語。

報われた
もう、俺とは言わないで良いんだな..

二人の為にアールで居なければならない..

結局、僕は彼女達が死ぬまでアールで居続けていた、とっくにバレているなんて知らないで..

気の弱い僕が常に「俺」と言い男らしく過ごすように工夫していた。

アールはクズで、彼女達に「お金と体」しか求めていなかった。

アールが好きで常に体を求められていた彼女達は最早「性処理」それしか出来なかった。

お金をあげても最低限の物しか買わない..僕に対して求める物は愛以外なかった。

最もその愛は「優しいSEX」それだけだった。

だから、早々と結婚して、冒険者として働く以外はひたすら肉欲に溺れていた。

趣味を見つけようとしても、服を買ってあげても僕がしてくれたから嬉しいのであって、自分が楽しいのではない。

料理や掃除はどうにか出来るようになったが、それはあくまで僕が喜ぶからであって..恐らく僕が居なければ、食事は外食、部屋は豚小屋になる。

ある意味、僕の大好きな二人は殆ど奴隷だった。

本当の奴隷では無いけど、アール以外は何も要らない..そういう状態だった。

そして、彼女達が誰よりも得意で一番愛情を感じる事が性処理..セックスだった。

何時も酷い事をされていた彼女達が、凄く喜ぶ事はそれしか無かった。

だから、優しく蕩けるような濃厚な時間を過ごす..それしか無かった。

クエラやメールが僕ではなくアールを思ってそれをしている..そう思っていたから悔しかったが..仕方ない、彼女達が心から欲しがる物がそれしか無いのだから。

だから、冒険者は5年間で終わらせた、屋敷を買い、残りの時間を贅沢さえしなければ暮らせるお金だけで充分だった。

彼女達はお金や名誉も何も望まないのだから..

そして僕は2人が大好きで愛しているのだから、それで充分だった。

だけど、報われた..途中からはちゃんと僕を見てくれて愛してくれていたんだ。

殆どの人生はただセックスをして遣りまくる、それだけの日々だったけど..アールじゃ無くてちゃんと僕を思っていてくれていたならそれで良い。

あのキスも腰振りも僕の為にしてくれていたならそれで良い..

僕の気持ちは伝わっていて、クエラもアールも愛してくれていたなら..もう何も要らない。

僕の人生は幸せだったんだ..

寂しさが込み上げてきた
しかし、僕の人生はもう何も無いんだな。

本当は儂といっても可笑しく無い歳なのに..俺という言葉を使い続けていた。

ケインで愛してくれていた..それが解かったからもう、「僕」に戻した。

殆ど、食材の買い出し位しかしてなかったから世の中の事は解らない。

冒険者を辞めてからは、ただクエラとメールを抱くだけの人生だった。

メールが死んだ後は凄く悲しかったけど、それを癒したのはクエラだった。

今迄以上にクエラを抱くそれだけで癒された。

何で子供が居ないかって?

それは、さっさと3人とも避妊紋を刻んで貰い、子供が出来ない体にしたからだ。

奴隷商人に呆れられた、「性処理奴隷でもないのに避妊紋を刻むのですか?」だって。

だけどこれは仕方無い事だ..だって「クエラもメールも多分子供は愛せないし子育ても出来ない」

「子供が出来たらどうする」

そう聞いた事がある。

僕としては、「赤ちゃんって可愛いですよね」とか「お母さんになりたい」そういう答えが返ってくる。

そう思っていた。

だけど返ってきた答えは「お腹が大きくなると困るよね、出来なくなるから」 「子供なんて愛せないと思う」だった。

しかも「私の体形が崩れたら..もしかして捨てられちゃうの?」「妊娠したら嫌いになるよね? なら赤ちゃんは要らないよ」

どう考えても子育てなんて出来ない..だって二人は僕しか愛せないのだから..

こんな親から生まれても絶対に幸せにならない..だって母親が子供を愛さないのだから。

だから、避妊紋を刻むしか無かった。

刻んだ後も「これで妊娠を気にしないで思いっきりできますね」「沢山可愛がってくださいね」

妊娠出来なくなるって女の喜びを失う事だと思っていたんだけど..クエラやメールには違っていた。

信じられないかも知れないが..こんな年齢になってもクエラやメールと性の営みはあった。

何故なら、旅行も宝石も望まないクエラやメールが望むのはそれしか無いのだから仕方ない。

だけど..もうクエラもメールも居ない..

僕の人生は2人と体を併せる事だけだった。

その二人はもう居ない..やる事はもう無くなってしまった。

おおよそ、男らしくない人生だった。

アールから奪った「上級騎士」のジョブは望めば英雄にも成れたジョブだ。

だけど、僕は少し冒険者で頑張り、残りはただ、家事をして体を貪るだけだった..

それが2人が一番喜ぶ事だったから..

だけど..もうその相手は居ない。

庭の墓標の下に埋まっている。

花をあげて祈っていても二人はもう僕を抱きしめてはくれない..

もう何時死んでもいいや..

本当に寂しい..一人は辛い..

だけど、自殺はしたくない..そんな事したらもう二人に来世でも会えなくなるから。

《久々に街でも行ってみるか..買い出し以外で行った事は無いし、やる事も無いから久々に散歩でもしてみるか》

久々の散歩は悲しい気持ちと寂しい気持ちで一杯だった。

まるで歯が立たなかった。
久々に街に出た。

街と言っても近くの街では無く、馬車に揺られて王都まで。

もう家では誰も待っていてくれない。

戻っても戻らなくても僕の自由だ。

それが物凄く寂しい、開放感より喪失感が大きい。

本当に女々しいな…

それもあるが、僕の体はこんな爺なのに女を求めている。

毎日の様に二人相手にやりまくりの人生だった。

僕の体も、もう開発済みだな。

女なら兎も角、男でこれは頂けない。

言っていて気持ち悪い

だけど、僕の人生は「二人を満足させる人生」でもあった。

嫌な話だが、その為にそちらの方は凄く鍛えられてしまった。

体がうずいてしまって仕方が無い。

「奴隷商にいって奴隷でも買おうか?」

若い子なんて買わない、こんな爺の相手なんて凄く可愛そうだ。

僕が買わなければ、誰かが買うのだからこれは偽善なのは解っている。

だけど、クエラやメールの若い頃を思い出すと若い女の子の人生を奪う様な事はしたくない。

だから、女として価値が無くなり始めると言われる20代半ば過ぎで未亡人とかが良い。

エルフとか長命種じゃなくて人間。

クエラやメールにしてあげたかったけど出来なかった、服をかってあげたり、アクセサリーをプレゼントしても良いかも知れない。

財産はまだまだあるし..死んだ後は屋敷と残りの財産をあげれば生活には困らないだろう。

僕もクズだな。

「辞めて下さい..誰か、誰か助けて下さい!」

妄想にふけっていたら助けを呼ぶ声がした。

直ぐに走って駆け付けた。

可愛らしい女の子が無理やり手を握られていた。

「離して、離して下さい!」

「駄目だ、俺につきあえ..さもないと」

パンッ 

いきなりこんな往来で顔を叩いた。

「嫌ぁー私には婚約者も居るんです..助けて..誰か」

見るからにアールよりもクズそうな男がか弱い女の子に暴力を振るっていた。

しかも、この男どう考えても可笑しい。

横には今、暴力を振るっている女の子より明らかに数段綺麗な女の子を2人も侍られせている。

2人とも死んだような目をしているが身なりは悪く無い。

その目には口には出さないが、襲われている女の子に対して哀れみの様な感じが見られる。

実際に手は震え..ているが何度も差し出そうとして下げてを繰り返している。

「助けて、助けて」

どうやら、奴隷でも無く、別にこの男に借金でもしている訳じゃ無さそうだ。

だけど、何故だ! 

何故、衛兵も顔を伏せている。

そこに居るのは騎士ではないか? 何故騎士がこの状況で動かない..まさか此奴は貴族なのか?

もういい。

僕が行く。

死んでもさして良い命だ、アール以上のクズをどうにかして殺されるなら良い。

後で貴族に逆らったと殺されるかも知れないが、クズ1人殺せば..この子は少なくとも助かる。

「嫌、嫌、誰か助けて」

本当にクズだ、こんな往来で女性の服をはぎ取りやがった。

「いい加減にしろ!」

「何だお前は! 俺様に逆らうのか!」

男が手を離した、僕は女の子に目で逃げるように合図した。

女の子はぺこりと頭を下げると走っていった。

「逆らうも何も..お前頭が可笑しいんじゃないのか?」

「ほうっ、俺様に文句言う奴は初めてだ..お前のせいで女に逃げられた、どうしてくれるんだ!」

「お前の様なクズには力で解からせてやろう..叩きのめしてやる」

「駄目です、その方には絶対に敵いません..逃げて」

「大丈夫じゃよ、儂はこれでも上級騎士じゃこんな奴..」

ワザと年寄りらしく話した、この方が達人に見えるだろう。

「駄目」

周りが目を伏せていた。

仮にも上級騎士の僕が負けると思っているみたいだ..

「もう遅い..死ね!」

嘘だろう..男の一撃で僕の首が宙に舞っていた。

アールの体になってからはオーガすら狩れ、ワイバーンまで狩ったこの僕が..歯も立たないなんて

「逆らうからいけないんだ..あんっああああ」

僕は意識が薄れていった。

【IF】奴隷を買った日..奴隷じゃないと思います(短編にした場合のエンディングです)
私の名前はシエスタ。

27歳の奴隷です。

少し前までは農村で暮らしていました。

売られた理由は簡単で子供が出来なかったからです。

農家にとって子供が作れない嫁は価値が無いそうです。

確かに、跡取りがいないと本当に困ってしまう、それは解らなくもないのですが..

多分、原因は私ではなく旦那の方にあります。

余り大きな声では言えませんが、私は若い時に一度子供を堕ろした経験があるのです。

ただ、これは言いたくても言えません、「犯されて出来た子供を堕ろした事があるから私のせいじゃない」

そんな事言えるはずがないじゃないですか?

この歳になるまで子供が出来ないからとまるで、馬のようにこき使われ、それでも頑張って尽くしてきた結果が奴隷ですよ?

笑っちゃいますよね?

しかも、私はただの農民でスキルも「裁縫」しかないから価値がありません。

クズの旦那と義母は「少しでも高く買って貰えませんか?」と交渉していました。

「人間の27歳じゃ女としてもう価値がないからな..だが性処理可能でNG無しなら銅貨2枚おまけしてやるよ」

「待って下さい! 性処理までは我慢します、だけどNGなしだけは許して下さい」

「煩いわね..最後位少しは役に立ちなさい」

「お前は只でさえ価値がないんだ口出しするな..」

結局、私は27歳という高齢なのに「性処理可能 NG無し」の奴隷として販売される事になりました。

しかも私を売った金額は銀貨2枚+銅貨2枚..ははは、本当のはした金です。

しかも、売られた後に解ったのですが..私には売られるのを拒む権利があったようです。

それは後で知りました。

「しかし、借金も無いのに、何であんた売られたんだ?」

その時に初めて知ったのです。

「夫婦でも納得いかなければ売られる事を拒めるし、それを理由に離婚しても問題が無かった」

あははは..馬鹿ですね、村娘だったから、そんな事も知らなかったなんて。

それからは、奴隷としての辛い人生が始まりました。

貰えるのは一日 パン1個と水。

だけど、これが前と全然変わらないのは思わず笑えてしまいました。

ただ、本当に辛いのは「性処理可能 NG無し」のプレートを首から下げている事です。

普通私位の年齢なら、「家事奴隷」として売られているのに…これのせいで若い子に混じって居なければなりません。

「どうせ、おばさんは売れないから端にいなよ..私を売り込む邪魔になるでしょう?」

「その齢で 性処理奴隷? 売れる訳ないじゃない..しかもNG無しなんて凄い変態で淫乱なんだー」

「ちがっ」

「NG無しなんだから、違う訳ないじゃない? 変態BBA」

そうですよね、確かにこの歳で性処理奴隷でNGなし..変態以外考えられないし..そういう人生送ってきた。

そう見られて当たり前ですよね。

だから、私は奴隷の中でも最底辺なんです..奴隷商人だって、高く売れる若い子には少しは優しいですが..

安くて、なかなか売れない私に優しくなんてする訳もありません。

私は多分売れない…一生此処で馬鹿にされながら生きていくんだ..

そう思いました。

だって、若い子は次々売れていくのに、私は顔合わせすらほとんどなく..

偶にあっても

「これじゃな..」

「幾ら性処理可能でも..これは無いわ」

「無料でも要らない」

そんな事しか言いません。

恐らくは客寄せ..性処理奴隷が銀貨3枚で買える..その看板の為に居るような物です。

大体のお客にさらっと私を見せて、他の子に連れて行くんだからまず間違いないでしょう。

「奴隷以下の見世物なんだ私..うふふふっ辛いな、これでも昔は器量良しって言われていたのに..おばさんじゃ..駄目だよね」

そんなある日の事、お爺さんがこの店に入ってきました。

みすぼらしいお爺さんだし、見栄えも良くないから、女の子も静かで商人も余り乗り気じゃ無いようです。

「お客様、今日はどの様な奴隷をお探しでしょうか?」

「そうじゃな、性処理奴隷で..」

他の奴隷が目を伏せています..お爺ちゃんの性処理はしたくない…そう言う事でしょうね。

「歳がたっている方が良い..なかなか性処理奴隷で年配はいないと思うけど、そういうのが居るかな?」

チャンスです、こんなチャンス二度とはないわ。

「居ますよ、居ます..此処に貴方の理想の奴隷がいます..ちゃんと尽くします..NGも無しですよー」

これはルール違反..後で怒られますが..買って貰えれば問題ありません。

「すみません、お客様、今黙らせます!」

「いいですよ..自分から売り込んできたんだからあの子から見させて下さい」

「解りました..チェ..お前あとで覚えていろよ!」

「必死なんでしょう..余り酷い事はしないであげて下さい」

「まぁお客様が言うならいいでしょう!」

ああやっぱり良いお爺ちゃんです。

「お嬢さん..貴方の主は僕で構いませんか? こんな爺の性処理相手..本当にしてくれますか?」

奴隷に対する言葉使いじゃない..この人..

「奴隷は主人を選べませんよ..だけど貴方こそ私で良いのですか? 幾らでも若い子が選び放題なのに」

何が似ていると言われれば困るが、クエラとメールに少し似ている。

「この歳だから君位の子が良いんだよ..買わせて貰って良いかな?」

優しい人なんだな..この人。

「買って下さい、私で良ければ..誠心誠意尽くさせて貰います」

「この子買います..幾らでしょうか?」

「この子..本当に買われるんですね..書いてある通り銀貨3枚です、奴隷紋はサービスですが、そのお使いになるなら避妊紋は別に銀貨1枚掛かります」

「避妊紋つきでお願いします」

銀貨4枚渡すと手続きは簡単に終わった。

「ありがとうございました」

「こちらこそ、良い奴隷をありがとう」

「ババア、売れて良かったじゃないか?」

「ええ」

今の私には嫌味すらこたえません。

相手はお爺ちゃんですが買って貰えたし..それにまた空が見られる生活が待っているんですから。

「貴方も頑張ってね」

「うっせーよ、あたいは若いご主人様に買って貰うからな..」

「そう」

「さてと行こうか?」

「はい」

「それでご主人様何処に行くのでしょうか?」

「まずは服屋に行って、折角だから食材を買って帰ろうか」

「はい」

服を買ってくれるんだ..ちゃんとした服なんて着た事無かったな。

子供の頃はお下がりだったし..嫁いでからも義母のお下がり。

古着の中古だから穴が空いていましたね..

ちょっと待って下さいよ! 此処どう見ても高級店ですよ..オーダーメ―ドの。

「いらっしゃいませ」

「この子に、服を買ってあげたいんだ、昔に妻に買ってあげたような感じのな」

「ああっ、覚えてますよ..型紙やデザイン帳がありますから採寸だけすれば可能です」

「それで、郵送は可能ですか?」

「可能ですよ」

「それでですが、新しい服が出来るまでの間、流石にこの服じゃ可哀想だから、何か用意して貰えないかな?」

「それでしたら、こちらの方につる下げがありますから、此処から選んで頂ければ構いません」

「シエスタ、まずは採寸して貰って、その後はそこから好きな服を選んで」

「はい、ご主人様」

私は本当に奴隷なんでしょうか?

奴隷って粗末な服を着て残飯食べているような者の筈です。

外にはそんな奴隷が溢れています。

こんな良い服着れるのは、貴族に買われるようなエルフとか一握りの筈です。

私が採寸されているなかご主人様は打ち合わせをしているみたいです。

下着が少し派手なのは気になりますが..どう見ても高級品しか手に取っていません。

採寸が終わった私は、今服を選んでいます。

どれも高級品しかありません。

村娘には無縁の物しかありません。

どれもこれも素晴らしすぎて選べません。

「どう? 決まった」

「それがどれも素晴らしすぎて選べなくて」

何故だか、この時ご主人様が少しだけ寂しそうな顔をした気がします。

「そう、じゃぁ今日は僕が決めちゃうね、だけど次はちゃんと自分で決めようね!」

次? 次なんてあるんですか?..私奴隷ですよ?

結局、私はご主人様が買ってくれた綺麗な服に、今迄着た事が無いシルクの下着を身に着けています。

だけど、可笑しいのです?

だってさっきの服屋でご主人様が払ったお金は金貨3枚でした。

簡単に言うと私10人分ですよ。

金貨なんて払うなら最初から奴隷商で若い子が買えます。

ちなみにさっき私に絡んできた若い子は金貨1枚しません。

普通ならどう考えてもあっちを選ぶ筈です。

性格は兎も角、そこそこ美少女です。

金貨2枚だせば、あの中で人族なら没落貴族の子供以外は全員買えてしまいます。

銀貨3枚の安いこんな女を買う意味が解りません。

その後は一緒に食料の買い出しをしたのですが、私には何も持たせてくれないのです。

ただ一緒に歩いているだけです。

それだけでニコニコしています。

昔、仲の良い村長さんの息子夫婦に憧れましたが..まさにそれと同じです。

「あの、私が持ちましょうか?」

「いいよ、重いから僕が持つから..」

これはどう考えても夫婦の会話ですよ..それもとびきり優しい旦那様に貰ってもらえた幸せな奥さんの特権ですよ。

あの糞旦那じゃ、そんな事新婚から言いませんでした..ええ。

なんども言いますが、奴隷とは思えません。

首に奴隷紋が刻まれている以外、だれもが奴隷だなんて思わないと思います。

その証拠に、さっきから、奴隷や普通の街の人がこっちを見ています。

こんな高級品に身を包んでいるのが奴隷だなんてありえないからです。

一緒に歩いていると串焼きの良い匂いがしてきました。

思わず足を止めて見てしまいました。

「食べたい?」

「すいません..」

奴隷が主人に無心する事は本来してはいけません。

だから、直ぐに謝りました..こういう事はどんなに優しいご主人様でもムチを打つ場合すらあるからです。

「お腹空いているよね気が付かなくてごめん..おじさん3本下さい」

「はいよ..って俺はお前さんより若いぞ!」

「あまり人里に来なかったから、すまないね、それじゃ兄さん3本下さい」

「あいよ..爺さん」

「はい、2本位で良いかな?」

「買って下さるのですか?」

「うん、僕はこういう事に疎い、だから欲しい物があったら必ず言って、全部買ってあげれるとは限らないけどちゃんと考えてあげるから」

「はい」

何でなんだろう..さっきから凄く優しい..こんなのは奴隷じゃない。

前の糞旦那は夫婦なのに串焼きをねだっても買ってなんてくれなかった。

そのくせ自分はお酒を飲みに行ったり..娼婦を買いに行っていた。

絶対にこんなのは奴隷の扱いじゃない。

その証拠にあそこの若くて可愛い奴隷が私の真似してせがんだら..頭を殴られている。

あそこの子が親にねだったら怒られている。

あれが普通、ううん、鞭を使わないだけまだ「ましなご主人様」なのだろう。

ご主人様は片手に大荷物を持ちながら串焼きを食べている。

私は手ぶらで串焼きを食べている。

せめて逆じゃ無ければ可笑しい。

それじゃ帰ろうか?

凄いな、歩きじゃないんだ..

しかも乗合馬車じゃなく、貸し切り馬車、流石に高級馬車じゃないけど..

「家は少し遠いから寝てても良いよ? 奴隷で閉じ込められていたんでしょう? 疲れがたまっているんじゃない?」

この馬車…まさか私の為に借りたの? 奴隷に優しくしたって良い事ないのに? 体が欲しいなら「脱げ」の一言で裸になるのが私の立場なのに。

「横になっても宜しいでしょうか?」

「勿論」

このお爺ちゃん..本当に優しい人なんだ..こんなに優しくなんて両親にだってして貰った事は無いのに..

気が付くと私は眠ってしまった。

気が付くと私は大きなベットで寝ていた。

凄くフカフカでまるで王様が寝るような豪華なベッドだ。

「目が覚めたんだ..」

「すみません、つい寝てしまいました」

「なかなかのベッドでしょう? 我が家の自慢の一つなんだ..それじゃもう一つ自慢のお風呂に案内するよ?」

「お風呂? お風呂まであるんですか?」

ベッドもそうですが、お風呂なんて貴族でもない限りありません。

勿論、私は使った事はありません。

「うん、お風呂とベッドこれしか自慢は無いけどね」

充分だと思うのですが..

「これがシャボン..お湯をつけると泡がたつからこのタオルで擦ると体が綺麗になるよ、あとこれはシャンプー、これは髪の毛を洗うんだけど艶々になるよ」

「やってみます..」

シャボンなんて一生縁が無いと思っていました。

シャンプーですか、こんなの聞いた事もありません、それ所かお湯につかるなんて初めてです。

「それじゃ、亡くなった妻ので悪いけど着替えを用意しておくよ..終わったら声かけてね、僕は夕飯を作っているから」

「あっあの!」

「どうかした?」

「何でもありません」

奴隷どころか、村人でもありません。

どう考えても、これ尽くされている気がします。

ここまで来ると何がなんだかわかりません。

ただの銀貨3枚しか価値が無い私にこんな親切にしてくれるなんて。

しかし、このお風呂凄く気持ち良いですね..こんなの初めてですね…

お風呂から出たらフカフカのタオルが置いてありました。

着替えはシンプルですが高級な物です。

下着は少し…いえかなりセクシーですが..

「気持ち良かったです…有難うございます!」

「冷たいお茶を入れて置いたから飲むと良いよ」

「有難うございます」

冷たいお茶? 魔道具で冷やされたんですか?

ただの奴隷にそこまでしてくだるんですか?

何でですか?

「汗が引いたらご飯にしようか?」

「ご主人様が作られたんですか?」

「勿論! シエスタは料理できる」

「村人が食べるような物で宜しければできますよ..ですがご主人様の口に合うかどうか」

「いいよ..口を合わせるからさぁ、それじゃ明日の夕飯をお願いね」

「はい、解りました」

何だか凄い甘い生活の様な気がします。

まるで新婚さんみたいですね..だけど私はこんな甘い生活見るだけで初めてなんですけどね…

もう、相手はお爺ちゃんでも構いませんよ..だって私の人生の中でこんな優しい人居ませんでしたから。

「こんなご馳走初めてです」

「そう、良かった..おかわりもあるから沢山食べて」

「はい」

ステーキにスープにサラダ..こんな美味しい物食べさせてくれる人なんて私には居なかったな。

お爺ちゃんでも充分ですよ..好きになるのに年齢って関係ないのかも知れません。

食事が終わるとまたお茶まで出してくれました。

本当に良いのでしょうか?

「それじゃ、僕はお風呂に入って来るから、先に寝室で待っていて」

「はい」

来てしまいました。

とうとう、この時が、私は「性処理奴隷 NGなし」なので何でも応えなければいけません。

どうしよう? 今、気が付いてしまいました。

他の奴隷になくて、私にあった物..それは「NGなし」です。

これは、どんな事でも出来るという事です。

多分、ご主人様は凄くエッチなのかも知れません。

ここまで優しくしてくれたんです..何でもしてあげたい。

だけど、「私、何をして良いか解りません」

勿論、普通には出来ます。

ですが子供が出来ないと言われてからもう何年もしてないです。

しかも経験のあるのは凄く淡泊な15分で終わってしまう様な物です..多分「NGなし」だから買ったのだとしたらがっかりさせてしまいます。

体は不味いですね、何となくですが弛んでいる気がします。

胸は、少し垂れてきてハリが無いかも知れません、若い子とは違います。

股は..あははもう何年もしてないから、まさかカビなんて生えていませんよね(笑)

私、全然良い所なんて無いじゃないですか?

「シエスタ」

ご主人様が来てしまいました..暗いのだけが救いです。

こんなの見せたくないから明かりは暗くしておきました。

「ごめんなさい..」

「ごめん、やっぱりこんな年寄りの相手なんて嫌だよね」

なんだか元気がなくなった気がします..違うんです..

「ご主人様、違いますよ..ご主人様が望むなら、私を好きなようにして頂いて構いません..ですが私「NGなし」なんて売られていましたが、その、そっちの経験が余り無いんです..だから..」

「嫌われてないなら良かった! 夜は長いからゆっくりしよう」

「はい」

暗がりですが、ご主人様の体は鋼みたいです。

本当にお爺ちゃんなんでしょうか? まるでそう、鍛えぬいた騎士のような体です。

しかも、お年寄りの筈なのに肌も白くて私より艶々しています。

しかも、私の触り方がまるで宝物を触る様に優しいのです。

頭の撫で方、髪の触り方からキスまでまるで蕩けるようです。

糞旦那とは全く違います。

女として凄く大切にされている。それが凄く解ります

もう年齢なんか関係ありません。

こんなに大切にして貰えるなら、もうご主人様以外なにもいりません。

性処理やこういう事は好きでなく今迄は我慢していたのですが..今はこの時間が永遠に続いて欲しい。

そう思ってしまう程、別の物です。

体の全てが..喜んでいる..そうとしか思えません。

だから、相手にも喜んで貰いたい..そういう物です..

こんなのを経験したら、心の底から全て..ご主人様の物になってしまいます。

私のなかの好きや愛しているは全てご主人様の物になってしまいます。

もう、私は絶対に他の人では満足できないでしょう..この人以外何も要らない..頭も何もかもが全部ご主人様で染まっていきます。

気が付いたらもう朝になっていました。

私は体がまだ、ほてってしまって眠れません。

ご主人様は、流石に眠っています。

見れば見る程鍛えられた体をしています..正直、私の弛んだ体じゃ申し訳ない位に思えてしまいます。

愛おしくて抱きしめてあげたくなります。

こんな感情今迄ありませんでした。

ただ愛しいのです。

ご主人様のボサボサの髪をつい触ってしまいました。

そう言えばご主人様の顔は髪で隠れていてしっかりと見た事はありませんでした。

つい、かきあげてお顔を見てしまいました。

「!..嘘..嘘..」

どう見ても60歳には見えません。

糞旦那より若く..下手すれば私と並んで歩いたら、少し年上にしか見えませんよ..

しかも、凄く綺麗なんですよ..

こんなに綺麗なら奴隷なんて買わなくてもただお酒でも飲んで居れば女から寄ってくるでしょう!

60歳と知っていても..自分が15歳の時に言い寄られたら..絶対にお付き合いして貰います。

だって、こんな綺麗な人他に見た事ないんです..しかも蕩けるように優しい..

「おはよう、シエスタ」

「おはようございます ご主人様..」

こんな綺麗な方にくたびれた体を見られたく無くて思わず毛布を巻き付けてしまいました。

「はうっ」

「どうしたの?」

細マッチョ..凄く鍛えられているのに綺麗..しかもシミ一つないなんて反則です。

「なんでもありません..そう言えば、ご主人様のお名前聴いていませんでした」

「昔はアールって呼ばれていたけど、ケインって呼んで欲しい」

「もしかして、ワイバーンを討伐したりしませんでした?」

「大昔の事だね」

愛妻の英雄アール様じゃないですか!

Sランクにすら手が掛かっていたのに引退して、王から騎士爵の授与を断り、公爵が騎士団の隊長をお願いするも「妻が大切ですので」の一言で断ったという

噂では第四王女の婚約すら断ったという話もありましたよ。

その剣は妻の為あり..それ以外にはない。

少女の頃の私はこの方との結婚を..いえ同世代の女の子なら一度は皆、結婚したいそう思った筈です。

「アール様って、あのアール様ですよね..」

「多分、そうだと思うけど、その名前はもう捨てたから、ケインと呼んでくれると嬉しい」

奥様が亡くなった..だから名前をお捨てになったのですね。

「はい、ケインさま」

こんな素敵な人に愛して貰えるなら..奴隷でも? あれっどう考えてもこれ奴隷じゃありませんよね!

だってこんなにも幸せなんですから。

今度は勇者..悪者勇者のやり直し
此処は何処だ。

凄く豪華な部屋だ、僕が住んで居た家はそれなりにベッドは豪華だったがそれより豪華なベッドだ。

それより、何で聖職者がこんなに居るんだ。

「良かったです、勇者様目を覚ましてくれて」

老齢の男性に声を掛けられた。

この顔は知っている..ロドリゲス3世、教皇様だ。

「教皇様が何故此処に居るのですか?」

「勇者様..本当に大丈夫でしょうか?」

これは、昔アールと僕に起きた事だ。

つまり、スキルのチェンジで入れ替わってしまったという事だ。

だが、勇者なのか? 困ったよ..僕は冒険者を引退した後はただクエラとメールと暮らしていた。

だから、世界に詳しくない。

少しは世の中の事を知っておくべきだった。

前は記憶が虫食い、それで誤魔化した。

それはアールが幼馴染でクエラやメールの事も知っていたから出来た事だ。

だが、この「勇者」については何も知らない。

だったら、「記憶喪失」そういう事にするしか無いと思う。

「教皇様、さっき私は老人を斬ってしまったと思いますが..どうなりました」

「あの老人は昔は有名な冒険者でしたが、今は家族が居ないようです、ギルドも辞めた後なので大きな問題にはなりませんでした..いつもの様にもみ消して置きました」

やり直すなら此処だ。

「すみませんでした教皇様..」

僕は涙を流した..

「どうしたのですか? 勇者様は世界で一番気高い方なのです..私に等、いえ誰にも頭を下げてはいけません」

「私は多分、悪い事をしたのだと思います、昨日あの老人を斬った後に倒れましたよね」

「皆驚いていました、勇者様が真っ青な顔になり冷たくなって起きて来なかったのですから」

「あの老人は女神の使いの導き手だったようです、私のなかに合った悪い心を全部持って行く、そう言っていました」

「勇者様? ちょっと待って下さい、オーブを持ってきます」

私とつい口走ってしまった、勇者とかはこういう話し方で良いんだっけ。

走って全員が居なくなった。

そして此処にオーブが持ち込まれた。

「念の為、オーブに手をかざして頂けますか?」

《ステータス》

アルトマン

ジョブ 勇者
LV 1

スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み)チェンジ

簡易的な物の方のようだ、HPとMPが解らないから絶対では無いが みた感じアールの方が強そうな気がする。

あれっ(極み)これは上級の更に上、人族攻撃無効、反則じゃないか? これじゃあの時僕の攻撃は無効だから此奴の攻撃がのみが当たったのか? 先に剣が当たる筈が当たらなかったわけだ。

「良かった、勇者の力が無くなったのか心配しました」

「心配をお掛けしました..導き手が奪ったのは僕の慢心した心と記憶です」

「記憶ですか?..大変な事じゃないですか?..今から秘薬と癒し手を集めます」

「必要ありません、導き手は私には不要だから奪ったと言っていました..どうやら私は勇者として不適格な性格だったそうです..人として最低な記憶は不要なのだそうです..貴方にもかなり迷惑を掛けたようだ..未熟ですがこれからは勇者らしく生きます、間に合いますか?」

「貴方は勇者なのです..間に合いますとも、貴方が勇者らしく生きるというならこの老いぼれ幾らでも頭を下げましょう」

やっぱり、この勇者最悪だ。

教皇が頭を下げなくてはならない位の事をあちこちでしている、そう言う事だ。

「教皇様..すみません」

「貴方は勇者、頭など下げてはいけません」

「それでは一人の人間として、私を助けてくれる、ロドリゲスに頭を下げさせて下さい」

「解りました..しかし、本当に変わられたのですね」

「記憶がありません、ですがこれからは変わる様に努力します..見捨てないでくださいね」

「私は教皇です、勇者である貴方を見捨てたりしませんよ、ご安心下さい」

はぁ、なんでアールと言い、このアルトマンと言い、クズばかりに変るんだろう..まぁ良い奴が人を殺したりしないからそうなるのか?

だけど、気になるのは横に居た二人の少女だ、まるで昔のクエラやメールの様に死んだ目をしていたな。

性女
見知らぬ天井に見知らぬベッド..落ち着かないし眠れない。

ベッドでウトウトしていると裸の女性が入ってきた。

しかも自分から潜り込んできた。

「何をしている!」

「何をしているって、貴方がさせているんじゃない..私がこうしないと魔王と戦わない、そうやって、そうやって私を脅して..」

彼女の目は泣いていた。

やっぱり目が死んでいる..何も着ないで此処まで裸で来た。

この時間なら廊下に人が居ても可笑しくない..余程の痴女じゃなくちゃこんな事しない..

だけど、こんな死んだような目の少女が泣きながらしているんだ、絶対にこのクズが何かしたんだ。

僕は記憶喪失、僕は記憶喪失。

まずは、黙って土下座した..

「何をしているのアルトマン、勇者の貴方が頭をさげるなんて」

勇者が謝るって言うのは絶大なんだな…多分アルトマンは彼女に殺されても仕方ない事をしたはずだ。

それなのに彼女は、頭を下げただけでこんなに動揺している。

「昨日の事は覚えているんだ、女性を襲って老人を殺した..最低な事した」

「貴方は同じような事をもう何回もしているのに?今更懺悔ですか!」

「昨日あの老人を斬ってから記憶が無い..」

「まさか勇者じゃ無くなったの?」

「それは大丈夫だった」

「そう、良かった」

「だけど、記憶が無くなったからこそ、自分がどうしようも無い人間だって解ったんだ、君もその隣の女の子も死んだような目をしている..私が貴方に何をしたのか教えてくれないか?」

「へぇー記憶が無いのね..良いわ、貴方がどれ程最低の人間か教えてあげる」

この子の名前クララと言いアルトマンが勇者に選ばれた後に神託を受けて「聖女」となった。

修道院で幼い頃から生まれ育った彼女は、簡単に言うとお堅い人物だった。

女癖が悪く、酒癖も荒く、お金遣いの荒いアルトマンを彼女は何回も諫めた。

その結果、アルトマンは彼女に牙をむいた。

「女を買うのがいけないならお前が相手をしろ」と

彼女は聖女であり魔王を倒した後は勇者と結婚するのは習わしだった。

だからいつかはそう言う事になる、それは解っていた。

だが、まだそう言う時ではないだから断ったそうだ。

そうしたら、アルトマンは「お前が俺の相手をしないなら魔王は倒さない」そういう脅しを掛けたそうだ。

「解りました、今夜お伺いします」

彼女には最早拒む事は出来なかった..「魔王討伐をしない」そう言われて修道院で生まれた彼女が断れるわけが無い。

だが、それだけで終わらなかった。

アルトマンは色々な事を注意してくる彼女が嫌いだった。

「何を言っているんだ、今ここでするんだよ!」

「それは幾ら何でも」

「それならこの話は終わりだ、お前のせいで世界は終わるんだ..じゃぁな」

クララには最早抵抗は出来なかった。

周りには沢山の教会関係者が居た。

「待って下さい..」

「特別に待ってやる、その代わり、俺は何もしないから自分からするんだ」

そう言うとアルトマンは寝ころんだそうだ。

そして逆らえない彼女は、自分から服を脱ぎ、跨るしかなかった。

股から血を流していた彼女にアルトマンは…

「全然楽しくねーよっ しかし、こんな大勢の前で自分からするなんてよ..聖女じゃなくて性女じゃねぇか..これからはもうお前性処理便器な」

そう言い放ったらしい。

教会関係者が何も言えない事を良い事に、それからクララは玩具のようにされたらしい。

人前で性処理をさせられたり、今日みたいに自分の部屋から裸で此処に来て性処理や奉仕させられていたそうだ。

そして「性女」「便器」と何時も呼ばれていて、気にくわないと殴るけるをされる..そんな毎日を送らせられていた。

ただ、彼女の唯一の救いは聖女だった事だ、その為、勇者であってもクララを他の男に抱かせることは出来なかった。

それだけだった。

此奴、勇者の癖にアール以上に酷いな、死んでも全く同情出来ない。

「どう、聴いて満足かしら? それでどうするの?今日もするの?」

「する」

クララはクエラやメールと同じだ凄く傷ついている。

それに聖女である以上勇者である、僕と将来は結婚するそんな人生しかない。

アルトマンが死んでしまった今、アールの時と同じ様に僕が責任を取り幸せにする、それしか無い。

「そう、やっぱり最低ね」

「その代わり約束する、勇者として将来結婚しない相手には手を出さない」

たしか、昔の話では、聖女、賢者、剣聖(女だった場合) 後は支援者の王女等最低2人以上娶らなければならないそんな決まりがあった筈だ。

「なにそれ」

「本当はクララしか相手にしない、そう言いたいけど勇者である以上はそう言う訳にはいかないからね」

「そうね」

「だから、これからはクララが望むような勇者になれるように頑張るし、酷い事もしないだから僕を見捨てないで欲しい」

アルトマンが「僕」? それに何で私にこんなに必死なの。

「アルトマンが? 貴方はだけど私が嫌いなのよね..だから便器扱いなのよね? 前に便器にキスなんて出来ない、そう言ったわ..私の口を散々使ったくせに」

アールといい、この言い回しは鬼畜な奴は皆つかうのか。

「ごめん、此処まで傷つけていて可笑しいと思うけど..僕は君が好きみたいだ」

クエラ、メールごめん、この子昔の君達と同じみたいだ..僕はもうアールもケインも捨てるよ..そうしないといけないみたいだ。

「嘘ばっかり」

「ごめんね、うぐっ」

「嘘、キス…何で..何でよ..便器にはキスなんてしないんじゃ無かったの?」

「クララは便器何かじゃない飛び切り綺麗な女の子だよ」

「だけど、するのよね」

「うん、だけど、今迄の様に酷い事は絶対しない..これは、勇者が将来を誓った聖女にする事だよ」

「なら良いわ、さっさとすれば? どっちみち私は断れないんだからさ」

足を舐めさせられた事もあったわね。

裸で土下座させられ「抱いて下さい」そう言わされた事もあったわ。

始まる時も終わった後も優しい言葉なんて一言も掛けてはくれなかった。

初めての時、痛くて泣いていたのに それでも腰を振り続けさせられた。

なのにこれは、なんなの、何で宝物の様に私の頭を撫でるの?

何で宝物の様に私を扱うのよ..

今迄とは全然違うわよ..

「アルトマン..」

「これが好きな相手にする事だと僕は思う..ゴメンね」

「謝らないで良いわ」

凄く優しい、触り方が全然違う、まるで私の体を大切な宝物を扱う様に、大切そうに触って来る。

本当に貴方は私が好きなの?

今まで酷い事したのは..何で..頭の中がグルグルして解らなくなる。

「何で、何で? こんなに大切に思ってくれるなら何で酷い事したのよ? なんであんなに虐めたの?」

「今の僕には解らないよ…だけど、記憶が全部無くなっても、君の名前まで全て忘れてしまっても、酷いことした記憶が無くなっても、君を愛おしい、そういう気持ちだけはなくならなかった」

「なぜなの..解らないよ教えてよ..私、狂っちゃうよ..」

「多分、僕は子供だったのかも知れない..君を取られたく無くて無理やり抱いた、大好きな君に怒られて腹がたって意地悪をした」

「馬鹿じゃないの? それならそうと言ってくれれば良いじゃない..私死にたい、そう思った事もあるんだから」

「ごめん..僕には」

「良いよ、記憶が無いんでしょう..良いよ」

駄目だわ、今迄とは全然違うのが解っちゃう..今のアルトマンにとって私は玩具や便器じゃない..じゃ無ければこんな事出来ない。

「ありがとう、これからは大切にするから」

今のアルトマンは凄く優しい..それが解ってしまう、密着した心臓から凄く良い鼓動が聴こえてくる。

心臓の音までもが一緒に聞こえてくる。

「ほんと? 本当に大切にしてくれる? 嘘じゃないよね?」

「約束するよ..生涯大切にする..約束する」

こんなの駄目だよ..体が喜んじゃう..彼のする事の全てが「好きだ」「愛している」って囁いているみたい。

これが、本当の関係なら、今迄のは違うわ、絶対にこれは性処理なんかじゃない..そんな下等な行為なんかじゃない!

「良いわ、もう私、性女でも良い、こんなに大切にしてくれるなら何時でも受け入れてあげる..愛があるから..本当に愛してくれるのよね? 私本当に大切なのよね?」

「愛しているよクララ」

愛って怖い..気が付いたらもう朝だわ..

「流石に寝ないと辛いよ」

「そうね..それじゃ寝るから腕枕してくれる」

クララは満足そうに僕の胸に顔を埋めてきた。

「ねぇ、嘘じゃないよね?」

「何が?」

「勇者として将来結婚しない相手には手を出さない、クララが望むような勇者になれるように頑張るって言ったわ」

「誓うよ」

「生涯大切にするって言ったわ」

「それも誓うよ」

「そう、なら約束を私も守るわ」

「どんな約束?」

「馬鹿っ!こんなに大切にしてくれるなら何時でも受け入れてあげるって約束よ」

「良いの?」

「しょうがないじゃない! アルトマンが私をこんなに愛しているなら相手してあげなくちゃ可哀想じゃない」

「クララは愛してくれている訳じゃ無いんだ」

「うっズルいわ..愛しているわ..これで良いわよね」

「うん」

愛って本当にズルいわ、あんなに酷い事されたのに、これで全部ちゃらなんだから..

だけどさぁ、愛されているって知っちゃうと何でも出来ちゃうのね…

あんな恥ずかしい事こんなにしてても大丈夫なんだもん。

だけど、これがアルトマンの本心だったなんてね..あのアルトマンが「僕」だって本当に可愛い。

「俺」じゃなくて「私」とも言っていたわ..私に夢中になって気が付かないだから..もう。

これが本当のアルトマンだって解ったら..何でもできちゃうわ。

こんなに好きなら最初から言いなさいよ! そうしたら幾ら堅物の私でもちゃんと相手してあげたわよ。

友情よりも愛
「クララ、昨日は大丈夫だった?酷い事されなかった?」

不味いわ、昨日の事を思い出したらつい顔がだらしなくなっちゃう。

「愛されている」それだけで、辛かった筈の行為が今じゃ幸せな気持ちで一杯になる。

「ねぇ、本当に大丈夫なの」

不味いわ、メイルも私と同じで性処理させられているのよね..

「私なら大丈夫よ..」

「今日は僕の番だからゆっくり休むと良いよ..本当に憂鬱だよ」

あっそうかまだメイルはアルトマンが変わった事に気が付いてないのよね..

「それなら今日は私が代わってあげる」

「それは悪すぎるよ、そんな事出来ないよ」

「良いよ気にしないで、昨日私、アルトマンと約束したんだ、私がしっかり夜の相手を務めたら、勇者として頑張るって」

「アルトマンだよ? 約束なんて守らないよ! 絶対に、そんな事言った覚えはない! そう言うよ」

「だから、監視の意味も込めて暫くは夜の相手も、他の相手も極力私がするわ..約束を破ったらそれで終わりなんだから悪くないでしょう? これで少しでも真面になったらしめたもんよ」

ごめんね、友情よりも今は愛を大切にしたいの..

「そう、それなら暫くお願いするね..だけど辛くなったら何時でも言ってね、代わるからね」

「うん」

「あっ、アルトマンだ..それじゃ「約束」があるから私は行くわね」

「本当にごめんね..」

ごめんねメイル、今のアルトマンは親友の貴方にも譲りたくないのよ..

だって凄く優しいんだから..

何時までもとは考えていないわ..だって貴方は私と一緒にアルトマンのもう一人の妻になるんだから。

後でちゃんと謝るからもう少しだけ、独り占めさせてね..

約束と意地
クララと約束をした。

僕はクズじゃない..だから約束は絶対に守らないといけない。

何からすれば良いの考える。

前の人生、アールの時のジョブとスキルは確かこんな感じだった。

アール
ジョブ 上級騎士
スキル:剣術、盾術、槍術、防御魔法、回復魔法、チェンジ

30年以上戦って無いけど、体だけは鍛えてはいたがそれはリセットだ。

そして今度は

アルトマン
ジョブ 勇者
スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み)チェンジ

スキルの剣術だけ共通している。

最も、勇者だから極みだが..これを伸ばす事から始めるか..そう考えたらまずは騎士団に行くしかないだろう。

昨日メイドに聞いたら、此処は王城だった。

どういった事情で此処に居るのか解らないが、勇者として召喚されて未熟だから訓練をしている。

そんな所だろう。

しかし、此奴本当にクズだったんだな。

声を掛ける度にメイドの顔が嫌そうに歪むんだから。

「此処に騎士団みたいな物はありますか?」

「ひぃっ..勇者様!」

「驚かせてごめん! これからは心入れ替えるから、そう嫌な顔をしないで欲しい」

「ごめんなさい..此処には二つ騎士団があります、王や王族を御守りする宮廷騎士団、後は通常働きの騎士団です」

僕はもと冒険者..通常働きの騎士団の方が最初は良いだろう。

「それじゃ、通常働きの騎士団の方を教えてくれる」

「はい」

騎士団はこの時間は裏庭で練習をしているという事だった。

裏庭に来てみると走っている者やひたすら剣を振るっている者が居た。

そして、その指示をしている、筋肉の塊の様な男がいた。

多分、この人が責任者だ。

「すみません」

「これは、これは勇者様、汗臭い騎士団に何か用ですか?」

アールと同じだな、アルトマンは此処でも多分問題を起こしていたんだな。

「すまないとしか言えません、私は記憶を失ってしまったのです、噂で聞いた私はクズだったので自業自得ですが」

「同情でもして欲しいのか!」

「違う、許して貰えるとは思えない程、私はクズだった..だからこれからは少しは真面になろうと思ったんだ、直ぐに教えを請おうとは思わない、練習用の剣と片隅で良い、場所を貸してくれないか?」

「好きにしろ..ただお前を嫌いな騎士も多い、それは仕方ないだろう? まぁ好きにしな」

「ありがとう」

何だ、彼奴ちゃんとお礼を言えるじゃないか..

無造作に置かれていた刃を潰した練習用の剣を手に持った。

ちゃんと、剣を持つなんて何年ぶりだろうか、昔は良く使っていたな。

「おい、あそこで勇者様が剣を持っているぞ..」

「汗臭い事はしないで良い..僕は天才だからなんて奴が?」

「どうせ、すぐ辞めるぜ..根性ないからな」

やっぱり、最悪だゼロからスタートどころかマイナスからスタートだ。

昔を思い出しながら、剣を構える。

しかし、此奴本当に鍛えてないな、僕を一撃で殺したのはスキルのせいだ、悲しいほど筋肉が無い。

とりあえず、素振りから始めよう、素振りなら散々アールの時にやった。

しかし、重いな、前の時にはあんなに楽に振れたのに、剣術(極み)があってこれかよ。

まぁレベルが1だから仕方ないのか。

素振り用の剣をアールの時を思い出し構える。

僕はアールになる前は荷物持ちだった、それでも剣を使いたくて素振りをした。

あの時から始めよう..少なくとも今はスキルはあるのだ、何もない訳じゃない。

数より質。

素振りを始めた。

10回、20回、30回、こんな物で腕が震えだすのか..頑張って50回したら剣が上がらない。

軽く体をストレッチして、今度は休まず走り込む。

まだ体が鍛えられていないからこんな事しか出来ない。

これを出来る回数だけひたすら繰り返す。

「ほう、自分で考えたのか..少しは見られるようになったな」

「有難うございます」

「やる気を出したようだから俺が剣を受けてやろう」

「本当ですか? 有難うございます」

動く相手に潰した剣といえ人に向けるのは久しぶりだ。

しかも、相手は騎士団長、一流の騎士だ。

今できる事を全て出し切らなければ失礼だ。

全力の一撃を乗せた上段から振り下ろす。

流石だ、微動だにしない..跳ね上げられた剣をそのまま力任せに軌道をかえて左から打ち込む。

これでも簡単に受けられるのか..ならば、一気にそのまま打ち下ろし地面に剣をぶつけてその跳躍を利用してそのまま斬りつけた。

「おう、よく考えたな、お前の剣が上達した後だったら危なかったな.」

これでも、昔はそれなりに強かったと思うんだが駄目だ。

上級騎士のジョブでも良く考えたら此処は「本物の騎士団」同等の人が幾らでも居る…当たり前か。

「なんだ、もう終わりか..」

「まだ、まだ..」

「彼奴騎士団長に食らいついていっているじゃん」

「スゲー嫌な奴が嫌な奴に変わっただけだろう」

「だけど彼奴はクズだ」

「何であんな奴が勇者なんだかわからねー」

「どうせ今日だけだ」

「有難うございました」

「まぁ何だ、また来い、暇だったら相手してやる」

「お願いします、それで私の実力はどんなものでした」

「見習い騎士..そんな所だな」

何も出来なかった、仕方ないか..

「見習い騎士ですか、上級騎士レベルはまだまだ遠いな」

「お前ふざけるなよ..上級騎士なんぞ、此処にも10人位しか居ないぞ、俺だって上級騎士なんだ、上はそれこそクルセイダーや聖騎士しか居ないんだぜ、初めて剣を握った癖によ」

「私は初めて剣を握ったのですか?」

そう言えばレベル1だった。

「そう言えば、お前は記憶を無くしていたんだな」

「はい」

「お前は多分今日初めて練習したんだと思う..少なくとも俺は見ていない」

「そうですか」

「お前は多分、お前が思っている以上のクズだった、女に酷い事をして人を馬鹿にするような奴だった..」

「そうですか..」

思った通りだ。

「皆さん、ただ聴いて貰うだけで良い..これからは心を入れ替えて精進します..今迄すいませんでした」

僕は手をつき土下座をした。

「おい、勇者がそれをやっちゃまずいだろうが..」

「いや、良いんだ、今の私は此処で一番弱い..そんな奴が馬鹿にしていたんだ..これ位はさせて貰う」

「本当に変わろうとしているんだな..俺は水に流してやる..まぁ他の奴にはお前の努力で示せ..」

「はい」

アールの時で解かっているさ..人を傷つけるという事は、その信頼を取り戻すのは大変なんだ。

落ち込みながら今度は図書室に向った。

魔法は実は専門外だ、回復魔法や防御魔法は使えていたがそれも最低のヒールとカウンター、プロテクトだけだ。

しかも勇者のスキルには回復魔法も防御魔法も無かった。

だから、参考になる本を用意する必要がある。

「すみません」

「勇者様」

ああ此処でも嫌われているんだな、アルトマンは。

「今迄、横柄にしてすまなかった、これからは気をつけるから許して欲しい」

「そんな、勇者様気になさらないで下さい」

「それで、魔法に関する入門書みたいな物があったら教えて欲しい」

「魔法の本ですか? 幾らでもありますが、弱ったな..私は詳しく無くて」

「だったら、ある場所に案内してくれるかな?」

「解りました」

「ありがとう」

「どう致しまして」

どれが良いのか解らない。

タイトルを見てもどれを見れば良いのか解らない。

保留しかないな..

「ありがとう」

「どうでしたか?」

「解らないからまた今度くる」

「だったら、賢者様に教わると良いのかも知れませんよ..」

「賢者ですか..」

聖女のクララにもあそこ迄酷い事をしていたんだ、仲直りした後じゃなくちゃ無理だろう。

うん、待てよ..忘れていたけど、僕の仲間は クエラは神官、メールは魔導士だったじゃないか?

一緒に過ごしたなかに何かヒントがある筈だ。

「そうだ、紙とペン貰っても良い?」

「幾らでもお持ちください」

紙とペンを貰い、部屋に帰ってきた。

どうせ、魔法も真面に使って無かったんだろうな。

魔力を循環させた。

これはクエラやメールから教わった基礎だ。

魔法を使う為に一番最初にしなければならない、逆にこれが出来れば魔法を使う基礎が出来たそう言う事だ。

次に簡単な魔法を使うのが常識なのだが..肝心の自分の使える魔法が解らない。

まぁ使えないと思うが自分の知っている物を試してみるか。

プロテクト 、ヒール、カウンター これは今のスキルには無いが昔、僕が使っていた魔法だ。

ファイヤーボール、ウインド、ウオーター、クイックこれはメールが使っていた。

ヒール、ハイヒール、ホーリーウオール、これはクエラが使っていた。

この辺りを適当に試してみるか?

まずは、一番最初に覚えた、ヒールからだ…何で出来るんだ?

勇者のスキルには回復魔法は無かった。

プロテクト…出来た。

カウンター..発動しているような気がする。

ファイヤーボール..出来るじゃないか?

ウインド..何故できる。

ウオーター..出来る。

クイック..出来る。

ハイヒール..出来ない。

ホーリーウオール..出来た。

ここまで出来るなら、上級騎士位の動きは出来るんじゃないかな?

まだ、日は高いからもう一度騎士団の所に行ってこよう。

「どうした? 」

「もう一度手合わせお願い出来ますか?」

「さっきの今で、変わるわけ無いだろう?」

「ちょっと強くなるヒントが見つかったのでお願い出来ますか?」

「良いぜ!」

「但し、魔法も使わせて下さい」

「魔法か? メイジ相手に戦う事もあるだろうからな、良いぜ」

「それじゃ、行きます..ファイヤーボール!」

「いきなり魔法から来るのか?だが悪く無い」

「クイック」

これで、スピードの遅れはカバーできる。

魔法を掛けて貰ってないアールのスピードは出せる筈だ。

心は静かに相手を冷静に見極める。

そのまま真っすぐに突っ込みながら剣を躱しながら突きを放つ。

これは恐らくかわされる。

「さっきより随分早く動くんだな..あぶねー」

ウインドを唱え風の刃をを作りだし放つ。

此処までは交わせるだろう..

だが、それに合わせて飛び込む様に斬り込む。

「随分と考えたなこれは受ける必要があるな」

「カウンター」

攻撃を加えた騎士団長がそのまま吹き飛ばされた。

そして、そのまま近寄り首に剣を当てた。

「今回は私の勝ちで良いですよね」

「嘘だろう、団長が負けちまったぞ..」

「ああっ、だが団長はスキルを使ってない」

「確かに勇者は魔法を思う存分使っていたから..公平では無いな」

「だが、それでも勝ちは勝ちだ」

「ああ、お前の勝ちだ..だが汚ねー汚ねーぞ..まさかお前がそんなに魔法が使えるなんて思わねーだろうが」

「だけど、勝ちは勝ちです..気分が良いので、では此処で..」

「おい、勝ち逃げかよ汚ねーぞ」

「はい」

「駄目だ、駄目、今日は2回もお前の我儘に付き合ったんだぞ、もう一回だ、もう一回!」

「解りました」

僕は走り出した。

「何だ、それ、また何か姑息な手を考えているのか? だが、今度はそうはいかない、身体強化」

嘘だろう..大人気ない、アールの時、何故かどんなに頑張っても身体強化は身に付かなかった。

「それは反則じゃですか?」

「お前が悪いんだ、姑息な手使いやがって、それにお前がスキルや魔法を使うなら俺が使わないのはズルいだろう」

「大人気ない」

「お前が悪いんだよ」

ひたすら僕は走る。

騎士と冒険者で恐らく冒険者の方が優れている事がある。

それは冒険者の方がたえず動きながら攻撃する事に慣れている事だ。

相手を人だと思わない、頭の中で魔物に置き換えて戦う。

結果は..

「戦い方は悪く無かったな」

「はぁはぁ..化け物ですか? この動きについて来て更に疲れないなんて」

結局僕は3回目は勝てなかった。

本調子じゃないとはいえ現実は厳しい。

「結局は1勝2敗…負け越した」

「馬鹿野郎、昨日今日剣持った奴に負けるかよ」

「それじゃまた明日きます」

「ああっ」

近くに隠れてクララは見ていた。

本当に変わろうとしているんだ..あんなに頑張って。

私も約束は守らないとね

「団長、彼奴は何者なんですかね?」

「勇者様だろうが」

「団長も気が付いているんでしょう?」

「まあな」

彼奴は、最初の戦いでは、今の自分の剣の力の全力で向かってきた。

恐らくは自分の力を知るために。

2回目は、自分の欠点を補う為に魔法を使った。

3回目は、騎士が走る事が苦手と踏んで動き回りながら攻撃してきた。

「勇者とは凄い物ですね」

「ちげーよ..あれは彼奴の工夫だろう..勇者だからじゃねぇ」

「確かに..だけど彼奴、魔法の練習もサボってたのに、何で魔法使えるんですか?」

「あっ..何でだ」

「しかも、火魔法も回復魔法も防御魔法も持って無かった筈ですよ」

「まぁなんだ、明日も来るみたいだから聴けばよいか」

今夜も眠れない
えーとこれで良いのかな。

やや透けているベビードールにシルクの下着

これ位なら、下品じゃ無くてセクシーで通るわよね。

別に、そう言う事がしたいわけじゃないのよ。

本当にそう、絶対に違うから。

だけど、約束したんだから仕方ないわよね。

「クララが望むような勇者になれるように頑張るよ」

「何時でも受け入れてあげる」

約束しちゃったんだもん、仕方ないじゃない。

しかも、しかもよ、本当に昨日までと違うんだから..

あそこ迄目に見えて違うのよ。

この間まで、本当にやる気の無かったアルトマンがやる気だして騎士団に頭下げたのよ。

それだけでもうん頑張っているなと思ったの。

素振りに走り込み..頑張っているわね、「愛」の力かな..

それだけじゃ無くて、そこから模擬戦をして善戦したのよ! 私の事本当に好きなのね..うん。

真面に剣を握った事が無い筈なのに..しかも、その後、勉強しに図書室に行って勉強しようとしていたみたい。

うん、本当に変わったわね。

その後は部屋に入っていたから、ああ、今日はこれで終わりかな? そう思ったの?

初めて練習したんだもの疲れるわよね..充分よ。

また出てきた。

えっ..また騎士団の練習所に行くの?

団長に模擬戦を挑んだわ..魔法迄使っているわ。

部屋で休んでいたんじゃない..研究してたんだ。

凄いわ、本当に凄いわ..勝ったじゃない..騎士団の団長に。

思わず、飛び出しそうになっちゃった..

大人気ない、本当に、あの騎士団長大人気ないわ..良いじゃない!

あんなに頑張ったんだからアルトマンの勝ちで。

何で「勝ち逃げは許さない」とか言い出す訳?

信じられない..アルトマンの勝ちで良いじゃない?

頑張っているのよ..本当に..もう。

だけど、凄いわ、走り回って本当に粘るわね..

本当に頑張ったね..うん。

「クララが望むような勇者になれるように頑張るよ」

絶対に本気だわ..

アルトマンが私をこんなに愛しているなら相手してあげなくちゃ..今日はどうしようかな?

また二人して朝まで眠れないわ。

だけど、腕枕って気持ち良いのよ..アルトマンの胸の音が聞こえて凄く落ち着くの。

私がしているのは、性処理じゃないわ..そう勇者と聖女の愛の営みだわ。

だから、幾らしても良いのよ。

結婚が約束されているんだから当たり前よね..

だってアルトマンがこんなに私が好きなんだからしょうがないじゃない!

けっして、私が虜になっている訳じゃ無いわ。

アルトマンが私を愛しているのよ。

勇者が愛してくれるから、聖女がその愛に応える。

うん、凄く自然で普通の事だわ。

トン、トン、トン..貴方の聖女クララが来ましたよ..

ガチャ

「クララ、いらっしゃい!」

嘘、私..いきなり抱きしめられちゃった。

きゃはっ、はぁぁぁっ..顔が赤くなっちゃうよ..

だって、私の勇者、アルトマンは、凄く優しくてカッコいいんだもん。

今日も絶対に眠れないわ。

【閑話】鬼畜勇者の末路

俺の名前は立島邦夫、まぁ日本で高校生をしていた。

高校生と言いながらも、殆ど学校にいっていない。

一学期に虐めにあい、そのままフェードアウト、まぁ良くある話だ。

その後は、ただ部屋に引き籠って生活していた。

最初は構っていた家族も、何回か暴れたらだれも文句言わなくなった。

ある日、エロゲーをやっていたらいきなり心臓が苦しくなって…そのまま死んだと思ったんだが違った。

何が何だか解らないが異世界に転移していた。

何だよこれ! 女神からのチュートリアルも無いし、手抜きも良い所だ。

途方にくれていると爺が通りかかり俺の事を勇者と言い出した。

何でも神託でこの辺りに勇者が現れる、そういう事だった。

この爺、まぁ教皇と呼ばれていたから偉い奴なのだろうな。

「勇者様、この水晶を触って下さい」

いわれるままに触った。

「おおう、まごう事無き勇者様だ」

勇者かそれだったら、好きなように出来るな。

俺は童貞なんだ、女なんてエロゲーかエロDVDか動画でしか見た事が無い。

まぁあのままあの世界に居たら、母親か妹を犯して卒業した事だろう。

その日の夜に綺麗な顔のシスターを犯した。

別に良いじゃないか? この世界の俺は、アルトマンと言い超美形なんだから、泣く事無いだろう?

余り、派手にやって「品行」が問題視されると困るから..一人だけで満足してやってたんだ。

まぁ、そろそろ飽きてきたけどな..

まぁ金があるから、娼婦を買って遊んで、奴隷女一人で我慢してやっているんだ。

だが、この女事もあろうに「聖女クララ」にチクりやがった。

ヤバイかも知れない。

聖女と言えば勇者と同格な可能性もある。

だが、この世界では運よく違っていた。

聖女より遙かに勇者の方が地位が上だった。

問題は無かった。

この聖女やたらとうるせーんだ。

「魔王と戦うとか」「修練しろ」とかな、馬鹿女、だれが魔王と戦うかよ..死にたくねーよ。

適当に遊び終わったら、身分を誤魔化して冒険者になるか他の国に行くってーの。

本当にうるせい。

良い事思いついたわ..

「女を買うのがいけないならお前が相手をしろ」と大勢の前で言ってやった。

此奴は聖女だから魔王を倒した後は俺と結婚する運命らしい..なら俺に不自由させるなよ..喜んで相手しろよな。

まぁ俺は魔王と戦う気はないけどな(笑)

涙ぐみやがって、馬鹿じゃないか..ただ此奴、顔とスタイルは良いんだわ。

しかも無理やりって良いよな..

「お前が俺の相手をしないなら魔王は倒さない」って言ってやった。

解っているんだわ、こう言ったらお前は拒めないよな。

「解りました、今夜お伺いします」

馬鹿じゃないか..もうお前は性処理道具で便器なんだよ..お前は言いなりになるしか無いんだって..

人前で犯すってやって見たかったんだよ俺。

「何を言っているんだ、今ここでするんだよ!」

「それは幾ら何でも」

「それならこの話は終わりだ、お前のせいで世界は終わるんだ..じゃぁな」

自分から服脱いで跨りやがるの…聖女? 性女の間違いじゃないか?

こういう女が泣きながら腰振るのは愉快だ。しかも股から血迄ながして..

しかし、此奴、いつも俺の邪魔ばかりするんだわ。

俺が他の女としないと..自分が玩具にされるのにな…解っているのか此奴

そんなに性処理したいなら使ってやるよ。

結局、此奴以外に犯せたのは最初のシスターと「賢者」のメイルだけ..他の女をやろうとすると二人して邪魔してきやんの。

しかもメイルって奴は顔は良いが、体はガキみたいだし、メソメソなくし辛気くせいんだ。

クララもよムカつく目をしやがる..詰まらない玩具だよ..

もう一人犯したシスターは他の支部に移ったらしくて居ない。

しかも、俺の周りにはもうこの二人以外..居なくなっちまった。

最も、もう俺は聖女とかシスターとか要らねーや…

だって反応が悪いんだよ辛気くさいしよ..

「外出ですか?」

「ああっ」

「宜しい許可しましょう」

教皇の爺さんは絶対断らないから楽だ。

お目付け役に聖女と賢者がついてきた。

何回か邪魔してきたけど..

「邪魔するなら世界を救わない」

そういったら悔しそうにしていたな..犯した女の後に犯してやった事もあったな。

まぁ、女を犯した後は教会が莫大なお金を被害者に渡しているらしい..何時もクララが名前とか聞いていたな。

ついているじゃんこいつ等。

俺みたいな美形に犯されて金迄貰えるんだ。

これは最早慈善事業だな。

男に直したら、美人な痴女に犯されて金が貰える..俺なら小躍りするよ。

今日も楽しく、慈善事業をしていたら、爺が絡んできやがるの

「辞めて下さい..誰か、誰か助けて下さい!」

対して美人じゃ無いくせに勿体付けやがって

「離して、離して下さい!」

「駄目だ、俺につきあえ..さもないと」

此奴煩いな、顔でも叩いてやろうか..

「嫌ぁー私には婚約者も居るんです..助けて..誰か」

「助けて、助けて」

無駄だってーの、誰にも俺には逆らえないんだから..

さっさとやられて金貰えば良いじゃん?

大した女じゃないんだからさぁ

「嫌、嫌、誰か助けて」

抵抗しても無駄だってーの..もう良いや脱がしちまえ。

「いい加減にしろ!」

「何だお前は! 俺様に逆らうのか!」

何だこの爺..俺は勇者だぞ..邪魔なんだよ。

女まで逃がしやがってムカつく。

「逆らうも何も..お前頭が可笑しいんじゃないのか?」

「ほうっ、俺様に文句言う奴は初めてだ..お前のせいで女に逃げられた、どうしてくれるんだ!」

「お前の様なクズには力で解からせてやろう..叩きのめしてやる」

そう言えば、俺もう一つやりたい事があったんだわ。

「人殺し」だ、勇者だから多分簡単なんだろうな..ここでやっておくか!

「駄目です、その方には絶対に敵いません..逃げて」

もう止まらねーよ..性女便器、あとで覚えとけよ..今日は地獄がまっているからな。

「大丈夫じゃよ、儂はこれでも上級騎士じゃこんな奴..」

バーカ、騎士じゃ勝てねーよ

「駄目」

お前も後で死ぬ程犯してやるよ。

「もう遅い..死ね!」

あははは..勇者に逆らうからいけないんだ、しかしこんなに簡単に人の首って斬れるんだな。

簡単すぎるわ。

「逆らうからいけないんだ..あんっああああ」

なぁ、何が起きたんだ、俺が空を舞っている。

どこから落ちたんだ..嘘だ体が無い..おい、それは俺の体だ何処に持っていくんだよ..。

あれ、あの体には首がついているじゃねーか..

なんで俺が爺になって..あああああっ..死なねえーよな..元の世界に戻るだけだよな!

彼は知らない…元の世界でもう彼は死んでいて自分はお骨になっている事を。

変ったんなら..
本当に変わったのね。

少し前まで人間のクズだと思っていたわ。

だけど、今のアルトマンは本当に勇者としか思えない。

今のアルトマンを見ていると、悪かったのは私なのかも知れないわ。

よくよく考えれば「聖女」って「勇者を癒す者」でもあるのよね..

ちゃんと癒してあげていれば、元から今のアルトマンだったのかも知れないわ。

アルトマンは歩いている所、いきなり勇者に祭り上げられて連れて来られたと聞いたわ。

重圧で可笑しくなっていたのかも知れない。

やっていた事は犯罪まがいだけど、その殆どが「女絡み」だそう考えれば不安から癒しが欲しかった。

そうも考えられるわ。

なら、最初から、私がその役をしっかりしていたら..今の素晴らしいアルトマンでいてくれたのかも知れない。

だって、あんなに毎晩私を求めてくるんだもん。

宝物でも抱いているかのように大切にしてくれるんだから..

そして、「私も凄く癒されてる」んだから..ただ、最近、アルトマンに死んで欲しくないから頭の片隅に「魔王と戦わないで」とつい聖女らしからない事も考えてしまうの..これは不味いわ。

だけど、やっぱり、勇者には聖女が必要。同じ様に聖女には勇者が必要だったのよ..こんなに良い関係になるなら、最初から拒むんじゃなかったわ。

あんなに頑張っているんだから、やはり更にその、頑張ってもっと、してあげなくちゃ。

「クララが望むような勇者になる」

その為にあんなに頑張っているんだから..

「あの、聖女様、本当にこれ買ってくるんですか?」

「そうよ」

「あの..買うのが凄く恥ずかしいですよ..年配ですからわたし」

「聖女としてお願いするわ」

「ううっ..貴方は、聖女じゃなくて性女ですよ..本当に破廉恥ですよ..」

確かに、買うのが恥ずかしいのは解るわ。

スケスケの男性を誘惑するような下着。

性の営みについて詳しく書いてある本 5冊..できたら図解入りで。

だけど、今の私には必要なのよ..だってアルトマンはあんなに頑張っているんだから。

ちゃんと、約束どおり相手してあげなくちゃ。

「性女? 不敬ね、だけど結構よ! アルトマン限定なら性女よ..勇者を癒してあげるのも聖女の誉有る仕事なのよ..だから買ってきなさい」

「ううっ解りました..ですが聖女様も変わられましたね..少し前までは良く泣いていたのに」

「そうね、確かに性処理は屈辱だったけど..今アルトマンとしているのは、それじゃ無いわ、愛のある、そう、勇者と聖女の営みなのよ」

「幸せなら、それで良いですよ..今の聖女様は楽しそうですから..その代わり本当に性女様になられましたね..良いですよ買ってきますよ..ただのシスターですから断れませんから」

「ありがとう」

「クララ様とアルトマン様は本当に仲良くなられましたね..修道女には目の毒です」

「そう?」

「それでメイル様..もどうにか出来ませんか?」

メイル? メイル..もうそろそろ、どうにかしなくちゃいけないのかな?

多分、会わせるだけで解決できる。

でも、そうしたら独り占めできなくなるのよね。

「そうね..どうにかするわ」

そろそろ三人にならないといけないのかな…

勇者の力は思った以上に凄かった。
「アルトマン、いや勇者様もう勘弁してくれ!」

「だが、トール以外、私の相手が勤まる人間が居ないだから頼むよ? そうだ、スキル使わないよ」

「嫌だ、それでも俺の剣を掻い潜ってくるじゃないか..一方的になるのは解り切っている」

「それじゃ、片手、片手でやるし、身体強化は使わないからねっ」

そう、僕は身体強化も使えるようになっていた。

魔力を循環させるのと同じで気を循環させるようにしたら出来た。

流石は勇者の体だ..アール以上に凄い。

しかも、無かった筈のスキルも身についていく。

本来はスキルはそう簡単に見につかない。

神から貰ったギフトの様な物だからだ。

例えば、剣術のスキルが稀に後から身に付く事がある。

だが、それはそれこそ、十年も剣を振り続けたらの話だ。

そして、確実に身に付く保証はない。

だから、普通はこんな馬鹿な事はやらない..

だけど、この体は..違う。

アルトマン

ジョブ 勇者
LV 1

スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み) チェンジ

後天的スキル:盾術 槍術 防御魔法 回復魔法(上) 火魔法(上)、風魔法(上) 水魔法(上)
   
       身体強化(上)

こんな感じだ。

(使える魔法)

プロテクト ヒール カウンター ファイヤーボール ウインド ウオーター クイック ホーリーウオール

ハイヒールはまだ使えない。

恐らく、クエラとメールの魔法やアールの魔法を使おうとしたから身に付いたのかも知れない。

普通はこんな事は無い、こんな簡単にスキルが手に入るなら誰もがスキルで運命が決まったりしない。

これはアルトマン特有の物、多分勇者だからだろう。

それにまだ、戦ってすらいない。

魔物も人も殺していないからレベル1、でも可笑しい、僕を殺した事はカウントされないのだろうか?

それにまだレベル1なのに..もしかしたら最盛期のアールを越えている。

既に騎士団の団長と戦っても余裕で勝ててしまう。

だが、慢心してはいけない。

アールの時に倒した最大の獲物はワイバーン、地龍だ。

それも1人で倒したわけではない。

最後に魔王と戦うのなら、「人間の強者」じゃ全然足りない。

少なくとも、騎士団位全員相手に余裕で勝てる位じゃ無ければ意味は無いのだと思う。

「それでももう勝てる気はしねーよ..やっぱりお前は、いや貴方は勇者なんだ」

「そうか、なら餞別が欲しい、貴方が私が立ち直るきっかけをくれた」

「餞別ってなんだよ..」

「この騎士団全員と私で模擬戦をして貰いたい」

「おい、幾ら何でも馬鹿にしすぎだろう!」

「これは馬鹿にしているんじゃないんだ..将来私は魔王と戦うんだ、騎士が勝てるなら勇者なんて要らない」

「だから何だ?」

「私は記憶が無い、だが自分がクズだったと言う事は嫌な程解ったんだ..だから真面な勇者になりたい..それも最短で」

「ほう!」

「だから、戦いの厳しさを教わる意味で、「怖さ」を刻み込みたいんだ」

本当に、此奴がクズだった男か!

目が曇って無い..

「此奴が今迄の話は嘘で私は嵌められたんだ」そう言ったら俺は此奴を信じる。

その位此奴はまっぐな奴にしか見えない。

確かにお前に恐怖を感じさせるのは今しか無い..な。

「解ったぜ受けた..これから、騎士団全員対勇者アルトマンの模擬戦を行う..剣こそ刃を潰した物を使うが、実戦のつもりでやれ..以上だ」

「お願いします」

僕が頭を下げた途端に斬り込んできた奴がいた。

「おっと避けられたか! 実戦では汚い奴は沢山居るんだぜ…油断するなよ」

その通りだ..

体に直ぐに気を巡らせ..身体強化をした、更にプロテクトとクイックの重ねがけをする。

勿論、人族攻撃無効は使わない

身体強化にクイックの重ねがけ..駄目じゃないかなこれだけで…

周りが止まって見える。

こんな状態で剣なんか使ったら大変な事になる。

素手に切り替えて、1人目を殴った。

この状態なのに、まだ騎士団の団員の多くは剣を抜いてさえいない。

素手で殴るか、全ての騎士に向けて、ファイヤーボールとウインドを放った。

これを避けれたのは団長のみだ..

そして、その団長には素手で腹を殴りつけた。

なんだよこれ…

もう既に勝敗は決した…すぐにクイックを解いた。

「何だよこれ、お前何をしたんだ!..いてててっ動きは見えなかったし..詠唱高速だったぞ」

「身体強化にクイックを掛けただけなんだが..」

「もうお前は充分強くなった..卒業だ」

「いや、もう少し..教わりた」

「もう、教えることは無い..卒業だ、なぁお前らこの中に此奴がまだクズだと思う奴はいるか? 居ないよな」

「「「「「「「「「「「「自分は思いません」」」」」」」」」」」」

「いや、相手が居なくて困る..」

「もうお前は強い、俺は勇者として認める、頑張れよ勇者アルトマン」

「だから、此処でもう少し..」

「もう俺が教えることは無い..頑張れよ!」

「….」

「…..もう無理だついていけないんだ、此処の騎士じゃ..宮廷騎士団の方に行ってくれないか..な」

「はい」

剣はこれで勇者として基礎は出来たと考えて良いのか?

次は魔法か..賢者メイル..と仲直りしなければ始まらないのかも知れない。

譲りたくはないけど…

「クララ、本当にごめんね..大丈夫?眠れない程辛いんだね..」

心が痛い..だって毎日がバラ色なんだから..辛いどころかこれでもかって幸せを満喫していた。

「クララが優しいからって10日間も押し付けて、私ばっかり逃げてごめんなさい..」

本当に心が痛いからやめて..

そう、私はメイルに詳しい事を話さないで10日間もアルトマンを貪っていた。

だって仕方ないじゃない? 

仲の良いシスターに頼んで

透けているちょっと過激な下着を買ってきて貰って身に着けて..

本読んで..少しはしたない事勉強して、してあげたら..

凄く喜ぶんだもん。

アルトマンが私を大切にしてくれるから、気持ちいいし本当に堪らないのよ。

昼間だってさ..信じられない位頑張っているのよ..毎日…だったら約束の為に、私もしてあげなくちゃ。

もうこれも言い訳ね。

だけど、流石にこれ以上メイルに黙っている訳にはいかないわ。

「メイル違うわ、私全然辛くなんてないのよ!」

「嘘だよ..僕に気を使わなくて良いよ..今日だって目の下に隈が出来ているじゃない..」

寝不足気味なのは..貪っていたからなんだよ..とは言いにくいな。

「ううん、アルトマンは変わったよ! 本当に優しくなったし..ちゃんと勇者らしくなったよ」

「嘘だ! あのアルトマンが変わる訳ないじゃない」

「本当に変わったんだよ」

「信じられない…」

仕方ないか..もう暫くは独り占めしたかったんだけど..賢者も将来の妻なんだから。

「それじゃ、今日の性処理はメイルがしなよ」

「ううん、解ったよ」

目に涙が浮かんでいるわね..この子の場合、私所じゃ無くて性格まで否定されて暴力振るわれていたからな…

簡単にはいかないか..

「だけど、本当に変わったよ..まぁ自分の目で見て判断するしかないね」

「僕は信じない..」

私はアルトマンに今日は私ではなくメイルが行く事を伝えた。

アルトマンが少し寂しそうだったけど仕方ないのよ…私だって、私だって譲りたくなんてないわよ..

【IF】続、奴隷を買った日 (短編の方の続編)
一体この扱いは何なのでしょうか?

昨日、私は美味しくい頂かれちゃった訳ですが…

嬉しくて、物凄く気持ち良かったし..凄く愛されて優しかったのです。

私は「性処理奴隷でNGなし」そんな条件で売られていて、ご主人様に買われた訳なんですが..

前の糞旦那が、淡泊なSEXしかしないし、お金の為に大した経験も無いのにそんな条件で売られてしまったのです。

お叱りを受けるかも知れませんが正直に淡泊な経験しかない事を話しました。

そうしたら拒まれたと思ったようで凄く落ち込まれました。

此処まで優しくしてくれた人を拒むなんて私は考えていません。

「ご主人様、違いますよ..ご主人様が望むなら、私を好きなようにして頂いて構いません..ですが私「NGなし」なんて売られていましたが、その、そっちの経験が余り無いんです..だから..」

「嫌われてないなら良かった! 夜は長いからゆっくりしよう」

その後は蕩けるような時間を過ごさせて頂きました。

あれっ頂いちゃったの、私じゃないですか!

良く考えたら..

綺麗な洋服買って貰いました。

買い物はしましたが荷物を持っていたのはご主人様です。

串焼きを買って貰いました。

私が疲れているからと馬車を借りてくれました。

馬車で寝ていた私を多分、抱っこしてフカフカのベットで寝かしてくれました。

そして、凄く大きくて綺麗なお風呂を頂きました。

その後は、冷たいお茶を頂いて..美味しい食事をしました。

そして肝心の性処理ですが..私よりご主人様が色々して下さった気がします。

今考えても蕩けちゃう夢の様な時間でしたよ。

終わった後に、お顔を拝見したのですが..凄く美形なんですよ..びっくりする位に。

それもその筈..あのアール様なんですから当たり前です..まぁその名前を捨てたから今はケイン様ですが。

一体、私は何をしているんでしょう?

奴隷ですよね?

何もしてないじゃないですか..これは凄く不味いんじゃないですか?

絶対まずいですよ。

今日の朝食までご主人様が作ってしまいました。

凄く気が咎めてしまいますよ。

「あの、ケイン様、私にお手伝い出来ることは無いのでしょうか?」

「今は特に無いよ..ゆっくりしていれば?昨日まで閉じ込められていたんだから疲れているんじゃない..夜も頑張ってくれたんだから」

何でこんなに優しいのでしょうか..

こんなのは奴隷ではありません。

普通の奴隷は愛玩用の高級な奴隷以外は馬車馬の様に働かせられるのが普通です。

どうしても不思議に思い聴いてみました。

「あの、ケイン様お聴きしても宜しいでしょうか?」

「良いよ..何でも聴いて」

「あのケイン様は何の為に私を買ったのですか?」

「言いづらいけど..昨日の夜みたいな行為の為かな」

嘘ですよ..60歳なのかも知れませんが30歳位にしか見えません。

女の30歳とは違い男の30歳はまだまだ需要があります。

しかも、成功者なのだからもうそれすら関係ありません。

本当の年齢は60歳でも30歳位にしか顔も体も見えないのですから、女性を口説くのには問題ない筈です。

それで昨日みたいに優しくしたら、大抵の女なら..高齢でもそのまま受け入れてしまうのでは無いでしょうか?

なにより驚く程美形なのですから絶対にオモテになる筈です、奴隷を買う必要はありません。

しかも27歳の銀貨3枚の..言いにくいですが中古品みたいな女を買う必要は絶対に無いでしょう。

更に言うなら、他にも若い子は沢山売られていたんですから..敢えて私を選ぶ理由なんてありません。

売り込んだのは私ですが..言っていて悲しくなってきますね。

「本当にそれだけなのでしょうか? ケイン様ならその、オモテになる筈です」

「もう爺だよ、相手に何てしてくれる女性が居る訳ないよ..しかも僕は激しいから..シエスタは嫌じゃ無かった? 大丈夫?」

何ででしょう? こんなモテル要素しかない人が..そう言えば生涯奥方様二人としか過ごしていないから、ご自分の素晴らしさに気が付いて無いのでしょうか?

「大丈夫ですよ、寧ろ愛されている気がして凄く嬉しかったです」

「そう、それなら良かった」

「ですが、私奴隷のような気がしません」

「そうだね、シエスタを買った理由が今解ったよ..」

「どんな理由でしょうか?」

「多分、僕はお金を出して恋人を買ったんだと思う」

「恋人ですか?」

そうですか、恋人ですか? 確かにそういう扱いですが、これは本当に恵まれた女性だけが手に入れられる最高の恋人の待遇ですよ?

普通は恋人相手でもこんな蕩けるような事しませんよ..

ケイン様は「お金を払って買った」そう思っているかも知れませんが実際は「お金を払って恵んであげた」そういう状態ですよ。

「うん、こんなお爺ちゃんなのに可笑しいでしょう?」

「そんな事はありませんよ..もし違う出会い方して奴隷で無くて、私が若かったとしてもケイン様ならお付き合いしたいし、結婚だってしたいそう思う筈です」

「結婚..シエスタはこんな僕でも結婚したい..本気でそう思ってくれるの?」

「当たり前じゃないですか?」

「それなら結婚しようか?」

「ええっええええーっ」

私はそのままお姫様抱っこされました。

「あの、ケインさま何処に行かれるのですか?」

「結婚と言ったら指輪でしょう..これから街に行って指輪を買って..そのまま教会に行こう..二人とも知り合いや家族も居ないからそれで良いんじゃない?」

「あの、それって私と結婚してくれる..そういう事ですか..」

「勿論」

ケインさまが今迄で一番うれしそうに笑いました。

何でなのかは解りません..この素晴らしいケインさまは銀貨3枚の価値もない私を愛しているのです。

「本当に..私、生きてきた中で今が一番幸せです」

私の夢の様な日々はまだまだ続くのです..信じられません。

賢者
凄く憂鬱でしょうがない。

クララは「優しくなった」と言っていたけど、僕には信じられないよ。

それに、優しくなったというのがクララにだけかも知れないじゃない。

元々クララは僕と違って気に入られてはいたから。

確かにクララにも酷い事はしていたけど..クララには性的な嫌がらせしかしていなかった。

「クララは胸も大きいし、触り心地も良い」なんて言っていたから、彼奴なりに好んでいた可能性はあると思うんだ。

それに対して僕は

「胸も無いし、体もゴツゴツしているし、お前本当に女なのか?..穴しか取り柄ねーじゃん」

「本当ガキみたいで萎える..何か工夫位しろよ」

「その目つきがムカつくんだよ..人形みたいでよ..お前が賢者じゃ無ければくり抜きてぇ位だ」

全然扱いが違うんだよ、クララは気が付いてないけど、僕は性処理道具扱いだけじゃない..暴言と暴力のはけ口でもあるんだよ。

服で隠れていない所は痣だらけなんだ..僕は

誰も間に入らない、それが解ってからは、最近は顔も平気で殴る様になったんだよ。

僕だって女の子なんだよ..顔は辛いんだ。

クララも「殴られたり蹴られた」そう言うけど、クララはしっかりと加減されているんだよ。

クララのが性処理を楽しむ為のプレイだとしたら、僕にしているのは本当の暴力。

少なくともクララは口を切った事も無いし、痣だらけになるほど殴られていないよね?

綺麗なままじゃない..それは手加減されているからなんだよ。

僕の口の中は切れていない方が少ない位..スープも痛くて飲めない。

体もいつも痛いんだ。

クララはお気に入りのオモチャ。

僕はどーでも良いオモチャ..気に入らない人形の手足を引きちぎっているような子がいるけど..多分そのオモチャが僕だよ。

クララは「裸で土下座させられた」って泣いていたけど..僕にはそれすら羨ましい。

だって僕だと「土下座」じゃ許して貰えないんだもん..

僕の時には裸で土下座させられて、自分で体中に「二度と逆らいません」と書かされて..その後に髪の毛を掴まれて部屋中引き摺りまわされたよ。

そのまま部屋の外にまで連れ出そうとしたから、反抗したら鞠のように蹴られたんだ。

断言するよ、あの悪魔は僕には絶対優しくなんてしない。

もう着いちゃった..嫌だ..だけど逆らえない、勇者だから..

「アルトマン…きた」

嘘だろう..こんな酷い事を出来るのか?

これは死んでお詫びするしかない..人がやる行為じゃない。

僕は机の横の短刀を取りに行った。

「ああああアルトマン..まさかそれを僕に使うの!…いや..嫌だよ.斬られのは嫌だぁ..」

やはりアルトマンはクズだ..こんな誤解される位酷い事していたんだ。

「違う、君にとんでもない事をした、これは取り返しのつかない事だ..殺してくれて構わない」

僕はそのまま土下座した..

あっ、殺される訳にはいかない..殺されたら、入れ替わって苦しむのはメイルだ。

「やっぱり、殺すのは無し..その代り好きなだけいたぶってくれて構わない」

こんな可愛い子の額に「犬」って書いてある。

しかも裸で胸の中央には「性処理便器..アルトマン専用」って書いてあり..お腹には的のような物が書いてある。

しかも体中が痣だらけで、手足、顔以外は痣が無い所を探すのも難しい。

これは絶対にアルトマンがやらせた事だ。

しかも、その恰好で此処まできた..服も着ないで..

間違いないアルトマンはアールなんて比べ物にならないクズだ。

「やめて、勇者はそんな事しちゃいけない..」

何でだよ..僕が同じ事されたら許せない..同じようにクエラやメールがされたら..殺す。

「僕はクズだ..君みたいな女の子にこんな事させるような..本物のクズだ..こんな物じゃ許されない..」

「アルトマンは記憶が無くなったんだよね..」

「確かに記憶は無くなったけど..罪が無くなった訳じゃない」

信じられない…あのアルトマンが土下座している。

私の前で..

正直、殺してやりたい..そう思った事も沢山あるよ。

だけど、これはさせちゃいけない..勇者はこの世界で一番偉い。

許す、許さないは本当は別..だけど、これは絶対にさせちゃいけない..だけど今のアルトマンは「許す」と言わないと絶対にやめないと思う。

「覚えて無いなら仕方ないよ、許してあげるから、もう土下座は辞めて」

「解った」

何で神はこんなクズを勇者にしたんだよ..

何でこんなクズが許されるんだ..少なくとも僕はアルトマンよりもアールより真面な人間だったのに..

まわりにこんな良い子、1人も居なかった..あっ、居たけどアールに全員が夢中だっただけか。

「本当にごめんね」

僕はハンカチで額から拭いてあげようとした。

「いやああ、ぶたないで.」

「驚かしてごめん、拭いてあげようとしただけだよ」

「そう..ごめんなさい」

水差しから水をハンカチにつけてそれで拭いた。

「うっっ」

結構落とすのは大変で額も、胸もお腹も赤くなった。

「痛い事してごめんね、ようやく落ちたよ、僕は絶対にもう酷い事をしないし、させようとしない..ごめんね…」

「本当?」

「約束するよ」

「そう..」

この人は本当にアルトマンなのかな..

まるで別人みたい..

「こんな事で許して貰えないと思うけど..ヒール」

「あの、アルトマン様はもうヒールが使えるの?」

「何で、様なんてつけるんだ?」

「いや、必ずつけるように僕、言われたよ..」

「もう、それは辞めて..アルトマンで良いよ」

「アルトマン…うん解ったよ..それで何で使えるの?」

えーと、メイルは「賢者」なんだよな..何で聞くんだろう?

「勇者らしくなりたくて、頑張って練習したからかな?」

「そうか、ちゃんと練習してたんだね..」

まだ、僕は魔力の循環の練習中なのに、もう魔法が使えるんだね。

「他にも何か出来るの?」

「出来るよ、だけどまずは、ヒール、ヒール..うんこれでどうにか痣は消えたね..もう二度こんな酷い事はしない..ごめん、本当にごめん」

3回もヒールが出来るんだ、確かまだクララも魔法は使えてない筈なのに。

しかも、口の中の怪我も無くなっているし、凄く上手いと思う。

ちゃんと努力しているよ..あのアルトマンが..

「もういいよ、謝らないで、それより、他にも何か出来るの?」

僕は、ファイヤーボールとウィンドカッター、ウォーターを窓の外に放ち、素早く動くクイックを見せた。

「凄いね..本当に頑張っているんだ」

「約束しちゃったからね」

「クララと?」

「そう」

「夜のお勤めをしっかりしたら、勇者として頑張る..そういう約束だよね?」

「うっ..そうだよ」

女の子に真顔で言われると恥ずかしいな..

「だったら、僕もしっかり夜のお勤めするって約束したら、もっと頑張れるのかな?」

僕じゃ、そんな気にならないよね..

「それで良いの?僕はかなり酷い事していたんだろう?」

あれっ、思っていたのと違う、何かこう嬉しそうだ、アルトマンの笑顔なんて初めてみたよ..僕。

「良いよ、だってアルトマンは勇者だから何時か、本物の地獄のような思いをする時がくると思う..だからそこから逃げないで頑張るって約束するなら..もう、許してあげるよ..ただもう酷い事は辞めてよ..辛くて悲しいから..」

「約束するよ」

「アルトマンは僕の事好き?」

「好きだよ」

「クララとどっちが好き?」

「….同じ位好き」

「困っているね..良いよそれで、同じ位好きなら、それで今日もするんだよね..」

性処理は苦痛で嫌だけど、優しいアルトマンで居てくれるなら..我慢しなくちゃ..クララだって我慢しているんだから。

「ごめんね」

多分、辛い記憶しかないんだろうな..だったらしないと..

「いいよ、きて」

嘘だ..これ全然違うよ、手が凄く優しい。

前はあんなに引っ張って、酷い扱いしたのに..なんでそんな愛おしそうに髪を撫でるの?

キス..なんで? 僕の口なんて全く価値がないんじゃないの? お前のくちなんて便器みたいな物だから、キスなんてしたくない、そう言っていたよね?

「何でキスしてくれるの?」

「何でって、可愛いメイル見ていたらキスしたくなった、それだけだよ?」

「そう、僕は可愛いんだ..えへへっ、ありがとう..」

全然苦痛じゃない..苦痛じゃない所か…気持ち良い..

殴られるどころか、僕を宝物みたいに触ってくるんだもん。

本当に同じ人なのかな?

こんな風に大切にしてくれるなら、僕嫌々じゃなくて自分からちゃんとするよ..

なんでこんなに優しいのに..あんな酷い事したの..

無理やり泣いている僕を犯したのに..

最初からこんなに優しくしてくれていたら..僕だって。

「その目つきがムカつくんだよ..人形みたいでよ..お前が賢者じゃ無ければくり抜きてぇ位だ」

当たり前だよ..大嫌いなんだから..優しい顔なんて出来る訳ない。

自分を愛してくれない、ただ犯す人間に優しくなんて出来る訳ないよ。

心が痛くて壊れちゃうんじゃないか、そう思ったら閉ざすしかないじゃないか!

「胸も無いし、体もゴツゴツしているし、お前本当に女なのか?..穴しか取り柄ねーじゃん」

罵倒して暴力振るうような男に、何かしてあげようなんて感情湧く訳ないよ..

どうせ、僕は男みたいだよ..使いたいなら勝手に使えば良いんだよ..どうせ僕は只の物なんでしょう..

「本当ガキみたいで萎える..何か工夫位しろよ」

暴力振るわれて、罵倒しかしないアルトマンに何で僕が何かしてあげなくちゃいけないの?

僕、ムカつくって言われて裸にされて部屋中引き摺りまわされていたよね..

豚の物まねまでさせられて「お前は豚以下だ」なんて言われた事もあったよね..

体中に卑猥な事書かれたり..一日中裸でいさせられた事もあったよね..

アルトマンが「目が気にくわないから、くり抜きたい」そう言われるたびに本当に何時か目を潰されたり、くり抜かれたりするんじゃないかって怖かったんだよ。

それが、何でこんなに優しいの?

最初から優しくしてくれていたら、僕は反抗的な態度なんてとらなかったよ?

勿論、睨んだり、嫌な顔なんてしなかったよ?

だって僕は賢者なんだから..生涯君と一緒に居て、将来結婚するのが当たり前の人間なんだから..

君のお嫁さんになる..そういう女の子なんだから..

君が優しくしてくれるなら、幾らでもアルトマンに好かれるように頑張るよ..

「ねぇ、アルトマン、僕の目どうかな?」

怖い..アルトマンは僕の目が嫌いなんだから..

「綺麗だよ..」

「本当?」

「食べちゃいたい位」

「ちょっと、アルトマン.それ怖い..やめて」

幾ら今の、アルトマンでも流石に目を舐められるのは怖いよ..舌が見えるんだから..

「ごめん、可愛いくて綺麗だから..つい」

「ううっ..いいよ..僕我慢する」

怖いのに、凄く怖い筈だったのに..綺麗って言われたら..嬉しくなっちゃう。

多分、僕の今の目は嫌いじゃ無いんだ..そうじゃなくちゃ、こんな顔しない

だって、アルトマンがこんなに優しいんだから、いまの僕がアルトマンを睨んでいる訳ないもの..

「ねぇ、アルトマンは僕の事好きなんだよね?」

「好きだよ」

「なら、もういいや..」

好きなら仕方ないよね、僕の目も好きなら仕方ないよね..うん。

あれっ僕って現金なのかな、もう怖くないや..寧ろ嬉しい。

アルトマンは確かに酷い人だったけど..僕も悪かったのかも知れない。

今のアルトマンは凄く優しい..

もし、最初から僕が受け入れてあげて優しくしていたら、「このアルトマン」だったのかも知れない。

だって、賢者は「勇者に寄りそう者」なんだから..アルトマンも悪いけど、寄り添ってあげなかった僕も悪いのかも知れない..

気が付くともう朝だ..

楽しい時間は過ぎていくのは早いんだね。

この間まではこの時間が苦痛で、早く終わらないかな..そう思っていたよ。

だけど、今はこの時間が過ぎてしまったのが凄く残念に感じちゃうよ。

多分、これは性処理なんかじゃない..「僕が好きなアルトマンとアルトマンが好きな僕が愛を確かめ合う大切な時間」だと思う。

アルトマンは満足したのか横で寝息をたててねている。

僕で満足してくれたんだ..そう考えたら凄く..愛おしい..愛おしいけど顔が赤くなっちゃう。

アルトマンの顔を近くで見た..

僕は今迄怖くてアルトマンの顔を見た事が無かった。

「アルトマンってこんなに二枚目で綺麗だったんだ..」

しかも凄く優しい顔で寝ているんだ。

アルトマンを拒絶して、憎まれて..凄く時間を損した気がする..

「もう起きたんだメイル..」

「おはよう、アルトマン」

「おはよう」

今は顔を見られる、それだけで嬉しい。

まずは..クララを締め上げよう!

絶対に誤魔化していたよね? 信じられない..

「どうしたの?」

「何でもないんだよ..本当に?」

「そう」

多分今日は、いや今日からは凄く楽しい日が続くと思う。

剣聖との戦い
「ク.ラ.ラー」

思わず、僕はクララに飛び蹴りをしちゃった。

悪気はない..筈ない。

「痛いよメイル..何するんの!」

「何するのじゃ無い..クララ、僕を騙したね..」

「騙してなんていないわ..ちゃんと説明したのに信じなかっただけじゃない! 違う!?」

「うっ、確かに僕が聞かなかったのかも知れない..」

「なら、私は悪くないよね?」

「それじゃ、10日間アルトマンの夜伽の相手は僕で良いよね?」

「何でそうなるのよ!」

「10日間独り占めしていたんだから当たり前だと思うな?」

「せめて3日間に負けて」

「5日間、これ以上は負けられない…僕だってアルトマンとの絆を取り戻したいんだよ、良く見ていたらクララは暇さえあればイチャイチャしているじゃない」

「それはそうだけど..」

「僕だけ仲間外れにするの? 一緒のパーティーだよね? これから先僕たちは死ぬまで一緒かも知れないんだよ!」

「4日間」

「解ったよ..4日間で手を打つよ」

「ううっ、私とアルトマンの甘い日々が悪魔の手で引き裂かれるんだわ」

「悪魔って僕の事? 僕が悪魔なら、クララは腹黒デーモンじゃないか!」

「メイルっー」

「なぁにクララ」

「止めよう..」

「そうだね」

騎士団が相手してくれないから、宮廷騎士団に行くしかない。

こちらは王を守る騎士達だから、多分レベルは高いと思う。

少なくとも上級騎士は複数居るし、最上級職のクルセイダーや聖騎士も居る筈だ。

特に聖騎士には興味がある。

勇者特有の魔法に 聖魔法や光魔法がある。

聖騎士から学ぶのも良いかも知れない。

僕は勇者だから、会いに行く事は問題無いだろう。

「勇者様が何の御用ですかな?」

「何か学べればと思い訪問させて頂きました」

「何も学ぶことは無い..そう言われたのはどちら様でしたか?」

「記憶にない..すみません記憶が無くなってしまったのです、ただ相当私は酷い人間だったようです、この通り頭を下げさせて頂きます」

「ふむ..騎士団では土下座した聞きましたが..」

「解りました」

アルトマンはここでもやらかしていたのだな仕方ない。

僕はそのまま土下座をした。

「謝罪は受け取りましたが、教えるかどうかは我らの勝手..お前みたいに薄汚い身分の者に剣技など教えぬわ」

相当やらかしていたんだな、アルトマンは..

「そこを何とか教えてくれないか?」

「だったら犬の真似でもしてみるんだな」

「何をしておる!」

「プラート王、ドロリゲス教皇様..」

「おい、何故勇者様がそこで土下座をしておる、何故周りの者は止めない」

「勇者様に何をさせているのだ」

「私は、この様な平民を勇者なんて認めません..誇り高い血も流れておらず、大して強くも無くただ偉そうにしているだけの人間等認められません」

「私も同感ですな..薄汚い者に世界など任させられません..王よこの様な者必要は無い」

「クルトにクロード、それは宮廷騎士団としての総意..そう言う事で良いのだな」

「その通りです..この様な勇者を語る平民等、必要ない」

「同じ平民のあばずれと遊んで居ればいいんだ」

「平民と娼婦で..勇者ゴッコして乳くりあっていれば良いんだ..」

「解りました、クララとメイルを連れて出ていきます..この国には優秀なクルセイダーと聖騎士様がいるのでしょう? なら勇者は要りませんね」

「おい、お前は何を言っているんだ」

アルトマンがやらかしていた。

そう思っていたがどうやら違うようだ、それに僕だって魔王とは戦いたくはない。

「勇者が国を捨てると言うのか!」

「違うだろう? お前らが要らないと言ったから出ていくんだ..この世界は2人に任せて、出ていくよ、お勧めの通り、2人と冒険者にでもなって勇者ゴッコでもしながら楽しく暮らすよ..そんな楽しい道を教えてくれてありがとう、クロードさん、あんたは神様だ」

「ちが、違う、俺はそんな事は」

「言っておりましたな..教皇である私が聞きましたよ..それじゃ勇者様達は教会に行きますか? 教会にもクルセイダーと聖騎士はいますから..そうしましょう..そうだお二人には、勇者様の前に旅立ち、魔王と戦って貰いましょう..もし魔王を倒せたら、「勇者」の称号を差し上げましょう」

「ならば、出来ぬ時は、家は取り潰しだな..それでどうだ、クルトにクロード..」

「教皇様、王様..何故その様なお戯れを言うのですか..」

「何故です」

「当たり前の事だ..「勇者」が負ければ人類は未曽有の危機に襲われる..だからこそ負ける訳にはいかない…負けは死に繋がるのが勇者だ、負けたら全部無くす..その代わり、勝てるのならすべてやろう…そうだ、第三王女のシャルも妻にやろうな..その代り負けたら、クルト家もクロード家も幼子も含み全員ギロチンだ..受けるか?」

「その様な事..受けられません」

「私とて、戦は時の運、負けることも御座います」

このままじゃ遺恨を残すな、不味い。

「やはり謝罪はしますよ..間違いなく私はクズでしたから」

そのまま、僕は土下座をした..そして..

「ワンワンワン..これで気が済みましたか?」

「いや、我々はそこまでさせる気は無かった.」

「戯言じゃないか..なぁ」

「私は謝りましたよ..今度はこちらも言わせて貰う! 僕はクズだったんだから仕方ないさぁ幾ら言われても、だが、クララやメイルは違う..ただの少女が魔王と戦う為に頑張っているんだ..それを馬鹿にした事は許せない..ままごと騎士団、全員相手してやるから受けろ」

「ままごと騎士団だと!、貴様栄えあるこの宮廷騎士団に..」

「貴様、それは聞き捨てならぬ..良いだろう受けてやる」

「この剣聖のクルト率いる..宮廷騎士全員でお相手する」

えーと、此処に居るのはクルセイダーと聖騎士が最上級職じゃないのよ..

「クルセイダーと聖騎士が居るんじゃないないのか?」

「副官二人が、そうだが何か問題でも」

「ない」

「それでは宮廷騎士団全員対勇者アルトマンの模擬戦を始める」

「やっぱりアルトマン、カッコいい、僕の為に宮廷騎士団と決闘するなんて」

「何言っているの?  あれは私の為に戦ってくれているのよ愛よ、愛」

「可哀想だからそう思ってて良いよ..」

「何、その目ムカつくわね」

さてと、この模擬戦は負けられない、だから人族攻撃無効、を使う。

「用意は良いか始め!」

悪い、今回は負けられないから「人族攻撃無効」を使わせて貰う。

その状態で身体強化を使い、クイック、プロテクト、カウンター、ホーリーウオールを全部掛けた。

勿論、攻撃を受けない様に気をつけながら..

最早、この瞬間勝敗は決した。

殆どの騎士は止まって見える位遅い。

だから、簡単に無効化できる。

1人、また、1人剣ではなくただの手刀で意識を刈り取る。

やはり数を相手にするには魔法が必要だ。

沢山のファイヤーボールにウィンドを詠唱しぶつける。

これで多くの騎士は最早無効化できた。

勿論、その間には騎士が攻撃してきたが、その攻撃は紙一重で全部躱した。

これは僕が強い訳ではない..「人族攻撃無効」で勝手に回避されていく。

これで、全部終わりでは無かった。

こんな通常では躱せない筈の攻撃を避けて立っている者が居た。

剣聖 クルト

聖騎士 クロード

そしてもう一人の体の大きい男が多分、クルセイダーなのだろう。

剣聖の閃光の様な剣が、聖騎士の風の様な剣が襲い掛かるがこれすらも難なく躱している。

クルセイダーは反撃に転じてない。

襲い掛るはクルセイダー..防御こそ高いが..攻撃のスピードは並みだ。

攻撃を躱しながら、無数のファイヤーボールを叩き込んだ..20以上を叩き込んでようやく倒れた。

「あれが勇者様なのですか教皇様」

「プラート王、騎士が人が魔王に勝てるのであれば、勇者様等必要は無い..人が勝てぬから勇者様が必要なのです」

「まだ、本格的に修行する前であれなら、それですら勝てるかどうか解らない魔王はとんでもない化け物だ」

「その化け物と戦う宿命に生まれたのが勇者様、勇者様はその宿命から逃げられない、そして負けて良い戦いでは無い..ならば」

「我儘位、見逃せというのか?」

「はい、そして今は、その我儘も辞め、立ち直ろうとしています。大目にみてやるべきです」

「だが」

「世界を救う事に比べれば、何十人、いや何百人殺しても許すべきなのです..勇者様はこの世界全ての人間を救うのですから」

「教皇様が言われるならそうなのでしょうな..形式上とはいえ、勇者は女神の次に偉い..それで押し通し過去の蛮行の責任は全て終わらせましょう」

「お手数を掛けます」

「良いですよ、もう蛮行も治まり、今は邁進している様子..悪徳貴族より余程良い」

「彼は変わろうとしているのですよ」

「それは私も感じております、聖女と賢者に許しを請い、騎士団には土下座してまで謝り、今度も謝罪をしていた、私も王として勇者様と向き合おうと思います」

「それが良いでしょう..そろそろ決着が着くようです」

そこには、聖騎士を下し、剣聖の剣を掻い潜りながら倒した、勇者が立っていた。

「この勝負、勇者アルトマンの勝ちとする!」

高らかに宣言の声が響く。

「確かに僕は傲慢だったし鼻につく人間だったと思う、だけど僕はやがて魔王と戦わなくてはいけない、僕だけなら死んでも良い、だが仲間を守りたい、負けてしまったら仲間も守れないし、人々も守れない..だから力を貸して下さい..僕に力を貸すんでなく、人々を守るために力を貸すんだ、そう思って頂けないでしょうか?」

まだまだ子供じゃないか..それなのに「世界を救う」重圧を背おわせれば可笑しくもなる。

只の子供に権力を与えりゃ可笑しくもなる。

「私」ではなく「僕」これが多分彼の素なのだろうな..

そんな子供が、世界を救う為に何かしようとしているんだ..我々は何をしているんだ。

嫉妬、妬み…みっともない。

「それが、アルトマン様の本来の言葉なのですね、貴方に負けた未熟な身ですが、このクルトお力を貸しましょう..皆、力を貸そう」

「「「「「「「「「「おおおおう」」」」」」」」」」」

この日、アルトマン(ケイン)は大きな信頼を取り戻した。

本末転倒
毎日が楽しい。

今迄の毎日は何だったのかな?

お婆ちゃんが良く僕に「生きていく事は辛い事なんだよ」そう言っていた。

昨日までの僕は本当にそうなんだ、そう思っていたんだ。

だけど、今は違う。

毎日が凄く楽しくてしょうがない…

昨日もアルトマンは凄く優しかった。

特に夜なんて、僕、蕩けちゃいそうだったよ。

こんなに優しくしてくれるなら、最初から拒む必要はなかった。

本当にそう思うよ。

クララと約束しているから、後2日間は独占状態なんだ。

「あのさ、本当に悪いんだけど、お願いして良い?」

「やっぱり、こういう頼みなのですね…賢者様まで色ボケですか?」

僕は、可愛らしい下着と夜の営みの本を頼んだんだ。

だって、教会の支給の下着はただの布みたいで味気ないし…

あんなに優しくしてくれるならお返しをしたいもん。

「所で、までってどういう事かな?」

「その、聖女様からも先日頼まれましたので…」

「そう、それじゃ、それに勝てる物をお願い!」

「あの、私シスターですよ!恥ずかしいんです」

「でもクララには買ってきたんだよね?」

「あっ」

「賢者と聖女は同格の筈だよね? それとも貴方はクララ派?」

「クララ派ってなんですか?」

「クララの味方で僕の敵なのかな? なんて思っただけだよ..」

「違います」

「それじゃお願いね」

「解りました、だけどメイル様も明るくなりましたね」

「まぁね」

その分、腹黒さも戻った気がしますが…

「まぁ仕方ありませんね、私シスターですから、買ってきますよ」

「ありがとう」

「順風満帆、順風満帆」

凄く楽しかったのにこの日僕は地獄に突き落とされた。

僕たちの教育係から呼び出されたので仕方なく行ったんだ。

既にクララは先に呼び出されて待っていた。

「メイルもきましたね」

「どうかされたのですか?」

「僕、忙しいんだけど」

何だか何時もと様子が違う..何だろう?

「暫く、アルトマン様に会うのを禁止します」

思わず頭のなかがショートして何が何だか解らなくなったよ…僕。

「反対、反対、反対、聖女は常に勇者と一緒に居るのが当たり前だわ…私が居られない理由は何ですか? 納得いきません」

クララが金切声で抗議している..当たり前だよ。

「僕も反対、賢者が勇者と居るのは当たり前、空気のようにお互いが必要…」

「普通はそうですよ? 仲睦ましいのは良い事ですよ! ですが、貴方達は何をしているのですか?」

「勿論、アルトマンの為に女を磨いているわ」

「僕だってアルトマンの事を考えて」

「そうですよね…何時もアルトマン様の傍に居て、ある時は見守り、ある時は体を使って癒してあげているのよね?」

「そうです」

「僕もそうだよ」

「昼間はアルトマン様を見守り..夜は交代で癒して差しあげていますね」

「うん」

「うん」

「それで、貴方達は何時修行をしているのですか?」

「えーと」

「僕は図書館で、調べものしている」

「はぁー、アルトマン様は立ち直られて、あそこまで頑張っているのに、クララ様はヒールだけ、メイル様は魔力循環だけでまだ魔法は使えない…それで何か言う事は?」

「なっ、ありません」

「僕も無い」

「暫く、アルトマン様に会うのは禁止します…アルトマン様はもう旅立たれても良い位強いのに…貴方達は全く、まぁアルトマン様が凄すぎるだけで、貴方達のペースが普通です…ですがアルトマン様は、貴方達に相応しい勇者になる為に頑張っているんでしょう? それで良いの?」

「「頑張ります」」

僕達にはそれしか言えなかった。

【IF】続.続奴隷を買った日 お別れ、そして(短編の最終回です)
ケイン様が今日亡くなりました。

最後の最後まで私を可愛がってくれて、私を抱きしめて…朝起きたら横で死んでいました。

人は腹上死と馬鹿にするかも知れません。

ですが、最後の最後まで愛して死んでくれたんです。

女としては最高の幸せです。

私はケイン様の最後の女に成れたのです。

こんなに素晴らしい人の奥さんに成れたのです。

奴隷として買われてからの5年は私の人生にとって素晴らしい人生でした。

朝起きたら、ケイン様が居て、美味しいご飯を食べさせて貰って、ご飯を作ってあげて…

夜はこれでもかと言う程、愛されて、私も愛して…女としてこれ以上の幸せはありませんでした。

そして、死んでまでもご主人様は私を愛してくれていたのです。

この大きな屋敷も私名義になっていました。

冒険者ギルドには私が一生楽に暮らせる位のお金が私名義で積み立てられていて..

更にご主人様の活躍の功労金として支払われる年金も私が受取人になっていました。

たった銀貨3枚の価値しかないただの奴隷なんです…私。

ケイン様には沢山の物を貰いましたね…

だけど、だけど、ですね…こんなお屋敷よりもお金よりも私、ケイン様の方が遙かに大事なんですよ?

約束だから前の奥方様の傍に埋めましたけど..うふふ。

私、ケイン様をね、前の奥方様にとられるの嫌なんだですよ…

うふふ…もう離れませんよ? 死んでも一緒です…当たり前じゃないですか?

銀貨3枚の私にこんな大金くれるからいけないんです…このお金だったら10万回の人生差し上げても足りませんね。

シエスタは包丁を持ち出すとケインのお墓の前で首筋に当てて一気に引いた。

もう死ぬのは時間の問題だろう。

「ケイン様、今度もし出会えるなら…年下になって下さい…二度と私に貴方を失う悲しみを味合わせないで下さい」

これだけが、ケインさまが私に与えた悲しみです…

今から…はーはー…お会いしにいきますね。

シエスタが会いに行きますからね…待っていてくださいね。

シエスタ32歳…死去

遺言にはお墓をお世話する代わりに、遺産は全額冒険者組合に寄付するように書いてあった。

その死に顔は安らかだった。

自由な時間と贖罪

「アルトマン、本当にごめんね…私…暫く会えないの、こんなに愛しているのに、頑張るから、直ぐに甘い日々を取り戻せるように頑張るからね」

「アルトマン愛しているよ! 僕死ぬ程頑張るから待っててね」

凄く、感動的な別れに聞こえるけど仕方ない。

原因はただのサボりだから、何も言えない。

「待っているよ!二人が居ないと寂しいから頑張って」

これしか言えない。

「「アルトマン!」」

二人は引き摺られていった。

そして、僕はと言うと…

「もう何も教えることはありません」

剣聖クルトに言われてしまった。

クルトやクロードと、もう一人アルタとはあれから直ぐに打ち解けた。

クルトがあれ程、敵意むき出しだったのは彼は「戦えない剣聖」だったからだ。

魔王と戦う場合は三大ジョブで戦う場合と四大ジョブで戦う場合がある。

三大ジョブとは「勇者」「聖女」「賢者」四大になるとこれに「剣聖」が加わる。

三大で戦うのか四大で戦うのかは神託で決まる。

今回の神託では三大で剣聖は外されてしまった。

まぁ外された者からしたら、やる気が無く非道な事をしている勇者、同じく努力もせず能力もパッとしない聖女や賢者が頭に来るのは仕方ないだろう。

「アルトマン、俺が戦えないのは良く解ったよ…かなり年上だし多分伸びしろが違うんだろうな」

「聖騎士の技は全部教えた..あとはもう無いな」

「クルセイダーの技まで全部盗むなんて…勇者は凄いな」

今の僕は…

ジョブ 勇者
LV 1

スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み) チェンジ

後天的スキル:盾術 槍術 防御魔法 回復魔法(上) 火魔法(上)、風魔法(上) 水魔法(上)

       身体強化(上)

(使える魔法)

プロテクト ヒール ハイヒール カウンター ファイヤーボール ウインド ウインドカッター ウオーター ウオーターシュレッター クイック ホーリーウオール レジスト ライト パリィ

(技)

一閃 追撃 必中 アンデットキラー  光の翼 シールドアタック オートガード リフレクト

こんな感じだ。

アールの時、最終レベルは48だった。

レベル1なのにアールより強いと思う。

そして、これは異常なスキルの多さらしい。

だけど、僕はこれで安心出来ない。

僕が目指すのは「クララとメイル無し」で魔王を倒せる勇者だ。

最初はただ、アルトマンの罪滅ぼしからスタートした恋愛だが、今は本気で好きだ。

だから、2人には死んで欲しくない。

それに僕には「チェンジ」がある。

最悪魔王に倒されたら..魔王になるから自殺でもすればこの世は平和になる。

僕一人で魔王と対自した時に最早勝利は約束されたような物だ…

宮廷騎士全員にお礼を言い、訓練場を後にした。

色々教皇や王様にも相談したが、2人とレベルが違い過ぎるので、暫くは自由にして良いと言われてしまった。

アルトマンは色々やらかしている…だから僕はその時間を、贖罪に使う事にした。

許されてしまった…後でした

「贖罪がしたいのですか?」

「はい、自由な時間を頂きましたので…その時間を利用して、酷い事した人間に謝りに行きたいと思います」

アルトマンはクズだった。

ただ、勇者になってからかなりの時間を拘束されていたから、シスター1人、一般人が4人…最後に僕が止めた少女が1人。

合計6人が被害者だ。

これなら、直接謝る事が出来る。

「もう、教会が謝罪しておりますから、勇者様が直に謝る必要はありませんよ」

「ですが、それでは私の気が収まりません!」

「勇者様は本当に変わられましたね…良いでしょう! 司祭をお付けしますので、明日にでもどうぞ」

謝罪に行くのに、騎士が一人ついて横には高位司祭のミラク司祭がついている。

謝りに行く雰囲気ではない…そう思った。

実際に謝りに行くと…

「勇者様も降臨されてプレッシャーがあったのでしょう仕方ない事です」

「私がお相手したことで、勇者様のお力に慣れたのなら…それで良いのです」

「確かに娘に手を出されたのは許さない、そう思いましたが…許しています、貴方様は世界を救う御方です、そんな方の癒しになったのですから娘にとっても誉です」

家族が幾ら言っていても、当人は違うだろう…

「確かにあの時は辛かったですが、自分が素晴らしい事をしたんだ、その事に気が付きました、私が必要でしたらまた声をお掛け下さい、喜んでお相手しますわ」

「勇者様に抱かれてから、幸せになれました…有難うございました」

「その、勇者様に抱かれて…花屋の開業資金まで頂いて有難うございました」

「幸せですよ..本当に…最高です」

「先程も言いましたが…お力に慣れたのならそれで良いんです…必要ならまたお相手しますわ」

何なんだ、これは…

そうだ、だけど彼女達の恋人や婚約者は違うだろう。

クララの情報では4人のうち二人は婚約者が居たはず。

「普通の男に犯されたのなら、婚約は無かった事にしましたが、勇者様は別です…何でしたら妻になった後でもお使い下さい」

「勇者様の払い下げなら、それは誉れです…何を気になさるのです? なんでしたらまだ関係を続けてください」

何だこれ…一応、気が治まらないので、それぞれの家族に金貨1枚、僕からとして渡して貰った。

それで、最後に僕(アール)が止めた少女とその婚約者にもあったのだが..

「お相手しなくて済みませんでした…祝福を貰えるチャンスを捨てる等…馬鹿でした…その何なら今からでも致しましょうか?」

「お嫌でなければ今からでも抱いてあげて下さい…いやお願い致します」

本当に怖い…同じ様に金貨1枚渡して逃げるように出てきた。

後ろから「お願いです、お願いですから抱いて下さい…」 「頼みます、私にも幸せをお分けください」

そんな声が聞こえてきた。

「アルトマン様、本当に何も気にする必要は無かったでしょう?」

「ミラク司祭、これは一体どういう事でしょうか?」

簡単に言うと

あの辺りは貧民街に近く、一応市民ではあるがお金が無い者が住む地域。

そんなお金が無い人が住む地域の人間に今回の事に関して…教会は1家庭につき金貨3枚払った。

これは性処理奴隷が3人~5人買える程の金額に相当する。

更に、女神の使いの勇者に家族が奉仕した事で家族全員に「免罪符」が送られた。

これは教皇が発行する物で、人殺しをした者であっても「今迄の罪が許される(過去のみ)」法的には無効だが、死んで女神に裁かれる時に今現在迄の罪は無かったものとして扱われる、そう言われている。これはお金では買えない。

女神の使徒勇者に抱かれる事は他の男に抱かれたのと意味が違う。

汚されたのではなく、浄化されたのだ…それは女として最高の誉であるし、必ずや女神の元に幸せになれるであろう。

そして、勇者に女を差し出したという事は、魔王討伐に参加したも同じである、女神は勇者を癒す為に最愛の者まで差し出した者には感謝するだろう。

そんな話を司祭の多くがしたらしい。

「まぁこれは、あの様な地域だから通用した事です…本当はそんな事は無い…貴族階級や神職者なら解っている筈です」

「お手数を掛けました」

「この国は一神教です! そして貴方は女神の御使いなのです…王女だろうが貴方には仕える義務がある、私は思うのですよ! 最も私や教皇様の様に勇者絶対主義は薄れつつあります…嘆かわしい事です」

教会って凄い…あれ程酷いことしたのにそれを幸せに挿げ替えてしまった。

当人たちが「幸せだ」そう思っているなら、そのままで良い。

僕が…悪い事をしたんだ…その事だけを一生忘れなければ良いそれだけだ。

ただそう考えたら…気になるのは最後の被害者だ、彼女は修道女で神職者、シスターなのだから。

「有難うございます、ミラク司祭、貴方や教会がしてくれた事を私は忘れません」

「有難うございます…勇者様の感謝の言葉、それは何よりの誉なのです」

「それで、明日は、シスターに会わせて下さい」

「はい、必ずやお伴します」

贖罪らしい贖罪もせず、今日一日は終わった。

シスターへの償い (リクエストに答えました)
1人で寝るのがこんなに辛いと思わなかった。

ケインからアールになり、あの時から僕は殆ど一人で寝ていた事は無い。

前の人生ではクエラとメールと常に寝ていた。

それは60歳になり老人になっても同じだった…

そして、ひょんな事から勇者アルトマンになってからは、クララとメイルが居てくれた。

だからこんな一人で夜を過ごすなんて久しぶりなんだ…

朝起きた時に横に誰かが居ないというのがこんなに寂しく感じるなんて思わなかった。

ミラク司祭と馬車で出かけるまで時間はある。

二人の様子でも見に行こう…

教室から静かに見守っていた。

「アルトマン、私凄く頑張っているよ! 直ぐに愛の力で戻るからね!」

「僕も頑張るよ! 直ぐにアルトマンとのラブラブな日々を取り戻すからね..待ってて」

「うん待っているよ!」

「「アルトマン」」

「二人とも、授業に集中して下さいね! 勇者様も授業の邪魔ですから…声を掛けないで下さいますか?」

「はい」

見ていても授業の邪魔になるだけだ、もう行こう。

シスターについて事前情報を貰った。

名前はシエスタ。

性格の悪い旦那と義母に奴隷商に売られそうになっていた所を司祭が見つけ、間に入り保護した。

旦那と義母はその場で捕まり投獄されたが、彼女は行くところが無い為そのままシスターとなった。

元々働き者だった彼女はその後教会の奉仕活動をはじめ敬虔な信者として働いていたという。

心優しい彼女は、他のシスターに手を出そうとしていた、このクズとの仲裁に入り代わりに餌食になった。

そして彼女への仕打ちは…クララやメイルとは比べ物にならない程酷い物だった。

余りに酷い状態だったので、他のシスターがクララに助けを求めたが、結局はクララもアルトマンの餌食になっただけだった。

その結果、更に彼女へのアルトマンの仕打ちは酷い物になっていった。

このままではシエスタが死んでしまう…そう考えた者達により他の教会に移された。

そういう事だった。

頭が痛い。

自分がした事では無いとはいえ本当に心が痛むのだ。

何で優しい人間程酷い目に遭うのだろうか?

そして、こんなクズの様な人間にばかり女神は何故良いジョブを与えるのだろうか?

僕はこれでもちゃんとした女神信者だ。

それでも、女神の御心が偶に解らなくなる。

修道院につきシエスタさんに会った。

ミラク司祭は空気を読んで席を外してくれている。

温和な黒髪の優しそうな女性だった。

かなり酷い事をしたのが良く解る…体が震えていた。

それなのに、それなのにだ、彼女の言った一言目の言葉は…

「勇者様は気にしなくて良いんですよ…これから死ぬような戦いをするのですから、それに比べれば、こんな事些細な事です」

絶対に些細な事じゃないはずだ。

顔にも、もしかしたら一生消えない様な傷があった。

メイルにあったのは痣だった。

だけど、彼女のは傷だった…メイルの痣は時間を掛ければいつかは治る。

だけど、この斬りつけた様な傷は一生消えない可能性がある。

多分、顔でこの傷なんだから…体はもっと酷い筈だ。

「ごめんなさい」

この人へのすまなさはこれまで以上だ。

頭を床に打ち付ける様に土下座をした。

「アルトマン様はご記憶が無いのでしょう…それに勇者様はその様な事をしてはいけませんよ…」

あくまで温和に優しそうに話してくれる。

「傷を見せて頂けないでしょうか?」

「余り見て気持ちの良い物ではありません…」

「今後の戒めに見たいのです」

「解りました、ただこれは今の貴方が付けた物じゃありません…そう考えて下さいね…」

彼女は震えながら服を脱いでいった。

下着も全部脱いだ…何故そこ迄脱いだのか、その理由は直ぐに解った。

背中には大きく「淫乱 性処理便器」と書かれていた。

そして、お尻から太腿に掛けては「雌豚女、俺専用のケツ」

太腿には「正」の文字が複数。

前の方に周ると、乳房の上には 「雌豚女の胸」

お腹の下には「雌犬の穴」

他にも卑猥な言葉が沢山あった。

これはただ書かれているのではなく、全部刃物で刻まれている。

多分、消す事は出来ないかも知れない。

しかも、乳首も腫れていた…もしかしたら何回も何かで刺されていたのかも知れない…

その他にも無数の傷が体中にあり…多分それは鋭利な刃物で傷つけられた物か、鞭で叩かれそのまま残った物かも知れない。

人は此処まで残酷になる物なのか…本当にそう思う傷ばかりだった。

これをこの体が、この手がやったんだ…そう思うとこの体に自分が居る事が嫌になる。

彼女はこの暑いのに長袖の修道服を着ていた。

それはこの為なんだ。

「….」

「うふふっ凄いでしょう! もうどう見ても真面な人間じゃありませんよね…司祭様に助けて貰って奴隷にならずに済みましたが、これなら多分奴隷になった方が幸せでしたよね…でも良いんですよ…貴方は勇者なんですから…ううっ..後悔して反省したなら、死ぬ気で戦って魔王を倒して下さいね…そうしたら銀貨2枚の女も報われますからね」

「銀貨2枚?」

「うふふっあははっ、それが私が売られた金額です…それ位しか価値が無いんですよ、私は!」

堰が壊れたように彼女は話し出した。

「27歳の女なんてそんな価値しかありませんよ…実際に私は銀貨2枚で「性処理奴隷」として売られるところでした…奴隷商人は、その銀貨2枚でも出したくないみたいでしたね…そこから何でもありの「性処理奴隷 NG無し」になって銀貨2枚+銅貨2枚が私の売値。もし司祭様達が助けてくれなければそれで売り出されたんですよ…私」

「…」

「だから、私はきっとあそこで助からなければ、きっと今と同じ未来が待っていた..だから助からなかった未来に戻っただけです…いえ、今は普通に生きていますから、まだましな未来に来れたのかも知れません」

目を伏せる事しか出来ない。

「記憶の無いアルトマン様に言っても仕方ありませんが、私は27歳です、村で未亡人になったら夜這いだって受けなくちゃいけないし、女として価値なんて全く無い年齢なんですよ…私を抱きたければ、ちゃんと夜這いの規則に則って下さればちゃんと相手しましたよ…受け入れましたよ…それなのに何であんな大勢の前で見せしめの様に犯す必要があったのでしょうか?」

僕は本当はアルトマンじゃ無いから幾ら聞かれても解らない。

いまの僕なら、こんな優しい女性にこんな事はしない。

夜這いのルールなら知っている。

ルールは簡単で、ドアの前に立つか、枕元に忍び込んで立てばよい。

その後は起きるまでただ待つだけ、それだけだ。

受け入れてくれた場合は抱擁。

受け入れない場合は「帰って下さい」そういう返事が返ってくる。

ただ、これは建前、男の面子を重んじて殆どの女性は受け入れる。

優しいシエスタさんなら間違いなく受け入れただろう。

「今の僕には解りません」

「そうでしょうね…記憶が無いんですから…アルトマン様は、ちゃんとしていれば美しいし、優しくしてあげれば女性にもオモてになる筈です、私の事を悪いと思うなら、もう二度とこの様な事はしないで下さい。それを約束してくれればそれだけで良いですよ」

それは彼女の救いにはならない。

「僕はシエスタさんにとって美しいのですか?」

彼女のお人よしに付け込む。

「カッコ良いと思いますよ…外見だけなら私の好みですよ…それに今はお優しくなれているようですから、話していても嫌な感じしません! まぁこんなおばさんに言われても勇者様は嬉しく無いでしょうけど、うふっ」

シエスタさんは凄く優しい、あんな酷いことしたアルトマンにこんな優しく話してくれている。

少しだけ、昔の自分、ケインに似ているかも知れない。

頑張っても、頑張っても報われないまるで「荷物持ち」時代の僕だ。

「それでは、いまの僕が貴方に「規則に則り」申し込めば受けて貰えるのでしょうか?」

目を伏せた…そりゃそうだ。

「アルトマン様は、それがお望みなのですか? ボロボロの私をお抱きになりたいという事ですか? 良いですよ…それがお望みなら…優しくはしてくださるのでしょう?」

ごめんなさい、僕は貴方の「優しさ」に付け込みます…

僕は片膝をつきシエスタさんの手を握った。

「な、何をなさるのですか?…そんな規則は..」

シエスタさんが緊張している…

「僕は、勇者です…だから何人も妻を娶らなければなりません…だから貴方1人だけを愛する事は出来ません」

「あの、当然の事で…抱いたからって愛してくれなんていいませんよ…私の体なんてもう銅貨位の価値もありませんから」

昔と違うのね…ちゃんと女として抱きたい…そういう事なのかしら?

夜這いとかされた事が無いから…そういうの本当は知らないのよ…旦那は淡泊でそんなに求めてこない所か…子供が出来ないって解ると行為その物も無かったんだから…

「ですが、貴方の事は生涯この身に変えても守ります」

「あの…私にはそんな価値ないですよ…そこまで言って下さらなくて良いんです…27歳のおばさんなんですから、言い過ぎですよ! 凄く嬉しいですが…もう大丈夫です、夜にでも来て頂ければ良いし..人払いして下さるなら今直ぐでもお相手します..」

「だから、結婚して下さい」

「解りました、今から直ぐ…えっ結婚…冗談ですよね…」

「本気です」

「あのですね…私は27歳なんですよ、貴方のお母さんに近い歳ですよ、アルトマン様は何歳ですか?」

幾つなんだろう?

「多分、15歳位だと思います」

「ほら…12歳も年上ですよ…絶対にアルトマン様のお母さんやお父さんの方が近いと思います…それに私は元人妻で、体はボロボロの傷物ですよ…中古品の傷物ですよ…駄目です」

「ですが、その傷は僕が付けた物です」

「解りました、大丈夫ですよ…私もう恨んでないですよ…責任なんて感じる必要ありません…もう27歳で結婚なんてしないような歳ですから、そう落書きあっても問題ありませんよ…殿方の前で服なんて脱ぐ歳じゃありませんからね..ね」

お人よし…お人よしすぎるよ、シエスタさんは凄く優しい良い人なんだと解かる…償いでなく本気で幸せになって貰いたくなった。

「シエスタさん、駄目ですよもう手遅れです」

「ななななっ何を言っているのですか? 手遅れって何ですか? 」

「さっきシエスタさんは規則に則り申し込めば受けてくれるって言いました」

「ですから、ちゃんと夜這いというか性処理は…しますよ…嬉しい事言って下さいましたから..」

「僕は規則に則って結婚を申し込みました、受ける約束ですよね!」

「そんな…私は」

「駄目ですよ、約束は守らないと!」

「ですから、私はおばさんで、ガラクタみたいな体で、二束三文のですね」

「違います、凄く優しくおおらかで…素敵な女性です」

「勇者様、どうしたのですか?」

ミラノ司祭が話が長いのを気にして入ってきた。

僕は経緯を話した…

「シスターシエスタ、アルトマン様の気持ちに答えてあげて下さいませんか?」

「ですが、私は母親のような年齢ですし…こんな体なのです…」

「だからこそです、アルトマン様は母親を多分知らない、それにその体については責任を感じています、それに教会としても勇者がシスターを玩具にしたより、寵愛した方が助かるのです」

「酷い人ならまだしも、あんな別人の様に優しく若い方にこの体でお相手するのは…お気の毒です」

「貴方の気持ちは解りますが…私としては受け入れてあげて欲しいそう思います」

「あの私は」

「時間は沢山あります、後はアルトマン様とお話合い下さい」

「解りました、アルトマン様は本当にこんなおばさんと結婚して後悔はないのですね、元人妻の中古品で傷物ですよ、スキルも真面な物が無くて「裁縫」だけ…傷物になる前で銀貨2枚…多分今の私は銀貨1枚、いえもう誰も買わないかも知れない…そんな価値しかありませんよ」

「はい」

「アルトマン様が曲げて下さらない事はもう解りましたから、お受けします…ですが絶対に後悔されますよ…今は良いですが10年経ったら37歳のお婆ちゃんですからね…知りませんからね」

いや、僕はアールだった時は自分が60歳、クエラが60歳でもしていたんだから…30年以上性の営みを続ける自信はある。

「お婆ちゃんになったシエスタでも抱き続ける自信はあるから安心して下さい!」

「全くもう仕方ない方ですね…本当に知りません!」

何故かケインだった頃の僕の声でシエスタに「ちゃんと年下になったよ」そう聞こえたが気のせいだろう。

意味も解らないし..ね

ガラクタ
勢いでシエスタに結婚を申し込んでしまった。

良く考えてみれば、今の僕は勇者だ。

婚姻も色々と大変に違いない。

ミラク司祭に話したところ。

「問題ありません! 私と教皇様が責任を持ちますからご安心下さい! ただ、流石に聖女様や賢者様を差し置いてと言う事は出来ませんので婚約と言う形になるのはお許し下さい」

「感謝します」

「とんでもない…勇者に仕えてこその我々です」

ミラク司祭は教会ではかなりの実力者らしくその場で手続きをとり、シエスタを連れ帰る許可まで取り付けてくれた。

「アルトマン様、これで宜しいでしょうか?」

「流石にこの後事情説明に教皇様の元に行く必要がございますからもう戻らなくてはなりません」

「ありがとうございます」

「それではシエスタ様の準備ができ次第、馬車を出発させます」

シエスタ様…そうか! 僕の妻になるからそういう扱いになるのかな…

「しかし、アルトマン様は、偶に「僕」と名乗りますがなぜですかね?」

「本当の気持ちに近い時や興奮すると素が出てしまうのかも知れません…「私」とか「俺」は勇者らしくみせる為で本来の私は「僕」を使ってましたから」

「そうですか? では私にも偶に僕と使って頂いているのは親愛の証と言う事でしょうか?」

「そうだと思います」

「有難うございます…光栄です…おや、シエスタ様がこられたようですよ」

僕は馬車を降りて、ドアを開けた。

「そんな、勇者であるアルトマン様がそんな事…しなくて良いんですよ」

「これからは人間としても真面になるように頑張るから、勇者とか気にしないで欲しい」

「解りました」

これがあの鬼畜の様なアルトマンなのでしょうか?

先程、お話した時から感じていましたが…どう考えても別人の様です。

あの悪魔の様な人が今は本当に天使の様にしか思えません。

若い頃に見知らぬ男に犯され妊娠して…子供を降ろしました。

その事が噂になり、村では結婚相手は見つからず、生活もままなりません。

両親からは「お前みたいな恥さらしは見たくも無い」そう言われて家をでました。

酒場で働きながら日々生活していたら、前の夫に見初められ…結婚。

「今度こそ幸せになれる」そう思っていたらとんでもない継母が居て意地悪される日々。

それでも家族が欲しかった私は頑張っていたのに…「子供の産めない嫁は要らない」と気が付けば奴隷として売られる事になりました。

運よくギリギリ助けて貰えたと思ったら…奴隷以下にされてしまいました。

今の私には何ももうありません。

家族は出来なかった。

手に職はありません。

残りの人生は多分1人で生きていくしかない。

そして、人間なら誰しも持っている体、今の私より最低な体の持ち主なんて居ないのでは無いでしょうか?

どう見てもゴミみたいな体、今の私が娼婦になっても誰も買わないでしょうね。

本当に何も無いんです。

うふふっ、本当に何もありませんね。

私はアルトマンさんを本当に信じた訳ではありません。

そんな簡単に人は変わる訳ないそうも思っています。

ですが、今の私はガラクタです…

私より価値のない女なんて世の中には居ないと思います。

貧民街の娼婦ですらまだ真面な体だと思います。

もう、私なんて何時死んでも良い…そう思っています。

ガラクタみたいなこんな恥ずかしい体なんです。

こんなガラクタが欲しいならあげますよ…

そんな気持ちです。

多分、これからどんな地獄が待っていても怖く何てありません。

私にとっては今も地獄なのですから…

女神様はなんで私みたいな不幸な女を作ったのでしょうか?

幸せ何て一度も経験していません…

アルトマンさん…本当に貴方はこんなガラクタを欲しいのですか?

私を壊したのは貴方です…貴方がもし私を本当は要らないのなら…その時には殺して下さい。

それだけしてくれれば良いですよ?

それが、私を壊してガラクタにして…欲しがった…貴方の罰です。

「それじゃ行きますか?」

「はい」

ガラクタな私は、ガラクタなりに微笑んで返しました。

相談とヒント
城に戻ってきた。

「それでは私は此処で、シエスタ様もこちらに来て下さい…教皇様に事情をご説明しなくてはなりません」

「はい」

「私は行かなくても大丈夫なのでしょうか?」

「事情が事情ですので、お任せ下さい…今日の夜までには全て続きを終え、シエスタ様をお届けしますから」

「お任せしますので宜しくお願い致します」

「じゃい、全てこのミラクにお任せ下さい」

「それではアルトマン様、失礼いたします」

そう言うと二人は去って行った。

僕は…一応勇者としてはやる事は無い…だが、新しい目標が出来た。

それはシエスタさんの傷を無くすことだ。

騎士団は二つしかない。

そこには魔法のエキスパートは居なかった。

そう考えたら、何処かに魔法のエキスパートの部隊がある筈だ…いや違う。

最強の治癒魔術師はクララ、聖女だ…賢者のメイルじゃない…だったら教会じゃないか?

「待って下さい! いま用事が出来ました、私も教皇の元にお伺いさせて下さい」

「解りました、それでは私どもより先に教皇様とお話下さい」

「教皇様に急用とはどうかされたのですかな?」

「何かおありなのですか?」

「只の相談ですが、今は話せません」

普通は教皇等にこんな気楽には会えない。

やはり、勇者は特別なんだな..

「これはこれはアルトマン様、私に何か御用ですか? 御用があるのであれば呼びつけて下されば良いのですよ!」

「私より人生経験豊富な方を呼びつける等できません…シエスタの事でご相談があります」

「知っております…大丈夫ですよ..この私が婚約の許可を致します…国王にも邪魔はさせません」

「それもあるのですが…実はですね」

僕はシエスタの傷について治す方法が無いか聴いてみた。

クエラが使えたのはヒールとハイヒール…それですら「神官」という貴重なジョブだから身に付いた物だ。

恐らく、ハイヒールであっても古傷は消えない…

普通なら此処で詰みだ、諦めるしかないのだが…此処には教会の最高責任者、教皇がいる。

教皇なら、治し方を知っているかも知れない。

逆に教皇が知らないなら…実質無理と言う事だろう。

「方法はありますが出来ない…と言うのが結論です」

「方法はあるのですね…お教え頂けますか?」

「はい、一つはエリクサイヤーという秘薬ならば治せますが、これは世界に3本しかなく、勇者様のお願いでも使えません…私を含む世界の王全員の決定でのみ使えます、私は、勿論反対しませんが、絶対に他の王が反対します」

「一つとは他にも方法があるのですね」

「ありますがこれも難しいと思います…ハイヒールの上にもっと優れたヒールがあるのです」

「あるのですね!」

あるとは思っていた…神官が使える最高の回復術がハイヒールだった。

それより優れたジョブの聖女ならその先の魔法があるはずだ。

「あります、ハイヒールの上にフルヒール、その上にパーフェクトヒールがあります」

「それならば治せるのですね!」

「フルヒールならばもしかしたらですが…パーフェクトヒールなら確実ですね」

「それなら、それが出来る方を紹介して下さい」

「居ません…これは半分伝説のスキルです、歴代聖女様でもフルヒールを身に付けられたのは魔王との決戦近く、身に付けられ無い方の方が多かった位です…そしてその上のパーフェクトヒールを身に着けた聖女様は伝説の「白き癒し手 マグラリア様」しか居ませんでした」

「そうですか…ならクララの成長を待つしか無いのですね」

そんなには待てない…

「言ってはなんですがクララ様は才能が余りない聖女様です…歴代で言うなら下の方から..」

「解りました…ヒントを有難うございます」

「お役に立てずに申し訳ございません」

僕は自分の力に掛けて見ることにした。

廊下ではミラク司祭とシエスタが待っていた。

「シエスタさん…待ってて下さい」

「はい?」

それだけ伝えると僕は走り出した…時間が勿体ない。

やるしかない! やや過激な描写があります。
部屋に帰ってきた。

騎士団によって刃が付いた剣を借りてきた。

図書室でヒールについて書かれている本も借りた。

個人で練習すると言ったら両方とも簡単に借りれる…勇者って便利だ。

今の僕の能力は…

ジョブ 勇者
LV 1

スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み) チェンジ

後天的スキル:盾術 槍術 防御魔法 回復魔法(上) 火魔法(上)、風魔法(上) 水魔法(上)

       身体強化(上)

(使える魔法)

プロテクト ヒール ハイヒール カウンター ファイヤーボール ウインド ウインドカッター ウオーター ウオーターシュレッター クイック ホーリーウオール レジスト ライト パリィ

(技)

一閃 追撃 必中 アンデットキラー  光の翼 シールドアタック オートガード リフレクト

こんな感じだ。

つまり、僕はハイヒールが既に使える。

クララはようやくヒールが使え、メイルはまだ魔力循環で魔法がほぼ使えないのにだ…

そう考えたら、勇者の体にはクララさえ超える治癒魔法の才能が潜んでいるそう考えても良い筈だ。

能力を最大に使えたのは何時だったか…真剣に思い出してみた。

冒険者時代の経験なら、「痛み」を感じた時と「死に掛けた」時だ。

痛いのは勿論、僕も嫌いだ…

だけど、アルトマンはどれだけの痛みをシエスタさんに与えたんだ。

この体が、この手があの人に痛みを与え苦しめた…ならこの体で償うしかない。

剣を思いっきり握りしめた。

「痛い! ヒール」

うん、簡単に治った…だが古傷はヒールでは治らない。

こんな傷ではヒールで治ってしまう…なら訓練の為にもっと大怪我をしなくてはならない。

指を斬り落とした…

「いてぇええっ! ハイヒール」

くっつけた指は繋がった。

大きな声をあげては誰かが気が付いてくるかも知れない。

だから、僕は毛布を切り裂き猿轡をした。

呪文は片言でも意思があれば発動するからこれで良い。

此処までは既に出来た事だ。

この上のフルヒールは切断された足や手を傷口をくっけずに呪文を唱えて繋げれば出来た事になる。

流石の僕でも四肢切断は経験した事は無い。

流石に怖いな…

僕は勇者になってしまったんだ…いつかは魔王と戦う!

クララやメイル、シエスタさんを蹴ったのはこの足だ…

行くぞ..剣を足に思いっきり叩き付けた..

「ふぐううううっっっうううううっ ふうひーう」

嘘だ、くっつかない..不味い

「ふうひーう…ふうひーう、ふうひーう ふうひーう ふうひーう」

不味い、体から血が大量に流れていく…

「ふうひーう…はぁはぁはぁ」

やれば出来るじゃないか…ははは勇者って凄いな…

ならば今度は伝説のパーフェクトヒールだ..これは四肢欠損すら治す究極の回復魔法。

案外、古傷を治すって言うのは大変な事なんだ…この魔法はその人間の健康だった状態に全て治してしまうからこそ古傷にも利く。

フルヒールでは今怪我した物は完璧に治せるけど…古傷は治せない。

完全な状態に戻す事から「リバースヒール」とも書かれていた。この魔法がシエスタさんを治すには必要なんだ。

やるしかない…僕は左手を斬り落として放り投げた。

近くにあるとフルヒールで繋がってしまう。

「ふごおおおおおおおおおおおおっいわい、いわいっ」

「ううううううっ ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう」

駄目だ..駄目だ..伝説の魔法がそんな簡単に身に付く筈は無い。

「ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう 

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう 

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう」

気が遠くなるほど唱えた…が何も起こらない。

「ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう  

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう

ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう ぱうふぇくとひーう」

そしてとうとう僕の左手切断部分が光り輝き…元通り復元されていった。

アルトマンになったケインは知らない事だが、勇者や聖女には実は二通りのパターンがあった。

この世界の人間が成った場合は「弱い勇者や聖女にしかならない」だが「転生や転移で別世界からきた勇者や聖女は信じられない位強くなる」

ケインが奪ったのは偶然にも「転移勇者」だった。

多分、普通の勇者だったら…フルヒールすら身に付かず間違いなく死んでいただろう。

その恐怖に自分すら気が付いていなかった。

その転移勇者であっても、これは限界に近かった…だから気を失った。

ううっどんな顔をして会えばよいのでしょうか?

先程のお話で、私は本当にアルトマン様の婚約者になってしまいました。

普通に考えれば教皇様や司祭様は反対する筈です。

「勇者に相応しくありませんから出ていってください」

そう言われると思っていたのです。

アルトマン様だって気の迷いです。

私みたいな女が良いなら、金貨の1枚も握りしめて奴隷商にでも行けば、遙かにましな女が買えます。

それなのに…こんなボロボロの私を選んでどうしたいのですか?

まぁもう死んでもいい位ですから…どうでも良いのですが…

玩具にして殺されても…苦しくなければそれで良いです…

多分私は性処理奴隷にすらなれない女です。

もし売られる事があったら鉱山送りしかないでしょうね…

それなのにこれから私は、アルトマン様に夜伽にいかなければなりません。

教皇様や司教様に婚約者なのだから、約束を守る様に言われました。

確かに…その様な約束をしたかもしれませんよ。

「アルトマン様は、それがお望みなのですか? ボロボロの私をお抱きになりたいという事ですか? 良いですよ…それがお望みなら…優しくはしてくださるのでしょう?」

はい言っていますね…

ですが、それはアルトマン様が「婚約」に挿げ替えたから無効な筈です。

臭くない様にシャワーは浴びました。

ですが、この傷はどうやっても隠せません。

こんな体で私は夜伽に行かなくてはいけないのです。

コンコン

「アルトマン様…シエスタです」

「…入って」

声が凄く小さいです…多分今になって後悔しているのかも知れません。

「きゃぁぁぁぁぁアルトマン様..」

「扉しめて..こっちにきて…」

部屋のなかは一面血の海でした。

アルトマン様を中心に沢山の血が流れています…そして良く見ると千切れた腕が転がっています。

ですが、可笑しい事に私は怖いとは感じません。

アルトマン様が凄く優しいお顔で私を見ているからです。

こんな優しい顔は今迄の人生で見た事がありません。

「早くシエスタさん…こっちにきてよ」

「解りました」

血の海の中でアルトマン様が呼んでいます…ですが怖くない、本当に怖く無いのです…何故怖く無いか不思議です。

私は、倒れているアルトマン様の傍に座りました…するとアルトマン様の手が伸びてきます。

そして私を宝物でも触るかのように触ってきました。

アルトマン様の手は血だらけでしたが嫌とは感じませんでした…多分私を触った人間の手の中で一番優しい手のような気がします。

「パーフェクトヒール…これで大丈夫…」

私の体がいきなり光り輝きました…体がポカポカします…凄く優しい、そう女神様に抱かれているような気がしました。

「私に何をされたのですか?」

「鏡を見て…」

私は鏡が嫌いです…鏡は醜い私を映しますだから嫌いなのです。

ですが、何かされたのですから見ない訳にはいきません。

そこに映ったのは…傷一つない私でした。

何が起こったのでしょうか? 治療をしても絶対に治らないと言われたあの切り傷が何処にも無いのです。

思わずはしたないですが、服をめくったり、下着をめくって、のぞき込んだりしてしまいました。

「これは…アルトマン様が治してくれたのですか?」

「うん、パーフェクトヒール…だよ…」

私は詳しい事情をアルトマン様に聴きました。

聴いたらもう感情が抑えられなくなってしまいました。

「うわぁぁぁぁぁぁぁん、アルトマン様は馬鹿ですよ..私なんて銀貨2枚の価値しか無いんですよ! ボロボロのゴミを銀貨2枚の価値に戻す為に勇者の…世界を救うために必要な体を傷つけたんですか? アルトマン様ってなんなんですか? 昔は悪魔としか思えなかったけど…今は天子様、いえ女神様いじょうにしか思えません! 勇者の手を何だと思っているんですか? 世界を救う大切な手を、こんなゴミみたいな女の為に斬り落とさないで下さい…もし生えて来なかったら世界が終わっちゃうんですよ? うわぁぁぁん、何でですか? なんで私にそんな事してくれるんですか?」

「好きだからかな?」

「好きってなんですか? 私、両親からも嫌われて、結婚した旦那や義母からも嫌われてたんですよ! それなのにアルトマン様は好きなんですか? アルトマン様はゴミマニアなんですか? 勇者様なのに…幾らでも綺麗で可愛い女の子が選び放題なのに…何で27歳のおばさんの私なんですか? 信じられません…婆コンなんですか?うわぁぁぁぁぁん」

「そんなんじゃないよ…シエスタだから好きなんだ…だけど今日はごめん、気絶しそうなんだ…折角来てくれたのに相手は出来そうにないや」

「そんなに私が好きなんですか? 私が欲しかったら金貨1枚放り投げて一生使い潰せば良いんですよ…それなのに勇者の体と腕なんて払ったら知りませんよ…何回死んでももう尽くさなくちゃいけません…今日は添い寝で我慢しますが、明日からは寝させてあげません…嫌だっていってももう辞めてあげません…私の全てを味わって貰いますからね..私の事が好きなんですよね…」

「うん、凄く好きだよ」

「私は好きじゃもう現わせられません…髪の毛からつま先まで全部…アルトマン様の物ですよ…返品なんてききませんからね…知りませんよ」

「うん…」

ベッドから毛布を降ろすとそのまま私はアルトマン様と包まるように眠る事にした。

本当はベッドに戻してあげたかったけど…出来ないから。

やり遂げたような顔のアルトマンが凄く愛おしい…だから寄り添うように抱えて眠った。

次の日、メイドの悲鳴が響き渡るまで….

勇者叱られる

「慈愛深き、心優しき勇者、犠牲を問わず人を救う勇者、アルトマン様、一言言わせて頂きます!」

見た瞬間から解る…今迄優しかった教皇が凄く怒っている。

いつもの優しいお爺さんのような表情では無い。

「謹んでお聴き致します」

それしか言えない…

横にはプラート王にミラク司祭もいるが能面の様に笑っていない。

「では、アルトマン様…御身は大事にお願いします、その手は世界を救うためにあります、その体は世の中を救う為に有ります。その腕1本の価値は、一国以上に貴重なのです…その事をお考え下さい…その手が無くなる事を考えたら、まだエリクサイヤーを使ってしまった方が良い、その位の価値があるのです。」

「それは解っています…ですが傷つけた責任は私にあります…その為に犠牲を払うのは当たり前だと思います」

「それは勇者としては正しいです…ですが…私は心配なのです」

「教皇様が家族の様に思っているのは解っております…もう心配は掛けませんからご安心下さい!」

「そうですか、それであれば、このロドリゲス…言う事は御座いません」

「ご心配かけてすみません」

「解って下されば良いのです…教皇の分際で出過ぎた言葉を申し訳ございませんでした」

「僕の事を思っての言葉ですから…気にしないで下さい」

「教皇様、その辺りで宜しいのでは無いですか?」

「そうですねミラク司祭」

「勇者様! しっかりと立ち直ったようですね、これからはこのプラークもしっかりと支援をさせていただきますぞ」

「有難うございます」

「つきましては今度、晩餐会を開きますので是非ともご出席を..」

「プラーク王、その話はまだ早いと思います、アルトマン様は三人目の婚約者が決まり、しかもあの様な荒行でお疲れなのです…ここはデーターだけ計測頂き、お休み頂きましょう」

「お疲れに見えますからね」

「解りました、この話は後日にします…アルトマン様頭に入れて置いて下さい」

「はい」

「それでは、早速、このオーブに手を当てて下さい」

「はい」

前にしたようにオーブに手を当てた。

今回のオーブは教会の本部より、取り寄せたより詳しい情報が読み取れる物だ。

ジョブ 聖なる勇者
LV 1

HP:720
MP:1400
筋力: 280
攻撃: 320
耐久: 170
魔力: 650
魔力耐性: 250
スピード: 300

スキル:剣術(極み)聖魔法(極み)人族攻撃無効、光魔法(極み) チェンジ

後天的スキル:盾術 槍術 防御魔法 回復魔法(極み) 火魔法(上)、風魔法(上) 水魔法(上)

       身体強化(上)

魔法:プロテクト ヒール ハイヒール フルヒール パーフェクトヒール カウンター ファイヤーボール ウインド ウインドカッター ウオーター ウオーターシュレッター クイック ホーリーウオール レジスト ライト パリィ

技:一閃 追撃 必中 アンデットキラー  光の翼 シールドアタック オートガード リフレクト

「…」

「…」

「…」

やはり凄いな勇者って、アールを羨ましがっていた自分が小さく思える。

アルトマンを見たら、もうアールは立ち上がれなくなるんじゃないかな?

「やはり、勇者って凄いですよね」

我らの前だから忖度していると思っていた。

幾ら勇者が優秀でも剣聖や聖騎士、クルセイダーを含む騎士団全員に勝てる…あれは花を持たせたのだと思っていた。

「いや…凄いのはアルトマン様だからです…」

「教皇様、フルヒールって決戦前に才能のある聖女がようやく身に付く物ですよね、パーフェクトヒールなど最早書物の中でしかないそう思っていました」

「確かに…シエスタ様を治したり、ご自身の手を生やしたり…それは正にパーフェクトヒールでしか出来ない事…実際に見ると驚きを隠しきれません」

「教皇様、司祭…それだけじゃ無いですぞ…レベル1なのに全ての数値が高いし…身に付いた物の数が桁違いすぎます」

「教皇様、あの勇者の称号が…聖なる勇者に変わっています」

「称号勇者…まさか…いや、そうとしか考えられない」

「称号勇者とは何でしょうか?…私は聴いた事がありません」

「プラーク王が知らないのも当然です…称号勇者とはWの事です」

「W」

「勇者以外にもう一つのジョブを持つ者の事を言います…アルトマン様の場合は「聖なる」と言う事から「聖女様」に近い能力がプラスされている可能性が高いと思われます…回復魔法が極みになっていますからほぼ間違いないかと」

多分、この体は勇者の中でも極めて高いらしい。

ならば「賢者」の能力も手に入るかも知れない…

そうすれば…二人に頼らず、魔王討伐も出来るも知れない…

ハードルを上げ過ぎてしまいました

「あーうーえへへ」

本当に困ってしまいます…あんなに愛されているなんて…本当にもう。

私、もう27歳のおばさんなのに、そんなに好きなんですね。

あの悪魔のような人が絶対に変わる訳が無い、そう思っていました。

私に告白した時も、ちょっとは嬉しい…そう思いましたが、何か裏がある。

そう思っていたんですよ?

だって可笑しいじゃ無いですか?

15歳の若い男性がです、私みたいにもう女としては終わっている私と結婚したいなんて。

ありえませんよ?

私の年齢から考えたら、かなり年上の後添えとかでも貰って貰えればまだ良い方なんです。

もし若い方が貰ってくれる、そういう美味しい話があるとしたら…

病気の母親の看病目的や、性格に難があるような、暴力を振るう様な問題のある方の筈です。

それが、ですよ!

本当にお綺麗で、簡単に言うと凄く顔立ちの良い美少年です。

そして、勇者という確固たる仕事についている。

そんな方が本気で私を好きになるなんてあり得ません。

こんなの物語にだってありませんよ!

王子様や勇者様の身分違いの恋の話はありますが…

ヒロインは貧乏で身分は無いかも知れませんが、皆、若くて美人な美少女です。

少なくとも27歳のおばさんでふてぶてしい女なんかじゃありません。

私だって少しは…なんて時期は…あはは、確かにありましたが、直ぐに傷物になっちゃったから短かったですね。

だから、こんなのはただの冗談なんだ…そうとしか思えません。

アルトマン様が本当に良い人でも、今迄の贖罪と哀れみなんだと思っていました。

そう考えたら、嬉しい反面、凄い惨めに感じましたよ。

だって、勇者の妻って恐らくはかなり地位が高い筈です。

体中にあんな傷があって顔にも傷があるのに、それこそ王族のような方や貴族の様な方に会う事があるのです。

きっと、私は笑いものにしかなりません。

多分、様と呼びながらも心の中では、嘲笑される筈です。

そして、その横で勇者様も笑いものになります。

そんな道選ばれる筈が普通はありません。

15歳の美少年と27歳の終わった女…それだけであり得ません。

それだけじゃなく…私は生娘でも無いし、体は…汚い、まぁこれはアルトマン様がしたのですけど…

信じられる訳無いじゃないですか!

ですが、あんなの見せられたら…信じるしかないじゃないですか…

体に傷を刻まれるだけで地獄の痛みでした。

涙が止まらなくなるし、痛さから失禁までした位です。

ただの傷でそうなのです…ですがアルトマン様は体中を剣で突き刺しました。

そればかりか、指を切断したり、そればかりか足や手まで切断したのですよ…

私が見た時は本当に血の海で…アルトマン様が一瞬死体に見えた位です。

そんな事までする方が…私を愛してない訳無い。

私に同じ事が出来るかって言えば…絶対に出来ません。

ナイフで傷つけられるだけで泣くような私には絶対にできないでしょう。

今思えば、歪んでいたあの時でもアルトマン様は私が好きだったのかも知れません。

落書きを思い出せば…「俺専用のケツ」って落書きがありました。

「俺専用」つまり私の事を自分専用にしたかった…そうともとれます。

本当に仕方ありませんね…本当に酷い事されましたが…自分の物にしたかったんですね。

そう言う事なら…仕方ありませんね…本当に…許してあげるしか無いじゃないですか?

好きだったんなら…

あんな酷い事しないで「好きだから俺だけの者になれ」それで良かったのに…ひねくれものですよ。

教皇様や司祭様に聴いたら、アルトマン様には家族が居なかった可能性が高い。

そう聴きました。

だったら年上の私の様な女を好きになる可能性もありますね。

私の人生の中で、ちゃんと愛してくれた人は他には居ません。

告白は血の海のなかでしたけど…

こんな27歳のおばさんがそんなに好きなら、アルトマン様の物になるしかないでしょう。

本当になんでこんなおばさんが好きなんですかね。

だけど、あんな風に言われたら信じるしか無いし、もう答えるしかありませんよ!

こんなに私をしてしまって本当に知りませんからね…

だけど、私…どうしよう!

私の特技は「裁縫」です!

ですから、持っていた服を改造してミニスカートにして胸を大きく開けてみました。

パンツも味気ないので小さ目にして…市販品には及びませんが大きな布のままに比べればマシです。

此処までは良いのですが…

夜お伺いする時、どうしましょうか?

《今日は添い寝で我慢しますが、明日からは寝させてあげません…嫌だっていってももう辞めてあげません…私の全てを味わって貰いますからね..私の事が好きなんですよね…》

凄く嬉しかったんですよ..泣く位感動してしまったんですよ…本当になんでもしてあげたくなったんですよ…

だけど、私…そんなに経験ありません。

絶対に淡泊な15分位で終わってしまうような物じゃない気がします。

あの糞旦那は子供が欲しいだけで…私になんて興味ないようでしたし、私も今思えば義務で相手していただけで愛してなんていませんでした。

自分でこれでもかとハードルをあげて…どうすれば良いのでしょうか?

【後書き】

シエスタの夜
ううっ 昨日は傷だらけだったしどうでも良かったけど…

治療して貰ってから、じっくり自分を見たら、自己嫌悪です…

シャワーを浴びて思ったけど、肌はもうピチピチじゃないです。

昔はコロコロと水が転がる様に落ちていったのに、今は何だかべっとりと水がねばりついている気がします。

体は不味いですね、何となくですが弛んでいる気がします。

胸は、少し垂れてきてハリが無いかも知れません、若い子とは違いますね。

股は..あははもう何年もしてないから、まさかカビなんて生えていませんよね(笑)

私、全然良い所なんて無いじゃないですか?

ここまでしてくれたんです..何でもしてあげたい。

本当に心からそう思っています。

だけど、私良く考えてみたら…「何をして良いか解りません」

勿論、普通には出来ますよ。

ですが子供が出来ないと言われてからもう何年もしてないですし、経験のあるのは凄く淡泊な15分で終わってしまう様な物です。

多分違いますよね…

私はこれから夜伽に行かなくてはなりません。

《今日は添い寝で我慢しますが、明日からは寝させてあげません…嫌だっていってももう辞めてあげません…私の全てを味わって貰いますからね..私の事が好きなんですよね…》

「あああっうううっ、何で私はあんな事言ってしまったのでしょうか?」

嬉しくて、つい興奮してしまいましたが、どうしましょう。

折角、裁縫で作ったので着てきましたが…セクシーな筈が、なんだかおばさんが無理している感じに見えます。

ちょっと痛く見えるのも気のせいじゃないかも知れません。

結局傷が治ってもこの程度なんですよね…私って。

コンコン

「アルトマン様…シエスタです」

「シエスタ、待っていたよ! 入って入って」

逆なら解りますよ…27歳の男性が15歳の少女が来るのを待つのなら。

15歳の少年が27歳のおばさんを…こんなに待ちわびているなんて…どうしましょうか?

アルトマン様にお願いしてあらかじめ部屋を少し暗くしておいて貰いました。

明るい場所で、若い方に肌を晒すなんて恥ずかしくて出来ません。

だって、アルトマン様のお相手をしている他の方は皆若いのですから。

こんなだらしない体余り見せられません…

これは私がアルトマン様を好きになったからでしょうか?

前はこんな感情はなく…たんたんと機械の様にお相手していた気がします。

あの頃の私が見たら、きっと驚くはずです。

まさか、アルトマン様を好きになる…そんな事は思わない筈です。

愛している…どころか憎んでもいましたからね..うふふ。

それがこんなにも愛おしいなんて可笑しな物ですね。

「ごめんなさい..」

「ごめん、やっぱり前が前だからいきなりは嫌だよね」

なんだか元気がなくなった気がします..違うんです..申し訳ないだけなんですから、そんな顔しないで下さい。

「アルトマン様、違いますよ..アルトマン様が望むなら、私を好きなようにして頂いて構いません..ですが私 こんな歳なのに恥ずかしい事に、その、そっちの経験が余り無いんです..だから..」

「嫌われてないなら良かった! 夜は長いんだからゆっくりしようよ…」

「はい」

暗がりですが、アルトマン様の体は鋼みたいです…私の弛んだ体と違いますね。

若いって凄い、肌何て私と違って凄く張りが良いし 体も鍛えぬいた凄く男らしい体です。

男性なのに肌も女の私より白くて綺麗なんですよ…浅黒い自分が相手するなんて申し訳ない気持ちになってしまいます。

前と違って私の触り方がまるで宝物を触る様に優しいのです。

頭の撫で方、髪の触り方からキスまでまるで蕩けるようです。

前の旦那とは比べ物になりません。

女として凄く大切にされている。それが触られる度に凄く感じられます。

こんな27歳のおばさんを凄く大切に、宝物の様に触ってくるのです。

こんなに大切にして貰えるなんて思わなかったな…こんなに好かれているなんて…

私は性処理やこういう事は好きでなく、今迄は嫌々我慢していたのですが..今はこの時間が永遠に続いて欲しい。

そう思ってしまう程、別の物です。

時間が過ぎていくのが凄く勿体ない…そう思う程です。

体の全てが..喜んでいる..そうとしか思えません。

だから、相手にも喜んで貰いたい..そういう気持ちが自然と湧いてきます。

こんな気持ちになった事は一度もありませんでした。

ただただ、アルトマン様が愛おしくて仕方ないのです。

こんなのを経験したら、心の底から全て..アルトマン様の物になってしまいます。

私の中の好きや愛しているの全てアルトマン様の物になってしまいます。

もう、私は絶対に他の人では満足できないでしょう..この人以外何も要らない..頭も何もかもが全部アルトマン様で染まっていきます。

気が付いたらもう朝になっていました。

時間が経ったことが解らない位、貪りあっていたのです。

私は体がまだ、ほてってしまって眠れません。

アルトマン様は、流石に眠っていますね。

昨日、あんなに血を流していたのですから良く考えたら病み上がりなのでしょう。

それなのに、こんなに愛してくれて…

27歳のおばさんが飛び切り良い女なんだと勘違いしてしまいますよ?..うふふっ

見れば見る程鍛えられた体をしています..正直、私の弛んだ体じゃお相手するのが申し訳ない、そう思えてしまいますね。

愛おしくて抱きしめてあげたくなります。

こんな感情今迄誰を相手にもありませんでした。

昔のアルトマン様には、勿論思った事はありません。

それが今は、ただただ愛しいのです。

アルトマン様の綺麗な髪をつい触ってしまいました。

凄い美少年です…髪はさらさらで肌にはシミ一つなく、色白です。

こんな綺麗な少年に抱かれていたのかと思ったら思わず赤面してしまいます。

見れば見る程綺麗。

こんなに綺麗に生まれたら勇者じゃ無くてもオモてになるでしょう…

私の住んで居た村に生まれたら、女の子による争奪戦が起きますよ。

こんなに綺麗に生まれたら、勇者でなく、ただの村民でも女の子から寄ってきますよ。

何で私が好きなんでしょうね…もし15歳の私が貴方の傍に居ても決して届かない高嶺の花なんですよ?

同じ村に居たら、きっと遠くから貴方を眺めて憧れているだけの女の子の筈です。

こんな綺麗な人を他に見た事ないんです、私..しかも今は、私に蕩けるように優しい..

こんなに歳の差があるのに…それでも、それでも、好きなんですよね…

今迄の不幸が全部、貴方にあうための試練だった。

そう言われても…そうだったんですねと納得してしまいます。

「おはよう、シエスタ」

こんな優しい顔を朝見られたら、それだけで一日頑張れます。

「おはようございます ご主人様..」

こんな綺麗な方にくたびれた体を見られたく無くて思わず毛布を巻き付けてしまいました。

「うっ」

「どうしたの?」

ただでさえ若くて綺麗なのに..体にもシミ一つないなんて反則です。

【閑話】王国の婚約者選考。
「教会ばかりが2席もとるのは問題なのではないか?」

「何をおっしぃますか?プラーク王、シエスタ様の件であれば、あれは勇者であるアルトマン様が選ばれたのであって教会は斡旋していません」

「ですが、現状勇者様の婚姻は 教会からは聖女クララ シスターシエスタ2名、アカデミーからは賢者メイル3つの席が埋まっています、本来なら3つ目の席は我ら王国の息のかかった人間の筈だったのでは無いですか?」

「勇者の意見は全てに優先します…勇者が愛した人間の婚姻を妨害するというのですか?」

「それは…違います」

「とりあえず、次のアプローチ権は王国側にあるのは事実です、但し選択するのはアルトマン様にあります、アルトマン様が気に入られないのであれば王女だろうが、令嬢だろうが婚姻は認めません…だからこそ、気に入られる最高の女性をご用意した方が良いと思いますよ?」

「解っております」

「それで候補者は?」

「ただいま選考中です」

「後がつかえておりますからお急ぎを、余りに遅いと先に他に権利が行きますからね」

勇者の婚姻は裏で色々な権力が動いている。

この世界では勇者は女神の御使い。

人間で一番偉い、実際は象徴みたいな物であり権力を振るう事は無い。

だが、戦闘力も単体なら世界一位なのだ。

勿論、その妻も勇者に寵愛を受けているのだから、形上は教皇よりも上になる。

あくまで、それは形上に過ぎない。

実際に勇者が内政に口を出す事は無い。

だが、もし口を挟む気になれば幾らでも口を出せる。

勿論、勇者の意見は尊重されるが、アプローチには順番を含み決まりがある。

まず、聖女 これは教会の所属。

そして 賢者 これは魔法アカデミーの所属。

この二つはもう既に埋まっている。

その為、三番目、一番最初のアプローチの権利は国側にある。

大体が王女か有力貴族の令嬢を勇者の妻に据える為に動く事が多い。

今回のシエスタは教会にとっては漁夫の利だった。

自分達の権利を使わずに一枠手に入る。

教皇や司祭が押さない筈は無い。

勇者の婚姻枠を早い時間で2枠手に入れた教会はホクホク。

逆に今だ0の王国は…焦っている。

そんな所だ。

「お兄さま」

「どうしたんだ、ロザリア…珍しいなお前から俺に話して掛けてくるなんて」

「いえ、勇者様の婚約者なのですが、私では如何でしょうか?」

「何を言っているんだ、お前は! 早くに夫を亡くしたとはいえ未亡人じゃないか?」

「勇者様と共に戦うのは戦士としての誉、そして私は過去に魔族と戦った実績もございます!」

「いや、だがお前は25歳…アルトマン様は15歳だ…どう考えても無理がある」

「お兄さまは知らないのですか? アルトマン様の3人目の婚約者のシエスタ様は27歳で人妻ですわ…ならば25歳の未亡人の私でも問題はない筈です」

「しかしな…」

「あんな、ポンコツ聖女や賢者じゃアルトマン様が将来困るに違いありません…その点、この黒薔薇のロザリアなら、確実に戦力になりますわ」

「お前、仮にも聖女様や賢者様に不敬だぞ」

「事実ですわ! 王国一の剣士は今でも私の筈! 私なら戦力的にも、夜のお相手も完璧…推薦しない理由はありませんわ」

困ったな、確かに此奴は性格は兎も角、王国武術会で優勝を何回もしている…折角、理由をつけて14歳のフランソワを推薦しようと思っていたのに…実力は折り紙付きなのだが…正確に問題があるのだ…戦い始めると敵には一切の情けを掛けずに殺す、殺人狂になってしまうのだ。

アルトマン様は何て事してくれたんだ…これでは此奴を納得させる理由がない。

「解ったよ、ガードナー家からは王にお前を推薦する…但し選考するのは王、決めるのは勇者様だ良いな」

「充分ですわ」

「当家からは私がでます!」

「お母さま!私が出る筈じゃ無かったのですか?」

家臣からメイド迄驚きの顔をしている、それもその筈、彼女は確かに未亡人だが母親なのだ。

「いえ、アルトマン様の三人目の婚約者は27歳だったらしいのですよ!なら私が出ても問題が無い筈です」

「いい加減にして下さい…家の恥になります! アルトマン様は15歳です、13歳の私の方がまだお似合いですわ」

「マリア…貴方は成人前の13歳、貴方はまだ2年婚姻が結べませんよ? それに未通の貴方じゃ夜の相手が勤まりません」

「ですが、お母さまは28歳です、15歳のアルトマン様に婚約を申し込む等、恥さらしですわ」

「マリア..いやだーいやだーお母さん、勇者と結婚したいの…お父さんが直ぐ死んじゃってさびしいのよ…お願い」

「困ったお母さま…仕方ありませんわ…当家からはお母さまマリアーヌを出します…それで良いんですね?」

「マリアちゃんありがとう!」

お母さまはこの通り可笑しい人ですが、これでも当家は公爵家、資金は潤沢にあります。

領地も王都に近いし、お母さまはポンコツに見えますが子爵家か公爵家までセルラー家をのしあげた切れ者です。

ああ見えて頑固ですから…仕方ないですわね。

私は勇者の妻は諦めて、勇者の娘を目指すしかないですね。

「各家から婚約者候補の推薦はどうだ!」

「爵位を子爵以上にしました所22家から推薦がきております」

「そうか? 早速…見させて貰おう」

余の見間違いか? 25歳…28歳、こっちは30歳、なんだこれは?

行き遅れに、未亡人ばかり、中には子持ちまでおるじゃないか?

マリアーヌの所は何をとち狂っているんだ…利発で容姿の良いマリアでなく母親のマリアーヌだと。

ガードナー家からはロザリア…確かに強いが..アルトマン殿が可哀想じゃ..

「こいつ等、頭が可笑しいのか? 教えてくれどうしてこうなった」

「それがシエスタ様が27歳と聴いて、自分達もと思ったようです」

「はぁー…流石にこれじゃ、王国や貴族が、要らない女を押し付けたと思われてしまうぞ、年齢を18歳までとしてもう一度選考し直しを伝えてくれ」

だが、プラーク王は気が付かなった、本来は彼女達の年齢がアルトマンには釣り合っていた事に。

認めて貰う
久々に隣に誰かが居る朝。

やはり僕はいつも誰かと一緒に過ごしていたせいかこの方が良い。

「どうかされたのですか?」

「いや何でもない…この後シエスタさんの予定は?」

「婚約者になったのですから、「さん」は辞めて下さい…なんか恥ずかしいので」

「それじゃ改めて、シエスタ、何か今日は用事ある?」

「ありません、慣れるまで楽にしてて良いと言われてます」

「それなら早い方が良いから二人に挨拶しに行かない?」

「聖女様と賢者様ですね…確かに早い方が良いですね…お願いします!」

二人はこの時間は座学で学んでいる筈だからこの間の部屋に行けば良いだろう。

居なければ居ないで、今日は休む予定だから、ゆっくりと探せば良い。

そんな事を考えながら、向っていたら二人とも指導を受けている最中だった。

流石に、指導を受けている最中に邪魔する訳にはいかないな。

「指導が終わるまで待とうか?」

「はい、アルトマン様」

「その、僕は「さん」をつけるのを辞めたんだから、シエスタも「様」をつけるのを辞めようか?」

「それはちょっと難しい気がします…アルトマン様は勇者様なのですから…駄目でしょうか?」

「駄目とは言わないけど、様が無い方が嬉しい」

「そうですか…少しお時間を下さい、頑張ってみます」

《ア..アルトマンだ、嬉しいな私を気に掛けて来てくれたんだ》

《僕のアルトマンが見に来てくれたんだ..うん、頑張ろう》

「二人とも授業中になんですか?集中して下さい…あっ勇者様!」

「邪魔するつもりは無いんで続けて下さい」

「はい、そうだ…勇者様からもアドバイスして頂けませんか?」

「解りました」

とはいう物の…人に何か教えた事は無いな。

「そう言えば、アルトマンは沢山の魔法が使えるのよね? ヒール系も使えるのよね?」

「まぁ幾つかはね?」

「どうやって覚えたの?」

「僕もコツがあるなら教えて欲しい…」

「余り教えたく無いんだ」

「将来の妻にも教えたくないの? お願い教えて..ねっね」

「お願い」

「仕方ないな…解った教えるけどクララやメイルは違う方法で身に着けてね…指導係の方ナイフを用意して貰えますか?」

「ナイフですか? 解りました」

「ナイフに何かコツがあるの?」

「ナイフをどう使うのかな?」

「こちらで良いですか?」

うん、この位の大きさのナイフなら充分だ。

「このナイフで…腕を刺します、痛っ…ヒール、ほら治った」

「…」

「…」

「…」

「それでね、指をね…痛っっっ …ハイヒール、ほら繋がった」

「アルトマン、何をしているの?」

「いま、指を切断したよね? 手品じゃないよね?」

「あああああっ何て事を」

「アルトマン様、自分を傷つけるとまた教皇様に怒られますよ」

「シエスタ、教皇様には言わないでね…話を続けるねよ、能力を最大限に引き出せる瞬間はね、多分「痛み」を感じた時と「死に掛けた」時だと思うんだ。特にヒール系を覚えるなら簡単だよ? 腕を刺してヒールを掛け続ければ良いだけだよ、だけど、これは僕が男だから出来る事…女の子はしちゃ駄目だよ?」

昔、治療師がヒールを覚える為に、自分の腕にナイフを刺しながら覚えたと聞いた事があります。

今時そんな事をする人が居るなんて…まぁこんな事させる訳にはいきませんが。

「しかし、勇者様は随分と荒行をなさっているのですね? 今の時点でハイヒールが使えるなら最終的にはフルヒールが使えるようになるかも知れませんね」

「フルヒールなら使えますよ! 足を切断して…」

「もう良いです…クララ様、怖いですよ、ナイフをそんなに見つめて..休憩です、少し休憩しましょう」

フルヒールが使えるようになるなら…駄目ですそんな事を考えては。

「それで、私が会いに行かなくなったらもう浮気ですか?」

「浮気じゃ無くて彼女とも結婚するから…違う..」

「僕という者がありながら、もう他の女と…酷いよ…アルトマン」

「メイル、僕は勇者だから…」

「あの、スイマセン、クララ様、メイル様…私が」

「「なーんて嘘だよ!」」

「えっどういう事?」

「アルトマン、もう昔の事だから気にしないでね、シエスタに酷い事をしていた貴方を止めようとしたのは誰だっけ?」

「あっクララ…だね」

「そう、私!最もあの時のアルトマンは狂っていて全然止まらなかったけどね…」

「ごめん」

「良いって…それで私が酷い目に逢いそうな時に必死に庇ってくれたのがシエスタ…その結果、一生残るような傷が出来ちゃったんだ」

「僕も良く庇って貰ったな…その結果シエスタさんに矛先が向いて…酷い思いさせていたんだ」

「余りに酷いから、他の教会に行くように手続きしたのは私よ…だから顔見知りなのよ…」

「僕もそうだよ」

「そうか、顔見知りじゃない訳無いよね?」

「だから、今のアルトマンがあんな傷を負っている、シエスタさんに罪滅ぼししない訳は無い、そう思っていたのよ」

「僕は多分、次の妻はシエスタさんなんじゃないかな…そう思っていたんだ」

「今のアルトマンが放っておく無いものね」

「そうそう」

「あれっ、シエスタ、あの傷はどうしたの? そうかアルトマンが頼んでエリクサイヤーを使ったのね」

「凄い…あれが治るんだ」

「あの、アルトマン様が治してくれたんです!」

「だから、エリクサイヤーを使ったのよね? あの傷は聖女の私の見立てでは成長した私でも無理だもん」

「ポンコツでも聖女、伸びしろを考えたら…最後は、回復のエキスパート」

「そう、今はポンコツ…あれっメイル喧嘩売っているのかな?」

「嘘、回復のエキスパート…間違いない」

「アルトマン様がパーフェクトヒールで治してくれたんです」

「「パーフェクトヒール」」

「それって伝説の魔法じゃ無いですか…どうしたら覚えられるんですか?」

「僕も知りたいな」

僕ではなく、シエスタが話した。

「無理、流石に無理だわ」

「僕も出来ない…な」

「そろそろ休憩を終わらせて下さい」

「相手がシエスタさんなら大歓迎だからね…」

「僕も同じだから安心して」

「ありがとう」

「さぁ、勇者様は遙かに前を歩いていますよ? 頑張りましょう!」

「「はい」」

「良かったね…」

「はい…こんな簡単に認めて貰えるなんて…嬉しいです」

揉めないで良かった..本当にそう思った。

【閑話】 ケインと言う名の勇者

その昔、「ケイン」と言う名の勇者が居た。

ケインと言う男は正に勇者を体現したような男で、愚直な位正々堂々な男だった。

「正々堂々戦いましょう」

それが口癖の勇者だった。

容姿こそ平凡だったが、その行動は全ての人類を魅了した。

そして、この時の魔王ソルトもまた、正々堂々と戦う魔王だった。

敵味方ではあったが気性があったのだろう。

口にこそ出さないが通じるものがあったのだろう。

ケインは他の勇者とは違い、単独勇者であった。

多才な彼は回復魔法から攻撃魔法まで全ての魔法を使い…聖女も賢者も連れていない。

いや、彼は何でも出来るから必要なかった。

戦いにつぐ戦いの末、ケインは魔王城にたどり着き魔王ソルトと戦い…遂にこれを倒した。

「見事だ、勇者ケインよ…お前程の男に倒されるなら本望だ」

魔王を倒し、世界は凱旋ムードとなった。

勇者ケインは、戦いに疲れて勇者を引退…勇者の地位を捨て代わりに地方領主の地位を貰った。

地味だが優しい妻を娶り、子供を一人儲けた。

この時がケインにとって最高の時だった…まさかこの後に地獄が待っているとは夢にも思ってないだろう。

ある時、ケインが王都に行って帰ってくると…

「何があったんだぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

綺麗な緑に包まれた村が炎に包まれていた…

村人は燃やされたり切り刻まれてそのまま山の様につまれていた。

家に帰ると、四肢は切断されや妻と娘の死体が鎖で家の前に吊るされていた。

ケインは知らなかった。

自分と戦っていた魔王ソルトは…魔王にしては珍しく正々堂々とした人物だったことを。

そんな人物をケインは倒してしまった。

そして、次の魔王は、普通の魔王、卑怯で残虐な「普通の魔王」であった。

ケインは再び剣を持った。

だが、その戦い方は残虐にしか見えなかった。

「正々堂々戦いましょう」のセリフなんて一言も言わない…ただの殺戮者になった。

そうして、「殺戮の勇者」としてその人生を閉じるまで万単位の魔族を狩った。

だが、この話は終わらない…ケインの魂には魔族への憎しみが刻み込まれてしまっていた。

その為、転生するたびに魔族を憎み惨殺した。

その残酷さに頭を痛めた神は、ケインの魂には注意して「戦闘職」以外のジョブを選ぶようにしている。

そうしなければ、必ず魔族に惨殺を繰り返すからだ。

如何に魔族と言えど…虫けらのように殺すのは心が痛いのです。

女神はそう思っていた。

【閑話】単独勇者
自分とクララとメイルの力量を比べてみた。

かなり差がある気がする。

僕は結構、酷い奴なのかも知れない。

アールの時にはクエラとメール…

そして今は、クララとメイルとシエスタ…

その人達だけが幸せならそれで良い、勿論、他の人間だって幸せになって欲しいとは思う。

だけど、それはあくまで、「自分の仲間が幸せなら」だ。

クララやメイル、シエスタが不幸になる位なら…悪いが見捨てる。

だから戦いに連れていきたくない…世界がなんてどうでも良い。

そう思うんだ。

だから、彼女達を戦いに出したくない。

その方法を探したら…見つかった。

過去には賢者も聖女も必要としない勇者が居た。

その勇者は「単独勇者」と呼ばれ…一人で戦ったらしい。

世界が魔王ではなく龍の王に滅ぼされようとした時に1人で戦い勝利した。

だから、僕は今日、教皇に相談、いや決意を述べに来た。

「教皇様、お時間を作って頂き有難うございます」

「勇者様のご相談であれば、他の何を置いてもはせ参じますぞ」

「私は三人を愛しすぎてしまったのかも知れない」

「はははっ惚気ですかな? 仲の良い事は良い事です」

「それで僕は1人で戦いたいと思います」

「単独勇者を目指すという事ですな…何となく解かっていました」

「それでどうなんでしょうか?」

「アルトマン様なら出来ると思います…既に勇者としても強く、聖女の奇跡の魔法迄使えるんですから可能性は高いですな、後は攻撃系の魔法を極めれば可能かと思います…明日からは宮廷魔術師達から指導を受けて頂き…実戦で問題無ければ許可いたします…まぁ二人を鍛えるよりその方が楽かも知れません」

「その場合、クララやメイル、シエスタの扱いは変わったりしませんよね」

「勿論、ただ、彼女達も近くの村や街までは義務として行く事になります…まぁ癒女としてですね」

「癒女?」

「どんなに強い勇者でも、戦いは心が壊れていくものです、その為には癒す相手が必要だと言う事です」

その後、プラーク王も交えて話し合い、「単独勇者」を認めて貰えた。

ただ、それでもある程度は鍛えた方が良いという事で二人の修行は続けるらしい。

そして、旅立ちの日近くまでこの事は皆には内緒と言う事に決まった。

これはその方が2人がさぼらないから、と言う事らしい。

そして僕は、攻撃魔法を覚えた後は「昼間の時間は実戦を詰む」そういう時間に当てるらしい。

夜には帰ってくるから問題はなさそうだ。

1公2侯
「宮廷魔術師?」

「はい」

「宮廷魔術師如きに勇者様を預けるなんて、馬鹿な事を考えてますね…指導なら私が直接致しましょう?」

「ですが」

「私を止められる者等、世の中に居るのですかね?「炎髪のシャルナ」と言われる私を…この国最強のメイジである私を」

「そうですね」

「そうですわ…私一人で行くと煩いから、「黒薔薇のロザリア」と「戦術のマリアーヌ」にも声を掛けていきますかね?残念ながら回復魔法の使い手の「聖母トキア」は死んでしまいましたが…元英雄パーティーがこれで揃います」

「止めても無駄なんですね」

「解ってらっしゃるわね」

話す事だけ話すとさっさと出て行ってしまいました。

1公2侯が揃い踏み…しかもかって世界を救った英雄パーティーのメンバーを一介のメイドが止められる訳無いじゃ無いですか?

何で、あの人は私に話すのかな?

私、ただのメイドですよ?

しかも侍従長もメイド長も逃げ出すんですよ…酷い。

私は、連絡水晶を取り出します。

この水晶はプラーク王直通なのです。

ただの平民なのに…余りにもシャルナ様が破天荒な為に何かあったら教えて欲しいと下賜されてしまいました。

何で、侍従長やメイド長じゃ無いんですかね?

何で私みたいな小物が王と話さなければならないんでしょう?

「プラーク王様..」

「なっキャル…またシャルナが何かしようとしているのか?」

私から連絡があると王様は何時も嫌な顔になります。

国王様の嫌な顔など見たくはないのです…ただの市民ですよ私?

「はい、何でも、「黒薔薇のロザリア」と「戦術のマリアーヌ」を伴って勇者様の指導係に立候補するそうです」

「そうか、悪いなキャル、少しで良いから時間を稼いでくれないか?」

「無理です!私ただのメイドですよ…」

「済まぬな…当たり前か..だがそれでも頼む…これから私は教皇様に話を通さなければならぬ」

「ただのメイドなのに…」

「頼んだぞ」

「あっ」

どうすれば良いのですか?

まったくもう…

指導者確定
朝起きるとシエスタが僕を覗き込んでいた。

「おはよう…シエスタ? どうしたの?」

「あはは、ごめんなさいつい見惚れてしまいました!」

シエスタは良く笑う様になった。

それと同時に、僕より早く起きるようになった。

今日ももう、先に起きて服を着ていた。

「僕の顔なんて見てても仕方ないでしょう」

「そんな事ありません! ずうっと見ていたい位です」

「そうか…確かにそうだね…僕も言われて見ればシエスタの寝顔好きだから同じだね」

「はうっ…見ていたんですか?」

「はい、涎垂らしていて凄く可愛いのに、最近は見られなくて残念です」

「まったくもう…」

クララとメイルと居ても凄く楽しいが…シエスタといると癒しがそこに含まれる。

多分、それは僕の本当の年齢が60歳過ぎだからかも知れない。

シエスタと話しているとあまり抵抗はないが…

クララとメイルと話していると、若干違う感情…子供に対する様な感情が芽生える事がある。

やる事はやっているのに…そう言われるかも知れないが、そう孫を可愛がるような気持もあるのは事実だ。

大切な事は同じ…だが、この気持ちがあるからこそ、余計に一緒に戦をさせたくない、庇護欲にかられる。

「どうしましたアルトマン様?」

「いやシエスタと話していると癒されるな…そう思っただけだよ!」

「もう、癒されているのは私ですわ」

シエスタに見送られながら、宮廷魔術師達の居る部屋に向った。

ノックをしてから入った。

あれ、何かが可笑しい?

本来なら沢山の魔術師が居る筈なのだが4人しか居ない。

3人の妙齢な美人に1人の少女が居る…魔術師?

「初めまして勇者様、私達はその昔、英雄ロウガ様と一緒に戦った者です。私は攻撃魔法にたけた魔法使いのシャルナと申します」

背が低いが、凄い美人…赤い髪を持つ者は炎の魔法にたけていると聞いた事がある…

あれ? もしかして赤髪の魔術師って…炎髪赤目..でシャルナ..そうだ

「初めまして、私はアルトマンと申します、「炎髪のシャルナ」様が教えて下さるのですか?」

「私の事を知っているのですか?」

知っている…メールが凄く悔しがっていた、あんなのは反則だと記事を読むたびにキンキン声で..

だけど、あの時の僕にとってはかなり年下..今は年上だから..えーとこんがらがるな。

「知っているも何も、この国で一番有名なメイジと言えば貴方じゃ無いですか? 子供なら一度は憧れますよ」

これで良い筈だよな。

「そう知っているんだ、私を憧れなんだ…そうなんだ、ありがとうアルトマン!」

「どいてチビッ..ねえ、炎髪を知っているなら黒薔薇はご存知かしら?」

残酷..剣士…

「知っています..最強の剣士「黒薔薇のロザリア」様ですよね」

「はい、良く出来ました」

「どいて、だったら「戦術」は? 知っているよね?」

「「戦術のマリアーヌ」様…本物ですか?」

「はい、本物ですよ!」

何で宮廷魔術師で無くて「この人達」なんだろうか?

確かに、この国最強はこの人達だろうな…「聖母トキア」は死んでしまって居ないし「英雄ロウガ」様も死んでいない。

これで英雄パーティー揃い踏みじゃないか?

「私はマリアです…マリアーヌの娘ですわ..宜しくお願い致しますね  アルトマン様」

「貴方は? 」

「うふっ、私は只の付き添いですわ..マリアーヌの娘ですので」

本当は目付を無理やり頼まれたんですけどね…

「それで英雄パーティーの方が私に指導をしてくれるという事ですか?」

「いえ、私達はふがいない、聖女様や賢者様に代わってパーティーを組んで頂こうと思ってきたのです」

「お母さま! そんなの初耳ですわ、話が違いますわ」

「マリアちゃん、今決めたのよ? 初耳なのは当たり前よ」

「お母さま…騙しましたわね?」

「何の事かしら?お母さま解らない」

「それでは指導でなくパーティーを組みたい、そう言う事ですか?」

「はい、私は、勇者様が単独勇者になりたい、そういう話を聴いて参りました…私達なら充分戦力になります」

「それは無理です」

「何故でしょうか?このシャルナが役立たずと言いたいのかな?」

「貴方達が居たら僕は戦えないからです…」

「何それ?」

「きっと、一緒にパーティーを組んだら仲良くなっていくと思います」

「それがどうにかしたの?」

「僕は、その仲間が傷つき、死ぬような姿を見たくないんです」

「待って、私達は強いわよ..実力も…」

「それでも、魔族相手に2人も死んでいます…僕1人なら僕が死ぬだけで良い…僕の前で貴方達のような綺麗な女性に死なれたら、多分僕は後悔しか残らない」

「本当に頑固なのね…良いわこのシャルナが全てを教えましょう、だが見極めで無理と判断したら強制的にパーティーを組んで貰います」

「それじゃ剣術は私ですね」

「戦術はわたしだわ」

「お願いします」

本当に呆れた子…私に死なれたら後悔するですって…そんな言葉初めてね。

王国一の剣士の私にこんな事いうなんてな…初めてだ。

あらまぁ困るわね…うふふ久しぶりだわね…心配何てされるのは..

「「「それに、綺麗な女性」」」だって

「「「はい、任せて下さいね」」」

「お母さま!」

我が母ながら、なんて艶らしい表情をしているのでしょうか?

他のお二人ももう女の顔をしています…知りませんよもう..

その後、慌ててプラーク王が飛び込んできたが…

「もうアルトマン様とお話は終わりましたよ、今日から私達が指導します」

その言葉を聴いた王は座り込んでしまった。

こんなプラーク王の姿は、初めて見ました。

黒薔薇のロザリア
シャルナさんとロザリアさんが、じゃんけんしている。

マリアーヌさんは、座学からスタートの為参加していない。

座って、のの字を書いている姿は凄く可愛く感じる。

「さぁ、最初は私からですよ!」

じゃんけんに勝ったのはロザリアさんだった。

最近、僕は目が悪くなったのかは? 最近周りには美人しか居ない気がする。

ロザリアさんの容姿はまるで、綺麗な悪役令嬢、そんな感じだ。

綺麗な顔なのに剣を持つとまるで蛇みたいに舌なめずりしだしたのは何故だろう。

僕が学ぶのは、剣ではなく魔法のはずなんだが、聞いてくれないだろうな?

だが、王国一と言われる剣術…味わってみたい。

才能の無いケインとしてスキルも無いのに剣を振った。

アールになったら上級騎士スキルを持って僅かな間だが、死ぬ程依頼を受けた。

此処では剣聖にすら指示して超えた。

僕は剣を構える。

「凄いわ…それでレベル1なの…良いわ掛かってきなさい」

「あの子、凄い」

「お母さま!」

「行きます…」

胸を借りるんだ、全力で行く。

人族攻撃無効は使わない…

身体強化を使い、奥義で行く…

多分、剣聖だって避けられない筈、これなら..光の翼..

「嘘、あれは光の翼..」

「レベル1であれが出来るのね…化け物ね」

「お母さま」

「凄いわ…あれじゃ剣聖が負ける筈..」

「確かに凄いですね…ただ当たらなければ意味が無いですね…」

まるで、読まれていたかのように、かわされた。

なら、

「不味い」

「凄い、凄い、凄い…あはははははははははっ」

嘘だ剣すじが見えない..

怖いから大きく避ける、だが、避けたはずなのに、血が噴きだした。

「凄い、凄い、凄いわ…私が本気で殺したくなったわ、うふふふふふっ」

「おい、マリアーヌ、あれ不味いんじゃないか?」

「シャルナ止めないと..」

「私がやるのか?」

「戦略の私じゃ無理よ」

「仕方ないわね…無理だあれ…早すぎるし、あれに当てるなら大怪我させてしまう」

「うふっふ…あははははははははっ凄いわ、これで死なないなんて、この位で普通は腸をバラまいて死ぬのに…うふふ」

「黒薔薇のロザリオのデスダンス…本気じゃないか、あれ」

「まさかロザリオでも殺さないわ…だけどあれ良く躱しているわ…騎士団でも止められないのに..」

これ普通に死ぬんじゃないかな..えっヤバイ掠った…嘘だろう

「痛い..パーフェクトヒール」

今、お腹が斬られて腸が顔出していたじゃないか..このままでは真面目に僕は死ぬ。

プロテクトにオートガード…最早、余裕なんてない。

「良く、黒薔薇の私から逃げられますね…だけど逃げてばかりで良いんですか?..単独勇者になるんじゃないですか?」

言われてみればその通りだ..

こちらから攻撃仕掛けなければ意味がない。

くっ..一閃。

「確かに早い…ですが動きが単純…」

そこからの追撃。

「あはははっ面白い..本当に戦闘経験が無いの? なんでそんな実戦的な剣なのかなあははははははっ」

何でこうも躱されるんだ?

ならば、これだ…

右半身で構え突っ込む…

「何か仕掛けるのかしらね?」

ロザリアの剣の前に腕を突き出し、そのまま斬らせる。

「えっ..」

そのまま反対側の腕で殴る…

「きゃあああああっ」

「やった..僕の勝ち..じゃない」..俺のお腹から短剣が生えている。

殺す気か..剣を抜いて

「パーフェクトヒール…水龍の牙よ相手を貫け…ウオーターシュレッダー」

「きゃああああ」

悲鳴を上げているが…嘘だろう全部剣で弾いている…

「面白いわ、貴方実に面白い..本気だせそうね? あはははははははは」

今迄よりも早くなってきた..腕を斬って腹を刺して…それでも終わらないのか…これ。

そうか、この人は実戦の怖さを教えてくれているんだ..

怪我するのを恐れちゃいけない。

斬られるのを恐れずに見切る…それに専念。

少しは太刀筋が見えるようになってきた..えっ…それでも耳が斬り落とされた..

本来ならハイヒールで充分だが…拾う時間はないから

「パーフェクトヒール」

「あはははははっ..目が少しは慣れてきたんだね…なら更に行きますわ」

言葉に惑わされない..避けるのに専念..隙を探す。

何処にも無い…

「攻撃しないと意味無いですわ」

惑わさられない…避けるのに専念、何か隙はないか?何かないか?

「あははは、貴方は凄いですわ…まだ死なないなんて」

まだスピードが増すのか?

「殺す、殺す、殺す、死ね、死ね、死ねえええええええええええっ」

本気じゃないですよね..

たった一撃当てる為に…腕を5回、足を3回、耳を6回斬り落とされた。目を2回潰された。

「はぁはぁ僕の勝ちですね」

「パーフェクトヒールはズルいですわ…ですが、良いですわ、貴方に八代目黒薔薇の地位を..」

「何言い出すのかしら? アルトマン様は勇者ですよ? 黒薔薇になんてなりません!..それに王妃に慣れない黒薔薇なんて貴方しかやらないわ」

「そうかしら、シャルナ…アルトマン様は黒薔薇に興味ないかしら?」

「はははっ遠慮します」

残酷騎士…拷問、殺人、を極めた証…黒薔薇…流石になりたくない。

「貴方、本当に実践経験初めて? スキルや訓練じゃない…実戦的な感があると思うわ…何故かしら?」

「お母さま、アルトマン様はまだ実戦に出ていませんよ」

「そうかしら? 私の直感外れた事ないんだけどな…」

「ははは…無いですよ」

ケインの努力、アールの才能…本物の前じゃ歯が立たないんだな..

「なら、とんでもない天才ね…剣聖に勝てるんだし..私に一撃加えるんだから」

「実戦なら、死んでいますよ」

「あのさぁ…私はレベル87よ…此処までレベルを上げた人間はまず居ないわ..それがレベル1とこれしか差が無い..自信なくすわ」

「たまたま」

「たまたまで負ける黒薔薇は無い…王妃が黒薔薇を名乗った時代で貴方が女なら、絶対に逃がしてくれなかったと思うわ」

「….」

「まぁ良いわ、これからも私と楽しく殺し合いしましょうね…アルトマン様」

単独勇者の道は遠いな…

炎髪のシャルナ
シャルナさんが舌なめずりしている。

まさか連戦なのか?

流石に、傷は一瞬で治したとはいえ、あれだけ血を流したからふらふらする。

「さぁ、次は私…」

満面の笑みで微笑んでいる…年齢的には20代中盤から後半なのだが…

背が低いせいか、僕と同い年位に見える。

「お願いします!」

「私との模擬戦は何を使っても良いからね? ファイヤーウィング」

炎で翼を使って飛び上がる…こんなのありですか?

僕はアールだった時に、ワイバーンと戦った事がある。

空にいる敵には…ウインドカッター…

「威力が足りない…避ける必要も無いわ」

ウィンドカッターを避けもせず突っ込んでくる..近くにシャルナさんが来るだけで、衣類が燃え始め..肌が焼ける。

「ウオーター、ヒール」

「悪く無い…だけど..もう詰みだわ」

また、突っ込んできた。

今度は素早くて躱せない。

「これで終わりよ! 死の抱擁」

シャルナさんが抱きついてきた。

これだけの美人に抱き着かれたら幸せな筈..小振りだけで感触の良い塊が…

感じられる訳無い…炎に包まれているんだ…燃え尽きるて、僕は死ぬ…

体が焼かれて肉を焼くような臭いが立ち込める。

「フルヒール、ウオーター」

このままだと焼け死ぬだけだ..女性に手をあげたくはない…力任せに殴ろうととしたら..

僕の手が消し炭になって焼け落ちた。

「フルヒール」

「この状態の私は、イーフリートを越える位体は熱いわ…早く脱出しないと死ぬわよ」

「パーフェクトヒール…ウオーターシュレッター」

シャルナさんの笑顔は凄く可愛い…だが、焼かれている状態だと悪魔に見える。

「正しい判断ね…だけど威力が足りない」

これ、本当に殺す気で来ているんじゃないよな…だが打つ手がない..考えないと死ぬ…

「ホーリーウオール、ウオーター」

ホーリーウオールじゃ防げない…ウオーターで出した大量の水も蒸発してしまう..

土、土なら…僕は持っていない。

だが、やるしかない。

「パーフェクトヒール」そして焼けるのも気にしないでシャルナさんに抱き着いた。

「えっ嘘..」

初めて動揺したような気がする。

そして、そのまま..

「アース、アース、アース」

僕の体は、勇者の体チートだ…ようやく大量の土が現れ二人を飲み込んだ。

「ハイヒール ハイヒール ハイヒール」

「あら..もしかして、アルトマン様は私に抱き着きたかったの?」

「ハイヒール ハイヒール ハイヒール」

「答えなさいよ!」

「ハイヒール」

「ちょっと…」

僕はそのまま意識を手放した…凄く触り心地が良い感触が…勝てたのかな…

僕が目を覚ますと…4人が僕を覗き込んでいた。

「僕は…」

「凄いですわ、アルトマン様、シャルナさんに勝つなんて、信じられませんわ」

「負けてないわ…引き分けよ、引き分け…ぼそっ…それでも凄いけど」

「有難うございます」

「しかし、考えましたね、窒息ですか?…良く土壇場で…私はこれが見れたから今日はお休みで良いわ」

「そうしてくれると助かります」

「流石に、もう無理そうですわ」

4人に手を振られ、そのまま部屋に帰ってきた。

「アルトマン様大丈夫ですか?」

そのまま、シエスタに倒れ込んだ。

多分、アールから併せて、女性が傍にいて何もしなかったのは初めてかも知れない。

日常

「おはようございます」

シエスタの笑顔で癒されるが…

「うっ..」

「アルトマン様、顔色がお悪いですよ…寝ていた方が良いと思います」

僕はシエスタをハグした。

「ああっアルトマン様、嬉しいです」

「ふぅ…これでシエスタ成分を..えっ クララにメイル」

「随分幸せそうね」

「僕が会えない間、そんな事していたんだね…ふーん」

不味い、顔は笑顔だけど目が笑っていない…何時もか輝いて見える瞳がどんより曇って見える。

「あはは、可笑しいの…冗談よ、冗談..シエスタなら側室だから浮気じゃないから良いわ」

「僕も同じ…ただ、時間が出来たらちゃんと同じ様に相手してくれれば良いよ」

「解った約束するよ」

「それなら良し…どうせアルトマンは後最低数人の花嫁を貰うから気にしないわ」

「まぁ勇者だから僕も諦めるよ」

「そういう物なのか?」

「そうですよ、アルトマン様」

久々に二人に会った。

最初は三人に優しくしたのは義務感からだったけど、今は違う。

クララもメイルも良く笑う様になったし

シエスタは目が合うと微笑んでくれる。

アールもアルトマンも本当に馬鹿だ…こんなにも楽しい時間を壊してどうするのだろうか?

人形みたいに命令でしか動かない女の子なんて抱いて楽しいのだろうか?

最初の状態と今の状態じゃ…別人の様に三人とも良い女だ。

「どうしたの? アルトマン!」

「いや…こんな素敵な女性を娶った僕は幸せだなと思ってさ」

「当たり前でしょう..」

「直球すぎるよ..僕困っちゃう」

「うふふ、どうしましょう?」

ほら、こんなに可愛くて綺麗。

「そういえば、今日から私達、夜は自由になったのよ..」

「うん、僕も」

「そうなんだ、良かったね、それじゃ授業の方が」

「それが、あまり芳しく無いのに不思議なのよ」

「僕もまだファイヤーボールが打てるようになっただけなのに変だよね」

そうか、僕が単独勇者を望んだからそうなったのかな?

今は言いにくいけど、夜にでも話すか?

三人で朝食を食べて…二人は授業を受ける為に先に出た。

僕は、今日はマリアーヌさんに戦術を習って…また模擬戦だ。

あの二人でも戦ったのは魔族、魔人だ…そう考えたら勝てるようにならないと難しいんだろうな….

この時、アルトマンは頭から抜けていた…自分がレベル1だという事に….

戦術のマリアーヌ アルトマンちゃん

今日の僕の日程はマリアーヌさんから座学で授業を受け、その後はまた地獄が待っている。

初めて憂鬱を感じる。

「それで、魔族が此処から攻めてきた場合は、何処に布陣を敷けば良いのかしら?」

「こっち」

「へぇーその根拠は?」

「この場所なら岩場で見通しがきくし、両側に崖があるから正面からしか来れない、持久戦ならここまで下がって」

「はい、良く出来ました」

凄い、あのお母さまと普通に話している。

あのお母様は、戦略と経営だけは一流ですわ。

そのお母さまと普通に話しているんですから、下手な指揮官クラスの知識があるという事です。

本当にアルトマン様は…何者なんでしょう?

「ふぅー」

「所で、アルトマン様、その知識は何処で手に入れたのかしら? うふふ」

ケインやアールの時の知識とは言えないな

「書物で学びました」

「そうかしら? 書物だったらそこは選ばないわ…そうね、ベテランの冒険者や騎士に近い考えだわ」

「そうですか…」

「そう、驚かないで良いわよ! きっと冒険者に教わったんでしょう? 私は別に冒険者から学んでも気にしないわよ? 騎士には気にする人もいるけどね」

「有難うございます」

しかし、この子は何者なのでしょうか?

話していてどう考えても実戦経験がある様にしか思えないわ。

しかも、シャルナとロザリアとの戦い、幾ら騎士団相手に揉まれているとはいえ…あのロザリア相手に恐怖を感じない何て。

どう考えても可笑しいわ。

あれは恐怖を感じさせる戦いを教える物だった筈、普通どんな人間でも手が斬り落とされたら、余程の者じゃなければ戦えないわ。

まして彼は実戦経験が無いんだもの…腕を斬ったら終わり、そう思っていたのに…そこからまさか戦ってくるなんてロザリアですら思っていなかった筈。

しかも、あれロザリアが楽しんでいた…本気とは言わないけど、充実した戦いだったのは間違いないわ。

シャルナは痛さに耐性があると思って焼きにいっていた。

斬られる事に耐性があっても「焼かれる恐怖は別物の筈」そう考えたんだと思う。

それすら、気にせず戦ったわね。

あれが勇者だと言うのなら…英雄とは違う。

単独勇者が活躍した大昔は

《勇者とは魔王すら殺せる究極の兵器なのだ》

そう言われた時代がある。

もしかしたら、私は今、昔の「兵器」と呼ばれた勇者に会ったのかも知れないわ。

「どうかしたのですか? マリアーヌさん!」

「なんでもないわ、うふふふ」

「そうですか?」

まだ解らないわ…だけどこの子なら「単独勇者」に本当になれるかも知れないわ。

お母さまが笑っている…あんなに機嫌の良いお母さまは見た事がありません…

悪い癖が出ないと良いのですが…

「アルトマンちゃん…」

「アルトマンちゃん?」

「アルトマンちゃん、私と結婚しない?」

我が母ながら、またやらかしています。

「お母さま…いい加減にしないとまた王に怒られますよ? アルトマン様も今のは忘れて下さい! 冗談なので」

「違うわよ? お母さま本気だもん」

「本気だもんじゃありません…アルトマン様、今日はこれで失礼します」

「あーはい」

流石に、あれは冗談だよな…まだ会って間もないのに..

しかし、マリアさん、凄く苦労してそうだな。

マリアは、マリアーヌを引き摺って出ていった。

「アルトマンちゃん、また明日、てへ!」

「全くもう…お母さま行きますよ」

あんな仕草が可愛い、そう思うのは僕の実年齢が高いからだろうか…

卒業と戦力外通知

何故かカリキュラムが楽になった為に、こっそりとクララとメイルはアルトマンを見に来ていた。

「死ね、死ね…死ね、あはははははっ逃げてばかりじゃ終わりますよ?」

僕にとってロザリアに無い物…それは回復と体力だ。

それ以外はロザリアの方が上だ。

だから、そこに付け込む。

ロザリアが剣を突き出した瞬間に僕は突っ込んだ。

パーフェクトヒールを覚える為にかなりの痛みを覚えた…だから僕は痛みに強い筈だ。

手を斬り落とされても、足を斬り落とされてもロザリアさんは止まらない。

これならどうだ…

ロザリアの剣がお腹に刺さった瞬間にフルヒールを掛ける。

その瞬間にお腹が治り始める…

「くっ..クソ」

初めて、顔色が変わった…

腹筋で剣が抜けなくなった、その瞬間に剣を振りおろそうとした..

あっ

だが、剣を捨てたロザリアは…直ぐに僕の右目に指を突っ込んだ。

鍵の様に指を曲げ、前に引き出す、そのまま僕の眼球は引き摺りだされた。

「くっ…パーフェクトヒール」

その瞬間…僕の右目の眼球が床に落ちた..

その右目を踏みつけながらロザリアの顔が近づいてきた..そしてそのまま..

「うぐっ..」

何で僕はキスをされているんだ?

「ぷはっ…あーあ、負けっちゃったわね」

「なななな、何でキスなんてするんですか?」

「初めてアルトマン様が私に勝ちましたから、そのお祝いよ…もう私が教えることは無いわね…名乗りたければ黒薔薇のアルトマンて名乗って良いわよ!」

「僕は勝ってなんていません」

「嘘よ! お腹に剣が刺さった瞬間に、そのまま剣を振り落とせたでしょう? だけど相手が私だから振り落とさなかった? 違う!」

「えーと」

「言いにくいなら言わなくても良いわ…私が教えたかったのは「恐怖」と「痛み」 腕を斬り落とそうが、目が無くなろうが戦える、確かに強力な回復魔法があれば恐怖は無いよね」

「そうですね」

「違うわ…普通は目が潰れたら痛くて戦えない、手や足が千切れたら蹲るわ…回復魔法はそこに関係ない」

「たしかにそうなのかも知れません」

「それを気にせずに戦う事が出来る時点で、もう教えることは無いわ…さっき、アルトマン様は、私に怪我させるのを躊躇して剣を納めた
…黒薔薇を名乗って初めてよ…そういう手加減されたのは…痛みや恐怖を乗り越えて戦う相手に黒薔薇は多分勝てない…おめでとう」

「それって」

「卒業よ..私は貴方の単独勇者を認めるわ…貴方は魔王さえ葬り去る最強の兵器に育つ、絶対にね!」

「有難うございます」

最後のキスは意味が解らないけど…アルトマンってあんな戦いをしているの?

目をくり抜かれても戦うなんて僕には出来ない…

だけど…単独勇者って何..

僕はもう要らないのかな…

「あら、あら..盗み見していたのかしら? 悪い子ね」

「「マリアーヌ様」」

「静かに…そうねついて来て」

「「はい」」

「聞いちゃったのね!」

「はい」

「僕も聞きました」

「聞いた通り、アルトマン様は単独勇者を目指しているわ」

「そうですよね…私が聖女として役立たずだから..」

「僕も同じだよ」

「それは違うわ…多分パートナーがシャルナやロザリアでも彼はきっと戦わせないと思うわよ」

「どうしてですか?」

「二人は実力者ですよ」

「彼は凄く優しいのよ…自分は死ぬのは良いけど他人が死ぬのが嫌…そんな人なの」

「だからって、そんな…私は聖女なのに」

「僕だって賢者です」

「だけど、彼教皇様に言ったそうよ..「三人を愛しすぎてしまった」って」

「それどういう意味ですか?」

「僕も詳しく知りたいです」

「多分、アルトマン様は貴方達が好きなのよ、貴方達がもし死んでしまったら生きていけない位に、ある意味依存している」

「…そうなのかしら」

「…僕、そうなの…」

「自分の命よりも大切だから、危ない場所に連れて行きたくない、大好きだから傷ついて欲しくない…辛い思いなんてして欲しくない、多分そう思っていたのね…だから調べたのよ、1人で戦った勇者がいるかどうかを…結果が一人で戦う勇者…単独勇者を目指す、そこに行きついたみたいよ」

多分、私昔のアルトマンが同じ事したら…馬鹿にしてと怒ると思う..だけど今のアルトマンがそれを言うなら…いやだ、顔がにやけてしまう。

僕が、そんなに好きなんだ…今のアルトマンならそう思うのも解るな..そうなんだね僕がそんなに大切なんだ..本当にしょうがないなアルトマンは。

「どうしたの? 変な笑い方して」

「何でもありませんよ」

「僕も何でもないです」

「それで何だけど…貴方達、正式に戦うの辞めない?」

「まって下さい…それじゃ私、お払い箱ですか?」

「アルトマンと居られなくなるのは嫌です」

「だけど、貴方達を標的にされたらアルトマンは盾になるでしょうね? そして死んじゃうんじゃないかしら?」

「…そうですね」

「….僕の為にアルトマンが」

「もう解っているんでしょう…才能の無い貴方達ではついて行けないって」

「はい…私にはきっと努力してもあんな戦いは出来ない..わ」

「僕も…薄々は解っているよ…」

「そこでね! そのまま聖女と賢者をしながら癒女しない?」

「癒女って何でしょうか?」

「初耳です」

「癒女って言うのはね…勇者の心を癒す事に特化した、聖女や賢者の事よ…戦いはしないけど勇者の心が戦いで壊れない様に癒すのが仕事なの」

「それって一体…何をすれば良いんですか?」

「僕に出来るんでしょうか?」

「出来るも何も、今まさに貴方達がやっているでしょう? 勇者に甘えて、イチャイチャしているじゃない? それが仕事よ!」

「えーと、それはアルトマンと一緒に居て..その愛しあっていれば良い…そういう事なのですか?」

「僕がそのアルトマンに甘えていれば良い…それで良いの?」

「そう言う事! それでどうする? 二人は癒女目指した方が良いんじゃないかな? そうしないとアルトマン様の癒女はシエスタさんだけになりますからね」

「うっ…そうよね、私愛されているから、私がそっちを頑張った方が絶対にアルトマンやる気だすわ、私癒女になります」

「僕、愛されているから、僕が沢山愛した方がアルトマン喜ぶよ..うん、そうする」

「良かったわ…私から伝えておくわ」

「「宜しくお願い致します」」

「任せて」

実質は「戦力外通知」昔から伝わる…使えない聖女や賢者を勇者の性処理の道具にする悪法なんだけど…

まぁ、彼女達はアルトマンと本当に愛し会っているんだから…イチャイチャしてるだけの楽しい仕事ね。

幸せだと思っちゃうんだから…駄目だわ..もう..

実は教皇や王も余りに使えない為、諦めていた。

アルトマンには暫く「単独勇者」の事は伝えないと言っていたが、今だ呪文を一つしか覚えない彼女達は恐らく歴代でも下から数えた方が良い位力が無い。

だから、マリアーヌにやんわりとプライドを潰さないように伝えて貰う様に頼んでいた。

今後、彼女達は実力を磨くのではなく、アルトマンの癒しや精神管理を中心に活動する事になる。

抱擁とハーレムの苦悩

「ロザリアは認めたかも知れないけど…まだ私は認めてないわよ!」

「そうですよね! 行きます..」

炎を纏ってシャルナさんが飛んでくる…その姿は伝説のフェニックスに近い。

この間のはあくまで奇襲…もう一度は通用しない。

二度も同じ事を許すほどシャルナさんは甘くない。

あれから、考えた…なぜあれほどの炎に纏われているのに火傷しないのか?

考えた末行きついたのは、「気」だった。

身体強化は魔法じゃない…体の中にある気を操る..その気を体の外で纏いそしてその上から炎を魔法で纏う。

これだ…

「纏い」

「なっ、こんな短期間で理解しちゃったんだ」

まだ、僕はこの上に魔法で何かを纏う事はできない…だが今はこれで充分..

何故なら..もう炎の熱さは僕には通じない。

「いきます」

それでもシャルナさんは素早い…僕の胸に飛び込んできた。

そして、そのまま抱擁してきた。

「全くもう、この状態の私が普通に抱擁されるなんて思わなかったわ..」

「すみません」

「良い物でしょう…炎に巻き付かれながら、抱擁しあうのって…こんな事出来る女は他には居ないわ」

「そうですね」

抱擁するのに…炎って要らないよな。

「この技は、私のオリジナル…対抗出来た者は居なかったわ…あとは修行すればすぐに魔法を纏うことも出来るでしょう…私の方も合格だわ」

「有難うございます」

「単独勇者だっけ…貴方は凄いわ、私の知るなかで「戦わないで良い」なんて言った勇者や英雄は居ないわ…案外貴方が私の時代に生まれたら、私は平凡な女として生きられたのかも知れないわ…」

「すみません」

理由は解らないけど…謝るのが正しいそう思った。

「貴方は、アカデミーから一人 教会から二人、3人の婚約者が居るのよね」

「はい、自慢の婚約者です」

「だけど、勇者である貴方は、王国側からの婚約者を必要なのよ」

そうだよな…勇者の結婚って政治的意味もある筈..当たり前の事だ。

「あっ私も..わ.た.し.も立候補するからね…考えなさい」

そう言うとシャルナさんは手を振りながら去っていった。

そうか..そういう事もこれからは考えないといけないんだな..

気持ち的には、現状で充分…三人も可愛らしい婚約者を持っている時点で満たされている。

これ以上数を増やしたら…上手く付き合っていく自信が僕にはない。

それに、王国関係で、顔見知りの女性は4人しか居ない。

確かに全員が魅力的だけど…娶るなら三人一緒じゃないと不味い気がする。

そうすると…6人になってしまう..これは絶対に僕のキャパを越えている気がする。

昔の勇者はどうだったっけ…不味い、ハーレムを手に入れた勇者の末路は悲惨な話しかない。

ネロは…確か嫁同士の権力争いが嫌になって逃げだした

ソロンは…新しい若い嫁をハーレムに加えた事で、最初のメンバーに…殺された。

ここまで行かなくても、離散したり…晩年捨てられたり、碌な事になっていない。

少なくとも僕の知っている、ハーレム勇者は悲惨な末路になっている。

聖職者のドロリゲス教皇に聞いても無理だろう、こういう事はやはり、側室を何人も持っているプラート王に聞いてみるか…

それしか、僕の周りに同じ立場の人間は居ない…

だけど…プラート王は当事者じゃないか? 絶対に自分に有利な方向に持っていく筈だ。

それは王や貴族なら当たり前の事だ…

今直ぐどうこうしても仕方ない…まずは、今夜でもクララ達に聞いてみるか….

私は貴方だけの…

うーん..癒女か…オブラートに包んで言っていたけど、本当の意味を私は知っているわ。

能力がなく、使い物にならない聖女に昔から与えられた仕事だわね…

簡単に言うなら、「お前は無能だから体を使って勇者に奉仕しろ」「無能なんだから、誘惑して勇者の子種を貰って妊娠しろ…その子は教会にとって聖女と勇者の子だから価値があるんだからな」そう言う事だわ。

多分、これを昔のアルトマンに言われたらなら、多分逃げ出したと思う、それでも逃げられなかったら、確実に自殺するわ。

だってそうでしょう? 大嫌いな人間の性処理をして、妊娠までしろって言うのよ!

死にたくもなるわね…大嫌いな奴に無能呼ばわりされて、実質性処理奴隷になって…妊娠しろ..ふざけているわよ。

だけど、今のアルトマンがそれを望むなら…普通に受け入れちゃう。

だって、戦わせたくない…その理由が明確にあるんだもん。

「三人を愛しすぎてしまった」

三人と言うのはちょっと引っかかるけどね…

「自分の命よりも大切だから、危ない場所に連れて行きたくない」

「大好きだから傷ついて欲しくない」

「辛い思いなんてして欲しくない」

こんなに愛されちゃっているんなら仕方いよね!

確かに私は足で纏いだし..絶対にアルトマンの足をひっぱるわ。

そして、私を狙って攻撃をされたら、アルトマンはあっさり負けちゃうかも知れない。

だったら、私はアルトマンが疲れて帰って来た時に癒してあげる存在で良い。

心が壊れそうな時に癒してあげる存在で良い。

それで充分だわ。

聖女じゃなくて性女と呼ばれても構わない。

いまの私は本当にそうなのだから…まぁアルトマン専門だけど。

今の私は…アルトマンさえいれば他に何も要らない…

だけどね…本当に少しだけ…貴方の横に立てない自分が悲しいのよ…

なんでもかんでも抱え込んで…1人で頑張る貴方を見るのが辛いのよ…

だけどね、だけど、手が斬り落とされても…足が無くなっても…火で焼かれて、目が無くなっても…

戦い続けるのが、「私達への愛だ」なんて言われたら何も言えないじゃない…

だから、「貴方が頑張るなら、何時でも全てを受け入れる」この約束は死ぬまで守るつもりよ…

性女と言われようがもう構わないわ…

だから、頼むから死なないでね…

それだけ約束してくれればもう良いわ..

お姫様は死んじゃうんだ…

癒女ね…うん、僕には丁度良いかも知れないね。

自分でも、才能がないのは良く解っているよ…

アルトマンは兎も角、あのクララよりも遅れているんだから仕方無いよね!

大体僕は座学は得意だけど…実戦は駄目なんだと思う…何故選ばれたのか全然解らない。

だったら、絶対に前線になんて出ない方が良い。

昔のアルトマンなら、僕はもし危なければ逃げたと思う…うん死んでも何とも思わない。

だけどさぁ…まさかあんなに僕が好きだったなんて信じられないよ。

今のアルトマンじゃ…多分勝てない敵に出会ったら…多分逃げないで一緒に死んであげる…その位の覚悟はあるんだよ。

だけど、覚悟と力は別…恐らく今の僕は歴代の賢者の中でも能力は低いと思う…

そして、能力の低いパーティーは大体が負けて全滅しちゃうんだ…

人を好きになるって怖いな…僕はアルトマンに死んで貰いたくない。

僕だけが死ぬなら良いけど、僕のせいでアルトマンが死んでしまうのが怖い。

癒女の意味位は僕もクララも知っているよ…

多分、半分もう決まっていたのかも知れない…

そうじゃ無ければ、仮にも「聖女」や「賢者」にあそこ迄の事をして許すわけが無い。

国王も教皇も黙認していたし…下手すれば国民も薄々は解っていたのかも知れない…

昔のアルトマンがそんな事言いだしたらなら…うん、僕は多分自殺したと思う。

一生、暴力と性の捌け口で生きていく位なら死んだ方がましだよ!

だけど、だけど..さぁ、今のアルトマンが言うなら…うん、全然平気!

嫌…寧ろ嬉しくて仕方ない。

「三人を愛しすぎてしまった」

僕だけじゃないのは、ちょっと悔しいけど…それが理由なんだから..仕方ないよね。

「自分の命よりも大切だから」

こんなに大切にしてくれているんだもん…解っているって。

「危ない場所に連れて行きたくない」

「大好きだから傷ついて欲しくない」

「辛い思いなんてして欲しくない」

こんなの嬉しすぎてつい笑みがでちゃうよ…

今の僕はアルトマンの為なら何でも出来る…本当に可笑しい位にね…

全部、アルトマンが悪いんだよ?

僕は賢者じゃなくてお姫様に成りたかったんだ…

自分が戦うんじゃなくて、誰かに守って貰えるような女の子にね…

そして、アルトマンは僕をお姫様にしちゃったんだよ…だって皆が戦えって言う中…君だけが「戦わせたくない」そう言うんだもん。

本当は君を守りたい…だけど僕にはその力は無い…

だから、僕は、アルトマンが喜ぶ事なら何でもしてあげる。

だけどね、知っているかな?

守ってくれる王子様が居る物語で王子様が死んだら…お姫様も死んじゃうんだよ…

それは僕も同じ…だから僕を守ると言うなら…アルトマンは死んじゃいけないんだ…

だってアルトマンが死んだら僕も死んじゃうからね…

アルトマンは夜も勇者だった。

アルトマンの部屋に向っているとメイルに会った。

「何、クララその恰好…本当に性女になっちゃったの?」

うん、確かに私は凄い恰好をしていると思うわ…だって仕方ないじゃない?

アルトマンはあんなに頑張っているんだし…ね。

赤色のスケスケのネグリジェに乳首が見えるスケスケのブラ…パンティーも穴が空いている。

勝負用に無理を言って買ってきて貰った物だわ…おかげで私付きのシスターは「貴方は聖女でなく…性女です」って真顔で言われるけど気にはしないわ

「そういうメイルだって似たような物じゃない?」

メイルだって私の事は言えないわ…

だって、何、あの紫のスケスケ殆ど私と変わらない、しかも、頭に同じ生地で作った薔薇の髪飾りなんかつけている。

穴は開いて無いけどスケスケで丸見え…

どう考えても同じ店で買ったようなデザインだ。

「あのさぁクララ、僕は4日間の権利を貰ったんだよ? あと2日間あるよね?」

「あれからどれ位経っていると思うの? もう無効よ、無効!」

「まぁ仕方ないよ…解った..それでどうするの?」

「そうね…とりあえず、アルトマンの部屋に行ってみようよ、それから考えれば良いんじゃない?」

「そうだよね、まずはアルトマンに甘えさせて貰ってから、考えようか?」

「そうね」

トントン

「「アルトマン(僕が)きた(わ)よ」」

「あれっ、2人ともどうしたの?もう平気なの!」

「あははっ..うんもう厳しい修行をしないで良いみたい、これからは私もこの部屋で暮らそうかな?」

「あっ、僕も、そうして良い? そうした方が沢山僕が癒してあげるから」

「本当? まぁ問題は無いと思うけど…4人一緒か、楽しそうだね」

「「4人」」

「あっ、そうかシエスタも居るわね?」

「そうだよね…」

「実は今も来ているから、今後について話し合わないか?」

「そっそうよね…」(良く考えたらメイル以外にもシエスタも居るのよね?)

「そうだよね?シエスタもいるんだし話し合う必要があるよね」

「三人に聞きたいんだけど..王国の人間で僕が迷惑を掛けた様な人間は居るかな?」

「私は、聞いたり見た記憶はありません」

「何の話?」

「えっ…何の相談..」

王国から婚約者を取らなければならない事情について二人に説明した。

シエスタにはもう説明済みだ。

「ああ、そう言う事ね..ごめん別の事考えていたわ」

「僕も違う事考えていたごめんね…」

「それで、記憶が無い間に王国側の人間で…同じ様に酷い事をしたような人間は居るのかな」

「安心してアルトマン、間違いなく居ないわ」

「僕も記憶に無いから居ないと思うよ」

「多分居ない筈ですよ..」

「それじゃ、急がないからこの人なら、一緒に過ごして良いって人が居たら教えて」

「流石に王国側の人で友人は居ないわ」

「僕も居ないよ…」

「うふふっアルトマン様が、気に入った人を入れれば良いと思いますよ」

「解った…それじゃ急がないでゆっくり考えるよ」

「それで良いんじゃないかな…それよりアルトマン今日の夜はどうするの?」

「そうそう、順番とかは別にして、今日は僕も絶対にアルトマンと過ごしたいな…良いよね?」

「確かに、今迄独占していましたけど…うふふ、一人寝は寂しいです」

「とりあえず、今夜は3人で過ごそうか?」

「えっ、3人でしようとって言うのアルトマン?」

「流石に僕もそれは恥ずかしいな? だけどアルトマンがしたいなら…良いよ!」

「私も…恥ずかしいけど…望まれるなら構いませんわ」

「あの、そう言う事で無く、普通に一緒に過ごそうという事なんだけど?」

「あはは、そうよね、うん」

「僕勘違いしちゃった」

「あた、私ったらはしたない」

最初は普通に4人で寝ていたが…結局はこの環境に二人が耐え切れなくなり…し始める事になった。

アルトマンは….夜もしっかり「勇者」だった。

予想以上に…

素晴らしい朝だ。

心からそう思う…少し重いけど。

右手の内側にクララ、左手の内側にメイル。

そして俺の胸に抱きつく様にシエスタが寝ている。

確かに2人迄しか相手した事が無かったからそれ以上の人数は少し自信が無かった。

だがよく考えてみれば、アールとして僕は、老人迄頑張ってきたし…相手していた二人はほぼ性欲の塊だった。

今の僕の体は若い…若いって素晴らしい幾らでも出来た。

しかも、この体はアールの体のスペックをはるかに上回る。

三人相手でも全然問題は無い…これなら後、5人増やしてもいけそうだ…そう思える位凄い。

よくよく考えれば、殆どの勇者は複数の妻を持っていたから…もしかしたらこれも「勇者」の凄さなのかも知れない。

ただ、歳をとってからが大変だから、自重はした方が良いと思う。

「おはようございます…アルトマン様、昨日も素晴らしかったですわ! あらっ」

「ああ、全然大丈夫だから…うん」

「うふふ、そうですか? それなら私も、もう少し甘えちゃいますか!」

「大丈夫だけど…結構良い時間の様な気がする…」

「まぁ良いんじゃないですか? 私達、癒女なんですからこれが半分お仕事なんですから」

「むぅ…俺は嫌だな…」

「あらっ? 好きな人じゃ無ければこんな事しませんよ? アルトマン様…それはお二人も一緒ですわ」

「そうだね」

本当に変わった…前も充分可愛い…そう思って居たけど…今とは違う。

今のシエスタは良く笑う様になった。

「どうかしましたか?」

「良く笑う様になったな…そう思ったんだ!」

「そうですね? 言われて見れば、私余り笑った事は無かった気がします!多分アルトマン様との生活が楽しいからだと思いますよ!」

シエスタを売り飛ばした奴は本当に馬鹿だな、きっとこんな笑顔見た事が無かったんだろう…

「そう? それなら良かった」

「アルトマン…なぁにシエスタと見つめ合っているのかしら!」

「全く、僕も此処にいるのに…」

「目が覚めたなら、そろそろ起きようか?」

「嫌よ!せっかく久しぶりのアルトマンなんだから…」

「僕も嫌だよ…もう少しね?」

「うふふ、それなら私もね…」

「仕方ないな…確かに久しぶりだからね…」

流されるままに、求められるままに…求めあっていたら、気が付いたら夜になっていた。

ドアを開けるとメイドやシスターと顔があった…

どう見ても10人以上いる…多分聞いていたんだろうか? 顔が真っ赤だ。

「若いって良いですね」

僕もそう思うよ…

「あはははっそうだね」

「聖女様や賢者様と仲が良いのは良いのですが…もう少し声を押さえて貰えませんか?」

「勇者様はあっちも勇者様なんですね..」

「あははっごめん」

恥ずかしいので、慌ててドアを閉めた…

「うふふ、気にしなくて良いですわ…恥ずかしい何てもうとっくに過ぎ去っていますから」

「そうそう、癒女を兼ねた時点で周知の事だわ…それに昔のアルトマンは人前でも…平気でしてたじゃない? 今みたいに優しくしてくれるなら、人前でも…外でも良いわ」

「僕もそうだよ…何なら…これから食堂でする? 僕は構わないよ…」

流石に勇者という立場の自分でそんな事をしようとは思わなかった。

ギルド登録
王国側の結婚相手はさておいて…

此処で出来る修業はもう全て終わってしまった。

「炎髪のシャルナ」「黒薔薇のロザリア」と戦いで認められ、戦術については「戦術のマリアーヌ」と語り合える時点でもうやる事は無い。

そこでこれからの事について、ドロリゲス教皇様とプラート王に相談に来た。

もう、気持ちは決まっている。

此処からはもう実戦しか無い。

「ご相談があります」

「勇者様!前にも言いましたが、私に話がある時は呼びつけて下されば良いのです! プラート王とて同じ事です」

確かにそう言われていたが…教皇や王を呼びつけるなんて小心者の僕には出来ない。

「ですが、年長者を呼びつけるのはどうしてもなれません..お許し下さい」

「いや、謝る必要は一切ありません…アルトマン様は勇者なのですからな」

「そうです…幾らでもご相談下さい!」

「そろそろ此処で出来ることも少なくなって来ました! 次の段階に移ろうと思います」

「アルトマン様には何かお考えがあるのですかな?」

「もし、許されるなら、冒険者に登録して実戦を少し経験したいのですが…」

「そうですな…ならばこの王都で暫く冒険者をしては如何でしょうか? 暫くはそうですな王城から通ってみては如何でしょうか?」

「それが良いと私も思います」

「確かにそれが一番良い気がします」

三人の事を考えたら、それが一番の様な気がする..

それなら、三人と夜はいっしょに過ごせる。

久しぶりにギルドに来た。

アールの時も含んでももうかなりの期間は来ていない。

あの時は、クエラとメールと過ごす為のお金を貯める為にかなり無茶したもんだ。

こうしてもう一度ここに来るとは思わなかったな。

「すみません」

「えっ…勇者様」

皆がこちらを見て不愉快な顔をしている。

ここでもアルトマンはやらかしてそうな気がする。

何かあったら謝る為に…此処には一人で来た。

「済まないとしか言えない…この通り謝るから…」

「何を謝られているのですか?勇者様の事情は教会から聞いております」

何を聞いているのか…解らない。

「あの…何を聞いているんだ」

「ああっ、勇者様は宝物庫をご見学中に呪いのアイテムで呪われてしまっていたと聞きましたよ? 心まで捕らわれるなんて大変でしたね」

「ご迷惑をお掛け致しました」

「良いんですよ…冒険者からは被害が出ていません…それに聖女様や賢者様..シスターにはしっかり詫びた話も聞きましたし…全ての方に謝って歩いた話も聞きましたよ」

「本当に横柄ですいませんでした」

「気になさらないで良いですよ」

本当に教皇には頭が上がらない…あの人は本当に俺の為に動いてくれていたんだな。

「それじゃ、スイマセン冒険者登録お願い致します」

「解りました」

簡単に冒険者のシステムを聞き流し登録が終わる。

ちゃんと聞いていたが…アールの時とほぼ一緒だった。

「すいません、如何に勇者でも最初は一番下のFランクからです」

「大丈夫ですよ解っていますから」

別に僕は気にしない…これは当たり前だからだ。

Fなので依頼としてはゴブリン討伐や薬草の採集位しか受けられない。

これはあくまで依頼としてだ。

素材の買取りだけで良いなら「幾らでも上のクラスの化け物」だろうと討伐しても良い。

勿論、功績もつく。

但し、依頼では無いので「討伐報酬」が付かないだけだ。

嫌な言い方になるが僕は勇者だから、お金には困らない。

そう考えたら「討伐報酬」が無くても困らない、ランクは気にする必要は無い。

掲示板を見ると今現在、一番強そうな相手は「ワイバーン」か「地龍」だ。

どちらもアールの時に1人では無いが倒した事がある。

どちらか悩んだ末僕は最初の相手に「ワイバーン」を選んだ。

初討伐と久々の買い物

ワイバーンを選んだのには理由がある。

地龍が単体で要る事が多く、探すのが難しい。

それに対してワイバーンは岩場などに巣をつくり複数いる。

そして、何より探さなくて良い…さっきの依頼書には場所まで書いてあった。

ただ、狩って帰る…それだけの楽な仕事だ。

約半日歩いていくとワイバーンの岩場に着いた。

居る、居る…依頼書では8体と書いてあったけど…18体は目視できる。

体に身体強化を掛けてからファイヤーボールをぶつける。

怒ったワイバーンがこちらに襲い掛かってきた。

これが勇者の力なのか?

本当にレベル1なのか? すでに達人の領域に近い気がする。

シャルナの方がはるかに速い…

持ってきたのは聖剣でも何でもない…まぁ高級品のミスリルソードではあるが…

凄いな、アールの時にも感じたけど、ジョブの補正なのだろうか体がスムーズに動く。

「グアアアアッ」

前の時はお前達は確かに強者だった。

だが、今の僕には..只の空が飛べるだけの小物にしか思えない。

ただ、剣を振る…魔法を詠唱する…それだけで片っ端からワイバーンが死んでいく。

ただただ勇者の強さに驚かされる。

しかも、体が熱くなり…あっという間に強くなっていく。

恐らくこれがレベルアップなんだと思う。

結局隠れている奴も含んで22体、それを倒すのに1時間も掛からなかった。

この辺りで一番強いのがワイバーンだとすれば…余り練習にならないな…

そのまま冒険者ギルドに戻ってきた。

「随分、お早いお帰りですね? 討伐か、採集でもされてみたのですか?」

「はい、討伐に挑戦してみました…素材の買取をお願いして良いですか?」

「良いですよ、カウンターの上に素材をお願いします」

「あの、大きくて此処には出せません」

「そうですか? それでは倉庫の方にお願い致しますね…」

流石に勇者、オークかオーガでも狩ってきたのかしら。

僕は、倉庫の方に案内され王宮から借りている収納袋からワイバーンを取り出していった。

「流石勇者様、ワイバーンとは凄いですね」

「まぁこの位はね!」

「えーと2体目..3体目凄いですね..ワイバーン3体なんてA級並みです」

「まだありますよ」

「4体…5体..凄い1人で5体なんてS級並みです、流石は勇者様です」

「すいません、まだあります」

「あの、すいません! 一体何体倒したのでしょうか?」

「あっすみません…22体です!」

「22体!」

この国はおろか、下手すれば近隣諸国の半年~1年分に相当するじゃないですか!

可笑しいですよ…勇者とは言えど、通常は最初はゴブリン、稀に才能のある者がオーク…オーガを狩れた者は天才。

もっとも、そこからの成長が凄いんですけどね。

凄いといっても私の知る限りではワイバーンなんて狩れるのは半年以上先です。

古き時代には、最初から強かった勇者も居ましたが…条件が違います。

この方は一体…

まぁ私が考えることではありませんね。

「はい、査定が大変でしょうから、入金はカードに入れて置いて下さい…時間は掛っても構いません」

「そうして頂けると助かります…本来はギルマスと話して頂きたいのですが…今は留守していますので後日お話をお願いします」

「解りました…それじゃ今日はこれで失礼して良いですか?」

「構いませんよ!」

勇者なのに随分と腰が低い方ですね…

「それじゃ、失礼します…そうだ、塩漬け依頼でも構いません…強敵の情報がありましたら明日来ますので教えて下さい」

「そうですね準備致しておきます」

滅多に産まれないジョブの「勇者」その勇者1000人に1人神の如き強い勇者が産まれると聞いた事があります。

アルトマン様はその方なのかも知れません。

私は今、伝説の始まりを見ているのかも知れません。

思ったより早くに終わってしまったので、街を歩いてみる事にしてみた。

昔、露天の宝石店でアクセサリーを買った事を思い出した。

折角だから覗いてみる事にした….

多分ガラス玉だけど、赤と青と黒のネックレスがある。

赤はクララの髪の色だし、青はメイルの髪の色、黒はシエスタ、丁度揃っている。

「おじさん、このネックレス3つで幾ら?」

「本当は1つ銀貨1枚で銀貨3枚だけど銀貨2枚にサービスするよ」

「それじゃ、下さい」

「あいよ」

ついでに串焼きを8本買ってこんな物かな。

なんだか、凄く懐かしい、こんな風に買い物をするなんて久しぶりだ。

喜んで貰えるだろうか?

さあ帰ろう。

【閑話】 クズから勇者へ

「この世界の人間が勇者になった場合は弱い勇者や聖女にしかならない」

「異世界から来た者が勇者になった場合は強い勇者になる」

これは知られて無いがこの世界のルールだ。

そしてアルトマンの正体は立島邦夫、転移勇者だ。

最も、今現在この事は誰も知らない…入れ替わったケイン(アール)すらも知らない。

では、この弱い勇者と強い勇者はどの位差があるのか?

雲泥の差だ。

女神は今疲れ果てて眠っている。

何故なら、転移勇者を作る為に神としての能力を使い果たしたから。

転移勇者を呼び出し作るのは凄く困難だ。

まず、とんでもない下駄を履かせないといけない。

こちら側の勇者は、それこそ優秀な者を選び放題、その中から自分の目にとまった者に祝福と勇者のジョブを与えれば良い。

だが、転移勇者は違う…はっきり言えば、碌でも無い人物が多い。

昔は優秀な者、正義感のある者も選べたが、そう言った者は向こうの世界の神も目を光らせているから最近は召喚が出来ない。

普通の者すらも最近は難しい。

下手な人物を召喚して問題になるといけないから可能なら先に先方の神や仏にお伺いを立てる。

そして、今回先方の神が選んだ、「此処からならどうぞ」という人物の一人が立島邦夫だった。

当人は記憶を失ってしまっているが…夢の中で色々と滅茶苦茶な注文を付けていた。

「行くのは構わないけど、やっぱりきついのは嫌だ」から始まり。

「女に受けるような綺麗な容姿」「万が一にも負けたくないから、成長速度100倍」「経験した物を直ぐに使える模写」等とんでもない要求を受けた。

だが、他の世界から貰うという事はある程度の要望は聞かなくてはならない。

途中からは話を聞くのも嫌になった。

本当に此奴で良いのかしら?

何度も思ったが仕方ない…もう選んでしまったのだから…

クズの中のマシなクズ…それが立島邦夫、その人だった。

そこまでのクズでも、この世界の魔王と戦う為には必要だった。

何故なら…異世界から転移した者は、驚く程のスキルを与えても壊れないから。

この世界の物だとどうしても沢山の恩恵を与えられない…

だから、これは我慢するしかない…

魔王を野放しにすれば…恐らく何万という単位の人が犠牲になる。

だが、このクズを勇者にすれば…何百という数の犠牲はでるが…それだけで済む。

心が痛いが我慢するしかない…

最早、女神にとってクズとしか思えなかった、かくしてクズは勇者となり異世界へ旅立った。

話しすらしたくなかったから、女神は送り込んだあと、もう様子を見るのを辞めた…

シスターを無惨な方法で犯したり…聖女や賢者に酷い事をする、勇者を見るのは苦痛だった。

だから、目を瞑り見ない様にした。

要望のままに能力を与えた為、神力を使い過ぎて自分が疲れ果てた事もある。

だからと言って見ない訳にいかない。

どうせ、また悪事をしているのでしょうね…

あれっ…ナニコレ? どうしたのかな? 聖女と賢者と随分仲良くなっているじゃない..まぁ夜は処女神の私には目の毒な位。

えーとシスター、シエスタ…傷が無いわ…あんな傷どうやって治したのよ?

まさか、世界に数本しかない秘薬でも?

記録水晶の時間を巻き戻した…

なに、あの苦行…努力の努も惜しむような奴が、体切断しながら覚えたの?

歴代の聖女でも僅かしか身につけた者がいないというパーフェクトヒールを覚えたのね。

教会の協力もあるけど、全員にお詫びをして回って…結局は老人一人の犠牲で…立ち直ったのね…

しかも、「単独勇者」を目指すですって…凄いわ…聖女、賢者、シスター彼女達の愛が通じたのね…

凄いわ、あの英雄パーティー相手にあの戦い。

凄い、凄い…初陣で、ワイバーン22…うん?凄すぎない…

努力しない人間でも魔王を倒せるように下駄を履かせた。

それが異常な程の努力をしている…

強すぎる…大丈夫なのかな?

此処までの存在、作って平気なのかな?

余りにイレギュラーが起きるようなら神託を降ろし指導するのも良いでしょう…

少なくとも、今の勇者アルトマンはクズでは無く…しっかりと勇者しているのですから。

お風呂にする。

今日の今日で報告はまだ要らないだろう。

僕は自分の部屋へと戻った。

「お帰りなさい、アルトマン様」

「お帰り、アルトマン」

「お帰り~アルトマン」

うん、凄く癒される。

「ただいまっ」

「それでどうされますか?」

「どうされますかって?」

「勿論、お風呂にするかご飯にするか..」

「僕にするかだよ!」

「ちょっと~メイル私にかぶせないでよ」

「「「それで、アルトマン(様)どうする!」」」

「えーとそうだね、お風呂が良いかな」

流石に汗だくになっていたのでお風呂を選んだ。

普通にお風呂に入ろうと思っていたのに三人が付いてくる。

まぁ想像はついていた..

先に服を脱ぎ、お風呂に入ると…服を脱いだ三人が後から入ってきた。

ベッドの上で見る彼女達も綺麗で可愛いと思うけど…こういう場所で見ると更に艶めかしい物がある。

シエスタは長い黒髪をまとめ上げてタオルで束ねている。

そして、両手は胸を隠している。

クララは長い髪はそのままで片手は胸、片手は股を隠すようにタオルを持っている。

メイルは胸を隠すようにして股はそのままだ。

高級な娼婦のお店で行う「お風呂プレイ」正にそれだ。

三人は僕が座っていると手にシャボンを作って触ってきた。

「うふふっ流石のアルトマン様もこれは経験ないでしょう?」

「シャボンプレイって言うのよ…凄いでしょう?」

「それじゃ、僕はこっちを洗うね..」

三人が手に石鹸をつけて、スポンジやタオルを使わず直接手で洗ってくれる。

充分気持ち良い…

体のあらゆる所を触られ綺麗にされていく。

最後にお湯を掛けて貰って完成。

「どうですか? アルトマン様」

「凄く気持ち良かったでしょう?」

「僕の手があそこを洗っている時気持ち良かったよね」

うん、凄く気持ち良かった…

だけど、これは本当の「シャボンプレイ」じゃない。

僕はクエラとメールと過ごしている時は朝から晩までやり続けていた。

勿論、一緒にお風呂に入り「シャボンプレイ」をした事もある。

「今度はお礼に僕が洗ってあげるよ..それじゃシエスタからね」

「あり..えっ何で私は寝かされているのですか?」

僕は体全部にシャボンをつけてシエスタの上に乗るとそのまま体全体を密着させて滑らせた。

「ああああアルトマン様..これ駄目です…駄目ですって..ああああっあんな処やこんな所まで..あああっ」

「ほら終わったよ..今度は後ろ向いて」

「はぁはぁはい…ってああああっまた..そこは駄目です..本当に..」

「はい、終わったよ…風邪ひくといけないから湯船に浸かって温まってて..」

「はい」

本当は此処で終わらないで、性的に気持ちよくするんだが…三人も居るから風邪引くといけないからこんな物かな。

二人に目を向けると、クララが既に横たわっていた。

「アルトマン、私にもお.ね.が.い…」

「うん、良いよ」

「ちょっと..アルトマンそれは恥ずかしいって..いや、丸見えじゃない..ああああっそんな所触らないで」

シエスタの時と違って69の形で重なり合った..お互いに大切な所が丸見えになっている。

「そう、だけど、此処も綺麗にしないとね..」

「ああ駄目、そんな所まで…されちゃったらお嫁に行けなくなるよ…はぁはぁはぁ」

「それなら気にしないで良いよ? もうクララは僕のお嫁さんが確定なんだから..」

「ああ、ズルい.ズルいよ…」

「今度は後ろね..」

「そこは良い、いいから..汚いから..良いって..嫌..覗き込まないで..ああああっ」

「はい、綺麗になったよ..風邪ひかない様に湯船に浸かってね」

「はぁはぁ..こんな事アルトマン以外にされたら自殺もんだわ」

「アルトマン..僕も寝た方が良い?」

「うーん、そのままで良いよ」

「えっ…うわぁぁぁっアルトマンそんな所で洗われたら..ぼぼぼ僕..」

僕は股間にシャボンをつけてメイルを洗っている…昔にクエラがしてくれたタワシ洗いの逆バージョンだ。

「はい、今度は..うぐっ」

キスをしながら体中を手探りで洗っていった。

「うぐ、うん..はぁはぁ駄目、僕可笑しくなっちゃう」

「うん、可笑しくなってもいいよ…次にお風呂に入る時は僕にも同じ様にしてね」

「うん、解った」

4人で湯船に浸かった。

「アルトマン様、私の気のせいでしょうか? 後の方の方がサービスが良い気がします」

「そうよ、私よりメールの方がサービスが凄く良い気がする」

「僕はそんな事無いと思うけど…」

「ごめん、だけど、流石に初めてしたから、後の方が上手くなるのは仕方ないじゃない…今度は頑張るから」

感を取り戻したからとは言えないな…

「それなら仕方ありませんね」

「仕方ないわ」

お風呂から出たあとは食事…

あっ..串焼き。

「そうだ、お土産に串焼きを買ってきたんだ、これも食べちゃおう?」

「串焼きですか? 美味しそうですね..私実は食べた事ないんですよ!」

「私も久しぶり、懐かしいわ」

「僕も随分食べてないな…ありがとうアルトマン」

「どう致しまして…そうだ、あとこれも買ってきたんだ」

「ネックレスですか…あっ髪の色に合わせているんですね..プレゼントなんて貰った事は殆どないんですよ! 有難うございます」

「わわわわ私も久しぶりだわ…ありがとうアルトマン」

「僕も、うん凄く気に入ったよ…ありがとう」

純粋に喜んでくれているみたいだ。

今度は間に合ったんだ..うん本当に良かった。

こんな笑顔が見れるなら、明日はもっと良い物を買ってこよう…

「どういたしまして」

三人の笑顔は本当に癒される…心からアルトマンは思った。

黒竜ですら簡単だった。

「わはははっワイバーンが22体..それだと1体が金貨1800枚だから金貨39600枚だ」

「そうなりますよね…それでどうしましょうか?」

「ギルド証への入金なら印字で済むから良いんじゃないか? 大きな金額、そうだな金貨2000枚以上必要な時は事前連絡が必要と言えば良いんじゃないか?」

「そうですね…素材を売り払えば何倍も儲かるんですから、売れれば問題ないですよね」

「まぁ大丈夫だろう!」

「所で、ランクの方はどうしますか?」

「ワイバーン22体じゃ文句なしにSランク確定じゃないか…まぁ様子見でAにして置くか?」

「流石に1回でSは不味いですよね」

「まぁ1クッション置いた方が良いだろう…」

「あっ勇者様いらっしゃいませ…難しい依頼用意しておきましたよ!」

幾つかの依頼書を見させて貰った。

その中の一つに黒竜の調査があった。

「黒竜?」

「やはり気になりますか? 多分眉唾だと思いますが見かけたという話があったんですよ…その後Bランクの冒険者を送り込んだのですが帰ってきませんでした」

「あの、黒龍が居るんですか? 本物なら魔王どころの騒ぎじゃないですか?」

「だから、眉唾ですよ..本当に居たら…各国が協力して挑まないと行けませんから」

いる訳ないが…居たら自分の力が試せるし、居なければ居ないで皆が安心するからこれが良いかも知れない。

「これを受けてみます」

「有難うございます、凄く助かります」

ギルドから王城に5日間程調査依頼で帰らないと連絡して貰った。

勇者の体って化け物なのか?

シャルナさんの真似して空を飛んでみたら…多分ワイバーンより早く空を飛べた。

片道2日間と言う話だったが…半日所か数時でたどり着いた。

しかも探すのも簡単だ、空から見たら一目瞭然、黒魔の森の中央へそいつは居た。

下に降りると目が合った。

「人間よ何故此処に来た..我は…」

聞く意味はない。

何故なら、黒竜は大量の動物を食べるし、食料が無くなれば人を食べる。

如何に神に近い存在と称えられようと封印される前に何万という人間を殺した。

生物として「人類の敵」だ、魔王は話し合いが成立するが、食料として人間を見ている時点で幾ら知能が高くても人類の敵だ。

「話す意味はない…貴様が竜である時点で人類の敵だ」

「ほう…そうか….なら遠慮は要らぬな!」

聖剣も持たずに勝てるのか?

だが、可笑しい…負ける気がしない…

多分、黒竜なんて恐怖の象徴、アルトマンじゃなくてアールだとしたら見た途端に恐怖で体がすくむ。

だが、此奴を見た時の恐怖はアールやケインに直すと火トカゲと出会った位の恐怖しか感じない。

黒龍がブレスを吐いた。

だが、「纏い」を身に着けた僕には炎は通じない。

「これが勇者の奥義、光の翼だーーっ!」

剣が光に包まれ大きく伸びる…その大きく伸びた光の剣で2枚の翼を斬り…

「やめろーーっ降伏、降伏する!」

そのまま首を跳ねた…

降伏なんか無駄なんだよ…しいていうならドラゴンに生まれた時点で人間の天敵なんだからな…

何万の人間を殺した時点で…もしお前が人間でも死刑…降伏なんて認める訳ないだろう…

収納袋に詰めて…そのままギルドに帰った。

なんだ、5日間の予定が1日…日帰りで終わってしまった。

「勇者様…お帰りなさいませ…っていうか依頼はどうされましたか? まさか飽きたから破棄とか言わないですよね?」

「ああっ! それならもう終わったよ…また倉庫で…」

「終わったって何ですか? 調査依頼ですよ…」

「良いから」

「ああああっ 黒竜の遺体が目の前に…と言うかもうこの状態だと倉庫は全部埋まってしまう…だけど貴重な黒竜の素材…優先しないと」

ほぼ大型の倉庫一杯に黒竜が転がっている。

この倉庫はスタンピートに備えて山が入る位大きいがもう隙間があるだけで入らない。

「調査するだけじゃ物足りなくて…倒しちゃいました」

「はぁ…倒しちゃったんですか、サラッて言わないで下さい! 黒竜ですよ! 単体なら魔王よりも多分強い筈ですよ…本来なら国通しが連合を組んで勇者を旗印にして幾多の英雄で戦うんですよ! それを…1人で倒したんですね…はぁ」

何故だかギルド職員が凍り付いている。

「まぁ良いじゃ無いですか?」

「そうですね…勇者様は偉いです…そう、凄いですね..はぁギルマス呼んできます」

「どうしたんだ? シルビア…ワイバーンの解体と販売、大変かと思うが頑張ってくれ…他のギルド職人にもボーナスを…」

「それ所じゃありません…直ぐに来てください!」

「どうしたんだ!」

「良いから来てください」

「解った!」

「ギルマス…あれっ!」

「黒竜だな…」

「ギルマス、勇者様の対応お願いします!」

「ああっ….これだけどオークションを開かないといけないレベルだな…」

「王宮から聖教会…他国までオークション開催の連絡…その前に国が買い取る部位の話…休めないな」

「確実に数か月は休めませんね…あと勇者アルトマン様のS級いえ、今迄歴代1人しか居なかった SS級の昇格の話もしないといけません」

「まぁ俺の権限でS級にしても問題無い、勇者なのだから国は文句は言わない所か喜ぶ…そこから上は国以上の話だ、向こうで話して貰うしかないな」

「更にドラゴン討伐したのですからドラゴンズスレイヤーの称号もですよ」

「そうだな」

「勇者アルトマン様、この度の大活躍おめでとうございます!」

ギルマスだな…久しぶりとは言えないな…今はアルトマンだ

「お初にお目に掛かります、若輩者への挨拶」

「勇者様、貴方は目上なのですからその様な挨拶は無用です…とりあえずギルドランクはSまで上げて置きます、あとは黒竜となると買取も国絡みで更にオークションも必要ですので換金に数か月は掛かります…ご容赦下さい」

「別に気にしないで下さい…ゆっくりで構いませんよ」

「そう言って貰えると助かります」

「ついでに聞きますが…黒竜以上の相手となると何になりますか?」

「そうですね、沢山の部下を従えているという意味では魔王ですか? ですが単体なら黒竜より下だという噂ですよ…まぁ絶対に上と言うなら古代竜位ですかね?」

「古代竜?」

「古代竜、別名ハイシェントドラゴン…まぁ過去に居た..これこそまさに眉唾です…ただの伝説です」

この体…勇者にしても可笑しすぎる…多分黒竜を倒した前と後では10倍近く違いがある気がする。

「先に申し上げますが、伝説の中の話なので古代竜は居ませんから」

「解りました」

今回のは報告した方が良さそうだ。

僕が魔王?

よく考えたら後4日間ある。

こんなスピードで飛べるなら魔国に行って来ても良いかも知れない。

黒竜を倒してから更に強くなっている気がする。

まぁレベルアップ、そう考えたら当たり前なのだが…

最早、この世の中で自分より速く飛べる者なんて居ない…そう思える程に速い。

本来なら魔国まで飛竜で片道1か月の距離が僅か数時間で着いてしまった。

黒竜より弱いというならこのまま乗り込んで良いんじゃないかな?

まだ聖剣も手に入れていないが…まぁ良いんじゃないか?

正面から正々堂々と乗り込む。

「貴様、何者だ!」

「勇者アルトマン…魔王と戦いに来た」

「よし、通れ!」

あの…こんなに簡単に通して良いのか?

「変な顔をしているな? 魔族は基本的に強い者を好む! 多対一なら他の魔族が手を貸すが、一対一で戦うのであれば誰でも挑戦権はある」

「そういう物なのか?」

「そういう物だ…この国では誰だって魔王様に挑戦が出来る…但し今の魔王様に勝てた者は居ない、更に言うなら今の魔王様には四天王が居ない」

「何故だ!」

「戦うまでは一対一を保証する…その代わり負けた場合は一切保証は無い、殺すも手足を引き千切りペットとして買うも自由だ」

「恐ろしいな…」

「ああっ! ゆえに四天王は倒され3人は殺され、1人は椅子になった…それ以来誰も魔王様に挑む者は居ない…その残酷さから実は魔国でも誰か倒してくれないかと思う者も多い」

そういう事なら、魔王を倒せばそれで終わるのか?

しかし、凄いな…僕が歩いているのに…誰も咎めない、今の魔王は凄く嫌われている気がする。

大きな扉を開けると魔王が座っていた。

「よくぞ参った勇者よ貴様に恐怖と…えっ」

「これが奥義、光の翼だっーーー!」

「貴様、名乗りの最中に攻撃等、卑怯者めが…」

光の翼で体が真っ二つになり…死にかけている。

だが、その二つの体が繋ぎ合わされ何か変化し始めた。

「終わりだ…魔王には誰も敵わない…逃げなさい」

逃げれる訳がない…羽の生えた天使の様な女性が手足を斬り落とされて椅子にされていた。

本当は名乗り位はするつもりだったけど…見た瞬間カッとなって攻撃してしまった。

「ぐふふ..あはははは、これが余の正体だ、恐怖するが良い」

確かに大きくなって悍ましい姿になったけど…それだけだ。

多分、黒竜の半分の力も無いんじゃないかな?

それに笑っている時間があるなら攻撃しろよ…

「光の翼だーーっ」

強くなったから斬れないかと思ったら…簡単に切れやがる。

しかもまるで豆腐でも斬ったのかと思う位に手ごたえも無い。

失敗したのか…と思ったけど..どう見ても死んでいるよな…これ!

収納袋に入れて見たら入った。

死体じゃ無く生きていたら入らないから…確実だ。

椅子になっている女性と目が合った。

取り敢えず、拘束されている手足を外してあげた。

だが彼女は手は肘から先が無く、足は太腿から先が無い。

しかも目も両目ともに縫われていて見えない様にされていた。

「パーフェクトヒール、これで大丈夫です」

手足が生えてきて..羽も白くなっていった。

「目が目が見えません..手足は戻ったのに…」

良く考えて見れば、目は潰されていたのでなく、瞼を縫われていたから…糸を取らないと駄目だよな。

小刀を使って縫い糸をとってやった。

念の為…

「ヒール…これで良いか!」

「助けて頂き有難うございます…私は先の四天王の一人スカーレットと申します!」

どう見ても魔族には見えない…天使に見える。

「あの、魔族には見えないのですが…」

「クスっ…種族で言うなら堕天使なので、ですが貴方がパーフェクトヒールを掛けて下さいましたので、黒い羽が白くなってしまいました…これじゃ天使ですね! もう一度堕天した方が宜しいでしょうか?」

「それは貴方の自由ですよ」

これで僕の戦いは終わりだな…城に帰ってと。

「所で魔王様、これからどうしましょうか?」

「魔王?」

「はい…一対一で魔王を倒したのですから、貴方が新しい魔王様ですよ!」

魔王? 僕が? またややこしくなったな…

ヘタレなので7人の筈が4人にとりあえずなった。

一旦、魔族に対して魔王の宣言だけして、スカーレットに名代を頼んで国に帰る事にした。

「一か月位したら戻るから」

「行ってらっしゃいませ、魔王様」

元四天王だし、彼女に勝てる相手はそうそう居ないだろう。

もし、万が一が起きていたら、再度、そいつを倒せば良いだけだ。

国に帰ってドロリゲス教皇に会ったら…偉い騒ぎになっていた。

「勇者アルトマン様おめでとうございます! 黒竜を倒されたとは凄い…国の方では翼を買うそうですぞ…教会の方は頭部を買います、その他の部位はオークションに掛けるそうです…いやはや凄い収入になると思います…あっそういえばワイバーンも22も倒されたそうで…歴代記録とか..素晴らしい」

「それで今日は相談なのですが大丈夫でしょうか?」

「女神の使徒たる勇者様のお話し、何を遠慮する必要がございますか…」

裏庭まで一緒に来て貰い、僕は収納袋から…魔王を取り出した。

「どうやら、僕の冒険は終わってしまったようです!」

一瞬、教皇が固まった様に見えた。

「それは本当に魔王ですね…すぐにプラート王も呼んできます!」

「はははっお戯れを、如何にアルトマン様と言えど…言えど…言えどーーーっ はぁはぁ」

「落ち着いて下さい」

「落ち着いてなんて居られませんよ…魔王の死体が此処にあるんですから…」

詳しい事情について話した。

「そんな、時間があるから出向いて倒しちゃったみたいな話…なんですか?」

「前の日にワイバーン22倒して、次の日に黒竜…そして魔王まで」

「これで、勇者としてに使命は終わった…そういう事で良いんですよね?」

「はい…そういう事になりますね」

「確かにそういう事ですが…偉業過ぎて私でも頭が回らなくなりました..一度教会全体で話し合いたいと思います」

「私も国の重鎮を集めて、説明もしないといけませんし…勇者であるアルトマン様の報奨も考えなければなりません」

「それはお任せします…本音を言えば、素敵な婚約者も居ますし、魔王になるかも知れないので報奨は気になさらないで下さい…あと、魔王になってしまって問題はないのでしょうか?」

「それは…流石に、勇者様なので多分問題無いと思いますが、事が事なので女神様に神託をしてからお答えします…」

「国としてもそんなに蔑ろになんて出来ません…しっかりと報奨の打ち合わせをさせて頂きます」

「それでは任せますので…宜しくお願い致します!」

「それはそうとですね…アルトマン様はまだ、国側からの婚約者が決まっておりません、選考対象を考えて貰おうと思うのですが…」

国側からの婚約者、そう言えば娶らなくちゃならないんだよな…

知り合いは、シャルナさんにロザリアさんにマリアーヌさんとマリアさんか…正直言えばどの人も魅力的だ…他の人とこれから縁を結ぶくらいなら彼女達が良いと思う。

今居る婚約者以外であればあの4人が気心が知れていて良いんだが…ただ問題なのは貰うとしたら3人は纏めて貰わないと大きく揉めそうだ。

元々僕は沢山の友人と付き合うのが苦手だ、沢山の友人と浅く付き合う位なら、僅かな人数と深く付き合いたいし..そういう付き合いしかして来なかった。

よく考えたら、ケインの時は アール、クエラ、メール。

アールになってからは クエラとメール。

そして今は クララ、メイル、シエスタ まぁジョブの関係でドロリゲス教皇にプラート王にミラク司祭。

それ以外は挨拶位の付き合いだ。

自分でも気が付いて無かったけど…半分コミュニケーション障害に近いのかも知れない。

仕方ない腹を括るしかない。

「解りました、相手の方の意思次第ですが、マリア嬢をお願いします」

うん? 僕は4人と言おうとしたのに…

「そうですか? マリア嬢ですね…うむ、早速私から打診して置きます…確かに彼女は聡明ですし勇者の妻にも向いてそうです..まぁ大丈夫だと思いますよ」

大丈夫かな…マリアーヌさん、へそ曲げないかな…まぁそうなったら改めて三人を貰えば良いか..

「お願いします」

「任せて下さい」

プラート王はまるでスキップしそうな勢いでこの場を出て行った。

困ったお母さま!

その日セルラー家は大変な事になっていた。

勇者アルトマン様からのお手紙…なんなのでしょうか?

セルラー家では一番最初に手紙を見るのはマリアの役目。

大概の事はマリアーヌに鍛えられた、マリアが解決してしまう。

マリアが解決できない事案が起きた時だけマリアーヌが対処する。

「これは…私がアルトマン様の婚約者に」

無欲の勝利ですね。

折角お会いできたのに、お話しも余り出来ませんでした。

お母さまはああいう性格なので半分諦めていましたわ。

だけど、アルトマン様は15歳で私は13歳…普通に考えて28歳のお母様でなく私の方がこうなるのは当たり前ですわね。

しかし、良く私を選んで下さいましたわね。

幾ら考えても何故選ばれたのか解りませんわね。

だけど、こんな幸せ考えられませんわ…

「あれっマリアちゃん、何を見ているのかしら?」

何故、うちのお母さまはこうタイミング悪くいつも現れるでしょうか?

私が手紙何か見ていても何時もなら気に何て止めませんのに…

「なっ何でもありませんわ…お母さま!」

「本当にそうなのかしら? マリアちゃんなんだかすごく嬉しそうだわ!」

我が母ながらこういう時の勘はなんて鋭いのでしょうか…

「そんな事ありませんわ…」

「本当にそうなのかしら? なんでもないのならその後ろの手紙見せてくれるわよね?」

こうなっては仕方ありませんわね。

「あーハイっ」

「マリアちゃんおめでとう! マリアちゃん勇者様の花嫁になるのね」

「ありがとうお母さま!」

助かりましたわ….

「それでマリアちゃん…お母さまのもあるわよね?」

「….」

「ほうら、マリアちゃん隠したりしないでお母さまのも見せて!」

「….」

「マリアちゃん、意地悪しないでお母さまの手紙見せて…お願い」

「…お母さまのはありませんわ」

お母さまは28歳..何を考えているのでしょうか?

確かに若作りで凄く若く見えますが…親子に近い位歳が離れていますのに…

「嘘、マリアちゃんだけなの? 嘘よねお母さまにも手紙あるよね?」

「…お母さまのはありませんわ」

「嘘よ嘘…そうだ、マリアちゃん、お母さまとの結婚の橋渡し..お願いできるよね?」

やると言わないと納得しないのでしようね…

「解りました」

本当に困ったお母さまですわ。

おしまい

「アルトマンちゃんちょっと宜しいかしら?」

「アルトマン様は薔薇がお嫌いなのでしょうか?」

「アルトマン様~炎の中の抱擁は楽しく無かったのかな?」

来るんじゃないか…そう思っていたけどこんなに早いとは思っていなかった。

「そうですね…久しぶりに戦って見ませんか?」

「それはどう言う意味なのかしらね…アルトマンちゃん!」

「まぁ私は黒薔薇だからそういうのもありですね! 勝ったら花嫁、そういう事かしら?」

「私としてはキツイ事はしたくないんだけど…良いわ乗ってあげる!」

「それじゃ行きますよ!」

マリアーヌが退き、ロザリアが直線的に踏み込んできて、上からはシャルナが炎を纏って飛んでくる。

「シャルナ、左に回り込んで、ロザリアは低い位置から斬り込みなさい!」

マリアーヌが指示を飛ばし二人がその指示通りに動く。

これが三人の戦い方…そして必勝法。

だが、いまの僕には通用しない。

動きが止まって見える…剣も使う必要も無い。

簡単に躱してからシャルナにロザリアにデコピンをしてそのままの足でマリアーヌの前に立ち同じ様にデコピンをした。

「痛ぁーい…あ~あこれは私達の負けね、仕方ないわねアルトマンちゃんは諦めるわ」

「負けたんだから仕方ないな、黒薔薇は散ったのか」

「仕方ないわね、潔く去るわ」

「何言っているんですか? か弱い女性なら「守ってあげなくちゃならない」そう思いませんか?」

「何を言っているのアルトマンちゃん?」

「そうですね、それこそ花嫁にでもなって貰って生涯守ってあげなくちゃ…」

「それって、私を花嫁にしてくれるそう言う事か…そういう事だよな!」

「何を言っているの? 私達でしょう? ロザリア」

「流石はアルトマンちゃん..凄く嬉しいわ!」

よく考えたら、シエスタは27歳、他の三人は10代、無理して話を併せているような時がある様な気がした。

今でも話が合わない時が偶にある。

そこにマリアが加わったら余計それが酷くなるかも知れない。

そう考えたら、この三人も娶ってしまった方がバランスが良い、そう思っていたし、他に望むような女性は居ない。

ただ、これで花嫁は7人…流石にもうこれ以上は欲しくない。

多分、これが僕が対応できるギリギリの人数だ。

「その代わりお願いしても良いですか?」

「アルトマンちゃんが言うなら、私なんでも聞いてあげるわよ!」

「そうそう、誰か殺したいなら暗殺もお手な物よ」

「何がしたいのかな? 任せてよ!」

「流石にこれ以上は婚約者を増やしたく無いのでどうにかなりませんか?」

「あらっ、そんな事…アカデミーから1人、教会から2人 王国から4人…もう充分じゃないかしら?」

「帰りにプラート王に釘を刺していくか?」

「そうね…うん私達がいっておくわね」

「有難うございます」

「「「それじゃ、また後日」」」

プラート王は頭を抱えた。

三人に詰め寄られてこれ以上の婚姻は出来なくなった。

如何に王とはいえ、1公2侯に詰め寄られては断れない…それに他の貴族すら脅しかねないから認めるしかない。

誰も自分の言う事を聴かないのに形上は王国が一番多く花嫁を勇者に娶らせた事になる。

しかも、正式なお見合いを無視しての婚約だから非常に世間体が悪い。

更に三人が年増だし、2人は行き遅れで一人は子持ち…これでは国が嫁を押し付けた様にすら見える。

簡単に言うと…

非情に良くない婚約だと言う事だ。

それから1週間がたち、その後報奨について話し合ったが黒竜の素材や討伐のお金と魔王の討伐賞金だけで一生所か10回人生をやり直しても生活出来るお金になっていた。

勇者という最強の肩書もあるから地位も要らない。

だから、唯一貰ったのは「アールの屋敷」だけ貰った。

理由は「自分の過去の過ちと向き合いたい」そう話した。

あそこにはクエラとメールが眠っているから墓参りもしたい。

それにマリアーヌ達と結婚したから、事実上1公2侯が統合されてしまい何も出来ないがそこの当主になってしまった。

この領地は王国の実に半分近くあり、実権的には王を越えてしまっているかも知れない。

それだけでも凄いのに…僕は魔王だ…ただ運が良い事に三人の領地は魔国と隣接しているから困らないと思う。

魔族側からも嫁を貰わなければならないという事だったのでスカーレットを貰う事にした。

慌ただしく凱旋パレードが行われ…全てが終わった。

もう勇者としての僕の役目は終わった。

残りの人生は…大好きな嫁たちと楽しく過ごす人生を送るだけだ。

「アルトマン頑張ったんだね…今日は私が思いっきり相手してあげる!」

「僕だったら、凄い事してあげる! 僕の方が良いよね?」

「うふふ、アルトマン様の事なら私の方が良く解ってますわ」

「私もあと2年したらこれに加わらなくちゃいけませんわね」

「うふふ、アルトマンちゃん…こういう行為も戦略が大切よ..だから一番は私だわ」

「何を言っているのかな? 黒薔薇の技術の中には快楽もある…その全部を使って癒してあげる…」

「アルトマン、こっちに来なよ! 炎で包まれれば他の女を無視して私とだけ出来るわ」

「何を言っているんですか? 堕天したとはいえスカーレットは天使のボディですよ…私が一番です」

アルトマンの「勇者」としての戦いがまた始まる(笑)

FIN

あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。

この物語の中心は、不幸な三人の女性が救われる。

その話になります。

その為、クララ、メール、シエスタが救われた時点で実際はクライマックスです。

いま再び見返すと、最後の方はかなりグタグタになって来たような気がします。

そんな中で最後まで読んで頂き有難うございました。

「殺すと大変! 全部無くしますよ? 全て根こそぎ奪う凶悪なスキル」はキャラを変えて設定を変えれば続けられる話です。

自分で考えてみて今回の作品はまだ満足できていません。

もう少し実力がついてきたら、再度同じテーマで書いてみたいと思います。

最後までお付き合い頂き有難うございました。

             石のやっさん