ひとり
何故僕は生きているのかな。
僕の名前はルディウス ヘングラム。
ヘングラム伯爵家の長男に生まれた。
普通に考えたら幸せな生活を送れる筈だ、伯爵と言えば上位貴族なのだから。
だが、僕の場合は違う。
「おい、このクズ、ちゃんと水を汲んでいるか?はぁ」
「水なら汲み終わっています」
「そうか、それが終わったら此処掃除しておけよ」
これを聞いて解るかも知れないが、僕はこの屋敷では使用人以下なんだ。
僕は父と前妻の子として産まれた、だからちゃんとしたヘングラム伯爵ことアベルの子供だ。
だが、僕の母さんと父であるアベルは凄く仲が悪かった。
そこに愛なんて無い、だがヘングラム伯爵家は母のトールマン子爵家に多額の借金があった。
お金の無いヘングラムと位が低いトールマンと家同士が仲良くなる為のいわゆる政略結婚だった。
その結果、アベルは好きだった女性との結婚を泣く泣く諦めた。
そのままの関係が続いていれば良かったが、王の座を争う事件が起きた時に、トールマン家は第二王子を押していた。
だが、実際に王位についたのは第一王子だった。
そして第一王子達から、睨まれるようになり、あらぬ嫌疑を掛けられ最後には処刑されてしまった。
僕の母はトールマン家の後ろ盾が無くなり、気がつくと死んでいた。
本当に僕が気がつくと死んでいたのだ。
殺されたのか、嘆いて自殺したのかは僕には解らない。
ここ数年、母と僕は押し込められる様に離れに隔離されていた。
この母も政略結婚のせいか、僕の事は好きではなく傍に居ると暴力を振るわれるので、物置の様な部屋で一人で暮らしていた。
だから父からの「お前の母親は死んだ」そう聞かされても別に何も思わなかった。
僕に家族なんて居ない…そういう生活を送っていたからね。
だが、これですら地獄で無いと言う事を思い知るようになった。
母が死んで1週間が経った。
「アマンダに子供が出来た、これでお前と言う存在は我が家に不要な存在となったのだ、半分は俺の血が流れている、だから15歳まではこの家に置いてやる、だが最早お前は必要無いから学園に通わせる事はしない、杖と剣はくれてやるが、それ以外は使用人と同じだと思え」
「そんな、僕は、ヘングラム家の子供…」
「貴族に生まれた子は15歳までは苗字を失う事は無い、だが15歳になったら正式にこの家とは無関係になって貰う良いな」
「そうですか…」
それだけ答えた後の記憶はない。
気がつくと僕はベッドで寝ていた。
目が赤く腫れているのが自分でも解る。
多分僕は泣いて寝てしまったのだろう。
夜中に目が覚めた。
僕の人生は終わってしまった。
15歳で苗字を失うと言う事は貴族では無くなるという事だ。
つまり僕は平民になる、学園に通えないと言う事は《魔法》も《剣》も学べない。
貴族の血が流れていれば、この世界では必ず剣か魔法が上達する、その優位性も学ばせて貰えなければ無い。
剣と杖は10歳になれば貴族の習わしで貰えるが碌な物は貰えないだろう、錆びた剣に罅が入った杖とかも充分あり得そうだ。
まぁ今直ぐ追い出されないだけましだと思え、そう言う事だ。
壊された剣と杖
けたたましくドアが叩かれた。
何事かと思いドアを開けると…
「おいルディウス! 何時まで寝ていやがるさっさと起きて、仕事をしないか!」
「いったい何事ですか?」
僕はいきなり5時に起こされた。
「ルディウス、今日からお前は使用人扱いになる事は聞いているだろう!お前は一番の新米なのだから、誰よりも早く起きなくてはいけないのだ!まだ何も出来ないのだろう、とっと水汲みをしろ!」
「解りました」
自分で自覚しなければいけないんだ…僕はもう使用人なんだから..
慣れない手つきで僕は桶を持った。
まだ5歳の僕にはとても重く感じた…
「ルディウスは本当にグズなんだから…まぁ子供だから仕方ないか..水は半分にして回数増やして運んだ方が楽だよ」
「ありがとうございます」
「まぁ頑張りなルディウス!」
この家は本当に徹底している、もう僕を貴族の子供として扱う人はいない。
それから1年が経ち6歳になった。
本来なら貴族の子は10歳で学園に入るが最早僕には関係の無い事だ。
流石に1年経つと家での仕事には慣れてきた。
義理の母のアマンダは更に人が変わったように冷たくなった。
酷い時には僕にムチを入れる事もある。
「貴方はもう使用人としてしか扱う気が無いわ、その許可は夫アベルから得ているわ、まぁ貴族籍はあるけど、意味は無いわね、私は勿論息子ヘンドリックも主人として扱いなさい」
「解りました」
何回かムチで叩かれた時にもう義母と思う事は無くなっていた。
お父様はまだ少しは愛情があるのか基本的には無視だが、たまにお菓子をくれる。
「これは親子の情では無い..子供の使用人には先代も普通に菓子をあげてた..それだけだ」
そういうお父様の顔は、優しそうに見える時もあるが、新しく生まれたヘンドリックとは勿論比べられる様な扱いはされていない。
アマンダとヘンドリックとヘングラム伯ことアベルは、僕は居ない扱いをしながら楽しそうに暮らしている。
勿論、食卓もはじめ、僕は関わる事は全く無い。
僕の…気持ちは複雑だ。
《あの糞ババア、色っぽいケツしていやがるな、まぁ穴だけは使える》
誰だろう、アマンダの悪口を言ったのは…だけど、周りには誰も居ない。
「可笑しいな…空耳かな」
最近は、アマンダは僕に対してムチを振るう事は少なくなった。
愛情が…そんなことは無い、完全に僕に興味が無い…使用人として普通に扱うそれだけだ。
それと同時にアベルも僕に対して興味がなくなったのだろう、子供扱いする事が全く無くなった。
もう、心の中でもお父様と呼ぶことは無いだろう..
無関心は僕にとっては前に比べて幸せなのかも知れない。
アマンダにムチを打たれて痛い思いをする事も無いし、アベルにたまに優しくされて妙な気分になる事もなくなった。
だが、この頃から僕は夢を見るようになった。
《小さい子供って簡単に死んじゃうんだよね..殺すなら今だよ》
《あのガキ死んだら、あのババアとジジイ悲しむよね..楽しくない?》
僕の頭の中で誰かが話しかけてくる。
そして、夢の中で僕は両親を楽しそうに殺していた。
弟を楽しそうにいたぶっていた。
あと少しで殺してしまう、大体がその時に目を覚ます。
《僕はそんな人間じゃない》
心で否定する…だが、死んでしまえば良いのに..そう思う自分も何処かにいるのかも知れない。
それから、また3年の月日が過ぎた。
僕は9歳になり本来なら後1年後には学園に入る。
もうここまでくると、しっかりと使用人の仕事が板についてきた。
最近はルドル執事長にも褒められる事がある。
「ルディウスは良く頑張っているな9歳とは思えない…執事を目指してみたらどうだ? 来年はもう10歳執事見習いにもなれる!将来仕えたい主を探してみても良いかもな」
メイドの人達も良く話してくれるようになった。
「ルディウスもどうにか使えるようになったわね…これなら普通に屋敷仕えが出来ると思うわ」
最初の頃冷たかったのは、僕が貴族として生きれないならと平民ならでは生き方を教えてくれる為だった。
そう思うと彼らは凄く優しい人だったのかも知れない。
《お人よしが..人間に良い奴なんて居ない》
また何処からか男の声が聞こえてきた。
10歳まで後1年、僕はもう使用人としてしっかり仕事が出来る様になっていた。
僕は一応は貴族籍はまだある。
そして10歳になる、その日に杖と剣が貰える。
本来はそろそろ家庭教師がつき学園入る前に基礎を勉強して備える。
僕は学園にも行けないし、魔法も剣術も僕には誰も教えてくれない。
ただ、何も教えないと言うのは貴族としての体面もあるのか、この館で書斎に入る事は許されているので勝手に本を読んで勝手に学んでいた。
魔法を使うのも本格的な討伐も学園に入れば最初から教えてくれるが僕は学園に通えないので何か考えないといけない。
独学で勉強しながら10歳になった。
そして、僕にアベルは古びた杖と錆びた剣を渡した。
本当に家族と思って無いのだろう、執事のルドルから手渡された。
仕事が終わって部屋に帰った。
だが、その日は僕の部屋に弟(血縁上)のヘンドリックがいた。
そして、その足元には折れた杖と刃こぼれを起こした剣があった。
僕がその生涯で親に初めて、そして最後に貰った物。
そう思ったら僕は叫んでいた。
「何をするんだ!」
「出来損ないのルデイウスには杖も剣も要らないだろう..だから壊してたんだよ」
咄嗟に僕はヘンドリックを突き飛ばしていた。
「うわーん」
ヘンドリックが泣きだした。
そして駆けつけてきた、アマンダがファイヤーボールの魔法を使った。
それの直撃を受け僕は意識を失った。
《だから殺しとけばよかったんだ》
そんな声がした気がした。
意外な助け
気が付くと僕は地下室で鎖に繋がれていた。
背中が物凄く痛い、多分火傷をしているのだろう。
目の前には、ヘンドリック、アマンダ、アベルがいた。
「ルディウス、お前は出来損ないの癖に、可愛いヘンドリックに手を挙げるなんて..何てことをするの!」
アマンダがキンキン声で叫んでいた。
ヘンドリックは僕の方を見るとアッカンベーをしていた。
「ルディウス、何か言いたい事があるならいってみろ」
僕は、あった事をそのまま伝えた。
この国は一応は身分制はあるが法治国家でもある、貴族であっても正当な理由もなく平民の物を壊したりしてはいけない筈だ。
「それが言い訳か…解かった、ではヘンドリックお前は本当にそんな事をしたのか」
「僕はしていない、ルディウスが自分で壊して僕を突き飛ばしたんだ」
「そうか、ならルディウスが悪いな..」
「何故、僕が..自分の物を壊したりする必要があるんですか..するわけ無いでしょう..可笑しい」
「出来損ない、ヘンドリックが嘘をついたと言うの? どこまでもおぞましい」
「まぁ、待て、ルディウス、私はこの国の法律に基づいて審議した..ルディウスお前が悪い、謝れ、それで終わりにしてやるから」
「待って下さい、僕は悪くありません」
「ルディウス、教えてやるよ..この国では証拠が無い限り、貴族と平民の意見では貴族が行った事が正しいとされる..証拠はないのだろう」
「ありません..」
「なら、謝るんだ..それで」
「悪くないのに謝りません」
「仕方ないわね、じゃぁお仕置きしなくちゃね」
アマンダの杖から火の玉が飛び出して来た..ファイヤーボールだ、その玉は僕の足に辺り僕の足を焦がした。
「熱い、熱い、熱い..何するんだ!」
「貴族に平民が罪を着せたのよ..これ位当たり前じゃないかしら?」
「お前、幾ら何でもやりすぎだ、相手は子供だぞ..ルディウス、お前もいい加減認めろ、謝罪したらそれで許す、だから謝れ」
「嫌です!」
「良い度胸ね、私が手加減したり許すと思わない事ね..ファイヤーボール」
今度はさっきのと違い、大きな火の玉が僕を焼いた。
《多分、全身大やけどだ…》
「強情をはるな、謝れ、謝ればそれで全部終わる」
「嫌です..僕は….本当にやっていない」
《だから、殺せと言ったのに》
《お前は誰だ》
《俺は君だ》
《僕?..僕なのか?》
「もうやめて..ルディウスじゃない..僕が..僕がやったんだ」
「なぁ..おい…僕じゃ無い..証拠がでたんだ..どうするんだ」
「済まなかった」
「ええ、済まなかったわねルディウス」
「おい、流石に無実の者に貴族が魔法を使い攻撃をした..これは重罪じゃないか?」
「….」
「無実の者に罪を着せて、魔法を使って攻撃したら貴族だって罰を与えられるだろう..公平な判決をいえ」
「俺は何も見ていない..」
「そうかよ…何が公平だ….何が法律にのっとってだ..」
「見ていない物は見ていない…」
「そうかよ…そいつもまだ4歳だ..そんな嘘をつくような奴は碌なもんじゃない…そいつも僕と同じで出来損ないだ」
「ルディウス…貴様、もう情けなど掛けてやらん」
アベルは剣で僕を殴った。
「それがお前の正体だ…何が正義だ、何が貴族だ…」
「もう、こんな出来損ないは殺してしまいましょうアベル..」
「いや、それでも相手は子供だ、そこまですることは無い…だが貴族への無礼の処罰はしなくてはな」
「それはなりませんぞ、アベル様、アマンダ様」
「何だルドルか?何故だ?」
「これは記録水晶です..これにはしっかりと、ヘンドリック様が杖を壊している証拠、嘘の証言をした事、そして奥方様が魔法で無実の者を攻撃した証拠が記録されています…そしてアベル様はしっかりと簡易裁判方式で話された」
「いや、これは家族の問題だ」
「残念ながら、ルディウスは家族と扱うな使用人扱いしろと命令されています..適用されません」
「どうすれば良いんだ」
「しかるべき処置を」
「解かった、ルディウス、この度の事は全ての責は私にある..ヘングラムの名において謝罪する」
「謝罪で済むか..この火傷は治らない」
「済みませんな..宝物室のエリクを持ってきました..これでようやく釣り合うでしょう」
「貴様、それは先代が王家から貰った家宝だぞ..」
「ですが、これで無いとこの傷は完全に癒えません」
そう言うと、ルドルは僕にエリクをドバドバと掛けた。
「ああ、我が家の家宝が…貴様は首だ」
「そうですか、では私はお暇させて頂きます」
「ルドル、ごめんなさい僕が強情をはったばかりに」
「おや、ルディウスはちゃんと謝れるじゃないですか」
「だって、ルドル…退職手当も貰えずに辞めてしまうんでしょう?」
「ええ、今のご主人様は執事として仕える価値はありませんな、ご主人様だけならいざ知らず、あの奥方に息子では忠義を誓う事はできません」
「執事は主の事を悪く言わないんじゃなかった?」
「主じゃなくなりましたから」
「そうだね、これからどうするの?」
「私は優秀ですから引く手あまたです、侯爵家辺りに仕えようと思います..ただ第二執事ですが」
「えっ、侯爵家に行けるんだ凄いね」
「ルディウスも行きませんか? 使用人の一人位ならつれていけますよ」
「ありがとう..でも僕はやる事があるから」
「そうですか..ではこれで失礼します」
ルドル..ありがとう…
心の中の闇がルディウスを包み込んだ..自分が誰だかしっかりと向き合った。
あの聞こえてきた声は前世の俺の声だ。
自分の正体が解かった
俺の前世はクズだった。
半グレを纏め上げ、詐欺に脅迫に暴行なんでもござれ、そして殺人も何でも経験していた。
奪って良い世界、何をしても良いなら世界なら簡単だ。
奪って、奪って奪い尽くせば良い…ただそれだけだ。
さぁ、復讐の始まりだ…
お前はまだ何者でもない、ムカつくガキは殺すに限る!
《ふあはははははは..思い出した、思い出した..僕は前世ではこんな人間じゃ無かったよ!》
《何で、僕は善良な人間になろうと思ったんだ…そういう人間は全員負け犬になる運命だったじゃないか》
《優しさ? 愛? そんな物は踏みつけて壊す為にある…そうしてきたじゃないか》
《弱い者は騙され奪われ、死んで行き、強い者のみが幸せを手に入れられる..知っていた筈だ》
さぁ、ここからが俺の本当の物語の始まりだ。
最初に思い知らせてやるのはヘンドリックだ。
こいつは、俺がこの世界で手に入れた大切な物二つを台無しにした…やり返したって良いだろう。
お前が、だだの弱者だという事を思い知らせてやる。
まぁ、今の俺が簡単に殺せそうなのは此奴だけだからな。
俺は近くにある森の中を歩いている。
俺が勝手に出歩いても、誰も文句は言わない。
アベルもアマンダも優秀な執事であるルドルを首にしたので、執務室に閉じこもって仕事をしている事が多い。
それと前の事件の気まずさがあるのか..基本俺は無視されている。
ヘンドリックは相変わらず横暴だが…気にしない。
俺がこの家の子である以上はどんなに嫌いでも15歳までは置いておかなければならない。
まぁ追放という事も可能ではあるが、そんな事をしたら他の貴族から白い目で見られる。
人目を気にするアベルとアマンダにはそれは出来ないだろう。
つまり、後約5年間は基本何があっても、面倒は見て貰える..なら何も一生懸命仕事などする事も無い。
ルドルが首になり、何か思う事もあるのだろう、そして僕に起きた事を知っているからメイド達は寧ろ同情的だ。
だから、俺は自由を満喫している…表向きはな。
前世の記憶なのか人格なのか良く解らないが、それが蘇ってからは俺の全てが変わった。
こうして、森の中を歩いていても考え方が全然違う。
次から次へ、どうやったら人が殺せるか..そんな事ばかり考えてしまう、妄想の中の俺はアマンダにライターのオイルを掛けて顔を焼いたり、ヘンドリックの目を潰したりそんな事ばかりしているな。
既に何種類かヘンドリックの殺し方は思いついた。
後はどれにするか決めるだけだ。
既に何種類かヘンドリックの殺し方は思いついた。
後はどれにするか決めるだけだ、その中の一つを遂に実行する気になった。
「へーそんなに大きくて綺麗な花が咲いている場所があるんですか?」
「うん、凄く綺麗だった..アンに見せてあげたい位」
このアンというメイドは俺が使用人扱いされるようになってからは何かと気に掛けてくれる良いメイドだ。
まぁ少しお姉さん風を吹かせる癖があるが、家族が居ない俺にはそこが良い。
逆に、俺に辛くあたる使用人も結構いる。
「ルディウス、お仕事は良いんですか…」
「どうせ、俺の事なんか誰も見ていないからね…頑張ったってだれも褒めてくれないからさぁ」
「そんな事はありませんよ…」
「そう? でもアン、ありがとう..じゃ」
これは布石だ。
あえて、近くにヘンドリックが居る時に話した。
あの性格の悪いヘンドリックの事だ、これで俺が出掛けた時に何かするだろう。
次の日、僕は森に出掛けた。
《しめしめ..ヘンドリックがついてきた》
俺はあえて、周りを見張るようにしてキョロキョロする。
《ヘンドリックはこっちを見ている》
そのまま、花が生えている場所に向かった。
ヘンドリックがついてきている。
「この花はいつ見ても綺麗だ、見ると心が癒されるな」
ワザと俺は聞こえるように言った。
そして暫く見た後、静かにその場を立ち去った。
そして、立ち去る振りをしてヘンリックの様子を見ていた。
《うん、やっぱり此奴はクズだったな…俺が大切にしてそうだ..そう思ったのだろう》
花をむしって、踏みつけていた。
僕は音を立てずにヘンドリックに近づいた。
後ろから石でヘンドリックの頭を殴りつけた。
「うわわわわわわわわいてぇー、いてぇー」
ヘンドリックは頭を押さえて蹲っている。
俺は追撃の手を緩めない。
もう一度、蹲っているヘンドリックの頭を潰すように石で殴りつけた。
頭の皮がむけ、白い頭蓋骨がでてるが、それでも死なない。子供の力ではこんなにも人を殺すのが難しいのか。
「おおおお前はルディウス..こんな事してただで済むと思うなよ..母上に」
《本当に此奴は煩いな》 がつっ、手で抱えている頭を手ごと上から殴りつけた。
グチャという音と共に手が潰れた音がした。
「うあわわわわわわわっわわわわ」
「残念だな、此処には、アマンダもアベルもいないんだ..4歳のお前が10歳の僕に勝てるわけが無いだろう」
「痛い、嫌だぁぁぁぁぁぁ、死にたくない、ルディウス..兄弟だよ僕たち」
「思ったことは無い..お前だってそうだろう? 俺から奪い、陥れる事ばかりしているじゃないか? 俺より遙かに恵まれているのにだ」
「僕は嫌がらせは、痛てぇええええええ…ハァハァしたけど殺す気なんて全く無かったんだ」
「はぁ? お前は俺を地獄に突き落としたんだ、お前が居なくなるだけで、俺が幸せになれる可能性があるんだ、殺さない訳が無いだろう? それにお前が10歳を過ぎて、魔法や剣を覚えたら殺しにくくなる、今しかチャンスは無いんだよ」
「そんな…助けて、ルディウス..ああああっ もうしない、もうしないから」
「悪いな、お前やアマンダの言う事は信じられない、助けてやっても自分が優位になれば今度は俺を殺しに掛かるに決まっている」
俺は石でヘンドリックを殴り倒した。殴って、殴って、殴った。
顔が陥没している..流石に死んだだろう。
暫くしたら、俺はヘンドリックの腕を切り取り、他の部分は石に縛り沼に沈めた。
沼地一帯を蓮が覆っている…ここの沼は凄く深い、上手く沈めば浮かび上がって来ないし…もし、浮かび上がっても暫くは蓮で隠れるから見つからないだろう。
ヘンドリックは4歳とは思えない位..流暢に話をしていたな…思考もたったの4歳とは思えなかった。
そう思うと此奴はステータスが高かったのかも知れない。
だが、此奴はまだ子供だから知らなかったんだろうな…嫌われるという事は死ぬリスクが増えるって事をな…俺を無視するだけで幸せに暮らせたのに…
いずれにしても、此奴は死んでしまった、もう未来は無い…
殺せるかどうか心配だったが杞憂だった..昔の様に全然抵抗は無かった。..
俺の勝ちだ。
息子 死んだ後
流石は跡取り息子だな….
夜になりヘンドリックが居ない事が解ると、家人総出で探す事になった。
流石に危ないのでメイドは出ない。
最終的には近くの村の者まで集めてヘンドリックを探したのだが見つからなかった。
本当に何処にいったんだろうか?(笑)
《流石に沼に飛び込んで蓮迄は刈らなかった..まぁ当たり前か》
僕も八つ当たりをされるといけないので一生懸命探す振りをした。
「まだ見つからないのですか、ヘンドリックは…子供がそんな遠くに行くはずが無いわ…草の根分けても探しなさい…見つけた者には、何かしら報奨も出します」
「俺からも頼む…大切な我が子なんだ..お礼は出すから探し出してくれ」
最初はまだ余裕はあった。
それから三時間も経つと
「まだ見つからないのですか?さぼっているんじゃないでしょうね? 見つかるまで寝ないで探しなさい」
アマンダがキンキン声で怒鳴り始めた。
「きついだろうが、頼む、この恩義には必ず報いる..この通りだ」
アベルは言葉遣いこそ丁寧だが、やめさせようとはしない。
そして、日が暮れ夜になった。
この世界には魔獣や魔物が居る..夜の森は危険だ。
「アベル様、アマンダ様、流石に夜の森は我々には危険です…又明日の朝からに致しませんか?」
村長が村人を代表して提案してきた。
「息子が、その危ない場所に居るのです、それなのにお前達は捜索をやめると言うのですか? 幼子が寒い中ひもじい思いをしているかも知れないのに平気なのですか?」
「すまない、大切な1人息子なのだ…押して頼む」
この会話を見ても、村人等どうでも良いと考えているのが解る。
猟師ならまだしも農夫や木こり等じゃ、魔物に襲われたら死んでしまう。
結局、村人たちは猟師等を中心にしてグループを作り寝ないで探したが何も見つからなかった。
《仕方ない…そろそろ次の仕掛けだ》
「アベル様…アマンダ様」
「ルディウスかどうしたのか?」
「……」
二人してつまらない者を見る目で僕の方を見た。
「これが、落ちていました」
「何が落ちていたというのです..」
近づいてきたアマンダに僕はそれを渡した。
「これは..」
頭が追い付いていないのだろう….
「これは、ヘンドリックの….いやあややややややややややああああああああ」
そう、僕が渡したのは沼に沈める前に切り取っておいた…ヘンドリックの手だ。
勿論、魔物に襲われた様に見せる為に、石で叩いて潰しながら取った。
これなら、千切れた様に見えるから《魔物に襲われた》そうとるだろう。
「そそそそそそれはヘンドリックの手で間違いないのか」
「我が子を間違うもんですか..間違いなくヘンドリックだわ」
「ルディウス、これは何処で見つけた」
流石はアベルだ動揺をうまく隠している。
「はい、森の奥の沼地で見つけました」
念の為に違う沼地を指定した…もし見つかった場合の言い訳もできるからだ。
「その場所はリザードマンやゴブリンが出る場所だ…これではもう死んでいるだろう」
「そんな、貴方..せめて遺体だけでも探しに」
「生きている者ならともかく俺は領主だ..死んでいる者の為に領民を犠牲には出来ない」
「場所が解かったのです..今から探しに..いえ探させて下さい、貴方!」
「もう、無理だ..皆済まなかった..今日はこれで解散だ..明日は休める者は仕事を休んで良いぞ」
「アベル、何を言うの! ヘンドリックが可愛くないの?」
アベルは叫ぶアマンダの手をとると無視して引っ張っていった。
だが、明かにその二人の目には光がなかった。
《くううううううう溜まらない、嫌いな奴が絶望に染まる瞬間、偉そうな奴の泣き顔…これがいい…まだまだ、終わらないよ…僕の楽しみは》
義母攻略開始
次の日からのラドルフ家は暗いの一言に尽きた。
嫌いな長男が生き残り、そんな中産まれた期待の跡取りも死んでしまった。
まぁ暗くもなるだろう。
《ククククッ..あぁ凄く楽しいな…まぁ八つ当たりを受けるメイドや使用人は悲惨だが、対多数の使用人は俺を蔑んでいる、間接的な復讐にもなるな》
《さぁ次の仕掛けに入るか》
俺はドアをノックする…
返事は無い..だが、そのまま無視して入った。
「アマンダ様、失礼します」
「なにかしら…ルディウス..出て行きなさい..」
《フフフフ うまい具合に落ち込んでいるな》
「はい、すぐに出て行きます..ですが、この薬湯を飲んで頂けませんか?」
「毒でも飲ます気なの..それを持って出て行きなさい!」
「そうですか..ここに置いておきます..お願いします..」
「要らないって言ってるでしょう..こんな物..」
「いたっ..解りました..出て行きます..その代わりゆっくりと休んで下さい..」
顔にぶつけてやったわ..これで来ないでしょう…本当に忌々しい。
死ぬならヘンドリックでなく彼奴の方が死ねば良かったのよ。
結局、どこにもヘンドリックの死体はなかった。
だから、お墓に納めてやることもできない。
あれから、アベルとも口をきいていない…
次の日もあの忌まわしいルディウスが来た。
「アマンダ様 失礼します..今日はおかゆと薬湯を持ってきました、少しで良いんです食べて下さい」
「お腹はすいてないわ..要らないわ」
「そんな訳無いじゃないですか?もう2日間も何も食べていないんですよ?…せめて、せめて薬湯だけでも飲んで下さい..お願いします」
「要らないって言っているでしょう..しつこいわ」
おかゆを頭からかけてやったわ..どう熱いでしょう..さぁ文句でもいってみなさい。
「アマンダ様…また来ますね」
忌々しい事に毎日のように彼奴がきた。
アベルはあれから一日も来てくれない…
メイド達は私が当たり散らすからもう来ない..私に用事がある時は忌々しい此奴が代理でくる。
本当に忌々しい、今日もあと2刻もすれば忌々しいルディウスがくる。
「アマンダ様、今日も薬湯とおかゆを持ってきましたよ」
「そう、要らないわ…いつもと同じよ..」
「ですが、このままでは死んでしまいます」
「それもいいわ..死ねば..ヘンドリックに会えるわ…」
「ヘンドリックが羨ましい..」
「ルディウス..貴方今何と言いました!…死んでしまったヘンドリックが羨ましいって言ったのですか? 手だけ残して魔物に食われて死んだヘンドリックが…」
「羨ましいですよ..死んでまで貴方に愛されているヘンドリックが…同じ様に愛して貰えるなら..命何て..うぐっ…すいません言い過ぎました..罰は後で受けます..失礼します」
「待ちなさい..ルディウス」
頭の中が可笑しくなっているのかも知れない。
今なぜだか一瞬、そんな訳が無い..自分でも解らない感情が湧きあがってきた。
《そう言えば薬湯って言っていたわね…ポーションならともかくそんな物が家にあったかしら?》
私は薬湯を手に持ち「鑑定」呪文を唱えた。
幾つかの薬草をすり潰して作られたお茶…滋養強壮と体力を回復する効果がある。
《こんな物何処で手に入れたのかしら..ポーションよりも高そう..ルディウスにはお金なんてあげてない、まさか盗んだの…明日来た時にでも聞いてみましょう》
次の日、ルディウスは来なかった。
メイドに聞いたら、今日は一日帰らないそうだ。
やっぱり彼奴は忌々しい..会いたくない時ばかり来て、会いたい時には来ない。
次の日は…ちゃんとルディウスは来た。
「アマンダ様 今日もおかゆと薬湯をお持ちしました…そして今日はアマンダ様が好きなアプルもありますよ」
「ルディウス..貴方に聞きます..この薬湯はどうやって手に入れたのですか? 貴方が買える物ではない筈です」
「これはですね、僕が作ったんです」
「作ったの?どうやって」
「それはですね、森にあるライト草にムニエル草にジギ草を混ぜて煮沸するんです。そうするとこの薬湯になります。」
「それは何処で知ったのですか?」
「はい、アマンダ様が顔色が悪いようなので書庫の本で調べて作ってみました」
「そう、なかなか良い出来ね」
「ありがとうございます」
「それで、貴方は昨日は何処に行っていたのですか、アベルから許可は貰ったのですか?」
「すいません、許可は貰っていません」
「勝手な事をして怒られても知りませんよ…それで、何処に行っていたのですか?」
「隣町までアプルを買いに行ってきました」
「そう…ですか?《確かにアプルは時期が少し外れていますね..この近くじゃありませんね》」
あれっ手に怪我をしている。
「ルディウス、その手は何ですか?怪我をしているようですが」
《ヤバイ、これはヘンドリックを殺した時に怪我した物だ》
「薬草を採取した時に怪我をしました」
《確かに余り聞いた事が無い薬草でしたね..もしかして棘があったのでしょうか?》
「少しは気をつけなさい…今日は少し食欲が湧いてきました..ちゃんと食べます」
「有難うございます」
「それでは出て行きなさい..あまりジロジロ見られては落ち着いて食べれませんから..」
「はい、では後で食器を下げに来ます」
ルディウスが居なくなる。
何故か寂しく感じる…
私は薬湯に手を伸ばした…正直不味いなんて物じゃない、だけどこれはあの子が手に怪我をしてまで取ってきた物だ..体にも良い物だ..飲もう。
おかゆか…正直食べたくはないけど..食べないと心配するんだろうな..少しは手をつけますか。
アプルか..正直余り良い実じゃないわね…だけど、この時期には本来は無い物だわ..探すの苦労したんだろうな..
私はあの子を虐めたし..ムチ迄打ったのに..何でここまでしてくれるのかしら?
そういえば、ルディウスは言っていたわ…
「羨ましいですよ..死んでまで貴方に愛されているヘンドリックが…同じ様に愛して貰えるなら..命何て..」
ちゃんと言っていたじゃない..この続きは決まっているじゃない..「命何て要らない」そう言い掛けていたんじゃない。
ルディウス、よく考えればあの子も《政略結婚》の犠牲者だわ。
確かに、あの子の母親のせいで、私とアベルは結ばれるのに時間が掛かった。
だけど、それはあの子には関係ない事だし、前の母親には相当嫌われて酷い目にあっていたと聞くわね。
今現在のあの子は10歳、本来なら親に甘えながら生活するのが普通だわ。
これからは少しは優しくしてあげよう…こんなにも優しく献身的なのですから…
義母攻略?
私は直ぐに私付きの使用人にルディウスを指名した。
アベルにそう言った時には虐待をするのでは無いかと心配されたが「虐めたりはしないわ」そう伝えたら許可が降りた。
まぁ私は前にファイヤーボールをルディウスに打ち込んだ前科がある。
だけど、アベルの中では多分ルディウス何てどうでも良いんでしょう…禄に私と話しをしないで許可する位なんだから。
そう考えたら、凄く残酷だ、産んだ母親にも愛されない、父親にも愛されない10歳の子供。
自分にヘンドリックというお腹を痛めた子が居る時はこんな事は考えてなかった。
自分が最愛の息子を失ったから気がついた。
ルディウスには家族が居ない、いや父親は居るが愛して等いない。
私にはまだアベルが居る…それなのにこんなに悲しい。
何も持ってないルディウスは多分、私とは比べられない位悲しく寂しい世界で生きているのだろう。
「貴方は気が利きますから、私付きに指名してあげたわ」
「そうですか、光栄です」
話をした時にルディウスは凄く嬉しそうだった。
私はルディウスにご褒美をあげる事にした。
決して可笑しくはない…体の調子の悪い主人に尽くした使用人に対して褒美をあげるのは当たり前の事だ。
「ルディウス、何か欲しい物とかありますか? 今回はお世話になりましたから特別に褒美を与える事にしました」
「あるにはあるのですが、言ったらアマンダ様に怒られます」
「まぁ私に怒られる様な事をしたの?正直に言いなさい怒りませんから!」
「本当に怒りませんか?」
「ええ約束します《内容によっては怒りますけどね》」
「その、お母様って呼びたいです..」
《何でしょうか..この不意打ち…ルディウスってこんなに可愛い子だったかしら》
「コホン、良いですわよ..この部屋の中でだけなら…ここでだけですよ」
「本当? お母様…ありがとう!」
「まぁ、私も、もう年齢的に子供は作れないと思いますから..少し位なら甘えても構いませんよ…まぁ血縁は無くとも貴方は一応私の子でもあるのですから」
「何を言っているんですかお母さま! お母さまはまだ齢なんかじゃないですよ?凄く綺麗ですよ!」
「そうかしら?お母様はそんなに綺麗?」
「はい、世界で一番綺麗です!」
実の子を亡くしたせいなのかも知れない。
だから、傍に居るルディウスが目に入った。
子供を亡くした母親に、母親が死に誰にも愛されなかった子供。
そして血縁は無くとも、この子の私は義母だ。
案外、これはこれで良いのかも知れない。
私は凄く残酷なのかも知れないわ..私はまだヘンドリックが死んで数日なのに悲しみが薄れている。
貴族の子供でここまで母親にべったりな子は居ないわ…私はヘンドリックにこんな言葉は掛けて貰った事がない。
それ所か愛しているアベルも付き合いが長いせいか、こういうストレートな感情を私にぶつけてきたりしない。
ヘンドリックはどう考えても大きくなってもこうは成らないだろう。
ルディウスは私がヘンドリックを可愛がっているのを羨ましいそうに見ていた。
もし私が手を差し伸べれば、可愛い子供になってくれるかも知れない。
世界で一番綺麗か…子供に言われても案外ときめく物ね。
そんな事アベルにも言って貰った事は無い。
「ルディウスにとってお母様は世界で一番綺麗なの?」
この子といると何だか心地よい…私は子供を作れる齢ギリギリだった。
20代後半の行き遅れ、そんな風に言われていた。
アベルも私も良い歳だ、幾ら好きな相手でも若かった時の様なときめきは無い。
こんな歯の浮いた様なセリフ私に言う存在等居ない。
「はい、だから子作り頑張って下さい…お母様ならきっと…もう一度子供が作れます」
《これはメイド辺りから聞いた知識かしら? 10歳の子に何を教えているのかな?教えた相手が解ったら叱らなきゃ》
「ルデイウスは随分ませているのね! お母様は知らなかったなそんなにませていたなんて…!だけど子供が出来たらまたルディウスに対して辛くあたるかも知れないわ?」
「我慢します」
「何で我慢するの?」
「僕はお母さまの本当の子供ではないですし、お母様も自分の子供を後継ぎにしたい気持ちは解りますから、それに貴族ならそれが当たり前の事ですから」
《10歳の子供が此処まで考えるの?》
「ルディウス..安心して良いわ…次の子が生まれても同じ様に接してあげるわ!」
「本当ですか? 有難うございます」
《凄く嬉しそうな顔ね..不思議な子..この子と話していると子供だって言うのをたまに忘れる..口説かれている..そう錯覚してしまう》
ルディウスによって私は…女としてまだ生きれる、そんな自信が取り戻せた。
……………………………..
………..
既に心はルディウスを子供のように思っている。…だけど、この家には私が産んだ子供が必要だ。
そうで無ければ、私は《子供も産めなかった女》になってしまう。
それだけは貴族に嫁いだ嫁としては受け付けられない。
ルディウスに癒され女としての自信を取り戻した私は又アベルと体を重ねた。
アベルは私と違いまだヘンドリックの死を引きずっているのか元気がない。
多分、私の体にももう飽きたのかも知れない..淡泊だ、まぁお互いが20代後半で30にも手が届くそう考えたら当たり前だ。
私だって多少は同じような気持ちもある…だが《子供を作れなかった嫁》には成りたくない。
そして待望の2度目の妊娠をした。
「これで我が家も安泰だな…」
アベルが少しだけ元気を取り戻した気がした。
ようやく、ヘングラムにも光が戻った気がした。
だけど、ルディウスが心配だわ…
「ルディウス…あのね」
「もう、知っています..女の子が良いな..」
「何を言っているの?男の子が良いわよ私は」
「女の子なら、お母さまを取られないから女の子の方が僕は良いです」
「ふふ、大丈夫よ男の子でも今迄通り接してあげるわ」
《お腹の子はこの家を継ぐんだから、少しくらいはルディウスに寄り添ってあげても良い筈よ》
「安心しました」
《だけど、この子結婚できないんじゃないかな?ここまで私が好きじゃ..まぁ今だけでしょうけど》
だが、この幸せは永くは続かなかった。
主治医が訪れて定期的な母体診断の時の事だった。
「お気の毒ですが流産しました」
「えっ何かの間違いじゃないんですか?」
「嘘だろう先生」
アベルもアマンダも頭が真っ暗になる。
「そして、残念ですが、奥方様はもう子供が生むことが出来ないと思われます」
「そうですか」
アベルが先に立ち去った。その背中は凄く寂しそうだった。
私も後をついていった。
執務室にいった。
「俺とお前の結婚は失敗だった」
「どうして、どうしていまそんな事をいうの?」
「お前だって貴族なんだ、解かるだろう?跡取りを作れない女に価値ちは無い当たり前の事だ」
《何も言い返せなかった..歳の事もあるが..もう子供を作れない..本来なら家を出されても文句は言えない》
「仕方ない、側室を貰うかも知れないが、悪く思わないでくれ」
《側室…》
「解りました」
これで私も終わりだわ、恐らく新しい女がこの家に来て女としての一生は終わる。
これなら、素直にルディウスを子供として認めてあげれば良かった。
大嫌いなトールマン家のあの女の子だけどルディウスに罪は無いじゃない。
そうしていれば、こんな事にならなかった。
ルディウスを子供にしていれば、他の女を入れる事にならないですんだのに。
アベルに嫌われている現状じゃルディウスを跡取りに…無理だわ。
「ルディウス…お母さまは駄目だったみたい.もう終わり…女として終わっちゃった!」
「どうしたのですか? お母さま」
「赤ちゃん、流産しちゃった」
「それならまた」
「お医者様がもう、二度と子供が作れないって..もう駄目なのよ!」
「…….」
「アベルは側室を貰うか..養子を貰うそうよ..私と結婚したのが間違いだってさ..わたしもう要らないんだわきっと」
「アベル様はおかあさまを要らないんですか?」
「うん、要らないと思う..いえ確実に要らないわね…女として貴族の妻として本当に終わっちゃった..」
「そうですか、ならお母さまを僕に下さい!」
この子が今何を言ったのか理解できなかった。
「えっ?」
いきなり抱きしめられた..ようやく何をされたのか解った。
ルディウスが私を抱きしめてきたんだ…
「ルディウス..何ですか?」
頭がパニックになった、自分でどうしていいのか解らない
「僕はお母さまが好きでした、子供としても好きですが一人の男性としても好きです」
その言葉を聞いてようやく抱きしめられた意味が解かった。
「ちょっと待ちなさい、まってルディウス…一回落ち着きましょう..ねぇ..私達親子よ不味いわ!」
「関係ありません..僕はお母さまを世界で一番綺麗だと思っています」
「駄目よ」
「僕は世界で1番、お母さまを愛しています..絶対に寂しい思い何てさせません..だから..」
「ルディウス…その言葉の意味..本当に解って言っているのね?」
「はい、愛してます..お母さま」
私はズルい女だ、散々この子を苦しめてきたのに…これから先1人になるのが嫌だから説明しなかった。
この子の気持ちは解っている、欲しいのは恋人じゃなくて《母親》だ。
母親に対する思慕の気持ちが、今迄独りだったから、それが無くなるのが嫌で言っている事だ。
私も似たような気持があるから良く解る。
本当なら、その気持ちは男女の気持ちではなく《寂しさから肉親を手放したく無い気持ちなのよ》
そう教えなければならない。
だけど…私はズルい、確実にこの子を捕らえる絆が欲しかった。
結局私は拒めなかった。
今迄、こんなに求められたことは無い。
凄く怖い..この子のしてくれる事が、囁いでくれる言葉が触られる事が全て心地よい。
こんなの経験したことは無い。
これが本当に好きな相手に対してする行為なのかもしれない。
何時までたっても終わらない..気が付くともう明け方になっていた。
「ルディウスは全く強引なんだから…まったくしょうがないわね」
「ごめんなさい」
《あらあら、もう子供になってしまったのね…》
「まぁ良いわ..本当にルディウスはお母さまの事が好きなのね? 親子としてではなく女性としても?」
「はい」
「仕方ない子ね、だったらこういう事したんだから、今度からは二人の時はアマンダと呼びなさい」
「アマンダ様」
《何で暗くなるのかな..あっそうか》
「違うわ、本当に好きな者同士は名前で呼ぶのよ? だからアマンダ…様は要らないの」
「アマンダ」
「なぁにルディウス、こんな感じにね」
「ありがとうアマンダ」
「だけど、良いの? 私は子供が産めない体なのよ?《まぁ親子なのに子供作っちゃ問題だけど》」
「その方が良いよ、僕たち親子だから子供は作っちゃだめだと思う..それに」
「それに何よ!まさかここまでして何か文句言う気なの…」
「子供が生れなければずうっと僕がアマンダの一番で居られるから嬉しい…」
「全くルディウスはずるいわ..わたしばっかりドキドキさせられて」
多分、この子が傍に居るから私は女として生きて行ける..まさかこの歳になってこんな感情が芽生えるなんて..多分、もう私はルディウスなしじゃ生きられない。
だって、この子は、私の愛しい子供で…最愛の恋人なのだから…
義母攻略 裏
良く考えなければいけない。
俺は冷静になった。
後二人、殺してやろうと思っていたが…殺してしまったら俺はどうなるんだ。
恐らく、この家は親戚に乗っ取られるか、国に取り上げられてしまう。
そうなったら、今より立場が悪くなるか孤児になるかしかない。
そう、どちらか一人を残さなければいけない..
どちらを残すか考えた末にアマンダを残す事にした。
残した、理由の一つは単純に此奴が女だからだ…
俺は早熟なのか既に精通が始まっている、そして前世の記憶があるせいか疼く。
そろそろ、肉体関係の相手が欲しい。
だが、メイドに手を出したくはない..こいつ等は、きつい事を言いながら結局は僕が一人で生きれるように手を貸してくれていた節がある..ルドルと同じだ…自分の立場の中で手助けをしてくれていたんだ。
まぁ、1人違う奴がいるがそいつに手を出すのはまだ早い。
俺は薄汚い悪人でクズだ..間違いなくそうだ…だが親切な者を傷つける程のゴミじゃない。
そう考えたら..もう一人しかいないアマンダだ。
こいつは、性格はともかく顔と体は良い女だ。
この世界ではもう20代後半や30代は女と見なされなくなる…実に勿体ない。
俺から言わせればようやく「女らしさ」が出る頃に要らないなんて勿体ないと思う。
顔と体が良ければ…簡単だ性格を壊して自分好みにすれば良い…それだけだ…
子供を亡くして落ち込んでいる女なんて格好な獲物だろう…逃す意味が無い。
まずは..従順な子供として気に入られる事からだ…
俺はアマンダに嫌われているが、今のアマンダは子供を亡くして弱っている、しかも形上は俺は義理の息子だ…絶対にいまなら付け入る隙があるはずだ..そこから攻めてやる。
ヘンドリックがいるなら..無駄だろうが、死んでしまった今なら、そして悲しんでいるいまなら必ず付け込めるはずだ。
「アマンダ様、失礼します」
「はい、すぐに出て行きます..ですが、この薬湯を飲んで頂けませんか?」
出来るだけの笑顔と優しさを出して近づく…当然拒否される。
だが、この時点で既にこの作戦は成功したと感じた。
同じ拒否でも全然違う..ムチを振るっていたあの女とは思えない程、弱々しい。
これなら落とすのは簡単だ。
「アマンダ様 失礼します..今日はおかゆと薬湯を持ってきました、少しで良いんです食べて下さい」
どんなに嫌われようと頭からおかゆをかけられようが通う。
そして、どんな時も笑顔で微笑む事を忘れない。
これで良い..それだけで落とせる筈だ。
まさか、この女も周りの人間も俺が口説こうとしている、何て思って無いだろう。
健気に義母に尽くす子供にしか見えない筈だ。
実際に使用人やメイドも俺を不憫な子だと見ている。
特に頭からおかゆを掛けられた後は、扉を睨んでいたメイドが居た。
「何故、そこまでするのですか?」
ある日メイドに尋ねられた..勿論本当の事は言わない。
「解らないけど..家族が居なくなる悲しみは良く知っているからね..何されても近くに居てあげたいそう思うんだよ..特にああも弱々しい姿を見ちゃうとね..」
そう答えたら、泣きそうになりやんの…
「いつかその思いが奥様にも伝わると良いですね..」
使用人やメイドにこの「健気な子」作戦は通用している。
この健気な子作戦は意外にもアベルにも通用していた。
ある日、アベルに呼ばれて執務室にいった。
「俺はお前に感謝しなければいけないのかもな」
「何の事でしょうか?」
「アマンダの事だ…色々と気に掛けてくれているのだろう!」
《此奴も落ち込んでいるんだろうな…全然違うな》
「使用人が主人に気を遣うのは当たり前の事です」
「それは違うな…ルドルだって他のメイドだってあそこまではしない」
「答えはありますが、今の私がそれを口にする訳にはいきません」
「許すから答えろ」
「義理とは言え親子ですからね….」
「何だ、その答えはちゃんと答えろ」
《これで解らないのか..大丈夫か此奴》
「俺にはもう家族ではない…それは解っています。 正直、鞭で打たれて、殴られて、馬鹿にされた時は死んじまえ..そう何度も思いました」
「そうか…我々の不幸が楽しいのか、お前からしたらそうだろうな…嫌いなヘンドリックが居なくなってさぞ楽しかろうな!」
「最初、ヘンドリックが死んだと思った時嬉しかったのは事実です」
「そりゃ憎まれて当たり前だ、俺だって同じ立場なら憎むだろう..確かにそれだけの事をした..だったら出て行くか?..その方がお互いの為だ..当座の生活費位はくれてやる」
「出て行きません」
「我々が憎いんだろう?」
「ええ、ですが…それでも嫌いには成れないんです..アベル様もアマンダ様も」
「…..」
「失礼を承知で今だけ言わせて貰います、血のつながりって怖いですよ..あんなに嫌いだったヘンドリックが死んだのに嬉しさより悲しさが出るんですから、あんなクソガキなのに父親が同じだったそれだけなのに….居なくなったと知ったら探さずにはいられなかった」
《そう言えば..ルディウスがヘンドリックの腕を見つけた場所は魔物が出る場所だ..そこまで探してたんだ…此奴は》
「…….」
「親子ってズルい…どんなに嫌っても、憎んでも、悲しいそうな姿を見てしまうと、それ以上にどうにかしてあげたい…そう思ってしまう…ムチで叩かれ、殴られて、殺されかけても…アンタを嫌いな気持ちに心からはなれない、僕は自分の母親が嫌いだった、だけどね、死んだと聞いた時は本当に悲しく思っていた《嘘だけど》 だったら本当に愛している子供が死んだ義母のアマンダはどれ程悲しいのかな、そんな事を考えてしまう」
「そうか」
「正直、自分の心が解りません…頭がグルグルして何が何だか解らない」
「そうか、下がってよいぞ…アマンダの事頼んだぞ」
「はい」
【アベルの気持ち】
親子か..そう言えばルディウスは俺に少し似てるな…憎いけどどうにかしたい..俺には言えない。
彼奴は蓋を開けてみれば、家族が好きなんだな、1人で寂しい生き方をしていたからそうなったのか…
あの分ならアマンダともうまくやっていけそうだな。
俺にだって感情はある、政略結婚をして好きな女を諦めさせられて…しかも結婚相手の女からは貧乏と罵られる。
幾ら歩み寄ろうととしても相手からは罵倒しかない。
だが、それはルディウスには関係ないだろう…望まぬ結婚の末出来た子でも、それは彼奴がした事じゃない。
大嫌いな女が死んだ、そこで終わりで良かった筈だ。
彼奴はアマンダを慰めてくれているそうだ、
今の俺には、ルディウスに幸せになって貰いたい..そんな気持ちも何処かにあるのかも知れない。
血の繋がり、親子か、確かに怖いな…本当に恐ろしい。
《良心が痛いだろう? 今はまだこれだけにしてやる》
「アマンダ様 今日もおかゆと薬湯をお持ちしました…今日はアマンダ様が好きなアプルもありますよ」
《今日はいつもと違うな…》
《ようやく食べてくれるのか..良かった》
……….
うん、全部完食している、薬湯も飲んでいる。
これで次の段階だ。
俺は一度、アマンダを立ち直らせる事にした。
褒めて、褒めて褒めちぎった。
アマンダはすっかり、明るさを取り戻した。
そして夫婦生活に戻れるように促した。
これで良い..これが多分、アマンダの女としての最後のチャンスだ。
だが、失敗するのは解っている…クククッ此奴が落ちるのが楽しみだ。
知っているか? 漢方薬には副作用がある物がある。
その副作用の中には妊婦が飲んだら..確実に堕胎する物がある。
そして定期的に飲み続けると子供が出来ない体になる物もある。
何で知っているかって?
前の世界でゴムを使うのが嫌だから..俺は生派なわけ…
だけど、妊娠したら責任が発生するでしょう?
だから、この薬を飲ましてたんだよ彼女気取りのセフレに…
将来、子供が出来ない体になるって?
別に良いじゃん? ただのセフレなんだからさ..将来何て気にしてやる必要ないよ。
それに、表向きは普通の滋養強壮の漢方薬だからばれないし安心だ。
だがこの世界には怖い事に魔法がある、鑑定がある。
もし、この魔法が優秀で副作用まで読み取れたら…失敗だ。
だが、そこまでは読み取れないだろう..俺はそっちに賭けた。
話は戻るけど…アマンダに飲ましてたのはその薬に近い物。
似た薬草探すのに苦労したよ。
だから、どんなに頑張ってもダメな訳。
これで、貴族の女としては最底辺でしょう!
子供が作れないんだから。
だけど、俺が手に入れるなら最高だ。
「顔が良くてスタイルが良くて妊娠しない女」
後はもうひと踏ん張り..親子の愛情を男女の愛情に挿げ替えるだけだ。
これでアベルが死ねば..子供が作れないアマンダが残る訳だ。
次の子が産まれないなら..もう俺は安泰だ。
これで、お財布代わりになってくれて、性欲を処理してくれる女が手に入った。
復讐? …..しているじゃん? 貴族の女として最底辺の子供を産めない体になった挙句、不貞をしてその相手は、義理の息子。更に言うならそいつは最愛の息子を殺した男だしな。
僕はまだ子供だし…保護者は必要だ。
どうせ選ぶならアベルじゃなく、色々な意味で使えるアマンダを選ぶだろう?
これからが楽しみだ。
【閑話】アベル 複雑な思い
最近はアマンダとルディウスが随分仲良くなった。
これは俺にとっては実に好ましい事だ。
最初、アマンダがルディウスを自分付きの使用人にしたいと言い出した時、正直迷った。
アマンダは一度ルディウスを殺しかけた事がある。
普通に考えて…無実の者を殺したりできないだろう…ヘンドリックが嘘をついたのは誰が見ても解かる。
出来損ないと切り捨てたルディウスに俺が唯一買ってやった安物の杖と剣..あんな物でもルデイウスは大切にしていた。
だが、俺は貴族なんだ…ヘンドリックが嘘をついていたとしても…信じない訳にはいかない。
アマンダだって解っていたはずだ…なのに彼奴はルディウスを火で焼いて死ぬような大怪我をさせていた。
あそこでルドルが来なければ…ルディウスは死んでいたかもしれない。
俺はそこまで冷酷にはなれない。
大嫌いな先妻の子との間の子と切り捨てたが、半分は俺の血も混ざっている..幸せになれるならなって貰いたい..少なくとも死んで欲しい等思っていなかった。
そのアマンダがルディウスを自分付きにしたいと言い出した..正直、彼の将来を考えたら断るべきだった。
だが、俺はそうしなかった。
ヘンドリックが死んでしまって可笑しくなっていたアマンダの生贄にした。
気がとがめたが…アマンダとルディウス比べたら..悪いがアマンダだ。
「虐めたりしないから」そうは言っていたが心配だった。
杞憂だった。
しかも、ルディウスは、あんなに落ち込んでいたアマンダを支え切った。
もういちど妻の笑顔を見れるとは思わなかった。
だけどねルディウス、君はまだ子供なんだな…もう私達はとっくに冷え込んでいたんだよ…
君の本当の母親が死んだ時、昔を思い出し勢いで結婚したが、時間の流れは残酷だお互いが既に昔程の情熱がなかった。
ヘンドリックの時も義務みたいなものだったんだ。
正直、もう私の中では側室を貰う..そう決めていた。
養子は無い..出来る事なら自分の血を引いている子が欲しんだ。
君を選ばないのは、残酷かも知れないが決めてしまった事は覆さない。
だが、仕方ない..義務から何回か体を重ねた..運が良かった。
子供が出来た..これで一安心だ….
正直、側室を貰いたい反面..アマンダが怖かった..君にしたような事を側室や子供にするんじゃないかと…
アマンダはもの凄く気性が荒い…小さい頃から知っているから解っている。
だから、子供が出来たと聞いて安心したんだ…
だけど..結果は流産だった。
しかも、もう子供は作れない…
俺はまた家族を切り捨てなければ成らない…
先妻の子のお前、死んでしまったヘンドリック、そして子供の作れない妻
平民だったら…せめて下級貴族だったら切り捨てないで済んだのかもしれない。
これで俺は側室を貰わなければ成らなくなった。
アマンダには養子の話もしたが、私は家族が欲しいんだ..それは無い。
せめて、アマンダと仲が良かった貴族の娘がいたら良かったんだが….そんな者は居ない。
だが、最近は随分と明るくなった。
全部君のおかげだ..これならもしかしたら側室を貰っても、その子共がこの家を継いでも上手く行くかも知れない。
君にこの家を継がせることは出来ない…だけど、この家に貢献できない..それは取り消すよ。
君なら案外…一流の執事にはなれるかも知れないな。
ムカつくメイド! 復讐したら部下になった?
メイドが一人結婚して此処を辞める。
そういう話を聞いた。
これがアンとかだったら祝福してやる気はある。
だが、婚約して辞めていくメイドはイライザだった。
此奴が幸せになることは許したくはない。
俺が使用人扱いになった時に執拗に虐めてきた。
俺は体は子供だが、心は大人だ。
他のメイドや使用人には厳しさの中に愛情があった。
俺が一人でも生きられるように《鍛えてやる》迷惑だが優しい愛情があった。
実際に、鬼のように厳しかったルドルは俺を庇い辞めていった。
あと少し勤めれば莫大な退職金が貰えるのにそれを棒に振って迄俺を助けた。
俺の前世はクズ、どう言い繕おうが悪人に違いない。
だが、悪人には悪人のルールがある。
それは《恩は忘れない》それだけだ。
此処のメイドは綺麗な子も多いし、正直涎ものだ。
だが、自分が生きられるように仕事を教えてくれようとした、そんな恩義がある。
だから手を出さない。
もし、どうしても欲しくなったら正々堂々口説く、それだけだ。
だが、その枠から外れる奴がいる。
本気でガキの俺に虐待を働いていた奴がいる。
その一人がイライザだ。
「ガキのくせに可愛げがないんだよ、なんだその目は」
「お前、私の方が急ぎなんだよ! お前が汲んだ水貰っていくよ」
暴言は当たり前、酷い時には足を引っかけられたり、頭を小突かれたりした。
「いくら何でも叩くことは無いだろう」
「いつまで坊ちゃんのつもりなわけ? 一番の新入りが口答え何てありえないんですけど」
「言えば解る事じゃないですか?」
「はぁ、何で私がいちいちお前に言わないといけないの?」
「言われなければ解りません」
「そうね、家畜に人間の言葉は解らないものね」
「そうですか」
「そうですかじゃねーよ、何その反抗的な目、むかついたからアンタの夕飯無しね」
「そんなの酷すぎます」
「ここじゃ私がルールだからね、他のメイドや執事に言いつけたらただじゃ置かないよ? ガキ一人どうにでもなるからね、私はこれでも昔は盗賊だったんだ殺すのは簡単だ」
此奴は馬鹿じゃないのかな? 貴族の屋敷に勤めるのに素行の悪い人間を見逃すわけはない。
ただの大法螺だ。
「そうですか、凄いですね」
まぁ昔からこういう奴いたよ、やたら自分が悪人で更に人として大きく見せようとする奴。
大体が雑魚だけどな。
「はん、その澄ました顔がムカつくんだよ」
そう言うと、イライザは俺の顔に平手打ちをした。
「何するんですか?」
「これだから、坊ちゃんはただ撫でただけでしょう」
俺の顔にはしっかりと手の跡が残っていた。
それから事あるたびにこの糞女は俺に絡んできて暴力を振るった。
こんな奴、幸せにならせるわけねーだろうが!
こっそりと、夜中にイライザの部屋に忍び込んだ。
離れとはいえメイドにまで個室が与えられるのは如何にうちが裕福か解る。
だが、これは都合が良い。
音さえ気を付ければ明日の朝までだれも気が付かない。
俺はあらかじめ使用人やメイドが飲むお茶の中にこっそりと強い睡眠薬を入れて置いた。
貴族の図書室は本当に知識の倉庫だ。
毒などもきっと貴族であれば使ったり、使われることがあるのだろう、この手の知識の本が沢山あった。
その中にあった睡眠薬の作り方をまねて作ってみた。
薬を入れたのは夜、普通のメイドや使用人も後は寝るだけだから迷惑も掛からないだろう。
本当なら顔でも殴りながら泣き叫ぶ声を聴きながら犯してやりたかった。
ただ今の俺はただのガキだ、女とはいえ成人した女に勝てる道理はない。
だから寝ているイライザを犯す事にした。
途中、痛みで目が覚めるといけないので、念の為ジギ草から作った麻酔薬も口から流し込んだ。
凄く、ムカつく女だが面と体は割と良い。
だが、マグロ状態なのは正直いってつまらない。
まぁ前世で言うダッチワイフやオナホと同じだ。
自分でするよりはまぁましだな。
遣るだけやって、その後はお尻の谷間に入れ墨を入れてやった。
《淫乱女 無料でやれます》《肉便器使い放題》《メス奴隷》そんな感じの内容だ。
この世界は鏡は貴重品だから大きな鏡は無い。
また、わざわざお尻の谷間まで見る事はなかなか無いから気付かれないだろう。
一応、血などもふき取り綺麗な状態にして立ち去った。
次の日、様子を見たが
「生理が辛い」なんでいって楽な仕事に回して貰っていたようだから気が付いて無さそうだ。
さぁ結婚がどうなるか見ものだ。
【後日談】
イライザの結婚は破談になった。
イライザの結婚相手は騎士爵の爵位を持つ貴族だった。
騎士爵とはいえ貴族だ嫁ぐ前に《体検め》がある。
これは病気では無いか、処女であるかしっかりと調べられる。
騎士爵位だと微妙だが、基本貴族は他人のお古を嫌う。
処女で無い女は愛人にしても妻には基本しない、まぁ余程の身分の差があれば別だが、それこそ伯爵の未亡人が子爵や男爵の家に嫁ぐその位の差が無ければ無い。
まして身分の低い平民の女が貴族に嫁ぐなら清らかな体じゃなければ無理な話だ。
イライザが裸になり、中年の手慣れた検査女がイライザを調べていた。
「私は体のラインには自信があります、勿論、だらしない生活などしたことはありません」
「そうですか、確かに健康そうですね」
「はい」
「ですが、不合格です、貴方ほど遊んでいて貴族の妻になろうとした女は初めてです」
「そんな事はありません、私はそんな事はしていません」
「そうですか、あなた自身で自分の体を見てみなさい、ふしだらな行為をしていた証拠があります、更にあなたは処女ではありません、これは鑑定魔法にも出ています」
「間違いです、ちゃんと調べて下さい」
「そこまで言うなら、こちらへどうぞ」
手鏡を渡され見るように言われた。
「ほら、お尻の谷間を見なさい、貴方の昔付き合っていた男が入れたのかしら? 卑猥な入れ墨が入ってます」
「これは、これは何かの間違いよ…」
【後日談】
結局イライザの婚約は破棄された。
親からも面子を潰されたとして勘当された。
騎士爵とはいえ貴族との結婚の話だから噂になり、イライザの悪評は広まったからもう真面な結婚は出来ないだろう。
こんな噂が広まってしまったら、娼婦にすらなれないかもしれない。
再び、ヘングラム家で働きたいと厚顔にも言ってきた。
勿論、アベルは断った。
だが、俺は助け船を出す事にした。
「使用人の分際で申し訳ございませんが、イライザを雇ってくれませんか」
アベルとイライザの間に入って頼んだ、勿論土下座で。
「ルディウス、お前とイライザの間には何かあるのか?」
「何もありません」
「ではなぜ庇うのだ」
「僕は行く所が無い辛さや人から嫌われる辛さを知っています、この女は最低ですが、此処を追い出されたらもう死ぬしかないでしょう、置いてやる事はできませんか」
「まぁメイド一人だどうでも良い、ここ暫くルディウスは頑張ってくれた、もうそろそろ下につく人間を与えようと思っていた、お前が使うというなら戻すが良いのか此奴で」
イライザは涙目でこちらを見ている。
此処のメイドや使用人は優秀で僕より仕事は出来る。
そんな人間を俺は上手く使えないだろう。
此奴だって元はそこそこ優秀だが脛に傷がある、良いか此奴で。
まぁ、俺の手元に置くならキラキラした善人よりこういう腐った目をした奴の方が良いかも知れない。
「解りました、イライザで構いません」
「そうか、なら良い…ルディウスに感謝するんだな」
こうしてイライザが俺の下につくことが決まった。
価値が無くなる前に…
「離れでルディウスと暮らそうと思うの!」
アマンダが突然きて言い出した。
「どうしたんだ急に?」
俺は正直驚きを隠しきれない。
「いえ、ね、私は残念だけどもう子供が産めないわ」
「そうだな」
「だから、もう受け入れる事にしたわ、私だって貴族だもの、子供を産む事の出来ない女に価値が無い事位解るわよ…だから諦めたの」
「そうか、理解してくれて助かるよ」
「どうせ、貴方は側室を貰うわよね..跡取りは必要だからね」
「そうだな…済まない」
「良いのよ、仕方ない事だわ…だからね、もう心の整理をする事にしたのよ…どうせあの部屋も側室に引き渡さなければならないなら早い方が良いわ」
「本当に良いんだな」
「ええ」
俺は耳を疑った、何時切出すか毎日悩んでいた。
《恐らくはかなり揉めるだろう》そう思っていた、普通に考えれば今回の出来事は貴族の女としてある意味終わりだ。
他国は兎も角この国はまだ封建的だ。
俺はそうでは無いが、今だに《子供産めない女には価値が無い》そう言い張る人間も少なくない。
だからこそ、時間が惜しかった。
もし、最初からアマンダと結婚していれば子供が何人か生まれ問題は無かった。
だが実際は政略結婚でルディウスの母親と過ごした時間のせいでアマンダの妊娠適齢期を過ぎてしまった。
ヘンドリックが時間ぎりぎり、次の子に至ってはよくぞ妊娠した物だと思わぬばかりだった。
恐らく高齢の出産だからああも簡単に流れてしまったのだろう。
他の男と婚姻もしないで俺を待っていたアマンダに申し訳ない気持ちで一杯だった。
「それはそうと、最近は随分ルディウスと仲が良いんだな」
「そうね…あの子には親は居ないも同然だし、私も子供を失った、そしてこれからはアベル貴方も半分失う様な者だからね、残りのの人生はあの子を子供代わりに生活するのも悪く無いわね」
「お前がルデイウスと仲良く出来るなら、嫡男の廃止をしなくても良かったのだが」
「それはあの時点の私達には考えられないわ、今更の事だわ、ヘンドリックが居ないくなったからこその感情だもの」
「そうだな、済まない」
「貴方は側室を迎えるのよね..そうしたら私より側室と一緒にいなきゃ不味いわよ! それに、子供が出来たら私なんかに構っている暇はないわ」
「本当に済まないな」
「別に良いわ..だけど、私だって貴族、そして正妻だからそれなりの体面が保てるお金はお願いするわよ」
「それは仕方ないな..確かにお前と俺で築いた財産もある..だが家を潰す様な金額は駄目だ」
「解っているわ」
「なら良い」
「それじゃ私は行くわね」
………何だろうか…何故か俺が捨てられたような気がするのは気のせいか。
「ねえルディウス…今日から離れで暮らすわよ」
「急にどうしたの?お母さま!」
「ルディウス….此処には貴方と私しか居ないのよ?」
「アマンダ」
「なぁにルディウス」
《まさか、此処まで変わってしまうなんて…流石に想定外だ》
「どうして急に離れで暮らす事になったのですか?」
「だって、ほらもう私は子供が産めないじゃない…だからアベルは側室を迎えなくちゃいけないわ..なら寝室も全部明け渡した方が良いじゃない」
「アマンダ、それ本当は違うでしょう、絶対」
「そうね、だって私が好きなのはルディウスよ..だったらアベルの傍にいる必要はないじゃない..離れに行ったらもう人目を気にせず居られるわ..特に夜はね」
《やりすぎたのか..確かに暇さえあれば抱き続けていたが…まるで別人じゃないか》
「そうだね、凄く楽しそうだ」
《確かに気は楽になったが…》
「あのさ..側室がきたらアマンダはどうなっちゃうの?」
「気にしてくれるの? 本当にルディウスは優しいわね..もうお役御免だわ..そうね私はルデイウスと楽しく暮らそうかしら..お金は気にしないで良いわ..それなりの金額が貰えるはずだから一生お金には困らないわよ」
「うん、楽しそうだね!」
「ルディウスならそう言ってくれると思ったわ!」
確かにアマンダは正妻で後から入ってくる女は側室、立場はアマンダが上だ。
アマンダの言う通り、結構な金額が貰えるだろう..だがそれで良いのか…
少なくとも、側室に子供が出来たら…跡取りはそいつだ。
そうなれば、将来的には追い出される可能性が高い。
アベルの生きている間は少しはましかも知れないが、それでも子供が出来たらどう転ぶか解らない。
実際にヘンドリックは目に入れても痛くない位に可愛がっていた。
幾ら財産を分けてくれるって言っても限界はある筈だし…大した金額は貰えないだろう。。
更に、多分貴族で居られるかどうか解らない…やがてはアマンダの価値も..俺と同じでほぼ無くなる。
そう考えるなら…アベルが側室を貰う前に..殺さなければならない。
アベルが側室を貰う前に殺せれば…アマンダは女伯爵となる筈だ。
だが、アベルは戦でも手柄を立てている、それもまるで英雄の様な手柄を立てたとも聞く。
「アマンダ、僕に魔法を教えて欲しいんだ」
聞いた話ではアベルは剣の達人、正面から戦ったら絶対に勝てない。
「どうしたのルディウスったら!」
「だって、僕はアマンダの事知らないんだもの..好きな人の事をもっと知りたいんだ」
「急にもう..良いわよ..後で教えてあげるわよ」
《この子は本当にずるいわ..いつもドキドキさせられる..もう離れる事は出来ないわね》
【閑話】アマンダ…女として
どうしてこうなったか解らない。
こうなってしまったからこそ解る、今の私はあの子が愛おしくて仕方ない。
自分の半分以下の男を好きになるなんてどうかしているのは解る。
最初は凄く嫌いだった。
私が小さい頃から付き合っていて将来は結婚する、そう思っていた運命の相手を奪った女の子供だ、嫌いになるのは当たり前だ。
だから虐めて、虐め、苛め抜いた。
それなのにルディウスは私を嫌って無かった。
それは彼が愛情に飢えた人間だったからだわ。
子供を失ってから解った。
子供を失い女性として全て終わった、その状態の私を彼は子供として励まし元気づけてくれた。
あれ程酷い事した女に何でこんな優しくしてくれるのか解らなかった。
彼に励まされて自信を取り戻した私は、再度子作りをして妊娠する事が出来た。
これで一安心だ。
もう、私は彼を嫌う事は無い、子供が生まれてもこの恩は忘れない。
自分の子供として扱い、絶対に愛情を注ぐつもりだ。
だが、現実は厳しかった。
新しい子は日の目を見ないで流れてしまった。
しかも、もう子供が出来ないというおまけつきで。
主治医が訪れて定期的な母体診断の時の事だった。
「お気の毒ですが流産しました」
「えっ何かの間違いじゃないんですか?」
「嘘だろう先生」
アベルもアマンダも頭が真っ暗になる。
「そして、残念ですが、奥方様はもう子供が生むことが出来ないと思われます」
「そうですか」
冷静に答えたけど心の仲はもう滅茶苦茶だった。
全ての幸せが全部崩れ落ちていく…それが解った。
「俺とお前の結婚は失敗だった」
「どうして、どうしていまそんな事をいうの?」
「お前だって貴族なんだ、解かるだろう?跡取りを作れない女に価値ちは無い当たり前の事だ」
そんな事は解っているわ、だけど何でこのタイミングなの..
私、赤ちゃんが流れて悲しいのよ!
この赤ちゃんは貴方の子でもあるのよ…なんでアベルは冷静なのよ。
貴族としては解る、子供を作れない女は価値はない。
もう子供を作れない女..本来なら家を出されても文句は言えない、解っているわ。
だけど、貴方と私は夫婦だった筈よ、子供が全てじゃない筈でしょう…愛は無いの…
「側室を貰うかも知れないが、悪く思わないでくれ」
側室…あははっそうね跡取りは必要だもんね…だけど何でこのタイミングでいうのよ。
「解りました」
これで本当に私も終わりだわね、恐らく新しい女がこの家に来て女としての一生は終わる。
これなら、素直にルディウスを子供として認めてあげれば良かった。
大嫌いなトールマン家のあの女の子だけどルディウスに罪は無いじゃない。
そうしていれば、こんな事にならなかった。
ルデイウスを子供にしていれば、他の女を入れる事にならないですんだのに。
これで私の女としての人生は終わったわ。
部屋に帰るとルディウスが居た。
何でだろう? この子を見ていると涙が出て来た。
「ルディウス…お母さまは駄目だったみたい.もう終わり…女として終わっちゃった!」
「どうしたのですか? お母さま」
「赤ちゃん、流産しちゃった」
「それならまた」
私はもう二度と子供は出来ないのよ。
「お医者様がもう、二度と子供が作れないって..もう駄目なのよ!」
「…….」
そうよね、まだ子供なんだからこんな事言われても困るわよね。
「アベルは側室を貰うか..養子を貰うそうよ..私と結婚したのが間違いだってさ..わたしもう要らないんだわきっと」
だが止まらなかった、一旦言葉に出すともう駄目だった。
「アベル様はおかあさまを要らないんですか?」
何だろう、子供とは思えない目、一番近い目は…若い時のアベルの目だ。
「うん、要らないと思う..いえ確実に要らないわね…女として貴族の妻として本当に終わっちゃった..」
私は子供相手に何を言っているのかな…
「そうですか、ならお母さまを僕に下さい!」
この子が今何を言ったのか理解できなかった。
「えっ?」
いきなり抱きしめられた..ようやく何をされたのか解った。
ルディウスが私を抱きしめてきたんだ…
「ルディウス..何ですか?」
頭がパニックになった、自分でどうしていいのか解らない
「僕はお母さまが好きでした、子供としても好きですが一人の男性としても好きです」
その言葉を聞いてようやく抱きしめられた意味が解かった。
子供が産めない女、もう誰にも愛されない女そんな女を《好き》だっていうの?
歳だって私は20代後半年齢は倍以上だわ、その前にルディウスは勘違いしている。
この子は1人で寂しかった、だから何時も一緒にいる相手が欲しい、これは多分男と女じゃなくて親子としての愛情だ。
だったら私はどうなの?
もうアベルは私を必要としていないわ、あんなに愛し合っていた筈なのに結婚してからは冷めたもんだわ。
障害があったからこそあの愛があったのかも知れない。
いざ達成したら付き合う前の様な燃える様な愛は無い気がする、必要だから子供を作った。
もしヘンドリックが生きていたら、もし子供が生まれない体に成らなかったら違ったかもしれない。
だけど、今の私には何も無い…恐らく残りの人生誰にも愛されないかも知れない。
「ちょっと待ちなさい、まってルディウス…一回落ち着きましょう..ねぇ..私達親子よ不味いわ!」
口では断っているけど、解り切っているわ、こんな私でも必要としてくれている。
それが嬉しくて仕方ない。
「関係ありません..僕はお母さまを世界で一番綺麗だと思っています」
こんな求められるような目で見られる何てどれくらいぶりだろう、もう忘れる位昔の事だわ。
「駄目よ」
言葉で断っていても、心は反応してしまう。
「僕は世界で1番、お母さまを愛しています..絶対に寂しい思い何てさせません..だから..」
こんな目で見られたらもう拒む事は出来ない。
あの憎い女の子供…だけど凄く綺麗な目だ髪も綺麗。
こんな年齢の私だけど…あの憎い女の子供という色眼鏡を外せば、この子は私の理想の男性だ。
アベルの様に力強い目にあの女の綺麗なシルバーブランドの髪、女の私から見ても色白で、外で仕事をしているのにほんのりと赤くなるだけ。
簡単に言うならアベルに気品を持たせて王子様にしたらこんな感じになる。
私が《悪女》になりさえすればこれが手に入る。
そう考えたら、その欲望には勝てなかった。
酷い女だと思う…母親が欲しい子供の愛情を利用して恋人になろうとしているんだから…
「ルディウス…その言葉の意味..本当に解って言っているのね?」
「はい、愛してます..お母さま」
私はズルい女だ、散々この子を苦しめてきたのに…これから先1人になるのが嫌だから説明しなかった。
この子の気持ちは解っている、欲しいのは恋人じゃなくて《母親》だわ。
母親に対する思慕の気持ちが、今迄独りだったから、それが無くなるのが嫌で言っている事だ。
私も似たような気持があるから良く解る。
本当なら、その気持ちは男女の気持ちではなく《寂しさから肉親を手放したく無い気持ち》
そう教えなければならない。
だけど…私はズルい、確実にこの子を捕らえる絆が欲しかった。
結局私は拒めなかった。
いや自分からルディウスを求めていた。
今迄、こんなに求められたことは無い。
凄く怖い..この子のしてくれる事が、囁いでくれる言葉が触られる事が全て心地よい。
こんなの経験したことは無い。
これが本当に好きな相手に対してする行為なのかもしれない。
これが愛がある行為と言うなら、今迄のは何だったの。
アベルに抱かれていた記憶が全部上書きされてルディウスの者になっていく。
何時までたっても終わらない..気が付くともう明け方になっていた。
それでも私はルディウスに抱き着いたままだ。
「ルディウスは全く強引なんだから…まったくしょうがないわね」
「ごめんなさい」
あらあら、さっきまでは凄かったのに。今はもう子供になってしまったのね…
だけど、こんな激しいのはアベルとは無かったわ、もし私が子供を産めない体じゃなかったら何人も子供が出来て大変そうね。
「まぁ良いわ..本当にルディウスはお母さまの事が好きなのね? 親子としてではなく女性としても?」
「はい」
「仕方ない子ね、此処までの事をしたんだから、今度からは二人の時はアマンダと呼びなさい」
「アマンダ様」
何で暗くなるのかな..あっそうか
「違うわ、本当に好きな者同士は名前で呼ぶのよ? だからアマンダ…様は要らないの」
「アマンダ」
「なぁにルディウス、こんな感じにね」
「ありがとうアマンダ」
「だけど、良いの? 私は子供が産めない体なのよ?《まぁ親子なのに子供作っちゃ問題だけど》」
「その方が良いよ、僕たち親子だから子供は作っちゃだめだと思う..それに」
「それに何よ!まさかここまでして何か文句言う気なの…」
いい歳した女が子供相手に焼きもちなんて考えられないわ。
「子供が生れなければずうっと僕がアマンダの一番で居られるから嬉しい…」
「全くルディウスはずるいわ..わたしばっかりドキドキさせられて」
多分、この子が傍に居るから私は女として生きて行ける..まさかこの歳になってこんな感情が芽生えるなんて..多分、もう私はルディウスなしじゃ生きられない。
今の私はアベルよりもヘンドリックよりもルディウスを愛している。
多分ルディウスの為なら二人なんて幾らでも犠牲に出来る。
私の運命の相手はルディウスなんだ、そう思った。
そう考えたら、あの憎いトールマンの女も許せてしまえる。
だってあの女が居なければルディウスは生まれなかった。
あれだけ嫌っていたシルバーブロンドの髪も、湖の様に透き通る目も私の物って思えたら凄く綺麗に思えるわ。
貴方の事は凄く嫌いだったけど…ルディウスを産んでくれたからもう許してあげるわ。
英雄殺し?
タイムリミットがある。
早めにアベルを殺さないとせっかく口説き落したアマンダの価値がなくなる。
元の人生を考えればこれでも幸せなのだろうが、そんな物じゃ満足できない。
アベルさえ居なくなれば、これで安泰だ。
アマンダが女伯爵になり、アマンダは子供が産めない体だから次期当主は確実に俺になる。
ここまで筋道がたてば一安心して良いだろう。
今現在の俺は自由に抱けてお金を出して貰える女を手に入れた。
それだけだ、アマンダは20代後半だからこの世界では女としての価値は凄く低いらしい。
これは使用人から聞いた。
この世界の平均的な寿命は50歳前後、殆どの人間が10代後半迄には婚約や結婚をする。
18歳や19歳で結婚していない女性は行き遅れ扱いなのだとか…
俺は前世の記憶があるから、実に勿体ないと思う。
俺はノーマルだから普通に20歳過ぎの女が好みだ。
10代前半以下の女に手を出したらロリコン、10代でも未成年そんな世界の記憶があるんだ当たり前だろう?
俺からしたらアマンダは普通に綺麗な女性にしか思えない。
だから抱くのは普通に楽しいし、問題ない、いや寧ろ楽しい。
だが、この世界の男からしたら《もうおばさんだからそういう対象に見ない》そんな感じだ。
使用人の男性の話では女ざかりは14歳~20歳位、24歳くらいでもうババアという感じだった。
農村では12歳位で結婚して成人、貴族なら10代で婚約は当たり前の世界だった。
そう考えたら、アマンダがあの歳で初婚という事は余程アベルが好きだった、そう思う。
俺から言わせると全員ロリコンじゃないかな。
まぁ10歳でこんな生活している俺が言えた義理ではない。
アマンダの話ではアベルは側室を迎えるという事だ。
側室を迎えて子供が出来てしまえば当然、アマンダのこの屋敷での発言力は弱くなる。
側室の子供がヘンドリックの様になり元の木阿弥だ。
だから、側室が決まり嫁いで来る前にアベルを殺さなければ成らない。
だが、アベルは戦争経験者だ、しかも使用人に聞いたところ《英雄》と呼ばれる程の強者らしい。
そんな奴の相手は昔の俺でも無理だ。
魔法と剣で戦う世界の住民に多少は有名な半ぐれのリーダー、勝てる要素が全くない。
何も手が浮かばない。
そして今日も俺はアマンダのベットの中に居る。
する事をすまして..今はアマンダの頭を撫でながら横になっている。
前世の僕は確かにクズだったが母親とこんな事はしていない。
というかババア相手にそんなことは出来ない….だが..近親相姦の恐ろしさは知らなかった。
正直に言うと…嵌る..それしか言えない。
義母とはいえ母親としての本能なのか..アマンダは僕がして欲しい事が直ぐに解るようだ…そして嫌がる事無く大抵の事はしてくれる。
僕の体も、心も多分、ルディウスの体や心に引きずられるのか..心地よい。
「アベルにバレるのが怖いな..」
「ふふふ、可愛い事を言うのね、バレても問題ないわよ..子供の産めない私はもう女じゃないから…私を愛してくれるのは貴方だけだわ」
最近になってアマンダが解かった気がする。
此奴にとって1番好きな人は別格だという事だ。
多分昔は
アベル>>>>>>>>>>ヘンドリック>>>僕
こんな感じだったんだろう、だけど、今は
僕>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>アベル
こんな感じだと思う。
此奴は母親にはなれない女で、総てが男優先の女なのかも知れない。
前の世界に居たなら育児放棄とかして男につくすそういう駄目女に間違いなくなっただろう。
《何でもするから捨てないでと男に縋りつく..そういう女がいたな。そいつと同類じゃねーかな》
そんな事を考えながら、アマンダの髪を触りながら囁きかけた。
「アマンダ…アマンダの昔について教えて」
「どんな事が聞きたいの? ルディウスになら何でも教えてあげるわ」
「魔法使いの時の話が聞きたいな」
「そう、解ったわ」
《そこから解かった事は…英雄や魔法使いは思った程ではない、そういう事だった。》
「そう言えばアベルやアマンダはドラゴンとか魔王を倒したの?」
「ふふふ、ルディウスはこんな事する位大人なのに..子供の所もあるのね..嬉しいわ」
《たまに、母親みたいな顔もするんだよな..まぁ良いけど》
「だって、英雄や魔法使いでしょう」
「ルディウス、それは物語の話でしょう…英雄の地位はは魔王種を倒せばその資格を得られるのよ」
「どういう事なの?」
「魔王種とはキングという名前がついた魔物の事よ..ゴブリンキング、オークキング、オーガキングって感じね…これらの魔物を6人以下のパーティで倒せば…リーダーに英雄が与えられるのよ」
《伝説の英雄とかでは無くて良かった》
「そうなんだ、勘違いしていたよ..それでアマンダ達は何を倒したの..」
「私達は..アベル、私の2人でトロールキングを倒したわ..」
《微妙だ…だが二人で倒した..どの位の強さなんだ》
「トロールキングってどの位強いの?」
「そうね騎士一個師団を出せば倒せるんじゃないかな..」
「それって凄いね」
「そうよ..私は凄いのよ..だけど、私の全部は..ルディウス 貴方の物だわ」
俺はアマンダに抱きしめ、目を閉じた。
少なくとも英雄は思った程では無かった..だが俺を基準に考えたら充分に強い。
《戦働きだけじゃなくて魔物迄狩っていたのかよ…》
二人で騎士一個師団..ならその半分だとして15人、そんな奴ガキの俺にどうにか出来るのかよ。
そろそろアベルには消えて貰わないと困る。
だがその方法は思いつかない。
英雄殺し? 何故か勝手に死んだ。
その日は朝から騒がしかった。
アマンダの髪を撫でながら寝ていると、けたたましくノックがされた。
「アマンダ様、ルディウス様起きて下さい」
最近ではアマンダは周りを気にすることなく僕と寝ている。
周りはそれに何も言わない。
それと同時に、俺の事は昔の様に《様》を付けて呼ぶ者が多くなった。
理由は二つある。
貴族籍が残っている事に気がついた。
そしてアマンダが俺を最近可愛がっている事から、俺をぞんざいに扱うと不味いと気がついた。
そんな所だ。
特にアマンダが俺を自分の子(笑)の様に扱っているから《使用人として扱う》その話は事実上無くなってしまった。
近い者はもしかしたら本当の関係に気がついているかも知れないが、殆どの者は《仲が良い親子になった》そう思っているはずだ。
「何事ですか?」
アマンダが、貴族らしく返事をすると..
「アベル様が、アベル様が死にました」
「嘘、アベル様が死ぬなんて…」
「嘘よアベルが死ぬなんて..っ直ぐに行きます」
俺は驚きを隠しきれない。
昨日までアベルはピンピンしていた。
しかもどうやって殺したら良いのか、真剣に考えていた。
だが、その方法が思いつかなかったのに…いきなり死ぬなんて、凄く都合が良いが…
何故死んだんだ?
英雄と言われた男、しかもどう考えても健康だった。
昨日も日課の木刀の素振り1000回をこなしていたのに。
兎も角、俺たちは、服を着て急いでアベルの部屋に向かった。
そこには安らかに眠るように死んだアベルの死体があった。
「医者は呼んだのですか?」
「はい、間もなく来ると思います」
「そうですか…誰もこの異変に気が付かなかったのですか?」
「はい、朝来た時にはもう、旦那様はもう」
「アベル、アベル、死んでしまうなんて…私はこれからどうすれば良いのでしょう」
正直僕は悲しくはない..だが、お芝居をしなくては不味い。
「アベル..いえお父様が亡くなるなんて..どうして」
その後、医者が来てアベルの死体を診た。
「何が原因かは解りませんが..心臓の発作が原因かと思われます」
「そうですか…確かにアベルは最近、体が弱くなってたのかも知れません」
アマンダはそう言ったが、そんな事は俺は知らない…見落としていたのか?
「お気になさらない事です..人は何時かは死ぬのですから」
医者はそれだけ伝えると去っていった。
恐らく永く話すのは苦手なのだろう。
そのまま死体はアベルの部屋に安置した。
流石にアマンダも俺も今日は喪に服してやっていない。
まぁ寝るのは一緒だったが、アマンダは結婚相手だから悲しそうな顔をしていた。
俺も一応は子供だから、ならって、悲しそうな顔をした。
翌日には神父が呼ばれ静かに葬儀が行われた。
アマンダが悲しそうな顔をして涙を流していたのでそっとハンカチを差しだした。
あっけなかった、俺はアベルを殺す方法を色々考えていたのに..何もしないうちにアベルが死んでしまった。
これで俺の当座の立場は確率出来た。
ここから何をするか、何を成すか考えなければならない。
英雄殺し? 死んだ訳は…
私は気が付いてしまった。
ルディウスがアベルを殺そうとしている事に。
本来なら、義理とはいえ息子が親を殺そうとしているのだ止めるべきなのだと思う…
だけど、嬉しくてしょうがない..実の父親を殺そうとしている義理の息子が愛おしくてしょうがない。
だってルディウスは私の為に殺そうとしてくれているのだから..ここまで愛されているのかそう思ったらもう…駄目ね..ついニヤニヤしてしまう。
あの子は私に何も言わない..だけど、毎日肌を合わせているから..解ってしまう。
あの子は本当に優しい…私が「子供が出来ない体」そういう話をすると良く見ないと解らない位だけど、悲しい顔をする。
「側室の話や離れの話」をした時も嬉しいという顔と悲しい顔の両方が見れた。
そして、そんなルディウスが私の昔の事を聞いてきた。
どちらかと言うと私より英雄としてのアベルの事について熱心に聞いてきた。
自分では隠しきっているつもりだろうけど…解ってしまうわ…アベルを殺そうとしているんでしょう。
だけど、私は貴方がアベルを殺すのが怖いわ。
アベルが死ぬことも、殺そうとする貴方が怖いからじゃない…貴方が万が一負けて殺されてしまう..それだけが怖いのよ…
私は多分、ルディウス、貴方が死んでしまったら生きていけない。
ルデイウス、貴方が傍に居る事..体をあわせる事はもう私にとって当たり前の毎日なのよ
それが無くなるなんて考えられないわ。
だったら…貴方がアベルに何か仕掛ける前に…私が殺すしかない。
そう考えたら、早い方が良い、側室を迎えたらチャンスが減る。
私は魔法使い…その仕事の中には暗殺から仲間を守る事も含まれる。
つまりは暗殺についてもエキスパートだ。
真正面から戦えば英雄と呼ばれるアベルに私は勝てない..だが裏なら話は別。
王都なら死因は解るかもしれないが..この辺りなら絶対に死因が解らない殺し方が出来る。
そんな方法は幾らでも知っている。
そして私はそれを実行した。
アベルが好む食材で私やルディウスが食べない物に毒をいれた。
それだけで良かった…後はそれをアベルが何時食べるかだけだ。
万が一にもルディウスが食べてしまうといけないので…暫くは自分たちの食事は私が作った。
メイドには「側室が来た時の為に馴れないと」とか「最近息子が愛おしくて..昔を思い出して料理したいのよ」そう言っていたから万が一にも疑われないだろう。
上手くいった…
私はアベルが死んだ時や葬儀の時には悲しそうな顔をしたり、泣いたりもした。
本当は全然悲しくないわ…だってアベルなんてとっくに愛していないから…
だけど、ルディウスには冷酷な女と思われたくない..本当は違っても優しい女だと思われたい。
だから、悲しそうにしていた。
本当は…凄く嬉しい..これで好きな時に好きなだけルデイウスと愛し合える..
その日の夜、私は..いつも以上にはしたなく、燃えた…
ルディウスと過ごす時間は..本当に気持ちが良く..愛おしい..この時間の為なら何でもする。
私はそういう女なのよ。
変わりゆく日常
アベルが死んだ事によりヘングラム家の当主はアマンダになった。
それと同時に俺は1年遅れで学園に通う事になった。
本来は行けなかった学園だが、俺は正式に跡取りになる事が決まりアマンダからの提案で来年から行く予定だ。
学園への理由は「当主が元から病弱気味で亡くなった事による、継承についての整理」と表向きはなっている。
英雄と言われていたアベルが病弱だと言う事は驚かれたが、死んでしまったので《そう言う事か》と誰もが納得したようだった。
だが、本当の理由はアマンダが離してくれないからに他ならない。
「アベルが死んじゃったから、女伯爵になっちゃったわね…まぁ私も子供がもう産めないし、ルディウスが生きがいみたいな物ね! 残りの人生はルディウスと楽しみながら生きていけばいいわ、ルディウスの代でヘングラム伯爵家はもう終わりで良いわね!」
どこまでもアマンダは女だった。
これってさりげなく俺を愛しているという言葉以外に、《浮気は許さない》そういう話が含まれているんだ。
俺も貴族だ、そしてヘングラム家は伯爵だ、婚姻の話位幾らでも持ち上がる..だけど、さらりと結婚はさせないで潰すそう言っているという事だ..凄いなこれは。
普通の貴族は家の存続を全てに優先させる
思っていても貴族である以上は言ってはいけない事だと思う。
最近ではメイドや使用人にも関係はばれている。
まぁアベルが死んでからは所構わずベタベタしてくるから当たり前だな。
だが、さすが伯爵家の使用人、余計な事は言わない。
親しいメイドのアンに聞いてみた。
「良いじゃないですか? お母さまの愛情を取り戻せて、それにそういう関係は案外貴族様には多いんですよ」
「そうなのか」
「はい、よく聞く話です」
ただ、アンは俺とは本当に仲が良い、だからもう一人イライザにも話を聞いてみた。
「貴族様には少なからずある事ですよ! 母と子、父と娘、それで良くいかず後家とか出来るようですね、ルデイス様がこんな根性があるとは思いませんでしたが、案外野心家だったんですね、良かったら私も愛人とかしてくれませんか? ルディウス様よりは年上ですが、若いですし、何なら結婚してカモフラージュにしても良いんですよ?」
此処までくると清々しい。
俺は前世が多分クズだったから、こういう奴の方が話していて面白い。
まぁ《付き合うという意味では》微妙だがな。
将来何か利用価値があるかも知れないから、今は仲良くしておく。
「そうか、まぁ考えて置くよ、有名なお尻の落書きも見てみたいしな」
「ルディウス様、随分変わりましたね、砕けたというか、ワイルドになったと言うか…前みたいにイジイジして無くて、まぁ今の方が素敵ですよ」
下手にメイドと仲良くするとアマンダの機嫌が悪くなり、そのメイドに風当たりが強くなる。
だから、アンやイライザを特別な相手としてあらかじめアマンダに紹介した。
特にアンの事は使用人扱いの時に色々相談に乗って貰ったと盛った。
先に先手を打って、「アマンダと仲良くなりたくて、色々と考えていた時から助言してくれていたお姉さん」そんな感じでアンについては、アマンダに話した。
実際に本当に子供一人であそこまで行動できるか考えたら、普通はできないと思う。
それなら協力者が居た、そう言う風にした方が良いだろう。
居ない筈の協力者をアンにした。
まぁ、話もしていたし、相談もしていたから全部嘘ではない。
その事を話したらアマンダは凄く喜び、他のメイドよりアンを一つ上に扱うようになった。
たまに銀貨をもらってアンも喜んでいるからWINWINだろう。
アンが俺の傍に良くいるが安心しているのかアマンダは笑っている。
それとは別にイライザとも良くしている。
たまに二人でアイコンタクトしてして居ることに気が付いた。
俺は見張り役を作ってしまったようだ。
そして、俺は俺を庇って此処を出て行ったルドルが気になった。
戻ってきてくれるかどうかは解らないが、もし戻らないなら、少なくともあの時に棒に振った退職金だけは払いたかった。
侯爵家にルドルを迎えに行ったがそこにルドル居なかった。
多分、あの時に言ったことは事は僕を安心させるために言った嘘だったんだろう。
最後まで彼奴はカッコいいな。
ルドルを探すために冒険者ギルドに依頼を出しに行ったら、何と、そこにルドルがいた。
ルドルは凄くやつれていた、何かの品物を換金していたがどう見ても銀貨だ。
「ルドル!」
「ルディウス…これは恥ずかしい所を見せてしまいましたな」
ルドルは歳だ、いかに優秀でも再就職なんて、そうそうあるはずが無い。
それなのに、此奴はそれを捨てて庇ってくれたんだ。
やっぱり、ヘングラム伯爵家、いや俺にとって必要な人間だ。
「ルドル、お願いだヘングラムに帰ってきてくれないか?」
「ルディウス、お前にその権限がないだろう?」
「そこで座って話さないか?」
俺は、全て話すのが筋だと思い、今の現状の全てをアマンダとの関係も含み全部話した。
アマンダが子供の産めない体になった事、自分との仲が良くなった事、嘘をつきたくないから男と女の関係であること。 そして自分が恐らく次の当主になるが…そこでヘングラムが潰れる可能性が高い事。
「なるほど、話は解りました。それなら私はヘングラムではなく、ルディウス様とアマンダ様に仕えれば良いわけですな」
「お願いできるかな?」
「解りました、ルディウスお坊ちゃん、いやルディウス様、昔のように務めさせていただきましょう。あっ執事になる前に一言言わせてください」
「何でも言ってくれ」
「ルディウス、面構えが変わりましたな、それと形はともかく取り戻せて良かったな..ここからは執事に戻りますので今の無礼は平にご容赦ください」
「うん、ありがとう」
これで多分、どうにかヘングラムもどうにか回るだろう。
これからが学園に入るまでの一年…アマンダに魔法を死ぬ気で教わろう。
そう思った。
新しい一日の始まり
アマンダについて魔法を教わろうとした最初の日
「これはねルディウス、決して意地悪を言うためじゃないのよ? もう一回教会に行きましょう!」
アマンダについて教会に行った。
俺が凄く冷遇されていた訳は、前妻の子だっただけではない。
生まれた時に簡易ステータスチェックをしたら俺の魔法や剣術の適性が随分低かったそうだ。
あくまで簡易だからと事細かく調べたりは出来ないが魔力が多いのか少ないのか、剣に対する適正とかある程度解るらしい。
それで才能が無いと判断され、ある意味利用価値が無い、そう思われた俺は、使用人扱いになったそうだ。
このことはアマンダが凄く済まなそうそうに話してくれた。
だが俺もう10歳。
10歳になった俺はもう適正でなく実際のステータスが解る
ルディウス
LV 2
HP 80
MP 240
ジョブ 魔法使い (転生人)
スキル:アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1 格闘レベル1
ちなみに(転生人)は他の人にはぐちゃぐちゃした文字に見えるらしい。
「流石、ヘングラムの名に恥じない素晴らしい才能ですな、特に魔法については天才としか言いようがありません!これなら学園でも十分上位の成績を狙えますな」
「司祭様、この数値は間違いないのね…」
「はい、間違いなくルディウス様は凄い才能に恵まれていますね」
「この子は、前にここで簡易ステータスチェックを受けた時に魔力適正が20って言われたわ! そして剣術適正30って、これはどういうことなのかしら、前の時に何か間違いがあった、そういう事かしら!どう説明してくれるの? この子の一生をあと少しで終わらせてしまう所だったわ」
「このようなステータスの子がそんな適正の訳ありません、前の司祭の間違いとしか..」
「この事は王宮にも伝えます..厳しく」
「すいません、司祭様、ちょっと席を外します、お母さま、落ち着いてね」
「これが落ち着いていられますか? ルディウスは..」
「良いから、ちょっとね..」
僕は無理やりアマンダの手を引いて馬車に戻った。
「ルディウス..あなた、うぐうんううう」
何時ものようにキスをした。
「アマンダ、落ち着いてくれた」
「まぁ、はい落ち着いたわ、だけど教会は本当に許せないわ、絶対に抗議しなきゃ」
「それだけど、多分、司祭様は悪くないと思うんだ」
「ルディウス、それはどうして、そう思うの?」
ここで、僕が気付いた3つの事の内1つをアマンダに伝える事にした。
それに多分、これが一番アマンダが喜ぶ話だと思う。
「上位の魔法使いに魔力を流して貰うと、魔法の素養のない人でも魔力があがったり才能に目覚めるという本を読んだんだ」
「それは私も知っているわ、それとどう関係があるの?」
「手を触れて流すだけでそうなる事があるんだよ、僕とアマンダは何していたのかな?」
アマンダの顔が茹蛸のように赤くなる。
「そうね、そういう事なのね」
「手を触れて流すだけで、そういう事が起きるなら、それ以上の事をすればもしかしたら、こういう奇跡が起きるんじゃないかな?」
「そそそそそ、そうね、あれだけ愛し合ったから、確かにそれ以上に魔力は流れていたかも知れない..それに、最後までしちゃってた訳だから、一体感やふれあいから快感まで全部共有しているから、可笑しくないのかも..」
「でしょう? ほら、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1 アマンダの苦手な光魔法は入っていないよ?」
「ほんとだわね!」
「あのね、これはアマンダが僕を愛してくれたからおきた奇跡なんだよ! ありがとうアマンダ!」
こういう所、本当にずるいと思うのよ、大人になったり急に子供になったり、恋人といて子供として私の愛を根こそぎ持っていくんだから…今は母親として愛しましょう..
「よかったわねルディウス、それじゃ司祭様の所へ行こうか?」
「うん」
しかし、これ世紀の大発見だけど、どこにも公表できないわね..恐らくただ体を重ねただけじゃこんな事は起きないわ、もしそれで起きるなら高級娼婦は全員、大魔法使いになるわ。
恐らく、母子それが原因だと思う。同じような素養を持つとか、肉体の一部が同じとか、そういった別の条件が必要な筈よ。 近親相姦が条件…到底発表はできないわね。
戻ると司祭は青ざめていた。
「さっきは取り乱して申し訳なかったわね、逆ならともかくこれは喜ばしい事だから文句は言わないことにしたわ! 前の司祭は許せないけど、あなたはしっかりとこの子の才能を見出してくれた、それで前回の事は水に流します!」
「お許し頂きありがとうございます」
「良いのよ!今日は素晴らしい日だわ、司祭様もこの子の幸せを祈って頂戴!」
「はい」
「それじゃ、今日は最高のレストランで最高の食事を食べて帰りましょう!」
「はい」
アマンダは凄く楽しそうにルディウスと一日を過ごした。
貴族の間では子供が10歳になると祝う習わしがある。
少し遅れてルディウスはその権利を手にした。
新しい一日の始まり 裏
俺はステータスを見た瞬間なぜこうなったのか2つの事が思い浮かんだ。
そしてそのうちもう1つは非常に不味いものだった。
だから、アマンダが喜ぶ答えに誘導した。
「上位の魔法使いに魔力を流して貰うと、魔法の素養のない人でも魔力があがったり才能に目覚めるという本を読んだんだ」
「それは私も知っているわ、それとどう関係があるの?」
「手を触れて流すだけでそうなる事があるんだよ、僕とアマンダは何していたのかな?」
アマンダの顔が茹蛸のように赤くなる。
「そうね、そういう事なのね」
「手を触れて流すだけで、そういう事が起きるなら、それ以上の事をすればもしかしたら、こういう奇跡が起きるんじゃないかな?」
「そそそそそ、そうね、あれだけ愛し合ったから、確かにそれ以上に魔力は流れていたかも知れない..それに、最後までしちゃってた訳だから、一体感やふれあいから快感まで全部共有しているから、可笑しくないのかも..」
「でしょう? ほら、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1 アマンダの苦手な光魔法は入っていないよ?」
「ほんとだわね!」
「あのね、これはアマンダが僕を愛してくれたからおきた奇跡なんだよ! ありがとうアマンダ!」
これが円満な答えだと思う。
アマンダにしても自分と体を重ねる事で僕を幸せにできた。
女として母親としても満たされた気持ちになれたと思う。
だけど…
多分、本当は違うと思う、恐らく僕が考えた説の中でありえない説だ。
ここを見てほしい。
ルディウス
LV 2 ←
HP 80
MP 240
ジョブ 魔法使い (転生人)
スキル:アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1 格闘レベル1
LV 2になっている。
俺はまだ討伐をしていない。
普通の貴族の子供は学園に入るまで討伐はしない。
じゃぁ僕が討伐したものは何か、ヘンドリック僕の弟だ。
人を殺したからここまでのステータスが手に入ったのか正直解らない。
それとも、身内を殺したからこうなったのか解らないがLVが上がってステータスが上がったのなら何だかの関係があるだろう。
少なくとも他にLVが上がった意味が解らない以上ヘンドリックを殺したことに意味があると思う。
あとは多分(転生人)
が何だかの作用を起こしたのかも知れない。
レベルが上がるという事は《何だかの経験を積んだという事だ》
前世の経験が引き継がれるたとも考えたら、それならこんなに低い訳はない。
そう考えたらヘンドリックを殺したからレベルが上がった。
そんな所かも知れない。
原因と才能
今日はアマンダから魔法の基礎を教わっている。
それでどうしても一つだけ聞きたい事があった。
「レベルや経験値って人間を殺しても入るの?」
「何故、そんなことを聞くのかしら? 今の授業と関係ないわ!」
「いや、ふと思ったんだ、もし、人を殺して経験値が入るなら王都の処刑人は凄く強いんだろうなって」
「馬鹿ね、同族は殺しても経験値は入らない…常識でしょう! そんなの当たり前すぎて本にも書いてないわよ!」
「そうだったんだ..ごめんねアマンダ」
「ちゃんと身をいれて聞きなさい」
これでおおよそ、自分に起きた事が解った。
恐らく真相はこうだ。
ヘンドリックを殺した、普通なら経験値は入らない、だが俺は恐らくこの世界の人間というくくりから抜けている
恐らく俺はこの世界で人間というくくりから少し外れている…つまりこの世界の人間で無く、転生人という別種族なんだと思う。
だからヘンドリックを殺してレベルがあがった。
子供一人殺してレベルがそんなに上がる物だろうか?
いや、これも説明がつく、ヘンドリックは英雄アベルと魔法使いアマンダの子供だ。
そう考えたら、魔物になおせばキングやロードに近いのかも知れない。
例えばゴブリンだ、長年鍛え上げたゴブリンよりも生まれたばかりのゴブリンキングの方が遙かに高い経験値が入る、と本には書かれていた。
そう考えたら ヘンドリックは魔物にしたらキング種に値したのかも知れない。
早目に殺して正解だった。
恐らく、彼奴が強くなりだしたら、もう終わりだった。
「ルディウス、ちゃんと聞いていますか?」
「ちゃんと聞いているよ…だけど、魔法基礎概論は、全部覚えているんだ..だから違う事がしたいと思って」
「本当に覚えているの? じゃぁ幾つかの質問に答えて」
「正解だわ、凄いわ、流石私のルディウス、いったい何時覚えたのかしら?」
「悲しいから言いたくない..」
「あっごめん..」
僕は才能が無いといわれてからの唯一の自由が本を読む事だった。
少しでもと思い、書庫の本は大体一通りは目を通している。
「大丈夫だよ、アマンダ、だけど僕は書庫の本は大体読んでいるんだ..だから実技を教えて」
「ええっ解ったわ..それなら私の十八番よ、任せなさい!」
外に出て修練場に向かう。
ここはアマンダやアベルが体が鈍らない様に鍛えていた場所だ。
「最初はやっぱりファイヤーボールからかしらね?」
「その前にアマンダに見て欲しい魔法があるんだ?」
「そう、魔法迄独学で勉強していたのね..ルデイウスは努力家なのね、いいわ見てあげる」
愛されるって凄いな、こんな優しい顔をするんだな…
まぁ良いや、期待に応えないとな。
魔力は僅かで良い、拡散しないように圧力をかけるようにして抑え込む、そして解き放つ。
「ファイヤーニードル」
「何も起きないじゃない?失敗したの? へんな名前の魔法ね..聞いた事も無いわ…やはり独学じゃ良くないわ、しっかり基礎から」
「アマンダ、的を見に行こう」
「やっぱり何とも..嘘、これは!」
「やった貫通しているでしょう?」
的は小さな穴があき、プスプスと音がたっている。
「凄いわね、これどうやったの?」
「僕って魔力が絶望的って話しをメイド達から聞いたから、魔力は少な目で威力がでる魔法を考えたんだ」
《魔力なんて関係なかったのね..この子がもし、魔力適正が20のままで才能が無くても、一流にまで手が届くわ》
「凄いわね、これ、こんなに目に見えない程の炎で板を貫通するなんて..どうやったの?」
「魔法に圧縮をかけて..」
「待って、圧縮って何それ..」
《しばらく聞いて意味は解った..だけど、それ、ルデイウスにしか出来ないと思うな、ベテランの魔法使いの私に再現できないんだもの》
「対人用のオリジナルスペルか..凄いわねルデイウス」
「そんなに凄いかな..これ」
《充分凄いわ、魔物相手には通用しないけど、対人なら、初見に限定すればアベルや私にも通用するわ。見えにくい炎の針で目を潰されたら十分な脅威だわ》
「うん、よく頑張ったわルディウス、今日はまたおいしい物を食べに行きましょう」
「ありがとう、アマンダ」
この子の最大の武器はこの発想力だわ..何処をどうしたらこんな発想になるのかしら。
魔法使いと呼ばれるにはただ魔法が使えるだけでは呼ばれない。
いくつもの魔法を使い、魔力に優れた者のみが呼ばれる名前….それが魔法使い。
私から魔法を学びたいという人は結構いたが皆断った。
だけど、この子には才能がある、いや才能というより発想力だ。
だから私はアドバイスしかしない、何故ならこの子は私を超える魔法使いになれる、そう思うからだ。
俺なりの魔法に関する考え
この世界の魔法使いはある意味アホだ。
確かに大きくすれば威力は増すだろうが、当たらなければ意味が無い。
例えばファイヤーボールだ。
何故、あんな大きさにする必要があるんだ。
ボール位にしてしまえば、避けるのは簡単だ。
野球をやった事がある人間なら避けれるんじゃないだろうか。
だったら、それこそ小さな針か爪楊枝位にして目を狙ったり、貫通力をつけて発射すればその方が遙かに良い。
拳銃を越える貫通力で頭でも打ちぬけば死ぬだろう。
更に驚くのは、水魔法だ。
前世の知識のある俺からすれば、何で態々外の水を使うんだ?
人間の体の中の大半は水だ、外にある水を態々使わなくても体の体液を使えば楽じゃね?
例えば、血流を操作して脳に血が行かなくしたり、目の眼球に繋がる動脈や静脈辺りの血を操作すれば簡単に殺せそうな気がする。
内臓にしても手足にしても血が通わなくなれば、どの位の時間が掛かるか解らないが多分大変な事になる。
そう考えたら、態々、凍らせて大きな物体作ったり、水で小型の竜巻を作る魔法なんて必要なくなると思う。
ぶっちゃけ、ファンタジーだから解らんが、竜だって脳を壊されたら死ぬんじゃないかな?
確かうろ覚えだけど、脳みそって水の中に浮かんでいるんじゃなかったか?
えーと、何だ、そうだ脳脊髄液だっけ?
それを操り、頭の中をかき混ぜたら…死んじまうんじゃないかな?
まぁ火魔法は兎も角、水魔法はアマンダにも内緒だ。
もし、これが可能であれば、ファンタジー世界だから完全とは言えないけど…魔王だろうが勇者だろうが殺せる気がする。
この辺りは何時かどこかで実験してみる価値がある。
闇魔法は何か面白い活用は解らないが、風魔法も他の魔法と同じで大袈裟にしないで、簡単な動作で急所を切り裂くように考えれば良いんじゃないか?
例えば、前世でいうメスに近い刃を作って頸動脈を斬る。
そんな事でも出来れば十分な気がする。
この辺りはおいおい考えて行くしかない。
取り敢えずこう言った方法が魔物にも使えるか、考えてみる価値は充分あるはずだ。
実験
今日は朝から森に来ている。
まだ子供だからという事で反対されるかと思ったら、以外にも反対はされなかった。
アマンダ曰く、「近くの森なら良いわよ? 普通にメイドや使用人も鳥や兎を狩っているからね」との事だ。
勿論、俺はそこの場所にはいかない。
ヘンドリックを殺した沼の近く、あそこに行く。
あの辺りは稀に魔物が出る危ない場所と聞いた。
ゴブリンやリザードマンが出るから、使用人は近づかないらしい。
だからこそ行く必要がある。
自分なりに考えたこの魔法が本当に通用するのか試さなければならない。
動物や人間には確実に利く筈だが、魔物に利くか試してみる必要がある。
沼の近くに陣取り、魔物の出現を待った。
待つ事2時間、現れたのはリザードマンだった。
風魔法で切り裂くのは失敗したら不味い。
それに比べて水魔法の方なら、失敗しても何処から仕掛けられたのか解らないから丁度良い。
今回はぶっつけ本番だ、場合によっては何回も挑戦しなければならない。
前回の火と違い、相手の体の中の水を使う。
だから、杖の先に意識を集中するのではなく、杖から先に線が伸びているのをイメージ。
そして、その先の線がリザードマンの頭の中まで伸びている…無理やりそういうイメージを頭の中でしてみる。
リザードマンの様子を見てみたが…今の所は全然気がついていない様だ。
そのまま意識を集中して、脳が浮かんでいる水を竜巻の様に高速回転させた。
恐らく、脳が千切れていっているのか繋がる血管が千切れているのかは医者で無いから俺には解らない。
だが、リザードマンは頭を抱えて、苦悶の表情を浮かべて死んだ。
次の実験に入ろう。
リザードマンの死体がをそのまま放置していたら、ゴブリンが現れた。
今度は2体だ。
同じ要領で体の中で火が起こせたら、人体発火みたいで楽しそうだな、そう思ったが、体の中に火は無い。
何も出来なかった。
だが、よく考えて見れば、体の中に水以外である物がある。
肺に空気がある。
今度は、肺の中にある空気を昔読んだ漫画の知識のように渦を作りまわしていく、そし風の刃をイメージして回したら。
うん、これも凄い体の中から切り裂かれて死んだ。
もう一体のゴブリンはいきなり仲間のゴブリンが死んでので何があったのか、周りを警戒して見ている。
今度はあらかじめ考えていた《陸で溺死魔法》を使ってみた。
これは簡単、相手の食道めがけて水を大量に発生させる…ただ、それだけだ。
普通に考えればこれで溺死するはずだ。
これもやはり、簡単だった…ゴブリンは陸なのに溺れた様にのたうちまわり死んでいった。
闇魔法は、実はまだどう使うか解らない。
アマンダの話だと魔法=イメージのようだ。
詠唱して魔法が放たれるのが通常らしいのだが、慣れてくると詠唱短縮や無詠唱ができるらしい。
だが、俺には前世の記憶がある。
そして、俺が生きて来た世界では、沢山の想像を掻き立てる物語があった。
だから、この世界の人間より《想像力》はあるんだと思う。
だから、詠唱なんて関係なく、魔法が使えた。
アマンダの話では、体の中に何かするような魔法は無いらしい。
これはもしかしたら《そんな物は出来ない》そういう思い込みからかも知れないし、別の要因があるのかも知れない。
俺は別に勇者や英雄になりたい訳でない。
勝てれば良い…それで良い筈だ。
なら、この魔法はうってつけだ。
外からの攻撃で無く、体の中からの攻撃は恐らくどんな生物にも通用するはずだ。
特に脳に対する攻撃は、考え方次第では 記憶や人間性を壊したり、殺さないで半身不随にしたり、応用が利きそうだ。
今日の訓練兼ねる実験は此処まで。
兎でも3羽位狩って帰れば疑いはされないだろう。
ムカつくメイドは完全な手下
「今日もお子様はお出かけですか? 良いですね暇で」
イライザの奴、雇ってやる口添いをしてやったのに喉元過ぎればって奴か。
「お前にいちいち説明する必要はないだろう」
「あのさぁ、勘違いしないで下さいね、私が素で話す相手は信頼している相手だからですよ?」
「俺は今はもう、使用人じゃないぞ」
「そう、それよ、貴方、前は僕と言っていたわよね? 私は人を見る目には自信があるの、前の貴方は絶対に負け組、負け犬にしか見えなかった、精々が酒場で管を撒いている様なクズね」
何なんだ此奴は、まぁ昔の俺の仲間に近いのかも知れないな。
「面白い事言うんだな」
「満更、間違ってないと思うよ? 今の貴方、凄い目をしているもの」
「凄い目?」
なかなか面白い話だ。
「そう、そうね、犯罪者とか復讐者の腐ったような目、そしてギラギラしている」
「もし、そうだな、ギラギラしたような奴だったらどうなんだ」
「そうね、どうもしないわ」
一枚噛ませろとか言うんじゃないのか?
「解らねーな」
「あはははっ、簡単よ、貴方は私の見立てではとんでもない悪魔みたいな奴だから、まぁ何か良い話があれば声を掛けては欲しいけど」
此奴を噛ませてやった方が面白そうだ。
昨日の魔物の素材も此奴なら、売る事が出来る。
「だったら、仕事を手伝って貰おうか? 金は半々で良い」
「それリスクは無いの?」
「完全に無いとは言わないが、比較的安全だ」
「それじゃ、乗るわ」
こうしてイライザを仲間に引き入れる事にした。
さてと、昨日は魔物で実験したから、次は人間だ。
「イライザに聞きたいんだけど、何処かに盗賊とか巣をくって居そうな場所知らないか?」
「私は知らないわね…だけどギルドの掲示板でも見れば沢山情報が貼ってあるわ」
「だったら、それ調べてきてくれないか?」
「冒険者にでもなる気」
「その気は無いな」
「盗賊の財宝でも盗む気かしら?」
「そんな事しないな…俺が色々した後で、その財宝とやらがあるなら半分やるよ」
「太っ腹だね」
「まぁな」
「それで、貴方は何がしたいの?」
「人殺しと実験!」
「嘘よね…嘘、冗談ですよね」
俺は少し軽薄そうに笑いながら答えてやった。
「本当だよ…手伝ってくれる仲間が欲しかったんだよ」
「いや…辞める、そんな事なら」
「あのさぁ、此処まで話したのに俺が抜けさせると思っている訳? 逃げたら伯爵家の総力で探して殺すよ? その前にもうイライザは逃げられない」
「どうしてよ…」
俺は昨日の要領で頭に見えないラインを繋ぐようにして軽く脳を揺さぶった。
イライザは急に顔色が悪くなり、その場に倒れた。
「はぁはぁ、何をしたの?」
「お前に呪いを掛けたんだよ…俺の命令に背いても死ぬ、そして俺を裏切るような事を考えた瞬間死ぬ、そんな感じだ」
「悪魔..私にそんな事したの?」
「大丈夫、そんな酷い事はしないつもりだ」
「そんな、解らないじゃない、あんたが気が変わっただけで私は殺されるじゃない」
「そうかもな、それじゃ、ギルドに行って盗賊でも何でも良いから、殺しても文句ない人間探してきてくれ」
「それなら、スラムの人間でも殺せば」
「おい、ふざけた事言うな、金が無いだけの人間殺すなんて俺はしない..」
俺の前世は寧ろ、そいつらに近い生活だった。
だからかも知れないが怒りが顔に出ていた様だ。
「解りました…それでは行ってきますので、奥様には上手く言って置いてください」
俺が軽く手を振ると、直ぐにイライザは居なくなった。
実験?
イライザから話を聞いて、俺は盗賊が根城にしている洞窟に来た。
勿論、横にはイライザがいる。
「本当に来ましたが大丈夫なんですか?」
かなり離れた場所から盗賊の出入りを見ていた。
案外、俺が使っている魔法は遠距離で使えるみたいだ…ただライフルみたいに一瞬でとはいかなく、速度は恐らくオートバイ位の速度な気がする。
「まぉ大丈夫だろう…運が悪けりゃ死ぬだけさ」
「冗談ですよね?」
「死ぬだけさ、気にすんな」
まぁ冗談だが…
「気にしますよ、私まだ結婚もしてないんですよ」
「そのお尻じゃ無理だ諦めろ」
「酷い」
馬鹿な話をしている隙に見張りの男が2人出て来た。
そこに、俺は前の要領で頭に杖を向けてそのまま伸ばしたイメージをする。
ゴブリンの時の様に思いっきりかき混ぜるのでなく、軽くかき混ぜるイメージをした。
すると見張りの一人の体が痙攣をおこして、まるで痺れた様に体がなっていた。
「一体、何をしたの?」
俺はあえて本当の事を言わない。
「呪いを掛けてみたんだよ…イライザにしたような感じの奴」
「呪いですか?」
意外な事に、魔法がある世界だから呪い位あるかと思ったら無いらしい。
そして、魔法も、杖を使って火や水を出すものや治療の物もあるが、全て可視出来る物しかない。
つまり、俺の様に《見えない》《いきなり何処かに出す》そういう物は誰も知らない。
それに答えずに、1人が痙攣した為、大声を出しているもう一人も同じ様にした。
但し、さっきより更に緩やかに…それでも同じ様に頭を抱えて転がりまくっている。
多分、この魔法は強弱を上手く調整すれば《もっと応用が利くはずだ》
取り合えず、今日はこれで終わりで良い。
あくまでこれは実験、討伐に来たのではない。
「あの、ルディウス様、あの呪い、私に本当に掛けたんですか? 冗談ですよね?」
「別に良いだろう? 俺に逆らわないなら、大丈夫だから」
「そんな…」
「まさかイライザは僕に逆らったり、裏切ったりはしないよな」
その顔を見たイライザは生きているここちがしなかった。
学園篇 スタート前
いよいよ学園に向い旅立つ日が決まった。
俺は1年遅れで入学するが、貴族にはよくある事らしい。
事前の話では、今年の学園には大物貴族の息子は居ないらしい。
上級生にも公爵や侯爵の家族は居なく、王族も居ない。
そういう意味では伯爵家の俺は、恐らく家柄では一番上になる。
ただ、それとは別に、ちょっとした問題もある。
それは、学園に《勇者》と《剣聖》が入学してきた。
ちなみに、賢者は既にアカデミーを首席で卒業しており、聖女は生まれながらに教会で学んで居たので学園に通う必要が無いと判断されたらしい。
勇者達が学園を卒業するまで、賢者はアカデミーで研究をして、聖女は奉仕活動を行って待っているそうだ。
この二人は人格者として通っている。
だが、問題は…学園に通う二人だ。
勇者 アルトランは元只の農民だったが、ある時神託で《勇者》になった。
それからの此奴は、貴族を貴族とも思わない、粗暴な人間になったらしい。
噂によると、領主の娘を犯したという噂もある位だ。
剣聖のベーダは元はスラムの人間だったが、同じく神託で《剣聖》に選ばれそれからは好き放題。
噂では人を既に殺したという話も聞いた。
本来なら、俺は貴族だから付き人としてメイドを2名連れていける。
だが、絶対に何か巻き込まれそうだから、俺は単独で行こうとしたが…
「貴族の体面に関わるから、執事としてルドルはつけるわよ良いわね?」
ルドルなら優秀だし、問題無いだろう。
何より男だ。
まぁ、俺も前世はクズだ、だからもしかしたら、面白おかしく付き合えるかもしれないし、逆に反目するようならどうにかしないとな。
しかし、この世界の女神は頭が可笑しいのか?
少なくとも噂で聞く限り《こんな人間勇者には向かない》むしろルドルとかの方が善人だ、こんな奴らを選んだ時点で女神が信じられない。
俺にはどうでも良い事だ。
敵になるのか味方になるのかは会ってからのお楽しみだ。
「ルディウス様、馬車の準備が出来ました」
「ありがとう、ルドル」
ルドルと俺は馬車に揺られながら王都にある学園へと向かった。
しかし、暇でしょうがない。
前世ならスマホや雑誌、色々と時間を潰す方法があるが今は無い。
馬車も、昔俺が乗っていた車と違い、凄く疲れる。
貴族用の馬車でこれなんだから、一般人の乗り合い馬車はさぞかし大変なのではないか…本当にそう思う。
「ルデイウス様、確かに勇者様や剣聖様の素行の悪さは聞いておりますが、流石にメイドもつけないのは恰好が付きませんぞ」
「それなんだが、貧民街の人間で娼婦まで落ちた人間か、性処理奴隷で売られているなかで、そっちの方もそこそこ経験済みの女でも買おうと思う、まぁ娼婦上りでもいればめっけものだ」
「何故ですかな?」
「いや、俺に一番きつくあたっていたイライザでも今となってはそこそこ仲が良い…だれもうちのメイドには犠牲になって貰いたくない」
「随分とお優しい事ですな」
「貴族としては甘いか?」
「その甘さがあるからこそ、私が仕えているのです」
「それで、どうだ? 体を売る人生を送っている者なら、少なくとも偶にしかされないなら、今より幸せだろう? 雇うなら充分な金を払う、もし奴隷を買うとしたら、俺が学園から去る時に開放かそのまま奉公するか選ばせてやるつもりだ」
「それなら奴隷にとっても良い事ですな…それなら奴隷の方が良いでしょう」
「何故だ?」
「貧民街やスラムの人間は身元が解らないですし、何をしでかすか解らない、だが奴隷ならある程度身元は解りますし、何より奴隷紋で縛る事が出来ます」
「なら奴隷一択だな」
「それが良いでしょうな」
俺の学園生活の準備は…どうやら奴隷を購入する事からスタートしそうだ。
奴隷購入
学園に通うまで後4日間残して俺は王都にたどり着いた。
前世の記憶があるせいか、余り感動は無い。
これなら、田舎のちょっとした街の方が遙かに開けていたと思う。
ただ、一つだけ気になったのは奴隷商だ。
流石に前世でもこれは経験したことが無い。
「ルドル、奴隷商ってどんな感じなのだろうか?」
「流石の私も中に入った事は数回しかありません、まぁ貴族を騙す様な輩はいませんからご安心下さい」
「なら、良い」
俺は親元を離れるとともに《僕》を辞めて《俺》にした。
偶に《俺》というとアマンダが《背伸びしちゃって》という目線を向けて来るから《僕》から卒業が出来なかった。
奴隷商は思ったよりクリーンな感じだった。
てっきり、前世でいう所のハピーミル(子犬製造工場)みたいなイメージだったが違った様だ。
「これはこれは貴族様、どんな奴隷をお望みですか?」
ルドルは任せると言った目をしていて、何も口を挟んで来ない。
今回の目的は、《勇者や剣聖に気に入られない》と言う事が一番の条件だ。
そう考えたら、年配が良いだろう、そして万が一《酷い目》にあってもそれを引きずらない者が好ましい。
「歳は22歳を超えた位、性処理が可能な奴隷で、出来ればスタイルが良くて、見目が平凡か少し劣るような女性が良い、娼婦出身でも構わないが、言葉使いが丁寧なら尚よい」
「貴族様にしては、随分と安物をお求めになるのですな」
俺は事情を話した。
勇者や剣聖が《人でなし》なのは最早有名な話なのでそのまま伝えても良いだろう。
それに奴隷商人は貴族や大商人相手に仕事をしている。
口が軽ければ商売にならない。
「懸命な判断ですな、確かにそれなら奴隷が一番でしょう…更に体を使う事が宿命の様な者ならおっしゃる通りです、さらに20歳を超えて女性としての魅力が乏しい者ならうってつけです…それではご案内致しましょう」
なかなか商売がうまい。
一番最初は高級そうな奴隷の傍を通っていく。
この辺りに居るのは、多分エルフだ…見た目まるで小説のヒロインの様な容姿の女性が高級な家具で休んでいる。
そこを通り過ぎると、少し粗末な檻の所に来た。
だが、そこは刑務所の檻のような感じで案外衛生面はしっかりしている。
「ここから先が、恐らく貴族様の望みの奴隷がいる場所になります、貴族様の望みは《誰も望まない様な奴隷女》どうしても扱いは酷くなります、それだけはご覚悟下さい」
カーテンをくぐって薄暗い場所に入った。
入った瞬間に雰囲気が変わった。
まるで手入れをしっかりしてないペットショップや動物園の様な嫌な臭いが鼻に着いた。
「私は余りこういう者を見たいと思いません」
「なら、ルドルは無理して入らないで良いぞ」
「すみません」
案外ルドルはあれで生真面目だから、こういう惨い環境は嫌いなのかも知れない。
入った瞬間、目に付いたのは健常者で無い存在も多いという事だ。
手が無い者や足が無い者も居た。
「驚きですかな? 女としてただ使うだけなら、別に片手片足が無くても問題はないでしょう? 最悪、手足全部無くても使えます、男にしたって片手や足が1本無くても使い道はあるのです」
確かに性処理道具なら手足が欠けていても問題無いし、作業によっては四肢のどれかが欠けてても使えるだろう。
「俺が欲しいのは…」
「解っております、ですが、此処をよく見て下さい、全員が16歳以下です、20歳越えたババアに比べたら例え四肢に異常があっても若い子の方が奴隷としては高く売れるのです」
本当に勿体ない…俺にはそうとしか思えない。
「そういう者なのだな」
「はい…そして、此処から先が、当商会でも一番安い女奴隷になります」
確かに、20代以上に見える…だが、俺から見たらかなり容姿は良い者も居るような気がした。
「思ったより数は居ないんだな」
「20過ぎでは性処理可能でも価値は低いです…売れなければ鉱山にでも卸すしか無い者達です、あと場合によっては性病持ちもいますが、薬で治療可能な者しか置いておりません」
人数は12人居る、俺から見たらどれも悪くはない。
「此奴は、何で安いんだ、そう悪く無い様な気がするが…」
俺から見たら《大和撫子》 黒髪に黒目、純日本人にしか見えない、何処から見ても綺麗だ。
そして、時代劇のお姫様の様に綺麗だ、メイド服なんて着せたら思わず襲いたくなる位の美女だ。
「はぁ? 黒髪に黒目、その時点で不細工決定ですよ! なんか見ているだけで憂鬱になりませんか!」
「それじゃ、襲われないという意味では安全だな…それじゃ此奴は男の経験は無いのか?」
「それはあります」
聞くと結構悲惨な話だった。
何でも農村地帯で醜い農夫の嫁をしていたが、この年まで子供が生まれなかったので売り飛ばされてきたそうだ。
まぁ、農夫はまるでオークの様に醜かったから嫁が探せず、醜い黒髪の女でも居ないよりはましとばかりに貰ったのだろう。との事だ。
売りに来た人間は《こんな醜い女なのに我慢して抱いてやったのに子供も出来ないなんて役立たずな嫁じゃ》そう言っていたそうだ。
結局、嫁を売り飛ばして、お金を足して若い女を買っていったとの事だ。
「俺は屋敷から余り外に出た事が無いから解らないが、此奴は醜い男でも抱きたくない程、醜いのか?」
「普通の男ならまず抱きたくないでしょうな…これ程醜いと、男性のシンボルだって立たないんじゃないですか」
俺から見たら、和風美女だ。
「それじゃまず一人は此奴に決めた」
「そうですか…有難うございます」
どう見ても美女だ。
俺から見て美女でこの世界でブサイクなら最高じゃないか。
そういう奴が他にも居るとありがたいんだが…居た。
髪の毛は銀髪で、目が少し赤い、そして肌は陶磁器の様に白い。
まるで、アニメのヒロインが大人になった様な姿だ。
「此奴もそうなのか?」
「貴族様も本当に、変な奴ばかり目が行きますね…どう見ても化け物に見えますよ、まぁこれでもれっきとした人間ですが」
確かに、バンパイヤかホルムニクスの様に見えなくもない。
「さっきの一人とこの子なら、その勇者や剣聖…大丈夫でしょうか?」
「あはははっ、こんな女抱くなら、まぁ別の意味でも勇者ですよ..私には到底無理だ」
「なら安心だな」
「絶対とは言いませんが、普通なら手を出そうと思わないですよ…だってこれですよ」
まぁ良いや…
この二人以外も俺には真面に見えるが、この二人は度を越して美女だ。
凄く勿体ない、確かに寿命が短い世界では行き遅れなのかも知れないが、俺から見たら美女だ。
迷わず俺は「二人を購入しますんで手続きお願いします」と声を掛けた。
こうして俺は奴隷を2人手に入れた。
奴隷と屋敷
支払った代金は2人合わせて銀貨60枚。
金貨1枚以下なのに驚かされた。
この世界で俺は貴族に産まれたから今迄解らなかった。
生まれによっては人の価値なんて物凄く軽かったんだな。
彼女達の人生はそれぞれ銀貨30枚。
これは前世で言うなら、その気になればサラリーマンでも稼げるお金だ。
日本に生まれたら、どんなドブスだってお金で売られる事は無い。
万が一どんなクズであっても殺してしまえばその状況に応じて高額なお金を払わなければならない。
そう考えたらやはり命の軽い世界だったんだ。
しかし、この二人は俺から見たらやはりとんでもない美女だ..だが…
「ルディウス様、幾ら醜女を選ぶ予定だったとはいえ、あれは無いですな、あれはまるで化け物ではないですか?」
「そうか、歳は喰っているが、そこ迄酷くもないだろう?」
「これは…無礼は承知でお聞きしますが、アマンダ様の外見はどう思われますか?」
「まぁ関係を知っているからな、子供を産んだとは思えないプロポーション、風になびく髪、凛とした顔、クールビューティーと言うのかな美人だと思うが」
「そうですか」
【ルドル】
何と、言われて見れば、ルディウス様は屋敷から殆ど出たことは無い。
しかも、あの屋敷はアマンダ様やその先妻様が嫉妬深く、美少女を雇っていなかった。
そこで育ち、小さい頃から母の愛の無い生活を送っていたから、母性を求めていた節がある。
アマンダ様は主人の事を余り悪く言いたく無いが《決して美人》ではない。
幼馴染のアベル様が求めたのはアマンダ様の《癒しの性格》であって外見では無い。
外見と言うならルディウス様の母上の方が数倍美しかった。
家柄があってもアマンダ様には婚姻の話に置いて良い話は無かった。
だからこそ《待つ》と言う事も出来たのだ。
小さい頃から虐待を受けていたルディウス様なら…性格が良いとは思わないだろう。
その性格の悪いアマンダ様を好きになる、普通なら信じられない事だ。
これでようやく解った。
母親の愛情欲しさに、歪んでしまったのだ。
母親の愛が欲しかったから、アマンダが美化されてしまった。
手に入らない義母の愛、その思慕の想いがアマンダを美女と思う様になった。
元から美しい女と扱って貰えない、そして女として終わってしまったアマンダ。
それを最高の女として扱われたら…ああもなるだろう。
あの憎悪の篭った様な目でルディウスを見ていた面影は全く無い。
それこそ、愛しの恋人を愛おしそうに見つける目だ。
つまり、母性によって歪んだルディウス様には行き遅れの女が美しく見えているのではないか?
もし、あの女達の外見が普通に見えているとしたら…ババ専のブス専、男として余りに不憫だ。
歪むと言うのはこういう事なのか?
美少年に生まれただけに凄く不憫だ。
【ルドルSIDE終わり】
「お買い上げいただき有難うございます、ミルカと申します、これから宜しくお願い致しますご主人様」
「ご主人様、私はレイラです。宜しくお願い致します」
黒髪の方がミルカで銀髪の方がレイラか…前の世界ならとんでもない美女だ。
だが、この世界ではどちらも忌み嫌われる容姿なんだよな。
挨拶も早々に寮についた。
寮と言っても男爵家以上の貴族の寮は一戸建てだ。
本来は偉い者順に大きな屋敷に住むのだが、王族や公爵家や侯爵家の子息、令嬢が今は入っていないからかなり大きな屋敷になる。
本来は更に大きな屋敷もあるが、そこには去年まで一番の家柄の子爵家の子息が住んでいる。
本来は変わるのが正しいが、我が家はそのままで良いとやんわりと交代を断った。
この屋敷でも部屋が8つもあり充分だ。
ちなみに勇者や剣聖は二部屋続きだが通常の寮に入っている。
勇者や剣聖とはいえ、まだ何も手柄を立てて居ないから、貴族より身分は下だ。
ただ、本格的に活躍すれば、将来が約束されているので貴族でも文句が言えない…何とも言えない微妙な立場だ。
それをかさにやりたい放題している。
本当に頭が痛くなる。
「それで、ルディウス様、私達はいったい何をすれば良いのでしょうか?」
「どんな事をすれば良いのでしょうか?」
「この屋敷でメイドとして働いてくれれば良いよ、基本仕事はこの屋敷の掃除と稀に給仕があるだけだ、その他頼み事が無ければゆっくり寛いでいれば良い…まずは、お風呂に入ってゆっくりと休んでくれ、働くのは明日からで良いよ」
「…それだけで良いんですか?」
「重労働はとか、体を売ったりしなくて良いの?」
「まぁ此処には粗暴な人間も居るから、危ない目に遭うかも知れないが、基本は無い」
「やはり何かあるのですね」
「そうですよね」
「ルディウス様はこう言っているが、無いから安心して良い」
「ルドル?」
「いや彼女達は大丈夫でしょう?」
言い切れる位醜いそういう事なのか?
「そうか、ルドルがそう言うなら安心だな」
「それじゃ、さっき言った様にまずはお風呂に入って寛いで、食事が届いたら声を掛けるからね、ただ一応メイド服には着替えておいて」
「「解りました」」
「明日からはルドルについて、メイドとしての言葉使いと振舞いを教わってくれ…以上だ」
一応は此処は《寮》なのだ、使用人の分も含めて食事は学園から用意される、最もその分もしっかり請求される。
風呂は源泉かけ流し、つまり温泉だ。
しかも清掃も週に一度、学園側の使用人がしてくれる。
ベッドメイクは毎日。
そうで無ければ通常の寮住まいが困る。
だから、使用人を連れて来なくても殆ど困らない。
だが、こんな大きな屋敷にルドルと二人で住まうのは少し悲しいから奴隷を買って良かった。
何より女が2人も居るのは華やかで良い。
「そうだ、部屋割を忘れていたな、1階の奥の広い部屋はルドルが使う、2階の部屋は俺の部屋と客間にする予定だ、1階の部屋で奥から3番目と四番目の部屋をそれぞれ1部屋個室として使ってくれ」
「あのルディウス様、それは個室を貰える、そう言う事ですか?」
「本当に個室が貰えるんですか」
「部屋が沢山あるからな…後は食事の時にでも話そう」
「「はい」」
まぁ取り敢えずこんな物で良いだろう。
奴隷の涙
【ミルカSIDE】
私の名前はミルカ。
少し前まで、奴隷商で売られていました。
しかももう年齢が20歳を超えてしまったので一応は性処理可能な奴隷として売り出されていますが需要は無いでしょう。
しかも、私は黒髪、黒目なので元から嫌われる醜い容姿ですから、そういう考えで買う方はいないでしょう。
私の前の夫はオークの様に醜いデブでしたが、そんな醜い夫からも醜いと言われ、渋々しか夜の相手にも使われません。
幾ら私が醜いと言っても、相手に醜い相手を望む訳はありません。
私だって醜い男より、王子様の様な美しい男性の方が良いに決まっています。
だけど、私は醜い男でも相手にしたくない程、忌み嫌われる容姿なのです。
だから、鉱山送りは覚悟していました。
悲しい人生だと思います。
こんな容姿に生まれたばかりに小さい頃から村で嫌われ、石を投げられ生きてきました。
その挙句、誰も嫁の貰い手が現れずに、村で醜く女に相手にされない性格の醜い男に貰われ、それでも一生懸命尽くした結果が、奴隷商に売り飛ばされ、そこで買い手もつかずに、最後は鉱山行きです。
女で鉱山行きと言えば、普通は力仕事よりも鎖でつながれ性処理奴隷になるのですが、少なくとも私や、レイラさんはその心配はないでしょう。
忌み嫌われる容姿の女に化け物みたいな容姿の女。
幾ら鉱山の男でも抱かないと思いますよ?
まぁ、そういう意味では幸せですね、ただ死ぬ程キツイ仕事をして死んでいくだけです。
奴隷商の一番奥、商品価値のない人間だけが入る部屋、その一番奥に私達はいました。
殆ど、入口のカーテンが開く事はありません。
稀に開く事があっても手前に居る、若い子を買っていくだけです。
明かに他の奴隷を買う事が出来ない人間が《仕方なく》買っていくだけです。
それでも鉱山送りよりは羨ましいと思います。
鉱山なんかに送られたら、肺をやられて苦しみながら最後は死ぬのですから。
《もう地獄しかない》そう諦めていた時に久しぶりにカーテンが開きました。
まぁ此処まで来る事は無いから気にしても仕方ありません。
何やら奴隷商と入口で話しているのが聴こえてきますね。
「驚きですかな? 女としてただ使うだけなら、別に片手片足が無くても問題はないでしょう? 最悪、手足全部無くても使えます、男にしたって片手や足が1本無くても使い道はあるのです」
「俺が欲しいのは…」
「解っております、ですが、此処をよく見て下さい、全員が16歳以下です、20歳越えたババアに比べたら例え四肢に異常があっても若い子の方が奴隷としては高く売れるのです」
「そういう者なのだな」
嘘、本当に珍しい、凄く身なりが良い貴族様なのにこんな場所まで来るなんて。
しかも20歳以上の年上が希望なんて…奇跡です。
皆が、最後の希望に縋るように見つめています。
此処では、喋ってはいけないルールなので誰も話掛けられませんが、本当はアピールしたいのでしょう。
まぁ私には関係ありませんね。
「はい…そして、此処から先が、当商会でも一番安い女奴隷になります」
「思ったより数は居ないんだな」
「20過ぎでは性処理可能でも価値は低いです…売れなければ鉱山にでも卸すしか無い者達です、あと場合によっては性病持ちもいますが、薬で治療可能な者しか置いておりません」
「此奴は、何で安いんだ、そう悪く無い様な気がするが…」
えっ、私ですか?
悪く無いってまさか本当ですか?
もしかして買って貰えるのですか?
少なくとも病気は持っていませんからご安心下さい。
買ってくれるなら何でもしちゃいます。
神様。
「はぁ? 黒髪に黒目、その時点で不細工決定ですよ! なんか見ているだけで憂鬱になりませんか!」
確かにそうですけど?
折角買って貰えそうなのに何を言っているんですか?
止めて下さい。
「それじゃ、襲われないという意味では安全だな…それじゃ此奴は男の経験は無いのか?」
「それはあります」
確かに私の人生は悲惨でしたよ。
だけど、それじゃ…もう無理ですね。
ただでさえ醜いのに醜い男の嫁だったなんて…儚い夢でしたね。
「それじゃまず一人は此奴に決めた」
今、何て言ったんですか?
《それじゃまず一人は此奴に決めた》
聞き間違いじゃないですよね…嘘
「そうですか…有難うございます」
嘘、私が買って貰えるなんて、これで鉱山に行かないですみます。
しかも、何て優しそうな目で見て下さるのでしょうか?
自分のご主人様になる人です、顔位見ても良いですよね?
嘘、肌は白くて本当にお綺麗です、顔は正に絵本の王子様が飛び出してきた様な方です。
かなりの年下ですが、将来、凄い美少年になるのは決まっています。
こんな方の傍に居られるなんて…夢でしょうか?
信じられません。
【レイラSIDE】
嘘、あの黒髪、黒目の女を買ったの?
あれは私と同じで此処で絶対に売れない奴だと思っていたのに…
だけど《もう買った後》です。
こんな掃き溜めにいる女、もう一人買うなんてあり得ないでしょうね。
あれ、何でだろう?
私の方にも来たわ。
「此奴もそうなのか?」
「貴族様も本当に、変な奴ばかり目が行きますね…どう見ても化け物に見えますよ、まぁこれでもれっきとした人間ですが」
この人は私を薄気味悪く思わないのかな?
私、目が少し赤いんだけど平気なの?
病人の様に白い肌に、老婆の様に白み掛かった銀髪…化け物みたいでしょう。
「あはははっ、こんな女抱くなら、まぁ別の意味でも勇者ですよ..私には到底無理だ」
私だってデブでチビの相手なんて御免だわ…だけど、本当に私を求める人間なんて..いる訳ないでしょうけどね。
「なら安心だな」
「絶対とは言いませんが、普通なら手を出そうと思わないですよ…だってこれですよ」
まぁ確かに化け物みたいだから、言われても仕方無いんでしょうけどね。
こんなどう見ても貴族で美少年な人が私を買うなんて思わないわ。
だけど、さっきから何で、私を凝視しているのかな?
化け物女だって傷つくわ。
まぁ見世物みたいな者なのね、多分。
私だって、こんな姿じゃ無ければ、王都で女給さんしたり、貴族の家で働くメイドさんに成りたかったわよ。
本当に…そんなにこの姿が珍しいの? 良いわ好きなだけみれば良いよ、その分私もあんたを見てやるから。
目が合った。
凄く美少年じゃない…あんたは私と違って過去も未来も幸せなんでしょうね。
不幸な女がそんなに面白いの?
「二人を購入しますんで手続きお願いします」
耳を疑ったわよ…嘘でしょう? 私も買ってくれるの?
周りの奴隷が一斉に私を見ているわ。
嫌睨まれてもね?
私が一番信じられないよ…だってこの奴隷商で一番醜い2人を貴族の美少年が買う何て…
【ミルカ、レイラSIDE】
奴隷商で奴隷紋が刻まれて私達二人は無事、ルディウス様に引き渡された。
料金を払い馬車に乗るとルドル様とルディウス様が話し始めた
「ルディウス様、幾ら醜女を選ぶ予定だったとはいえ、これは無いですな、これではまるで化け物ではないですか?」
「そうか、歳は喰っているが、そこ迄酷くもないだろう?」
「これは…無礼は承知でお聞きしますが、アマンダ様の外見はどう思われますか?」
「まぁルドルは俺とアマンダの関係を知っているからな、まぁ良いか、子供を産んだとは思えないプロポーション、風になびく髪、凛とした顔、クールビューティーと言うのかな、かなりの美人だと思うが」
「そうですか」
【ミルカ】
態々言わなくても、私が醜女なのは解ってますよ。
だけど、ルディウス様は何で選ばれたか不思議でなりません。
お金にも困ってないでしょうし、幾らでも他に良い奴隷が沢山いました。
《歳は喰っているが、そこまで酷くない》
この外見、気持ち悪く無いないのでしょうか?
さっぱり解りません。
アマンダ様と言うのは多分、母親なのでしょう、案外年上が好きなのでしょうか?
【レイラ】
うん、私は確かに醜いけど、態々言わなくても良いでしょう。
何で選んだのかは私にもさっぱり解りませんよ。
少なくともあの中で私達より容姿の悪い奴隷は居なかった。
なんでだろう?
まぁ話からして母親が凄く美人なのは解かったけど。
【全員】
馬車の中では終始無言だった。
ルドル様は私達を嫌そうな目で見ているまぁ普通の反応だ。
逆にルディウス様は何とも言えない優しそうな目でこちらを見ている。
《レイラ、凄く優しそうな目で見つめられている気がします》
《私に聞かないで、そう思うけど、私はこういう経験が全く無いのよ》
奴隷商から馬車で30分位の学園の中にルディウス様の屋敷があった。
先にルディウス様が降りると、私達に手を貸してくれた。
それを、少し離れた所からルドル様が生暖かい目で見ている。
そういえば挨拶もしていない、挨拶するのが最低線の礼儀です。
「お買い上げいただき有難うございます、ミルカと申します、これから宜しくお願い致しますご主人様」
「ご主人様、私はレイラです。宜しくお願い致します」
ルディウス様はこちらを優しい笑顔で見ていた。
屋敷奉公なんて初めてだ、仕事の中身も聞かなくちゃ。
「それで、ルディウス様、私達はいったい何をすれば良いのでしょうか?」
「どんな事をすれば良いのでしょうか?」
「この屋敷でメイドとして働いてくれれば良いよ、基本仕事はこの屋敷の掃除と稀に給仕があるだけだ、その他頼み事が無ければゆっくり寛いでいれば良い…まずは、お風呂に入ってゆっくりと休んでくれ、働くのは明日からで良いよ」
信じられない、そんな事だけで生活が出来るなんて。
「…それだけで良いんですか?」
「重労働はとか、体を売ったりしなくて良いの?」
思わず二人して聞き返してしまった。
「まぁ此処には粗暴な人間も居るから、危ない目に遭うかも知れないが、基本は無い」
「やはり何かあるのですね」
「そうですよね」
「ルディウス様はこう言っているが、無いから安心して良い」
「ルドル?」
「いや彼女達は大丈夫でしょう?」
良く解らないけど鉱山より酷い、そう言う事は無さそうです。
「そうか、ルドルがそう言うなら安心だな」
「それじゃ、さっき言った様にまずはお風呂に入って寛いで、食事が届いたら声を掛けるからね、ただ一応メイド服には着替えておいて」
「「解りました」」
「明日からはルドルについて、メイドとしての言葉使いと振舞いを教わってくれ…以上だ」
メイドなのだから、食事を作ったり、お掃除が仕事の筈ですが….
「此処はこれでも寮だから、食事も全部用意してくれるし、清掃も向こうがしてくれる」
「それでは、私達は何をすれば良いのでしょうか?」
「何なりとお申しつけ下さい」
「ベッドメイクすら必要が無いから、お客が来た時にお茶でも出してくれれば良いよ、後は場合によって使用人同伴が必要な事もあるだろうから、そう言った場合は付き添ってくれ」
「あのルディウス様それ以外は無いのですか?」
「そんな楽な仕事だけで良いのですか?」
「まぁ後は偶に話し相手になってくれれば良い、それ位だ、この屋敷には温泉をひいたお風呂があるから、入ってくると良いよ、ちゃんと石鹸使って綺麗にするように…後は食事まで部屋で休んでいていいぞ」
「お風呂まで使って良いんですか?」
「石鹸なんて高価な物も良いんですか?」
「勿論だ、使い方は解るよな?」
「使った事はありませんが、一応は解ります」
「私も」
「なら良かった、髪から全部しっかり洗ってくれ、今迄が今迄だから少しな」
「「解りました」」
「そうだ、部屋割を忘れていたな、1階の奥の広い部屋はルドルが使う、2階の部屋は俺の部屋と客間にする予定だ、1階の部屋で奥から3番目と四番目の部屋をそれぞれ1部屋個室として使ってくれ」
「あのルディウス様、それは個室を貰える、そう言う事ですか?」
「本当に個室が貰えるんですか」
「部屋が沢山あるからな…後は食事の時にでも話そう」
「「はい」」
【ミルカ、レイラSIDE】
「あの、レイラさん」
「これからは同僚になると思うからレイラで良いわ」
「それじゃ、レイラ、私はミルカで良いわ…これって貴族のお屋敷のメイドになったそういう事ですよね?」
「私に聞かれても解らないけど、そうとしか思えないわ」
「しかも、個室も貰えて、お風呂にも入れるんですよね? 私、井戸水で水浴び位しかした事がありません」
「私は川で行水だわね」
「早速、お風呂行ってみませんか?」
「良いわね」
二人して風呂場に向った。
「良い所に居たな、これがお前達の服と下着だ、お風呂から出たら着替えるように」
「「はい」」
相変わらずルドル様は嫌そうな目で私達を見ている。
だけど、ルディウス様は何であんな優しい目でみて下さるのだろうか。
「ミルカ、これ凄く高そうだけど」
「この下着なんてシルクじゃないかな?」
「こんな服、私初めてだよ」
「私だって穴が空いた古着しか着た事無いよ」
「何でこんな待遇が良いんだろう」
「私だって解らないわ」
二人で話しながら風呂場に着いた。
お風呂も貴族用の邸宅だから通常じゃ考えられない程大きい。
「これがお風呂? 思っていたより大きいですよ」
「これ10人位一緒に入れそうだね、しかもお湯が次から次に湯船から流れているなんて」
「凄いとしか思えない」
「しかも、高級品の石鹸が無造作に沢山置いてあるなんて」
「使って良いんだよね?」
「ルディウス様がそう言っていたじゃない」
「そうだね、あれだけ豪華な服を着るんだからちゃんと綺麗にしないといけないし、汚いままじゃそっちの方が失礼な気がします」
「確かに」
2人がお風呂を堪能して部屋に帰ると…
「「これが私の部屋なの?」」
こじんまりしているが豪華なベッドにフカフカの布団に綺麗な家具一式が揃っていた。
そして、驚く事に、多分魔法で冷やしたのか冷たい氷の入った水迄あった。
多分、同じ物がレイラの部屋にもあるんだと思う。
隣の部屋からレイラのすすり泣く声が聞こえてきた。
泣くに決まっている、こんな親切な待遇なんて今迄受けた事が無い。
きっとレイラだって同じでしょう。
どれ程頑張っても愛情を注いでも、家族もあの糞旦那も私にこんな優しい事なんてしてくれなかった。
今迄の長い人生の中で多分、今日が一番幸せなのかも知れない。
綺麗な服に下着。
暖かいお風呂に石鹸。
そして、フカフカの布団に豪華な家具にベッド。
絶対に縁が無い、そう思っていたのに、此処にはそれが全部ある。
しかも、氷の入った水なんて冬なら兎も角、この時期には凄く貴重品ですよ。
これはルディウス様が魔法で入れてくれたに違いありません。
嬉しくて涙が出て来ました。
それと同時に、私何を返せば良いのか解らないです…
だって、こんなに親切にして貰った事は私は無いのですから…
夜伽への道
「ミルカ、レイラ 食事の用意ができたぞ」
廊下からルディウス様の声が聞こえる。
先程見た食堂に行けば良いんでしょうか?
食堂に着くと、既にルディウス様にルドル様そして可笑しな事にレイラが座っていました。
「あの、何故、レイラ迄座っているのでしょうか? 私とレイラは給仕をしないといけないんじゃないですか?」
「ああっ俺は気にしないからな」
「ルディウス様、少しは気にして下さい、貴族なのですから少しは体面もお考え下さい」
「ルドル、此処には貴族は俺しか居ない、それにルドルは死んでしまったアベルよりも俺にとっては父親に近い存在だ、この二人だって俺にとっては大切な仲間になるかも知れない人間だ、公式の場以外はこれで良い」
「そうですか、解りました、ですが本来は順番に出すコース料理を全部並べて自分で取って食べるのは如何な物かと」
「これで良いんじゃないか、まぁあくまで公式の場以外はな」
「まぁルディウス様が良いなら良いですが、アマンダ様の前ではしっかりして下さい」
「解った、ほらミルカも座って食事にしよう」
「はい、ですが本当にこれを私が食べて良いんでしょうか?」
「私もこんな料理を見た事がありません」
「まぁ皆同じ物だ気にするな」
《気にしない訳ありませんよ、奴隷なのに貴族様と同じ物を、同席して食べるなんて》
《この待遇の良さはなんでしょうか? 私は奴隷なのに、しかも誰も買わない位の醜女》
「有難うございます」
「こんな美味しい物初めて食べました」
「そう? 今日はゆっくりして良いよ、明日からはルドルから色々聞いてくれ」
「「はい」」
「あのルドル様、少しお話しして宜しいでしょうか?」
「どうした、ミルカにレイラ」
「あの、私達はルディウス様の…その伽に伺った方が宜しいのでしょうか?」
「何を唐突に」
「いえ、私達は一応、性処理可能で売られていた奴隷ですから」
「なら、行けばいいのではないか?」
「ですが、私達はねレイラ」
「そうですよ私達はその容姿が良くありません」
「正直言うとそれは儂にも解らんよ、ルディウス様は特殊な生まれなのだ」
話を聞くと凄く悲惨な話だった。
レイラも話を聞くと顔を顰めていた。
あんなにお綺麗で優しいルディウス様が家族の誰からも愛されない生活を送っていたなんて。
しかも、母親とその様な関係にあるなんて…信じられない話だった。
「これは内密の話だ、この話には続きがある、ルディウス様の母親もアマンダ様も凄く嫉妬深くてな、屋敷に雇っている使用人に美しい人間は居ない、そしてルディウス様は屋敷から出た事が殆ど無い」
「それはどういう意味でしょうか?」
「あの、よく解りません」
「悪くは取らないで欲しい、多分ルディウス様は 黒髪、黒目が忌み嫌われるとか銀髪に赤目が嫌われている、そんな事も多分知らない」
「そう…なんですか?」
「そんな…事が」
「ああっ、だから正直言ってお前達が行った時の反応が解らない…試しに行くだけ行って様子を見て見るしかないな」
「解りました、伺ってみます」
「行ってみます」
「あの、ミルカはこう言うの経験者ですよね、私は初めて何で教えて下さい」
「レイラ、私だって醜い旦那にただ抱かれていただけ、抱かれたいなんて思って抱かれたんじゃないですよ、だから良く解りません」
二人してようやく決意が固まり、ルディウス様の部屋の前までこれた。
「此処まで来たらもう覚悟を決めるしかありませんよ」
「そうねミルカ」
二人して深呼吸した後にルディウス様の部屋をノックしました。
「どうぞ」
ルディウス様の声が聞こえてきます。
「どうしたんだ、こんな夜に?」
「あのそのですね…ルディウス様はそのですね…私達みたいな..その醜女でも、その性処理を望まれますか?」
「それは2人で考えて貰って良いよ…奴隷だからって無理じいはしない、ただ二人とも俺から見たら魅力的な女性ではある」
何で泣きそうな顔をしているんだ?
しかも悲しい顔じゃ無くて嬉しいという意味での涙だ。
たかが髪の毛の色や目の色が違うだけで此処まで、相手にされない者なのか?
「本当ですか?」
「本当に?」
「こんな事は嘘言ってどうするんだ? 嘘では無いよ」
「「それならお相手させて頂きます」」
流石に初めて相手するのに3Pは俺でも抵抗はある。
だから、順番制にする事にした。
今日の順番はじゃんけんで決める事になり、2人は凄く真剣にじゃんけんをしている。
(続く)
初めての夜伽【ミルカの場合】
【ミルカの場合】
私の名前はミルカ。
23歳の奴隷です。
少し前までは農村で暮らしていました。
売られた理由は簡単で子供が出来なかったからと言う事とこの容姿のせいです。
黒髪に黒目は忌み子と言われて気味が悪いとされています。
そんな私に縁談がくる訳もなく、家族からは人ではなく牛馬の様に扱われていました。
そんなある日、粗暴で醜い前の旦那の家族から私を嫁に欲しいという話が来たのです。
相手は、まるでオークの様に太った気持ち悪い40過ぎの男でした。
今迄何度お見合いしても上手くいかないと評判になる化け物のような男でした。
子孫を残さないと家が潰れるのと《女性経験がこの年で無い》無い事から、忌み子の容姿を持つ私なら絶対に断られないと思い話を持ってきたのだと思います。
勿論、両親は二つ返事でこの結婚を進めました。
好きになれない夫でしたが、忌み嫌われる容姿の私を貰ってくれたのですから、それなりに仕事はしていましたし、私になりには尽くしていました。
ですが、毎日罵詈雑言の嵐です、しかも朝から夜まで死ぬ程働かされて、その上夜は醜い男の性処理まで。
幾ら私が醜いとは言っても、好きな男性に醜い相手を望む訳はありません。
私だって人間です、ゴブリンやオークじゃありません、自分の容姿が関係なければ美しい異性が良いに決まっています。
それでも仕方ないのです…醜いのですから。
ですが、醜い私が嫌なのでしょう、性生活は淡泊で…1回10分位。
そして嫁いで数年、子供が出来なかった私は奴隷として売り飛ばされる事になりました。
農家にとって子供が作れない嫁は価値が無いそうです。
確かに、跡取りがいないと本当に困ってしまう、それは解らなくもないのですが..
この歳になるまで子供が出来ないからとまるで、馬のようにこき使われ、醜い男に我慢して抱かれて、それでも頑張って尽くしてきた結果が奴隷ですよ?
笑っちゃいますよね?
しかも、私はただの農民でスキルも「裁縫」しかないから価値がありません。
クズの旦那と義母は「少しでも高く買って貰えませんか?」と交渉していましたよ。
「人間の23歳じゃ女としてもう価値がないからな..だが性処理可能なら銅貨8枚でなら買ってやるよ」
「待って下さい!」
「煩いわね..最後位少しは役に立ちなさい」
「お前は只でさえ価値がないんだ口出しするな..」
結局、私は23歳という高齢なのに「性処理可能」の奴隷として販売される事になりました。
しかも私を売った金額は銅貨8枚..ははは、本当のはした金です。
しかも、売られた後に解ったのですが..私には売られるのを拒む権利があったようです。
それは後で知りました。
「しかし、借金も無いのに、何であんた売られたんだ?」
その時に初めて知ったのです。
「夫婦でも納得いかなければ売られる事を拒めるし、それを理由に離婚しても問題が無かった」
あははは..馬鹿ですね、村娘だったから、そんな事も知らなかったなんて。
それからは、奴隷としての辛い人生が始まりました。
貰えるのは一日 パン1個と水。
だけど、これが前と全然変わらないのは思わず笑えてしまいました。
ただ、本当に辛いのは私の容姿が余りにも悪い事です。
しかも年齢だって高齢、幾ら性処理かのうでも、気持ち悪がってだれも買う筈はありません。
「どうせ、アンタは売れないから端にいなよ..私を売り込む邪魔になるでしょう?」
「忌み子の容姿で 性処理奴隷? 売れる訳ないじゃない、そんな容姿なのにあんた淫乱なの」
「ちがっ」
「違う訳ないじゃない? 変態化け物」
そうですよね、確かにこの歳でこの容姿で性処理奴隷..そういう人生送ってきた。
そう見られて当たり前ですよね。
だから、私は奴隷の中でも最底辺なんです..奴隷商人だって、高く売れる若い子には少しは優しいですが..
安くて、なかなか売れない私に優しくなんてする訳もありません。
私は多分売れない…一生此処で馬鹿にされながら生きていくんだ..
そう思いました。
それはきっと、あの赤目の子も一緒でしょう。
だって、入口近くの若い子は手足が無くても売れていくのに、私達は顔合わせすらほとんどなく..
偶にあっても
「これじゃな..」
「幾ら性処理可能でも..これは無いわ」
「無料でも要らない」
そんな事しか言いません。
恐らくは客寄せ..性処理奴隷が安く買える..その看板の為に居るような物です。
大体のお客にさらっと私を見せて、他の子に連れて行くんだからまず間違いないでしょう。
「奴隷以下の見世物なんだ私..うふふふっ辛いな、この容姿で..おばさんじゃ..駄目だよね」
「まぁ、私も貴方も鉱山行き決定ね、他の三人だって同じよ、私達みたいなハンデが無くても20歳過ぎのババアなんだから」
そんなある日の事、貴族の綺麗な男の子がこの店に入ってきました。
カーテン入口近くに見えるその姿は、まるで子供の頃みた王子様みたいでした。
どう見ても貴族様にしか見えません。
まぁ、何故此処まで入ってきたのか解りませんが、私には多分縁が無い話でしょう。
奴隷は話掛けられない限り、話してはいけません。
ですが、全部の奴隷が彼を見ています。
当たり前ですね、どうせ買われるなら、王子様みたいな彼の様な相手に買われたい。
そして見染められて…そんな夢、奴隷なら一度は夢見るでしょう。
「俺が欲しいのは…」
「解っております、ですが、此処をよく見て下さい、全員が16歳以下です、20歳越えたババアに比べたら例え四肢に異常があっても若い子の方が奴隷としては高く売れるのです」
そんな声が聞こえてきました。
これはもしかしたら、20歳すぎの奴隷が欲しいと言う事ですか? 私にも…無いですね、20歳過ぎの女奴隷は12名います。
その中でも私は一番下か下から二番です。
「はい…そして、此処から先が、当商会でも一番安い女奴隷になります」
「思ったより数は居ないんだな」
「20過ぎでは性処理可能でも価値は低いです…売れなければ鉱山にでも卸すしか無い者達です、あと場合によっては性病持ちもいますが、薬で治療可能な者しか置いておりません」
まぁ本当の事ですね、これでは《最悪誰も買わない》そういう話になるんじゃないでしょうか?
そしてきっとカーテンの外のちゃんとした奴隷を買う筈です。
ですが、話は私の予想外の方に進んでいきます。
「此奴は、何で安いんだ、そう悪く無い様な気がするが…」
私を見て、貴族の少年がそう言ったのです。
黒髪、黒目なのですから、安いに決まっています。
しかも、結構な年齢なのですから、当たり前じゃないですか?
「はぁ? 黒髪に黒目、その時点で不細工決定ですよ! なんか見ているだけで憂鬱になりませんか!」
これでもう、私が買われる事は無いでしょうね。
「それじゃ、襲われないという意味では安全だな…それじゃ此奴は男の経験は無いのか?」
「それはあります」
この貴族の少年は私に興味を持ったのか、私についての身の上話を聞いていました。
これで無理でしょうね…貴族はお手付きを嫌います。
ましてその相手が身分が低い醜い男の農夫なんて…私でも買いません。
「それじゃまず一人は此奴に決めた」
「そうですか…有難うございます」
嘘ですよね…私を買ってくれるのですか?
信じられません…しかももう一人の購入相手は、レイラです。
この人は天使か何かなのでしょうか?
余りにも恵まれていない私達の為に女神様が遣わしてくれたのでしょうか?
それからは正に、夢でも見ているようでした。
貴族様が乗る立派な馬車に生まれて初めて乗りました。
こんな凄い馬車に乗るなんて初めてです、それはレイラも同じで、さっきから一言も喋らないでフリーズしています。
これでは流石にいけませんね。
「お買い上げいただき有難うございます、ミルカと申します、これから宜しくお願い致しますご主人様」
「ご主人様、私はレイラです。宜しくお願い致します」
何故なのでしょうか?
このご主人様は、信じられない位優しい目で私達を見ています。
こんな目で見られた事が無いから少し困ってしまいます。
ですが、これがまだ信じられない程の事が起きる始まりでした。
着いた先はとんでもなく大きなお屋敷です。
此処に着いた瞬間から、もう幸せは半分確定です。
何かの囮とかでなく、《貴族様の使用人》に慣れるのですから。
貴族の使用人になると言う事は、平民にとってある意味、成功者なのです。
まぁ奴隷でもあるから、少し違うかも知れません…それでも絶対に今迄みたいな生活にはなりません。
これだけで幸せなのですが….働けという指示が全くありません。
自分から仕事をしろ、そう言う事なのかも知れません。
「それで、ルディウス様、私達はいったい何をすれば良いのでしょうか?」
「どんな事をすれば良いのでしょうか?」
「この屋敷でメイドとして働いてくれれば良いよ、基本仕事はこの屋敷の掃除と稀に給仕があるだけだ、その他頼み事が無ければゆっくり寛いでいれば良い…まずは、お風呂に入ってゆっくりと休んでくれ、働くのは明日からで良いよ」
「…それだけで良いんですか?」
「重労働はとか、体を売ったりしなくて良いの?」
こんな冗談みたいな仕事があるのでしょうか?
こんな仕事が奴隷の仕事なら、誰もが奴隷になりたくなりますよ。
「まぁ此処には粗暴な人間も居るから、危ない目に遭うかも知れないが、基本は無い」
「やはり何かあるのですね」
「そうですよね」
まぁ、そうですよね、こういう旨い話には裏があるに決まってます。
「ルディウス様はこう言っているが、無いから安心して良い」
「ルドル?」
「いや彼女達は大丈夫でしょう?」
「そうか、ルドルがそう言うなら安心だな」
何が安心かは解りません。
ですが、どう考えても、この条件は悪いとは思えないのです。
「それじゃ、さっき言った様にまずはお風呂に入って寛いで、食事が届いたら声を掛けるからね、ただ一応メイド服には着替えておいて」
「「解りました」」
えーと、流石に食事の給仕のお仕事はありますよね。
「そうだ、部屋割を忘れていたな、1階の奥の広い部屋はルドルが使う、2階の部屋は俺の部屋と客間にする予定だ、1階の部屋で奥から3番目と四番目の部屋をそれぞれ1部屋個室として使ってくれ」
「あのルディウス様、それは個室を貰える、そう言う事ですか?」
「本当に個室が貰えるんですか」
「部屋が沢山あるからな…後は食事の時にでも話そう」
「「はい」」
個室が貰えるんですね…本当に私は奴隷なんでしょうか?
今迄の人生で一番幸せな状態なんですよ…何が私に起こっているのでしょうか?
それだけで終わりませんでした。
大きなお風呂で贅沢にも石鹸まで使わせて貰えました。
そして与えられた個室に行くと、フカフカのベッドに豪華な家具です。
ルディウス様が魔法で用意してくれたのでしょうか? 冷たい氷入りの水迄ありました。
頂いた服も新品の綺麗なメイド服、下着なんてシルクですよ?
なにもかもが信じられません…
そして…食事もルディウス様と同じ物なんです…こんな豪華な食事なんて初めて食べました。
私の今迄の人生であった幸せ全部より、今の方が遙かに幸せです。
こんな事なんて、両親に糞義母に糞夫、誰もしてくれませんでした。
本当の幸せに触れてしまったせいか、彼奴らがどれほど最低の人間か解ったような気がします。
糞夫で充分です。
此処までして下さったルディウス様に、私は何を返せば良いのでしょうか?
せめて真面な容姿であれば《体で》と言う事も出来ますが、私は醜い男すら抱きたくない女なのです。
そう言えば、私もレイラも性処理可能な奴隷です。
伺った方が宜しいのでしょうか?
真面な容姿の女性であれば、行くのが正しいと思います。
此処までの事をしてくれるのなら奴隷としてその気持ちに答えるのは当たり前です。
ですが、私達は《それを望まれない可能性もあります》
嫌、普通の方なら望まれませんね…本来なら捧げられる物なのに、それすら私にはありません。
ただ、万が一もありますので、ルドル様に聞いてみました。
ルディウス様の事を色々教えて貰いました。
私が一番ショックを受けたのは、あれ程、優しく綺麗な方が、家族の愛を知らずに育った事です。
頑張って、義母の愛を受ける為に、多分私の様な努力をしていた…信じられませんでした。
しかも、屋敷から出たことは無く、醜い女性という事すら知らない可能性があるのです。
「悪くは取らないで欲しい、多分ルディウス様は 黒髪、黒目が忌み嫌われるとか銀髪に赤目が嫌われている、そんな事も多分知らない」
「そう…なんですか?」
「そんな…事が」
「ああっ、だから正直言ってお前達が行った時の反応が解らない…試しに行くだけ行って様子を見て見るしかないな」
これはルドル様でも解らない、そういう事ですね。
この容姿を嫌わない…そんな男性がいるなんて、にわかに信じられません。
そしてルディウス様の部屋に行き緊張しながら、二人でお伺いしてノックしました。
お返事が返ってくるまでの時間が物凄く永く感じました。
ルディウス様の声が聞こえてきます。
「どうしたんだ、こんな夜に?」
「あのそのですね…ルディウス様はそのですね…私達みたいな..その醜女でも、その性処理を望まれますか?」
「それは2人で考えて貰って良いよ…奴隷だからって無理じいはしない、ただ二人とも俺から見たら魅力的な女性ではある」
まさか受け入れて貰えるなんて思っていませんでした。
ただ《使って貰えるだけでも良かった》なのに、これは…どう考えても口説かれている様な気がします。
私は奴隷なのですから、使いたいなら《服を脱いで奉仕しろ》それだけで良いのに…無理強いしないなんて..
思わず、涙が出てしまいました。
「本当ですか?」
「本当に?」
「こんな事は嘘言ってどうするんだ? 嘘では無いよ」
「「それならお相手させて頂きます」」
思わず、恥ずかしげもなく大きな声で答えてしまいました。
ですが、2人一緒と言うのは流石に無く…まぁ当たり前ですよね。
順番をじゃんけんで決める事になりました。
レイラも私も真剣です。
順番で回ってくるとはいえ、少しでも早くお相手したいのです。
勝ったのは私でした、レイラは悔しそうに立ち去りました。
多分、明日は私があんな顔をしてそうな気がします。
来てしまいました。
とうとう、この時が、私は《性処理奴隷でもあります》なので何でも応えなければいけません。
どうしましょう? 今、気が付いてしまいました。
私は、経験が殆どありません。
ここまで優しくしてくれたんです..何でもしてあげたい。
心の底から本当にそう思います。
だけど、「私、何をして良いか解りません」
勿論、普通には出来ます。
ですが子供が出来ないと言われてからもう何年もしてないです。
しかも経験のあるのは醜い旦那相手の愛が全く無い、凄く淡泊な15分で終わってしまう様な物です..多分違う様な気がします。
穴に棒をいれるだけで、ただ寝ていただけでしたから。
体も不味いですね、私はもう20代です、若い10代の子程ハリが無い気がします。
胸も、少し垂れてきてハリが無いかも知れません、10代の若い子とは違います。
股は..あははもう何年もしてないし、他の人の事は知らないからどうなんでしょうか? まさかカビなんて生えてませんよね(笑)
私、全然良い所なんて無いじゃないですか? 黒目、黒髪だけじゃなくて他も全部駄目駄目です。
「ミルカ」
ルディウス様に手を引かれ抱きしめられてしまいました。
こんな体は見せたくないから頼んで明かりは暗くして貰いました。
「ごめんなさい..」
「ごめん、やっぱりこんなの嫌だよな」
なんだかルディウス様の元気がなくなった気がします..違うんです..
「ルディウス様、違いますよ..ルディウス様が望むなら、私を好きなようにして頂いて構いません..ですが私性処理可能奴隷として売られていたのですが、こんな年齢なのに、その、そっちの経験が余り無いんです..だから..」
「それなら良かった! 夜は長いからゆっくりしよう」
「はい」
暗がりですが、ルディウス様はやっぱり、凄い美少年です。
王子様の様に上品なお顔に、11歳という若さは本当に凄い、体に張りがあり本当に逞しいです。
本当に少年なんでしょうか? 体も、鍛えぬいた凄い体です。
あんなブヨブヨの糞旦那とはまるで違います。
しかも、男性の筈なのに肌も白くて私より艶々しています。
それだけで無く、私の触り方がまるで宝物を触る様に優しいのです。
頭の撫で方、髪の触り方からキスまでまるで蕩けるようです。
糞旦那とは全く違います。
女として凄く大切にされている。それが凄く解ります
こんなに大切にして貰った事なんて無いから、どうしてよいか本当に解りません。
体の全てが嬉しいって囁いているようです。
こんなに大切にして貰えるなら、もうごルディウス様以外なにもいりません。
私は、性処理やこういう事は好きでない、そう思っていました。
今迄は我慢してい行っていたのですが..今はこの時間が永遠に続いて欲しい。
そう思ってしまう程、別の物です。
体の全てが心が..喜んでいる..そうとしか思えません。
だから、相手にも喜んで貰いたい..そういう物です..
こんなのを経験したら、心の底から全て..ルディウス様の物になってしまいます。
私のなかの好きや愛しているは全てルディウス様の物になってしまいます。
もう、私は絶対に他の人では満足できないでしょう..この人以外何も要らない..頭も何もかもが全部ルディウス様で染まっていきます。
気が付いたらもう朝になっていました。
私は体がまだ、ほてってしまって眠れません。
ルディウス様は、流石に眠っています。
見れば見る程の凄い美少年です..正直、私がお相手するのが申し訳ない位に思えてしまいます。
愛おしくて抱きしめてあげたくなります。
こんな感情今迄ありませんでした。
ただ愛しいのです。
ルディウス様の髪をつい触ってしまいました。
つい、かきあげてお顔を見てしまいました。
「!..嘘..嘘..」
まるで天使みたいですね、近くで見たルディウス様のお顔は更に魅力的です。
そばかす一つなく綺麗な顔は本当に天使様か王子様にしか見えませんよ..
凄く綺麗なんですよ..
こんなに綺麗なら奴隷なんて買わなくてもただお酒でも飲んで酒場にでも居れば女から寄ってくるでしょう!
だって、こんな綺麗な人他に見た事ないんです..しかも蕩けるように優しい..
「おはよう、ミルカ」
「おはようございます ルディウス様..」
こんな綺麗な方にくたびれた体を見られたく無くて思わず毛布を巻き付けてしまいました。
「はうっ」
「どうしたの?」
体も凄く鍛えられているのに綺麗..しかもシミ一つないなんて反則です。
こんな素敵な人に愛して貰えるなら..奴隷でも? あれっどう考えてもこれ奴隷じゃありませんよね!
だってこんなにも幸せなんですから。
初めての夜伽【レイラの場合】
【レイラの場合】
私の名前はレイラ。
25歳の奴隷です。
話す相手は同じ奴隷の中でもミルカしか居ない。
だって、私の外見は化け物や魔物に近いから気味悪がってだれも近寄ってこなかった。
ミルカの話を聞くと凄く羨ましく感じる。
私には家族も居ない、小さい頃に森に捨てられた。
それから私は、1人で今迄生きてきた。
人に見つかれば石を投げられる…追いかけまわされるそんな日々を過ごしていた。
「魔族が出たぞーーーーっ」
誰かがそう叫ぶと追いかけられた。
「目が赤い、多分此奴がバンパイアだーーっ」
私には住む所がありませんでした。
人知れず、山奥で暮らしていても、見つかれば追い立てられる…そんな生活です。
だったら、何で喋れるのかって? 元から少しは喋れましたし、それは別に人と過ごした期間があるから。
その期間はたったの1年位…ねぇ、ミルカが羨ましいのが解るでしょう。
それは、突然の出会いだった。
「何だ、こんな所に人がいるのか?」
「あああ、うううがううっ」
「魔物なのか? いやそれにしては牙や尖った爪が無いわね…人間なのかな」
「ワタシ…化け物じゃない」
「片言だけど喋れるんだな、だったら、あんたは魔物じゃない…少なくともあたいは喋る魔物なんて知らないからな」
「ううっ…そう」
「あたい、行くところが無いんだ、あんたの住んでいる所に住まわせてくれないかな?」
「あなた…わ..私が怖く…ない」
「ああ怖くないよ」
私の人生で唯一知り合いが出来た時だった。
「なんだ、こんな物ばかり食べているのか?」
「うん…木の実」
「駄目だな、肉や魚も食え、あたいが採ってやるから」
そういうと、その人は魚を捕まえてきてくれた。
「焼いて喰うんだ、うめーぞ」
それから私は楽しい日々を過ごしていた。
誰かは解らないが傍に誰かが要る、それだけで楽しかった。
だが、それは長い事続かなかった。
「裏切者が居たぞー」
「ちっ見つかっちまったか..」
そう言うとその人は走っていったが…既に囲まれていた。
「よくも裏切って密告してくれたな、裏切者には死だ」
そしてあっけなく、その人は処刑された。
「この連れは何だ、知り合いか?」
「知らないよ、そんな化け物」
「そうか、ならば此奴の命は奪わない…奴隷としてでも売って置くか…だがお前は許さない」
その言葉を聞いた後、あの人は殺された。
こうして、私の僅かな間の人と過ごした日々は終わった。
25年間の人生の中で人と過ごしたたった1年間の日々。
だが、私の本当の歳は解らない…25歳という年齢は、売り飛ばされる時に盗賊の人間が奴隷商に言った年齢です。
それからは、奴隷としての人生が始まった。
貰えるのは一日 パン1個と水。
これが美味いと感じてしまうのは私が最悪な生活を送ってきたからでしょうか?
化け物と言われるこの容姿でも話してくれて嫌わないでくれる人が1人居ました。
「ミルカ~」
「何か様なのかな」
「何でもないよ…ほら私この容姿だから、普通に話してくれるのミルカ位だからね」
「はぁ~ 売れなかったら鉱山送りで地獄ですよ…頑張って買って貰わないと」
「お客も来ないし、無理だよ、一緒に鉱山確定だね」
「私はまだ諦めていないんですから」
「無駄だよ」
ミルカも私も嫌われる様な外見なんだから誰も買わないよ…諦めた方が無難。
しかも年齢だって高齢、幾ら性処理可能でも、気持ち悪がって誰も買おうなんて思わないわ。
「どうせ、アンタは売れないから端にいなよ..私を売り込む邪魔になるでしょう?」
「化け物容姿で 性処理奴隷? 売れる訳ないじゃない、だれも好き好んで化け物とやりたがる訳無いでしょうに」
「何? そんな目で見ているの化け物」
私やミルカは確かに醜いのかも知れないし、化け物でも良いわ。
だけど、あんた達だって売れないのは同じでしょう…同じ様に価値が全く無いから此処にいるんじゃないのかな。
別にどうでも良いから化け物でも良いわ。
だから、私は奴隷の中でも最底辺..奴隷商人だって、売れないって思っている奴隷の1人。
だけど、あんた達も同じでしょう。
私は多分売れない…一生此処で馬鹿にされながら生きていき、最後は鉱山で死ぬんだよね。
それでも良いわ、最後に友達が出来た。
私にとっては二人目の友達。
それはきっと、ミルカも同じ。
入口近くの若い子は手足が無くても売れていくのに、私達は顔合わせすらほとんどない..
偶にあっても
「これじゃな..」
「幾ら性処理可能でも..これは無いわ」
「無料でも要らない」
多分、見世物代わりにされているんじゃないかな。
恐らくは客寄せ..性処理奴隷が安く買える..その看板の為に居るような物なんでしょうね。
大体のお客にさらっと私やミルカを見せて、他の子に連れて行くんだからまず間違いないわ。
「奴隷以下の見世物なんだ私..うふふふっ辛いな、この容姿で..おばさんじゃ..駄目だよね」
「まぁ、私も貴方も鉱山行き決定ね、他の三人だって同じよ、私達みたいなハンデが無くても20歳過ぎのババアなんだから」
そんな事、ミルカだって解っているでしょう。
ちなみに高齢の女性は一応12名居ますが、私達含む5人以外は、良いスキルがありますから、売れるかも知れません。 まぁ意地悪を言う3人と私達2人が本当の意味で《価値が無い》奴隷です。
ある日の事、貴族の綺麗な男の子がこの店に入ってきました。
羨ましい、あんな容姿に生まれたらきっと幸せな人生を送っているんでしょう。
私とは違う、あの人が言っていた天使とはこの様な容姿なのかも知れません、私は人を余り見た事は無いので解りませんが。
それでも、これが綺麗と言われる人何だと言うのが何となくは解ります。
そして、この人は私に悪意を持っていない…それどころか、好意を持っている、そんな気がして仕方が無いのです。
ミルカはまるで引き込まれるかの様に食い入って見ています。
さっきから話しかけているのに無視する位だから。
まぁ、間違ってもこの人が私やミルカを買うとは思えないですが。
奴隷は話掛けられない限り、話してはいけない、だから何もアピールできない。
だけど、全部の奴隷が彼を見ている。
確かに綺麗だわ…うん、どうせ仕えたり、そいういう行為するなら、ミルカの旦那の様な醜い人間より、綺麗な人の方が良いに決まっている。
まぁどっちみち私には縁が無い話です。
そもそも、私を買う人間なんて居ないだろうし…
声が聞こえてきた。
「俺が欲しいのは…」
「解っております、ですが、此処をよく見て下さい、全員が16歳以下です、20歳越えたババアに比べたら例え四肢に異常があっても若い子の方が奴隷としては高く売れるのです」
これはもしかしたら、20歳すぎの奴隷が欲しいと言う事ですか? 私にチャンス…無いな、20歳過ぎの女奴隷は12名いるから、他の真面な7名の中から選ぶに決まっている。
態々、化け物は選ばないだろうし。
「はい…そして、此処から先が、当商会でも一番安い女奴隷になります」
「思ったより数は居ないんだな」
「20過ぎでは性処理可能でも価値は低いです…売れなければ鉱山にでも卸すしか無い者達です、あと場合によっては性病持ちもいますが、薬で治療可能な者しか置いておりません」
まぁ本当の事だ、だけど、何でだろうか?
さっきからやたらと私と目が会うし…しかも何故か暖かいまなざしの様な気がする。
うん、ミルカの方にいったな。
「此奴は、何で安いんだ、そう悪く無い様な気がするが…」
ミルカを見て、そいつがそう言った。
黒髪、黒目の忌み子って奴だからに決まっている、ミルカが言っていた。
化け物みたいな容姿に、結構な年齢なのだから、当たり前じゃないか?
「はぁ? 黒髪に黒目、その時点で不細工決定ですよ! なんか見ているだけで憂鬱になりませんか!」
これでもう、ミルカが買われる事は無い。
ミルカが売れるチャンスだったのに潰しやがって。
「それじゃ、襲われないという意味では安全だな…それで此奴は男の経験は無いのか?」
「それはあります」
やったね、ミルカ、買って貰えそうじゃない、良かったね。
ミルカの身の上話を聞く位だから興味があるって事じゃない。
だけど、何でそんなミルカが不利になる事言うの?
そんな事話したら、買って貰えなくなるじゃないか?
だけど…
「それじゃまず一人は此奴に決めた」
「そうですか…有難うございます」
ミルカ買って貰えたじゃん、本当に良かった。
だけど、これで私は独りぼっちだ。
「此奴もそうなのか?」
嘘だろう、化け物にしか見えない私の方に来るなんて
しかも、皆が私に向ける嫌な目をしていない…どうして
「貴族様も本当に、変な奴ばかり目が行きますね…どう見ても化け物に見えますよ、まぁこれでもれっきとした人間ですが」
何でそんな事言うんだよ、折角のチャンスなんだ止めてよ…
「さっきの一人とこの子なら、その勇者や剣聖…大丈夫でしょうか?」
「あはははっ、こんな女抱くなら、まぁ別の意味でも勇者ですよ..私には到底無理だ」
私だってあんたの相手なんて御免だ…だけどそこ迄言う必要は無いだろう。
折角買ってくれるかも知れないのに…人の人生壊してそんなに嬉しいの。
「なら安心だな」
「絶対とは言いませんが、普通なら手を出そうと思わないですよ…だってこれですよ」
馬鹿にされているのは解る。
確かにこの容姿だからね…誰も私とそういう事なんてしたく無いでしょうし、話したくも無い、あはははそうだ…よ。
だけど、嘘…買ってくれるの? 化け物みたいだよ私。
銀髪、赤目の化け物みたいなのに…..ありがとう。
この人は本当に天使か何かなのじゃないかな?
余りにも恵まれていない私達の為に女神様が遣わしてくれたのかな?
これは夢なんじゃないかな?
貴族様が乗る立派な馬車に生まれて初めて乗ったよ。
こんな凄い馬車に乗るなんて初めてだ、それはミルカも同じで、さっきから一言も喋らないで汗かいているよ。
「お買い上げいただき有難うございます、ミルカと申します、これから宜しくお願い致しますご主人様」
そうか、挨拶位しないと不味いよね。
「ご主人様、私はレイラです。宜しくお願い致します」
凄く優しい目…
ご主人様がさっきから私やミルカを見ているんだけど…蔑みや化け物を見る目じゃなく微笑みながら見ている。
こんな目で見られた事が無いから本当に困るよ。
こういう時どうしてあげたら良いのか、私は知らないから。
しかし、驚くのはまだ早かったよ。
着いた先はとんでもなく大きなお屋敷。
さっきからミルカが頬を真っ赤にして見ている。
「幸せ過ぎる~」とか「嘘です、嘘..」
と気持ち悪い位ニヘラと笑って口から涎が垂れている。
こんな幸せそうなミルカを初めて見たよ。
しかも奴隷の筈なのに、何かしろってまだ言われないのは何故なのかな。
ミルカが狼狽えながら声を出した。。
「それで、ルディウス様、私達はいったい何をすれば良いのでしょうか?」
「どんな事をすれば良いのでしょうか?」
「この屋敷でメイドとして働いてくれれば良いよ、基本仕事はこの屋敷の掃除と稀に給仕があるだけだ、その他頼み事が無ければゆっくり寛いでいれば良い…まずは、お風呂に入ってゆっくりと休んでくれ、働くのは明日からで良いよ」
「…それだけで良いんですか?」
信じられない…こんなのはどう考えても違う様な気がする。
「重労働はとか、体を売ったりしなくて良いの?」
思わず口から出てしまった、ルディウス様は笑っているが…
こんな冗談みたいな事があるわけないよ?
こんな仕事が奴隷の仕事なら、誰しもが奴隷になりたくなりますよ。
「まぁ此処には粗暴な人間も居るから、危ない目に遭うかも知れないが、基本は無い」
「やはり何かあるのですね」
「そうですよね」
まぁ、そうだよな、こういう旨い話には裏があるに決まってますよ。
「ルディウス様はこう言っているが、無いから安心して良い」
「ルドル?」
「いや彼女達は大丈夫でしょう?」
「そうか、ルドルがそう言うなら安心だな」
何が安心かは解らないけど
どう考えても、この条件はあり得ないよ。
「それじゃ、さっき言った様にまずはお風呂に入って寛いで、食事が届いたら声を掛けるからね、ただ一応メイド服には着替えておいて」
「「解りました」」
えーと、流石に食事の時の給仕のお仕事はあるよね。
「そうだ、部屋割を忘れていたな、1階の奥の広い部屋はルドルが使う、2階の部屋は俺の部屋と客間にする予定だ、1階の部屋で奥から3番目と四番目の部屋をそれぞれ1部屋個室として使ってくれ」
「あのルディウス様、それは個室を貰える、そう言う事ですか?」
「本当に個室が貰えるんですか」
「部屋が沢山あるからな…後は食事の時にでも話そう」
「「はい」」
個室が貰える…良く解らないけど?本当にこれが奴隷の扱い?
横でミルカが《幸せ過ぎる~》と顔を赤らめて手を握りしめて感動しているよ。
うん、これは凄く対応が良いんのが解るよ。
ミルカと一緒に生まれて初めて大きなお風呂に入って、石鹸で体を洗ったよ、ミルカの言うには凄く贅沢なんだって。
うん、凄く解るよ。
そして与えられた個室に行くと、フカフカのベッドに豪華な家具まである。
きっとこれだって凄く高いんだろうな…
ルディウス様が魔法で用意してくれたのかな? 冷たい氷入りの水迄…うん凄く美味しい。
頂いた服も新品の綺麗なメイド服、ミルカが《これはシルクじゃ無いですか~》といっているから、これも高級品だよね。
なにもかもが信じられない… ルディウス様って本当に何なのかな。
そして…食事もルディウス様と同じ物なんだって…こんな豪華な食事なんて生まれて初めて食べたよ。
私の今迄の人生であった幸せ全部より、今の方が遙かに幸せ。
生まれて初めて、私に優しい人。
あの人もミルカも私には優しい数少ない人だった…だけど心の中に私に対する恐怖が少なからずある。
ただの人間なのに…銀髪に赤目だから怖がれる。
だけど、ルディウス様にだけは《それが無い》
ただの人として見てくれる、それどころか好意的な視線に感じます。
こんなに大事にしてくれるなら、私だってルディウス様に何か返してあげたい。
だけど、返してあげる物が何も無い。
何をしてあげれば良いのかな?
そう言えば、私もミルカも性処理可能な奴隷。
男の人は《そういう行為が凄く好き》って聞いた事がある。
伺った方が良いのかな?
ミルカと話ししたらルドル様に相談する事に決まりました。
ルドル様はルディウス様の事を色々教えてくれました。
本当に驚きましたルディウス様が、家族の愛を知らずに育ったなんて…信じられませんでした。
それに、屋敷から出たことは無く、醜い女性という事を知らない可能性すらあるなんて。
「悪くは取らないで欲しい、多分ルディウス様は 黒髪、黒目が忌み嫌われるとか銀髪に赤目が嫌われている、そんな事も多分知らない」
「そう…なんですか?」
「そんな…事が」
思わず驚いてしまいました。
「ああっ、だから正直言ってお前達が行った時の反応が解らない…試しに行くだけ行って様子を見て見るしかないな」
これはルドル様でも解らない、そういう事だわね。
この容姿を嫌わない…そんな男性が世の中に居るなんて奇跡ですよ。
そしてルディウス様の部屋に緊張しながら二人でお伺いしてノックしました。
お返事が返ってくるまでの時間が物凄く永く感じましたよ。
ルディウス様の声が聞こえてきます。
「どうしたんだ、こんな夜に?」
私が口ごもっているとミルカが先に口に出しました。
「あのそのですね…ルディウス様はそのですね…私達みたいな..その醜女でも、その性処理を望まれますか?」
「それは2人で考えて貰って良いよ…奴隷だからって無理じいはしない、ただ二人とも俺から見たら魅力的な女性ではある」
魅力的、私がですか? 化け物と呼ばれて石を投げられる様な私が《魅力的》、そんな嬉しい言葉なんて誰にも言われた事がありませんよ。
思わず、涙が出てしまいました。
「本当ですか?」
「本当に?」
「こんな事は嘘言ってどうするんだ? 嘘では無いよ」
「「それならお相手させて頂きます」」
思わず、恥ずかしげもなく大きな声で答えてしまいましたよ。
ですが、2人一緒と言うのは流石に無く…順番をじゃんけんで決める事になりました。
ミルカも私も真剣です。
順番で回ってくるとはいえ、少しでも早くお相手したいその気持ちはどちらも一緒です。
勝ったのはミルカでした、私は黙って立ち去りました…生まれて初めて悔しい心からそう思いました。
次の日、私は朝から凄く苛立って仕方ありません。
ルドル様に言われてルディウス様の部屋を訪ねたら、凄く幸せそうな二人を見ました。
何なんでしょうか?
ミルカを見る度にムカつきが出てきます。
そんな私と逆にミルカは鼻歌交じりで凄く幸せそうですよ、ステップをして歩いています。
今日はやる事は無いらしいので部屋でゴロゴロしながら過ごしました。
私…本当に奴隷なんでしょうかね…良いのかな?
そして待ちにまった夜が来ました。
とうとう、この時が、私は《性処理奴隷でもあります》なので何でも応えなければいけません。
どうしょう? 今、気が付いてしまいました。
私は、経験がありません。
ここまで優しくしてくれたんです..何でもしてあげたい。
だけど、「知らないんです」
どうしよう? 性処理奴隷だから知っていて当たり前…
しかも、私は結構なおばさんですから、知っていると思って当たり前です。
しかもルディウス様は11歳、私よりずうっと歳下です、どうすれば良いのでしょうか?
「レイラ」
「ごめんなさい、ルディウス様…私こういう経験無いんでどうして良いか解りません」
「嫌では無いんだよね」
「はい」
「それなら、今日は俺がリードするから」
「はい」
ルディウス様は私の頭を凄く優しく撫でてくれてました。
頭を撫でてくれるんだ、凄く優しい…私、頭何て一度も撫でて貰った事はありません。
ルディウス様の手、柔らくて暖かくて凄く触られていると気持ちが良いですね…なんでかな。
可笑しいな…体を触られるのってこんなに嬉しいの?ルディウス様が相手だからかな、何これ。
何でなのかな…そうか、まるで宝物の様に触ってくれるからかな…どうしたのかな凄く暑くて…ううん気持ち良い。
凄く優しく大切にされている気がする。
こんな時間なら幾らでも続いて欲しい、本当にそう思ってしまう。
嘘…そんな事までするの…汚いよそこは…何でそんな事ができるの…
「ルディウス様、そんな事までしないで..そこは、汚いよ」
「これは俺がしたくて、しているんだから気にするな…」
気にするよ、そんな汚い所を触ったり舐めたりしているんだからさぁ..
だけど、これは私がしてあげた事にならないよ
逆にルディウス様が私にしてくれた事になるんじゃないかな?
だったら、私も同じ様にしないと…
ルディウス様が私にしてくれくれるから、同じ様にしてあげたくなる。
一方通行で無く、ルディウス様がしてくれるから、私が返す。
私がするから、更にルディウス様が返してくれる..
なにこれ、今迄辛かった事が忘れしまえて、凄く楽しくて気持ち良く感じる。
というか…ルディウス様その物が気持ちよい…
ルディウス様がするから、それ以上の事を私がしたくなる。
私がそれ以上の事をするとルディウス様がそれ以上の事をしてくる。
「はぁはぁはぁはぁ」
「はぁはぁはぁはぁ」
息までもあって来る….
多分、もう今の私は、ルディウス様じゃないともう無理だ…頭の中が全部ルディウス様に染まっちゃったんだから..
ルディウス様が私に入って来た時は凄く痛かったけど…それすらルディウス様の物に慣れたと思えば幸せに感じてしまう。
ルディウス様以外何も要らない…本当にそう思ってしまう。
今私はルディウス様の腕の中にいる。
ルディウス様の心臓の音がトクントクン聞こえてきて心地よい…腕枕なんて初めて…凄く嬉しい。
ルディウス様の綺麗な顔と体を見て申し訳ない気持ちになる…
ミルカが言った通り、王子様の様に見える、そんな方の相手をしている私はこんなに醜い化け物のような女だ。
ルディウス様が私を覗き込んでくるから、更に恥ずかしくなる…
「私、気持ち悪くなかったかな」
「そんな事無いよ…俺にとっては凄く綺麗だ..」
「嘘..」
そんな訳無いわ…私は銀髪に赤目なんだから…
「確かに赤目だけど…それだけでしょう?」
「それだけ? 皆が化け物って言うのよ…何でそんな事が言えるの…ねぇ…」
「レイラだからかな…」
「それは少し解るけど…赤目なのよ、化け物みたいでしょう」
「あのさぁ…ちょっと酷い話しても良い?」
ああっやっぱり、何かあるんだ..嫌われたくない..だけど聞くしかないよ…
「良いよ、何でも言って」
「赤目の化け物の多くは、男や女を誑かして殺したり血を吸う者が多いんだよ」
「やっぱり、そんな化け物と同じ目に見えるんですね」
「あのさぁ良く聞いて《男や女を誑かすんだ》凄く綺麗って事だよね」
「あの…ルディウス様」
「怖い化け物が持っているからであって、赤目その物は凄く綺麗とも取れないかな、化け物じゃないレイラが持っているんだから、ただの綺麗な目と言う事でしょう」
「この目が綺麗そう思うんですか?」
「うん、凄く綺麗だよ」
「ちょっ、いきなり目を舐めたりしないで下さい…驚きます」
「こんな事嫌いだったら出来ると思う」
「出来ませんね」
「俺は、赤い目も含んでレイラは嫌いじゃない」
「そうですか…変わってますね」
「そうか?」
だけど、そんな事を言ってくれる人は恐らくこの世界でルディウス様だけですよ。
全く…これ本当に良いんでしょうか?
恩返しのつもりだったのに…よく考えたら年下の美少年に抱いて貰っている事になります。
私はいったいこの幸せに対して何を返してあげれば良いのでしょうか?
【ルドル】小さな後悔
私の名前はルドル、私は自分の主人ルディウス様に申し訳ない事をしてしまった。
あの子が両親に嫌われ、使用人に落とされた時から実は半分自分の子の様に思っていた。
貴族で無くなる事が決まったルディウス様を一人前の使用人にする事が私やメイド達の考えだ。
私は所詮他人…そう考えたら、引き取って育てる訳にはいかない。
だから、この子に一生生きていけるだけの仕事を覚えさせる、それが私なりのルディウス様への想いだった。
我ながら馬鹿な事をしたもんだ、まさか主人にクビになるのを覚悟で逆らうとはな…
だが、ルディウス様は違った。
アマンダ様を口説き落とすというとんでもない事で、無事に貴族へと返り咲いた。
そこには、恐らく貴族特有の、汚い何かがあった筈だ。
だが、それはどうでも良い事だ。
主が口に出した事を曲げない…その一つの矜持を持っていれば、黒だろう白だろうと構わない。
何よりクビにされた私を探し出し、再び雇ってくれたのだ忠義に熱い方だ、仕えるに値する主だ。
本来は生涯主に仕える事こそ、執事の仕事なのだから。
ルディウス様に何の不満も無い…何の不満も無いのだが、執事として重要な事を見落としてしまった。
それはアマンダ様に起因する。
今思えば、あれが始まりだったのだ…ルディウス様は義母のアマンダ様を口説き落とした結果、今がある。
親子でも無く、男女としてだ。
アマンダ様は気位が高く、母親としての愛情は薄く見える。
実の息子のヘンドリック様であっても恐らくは心の底からは愛していない。
恐らく、アベル様が気に入った子だから、その延長線上で愛していた、そんな物だろう。
だが、ルディウス様への愛は違う。
心底愛している、その様子が生活を見ているだけでも解る。
あれこそが溺愛と言える。
アマンダ様に愛され、あの屋敷で過ごしたルディウス様は…すっかり、ババア好きのブス好きになってしまった。
ああっ本当にお可哀想に、あそこ迄醜い奴隷女を受け入れてしまう程になるとは思わなかった。
流石に伽は断るだろう…そう思って言ったらまさか本当にするなんて思わなかった。
私が男としてフォローしてやれば良かったんだ。
11歳の美しい美少年で貴族の若者が23歳と25歳のババアを抱いて喜ぶなんて…
自分の年齢の倍そんな者を相手に出来るなら…正直どうなるか解らない。
貴族や王族の中には、行き遅れが沢山いる。
勿論、貴族は体面があるから、そういう人間を貰うと《権力目当て》《お金目当て》と後ろ指を指される場合が多い。
妙齢の女性で良いなら、ルディウス様程に家柄に器量なら幾らでも相手がいる。
それこそ、王族のマーガレット姫は夫を失い未亡人だし、侯爵家のマリアーヌ嬢が確か21歳だった筈だ。
まぁアマンダ様が邪魔をするのが必至ではあるが…
貴族としては案外これはプラスになるかも知れない。
だが、男としては…少し、いや結構悲しい物がある。
さっき、メイドのミルカとレイラに伽について聴いたが、顔を真っ赤にしながら「しっかり愛して貰いました」と答えていた。
気持ち悪い…
この二人とそういう事が出来る…うむ《ルディウス様は勇者》だ。
「ルドル…お前はこれを持って今日は夜の街で遊んで来て良いぞ、泊って来てくれて構わない」
こういう気遣いが出来る、貴族とはいえ11歳の子供がだ..懐が深いのは良く解る。
「お気遣いありがとうございます…それではお言葉に甘えて楽しませて頂きます」
金貨が3枚も入っている…これなら豪遊してもお釣りがくる。
「それでな、ルドル、奴隷商に行き遅れの20歳越えた奴隷が12名居たよな」
「確かにいましたな」
「その中から、更に安い5名のうち2名を購入したんだが、安いから残り3人からもう何人か買おうと思うのだが、どうだろうか?」
「何故、他にも買おうと思われたのですか?」
「たしか、1人眼鏡を掛けていて、結構礼儀正しいのが居た記憶があるのだが、少し気になってな」
私はカーテンの中に入って無いが…あの二人と同じだと考えると
「ルディウス様、今は止めておきましょう」
「ルドル?」
「確かに安いですし、経済的にも余裕はありますが、他にも奴隷商はあります、お休みの時に見て回ったは如何ですか?」
「そうだな」
学園が始まれば忙しくなる、忘れてくれると良いのだが。
取り敢えず、此処を私は化け物屋敷にはしたく無いのだ。
ルディウス様のこの性癖をどうするか?
多分、もう治らないかも知れないし、治してアマンダ様との間に亀裂が入る事を考えたら放っておくしか無いだろう。
勇者と剣聖?
「ベーダつまらないな」
「ああっ本当につまらないなアルトラン」
二人は凄く退屈していた。
勇者であるアルトランに剣聖であるベーダ、2人は学園に入るまで好き放題していた。
流石に、聖女や賢者は後ろ盾があるから手を出していないが、村人や町人相手には好き放題、酷い目にあった人数はどの位居るか解らない。
領主の娘を犯したり、貴族ですら平気で暴力を振るう位手が付けられなかった。
その性格を治す為にこの学園に入れられた。
此処にいるのは、地方領主なんか比べられない位の家柄の者ばかり、流石の勇者も手を出しにくい。
実際に、アルトランやベーダが生徒の女性に手を出そうとしたら…
「相手が勇者様なら喜んで受け入れますわ、但し私を抱くと言う事は即婚姻ですわね、この身一つで勇者が手に入るなら安い物でしてよ」
そんな事を言い出す、上手く遊びで終わらせようと考えていたら
「流石の勇者様も騎士団3千に勝てますか? 私を傷物にして婚姻を結ばないなら、三千の騎士が襲い掛かりますわよ? しかも貴族って弱い所から狙いますのよ…大事な家族や故郷を失う事になりますわ」
こんな事を言われた。
この学園の生徒なら本当にそういう事をやりそうだ。
そう思ったら迂闊に手を出せない。
この学園の生徒は上流貴族の令嬢や子息、玩具に出来る人間等いない。
一癖も二癖もある人間ばかりなのだ。
生徒に手を出せないなら、使用人と考えるのは当たり前だ。
だが、そんな事は学園も通う生徒の親もしっかりと対策している、
ここに若い女性は居ない…
「本当につまんねーな…俺は勇者なのに、こんな所に閉じ込められて窮屈で仕方ねー」
「本当にそう思うぜ、外出の時しか女もだけねーし、憂さ晴らしで殴る相手も居ない…楽しくないな」
「まぁな、新入生がこれから入ってくるけど、どうせ同じなんじゃないか」
「ああっだが一層の事、暴れないか?」
「暴れてどうするんだよ?」
「俺は剣聖で、お前は勇者だ、適当な罰ですむだろう? 文句言われたら出て行けばよい」
「そうか、その手があったな」
「文句言われたら《もう頭に来たから、この先魔族と戦わない》そういって去ればこの学園の評判も下がる…罰せられる物か」
「そうだな…それでどうする」
「どうせなら、今度は行ってくる一番上の爵位の奴でも半殺しにしようぜ、それで様子を見れば良いんじゃないか」
「そうだな」
知らないうちにルディウスは巻き込まれていく
決闘 剣聖
どうせ、やってやるなら一番上の貴族をと思っていたが、少し拍子抜けした。
今年の貴族の子息や令嬢のトップは伯爵家の子息でルディウスという人間だという事が解った。
いきなり襲う、そう言う訳にはいかない。
それでは《ならず者扱い》で評価が下がる。
形上の《理由》が必要だ。
「彼奴が、ルディウスか?」
「そうみたいだぜ、アルトラン」
「お付きのメイドでも襲ってやろうと思ったが、何だあれは、2人とも化け物みたいじゃないか?」
「ああっ、何でも、あの化け物みたいなメイド2人と執事が一人らしいぜ」
「萎えるな、幾ら女日照りでもあの化け物は抱けんな」
「俺もパスだな」
「それで、どうする? ターゲットを変えるか?」
「いや、調べて見たら、どいつも同じ様な感じだ、まぁ、あそこ迄露骨なのは彼奴だけだが、どこのメイドも歳食った女ばかりだ、はっきり言えば容姿でいうなら、街の娼婦の方がまだましだ」
「それじゃ、どうするんだよ?」
「なぁ、アルトラン、化け物退治は勇者の務めだ、あの様な化け物を連れている奴は退治して良いんじゃないか?」
「そうだな、俺もお前みたいに、人が殺してみたい、あの化け物を殺してチェリー卒業も良いだろう」
「ああっどうせなら、あのムカつく顔のルディウスの前で殺すのも良いか」
「いや、彼奴に見殺しにさせてから、彼奴を殺した方が面白そうだ」
「何を考えているんだ」
「彼奴は貴族だ、決闘を申し込んだら逃げられない、どちらかが決闘を申し込んでいたぶってから、あの気持ち悪い奴隷の所有権を手に入れて、殺すのはどうだ」
「面白そうだな、本当にお前って勇者なのか、正直エグすぎるぜ」
「剣聖のお前に言われたくないな」
【翌日】
「お前がヘングラム伯爵家のルディウスか?」
《いつかは絡まれる可能性がある》そうは思っていたけど、まさか登校初日の学園の入り口で絡まれると思わなかった。
知ってはいるが、敢えて聞いた方が良いだろう。
「確かに俺はルディウスですが、先輩たちは何か用があるのでしょうか?」
「俺は勇者、アルトランだ、そして、此奴が剣聖ベーダだ、お前が魔族の女を奴隷にしていると聞いたが本当か?」
早速の難癖か…
「いえ、確かに容姿は問題がありますが、王都の奴隷商から買い付けた者です、問題は無い筈です」
「俺は、しっかりとみたし、ベーダも見た、黒髪、黒目の女と赤目の女、どう考えても化け物にしか見えない」
「俺にもそう見えるが」
そう来たか、だが、勉強不足だ。
「勇者に剣聖、言わせて貰うが、奴隷商を行う為の許認可は王以外は卸せない、王が卸した許可を持つ奴隷商がもし、化け物を販売した、そう言いたいなら、俺ではなく、国王にその責を問うべきだ」
「つべこべ抜かすな、国王なんて関係ない、俺が黒と言えば黒なんだ」
勇者と剣聖ともあろうものが、此処まで話が通じないとは思わなかった。
「奴隷とはいえ、2人は当家のメイドです、そこまで愚弄される謂れは無い、馬鹿馬鹿しい」
「お前、馬鹿馬鹿しいとは何だ、俺は勇者なんだぞ?」
「確かに、お前は勇者なのかも知れないな、だがまだ旅立ってもいないし、手柄もたてていない。 それなら只の平民だ。 俺は伯爵家の子息だ、本来なら膝磨づく事から始まるんだぞ、まぁ学園は基本上下関係は無いが、立場でいうならお前達は、この学園の生徒では一番下だ」
「貴様、貴族だと言うのか、そう言うなら《貴族は決して敵に背を向けない》その理屈位は守れ、決闘を申し込む」
馬鹿な奴らだ、これは凄く俺に都合が良い。
「良かろう、それで俺はどちらの決闘から受ければ良いんだ?」
「お前、馬鹿なの? 剣聖や勇者に勝てるとでも? もう俺たちは騎士より遙かに強いんだぜ」
「申し込んできたのはお前達だ、それでどちらからやるんだ」
「いきなり勇者と遣るのは可哀想だ、俺が相手してやる、なぁに俺は剣聖、勇者と違い魔法を使わないだけ、まだましだ、腕か足を斬り落としたら、まぁ心がけ次第じゃ命は助けてやるよ」
「そうか」
相手が勇者と剣聖、そして伯爵家絡みのせいか教師を始めだれもが見て見ぬ振りをしている。
まぁどちらについても恨みを買うから《無視をする》貴族として当たり前の事だな。
「俺は剣聖だから剣で相手する、良いな?」
剣を持った剣聖、普通は絶対に勝てない…思いっきり卑怯だ。
「真剣を使った決闘と言う事で良いな? おい誰か、門の所に居る騎士を連れてきてくれ」
「騎士等呼んでも役に立たないぞ」
「違う、立会人だ、正式の決闘なのだから、騎士の立ち合いは必要だ」
「そうか、なら逃げられたく無いから、此方で呼んでくるぞ」
そう言うと、ベーダは騎士を呼びに行った。
この学園は貴族の子女が通う場所だから、門を1個小隊の騎士で固めている。
だから、立会人には困らない。
暫くすると隊長格の騎士がベーダに連れられてきた。
「何があったのだね? 学生通し、もう少し穏便に出来ないものかね」
「うるせー、此奴が化け物を庇うからこうなるんだ」
「君は本当にそんな事をしたのかい?」
「確かに当家のメイドは容姿は良く無いですが、ちゃんと王都の奴隷商で購入した物です、化け物ではありません」
「この期に及んで」
「決闘は受けると言いました、後は勝った方が正しい、そいう事で良いんじゃないでしょうか?」
「君はそれで良いのか? 相手は剣聖だ、君が万が一も勝てるとは思えない」
「貴族である以上、受けない訳にいきませんよ」
「ならば良い、だが一旦始まってしまったらもう介入は出来ないぞ、それで良いんだな」
俺は頷いて金貨を1枚渡した。
「おい、ルディウス見てたぞ、賄賂か」
「お前は馬鹿か? これは記録水晶のお金だ、騎士である以上は必ず持っているが、案外高価なんだ、その為、見届けを頼んだ場合、お金を渡すのが礼儀だ」
「賄賂じゃないなら良い」
「それでいつ始めるんだ?」
「お前に逃げられると困るから今からだ」
「解った」
「本当に止めないんだな? 正式な決闘となったらもう止められないぞ」
「解っている」
これは俺にとっての試金石だ。
俺の思った通りなら面白い事になる。
【教練場にて】
結局話は大きくなり、登校初日なのに今日は休校になってしまった。
場所を教練場に移して俺と剣聖ベーダの決闘をする事になった。
「本当に良いんだな、始まってしまったらもう止められないぞ」
「ああっこれでも、俺は英雄アベルの息子だ、そう簡単に負けない、それで剣を俺は持ってないんだが」
「お持ちでないなら貸しましょうか?」
「頼む」
「ベーダはどうするんだ」
「俺はこれを使う」
「待て、それは魔剣ルランドル、余りに卑怯じゃないか?」
「俺は剣聖だ」
「それでは」
「俺も構わない、だが、剣聖が魔剣を使うんだ、俺は借りた剣と杖を使うが構わないな」
「ああっ構わないぞ」
剣を持った剣聖、相手に普通は敵わない、だから笑いながら見下す様に言いやがる。
「始まったら何でもあり、そしてどちらかが負けを認めるか死ぬかで決着、これが貴族の決闘だが良いんだな」
「構わないさぁ、どうせ俺の勝ちに決まっている」
「それじゃ、始めの合図で決闘スタートだ…」
しかし、流石は学園だ、学園長に教師に生徒、恐らくこの学園の関係者が全員此処にいるのに話声一つしない。
俺は杖を前に出し構えて、実験でやった様に杖の先が頭の中に伸びている、そういうイメージをした。
聖なる加護があったらどうしようかと思ったが、そんな物は無かった。
これなら、もう勝負はついた様な物だ。
この状態を例えるなら《すでに頭に銃を突き付けて撃鉄をあげた状態》からのスタートだ。
ベーダも剣を構えている。
「それでは始め」
その声と同時に俺はベーダの脳みそを引き千切る様に頭の中の水を回転させた。
これで死んだ筈だ。
危ない、死んだ状態なのに剣先が俺の2歩手前まで伸びていた。
そして、ベーダがバランスを崩す前に剣で頭を殴った。
ベーダはもう死んでいるが、死因はバラしたく無い、あくまで打撃で死んだそうする必要がある。
だから、倒れたベーダの頭を何回も何回も殴った。
頭の中で脳が千切れた状態だが、ベーダは体の手足がかすかに痙攣するように動いていた。
グチャリ..グチャ…バキガツガツ。
この世界の剣は刀の様に斬るのではなく、重さで押しつぶす様な剣だ、頭蓋骨は潰れ脳みそはピンクに染まり頭からはみ出した。
「ひぃぃぃぃぃぃーーーーっ」
「あれ、死んでるよーーーっ」
誰かが叫んだ事により開始の合図を告げた騎士がこちらに来た。
「ルディウス殿?」
俺は一心不乱に剣で頭を潰す様に殴りつけていた。
相手は剣聖だ、もしかしたら此処からでも蘇生するかも知れない。
「ルディウス殿、貴殿の勝ちです、離れて下さい…多分死んでいる」
直ぐに学園の治療師が飛び込んできたが。
「ひぃっ、これはもう絶対に無理だ、頭が潰れて割れて、そこから脳みそが千切れて飛び出ている、例えエリクサーがあっても治せない」
「この決闘の勝者はルディウス殿だ」
規定どおりに騎士が俺の腕をあげたが、歓声など上がらず、見ていた者はただただ青ざめていた。
そして、勇者アルトランは足が震え真っ青になり、その場にへたりこんでいた。
決闘 勇者
本来なら、歓声に包まれたり、何かしらの反応があるのだが何も無い。
そりゃそうだろう《剣聖が死んでしまった》のだからこうもなる。
確かに此奴はクズ野郎だが、世界を救う四職の一人だ。
それが目の前で殺されてしまったのだから、こうもなる。
暫くして落ち着いてきたのか、ちらほらと声が上がっていた。
「けけけ、剣聖が死んでしまった」
「こんな事があるのか? 剣聖が旅に出る前に死ぬなんて」
俺は大きな声で全員に聞こえるように一言言った。
「多分、この学園に居る、勇者も剣聖も偽物の疑いがある」
その反響はすさまじかった。
「本当なのか? だが、剣を持った剣聖が一瞬で死んだんだ、偽物と言うのもうなづける」
「確かに、粗暴も悪く、あれが人類の希望とは思えない」
「先代の勇者パーティーは人格者だった、そう考えたら本物の訳ないか」
「あれを女神様が選んだ、そう考える方が可笑しい気がする」
「まてよ、剣聖が偽物だとすれば、他のメンバーはどうなんだ…勇者も偽物じゃないのか?」
「聖女や賢者はその能力も高く、教会やアカデミーで働いていると聞いているわ、そう考えたらこの学園に来た二人が偽物なのかも知れない」
勇者アルトランはガタガタ震えていた。
剣聖は人を殺す位のいわば、完全に悪党だが、此奴はまだ小悪党だ。
人を殺した訳でない。
しかし、情けないな、悪党なら悪党らしく矜持位持てよ。
さっきから「俺は偽物じゃない…偽物じゃない」と譫言の様に繰り返している。
可哀想だな(笑)終わらせてやろう。
俺はアルトランに近づくと手袋を投げつけた。
これは貴族側からの正式の決闘だ、逃げる事は《平民》には許されていない。
勇者とはいえまだ旅立つまえだから《その特典》は与えられていない。
もし、王から正式に特典が与えられて、勇者保護法で守られていたら、保護されるが、まだ此奴は保護されていない。
高飛車になるには早すぎた。
田舎領主や今迄の人間は《彼らの将来》を考えて見逃したのか、それとも此奴が《正式な勇者》になってから何かしらの話で見逃したんだろうか解らない。
だが、まだ此奴は勇者であるが、権利としてはまだ《勇者未満》だ…ようするに只の平民だ。
「いやだ、いやだああああーーーーっ、俺は死にたくない」
「悪いなアルトラン、貴族からの決闘申し込みを平民は拒めない」
「俺は勇者なんらぁー、だからだから」
「なんらぁー? 笑えるな…勇者ならその実力で俺をねじ伏せたらどうだ? お前、偽物疑惑が上がっているぜ」
「俺は、俺は本物なんだ」
「はいはい(笑)解ったからもう良いよ、もう決闘は決まった事だからな」
そう言うと俺は教練場の中央に戻った。
だが、アルトランはまだ来ない。
「何をしているんだ、早く来い」
「嫌だ、嫌だ、悪かった、止めてくれ」
「仕方ない、アルトラン、良い事教えてやるよ、よく考えるんだ! 決闘は降伏が認められているんだ、始まったら一呼吸して直ぐにと土下座しろ、そうすればお前は助かる」
「そうか、正式に負けを認めれば良いんだな」
「俺は決闘で勇者に勝てた、その事実だけあれば良い…その後のお前の弁明まではどうでも良い事だ」
「ああっ、解った」
俺は剣聖の時と同じ様に杖を構えた、実際には既に杖の先が伸びた様なイメージで頭に繋いである。
みすみす極上の獲物を逃す訳が無い。
そして、反対側の手には剣を握っていた、良くは解らないが、剣聖を倒した後何かが変わった気がする。
アルトランはガタガタ震えながら剣を握っている。
まだ、聖剣を抜く前だから聖剣では無い。
それでも勇者、ミスリルの良い剣を持っている。
「それでは始め」
「まいっ」
言わせない、一瞬で頭の中の水を操り絶命させた。
そして、倒れる前に勇者のクビを跳ねた。
恐らく、勇者が死んでなければ、何かの力が働き斬れなかったかも知れない。
だが、死んでしまったからかそういった不思議な力が働かなかった。
聖魔法によるオートガードも、《元からある、体の中の水を操る事には無反応だった》
しかし、剣聖と違い、オートガードを持つ勇者が、何故俺を怖がったのか? まぁ此奴がとんでもないチキンだったに違いない。
さっき以上に周りは沈黙している。
「勝者、ルディウス殿」
そう、宣誓を受けても静まり返っていた。
俺はそのまま、アルトランの首を放り投げると持っていた剣で粉々にした。
そして大きな騒ぎになる前に、剣を騎士に返してその場を立ち去った。
【近くの森にて】
俺は近くの森で剣で木を斬りつけた。
やはりそうだ、俺だけの特異が此処でも働いたようだ、あっさりと大きな木だったので真っ二つだった。
隠し持っていた、記録用紙で自分のステータスを確認した。
ルディウス
LV 60
HP 3580
MP 4080
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者(転生人)
スキル:アイテム収納、聖魔法レベル15 闇魔法レベル3 火魔法レベル15 風魔法レベル19 水魔法レベル42 格闘レベル8 剣術レベル22
隠蔽
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破(限界が無くなる)
俺だけがこの世界で《人を殺して》もレベルが上がる。
ヘンドリックを殺した時に思ったが、相手の能力も手に入る様だ。
そして種族として強い者を倒した方がよりレベルが上がる。
そう考えたら、勇者や剣聖は魔物でいうならドラゴンや魔王に値するのかも知れない…
とんでもない事になっていた。
こう言う事を見越して隠蔽をとっておいた。
此処まで強く成れば、一安心だろう。
まぁこの後どうするかはゆっくり考えれば良い。
決闘 後 学園長の苦悩
勿論、この決闘は《貴族として当たり前》の権利だ。
だから、誰からもとやかく言われる筋合いは無い。
この権利は国で認めたものだから、国王でも文句は言えない。
だが、この後、かなり面倒な事になるだろう。
だから、ステータスを隠蔽する。
ルディウス
LV 60
HP 3580
MP 4080
ジョブ 魔法使い (剣聖) (勇者)(転生人)
スキル:アイテム収納、(聖魔法レベル15) 闇魔法レベル3 火魔法レベル15 風魔法レベル19 水魔法レベル42 格闘レベル8 剣術レベル22
(隠蔽)
(剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる) (勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。)
(限界突破(限界が無くなる))
( )で囲んだステータスは鑑定で見ようが、記録水晶で見ようが記録紙でも解らない筈だ、ただ高位の鑑定士なら見破れる可能性も高い。
まぁこれで見破られたらその時はまた言い訳すれば良い。
一応、水魔法と剣術を残すか消すか考えたが、残す方にした。
水魔法の中に治癒魔法も存在するから《決闘を受けた理由として、大怪我しても自分で治せるから》という言い訳の為だ。
剣術レベルも隠して無いのは、《この位で無いとさっきの決闘みたいな戦い》が出来ない為だ。
しかし、《隠蔽は》は思ったより万能じゃない。
消すことは出来ても改ざんは出来ない。
だから、レベルやHP MPはそのままにするしかない。
案外不便だ。
まぁ、この辺りも上手く誤魔化せる言い訳が必要だな。
学園に帰ると門番に咎められた。
「今回はあんな事があったから気持ちも解るから見逃すが、勝手に外出は困る、あと学園長が呼んでいる、直ぐに学園長室に行くように」
「すみませんでした、直ぐに参ります」
「ああ、そうしてくれ」
門番といえこの学園の警備を任されてる者は騎士が多い、つまりは騎士爵を持っている。
俺は伯爵家の子息、つまり将来は上に行くが今現在なら、彼らにとっては上司の《坊ちゃん》、彼らの方が地位は上だ。
素直に詫びた方が良い。
【学園長室にて】
ノックをして大きな声で入室の許可を貰う。
「失礼します、ルディウス ヘングラム参りました」
「入りたまえ」
その声を聴きドアを開け中に入った。
中には、学園長に騎士数名が居た。
「そう緊張する事はない、ルディウス、君のやった事はこの国の法が許している別段咎はない」
「それでは、何故私は呼び出されたのでしょうか?」
「個人的な話が一つと公式な話が多々ある」
「そうですか? ならば一つしかない個人的な話から聞きましょう」
「これは個人的な人としての話だが、素行の悪い相手とはいえ、あそこ迄残酷な事する必要があったのか?」
「彼らは難癖つけて私を不具者にするか殺した後に当家の使用人が気にいらないから殺す計画を立てていたそうです」
あくまで噂だが聞いていた。
「もし、それが本当だとしても、殺す事は無かった筈だ、君程の腕なら腕の1本でも斬り落として終わらせる事も出来たはずだ」
「学園長、何を言われるのか、彼らは勇者と剣聖なんだぞ」
「それがどうかしたのか?」
「もし、中途半端な事をして、彼らが強くなったら報復されるかも知れない、そうでなくても王や公爵家にある事無い事吹き込まれる可能性もある、他にも本当に恨んでいたら、大きな手柄の際に当家の失脚や私の首を望む可能性もある、だから殺すしかなかった」
《確かに彼の言い分は正しい、だが11歳の少年が此処まで考えて決闘に臨む物なのか》
「それでは君は最初から殺す気で臨んでいたのだな」
「相手は勇者や剣聖だ《殺す気と自分も死ぬ気》で無いなら失礼だ」
「君みたいな子供が死ぬ気等と本当の事なのか?」
「私の父は死んでしまったが英雄アベルだ、そして義母は魔法使いとして名を成したアマンダだ、決闘に望むなら死ぬ覚悟と殺す覚悟をもつように小さい頃から教わった、その気が無いなら決闘など受けない」
《確かに二人とも戦争経験者で数々の手柄を立てたと聞く。そんな二人から、教えられたからこそ11歳にして此処まで覚悟を持った子供になった、そういう事か?《死ぬ覚悟と殺す覚悟》そんな覚悟を持った者など生徒の中には恐らく居ない。それは実戦で身に付くものだ。アベルは教官もしていた事があったが《鬼》と呼ばれていた。恐らく両親がより《実践形式》で教えたのだろう》
「君は今迄人を殺した事があるのか?」
「盗賊ならかなり殺したかも知れません」
《やはりそうだ、人を殺した事が無い勇者に無抵抗な者しか殺した事が無い剣聖、盗賊を戦い殺した奴に勝てるわけが無い》
「そうか、個人的な話は終わりだ」
その後は騎士を交えて状況の話をした。
どういう流れで決闘になったのか全て話した。
どう考えても俺は一方的に絡まれただけだ。
「成程、確かに他の生徒が言う通りだ」
本当に抜け目が無いな、先に他の生徒たちから証言を集めて俺が嘘をつかないか照合したって事だ。
「もう下がって良い…確かに君の言い分は正しい、だが人としてもう少し優しさを持つべきだ」
「肝にめいじましょう」
俺は挨拶をするとそのまま退出した。
ステータスとか調べられると警戒したが、そんな事は無かった。
【学園長SIDE】
これは困った事になった。
どう考えてもルディウスの言い分は正しい。
無惨に殺した、その結果だけを見ればそうだが…
自分の使用人を庇い、ちゃんとした貴族の作法に則り、決闘した…その結果が相手の死であっても、法的には彼を攻める事は出来ない。
いや、寧ろ、攻める意味が無い、貴族が自分の名誉のために決闘をし、戦い勝利したそれだけの事だ。
だが、今回は相手が《勇者》に《剣聖》だ。
人類の守護者、暫くしたら賢者と聖女と共に魔王討伐の旅にでる。
そういう人物がこの学園で、殺されてしまった。
ルディウスには完璧な正当性がある。
なら、その責任の矛先は…私に来る。
ルディウスは《勇者》も《剣聖》も偽物かも知れないと言っていた。
なら、学園の立場は…二人とも偽物だったで通すしかない。
《本物なら、生徒に一方的に負ける訳は無い》
《貴族の作法に則っとった正しい決闘だから口を挟めない》
この二つで押し通すしかないだろう…間違ってはいないのだからな
しかし…新入して直ぐにやってくれるな…
頭を抱えるしか学園長は出来なかった。
聖女 ホワイト
私の名は聖女ホワイト。
このホワイトと言う名は《無垢》を現す事から結構聖女になった時に改名される事が多い名前だわ。
正直、何であんな野蛮な人間が《勇者》や《剣聖》なのか解らない。
女神様への信仰を一瞬疑う程、気持ちは落ち込んだわ。
無抵抗の者を斬り殺した剣聖に領主の娘を犯した勇者。
どう考えても犯罪者だわ、こんな者を勇者に選ぶんだから当然よね。
しかも領主の娘を犯す時には「逆らうなら俺はもう魔王と戦わないし世界は救わない」そう言って脅したそうだわ。
本当に心底ゴミだわ、そのせいで彼女は婚約破棄になったし、犯した後もしつこく言い寄るから、私の方でどうにかしてシスターにするしか無かった。
領主も教皇様が直に謝りに行ったから、泣き寝入りするしかなかった。
剣聖が人を斬り殺したときはローマン伯爵が詫びに行った。
ただの平民に伯爵が土下座したんだから、平民が許さない訳にはいかない。
私は最近、本当に女神様への信仰が薄れている。
だけど、学園をあの二人が卒業したら、一緒に旅立たなければならない。
頭は痛いし、身の危険すら感じるわよ。
それは賢者も同じようだけど…
そんな、勇者アルトランと、剣聖ベーダが死んだ。
一瞬、魔族にでも殺されたのかと思ったら、貴族に喧嘩を売って決闘になり殺されたらしい。
本当に馬鹿ね、《まだ弱いくせに上級騎士かもしくは聖騎士にでも喧嘩を売ったのかしら》そう思ったら違った。
11歳の少年に殺されたそうだ…しかも2人とも。
これは可笑しい、可笑しすぎるわ。
私はあの二人が嫌いだから、認めたく無くて何回も《鑑定》で見たのよ。
何度見ても悔しいけど《勇者》に《剣聖》だった。
しかも、あんな馬鹿なのに加護のせいか既に一流騎士並みのステータスはあったわ。
だから、殺せる存在がいるなら一流の騎士を越える上級騎士か聖騎士じゃ無ければならない。
それを殺したのが11歳の少年。
あり得ないわ、父親に英雄、義母に実戦的な魔法使いを持ち、仕込まれたという話だったが。
絶対にありえないわ、もし彼が天才でも11歳に一流騎士は倒せない。
そんな天才がいたら間違いなく噂になる筈だわ。
だが、ルディウスなんて名前初めて私は聞いた。
性格は最悪だったけど、あの二人は間違いなく《勇者》に《剣聖》だった。
四職のうち二人が死んでしまった…魔王討伐はどうすれば良いのよ!
要になる勇者が死んだのならもう希望は無い。
二人の代替は何処にもいない…
もし、存在するとしたら、彼ら二人を殺せた件の11歳の少年だけだ。
もし、彼が素晴らしい天才なら私は地に頭をつけて頼むのも吝かでない。
私の体が欲しいなら与えても構わない。
勇者や剣聖の穴を埋める存在…その価値に比べたら安い物だ。
事実、私はあんなクズ勇者でも魔王を倒したら妻にならなくてはならなかった。
しかも第二夫人にね。
兎も角、私はルディウスという少年に会わなければならない。
もし、かの少年が《希望の光》なら私の身を含み全てを与える覚悟はあるわ。
だけど、もし彼が無能な人間なら…聖女だけど、殺してしまうかも知れないわ。
だって、クズだけど人類の希望を二人も殺したんだからね..
不味い事になりそうな予感
ルディウスと言う少年について事前に調べてみた。
彼は小さい頃は貴族として扱われずに苦労していたようだ。
そこからかなりの苦労をして義母に取り入り今の様になった。
そして、使用人からの信頼は普通の貴族以上にある。
どう話を聞いても貴族として模範的な人だわね。
しかも、女性を外見だけで判断しない、その証拠にあそこ迄醜い女を奴隷から救い出し自分付の侍女にしている。
実際の所は解らないけど、うちのクズ二人より真面な男じゃない。
まぁ、あくまで噂は噂、本物を見て見ないと解らないわ。
だからこそ、一時の時間も惜しいのよ。
だから、私専用の馬車を出して休まず走らせているわ。
此処までの情報でおおよその予想がついたわ。
それは調査報告してきた人間の見解と同じ内容だった。
《学園に押し込められた勇者と剣聖が思い通りにならず、その矛先がルディウスに向った、そして理不尽に決闘を申し込み、負けて殺された》
それだけの事だわ。
唯一、彼が酷い事したと取れるのは《残酷に》殺した、それだけだわ。
だが、それも仕方ない事だと思う。
自分を陥れ、尚且つ使用人を殺そうとするなら殺すしかない。
彼らは勇者と剣聖、いまの自分は彼らより地位はあっても直ぐに逆転する。
万が一にも《生きて居られたら困る》そんな所ね。
そう考えたら《未来の憂いを断つ》為に仕方ない事だわ。
必要悪、寧ろ自分の手を汚す事で、使用人や自分の周りの人間の未来を守ったともとれる。
此処までが上がっていた報告。
これからは《私の目で見極める》しかないわね。
「聖女ホワイト様、もう暫くで学園につきます」
「解ったわ」
「しかし、勇者様や剣聖様を殺したという少年は何者なんでしょうか?」
「解らないわ、だけど魔王軍に対抗できるような実力者である事を祈るしか無いわね、そうでなくては世界が終わるかも知れないもの」
「聖女様」
「此処から先の事を考えるのは、聖女である私と賢者である彼奴が考える事だわ」
「すみません」
「良いのよ、心配してくれてありがとう」
馬車は学園に到着し、聖女は直ぐに学園長室に向った。
【学園長室にて】
「聖女ホワイト様」
「大変な事になったわ、大体の事は知っているし彼の決闘は法に則って正しい、ですがこの事について学園はどの様に責任をとるおつもりですか?」
「ですが、勇者アルトラン様に剣聖ベーダ様が死んだのは自業自得です、学園側に責任はありません」
「あるわ、生徒のルディウスには一切の責任はありません。ですが、よーく考えて、アルトランもベーダも学生ですよ? 勇者とか剣聖と言うから話が可笑しくなるのよ? 生徒が決闘をして死んだ、しかもそれが学園の中で、生徒どころか教師迄見世物を楽しむように見ていた。これの何処に責任が無いのかしら? 頭が可笑しいんじゃない? 今回は死んだのが勇者と賢者だけど、普通の生徒なら死んでいたのは彼方でしょう? 《生徒が生徒を殺す事を止めないのは正しいのかしら》」
学園長は顔色が悪くなった。
確かにそう言われればそうだが…誰が勇者達を止められると言うのだ、そして決闘は合法で王国が認めている。
「確かに普通の生徒ならその範疇ですが、勇者も剣聖も人を殺したり、女性を平気で犯すようなクズではないですかな?」
「そのクズの様な性格を治す為に国王様がこの学園に入れたんでしょう?」
「ええっですが、全く治りませんでしたね、此処は人を教える為の学園です、獣以下の人間じゃ何も学べないでしょう? クズはクズ、治らなかった、その結果、正しい心を持つ者に殺された、それだけでしょう? それにあのアルトランとベーダって本当に勇者と剣聖なんですか? あはははっ決闘の記録水晶みます? 魔剣迄使った剣聖が、普通の剣を持った相手に簡単に殺されて、勇者が勇気の欠片も持たないでガタガタ震えて簡単に負けた…ここまで無様な勇者パーティー見たことが無いですね…聖女様、これでも勇者って言えるんですか?」
決闘のシーンの記録水晶を見た。
無様としか言えないわ…偽物だと言われたら否定できない。
これを国王様や教皇様が見たら《偽物かもしれない》そう思うかも知れない。
私は鑑定でしっかり確認したわ。
だけど、《11歳の人間に歯が立たなかった事実》 勇者じゃ無いと言われたら否定できない。
ましてもう二人は死んでいるのだから《本物》の証明を出来ない。
そして、何より二人を勇者と剣聖だったと証明したら…不味い。
《ただの人間に瞬殺される様な人間が勇者と剣聖》 そんな人間に希望を託した…更に物凄い問題になるわね。
「私から見ても可笑しいわ、確かにあの二人は行いを見ても《勇者》や《剣聖》には程遠い。これで証明されたわね、あの二人は偽物、何時入れ替わったかは解らないけど、本物では無いわね」
こうするしかない無いわ…こうして偽物にしてしまえば素行の悪さも全部誤魔化せる。
「そう言って頂けると助かります、偽物の為に誰も犠牲になる必要はありません」
学園長も多分二人が《本物》だと知っている筈、だが敢えて《偽物》にしたんだわね…まぁそれしか無いわね。
「そうですね、それで偽物たちを成敗してくれたルディウスと言う少年に会いたのですが」
「会ってどうする気ですかな?」
「お礼を申しあげます」
「解りました、それなら今暫くお待ちください」
「失礼いたします」
「やぁルディウスくん、聖女様が君にお礼を言いたいと言うんだ」
「お礼ですか?」
「初めましてルディウス殿、私は聖女を務めておりますホワイトと申します」
「聖女様、ご挨拶が遅れまして申し訳ございません、私はヘングラム伯爵家の長男ルディウスと申します」
この方がルディウス…凄く綺麗な髪に整った顔、綺麗に伸びた手足、物語の王子様とかの容姿じゃない。
悪いけど、アルトランにベータとこの方を並べて《誰が勇者様でしょう》そう聴いたら100人が100人、ルディウスを勇者だというでしょう。
しかも、この胸の高鳴りはなんでしょうか?
四職はお互いに共鳴すると言いますが、ルディウスに会った胸の高まりはアルトランにベータと会った時より遙かに高く感じます。
これが四職の共鳴で無いと言うなら恋では無いのでしょうか?
「ルディウス殿、この度は偽物の勇者に剣聖の討伐ありがとうございました」
《成程、そういう方向で落ち着いたんだな》
「いえ、絡まれたので仕方なくした事、あまり褒められる物ではありません」
「謙遜する必要はありません…それで厚かましいのは解っていますが、私達とパーティーを組んで頂けないでしょうか?」
「あの、何かの冗談ですよね」
「冗談ではありません、宜しくお願い致します」
「あの、考えさせて下さい」
「解りました、唐突すぎますね、今回の件で、学園に賢者も来るように伝えてあります、到着はおおよそ4日後です、それまでにお考え下さい」
「解りました」
《これはもしかしたら不味い事になりそうだ…本当にそう思った》
湧き上がる感情
確かに「待ってくれる」そう聞いた。
「ルディウス様、どうですか? 勇者パーティーに入って頂けませんか?」
「まだ、考えている最中です」
「もし、入って頂けるなら、魔王の討伐後は、公爵、場合によっては王女と婚約して王になる事も可能ですよ」
「俺はそこ迄の器じゃないので、地方領主で充分です」
「あの、望めば聖女の私との婚姻も可能ですよ」
「そんな高望みは望んでいません、それこそ分相応が一番です」
「貴方がしっかりと仲間になってくれるなら、それこそ直ぐに恋人にだって」
「俺は事情があって一年入学が遅れました、これから俺は楽しい学園生活が送りたいんです、討伐の旅なんて考えていません」
いや、勇者とかになって旅に出るなんて究極の貧乏くじだろう。
昔の話によれば何時帰れるか解らない。
そんな旅をしたって得られるのは実質名誉だけだ。
短い旅で5年、掛かった勇者は20年近い月日を掛けていた。
しかもだ、現実は凄く厳しい…勝率は5割位、つまり二人に1人は死んでいる。
辛い旅路の果てに、1/2のデスゲーム、そんなのやる奴は馬鹿かマゾだ。
「勇者も剣聖も居ない…それなのに魔王と戦わなくてはならない、私に力を貸して下さい…手を貸してくれるなら何でもします」
これは普通に考えれば《最高の条件》なんだろうな、聖女を自由にできる。
だが、俺には前世の記憶がある。体は11歳だが、精神はもっと上だ。
聖女の年齢は12歳、前の世界でいえば小学6年生。
確かに美少女で可愛いが《手を出しちゃおしまいだ》そういう声が頭から聞こえて来る。
そして何より俺はロリコンじゃない。
この世界じゃ行き遅れ扱いだが20歳以上の大人の女が好きなんだよ。
だが、この世界だと14歳位で結婚して成人扱いになる事が多い。
貴族だと少し違うが平民や農家ならそんな物だ。
そしてまぁ男女の営みも普通にある。
そう考えたら、12歳はピチピチだともいえる。
大人になる一歩手前の少女…それは解るが、良いのか?
こんなガキともう一人に世界の平和を背負わせて可哀想だと思わないのか?
ヘングラムの領地は魔族の領地から立地的に王国を隔てた土地にある。
つまり、魔族が進行するなら必ず王国を経由しなければ来れない。
そういう意味で王国が滅びでもしない限り安全なのだ。
だから、《勇者》と《剣聖》の能力はあくまで保険として欲しかった。
勇者なんてなりたくは無い。
だが、この世界の奴がムカつく。
ガキに世界の平和押し付けるなよ。
前の世界の大人も最低だったが、そんな存在がいたら、自衛隊や警察が戦うだろう。
この世界の大人はゴミだ。
少なくともこんなガキに頼む位なら王都の騎士団1万5千。
教会が持っている聖騎士を含む1万2千で戦うべきだ。
こいつ等に出来るなら1万を越す騎士にでも出来る筈だ。
それをやらないでガキに全部押し付ける、俺なんかよりずうっとクズなんじゃないか?
教皇が一番偉くて、聖人だと言うならお前らが戦えば良いんだよ。
「なぁ、ホワイト様…何で笑っていられるんだ? 聖女だからって全て押し付けられて死ぬかも知れないのに?」
「聖女ですから、世界の平和の為に生きるのは当たり前です、そういう生き方しか私は知りませんから」
何だ、この世界は俺なんかより遙かにクズなんだな。
これって教育という名の洗脳じゃ無いのか?
「そうかよ、ホワイトは自分が無惨に死ぬかも知れないのに笑うのか」
「それしかありませんから、私には」
ガキの癖に嫌な目しやがる、この目を俺は知っている。
《男の為に風俗に落ちた女の目》に近い。
死ぬかも知れない、地獄に行くのに、このガキは笑って居る。
嫌な物見せやがって、このガキがじゃない、こんな目をさせる大人がムカついた。
こんな目を見せた代償は《この世界に払って貰おう》
「そうか、真剣に考えてみるよ、ただもし俺が勇者の代わりに戦うなら、一切の文句は言わせない、そして俺がする事全てに手を貸せ、あともし全てが終わったら、お前は家の領地で診療所を開いて好きな男でも作って楽しく過ごしてくれ…それが最低条件だ」
「それだけで良いなら、それで世界を救ってくれるなら、飲みますわ」
「解った」
これで気持ちは固まった。
あとは賢者というガキ女にあってからだ。
ルディウスの中で《卑怯で情け容赦ない》そんな自分の感情が蘇ってきた。
そして、その感情がこれからこの世界に大きな影響を与える事になるとは誰もまだ思っていなかった。
何もしていない…それが罪だ
口には出していないとはいえもう腹は決まった。
そうなれば、遣る事は自然と決まってくる。
この世界の人間は本当にクズだ、クズと解れば、使い道はある。
「どうかされましたか? ルディウス様?」
「聖女ホワイト様、別に何でもありませんよ、所で、ホワイト様以外で治癒魔法の使い手で有名な方はいらっしゃいますか?」
「クスッ、今はホワイト様なのですね! 昨日はホワイトと呼んでいましたのに」
「すみません、興奮してしまって申し訳ありませんでした」
《昨日は違う一面を見て嬉しかったのですが、今日はまた元通りなのですね…残念です》
「あっ、治療魔法の使い手ですね、それならやはり、ここ王都に居るロマーニ大司祭様ですね、この世界で二人と居ない《聖人》のジョブを持つ方ですから」
「聖人と聖女ってどう違うのでしょうか?」
「結構似ていますね、ジョブとしての能力は殆ど同じです」
「それなら、何でロマーニ様が戦わないんですか?」
「ロマーニ様はもうお歳を召されていますから、それに大司祭が戦う何てことはありません」
ガキに戦わせる位なら似たような能力を持つ奴がいるなら《そいつがやれよ》
司祭なら、世界を救う為に死んでくれ。
「そうか…」
「そうですよ、聖女の私が世界を救うんです、他は関係ありません」
本当にお人よしだな…全部押し付けられて馬鹿なガキ。
「そうか、そうだな、それで賢者に相当するような優れたジョブを持つ者も居るのかな?」
「そうですね、王立アカデミーの教授、ロカバリーヌ教授が《大魔道》のジョブを持っているとかいう話は聞きました、ただこの辺りは余り詳しくないんです」
なんだよ、代替が利くなら、この二人が戦ってやれよ。
「結構世の中には凄い人が居るんですね」
「そうですよ、そういう見聞を広める為にも旅をするのも良いですよ」
「そうですね、ちゃんと考えていますから」
「よい返事をお待ちしておりますよ」
「解りました」
【その日の夜】
「あの…ルディウス様、何でそんなに私達を愛してくれるのですか?」
「何度も言うが、俺から見たらミルカもレイラも凄く綺麗にしか見えない、それに俺は年上が好きなんだ」
「年上が好きなんですね、それは解かった気がしますが…本当に信じられません」
「だからこうして毎晩の様に」
「はい、愛して貰ってます…ですがこれが夢じゃないかって何時も思うんですよ」
「それじゃ、夢で無いと言う事で…もう一回頑張ろうか?」
「はい、ルディウス様」
さて、ミルカも寝ているし..ルドルも恐らく寝ているだろう。
俺はこっそり寮を抜け出した。
今の俺は勇者と剣聖の能力を引き継いでいる。
騎士に気がつかない様に外出するなんて難しくも無い。
目指すは中央教会。
教皇は聖教国から滅多に出ない。
そう考えたら王国の中央教会に入り、一番良い部屋に居るのがロマーニに間違いが無いだろう。
ロカバリーヌとどちらを優先するか考えたら…こっちが必要だ。
今の俺には回復系が無い…最悪、魔法上位者が賢者なら必要なくなる可能性もある。
教会に入った。
極力目立たない様に裏門を斬って入った。
剣聖って凄いな、鉄だろうが何だろうが斬れる。
そのまま押し入り気がつかれない様に探し回った。
大体、偉い人間は高い場所の部屋を使う、だから最上階まで上がってくればその部屋のどれかがその筈だ。
《この部屋は違うようだ》
部屋を見て回っていたら後ろから聖騎士が斬りかかってきた。
剣聖のジョブのおかげか、直ぐに反撃ができ斬り殺せた。
良かった、こういう貴人を守る騎士は音を立てずに声をたてずに邪魔者を排除するので《バレないので》助かる。
五つ目の部屋を開けた時に..居た。
あきらかに大司教の服が立て掛けてある。
俺の気配に気がついたのかロマーニが目を覚ました。
「貴様、何奴だ!」
「そんな事はどうでも良い…お前を殺しに来たんだよ」
「待て、私は大司教だ、悪い事は何もしていない、神に祈る事しか…」
俺はそのまま首を斬り落とした。
《何もしないのがいけないんだよ…バカが、お前のジョブやスキルは俺が使ってやる、折角有用なジョブを持っているのに使わず引き籠るなら、俺が貰った方が有用だ》
よくよく考えたら明日には大司祭を殺したんだ大事になるかも知れないな。
ならまだ時間はある..ロカバリーヌも今夜のうちに殺すべきか…まぁ見つからなくても仕方がない位に思うべきだな。
そのままアカデミーに向った。
侵入は簡単だったが、何処にいるかはやはり解らない。
どうしたものか? 出直すか? いや今日中にやるしかない、何か手が無いだろうか?
仕方ない。
「こんにちは」
「貴方は誰ですか?」
「そんな事はどうでも良い、ロカバリーヌの居る場所に案内しろ」
「教授に何の用だ」
「なぁにちょっと話を聞きたいだけだ」
「怪しいな」
俺は抑えつけながら、ナイフを首に当てた。
「お前がどう思おうと構わない、悪いが案内して欲しい、ちゃんと案内してくれたなら命は助ける…拒むならお前を殺し、次を探すまで」
「本当に案内したら命を助けてくれるんだな」
「考慮しよう」
この男は約束を守り、教授の部屋まで案内をしてくれた。
だが、生かして等置けない、顔を見られたのだからな。
「おい、約束が違うぞ…俺は」
「考慮すると言っただけだ、お前を俺は殺す、だが俺は魔王を倒す為に行動を起こす安心しろ」
「何を言って」
俺は此奴も斬り殺した。
魔王や魔族は人類の敵だ、僅かだがお前を殺した事により俺は強くなった。
魔王を倒す為に貢献できたんだ喜べよな。
流石は研究者、こんな夜遅くなのに論文を書いていた。
「貴様は何だこんな夜中に、儂は論文を書いているんだ…出て行ってくれ」
「なぁお前は、そんな論文を書いている暇があるなら何故お前は魔族と戦わないんだ?」
「はぁ、儂は研究者だ、そんなものは勇者達に任せて置けば良いんじゃよ…儂は研究がしたんいんじゃ」
「なんの研究かしらないが、お前はクズだ…死ね」
「まて、儂は何も悪い事など…してない」
「何もしないから殺されるんだ」
俺はさっさと首を跳ねて殺した。
何もしないから殺される、そんな事すら解らないのか驚いた様な顔で死んだ。
本当にこの世界の大人は腐っているな…魔王討伐の為に自分は犠牲になろうとしない。
安全な場所で権力を貪ってやがる。
戦わないお前等の為に俺が戦ってやるんだ…これ位の犠牲なんて安いもんだろう。
思ったより
ロマーニとロカバリーヌを狩って帰ってきた。
だが、この前 剣聖や勇者を狩った時よりもレベルは上がっていない。
ジョブにはしっかりと反映されている。
此処で特筆するべきことは
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い (剣聖) (勇者) (聖人) (大魔道)(転生人)
スキル:アイテム収納、(聖魔法レベル65)回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル62
(隠蔽)
(剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる) (勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。)
(限界突破(限界が無くなる))(聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる)(賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる)
( )で囲んだステータスは鑑定で見ようが、記録水晶で見ようが記録紙でも解らない筈だ、ただ高位の鑑定士なら見破れる可能性も高い。
此処で特筆するべきことは
勇補正が300%に対して他の補正は200%だ、恐らく、三職が300%で他の上限が200%という事だろう。
これで俺は恐らく勇者パーティーに匹敵する位の力は手に入れた。
これでガキに頼らずに、魔族と人類に割って入る力は手にはいった。
これから俺は積極的にこの戦いに関与するつもりだ。
「俺は独りで全部背負うつもりは無い…この戦いは人類全員で背負えば良いんだよ」
こんな大きな戦いをガキだけに預けて良い大人が見てるだけなんて…可笑しいだろう。
全員で戦えば良いんだよ…パン屋の親父だってゴブリン位は殺せる。
八百屋の婆ぁだって武器があればゴブリン位は殺せるんだ。
冒険者に至っては、オークにオーガに上級ともなれば複数でなら竜種でも殺せる。
騎士になれば最低でもオークは狩れる。
上級や聖騎士の中には単独で竜種まで狩れる、英雄に近い存在も居る。
だったら、此奴らを魔族にぶつければ良い。
屈強な騎士を抱えている 帝国。
聖騎士を抱えて聖女を持つ 聖教国。
貴族を抱えて王の元に統一されている 王国。
アカデミーと賢者を抱え魔法国家と言われる 魔道国。
この4つが主に人間側の主力国家だ。
このどれかの国を魔族にぶつける、一国であれば到底相手は出来ない、だがそれでも俺はあえて何処かの国をぶつける。
国民全員が死ぬ気で戦えば良いんだ、正に《進め1億火の球だ》
僅かな人間で戦うのではなく、この世界の人類全員で叩けば良い。
パン屋も八百屋も乾物商も全員で戦えば良い…
魔王と勇者が戦うのであれば、弱い奴は死ぬ気でゴブリンと戦え。
1人1人が死ぬ気で戦えば数が多い人類が恐らくは勝つ。
【学園にて】
【学園長】
「学園長、街から知らせが入りました、ロマーニ大司祭とロカバリーヌ教授が何者かに殺されたそうです、噂では魔族が殺したんじゃないかとの噂で持ち切りです」
そんな訳は無い筈です。
二人は確かに素晴らしいジョブを持っていましたが《戦う意思が無い》人間でした。
そう考えるなら、魔族は相手にしない筈です。
そして何より今迄は王都に魔族が入り込んだ事はありません、しかも中央教会にアカデミー、ありえません。
大方魔族のせいにして本当は《教会やアカデミーの権力争い》で殺されたのでしょう。
まぁ関わって良い事はありません..無視するのが一番です。
【ルディウス&聖女】
はぁ~、ずうっと聖女ホワイトが俺から離れないから、友達が作れない。
まぁ本当に11歳前後のガキと友達になりたい訳では無いが、ここは貴族の学園。
今のうちから仲良くして置かなければ大人になった時に困る。
勇者と剣聖を殺した事で露骨に嫌がらせは来ないが、聖女ホワイトは男に人気がある。
そんな、彼女が傍に居る事で《男から嫌われる》
そして女からは、多分勇者や剣聖を倒した事で一部からは好かれていそうだが、俺に近づくと噛みつきそうな勢いで聖女ホワイトが睨むから近づいて来ない。
「聖女ホワイト様、私以外にも友人を作った方が良いですよ」
「別に必要ありませんよ? 勇者や剣聖より強い、ルディウス様以外はどうでも良いのです」
こんな感じだ。
まぁ良い明後日には賢者も来る。
それまでは適当に過ごせば良いか。
見抜かれた…生徒なのに
「ルディウス様、お気持ちは固まりましたか?」
「一緒に戦うと言う事はもう決めた、ただどの様に戦うかを考えているんだ」
「それはどういう事ですか?」
「魔族と戦う事、魔王と戦う事はもう決めたよ! ただどう戦うかはまだ決めて無い」
11歳の子供の体の俺が言うのも可笑しいが、12歳のガキに世界何か任せるなんて出来ない。
12歳のガキはガキらしく、遊んで、お洒落でもしていれば良いんだ。
《いけ好かない奴》なら良かった。
何処までもお人好しで、正義感の強い馬鹿な奴…
そして自分が死んじまうかも知れないのに、世界を守ろうとする馬鹿な奴。
俺は悪人だが、こういう奴は見捨てたくはない。
「戦ってくれるのですね、本当に有難うございます」
「ああっまぁな、但しどうするかは賢者が来てからだな、所で賢者ってどんな奴なんだ?」
「そうね、外見は私とは真逆だわね、どちらかと言うとスタイルは良いわ、そうね口数は少なく学者みたいな感じかな、まぁ会ってからのお楽しみね」
「あの、ホワイト様にルディウス、授業中ですから余りお喋りしないで下さい」
「あっすみません」
「先生、申し訳ございませんが、今重要な話しなのでルディウス様をお借りしますが宜しいでしょうか?」
「それは、聖女としてですか?」
「はい」
「それなら仕方ありませんね、許可します」
聖女は強いな、教師も逆らえないんだから。
そのまま二人して裏庭にきた。
「ルディウス様はやはり、学園生活が送りたいのでしょうね?」
「今迄家族や使用人としか触れあって来なかったからね」
「友達が欲しいのでしょうか?」
「まぁね」
「なら、私と賢者グレーテルが友達になりますわ…そうしたら寂しく無いですよね」
「そうだな、だが、色々と勉強もしたいんだけど?」
「何を勉強したいんですの?」
「色々とね」
「何を?」
「魔法とか、剣技とか」
「そんな凄いステータスなのに何を学ぶつもりですか? 教師の何倍も強いのに、学ぶ必要なんてありませんわ、アベル様にアマンダ様、素晴らしい師匠に教わった結果がこれなんですよね、剣聖も勇者も敵わない筈です」
嘘だろう、聖女って《鑑定》持ちだったのか?
てっきり持っているのは賢者の方だと思っていたのに..
「あのホワイト、何を知っているの?」
「今迄、流石に鑑定しませんでしたわ、ですが一緒に戦って頂けるって言って頂けたので見させて頂きました」
「そう…」
どうやらホワイトに見られたステータスは隠蔽されたステータスの様だ。
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い
スキル:アイテム収納、回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル62
良かった、2人を殺した後で、その前に見られていたら、何で急にレベルが上がったのか怪しまれる。
「11歳なのにレベルが72、勇者や聖女のみしか使えない聖魔法以外全部使えるし剣術レベルが62なんて、最早王宮騎士団団長や聖教気団団長だって敵わない…アルトランもベーダも敵わない訳ですわ」
「まぁね、父は英雄と呼ばれる存在ですし、母も魔法使いとして優秀ですからね」
「それにしても此処までの存在だなんて気がつきませんでしたわ、正直言いまして私とグレーテル2人掛かりでもいやアルトランやベーダも含む4人掛かりでも勝てませんわ」
「ですが、勇者や聖女には、自分の力を何倍にも跳ね上げる能力があるんだろう」
「良く解りますわね、聖女や勇者には能力を3倍にあげる力があります…ですがこれはトップシークレットで誰も知らない筈ですが、どこでルディウス様は知られたのですか?」
「まぁあくまで噂で聞いた事があるだけだ」
「そうでしたの、ならばこれは内緒でお願い致しますね」
「解りました」
「明日にはグレーテルが来ますから色々と話しましょう」
「そうだな、お互いの能力も見せていないし、軽く何か討伐でもしてみようか?」
「そうですね」
ガキとはいえ聖女と賢者だ…それなりに強いのかも知れない。
取り敢えずは様子見だ。
だけど、俺は学園の生徒の筈なのに…何やっているんだ?
ほんとうに学ばなくて良いのか?
共犯者と殺し文句
「私が賢者グレーテルです、本当に勇者も剣聖も死んでしまった様ですね?」
「そうなのよグレーテル」
「そうですか? なら魔王討伐の旅ももう終わりですね、解散で良いんじゃないですか?ごきげんよう」
着て直ぐにグレーテルはそう言った。
俺はもうこれで良いと思った。
《魔王討伐は無理》それで二人が戦いから離れられるなら問題ない。
そうなれば、勿論俺は関係ない…適当に軍隊でも派遣して戦えば良い、それだけだ。
「ちょっと待ちなさい、グレーテル、その穴はこちらのルディウス様に埋めて貰おうと思います」
「あははははっ、ホワイト貴方頭元気! あの馬鹿達はあれでも、勇者と剣聖だったのよ…その代わり? そんな存在ぶっ…何者?」
《なにこれ?》
「どう、凄いでしょう?」
「凄いなんて者じゃ無いわ…何者?」
「でしょう…これならどうにか二人の代わりになるわよね」
「なるなんて者じゃ無いわ、ルディウス、貴方なら一人で魔王と戦える」
不味いな、賢者には俺の本当の能力が見えているのか?
「グレーテル、貴方内を言っているの?」
ヤバイなこのまま話を続けられたら不味い。
「あのさぁ、ホワイト様にグレーテル様、人のステータスを除き見るのはマナー違反だよ、止めて下さい《ボソッ》グレーテル様には話がある」
「ごめんなさい、私が不用意だったわ」
「私も」
「気持ちは固まったよ、だけど細かいすり合わせは明日にでもしよう…今日はグレーテル様も到着したばかりです」
「それじゃ…良いの、本当に」
「ああっ構わない」
「有難う、本当にありがとう、ルディウス様」
「良いんだ」
【グレーテルと】
「おい、まさかと思うが見えているのか?」
「ええっ、まさかここ迄女神に愛されている存在が居るなんて思わなかったよ、まさかデュアルでも珍しいのにヘキサゴン何て存在が世の中に居るなんてね、しかも、勇者に剣聖まで含むなんて…正に世界を救うために生まれた存在だね」
やはり此奴には見えていた。
話を聞けば
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 (転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル62
(隠蔽)
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
このまま見えている、唯一見破られていないのは 転生人のみだ。
不味いな、口を封じるべきか?
だが、此奴もホワイトと一緒で12歳のガキだ。
殺してしまったら、後味が悪い。
「そうか、賢者には見破られてしまったという事か? 隠蔽まで持っていたのに」
逆を返せば(転生人)は賢者でも見破れない。
「賢者の鑑定は最高レベルだからね、ちなみにホワイトはどうだった?」
「ホワイトには見破られていなかったよ」
「それなら、この世の中で見破れるのは私だけだね、口封じでもする?」
「しないよ…だけど可能なら俺の共犯者になって欲しい」
此奴には嘘を混ぜながらだが本質を話そう。
「何が起きたのか解らない、だが、剣聖と戦い、勇者を殺した時にこのジョブを授かった、その時の女神の声は《貴方が世界を救え》だと」
「信じられない事が起きたんだね」
「ああっ、そしてその後から追加でジョブも貰った」
「私にもその理由は解らないな…だけど共犯になると私にも良い事はあるの?」
「戦わせない」
「賢者の私が戦わないで良いの?」
「ああっ、お前もホワイトも戦わないで良いよ」
「それで、戦わない賢者は何をすれば良いの?」
「そうだな、もし戦いが終わって俺が生きて居たら、俺の故郷で寺子屋でも開いて貰おうか、そして死ぬまで面白可笑しく過ごして欲しい」
この人は私やホワイトの為に死ぬ気で戦うつもりなんだ。
本当に不器用だよね…
そんなに私の事が好きなのかな、まぁ私は髪は銀髪でサラサラしているし、胸はないけどスレンダー美少女だわね。
一目惚れって奴かな…
ホワイトは逆に胸が大きくて垂れ目で愛嬌がある美少女…
だけど、こんな決意までしてくるなんて凄いわ。
誰もが美少女だって褒めたたえて色目を使ってくる。
だけど、私やホワイトの人生には関わってこない。
関われば、自分の人生も魔族との戦いに巻き込まれるから。
《好きだ》と告白したら、「ならば一緒に戦って下さい」
そう言われるのが怖いから、そこから踏み込んでくる人間なんて居なかった。
まさか踏み込んでくるなんてね、しかも《戦わないで良い》なんてとびっきりの殺し文句だよね。
誰もが戦え、戦えって言うなか《戦わないで良い》なんてね…うん凄いよ。
本当にとんだツンデレさんだよね、言っている事をそのまま訳すと…
《僕がこれからは戦うから、君は戦わないで良いんだよ》
《その代わり、僕が魔王と戦い生き残ったら、僕の故郷に来て欲しい、そして、寺子屋でも開いて、そのまま一緒に死ぬまで面白可笑しく生きて欲しい》
凄いよね、まるで私…お姫様だ。
「いいよ、私で良いなら共犯者(婚約者?)に喜んでなるよ」
こんな殺し文句、賢者の私にはこれ以上ない殺し文句だよ。
卒業
【???】
「何者なんだお前は、なぜ我々を襲ってきたのだ」
「俺の名は帝国騎士団所属、準勇者 ルビィだ!」
「準勇者だと?」
「帝国では既に、勇者の能力の量産に成功したのだ、いずれ数万もの《勇者》に近い能力が持つ者が魔族を皆殺しにするだろう」
目の前には死んでしまった同胞の死体が累々と積まれている。
しかも、我々は好戦的な魔族ではない、ひっそりと暮らしていた。
それだけなんだ…それが何故殺されなくてはならないんだ。
「我々は確かに魔族だ、だが静かに森で暮らしていただけだ」
「それが馬鹿なんだよ、死にたく無かったなら、魔王に進言してでも、人を襲うのを止めさせるべきだった」
「我々は関係ない」
「お前達だって関係ない人間を沢山殺した…ゴブリンやオークは女を攫い犯して殺す、そんな奴らの仲間、殺して当然だろう?」
「貴様、殺してやる」
「殺したいなら帝都に来るんだな…来たら帝国民全てで相手してくれる」
準勇者…早く手を打たなければ、魔族が滅ぼされる。
何よりこいつ等を皆殺しにしなくちゃ気が納まらない。
【学園にて】
「最早ルディウスに教える事はありません」
「いや、先生技とか教えて下さい」
「勘弁してくれ、お前が簡単に躱したのが俺の必殺技だ」
「あの、せんせい」
「単位はやる、評価はSだおめでとう、剣術クラス卒業だ」
嘘だろう、まだ1週間経ってないのにもう学園生活が終わるなんて。
「だから、私が言ったじゃない? この学園で教わる事なんて何もないって」
「グレーテル、まだ魔法がある」
「あの、私は誰でしょうか?」
「グレーテル」
「そしてジョブは賢者、勇者や剣聖と違いしっかり学んだ賢者なのよ! 私が教えてあげるからもう学園で学ぶ必要は無いと思うわ」
「何ですか? その魔法は、此処は基礎を学ぶところですよ?」
「基礎を母さんに習っただけです」
「確か、貴方のお母様はアマンダ様ですよね…何しに学園に来たの? アマンダ様に此処まで教わったならもう教わる必要ないじゃない」
「えっ」
「貴方どう考えても一人前の魔法使いの実力はあるわよ、もし戦えば私が負けるかも…単位あげます、評価S、はいさようなら」
「待って下さい」
「アマンダ様はねぇ、鬼の様に厳しいのよ、そのアマンダ様から教わったんでしょう? だからそんな事ができるんでしょう? 先生を虐めないで…もうSあげるから辞めて下さい」
これじゃ何も教われないのか。
「ルディウス…あんた、私が教える必要ないじゃない、しかもあのアマンダ様から教わっていたんだ、どうりで凄い筈だ」
「あの母さんって、そんなに有名なの?」
「はぁ~知らないんだ、貴方の両親、英雄アベルに魔法使いアマンダ、英雄パーティーじゃない、確か魔族の幹部を倒したり、戦さで活躍した武闘で有名よ」
確かにそう言っていたよな。
「確かにそう聞いていたような気がする」
「あの回復魔法、貴方使えるじゃないですか?」
「えーと」
「嘘でしょう…貴方の両親は回復魔法は使えなかったよね」
「何となく」
「あのルディウス、もう教える事はありません…それに聖女様と仲が宜しいんですからもういいでしょう?」
「あの」
「はい Sあげるから出て行ってくれる」
「はい」
「ねぇ、ルディウス、貴方教師なんかとっくに超えているんだからもう此処を出たら」
そこにホワイト迄やってきた。
「流石、ルディウス、全ての単位獲得何てすごいですね、流石です!」
結局、次の日俺は学園長に卒業証書を手渡された。
何だこれ…
結局、聖女と賢者が傍に居るから友達が一人も出来ないまま俺の学園生活は終わった。
学園長の最後
何だか厄介払いの様に学園から出された。
幾ら学ぶ事が無い位に俺が優秀でもこれは無い。
貴族である以上、普通はちゃんと期間中は置いてくれるべきだ。
普通の貴族は此処での期間中は幾ら優秀でも友人や伴侶を得る場でもあるのだ。
一言位抗議をしても良いだろう。
俺は学園長室を訪れた。
学園長室の前に秘書が居た。
「学園長に取り次いで欲しい」
「学園長なら先程、退職しました」
「退職?」
「はい、次の学園長はまだ赴任してきていません、概ね2週間後ですね」
「何で学園長は退職されたのでしょうか?」
「子供は知らなくて良い事です」
「俺だって元生徒です、教えて下さい」
「はぁ~ 自分がした事で何が起こるか解らない糞ガキに話す事はありません、ルディウス私は貴方が嫌いです…この学園で貴方がどれ程…ボンクラな貴方に言っても解らないでしょうね…もう卒業したのだからとっとと去りなさい」
何がなんだか解らない。
【学園にて】
「もうこの学園ともお別れかぁ….定年まで後5年静かに終わりたかった」
「学園長、何も辞めなくても」
「今回の件では何人もの人間が殺されたんだ、死なないだけ私はましだ」
「学園長…」
勇者と剣聖が殺された。
決闘である以上、法的に問題はない。
私はルディウスの主張の通り、2人が偽物であると言う話で押し通した。
だが、此処で大きな問題が生じた。
あんな性格が歪んだ奴でも《国と教会が認めた勇者と剣聖》だった。
だからこそ、教皇が領主に頭を下げ、ローマン伯爵程の方が平民に土下座までしたんだ。
その勇者と剣聖が偽物…だとしたら、紛い者の為に頭を下げた事になる、伯爵はまだしも教皇様が頭を下げる等前代未聞だ。
それをせざる負えなかったのも、勇者と剣聖だからだ。
それが偽物となると全てが覆ってしまう。
まず、勇者と剣聖を審議し鑑定した、審議官8名が女神の御使いである、勇者や剣聖の審議ミスをしたとして即日処刑された。
それから、神託を受けた司祭に、勇者の儀、剣聖の儀に関わった18名も誤った判断をした事で処刑。
そして、アルトランとベーダの家族は男は全員処刑され、女は一全員終身奴隷の性奴隷として売られるらしい、一番下の4歳の子なんてもう地獄しか無いだろう。
解っているだけで今回の事でこれだけの人間が死ぬことが決まった。
それだけじゃ無い…神託は2度とは無いから、今国中の貴族や騎士が血眼になって勇者と剣聖を探している。
こんな事態になったんだ、学園とて責任を取らない訳にはいかないだろう。
そして、ルディウスにも何かしら因縁をつけて処罰が及ぶかも知れない。
今回の事を良く思わない馬鹿が、退学にさせろとか留年させろとか言うだろうな。
だから、私の権限で「卒業させてやったわい」幸いルディウスは優秀だ。
流石の馬鹿も卒業取り消しは出来ないだろう、ましてその時の学園長が居なければ確実に出来ぬ。
私の名前で卒業証明書にサインがしてあるからの…
私はあの勇者も剣聖も嫌いだ、「死ねば良いのに」何回思ったか解らない。
あんなクズ死んで当然。
あんな者が勇者、剣聖笑わせてくれる。
ルディウスは正しい、教師も、いや国ですら手を出せなかったクズを合法的に戦って殺した。
「わはははははっ愉快じゃな」
「学園長」
「後は頼んださらばじゃ」
机の上には退職届けがあり、「中には全ての責任は自分にあるから退職する」そう書いてある。
全ての引継ぎを済まして、学園長は去っていった。
旅立ち
【???】
「貴様は何者だ、我々はこの森で静かに暮らしていた、それなのに何故なんだ」
「私の名前は聖教国のホルムニクス勇者にて 聖闘士ディアス、魔族を滅ぼす聖なる闘士、その試作品です」
「試作品だと」
「今聖教国では魔族を倒す為に私の様なホルムニクス勇者が作られている、その数は1000完成次第、魔族に対して宣戦布告を行う」
「何だと、貴様俺を舐めているな、俺はハイリザードマンだ、竜を祖先に持つ、最強のリザードマン、お前等、相手にならぬ」
「ほう、名前を聞いておこうか?」
「俺の名前はリガルダ」
「そうか、ならば…」
「何故だ、何故こんな事をするんだ、やめろおおおおおおおおーーーーーっ」
リガルダの両手、両足を切断してその辺に放り出してある。
そしてその前では他のリザードマンを片っ端から殺している。
「リガルダ様助けて…」
「誰か誰かお母さんを助けて」
「トカゲが煩いな、お前から先に殺してやろう」
「嘘、嘘、何で娘がこんな事に、いやあああああああああーーーーっ」
「可哀想だからお前も殺してやるよふあははははははっ」
沢山のリザードマンの死体が転がる中ディアスという存在は笑っていた。
「貴様、殺してやる、殺してやるぞーっ」
「ハイリザードマンなら手足は直ぐに生えるのだろう? まぁ聖都で待っているから魔王とやらに頼むんだな、最も1000のホルムニクス勇者が迎え撃つがな…死体が増えるだけだ」
【聖女パーティー】
「本当に良かったのですか?」
「仕方ないだろう? すっかり根回しされてこれで俺が一緒に行かなければ背信者みたいじゃないか?」
「すみません、巻き込んで」
いや、完全に最初から巻き込むつもりだったでしょうが。
「いや、でもルディウスも嬉しくない? 両手に花なんだからさぁ」
確かにホワイトもグレーテルも可愛いし…美少女だ。
昔の世界なら休みの日の朝にやっていた実写の美少女の魔女っ娘みたいな感じだ。
だけど…俺はロリコンでないから関係ない。
せめて16歳いや18歳、理想は20歳~28歳位が理想だ。
10年後は楽しみではあるが…今は無理だ。
「あはははっそうだね」
「何でかな、ルディウスが余り楽しそうじゃない気がする」
「グレーテル、そんな事は無いよ」
「そうよね、聖女の私が傍に居るんだから幸せよね」
いや、ミルカとレイラという俺にとってドストライクな美女とルドルという優れた執事と離れて ガキにしか見えない少女と一緒。
どちらが幸せかは誰でも解るだろう? ロリコンで無ければね。
「そうだね…うん幸せだな」
「何で棒読みなのよ」
【ルドルと奴隷たち】
「母さんには伝えてあるから、この旅が終わるまで実家で待っててくれる? お金はホワイトが出してくれるから竜車を頼んだから案外楽だと思うよ」
「聖女様に賢者様に請われて魔王討伐の旅、本当に成長しましたな」
《今迄は醜女に囲まれた挙句年増ばかり…幸い聖女様も賢者様も美少女、これでルディウス様も真面になるでしょう》
凄ーく短期間だけどな。
「これもルドル達のお陰だな」
「あのルディウス様、私達…」
「レイラは離れたくありません…一緒に連れていって下さい」
「1年、1年で全部終わらせるからそれまで待っていてくれ、これでも貴族だから生活も安心してくれ、ルドル、奴隷ではなくメイドとして扱う様に母上に頼んでくれ」
「承知しました」
「解りました、待っています」
「待っていますから、必ず帰ってきてください」
「解ったから安心してくれ」
【聖女と賢者と】
「それで今後はどうするんだ?」
「そうね、実力をつけながら、魔族領を目指す事になるのかな?」
「そこで魔王と最終決戦…そう言う事だね」
やはりガキだ、ちゃんと考えて無い。
勝てるのか?
相手の国にたった3人で乗り込んで、普通に考えたら魔王に着くまで死ぬだろう。
それをやらせようと国もアホだ。
「お金は?」
「これがあるわ、ジャァーン教会発行の特別カード、これがあれば教会のつけで幾らでも買い物ができるのよ」
「私はこれ、アカデミー経由で国がお金を払ってくれるんだよ」
「俺はこれでも貴族の息子なんだが、案外一番貧乏かもな」
「何をいっているの? Wなんだから直ぐに教会と国両方からカード貰えるわよ」
「グレーテル何を言っているのかな?」
「あっあははははっ そうだね」
「Wって何?」
「何でもないんだよ…うん」
「怪しい」
賢者って頭良いんじゃないのかよ…まさか只の学問女じゃないよな?
頭痛が増えた。
勘違い
【???】
「俺の名前は王国騎士団の人造勇者、ルーリアス、汚らしい魔族など滅ぼしてくれる」
「勇者だと?可笑しいな、俺の情報では勇者は死んだ、そう報告を受けたが」
「ふぅ、何も解っていないな…あの勇者は既にデーターを抜き取られた只のカスだ、そうで無ければ子供に等殺されるわけ無いわ」
「カス?」
「そうだ、帝国、聖教国、王国で実験に使い、データーを抜いたカス、それがあいつだな、そしてその完成品の一つが俺って訳だ」
「お前が勇者の力を持っていると?」
「まぁな」
「ふはははっ、ならばこの俺がお前を葬り去る事にしよう、本物の魔族の前に現れたお前が馬鹿なのだ」
「ならば、やって見ろ」
その数分後、
魔族を名乗るその男は膝磨づいて倒れていた。
「魔族とはこんな者か? これなら皆殺しに出来る…容易い…殺して置こう」
「貴様…」
「もう用済みだ、魔族は俺達ならただのオモチャ、解ったからどうでも良い…死ね」
隠れて他の魔族が見ているのを確認するとルーリアスはその魔族の心臓を抉りだした。
「魔族が滅ぶのも時間の問題だ」
そう言い捨てるとルーリアスは静かに立ち去った。
【聖女パーティー】
「可笑しいわね…幾ら何でも魔物が少なすぎる、何かあるのかしら」
「そういう事もあるよ、ホワイトは気にしすぎだと思うよ」
「だけど、グレーテルこんなに出会わない事は普通は考えられないわ」
「そうね、だけど出会わないならそれでいいんじゃないかな?」
「そうね…だけどこれじゃ連携も組めないし、困るわ」
「まぁそのうち、出会うわよ」
「ルディウスはどう思う?」
「俺は余り経験が無いから、2人に任せるよ」
「そう、解ったわ」
【賢者グレーテル】
う~ん、困ったな。
こんなに愛されて私はどうしてあげるべきなんだろう?
ルディウスが良く抜け出すから様子を見に後をつけたんだよ。
男の子だし、幾らクールなルディウスでもね…その色々あるじゃん。
まぁ変な物見ても黙っていて置く位は考えていたんだよ。
娼館にでも行くのかな、そんな感じで様子を見ていたらさぁ、外に出て行くんだ。
外に出て行くって事は最悪の場合《逃げ出す》そう考えなくちゃいけないよ。
ルディウスからして見たら既に伯爵家の跡取りだし、魔王を討伐しても余り出世や報酬に魅力は無いだろうし。
あれだけ才能があるんだから、私やホワイトだって報酬になりえない。
あんな美形でしかもとてつもない才能、全て知ったら王族だって婚姻を結びたくなると思うよね。
王国だって帝国だって直ぐに姫を差し出してくるわ。
アルトランだってベーダだって、あんなに性格が悪いのにお見合いの話が持ち上がる程だもん。
つまり、全部持っているんだから、魔王と何て戦う意味がないよね。
もう既に成功者なんだからさぁ…
そんな人が今更、魔王討伐の旅に行く必要はないわよ。
《逃げられちゃうのかな…「お前もホワイトも戦わないで良いよ」嘘でも嬉しかったな》
幾ら私やホワイトが可愛くても、魔王と戦う地雷つきじゃ恋人なんて出来ないよ。
死ななければ、アルトランやベーダが…あれなら居ない方が良い、うん。
なのに…
何やってんの?
たった1人でリザードマンの集落襲って、私やホワイトに何も言わないで…
嘘でしょう? 本当に私に戦わせない気なの。
私が此処に居るのは良く無いわよね。
きっと私が気がつかない様に《戦うつもりなんだ》。
だったら私も気がついていない振りしてあげよう。
私は黙ってその場を立ち去った。
【ホワイトとグレーテル】
「本当に平和ね、まだ雑魚としか会わないなんて」
「そうだね」
《多分ルディウスが先に倒してくれているからね》
「それで、貴方が本以外の買い物なんて珍しいわね、どうした心境?」
「うん、まぁルディウスみたいな男の子がいるから少しはおしゃれでもしようかと思ってね」
「そうね、少し位はおしゃれにした方が…ってなんで下着店に来ているのよ」
「いや、ルディウスに頼んだのは魔王討伐なんだよね、死に物狂いの戦いになるんだ、だったらそれなりの事は返すべきだと思うんだよね私」
「ですが…まだルディウス戦ってないじゃない、本当に戦ってくれるのか、まだ解りません」
「そう? ならそのうち自分の目で確かめてみたら?」
「何を言っているんですか?」
「まぁ良いや、私はもうルディウスを本気で信じたわ、口説かれたし、凄く誠実なのが解ったから」
「それで…えっ何ですかその紫色のスケスケの下着は?」
「いや、男の子ってこう言うの好きそうだと思うんだよね…うんこれに決めた」
「あの、グレーテル、本気でそんなの買うんですか? そんな破廉恥な」
「うん、身を捧げるならこういう方が喜ぶかなって思うんだよね」
彼奴どんだけ私が好きなのかな?
先回りして強い魔物を倒すなんて、ルディウスが本気で私が戦わない未来の為に頑張るなら。
私は他の事を頑張るよ…
【三人】
「ちょっと、何でグレーテルがルディウスの部屋に行こうとしているのよ…しかもそんな下着姿で」
「いや、私って凄ーく、ルディウスに愛されているからさぁ、うん一緒に寝てあげる位しようと思って」
「あんた、賢者でしょう、そんな事して子供でも出来たら」
「あっ、もしそう言う事するなら避妊魔法掛けるから大丈夫よ」
「あんたね~」
「ルディウスも1人より私が一緒に寝た方が嬉しいわよね」
確かに可愛いけど、ロリッ子がスケスケ下着着ている様にしか見えない。
流石にこれは俺が居た世界じゃ完全に犯罪だ。
「まだ、そう言う事は早いと思う」
「ほら、ルディウスも驚いているじゃない? 帰るわよ」
「ルディウス、ルディウス?」
「えっ」
「私が欲しくなったら何時でも声かけて、ちゃんとお相手するからね」
「いや」
「ほら行くわよ、このエロ賢者!」
グレーテルは引き摺られホワイトに連れ去られた。
俺、何か懐かれる様な事したかな?
【ホワイト&グレーテル】
「グレーテル、あんた何考えているの? まだ馬の骨とも鳥の骨とも解らない男相手に、賢者の自覚持ちなさいよ!」
「それ、ルディウスの事言っているの? あれ程、誠実な男なんて居ないわ、貴方の方こそめが腐っているんじゃない?」
「何で、そこ迄信じられるのよ、馬鹿じゃないの」
「別に良いじゃない、私はルディウスが好きなのよ、あの人は特別、本物の男だわ…彼が望んでくれるなら夜伽だってなんだってしてあげるわよ…悪い?」
「何でそこ迄なれるのよ」
「ホワイト、貴方の方が馬鹿だわ、私や貴方が彼に頼んだのは《勇者の代わりに魔王の討伐》なのよ? 長い旅の末、辿り着く前に殺されるかも知れない、もしたどり着いても魔王に勝てず死ぬかも知れないのよ…男にそれを望むなら、自分の全てを捧げるべきだと思うの」
「私だって、それが本当だと信じたなら、信じられたならそうします、だけどまだ信じられない」
「聖女って頭が固いのね、まぁ良いわ、既に彼は充分に…まぁ自分の目で見て見れば良いわよ」
「言われなくてもそうするわ」
【ある日の深夜】
「またルディウスが出掛けようとしているわね、ほらホワイト起きなさい」
「なぁにグレーテル、こんな夜中に」
「ルディウスが出かけるわ」
「男の子だもん、花街にでも行くんでしょう、放って置いてあげれば良いじゃない」
「多分、違うと思う、良いからついてきて」
「全くもう」
二人はルディウスの後を気がつかれない様についていった。
魔族が居た。
「嘘、ルディウスは魔族の内通者だったの、信じられない」
「違うわ、貴方は何を見て来たの、その目はガラス玉なのかな?」
見ていて信じられない…遠くからだから声は聞こえないけど、ルディウスが魔族を倒していた。
しかも、あの体躯はどう見ても上級魔族だ。
「これはどういうこ事なの?」
「この前はハイリザードマンだったわ、ホワイト何で私達の旅に強力な敵がいないのかな?」
「まさか」
「そう、まさかよ出会う前に全部ルディウスが倒しているからよ…多分」
「何で…何でそんな事しているのよ」
「私、前に彼に言われたの…私には戦わないで欲しいんだって…自分が戦うからホワイトにもね」
「…」
「ルディウスって凄いよね、《一緒に戦ってあげる》それすらいう人だって居なかった、騎士だろうと聖騎士だろうと誰もね、だけど彼は《私達じゃなくて自分が戦ってくれるんだって》」
「そんな」
「うん、だから私は決めたのよ…ただ一人私を《女の子》として見てくれる男の子、そして私の為に命を賭けて戦ってくれる男の子、命懸けで好きになってくれるなら、私だって何でもしてあげたくなるわよ」
「私の目が曇っていたのかな…」
次の日ホワイトはグレーテルと一緒に下着を買いに出かけた。
ルディウスの考えとは別に勘違いが広がっていく。
【魔族SIDE】 進軍と蹂躙
「人間が無抵抗な魔族を殺しているというのは誠か?」
余は耳を疑った。
確かに魔族と人族は争ってはいる。
だが、そこには長い年月の間に《暗黙の了解》という物がある。
例えば、魔族領の近くに人間の村があるが、基本的に関わらない。
襲う気になれば1時間で皆殺しに出来るが、何か問題が起きない限り襲わない。
その代わり、人族も静かに暮らしている魔族の村や魔物の村を襲う事は無かった。
襲いさえすれば沢山の素材が手に入るのは解っている、それでも冒険者は襲わない。
この辺りは戦う者どうし、数百年解りあえている者だと思っていた。
種族が違い、お互いに争う仲だが、最低限の思いやりがあった。
だからこそ我々は例え殺す相手でも《敬意を持って》戦ったのだ。
殺した勇者に敬意を持って弔い、その世代の魔王が殺されても魔族が全軍で進軍はしなかった。
だが今の人族は違う様だ…
今迄の暗黙のルールを破ったのだ。
どちらかが、死ぬまでの戦いに足を踏み入れたのだ。
「所詮は余の考えが甘かった、そう言う事だ」
「魔王様?」
余は争いが嫌いだ、だからこそ戦いを小規模に留めたかったのだ。
勇者達と余が戦って、他には余り飛び火させたくは無かったのだ。
だがこうなっては仕方ない。
「スカルよ1万の軍を授ける、その軍を率いてルミナの村の人間を皆殺しにしろ、そしてまずは帝国を滅ぼし帝王の首を余に届けるのだ」
「魔王様、それはこのスカルに、自分の戦いを許して頂ける、そう思って宜しいのですかな?」
「赦す」
余は此処までの事はしたくなかった。
スカルを出すと言う事は《人類は本当の地獄を味わう》此処まで余に決断させた、お前らが悪いのだ。
【ルミナ村】
「何が起きたんだぁああああーーーっこんな事が起きるなんて…夢だ、夢に違いない」
たかが300人が住んでいる村を無数の魔族が取り囲んできた。
「何で、何でこんな事になるのよ…今迄、この村を魔族が襲った事など無かったのに」
「そうだ、魔物だって魔族だって村に逃げ込めば襲ってなど来なかった」
「村人よ聞け、これよりこの村を蹂躙する、これはお前達から仕掛けた事だ、恨むなら無抵抗な魔族を蹂躙した王や勇者を恨むが良い」
「そんな…我々は」
「知らぬな、男は全員皆殺しだ、女は使う者がいるなら苗床にするが良い、全員が要らぬのなら殺すが良い」
スカルの号令で全ての魔族、魔物が襲い掛かった。
「止めろ、止めてくれぇーーーーーっ」
「助けて、助けて、助けて」
「嫌あああああああっ、娘、娘だけは…娘だけは助けてくださいいいいいっーーーー」
「パパ、パパ、パパを殺さないで、助けて」
「お母さん、お母さん」
「ブモオオオオッ…わはは、皆殺しだ、我が仲間を殺した人間いたぶって殺してやるぞーーーっ」
「女だ、この村には手を出さない約束だったが、襲い放題だな」
「殺せ、殺せ、殺せ」
殺戮衝動に狩られた魔物と魔族の性的衝動は影を潜めたようだ…
殆どの女性は犯されずに殺された、但しいたぶり方は半端じゃ無かった。
汚されずに殺されたのは幸せなのだろうか?
頭が潰されている女。
体が真っ二つに折られている女。
子供を抱えて首が無い死体…しかもその子供の頭も潰されている。
楽に殺された分、男の方が幸せだったかも知れない。
あっと言う間に村は蹂躙された。
そして…殺された人間は破損はあるものの、体が繋がり、グールやゾンビになり死霊の仲間入りをした。
そしてこの軍団の後に連なった。
スカルの別名は…死霊王、此奴の前で死んだ人間はスカルの物になる。
この戦い方を歴代魔王は今迄使わなかった。
例え自分が死ぬ事になっても、この戦い方を選ばなかった。
この戦い方を選んだ時点で…魔王の怒りは頂点に達していた。
【帝国にて】
帝国の正門前には無数の魔物や魔族が押しかけてきた。
その数は数万にも及び数えきれない。
スカルは殺した人間を全て死霊系の魔物に変えてきた。
蹂躙するたびに敵味方関係なく死体は全てスカルの部下になる。
これこそが、スカルが四天王である理由。
死霊王と飛ばれる由縁だ。
「馬鹿な、これ程の魔族が帝国に押し入るなんて…そんな、帝王様に報告しなければ」
「これ…どうにかなるのか…」
「帝国に告ぐ、我が名は魔王四天王のスカル、これより帝国に対して蹂躙を行う、降伏は許さない、どちらかが死ぬまでこの戦いは終わらない」
【門の前の攻防】
帝国を守る巨大な門も、高い城壁も意味は無かった。
無数のオーガの前にはそんな物は役に立たなかった。
数匹のオーガなら充分に耐えられる城壁も門も膨大な数のオーガには無意味だった。
それだけでなく、連れて来た軍団には無数のドラゴンが居た。
「そんな、帝国が誇る城壁がこんな簡単に壊されるなんて」
まだ、騎士は来ていない。
最早逃げ場何て何処にもない。
此処でもし戦わなければ、この国は終わる。
「すまない、皆はこのまま退避してくれ、俺は此処であいつ等の進行を防ぐ」
「隊長」
「そんなに長くは持たない、早く騎士団を呼んできてくれ」
「隊長…」
「俺を誰だと思っているんだ? 大丈夫だ」
「はい」
この男、只の門番ではない。
元Aランクパーティーに居たが、リーダーの癇癪に触れ解雇された。
だが、その後Aランクパーティーは破滅の道を歩むことになる。
何故なら、そのパーティーが自由自在に攻撃が繰り出せたのは彼の鉄壁のガードがあったからだった。
そう、全ては彼一人の功績によるものだった。
そして門番になった彼はその力をメキメキ発揮して、短期間で兵長にまでなった。
彼に家柄があれば爵位すら貰えたかもしれない。
帝国の市民は彼をこう呼ぶ「鉄壁のアルター」と。
「アルターだ、アルターが居る」
「アルターなら、私達を助けてくれる」
「アルター、アルター、アルター」
「任せろ」
アルターは全員を見渡した。
司令官はあのどくろ、スカルだ。
ハイオーガやドラゴンには流石の俺でも勝てない。
だが、彼奴はどうだ。
恐らく、脆い。
「行くぞ…一閃」
アルターは剣を抜くとそのままスカルに斬りかかった。
これで終わりだ、俺の勝ちだ、アルターは勝利を確信していた。
「何だと…」
「ふふふっ馬鹿め、魔族の頂点たる四天王が他の者より弱い訳があるまい、この体はミスリルいや、オリハルコンより固いわ」
剣が砕け、腕の骨が折れた。
「むっ」
「馬鹿な奴よ…死ね」
無数の魔物がアルターを取り囲む。
そしてアルターは跡形も無く肉片へと変わった。
帝都陥落
「魔族が襲って来ただと」
「はっ、それも今迄に無い位に多くの魔族が」
「ええぃ、なら撃退しろ、騎士団を出動させよ、場合によっては彼奴らを出せ」
「彼奴らをですか」
「こんな時の為に雇って置いたのだ、今こそ使う時だ」
「はっでは」
「後、ギルドに要請して、英雄パーティーを出させろ、Sランクパーティーの奴らならどうにかなるだろう」
「はっ直ぐに命令を出します」
全ての騎士が駆けつけた、数千にも及ぶ騎士が揃い踏みするなか、一際異例の騎士達が居た。
彼らは《黒騎士》黒騎士には格式や家柄は関係ない。
ただ実力だけがあれば良い…その為、実にその半数以上が犯罪者だ。
人殺しに強姦はまだ軽い、中には国家転覆を計った者も居る。
だが《それらは全て許された》その生涯を帝王への忠誠を誓う事により。
そして、未来永劫彼らは裁かれる事も無い、彼らが起こす犯罪も全て帝王が許す。
帝王が全てを許す代わりに絶対の忠誠を誓った黒騎士…その名はケルベロス騎士団。
「仕方ねーな、帝ちゃんの頼みじゃ」
「この借りは高くつくな、そういえば伯爵家のルーランって令嬢俺の好み、戦う代わりにオモチャとして貰っちゃおう」
「金金金…うははははっ金貨2万枚だ」
「さてと、俺は誰を殺そうかな? 手柄さえたてたら30人位拷問して殺しても許されるんだろう」
「俺も久しぶりに女殺しながら犯したい..」
「お前等、獲物が目の前に居るんだから、そっちを早くやろうぜ、あの骸骨殺して一番手柄だ」
今、狂犬が野に放たれた。
【数時間後】
「何だこいつ等? 黒い鎧を着ているけど…弱いな」
「ケルベロス? 本物ならいざ知らず人間如きがその名を語るなんて馬鹿か」
「ケルべロスは可愛いから殺せないよな、あの三本の頭の右側の奴さぁ、何故か俺に懐いていて可愛いんだよ」
人間から見たら恐怖の象徴のケルベロス…だがその本物すら只のペット扱いしている者に…勝てる訳が無い。
ケルべロス騎士団を始め、他の騎士団は死んだ…だが、恐怖はこれから始まる。
死んだ騎士団の隊員が死霊となり更に魔族の群れに加わった。
さっきまで自分達を守ろうとしてくれた人たちが今度は敵になり襲い始めていた。
こうなっては最早帝国にはなすすべが無かった。
【英雄パーティー ゴールデンアロー】
「依頼があったがどうする?」
「これを俺たちにどうしろって言うんだよ」
「だが、逃げたら、ランクが下がるぞ」
「馬鹿野郎、死ぬ事に比べたらまだ良い、最悪一からやり直したっていいさぁ」
「ああ、そうだな」
「「「「「ずらかろう」」」」」
【Sランクパーティー スマートスピーディー】
「さっさと逃げるぞ」
「ですが」
「馬鹿やろう、今逃げないでどうする…騎士団が戦ったおかげで魔族の包囲網に隙間がある、チャンスだ」
「そうだな」
「ああっ」
だが、それすらが無駄だった。
逃げた先には更に多くの魔族や魔物が居た。
それらに遭遇してあっけなく殺された。
帝都は結局僅か1日で落ちる事になった。
帝王は命乞いするもこれを許さず、王族も全員が処刑された。
これにより王都の市民8万人が結果的に殺された。
だが、彼らは、全員が死霊になり、ゾンビやグールになりスカルの配下となった。
最早スカルの軍団は10万になり、帝都は死霊の街になった。
ルディウスのした事は当人が思った以上に世界を壊していった。
帝国の崩壊
《帝都が落ちるかも知れない》
その知らせに帝国貴族達は震撼した。
帝都には帝国の最強戦力が揃っている。
そう簡単に落とせるような物じゃない。
少なくとも近隣諸侯が助けに入る前に滅ぶような物ではない。
帝都から近くの領地、ルルバリー侯爵は驚きを隠しきれない。
「何が起きたんだ」
「それが1万を越える魔族が取り囲んでいるそうです、このままでは不味いかも」
「1万か、それならどうにかなる、幸い我が家は《帝国の剣》と呼ばれる武勇の一族だ、全ての兵を動員すれば1万にはなる、此方が背後をつけば、帝都の騎士も同調して戦ってくれる、逆に全滅だ」
「そうですな、これが終わればルルバリー家も公爵になるやもしれません」
「そうだ、我が家にとってこれはチャンスだ」
3日間で兵を纏めルルバリーは進軍した。
兵糧など気にする必要もない、帝都に幾らでもある、着いたらすぐに後軍を叩けば良い。
「全軍、今がチャンスだ、手柄は立て放題だ、活躍した者には当家が後ろ盾になり、騎士爵を買い受けてやろう」
「「「「「「うおおおおおおおおおおっ」」」」」」」」
この話に全員が湧いた。
只の平民が一番下とはいえ貴族になれるのだ、こんなチャンスは絶対に無い。
魔族にも魔物にも会わないまま進軍は続いた。
「不気味だ…おう、あそこに居るのは、ゴールデンアローじゃないか? そうか流石英雄パーティーこの辺りの魔族は全滅させたのか、何だ、あそこにも、スマートスピーディーが居る…俺は運が良い、英雄アーレムが此処に居るんだ、この勝負負けは無い」
「待って下さい、ルルバリー様様子が変です」
「何を言うんだ、英雄と言われる男が目の前に居るんだ、挨拶して共に戦って貰わなければ」
「ですが、全員の鎧は血で汚れていて、体も負傷が」
「馬鹿者、死に物狂いで戦っていたのだろう、今は敵は居ない、礼を尽くすのが当たり前だ」
ルルバリーは従者の制止を聞かずに馬を降りた。
「アーレム殿、援軍を引き連れて参った」
「ううっ」
「アーレム殿…凄い負傷じゃないか、誰か直ぐに英雄に手当を」
「いうなうい?」
「何を言っておるのですか?」
「かいふくいうない…体が痛いんだーーーーっ味噌だ、うううっお前の脳味噌をくれぇええええーーーっ」
アーレムだった、その化け物はルルバリーを押さえつけると、そのまま頭に噛みつき頭蓋骨を砕き脳味噌をすすりだした。
それと同時に、英雄パーティーの仲間やSランクパーティーだった者も全員がアーレムと同じ様に襲いだした。
「貴様ら、死霊だったのか、ならば…えっ」
森の中から数えきれない数の死霊系の化け物が現れた。
それらは帝都で殺された者達だった。
「味噌をくれーーっ」
「私を助けると思って脳味噌を頂戴~」
どう考えても自分達よりも多い。
死霊系の魔物に食われたり怪我をさせられると聖なる力で治さない限り、死霊になる。
「抜剣…もうこの勝負負けだ、おのおの逃げるなり少しでも数を減らすなり任せる…俺はこの身が死霊になるのは耐えられないから、殺すだけ殺したら、自害する」
副官のヘンリーはそう言うと戦った。
10の死霊を倒した時に手傷を負い自殺した。
本来なら、自殺さえすれば死霊にならない…だがこの部隊を指揮しているのは死霊王スカル。
そんな最後の矜持すら踏みにじり死霊にしなった。
結局この戦いはただ敵が数を増やすだけになった。
同じ様に近隣の貴族が戦いに来たが、同じ様にただ死霊の数を増やしただけだった。
結局スカルに倒され、帝都を奪還に来た貴族達の隊がそのまま死霊になり加わり、今やスカルの軍は20万を越える大群となった。
その情報は既に帝国中に流れ、貴族や平民に至るまで国外に逃げ出した。
事実上、半年も掛からずに帝国は死霊の国となった。
そして、流民となった帝国の民は聖教国や王国に雪崩れ込む事になる。
ヘングラムの最後
【魔族側】
「何処にあるのだ、早く探さなければ」
スカルは焦っていた。
帝国はほぼ壊滅したものの、魔王から頼まれていた《準勇者》が見つからない。
その当人は勿論だが、その研究らしいものが見つからない。
《準勇者 ルビィ…かなりの実力者らしい、そいつと同じ能力を持つ1万人、そんな者はいなかった》
これは何を意味するのか…
「解らんが、まぁ良い、殺戮を繰り返していれば、そのうちぶつかるだろう」
魔王もスカルも知らない、この話がただの嘘であった事を。
スカルは、準勇者が何処にも居なかった事、そしてそれらしい施設が無かった事を通信水晶で報告した。
「ならば、帝国の統治はお前に任せる、副官に命令を出して次の国に進行するが良い…相性の問題があるだろうから、王国に行かせろ、聖教国は他の者に任せる」
「承りました」
【ヘングラム領にて】
「何が起きたというんだ…ヘングラムが、懐かしい風景が燃えている」
「ルドル様…」
「何が起きたのか調べてくる、このまま竜車でミルカとレイラは待っていてくれ」
「「解りました」」
「もし、私が戻らない場合はルディウス様を追いかけろ、これを預けて置く」
ルドルはそう言いながら自分の持っていた収納袋を預けた。
ルドルが領内に入ると無惨に殺されている村人たちの死体があった。
一体何が起きたのだろうか? ヘングラムを襲っても何も良い事は無い。
農地としては豊かかもしれないがそれだけだ。
戦いに明け暮れた、アベル様やアマンダ様がのどかな場所で過ごしたい。
その結果、爵位と一緒に下賜された土地だ。
しかも、アベル様が亡くなった今でもアマンダ様は健在。
野党に襲われた位ではこんな事にならない。
騎士団や自警団は居ないがここの村人の中にはアベル様と共に戦った村人も居る。
むざむざ殺されたりはしない。
しかも、この斬り方は明らかに騎士等、正統な剣術を学んだ者の斬り方だ。
どうやら、此処を襲った相手はもうとっくに去ったみたいだ。
その証拠に、遺体の損傷が激しく、野犬に齧られた跡がある者も居る。
火はまだ燃え続けているが、炭になり消えかかっている家が殆どだ。
《どう考えても野党の仕業じゃない、その証拠に金目の物が残っている…可笑しい》
逃げ出した者はどうやら見逃されたようだ…
だが、歯向かった者は全員殺されたそう言う事か…
まさか?
私は急いで屋敷に向った、そこには…
無数の騎士が死んでいる、しかもその紋章は王国騎士団。
何故王国の騎士団が死んでいるんだ、もしかして助けに来て殺されたのか。
だが、その先を見た時にその理由が解った。
「あああああああっああああーーーーっアマンダ様ーーーっ」
ルドルがその先に見た者は、槍に刺さった状態で投げ捨てられている、アマンダの首だった。
その形相は一言でいうなら全てを恨んでいる形相だった。
そして、その傍には八つ裂きにされた体があり、壁に2枚の張り紙が貼ってあった。
その張り紙は…
《勇者と剣聖を殺した悪魔の親》
《その罪によりヘングラムの貴族籍を剥奪する…国王…》
と書かれていた。
「ふざけんなぁぁぁぁぁぁぁーーーっ、あれは貴族として認められた権利だ、それをそれを国王が自ら保護するのかああああっ」
ルドルの怒号の声が鳴り響いた。
《早くここを離れた方が良い》
ルドルはアマンダを土に埋めて花を添えて埋葬するとその場を後にした。
《すみません、今はこれで許して下さい》
竜車に乗り、元来た道を引き返した。
【王国SIDE】
国王アルフ四世は動揺を隠しきれない。
帝国が魔族に襲われているという報告があった。
しかも、その原因がルディウス、ヘングラムという伯爵家の息子が勇者と剣聖を殺した結果だと言う物だ。
勿論、調べた、だが明らかに貴族として正当な決闘の結果だ。
しかも、行方が知れない学園長が《偽物の勇者と剣聖》だと判断した。
どう考えても問題が無い。
だが、この後で大きな問題が起きた。
2人が死んでから、幾ら探しても《勇者》も《剣聖》も見つからなかった。
そして、それから魔族による大掛かりな進軍があった。
聖女と賢者はルディウスと一緒に行方が掴めてない。
その結果…まことしやかに《ルディウスが魔族であるという噂が流れた》
《二人は本物の勇者と剣聖だからこそ殺されたのだ》
しかも、その噂は、聖職者の間で流れていった。
身内のミスより…正しかった、そう言う事にしたかった教会には好都合だった。
その結果が、今回の引き金になった。
教会側から、正式に《勇者》《剣聖》は本物と判断。
これは処刑される審議官や勇者の儀を行った者が、死の間際までも潔白を訴えた事。
二人の死後、急な魔族の進行が始まった事。
その事から、ルディウスが実は魔族だったのではないか?
そういう話が持ち上がった。
魔族であるなら、未熟な勇者と未熟な剣聖なら殺されても可笑しくない。
《11歳の人間》でなければ可能性はあるのだ。
そして聖職者達からの圧力で…それは真実とされ、国王アレフ4世は動かざる得なかった。
帝国が魔族に進行され、教会からの圧力…その結果、ヘングラムを見捨てた。
「ヘングラムが魔族と内通している可能性がある、速やかに粛清せよ」
王国騎士団に命令を下した。
この結果が何を意味するのか…
それはこの後に身をもって経験する事になる。
自国の為に命がけで戦ってくれた、英雄のヘングラム家、魔法使いを殺した事。
そんな者が救われる…そんな訳が無い。
バレた。
不確かな情報だが、帝都が落ちて帝国が事実上魔王の手に落ちたという噂が流れた。
だが、調査に行った冒険者や各国の密偵は帰ってこないから《不確かな情報》として流れている。
ただ、まだ帝国の情報が解った時には、魔族の進行を受けてかなりヤバイ状況だった。
そして、助けに向った聖教国の軍隊が引き返した事からあながち嘘とは言えないと思う。
「ホワイト、これからどうするんだ?」
「魔族領を目指すか、それとも帝国に向うか、聖教国に行き体制を立て直すか、正直解らないわ」
「そうか? グレーテルは?」
「そうね、まずは、此処から3日間程行った所にある《聖剣の祠》に行くのが良いと思うわ」
「聖剣の祠? グレーテルは何を言っているのかな? ルディウスは勇者じゃ無いのよ? 聖剣が抜ける訳無いじゃない」
「ホワイト、聖剣シルビアンは気まぐれな聖剣と言われていたのはご存知? 過去には英雄に共鳴して力を貸した事もあるらしいわよ、他の聖剣は聖教国の中央教会が保存しているのよね、なら試してみる価値はあるわ」
「そんな話は私は聞いた事は無いわ、それ本当なの?」
「眉唾かも知れない、だけどうちの最大戦力はルディウスだよね? 聖女の貴方でも勇者でないと聖剣が持ち出せないなら、やってみる価値はあると思うよ」
《まぁルディウスは勇者と剣聖のダブルだから抜けない訳は無いわよ》
「確かに、今のまま魔族領に行っても不安だし、行くしか無さそうね」
「それじゃ、勇者の祠を目指すって事で良いんだな」
「そうね、他にあては無いしそこに行くしかないな」
ルディウス達は聖剣の祠に向っていった。
【聖剣の祠にて】
しかし、此処に来るまで魔族に殆ど会わなかった。
その事から考えるとあながち帝国が落ちたという情報は間違って無いかも知れない。
少なくともかなりの戦力がそちらに向っていたのだろう。
「此処が聖剣の祠か?」
「そうよ、まぁ余り気にしないで挑戦してみると良いわ、まぁ冒険者や子供も挑戦に来る事もあるから」
「そうね、此処は挑戦するのは自由だからね」
「その割には、誰もいないのは何故だ?」
そんな風にだれでも挑戦できるならもう少し賑わっていても良い筈だ。
「それはね、資格が無い人が握るとペナルティーがあるのよ」
「ペナルティ?」
「そうなんだよね、大した事無いよ? 手に火傷を負ったり、1か月位悪夢に悩ませられるだけだから」
まぁ怪我したり精神的に苦痛を与えられるならおいそれとは挑戦しないか。
「でも勘違いしないでね、それでも勘違いしている人や、夢見る子供が挑戦にはくるわ…まぁ一時期は目を回して倒れている子供や泡吹いて倒れている少年が保護されたみたいよ」
「保護?」
「そう、保護しないと、それを見つけては身ぐるみ剥ぐような盗賊が居たそうだから」
「今は居ないんだ」
「流石に捕まったわよ」
「そうか、それなら安心だ」
そのまま祠に三人で入った。
錆びついた剣が大きな岩に刺さっている。
「あれを抜けば良いのか?」
「そうだけど? まぁ幾らルディウスが強くても勇者じゃないから抜けないはずよ、まぁ気楽に挑戦すれば良いんじゃない?」
「大丈夫頑張って」
「解った、やってみる」
俺は剣の柄を握ってみる。
聖剣シルビアンはキラキラと青く輝き始めた。
それと同時に錆が全部落ちて美しい刀身が現れた。
「やはり、こういう事なのね」
「どうかしたのホワイト?」
「グレーテル、貴方知っていたのね、ルディウスが勇者だって事?」
「し…知らないよ!」
「嘘よ、怪しすぎるわ、何か最初からルディウスが聖剣抜けると思っていたみたいだし」
「ホワイト、それは勇者じゃ無くて英雄でも抜けたからじゃないのか? ほら俺って英雄の息子だから」
「二人してしらばっくれる気?」
「どうしたのよ、ホワイト…怖いよ」
「あのさぁ、言わせて貰うけど、聖剣が輝いているわよ?」
「それがどうしたの?」
「確かに過去に聖剣を抜いた英雄はいたけど、あの時は輝かなかったらしいよ? しかも魔族から村を守ろうとして魔族と一緒に此処に来たから1回だけ抜けただけ、魔族を倒したら、直ぐに重くなり、そのまま飛んでいき岩に刺さったんだって」
「えーと、酷いな、ホワイト…知っていたんじゃ」
「うん、私聖女だから、その辺りは賢者の貴方より詳しいわよ」
「えーと、ホワイト、その」
「まぁ良いわ、今迄の事は水に流してあげるよ…勇者ルディウス様」
「ああっ…」
「その代わり包み欠かさず全部吐いてね! ルディウス様、グレーテル」
結局、グレーテルにバレている事全部、ホワイトに話させられた。
まだ知らない
【聖剣の祠の近く】
「これで、聖剣が手に入った訳だが」
「その前にルディウス、ちゃんと話す約束ですよ」
仕方ない、余り嘘は言いたく無いんだが…
「解った、隠蔽を解くから自分の目で見てくれ」
「解ったわ」
見た瞬間にホワイトは思わず口が空いたまま塞がらなくなっていた。
ルディウス
LV 77
HP 6180
MP 6440
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 (転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル54 水魔法レベル82 土魔法レベル30 格闘レベル20 剣術レベル70
隠蔽
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
「嘘でしょう? 勇者?剣聖?聖人?…ヘキサゴンなんて初めて見たわよ! てっきり本物の勇者じゃないのかなって思っていたけど…あはははっ、ナニコレ? 凄く女神に愛されているの? 前世は天使だったとか? もしかして天使長ハービア様に仕えて居たとか…」
「前半は兎も角、後半はそれ別の人だからな、俺は只の人間だよ」
「賢者の私が言い切るわ、貴方はもう人間じゃない」
「いや、俺は」
「正確には《人間扱いされない》そう言いたいのよねグレーテルは?」
「そうだね、私達がそうじゃない? 聖女や賢者は特別扱いされるわ、不本意ながらあそこまで馬鹿をやっても勇者も剣聖も許されたのよ? たった一つでそれなの…そんなジョブが2つ、それに準ずるジョブが2つ、しかも既に何なのこのレベル、もう貴方を人間扱いなんて誰もしないわ…教皇なんてきっと膝磨づいて《私は貴方の忠実な下僕です、何なりとお申しつけ下さい》とか言い出しそう」
「冗談だよな」
「冗談じゃないわ、間違いなくそうなるわね…今の教皇は勇者絶対主義ですからね..ええっその光景が目に浮かぶわ…それにそんな凄いジョブ持っていたら、何処の国の国王だって姫すら差し出すわよ」
確かに、俺も貴族だ…あり得る。
三人で話して居たら、いきなり取り囲まれた。
「間違いない、貴様はルディウスだな? 勇者を殺し剣聖を殺した罪で、その首を貰い受ける」
「勇者や剣聖を殺した大罪人、生かして置く訳にはいかない」
「死して償え」
「貴様は魔族であろう、我々、聖騎士が殺してやる」
聖騎士は10人、殺すのは簡単だ、だが聖女ホワイトの前でやる訳にはいかないな。
「無礼者! アンタ達の目は節穴なの?」
「聖女ホワイト様、行方が解らないと思ったら、こんな大罪人と何をしているのですか?」
「さては、勇者様や剣聖様だけに納まらず聖女様や賢者様にも何かする気か」
「聖女様、おさがり下さい」
メンドクサイな此処はホワイトに任せよう。
「ねぇ、貴方達の目は節穴なの?」
「何を言い出すのですか? 聖女ホワイト様、そいつは勇者と剣聖を殺した大罪人です、退いて下さい」
「ちょっと、こっち見なさい…アレっ」
「何ですか?大罪人の剣が…あっああああああああーーーっ」
「この剣をルディウスは抜いたのよ?」
「それは聖剣、聖剣シルビアンーーーーーって事はぁぁぁぁぁぁーーーっ」
「そうよルディウスが本物の勇者って事よ? ねぇ貴方達は《本物の勇者》を捕まえて大罪人ってどういう事かしら?」
「それではルディウスが勇者って事ですか?」
「分をわきまえなさい!聖騎士なら、勇者には《様》をつけるのが当たり前ですよね…勇者に様をつけないで良いのは私達四職だけです」
「すす、スイマセン…ですが、本当にルディウス様は勇者なのですか?」
「なら、証としてこれはどうだ」
俺は聖剣シルビアンを抜いてみせた。
その刀身は青く輝いている。
「「「「「「「「「「「勇者様」」」」」」」」」」」
「貴方はまごう事無き勇者様…非礼の数々お許し下さい」
全員が片膝をつき、騎士の忠誠のポーズをとっている。
「気にしないで下さい…それじゃ疑いも晴れた様なのでこれで良いですよね」
「はっ、我々は報告を近くの教会から通信水晶で教皇様に致します、直ぐに手配は解除されると思います、そうですね今日の夕方にでも近くの教会に来て下さい、そこで通信水晶で連絡がとれるようにして置きますから」
「行くとメリットがあるのか?」
「聖女様と同じ様に《勇者の証》と《カード》が貰える筈です」
「なら行くよ」
「有難うございます、では我々はこれで」
聖騎士たちはそのまま立ち去った。
【聖騎士 リチャード達】
「リチャード様、どうしましょうか?」
「俺は知らないよ…まずは教皇様に報告だ、大罪人でなくお前等も見ただろう? あれは本物の勇者様だ」
「それじゃ..アルトラン様やベーダ様は」
「偽物に《様》等要らぬ、偽物だ…本物の勇者が偽物の勇者を殺した、それだけだ」
「あの…それじゃ、これから血の雨が降るんじゃないですか」
「ああっ、王国の聖職者、しいては枢機卿辺りはまず責任を取らされる、王国の国王もな」
「本物の勇者様の領地を滅ぼして、母君を殺してしまったんだ、只じゃ済まないだろう」
「しかも、かなり残酷だったと聞くぜ」
「まぁ、年増だから犯したりはしてないだろうが、随分酷い殺し方したらしいな」
「彼奴、死刑になるんじゃないか?」
「一番手柄が、今度は一番の罪人か…」
「それで、俺たちはどうするつもりだ、リチャード隊長」
「まずは、教皇様に報告、そしてルディウス様の意向の判断、まぁその後は教皇様から許可が得られたら王国行き、そんな所を考えている」
「王国行きですか?」
「勇者であるルディウス様が心から憎む者が沢山居る…旨く、その相手を殺せば出世や褒美が貰えそうじゃないか?」
「確かにそうですね」
「さしずめ、敵は王国にあり、そんな所だ」
聖騎士リチャードは教会から通信水晶を使い教皇に連絡をした。
教皇は報告を聴き一瞬驚いた顔をしたが..その後、元の顔に戻り。
「王国の枢機卿と国王には今回の件の責任を取って貰わなければいけませんね」
「…」
「おや、何か不満でも?」
今回のヘングラムの件は教皇様も知っていた。
アルトラン様とベーダ様が死んで悲しい顔の教皇様の為に枢機卿が考え行った事だ。
国王にしたって枢機卿の後ろに居る教会に忖度して行った。
それは誰もが知っている事だ。
「いえ」
「貴方はまさか、私が主導であんな残酷な事に賛同したと思っていませんよね」
「…思っておりません」
「それなら良いのですが…そうだ、折角、本物の勇者様が現れたのですから、私も会いに行きましょう、その様に勇者ルディウス様に伝えて下さい…あと、私の名の元に聖女様と同じ待遇、いえそれ以上の待遇をして貰える様にしなくてはなりませんね…忙しい、それでは頼みましたよ」
「はっ」
「任せました」
ルディウスは自分の故郷が亡くなってしまった事、母親で恋人の様な存在アマンダが殺されてしまった事をまだ知らない。
【閑話】怒りの教皇
【聖教国中央教会、教皇】
不味い事になった。
まさかアルトランとベータが本当に偽勇者だったとは。
あっさりと殺されたから、意見を聞き、2人を偽物と認定しその関係者を処分した。
だが、どれ程探しても《勇者》は見つからない。
その後に魔族の進行が起き、帝国が大変な事になった。
そこで、あの馬鹿枢機卿が騒ぎ出した。
殺されたのは本物の《勇者》《剣聖》だったのではないか?と
一体、枢機卿も国王アルフ4世も何を調査したと言うのか?
何の確証も無くルディウス様を《勇者殺しの大罪人》と断定して私に報告してきて、勝手にその領民や家族を殺した。
勇者殺しの大罪人であれば、その行為は正しい。
勇者という輝かしい女神様の御使いを殺した者や関係者を処分したのだから手柄になりうる。
だが…ルディウス様こそが《勇者様》だったのだ。
しかも、聖女ホワイト様が証言していて、聖剣に認められた《真の勇者様》だ。
今の私は嬉しさと憎さが頭の中でグルグル回り可笑しくなりそうだ。
真の勇者様が見つかり、聖剣まで抜いた。
これは、私の人生で最高、最良の日だ。
だが、馬鹿な王国の枢機卿と愚かなどこぞの国王に騙され、真の勇者様を大罪人に仕立て上げ、その大切な家族を殺し、領民殺す行為を称えてしまった。。
王国なんて皆殺しにしたい…そう怒りで体が震える。
私が自ら称えてお礼を言うべき、勇者様のお母様。
よくぞ勇者様を誕生させてくれたとお礼を言うべき領地の人々。
本来なら、勇者様生誕の地として、大きな教会を建てる…地。
よくも、そんな大切な場所を呪われた地の様にしてくれたもんだ。
よくも、勇者様を敬愛する私に《嘘の報告》をし処刑を称えさせたもんだ。
赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない、赦せない。
どんな大罪でも来世の幸せを願い赦すのが私の仕事だが、これだけは赦せない。
例え、死のうが、どれ程に残酷な死に方をしたとして赦せない。
偽物だった、アルトラン? ベータ? 二人の虫けらの関係者はまだ居る筈だ…友人や仲が良かった者全部、火炙りにしてくれる。
アルフ4世は破門、王だから殺してやれないのが腹が立つ。
枢機卿は聖騎士を送り、まぁ最後は怠惰だったが過去の功績に免じて《ギロチンで許してあげよう》
そして、それに関わった、聖騎士全て破門の上処刑だ。
これでも怒りが収まらない。
生まれた時から、ずうっと出会うのを楽しみにしていた。
それなのに…審議の奴らが節穴で偽物を勇者様に祭り上げさせられた。
大切な、大切な勇者様を大罪人扱いしてしまった…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーっ
ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんなふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな!ふざけんな…
私にとって勇者様は全てに優先する。
もし、勇者様が娘を欲しいと言うなら、大切な娘だが奴隷としてだって差し出す。
私の妻が欲しいと言っても同じだ。
私の目が欲しいと言うなら喜んで目の前で抉り出せる自信がある…
死ねと言うなら自ら油を被り見事に焼け死んで見せる。
そこ迄、大切な存在なんだ…勇者様は。
我々《勇者絶対主義派》はその事を代々心に刻んで生きて来た。
それなのに…何て事させてくれるんだ….
はぁはぁはぁ…
「教皇様、顔色が…」
「今直ぐ八大司教を呼びなさい、いまこの世界で何より大切な事を決めねばなりません」
「はい、直ぐに招集を掛けます」
絶対に赦さない…私が死のうが絶対に赦さない….
勇者様に祝福を…そしてその敵は…人ではない。
狂信者による狂愛が…始まろうとしていた。
【閑話】枢機卿の最後
久しぶりに酒を飲んだ。
酒を飲んだのは何年ぶりだろうか? 20年ぶりだな。
息子のガーグが審議官になった時は嬉しかったな。
私の様な神に仕える存在になりたいだ何て良く出来た息子だ。
しかも、上級審議官の資格まで持っているから、勇者と剣聖の鑑定にも立ち会った。
これは凄く名誉な事だ。
人生に一度あるかどうかの大舞台、勿論まだガーグは若造だ。
だから、あくまで補佐官だ。
だが、それでも鑑定する3人の中の一人素晴らしい事だ。
中心に居るのは、看破のミフォール。
私の知っている限り、ミフォールが鑑定をしくじった事は無い。
偽装すら通じない《神の目》を持つ男、それがミフォールだ。
性格には問題があったが、まごう事無い勇者と剣聖だった…良かった、息子の晴れ舞台が無事に終わった。
だが…
何故なんだーーーーーーっ
ミフォールがまさか、審議ミスするなんて考えられない。
看破のミフォール、神の目を持つ男…そんな男がミスするなんて信じられない。
その真偽ミスの責任は大きく…結局、息子は処刑されてしまった。
勇者と剣聖が11歳の若者に殺された…だから偽物なんだ。
そういう結論によるものだ。
しかもご丁寧に学園長の責任印まで押してある。
だが、勇者と剣聖だからと言って絶対に負けない物だろうか?
あの二人は最低の勇者に剣聖だ、碌に修行もしないで悪さばかり、本物であると考えても歴代で下から数えた方が早いだろう。
それに対してルディウスという少年は英雄と魔法使いの息子だ…しかも前の戦争で活躍した人物の息子。
もし厳しく鍛えられたのなら勝つ可能性もあるのでは無いか?
そこから私は調査した。
最も、だからと言って《彼は罰せない》正規の決闘で勝利したのだ、当たり前だ。
しかも、私と同じ王国の人間だ、個人的に考えても彼は正しい。
私もそこに触れる気はない。
勇者、剣聖とはいえクズなのだから、それもやむを得ない。
だから、私が証明したいのは《勇者と剣聖は本物だけど、弱いから殺された》そういう事なのだ。
調べれば、調べる程、ルディウスは優秀だった。
聖女ホワイトが勇者と剣聖の抜けた穴を埋める為に必要だった位に。
教皇様にも《優秀な人間を発見した、パーティーに勧誘》そういう連絡が来たとの事だ。
しかも、歴代最短で卒業した、魔法も剣技も完璧。
教師すら敵わない。
しかも、英雄と魔法使いの親…充分勝てる可能性がある。
こんな存在をただの11歳の少年と言えるわけが無い、天才だ。
こんな天才ならあんな未熟な勇者や剣聖殺されても可笑しくない。
あははははっ最初から私が調べるべきだったよ。
馬鹿な勇者と剣聖が天才に殺されただけ…それが真相だ。
だから、私はこれを報告書としてあげた。
これで息子のガーグ、親友のミフォールの名誉を晴らす事が出来た。
だが、そこからが可笑しい事が解ってきた。
ルディウスという少年が《天才過ぎるのだ》
こんな天才は歴史に居たのか調べた。
居ないのだ、こんな天才は歴史上にすらいない。
魔法の天才、剣の天才、そして聖女ですら魅了される様な男。
私の知る限りそれに近い男は《神に愛された男、麗しのローゼン》しか居ない。
これが聖教国で一番の天才と言われる男だ。
その男に聞いてみた。
「はっ、11歳? そんな訳無いでしょう、私でもそこ迄出来ませんでしたよ?そんな人間が居たらすぐにスカウトに行きますよ」
つまり《あり得ない》程の天才なのだ。
しかも調べて見たら、弟の不審死に、父親の不審死。
彼を迫害していた家族が2人死んでいた。
勇者と剣聖が死んで直ぐに始まった魔族の進行。
そして、いくら探しても見つからない《本当の勇者》。
不審過ぎる謎の少年。
余りにも可笑しすぎる。
そんなある日、教会から幾ら探しても勇者が見つからない事から、私の報告書が正しい可能性が高い。
と言う、正式な手紙が来た。
それと同時に教皇様が《勇者を失って悲しんでいる》その様な報告も来ていた。
あの方は勇者絶対主義者…当たり前だ。
そして、その怒りはルディウスに向っていた。
だが、肝心のルディウスは聖女様のお気に入り、直ぐに手は出せない。
そこで私は魔が差した。
ルディウスが《勇者》と《剣聖》を殺した。
それが認められれば、親友も息子も潔白だったと世間に広まる。
実力はあるかも知れないがルディウスは…グレーだ。
国王であるアルフ4世にも教皇様から話は来ていた。
話し合いの結果…ヘングラムに《責任を取って貰う事》に決まった。
教皇に忖度したいアルフ4世に息子や親友の身の潔白を晴らしたい私。
利害は一致した。
その結果がこれだ。
あはははははははっルディウスが《本物の勇者》だったのか強い筈だ。
その事実は、息子やミフォールが鑑定ミスをした事が証明された事になる。
「貴方」
「すまないな、お金はあるだけ、宝石も何でもあるだけ持っていくが良い」
「もうどうにもならないのですか?」
「ああっ!このまま居るとお前や娘にも咎が行くかもしれない」
「ですが」
「離縁したとなれば表向きはもう追及されまい、だが、この国に居たら迫害されるかもしれない、何しろ私は勇者様の家族を殺す指示をした大罪人だからね」
「…すみません」
「スルトンは小国だけど、昔私が手を差し伸べた事がある、あそこの王子の婚姻は私が行った、お前達の面倒も見てくれるそうだ…その為のお金と宝石だ」
「ううっこんな事になるなんて..何で私達が」
「仕方ない事なのだよ…さぁ行きなさい」
「はい」
これで心残りは無い。
幸せに…
「おやローゼンどうしました?」
「私にも責任はある、ギロチン何かで晒す様な死に方を貴方にさせたくはない」
「そうですか? その顔は貴方が私を殺してくれるのですか?」
「助けられないなら、せめて苦しみなく死なせてやりたい、私の一閃なら一瞬で死ねる」
「義理堅いなローゼンは、お願いして良いかな?」
「ああっ、任された」
ローゼンは居合の様に剣を抜くと約束通り一瞬で首を跳ねた。
そして滑る様に首は体から落ちた。
「すまなかった、俺にはこれしかしてやれない」
【ローゼン】
何かが起こる気がする。
今回の勇者は血塗られる過ぎている。
兄弟が死んで、父が死に…
今度は母親が死んだ、そして勇者関係で何人死んだか解らない。
女神に愛されると言われている勇者がこんな《血塗られた存在》な者なのか。
俺は結論は急がない…だがルディウスが本物の勇者かどうかこの剣で確かめてやろう。
本物の勇者なら良し…違うなら…このローゼンが殺してやろう。
悲しみと憎しみ
【聖剣の祠の近くの街ソード】
「教会に行くと勇者の証と身分証明カードが貰えるのか?」
「そうです、勇者様と私は恐らく同じ様な物になると思います」
「グレーテルは違うのか?」
「大体同じだけど、お金の請求が私のはアカデミーに行くんだよ、勇者と聖女は教会、それ位で基本は同じ」
「そうなんだ…あると便利そうだね」
「便利よ本当に、基本買えない物は無いし、宿が無い村とかは教会か、その土地の一番の実力者の家が借りられるわ、後は必要に応じて騎士を好きなだけ借りられるわね」
案外、恵まれているのかな?
ガキに世界を任せる様な奴らだけど支援はしっかりしている訳だ。
まぁどこぞのゲームみたいに《こん棒やひのき棒と僅かなお金だけ渡してさようならでは無いんだな》
まぁ、そんな冗談はしないよな。
「凄く便利そうだ」
「まぁ、冒険者みたいに稼ぎながら旅は出来ないから、これ位して貰えないとね…何年掛るか解らない旅だからね」
「確かにそうだ」
世界を任せられた挙句貴重な時間を取られた上で死ぬかも知れない。
当たり前だ。
「さぁ、着いたわよ」
小さな教会がある、綺麗ではあるが大丈夫か?
「大丈夫なのか?」
「どうかしたの?」
こんな小さな教会でそんな凄い物を発行できるのだろうか?
「もしかして、小さい教会だからとか考えていた」
「確かに、考えていた」
「転送魔法で送られてくるから大丈夫よ」
転送魔法って確かアマンダから聞いた話したでは大勢の魔法使いが凄い魔力を使って小さな物を送れるだけだった気がする。
「それって大変な魔法なのでは?」
「何言ってんだかなね…グレーテル」
「そうよね、勇者絡み以上の重要な物なんてない…多分教会はそう言うと思うよ」
【教会にて】
「これはこれは勇者ルディウス様、聖女ホワイト様に賢者グレーテル様、こんな小さな教会に来て頂けるなんて、出来る限りの歓迎を致します、是非お寛ぎ下さい」
「ご丁寧に有難うございます」
「しかし、ルディウス様も災難でしたな」
「災難」
彼奴らに絡まれて決闘したことか?
「偽勇者達の事ですか?」
「そうですよ、ただ、偽勇者を懲らしめて殺しただけなのにご家族を殺されて、故郷の領民を皆殺しにされるなど許される事ではありません、まさか、国王と枢機卿がそれをやるなんて大罪ですよ」
今、何ていった…頭が真っ白になった。
家族が殺された…だと…
故郷の領民が皆殺し…何の冗談だ。
「それはどういう事…だ」
「勇者様、もしや聞いて無かったのですか? 勇者様を偽物と間違えた、王国の国王と枢機卿が結託して故郷のヘングラムを滅ぼしたという事を」
「そんな馬鹿な、俺の母も死んだ父も、国に功績があった人間です…それでどうなったのですか? 国王と枢機卿はまさかと思いますが、偉いから無罪とか」
「そんな事はありません、枢機卿は恥を知る人間です、自ら死を選びローゼン殿に話をして首を跳ねて貰ったそうです」
「国王は?」
「国王のアルフ4世にはこれから教皇様と八大司祭様達が何だかの罰を与えるそうです」
「そうですか…すみません、何か疲れました、どこか部屋をお借りできますか?」
「すぐにご用意致します」
「ルディウス」
「ルディウス…」
「心配してくれてありがとう…だけど、今は一人にして欲しい」
「「解ったわ」」
【教会の客室にて】
この体のせいか、悲しみで一杯になる。
多分これは俺ではなくもう一人の俺の心、俺じゃなくルディウス本来の心だ。
恐らく、俺だったら《俺の女を殺しやがって、殺してやんよ》そんな感じに怒りが大きくなり、悲しいなんて思わない。
相手をぶち殺して…その日はきっと他の女を抱いて酒でも飲んで終わりだ。
そして直ぐに、そんな事を忘れる。
実際にあの時もそうだった。
逆恨みから俺の女を殺した奴がいた。
心底怒り狂った俺はそいつの、顔を潰した。
冗談ではなく、顔が4倍に膨れ上がる位まで殴りつけて、鼻の骨を折り、あごの骨が砕けるまで殴りつけた。
イケメンで有名だったらしいが、眼底が崩れ最早化け物にしか見えない。
そいつには、目に入れても痛くないと言う程可愛がっている妹が居た。
《妹を犯して下さい、差し出します》そう言ったら許してやる。
そう言って殴りつけていたら…20発も殴ったら簡単に言いやがった。
そのまま頭を殴り続けて殺した。
まぁ流石に妹に手は出していない…気が晴れた俺はその日の夜には女を侍らせ酒を飲んでいた。
そして、その女の顔も名前を思い出せない。
そんな奴なんだ俺は…
親の顔も知らなかった俺には悲しいという感情は無い…そう思っていた。
それがこの体のせいか《アマンダを失って悲しい》そういう感情がある。
《母さんか…》
新しい人生で、俺を虐め続け一番酷い事をした女。
恐らくこの世界で一番俺を愛した女。
《悲しい》
これが悲しいと言う事なのか…
多分俺は涙なんて流した事は無い…だが初めて泣いた。
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい
殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい 殺してやりたい。
憎しみと悲しみで頭が一杯だった頭が晴れた。
何でこうなったんだ。
間違っているのは…俺だ。
誰も間違っていない…理屈とロジックで考えるなら…やはり俺が悪い。
本来誰もが間違っていない。
彼奴らが鑑定や真偽の儀式をした時にはあのクズ二人は勇者と剣聖だった。
俺が殺すまで…
俺があいつ等を殺して偽物にしてしまったから起きた悲劇だ…俺が悪い…
何て誰が思うか!
バーカ…お前等は話も出来ないのか?
話してからでも遅くは無いだろうが…
国を何度も救った英雄の家柄だ。
アマンダも魔法使いとして国の為に戦った…
枢機卿には俺は悪い事をしたのかも知れない。
だが、王には、アルフ4世には貸しはあるが借りは無い。
今迄、国の為に戦い、忠誠を誓っていたヘングラム。
勇者の件もちゃんとした決闘だ。
貴族の権利だ。
ならば、この怒りの全ては王国に、王に向けるべきだ。
教会が王にどんな罪を与えるか解らない…だがその対応次第では魔王よりも先に アルフ4世を敵にする。
残酷に、無惨に殺してやる。
だが、この後、とんでもない事になるとは流石のルディウスも考え付かなった。
教皇と八大司教
「教皇様、我ら八大司教を集めるなんてどうかされたのですか?」
「実は不味い事が起きたので意見を聞こうと思って集めたのです」
八大司教とは、教皇を除く最高権力者と呼ばれる8人の大司教の事だ。
その1人1人の権力は大きく、彼らを怒らせることは《この世の何処にも生きる場所が無くなる》と言う事を意味する。
教皇は今迄の経緯を話した。
「成程、それで解かった、先程、枢機卿が命を絶った報告を聞いております、彼は今迄教会に尽くしてくれました、死を持っての償い、それで終わりで良いでは無いのでしょうか?」
「枢機卿が…自害なさったのですか?」
「はい、ローゼンからの報告です《ギロチンに掛けられる位なら自分自ら命を絶つという潔い話でした、その話を聞いたローゼンが同情し首を跳ねたとの事です」
「ローアン大司祭、それならば、私もそれで終わらせるべきかと思いますよ、賛成します」
「ペドロフ大司教の言う通り、彼は熱心な信者であった、ただ愚かなだけだった、死を持って償った、それで良いでしょう」
「では、枢機卿は死を持って償った…それで罪の清算は終わったそれで良いと言う方は挙手を」
8人全員が手をあげ、教皇もそれに続いた。
「同胞を失うという事は私も悲しい物です」
八大司教は全員が《勇者絶対主義》そして枢機卿はこの派閥に属していた。
勇者の家族を殺したという最大の罪を犯したが、彼の信仰が最終的に彼の家族を救った。
死を持った償い…それによって彼の罪は終わった。
これから先、彼の家族は平穏に暮らす事が出来る。
「それより、問題なのはアルフ4世だ」
「功を焦りましたな、本来なら決闘の結果起きた事なのだ、万が一ルディウス様が犯罪者だったとしても庇う立場だ」
「貴族の決闘なのだ、無罪が正しい」
「法を守るべき、王が最大の罪を犯した、これは赦せるべきことではない」
これは詭弁だ。
教皇も八大司祭も、ルディウスの処刑を望んでいた。
彼らの信仰は女神…そして《勇者は女神が自分の代行者として送り込んだ御使い、最早人ではなく神に等しい》。
だから、勇者のする事は全て肯定する….それが勇者絶対主義。
その為、決闘の結果一番、ルディウスを憎んでいたのは恐らく彼等だった。
勇者アルトラン、剣聖ベーダを殺した、それはもうルディウスを殺してしまいたい程に…
だが、彼等が愛していたのは《勇者》《剣聖》。
アルトランでもベーダでも無い。
勇者と剣聖なのだ。
だから、勇者がルディウスだと解り、2人は偽物であるという判断が下った瞬間から全ての《彼らの愛》はルディウスに移った。
今の彼等にはルディウスの事しか頭には無い。
「赦せませんな…国の力を使い、無力な民まで殺すなんて」
「これでは魔族と同じでは無いですか? 当人に危害を加えるならまだいざ知らず…その家族に無関係な領民まで殺す指示を下すとは」
「そもそもルディウス様は貴族です…本来は王族側が庇う立場な筈です」
「これは赦して置けませんね」
「死よりも重い罪ですな」
「それで教皇様はどの様にお考えですか?」
「教会側の考えは破門、アルフ4世の持ち物でルディウス様が欲しいという物があれば王権以外は全て差し上げると言うのは如何ですかな?」
「それは国王の命も含むと言うのは当然でしょうな?」
「勿論ですね…王妃も歳を食っていますがなかなか器量よし…確か三女のルーラ姫は王国のルビーと言われるほどの器量よし、側室と差し上げるのも宜しいかと思いますね」
「いえ、案外報告では、聖女ホワイト様や賢者グレーテル様がかなり熱をあげているようです…邪魔をしたら恨まれますぞ」
「なら、欲しがったら、側室で無く奴隷として差し出させればよいのではないでしょうか?」
「それでは、今後アルフ4世の持ち物でルディウス様の欲しい物があれば全て差し出させる…それで宜しいですかな?」
「「「「「「「「異議なし」」」」」」」」
「それでアルフ4世の処分は?」
「全て終わった後に…破門では如何でしょうか?」
「まぁ、それしか無いでしょうな」
「それはさて置き、情報では、執事とメイド合計3人、まだ生き残りが居るそうです」
「居場所は掴んでいるのでしょうか?」
「はっ、しっかりと手の者をつけております」
「なら、直ぐ保護をするように」
「ちゃんと手配はしております」
その後、色々話し合い…ルディウスの為の話し合いは終わった。
「それでは、私は新しい勇者ルディウス様の所に参ります」
「教皇様…それには私も連れていって貰えるのですよね」
「いえ、私こそが」
「いえ、私が同行します」
「はぁ~ 私と同行者が1名…そしてルディウス様の執事とメイドを連れて後から来る者2名、合計3名を話し合いの後に決めなさい」
「「「「「「「「はい」」」」」」」」
狂信者たちは…動き出す。
ルドル 逃げた先で
不味いぞこれは…ルディウス様が犯罪者扱いになっている。
勇者を殺した? 剣聖を殺した、違うだろうが、ルディウス様が彼等を殺した犯人に仕立て上げられていた。
彼奴らは偽者として扱われた筈。
しかも、そうじゃないとしても、貴族としてしっかりしと決闘した結果だった筈だ。
《ルディウス様は何者かに嵌められたのか?》
不味いな、これは、どうにかしてルディウス様に会いに行かなくてはならない。
この竜車は聖女の名前で借りている。
上手く誤魔化して降りて逃げないと。
「御者さん、此処までで構いません、降ろして下さい」
「本当に此処で良いのですか?」
「はい」
どうやらこの御者は事情を知らないらしい。
万が一気がつかれて騒がれる前に逃げる必要がある。
上手く誤魔化せた。
「あの、ルドル様何があったのですか?」
「ミルカ、レイラ良く聞きなさい」
ルドルは自分が見て来た事を二人に話した。
「そんな事があったのですか?」
「これでルディウス様も身寄りが無いの? 私と同じ」
「すまないが感傷に浸っている暇はない、直ぐにルディウス様を追いかけねば、場合によっては今回の件に教会が絡んでいるかも知れない」
「「はい」」
三人は街などに手が回っている可能性を考えて獣道や裏街道から学園方面に向い…そこからルディウスの所へ向かおうとした。
「流石に腹が減ったな」
「はい、レイラは」
「聞かないでよ、三日前に兎をあぶって食べただけだもの同じよ」
「仕方がありません、お金はありますから、小さな町でなら大丈夫でしょう、そこで宿をとって食事をとりますか」
街道沿いの小さな町に入った所…
「見つけたぞ、彼等がルディウス様関係の方だ」
まさかこんな所に迄手が回っているとは…終わりだ。
これ程の聖騎士に囲まれたら…
「やむを得ません…降参だ、この二人は奴隷だルディウス様に買われただけの存在、見逃がしてくれないか」
「「ルドル様」」
だが、様子がおかしい。
聖騎士が抜刀してこない。
「勘違いしないで欲しい、我々は貴方達を探していたのです….敵では御座いませんご安心下さい、その様子では凄く苦労をされた様子、まずは宿に行き、汚れを落としてから食事でもしながら事情をお話しさせて頂きます」
宿に行き、三人は久々に風呂に入ってベッドで休んだ。
それから3時間位休むと、聖騎士が起こしにきた。
「お休みの所申し訳ないが、話をさせて貰ってよいか」
「解った」
「「解りました」」
「貴方は、勇者ルディウス様の執事ルドル様とその奴隷、ミルカ、レイラで間違いないのかな」
「その通りです」
「その通りでございます」
「はい、その通りで」
「良かった」
「所で、今ルディウス様が勇者と呼んでいましたが?」
「ルディウス様が聖剣を抜いて正式の勇者と教会が認定しました」
「ならば、何故ですか! 国王の名の元にアマンダ様が処刑され、ヘングラムは滅ぼされてしまった」
「私の様な下っ端には解りません、ですが、その件の責任として枢機卿が自害をし、国王には教皇様が自ら勇者様と話し合い確実に重い罰を与えてくれます…そこで生き残りの貴方達をルディウス様に届ける様に教皇様と八大司教の一人シャルナ大司教、アスラム大司教に言われているのです」
「それは私としても助かります、悲劇については主人であるルディウス様に会ってからの話ですが、まずは誤解が解けて良かった」
「貴方達三人は、勇者様にとって大切な方これより、早速向かいましょう」
外に出るとそこには…ギガントワイバーンに部屋が付いた者が居た。
これは、世界に3台しかない、飛竜船、たしか教皇絡みしか使えない筈。
「これは飛竜船…」
「何を驚かれていますか」
「そうですぞ、貴方達は勇者様の関係者なのだから、この位は当たり前ですぞ」
八大司教が2人…それが私になんかに。
「そこのお嬢さん二人も乗って下さい、食事も中で用意てあります、レストランで一流のシェフに作らせた物です、さぁ旅行気分で空の移動を楽しんで下さい」
「あの、ルドル様と違い私達は奴隷です…その」
「一緒で良いのですか?」
「構いませんよねぇ、アスラム」
「そうですよ、貴方達は尊いお方の所有物、そこらの貴族よりも大切な方です」
彼等は教会の関係者は凄く大切に扱う。
奴隷だろうが何だろうが…教会は彼らを大切にする。
何故なら彼らは信仰する勇者の大切な所有物なのだから。
教皇登場
駄目だ、怒りが収まらない。
この体に引っ張られているのだろうか?
母親を殺された事の悲しみが頭から離れない。
父親である、アベルに対しては殺そうとしても拒絶反応がなかった。
だが、母親のアマンダが殺された瞬間から、怒りと悲しみがおさまらない。
このままではきっと八つ当たりしかねない。
ルディウスはきっとマザコンだったに違いない。
女を殺された、俺の怒りの他に、悲しみが止まらなくなる。
この悲しみはルディウスの物だ…母親を殺された憎しみが出てくる。
本来ならルディウスにとって母親の愛はどうやっても《手に入らない宝物》だった。
所が前世の俺の記憶が蘇った事で《形は違うが手に入ってしまった》
今の俺の心は前世の俺でもルディウスの物でも無く恐らくは二つが合わさった物だ。
そのせいか心の底からルディウス本来の悲しい思いが伝わってくる。
俺からしたら、《虐待されていた子供なのに可笑しな奴だ》
「王国なんて皆殺しで良いよ?」
「国王の前で王女と王妃の首を跳ねてやろう…それでも足りないからね」
「出来るよね? 直ぐにやろうよ」
此奴、俺よりもドロドロしている気がする。
流石の俺でも日本人の犯罪者が自分の女を殺しても《日本人は皆殺し》なんて思わない。
殺した奴は地獄に落としてやるが、その家族まで手を出そうとは….あれっ思うな! やっていたわ。
だが、流石にそれは人としてやってはいけない気がする。
昔、俺の仲間に大怪我させた奴の仕返しに、そいつの姉を風俗に売り飛ばしたが…気が晴れるどころか滅入った。
だが、誰かに八つ当たりしないと気が済まない。
殺しても拷問しても許される様な奴はいないだろうか?
一瞬奴隷が頭に浮かんだが…奴隷に罪は無い。
だが、この世界で何をしても許される存在が居る。
それは…魔族だ。
頭の中で次はどうするか、決まった。
そうと決まったら、此処の司祭に相談して、ホワイトとグレーテルに話をしなくてはならない。
「勇者様、明日こちらに教皇様が見えられます、少し遅れますが、貴方様の執事のルドル様とミルカ様とレイラ様も無事保護しましたのでこちらに来られるという事です」
「そうですか、今後の方針についてお話ししようと思ったのですが、それなら教皇様の到着を待ってからの方が良さそうですね」
「はい、私には荷が重すぎます、田舎司祭ですから、あと教皇様ですがルディウス様は《様》をつける必要はありません」
教皇はこの世で一番の貴人の筈だが…
「それは何故ですか?」
「貴方様は女神様の御使いです、一番神に近い方なのです《教皇》と呼びつけられた方が正しく、特に今の教皇様は勇者絶対主義の方です、その方が喜ばれます」
「そうですか? 気をつけます」
「ええ」
この日は俺に気を使ってか、ホワイトにもグレーテルにも出会わなかった。
【次の日】
空から飛竜船が二隻降りて来た。
一隻でも聖教国でしか見る事が殆ど無い飛竜船が二隻。
こんな事はまず無い。
小さな街だからちょっとした騒ぎになりそうだったが、聖騎士によって収められた。
「飛竜船か…凄いな」
「何を言っているのルディウス? 貴方は勇者なのよ、あんな物欲しかったら《くれ》の一言で教皇様がくれるわ」
「ホワイト、冗談だよな?」
「グレーテル冗談じゃないわよね」
「うん、間違いなくくれるね、あの教皇だから」
「だったら二人は何故貰わなかったんだ」
「世間体よ…あんな物に乗って移動したらどう思われるかしら」
「納得」
飛竜船が降りてきたら、年寄り4人が走って来ている、その後ろから多数の聖騎士が追い越さない様に走っている。
なかなかシュールな感じだ。
その後ろに見知った顔が三人…ルドルにミルカにレイラだ、良かった無事だったんだな。
「ハァハァ、ぜぃぜぃ…聖女ホワイト様、そちらが…ハァハァ、その」
「ええっ、勇者ルディウス様です」
「お初にお目に掛かります、私が教皇でございます」
名前を名乗らないのには理由がある。
勇者は神の御使い、ただの人間の自分は《ただ仕えるのみ》で名前を呼べとは強要しない。
そういう意味だ…《おい》《それ》だけで充分。
実際に時代によっては勇者は一切《名前を呼ばなかった》そういう事もある。
ある勇者が《ユリシアよ、最後まで私に仕えてくれてありがとう》そういって死んでいった。
未だにこの話はメイド協会に引き継がれている。
教皇や王ですら名前を呼ばなかった勇者が名前で呼んだ唯一の人物、それがユリシアというメイドだった。
それを聞いた、ユリシアは、勇者の葬儀が終わると、自害して死んだ。
その遺書には《死んでからも勇者様にお仕え致します》とあった。
その後、ユリシアには爵位が与えられ、メイド協会の名誉理事長の地位が与えられた。
そして勇者のお墓の横に埋葬された。
その葬儀は教皇自らが行った。
ちなみに教皇ですらこれなのだ、他の三人は話も出来ない。
後ろでただハァハァゼイゼイしている。
マジか…教皇に八大司教のうち三人が目の前にいる。
「初めましてルディウスです」
「お言葉を有難うございます、これは本当にすみません、疑う訳ではありませんが鑑定をさせて頂いて構いませんか?」
「ええっ構いませんよ」
横から八大司教の一人 ペドロフが鑑定紙を取り出す。
かれは死んでしまったミフォールを上回る鑑定能力があるが、念には念を入れて、鑑定紙を使う事にした。
「ここ、これは…あああっ何と勿体ない…ハハァッ」
鑑定を見るなり、ペドロフは膝磨づき、ひれ伏してしまった。
「一体、どうしたというのですかペドロフ? 幾ら勇者様に会えたからって、ちゃんと解る様に説明しなさい」
「教皇様…これを、このジョブを見てしまったら、最早こうするしか私にはありませんでした、何で私如きが鑑定など…恐れ多すぎます」
《何ですか、このペドロフの態度は…》
「見せなさい…勇者、剣聖のWジョブに他を含んだらヘキサゴン…あああああーーーっ 何と恐れ多い」
その場で教皇すら跪きそうだった。
「止めて下さい…私はまだ若輩者です、そんな事されたら困ってしまいます」
「ですが…その」
「良いですから、止めて下さい」
周りには関係者しか居なくても、教皇が頭を下げるなんて気が引ける。
「解りました…うっ、あの勇者ルディウス様、その御腰の物は?」
「聖剣 シルビアンだけど?」
一応見せた方が良いだろう、俺は腰からシルビアンを抜いて見せた。
刀身が眩い位に青く輝いた。
「「「「「「「「「「「ああっ、正に勇者様…生涯の忠誠を誓います」」」」」」」」」」
今度は周りの者全部がひれ伏す。
ホワイトもグレーテルも跪いてはいないが横で片膝を立てている。
ルディウスは知らなかった。
聖剣を手にする前の勇者は、いわば半人前。
だが、聖剣を手にして輝かせたら、それは《真の勇者》を意味する。
そんな勇者を目の前にして教皇たちがひれ伏さない訳が無い。
《勇者絶対主義》の彼等にとっては至高の瞬間だ。
この場に居る誰もがルディウスの言う事なら何でも聞くだろう。
まして彼は只の勇者じゃないのだから。
教皇と八大司教?
教皇に八大司教のうちの3人、実際一緒に座ってみると流石に無言になる。
普通に貴族として生きて来てもこの席に座る事は無いだろう。
ホワイトとグレーテルが羨ましい。
まぁ、もう場慣れしているのだろうな。
黙っていても仕方がない、俺が話そうとすると教皇が口を開いた。
「この度の事は大変申し訳ございません、我々がついていながら、この様な事が起きるなんて」
「そうですね…正直怒りを抑えるのに精一杯で…」
「それで、この話しを勇者様はどの様にしたいと思いますか、この度の件は全て勇者様の想い通りに致します」
こうは言うが何処まで通るのかは解らない、相手は一国の王や枢機卿だ。
「最初にお伝えいたしますが、枢機卿は自害なさりました、自分の教会での立場も継承も一切を放棄した上です、自分の判断ミスを恥じたようです」
自害か…これで許してやるべきなんだろうな。
「解りました、枢機卿はそれで不問で良いです、それでアルフ国王は?」
「今の所は何の罰も与えていません、それでどの様にしたいか勇者様に方針を聞こうと思いまして」
殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す。
駄目だルディウスの意思が《殺す》という方に俺を引っ張って行く。
ハァハァこれじゃ駄目だ。
国王だけでなく、その家族や貴族国民まで皆殺しにしろ…駄目だ駄目だ駄目だ。
そこまでする事は無い…そんな過剰な復讐をしてはいけないんだ、それは復讐じゃ無くて虐殺だ。
駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ
「勇者様、顔色が悪いですがどうかなさいましたか?」
「ハァハァすみません…今の私が何か何か意見を言うとかなり酷い事を言いそうです」
「あの、司教如きが言う事ではありませんが、思いのままで良いのですよ? 母親を殺されたのですから、どんな事でも構わないと思います」
「かなり惨い事だ聞いております、何でも言って下さい」
やはり俺が決めないといけないのか…なら。
「神に仕える者として最大の慈悲を与えて下さい、その上で最大の罪として裁いて下さい」
これで良い筈だ、教皇や八大司教は、慈悲深いと聞く、その慈悲の心で考えて、そして最大の罪として裁く…こんな感じが良いだろう。
これなら王位を剥奪して投獄10年とか、もしくは王都追放位だろう。
俺の母親と故郷を滅ぼしたんだ、その位当然だ。
「解りました、今の勇者様の言葉を胸に刻み、私と八大教皇が必ずや罰を与えます、その上で損害も賠償させます」
「頼んだ…それでお願いがあるのですが」
「勇者様、お願いだなんて、この教皇勇者様の為なら、何でも致しますよ! 何なりとご命令下さい」
「これは我儘です、本来なら俺は学園卒業まで3年あり、偽勇者達も2年あった筈です」
「確かにそうですな? 学園に戻りたいのですかな?」
「違う、だからそうだな、半年~1年 ホワイトとグレーテル、それに俺にとってはたった3人の知り合いルドルとミルカとレイラを預かって貰いたいのだ」
「預かるのですか? それは構いませんが、それで勇者様は何処に行くのですか?」
「帝国」
「帝国に何しに行くのでしょうか?」
「帝国を取り戻しに行く」
「そんな、流石の勇者様でも一人では危なすぎます、せめて聖女様や賢者様をお連れ下さい」
「今の俺は腸が煮えくりかえっている、八つ当たりしたくて仕方がない、そんな姿を仲間には見せられない、だから教皇お願いする、1人で行かさせてくれ」
「す、す、素晴らしい、流石は勇者様です、それでしたら聖教国と帝国の間にある砦を差し上げましょう、小さな城もありますから自由にお使い下さい、そこに、そうですな聖女様も賢者様も行って頂き、お三方も行って頂きましょう、大丈夫強固な砦ですから万が一はありません、そこから帝国に攻め入り、魔族達を倒して下さい、厳しくなったら直ぐさま退却してくれば良いのです…その代り必ず通信水晶と生命石はお持ちください」
「生命石?」
「はい、二つありまして、その一つを持った方の命に危険が迫るともう一つの石が黒く染まります、危なくなったら直ぐに助けに参ります」
「有難うございます」
「礼なんてとんでもありません、我々は当然の事をしているだけでございます」
「それでも礼は言わせて貰うよ、ありがとう」
只でさえ勇者は目に入れても痛くない教皇に八大司教がお礼を言われた。
この言葉はどんな美女に愛を囁かれるより魅力的に思えただろう…その結果、更に彼等は暴走する。
「勇者様、戦いの場に行かれては休む暇はありません、折角なのでこの街で2・3日休まれては如何でしょうか?」
「そうだな、そうさせて貰おうか?」
【教皇と3人の大司教】
「本物は違いますな…見た瞬間から惚れ惚れする様な御方です」
「あれでこそ、勇者様、しかも剣聖のジョブまで女神様が愛されるわけだ」
「その様ですね、審議官も携わった者も処刑して正解でした、あれ程の方とあんな頭の可笑しい偽物を間違える等、目が腐っていたのでしょう」
「教皇様?」
「良いですか? 今の教会はマイナスなのですよ! 勇者様に沢山の物を与える筈が奪ってばかりです…何と私は情けない教皇なのでしょうか? まずはあの国王をどうにかしないとなりません」
「それでどの様に?」
「簡単ですよ、国王は破門にして世界追放、最初の通り城も王妃も王女も全部勇者様に差し上げましょう」
「やはり、それが一番宜しいかと思いますね」
「逆らった者は全部破門、破門される事を恐れ、貴族や騎士は絶対に動きませんな」
「女神の敵にされたら世界が敵に回るのです…最早人として扱われないでしょうな」
「ですが、王権はどうしますかな? あれは教会でも剥奪出来ません」
「王子は同じ様に破門の上世界追放、王妃と王女がルディウス様の側室か奴隷ならそれもルディウス様の物ですよ、そうは思いませんか?」
「その通りです、教皇様」
「いや、実に《神に仕える者として最大の慈悲を与え、その上で最大の罪として裁く》勇者様のお言葉に忠実な話ですな」
ルディウスは見誤った。
彼等の、優しい慈悲は女神の元にある、その女神の御使い勇者を産んだ聖母の様な存在を殺して、勇者を怒らせた者への慈悲など欠片すら無い。
狂った信仰が、王国に破滅をもたらす。
王の最後
どうしてこうなってしまったんだ。
「今迄、お世話になりました、最後の情けで国外に逃がしますが…それが最後です」
「お前達は、儂を見捨てるのか?」
「王よ、私達がこれを行うのは、今迄の恩です、今や貴方は人間ではありません、家畜と同じです、さぁさっさと馬車に乗りなさい」
今や城には人は殆ど居ない、財産も綺麗な妃や娘もも既に教会に徴収された後だ。
これが《破門》の結果起きた事だ。
死刑と破門であれば、死刑の方が罪は軽い。
死刑は《人だからこそ》死によって償われる。
だが《破門》は人でなくなった事を現す。
教会に破門されるとどうなるか…この世界に生きれる場所が無くなる。
そして人として扱われなくなる。
家畜以下の扱いになる。
だったら女はどうか?どんな美女でも抱かれる事も犯される事も無い、
破門された女を抱いたら体が汚れるから、どんな美人でも最早最下層扱いになる。
《破門された女を抱いて地獄に落ちるなら、豚を抱いた方がマシ》これが一般的な意見だ。
もし破門された人間が水を飲もうと井戸に行ったなら、石を投げられ殺される。
汚れた人間が水を汲んだ井戸の水など飲めない。
破門された人間が持っていたお金等汚らわしくて触れない。
破門された人間に物を売った人間は不幸になる。
つまり、街に居たら水や食事にありつけずに餓死するだけだ。
しかも、水浴びも出来ないから体は汚い状態で無様に死ぬ事しかない。
「儂の破門はもう覆らないなだろう…儂が哀れと思うならせめて家族がどうなったのか教えてくれぬか?」
「本来なら最早家畜以下のお前に言う事は出来ぬが…第三王女は勇者ルディウス様の物になった、恐らくは奴隷か側室になるだろう、第一王女と第二王女はもう嫁いでいるが、教会が回収して恐らくは勇者ルディウス様の奴隷になるだろう、まぁそのまま居たら確実に殺されてしまうから奴隷としてでも生き残られるだけましだ、妃も一緒だ、ただこれはルディウス様が《欲しい》と言えばだ《要らない》と言えば全員死刑だな」
「そんな…? 息子は? 王子は?」
「そこに慈悲はある、死刑か破門か聞いたら《死刑》を選んだ、よって2人とも死刑となった」
「そうか? ならば最早儂が生きていても仕方ない…死なせては貰えないか?」
「はぁ? 何を言っておられるのか? お前は《破門》 死刑にはなれない…見苦しく生きていくしかない」
「儂は死すら選べないのか?」
「当たり前だろう」
粗末な馬車に揺られながら元王であったアレフ4世は旅立った。
そこには、もう王としての面影はなく、ただの老人にしか見えない。
そして馬車は王国の国境添いの森に着いた。
「王よお別れです」
「お前達は、儂を、余を王と呼ぶのか?」
「流石に人前では呼べませんが、此処には私達以外は誰もおりません」
「そうか、ならば忠義に礼を言おう」
「「「「「「有難き幸せに御座います」」」」」」
「さて、これで王つきの近衛騎士団長も終わり、此処からは自由になります…あんたが馬鹿やっちゃったからな」
「済まぬ」
「皆はどうだ? 行く所無いなら俺と野党でもやらないか? どうせ勇者絡みの免職、真面に職なんかつけないぞ」
「そうですね、団長、俺はあんたに着いていく」
「俺も」
「俺も田舎に帰りたくないからな」
「折角近衛騎士までなったのに…野党か、こりゃ親が泣くな、まぁしょうがない」
「さてと、これで俺たちは全員野党になった訳だ、最早国も教会も無い…此奴殺しちまおうぜ」
「「「「「おーーーっ」」」」」
「お前達、まさか儂を、余を殺す為に野党になったのか?」
「まぁな普通の人間が《破門》になった人間を楽にしてやったら問題だが、俺には家族が居ない。こうすりゃ問題無い」
「本当に済まぬ」
「俺はお前が気に食わないから殺す、それだけだ、他も全員一緒だ」
「「「「「そうだ」」」」」
「なら、何故泣いておる? 可笑しくないか」
「俺はもう騎士では無い…だが、騎士団長にまでしてくれた王を、守れもしない、助けも出来ない…すまないな、せめて楽にしてやる事しかできない」
「何を言うのか、王国一と言われるお前なら、死んだ事すら気がつかない程素早く儂を殺せる、野党に迄なってそれを行ってくれるお前に感謝だ…ありがとうバースト」
「それでは…」
バーストは一瞬でアレフ4世の首を跳ねた。
バースト達はアレフ4世の遺体を荼毘にふして焼き、その灰を川に流した…
こうしてアレフ王はこの世から人知れず去った。
王妃と王女
「無礼者、王妃と王女の話中に踏み込んでくるとは何事ですか?」
「お母さま…」
「王女であるテレジアも怯えていますよ、この責任は」
「御恐れながら、マリアーヌ元王妃、我々は聖騎士です、今回は破門絡みなので貴方の話を聞く必要はありません」
「元王妃? 破門絡み? どういう事ですか?」
部屋には10人からの聖騎士が踏み込んで来ていた。
「国王であるアレフ4世が、勇者ルディウス様の母親とその故郷を滅ぼした、ゆえに教会を《破門》になった」
何を言っているのか解らなかった。
ルディウスとは勘違いで無ければ、勇者と剣聖を殺した少年の筈。
勇者達から決闘をけしかけられて、正々堂々戦いを挑み倒した貴族の少年の筈。
だが、私達はプレッシャーに負けて彼を罰しました
作法に則った決闘の勝者に罰を与えてしまったのです。
しかも、王国の為に戦い帝国を退けた英雄の妻で自らも戦争に出て戦ったアマンダをも無惨に処刑したと聞きました。
たしかに恥知らずな行い…ですが、言ってしまえば《貴族》の事で何故教会が出張ってくるのですか?
「確かに恥知らずな行動です、ですが王国内の事で何故、聖教国が聖騎士が出張ってくるのですか? 内政干渉です、確かに過ちは認めますが一国の王を破門する程の事ではありません、たかが一貴族の事です」
「貴方は何を聞いていたのですか? 一貴族? 貴方こそ無礼ですよ、ルディウス様こそは真の勇者、教皇様ですらひれ伏す存在、その母親に手を掛け、無実の罪で故郷の者を殺した、勇者の身内に手を掛けた、これの何処が内政干渉なのでしょうか? 既に 王は破門済みです、勿論妻や子供である以上貴方達にもそれ相応の罪を償って貰います」
「そんな、私は知りませんでした」
「娘は娘だけは赦して貰えませんか」
「無理です、まずは王妃、貴方には3つの罪の償い方があります」
「その3つとは、何でしょうか?」
「1つは王と同じ様に破門、二つ目は死罪、三つめはルディウス様の奴隷になり尽くす事です」
「なら、私は辱めを受けて迄生きていたくありません、死罪を望みます」
「それで宜しいのですかな? よく考えて下さい、同じような話は嫁いだ第一王女、第二王女、そして貴方の傍に居る、その第三王女にもします、死んで楽になるのは良いですが、それは何の償いにもなりません、生きて償う道を選んだ者に全てを押し付けた事になりますが宜しいのですか…母親としてそれは正しい道なのですかな」
「ううっ…それは解りました奴隷として生きる道を選びます」
「そうですか、ならばテレジア元王女はどうしますかな? 貴方の場合も同じですが、貴方はまだ未貫通ですから奴隷ではなく側室の話もあるやも知れませんよ」
「ちょっと待ちなさい、この子は王女なのです、側室ではなく正室に成れる筈です」
「今やテレジアは王女で無く破門された者の娘です、側室に成れるチャンスが貰えるだけありがたいと思った方が良いかと思いますよ」
「そんな…」
本来なら王女、勇者とはいえ正室に慣れる筈なのに…それが側室、側室なんて愛人みたいな者だわ、私の娘が…貴方恨みますよ、貴方がこの子の未来を摘んでしまった。
「お母さま」
「大丈夫よ、お母さまが貴方にはついていますからね」
まだ、マリアーヌは知らない…嫁いだ二人の王女、長女フランソワーズに次女エレノワールも強制的に婚姻を解消させられ自分と同じ様に奴隷になる運命にある事を。
【王国騎士団、鳳翼の翼】
「王を送っていった騎士団長を始め、その仲間が帰って来ません」
「そりゃそうでしょうね、あの方たちは家族が居ません、そのまま、きっと野党か山賊にでも成り下がるのでしょうね」
「副団長、それでは私達は、その死刑でしょうか?」
「まぁ家族の居る我々は逃げられませんよ、逃げたら家族に咎がいきます」
「まぁ私も妻や娘が咎人になるのをこの命一つですむのなら喜んで死にますよ」
「私も、その覚悟はしていたのですが…どうやらお咎めがない様です」
「副団長、それはどうしてでしょうか?」
「どうやら、暫くの間、此処は教会が統治した後、正式に勇者ルディウス様の物になる様だ」
「だからですか?」
「直接、手を下した者以外は罪を問わない、その代わり勇者に忠誠をと言う事だ」
「騎士とは忠誠を誓う者、その相手が変わっただけだ」
「だが、あいつ等は…」
「死刑は免れられぬな」
「王付きの騎士団、黒曜の剣…」
「王の信任厚く、その忠誠は国でなく王に捧げる」
「今となっては、死ぬしかありませんな」
結局、鳳翼の翼が騎士団長を含む数人しか処罰されなかったの対し黒曜の剣は全員が家族共々処刑された。
聖騎士に処分された彼らの首は街の広場に10日間見せしめの為晒された。
教皇との話し合い
これは余りに過剰すぎる気がする。
飛竜船一隻をほぼ貸し切りで使っている。
現代でいうなら飛行船を彷彿させる広さがある。
その中で1部屋を自分専門に貰い、それぞれが2人部屋や3人部屋だが部屋を使っている状態だ。
この飛竜船は教皇の為の物…王族ですらおいそれとは乗れない。
その飛竜船の中でも大きい部屋を独占する。
如何に《勇者》が恵まれているか解る。
俺は少しだけ反省した。
ガキに丸投げはしているが《彼らの理屈》では大切にはされている事が解った。
ルドルは流石執事だ顔には出さずに俺の傍にいる。
問題は、ミルカとレイカだ。
「あの…私奴隷なのに一部屋頂いているんですが良いのでしょうか? 倉庫で毛布で充分なんですよ」
「この部屋どう見ても貴族様のお部屋にしか見えないんです、ルディウス様も驚く程の待遇でしたがこれじゃまるでお姫様です」
確かに一部屋使っているのは俺たちを除いて教皇だけ、八大司教でさえ相部屋だ。
「ルドル、その辺りの事は聞いたか?」
「何となくですが」
「どういう事?」
「何でも我々は、ルディウス様の持ち物扱いの様です、まぁよくある事ですよ」
「持ち物?」
「例えば、そうですな、王が購入した奴隷が居たとします、その奴隷は王の持ち物なので雑には扱われません、それこそ貴族ですら最低線の敬意を払うでしょう…それが勇者であるルディウス様となれば別格です、それに二人とも寵愛を受けていますから、まぁ当たり前と言えば当たり前ですな」
「そう言う事があるのか」
確かに前の世界では歴史とかで聞いた事はある。
「はい、過去には、奴隷や愛人に爵位迄与えた王がおります、今回は少し違いますが《勇者》であるルディウス様の持ち物と家臣、それに対する敬意です」
マジか? 聖剣と同じと言う事か。
話しているとドアをノックする音が聞こえる。
「はい」
「これは、これはルディウス様」
そこに居たのは教皇だった。
「いえ、会話が聞こえて来たのでご説明に上がろうと思っていたのです」
まさか、盗聴していたのか?
「ああっ、ルディウス様..誤解なさらないで下さい、ドアの外にいる聖騎士が何かあったら対応できるように聞き耳を立てているのです」
そう言う事か? 前の世界でいうならSPが居て、状況を聞いている、そう言う事か?
「そう言う事なら仕方ありませんね」
「困惑している様なのでご説明した方が宜しいかと思い訪れた訳です、その他にも報告がありますので」
「確かに、助かります」
実際に俺は兎も角、三人の立ち位置が解らないから助かるな。
「コホン、まずルドル氏ですが、勇者様に仕えているので貴族でいうなら勇者様の宰相みたいな扱いになります、執事とは主に尽くす者、勇者様に快適な生活を送らせる為に行動する時のみであれば王と同等となります、教会が持つ特殊馬車でもこの飛竜船でもルディウス様の為に使うなら《命令》で使えます。聖騎士すら顎で使って貰って構いません…但しこれは勇者様絡みのみ、通常はまぁ伯爵位だと思っていて構いません、私にも八大司教でも勇者様に関するお願いなら何時でもお会いできますし相談に来て頂いて構いません。まぁ勇者特権の一部を使える、そう思って下さい」
「確かに凄く光栄でございますが、只の一執事の待遇としては破格値過ぎる気がします」
「只の執事では御座いません、ルドル殿は勇者様の執事です、ある意味我らの同士です、当たり前では無いですか?」
「それは…解りました、ルディウス様の支援に必要な事、与えられた力全て主の為に使わせて頂きます」
「そういう貴方だからこその待遇です…次に二人の奴隷の待遇ですがルドル殿が言った通り、彼女達は奴隷ですが勇者であるルディウス様の奴隷です、しかも既にご寵愛も受けていますので、愛人としての扱いもあります、そこから考えて、王の愛人以上…そう考えるなら、この辺りは複雑ですが、貴族以上、上位貴族以上の扱いになります…ただお金という意味では女男爵位の支給になりますが、勇者様がエスコートする公式の場所で必要なら、国宝だろうが何だろうが教会がお貸しします、ただこれは私も初めてのケースなのでこれから、相談しながら決めていきましょう」
「「はっふあぃ」」
「緊張なさらずに、これから長い付き合いになるのですから」
「「はい」」
緊張しない訳ないだろうな…雲の上の教皇がこんな丁寧に話しかけてくるんだから。
貴族の俺でも緊張しているのに、奴隷だったんだ、多分心臓なんて破裂しそうな位緊張している筈だ。
おおよその扱いを聞いた…これで大丈夫だ。
三人を大切に扱ってくれるならそれで良い。
もう、これで良いだろう。
「それで教皇にお願いがあります」
「何でもおっしゃって下さい」
「もし他にもヘングラムの生き残りが居たら保護して貰いたいのです」
「それは勿論でございます、確実に保護致します」
「宜しくお願い致します、それで報告とは何でしょうか?」
「王国への処罰が行われましたので不愉快かと思いますが、その報告です」」
どの様になったのか報告を受けた。
マジか? 国王が破門の上国外追放…こんなのは俺は知らない。
国は国王の物だ、それを追放なんて出来る物なのか?
破門は可能だと思うが、追放何て出来ないと思うのだが。
「破門は解るが、国外追放なんて出来るのですか?」
「この国、この世界は、全て女神様を中心に回っています、全ての人間が信じているのです…そこから外れると言う事は最早人ではなくなります」
そこ迄凄いのか。
「宜しいですか? その女神様から御使いである勇者様がこの世界で1番偉い、二番目に偉いのは聖女様、その次がかなり下になりますが賢者様と剣聖様、そしてその次が私です、これは建前上ですが」
「建前?」
「はい、私達教会は宗教者ですので、本当の意味で心頭しているのは勇者様と聖女様です、賢者様や剣聖様も大切には扱いますよ女神様が遣わした者ですからね、ですがどうしても勇者様や女神様と違い神聖さに欠けるので、実際に本当に替えが効かないのは勇者様だけですが聖女様も勇者様を支える為に必要な方….他の2人は、此処だけの話替えが効きます…あっ口が過ぎました、ルディウス様は剣聖様でもありましたね」
確かにグレーテルのお金はアカデミーが出している、そう言う事か。
「だとすれば、俺は剣聖としても何処からか支援が受けられるのか?」
「冒険者ギルドと傭兵ギルドが支援しますが、そんなの要りません、ルディウス様見たいな聖人、全て教会が支援致します、貴方は二つも素晴らしいジョブを持ち、他にも聖人クラスのジョブを二つも持っています、そんな方は歴史にだっていません、恐らくは歴代で1番女神に愛された勇者様です…どんな贅沢だって、国宝だって叶えて差し上げます…だから何でも教会に言って下さい」
「解りました」
「興奮してしまい申し訳ございません、続けさせて頂きます、その他には王妃に第一王女、第二王女はルディウス様の奴隷にしました、必要無いなら処分します」
処分?俺が要らないと言えば殺してしまうと言う事か…
「処分とは」
「処分は処分でございます」
不味い、殺してしまうと言う事で間違いない。
俺が黙っていると教皇が話を続けた。
「ほかの男の者になった女性は要らないと言うなら処分します、ですが王族は王権を持っており誰か1人は手元に置いた方が良いと思います、最悪、第三王女だけでも手元に置かないと王権をとれません、本当に忌々しい事です」
そんな事はどうでも良い。
王妃様は肖像画でしか見たことが無いが絶世の美女だった筈だ。
この世界だと子供を産んでお払い箱だが、まだ30代半ばになって無い筈だ。
しかも、王妃も王女三人も宝石に例えられる位の美形だった筈だ。
それに第三王女は確か勇者に嫁ぐ筈だった。
「元は仕えていた王族です、殺してしまうのは忍びない、貰う事にします」
「それでは、その方向で、後は第三王女ですが、此方は未貫通ですので側室にも奴隷にも好きな方で構いません」
「あの、確か第三王女のテレジアは勇者の婚約者だった筈では?」
「確かに偽勇者の正室になる筈でしたが、王が破門になったから最早ただの女です、そういう扱いで構いません、正室は聖女ホワイト様が相応しいと思います、ですが私は勇者様の考えが一番、他の方を望むならそれも構いません」
そうか、ホワイトが正室か、まぁ教会からしたらそれが望ましいのだろうな。
「とりあえずどうするかは先送りだが、貰う事にするよ」
多分そうしないと処分されそうだ…はぁだけど確か第三王女ってまだ9歳じゃなかったか?
前の世界じゃ、ロリコンって指さされそうだな。
まぁよいけどさぁ。
「そう言ってくれて正直ほっとしています、流石に処刑と言うのが言いづらく奴隷という道を聖騎士が言ってしまっていたものですから」
それでも《要らない》と言えばその約束を反故にして殺してしまう訳か。
《この仕打ち、呪ってやる》とか《娘だけは助けて下さい~》と聞こえてきそうだ。
俺が黙っていると…
「実質、王国はルディウス様の物と思って頂いて結構です、魔王討伐が終わるまで教会が管理します、勿論国の所有物で欲しい物があればその都度言って頂ければお持ちします」
「国を貰うかどうかは、この魔王討伐の旅が終わってから決めていいかな? まだ俺は11歳だし、終わった後に話し合い、その時に俺がやりたい事があったら、力を貸して欲しい」
「解りました、その時が来ましたら、教会が勇者様の夢を叶えます、どんな夢でもです、ご安心下さい」
「有難うございます」
「その為の教会ですから」
気がつくともう遅い時間になっていた。
本当はホワイト達とも話すつもりだったが教皇が熱弁を振るっていたので仕方ない。
まだ到着まで時間は沢山ある…明日にでも話そう。
聖女と賢者と勇者の夜
夜中にドアがノックされた。
此処に不審者が居る訳はないから、確認もしないでドアを開けた。
「どうした? ホワイトにグレーテル、まさか俺に夜這いでも掛けに来たのか?」
「べべ別にルディウスが望むなら、その相手しても良いわよ?」
「私も構わないかな」
確かに二人とも可愛いし未来は楽しみだが流石に12歳には手は出せない。
まぁこの世界では普通にやっても良い年齢ではあるが、俺は駄目だなやはりそう言う目では見れない。
「冗談だ」
「そう、凄く残念だわ、だけど、ルディウス本当に1人で帝国に行くの?」
「そのつもりだ」
「聖女のホワイトも賢者の私も抜きで、たった1人で戦う何て死ぬような物だよ? もしかして以前私と約束した事の為にそうするのかな?」
「まぁ、それも少しはあるよ、だけど、それだけじゃ無い」
「他に何があると言うのかな」
「簡単に言えば、これ位の事が出来なければ魔王討伐なんて出来ない、悪いけど俺はホワイトにもグレーテルにも戦って貰いたく無い、出来たら普通の少女らしく平和な場所で幸せに過ごして欲しい」
ガキ女が世界なんて背負う必要は無いよ、本当にそう思う。
「年下の癖に何をいっているのよ、何で無茶ばかりするの」
「そうだよ、そんな事してルディウスに良い事なんて無いよね」
「だけど二人には良い事だらけじゃない? もし俺が死んだら、勇者が居なくなる訳だからこの旅は終わり、もし生き残る位強かったら俺一人で魔王と戦える可能性もある」
「そんなの全部ルディウスに押し付けて自分だけ安全な所でぬくぬくしているだけじゃない!」
「私だってそうだよ、これでも賢者なんだから」
「ああっだけど二人とも俺にとっては女(ガキ)なんだから、それで良いと思う、もし俺じゃどうしようも無かった場合は手を貸してくれ」
正直言えば、帝国での戦いは半分八つ当たりだ。
俺の中のルディウスの憎悪や悲しみを消す為に、全然関係ない奴らを殺しに行く。
それに打算でもある、俺の中の隠れジョブ(転生人)はどういう原理か解らないが、この世界の人間を殺しても経験値は貰えるし、相手のジョブも何故か手に入る。
魔族に殺されて死霊になった人間でも生前の技を使ったり、記憶はない物の生前と似た行動をとる者も居ると聞く。
もし、彼奴らがジョブを持ち続けているなら奪い放題だ。
俺が強くなる楽な道は恐らく大量殺人を行う事だ。
だが、そんな事は幾ら勇者でもしたら不味いだろう。
だから、これはチャンスなんだ。
殺して奪い取って良い奴がそれこそ五万といる。
八つ当たりと経験値稼ぎ、きっと俺の顔は歪んでいるだろう…元はクズだからな。
そんな顔を知り合いには見せたくない、笑いながら人だった者を殺す俺をな。
「あくまで自分一人でやるっていうの?」
「そんなのは無茶だよ」
「約束しただろう? 俺が手を貸す条件は一切文句を言わない事だったよな? この際だから言わせて貰う! 俺が代わりに魔王を倒してやるよ! その代わり、約束通り、まぁ領地は無くなってしまったが、お前は俺がこの先手に入れる俺の領地の診療所で男でも作って楽しく暮らして貰うよ。グレーテルもそうだ、俺が手に入れる領地で寺子屋の先生な? 約束だろう?」
「何で、何でそうなのよ…そこ迄して何で、自分一人で背負うとするのよ?」
「まさか、本気で言って居る訳じゃないよね?」
「本気に決まっているだろう? 聖女と賢者がこの先手に入るんだ、命位張らなきゃな」
「あはははっ確かにそういう約束だったね」
「確かにそうだけど、死んじゃうよ?」
「死なないよ《どうやって誤魔化そうか?仕方ない嘘をつくしか無いか》 言いたくないけど、たかだかLV20位じゃ役に立たないな、俺は小さい頃から英雄の父に優秀な魔法使いの母から学んだ、途中事故で死んでしまった弟は凄い天才だったよ、それを越える為に死ぬ程な…ホワイトもグレーテルも人を殺した事はあるか? 無いだろう? 俺はある、こういう事態を考えてな…だから俺一人で良い、2人には歩と見たいな者を殺させたく無いし、俺も殺した所を見せたくない? 解ってくれないか」
流石にガキに人を殺させたくない。
「そう解ったわ…約束だから仕方ないわね、私待っているからね、ちゃんと帰ってくるのよ」
「私も待っているわ」
さぁ、これで心着なくデスゲームだ。
【ホワイト、グレーテルSIDE】
「はぁ、もう駄目だよ、ルディウスの顔が真面に見れなくなっちゃう…私大丈夫かな? 顔赤くなってなかった」
「かなり赤くなっていたよ、だけどあれは駄目、どんな口説き文句よりも強烈よ…もうどうにでもしてって感じになるわよ」
「まったく、見え見えなのよ、ワザと乱暴な言葉を使っているけど節々にでているわ《戦って貰いたくない》《普通の少女らしく平和に暮らして貰いたい》そんな事いわれちゃったらどうすれば良いのよ…駄目、私ルディウスの前じゃ聖女で居られなくなる、1人の女として好きって気持ちが抑えられなくなるよ」
「本当にあれは反則よ真顔で《もし俺が死んだら、勇者が居なくなる訳だからこの旅は終わり、もし生き残る位強かったら俺一人で魔王と戦える》はぁ、良いお男過ぎる…命懸けで私達を助けるつもりだよ? こんなのはプロポーズ以上だよね…しかも本気で言うんだから、もう本当にどうしよう、真剣な顔してたけど、思わず顔がにやけちゃうよ、前の偽物が酷すぎたせいかな…どうしよう私ももう駄目だわ」
「押し付けて良いんだって…二人とも〈大切な〉女なんだって」
「将来は領地に居て欲しいみたいだよね」
「男でも作って楽しく暮らせ…本当はそれにルディウスが成りたいんだよね、だけど自分が死ぬかもしれないから、こんな言い方するなんてツンデレさんかな?」
「ルディウスって凄く落ち着いているよね、小さい頃から凄く辛い訓練していたんだね、だからあんなに凄いんだね」
「納得、LV23で頑張っていたという自分が情けない」
「それでグレーテル、どうする?」
「どうするって?」
「わわわわ私は、聖女だから将来は確実に正室か側室になる訳だし、こんなに頑張ってくれているんだから、その、大人の関係になっても良いと思うの?」
「まぁね、私達も12歳、そういう関係を持っても可笑しくない年齢だし、まして相手が勇者なら教会もアカデミーも喜びこそすれ文句は言わないよね」
「だったら明日でも押しかけない?」
「そうだね、清楚で余り下品に見えない下着とかつけて押し倒しちゃおうか?」
「あと二日もすれば到着しちゃうし、その後はルディウスは危ない戦いに1人でいくんだもん、こんなに愛してくれたんだから、その位してあげるべきだよね」
「命懸けで戦地に向うんだから…恋人として当たり前だね」
彼女達の暴走は続く。
旅たち前夜
「何で教皇がずっと居るのよ」
「仕方ないよホワイト、あの人はさぁ~」
「解っているわよ《勇者絶対主義》なんだから、そりゃぁ勇者の傍に居たいのは解るけどさぁ、一晩中は無いじゃない?」
「まだ、ホワイトは良いわよ? 聖女だから教会に好かれているから会話に参加出来たじゃない、私何か《賢者様はお疲れでしょうから、どうぞお休みください》って返されたんだから」
「まぁね…だけど、私とルディウスをくっつけたいなら、少しは遠慮しなさいよね」
「ホワイトも変ったわね、昔は教皇様と呼んでいたのに、今は呼びつけなんだから」
「貴方もね…本物の勇者が傍にいる影響かしら、ただの爺いにしか見えないのよ、それに私は本来聖女だから、呼びつけ出来る立場よ」
「確かに、勇者が呼びつけで教皇を呼ぶなら、私達も併せるべきね…ただ《それでも年長者は敬いたいのです》なんて言っていた優しい聖女様は何処にいったのかなって」
「まぁ、本来私が仕えるべき勇者様が現れたんだから仕方無いじゃない?」
「それは、私も同じよ…パチモンのアルトランなんかと全然違うもんね」
「全く、過保護じゃないかと思う位好かれているのが解るし、まだ11歳なのに妙に大人びて全部を自分が救おうとするのよ…あそこまでされたら私だって態度位変わるわよ」
「そりゃ、あれは強烈だもん…はぁ、だけど明日から暫くはお別れかぁ、寂しくなるね」
「うん…大丈夫だよね」
「大丈夫でしょう、あそこ迄女神様に愛された人間なんて居ないわ」
【ルディウスSIDE】
「ルドル、暫くの間は任せる」
「はい、私達は教会預かりなので不自由なく生活出来そうなのでお気になさらずに」
「ああっ、俺も頑張ってくるよ」
「あの…ご主人様、体に気をつけて」
「私、待ってますから」
「ああ、行ってくる」
聖教国と帝国の間に作られた岩でできた巨大な塀に、囲まれた砦というが城に近い。
此処なら、おいそれと落とされる事も無いだろう。
教皇や八大司教は壮行会を行うと言うが止めて貰った。
明日早くに俺は帝国に旅立つともりだ、話は教皇に通した。
今日のうちに挨拶はすませて置いたから問題無いだろう。
「本当に聖女様や賢者様と一緒で無くて宜しいのですか?」
「二人はまだ未熟です、危ない目に合わせたくない」
「そうですか? 確かにルディウス様から見たら未熟ですが、それでもかなりの腕前です」
「それでも今回は俺一人で行くつもりです…必要な物を用意して頂いて感謝しています」
「そうですか、感謝何て要りませんよ、貴方は勇者様です、欲しい物があったら《用意しろ》《くれ》で良いのですよ」
「それでも感謝します…ありがとう、あとホワイトとグレーテルですが、追っかけて来るかもしれませんので…」
「ちゃんと監視しておきますからご安心下さい」
これで、挨拶はすんだ、明日の朝一番で、旅たとう。
戦いの始まり
砦を出てただ一人帝国に向っていった。
しかし、凄いな国一つが滅ぼされたのか?
完全な俺の計算ミスだ…もう少し人間は魔族に対抗できると思っていた。
まさか、こんな簡単に国が一つ潰されるなんて…しかもそれが四天王では一番下だとはな…
人類はこれでは負けが確実じゃないか…なんて思わない。
砦を出て直ぐの所に既にそれは居た。
これが死霊?
まぁ前の世界のゾンビみたいに見える。
腐った臭いに崩れ落ちた顔、やはり二人は置いて来て良かった。
こんな者は子供や女に見せるのは気が引ける。
さぁボチボチ行くかな…
いっちょ前に剣を構えている。
服装からすると騎士だったのかも知れない。
試しに聖剣で斬って見よう…試し斬りだ。
俺は素早く近づき、剣を振るう。
聖剣シルビアンが青く光り輝く、ただでさえ脆い死霊はあっさり真っ二つになり、そのまま燃えて消えた。
普通はこうはいかない。
死霊は体を真っ二つにしてもそれこそ、首を跳ねても死なないし、首だけになっても生きて噛みついてくる。
数少ない弱点が光や聖なる物…それ以外は殆ど通用しなく物理的に駒切りにしなくてはまず殺せない。
正に彼らの多くの弱点が《勇者》の能力には満載だ。
それは天敵と言えるかも知れない。
早速、どうなったか確認だ。
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 騎士(転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル63
(隠蔽)
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
この程度の相手では殆ど何も変わらない。
恐らく、剣術レベルが上がったのは多分、経験値がある程度溜まっていたからだろう。
だが、しっかりと騎士のジョブが手に入った。
これは死霊でも元は人間、そしてスキルがまだ残っているから倒しさえすれば、手に入る。
これは凄く良い…
「ぐるぅぅぅうっ…俺は」
「お前が誰かは知らない、死ね」
「ぐるぅぅぅぅ、お兄ちゃん…私を殺すの?」
「うん、殺すよ(にこ)」
「殺す殺す殺す殺す」
「うん、先に俺が殺してやる」
これって、聖剣さえあればまるでオモチャみたいな物だ。
簡単に倒せる。
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 騎士 猟師 農夫 花売り(転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル63 弓術レベル1 販売レベル1 農業術レベル1
(隠蔽)
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
そして簡単にジョブが手に入る。
果たしてこれが使えるかどうかは解らない、少なくとも俺にとっては必要ない物ばかりだ。
農夫、花売り…多分一生使う事は無いだろうな。
こんな門を出たばかりの所にも少数とはいえ死霊がいる。
取り敢えずはこの森にいる奴を少し間引きしていくか?
俺にとっては倒せばジョブが入る、オモチャみたいな存在だが数が増えると案外脅威になるかも知れない。
この森に居る奴は全滅させた方が良いだろう。
「がるるるるぅ」
ハズレだ、狼や犬の死霊を倒しても何も美味しくない。
何も手に入らないからだ。
まぁ倒さないといけないから倒すけどさぁ。
おっ、人発見。
「貴様、殺す、ぐるるるる」
「そんなのは聞いて無いから、死ね」
どうせ、大したジョブでは無いだろうな…
ルディウス
LV 72
HP 4180
MP 4440
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 騎士 猟師 農夫 花売り 木こり(転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル63 弓術レベル1 販売レベル1 農業術レベル1 伐採レベル1
(隠蔽)
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
うん、木こりだった。
多分、良いジャブが入るのは都心部だ。
この辺りじゃ良いジョブは手に入らないだろう。
簡単に倒せるのは良いが…余り良いジョブは手に入らない。
同じジョブの相手を何人か倒したが、同じジョブの相手を倒しても何か手に入る訳では無い。
「貴様、がうるるるる…あうはぁ殺すうううう」
身なりからしてこれは…まぁ良い倒すだけだ。
案外素早いな…多分、此奴は冒険者だ。
そして、案外レベルが高いのかも知れない。
今迄の奴と違って素早そうだ。
「ホーリーアロー」
折角だから魔法を使ってみた。
完全に弱点何だろう、あっさり消えた。
ルディウス
LV 73
HP 4280
MP 4500
ジョブ 魔法使い 剣聖 勇者 聖人 大魔道 騎士 猟師 農夫 花売り 木こり 冒険者(転生人)
スキル:アイテム収納、 聖魔法レベル65 回復魔法レベル30 闇魔法レベル33 火魔法レベル45 風魔法レベル49 水魔法レベル72 土魔法レベル30 格闘レベル15 剣術レベル63 弓術レベル1 販売レベル1 農業術レベル1 伐採レベル1 サバイバルレベル1
(隠蔽)
剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる 勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。
限界突破 聖補正(200%)誰かを助ける場合は3倍の技量に上がる 賢補正(200%)危機に直面した時に2倍の技量にあがる
冒険者なんてジョブがあったのか、レベルが1つ上がっている。
これで戦い方のコツは解かった。
弱そうな敵は聖剣で、強そうな敵なら魔法。
こんな感じで戦っていけば良いのかも知れない。
帝都へ
幾ら倒しても切りが無いほど居る。
死霊とは強くないけど《数の暴力》という意味では恐ろしい相手だと言うのが解った。
虫よけスプレーをつけて蚊の大群に襲われている様な気がした。
簡単に潰せるが、本当にキリがないな。
今の所、倒した奴は碌な持ち物を持っていなかった。
斧や鉄の剣は流石に要らない。
薬草やポーション位しか欲しい物は無かった。
折角、収納袋(特大)を教会がくれたのに今の所は出番が無い。
本当に倒しても倒してもキリがないので結界石を使い結界を貼って休むことにした。
結界袋から、暖かい食事を出して食べて、コテージを取り出してそこで寝た。
収納袋(特大)があるから、まるで小さな別荘に来ている感覚で生活が出来ている。
そのまま、睡眠をとり朝を迎えると…凄いなこれは、死霊が結界のすぐ外に数百単位で立っている。
気分は大量の蛾が貼り付いた窓を見ている気分だ。
コテージの中で顔を洗い、朝食を済まして外に出た。
結界石を手に持ち結界を切ったら、一斉に死霊が襲い掛かってくる。
ほぼ、ゾンビ映画の主人公状態だ。
聖剣シルビアンで片っ端から斬り捨てる。
距離が空いたら、聖魔法を使い追撃する。
初めてしまったら、全滅させるまで止めれない。
こいつ等には何をしても許される。
ただの八つ当たりだが、故郷やアマンダ、屋敷の者が殺された恨み(完全に関係ない)を込めて殺していく。
死霊の厄介な所は、生前の記憶を持っている事だ。
だからこそジョブも持っているのかも知れない。
大きく分けて二通り居る事がわかった。
「くく苦しいのよ殺して、お願い殺して」
「この苦しみから救ってくれぇぇぇぇぇーーっ、体中が痛いんだーーーっ」
「こんな事したく無い…早く殺してくれーーーーっ」
こんな感じに救いを求めて来る奴。
多分、まだ人の気持ちを捨てていないのだろう。
心の中で戦っているのかも知れない。
こう言う奴は尊厳と敬意をこめて斬ってやる。
中には斬られた瞬間に…
「ありがとう…」
礼を言って死んでいく奴もいる。
俺の中には《聖人》のジョブがある、だから心の中で冥福を祈ってやる。
死んでまで、人に迷惑を掛けない様に努力しいているんだ、その位はしてやろうと思う。
そうすると、光に包まれて光の球が稀に飛んで行く場合がある。
まるで前世でいう所の昇天して天に魂が昇って行く様な感じだ。
逆に、明かにもう人間で無い奴。
「ぐあぁぁぁぁっ殺してやる、皆殺しだ」
「脳味噌をくれーーーーっ、殺してやる、お前も殺して同じ様にしてやる」
完全に人を辞めている。
こんな奴に慈悲は要らない。
ただひたすら殺し続け、滅していけば良い。
思ったより大変な作業だ。
戦って負ける事は無い、只の作業の様に斬り捨て、魔法を投げていれば良い。
ただ、この作業が何時までたっても終わらない、まるでブラック企業に勤めた様に何時までたっても終わらない気がする。
何時になったら終わりが来るんだ。
殺しても、殺しても次から次へと現れてくる。
体が熱くなる、凄い勢いでジョブが集まって行くのが解る。
何が何だか解らない、ただ殺して滅していた。
どれ位の間殺し続けていたのだろうか、憎しみや恨みがどんどん消えていく。
八つ当たりから始めた、只の殺しが、俺の中のルディウスが満足し、八つ当たりした事を恥じ始めた。
憎しみの心が、悲しむ心に変わり…やがて慈悲の心や哀れみの心に変わる。
斬る事が殺す事でなく、苦しみを終わらせる事に意味が変わる。
聖剣を振るごとに聖剣は今迄以上に輝き、その苦痛を終わらせ安らかに眠らせる。
今迄がただ滅するだけだったのが、聖剣に触れる度に死霊は青く輝き、光り輝きながら消えていく。
「何が起こっているのか解らない」
そのうち、聖剣だけでなく、俺の体も光りだした。
体が熱い、まるで違う者に変わっていくみたいに思える。
死霊が襲ってくる状態から、助けを求め寄ってくる、そう変わった様に思えた。
しかも、何だか消えて行く途中に
《ありがとう》
《これで子供の元にいけます》
《これで夫の元に行けます》
《お兄ちゃんありがとう…これでお母さんに会えるよ》
色々なお礼の言葉が聞こえてくる。
可笑しいな、それと同時に俺の心の中の闇が消えて行く気がする。
最早、俺は立っているだけで良い。
何もしない状態で、勝手に死霊が近づいて…いや縋りついてきて光に包まれて消えて行く。
どの位の時間が経ったのだろうか?
恐らく、丸一日、いやもしかしたら2~3日位は経ったのかも知れない。
ようやく、森に居た死霊は消え去った。
次から次へと群がってきた死霊の数は結局、万単位居た可能性も高い。
体も途中で物凄く熱くなり、まるで焼けるかのような苦痛があった。
ただ、立っているだけで良かったから良い様な物の、もし魔法や聖剣を使わなければ倒せない状態なら、今頃死霊のエサだった筈だ。
そうだ、今の俺はどうなっているんだ?
万単位で敵を倒したんだ、そしてそのジョブが自分の物になったのだとしたら…まぁ重複は出来ないから、たかが知れているかも知れないが。
ルディウス(種族:天使)
LV 1
HP 35000
MP 57000
ジョブ:下級天使(運命の転生者)
スキル:闇以外の全ての能力、魔法 レベル1(但しこれは天使のレベル1なので人族計算では無い)
神の使いである天使に人族は攻撃不可。
人や魂を救おうとする時には慈悲の光が巻き起こる。
魔族と戦う時には能力補正で120倍の能力に跳ね上がる。
これは…何なんだ、元半グレの俺が《天使》可笑しすぎるだろう。
そのまま、俺はゆっくりと歩きながら帝都に向って行く。
空も飛べるが、それだと死霊を召天させる事が出来ない。
だから、俺は出来るだけゆっくりと帝都に向け歩いていく。
1人でも多くの人間を天に送る為に…
帝都開戦
帝都迄どの位の死霊を昇天させただろうか?
既に数万は昇天させている気がする。
しかし、死霊とは恐ろしい者だ、日に日に数が増えている気がする。
たしか噂では10万以上と聞いたが、帝都につく前に数万なのだから、今では何倍も数が膨れ上がっているのかも知れない。
多分、勇者のままじゃ詰んだ。
こんな事が出来るなら、とっくに人類何て滅ぼせたはずだ。
そこから考え付く事は魔族は今迄手加減していた。
そう言う事だろう。
俺が《天使》になるというイレギュラーが無ければ、この戦い方は無敵に近いし、反則だ。
殺せば殺す程、数が増える。
そして数が増えれば強者をも倒せる。
そしてその強者も死霊に加わる。
多分、帝都にいけば、騎士の強者や場合によっては英雄並みに強い死霊が居るかも知れない。
そんな奴ら相手にどう戦えと?
勇者が聖剣を使おうが、聖女と賢者が魔法を使おうが…恐らく1万~2万までが精一杯。
それだけ倒したら離脱しなければ死ぬのは俺たちだ。
そして体制を整えて戦いに再び行けば、相手はそれ以上に増殖している。
こんな戦い方されたら、どうやっても勝てない。
現に三大国の一つ《帝国》が滅んだ。
帝国が滅ぼせるのだから王国も滅ぼせる。
聖教国は、恐らく強大な結界があるから聖都無事だ。
だが、聖教国以外、小国も含み滅んでしまったら…そして取り囲まれたら。
結局は滅んでしまう。
だが….何故なんだ!
確実に人類を倒せる方法が有りながら《何故、使わなかったんだ》
そして《何故、今使ったんだ》
解らない事ばかりだ。
しかし《天使》という者は本当に死霊には天敵なのだろう…近くまで来ると俺の周りの光に巻き込まれ次々に昇天していく。
あれからも凄い数の死霊を昇天させているのに次から次に湧いてくる。
一体どれだけの数が居るのだろう。
あれから何度も体が熱くなり…自分が変わっていくのが解る。
体に更に痛みが走ったので、ステータスを見て見た
ルディウス(種族:大天使)
LV 1
HP 70000
MP 140000
ジョブ:下級天使(運命の転生者)
スキル:闇以外の全ての能力、魔法 レベル1(但しこれは天使のレベル1なので人族計算では無い)
神の使いである天使に人族は攻撃不可。
人や魂を救おうとする時には慈悲の光が巻き起こる。
常に光を纏う事が可能、その光に触れた者は幸せを感じるようになる。
魔族と戦う時には能力補正で160倍の能力に跳ね上がる。
解らないな…種族が大天使、なのに下級天使? 解らないな大天使なら名前からしてかなり高位の天使みたいに感じる。
だが、天使の事なんか知らないからな、戻ったら教皇かホワイトにでも聞いてみるか。
更に考え事をしながら、歩いていくと帝都の門にたどり着いた。
あの大きな城門が壊れていて、本来なら沢山の衛兵が居る筈なのに..居る。
但し、その衛兵は死霊だ。
無数の弓矢が飛んできた。
「痛っ」
といっても刺さりはしない、まるで子供用のプラスチックの矢で撃たれた位しか感じない。
だが、攻撃が通ると言う事は死霊は人間ではない…そういう事だろう。
まぁ効かないんだけど。
多分、紛れ込んだ特殊な矢だとちょっと痛いがそれ以外だと全然痛くない。
放って置いても大丈夫だ。
剣を持って掛かって来ても痛くも何ともない。
まるでスポンジのオモチャで殴られた位しか感じない。
それが、元帝国騎士団の攻撃であっても聞かない。
流石に帝都、死霊とはいえ装備や持っている物が違う。
だが、そんな者は関係ない…簡単に光に巻き込まれ次々に昇天していく。
再び体に痛みが走った。
ルディウス(種族:権天使)
LV 1
HP 170000
MP 1140000
ジョブ:下級天使(運命の転生者)
スキル:闇以外の全ての能力、魔法 レベル1(但しこれは天使のレベル1なので人族計算では無い)
神の使いである天使に人族は攻撃不可。
人類にとっては至高の存在。
ただ願うだけで人類を救う慈悲の光が巻き起こる。
常に光を纏う事が可能、その光に触れた者は幸せを感じるようになる。
魔族と戦う時には能力補正で260倍の能力に跳ね上がる。
権天使って何なのだろうか?
だがジョブは下級天使のままだ、だが、この能力…どう考えても異常な程凄いとしか思えない。
【スカルSIDE】
「スカル様、たった今、この帝都に何者かが攻めてきています」
スカルは王国に向かったが、再び帝都に戻ってきていた。
王国が何やら聖教国と揉めそうだったから暫く様子を見てから戻ってきていた。
「何者か知れぬが、我が帰ってきた時に出会わすとは、この帝都で戦う限り我に負けは無い、例え勇者パーティーが来ても1時間も掛からず殲滅だ」
「この死霊の群れを相手には誰も勝てる者等居る訳が御座いません」
「此処まで育った死霊の軍団、例え相手が魔王様であっても簡単には突破できぬ」
「流石でございます、死霊王 スカル様」
「最初からこうして戦えば良かったのだ…そうすれば世界等、とっくに魔族の物だった物を」
スカルVSルディウスの戦いが今始まろうとしていた。
存在と終わり
【スカルSIDE】
何が起きている、どんな凄い勇者だろうが死霊が1000人もいれば倒せる筈だ。
それが何人送ろうが、歯が立たない。
しかも報告ではたった1人でこちらに向ってきている。
「スカル様、問題の奴が正に目の先まで来ています」
我は城の窓から外を見た。
聖なる光に包まれた状態でこちらに向って来る者がいる。
あれは不味い、不味いが言わなければならない事がある。
「仕方ない、我が出る」
スカルはそのまま城を飛び出した。
「貴方様は天使なのではないか?」
あんな一瞬で死霊を昇天させ、場を浄化する者など他には居ない。
「そうみたいだな」
【対峙】
「ならば、何故この世界に存在して顕現していられるのですか? これは大きな問題で反則だ」
「何を言っているんだ、お前は」
「我は魔王四天王が一人、スカル、上位の存在には言いたくないが、敢えて言わせて貰う」
なんだ、此奴は真面に話してくる。
立場が違えど、こういう奴の話は聞くべきだ。
「良いぜ、言ってみろ」
「此処までの事を何故するのでしょうか? 人間界に天使が顕現する等、本来はあってはならない事です」
「何を言っているんだ、そちらも死霊等、使っているではないか」
「確かに、だがこれは《この世界にある物》を使っています、魔族が努力して身に着けた物です、我とて元はスケルトン、その我が膨大な時間を掛け、魔力を貯め、魔道の開発につぐ開発をし、完成させた物にすぎません」
「それを言うなら、俺だって努力をして只の人間が天使になった者かもしれないぞ」
「そんな嘘を信じられる訳無いです。 天界の力等人間が身に付けられる理由が無い」
「そうか」
「天界の力等…人類が使いだしたら、こちら側も爵位を持つような、悪魔を呼ばなければならなくなります、そうならない様に魔界や天界のルールで、こちらの最高位は魔王様、人間側の最高戦力は勇者パーティーと決まっている筈です」
「その様なルールがあるのか?」
「天使ともあろう者が知らないのですか?」
俺が黙っているとスカルが話しだした。
「我は恐らくこの世界では一番長く生きています…先代、先々代の魔王様よりも…だからこそ知る事ですが、ちゃんと戦いにはルールがあるのです、我々側のルールは《魔王は前線に出ない》とかですかね」
確かに言われて見れば、何となくだが言っている事も解らなくも無い。
「そうか」
「もし、ルール無用であれば、我々は邪神様を復活せたり、公爵級の悪魔、場合によっては悪魔王サタン等、高位な存在を呼び出しますよ…そうしたら恐らくはそちら側も天使の軍団が出て来る筈です、そんな事したら、人魔(人と魔族)の戦いから…神悪(神と悪魔)の戦いになり場合によっては、世界所か空間その物が壊れるかも知れません…そうならない為に戦争と言いながら、それぞれが常識的な範囲で戦うのです」
なるほど、前の世界でいうなら、戦車や飛行機での戦闘に、いきなり核兵器を使う様な物か。
「確かに、その様なルールはあるのかも知れないな」
「あります…この世界はそれぞれが自分の役割があります…もしかしたら、今回の死霊はその摂理から外れたから、貴方の様な存在が天界から来たのかも知れません」
「そうか、少しは事情は解かった…それでこの戦いはどうすれば良いんだ」
「我は死霊王スカル…我が倒れれば我とその仲間の死霊は消える運命、浄化し昇天させるが良い…だが、貴方は高位の存在、自分がどうすれば良いのか? 考えて行動して下さい…貴方様の存在、貴方様のなさる事はこの世界を揺るがす事です、恐らく魔王様でも敵わないでしょう…だからこそしっかり考えて行動して下さい」
「解った」
「では、送って下さい」
俺が軽く手を振ると青い光が強くなりスカルを包み込んだ。
「….お前、子供、しかも女だったのか?」
「あはははっ、浄化って凄いね、死んだ恨みもなにもかも消えていくんだね、てっきりこの姿で消えていくと思っていたんだけど、まさか元の姿に戻れるなんて思わなかったよ」
スカルは骸骨の姿ではなく、死んで骨になる前の姿に戻り昇天していった。
綺麗な茶髪にそばかす顔の健康そうな少女として天に昇っていった。
子供らしい明るい笑顔で…
それと同時に他の死霊も青い光に包まれ天に昇っていく。
その全ての光からはお礼の声が沢山聞こえてきた。
【閑話】奴隷の憂鬱 ?
「お母さま、これからどうなってしまうでしょうか?」
「大丈夫よテレジア、そんな酷い事にはならないと思うからね、ほら生活も今迄と変わらないわ」
マリアーヌ元王妃はこれは宛にならない事を知っている。
王族は軟禁されていてもそれなりの対応は受ける。
だが、それで安全が保証されている訳では無い。
豪華な部屋で過ごしフルコースを食べる生活をしていても、いきなり縛り首になる事やギロチンに掛けられる事がある。
それが王族には多様にある。
そして自分達は、かなり不味い立場にある。
本来は慈悲を掛けてくれる立場の教会は完全に向こう側の味方。
自分達にはもう《この世で味方になってくれる人》は居ない。
勇者であるルディウス様に嫌われた時点で、恐らく死が待っている。
だから、私は娘達を守る為には何でもするつもりだ。
豚の真似をしろと言うなら喜んでやる。
裸になって踊れというなら笑顔で踊って見せる。
勿論、伽をしろと言うなら自分から笑顔で腰を振って見せる。
夫を殺された事など忘れて《オモチャ》になるしかない。
多分、私と言うオモチャが楽しませていれば、少なくとも娘に矛先は向かわない。
だから…だから…そうするつもりだ。
それしか家族を守る方法が無いのだから、仕方がないわ。
だけど…
こんな体で満足して貰えるのでしょうか?
確かに昔は王国一の美女と言われた事もありますが…もう30半ば、最早あの頃の美貌はない。
体だってくたびれた体をしていますし《そう言う行為》もテレジアが生まれてからしていません。
王との伽も最後は義務でしていました…慰み者としてしか価値は無さそうですね。
無様な姿を晒して痣家笑う、そういう存在なのでしょう。
せめて、10年前の美貌があれば、本当にそう思え泣けてきます。
間もなく此処に、嫁いだフランソワーズにエレノワールも来るそうです、同じ奴隷として。
勇者を殺した男の娘だから、離婚して国外追放の末奴隷ですか?
どちらも王族に嫁いだのに誰も守ってくれない…本当の意味では愛されてなかったのかも知れません。
…無理ですね。
教会を敵に回したら国が潰れる。
王族としては…当たり前の事です。
ですが…誰も気概が無いんですか…《必ず幸せにしてみせます》《必ずや生涯変らぬ愛を》全てが嘘。
そんな者しか居なかった。
諦めるしかありません。
もう、王妃としてのマリアーヌは死にました。
これからは母として子供を守らなくてはなりません。
「テレジア、大丈夫よ、貴方はお母さまが守ってあげるわ」
せめてこの子は側室にしなくては、奴隷にはさせません。
【合流】
「お母さま、話は此処に来るまでに聞きました、テレジア気をしっかりお持ちなさい」
「これからどうするか考えなくては」
「はい、フランソワーズお姉さまにエレノワールお姉さま」
フランソワーズは栗毛色の髪に優しそうな顔立ちの優しそうな感じで、逆にエレノワールは目がきつい感じの金髪だ。
どちらも方向性は違えど美女ではある。
「そうね、まずは今の生活は王族と何だ変わりないわ、此処から出られない事いがいわね」
「そうですか? 少し安心しました」
「牢獄には入らないで良いのですね」
「ええっ、ただこの生活は勇者であるルディウス様の機嫌を損ねる事で崩れ落ちます」
「確かにそうだわね」
「確かにそうでしょうね」
「ええっ、だから貴方達には本当に申し訳ありませんが、奴隷として誠心誠意ルディウス様に仕えて欲しいのです」
「お父様を殺した男ににですか、果たして私に出来るでしょうか?」
「私には自信がありません」
「ですが、やるしかありません、そうしなければ…母はもう覚悟を決めています、ですが愛する者と引き裂かれた貴方達に言うのは酷でしたね…すみません」
《テレジアの為か》
《テレジアにはまだ奴隷にならない道があるのですね》
「別に愛されて居なかったようですよ、お父様が勇者の家族に手を掛けた日からまるで罪人扱いです、この汚らしいドレスを見れば何となく察しがつくと思います、大国の王の娘だから小国にとって価値があっただけ、それだけの様ですよ? 困った時に助けなかった位ですから、愛などなかったのでしょう…愛そうと努力した私が馬鹿みたいでした」
「フランソワーズの所は大変だったのですね、エレノワールの所はオシドリ夫婦さぞかし辛かったでしょう」
「同じような者ですよ? 教会を敵に回した人間は人では無いみたいですね? 愛なんてとっくに覚めました」
「本当に不甲斐ない母親ですみません、赦してね」
「別に良いですよ、お母さまが悪いんじゃないですから、噂によると勇者様は美形らしいですね、抱かれるならあんな青瓢箪みたいな人より勇者様の方が良いですよ」
「そうね、綺麗な方の方が良いですわ」
と言いながら三人とも体が震えていた。
それ以外の運命は無い、だからこういう事で《諦めをつけていた》
「お母さま、お姉さま」
「テレジアは気にしてもしかたないわよ」
「そうよ」
「勇者様にあってからですよ」
王妃や王女たちは自分達のこれからの運命を考えると気が気でなかった。
天使の扱い…
帝国の件はこれで全部終わった。
最早誰も住まない廃墟状態、まるでゴーストタウンだ。
此処から先は俺の仕事では無い。
教皇がどうにかするだろう。
俺が願うと大きな2枚の羽が現れ、その羽で砦に向った。
近くの森に行き羽を仕舞い、此処からは歩いて砦へと向かう。
「勇者様、もうお帰りですか」
「ああっ、もうスカルなら倒したし、死霊はもう居なくなった」
「あの大軍をたったの数日で…」
「まぁな」
【謁見の間】
謁見の間に通された。
勿論、空いているのは玉座。
此処に座れという事なのだろう。
「ルディウス様、この度の遠征はどうなりました? 余りに早いと思いますが…」
「スカルなら倒したよ、それより困った事が起きた」
「困った事とは何でしょうか? この教皇が何でも解決して差し上げます」
「勇者でなくなった」
「聞き間違いではないでしょうか?「勇者でなくなった」そう聞こえましたが」
「聞き間違いではないよ、勇者で無くなったんだ、だから勇者支援法から外れるんだろう? どうすれば良いんだろうか」
「ルディウス、勇者でなくなったのなら何故我ら八大司教より上座に座るのだ、下に座らぬか」
「司教よ、そう言うでない、ルデイウスよ、よく今迄勇者として頑張ってくれていました、これからも信者として頑張って」
「無礼者ーーーっ無礼者、無礼者、無礼者ーーーっ」
ペドロフ大司祭が急にルディウスと教皇と他の八大司教の間に入った。
「ペドロフお前は何をしているんだ、いきなり怒鳴りだして、教皇様の前で」
「無礼者に敬意など要らない…偉大なるルディウス様の前では、人など虫けらに等しい…無礼者、無礼者…ルディウス様より尊い方などこの世にいない…無礼者、早く跪くんだ、教皇様も早く」
「勇者様で無い者になぜ我々が跪くんだ、ペドロフ貴様は八大司教では序列は下から2番目いい加減にせんか」
「ペドロフ、ちゃんと説明してくれぬか…これでは教会が可笑しくなる」
「教皇様…私が鑑定した結果が…」
「勇者ではなくなったが、何か貴重なスキルやジョブでもあるのですか」
「これを見て下さい…」
ルディウス(種族:能天使)
LV 3
HP 17000450
MP 114000320
ジョブ:中級天使(運命の転生者)
スキル:闇以外の全ての能力、魔法 レベル6(但しこれは天使のレベルなので人族計算では無い)
神の使いである天使に人族は攻撃不可、天に唾成す者は自分へと帰る
人類にとっては至高の存在。
その存在を感じただけで愛に染まっていく。
ただ願うだけで人類を救う慈悲の光が巻き起こる。
常に光を纏う事が可能、その光に触れた者は幸せを感じるようになる。
魔族と戦う時には能力補正で860倍の能力に跳ね上がる。
「あっああああーーーーっ、私は何て馬鹿な事を、死んでお詫びするしかないーーーーっ」
「教皇、死なれては困るから、冷静になってくれないか」
「はい」
「教皇様、何時までその元勇者に媚を売るつもりですか? もう勇者では無いのです」
教皇は拳を握りしめると、教皇はローアン大司祭を殴りつけた。
しかも、ただ殴るだけじゃなく怪我なんて気にしないで殴っている。
教皇のパンチなんて立場上避けれないからローアンはそのまま殴られている。
「教皇様が乱心されたーーーっ皆取り押さえてくれーっ」
慌てて聖騎士が来たが、どうしてよいか解らない。
「無礼者ーーっ」を連呼して叫ぶペドロフに、手から血を流しながらローアンを殴りつける教皇。
どう動けば良いか全く解らない。
「一体、何を見たと言うのですか? ペドロフ、教皇様ご説明願います」
「ルディウス様は…天使様だ」
「「「「「「「へっ…」」」」」」」
「何を血迷って」
「ペドロフ、見せてあげなさい」
「はいっ」
「…このーーーっローアン、死んでーーーっお詫びします」
「いや、死ななくて良いから落ち着いて下さい」
流石、聖職者、事情が解ると5分も掛からずに落ち着いた。
俺が玉座に座ると、教皇達は床に座った。
なんだか、昔俺がカツアゲした時を思い出した。
「落ち着かないから全員ちゃんと椅子に座って下さい」
「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」
「それで、これから俺はどうしたら良いのかな? 勇者支援法には《天使》の扱いは何も書いて無いからな」
「逆にルディウス様はどの様に扱われたいのですか? 私の知っている限り、天使様がこの世に現れたのは800年前です、この世の為に命がけで戦った勇者様達が死んだ時に迎えに来られたのと900年前に命がけで布教した当時の教皇の迎えに来られた、それしか知りません」
「成程」
どう言えば良いのだろうか?
「私が考えるにもう人では無いので法律も無視して関係なく、好きにして良いのではないかと思います」
「どういう意味だ」
「例えば、今迄は勇者様でしたから、ルディウス様に必要なお金や物などを教会がご用意しました、ですがこれからは欲しい物があればそのまま持ち去って頂いて結構です」
「それはどういう事ですか?」
「簡単に言うならこの世界は女神様が作った世界です、女神様のお世話をし、その力を行使するのが天使様です、この世界にある全ての物が女神様の物なのですから、その眷属たる天使様の物と考えるのが妥当だと思います。 そうですな、例えば気に入った奴隷が居たとします、お金なんて払わずにそのまま持ち帰れば良いのです…だって天使様なのですから、その奴隷の祖先を遡り作ったのは女神様、更に言うならその奴隷商自体も女神様が作ったものの末裔。人その物自体、作ったのは女神様です」
「それは、世界その物を何でも自由にして良いと言う事?」
「そういう事でございます、教義で考えるなら《この世界の全ては女神様が作ったもの》その世界の物を天使様が欲した時に対価を求める等具の極み。元々女神様の恵みで暮らしているのですから、この世の所有権は全て貴方の方が優先です、人だろうとお金だろうと全部欲しい物は自由にすれば良いのです」
「例えば国宝を宝物庫から持って行ったら」
「教会が許します、ただ冤罪は困りますから《寄こせ》と言って下さいね」
「例えば、人妻が欲しいと言ったら…」
「ルディウス様、勘違いなさっていますよ、死ぬまで欲しいと言うなら本人もその夫も喜びます。神に連なる貴方のお世話に家族を献上された最高の栄誉です、ただ抱きたいだけでも《祝福を得られた》と二人して喜びの涙を流すでしょう」
この世界は一神教だ…こんなにも宗教が強いのか。
「本当にそれで良いのか?」
「ルディウス様、貴方は人間ではない…私達が心から敬愛してやまない存在なのです。貴方こそが正義、貴方こそがこの世の心理、天界の住民である貴方を縛る法などこの世にある訳が御座いません、全て好きになさって良いのです。教会は貴方と共にある、天使様が顕現された時代に生きる事ができる、この教皇を始め、宗教者なら誰もが喜ぶ光栄な事なのですよ」
此処まで話が大きくなると怖すぎる。
「あの暫くはこの事は内緒にして貰って《勇者》と言う事にして下さいませんか?」
「「「「「「「「「それが望みなら構いません」」」」」」」」」
「ですが、何時でも教会は触れ書きを出す用意は御座います、ご安心下さい」
一神教の世界は…凄いなこれ。
【閑話】奴隷の憂鬱 ? 全然憂鬱じゃない
「ルディウス様、王族の家族の引き渡しが御座います、お時間を頂けると助かるのですが」
ヘングラムから王都は遠く、まして俺の境遇では会った事は無い。
忠誠を誓えど、会った事は無い。
母であるアマンダを殺した人間の家族。
だが、王が家族の話など聞かないのは有名だ。
しかも、フランソワーズやエレノワールは嫁いで別の国に居た。
そう考えたら絶対に関与していない。
テレジアなんてガキだから政治に参加してないし、マリアーヌ王妃は慈悲深く、アマンダと顔見知り。
今回の事は知らなかった筈だ。
散々八つ当たりをして心が浄化された今…どうでも良い。
だが、このまま解放してしまうと、恐らく彼女達には地獄しかない。
こんな一神教の世界で破門に近い生活を送ったら…確実に死ぬしかないだろう。
引き取るしかないのだろうな…
「そうだな、今は暇だし、連れてきて良いよ」
「それでは連れて参ります」
「お初にお目に掛かります、マリアーヌでございます」
「フランソワーズでございます」
「エレノワールでございます」
「テレジアです」
確かに上三人は俺の射程内だし、言われるだけあって綺麗だ。
テレジアは…まぁホワイトやグレーテルより年下だ何度も言うが俺はロリコンでは無い。
うーん困った。
「ルディウスです…正直言ってどうして良いか困っています」
【マリアーヌ視線】
何て言う美少年なんでしょうか?
勇者だと言うのも頷けます、こんな神々しい人など私は見た事がありません。
目が合った途端に心が鷲掴みされます…死んでしまった夫との記憶が上書きされていき本当は《この人こそが運命の人》なんだと思ってしまいます。
しかも、なんなんでしょうか、美人は3日間見れば飽きると言いますが、つい目が離せなくなります。
こんな人幾ら見ても飽きなんて来ないでしょう。
こんな人の者になれるなら《奴隷》でも構いません。
この人に会える人生があったのに、何故私はあんな人物の妻になっていたのでしょうか?
全ての思い出が汚らわしい物に思えてしまいます。
あんなに愛していた筈の娘ですが…汚らわしい。
あんな醜い男の間の子など見たくもなくなってしまいます。
もう母では居られなくなります…この人の前では只の女になってしまいます。
【フランソワーズ視点】
綺麗、それしか言えません。
勇者様の事を御使いと言いますが、それも納得です。
これ程美しい存在を私は知りません。
綺麗な髪に輝く瞳…もうたまりません。
しかも、瞳を見ていると吸い込まれそうになります。
この人の瞳に何時までも映っていたい、そう思えるのです。
私の夫も家臣も私を奴隷として勇者様に差し出しましたが…寧ろ喜ばしく思えてしまいます。
この人の所有物になれるなら王妃の座もなにもかも要らなくなります。
何で私はあんな男に抱かれてしまったのでしょうか?
そうでなければ、私も側室になれたかも知れないのに。
あんな国の事も、あの男の事も最早如何わしい過去です。
これから先はこの方ルディウス様の事を考え生きていけば良いだけですわ。
この身も心も全てこの方の物なのですから。
【エレノワール視点】
勇者様って何なのでしょうか?
こんなのは可笑しすぎます、私はちゃんと夫を愛していたのですが、夫の顔が浮かびません。
まぁ、最後の最後に手ひどく裏切られたそのせいでしょうか?
そんな事はもう良いです。
あんなに綺麗な人間って存在する物なんですね。
あの方が私を奴隷として必要なら幾らでも答えてあげたいそう思います。
性処理の相手でも幾らでも…というかさっきから《抱いて欲しい》という変な欲求で体が熱くなります。
もし私が王妃時代に告白を受けても王冠等放り出して着いていったと思います。
その前に、こんな歳をとった中古品の体で良いのでしょうか?
こんな人と出会えるなら、あんな男と契らなければ良かった…なんでもっと早く出会えなかったのでしょうか?
そして、何でこんな残酷な場面で私は出会ってしまったのでしょうか…はぁ。
【テレジア視点】
お父様は何て愚かな事をしたのでしょうか?
この神々しさ、勇者様以外にあり得ません。
こんな方を疑い、その家族を殺したなんて…《死んで当たり前です》
女神様に対する冒とくです。
本当に愚かな父親ですね…まったく使えない。
貴方がちゃんとしていれば、ルディウス様の正室は私の者だったのに…
あんたが、あんたが馬鹿したから、頑張っても側室までにしかなれないじゃない。
しかも、姉二人に母までライバルとんでもない事をしてくれましたね。
死んでも許しませんよ?
永遠に恨みますわ…お父様。
「ルディウス様、私の夫は貴方のお母様を殺し、故郷を滅ぼしたと聞きました、知らなかったとはいえ王妃だった私はその責任を取らなければなりません、貴方が私に母を望むなら母に、愛人を望むなら愛人に…残りの人生はルディウス様に捧げたいと思います、是非償いの機会を下さい」
アマンダと関係があった様に俺は年上が好きだ。
そう考えたら、マリアーヌは理想的だが…良いのか?
夫を殺して奴隷にした人間だぞ…俺は、大丈夫なのか。
「ルディウス様、他の国に居たとはいえ、父がした事は娘の私が責任を取らなくてはなりません、家族を亡くしてしまった悲しみを生涯を掛けて償わせて頂きます、母親役には届かないと思いますが、望まれるなら姉代わり、愛人代わりに残りの人生を捧げますわ、奴隷で構いません、贖罪の機会をお与え下さい」
どう考えても罪は無いだろう…実家の人間が犯罪者でもだれも嫁いだ娘に罪なんて問う訳が無い。
「私は、くどい事は言いません、命の償いは命でしか出来ません。この命の全てをルディウス様に捧げて贖罪させて下さい、言われた事には逆らいません、何でもです…その機会をお与え下さい」
どう考えても彼女も冤罪だよな…
「あの、私は本当に子供です、だけど父が取り返しのつかない事をした事は良く解ります、同じ事をすれば誰だって恨みます。 だから、私を自由にして下さい、側室にして頂けるなら何でもします、そして生涯を掛けてルディウス様を支えます。奴隷になるならこの全てをもって贖罪します…お許し下さい」
本当に困った。
解放してあげたら、恐らく嬲られて殺されてしまう。
だが、殆ど罪のない者にこんな事して良いのだろうか?
手元に置くしかないな…仕方ない。
「今と同じ扱いで傍に居て下さい、本当は奴隷から解放したい位なのです、貴方達に罪はありませんから、ただそれだと」
「はい、私達親子は生きれません」
「だから、手元に置く事にします、貴方達の夫であり父親が死んだ、私は母親が死んだ、そこで恨みの連鎖は終わりにしましょう…形上奴隷にしなければなりませんが、友人としてまずは傍に居て下さい、そこから始めましょう…テレジアについては先に優先する人達がいますが…父を殺した俺が許せるなら側室としての将来も考えてみます」
「そんな宜しいのでしょうか?」
「本当に」
「本当」
「有難うございます」
親を殺した挙句奴隷にしたのにお礼を言われて良いのだろうか?
まさか油断した所を後ろから…まぁ俺には効かないけど…そんな事は無いか。
マリアーヌの夜伽
私からこんな事する何て、はしたない事は解ってますわ。
ですが、しない訳にはいかないのです。
娘達の将来の為には、確かな証が必要なのです。
今の私達の立場はルディウス様の寵愛の元に成り立っています。
もし、ルディウス様の寵愛が私達から離れたら《それは死よりも辛い人生しかありません》
だからこそ、こうするしか無いのです。
決して、決して、物凄い美少年だからとか一目惚れしたからと言う事ではありません。
本当に、本当に違いますからね。
しかし、大丈夫でしょうか?
私にはもう残念ながら昔の様な輝きはありません。
《王国のルビー》と言われた美貌もすっかり衰えております。
昔はあんなに綺麗だった体も、すっかり衰えていますね…
こんな体で11歳のピチピチの殿方の前に立たなければなりません。
あはははっ母親どころか、私お婆ちゃんみたいな齢じゃないですか?
はぁ~どうしましょう。
つい勢いで来てしまいましたが、今着ている服は透けていて下品かも知れません。
今はもうルディウス様の部屋の前。
もう既に賽は投げられました…引き返す事は出来ません。
トントン…緊張しながらドアを叩きました。
「あの…ルディウス様、伽の…伽のお相手に参りました」
「そんな所に居ないでとりあえず部屋に入って下さい、風邪ひきますよ」
月明りで見る、少年はこの世の物とは思えない位幻想的に見えます。
こんな、美少年の前で肌を晒すなんて、恥ずかしくて仕方ありません。
《こういう面では天使で無くて良かった、ちゃんと性欲もあるし、元と同じ美醜感覚も年齢感も同じだ、伝説の神や天使の様に《生きとし生きる物全てを愛してる》とかだと辛すぎる》
「はい、それじゃ失礼します」
《やはり、ちゃんとした年齢の女性は見てて良いな、確かにホワイトもグレーテルも美少女だけど、この世界の服の影響か日曜日に良くやっていた子役がヒロインの特撮物に見えてくる…俺はクズだけど、流石にガキには手を出した事は無い、そんな事したら仲間で笑い物になるし、《子供に手を出すなんて最低》と言われかねないからな》
「どうぞ、そこに座って下さい」
「はい」
《彼女が夜伽に来た理由は解る。彼女達の人生は俺が握っている…勿論、俺はそんな酷い事しようなんて思っていない。形上、俺の奴隷か側室にして後は放置すれば良い。そうすれば問題無く生きられる筈だ。だが、彼女達からしたら、それでも心配なのだろう。俺の気分一つで殺されてしまうのだからな》
「それで、本当に伽の相手をしてくれるのですか? 元王妃の貴方が」
「はい、この草臥れた体で宜しいのであれば…ですが」
凄く恥知らずなのは解っています。
母親、下手すれば祖母でも可笑しくない年齢の私が少年に懸想しているのですからね。
普通に考えたら抱きたくも無いでしょう…やはり長女か次女を頼った方が良かった…
《多分王妃の年齢は30代だろう、前世の記憶持ちの俺からしたら《問題無い》 下世話な話、ハリウッド女優のメロロン.ウォークよりも綺麗な顔立ちに、たわわな体…綺麗としか言いようが無いな》
「最初に言って置くけど、こんな事しなくても俺は、マリアーヌ達に危害を与えたりしないよ」
「会った時からお人柄は理解しているつもりです、そんな事しない優しい人であるのは解っています…ですが」
《此処まで来たら、もう相手する、それが礼儀だな》
「良いよ、それでマリアーヌが満足するなら、おいで…」
「はい」
なななな何て優しく髪を触って来るのでしょうか?
まだ何もされていないのに、ただ、ただ頭を撫でられるだけで体中が満たされていきます。
ただ触られるだけで凄く気持ちよくなってしまいます。
私の方は…
体は不味いですね、何となくですが弛んでいる気がします。
胸は、少し垂れてきてハリが無いかも知れません、若い子とは違います。
私、全然良い所なんて無いじゃないですか…
逆にルディウス様の体は、凄く気持ち良い…
鍛え抜かれた鋼の様な体なのに、それでいて弾力があってただ触れるだけで何とも言えない快感が走っていきます。
私は王妃だったから、この齢ですが男性は1人しか知りません。
しかも、こんな風に抱かれるなんてどの位ぶりなのでしょうか…もう何年もありません。
いえ、その前にこんな素晴らしい経験は初めてです。
多分これが、本当の意味での愛情のこもったSEXなのでしょうね。
若いって羨ましい、肌も白くて私より艶々しています。
しかも、私の触り方がまるで宝物を触る様に優しいのです。
頭の撫で方、髪の触り方からキスまでまるで蕩けるようです。
前の夫とは全く違います。
女として凄く大切にされている。それが凄く解ります。
こんなに大切にして貰えるなら、もうルディウス様以外なにもいりません。
駆け引きなんて関係なく、自分の全部を渡したくなってしまいます。
性的な事は私は好きではなく今迄は我慢している面もありました…今はこの時間が永遠に続いて欲しい。
そう思ってしまう程、別の物です。
体の全てが..喜んでいる..そうとしか思えません。
だから、相手にも喜んで貰いたい..そういう物なのですね…まさか自分がこんな、はしたない事を自分からする何て思いませんでした。
こんなのを経験したら、心の底から全て..ルディウス様の物になってしまいます。
私のなかの好きや愛しているは全てルディウス様の物になってしまいます。
王様? 夫…何故私はあんな醜悪な者に愛を誓っていたのでしょう…今となっては忌々しい思い出です。
あんな男の子を5人も産むなんて悪夢としか思えません。
もう、私は絶対に他の人では満足できないでしょうね…ルディウス様以外何も要らない..頭も何もかもが全部ルディウス様で染まっていきます。
気が付いたらもう朝になっていました。
私は体がまだ、ほてってしまって眠れません。
ルディウス様は、流石に眠っています。
見れば見る程鍛えられた体をしていますね..正直、私の弛んだ体じゃ申し訳ない位に思えてしまいます。
愛おしくて抱きしめてあげたくなります。
こんな感情今迄ありませんでした。
ただ愛しいそれしかありません。
髪を触らせて頂きました…思わず嫉妬してしまいますね女の私よりもサラサラしています。
あれっ、私の胸、気のせいか少し小さくなって凄くハリがある様に思えます。
お尻もハリがあって垂れて無い気がしますね…可笑しい。
お腹も太腿もハリが戻った様な気がします…
顔も…
この部屋には大きな鏡があります…どうしても気になって自分の姿を見て見ました。
「嘘…嘘、若返っているの?」
気になっていた目じりの皺も無くなっています。
緩んだ体も若返って、どう見ても20代位にしか見えません。
多分、10歳前後若返った気がします。
ですが…なんで20代なんでしょうか? どうせなら14歳位に若返りたかったですね。
「おはよう…マリアーヌ?」
「はい、何が起きたのか解りませんが、朝起きたらこうなっていたんです」
《どう見ても少し若返った気がする、陰りを見せた筈の美貌が全部戻って、正に《王国のルビー》と言われた時の王妃の姿だ、言い方は悪いが30代中盤のハリウッドスターが10歳若返った…そんな感じだ、正に全盛期のハリウッド女優も更に上をいく、そう見える》
「まるで《王国のルビー》と言われていた時みたいですね」
「そうですか? それなら良かったですわ、これならしっかりと寵愛を頂けますね」
《いや、元の年齢でも問題無いんだけどな》
「そうだね」
「はい、これからももっと、ルディウス様の寵愛を受けられるよう頑張ります」
そう言うとマリアーヌは衣服を整えるとハミカミながら部屋を後にした。
それから暫くして部屋の外が急に騒がしくなった。
奇跡と執事の憂鬱
「ちょっと待ちなさい、此処はルディウス様の居室の区画です、選ばれた者以外は入れませんよ」
「ルノアール大司祭様、私はマリアーヌですわ」
「マリアーヌ? 元は王妃で今は奴隷の…どう考えても若返っていませんか? 確かに似ていますが、貴方の娘であるフランソワーズやエレノワールと同い年位にしか見えません」
「はい、それが昨日の夜ルディウス様の伽の相手をしまして、そうしましたら、今朝起きたらこの様な事に」
「そうですか? これはまるで奇跡です…今直ぐ教皇様の所に行きましょう」
「はい?」
ルディウス様は天使様だ。
こんな簡単に奇跡を起こしてしまう何て、やはり天使様は凄い。
関わっただけで人を幸せにしてしまう。
これが天界の住民と言う事なのでしょう?
「どうしましたかルノアール、その横の女性は一体」
「教皇様、驚かないで下さい、彼女は元王妃のマリアーヌです」
「ですが、その姿10以上若く見えますが、別人ではないですか?」
「それが、その天…じゃなくて勇者様のお相手をしたら、若返ったそうです」
やはり、そうですか。
天使様と言うのはそこに居るだけで、幸せを振りまくものです。
一時とはいえその寵愛を受けた結果がこれです。
若返りなど、どんな魔法でも秘薬でも出来ませんよ。
そんな奇跡をあっさりと起こされる。
これが我々人間と天界の住民との差です。
まるで息をするようにいとも簡単に、誰もが出来ない事を起こしてしまう。
多分、このマリアーヌの年齢こそがルディウス様の理想の年齢なのだろう。
ルディウス様は幼少の頃かなり辛い立場にあった。
そこから母親の愛を得るまでかなりの苦労をしたらしい。
その結果が年上好きになったのだろう。
恐らく、ルデイウス様の好みの年齢は20歳~25、26歳位。
その証拠に、今のマリアーヌの姿は20代前半位だ。
聖女様は12歳、そろそろ適齢期だ。
手を出しても良い年齢なのに、あれだけ一緒に居ても手を出さない。
14歳で婚姻する者がいると言うのにあれだけ一緒なのに手を出さない。
グレーテルにも、手を出さないと言う事は《好みが合わない》と言う事では無さそうだ。
今迄、手を出した人間は全員20代、我々の考えでは《既に行き遅れ》や《女の価値が無くなりつつある者》
聖職者の私でも30代の女性に手を出すなんて無理だ。
確かにあれ程綺麗な30代の女性は居ない。
だが、それに手を出す人間がいるかと言えば、如何に《王国のルビー》と言われたとはいえ、いないだろう。
幾ら綺麗でもお婆ちゃんに手なんて出さないのが普通だ。
ルドル殿が《ババ専のブス専》かも知れないと言っていたが、《ブス専》は違った様だが..《ババ専》はそうなのかと納得ですよ。
恐らく今のマリアーヌの年齢こそがルディウス様の理想の年齢なのでは無いだろうか?
「教皇様、どうかされたのですか?」
「いや、何でもない考え事ですよ、ですが流石は、真の勇者様ですね、この様な奇跡を起こすなんて、ですがこの事は、余り吹聴しない様に皆に伝えなさい…解りましたね」
「はい」
「あの、教皇様、私は一体どうすれば良いのでしょうか?」
「勇者様から寵愛を受けると言う事は素晴らしい事です、これからも一層励むようにしなさい」
「はい、言われなくてもそうしますわ、私真実の愛に目覚めましたから」
「そうですか、頑張りなさい」
ルノアールは気がついていないのでしょうか?
《年齢が固定される》と言う事は《齢をとらずに死なない》と言う事ですよ。
こんな事は、人間には絶対出来ない奇跡です。
実質、天使様の寵愛を受けた人間は20代で年齢が固定される。
永続的で無いにしても伽を務めて愛される度に年齢が引き戻される。
それなら、愛されている限り寵愛を受けた女性は死なない事になる。
これは教会だけの秘密にしないといけませんね。
ルディウス様に愛されると《死ななくなる》
ただでさえ、あの美しさに天使様になり磨きが掛かっている。
それに《若返りに不死》なんて事まで解ったら…どれ程の女性が押しかけてくるか解りません。
下手すればシスターも可笑しくなるに違いありません。
これはまた八大司教全員で考えなければいけない…大きな問題です。
【ルドルSIDE】
はぁ~ 本当にルディウス様は…ババ専確定ではありませんか。
ブス専では無いと証明はされましたが、手を出したのがマリアーヌ様ですか?
確かにお綺麗です、私も昔は憧れておりました。
ですが、もう行き遅れ通り越して、お婆ちゃんです。
しかも、処刑された王子2人の王女3人…5人の子持ち。
元仕えていた国の王妃を悪く言いたくはありませんが、幾ら綺麗でも《5人の子持ち婆ぁ》です。
確かに王妃だから気品はありますが、それは綺麗なお婆ちゃんとしてです。
マリアーヌ様と、そこらへんの15歳の娼婦なら普通に誰もが15歳の娼婦を選ぶ筈だ。
仕方ないのかも知れません。
ルディウス様の昔を思い出せば《本当に母親の愛に飢えて》ましたからな。
そして、その愛情が、こういう形でババ専になってしまった。
ちゃんと年齢が釣り合う、聖女ホワイト様に賢者グレーテル様に手を出さないで…あんな年増ばかりに手をお出しになって。
不憫で仕方ありません。
私にとっては主ですが、個人的に半分息子の様に思っていたルディウス様がババ専…こっそりと娼館に連れていかなかった私の罪なのかも知れませんな。
こんな事になるなら《女遊び》も教えるべきでした。
はぁ~
「ルドル、ちょっと聞きたいのですが、どんな女の子がルディウスの理想なのかしら?」
「はははっ多分ホワイト様の様な方だと思いますよ」
言えない…ババ専だなんて
「そう、なら良かったわ、あれ程大切にしてくれているのに、まだキスもしてくれないのよ、奥手なのがルディウスの唯一の欠点よね…ああああ、あんな命懸けの告白までして置いてね、まったくもう」
「ルディウス様は女性に奥手なのかと思います」
言えない…既にルデイウス様が経験者でその全部が行き遅れ以上の歳でそのうち三人が不細工であるなんて…
「そうよね、グレーテルはどう思う?」
「本当に鈍感だよ、こっちはもう本気で好きなのにね」
これ一体どうすれば良いんでしょうか?
執事として有望な私ですが…これは完全に想定外だ。
しかも、あの奴隷達は図太いのか、勝ち誇った様な目で二人を見ているし…
収集が絶対につかなくなりそうだ。
【閑話】邪神と女神と創造神…そして女神顕現
魔族からの悲痛な声が聞こえて来る。
魔王の祈りが此処まで聞こえて来る。
こうまで聞こえて来るのであれば神託を卸さなければならない。
《我の使徒たる魔王に悪魔神官よ、何事だ》
「邪神様、それが女神側はこの世界に、天使を降臨させました…それにより、スカルと死霊軍団が死滅しました」
死霊は本来、禁じ手だ…あんな物使ったら勝利はほぼ確定してしまう、ましてそれを倒すなど、確かに天界の住人で無ければ無理だ。
《天使だと》
「はい、しかもかなりの実力のある天使のようで僅かな時間で、スカルと死霊の軍団が昇天してしまいました」
そんな天使が居るのか? あの女神はそこ迄強力な女神では無い。
あんな女神に、そんな強力な天使をこの世に送り出す事は出来ないはずだ。
力のない天使ならいざ知らず、強い天界の住人や悪魔は余程の対価を払わないと顕現では出来ない。
少なくとも爵位のある悪魔を召喚するなら魔族200名位の生贄が必要だ。
それの対になる天界の住民である天使を召喚するなら同じような対価が必要だ。
だが、あの女神は《その様な物》を嫌う。
だから、生贄を使った召喚は考えられない。
では、突然現れた《天使》は何者なのだろうか?
《我の方でも調べて見よう…本当にその存在が《天使》であるなら、こちらも爵位を持つ悪魔、公爵級を送り込む事も考えねばならぬ》
「はっ考えて頂けるので」
《送るのは良い、だが、その為の膨大な対価は必要になる…それは我とてしたくは無い、暫く待つが良い》
「はっ全ては邪神様にお任せ致します」
【神界にて】(神々が集う場所)
邪神も流石にこれを見逃せないから、神界に報告に向った。
「ほう、女神イスタリアが…だがイスタリアにそんな強力な天使を送り込む事など出来ぬ筈だ」
「ですが、創造神様…天使が存在してわが陣営が莫大な損害を被ったのは真実です…このままだと魔王まで単騎で倒されるでしょう」
「だが、邪神ゲストリアよ、天界から人間界、魔界から人間界に行く場合は大きな代償無くて《力のある存在は顕現不可能だ》」
「そうは言われても、存在しているのです」
「イスタリアは強い女神では無い、そんな天使が味方に居る等聞いた事は無い、正直な所、あの世界は魔王が本気になれば勇者パーティーが殺され世界は魔族の物になる…それが確定された程、差がある世界だった筈だ」
「幾ら言われても存在している者は存在しているのです」
「そこ迄言うなら、今見て終わりにしよう…だだ、もし謀りであった場合は責任をとって貰うぞ」
「構いません」
「ああああーーーーーっああん」
「どうかなさいましたか創造神様」
嘘だ…本当にいるぞ。
しかも、とんでもなく強力な天使が 能天使で中級天使だと…あんな奴が居たらあの世界、最早勝敗は決した様な物じゃないか。
あれをどうにかしろと言うなら、それこそ、公爵級の悪魔、場合によっては邪神ゲストリアが出向かなければどうにもならんわい。
しかし、あのイスタリアの女狐め、儂を謀ったのか?
本当はあんな強力な天使を産みだし、人間界に顕現させる力を隠していたのか。
「確かに存在した…あんな力を持っている存在を送り込むなどあってはならぬことだ…今直ぐイスタリアを呼び出して話を聞かねばならぬ」
【それから30分後】
「お呼びでございますか、創造神様…げっ、ゲストリア」
「イスタリアよくもやってくれたな」
「何の事でしょうか?」
「これだ、これ」
創造神は、ルディウスを映し出し見せた。
「素晴らしい天使ですね、こんな美しくて綺麗な天使に仕えて貰えたら女神として凄く幸せですね…えっこれは私の世界、いや嘘、あの創造神様、これは私へのプレゼントですか? こんな美少年で強力な天使…素晴らしいですわね」
「これはイスタリアが作った存在では無いのか?」
「嫌ですわ、創造神様、私にあんな強力な天使を作る様な力があると思いますか?」
よく考えたら、イスタリアにそんな優れた能力は無い。
だからこそ、魔王側には《死霊を使わない》などハンデを指示した。
では彼奴は何者なのだろうか?
創造神たる私が知らない存在がこの世界に居るのだろうか?
少なくともあんなに力のある天使なら名前位は知っている筈だ。
では、あの者は一体。
「ねぇ、あの素晴らしい天使は、私の世界に居るんだから私の者で良いんだよね、はわぁぁぁぁっ見れば見る程綺麗な子ね~早く神にまで登って来ないかな? 」
「ゲストリア…イスタリアには…」
「はぁ。思い出しました..あのポンコツ女神にあんな存在作る事も顕現させる事も出来ませんね」
「そうじゃな」
「だけど、本当に凄いわ、誰がくれたのかな? 私の所まで昇ってくるのが楽しみ…待ちきれないからちょっとだけ顕現しちゃおうかな? えい」
「「おい」」
ほんの少しでも疑った自分達が恥ずかしくなってきたわい。
【現世にて】
教会に眩い光が降り注ぐ。
《天使よ…私に仕える美しき使徒よ…こちらに来なさい》
全てを祝福する様な音色が鳴り響いていた。
教会に居る、全ての者が、嫌この世界に居る全ての存在が、彼女を知っている。
心から崇め、慕い全ての者が信仰する存在、女神イスタリア、それが顕現した。
神託ならまだしも女神の顕現など…誰もが見たことが無い。
「あっああああれは女神様ーーーーっ まさか顕現なさるとは」
《私を信心する者よ、早く私の天使を連れて来るのです》
凄い力を感じて来てみれば…女神イスタリア様が何で此処にいるのか…こんな事ってあるのか?
《おお、我が愛しい天使よ、よくぞ我が世界に存在してくれました、このイスタリア感謝しますよ…この力無き女神の代わりに世界を救って下さい…そして何時か神になり私の前に…現れるのを楽しみにしていますよ…すみませんそう長くは存在….では、くれぐれも我が愛しい天使をお願いします…》
何か聞く前に消えてしまった。
【宗教者たち】
「ああああっーーールディウス様とはそこ迄の存在だったのですかーーっ! 天使である姿も仮の姿、やがては神に至る存在だったなんて、しかも、女神様が顕現してまで頼むとはーーーっ」
「これはやはり、イスタリア様の像の横にルディウス様の像を作らなければなりませんね」
「女神様に頼まれたのです、これまで以上に仕えなければ」
「これ、絶対に内緒でお願いしますね」
もう何がなんだか解らないな。
少なくとも教会全部への口止めを頼まないと…不味いだろう…これ。
【閑話】創造神と邪神…そして女神の話し合い…
「イスタリア、一体何を考えておるんだ、話し合いの最中にいきなり顕現など」
「天使をどうするか、話し合い中では無いか?」
「あの世界は私の世界、確かにゲストリアの世界でもあるけど《天使であって堕天使》では無いのだから所有権は私にあります」
「だが、天使等が世界に居座ったら、もうその世界は…女神側の勝利に決まり、永遠に邪神側の勝利は来ないでは無いか? あんな存在どうやっても倒せないし、まして天使なら寿命もとてつもなく長い」
「そう言う事言いだしたらキリが無いと思いませんか? 人間は非力で弱いし、勇者の寿命は長生きしても70年、しかも50歳の勇者なんて普通の魔族にすら勝てないのよ? どう考えても私の方が不利ですよ…ねぇそう思わない?」
確かにそうなのかも知れない。
「だが、幾ら何でもこれはあんまりだ」
「何言っているのか解らないわ? 相手は未熟な女神だからって《死霊は使わない》なんて言って置きながら、使っているじゃない、ねぇ使っているわよね…」
「おい、ゲストリア…お前使って無いよな?」
「使ってます、その為一つの国が滅びてしまいましたわ…悲痛な声が聞こえてきましたから間違いありません」
「それなら今すぐ確認してみよう…使っているでは無いか? あれは片方の種族が滅びる場合があるから使用は基本行ってはならない、ましてゲストリア、お前の神格はイスタリアより数段高い…だから使用は禁じたはずだが」
「それは魔王が勝手に」
「それを防ぐのも邪神の仕事であろう」
「そ.それは…」
「はぁ~ 邪神と魔族側で罰則を犯した…これでさっき、イスタリアが行った、勝手に顕現した事は釣り合いをとる為に不問にしなくちゃならないな」
「…」
「くだんの天使の件だが、イスタリアが作った者ではない様だ…ならば罰則は無い」
「本当にそうですわ…私、天使なんて作れませんよ」
「なぬ? 天使なんて作れぬと?」
そこ迄ポンコツだったのか…
「それは眷属も居ないと言う事じゃないか? だが、あの世界の絵画には沢山の天使が描かれているでは無いか?」
「あははっ、それは私ではなく、先代の方のイメージが残っているからですよ? まぁ数千年間統治していますが、あの世界を作ったのはかなり前の女神で私ではありません、まぁあの世界を統治した際にイスタリアの名前を全員が名乗りますからね、しかも顕現なんて誰もしないから解らないと思いますが…」
「そうであったか」
「私、女神としてはまだ若い4000歳ですよ? 何千億年も生きている創造神様や何万年も生きているグストリアとは違いますよ、まさか忘れた何て言いませんよね?」
そうだった…すっかり忘れておった。
「確かにそうであったな」
「そうですよ、神として中級クラスのゲストリアと初級クラスの私では相手にならないから、色々ハンデをくれたんじゃないんですか?」
「そうであったな、もう3000年近く前だから忘れておった」
「でも良いです、これで私もようやく勝てますね、あれだけの天使ですもの、あの世界の魔王や魔族なんて駆逐してくれますね…ようやく《負けっぱなしのイスタリア》の汚名返上です!」
「待った、幾ら何でも天使は卑怯だ」
「ぷうっクスクス…今迄、私の産みだした勇者達が沢山、沢山死んできましたよ…今度は私のターンですよ!」
「待て、今迄我は人間を滅ぼそうとしなかっただろうが…魔王にしても魔王城から外に出した事は無い、本気で滅ぼそうとすれば出来た物を、ちゃんとそれなりに人が生きれるようにして来ただろう」
「確かにそうね」
「そうだ」
「イスタリア、魔と人…滅びるまでは行ってはいけない、解っておるよな」
「解っております、創造神様…だけど魔王と四天王は殺して良いですよね? ほかの魔族には攻め込んで来ない限り、手を出しませんからね…きっとあの天使なら乗り込んでいって簡単にしてくれるでしょう…天使は目に入れても痛くないって本当ですね、たぶん目をくり抜かれても短剣で心臓を突かても許せちゃいます、まぁ女神だから死なないからですけど…」
「そうか、それじゃイストリアは違反はしていない、どちらかと言えば邪神であるゲストリア側の違反だ…イスタリアは魔族を滅ぼさないそうだ、これで終わりで良いな」
「はい」
これは駄目じゃないか…魔族は滅ぼされなくても、魔王や四天王は虐殺される。
確かに、こちら側は、勇者や聖女たちを殺してきたのだから仕方ない。
だが、あれれでも私にとっては可愛い信仰者なのだ…むざむざ死なせたくはない。
こうなったら形振り構わない…《堕天》しかない…ダークエルフにサキュバス、魔酒に国宝、何でも差し出して堕落させるしか無い。
天使を堕天させれば堕天使。
こちらの最大の味方になる。
早速、この事を魔王に伝えなければ。
「それじゃ、私は無実ですので、私の神殿に帰りますね」
「ああっ」
「これからは私のターンです…覚悟して置いて下さいね」
女神は笑顔でその場を立ち去った。
堕天計画…発動
《魔王よ…》
「邪神様、それで件の天使の方はどうなりましたでしょうか?」
《結論から言えば、あの天使は女神が遣わした者ではない》
「となると…」
《うむ、そのままと言う事になる、寧ろ死霊を使った事により、此方の方に問題がある事になった》
「ですが、それでは、魔族は敗北し最悪滅んでしまう」
《だからこそ、秘策がある。堕天させて堕天使にするのだ》
「堕天でございますか?」
《うむ、これは女神は知らぬし、創造神様の前では一切口にしなかったが、欲にまみれ怠惰になった天使は堕天して堕天使になる》
「堕天使でございますか…」
《そうだ、あの天使を堕天させれば、此方の味方になり人類の敵になる、あのクラスの天使が堕天使になれば公爵級の悪魔と同等じゃ、最高じゃろう?》
「確かに、あれが味方に付いてくれるなら、それこそ逆に魔族の勝利は確実になります」
《だからこそ、欲に溺れさせなければならぬ…幸い、欲に関しては魔族の方が人間より上だ、サキュバスにダークエルフ等色欲の魔族により骨抜きにし、金品等は欲しいだけ与えれば良い…全ての希望を叶え、怠惰にさせれば、堕天は完成する、しかもあの天使と女神の間に強いパイプは無い、それが良い、敵対ではなく取り込むのだ》
「流石は邪神様に御座います。それなら丁度スカルが倒され四天王に空きが御座います《天使を者にした者にはその地位を与える》という触れを出しましょう…下級のサキュバス数万、上級サキュバス数百、それにダークエルフ8千、他の色魔数万による争奪戦を行わせましょう」
《いや、そこ迄せずとも…》
「これは総力戦です、負ければもう魔族は終わりなのです…滅亡や戦に負け隷属されるよりは余程良い、もし色欲があるなら、婚姻して無い魔族の女が殆ど自分の物、金品財宝は幾らでも自分の物、そしてこの世では私を越える地位を与える、これで行きましょう」
不味いな、負けても滅ばない等は口にしてはいけない掟だ。
滅びる、皆殺しにされる未来に比べたら《遙かに良い》
しかも、サキュバスにとっては堕天使は、確か好物だ。
幾ら相手しても尽きない精力…最高級料理が常時食べ放題、何時も色に飢えているあいつ等には最高のご馳走だろう。
気位の高いダークエルフにしても、相手は《堕天使》…最高の相手じゃないか。
まぁバンパイア系や死霊系以外は皆が望む相手だ。
バンパイヤや死霊にしても《堕天》してしまえば、自分から望む相手だろう…
悪く無いな…まぁ良い、また問題が起きれば我が怒られれば済む事だ。
《それで良い…天使を堕天使に出来るかどうかが、この世界の戦いを左右するのだ、見事にやって見せよ、もし見事に堕天させた者が居たら、我が特別な加護をやろう》
「はっ直ぐに行動を起こします」
魔族による壮大なお色気作戦が今始まる。
八大司教とそれぞれの愛し方
最早どうする事も出来ない。
どうしてあげれば喜ぶと言うのだ。
天使様の扱い等、凡夫に過ぎない教皇の私には手に余る。
「教皇様? これから私達はどうすれば良いのでしょうか? これから何をしてどの様に生きれば良いのでしょうか?」
「私にも解りません…天使様が顕現して、更に女神様が顕現までして頼まれる、こんな事は歴史的にありませんよ、我々は歴史的な奇跡の瞬間に立ち会ったとしか言いようがありません」
「そうですな、こんな奇跡は宗教者や信者として凄く光栄です、望まれるなら全てを私を含み八大司教は差し出す覚悟は御座います、命だろうが家族だろうが…ですが」
「ルディウス様はそれを望まず、質素を望むから意味が無い、しかも自分が天使である事すら隠そうとします、この私に直に《隠して欲しい》と依頼してきました」
「確かにそう言われてましたな、それで我々全員でこの教会の者全部に口止めをしました…喋ると地獄に落ちると話し、契約紋まで刻んで」
「天使様のお願いの契約紋だから、誰もが喜んでいて、約束は死んでも守るでしょう」
「だが、当人が知っているのが問題だ、シスター等は自分も寵愛が貰える可能性があると思い、神職なのに露骨に誘惑しようとしだした」
「料理人等は、冒険者を自腹で雇って、ミノタウルの肉やロック鳥の卵を仕入れて《最高の料理をつくる》なんて言い出し、露骨にルディウス様の料理が違っている」
「当たり前だが信者の一部が《天使様》と知ってからは、聖女ホワイト様より格段と上の扱いをするから、そのうちバレるのではないでしょうか?」
そう、あの時の事は、直ぐに教皇や八大司教が《漏らさない様に頼んだ》から教会の1/4の者にしかルディウスの正体はバレていない。
運良く、聖女ホワイト様や賢者グレーテル、ルディウス様の身近な者には殆どバレていない。
だが、直接現場を見た者にはどうやってもごまかしようが無い。
女神の声を聞いた者にはどうする事も出来なく、聞いた者は《自分が女神様に頼まれた》そう思う者が多い。
しかも、将来は《神》になる天使に仕えるのだ…聖人として最大の栄誉の神に仕え、歴史に名前が残るかも知れない、そう思えばじっとしていられなくなるだろう。
この世界は一神教。
その女神に仕える天使…そして将来は神になる。
そんな存在を目にしてしまったら、可笑しくもなるだろう。
まして此処は聖教国なのだから…
【信者たちの会話】
「貴方、生涯貴方を愛すると誓いました、世界で一番愛していると誓いました…ですが今日より貴方は世界で2番です」
「解っているさ…謝る事は無い、俺も2番だ」
「そうですよね、天使様が存在するんですもん、世界で2番目に愛しているわ貴方」
「俺も世界で2番目に愛しているぞ」
「すまないな、俺にとってお前は2番目に大切な存在になった」
「当たり前だよお父さん、私も世界で2番目に愛しているよ!」
「天使様が居るんだもん、身を清めなくちゃ…もう他の人なんて見れませんわ」
「本当に、私、一生操を建てて生きていきます」
【母と娘の会話】
「マリアーヌお母さま…その姿はどうされたのですか?」
「うふっ、昨日勇者様と愛し合ったら若返っちゃったみたい! フランソワーズお姉ちゃんにエレノワールお姉ちゃんにテレジア」
「お母さま、私の事をお姉ちゃんなんて」
「だって、この姿だと多分、エレノワールより少し年下に見えないかな? まぁあくまで少しだけどね…あっ勿論冗談よ」
【フランソワーズ視点】
何なのでしょうか…あのお母さまの姿は、艶々としていて何とも言えない魅力があります。
まるで、王国のルビーと言われた肖像画のお母様に戻ったみたいです。
いえ、それ所か何とも言えない色気が漂ってきます。
これが勇者様と愛し合った結果だと言うなら、私も是非寵愛が頂きたいと思います。
【エレノワール視点】
まさか初日に伽に向う何て思わなかったわよ。
不覚だわ、本当に不覚。
あの綺麗な姿はまるで、昔のお母様だわ。
あの姿に何人の男性が魅了されたか解らない。
王であるお父様が沢山の貴族を押しのけて婚約するまでは貴族の中で血の雨が降ったとも聞いたわ。
正直羨ましい…私は背が高く胸が小さい。
あのような豊満な体持ち合わせていない…
多分、勇者様の寵愛を受けたいなら最大のライバルはお母さまだ。
【テレジア視線】
勇者様は私の者なのに、先にお母さまが手を出すなんて信じられません。
馬鹿な父王があんな事しなければ、私は正室です。
何時でも甘えていられた筈です。
勇者なのですから、姉二人が嫁いだのですから、私と婚約してゆくゆくは…
そんな人生を馬鹿が潰してしまったのです。
本当に心から叫びたい…《私の勇者様を盗らないで》
《私に返して》
だけど、それはもうできない。
正室は聖女であるホワイト様。
私はなれても側室…それに協力してくれる筈のお母様が…何してくれるんですか?
貴方も私の人生を壊す敵なのですか?
「良かったですわね? お母さま…娘を出し抜いて楽しいですか?」
「お母さま、流石に初日から夜這いとは元とはいえ王妃が恥ずかしく無いのですか? お父様も草葉の陰で泣いておりますよ」
「私のお母様は…こんなふしだらじゃありません」
「うふっ、やきもちかしら? だけどそんなに気にする事は無いわ? ルディウス様の寵愛を独り占めしようなんて思って無いし、そんな事は出来ません! あれ程の方なのですから、沢山の女性に囲まれるにきまっています…私はその中の一人で良いのよ」
「「「お母さま…」」」
「そうね、今日は私はルディウス様の寝所に行かないから、誰かが行けば良いんじゃないかしら? ほら頑張りなさいね? 私の娘なんだから」
「そうですね、解りました」
「私も負けません」
「私だって」
「だけど、お母さまは正室には成れませんが、一番の寵愛は貰うつもりですからね、女としてはライバルですからそのつもりでいて下さいね? きゃはっ」
「お母さま少しは手加減して下さい」
「娘に譲る気は無いのですか?」
「酷い…私を側室にすると言ってくれたお母さまは何処にいったのですか?」
「テレジア私は母ですよ? 貴方の腹黒さはちゃんと知っていますわ….それじゃぁ 話はこの位で良いかしら? ルディウス様に愛されて余り眠ってないのよ~ だから私は仮眠しますから…バイバイ~」
「「「ぐぬぬぬぬっーーーーっ」」」
マリアーヌは嬉しそうに手をヒラヒラしながら去っていった。
その頃ルディウスは…ある意味、スカル以上の強敵と対峙していた(笑)
こっちの方がメンドクサイ
「ルディウス、私という者が居ながら、随分と奴隷を抱えているのね?」
廊下でいきなりホワイトとグレーテルと出くわした。
幾ら言われても仕方ないじゃないか?
ミルカとレイラはアルトランとベーダ避けに必要な人材だった。
しかも俺は貴族だから、普通に従者やメイドは必要だろう。
それに王国関係は俺が引き取らなければ《死ぬしか無かった》
だが、お子様のホワイトやグレーテルには…解って貰えないんだろうな?
「成り行きでね」
「そう、成り行きね! 本当は解らないけど、そこは解ってあげる! だけど、あんな大きな戦いが終わったのに、何で私の所に来ないのよ?…私は正室、貴方の妻に将来はなるのよ、ちゃんとこういう時は来なさいよ」
「あの、ホワイト?」
嘘だろう…もうホワイトが正室と決まっているのか?
この世界は普通に14歳位で婚姻する。
そう考えたら、12歳のホワイトやグレーテルは女として一人前と考えても可笑しくない。
ハァ~だったら12歳で体もグラビアアイドル位まで成長して欲しい物だ。
どう見ても子供にしか見えない。
幾ら目を凝らしてみても、そういう風には見えないな…
「どうしたのかな? ルディウス、私を見つめて」
「何でもないな」
「そう、だからって許した訳じゃ無いわ」
「所でグレーテルは何で黙っているんだ」
「こういう時には良い女は黙っている物よ…戦いで疲れたルディウスに何を言っているのかな…あーぁ、やきもちは見っとも無いわね」
「グレーテル、何が言いたいのかしら?」
「馬鹿じゃないの? ルディウスおめでとう、流石はルディウスだよね、死霊を全滅させて四天王の一人スカルを討ち取るなんて」
「ありがとうグレーテル」
「うん、本当に流石だわ、良かったらこれから祝杯をあげない? 何処かのお馬鹿さんは置いて置いてさぁ」
「何処かのお馬鹿さんって誰の事かしら?」
「知ーらない…だけど、命懸けで戦って四天王の一角を崩して帰ってきたルディウスにお祝いも言えないの? 何処が聖女なのかしら? 本来は癒しって聖女がしなくちゃいけないんじゃないないかな?」
「グレーテル私に喧嘩売っているのかな」
「はぁ~ あんたは回復役じゃないの…それが勇者を癒せないでどうするのよ?」
「どういう事…私じゃ癒せないと言う訳!」
「そうよ、言いたい事があるかも知れないけどさぁ、ルディウスは勇者なんだから側室を作るのは普通だと思うし、というか私もその1人だしね、やきもちを焼くのも良いけど、せめて祝ってあげてからにしなよ」
「そうね」
「そうねじゃないわ…はっきり言わせて貰えれば、まだホワイトは正室じゃない、ルディウスはね勇者だけじゃなくて剣聖でもあるし、帝国も王国も滅茶苦茶」
「何が言いたい訳」
「王国の王族が側室や奴隷だから王国は多分ルディウスの物…そして帝国は死霊から解放したのはルディウスだから、もしかしたらルディウスの物になるかも知れない…そいて聖教国で一番偉いのはルディウス」
「ふざけないで、話を逸らさないで、それと正室と何が関係あるわけ」
「あんたは馬鹿なのかな? 三国統合みたいな話でそこの頂点がルディウスな訳なんだけど」
「それと結婚は関係ないじゃない?」
「それじゃはっきり言うね、誰がルディウスに婚姻を強要出来る訳? 世界で一番偉いのに」
「だけど、私は、聖女なのよ正室って決まっているわ」
「本来なら王国の王女から娶る筈が王国が馬鹿やったからだよね? それで序列が上がっただけじゃない? もうその序列をルディウスは無視できるんだよ…奴隷だろうと王女だろうと、ルディウスが本気で好きになった人が正室になるの、それだけだわ」
「そんな訳無いわ」
「だったら、そう思っていれば良いじゃない? だけど、私は貴方に正室の才能があるような気はしないわ」
「グレーテル…どうしたの…ねぇ」
「正室って側室を含んでルディウスの全ての女を束ねる必要があるの…自分ばっかり独占したら周りから不満が出るじゃない」
「だから…どうしたのよ」
「王族が奴隷になってルディウスの者になるって解ってたら何で会いに行かないの? 私は顔つなぎ位したよ…」
「えっ」
「女同士仲良くしなくちゃ、だってもしかしたら一緒にルディウスを支えるかも知れないじゃない」
「あのグレーテルは、その..」
「勿論、一緒にお茶したりしているわよ?」
「あのね…」
「正室になりたいなら、やきもちばかりじゃ無くて全部を見ないと…全部を見回す位の器量を持って」
「解ったわよ」
「グレーテル…そのありがとう」
「ええっ…私賢者だからね、それでね、折角だからこれからミルカさん達にマリアーヌさん達とルディウスの勝利を祝って一緒にささやかなお茶会を開こうと思うんです、来てくれますよね」
「それなら、勿論」
「ほら、ホワイト貴方も行こう」
「うん」
しかし、今後はこう言う事も考えなければいけないのか?
確かにこの世界は14歳で婚姻して農民とかだと17~18歳で子供の2~3人作っている様な家が多い。
貴族にしたって20歳で何人も子供がいる家が多い。
確かに寿命が50歳~60歳も無いなら可笑しくは無いが…
ホワイトやグレーテルが美少女なのは解る…だが、幾ら見ても昔の世界のせいか子供にしか見えない。
2年経って14歳になっても子供だ。
本当はそれでもどうかと思うが16歳~18歳になって、本当に不本意だが手を出すとしても、この世界では《行き遅れ》扱い。
絶対にそれまで待ってくれないな。
はぁ、これならまだ魔族と戦っていた方が気が楽だな。
「ほらルディウスも行こう」
「私も言い過ぎたわ、ごめんなさい」
やっぱり凄く可愛いけど、ガキンちょだ…良く見ても妹位しか思えない。
ルドルの話とお茶会
「ルディウス様、お久しぶりでございます」
「ルドル、久しぶりだな…元気だったか?」
「はい、ただ執事である私が仕えられていると言うのは寂しいものですな、もし宜しければ執事として使ってやってくれませぬか」
「そうだな、ルドルがそうしたいなら良いな」
「それは助かります」
「昔の様に接してくれる者はもうルドルしか居ないからな」
「確かにそうでしょうな…四天王の一角を崩した勇者様なのですし、これからは王になる可能性もありますからな」
「そうか…俺は小さな領地を治めて楽して暮らしたいだけなんだがな」
「ははははっもう無理ですな、それで今は少しは時間はございますか?」
「ああっあるが」
「それでは老婆心ながら、このルドルが女に対する常識を教えたいと思います」
「ああっそれね…解った」
ルドルの話を聞いた。
この世界は俺が思ったよりも低年齢だった。
思った通り16~17歳は結婚してないと既に行き遅れの年増状態。
20代が多分我々でいう所の中年。
30代はお婆ちゃん扱いらしい。
しかも、女としての価値が低くなるのが俺が思っている以上に速い。
ルドルの話では《20代の女性》とは余程仲が良い夫婦じゃないとそう言う行為はしないらしい。
しかも、結婚適齢期は14歳だが、貴族等は許嫁と10歳位から添い寝等するし…12歳では普通にそう言う行為はある。
確かに前の世界でも中学生や高校生でもやりまくっている奴が居たから…14歳が成人なら10歳からあっても可笑しくない。
「ルディウス様は11歳です、あの館で殆ど過ごして居たから、性については歪んでいらっしゃる、本来なら20代や30代等の女を相手にしないのが普通の常識です」
ルドルから見て俺は可笑しいのか?
「ルドルから見て俺は可笑しいのか?」
「御恐れながら、ババ専と言わざる負えませんな」
この世界の常識からしたら俺はそうなのか…
「俺がババ専?」
「はい、折角適齢期の聖女様や賢者様が居るのです、そちらを口説くのが普通です…もし好みで無いなら、あんな年増ではなく10歳~15歳位の奴隷でも買われるのも良いでしょう」
結局俺は、意思を曲げてロリコンになるかババ専の汚名を着るしか無いのか。
仕方ない、どちらを選ぶか心は決まっている。
「余り噂にはしないでくれ、俺は…あの屋敷で過ごしたからババ専だ、多分18歳~27、28歳位の女が凄く素敵に見える、多分これは治らない」
「おいたわしや…ルディウス様」
【女性たち】
「凄く豪華なお茶会ですね」
「あの、グレーテル様、私達は奴隷なのですが、こんな場所に居て良いのですか?」
「ミルカ何言っているのかな? レイラもそこに居る方は確かに元王族だけど、今は貴方と同じ奴隷よ」
「ですが」
「そう言われましても」
「ですがじゃないよ? 此処にいる人間は全員ルディウスの将来取り巻きになる人間なの気にしないで」
「そうですわ、お気にしないで、私は元王妃ですが今はただの奴隷、娘も一緒です、まぁテレジアだけがまだ側室の可能性があるだけですわ」
「そうね、私ももう奴隷ですから」
「私もそうですよ」
「私も将来は解りませんからね」
此処には、ホワイト、グレーテル、マリアーヌ、フランソワーズ、エレノワール、テレジア、ミルカ、レイラが集まっていた。
形上はお茶会をするという話だが…
「「はい、有難うございます」」
「今日はね軽い顔合わせ、ほら此処にいる仲間は全員、ルディウスと男女の関係になる人間だわ、だからこれからはこう言う全員が集まる時が必要だと思うのよ、国王は側室は持たなかったけど愛人はいた筈よね」
「思い出したくありませんが、あれに愛人は居ましたね」
「マリアーヌさんは王妃として、そう言った相手とも話し合いしていたでしょう?」
「ええっ」
「人数も多くなってきた事だし、情報交換や色々な取り決めをする場が必要だと私は思うのよ、これからは定期的にこういう場を設けようと思うんだけどどうかな」
「それは妙案ですわね…私は賛成です」
「マリアーヌさんは賛成してくれるのね」
「はい」
「ちょっと待って将来の正室は私よ? グレーテル、何でそんな場が必要なのよ」
「はぁ~さっきもそうだけど、このままじゃホワイト、貴方ルディウスに嫌われるよ」
「そんな訳ないわ! ルディウスは私にぞっこんなんだから」
「今はそうかもね? だけどさっきのあれ…なに? 私達の為に全て背負って戦ってくれた男が帰ってきたのになに? 一言目がやきもち? そんな事続けたらそのうち嫌われるわよ」
「そんな事無いわ」
「良くそんな自信があるわね、良い? 此処には王妃として夫を支えた方三人に奴隷として仕えている方が2人いる…そうね皆に聞くわ? ルディウスが帰って来てなんて声を掛けますか?」
マリアーヌ「そうね、私は、流石ルディウス様です、から始まってあとは行き当たりばったりですが褒めまくりますね」
フランソワーズ「私やエレノワール、テレジアはお母さまから教わったので殆ど同じだと思います」
エレノワール「確かに同じですね」
テレジア「まだ未熟ですが、同じ様になると思います」
ミルカ「私はお帰りなさい、きっと勝って帰ってくると信じていました、かな?」
レイラ「私はご主人様なら出来るって信じていました…でしょうか?」
「ねぇ、ホワイトと違うわよ? テレジアと私、そしてホワイトはちゃんとこういう方の意見を聞いた方が良いと思うの? そうしないと精神的にルディウスが疲れてしまって、最悪嫌われちゃうと思うよ? 特に元王妃三人はこう言う事をしっかり学んでいるから、絶対に教わった方が良い筈だよ」
「あのグレーテル、私そんなに可笑しかったかな?」
「他の皆の答えを聞いてどう思った?」
「…確かに違うわ、だけど私は聖女やってて教会の外の事は知らなかったんだからしょうがないじゃない…」
「私も同じ、だから情報交換や皆でルディウスをどうやって癒すか考える場所が必要だと思うの…どう、私間違っている?」
「間違って無いわ」
「それじゃ、こうやって定期的に皆で話す場を設けるって事で良いかな」
「「「「「「「はい」」」」」」」
こうして定期的にルディウスについて話す場が設けられる事に決まった。
ダークエルフとの出会い
【ダークエルフ側】
私はハイダークエルフの《シャイン》
ダークエルフの長をしている。
この世界に普通のエルフは居ない。
本当の所は解らないが太古の戦いで邪神側についたせいか全てのエルフ族はダークエルフになった。
我々は成長が遅く人族よりも遙かに長生き、そしてその美貌から人族には凄く人気が高い。
ただ、この世界のことわざに《ダークエルフの嫁を娶るのは城を得るより難しい》ということわざがある。
気位が高い彼女達を口説くのは難しい。
「魔王様にも困ったもんだ…天使だか勇者だか解らないが、何で全員で掛からないとならないのだ、そんな者はただ一人で大丈夫だろう」
【ルディウス側】
魔王に会いに行かなくてはならないのだろうな。
死霊王であるスカルが死の間際に俺に伝えてきた。
「我は恐らくこの世界では一番長く生きています…先代、先々代の魔王様よりも…だからこそ知る事ですが、ちゃんと戦いにはルールがあるのです、我々側のルールは《魔王は前線に出ない》とかですかね」
「もし、ルール無用であれば、我々は邪神様を復活せたり、公爵級の悪魔、場合によっては悪魔王サタン等、高位な存在を呼び出しますよ…そうしたら恐らくはそちら側も天使の軍団が出て来る筈です、そんな事したら、人魔(人と魔族)の戦いから…神悪(神と悪魔)の戦いになり場合によっては、世界所か空間その物が壊れるかも知れません…そうならない為に戦争と言いながら、それぞれが常識的な範囲で戦うのです」
「あります…この世界はそれぞれが自分の役割があります…もしかしたら、今回の死霊はその摂理から外れたから、貴方の様な存在が天界から来たのかも知れません」
「我は死霊王スカル…我が倒れれば我とその仲間の死霊は消える運命、浄化し昇天させるが良い…だが、貴方は高位の存在、自分がどうすれば良いのか? 考えて行動して下さい…貴方様の存在、貴方様のなさる事はこの世界を揺るがす事です、恐らく魔王様でも敵わないでしょう…だからこそしっかり考えて行動して下さい」
死の間際までに伝えて来た話。
そしてスカルの正体は
「あはははっ、浄化って凄いね、死んだ恨みもなにもかも消えていくんだね、てっきりこの姿で消えていくと思っていたんだけど、まさか元の姿に戻れるなんて思わなかったよ」
元は少女だった。
ならば、あの言葉は俺を騙したという事は無いだろう。
《この世界のルール》が何なのか? どうすれば良いのか? 片方側だけ聞いて決めてはいけない。
だから、俺は今度は魔族側のルールを聞きに行こうと思う。
さて…
「ちょっと出かけてくる…まぁ数日で帰ってくるよ」
本当はルドルが執事だから伝えたいのだが…
「畏まりました、行ってらっしゃいませ」
これ、ルドルじゃ無くて教皇なんだ、最近になって教皇や八大司教が変な事を言い出した。
「ルディウス様のご要望を叶えるなら、ある程度権力がある者の方が良いでしょう」と。
実際に例えば紅茶が欲しいと言えば、一杯辺り金貨2枚する様な高級な茶葉の物が用意される。
それに例えば、身分の低い者が付くと今回の様な外出一つで大変だ。
例えば
衛兵、もしくはシスター、教徒→ 聖騎士もしくは司祭 → 大司祭 大司教 → 八大司教もしくは教皇
詰まり、上の者にお伺いを立てる事が多い。
ならと言う事で、ここ暫くの間は教皇か八大司教のうちの誰かが執事代わりについている。
まぁ、手配が必要な場合の実際の手配はルドルが行う、但し 教皇印 や大司教印のついた書類を持って。
一度「どんな物でも手配してくれる」そう言うから、何処まで手配してくれるか聞いたら。
「この世の全て」だそうだ。
これが本当だから恐ろしい。
まぁそのおかげで、こうして快適に過ごせるのだから仕方が無い。
天使と勇者で違う物が一つある。
それは羽がある事だ。
そしてこの羽は見た目と違い物凄く速いくとれる。
まぁ異世界は普通とは違う。
ワイバーンが高速飛行が出来る…どんな原理か解らない。
だが、同じ原理でなのか解らないが天使の羽でも高速飛行が出来る。
天使の羽広げて、俺は魔族領へと飛んでいった。
人間領と魔族領の境界まで飛んできた。
此処からは歩きで魔王城まで向かう。
天使になっているせいか、魔物は襲って来ない。
恐らくは弱い魔物は、俺の気配を感じて逃げ出すのだろう。
そのまま突き進むと、沢山の気配を感じた。
まぁ今の所は気にしないで良いだろう。
しかし、木々が凄く壮観だ。
まるで樹海を散歩している様な感じで凄く気分が良い。
これはもしかしたら、俺が天使になったからかも知れない。
【ダークエルフ側】
「しかし、何故全員でやらなくてはならないんだ? 私達はダークエルフだぞ、1人を篭絡する位3人もいれば充分なのに全員で掛かれだと」
「まぁシャイン様、上手くやれば四天王に成れるんですよ、頑張りましょうよ」
「そうだな…魔族や魔王はアホだ、幾ら美女でも数千なんて単位で行ったら引くだろうな、私と他2人、まずは3人で行き我々の街に誘ってみれば良いだろう」
「そうですね、シャイン様がいるんですから、最初の三人で終わってしまうと思いますね」
「はぁ、本当に気が進まない、何で私自ら行わないとならない…そんな馬の骨の様な男を虜にする為に」
「まぁ、仕方ないと思います、シャイン様はハイダークエルフ、一緒に居たら普通はシャイン様の方に目が行くと思いますよ」
「仕方ない、そいつの相手したら四天王に成れるのだから我慢しかないな」
【森にて】
凄い…森が喜んでいる。
ダークエルフになる前の森の民の血が騒ぐ。
一緒に来たルナとサイナはさっきから様子がおかしい。
森の精霊たちがざわついている。
そして、何故なのか…その存在には必ず会わなくてならない、そんな予感がして仕方ない。
その存在が今こちらに近づいてきている。
近づいてくる度に胸のときめきが収まらなくなる。
何なんだこの存在は…胸が苦しくなる。
「はぁはぁ…あれが、天使…さま、行かなくちゃ、私はエルフの長なのだから」
「私も参り…ます」
「私も行き…ます」
《どうやらこちらに誰かが来る、魔族関係?》
「あっあっあっ貴方様は天使様ですか?」
「確かにそう言われているな」
「そうですか、私はダークエルフの長でシャインと申します、天使様、2人はルナとサイナです」
《これがダークエルフか、こんな存在なかなか見れない、耳が長くて胸は小さいがそれを除けば此処まで美しい女性は居ないだろう、ただ肌が凄く浅黒い…綺麗な姉ちゃんが日焼けしすぎた感じだ…だが何だろうか? 体の中から変な物、忌々しく感じる物がある》
「ご丁寧に、俺の名前はルディウスと言います、何だか私が来る事を知っていたようですが」
「呪われてしまったとはいえ、元は森の民、森の中であれば何でも解ります、最も魔王様から天使様が来たらもてなす様に言われていますからいつ来るか待ちわびていた」
《呪い? だったら解いてあげた方が良いのかも知れない》
「ちょっと待って」
俺は軽く手をかざしてみた。
そうしたら、いつぞやの死霊と戦った時の様に光が現れ彼女達を包んだ。
「これが天使のやる事なのか…不意打ちとは卑怯」
「本当に戦う気は無いのに」
「こんな事されるなら」
「待って、呪われていると聞いたから解呪しようとしただけだから」
光がやがて治まり、その中からは三人の透き通る程白い肌の美女が現れた。
「うん、黒い肌も綺麗だったけど、この方がより良いな…そうかダークエルフって呪われたエルフだったのか」
「ううう嘘、私、ハイエルフになっている…黒い肌がこんなに白く綺麗な肌になるなんて、しかも凄い森の精霊の声が、本当に澄んで聞こえてくる」
「嘘、でしょう、呪いが溶けてエルフに戻るなんて」
「こんな事だれも出来ないって思っていた」
シャインは目をルディウスに向けた。
凄い、森の全ての精霊が祝福するかの様に彼の傍に集まっている。
しかも、木々が彼を好いているのが解る。
《本当の森の民》に戻ったからこそ解る。
森が喜んでいる、彼が此処にいる事を、ただそこに居るだけで喜んでいる。
エルフ族だからこそ、この人が2人と居ない素晴らしい人なのだと解る。
容姿じゃない…森に愛される、自然に愛される人、それがエルフ族にとって美しい綺麗な人だ。
こんな綺麗な存在、絶対に他には居ない。
他の2人も見て見ればうっとりした様に彼を見つめている。
「「「綺麗…」」」
ただただ、私達はルディウスという名の天使様から目が離せなくなった。
エルフ達
俺はエルフという者を初めて見た。
確かにダークエルフが存在している事は知っていた。
だが、人間側では見る事が無かった。
多分、魔族領から出て来なかったのだろう。
シャインを含む三人は凄く綺麗に見える。
残念ながら、美しさと言う点では人間はまず敵わないだろう。
これから向かうのが、彼女達が住む街だというのだから俺も少しワクワクしている。
別に、付き合うとか考えないが、美しい女性を見たいと言うのは男として仕方ない事だろう。
「どうかされましたか?」
「いや、三人を見ているとエルフと言うのは美しい種族なのだなと…」
「私が美しいですか…まぁハイエルフだからですかね、有難うございます」
「私もですか」
「久々にそう言う事を言われたので嬉しいですね」
「いや、本当にそう思うぞ」
「あはははっ…これから行くのはダークエルフの街ですよ、全員ダークエルフですから、私何かより綺麗な女性が山ほど居ます」
「そうそう」
「まぁ、そう言われると悪い気がしませんが、そう言う事は他のダークエルフを見てから言って下さい」
確かに、街に住んで居るのがダークエルフだって言うなら、全員が美しいのかも知れない。
話を聞くと数千単位住んでいるらしい。
ダークエルフは魔王側だ。
取りあえず、魔王軍についての情報収集や、どんな気持ちでいるのか? その辺りを聞いてみたい。
暫く、歩くとダークエルフの住む街に来た。
実際は街と言うより、大きな村に市場がある様な感じだ。
やはり森の民、人間のいう街とは大違いで凄く緑が多い。
「嘘、シャイン様が何でハイエルフになっているの?」
「ルナ、サイナ…呪いが解けたのですか…羨ましい」
そんな声があちこちから集まってきた。
それと同時に、視線が集まっているのも解る。
「あれが天使様…いいなぁあんな人ならお嫁さんって言うのも良いかも」
「あんな人と一緒に暮らしたいな」
「ああ、光輝いて見える、あんな存在は2人と居ないだろう」
「木々が喜び、光が溢れている、何て素晴らしい存在なんだ」
エルフが女ばかりじゃない男も普通に居た。
まぁ当たり前だな、だが男女関係なく話を聞いている限り好意的だ。
やはり、エルフは黒い肌より白い肌の方が綺麗に見える。
「シャイン、やはり、ダークエルフの殆どはエルフに成りたい、そう思っているのか?」
「そりゃそうだと思います、そうか、それなら、此処にいる全員をエルフに戻そうと思う」
「そんな事が可能なのですか?」
「出来るだけ周りに集めてくれれば簡単に出来そうだな」
「ならば今日の夜…街の広場に全員集める様にしましょう」
「ならば、それまで休ませて貰おうか」
「それでは私の屋敷で休んで下さい」
「そうさせて貰おうかな」
その後、シャインの屋敷で休ませて貰っていたら…ダークエルフが1人寝所にきた。
「あの…シャイン様に言われて来ました、そのお相手させて頂きます」
「あの君は何歳」
「200歳です」
「それで年取ったエルフは見なかったけど…」
「そうですね、エルフの殆どは寿命が400歳位です、ハイエルフのシャイン様やルナ様やサイナ様みたいに長く生きる方は少ないですね、まぁ同じエルフなら解りますが、人族から見たら200歳のエルフも400歳のエルフも同じに見えるそうです、それじゃお相手させて頂きますね」
「そうか…だけどそれは良いよ、この後夜に全員をダークエルフからエルフにするから力を温存したいんだ」
「それなら、仕方ありませんね、天使様なら何時でも歓迎ですし、その声を掛けて下さいね」
何で此処まで初めてあった相手に言えるのか不思議だ。
どう考えても魔王側に居たなら女神なんて信仰している訳ないしな。
だから、理由を聞いてみた。
「だって木々が教えてくれるんですよ…素晴らしい人だって、精霊の声も聞こえるんです、多分根底から貴方は愛されているんでしょう…エルフなら誰でも貴方を嫌いになんてなりません」
「そういう物なのか」
「はい、我々は森の民ですから森に愛されている貴方を誰でも好きになります」
何だか、これはこれで宗教みたいだな。
「それじゃ、話を聞かせてくれたから」
そう言うと俺は彼女を光で包み、呪いを解いてあげた。
黒かった肌が見る見るうちに白くなり…透き通るような白い肌に黒かった髪が風に流れるような綺麗な金髪に変わった。
やはりエルフという者は全然違う…今迄見た殆どの女性がホワイトなんて比べ物にならない位綺麗だ。
「有難うございます、天使様」
「ルディウスで良いよ」
「それじゃ、有難うございます ルディウス様」
その日の夜、街の広場にダークエルフが全て集まっていた。
「ルディウス様、全員集まりました」
「そう、それなら始めるか?」
「お願い致します」
俺は翼を生やして、高く飛び立ち、光を集めた。
「凄い、なんて幻想的な姿なんだ」
「綺麗、森の息吹が集まっていく…そして楽しそうに精霊の声が聞こえる。
その光をそのままダークエルフに降り注ぐ様にした。
ダークエルフ達の肌は見る見る白くなり、髪は金髪か銀髪になっていった。
俺は天使のせいか、やはりダークエルフよりエルフの方が綺麗に感じる。
「嘘、本当に呪いが解けているわ」
「凄い、この髪凄く綺麗、それに森の声も精霊の声も良く聞こえる」
「素晴らしい、呪いが解けるなんて」
沢山の歓声が聞こえてきた。
「あの…ルディウス様、本当に有難うございます、その昼間リリィから聞いたのですがお相手を断ったとか、今晩行かせますか?」
「嫌、それは良い」
「もしかして他の者をお望みですか? 何なら気に入った者がいるなら誰でも良いですよ?」
「それは、余り…望んで」
「エルフが嫌いなんですか? 魔王様からもその…歓迎するように言われていますし…面子もあります」
「ハァ~どうしてもと言うなら、貴方、シャインが良いです」
「えっ…私?…本当に私がお望みですか? 揶揄っている訳じゃないですよね」
「俺が見た感じでは一番綺麗なのはシャイン、次に綺麗だって思うのは、ルナ、サイナですね」
「それ本当ですか? 凄く嬉しい、だったら今夜、ルナ、サイナを伴って伽にお伺いしますね」
「あの…本当に来るのですか? 貴方はそのエルフの長ですよね」
「ええっ構いません、きっとルナとサイナも喜ぶと思います」
その日の夜…本当に三人は俺の寝所に訪れた。
そして朝まで一緒に過ごした。
ある意味エルフは呪われているのかも知れない。
エルフは若い人間の年齢で固定されて死ぬまでその姿だ…(一部を除いて)
昼間、伽の相手に現れたリリィという少女は12歳、下手すればもっと下に見える。
前世の記憶が無ければ美少女ハーレムだと喜ぶかもしれない。
だが、俺には幸か不幸か前世の記憶がある。
だから、全員がロリっ子にしか見えない、駄目だなこれは…
妹の様に可愛がることは出来ても男女の一線は越えられない。
幾らロリBBAだって解っていても無理だ…
だから、この集落の中で俺がそういう対象に見れるのは
20代に見える、シャインと前世でいうなら17、18歳に見えるルナとサイナだけだ。
【エルフ側】
「しかし、天使とは変わっていますね」
「そうそう、誰でも良いと言うのに老人を選ぶんだから」
「まぁ、シャイン様はハイエルフだから、凄く森に愛されているし…自分では人族には綺麗に見えると思っているが」
「正直、お婆ちゃんだよな…長老だし」
「まぁエルフ族だから、誰でも人族には通用すると思って、若い子を犠牲にしないと思っていたのは立派だ」
「だが、シャイン様もルナ様とサイナ様も…加齢臭がする位なのに」
「若くて綺麗なリリィより…お婆ちゃんが良いなんて…天使って年配が好きなのかな」
「もしかしたら、違う目を持っているんだろうな」
「一番齢が上で長老兼、長のシャイン様、最長老二人のルナ様とサイナ様、三長老が良い何て凄いな天使様」
「三人とも俺の祖母より上なんだぜ、俺は到底抱けないよ」
此処でもルディウスはババ専の伝説を作っていく。
エルフ達との夜
【シャインSIDE】
まさか、本当に自分が選ばれるとは思わなかったわ。
確かに人族とエルフでは齢のとり方も外見から考える歳も違うのは解るんだけど…
まさか選ばれるとは思わなかったな。
まぁ人族にしてみたら絶世の美人がちょっと齢をとった感じに見えるのかな。
だけど本当はルナとサイナにしたって長老だからね…
人族にしたら綺麗なのかも知れないけど、エルフではお婆ちゃんだ。
ハイエルフの私は兎も角、ルナとサイナは何時死んでも可笑しくない位だ。
多分、後数十年で老衰とかで死んでも可笑しくない。
「シャイン様、本当に私で良いんですか、私、若いエルフに《おばば様》って言われていますよ」
「三長老の一人ですよ? 確かにエルフの年齢は人間には解らないと言われますが、流石に本当に選ばれるなんて思いませんでした」
「私もそう思うわ…私達しか居ないなら、人族にとってエルフ族は貴重な者だからいけると思ったのよ、妻帯者や若い者に迷惑掛けたく無いからね、だけど見た瞬間、あれ程、森や精霊に愛された存在なら《エルフ族なら確実に好きになる》のが解ったから、街でも1番の美形というリリィにお願いしたんだけど…」
「天使様が選ばれたのが私達三人という訳ですね」
「そうよ!」
「まぁ、本当に良いのかしら? もう200年近くそういう事はしてないんですが」
「ルナ、私だって曾孫がいるのよ、もうこういう事はどれ位して無いか解らない」
「本当に大丈夫なのかな、人族から見たらエルフは全て若く見えると言うけど」
「まぁ全員未亡人のお婆ちゃんだからね」
「旦那が死んでから50年だからね」
「ルディウス様、参りました」
【ルデイウスSIDE】
確かに、エルフは綺麗だけど、死ぬまで10歳~12歳の姿では流石に無理だ。
行為の最中を思い浮かべたら…うん、自分がクズの様にしか見えない。
頭の中で本当は年上なんだと言い聞かせても無理そうだ。
どうやら俺はロリBBAも無理な事は解かった。
だが、エルフの面子とかで《何もしない》のは不味そうだから、選ぶなら三人しか居ないだろう。
シャインは、見た感じ《前世の想像の中のエルフ》その者で、笑顔が可愛い理知的なお姉さんに見える。
ルナはおしとやかな女の子、サイナは少しボーイッシュな感じ…まぁ耳が尖って居なければ《可愛すぎる女子高生》という感じだな。
同じ事を二度いうが《可愛すぎる》
やはり外見だけならエルフより綺麗な女性はまずいないのかも知れない。
マリアーヌは王国一綺麗と言われルビーと言われていた。
そしてその娘二人はその血を引いている…政略結婚に使われる位だから凄い美女だ。
ミルカとレイカは…この世界では醜いと言われるが、前世の俺から見たら美女になる。
そんな女性と比べても、エルフは遜色がない。
恐らく、もしあの姿の少女が成長したら、全てのエルフはマリアーヌレベルの美女になる。
まぁ、永遠に12歳だから《無理》だけど。
ここで疑問が起きる。
シャインは、ハイエルフだから姿が20代の女性なのは解る。
だが、ルナとサイナは突然変異か何かなのだろうか?
他の大人のエルフが10歳~12歳にしか見えないのに…17、18歳位に見える。
まぁ良いか。
「ルディウス様、参りました」
ドアがノックされた。
「どうぞ」
ただ、そう返した。
俺が見た彼女達の姿は、美女と美少女にしか見えない。
胸が小振り以外、欠点なんかない。
思わず、見惚れてしまう。
こんな風に思ったのは前世も含んでマリアーヌの時位だ。
「どうかされましたか? やはりガッカリされたのでは無いですか?」
「今からでも他の者に変わりましょうか」
「ごめんなさい」
何故謝っているのかが解らない。
薄着の下着姿の彼女達は蝋燭の炎に照らされて凄く綺麗に見える。
「いえ、思わず見惚れてしまいました、この世の者とは思えない美女と美少女が立っているんですから」
「本当にそう思ってくれるのでしょうか?」
「信じられない」
「本当にそう思ってくれるのなら、死ぬ気で頑張りますね」
それから朝が来るまで信じられない様な夢の時間を俺は過ごした。
【エルフSIDE】
私は兎も角、2人は大丈夫なのだろうか?
心配で仕方がない。
ハイエルフと違いエルフの彼女達は老婆だ。
腰が痛い、足が痛い、などの老化現象も起きている。
そんな状態で男性に抱かれるなんて途中で体力が尽きたりしないのか凄く心配だった。
だが、もうノックして部屋に入ってしまった。
もう匙は投げられたから、引き返す事は出来ない。
「私何かを選んで頂いて有難うございます…一生懸命お相手を務めさせて頂きます」
私から見たルディウス様は《綺麗》それしか言えない。
容姿だけでなく、まさに自然に愛されているというのか解らないが…何とも口では言えない凄い魅力が感じられる。
こんな人の者になりたい、だけどこんな私が相手して良いのかその葛藤が生まれる。
先程聞いた話ではルディウス様は11歳…我々でいうなら子供も良い所だ。
正直に言えば、老婆三人が少年の伽の相手をするという事だ…躊躇わない訳無いだろう。
それでも《欲しくなる》
それはルナとサイナも一緒だ。
多分、自然や精霊に此処まで愛された存在と繋がりたくて仕方ないのだろう。
彼女達のつばを飲み込む音が聞こえてきた。
私達エルフ族は性欲は凄く薄い。
それなのに、この少年相手にはとんでもない色欲が湧いてくる。
ただ、彼はこちらを見ているだけなのに体が熱くなる。
「失礼します」
どうにか冷静を保ち服を脱ぎ捨て彼のベッドに三人して潜り込んだ。
もう駄目だった。
これが《ルディウス様》の存在なのか….
手で触れられるだけで、彼の体が触れるだけで、とんでもない高揚感を感じる。
こんなに長生きしてきたのに…こんな感覚は初めて、これが、性交という行為だとすれば今迄のは《違う》
私やルナもサイナも子持ちだから、何回もこういう行為はしてきた…まぁかなりご無沙汰だけど。
だけど、それは全部違う行為だった…そう思えてしまう程の快感が体に押し寄せてくる。
しかも、こんな年老いた体をまるで宝物を扱う様に優しくしてくるから…だめだ、もうルデイウス様しか見えなくなる。
横を向いたら、だらしなく涎を垂らしているルナと、体を押し付けて腰を振っているサイナが居た。
何処にも体が痛くて動くのが辛いと言っていた姿は無い。
艶やかに貪っている姿にしか見えない。
そういう私も、まるで若かった時の様に…それ以上に快感を貪っていた。
こんなのは種族的に可笑しい。
エルフの性行為は淡泊だ。
女のエルフから淫らな事など…しない。
それが、何故か媚薬や麻薬でも打たれた様に可笑しくなる。
もう多分…私はルディウス様に逆らえない。
それは横にいる二人も同じ…とんでもない快楽の中次第に私…いや私達は意識を失っていった。
朝になり起きた。
私は昨日の事が夢だったのかと思い横を見たら…ルディウス様は眠っていた。
「可愛らしい笑顔」
その横に同じ様にルディウス様を覗き込むルナとサイナが居た。
「本当に可愛らしいわ、ああっもう目の中に入れても構わない位、愛おしい」
「彼に頼まれたら、何でもしてあげたくなるわ」
起こしちゃ悪いから、そっと服を着た。
「あーーっ」
「何やっているのルナ、ルディウス様が起きちゃうでしょう」
「ルナが驚くのも解ります…姿は同じなのに精霊の力が、ううん、力の根源かな、凄く力強い、何て言えば良いんだろう」
「サイナ、姿はそのままだけど多分若返っている」
こんな事があるの…見た目は同じだけど力に溢れ、若返った気がした。
「ちょっと狩りにいってみない」
「「ええっ」」
別に討伐に行くわけじゃない。
本当に若返ったなら、弓が仕える筈。
もう二人は弓も真面に使えない位老いていた。
「普通に弓が引ける…しかも弦が一番強いのが」
「本当だ…凄い」
ハイエルフの私は体の老化は更に遅いが、どう考えても乙女だった頃まで若返った気がする。
だけど、姿は….何故か残念な事に若返っていない。
折角なら姿も若返って欲しかったんだけどな…
私達三人はそのまま狩りをした。
眼では追えなかったホロホロ鳥も、素早く動く一角狐も簡単に仕留められた。
折角だから愛しいルディウス様の為に、私達が狩った獲物をご馳走したい。
ホロホロ鳥を数羽仕留めて、料理した。
誰かに《尽くしてあげたい》そんな気持ちになるなんてどの位ぶりだろうか?
三人で料理をしてルディウス様が起きて来るのを待った。
三人の事情と旅立ち
「えーとシャインは長なんだから不味いんじゃないかな? それにルナもサイナも責任ある立場じゃないのかな?」
「別に構いませんよ? もうそろそろ隠居しても可笑しくない時期だしね、ルナもサイナもそろそろ若い子に立場を譲る時期だからね」
「そうですよ、もういい加減楽してもいい頃ですから」
「そうだよね、もう楽隠居して暮らします」
彼女達はエルフの街の長…しかもその中心人物3人、大丈夫なのか。
【エルフの街…少し前】
【シャインSIDE】
「私は今日を持ってエルフの長を引退する事にした、後の事は頼んだわ」
「いきなり何を言うんですか…そんな急に困ります、この街でたった一人のハイエルフなのですよ」
「今迄は私に頼り切り過ぎだったのよ…これからは自分の事は自分でしなさい」
「そんな、シャイン様だけなら兎も角、ルナ様にサイナ様まで、男ですか…男ですね、あの天使様に」
「そうよ…いけない? 私達はもう後が無い位の歳なのよ?、これが最後の恋なのよ、解るでしょう?」
「あの、天使様って11歳ですよね? 犯罪ですよ、犯罪、揃いも揃っておばさん通り越して婆なのに11歳? ショタコンじゃないですか?」
「ショタコン?」
「はい、まぁ掟にはそんなの無いですが…本来なら若い子に譲るのが当たり前でしょう? 本当に恥ずかしいったらありゃしない」
「そこ迄言うの?」
「当たり前ですよ、あんなに素晴らしい人なんですからね、適齢期の女性は勿論、同い年位のチビ迄、皆が《いいなぁ~》《素敵だなぁ~》って思っていたのに…何で老人のあんた達が持っていくんですかね?、長老や長なら、ここは若い子の譲るのが普通ですよね」
「貴方、今私の事《あんた》って言わなかった?」
「ええ、言いましたよ? 長で無くなったなら関係ありませんよね?」
「あのね…私達が選んだんじゃないのよ? 私達をルディウス様が選んだのよ?」
「嘘だーーーーーっ!」
どうしたのかな…何だか怖いよ。
「良いですかシャイン様、私知っているんですよ? シャイン様もルナ様もサイナ様も、そんなに背が高くて最早、姿形までエルフらしくない…本当の婆ぁじゃないですか? 幾ら人族だって絶対に他のエルフが良いに決まってますよ」
「そんな事は無いの…本当に私達を選んだのよ」
「はぁ…何処の誰が、態々お婆ちゃん選ぶんです? もう良いですよ、言い訳は!兎も角お三方は、立派な人だと思っていたけどショタコン婆ぁだったんですね、もう良いですよ、勝手にして下さい、後の事は私達がしますから」
「そう良かったわ」
「ふん、ショタコン」
「何か言った?」
「いいえ何も言ってませんよ(笑)ショタコン婆のシャイン様」
男の恨みは怖いと言うけど、まさかここ迄とは思わなかったわ。
【ルナSIDE】
「確かに、もう何時引退しても可笑しくない歳ですが、恥ずかしくないんですか?」
「だって仕方ないじゃない? 好きになっちゃったんだから」
「相手は11歳って話じゃないですか? そんな幼子みたいな相手と恥ずかしくないんですか? 曾孫より遙かに年下なんですよ?」
「恋に年齢は関係ないわよ」
「お義母さん、だけど限度という物がありますよ…流石に11歳は無いんじゃないですかね…恥ずかしいですよ」
「お婆ちゃん、本当に恥ずかしいよ」
「お袋いい加減にしてくれ! リウマチに腰痛、そんな老人がそんな事するなんて、息子として恥ずかしいって」
「だけど、私ね、この恋は止められないわ」
「もう良いよ…引退して出て行って、ただ11歳の幼子を親父なんて呼びたくないからな、もう勝手にしてくれ」
「私だってそんな赤ちゃんに毛の生えた年齢の子をお爺ちゃんって呼べないからね」
ふんっ、そんな事言いながら、自分達だってチャンスがあったら物にするくせに。
【サイナSIDE】
「おばあ様、いい加減にして下さい、同じ様に齢をとった相手なら私も文句は言いませんよ…11歳、解っているんですか? いい歳した老人が幼子に手を出すなんて、恥をしって下さい…犯罪ですよ犯罪」
「そんな事言われても好きなったんだから仕方ないじゃん」
「はぁ…お母さまはそろそろ、介護が何時必要になっても可笑しくない歳なんですよ? まさかその子にオムツの交換でもさせるつもりですか?」
「まだ、そんな歳じゃないよ…いい加減にして、それに今の私はとっても充実しているわ、そうね200歳位若返った感じかな」
「そんな訳無いでしょう?、どう見ても変わらないじゃない」
《だけど、確かに加齢臭は無くなっているし、何とも言えない位《気》が充実している様に見えなくもない》
「確かにそうだね…だけどまぁ良いや」
「まぁ、もう良い歳だから良いですよ…長老役は引き受けたわ…ただあまり醜聞は晒さないでね」
三人が三人、それぞれの事情で街を後にした。
「本当に大丈夫なのか? シャインは長だし他の2人だって重要な役について居るんだろう?」
「私はそろそろ引退を考えていたから問題ないよ」
「私も家族に任せて降りてもいい頃です」
「そうだね、私も大役は娘に譲ってきましたから、問題ありません」
「それなら、別に良いんだけど、魔王城まで案内をお願いして良いかな?」
「「「はい」」」
美女に美少女を連れての旅。
このパーティーでの旅なら楽しそうだ。
サキュバスにとって天使は
「何でシャインがついて来ているのかな? 嫌だぁ~もしかして負けたの」
「負けてなんて無いよ、私はルディウス様の女になったからついて来たのよ?」
「うわぁ~キモイんですけど? おばさんがぁ~本当に必死で可哀想、どうせ、どんなに頑張ったって私達に取られちゃうのに」
「それは無理ね」
「たかが、ダークエルフに出来る事が私達に出来ないと言うのかな? 受けるんだけど?」
「そう、なら私達は、何処か家を貸して貰えるなら、そこで休ませて貰うわ…そうね3日間思いっきり歓迎の宴でもしてもてなせば?」
「そんな時間貰ったら確実に虜になっちゃうでしょう? 私はサキュバスクィーンよ? これで四天王は私の物だわ」
「そう、上手くいくと良いわね、私達は彼の傍に居られるだけで充分だわ、ルディウスが魔族側につくにしても、人間側につくにしても一緒についていく、それだけだわ」
「それはそっちの2人のダークエルフもそうなの?」
「「勿論」」
まさか、あの気位の強いダークエルフ達が此処までなるなんて《天使》とはなんて存在なの。
うんっ…ダークエルフ?」
「ああああーっ…何であんた達白いの?」
「今更、それはルディウス様が呪いを解いてくれたから」
「あの何百年と続いた呪いが解けたっていうの…凄い」
そんな力があるなんて凄い…もしそんな力を持った者を誑し込んだら。
四天王どころか、魔王軍を乗っ取る事も出来るかも知れないわね。
「そんな所、それではルディウス様3日間程ですが…本当に名残惜しいですが」
「別に一緒でも良いんじゃない?」
「そうですね」
「シャイン、貴方…まぁ、魔王城に向う前にそれぞれが歓迎するように言われていますから、お願いしますよ」
「そういうルールなら仕方ないな」
シャインたちと別れてサキュバスクィーンと言われる彼女についていった。
「申し遅れました、私はサキュバス族の長をしています、アイラと申します」
「アイラさんですか?」
「そうですよ」
サキュバスって割にはぐいぐい来ない。
どうなんだこれ。
「それでどうしますか? 」
「どうしますかって?」
「そりゃぁ、私はサキュバスですから、接待と言えば解ってますよね」
「何となくは…」
「それなら早いですね…この街で最高に良い女は、私ですサキュバスクィーンなんですから、種族としての王ですからね、まぁ私でも満足できなかったら、幾らでもサキュバス全員でお相手させて頂きます」
そのまま、手を引かれ連れていかれた。
彼女の屋敷に連れていかれたが…なんだこれ、前世でいう所のまるでラブホテルだ。
「何驚いているんですか? 私はサキュバス族ですから、男性のそれが食べ物みたいな物ですし、生活の全てですから、それにかけては私達に敵う存在は無いです…あとサキュバスに好みは関係ありません」
そういうとアイラは舌を絡めてきた。
「ヒィッ…だ大丈夫です」
何が大丈夫か解らないが、いきなり驚いたかと思うと、目がとろーんとしたかと思うと姿形が、変わり始めた。
嘘だろう…何で麗美先輩になっているんだ。
麗美先輩は前世で俺がガキの頃の憧れの先輩だった。
俺より喧嘩が強くて、何回か助けて貰った事もある。
結婚相手が鮫島先輩だったから納得したが詰まらない男だったら殺していたかも知れない。
結婚式には何とか頑張って参加したが…その後10日間位は何も手がつかなかった。
ほくろから髪まで、どう見ても本物にしか見えない。
「これはサキュバスの中でもクィーンにしか出来ないスキルよ…サキュバスであればある程度相手の好みには成れるわ、だけどサキュバスクィーンは相手の心を読み取り、相手の好きな存在その者に成れるのよ? 最高の女でしょう?」
確かにそれなら、どんな女も勝てないだろうな。
だが、多分詳細な心までは読めないのだろう。
確かに未だに麗美先輩は俺の憧れなのかも知れない。
だが、同じ様に世話になった鮫島先輩と結婚して子供が出来幸せに暮らしていた。
そんな彼女と同じ姿の存在を俺は抱くなんて出来ない。
「悪いが、その姿は止めてくれないか?」
「それじゃ、此方はどうかな?」
うっ今度はグラビアアイドルじゃないか?
これなら寧ろ大丈夫だ….
「それが良い」
「そう、それならこの姿で相手してあげる」
そう言うととても濃厚なキスをしてきた。
相手はサキュバス、しかもその女王のクィーン任せた方が良いだろう。
ピチャピチャと音を立てて彼女は俺を舐め始めた。
自分から体を動かし、まるで貪る様に体を動かしている。
2時間が過ぎたが、一向にアイラは止めようとしない。
まぁサキュバスだから、仕方ないそういう種族なのだろうから
アイラの顔が赤くなり体は明らかに熱を持ち出した。
「あああっあ~ん、駄目、もう死んじゃう、死んじゃうけど止められない」
もう6時間は経っているが一向に止める気配は無い。
サキュバスはこういう種族なのは解る…まぁ彼女はクィーンだから仕方ないのか。
更に6時間がたち、もう明け方だ。
「死ぬ…私は死んじゃう、だけど、本望こんな快楽の中で死ぬなら、サキュバスにとって最高の幸せ…」
何だか、様子がおかしい…もしかして物理的に死ぬって事に思えた。
だから俺は、アイリを突き飛ばした。
「嫌嫌嫌ぁぁぁぁぁーーーっこのまま快楽のまま私を殺してーーーっ」
「何でもしますからーーーお願いだから止めないで、私を抱いてよ、死んでも良いのよ、お願いだからーーーっ」
様子がおかしすぎる。
仕方なくアイラを組み伏していると。
「そうだ、魔王殺してくる、魔王を倒すのが天使の仕事よね…殺してくるから、もっともっとーーーっ」
仕方ないから物理的に気絶させた。
目が覚めたら正気になってくれていると良いな。
【3時間後】
「おい、大丈夫か?」
「ルディウス様?…そうだお願いです、死んでも構わないから続きを」
「どういう事か説明してくれないか?」
「あの、それより続きを…」
「説明が先だ…じゃないと俺は此処から出て行くぞ」
「解りました」
どうやら俺と交わり始めた瞬間から体中にとんでもない快楽が走りだしたらしい。
しかもその快楽は、アイラの言うにはまるで媚薬と麻薬を飲まされた所じゃない快楽だったそうだ。
「サキュバスですから…快楽と言うなら私達に勝てる種族はいません、人間を襲って快楽のままで死なせる事すら容易いんですが、今回はまるでサキュバスではなく、快楽のまま殺される人間の様でした」
「…」
「こんな快楽私は知りません、しかもこれはとんでもない猛毒ですね…凄く強い力が流れ込んできて存在が消されそうになっていました」
「それじゃ、最後に死んじゃうは、本当に」
「はい、多分後15分も続けていたら、物理的に死にますね」
「それは不味いんじゃないか?」
「だけど、仕方ないんですよ…もう中毒です、死ぬのが解っても辞められません、今もルディウス様としたくて、したくて堪らないんです」
「大丈夫か…それじゃ俺はこのまま立ち去ろうか?」
「それは無理です…ハァハァ…多分もう手遅れですルディウス様無しでは生きていけません、もし私を捨てたいなら快楽の中で殺して下さい」
これは完全な麻薬中毒で麻薬無しでは生きられない…そう言う事か。
「流石に殺せないな…他のサキュバスはどうすれば良いんだ」
「多分、ルディウス様の汗やその精はとんでもない猛毒です、多分私達が闇ならルディウス様は光、普通のサキュバスであれば恐らく10分と持たずに体を合わせたら死んでしまうと思います・
「それじゃ、直ぐに此処から立ち去った方が良いな」
「大丈夫です、すみませんが先程頂いた、精と汗を少し頂きます」
何だか恥ずかしいな。
「どうするんだ、それ」
「他のサキュバスに持っていき説明します…実際に見て見れば、どれ程の猛毒かはサキュバスなら解る筈です…そして説明が終わったら、私も同行します」
「いや、それなら黙って立ち去ろう」
「何言っているんですか? 私はもう中毒なんです、ルディウス様無しでは生きていけない…責任とって下さいね」
此処まで来たら一人や二人増えても構わないな…だけど増やさない努力は今後必要だ。
「解った」
「シャイン達は、一番大きな館にいますから、そこに行って休んで待っててください」
アイラはスキップしながら去っていった。
【街にて】
「アイラ様、その件の天使のお相手は如何でしたか?」
「天使は聖なる者、サキュバスにとっては最大の天敵だと解かった」
「天敵ですか…」
「うむ、私はサキュバスクィーン、その意地があるからちゃんと精は搾り取った、それがこれだ」
「これですか?…嘘」
「気をつけろ、手についたら火傷して爛れるぞ」
「本当ですね…こんなのが体に入ったら死にかねないわ」
「だから、サキュバス族は天使には会わせない」
「確かにその方が良いかも知れません」
まぁ、あれを見たら死んでもいいからっていう可能性があるからな。
「だから、そうする、そして私は今を持って、ここの長を引退する、後の事はお前に任せる」
「そんな、それでアイラ様はどうなさるのですか?」
「私は天使についていき、誘惑していく事にするさぁ」
「アイラ様、こんな物を体に入れたら、サキュバスクィーンだって大怪我、場合によっては死ぬかも知れないですよ」
「魔王から誘惑して堕天させるよう頼まれた、そして私はサキュバスの長だ、負ける訳にはいかんのだ」
「流石、アイラ様、素晴らしい意地です…後の事はこのサーリュにお任せ下さい」
「頼んだ」
これで終わりっと…今夜が楽しみだわ、今日はどうやってルディウス様と楽しもうかしら?
死の一歩手前の快感がたまらないし…体が疼いて堪らないわ。
究極の快楽を得るのは死に近いほど感じるのね…
もう私は…ルデイウス様から離れられないわ…多分死ぬまで。
魔王城へ
う~ん困ったな。
俺はもうこれからどうして良いのか解らない。
最初に会ったのが、ダークエルフ。
次に会ったのはサキュバス。
明かに攻撃してくれば反撃もするが、どう見ても好意的にしか思えない。
大体、体を合わせてしまった相手を殺せるのか…出来ないだろう。
今ならスカルが言った事も少し解る。
この様に意思の疎通が出来る相手なんだから、戦うより話し合いをした方が良いんじゃないかな。
今現在、魔族領を歩いているのだが、シャインやアイラのお陰で何も揉めない。
「その連れている人がもしかしたら、天使かい」
「そうよ」
「そうか、魔王様の所に行くんだな、丁重にな」
「解っているわよ」
こんなノリだ。
確かに相手は魔族だが、敵だからと襲ってくる事も無い。
姿形が違う以外は殆ど人間と変わらない。
これは凄く戦いずらいな。
ちなみに、シャインやアイラの話では意思疎通が出来ない者が魔物で、意思疎通が出来る者が魔族らしい。
だから、ゴブリンやオークは魔物らしい。
稀にダークエルフやサキュバスも被害に遭うらしい。
逆にオーガはちゃんと意思疎通が出来て集落をつくり生活している。
確かに、この世界の魔族との戦いではオーガは加わっていたがゴブリンやオークは加わっていなかった気がする。
そう考えるなら、魔族とは戦争だから殺し合いをするが、戦争が関係ないなら、幾つかの種族だけ気をつければ良くなる。
「どうかされましたか?」
「こうして歩いていると、姿形は違うが、人間とそう大差ないなと思ってさぁ」
「確かにそうですね、エルフは基本的に森で暮らしますが、大昔は普通に人間と交流があり、婚姻を結ぶ者も居たと聴きました」
「そうか」
この辺りの情報は前の世界と変わらないな。
最初はハニートラップかと思ったがそうでは無そうだ。
両種族とも「歓迎」と言っていた。
そう考えれば、本当に俺には敵対しないのかも知れない。
「大体、サキュバスだって本来は人間と共存共栄している種族ですよ、もし人間が完全に滅んでしまったら、食料が無く困るのは私達ですから」
確かにそうだ…うん待てよ?
「それじゃ、今はどうやってその…食料を手に入れているんだ」
「買ってます…普通に奴隷を購入してます、まぁ人間に成りすまして購入して」
「まさか殺したりはしてないよな」
「まぁしませんよ…まぁ思いっきり精を搾り取って、飽きたらちゃんと記憶を消して人間の敷地に返して来てます」
まぁ、普通に性処理奴隷を買った扱いと変わらないな。
そうこう歩いているうちに魔王城についた。
見た瞬間に解る…今の俺ならどうにか出来るが、勇者じゃ無理だな。
大きな城から無数の気が感じられる。
「此処が魔王城です」
これからどうするか、相手の出方次第だ。
油断大敵、強者との出会い
魔王城の中に入った。
此処に居るのは魔族でも強い者ばかり。
人間でいうなら、王宮騎士団クラスが多く居るのだろう。
だが、別に問題はない。
恐れる事は無い…多分倒す気があれば今の俺なら簡単に倒せる。
だが、そんな事はもうできない。
よく考えてみれば、俺は、死霊王スカルの死霊軍団を倒した。
それなのに、魔王軍は攻撃してこない。
それ所か女まで与えてきている。
俺の前世はクズだったが…《誠意》は重んじていた。
こんな風にされたら、幾ら人類から倒す様に言われても、そう簡単にハイとは言えないな。
魔王城を歩いていると 《ぞくり》という感覚を味わった。
天使になってからこんな感覚は味わった事はない。
体の中を恐怖が走る…明らかに自分では敵わない、そんな存在がいる。
「ちょっと悪いけど、そちらの天使貸してくれない?」
「ひっ…空の女王…私は魔王様に案内…ハァハァ」
「たかがサキュバスクィーンにハイエルフが私に文句があるの?」
どう見ても力関係で、彼女達より上…ん? 空の女王って…四天王の一人、空の女王ラファエルの事か。
何だ此奴は…嘘だろう、此奴と戦って勝てる気がしない。
「がはははっ、少し話がしたいだけだ」
「解りました、トール様、ルディウス様すみません私達は此処で待っていますから」
トール? 四天王の一人、剛腕のトールじゃないか?
仕方ないついていくしか無いだろう。
この二人、恐らく俺と互角以上だ。
もしかして俺は騙されたのか? 何で自分より強い奴が魔王軍に居ない何て思っていたんだ。
勇者を越える存在に成れたからか増長しすぎた。
やばいぞ、これは本当にヤバイ。
「天使様、何もとって食おうとは思わないから安心して下さいな」
「そうそう、俺たちからもてなしだ」
嘘だ、こんな顔をしている奴が本当にもてなしなんてしてくれる筈が無い。
だが、ついていくしか俺には選択は無い。
闘技場に見える所に連れて来られた。
「それで、あんたの目的は何? もしかして私を殺すか連れ帰る為に来たのかしら」
さっき迄と違う。
力が駄々洩れしている。
駄目だ、勝てる気が全くしない。
「天使だからお前と限らんぞ、俺の方かも知れん」
ヤバイ、こっちも強い。
「何の事だ? 俺は何も知らない」
「天使が降臨したという事は、どう考えても、私を連れ戻しに来たんでしょう…貴方の実力じゃ私は殺せそうも無いからね」
「何の事?」
「ふざけないで、この堕天使ラファェルをどうにかしに来たんでしょう」
「いや、案外この武神トールと戦いに来たのであろうが」
「待てっ…堕天使に武神…普通に考えて天使と同格じゃないか?…そんなのが居るのか?」
「「…?」」
話を詳しく聞くと、本当に武神と堕天使だと言う事が解った。
「女神イストリアに仕えて居なくて良いのですか?」
「女神イストリア?女神見習いで天使より能力が低い? まさかあんた彼奴の眷属なの」
「あのガキが今の女神なのか…ご愁傷様、だから勇者があんなに弱いのか」
嘘だろう…一神教の女神がボロクソ言われているんだが、前世の知識が無ければ信じられないぞ。
更に話を進める。
ようやく解った。
ラファエルは今の女神イストリア様より6代以上前の女神に仕えていたが、天界が面白く無いから堕天したそうだ。
その後、人間界の中で4代前の女神に仕えていたトールと出会い、合流して今に至ると。
そして、彼等は自分の身分を隠している。
それは、この世界を楽しく生きる為。
天界から行方をくらまし、死んだ事にして魔王軍の幹部に成りすまし暮らしているそうだ。
「どうしてそんな面倒くさい事をしているんですか?」
「「天界は詰まらないからよ(な)」」
話で聞く限り…平和だけど本当に面白みに欠ける世界の様だ。
「それでね、貴方に魔王を倒されると困るのよ」
「だから、此処で死んでくれ」
今、ルディウス最大の戦いが始まろうとしていた。
怒りと憎しみの中で
どうやっても勝てそうに無い。
俺には戦う気は無かった。
だが、襲い掛かってくる以上はやるしか無いだろう。
俺はスカルの話を聞いて、自分の中では中立になるべきかどうか考えていた。
だから戦う気は無かった。
少なくとも、魔王と話が終わるまでは…
だが、さっき聞いてしまった。
軍神トールが言っていた「だから勇者が弱いのか」と。
この話だと、トールは勇者と戦った事がある。
そして、魔王に戦いを挑んで生還した勇者は暫くは居ない。
つまり、そこから考えられる話は、かなり前から《勇者は武神と堕天使》に殺されている。
こんな酷い話は無い。
本当の敵は魔王では無い。
四天王のうちのの2人…こいつ等だ。
天使の姿になった。
「それが貴方の本当の姿なのね、少しはやれそうじゃない? トールは手を出さないで」
「俺も戦いたいが仕方ない、お前に譲るとしよう」
「さぁ、天使の戦い方を教えてあげるわ、天使長とただの天使の格の差を教えてあげるわ」
俺は羽を広げて飛び上がる。
天使の戦い方等は知らない。
だから、どう戦うかなんて知らない。
経験が圧倒的に不足している。
何千、もしかしたら何万年も生きている天使、その頂点の天使長とどう戦えば良いんだ。
知っている知識の中でやるしかない。
聖剣シルビアンを抜き斬りかかった。
「馬鹿ね、私は堕天使になったとはいえ、天使の力もあるのよ聖剣で斬れると思っているの?」
確かにそうだ、だが此処まで来たらやるしかない。
聖剣を突き刺す様に前にだした…だが
「嘘だろう…こんな事って」
「何もしなくても、聖剣が私を避けてくれるのよ、驚いたかしら? 魔王や魔族なら兎も角、天使が聖剣で斬れる訳ないわ」
俺の渾身の剣戟が自分からラファェルを避けた。
「それじゃ、聖剣の攻撃が…」
「あたる訳ないわ? だって私は「元」天使ですもの!」
不味いな、これ…仕方ない。
俺は聖剣を捨てて素手で殴り掛かる。
だが、それはあっさり躱された。
完全にスピードが違う、俺の動きが1だとすれば、相手の動きは数倍速い。
芋虫と蜂位の差があるような気がする。
「ぐはっ」
ただ殴られただけで、凄まじい衝撃が走った。
多分、胸骨が折れて内臓に突き刺さった様な気がする。
「あーあっ汚いわね、血がついちゃったじゃない…本当に腹がたつ」
駄目だ、なすすべも無い。
幾ら殴り掛かろうが、かすりもしない。
ラファエルは何処からか杖を取り出しそれで殴ってきた。
躱さなくちゃ殺られる。
スピードを出して逃げようとしたが、そのまま杖が当たり羽がもげて宙に舞った。
そのまま地面に落ちていく。
「あーあー詰まらないわね、天使だから少しは手ごたいがあるかと思えば、何これ、もしかして貴方、本当にイストリアの眷属か何か、あの出来損ないの女神の天使だから弱いのね」
イストリア様の眷属…多分俺は違う。
信仰という意味でいうなら、ホワイトや教皇程信仰していない。
だから絶対に違う。
だったら俺は…何者なんだ?
「くっ」
「流石に天使でも羽を斬られたら痛いでしょう…特に出来損ないの貴方じゃね」
「くそっ」
「もう只のオモチャ、もう空も飛べない…遊び飽きたから、トールにあげるわ」
俺は杖で殴られ、そのままトール近くの地べたに投げ捨てられた。
そのまま体が地面にめり込んだ。
「グ八ッ…」
駄目だ、もう…
「ほう、俺もここ暫く退屈していたんだ」
まさか、今度は此奴が相手に…
このままでは、俺は終わる。
立ち上がったが、そこにトールの渾身の一撃が放たれた。
俺の体は鞠のように跳ね転がっていった。
クソクソクソ…今ので腰の骨でも折ったのか痛くて立ち上がれない。
「ハァハァ…ぜぃぜぃ」
「最早口も聞けんのか?」
そう言いトールは残されたもう一枚の翼をもぎ取った。
「グワアアアアアアッ」
思わず痛みで転がりまわる。
羽を千切られるのが、こんなに痛いと思わなかった。
「こんな物じゃ満足できないな、ほらよ」
とてつもない連打が俺を襲った。
そのまま地面に深く埋め込まれた。
顔の形は元の姿が解らなくなるほど腫れあがり、手足は考えらえない方向に曲がってしまっている。
「天使はそう簡単に殺せないから面倒だな」
「よく考えたら、天使って死なないのよね…めんどくさいな本当」
「捨ててきてくれ、もう二度と魔王城に来るんじゃねぇ」
トールに仕える魔族に抱えられて、ルディウスは魔王城の奈落へと捨てられた。
【奈落の底】
覚えていろ…必ずお前等に…この仕返しをしてやる。
俺は…武神と戦った事もある…堕天使ともな…なんだこれは…こんな記憶..俺は知らない。
憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す憎い殺す
次は油断しない、魔族は全部敵だ…覚えておけ。
怒りと憎しみのなかルディウスは意識を手放した。
奈落の底にて
ここは何処だ。
ただただ暗い。
多分、普通の人間だったら見えない位、ただ暗黒が広がっていた。
「ううっ、体が痛い」
自分の体を見ると、足は完全に折れている。
腕も片方の腕は変な方向を向いていて動かせない。
あばらが折れているのか上半身が痛くて堪らない。
背骨も折れている気がする。
顔も恐らくは潰れているだろう。
どこもかしこも痛くて仕方ない。
多分、天使だから死なないが、こんなの…人間だったらどれ程鍛えても死ぬわ。
しかし、体が全く動かない…ただ痛い。
天使だから、恐らく時間がたてば回復するだろう。
だが、早く回復させるには、何か食べなければ…
こんな所には、何も無いだろうな。
暫く寝ることにした。
駄目だ、痛くて眠れない。
千切られた羽の跡が刷れる度に痛い。
暗闇の中目を凝らしていると小さなトカゲの様な生き物がいた。
《食べなければ》
動く片方の腕でその生物に手を伸ばして潰した。
火なんか起こせないからそのまま口の中に入れた。
生臭くて不味い。
だが、この生物は無数にいる。
これで当座の間の食料と水分は大丈夫だろう。
時間の流れが解らない…頭が可笑しくなりそうだから、勝手に時間を考えるようにした。
【自分時間1日目】
体はまだ動かない。
不味いトカゲを食べながら周りを見渡した。
よく見ると沢山の骸骨が近くにあった。
これは、多分殺された勇者やその仲間の可能性が高い。
近くには、聖剣やら見る者が見たら涎を垂らしそうな、凄い物が散らばっている。
体は痛くて動けないが、考える時間は物凄くある。
倒される直前、頭に浮かんだ事だ。
俺は…前に堕天使とも武神とも戦った記憶がある。
それこそ、何回なんて数じゃない、とてつもない数、殺され続けた。
だけど…それは何時の事だ。
今では無い…そして前世でも無い。
だが、俺には、何故かその記憶がある。
そして、俺には相棒が居た…長い年月共に過ごして、一緒に負け続けた相棒。
….駄目だ、その相棒が誰なのか思い出せない。
【自分時間2日目】
天使の体は思ったより治りが早い。
羽を除き体はある程度治った。
近くにあった錆びた剣を杖代わりに少し歩いてみた。
勇者以外にも騎士やら魔導士の死体もある。
多分、あいつ等には利かないが聖剣や特殊な杖、他にも貴重に見える物が沢山ある。
一応、貰っておくか?
「収納…」
何だ、俺、収納魔法なんて何で使えるんだ?
誰から教わったんだ、思い出せない。
大切な仲間?
可笑しい、俺の前世はただのクズ、東京で暮らしていた。
魔法なんて無縁な世界で暮らしていた。
思い出せない。
【自分時間3日目】
羽は生えて来ないが、体は杖をつかないで歩ける位にはなった。
思ったより此処は広い、少しリハビリを兼ねて歩いてみた。
彼奴らとは戦う運命にある。
だが、今の俺じゃ、敵わない。
気休め程度に、拾った剣を振ってみた。
幼馴染を思い出した。
顔は良く思い出せない。
だけど、女の子で見惚れる程の剣技だった。
そして…俺もかなりの剣の使い手だった….?
そんな訳無い。
これは夢なのか?
【自分時間4日目】
解らない、俺は気が狂ってしまったのか?
仲間に会いたい、凄く会いたい…新宿の? 渋谷の?
違う、仲間…仲間…誰の事だ。
解らない、解らない、解らない。
だが、思い出さなくてはならない気がする。
【自分時間5日目】
解らないが、何かを思い出す度に涙がこぼれてくる。
だが、それが何なのか思い出せない。
俺は狂ってしまったのか?
死にかけた恐怖で、殺されかけた恐怖で…妄想が暴走したのか?
堕天使と戦った? 武神と戦った? 頼りになる仲間がいた? 共に戦う相棒がいた?
そんな時を俺が過ごした。
うん、妄想だ。
俺を殺した堕天使が何で俺に微笑むんだ。
俺の体を千切った武神が何で、優しそうに俺に微笑む。
そもそも、堕天使や武神に殺された俺が何で堕天使や武神と笑っている。
仲間は老いて死んでいくなか…俺だけが歳をとらない。
こんな訳は無い。
これは俺の妄想…多分俺の夢だ。
最悪の始まり
「ふざけないでよ!」
あんなのとんでもない反則じゃない…
女神イスタリアは怒りと悲しみで顔が真っ赤になっていた。
「何で私の天使がこんな事になっているのよ」
何なのよ…あいつ等。
イスタリアは暇さえあればルディウスを見ていた。
神格が低く、天使や眷属を作れない…そんな私に何処かの神がくれた素晴らしい天使。
本当に愛おしくて仕方がない。
私が勇者にした者はいつも殺されていた。
勇者とは女神の私にとって子供の様な者だ。
だが、私が未熟なせいか上手くいかない。
この世界を諦め始め、馬鹿にされながら長い時を過ごして来た、私の希望の光、ルディウス。
それを…それをこんなにした。
赦さない…絶対に赦さない…創造神様に抗議してやる。
そして、場合によっては私が顕現して、あの世界の魔族なんて皆殺しにしてやる。
「何でですか! 可笑しいでしょう! 邪神側に堕天した天使長と武神が居るんですよ、もう頼みません」
「確かに言い分は解る、イスタリアには問題はなくミスも無い」
「それなら」
「だがな、問題なのは、その二人は女神側の者だ」
確かに言われて見れば、元はこちら側、邪神に文句等言える筈もない。
「だったら、あの元天使長を管理していた女神と武神を管理していた女神に責任を取って2人の処分をさせるべきです」
「それは最早出来ぬ、ニ神はもう儂の統括するこの世界では無い、上位世界に行ってしまった」
「そんな…なら」
「上位の世界の創造神に文句を言って神格を落とす、そんな事位しか出来ぬ…まぁそれでもこの世界まで落とされてくる事はないだろう」
「なら、やっぱり、私が顕現をして二人を殺してきます」
「それはならぬ、お前には悪いと思うが…これは女神側のミス、邪神側のミスではない、天使や武神等には魔王では戦えない、だからこそ闇落ちさせたのであろう」
「そんな」
「これは由々しい問題だ、それを隠してさも上手く言ったような、話で纏め誤魔化した、恐らくは邪神側と何らかの取引もあったかも知れない…だが、それがあったとしても、邪神側に文句は言えぬ、欺き陥れ闇落ちさせるのも魔族側だ」
「それでは、もうあの世界は何があろうと女神側が勝利を掴めない、暗黒の世界じゃ無いですか?」
「多分、今迄はそうであった…だが、もう二人はこちらが存在を確認した事に気がついただろう、もしかしたらこれからは違うやも知れぬ」
「私は…自分の為に戦おうとした天使に何も手を貸せないのですね…もう良いです、あとで幾らでも罰を、顕…」
「イストリア、お前が顕現するならこちらも顕現するぞ」
「「ゲストリア」」
「良い事聞かせて頂いた、こちら側には堕天した天使長に、闇落ちした武神まで居たんだな…ははははっ形勢逆転だ、直ぐに魔王に連絡をとり、人間界に進撃させよう、あはははっ、堕天した天使長に 闇落ちした武神、我も凄く愛おしい、そんな存在が居るなら、更なる加護をくれてやろう…イスタリア、お前が顕現して二人に手を出すなら、俺も顕現する…大切な人間が滅んでいく所を、寂しく見ているんだな」
「そんな」
「そこまでの事は赦せん」
「創造神様、これは私のミスではない、女神側と創造神様のミスでは無いか? 俺は関係ない筈だ…あははははっこんなチャンス見逃す事は無い」
「そんな」
人類最大の危機が今始まる。
魔王死す
【自分時間8日目】
体は完全に癒えた。
羽も生えたから、飛び立ち此処から脱出する事は出来る。
だが、今の俺ではあいつ等相手に対抗する事は出来ない。
あんな相手に勝てる訳無い…無い?
心の何処かで屈しないと何かが叫ぶ。
あれから、探し回ったが碌な物は無かった。
他の人間からしたら聖剣や聖槍、凄い物ばかりだ。
魔王ならこれで倒せる。
だが、これ等じゃ彼奴らには利かない、恐らく傷一つ付けられない。
俺が上を見上げていると、上から何かが落ちて来た。
ビシャッ
ドガッ
びしゃっ
びしゃっ
落ちて来た物は人間?
俺の様に殺された? 魔王城迄来る人間が居る訳が無い。
落ちて来た人物の傍に近寄った。
嘘だ、そこに居たのは シャイン達だった。
しかも散々いたぶられて殺されたのだろう…五体満足な死体は無く、どの死体も体の一部が欠損していた。
シャインは綺麗な顔が潰されていた。
散々殴られたのか、アイラは顔が何倍にも腫れあがっていた。
ルナは乳房が斬り落とされて無くなっていた。
サイラは顔が焼かれていた、そして目には鉄の棒が刺さっていた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっーーーーハァハァうわぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ」
嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ、
何でこうなったんだ…俺が弱いから、俺が弱いから、だから守れなかった…
《その程度の事で天使は悲しまない…天使が呪文を唱えた時…それは人間以上の力を発揮する、わ.た.し.は貴方にみせた筈》
頭が痛い、だが凄く澄んだ声で聞こえてきた、まるで女神の様な声で。
優しく、そして凛とした声、この声の主は…解らない。
だが、一つだけ解った事がある。
どうすれば良いかだ。
「パーフェクトヒール」
俺の体に光が集まり、手に収束していく。
そして、その光が、シャイン、ルナ、サイラに降り注ぐ。
パーフェクトヒールは聖女がつかう最強の回復呪文だ。
だけど、死人は蘇らない筈だ、駄目だ、これでは。
「いやぁぁぁぁーーーーっ止めて」
「もう殺して、殺して」
「頼むから、殺してーーーっ」
あれっ…蘇った。
《ばーか、天使と人間では呪文の効力が違う…教えた筈よ》
教わった? 誰から?
美しい…女神の様な女性
だけど、これじゃ魔に属するサキュバスは治せない。
《魔族には普通の回復呪文は毒になる、だからこそリバース、これが必要なのじゃ》
スカル…それは無い、俺はスカルを殺しただけで、こんなに仲良さそうに会話なんてして無かった。
「リバース」
壊れた体が時間を巻き戻した様に治っていく
「助けて、助けて下さいーーーっ」
「うん、助けたよ」
「「「「へっ…ルディウス様」」」」
「あの、此処は天国なのでしょうか? そうか死んだんですね、だから迎えに来てくれたのですね」
「三人は兎も角、私は天国にはいけないから、これは夢、目が覚めたら辛い現実が待っているんだ」
「大丈夫だ、此処は夢でも天国でも無いよ」
「「「「ルディウス様」」」」
四人から話を聞くと、四人を殺したのは魔王と魔王の息子らしい。
二人は魔王に俺を倒したと話した。
天使だから死ぬ事はないが、もはや魔族に逆らわないと説明をした。
最早、天使は恐れずに足らず、魔王は考えた。
そして、2人の正体について邪神からの神託を聞き、人類への総攻撃の命が下った。
指揮を高めるために《天使と仲が良く男女関係にある四人》を生贄の様に殺した。
そういう事らしい。
何だ、悩む事なんて無かった。
スカルとエルフ、そしてサキュバスが俺に優しかっただけだ。
他の魔族に借りは無い。
もう皆殺しで良いや…
二人には勝てない…だからパワーアップしなくちゃいけない。
「四人は危ないから此処に居て」
後ろから声がしてきたが、気にせず飛び立った。
【1時間後】
「あの二人が強いだけで他はこんなに弱いのか?」
「止めろー、止めてくれ、私は殺されても良い、だから息子だけは、助けてくれ」
「嫌だね、お前は俺と仲が良い、それだけでシャイン達を殺したじゃないか? それに俺は中立の立場を伝える気だったのにお前の部下が俺をを殺そうとしただろうが」
「それは2人がやった事で、私は歓待するように言ったんだ」
「だが、今は人類を滅ぼす為に動くのだろう?」
「それは…なら私を殺せ、息子は関係ない」
「此奴も四天王の一人だ、生かしてやる義理は無い」
「お前には心という物は無いのか」
「あるよ」
「止めろーーーーーっ」
「父上ーーっふぐ」
俺はそう言うと、聖剣で首を斬り落とした。
魔王はあらかじめ手足を斬り落とし転がして置いたから邪魔は出来ない。
「貴様、貴様、呪ってやる、呪ってやるぞ」
「魔王よ、俺はおまえの息子に拷問などしないで楽に殺してやった、拷問の上殺された4人に比べれば実に人道的だろう?ちがうか?」
《そうか、私は、此奴の逆鱗に触れてしまった、あの二人はやはり諫めるべきだったのだ、それが同調した結果がこれだ、拷問して殺した私達に対し楽に息子殺した…ならば、自分の方が優しい、この天使の言い分が正しい事になる、もう私の声は届かないだろう…和平のつもりがだまし討ちした挙句、魔族で仲良くなってパイプ役になる筈のアイラ達を拷問の末殺してしまった…無理だな》
「確かに私よりお前の方が人道的だ、さぁ殺すが良い」
ルディウスは聖剣シルビアンを魔王に突き刺した。
聖剣に心臓を突き刺された魔王はあっさりと死んだ。
そしてルディウスは壁にこう書いた。
「勇者リヒト 見参!」
自分だと気がつかれない様に偽勇者の名前を書こうと思ったら「リヒト」という名前が浮かんだ。
リヒト、何でこの名前が浮かんだんだ…解らない。
魔族に慈悲は要らない
運が良かった。
二人は歩き回る奴らで良かった。
出くわしたら、なりふり構わず速攻逃げる。
それで良い、殺した魔族の話では2~3日は魔族の集結の呼びかけに出ているそうで城には戻らないそうだ。
ならば、簡単だ、彼奴らが集結する前にこの魔王城の奴らを皆殺しにすれば良い。
彼奴への伝令はもう殺した。
しかし、全然レベルが上がる気配が無い。
魔王やその子供を殺したのだから、かなりレベルが上がっても良さそうだが、余り体感的に強くなった気がしない。
とりあえず、食料やら毛布を奪い、一旦奈落に戻った。
「「「「ルディウス様」」」」
「ごめんね、不便な思いをさせちゃって、これ当座の食料と生活品」
「それは良いのですが、ルディウス様、大丈夫ですか? 相手は堕天使、しかも天使長クラスと武神ですよ」
「逃げましょう、 人間側に逃げて隠れていれば暫くは大丈夫です」
「勝てません」
「あれはどうこうできる存在じゃありません」
「だけど、人間側にこれから戦争を仕掛けるみたいだ、だからいずれ捕まる、そう考えたらやるしかない…あと俺はこれから残酷な事をするつもりだ」
「残酷な事とは何をするのですか?」
「シャイン、俺はこれからエルフとサキュバスを除き、魔族は全滅させるつもりだ」
これは流石に引かれるだろうな….
「それだけですか? ジャンジャンやって下さい、残酷な位に殺してくれて構いません、いえ女子供に到るまで消毒と言う名の元に焼き尽くして下さい」
「私はアイラ程残酷な事は思って無いですが、ルディウス様がするというなら、ただ笑顔で黙って見ています」
「そうですね~良いんじゃないですか?」
「そうそう、エルフが無事なら問題ありませんね、あっサキュバスも無事なら問題無しです」
そう言われれば彼女達は拷問の末殺されたんだ《恨んでいて当たり前だ》
俺は結界を張ってそのまま此処を後にした。
「これから入口を崩すけど、いま結界を張ったから、此処は大丈夫だから」
これで魔族を殺して城を破壊すれば此処に彼女達が居ることは気がつかれないだろう。
そのまま奈落を後にして再び魔王城内に飛び立ち戻った。
そして、「エンジェリックアロー」そう叫ぶと周りを崩して奈落への入り口を塞いだ。
これで、此処はそう簡単に下に降りられなくなった。
もし、再び通じても、結界を張ったから、あの二人以外は彼女達に手を出せない。
攪乱する為には、天使でなく《勇者》の方が面白いかも知れない。
姿という意味では天使という者は凄く便利だ。
羽は出さずに、人間のルディウスの姿になった。
地下で拾った仮面をつけ、同じく拾った聖剣を手にする。
殺せば殺す程僅かながら経験値が手に入る。
だから、ここからはキルタイムだ。
「貴様、何者だ! 此処を魔王城と知っての狼藉かーーーっ」
まだ、魔王を殺した事が伝わっていないのか…
ならば…
「俺の名は勇者リヒト、最強パーティーブラックウイングのリーダーだ」
何故か、この名前が浮かび上がった。
恐らくは、前世で読んでいた小説の主人公か何かだろう。
「馬鹿な、勇者が単身でこの城に忍び込んできたと言うのか?」
「こんな城の攻略は簡単だ、聖女も賢者も要らない、俺一人で充分だ」
「何だと、皆、勇者が侵入しているぞ全員で掛かれ」
「ふっ…小蠅が騒ぐな、冥途の土産に良い物を見せてやろう…これが俺の奥義、光の翼だ」
何だこの技は、何処で覚えたのか解らない…親友が使っていた気がするが…
「なんだ、その技は、その様な技見たことも聞いた事も無いぞ」
1人生き延びていたか…
「教えてやろう、勇者は一人じゃない、これからは俺を含め、沢山の勇者がお前達を倒す..死ね」
堕天使ラファエルも武神トールも馬鹿だ。
あの二人以外は俺を倒す事は出来ない。
それなら、俺は倒す算段がつくまで、他の魔族を殺し続ければ良いだけだ。
「お前、何処から侵入したんだ」
「死ね」
「貴様、何者だ、此処は魔王…」
こいつ等は馬鹿か?
何故、そんな事を聞く必要がある。
これから《人》を殺すのだろう。
戦争する相手に、言葉なんて要らない。
もう、耳を貸さないと決めた。
残酷に罪のない者を拷問して殺す様な奴が頭だった。
そんな種族《ただ喋る事が出来るだけ》の獣だ。
「俺は、ただの料理人だ、戦う様な種族じゃないんだ..」
「王がクズだったから…死ね」
「魔王様が」
「魔王様と呼んだ時点でゴミだから死ね」
俺は天使だから生きている。
俺が天使でなければ、あそこで死んで骨になっていた。
そして彼女達もだ…
和平や中立を求めて来た人間に攻撃をしたんだ。
しかも重臣がだ。
そしてそれを王である魔王が認め、総力戦を挑もうとしていた。
総力戦なら《罪の無い者が死んでも仕方ない》
沢山の魔族が集まり、人間を蹂躙する。
そう決めたのなら…死ぬ覚悟もするべきだ。
村を焼き、子供も殺す。
そういう事をやろうとしている奴を王と呼ぶのなら、笑いながら死んでいけ。
人にやるのなら自分も殺される覚悟位持て。
「わ、私はただのメイドでただ給仕をしていただけです、助けて子供も居るんです助けて、たすけてーーーっ」
「魔王に仕えていたのなら罪がある死ねよ」
「私は執事です…今迄人を殺した事も無い」
「だから何だ? 俺の主である天使ルディウスは和平や中立を保つつもりで此処に来た、だがそんな主を殺そうとしたのは四天王だ、しかも魔王はこれから人を蹂躙するそうだ? されても仕方ないだろう」
「だが、私達はそんなの望んでいない」
「ならば、チャンスをやるよ《魔王はクズでゴミ、あんな馬鹿に仕えてごめんなさい、これからは魔王や邪神をゴミだと思い生きていきます》これを100回唱えたなら助けてやるよ」
「それは」
「お前から見たら俺はクズに見えるだろう? 今俺がやっている事の数倍、いや数十倍酷い事をしようとする奴なんだぞ?」
「それは言えない」
「ならば、死ね」
こいつ等も偽善者だ。
これから人を蹂躙しようとしている国の者なのに自分達がやられると《これだ》
魔族が村を襲ったら、残虐な事するのだ。
なら自分達もされても仕方ない、そう思え。
こんなのクズだって知っている。
「私はどうなっても構いません、娘、娘だけは…助けて下さい」
「そうか? ならば娘の前で死んで見せろ、それが出来たら娘は助けてやるよ」
「お母さん」
「どうした早くやれよ」
「…」
何だ此奴、娘置いて逃げようとしやがって..
「クズ女、死ね」
「お母さん、お母さん、おかあああああああさーんーーーっ」
「お前のお母さんが約束を破った…死ね」
「いやぁぁぁぁーーーーっ」
詰まらないな、騎士らしい奴もかなり出てきたが、全然相手にならない。
「貴様が、勇者リヒトだな、よくも魔王様とギルガ様を殺したな、敵討ちだ」
さっき迄の奴とは違う、明かに強いな。
「お前達は何者だ」
「俺たちは魔王近衛隊だ、直ぐにあの世に送ってやる」
全員で9人か、確かに今迄の相手とは違う。
鎧も赤い色で明らかに他の騎士より上等な物だ。
「そうか、やれる物ならやって見ろ」
強者との戦いがまた始まる。
覆水盆に返る
魔王近衛隊。
確かに強者ではあるが、あの二人とは全然違う。
「我は、イワノフ、我を前にして何人たりとも勝利は掴めない」
「本当にそうなのか? ならば行くぞ」
俺は素早く剣で突きを放った。
此奴は強者の筈だ、こんなのは簡単に…うっ..えっ
何で刺さっているんだ。
しかも…多分死んでいるぞ。
いや、これ位で死ぬ訳が無い。
俺は足で蹴飛ばしてみた。
「貴様、戦った相手を足蹴にするとは何事だ、今度は俺が相手だ」
「行くぞ」
俺は上段から斬りかかった。
何だ此奴も、まるで相手にならない。
このまま斬れてしまう。
何かあるのか..
本当に斬れてしまった。
多分、此奴も死んでいる。
「嘘だろう、相手の心が読めるイワノフに音速で戦えるジェッターがこんな簡単に倒されるなんて」
何だ、それなら相手にならない。
俺は天使だから心なんて読めない、音速、そんな物とっくに超えている。
まぁ、まだ彼奴にには追いつかないが。
最早、オモチャだな、なまじっか強い能力がある為にそれに頼る、
だから、簡単に倒せる。
「嘘だろう、気配察知のフランに究極の暗記の使い手デスが簡単に殺されるなんて」
結局9人全部が俺の相手にならなかった。
唯一善戦したのが怪力男だったが、武神の足元にも及ばない。
他の奴は何がしたかったのか解らない、何だかの能力者だったのかも知れないが。
今ではもう解らない。
もうこの城の中には俺の相手はいない。
そのまま、城の外にいってから…呪文を唱えた。
「サウザンドソード」
これは誰から教わったのか解らない。
1000を超える大きな光の剣が城に落ちていき、城を破壊した。
まだ、何処からも軍は集まってきてない。
ならば、俺は瓦礫を全部《浮遊》を使い取り除いた。
「エリアパーフェクトリバースヒール」
※リバースヒールは魔族性の者でも回復させる特殊なヒールです。
仮面と聖剣を仕舞い羽を生やした。
こんな魔法、誰が使っていたか解らない。
だけど、自分が使えるのだけは解った。
「私は死んだ筈では…」
「執事よ、生き返らせてやったんだよ」
「貴方は天使…様」
「まぁな、どうだったか勇者に殺された気分は、彼奴は俺の僕だがやり過ぎる所がある」
「その、敵である私を何故生き返らせてくれたのですか?」
「俺は此処に戦いに来たのではない、中立のつもりできた、だからチャンスをやった、執事なら主人が誤った時には注進するのも仕事だ、次は勇者や俺に殺されないと良いな」
「天使様…?」
「私は何で生きているの? そうだ、娘、娘は」
「おい」
「天使…様?」
「お前は一回勇者に殺された、だがな勇者の願いにより生き返らせた」
「何故、その様な事を、私達魔族は貴方の敵です」
「俺は中立でいようと思っていた、魔王や四天王はだまし討ちして俺を殺そうとした、その挙句、人類に戦争を仕掛けようとした」
「存じております」
「その身なり、かなり高位の身分なのだろう」
「はい、公爵夫人です」
「臣下なら、主を諫めるのも仕事だ、娘を失いたくないなら次は間違えるなよ」
「…はい」
メイドに料理人も騎士も全部甦らしてやった。
「嘘、私生き返ったの?」
「俺もか」
「次は無いぞ、つぎ、馬鹿な事を魔王がやったら、今度はもっと残酷な勇者を送り込んで全滅だ」
「ヒィ」
「お前等、ヒィじゃ無いだろう? 勇者が殺した者は全部甦らした…お前等魔族は殺した者はそのまま…実に俺も勇者も人道的だろうが」
「「はっはい」」
次は魔王近衛隊だ。
「どうだ、一度死んだ気分は」
「良い物じゃないな、貴方は一体」
「あの勇者の主、天使だよ…お前等に一度だけチャンスをやろうと思ってな、一度だけ蘇らせた」
「蘇らせただって、そんな事は神でも」
「ジェッター黙って、貴方様の起こす奇跡に感謝します、魔王様も甦らして頂けたのでしょうか?」
「ああっ」
「ならば、このイワノフ、この奇跡の感謝は生涯忘れません、二度と具を犯さない様に致します」
「そうしてくれると助かる」
「必ずや」
「そう、それじゃ俺は魔王の所に行くわ」
「はい」
「イワノフ、どうしたんだ?」
「俺は近衛の中では一番頭が良いと思っている」
「今更言わなくても、そんなのは皆、知っているよ」
「今更、何を言っているの?」
「だが、俺は知らないんだ」
「何をだ」
「死人を完璧に戻せる存在をな、死霊王のスカル様のはあくまで死霊、邪神様に昔、お妃さまの復活を魔王様がお願いしたが出来なかった」
「確かに、そんな事が出来る存在は知らない」
「邪神様にも出来ない事が出来る《あの天使様》は何者なんだ…」
「イワノフ? その理屈だとあの方は邪神様以上と言う事になるな、そんな存在少なくとも神じゃないか? まさか創造神?」
「話しが飛躍しすぎだが、邪神様より高位の存在なのは間違いないだろうな」
「兎も角、一度助けてくれたんだ…俺は次は間違えない。」
お妃か…
【魔王と】
「どうだ、魔王蘇った感想は」
「天使様…これは一体…」
「ああっ、お前も息子も生き返らせた」
「天使様が生き返らせたのですか? 息子も?」
「まぁな…なぁ、死ぬのって嫌だろう? 肉親が目の前で殺されるのは辛いだろう」
「はい….」
《人を蘇らせる…そんなのは天使じゃない《神》それも信じられない程高位の神だ》
「だったら次は間違えるなよ」
「はい、このご恩は決して忘れません」
《邪神様の話では幾ら生贄を捧げても出来ないと言われた…しかも一人生き返らせる事も出来ないと…まさか、このお方は創造神様》
「どうかしたのか?」
「いえ、行いを恥反省しております」
《何で身分をお隠しになるのか解らない…だけど、何かご事情があるのだろう》
「それなら良いや、俺は中立で居たいんだ、戦争は止めてくれないか」
「貴方様が、それをお望みなら止めます」
「そうか…なら俺から一つ褒美をやろう」
「何を…コーネリアス」
「お母さま…お母さまなのですか?」
「貴方、ギルガ…ただいま」
「コーネリアス、本当にお前なのか」
「お母さまーーーっ」
「感動の再開は後でやってくれ、お前達が一番欲しい者を俺は取り戻してやったんだ、絶対に戦争なんてしないでくれ」
「約束します、必ずや止めます」
「僕も、必ず止めます」
「それじゃ、この城を元に戻して、これで今回の件は終わりだな リバース」
時間が巻き戻るかの様に城は壊れる前に戻っていった。
《こんな奇跡を手の一振りで行える者は天使じゃない…絶対に神だ》
俺は奈落に行き4人を救い出した。
【再び魔王や魔族と】
俺は今謁見室にいる。
しかも座っているのは玉座だ。
座り心地は良いのだが…何だこれ。
しかも、その横にはアイラ、シャイン、ルナ、サイラが立っている。
「あの、ルディウス様、折角だから宴を開こうと思っています」
「そう、楽しみだ」
何だかぎこちない…
「あっ、アイラ、シャイン、ルナ、サイラ、この度は私達が悪かった、宝物庫から好きな物をひとつづつ持っていって良いから許してくれ」
彼女達にしたら拷問の上殺されたんだから恨みもあるだろう。
だが、出来たら仲直りして貰いたい。
「アイラ、シャイン、ルナ、サイラ」
「仕方ない、仕方ない、ルディウスが許しているんだから、三個、宝物庫から好きな物3個で許してあげるわ、シャイン達はどう?」
「それで手をうちます」
「そうね、仕方ないわ」
「その辺が落としどころじゃないかな」
「それじゃ、それで仲直りしてね」
「はい」
「「「「はい」」」」
魔王の顔が青ざめていたが、拷問迄して殺したんだ仕方ないだろう。
これで戦争は大丈夫だろう。
だが、あの二人には…到底敵わない。
これからどうするか、考えなくては。
【閑話】変わる信仰
私は悪魔神官に話を聞いてみた。
そうしたら、私の考えが間違っていない事が解った。
「天界にはルールがあり神であっても、死人を勝手に甦らす等してはいけない事になっております」
それは知っている。
だからこそ、あの邪神は、幾ら生贄を出しても良いとまで言った、私の願いを叶えなかった。
妃を蘇らしてはくれなかった。
「それは知っている、だがお前も見ただろうが、一人ではなく、沢山の人間を甦らした存在を」
「見ました」
「なら、あれは何なんだ?」
「不敬と言うのは無しで宜しいですか?」
「赦す」
「あれは、私が思うに創造神様だと思うんですよ! あんな人数普通の神が甦らしたら大変な事になると思うんですよね! それをあんなに簡単にやるなんてそれしか無い! 違うにしてもそれ位の存在だと思います」
「やはり、そう思うか?」
「はい、いや見れば見る程素晴らし存在です」
「そう思うか?」
「はい、正直言えばこんな邪神より、あの方を祀りたい…約束ですよ不敬罪は無しでお願いします」
「そうか、私もそう思っていたんだ…ルディウス様は妻を蘇らしてくれた、あのケチな邪神と大違いだ」
「魔王様?」
私は、邪神の像に剣を放り投げた。
剣は邪神像に当たり、邪神像は裂けて砕けた。
「これから、全ての邪神像は壊してしまえ、代わりに天使、いや神ルディウス様の像を飾る様に」
「魔王様」
「イワノフ、済まないこれはお前に諫められても、無理だ」
「何を言っておられるのですか? こんな素晴らしい提案反対などしません、今日中に城の邪神像は全て破壊し取り敢えずルディウス様の肖像画にでも代えましょう…神像は作るのに時間が掛かりますから」
「そうか、神像か、直ぐに手配を」
「既に執事のトルムカがこんな事になるんじゃないかと手配済みです」
「そうか、それなら安心だ」
「それでは、これからはルディウス様を祀って宜しいのですか?」
「当たり前では無いか、あんなパチ物の邪神みたいな神でなく本物の神を祀った方が余程良い」
「それでは今日からは、ルディウス様を祀る事にしましょう」
いつの間にか、ルデイウスは知らないうちに魔族に祀り上げられていく
【邪神SIDE】
一体、何があった。
魔王に状況を聞こうと思って神託を降ろそうとしたら…何故か降ろせない。
それ所か、信仰が少し落ちた気がする。
何が起きたんだ
他は兎も角、何故か魔王城周辺を見ようとしたが見えない。
まるでその部分が女神の物になった様に自分の力の干渉が出来ない。
何か恐ろしい事が起きそうな気がする。
【女神SIDE】
何か手を考えないといけない。
悲しくて下界なんて見てられない。
あんな、ルディウスの姿を見たら、怒りのあまり顕現して魔族を滅ぼしてしまうかも知れない。
だから、解決策が見つかるまで見ない事にしたわ。
早く、何か助かる方法を考えないと。
今何が起きているのかは神すら知らない。
再び
これで魔族の方は大丈夫だろう。
ただ、最大の問題がある。
あの二人とどう戦うかだ。
武器は、この錆びた剣を使う事に決めた。
聖剣は使った所で当たらない。
多分、此奴は魔剣なのだろう。
聖剣と違う波動を感じる。
力は弱いかも知れないが、当たらないよりはましだ。
結局、あそこ迄の事をしたのに、大したレベルアップにならなかった。
よく考えてみれば、現状で魔王すら瞬殺できるのだから、大した経験値を積めないのだろう。
今戦えば、前と同じ結果になるのは見えている。
そして、そう遠くない日に再び戦わなくてはならない。
あの二人が戻るまであと何日だろうか?
魔王の話ではおおよそ3日間位の様だ。
取り敢えず、俺は手に入れた錆びた剣を手入れしてみた。
七星…そこ迄しか読めない。
錆びつく前はきっと素晴らしい剣だったのかも知れない。
まぁ、錆びついても聖剣並みの魔剣だ、当たり前か。
あと3日間じゃどうやっても無理だろう。
どんなパワーアップをした所で、間に合わない。
「うぐっうーーーっ」
心臓が苦しい。
節々が凄く痛くなる…
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
頭が、首が腕が、痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
腰が背中が足が、痛い痛い痛い痛い
「ううっ、こんな時に体が可笑しくなるなんて」
「ルディウス様ーーーーっ」
アイラやシャインが心配そうに見ている中、周りが暗くなっていく感覚に襲われ意識を手放した。
「ううんっ…はっ」
「目を覚まされたましたかルディウス様」
「アイラ…今は何時だ」
「ルディウス様は3日間意識を失っていました」
「ラファエルとトールは?」
「魔族の諸侯を連れ立ち魔王様と話中です」
不味い、多分あの二人は人間との戦争を起こす事を推進する筈だ。
今の魔王は俺と話し合いで《それはしない》そういう約束をした。
下手をすれば殺されかねない。
魔王が死んでしまったら、確実に魔族と人間の戦争が起き、その結果人間が殺されかねない。
だが….俺が行って何が出来る。
俺は…多分勝てない…勝てないのは解っている。
《勝てないから見殺しにするのか? それは勇者はしない…死んでも戦う》
誰か知らないが、そんな声が聞こえてきた。
《お前は…だから》
聞き取れない。
だが、はっきり聞き取れた。
そうだ、負けるからと言って逃げちゃ駄目だ。
俺は…解らない。
兎も角、行かなくては。
【魔王SIDE】
「駄目だ、この戦いは中止する」
「それは無いぜ、魔王、折角俺自らが態々、魔族領を回り、諸侯を集めてきたんだぜ?」
「そうよ、面倒くさいのを我慢して集めてきたのよ! それに邪神ゲストリアも進軍するように神託を降ろした筈よ」
「確かに、だが、私が側近たちと話し合い決めた事だ、中止し人間との和解を目指す」
「たかが魔王にそれを決める権利があるのか?」
「何か勘違いしているんじゃないかしら、私達の正体を思い出しなさい」
「確かに、堕天使に武神、私より遙かに強いのだろう…だが、お前達は此処での地位は四天王の一人にすぎない、断る」
「どうしてもか?」
「どうしても断ると言うのね」
「断る」
「「それじゃ死ね」」
トールとラファエルが同時に動いた。
魔王は咄嗟に結界を張るが…パリンッ…薄いガラスが割れるような音がしてあっさりと割れてしまった。
このまま、このまま殺されて終わる。
魔王が、自分の死を覚悟した瞬間、素早く割り込んできた者が居た。
その割り込んできた者は2人の手を押さえると壁に投げ捨てた。
だが、2人はそんなそのままぶつからずに軽く回転すると、そのまま立った。
「ルディウス様」
「貴様、出来損ないの癖にまた阻むつもりか?」
「あんだけ無様に負けたのに? 死にたいのかしら?…天使だから大丈夫とか思わないでね。
再び、戦いが始まる。
VS堕天使
「はぁ~また来たって事は何か倒す算段があると言う事かしらね…良いわまた相手してあげる、トール…」
「はいはい、またお前からで良いぜ、此奴全然力が無くて面白くねーんだもの」
「そうね…そういう訳だから、また私が相手してあげるわ、但し今度は殺しちゃうからね、そのつもりで来なさいね」
俺は黙って錆びた剣で斬りかかる。
「あははっ聖剣だと斬れないから魔剣を使っているのね、だけど随分小汚い剣ね..そんなのしか無かったの?」
今度は、ラファエルは躱そうともしない、そのまま剣を手で受けた。
本来なら、簡単に受け止められるか、剣が折れる。
だが、俺には何故か腕が斬り落とされる画像が浮かんだ。
「うおおおおおおおおおおっーーーっ」
「斬れないわ、そんなんじゃ…嫌ぁぁぁぁぁーーーーーっなんでーーっ」
ラファエルの腕が宙に舞った。
「油断しすぎだ」
「もう許さないわ、美しい私の腕を斬り落とすなど、誰も許されません…殺して差し上げます」
「ラファエル、手を貸そうか?」
「トール、手を出さないで此奴は残酷に殺さないと気がすまない」
「そうかなら解った」
此処でトールが出て来たら詰んだ。
だが、今の俺は一対一なら可能性が出て来た。
だがラファエルは剣での攻撃を恐れてか間合いに入って来ない。
「その剣は危ないわね、奈落に落ちていたのね、貴方を殺したら、その剣は火山にでも放り込む事にしましょう」
天使長と言うのは異常だ。
既に斬り落とした腕がもう生えてきている。
「今度はこっちからいきますよ」
「神罰を受けろ…偉大なる、あれっ誰だ、力をサウザンドソード」
1000本の光で出来た剣が空に浮かびあがる。
その光の剣が全てラファェルの元に降り注ぐ。
「なっ何これ、こんな戦い方、私は知らない」
ズガっズガッザクザクザクッ、光の剣がラファェルを刻んでいく。
だが、致命傷にはならない。
「よくも乙女の顔に傷をつけてくれたわね、死ね」
ラファエルが俺の腕を掴んだ、その力のままに腕を弾き違った。
「これは先程のお返しでしてよ、これから本当の地獄を味合わせてあげますわ」
「パーフェクトヒール」
無くなった腕が一瞬で生えてきた。
「それも見たことはないわ…貴方何者? あの駄女神イストリアの眷属じゃ無いわね? けど無駄よ6代前の女神は上級神だったのよ! だから下手な下級神より私は強い」
だが、可笑しい、さっきからどんどん強くなっていく気がする。
多分、もうこいつ等に負けない。
「そうか、ならばこれはどうだ、《天の怒りを知れ、エンジェルブロー》」
「馬鹿ですわね、調子に乗って肉弾戦? 単純な強さなら天使長である私と天使の貴方じゃ比べ物になりませんわ…ぶばっーげふっ、そんな」
ラファェルはお腹を押さえ、口から血を流している。
「そんな馬鹿な、何故、何故回復がこんなに遅いのよ、しかも天使が天使長の私を傷つけるなんてあり得ないわよーーーっ」
何故こんな事が出来るのか解らない。
さっきから何故か不思議と戦い方が思い浮かぶ。
混乱している今がチャンスだ。
「ハ…の加護よ俺に手を貸せ、創造魔法ワルキューレ」
7体の赤い鎧にそれぞれの武器を持ったルディウスが現れた。
【魔王SIDE】
「やはり、創造神様だ、自分の分身を7つも作れる様な存在、私は知らない、あの邪神なんて到底及ばない」
「あれが、あの神が、戦争を止めた理由ですか?」
「魔公爵ザングル、集まって貰って済まないが、皆に国に戻る様に伝えて貰えぬか、此処までの路銀は私が出そう」
「そうですな…死人を甦らした所を見ておりませぬ故、にわかに信じられません、この戦いの勝敗で決めさせて頂きます」
「ならば良い、我らの神が起こす奇跡の数々見るが良かろう」
「解りました」
「なななっ、ちょっと待ってね…ね…話しよう、話…貴方絶対に只の天使じゃない…」
「行け―っ」
7体のルディウスが一斉に斬りかかる。
「くっ、そんな物…嘘、いやぁぁぁぁぁぁぁーーっ、そんなぁぁぁぁぁーーっ」
無数の剣戟によりラファエルは切り刻まれた。
そのうちの首の部分だけを袋に詰め…「風よ舞い上がれ」
ほかの部分は全て風で飛ばした。
流石の天使長とはいえ、首だけ、しかもそれが切り刻まれた状態なら、復活まで時間は掛かるだろう。
「ほう、元天使長の堕天使ラファェルを倒すとはな、久々に相手のし甲斐がある、教えてやろう、天使と《神》の差を…俺は武神、武の頂点に立つ者だ」
【閑話】 愛しい我が子 ルディウス
「そんな、何で死んじまうんだよ~」
ようやく出来た子供だった。
冥界神になった俺は、自分を愛してくれた女性全員と婚姻関係になった。
俺が神になった事で種族の違いのせいか子供はなかなか出来なかった。
冥界に居るから、嘗てのメンバーは歳も若いまま此処にいる。
寿命が長く殆ど死なない状態になったから、自然とそれぞれの女性と男女の関係になった。
そこには、ハービア様やワイズ様も居たが、やはり子供は中々出来なかった。
皆の中では誰が母親でも構わない。
もし、ケインとの間に子供が産まれたら、それは《全員の子供》として育てようそう決めていた。
そんなある日、遂に一人の子供が産まれた。
だれとの間の子かは解らない。
神になったケインの子は出産ではなく、突然赤ん坊の姿で現れた。
ワイズ様やハービア様曰く、神や天使は母親のお腹ではなくこの様にある日突然《存在する》と事だった。
その子は《沢山の母親》とケインの間で大切に育てあげられた。
「ハービアママ、おはよう!」
「おはよう、ルディウス、今日も可愛いのね」
《あのハービアがママだって》
《あんな笑顔見た事ないな》
「ケイン、マルス、わ.た.し.がどうかしたのかな?」
「ルディウスちゃん、皆、朝ごはんが出来ましたよ」
「シエスタママ、今日のご飯は~」
「今日のご飯は、大好きなハンバーグですよ」
「ありがとう、シエスタママ、大好き」
「ルディウスちゃんが大好きだって…ルディウスちゃんの為なら、私ナイフ二本でスカルの死霊軍団滅ぼしちゃいます」
いや、スカルはもう仲間だろうが…
「おい、何で我が滅ばされなければいけないんだ? 私が大切なルディウスの息子の敵になる訳ないだろうが」
「スカル様、これは例えですよ例え、あははははっ」
「しかし、ママね、自己中な僕がどうしてもあの子の前では、あの子中心になっちゃうんだよね、はぁ~あの子になんかしたら多分、僕は斬っちゃうかも知れない」
「ケイト、そりゃそうよ、私だって多分黒焦げにするわ」
「リタもケイトもそんな事言っていると嫌われるわよ? 私みたいに子供は大切に癒してあげないとね」
「腹黒聖女が何を言っているのかな?」
「まさか、お前に死後も面倒見て貰うとはな」
「リヒト、久しぶりだな」
「どうだ、子供を持った気分は?」
「ああっ、女の子を好きなるのとはまた別の愛おしさがあるな」
「そうだろうな」
皆から愛されケインの息子ルディウスは育っていった。
だが、
「何で、何でルディウスが死んでいるんだ」
女神ワイズは俯いていた。
「ワイズ様、可笑しいんです…ルデイウスが死んだら、此処冥界にくる筈なのに此処に魂が来ない」
「ケイン」
「可笑しいわ、この世界を隅々まで見て来たけど居ないのよ? 何処に行ったの」
「ハービア」
「多分、あの子は消えてしまった、人間は転生できるけど、天使や神は基本死なない代わりにそれは無い」
「そんな、ですが」
「多分ルディウスは半神半人だった、そんな状態で生まれたのも奇跡、長くは生きれなかったのでしょうね」
「「「「「「「「「「そんな」」」」」」」」」」
「私だってルディウスには滅んで欲しくない…幸いルデイウスは半神半人、だから、私の能力で人間の魂まで引き戻したの」
「それって」
「この世界の理からは外れるから、この世界には居られない、だけど他の世界でなら人として生きられるのよ…それしか出来ないわ」
「消滅するよりはましだわ、ワイズありがとう」
「ハービア、貴方がお礼を言う何て、貴方も….何しているの?」
「もう、ルディウスには逢えない、私をママと呼んだ子…大切な息子なのだから、私の能力と記憶の一部を分け与えているのよ」
「そうか、此奴は俺をおじちゃんと呼んだな…はははっ、なら武神の力も少し分けてあげよう」
「お二人には及ばないが、もう死んでいるから勇者は要らない、ジョブとして俺の《勇者》をあげよう、戦いの記憶と一緒に」
「待って…待ってってば..」
「私もママと呼ばれている一人だ、クルセイダーの私は、その防御の記憶と能力をあげよう」
「私は賢者の魔法能力をあげる…全部は無理でも種くらいにはなるわ」
「なら、聖女の私は癒しの力を」
「私は皆さん程の能力は無いですが、収納魔法の才能をあげます」
「「「くっ私は下位交換だから、せめて記憶をあげるわ」」」
「それなら《戦メイド》の私は家事の能力をあげますね、他の能力は皆が渡してましたからね」
「それなら、俺は魔法戦士だった頃の記憶をあげようかな」
「皆、何て事してくれるの…私の能力を充分に分け与えて、此処より遙かに下の女神イストリアの世界に送るようにしたのよ…そんな世界の人間にそんな過剰な能力を与えるなんて…あの世界なら、シエスタだって魔王討伐出来て無双できちゃう世界なのに…嘘、もう転生先は変えられないの…そうだ封印…封印しないと..」
《皆、過保護すぎるわ…こんな能力、封印しないと神ですら危ういし、絶対に大変な事になるじゃない》
VS武神
頭の中にまた声が聞こえる。
《武神って奴はよう、力でねじ伏せないと負けを認めないんだぜ》
「ならばいくぞトール」
俺は拳を振り上げ殴り掛かった。
「うわはははっ少しは見直したぞ、真正面から俺に殴り掛かるとはな」
「ほざけっ」
そのまま振りぬく勢いで俺はトールに殴り掛かった。
拳と拳がぶつかり、吹き飛ばされたのは俺だった。
「俺の渾身一撃に耐えるとは、少しだけ見直したぞ」
「それはどうも」
やはり、ダメージは無い、ただ力負けしただけだ。
なら、勢いをつければ良い。
距離を一端とり、そこから走り加速する。
天使の羽を広げ、そのまま急上昇して落ちる速度の加速に更に加速を加えそのまま蹴った。
それを受け止めようとしたトールはそのまま吹き飛んでいき岩にめり込んだ。
だが、流石は軍神、かすり傷位しか無い。
「ほうっ、俺に傷を与えるか、クズ扱いしたのは詫びよう、なかなかの使い手だ、最大の栄誉を与える、俺と戦いそして死ね」
「死ぬのはお前だ」
トールは手を上にあげた。
その瞬間に稲妻が落ち、トールの手に稲妻を纏った剣が現れた。
「武とは拳だけにあらず、武器の戦いもまた武、だが俺は武神、今迄武器を使った事は無かった、武神に武器を使わせた栄誉と共に死ね、歴史にお前の名前は永遠に刻まれるだろう」
「そうか、だがそれは剣が無ければ俺に勝てないという逃げだな」
「はははっ、何をいうのか、お前も剣を持っているじゃないか? 使って良いぞ、これで互角だ」
「成程、俺はこの剣を使えば良いんだな」
「そう言う事だ」
《馬鹿め、この剣の名はライトニングソード、聖剣の中の聖剣、恐らく地上では最強の剣だ、これ一本で奈落にある全ての聖剣を叩き折れる、最早俺に負けは無い》
「なら、行くぞ、手を貸してくれよ七星神剣…ん?」
【手をかしてやるぞ、小僧の子供】
刀身から錆が全て落ちて青く輝き始める、そしてまるで星を散りばめた様な輝きに包まれる。
「待て、それは神剣なのか」
頭の中に幾つものトールの斬り方が浮かぶ。
その中で一番、適切な物を選んだ。
「七星流星剣」
まるで流星の様な剣戟が無数に繰り出される。
その剣戟の前にはトールは成すすべも無くただ斬られえぐられていくだけだった。
だが、普通に考えたらただただ残酷な光景が、まるで宗教画を見るかの如く美しく見えた。
【ラファェルSIDE】
袋に詰められたラファエルは首だけ何とか復活していた。
天使の目で透視しながら戦いを見ていた。
「綺麗、凄いわね…何で私はルディウス…様を天使だなんて蔑んだのか解らないあんなに美しくて綺麗な存在見たこと無い、あの方は絶対に私より遙かに上位の存在、多分神、しかもイストリアみたいな実力が無い神じゃない、あれ程の存在、この世界に釣り合う様な女何て私しか居ないと思う…あの方なら仕えても良い..寧ろ仕えたい」
堕天使とはいえ元は天使。
天使は思ったよりも上下を気にする存在。
元天使長であり、自分より上の存在に殆ど逢った事が無いラファエルが《こうなってしまうのも仕方ない》のかも知れない。
【女神イストリアSIDE】
「綺麗…」
イストリアはうっとりとした表情でルディウスの戦いを見ていた。
今迄、勇者に力を与えていたが、その全てが殺された。
たった1人で頑張ってきたが、誰も味方の居ない孤独を味わっていた。
そんな中で誰かが私に与えてくれた《天使》
それなのに、敵には堕天使に、武神が居た。
そして、無惨にも私の天使はボロボロにされた。
もういいや、神界の事情何てしらない…私があの二人を殺せば良い。
罰を受けたって私は女神、死ぬ事はない。
禁錮の1000年位の罰で済む筈だ…それであの天使を救えるならそれで良い..
そう思って様子を見たら…
なにこれ? 凄いラファエルを圧倒している、これ絶対に天使じゃない、元天使長のラファエルを圧倒できるなんて。
初めて見た時に《凄く可愛い子》って思ったけど、今の彼はそう、人間でいうなら《凛々しい王子様》に見える。
女神の私が目を離せない。
女神が見るのは外見だけでない、魂の輝きも一緒に見えてくる。
女神は平等に見る存在、その私がルディウスには夢中になる。
どうしたらいいんだろう?
こんなに私を夢中にする存在なんて、居ない筈。
もしかして、これは私のお見合いだったのかな…
そうだ、何処かの神が、私の旦那になる様な眷属を送ってくれたんじゃないかな?
そうじゃ無かったら、突然私の前に《こんな存在》が現れる訳が無い。
処女神として生きて来たけど、あれ程の相手ならそれを捨てても良い。
いっそのこと、この世界の主神を彼に譲って私はその妻になっても良いかも知れない。
きっとルディウスと並ぶ私の像は…考えただけでも嬉しすぎる。
この戦いが終わって全てが片付いたら…婚姻の神託を卸そうかな。
そしたら、全ての人間に祝福を与えちゃおう、だって世界を本当に愛せそうなんだから…きゃはっ。
「だけど、本当に…私のルデイウスは綺麗ね…うん」
【創造神SIDE】
「何なんだこれは」
何処の世界に、天使長を倒し、武神を倒せる存在が居るというのだ。
持っている剣は神剣では無いか。
あの神剣は私でも造れない。
使った技の多くは、この世界にある物を遙かに超えている。
あれは、そう神だ。
しかも多分あれでも本気を出していない。
もしくは封印されている。
その封印された状態でも邪神に手が届く程強い。
じゃぁ、封印が外れたら、解らない、我にすら手が届くかも知れぬ。
もうあの世界の勝敗は決まった。
《イストリアの勝ち》だ、それはもう覆らない。
終わりだな…
【魔王SIDE】
「どうだ、我らが崇め奉る神は」
「異存はありません、直ちに軍を解散させます」
「それが良い」
「あの素晴らしさ、美しさ、魔族が敬うのに相応しい素晴らしい神です、生贄をとっても何も出来ないようなクズ邪神とは違いますな」
「何の代償も無く蘇らせる事が出来る、邪神とは全く違う」
「その通りでございます、魔王都の邪神像は全て焼き払ったそうです」
「そうか、これからは魔王国や魔王領全ての邪神像を焼き払い、ルディウス様の肖像画に変えていけ、ルディウス様の神像も出来るだけ早く完成させるように」
「ドワーフに急ぎ作らせております」
「うむ、完成が楽しみだ、巫女と言う歳ではないが、何故かあの4人を気に入っているようだからそのまま与えて、この城を越える神殿もこれから作るとして、後はどうすれば良いのだろうか?」
「まぁ、その辺りは後で要望を聞いて見れば良いでしょう? なんだったらエルフもサキュバスも種族事全部上げてしまえば良いのかもしれませんぞ」
「まぁ、あの種族は人間には物凄く美しく見えると聞く、それもありだ、ルディウス様は人間出身、それもありか」
剣事切り刻まれた武神はそれでも生きていた。
だが、それはほぼただの肉片にしか見えなかった。
その状態でも話せるというのは流石に武神と言えよう。
「俺の負けだ、この世に武神と生まれて…今迄負けなし、さぁ好きにするが良い」
ルディウスはラファエルの時の様に《首だけ残し》他を吹き飛ばした。
「楽しかったな、この戦い」
「そうか…」
それだけ言うとトールは話さなくなった。
戦いの後に…
「神なら神と言って下さいよ~本当に酷いんだから」
ようやく上半身だけ復活してきたラファェルが言い出した。
「いや、俺は多分天使だと思うんだが…」
「何言っているんですか~何か事情があるのかも知れませんが、ルディウス様って本当に奥ゆかしいですね」
何なんだ…俺をあそこ迄、見下して半殺しにしたラファェルがクネクネしていている。
何が何だか解らない。
「お前こそ、何言っているんだ、人の羽千切って二人して俺をボコっていたよな!」
顔を真っ青にしたり赤くなったり…何だ此奴。
「あれは…そうです、私は止めようと思っていたんですよ、ルディウス様に酷い事なんてしたく無かったんです、だけどトールが…トールが、そうトールに脅されて仕方なくしたんです、赦して下さい」
「お前ふざけるなよ! どちらかと言えばお前がノリノリだっただろうが…俺と戦ったルディウス様なら解りますよね、もし俺が信じられないなら、そうだ仕えます…仕官して絶対服従を誓いますから、今後の働きを見て下さい」
「待って、それなら私は妻になります、生涯かけてルディウス様を支えて生きますよ…それで…あははっ駄目ですか? なら側室でも構いません」
本当に此奴らが何を言っているのか解らない。
変わり身が早すぎる。
「お前等、何か企んでいるんじゃないか? 言っている事が解らない」
「それなら、そうですね….少し記憶を読ませて下さい」
悪意が無さそうだから、ラファエルの言う通りにしてみた。
【ラファエルSIDE】
「簡単に言うと、今迄に私の仕えていた神が冴えない三流会社の賃貸住みの課長だとしますね」
ハァ~何だかな、この世界でこんな話を聞くとは思わなかったな。
「それで」
「ルディウス様は、会社を起業して年収30億位ある優良物件、車はポルシェで住んでいるのはタワマンの最上階、しかも分譲で一括購入した、若きイケメン社長、その位の差があります」
「だから」
「こんないい神、逃がしたくありません…絶対に、まぁ一部間違っているかも知れませんが、それに天使って本来は上に仕えてこその天使です」
「それで」
「会社でいうなら今迄の神が潰れかけの弱小企業だとしたら、ルディウス様は上場企業の大手会社、その位差があるんですよ」
「そんな差がある訳ないと思うけどな」
「だったら、そうですね、私にダイヤモンドをあげたいと願って下さい」
「願うだけで良いのか?」
「はい」
まぁ願う位で良いなら別に良いけどな…
嘘だろうが、目の前に直径30?位のダイヤモンドが現れた。
「マジか?」
「ルデイウス様は戦いの中で7体も自分を作ったじゃないですか~、神や天使を7体も作れるなら、何でも作れますよね」
「それだと、《俺に貢がせようとしている》だけじゃないかな」
「違いますよ、馬鹿にしないで下さい《天使》とは天に仕える者ですよ、その辺りは安心して下さい、仕える事が決まったら、自分の命以上にルディウス様が大切な存在になりますから」
何でも、一回仕えてしまうと、全てが理想の相手に見えてしまうそうだ。
そして、既に俺にロックオンしてしまったらしい。
なんだか浪費癖のある彼女に無理やり押しかけられた、そんな気しかしない。
それに、何故か俺の記憶の中にある天使長はもっと凛としていて気高いような気がする。
「それ断る」
「そんなこんな傷物にしておいて酷いですわ…それに私を手元に置いてくれないなら…こんな世界なんて、こんな世界なんて滅ぼしちゃうから~」
そんな事を言いながら明らかに嘘泣きしている。
「解ったよ」
まぁロリでは無いから良い。
よく考えたら前世の俺はクズで、かなり性格の悪い女とも付き合っていたから良いよ。
【トールSIDE】
「生涯、ルディウス様に忠誠を誓います」
何だこれ…
俺を半殺しにして奈落に捨てた奴だぞ。
詳しく話を聞くと、武神にとっては強さが全てだそうだ。
「しかし、ルディウス様も酷いですな、手加減していたなんて、上位神界、しかもずっと遙かな世界から来られたならそう言って下さい」
上位神界…何だそれ。
俺は知らない。
トールの話は終わらない。
「多分数々の武勲をあげられたのでしょうな? 恐らく勇者として生まれ、そこから数々の実績をあげて神になったのでは無いですか? 本当にこのトールが仕えるにふさわしい方です」
誰だ此奴、何だか別人、いや別神だ。
「何で、俺がお前の主人にならなくちゃならないんだ」
「そんな事言わないで下さい…武神が手下に居れば便利ですよ、あっ、もし仕えるのが嫌とか言うならこの世界滅ぼしますよ」
ハァ~半分脅しか..
まぁ前世では此奴より性格の悪い友人も居たからいいけどさぁ~
そう言えば俺のステータスはどうなっているんだ?
ルディウス 種族:神(女神ワイズの治める世界レベルの神)封印解除済み。
LV ∞
HP ∞
MP ∞
ジョブ:上位神界の神(運命の転生者)
スキル:全知全能(本当に全知全能ではなく、人間が考えるレベルの殆どの事は簡単に実現可能)
冥界神ケインの眷属 (ただ一つの植物を除き全ての生きとし生きる者に愛される=どんな事をしても嫌われない、不死 容姿は15歳で固定され不老になる)
女神ワイズの加護 (幸運度∞ 神が関与しない限りどんな不幸も寄せ付けない)
天使長ハービアの愛(天使長ハービアの技の大半が使える)
武神マルスの加護(武神の技の大半が使える)
死霊王スカルの愛(冥界(死後の世界)にも自由に行ける、ケインの眷属の為更に一切の縛りは無い)
上級世界のメイドの家事能力(この世界でなら最高の家事能力を発揮する、どんな料理でも世界一に作れる 腐った物ですらピカピカに)
上級世界のクルセイダー能力(基本的に攻撃無効…だが神だから必要は無い)
上級世界の勇者の能力(勇者リヒトの能力をそのまま記憶ごと使える)
上級世界の聖女の能力(聖女の魔法が全部使える…しかも神になったので死人すら簡単に生き返らせる)
上級世界の賢者の能力(全ての攻撃魔法が使える…神なので必要ない)
上級世界の剣聖の能力(何でも斬れる、剣聖の技も全部使える)
上級世界のアークウィザードの能力(賢者がある為名前のみ表記)
上級世界のアークプリーストの能力(聖女がある為名前のみ表記)
上級世界のポーターの能力(神の力と合わさって∞に収納可能)
この世界の殆どの種族に信仰される存在、そんな者に危害を加える事など最早誰も出来ない。
その存在は全ての者の光であり、その慈悲は全ての者を幸せに導く。
彼を愛する存在は上位神界の者達、もし彼に危害が加わり死ぬ事があれば、この世界は簡単に滅ぼされるだろう。
何だ、これは..一体俺どうなっているんだ。
神々の決着…神の愛し方
【創造神SIDE】
流石にどんな存在か捨て置けないから鑑定してみた。
「なんなんだ、これは…」
不味いぞ、これ《上位神界》だと..
この世界の人間にとって我々は神だ。
神にとっての神は何か?
それは自分達より上位の世界に存在する存在=それが神だ。
つまり、ルディウス様は我々にとっても《神》になる。
しかも、どれ程上の神か解らない。
神託を望み、神に祈ってみた。
《女神ワイズ》《天使長 ハービア》《武神マルス》とは何者なのか…
なかなか神託は降りてこない。
暫くして神託が降りて来たら…我々が頼る上位の神のそのまた上の神が「雲の上の神だ」
そう言われたそうだ。
つまり…我々とは雲泥の差がある事だけは解る。
そして、上位神の言う事には「我々にとっての上位神が、くれぐれも彼を不幸にしないようにと頼まれたそうだ」
何を言いたいのかと言えば、我々所か、更に上位の神でも《顔すら見れない》その位の差があるらしい。
封印が解ける前ならいざ知らず、今のルディウス様に出来ない事等無いだろう。
しかし、何であれ程の存在が…言っては何だが、あんな人生を歩んでいたんだ。
最初から教えて貰えていれば、イストリアは確実に勇者に選んだろうし、それこそ大国の王子の第一子に生まれるようにして、神々の祝福を与えた。
何が何だか解らない。
そしてどうすれば良いのかも解らない。
神界ではなく人間界に産まれた…どうすれば、良いんだ?
不老不死だから此処に来ないで人の世界で暮らすのか。
それとも後にこちらに来るのか…全く解らない。
まぁ…良い、人界に居る間は幸せに過ごせるように、快適に…やる意味無いな。
此処に来たら、創造神を引退して後は任せよう…
上位の神の考えなど…我には解らぬし。
【邪神と創造神SIDE】
「創造神様、またイストリア側が何か不正をしたようだ」
見る影も無いな、まぁ一つの世界の信仰を完璧に奪われたのだ弱体しても可笑しくない。
「それで、どんな不正をしたというのだ」
「それは」
まぁ、信仰を奪われた時点でもうその世界は見えないだろう。
「説明は出来ないよな…お前は負けたんだ!」
「そんな訳は」
「お.ま.え.は.ま.け.た.ん.だ…そんな事も解らないのか」
「そんな訳は無い」
「ハァ~仕方ない教えてやる…元天使長の堕天使も武神も、天使に負けた、そして天使は神になり、魔族に君臨…その結果もうあの世界とお前のリンクは切れた、そんな所じゃな」
「そんな冗談を」
「冗談ではない、神が降臨している以上、あの世界はイストリアの勝ち、不死なのだからもう逆転はない」
「それじゃ、私はどうすれば良いのですか?」
「さぁ? 何処か別の世界に行くしかないが、もう神格も保てないのではないか? 今のお前を信仰してくれるような世界は無いだろう」
「…」
「まぁ、上級悪魔迄落ちてやり直した方がよかろう」
「…天使長に武神に天使…全部、これは女神側じゃないか? 何故こんな思いをしなければならない」
「お前..今更だな、何で気がついた時に言わなんだ! そうすれば、天使長と武神の排除は出来た、女神側からは出来なくても邪神側から言えば出来た、だが味方だから排除しなかった、お前の判断ミスだな」
「それにしても、これはあんまりだ、神から落とされた邪神など、今迄は無かった…完全に一方的にならない様に調整して」
「はぁ~聞こえんな」
「中立」
「聞こえんな」
「おい」
「煩いな、おまえは、ま.け.た.ん.だ…神の能力の無い者は此処には要らぬ、とっとと出て行け」
「だが、これは女神側が」
「だから、何でその時に言わなかった! 自分の味方そう判断したから、そのままにしたんだろうが、そこからイストリアは文句を言わずに…挽回した、それだけの事だ」
「一生恨んでやる、呪ってやる」
「創造神に向って、仕方ないお前は廃棄だ…」
「そんな、今のは口が滑って」
「いや決めた、滅びよ」
「こんなのって…そんな」
ルディウス様に何かされてこちらのせいにされたら困る。
後の遺恨を考えたらこれで良かったのかも知れない。
【女神イストリア SIDE】
凄い、凄い、凄い、あんなに手こずったこの世界も《女神側の勝利》で終わったわ。
さてと、神託でも降ろそうかしら。
《敬虔なる我が信徒よ…我が天使ルディウスが天使から神になりました》
《そして、魔族側の神になり、これから先は恐らく和平交渉になるでしょう》
《これからは争いの無い世界になると思います…もう誰もが傷つかない本当の平和が約束された世界です》
《真の平和が訪れたこの瞬間、この時を祝いましょう》
その声が世界中に流れると空には虹が掛かり、晴れなのに雨が降った。
その雨が体に触れると病気やけが治った。
「これは聖水だ…奇跡だ」
「女神様からの祝福の雨だ」
「恵の雨だ」
暫くすると又声が聞こえてきた。
《この世界は神であるルディウスに暫くの間預ける事とします…ルディウスは神、そしてゆくゆくは天界に上り、私と世界を治めるべき方なのです…私を信仰するようにルディウスを信仰なさい…そして困った事があればルディウスに祈るのです…きっと救って下さるでしょう》
その声が人界だけでなく、魔族界まで全部聞こえた。
恵の雨は魔族側に振り注いだ。
人族より、荒れた土地ばかりの魔族の地には緑が息吹、本来は魔族には毒である聖水が癒しの水になり降り注ぐ。
「女神イスタリア様も本当はこんなにも慈悲深い方だったのか」
「あの邪神が全て悪かったのだ、生贄まで取って、憎しみしかないわ」
「騙され続けたこの恨み忘れぬ」
「これからはルディウス様やイスタリア様がこの世界を治めてくれるそうだ…これで真の平和が訪れることだろうな」
「「「「「ルディウス様万歳」」」」」
「「「「「イスタリア様万歳」」」」」
魔族の方からも歓声が上がる。
【魔王、ルディウス ラファェルSIDE】
暫く、俺は魔王城に滞在していた。
居心地が凄く良いが….
「成程、ルディウス様は女神イストリア様の伴侶になられる方だったのですね」
いや、俺は女神イスタリアとはそんな関係に無い筈だ。
元々、この世界の住民の俺がそんな感情もつ訳が無い。
信仰する神を《そう言う対象に》見れる訳が無い。
だが、女神がそう言ってしまった以上は否定も出来ない。
人間の世界は一神教だ…その女神に全人類相手に恥などかかせられない。
「そうみたいだな」
「そうみたいだなって他人事に聞こえますが」
「俺は神として覚醒したばかりなのか…記憶が虫食いなんだ」
「その様な事が」
「ああっだから《神》として解らない事ばかりだ」
ラファエルとトールと戦った後に少しずつ変な記憶が蘇ってきた。
だが、これは…多分、俺を可愛がってくれていた人の記憶だ。
俺は、家族に愛されていないと思っていた。
アマンダは俺を本当に愛してくれてはいたが、あれは息子に対する愛ではない。
大好きな惚れた男への愛だ。
だが、俺にこの能力をくれた人達は違う。
純粋に一人の子供として俺を愛してくれていた。
《ママ》か…俺にもちゃんと愛してくれていた家族が居たんだな。
何だか恥ずかしいな。
「それなら、暫くお休みになられた方が良いと思います…どうぞ寝所でゆっくりなさって下さい」
寝所に入ると…
「何でラファエルが居るんだ?」
「私は貴方に仕える天使ですよ? 他の女に寵愛を与えておいて私にはないんですか?」
「いや、今日は本当に疲れているんだ」
「そうですか…それじゃ今日は…何て言うと思います?」
何だか様子がおかしい。
「死人すら蘇らせる神が疲れる訳無いじゃないですか? それでも疲れている何て嘘つくなら…《天使の癒し》これで大丈夫ですね」
確かに逃げようが無いな…人で無い俺には。
「そうだな」
そう言うとラファエルが俺に抱き着いてきた。
「ふあぁぁぁぁぁ…何これ、こんなのは知らない、あっあつ..あああああああっ」
俺はまだ何もしていない。
ただ見つめるだけでも…
「あああああっ、体が体が溶けちゃう..熱い熱いの…ハァハァハァ、こんなのってこんなのって」
本当に何もしていない。
だが、俺にも何故か快感が襲ってきた。
多分、これは…普通じゃない。
今迄に女を抱いた感覚の数百倍の快楽が体に感じる。
だがラファエルはそれ以上に大変な事になっていた。
眼はハートマークが浮かぶんじゃないかと思う程にとろーんとしている。
口からは涎を垂れ流し、股間からは女として見せたら終わる位の液体が流れていて…体から汗が噴き出ている。
そんな状態で俺に抱き着き…股間を俺の腕に擦っている。
見た感じ、まるで盛りのついた犬だ。
引きはがそうとすると泣きそうな顔になるので《そのまま》にした。
断じて俺は何もしていない。
服も脱がしていないし、胸すら揉んでいない。
ひとしきり快感を貪ると、ラファエルはそのまま気を失ってしまった。
何だこれ….
「本当に申し訳ございません」
ラファェルは顔を真っ赤にして土下座していた。
「いや、怒ってないし謝ることじゃない…それなりに俺も気持ち良かったし」
「そういって貰えるとたすかりますわ、私、ルディウス様が高位の存在と言うのを忘れていました」
「どういう事?」
ラファエルの話では高位の存在になればなるほど、愛の営みが省略されるそうだ。
そして神ともなれば《見つめ合いだけで》人間のSEX以上の快感を得られるらしい。
だけど、それじゃ《本当の行為》をしたらどうなるんだ。
信じられないな。
俺は愛おしい気持ちを込めてラファエルを見つめた。
「そんな、ルディウス様…駄目です、だからそんな…ああああああっ本当にああっ…あああっ」
お芝居と言う事は無いようだ。
「ハァハァハァ…あああっああああん、あっハァハァ」
とうとう涎を垂らし鼻血を出してヘナヘナと座り込んでしまった。
「悪い、本当だったんだな」
「ハァハァ、ルデイウス様酷い…こんな弄ぶなんて…でも幾らでも私を使って…下さい」
そのまま気を失ってしまった。
ようやく解った。
これが恐らくは《神の愛》自分の記憶の中にもあった。
だけど…これからどういう風に女を愛したら良いんだ。
聖女、賢者…その終わり。
これからどうしたら良いのか?
正直、解らないな。
魔族側は魔王を中心に一枚岩だから、お任せで良いと思う。
問題は人間側だ。
あそこ迄、イストリア様が神託をおろしたのだから大丈夫だと思うが…
「ちょっと行ってくる」
「お待ちください、私もお伴致します」
ラファエルがこういうが….どうしたんだ。
「ラファエル…その姿は」
「これですか? 私は天使長ですよ…何で天使が美しいと言われるか解りますか?」
「何かあるのか?」
「天使の中でも私の様に高位の者は自分が仕える者の理想の姿になります、流石に神の様に万人に好かれるとまではいきませんが…この姿はルディウス様の理想の姿の筈です」
俺は俗物なのかも知れない…最早、色々な記憶があって、前世かどうか解らないが、ラファエルは俺が好きだったアイドルそっくりな顔に、好きだったグラビアアイドル顔負けのスタイル、確かに理想の女性だ、確かにこの姿はまるで夢から出て来たみたいに俺の理想の姿だ。
「確かにな」
「でしょう? なら他の女は要らないんじゃないですか? 私一人いれば全て満たされますよ」
何か落とし穴があるかも知れない..
外見だけが好みでも中身が好みでなければな。
「確かに理想な姿だが、俺は神になったから、それだけじゃ駄目だな」
「まぁ解ってましたけどね」
「あぁ、それだったら、俺もついていって良いですか?」
「トールか、まぁ良いんじゃないか?」
「それでは行ってくる」
ラファエルとトールを伴い、人間の領の方に飛びたった。
【聖教国 中央教会】
「ルディウス様、とうとう神になられたそうで、そして遂に平和が..」
涙ぐんでいるな…
「ああっ、それで近くに魔王と、これからについて話しをして欲しいんだ、人類側の代表は教皇で良いのかな」
「はい、私めで大丈夫かと思います」
「それじゃ任せた」
「はい」
これでもう大丈夫だな、これで、ガキんちょと達の使命も終わり、彼奴らもガキらしく楽しく過ごせば良いんだ。
「ルディウス様、お帰りなさい…誰そのおばさん!」
「ルディウス様、誰ですか? その生意気なガキは? 本当に口の利き方も解らないわね」
「何ですって!」
「本当の事をいっちゃ悪いの?」
「無礼な、私の名はホワイト、聖女をしているわ、何て口の利き方をしているの…今直ぐ謝罪をしなさい」
決して二人きりで無い。
この場所には教皇に八大司祭にグレーテルも居る。
「確かにルディウス様の従者とはいえ、ホワイト様は聖女、その様な口の利き方は赦されません」
「そうです、教皇様に八大司教の門前で、聖女様と揉めるなど言語道断」
あはははっ面白くなってきたな。
八大司教のうち又一人だけペドロフが青い顔をしている。
あっ、やっぱり。
「無礼者、無礼者、無礼者…」
「そうですわ、私が如何に聖なる…」
「お前が無礼者、無礼者…とっとと土下座せぬか…無礼者、無礼者、無礼者、何が聖女だ、ただの人間が~っ」
ペドロフはホワイトの髪を掴み無理やり土下座をさせた。
「何するのよ、私はその女狐を」
「ホワイト さ.ま…その方は、天使長ラファェル様だ」
うん、俺に仕えたせいか、堕天使から天使長に肩書が戻っている。
俺が勇者や天使の時に《あれだった》なら今度は。
「ペドロフ、それならちゃんと言いなさい、教皇の私が、こんな礼儀知らずな事を本当に…」
「教皇…そんな礼は要らない、お前が知っている通り、俺は人間として此処で過ごしていた、その時の貴方の治世は見たが素晴らしい物だった、公式の場所以外は普通に接して欲しい」
今にも土下座しそうな教皇に、そう俺は言った。
「神、ルディウス様がそう言うなら」
神か…確かにな…
「それで、ガキ..これは口汚いわね、お嬢ちゃん、言う事があるんじゃないのかな?」
「うぎぎぎぎぎっ」
ホワイトが涙目でこっちを見ている。
「ラファエル、そう虐めてくれるな、俺の知り合いだ」
「ルディウス様がそう言うなら」
この場には教皇も八大司教もいる。
そしてグレーテルもホワイトも…
「ホワイト、グレーテル、もう聞いているかも知れないけど…もう魔族との戦いは終わった、これからは平和になる」
「そうだね、うんもう戦いは終わったわ」
「賢者の出番も、もうお仕舞、これからは本を読んだり好きな事が出来るわ」
「そういう事だよ…ホワイトにグレーテル、これからはもう好きにして良いんだ、パーティーは解散、これからは、好きに恋愛して、やりたい事を自由にしてい良いんだ、もう縛られる事はない」
「あのルディウス」
「…」
「好きな男と付き合っても良いんだ、聖女だからって遠慮する必要は無いよ、俺と結婚する必要もない、これからは自由だ」
「あっあっあっ…」
「ちょっとルディウス様」
「るるるる…ルディウスの馬鹿ぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーっ」
「ルディウス様…あれは無い」
「ルディウス様、生意気で嫌いな奴ですが…あれはちょっと可哀想です」
「いや、ラファエルにグレーテルはこれからは自由なんだぞ、そう言う事を俺は言いたかったんだが」
「あのもしかしてルデイウス様って天然なのかしら?」
「ラファエル様…はい」
何はともあれ…世界は平和になり、聖女も賢者もその役目を終わらせた。
本編の終わり
その後、教皇と魔王で最初の話し合いが行われた。
最初に決まった事は《これからは争う前に話し合いを行う》だった。
今迄みたいに問答無用に殺し合うのではなく、最初にお互いに話し合いをする。
これは多分大きな一歩だと思う。
また、それに伴い、お互いの領土の希望者100名にそれぞれ、移り住むという計画も建てられている。
昔読んだ小説の世界の様に一つの世界になって種族関係なく生きれる社会になれば…えっ。
「何だ水臭い…そういう世界を作りたいなら俺に命令すれば良いのだ」
「そうよ、このラファエルにお任せ下さい」
「おい、ちょっと待て」
勝手に俺の心を読んで、勝手に行ってしまった。
だが、それで良いと思う。
武神に天使長に任せておけばこの世界は安泰だろう。
もう、俺が何かしなくても世界は平和に回るだろう。
俺が何でこうなったかは本当に解らない。
死にたく無くて…ただ家族から愛して貰いたい…そんな少年の心。
日本という国でクズの様に生きた男の心。
そして天使を経て神になった心。
その三つが多分、俺の心だ。
それ以外の記憶等は、冥界神ケインの子供に生まれながらも直ぐに死んでしまった為に、パパのケインや沢山のママが俺に与えてくれた物だ。
本当は親父とか母親とか言いたいが、何故かそう思うと、泣き顔が浮かぶ…多分妄想だ..だよな。
しかし、本当に過保護だな、だけど《こんな俺にも愛された記憶がある》のは凄く嬉しい。
もうこの世界に大きな争いは無い。
だから聖女も賢者も要らない。
彼奴らはもう普通のガキんちょに戻って良いんだ。
この間、二人におはじきを作ってプレゼントした。
グレーテルは普通に喜んでいたが、ホワイトは最初凄くお礼を言っていたのに…
遊び方を教えて「俺の知っている、子供の遊びなんだ」と言ったら投げつけて出て行った。
何だか解らない。
何故か横でグレーテルが目を細めていたが意味が解らない。
これでやるべきことは終わった。
後は面白可笑しく生きようと思う。
おしまい
※ 本編はこれで終わりますが、此処から、アマンダの話や恋愛の話し等、SIDEストーリーがまだまだ続きます。
本編のあとがき
此処まで読んで頂き有難うございました。
この作品は、他のサイトで同じタイトルで書いていました。
ですが、削除した時に大半のデーターを無くしてしまいました。
その状態で他の作品から「もう一度読みたい」とリクエストを頂きまして、思い出しながら1から書いた物です。
それで大きな問題が…
実は最初の作品では、此処まで壮大な話ではなく、アマンダと結ばれた後は「ボウフラの様に面白おかしく生きていく」
それで終わりでした。
神や天使ではなく、伯爵で終わった話です。
文字にして6万文字。
ですが、感想を沢山貰えた事と、「パーティーを追放された挙句、幼馴染も全部取られたけど「ざまぁ」なんてしない!だって俺の方が幸せ確定だからな!」のケインのSIDEストーリーを読みたい。
そういうリクエストがあったので、ならばと書いてしまいました。
気がついたら24万文字。
私は10万文字以上の作品が上手く書けないのですが、この作品は苦も無く書けました。
本当に皆さまのお陰です。
有難うございました。
石のやっさん。
【閑話】冥界にてアマンダに再開
頭が痛い。
あと、俺がやり残した事と言えば、この世界で家族だった者の事だ。
俺には…神としてのパパやママから貰った能力があり冥界に行ける。
本当は親父とかお袋と言いたいが、呪いの様にそう思うと悲しい顔が見えてくる。
俺には凄く似合わないが仕方ない。
ラファエルに冥界への行き方を聴いてみたら、
「それなら、イストリア様に頼んでみますね」と笑顔で答えた。
ある意味天使って万能秘書も兼ねている。
そう思える。
所が、ラファエルが何か行動を起こす前に、目の前に凄く豪華なゲートが現れた。
「ルディウス、見ていましたわ、冥界に行きたいのですね、早速参りましょう」
「イストリア様、早いですね? まさか女神ともあろう者が覗き見してたんですか? ストーカー女神とか受けるんですが」
「そんな事してないわ」
「その割には随分早いですね」
「そんな駄天使は置いておいて行きましょう」
「駄天使? 文字が違うし、今の私はちゃんとした天使長ですよ」
「天使なら私を敬いなさい」
「あ~そういうのはちょっと、私やトールが仕えているのはルディウス様であって貴方じゃないわ」
「私だって女神です」
「何いっているのかな? それってルデイウス様の記憶の世界じゃ、直接勤めても居ないのに《私だって社長なのよ》とか言い出す痛い女じゃないかな? 私もトールもルデイウス様という優良企業に入社しているんであって、合同会社イストリアなんて変な会社に勤めているわけじゃないの? 解りますか? まぁ社長同士多少の付き合いがあるから、融通位利かせてあげようかな、その程度の存在よ」
「言わせて置けば…まぁ良いわ、ルデイウス、こんなアホな天使は置いておいて行きましょう? ゲートを繋げたからさぁ」
「ちょっと私も行く」
「今回は留守番してなさいな、ラファエルちゃん」
「そんな、意地悪しなくても良いじゃ無いですか」
「ちっ、ボソ《あんたは私の恋敵、連れて行くわけ無いでしょう》」
《何で女神の癖にそこ迄心が狭い訳? まさかルデイウス様の他の女性にも意地悪して》
《しないわよ…皆私の子みたいな者だからね、それに人間の寿命は60年前後、そしてこの神界に来るまでにルディウスは何百年、もしかしたら何千年掛るわ、そういう意味では女神の私にとっては僅かな時間だけ、ルデイウスがこちらに来るまでの僅かな時間だけ過ごす人だもん、心の広い私は赦してあげるわ》
《その広い心で、私も許して下さいよ~」
《駄目よ? 私と同じ様に不老不死の貴方はルディウスに纏わりつく寄生虫…赦す訳ないでしょう》
《….》
「おーい、2人してどうした?」
「何でもないですよ、ルディウス」
「そうですよ、行ってらっしゃい」
「どうしたんだ、ラファエル? 今回はついて来ないのか?」
「そうですよね、私がついて行かないと不便でしょうからついて行きます」
「…(チッ)」
【冥界にて】
「私がこの世界で冥界神をしているカムラと申します…ですが凄いですねケイン様の魂の息子様ですか…はははっ正直言いまして雲の上のその又上の世界の神ですね…あっルディウス様も、今の段階でもう私より数十倍の能力をお持ちです」
「自分では実感が無いですが」
「望まれたら、此処を譲って私が補佐官に落とされる位の差が…あっしないで下さいね」
「そんな事はしませんよ」
「助かります」
「それでは、先に事前情報をお話ししましょうか?」
「はい」
「まず、ヘンドリックの魂ですが、此処にはいません」
「どういう事ですか?」
「御存じかと思いますが、此処に居るのは転生する間の僅かな期間だけです、もうとっくに他の世界に転生させました」
「そうですか…ですが、何でこの世界じゃないのでしょうか?」
「実は」
【転生神 カムラの話し】
【ヘンドリック】
「ヘンドリックの魂を譲り渡せですって」
「そうだ」
「何で、只の子供の魂を態々他の世界に持って行くのですか?」
「実はその世界には《やんごと事無き御方》が誕生するかも知れないんだ、その方に知らないうちにあだをなした、だから引き離そうという考えだ」
「会わないから大丈夫なのでは」
「そうかも知れないが、その方が神になった時に《憎しみ》が湧くかも知れない、そうなったらその魂も可哀想だし、その方も愉快には暮らせまい」
「そう言う事なら仕方ないですね…それでこの魂はどちらに」
「上級世界 エルザ―ド、私の世界に持っていく」
「なななな、何も活躍しなかった魂が1階上の世界に行く…あり得ない」
「その代わり、セミからスタートだ」
「人なのにセミ….虫からですか」
「ああっ 魂でいうなら、この世界で聖人で、その中でも活躍した者のみが上の世界に行ける、その位の徳が必要なのだ」
「それは解ります」
「セミは殆ど害をなさないから、徳が溜まりやすい、だから、数万回セミとして生きて貰い必要な徳が溜まったら記憶を消して人として生きて貰うつもりだ」
「褒美なのか罰なのか解りませんね」
「まぁ、後に神になる存在を傷つけた、だがその人物に殺された…プラマイゼロって所だな、人では無くなるがセミからスタートは苦しいが上の階層の世界に行くという栄誉が貰えたんだ、良いんじゃないか…先々は人間に成れる保証付きで」
「成程」
「と言う訳で、ヘンドリックは上の階層の世界でセミに転生しました」
「ヘンドリックはセミに成ったんですか…」
まさかセミなんて結構酷く無いか…
「あの、ルディウス様勘違いしないで下さいね、貴方の様な方は別ですが、優れた世界に転生するのは魂的には凄く幸せなのです」
「そうですか…」
「はい」
まぁ、幸せと言う事なら良いか。
【アベル】
「アベル様は、異世界で勇者になってますよ」
そうかアベルは勇者になったのか…
「ですが、余り幸せでは無いですね」
「何故でしょうか?」
「いや、転生する時にある程度、要望を聞くのですが、元は英雄です、ルディウス様に失礼な事はしましたが、庇った事や詫びた事もあり、かなりプラスの人生が送れるはずでした」
「ならば何故」
はっきり言ってアベルには嫌な思い出も多いが、良い思い出もある。
そして、俺は父親であるのにアベルを殺そうと思った。
まぁ、俺が手を下す前に《死んでしまったが》それは恐らく…まぁ知るのは止めよう。
「はっきり言いまして《英雄》《魔法剣士》その辺りのジョブで貴族に成って成功して幸せな結婚出来る可能性が高い能力もあげられたのですが..」
「普通に良い人生だと思いますが」
「ですが、どうしても勇者になりたいという要望で、他の世界で空きがあったので廻してあげましたが、その世界の魔王はかなり強く、勇者は勝てないのが確実という世界でした」
「それじゃ、不幸になる確率は高いですね」
「あっ、でも死んじゃうけど幸せですよ! 勇者パーティーは美少女揃い、そして魅力値が高いからハーレム状態、魔族の幹部は弱いからそこまで勝てる、金も地位も女も全部手に入りますね…ただ20歳位で多分魔王に挑んで死にますが…ただこれはあくまで私の予想ですから、確実じゃありません…見て見ますか」
見れるのか?
なんだ、まだガキだな。
「あっ…」
「どうしたんですか?」
「これ、邪神ゲストリア..」
女神イストリアの言う事では、自分が戦った邪神ゲストリアがその世界の魔王を殺して魔王に居座ったそうだ。
「これ無理ですね」
「あの、戦って死んだ後のアベルはどうなるのですか?」
「まだ、英雄時代の貯金もあるし此処でも勇者としての徳の貯金も溜まるからその次までは幸せが約束されると思います」
「それなら良いか」
アベルは親として未熟なだけだった。
恨みもそんなに無い。
見知らぬ誰かとアベルなら、アベルを助ける位の気持ちはある。
だが…ルドルの方が100倍大切だけどな…
【アマンダ】
「久しぶり、ルディウス」
「久しぶりだね、ママ、アマンダ」
やばいな…ママ何て呼んでしまった。
これは、あの神たちのせいだ…
「ママ、随分甘えん坊になったのね神にまでなったのに」
「まぁな、アマンダは俺のマ…母さんだったし、この世界の初めての相手だった…最愛の人だったよ」
「そう…ありがとう、私ね神を産んだから《聖母》という特典で来世は幸せが約束されているんだって」
「そうなんだ」
「うん、聖女のジョブ貰って、王家の第一王女に生まれてね、確実に幸せになれる運の底上げもしてくれて、結婚適齢期には最高の王子様と出会えるんだって」
「良かったじゃないか」
「そうね…でもね、でもね私、そんな幸せより貧乏な農家の娘でも良い、魔法なんて使えなくても良い、ルディウス、貴方の傍に居たい..だけど無理なんだって…」
「ありがとう、アマンダ」
「無理なのは解っているわ…ごめんなさい、今日こうして会えたのも特別なのは解るわ…最後に会えて良かったわ、ルデイウス、最愛の息子、そして最愛の人」
「アマンダ」
「ルデイウス」
「ちょっと良いかしら」
「貴方は?」
「女神イストリア」
「めめめ女神様…」
「そんな恐縮しないで良いわよ、貴方は私の大切な方を産んでくれた方ですからね《女神の祝福》《眷属の種》」
「偉大なる女神イストリア様、何を….」
「貴方が転生する世界は私の縁のある女神の世界(まぁ二人して出来は良くなかったんだけど、負け犬女神二人組なんて言われて良く慰め合っていた位仲は良かったわ)だから祝福をあげたの、ちょっとした力とルディウスが好きな記憶が消えない様に…そして眷属の種をあげたから頑張れば天使に成れるかも知れない(ただ、私は未熟で眷属になれた人や天使になれた人はゼロなですけどね)これは可能性、本当に藁に縋る位の確率でしかない…もしルデイウスにもう一度会いたいなら、その僅かな可能性を手繰り寄せてきなさい、天使になりなさい、そうすれば会えますよ…人間には気の遠くなる位先だけどね」
「イストリア様…ありがとう、ありがとうございます」
「ありがとうイストリア」
「良いのよ、ある意味、あの方は私のとっても母ですから、ラファエルこれが女神と貴方の差…何しているの」
「天使の羽を広げて…アマンダに祝福を~ 天使長の名の元に天使長の祝福を~ ラララらぁ~これで良しと」
「あっあっあっ…ああーーーっ」
「何しているのよーーっ」
「貴方様は一体」
「私の名前は天使長ラファエル…今は理由がありルディウス様に仕えています」
「天使長ラファエル様って、あの太古の時代に邪神を退けて散ったという戦天使様」
「そうとも言いますね(本当は堕天してたんだけどね)」
「それで、そんな天使長様が私に一体何を?」
「アマンダお母さま、お母さまとなら私一緒に《ルディウス様を愛せる》と思うのよ…だからね天使にしちゃったの、天使の任命権は女神じゃなくて天使長の方が強いの、才能のある者を天使にできる…輪廻の輪はどうする事も出来ないけど、だから、あっちの世界でちゃっちゃと人生全うしたらこっちに来なさいね、待っているわ、まぁ人生60年ちゃんと頑張りなさいね…さっき女神が馬鹿してたけど《好きな男の記憶を持って他の男に抱かれる》なんて出来ないよね…だから処女こじらした女神は駄目なのよ、人生が終わったら記憶が蘇り天使に成れるようにしたわ…そしたらその羽で羽ばたいて此処に来なさい…それまで貴方の息子は私が責任もって預かるわ…待っているわ」
「ラファエル様…本当に有難うございます、このご恩は決して忘れません」
「そう、それじゃ手を..はい」
ラファエルは手をアマンダに差し出しそのまま俺の所まで連れて来た。
「ルディウス様、60年の別れですよ」
「ラファエルありがとう」
「仕えるのが天使です」
俺はアマンダを思いっきり抱きしめた。
「そろそろ良い?」
「はい」
ラファエルはそう言うとアマンダの手を引きゲートに送り出した。
「それじゃ60年後待っているわ」
「はい」
こうしてアマンダはゲートを潜った。
メイドを含み他の人間は既に転生した後だった。
それぞれ、皆ある程度の底上げがあり幸せになれるようだった。
特に俺の傍に居て俺を庇ってくれた使用人は、もれなく《魔法の才能》を後からつけたそうだ。
これでもう良い、家族の事も知れたしこれからは未来を見ようと思う。
王国?…知らないな…別にもうどうでも良いし。
【冥界】
「ありがとう、ラファエル、アマンダに」
「あははっ私は天使ですよ? ルディウス様に仕える者です、ルディウス様の為ならあの位…」
《早いうちに母親を味方につけておけば、将来は2人で抱え込む事も可能ですね…どうせ独占は無理ですから人数は少数、強い者とは手を組む、もう戦いは始まっているのですよ…イストリア様》
「あああっ何しているんですか…転生前の魂にしかも他の世界に行く魂に..こんな加護を与えるなんて」
「ラファエル、貴方なにしているのよ、天使の祝歌まで使う何て」
「私は天使です、知りませんよ? 責任をとるのは神です、まさかイストリア様はルディウス様に責任を押し付けたりしないですよね?」
「うぎぎぎぎ…まさかラファエル、最初からそのつもりで」
「天使とは神に仕える者なのです、私の唯一絶対神ルディウス様のお母様の為なら何でもします…ええっルディウス様が幸せなら他はどうでも良い事…と言う訳で、この責任はそこの女神イストリア様が責任とりますから、心配しないで下さいね冥界神様」
「それじゃ、その様に創造神様に報告しておきます」
「そんな」
ちなみに創造神は最初怒っていたが、ルディウス絡みだと聞いた為、イストリアは怒られなかった。
【閑話】人類最強?
私はアイナ、スラングラム貧乏子爵家の三女として生まれた。
貴族とはいえ、貧乏だから生活は楽ではない。
この世界は魔法が全てだ。
例えスラム出身であろうが、娼婦の息子であろうが、魔法が使えるだけで良い仕事が出来る。
うちの家系は、魔法が本来は使える家系だけど、兄は1種、姉も1種、そして私は0種。
この1種、0種というのは何種類魔法が使えるかという事だ。
1種は1種類、つまり、火や水等の属性の魔法を1種類使えると言う事だ。
兄は火の属性の魔法を、姉は水の属性魔法を使える。
私は0、つまり、何も魔法が使えない。
父や母は2種、スラングラムの家系は魔法に優れ、貴重な2種以上の者が生まれることが多い。
だから、兄や姉の実力でも親は不満なのだ…
まして0種の私は…
「あんたみたいな子がなんでスラングラムの家に生まれたのかしら? 出来損ないだわね」
「お前、浮気でもしたんじゃないだろうな? お前から生まれた三人は全員が出来損ないだ…しかもこのクズは魔法が全く使えない」
「そんな訳ないでしょう…お前のせいで恥をかいたわ、本当に腹がたつ」
この世界には魔法が使える人間は少ない。
だが、貴族は魔法が使える家系が殆ど、私の様に貴族で魔法が使えない人間は凄く少なく滅多にいない。
この屋敷で私を貴族の娘として扱う人間は居ない。
だから使用人として扱われる。
まぁ、魔法が使えないからか、使用人が仲間として扱ってくれて、虐めが無いのがせめてもの幸いかな。
「アイナ、お前は来月で8歳になるから、この家から出て行って貰う」
「役立たずを8歳まで育ててあげたんだから感謝する事ね…可哀想だからその時に銀貨5枚あげます、それで当家と関わりは無くなるからそのつもりで」
貴族に産まれると8歳までは基本面倒見て貰える。
それは遅咲きで才能が芽生える者がいるからに他ならない。
決して善意からのきまりじゃない。
才能0の私が言い返せる訳もなく…
「解りました」
それしか言えなかった。
悔しくて、悔しくて、何度、この世界の女神ナクア様に祈ったか解らない。
だけど、そんな事で奇跡は起こらない。
「アイナ、お前は寧ろここから出て行かれて幸せかも知れないな」
「そうよ、劣等生呼ばわりされて永遠にこんな所に居るよりは幸せよ」
兄も姉もこうは言っているが…
裏で「彼奴よりはましだ」と影口叩いているのを知っているわ。
まぁ、虐めをしないだけ、ましだわ…偶にお菓子とかくれるし。
だけど、これは同情とかですら無い。
自分より下の者がいる優越感からしている事、自分達は魔法が使える。
だから貴族で居られる、その優越感から私に施しをしているに過ぎないわ。
「ありがとう、お兄様、お姉さま、あと一月お願いします」
「ああっ」
「ええっ」
気の無い返事が返ってきた。
彼等は1種、貴族の中では一番下、恐らく、お兄様がこの家を継いだら男爵まで落とされる。
お母様は2種以上の魔法の才能のある女性を兄の婚姻相手に探したが見つからない。
子爵とはいえ貧乏な我が家に嫁いで来るような2種の女性は居ない。
1種と2種では大きな違いがあり、2種は将来が約束される。
庶民に産まれても、国に所属すれば騎士爵の地位は最低でも貰える。
そして、男でも女でも貴族から引っ張りだこなのだ…
3種となれば将来は宮廷魔術師が確定した様な者…4種なんてレベルは最早国内に数人しか居ないが雲の上の人だ。
ちなみにこの国の最高の魔法使いは「万能のネロス」5種の魔法を使えるという事で将来は王族との婚姻が約束されている。
まぁ私には関係ない事です。
私は使用人扱いなので、楽しい事は何も無い。
朝から晩まで働いて、ただ寝るだけ。
勉強もさせて貰えない。
そんな私の唯一の楽しみは寝ることだけ。
最近不思議な夢を見るの。
その夢で私はメイドだった。
夢なんだから王女でも良いと思うんだけど…何故かメイド、平凡なメイド。
いや、平凡じゃない《完全な行き遅れ》のメイドだ。
その世界の私は《アン》というメイドだった。
その夢の中にはルディウスくんという凄い美少年が居て、何故か家族に嫌われていた。
その夢を見ると必ず枕が涎だらけになる位の美少年、だけど今の私の様に才能が無い。
私はメイドだから傍に居ても何も出来ない、だけどルディウスくんに《生きていく力》を身に着けて欲しくて一生懸命仕事を教えている。
そんな感じ…夢位ヒロインにならせてよ…そう思う。
夢なら、ルディウスくんと結婚してハッピーエンドで良いんじゃないかな?
だけど、そんな事にはならない、ルディウスくんは母親と和解して、幸せそうに暮らす、そして私は奥様に信頼されルディウスくんのお世話を任される。
そこで大体夢が覚める。
ルディウスくんが本当に居たらな…まぁあんな綺麗な子はいないよね。
これは私の夢なんだ。
【1月後】
「約束の1月だ、明日には出て行って貰うぞ」
「これで貴方はスラングラムとは無関係、平民になるわ、これは手切れ金の銀貨5枚よ、大切に使いなさい」
こうしてスラングラムを私は追い出された。
知らなかった。
私は凄くあの家で嫌われていたんだな。
「出自証明はありますか?」
「それなんですか?」
「いえ、家を追い出されるにしても普通は今迄は家に居ましたという証明書が貰えるのよ、そうじゃないと何処にも勤められないよ」
そんな事は聞いてない…。
《スラングラムとは無関係》
そう言う事なの…最低限貰える、そんな書類も出さない。
そこまで、嫌われていたんだね私。
パン屋でこれじゃもう何処も働く事は出来ないんじゃないかな?
結局、私は冒険者にしかなれずに、冒険者になった。
魔法も使えない、剣も使えない私は底辺冒険者として生きていくしかない。
しかも、8歳の私に出来ることは下水掃除だけ、薬草の採取すら危ない…
「何でこんな、私になっちゃったのかな..生きていくのが辛い」
スラムで生活しながら、その日食べる物の為に下水掃除。
世界が辛くて、体を売ろうとした事もあったけど..
「顔は悪くないが、下水臭くて抱けねーよ」
下水掃除の臭いが沁み込み、スラムの男すら抱かない女にまで落ちた。
まぁ8歳で娼婦になるより良いか。
確かに自分でも下水臭くて、排せつ物の臭いがして、風呂にすら入っていない垢だらけの女、抱くはずは無いわね。
そんなある日、食事が欲しくて、ちょっと冒険心から《薬草採取》に出たら。
終わった、グレーウルフに囲まれた。
もう死ぬしかない…
《助けて女神様》
「呼んだ~ あら大変ね、女神の怒りを知りなさい…ゴッドネスアロー」
目の前のグレーウルフが一瞬で丸焼けになった。
「あああっ貴方様は女神、ナクア様…」
「良い子ね、私は天上から貴方を見てました」
「あの、助けてくれてありがとうございました…そんな女神様が助けにくるなんて」
「ねぇ..アイナ、貴方は幸せ」
「ぐすっ、幸せなんて程遠い生活です…」
「そう…あっそうだ、貴方の髪、あまり綺麗じゃないわね..水色の髪をあげる、私と同じ色の髪..ほらね」
「綺麗、これで少しは幸せになれたかしら?」
「女神様、綺麗な髪を有難うございます、だけどきっと直ぐに汚くなります」
「何で?」
「私は、真面な仕事に就けないので下水掃除していますから」
「何で、そんな事しているの?」
「魔法の才能が無くて、親からも見放されたからですよ」
「あはははっ、そうなんだ、だったら口あけて」
「どうしてですか?」
「良いから」
ナクア様の言う様に口を開けた。
すると無理やりナクア様が私の口に何かを突っ込んだ。
「く苦しい」
「少し我慢してね」
体が熱くて凄く痛いーーーーっ
「痛い、痛い、痛い、痛い」
「もうすぐだから我慢してね」
「何が起こっているんですか…」
「魔法の才能をね…あげたのよ」
「嘘、魔法の才能…本当に」
「そうよ…私って良い女神でしょう? 凄く感謝したくなったでしょう?」
「女神様ありがとう…これで死んでも..」
「馬鹿言わないでよ、死んだら困るのよ、それに体が痛いだけで、直ぐに治まる…平気だから」
「幾ら才能を頂いても、だれも私に魔法なんて教えてくれないですよ、ハァハァ」
「そんな不幸そうな顔しないで、不味いのよ…そうだ、ジャジャジャジャーン 賢者のジョブ、この世界には魔王は居ないから必要ないけど作ったの…これもあげる…ねぇ私って良い女神よね…幸せだよね」
「…ハァハァ 体が痛い、死ぬ程いたいよーーーっ」
「嘘、まだ不幸だと言うの? はぁ~仕方ないな、ジャジャジャジャーン 勇者のジョブ、これで無敵だよ! 私って素敵な女神だよね、幸せだよね..アイナ幸せでしょう? 女神が此処までしているんだよ」
「体が痛いーーっ辛いよーー誰からも愛された事も無かったし、寂しかった」
「こうなったら仕方ない、ジャジャジャジャーン、聖女のジョブーーっ! 回復魔法の頂点、皆の人気者聖女様、もうモテモテだよ、こんなジョブくれる女神様なんだよ? 凄く良い女神だよね? 幸せだよね」
「ハァハァハァ」
「嘘、まだ足りないの? それじゃジャジャジャジャーン 剣聖のジョブ、これで4職揃い踏み、この世界は魔王も居ないのに、最早人類最強はアイナだーーっ 幸せだよね? 良い女神だよね…私」
「ハァハァ…死にそうです」
「駄目、そんなの駄目なんだよ、アイナは幸せにならないと…もう大盤振る舞いだよ? 《女神ナクアの祝福》もう大丈夫だよね」
「ちが、ちが…体が死ぬ程痛いだけです」
「あっそうなんだ、パーフェクトヒール…どう?」
「有難うございます」
「良かった、それで、アイナは幸せ?」
「今迄は凄く不幸でしたが、態々、女神ナクア様が降臨してくれたなんて、私、私幸せです」
「今迄、見てあげられなくてごめんなさい、私も貴方が好きよ、アイナも私が好きよね、こうして降臨して会いに来る位貴方を愛しているわね…これからは幸せに生きなさい、そして私には感謝の祈りを捧げて、感謝してくれればそれで良いわ」
「あの、さっき私が苦しんでいた時に…」
「うん、アイナが幸せに成れるように力を貸したのよ、見て見る? ステータス はいっ」
アイナ
LV 10
HP 3200
MP 4800
ジョブ 賢者 剣聖 勇者 聖女
スキル:全ての魔法の才能(7芒星 本来はこの世界の魔法は六芒星(聖、光 火 水 土 闇)だがそれに+女神魔法が使える)
(剣補正(200%)剣を持って戦った場合は2倍の技量にあがる) (勇補正(300%)勇気を持ち戦う場合は3倍の技量に上がる。)
(限界突破(限界が無くなる)) (賢補正 全ての魔法が望めば使えるようになる) (聖補正 全ての回復魔法が使える)
(女神の祝福 女神に愛された人間の証し 多少の加護がありステータスがあがる)
「これは…本当ですか?」
「凄いでしょう? 私頑張っちゃったよ…今のままでも騎士団位簡単に壊滅できるし、頑張れば世界相手に喧嘩しても、負けないくらいにはなるよ? 良かったでしょうアイナちゃん」
「有難うございます、女神ナクア様」
「良いのよ、その代わり良い…一生感謝しなさいね」
「はい」
「それじゃ、もう会う事はないけど…良い、本当に感謝して祈ってね、アイナちゃん..それじゃ」
この世界に最早、アイナより強い存在は無く。
女神ナクアは神託で、アイナを勇者として教会に伝えた。
その結果…アイナは凄く幸せに…過ごせた…うんどうだろうか?
幸せだけど、迷惑も沢山掛けられたようなのでトントンの人生を送ったんだと思う。
【女神ナクアSIDE】
「ナクア、これをこの前、転生させた、アンというメイドに与えて欲しいのじゃ」
「何ですか? これ」
「魔法の才能じゃ、いやな、《アンというメイド》昔、上級世界の冥界神が人間だった時に助けた事があってな上がこれを与えるように言ってきたのじゃ」
「そ、創造神様の上」
「うむ、幾つか上の階層の神ですら顔も見たことが無い、更に上の世界の住民じゃ」
「あはははっ凄いですね」
「所で《アンの魂》は幸せかの? なんでもそこ迄の善行をしたのに報われない死に方をしたから、下層だが幸せに暮らせるようにお主の世界に送ったそうじゃよ…大丈夫かの」
「あはははっ大丈夫です、それなりの貴族の娘に転生させましたから」
「なら良い…もし不幸にしていたら」
「不幸にしていたら(ごくっ)」
「最悪、この神界事なくなる」
「冗談ですよね…」
「わははははっ冗談じゃ、優しい神だからそんな事はしないと思うから大丈夫じゃょ…それじゃ頼んだよ」
私は気になって下界を見て見た。
アンの転生したのはアイナと。
やべー、やべーじゃんこれ、不幸になって死にかけているじゃん。
ちゃんと貴族に…嘘、上の世界から来たのに魔法が使えないの…だからこんなの届いたの?
こんな上位の神から贈り物が貰えるような人を私が不幸な人生歩ませたのがバレたら…死ぬのかな私。
消滅処分….そんなの嫌よ嫌だーーーっ
まだバレていない、まだバレていなんだから、今から幸せにすればバレない。
うん、直ぐに幸せにすれば良いんだ…一刻も早く幸せにしなければ、私が危ない。
アイナ待っててね、この女神ナクアが直ぐに幸せにしてあげるわ…
こうしてばれない様にナクアは降臨した。
※ 世界によって時間の流れが違うという様に考えて下さい。
この作品は、本編キャラクターの《アン》の話ですが、もしかしたら設定に可笑しな所があるかも知れません。
IFの話として切り離してお考え下さい。
半分ギャグのノリです、お許し下さい。
(作者より)
【閑話】戦メイド降臨 リクエスト作品
「はぁはぁ もうお仕舞ですね」
まさか王国の王宮騎士団が遠征中に謀反が起こるなんて。
此処に居るのは王と王妃、第一王子と第一王女。
魔法が使えるからと王族付きのメイド兼ボディーガードになれたけど、駄目かなこれ。
守ってくれていた騎士はもう死んだ…もう此処には味方は居ない。
終わりなのかな…
こっちの勝利条件は騎士団が到着まで王族を守り続ける事。
今はもう隣国の境界まで来ている。
あと4時間、此処を守れば勝ちだ。
逆に、此処を落とされたら負けだ。
「イザベラ、もう良い投降しよう、そうすれば…」
「王様、無理ですよ、多分投降しても皆殺しにされるだけです」
「ですが、我々を引き渡せば、貴方は助かるわ」
「お母さま」
「お母さま、私ころされるの?」
「あははっ私上等な人間じゃないけど、幼い子供は見捨てられないのよ…素で話すのは赦してね」
「ですが、貴方はもう魔力がつきて魔法が使えないのでしょう?」
「そうですね…この奥に行って下さい、此処を私が通さなければ奥にはいけない」
「無理です…相手は数百います…貴方1人じゃ死んでしまいます」
「そうですね…ですがメイドとして主人は守りたいのです….まぁ無理そうですが、私が此処を通さないのはメイドとして矜持です」
「もう止めません…ですが」
「その先を言うのはよせ…忠臣に」
「イライザ…」
「イライザ…」
「王子様と王女様が応援してくれるなら、負けないよ私…王様、もし私が守り切ったら褒美はたんまり下さいね」
「約束しよう…」
《無理だ》
「それなら頑張らないとね…それじゃ行って下さい」
「頼んだぞ」
「頼みました」
とは言ったものの、魔力は無い、ポーションも切れた。
「もうこの杖も駄目だ…あるのは王妃様と王様から分捕ったナイフ2本」
あのまま渡したら自害しそうだから無理やり貰ったけど…
終わりだわね….
まぁ今迄幸せだったから良いか…
恋人は出来なかったけど幸せだったな。
恋人は…あの夢が悪いのよ。
あんな美少年に仕えていた夢を見るから現実社会の男が好きになれなくなるじゃない。
夢の世界でもイライザというメイドだった。
年下のルディウスという名前のご主人様に仕えていた幸せな夢。
それももう終わり…もう寝ることも無く此処で死ぬ。
《あなたルディウスちゃんが好きなのね》
何だ、この声は…
《しかもメイド…》
幻聴が聞こえてくる、凄く優しい声…聴いた事無い声
《自分の子供を愛してくれた人が死ぬのは忍びない》
何だ、この声、貴方は誰…
《貴方は私を知らないし、知る必要はないですよ…だけど私は貴方に感謝している》
誰なのかな、私は死ぬ寸前に幻聴を聞いているのかな。
《今はお休みなさい、起きた時にはこの悪夢は終わる…体を借りますね》
凄く優しい声…
《私は…エスタ》
そのまま私は意識を手放した。
「居たぞ、こっちだ」
不味い….
【戦メイド降臨】
「何だ、メイドか、逃げるなら見逃してやる、その先に王族が居るんだろう?」
「メイドとは主を守る者、敵に背なんか向けませんよ」
「あはははっ騎士に敵うメイドなどこの世に居ない」
「そうでしょうか? 私の敬愛するご主人様ケイン様の世界では冥途(メイド)とは死の世界らしいですよ、メイドを怒らせると死んじゃうんですよ~」
次々と騎士が集まってきた。
「何だ、メイド1人か? とっと殺すか、倒すかしようぜ…まぁ面は良いから殺さないで弄ぶのも良いかも知れないな」
続々と騎士が集まってきた。
「騎士って言いますが、主を裏切って騎士なんですか~思わず笑っちゃいますよ~、だから王宮騎士に成れないんですよ~」
「言わせておけば、命だけは赦してやろうと思ったが殺す」
「それじゃ、行きますね、戦メイドシエスタ参ります」
黒髪のメイドは名前を名乗ると一瞬で間合いを詰めた。
そして両手のナイフを軽く振ると、騎士のクビはそのまま地面に落ちた。
「あららっ弱いですね~ そんなんじゃワイバーンに勝てませんよ」
「此奴、凄く強いぞ、油断するな..囲めーーーっ」
「か弱いメイドが強い訳ないですよ~….ケイン様の仲間で一番弱いのは私ですからね」
最早、勝負にならなかった。
シエスタがナイフを振るうと簡単に首が舞う。
だが騎士達が剣を幾ら振るっても剣は当たらない。
「まさか、剣聖なのか? メイドなのに…」
「こんな動きクルセイダーでも出来ない」
「なぁに言っているんですか~ こんな拙い動きで剣聖とか言ったらケイトさんが怒りますよ? アイシャさんにも通じません」
「だったら」
「戦メイド…それで良いじゃ無いですか?」
【王族SIDE】
幾らたっても部屋に踏み込んで来ない。
だから、様子を見に行って隠れて見ていた。
「なんじゃ、あれは」
「魔法が出来て、ある程度出来るって聞きましたが…綺麗、ナイフ一振りで騎士が倒れていく」
「勇者様なのかな…戦メイド?」
「カッコいい…私イライザのお嫁さんになりたい」
「そんなこれだけ居た騎士が..騎士が..」
「貴方で最後みたいですよ…タコ坊主さん」
「待て、私は宰相だ..欲しい物は何でもやる」
「要りませんよ」
「そうだ爵位をやろう、なななっ男爵」
「要りません」
「ごめん値切って悪かった、公爵に領地…それなら良いだろう」
「要りませんよ? 私メイドですから」
そういってシエスタは宰相の首を跳ねた。
《これで終わりですね…さようならイライザさん》
メイドは力尽きたのか…そのまま倒れた。
【寝室にて】
「おう、どうやら目を覚ましたようじゃな」
「あれっ王様..王妃様」
「ありがとうイライザ、どれ程貴方には感謝して良いか解りません」
「イライザ、カッコ良かった、まるで勇者みたいだったよ」
「イライザカッコ良かった、私と結婚して」
何が起きたのか解らない。
「あの、だったらご褒美を下されば結構ですよ、勇者あはははっそんなにカッコ良かったのかな、あと王女様、私は女ですから結婚は出来ません」
「約束したから褒美は弾ませてもらう」
「そうね、あの条件で蹴ったんだから同じ位は」
「凄くカッコ良かった…戦メイド」
「イライザが男だったらよかったのに…でも凄くカッコ良かった王子様みたい」
えっ褒美…戦メイド…王子…何?
まぁ良いや、多分頑張ったから王都のお菓子かな…金貨10枚位は貰えるかな?
うん、私頑張ったよね。
後日、イライザは….
「イライザ殿、其方には公爵の地位と宰相が治めていたリグランの土地を領土として与え王国大報奨勲章を与える」
そう聞いて目を回して気絶した。
【閑話】鏡の前で笑うのは
「このままだとルディウスがどんどん離れていっちゃうわ」
私は凄く焦っている。
完全に相思相愛だと思ったのに、なんだか相手にされてない様な気がする。
「そうだね」
「そうだねってグレーテル貴方は悔しく無いの?」
《いや、薄々勘付いていたけど、ルディウス様の私達への想いは恐らく《妹》に対する愛だと思うんだけどな》
「悔しいも何も、私だってルディウス様は好きだよ、そして間違いなくルディウス様も愛して下さっているわ!(妹としてだけどね)」
「そうよね、ルディウスもちゃんと愛してくれているわよね」
「あのね、ホワイト、ちゃんと様つけた方が良いよ」
「何でよ」
「貴方は聖女、私は賢者なんだよ? ルディウス様は《神》なんだから当たり前じゃない?」
「うぐっ」
「うぐっ、じゃないわよ…それにホワイト、貴方はもう正室にはなれないよ!」
「うぐぐーーっ」
「だってそうじゃない? 天使長のラファェル様が居るのよ? ルディウス様が居たから思わずスルーしちゃったけど…天使長よ天使長、歴史の中でも降臨したなんて話、聞いた事無いわよ、天使長なのよ、貴方にとって信仰の対象じゃない? 話せるだけで光栄だと思わなければいけない存在の筈よ」
「そんな恋愛に地位なんて関係ないわ」
「ハァ~ ホワイト、あんた馬鹿なのね」
「酷いよグレーテル」
「地位が関係ないなら、益々勝てないわ、多分ルディウス様は年上が好きなのよ、そして周りの人達は年齢が関係なければ完璧よ」
「そんな筈は無いわ」
「良い、戦力の差を教えてあげる」
【グレーテルのメモ】
奴隷のミルカさん
黒髪、黒目を除けば、凄く美人で大人な感じ。
誰にでも優しく、傍にいるだけで癒される。
奴隷のレイラさん
容姿は確かに複雑だけど、そこを気にしないなら絶世の美女。
脳内で髪の毛と目の色を普通に変えたら…こんな美女そうはいない。
しかも理知的で人に尽くすタイプ。
マリアーヌ 元王妃
言わずとしれた絶世の美女。
理知的で癒し迄持った完璧な大人の女性。
王国一と呼ばれる、その美しさは今でもその片鱗を見せる。
フランソワーズ元王女
可憐な女性、思わず守ってあげたくなるような、男なら父性をくすぐられる。
マリアーヌ王妃の教育のせいか気品があり、落ち着いた雰囲気を持つ。
エレノワール元王女
きつい印象の理知的な美女。
嫁いでいく前はアカデミーに所属して数々の論文を発表。
ジョブで持っている訳でないが、その頭の良さから、賢者と呼ばれていた。
テレジア元王女
本来は正室になる予定だった。
勇者の妻になる教育をされていた事からかなりの強敵。
まだ詳しくは分析中。
「こんな感じよ? あのさぁ、私は正直言えば、ラファェル様は別にしても人間の中でも正室は貴方じゃない方が良いと思っているわ」
「グレーテル、親友なのに裏切るの?」
「私は賢者なのよ、情報分析も仕事なの…どう考えても天使長のラファェル様が正室、人間の中でならマリアーヌさんが正しいと思う」
「そんな」
【ラファェルと」
「私が正室…グレーテル、凄く見る目あるわね、そうだ私の加護あげるわ」
こんなに簡単に加護が貰えて良いのだろうか…
「そんな、私は本当にそう思っただけです」
「うん、うん、私は天使長だから嘘は通じないのよ…その気持ちが嬉しいから加護を与えたの、だけど正室は不本意ながら決まっているわ」
「誰ですか?」
「女神イストリア様よ…本当に腹立たしいけど、あっちは女神だからね」
「そりゃそうですよね….」
「そうよ、まぁ人間の中での序列は適当に決めて良いわ…そうね、貴方かマリアーヌ辺りが妥当かな」
「私かマリアーヌさんですか?」
「そうよ…私は、そうね、その輪から外れて構わない、適当にルディウス様と楽しむから」
「良いんですか?」
「こういう事言うのは酷だけどさぁ、私は天使長だから寿命は数万年もあるのよ、ルディウスは不老…そう考えたら人の人生60年、譲るのも吝かで無いわ」
「成程」
「まぁ、ホワイト以外なら誰でも良いわ」
「ホワイト以外ですか?」
「そうよ、あの子は駄目、だってあの子は聖女なのよ、ルディウス様は元より、イスタリア様や私にも仕える義務があります、信仰に全てを捧げる、それが聖女の筈、教皇の姿を見なさい、あれこそが正しい姿だわ、それに聖女なら戦いが終わっても真の聖女なら街で、つじ治療でもしている筈よ、私が知っている他の世界の聖女たちは皆、そうしているわ。まぁルディウス様が許可したような物だから文句は言わないけど天使長から見たら、聖女失格ね」
確かにそうだ、ヒーラーであっても尊敬されている者は良くボランティアで無料で治療をしている。
聖女…確かにそれが正しい姿だ。
「解りました、これは私の考えですが、形上、人間界では、ラファエル様が正室、その代わり人間の側室の中で本来の正室の仕事をする者を、側室筆頭にする、そんな感じで如何でしょうか?」
「うん、それは名案ね…私から教皇に話しておくわ」
これで良い筈だ。
「それでグレーテルは側室筆頭に成りたいのかしら?」
「それはマリアーヌさんで良いと思います、先に進めて下さるなら、私はマリアーヌさんに話をしに行こうと思います」
「解ったわ」
【マリアーヌさんと】
「私が、側室筆頭ですか?」
「はい、元女王様で、ルディウス様の妻の中で三人は貴方の娘ですから一番相応しいかと思います」
「あの、賢者である、グレーテル様がなんでしないのですか?」
「私は男女の営みの経験もありません、正直言えば学問馬鹿ですから」
「ですが、それならホワイト様が」
「あれが平等に人を扱えると思いますか」
「確かに、それでは引き受けますがホワイト様の対応をお願い致します」
「そうね…それは引き受けたわ」
【再びホワイトと】
「と言う訳なのよ」
「グレーテルの裏切者、薄情者」
「はいはい、何とでも言いなさないね、どう考えても神や天使長が居るのに聖女の貴方が正室に成れる訳ないでしょう」
「…もう良い」
「仕方無い事だよ」
「もう、解ったよ…」
そう言いながらホワイトは部屋に引き籠ってしまった。
まぁ1週間もすれば出て来るだろうからいいや…
私だって本当はルディウス様を独り占めしたい。
だけど、ある程度ルールが出来、その中で競争しなければいけない。
そうしないとこんなハーレムみたいな付き合いでは揉め事ばかりになる。
本当はホワイト、落ち込んでいる場合じゃないのよ?
貴方は親友だけど、恋愛は別。
私の勝機は貴方とテレジアより先に動かないと意味が無い。
私の最大の武器は賢者じゃない、私には兄が居る…これが最大の武器。
テレジアにもホワイトにも兄は居ない。
そこにチャンスがある
【鏡の前、グレーテル自室】
「えへへっルディウスお兄ちゃん」
「お兄ちゃん大好き」
「流石、ルディウスお兄ちゃん凄いね」
鏡の前でポーズをとった。
ルディウス様は年上が好きなんだから仕方ない。
子供扱いされているのも解る。
なら、私は《妹》になる。
賢者になる前の私は《妹》だった。
まずは妹分になってメロメロにして…最後には一人の女として愛して貰えば良い。
あの《おはじき》もそうだし、私やホワイトの為に魔王領に行ったのは《妹》の様に思ったからだろう。
ルディウス様は年上も好きだが、子供にも優しい..まぁ11歳の姿なのに。
だから、私は賢者から妹に戻る。
「妹はきっと最強だよ…覚悟してねルディウスお兄ちゃん」
グレーテルは可愛い顔で高らかに笑った。
あとがき
これで本当のお仕舞です。
多分、此処まで書けば、主要化キャラクターの将来についてある程度想像がつくかと思います。
私は、長編を書くのが苦手で、今迄殆どの文章が6万文字いかない作品が多かったです。
ですが、アルファポリス様に移ってきて、元のファンの人と新しく応援してくれる方のお陰で、
幾つかの作品で10万文字を超える作品を書く事も出来る様になりました。
この作品なんて26万文字、すごい快挙です。
この作品は此処で終わりますが、今書きかけの作品3作品をこれから更新していくつもりです。
それが終わったら、次は「新作」を新たに投降するつもりです。
最後まで有難うございました。
石のやっさん