幻魔の血

女神との邂逅
その日もいつものように教室で寝ていた。

僕は体の調子が凄く悪い。

薬を飲んでいるせいか 油断すると直ぐに眠くなる。

僕の容姿は、黒髪に赤み掛かった目、透き通るような白い肌、病的な感じだ。

クラスの女の子の一部は『儚げで綺麗』なんて言ってくれるが…僕としては『普通の健康的な体』に生まれたかった。

気がつくと僕は熟睡していたようだ。

だがこの日はいつもと違っていた。

「亜人くん(あひと)、起きて」

「亜人くんで最後だから早く女神様の所にいって」

「女神様? 何処の女神様?」

神様なんて碌な存在が居ない。

僕の身になにかが起きたのかな。

死にたくないな。

「亜人が寝ているときに異世界の召喚に呼ばれたんだ、そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルをくれるって。」

どうやら最悪の事態ではないようだ。

うん良かったな。

「冗談だよね」とりあえずそう言ってみた。

俺は周りを見渡した。 白くて何もない空間のようだ。

禍々しくなくて良かった『ちゃんとした神様』みたいだ。

「それじゃ、先に行くぞ、お前もジョブとスキルを貰ったら来いよ」

そういうと彼らは走っていってしまった。

どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に転移していくみたいだ。

僕は、女神様らしい女性のいる列に並んだ。

次々にジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後の僕の番がきた。

だが、ここで急に女神様がおかしな事を言いだした。

「あれっ、可笑しいなちゃんと、人数分用意したんだけどな?」

「どうかしたの?」

「異世界に転移する人数分、ジョブやチートを用意したんだけど、一つ足りないのよ…どうしてだろう?生徒の分ちゃんと用意したのよ」

「あの、もしかしてですが、先生の分カウントしなかったんじゃないですか?」

「あああっ、それだわ…どうしよう」

「僕は別に構いません…実は難病でそう長くありません、僕だけ元の世界に戻して下さい。多分その方が僕は幸せですから」

「あの..そういう訳にいかないのよ、この魔法は私が掛けたんじゃないの、向こうの世界の王国が魔法で呼び出したのよ…私はそのままじゃ不味いから、特殊能力を授けているだけなの」

「それじゃ行かないと言う訳にはいかないわけですか?」

「ごめんなさい…凄い物はあげられないけど、出来る限りの事はするわ『翻訳』『収納魔法』はあげられるわ…他に何かあれば言って」

実は僕はGIST(希少性ガン)だ。

本来なら手術をして治せるが『特殊な体』なので治せない。

事情があり、このまま死ぬのを待つしかなかった。

「女神様、僕はGISTという病気にかかっていて胃に大きな腫瘍があります、それを体から血を流さず取り出せますか」

「それなら出来るわ、貴方達の世界に心霊療法があるでしょう。私は女神なのよ、人間の霊能者に出来る事が出来ないわけないわ」

「それじゃ、それをお願いします」

「そんな事で良いの…はい…これで良いかな?」

嘘だろう…目の前に12?のボールみたいな腫瘍がある。

これで僕は死なないで済む。

もう余命まで出ていて諦めていたんだ。

生まれながらの体質で、本来なら手術を受け、グリペッグという薬を飲めば副作用はあるけどどうにか生活出来る。

だけど、僕はある事情で手術は出来なかった。

だから、嬉しい。

「女神様…ありがとう」

「本当にこんな事で良かったのかな?」

「充分です、ありがとうございます」

「貴方の同級生に上げたような強力なジョブじゃないけど、一般人には人気のジョブそうね『冒険者』のジョブをあげましょう」

「なにから何まで有難うございます」

「良いのよ」

「それじゃ…小瓶みたいな物ありますか?」

「小瓶、なんで必要なの?いいわはい」

僕は自分で指に噛みつき、血を瓶に詰めた。

「なにしているの? ヒール」

「女神様、これはプレゼントです」

「馬鹿な事はしないで良いわ…そんな邪神や意地悪な神じゃないわよ『血を捧げなさい』とか『対価を寄こせ』なんて言わないわ」

「すみません、ですがこれはお礼です受取って下さい」

「そこ迄言うなら頂くわ」

こうして僕は異世界へと旅立った。

御供(みく)一族

僕には人に言えない秘密がある。

それは僕が『最後の御供一族』と言う事だ。

御供一族とは、大昔は人身御供や生贄に代々されていた不幸な一族だ。

その血や体液、肉の味は天下一品。バンパイヤの真祖クラス曰く、どのような極上のワインもこの血に比べれれば水の如き味に過ぎぬ。処女の血ですら泥水の様だ。と言わしめる味を持つ。

その為、様様な化け物、神への生贄にされてきた。

だが、代々生贄や慰み者にされ死んでいった御供一族はある時から力を持つようになる。 

幾多の魔物に慰めにされ続け交配が続いたせいで、体は常人では無い位強い体になり、バンパイヤに血を飲まれ、時には慰み者にされ続けた結果、御供一族の体の中の血、その物に蝙蝠(バンパイヤモドキ)がすむようになった。

魔物や荒神すら好む、肉、その血や体液は人間にとっても『麻薬』を遙かに超える依存性を発揮する。

僕事、御供亜人(みく あひと)はそんな御供一族の最後の1人だ。

僕の見た目は、御供一族その者で、黒髪に赤み掛かった目、透き通るような白い肌、病的な美しさを持っているなんて言われているが、僕にはただの病人にしか見えない。

どんなに気を付けても健康的な体にならない。

僕の血に宿る蝙蝠は、最強の寄生型の三つ頭の蝙蝠(バンパイヤモドキ)は 真祖級バンパイヤクラスの力を持っていると養父から聞いた事がある。

そんな僕がよりによってGIST(希少性ガン)に掛かった。

本来なら手術で治せるが、恐らく手術をしたら僕の血の影響を受けて大変な事になりかけない。

だから…僕はこのまま病で死ぬしか無かった。

そんな僕の命を助けてくれた女神様には感謝しかない。

転移した先で
僕が目を覚ますとクラスのみんなは既に一か所に集まっていた。

その前に、明かに中世の騎士の様な恰好をした人物がいて、その先には綺麗な少女と多分王様なのだろう、偉そうな人物が椅子に座っていた。

「最後の一人が目覚めたようですね」

騎士の報告を受け、王様みたいな人物の前にいた美少女がこちらの方に歩いてきた。

「ようこそ、異世界の皆さん、私はこの国アレフロードの王女マリンと申します、後ろに座っているのが国王エルド六世です」

担任の緑川が代表で一歩前に出た。

「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も…だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」

「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」

「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、ほかのみんなはどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」

同級生が色々な事を聞いていた。

どうやらここは魔法と剣の世界、僕の世界で言うゲームの様な世界だった。

クラスメイトの一人工藤君が質問していた。

「ですが、僕たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かにジョブとスキルを貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ、召喚された方は素晴らしいジョブやスキルを持っています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」

これは僕には当てはまらない。

僕はこの世界の恵まれた一般人位の力だ..

「それなら安心です…有難うございました」

今はまだ、話せない…話せる機会があったら話さないと。

僕のジョブは冒険者だから、ごく普通な物の筈だ。

そして恐らくあの様子じゃ筋肉の強化も魔力もきっと普通の人レベルだ。

取り敢えず、クラスの皆の姿位は目に焼き付けておこうかな。

多分、僕はもうクラスの皆と会えないかも知れないからね。

「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください…測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」

僕は手を挙げた。

「そこの方、何か質問でしょうか?」

「はい、僕は、事情によりジョブやスキルは…普通の物しか貰っていません」

「詳しい事情は後で聞かせて貰います…心配はいりませんよ、まずは測定を受けて下さい」

「解りました」

まぁ同級生との違いを知る事位はした方が良いかも知れない。

鑑定
その後すぐに水晶による能力測定の儀式が始まった。

これは異世界から召喚した者たちのスキルとジョブ、能力が見て取れるものだそうだ。

僕も一番後ろに並んだ。

まぁ僕の場合は何も期待はしていないけどね。

測定を終えた皆は、はしゃいでいた。

「僕は白魔法使いだった、しかも白魔法のジョブがあったんだこれアタリじゃないかな?」

「私も魔導士だった、最初から土魔法と火魔法が使えるみたい」

「いいなぁ私は魔法使いだって、どう見ても魔導士より下よね、魔法も火魔法しか無いんだもの」

そうか、てっきりみんな自分のジョブやスキルは解っていると思っていたんだけど、僕以外は何を貰ったのかここに来るまで解らなかったんだ…測定して初めて解るのか

「気にする事はありませんよ! この世界では魔法使いになるには沢山の修行をして初めてなれるのです。魔法使いでも充分に凄い事です。」

「本当? 良かった!」

会話を聞く限り、魔法使いや騎士等が多いみたいだが、それでもハズレではなくこの世界で充分に凄いジョブらしい。

そう考えると魔導士がアタリで、大当たりは勇者、聖女、賢者、剣聖辺りの様な気がする。

実際には、聞き耳を立てて聞いている限りでは、凄いと思えるようなジョブは今の所「魔導士」位しかでて無さそうだった。

「やった、私、賢者だってさ、魔法も最初から4つもあるよ..当たりかなこれは」

どうやら魔法を使う、最高のジョブは賢者かな、そうすると魔導士は中アタリだな、大アタリは 勇者、聖女、賢者、剣聖当たりだろう。賢者のジョブを引いた白石さんを見た時に担当の人が驚いた表情を見せていたから。

「白石さん、賢者なんて凄いね…僕はこれからなんだけど、どれだけ凄いのか気になるから教えてくれないかな?」

「亜人君良いよ、その代わり亜人君の測定が終わったら私にも見せてね、絶対だからね」

何時見ても白石さんは可愛いな。

だが、こう言う気持ちを持っていても意味が無い、こんな事なら告白位して置くべきべきだったか。

多分、僕はクラスメイトとは別行動になると思うし。

「うん、わかった」

「はい」

白石 琴子
LV 1
HP 250
MP 1800
ジョブ 賢者 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1

「比べる人がいないから解らないけど..何だか凄そうだね」

「うん、何でも四大ジョブらしいよ!だけど、まだ他のジョブ 勇者も聖女も剣聖も出ていないから亜人君にもチャンスはあると思う」

「そうだね」

まぁ、僕のジョブは『冒険者確定』なんだけどね…僕は白石さんを見つめていた。

「うん? 私の顔をみてどうしたの? もしかして『愛の告白』かな?」

「ああっそうだな、白石さん..好きだったよ」

「ちょっと待ってよ…今の告白だよね…なんで返事待たないで行っちゃうの?冗談とかじゃないよね?『言質とったからね』」

今の様子じゃ満更じゃないのかも知れない。

だけど、聞いても意味が無い…僕は冒険者だし、普通の人間じゃない。

元の世界なら辛うじて人間で居られたけど…この世界じゃ多分難しいと思うから。

僕は多分、僕は君を幸せに出来ないからね。

◆◆◆

「これは凄い、勇者のジョブがでたぞ」

勇者は天城なのか。

まぁ、リーダーシップはあるし、女子に人気はあるから、妥当なのかな

剣聖が聖人

聖女が真理愛。

白石さん以外はこの教室のキラキラメンバー。

確かに全員目立つ人物ばかりだな。

そしてとうとう僕の番になった。

「ジョブに恵まれないって聞いたけど本当にそうだったんだな」

亜人
LV 1
HP 70
MP 30
ジョブ:冒険者 異世界人
スキル:翻訳. アイテム収納. 短剣術1

僕についての事はこの鑑定では何もバレないみたいだ。

良かった。

ある意味、僕は特殊過ぎるからね。

冒険者のスキルはあるから、多分、此処を出て行っても暮らせるよね。

後は話を聞いてから考えれば良いかな

良い人ばかりで困る。

その後、ちゃんと僕の為に時間をとってくれた。

マリン王女にエルド王、その横に騎士が居た。

『本当に良い国なんだな~』僕なんかにちゃんと時間をとってくれる。

よくライトノベルだと追い出せされるだけなのに…

「それで、先程の話ですが、どういった事なのでしょうか?」

どうやらマリン王女が話を代表して聞く様だな。

僕は自分に起きた事をしっかりとお話しした。

「女神様…やっちゃったんですか」

何だろう?

女神が失敗した事を普通に信じている…相手は神なのに何故だろう。

「あの、何故か女神様の失敗を普通に信じているみたいですが」

「ええっ、あの神様は素晴らしい方なのですが、良くやらかすのです。私が小さい時の事ですが、ある村が干ばつで困っていたのです。女神様に祈り続けた結果顕現なされて雨を降らして下さったのですが…」

「何か問題でも」

「洪水が起きて村が流されてしまったな」

「ええっ、死人も出ましたが『死にたてなら生き返らせる事も出来る、あははは』とか言って甦らして帰っていったそうです」

「マリンの言う事は真実じゃ…だが悪い神ではないのじゃ」

側に言う残念女神という奴かな。

そんな神は日本いや地球には居なかった。

本当の素晴らしい神の伝承は聞いた事はあるけど…

僕の一族絡みの神は『生贄を求めたり』『女を慰み物にする』そんな神ばかりだった。

我が一族には慰み者にされた挙句、食べられた女も居た。

残念でも何でも『素晴らしい女神』だ。

命を救ってくれたんだからね。

「良く解りますよ。 あの女神様は僕の命を救ってくれました。素晴らしい方です」

「ですが、貴方はこの世界で活躍は出来ません…」

「構いませんよ。それで僕はどうすれば良いのでしょうか?」

「そうですね、皆と一緒に訓練をしては如何でしょうか? ついていけなくなったら別の指導者をお付けします。魔王軍と戦うのは難しいでしょうから…1か月後の訓練終了時に、支度金と身元保証書をお渡ししますから、そこからは自由に生きてみたは如何ですか…幸い冒険者のジョブですから、普通のこちらの人の中では恵まれた方ですから」

「そうですね、それじゃ、それでお願い致します」

良い人達だな…困ったな『何処かに悪い人』居ないかな。

『殺して良い位悪い人居ないかな』

そうじゃないと僕…困るな。

お城の夜。
異世界に来て特別な補正が無いとこんな物なのかな。

余りに差があり過ぎるよね。

亜人
LV 1
HP 70
MP 30
ジョブ:冒険者 異世界人
スキル:翻訳. アイテム収納. 短剣術1

僕のステータスはこれだった。

だが、これには『本来の僕の力』は何も足されていない。

余りに特殊すぎて測定から外されたのかも知れない。

本当の所は解らないけど、まぁ良いや。

マリン王女の話では訓練が終わった後は自由にして良いみたいだから、それが終わるまで静かに暮らせば良いし、その後も静かに暮らせば良いさ。

『治安が悪い場所で』

この世界は盗賊が居て人権が無いみたいだし、スラム街もあるから何かと便利だな。

自分のステータスがこの世界でどの位なのか聞いたら…

「14歳位の少年で、少し才能がある程度だと思います。頑張れば騎士やA級冒険者に成れる位の素質はあります…ですが」

最後は気を使ってくれたようだ。

最初の差もかなりあるが、この差はこれからどんどん広がっていくらしい。

過去を思い出せば、昔の人間の方が体が丈夫だったそんな話を聞いた。

此処が中世位だとすれば…現代人より力があるのが本来は当たり前だ。

しかも病み上がりで普段から体の調子の悪い僕が、此の世界の才能のある少年と同じなら充分恩恵に預かっていると思う。

あの女神は…善良な女神だ。

そう言えば白石さんに自分の能力も見せる約束していたな。

俺は白石さんを探した。

見せても意味はないと思うけど…約束は約束だからね。

「白石さん、僕のステータスなんだけど…」

「あっ亜人君、話し合いが終わったんだね、それよりさっきの答えだけど、私も亜人君が好きだよ」

「ごめんなさい、僕は白石さんと付き合えないんだ」

白石さんは『賢者』これから表舞台に立つ人だ。

それに対して僕は『冒険者』物語で言うならモブだよ。

裏技を使えば、可能かも知れないが万が一が起きたら困る事になる。

だから、どんなに好きでも『僕は諦めるしかない』んだ。

「何で…好きだって言ったじゃない」

「僕には白石さんを守る力が無いから、僕のステータスじゃ、ついて行く事はできないから」

「嘘、それなら私が…」

「ごめん、それはしないで欲しい、白石さんは魔王を倒す四職の1人なんだから、僕が足を引っ張って怪我、場合によって死んじゃったら…自分が許せなくなるから、僕は一般的な異世界人(元日本人)にも劣るから…」

マリン王女が教えてくれた他の生徒の能力は僕の倍位違う。

四職(勇者 聖女 剣聖 賢者)どころか他の生徒にすら追いつけない。

工藤 祐一
LV 1
HP 200
MP 50
ジョブ 騎士 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、剣術レベル1  水魔法レベル1

坂本 典子
LV 1
HP 120
MP 190
ジョブ 魔法使い 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、火魔法レベル1 水魔法レベル1 

「此処まで違いがあるんだ…白石さん、もし僕がこの世界で生きる方法を見つけられたら、その時にもう一度告白するよ」

俺は白石さんの返事を聞かずに距離をとった。

白石さんは何か言っていたが聞くのが怖くてそのまま立ち去った。

僕は白石さんが好きだった。

だけど、僕は御供一族だから、一緒にいる未来はない。

だから、これで良いんだ。

これで良い…

◆◆◆

その日の夜には宴が行われた。

僕だけ参加させないと言う様な事は無く、普通に参加させて貰えた。

普通に立食形式でバイキングに近い感じだった。

幾人かのクラスメイトは貴族の方や王族の方としゃべっていたが僕が話す必要は無いので、ひたすら食べる方に没頭した。

僕の部屋も他の者達と同じ待遇の1人部屋だ…この国はよくある小説と違い、差別は今の所無いようだ。

運が良いのか悪いのか僕の部屋は、白石さんの隣の部屋だった。

未練がましく僕は白石さんの部屋のある方を向いて眠りについた。

白石さん御免なさい。
窓から見える月を眺めながら考えていた。

テラスになっているが、あえてテラスには出ない。

横を向いて白石さんと顔を合わせたら、平然としていられる自信が無いから。

白石さんが何となく僕を好きなのは知っていた。

だけど、僕は『普通じゃない』日本でなら、普通に暮らせて行けたかも知れないが、此処で平穏な日常が送れるか疑問だ。

聖女の『白金真理愛』は派手で口が悪いけど根は悪い奴じゃない。

勇者の『天城勇気』は文武両道を地で行く奴だし白石さんに気がある様な気がする。

剣聖の『剣聖人』も剣道少年だし悪い奴じゃない。

僕が居なくなれば、きっと天城か聖人あたりとくっつくと思う。

問題はないよ…あははははっうん、白石さんは大丈夫だ。

俺は傍にいれない、だから幸せを祈る事しか出来ない。

仕方ないよ…僕も普通の人間に生まれたかったよ。

◆◆◆

「きゃぁーーーっ」

白石さんの悲鳴が聞こえてきた。

僕は急いで白石さんの部屋に駆けつけた。

「なんだ、お前は…亜人じゃないか? 誤解するなよ、俺は白石を口説いてこれから楽しもうと思っていただけだからな」

「そうよ、亜人君なんで君が此処にいるの?」

そういう白石さんは自分から服を脱ごうとしていた。

可笑しい、さっき悲鳴が間違いなく聞こえた。

これは違う『目が虚ろだ、一番近い物は僕が知っているバンパイヤが使うチャーム』に近い。

天城が多分、何かした。

だが、確証はない。

だから、冷静に話す。

何も知らない振りをして冷静に話す。

「だってさっき悲鳴が聞こえたから」

「あっ亜人悪い、白石てめえが大きい声出すからだぞ、まぁ同意の上でする事だ問題は無いだろう」

何かが可笑しい。

白石さんは僕が好きだった。

幾らなんでも、これは可笑しすぎる。

さっき告白したばかりだ、自惚れではないが『愛されている』自信もある。

「白石さん、俺の事好きって」

「なんで、私が好きなのは天城くんだよ」

「もう良いだろう? お前は振られたんだ」

天城がにやりと笑っていた。

白石さんは俺が居るのに服を脱ぐのを止めようとしない。

『騙されるな…これは彼女の本心ではない』

俺の体の中に宿る『彼奴』がそう俺に伝えてきた。

『そうか…それでどうにかならないか』

『その答えを前はもう、知っているだろう?』

知っている。

僕は彼女を取り戻す方法を知っている。

だが、それは同時に彼女を『壊してしまう事』になる。

天城、お前が真面な奴なら、僕は諦めたんだ。

勇者のお前か剣聖の剣が白石さんに似合う、そう思ったんだ。

それが『魅了』みたいな物を使ってこんな事するなんてな…あははは良かったよ君が悪人で。

僕は自分で右腕に噛みつくと、そのまま食いちぎった。

肉が削げて血が滴る。

口の中の肉片が鉄の味をして気持ち悪い。

「天城君、教えてやるよ、軽い『魅了』なら、初期の魅了なら、恐怖や驚きで解ける事もあるんだよ」

そう言いながら、僕は『血』と『肉片』を白石さんの口に擦り付けた。

「お前、さぁ俺は魅了なんて使って無い、いきなり自分の手を食いちぎって気持ち悪いんだよ。いつまで此処にいる気なんだ、ほら邪魔だ出て行け」

「きゃぁーーっ、なんで私服を脱ごうとしているの? 何で天城君が居るの?..痴漢レイプ魔、死んじゃえーーっ」

白石さんは周りにある物を投げつけた。

「糞『魅了』が解けたのか、時間は幾らでもある今日の所は許してやる、だがな、俺は勇者だ、お前は俺の物になるしかねーんだよ」

「いや、嫌、嫌――――っ」

泣きながら白石さんは物を投げつけていた。

天城流石に不味いと思ったのか直ぐに廊下に出て行った。

白石さんの悲鳴を聞きつけて騎士が駆けつけてきた。

そして、その後ろからマリン王女が駆けつけてきた。

腕から血を流す僕を見たマリン王女は…

「一体何が起きたのですか?」

僕に説明を求めてきた。

『良い従僕鬼が手に入ったな』

僕の体の中の彼奴が語り掛けてきた。

僕は心の中で『白石さん御免なさい』…白石さんに心から謝った。

誓約
マリン王女と騎士二人と一緒に医務室に来ている。

横には白石さんがしがみ付いている。

自分の心が操られたんだ。

怖いに決まっている。

「大体、何が起きたのかは想像がつきますが、詳しく教えて頂けますか?」

白石さんは恐怖で喋れないから、僕の口から何があったのか話した。

「そうですか…やはり『魅了』を使われたのですね」

『やはり』この言葉が妙に引っかかった。

「やはりと言う事は王女様はこの事を知っていたのですか?」

マリン王女は目を反らしたまま僕の質問に答えた。

「…多分、こういう事が起きるんじゃないか…予想はありました」

「そうですか、起きたことは仕方ありません、今後はこういう事が起きないようにして頂けますか」

「それは出来ません」

今…マリン王女は何を言ったんだ…

「僕の聞き間違いでしょうか? この国は人の心を捻じ曲げる様な事を容認する様な国なのですか」

「気持ちは解りますが…諦めて下さい。 それに手遅れです。『勇者の魅了』は一度掛かってしまったら一時的に正常になっても、直ぐに勇者を好きになります」

「マリン王女、貴方は自分に使われてもそう言えるのですか?」

「王族と貴族には勇者の魅了を防ぐ呪印が刻まれていますから効きません」

「それで、天城は何もお咎めなしですか?」

「すみません…『勇者様』には何も出来ません。私達は魔王討伐を頼む身なのです。謝れというなら、幾らでも詫びます。此処を出る時のお金は多く払います。それで許して下さい」

「そうですか…それでは一つだけ約束して下さい。白石さんに掛けられた魅了を僕が解いたら、二人で出て行きます…その位は良いですよね」

「どうぞ…貴方がその子の恋人なのでしょう? 諦めきれない気持ちは解ります。ですがこの国が建国されて2000年誰もそんな事を成し遂げた人間は居ません…もしそれを成し遂げたなら、例え国王が反対しても私が認めます」

確かにマリン王女の言っている事は『ある意味正しい。勝手に呼び出して魔王と戦って下さい』そんな願いをしたんだ、文句は言いにくいだろう。

だが、犠牲になった者は堪ったもんじゃない。

自衛の手段をとらせて貰う。

僕は巻いて貰った包帯をとった。

流石にまだ血は止まっていない。

馬鹿な人達だ。

怪我なんか本当は回復魔法一つで治せる筈だ。

だけど、恐らく『勇者に逆らった見せしめ』を兼ねてそれをしなかった。

白石さんを正気に戻したのが『僕の自虐』そう考えたのだろう。

だから、そう何回も出来ない様に、完璧に治る回復呪文を使わなかった。

手当をしたのは、先生や他の生徒に嫌われたくないからだろう。

此奴は…天城側の人間だ。

立場からしたら、仕方ないのは解かるよ。

だけど…敵には間違いない。

あははははっ良い人じゃなかった。

良かったよ…あはははっ容赦しないで良いんだね…

僕は、流れ落ちる血をそのままマリン王女の口へ擦り付けた。

「貴様無礼だぞ!」

騎士が剣を抜こうとした。

「待ちなさい…良いのです。これで気がすみましたか? 貴方の気持ちを思えば仕方ありません…この無礼は甘んじて受けます…王女は詫びない…ですが貴方にはお詫びします」

そう言って頭を下げた。

もう遅いよ…

「すみません、これは決して無礼を働くつもりじゃありませんでした!『血に誓う』という気持ちの証です。僕は『勇者の魅了』から必ず白石さんを守って見せます。約束は忘れないで下さいね。 その結果『賢者』抜きになって魔王と戦う事になっても決して約束は違えないで下さい」

『従僕鬼、二人目ついに吹っ切れたのか』俺の体の中の彼奴が俺に話し掛けてきた。

「この国が始まって2000年、それより昔から『勇者の魅了』に勝てた人間は居ません。もし奇跡が起きて、貴方がそれを成し遂げたら…それを許します…アーノルドお父さまを呼んで下さい」

「姫様、王を呼んでくるのですか?」

「はい、この少年には確かに酷い事をしましたからね、この話はお父さまにもお話しして書面にし、印を結びます…ですが亜人殿、この賭けは絶対に貴方は勝てません。断言します」

「受けて立ちます…ですが、そこ迄僕が勝てないという勝負なら、少しチップを上乗せします。 僕が此処を離れる時に、僕側についた人間、全員連れていく、その許可を下さい」

「良いですよ…どうぞ」

暫くして王がこの場所にきた。

そして話しはじめる。

「騎士から全て聞いた。 其方の気持ちも解かる。だがどうする事も出来ぬ。 この約束で諦めが着くのならそれで良い」

そう言うと、一枚の紙を取り出した。

「それは何でしょうか?」

「誓約紙という物だ。契約の魔法が掛けられていてこれで結んだ約束は誰も違える事は出来ない」

悪人で無いかも知れない。

そんな事が頭に浮かぶ…もう遅いよ。

「お願いします」

「それではサインを」

王とマリン王女に俺がサインすると紙は破れそれぞれの体に入っていった。

「これで約束は成された…もしそれが出来たなら…命に変えても約束は守られる」

「万が一も絶対に起きません。貴方はきっと絶望します。もし見るのに耐えられなくなったら、城から直ぐに立ち去る許可も与えます。 助けて上げられないこの私や父は恨んでも構いません。ですが…民に八つ当たりする事だけは止めて下さい。悪いの民じゃありません…それだけは約束して下さい」

「それは都合が良すぎる気もしますが…良いですよ。約束します」

この勝負…もう負ける事は無い。

◆◆◆

部屋に戻った。

白石さんは恐怖からか僕にしがみ付いて離れない。

「亜人君…私、怖い、凄く怖い」

自分と石と関係なく操られたんだ怖いに決まっている。

「亜人君、本当に私は私で居られるの? 亜人君を好きだって気持ちがさっき天城君を好きって気持ちに書き換えられそうになったの…本当に、本当に亜人君を好きなままで居られるのかな、怖いよ」

本当に大丈夫なのか?

僕の『血』と『勇者の魅了』つい強気で言ってしまったが勝てるって誰が決めたんだ。

もし負けたら…まぁ良い…何もしないで負けるよりはよっぽど良い。

僕が黙っていると…

「亜人くん、さっき好きっていったじゃない? 私も大好きだよ」

あれっなんで服を脱ぎだしているんだ。

「服は脱がないで良いから、頼むから着て」

「亜人君が言うなら着るけど、亜人君なら何時でもOKだからね」

「ああっ」

「解かった、取り敢えず寝ようか?」

「うん」

白石さんは枕を部屋に戻って持ってきた。

白石さんはそのまま僕のベッドに潜り込むと横をポンポン叩いた。

まぁあれだけ、散らばった部屋じゃ眠れないし、あれだけ怖い思いをしたんだ。

1人じゃ眠れないよな。

◆◆◆

僕は自分の中に居る彼奴に話し掛けた。

『これで良かったのか?』

『俺からしたら、お前が初めて従僕鬼(じゅうぼくき)を持ったから、少し安心した』

従僕鬼になった。

僕は安心したと同時に悲しくなった。

従僕鬼とは『僕の血に嵌った人間』だ、僕の血欲しさになんでもする。

麻薬患者より遙かに重傷でもう僕からは離れられない。

ある意味『僕の血だけが欲しいバンパイア』みたいな感じで血欲しさに、俺に逆らえなくなる。

『気にする事はない…お前と血が最優先になるだけで他は変わらない』

『そうだな、仕方なかったんだ』

横でスヤスヤ眠る白石さんを見ながら僕も眠る事にした。

そのまま横で眠る事が出来ない臆病者の僕は毛布を使い床で眠った。

おまじない

朝起きると僕に白石さんがしがみ付いて寝ていた。

白石さんは無意志のうちに僕の首すじを吸血鬼の様に吸っていた。

これだとキスマークが出来ているかも知れない。

恥ずかしいと思いながらも僕は安心した。

今の状態は従僕鬼になった状態だ。

血や肉を欲しがる従僕鬼だが、同じ成分が混ざっているのか、汗や唾液も欲しがる。

此処はエアコンが無いから無意識に『汗』を求めて首筋を吸っていたのかも知れない。

そっと白石さんの手を振りほどいて軽く体をゆすって起こした。

「おはよう、白石さん」

「う~ん、おはよう…亜人君って..嘘、私の寝顔見た?」

流石に見ていないとは言えないよな。

「うん、凄く可愛かった」

「そう、それなら良いけど..」

やっぱり近くで見ると本当に可愛いよな。

綺麗な長い黒髪に、吸い込まれる様な大きな目。

色白な肌、それでいて僕の様に病的じゃない..本当に綺麗だ。

「さてと、これから食堂に行くわけだけど…ある程度は覚悟して置いた方が良いと思う」

「そうだよね、多分昨日の事は皆知っているよね…だけど相手が天城君だから…」

「ああっ、捏造されているかも知れない」

天城はクラスの人気者だ。

そして『天城勇気』『白金真理愛』『剣聖人』の三人はキラキラメンバー。

所謂、中心人物だ。

白石さんも人気者だが、どちらかと言えば地味な子からの人気だから対立なんて出来ないだろう。

それに昨日のマリン王女や王様の雰囲気だと、そちら側からも『こちらが悪い』という情報操作をされていても可笑しくない。

白石さんは『魅了』の事もあり心配そうにこちらを見ている。

この際だ、おまじないと言う事にして『血』をあげる事にしよう。

『血』さえ飲んでいれば『何も起きない』 ただ、僕を愛している、それだけの状態で居られる筈だ。

僕は右手人差し指を小刀で傷つけ白石さんに差し出した。

「亜人君、これなぁに」

「白石さんが僕を好きで居られるおまじない」

「おまじないかぁ…そうだ、はい」

白石さんも僕と同じ様に右手人差し指を傷つけて僕の前に差し出した。

お互いに口に含んで血を飲んだ。

僕は正直言えば関係ない。

だが『おまじない』なんだからしない訳にはいかないだろう。

「白石さん、そろそろ良いかな?」

「あっゴメン、何だか凄く嬉しくてつい」

気がつくと白石さんは僕の指がふやける位僕の指をしゃぶっていた。

そして、何だか顔も赤い。

昨日の事があったから怖いのかも知れない。

僕の腕にしがみつくように腕を絡めてきた。

◆◆◆

食堂に着くとクラスの皆が既に食事をしていた。

そして、騎士達が色々話していた。

不味い、既に捏造されたか…そう思っていたが、違った。

特に罰については話して無いが、昨日の事については嘘偽りなく真実を話していた。

天城と剣は面白く無いのだろう、此方を睨みつけてきた。

白金は興味なさそうに他の女子と会話していた。

緑川先生と幾人かの生徒からは「大丈夫か」と声を掛けられたが、多くの生徒はどうでも良い。

そんな顔で僕と白石さんを見ている。

案外この国の対応は平等なんだな。

そう思ったが…可笑しい。
騎士の話を全員が聞いていたのに『大丈夫か』と声を掛けて来たのは先生と数人だけだ。

このクラスには結構、正義感の強い奴も居た筈なのに…

女の子を洗脳して犯そうとした天城への抗議は無い。

可笑しい。

居心地の悪い状態で二人して食事を食べ、そそくさと部屋に戻った。

皆の様子が可笑しい。

「何だか様子が可笑しかった気がする」

「亜人君も感じたんだ、なら私の勘違いじゃないよね」

二人して話していると、マリン王女が部屋に訪れた。

「ハァハァハァ、どうでしたか? 何か違和感を感じませんでしたか?」

マリン王女は息が荒くなっている。

既に症状が出てきたのかも知れない。

「まさか、真実を伝えてくれるとは思いませんでしたが…その周りの反応が可笑しかった気がしました」

「ハァハァ…私やお父様は嘘をつかないですよ。ですが、勇者は周りから嫌われない。そういう能力もハァハァ、あるのです…だから」

「酷い事をしても誰からも嫌われない…そういう事ですか」

だからこそ、真実を話した、そういう事か。

「ハァハァ、その通りです。明日から訓練ですが…気をハァハァ使われた方が良いですよ」

「御忠告有難うございます」

マリン王女は、まだ僕達と話して居たそうだが…騎士に連れられて居なくなった。

下手すれば周りが全員的になるかも知れない。

そういう覚悟が必要かも知れない。

【閑話】血に飢えた女神
私は女神イシュタス。

異世界を管理する女神。

数年に一度私は異世界(地球)から私の世界に異世界人を転移させる神事をしなければならない。

この間私はその神事で大変な事をしてしまった。

1人分のジョブやスキルが足りなかったのだ。

本来は少年少女を転移するその神事に中年の男性が混じっていた。

それは彼等を引率する教師だった。

彼が巻き込まれた分、1つ足りなくなくなってしまっていたのだ。

そして、それに気がつかないで、ジョブとスキルを与えて送り出してしまった。

『もう取り返しがつかない』

どうして良いか解らない。

最後に残った、その少年は顔色が悪く、今にも倒れそうな顔をしていた。

『儚げな少年』

そのイメージが強く、長く生きられないんじゃないかな…そう思った。

弱みは見せられないから普通に話していたけど…

本当に難病持ちで寿命がもう長くない子だった。

『私は女神』

それなのに..私はその子の弱みにつけ込んだ。

『出来る限りの事はする』そう言えば彼が望むものは解っている。

病気を治す事だ。

確かに病気は治した…だけど、私は彼に『素晴らしいジョブもスキルもあげていない』

異世界に行く子なら必ず持たせてあげている…それをあげていない。

それなのに、彼は『血』まで捧げて行ってしまった。

私はこの様な供物を貰った事は無い。

普通に農作物等はあっても『血』などは貰った事が無い。

農作物だって本当に貰う訳じゃ無いわ。

魔族側の邪神や異世界の魔神には好む者が多いと聞いた事はある。

私は女神、生贄を望むような神じゃないわ。

これでも、慈悲深い存在なのよ。

だけど、これどうしようかな?

う~ん、どうしよう…邪神とか魔神とか悪魔はこれ飲んだりするらしいけど。

『まぁ、くれたんだから口位つけるべきかな?』

そう思い、指につけペロリと舐めてみた。

『…何これ、私はこんな美味しい物飲んだり、食べたりした記憶は無い』

ただ、舐めただけで、体が火照り、ぽかぽかする。

体の芯からくる高揚感は止められない。

ゾクゾクが止まらない。

人間の血が此処まで美味しいとは思わなかった。

気がつくと私は少年がくれた血を全部飲み干していた。

何なの…この快感は…女神になるまでには色々経験したけど..これはどんな経験をも上回るわ…そう、創造主に抱きしめられる、それすら上回るわ。

これを上回る快感なんて絶対に無い…邪神や魔神、魔族、吸血鬼が欲しがるのが解かる気がする。

無い、無い…もう無い。

欲しい、欲しい、欲しい…血が欲しい。

◆◆◆

「イシュタス様、貴方は女神なんですよ…それが血が欲しいなんて…」

「ハァハァ…だけど、駄目なのよ…一口飲んでしまってから…体が欲しがってしまって、疼きが収まらないのよ」

「本当に辛そうですね…まぁ、私は『成りあがり天使』だから解ります…いいですよ、手に入れてきますよ」

「ハァハァ…頼みましたよ」

あの子は『成りあがり天使』だ、成りあがりと言う事は元は『違う者』だった。

あの子が天使になる前は『上級魔族』それが神々の戦いの時に負け、改心して天使になった。

だから『血』の味も知っている。

暫くしてあの子が帰ってきた。

「控えて下さいよ…女神が生き血を欲しがっているなんて知られたら問題なんですからね」

「ハァハァ、解ったわ…頂戴」

「はい、14歳の処女の生き血ですから、極上品ですよ」

私は生き血の入った小瓶に口をつけた。

「ありがとう…うっ、不味い…ぺっ! なにこれ、美味しくない」

「嘘ですよね…これ極上品の筈ですよ、処女の生き血ですから…どれ..やはり美味しいですよ」

「ハァハァ、幾ら言われても、これは違う、ハァハァ疼きが収まらない、あの血がどうしても欲しいのよ」

全然違う、生臭くて美味しくない..こんな物口にしたいと思いません。

あの極上の豊潤さが全然ないのよ。

「それなら…そうだ、イシュタス様が飲んだという血の入った瓶とかありますか…」

私は、瓶を差し出した。

「クンクン…これは、バンパイヤで言うプラチナブラッド?」

「プラチナブラッド?」

「ええっ5億人に1人居るか居ないか、そういうレベルの最高級の血です…それを持っていればバンパイヤの真祖、王子、王女がどんなに醜く、品の無い人間であっても伴侶に求める。最高の血です。…でも、これは違います…幾らプラチナブラッドでも…あああーーっもこんな香りだけで高揚させたり出来ません..ああっこれはそれ以上ですよ」

「そんな、凄い血なのハァハァ」

「一体、何を対価にこんな物を貰ったのですか? 『ロード』のジョブですか? それとも、その存在の全部が欲しくなり、まさか貴方の伴侶として迎え入れる…貴方自身が対価ですか?」

「ハァハァ…そこ迄の物なのですか」

「只の血液だけでそれですよ…女神の貴方がそれです。バンパイヤや邪神、魔族ならきっととんでもない対価でも欲しがりますよ、それ」

「ちょっと待って、ハァハァ、それじゃこれは…」

「欲しかったら、その少年から貰うしかないですね…そういえば、それどうやって手に入れたんですか?」

私は経緯について話した。

「イシュタス様…またやらかしましたね! 女神が本当にみっともない」

「そんなことはハァハァないわ」

「はぁ『冒険者』『翻訳』『アイテム収納』? それ、本当は無償であげる物、しかも一段落落ちているし」

「このハァハァ血は、そんな価値があるの」

「多分邪神なら『何でも一つ無制限で願いを叶えよう、がはははは』とかいうレベルですね」

「そんな..」

「簡単に言えば極上のダイヤに銅貨1枚の対価しか払わない…ケチ女神です」

「そこ迄言う事は無いでしょうハァハァ」

「まぁ、頑張って『血の影響』が無くなる迄我慢するか…契約でもして定期的に献上して貰うしか無いでしょうね…あっもし、献上なら私も一口噛まして下さいね、おすそ分けお願いします」

今の私は…『献上』して欲しい。

それしか頭には浮かばなかった。

虐め

「あんたらに食べさせる、食事は無いよ」

白石さんと朝食を食べに行ったらいきなり言われた。

「それはどういう事でしょうか?」

「なんで、そんな事いうんですか」

嫌がらせを始めたのか…

何かしでかすと思ったが、こう言う手を使ってきたか。

「当たり前じゃ無いか? あんた能力も無い癖に、勇者様達を敵に回しているんだろう」

「それは、僕の恋人を天城が卑怯な手で狙ってくるからで」

「はん、勇者様は『この世界の為に戦ってくれるんだ』女の1人や2人喜んで差し出せっていうの」

「そうですか? おばちゃん、それは自分の身に降りかかってもいえるんですか?」

「どういう事だい」

動揺したな…多分この人には『身内に女性』が居る。

「確かに勇者の天城に僕は嫌われているかも知れないが、同級生でもあるんだ…僕は大切な人を守る為なら何でもする」

「だから、何だって言うんだい!」

「簡単さ、天城に僕はこう言うだけだ『白石さんを狙わなくても、おもちゃになる女なら、食堂のおばちゃんが娘や孫を喜んで差し出す』そう言っていたってね。おばちゃんは言ったよね。勇者様に『女の1人や2人喜んで差し出せって』」

「あんた一体何をしようと言うんだい」

食堂の使用人がこちらを見ている。

この嫌がらせは多分、このおばちゃん1人じゃない。

天城の『勇者は好かれる』その能力で自発的にやったのか、だれかに頼まれてやったのか知らないが..仕返しはさせて貰う。

相変わらず、遠巻きに天城や剣は僕をニヤつきながら見ている。

だが、自分の名前が出たことで少し表情が変わった。

「天城君~っ! ちょっといいかな?」

「何だお前、もう降参か?」

「違うよ、僕が守りたいのは白石さんだ。天城君に聞くけど『もし、白石さんより綺麗な女性が自由に抱き放題だったら』諦めてくれたりしないかな?」

「お前何言っているの? そんな話なら乗らなくも無いが頭が狂ったか? 芸能人クラスでも連れてきたら考えるぜ」

「そんな事しなくて良いよ、勇者って特別な存在だから『この世界の人間』なら女の1人や2人は差し出すのが当たり前なんだって」

「おい..」

「それでね『このおばちゃんには可愛らしい娘がいる』らしいんだけど天城君が欲しがるなら差し出すらしいよ! 自由にして良いみたいだから、おもちゃにするなり、性処理に使うなりすれば良いんじゃない? 他にも使用人は居るから、そいつを自由にするか、居なければ娘を献上させれば良いんだよ…僕は天城君みたいに勇者じゃないから、それは出来ない。だけど、天城君はこの世界の大半の女性を物に出来るみたいだから…憐れな僕に白石さんを譲ってくれないかな?」

我ながら鬼畜だと思うが…これで良い。

言った事の責任をとれ。

「亜人、それは本当か? だが、俺白石に魅了使っているんだ…」

乗って来たな。

「それは、知らなかったんだから仕方ないよ。手を出さないでくれたら助かる」

「ああっ、手を出さない。だが自分から来たら、それは俺の責任じゃないぞ」

「解っているよ。それじゃ、最初の1人『貰っちゃおう』 と言う事でおばちゃん。娘を今夜、天城君の所に連れてきてね」

「待って下さい…娘は婚約したばかりなんです。こんな事が知れたら婚約が破棄になります。許して下さい。」

「あれれーーっ。さっき言ったのと違うなぁ~、勇者の為には差し出すのは当たり前なんでしょう? 大丈夫、大丈夫、勇者に抱かれたならそれは魔王討伐に貢献した事になるからさぁ婚約者も寧ろ誉に思うよ」

「そんな、許して下さい」

「駄目だよ…そうだ天城君止めをお願いするよ『俺の為に娘を差し出せ』って」

「亜人…お前、こんな性格だっけ、まぁ良いや、そんなハーレムみたいな事が出来るなら『白石』には手を出さない。ただ、あくまで俺からだけだぞ」

「ありがとう、それじゃ」

「ああっ、俺の為に娘を差し出せ」

「そんなぁ~」

「おばちゃん、自分が言った事だよね?」

泣きながらもおばちゃんは首を縦に振った。
馬鹿だね…自分が言いだした事なのに。

「剣君も同じ事が出来ると思うから…欲しくなったらやると良いよ」

ああっ真理愛に睨まれている。

「聖人(せいと)まさかする気なの?」

「俺はしないよ」

「まぁそれは剣君の自由だよ…但しいつでも相手に困ったら『できる』それだけは覚えておいた方が良いよ…これは勇者と剣聖に許された特権みたいな物だからね」

「ああっ」

周りの使用人が怖い顔で睨んでいるが知ったこっちゃないな。

「それじゃ、そこのおじさん、勇者様と和解したんだ、2人分朝食頂戴」

「ああっ解かった」

「それじゃ、白石さん食べようか?」

「うん」

◆◆◆

この話なら天城は乗ると思った。

白石さんには『魅了』を使っているから『自分からしなくてもやがて白石の方からくる』そう思っているんだからな。

目の前に『おもちゃにして問題無い女』を無償で手に入れるチャンスがあるんだ。

見逃す訳ないだろう。

これで暫くは時間は稼げる。

ようやく後手で無く先手に出られるな。

ある少女の悲劇
「はぁはぁぜいぜい…もう駄目」

「亜人君…頑張ろう、あと少しだから、それにこれが終われば午後は座学だよ」

本格的に訓練が始まった。

ジョブの差は大きい。

僕は確かに、表向きの運動能力は体の中に居る『彼奴』のせいで良くない。

だけど、図書委委員の音羽さんが、まるでマラソン選手並みに走れるのには驚かされた。

余程良いジョブなのか、次々と他の皆を追い抜いていく。

クラスでも万年びりだったのにな。

あの事件以降、天城や剣は訓練をさぼっている。

廊下で偶に会うがもう、あの敵を見る様な目で見て来ない。

それどころか

「良い事教えて貰ったし、女世話して貰った様なもんだから、もう眼中から外してやる、まぁこれで貸は精算だ」

とか言い出した。

本当は元から『貸し』なんて無いが、機嫌を損なうのもなんなんで…

「ありがとう」

とだけ答えた。

手をヒラヒラさせて笑顔で去っていく天城と剣は何となく以前より気持ち悪く、以前とは違い爽やかさが全く無くなった。

それと同時に真理愛が2人と一緒にいる所を見なくなった。

真理愛と廊下ですれ違うと、鬼の形相で睨んでくる事が多い。

真理愛は訓練や座学に普通に出席しているので、もしかしたら最近は別行動をしているのかも知れない。

◆◆◆

白石さんと一緒に紅茶を飲んでいるが、使用人の様子が可笑しい。

僕を恐れる様な目で見ていた。

まぁ、あんな事が起きたんだから、自分は巻き込まれるのは嫌なのだろう。

自分の事を考えると『孤立する位』が寧ろ丁度良い。

「亜人君、あれ本当に良かったのかな?」

「自分で言った事だから仕方ないんじゃない? 僕がしたんじゃなくて相手の言い分をそのまま天城に伝えただけだから…『魔王を討伐してくれるんだから』そう言うなら僕達じゃなくてその恩恵に預かっているこの国の人がまずはするべきだ」

「そうだよね…」

そう言いながらも白石さんの表情は暗い。

「亜人殿、国王様とマリン王女様がお呼びだ、一緒にきてくれ」

「解りました」

そろそろ来る頃だと思った。

「亜人君、大丈夫?」

「大丈夫だよ…行ってきます」

僕は笑顔で白石さんに答えると騎士の後について行った。

◆◆◆

ついて行くと其処には国王エルド6世とマリン王女が居た。

「よくぞこの様な事をしてくれた物ですね」

かなり怒っているのか、血の効力が抑えられている。

「一体、僕が何をしたというのですか?」

「あの様な恥知らずな真似をしておいてしらばっくれるのですか?」

多分、食堂の事だな。

「ハァ~自分達は僕に同じ様な事をしておいて良く言えますね..怒られる様な事は1つしか覚えが無いから、きっちりと説明させて頂きます」

僕は食堂での話をマリン王女に話した。

「しかし、そうは言ってもそこ迄の事をしますか…貴族や王族と違って勇者に逆らえないのですよ平民は!」

「やはり食堂の事ですね。だったら筋違いですよ!『あのおばさんは、勇者は世界を救うのだから女の1人や2人差し出せ』そういう事を僕に言ったのです! そういう事は、自分がそういう立場に立った時には『差し出せる』それが出来る人間しか言う資格は無いと思いますが…」

「ですが、それは…」

「マリン、儂が変わろう。それは正論かも知れぬ、だがそのせいでロザリーと言う少女は死んだのだ」

「死んだ?」

そこからマリン王女に変わり国王自らがロザリーに何が起きたのか説明しだした。

あのおばさんはマザリ―と言い、没落した貴族の娘だったそうだ。

女手一つでロザリーという少女を育てていた。

ロザリーは器量良しで可愛らしい少女だった事と…運よく没落する前の家がオズマン男爵家と仲が良かった事から、オズマン男爵家の長男とお付き合いをし婚約が決まった。二人は仲睦まじく、周りが羨むようなお付き合いをしていたそうだ。

食堂での事件の後、相手が勇者の為に『差し出さなければならなくなり』その日の夜にマザリ―は天城の元にロザリーを連れていった。

「お願いです、今夜一晩だけで許して下さい」

そうマザリ―は頼んだそうだ。

泣きながらロザリーは汚された…本来はお互いが口を噤む事で1夜の悪夢で終わる筈だった。

だが、ここで悲劇が起きた。

ロザリーが天城にとって好みの女性であった為1晩では終わらずにそのまま監禁されてしまったそうだ。

「止めて下さい、私には将来を誓った人がいるんです」

「もうこれで許してください…」

そういうロザリーに

「それなら俺は魔王と戦わないよ! その責任はお前とその恋人がとるんだな」

「そんな」

隣室の者からはその様な話が聞こえてきたという話だ。

確かに此れを言われたら拒めないな、拒んだら自分も恋人もどうなるか解らない。

その次の日からマザリ―は娘を返せと訴えたそうだが…聴いて貰えなかったそうだ。

「ううっ助けて..お母さん」

「もう嫌だ、やめて下さい」

まるで絞り出す様な声が聞こえてきたそうだ。

しかもロザリーの相手は天城だけでなく剣も加わりおもちゃにして遊んでいた。

相手が勇者なので、誰も助けられない。

やがて声は聞こえなくなりうめき声と泣き声だけが聞こえるようになる。

騎士達も口を噤んでいた。

そんな中、窓が割れる大きな音がした。

割れた窓は勇者天城の部屋の窓で…その下にはロザリーが裸で死んでいた。

ロザリーの体は痣だらけで顔も元が解らない位腫れていたそうだ。

恐らくは天城達に汚された事が原因で窓から飛び降り自殺した。

そういう事らしい。

思った以上に天城はクズだった。

クラスに居た時は『キラキラ組』所謂人気者だった。

だからこそ、僕は多少は無茶をしても、精々普通に夜伽でもさせて終わる。

そう思っていた。

「確かに悲惨な話ですね」

「それだけか? 貴殿の軽はずみな一言で人が2人も死んだのだ」

「2人?」

「今朝、マザリ―も首を吊って自殺していました」

マリン王女が目を伏せて話してきた。

「それが、僕に何か問題があるのですか? 文句があるなら天城と剣に言えば良い…気に食わないなら普通に処罰すれば良いだけでしょう?」

「それが勇者と剣聖だから…」

「出来ないなら仕方ないでしょう? 死んだマザリ―も言っていましたから『勇者には女なんて差し出すのが当たり前』それなら仕方ないんじゃないですか?」

「それだけですか? 貴方が言った一言で人が死んだのです。貴方があんな事を言わなければ二人は生きていました..それに」

「それに、何ですか?」

「こんな国に仕えたくないとオズマン男爵家が、この国を去ってしまったのだ」

「それで? 僕には責任は無いですよね? そんな事した天城や剣を取り締まれないなら、諦めれば良いんじゃないですか?」

「その言いぐさがありますか! 貴方のせいで、貴方のせいで」

「言わせて貰いますが、僕が行動を起こさなければ『僕と白石さんがそうなっていました』その事を黙認したのは王様にマリン王女です。しかも、マザリ―はそれが正しいといって嫌がらせをしてきました」

「食事を与えなかった事ですか…その代償がこれですか? あんまりです。ハァハァ」

「しかも、それだけじゃない、勇者と剣聖は使用人になら『何をしても問題無い』そう思ってメイドや綺麗な家族の居る者を物色し始めたのだ」

「国として対処すれば良いのでは無いですか? 牢屋にぶち込むなり、処刑すれば良い…まさか注意もしていない…そんな事は無いですよね」

「「…」」

「あきれた、それなら全部この国が悪いだけですよね? もし、注意も何も出来ないなら、それこそメイドや使用人に大量の娼婦を雇用するべきです。彼女達に毎晩代わる代わる夜伽でもさせれば被害はもう出ないんじゃないかな?」

「そんなみっともない真似は出来ぬ」

「それに…もし勇者の子をその娼婦が孕んだら、その子に色々な権利が生じます」

四職(勇者 剣聖 聖女 賢者)の子は類まれな才能の子が生まれる時があり、保護の対象になるとか…

「それなら、僕には何も言える事はありません…それで僕に何か責任はあるのでしょうか?」

「無いな..ただ貴殿はそれで良いのか?」

「自分の為に人を犠牲にする..それで良いのですか?」

「誰も守ってくれないなら…戦う迄です。 天城とは和解したから半分解決していますが」

「そうですか…ですが魅了からは誰も逃げられません。もう勇者本人も解除は出来ませんよ」

「僕は思うんです…『真実の愛』の前にはそんな物効かない」

「それは無理ですよ..ハァハァ」

何だ、我慢していたのか?

「そうでしょうか? 白石さんが何も変わらず僕の傍に居るのは何故でしょうか?少なくとも今現在は、普通に過ごせていますよ」

「そんな事が..」

「まさか…魅了を打ち破っているのか?」

この後、マリン王女が体調を崩して…この場の話は打ち切りとなった。

真理愛
「亜人君、ちょっと良いかしら?」

やはり来たか。

真理愛が僕に声を掛けてきた。

そろそろ来ると思っていたけどな。

「白金さん、僕に何かよう?」

「『なんかよう?』じゃないわ、ちょっと顔を貸しなさい」

周りに人が居るのに構わず僕を白金さんは引っ張っていこうとした。

白石さんはそんな僕の様子を見てあわあわしている。

「白石さん、大丈夫だからちょっと行ってくる」

白石さんの返事も聞けずに僕は引き摺られていった。

◆◆◆

「いきなり部屋に引き摺り込んでどうかしたの? まさか愛の告白とか?」

態とおどけてみせた。

大体の用件は解かる。

天城か剣の事だ。

だが、これは冤罪だ僕は悪くない。

「あんたのせいで、あんたのせいで天城も剣もクズになっちゃったじゃない…」

ヤバイ、目が座っている。

更に言うなら、まるで絶望したかの様に目が曇っている。

学園一のお嬢様..サラサラヘアーで上品な面影は全く無く、かなり怖い顔だ。

「返してよーー返してよーーっあの優しくてカッコ良かった剣を返してーーーっ」

パン、パーン。

痛えーーっ。

いきなりビンタかよ、しかも往復ビンタ。

口の中が切れたじゃ無いか。

聖女だからか力も強化されているのか、ただのビンタで意識が遠のく…

理由も聞かずにビンタするんだ、言葉を選ぶ必要は無いな。

「天城も剣も元からクズだった。それにお前が気がつかなかっただけじゃねーか」

「そんな事、無い、そんな事ありませんわーーっ」

「グボっ」

いきなり蹴りを入れるかよ…

「あのさぁ、僕が2人に何かしたのかな、ハァ..僕はただ食堂のおばちゃんが言った事をそのまま伝えただけだよ..それが..ぐぁ」

また蹴りやがった。

「あんたがいけないのよ! あんたが、あんたがあんな馬鹿な事を吹き込むから、天城に唆されて、あの純真な剣が、あんなクズになっちゃったじゃない」

「ちょっと止めて..ぐはっ」

バキ、ドカ、ガス、バン。

あたりかまわず蹴りやがって…鼻血が出ているし体中が痛い。

多分顔も熱いからかなり腫れている感じがする。

「私は貴方がした事を許しませんわ…一生恨んでやりますわ」

今にも殺しそうな目で睨んできた。

「あのなぁ…全部知ってて言っているのか? 天城が白石さんにした事を…」

「知ってますよ『魅了』のスキルを使って自分の物にしようとした事ですよね」

「なんで、それなら僕が悪い事になるんだ」

「良いですか? 私達はこれから、旅に出るんです。 これは皆さん知りませんが『私は剣と付き合っています』だから、天城が余ってしまいます。それなら、天城の相手をするのが白石になるのは当たり前じゃないですか? いずれはそういう関係になるのですから、別に問題はない筈です」

「あのさ…ちゃんと口説いて付き合うなら仕方が無い、もう僕は白石さんとは会えなくなる運命だからと半分諦めていたんだ。だが魅了を使って、その場で犯そうとするのは違うだろう…頭が可笑しんじゃ無いか」

「だから、防いだのですわね。それは貴方が彼氏だから仕方ありませんし、当たり前の権利ですわ…私が言いたいのはその後の事ですわ」

ドカ、バキ。

また蹴りやがった。

「グワーッ…その後の事?」

此奴、暴力を振るわないと居られないのか..

少なくとも前は人なんか蹴るような奴じゃないと思ったんだけどな。

「あんたが『勇者に女を差し出すのは当たり前』そんな事を吹き込んで、実際に女がきた結果、どうなったか知っていますよね…」

「まぁな」

「あんなにキラキラして素敵だった二人が、女に暴力をふるい、脅しながら犯していたんですよ。それは女の私が見ても悲惨な位のものでした」

「成程、真理愛、お前もクズだな」

「なんで…」

「だって『見ていた』んだろう? だったらお前は止めるべきだっただろうが…見ていて止めなかったなら、お前もクズじゃないか。お前が止めなかったからその子は死んだ。クズ同志お似合いじゃ無いか?」

「私は騎士やお姫様にちゃんと相談をしたわ、何もしなかった訳じゃない!」

「それなら、騎士やお姫様がクズだった。それだけだ」

「私は悪くない…あんたが白石を諦めれば事件は起きなかったし、彼女は死ななかった筈よ。あの事件の後、2人は人が変わった様に女を漁りだしたわ。それも、かなり酷い方法でね..二人の部屋からいつも女の子の泣き声が聞こえてくるのよ」

「あのさぁ『僕が剣を殺す』といったら真理愛は守らないのか? 僕は付き合っている女の子をただ守っただけだ..それが何の問題になる」

「ただ、守るだけじゃないなく、全くの他人に押し付けたじゃない」

「それは『女を差し出すのは当たり前』そう言ったから差し出させただけじゃないか、僕が悪い訳じゃない」

「だけど、貴方があんな事したから二人は変わったのよ…あんなに優しくてキラキラしていた二人が..あんな犯罪者みたいに..あれじゃ獣じゃない」

体中が痛いし、口からは血の味がする。

「あのさぁ、真理愛には悪いけど、2人とも元からクズだった。それだけでしょう。今迄は学校、警察、外面、そして将来の進学に就職と言う未来があったから猫を被っていた。天城にしても剣にしても君にしても社長の令息に令嬢だから…そうしていただけじゃないか…な」

「そんな訳無いじゃない」

ドゴッ。

蹲っている僕の鳩尾を蹴るかよ普通。

「真理愛、お前学園にいた時に、こんな暴力振るったか? 此処までしたら退学だ、した事無いだろう..これがお前の本性だ..天城も剣も全部おなじだよ..皆獣だったんじゃないか?」

「違う…私も剣も違うわ」

「そうか…あくまで僕が悪い、そう言うのか?」

「そうよ、貴方が全部悪いんだわ、貴方が…貴方が..」

ここ迄我慢したんだ、もう良いだろう。

「あれは僕が悪いんだ..本当にそう思う?じゃぁこんな事されても文句はないよな?」

僕は素早く動き真理愛の唇を奪った。

「うぐぅ..うんうん、ぷはっーー何するのよーーっいきなりこんな、私初めてだったのに..殺してやるっ、亜人の分際でーーーっ」

顔を真っ赤にしながら蹴りを入れてくる。

バキ、ドカッ、バキッ…

好きなだけ蹴れば良いさ。

たっぷりと口の中の血を流し込んでやったからな。

いつかこの痛みの分は返して貰うからな。

「ハァハァ気が済んだか…なぁ真理愛お前はキスだけでこんなに嫌なんだろう。それじゃいきなり、洗脳されて体を奪われそうになった白石さんはどんな気がしたと思う? 俺は冒険者だから力が無い。 なぁ監禁して犯されている少女が助けを求めた時お前は『聖女』だ、その気になれば今みたいに蹴れば逃がしてあげられたんじゃないか? いや、それ以前にお前がさっさと剣に体を許していれば『剣は』加わらなかった可能性すらあるだろう…全部お前のせいだよ」

「そんな訳無いわ…なんなのよ、許さない、許さないわーーーーっ」

「真理愛、冷静になれ..お前、可笑しいんじゃないか? 許さないのは良いけど、今の僕の姿を見て見ろよ!」

「嘘っあああああっ」

「あああじゃ無いよ、この状態の僕が仕返しにキスをしたとしても…どちらが悪いかは誰が見ても解かるだろう…お前も充分、ゴホッゴホッ、クズじゃ無いか? ハァハァ、なぁお前が僕にした事は前の世界なら、暴行傷害、警察沙汰になる話だ…あいつ等と同じじゃないか」

「違う、違うわ、私は違うわ」

「気持ちは解かるよ…自分の好きだった相手が変わってしまった挙句、あんな事して別れたんだからな」

「知った口きかないで、まだ別れてないわ」

「本当にそうか? あの状態の二人と一緒に旅が出来るのか…出来るなら凄いメンタルだな…まぁ良いや、もし二人と一緒に行くのが嫌なら…うちに来ればよいよ、白石さんと仲良くやれるなら、構わない」

「まだ、別れて無いって言っているでしょう!」

「僕は誘っただけ…来るかどうかは自分で決めな..イテテッ…僕は王女様から好きな人間を仲間にして良いって許可は貰っているから『聖女』だって勧誘だけは出来るからよ」

「なにそれ、ここ迄、自分をボコった人を普通勧誘する..」

「まぁ、良いや、話が終わったなら、僕は行くよ」

「まって、何処に行くのよ」

「医務室…誰かさんのせいで大怪我だ」

「そうね…」

僕は真理愛の部屋をそのまま後にした。

クズと新しい仲間
「亜人ちゃん、その顔真理愛にやられたんだって..」

「あーはい」

「彼奴、気が強えぇぇぇからな、やたらと束縛する癖にキス一つさせねーんだよ! 亜人ちゃんには天城を通して世話になったから、彼奴くれてやるよ。」

マジか?

真理愛は聖女だぞパーティから居なくなって良いのか?

「何だ、そんな顔をしてよぉ~彼奴は幼馴染でよ..凄く口煩いんだよ。俺達がよ、他の女を口説いたり、やっていると睨んでくるんだ、流石に付き合いが長いからなぶん殴る訳にいかないしな」

「そうそう、面とスタイルは良いけどヤラしてくれねー癖に煩いし、何時も睨んでくるんだわ、だからさぁ、亜人ちゃんにやるよ! 元彼氏公認、是非貰ってくれ、いやくれてやる」

可笑しいな?

学園にいた時は凄く気高く見えてカッコ良かった…筈なのに。

これじゃDQNか半グレじゃないか?

「良いんですか?」

「良い、本当に良いぞ…なぁ、剣!」

「ああっ、本気で良い…そして可能なら、お前の部屋に連れていって同棲でもしてくれ」

「何故でしょうか?」

「彼奴の部屋、俺達から近いんだよ。傍に彼奴がいると思うと萎えるんだよな」

「まぁ、流石に幼馴染だから、暴力とかしたくねーからな」
何故だろうか?

クズに懐かれた…のか?

「本当に良いのか? 僕冒険者で弱いんだよ..聖女なんて欲しくてたまらない」

「良いの良いの! なぁ剣」

「まぁな、もっと可愛くて綺麗な女を抱き放題だしな、それに冒険の旅に出たら奴隷を買おうと思うんだが絶対に彼奴反対しかしねーだろうからな」

「すげー美人のエルフの奴隷とか売っていると知ったら買うしかないだろう?回復役も買うか好みのヒーラーでも貰うから、彼奴マジで要らねー。だからやる…あっそうだ俺たちの中古で欲しい女居たらやろうか?」

クズなのに…クズなのに…なんで憎めないんだ。

こんなクズありですか?

「いや、それは要らないけど、本気で真理愛さん、狙わして貰うけど良いの? 僕は本当に弱小だから」

「構わない」

「元彼の俺も公認だ。正直言えばもう白石も要らねーよな天城」

「まぁな、今簡単に抱ける女とそんなに変わらないからな、無理して欲しいレベルじゃない」

「そうですか」

「ああっ、深窓の貴公子の腕で、どうにか落としてくれ」

「『深窓の貴公子』って何でしょうか?」

「お前、知らないのか? 亜人お前のあだ名だよ! 一部の女子で俺達程では無いけどそこそこ人気があったんだよ」

あれは本当にモテたと言えるのか?

確かに優しくされた記憶はあるけど。

「『儚げで素敵』なんて言っていた奴も居たぞ、まぁ不細工や地味な奴が多かったけどな」

「そうだったんですか」

「そうだよ…それじゃあ、頑張れよ」

「真理愛は元彼の俺が公認でくれてやるから、頑張って持っていってくれ」

何だこれ…クズなのに、僕には優しいクズになってしまった。

『今日は彼奴が良いんじゃないか』

『言いね、胸でかいしな、後ろからぶっこんで楽しもうぜ』

やはりクズはクズだが…どうすんだこれ。

しかも剣は兎も角、天城は『魅了』が使える。

それを使えば、揉める事無く、女なんて抱けるだろう。

そうすれば『女が自殺なんてしない』筈だ。

それは偽りの世界だが『好きな男に抱かれている』そう思わせる事も出来た筈だ。

「ごめん、聞いても良いかな?」

「なんだ…まぁ良いぜ」

「何で『魅了』を使わないんだ。あれがあればどんな女でも抱き放題で、自分から受け入れるんじゃないのか?」

「あれな…死んじまった女の時に使ってみたんだが、駄目だありゃ、言いなりになるラブドールみたいなもんだな…言いなりになる人形を抱いているようなもんだったぜ、俺がまだ未熟なせいか、白石の時みたいに偶に正常に戻るんだけどさぁ…その時に泣きながら抵抗した女を抱いた方が人間を抱いているそんな気がするんだ」

「そうなんだよな、しかもその人形状態なのに天城以外には本気で抵抗するから、達が悪くてよ..俺が楽しめないんだよ」

「そういう訳で、剣と楽しめねーし、人形みたいで楽しくないから、使わねーよ。俺達の相手を拒めるのは貴族と王族だけだからな、人形みたいにしないで抱いた方が楽しめんだよ」

「ごめん、教えてくれてありがとう」

「「そんじゃな」」

本当にクズだ…だが、なんでか殺意が湧かない。

◆◆◆

「それで、なんで真理愛は此処に居るんだ」

「真理愛ちゃん、何かよう?」

「あんたのせいよ…あんたのせいで居場所が無くなったじゃない…ハァハァ」

顔が赤いな…

僕の血の効果も出てきたのかも知れない。

「何だか大変そうだから、話位は聴くけど、此処じゃ目立つから僕の部屋に来ないか? 白石さんも一緒だから安心して良いよ」

「そういう意味では信頼しているわ、ハァハァ、それに私の方が強いしね」

「それなら良いや、白石さんとりあえず、話を聞いてみようよ」

「そうね」

しかし、真理愛に何があったんだ。

自慢の髪もしっかり手入れされてないし、この前の時もそうだが、何と言うか『キラキラ感が無い』、泣いたのだろうか?目も真っ赤だし、よく見ると顔は赤いだけでなく口元に痣が出来ている。

「それでどうした?」

「…」

「何かあったから来たんだろう、何かしてやる、そういう約束はしないけど、話だけは最後まで聞いてやるよ」

真理愛はチラッと白石さんの方を見た。

「もしかしたら、私が居ると言いにくい話かな…良いよ、それじゃ暫く自分の部屋に戻るから話が終わったら呼んで」

「ごめんなさい」

真理愛がそう言うと白石さんは出て行った。

「それで、居場所がなくなったってどういう事?」

「剣に振られた…お前は要らないってさぁ、うふふふっ、しかも天城からも俺のパーティには要らないって」

「そうか…」

「私聖女なのにさぁ、勇者パーティ追放よ」

「そうか…辛かったな」

「しかも、それを言っている時さぁ…あいつ等『女を抱いていたのよ』」

「お前、また見殺しにしたのか?」

「違うわ…王様が勇者に手を出された女性には結構な慰労金を払うみたいなのよ..それで今回の女性は合意みたいよ。ただね、パーティから私を追放する話なのよだから『ちゃんと話そう』そう言ったら…うざいって剣に殴られたのよ」

なんだか聞いて辛いな。

「そうか」

「幼馴染ってあてにならないね、10年以上の付き合いがこんな簡単に終わっちゃうんだから」

「そうだな」

「亜人、あんたさっきから『そうだな』ばかりね」

「真理愛が悲しいのは解かる、だがどう話して良いのか解らない、僕は君達みたいな『キラキラ』組じゃないからね」

「それはもう止めて。今の私は、いえ私達は貴方の言う通りクズよ、クズ」

「そう、過去の話を今しても仕方ない、これからどうしたいかだな」

「私居場所が無くなっちゃった」

全部言わせるのも可哀想だな。

「前にも言ったけど『うちにくるか?』まぁ白石さんが良いと言えばだけどな」

「良いの…私、結構酷い事したのに」

「別に良いさぁ、1人ボッチの辛さは良く知っているからね、ただ僕は『冒険者』だから真理愛よりも弱いよ」

「うふふふっ確かに、まぁそれじゃ逆にお世話してあげるわ」

「そうだな、頼りにしているよ聖女様」

「そうね」

話しが纏まったから白石さんの部屋にいった。

◆◆◆

俺は真理愛との話を白石さんに話した。

「そう、まぁそう言う話なら仕方ないよね。別に亜人君が良いならそれで良いんだけど、なんで『真理愛』って呼んでいるのかな?」

何でだろう?

多分、何も気にしないで呼んでいるだけだ。

「多分、何も気にしないで呼んでいるんだと思う」

「そうなんだ、それなら私は『琴子』って呼んでくれるかな」

「琴子さん、これで良い」

「違う~っ何で『さん』つけるの? 私彼女だよね?真理愛ちゃんは呼びつけなのに…酷いよ」

「琴子、これで良い?」

「うん、亜人君、今度からそう呼んでね」

少し照るな、真理愛は呼びつけで問題無いのに琴子って呼ぶのは照れる。

「あのさぁ、あんたらがラブラブなのは解るけど、ちゃんと話そうよ」

「「あっゴメン(なさい)」」

「それで、白石、あっ琴子、真理愛の部屋がさぁ剣や天城の部屋のすぐ横なんだ、可哀想だから琴子の部屋を貸してあげてくれるかな」

「まぁ殆ど使ってないから、構わないよ、確かに仲間になるなら隣の方が良いよね」

「ちょっと待って! それじゃ白石は何処で眠っているの…まさか、あんたらーーっ」

「一緒に寝ているんだよねーーっ」

「そういう関係…そこ迄の関係なの?」

「違うよ..あんな事があったからだよ」

「あっゴメン、そうだよね、心細いよね」

「ハァ~そういう事にしておきますね」

何だか白石さんが少し膨れた気がした。

そろそろ、色々と問題が起きそうな気がする。

それなのに、何の準備も出来ていない。

どうすれば良いんだ。

まぁ、今は何も出来そうにないから様子見しか無いか。


「あの、真理愛ちゃんは何でこの部屋にベッドを持ち込んでいるのかな?」

「白石、別に良いじゃない。私だって怖いんだから、毎日の様に喘ぎ声や、ハァハァ悲鳴を聞いていたんだからさぁ」

「本当にそれだけ? その割には偶にハァハァ言っているよね? まさかと思うけど亜人君を襲ったりしないよね?」

「するかぁー! 確かに亜人は良い人だとは思うけど、まだ好きじゃないわよ」

「真理愛ちゃん『まだっ』て何かな? まだって事はこの先はそうなりたいって事かな?」

「私は嘘は言わない…『それは解らない』」

「やっぱり、真理愛ちゃんも亜人君狙っているんじゃない!」

「違う…だけど、私達は此処を旅立って、かなり長い間、それこそ数年もの間一緒に暮らすんだからさぁ、好きになる可能性は高いよ。 それに今迄一緒に居た幼馴染はクズだった。それに比べたら亜人は本当に良い人なんだからね。少なくとも今一番好きな男の子は亜人なのは本当だよ! ただ愛とか恋とかじゃ無いけどね」

「ううっーーっ。まぁ納得できるから…仕方ないかな」

「あの、琴子に真理愛…悪いけど、そういう話は僕が居ない時にして欲しいな。免疫が無いからどうして良いか困るんだよ」

「「あっゴメン」」

さてと寝るか…

「嘘、あんた達一緒の布団で寝ているの!」

驚く事かな。

「そうだけど、問題あるかな?私は亜人君が好きだから問題無いよね?」

「あのさぁ、怖い思いしたから誰かが居ないと…その理屈は解かるけど、布団迄一緒の必要は無いと思うんだけどな」

真理愛の言い分はベッドは同じでも布団や毛布は別で良いんじゃないか。

そういう話だった。

確かに、そう思う反面横で腕を引っ張る琴子の顔を見たら…「じゃぁそうするか」と言えないな。

「まぁ、僕は琴子が好きだから、これで良いんだよ」

「あっ、そう、それなら私も反対側に入って寝るわ」

「ちょっと、真理愛ちゃん、狭い」

「勘違いしないで…これは仲間だから、この先毛布1枚に三人で包まって寝るかも知れないじゃない、その練習よ、ハァハァ」

「ハァハァ言ってるんじゃ、説得力がないよ真理愛ちゃん」

ごめん..これは俺のせいだ。

血を飲ませてしまったんだから…仕方ないな。

「そうだね」

「そうよ、流石亜人、白石さぁこれから長い期間一緒に過ごすんだから…そんなに怒らないでよ」

「別に怒って無いよ(怒)」

確実に怒っているな。

両側を少女に押さえられているせいか…なかなか寝付けなかった。

結局碌に眠れないまま朝がきた。

二人より先に起きたので着替えをして小刀を用意した。

いつものおまじないの為だ。

「琴子に真理愛、おはよう…そろそろ起きよう」

「う~ん、もうちょっとだけ」

「えっ、亜人、嘘、嘘、私の寝顔見た!」

「別にじっくりとは見て無いから気にしないで良いよ…それにこの先、多分お互いにもっと色々な物を見ると思うから」

「確かにそうだね! ハァハァ」

「う~ん、おはよう…それじゃ何時ものおまじないしようか?」

「そうだね、それじゃ、はいっ」

「それじゃ、私もあむっ」

お互いに指を傷つけて突き出した。

俺はちょっとだけ口をつけて口を話放したが琴子はそうはいかない。

「あむっちゅっあむ..あーむ」

「あんた達、朝から何やっているの? ハァハァハァ、変態みたい事、ハァハァハァして」

そう言いながら顔を真っ赤にして見ているが…口からは凄く涎が垂れている。

ポタポタポタっと口から垂れている。

「これは、おまじないなんだ」

「そんなおまじない..変よ、はぁはぁはぁあ~」

そう言いながらも涎は止まらない。

僕は左手の指で小刀の刃の部分を握り、傷つけ人差し指を差し出した。

「私に何をさせる気なの! 変態…あむっ」

口ではそう言いながらも、待ちきれないと言わんばかりに口に含んだ。

「あむっあむちゅちゅーーう」

「あむあむうんぐ、ゴクっちゅーーーっ」

真理愛が俺の指を咥えると対抗するかの様に琴子が吸い付く。

これで、真理愛の血液もこれから問題ないな。

だけど、これいつになったら終わるんだ…流石に両腕塞がっていると頭も掻けないから結構辛い。

「「ごめんね(なさい)」」

2人が僕の指から口を放した時は指がふやけていた。

更に少し色も紫に変っていた。

「あっそうだ、私も…はいっ」

真理愛が指を切って差し出した。

僕にこれは意味がない。

だけど、これは『おまじない』だから、そのまま口に含んだ。

「ああっこれ、何か..凄い光景だわ」

なんでか真理愛の目が輝いているのは何故だ…まぁ良いや。

『亜人は血の味が解らないから可哀想だな』

僕の中の彼奴の声が聞こえた様な気がした。

◆◆◆

「すまないがまたマリン王女と国王様がお呼びだ」

今現在、天城や剣に『何故か感謝されている』そのせいか騎士の対応も変ってきた。

更にに「「真理愛をありがとう」」と天城達から感謝された。

だから、白石さんと真理愛から目を離しても問題は無いかも知れない。

まぁ警戒は怠らないが。

このまま行くと僕のパーティは『聖女と賢者を抱えた』恐らくこの国で2番目に強いパーティになる可能性が強い。

多分、その辺りの話だと思っていたが…外れていた。

「ハァハァ…なんで貴方は魅了に勝てたのでしょうか? 白石殿と普通に生活しているのは何故でしょうか…」

「それが知りたいのだ『魅了は事前に防ぐ方法はある』だが掛けられた後は、如何なる方法を使っても解除は不可能。例え仲が良い夫婦であろうが、最愛の子供。永遠の愛を誓った恋人。それですら勝てない…破った者等誰も存在しない…だが」

「どうして白石さんに通用しないか? それを知りたい。そういう事ですか?」

すっかり、そんなの忘れていた。

ついでに言うとマリン王女に血を使った事もつい忘れがちになる。

こういう時に、どう言えば良いのか?

口伝で伝わっている。

凄く恥ずかしくて言いたくない。

だが、言うしかないだろう。

「それは僕が『真実の愛』を知り『愛の為に生きる』伝道者だからです」

これ、本当に言っていて歯が浮くな。

「どういう事でしょうか?」

「『真実の愛』だとそんな事ありえん。今迄破れなかった者には『愛』が無かった。そう言いたいのか?」

「いえ、愛が無いとは言わないが努力が足りなかった。それだけですね」

「それは聞き捨てなりません。恋人や夫、子供への愛の無い人間など、ハァハァそういる訳ないじゃないですか」

いや、沢山居る。

そう言ってしまったら話がそれるな。

「愛の努力が足りないのです…此処からのお話しは、私の家庭の秘伝にあたるのでお話しするなら、他言無用の約束をお願いします」

「解かった約束しよう」

「ハァハァ、私も約束しますから…お願い致します」

まぁ嘘でこり固めた最もらしい嘘だけどね。

「汚い話ですが、そうですね。美少女や美少年のウンコってどう思います?」

「し、失礼な、私達は真剣に話しているのです…ふざけた事をハァハァ、言わないで下さい」

「マリン待ちなさい、それは何か意味があるのか?まぁ良い、どんな美形の物であっても臭くて汚い、それ以外ないだろう」

「普通はそうです。ですがある種の動物に特定のエサを与え育てると、そのウンコが高級なお茶になるのです」

「それに何の意味があるのですか…ハァハァ」

「面白い話だが、それに何の意味があると言うのだ」

「流石に食べたりしませんが、私が居た世界の方で、バラから作った食物等を食すことでウンコさえバラの香りがする様な方がいます。またある方は牛乳を加工した食品を食する事でウンコがミルクの臭いがするそうです」

「ハァハァ、それが何の意味があるのでしょうか?」

「良いですか? 食べる物一つで此処まで変わるのです。しかもウンコの臭いが良い匂いになると言う事は、汗や体臭も良い臭いになり好かれやすくなります」

「まさか、それだけの事だと言うのじゃあるまいな」

「これはただ、一つです。こういう他の人間が行わない様な『好かれる努力』を沢山積み上げていきます。10、20、100とです。一つ一つは小さい事ですが、沢山積み上げていけば大きな愛となります」

「ハァハァ…それで『魅了』に勝てるというのですか?」

「勝ったというよりは『取り戻す』が正解ですね。人の気持ちが100だとして『魅了』が一瞬で100の気持ちを持っていくのなら絶対に勝てないでしょう。ですが…恐らく1日に持っていくのは10位。ならば20愛される努力をすれば勝てる。10とられたら20取り返す。それだけです」

「だが、その話では『気を抜けない』ではないか?」

「恐らく『魅了』は永遠じゃないと思います。恐らくそう長くない間に終わると思いますよ。その時が本当の意味での勝利です」

まぁ只の屁理屈だけどね。

「言っている意味は解るが…にわかには信じられん」

「証拠なら、マリン王女です。多分、白石さんが好むのと同じで僕の臭いが好みなのかも知れません」

「何を言っているんだ…娘に何かしたのか?」

「此処数日、なんだかハァハァして顔を赤くしています。これは僕の汗や臭いに興奮している可能性が高いのかも知れません」

「そんな、馬鹿な事がある訳ない」

「ですが、相当僕の臭いや汗が気に入っているように見えます」

僕はただ、汗ばんだ手を前に突き出した。

その瞬間、マリン王女は僕の手をとり、一瞬口に含もうとして振り払った。

「確かにそうかも知れません…臭いを嗅いだらハァハァ急に舐めたくなりました」

「そんな馬鹿な…それなら儂にも嗅がせてくれ」

この場合は仕方ないな…

「確かに、何と言うか嫌な臭いではなく、何とも好ましい匂いがするのう」

「これは香水みたいな物です。女性に好まれる様な体臭に長い年月を掛けてしました。勿論他にも沢山白石さんに好かれるような工夫を沢山しています」

「確かにこれはハァハァ強烈です。意識を集中しなければ、私は貴方の手を舐めていたかも知れません」

「成程、体臭や汗すら意中の人の為に変える努力…そんな事までした人物は居ない。だからこそ『真実の愛』とやらが魅了に勝てているのかも知れぬな。それでマリンはどうなるのじゃ」

「まぁ、所詮は香りですから、そこ迄気にしないで良いでしょう、そのうち気にならなくなるでしょう」

「そうか…なら下がって良いぞ」

僕は、謁見室を後にした。

僕が言った事は半分嘘ではない。

僕ではなく、御供一族の遠い先祖がした…いや、された事だ。

悪神や魔物、その他の存在が…元から美味しい血肉を更に美味しく食べられる様に..無理やりされた結果だ。

それは決して恵まれた話ではない。

僕は嫌な歴史を思い出した。

問題

『そろそろ、食わないと体がもたないぞ』

それは言われなくても解っている。

それが解っているなら、少しは控えてくれないかな。

本来なら…もう何人か食べている筈だった。

だけど…流石に殺してよい程のクズに出会えていないんだから仕方ないだろう。

天城も剣もクズだけど…殺戮衝動が起きないんだからな。

『言われなくても解っているさ』

『お前は解っていないお前の命はお前だけの物ではない。お前が死ぬと俺は『住処』『食事』場合によっては『命』を失う。最悪暴走させて貰う』

『解かったよブラド…出来るだけ早くに食べるから…暴走だけは止めてくれ』

『解れば良い』

会話している相手はブラド。

俺の中に住み着いている吸血鬼モドキだ。

大昔、御供一族は、地球の悪神や魔物、バンパイヤ等にとって『ただの食べ物』だった。

人間にとっての牛や豚と同じ、家畜の様な存在だったのかも知れない。

だが、その血肉はそういう闇の存在にとって、人間で言うA5ランクの松坂牛を遙かに超える位の味があったそうだ。

バンパイヤの真祖クラスですら、その血は比類なく美味いと言ったという逸話もあるし、御供一族を生贄として捧げれば『大抵の願いは叶えて貰えた』『世界を滅ぼす邪神を殴っても笑って許された』そんな話もある。

ただの食べ物ではなく、慰み者としての価値もあった為…この世の地獄を生きている状態だった。

だがその『この世の地獄を生きて来た』御供一族は、生き残る為に進化した。

人間に生贄にされない様に『血が麻薬の様になり』その血を口にした者は、その血液を与えた御供の者に好意を抱き…血を貰えないと麻薬とは比べられない程の禁断症状が起きる。
その依存度はこの世界の麻薬を遙かに超える。
ただ、それはゆっくりと進行する。

その力は神などにも通用するが、人間に比べれば、効力は弱まる。

そしてもう一つの進化は血液の中にバンパイヤモドキが住むようになった。

此のバンパイヤモドキが何故住むようになったのか解らない。

ある話ではバンパイヤは霧になれるから、御供一族の血に溺れたバンパイヤが『血の中で生活したいから住み着いた』それがこの現象の始まりだと言う話もあるし、バンパイヤに血を吸われ続けた結果、血がバンパイヤの様になったという説が伝わっているが定かでない。

まぁ少なくとも、バンパイヤみたいな存在がいつの間にか御供一族の体に住み着いたのは確かだ。

このバンパイヤモドキが住みついたときから御供一族の運命は変わった。

ただ、慰み者や生贄にされていた一族が反撃する、捕食者になった。

そして…色々な物が取り込まれ変わった。

御供一族は、相当強い存在になった筈なのだが…何故か人数を減らしていき…本当の父の話では、父と僕が最後だと聞いた。

父が死んでしまった今…僕がきっと最後の1人だ。

そして今、僕は御供一族の…バンパイヤモドキを手に入れた事による問題に直面している。

◆◆◆

「ハァハァ、それで急にどうしたのでしょうか?」

僕はマリン王女の所にきている。

「まだ、城で修行中ですが、少し対人の勉強をしたいので『冒険者』の仕事を受けても構いませんでしょうか?」

「まぁ亜人殿の場合は、将来冒険者になる可能性があるのですから大丈夫ですよ。ただ3日間以内に戻って来て下さい。3日間で戻ってきてから再度出て行くのは別に構いません」

あっさりと許可が出てしまった。

俺はあらかじめ用意していた、血を水で薄めた物をマリン王女に渡した。

「これは、何ですか?ハァハァ」

「王女様は、僕の香りにあてられているみたいなので、良かったら飲んで下さい、楽になります」

「そうですか…頂きます」

「1日1口、その容量は守って下さいね」

この位薄まっていれば中毒迄ならないだろう。

「解りました」

何だかぼーっとしているマリン王女を後に僕は自室に向った。

◆◆◆

「対人戦を学びたいから、街にでるの?」

「亜人君、対人戦なら此処で騎士相手に学べると思うんだけど、それじゃ駄目なのかな」

「僕はもう少し残酷さを学ばないといけない気がするんだ。それで悪いけど二人とも一緒に来てくれないかな」

「「残酷さ?」」

「此の世界での敵は魔族だけじゃないんだ..盗賊や犯罪者、人間の中にも敵がいる…だから人間に対しても本気で戦えるように備えないといけない」

「亜人、そこ迄しないといけないの?」

「亜人君、ただ魔族と戦うだけじゃ駄目なのかな」

「琴子、もしあの時天城が『魅了』を完璧に使いこなしていたら、琴子を取り戻す為には『天城を殺さなければならなかった』」

「確かに魅了って何故か白石には効いて無いけど、ほんとは解けない物なんだよね」

「今思えば、ぞっとするかも知れない」

「そうだね。何故かあの二人はあれ以降絡んで来ないけど、もし似た様な状況が起きた時に『ちゃんと対処できる』そうならなくてはいけない。さもないと足元を救われる、そんな事も起きるかも知れない…その為の修行だよ」

「確かに一理あるかもね」

「理人君がそう言うなら、そうかもね」

「それじゃ、明日から2泊3日、一緒に出掛けよう」

「「うん」」

こうして僕らはこの世界にきて初めてお城の外に出る事が決まった。

冒険者ギルドにて
「それで亜人、これからどうするの?」

「亜人君とお出かけは嬉しいけど…ちょっと不安かな」

まずは定番の冒険者ギルドだ。

「とりあえずは冒険者ギルドに行こうと思う」

「まぁ、それが定番だよね」

「確かにそうだね、亜人君は冒険者だからね」

「そうだね…だけど、僕個人の登録はしようと思うんだけど、パーティはどうしようか迷っている。一応お城から出て行く時は自由に仲間を連れていって良いとは言われているけど..」

「亜人、こう言うのは既成事実を作った者勝ちだと思う。そう考えたらパーティ登録もした方がよいと思う」

「私もその方が良いと思うな」

「それじゃ、そうしようか?」

まずは直ぐに冒険者ギルドに向った。

「冒険者ギルドへ、ようこそ! 本日はご依頼ですか? それともクエストの受注ですか?」

お城で聞いた話では、大人になってからの登録する者は少ないらしい。

食えなくなった農民や没落貴族等、少数しか居ない。

最初から冒険者を目指す人間は子供の頃から見習いとしてスタートする。

大人だから、少し恥ずかしい。

「登録を頼みたいのですが、お願い出来ますか」

受け付けのお姉さんは少し驚いたようだが、直ぐに手続きに移った。

流石はプロだな。

『冒険者』には基本誰でも成れるはずだから、問題はないしな。

「はい、登録ですね、こちらの用紙にご記入お願いします。文字は書けますか?」

「はい大丈夫です」

「これで宜しいでしょうか?」

俺は

亜人

職業 冒険者

家族は居ない。

それだけしか書いていない。

琴子も真理愛も俺に習って書いたが…受付のお姉さんは驚きの表情に変わった。

「これは!」

大きな声を出したから周りが注目してしまった。

僕は小さな声で「お城から許可を得て来ています…静かにお願い致します」と伝え、王女に書いて貰った手紙を渡した。

手紙の内容を確認すると、

「構いませんよ、冒険者ギルドは来るものは拒まずです。 訳ありの方でも犯罪者で無い限りどなたでもOKです」

どうやら手紙により、こちらの意図が解かったのか、普通に接してくれている。

まぁ『聖女』『賢者』が職業じゃ驚いて当然だな。

ちなみに、どういう仕組みか解らないが犯罪歴があると紙が赤くなり、ギルマスと面接になるとお城の騎士から聞いた。

軽い犯罪なら、なれると考えるとやはり冒険者の敷居は低いのかも知れない。

「ありがとうございます!」

「但し、自己責任の厳しい世界だという事は頭に置いて下さい」

「解りました」

「それではご説明させて頂きます」

説明内容は、
冒険者の階級は 上からS級、A級、B級、C級、D級、E級、F級にわかれている。
そして、案外上に行くのは難しく、C級まで上がれば一流と言われている。

殆どが、最高でD級までだそうだ。

級を上げる方法は依頼をこなすか、大きな功績を上げるしか方法はない。

C級以上になるとテストがあるそうだ。

ギルドは冒険者同士の揉め事には関わらない。

もし、揉めてしまったら自分で解決する事。

素材の買取はお金だけでなくポイントも付くので率先してやる方法が良いらしい。

死んでしまった冒険者のプレートを見つけて持ってくれば、そのプレートに応じたお金が貰える。

そんな感じだ。

「解りました」

「はい、これがE級冒険者のプレートです、再発行にはお金が掛かりますので大切にお持ちください」

異世界人なので一つランクの上がった所からスタート出来るようだ。

「それでパーティ登録もお願い致します」

「畏まりました、それでパーティリーダーは誰にしますか?」

此処はやはり『聖女』だから真理愛が良いだろうな。

「それじゃ、真理愛で」

「ちょっと待って、このパーティは亜人のパーティでしょう?」

「そうだよ、亜人君のパーティなんだから」

確かにそうだな。

「それじゃ、パーティリーダーは俺でお願いします」

「畏まりました。それでパーティ名はどうしますか?」

どんな名前が良いのだろうか?

これから先ずうっと使う名前だから慎重にしたい。

『ブラックウイング』と一瞬浮かんだが気の迷いだ。

多分、悲惨な未来しか見えない。

う~ん。

「もし、気にならないなら保留で構いませんよ」

「それじゃ保留で」

「はい、あとは口座の方は統合しますか?」

三人の口座をパーティの口座として登録出来るそうだ。

パーティ口座にすると全ての預け入れたお金は三人の物として扱われてお互い自由に降ろしたり預けたりできる。

まぁ、その方が管理しやすいだろう。

「それじゃ、統合でお願い致します」

「畏まりました。これで手続きは完了です。お疲れさまでした」

さてと、これから僕は特殊な依頼を受けるつもりだけど…

これは一旦あとにした方が良いだろう。

◆◆◆

「亜人君がしたいなら、構わないけど少し恥ずかしいよ」

「あなた、夜まで待てなかったの?」

「違うよ、宿屋の確保は冒険者にとって当たり前だよ。宿をとってから活動するんだ」

「ごめん、私勘違いしちゃったよ」

「あはははっそうだよね」

◆◆◆

「それじゃ、宿もとったし…はい」

僕は2人にマリン王女から預かってきたお金の宿代以外の殆どを渡した。

「え~とこれは…」

「なんで、此処でお金を渡すの?」

「二人は折角だから王都見学でも楽しんできて」

「ちょっと待って、今の話だと私と真理愛ちゃんは依頼を受けなくて良いみたいだけど?」

「『聖女』の私が戦わなくて良いの? そんな訳無いよね」

「今回はそのつもりだよ! 二人とも僕より強いのは解っているけど、可能なら二人には戦いみたいな事はして欲しくないからね…やってみて稼げない。思ったより戦えない。そう思ったら頼るけど、まずは1人でやってみたいんだ」

「亜人君がそうしたないなら良いけど…本当に良いの?」

「なんだかなぁ~そんな事考えていたんだ、実際に付き合ってみないと解らないもんね…私も良いわ」

「これは僕がしてみたい事だから気にしないで、それじゃ夜には帰ってくるから、行ってきます。」

「「行ってらっしゃい」」

◆◆◆

でては来たものの、此処は王都だから、そんな大きな盗賊など居ないかも知れない。

早速、ギルドの掲示板を見た。

あるにはあるが居場所が解かる様な簡単な物がほぼない。

1枚だけかなり古い物がある。

良く話で聞く『塩漬け依頼』って奴の様だ。

依頼書の内容は…

盗賊砦の盗賊『アヌダムとその一派の討伐』報酬金額は金貨700枚。

確か金貨1枚、約10万円だから…約7000万円位か。

住んでいる場所も解っていて、なんで討伐されないんだ。

まぁ良い…内容を見るとかなり酷い盗賊のようだ…『これなら、問題はないな』

僕はこの依頼書を剥がして受付に持っていった。

「早速の受注ですね…嘘、アヌダムの塩漬け依頼…本当に受けるんですか?」

「受けちゃまずいですか?」

「異世界人はランク関係なく受けられますが…死にますよ」

そんなにヤバイ奴なのか?

「そんなに不味い相手なのですか?」

「アヌダムには30人を超える部下が居て、砦を築いています。本来なら数の暴力を使えば倒せるのですが、何時の間にか砦を築きまして、細い道が沢山あるのでそれが出来ずに困っています。 B級冒険者4人で攻略を挑みましたが…全員殺されてしまいました…そろそろ国軍に動いて貰う。そういう判断を考え中なのです」

その挑んだ4人は首だけになって、砦への入り口に晒せれていたそうだ。

『ああっ、ようやく殺して良さそうなクズが見つかった』

『…』

「別に構いません、これ受けます…自己責任なのは充分解っていますからご安心下さい」

「そうですか…解りました」

何だか、悲しそうな目で受付嬢は僕を見ていたが…

多分大丈夫だ。

僕は冒険者ギルドを後にして、そのまま盗賊砦に向った。

アヌダム討伐
『あ~良かった、これは確実にクズの集まりだ』

『良かったじゃねーか!』

『これなら構わないんだろう?』

『構わない…本当のクズだ』

御供一族は『定期的に人間を食わなければならない』これは種の本能として仕方が無い。

どうしてこうなっているのかは解らない。

より『美味しい血』『より美味しい肉』等を荒神や魔神、邪神、果てはバンパイヤに魔物が得るために品種改良されたのか…はたまた血液の中に住んでいるバンパイヤモドキのせいなのか解らない。

本来の僕がもし、本能のままに人間を食べるなら、僕の中に住んでいるブラド曰く、とんでもない力を手にする事が出来るらしい、だが僕はそれをしたく無い。 全く食べないと死んでしまうので『最低限の捕食だけ』で済ますようにしてきた。

僕は本当は化け物なのかも知れない。

人にそっくりな化け物なのかも知れない…

だからこそ、人の心でいられるように、自分なりにルールを作った。

『悪人以外は食べない事』だ。

前の世界では思ったより簡単だった。

誰かが困っている時に顔を突っ込めば、大体悪人にぶち当たる。

僕は好んで危ない事件に巻き込まれるようにしていた。

『ただ悪人』それだけでは、余りピンとこない。

だから、僕は悪人に憎まれる様な行動や、殺される様な行動をとった。

例えば、麻薬の売人を後ろから金属バットで殴って怪我をさせて、目の前で麻薬を全部燃やした。

その後、僕は組織に捕まり、借金を負わされるか、殺されるか2択を迫られた。

「このまま東京湾に沈めても良いんだぞ」

「金が無いなら仕事手伝え、まぁ一生ただ働きだな」

「お前学生なんだろう? クラスの仲間、とりわけ女に麻薬を売れば、女も金も手に入るぞ」

当然僕は、第三の選択『食べる』を選んだ。

他にも、詐欺グループのアジトに乗り込んで『食べた』事もある。

まぁ日本の悪人の多くは『痛めつけたら巣穴に逃げ込む』から案外楽だった。

それでも、僕は例え相手が『悪人』でも出来る事なら食べたいとは思わない。

その為、自分が生きれるギリギリしか食べないから…僕はかなり『儚げ』に見えるのだと思う。

実際に肋骨とか見える位体はがりがりだしね。

◆◆◆

当人に会う前にクズだと解かったのは数少ない。

だが、アヌダムは完全に『殺して良い人間』だと言う事は解かる。

ギルドで聞いた通り、冒険者の首が鉄の棒に突き刺してある。

それ以外にも多数の死体が捨てられている。

まだ、新しい者もあり、どう見ても若い女性や子供の者も含まれている。

僕は持っていたナイフで自分の手首を思いっきり傷つけた。

自分の中から大量の血液が流れ出たように見えるが、これは違う。

流れだした血液が三つ首の巨大な蝙蝠を形作った。

その体と僕の手首は繋がっている。

これが僕の中で寄生しているバンパイヤモドキ、ブラドだ。

歴代の御供一族の殆どは普通の蝙蝠のような者しか寄生していない。

僕のブラドの様に首が3つある者は僕だけだと無くなった本当の父が言っていた。

「此処から先は頼んだブラド」

「拒食症の宿主を持つと本当に苦労する…人など手あたり次第喰えば良い物を」

「僕が化け物なのは解っている…だけどね、それでも僕は人にしがみ付いていたいんだ」

「あの雌ガキたちとのおままごとみたいな生活がそんなに大切か?」

「そうだな、僕は人の汚い面も沢山見て来た、だけど…それと同じ位『綺麗な面』も沢山見てきた…だから化け物ではなく人として生きていきたいんだ」

「此方としては『真祖級バンパイヤ』とか『荒神』あたりとくっついて貰って囲われて貰った方が良いんだが…大昔に真祖級バンパイヤの娘と婚約なんて話もあったのだろう?」

「それは僕じゃ無くて、ご先祖様の話だよ…まぁ眉唾物だよ」

そう言えば、あの女神様は僕の血を上手く使えただろうか?

神格が高ければ、ワイン代わりに窘めるはずだし。

邪神や上位の神に渡せば…何かと優位に話が出来るかも知れない。

「ひぃっ…魔族!」

まぁ、そう見えても可笑しくない。

「あっ魔族じゃないですから、安心して下さい!」

「ひぃっ、それじゃ何なんだよ!」

「それより、貴方はアヌダムの仲間ですか?」

「もしかして、お前仲間になりに来たのか? 魔物を使役するのか?それなら」

「いえ、食べに来たんですよ」

「女の事か?それとも俺達が隊商を襲って」

「ブラド任せた」

「全くお前は…まぁ良い」

そう言うとブラドは軽く手を挙げた。

すると盗賊は宙に浮かびあがった。

「僕は幾ら見ても、これ慣れないな、そうだ、今日は討伐証明が必要だから首だけ切断して『アイテム収納』に放り込んで」

「ひぃ、お前達なん何だよ」

「人使いが荒い..まぁ良い解かった。」

「ややややっめろうぅぅぅぅぅーーーうわっぐふっ」

首を切断すると、宙に浮かんだ盗賊をブラドは圧縮した。

これが魔法なのかスキルなのかは僕にも解らない。

グシャグシャグシャ

人間が無惨に潰されていき、ビー玉の大きさになるのは見ていて良い思いはしないな。

その大きさになった、元は人間だった物をブラドは口に放り込んだ。

「本来の俺は、血だけで人間等喰いたくないのだぞ」

流石に僕だって『人間を直接食べたくはない』それこそゾンビかグールだ。

僕と実体化したブラドの体は繋がっている可能性が高い。

それは胃袋も同じだ。

ブラドが食べた物が僕の胃袋に納まるという訳だ。

より沢山の人間を僕に食べさせる為にブラドはいつの間にか圧縮を覚えた。

「解っているけど、僕が人間を食べないと困るのはブラドだろう?」

「むぅ…確かにそうだ、仕方が無い」

この間にもブラドは襲ってきている盗賊を片っ端から宙に浮かべ首を斬り落とし、圧縮して食べている。

僕が人間を食べないと困るのはブラドだ。

なんでも、濃厚な血の味が薄まって血が美味しくないのだとか。

僕の方も大量にブラドから常に血を体の内側から吸われているので、貧血になりがちだ。

通常の食事では到底追いつかない。

圧縮してほうれん草やレバーを大量に食べれば良い様な気がするが…血の味にこだわるブラドはそれを許さない。

「お前、何なんだよ! 魔族がなんで襲ってくるんだ」

「嫌だ、嫌だ死にたくない..死にたくないんだーーーぁ」

命乞いをしているが気にする必要は無い『悪人なんだから』

「散々、残酷な事をして置いて、自分の番が来たらそれですか? 悪人なら悪人らしく、ただ黙って死ねば良いんだ」

「俺は、魔族は殺してねー」

「魔族に手を出してないのに…なぜ魔族が襲ってくるんだーーっ」

「うちは魔族とは揉めてない筈だ」

命乞いしながらも剣を向けているのは意味が解らない。

攻撃を仕掛けてくるが、ブラドが全部防いでくれている。

尤も、ブラドが僕に宿っているから…怪我しても一瞬で治る。

「僕はこれでも人間だ…魔族は関係ない」

「馬鹿な、その姿はバンパイヤだろうがーーっ」

僕は多分バンパイヤじゃない。

日光に当たっても僕もブラドも問題無い。

水も、ホワイトアッシュ(白杭)も全然問題無い。

つまり、バンパイヤの弱点は全部当てはまらない。

「バンパイヤの弱点は知っているぞ…持ってきたか!」

「はい」

何だこいつ等…いきなり水なんか掛けてきて。

「この水がどうかしたのか?」

「ぐあぁぁぁぁぁっ何でだ」

「水なんか掛けて意味無いだろう」

「そんな、聖水が効かないなんて」

そうこうしている間にも、周りに居た盗賊の殆どは首だけ残して胃袋の中に入っていった。

そして、とうとう砦にたどり着いた。

「ほう…ここ迄辿り着くとは…嘘だろう。魔族、バンパイヤか」

いちいち訂正するのも面倒くさいからそれで良いや。

「お前の部下は全員死んだ、後はお前等三人だけだ…あっもうお前だけだ」

仕事が早いな。

一瞬で首が二つ飛んだ。

これで残るは此奴1人だけだな。

此奴がアヌダムに違いない。

「お前で最後だな」

「待って下さい! そうだ、お金…お金を差し上げます…」

「盗賊の金は討伐した者の物だから取引きにならないな」

顔を真っ青にして震えている。

「そうだ、バンパイヤなら処女の血が欲しいんじゃないですか? 一人は俺達が使っちまったから中古だけど、極上の処女が居ますから…それを差し上げますから…命だけは」

「いちいち聞く必要も無いだろう」

アヌダムの首が上から落ちて来た。

そのまま、ブラドは首を仕舞いこむと…最後の1人アヌダムをブラドは食べた。

体が異世界仕様になっているのだろうか?

体が凄く熱い。

血に力が漲る…それは何時もの事だ。

だが、今回はそれだけじゃなく筋力まで強くなった気がする。

もしかしたらレベルアップをしたのかも知れない。

ブラドの大きさも更に大きくなり、今ではワイバーン位の大きさは余裕である。

リザ

アヌダム達の討伐が終わり、ブラドは今、僕の体に潜り込み『濃厚な僕の血を楽しんでいる』僕は倉庫から金や武器などを片端から収納していった。

この魔法何気に便利だな。

目ぼしい物の収納が終わり横の扉を開けると其処には二人の少女が居た。

「殺して…」

「この女を自由にして良いから、私には手を出さないで…ねぇ私は貴族だから身代金も入るし利用価値があるわ」

その部屋には二人の少女が居た。

1人は褐色の肌でボーイッシュな感じの少女だ、肉付きも良く筋肉質だ。

元は可愛かったのかも知れないが、殆ど裸の状態で臭い臭いを放っている。

体も散々いたぶられたのか痣だらけで、目は潰れていない物の右目の上から口元にかけてナイフで斬られた様な傷があった。

そして体にも無数の切り傷があり…沢山の男性に汚された様な形跡がある。

それに対して色白の少女は見た感じ…傷一つなく、健康その物に見える。

そう言えば、アヌダムは

「そうだ、バンパイヤなら処女の血が欲しいんじゃないですか? 一人は俺達が使っちまったから中古だけど、極上の処女が居ますから…それを差し上げますから…命だけは」

と言っていたな。

褐色の肌の少女は今にも死に掛けている。

そう言えば、さっき倉庫から回収してきた中にポーションがあった。

これを使ってみるか。

瓶をあけて口に流し込んだ。

「ハァハァハァ…」

駄目なのか?

これじゃ駄目なのか?

「ちょっと待ちなさい! 貴方は盗賊じゃ無いの?ならば、そんなのは放って置いて私を助けなさい、此処から王都の屋敷まで連れていってくれれば…ヒィ…」

ブラドが恐らく気を効かせて威圧を掛けて黙らしてくれたのだろう。

何時もならこんな事は頼まない限りしてくれないが、今は久々の『濃厚な血』を味わっているからか、サービスが良いな。

『ついでにそいつの心から、何があったのか読み取ってくれないか?』

ブラドに頼んだ。

僕にポーションは必要ない。

病気は兎も角、傷はブラドがどうにかしてくれる。

琴子や真理愛の為のストックだ。

今回手に入れた中で恐らく一番高いであろう『ハイポーション』を試してみた。

口から流し込んだ。

彼女の譫言は止まり…寝息をスース―立てている。

多分これで大丈夫なはずだ。

さてと..この二人に何があったのか…見させて貰おうか。

◆◆◆

なんて事は無かった。

無傷の方の少女はドルマン子爵の娘で、褐色の少女は騎士見習いの少女でリザ。

王都から避暑地への移動中にアヌダムとその仲間に襲われ、護衛の騎士4名とリザが戦い、盗賊を2人殺した物のあえなく数の暴力で敗退した。

「リザ、お嬢様を連れて逃げるんだ」

どうにかその場は4名の騎士の犠牲で逃げだせたものの…敢え無く捕まってしまった。

そこからが…リザの地獄が始まった。

彼女が『忠誠心』が無い人物なら、ここ迄酷い事にならなかったかも知れない。

捕まった時に、盗賊がお嬢様に手を出そうとした時…

「私なら幾ら汚してくれても構わない…お嬢様だけは頼む手を出さないでくれ」

そうリザは言った。

自分が犠牲になっても守る、それが見習いとはいえ騎士の矜持だったのかも知れない。

アヌダムは『お嬢様』そこが気になり、話を聞いた所『貴族の娘』だと解かった。

身代金や人質になる可能性が高いから、リザの願いは叶えられた。

そこからは、無惨、悲惨としか言えない状態だった。

何しろ一人で30人からの男を相手する毎日だ…それがどれ程過酷かは誰だって解るだろう。

服なんて着ている暇はなく、1度に何人もの男に汚され、終わっても次が待っている。

だが、これですらリザにとってはまだ幸せな状態だった。

散々犯され弄ばれ続けたリザに性的な魅力をしだいに皆が感じなくなっていった。

当たり前と言えば当たり前の事だ。

風呂所か水浴びもさせず使っていたから、生ごみの様な臭いがし、髪も男の物がこびり付き異臭を放つようになる。

最初は泣いて抵抗していたり、反応していたが、此処までされたから心も壊れてしまったのかただ「助けて…」と小声で譫言を言うだけになっていった。

「なぁ、このゴミ女抱きたい奴いる?」

「俺パス」

「流石に臭いからそれ抱く位なら自分でするわ」

性的な利用価値が無くなったリザは…今度は慰み者にされるようになった。

犬や豚のモノマネをさせて遊んだり…食事も残飯に変えられた。

恐らく、リザの生存本能が、生きるためにそれを受け入れ食べさせたのかも知れない。

「これ、もう人間じゃ無くて豚じゃないか?」

「豚は此処まで臭くないしょ…生きている便所じゃないか」

もはやリザを人間とし扱う者は居なかった。

一緒に捕らわれリザが守った少女も、自分が安全な事が解かると…

「臭いから寄らないで」

「こんな生ごみと一緒だと食事すら不味いわ、スラムの人間の方がまだマシよ」

「死んでくれないかな? 貴方が死ねば、この牢屋も臭く無くなるから」

と罵るようになる。

そして、リザはやがて動けなくなった。

動けなくなったリザを一人の盗賊が火を押し付けた。

するとリザは必死に「あつい」と小さな声を出し手を動かして火傷の箇所を触ろうとした。

「これ面白いな…」

リザはついて本当について無かった。

「何だ、それでまだ遊んでるの?」

「いや、もう使い道無いと思っていたんだけどさぁ、火を押しつけたり、ナイフで少し切ると手を動かすんだ」

「まぁ退屈だから付き合ってやるか…」

「助けて…」

蚊の鳴くよう声でそう言っていたリザだったが、体に傷がつき…痣だらけになっていく姿を見ると

やがて、助けてが「殺して…」に代わっていった。

「死にたいなら殺してやんよ」

「うふふ…殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して—-っ」

殴られ蹴られたが…鍛えていたせいか、リザはなかなか死ねなかった。

流石に此処まで来ると気持ち悪くなったのは、盗賊もリザに構わなくなり。そのまま放置されていた。

◆◆◆

見るんじゃ無かった。

僕はこういう経験は流石に無い。

だが、同じような目に祖先はあっていた。

だからこそ…どうにかしてあげたくなった。

「貴方、冒険者何でしょう? そんなゴミを捨てて置いて此処から早く出ましょう。奴らが帰って来る前にね、行きましょう」

何だ此奴…

「そう言えばお嬢様は何か身分を証明する物は持っていますか?」

「このペンダントがルドマン子爵の、えっ」

ブラドがいきなり飛び出て首を食いちぎった。

「いきなりだな」

「お前の考えは解かる。その女はクズだろう」

「まぁ、そうだな」

「なかなか女は食べてくれぬからな、クズ女は貴重だ」

そう言うとブラドは貴族の少女の死体に圧縮を掛けようとしていた。

「それは首も必要無いから一緒に食べておいてくれ」

「そうか」

まぁ良いかペンダントを持ち帰れば、盗賊に殺された…そう思うだろう。

◆◆◆

暫く様子を見ているとリザが目を覚ました。

「ようやく目を、えっ」

いきなりリザは僕のナイフを腰から抜き取り自分の胸に刺そうとした。

間一髪僕の手が間に合った。

「痛いっ..なにするんだ」

「ごめんなさい…死なせて下さい」

まだナイフを持っている。これを防ぐなら抱きつくしかない。

だが、それだと

「ぐわぁぁぁぁーー」

背中を刺された。

「邪魔しないで..死なせて下さい。貴方だって私に何が起きたか解るでしょう」

手から血が出ているから丁度良い。

今の僕の血は琴子の時とも真理愛の時とも違う位『濃厚』だ。

多分、効力は更に強い…

だけど、リザに死んで欲しく無いなら使うしかない。

僕は血だらけの手をそのままリザの口に押し付けた。

これで良い..筈だ。

これできっと…死なないではくれる。

「これは僕のエゴかも知れない…だけど君には死んで欲しくない」

多分、血の魅力の方が死にたい気持ちを上回る筈だ。

「死ぬ事も許してくれないの?」

そう言うとリザはその場に座り込んで泣き始めた。

リザ?

リザはなかなか泣き止まない。

だが、泣き声に混ざって、違う仕草も混じってきた。

泣きながら上目使いで僕をチラチラ見だした。

それでもあくまで『泣きながら』だ。

今の僕の濃厚な血を飲んでこれなんだから、彼女の地獄は男の僕には考えられないだろう。

今は様子を見ているしかない。

どの位待っただろうか?

リザはようやく泣き止んだ。

「貴方は何で私を助けたのですか? 見ての通りゴミみたいな女ですよ! 顔に傷があるし、体も傷だらけです…こんな女誰も欲しがりません…連れていっても奴隷としても売れません」

違うとは言えないな。

「確かに外見ならそうかも知れない。だがリザは『自分の身を投げ出して人を救おう』とした、それは普通に考えたら出来ない事だ」

「何故、それを知っているのか解りませんが…その結果がこれです。助けた相手からも馬鹿にされ、もう私には『何も残っていない』ボロボロです。助けて貰いましたが…今の私はただのゴミなんです…私なんてきっと鉱山奴隷としても価値はありません…よ」

「本当にそう思うのか?」

「はい…」

「俺はそうは思わない、それに君は俺の戦利品だ、こういう状況で見つかった女性は貴族でもない限り。助け出した冒険者の者だ」

「そうですか…私は沢山の男性に犯され慰み者にされた女ですよ…ただ外見だけでなく体も汚い…そんな者欲しいんですか…欲しいのなら…どうぞ」

僕の能力じゃ他人の傷は治せない。

ハイポーションで治らない傷なら、もう無理だろう。

「なぁ…俺は此処を攻略する為に盗賊とはいえ沢山の人間を殺したよ」

「盗賊だからそれは当たり前の事です…私も被害者です…盗賊を殺すのは当たり前です」

「そうか、だが、お前にだけは言うが、あの貴族の娘も殺した」

「何故ですか…」

「お前を見殺しにしようとしたから殺した…ただ気に食わない、それだけで殺したんだ」

「私を…何故でしょうか…」

「リザは自分が汚いというが、それなら僕はリザの数百倍汚い事になる」

「何故、そんな事を言われるのですか?…かなり美形だと思いますが…」

「僕の祖先は『虐げられていた』、リザ何て比べ物にならない位ね…相手は人間だけでなく魔物の相手もさせられていた者も居たし魔物の子を出産した娘も居たらしい…頭から齧られて食べられた者も、血液目当てにバンパイヤのエサとして死ぬまで過ごした者もいる」

「本当の事…ですか」

「だから、僕の体はもしリザが汚いなら、生まれながらに汚い事になる」

「そんな話…信じませんよ…同情は辛くなります…もう止めて下さい…こんなゴミみたいな女が欲しいならあげますよ…要らなくなったら捨てて下さい」

はぁ~仕方ないな。

『ブラド、出てきてくれるか』

『折角、濃厚な血を貪っているのに…そいつも喰うのか? バッチイぞ』

『違う、この子は仲間にする予定だ』

『本当にお前は物好きだな、あの雌ガキもそうだが…此奴は』

『ブラド、そんな事言うと…』

『怒るな…出てやれば良いのだろう』

僕は腕を傷つけた…流れ出した血は固まりワイバーンさえ超える巨大な三つ首頭の蝙蝠となった。

リザは驚いてはいるが…怖がっていない。

「魔族だったのですか…」

「違う…僕の一族の血や肉は神や魔物にとってはご馳走みたいな物だった。生贄にされたり、慰み者にされた結果がこれだ…まぁ此奴みたいなのが体に宿ってからはそういう事からは解放されたけどね」

「なら、貴方は、貴方自身は汚れていない…」

「此処にはリザが守っていた娘の死体も無い…盗賊の死体も無いそれは食べたからだ…僕なんて人を食べなければ生きていけない化け物だ…汚れているっていうなら僕以上の者はいないよ…気にするなとは言わないけど、君が汚れた事を知っている奴はもうこの世にはいないよ」

「貴方は化け物じゃない…少なくとも此処に居た盗賊よりも、私を見捨てた雇い主よりも遙かに優しい」

「それならリザ、お前もな…この秘密はリザしか知らない、他の仲間も誰も知らない事だ」

「それを何で私に話したの」

「さぁ? だけどリザなら全部知っても傍に居てくれるそう思ったからな」

「そう…私が必要な理由は解かった…仕方ない、助けられた女は奴隷になるのが法律だから…本当に物好きだね…いいよ、貰ってくれてゴミ女だけどね…」

「それじゃ、今からリザは僕の者だ…最初に」

「抱くの?」

「いや、臭いから風呂に入ろうか?」

流石に大所帯の盗賊、さっき風呂を見つけた。

最も、沸かす道具が無い、水風呂だ。

リザはまだ歩くのもおぼつかないから、お姫様抱っこで運ぶか。

臭いとはいえ、ほぼ裸の少女を抱っこするのは…恥ずかしい。

「ごめん…嫌かも知れないけど」

「今更気にならない…あはははっ散々犯された体だもん」

「その話は止めようか」

「ごめん、そうだね…だけど汚いし臭いのにごめん…」

「気にするな」

水風呂に着くと、髪から洗ってあげた。

「ごめんなさい…」

多分汚れているのを気にしているのだろう。

そうとう風呂に入っていなかったのか、シャボンを使って何回も洗ってもドブ水みたいな水が流れる。気にしないでこびり付いた物を丁寧に指でほぐしながら洗う。

10回位洗ってようやく髪が綺麗になった。

今度は体だ。

「うぐっ痛い…」

「悪い、我慢して欲しい」

体中垢だらけだが。傷だらけでもある。

大きい傷は15?を越える物もあるし…痣だらけだ。

だが、水が茶色くなる程汚いし…ちょっと擦るだけで小さなボール位の垢が出てくる。

下半身は目も当てられない位酷く白い物が乾燥してついている。

あまりに汚いから我慢して貰うしかない。

洗う事数十分…ようやく綺麗になった。

スレンダーな褐色の体、運動神経が良さそうなボーイッシュな女の子。

クラスに居て、体や顔に傷が無ければ、きっと男からも女からもモテるタイプだ。

僕とは逆で『実に健康的で羨ましい』

「綺麗になったな」

「お世辞は要らない…この傷で綺麗な訳無い」

リザの体を拭きながら…困った事に気がついた。

しかし、失敗したな。

あのクソ貴族娘、服を脱がせてから殺すべきだった。

盗賊の着替えだから男の服しかない。

仕方ないからそれを渡そうとしたが…

「すまない、これで我慢してくれ」

「ごめんなさい..」

手の力も入らないらしく自分では服が着れないようだ。

リザの着替えを済ました僕は、そのままリザをおぶった。

「ほら、私役立たずでしょう?」

「体の具合がまだ悪いのだから仕方ないさ」

「うっ…ごめんなさい..うっうっうっーーうっ」

王都の冒険者ギルドに戻る迄リザは僕の背中で泣いていた。

リザ?

取り敢えず冒険者ギルドまで戻って来た。

「亜人様、お帰りなさい、討伐の進み具合はどうですか…やはり難しかったでしょう」

「討伐証明の首は何処に出せばいいのでしょうか?」

「既に何人か討伐されたのですか? 大丈夫ですよ!アヌダムのメンバーは全員幾ばくかの賞金が掛かっていますから、多少のお金には雑魚であってもなります。中には単独で金貨20枚の者も居ますから…どうぞ」

「此処に出して良いのですか?」

「構いません、冒険者も受付も、首位で驚いたりしません」

流石だな…前の世界ならお化け屋敷で泣き出す子もいるのに…凄いな。

「それじゃ出させて頂きますね」

僕は首を取り出すとどんどんカウンターに置いていった。

「ちょっと待って下さい! もう9つの首をここに置いていますが一体何人狩ってきたのですか?」

「全員だけど?」

「全員? 幾ら異世界からの転移者だからって…」

「大きな声出さないで下さい!」

『あの人異世界転移者だって』

『スゲーな、まさか勇者だったりして』

『あの横の子何? みすぼらしいけど』

「ちょっと」

冒険者ギルドの受付なのに…身バレする様な事なんで言うんだ。

「すいません」

「まぁ良いや…それじゃ出して良いんだよね」

「はい、ですがギルマスを呼んできますね…まさか討伐されるとは思わなかったのです」

「解かった」

遠巻きに僕の事を見ているがお構いなしに首をカウンターの上に積み上げた。

直ぐに髭もじゃの筋肉質の男がこちらに来た。

「これを三人で狩ったのかスゲーな!」

本当は1人、いや2人だが、態々いう事も無いだろう。

「まぁ、そんな所だな」

「それでだ、金貨700枚なんだが、払うとギルドの買取金が底をつくんだ」

「それなら、金貨10枚だけ貰って残りはパーティの共同口座に入れてくれれば良いよ…小出しにしか多分引き出さないから」

「ああ、そうしてくれると助かる」

「共同口座に入れる形で構わないから、アヌダムの倉庫から持ってきた物の買取もお願いしたい」

「勿論だ、カウンターの上に置いてくれ」

「それでこの子なんだが…僕が助けたから、僕の戦利品で良いんだよな」

「…」

リザは黙っていた。

「それは構わないがちょっと良いか?」

「何かあるのかな、リザが心配だから離れたくないな」

「時間はとらせないから…今回は凄い活躍だから特別にサロンを使わせてあげよう…その子をサロンの方で待たせてくれ」

「解りました」

◆◆◆

ギルマスに連れられて裏庭に来た。

「なぁ、あの子を何で連れて来たんだ!」

「それはどう言う意味ですか?」

「どう見ても真面な人生送れそうにないだろうが! こういう場合は殺してやるのが優しさだぜ! あの子…どうやって生活するんだ…これから先真面な生活なんて出来ねーだろうが!」

「それなら、僕が面倒見ますから問題無いです! 戦利品として貴族で無ければ奴隷にして良いんですよね!」

「確かにそうだが…あの状態だぞ、それにこの街じゃきっと直ぐ噂になるし住みにくい」

「僕は異世界人です。面と向かっては文句なんて言わせないし、パーティにいれるつもりです。この街にいるのも後数週間だし、その間はお城です。そして旅に出たら、魔族との戦いであちこち回るから問題はないと思います」

「本気で奴隷にして面倒みようと言うのか? 言っちゃなんだが、奴隷商に行けばあれよりましな奴が金貨1枚以下で買えるんだぞ!」

「リザは買えないだろう?」

「異世界人の考えは解らねーな。まぁ責任持つなら良い。だがな此処じゃそんな事していたら身が持たねーよ。オークやゴブリンを討伐するなら、同じような女を目にする事がある。連れて帰ってきたらもう、法律があるから『殺してあげれねー』その場で殺してやる、それも優しさなんだ」

「本当にそうなのか?」

「まぁな、昔やっぱりあんたみたいに助けて連れてきた奴が居たんだよ」

「それで?」

「助けた後、置いてそのまま旅に出た。 結局、娼婦に奴隷にもなれず、周りから蔑まれながら…絶望して死んだよ」

「そうか…まぁ僕はパーティに組み込むつもりだし、奴隷として生涯手元に置くつもりだから問題はないな」

「変わっているな…あんた」

「まぁね…それで奴隷ってどうすれば良いの?」

「まぁこちらで身元を調べて、貴族で無かったら奴隷紋を刻んで終わりだ…本来は奴隷商の仕事だが、ギルドを通せば『証人』をギルドがするから後々揉めないな」

やはり、あの娘は殺して正解だったな。

あの後、後悔させるために『天城と剣のお土産』にする事も考えたが…奴隷に出来ないならあの判断は間違いなかった。

「当人は騎士見習いって言っていたな」

「騎士だと騎士爵があるかどうかが問題だが、見習いなら問題は無い。まぁ責任持つなら俺から言う事は無い」

「そうだ、貴族と言うならこんな物を見つけた」

僕はあの娘が持っていたペンダントを渡した。

これだけは別にして相談する必要がある。

そう思ったからだ。

「それは、ルドマン子爵家の紋章、行方不明の令嬢が持っていた奴だ。それで令嬢は無事か? 凄いぞ、ルドマン子爵からきっと謝礼金が出るぞ」

僕は首を横に振った。

「僕が助けに行った時には『これしか無かった』砦の周りに死体が沢山あったから、あの中にあるのかもな」

「そんな…まぁ仕方ないな」

「メンドクサイのは嫌だから、冒険者が見つけたと言って返して貰って良いかな?」

「多少は謝礼が貰えるぞ」

「娘を亡くした親に会うのは…謝礼が貰えても避けたい」

「そうか、ならばこちらから返しておこう」

「頼みました」

「ああっ」

流石に自分の腹に納まっている娘の親からお金は貰えない。

◆◆◆

ギルマスと話している間に査定は終わったようだ。

「買取と併せて金貨820枚になります。そこから金貨10枚払い戻しという事なので金貨810枚を口座に入れておきます。 それで奴隷紋の代金は銀貨5枚なのですがそちらはどうしますか?」

「口座から引いて下さい。あと口座から追加で金貨5枚降ろして。今日の酒場の代金は全部そこから出して下さい」

「随分太っ腹ですね」

「だれかが、僕を『異世界人』ってバラしたから…こうでもしないとやっかまれそうですからね…」

「すみません」

「まぁこれは冗談で…元からこうするつもりでした。ただ次からは気を付けて下さいね。特に仲間の素性は絶対にばれない様にして下さいね」

「解りました」

「それじゃ、はい」

「これは何ですか?」

「チップです」

そう言って銀貨1枚渡した。

世の中、飴と鞭だ…

◆◆◆

サロンに通された。

此処は本来は上級冒険者やギルマスしか使えない。

だが、今回の討伐が大手柄だったのと、ギルマスがさっきの話を僕とする為に使わせてくれたようだ。

テーブルに紅茶があってその横にお菓子もあるが手を付けていなかった。

「あの…私さっき奴隷紋を刻まれました。これで私は本当に貴方の者になったのですが…本当に良いの! 私本当にゴミですよ…それにあっちだって沢山の男性に使われた汚い女です…それに体も顔もこれですから…本当に終わってます…うっううう」

「あのさぁ、此処で言わないで欲しいけど…僕の事は話したでしょう。だから僕はリザが汚い、なんて思わない。信頼しているから僕の秘密は全部話したよね。ここ迄話した相手は君しかいない。上手く言えないけど…君の心が気に入ったんだ。もうリザに起きた事を知っている人間は居ない…だからもうこの話は止めようか」

「あの、それで良いなら…」

「それじゃ行こうか?」

「何処に?」

「もう時間も遅いから、急いで買い物をしないと..」

「買い物…ですか?」

「そう、買い物」

もう時間も遅いから、急いで買い物に行かないとな。

◆◆◆

「武器屋ですか?」

「そう、洋服について考えたんだ…普通の洋服も良いけど、まぁ良いや入ろう」

「いらっしゃいませ…今日は何をお求めですか?」

「この子に会う、見栄えの良い鎧と剣が欲しい…あっ実際にには戦わないから鎧は見栄えが良い物で、剣も軽くて見栄えの良い物でお願い致します」

「あの…えーとご主人様、それはどう言う意味でしょうか?」

「良いから、良いから」

「あはははっ兄ちゃん変わっているな。なら剣はスモールソードで良いか? レイピアだと細すぎて、その姉ちゃんには会わないな…それに軽装の鎧でどうだ? 兄ちゃん、その姉ちゃんの傷に会う様な『ベテラン冒険者』風に仕上げれば良い、そういう事か?」

「そういう事です…スイマセン変なお願いで」

「武器屋をしているせいか傷ついた冒険者や騎士を見た事は沢山あるんだ」

「お願いします」

「任せておきな」

女の子らしい服装も考えたけど、これじゃもっとリザが落ち込みそうだ。

そこで僕なりに考えたのがこれだ。

冒険者、もしくは騎士風に仕立ててしまえば傷は目立たない。

そう思った。

顔の傷も、カッコ良く見えるかも知れない。

「どうだ、こんな感じで」

「いいね、これにしよう…全部で幾ら?」

「金貨2枚に負けておくよ…ただその鎧見栄えは良いがオークの棍棒すら防げないからな」

「まぁ戦わせないから良いよ、はい」

「有難うよ」

「あのご主人さま….これ」

「ああっ、こう言う恰好をすれば『冒険者』に見えるから傷も気にならないだろう? それに結構冒険者には傷が多い人もいたからな」

ギルドには片腕が無い人物も居たし、片目に眼帯をしている女性も居た。

「あの…確かにいっている事は解りますが…普通はわざわざ傷物にこんな事しません」

「何度でも言う、僕はリザが気に入った…何故か解らないけどな…それじゃ駄目か」

「私は…奴隷ですから断れません」

その時のリザは今迄と違い少しだけ笑っている様な気がした。

「急がないと他の店が閉まるぞ」

「そうですね」

僕はリザの手をとり走った。

戦わない選択
「ハァハァ、何とか全部買えたな!」

「そうですね…ですが良かったのでしょうか?」

「何が?」

「私、本当に価値なんてないですよ…」

「それはもう言わないでね、これで最後! 特にパーティの残り二人は女の子だから。もうリザの過去を知っている人間は居ない。誰かに何か言われたら『戦って大怪我をしていた』それで大丈夫なはずだ」

「亜人様がそう言うならそうすることにします。 それなら忘れた事を前提に話しますが、盗賊に敗れて顔から体まで傷だらけですから女として、私は終わっていますよ。そんな私に何故此処までしてくれるのでしょうか?」

「なんだか放って置けなかったからかな、それにこれは賭けだったけど、自分の全てを受け入れてくれる。そんな存在にもなってくれる、そう思ったからだ」

「そうですか…こんな私でも貴方は『欲しい』というのですね。こんなゴミみたいな私を…ならば私は貴方の者になりましょう! これでも騎士見習いでした…生涯貴方への忠誠を誓います」

別に、騎士で無くても良いんだけどな…

まぁそれでリザの気が済むなら今はそれで良いだろう。

「それじゃ、宿に戻ろうか?」

「はい」

◆◆◆

「亜人君~その人は誰なのかな?」

「新しい女を加えたい…という訳では無さそうね」

僕は、盗賊の討伐とリザについて、都合の悪い事は隠して全部話した。

「そうなんだ、確かに凄い怪我だね~」

「凄いわ、そんな怪我してまでも戦うなんて、凄い戦力だわ」

「それなんだけどさぁ…もう琴子と真理愛には戦って貰わなくて大丈夫だ。多分、僕1人で三人を養う位の事は出来る。」

「ちょっと待って下さい! ご主人様、それだと私も戦わなくて良い、そう聞こえるのですが」

「そうだな、依頼は僕1人で基本受けるからリザを加える事は無いな。どちらかと言えば僕が居ない間の二人の護衛で充分だよ」

「この二人の護衛、それで良いのですね」

「私、賢者なのにそれで良いのかな」

「それを言うなら私なんて聖女よ」

「魔王と戦うのは『勇者』の使命。天城と剣がどうにかするだろう。僕たちは自由気ままに生きれば良いと思うんだ」

「それじゃ、困る人が居るんじゃないのかな」

「私もそう思う」

「あのさぁ…お人好し過ぎないか! 琴子は魅了を掛けられて天城のオモチャになる所だった。しかも、それを黙認したんだよ、この国はさぁ。運が良く解けたけど」

「亜人君が、私を愛してくれていて、私が亜人君を愛しているから効かないんだよね」

「確かにそうだけど…何か一つ狂っていたら、今頃は琴子の人生は終わっていた。基本『魅了』は解けないらしいから…『勇者の魅了に勝てたら、好きなメンバーを連れて出て行って良い』そういう賭けをした。その賭けに勝ったんだ。だから、好きにして良い筈だよ」

「それで亜人君はどうしたいの?」

「どうするの?」

「ちょっと小耳に挟んだんだけど、魔族との戦いは直ぐに決着がつくもんじゃ無くかなり昔から戦っているらしいんだ。つまり…魔族領から出来るだけ遠くに居れば、精々が魔物の脅威があるだけだ」

「もしかして亜人君、戦わないつもり?」

「本当にそれで良いの?」

あれは僕が御供一族だから、どうにかなった。

もし普通の人間なら泣き寝入りだ。

100%勝てない賭けに勝ったんだ…その位の事をしても問題無い。

「出来るだけ、魔族領から遠くに行って、弱い魔物を倒して生活しようと思う…三人には戦わないで、傍に居てくれれば良い」

「本当にそれで良いのかな…亜人君の負担にならない」

「何だか亜人一人に負担掛けているみたい」

「あの…私は奴隷ですし、騎士見見習いですよ」

僕の戦い方は見せられない。

だから…

「僕って、本当の家族が前の世界で居なかったから『家族』に憧れがあるんだ。ごく普通の家族の様に家で家族が待っている。そういう生活に憧れているんだ…我儘だと思うけど聞いてくれないかな」

これでどうだろう。

「そうですね、そういう平凡な家族と言うのも憧れますね。 まるで夫婦みたいですね」

リザは意図が解かったようだ。

「それってやはり…亜人君、私に専業主婦になって欲しいって事だよね…そうかぁ~それなら、うん仕方ないね、私料理とか掃除頑張るよ」

「そそそそそう言う事なのね、あはははっ、それなら仕方ないな、それが亜人の憧れなら、本当に仕方が無い」

「それじゃ、魔族領から出来るだけ離れて、あとは楽しく幸せに暮らす。それで良いかな」

「うん、凄く良い」

「楽しそう」

「…」

これでようやく今後の活動方針が決まったな。

◆◆◆

「ハァハァ…流石に耐えられそうにありません…顕現して下界に行ってきます」

「流石にそれは不味いですよ…大きな問題になります」

「それじゃ、どうしろと言うのハァハァ」

「此処にもう一度呼ぶしか無いでしょう…あと貴方は女神なのですからちゃんと『代償』を払ってあげて下さいね」

「代償?」

「はい、あの血は凄い価値のある物ですからね」

「解かったわ」

亜人が女神に再び会う日は近いかも知れない。

女神達と

気がつくと僕は…白い空間に居た。

不味い、もしかしたらこれは魔物もしくは悪神の仕業か。

どうする? 

取り敢えず僕は女神イシュタスに祈った。

此の世界の女神様だ、助けてくれる可能性がある。

もし守って貰えなかったら…ブラドに…

「驚かしてすみません、どうしても、ハァハァ貴方に逢いたくて」

何故…なんで女神様が居るんだ、横に居るのは天使かな。僕を…あの息、まさか飲んだのか。

可笑しい、神なら嗜好品ですむ筈なんだけどな。

もしかしてお礼のつもりが悪い事をしたのかな。

「なにか御用でしょうか?」

「それは、私が代わりに話すわ、貴方のその血、毎月少しわけて貰えないかな」

やはり血絡みか…

どうするべきかな。

「あの、タダでとは言いません。そうですね…そうだ古のジョブ『女神の聖騎士』のジョブをあげましょう…これでハァハァどうですか?」

「あの…イシュタス様、それはちょっとロード位にしたほうが…」

「はぁはぁ…駄目ですか? そうだ…私がこの世界で唯一作った防具『女神の鎧』をつけますよ」

「イシュタス様、気を確かに、駄目ですって。それ通常使ったちゃ駄目な奴です。神魔対戦の時とかしか使っちゃまずいでしょう…」

「ハァハァ…まだ駄目ですか?」

そう言えば、女神様なら、俺の病気を治せたんだ…リザだって治せるに違いない。

「あの、リザの怪我を治して下さい!」

「解りました、それも叶えますので、お願いします」

「それで月にどの位必要なのでしょうか?」

「えーと小瓶に4本位欲しいのですが…ハァハァ大丈夫でしょうか?」

「それ位なら良いですよ」

「ちょっと待って下さい!イシュタス様だけズルいです。私にも分けて下さい」

「え~と天使様ですよね」

「はい、天使のフェザーです。私もその血が欲しいなぁと思いまして」

「流石に余り沢山は困るのですが」

もし、血が沢山必要になれば『人を食う』頻度が高くなる。

今ですら飢えが始まると大変なのに…これ以上は厳しいな。

「私も加護をあげますよ!」

「ですが、余り血を渡してしまうと僕が貧血になるんですよ…」

「あっそれなら、特別な『ヒール』をあげますよ…天使が使う『パーフェクトヒール』これなら死んでなければ、どんな状態異常も治せますからね。貧血状態でも呪文一つで血の量も元に戻ります」

確かに凄いな…だけどこれならリザの怪我も治るから女神様への最後のお願いは必要ないんじゃないかな?

「あの…それだと、女神様への最後の願いは必要なくないでしょうか?」

「え~とその傷はどんな状態なのかな?」

リザの傷について話した。

「古傷だよね…古傷になってしまったらヒール系じゃ治らないのよ。傷とかってその状態が正常と言う事になるからね」

「そうなんですね」

「そうよ、だから…傷の治療はイシュタス様に頼んだ方が良いわ」

「有難うございます」

だが、血液が元に戻るのは魅力的だな。

「その、失った血液の分薄くなったりしませんか?」

「それは無いよ、完璧に正常な状態に戻るから大丈夫」

「解りました…それなら構いません」

「それじゃ『天使版パーフェクトヒール』と貴方の守護天使をする事でで血液4本、私にもお願い致しますね」

「はい」

無理矢理奪うのではなく『しっかり交渉してくる』善良な神なのは良く解る。

これなら別に良いや。

「それじゃ、もうジョブは冒険者から『女神の聖騎士』に変えたわ。『女神の鎧』はアイテム収納に入れたわ..あとは..」

眠った状態のリザが現れたが、様子が可笑しいと解かったのか目を覚ましたようだ。

「あれっ、ご主人様…此処何処です! 部屋じゃないようですが…嘘、そこに居るのは…いえいらっしゃるのは女神イシュタス様に天使のフェザー様じゃないですか?」

「はい、そうですよ…そちらの亜人さんより、貴方の治療を頼まれたのですよ…これで良し、もう何処にも傷は無い筈です。ご確認下さい」

「え~とこれは夢ですよね」

「夢ではありません」

「嘘…治っている。傷が全部、治っている、有難うございます。女神様」

「本当に有難うございます」

「それじゃ、貴方は先に戻って下さい」

「はい、本当に有難うございます」

「良いのですよ。貴方のご主人様から頼まれましたからね『奴隷紋』以外は完璧に治った筈です。感謝は貴方のご主人様にしなさい..では送らせて頂きます」

リザはかき消すように消えて行った。

「さぁ、それでは…ハァハァハァもう駄目、約束の血液を…ハァハァ下さい」

「私にも下さいね」

「解りました」

僕は…あれ、ナイフが無い。

「あのすみません、刃物と瓶をお願い致します」

「ハァハァ、はい」

僕は貸して貰ったナイフで手首を傷つけ血を瓶に詰めて渡した。

その後、パーフェクトヒールを使ったら。

嘘だろう…本当に傷が塞がり、貧血にすらなっていなかった。

警戒する必要は無かった
あの後、天使のフェザー様から詳しく話を聞いた。

『女神の聖騎士』は本当の意味での女神の使いとされていて、此の世界の宗教者であれば、教皇でも跪く存在らしい。

勇者がこの世界で優遇されているのは『女神が選んだ存在』だからと言う意味が強い。

だが、女神の聖騎士よりは劣る。

戦闘能力という意味においても勇者を越えて強くなるらしい。

但し『絶対に魔王を倒してはいけない』という制限がつく。

勇者が魔王と同格。

それに対して『女神の聖騎士』はその上の邪神よりやや下の『魔神』レベル。

お互いに勇者以上魔王以上の存在を使って争ってはならない。

そういう不文律があるそうだ。

「そうは言っても、向こうから襲って来た場合は仕方ないですね」

「あの、女神の鎧は…」

「神話の時代から一度も破壊された事が無い 女神の聖騎士のみが着用できる鎧です。 今の持ち主は亜人さんですから、他の人間は手も触れられないです」

「それって最強の鎧ですか」

「強さなら…ですが…」

何かあるのか?

「鎧は女神、まぁイシュタス様の血迄含んだ最強ですが…人間は耐えられません」

「どういう事でしょうか?」

「例えば、空から落とされれば、鎧は壊れないけど中の人は死にます」

「えーと」

「ちょっとしたブレスなら防げますが…それを越えた火力なら焼け死にます。まぁフライパンと同じですね」

「それって…」

「絶対壊れないので死ぬまでもう、防具代は掛かりませんね」

「武器はないんですか?」

「イシュタス様は不器用なので、その鎧を作るだけでも大変でして…剣を作るのは諦めたようです」

なんだか、有難いのか微妙だな。

「色々教えて頂き有難うございます」

「構わないですよ、私は貴方の守護天使ですから。困った事があったら祈って下さい。顕現は簡単には出来ませんが、アドバイスは出来ますよ」

「有難うございます」

お礼を言ったら瞬間、世界が暗転した。

◆◆◆

現実の世界に戻ってきた。

夢かと思ったが、夢では無いようだ。

その証拠に、体に力が漲っているような感じがする。

いつもの様な気だるげな感じがしない。

何より『女神の鎧』がアイテム収納にあった。

「ご主人様~」

息せき切ってリザが走ってきて飛びつかれた。

「おはよう」

「おはようございます。それよりご主人様は何者なのですかーーっ! 女神様とあって普通に話されるなんて…教皇様でも出来ません」

「そんなにたいした事じゃないんだ。僕は転移者だけど、その際に女神様と色々あって気にかけて下さっている。それだけだよ。」

血やジョブや鎧を貰った事は今は内緒で良いだろう。

「それにしても、まさか自分の傷が全部無くなるなんて思いもしませんでした。 女神様自らが治療なさるなんて奇跡絶対に普通じゃ起きません。有難うございました亜人様」

天使のフェザー様から貰った『パーフェクトヒール』でも治らないんだ、正に奇跡だな。

「僕はただ頼んだだけだよ」

「それでもです。有難うございました」

「何事ですか亜人君…えっ何で亜人君は抱き合っているのかな? その子はリザじゃないですか? どうしたの?傷が無くなっている」

「朝から煩い…何やっているの? あれ傷が無い」

「偶々、僕の事を気にした女神様が現れて話したら治してくれたんだよ」

「亜人君にだけ何で、不思議だよ」

「何で」

「それは、僕だけ優れたジョブを与えられなかったから、気にかけてくれたみたいなんだ」

「確かにそうだね」

「でも良かったじゃない..そのおかげでリザの傷が治ったんだから」

「本当に有難うございました」

ジョブや鎧よりもリザの傷が治った事が凄く嬉しかった。

最後の一日は四人で王都を見て周り、夕方城へ帰った。

リザは現地の人間だけあって詳しい…それだけでも助かるな。

◆◆◆

お城に帰ってきた。

今迄とは違い天城と剣が気になる。

琴子と真理愛には手を出さないがリザは別だ。

結構綺麗で可愛いしい。

褐色の肌は目立つ。

「悪いが、琴子と真理愛はリザを気を付けてみててくれ」

「「解かったわ(よ)」」

「亜人さま此処はお城ですよ…何を警戒しているのですか?」

「此処だけの話…勇者と剣聖が女癖が凄く悪いんだ…」

「そうですか、気をつけます」

◆◆◆

「あれぇ~お前も奴隷を買ったのか?」

ヤバイ嫌なタイミングで会ってしまった。

まぁ僕が居るから良かったが、今は琴子も真理愛も居ない。

「まぁ奴隷は欲しいよな。他の奴は遠慮しているけど買うのが当たり前だ。あのエチケット王女は煩かったけど、俺達も買ったんだよね」

「そうそう、天城がさぁ店に居た唯一のエルフを買ったから、俺はダークエルフになったんだけど…」

「そうだな、折角だからおすそ分けしてやるよ」

そう言うと二人は走って2人の奴隷を連れてきた。

「凄いだろう」

「流石はエルフにダークエルフ凄いですね…ですが何てマント羽織っているんですか?」

「これは特別だぞ」

「何故か亜人とは気が合うからな…そーれ」

「きゃぁぁぁぁーーっ止めて下さい」

「止めろっ恥ずかしい」

「嘘…ビキニアーマー。この世界にあるんですか?」

良くRPGとかで見るビキニアーマーを着ていた。

最低線の場所しか隠れていない。

「無いから、特注で作らせたんだ」

「やはりこれは男のロマンだろう? ちなみに回復魔法と攻撃魔法がそれぞれ使える。これで完全に二人は要らない状態だな…エチケット王女にもしっかり要らないと天城が言ったから、お前は困らないぞ」

「男のロマンはエルフだよな…まぁ金が無いから買えないかも知れないけどなぁ。まぁそれはそれで良かったじゃねーか。真理愛の目の届かない場所で頑張れよ」

「解りました」

「それじゃーな、俺達はこれからちょっと部屋で励むから」

「煩い真理愛を引き取ってくれてあんがとな…流石にエルフや、ダークエルフはあげれないけどな…他の女の中で欲しいのが居たら言えよ。口利き位はしてやるから」

「有難うございます」

エルフにダークエルフの奴隷か。

警戒する必要は無かったかも知れない。

「あの..亜人様、亜人様は私がああいうの着たら喜んでくれますか?」

「ああっそうだな」

僕も男だ…違うとは言えないな。

勧誘

「亜人君凄いじゃない?普通について来れるようになったね」

「亜人、凄い」

今日も訓練で走らされていたが、今迄と違うのは普通に訓練についていける様になった事だ。

ジョブの凄さを思い知らされる。

多分、本気を出したら、全員抜き去る事が簡単に出来る。

だが、それをしたら目立つから、敢えてギリギリついていける位で押さえている。

今の僕は『貧血からの解放』『女神の聖騎士のジョブ』この二つが手に入ったおかげでかなりの力を手に入れていた。

「おっ亜人…少しは走れるようになったじゃないか?」

「ついてきている…すげーな」

「この間、討伐をしたおかげでレベルが上がったのでどうにかこうにか…です」

「「そうか、そうかじゃーな」」

天城に剣が後ろから抜いていった。

エルフとダークエルフの奴隷に良い所見せたいのか、訓練に偶に参加してくる時がある。

エルフとダークエルフは正式に勇者パーティのメンバーになったようだ。

◆◆◆

僕達4人はマリン王女に話をする為に執務室を訪れていた。

本来なら、直ぐに報告に行くのが当たり前なのだが、マリン王女が午前中は忙しく時間が取れなかったようなので、今になった。

「すごいですね、随分とご活躍だったみたいですね。冒険者ギルドからお話を聞きました」

そうか『聖女』に『賢者』だからか、王城にも報告が入ったのだろう。

「有難うございます」

「そんなに警戒しないで下さい。ギルドから貴方を飛び級でC級にしたいという話があったので知っているだけです」

「そうだったのですか? ご対応頂き有難うございます」

様子を見る限り血液の力は抑えられているようだ。

問題はこれからだ。

あと2週間も経てば僕たちは城を出る。

その後が少し心配だ。

血を定期的に送るかそれとも一緒に来て貰う。

その二つしか選択肢はない。

『解除できない』これが僕の能力の欠点だ。

「それで王宮側では賛成しておきました。それとは別にですね、この度、異世界人に金貨20枚まで貸し付ける事になりましたので、ご希望があったら言って下さい。まぁ亜人殿には無縁の話ですね」

「またいきなりどうしたのですか?」

「その…言いにくいのですが、これは勇者と剣聖の影響です。あの二人が好き放題して、挙句の果てに枢機卿に話して『必要な人員』としてエルフとダークエルフの奴隷迄買われたものですから」

まぁ、男でも女でも奴隷が欲しいと言う奴結構いたもんな。

その状態で最高の奴隷を見せびらかされたら、まぁ色々とストレスが溜まるだろう。

「もしかして、お金を握りしめて奴隷を買いにいった同級生もいたりしますか」

「ええっ…かなり、そのせいで異世界人同士で組むパーティは少なくなりそうです」

「そうですか、そうだパーティと言えばこの4人でパーティを組む事に決まりました」

「ええっ、それもギルドから聞いています。ですが可笑しいですね。そのリザさんはかなりの傷だと聞いたのですが」

僕はジョブと女神の鎧、血等、伝えられない事を除き説明した。

「女神様と直接会って、治して貰った…凄いですね」

「まぁ、優れたジョブを渡せなかったお詫びみたいな物らしいです」

「そうですが…ですが二回も女神様にあった人間を私は知りません、亜人殿には何かあるのかも知れません」

「そんな凄い事じゃありませんよ…ただの冒険者ですから、一応断られるの前提ですが『僕のパーティ』に入りませんか?」

「確かに、その権利は持っていますね。ですが、一国の王女をメンバーに誘うなんて大胆ですね」

「僕は信頼できる仲間が欲しい、それだけです」

「解りました、少しだけ考えて見ましょう」

あれっ速攻で断られると思ったけど…『考えて見ましょう』…案外脈があるのかも知れない。

「それじゃ宜しくご検討お願いいします」

「余り期待はしないで下さい」

相手は王女だ、立場もあるからおいそれとはついて来れないだろう。

最悪ついて来れない場合も考えておくべきだろう。

「解りました」

奴隷購入者が結構いるし…勇者と剣聖はあんな感じだし。

此の世界…本当に大丈夫かな。

【閑話】姫様とシーツ

私の名前はマリン。

王女をしています。

「そろそろ婚約も視野に入れて交際相手を探し始めてくれないか?」

「まだ、私には早いですよ」

「気になる相手も居ないのか?」

『気になる相手』そう言われてしまえば、1人しかいない。

私は王女だ。

しかも一人娘だから、将来はこの国を継がなければならない。

だからこそ、今迄しっかりとその辺りも見定めて、交際相手を見て来た。

公爵家のオルドをはじめ、幾人かの候補は自分の中で考えていた…

だが、今はもう彼らの事は考えられない。

全ての想いは『御供亜人』に上書きされてしまった。

『人を愛する為に努力する』 たかが香りと思っていたが、他にも沢山努力したのだろう。

この世で唯一『勇者の魅了』から恋人を守った存在。

『魅了』すら打ち破ったんだから…それが『真実の愛』と言っても嘘じゃないだろう。

だけど…それが問題なのよ。

その魅了を打ち破った物が、私にも影響を起こした。

今の私は…彼の虜になっている。

しかも、それが獣みたいな感情で凄く怖い。

彼の汗が凄く欲しい。

許されるなら、そのままぺろぺろと舐めたい。

胸に蹲って眠りたい。

そしてまるで吸血鬼になった様に首筋に噛みつきたい。

まるで自分が吸血鬼にでもなった様な気分だ。

そんな亜人から、仲間に誘われた…

自分が怖い…王女、未来の女王になる為に教育を受けていた私が…『もう仲間になる方を選んでいる』

私は王女で居るべき…それは解っている。

その気持ちが一瞬、躊躇させた。

だが、あれが限界だった。

「はぁぁぁぁぁ~」

「姫様…本当に亜人様が好きなのですね…ですが」

「そんな目で見ないで…」

「昔から仕えているから、私は気にしませんが、その姿は不味い物がありますよ! もし誰かにバレても私を巻き込まないで下さいね」

「わわわわ解っているわ..すんすんハァ~」

「あの凛々しかった姫様は何処に行ってしまったのですか…失礼を承知で言わせて貰ってよいでしょうか?」

「貴方と…スンスン付き合いは長いから許すわぁ~」

「姫様は変態です」

「…そうね、気を付けるわ」

「顔だけ凛々しくしても駄目ですよ…掴んだそのシーツが変態の証です」

私は亜人殿、いや亜人様の『臭い』の虜になってしまった。

こうしてメイドに頼んで『こっそり亜人様の使ったシーツ』を持って来て貰う位に。

自分でも可笑しくなっているのが凄く解る。

こんなはしたない事なんて今迄した事などないわ。

だけど、どうしようもない。

亜人様の汗から血が気になって仕方ない。

あの薄められた液体。

あれを飲んだ時にはとんでもない快楽と幸せに包まれた。

欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい欲しい

こんな魅力に誰が勝てると言うの…

亜人様が欲しい。

今の私なら解かる。

亜人様のいう真実の愛…その僅かな影響だけでこれなのよ。

そんな凄い物、全部使われたら…勇者の使う魅了なんて絶対に効かないわ。

覚悟あるいは廻って来たつけ

「私も貴方について行く事にしました」

誘ってはみた物の、まさか本当に一緒に来るとは思わなかった。

「本当ですか?」

「本当ですよ!…それに誘ったのは貴方じゃないですか? 亜人殿…うふふふふっ、そういう顔初めて見ましたよ!何事にも動じない貴方の驚いた顔、面白いですね」

冗談じゃ無さそうだ。

しかも、追加で渡した薄めた血液のせいか、今は問題はなさそうだ。

「此方としては大歓迎だけど、大丈夫なのですか?」

「結構大変な問題ですよ?この国の王女にして次期後継者ですからね。お父様も含んで臣下も全員反対でしょうからね」

これは本当に不味い事になるんじゃないかな。

「それを押し切ってという事ですか? 流石にそれは不味い事になるんでは無いでしょうか?」

「本来は王であるお父様に逆らう等、王女である私でも逆らう事は許されませんね。ですが今回だけは例外です」

「何故ですか?」

「お忘れですか? 王と一緒に誓約紙に誓ったじゃないですか?」

あっそうだ。

『受けて立ちます…ですが、そこ迄僕が勝てないという勝負なら、少しチップを上乗せします。 僕が此処を離れる時に、僕側についた人間、全員連れていく、その許可を下さい』

そうか。

「確かに誓いましたね」

「ええっ、ですから私が亜人殿についた場合は王ですら止められないのです。そして私は『貴方について行く』そう決めました。ですからこれから先、不束者ですが宜しくお願い致します」

なんだか、違う意味に聞こえたのは気のせいだろうか?

「それはどう言う意味ですか」

「王女である私が城を出るのです。しかも異世界人の誰かが魔王を倒すまで。これは王位継承権を手放す事を意味します。多分お父様が頑張って次の子を作るか、それとも公爵は庶子ですからその辺りの血族から養子をとる可能性が高いですね。それに王女が殿方と暮らすのですから…世間は傷物と見做すでしょう」

「それは」

嫌な予感がする。

「はい、婚姻以外はありませんね。多分旅立つ時に恐らく婚約扱いになるでしょうし、後は旅が終わった時に全てが決まるでしょう」

「それは、マリン王女と結婚そういう事ですか?」

「はい、嫌ですか?」

「決して嫌では無いですが、僕には琴子や真理愛が居ますしリザも…」

「異世界人は一夫多妻が認められていますから大丈夫ですよ。全員と結婚すれば良いのです。流石に『真実の愛』を捧げている方の全てが欲しいとは言いませんよ?」

結婚か。

此の世界は結婚する年齢は前の世界より低い。

農村部、もしくは貴族では8歳で婚約する場合もある。

更に農村では12歳で実質成人と見做さし事実婚をあげている者も居るらしい。

此の世界からもう帰れない。

そう考えたら、腹を括る覚悟は居るのかも知れない。

自分達だけ…
『う~ん、ライトノベルに近い世界かと思ったら、エロゲーの世界なのか?』

思わず僕はそう思ってしまった。

クラスで1.2を争う様な可愛い子をパーティの仲間にして、奴隷騎士見習いに王女。

こんな仲間を持ったら普通はやっかみが入るそう思っていた。

天城や剣に対しても警戒していたんだが…なにこれ?

「よう亜人、お前馬鹿だな一見美少女ばかりだけど、全部人族じゃん…俺なんかこれよ!」

「えーと…エルフなのかな?」

エルフにしてはやけに胸のでかい女を連れていた。

多分、買ったのを自慢したいのだろうな…

「いや、流石に本物は手が届かなくて奴隷商に相談したんだわ、そしたらクオーターって1/4エルフの血が入った子がいるって言うんで速攻買ったよ。金貨10枚で良いって言うからさぁ…それでも寿命は300年だから俺が死ぬまで若いままだ、最高だろう? いやぁ~亜人は可哀想だ、今は幾ら可愛くても、お前の仲間は直ぐにババアになるんだぜ」

また此奴も可哀想呼ばわりか。

確かに美人だな。

だが、本当にそれでいいのか?

「そうだね、流石は大川くんだ…うん凄いなぁーっ」

確か大川は真理愛に昔、告白して撃沈していたな。

逆恨みされないなら、それで良いや。

「あれっ亜人くん、お久しぶりーっ」

また自慢なのか。

「また随分と落ち着いた方を連れているね」

「そう? 彼ね貴族の執事をしていたのよ。私年上が好きでロマンスグレーのおじ様が理想だから速攻買ったのよ。人族だから金貨3枚で買えたのー良いでしょう」

「あははっおめでとう」

執事って戦えるのかな?

まぁ僕には関係ないな…うん、個人の自由だ。

「亜人、スゲーだろう、ドリームパーティだぜ」

エルフにダークエルフ、アマゾネス風の女剣士に、聖女風?の女性に魔法使いの帽子を被った少女に重騎士みたいな鎧の少女を連れて天城と剣が声を掛けてきた。

「凄いね、ライトノベルか漫画の主人公みたいだね」

「流石、亜人良く解っているじゃん。亜人のパーティも割と良いけどよ…15年も経ったら皆三十路だぜ。BBAじゃん。だからさぁエルフとか長寿の女性を入れた方が良いと思うぞ」

「そうですか」

「そうだよ《ここだけの話し、エルフとダークエルフ除いて10年以内にポイだ》なぁ剣」

「そうだな、天城の言う通りだ」

「しかし、随分お金掛かってますね、凄いな」

「そりゃ俺や剣は枢機卿に言えば金は幾らでもくれるからな」

「成程…」

勇者と剣聖だから教会関係者がお金をくれるのか…

確かに別格だ。

「そう言えば、亜人の所も真理愛たちが居るんだから貰えるんじゃないか?」

「彼女達に奴隷が欲しいからお金くれ、なんて言えませんよ」

「うわははははっ違いない…それじゃぁな亜人」

「じゃぁな亜人」

「この次の時間の訓練は出ないんですか?」

「「サボりだ、サボり」」

二人は手を振りながら去っていった。

琴子や真理愛が居なくて良かった。

◆◆◆

かなりの数のクラスメイトが奴隷を買ったからか…全然やっかみが無かった。

だが、これで良かったのか?

「マリン王女様、これで良かったのでしょうか?」

「まだお城だから、王女も様も必要ですが、此処から一歩出たらマリンで良いですよ。なんだったらお前とかでも構いませんから。 全然気にしないで大丈夫ですよ! だって亜人殿のパーティに入るのですから、王位継承権も無くなります」

「それは、えーと」

「ええっ!この国がどうなろうと私には一切関係ありません」

笑顔で答えるマリン王女はまるで別人の様に思えた。

「ですが、マリン王女はこの国の王女ですよね」

「はい、ですが旅に出れば、誰かが魔王を討伐するまで帰りませんし、帰ってからもこの国の後継ぎにはなりませんからもう関係ないですよ…実はいい加減、転移者関係で疲れていたんですよ。勇者も剣聖も少しは真面になったけど、本当に頭を下げさせられてばっかり。私今迄人に頭なんて下げた事ありませんのに」

確かに死人も出ているし、男爵家とはいえ貴族も家ごとこの国から去ったのだから大変だったろうな。

それに金貨20枚の貸付だ、かなりマリンも頭が痛かっただろうな。

「確かにな」

「はい、これからは私達だけの幸せを考えれば良いのですから凄く楽ですよ。まずはオズマン男爵の爵位と領地は私預かりなので、そのまま亜人殿に差し上げちゃいますから…楽しい未来に向けて頑張りましょう」

「そうだな」

なんだ、マリン王女を仲間に入れたら『魔王討伐』とか言い出しそうだったけど、違うみたいだな。

「ええっそうですよ」

「所で、魔王は良いんですか?」

「ええっ、魔王を倒すのは勇者天城、剣聖剣の仕事です。その為にあれ程優遇したのですから、例え死んでもやれ。そんな感じです。私達は出来るだけ遠く、魔族の影響が少ない地域で魔族と戦ってやり過ごせば良いのです」

「本当に、それで良いのですか?」

「だってあの方達は普通なら死罪になる所、勇者、剣聖だからお咎め無しなのですから『死んでも』戦って貰わないといけません。ですが、亜人殿は冒険者ですから、ええっ私達は安全な場所で、出来る事だけして楽しく暮らせば良いのです」

「本当に」

「はい、それにもう私は責任者でなく…貴方の将来の妻になるですから、私と貴方、そして仲間の事だけ、考えれば良いのです、あとはどうなっても知りません」

全く同じ事を考えていたけど…本当にこれで良いのかな。

数百年後、魔族に支配された世界が頭に浮かぶけど…まぁ関係ないな。

婚約

本当にこれで良いのだろうか?

とうとう訓練が終わり、明日からの三日間のお休みを得て、パレードが行われる。

その後はいよいよ旅立ちだ。

本当にこれで良いのか?

天城と剣は魔王に勝てるのか?

多分勝てない。

本来、城での期間は基礎的な力をつける場所だ。

だが、その期間の半分以上を遊んで過ごしていたように思える。

本当に大丈夫なのか…

それに他の同級生や担任の緑川先生もそうだ。

殆どの人間が同級生と組まないなんて事が起きるとは思わなかった。

結局、同級生同志でパーティを組んでいるのは天城と剣のみ。

他は皆、奴隷を購入した状態で2人~4人でスタートしている。

本当にお金で買っただけの相手に背中を預けられるのだろうか?

僕には、琴子、真理愛そしてリザにマリンとの間には『血の絆』がある。

だが、彼等にはそれが無い。

僕は血の事情で親友や恋人が居なかった。

もし居たら、その仲間で組んだ方が良いに決まっている。

担任の緑川先生すらも奴隷と組んでいる。

20代くらいの女性の奴隷3人と一緒に楽しそうに話している姿にはもう熱血教師の面影はない。

◆◆◆

「本当にマリンを連れていくのか?」

「はい、約束ですから」

確かに言ったし約束した。

だからと言ってまさか王族、しかも継承権第一位の我が娘を仲間にする等思わないじゃないか。

だが、誓約紙を用いて約束した事は絶対だ。

如何に王でも横やりは入れられない。

「マリン、お前はそれで良いのか?」

「はい、私の心は既にお父様に伝えてある筈です。それに勇者が私を望んで居ないようですから問題もない筈です」

姫と勇者が魔王討伐後に結婚するのはよくある。

だが、今回の場合は『既に勇者の醜聞』はあちこちに広まっている。

天地がひっくり返り今更マリンと結婚したいと言い出しても、確実に拒否出来るだろう。

「確かにそうだが、お前には王族に相応しい教育をしてきた。今から新たな者に一から教えるとなると大変な事だ」

「お父さま見苦しいですよ。私は亜人さまが大好きです。だから誘われた時に凄く嬉しかった。そこでしっかりと私を連れて行く事は『婚姻』に繋がる話をしましたが亜人様はちゃんと受け止めて下さいました。今の私はもう国よりも何よりも亜人様の事しか考えられません。そうですよね亜人さま」

「《完全に固められてしまったな》はい、約束しました。他の三人共々将来は妻に娶るつもりです」

誓約紙の事もあるし、こうあっては認めるしかない。

「解かった。今日を持ってマリンは王女ではあるが、後継者からは外し、他に後継者を選ぶ事にする。また、貴族達が揉めるから出来ればしたく無いのだが仕方ないだろう…解かった、認めよう、亜人殿マリンを頼みました」

「はい、必ず幸せにして見せます」

これは本当に腹を括るしかないな。

◆◆◆

「亜人君…マリン王女と婚約したって本当ですか?」

「亜人、アンタね、何やっているの?」

「あの…まだ心構えが出来ていません」

琴子と真理愛は解かるがリザが何を言っているのか解らない。

結局、4人とも僕の血で縛ってしまっている。

それは解除する方法は無い。

実質、これから先の人生一緒に過ごす事は確定している。

何だ…もう婚約して居る様な物だ。

「話を聞いた所、このあと僕らはかなりの年月一緒に暮らすみたいだ。だから、この際けじめをつけた方が良いと思うんだ。今現在でも同じ部屋で暮らしているし生活を共にしているんだから『婚約』しているような物だ…もし皆が嫌で無ければ『婚約』しよう、いやして下さい」

「あはははっ、なら亜人君、この際だから結婚しよう!」

「そうね、亜人結婚の方が良いと思うわ。だって今なら同級生に緑川先生もいるし、全員に祝って貰えるわ、それに王城には立派な教会があるじゃない」

「私奴隷ですけど、お嫁さんに成れるんですね。有難うございます。意見を言わせて貰えれば真理愛様は聖女ですから枢機卿に頼めば直ぐにでも行ってくれます」

「いや、ちょっと待って」

「あの亜人君、私と結婚するの嫌なんですか?」

「そんな事無いよね亜人、凄く嬉しいよね」

「私これまで以上に尽くしますね」

「えーと」

何だこの展開。

まさか、血の影響が更に出ているのか…違うよな。

「「「さぁ行こう、すぐ行こう」」」

「何処に」

そのあと、僕はそのまま三人に引き摺られる様に王様とマリンの元に連れていかれた。

「まぁ、そうですね結婚してしまった方がこの際良いですね」

そういうマリン王女の一言に王様が

「確かに婚約だけで王族である王女が男性と暮らすのは問題があるから、その方が良い」

と答えた。

何気にマリンに王様がウインクして居るのが見えた。

確かに『責任は取るつもり』だし、将来は結婚するつもりだったけど、もう少し待って欲しかった。

だが…此処には味方が居ない。

「まだ早い」

「もう少し大人になってからにしなさい」

そういう人間が誰も居ない。

誰も僕の話を聞いてくれそうな人はいない。

結局、その後、枢機卿が呼ばれ、休日は3日間から4日間に変更になり…

早い方が良いだろうと言う事で『明日』結婚式を挙げる事に決まってしまった。

彼等が失った物。
本当のチートとはお金と権力だったんだ。

つくづくそう思った。

まさか次の日までに結婚式の用意が出来るなんて普通は思わないだろう。

前の世界じゃ何回も打ち合わせをして半年位掛けて用意したような気がする。

流石に貴族は全員出席とはいかないが、王都に居る者は有無も言わさず出席。

凄いとしか言えない。

最も、今回の話は『マリン王女の王位継承権の破棄』も含まれる。

その辺りの話があるから有力貴族は駆けつけない訳にはいかないだろう。

「どうですか? 亜人殿!」

「どうかな亜人君」

「亜人どう? 見惚れたでしょう」

「ご主人様どうですか?」

凄いな。

たった半日でウエディングドレスが完成している。

その代り、さっき廊下で沢山の職人さんが倒れていた。

「皆、綺麗だよ」

「「「「ありがとう(ございます)」」」」

式は滞りなく行われた。

同級生の皆の前でキスするのは少し恥ずかしかった。

それ以降自分が何をしていたのかも解らず…気がついたら終わっていた。

◆◆◆

結婚式が終わった後、マリン王女は王女としての引継ぎがあるから一旦お別れだ。

俺達が休みの間に全部の引継ぎをするらしい。

そして俺は、王女の嫁いだ先が貴族でないのは不味いと言う事で伯爵の地位を貰った。

男爵かと思ったが違った。

但し、此処から先は旅になるので『自由伯爵』という義務が少ない形の物になる。

今現在オズマン男爵の領地も一応俺の物になるらしいが、旅の間は代官を置いて王国が管理してくれるそうだ。

そして、今男女に別れて二次会をしている。

リザは知り合いが居ないからと不参加。

王宮で知り合った女騎士と飲み明かすそうだ。

俺は今、天城と剣と一緒にジュースを飲んでいた。

「真理愛と結婚してくれてありがとうな?」

「頑張って幸せにしてやってくれ!」

意外な事に二人からそんな事を言われた。

つい黙っていると…

「不思議か? 彼奴はあれでも幼馴染なんだぜ! 幸せになって欲しい位思っているさ…まぁ口煩いがな」

「そうそう、ちなみに亜人じゃなければさぁ、天城も俺も多分潰してたよ! 俺らが言えた義理じゃないがお前って凄く恋愛には真面目じゃない」

「そうですかね」

「お前自覚ないの? 白石の時にしろ真理愛にしても凄く真面目じゃないか! なぁお前位だぞ…多分童貞なのは、まぁ結婚したんだから頑張れよ」

「そうそう、俺も天城も縛られるのはまだ御免だからな、馬鹿だなと思う反面、幼馴染をやっても良いという位には評価しているんだ」

「人生の棺桶生活頑張れよ」

そう言うと二人は出て行こうとした。

「真理愛の方には行かなくて良いんですか?」

「まぁな…俺達嫌われているからな」

「そうそう、流石に幼馴染より、この背徳的な生活の方が大切だからな、これから部屋に戻って、まぁ解るだろう、此処を出たら宿屋暮らしだから今のうちにな」

「あと数日、思う存分楽しむさ」

一瞬良い奴らだと思った僕の気持…返せ。

とは言わないな。

まぁクズだけど、真理愛を幼馴染だと思っていたのは間違いない。

それじゃなければ真理愛が被害者になってなければ可笑しい。

「じゃぁね」

僕は2人を見送った。

「もう結婚するのか? まぁ冒険者じゃ仕方ないか」

「人族なら金貨5枚も出せば買えるんだぜ…結婚なんかより奴隷を買った方が良いだろう、早まったよお前」

「僕はハーフエルフしか買えなかったから、今度はお金を貯めて本物を買うつもりだよ…結婚なんて考えられないよ。この世界普通に人が買えるんだから」

僕のクラスの同級生ってこんな奴らばかりだったのか…

可笑しいな。

熱血野球少年にサッカー少年。

陰キャだけどアニメを好んだ奴。

もう同級生だった面影が全くない。

その後、琴子に真理愛と合流したけど…

女子の半分は結婚を羨ましがったけど…半分は男子と変わらなかった。

「なぁ琴子に真理愛、結婚て凄く幸せな事だよな? 僕は凄く幸せだよ」

「勿論私もそうだよ」

「私もよ」

クラスメイト達は安易に異性が手に入る『奴隷』という者を知ってしまったせいで、本当の幸せを失ってしまったのかも知れない。

旅立ち 
その後の休みもあっという間に終わり。

パレードも無事終わり、いよいよ旅立ちとなった。

これでもうクラスメイトに逢う事も無いだろう。

今迄みたいな甘やかされた生活は終わり。

魔族との戦いが始まる。

僕は…北の大地に向う事にした。

「何故、北の大地を目指すのですか? あそこには四天王最強の存在が居るのですよ」

此方には琴子と真理愛が居る。

賢者に聖女が居て王女が居るんだ、魔王の討伐は勇者達の仕事とはいえ何もしなかったら、将来、醜聞になる。

だからこそ、四天王最強と言われる…存在を倒す。

そうすれば、義務を果たした。

そう言えるだろう。

「ご主人様、危ないですよ」

「何でそんなやる気になっているんですか? 亜人君」

「止めた方がよいよ亜人」

「亜人殿…四天王最強を相手にして勝てた人間はいません。下手すれば魔王より強いって評判なのです」

「大丈夫、何時もどうり僕1人で倒す予定だよ。四天王1人倒せばノルマをこなした。そう言えないかな?」

「亜人殿、確かにそうですが…」

「大丈夫どうにかなるって」

待ってろよ! 『四天王最強の女 バンパイアロード カーミラ』

僕たちは北の大地を目指し旅立った。

吸血鬼も天使も

四天王最強の幹部カーミラが待つ地に向う。

吸血鬼が治める地に向うだけあって、近づくにつれ、出てくる魔物はバンパイアが増えてくる。

その結果、昼間は安全で夜は危険な道中になる。

但し、普通であれば。

僕はというと4人と昼間は街で遊びながら…夜は森で遊んでいる。

戦っていないのか?

これは戦いでは無い…ほぼ麻薬による蹂躙と変わらない。

バンパイアが現れる。

噛みつかれる…血を吸われる…僕の下僕、こんな感じだ。

バンパイアは人に紛れて生活している者も多く人間とし仕事して生きている存在も居る。

僕の血を吸ったら、もう血が欲しくてたまらなくなり、言いなりだ。

つまり…

「それじゃ、今日の分くれるかな?」

「あの..」

「くれないなら、血は渡さない」

「解りました…」

こんな感じに血を対価にお金を貰う事が出来る。

ちなみに、そんなに多くはとらない。

その他には夜の間は周辺を警備させる事も出来..凄く使い勝手が良い。

見た感じ強そうなバンパイアには狩をさせて、その獲物をギルドに持っていき換金した。

知能が高く、身なりの整った者には

「血が欲しければ、カーミラを連れてくるんだな」

この様な指示を与えた。

ただ、これを繰り返した。

◆◆◆

「よくもまぁ、私の同胞を酷い目に合わせてくれた物ね」

僕が寝ていると…いきなり横から僕の顔を眺める様に立っていた。

これは、不味い隣りの部屋には仲間が居る。

流石はバンパイアロード、女神の騎士のジョブを貰ってから、こんな傍に来るまで気がつかなかった事など無い。

此処から大きな戦いが始まる…とはならなかった。

押さえつけられ首筋に噛みつかれた。

本来ならこれで終わる。

だが俺には血の力がある。

「生意気な人間…血を吸い尽くしてやるわ」

「パーフェクトヒール」

「幾ら回復しようが..あああっ..あん、なにこれ美味い美味すぎるの」

どうやら、血の能力は普通の吸血鬼以上にロードには効くようだ。

「あああっあん、ハァ~あああああっ」

何だか、目がトロンとして、カーミラの顔が赤くなっている。

血を吸いながら、口の周りからは涎が垂れていてハァハァ言いながら胸を揺らしている。

気のせいか血の吸い始めから比べると体が熱くなっているようだ…汗をかなりかいていいて、カーミラが着ているバニースーツの様な服の股間部分を中心にシミが広がっていった。

「あああっあんあん、あああーーっ」

これ別に僕は何もしていないからな。

他の人間から見たら性交している様にしか見えないだろう。

「あああっ駄目っ…うううっうううううっ、ぷはっうううん」

さっきから喘いで牙を離し、そして吸い付くように牙をたてるの繰り返しだ。

「パーフェクトヒール」

多少痛いが、このまま続けさせていてよいだろう。

まぁ、ハァハァ言いながら金髪の美女に抱きつかれ噛みつかれているのは…首筋が痛いが、目と体にはご褒美と言えるかも知れない。

「あああっーーーいくっーーっ」

散々、血を吸った挙句、最後は体を震わせて、気絶しちゃったな。

何だか涎を垂らして体を震わせている姿は…情事でいってしまった女の子みたいだ。

口から血がしたたっていなければ、凄くエロい。

さぁどうするか?

今ならホワイトアッシュ(白杭)を心臓に打てば確実に仕留められる。

だが、明かに此れだけの血を吸ったのだから、完全に僕の血の中毒者。

しかも、見た目は美女だから殺すのも気が引けるな。

◆◆◆

結局僕は…

天使のフェザー様に相談する事にした。

「呼びましたか?」

守護天使だから声位は聞こえてくる…そう思っていたが、まさか実体化するとは思わなかった。

「この方について相談なのですが…」

「ああっ、このバンパイアロードですか…お好きな様に」

好きな様にってどう言う意味だろうか。

「どうせ、血を飲んだんでしょう? もう貴方に逆らえないじゃないですか? 女神すら麻薬中毒に近くしてしまうのですから…嫁にするなり奴隷にするなり、貴方の自由です(笑)」

なんで黒い顔で笑うんだ…天使だよな。

「あの…天使や女神様の立場的に不味く無いのですか?」

「まぁ、本来は不味いのですが…あの薬中女神、あっスイマセン。イシュタス様なら大丈夫です。そうですね…亜人さんの人格に触れ、人間側に寝返った事にしましょう。 イシュタス様に神託をさせますから大丈夫じゃないですか?」

「それで良いのでしょうか?」

「構いませんよ。あの薬中女神、亜人さんの言う事なら何でも聞きそうですから…あれほどちょびちょび窘めって言ったのに、ぐびぐび飲むんですから、最近では処女神の癖に貴方を夫にしたいとか、神界に住まわせたいとか馬鹿な事ばかり言っています。まぁ私としても貴方が死んだら困るので…そいつを下僕にして守らせるのに賛成です。最も、貴方は女神の騎士のジョブだから、その程度の相手には本来は負けませんし、死んでも私が見てますから直ぐに復活させちゃいますよ」

見られているのか…常に。

「有難うございます」

「それじゃ…それで顕現までして駆けつけた私にご褒美は無いのですか? 美味しそうな物が垂れていますね」

「あはははっ飲みますか?」

「(ゴクリ)はい頂きます」

フェザー様も僕を押し倒してクビに口をつけて吸い始めた。

「すす凄い~直接はしゅごい~ああああっ、あん」

カーミラの時は牙が刺さって痛かったけど…今の状態は女の子に抱き着かれて首すじをキスされながら吸われている状態だ…結構、女性経験の無い僕にはつらい。

※恐らく、この話も数話で完結予定です。
 もう1作品の話を進めて、その後は新作を書く予定です。

 最後まで宜しくお願い致します。

痛いけど幸せな生活【完結】

「血…血を下さい…お願いします何でもしますから」

今僕に妖艶な美女が縋りついている。

しかも、その口は俺の足を舐めている。

「どうでも良いけど…何で足を舐めているんですか?」

「だって、汗迄美味しいんだもん」

美味しいんだもんって言われてもな。

「あのさぁ、だったら魔王を殺せって言ったら?」

「殺しますよ…それが望みですか?」

『殺しますよ』ってそんなあっさりと、何を言うのだか。

「出来るのか?」

「まぁ難しいですが..出来なくはないですね」

そりゃ難しいだろうな…えっ。

「殺せるのか?」

「はいっ…私はこれでも真祖級のバンパイアです、ですが、吸血鬼は本気にならない、そういう暗黙の了解があるのです…その禁を犯せば簡単ですね」

「どう言う事?」

「はい…」

話を聞いたら『バンパイア』というのはパンデミック。

つまり、感染力の強い細菌と同じらしい。

確かに、1日に2人ずつ噛みついてバンパイアの人数が増えていけば、ネズミ算的に増えていくな。

そうすれば数の理論で最後に勝つのはバンパイアだ。

「だからこそ、バンパイアは数を押さえ、無制限に仲間を増やす事を止めているのです。まぁ最後には自分達の獲物が減って首を絞める事になりますからね。ですが、この禁を破り無限増殖をすれば、確実に魔王所か魔族すら滅ぼせます…理論的には人間すら可能です。その後はバンパイアも滅ぶしかありませんが…この事があるからこそ、私が魔王より強い四天王と呼ばれる所以なのです」

確かにそれなら勝てる。

だが、色々と不味いな。

「ならば、それはしなくて良いよ…だが、僕と共にいたいのなら魔王と手を切る必要がある」

「そうですよね? なら今からサクッと魔王と縁を切ってきますね」

そう言いながらカーミラは窓から飛びだった。

「あの…私の事、忘れてませんか?」

「フェザー様、大丈夫でしょうか?」

「御身大事にですよ。貴方が死ぬと血が貰えなくて、私もイシュタス様も困ります。だから、これで良いじゃ無いですか? もう戦いに関わらないで暮らして良いですよ。そうだこのまま北の大地の守護を女神が頼んだ事にしましょう」

本当にそれで良いのか?

魔族との戦いに参加しないで良い…そう言われている気がする。

◆◆◆

とは言う者の魔族から裏切者になるのも問題よね。

さっき亜人様の血を吸った時に勇者達の情報があったから…手土産にしますかね。

オオコウモリになって飛んでいけばすぐですわね。

『居ましたわね』

あれが天城と剣ですわね。

勇者に剣聖ですか…あははははっ、如何に勇者とはいえまだ子供。

しかも、強者特有のオーラもありません。

亜人様に比べたらゴミにしか思えませんね。

私は人の姿に戻り近づく事にしました。

「貴方達は勇者様に剣聖様ですか?」

「おっ良い女!…俺が勇者天城で此奴が剣聖の剣だ。何かようか?」

鼻の下を伸ばして節操のない顔ですね」

「実は私お二人に用があるのですが…」

「ああっ聞いてやるよ、何処か静かな所行こうぜ」

「そうそう」

「いえ、そんなお暇はとらせませんよ…死んで下さい」

「「えっ」」

簡単でしたね。

こんな簡単に首が引き千切れるなんて、なんて弱い存在なんでしょう。

ついでだから、身ぐるみも剥いで亜人様にあげましょう。

『お前達、これを亜人様に届けなさい』

『はい』

眷属を呼び出してそれらを渡しました。

聖剣やら魔剣にミスリルの装備がありますから喜ばれますよね。

私、こんなに頑張っているんですから…帰ったらまた沢山血が貰えますよね。

◆◆◆

「魔王ザンコク様は居ますか」

「カーミラ様…いきなりなんでしょうか? 魔王様なら奥に居まして他の幹部の方々と」

「そう、奥に居るのね」

「カーミラ様」

「そこを退きなさい」

「はっ、はい…」

「おう、カーミラよ久しいな…自由気ままなお主が…」

「話しは良いわ…私は今日で四天王を抜けます…いいですよね」

「貴様無礼だぞ!魔王様に何たる口の利き方を」

「スカル煩い..ちゃんと手土産はあるわ…ほらっ」

勇者と剣聖の首を放り投げた。

「これは、勇者と剣聖の首では無いか? もう倒したのか?」

「こんなおもちゃ殺すのは簡単よ…ちなみにこれから聖女と賢者は私の仲間にする予定だから、多分魔王城には攻めて来ないわ」

あの二人は亜人様の血を吸った時に読んだ記憶だと大切そうだから手を出さない方が良さそうね。

「そうか…その手柄で離反を許そう…此処までの手柄だ、他に欲しい物はあるか?」

「そうね…北の大地の統治権を私にくれない?」

「別に構わぬが、それで良いのか? それに何でそんなに慌てておるのだ」

「私恋しているのよ…直ぐに私の男に会いたいのよ…話はもう良い?」

「ああっ構わぬが…」

「「「カーミラが男」」」

「そうよ、これから一緒に死ぬまで暮らすつもり…邪魔さえしなければ敵対はしないわ。手を出したら…誰でも殺すわ」

「「「「解かった」」」」

さてと…早く血が飲みたいわ…

私は、北の大地に向い、急ぎ飛びだちました。

◆◆◆

「あのこれは、どう言う事でしょうか?」

「嘘、なんでイシュタス様が降臨なさってるのですか…その横に居るのはフェザー様じゃないですか?」

「マリン王女、神や天使ってこんなに簡単に降臨する者なの?」

「そんな訳無いです、私だって直接会ったのは初めてです」

「真理愛ちゃん跪いた方が良いんじゃない」

「あわわわっ神様が、神様が…」

もう僕は驚かないけど…普通はこうなるよな。

しかし…何かようなのかな。

「亜人様、お久しぶりですね…実は報告が」

「あのイシュタス様、馬鹿やらないで下さい。女神の貴方が『様』なんてもう良いです、私が話します。 先日、カーミラを貴方が懐柔した事を教皇に神託をおろしました。そして、亜人貴方こそが『女神の騎士』である事も併せて伝えています」

「あの…亜人君、いつの間にそんな事したの?」

「凄い…」

「亜人殿が、既に四天王を攻略していたのですか、いつの間に…国単位で戦っても勝てない相手ですよ」

「ご主人様凄い」

「話しを続けます。『女神の騎士』は魔王と戦ってはいけない。そのルールと魔王よりも大きな存在に備え…北の大地で生活しなければいけない…その事も伝え、北の大地の人間側の統治権も譲る様に神託をだしました…まぁ教皇から正式にその書簡が届きます」

「あの…それって」

「もう、戦わないで…北の大地で楽しく暮らしなさい…そういう事です…ちょっと駄女神何をしようとしているのよ」

イシュタス様が僕に近づくといきなり首筋をナイフで切った。

「「「「「なっ」」」」」

「大丈夫、痛くない、これは神具だから、痛くないよ…それじゃ頂きまふ」

カプッ。

「はああああっ、これ凄い、あああんっフェザーこれ凄いわぁぁぁん、体が火照るの」

「この駄女神が~っ」

フェザー様がいきなり蹴りをイシュタス様に繰り出した。

「ぷっクスクス、何時までも貴方に蹴られると思わないでね…それじゃ亜人さま二人っきりになれる場所に行きましょーーーう!」

「イシュタス様、貴方は処女神でしょうが…皆捕まえて」

「「「「「はい」」」」」

「私は女神、貴方達などに捕まらないわ…そうだ亜人さま、私処女神だから、最後までは無理だけど後で口でしてあげようか? 血がこんだけ美味しいんだから精子も..あむっ」

また首に吸い付かれた。

口でって…えええっ、女神がそんな事して良い訳。

「このエロ女神がーーっ、そんな馬鹿な事したら..したら..したら、糞っマジでウザッ。無駄に神力解放するな馬鹿が」

「うふふっ女神に勝てる存在なんて居ませんよ~だ」

ううっ、いい加減放してくれませないかな。

「あの、イシュタス様、流石に恥ずかしい」

「お前、私の亜人様に何しているの?」

「カーミラ」

「今、助けます亜人さま」

◆◆◆

結局、イシュタス様は1時間以上逃げ回っていたが、最後にはフェザー様とカーミラの二人に捕まった。

「本当にごめんなさい」

そして土下座で謝らしていた。

良いのか此の世界の女神にこんな事させて。

そして僕は

「亜人、亜人しっかりして」

「亜人君死なないで」

「亜人殿…死なないで」

「ご主人様、死なないで下さい」

貧血で動けなくなっていた。

「大丈夫…貧血になっただけ…パーフェクトヒール」

◆◆◆

結局、北の大地は魔王からカーミラが貰い、人間側はイシュタス様から教皇への働きかけで貰ったので完全に独立した安全地帯になった。

そして、僕は…

琴子に真理愛、マリン、リザにカーミラと結婚をした。

「うふふっ、私やフェザーも結婚しても良いのですよ?」

流石に一神教の女神との結婚は不味いんじゃないかな?

その後、男としてやる事もしっかりやって…皆は綺麗で凄く情熱的…

首が痛い。

すっかり首から血を吸う事に快感を覚えた彼女達は、何時も僕の首すじを斬りそこから血を吸う。

まぁその後は興奮するせいか、あっちの方は凄くサービスが良い。

これは幸せなのかな…

確かに人はハーレムと呼ぶかも知れない。

だが、その度に首を斬られるのは果たして幸せなのだろうか….

幾ら命に別状はないと言っても激痛ではあるのだ。

まぁ..皆の笑顔を見る度に幸せを感じ…今日も激痛に耐えながら子作りに励む僕には。

こう言う行為そのものが気持ち良いのか痛いのか最早解らなくなった。

FIN

あとがき
最後までこの作品を読んで頂き有難うございました。

この作品は「異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったんだから返して貰いますね。」に全く違うタイプの主人公だったら、そんな感じで書き始めました。

簡単に言うと自分の作品の同人誌みたいな感じです。

麻薬の血を持つシリーズはこれで三回目の挑戦ですが…まだ、書き切った感はありません。

暫くアイデアを貯めて将来また再度挑戦するかも知れません。

最後まで読んで頂き有難うございました。

次回作のプロット作り始めました。

まだ詳しくは未定ですが…『勇者の魅了』と戦う普通の人。

そんな感じで考えています。

有難うございました。