堕ちた英雄。人類を魔族に売るだけで幸せに暮らせます! 勇者達なんてどうなっても関係ないよ!

英雄 現状
「相変わらずセレスは使い物にならないな、役立たず」

リーダーでありこのパーティーのリヒトが僕にこう告げた。

それは解っている、だったらクビにすれば良いのに。

「本当に、何をやっているのよ? 聖女である私が貴方を助けてどうするのかしら?」

「全く、そう思うよね? 後衛の賢者の私が何で貴方を守らなければならないのかしら?」

リタとソニアによる嫌味が飛ぶ、これが僕の日常だ。

このパーティーに居るのが正直言えば苦痛以外の何物でもない。

辞めたくて仕方ないのだが、彼らは《僕を手放してはくれない》

それは僕のジョブが《英雄》だからだ。

このジョブは、勇者、聖女、賢者の三大ジョブ程強力なジョブでは無い。

だが、もし自分達以外で、優れたジョブの人間を探すとしたら、自然と僕になってしまう。

四大ジョブの剣聖は自由気ままに旅をしている人間だから捕まらない。

捕まっても、自由を愛しているから《絶対に仲間にならない》

その下のジョブとなると僕の英雄等のジョブになる。

しかも、幼馴染だから、自分達の本当の姿を気軽に見せる事が出来る。

勇者パーティーだから《気高く美しい》そんな風に彼らは他人には見せている。

他の皆は彼らの本性を知らない。

勇者でありリーダーのリヒトは暴力的で、人のいない所で怒鳴り散らすし、良く僕には暴力を振るってくる。

人の良い人格者で、完璧美少女気どりの2人は…家事が全く出来ない、料理は元より洗濯も出来ない。

下着まで僕に洗わせるのだが羞恥心とか無いのだろうか?本当に呆れてしまう。

しかも、役立たずの烙印を押して報酬も小遣い程度しか貰えない。

僕は辞めたくて仕方ない。

だが、彼らは巧みに僕を辞めさせてくれない。

辞めるだけで僕は多分、幸せになれる。

だが、彼らにとって《英雄》だから見栄えが良く、更に 家事や雑用を全て押し付けてお金も碌に払わないで済む僕を手放したくは無いのだろう…

辞めようとすると執拗に邪魔をしてくる。

本当に面倒臭い。

「僕はこのパーティーを辞めようと思う」

「お前辞められると思っているのか? 俺は勇者なんだぜ! もし辞めたら冒険者何て続けられると思うなよ」

こんな風にリヒトは脅してくる、勇者であるリヒトが本気で僕の人生を潰しに掛かったら、本当に潰れる未来しかない。

「私はそうね、ある事無い事言いふらすわよ? 多分誰も貴方と組もうなんて思わなくなるわ、死ぬまでソロになるわよ、良いの?」

勇者パーティーの賢者のリタが言うなら、多分女冒険者は真実だと思うだろう。

此奴の正体を知らない奴には《憧れの賢者様》だからな。

「私はそうね、貴方に犯されそうになったとか言いふらそうかしらね?」

聖女であるソニアを犯そうとした、そんな噂を流されたら人生は摘んでしまう。

更に教会は完全に敵に回るだろう…

嫌な事にこいつ等は勇者パーティーだ、普通のパーティー相手なら兎も角、公の裁判になった所でこいつ等の言い分の方が優先されると思う。

そして、万が一僕の方が正しいと解かった所で、何もお咎めが無い。

これは勇者支援法によって勇者他三職は守られているからだ。

魔王と将来は戦うかも知れない勇者達と、僕では扱いが違うのは普通に当たり前だ。

だが、これは僕にとっては災難だ。

僕のジョブは英雄なんだ。

もしこいつ等がいなければ充分に活躍ができる。

だけど、僕にはそれが出来ない…

小さい頃は一緒に遊んでいた、幼馴染だけど、今となっては一番嫌いな人間がこいつ等だ。

だけど、仕方が無い。

勇者パーティーに文句が言える人間等王族や上位貴族しか居ない…

そしてそいつ等にはこいつ等は旨く、猫を被りすりよっている。

我慢するしか無い…それが今の僕の現状だ。

英雄 後悔前

毎日が苦痛でしょうがない。

今日も僕は重い荷物を持ちながら、リヒト達の後をついて行っている。

他のメンバーは基本、荷物を持たない。

武器や装備だけを身に着けてただ歩いている。

「リヒト、男の癖にだらしないわ」

「本当に使えないわね」

僕はお前等みたいに手ぶらじゃないんだ。

しかも、本当はこのパーティーに荷物持ちは要らない。

三人は、三職なので《収納袋 小》を国から貰えている。

収納袋は小でも馬鹿には出来ない、小さな部屋1部屋分位の物は入れられる。

だが、三人は、それぞれが色々な物をコレクションして納めているので、冒険で使う大切な物を入れられない。

そして…

「何だ、その目は?」

「荷物が…」

「俺が何も考えていないと思うのか? お前は体力が足りないんだよ、だから態々荷物を運ばせて鍛えてやろうとしているんだ、解ったか」

「…有難うございます」

これしか返せない、それ以外を返そうものなら鉄拳が飛んでくる。

「貴方も少しはリヒトを見ならいなさい、息一つ上がってないわ」

そりゃ荷物もたないで手ぶらだからね…とは間違っても言えない。

しかし、いい気なもんだ、これから地龍を狩ろうと言うのにまるでピクニックにでも行く様な感じだ。

僕は気がかりで仕方がなかった。

勇者パーティーだからって最初から強い訳では無い。

幾多の戦いで経験を積んで強くなっていく、まだこいつ等が嫌いになる前に、サポートしてあげようと思い調べた。

そして、歴代の勇者の最初の壁が竜種だ、過去のかなりの勇者達が、はじめて苦戦をして場合によっては命を落としたのが竜種との戦いだ。

僕個人としてはまだオーガ相手に苦戦するリヒトには荷が重い気がした。

だが、このパーティーのメンバーは僕の言う事等一切聞かない。

「リヒトは貴方と違って勇者なのよ? 竜種でも一番下の地龍に負ける訳が無いじゃない?馬鹿なのかしら」

「リタ、本当にセレスは馬鹿なのよ、言うだけ可哀想よ」

「お前、俺が信じられないの? 勇者の俺がたかが地龍に負けるかよ」

「そう、なら解ったよ…ただ、もし負けそうになったら僕は逃げ出させて貰う、弱いんだからそれ位は良いよな」

「ああ、良いぜ臆病者」

「本当に情けないわね」

「全く、男の癖に」

幾ら言っても聞かないのだから仕方が無い。

通常の地龍ならリヒトは何とか勝てるかも知れない。

だが、大型の地龍や亜種と戦ったら、多分負けるのはリヒトとその仲間だ。

これにはかなりの自信がある。

僕のジョブは《英雄》だ、そのスキルの中に人物評価という物がある。

これは他人の能力がある程度解る、そういうスキルだ。

賢者が持つ《鑑定》の劣化版。

人物や生物限定で、強さがある程度把握できる、そういう物だ。

そして僕が把握したリヒトの能力は地龍相手は危ない、そういう感じだ。

だが、言った所で聞く訳は無い。

何故か賢者のリタも《余裕でいける》そう判断したのだからどうしようもない。

鑑定まで持っていて、万物の事を知る、賢者が言うのだ僕が言った所で何も変わらない。

だが、後になって僕は後悔する事になる。

自分の直感に従って、今日同行しなければ…この後の悲劇は起こらなかった。

地龍
地龍が生息してしている岩場についた。

僕は沢山のポーションを持ってきていたが、おおよそその半分近くを使っていた。

此処に着くまでに、幾つかの魔物の遭遇して、その度に消耗していった。

僅かな怪我でポーションを飲むし、ちょっとマジックポイントが減ったら飲むのだから当たり前だ。

これでは、もう地龍との戦いは難しいだろう。

「ポーションが少なくなってきているよ…」

「何だ、まだあるじゃないか? 帰りは回復魔法もガンガン使うから平気だ、本当にセレスは使い物にならないな」

「そうよ、依頼を達成した後なら、聖女のソニアも魔法が使える、私だって多少は回復は使える余裕じゃない、本当に馬鹿ね」

「聖女の私が居るのに、何で気にする訳? 本当にムカつくわ」

言っても仕方が無い…確かに通常の地龍ならどうにかギリギリなる。

大物で無い事を祈るしかない。

どうせ僕が言った所で誰も真面に取り合ってくれない。

そして、岩場を探す事、30分もしないでそいつは居た。

大きさは対して大きくない、だが、何故か色は銀色だ。

普通の地龍は薄茶色、間違いなく亜種だ。

「なんだ、小振りな奴じゃないか? これなら楽勝だ、行くぞ」

「待って、そいつは普通の」

「うるせーな、お前は見ていれば良いんだよ、ソニア、リタ行くぞ」

「解った、僕は約束通り、此処で退却させて貰う」

「はん、戦う前からそれか、良いぜ、臆病者」

「男の癖にあんな小さなトカゲに臆病になるなんて最低ね」

「勇者、賢者、聖女が居て、怖がるんですか? 子供だって安心しますよ」

「あれは、悪いが亜種だ、多分戦えば無事で済まない」

「とっとと行け、ただこの事はギルドに報告させてもらうぞ」

「ご自由に」

僕は荷物を置いて、そのまま立ち去った。

【勇者サイド】

「さて、臆病者は居なくなった、ギルドには敵前逃亡したと報告してやろうぜ」

「そうね、ますます彼奴立場が無くなるんじゃない」

「しかし、呆れる程臆病でしたわね、三職が居るのに怖がるなんて子供以下ですね」

リヒトはそのまま剣に力を込めて気力を貯めている。

そして、その気力を剣に込めて地龍に斬りかかっていった。

「これが勇者の剣技の一つ、ライトニングソードだ」

そのまま一直線に走り、地龍に斬りかかった。

普通ならこれで地龍は斬れる、しかも、最初からリヒトは首を狙ったから、うまく行けば死ぬし、上手くいかなかくても重傷を負わせる事はできたはずだ。

通常なら…だが、この亜竜は、銀色だった。

銀色の亜流は、鉱物を好んで食べると進化する。

その進化は…体を通常の何倍にも固くする事だった。

ただでさえ固い竜種の体が硬く進化した…もう普通では切れない。

リヒトが聖剣を持っていれば、斬れただろう、だがリヒトはまだ聖剣を持っていない。

今使っているのは、劣化したミスリルの剣だ。

劣化したミスリルとはいえ、高額で固い事は固い。

そして、それで斬れない様な固い物質に叩き付けたら…

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ、俺の腕が、俺の腕ぇぇぇぇぇぇ」

「うがあああああぅ」

転げまわっているリヒトの方に地龍が振り向いた。

「ファイヤーボール」

リタが、魔法を投げた。

地龍の顔がリタを見据えた。

「ヒール、ヒール、ヒール」

ソフィアがリヒトにヒールを掛けたが、リヒトが立ち上がらない。

「リヒト、早く立ち上がらないと危ない!」

リタが大声をあげて初めてリヒトは立ち上がった。

「撤退ら~」

舌を噛んで情けない声をあげてリヒト達は逃げ出した。

だが地龍はそれで逃がしてはくれない。

攻撃した怒りからか追ってきた。

「ファイヤーボール、ウオーターカッター、嘘、効いてない..リヒト」

「剣戟が利かない以上は俺は…」

「男でしょう、しんがり位はつとめなさい」

「うっ、糞、糞糞ーーっ」

あっ彼奴…あんな所に…セレスが…

「リヒト..あれっ」

「解っている、もうそれしか無い」

《擦り付け》それは冒険者ではやってはいけない事。

だが、リヒト達はそれを選んでしまった。

「助かったわ、ノロマな彼奴がこんな所に居たわ」

リヒトは素早くセレスの後ろに近づいた。

「リヒト?」

「悪いな、セレス、犠牲になってくれ」

そう言うと、リヒトはいきなりセレスの足を斬った。

セレスの片足は繋がってはいるが…真面に歩く事も出来ない。

「わああああああああああっ、何を..えっ地龍」

「悪いがお前が囮になってくれ」

「そうよ、私達が死ぬ訳にはいかないのよ」

「ファイヤーボール」

足を押さえて転がっている僕にリタは魔法を放ってきた。

それが更に体に当たり…僕は気を失ってしまった。

「これで逃げ切れる」

….そういうリヒト達の声が遠くから聞こえてきた。

英雄 堕天使に遭う

相手は魔物、しかも竜種だ命乞いした所で無駄だろう。

まさか、勇者パーティーともあろうものが擦り付けまでして僕を囮にして逃げ去るとは思わなかった。

そしてもう見えない位遠くまで逃げ去った後だ。

現実問題として、目の前には地龍がいる。

そして逃げられない…仕方ない、戦うしかない、勝ち目等は無くても最早それしか残されていない。

僕は剣を握り、地龍へと駆けていった。

そのまま、剣を叩き付けるように斬り込んでいった。

ガキキキキンッ、大きな音をたてて、剣が折れた。

「ウガァァァァァァァァァッ」

地龍の咆哮が聴こえてくる…終わりだ、英雄のジョブの僕は対人に対してこそ能力が増す。

逆に魔物相手には普通の剣士となんら変わらない。

多分、普通の上級騎士と同じだ…終わった。

だが、事態は思わない方に向っていく。

僕の目の前で、強大で物凄く強い地龍が震えだした。

何か解らないがこれはチャンスだ。

だが、地龍の震えが僕にも移ったのか、僕の足も震えだした。

今しか無い、今しか僕には逃げ出すチャンスは無いのに、足が言う事を聞かない。

もう終わった。

「雑魚が煩いわね」

あぁーあ、頭が可笑しくなったようだ、綺麗な女性の声が聞こえてくる、しかも地龍の向こう側に、今迄見た女性の中で最高の女性が見える。

聖女? 賢者? あんなパチものとは全然違う。

もし女神が居たら、こんな人だと思う。

目の前で地龍の首が落ちて来た。

助かった…だが僕の体の震えは止まらない。

「勇者パーティーが居ると聞いてきたのだけど、無駄足だったようね…あれっあんた誰? あっそうか」

彼女が何かしたのだろうか、急に震えが止まった。

「貴方様、もしや死ぬ時に迎えに来ると言う、死の女神様ですか?」

神々しい姿は人間で無いのは解る、だが、こんな死を纏ったような感じの存在は《死の女神様》しか考え付かない。

「虫けらみたいな存在にしては良い事言うわね、それは誉め言葉と受け取っておくわ、私は四天王の一人ハービア、まぁ堕天使だからあながち間違って無いわ」

堕天使が四天王の一人! 女神様に仕えて人々を幸せにするという天使様、その中でも最も美しく慈愛に満ちた天使長。

子供の頃の僕の憧れの存在…

その天使長様が魔王に屈したのか…もう人類は終わりじゃないか。

「頭の中を覗かして貰ったけど、貴方は私の事を知っているのね、しかもまぁ、貴方の中の私はそんな存在なのね…安心しなさい、貴方は殺さないわ」

「有難う…本当に有難うございます」

「最初に言っておくけど、恐らく遠くない未来に人類は魔族に負けるわ」

「そうですか…」

「貴方も薄々は解っているでしょう? 女神ワイズも何をとち狂ったか、あんな馬鹿ガキを勇者に選ぶくらい節操が無いのよ」

「あの、女神様の名前が」

「あぁ、貴方が私と一緒に敬愛していた女神マリン様は、他の世界を救うために旅立ったのよ、まぁあの方は素晴らしい方でしたわね」

「ですが、教会には」

「人類は知らないわね、女神ワイズはまぁ天界で罰を受けていて、その罰の為に、信仰を得ないで向こう1500年活動しなくちゃいけないのよ、だから神託で女神が変わった事は告げずに、マリン様の名前でね…だけど、貴方が信仰するマリン様はもうこの世界に居ないわよ」

これは只の人類の僕が聞いて良い事なのだろうか?

女神が入れ替わっていたなんて。

「だから、貴方が信仰していた女神様は居ないわ、だけど貴方が憧れていた 綺麗で美しい天使長様は目の前居るわよ? 堕天使だけどね」

「そうですね」

「マリン様が居ない以上、貴方の信仰の対象は私だわ、丁度ね人間側の仲間が欲しかったのよ、私達側につかない..わけ無いわね」

「うがああああっ、痛い、痛いーーーっ」

体が焼けるように熱く痛い、こんな激痛は生まれて初めてだ。

「我慢しなさい、加護を与えているんだから、しかも、私の紋章も刻んであげているわ聖痕をね、まぁ私が堕天した事は世界中の神職者も知らないし、今の馬鹿女神も訳があって神託できないから、教会とかで崇められちゃうかもね」

「うぎぃーーーっ」

今度は体中に電気が走った様に痙攣している。

「私は、天使長だったけど、女神の様に出し惜しみしないわ、最高の加護をあげるから安心しなさい」

「ハァハァハァ」

「これで、貴方は魔族側の人間だわ、お願いをするにしても、貴方の地位確立をしなければならない、その為に我々が手伝うわ、まずはこの地龍の首でも持って帰ると良いわ」

そう言うとハービア様は僕に地龍の首を投げつけた。

僕が敬愛する女神は居ない、勇者達はクズだ。

だったら決まっている、人類なんてどうなっても構わない…あれっ

「心配しなくても良いわ、貴方はもう人間じゃ無いわよ? まぁ鑑定でも見抜けないわ、堕天使からの加護だから教会で調べても女神や天使の加護と絶対に見わけもつかない」

「それでは安心ですね」

「そうね」

「それで僕は何をすれば良いのでしょうか?」

「そうね、勇者以上に活躍して発言権を持つ、そして勇者達の邪魔でもしていれば良いわ」

「そんな事で良いんですか?」

「ええっ、だって人類の滅亡は決まっているからね」

「えっ」

「だって魔王様も邪神様も強力であの雑魚女神じゃ勝てないわ…何もしなくても何時かは滅ぶわ」

「だったら僕は必要ないのでは」

「そうね、ただ何か面白そうだから引き込んだだけだわ、まぁ復讐でもなんでもいいから私を楽しませなさい」

そう言うとハービア様は去っていった。

これが僕が人類を魔族に売る始まりだった。

英雄 ギルドに帰る
ギルドに帰るとギルドは大騒ぎになっていた。

「セレス様、死んだのでは無かったのですか?」

受付嬢は驚いた様な顔でこちらを見ていた。

事情を聞くとリヒト達勇者パーティーが僕が死んだと報告をし、正に今ギルマスに詳しい説明をしている所だった。

「僕は、いや俺は死んでないぞ、勇者パーティーに殺されそうになったけどな!」

思い切り大きな声を張り上げた。

そして、記録水晶の再生をした…今は夕方、多くの冒険者が此処にいる。

普段温厚な俺が大きな声を張り上げているから、皆が注目している。

この中には上位冒険者も居るから、丁度良い。

記録水晶には…

「助かったわ、ノロマな彼奴がこんな所に居たわ」

「リヒト?」

「悪いな、セレス、犠牲になってくれ」

そう言うと、リヒトの声と共にセレスを斬りつけている映像が映っていた。

「わああああああああああっ、何を..えっ地龍」

そして、走り去るリヒト達の映像に

「悪いがお前が囮になってくれ」

「そうよ、私達が死ぬ訳にはいかないのよ」

「ファイヤーボール」

魔法をぶつけている、リタの映像、そして最後に

「これで逃げ切れる」と叫ぶリヒトの映像が映っていた。

「これは、まさか勇者パーティーが擦り付けをして、セレス様に危害を加えた、そういう事ですか」

もう、《僕》は辞めた。

俺にとって勇者達は完全な敵だ。

「それ以外に何がある? 記録水晶は嘘をつかない、それは誰もが知っている事だ」

「ですが…」

「リヒト達が俺を殺そうとした、それ以外何がある」

冒険者の揉め事は自分で解決する、そういうルールがある。

だから、余りギルドは頼りにならない。

だが、これでリヒト達が卑怯者。

そういう噂位は流れるだろう。

【冒険者達】

「あれは酷すぎるだろう..」

「擦り付けしているよ、確実に! 冒険者としての倫理も解らない訳」

「あれが勇者のする事かな」

「何があったんだ、騒がしいぞ」

「マスター良い所に来てくれました、セレス様が生きて帰りまして、リヒト様達に殺されかけたと騒いでおります」

「セレス、生きていたのか?」

「ああっリヒト達に殺され掛かったが、何とか生きて帰った」

「殺されかけた? お前が馬鹿をして死んだと勇者リヒトから聞いたぞ」

まぁ嘘を言う事は解っているから、先に固めた。

「それは彼奴らの嘘だ、もう皆にも見て貰ったが、証拠もある」

そう言うと、記録水晶を再び再生した。

その様子をギルマスは見ると顔色が変わった。

「これはもう皆に見せてしまったのか?」

やはりギルマスはリヒト側の人間だ。

「まぁな、相手は勇者だからな、証拠を握りつぶされると堪らないからな」

「そうか、だが勇者相手に此処までする必要は無いだろう」

「殺されかけたんだがな」

【冒険者達】

「おい、流石に擦り付けの報告は当たり前だと思うが違うのか?」

「これが許されるなら、もう冒険者の活動なんて出来んぞ」

「これは幾ら勇者でも許されないぞ…なぁギルマスどう判断するんだ」

「解った、俺の方から勇者達には何かしら処分を与える、任せてくれ、それとセレスは来てくれ」

「解った」

「おい、何で先に俺に相談してくれないんだ」

「どうせ相手は勇者達だ、ギルドだって罰せないだろう」

「それは、お前が怒るのは解る、だが勇者達は人類の希望の象徴なんだ…解るだろう?」

「彼奴らが本物ならな」

「おい、言い過ぎだ」

「俺は殺されかけた、本物の勇者ならそんな事はしない…あんなクズ多分偽物だ」

「流石にやめろ」

結局そのままリヒト達がいる来客室に通された。

リヒト達は俺を見ると一瞬目をそらしたが小芝居を始めた。

「セレス、助かったのか?」

「お前達が俺に地龍を擦り付けたから死に掛けたがな」

「私達はそんな事はして無いわ」

「そうですよ、ただセレスが逃げ遅れただけです」

「勇者リヒト、それは無い、記録水晶にお前達の擦り付けの証拠があった」

「そうか、だがギルマス、それは握り潰してくれるんだよな? 国王からも」

「それが今回はそうはいかない、既に冒険者たちにセレスが見せた後だ」

「「「……」」」

「お前、何してくれているんだ? 勇者の俺の名前に傷がついたらどう責任とるんだ!」

「そんな教会に知れたら」

「ふざけないでよ、今直ぐ嘘だったと言ってきなさい」

「ふん、お前等がクズみたいな行動をとった結果だろうが、流石の俺も死にたく無いからパーティーを抜けさせて貰う」

「おい、セレス」

「ギルマス、流石に擦り付けされたんだぜ、これでパーティー抜けられない訳ないよな? もし抜けさせて貰えないなら今度は俺が後ろから斬りつけてやる」

「ああっ、それは認めてやる、それで良いよなリヒト」

「仕方ねーな、そんな役立たずもう要らねーよ」

「私も要らないわ」

「私もいらない」

「そう、これで無事パーティーから抜けたという事で、ギルマス、手続き宜しくな、後は賠償の話だ」

「はん、何を賠償しろって言うんだよ」

「地龍を擦り付けた事だ」

「俺たちはしていない」

「悪いが、お前達が擦り付けした証拠の映像をギルドで流したぞ、もうこのギルドで知らない奴はいない」

「おい、本当にそんな事をしたのか?」

「どうせ、しらばっくれると解っていたからな」

「酷いですわ、私達は勇者パーティーなのよ、そんな醜聞を広めるなんて」

「仲間でしょう? 黙っていてくれても良かったじゃない」

「死にそうになったんだぞ、流石にこれ位するさ…それでギルマス、こいつ等への罰はどうするんだ」

「そうだな、リヒト達はお前に荷物を預けていたと聞く、それをお前の物にして良い、あと今回の獲物は全部お前の物、それに対する手柄も全部お前、それでどうだ」

「なんだ、それだけなら良いぜ、貧乏人」

「そうそう、どうせ今回は獲物なんて無かったし残り物位はあげるわ」

「そんなゴミあげるわ」

「まぁ、相手が勇者だそんな物で手を打つしかないな、俺も勇者パーティーを敵にしたくないからな…ただ脱退の手続きと、今の話を公式な物にする為にギルマスのサイン入りの書類をすぐ作ってくれ」

「良いぜ…それで良いんだな? 後で文句言うなよ」

「ああ、構わない、リヒト達も良いんだよな、悪いがサインもして貰うぞ」

「良いぜ、利口な判断だ」

「まぁ、その辺りで手を打つのが利口ね?」

「そうそう、小金が手に入って良かったわね」

俺は書類を受け取ると、そのまま席をたった。

「今迄世話になったな、最後位笑って終わろう」

「はん、もう何があっても知らねー、赤の他人だ」

「馬鹿じゃないの勇者パーティー辞めるなんて」

「貴方はきっと女神からも嫌われます」

うん、もう魔族に寝返っているからな、女神は敵かもな。

そのまま、退出してもう一回ギルドのカウンターに並んだ。

「あれっ、セレス様もうお話は終わったのですか?」

「こんな感じで話が終わったよ..」

「へー脱退と今回の獲物はセレス様の独り占めですか、余り罰になってないですね」

「相手は勇者だからね…それで買取お願いできるかな? 後討伐証明もお願い」

おもむろに俺は収納袋から《地龍の頭》を取り出した。

「嘘、地龍しかも亜種ですよ…討伐されたんですね」

「それじゃ無ければ、生きて帰って来れなかったからな..」

ギルドじゅうに歓声が鳴り響いた。

その結果、再度ギルマスとリヒト達が奥からこちらに出て来た。

「お前、地龍を狩っていたのか?」

「死に物狂いで戦わなければ、この場に居ない」

「ちょっと待ちなさい、これはパーティーメンバーで狩ったんだから権利は私達にもあるわ」

「擦り付けられたから、1人で戦って倒したものだ」

「それでも貴方はメンバーだったでしょう」

「リタ、お前は馬鹿か、厚かましいな、さっき書類を交わしたよな」

「地龍を倒したなら無効よ無効」

【冒険者達】

「何、あいつ等、擦り付けした癖に更に素材のや手柄のおこぼれ貰うって言うの」

「あれで勇者…信じられない」

「女神の目が曇っていたんじゃないか」

周りの冒険者が騒ぎ出すとリヒト達は去っていった。

「セレス、お前覚えていろよ」

「絶対に許さないんだから」

「貴方なんて呪われると良いわ」

何とでも言えば良い。

俺の今の仕事はお前達を地獄に突き落とす事だからな…言われなくても死ぬまで覚えているさ。

英雄 小さな亀裂を作る

さて、これで俺は勇者達を敵に回してしまった。

もう後戻りは出来ない。

これからの人生は彼奴らを貶めつつ、自分の身を守りながら生きていかなくてはならない。

「セレス様」

どうするかな

「セレス討伐証明と討伐金が出ましたよ」

「有難う、俺の口座に入れて置いてくれ」

討伐の報奨金は金貨100枚(約日本円にして1千万)だった。

これで暫くの活動費に困らない。

「解りました、それで討伐の証明も出来ましたので、今日からセレス様もAランク冒険者です、おめでとうございます、あとドラゴンズレイヤーの称号も申請しておきますね…Aランクに上がったのでギルマスにもう一度お会い下さい」

「解った」

「あの、セレス様?」

「どうかしたのかな?」

「僕から俺に変えたのですね」

ハービア様の加護を貰ったせいなのか、勇者がムカついたからかいつの間にか俺になっていた。

「可笑しいかな」

「これはこれでワイルドで素敵です」

「有難う」

【再びギルマスと】

「まずは、Aランクの昇格と地龍の討伐おめでとう」

「有難うございます、それで?」

「ああ、まさかお前が地龍を討伐して持っているなんて知らなかった」

「ですが、その話は終わっていますよ」

「確かにそうだ、しかも冒険者の多くは、何があったか知っているから、俺も今更判断を覆さない、だが、国と勇者達は別だ」

危なかった、今の内容さり気なく味方の振りをしているが《冒険者の多くは、何があったか知っているから、俺も今更判断を覆さない》は、もし知られて無かったら、何かしら譲歩する代わり、勇者を無罪にして手柄迄持っていかれた可能性もある

「そうですね」

「俺だって辛いんだ、俺はギルドマスターだ、一応はギルドは何処の国にも属さない機関だ、だが勇者は一国でなく、幾つの国からこの先信頼を得るだろう、そうしたら手がつけられなくなる。下手な王より権力を持つ、今現在も2国の王から直に勇者に協力するように頼まれているんだ」

「確かに辛そうだ」

「ああっ、此処までが俺の限界だ、恐らく今回の事でリヒト達はお前を恨むだろう、そうしたら俺はお前を守ってやることは多分出来ない」

なんだか、ギルマスはギルマスで辛そうだな。

「守ってくれなくても良いさ、彼奴らが敵になるなら殺してやるから」

「馬鹿、勇者だぞ、そんな事出来る訳ないだろう?」

さてと、この辺りで少し罅を入れて置こうかな?

「これは此処だけの話しにしてくれ」

「解った」

「リヒト達はもしかしたら、偽物かも知れない」

「何故、そんな事を言うんだ? 何か根拠があるのか!」

此処で爆弾を投下しておくか?

「ああっ、リヒト達、弱すぎると思わないか?」

「確かに勇者は強いが、まだ駆け出しだ、どんな勇者だって最初は弱いだろう?」

「確かに、そうだな、だがそれは騎士団長や熟練の上級冒険者とならだ、同じようなキャリアの中ではジョブの補正で1番じゃなくちゃ可笑しい」

「うむ、確かにそうだと思うが」

「地龍の話だ、三人掛かりで戦って勝ち目が無いから逃げ出したんだぞ」

「あの段階の勇者パーティーならあるだろう?相手は亜種だ」

「なぁ、その三人掛かりで勝てなかった地龍を倒したのは誰だ?」

「お前だな」

「俺のジョブは《英雄》だ確かに優秀だが、勇者とは比べ物にならない、あの亜竜の地龍、強敵だったが俺が倒せた、そんな者に3人掛かりで負ける奴が本当に勇者かな?」

「だが、今迄リヒト達は…実績がある」

「あのよー、あいつ等の傍に誰が居た?」

「お前だな」

此処で、疑惑の記録水晶を見せた。

【録画内容】

「俺は勇者だぜ、俺の言う事聞いていれば、お前の未来も安泰だ~」

「そうですわよ、聖女と仲が良ければ、教会ともコネができるわ」

「私はアカデミーに顔が利くわ」

「「「だから頼む(わね)」」」

【終わり】

「これがどうしたんだ?」

「あのよ、彼奴らの代わりに、殆どの獲物を狩ってきたのは俺だ」

これは嘘だがな…

「信じられないな…」

「信じる必要も無いし、罰則も求めていない、だが俺は彼奴らが偽物だと思っている、だからギルマスも警戒だけはしておいた方が良い、あくまで忠告だ」

「解った、一応は気に留めて置いてやる」

話は終わった。

これで疑惑位は持ったかも知れない…これからこの亀裂を深くしてやる。

英雄 亀裂が広がった
【ギルマス アルダー】

勇者リヒト達が偽物か、《そんな事は絶対にない》俺は言い切れなかった。

俺も、確かに彼奴らが勇者にしてしては可笑しい、そんな考えが頭にあったのかも知れない。

だから、セレスの言葉でぐらついた。

先代の勇者パーティーは人格に優れていて、それこそ女神の御使いと言える程素晴らしい人物と聞いた。

俺が生まれる前の話だ。

確かに、その伝承とリヒト達を比べると、余りに違い過ぎる。

先代の勇者が擦り付けなんてするだろうか?

「正々堂々戦いましょう」

「この剣は民の為にある、だから俺は死んでも負ける訳にはいかないんだ」

「私の癒しは、全ての人を癒す為にある、だから休んで等いられません」

「私が一つ情報を得られなかった、私が魔法の習得を1つ得られなかった為に勇者が負けた…そんな事が無いように私は学ばないといけない賢者なのだから」

そんな事言う人達があんな馬鹿な真似をしない。

リヒトなんて奴は《悪ガキ》みたいなもんだ、よっぽどうちの上位冒険者の方が人格がしっかりしている。

だが、彼奴は国が世界が認めた勇者なんだ、国王二人から頭を下げられたら、俺であってどうする事も出来ねー

だが、確かにセレスの言う通り…可笑しいと思わない訳じゃない。

セレスとリヒトはキャリアも年齢も殆ど同じだ。

ベテラン冒険者や騎士団長に最初は勇者とはいえ勝てない。

だが、勇者は同じ経験を積んだら、その補正で何倍も強くなる。

そう考えたら…あり得ないんだ。

一緒に戦っていたなら、幾らセレスが倒していても勇者達にも経験値ははいる。

そうしたら、リヒト達はセレスの数倍強く無ければ可笑しい。

セレスが勝てる存在に、リヒトが負ける、なんてことは絶対に無い。

嘘だろう…本当に偽物の可能性が出てきたじゃないか?

これはもう俺一人で抱えて良い問題じゃない…誰か力がある人に相談しなくてはならないな…

【ハルトマン公爵】

「王都のギルドマスター、アルダーが来ているだと」

「はい、凄く深刻そうな顔色で謁見を願い出ています」

「ギルマスとなると追い返す訳にいかんな、時間はある、通せ」

「はっ」

《謁見室にて》

「挨拶はいらん、一体何があったと言うのだ、手順を踏まずにおし掛けてくるなど今迄は無かったぞ」

「これは世界を揺るがす大変な事かも知れないんだ、済まない」

「まぁ、お前は元は俺の幼馴染でもある、そして冷静な男だ、それが慌てているんだ聞こうじゃないか?」

「ああっありがとう」

アルダーはこれまでの事に自分なりの見解も含めて話した。

「それは確証があっての事なのか?」

「証拠はない、だが、勇者のパーティーにいた者が地龍の擦り付けに遭い、勇者達が逃げた中1人で倒したのは事実だ」

「同じパーティーで、同じ経験、それで三人で倒せなかった地龍を一人で倒したんだな」

「ああっ」

「確かに不味いな、状況は、ほぼ黒、偽物の可能性が限りなく高い」

「やはりそう思うか?」

「ああっ、前の勇者の時にお世話したのは俺の親父だ、だから少しは勇者の事も解る」

「そうか」

「お前は勇者が聖剣を手にした後に行う、レベリングって知っているか?」

「何となくはな…」

「それを騎士団と共に行った結果、勇者は騎士達の8倍の速度で強くなった」

「それがどうかしたのか?…あっそうか」

「そうだ、勇者と一緒のパーティーで行動をすれば、勇者、聖女、賢者のジョブは成長が早いから、他のメンバーの数倍の速度で強くなる」

確かにそうだ、三人それぞれがセレスより強く無ければ可笑しい。

「確かに」

「当たり前だろう、勇者なのだからな…同じパーティーの人間で勇者と同じ経験しかしないなら、勇者より遙かに弱い人物にしか慣れない常識じゃないか」

「だったら、セレスの言っている事は」

「間違いなく、正しいな」

「それで、これはどうしたらよいと思う」

「これは本当に大きな問題だぞ、偽物の勇者パーティーに国や教会が支援していたなんて事…不味すぎる」

「そうだろう」

「ああっ早いうちに登城して国王様に指示を仰ぐつもりだ、済まないがそれまで、泳がせて証拠になるような物を集めて置いてくれないか?」

「解った、恩にきる」

「こちらの方こそ、助かった、これがもし聖剣の儀式の後だったりしたら目も当てられない、もしやそれが目当てかもしれぬ、魔族側と考えた方が良いだろう、くれぐれも証拠集め頼んだぞ」

「ああっ、任せてくれ」

「あと、セレスとか言ったな」

「ああっ」

「腕もたつようだし、事情も知っている、こちら側に手を貸して貰えるように頼んでくれ」

「確かに、協力者にうってつけだ、頼んでみるさ」

「そうだな、宜しく頼む」

小さな亀裂は、ゆっくりと広がりつつあった。

英雄 再び堕天使に会う

そう言えば、ハービア様が僕に加護をくれたんだっけ。

忙しくてまだ自分のステータスを見て無かった。

だけど、教会やギルドで見て貰って何か不味い事が起きたら困る。

だから、少々高かったが、鑑定紙を買った。

これは、神職が作った特別な用紙でこれに血を垂らせば自分のステータスが解る。

「痛っ」

僕は早速血を垂らしてみた。

紙に僕の今のステータスが映し出された。

セレス

種族(堕)天使 

LV 1 (種族変更の為 1から)

HP 1800

MP 3200

ジョブ 英雄 (魔族の)勇者  (ハービアが選んだ偽りの)救世主

スキル:アイテム収納、全ての才能 レベル1(但し、人間ではなく天使の能力に元ずく)
    創造 、奇跡、(堕)天使化、 天使の目、天使の防御 神託 天使の魅力

紋章:(堕)天使ハービアの紋章

加護:(堕》天使ハービアの加護

( )は高度な技術で隠蔽されている。

うん、何となく解っていた。

HPやMPはどう考えても《人間の範疇》を越えている。

種族が人間でなく(堕天使)だからか、天使の能力でレベル1という事はどういう事なのだろうか?

種族が違うから、レベル1にしてかなりの物と思って良いのか?

全ての才能って事は何でも出来る、そう思って良いのだろうか?

《神託》って何だこれは?

「何だか困っているわね」

「えっえーーーっ ハービア様」

「あはははっ可笑しいの、何、その顔は? しかし、何で教会に行かないのよ? 私が加護をあげて教会では絶対に解らないと言ったのに」

「すみません」

「まぁ良いわ、面白い事、始めたのね? まぁ地味だけど」

「はい、少しでもハービア様や魔族の為になればと思いまして」

「そう、良い心がけだわね…あの時に言った様に、この世界は絶対に女神側の勝利は無いわ、貴方がいや、私が何かしなくてもこの世界は魔族の物になるのよ」

「そうでした」

「だけど、私や貴方は魔王様にしいては邪神に仕える者として、主を喜ばせるが仕事よ」

喜ばせるだけなのか?

「それだけですか?」

「そうよ、恐らく今の魔王様なら、勇者なんて手も触れないで殺せるわ、だけどドラゴンが蟻を潰しても面白くないでしょう? だから私がやっても良かったんだけど、私が相手しても、リザードマンと蟻位差があって面白く無いのよ? だから、貴方を小さなトカゲ位の力にして遊ぼうと思ったのよ」

何だ、それ最早人類には絶望しか無いじゃないか…まぁもう僕にはどうでも良いけど。

「そこ迄差があるのですね」

「あるわ、だから、貴方の行動は常に魔界から見ているわ、幹部や魔王様、そして邪神様が娯楽としてね、だから、私達が楽しめるようにしてみて」

「例えば、何をすれば良いのですか?」

「そうね、最初だからヒントをあげるわ、聖女をこちら側に寝返らせて、聖剣でも貴方が手に入れたら面白くない?」

「聖女は兎も角、聖剣は抜けないのでは無いですか」

「貴方の種族は?」

「堕天使です」

「堕天使とはいえ、天使の眷属だわ、まして貴方はこの元天使長で堕天したハービアの眷属なのよ、まぁ雑魚だけど…勇者が抜けるなら、堕天したとはいえ天使の能力を持つ、貴方に抜けない訳ないわ」

「そうなんですか?」

「そうよ」

「ですが、聖女は何で味方に付ける必要があるのでしょうか?」

「セレスは本当に馬鹿ね、女神の御使いと言えば、勇者以上に聖女でしょう? さっさと口説いて貴方の仲間にしてしまいなさい」

「あの、ハービア様、聖女のソニアは僕を毛嫌いしていて、勇者のリヒトが好きなんです…難しいですよ」

「あのね、セレス、貴方の種族は?」

「堕天使です」

「聖女は黙っていても聖なる者に惹かれるのよ? 人間でいうなら勇者とか教皇は聖なる属性が強いから惹かれる訳ね、まぁ魔族や悪い男に騙されたらたまんないから、そういう要素があるジョブなのよ」

「そうなんですか? 初めて知りました」

「聖なる者にとって、天使の存在や神の存在は絶対よ…そうね、解りやすく言えば、比べ物が無いほど強力な麻薬なのよ」

「麻薬ですか」

「そう、麻薬、傍に居れば居る程離れられなくなり、その存在の為なら何でもしたくなるわ…神や天使とはそう言う存在なのだから」

「僕でもでしょうか?」

「何だか、その《僕》というの止めない? 貴方はもう人類より上の存在なのだから…あっちなみに聖剣も一緒よ、貴方が触れてしまったら、勇者如きが触っても反応しなくなるわ」

「あの、お聞きしてよいですか?」

「良いわ、大切な下僕だもの」

「あの、勇者と魔王が対になる存在なら、天使はそれより上の存在、ましてハービア様は天使の中でも高位の天使長、それが何で魔王様の配下なのですか?」

「今の魔王様は先祖返り…限りなく邪神様に近い存在なのよ、此処だけの話、虫けらがドラゴンになったと言える位可能性は無い筈なんだけど…到底私じゃ勝てないわ、私が1000人居ても、無理ね」

「そこ迄凄いお方なのですか?」

「そうよ、だから貴方もしっかりと働きなさい…貴方が活躍して魔王様の目に止まれば私も鼻が高いから」

「はい」

「困ったらまぁ私も暇だから、手伝ってあげるわ」

「有難き幸せ」

こうして《俺》は、聖女ソニアを落とし聖剣を手に入れる為に中央協会に向った。

英雄 聖女攻略?
「あんた、何しに来た訳? あんな事私達にしておいて良く…顔を出せるわ…ね、あれっ」

《何かが可笑しいわ、どうしてセレス如きを見て体が火照るのよ》

「いや、ソニアが少し気になったから顔を見に来ただけなんだけど? 一応前までは仲間だったからさぁ」

「そう、それじゃこの後はリタの所にでも行くのかしら?本当に節操のない男ね」

《なんだか知らないけどムカムカするわね》

「いや、行かないよ! 俺が用事があるのはソニアだけだから」

「そう、私に用事があるのね! なら良いわ、最高級の紅茶が寄進されたから入れてあげるわ、中に入りなさい」

《あれっ、あれは私のお気に入りで誰にも飲ませたくなかったんだけど…何で?》

「ありがとう」

「良いのよ、貴方が喜んでくれるなら」

《? ? ? 此奴まさか…魅了の呪文でも使っているの? 念の為、解呪を行って…可笑しいわ何も変わらないわ》

そのままソニアに中に通された、信じられない。

ソニアは凄く俺を嫌っていた。

というより、余り外には出さなかったが男自体が嫌いだった節がある。

ソニアの中で唯一認めた男が、勇者の肩書が、あるからかリヒトだけだった。

その勇者のリヒトだって、こういう風に招く様な事はしなかった筈だ。

「どうしたのよ、セイル変な顔をしてほら、さっさと着いてきなさいよ」

「ああっ」

ソニアがソニアじゃない気がする。

しかも、案内された所って、教会の謁見室や談話室じゃなく、ソニアの私室じゃないか?

「全く、どうかしたの可笑しいわよ?」

《可笑しいのは私だわ、何で談話室じゃなくて私室に来ているのよ! 聖女だから問題にならないと思うけど、シスターだったら大変な事になるわ》

「いや…良いの?」

「良いの、ほらさっさと入りなさい」

「いや、うん」

良いのか? 此処は多分、男子禁制とかじゃ無いのか?

多分、ソニアの傍の部屋のはシスターの部屋じゃないのか?

さっきすれ違ったシスターは明かに様子が変だったぞ。

「それで今日は何の用かしら? この後教皇様とお話があるから手短にね」

そう言いながら、態々お茶とお菓子を用意してくれた。

本当にこれがソニアなのか疑いたくなる位別人だ。

「あくまで漠然とした話だけど、もしかしてだが、リヒトやリタは勇者や賢者じゃないんじゃないか? そう思うんだ」

「何言い出すのよ? 幾らセレスでも怒るわよ!」

《何でこんなバカげた話しをセレスがしているのに怒らないの? 普通は怒鳴る所じゃない、どうしたの私》

「いや、可笑しくないか? ソニアは凄いのに、あの二人は駄目過ぎないか?」

《何で顔が赤くなるのよ? 仲間が侮辱されているのよ…なのに何で私は嬉しいのよ、たかがセレスに褒められたくらいで》

「話しを聞くわ? どういう根拠があるのかしら?」

これで怒鳴らないなんてソニアじゃない気がする…本当にソニア? 双子の妹とか言わないよな。

「前に俺が腕が千切れかけた時に、ソニアが治してくれた事があっただろう?」

「そんな事もあったわね」

「なぁ、ソニアはそこ迄実力があるのに、何で同じパーティーの賢者や勇者があれなんだ可笑しいだろう」

ソニアは見かけによらず努力家だ、見えない所で凄く努力している。

本当なら当たり前だ、だがソニアは《その努力を過小評価している》

「…」

「なぁ、真剣に考えて欲しい、俺ですら倒せた地龍相手に、歯が立たない訳が無い筈なんだ、勇者の技に賢者の魔法、しかもどんな大怪我をしても治せる、究極のヒーラー、ソニアが要るんだぜ…それで俺が一人で狩れる地龍から逃げ出すか?」

「確かに、そんな訳無いわね」

のど元過ぎれば何とやらだな、無様な自分達を忘れているな。

「そうなんだ、傍に居たからか俺には違和感があったんだ、ソニアからは神々しい何とも言えないオーラと言うのかな? それを感じる時があるのに、二人からはそれを感じ取れない…寧ろ嫌悪感が感じられる」

「一番傍に居たセレスがそう感じるなら何かあるのかも知れないわね…そうだこの後教皇様と話すのよ、セレス貴方も同席しない? 直接話してみた方が良いかも知れないわ」

《私…頭が可笑しいの? こんなあり得ない話を信じようとしている何て…だけど、違和感を感じる。私、何でセレスよりリヒトが好きだったのか、考えられない。 パーティーを離れてこうして話していると、セレスの人の良さが解る、多分私はこう言うい人間が好きなんじゃないかな。理知的で優しくて、そして髪はサラサラしていて、顔なんてまるで人間離れしていて、そう天上に居る天使がこんな感じだと思うわ。 理想その者だわ。てっきり魅了でも使われたのかと思ったけど違った、そう考えたら、何かしたのはリヒトとリタの方…解らない。だけど、この気持ちは多分偽りじゃないと思いたい》

「良いのか?」

「構わないわ、貴方なら…あの怒らないで聞いてくれる?」

「別に良いけど?」

「セレスって何者なの? 英雄ってだけじゃない気がする、何故か私、貴方に惹かれるのよ」

「その件についても教皇様を交えて良いかな」

「やっぱり、何かあるのね、良いわ」

《もしかしたら…セレスこそが本当の勇者なのかも知れないわ…聖女の私がこんなに惹かれるんだから、もし私の気持ちをリヒトやリタが捻じ曲げていたなら…例え幼馴染でも許さないわ》

「どうしたの?」

「ううん、何でも無いわ」

何故か、ソニアから今迄感じたこと無い恐怖を感じ、俺はぞくりとした。

英雄 聖女攻略? 神託
ソニアに連れて来られて、教会の会議室に来た。

そこには教皇様や司祭様も含んで、教会の権力者が沢山居た。

そこに場違いな俺が連れて来られたから、視線が痛い。

「ソニア、俺がこの場に居て良いのか?場違いな気がする」

「大丈夫よ、聖女の私が連れてきているんだから、誰にも文句は言わせないわ、まぁ聖女より偉い人間なんて居ないからね」

確かに表向きはそうだ、女神の御使いである、勇者と聖女は尊い存在と言われ教皇様や国王よりも上と言われている。

ちなみに賢者はそれより少し落ちて公爵より上国王以下という感じだ。

だが、それはあくまで表向き、あくまで儀礼的な意味であって、本当は違う…恐らく人間で一番偉いのは教皇様だ。

「ソニア様? そちらは確か英雄セレス、確か勇者パーティーからは外れた筈ですが、何故この場に」

「教皇にその他の司祭、聖女ソニアの名前でこの場でセレスの発言を許します、皆さま会議の前に少し話を聞いて下さい」

「聖女様が言うのなら特別に許しましょう」

「まぁソニア様が言うなら話位聞いても構いません」

「そう、ならセレスが言っていた事、そのまま伝えてくれない」

「これはあくまで、私の予想ですが、勇者と賢者は恐らく偽物だと思います」

「どういうい事ですか? 場合によっては戯言じゃ済みませんよ」

俺は、ソニアに説明した事を再度、説明した。

「何を言い出すかと思えば、幾ら勇者や賢者でもレベルが低ければ他の者より劣る事もある」

「そうそう、神託で選ばれた勇者や賢者が偽物の訳ありません、ちゃんと司祭が立ち合いの元調べた、いい加減な事を言うでない」

「これは困りましたね、聖女様とはいえこの様な者を連れ込んで戯言を聞かされるなんて思いませんでしたよ」

まぁ直ぐに信じて貰えると思わないからこれで良い。

「直ぐに信じてくれとは言いません、ですが少しで構いません、監視の目を持って下さい、俺はそれだけ伝えたいだけです」

「待って、セレス、それで良いの?」

「ああっ、ソニア有難う、此処まで連れて来てくれて…恩に着るよ」

「私は貴方を信じたわ、そう言う事なら、聖女の地位なんて返上して貴方についていくわ…私は貴方が正しいと思う物」

《何を言い出したの私…まさかこれが私の本心》

「勇者や賢者が偽物だなんて教会の侮辱だ、このまま帰れると思うなよ」

「教会侮辱罪だ」

「待ちなさい、私には何故かその者が嘘をついているとは思えない」

「「「「「「「「「教皇様」」」」」」」」」

「本当に騙すつもりなら、態々、教皇たる私や聖女、そして八大司祭がいるこの場でこの様な発言をすると思えません、何か事情があるのかも知れません」

【神託を下します、聖堂に来なさい】

美しい声で皆の頭の中に声が響き渡った。

「お怒りになったのだ、女神の逆鱗に触れたので、この者に縄を打て」

まぁ、大丈夫だ、あの凛とした声の主を知っている。

「そんな、セレス」

「気にしないで良いよ、ソニア、神託があるならそれを聞こうよ」

「そうね、大丈夫よきっと」

(大礼拝堂にて)

全員が礼拝堂に入ると頭上より眩い光が注いできた。

その光の中に左右合わせて16枚の翼を持つ…美しい天使が現れた。

あれは俺が見た姿じゃない…俺が見た姿は天使だった、あの、お姿こそが肖像画にも書かれている《天使長 ハービア様》の姿だ。

「ああっハービア様、神託で無く顕現されて、その御姿を見せて頂けるなどこの教皇ロマーニ…」

「ハービア様、私は聖女」

【黙りなさい】

その声が頭に響いた途端に全員が息を飲むように静かになった。

【久しいわね、セレス…いいえ天使セレスタン、貴方の魂に触れるのはどの位ぶりかしら】

何て返せば良いのか、全然解らない? セレスタンって実在した天使の名前だぞ、良いのか?

【驚いているいのですね? 人の生活を続けていたから私の眷属だと言う事を忘れたのかしら? 思い浮かばせてあげる、強制天使化】

俺の髪の毛が綺麗な金髪に変り、頭上には天使の輪が光り輝いている、そして二枚の翼が背中に生えて、白い服に変った。

「この姿は」

【貴方の本当の姿よ、セレスタン、これで少しは思い出したかしら?】

「はい、私は天使長ハービア様にお仕えする天使の一人セレスタンです、再びこうして会えるなんて…感激です」

話を合わせた方が良いだろう。

【セレスタン、貴方は本来は《人を知る為に今回の人生は人として生きさせるつもりでした》ですが事情が変わったのです】

「ハービア様が顕現して、私がこの姿になると言う事は、人類に未曽有の危機が迫っている、そういう事でしょうか?」

【貴方が修行の一環として人として転生しているなか、女神マリン様が更なる研鑽の為に上位神界に行かれたのです】

「その様な事があったのですか?」

【ええっ、本来ならマリン様の留守を私が預かる筈だったのですが、私がマリン様をお送りしている最中に【悪戯を司る天使】が面白半分に神託を下し、本来資格の無い者に《勇者》と《賢者》のジョブを与えてしまったのです…幸い、良識のある天使が直ぐに捕らえて《聖女》だけが正しい者にジョブとして与えられました】

「それでは、やはり私が睨んだ通り、あの二人は偽物という事でしょうか?」

【それがそうとも言えないのです、ジョブは本物ですから、ただ本来の持ち主にそのジョブが渡っていない為に、その能力は本来の力の1/10も引き出せない筈です」

「それでは」

【ええっ、魔王はおろか四天王、いえ只の幹部にすらその能力は通じず、下手すれば竜種の高レベルの者にすら遅れをとりかねません】

「それでは、次の勇者が再び現れるまでの数百年、闇の時代が続くのでしょうか?」

【本来は、そうなる筈ですが、今下界には天使セレスタン、貴方がいます、平和を愛し戦いを望まない貴方に戦いを強いる事は私もしたくありません、ですがそうも言ってられないのです】

「私はセレスタン、貴方の眷属です、何でも言って下さい」

【ありがとうセレスタン、ならば貴方がその世界を救う資格があるかどうか《聖剣の儀》をしなさい、天使とはいえその世界を救うなら聖剣を抜く必要があります、抜けたなら出来損ないの勇者に変り貴方がその世界を救いなさい、貴方が聖剣を抜けなく出来損ないの勇者が聖剣を抜いたなら、貴方はその世界に手を出す事は叶いません…良いですね】

「はい、ですが二人とも聖剣が抜けた場合、もしくは二人とも聖剣が抜けなかった場合はどうすれば良いのでしょうか?」

【その場合は、貴方に任せます、好きなように行動すれば良いでしょう…さっきの話も、私からのお願いです、決して強制ではありません】

「解りました、ハービア様の眷族として恥じない行動を致します」

【頑張りなさい、教皇ロマーニ三世に聖女ソニア、私の眷属である天使セレスタンを宜しくお願い致します】

「はっこの教皇ロマーニ三世、セレスタン様の為に命すら惜しまず仕えさせて頂きます、ご安心下さい」

「私ソニアも聖女の名に懸けて必ずやセレスタン様のお役に立てる様頑張ります」

【頼みましたよ、あとこの事は時が来るまで此処にいる者で秘匿するように】

「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」

輝いていた光が消えてハービア様は消えていった。

そして俺の姿も元の人間に戻った…多分この《天使化》は恐ろしく力を消耗する気がする。

実際に天使の姿になった時は自分が万能の存在になった気がしたが…今はもう立っているのがやっとだ。

「セレスタン様、どうしたのですか? 顔色が凄く悪いですよ…」

「ソニア、久々に天使の姿になったから疲れたみたいだ、御免もう倒れそうだ」

「セレス、肩に捕まって」

「ええっ、何をしている他の者も手を貸さんか、天使様なのだ間違えても膝などつかせてはなりません、セレスタン様がお疲れだ、私の部屋に運び込まないか、この教会で一番良い寝具があるのは私の部屋だ」

「はい、教皇様」

本当に消耗が激しいらしく俺は此処で意識を手放した。

英雄 聖女攻略 宗教者は頭が可笑しいのか?
目を覚ました。

あれっ俺はいったい…天井が凄く高い、寝ているベッドは凄くフカフカして寝心地が良い。

ふと左を見ると…

「教皇様にソニア、そうか…」

「教皇様、なんて言わないでください、天使であるセレスタン様に様などつけられては困ってしまいますよ、どうかロマーニと呼びつけて下さい」

「確かに俺は天使かもしれませんが、この世界では若造です、そういわれても困ってしまいます」

「そうは言われましても、セレスタン様は天使様です、神に仕えているとはいえ私は人間です、そういう訳にはいきません」

「そうですね、なら友達になりましょう、私は公式の場所以外ではロマーニと呼びます、貴方は私をセレスと呼んでください」

「そんな勿体ない」

「私が天使だという事は内緒の筈ですよ」

「そうですな、解りました」

最後は渋々了解した、そんな感じだ。

だが、問題なのはソニアだ、さっきから額を床につけ土下座をしている。

「ソニア? 何をしているの?」

「今までの反省を込めて謝罪しています」

「何を?」

「地竜の擦り付けをしたことです、本当に申し訳ございませんでした」

自分から言う事も無いのに…

「ソニア様、それは一体どういう事ですかな?」

ソニアは自分たち勇者パーティーが俺にした事を包み欠かさず話した。

「所詮は劣化勇者に劣化賢者という事ですな、人として尊敬できぬ」

司祭たちから罵声が飛んでいる。

まぁ俺にとってはどうでも良い事だ。

「気にすることはないぞ、幼馴染だろう、こうして俺は生きているんだからな」

「でも許されざる事だわ」

「俺はお前が女神でも、聖女でも態度を変えるつもりはない、だからソニアも俺が天使でも態度を変えないで欲しい、数少ない幼馴染なんだからな」

「それで良いの?」

「ああ、構わない、多分この状況じゃ残り二人の和解は難しいだろう? だからこそ幼馴染で居て欲しいんだ」

「そうね努力するわ、セレスタン様」

「セレス」

「セレスタン様」

「セレス」

「セレス様」

「セレス」

「セレス様」

「あの、《様》を止めて欲しいんだけど」

「無理よ、どうしてもというなら努力するけど、人間の私が《天使様》である貴方を呼びつけるなんて」

「じゃぁどうしても」

「セレ…ス」

「うん、その方が良いよ」

「そう、それなら努力する…」

まぁ直ぐには難しいと思う、仕方ない事だな。

「お加減はいかがですか? セレスタン様」

「ロマーニ、セレスと呼ぶ約束です」

「それではセ…レスお加減は如何でしょうか?」

「充分休ませて頂いたから大丈夫です」

「それでしたら、早速、聖剣をお試しになられては如何ですか」

「そうだな、早速やってみるか」

さっきから周りの熱い視線が気持ち悪い。

尊敬の気持ちなのは解るが…教会の実力者に食い入る様に見られても困るだけだ。

【聖剣の間にて】

大きな広間の真ん中に青く光り輝く剣が突き刺さっている。

俺が聞いた伝承ではどんなに力のある者でも聖剣が認めないと抜けないらしい。

「あの中央に安置されているのが、聖剣デュランです、資格のない者には持つことすら叶わないと言われています、事実この教会の誰もが持つ事が出来ません」

「なるほど」

俺は聖剣にただ近づいただけだったのだが…聖剣が俺の方に飛んできて、とっさに俺が手を前に出すと、そのまま俺の手の中に納まった。

「聖剣が、自ら飛んでくるとは、流石は天上で暮らす天使様…」

いや、怖いんですけど、何でまた俺に膝磨づくんだよ…

この人達、教皇と八大司祭…教会を動かす権力者だ、そんな人間に膝磨づかれても困るし、そしてまたソニアが怖い位目が泳いで赤くなっている。

「やはり、凄いわね、こんな話しは神話ですら聞いた事は無いわ、やはりセレスタン様がこの世を救う救世主だったのよ、本当に心から謝ります、これ以降は身も心も全て捧げます、私と一緒に救世の旅に出かけ、魔王討伐をしましょう」

怖いな、まるで人が変わったみたいに、顔を赤らめてこんな事を言い出した。

ソニアは男が嫌いだったはずなのにだ…

「あの、ソニアは男性が余り好きでなく、リヒトが唯一の例外なんじゃ…」

「何を言うのですか? セレスタン様、貴方は人間じゃありません、神に仕える尊い天の使いです、私が愛さない訳無いじゃないですか? 貴方は天使です、何故リヒトみたいな下等な猿と比べるのですか? あんなクズと比べちゃ駄目です」

「あの、ソニア、前にも言ったけど、俺は幼馴染のソニアの方が良いんだ、それに天使と言うのは内緒だから頼むから普通にしてくれないか?」

「ごめんなさい、セレス、もう取り乱さないから安心して…だから、だから私を、私を捨てないで、ねっねっお願いだからね」

「うん、とりあえず、俺はソニアを捨てたりしないから、安心して」

「うん、安心した、セレス本当にありがとう」

聖女であるソニアが可笑しいなか、教皇たちは教皇たちで可笑しい。

全員が土下座状態で俺に祈りを捧げている。

「あの、ロマーニ止めてくれませんか?」

「私は教皇なのです、ですが今迄の歴代の教皇ですら神託が殆どで、天使様や女神様が顕現する瞬間に立ちあった者はおりません」

「勇者や聖女には会っているでは無いですか?」

「確かに彼らも女神様の御使いですが、所詮は人間です、貴方様の様な《本物の神聖な存在》とは違います」

「ですが、見ての通り俺は人間です」

「人間の器に納まっているだけで、貴方様は天使様です、我々が生涯を掛けて信仰する女神様の本物の使徒です、そんな尊い方に膝磨づかない訳には参りません…私を始め八大司祭、いえ教会の全てが貴方様の物そう思って構いません」

「「「「「「「私達は貴方様の僕(しもべ)ですなんなりとお申しつけ下さい」」」」」」」」

聖剣を無理やり引きはがし台座に戻した。

聖剣はまるで名残惜しそうにしている様に思えた。

「期待をして下さるのは凄く嬉しいですが、勇者にも聖剣を抜くチャンスはあります、まだ決まっていません、ロマーニ、今日はこれで帰りますから、次に会う時までには冷静になっていて下さい」

「「「「「「「「「解りました、必ずや冷静に対応します」」」」」」」」」

「本当にお願いします、それじゃ、俺は帰ります」

「まって、セレスタン様、私も行くわ」

「あの、ソニア、名前がセレスタンになっているよ、頼むからセレスって呼んでくれないか?」

「解っているわ、ちゃんとするから安心して」

こうして俺は教会を去った。

元同じパーティーだし、聖女だから余り邪険にも出来ない。

「どこかで夕飯でも食べるか?」

「食事のお誘い?セレスタ..あっセレスからのお誘い嬉しいな」

本当に大丈夫なのか。

食事をした後もソニアは俺の宿にまでついて来たのだが、仕方なく教会に送っていった。

凄く疲れたので、その日は直ぐに宿に帰り寝た。

【次の日】

トントン

「セレス様、おはようございます、開けて下さいセレスさまぁ~」

トントン

「朝ですよ! 朝食を食べに行きましょうよ」

この声はソニアだ、完全に可笑しくなっている気がする。

聖女が幾ら元同じパーティーとは独身男のいる宿を訪れるなんて目立つし、問題だ。

「良いから、入って」

「はい、セレス様」

「あの、頼むから《様》は止めて目立ちすぎるから」

「はい、頑張ってみますね、セレス様」

「だから《様》」

「ごめんなさい」

「どうしたのこんな早くから」

「セレスさ…セレスに報告があって来ました」

何だか顔が赤い気がする、嫌な予感しかしない。

「どんな報告?」

「さっきギルドに行って勇者パーティーを抜けて来ましたわ」

聖女が勇者パーティーを抜けるなんてそう簡単じゃないだろう。

「よくリヒトと揉めなかったな」

「リヒトになんて言って無いですよ」

嫌、パーティーリーダーの許可が無ければ無理だろう。

「どうやって抜けたの?」

「簡単ですよ、教皇と八大司祭の連名で書類を書いて貰ってギルドに行ったら一発だったわ、まぁ文句言われるといけないから、ギルダー司祭も一緒に来て貰って、真筆という証言をしてもらったの」

おい…

「それでね、折角だからセレスタン様と私でパーティー申請しておきましたわ、本当に申し訳ないのだけど天使様って書けないから《聖女》と《英雄》での登録になっちゃいました、勿論リーダーはセレスタン様にしたかったんだけど、ギルドがね、格から言うと《聖女》がリーダーじゃないと見栄えが悪いから、不肖このソニアがリーダーになりました、あっ大丈夫ですよ! 私はセレスタン様の僕(しもべ)ですから形だけです、何でも言う事聞きますから…それでセレスタン様に合わせて、パーティー名は《ホーリーエンジェル》にしました。二人にお似合いの最高の名前ですよね」

これ不味くないか?

下手すれば今日にでもリヒトと揉めるんじゃないか?

「ついでに、メンドクサイから今日、リヒトに《聖剣の儀》を教皇がさせるそうですよ! どうせ抜けもしないのに時間の無駄ですよね…さくっと終わるみたいですから夜にでも聖剣を貰いに行きましょう?」

これの何処が内緒の話なんだ。

まぁ終わってしまった事は仕方ない。

「はぁ、またセレスタン様になっているよ、普段から頼むからセレスと呼んで欲しいな…パーティは組んでしまった物は仕方ない、明日にでもこれからの活動を決めよう」

「そうですね」

何でニコニコしているんだ。

「あの、その荷物はなにかな」

「同じパーティーなら一緒に生活した方が良いに決まってます、近くの宿に教会が新しい宿を借りてくれたので引っ越しましょう、場所は此処ですので、後で教会の者が荷物を運びに来ますから、セレスは身一つで来て頂ければ大丈夫です」

「解った、用事を済ましたら行く」

「早く来てくださいね」

教会って頭が可笑しいのか?

どう見てもこれ目立つだろう。

英雄 聖女攻略? なのか?
「あははははっ、変な方に転がっているわね」

「ハービア様、笑い事じゃないですよ」

俺はハービア様の眷属だからこうして何時でも話ができる。

最も、これにも上下はある。

俺からの連絡はハービア様が話したいかどうか決めて、ハービア様が話したい時にだけ繋がる。

逆にハービア様が連絡したい時は強制だ。

ちなみに、今回はハービア様からの《強制》

「まぁ、こうなる様な気はしたのよ? 女神を信仰している者が《堕》天使なんか見ちゃったらこうなるわね」

「これは魅了の魔法に近い物なのですか?」

「そんな物比べ物にならない、本当に麻薬に近い物ね」

「ですが、ソニアの気持ちは操られているように思えます」

「説明が面倒ね…女神様って殆どの人類に愛されているわよね」

「はい」

「それは偽りじゃないの? あった事もない存在を愛すのよ可笑しいでしょ」

「女神様ですから」

「それと同じ、女神であれば無条件で愛される、そこまで行かなくても堕天使とはいえ天使という存在は無条件で人間から愛されている訳ね、そしてその中でも気持ち悪い位愛してくれているのが宗教者よ」

「…」

「思わない? 見たこと無い存在に祈りを捧げ供物をおさめる、そして場合によってはその思いに命を賭けるのが彼らよ」

「確かにそうですね」

「そんな見たことも無い存在を愛してやまない人々の前に《本物の天使》が舞い降りた訳よ…もう死ぬ程愛しちゃうわよ? まぁ堕天使だけどね(笑) もう大変…何でもしたくなっちゃうわ…特に聖女なんて大変よ」

「あの…」

「本当に可笑しな位、愛しちゃうわね…そうね、今現在でも貴方が言えば家族だろうと笑いながら殺せる位にね」

「冗談ですよね」

「冗談じゃないのよ! もし貴方が彼女の目が欲しいって言うじゃない? そうしたら彼女笑いながら目を抉りだすわよ? その状態でもし貴方が体を望んだら、目の治療もしないで、そのまま貴方に跨ってくるわよ」

「それは呪い…」

「馬鹿言わないで《自己犠牲》神や天使なんですからね自分の命よりも《奉仕》したくなる、これが神や天使に捧げる愛情なのよ」

「まだ俺には」

「解らないわよね、だけど本当の事なのよ…貴方だって少しは解るんじゃない? 私を信仰していたんだから」

確かに初めて見た時は普通では居られない程感動した、だけど..

「差があるのは当たり前だわ、貴方は普通の人、彼らは信仰が全ての人達なんだからね」

確かにそうなのかも知れない。

「あの、それはそうとセレスタン様の名前を俺が使ってて良いんでしょうか?」

「あっそれね、大丈夫よ前のセレスタンはね私が堕天する時に殺したのよ! あーでもない、こーでもない煩かったから、そのセレスタンの力を貴方にあげて眷属にしたのよ…だから貴方は本物のセレスタンでもあるわ」

「そうですか…」

「貴方のやっている事は魔界でも凄く面白いらしくて人気があるから…もっと私や魔王様を楽しませてね、それじゃ..あっ」

「どうかしましたか?」

「あはははっ、貴方グッジョブですよ…多分今回私が顕現したり、貴方が人として現世に留まるのが嬉しかったんでしょうね…全ての教会のハービア像を新品に変えてその横にセレスタンの像も設置するみたいよ」

「それは恥ずかしいです」

「何言っているの? 堕天使とはいえ天使、信仰の力は自分の力になるのよ、まだ力がなじんで無いかも知れないけど、なじみだしたら凄い高揚感が得られて凄い事になるわ」

「….」

「まぁその時には解るわよ…それじゃまた頑張ってね」

自分がどうっているのか?

まだこの時の俺は気がついてなかった。

英雄 勇者SIDE 抜けない聖剣
宿に戻ると俺の宿はもぬけの殻になっていた。

凄いな、教会の力って、当人の許可なく部屋の物を持ち出せるなんて、泥棒のし放題じゃないか。

身一つで来てくれと言うから、近くの宿という場所に向ったら、やはり高級宿だった。

「セレス様ですか? 教皇様から良しなにと頼まれております、私も敬虔なる女神様の信仰者です、精一杯仕えさせて頂きます」

「あの、教皇様や聖女様からは何と聞いたのですか?」

「詳しくは教会の秘密だけど、勇者を越える最重要人物だから私達に仕える以上にする様に言われています、部屋はこの宿の最高の部屋を用意していますから直ぐにエレベーターでおあがり下さい」

ここは本当に凄い宿なんだ。

魔法石を使ったエレベーターとういう昇降機があり高い階でも難なくあがれる。

こんな設備は他では聞いた事が無い。

そのまま指定された部屋に行くと最上階だった。

「お待ちしておりました、天使様」

嘘だろう、早速ばらしてどうするんだよ。

「ご安心下さい、私は教皇様直属の聖騎士です、貴方様が天使セレスタン様である事は例え目の前で家族が殺されようが如何なる拷問を受けても言いません、ご安心下さい」

「我らは聖騎士の中でも黒騎士と呼ばれています、教会の者以外では顔を知る者は少ないご安心を」

「我ら三人、天使セレスタン様に永遠の忠義を捧げます」

はぁ~また可笑しなのが増えていく。

何処が内密の話なのか解らない。

「俺が天使なのは内緒の事だから、セレスと呼んで下さいね」

「セレス様」

「そんな、この世界で一番尊い方をそんな」

「だけど、それではセレス様が困るじゃないか? セ..レス、これで良いのですか」

「本当に頼んだよ」

「セレス様のお部屋はその一番奥の部屋です、どうぞお進みください」

「解った」

これは貴族の屋敷より凄いんじゃないかな?

此処が俺の部屋、だけどこの部屋の手前に幾つも部屋があるけどどうなっているんだ。

「セレ…ス お待ちしていましたわ」

「ソニア、この部屋に俺は住まないといけないの?」

「そうですわ、セレス様は天使様ですから、人より下の場所に居てはいけません、本来なら王城か中央教会に住んで頂いても良いのですが?それじゃ、セレスタン様も嫌でしょう、だから此処にしましたのよ」

「そうでございます、このロマーニが選んだ選りすぐりの聖騎士三名にシスター4名がお世話をさせて頂きます、ご安心下さい」

はぁ~そんなに事情を知った人間が居るのか。

「流石に俺一人に大袈裟ですよ、引き揚げて貰う事は出来ませんか」

「聖騎士もシスターも、小さい頃から信仰に命を捧げた者です、セレスタン様にはご不便を掛けない生活に必要でございます、是非お手元に置いて下さい」

これ断っても無駄だな。

「解りました」

「それで、セレ..ス、私もね隣の部屋に住みますからね、私が必要だったら何時でも声を掛けてね、セレスタン様が相手なら何でもしてあげるわ」

「ソニア、またセレスタン様になっているし、話し方も可笑しいよ? まぁ同じパーティーだし近くで暮らすのには文句はないけど、言葉使いは気をつけて…それと間違っても女の子何だから《何でもしてあげる》は駄目だよ、聖女がそんな事いっちゃまずいでしょう、ロマーニだって…」

「一向に構いません、他の人間なら問題にしますが、セレスは天使様です、問題は一切ありませんし、寧ろ子供が生まれたら、教義的にも喜ばしい事です」

はぁ~信仰の深い者にとって俺の存在は麻薬みたいな者なのか…

「ソニア、頼むから《幼馴染》に戻ってくれないか! あの頃のソニアが俺にとって一番好きなソニアなんだ」

「好きなソニア…そう解ったわ、何処まで出来るか解らないけどやってみる。 悪い所は全部直すから傍に置いて下さいね」

絶対に解って無さそうだ。

「それじゃ後で今後の活動について後で打ち合わせしようか」

「はい、ですが、今日の夜は既に活動内容が決まってますわ」

「何か予定があった?」

「セレスタン様が聖剣を手になさる日です、一緒に夜教会に参りましょう」

確かに、聖剣を手に入れれば面白い事になりそうだけど…勇者が手にしないで俺が持って大丈夫なのか?

【勇者リヒトSIDE】

「いよいよ、俺も聖剣が持てるんだな…長かった、本当に長かった」

「そうね《聖剣の儀》を受けたくても、中々受けさえて貰えなかったものね」

「そうだ、本当にふざけている、さっさと俺に聖剣を寄こしていればあんな恥をかかないで済んだんだ」

「そうよ! 聖剣は勇者しか使えないのに、何で資格だの試練だの言うのよ…それに何、最近急にソニアは忙しいとか言い出して」

「まぁ、そう言うな、今日の儀式さえ終わったら、俺も正式な勇者だ、もう教皇にだって文句は言わせない」

「そうよ、勇者は世界を救う存在だよ、もうこれで貴族に王族、ついでに司祭にだって文句を言われないですむわよ」

【教会にて】

「お待ちしておりました、勇者リヒト様に賢者リタ様…さぁこちらに」

「この日を待ちわびていました、教皇様、ようやく許可を頂き有難うございます」

「そろそろ資格もある、そう踏みました、ですが、この《聖剣の儀》に挑戦できるのは1回だけでございます、もし抜けなければ教会は勇者と認めなくなります」

「解っています、ですが歴代勇者で聖剣を抜けなかった者等、1人も居なかったのでしょう?」

「はい」

《貴方がその最初の一人になるのですよ劣化勇者》

此処にはリヒトの味方は一緒に来たリタ以外は居ない。

他は全員、既に敬うべき存在がいるのだから…

「それでは教皇ロマーニと八大司祭の承認による聖剣の儀を行います、勇者リヒト前に」

「はっ」

「それでは、中央にある、聖剣デュランの柄を握り台座から引き抜いて下さい、抜いた聖剣はそのまま腰に差し、一旦台座を離れ女神像の前に行き再度抜いて宣誓をお願い致します」

《どうせ抜けないんだろうが》

「宣誓は何を言えば良いんだ」

「それはご自身でお考え下さい、女神様に対しての誓いですから」

「解った」

リヒトはそのまま台座に行き、聖剣の柄を握った…そして力任せに抜こうとした。

「嘘だろう…抜けない」

「どうかされたのか? リヒト殿?」

《どうせ抜けなくて困っているんだろう? この劣化勇者が》

「やはり抜けない…何故だ」

「リヒト殿?」

リヒトが無理やり聖剣を抜こうとしたら、柄が熱くなった

「熱いっ、うわぁぁぁぁっ熱い」

余りの熱さにリヒトは手を放してしまった。

「リヒト、何で、なんでよーーっ」

「リタ、解らない、解らないんだーーーーっ」

「おやおや、聖剣に嫌われたようですね、リヒト殿! これより、教会は貴方を勇者と認めません、ポーションの購入も治療費の費用も一般人と同じでこれより有料となりますのでご了承下さい」

「待ってくれ、これは何かの間違いだ」

「その手の火傷が聖剣に嫌われた証拠でございます、まぁ魔物の擦り付けをする様な下賤な人間に聖剣が手を貸す訳が無い」

「待ってくれ、そうだソニア、ソニアを呼んでくれ」

「神聖なる聖女様を呼びつける等、最早ソニア様は貴殿のパーティーを抜けたいと教会に要望を出された」

「何を言っているんだ? 聖女が抜けてしまったら俺のパーティーはどうなるんだ」

「そうよ勇者のリヒト、賢者の私、そして聖女のソニア、最低でもその三人が居なければ魔王は倒せないよ」

「真面な勇者ならその言い分は正しいと思いますよ! ですが聖剣が抜けない勇者…そんな者が魔王と戦えるとは思えない、ソニア様が勇者パーティーを抜けると言い出した時に、反対をしましたが、流石聖女様だ」

「待て、ソニアは本当に俺のパーティーを抜けるのか?」

「というよりも抜けておりますよ…余りに懇願するから教皇様と我ら八大司祭が許可を出しました」

「待て、可笑しいだろう? いまその話をするなら兎も角、今の話ではソニアが抜けるのは決まっていた…そうとしか取れない」

「そうよ、可笑しいわ」

「そこ迄言うなら言わせて貰いましょう、ソニア様は貴方達の行動に不審を抱いていた。横柄な態度に数々の素行の悪さ見限られて当然でしょう」

「可笑しいわ、そんな事言うならソニアだって」

「そうだ、彼奴も俺たちと変わらない」

「もうそれもどうでも良い事です、聖剣も抜けない勇者に大切な聖女様は任せられませんな、そしてそんな者に教会は力を貸せません、お引き取りを」

「そんな…それじゃ俺たちはどうなるんだ」

「さぁ、教会はもう支援しませんが王国的には勇者ですから、国は支援してくれるのでは? まぁ教会はもう知りませんが」

「本当に教会はもう支援してくれないのか?」

「酷い、私達はこれから魔族と戦う運命なのに」

「それはきっと違う誰かが成す事だと思いますよ?(笑)」

「見返してやる! 俺が魔王を倒して見返してやるから覚えておけよ」

「そうよ」

「そうですか? 出来ると良いですね(笑) 貴方達の戯言に付き合う程暇ではありませんのでお引き取りを」

二人は来る時と違い、これでもかと暗い顔で教会を後にした。

英雄 勇者と聖女
「ソニア、お前やってくれたな、これはどういう事だ」

凄く不機嫌な顔のリヒトとリタがソニアの前に立ちふさがる様に立っていた。

「そうよ、勇者パーティーを抜けるなんてどういう事よ?」

「はぁ~まだ勇者のつもりなんですか?」

「ちょっとソニアどういう事?」

「聖剣が抜けなかったでしょう? もうリヒトは勇者の資格は無いのよ」

「待て、何で俺が勇者の資格が無いなんて言うんだよ…可笑しいだろう!」

「地龍の擦り付けをした時に私に神託が降りてきたのです、貴方には《聖女の資格は無い》とね」

「それなら、何で言わないんだ」

「只の夢だと思いましたよ、私も、リヒトもリタも《聖なる資格》が無くなるなんて神託…信じられないわ」

「だけど、それは本物だったのかな?ソニアの勘違いじゃないの?」

「リタ、本物かどうかは正直解らないわ、だけどね、あの地龍の擦り付けをした時からもう資格が無くなってしまったのよ…あれから毎晩の様に女神様とハービア様が夢に出てきたのよ」

「そんな」

「流石に毎晩、そんな夢を見たら信じるしかないわ、それ以前に私は凄い罪悪感にさいなまれたのよ」

「だけど、あれは仕方なかったのよ、私達が助かる為にはね」

「自己犠牲も出来ない人間が聖女で良いの? 勇者で良いの?」

「それは」

「その結果がこれよ! 聖剣に嫌われて、リヒトは勇者の資格を半分失ったわ、聖剣が無いんじゃ魔王なんか倒せないから、実質もう破たんしているのよ」

「だからってパーティーをこんな形で辞める事は無いんじゃない…相談も無く酷くない?」

「そうだぞ、今迄3人でやってきたんだ、いきなり酷いじゃないか」

「私は残りの人生を贖罪の人生を歩むと決めたのよ、セレスにね」

「何でセレスなんかに贖罪をしなくちゃいけないんだ、あんなクズに」

「そうよ」

「…その考えが今に至ると未だに気がつかないのですね…勇者や聖女が自分が助かりたい為に他人を殺す様な行動をした、その結果、女神から認められない存在になり下がった…私は貴方達の仲間であったのが恥ずかしい…私は残りの人生、殺そうとしてしまったセレスへの贖罪の人生を歩むつもりです」

「ソニア、そこ迄何で考えるの? 可笑しいわ」

「お前はそんな人間じゃ無かった筈だ」

「悔い改めたのです…私の人生全てを捧げて贖罪の為に生きる、今の私にはセレスへの贖罪しか考えられません、もし貴方達がセレスの敵になるなら、私は貴方達をも敵とみなすでしょうね…擦り付けをしたあの時から…もうリヒト貴方は勇者ではありません、そして私も多分聖女では無いのでしょう」

「そんな、馬鹿なあれくらいで俺は勇者の資格を失ったというのか?」

「恐らくは」

「ちょっと待って、それじゃ私はどうなるの?」

「賢者は聖女や勇者と違います、恐らく何の咎もないでしょう、勇者は正義、聖女は慈悲を司ります、それに背いた私やリヒトが悪いのです」

「そう、私は問題無いのね」

「そうですね」

「そう、なら私もこのパーティーを抜けるわ、本来の私は研究職だから、アカデミーに戻って研究に費やすわ、悪いけどソニア、教会から事の顛末の手紙を貰ってくれない? その代わり、研究の中から貴方やセレスに役に立つ物が出来たら提供するわ、それを償いにする…それじゃ駄目かな」

「そうですね、これは本来は賢者に関係が無い事…それで貴方が良いなら良いですよ」

「待て、お前達に抜けられたら俺はどうすれば良いんだ」

「贖罪の道に進みなさい、聖剣はもう手にする事はありませんが、その命を民の為に使えば、勇者としての活躍もあるでしょう」

「それで、ソニアは」

「幸いセレスは英雄です…私欲を捨てセレスに贖罪をしながら、彼が望むような民を救う人生を送りたいと思います」

こうして、勇者パーティーは解散した。

【ソニア】

これで良いわね…もう勇者も賢者も邪魔なのよ。

私の全てはセレスタン様の者です。

嘘はいけない事ですが、私がセレスタン様に仕える為の試練です。

今考えれば幼馴染の時には、セレスに好かれていたような気がします。

それはもしかしたら、天使セレスタン様の人格を取り戻したセレスの中にも残っているかも知れません。

身も心も全て捧げても良い…そんな存在にようやく巡り合えました。

私の全てを持って奉仕させて頂きます…

セレスタン様は喜んでくれるでしょうか?

私の全ては貴方を喜ばせる為に存在するのですから。

英雄 知らない所で動き出す

《勇者パーティーもう解散だって笑えるわね!》

ハービア様から、また強制の神託が降りて来た。

これから、俺は何をすれば良いのだろうか?

魔王様にとって最大の敵である勇者パーティーは解散。

他に考えていた事は全く無い。

ここからは…何をすれば良いんだ?

《まぁ、折角聖女が手に入ったんだから、次は賢者でも手に入れたらどうかしら? まぁ前にもいったけど人類に勝ち目は無いんだから、私達が楽しめるようにしてくれれば良いのよ》

「そうですか? 何かリクエストはありますか?」

《特に無いわ、此処まで忙しかったでしょうから、暫くは羽を伸ばしたら良いわよ》

「そう言えば、俺は魔物を狩っても良いんでしょうか?」

《魔物は別に構わないわ、たいした知能も無い奴らだからね、ほら平民が殺されたって王様や貴族が気にしないのと同じよ》

「そうですか?」

《だけど魔族は違うわ、完全な身内、貴方の事も知っているからお互いに譲歩しあえば良いと思うわよ、言葉も通じるしね》

「周りに人が居なければ、話して見るのも良いかも知れませんね」

《そうね…近々、貴方に大きな手柄を立てさせてあげるわ、楽しみにしていなさいね》

「解りました」

【魔王城にて】

「…」

「魔王様、このセレスと言う奴なかなか笑わせてくれますな」

「うむ、勇者パーティーを実質的に解散…まぁ何か褒美を与えても良いかもな」

「褒美?」

「まぁ軍の幹部に今は空きは無い、しかも魔王軍の幹部の椅子より、人間側の方で手柄をあげた方が良いだろう」

「それで、どうするのですか?」

「余に面白い考えがある…王都を大量の魔族で攻めさせる、そしてその軍を率いるのは《四天王の一人剛腕》だ」

「剛腕に攻めさせた後は?」

「それは出たとこ勝負だ…まぁお互いに命の保証をさせた上で命のギリギリまで戦わせる」

「それの何処が…褒美になるのですかな?」

「勝てば、魔族の進行から国を救った英雄になる、負けても命を賭けて魔族と戦った英雄になる…どちらに転んでもセレスは国の真の英雄、いや勇者となる筈だ」

「確かに、そうなるでしょう? ですが、剛腕をぶつけて良いのでしょうか? あの者は力こそ、素晴らしいですが、事戦いにおいては手を抜きません」

「だからこそだ、他の者では、戦いその物が嘘っぽくなる、だが彼奴なら」

「セイルが死ぬ可能性もあります」

「一応は命を取らない様に伝える」

「戦いで熱くなった剛腕に歯止めがきくのでしょうか?」

「それで死んでしまうなら、それだけの事だ、なぁにオモチャが一つ無くなるだけだな」

四天王にセレスがオモチャですか…

まぁ1人で世界を簡単に滅ぼす様な今の魔王様にとっては我々でも只のオモチャそう言う事なのだろう。

【剛腕SIDE】

「俺が軍を率いて、八百長をしろって言うのかよ」

「魔王様の命令だ」

「そのセレスとやらぶっ壊れないと良いな…命の保証だけしてやれば良いんだよな? 壊れても仕方ないよな? まぁ俺は強い奴と戦えればそれだけで良い…じゃ早目に向ってやるよ」

またセレスの知らない所で…局面が動こうとしていた。

リヒトごめん?

「リタ、本当にお前はアカデミーに帰ってしまうのか?」

「まぁね、私はアカデミーに帰って、研究に没頭するわよ? その方が性にあっているもの、リヒトが知っている通り冒険よりそっちの方が向いているわよ、なんだったらリヒトも来ない? アカデミー専属冒険者ってのも良いと思うわ」

「ああっ確かに良い話だな、だが俺にも意地がある、このままじゃ終われない」

「だけど、リヒト、貴方は聖剣も抜けなかったのよ? そして要の聖女も居ない、もし大怪我をしたとしても回復役は居ない、その時点でもう今の貴方には魔族の幹部クラスと戦う事は出来ないよ、多分私は貴方の傍に居たってそれは何も変わらない、だから幼馴染として引導を渡してあげるの、私がいれば未練が残るよね、だから、私は去るのよ」

「解った、そう言う事なら、仕方ないな此処でお別れだ」

「そうね、リヒトもお達者で」

「ああ、確かに今の俺には最早何も無い、だがB級冒険者の実力は間違いなくある、この能力を伸ばしてS級を越えていき、必ず、見返してやる」

「そう、頑張ってね」

聖剣が抜けなかった時点で上級魔族と戦う事はできない、そしてどんな傷ついても聖女の助力も無い、もう終わっている。

賢者の私が居たら未練が残る、だから私が離れたのに無駄だった。

それに、これから残酷な事が起きる。

セレスは英雄…勇者よりは劣る、だが聖女であるソニアがついた。

多分、リヒトじゃ二人より活躍は出来ない、私が居ても多分無理。

惨めな思いをするくらいなら田舎に帰った方が良い。

だが、私は帰りたく無いからもう一つの帰れる場所に帰る…もう戦う事は無い。

アカデミーで研究して、素敵な旦那を手に入れて幸せに暮らせば良いわよ。

《勇者リヒトとの結婚》そして栄光の日々、そんな夢は捨てたわ。

リヒト、今修正しなければ駄目になるよ、だけど幼馴染だから解るの。

貴方は絶対に認められない、《勇者》を捨てられない。

一緒に底辺迄落ちていく事も考えたわ…だけど、貴方はそれでも諦めないと思う。

そしてどうしようもない位に落ちていく。

最後まで…付き合えないでごめん。

貴方はきっと耐え切れない。

今迄馬鹿にしていた、英雄のセレスにソニアが付いた。

確かに、セレスに酷い事をしていた《それは解る》

擦り付けもしたし、まるで牛馬の様に扱った…確かに最低だ。

贖罪、解らなくは無いよ。

だけど、何で、今なのよ..何で見捨てたの、リヒトを私を…

私はどうしても納得いかないわ、だから、最後に私はもう一度…ソニアに会いに行く。

だが、この時のリタはまだ知らなかった。

自分が中立でも無く、リヒト側でなくセレス側に立つという事を…

リヒトごめん? すげ変った過去
リタは再びソニアに会いに来ていた。

「ソニア、あんたは、なんでリヒトを見捨てたの?」

「リタ、その事について話したい事が私もある、聞いてくれる?」

どちらも睨み合いをしている状態。

かなり険悪だ。

「今更、何が言いたいの? 幼馴染を見捨てて、贖罪笑わせるわ…本当は別にあるんじゃないの?」

「あるわ、まぁ当人も知らないようだけど、リヒトは最低の男だったのよ」

「はぁ…確かに擦り付けをしたし、多少横柄だけど、それだけじゃ無い、最低は言い過ぎでしょう、貴方や私も恩恵にあっていたわ」

「そう、身も心も奪われる様な最低の状態でね」

「さっきからソニア、貴方は何が言いたい訳」

「リヒトは魅了を使って私達を無理やり洗脳していた」

「何を根拠にそんな事言うの?」

「あのさぁ、リタ、貴方は本が読むのが好きで、大人しい子だった、本来ならリヒトよりセレスの方が好みなんじゃない?」

「何が言いたいの?」

「少し、距離を置いただけで、解った、少なくとも私はリヒトよりセレスの方が好みで好きよ」

「何かの勘違いじゃないの」

「今は何かが起こって、勇者の力が弱まっているわ、そこにセレスが居るから覗いて見なさい、こっそりとね」

ソニアが言う通り覗いてみた、そこにはセレスが居た。

確かに罪悪感位は沸くかも知れない。

だが、それ以上の感情は無い筈だ。

あの、セイルだ、グズでノロマでいけ好かない…私が恋愛感情なんて,抱いている筈はない。

だが…

あれっ…可笑しい、色々な記憶が頭に流れ込んでくる。

小さい時に本ばかり読んでいて友達がいなかった私の最初の友達は?

セレスだ。

戦いの時は、可笑しい、セレスを私が守った? いや違う私の詠唱時間を稼ぐために盾になってくれていた。

あれっ…なんで私はセレスを見ると苛立っていたんだろう?

改めて見ると….凄い美少年だ、綺麗な顔立ちに風に流れる美しい髪。

そして性格は…優しい。

これは自分から見てもドストライクの筈だ、嫌う要素は全く無い。

「何で? こんな事が起こるのよ」

「恐らくは勇者には《魅了》の様な力がある、そう思うわ、私はね、これがリヒトがやった事なら八つ裂きにしてやるんだけど、多分リヒトは知らない」

「それはどういう事なの?」

「多分、勇者には、無条件で異性に好かれる様な能力がある」

「リヒトはそれを知らないのよね」

「教えるつもりは無いわ、多分自分ではどうにもできないし《本当の恋愛が出来ない》なんて可哀想じゃない」

「…」

「それでどうするの? 多分リタも、この勇者の能力にあてられる前は、セレスが好きだった可能性が高いわ…偽りの気持ちのまま生きるのか? それとも本当の気持ちに戻るのか、決めるのはリタよ」

やはり、私はソニアの言う通り《勇者の魅了》にかかっていたのかも知れない。

リヒトから離れて見て解った。

だってこんなにセレスの傍に居たい。

この人と一緒に行動したい、そう思うのだから…

私はもうリヒトに関わる事は止める。

相手にその気が無くても、心を弄ばられたくはない。

「そうね、ソニア、セレスのパーティーに空きはあるの?」

「賢者の貴方なら大歓迎よ」

「そう、なら仲介をお願いしてよいかな、あんな事言ってしまったから、私から仲間にしてとは言いづらいのよ」

「大丈夫よ、丁度、今夜、セレスが聖剣を貰いにいくし、その後に今後について話し合うから一緒に行こう」

「ありがとう」

「良いわ、セレスの為になる事だから」

リタは知らない。

リヒトが魅了を掛けていたのでなく《今迄が正常》だったのに(堕)天使の魅力に落ちてしまった事に…

確かにセレスは優しい少年であったが、頼りがいのあるリヒトに惹かれていた。

それが正しいリタの気持ちだっただが、その気持ちがすげ替わってしまった。

優しい少年のセレスを好きだった自分が、勇者の魅了に当てられてリヒトを好きになってしまった。

そういう風に気持ちが改ざんされてしまった。

堕天使の魅力に取りつかれたリタには、もうセレスの事しか考えられなくなるまで時間は殆ど無い。

英雄 賢者も手に入れる

「さぁセレス、教会に行きましょう」

ソニアが凄く張り切っている、恐らく俺が聖剣を貰うのが余程嬉しいのかもしれない。

気のせいかしっぽを振っている様にすら見える。

まぁこれはあくまで俺の妄想だけど…

「そうだな、それじゃ行くか?」

堕天使になるとこうも変る物か?

これがソニアだけじゃない、そう思うと何だか悲しい物がある。

誰にでも愛されるという事はもう恋愛は出来ないと言う事だ。

「はい、それでお願いがあるんです、その後に一緒に食事しませんか? 会わせたい人も居るんです」

これは断る訳にはいかないな。

「解ったよ」

「お待ちしておりました、セレス、さぁ早速、聖剣をお持ち帰り下さい」

「ありがとう、ロマーニ」

特に問題も無く、聖剣を手に入れてしまった。

しかも、俺が手にした瞬間から凄い勢いで青く輝き始めた。

本来は静かに持ち帰りたい、そう思っていたのに、大騒ぎとなってしまった。

ロマーニが…

「聖剣がこんなに輝くなんてやはり、天使様が所持なさるとここまで違うものなのですな」

それを口きりに、色々な人間が膝磨づきはじめた。

これ、絶対に秘密にする気が無い気がする。

「だから、何でソニアまでそんな事しているの?」

ソニアまで片膝をついている。

「だって天使様ですから…信仰の対象ですから」

「まぁ良いや」

話をしだすと長くなるから、直ぐにその場を後にしようとした。

「お待ちください、もし宜しければ、晩餐でも食べて言ってください、よい鴨とワインが手に入っております」

良かった、ソニアが約束を入れて置いてくれた。

断る口実があるから助かる。

「いえ、今夜はソニアと食事の約束があります、その時に別の方と会う約束がありますので申し訳ございません」

「そうですか、残念です、それではまた次回の機会に…」

「はい」

何だか凄い残念な顔をされているが仕方ないよな約束があるんだから(笑)

「すみません、まさか教皇が晩餐の用意をしていたなんて」

「いや、助かったよ、ああいう席は苦手だからね、偉い人と一緒に居ると緊張する」

「あの…セレス、何を言っているのですか? ハービア様から比べたら教皇も聖女も虫みたいな者じゃないでしょうか? そして天使であるセレスタン様より偉い方はこの世界に居ません、寧ろ緊張しているのは教皇や私です」

「そうだな、だけど殆ど人間としての記憶しか無いんだ、仕方無いじゃないか」

「そうですね、セレスの苦悩は良く解ります」

もうソニアは俺に対して完全に《イエス》しか基本言わなくなった。

凄く可愛らしい笑顔で微笑んでくれる時もあるが…何だか伝説の呪文魅了を掛けているみたいで余り気持ちが良いものじゃない。

ソニアと一緒に食事に行った。

やはりと言うか、物凄く高級なレストランだった。

完全に場違いな気がするが横でソニアが何かを見せていた。

聞き耳を立てていると…

「教皇よりも更に重要な方です…最高の物を用意しなさい」

「はっ、お任せください」

此処までしなくて良いのに…

「お待たせ、セレス~最高の物を頼んで置いたから、ご安心下さい」

「ありがとう」

「先にリタも来て待っているから、お話しを聞いてあげて下さい」

「えっ、リタが居るのか? 恨んでいるんじゃないか? 不味いだろう」

「何を言っているのですか? リヒトの魅了ならもう解けています、今ならリタも正常な判断が出来る筈ですからご安心下さい」

リヒトの魅了って何だ、初めて聞いたぞ。

「私気がついたんです、リヒトから離れてセレスを見た時に…本当に好きだったのはセレスだったんじゃないかって…天使とか関係なく貴方が好きだった、だけど、多分リヒトの魅了にあてられて、気持ちがねじ曲がっていたんだと思う、多分リタも同じだと思う、赦してあげて」

いや、これは多分逆だ。

今迄が正常だったのが今は天使の魅了に掛かってそう思っている…そんな感じだろうか?

「解った、そう言う事なら仕方ないよな」

「解ってくれて嬉しいわ」

【リタと】

「リタ、お待たせ、セレスには簡単な事情を話して置いたわ」

「ありがとうソニア」

「良いのよ」

可笑しいな、リタがおしとやかに見える。

「セレス…そのごめんね、私ずうっと魔法に掛っていたみたいなの」

「良いよ、大体の理由はソニアから聞いたから気にしないで」

「そう、良かった、本当に良かった」

「それじゃ、誤解が解けたところで、じゃぁ」

リタは恐らくリヒトと行動を共にしていた筈だ。

余り、付き合わない方が良いだろう。

「待って下さい、私が今迄してきた怒っているんでしょう? だけど、あれは違うの…本当の私はそんな女じゃない、本が好きで地味な人間です」

確かに大昔はそうだったかも知れないな。

「確かにそんな感じだったよね、うん懐かしいな」

「それでね、散々セレスに酷い事してきた、本当にごめんなさい..」

「別に気にして無いよ」

「それじゃ気が済まないから…ソニアと同じ様に罪滅ぼしさせて…お願い」

確かに、聖女と賢者をこちらに付けていれば、魔族にとっても良い事かも知れないな。

この状態からどうするかはハービア様と話しをすれば良い。

「リタが一緒に行動してくれるなら、確かに助かるよ、ありがとう」

「うん、これから宜しくね」

これで勇者パーティーは解散して聖女や賢者は手に入れたけど…これから俺は何をすれば良いんだ。

さっぱり解らない。

勇者死す…セレス最後の戦い
その日は何時もと違っていた。

空を黒でどんよりと曇っていた。

そして、何となくだが何時もより暗い、そう感じる程曇っていた。

地を這う様な無数の魔族、そしてその全ての種族が只者で無い事が解る。

ゴブリンやオークでは無く、最低でもオーガクラス。

それが、見渡す限り全てを覆い尽くしている。

そして、空には空竜を始めワイバーン等が同じ様に覆い尽くしている。

それらを束ね中央に大きな人物がいる。

一見人間に見えるが、その大きさが人間でない事を物語っている。

身の丈3m60?。

その体重は150キロであるが決してデブでは無い。

鍛え抜かれた筋肉で引きしまった体…彼こそが四天王が一人剛腕と呼ばれる男である。

「まさか俺に軍団を率いろとはな」

「はっ、この軍団、私も含み全員で掛かっても剛腕のマモン様一人に敵わない等、魔王軍では有名な話です」

「ハービアがこんな事言う位だからな、そこそこ強いのであろう、命を賭けた戦いが出来ないのが不満だがまぁ久々のお遊びには丁度良いな」

「お遊び?…まぁ1人で一国を滅ぼせるマモン様にとってはこの程度の事はお遊びでしょう」

「まぁな、だがあの気まぐれなハービアが加護を与えた人物、少しは気にはなる」

「気になる、マモン様が」

「ああっ、人間でありながら天使長が天使の魂を与えた存在、気にならない訳が無い」

【王国側】

「この世の終わりだ、嘘だろう…あの数王国が終わってしまう」

「これじゃぁ…騎士団が出ても終わりだ、皆殺しにされるだけだ」

見張りが絶望に染まり、絶望が伝染していく、もうこの国は終わった、そう絶望に染まる中、一筋の希望が輝く。

だれもが恐怖するなか…一人の男が飛び出した。

人類の希望、勇者。

何者も恐れない人類の希望…勇者。

リヒトが飛び出した。

「ほう、貴様はたった1人でこの軍団と戦うつもりか?」

「それは無理な事は解っている、だが俺は勇者だ、だからお前だけは倒して見せる、お前こそがこの軍を率いている将なのだろう?」

「いかにも、我はマモン、四天王の一人だ」

「ならば俺との勝負を受けて欲しい」

「ほう、俺相手に1人で挑むとはな、良いだろう受けてやろう」

「有難い、だがその傲慢がお前の命取りだ…俺は勇者、勇者リヒトだ」

「ほう、勇者か? お前が? まぁ良い掛かって来い」

「自惚れたなマモン…」

この一撃に全てを掛ける、これが効かなければ打つ手が無い。

「受けてみろ、これが俺の奥義、光翼の剣だぁーーーーっ」

「こんな物か? がっかりだ」

そんな、これが全く聞かないなんて。

「そんな、これが効かないなんて」

「こんな雑魚に俺が決闘を挑まれるとは…」

ほかの魔族が苦々しそうにリヒトを見ている。

その中の一人が前に出て来た。

「ハンッ…こんな無能な奴がマモン様に挑むなんて忌々しい…ゴミはとっとと死んでおけ」

簡単に大きな魔物が手を一振りした。

ベチャッ…リヒトの首は千切れてそのまま木にぶつかり潰れた。

「これが勇者…偽物じゃないのか?」

「あははははっ、幾ら何でも弱すぎだ、こんな奴が勇者の訳が無い」

魔族の笑い声が響く中、門番やその様子を見ていた者は気が気でない。

「馬鹿な、勇者リヒトが殺されてしまった…本当に終わりだ…」

「早く王城に知らせなければ」

【王城にて】

「王よ魔族の軍勢が襲ってきました」

「なら、それなら勇者リヒトに行くように伝えよ」

「勇者リヒトはもう殉職しました」

「勇者が殉職…ならもう終わりを覚悟しないといけないな…だがこのままは終われない、王国騎士全てに号令、敵を皆殺しにせよ」

「はっ」

王国騎士団3千が王城より戦いに赴いた。

【教会関係】

「教皇様、魔族の軍勢がここ王都に襲い掛かって来ました」

「恐れる事はありません、此処には《本物の天使》がいます、聖騎士に命じなさい、天使様と共に戦うのだと」

「八ッ…それならセレスタン様の正体を今明かすのですね」

「それが一番です、民を安心させるのです」

【セレスのパーティー】

《セレス、今そちらに剛腕のマモンが戦いに行きます、命の保証をしますから戦いなさい》

「ハービア様、それはどういう事でしょうか?」

《貴方の地位を高めるための手柄です…ただマモンは歯止めが効かない存在なので、大切な者は置いていった方が良いでしょう》

またいきなり無茶ぶりな神託が降りて来た。

「セレス、魔族の大きな軍団が攻めてきたと報告が私達も戦いに出るようにと…ともに行きましょう」

「行きましょうセレス、セレスと一緒なら私死んでも構わないよ」

可愛い事いってくれるな、これは多分昔、俺が言って欲しかった言葉だ。

例え、俺の魅了に掛かっているとしてもぐっとくる。

「二人は教会に避難して、俺が行くから大丈夫」

「セレスがそう言うなら大丈夫ね…セレスタン様ご武運を」

「何を言っているの? ソニア、セレスが死んじゃう、私はついていくわ…セレス」

「天使化」

二枚の羽に神々しい程の光を纏い、1人の(堕)天使の姿にセレスはなった。

「セレスタン様、貴方こそが真の人類の希望、ご武運を」

「嘘でしょう、セレスは…天使様だったの」

「行ってくるよ、頼んだ」

「お任せくださいセレスタン様」

「セレス…後で教えてね」

天使の羽を広げて神々しい天使が今羽ばたいた。

【王城にて】

「何だあれは、魔族か」

「ついに此処まで魔族が入り込んできたのか?」

「何をいっておるのだ、あの眩い光に包まれた姿は…天使様じゃないか?」

「王よ無駄に兵を出す必要はない…我が名は天使セレスタン、今より魔族の討伐に行くだから兵は要らぬ」

「セレスタン様、わが国、いや全世界をお救い下さいませ」

【教会にて】

「ありがたやセレスタン様」

「教皇、この戦いは私が赴く、信者に犠牲を出さないで貰いたい…私が負けるまでは決して何人も戦いに赴く事まかりならん」

「はい、そのお言葉必ずや守ります」

これで良い、後は俺が剛腕のマモンと戦えば良いだけだ。

《流石、セレス1人で戦おうなんて偉いわね…さぁ思う存分地獄を見なさい》

「地獄って…何でしょう?」

《マモンってね…私よりも強いし凄い戦闘狂なのよ、死ぬ気で戦って楽しませて》

おい、大丈夫なのか、俺…

決戦
「来たな、お前が、天使セレスタンだな?」

「そうだ、お前が剛腕のマモンか?」

「そうだ、ここで全世界を賭けた賭けをしないか? もしお前が俺を満たしてくれたなら、そうだな向こう3000年魔族は人類が襲って来ない限り人類を滅ぼさない…逆にお前が俺を満たさなければ、明日にでも人類は滅ぼしてくれる…どうだ?」

《あはははっ、セレスこれはもうその戦いに乗るしかないわね》

ハービア様…なんだこれ遊んでいるのか?

まぁ、やるしかないみたいだな。

「残念ながら、私の力は及ばないようです…良いでしょう天使の意地に掛けて戦って差し上げましょう」

俺は聖剣を持ちながら空から斬りつけた。

聖剣が嬉しそうに光り輝いた、そしてそのまま一気に斬りつけた。

「効かぬな」

聖剣を掴まれ、そのまま俺は投げられた。

森の幾つかの木が折れながら勢いよく俺は飛んでいき…20本もの木が折れた時ようやく止まった。

「グハッ…ぐえええっ」

俺は血を吐きながら蹲っていた。

多分、肋骨も数本折れている。

だが、堕天使の体は普通では無かった…明らかに致命傷だった筈なのに一瞬で回復した。

俺は創造を使い、無数の剣を作り上げた、その数は千は降らないだろう。

その剣と共に再びマモンの方に飛びだった。

「マモンよ、神罰を受けるのだ..天使の奇跡…サウザンドソード」

千本の刃がマモンを襲ったが、マモンは避ける事もしなかった。

「ははははっこれはなかなか気持ち良いな」

剣の攻撃をまるで肩たたきの指圧を楽しむかの様にただマモンは受けていた。

だめだ、これ。

「天使の怒りを思い知れ、エンジェルブロー」

聖なる力を込めたパンチを打ち込んだ。

「ブアハハハッ…効かぬ効かぬ効かぬ..それっ」

ただマモンが殴りつけただけで…俺の頭部が半分吹き飛んだ。

死んだ…そう思ったのに…直ぐに頭部が復活した。

【国民】

「嘘だろう…天使様が顕現してくれたのに敵わないなんて」

「セレスタン様が、四天王にあんなにされるなんて」

「誰か誰かセレスタン様を助けて…」

「天使様を助けて」

【マモンと戦いの場】

1人の少女が飛び出した。

「天使様に何をするの…お前等なんか死んじゃえ」

石を投げていた。

「貴様、石を投げる等、死ね..」

俺は咄嗟に少女を抱きしめると、そのまま飛び立ち城門に置いた。

「危ないから」

「だって天使様が..」

「俺は自分を信じてくれる人がいるなら何度でも立ち上がる…見てて」

「はい」

あはははっ、これ八百長なんだよ、そんなキラキラした目で見ないで欲しい。

「待たせたなマモン」

「弱者は殺しても詰まらん、さぁ続きだ」

天使の魔法は、普通じゃない、創造した物全てが実現可能だ。

「ハービア様の加護の力よ、我に力を貸せ…創造魔法ワルキューレ」

天空から7人のハービア様の姿に似た鎧を着た、天使が現れた。

「さぁ行くよ」

「これは…何だハービアに似せたオモチャか..」

「行け、ワルキューレ」

「がはははっ、本物ならいざ知らず、こんな人形壊すのは簡単だ」

嘘だろう、恐らくあれ一体で竜を狩れる筈のゴーレムが拳の一振りで砕けてしまうなんて

7体全部倒すまで数秒だった。

そこからはもう一方的だった。

ひたすら殴られ、ひたすら蹴られ…壊れた体が再生するたびに壊される。

【王国民】

「もういい、天使様逃げて下され」

「天使様、もう見捨てて構わないわ、逃げて」

「逃げて」

「天使様が死んじゃう…誰か、女神様…天使様をお助け下さい」

人々が一心不乱に祈った。

【マモンと戦いの場】

これがハービア様の言っていた信仰の力か…体が軽い。

「いい加減にしろマモン」

俺はマモンを跳ね付けると今度は俺がマモンに馬乗りになり殴り続けた。

さっき迄の3倍以上俺は強くなった気がする。

だが、届かない。

「良い面構えになったな、さっき迄と違うな」

そういうとマモンは更に強くなった気がした。

3倍以上強くなった俺が…歯が立たない。

嘘だろう、簡単に腕がもがれた、空に逃げようとしたが羽を掴まれ簡単に千切られた。

これ八百長だよな…殺されないんだよな。

仕方ない…このまま接近戦だ。

羽を2枚とも千切られ、足も一本しかない、腕も一本。

これ堕天使の体じゃなければ死んでいるよ。

もう動けないな…

「何だもう終わりか、ならば」

《待ちなさい》

「はっはっハービア様」

「天使長ハービア、何故此処に現れた…これはそこの天使セレスタンと俺の戦いだ」

「さっき貴方は《俺を満たせば》そうセレスタンにいった、私が聞く限り、魔界、過去の勇者何処にも貴方と正面向って戦った人物は知らないわ…此処まで戦ったセレスタンに貴方は満足しなかったのかしら?」

「…」

「そう、ならば仕方無いわ、今度は私が」

「いや、それは良い、確かに未熟であったが、俺は満足だ、よかろう約束だ《向こう3000年魔族は人類が襲って来ない限り人類を滅ぼさない》…全員帰るぞ」

「そう良かったわ、私とて貴方相手では死を覚悟しないといけませんからね」

「忌々しい天使たちめ…俺は帰る、そいつに伝えておけ、3000年の幸福噛みしめておけってな…3000年経ったらまたやろうって」

「そう、伝えて置くわ」

ハービアはセレスを抱きしめるとそのまま教会に旅立った。

【教会にて】

「ハービア様…セレスタン様」

「教皇に聖女、そして賢者、セレスタンは天使として未熟です、今の魔王には到底敵わないでしょう、ですがその命を賭けた戦いで人類に3000年の平和を勝ち取りました、それで許してやって貰えないでしょうか?」

「そんな勿体ないお言葉、世界を救って頂いた天使様に誰が文句を言うと言うのですか? そんな存在がいたら教会が黙っていません」

「あんなにボロボロになってまで世界を救った…セレスタン様に感謝こそすれその様に思う人物何ていませんわ」

「救ってくれてありがとう、それ以外はあり得ません」

「それを聞いて安心しました、私はそう長い間顕現出来ません…それでは私のセレスタンをお願い致します」

セレスを床に降ろすとハービアは消えていった。

そしてセレスは疲れた様に眠っていた。

(おおよそ後3話で終わる予定です)

退屈な世界

【ハービア】

「目が覚めたかしら?」

「ハービア様? 俺は一体」

「ああっマモンと戦ってボロボロになっていたのよ、本当に脳筋って嫌よね、全く手加減無しじゃないね」

「あの、あれでも充分手加減してくれていましたよ」

「そうね、本気出してたら5秒も持たないものね」

「あははははっそうですね」

「それでね、最初にマモンが言っていたと思うけど、貴方の戦いに免じて3000年間時間をあげる事にしたから、まぁ守護天使でも気取って楽しく暮らしなさい」

どういうことなのだろうか?

「…」

「やっぱりバレたわね、本当の事を言えば2万6千年後、魔王様や邪神様が全人類を滅ぼすのよ、逆に言えばそこまでは滅ぼしたりしない。まぁ今現在は人間がうざい勇者を呼び出すから仕方なく戦っているそういう事ね」

何もしなければ、今は何も起きないそういう事か。

「それは人間が何もしなければ魔族と揉めない、そういう事ですか?」

「そうね、何もしなければ、未来永劫仲良く暮らせたかも知れないわ…だけど人間は欲が深いから2万6千年後に滅ぼすことにしたのよ」

「そうですか」

「そうよ…まぁ貴方は下級堕天使だから大体寿命は3千年位、私が1万6千年位だから関係ない話だわね」

「それじゃ一体」

「そうね、今を生きる私たちには関係ないわ」

「それじゃ、何の為に戦うのでしょうか?」

「さぁ? ともかく、貴方はもう幸せに暮らせばいいんじゃない? 貴方のせいで信仰の力は私と貴方で山分け、ウマウマで女神でなく主に私に届くから、ある意味良い終わり方だわ」

「そうですか?」

「そうよ、その世界の人類の女…まぁ変な趣味があるなら男も全員貴方が好きだから、ハーレム状態よ、しかも表向き天使だから、存在する中で最大の権力者、良い報酬でしょう」

「ええっ」

「私や魔族は、信仰の対象を《女神 勇者》→《堕天使 堕天使》にすげ替えが出来たらからOKよ、これからの3千年間、大いに酒池肉林を楽しみなさい…それじゃね」

「ハービア様」

手をひらひら振ってハービア様は去っていった。

【人間界】

「セレスタン様、お目覚めですか?」

「良かった、なかなか目を覚まさないから心配したんだよ」

ソニアとリタが横から覗き込んでいる。

だけど、どう見ても添い寝していました。

そうとしか思えない。

よく見ると二人とも裸だ。

「あの…どうして裸なんだ」

「あっ、セレスタン様がセレスの時にリタが水浴びをしていた時に覗くのを我慢していた、というので喜ぶかなと思いまして」

「そうだよ、見たかったんじゃないの?」

ううっ…

「まぁ男だから当たり前じゃないか」

「なら問題ありませんよ? そのままお手付きされてもね」

「うん、ちゃんと受け入れるから」

……..

そのまま服を着て、外に出た。

「少し風にあたってくる」

「セレスタン様」

「セレス様」

こういう時は男に話を聞いた方が良い。

傍仕えの聖騎士と教皇に話してみた。

「はぁ、なるほど、ですが貴方は天使だから当たり前の事です、例えばあなたが私の妻や娘と関係を持ちたいと望んでも私は笑顔で差し出します」

「そういう冗談は」

「冗談ではありません、だって天使様のお相手を出来るなんて、女性にとって最高の誉れじゃないですか?」

「あの…」

「どなたか思い人が居るのですか? 望むなら教会から正式に書状を書きましょう、なぁにこの世界の女性で貴方を拒む存在などいませんよ…貴方は天使様なのだから」

女にもてるリヒトが羨ましかった。

だけど…これ全然楽しくない。

これから3000年、この可笑しな世界で俺は退屈しながら生きていく。

なんとなくハービア様がやマモン様が退屈している意味が少しだけ解った様な気がした。

FIN

次がエピローグ その後あとがきで終わります。

エピローグ 変わらない 変わった世界

俺は魔族に魂を売った筈なのに、何も変わらない日常が過ぎていく。

「天使セレスタン様だわ」

「お綺麗な顔立ち、やはり天使様は違うわ…人間とは違うわ」

「凄く神々しい」

今の俺は寿命が3000年位ある。

だが、魔族が人類を滅ぼすのは2万6千年後…俺には関係ない。

しかもここ3000年は魔族と人間は偽りの平和協定で争わない。

「ああっあの御姿見られるだけで幸せだよ」

「人類の守護者、本物の天使様」

俺の周りは何も変わらない日常が過ぎていくだけだ。

勇者リヒトは死んだ、種族が堕天使になったからか、彼奴だって幼馴染なのに悲しくない。

そして….

「セレスタン様、早く行きましょう」

「セレス、買い物に行こう」

何時もと変わらない光景が…

「何を言っているんですか? 天使様からお金なんて貰えません、寧ろ貰って下さい」

「お食事していって下さい、最高のミノの肉があります」

全然違うじゃないか…

《だって、セレスタンは天使なんだから仕方ないじゃない》

今迄と全然違う光景、世界で俺は生きていく。

あとがき
何時も読んでくれてる皆さま。

本当にありがとうございました。

どうにか最後まで書いて、当初の予定していた話と比べた所…全然違う地点に着地してしまいました。

それでも、最後まで感想を頂けたり、応援してくれた方有難うございます。

病気の方も少し落ち着いて、軽い仕事をしてどうにかこうにか頑張っています。

大きな病を患って、闘病しながら書いてきましたが、少しだけ体が改善しました。

これも皆様のお陰です。

有難うございました。