チェンジ! 僕を殺して下さい! これで貴方の人生は僕の物になりました! 殺したんだから仕方無いよね?

追放どころか死んでしまった。
「ケイン、お前は今日限りでクビだ」

 そろそろ言われる、何となくは解っていた。

「僕が余り役に立たないのは解っているよ、だけど何で今なんだ!」

 そろそろクビになるだろう、予感はあった。

 だが、このタイミングは無い。

 此処は、高ランクの冒険者が集まる街、ゼノン。

 荷物持ちの僕じゃ安全な場所に帰る事も出来ない。

 ゼノンの街に戻っても仕事も無いし、お金を貯める事も出来ないから、安全な村や街に行けない。

だから、此処でパーティを追い出される訳にはいかない。

「いや、魔法の収納袋を昨日買ったから荷物持ちはもう要らないんだ..それにお前、ジョブが荷物持ちなのに収納のスキルも持って無い
だろう? 役立たずなんだよ」

このパーティで僕が不必要というのは解った。

「だけど、僕は、荷物持ちなんだここで追放されたら街に帰る前に死ぬかも知れない、街に帰っても仕事も無い、せめて平和な街に行くまで手伝わせて貰えないかな..幼馴染じゃないか」

「それは、幾ら何でも出来ないわ、ゼノンの街までならいざしらず、図々しいわよ!」

「クエラ、君との付き合いも短く無いだろう、この通り頭を下げるからお願いします」

「そんな頭、下げられてもね」

「そんな」

「頭をあげなよ! 男がそんな事しちゃ駄目だよ!」

「メイル..ありがとう」

「頭を下げても何も変わらないんだから無駄なんだから下げても損だよ」

「アール、親友だろう! 昔何度も助けてあげたじゃないか、なぁ、なぁ助けてくれよ」

「今迄、役立たずのお前を使ってやってただろう?、もう充分借りは返した筈だ」

「だけど、こんな所で置いていかれたら僕は終わりじゃないか? 土下座でも何でもするから安全な場所まで..頼むよ..なぁ」

泣きながら、足に縋りついた。

「辞めろ、汚いな」

アールが剣で僕を殴ってきた。

だが、辞める訳にはいかない。

「今迄だって無料同然で幼馴染だから手伝ってきたんだ、最後の我儘くらい聞いてくれても良いだろう..お願いします、お願いしますから」

「やめろよ、汚いな離せよ」

ゴッ..鈍い音がした。

「不味いよ、アール! 荷物持ちは簡単に死んじゃうんだから、あっ」

メイルが青い顔で此方を見ている。

「アール…」

「本当に不味いわ、これじゃ回復魔法を掛けても無理だわ」

クエラ、何を言っているんだ。

「たすけ…て」

「助からないんじゃ仕方ない、それにもし治ってもギルドにでも言われたら不味い、幸い此処は人気が無い、横の林に放り込んでいこう」

「そうね、もう助からないそうしましょう」

「それしかない」

 僕と幼馴染のアールは、辺境の貧しい農村で育った。

そこに隣村のクエラやメイルが加わり4人で良く遊んだ。

まぁクエラやメイルは元からアール狙いだ。

アールはこんな村に何でこんな人間が生まれたんだ?

そう思う程の美男子だ。

黙っていれば貴族の御曹司にしか見えないから当然と言えば当然だ。

だから自然と3人+1人そういう関係になっていた。

まぁ僕は贔屓目に見ても地味にしか見えないから当たり前と言えば当たり前だ。

だけど、恋愛相談も受けたし、アールの親が死んだ時も含みいつも寄り添っていた。

そう思っていたんだ。

だから皆にとって3番目位には大事な人間そう思っていたんだけど…違ったみたいだ。

 僕とア―ルに致命的な差異が生じたのは3年前。

 職業ジョブという物がある。

 誰しもが十三歳になると、選別の儀を受け、神々からジョブを授かることができる。

 剣の才能を持つ者は剣士に。魔法の才能がある物は魔術師になる。

 つまり自分がどういった才能に優れているのか、この日に解ってしまうのだ。

 自身の才能を目覚めさせ、新しい力を次々と与えてくれるジョブはどんなに頑張っても覆られない。

5年間死ぬ程努力しても剣士のジョブ持ちには勝てないその位の差はある。

 

 アールは通常は考えられない上級騎士のジョブを授かった。

これは、その気になれば王都に行き騎士にすらなれるジョブだ。

仕官する気になれば、農民の子でも確実に仕官できる。

メイルのジョブは魔導士。

魔法を使える人間は100人に1人位しか居ない。

その殆どが初級メイジが多いなか、最高位のジョブになる。

クエラのジョブは神官。

ヒーラーとしては最高のジョブでありとあらゆる回復魔法や結界魔法が使える。

伝説上に 勇者 聖女 賢者 剣聖とかあるが、魔王が存在しない今居ない。

そういう意味では3人は最高のジョブと言えると思う。

そして僕。

僕は、最弱と呼ばれる荷物持ちのジョブを授かった。

しかも、何故か、「収納」のスキルすら無いというおまけつき。

その代わり「チェンジ」という謎のスキルがあるが、これは誰もどんなスキルか知らなかった。

それでもアールは僕を何を思ったのかパーティーに入れてくれた。

その後の扱いは最低だったが..仕方ない、ただの役立たずなんだから。

報酬も真面に貰えず、1人だけ馬小屋でも文句言わないよ..役立たずだからさぁ。

死にたくないから、安全な場所まで送って欲しい。

そうしたら笑って居なくなったよ…

これだけ付き合いがあるのに頼んじゃいけなかったんだな。

寒い..暗くなってきた、死ぬってこういう事なんだね。

暖かいな、何故か凄く暖かい。

此処は天国なのか..目を開けて横を見た。

何で、裸のクエラが僕の腕の中で寝ているんだ?

夢だよな!

【閑話】 アールの最後
何が起きたか解らない。

役立たずのケインをつい、カっとなって剣の柄で殴ってしまった。

正直幼馴染だったが、本当に使い物にならなかった。

これは俺だけじゃなく、メイルとクエラも同じ意見だった。

こんな奴でも幼馴染だから、安全な場所までは送ってやろうと思っていたんだが..

「安全な場所まで送るなんて時間もお金も無駄です」

「そうそう、必要ないよ!」

二人に反対されてしまった。

せめて、街でクビにしようと思っていたが

「ケインは何故か街で人気がありますから」

「不思議とギルド受けも良いから街じゃない方が良いよ」

そういう意見だったから依頼の帰りがけにクビを宣告した。

だが、ケインは俺に縋ってきやがった。

可哀想に思ったが仕方ない、振り払うしか無いだろう。

「アール、親友だろう! 昔何度も助けてあげたじゃないか、なぁ、なぁ助けてくれよ」

「今迄、役立たずのお前を使ってやってただろう?、もう充分借りは返した筈だ」

「だけど、こんな所で置いていかれたら僕は終わりじゃないか? 土下座でも何でもするから安全な場所まで..頼むよ..なぁ」

泣きながら、足に縋りついた。

「辞めろ、汚いな」

俺は剣でケインを殴りつけた。

「今迄だって無料同然で幼馴染だから手伝ってきたんだ、最後の我儘くらい聞いてくれても良いだろう..お願いします、お願いしますから」

「やめろよ、汚いな離せよ」

本当にしつけーよ! 俺はつい剣の柄でケインを殴ってしまった。

ヤバイ、此奴は只の「荷物持ち」だやり過ぎた。

「不味いよ、アール! 荷物持ちは簡単に死んじゃうんだから、あっ」

メイルが青い顔でケインを見ていた。

「アール…」

「本当に不味いわ、これじゃ回復魔法を掛けても無理だわ」

「たすけ…て」

不味いぞ、これは殺してしまった。

殺人は、流石に不味い、だが運が良い事に此処には他に人はいない。

メイルとクエラは俺の女だ口を噤んでくれるだろう。

「助からないんじゃ仕方ない、それにもし治ってもギルドにでも言われたら不味い、幸い此処は人気が無い、横の林に放り込んでいこう」

「そうね、もう助からないそうしましょう」

「それしかない」

どうやら、共犯になってくれるようだ、良かった。

あれっ何で俺の意思が薄れていくんだ?

可笑しい? 何故、メイルとクエラが俺を林に投げ込んでいるんだ? 可笑しい、可笑しい体が動かない。

動けないし頭が痛い..体が冷たくなってきた..寒い。

一体俺に何が起きているんだ..体が動かないんだ、誰か助けて..

だが、その助けは言葉に成らなかった。

アールになったのか!
右を見たらクエラが可愛らしい寝息をたてて寝ている。

左にはメイルが同じ様に寝ている。

しかも、2人とも一糸纏わず裸で寝ている。

何が何だか解らない。

一体僕に何があったんだ?

僕みたいな男に彼女達みたいな綺麗な少女がこんな事している何て信じられない。

実際に転びそうになりクエラにぶつかった時には殺す様な目で見られた。

手をどかそうと思ったが、2人が腕を絡めているから思う様に動かせない。

えっ、この腕は…誰の手なんだ。

凄く引き締まった手だ。

僕の手はこんなに筋肉のついた立派な手じゃない。

何回かグーパーを繰り返すが、間違いなく動く、という事は僕の手だ。

可笑しいな、髪の色が金色だ、しかもどうも体が引き締まっている気がする。

少しづつ腕を動かして2人を起こさない様に腕を引き抜いた。

そのまま静かに近くの鏡を覗き込んだ。

嘘だろう! 何で僕がアールになっているんだ!

自分に何が起きたのか考えてみた。

そうだ、僕はアールに殺された筈だ..なのに何で僕がアールになっているんだ。

確かに僕はアールになりたい。

そう思っていたけど、まさか本当になるなんて思わなかった。

そうだ、アールは自分のレベルに拘っていたから、簡易式のステータス用紙を持っていた筈だ。

アールの鞄を漁り、目的のステータス用紙を見つけた。

《ステータス》

アール
ジョブ 上級騎士
LV 12

スキル:剣術、盾術、槍術、防御魔法、回復魔法、チェンジ

簡易式だからジョブとレベルとスキルしか見えないが、間違いなくアールになっている。

ジョブも上級騎士だ。

簡易式だからこれしか情報が解らないがアールその物になった。

そう思って、間違い無いだろうな..

逆に、ケインだった時の能力は完全に..あれっチェンジだけが何故か残っている。

やはり、僕はどういう事か解らないがアールになってしまった。

そう言う事なんだと思う。

当面の間の問題は、これをどうするかだ。

このままパーティーとして二人と一緒に居るのか?

それとも、解散して一人になるのか?

彼女達が目覚めるまでに決めなくてはならないな…

その笑顔は僕の物じゃない!
鏡を覗き込んで見た。

何処からどう見てもアールだ。

二人はまだ寝ている、アールになってしまった以上は2人と離れるにしてもギルドへの届け出をしなくてはならない。

だが、問題はアールが僕を殺してしまった事だ。

しかも、2人はその事を知っている。

クエラにしてもメイルにしてもアールが好きだから「簡単に別れる」とは行かないだろう。

取り敢えずはこのまま様子を見るしか無いか?

「あっアール、気が付いたのね!心配しちゃったわ、いきなり気絶するんだもの」

誤魔化すしかないな..

「ごめん..流石に幼馴染を殺してしまったのが思った以上に堪えたみたいだ」

「そうね、確かに小さい時は親友だったものね、気絶だけじゃなく体も冷たくなっていたわ」

「それで、暖めてくれていたんだ..ありがとう、クエラ!」

「良いのよ、アールの為だもの」

「あっクエラ! 抜け駆けはズルいわ!」

「メイルもありがとう」

「良いよ、良いよだってアールだもん、僕とアールの仲じゃない!」

「そう? それじゃ僕じゃなかった、俺は飯でも作るよ! あと目の毒だから何か羽織ってくれないかな!」

「なぁに、それ..もう見慣れているでしょう?」

「そうそう、もう僕の体でアールが触れて居ない場所なんて無いよね?」

「ごめん、あんな事の後だから少し可笑しいみたいだ」

「仕方ないよケインは友達だったんでしょう?」

「思ったより堪えたみたいだね」

「そうみたいだ」

「気にしなくて良いよ!あの場所ならもう死体すら無いかも知れないし大丈夫だって」

「気にする必要は無いと思う、悪いのはケインなんだからね」

「解った」

僕を殺して置いて「気にしないで良い」なんて酷すぎる。

僕が何をしたって言うんだ! 何もして無いじゃないか?

朝からずっと働いて小遣い銭しか貰えない、それでも文句一つ言わなかっただろう。

「死んでしまった事」「殺してしまった事」も気にしなくて良い、そういう事なんだ。

結局、僕は仲間では無かったんだね、そういう事だ。

僕は黙って立つとキッチンに向った。

ゼノンの街に借りた宿屋。

宿屋と言ってもホテルと違いこの宿屋には簡単なキッチンもついている。

単位も最低3か月でその都度、更新だ。

アールは何かあったらと1年分の支払いをしていた筈だ。

最も、僕が此処に居たのは3日間だけだけど。

「只の荷物持ちが宿屋に泊まるなんて可笑しいだろう?」

「みすぼらしい恰好でこの部屋に居られると嫌な気分になります」

「出て行った方が良いと思うよ? 惨めでしょう」

そんな事を言われて居ずらくなって出て行った。

お金も無いから、そこからは宿無し生活をしていた。

「クエラ、メール飯が出来たぞ! 食おうぜ!」

アールなら、こんな感じで良い筈だ。

「…..」

「……」

「どうしたんだ? 二人とも、食欲が無いのか?」

「アールって料理が出来たんだね、驚いたよ」

「アールに食事作って貰ったの初めて..手料理..」

ヤバイ、アールは飯なんて作れないし、作ってやるような性格じゃ無かった。

誤魔化さないと不味い。

「今回は凄く迷惑掛けたから、そのお詫びだよ! そのありがとう..」

「そんな気にしなくて良いよ! アールの為なら何だってしてあげるから!」

「僕だって同じ、アールの為なら何でもするから」

そう言いながら二人の顔は凄く赤くなっていた。

同じ事してもケインだったら感謝されない。

それどころかスープにだって手をつけず黙って外食に行くだろう。

何だかな..

「このスープ…アールの味がする..」

「本当に愛情が詰まっている..そんな気がする」

こんなにも違うんだな、アールだと。

「こんなので良いなら又作ってやるよ!」

「本当? 絶対だよ! 約束だからね..」

「他にもアールって何かつくれるの?」

「まぁ作れるよ..だけど俺は2人の料理が食べたい」

「あははは、私凄く料理下手じゃない? それはアールが知っているでしょう?」

「僕も同じだよ」

「そう、それじゃ下手でも良いから作ってって言えば作る?」

「アールが良いならね..だけど本当に良いの?」

「良いんだよね」

「勿論」

2人とも何だか嬉しそうだ。

そして笑顔が凄く可愛い。

これは僕に向けられた物じゃない。

そんな事は解っているさ。

だけど、これは僕が心の底から欲しかった物だ。

どうすれば良いのか今の僕にはもう解らなくなっていた。

元から僕は必要の無い者だった。
しかし、アールは2人にこれ程まで慕われていたんだな。

駆け出し冒険者の時は幾らジョブが凄いといってもお金が無い。

力関係で一番下だった僕は自然と家事をするようになった。

だが、今迄感謝なんて言葉は一度も掛けて貰った事は無い。

しいて言えば、最初の頃アールが労ってくれただけだ。

スープ一杯に簡単な食事。

それだけで此処まで感謝されるなんてな..美形は本当に得なんだな。

「どうしたの?アール?まだ調子可笑しいの!」

「体は全然大丈夫だよ、ただ美味しそうに食べているから、つい見惚れていたんだ」

「当たり前だよ、アールがご飯作ってくれたんだから、嬉しいし美味しいに決まっているじゃない」

この程度の話で顔が赤くなるんだからな。

「クエラばかりズルいよ!僕だってこんな美味しいご飯初めてだよ」

僕がケインだった時にはもっと凝った料理、何回作ったか解らないのに..

「だったら、また今度作るよ」

「「ありがとう」」

嬉しい様な悲しい様な何とも言えない気分になった。

朝食が終わり、暫く雑談をしたが始終二人は笑顔だった。

こんな顔は今迄見た事が無い。

「それじゃ、アールこれから冒険者ギルドに行こう!」

「気持ちの整理がつかないかも知れないけど、手続きは必要だよ」

「そうだね」

気分は複雑だ、自分の死亡報告をしに行かなくては行かないのだから。

クエラとメールと話してケインは魔物に襲われて死んだ事にする事に決めた。

冒険者としては良くある話だ。

冒険者の身分証のネックレスも持ち帰ってきてくれたから問題ない。

冒険者ギルドに来た。

仲の良かった受付のエルダさんの受付に並んだ。

「あれっ、今日はケインさんじゃ無いんですね?」

「それが、そのケインが亡くなったからその手続きに来たんだ」

「嘘、ケインさん亡くなっちゃったんですか?」

「俺が悪いんです、荷物持ちのジョブなのに目を離したから魔物に襲われてしまって」

「起きてしまった事は仕方ないですね..弱いジョブの者を庇うのも本来は貴方達の仕事です」

「解っています」

「解って無いからこんな事が起きたのでしょう? 今回の依頼は成功満額をお支払い致しますが、仲間を失ったその事は情報として記載させて頂きます」

「ちょっと待って! ケインが死んだのは依頼であるオークを狩った後だわ、その帰りだからギルドの賞罰は関係ない筈です」

「依頼は終わったあとだよ!」

「確かに! その通りですが、仲間を失ったその分の失態はギルドとしては記録しない訳にはいかないわ」

「ケインを失ったのは俺のミスです、当たり前の事です、記録下さい」

「ちょっとアール良いの?」

「依頼には関係ないと僕は思うな?」

「仕方ないさ、確かに仲間を失ったのは俺のミスだ」

「そう言って下さると助かります、これもお仕事なんです!アール様達の様な強力なジョブを持った者達と一般のジョブ持ちは違います、もし今後雇う様な事があったら気をつけて下さいね…アール様ですが余り気を落とさないで下さいね」

そう言いながらエルダさんは僕の手を握りしめた。

「ギルド職員が何をしているの?」

「私は落ち込んでいるアール様を励まそうと..」

「余計なお世話です」

「解りました..以後気をつけます」

「はい、頑張って下さい」

「ケインさん亡くなっちゃったんですか」「気をつけて下さいね」その程度の事なのか。

エルダさんとは結構仲良かったと思っていたけど、向こうからしたら、冒険者の一人、しかも荷物持ち。

こんな物なんだ。

その後、ケインの時の顔見知りにケインが亡くなった事を報告したが、誰1人泣く所か顔色を変える者は居なかった。

パン屋のおばさんに近所の子供..仲が良いと思っていたのは僕だけか?

そして、最後は僕ではなく「アールさん元気だして下さいね」だ。

死んでしまった僕より、落ち込んでいるアールの方が気になるのか..

僕は皆にとって、その程度の人間だったんだな。

決めたよ..

「クエラ、メール、俺、思ったより落ち込んでいるみたいだ、1週間位休んでも良いか?」

「アールがしたいなら良いよ! 1週間どころか1か月だって構わないわ」

「うん、1年位は生活出来る貯蓄はあるから大丈夫だよ」

「ありがとう」

「それで今日はどうするの?」

「何でも付き合うよ」

懐の財布を見てみた、お金は沢山ある。

手に入れた報酬は5等分にして別ける。

これがアールのパーティー光の翼の別け方だ。

2/5はアールが取る、1/5がパーティーの維持費、そして1/5ずつがクエラとメールの取り分。

実際はパーティーの維持費もアールが使うから報酬の3/5はアールの物だ。

僕? 僕はアールの気分で小遣いが貰えるだけだ。

「気晴らしで街に行こうと思うけど良いかな?」

「「勿論」」

考えれば悲しくなるから少しは気晴らしをしてしまおう。

一からやり直しの筈が…
街に来た。

今迄は此処に買い物以外で来た事は無い。

ボロを着ているから恥ずかしいのとお金が無いから無縁の場所だった。

早速、屋台で串焼きを3本買った。

「はい、どうぞ!」

「串焼きですか? 私に?」

「僕にもくれるの?」

「懐かしいな..小さい頃は芋とか持ち合ってこうやって食べたよな」

「確かによく食べましたね」

「うん、懐かしいや、あの時はどれが大きいとか揉めたよね」

「そうそう、何時も..あっ俺に大きいの譲ってくれたよね! ありがとう」

「どうしたの? アールそんな昔の事..」

「まだ落ち込んでいるの? 帰って休む?」

「それについては後で話すよ!」

「何か事情があるんだ..良いよ解った」

「何かあるの?」

《アールさんだ何時見てもカッコ良いね》

《うちのお店に来ないかな》

《どう見ても王子様にしか見えないわ》

やっぱり、アールは凄いな。

街を歩くと黄色い声があちこちで上がる。

お金に余裕が無いから見ても無駄だと見なかった。

露店を見ても買えない、縁が無いそう思っていた。

露店を見て回ると貴金属店があった。

最も高級な物ではなくリーズナブルなデザインの物を置いている。

石も宝石じゃなくガラス玉みたいな物だ。

「この赤いペンダント、クエラに似合いそうだ、こっちの青いのはメールに似合うな..お姉さんこれ幾ら?」

「アールが買うなら、2つで銀貨1枚で良いよ!」

「お姉さんありがとう!」

「アール..どうかしたの?」

「あはははっ何でもないよ…」

「アール..本当に辛いの? 大丈夫なの!」

「本当にどうしたの? やっぱり辛いんだね、無理してない?」

「そうだね、だけど、大丈夫だよ! はい、これ」

「くれるの?」

「僕に?」

「安物だけど、クエラは赤髪だから赤、メールの髪は水色だから青が似合うと思うんだ! 良かったら着けてみて」

「どう? 似合っているかな?」

「僕はどう? 似合っている?」

「うん、凄く似あっているよ、思い出さない? 子供の頃お祭りで露店を良く回ったよね…懐かしいな」

「うん、回ったね」

「回ったよね」

「本当に懐かしいね、そろそろ帰ろうか?」

「疲れたの? 帰ろうか」

「うん、帰ろう」

宿屋に帰ってきた。

さて、此処から僕は嘘をつかなくてはならない。

これから、アールとして過ごす以上はバレない様に逃げが必要だ。

「アール、凄く優しいのは嬉しいけど、本当にどうしたの? 別人みたい」

「僕もそう思うよ」

「それがケインを誤って殺してしまった時から所々虫食いで記憶が飛んでいるんだ」

「嘘、記憶が飛んでいるの? 大丈夫なの!」

「それは凄く大変な事だと思うよ」

「多分、大丈夫だと思う..二人が大切な人だって事は覚えているし、昔の事は凄く記憶に残っているから」

子供の頃は凄くとまではいかなかったけど..楽しかった。

「嘘!ねぇ、アールにとって私は…その大切な人、そういう事で良いの?」

「本当に? 僕信じちゃうよ! 取り消し効かないからね?」

何か違和感を感じる、違うのかな?

「二人は俺の事、もしかして嫌いなのか!」

「違うわ、私はアールが好き、違う愛しているわ」

「僕だって愛しているよ」

「だったら、もう一度一から恋愛してくれないかな?」

「「解ったわ(よ)」

その後、僕は押し倒されてしまった。

僕は一からって言ったのに..

二人の幼馴染が此処まで淫靡だとは思わなかった。

結局、朝まで体を何回も重ねる事になった。

体はアールでも僕は童貞なんだ、僕の初めては信じられない位過激だった。

【閑話】 私に奇跡が起きた クエラサイド
横でアールが寝ているわ。

何時見ても綺麗な顔、女の私から見ても白い肌、髪の毛は金髪でサラサラヘアー..

此処まで綺麗な男の子は絶対に他には居ない..そう言い切れる。

少なくとも私の目で見てアールより綺麗な男の子は居ない。

良く、私やメールをアールの恋人と思っている人が居るけど..実際は違う。

恋人って言うのは対等な関係でのみ成り立つのよ..

私やメールは、「便利な女」「性処理道具」たぶん、アールにとってそんな物よ。

私は違うわ、アールを本当に愛している。

だけど、アールは私の事なんて愛していない。

多分、代わりの女が現れたら簡単に捨てる、それだけの女。

メールも同じ。

私は本当は厭らしい事は嫌いなのよ。

好きな相手に体を許す、それは解るわ。

だけど、それは「相手も自分が好きだったら」と言うのが当たり前だと思うの。

アールは私を愛して等は居ないわ、それが解っていても相手しなくちゃならない。

そうしないと、多分簡単に捨てられるから。

多分、私が、性処理をしないなら直ぐにアールは街に行って他の相手を探すわ。

そして、直ぐにその相手は見つかる。

そうしたら最後、もう私の所には帰ってこないと思う。

確かに私のジョブやメールのジョブは貴重だけど、アールが欲するなら大きなクランやベテラン冒険者のパーティーに入れる。

つまり、私達が居なくなっても別に困らない。

実際にアマゾネスというクランから誘いがあり、アールは行きそうになった。

そこの女の子は肉食系だから幾らでも相手をすると思う。

正直、自分が何をしているのか解らない。

私がやっている事は、「自分の事を好きでも何でもない男を自分の所につなぎ留めたいから、性処理でも何でもして繋ぎとめている」そう言う事だわ。

何処の馬鹿女なのかな..

足を舐めさせられた事もあった。

裸で土下座させられ「抱いて下さい」そう言わされた事もあった。

始まる時も終わった後も優しい言葉も掛けてはくれない。

初めての時、痛くて泣いていたのに「めんどくさい」と言われた。

そこに愛なんて無いわ。

私はアールにとって只の都合の良い「性処理便器+都合の良い道具」

そんなの解っているわ。

だけど、嫌いになれない、そこ迄馬鹿にされても好きな気持ちがなくならないのだから仕方ないの。

私が好きになって貰いたいのはアールだけ、だからアールしか私を満たせない。

仕方ないじゃない..

この恋が不幸なのは解っている…多分アールはそのうち私やメールを捨てる。

それが解っていても、止められないんだから仕方ないのよ。

もう一人の幼馴染ケインが死んだ時だって、アールの事ばかり考えていたわ。

「アールが大変だ」「アールの弱みを握ったから離れて行かなくなるかも?」ケインの事なんか何も考えてなかった。

最低の女よね。

それに私はケインが凄く嫌いだったのよ。

だってアールって

自分>>>>>>>>>>>>>>ケイン>>>>>私達

こんななのよ、女としての全てを捧げさせられても何時捨てられるか解らない、それなのに、ケインには私達以上には優しいのよ? 信じられないわ!

信じられる? 

私なんて、外で性処理しろと言われて恥ずかしくて、流石に拒んだらそのまま森に放置されて、捨てられそうになったのよ。

だから、捨てられるのが怖くて、どんな恥ずかしい事ももう拒めないわ。

メールも同じ..なのにケインのクビの話をしたら、「もう暫く」とか言うし、最後は本当に役立たずだからクビという話にはなったけど「安全な所まで送る」なんて言うのよ。

それが腹に立っていたんだと思う..ケインが死んでも本当になんとも思わなかったわ。

私、本当に何をやっているんだろう..そう思っていたのに..

奇跡が起きたのよ..

ケインを殺した後に何故かアールが気絶して冷たくなっていったの。

回復呪文を使っても、ポーションを口移しで飲ませても治らないからそのまま連れ帰ったわ。

息はあるようだし、体を温める必要があるから二人で裸になって暖めたのよ。

そうしたらね..まるで別人みたい..アールが凄く優しいのよ..信じられないわ

先に目の覚めたアールに

「あっアール、気が付いたのね!心配しちゃったわ、いきなり気絶するんだもの」

そう声を掛けたわ。

何時もなら「だから何だ」とかしか帰ってこないのに..

「ごめん..流石に幼馴染を殺してしまったのが思った以上に堪えたみたいだ」

どうしたのかな..ちゃんと話してくれる。

「そうね、確かに小さい時は親友だったものね、気絶だけじゃなく体も冷たくなっていたわ」

「それで、暖めてくれていたんだ..ありがとう、クエラ!」

「ありがとう、クエラ!」お礼なんて初めて言われた気がする。

「良いのよ、アールの為だもの」

今のアールは何でかな凄く優しい気がするの。

「そう? それじゃ僕じゃなかった、俺は飯でも作るよ! あと目の毒だから何か羽織ってくれないかな!」

「なぁに、それ..もう見慣れているでしょう?」

えーと何が起きているのかな? 「脱げ」「跨れ」そんな事しか何時も言わないのに..終わった後も優しい言葉なんて貰った事はないのに…

「どうしたんだ? 二人とも、食欲が無いのか?」

食欲が無いんじゃないわ..信じられないの、これ夢なんじゃないのかな?

「アールって料理が出来たんだね、驚いたよ」

アールにご飯なんて作って貰った事ない..というか私の為に何かしてくれるような事は無い、そう思っていたわよ!

「今回は凄く迷惑掛けたから、そのお詫びだよ! そのありがとう..」

今迄お礼なんて言われた事は無い、なのに今日は2回目だ..何が起きたのかな..

「そんな気にしなくて良いよ! アールの為なら何だってしてあげるから!」

今迄だって何だってしてきたけど、今のアールの為なら喜んで何でもするわ..私って本当にチョロいのかな?

本当に夢みたい

だけど、この夢はまだ終わらない。

「こんなので良いなら又作ってやるよ!」

「本当? 絶対だよ! 約束だからね..」

思わず声が大きくなっちゃった..また作ってくれるの?

「だけど俺は2人の料理が食べたい」

「あははは、私凄く料理下手じゃない? それはアールが知っているでしょう?」

前に作った時、ケインの方が美味いといって1口食べて吐き出したの覚えてないのかな

「そう、それじゃ下手でも良いから作ってって言えば作る?」

「アールが良いならね..だけど本当に良いの?」

こんな優しい言葉..信じられない。

アールと一緒に街に来た。

嘘でしょう?

これってデートみたいな物じゃないかな?

「はい、どうぞ!」

「串焼きですか? 私に?」

よく考えたら私アールに何か買って貰った事なんて無かったな。

「懐かしいな..小さい頃は芋とか持ち合ってこうやって食べたよな」

「確かによく食べましたね」

「そうそう、何時も..あっ俺に大きいの譲ってくれたよね! ありがとう」

嘘、あんな昔の事まで覚えてくれているの..

「どうしたの? アールそんな昔の事..」

「それについては後で話すよ!」

「何か事情があるんだ..良いよ解った」

私は凄くアールが好き..今迄はどんなに頑張っても何も返してくれなかった。

それなのに今日はどうしたのかな..凄く優しい..信じられない位に。

もしかして恋愛の神エロールに何時も願っていたから叶えてくれたの..

一緒に露店を回ってみた。

本当に可笑しいの..幾らお願いしてもこんな事してくれなかったのにアールから誘ってくれるなんて

どうしたんだろう、貴金属店で座り込んで..

アクセサリー二つ買っている。

どうせ私達にじゃないわ..アールって今考えると本当に最悪の性格なのよね。

釣った魚にエサはやらない..それを地で行くんだから。

何で私はこんな最低の男が好きなんだろう..絶対に幸せになれないと解っているのに。

だけど、本当に今日は可笑しい大丈夫なのかな?

好きになるって本当に怖い..私が熱を出しても放っておくアールそれなのに私は心配で仕方が無い..本当に馬鹿だわ。

「アール..本当に辛いの? 大丈夫なの!」

「そうだね、だけど、大丈夫だよ! はい、これ」

「くれるの?」

何が起きたの?さっきの串焼きもそうだけど..今度はちゃんとしたプレゼントなんて。

「安物だけど、クエラは赤髪だから赤、メールの髪は水色だから青が似合うと思うんだ! 良かったら着けてみて」

「どう? 似合っているかな?」

嬉しくて、駄目だわ私、つい口が緩んじゃう。

「うん、凄く似あっているよ、思い出さない? 子供の頃お祭りで露店を良く回ったよね…懐かしいな」

「うん、回ったね」

そんな昔の事まで覚えていてくれたんだ、だけどこれって、これって私に興味があるみたいじゃない..

「本当に懐かしいね、そろそろ帰ろうか?」

「アール、凄く優しいのは嬉しいけど、本当にどうしたの? 別人みたい」

「それがケインを誤って殺してしまった時から所々虫食いで記憶が飛んでいるんだ」

「嘘、記憶が飛んでいるの? 大丈夫なの!」

だから様子がおかしかったんだ..そうか

「多分、大丈夫だと思う..二人が大切な人だって事は覚えているし、昔の事は凄く記憶に残っているから」

子供の頃は確かに今よりは優しかったわ..だけど此処まで優しかったかな?

だけど、今のアールにとっては..私は大切な人なんだね..信じられない..こんなに欲しかった言葉が簡単に聞けるなんて..

「嘘!ねぇ、アールにとって私は…その大切な人、そういう事で良いの?」

信じられない..夢の様な話、聴き間違いじゃないわよね?

「俺の事、もしかして嫌いなのか!」

何が起きているの? アールが本気で私の気持ちを聴いてくるなんて..気持ちなんて解っているでしょう..

「違うわ、私はアールが好き、違う愛しているわ」

「だったら、もう一度一から恋愛してくれないかな?」

「解ったわ」

「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」

何カッコつけてんの私!

これ、アールからの告白じゃない..

「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」「もう一度一から恋愛してくれないかな?」

うん、間違いないわね!

何をすれば良いのかな?

頭がグルグル回る..だって、私アールに捧げていない物なんてもう無いじゃない..

何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?何をすれば良いのかな?

これは今迄と違うのよね、ただの性処理じゃないわよね..好きって言われたんだから手抜き何て出来ないわよね..

好きなんだから、アールが私を好きなんだから、今まで以上に真剣にしなくちゃいけないわ..

今迄みたいに私だけの想いじゃなくてアールも同じなのよね。

結局、私はメールと一緒に我慢できなくなり押し倒してしまった。

仕方ないと思うの!だってこんなに心が満たされた事はないんだから。

私は既にアールが好きなんだから、そのアールが物じゃ無くてちゃんと恋人として扱ってくれるなら、

喜んでなんでもしちゃうのは当たり前だよね?

愛してくれるなら激しくなっちゃうのは当たり前だよね..だって私はアールを愛してるんだから。

ケイン、死んでくれてありがとうね! これ多分貴方が死んだから起きた奇跡よね?

そのうち、花でもあげに行くわね! 

【閑話】 悪魔が天使になった メールサイド
自分を愛していないクズを好きになるというのは地獄しかない。

僕は本当にそう思う。

僕が好きになってしまったのはアールという男の子です。

肌は女の僕より白い。

しかも、僕やクエラは直ぐに日焼けしてしまう、なのにアールはほんのりと赤くなるだけで焼けない。

サラサラヘアーの金髪に整った顔..まるで美術品の様に綺麗。

しかも、まるで神に愛されたようにジョブは上級騎士。

もう成功が約束されているような物だ。

何でも完璧に見えるアールの欠点は、愛が無い事だ。

氷の心というのがあるなら、それは正にアールの事だと思う。

僕は本を読むのが好きな地味な人間。

一日中、本が読めていれば何も問題が無い。

だから、昔から本ばかり読んでいた。

そんな僕の目の前にアールが現れた。

僕はすぐに好きになった。

アールの容姿はまるで私の読んでいた本から現れたような人、何だから仕方が無いと思う。

初めて抱かれた時の言葉なんて鬼畜みたいな言葉だったよ?

「メールの事を愛していないけど、クエラも居ないし使わせてくれ!」だって!

笑えるでしょう?

だけど、拒めないんだよ…好きになるって怖い。

だって、アールにとって僕やクエラは交換相手が幾らでも居る、ただのオモチャなんだから、拒めば多分外に行って他の女の子とするだけだ。

そして、多分、何回も拒めば出て行って帰って来なくなる。

そんなのは解り切っている。

僕はこういう行為は奥手だから知識が無い。

服を破られ乱暴に扱われて、痛くて、悲しくて泣いてしまったら。

「あーあっ本当にめんどくせー、全然楽しくないし辛気くさい、まるで人形抱いているみたいだ..面白く無いから、やっぱ娼婦買いに行くわ」

だって..どう考えてもクズ。

しかも未遂じゃなくて最後までしたクセに..

アールは愛なんて全く無い人間…悪魔とか魔族の方が下手したらまだ家族がいる分愛情を持っているのかも知れない。

最近では何で好きになってしまったのか解らない。

少なくとも僕の好きなタイプの人間は思いやりがあって優しい人の筈。

なのに、実際に好きなのはアール..人を好きになるって本当に馬鹿になる事なんだと僕は思う。

アールよりはましなケインが傍に居るのに..好きになったのはアール..僕は本当に馬鹿だ。

三人の立ち位置で僕は多分、クエラのスペア。

多分、アールはクエラを都合の良い性処理道具、まるで便器の様にしか思って居ない。

笑えるよね、僕は便器のスペアなんだから、それ以下なんだ。

クエラ相手には普通にするのに、僕を相手にする時は、大体罵倒されるか、暴力が伴う。

下手糞と怒鳴られたり

全然気持ちよくねーんだよと顔をグーパンで殴られたり。

男みたいで気持ち悪い。

本当に僕には苦痛しかない。

性処理の相手をして罵倒されて殴られ蹴られる。

幾ら、相手が死ぬ程好きな相手でも嬉しくなんて無い。

笑顔なんて浮かぶわけ無いよね。

そうしたら

「胸も無いし、人形みたいで気持ち悪い」だってさ..

アールが僕やクエラの傍にいるのは「都合が良いから」それだけの事だよ。

だから、多分そのうち捨てられる。

解り切っている..それなのに、私もクエラも離れられないんだ..クズだって知っているのに..

愛その物を持ってないんだから..どんなに尽くしても愛してくれない…知っている。

だけど、そんなクズの様なアールが何故かケインには普通に接しているんだ。

私たちは、こんな全てを捧げさせて、まるで性処理便器以下の扱いしているのに..ケインには普通なんだよ。

アールは裏表があって他の人間には優しい..だけどケインには嘘の仮面じゃ無くて、裏表なく「普通」

だから、私はケインが羨ましい..だから、嫌い。

役立たずだったケインをクビにする時はクエラと一緒にかなり酷い条件にした。

だってアールが「安全な所に送ってやろう」とか最後まで優しいんだから..

多分、同じ様に私がなったら、森にそのまま捨てられる。

下手すると、魔獣の囮に使って殺されるかも知れない。

つまり、此処まで尽くしているのに、絶対にこんな優しい事なんて言わない。

アールが言っているのは人としては当たり前。

だけど、アールがそんな事する相手は、恐らくケインしか居ない。

だから、ケインが死んだ時も思わず口の端があがってしまった。

「助からないんじゃ仕方ない、それにもし治ってもギルドにでも言われたら不味い、幸い此処は人気が無い、横の林に放り込んでいこう」

氷のようなアールが涙ぐんでいた。

これで本当に解かった..私達はケイン以下なんだ。

「助からないんじゃ仕方ない、それにもし治ってもギルドにでも言われたら不味い、幸い此処は人気が無い、横の林に放り込んでいこう」

「そうね、もう助からないそうしましょう」

「それしかない」

僕って最低だよね?

目障りなケインが居なくなって嬉しい。

人殺しの共犯になったから、簡単にアールに捨てられなくなった..良かった。

そんな事ばかり考えているんだから。

やっぱり、アールにとってケインは特別だったんだ..

ショックのせいか、気絶して、しかも見る見る冷たくなっていくんだから。

クエラの魔法も、回復薬も効かないからそのまま交代でおぶって連れ帰ってきた。

体は更に冷たくなっていくから、体を使って暖めた。

感謝もされない..それは解っている。

うーんつい寝ちゃった。

あれ、可笑しいな? なんで笑顔でアールが話しているの?

凄く楽しそうだな..何だか何時もと違う..

聞き耳たてて聴いてみた。

あんなのアールじゃない..あれじゃまるで、僕の理想の男の子じゃない!

「あっクエラ! 抜け駆けはズルいわ!」

つい口をついて出ちゃった、殴られるかな?

「メイルもありがとう」

あああああありがとう..あのアールがお礼を言っているの?

何があったの?

「良いよ、良いよだってアールだもん、僕とアールの仲じゃない!」

「そう? それじゃ僕じゃなかった、俺は飯でも作るよ! あと目の毒だから何か羽織ってくれないかな!」

本当に何があったの? ご飯作る? 目に毒だから羽織って?

散々罵倒して触り尽くした癖に何を言っているのかな?

「そうそう、もう僕の体でアールが触れて居ない場所なんて無いよね?」

酷い事から恥ずかしい事..全てし尽くした癖に..飽きたとか言っていたじゃない?

「ごめん、あんな事の後だから少し可笑しいみたいだ」

「思ったより堪えたみたいだね」

クズで悪魔みたいな人間のアールでもケインは別だったんだね..ははははっ本当に酷い。

「気にする必要は無いと思う、悪いのはケインなんだからね」

「解った」

「クエラ、メール飯が出来たぞ! 食おうぜ!」

「……」

「どうしたんだ? 二人とも、食欲が無いのか?」

「アールに食事作って貰ったの初めて..手料理..」

アールが僕に食事を作ってくれた..何で?

アールが私達に何かしてくれた事なんてないのに..

「今回は凄く迷惑掛けたから、そのお詫びだよ! そのありがとう..」

「僕だって同じ、アールの為なら何でもするから」

何でだろう? 何時もの様な冷たさが何故かない..それどころか凄く暖かい。

だから、嫌々じゃなく本当にそう思っちゃったよ…

今迄とは何かが違う..顔が凄く赤くなった。

クエラも同じみたいだ。

「本当に愛情が詰まっている..そんな気がする」

つい口にでてしまったよ..だって凄く嬉しいんだもん。

「こんなので良いなら又作ってやるよ!」

「他にもアールって何かつくれるの?」

「まぁ作れるよ..だけど俺は2人の料理が食べたい」

「あははは、私凄く料理下手じゃない?」

「僕も同じだよ」

「そう、それじゃ下手でも良いから作ってって言えば作る?」

「アールが良いならね..だけど本当に良いの?」

「良いんだよね」

「勿論」

これは何時もの命令じゃない..お願いだ。

可笑しいな本当に顔がほころんじゃう。

うん、頑張って今度作らなくちゃね..だけど本当に何があったのかな?

やっぱりケインを殺してしまったのが..こんなにもショックだったのかな?

だけど、これだけじゃ無かった..

街に出掛けようだってさ..これってデートだよね?

幾らお願いしても、無理だったのに。

まぁ、性処理便器のスペアとデートなんかしないよね..

それ以前に..アールは女とデートなんてしないんじゃないかな?

アールが屋台で串焼きを3本買っていた。

「はい、どうぞ!」

「僕にもくれるの?」

今迄はアールは自分の分を買っても僕たちに何か買ってくれる事は無かったよね?

本当にどうしたのかな?

「懐かしいな..小さい頃は芋とか持ち合ってこうやって食べたよな」

「うん、懐かしいや、あの時はどれが大きいとか揉めたよね」

「そうそう、何時も..あっ俺に大きいの譲ってくれたよね! ありがとう」

「まだ落ち込んでいるの? 帰って休む?」

確かに子供の頃は此処まで酷くは無かったな..

だけど、何で急に昔話をしているんだろう? こんなのは今迄無かったよ。

「まだ落ち込んでいるの? 帰って休む?」

「それについては後で話すよ!」

「何かあるの?」

やっぱり何かあるんだ..深刻そうな顔をしている。

《アールさんだ何時見てもカッコ良いね》

《うちのお店に来ないかな》

《どう見ても王子様にしか見えないわ》

何時も通りに黄色い声が上がっている、多分あの中にも僕の代替要員が居るのかな..

あれっ、アールが無視している。

何時もなら愛想笑いをして手を振るのに…なんで?

三人で色々見て回った。

今日のアールは良く笑うし..何故か凄く優しい。

暫く歩くとアールが露店のアクセサリーショップで足を止めてしゃがみこんだ。

何やら幾つかのアクセサリーを見ている。

どうせ、私達のじゃ無いんだろうな..アールは口説きおわった女には何もくれないから..

「この赤いペンダント、クエラに似合いそうだ、こっちの青いのはメールに似合うな..お姉さんこれ幾ら?」

えっ私達に買ってくれるのかな?

「本当にどうしたの? やっぱり辛いんだね、無理してない?」

「そうだね、だけど、大丈夫だよ! はい、これ」

「僕に?」

「安物だけど、クエラは赤髪だから赤、メールの髪は水色だから青が似合うと思うんだ! 良かったら着けてみて」

「僕はどう? 似合っている?」

何が起きたのかな?

目の前に居るのは..まるで僕の理想の中から出てきたアールみたいだよ..信じられないよ。

「うん、凄く似あっているよ、思い出さない? 子供の頃お祭りで露店を良く回ったよね…懐かしいな」

「回ったよね」

「本当に懐かしいね、そろそろ帰ろうか?」

「うん、帰ろう」

「アール、凄く優しいのは嬉しいけど、本当にどうしたの? 別人みたい」

「僕もそう思うよ」

「それがケインを誤って殺してしまった時から所々虫食いで記憶が飛んでいるんだ」

「それは凄く大変な事だと思うよ」

それで性格が変わったのかな?

だけど、今のアールの方が何百倍も好きだよ..

そう考えたら、ケインが死んでくれて本当に良かったのかもしれない..

だってその結果、この優しいアールになったんだから…

「多分、大丈夫だと思う..二人が大切な人だって事は覚えているし、昔の事は凄く記憶に残っているから」

今なんて言ったの? 2人が大切だって言った..聞き間違いじゃない..よね。

「本当に? 僕信じちゃうよ! 取り消し効かないからね?」

「二人は俺の事、もしかして嫌いなのか!」

アールにこんな事言われた事無い..それに何時もとちがって真剣な目だ。

「僕だって愛しているよ」

「だったら、もう一度一から恋愛してくれないかな?」

そうか、僕たちやり直せるんだ..しかも恋愛だって..恋愛。

しかも恋愛だって..

「解ったよ」

何してあげれば良いのか?

やれることは全部やってしまったし..奪われたような物だけど、捧げられる物は全部捧げたあとだよ..

僕は何をすれば良いのかな? 

まぁ良いや、僕がしてあげたい事全部してあげれば良いと思う。

アールが喜びそうな事考え付くだけ全部してあげれば良いよね?

恋人なら、喜んでするのは当たり前だよね?

ここここ恋人なんだから、愛されているのなら沢山しなくちゃ。

結局、私はクエラと一緒に我慢できなくなり押し倒してしまった。

仕方ないと思うよ!だってこんなにアールが優しいんだから。

悪魔がいきなり、天使になっちゃったんだから可笑しくなるの当たり前だと思う。

僕は既にアールが好きなんだもん、そのアールがちゃんと恋人として扱ってくれるなら、なんでもしてあげるのは当たり前じゃないかな?

愛してくれるなら沢山、沢山しちゃうのはは当たり前だよね..だって私はアールが愛してくれなくても何でもしちゃう女の子なんだから。

愛してくれたら止まらなくなっちゃうのは仕方ないと思うな。

ケイン死んでくれてありがとう..君が死んでくれたから..僕凄く幸せになれそうだよ。

お礼に今度花束をあげにいくね..

初めての朝
「ふあーあ」

アクビと共に起きた。

横にはクエラとメールがスゥスゥと寝息をたてて寝ている。

自分の体に付いたキスマークが、昨日の夜の事が夢じゃなかったと物語っている。

僕はアールであってアールでは無い。

彼女達が好きなのはアールだ、だが、アールはもう居ない。

アールを愛するように、僕に接してくれるなら、僕はアールじゃないけど、僕の出来る範囲で幸せにしてあげたい。

そう思った。

僕は本当にズルい人間だ。

本当なら、彼女達の気持ちを考えるなら居なくなるのが正しい..人としてそう思う。

だけど、クエラもメールも僕には絶対に手が届かない花だった。

小さい頃からずうっと好きで好きでたまらなくて..どんなに好きになっても、決して振り向いてくれない。

それが2人だった。

確かに、世の中には彼女達より綺麗な女性は幾らでも居る。

街で2時間も探せば見つかるだろう..

だけど、僕が好きなのはクエラより綺麗な女の子じゃない..メールより綺麗な女の子じゃない..

僕が好きなのはクエラとメールなんだから仕方ないんだ。

だって4人だけの世界で生きてきて..どんなに好きになっても絶対に愛して貰えない。

それが2人なんだから..

アールには謝らない、僕を殺した..その結果不思議な事が起きてこうなった。

だけど、2人には謝るよ..僕はアールじゃない..ゴメン、だけど僕のやり方で絶対に幸せにするよ、それが僕の2人へ償いだ。

ただの自己満足、そうかも知れないけどね。

クエラを見る..本当に綺麗だ..

メールを見ると本当に可愛く思える..

思わず、2人の髪の毛を触ってしまった、2人ともくすぐったそうに微笑んだ気がした。

何時までもこうして居たいがそういう訳にはいかない..我慢して起きる事にした。

僕はそのまま朝食を作り始めた。

今日のメニューは焼いたパンにチーズを乗せた物に野菜のスープに目玉焼き。

朝だからこんな簡単なメニューで良いだろう。

昨日のように喜んで貰えるだろうか?

僕は2人の寝顔を見ながら起きるのを待った。

クエラ 好きが止まらない
本当に何が起きてしまったんだろう?

アールが凄く優しい、正直少し怖い..あの、アールがこんなに優しいなんて..

思わず、感動して押し倒しちゃったけど..此処から何時もの様に辛い事になったらどうしよう..

「バーカ、嘘に決まっているだろう!」

「からかっただけで直ぐに調子に乗るんだな..俺がお前に本気になるわけ無いだろう」

「俺にとってお前は只の性処理道具だ、道具を好きになんてなるわけ無いだろう」

アールだったら..そう言いだしても可笑しくない。

前にキスをねだった時に..

「お前は性処理便器なんだ、便器にキスする奴なんていないよな!」

そう言われた事もある..怖い。

だけど、本当にどうしちゃったのかな?

優しくキスされて、まるで宝物の様に触って来るんだよ?

いつもの乱暴さが全く無いの..

「便器にキスしない」と言っていたんだから少なくとも「人間」扱いはされている筈..

ううん、全然違う..これはどう考えても恋人扱いだよ..

今迄と違って、「辛いとか悲しい気持ちが全然湧いてこない」 触られる度に「幸せと嬉しい」しか起きないの。

駄目だわ、今迄のアールも良かったけど、今のアールはその何百倍..ううん比べられない程良い。

前のアールも好きだけど「それじゃ俺の為に死んでくれ」と言われたら、悩む位の事はすると思う。

だけど今のアールに「俺の為に死んでくれ」と言われたら間違いなく死を選ぶ..その位、好き。

今迄、これ以上の愛は無い..その位愛していた..そう思っていたのに..

愛って怖い、まださらに底があったんだ…だけど、絶対にこれ以上は無い..その位に好き。

こんな大切にされたら止まる訳ないじゃない..

髪の毛の先から、足の先まで..全部アールが好きって喚きだすんだもん。

性処理の時は「早く終わらないかな」そう思っていたけど..

何時までも終わらないで欲しい..本当にそう思うんだから…仕方ないと思うの。

これでもかと密着しているのに、さらにくっつきたくなる..

これだけども嬉しくて仕方ないのに..「好きだよ」「愛している」の連発。

もう駄目だよ..蕩けてしまうよ..スライムみたいになっちゃう..

昔アールに「俺働きたく無いんだ、お前ら二人で働いて食わせてくれ」と言われた時、流石に断ったけど..

今のアールに言われたら「いいよ、うん頑張って働くね」間違いなくそう言っちゃうと思う。

結局、私は獣になっちゃったよ..だって仕方ないじゃない..

多分、これが愛のあるSEXなんだと思う..

そう考えたら、今迄のは違う..

目が覚めた..

アールが居ない!

嘘、嫌だ、あれは全部夢だったの..嫌だ嫌だ嫌だ嫌だよ..嫌..

あれっ 横にメールは居るしシーツ..うん恥ずかしい状態だ..だけどアールが居ない…

嘘、まさか元に戻っちゃったの..外にいっちゃったの..嫌..

あれっ良い匂いがしてきた。

「もうちょっとでご飯出来るから、シャワーでも浴びてきたら」

「うん、そうするね..ありがとう」

良かった、「優しいアール」のままだ..だけど凄く可笑しい。

アールを見ていると顔が赤くなる、恥ずかしいという気持ちと好きという気持ちで頭が可笑しくなりそうになる。

顔が火を噴くってこういう事なんだ。

「どうした! 風邪でも引いたのかな?」

アールが私の額に手を当ててきた。

顔がますます赤くなっちゃう..

これだけで、こんなになっちゃうなら..私これからどうなっちゃうんだろう..

メール 何かが変わった朝
今日は..この世界最後の日とかなのかな?

あの、アールが優しい。

魔王が天使になった、その方がまだ信じられる。

だけど、目の前のアールは僕の理想のアールだ。

悲しくて、辛すぎて幻覚でも見ているんじゃないかな?

だけど、手の届く所に、まるで僕の夢から出てきたんじゃないかな?

そう思えるアールが居る。

思わず、押し倒しちゃったよ..だけど

殴られる..押し倒してから気が付いたんだ、横にクエラがいる。

僕はクエラのスペアだから、クエラの居る時にこんなことしたら..あれっ

何で僕は髪を撫でられているんだろう…しかも凄く優しい..

「どうしたの?目なんかつぶって..」

「何でもないんだよ..うん本当になんでも無いんだ」

「そう、元気出してね」

どうしよう? こんな優しいアール何て知らないよ..どうして良いか解らないよ..

僕の目をアールが見つめてきた。

多分、恋人なら此処でキスをするんだと思う。

だけど、僕には出来ない..

だって僕は性処理道具だから..

前に喜んで貰おうとキスしたら物凄く怒られ殴られた。

奥歯が折れて顔の形が変わる位まで..ひたすら殴られた

「お前の口は汚いんだよ、俺の性処理を何回もしている口でキスすんなよ..ゴミ箱と同じなんだからな」

はははっ乙女の口が生ごみ入れ扱い..確かにそうだよね..性処理以外にも罰とか言ってミミズや虫も食べさせられたもんね

「これは罰だちゃんと噛んで食え」

本当にゴミ箱だね..

だけど、そう言う風にしたのはアールじゃない..

「うぐっ」

嘘だ、アールがキスしてくれた..しかも凄く優しくキスしてくれる。

僕の口は汚く無いの? ゴミ箱じゃないの?

横を見ると、クエラにも優しく触っている。

「僕の口は汚く感じないの?」

「どうして? 寧ろ俺の方が臭いかも..ゴメン」

「アールは臭くないよ..寧ろ良い匂いがする」

「そう、なら良かった..もしかして俺酷い事言っていた?」

うん、言っていたよ、僕心が壊れちゃうんじゃないかな? その位。

だけど、好きになるって怖い..そんな事も言えなくなるんだ。

「うん、大丈夫だよ..」

そう言いながらメールの目に涙が溜まっているのが見て解る。

「ごめんね..メール」

今迄アールが僕に謝った事なんて一度も無い。

「僕は大丈夫って言ったんだよ?」

「うん、だけど俺は謝りたいんだごめん」

良く見るとメールには痣や切り傷があった..多分これはアールがした事だ。

「これも、此処も全部ごめん」

「もう良いよ、充分だから..謝る位ならその分、僕を可愛がってよ」

「解った」

アールは僕の痣や怪我を凄く優しくさすってくれた。

本当に僕を大切そうに触るんだ..こんな優しく触られた事なんて無い。

今迄と違う、僕はやっぱりチョロいのかも知れない..体が全身で喜んでいるんだ…

前にアールに言われた事がある..「俺働きたく無いんだ、お前ら二人で働いて食わせてくれ」って..

クエラは流石に怒って出て行ったけど..僕は不思議に思ったんだ..

だって僕たちは冒険者なんだ、他の仕事につく位なら今の方がよっぽど稼ぎがある。

クエラが出て行ったあとアールが言ったのは「メール、お前は俺の為に娼館で働いてくれるよな?」だってさ..

笑うよね..僕とクエラを娼婦にしてヒモになる、そういう話なんだから。

愛しても居ない女にこんな事頼むんだから本当のクズだよね。

勿論僕も断ったよ..そうしたら

「お前は俺の予備の性処理便器だから他の奴に貸したって良いだろう」だって..本当にクズだよね..

だけど、そんなクズから離れなれない僕は..クズにたかるハエみたいな物なのかもね..

多分、何処まで行っても僕もクエラも「利用する物」なんだと思う。

流石に断ったら顔が腫れる位また殴られた..

だけど、そんなアールが僕の事をさっきから愛おしそうに抱いているんだ..信じられる?

いつも僕が何かしてもつまらなそうに眼をつぶっているんだよ..多分頭の中では他の女の裸でも考えて我慢して抱いている..そんな感じかな。

それが、嬉しそうに僕を見つめているの..信じられない..

これは何時ものと違う..うん、ちゃんと愛があると思う..僕の誤解かも知れないけど..

今のアールに「娼婦になって貢いでくれ」って言われたら..多分僕断れない。

ううん「アールの為なら我慢するよ」そう言っちゃうと思う…

クエラと一緒に獣みたいになっちゃったよ..気絶するまで..

ううん、うん..朝だ。

あれは夢だったんだ..違う..シーツがこれでもかという位乱れている。

だけど、アールが居ない..

クエラも居ない..

あははははっ二人で出かけたんだ、だって僕はは予備だもん。

クエラの胸やお尻と違ってぺったんこで子供みたいだもんね..

「あっメールも起きたんだ、今クエラはお茶飲んでんだけど、飲む?」

「飲む」

寝ぼけていて頭が付いていかない..アールがお茶を入れてくれるの?

「朝食はもうちょっと待っててね..今作っているから」

アールが作ってくれるの..

「ありがとう」

ケインが死んで何があったのかな?

ただ言える事は今のアールは昔のアールの何百倍も良い。

そして、クズで無くなったアールは僕にとって本当に命より大切な人だ..

やっぱり僕はチョロい..今のアールに言われたら、娼婦にだってなれるし、死ねと言われれば..死んじゃうんじゃないかな?

アールは思った以上のクズだった
クエラとメールに紅茶を入れてあげた。

もう少し加熱した方がスープの野菜が柔らくなって旨い。

「あの、この紅茶アールのお気に入りだったのに、私に入れてくれて良いの?」

「僕が飲んでも良いの?」

良く見ると、高級そうな箱に入っていた..それとは別に安そうな茶葉もある。

僕が思っていた以上にアールは酷い奴だったみたいだ..

僕だけじゃなく、クエラやメールにも酷い事していたんだな。

「良いよ、良いよ、これからは気にしないで、俺が買った物でも常識の範囲で自由に使って良いからね」

「アール、嬉しいけど本当に良いの?」

「使った後で殴ったりしない?」

そんな事までしていたのか? 

シャワールームから何から見て回った.石鹸も髪洗いからバスタオルまで高級な物は全部アールの物だ。

彼女達の物は..可愛そうな位質素だった。

「本当にごめん..俺本当に酷い人間だったんだな、謝るよ」

話を聴くと、確かに二人の取り分は1/5。

だけど、そこから女の子用の物を買わなくちゃいけない。

更にアールは金遣いが粗く自分のお金が無くなると彼女達に無心する。

更に、欲しい物があると更に減らしたりすることもあったようだ..

確かに二人の服は、少しくたびれている気がする。

それに対してアールの服は新品ばかりだ。

「そんな謝らないで良いよ..気にしてないから」

「本当に気にしないで」

アールって羨ましい..こんなに酷い事していても許されるなんて..

二人の目を盗み、二人の服を一式下着まで含み鞄に詰めた。

「それじゃギルドまで行ってくるね」

「ギルドに何しに行くの?」

「休むんじゃないの?」

「記憶があいまいだから、戦えるか心配なんだ..ちょっと訓練と指導を受けてくる」

「アールが指導受けるの?」

「天才だから指導なんて必要ないって言わなかった?」

「まぁ..今回、あんな事もあったし..」

「そう、それなら私も付いていこうか?」

「そうだね」

「恥ずかしいからついてこないで良いよ!早目に帰ってくるから、行ってきます」

「行ってらっしゃい!」

「ねぇ、あれどういう事かな?」

「さっき、僕たちの服隠して持っていったよね」

「多分、何処かの女にあげるんじゃないかな?」

「僕の服、勝手にあげちゃった事あるもんね」

「文句言ったら、可哀想なアンナにあげたって言い出すし、服も買えない可哀想な子を労われだって」

「本音なら仕方ないけど、体目当てだったんだから笑うしかないよね….アールだから仕方ないよ」

「だけど、あの服はメールのお母さんの形見なんでしょう..良いの?」

「うん、僕、昨日の夜から、凄く嬉しい夢を見させて貰ったからいいや」

「メールが良いならいいけど..やっぱり..あれは夢なのかな」

「解らないよ、僕には」

ギルドに行ってまずは窓口に行った。

アールは有名人なので身分証を出す前に向こうから話しかけてきた。

「アール様、お金もある事ですし、預けている物出してあげた方が良く無いでしょうか?」

「何それ!」

ギルドには物を預けてお金を借りる制度がある。

アールはお金が無い時にかなりの物を預けてお金を借りていたようだ。

「すみません、何を預けているのか見せて貰えますか?」

「本来はそう言う事はしませんが、特別ですよ?」

「有難うございます」

可笑しいですね、あのアールが珍しく低姿勢です。

僕はますます、アールが嫌いになった。

この指輪はクエラのお婆ちゃんの形見で大切にしていた物だ。

こっちのネックレスはメールのお爺ちゃんの形見..

他にも彼女達が大切にしていた物が6つ位ある。

「精算して全部払いだします」

「その方が良いと思います、彼女達可哀想ですよ!」

「これからは気をつけます」

預け入れは金貨が100枚以上あった。

それなのに、彼女達の宝物は銀貨8枚..それすら受けだししてあげないのか..

しかも、こんなにお金があるなら、分配も誤魔化していたのだろう。

「金貨100枚のうち、クエラとメールの登録に20枚づつ入れ直してください」

「宜しいのですか?」

「はい、お願いします」

何かあったのかな..あのアールがこうも素直に応じるなんて。

お金の移動控えを貰った。

「それで、今日はどういった事で起こしになったのですか?」

「すいません、剣の簡単な指導と見極めをお願いします」

「アール様が? 畏まりました、ですがアール様より腕が上で指導が出来るというとギルマス位ですが宜しいのですか?」

「お願い致します」

「それでは銅貨5枚頂きます」

ギルドの指導は育成の為恐ろしく安い。

それは冒険者が優秀になればギルドその物も助かるからだ。

「おい、アール今更俺から何を習いたいんだ」

「剣術とその力の見極めもお願いします」

「ふん、俺は天才だからお前に教わる事は無い..そういった奴がか」

アールは此処でもなのか..仕方ない。

「その慢心から俺は幼馴染を失ったんだ、こんな思いを二度としたくない」

「そうか、少しはましになったんだな..それじゃ掛かって来い」

「行きます..」

凄い、荷物持ちとは違う..これが上級騎士の世界か。

何度も素振りしても大して強くならなかった上段から斬り込みが、あと少しでギルマスに届く。

「ほう..随分と鍛えた物だ」

ギリギリでギルマスが躱した、多分、技とギリギリで躱したのだろう..此処で終わったら駄目だ。

その斬り込みをすぐさま方向を変えて流れるように再度斬り込む。

これも躱された。

「これは惜しかったな」

流石ギルマス、余裕だ。

そこから引き込み連続の突きを放った..

「突きか?..おいなんだそれ..」

連続10回の突き..

「痛ぇえな..終わりだ」

「有難うございました」

「最後の突きは良かったぞ、お前、全然練習しない奴だと思っていたけどちゃんと練習していたんだな..」

「それで見極めは」

「このギルドで10本の指には入る、この調子で頑張れや」

「有難うございました」

「ほう..謙虚にもなったんだな、昔のお前なら「俺が1番だ」そう言っただろうよ!仲間を失ってようやく気が付いたんだな…今のお前なら同じような間違いをしないだろうよ..頑張んな」

「はい」

本当はケインの僕は複雑だ。

アールは恐らく練習等していない…ケインとしてスキルやジョブが無くても木刀を振るっていたのは無駄では無かったんだ。

お金を降ろして、今度は洋服店に寄った。

僕から見た二人の服はかなりくたびれていた。

多分長い間服を買っていないのだと思う..よく見ると穴が空いているのを繕ってきていた。

「すみません」

「おや、アール様今日どういったご用件でしょうか?」

「女性の服を4着ずつ下着も含み一式欲しい」

「誰の服をでしょうか? まえの様に女性を連れてきて頂いて採寸が必要ですよ」

クエラとメールの服に新しい物は無い..アールって本当にクズだ。

「クエラとメールの服が欲しい..もう浮気は辞めたんだよ、そうだ彼女達の服を持ってきたからこれから採寸できますか?」

「服があれば大丈夫ですよ、そうですかクエラさんとメールさんの服ですね..なら私もよりを掛けて作ります」

「有難うございます」

「今の貴方はそんなに嫌いじゃありませんよ? 仲間の為に服を作る..代わりましたね」

聴くと何度も女を連れてきて此処で服を作ったそうだ、1度じゃないんだな..

全部、服を預けて採寸して貰う。

「これで採寸は済みました、それでどんな物がご希望でしょうか?」

「可愛くて綺麗な彼女達を引き立てる物..あとはお任せで」

「畏まりました」

はぁーっ アールって本当にクズだな..これじゃ帰ってから土下座タイムじゃないか

誤解
洋服の注文も終わり宿に帰ってきた。

「ただいま」

「お帰りなさい、アール」

「お帰り、アール」

「二人ともちょっと話があるんだ、まず、これごめんね..これ返すよ」

「嘘、これ本当に返してくれるの..」

「僕に返してくれるんだ..」

「あと、お金も金貨20枚づつ入れて置いたから、今迄本当に悪かった」

「….」

「…..」

「アール、私お金なんて要らないし!こんな宝石なんて要らない!だから捨てないで、私アールが居ないと生きていけないの! そうだ、ほら、アール私何でもするよ!」

そう言うとクエラは服を手早く脱いだ。

「ねぇ、何でも本当にするから、お願いします! アールがして欲しいなら足だって舐めるし..やれって言うならこのまま踊るし土下座でもするよ..ねぇお願い..性処理便器だっていい..それで良いから捨てないで」

「違うっ」

「僕も何でもするからお願い捨てないで、僕アールの為なら何でもする! 叩いても良いし、殴っても良い..クエラのスペアでも玩具でも良いんだ..」

メールは服を脱いで、何故か僕に棒を持ってきた。

「だから、違うって、少し冷静になって」

「何が違うの、宝石返して手切れ金まで用意して酷いよ..昨日はあんなに優しかったのに..あれはお別れだから優しくしてくれた..そういう事でしょう」

「最後だから僕に優しかったんだね..アール幾ら何でも残酷すぎるよ..それなら要らないって言われた方が良かったよ..」

「違うって、まず俺は2人を愛している! それは間違いないから、頼むから冷静になってよ」

「違うの..」

「本当に違うんだよね..」

「ああっ」

美少女2人が裸になって目を腫らす位泣いている。

そして、狂ったように叫ぶ..

綺麗いで可愛い二人の裸..なのに全然目の保養にならない..

「ちゃんと落ち着いて聴いてね..俺は絶対に二人を捨てないし愛している、そこは変わらないから」

「うん、ごめんね取り乱しちゃって」

「僕も本当にごめん」

2人とも目を腫らして裸で正座している。

落ち着かない。

「まず服を着ようよ」

「うん、そうだね」

「そうするね」

「それじゃ説明するよ、今回ケインを死なせてから俺なりに色々考えたんだ、今更だけど俺は凄く我儘でとんでもない人間だったんだなって」

「そんな事無いよ」

「うんアールはそんな事無いって」

「それは2人が俺を愛しているからだよ! 自分でも凄く性格が悪いの解るからさぁ、それで反省したんだ、こんなにも俺を愛してくれている二人に何しているんだろうって、本当に俺って馬鹿だよな!」

「大丈夫だよ! アールは..少なくとも私はそうは思わない」

「僕も大丈夫だよ」

「ありがとう..だけどこのままじゃ何時か二人に嫌われる時が来る! だから俺は変わりたいんだ二人に愛される様な男に、2人が何時も笑ってられる様な人間になりたい…」

「ありがとう、アールだけど、私は貴方が居ないと生きていけない位もう愛してるのよ」

「僕も同じ、今のままのアールでも死ぬ程愛しているんだよ」

そうか、アールも悪いけど、この二人クズ男製造機でもあるんだな。

こんな我儘でも愛し続けるなら男は努力なんてしなくなるよ..

少なくとも此処まで最低だとは思わなかった。

「それじゃ、もっともっと、愛して貰えるように頑張るよ」

「ありがとう..そんな事アールから言って貰える日が来るなんて思わなかった..私今が一番幸せだよ」

「僕も..どうしちゃったのかな? 1日1日どんどんカッコ良くなっちゃうんだもん…多分僕の愛しているはそのうち破裂しちゃうんじゃないかな」

「それじゃ、落ち着いた所で話すね」

「「うん」」

「正直記憶が無いんだ、だけど俺は凄く君達に酷い事していたんだ、ごめんね」

「いいよ、いいよ私とアールの仲じゃない?」

「僕も良いよ」

「ありがとう、だけど、この指輪はクエラのお婆ちゃんの形見で大切にしていた物だし、こっちのネックレスはメールのお爺ちゃんの形見だよね..他にもこの殆どは2人が凄く大切にしている物だよね」

「うん、確かに大切だったけどアールが喜ぶなら要らないよ」

「僕も同じだよ」

「それは駄目だよ! 俺も今回気が付いたんだけどこれが無くなる事で二人が悲しむなら、そんな事はしちゃいけないんだ..クエラとメールが俺を喜ばせてくれた様に俺もクエラやメールを喜ばせてあげたい」

「アール..本当にそう思ってくれるの?」

「本当に良いの? 僕..」

「うん、まぁ俺は性格が悪いから何処まで直るか解らないけど..」

「そんな事無い、絶対ない」

「うん、アールは大丈夫だよ」

「今度はお金ね、今日ギルドの自分の口座を見たら金貨で100枚あったんだ、だから三人で20枚づつにして残り40枚は共有..このお金で必要な物を買っていこう..どうかな?」

「それだとアール、贅沢出来ないよ? 良いの?」

「大丈夫なの?」

「うん、2人と過ごすのにお金はそんなに要らないよ、そう思わない?」

「アール..そうだね..うんそうだ」

「そうだね、お金はそんなに要らないね」

「うん、それで今日この服勝手に借りていってごめん..」

「そう言えば、下着まで..何に使ったの?」

「誰かにあげるんじゃないの?」

「二人の服、結構くたびれているよ」

「あっゴメン嫌だったのかな..ごめんなさい」

「明日でも買って来るから..」

「違うよ..はいこれ!」

「これは洋服屋さんの引換券ですね..買ってくれたの」

「本当? 僕に服を買ってくれたんだ」

「うん、俺も二人の綺麗な姿が見たいからね..」

「アール、アール、アール、アール、アール、アールッ 私生きていて今が一番幸せだよ、こんな日が来るなんて思わなかった」

「僕も、信じられない位、こんなに幸せになれるなんて..夢みたいだよ!」

結局、今日も僕はそのまま押し倒されてしまった。

僕は恋愛がしたいのに..

そんな事言いながら、朝まで寝ないで体を重ねていたんだから..いう資格は無いのかも知れない

美少女2人、そして自分が好きで好きでたまらなかった二人が相手なんだ..

拒める理性何て僕には無いよ..

【最終回】 彼女達にはそれしか無かった。
とんでもない事が解ってしまった。

メールは小さい頃本が好きだった。

クエラは元から趣味らしい趣味が無い..

何でこうも肉体関係ばかりなのか、考えてみたら、二人には「それ」しか無かった。

よくよく考えてみれば、三人で過ごして、お金も時間も碌に与えなければそうなるよな。

アールが好きな状態で、他にやる事が何も無いんだ、そして好きな相手からしょっちゅう体を求められたら..

そればかりになってしまう。

つまり、クエラもメールも冒険者の仕事以外では性処理しか出来る事が無い。

僕は2人とも凄く好きだった..

なのに、そんな事にも気が付かなかった。

どっちみち、愛されてもいない僕じゃ何を言っても無駄だったろう。

だけど、2人ともアールが好きなように、アールも二人が好きだと思っていた。

勿論、早い段階から「そういう関係」なのは知っていた。

だけど、これはこんな一方的な奴隷みたいな物でなく..ちゃんと愛し合っている。

そう思っていたんだ。

それが、こんな酷い扱いだったなんて。

だけど、クエラもメールもアール以外に一切興味を抱かない。

どんな二枚目も貴金属も二人には価値は無い..二人が唯一大切な者、それはアールだけだ。

そして、アールは家事も何も求めず、恋愛や愛も求めなかった。

唯一求めたのはお金と性処理だった。

だから、クエラもメールも性処理以外何も出来ない女の子になってしまった。

しかも、その相手はアール限定。

つまり、趣味所か彼女達の全てはアールであり、その愛を含む殆どが肉体関係なんだ。

他にも目を向けさせようとしたが..駄目だった。

服も、僕が買ってあげた物だから嬉しいのであって、服その物が嬉しい訳じゃなかった。

宝石も同じ..僕が取り戻したから嬉しい、それだけだった。

だからあげた金貨も一切使わず手付かずだし..追加の服もアクセサリーも一切買わない。

それでも僕が彼女達が好きなのは変わらない。

そして、アールである僕が好きなのは変わらない。

僕はアールじゃないけど..アールであれば良いんだ。

多分、2人はアールが居なくなったら死んでしまうと思う。

だから決めた。

「クエラ、メール結婚しないか?」

「アール! 本当に私と本当に結婚してくれるの..嬉しい」

「僕、本当に..幸せだよ、アールのお嫁さんになれるなんて」

これ以外二人が望む事は無いから。

これから俺は冒険者をしながら、お金を貯めて家でも買おうと思う。

2人が望む物は冒険者で成功するという事でもなく、俺だけなんだ。

なら、家を買って、細々とでも一生生活出来るお金が溜まればそこで終わりで良い。

幸い、俺たちは上級職だから5年も頑張ればその位たまるだろう。

こうしてケインの物語は一度終わった。

アールになったケインが幸せだったかどうかは..誰にも解らない。

(FIN)

あとがき

最後まで読んで頂き有難うございました。

この話は、殺した相手と次々に入れ替わる主人公の物語でした。

本来は、冒険中強敵に会い、クエラとメールを逃がして死ぬ。

そして、その結果クエラとメールに追われていく..そういう話に繋がっていく話でした。

好きな相手に敵と追われる、だけど好きだから手が出せない..

ですが、2人のエピソードを書いていくうちに、何故かクエラとメールから「私からアールを取り上げないで」そういう電波が入って。

こんな終わりに..

この話はこれで終わりですが、アールになったケインの話の続きは近々書く予定です。

その作品こそが「チェンジ! 僕を殺して下さい! これで貴方の人生は僕の物になりました! 殺したんだから仕方無いよね?」の本編になります。

今回のヒロインはビッチだけど一途な変わったヒロインですが..完全に持っていかれました。