最悪の異世界転移
その日もいつものように教室で寝ていた。
昨日はうちの親父に家の手伝いをさせられて疲れていた。
そのせいで熟睡していたようだ。
だがこの日はいつもと違っていた。
「理人(りひと)、起きろ」
「理人くんで最後だから早く女神様の所にいって」
「えっ女神様? 何?」
「理人が寝ているときに異世界の召喚に呼ばれたんだ、そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルをくれるって。」
「冗談だろう.」
俺は周りを見渡した。 白くて何もない空間のようだ。
嘘ではない、俺をだますためにこんな大掛かりな事はしないだろう。
「それじゃ、先に行くぞ、お前もジョブとスキルを貰ったら来いよ」
そういうと彼らは走っていってしまった。
どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に転移していくみたいだ。
俺は、女神様らしい女性のいる列に並んだ。
次々にジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後の俺の番がきた。
だが、ここで急に女神様がおかしな事を言いだした。
「貴方神臭いわね」
「神臭い? 確かにそうかも知れません、神職ですから」
「そう神職なのね、異世界で魔王が現れ困っている、そしてその国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとした…ここまでは解る?」
「何となく小説とかで読んだ話に似ています」
「理解は早いわね…だけど困った事があるのよ…」
「何でしょうか?」
「本当に臭いわ、嫌になる程神臭い、私は女神なのよ? 他の神に臭いがするお前は気持ち悪いわ」
「あの、女神様?」
「お前みたいに『気持ち悪い奴』にはなんの加護も与えたくないわ」
「それなら、元の場所に戻してくれればいいじゃ無いですか」
「この魔法はあの場に居た全員に掛かっているから無理だわ…」
「そうですか、それでは俺をどうするつもりですか!」
「よく考えたら、貴方がどうなろうと関係ないわね…そのまま何も与えずに異世界に送る事にしたわ…神臭いお前が悪いのよ..うふふっ地獄の様な生活が目に映るわ、無様に惨めに、皆から馬鹿にされて死んでいきなさい」
「俺が何をしたっていうんだ」
「煩い煩い煩い…神臭くてキモイ…」
こうして俺は何も貰えずに異世界に送られた。
召喚された先で
俺が目を覚ますとクラスのみんなは既に一か所に集まっていた。
その前に、明かに中世の騎士の様な恰好をした人物がいて、その先には綺麗な少女と多分王様なのだろう、偉そうな人物が椅子に座っていた。
「最後の一人が目覚めたようです」
騎士の報告を受け、王の前にいた美少女がこちらの方に歩いてきた。
「ようこそ、勇者の皆さん、私はこの国アレフロードの王女マリンと申します、後ろ座っているのが国王エルド六世です」
担任の緑川が代表で一歩前に出た。
「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も…だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」
「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」
「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、ほかのみんなはどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」
同級生が色々な事を聞いていた。
どうやらここは魔法と剣の世界、僕の世界で言うゲームの様な世界だった。
クラスメイトの一人工藤君が質問していた。
「ですが、僕たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かにジョブとスキルを貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」
「大丈夫ですよ、ジョブとスキルもそうですが召喚された方々は召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」
「それなら安心です…有難うございました」
今は様子を見るしかないな。
俺には、そのジョブもスキルも無い。
そして恐らくあの様子じゃ筋肉の強化も魔力もきっとないな。
あの糞女神の言う通り無様に死ぬしかないのか。
取り敢えず、クラスの皆の姿位は目に焼き付けておこう。
多分、俺は終わりだ。
「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください…測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」
俺は測定しても意味が無い。
俺だけ自分のスキルやジョブが無いからだ。
だが、他の人とどの位力の差があるか…知る為に様子位は見た方が良いだろう。
無能
その後すぐに水晶による能力測定の儀式が始まった。
これは異世界から召喚した者たちのスキルとジョブ、能力が見て取れるものだそうだ。
俺は一番後ろに並んだ。
どうせ何も貰えていない。
何も変わって無い事は解っている。
測定を終えた皆は、はしゃいでいた。
「僕は白魔法使いだった、しかも白魔法のジョブがあったんだこれアタリじゃないかな?」
「私も魔導士だった、最初から土魔法と火魔法が使えるみたい」
「いいなぁ私は魔法使いだって、どう見ても魔導士より下よね、魔法も火魔法しか無いんだもの」
そうか、てっきりみんな自分のジョブやスキルは解っていると思っていたんだけど、何を貰ったのかここに来るまで解らなかったんだ…測定して初めて解るのか
「気にする事はありませんよ! この世界では魔法使いになるには沢山の修行をして初めてなれるのです。魔法使いでも充分に凄い事です。」
「本当? 良かった!」
会話を聞く限り、魔法使いや騎士等が多いみたいだが、それでもハズレではなくこの世界で充分に凄いジョブらしい。
そしてアタリが恐らく、魔導士とかなのだろうか、そう考えると大当たりは勇者、聖女辺りの様な気がする。
実際には、聞き耳を立てて聞いている限りでは、凄いと思えるようなジョブは今の所「魔導士」位しかでて無さそうだった。
「やった、私、大魔道だってさ、魔法も最初から4つもあるよ..当たりかなこれは」
どうやら魔法を使う、最高のジョブは大魔道かな、そうすると魔導士は中アタリだな、大アタリは 勇者、聖女、大魔道、大賢者当たりだろう。大魔道のジョブを引いた平城さんを見た時に担当の人が驚いた表情を見せていたから。
「平城さん、大魔道なんて凄いね…俺はこれからなんだけど、どれだけ凄いのか気になるから教えてくれないかな?」
「理人くん良いよ、その代わり理人君の測定が終わったら私にも見せてね、絶対だからね」
何時見ても平城さんは可愛いな。
だが、こう言う気持ちを持っていても意味が無い、こんな事なら告白位して置くべきべきだったか。
特殊な剣技を教わってはいるが、異世界で通用するとは思えないしな。
「うん、わかった」
「はい」
平城 綾子
LV 1
HP 180
MP 1800
ジョブ 大魔道 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1
「比べる人がいないから解らないけど..何だか凄そうだね」
「うん、何でも五大ジョブらしいよ!だけど、まだ他のジョブ 勇者も聖女も大賢者、聖騎士も出ていないから理人君にもチャンスはあると思う、理人君神社の跡取りだったから聖女の男版聖人とかになるんじゃないかな…そうしたら..ううんこれは後で言うよ」
「そうだね」
まぁ、俺はジョブなんて無い…俺は平城さんを見つめていた。
「うん? 私の顔をみてどうしたの? もしかして『愛の告白』かな?」
「ああっそうだな、平城さん..大好きだ。」
「ちょっと待ってよ…今の告白だよね…なんで返事待たないで行っちゃうの?冗談とかじゃないよね?『言質とったからね』」
今の様子じゃ満更じゃないのかも知れない。
だけど、聞いても意味が無いんだ。
俺は多分俺は君を幸せに出来ないからね。
◆◆◆
「これは凄い、勇者のジョブがでたぞ」
なんで勇者が大樹なんだよ。
彼奴はまるで半グレだぞ。
聖騎士が大河
大賢者が聖人
聖女が塔子。
あの女神は頭が腐っているのか?
幾らでも真面な奴がいるのに『最悪の4人』を何故選ぶんだ。
そしてとうとう俺の番になった。
「なんだ、これはまさか『無能』がいるなんてな」
理人
LV 1
HP 17
MP 14
ジョブ:無し 日本人
スキル:翻訳.
これ、少し剣道が出来る位じゃどうにもならない。
良く小説で冒険者になる。なんて話もあるがこれじゃ無理だろう。
お城で過ごす最後の夜?
異世界に来て補正が無いとこんな物なのか?
幾ら何でも低すぎないか?
理人
LV 1
HP 17
MP 14
ジョブ:無し 日本人
スキル:翻訳.
俺のステータスはこれだった。
これ以上困らすのもいけないと思い、俺の担当の人は俺を同情するように見ていた。
「まさか無能だなんて…貴方は女神でも怒らせる事をしたのですか? こんな状態の人間この世界にも居ません」
「ちなみにこのステータスだとどの位でしょうか?」
「村民や商人でもまだマシですね…10才位の子供位ですね…あと申し訳ないが」
「まだ何かあるのですか?」
「多分、この城から追い出されると思います。」
これは正しいのかも知れない。
過去を思い出せば、昔の人間の方が体が丈夫だったそんな話を聞いた。
此処が中世位だとすれば…現代人より力があるのも道理だな。
約束だ…平城さんには見せないといけない。
「平城さん、俺のステータスなんだけど…」
「あっ理人君も終わったんだね、それよりさっきの答えだけど、私も理人君が」
「ごめん、多分俺は平城さんと付き合えない」
「何で…好きだって言ったじゃない」
「俺には平城さんを守る力が無いから、俺のステータスはこれなんだ」
「嘘、冗談だよね…こんな人居ないよ」
「他の人のステータスもそんなに高いの?」
「そうだね、さっき騎士の工藤君と魔法使いの法子のステータスを見せて貰ったんだけど…こんな感じだったと思う」
工藤 祐一
LV 1
HP 200
MP 50
ジョブ 騎士 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、剣術レベル1 水魔法レベル1
坂本 典子
LV 1
HP 60
MP 190
ジョブ 魔法使い 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、火魔法レベル1 水魔法レベル1
「まさか、此処まで違いがあるなんてな…平城さん、もし俺がこの世界で生きる方法を見つけられたら、その時にもう一度告白するよ」
俺は平城さんの返事を聞かずに距離をとった。
此処まで低いなんて….もう詰んでいるな。
俺は、真面に何も出来ないだろう
その日の夜には宴が行われた。
お情けで俺も参加させてくれるそうだ。
まぁ、今日は泊まらせてくれるが、明日の午後には追い出される。
僅かなお金だけ貰って。
普通に立食形式でバイキングに近い感じだった。
幾人かのクラスメイトは貴族の方や王族の方としゃべっていたが俺は元は話す必要は無いので、ひたすら食べる方に没頭した。
俺の部屋も他の者達と同じ待遇の1人部屋だ…これは最後の情けと言う事か。
運が良い事に平城さんの近くの部屋だった。
これから先は守ってあげられない…大樹は女癖が悪いから何かしてくるかも知れない。
明日からは守れない…せめて今晩だけは守ってあげたい。
俺はそう思った。
本当に情けない…
お城で過ごす最後の夜? テラスちゃん
窓から見える月を眺めながら考えていた。
流石に女癖の悪い大樹でも、召喚されたその日の夜に問題は犯さないか。
彼奴は危ない奴で女癖が悪い。
そして、平城さんを狙っていた。
俺は傍にいれない、せめてこの国が真面な国だと信じる位しか出来ない。
だが、国王自ら大樹にこやかに話す位だ期待はできないな。
『きみ、凄いね..うん異世界に飛ばされても『日本人』で居るなんて偉い偉い!』
絶望過ぎて幻覚を見ているのか?
目の前に黒髪の美少女が浮いている。
俺が驚いているのを尻目に目の前の美少女は俺の額に額をくっつけた。
『そう君は神社の子なんだね『僕も君みたいな子は愛しいよ、うん君は我が子の様に愛おしい』』
この姿は…うちの神社に祭ってある『天照様』みたいだ。
ただ、少し若く感じるけど、どこぞの女神より神々しい。
「貴方様は天照様ですよね」
『そうとも言うけど、違うとも言えるよ…まぁ分体って所だね…テラスちゃんって呼んでね』
「テラスちゃん?天照様の分体って事は神様」
『そうね、最近頻繁に起こる『誘拐』『盗難』が気になってね見回っていたのよ』
「誘拐、盗難?」
神様が動く位の盗難、誘拐? 何が起きているんだ。
『そう、誘拐に盗難『女神がやっている事は誘拐、盗難だと思わない?』」
「そうなのですか?」
テラスちゃんは心底腹が立つ、そんな顔をした。
『良い! 人間は地球の神が造った者なのよ! そして私達を含め沢山の神々が見守っているの、それを召喚魔法で連れ去るなんて誘拐よ…また自分が優れた人間を作れないからって盗むなら盗難だわ』
たしかに、地球には沢山の神々が居る。
勿論、うちの神社にも祀られている。
それを許可なく連れ去るなら…『誘拐』に間違いない。
「確かに、その理屈なら『女神は犯罪者』ですね」
『その通り、それでね他にも地球の神から見たらね『罪深き者も多いのよ』』
罪深き者。
「『罪深き者』ですか?」
『そう罪深き者、それは『召喚されてジョブやチートを貰った者』これはもう私達にとって『救う価値が無い』クズね』
「何でそうなるのですか?」
『だってそうじゃない?『我が子の様に思い見守っていたの、にチート欲しさに女神に跪き他の世界に行ってしまう』こんなの『育ての親を捨ててお金欲しさに出ていく子供』みたいな者でしょう? 『親を捨てる子』ならせめて、親が買い与えた物を置いていくべきね、まぁ『親を捨てる子』なんて可愛くないから、もう要らないけどね』
確かに神からしたらそうだよな。
俺は神社だから詳しく無いけど…地球の創造神が造った者を盗む女神。
そして『子供の様に可愛がっていたのに、チートやジョブ欲しさに捨てていく人間』
嫌われるのは当たり前だ。
「それで俺はこれから日本に帰れるのですか」
テラスちゃんは首を横に振った。
『無理よ..だけどね貴方は異世界に居ても『日本人』なのよ、だからねちょっとした力をあげるわ』
「力ですか?」
『そう力…ちょっと待って』
そう言うとテラスちゃんはブツブツ言いだした。
一体どんな力をくれるのだろうか?
お城で過ごす最後の夜? 能力
『それでね、私からあげる利益は大きく二つ、それとは別に利用できそうな能力を3つあげる』
テラスちゃんはそう説明すると以下の能力をくれると言った。
【二つの能力】
『世界観』 異世界で不自由しないように『日本』のルール、環境を理人のみに与える。
神の権限で税金も免除。
『神の借用書』元の世界の神が与えた分だけ、回収できる。
【能力】
将門(まさかど)
? 対人スキルの運が上がる
? 勇気が湧いてくる
? 勝負する時に運があがる
道真(みちざね)
? 頭脳明晰 頭が良くなり並列思考
? 厄除け 悪霊は近寄れない
? 冤罪無効 罪を着せる事が出来なくなり、真実のみしか話せなくする
? 誠実 理人に対して誠実な対応しか出来なくなる
崇徳(すとく)
? 悪い奴が寄って来ない、理人に優しい人しか傍にいれない
? 旅行安全 旅で怪我をしない
『これでどうかな?二つの能力は私から、他の3人の能力は悪霊から神になる時に捨てた部分で良く問題が起きるから今回、何処かに捨てようと思っていたんだけど、君の力に出来そうだからあげるよ…異世界の女神なんかに惑わされなかったご褒美…ねぇ『日本人』で良かったね…あと1週間位は傍に居てあげるからね、頑張って』
「有難うございます」
『良いの、良いの、理人は神社を何時も綺麗に掃除してたし、私達の大事な子だからね』
これでどうにか生活出来そうな気がしてきた。
お城で過ごす最後の夜? 平城さんと大樹
「きゃぁーーーっ」
平城さんの声が聞こえた。
俺は急いで平城さんの部屋に駆け込んだ。
「なんだ、お前は…理人じゃないか? 誤解するなよ、俺は平城を口説いてこれから楽しもうと思っていただけだからな」
「そうよ、理人君なんで君が此処にいるの?」
そういう平城さんは自分から服を脱ごうとしていた。
可笑しい、さっき悲鳴が間違いなく聞こえた。
「だってさっき悲鳴が聞こえたから」
「あっ理人悪い、平城てめえが大きい声出すからだぞ、まぁ同意の上でする事だ問題は無いだろう」
何かが可笑しい。
平城さんは大樹が嫌いだった。
以前間に入った事もあったし、自惚れではないが『好かれている』自信もあった。
「平城さん、俺の事好きって」
「なんで、私が好きなのは大樹よ」
「もう良いだろう? お前は振られたんだ」
大樹がにやりと笑っていた。
平城さんは俺が居るのに服を脱ぐのを止めようとしない。
『騙されないで、これは勇者だけが使える『魅了』よ』
『そうか…それでどうにかならない』
『あのさぁ、あの子は異世界人よ、私達を捨てた存在、助ける義理は無いわ』
『だけど』
『ねえ理人、あの子欲しいの』
『違う、普通に戻って欲しい、そして大樹から守りたい』
『それは出来ない…貴方の物にするか、立ち去るか、その選択しかないわ』
それしか出来ないのか、それなら…
『俺の物にする』
『解かったわ、今回は私がやってあげる『神の借用書』』
時間が止まった。
何処からか声が聞こえてくる。
《平城 綾子への神の借りの精算を始める》
『精子と卵子が結合』し五体満足に産まれた。
子供の時に病気に掛かり死に掛けたのを救った。
理人と結ばれたく縁結びの神に祈った。
天満高校に入りたくて学問の神に祈った。
愛犬ぺスが死に掛けた時に近所の神社に祈った。
母親が癌になった時に神に祈った。
他にも112以上の願いを神や仏にし…その願いの手助けを神がした。
それらの対価として『身と心を払わせるもの』とする。
『よって、その所有権は理人の物になる。』
その声を最後に再び時間は動き出した。
「いつまで此処にいる気なんだ、ほら邪魔だ出て行け」
「きゃぁーーっ、なんで私服を脱ごうとしているの? 何で大樹君が..痴漢レイプ魔、死んじゃえーーっ」
平城さんは周りにある物を投げつけた。
「糞『魅了』が解けたのか、時間は幾らでもある今日の所は…」
『『神の借用書、請求バージョン』』
『あのテラスちゃん大樹は要らないよ』
『馬鹿ね…この子勇者じゃない? 理人が欲しい物もあるんじゃない? それにまた何かしでかすから物騒な物は取り上げた方が良いわ』
『確かにあるけど良いのかな』
青山 大樹
LV 1
HP 2200
MP 900
ジョブ 勇者 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、聖魔法レベル1 雷魔法レベル1 聖剣創造 魅了
『さぁ、そこから好きな物を好きなだけ貰うと良いよ? 勝手に変換されるし、あと地球の神があげた分だけしかとれないけど』
『勇者』を取り上げた→ 借証書から『暴行事件の隠蔽が上手くいくよう神に願った分が消えた』
『魅了』を取り上げた→借証書から『裏口入学がバレない様に願った分が消えた』
『聖剣創造』を取り上げた→ 『バイクで人をはねた罪がバレない様に神に祈った分が消えた』
『聖魔法』を取り上げた→『罪の隠ぺいを願った分が消えた』
『雷魔法』を取り上げた→『薬物事件がバレない様に祈った分が消えた』
『アイテム収納』を取り上げた→『バイク盗難がバレない様に祈った分が消えた』
尚、これでも1/8も回収していない。
『取り上げた能力その所有権は理人の物になる。』
再び時間は動き出した。
「糞『魅了』が解けたのか、時間は幾らでもある今日の所は許してやる、だがな、明日にはそいつはいないし、俺は勇者だ、お前は俺の物になるしかねーんだよ」
「いや、嫌、嫌――――っ」
泣きながら平城さんは物を投げつけていた。
大樹も流石に不味いと思ったのか直ぐに廊下に出て行った。
「理人くん、私を連れて行って」
まぁどうにか出来るメドがたったから良いか?
俺が黙っていると…
「理人くん、さっき好きっていったじゃない? 私も大好きだよ」
あれっなんで服を脱ぎだしているんだ。
「服は脱がないで良いから、頼むから着て」
「理人君が言うなら着るけど、理人君なら何時でもOKだからね」
「ああっ」
「必ず連れて行ってよ! 置いて行ったら探し出して許さないんだからね」
「解かった、取り敢えず寝ようか?」
「うん」
なんで枕を持ってくるんだ。
「えーと」
「何?」
平城さんは俺の部屋に来るとそのまま寝てしまった。
まぁあれだけ、散らばった部屋じゃ眠れないよな。
平城さんの部屋から毛布を持って来て、俺は横で寝る度胸が無いので床下で眠る事にした。
『テラスちゃん、今良い?』
『眠いけど少しなら良いわ』
『平城さんの性格可笑しくなってないか?』
『可笑しくないわ、身も心も理人の物だから『恋愛レベルが100』なだけよ。最もおしどり夫婦でも70位だから、好きになり始めじゃ30位だから、凄く感じるかもね』
『それって』
『ガタガタ言わないの…元から好きあっていたならこれで良いじゃない? 別に可笑しくないわ…ただ、あれが彼女の本性、好きな人にだけ見せる性格、そう思う事ね』
『わかった、それしか方法が無かったんだよな』
『そうね』
『あと、大樹から『勇者』を奪ってよかったのかな、これで魔王に対抗する手段が減ったんじゃない』
『この世界はテラスちゃんの世界じゃないからどうでも良いわ、ムカつく女神の世界だもん、滅んだって良いのよ…まぁ勇者1人居なくなった位じゃすぐに滅んだりしないから安心しなさい…それより明日は追い出されるんだから寝た方が良いわよ』
「そうですね」
俺は月を見ながら眠った。
【移り変わった後の能力】
青山 大樹
LV 1
HP 18
MP 0
ジョブ 無し 異世界人
スキル:翻訳
理人
LV 1
HP 2400
MP 860
ジョブ:英雄 日本人
スキル:翻訳.アイテム収納、術(光1 雷1) 草薙の剣召喚 魅了
※非表示の物あり
話し合い
今現在、お城では大きな騒ぎになっていた。
「私と理人君は恋人同士なんです、追い出すなら私も出ていきます」
「そんな、貴方は五大ジョブの1人です、出ていかれたら困ります」
「あなた方は生活の保障をする約束をした筈ですが『神代』も生徒の1人追い出すなんて聞いて無いですよ」
平城さんと担任の緑川とお城の責任者で言い争いをしている。
確かに国としては困るだろうな。
平城さんは五大ジョブの一つ『大魔道』魔王や魔族と戦う際に攻撃魔法を担当。
手放す事が出来ない大切な存在だもんな。
『面白いから見てる?』
テラスちゃんが俺にだけ聞こえる様に聞いて来る。
可能ならどうにかしたい。
だが、どう考えても俺に国のお偉いさんと真面に話し合う力は無い。
『もし関わりたいなら、折角だから力を試して見ようか?』
凄いな『平将門』『菅原道真』『崇徳天皇』の能力にあやかれるなんて。
悪霊だったのかも知れないが、それを浄化して今ではそれぞれが神様だ。
その時に捨てた『悪霊部分』からテラスちゃんが能力を作り出したらしい。
『それでどうすれば良いのですか?』
『こういう時は菅原道真の能力『道真』が良いわ、学問の神だし『頭脳明晰』『冤罪無効』『誠実』があればどうにかなるんじゃない?』
『そういう事ですか?』
『そう、さぁ、貴方の中の『道真』に祈りなさい』
頭が急に冴えた気がする。
俺は三人の会話に加わった。
「理人くん気にする必要は無い! 呼び出したのはこの国なんだ、君に対しても責任を負う必要はある筈だ」
「理人君、こんな場所早く出て行こう! 二人なら何処ででも大丈夫だよ!ね」
「全く『無能』の癖に…いや、よく考えたら我々が凄く悪いなぁ~うん、こちらが全面的に悪い。僕からも言ってみるが…多分無理だ~まぁ期待しないで待ってくれ」
これが恐らく道真の影響なのかも知れない。
『誠実』が働いて俺を罵る事が出来なくなって、適当な事を言って追い出そうにも『冤罪無効』が働いてこんな会話になったのかも知れない。
俺としてはどうすれば都合が良いのだろうか?
残った場合
『大河』『聖人』『塔子』にこちらか手を打てる可能性が高い。
この世界についても色々と勉強が出来る可能性もある。
だが、その反面、バレる可能性も考慮しなくてはならない。
直ぐに出て行った場合
何もバレないうちに出て行ける。 それに尽きる。
よく考えた末、俺は長居をしないで1週間位の間で出ていくのがベストなのかも知れない。
「それなら、結論が出るまで此処に俺は居た方が良いんじゃないですか? ただ、これはそちらの都合で居るのですから、居る間は皆と同じ扱いでお願いしますね」
「そうだな、そうして頂けると助かる。だが、君は『無能』だ。だから皆と同じには多分出来ない、明日からの訓練は見学で構わない」
「解りました。それで何時位までに結論は出して貰えるのでしょうか? 期間を区切らせて貰います」
「それは、私では決めかねますが、出来るだけ早目に結論を出させて頂きます」
不思議だ、自分が思った事が躊躇なく話せる。
「そうですか?ですが『出て行け』と言ったり『残れ』って言ったり、全てそちらの都合ですよね? 余りに判断が長引く様なら、平城さんを連れて勝手に出ていきますね」
「そんな」
「そんな、じゃありませんよ! この国は僅かなお金を渡して俺を捨てようとしましたよね? そんな国に対してなんで俺が考慮しなくてはならないのでしょうか?」
「そんなお前如きが…妥当な話しですね。確かにこの国はそういう国です…勝手な..いえ当たり前の事です、ですが私には権限がないのでその旨は責任をもって上に上げさせて頂きます」
可笑しな話し方になっているのは俺の能力が効いて居るからか。
やはり、期間は区切った方が良いだろう。
「3日間、3日間過ぎたら俺は平城さんを連れてこの城を出ていきます、それまでにどうするか結論を出して下さい。無論、その内容次第で決めさせて頂きます」
「解りました」
「平城さんもこれで良いかな?」
「私は理人君が良いなら、それで良いよ」
「理人、お前何だか急に大人っぽくなったな、自分の意見が言えることは素晴らしい、だが『能力が無い』のに大丈夫なのか?」
「『緑川先生、この国は『無能』な俺は必要ない』そう言っているんです。ですが平城さんが必要だからごねているだけですよ。俺はこれでも親父や爺さんにしごかれていたから『まぁ此処を出てもどうにかなります』 先生は平城さんと一緒に俺が揉めることなく此処を出て行けるように応援して下さい」
「そうだな…解った。私はその方向で応援しよう」
こうして俺たちはもう暫くこの城に居る事になった。
大樹SIDE 危ない4人
しかし、勇者って凄いな。
この能力があれば、何でもやりたい放題じゃないか?
今迄は『クズ』が俺の邪魔をしやがったがこれからは『誰も俺達』の邪魔は出来ねー。
宴の後、少し王と話したがこの世界の『勇者』はかなり優遇されるらしい。
そして、俺に次いで『剣聖の大河』『大賢者の聖人』『聖女の塔子』そして『大魔道の綾子』
のジョブがある。
この5つを五大ジョブと言うらしい。
そのうちの4人が俺達のグループで固まっている。
これで文句なんて言える奴は居ねーよな。
実際に俺が昨晩、平城を襲った事は騎士から王に報告が入ったが注意に留まった。
騎士曰く『城に居る間は出来るだけ自重して欲しい』そういう事だった。
俺が少し考えていると
「異世界人は貴重な戦力だ、離反者は少なくしたい、一か月したら皆は旅立つ予定だ『五大ジョブ』は一緒に行動する可能性が高いから、旅立った後に『好きにすれば良い』」
そう言いやがった。
つまり、城の中では自重しろ、だが旅立った後なら『自由にして良い』つまり犯そうが奴隷の様に扱おうが自由と言う事だ。
俺に恥をかかせやがって『馬鹿な女』だ5人中4人が俺の仲間、お前の味方はだれも居ねーんだよ。
飽きるまで抱いて、その後は大河か聖人にくれてやるかな。
顔が良いからってよ、えらそーにすっからこうなるんだよ。
「あと、貴族の中には『魅了』を感知するスキルを持った者が居る、そいつが反王派なのだ、今だけ自重すれば良い…旅立った勇者を止められる事はまず出来ない、魔族と戦い続ける限り『ほとんどの事は問題無い』、あと理人とかいう少年はどうしようと構わない『無能』だからな。こちらの事情で暫く城にいる『いっそうの事殺してくれた方が都合が良い』」
これ完全に俺の味方だよな。
最初から城の人間が味方ならあの時彼奴を殺して置けば良かった。
そうすればもう平城も気が変わったんじゃねーのか…
さてと、今後の計画を仲間と一緒に練ろうかね。
理人..地獄をみせてやんよ。
◆◆◆
「と言う訳で、理人については自由にいたぶって良いそうだ」
「俺、あの正義感ぶった奴凄く嫌いなのよね、面白いじゃん、彼奴剣道が得意でさぁ、気に食わない奴殴っていたら、昔竹刀持って俺を殴ってきやがったんだ。『聖騎士』のジョブ持った俺には敵わないよな? 俺に一番最初はやらしてくれない?」
「そうだな、最初の訓練は体力作りかららしいからな、魔法を使う聖人と塔子はまだ出番が無い、俺と大河でいたぶるとするか? まぁそこに加わるかどうかは自由だ」
「そうか、大樹と大河がいたぶった後なら俺でも」
「勘違いすんじゃねーよ! 聖人と塔子、彼奴は無能だからな今のお前達にも勝てねーんだ..ただ、自慢の剣道が役に立たないという事を教えてやるために、最初は俺と大河がやる。というだけだ」
「えっそれじゃ、最初から理人はいたぶり放題なんだ、なんだそれなら最初から言ってよ」
「それじゃあさぁ、いたぶって要らなくなったら私に頂戴!」
「お前あんなのが好みなの?」
「あのさぁ、あんたらだって、平城と犯りたいんだよね? 女の私からしたら理人って男版平城みたいなもんじゃんよ? 面は良いよね、性格はムカつくけどさぁ」
「そうか、女から見たらそうかもね、それで塔子ちゃんはどんな風に理人をしたい訳?」
「か弱い女の私からしたらさぁ、逆らわれたら困るからさぁ、手は肘から先は要らないし足も膝から先は要らないかな..大河、お願い!」
「えっ、それ俺がやるの? まぁやってやるけどさぁ…俺たちの中で一番危ないのお前だよな」
「大河、それは無いよ」
「「「いや、お前だ」」」
「ふんっ同じ穴のムジナの癖に」
塔子は顔は可愛いが、流石にこの性格をしているから俺でも付き合いたいとおもわねーな。
此奴は顔が良いから良く告られる。
此奴を口説いてホテルに連れ込むのは不細工でも可能なんだぜ。
犠牲さえ覚悟できたらな。
「そう、私の事好きなんだ、本当に好き?」
「はい」
「そうね、本当に好きなら『左手頂戴』くれたらね、一晩付き合ってあげるよ」
冗談でなくこういう奴なんだぜ。
多分塔子は腕を斬り落としたら冗談でなく本当に一晩、どんな不細工でも付き合ってくれるつもりがあるらしい。
『犠牲を伴わない愛なんて偽物、腕1本で大好きな人が一晩付き合ってくれるなら、差し出すのが筋よね』
こえーよな。
この試練に耐えられた奴は居ない。
その結果、塔子はいつもブチ切れて大河に頼んでフルボッコにさせる。
大河は女としてじゃなく『妹のように思っているから』手加減しない。
こんな女に好かれるなんてよ…あははははっお前本当についてねーな。
終わりだ、終わり。
訓練?
話し合いの次の日から訓練が始まった。
俺は参加しなくても良いが平城さんに何かあると困るから参加した。
「異世界の方々は確かに凄いが訓練は必要ですよ、まずはこの訓練場を20周して下さい」
本来なら勇者のジョブの能力を奪った俺は楽勝で走れるが、あえてジョブを貰ったクラスメイトから少し遅れて走った。
平城さんは俺に併せて走っている。
「大丈夫、理人くん」
「これ位ならどうにかね」
「そう、それなら頑張ろうね」
平城さんは嬉しそうだ。
「へぇ~神代、平城と付き合っているんだ! 頑張れよ」
「うん、お似合い、お似合い」
「理人と平城さん、なんかしっくりくるなぁ」
クラスメイト達は普通に話し掛けくる。
担任の緑川も同じだ。
「まぁ、こんな世界だ結婚するなら文句は言わない…頑張れよ」
こんな感じだ。
平城さんはクラスで凄くモテていた。
俺だって平城さん程じゃないけど、そこそこモテた気はする。
だが…クラスメイトの眼中に俺や平城さんは無い。
それどころか、クラスのイケメンや美少女に余り興味は無くなっている。
その理由は『異世界だからだ』
此の世界にはリアルに『エルフ』も居れば『本物の貴族令嬢』がいる。
男の多くはそれらに憧れる。
女の多くも『エルフ』に『イケメン貴族』に熱をあげている。
その為、同級生には関心を示さなくなった。
実に見事な手のひら返し、仲にはクラス公認のバカップルも…異世界に来て直ぐに別れてしまった。
物語の主人公クラスの存在に手が届くのだ、案外致し方無いのかも知れない。
今やクラスでカップルと言えるのは『俺と平城さん』だけだ。
平城さんはクラスで凄く人気があったから、厄介な事にならなくて本当によかった。
『本当に馬鹿ね、見栄えだけの良いまがい物を欲しがるなんて』
俺がそんな事を考えているとテラスちゃんの声が聞こえてきた。
『まがい物?』
『そうよ、まがい物よ! まがい物じゃ無ければ『粗悪品』ね』
『どういう事ですか?』
『そうね、説明してあげるわ、その前に何でこの世界の女神が態々地球から人間を誘拐しているか解るかな?』
『解りません』
『簡単に言うと地球の人間程優れた存在を作れないからよ』
テラスちゃんの話では、異世界の女神では『強いジョブ』に耐えられる存在を作れないのだそうだ。その為この世界の人間は『弱いジョブ』しか付与できない。
無理にこの世界の人間に強い『ジョブ』や『スキル』を与えると体が崩壊して死んでしまう。
だからこそ、異世界の神の多くは『人攫い』をせざる負えないと言う事だ。
『そういう事ですか』
『そうよ、貴方達、私達が造った人間が最高級のリムジンだとすれば、此の世界の人間は精々原付バイク位…その位価値に差があるのよ。貴方達はとんでもない長い時間を掛けて作りあげた『地球の神々』が造った最高傑作なのよ! 本当に馬鹿ね、そんな素晴らしい存在があんなガラクタと結ばれたいなんて』
確かにテラスちゃんの言い分は解かるけど..恋愛は自由だと思うな。
『まぁ、人を好きになると人間は馬鹿になるもんですよ』
『確かにそうだわね…だけど『異世界の住民』はその価値を知っているのよ! 我々の作り上げた地球人と交配させると、その一部が子供に遺伝する事をね、まぁ片側が出来損ないだから精々が3代で失われるけど..だからこそ転移者はモテるのよ』
『正に種馬』
『面白い事言うわね…その通りね』
「理人君 大丈夫! 急に黙って…」
「少し考え事していただけだよ」
「何か悩んでいたりする」
「まぁ今後の生活とかね」
「私も不安は凄くあるよ、だけど理人くんと一緒なら『幸せ』だと思う」
「俺も同じだよ」
ジョブというのは凄いな..走りながらこんなに余裕で話せるなんて。
そう言えば大樹達を警戒していたんだが…途中から居なくなった。
どうしたんだ。
騎士の力とヒーラーの憂鬱
走り込みが終わったあと騎士について剣を学ぶようだ。
「皆さんは1人を除き、すぐに我々等超えていくでしょう! ですが『基礎』だけはしっかり覚えて下さい。 どんなに素晴らしいジョブを貰っても最低限の事が出来なければ、意味を成しません。例え剣に置いて最強の『剣聖』を持っていても1週間は我々には勝てない。学ぶと言う事は絶対に必要なのです」
その1人は俺の事だろう。
だが可笑しい。
4人全員がこの場に居ない。
何か企んでいるのか。
『気になるなら様子を見てこようか?』
『良いのか!』
分体とはいえ『天照様に使い走りをさせた』なんて爺さんに知れたら、木刀で小突かれるな。
『暇だから、散歩ついでにね』
そう言うとテラスちゃんは行ってしまった。
◆◆◆
俺事、祐一は驚きを隠せない。
「ほらほらどうしました! そんな剣じゃゴブリンすら斬れませんよ」
騎士からの指導は『何処からでも掛かって来い』そんな話だった。
しかも、向こうは躱すだけで攻撃して来ないという。
確かに騎士は強いのだろう。
だが、俺にだって意地はある。
剣道部レギュラーにして剣道2段。
中学の時は全国大会で優勝した事もある。
真剣を持っての戦いじゃ勝てない『それは解かる』
だが木刀なら通じる筈だ。
だが…
「素人にしては筋が良いでしすね、ですがそんな素直な技じゃ私には通用しませんよ!」
俺の攻撃を簡単に躱した。
「嘘だろう」
「なぁ~にが『嘘だろう』ですか? これが現実です。以前の召喚者の中にも剣の経験者はいましたが、通用した者はおりません。まぁ1か月もしたら私も含んで誰も貴方に勝てないでしょうがね」
悔しくて仕方が無い。
この騎士に勝てるのは、俺の技術や腕じゃない。
女神様から貰った『ジョブ』で勝つ。
そういう事だ…俺の8年間は此処では役に立たないと言う事か。
「本当に通用しないのか?」
「しませんね『剣道』ですか? そんなのは平和な世界のお遊びでしょう? 盗賊を殺し、魔獣を斬る我々に通用するわけが無い。」
悔しくて仕方が無い。
だが言われてしまえば、もう俺には言い返せない。
『技』も『技術』も未熟だ。
悔しい…剣道が負けたんじゃない。
俺が負けたんだ。
「そろそろ、此方も攻撃しますよ」
そう言いながら騎士は平手を前にだした。
木刀すら使わないのかよ…
「幾ら何でも…えっ」
俺の木刀をかいくぐりビンタが飛んできた。
俺は思わず目を瞑ったが..実際にはビンタされず、その手は俺の首を優しく触った。
「これが実戦ならもうその首は跳ねられています」
悔しい。
此処に宮本武蔵が居れば、柳生十兵衛が居れば…そう思った。
だが、此処にそんな人物は居ない。
負けるのが悔しいんじゃない。
『剣道』を馬鹿にされても言い返せない…自分が悔しいんだ。
◆◆◆
「大樹大丈夫なの?」
「しっかりしろ!」
「本当に大丈夫かい」
最初の走り込みで俺の様子が可笑しい事に気が付いた仲間が傍の騎士に報告した為そのままヒーラーの元に連れて来られた。
可笑しな事に俺だけが真面に走り込みについていけてなかった。
あの運動が苦手が塔子にすら追いつけていない。
「ハァハァ、少し息苦しくて、足が痛いが大丈夫だ」
「運動不足からいきなり走ったので肉離れを起こしたようですね」
「ハァハァ、俺は『勇者』のジョブを持っているんだぞ、それが何故こうなるんだ」
可笑しい、どう考えても可笑しい。
幾ら何でも、これは無い。
「あははははっ、嫌だな例え勇者であっても最初は、そんな物ですよ! 多分今は騎士はおろか、衛兵にすら勝てない、まぁゴブリンには辛うじて勝てる、そんなもんですよ」
「そ、そうなのか?」
「ドラゴンだって卵から孵ったばかりなら農夫に叩き殺される。それと同じです。最も異世界の方は1か月もしたら皆さん簡単にオーガを狩れる位強くなり、特に勇者は竜種すら倒せるようになりますよ」
「本当か!そういう事は早めに行ってくれ!心配した」
「すいません、言葉足らずでした」
「それで、普通の騎士より強くなるのにどれ位掛かるんだ」
「そうですね、1週間もあれば余裕じゃないですか?」
あぶねーな。
平城の時にやりやっていたら、死んだのは俺じゃ無いか。
1週間か…理人に絡むのは1週間後だ。
「ありがとう」
「今日は念の為、このまま休んでいた方が良いでしょう。それじゃ何かありましたらまた呼んで下さい」
そう言うとヒーラーは帰っていった。
「まぁ良いんじゃないか? 理人を血祭りにあげるのはとう分様子見って事で」
「そうだよ、下手に仕掛けて玉砕より遙かに良いよ、それじゃ今日はこのままさぼっちゃいますか」
「そうだな大樹に聖人がそうするなら、俺もそうする、あんな暑い中走りたくないな、それで塔子はどうするんだ?」
「そうですね、私は苦しんでいる理人でも見てくるとしますか…無能ゆえに訓練についていけずに苦しそうにしている理人…考えただけでゾクゾクしますわね」
「うわぁ…塔子って虫とかの手足千切って遊んでいたりしそうだよね」
「聖人..そんなのは幼稚園で卒業していますよ」
「あはははっそうなんだ、うん行ってらっしゃい」
「塔子らしいな」
「ああっ塔子らしい」
「僕も大概性格悪いけど『S』という意味では塔子には負けるね」
そうか、直接手を下さななくても『無様な姿を見る』それもありか。
明日からは、無様な姿を暫くは楽しむとするか。
◆◆◆
弱りましたね…王に伝えねばなりませんが、どう説明しましょうか?
さっきは咄嗟に嘘を言いましたが…あり得ません。
あの勇者は不完全ながら『魅了』を使ったと王から聞きました。
その力を使って女性に不埒な真似をしたそうですが…それを聞いて王は凄く喜ばれていました。
確かにやった事は犯罪行為ですが『こんなに早く勇者の力が発動した』のですから喜ばしい事です。
その女の子には気の毒ですが勇者の為です。
『そのまま犠牲になって貰い、止めた無能には犠牲になって貰う』そこ迄考えていたのです。
まぁ、貴重なジョブ持ちですが『勇者』の方が優先、それに価値のない『無能』1人の犠牲ですむなら当然の事。
倫理が無い訳ではありません。
ですが、そこ迄勇者は必要なのです。
此処で問題なのは『魅了』を使ったという事です。
勇者の覚醒が遅れる事は数少ないですがあります。
ですが『魅了』を使えたと言う事は、既に勇者の力に目覚めたと言う事。
その状態の勇者が通常の走り込みにすら耐えられない等あり得ません。
最悪、心臓疾患や病持ちの『欠陥勇者』の可能性すらあります。
『折角機嫌が良かった王がまた不機嫌になりそう』ですね…
宰相殿の頭が剥げない様に祈るばかりですね。
訓練? VS騎士リチャード
俺と平城さんは端に座りながら話していた。
俺が『無能』のせいか指導騎士が居ない。
まぁ見ているだけでも『見取り稽古』と言い結構為になる。
しかし『勇者から変換されて手に入った英雄』は凄いな。
騎士の動きを見ているだけでどんどんその技術を盗んでいく。
平城さんに聞いたら、騎士の動きの意味が解らないと言っていた。
そう考えるとこれは『元から勇者』のみにあった能力なのかも知れない。
指導騎士が居ないから、平城さんに解説しながら、騎士の動きの説明をしていた。
まぁそこら辺の木の棒を持って、丁寧に動きの解説をする。
◆◆◆
暫くそうしていると、クラスメイトがへばった為に手が空いた騎士がこちらに来た。
「お前が無能の少年か? まぁ王から見ろという話があるから見てやるよ! まぁ無能の割にはさっきの走り込みもついてきていたしな、俺の名前はリチャードだ」
「神代理人です、こちらでは苗字を言わないみたいですから理人になります」
「そうか、無能の割には…まぁ良い掛かって来い」
そう言うと木刀をこちらに放り投げて寄こした。
これはあくまで練習だ。
だから、テラスちゃんからもらった能力を使ったら意味が無い。
自分の技術や技で戦わないと地力がつかない。
俺は右手で木刀を持ち左鎖骨の上に軽く載せる様に構えた。
「変な構えだな、それがお前の世界の構えか? だけどお前の仲間でそんな変な構えをした奴は居なかったぞ」
「祖父から習ったのがこれでしてね、それよりそちらは木刀を使わないのですか」
「ああっ、確かに異世界人はすぐ強くなるが、平和な世界から来たせいか、最初は、皆弱えからな避けるだけで平気さ…そうだな俺に木刀を使わせたかったら、認めさせてみる事だ」
「解りました」
平城さんが心配そうにこちらを見ている。
俺は剣だけは実は少し自信がある。
爺..いや祖父に神主になる修行の他にかなりしごかれた。
直径5センチの幾つかの杭の上で形を崩さずに剣を振るう訓練が懐かしい。
さっきの走り込みに近い事は『異世界に来る前』からしていた。
しかも階段や山道、坂で…ただペースは流石にゆっくりだったけどね。
「新当流(神道流)理人いざ参る!」
俺は祖父から教わった足さばきで一気に加速して近寄った。
狙いは胴…狙いはあたった。
がら空きの胴に綺麗に決まった。
俺の勝ちだ。
訓練だスピードこそ本気だが威力は抑えた。
だが、その直後頭にリチャードの拳が飛んできた。
咄嗟に避けたが…汚い。
真剣ならリチャードは死んでいた筈だ。
「ほら、次こい」
「待って下さい! 俺あんたから一本取りましたよね? 約束です。木刀を使って下さい」
「お前何をいっているんだ」
悔しい、俺が『無能』だからってここ迄、馬鹿にされるのか!
俺の一本を無視するのか?
「…何で」
「俺、何かしたのか? 何でそんな目で俺を見るんだ..何か誤解があったのなら聞こうじゃ無いか!」
リチャードに俺が一本取ったのに、それを無視した事を抗議した。
「成程、悪い、俺は世界が違う人間だと言う事を忘れていたよ、あれ見ろよ」
リチャードは鎧を纏った騎士を指さした。
「あれがこの世界の騎士の姿だ」
そうか、そういう事か?
騎士は鎧を着ている。
その状態で胴を打ち込んでも効くわけが無い。
「言っている意味が解りました」
「俺もお前の言っている意味が分かった、確かに鎧を着ていないなら今のでお前の勝ちだ、だがこの世界では防具を身に着けている人物の方が多い、それでだルールを決めよう、相手が蹲る一撃を与えた方が勝ちだ、勿論、木刀を俺も使う、お前に併せてスキル無しでやる、どうだ」
「お願いいします」
「さぁ、来い」
「奥義『一之太刀』」
俺は思いっきり踏み込み攻撃を仕掛ける。
相手は騎士だ…本気で打ち込む必要がある。
これは日本なら誰もが知っている剣術家、塚原卜伝の奥義だ。
家のご先祖様は新当流(神道流)の発展の為に力を貸した。
その為、ご先祖様が教わった物だ。
最も、俺は才能が無いので、そんなに多くは使えない。
リチャードは木刀で受けたが勢いは止まらない、そのまま押し込む。
そのまま肩から袈裟斬り状態に振りぬく…木刀だが俺は間違いなく斬った。
だが…リチャードは跪まずかない。
折れた木刀で俺の横っ腹を払った。
「うぐっうええええーーっ」
そのまま、俺は吐きながら、意識が遠のいていく。
「理人くんーーーっ」
平城さんの声と周りの声が聞こえてきた。
「嘘だろう…あの無能、100人隊長に一撃を加えるなんて凄い奴だ」
「スキル無しであの動きが出来るのか」
その声を最後に俺は意識を失っていった。
訓練も悪くない
目が覚めた。
此処は…えっ平城さんの顔が近い。
周りを見回すと、木の下で平城さんに膝枕された状態だった。
「あっ、理人くん目が覚めたんだね、良かった~」
「平城さん、ありがとう」
そう言って起き上がった、心配かけたみたいだな。
少し目尻に涙が溜まっていた。
横を見るとさっきの騎士リチャードが居た。
そうだ、さっき俺はリチャードと戦って負けたんだな。
「負けたんですね、ご指導有難うございました」
「ハァ~お前、それに対する嫌味か? 勝ったのはお前で俺の負けだろう? あれが真剣なら肩から腹にかけて斬られていたんだからな」
そんな訳無い。
真剣勝負なら鎧を着ていた。
その状態なら幾らあの技でも鎖骨を折るにとどまる筈だ。
それより、なんで俺もリチャードも無事なんだ。
「いや、今回の勝負は蹲った方の負けというルールでしたから、俺の負けです」
「そう、そういう事なら俺の勝ちだね、いやぁ良かった100人隊長の僕が初日に負けるわけにはいかないからね」
「100人隊長?」
「そうだよ!俺はこれでも隊長格なんだぜ、もう無能とは呼ばないよ、お前は騎士並みの力はあるぞ、もし騎士や兵士になりたいなら推薦文位は書いてあげるよ」
「有難うございます」
思ったより良い人だな。
そうだ。
「さっき、俺もリチャードさんも大怪我をした筈ですが、なんで無事なんですか?」
「ハァ~ そうか、君達の世界にはヒーラーが居ないんだったね、ヒーラーがヒール掛けてくれたからだよ。どこも何ともないだろう?」
「はい」
そうかこの世界にはヒーラーが居るんだな。
この能力は将来絶対に必要になりそうだ。
◆◆◆
「隊長、駄目ですよ! この勝負は負けです!」
「いや、ルールなら」
「貴方は指導する側、彼は教わる側ですよ、一兵卒もしくは平騎士が相打ちに持ち込んだのなら相手の勝ちでしょう」
「ああっ煩いな、解った俺の負けで良い、本当にしつこいな何が狙いなんだよ」
「認めましたね」
「認めた、認めた」
「それじゃ理人の勝ち」
「「「それでは隊長に勝った理人(くん)」」」今度は我々と模擬戦をしようか?
この三人はリチャードの部下でキール、ボブ、ルールと言うそうだ。
結局、その流れで三人とも模擬戦をする事になった。
結果はキールさんには勝ったものの、ボブには接戦の末負け。
ルールにはあっさり負けた。
本気でやるなら最後の手札を切れば勝てる可能性はあるが、それはスキルを使うのに似ているから使わない。
俺は実戦の経験は無い。
実際に戦場や狩りの場に立ったら果たして本当に戦えるのか解らない。
今は騎士相手に互角に戦える。
それだけで満足しておこう。
「俺とルールは理人に勝った、と言う事は隊長より強いってことじゃね?」
「ルールは楽勝で勝った、だけど理人は気にしないで良い。ルールは天才だから、凡人の隊長とは違う」
「貴様ら~次の訓練でしごいてやるから覚えておけ」
こんなに気の良い騎士が居るんだ…訓練も悪くないな。
◆◆◆
テラスちゃんが帰ってきた。
「あの四人最悪だわ」
顔は凄く不機嫌な顔をしていた。
『簡単に言うとあの4人は大樹が途中で走り込み中に体調が悪くなったから、そのままさぼったのよ』
確かに今の大樹じゃ普通の学生だから走り込みだけでもキツイだろうな。
『それじゃ問題は無い訳?』
『問題は大ありよ』
そこからテラスちゃんから聞いた話は胸糞が悪くなる話だった。
此処を出た後は普通に行けば4人と平城さんは一緒にパーティを組むことになる。
その後は…平城さんに酷い事をし放題に出来る。
そして俺は手足を切断しておもちゃの様にする。
そういう事らしい。
これでもテラスちゃんは多分言葉を選んで言っているようだ。
これで3人に関わらない訳にはいかない。
『無視して平城さんと出ていく』そういう選択もあるが大樹は兎も角、後の三人は実力や権力を味方につけて大きな存在になる可能性もある。此処で決着をつけておくべきだ。
北条塔子SIDE 愛しの理人様
『北条塔子 SIDE』
凄いですわ。
流石、理人様、異世界に来られて迄なんて凛々しいんでしょうか。
騎士相手に勝てるなんて本当に凄いですよ。
本当に、本当に、欲しくて、欲しくて堪りません。
異世界にくる前だったら、理人様を私の者にしてくれるなら3億円位支払っても構いませんわ。
これ割と本気ですよ?
だって私は北条財閥の娘でしたから。
理人様と一緒に暮らせるならと『屋敷』も作りましたのよ。
まぁ、俗にいう監禁屋敷です。
私のいう監禁は、違いますよ?
絨毯はペルシャ絨毯。
お風呂は態々温泉を引いて源泉かけ流し。
食事は一流シェフに作らせます。
馬鹿になられては困るのでしっかりと家庭教師による帝王学の指導。
此処までしますの。
正直言って大樹達の様に性処理道具にする訳では…あるかも知れませんが…死ぬまで一緒に居ますわ。
そうですね、お風呂だって私が入れてあげても良いのです。
大樹や大河や聖人のパチモン美男子とは違うのです。
理人様は…全てが本物なのですからね。
最も、私が北条の娘と言うのは三人も知りません。
彼等の親もそこそこの会社の社長だったりしますが…私のお父様の指先で潰せるゴミですわね。
仲良くするためにお父様の傘下グループの会社の社長の娘という肩書で付き合っています。
たかだか総資産50億の会社の社長の息子で御曹司? 笑ってしまいます。
それはさて置き…私は理人様が大好きなのです。
近づく女は…まぁ皆んな酷い目に合わせましたわ。
勿論、ただのお芝居ですが男に攫わせて『AVに出るかもう理人様に近づかないか』『東南アジアに行くかもう会わないか』その二択を迫れば大体諦めてくれます。
私は金持ちですからね『近づかない』約束をしてくれたら、相手の親と一緒に会って大体3千万のお金と小さな会社にポストをあげたら喜んで引っ越してくれましたわ。
そんな事で諦めるなら『それは私にとって理人様を愛していない』そういう事なのです。
私だったら何をされようと諦めない…そう言いきれますわ。
目玉をくり抜けば理人様が手に入るなら自ら潰しますわ。
顔を焼けば理人様が手に入るなら喜んで焼いてしまいます。
ちなみに、私は理人様がどんな状態でも愛せる自信があります。
手足が無くても平気ですわ。
そうしたら食事のお世話から下のお世話からお風呂完璧にお世話しましてよ。
◆◆◆
あれはそう小学生の頃の話です。
私は転校ゲームに嵌っていました。
転校ゲームって言うのは嫌いな人間を転校に追い込むゲームですの。
まだ私は小学3年生でしたが近隣で私に逆らえる人間はいません。
それは財閥の令嬢だからです。
どんな不良も30人からのヤクザ顔負けのボディーガードの前には屈しましたわ。
何時もの様に『転校ゲーム』をしていたら理人様がその日は来ましたのよ。
「いい加減虐めはやめようよ」
私こういう偽善者が嫌いでした。
「あらっ、貴方がだったら代わりになれば? そうしたら止めてあげるわ」
そう言ったら普通の偽善者は諦めますが…理人様は偽善者では無いので諦めませんでしたわ。
「だったら俺が身代わりになるよ」
そう言い切りました。
その日から理人様に対してこれでもかという虐めをしました。
物は取り上げ捨てて、机も席も無くしました。
こういう時に『教師もグル』って楽ですよ。
それでも理人様は屈しません。
暴走族に攫わせて袋にさせても、暴力団の事務所に連れ去っても必ず学校に来ます。
この辺りからもしかしたら私は理人様が好きになってしまったのかも知れません。
だって『どうしたら理人様が泣き喚くか』その事しか頭にないんですから。
◆◆◆
そんなある日..私は誘拐されてしまいました。
まぁお父様には敵が多いから仕方ない事です。
どうせ身代金目当てでしょうから直ぐに開放される筈です。
ですがこの時は違っていました。
「俺はよう、お前の親父に全てを奪われたんだ..だからお金目当てじゃない…お前を殺したらお前の親父は泣くだろうな…それが目当てだ」
生まれて初めて恐怖しました。
誘拐は今回で3回目ですが、今迄は『お金』ですんだのです。
ですが、今回は違います。
「た、助けて…」
「馬鹿か、助ける訳ないだろうが…」
もう人生が終わった、そう思った時、理人様が現れました。
「助けるよ」
嘘ですよね、私が死ねば虐めは終わり…それなのに助けるなんて。
しかも理人様って本当に馬鹿ですのよ。
警察も呼ばないで飛び込んできていきなり棒切れで犯人を殴りましたの。
そして、そのまま私の手を引いて逃げ出しました。
ですが、子供が殴った位じゃ大人は伸びたりしません。
怒った犯人が追いかけてきます。
「誰かーーっだれか助けてーーっ」
「誰か」
閉じ込められていた場所は倉庫でした。
運よく近くを警備員が通りかかったのですが、場所が袋小路で前には誘拐犯、手にはナイフです。しかも警備員は気が付いていません。
「僕に任せて」
そう言うと理人様は立ち向かっていきました。
「早く、逃げて..」
「ああっああーーー助けてーー」
理人様のお陰で私は無事警備員に保護されました。
そして犯人は別の警備員に捕まったのですが…私が見たのは血だらけの理人様です。
「いやぁぁぁぁーーーーっ」
「助けて、理人を助けてーーっ神様」
泣いて理人様に抱きつきました。
私が最後に理人様にあったのは病院で酸素マスクをして死んだように寝ている理人様でした。
家に帰った私は顔が変わる位迄お父様にビンタされました。
「ああっまた神代家に恩が増えてしまった、よりによって神代家の子供を虐めていたなんて」
今迄何をしても怒らなかったお父様、多分人を殺してももみ消してくれるお父様。
それが私に手を挙げるなんて..そう思い聞いてみたら理人様の一族には大きな恩があるのだそうです。
しかも神社の氏子にもなっているらしいです。
その結果…私は転校させられて理人様にはもう会わせて貰えませんでした…
そこから私は狂ってしまったのかも知れません。
『理人様が欲しくて仕方ありません』
直接会えないから探偵を雇って調べさせ盗撮して貰いました。
吐き出したガムや理人様の捨てた衣類も回収して理人さまコレクションを増やしていきました。
近づく女は全員脅して貰いました。
そして特注で1年ごとに理人さま等身大人形も作って貰いました。
その様子を見ていたお父様が…このままだと私が狂ってしまうと思ったようです。
理人様に手出ししない様に釘を刺されましたが…理人様と同じ高校に入れてくれました。
こうして私と理人様の運命が再び動き出したのです。
そして異世界にまで一緒にきました。
これは運命ですよね….
さぁどうやって理人様と仲良くなろうかしら?
此処にはお父様もいないし…何でも出来ますよね。
異世界人と大河の悪意
俺には一つ心配事があった。
それは水晶による能力測定の儀が再度行われる事だ。
もし、再度行われれば大樹からジョブやスキルが無くなった事が解かる。
だから、それとなく遠回しに情報を集めてみる事にした。
「あははっ、確かに理人からしたらもう一度調べ直して欲しいよな! だけど、あれは態々教会から貴重な水晶を持ってきて貰って行ってもらっているんだ。城での再チェックは無いな。もし調べたいなら、此処を出た後に簡易的な物なら冒険者ギルド、同じ位細かく調べたいなら教会だな、だが結構高いからそう頻繁に出来る物じゃないな」
「そうそう、騎士だから自分を知る為にやるべきだけど安月給だから1年に一回が限界だな」
これでひとまず安心だ。
恐らく、此処を出るまで再度のチェックが行われる事は無さそうだ。
ただ『大樹』の状態が可笑しいから、万が一はあるかも知れない。
一応は警戒しておいた方が良いだろう。
◆◆◆
大樹はあれから理屈をつけて訓練をさぼっている。
まぁ、あの状態じゃ訓練なんて出来んな。
テラスちゃんが傍に居てくれるのは残り6日間。
直接じゃないが、完全に彼奴らは何しでかすか解らない。
手を早めにうった方が良いだろう。
大河、塔子、聖人…
今の所、魔術関係は座学しかやっていない。
そろそろ何か仕掛けてくるとしたら『大河』だろう。
◆◆◆
リチャードの言っていたことは本当だった。
同級生はメキメキとその実力を伸ばしてきて、騎士相手に善戦する者が現れた。
そして、その中で余裕で騎士を制圧しているのが大河だった。
◆◆◆大河SIDE◆◆◆
「なんだ、こいつ等、1週間は様子を見るつもりだったが、2日で充分だったな、最早こいつ等雑魚じゃん」
大樹の奴は様子が可笑しい。
聖人は理人が怖いらしく行動を起こすのに積極的じゃねぇ。
塔子は何故か理人ばかり見ているしムカつくわ。
どうなっているんだ、こいつ等よ。
俺の親友の大樹はどうなっているんだ…
『俺より狡猾で』『俺より残酷で』そして『俺達にだけ優しい悪のカリスマの様な奴』それが大樹だった。
俺が唯一親友と認める男。
彼奴となら、何でも出来ると思える『唯一の同類』それが大樹だ。
だが、大樹が何処にもいねーんだ。
今の彼奴は『大樹』の皮を被った、ただのクズにしか思えねー。
早く元に戻ってくれよ!
さもないと『俺は孤独』で寂しいんだよ。
本当に詰まらねーよ。
まぁ良いや…お前が本調子じゃねーなら、俺が理人を潰しておくよ。
◆◆◆
理人の奴の能力は、リチャードとか言う騎士の隊長と同格。
いや『リチャード』の方が上だったと塔子が言っていた。
なら此奴を俺が楽に倒せれば…理人は敵じゃねー事になる。
まぁ、今の俺の前じゃ騎士なんぞ、おもちゃだからな…倒すのは簡単だろう。
もし負けそうになれば『俺はギブアップ』すれば良い。
『勝てる様なら』その時は、此奴を潰しておくのも良いかも知れねーな。
此奴を潰して置けば、あのすました理人もよ…案外泣くかもしれねーし。
戦う選択しかない
「おい大河いい加減にしろ! 貴様狂っているのかーーーっ」
俺と平城さんは座学が終わり、訓練場に行くと、そこには血塗れの大河が立っていた。
その周りには沢山の大怪我している騎士が居る…いや横たわっている。
「理人熱くなるなよ! 良いか俺たちは魔族と戦いやがて魔王と戦うんだぜ! お前みたいな無能と違ってな…この城を出たら『命懸け』なんだよ!お前みたいなお遊びじゃないんだ」
「だが、此処まではやり過ぎだ…流石に手足まで斬る事は無いだろうが..この状態じゃ」
「ああっ騎士として終わりだな! だが、この程度で終わるような奴は俺は要らない!」
周りの人間の様子が可笑しい。
緑川先生が傍に居たから頼ってみた。
召喚された我々の責任者は緑川先生だ、担任でもあった先生に頼るべきだろう。
「緑川先生はそれで良いんですか?自分の生徒がこんな事していて恥ずかしく無いんですか?」
「俺を巻き込むな…」
今、何て言ったんだ、凄くか細い声で聞き取れなかった。
「先生?」
「俺を巻き込むなって言っているんだ! この無能がーーーっ、此処は日本じゃなければ高校でも無いんだーーっ。俺はお前達の教師じゃない。ただの人間なんだぞ、人に頼るなよ! 自分で何でも解決しろよ!」
どうしたと言うんだ?
緑川先生がこんな事を言う何て信じられない。
「先生」
「もう先生と呼ばないでくれ…」
そう言うと緑川先生はその場から立ち去ってしまった。
周りを見ると皆が目を伏せた。
何があったのか解らない。
だが、誰もこの状況で動こうとしない。
俺は騎士達に近づいた。
良かった、死んではいない。
死んではいないが…全員が大怪我していた。
そして、その騎士の中にリチャードが居た。
「リチャードーーーーっ」
「よう、理人か…あはははっ負けちまった」
「もう喋るな…いまヒーラーを呼んでくる」
俺がみたリチャードは右腕、左足が無かった…しかも長かった髪も切られていて顔に傷があった。
「ああっ」
リチャードはそのまま意識を失った。
「平城さん、今直ぐヒーラーを呼びに行こう」
「うん」
平城さんの手を取りその場から離れようとしたが…
「おっと、理人此処は戦場と同じだ…此処を通りたかったら俺を倒して行くんだな」
「そうか…解ったよ、お前を倒せば行っていんだな!」
「倒せるならな」
「そうか解ったよ」
「おい、工藤..今から俺は理人と決闘をする、此奴が逃げない様に平城を押さえつけておけ」
「いやぁぁぁ工藤君、何するの?」
「工藤、お前どうしたんだよ? 何で大河に従うんだよ、お前はそんな奴じゃ」
「すまない..本当にすまない..」
「お前、何を言っているんだ」
工藤は剣道部で正義感が強い男だった。
それが何でこんな奴に従うんだ。
「すまない…」
俺と工藤の会話を聞きながら、大河は大笑いをする。
「あははははっもうこの城には同級生も含んで、お前の味方は誰もいねーよ」
一体何が起きたんだ。
だが、これで戦わないという選択は俺には取れなくなった。
彼等に何が起きたのか。
【時は少し遡る】
「リチャードさん」
「君は剣聖の…」
「はい大河と申します」
これが剣聖のジョブを持つ少年か、なかなか礼儀正しそうじゃ無いか。
「それで剣聖の君が俺になにか用事があるのかな?」
「はい、今迄騎士の方と練習していたのですが、最早私の相手にならないのです。リチャードさんは100人隊長と聞きましたので、一手御指南頂ければと思いまして」
確かに周りを見ると6名の騎士がへばっていた。
「そうか、ならば相手をしよう」
俺がそう言うと大河は剣を放り投げてきた。
「待て、これは真剣で無いか?刃は潰れているが… まだ木刀で良いだろう?」
「いえ、木刀では感覚が鈍ると聞きました、だからこそ真剣でお願いしたいのです、お互いが寸止めにしてスキルを使わなければ、そんなに危ない事にはならないでしょう」
「それもそうだな」
此奴は剣聖だ。
これから先の人生剣を持って戦い続ける。
ならば早くから真剣に慣れたい。
当たり前だな。
「解かった、それなら大丈夫だろう? 一応真剣ではあるが刃を潰した物だしな、これなら最悪骨折ですむか」
「その通りです」
「解かった、それじゃ掛かってこい」
「行きますよ『瞬歩』『斬鉄』」
「おい待て、スキルは使わない…うがぁぁぁぁーーっ貴様卑怯だぞ」
此奴、スキルを使っただけじゃない、此奴の剣は刃がしっかりある。
油断した、俺の剣が宙に舞っている、しかも俺の右手と一緒にだ。
「ははははっ馬鹿っばーかっ、騙されてやんの!」
「ううっ貴様卑怯だぞ」
「卑怯? 俺が戦うのは魔族じゃねーのか? お前は魔族相手に卑怯とか言うのか? あん? 戦場では騙されるのが悪いんじゃねーの?」
糞っだが、此奴の言い分も最もだ。
此処が戦場なら俺は殺されている。
「ハァハァ解かった俺の負けだ」
「バーカ、馬鹿、此処は戦場だといったろうが! 戦場じゃ勝者が絶対だ! 勝ってに終わらせているんじゃねーよ..まだ終わらせるわけねーだろうが『瞬歩』」
「貴様ふざけるな…うがぁぁぁぁーーーーっ貴様、俺の足が足がーーーっ」
「はははっ騎士風情が無様だな、手も足も出ない、いや手も足も片方ないお前じゃもう騎士として終わりじゃねーか…虫けら以下だな」
そう言うと此奴は俺の頭を足で踏みつけた。
血が流れだしていて体が寒い…意識が朦朧としてきた…
「貴様、幾ら何でもやり過ぎだ、良くも隊長を」
「叩きのめしてやる」
「卑怯者、ゆるさねー」
「駄目だ、はぁはぁお前等じゃ相手にならない」
「なんだぁ騎士って言うのは虫けらの事を言うのか? あん?」
「キール、ボブ、ルールーーーーーっ」
俺の目の前には部下たちが転がっている。
全員が俺の様に手や足が無い。
急がないとくっつかなくなる。
「もう、止めてくれ」
「止めてくれじゃねーだろう?」
「ハァハァ止めて下さい」
「はん、勉強しない奴だな! こ.こ.は.戦場! 負けた奴は何をされても文句は言えねーんだよ! お前達は負け犬..俺が従う道理はねーんだ」
駄目だ、俺は死んでも良い。
だが部下たちは..もう騎士としては生きていけないだろう。
だがこいつ等の命だけは助けたい。
その為にはこうするしかない。
「助けてくれーーーっ誰か助けてくれーっ」
騎士の誇りなんて関係ない。
今の俺にはこれしかない。
「流石は虫けらだな『助けてくれ?』俺は『剣聖』止められるのは『勇者の大樹』だけだが彼奴は今いねーよ」
いや、もう一人居る。
此奴の保護者の緑川だ。
教師の言葉なら此奴も聞くはずだ。
「貴様、いったい何しているんだ、お前と言う奴は」
緑川だ、緑川が来てくれた。
これで、皆が助かる…俺は安堵からかそのまま意識を失った。
◆◆◆
「貴様、いったい何しているんだ! お前と言う奴は」
「緑川せんせい…俺は騎士を相手に訓練していただけですよ?」
「これが訓練? ふざけるな! どう見てもやりすぎだ…今直ぐヒーラーを呼んでくる」
これが俺の生徒なのか? どう見ても狂犬だ。
「はぁ~先生何言ってるんだ、ふざけんなよ」
「このままでは死んでしまう、お前だって人殺しにはなりたくないだろうが?」
「緑川よう! なんで人を殺しちゃいけねーんだ? 此処は異世界なんだぜ! これから魔族を殺そうと言うのによう、いざ実戦で殺せなかったら困るだろうがーーっ」
「大河いい加減にしないか、騎士は仲間だ、お前は敵も味方も解らないのか、これだから..」
「ぐわああああっぐへっ」
いきなり腹を殴られた。
「緑川よう…お前何時まで教師風吹かせているんだ? 『たかが上級騎士』が偉そうによ! おれは剣聖なんだぜ! お前とは格が違うんだよ!」
「ぐわっはうげえええええええええっ」
此奴躊躇なく俺を殴りやがった。
「汚ねーな、吐きやがって。此処まではおまけだ、一応俺と同じ異世界人だしよ、今迄は先公だったからな…だがその伝手で許してやるのは此処までだ。俺に文句言うなら殺すぞ」
「冗談は…よせ」
「冗談じゃねーよ、此処は日本と違って『俺を罰する警察』はねーんだよ? 理解しろ! 確かにお前を殺せば文句位はいわれるがそれだけだと思うぞ」
「そんな訳は」
「あるのは薄々解っているんだろう? 俺は剣聖なんだぜ! 俺が、俺や大樹が魔王と戦わないと言ったら困るのはこの国だ」
「…」
「その証拠によう…この国の王はよ理人を殺しても文句いわねーって言っていたらしいぜ…」
「そんな馬鹿な」
「まだ解らないのか? さっきから相当時間がたつが騎士が俺を捕らえに来ねーよな! メイドやら使用人が報告くらいするだろう? それで動かないのは見逃している、そういう事だろう?」
さっきから確かに沢山の人間がこちらを見ていた。
なかには明らかに身分の高い者もいたが何も起きない。
そう考えると此奴のいう事は嘘でも無いのだろう。
此処は異世界だ、日本とは違い命の価値にも差があって当たり前だ。
世界を救う五大ジョブの中の1人。
それに比べたら、他の人間の価値は余りに低い。
『教師』そんな肩書は此処では通用しない。
私は生徒を守るつもりで王や貴族とかなり揉めた。
これ以上揉めても何も良い事は無い。
此処までやったんだ、もう良いだろう。
『私だって自分が可愛い』それにもう教師でもないな、此処は異世界だから。
そろそろ私も保身に入らせて貰う。
「大河、君の言う通りだ、剣聖の君にはもう逆らわないよ」
「解かれば良い、緑川! 今迄の事は今回は特別に許してやるよ、但し次はねーからな!」
「解かった」
「あん?」
「解りました」
駄目だ、もうこいつ等に文句を言える存在は..いないだろう。
屈するしか無い..それが大人の生き方だ。
校長や教頭と此奴らが入れ替わっただけだ。
◆◆◆
「これで解かっただろう? 俺や大樹達は選ばれた特別な存在なんだぜ! お前等なんて生かそうが殺そうが自由だ…誰につけば良いか考えろ! まぁ考えるまでもねーけどな」
大河の勝ち誇った声がこだまする。
最終奥儀『霊剣呪振乃太刀』
平城さんを人質に取られた以上は戦うしかない。
幸い、押さえているのが工藤だ。
大樹や聖人では無い。
幾らこいつ等の仲間になったからと言っても酷い事はしないだろう。
だが、無性に腹が立った。
この場の人間は『人を殺しかねない人間の味方をした』
どんな理由があるかは知らない。
甘い汁でも約束されたのか、脅されたのかは知らない。
だが『人が怪我をして死に掛けている』その状態で『殺す側の人間の味方に付いた』
その意味が解らない訳ないだろう。
岬ちゃんは風紀委員会だった。
工藤は正義感のある男だった。
相沢さんはクラス委員だよな。
お前等は本当に此奴の味方なのか…
まだ全員がクズの仲間だとは思いたくない。
「誰か、頼むからヒーラーを呼んできてくれないか? 大河もそれ位良いだろう? 俺はお前との試合は受ける…約束したぞ」
「あー馬鹿じゃねーの? これは実戦だ『お前は仲間が死に掛けて、恋人が人質に取られたところからスタート』そういう話だ」
「誰か、ヒーラーを呼んでくれ」
平城さんは行こうとするが工藤に押さえられたうえで他の数人のクラスメイトに囲まれていた。
『テラスちゃん』
『期待しても無駄だわ、騎士達は気の毒だけど、私の世界の人間じゃないわ』
駄目だ。
「そうね、人殺しの仲間になりたく無いから、私が行ってくるわ」
嘘だろう…なんで此奴が..
「塔子…」
「なに驚いた顔しているの? 助けて欲しいんでしょう? 一生感謝しなさいね」
「塔子、手前ぇ!なに勝手な事しようとしているんだ」
「あんた馬鹿なの? あんたは剣聖、大樹は勇者、こんな雑魚は勝って当たり前なのよ! この状態で勝ってどうなる訳? 『剣聖大河』は無能相手に人質をとって周りの人間を味方につけなければ勝てない。そう見えるわね。 王様や他の貴族に馬鹿にされるわよ」
「そうか、そうだな」
「工藤、あんた達、平城を離しなよ! もう忠誠は解かったわ、ハチ公13号…ほら」
「塔子…お前」
「あらっ大河の手下になったのなら、私の手下になったのも同じだわね? 違うの?工藤? いや忠犬ハチ公13号…大河、忠犬ハチ公13号が逆らうんだけど」
「工藤プッ、あははははっ、忠犬野郎、塔子はお前と違って仲間で人間だ、言う事聞かないと躾けるぞ、離してやれ」
「…解った」
なんでだ?
口は悪いが、塔子が『助けてくれた』
「さぁ、平城、私ときな! ヒーラー呼びに行くよ」
「解かったわ」
「あははははっ! これで人質を取られたなんて言い訳はできねーな、このクズ騎士も運が良かったな、塔子のお陰で助かるんだぜ…さぁ望みは叶えたんだ逃げるなよ、無能の理人! 死ぬまでやりあおうぜ!」
そう言って大河は騎士達を蹴飛ばした。
「ああっ俺が死ぬかお前が命乞いするまでやってやるよ…場所を移すぞ」
俺はそう言うと歩き出した、とは言え100メートル近く横に移動しただけだ。
「あーあ、場所まで変えてやらないとならないのか? 雑魚は注文が多くて困るわ『まぁ俺は剣聖』その位融通してやる」
「そうか、あんがとよ! それでどうするんだ!」
「何時でも掛かってきな!」
大河が剣を放り投げてきた。
この剣は刃が潰してある。
これで斬れる訳は無い…此奴、自分は刃がある剣を使うんだろうな。
「それで、お前は刃がある剣を使うと? やはり卑怯だな、そうでもしなければリチャードに勝てる訳ないな」
「あはははっ、あんなクズ余裕だった。だがな、この方が『いたぶりがいがある』からそうした。それに此処は戦場だと考えたら自分の武器を持たない奴が悪い」
戦場…俺もお前もそこに立った事は無いだろう。
女神からおもちゃを貰った奴が言って良い言葉じゃない。
「戦場、それで良いんだな」
「まぁな」
幾らでも大河に勝つ方法はある。
だが、敢えて今回はそれを使わない。
リチャード達は自分の力で戦ったのだろう。
ならば、俺も今回は与えられた物、とった物でなく、騎士達の様に自分で磨いた技で戦う。
「そら、そらいくぞ…この剣が躱せるか」
躱せる。
確かにリチャードより速いな、だが剣が正直すぎる。
俺が爺じゃなく祖父から教わったのは柳の様に軽やかに躱す技。
騎士の様に受ける必要は無い『躱す』。
多分、此の世界の騎士よりこれは優れている。
まぁリチャード達は戦いの経験があるから妙なフェイントを掛けてくるから先が読みにくい。
だが、此奴は馬鹿正直だから読める。
既に5回は躱している。
「あーあっ風が涼しいな、今日は暑いから良い..えっ」
「馬鹿じゃねーの余裕こいてよー、俺の攻撃しっかり掠っているじゃねーか」
嘘だろう…この僅かな間に成長しているのか?
たった数回躱しただけで、更にスピードが上がり技術が上がる。
化け物か…
『ねぇ、ズルいよね? こうなったらこちらも』
『いやテラスちゃん…此奴は俺の能力だけでやる』
『流石に相手を舐めすぎだよ.危ないよ』
使えば数秒で片がつく。
だが、どうしても自力で勝ってみたい。
リチャード達が戦った土俵でやってみたい。
それに爺、いや祖父から学んだ剣術が異世界でも通用するのかそれを見てみたい。
危なすぎて使えない。
塚原卜伝の新当流の奥義は『一之太刀』だが、それすら完成形では無い。
そこから先の力、技が欲しくて新当流の一門はうちの神社と関わりを持つ事になった。
新当流が取り入れたのは呪術。
その呪術を取り入れた技を卜伝は完成しきれなかった。
何代か後の弟子が完成した技、それが「霊剣呪振乃太刀」。
これはあてる必要すら無い。
ただ振りだすだけで良い。
それだけで勝利が確定する、剣聖と呼ばれた卜伝の夢の剣。
これこそが日本最強の剣だ。
「ならばこちらからもいく、新当流最終奥義『霊剣呪振乃太刀』」
「何だそれは…」
俺の体が僅かに輝き、風を纏う。
そしてその風が巨大な風となり大河を襲った。
「何だこれは、うわぁぁぁぁぁぁぁぁl―――っ止めろ、止めてくれーっ俺が」
悪いがこの技は繰り出したらもう俺にも止める事は出来ない。
大河にあたった風はそのまま大河を巻き込み城壁にぶつかったが尚も止まらない。
風が止んだ時には騎士以上に大河の手足は無惨になっていた。
(※かなり作者の妄想が入っています。私も名前位しか知りませんので、すみませんがこの部分の突っ込みは許して下さい)
可笑しい、此処まで凄まじい訳は無い。
そんな、俺の困惑をよそにテラスちゃんの『さぁ回収しようか』という明るい声が聞こえてきた。
友達じゃない
『理人貴方は本当に自分を鍛え上げているわ、だけど危なかったわよ、あとレベルがあと少し上がっていたら、貴方が殺された可能性もあるわ。これからは余り危険な事はしない方が良い。私が一緒に居られるのはあと僅かなのだからね』
『解かった、もうしない』
『賢明ね、さぁ今回は自分でやってみなさい』
『『神の借用書、請求バージョン』』
大河と俺のステータス画面が現れた。
此処からは欲しい物を俺に持ってくれば良いんだな。
赤城 大河
LV 3
HP 5600
MP 540
ジョブ 剣聖 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、剣術レベル20(剣技は剣術に含む) 防御術レベル12(防御技は防御術に含む)
『剣聖』を取り上げた→ 借証書から『傷害事件の隠蔽が上手くいくよう神に願った分が消えた』
『剣術』を取り上げた→借証書から『放火がバレない様に神に願った分が消えた』
『防御術』を取り上げた→ 『軟禁がバレない様に神に祈った分が消えた』
尚、これでも1/9も回収していない。
赤城 大河
LV 3
HP 54
MP 0
ジョブ 無し 異世界人
スキル:翻訳 アイテム収納
神代理人
LV 4
HP 8400
MP 1400
ジョブ:英雄 剣聖 日本人
スキル:翻訳.アイテム収納、術(光1 雷1)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了
※非表示の物あり
『可笑しいな、剣術、防御術は何故…勇者である大樹には無かったんだ』
『それは、剣聖独特のスキルだからね、まぁそれがあれば上達しやすいそれだけの物。異世界人、私達からみた元日本人はそんな物なくても強くなれる。補正が働いて更に上達が早い。そんな感じのものかしら? 実際に理人はそんな物持って無くても、此処まで強くなっているじゃない』
確かに俺は無能だったが、少しは剣が使えた。
『そういう物ですか?』
『そう言う物よ、あとは見ての通りレベルは相手が鍛えた結果だから奪えない、奪った時点で見ての通りスキルレベル0からスタートになる』
『そういう事ですか?』
『多分ね! 異世界の糞女神のスキルなんて余り詳しくない…絶対に合っているなんて保証は出来ないわ』
確かに同じ神とはいえ全部は知らなくても可笑しくない。
『確かに全部は解りませんよね』
『そうよ、あと理人、もう少し自分の能力を旨く使いなさい』
『どういう事でしょうか?』
『だって、戦いは自分の力で戦いたいのは解かるわ。だけど『道真』を使えば、貴方に対して誠実な対応しか出来なくなるから、通りすがりの貴族やその他の人がヒーラーを呼びに行ったと思うわ。貴方の強みは相手から能力を奪うだけじゃない。寧ろ【能力】にあるのよ!熱くならないで冷静に考えて行動する事』
『面目ないです』
『解れば良いわ…私は心配性なのよ、あと二人は危ないから早目に手を打つ事をお勧めするわ! 後のクラスメイトは任せるわ』
『任せるって』
『もう私の子じゃないもの、家族で言うなら親を足蹴にして他の家の子を選んだ感じに近いかな。』
『それは地球の神様の庇護下に居ない、そういう事ですか?』
『そういう事ね!『自分達が私達に残酷な事をした』なんて事に気がつかないで生きていくのでしょうね。知らなかった、気が付かなかったとは言え『捨てたという罪は』消えないわ、だけど彼らはその贖罪をする事は無い。だってもう私達の管轄じゃ無いからね』
これは最早よその家の子だから関われない。そういう事か!
『確かに此処は異世界、日本でも地球でも無いですからね』
『そうね、彼等はこれから困った事が起きた時に『私達ではなく』この世界の女神に祈って生きていくのでしょうね…だから彼等との関係は貴方に任せるわ、見捨てるもよし、助けてあげるもよし。 だけど、彼等はもう死んでも地球には帰って来れない。この世界で死んだ時に地球から迎えに来るのは貴方だけだわ。まぁその方が彼等も幸せよ』
『なんででしょうか?』
『万が一奇跡が起きて戻ってきてもどの神もご利益を与えないから自力で生きていくだけの人生が待っているし、死んだ後は神を捨てた罪の清算が待っているわ。このまま戻らないのがきっと幸せでしょうね』
そういうテラスちゃんの目は少し寂しそうに見えた。
きっと神様であるテラスちゃんも色々な葛藤があるのかも知れない。
俺も考えなければならない。
だが『傷つけ殺す側の味方』になった事を俺は忘れる事が出来ない。
◆◆◆
大河はすぐに駆けつけてきた騎士がヒーラーの元に連れて行った。
俺としては大河より先にリチャード達を運んでいって貰いたかったが言っても無駄だろう。
リチャード達を運んでいく騎士達が俺に敬礼をしていった。
『剣聖である大河』を倒した相手にお礼は言いにくいから彼等なりのお礼なのだろう。
「神代くん」
「理人」
「良いよ、どうせ大河に脅かされたんだろう?」
冷静に考えてみれば、緑川もこいつ等も顔色が悪かった。
「それじゃ俺を許してくれるのか」
「ごめんなさい」
頭じゃ理解は出来ている。
だが、俺の気持ちが拒絶する。
此奴らが謝っているのは俺が勝ったからだ。
もし俺が負けて居たら大河の手下として俺や平城さんに酷い事をしたに違いない。
虐めとは、そういう物だ。
「許す? 何故そんな事を言うんだ!別にお前達は友達じゃないから気にするなよ! 大樹や大河の仲間なんだから仕方ないさ…俺はお前達に積極的に何かするつもりはない、だからお前達も俺達に関わるな..それで良いじゃ無いかなぁ」
「理人、俺は違う…」
「工藤、違わない、お前は平城さんを押さえつけた、俺が負けたらどうしたんだ! 平城さんがどういう目に合うか知らないとは言わせない」
「俺は、俺はそんなつもりは」
「どうでも良い! お前達に何もしない、これでも我慢しているんだ、頼むから消えてくれ」
蜘蛛の子を散らす様に元同級生は去っていった。
俺の近くには平城さんと塔子が黙って立っていた。
◆◆◆
なんで塔子が俺の味方をしてくれたか解らない。
口は悪いが助けられた事実は間違いない。
「塔子ありがとうな!」
ちゃんとお礼位言うべきだ。
「別に良いわ、あんな馬鹿な事されたら困るのは私達だからね」
「それでもありがとう」
此奴は案外悪い奴じゃ無いのかも知れない。
平城さんが再び捕らえられない様に連れ出してくれたし、他の誰もが動かない中でヒーラーを呼びに行ってくれた。
結局、駆けつけてきた騎士は大河を連れていったけどな。
「なら、貸し一つで良いよね」
確かに此れは借りだな。
「解かった、今度、塔子が俺に頼みたい事があったら言ってくれ、余程の事じゃない限り手を貸すよ」
「絶対ですからね!」
なんであんなに嬉しそうなんだ…
塔子って案外良い奴なのかな?
「痛いっ」
いきなり平城さんに足を踏まれた。
「今、理人くん鼻の下が伸びていたよ」
「そんな事無いよ」
「そう? なら良いけどね」
なんで機嫌が悪いんだろう。
わからないな。
王と…
王様に呼び出された。
不味い事になったな。
『無能』の筈の俺が騎士に勝った。
この位ならまだ何とか誤魔化せたのかも知れない。
大樹の事はただの撃退ですむ。
だが、今回のは少し違う。
いやかなりだな。
無能が、剣聖を倒した、どうすれば良いんだ…うん?待てよ!
俺別に『異世界で得た能力』使って倒した訳じゃないよな…
不味い部分を隠して、普通に話せば良いだけじゃ無いか。
よく考えれば、俺には『道真』様のご利益がある。
頭脳明晰、冤罪無効、誠実、問題無く乗り切れそうだ。
俺は『道真』様に祈り、謁見室へと向かった。
◆◆◆
凄いな、今迄も凄いと思っていたが、此処は本当に凄い。
煌めくシャンデリアにフカフカの絨毯、正に豪華絢爛だ。
傍の騎士が跪いた。
俺も併せて跪いた方が良いだろうか?
「エルド六世様には」
どう挨拶すればよいんだろうか?
「よいよい、気にする必要は無い、他から来たのじゃこちらの作法を知らんでも仕方ない、のうマリン」
「はい、お父さま」
「そう言って頂けると助かります」
「更に言うなら跪まずかないでも良いぞ」
「畏まりました」
そう言うと俺はたった。
多分、これは『道真様』のご利益だ。
そうで無ければ剣聖に大怪我させた俺にこんな対応してくれるわけが無い。
「率直に聞く、何故お主は『無能』なのに剣聖である大河を倒せたのじゃ」
多分聞かれるのはこれだと思っていた。
「それは俺が、剣を習っていたからです」
「確かにそうであろうが、お主以外にも剣を習っていた者も居たと聞くが、召喚された当初は騎士にも敵わなかったと聞く。何故お主だけが騎士に通用しあまつさえ剣聖すら倒し得たのだ…そこを教えてくれ」
「これは我が家の秘伝です。そして私はこの城を追い出される身、おいそれと教える訳にはいきません」
顔が引きつっている。
恐らく『道真様』のご利益が無ければ怒鳴られるのだろう。
凄いな『冤罪無効』に『誠実』。
「ならば取引といこう、対価を払おうでは無いか」
「それならば、城を出ていく際に平民が1年暮らせる金額と身分証明をくれませんか? あと当人が納得したなら私と仲間になる事の許可を下さい」
恐らくこの位が限界だろう、前の部分は兎も角、後半部分は厳しいかも知れないな。
「後半分は『大魔道の子』か?」
「そうです。ただ言わして頂ければ、私達はそちらの勝手で召喚さえたのですから自由な筈です。好きな者同士仲間を組む権利はあると思いますが、如何でしょうか? それに先日、勇者である大樹が、彼女にどんな事しようとしたか、もうお聞きと思いますが?」
俺に『道真様』の利益がある以上嘘は言えないだろう。
誠実な対応になる筈だ。
「確かに聞いておる。解かったその話は飲もうじゃないか? それでお主のその強さの理由を教えてくれぬか?」
「そうですね、お話ししましょう。王様の知っている最強の剣士は誰ですか?」
「何か意味があるのか? 剣聖ジェイクだ、その太刀筋は魔王すら斬ったと聞く」
「もし、その剣聖ジェイクがその剣技を伝えて使える人物が居たらどうでしょうか?」
「かなりの強者かも知れぬ…まさかお主剣聖ジェイクの生まれ変わりか?」
「違います、ですが俺の住んでいる世界にも『剣聖』がおりました。その中でも歴代最強と言われる人物が残した剣技。その一部を俺は学びました。まぁそれだけです。」
「異世界の剣聖の剣技を使える『それ故に勝てた』そういう事じゃな。」
「はい、そういう事です」
「じゃが、なんでそれはステータスに反映されなかったのだろうか?」
「それは私に聞かれても困ります。ですが剣道経験者や、それなりに鍛えた者も居るのに、それは反映されていないようですから..その辺りが何か関係があるのかも知れません」
「そうじゃな、解る訳ないか…それでじゃ、ちと願いがあるのじゃが」
「何でしょうか?」
「今現在、勇者の大樹殿は体を壊しており、剣聖の大河殿はお主と戦って重傷じゃ、果たしてどこまで治るかは解らない、そこでだ1週間後に『大賢者殿』か『聖女殿』と試合をしてくれぬか?」
「そのメリットが俺には何もありません」
「充分な戦力と解れば…他の異世界の方と同じ扱いとしよう」
「戦う相手は『大賢者の聖人』勝ったら扱いは『勇者と同等』それなら受けましょう」
「『勇者と同等』それはちと欲張り過ぎでは無いか?」
「俺は既に『剣聖』には勝っています。五大ジョブの二人目に勝てるなら、その能力は勇者と互角と見るのが妥当では無いでしょうか? なんなら、その後勇者と立ち会っても構いません」
「解かった、もしお主が『大賢者』に勝てたら、その望み叶えよう。」
こうして王との話し合いは無事終わった。
本当のクズは大河じゃない。
俺は平城さんと一緒にリチャードの所にお見舞いに来た。
「どうした、理人に、えーと」
「平城です!」
「平城さん」
見た感じは問題が無さそうに見える。
だが、先にヒーラーの人から話を聞いた所、もう騎士としては終わりだそうだ。
「リチャード…」
「お前がそんな顔をする必要は無いだろう? むしろ助けてくれたんだ礼を言う。ありがとうな」
「そんな..それでリチャードさん達はこれからどうするんですか?」
「ああっ国からしっかりと退役金も貰えたからな田舎に帰って農業でもするさ」
「それで良いのですか?」
「良いよな!」
「まぁな」
「俺もそれで良い」
「実は正直言えば、これで良かった」
リチャード達に話を聞けば『騎士爵』の爵位はそのままだし、仕事中の怪我が原因だから、退役後は年金が貰えるそうだ。
田舎に帰れば小さいけど領地があり騎士様という扱い…まぁ領主様でもあるらしい。
「まぁ、貧乏領主だがな」
リチャード達はニカッと笑っていた。
そして最後に俺に言ってきた。
「これで死なないで済むんだ、むしろありがとう」と。
なんでもリチャード達騎士は、将来的に勇者大樹達と共に魔族と戦うのが決まっていたそうだ。
魔王の城までの護衛が主な任務で『勇者達を守り、最悪盾になり死んでいく』そういう筈だった。
だが、今回大怪我をし、ヒーラーによっても治らない怪我をしたせいで、その任務から外れた。
彼等は少し体が不自由になったが、『死から免れた』のだから悪い事ばかりではないのかも知れない。
ただ、彼等の代わりに、その死の任務に就く者が居る。
そう考えると喜んでばかりも居られない。
◆◆◆
クラスの仲間モドキとは形上は許す形をとっている。
まぁ嫌な言い方をするなら大人の対応だ。
態々沢山の人間を敵に回す必要は無い。
だが『どうでも良い』そう思っているだけだ。
テラスちゃんは好きにすれば良いと前から言っていた。
よく考えた末、俺が考えた結論は『助けも求めないし、助けもしない』だ。
元から友達じゃ無かった。
そう思えば良いだけだ。
俺は幼い頃に『虐められた』過去がある。
その時に思ったのは『虐めの主犯以上にその周りの奴が許せない』それに尽きた。
『大河』以上に『緑川や工藤等のクラスメイトの方が悪人』俺はそう考える。
親父や爺さんからは『人とは弱い者なのだよ、許す心も必要だ』良く言われた。
だが、この部分だけはどうしても譲れない。
今回の事件で言うなら『悪は大河』これは間違いない。
だが、大河は恐らく自分は悪人『それが解かった上で行っている』だけ他の奴らより良い奴だと考える。
もし、あそこで俺が負けて居たらどうだ。
恐らく、平城さんは暴力を振るわれた可能性が高い。
そしてそこに彼奴らは加わった筈だ。
それが俺が勝った途端に彼奴らは…
「俺は本当はこんな事したく無かったんだ」
「ごめんね、大河くんが怖かったの」
「大河の奴許せ―ねな」
こんな事を言い出す。
これは俺が勝ったからこう言っているだけだ。
もし、俺が負けていたら…
「剣聖の大河に逆らうから悪ぃーんだよ」
「大河くんに逆らったらから、こんな目にあうんだよ」
「負け犬、平城は大河たちの後に俺達も楽しむわ」
こうなっていた可能性も高い。
平城さんが襲われかけたのは『こいつ等』も知っている。
あの時の悲鳴は俺以外でも聞いた奴は居た筈だ。
だが誰もあの場には居なかった。
これはあくまでも俺の予想だ…真実は解らない。
だが、俺の過去の経験が『そうなっても可笑しくない』そう考えさせる。
◆◆◆
あれは小学校の時だった。
『隣のクラスの女の子が虐められている』そう聞いて助けに入った事がある。
虐めていたのはトーコと呼ばれていた綺麗な子だった。
凄く可愛い子のせいか何時も取り巻きが居た。
本性は悪魔だが、俺からしたらその子はまるで天使に見えた。
今では顔すら思い出せないが『俺の初恋はそのトーコ』かも知れない。
自分にとって天使の様に思っていた子が、人を平気で傷つける人間だった。
その事を知った俺はその子に改心して貰いたかった。
本当は違う、そう思いたかったのかも知れない。
だから、彼女にこう言ったんだ。
「いい加減虐めはやめようよ」
そうしたら、彼女は「あらっ、貴方がだったら代わりになれば? そうしたら止めてあげるわ」そう返してよこした。
「だったら俺が身代わりになるよ」
俺はそう答えた。
そこからは地獄だった。
友達から教師、挙句は知らない大人まで全部が敵になった。
親友と呼んでいた奴は俺の机に彫刻刀で死ねと彫っていた。
俺の事が好きだと言っていた女の子は、俺に頭から牛乳を掛けてきた。
不良で暴走族だけど、優しかった健兄ちゃんは俺を仲間とさらってゴミ袋に突っ込んで蹴りまくった。
名前も知らない奴が態々俺のクラスにまできて教科書を破っていった。
他にも沢山ある。
生きているのが辛い。
何度校舎の屋上に立ったか解らない。
多分僅かに『生きたい』『死にたい』の天秤がずれたら飛び降りていたと思う。
最後には小学校に行くのが嫌で海の近くの倉庫街で暇を潰す様になった。
近くで暇を潰していると近所の人に見つかる。
此処なら人気が少ないから見つからない。
だが、その日は違った。
「た、助けて…」
「馬鹿か、助ける訳ないだろうが…」
トーコの声が聞こえてきた。
トーコが大人の男に押さえつけられて脅されていた。
トーコが死ねばもう虐められないで済む。
一瞬、そんな事が頭に浮かんだ。
だが、それと同時に『あの天使の様な可愛らしい笑顔』も浮かんだ。
勝手に体が動いていた。
口が勝手に言葉を吐いた。
「助けるよ」
俺は近くにあった棒切れを掴み中に入った。
すぐさま男を殴るとそのままトーコの手を掴んで走り出した。
子供じゃ大人に敵わない。
だから、大きな声を出して助けを求めながら走った。
「誰かーーっだれか助けてーーっ」
「誰か」
二人で叫びながら逃げてもなかなか他の大人に出くわさない。
ようやく、遠くに警備員を見つけた。だが、今の場所は袋小路で前には誘拐犯、手にはナイフを持っている。しかも警備員は気が付いていない。
腹を括るしかないな..
「僕に任せて」
本当に怖いけどそうトーコに言った。
振るえる声で「早く、逃げて..」と彼女を見送った。
「ああっああーーー助けてーー」
良かった、どうやら彼女は警備員の所迄辿り着いたんだ。
そう思った瞬間、お腹に凄い激痛が走った。
「いやぁぁぁぁーーーーっ」
「助けて、理人を助けてーーっ神様」
泣いているトーコの声を聞きながら俺は意識を手放した。
なんだ『優しい顔』も出来るんじゃないか…馬鹿な事を考えながら。
俺が病院でめを覚ますと母さんが居た。
「母さん」
「理人、目が覚めたのね…良かった、本当によかった」
母さんが泣いていた。
トーコは俺の傍にずうっと居たそうだ。
泣きながら『理人を助けて』そう叫んで居たそうだ。
俺の手術が成功して助かった後は『ごめんなさい』を繰り返していたらしい。
『解かったのならそれで良い』そう言いたかったけど、彼女はもう今回の件が元で転校してもう二度と会えなかった。
俺の初恋は『好きな子に虐められて、守ってあげたのに転校された』そんな何処かの漫画みたいな終わり方をした。
病院を退院して小学校に通学した。
「ごめんな、トーコが怖くてやったんだ、こんな事したくなかった」
「怖いから仕方なくやったの」
「悪気は無かったんだ」
気持ち悪い…
少なくともトーコは謝った。
こいつ等…何?
脅されてやった? 怖かったからやった?
此処までしておいてそれで済むの。
俺が死んでもそれで済ますの。
トーコよりお前達の方がゴミじゃないか。
助けるんじゃなかったよ…俺が助けてあげたのに、お前さぁ俺の机に虫の死骸いれてたよな、しかも蹴り迄いれたよな…あのまま放って置けば良かった。
お前が犬に吠えられて泣いていた時に、俺助けてあげて噛まれた事があったよな。
オバサンに一緒に謝ってあげたよな。
なのに….謝りもしないんだ。
その後、事情をしった両親は爺の元に俺を預けた。
◆◆◆
この時から俺は思う様になった。
本当にズルくて汚い奴は…強い奴について虎の威を借りるゴミだと言う事に。
だからこそ、思ってしまう…大河よりもクラスの人間がクズに思えてくるんだ。
この考えは正しいのか正しくないのか解らない。
だが、少なくとも大河の脅しに負ける奴に背中は預けられない..それだけは確かだ。
聖女パーティ
「なんで塔子が、此処にいるんだ?」
「そうですよ? 貴方は聖女でしょう? 大樹くんや大河くん、もしくは聖人くんの傍に居れば良いじゃないですか?」
「あのさぁ平城! その理屈なら貴方は大魔道でしょう? そっくりブーメランになるんじゃない」
「私は勇者チームには入りませんから関係ありません。 私がどんな目に合いそうになったか知っているでしょう?」
「普通に知らないわよ(笑)」
皆、薄々は知っている。
だが、王様が勇者の醜聞を広めたく無いから箝口令を敷いた。
だから表向きは『誰も知らない』事になっている。
「おい、本当は理由を知っているんだろう? そういうのは止めてくれないか」
「まぁ理人が言うならそうするわ」
何がなんだかわからないな。
「私は、理人くんと一緒にお城を出ると意思表示しているのよ? だけど塔子ちゃんは違うわよね」
うわぁ、平城さんがかなり怒っているのが解る。
後ろに般若が見える。
「へぇーと言う事は、此の世界を、皆を見捨てるのかな?」
「違う!」
「だけど、五大ジョブの貴方が戦わないとこの国不味いんじゃない」
「それは」
俺が知らないと思っているのかな?
「塔子、言っておくが全員一緒に戦うのでなく、パーティを組んで出ていくんだぞ! つまりはバラバラだ! だから、平城さんが大樹達のパーティに居ても助かるのは勇者パーティだけだ。つまり、平城さんが居なくて困るのは勇者パーティだけじゃないか!」
「それはそうね! だけどそれじゃ理人は大樹達なら死んでも良いと言うの?」
確かに大樹達の戦力は低下するな。
だが大樹達等…どうでも良い。
「別にどうでも良いな! 自業自得だろう? 平城さんや俺にした事を考えたら、寧ろなんで助けて貰えると思うのかな? 大樹はレイプ未遂で、大河は傷害、もしくは殺人未遂だぞ、平城さんは運が良かった。俺は運よく武道をしていた。ひとつ天秤が狂えば地獄だぞ、そんな奴助けたいと思うのか?」
「思わないわね! だけど、此の世界の人達はどうなのよ! 勇者パーティが勝たないと不味い事になるんじゃない! 見殺しにする訳」
「別に思った程困らないだろう? 聞いた話では五大ジョブが死んだら数年生れないだけで、おおよそ5年位で次の世代が生まれる。思った程酷い事にはならないと思うぞ」
「それでも沢山の人が困ると思うわ。数千もしかしたら数万の人間が死ぬかも知れない」
「死ねば良いと思うよ! 自分達の世界を守る為でしょう。俺達で無く自分達が戦うべきだ。本当の所は解らないけど、幾ら勇者が強くても騎士1万名には敵わないと思う。
なら各国から軍勢を集めて、総力戦を挑めば、本当は俺達なんて必要ない筈だ」
地球では何時も何処かで戦争が起きている。
そして沢山の人が死んでいる。
だが異世界人なんて呼ばないで自分達で解決している。
話しを挿げ替えてはいけない。
少なくとも、関係ない俺達に代わりに戦わせるのは可笑しい。
「理人…凄い事言うね」
「まぁな、俺は偶然にも女神から何も貰っていない、あの性格からしたら『翻訳』が手に入ったのは多分女神ではなく何か他の要素の筈だ…俺は神社の子だから嫌われて何も貰えずに此処に来た。何もくれなかったんだ、俺がこの世界の事を考える必要は無いだろう!」
俺はこの世界の女神から何も貰っていない。
もし、何かの要因で翻訳が手に入らなければ言葉も通じなかった。
そしてテラスちゃんに会えなければ…恐らくは平城さんは酷い目に合い。
俺は大河に殺されていた。
あんなクズに力を与え、俺に何も寄こさなかったクズ女神の国等、知ったこっちゃない。
「確かにそうね? なら平城は? 五大ジョブを私と同じで貰ったじゃない?なら戦う義務がある事になるんじゃない」
「まぁね…だが騙された挙句誘拐される様にこの世界に送り込まれたんだぞ。そんな報酬踏み倒せばよいさ。誘拐犯のいう事なんか聞く必要は無い。少なくとも俺は異世界に行くまで『戦う』なんて話は聞いて無いな。それ所か『そのまま何も与えずに異世界に送る事にしたわ…神臭いお前が悪いのよ..うふふっ地獄の様な生活が目に映るわ、無様に惨めに、皆から馬鹿にされて死んでいきなさい』と呪いの言葉みたいなこと言われたぞ!」
「私達は言われてないわ…どう、平城もそんな呪いの言葉言われた?」
「言われてない」
「そうか?魔王と戦って欲しいとか言われたのか?」
「言われたわ」
「聞いたよ」
マジか? あれ思い出してみたら緑川は『こちらの国の事情は女神様に聞きました。』
そんな事言っていた。
なんだ『俺以外は納得してきているんだ』気にする必要は無い。
しかも、この国の王女は確か『勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい』と言っていた。
思い出せば思い出す程腹が立つ。
平城さんが俺と出ていくと言わなければ…あの王女さらっと『俺にだけ約束を反故にしたぞ』
結局は、俺以外は納得してこの国に来て『約束は守られている』
ならやっぱり気にする必要は無いな。
「あははっ、そうだな俺への慰謝料代わりに平城さんは貰っていく..それで良いんじゃないか」
「だけど揉めているのよね?」
「まぁな」
「私から提案があるんだけど聞く気ある」
「塔子には借りもあるし、聞いてやるよ」
「貴方達が『聖女パーティ』つまり、この私、塔子のパーティに入るのよ」
「えーと俺と平城さんが?」
「私が」
「そうよ! 私は聖女よ! 私のいう事にはかなり譲歩する筈」
塔子の話はこうだ。
勇者大樹の平城さんにたいしてした事は『同じ女』として許せないから一緒に戦いたくない。
だから、自分と平城さんで『聖女パーティ』を作る事にした。
女二人じゃ不便だから、そこに俺を誘った。
こんな筋書きだ。
「案外うまくいくかもな? だけど塔子はそれで良いのか?あいつ等友達じゃないのか?」
「変な誤解しないで…ただの知り合いみたいな関係だから」
「そうか、平城さん。どうしようか?」
「確かにそれなら通るかも知れない…」
平城さんは俯きながら考えている。
「だけど、これを通すには理人が聖人を倒す必要があるわ…勝算はあるの?」
「どうだろう」
「兎も角頑張ってね」
「解かったよ」
こうして俺たちは塔子のパーティに入る事が半分決まった。
大樹SIDE 失われた能力
俺に一体何が起きたんだ。
平城に魅了を使った時から…急に力が失われた気がする。
勇者になった俺は、自分でも別人の様になった気がした。
元から喧嘩は強かったが『今の俺なら武闘派ヤクザ』だって瞬殺出来る。
その位迄変わっていた。
その俺が平城に魅了を使った時から、元に戻ってしまった気がする。
自分がどういう状態にあるのか知りたかった俺は『オタクの野口』と少し話しをする事にした。
「大樹くん..僕に何かようなのかい」
震えているな、俺を前にしたらこういう状態で無ければな。
「今日は俺が聞きたい事があるから呼んだんだ! 殴ったりはしないから安心しろ」
「はい」
此奴はライトノベルやアニメが好きで良く見ている。
だから色々な事に詳しい筈だ。
だから、俺は適当な話題に織り交ぜて『能力が失われる可能性』について聞いてみた。
「うん、そうだね、女神が『勇者や英雄に相応しくない』そう思った時に失われる話を読んだ事があったかな?」
「具体的には?」
「『女神様』も女だからね、女性として許せない行為の場合が多かったと思う。だけど、取り上げない話も多かったよ」
「野口、色々な話をありがとう。いっていいぞ」
「そう、なら僕はいくね」
『女性として許せない行為か』そう考えたら、あの『魅了』という能力は俺を試す為のスキルだったのか。
「チクショウ!」
俺は壁を叩いた。
俺は凄く馬鹿だったのかも知らない。
『奴隷』が普通に買える世界で、なんであんな女に手を出したんだ。
俺は勇者だ。
恐らく金だろうが女だろうが自由に出来る立場だった。
それが….こんな馬鹿な事でその資格を失ってしまった。
この能力が無くなってしまった状態が一時的な罰か、あるいわ『永遠』なのか解らない。
俺は今迄クラスの奴を力で従わせてきた。
此の世界に来て『勇者』で良かったと心から思った。
もし、俺が勇者で無くなって『無能』になったのが解ったら…不味い事になる。
大河は親友だから大丈夫だが、聖人や塔子はあっさり見捨てるに違いない。
特に聖人には知られる訳にはいかないな。
彼奴はきっと反旗を翻すに違いない。
大河SIDE 笑う大賢者
「ハァハァぜいぜい…うわぁぁぁぁぁぁ」
俺は今ベッドで寝たきり状態になっている。
理人と戦ってから俺の扱いは随分と変わってしまった。
少し前まで『剣聖様』『剣聖様』ってやたら纏わりついてきた奴らが顔を見せなくなった。
はんっ、所詮俺は使い捨てかよ!
俺がこの状態になってから塔子は顔を一切見せなくなった。
聖人から聞いた話では『理人』の所に顔をだしているそうだ。
聖人曰く『あれは完全に雌の顔をしていたね』だそうだ。
大樹は相変わらず普通に接してくれて『怪我が治ったらまたブイブイ言わせようや』と言ってくれるが…
聖人の奴….許せねー。
大樹の前じゃ、友達面しているが大樹が居なくなると突っかかって来るようになりやがった。
「大河~お前さあ、最早このまま無事に治療が終わってももう、元の様にはならねーんだってさぁ」
薄気味悪くニヤニヤ笑いやがる。
「それはどういう事だ?」
「言葉の通りだよ! 手足は千切れていて繋ぐのに相当苦労したそうだよ? それでね秘薬迄持ち出したのに元には完全に戻らないんだって、笑えるよね!」
「笑えねー」
急に聖人の態度が変わった。
「はんっ! お前さぁ、口の利き方変えた方がいいんじゃねーか?『笑えません』じゃねーのかよ」
そう言うと此奴は俺の足に蹴りを入れやがった。
「ぐわぁぁぁっ」
「教えてやるよ、おまえの手足は普通には治る。だがそれは歩けるようになるだけで、走る事や過激な運動は出来ないらしいよ? 最早無能は理人じゃなくて、お前じゃねーかな大河」
「お前」
更に此奴は今度は腕を殴りつけてきやがった。
「お前!? 大河、立場と言う物を教えてやるよ! ガラクタ剣聖よーっ あーっ、まぁ大樹の親友だから! この程度で許してやるけどよ!偉そうにすんなよ! お前はーーーっ最早役立たず、恐らくパーティからも外される負け犬くんなんだからな!」
「糞野郎..治ったら覚えていろよ!」
「バーカ、治さないから強気なんだよ! ガラクタ野郎..」
「ああっああああああっ」
「あっ、大樹に言いつけたら…殺しちゃうからな! 負け犬くん…あははははっ可笑しいくて笑いが僕止まらないな」
散々馬鹿にすると聖人は大河の部屋を後にした。
それぞれの立場 王と邪神と魔王と
「この状態をどう見ればよいのじゃ。マリンお前はどう見る」
正直言わして貰えれば、余にはどうして良いのか解らん。
『無能』が『剣聖』に勝つなど前代未聞の事。
大体騎士に勝てる『無能』など聞いた事が無い。
農民にすら勝てぬ存在の『無能』が、簡単に剣聖を倒してのけた。
あり得ぬ事じゃ。
「どう見ると言われても私も困ります、こんな話、見たことも聞いた事もありませんから」
「そうじゃな」
勇者は体調を壊したと言って一切訓練に出なくなった。
剣聖はぶっ壊れた。
ヒーラー達の話ではもう再起は無理のようじゃ。
もう戦えないという話しじゃから、商業組合に引き渡し書類仕事で一生生きて貰うしかあるまい。
もう少し真面なら城においても良かったが、ああも、騎士達から嫌われた状態では生きにくかろう。
「お父様の心痛も解りますが、理人殿に『剣聖』が再起不能にされたのも事実です。 言いたくないですが勇者も心が病んで使い者にならない。聖人殿と戦って下す様であれば適当な肩書でも与えて、塔子殿に綾子殿と一緒に『聖女パーティ』として認め送り出しては如何でしょうか?」
頭が痛い事に、塔子殿から『聖女パーティ』を組みたいと申告された。
あの馬鹿勇者がした事があるから無碍にも出来ぬ。
最悪、三人で『国を捨てる』そんな事されたら困るのは余達じゃ。
「そうだな、聖人殿との戦い次第、それで判断するしかないか」
「そうです、お父さま、更に言うなら負けた方は命も奪う必要があるかも知れません」
命を奪う…何故そうなるのじゃ、貴重な戦力だと思うが。
「マリン、何故そう考える」
「理人殿と大樹殿たちはどうやら確執があるようです。もし理人殿を主軸にする場合は禍根をたった方が良いでしょう! それに五大ジョブのうち二人が倒される事があれば『大樹殿は弱体勇者』そう見るべきでしょう」
『弱体勇者』女神が何かの事情で力が弱った時に送り出す勇者で、力が弱い。
「確かにそう見るべきかも知れぬ」
「『弱体勇者』で更に『剣聖』を失った今、実際は4大ジョブ…そのうち2人が離反しているのですから…もし、聖人殿に力が伴ってなければ…勇者の方を斬り捨てる必要があるかも知れません」
「そうじゃな」
「ですが、聖人殿は大賢者です」
「剣士の理人殿には魔法を使う相手は天敵じゃな」
「そうです、異世界には『魔法』が無いと聞きます…この戦いの生末でどうするか決めるしか無いでしょう」
「それしかないのう…まさか、この国の生末を『無能』に任せる事になるかも知れぬとはおもわなんだ」
「最早、勇者に拘る…そういう訳にいかないのかも知れません」
何故余の時に限って、この様なイレギュラーが起こるのか…
頭が痛いわ。
◆◆◆
テラスちゃんが戻ってきた。
とは言っても1日居なくなっていただけだが。
『理人、話がついたわ』
『話って何ですか?』
『実はね、私邪神ちゃんと一緒に魔王ちゃんと話して来たのよ』
『邪神..魔王が信仰する神ですか?』
『そうよ…いやぁ邪神ちゃんも魔王ちゃんも良い子よ…地球人を攫ったりしないしね、少なくとも最初から私の敵では無いし、少し話をしようと思って行ってきたのよ』
テラスちゃんにとって女神は敵だから、敵の敵である邪神側に話をしに行ってきたのだそうだ。
そうしたら『異世界転移された戦士』に凄く困っていたのだという。
勿論、魔族側の神である邪神も同じ事は出来る。
魔王からも要請が幾度もあったのだそうだ。
だが、邪神は『それは他の世界の神から誘拐する事だ』と諭したのだそうだ。
『ねぇ、凄く良い神でしょう? あの女神とは全く違うわね…それでテラスちゃん凄く気に入って話してきたのよ』
『魔王と邪神と話して来たんですか? 凄いですね』
『そうなのよ! それでね理人大ニュースがあるのよ!』
『大ニュースですか?』
テラスちゃんが手をぶんぶん振って興奮しているのが解かる。
『何と!理人は魔族と戦わない人生が約束されました~ぱちぱち』
地球から人間を召喚(テラスちゃん曰く誘拐)をしない邪神や魔王をテラスちゃんが褒めていた所から話が盛り上がったのだそうだ。
そして話題が俺の事になり、話をした所、邪神と魔王が俺の事を気に入ったそうだ。
「異世界からの戦士を無効化出来る人間、実に興味深い」
「彼が戦えば戦う程、こちらにとって厄介な存在が減る」
そういう事らしい、しかもこの世界には今回召喚されたクラスメイト以外にも沢山の異世界人が居るらしい。
『それで結局どういう事なのですか?』
『基本的に魔族は貴方と戦わない。もし魔王城に行っても歓迎してくれるし、襲って来ないわ。まぁ魔物は微妙みたいね、知能が低い存在は言う事を理解できないから戦うしかないし狩っても問題無いみたいよ。あと竜種は魔族と関係ない。知能がある存在、俗にいう『魔族』は魔王と邪神が話をして襲わない約束をとりつけたわ、だから理人も襲わない様にね…まぁ人がいるときは小芝居位はして貴方が困らない様にしてくれるみたいよ』
これは完全に魔族と手を組むそういう事だな。
『それで良いのでしょうか?』
『良いに決まっているじゃない! テラスちゃん達の敵は『女神』なんだもん。なんなら速攻で魔族に寝返って戦ってくれてもいいのよ? まぁこれでさぁ、もしこの世界が魔族の世の中になっても貴方は困らないわね、まぁ貴方が生きている間には、そこ迄ならないでしょうけどね』
『あの、魔族かどうか見分けるにはどうするんですか?』
『名乗りを上げると良いわ『我が名は理人』ってね。会話が出来るなら魔族でなく魔物でも大丈夫な可能性もある。但し、魔王が関与しない種族もあるから、その場合は戦うしかない。だけど強い種族は殆ど魔王側の種族だからまずは安心よ』
ちょっと待てよ…これじゃ俺は..人類の敵みたいじゃ無いか。
『これだと..俺人類の敵みたいですね』
『まぁ私からしたら『私を裏切った存在』『敵の女神の世界の人間』『女神』は敵だから倒してくれるとありがたい…だけどこれは強制じゃない、好きなように生きて良いわよ』
そうは言うが…行動に気をつけないとな。
『解りました、俺なりに考えて行動しようと思います』
『それで良いわ…それでね塔子と聖人の事だけどこの二人のジョブは確実に奪った方が良いわ…そうすれば魔王は貴方にきっと凄く感謝するわね、それに現状既に敵なんだから、奪わない手は無いわ』
『そうかも知れません』
『まぁ聖人とは戦うのでしょうから、その時にするとして『塔子』の方はさっさと済ませちゃいましょう…私はあと数日で貴方と離れるからそこまでに決着をつけなさい』
俺は塔子の事が解らなくなってきている。
どうすれば良いのだろうか?
『そうですね』
『気が無い返事…奪うのが嫌なら平城さんと同じ様に『貴方の物』にしても良いわ、早目に決着をつけて、私を安心させて』
『解りました』
一体自分がどうなってしまうのか…解らなくなってしまった。
塔子=トーコ
さて困った。
本当に困った。
『塔子』をどうしたらよいのだろうか?
大樹も大河もこの世界でもやりたい放題だった。
聖人もあの二人程酷くは無い物の凄く横柄で好戦的だ。
だが、塔子は違う。
元の世界で、沢山の悪い噂を聞いた。
その内容は、凄く気持ち悪い。
だが、微妙でもあるのだ。
『自分を本当に愛しているなら、体の一部を差し出せ』
これはどうだろうか?
本当に怖い女だが、これが悪い事かどうか判断が解らない。
ただの変態と取れなくもない。
例えば『指や腕を切断したけど、付き合ってくれなかった』
これなら悪人決定だ。
だけど、噂の範囲だが、塔子は『それをしさえすれば真面目に付き合う気があるそうだ』
一部では都市伝説の様に『腕一本捨てる気になれば付き合える美少女』そんな感じに噂になっていた。
本当に怖い話だ。
だが、塔子本人がそう公言している。
『それをしなければ、付き合わない』と言っている訳だ。
それなのに、ルールを破った告白をしたから大河にボコられた。
これ考えたら『男が悪い』とも取れなくもない。
簡単に言えば『ドSの変態で自分で付き合うルールを公言している、それ以外で付き合わない』と言っているのにルールを守らなかった。
それだけとも言える。
そもそも『こんなヤバイ事言っている女にルール破りで告白する男が馬鹿』ともとれる。
テラスちゃんの情報では
『あの女、凄く変態よ! 理人の事身動き取れなくして傍に置きたい…こんな事言っていたわ..正しい内容は流石に言いにくいけど』
うん、完全にド変態だ。
だが、変態だからと言って悪人と言って良いのだろうか?
例えば『幼女好きのロリコン』が居たとしても漫画やAVで我慢しているなら犯罪者じゃない。
『SM好きの変態』も監禁や誘拐をしないで本屋フーゾクで我慢しているなら犯罪じゃない。
つまり、北条塔子は『変態』であって悪い奴では無いのかも知れない。
※トーコと塔子が同一人物と理人は解っていません。
大体塔子が変態だからと言うならこのクラスの男子には同じ位の変態はいる。
少なくとも、此方の世界に来てからは『ヒーラーを呼びに行った』『平城さんを連れ出した』りして俺に対してプラスの事しかしていない。
どうした物か…
『まだ考えているの?』
『まぁね…ただ変態だからって『能力』を取り上げて良いのかなと思って』
『私から見たら『気が狂っていて危ない女』だけどね…どうして良いか解らないなら、取り敢えず見て見ればどうかな』
『解かった『神の借証書』は何回でも使えるから、試しに使ってみれば罪が解かるかも知れないな』
『そういう事よ』
俺は塔子を呼び出した。
「どうしたのか?理人、私を呼び出すなんて、聖女パーティが上手く行きそうだからお礼か何か…まぁそれは」
満面の笑みだ。
凄く罪悪感がある。
今回はお試しだ、様子見だ。
『『神の借用書、請求バージョン』』
時間が止まり、塔子と俺のステータス画面が現れた。
此処からは欲しい物を俺に持ってくればその能力が貰える。
欲しい物を『掴んでも』俺の方に持って来なければ移動はされない。
北条 塔子
LV 4
HP 3400
MP 7200
ジョブ 聖女 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、回復術レベル22(スキルは回復術に含む) 結界術レベル9(結界スキル、魔法は結界術に含む)
試しに移動してみたが…
『聖女』を取り上げた→ NG、そこ迄の物を彼女は神から貰っていない。
『回復術』を取り上げた→NG、彼女は神からそこ迄の利益は貰っていない。
『結界術』を取り上げた→NG、彼女は神からそこ迄の利益を貰っていない。
彼女は『神を信じぬ者』神に縋った事は1度しかない。
その為、取り上げる事は出来ない。
神代理人
LV 5
HP 8800
MP 1600
ジョブ:英雄 剣聖 日本人
スキル:翻訳.アイテム収納、術(光1 雷1)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了
※非表示の物あり
『可笑しい、何も移動が出来ない』
テラスちゃんが心配そうに覗いてきた。
『嘘、この子凄すぎるわ『神に殆ど祈った事が無い』』
『そんな事があり得るのですか』
『無神論者に近い…だけど『神からそこ迄の利益を貰っていない』が気になるわ。普通の『神の借用書』に切り替えてくれる』
『解りました』
《北条 塔子への神の借りの精算を始める》
『精子と卵子が結合』し五体満足に産まれた。
『理人』の命を助けて欲しいと神に祈り叶えた。
以上2点しか無い…
但し、北条塔子は既に身も心も100パーセントのうち90パーセントを理人に捧げている。
よって最後の10パーセントに以上2つの利益で充当するものとする
『理人、一旦破棄して考えよう、このままじゃ一生離れられなくなるわ』
『破棄ってどうすれば良いのですかぁ!』
それらの対価として『身と心の最後の残り10パーセントを充当する物』とする。
『よって、その所有権は理人の物になる。』
『あ~あっ駄目間に合わなかった…はぁ~理人ご愁傷様、もうこの危ない変態から逃げられないわよ』
『…』
『どうしたのよ!』
塔子は『神を信じぬ者』、無神論者に近い存在だ。
そんな塔子が何故か一度だけ祈っている。
『テラスちゃん これ→『理人』の命を助けて欲しいと神に祈り叶えた。』
『なにこれ?』
塔子の人生で一度だけ神に祈った事が俺の事?
身に覚えが無い。
『身に覚えがありません』
『これは後を引くと不味いわね、この能力は貴方には無い…少し時間停止を私の権限で延ばして、塔子の記憶を覗いてみるわね…本来はこれは余りしたく無いけど..』
暫く、テラスちゃんは黙っていた。
『そう、そういう事ね…』
『テラスちゃん、何か解かりましたか?』
『本来は余り人の過去は覗いちゃいけないのだけど…この子小さい時に貴方に助けられて凄く感謝しているわ..まぁ異常な位。 いい、おしどり夫婦ですら70なのに元から90、そこ迄貴方が好きなのよ…心当たりないかな?』
どうだろうか?
そんな存在…トーコ? 塔子。
トーコ以外にそこまで感謝されるような記憶はない。
トーコが大人になったら塔子..似ている。
『トーコ?』
『その記憶であっているわ…理人ごめん』
『何でテラスちゃんが謝るの?』
『いやぁ~ テラスちゃんは神様だから、恋の邪魔は幾ら『薄情なムカつく死んでも良い子』でも出来ないわ..頑張ってね(汗)』
『テラスちゃん?』
『あはははっよかったじゃない!『聖女』も手に入ったんだから、うんこれで安心!』
『テラスちゃん! 俺、四肢切断とか嫌ですよ』
『うん、愛されているから大丈夫 ボソッ(多分ね)』
まぁ仕方ないな、塔子があのトーコである以上。
今迄の生涯で祈ったのが『俺の為1回』なら…真摯に向かい合うしかないな。
そして時間が動き出した。
◆◆◆
「どうしたのか?理人、私を呼び出すなんて、聖女パーティが上手く行きそうだからお礼か何か…まぁそれは」
ああっ、顔が真っ赤になる、それと同時に足は少し震えている。
好きと言う気持ちと怖いという気持ちが頭の中でグルグル回りだす。
「ありがとう! これだけ伝えたくて」
それだけ伝えるとその場から俺は走る様に逃げ出した。
「待ってよ! なんなのよ」
後ろから塔子の声が聞こえてきた。
邪神と魔王とテラスちゃん(リクエスト作品)
「魔王よ!我が云った通りであろう?異世界から人等攫っても良い事など無い。」
「ははっ 誠にもって邪神様の言う通りでございます」
今日、俺はテラスという名の異世界の神の分体に会った。
彼女は『女神による自分の世界の人間の誘拐』についてかなり怒っていた。
しかし、たかが分体だと言うのに何て『神力』なんだ。
もし我が戦ったとしたら、恐らく負ける。
これが只の分体。
これの本体が存在する。
そう考えたら手を出さないで良かった。
しかも異世界にいる神は彼女一人だけでは無い..かなり沢山の神が存在し、その神々の多くが『女神』に対して怒っている。
こんな存在を怒らせて無事に済むわけが無い。
◆◆◆時は少し遡る◆◆◆
突然、我の前に異世界の女神の分体、テラスと名乗る存在が現れた。
有無を言わさずに彼女は我に聞いてきた。
「貴方達はやって無いよね?」
何の事か解らないので話を聞くと『自分の世界の人間がジョブをエサに女神に誘拐されている』そういう事だった。
ルールを破ってはいけないのだ。
人間という存在は何処の世界でも神の作った最高傑作だ。
我の場合は『魔族』がそうだが、姿形、能力は違えど人間の範疇に納まる。
最も、我や女神が造ったのではない。
その上の存在『創造神』が元を作り、我らの手で進化させてきた。
創造したのでなく進化させた我でも『我が子のように可愛い』それを奪われたのだ、怒るのは当たり前だ。
女神だってこの世界の創造神が造った『人間の管理』を任されている。
そして、その進化を任されている。
自分が強い人間を作れなかったからと言って『他の世界から攫う』のは間違えている。
そして『日本という国』の人間はこの世界の人間より『容量が大きく』強いジョブやスキルを与えても簡単に適合する。
どうしてそれに気がついたか解らない。
だが、かなり昔しから『女神は能力をエサ』にしてこちらに連れてきていた。
「それは神であればやってはいけない事だ、恥知らずな女神とは違う! 我はその様な事はしない」
「そう、それなら良いわ」
これはチャンスなのかも知れない。
忌々しい位強い『異世界人』を送り返す事が出来たら、それは魔族側にとっては良い話だ。
「もし、連れ帰りたいなら手を貸そうぞ」
「あー、要らないわね『異世界の女神のくれるジョブやスキル』に目をくらんだ奴は要らないわ、もう私の子じゃ無く、此の世界の女神の子になって居るから、理人にしても『ザクロの話しのように問題が起きるかもしれない』」
確かに神の世界は厳しい。
他の神から『何か受け取ったら』もう取り返しはつかない。
その事を自分の子じゃない。
そう言っているんだ。
また大切な存在でも『その世界の物を食しただけで『制限がかかる事』もある』
目が少し悲しそうに見えるのは当たり前だな。
「それなら、貴方はいったい何の為にこちらに来られたのですか?」
「一つはこの『世界で唯一私の子が生きられる様にする事』そしてもう一つは『二度と私達の子が奪われない様にする事』だわ…まぁ貴方達にも迷惑を掛けましたがもう二度と地球側から異世界人は召喚されなくします。それは約束しますからご安心下さい」
「それは助かります、正直言えばこちら側はかなり押されていましたから」
「そう…」
「あと一つ『この世界にいる唯一の子』というのが気になりますが」
「凄く良い子なのよ」
話しを聞くと信じられなかった。
彼女の唯一の子、理人という少年は凄く優秀で、既に『勇者』に『剣聖』を倒し、『大魔道』を味方につけたと言う事だ。
「異世界の女神よ、私が口を挟む事をお許し下さい」
「貴方は誰?」
「この世界で魔王をしておりますケスラーと申します」
「そう、魔王なのね? 良いわよ、話位は聞くわ」
「私は貴方と貴方のこの世界で唯一の子、理人殿に最大限の感謝を致します」
「何で?」
そりゃ感謝もするだろうよ。
ケスラーからすれば、五大ジョブのうち二人を倒してくれたのだ、しかも『勇者』という最強戦力の恐怖が無くなった。
残りは『聖女』『大賢者』『大魔道』そのうち『大魔道』が参戦しないのであれば、ほぼ魔族の勝利は確定している。
これで久々に領地を魔族側に増やす事が出来る。
それに何より『勇者』が居ないなら、ケスラーが死ぬ事はまず無い。
「私は『勇者達』と戦う運命にあった、そして恐らくは5人が揃った状態であれば死んだのは私の可能性が高い、その理人という少年は私の命の恩人だ」
「あっ、そういう事ね、確かにそうだわ」
「私的には何かお礼をしたい位です」
「お礼ね…そうだ理人と魔族が戦わない、そんなのはどう?」
いや、これは願ってもない話だ。
『勇者』『剣聖』すら倒せる存在、そんな強敵が戦わないでくれる。
これはお礼じゃない。
明かにこちらにとって良い話しだ。
「良い話ですな、魔族側の神として、是非お願いしたい。ケスラーお前はどうだ」
「是非とも」
「そう、本当に助かるわ、魔族が敵で無くなるならこの世界に理人を倒せるような存在はまず居ない。理人には私から伝えるから安心して」
「助かります」
その後、細かい話が行われテラスと邪神、魔王の間で理人と魔族は戦わない。
そういう約束が決まった。
◆◆◆
「ケスラー、先程の話はどうだ?」
「素晴らしい話でした『勇者』『剣聖』が既に存在しないで『大魔道』はこちらの敵にならない。その上で『それらを倒した存在』と平和的な条約を結べた。これで久々に魔王側の勝利が掴めるでしょう」
「ああっこの状態なら動かないな」
「理人殿でしたか? このまま魔王軍に寝返ってくれれば更に喜ばしいのですが」
「だが、テラスは自由にさせたい、そう言っていた」
「勧誘は自由だと思います。もし魔王軍に来て頂けるなら『四天王統括魔軍総司令官』私の次の椅子を用意しても良いかもしれません」
「確かにそれも良いな、だが勧誘して無理ならそのまま友好状態を保ち放置するのも良いかも知れないぞ」
「それは何故ですか?」
「これは感だが、案外理人という人物…人間側で一波乱起こすかも知れぬ」
こうして、邪神と魔王は理人と戦わないそういう選択をした。
※魔王や魔族側の神は魔神というお話もありますが『魔神』だと人類側の神も居るのでこの物語では『邪神』にさせて頂きました。御理解お願い致します。
内助の功 リクエスト作品
俺は何をしているんだ?
『ありがとう! これだけ伝えたくて』
あれしか頭に出なかった。
何やっているんだ俺は!
あの思い出は俺にとって訳のわからないトラウマになっていた。
自分の人生観がまるで変ってしまう位衝撃的な事だった。
虐めをする本人より取り巻きが悪い等の考えはこの時の価値観から生まれた。
もしこの時の出来事が無ければ『剣術』を習おうなんて思わなかっただろう。
変な正義感はこの時に捨てた。
もし『あの時の前』の俺なら案外クラス全員救おうと躍起になったかも知れない。
今の俺は『全ての人間を救おう』なんて思わない。
それはさておき..俺は塔子をどうすれば良いんだ。
彼奴は…本当に悔しいが俺の『初恋』の相手だ。
結構拗らせて数年好きだった。
だが、その正体は虐めを平気でするような人間だった。
そして、突然転校して居なくなった。
それから時が過ぎ、出会った塔子は大樹の仲間になっていた、気が付かなかったよ。
塔子とトーコが同じ人物だったなんて。
頭がグルグル回る。
これから俺はどうすれば良いのだろうか?
少なくとも『身も心も奪ってしまった』以上は生涯責任を持つべきだろう。
まぁ運が良い事に平城さんは『大魔道』塔子は『聖女』三人で組むなら相性は凄く良い。
だが、ハァ~どうすれば良いんだよ!
距離を置く事も出来ない、関りを持たない事も出来ない。
本当に頭がグルグル回る。
◆◆◆
「待ってよ! なんなのよ」
理人…走って行っちゃった。
一言お礼だけ言って去っていくなんて酷いわ。
元から私は理人が好きで好きで堪らない。
他の者や物なんて何も要らない位に好き。
だけど『聖女パーティ』を作ってこれからは一緒に居られる。
聖人が負けてくれればそれで願いが叶う。
そう思うと嬉しくて仕方ない。
そのせいなのかな? さっきまるで最後の1ピースが嵌ったかの様に心が理人に染まった気がした。
うん、全てを理人に捧げた気がしたのよ。
何故か解らないけど、全てが理人に染まった気がしたわ。
『それが凄く嬉しい』
本当は平城が居ない二人きりが理想だけど、あれは必要な人間だから傍に置いておいた方が良い。
此の世界で生きるなら『攻撃魔法のエキスパート』は2人の為に必要だもの。
彼奴も私と同じ危ない奴だけど、きっと同じ理人が好きな女だから折り合いはつくわね。
さてと..この気持ちは本当になんなのよ!
全てが理人で埋まっていた筈の私の心に、まだ理人で埋まっていない部分があったなんてまだ甘かったのかしら。
まぁ良いわ。
魔王の討伐なんて『何年も掛かる』事だから…その間はずうっと一緒に居られるわ。
さてと夢の実現の為に頑張らないとね。
聖女で良かったわ。
聖女は癒しのエキスパート。
その仕事には『毒などから仲間を守る』そういった仕事も含まれるのよ。
わたし『聖女』だけが習う座学に『毒』『暗殺』の授業がある。
これは回復師のジョブ持ちも受けていない。
『良いですか? この授業の内容は一切の口外を禁じます』
そう講師が断りを入れる位の物だ。
授業で聞いた話しでは五大ジョブには毒への耐性があるそうだ。
その為、通常の毒はきかない。
だが、勇者すら倒せる毒も存在する。
それは植物や生き物で『飲食して害のある毒』。
蛇の猛毒も効かない、魔物の毒霧すら効かない存在の五大ジョブに唯一効くのがこれらしいのよ。
『恐らくは食べ物や味覚の関係で境界が難しいのだと思います』
と講師が言っていた。
私は絶対に理人に負けて貰っては困るから…授業で使っている毒をこっそり盗み、聖人に盛っていた。
これも内助の功よね?
だって私はこんなにも理人を愛しているのだから『仕方ないわ』。
邪魔なんだもん、聖人が。
塔子 その想い リクエスト作品
私は北条の家の子に産まれた。
だから、神になんて祈らない。
何故なら『北条』こそが神に等しい一族。
そういう事だから。
欲しい物で手に入らない物は無い。
例えばハリウッドスターに会いたい。
そんなのは普通は夢物語で終わる。
だが、北条は違う、大体が1週間以内に向こうから会いに来る。
その位なんでも出来る。
「神になぞ祈るのは人間として二流なのだ! 北条は神、神に等しい!」
それが、おじい様の言葉だった。
事実『お父さまに出来ない事は無い』そう私は思っていました。
お父さまに愛人が何人も居たけど、その中には恋人や夫がいた存在もいましたわ。
その中には勿論お父様を拒んだ方もいます。
お父さまの愛を拒んだ方は、全てに手を回し『仕事に就けなくしました』それも彼女だけでなく家族全員に恋人まで。
その上で真面な所はお父様の権力でお金を貸さないように手を回します。
真面じゃない所はお金を貸しますが最終的にはその債権はお父様が買い取ります。
つまり、お父さまの愛を拒んだら生きていけない状態になり借金ダルマになるのです。
そしてその債権はお父様が買うから、もう『お父様の物』になるしか無いのです。
まぁ死ねば、流石に無理ですが。
酔っぱらったお父様は私に
「塔子、欲しい物があったら言うんだぞ! 人でも物でも何でも買ってやる、お前は我が娘なんだからな」
そう言っていました。
多分お父様の中では『北条』以外は人ですら無い。
そう思っている様に思えました。
こんなお父さまが『神社の氏子』をしているのが不思議でした。
おじい様は言いました『北条は神なのだ』と。
だから、私は神に祈った事は『理人』の時しかありません。
あの時だけは『北条の力』でも無理だと思ったからです。
北条の力でも死んだ者は蘇えりません。
奇跡的に助かったと聞いた時は凄く嬉しかったのを今でも覚えてます。
酸素マスクをして死んだように寝ていましたが、確かに理人様は生きていました。
その後お父様は凄く怒り、私に初めて暴力をふるいました。
生れてはじめてお父さまが私を怒りました。
私は理人の事を本気で好きになっていました。
責任をとるつもりもありました。
「傍に置いて、一生面倒をみるから、理人が欲しい」そう頼んだのです。
その結果はお父様からの更なる暴力でした。
その時お父様は初めて『神代家』について私に話されました。
神代家は由緒ある家系で古くは卑弥呼に連なる血筋であり、暗躍する事もあり表に出ないが平家や源氏すら敵わない程の血筋なのだそうです。
かなり古い時代であれば、神代家から『養子や養女』をとれば、その一族は一代栄華が保証された程らしいですわ。
「それが理人の家系なのですか」
「そうだ、俺はお前の婿に欲しいと頼んだ事があるだが『最早、神代に価値などは無い、孫の理人には自由にさせるつもりじゃよ』と断られたんだ」
「ですが、今の話では昔と違い神代家には力が無いように思えるのですが」
「実際は解らない、だが『神代』を敵にすると何故か非業の死を迎える。」
「まさか、そんな…暗殺者とかですか?」
北条に裏の顔があるのだから、理人様の所にも何か裏があっても可笑しくありません。
「それが、違うのだ、幾ら調べても『殺し』の証拠など無い、だが神代に都合の悪い人間は何故か死んでしまう。それに何故か考えられないような出来事も起こせる」
「まさか」
「それがまさかと言えないから困るのだよ。数代前の祖先が病魔に侵された。幾らお金を積もうが治せないと断られ、どんな医者も匙を投げた」
「たしか、その後、奇跡の様に病気が治ったとの事でしたわね」
「その病魔をはらったのが神代家のその時の当主だった。それ以来、北条家はお金でも権力でもどうにもできない時に『神代家』に頼るようになった」
「そんな夢みたいな事がある訳ないです」
「そうか? お前は見たでは無いか? 理人くんは死んでいた筈だ。そうじゃ無ければお前は泣かないだろう! 普段のお前なら『お金なんて幾ら掛かっても良いから、すぐに名医を連れて来なさい』『もしくはすぐに手術室1つあけて名医を確保しなさい』そう叫んだはずだ」
そうだ..私は理人が血だらけになって死んだのを確信した。
だからこそ神に祈ったんだ。
「そうですね…」
「良いか塔子、神代だけは敵にしないでくれ」
「はい…」
理人を私が敵にするわけが無い。
こんなに愛おしいんだから。
「あと悪いが、理人君には近づかないでくれ…お前は転校させる」
「何故ですか…私はこんなにも理人を愛しているんです! 理人さえくれれば他は何も望みません」
「神代家が怒っている、暫くはおとなしくしておくんだ! これは北条家当主としての命令だ!」
「わかりました」
「いいか! この際だから教えて置く、北条家が絶対に敵に回さないのが『神代家』、そして同等に扱うのが『平城家』この二つ以外ならどうとでもしてやる。この二つとは今後揉めない様に気をつけるのだ」
「『平城家』もですか?」
「そうだ『平城家』は政治家や警察、官僚を輩出している家系で我が家とは共闘関係にある。いわば盟友だ」
そんなのもあったのね。
「解りました」
理人と会えない時間が私を狂わせました。
言い寄ってくる男の子は山ほど居ます。
このままでは理人と結ばれない可能性もありましたので、少し他の男にも目を向けましたの。
もし理人と同じ土台に立てる人が居たら心が動くかもしれない。
そう思ったのです…ですが、クズばっかりでした。
好きだと告白してきた男は監禁して、取り囲んで『切腹』をお願いしましたの。
ですが、ナイフを渡すとガタガタ震えて出来ません。
本当にクズですよね?
あの幼い理人様は『私の代わりに滅多刺しにされたのに』こんなことも出来ない。
こんな人間が愛を語るなそう言いたくなります。
『嫌だ、嫌だ死にたくない』
『助けて、助けてもう近づかないから』
馬鹿です。
こんな人間に恋する資格はありません。
まぁ腹が立ちますが可哀想だから抵当にボコらせて返して差し上げました。
ですが『切腹』で死んでしまったら『私を貰える』という権利は使えないので少し低くしてあげました。
『利き腕1本斬り落としたら付き合う』という感じです。
本当に馬鹿ですね…私は条件を突き付けているのに、それ以下の告白をするクズばっかり。
ですが、それでも良いと言う方が現れました、今迄と違い、自分から私の条件を飲んだのです。
「塔子さん、好きです、付き合って下さい」
「私、結構簡単に落とせますのよ! 腕一本斬り落とせば大丈夫ですから」
「僕は塔子さんの為なら腕の一本位捧げられます」
「そう、素晴らしいわね」
そんな事言っていた癖に…
「止めろ、止めて下さいーーーっ」
折角、私の屋敷に招きましたのに。
喚いてばかりです。
約束ですから、使用人にチェンソーを用意させまして取り押さえさせました。
可哀想だから局部麻酔はしてあげましたわ。
それなのに更に泣き喚くのですから、可笑しな話ですよね。
「貴方は私に腕を捧げると言っていましたよね!さぁ頑張って下さい!これさえクリアできれば私は貴方の者ですよ」
「嫌だ、嫌だいやだーーーーーっ」
呆れました。
嘘をついたのですね、此奴もクズでした。
「言葉だけじゃなく、貴方はもう挑戦してしまったのです…館迄きて、私はシャワーも浴びていますし、受け入れる準備をしていました。貴方が愛を示せばこの後お父様に合わせる…その準備も更にしていました。ただの虫けらが北条家と繋がれる可能性へのチャンスを貰ったのです…ただではすみませんわ」
まぁ、余り惨い事はしたくないので指三本で済ませてあげましたわ。
その後は、本当に腕一本取られると解り、告白する人間は居なくなりました。
やはり私には理人しか居ません。
理人様は私の為に滅多刺しになってくれました。
あんなに勇ましくカッコ良くて『愛』を示して下さった方は他には居ません。
やはり、私には理人様しか居ない様です。
お父さまのせいで会えませんから…仕方なく探偵を雇って『理人様の全て』を集めて貰いました。
噛んでいたガムに抜けた髪の毛、そして洋服まで…コレクションはどんどん増えていきます。
私以外の女が理人と付き合うのは許せないので、全力で潰しました。
私は『理人への愛』に狂ってしまったのかも知れません。
時人(ときひと)お兄様に『流石に妹ながら気持ち悪い』といわれる様になった頃、お父さまが私を気遣って理人様と同じ高校に入れて下さいました。
ですが『手を出したら直ぐに転校させる』という条件付きです。
仕方なく距離を置いて眺めるだけでの生活です。
大樹達は男女としてではなく悪い友達として仲良くなりましたが『全然満たされません』
そして嫌な事に…『平城』が傍に居ます。
どうすれば良いのでしょう?
気が付くと私の中で『理人』は『理人様』に変わってしまいました。
それが『異世界』に来るなんて…此処にはお父様は居ません、私は自由です。
※何故か塔子に人気がありリクエストにお答えしました。
さよならテラスちゃん 皆リア充じゃん!
『それじゃ理人私は他にもやる事があるから』
そう言ってテラスちゃんは去っていった。
今迄は俺だけの相談役として存在してくれていた。
それが居なくなった事で急に寂しくなった。
俺は城の内庭にある木を拾ってきて彫り、懐中仏ならぬ懐中神を作ってみた。
『何時も神は見守っている』
それを実感できた1週間だった。
この世界に来る前に読んだライトノベルで、本当の駄女神だが、ずっと一緒に居てくれる話が幾つもあった。
その設定が凄く羨ましく思った。
『どんな時でも傍にいてくれる神』その幸せにきっとそれらの主人公は気がつかないのだろうな。
テラスちゃんが居なくなった時本当にそう思った。
テラスちゃんが此処に居たことは俺しか知らない。
だが、俺は彼女の存在を死ぬまで絶対に忘れない。
そう思い、懐中神に手を合わせた。
すると…
『よんだ~』とテラスちゃんの声が聞こえてきた。
寂しさからきた空耳かと思ったら違っていた。
『そうか~ 理人は神職の卵だったからこうなるのね』
テラスちゃんもなんだか驚いているようだった。
『どういう事でしょうか?』
理由は簡単だった。
此の世界で神主(の卵)は俺一人だけで神社?も一つ、そして地球の神様はテラスちゃん一人。
おのずと俺が祈ればその祈りはテラスちゃんに届く。
そういう事だった。
『そういう事よ! 流石にもう姿は滅多に現す事は出来ないけど、困った事があったら祈りなさい、絶対とは約束できないけど神託位はしてあげるから』
『有難うございます』
ちょっと締まらないが完全なお別れじゃ無くて本当によかった。
それと同時に、俺は凄く恵まれている。
そう心から思った。
『神託』とさらりとテラスちゃんは言ったが、それは一生信仰に生きる、そこまでした神主ですら生涯数度しか貰えない程貴重な物だからだ。
◆◆◆
あれから、結局俺は平城さんと塔子と一緒に過ごす事が多くなった。
塔子は聖女の専門の授業、平城さんは大魔道の専門の授業があるので、その時は最初、一人で過ごしていたが…態々居心地を悪くする事も無いので、こちらから皆に積極的に話し掛けていった。
「緑川さん」
俺が話し掛けると緑川は驚いた顔になった。
「どうした…理人」
顔が一瞬青ざめていたが、何とか声を出した、そんな感じだ。
「いや、この間の件ですが、緑川さんのいう事も最もだと思いまして、気にしないで下さい。そう言おうと思っていたのです」
「許してくれるのか?」
「いえ、そこの問題じゃないんですよ。此処に来た時点から先生と思っていたのがお互いの間違いなんですよ。緑川さんは給料を貰っていないんだからもう先生じゃない。もし、緑川さんが『勇者』だったら違ったかも知れない。もし『生徒を守ると言うのなら緑川さんが魔王と戦う力がなければ無理な話し』です。実質戦う力は無いのだから『教師ではいられない』違いますか」
「いや違わない、俺は大河が怖かったから脅しに負けた。そして大河にお前が勝った後はお前が怖かった」
最もな話だ。
此処には仲間の教師は居ない。
そして大河が暴れた時に止めてくれる警察も無い。
大人だからと期待したのがそもそも間違いなんだ。
「今迄交渉役有難うございました。緑川さん。これから俺は貴方を『先生』とは呼びません。他の人はどう思うか知りませんが、これからは皆の事なんて考えないで『自分の事を考えて』行動して下さい。 多分この世界は思っているより厳しい世界です、自分一人生きるだけでもきっと大変だと思います」
「そうだな、悪い..本当にそうだ」
「だから、顔見知りの緑川さん、顔見知りの神代くん。その関係からお互いをスタートしませんか」
「確かにそうだ、神代君。それが本来の関係だね、少し気が楽になったよ」
多分、緑川さんは解っていない。
残酷な話だがこの先苦労するのは確実に緑川さんだ。
もう暫くしたらパーティを組む事になる。
その時に態々教師と一緒にパーティを組む生徒が居るのだろうか?
賭けてもいいが『居ない』
これがイケメンで女の子の憧れ、もしくは気さくな教師なら別だが、緑川さんはどちらからと言えば口うるさい教師だったから恐らく無理だろうな。
それに、男女交際に憧れ、性的にも嵌めを外すつもりの生徒にとって教師は欲しくない。
下世話な話かも知れないが、このクラスの男女共に真面目にそうなのだ。
勿論、居心地を良くするために他のクラスメイトにも積極的に話し掛けていった。
俺の中には大きな不安があった。
それは平城さんと塔子の事だ。
平城さんの時はすんなりと受け流してくれたが此処に塔子が加われば『俺は二股男』になる。
そしてその二人はクラスで1.2を争う美少女なのだから。
今度こそ『リア充死ね』とか罵詈雑言は覚悟していたが…
「いいんじゃない、此の世界は一夫多妻OKなんだからさぁ」
「俺からしたら理人お前貧乏くじだぞ」
「俺の方がリア充だかんな!誤解するなよ」
「そうね、私も凄くモテるけど、妥協はしないイケメンエルフ一択よ」
「俺もエルフ一択だな..理人俺は『異世界ハーレム』を作る男だ! あんな二人は理人にくれてやる」
「俺、メイドさんのルノールさんと付き合っているから」
「私はリアル貴族と今度お見合いよ!」
何て事は無い。
クラスメイト達は最早完璧に恋愛観が変わっていた。
『奴隷を買う組』はこの世界では人族の女なら金貨3枚(日本円で30万円)位から購入できること、エルフであっても金貨100枚(日本円で1千万)で購入できることに胸を膨らませていた。
自分達は強くてお金が稼げるという事を知っているからの余裕だ。
意外にも男子だけじゃなく、女子も多くいる。
もう暫くしたら連れていって貰える王都見学で『奴隷商に行きたい』と要望を伝えた猛者も居た…マリン王女は凄く冷たい目で見ていた気がするが気にしてないようだ。
『もう食われた、もしくは食われ掛かっている組』 異世界人(元日本人)は凄くモテる。
そこに容姿は関係ない。塔子から聞いた話しでは五大ジョブ以外はかなりの率で遺伝する。
最も体力とかの特異な物ではなく、ジョブとスキルだけらしいがかなりの確率で引き継げ、もし引き継げなくても優秀なジョブやスキルを持って生まれてくる。この世界ならではの一発逆転のチャンスだ。嫌な話だが優秀な子種欲しさだな。確実に素晴らしい子が生まれ上級冒険者、騎士への雇用が確定なら将来に心配が無い『生活が不安定な者』や『お金のない者』には成功の切符に違いない。 ちなみに隅田くんが言っていたメイドのルノールさんは結婚している。だが、これは浮気ではない『旦那公認』の種付け。隅田君の子を妊娠したらそのままお城の仕事を辞めて息子を8歳(この位でオーク位が狩れる位強くなるらしい)までしっかり育て寄りかかって生きていくのだそうだ。まぁ、あくまで噂だけど、あながち間違ってないだろう。
そんな訳で、このクラスの男子はかなりの率で食われているか、食われ掛かっている。
『貴族のお嫁さん、夫組』異世界人は前の話にある通り遺伝子的に優秀だから貴族としても子種、もしくは苗床が欲しい。また異世界人(元日本人)を伴侶にするのが一種のステータスになるから引く手あまたなのだとか。
特に女子は『此処の扱い』の子が多い。
それは男子と違って『もう食われた、もしくは食われ掛かっている組』には居ないからだ。
男子と違い妊娠してしまったら、そこから子供を産むまで戦えなくなる。
将来的には別としてもお城から出ていくときに妊娠していたら外面が悪い。
その為王様は厳しくその辺りの事を管理させているのだとか。
その代り『貴族とのお見合い』や『騎士とのお見合い』を望む者に斡旋しているらしい。
まぁ噂では貴族から断られる事はほぼないらしい。
そんな訳で皆が『リア充』なので誰も俺に絡んで来ない。
いや、寧ろ皆して、俺に哀れみの目を向けてくる、正直嫌なニヤニヤ顔をして口に出さないが見下してくる。
俺は『無能』だからこの恩恵に預かれないからだ。
ちなみに平城さんも塔子も異世界人には不人気なのでそちらも大丈夫。
五大ジョブは遺伝しないから、優れた後継ぎが生まれる確率は普通にこちらの世界の人間と同じ。
戦力と名誉はあるがジョブが有名すぎて扱いにくく嫁姑で過去に大きな争いが起きたり、その伴侶としてのプレッシャーから心労になる貴族も多くいたらしく、女の五大ジョブは不人気なのだとか。
そんな訳でクラスの皆はリア充どころか、俺に哀れみの目を向けてくる。
案外、大樹もこの事を知っていたら平城さんを襲わなかったかも知れないな。
月夜の晩に!
俺が部屋に戻ると大きなベッドに変わっていた。
「平城さん、もしかして何か手配した?」
「えっ? 何もしてないよ! ベッドを大きくしたら、くっつけないし」
顔を真っ赤にして手をブンブンしている。
「あっ届いている、届いている」
塔子が部屋に入ってきた。
「もしかしてこれ頼んだの!塔子?」
「そうだよ、流石にあのベッドで三人はきついでしょう?」
「ちょっと待って塔子ちゃん、もしかして一緒に寝る気なの?」
「当たり前じゃない! これから先三人で旅しますのよ? まさか私だけ仲間外れにしたりしませんよね?」
平城さんの首がまるで機械人形の様にこちらを向いた。
多分遠回しに断れという無言の圧力かも知れない。
だが、断る事は出来ないな。
『心を奪ってしまった以上』はもう無理だ。
俺が断らないと解かると平城さんが少し睨むように聞いてきた。
「あの理人君に聞きたい事があります。なんで私は『平城さん』なのに塔子ちゃんは『塔子』なの? 理由があるのかな?」
「それは、私と理人が深い絆で結ばれているからよね!」
「塔子ちゃん、調子に乗り過ぎ!」
俺はどうして塔子だけ、呼びつけで呼んでいたんだ。
解らない。
言われて見れば、女の子で呼びつけにしているのは『塔子』だけだ。
もしかして心の奥底で此奴が『トーコ』だと気が付いていたのかも知れない。
そうとしか考えられない。
「幼馴染だから」
平城さんと塔子が驚いたような顔でこちらを見た。
「あの、理人…知っていたの?」
「まぁね、トーコだよな?」
「そうだけど、覚えていてくれたんだ! あの時は本当にごめんなさい!」
「もう昔の事だし『心配して謝ってくれていたみたいだからもう良いよ』」
「ありがとう理人、私、私、一生かけて罪を償うね! 本当にごめんね!」
泣きながら塔子が抱き着いてきた。
「あのさぁ、理人く.んこれは一体どういう事なのかな?わ.た.しに解るように教えてくれないかな?」
俺は過去に塔子との間にあった事をオブラートに包んで平城さんに話した。
「あの…その話の何処が、幼馴染の思い出なの? 私の耳が可笑しいのかな? 虐め加害者と虐め被害者じゃないかな?」
「ふん、平城ごときに『私と理人の絆』が解かる筈ないよね~理人」
そう言って塔子が俺の腕に自分の腕を絡めてきた。
「離して塔子ちゃん!」
「なんで? 別に良いじゃない? まだ正式に付き合っている訳じゃないんでしょう?」
「ううっ」
この場にいたたまれなくなり逃げ出そうとしたが、入口付近に塔子が居る為、逃げられない。
俺は傍観者としてただ立っていただけだった。
どうにか、折り合いがついたようだ。
「理人君、これからは平城さんでなく、綾子って呼んで下さいね!」
「そうね、私の方が付き合いは早いんだけど、一応、平城も告白して付き合始めていたんだ..ならこれからは三人で」
「違うでしょう?」
「あっゴメン! 綾子、綾子って呼ぶ約束だったね、綾子も告白して付き合ったていたんじゃ仕方ないよ…だからこれからは三人で付き合うって事で…」
「と言う事に決まりましたから、理人君…宜しくお願い致しますね」
「私も宜しくお願い致します」
結局、『癒しの能力を持つ聖女の塔子』『魔法の最大攻撃の能力を持つ大魔道の綾子』そのどちらも俺に必要と言う事で話し合いが終わったようだ。
多分、俺が間に入ったらこじれた可能性が高い。
情けない話だが…これで良かったのかも知れない。
二人はベッドに潜り込むとポンポンと中央を叩いた。
「ほうら理人君寝よう」
「そうね理人寝よう」
今迄は逃げるように綾子に背を向けて寝ていた。
だけど今日からは『そちら側に塔子』が居る。
俺はどちらも向かず天井を見ながら…眠った。
◆◆◆
「綾子、起きている?」
「ええっ理人君がいるから、つい見ちゃうから眠らないもん」
「まぁ、そうだよね、私も同じ、それでね、少し夜風にあたりにでない?」
「何で? 私は寝息を立てて寝ている理人君を見ていたんだけど」
「これから、私がやる事は理人の為なんだけど…いいや一人でやるから」
「それ『北条の娘』だからやる事なのかな?」
「そうね」
「なら、付き合うわ…」
「それじゃ行こうか?」
◆◆◆
ハァハァ、心臓が苦しい…
一体僕達に何が起きているんだ。
大樹は可笑しくなり、半引き籠り状態になった。
大河は『無能』の筈の理人におしゃかにされスクラップ。
そして、僕は…体調が可笑しい。
もしかして、大樹も同じ状態なのか?
心臓が苦しくて仕方ない。
体も物凄く熱い。
ヒーラーに相談してポーションを貰ったけど全然効かない。
どうすれば良いんだ…
あはははっ僕たちが悪い事をしていたのが『女神にバレて』呪われたのかも知れないね。
『水、水が欲しい』
水差しに水は無い。
この時間じゃ…井戸に行くしか無いな…
僕はふらふらしながら…井戸に水を汲みに出た。
◆◆◆
「こんな井戸の傍にまで来てどうしたの?」
「ねぇ、綾子、貴方は『平城家』の人間よね! 確か総理大臣でも逆らえば人生を終わらせる事が出来る『昭和の妖怪』と言われた政治家の一族で間違いない?」
「流石は『北条の怪物王女』ですね…間違いないですよ…まぁ傍流ですけどね」
「そう良かったわ、それで『北条の怪物王女』って何かしら?」
「塔子のあだ名ですよ。我儘で平気で人を潰す貴方のあだ名」
やはりこの子も私と同類だ。
この子なら『一緒に居ても良い…人間だ』
「そんなあだ名がついていたのね! まぁそれは良いわ! それで貴方の理人への想いは本気かしら」
「本気ですよ! まぁ最初は『北条の怪物王女』の男をとったら面白いなぁと思ったんですけどね..傍で見ていたら本当に好きになってしまいました。 異世界に来るまではパートナーとして、将来の伴侶に位に思っていましたが..今は不思議と自分の命より大切に思えますね」
私と同じクズですわね。
「それは『私が理人を好きだから取り上げたかった』そういう事よね? いい性格しているわね」
「はい! ですが理人君の前では『清純で可愛いい平城さん』でいますよ? 好きなんだから当たり前ですね!」
「まぁ良いわ…それでね理人の為に排除したい人間がいるんだけどね」
「解っているって聖人よね?」
「そうよ、私ね、実は毒を盛ったのよ! 心臓が苦しくなって体が熱くなる毒で水が欲しくなるわ、バレない毒なんだけど悲しいかな遅効性なのよ」
「それで」
「水差しの水じゃ恐らく我慢できないから、井戸に水を汲みにくると思うのよ? 具合が悪ければそのまま落ちても可笑しくないんじゃない?」
「それで大丈夫な訳? 理人君が戦って勝たないと困った事にならないかな?」
「それなら大丈夫よ、私が交渉してどうとでも出来るから」
「そうね、塔子ちゃんなら大丈夫ね…それなら、水の呪文で溺れさせて井戸に落とせば、ただ溺れたように見えるよね! 科学捜査も無いこんな世界なら大丈夫じゃないかな?」
「そうね…それをお願いできるかな」
「しないわよ」
「えっしないの?」
「私は理人君を信じているから、あの程度の人間じゃ理人君を傷つける事は出来ないよ」
「本当に?」
「うん、私は理人君を傍で見ていたし、凄く強かったよ! 流石『神代』だって思った」
「貴方からみて負ける要素は無いって事?」
「そうね、99パーセント無いかな、だけど残り1パーセントは塔子ちゃんが潰したから絶対に無い」
「それなら安心だわ」
「うん、もし理人君が負ける確率があるなら…あはははははははっ塔子ちゃんが行動起こす前に私が消すもん」
「そうか、そうよね」
月明りで井戸から水をくむ聖人を見て、私は綾子がいう事が間違いない無いと確信しました。
「もう部屋に帰ろうか」
「そうですね理人君との時間が減るなんて勿体ないですからね」
私と綾子は安心して愛しい理人の元に帰っていった。
綾子 リクエスト作品
私は、北条塔子が羨ましい。
同じお嬢様に生まれても『平城』と『北条』じゃ全然違う。
私の一族は『政治』の一族だから、余り派手な事は出来ないの。
例えば車。
お兄様はベンツに乗っているのよ。
一般人からしたらこれでも凄いと思うかもしれないけど。
だけど、これ以上の車には乗れないんですよ。
フェラーリやランボルギーニーには乗れないんです。
その理由は裏から日本を操る一族だからです。
私の一族は表に立てないという宿命を背負っています。
簡単に言えば『政治家メーカー』それが私の一族の仕事です。
平城の多くの人間は『政治家の秘書』をしていて「選対」を担当している事が多いです。
なんだ、只の政治家の秘書かって…違いますよ。
私達の一族が政治家を裏で操っています。
私達の一族に逆らえばどんな政治家も二期目の当選は無い、それが事実です。
特におじい様は『選挙の神様』と呼ばれていて、数々の人間を総理にのしあげました。
おじい様が『当選確実』と書いたダルマを送った人間は確実に次の当選が約束されるから、そのダルマが欲しくて政治家は何でもしましたよ。
お父様と一緒に子供の頃、国会見学に連れていって貰った時はまるでモーゼの海開きの様に政治家たちが道をあけてくれました。
お父さま曰く此処での礼儀で目下の者は目上の者に道をあけるのがルールなのだそうです。
そんな権力を持った私の一番のコンプレックスは『地味にしなければいけない事』です。
あくまで表向きは政治秘書の一族だから目立ってはいけないのです。
例えお小遣いが月300万貰えても派手な事は何も出来ないから本当に面白くありません。
ブランドはおろか、短いスカートも履けないし、髪すらおかっぱです。
同じお嬢様でも『北条の怪物王女』が羨ましくて仕方ありません。
だって、何でも自由に出来るんですから。
お金も権力もあるのに…自由に使えない。
それが平城綾子、私なのです。
◆◆◆
そんな私がある時、掴んだ情報。
それが『北条塔子が恋をしている』そういう情報でした。
しかも問題があり…近づけないのだそうです。
『ざまぁ見ろ』
あの北条塔子に手に入らない者があった事が凄く嬉しくてなりません。
実に面白いですね。
あの北条塔子が手に入らない想い人を私が手に入れたらどうなるのかな?
あの怪物王女泣いたりしてね。
うん、実に面白いですね。
だけど、見ているうちにね、本当に恋してしまいました。
だって理人君って本当にピュアなんだもん。
私みたいな偽物じゃなくて『本物』なんだから..凄いよね、王子様って本当にいるんだ、そう思いました。
綺麗な黒髪にきめ細かな肌。
整ったマスク、髪には気をつかって無いけど見る人が見れば綺麗なのは解る。
『欲しい..凄く欲しい』
私はお父さまに頼む事にした。
お父さまは私の事を凄く大切にしてくれています。
昔、私の事を『秘書の娘の癖に』と馬鹿にした同級生の子が居ました。
散々使い走りをされたり、服を破かれたりしたし、教科書も破られていましたね。
ですが、それに気が付いたお父さまが相手の親に文句を言ったのです。
相手の親が実は、あとで議員だったと解かったのですが、どんな圧力を掛けたのか知りませんけど、次の日、私を虐めていたその女の子は、朝礼中いきなり全校生徒の前でストリップをしたかと思うと『クズでーす、裸になって鶏の真似して償います』と言い出し、裸で『コケッコー』と叫びながら学校中を泣きながら走り回っていました。
そして、次の日には退学して居なくなりました。
良くおじい様やお父様は『忠誠を示せ』と言って政治家に妻や娘を差し出させて、遊びで抱いています。
『定期的に犬は躾けて上下を教えてやらないとな』
その為の必要行為なのだとか。
つまり『平城』にとっては政治家も犬なのです。
唯一同じ人間として見ているのは『北条家』だけど、裏では『意地汚い』と馬鹿にしています。
だから、私にとっては愛しい、愛しい理人君も、お父さまやおじい様には『犬』だもん、きっと手に入れてくれる筈。
そう期待していました。
ですが、結果は違っていました。
「理人君は素晴らしい子だ、綾子が好きになるのが解かる。だけど『神代』だから駄目だよ、他の子なら、幾らでも手に入れてあげるけどね」
「神代ってなんですか?」
あんなに傍若無人なお父様が一瞬たじろいだ気がします。
「お前は知る必要は無いな。 だけどもし、その子に気に入れられ恋人となりお嫁さんにでもなったらね! お兄ちゃんが『傍流』になって綾子が『主流』になるよ! 理人君との恋愛は賛成、更に言うなら幾らでも応援するし、何なら既成事実を作っても文句は言わないよ」
男女付き合いに厳しいお父さまがこんな事を言う何て信じられません。
しかも理人君と結婚できたら…平城の権力の中心に座れるなんて可笑しすぎます。
ですが、これは凄いチャンスです。
「解りましたお父様、自力で頑張ります」
そう答えました。
◆◆◆
私はお金を使い探偵を雇い、理人君について調べ上げました。
そのデーターを元に、自分を理人君の好みの女を演じられる様に頑張ったんです。
理人君の友達はお金で買収して『私が如何に良い女』か話をする様にして貰い、私が理人君を好きだと思っている事も伝えて貰いました。
此処まで折角準備していたのに..何ですかねこの異世界転移。
まぁお陰で凄く親密な関係になれてうれしいですが。
此処じゃ『私の権力』は使えません。
仕方ないから『塔子』さんを、味方にしないといけません。歯痒さがありますが理人君の為なら耐えられます。
私は身も心も理人君の物です。
手を出してくれても良いのに。
本当に奥手で困ります。
まぁ、そのガツガツしていないのも含んで素敵なんですけどね。
VS 大賢者 聖人
「それで聖人殿の体の調子はどうなのだ!」
「それが日に日に衰弱していくばかりで手の施しようが御座いません」
一体何が起きたと言うのだ。
勇者大樹は一切訓練に参加しない。
剣聖大河は只の無能に負けて剣士としての人生は終わった。
その状況で今度は『大賢者の聖人』が体調不良で訓練に参加していない。
しかもこれがサボりなら良いが、明かに聖人殿は体調を崩しているのが解かる。
このまま行くと大変な事になる。
五大ジョブは女神に愛された職業。
基本的に病気に掛からないと伝承にあるのじゃ。
人なら5分と持たずに死ぬような場所でも普通に活動できるし、万が一病に掛かっても信じられない程早く治る。これは弱い『弱体勇者』ですら一般人以下になる事は無い。
それが普通に生活して体調不良等まずあり得ん。
「そうは言うが、明日は理人殿と戦って貰えねば困るのだ」
「今の状態じゃとても戦えるとは思えません」
「仕方ない、だがこちらにも面子がある。 試合は絶対にやって貰う。その代わり始まってすぐに降参して良いと言って置け…あー本当に今回の召喚はハズレだったわ」
「はっ、その様に伝えておきます」
◆◆◆
心臓が苦しくて体が熱い、多分高熱を発している筈だ。
こんな状態なのに僕は、理人と試合をしなくてはいけない。
王や貴族も立ち会うと言うのだから断れない。
僕達は呪われているのか。
真面に歩けない状態で大河が僕の元に来た。
「ハァハァどうかしたのですか?」
「棄権したほうが..良い」
「出来るならそうしたいですよ。ですが、ハァハァでも出来ないんですよ! ただ直ぐに降参しても良いとは言われましたけどね」
「そうか! それなら悪い事は言わない! 開始と同時に土下座だ、躊躇するなよ」
僕を馬鹿にしているのか?
「馬鹿にしているのですか? 大河」
「違う、これでもお前は友達だと思っている…あいつの剣の踏み込みは速い、躊躇したら死ぬかも知れない…俺はお前に死んで欲しくは無い…だから忠告だ」
あははははっ、馬鹿な奴だ。
真面に歩けない癖に僕に忠告だって。
『真面に歩けない』のにここ迄這ってきたのか…
「大河、忠告ありがとう…」
驚いた顔で大河が見ていたが、僕は知らないよ。
◆◆◆
とうとう聖人との試合の日が来た。
魔法の専門職と初めての戦いだ。
綾子からアドバイスを貰った。
「詠唱に時間が掛かるから一挙に攻めた方が良いと思います」
確かにそう思う。
魔法を使われる前に一挙に攻める。
それしか無いな『普通なら』
「流石に首を斬り落とす訳にはいきませんから腕か手首を狙った方が良いと思います」
塔子がそう言いだした。
塔子曰く、スパッと切り落としたならヒーラーが繋げられるようだ。
大河の場合は千切れて、尚且つ体を打ち付けたのが原因で大怪我になっているのだそうだ。
「そうするか」
「相手の為にも、ためらいなくスパっと斬り落としてあげるのが良いかも知れません」
確かにそれが一番良さそうだ。『普通ならば』
だが、俺は『普通では無い』
そして、俺にとって運命の一日が始まる。
◆◆◆
いつもの訓練場が今日は違っている。
幕が張られていて一段高い台が設置されて王がそこに座っている、その横にマリン王女が座っていた。
その周りには恐らく重鎮なのだろう、偉そうな人が多数座っていた。
「これ、只の試合の雰囲気じゃないな、まるで何かの大会みたいじゃ無いか」
「案外、それに近いかもしれませんね。大賢者と理人の戦いなんだから」
「そうですよ、理人君の運命を掛けた戦いなのですから」
言われて見ればそうだった。
俺達がついて暫くたつと聖人が現れた。
大樹と大河は席が用意されていてそこに座った。
多分、気を使ってくれたのか塔子と綾子の席は離れていて俺側にあった。
中央に呼ばれた。
「これより『大賢者聖人』と『無能理人』の試合を行う、このコインが落ちたらスタートだ」
皆は魔法VS剣の戦いだと思っているが実際は違う。魔法VS魔法(?)の勝負だ。
コインが落ちると聖人は前にかがみこもうとしていた。
何が来るのか解らない。
俺は急いで念じる。
『『神の借用書、請求バージョン』』
時間が止まり、聖人と俺のステータス画面が現れた。
此処からは欲しい物を俺に持ってくればその能力が貰える。
欲しい物を『掴んでも』俺の方に持って来なければ移動はされない。
木沢 聖人
LV 4
HP1600/3400(毒による)
MP1800/7200(毒による)
ジョブ 大賢者 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、複合魔法レベル12(聖魔法以外全ての魔法を使える魔法 但しレベルは上がりにくく最上級を越える物は身につかない)
早速欲しい物を移動した。
『大賢者』を取り上げた→ 『過去に『虐め』により自殺に追いこんだ事が発覚しないように神に祈った分が借証書から消えた』
『複合魔法』を取り上げた→『軟禁事件がバレない様に神に祈った分が借用書から消えた。』
此処で重複した物を取った場合どうなるか試してみた。
『アイテム収納』を取り上げた→ 取り上げる事は可能だが、既に持っている為意味は無い。
どうやら重複してとっても自分にプラスにはならないようだ。
ならば無理にとる必要も無いだろう。
尚、これで1/9も回収していない。
神代理人
LV 6
HP 9800
MP 9200
ジョブ:英雄 剣聖 大賢人 日本人
スキル:翻訳.アイテム収納、複合術式(全1)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了
※複合術式とは全ての術が使える事を意味する。
※非表示の物あり
木沢 聖人
LV 4
HP80/250(毒による)
MP50/120(毒による)
ジョブ 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納
この(毒)と言うのが凄く気になるが今は気になるが、俺には何も出来ない。
ステータスに関われるという事を知られるわけにいかないから放置しかない。
そして時間が動き出した。
◆◆◆
魔法が使えない聖人の腕を斬り落とすのは流石にしのびない。
そう思いみねうちにしようと踏み込む。
「えっ」
驚きを俺は隠せない。
「参ったーーーっ」
そこには土下座をして降参している聖人の姿があった。
それと同時に声が上がった。
「勝者、理人殿――――っ」
塔子と綾子を見ると満面の笑みを浮かべていた。
壇上を見ると、王とマリン王女は笑顔だが、その周りの重鎮たちは複雑な顔をしていた。
そして、何故か俺は何もしていないのに聖人はその場で動かなくなり担架で運ばれていった。
大樹SIDE 教会送り
水晶(宝玉)を使った能力測定。
これは教会から来て貰った高位の神官により行われる。
それ故に『失敗』などあり得ない。
人の人生を左右する儀式ゆえ、能力の鑑定ミスはその神官に『死』を意味する。
本当に殺されたりする訳では無い。
ただ、全ての信頼を失い最早神官として出世は望めず。
田舎の教会に飛ばされ中央には戻ってこれない。
その事を余は知っている。
『余はいったい何を信じればよいのじゃ』
失敗しない鑑定。
それが目の前の状況を見ていると失敗としか思えない。
だが、向こうも『教会』の名を背負い『教皇』の命令で来ていたのだ、絶対に引かないだろう。
もし『疑いあり』と余が言えば再度、検査をする筈じゃ。
だが、それでもし『問題が無ければ』余が非難される。
場合によっては『破門』すら、あるかも知れぬ。
逆に『もし問題があれば』神官が左遷されるが、そこで恨みを買うかも知れぬ。
そんな中で『理人殿を勇者と同じ扱いをする』そう約束をしてしまった。
反故にする。
それは出来ない。
理人殿一人なら考えなくも無いが『聖女』『大魔道』の二人は理人殿についた。
更に理人殿は『剣聖』『大賢者』を倒せる実力、敵に回す訳にはいかない。
「どうした物だろうか?」
「お父様、私、勇者大樹達について良い事を思いつきましたわ」
「マリン、何か良い手があるのか?」
「態々お父様が話をつけなくても『教会』なら喜んで引き取って貰えるのではないですか?」
「教会か」
「はい、勇者と聖女の仲が悪い。これは事実です。事細かな内容は伏せて当国は『聖女パーティ』を支援するから『勇者パーティ』は教会、聖教国で支援して欲しい。そう頼むのです」
確かに聖教国の教皇様は『勇者が好きだ』いける。
この話は簡単に纏まる。
「マリン、よくぞ思いついた。それで行こう。それなら問題が全部片付く」
「はい」
余は直ぐに枢機卿に話をして教皇様に連絡をとって貰った。
話しは直ぐに決まり『すぐにでも欲しい』という申し出があった。
◆◆◆
「と言う訳で貴方達にはすぐに教会に行って貰います」
「俺の体がこんなだから捨てる…そう取れるが」
「僕達をこの国は見捨てる、そういう事ですか?」
大河や聖人のいう事も解かる。
だが、俺も体調が悪い。
治療という技術は『聖教国』が本場だ。
話しを聞いても良いだろう。
「二人とも話を聞こうぜ、なぁ」
「解かった」
「まぁハァハァ~大樹がそう言うなら」
俺はマリン王女から詳しい話を聞いた。
最初は体の不自由な大河の為に文官を考えていたらしいが…騎士への素行の悪さから嫌われていて、後々危害を与えられる可能性があると考えたらしい。
外へ口添えをして出そうとしたがそれも難航しそうだとの事だ。
このまま城に居ても、他のクラスメイトの手前居にくいだろうと王様は考えたのだとか。
そこで『聖教国』に俺達を頼んだらどうか? そう考えた結果、話しをすると先方は乗り気。
聖人も大河の治療も『教会』なら今より更にしっかりとした物が出来るし。俺が訓練に出られない、心のケアも専門家が行ってくれる。
そういう事だった。
「大樹、今の俺は真面な生活が送れない、もし体が治るなら、その案に乗ってみたい」
「僕も、ハァハァ未だに心臓が苦しいし、もしこの状態が治るならいきたい」
仕方ない。
もしかしたら、そこに行けば、俺の体の事も解かるかもしれねー。
このまま此処に居て、毎日の様に訓練に出ろと言われるよりは、ましか。
「解かった、それでいつから俺たちは『教会』に行けばよいんだ」
「受けて下さるなら早い方が良いでしょう…そうですね! 直ぐに馬車を用意しますから、すぐに教会に行かれると良いと思います。多分少し休んだら『聖教国』に行かれると思います」
「そんなすぐにか?」
「はい、教皇様は『勇者様達』に直ぐにでも会いたいそうです」
「そんなに会いたいなら仕方ねーな」
「「そうだな(ね)」」
こうして俺たちは教会へ送られる事になった。
王都見学? 奴隷商
王都見学の日が来た。
王都の中は比較的安全なのでほぼ自由行動となる。
お小遣いを貰って自由に回れる
ここ暫く訓練と座学ばかりだったクラスメイト達は浮足だっていた。
俺は聖人と戦ったその日から約束通り『勇者扱い』となった。
今日の王都見学のお小遣いも俺達のパーティーは1人金貨10枚(約100万円)貰っている。
他のクラスメイト達は金貨5枚だから此処でも差がついている。
「さてと何処に行こうか?」
よく考えたら修行、修行で余り人と出掛けた事は無かったな。
別に行きたい所は無いから二人に付き合う形で良いだろう。
「あのさぁ、2人は何処か行きたい所ある?」
「「奴隷商!」」
俺は耳が可笑しくなったのかも知れない。
とれいしょう?
お店の名前?
「奴隷商です」
「奴隷商」
俺が思わずフリーズしていたら二人して俺の腕を組み歩き出した。
◆◆◆
時は少し遡る。
「綾子、貴方家事は出来るのよね?」
「ハァ~塔子ちゃん、私は『パチモン完璧美少女』ですよ! 出来る訳無いじゃないですか?」
「前に理人にクッキーやお弁当をあげていたじゃない!」
「そんな物使用人に作らせたに決まっているじゃないですか? 塔子ちゃんは確か花嫁修業をしていましたよね」
「北条家の花嫁修業に料理や洗濯があると思う?」
「…なさそうですね。ですが理人君は料理も出来るし家事も万能です。前にくれたから揚げなんて絶品でしたよ、うへへへへっ」
「理人の手作りから揚げ、羨まし、なにその顔マウントとっているの? 違うーーっ!料理は良いとして洗濯よ! まさか綾子、下着を理人に洗わせても平気なの?」
「下着..ああっ」
「ようやく気が付きましたわね! その分じゃ貴方も家事は壊滅的なんでしょう? 使用人が必要ですよ…私達」
「そうですよ、ああっ不味いです、それでどうします?」
「今度の王都見学、何組かは『奴隷商』を見学するらしいわ『良い子が居たら買う』ってクラスの男が嫌らしい顔で叫んでいたし」
「奴隷、私達には使用人が必要ですね」
「そうよ、だから私達も見に行きましょう」
「そうですね」
こうして私達は『奴隷商』の見学を入れる事にした。
◆◆◆
話しを聞けばなんて事は無い。
二人ともお嬢様なので『使用人』が欲しいのだそうだ。
「あれっ、だけど綾子はお菓子をくれたよね」
「理人君、此の世界には電子レンジもオーブンも無いし、全自動洗濯機も無いから…ごめんね」
確かに無いな。
それじゃ仕方が無いか。
二人と共に奴隷商に入った。
クラスメイトは既に何人か居たが、愛玩奴隷のコーナーに釘付けになっていた。
「お客様達も愛玩奴隷の見学ですか?」
国から『異世界人が見学に行く』と連絡がいっているせいか愛想がよい。
更に奴隷商は国から許認可を貰っている商売なので、怪しい商売では無い。
「いえ、家事奴隷を見せて頂こうと思いまして」
「私も同じです」
「解りました、それでは家事が得意そうな奴隷を中心にご案内します」
新たに加える事になる相手はこの二人に任せた方が良いだろう。
二人が熱心に話を聞いているなか、暇な俺は1人で見て歩いた。
確かにクラスメイトが夢中になるのは解かる。
まるで漫画や小説のヒロインみたいな存在が売られているんだ。
気になるのは仕方が無いな。
だが、俺が気になったのは奥の暗い部屋だ。
カーテンで仕切られているが明らかに劣悪なペットショップの様に糞尿の異臭がしている。
見た感じでは、入っても良さそうなのでそのまま入ってみた。
薄暗くて臭いな。
多分、悪質なペットショップのバックヤードに近い。
檻は沢山あったが、その檻には人が入っていなかった。
ただ端の方の檻に1人だけ入っている檻があった。
「こんな所で何をしていますの?」
薄汚れた金髪に痣だらけの肌、だがその痣の間から見える肌は白く、どこぞのパチもの女神より綺麗に見えた。
「いえ、奴隷商の見学をしていて迷い込んでしまいました」
「まぁ、そうですの? 此処は鉱山行きや犯罪奴隷の居る場所ですわ、貴方のような方が望む奴隷は居ませんわ」
とはいう物の彼女以外此処には居ない。
「その割には誰も居ませんが」
「鉱山行きの奴隷は今日の朝にドナドナされていきましたわ、犯罪奴隷で鉱山行きは男女とも同じですわね…という事で此処には私しかいませんわ」
全員売り払い先に行ったと言う事か。
なら、なぜ彼女は此処に居るんだ。
「それなのに何故貴女は此処に居るのですか」
今の話なら此処に奴隷が居るのが可笑しい。
「私はちょっと理由(わけ)ありの犯罪奴隷なのですわ..しかも公爵家から嫌われていますから、まぁ買い手はつかないので此処に居るのです。惨めに此処であざけ笑われながら死んでいくのですわ」
「何でそんな事になったか教えて貰える」
「そうですわね、どうせこのまま死ぬ運命ですので、お話しするのも一興かもしれません」
俺はこの女性に何故か惹かれる物を感じた。
こんな場所にいて悲惨な状況なのに彼女の凛とした姿に俺は思わず見惚れてしまった。
そして彼女は語りだした。
彼女の名前はフルール.ルーラン、公爵家の令嬢だったそうだ。
だが、今現在は奴隷、それも犯罪奴隷として売られている。
幾ら何でも公爵家の令嬢が奴隷にまで落とされる物だろうか!
「それが酷い話で『家』を守るために一生懸命頑張った結果がこれですわ」
なんでも、フルールは公爵家の『裏』を仕切っていたのだそうだ。
「汚い仕事の殆どは私がやっていましたのよ」
誘拐、暗殺、拷問、それが彼女の仕事だった。
家を守るために、自分の部下『黒騎士』を使い敵対する家の貴族や商家の暗殺。
貴重な情報を握っている人間を攫ってきて拷問にかけて話を聞く。
俗にいう『汚れ仕事』が彼女の仕事だった。
ルーラン公爵家の為にその人生を捧げてきた。
そうとしか思えなかった。
「それが何で、こんな所で奴隷になっているんだ」
「他国の王家にお姉さまが嫁ぐ事になりましたのよ! しかも王子の正室なので将来の王妃候補にね、その結果姉の結婚をスムーズに行うため、邪魔者として『実家の判断で』切り捨てられましたの」
何となく話が解かった。
要は『王子の妻の実家になるのだから汚い部分は無くしたい』そういう事だ。
「酷い話だな」
「ええっ、いっそ殺してくれれば良かったのですが、上級貴族は殺す事が出来ずに、無実の罪を着せられて奴隷落ちですわ」
「それなら、抗議」
「無理ですわね! 今回の罪は無実ですが、私30人以上拷問にかけて殺していますから…ただ私利私欲で殺した訳じゃないですが」
凄い犯罪者の筈なのに、嫌悪感が全く起きない。
何故だろうか?
「あのさぁ、貴族だったフルールに聞きずらいけど、家事は出来たりする」
まぁ貴族のお嬢様には無理だな。
「出来ますわね、公爵家とは言え側室腹で、正室の方から嫌われていましたからね」
「出来るんだ」
「まぁ普通にはですわ」
犯罪者で悪人の筈だけど、何故か憎めない。
しかも、彼女なら塔子や綾子を守るのに適任かも知れない。
彼女で良いんじゃないかな?
俺はカーテンをあけて塔子と綾子の様子を見たが、まだ誰にするか決めかねている様だった。
「悪いけど、購入しようと思う人が居たから、購入しようと思う」
「えっ、そうなの」
「そうなんですか?」
「ああっだけど、もし綾子や塔子が気に入った人が居たら別に購入しても構わないから、見ていてくれて構わないよ」
「そうですか、では私はもう暫くみてみます」
「わたしも」
◆◆◆
俺は店主を呼びだし、購入の意思を伝えた。
「奴隷を購入して頂けるのですか?」
「はい、この方を購入しようと思います」
店主の顔が困った様な顔になった。
「あの、この奴隷は犯罪奴隷なのですが、大丈夫なのでしょうか?」
「はい構いません」
「良いですか? 犯罪奴隷の場合は普通には売り物にならないからこそ安値がついています、それでも大丈夫ですか? また奴隷が問題を起こした場合の責任はその所有者にあります。そして安い代わりに生体保証がつきませんし、奴隷紋は必然的に一番きつい物になります。」
「別に構いません」
店主は少し困った様な顔をした。
そして最後に一言聞いて来た。
「貴族に嫌われますが良いですか?」と。
多分これが一番言いたかったのだろう。
「構いません」
「そこ迄言われるのなら解りました。異世界人は特権階級ですので、手続きします、犯罪奴隷なので一番安い奴隷の値段として金貨1枚、奴隷紋の代金が金貨1枚合計金貨2枚になります」
金貨2枚を差し出すと奴隷商はフルールを檻から出して連れてきた。
そして俺にナイフを渡してきたので、話を聞くと指を傷つける様に言われた。
そのまま指を傷つけると、店主は俺の血がついた指を持ちながら、そのままフルールの背中をめくり俺の手を持ちながら何やら呪文を唱えた。
そして俺の指先の血を擦り付けるとフルールの背中に紋章が現れた。
「これで奴隷契約は終わりました。これでこの犯罪奴隷は貴方の者です」
フルールは驚いた顔をしていた。
「あの、もしかして私を買って下さったのですか?」
「そうだよ」
「この最後の『黒薔薇のフルール』生涯貴方1人に忠誠を誓いますわ」
髪はボサボサ、奴隷服で物凄く臭いフルールだけど、その姿は何故か気高く思えた。
◆◆◆
本来は奴隷を購入すると体を洗って綺麗な服を着せて引き渡される。
だがフルールは犯罪奴隷なのでそれが適応されない。
その為、追加で銀貨3枚を支払い、それをして貰っている。
他のクラスメイト達は結局誰も購入しなかったようだ。
理由を店主に聞いてみると「高額な奴隷に興味津々の様で『お金を貯めてくる』とおっしゃっていました」との事。
彼等のお金は金貨5枚(約50万円)そこから奴隷紋の代金金貨1枚を引くと金貨4枚。
普通に人族なら手が届く範囲の奴隷も居る筈なのに..
「人族なら手が届く範囲の人も居そうですが…」
「はははっ貴方様以外の方は人族ではなく、皆さまエルフやハーフフェアリーに興味があるようで食い入る様に見ていました」
「そうですか…」
確かにエルフは美人だけど..俺からしたらボリュームが少なくて、いや人の好みに文句は言うまい。
「それでは、もう暫くお待ちください」
そう言うと店主は去っていった。
代わりに塔子と綾子が入ってきた。
「そう言えば、どんな奴隷を買いましたの?」
「私も気になります」
俺はフルールについて話した。
「女性でしたか、 それで何でそんな危ない犯罪奴隷を選んだのですか?」
「私も気になります」
どうして選んだのだろうか?
不思議と犯罪奴隷なのに怖く無くて、何故か信頼できそうな気がした。
何故だろうか。
そしてつい口に出てしまった。
「何となく二人に雰囲気が似ていたんだ」
「私に似ているのでしょうか?」
「理人君、私と塔子ちゃんは似ていないと思いますよ」
あれ、確かにそうだ。
「うん、俺も上手く言えないけど、塔子と綾子ってなんだか根っこの部分が同じに思える時があるんだよ…それ何って、言われても困るんだけどね、そしてフルールにも同じ物を感じて…ごめん上手く言えない」
「「!?」」
「どうしたの?二人とも」
「なんでも有りませんわ」
「何でもないよ」
二人とも凄く驚いた顔をしていたけど..その理由は俺には解らなかった。
※フルールはあくまで似た様な環境で育った別人です。
似ていますが全部同じ性格とは限りません。
女神SIDE 初めての試み。
私はこの世界を管理する女神マイン。
多神教の世界もあるけど、此の世界の人類は一神教だから凄く楽だわ。
※あくまで人類のみです。
偶に他の世界の女神とサロンで話すのよね。
それが凄く為になるのよ。
特に最近知り合った女神ゴーゴランの話が凄く為になったわ。
神には大きく分けて二通りあるの。
『生まれながらの神』と『成りあがりの神』とね。
私は生まれながらの女神。
それに対してゴーゴランは成りあがりの神なのよ。
元はただの蛇だったらしいわ。
その蛇が盗賊を偶々毒で殺した事から、祀られる様になって『女神』になったそうなの。
凄いわね人ですら無い、ただの蛇が女神になるなんて。
それでね、この子の考え方が凄いのよ。
だって…『悪人を勇者にした方が効率が良い』なんて言うんだから驚きだわ。
「幾ら元が蛇とはいえ貴方も女神ですよね? そんな事して大丈夫なの?」
「正解かどうかは自分で判断してね、私はこれで良いと思っているだけだから」
そう言ってゴーゴランが勇者に求めたのは
1.強い
弱くちゃ意味が無い
2.残酷な人間である事
敵に情けなんて掛けたら殺されてしまう、確実に人が殺せるような人間じゃなくちゃ駄目だ
その二つ。
そして選んだ勇者パーティーは
勇者 アモン (盗賊王と殺戮女の息子)
聖女 ララア (大量殺人者と快楽殺人者の娘)
賢者 ザンコック (大量毒殺犯罪者と頭の可笑しい魔術師の息子)
剣聖 ラーミア (暗殺者と残酷剣士の娘)
だって。
こんな人物を選んだ女神なんて前代未聞だと思うわ。
私はゴクリと唾をのんだ。
その結果がどうなったのか知りたかったの。
「それで、その結果はどうなったのかしら?」
「勝ったわ、魔王の娘を人質にして、逆らったら殺すって脅したからね、だけど人間側にも敵が多くて最後は人間の手で殺されたのよ」
「勝てたのね、参考になったわ、ありがとう」
これは極端すぎるわ。
実際に天上神様から彼女は怒られたそうだ。
だけど…私が選んだ勇者の中で『とどめが刺せない』者も多くいた。
その為、巻き返しが起きて殺されたり、遺恨を残したから反撃を喰らった者も居たわ
そう考えたら、そこ迄いかなくても『残酷』な性格は必要かも知れない。
強さは『異世界から連れて来るから、元からある』
今回の召喚には…『残酷さ』も重視してみようかな。
結局、私は彼女の様に思い切った事は出来なかった。
ただ、五大ジョブの人間だけは、その中で『残酷な人間』『手を汚す事に躊躇しない』そういう人間を選んだ。
今回は、初めての人選だわ。
一度送り出したら、もう手を出せないし神託位しかおろせない。
どうなったかは…勇者達が死ぬまで解らない。
後は..結果を待つだけだわね。
王都見学? お茶とドラッグストア
残りの王都見学はフルールを交えて三人で見て回った。
「ご主人様、此処のお店のケーキは物凄く美味しいのですわ」
「そうなんだ」
「「…」」
なんでだろうか?
『フルールと愉快な仲間たち』というのが頭に浮かんできた。
「フルールさん、貴方は奴隷ですわよね?」
「はい塔子様奴隷ですわ! それがどうかしました?」
「その割には随分と理人と馴れ馴れしいと思うのは気のせいでしょうか?」
「私が見てもそう思います」
「塔子様、綾子様、当たり前の事ですわ! 私は理人様の奴隷なのですわ! いわば身も心も主である理人様に捧げた身なのです。ご主人様が喜ぶように行動するのは当たり前です。」
「ですが、此処は大通りです。もう少し慎みを持って行動なさい」
「私もそう思います」
「あらっ二人ともヤキモチですか? 奴隷にヤキモチ焼いてどうするんでしょうか? みっとも無いですわよ」
「別にヤキモチなんて焼いてませんわ! ただ私はもう少し慎みを持ちなさいと言っているんです!」
「なぁ~に変な事を想像してるんでしょうか? ただ私は理人様の手を引いただけですわ…この位貴族の子女では普通の事ですわよ! それとも二人ともご主人様の『手も握った事も無い』なんて言いませんわよね?」
「「ううっ」」
「俺たちはまだそういう関係じゃないんだ、余りからかわないでくれ」
「そうですの? まぁそれなら私と同じですわね、まぁ拷問という仕事柄、裸にしたりちょん切ったり、四肢の切断とかは経験ありますが、それ位ですわ」
フルールが話していると、たいした事をしていない様な気がするのは何故だ。
ちょっと待て『ちょん切る』。
思わず俺は股間に手をあてがいそうになった。
「凄いな」
「拷問とか毒殺は慣れですわね、最初は抵抗がありますけど、慣れてしまえばどうって事はありません。お肉を料理するのとなんだ変わりませんわ…どちらかと言えば目を潰したり、溶かした鉛を口に流し込む方がよっぽど…」
「フルール、その話はもう良いから、早くお店に入ろう」
「そうですわね」
四人でお店に入り、ケーキと紅茶を注文した。
フルール曰く、コーヒーは基本美味しくない店が多いから紅茶がお勧めなのだとか。
しかし、貴族令嬢なのになんでこんなに詳しいのだろう。
◆◆◆
話せば、離す程フルールを仲間にしたのは良かったのかも知れない。
「随分とフルールは色々な事に詳しいんだな」
「『汚れ役』でしたからね、小さい頃から奴隷商に人を売り飛ばしたり、犯罪者ギルドと付き合ったりしていましたから。案外依頼する時は『場所』に拘りがある方も居ますから自然と詳しくもなりますわね」
此の世界に疎い俺達には一番必要な人間だったのかも知れない。
「凄いな…」
「そうですね。私は凄いです!何しろ『黒薔薇』ですから」
「黒薔薇」
フルールから聞いた話だと『黒薔薇』と言うのは公爵家に置いて代々『裏事』を取り扱う人間に与えられる称号なのだとか、そしてそれは女性が選ばれる。
「先代はお母さまでしたね。『殺人を恐れず』『知恵が回り』『残酷な事が平気で出来る』それを持って『黒薔薇』になれる。 そして私は劣等生ながら黒薔薇になれた。あとは咲きほこるだけでしたが…摘まれてしまいました」
本来ならフルールは『黒薔薇』になる事で公爵家の裏でナンバー2になり、更に言うなら将来は約束されたような物だったが…失脚してしまった。そういう事だ。
しかし、塔子も綾子も凄いな。
普通なら引く話なのに、さっきから驚いた様子が無い。
塔子は何となくこういう事は嫌いじゃ無さそうだが、綾子が普通に聞いているのが不思議でならない。
「綾子、大丈夫!」
「えっ何がですか?《不味い、油断しちゃった》 ちょっと驚きました、まるで小説や映画みたいな話ですね…絵空事のようですね。ですが、フルールさんが味方になるなら心強いと思います」
そう言いながら、口にハンカチをあてがっていた。
「ちょっと、なんで理人は私には聞かないの」
「塔子は何となく、こういう事に慣れていそうじゃないか?」
「まぁね…って一緒にしないでよ。私人なんか殺して居ないわ」
いや、『自殺に追い込むのが殺人』なら数人は』それを言うのは野暮だな。
「そうだな、綾子あまり聞きたく無いなら、耳を塞いでいても良いよ」
「大丈夫です! 此処は異世界だから、私も頑張らないと」
そう言ってガッツポーズをとる綾子はハムスターみたいで可愛い。
「扱いが違うんですけど!」
「ごめん、塔子も聴きたく無いなら耳を塞いでいて良いよ」
「大丈夫よ」
しかし、女の子って凄いな。
フルールの話を普通に聞いていられるんだから。
◆◆◆
夕方になり鐘がなった。
お城に戻る時間になった。
「ごめん10分だけ待っていて」
「どこか行かれるのですか?」
「ちょっと買い忘れ」
フルールが居るから大丈夫だよな。
俺は三人と別れ、テラスちゃんがくれた能力『世界観』を使った後に、近くの『薬店』に入った。
やはりそうだ。
只の薬店がドラッグストアになっている。
この品揃えはまるで『ヨンテンドラッグ』みたいだ。
売っている物は、全部日本と同じだ。
更に手持ちのお金が『円』に変わっている。
俺は目薬とコーラの500?を20本買うとアイテム収納に放り込んだ。
地味に消費税が免除なのが嬉しい。
『世界観』 異世界で不自由しないように『日本』のルール、環境を理人のみに与える。
神の権限で税金も免除。
こういう事だったのか。
だけどこれ『理人のみ』だから塔子や綾子、フルールは連れて入れないんだろうな。
まぁ良いや、今度時間がある時に検証してみよう。
俺はドラッグストアから出て後ろをみてみたが…もう只の『薬店』だった。
三人の元に走っていき、城へと一緒に帰った。
フルールSIDE 逃した魚は大きすぎた。
何故買って貰えたのか本当に解りませんわ。
檻に入って恐らくそのまま買われずに死んでいくそういう筋書きだった筈ですわ。
公爵家の『汚れ仕事をする人間』それが私ですわ。
この家の男は腑抜けで、今の当主に到っては血を見ただけで気絶してしまいます。
そんな男に変わって代々、女が裏で闇の仕事を担っています。
暗殺から守り、逆に敵対する家の人間は潰して行く、それが私の仕事。
その頂点に立つのが私フルールですわ。
黒騎士を率いて沢山の人間を拷問し情報を聞き出し殺しましたわね。
その為、当主、公爵夫人に告ぐ権力を与えられ人間、その人間だけが名乗れる称号それが『黒薔薇』
その存在は一般人には知られてませんが、王族から貴族まで知らない者はいません。
『拷問狂』『殺戮を楽しむ狂った女』『狂人フルール』これが私ですの。
奴隷商に言われましたわ。
「お前は売られる事は無い。今迄の自分の立場を思えば解かるだろう? 死ぬまで此処の檻で過ごすだけだ」
貴族だった私が、いきなり奴隷…しかも一番底辺の『廃棄奴隷』
廃棄奴隷だから操を守れているのが唯一の救いですわね。
貴族だから『死刑には出来ない』そこで考えたのが『奴隷に落として生涯誰にも購入させない』そんな所ですか。
他国の王家と婚姻が決まり、クリーンにしたいからこんな手の込んだ事をする。本当に馬鹿ですわ。
『最後に一回手を汚せば禍根を断てるのに、それすらしない馬鹿』
それがどれだけ残酷なのかを知らない。
情けがあるのであれば『殺してくれれば良いのよ』
その優しさも必要だと思いますわ。
惨めな人生より、潔い死。
『死』によって救われる人生もある。
そんな事も知らない馬鹿な家族。
『復讐しないのか』
しないですわね。
だってルーラン家は多分終わりますわ。
『裏から守ってくれる存在『黒薔薇』と『黒騎士』を捨てた』のですから外敵からどうやって身を守るのでしょうか?
他国の王族が態々なんで、他国の貴族から妻を娶ろうとしたか。
理由を知るべきですわ。
その理由は『私達』です。
『あの国の第三王子が欲しかったのは、そう私、黒薔薇なのですわ』
だってそうじゃないですか?
次期王位継承権がかかった王位争奪戦。
『自分を守りつつ、敵を殺せる存在が欲しい』
そう考えるのは当たり前の事ですわ。
幾ら表向きは清廉潔白なあの国でも裏ではドロドロしています。
だからこそ、『黒薔薇』を欲したのです。
そうでなければ、態々他国の貴族を妻に娶るなど、ご自身が不利になる事をする筈がありませんわよね。
今頃お姉さまは青い顔をしているに違いません。
そしてお父様もそうでしょう。
だって『王子から守って欲しい』そう言われても『黒薔薇』『黒騎士』はいないのですから。
普通のルーラン家の騎士じゃ無理な話です。
だから、私は絶望なんて実はしていませんでしたわ。
多分、困り果てたルーラン家が私を買い戻す。
そういう確証がありましたからね。
その時には『大きく吹っ掛けてやろう』そう思ってましたわ。
ですが…残念でしたわね。
私『買われてしまいましたから』
『黒薔薇』が仕えるのはただ一人だけですわ。
その1人を守る為には『全てを犠牲にする』それが黒薔薇。
その忠誠は既にルーラン家にはありません。
この世にただ一人『理人様』にだけ注がれます。
黒薔薇にとって『守る人』の価値は全てに優先します。
最早、私の全ては『理人』様の物です。
話しはそれましたが…私が何もしなくてもルーラン家は終わりですわね。
第三王子は、第一、第二王子の暗殺をして欲しいからルーラン家から妻を娶った。
なのに…その力は今のルーラン家には無い。
そして自身を守る事も出来ない。
『最悪のパターンはお姉様と王子が暗殺される』
『助かるパターンはどちらかの派閥に入り負けを認める』
そんな事態になった原因のお姉さまはきっと死ぬまで針のむしろですわね。
そして『怖さ』を捨てたルーラン家はそのうち食い物にされていきますわね。
まぁ、もう縁が切れたから…関係ない話ですわ。
敵対するようなら暗殺を視野にいれて、まずはエルド6世とマリン王女から出来るだけの好条件の引き出し。
この辺りからコツコツとはじめますか。
◆◆◆
「そんな、フルール様を売ってしまっただと! 売らないで生涯飼い殺す約束だったではないか?」
ルーラン家執事長セバス事私は、顔を真っ青にして震えていた。
ルーラン公爵より買い戻す様に言われて奴隷商に来たら、もう売られた後だったのだ。
『誰にも売られない筈の奴隷が売られていた』
「それは約束が違うでは無いか! 売らない約束で別に金子も払った筈だ」
「確かに受け取りましたよ! 私も『破棄奴隷』の場所に置いて一般人に目が届かない場所に置いていました。しかもはっきりと犯罪奴隷と先方に伝えて『貴族に嫌われる』そこまで言いました」
この状況なら確かに普通は買われる事はない。
だが売れてしまったのは紛れも無い事実だ。
「だが、理由は兎も角『居ない』じゃないか」
「ハァ~ 私は奴隷商人ですよ、奴隷商の資格は王宮が管理する厳しい資格なんです。『欲しいという買い手がいる奴隷を売らないで死ぬまでおいて置く』なんて奴隷法違反です。下手すれば資格停止になりかねません。今回の件は『売れない様に圧力をかける』その状況でこちらは、『売れにくい場所に置いて置く』『そして奴隷の評価を下げる』この2つを約束しました。私は廃棄奴隷置き場に置いて一般客が買わない様にしていました。まぁ見ての通り臭いし汚い場所ですから『此処にはお客がまず来ません』その上で『みすぼらしい服を与えて、風呂にも余り入れずに置きました』そしてお客には『犯罪奴隷の説明』『貴族に嫌われる』その『リスク説明』をしていたのです。約束は果たしていると思いますが如何でしょうか』
「そんな…」
そこまでしていて売れてしまったのか?
だから、私はこの件に反対したのだ。
どうにかしたいなら子家にでも縁組して出せばそれで終わった筈だ。
「こちらからしたら『売れない様に圧力をかける』そちらが失敗したのではないですか?としか言えませんな」
「買った人間を教えて貰えぬか」
「それは出来ません、私は『奴隷商』に御座います」
「だが、それは奴隷法違反にはならないだろう」
そう言って私は金貨3枚こっそりと渡しました。
「このお金は別の謝礼と言う事で受け取りましょう。ですが、もうフルール様を取り戻すのは無理ですな。引き取った相手は理人様。異世界人です。そして裏情報では『王のお気に入りで聖女パーティーのメンバー』です」
「それでは、もうどうしようも無い」
「そうです。もう諦めて関わらない事です。私はもうルーラン家には関わりません」
「何故だ!」
理に目ざとい商人が公爵家を切るというのか。
「私とて異世界人は怖い。あの様子では、あの異世界人はかなりフルール様を気に入っていられた。ルーラン家よりそちらの方が怖い」
本当に困った。
これでは、理人という異世界人に言った所でフルール様は帰ってこない可能性が高い。
返して貰えないと嫁いだルーラ様の立場が不味くなる。
最悪、離婚と言う事すらあり得る。
だが、それ以前に私はどうなるのだろうか?
『関わらない』奴隷商の言葉が頭に響く。
ルーラン家に帰らずに逃げ出した方が良いんじゃないか?
その通りだ。
幸いなことに家族は居ない。
フルール様を購入する為の金額金貨30枚もある。
良い職場だったが凄く残念だ。
私はそのまま帝国に逃げる事を決めた。
マリン王女とフルール
城に帰ってきた。
フルールを伴っているせいなのか騎士や貴族がこちらに注目してくる。
「ふっフルール様」
「何故、フルール様が此処に居るのですか?」
「凄い人気者だな」
「そんな事ありませんわ! ただ騎士としても私が強いので知られているだけですわ」
「騎士として、フルールは騎士としても強いのか、凄いな」
「まぁ、何でもありなら上級騎士や聖騎士にも負けませんわね」
『何でもありなら』か。
確かにフルールらしいな。
「なんでもありか、それじゃフルールは武器は何を使うんだ」
「硫酸等の酸や、薬品を使った戦いが得意ですわね。まぁナイフに剣一通りは使えますわね。黒騎士を指揮するのですから『黒騎士に負ける黒薔薇は居ません』あっ、但し私は対人は得意ですが、対魔物は余り得意ではありません」
確かに人相手の暗殺や拷問を得意としているフルールにしたら『魔物』は得意ではないと言うのは解かる気がするな。
「フルールって出来ない事が無い様な気がするのは気のせいですかね」
「私もそう思います」
「そうでもないですわ、私にも不得手な事はありますわよ」
「例えば、何があるの?」
「私も聞きたい」
「あえて不利な事は見せない、それも処世術ですわ」
◆◆◆
このお城での生活は結構フランクな所が多い。
王様や王女様とすれ違っても会釈位で済まされる。
決して何処かの小説のようにひれ伏したりはしないで良い。
「貴方はフルール」
マリン王女がフルールを見るなり真っ青になっていた。
「お久しぶりです姫様」
「…」
「どうかされましたか? 別に親友で恩人の私を見捨てた事なんて恨んでいませんわ。今は素晴らしい『ご主人様』に恵まれましたからね」
「そう、恨んで無いのね! 良かったわ」
どうやら、マリン王女とフルールの間には何かあるようだ。
「ええっ、今の私はご主人様の理人様が全てですわ! まぁ身分は奴隷ですが、凄くお慕いしておりますのよ」
「貴方が奴隷…」
「マリン王女、嘘はまるわかりですわ。情報通な貴方が知らない訳はありませんわよね? 『別に恨んではいませんわ』ですが、私は何度も貴方を助けてあげたのに、貴方は助けてくれませんでしたわね!次に貴方が困っても多分『黒薔薇』は何処にも咲かないと思いますわ」
「そんな私達はお友達じゃないですか」
「そうですわね、お友達ですわね! ですが私マリン王女には貸はあっても借りはありませんわ。私に貸を作った方がお得だと思いません」
「あの、フルール、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「そうですね、えーと」
可愛らしい仕草でフルールは考え込んでいる。
だが、その口から出た物は凄い要求だった。
「この城から出る時に、そうですね理人様に『自由爵位』を下さいな」
マリン王女の顔が険しくなった。
「そんな、爵位ですら、そう簡単には与えられません! ですがお友達の貴方が言うなら特別に男爵位を」
「檻の中って凄く窮屈なのですわ。挙句自由も無く檻の中で排泄まで全部済ませ、犯罪奴隷だからスープも貰えずカビだらけのパン1個だけの食事が1回、凄く辛かったのですわ。凄く辛かったのですわ…ルーラン家のこの仕打ち酷いと思いませんか!ですが、貴族を奴隷に落とすには『王印』が必要な筈ですわ。王族の誰かが印を押さなければ私は奴隷落ちしなかった筈ですわね。マリン王女、私その印を押した方を凄く恨んでおりますわ…この心をお友達のマリン王女はどうやって癒してくれるのかしら?」
「フルール、私は押してないわ…ですが、誰か王族が押したのは事実です。『自由爵位』の件お父様に伝えておきます」
いや、普通に考えてマリン王女か王しか押さないよな。
「そう、解りましたわ。私達の友情に罅が入らない事を祈りましてよ」
「解かったから、そう怖い顔をしないで」
「怖くありませんわ。私お友達には優しいのですわ! 敵には」
「絶対に、約束を取り付けます、だから」
「ありがとう、姫様…それじゃ『伯爵』以上でお願いしますわ」
「解かった」
これじゃどちらが王女か解らないな。
◆◆◆
お城での生活も余す事1週間となった。
最後に演習を行い、その後は支度金を貰って旅立つ事になる。
マリン王女と闇騎士
マリンから報告を受けた余は、今困り果てている。
まさか、あの状況からフルールが這い上がって来るとは思わなかった。
ルーラン公爵は詰めが甘くて使い者にならぬ。
あの馬鹿公爵、アマール国の王子の妃に自分の娘の1人がなるからと『公爵家の暗部』であるフルールを斬り捨てた。
本当に馬鹿な奴だ。
『何故殺さない』
折角地位を取り上げたのだ。
簡単に殺せる状態にまでした。
勿論、表向きそんな事は出来ない。
だが、普通は此処は『金を握らせて殺す』それが貴族では無いか?
腹芸の一つも出来ぬのか。
折角、この国のフルールへの借りがフルールが死ぬ事で終わる所が、更に借りが増えてしまった。
さらにマリンの調べではアマール国の王子が欲していたのは『黒薔薇』の力なのだから滑稽な話だな。
「マリン、フルールは『自由貴族』の地位を与えて欲しい。そう言っておったのだな」
「はい、奴隷にまで落ちてもフルールはフルール、あの怖さ、交渉力はいささかも劣っておりませんでした。敵に回すとあれ程厄介な者はおりません」
「だが、伯爵以上となると、新たに用意するのは難しい所だ」
「お父様、私に妙案があります」
この状況からどうするのか、余では何も思いつかないな。
「それでどんな案なのだ」
「はい、フルールはルーラン家の娘で『黒薔薇』という役目柄、実質なナンバー2というのはかなり貴族に知られています。 その為ルーラン公爵を殺すだけで良いですが、そうすると夫人と長男が意義申し立てを言う可能性があります。表向きは後継者は長男ですから、この二人も殺してしまえば、誰も文句なく自動的に公爵位はフルールの物です。その公爵位をこれから魔族の討伐に行くからという名目で『自由公爵』扱いにしてフルールの希望で主である理人殿に渡せば良いと思いますが如何でしょうか?」
「なかなか良い案だが、ちと無理は無いか」
我が娘ながらこういう謀略に掛けては天下一品じゃな。
だが、まだ若い。
何か見落としがあるかも知れぬ。
「本来なら問題はありますが、今回はフルール.ルーランが奴隷落ちしていました。そう考えたら『何者かの陰謀』そう見せる事も出来ます。それに与えるのは『爵位』です。フルールは領地の事は言っておりません。法衣貴族の公爵扱いで国から年金を出す代わりに領地を全部王の直轄地として召してしまえば大きな利益になります」
「確かにルーラン領は豊かな土地、それが手に入るなら良い話じゃな」
「そうです。それに今のルーランには『黒薔薇』も『黒騎士』も居ない。私の直轄の闇騎士数名で簡単に暗殺できます」
「まぁ、魔族には全く歯が立たないが対人戦なら」
「はい『黒騎士』が居ないのなら私の闇騎士が最強かも知れませんわね」
◆◆◆
我らは闇騎士。
名前は名乗らない。
お互いはナンバーで呼ぶ。
若いナンバー程序列は上だ。
裏の仕事専門で普段は民衆に紛れている。
年棒金貨300枚(約3千万)これは通常の騎士爵の3倍にあたる。
我らの存在は姫様と王しか知らない。
汚れ仕事専門の『王族の持つ暗殺部隊』それが我ら闇騎士。
「しかし、我らナンバーズが行くだけの事ですか?」
ナンバーズとはその闇騎士の中でも戦闘力に優れた10名の事を言う。
俺はナンバー2だ。
ナンバー1は基本余程の事が無いと動かない。
「仕方ないだろう、姫様の命令なんですからね!」
「ナンバー3、今回は貴方を含んで9名。ナンバーズが3名も居る。黒騎士が居るなら兎も角、相手は只の騎士しょ? 僕だけで充分しょ!」
「ナンバー9、最近ナンバーズに入ったばかりなのに貴方は生意気だわ。いい、姫様の命令は絶対、文句は無しよ」
「そうですね、スイマセンでした」
我ら闇騎士にとって今回は楽な任務の筈だった。
だが、違った。
ルーラン公爵家を見張っていたが人の気配が全くしない。
何かの罠があるのか、そう考え様子を見ていたが使用人すら殆ど見当たらない。
『これは可笑しすぎる』
屋敷から出てくる使用人に近づき話を聞いた。
「ルーラン様のお屋敷の方ですよね? あの屋敷には沢山の使用人が居たと思うのですが何かあったのでしょうか?」
「貴方はどなたでしょうか?」
「私はライダと申します。昔父と母がルーラン公爵様に、大変お世話になった物ですから、気になりまして」
「そうかい、今はいかない方が良いよ! ルーラン様がね、王様を怒らせてしまってね。お咎めを受ける事になったんだ。それで使用人も咎められたら可哀想だと言い出して全員解雇なさったんだよ。自分の命すら危ないというのに、まるで別人さぁね。退職金に金貨まで下さって、あんなに良いご主人様だとは思わなかったよ」
可笑しい、俺達はルーラン公爵を暗殺する為の命令できた、王が怒っている。そんな話は何処からも聞いていない。
「そうですか、まだルーラン公爵様はいらっしゃるんですね」
「まだいますが、今は誰とも会わないと思いますよ」
「そうですか」
腑に落ちない。
何かが可笑しい。
だが、今屋敷に入るのは目立ちすぎる。
田舎とはいえ近くを誰が通るか解らない。
俺達は夜まで待って屋敷に忍び込んだ。
「いったい何がおきたのでしょうか? ナンバー2」
「解らないからこそ偵察を兼ねて忍び込んだんだ」
「そうですね」
最初は警戒しながら歩いていたが、誰も居ないので警戒を解いた。
「しかし、誰も居ないな」
「その様ですね…」
やはり誰も居ない。
使用人は居なくても…公爵達は居る筈なのだが、何処からも声は聞こえてこない。
手分けして一部屋一部屋確認して進んでいった。
ナンバー4が俺の傍に走ってきた。
「何があったんだ」
「見て下さい」
ナンバー4について部屋に入ると其処には公爵夫婦と長男が天井からぶら下がっていた。
※フルールが凄く人気がある様なのでつい気が付くと本編からずれてきてしまいました。
後1話書いたら本編に戻ります。
ルーラン家の最後
時は少し遡る。
今回の我々の目的はルーラン公爵夫婦、および長男の暗殺。
そして、なりすまし使用人を無事解雇する事だ。
「それでは任せたぞ、黒の30番」
「また俺ですか? 真っ昼間から正面から入って三を暗殺して誰にも気づかれずにその死体を隠すなんて無茶苦茶ですよ」
「と30番が言っているが、こんな簡単な事此奴、出来ないらしいぞ! こんな簡単な事出来ない奴なんて居ると思うか?」
「まぁ黒騎士には居ないわよね」
「赤ん坊でも出来るお使いみたいな仕事だな」
「だな」
此処には黒騎士総勢30名で来ている。
だが、この任務に参加するのは5名。
そして残りの4名は俺に全部やらせて自分は何もする気が無いらしい。
「出来ないとは言ってないですよね…はぁ30番は辛い、折角黒騎士になれたのに実質ただの使い走りみたいなもんです」
「黒騎士になったからには『お前が一番欲しい物』は手に入ったのだろう! ならば文句は言うなよ」
「はいはい」
こうして俺はたった1人でルーラン公爵家暗殺を行う事になった。
俺はまず、公爵家の使用人を一人見つけて軽く当身をあて気絶させて納屋に放り込んだ。
可哀想だから金貨10枚を布袋に入れメモとして『退職金』とかいた物と一緒に胸元に入れておいてあげた。
俺って親切だよな。
まぁ良いや。
そのまま屋敷に入るが誰も俺には気がつかない。
俺の黒騎士での字は本来は『影無し』
何処にでも入り込み気がつかれない事からついた字だ。
究極のモブ、何処に居ても違和感が無く感づかれない。
それが俺だ。
だが、最後に入ったからか誰もが『30番』としか呼んでくれない。
何食わぬ顔で中に入り込み、俺は簡単に公爵家族に近づく。
「うん、お前は誰だ、なにかようか?」
『公爵様、申し訳ございませんが死んで貰います』なんて言わない。
こんな事言うのは物語の中の人間だけだ。
実際のプロは声なんて出さない。
一瞬で近づくと細い針を心臓に突き刺した。
この針は凄く固く、そして鋭い。
「ひぃ..」
馬鹿な奴だ。
怯えないで廊下に出て叫べば助かったのにな。
しかしクズだ。
子供を庇おうとしない。
そのまま首筋から長い針を心臓まで打ち込み絶命させる。
「お金ならあげますから、だから殺さないで」
「怯えなくて大丈夫だよ! 俺は優しいから一瞬で楽に殺してあげる」
そういいながら心臓に針を打ち込んだ。
それぞれが声を殆どあげる間も無く一瞬で殺す。
それが俺の得意な殺し方だ。
どちらかと言えば苦痛なく殺すのが俺のスタイル。
最も黒騎士である以上は『最大の苦痛を与え拷問のうえ殺す』事も可能だ。
俺は通信水晶を使い仲間に連絡をした。
「三名の暗殺に成功、このまま公爵に成りすまし使用人を解雇します」
「了解」
公爵から服を脱がし着替え三名の死体をベッドの下に放り込んだ。
これでこの部屋を掃除するまで誰も死んだ事に気がつかない。
俺は『顔無し』から貰った特殊マスクを被った。
黒騎士の先輩に、どんな姿にもなれるという『顔無し』という存在が居る。
本来なら此処からは彼の出番だが、フルール様が絡まないせいか、目一杯サボるな。
こんなマスクを渡して「お前がやれ」だと。
宝物庫の鍵をあけて中を確認。
そして、執事を捕まえて使用人を集めた。
「何があったのですかご主人様」
「実に不味い事になった。娘を他国に嫁がせた事で儂に謀反の疑いが掛かってしまった。仲の良いバルダーク伯爵からの手紙では暫くしたら国軍がこちらに責めてくるという話だ」
「そんな、それで旦那様はどうするのですか」
「私達家族はもう助からない、だが仕様人のお前達迄死ぬ事は無い。1人金貨10枚渡すゆえにすぐに屋敷から立ち去るが良い、解雇した使用人にまで咎が行く事はあるまい」
「旦那様」
「御主人様」
「「「「「「「「「「「「「「「ご主人様」」」」」」」」」」」」」」」
「時間が惜しい、さぁ今から金貨を配るゆえ、それを持って立ち去るが良い、宝物庫の物は足がつくから無理だが、それ以外の物で欲しい物があれば持っていって構わぬ、ただ、最後の時はゆっくり家族で過ごし、死を迎えたいからななるべく急いでくれ」
全員が悲しそうな顔で見ているが、俺は知らない。
俺は公爵で無いからな。
流石に金貨10枚も貰えると解ってか行動が早い。
俺は全員に金貨をはらい終わるとベッドに寝ころんだ。
1時間位はたっただろうか?
「ご主人様、私で最後でございます」
「そうか、俺達の分まで達者で暮らすのだぞ」
「はい..」
「そう悲しそうな顔をするな、今迄ありがとう」
「ご主人様勿体なく思います」
俺は屋敷から使用人が全員立ち去るのを確認すると三人を吊るして仲間に連絡をとった。
「コンプリート」
◆◆◆
「これが俺達の退職金代わりか?」
「そうね、流石はフルール様太っ腹だわ」
「全員で均等に分けろと言う事だったから1人当たり金貨2200枚(2億2千万)か、働かないで暮らせるねぇー」
「それでお前達はこれからどうするんだよ?」
「フルール様に『これから自由に生きなさい』って言われたわね」
「『自由』なんだから、別に黒騎士を続けてもいいんじゃない」
「まぁ、何か遊び半分に仕事をしながら、フルール様が困ったら助けるとか」
「あのフルール様が困ると思うか?」
「困らないな、しかもあの方が惚れた男が傍に居る」
「あのおっかないフルール様が女の顔をしていた位だからな」
「それじゃ解散か」
「そうだな、ルーラン家が無くなったのだから解散か」
「まぁ『自由』で良いんじゃないか? 俺は面白そうだから暫くフルール様の傍で遊んでいようと思う」
「そうだな、冒険者にでもなって暫く傍で遊んでいるか」
「そうだな」
結局、黒騎士達の半数が『暫くフルールの傍で遊ぶ』事を選んだ。
「おい、変なのが来たぞ」
「何だ、あれ」
「まぁ良い、俺達はずらかるから30番頼んだ」
「また俺ですか」
仕方ないな。
「ルーラン様のお屋敷の方ですよね? あの屋敷には沢山の使用人が居たと思うのですが何かあったのでしょうか?」
「貴方はどなたでしょうか?」
「私はライダと申します。昔父と母がルーラン公爵様に、大変お世話になった物ですから、気になりまして」
「そうかい、今はいかない方が良いよ! ルーラン様がね、王様を怒らせてしまってね。お咎めを受ける事になったんだ。それで使用人も咎められたら可哀想だと言い出して全員解雇なさったんだよ。自分の命すら危ないというのに、まるで別人さぁね。退職金に金貨まで下さって、あんなに良いご主人様だとは思わなかったよ」
多分、此奴、俺達と同類の臭いがする。
「そうですか、まだルーラン公爵様はいらっしゃるんですね」
「まだいますが、今は誰とも会わないと思いますよ」
「そうですか」
さてと、後でこいつ等驚くだろうな。
使用人を探して話を聞いても…真実は解らないんだから。
◆◆◆
時は更に遡る。
「貴方は黒騎士、黒の3番」
流石は私の黒騎士。
王城にまでくるとは思いませんでしたわ。
「フルール様、一体どうしたのですか? 何故本当に奴隷になってしまったのですか?」
確かに。
少し前まで私は少し腹がたっていましたわ。
ですが、どうでもよくなりましたわ。
「そう言えば、私が居ないくなった後の貴方達は何をしていたのですか?」
「一応表向きは解散ですね。ですが我々の忠誠は貴方にあります。貴方からの号令一つでルーラン家の公爵は元より王族であっても」
「興味ありませんわ」
「フルール様?」
「私、恋をしましたの」
「えっ、フルール様がですか?」
「その顔はなんですの、私だって恋位しますわ。今迄は、私の目に止まる男が居なかっただけですわ」
「そうなのですか?俺はてっきりフルール様は拷問や暗殺が恋人なのだと思っていました」
「貴方、死にたいの?」
「死にたくはないですね《こんな顔は見たことが無いな》」
「冗談よ…そうね、今迄『ルーラン家なんてどうでも良い』そう思っていたけど、あのまま誰かに持っていかれるのは勿体ないですわね」
「フルール様?」
「どうせ、誰かに持っていかれるなら『貴方達の退職金』にしちゃいなさいな。ただ使用人にはお世話になった人も居るから幾ばくかのお金はあげて…そうですわね」
私は、ルーラン家のお金を黒騎士の退職金代わりに与える事にしました。
本当に義理固いですわね。
何時でも自分達だけでどうにでも出来ますのに…
私が許可しないと貰わないなんて。
「本当に宜しいのですね」
「どうせ『黒薔薇』と『黒騎士』の居ないルーラン家なんてすぐに終わりますわ、それなら散々私に仕えてくれたのですから貴方達に退職金としてあげますわ」
「フルール様が言うなら、有難く頂きます」
散々汚れ仕事をさせられていたのですからこれ位当然ですわね。
◆◆◆
しかし、本当に律儀ですわね。
金貨2200枚入りの収納袋が届けられ『フルール様の分です』って。
まぁ折角のご厚意ですので頂きますわね。
マリン王女とフルール?
「フルール、貴女やりましたわね」
廊下でマリン王女に呼び止められましたわ。
全く、王女なのですから、奴隷の私など放って置けば良いのですわ。
『無視』出来ないのが彼女の弱さですわね。
「何の事ですの? ルーラン家で何か起きましたか?」
こう言って置けば、頭の良い彼女の事です。
大体察する筈ですわ。
「やはり、貴方が」
「さぁ? お金は無くなってしまったかも知れませんが、あの盗賊は美術品や宝石は手をつけずに置いていった筈ですわ。 屋敷に領地が手に入るのですから、充分に王家にとって良い話の筈ですわ。あっ、そう言えば私『ルーラン家の娘』ですわね。奴隷の物はご主人様の物ですから『公爵』を自由公爵に変えて理人様に渡して下さい…ですわ」
さぁ此処で、マリン王女はどう動くのか楽しみですわ。
「全部知っているじゃない! やはり黒騎士」
「そんな事はどうでもいいですわ!『自由公爵』の地位が理人様に貰えるかどうか、それだけしか興味はありませんわ」
「此処に来る時に『与える』とお父様に許可を得ました」
「そう、それなら良かったですわ」
しかし、王女の癖に、たかが奴隷に真っ青になって可笑しくて笑いたくなりますわね。
「それでフルール聞かせてくれない。何故、貴女は理人殿に肩入れするのですか」
理人様の事を解らないなんて、まだまだですわね。
「ハァ~惚れたからに決まっていますわ」
「惚れた?! 黒薔薇が…」
なに惚けているんでしょう。
あれ程の人間は2人と居ないのに。
その価値すら解らないのですわね。
「理人様は私の目を見ても恐れませんわ。それに私の話を聞いても怖がりませんわ。それがどういう事か解ります?」
「…」
「解らないのですわね。私を恐れない存在は僅かながらいますわ。例えば黒騎士の5番以内の人間は私を恐れずに普通に接してくれますわね。ですが、彼等は『こちら側の人間』ですわ。色で言うなら『闇』に『黒』ですが、理人様は色で言うなら『光』『白』それなのに私を蔑まず、怖がらず『ただ一人の少女』として見るのですわ」
なんで変な顔をしているのです?
可笑しいですわね。
「それが、原因なのですか?! その程度の事ですか」
「その程度! 暗い闇の中で生きてきた私に心からの笑みを浮かべる存在はおりませんでしたわ。それはさっき言った黒騎士の5番以内も同じですわ。心の中で自分より深い闇を纏った私に恐怖、畏怖を感じでいますわ。ですが理人様にはそれがありませんわ。私はこう言う気持ちを伝えるのが不得手でして、簡単にいうなら、理人さまはそう『太陽の様な方』なのに『闇』である私に優しい笑みをくれるのですわ」
「それが、そんなに大切な事なのですか」
ハァ~仕方ありませんわね。
少し本当の闇を見せるしかありませんわね。
「仕方ありませんわね、普段私が押さえている物をお見せしますわ」
私は両目でマリン王女を強く見つめました。
◆◆◆マリンSIDE◆◆◆
私はフルールの目を覗き込んでしまった。
「あああっあああああーーーーーーーっ」
怖い、怖いなんて物じゃない。
なにこの光景。
沢山の悍ましい姿の人間が『殺せ』『殺せ』と喚いています。
『より残酷に殺せ』『殺せ』
殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ
その傍で『助けて』『助けて』と無く声がします。
その声に混じって『娘だけは助けて』『妻だけは』『息子だけは』という声も聞こえてきます。
助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて
「あああっ、嫌だぁーー死にたくない、助けて殺さないでーーーっ」
『地獄に落ちろ』『許さない』『呪われて死ね』
死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね
「嫌ぁーーーっいやああああああーーっ」
沢山の亡者の様な存在が私を責め立ててきます。
数えきれないほどの人数が私を責めて許さないと言うのです。
地獄なんて生ぬるい…そう思える程恐ろしい世界にいきなり放り込まれました。
「あああああっあああああああーーーっああああっ、あははははははっ。いーひっひひひひひい..あはははっ…いやうあうわーーー」
『正気を保ちなさいですわ、さもないと死にますわよ』
「あれっ フルール?」
私は一体何を見せられたのでしょうか?
「これは一体…ハァハァ」
「それが私の見ている世界ですわ。まぁもう慣れましたが『黒薔薇』を継いだ時から歴代黒薔薇に殺された人間の怨念に近い物や、歴代黒薔薇の意思みたいな物が私に纏わりついているのですわ」
これがフルールの世界。
この僅かな時間だけでも気が狂いそうな程、恐ろしい世界。
これが『黒薔薇』の世界だというのなら誰も正気を保てない筈です。
一瞬見ただけの私でさえ、頭が可笑しくなりそうになりました。
「これが貴方の世界なの、ハァハァ」
「そうですわね、歴代黒薔薇から引き継いだ狂気と言う所ですわ。まぁ実際はこれが何か解らないのですわ」
「こんな物が貴女の目を見つめると見えるの…ハァハァですか」
「そうですわ、これで理人様が如何に素晴らしい人か解った筈ですわ」
「解らない…ハァハァ」
「理人様は私と話す時、覗き込む様に私の瞳を見るのです、こんな表面だけなく、もっと恐ろしい深淵まで見られるのですわ。それでも正気で居られて、それでも笑顔で話すのですわ」
「そんな、こんな恐ろしい物を見て、にこやかにいられる筈はない」
「ええっ理人様以外では、皆さん恐ろしい物をみた顔になり、王女様みたいに失禁しますわね」
「ええっ」
そんな私が失禁するなんて。
「これが理人様を私がお慕いする理由ですわ。私を知り恐怖を一切覚えない『光の様な方』こんな方は恐らくこの世に、いえ歴代の黒薔薇の歴史にも居ませんでいたわ。解って頂けましたわね」
そう言うとフルールは私を置いていってしまいました。
私は恥ずかしい水溜まりをメイドに始末させ着替えました。
まさか、あのフルールが恋をするなんて思いませんでした。
『汚い部分や恐ろしい部分』を見ても怖がらないパートナーですか。
フルールが惚れる訳ですね。
今のフルールは『理人殿』の為ならなにをしでかすか解りません。
絶対に厚遇しないと不味い事になります。
ハァ~胃が凄く痛いです。
※予告と違い、すみません、またフルールの話になってしまいました。
次回こそは主人公のエピソードを書きます。
幸せ異世界人
いよいよ明日から演習か。
これが終わったら3日間の休みの後旅立ち、後は誰かが魔王を討伐するか、招集が掛かるまで戻る事は無い。
俺はこの演習が憂鬱だ。
何故なら…『俺だけ魔族には襲われない』この状況は不味いかも知れない。
テラスちゃんに祈ってみるしかない。
そう簡単に神託など降りて…くる訳はないな。
『呼んだ~』
こう簡単に神託等降りてきて良い物だろうか?
俺は演習についてテラスちゃんに聴いてみた。
『それなら多分平気よ、思う存分狩っちゃいなさい!』
『平気なのですか?』
『よく思い出して『知能の低い存在は言う事を理解できないから戦うしかないし狩っても問題無い』そういった筈よ。演習でいくのなら恐らく簡単に倒せる、知能の低い魔物だから問題は無い筈だわ』
『確かにそうですね』
『ええっ、だから安心して良いわ..あと貴方の能力の紐づけはこの世界の神じゃ無くて私だから面白い裏技が実は使えるのよ。言うかどうか迷っていたけどね』
何だかテラスちゃんが一瞬悪い顔をした。
『それはどういう裏技ですか?』
『人間を狩るのよ! 貴方限定だけどね、此の世界の人間は私にとって『邪教徒』だから、此の世界で幾ら善人な人間でも、私の子である貴方からしたら狩って良い相手なのよ。この世界の人間は誰を殺しても経験値になるわ、更に言うなら『元地球人』は最高の獲物よ。信仰を捨てて邪教に乗り換えた人間。私にとっては神敵とも言えるからね。経験値は凄く高いわ。まぁこれを知ってどうするかは理人が判断してよいわ。ただこの世界の人間に限り、善良な人間も含んでどれだけ、大量虐殺をしても私的に罪に問わないから安心して良いわよ。』
そうか、テラスちゃんからしたらこんな感じなのか。
『凄い話ですね…まるで『チートスレイヤー』になれば強く成れる。そんな話に聞こえますね』
『まぁそれ以外の人間も狩れば経験値になるから『チートスレイヤー』というより『異世界スレイヤー』そんな感じかしらね』
流石に『善良な人間』は殺したくないな、但し『悪人限定』なら容赦する必要は無いのかも知れない。
そういう事で良いのか。
『確かにそんな感じですね』
『まぁ、そういう能力に特化しているだけで、前に話した通り自由に生きて良いわ』
『異世界スレイヤー』か実際に生活をし始めてから考えて見るのも良いかも知れない。
◆◆フルールSIDE◆◆
しかし、マリン王女にも困った物ですわ。
あれから私を見る度に震えていますし「好きにして良いです」としか言わなくなってしまいました。
王女と奴隷なのにこれじゃ可笑しすぎますわ。
まぁ、もうじき此処もお別れなので別に良いですけど。
◆◆奴隷購入予定組SIDE◆◆
「しかし理人が一番乗りで奴隷を買うなんて思わなかったな」
「まぁ仕方ないんじゃないか? 理人は『無能』だからモテないらしいからな」
「いや、理人君は『無能』でもモテるでしょう」
「確かに、派手さは無いけど結構なイケメンだからな、俺が『無能』だったら絶望的で自殺を考えるよ」
「まぁ、金貨30枚あれば買える様なハーレムだし羨ましいのはいまだけさ。俺が欲しいハーレムは奴隷商で見た感じだと金貨400枚(約4000万)以上なんだよな、半年から1年掛かるな」
「私もそうよ、イケメンエルフは金貨100枚以上なんだもん! だけど人族なら金貨10枚(約100万)も居るじゃない?妥協するか? それとも初志貫徹か本当に悩むわ~」
「だけど、幾ら綺麗な女奴隷買っても、10年~20年経ったらもう、家のおばはんに近い状態になるんだぜ。奴隷商の親父が言っていたじゃない?『将来を考えたらエルフが良いって』」
「買えないなら、解るけど奴隷商の店主曰く『異世界の方なら早い方なら3か月、大体1年以内で理想の奴隷を買われている様です』と言うから余計に迷うな」
「3か月の我慢かぁ~そう考えると、今回の演習は『仲間』を探さないとな」
「まぁ、その後も相性が良ければ、ある程度の期間は一緒のパーティーで過ごすのも良いんじゃないかな。最初のパートナー購入まではね」
「そうだね」
◆◆喰っていたメイド達SIDE◆◆
「そう言えば、ルノールはもう妊娠出来たの?」
「バッチリですよ、お使いの時に検査したら出来ていました。毎晩押しかけて、我慢して淫らにやっていましたから」
「そう良かったわね、それで隅田様との関係はどうするの?」
「今日お暇を貰いましたから、このまま手紙だけ置いて去るつもりですよ。お腹が大きくなる前に故郷に帰りたいですから」
「ルノールはあたりだよね。これで旦那と一緒にその子を育てれば一生安泰だね」
「この子は未来の騎士かA級冒険者ですからね」
「私は駄目かな、あと1週間最後の望みに賭けるわ」
「私も妊娠は出来たけど、魔法使いの鈴木様ですから」
「それでも将来は『魔法が使える』のが確定だからあたりじゃない! 良いなぁ~」
私はサマンサ、いよいよ、あと少しで異世界人たちとお別れの時が来ました。
もう既にほぼ明暗は別れています。
無事妊娠出来た者は『もう出ていく準備』に入っていますし、逆にまだ、妊娠していない者は最後のチャンスに賭けて焦っています。
私は『どうにか勝ち組に』になれました。
後々、問題になるといけないから妊娠については『本当の父親』には絶対に言いません。
後は、故郷に帰って旦那と共に『真実を隠して』この子を大切に育てていくだけで幸せになれるのですから。
だってこの子は『異世界人の血を引く優秀な子』なんですからね。
◆◆喰われた者SIDE◆◆
「ルノールが居なくなってしまった。あんなに愛し合っていたのになんで…」
「ルノールを責めないであげて下さい。 この国の農村部は貧しく、人手を必要としているのです」
「だったら僕が」
「いけません。貴方は魔族と戦う大切な任務があるのです。只のお針子のスキルしか持たないルノールがついていけると思いますか? 隅田様の事を思って身を引いたのです。解ってあげて下さい」
「そんな..僕は」
「私で良ければ、ルノールの代わりにお慰めいたしますから、そんな悲しそうな顔はしないで」
「ありがとう…」
「もう泣かないで下さい(最後のチャンス逃してなるものですか)」
さようならルノール僕は君の事を忘れないよ。
◆◆◆
「さようなら」
「いきなり、さようならなんて、サマンサ、俺は君を愛しているんだ」
「私も皆川様を愛し、お慕いしていました」
「それなら何故だ、俺は絶対にサマンサを幸せにする..だから」
「それは駄目です! 皆川様はこの世界を救う大切な方、いずれ英雄になられる方です。それが私みたいなメイドに現を抜かしてはいけません」
「だけど俺は」
「貴方は異世界人、未来の英雄です。やがて伝説に語られる方なのです。それがこんなメイドに気をとられてどうするのです」
「だが、俺は」
「私は楽しい夢をみさせて頂きました」
「夢」
「はい、世界を救う英雄の初めての女になれたのですから、この夢だけで幸せです」
「そんな」
「良いですか! 貴方は旅の先々で沢山の女性と出会います。きっと、その中には私なんか比べられない程の美女がいます..だからもう私の事は忘れてください」
「どうしても無理なんだね」
「はい…だけど、私は皆川様の事は生涯忘れません。楽しい夢を有難うございました。英雄が一時とはいえ私を愛してくれた。それを胸に生きていきます…さようなら…うっううっ」
「泣かないでサマンサ」
◆◆
「鈴川様…私待っていてもいいですか?」
「ミルカ、君は僕を待っていてくれるのか?」
「はい《どうせ、迎いになんて来ないわよね、だって異世界人はモテるんだから》」
「僕、頑張るよ仲間と一緒に戦って世界を救ったら必ず迎えにいくからね」
「待ってます! 鈴川様!《絶対に帰って来ないんだから無駄に嫌われる必要はないよね、此処で別れたらもう会う事は無いし、すぐに他の女の物になるんでしょうから。もし本当に迎えに来ても『寂しかった』でどうにかなるでしょう》」
「必ず迎えに行く…待っててくれ」
「はい」
『異世界人』目当てで城に居た若いメイドの半数以上が城を離れていった。
そして残ったメイド達は最後の望みをかけて異世界人を誘惑していく。
◆◆◆王とマリンSIDE◆◆◆
「貴族との婚姻が決まった女の異世界人は10名か」
「はいお父様…それで」
「解っておる『異世界人特権の廃棄』を望んでいる…そういう事だな」
「はい、おっしゃる通りです」
馬鹿な奴らだ、自らの特権を手放すとは。
まぁ何時の事だ。
当人の意思で誑し込まれたのだ。仕方ないな。
◆◆王の考え◆◆
「僕は君が危ない目に逢うのが怖くて心配なんだ」
「ですが、私は異世界人です。戦わないといけないのではないですか?」
「確かにそうだけど、魔族に負けて君が死んだら…僕は生きていけない」
嘘でしょう?
そんなに危ないの?
私、死ぬかも知れないの。
「そんなに危ないのですか?」
「ああっ、前に魔族と戦かった時に騎士団2000名以上が死んだ」
「そんな、ですが私には強力なジョブやスキルが」
「騎士の中には上位騎士もいたし、異世界人は確かに強いけど死なない保証はないよ」
「そんな、私はどうしたら良いの」
「僕が守るよ」
「アランド様が」
「例え王を敵に回しても僕が守る、『異世界人の特権を手放して』貴族として僕と結婚してくれないか?」
「本当に? 本当に私で良いの」
「ああ、勿論だとも」
◆◆考え終わり◆◆
どうせ、こんな感じに誑かされたに決まっておる。
大体、お見合いを設置している以上余やマリンは反対などしない。
まぁ『お金は徴収する』がな。
しかし、異世界人は異性に弱い者ばかりじゃ。
「女として、これから家畜の様な人生を送るかと思うと同情します」
「当人が喜んでいるのだ仕方なかろう」
「私には苗床人生なんて出来ません、まぁ当人が選ぶのだから仕方ありませんね」
これから、彼等がどうなるのか?
毎日、毎日沢山の男に抱かれる人生が待っておる。
最初は婚約した貴族。
次にはその子家の貴族等から顔が整った者を選抜して抱かれる。
しかも、彼等の多くは『たらし』所謂女扱いが上手い見た目麗しい少年や青年が多い。
毎日『愛を囁かれ』沢山の男に犯されながら生きていく、それだけの人生。
それはまるで、ゴブリンの苗床の様な人生だな。
ただ、相手が美形な男性で自ら股を開いている、それだけの違いじゃ。
少ない者で30名、多い者になると70名以上もの子供を作らせられる。
異世人の子供は優秀だ。
沢山欲しいという貴族の気持ちも解かる。
莫大な金額を余と国に払い『異世界人特権の廃棄』を願い出るのだから元をとりたいと思うのは当たり前だ。
暇さえあれば男に抱かれる毎日なのに。
『此処は乙女ゲーの世界で私がヒロインだったなんて』
『嘘、まさか私が主人公で恋愛ゲームだったの』
そんな事を言いながら男相手に腰を振る生活が『最高の生活』なんだというのだから信じられぬ。
余には家畜にしか見えぬのだが…幸せだというならそれで良かろう。
「よい、マリン受理して置くように」
「はい」
こうして、それぞれの異世界人(元日本人)の将来が決まっていった。
リタイヤする者。
野望の為にパーティを組む者。
傷心で戦う事を決意しパーティを組む者。
それぞれの気持ちや思惑のなかで、演習が始まる。
そんな中でただ一人、困り果てている人間がいた。
生徒でないただ一人の人間。
緑川だ。
緑川さんの仲間
俺は神代の言う事が今になって解かった。
『緑川さん』その意味をもっと深く考えるべきだったんだ。
沢山の生徒の中に教師が一人。
沢山の少年少女の中に大人が一人。
果たして本当の仲間に成れるのだろうか?
成れるわけが無い。
生徒同士が3人から8人でパーティーを組んでいくなか私だけが組めない。
国王に相談しても無駄だった。
マリン王女の話では…
「異世界の方の討伐に騎士等が同行する事は基本ありません、今回の演習もそれぞれの目的地までは同行しますが戦闘には参加しません。ただ危ない目に逢うようであれば助けにお入りますがそれだけです」
「私は組む相手が居ないのですが」
「それは貴方がこの3週間を無駄にしていたからではないでしょうか? 貴方の生徒は組む相手を見つけ仮のパーティを組んでいます。理人殿はパーティプラス奴隷まで引き入れてしっかり先を見据えて行動していますよね。貴方は組む相手が居ないと言う事であれば王都見学の際に『奴隷商』に行き奴隷を購入するか『武器を購入して整える』等対策を練るべきでした」
「そんな..」
「貴方は年長者でしょう! ですがこのままでは明日からの演習に差し支えます。特別に今日一日、自由な時間を与えますから、自分で考え対策して下さい」
確かに生徒と私は同じ待遇を受けている。
私だけ特別扱いされる訳にはいかない。
マリン王女の話で考えるなら『奴隷』『武器』その二択だが…これでも私は聖職者だ。
背に腹は代えられないとはいえ生徒の手前、今は奴隷は買えないな。
そうすると武器になるのか…
◆◆◆
「それなら、冒険者組合に行ってパーティ募集をすれば良いのですわ」
俺は緑川さんから相談を受けた。
流石に担任を仲間にはしたくないが、元は担任なのだから相談位は乗ってはよいだろう。
話しを聞くなりフルールは、そんな簡単な事も解らないのかと言わんばかりに口をだしてきた。
確かに俺もそう思う。
「緑川さん『だそうです』」
「そんな簡単に行くだろうか?」
「多分、簡単に仲間は見つかるよな」
「私もそう思うけど?」
「私も、そう思います」
「そんな他人事だと思って、簡単に言わないでくれ」
「俺は兎も角、他のクラスメイトや緑川さんは『優秀な異世界人』だ。元生徒があれ程人気があるのを見ただろう? 緑川さんは来なかったが『奴隷商』では本格的に活動すれば3か月で高級奴隷が買える位稼げるそうだよ」
「神代君、何が言いたいんだ」
神代君。
解っているな。
「冒険者の中には、その日暮らしの生活をしている者も多い。そんな中に『優秀で確実に強くなる存在』が仲間募集したらどうなる?誰もが組みたいと思うんじゃないか?」
「そうですよ、先生『即戦力のエリート営業マン』が仲間が欲しいと言う様なものよ」
「そうですね、沢山の方が集まると思いますよ」
「私は冒険者として活動した事もありますわ。直ぐに仲間が集まる事間違いありませんわ」
「そうか、なら行ってみるか?」
「緑川さん、行くなら直ぐに行かないと、時間が勿体ないよ」
「アドバイスありがとう、すぐに行ってくる」
そう言うと緑川さんは走って去っていった。
◆◆◆
「それでフルール、緑川さんは大丈夫かな」
「今は大丈夫ですわね」
「今は…どういう事かしら?」
「その話だと、将来的には不味い様に聞こえますよ」
確かに俺にも同じ様に聞こえた。
「そうですわね、理人様が言ったとおりですわ。その日暮らししている様な冒険者は直ぐに飛びつきますわね。ですが、自分に自信のある冒険者はもう強いパーティを組んでいますから仲間になりませんわ。恐らく仲間に出来るのは運が良くてC級クラス、運が悪ければD級F級クラス、すぐに役に立たなくなりますわ」
「だが、それならついて来れなくなればパーティを解散すれば良いんじゃないか」
「あの方は、元教師ですわね。多分ですが、泣いて縋る人間を斬り捨てられないと思いますわ。あと、なりふり構わず『好き』『愛している』そう言って体まで使ってくる女性を斬り捨てられないタイプに見えますわ」
「緑川がそんなにモテる訳ないよ」
「おじさんですよ」
「甘いですわ。塔子様に綾子様。冒険者の女性で貧しい者は本当に貧しいのです。お金が手に入らず、ご飯すら真面に食べられず、宿屋に泊まるお金もない。しかも実力が無いから何時死んでも可笑しくないし、場合によってはゴブリンやオークの苗床にされるかもしれない。 そんな生活が今もこれからも続く。そんな人間の前に『高額収入確定で敵から守ってくれる存在が仲間を募集するのですわ』群がると思いますわ。まぁ『物凄い美少女が真っ裸で娼婦街で歩きながら無料でやらしてあげるよと叫んでいる状態』それに近い状態ですわね」
「冗談だよな」
「冗談ではないのですわ。私は理人様命ですから関係ありませんが『異世界人は精子』まで価値があるのですわ。異世界人との間の子は皆優秀ですから、異世界人(元日本人)の種付けは金貨並みに価値があるのですわ。まぁ理人様は別ですが。 強くて、お金が稼げて、更に夜のお相手をすれば将来優秀な子が生まれて生活が楽になる。そんな相手逃がしませんわ」
「確かに俺以外のクラスメイトはメイドさんにモテていた気がするな」
「本来は金貨を使わなくては手に入らない『異世界人との種付け』が無料なのです。一生懸命誘惑しますわね」
「それなら、なんで緑川さんはモテなかったんだ」
「まぁ、1人浮いていましたし、若い子が沢山居たからかも知れませんわ」
「そんな状況に緑川先生1人で行かせて良かったの?」
「大丈夫かな」
「所詮は他人ですわ。理人様の知り合いだからヒントだけ差し上げましたわ。これ以上は自己責任の世界ですわね。まぁ、私だったら違う方法を選びますわ」
「フルール他にも何か方法があったのか?」
「私が同じ立場だったら、女騎士を狙いますわ。素性はしっかりしていますし、裏切る可能性も低く安心ですわね。騎士爵とはいえ貴族ですし実力以外でも役に立ちますわ」
言われて見ればそうだ。
「それを何で緑川先生に教えなかったの?」
「教えてあげても良かったんじゃないかな」
「私『最善の手』は身内にしか教えないのですわ」
夕方になり帰ってきた緑川さんが連れていたのは女性3人だった。
満面の笑みで歩いている緑川さんを見て…ご愁傷様と思ってしまうのは何故だろうか。
演習?
とうとう演習の日が来た。
他のクラスメイト達や緑川は中規模のゴブリンの巣の討伐に行く事が決まっていた。
お城で聞いた話ではゴブリンどころかオークまで狩れる実力が最低でもあるから余裕だそうだ。
そして俺たちはゴブリンの巣は小規模な巣になったが、それにプラスして『盗賊』の討伐が組まれていた。
これはフルールがマリン王女に頼んで組んで貰ったそうだ。
しかし、凄い話だ。
フルールは『奴隷』マリンは『王女』それなのにマリン王女はフルールに逆らえない様に思える。
凄いなフルール。
そうとしか言えない。
実は俺も塔子や綾子に共に『殺し』を覚える必要があると思っていた。
魔物や魔族ならその見た目から殺すのを躊躇わないかも知れない。
だが、相手が『人間』だったらどうだ?
多分躊躇してしまうのではないか。
おっさんや筋肉隆々の男なら殺せるかも知れない。
だが、敵が美少年、美少女だったら?
いたいけな子供だったら…躊躇して殺せない可能性もある。
フルールや騎士の話ではスラムでは6歳で殺しを覚える子供もいるらしい。
だからこそ『俺たちは人を殺せるようにならないといけない』
異世界で街の中は安全。
それはまやかしに過ぎない。
中世に近いこの世界では『本当の敵は人間』だ。
◆◆◆
「それではゴブリンの巣にご案内致します。我々はついてはいきますが案内だけで巣には入らず、外で待機させて頂きます」
そう言うと5名の騎士達は高台の方へ移動していった。
その場所から遠眼鏡で様子を見ているのだと言う話だ。
俺達の場合は『小規模な巣』大体3時間もあれば攻略が可能だそうだ。
もし3時間以上たって出て来なかったら、騎士達が踏み込んできてくれる。
そういう事だ。
「さぁ行くか」
「「はい」」
「後ろは私に任して下さいですわ」
俺、綾子、塔子、フルールの順で巣に入った。
小規模と言う事で凄く小さい。
大きさで言うなら体育館位しかない。
俺とフルールはあらかじめ話していて四人とも棍棒とナイフしか持っていない。
ナイフは切り取り用のナイフで武器には使えない。
棍棒を選んだ理由は『最も惨たらしい殺し方になるからだ』
ナイフや剣なら、精々が血だらけになるだけだが…棍棒は違う。
頭を殴れば『ぐちゃりと頭が潰れて脳味噌が露出する』『他を殴っても骨が折れる感触や肉が削げる嫌な感触を味わう』
多分、これを経験すれば『大抵の事は耐えられる』俺はそう思っている。
フルールに相談した所「流石理人さまですわ、私はナイフで解体を考えていましたが、その方が効率が良さそうですわね」と感心していた。
そんな訳で、俺達は棍棒を手に持ち進んでいった。
いきなり4匹のゴブリンが現れた。
「俺の名は」
「ぎひゃぁぁぁーー」
やはり知能が低い、狩っても大丈夫な奴だ。
「俺が2匹やるから、塔子と綾子は1匹ずつ頼む」
「「解かったわ(よ)」」
俺はゴブリンの頭を野球の要領で棍棒をフルスイングした。
子供の大きさのゴブリンだ…グチャという音と共に死んだ。
そしてもう一匹も同じ様に殴ったが少し頭からずれた。
頭を押さえながら転げまわっていたが追撃の一撃で完全に死んだ。
俺は2匹を確実に仕留めたを確認すると、2人が気になったので後ろを振り向いた。
そこには青い顔をした塔子に涙目の綾子が…居なかった。
俺と同じ様にゴブリンの頭を潰し、ナイフで左耳を切り取っている二人が居た。
しかも気のせいか笑っている様な気がする。
大丈夫そうなので俺も2匹のゴブリンの左耳をナイフで切り取りにかかる。
「大丈夫か?」
なんで二人ともキョトンとした顔をしているんだろう。
塔子は兎も角、綾子は絶対に泣きそうな顔をしている。
そう思っていたのに。
「私は大丈夫よ!この位どうってこと無いわ」
そう言いながらも塔子は震えていた。
「私も、ハァハァ大丈夫です」
そういう綾子の笑顔は『大丈夫じゃない』そう言っている。
だけど…可笑しいな。
やっぱり見間違いだよな。
さっき二人が『笑っているように見えた』なんて。
多分気のせいだ。
俺は周りにゴブリンが居ない事を確認して二人を抱きしめた。
「ちょっと、理人..こういうことは2人きりの時に、なんで綾子と一緒なの」
「理人君、凄く嬉しい、だけど二人纏めてなんて」
「いきなりごめん。だけどこうすると落ち着くと思って。良く子供の頃俺が不安そうな顔をすると親父が抱きしめてくれたから」
「なんだ、そういう事なのね」
「そうですか? 私ならもう大丈夫です」
なんで二人とも不服そうなんだ。
まぁ良いか落ち着きを取り戻したみたいだし。
「理人様、1人だけ除け者はズルいですわ」
そう言いながらフルールが後ろから抱き着いてきた。
「フルールは」
と言いかけたがフルールにしたら『仲間外れ』は寂しいのかも知れない。
そのまま好きにさせて置いた。
◆◆◆
順応力って凄いな。
塔子も綾子ももう躊躇なくゴブリンを殺している。
しかもさっさと殺して、耳を切りながら、もう普通に会話している。
既に20匹くらいのゴブリンを狩った。
恐らくこの巣にはもうゴブリンは居ないのかも知れない。
奥に二つの部屋があった。
見た感じ倉庫の様に見える。
一つをあけると、そこはゴブリンの宝物庫のようだ。
フルールに見て貰ったが碌な物は無いらしい。
「全部ガラクタですわね」
「見ての通りという事か」
「そうですわね」
「それじゃ、もう一つの方に期待だな」
「あっもう一つは…見た方が宜しいですわね」
中を見た瞬間目に入ったのは2人の女性だった。
◆◆◆
「あうあうあわぁ~ あうあはははははっ」
「ありゅ..あああう? 死にゅたいははははっ子供?たしゅけて..」
親娘だったのかも知れない。
二人の女性がほぼ異臭を放ちながら全裸で転がっている。
これがどういう状況か解る。
ゴブリンの苗床にされていたのだろう。
ただ、どうして良いか解らない。
「フルールこの場合は」
「殺してあげるのが良いのですわ。完全に頭が狂っていますし、これはまず正気になりませんわね。それにもし奇跡が起きて治っても一生ゴブリンの苗床にされた事は消えませんわ。悪夢の様な記憶に苛まれて、街で暮らしても村で暮らしてももう真面な生活は出来ませんわね。多分それは私達が考えるより遙かに地獄ですわよ。」
「そうか」
「何でしたら私が殺しますわ」
そうするしかない。
フルールなら恐らくは苦痛を与えることなく殺せるだろう。
俺が殺すとなると、フルールよりは苦痛を与えてしまう。
やはり剣を持って来るべきだった。
剣ならきっと俺でも出来たかも知れない。
そう思い解体用のナイフを握った。
そうか、今の俺には大樹達から奪った能力の上乗せがある。
このナイフでも『楽に殺してあげる』事が出来る。
「ごめん、皆外に出ていて」
「理人様がおやりになりますの?」
「そうだよ、幾らフルールがこういうのに慣れているからといって『全部任せる』のは良くないからな」
塔子も綾子も黙ってうなずいていた。
「だから、今回は俺がやる…だが皆に人を殺す所は見せたくないから出て行って貰いたいんだ」
「解りましたわ」
「解かった」
「理人君、解ったよ」
この二人は悪人じゃない。
ただの被害者だ…だが殺してあげる以外に救いはない。
悪人で無いのに殺す。
そんな汚れ仕事は2人にやらせたくない。
フルールだって散々こういう仕事をしてきたからと言って任せるのは間違っている気がする。
三人が出ていくのを見て俺は、2人に謝った。
「ごめんなさい」
そして苦しまない様にナイフを首すじにあてて引き裂いた。
同じ様にもう一人にも。
二人とも、多分苦痛なく死んだと思う。
テラスちゃんの言う通り、経験値が入ってきたのが実感できた。
だが、何故か悲しみが止まらなくなり、涙がこぼれ落ちた。
演習? 子供でも
しかし驚きましたわね。
まさか皆さんが此処までだとは思いませんでしたわ。
特に理人様。
普通に人を殺せば光なんて失われる筈ですわ。
どんな正義感のある人間。
どれ程優しい善人でも影が落ちたように性格や人柄は変わりますわ。
それがゴブリンを殺し、2人の人間を殺しても失われませんでしたわ。
ほんの少しだけ、泣いていましたが、すぐに真っすぐな目で私を見つめる姿は…そう神ですわ。
此の世界の女神とは違う『本当の神』に私には見えましたわ。
私からしたら、此の世界の女神とは違う。
本当の意味で闇に染まらない『光を宿した神』そう見えましたわね。
それと、塔子に綾子。
あれは私と同類ですわね。
まぁ、殺しの経験こそ無いですが『人の事などどうでも良い』そういう人間ですわね。
本当に私に似てますわ。
ゴブリンを殺した時に笑いながら殺していましたわ。
あれは、残酷な人間の証ですわ。
最も、理人様にはその姿を見せたくないのか取り繕っていましたわね。
理人様なら、受け入れてくれるのに…馬鹿ですわね。
まぁ同類と言う事が解って良かったですわ。
脳味噌お花畑を抱えて旅などするなんて大変な事したくありませんから。
◆◆◆
「流石は、聖女パーティーですね。問題無く討伐はクリアです。次はいよいよご要望の『盗賊』の討伐です」
「「「宜しくお願い致します」」」
「宜しくですわ」
フルールだけ挨拶がぞんざいだ。
ただ、よく考えてみれば、黒騎士を率いていたフルールは騎士より恐らく立場が上だった筈だ。
そう考えたら『これで良いのかも知れない』
「これから、ご案内する場所は盗賊団『悪魔の子』の住処です」
「悪魔の子?」
「はい、おおよそ20名位の小さな盗賊団です。恐らく住処は複雑で無い分討伐はゴブリンより楽かも知れません…」
騎士が何か言いたげな顔をしている。
迷っているのなら無理に聞く必要は無いだろう。
「さぁ、今度は対人戦ですわ」
フルールは笑っていた。
だが、不思議な事に塔子も綾子も会話に怯え等が無い。
これから『悪人』とは言え人を殺すのに、大丈夫なのだろうか?
昔、友人から『女の方がより残酷で血に強いんだ』と聞いた事があった。
案外、本当かも知れない。
◆◆◆
「我々は此処で待機しています、小さな盗賊団なので3時間もあれば討伐は可能でしょう、もし3時間経って危ないようでしたら我々が飛び込みます」
「有難うございます」
俺達は、前回と同じで先頭が俺、塔子、綾子、フルールの順で入っていく。
見た目洞窟みたいなのだが、何故見張りも居ないのか解らない。
今回は棍棒ではなく『ショートソード』を全員が装備していた。
魔法がメインの塔子や綾子が居るのに俺は敢えて刃物を選んだ。
フルール曰く『最初から魔法を使うと隙が生まれるのですわ』との事だ。
『魔法や飛び道具を使う人間は殺し合いをしていた相手なのに命乞いに簡単に応じる』その結果、隙をつかれ殺されるのだとか。
『人を殺す、殺される。その重みを知るべきなのですわ』
というフルール。
汚れ仕事をしていた彼女だからこそ、その言葉には重みがある。
暫く進むと、子供が三人居た。
日本で言うなら小学生にしか見えない。
俺に気が付くと、ナイフを抜いて襲い掛かってきた。
「危ないのですわ! 理人様!」
フルールの声で我に返った俺は、ショートソードで斬りかかった。
俺の剣は相手の首すじを切り裂き、そのまま動かなくなった。
「よくも仲間を」
「殺してやる」
何故俺は気が付かなかったんだ。
『悪魔の子』という名前の盗賊団だ。
子供の可能性も充分あるじゃないか?
この世界は貧しい人間が多い。
スラムにだって子供は居るのだ。
盗賊団に居ても可笑しくない。
「私は子供でも敵には容赦しませんよ? まして理人を殺そうとしたんですから死ぬしかないですね」
「貴方の仲間は理人君を殺そうとしたんですよ? 死んだ方が良い人間ですよね!」
そう言うと二人は走り出して、塔子は相手の喉を切り裂き、綾子は相手の腹を引き裂いた。
塔子が切り裂いた相手は息苦しそうに、綾子が切り裂いた相手は内臓をまき散らして死んでいった。
情けない。
相手が子供だからって油断したのは俺だけだ。
騎士が言い淀んだのは多分、これの事だろう。
フルールに黙っておくよう言われたのか。
それとも、子供を殺させるのを躊躇したのか、その両方かも知れない。
「悪かった、もう油断しない」
「気を付けて下さい、相手は子供でも盗賊、平気で人を殺す相手ですわ」
「ああっ面目ない」
本当に油断した。
もし、フルールが声をかけてくれなかったら『危なかった』
俺だけじゃなく、塔子や綾子が怪我した可能性もある。
もう油断はしない。
「待ってお兄さん、私子供だよ助けて」
「死にたくない、まだ死にたくないだぁーーーーーっ」
「助けてくれたら何でもするよ、私なんでもするからーーーっ」
情け容赦なく殺した。
殺した相手は全員が少年少女。
彼等は盗賊だ。
そして、此の世界の盗賊は生ぬるい者はいない。
捕まれば死罪が確定しているから『相手を殺す』のは当たり前だ。
相手は確かに子供だ。
だが、もし俺達が負ければ、俺は殺され、塔子や綾子フルールは売り飛ばされるか、殺される。
『殺し合い』の場所に立っているんだ。
殺されても仕方ないだろう。
それに、もし俺が情けを掛けて捕まえるだけで済ませても、後で死刑になる。
見逃せば、他で盗賊になりまた同じ事をする可能性がある。
結局『殺す以外の選択は無い』
敵に強者はいなかった。
騎士に殲滅できるレベルなら、俺達には余裕だろう。
可哀想だが、皆殺しにした。
相手が子供だからとはいえ『殺しにくる相手』だからだろうか?
前の二人とは違い『悲しい』という気持ちにはならなかった。
それは塔子や綾子も同じようだ。
流石に子供を殺したあとだ、顔色が悪いんじゃないか?
気にかかって二人を見たが。
なんて事は無い平常通りだった。
多分、今回の事はフルールが仕組んだのだろう。
『異世界で生きる』その本当の意味を教える為に。
旅立ち (第一部 完)
これで演習は終わった。
あと3日間は『自由時間』だ。
もう訓練は形上は無いが希望があれば、解らない事などは教えて貰える。
俺は『一人で隠れて購入したコーラ』を飲んでいた。
あの日本人向けサービスは『俺だけの物』のようだ。
どういう仕組みか解らないが、元日本人も含み周りに誰かが居るとコーラで無い『この世界のグアラ』という不味い飲み物になってしまう。
その為、コーラが飲みたければこっそりと飲むしかない。
勿論、塔子や綾子に渡してあげる事は出来ない。
お店も同じで『世界観』を使い俺一人が入った時にだけ『日本仕様』になる。
当人にその気が無くても彼女達もクラスメイトもテラスちゃん判断で『地球の神』を裏切っているから無理なのかも知れない。
何だか自分一人だけと言うのは後ろめたい気もするから、今ある分を飲んだら自重しよう。
◆◆◆
『随分と面白い子を仲間にしたのね』
お城の裏庭で一人ぼんやりしているとテラスちゃんから神託が降りてきた。
声が聞こえるのは嬉しいが。
まさか祈りもしないのに神託が降りるなんて驚愕だ。
俺は周りをキョロキョロと見た。
『周りには誰も居ないわ、それにこの声は貴方にしか聞こえない』
『それなら、安心ですね。フルールの事でしょうか?』
『そうよ! よくこんな一神教(人族限定)の世界で神を信仰しないでいられるものだわ』
確かに言われて見ればフルールが女神に祈っている姿は見たことが無い。
此の世界の人間が持つ、女神を彫った装飾品も持っている雰囲気は無いような気がする。
『確かに彼女は女神を信仰して無さそうですね』
『ええっ完全完璧に信仰してないわ『女神臭さ』が全く無いもの』
『女神臭さ?』
『神には解るのよ! 貴方もこの世界の馬鹿な女神に臭いとか言われなかった?』
あれは例えで言ったんじゃ無くて、本当にそういう臭いがするのか。
『確かに言われましたね』
『でしょう? 本題に戻すけど、彼女からは『女神臭さ』が全く無い。つまりは女神を信仰していないって事なのよ。この世界の人族じゃ結構貴重よ』
確かに国を挙げて信仰していそうだから、そうなのかも知れないな。
『それって凄い事ですね』
『凄いわよ! つまり、彼女は神的に言えば『この世界の二人目』の日本人になれる可能性があるのよ』
此の世界で2人目の日本人?
異世界生まれのフルールが?
『それは一体どういう事でしょうか?』
『よい?塔子と綾子は貴方の持ち物みたいな物。私にとってはどうでも良い存在なのよ。簡単に言えば貴方が楽しい生活を送るのに必要な物。それだけね。例えば貴方が万が一死にでもしたら私にはもうどうでも良い人間な訳』
確かにテラスちゃんからしたらそうだろうな。
『確かにそうですね』
『そうよ! だけど彼女は『まだ無垢な存在』なの、どの神にも染まっていないのよ。例えばもしこれから先『私を信仰するなら…貴方を通じて氏子』になるの』
『異世界人なのにですか?』
『日本人と言うのは語弊があるかも知れないわね。解りやすく言えば『この世界で二人目の私の子』になる可能性はあるわ』
信仰者そういう意味か。
『ですが、どういった条件でなるのでしょうか?』
『まぁ、正直なれるかどうか解らないけど『私達の素晴らしさ』を説いて彼女が心から信じてくれた時に道が開けると思うわ。ダメもとでやってみるのね。それに理人も欲しいでしょう?』
『何がでしょうか?』
『一緒にケーキを食べたり、コーラを飲むような相手よ! 幾ら貴方の願いでも塔子も綾子もそれは出来ない。だけど彼女なら可能性はある』
『そういう事ですか』
『そういう事よ! まぁ頑張りなさい』
『はい』
元日本人にはチャンスも無いのか。
だが、フルールにはチャンスがあるんだな。
◆◆◆
「となると私は此処しかないのですわ」
「フルール離れなさい」
「何を考えているんですか? 離れて下さい」
夜が来たのでこれからベッドで寝るだけだが、三人が揉めている。
俺がベッドに入ると右側に綾子が左側に塔子が入って川の字で寝るのが通常だ。
そしてフルールは綾子か塔子の横で寝ていたのだが…今日は違った。
「私だって偶には理人様の傍で眠りたいのですわ」
そうフルールが言い出した。
塔子も綾子も俺の横は譲らず。
その結果、フルールが俺に抱き着く様に乗っかってきたというわけだ。
そして今、2人はベッドから出てフルールの引きはがしに掛かっている。
そういう状態だ。
美少女三人に抱き着かれて嬉しいだろうって?
此処は異世界なんだ。
日本と違ってエアコンなんかない。
男だから俺だって嬉しい事は嬉しい。
だが、重くて暑い。
『重い』なんて言ったら、多分傷つくだろうし…この間、暑いから少し離れてと言ったら塔子も綾子もこの世の終わりみたいな顔をしていた。
しかも、そこから何時間もこちらを見つめている。
両側を固められているから、横にはなれない。
横を向いて片側を向くと顔を向けた方は嬉しそうだが、背を向けた方は悲しそうに凝視してくる。
気のせいか歯ぎしりすら聞こえてくるんだ。
正直気が休まらない。
俺は目で天井を睨みなが寝返り打たず寝るしかなかった。
だが、とうとうその天井側も塞がれてしまった。
結局3人は右、左、上をローテーションで変わる事で決まったようだ。
昔マンガで同じシーンを見て『羨ましい』と思っていたが…実際は暑くて重い。
そして気が休まらない。
残り二日。
最後の一日はささやかな宴を用意してくれると言うので、実質今日一日が最後の自由時間となる。
まぁ『旅立った』あとは自己責任の世界だが『完全に自由』だ。
クラスメイトの多くは親交を…なんて事はせず『奴隷商』と『冒険者ギルド』に行く者が大半だ。
俺がフルールを迎い入れた事と緑川さんの女性パーティが美人揃いだったので『その手があったのか』と出掛けていった。
「馬鹿ですわね」
「本当に馬鹿ね」
「大丈夫なのかな?」
三人とも呆れて見ていた。
緑川さんは仕方ないとしても、他のクラスメイトは止めた方が良いだろう。
気心が知れた強い仲間と一緒の方が安全な筈だ。
だが、美少女、美少年に弱い彼らは…大丈夫か?
まぁ、気にしても仕方ないな。
ちなみに、貴族と婚約が決まった者は今日の朝旅立っていった。
彼女達はもう戦う事は基本無いらしい。
『戦う者』と『戦わないで済むもの』両方の気持ちを考え宴に参加させずに早目に馬車で旅立たせたみたいだ。
何故かフルールがドナドナを歌っていた。
フルールになんでその歌を知っているのかと聞くと。
昔の異世界人(元日本人)が伝えた歌でかなり前からあるそうだ。
◆◆◆
宴が終わり、いよいよ旅立ちの日となった。
金貨の入った袋と簡単な装備を貰い。
王様やマリン王女に見送られながら城門を出た。
そして…
「「「「「「「「「「「「「「「行ってきます。またな(ね)」」」」」」」」」」」」」」」
これは皆で決めていた言葉だ。
俺も同じ様に「行ってきます。またな」と返した。
このうち何人が帰ってこれるのだろうか?
かなりの数が死ぬんじゃないか?
そう思った。
「さぁ行こうか?」
「「「はい」」」
俺達は魔王城に向け旅立った。
(第一部 完)
※此処から閑話を3話位書いて(勇者視点等)、少し時間を置いてから第二部をスタートさせます。 メインで書いている作品を進める為です。
応援有難うございました。
【閑話】ロリコン木崎くんのパートナー
異世界召喚。
やっと僕の時代が来た。
そう思ったら違った。
僕の名前は木崎竹丸。
竹丸の名前は昔、暴走族の総長をしていた親父とレディースの特攻隊長をしていたお袋が
『最恐っていったら竹丸しょ』
『言えてるー』
と面白半分でつけた名前らしい。
なんでも大昔の伝説のヤンキーの名前からつけたらしい。
こんなエリートヤンキーになっても可笑しくない血筋と名前なのに…僕は何故か陰キャラだ。
そして学校で虐められていた。
虐めと言っても、暴力を振るわれる訳じゃない。
僕は『従順』だから、使い走りをさせられる事と『キモ崎』と呼ばれる位ですんでいる。
「あっキモ崎と目があっちゃったよ」
「キモイよねあいつ」
「何処か転校していってくれないかな」
「キモ?、ジュース買ってきて、お前のおごりでさぁ人数分」
こんな感じだ。
このせいで僕は女の子が嫌いになった。
僕を蔑み馬鹿にする奴の多くは『女の子』だからだ。
こんな女の子の汚い部分や醜い部分を見続けた僕は…ロリコンになった。
だって仕方ないと思わないか?
同級生の女の子が『汚く、醜く、残酷』にしか僕には見えないんだから。
◆◆◆
一応仮のパーティには入っている。
僕のジョブは何故か『聖騎士』五大ジョブの次に貴重なジョブだからね相手に困らなかった。
最初は僕のジョブ目当てで、手のひら返しで何人もの人間がすり寄って来たよ。
僕も異世界で仲間が居ないと辛いからとそのまま仲間になったんだけど…
事実上今は解散。
神代君と緑川先生の様子を見たら…簡単に『夢』が叶うんだ。
仲間なんて要らないよね?
だって『異性からモテる』し、『奴隷』だって簡単に買えるんだから要らないよね。
◆◆◆
「えーと子供の奴隷が欲しい? 随分と変わっていますね? 本当に欲しいのならどうにかしますが…需要があるんですか?」
此の世界にはロリコンやショタコンは居ないらしい。
性的にも使えない。
力仕事も出来ない。
勿論、討伐も護衛も出来ない。
だから、殆ど価値が無いから『奴隷』として『仕入れても売れないから販売をしていない』との事だった。
稀に両親と一緒に売られてくる以外流通はしてないそうだ。
それじゃ手に入らないのかと言えば違う。
スラムの子の多くは『奴隷になりたがっている子が多い』らしい。
「スラムの子供なんて食事も満足に食べられないし、住む所も無い。機嫌の悪い大人に暴力を振るわれ、場合によっては殺されます。そんな物ですからね」
『物』そう言ったのか。
「大変なんだな」
「異世界人のお客様からしたらそうでしょう!大人ですらスラムの人間は真面に働けないし食事も手に入らないんです。だから、子供にとっては地獄ですよ。だからねある程度生活の保証をして貰える『奴隷』にしてあげるなんて話聞いたら喜んでなりますよ!本気ならうちの従業員銀貨2枚で半日貸しますからスカウトでもしたらどうですか?」
「スカウト?」
「スラムに行ってめぼしい子に『奴隷にならない』と旦那の代わりに声を掛けさせるんです。まぁ、貧乏そうな子供なら8割は断らないと思いますね」
「凄いな…」
ちなみに此の世界では成人は15才で農村部だと13~14才。
それ以下が未成年だ。
未成年で12才だと娼婦にも成れないらしい。
僕はこの誘惑に勝てないので、従業員を銀貨2枚で借りる事にした。
◆◆◆
「酷いな」
「スラムですからね」
映画で見るレンガ作りのボロ家、それより遙かに痛んだ家しかない。
「本当に貧しいのは良く解ったよ」
「はぁ~旦那…此処はスラムではまだ裕福な人間が住む場所ですぜ。家に住んでいるんですから…旦那と私が向うのは更に酷い場所です。ちなみに旦那、俺がいるから寄って来ないが旦那は1人で来ちゃ駄目ですよ…物乞いに取り囲まれますからね」
奴隷商人はスラムにも顔が効くから寄って来ないそうだ。
確かに言われて見れば皆が僕を遠巻きに見ている。
奴隷商人と一緒にスラムを見て回るが余り、それ程子供は見かけなかった。
「余り居ないんですね」
「スラムの子供は生き抜くのが大変だから、あちこち逃げ回っていたり隠れたりしてします。まぁそのうち会えますよ」
一緒に歩き回っていたが、なかなか見つからない。
何人か見掛けたが迷っている間に居なくなってしまった。
「迷うな」
「旦那、スラムの子供は大人を怖がりますからね。まさか奴隷を探しているなんて思わないから見つけたら、迷わず声を掛けた方がよいですよ」
そうは言われても『最初の仲間』なのだから厳選したいよな。
暫く、探していると…階段で座っている少女が居た。
凄く綺麗で可愛い。
前の世界には居ない緑色の髪にスレンダーでスラッとした手足。
何かに例えるなら『アニメの魔法少女』を実写版にしたらこうなる。
そんな感じだ。
これ程の美少女は日本でも見た事は無い。
テレビも含んで。
「あの娘がいい、早く声を掛けて下さい!」
「あれ! 本当にあれで良いんですね」
「はい」
奴隷商の従業員は何か言いたげだったが、直ぐに声を掛けにいった。
暫く話していたが交渉が終わったらしく二人して此方に歩いてきた。
◆◆◆
「お兄ちゃんが私を奴隷にしたいって奇特な人?」
「そうだけど…」
「あのお兄ちゃん、そこのおじさんから、お兄ちゃんが子供の奴隷が欲しいって事は聞いたけど、私で本当に良いの?」
近くで見れば見程の美少女なのに何を言っているのか解らない。
「うん、君が良い」
「何処が良いのか言ってくれるかな?」
「緑色の髪が凄く綺麗、少し赤み掛かった瞳が神秘的で」
「解かった、解かったお兄ちゃんもう良いよ! この髪と目が問題無いならもう大丈夫だから! 私は大丈夫だよ。だけど、私は犯罪者だけど良いのかな? 平気?」
僕は奴隷商人の目を見た。
「奴隷の主人になったからと言って奴隷以前の過去の責任を取らされる事は無いですよ。少し余分にお金を払って『犯罪奴隷』登録にすれば問題ありません。余分に支払ったお金は国にいく変わり、大きな罪で無いならそれで終わりです。その代り犯罪奴隷には解放はありません。終身奴隷扱いになりますが、そちらは大丈夫ですか」
こんな美少女が死ぬまで居てくれるなら僕には嬉しい事だ、だがこの娘は良いのかな。
「そういう事らしいけど大丈夫?」
「私は良いけど、お兄ちゃんは良いの?」
「僕は構わないよ」
「わかった、それなら私はお兄ちゃんの奴隷になって死ぬまで一緒に居てあげる」
「ありがとう」
「こっちこそありがとうだよ。お兄ちゃんがご主人様になるならユウナの犯罪歴も言わないといけないよね」
奴隷商が首をたてに振った。
どうやら知る必要があるみたいだ。
「別に気にしないから教えてくれる」
「ユウナは盗賊団『悪魔の子』の頭目だったの。気晴らしに散歩していて戻ったら、皆、殺されていたんだよ。怖くなったからスラムに逃げてきたんだ。これでも大丈夫かな? これでも良いっていうならユウナは絶対にお兄さんを裏切らないよ! 駄目なら今なら断ってくれて良いよ」
態々言わなくても良い事を言ったんだ。
彼女なりの誠実さなのかも知れない。
「過去は別に構わないよ、僕の名前は木崎竹丸。異世界人で『聖騎士』自己紹介はこんな感じで良いかな」
「お兄ちゃん! 異世界人だったの? 嘘、本当に良いの」
「勿論」
こうして僕は理想のパートナーを手に入れた。
◆◆ユウナSIDE◆◆
散歩に出て戻ったら、仲間が皆殺しにされていた。
これからどうしてよいか解からないよ。
此の世界の子供の命は軽いのよ。
だから、仲間を集めて『大人を殺せる』力を持つ必要があったのよ。
子供が大人に勝つには数の暴力しかないのよ。
大人1人に子供3人から4人。
そうしないと勝てない。
『悪魔の子』を失った私は、元の無力な子供。
スラムに逃げ帰ってきたけど…どうしよう?
私は凄く醜いからなぁ~、緑の髪に赤み掛かった目。
どちらか一つでも嫌われるのに二つも持っていたら絶望的だよね。
まだ11才のガキだから体も売れないし…最も年頃でも醜い私は誰も買わないと思うけど。
チクショウ、娼婦のお姉さんが羨ましいよ。
たかが男に抱かれるだけで金が貰えるなんて…良いな。
またかっぱらいでもするいしかないけど…1人じゃ難しいし。
もう詰んだ。
野垂れ死ぬ未来しか見えないよ。
「ちょっと話しを聞いてくれないか?」
なにかな?
まさか、私の正体に気が付いて無いよね。
「なんですか?」
「実は、あそこのお兄さんが君を気に入ってね奴隷にしたいらしいんだ」
あれ…可笑しいな。
私子供だし…しかも醜女なんだから需要は無いよね。
抱きたいって言うならこんなブスで良いって言うのであれば、相手しても良い位けど、解らない。
態々、普通の可愛い子も居るのに、どうして私なんだろう。
「何処が良いのか言ってくれるかな?」
「緑色の髪が凄く綺麗、少し赤み掛かった瞳が神秘的で」
顔が真っ赤になっちゃうよ。
仲間にすら嫌われていた『この容姿』が好きなんて他には絶対に居ないよね。
しかも、盗賊の私の過去なんて気にしないでくれるなんて…信じられない。
「過去は別に構わないよ、僕の名前は木崎竹丸。異世界人で『聖騎士』自己紹介はこんな感じで良いかな」
異世界人なんだって。
しかも『聖騎士』なんだって。
犯罪奴隷って事は死ぬまで一緒に居るんだし、幾らでも口説くチャンスはあるよね。
この髪と目が気にならないなら、今度裸で抱きついちゃおうかな?
異世界人の価値について当の異世界人は気が付いていない。
◆◆◆
結局、同級生で仲間同志でパーティを組む人間は殆ど居なくなっていたよ。
僕も一緒さ。
【閑話】元勇者の旅立ち
俺に何が起きたのか解らない。
俺も大河も聖人も『ジョブ』を失ってしまった様な気がする。
恐らく、あの無能の理人と同じだ。
大河は怪我が治ったら何時か理人を殺す。
そう言っていたが、体が壊れてしまっていて、もう『剣聖』としては絶望的なようだ。
しかも急に性格も丸くなってきて、時間がたつにつれ『俺が全て悪かったんだ』とか言い出しやがった。
聖人は体が回復して『呪いが解けた』と訳のわからない事を言って喜んでいたが、魔法が使えなくなっていた。
つまり、三人とも理人と同じで『無能』になったんじゃないか?
そう思う様になった。
それは2人とも同じらしい。
もう一度、あの水晶の様な宝玉による鑑定をして貰いたいが、それは無い。
なんでもあの鑑定の担当者はかなりの教会の実力者がある者が行っており『鑑定ミスは重罪にあたる』から、慎重に行っていて過去に一度もミスは起っていないとの事だ。
一応相談したが…
「あはははっ鑑定ミスなんて絶対に無いから安心して下さい!」
これは俺たちにとって『良い事でもあり悪い事』でもある。
良い意味では『能力が無くなった事』がバレない。
悪い意味では『討伐にいかされる』
鑑定ミスでは恐らく無いだろう。
今の状況は『鑑定した後にジョブが無くなった』様な気がする。
最早どうして良いのか解らなかった。
「おい大河体はどうだ!」
「良く無いね、もう剣聖としては無理なんじゃないかな」
「そうか…」
「大樹君に大河くん」
「聖人、あの時は正直ムカついたけど、もう気にしてないからな、それより大樹これからどうすんだ!」
「もう仕方ねーよ! 訓練はメッキが剥がれない程度誤魔化しながらして『旅立つ』しかねーよ! その後は支度金を使いながら魔王の元でなく『北の大地』を目指そうと思っている。まぁこれはあくまで俺の意見だがな」
「北の大地?」
「北の大地ですか?」
「ああっ、隣の国、ルブランド帝国との境界だな。そこには魔族の幹部が居るらしいぞ」
「大樹、そんな所に行ってどうするんだ」
「そうですよ! 危なそうじゃ無いですか」
「そこ迄の道中で俺たちは死んだ事にするんだ。その後の人生はどうなるか解らないが死ぬよりはましだ」
まずは生き延びる事。
それだけ考えれば良い。
◆◆◆
「私の命にかえてのご報告に御座います。大樹殿たちの再鑑定をお願い致します」
何が起きたのか解らぬ。
何故かアレフロード国が勇者の所属の移転を申し出てきた。
勇者が教会の所属になる。
皆が喜んでいたのだが、僅か数日で事態は急転した。
誰しもが『偽物』と言うのだ。
ジョブの鑑定は人の一生を左右する鑑定だ。
故に、失敗は許されぬ。
もし間違って鑑定した場合は『最悪は死罪』を言い渡さなければならない。
今回の件が間違っていたのなら『勇者の鑑定』に失敗したことになる。
それは、アレフロードだけでなく、この世界を巻き込んだ大きな失敗となる。
そんな失敗は許されぬ。
だが、何人もの司祭クラスが『命にかえて』と言ってくる。
流石に教皇の私でも無視は出来ない。
「流石に司祭たちの命は重すぎる。まずは『鑑定眼 極』を持つジュベルに鑑定をさせよ…その結果を持ってして判断する」
これで落ち着いた。
ジュベルは世界で3人しか居ない『鑑定眼 極』を持っている。
その目で見れば全てが解かる。
宝玉(水晶)を使った鑑定をすれば、最初の鑑定者の顔に泥を塗る事になる。
故に誰にも気がつかれずに鑑定するのであれば彼の力が必要だ。
間違いであって欲しい。
そういう期待を持って、ジュベルに鑑定を頼んだ。
「ご報告いたします。あの勇者達は残骸に御座います」
偽物なら兎も角『残骸』とは聞いた事が無い。
何が起きたのか解らない。
「残骸とはどういう意味なのだ」
「それをこれから説明致します」
そこからジュベルはメモを私に見せながら説明をしだした。
【ジュベルのメモ】
青山 大樹
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳
赤城 大河
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳.アイテム収納
木沢 聖人
ジョブ 異世界人 ←
スキル:翻訳.アイテム収納
「私の『鑑定 極』はその素質を見る為HPとMP以外は全て見る事が出来ます。その私に見えるのがメモの通り『ジョブ無しの無能状態』です」
不味い、これは鑑定を見誤った。
そういう事か?
「それでは鑑定を見誤ったと言う事ですか」
「それは違います。見ての通り虫食い状態ですから、元は勇者、剣聖、大賢者だった可能性が高いと思われます」
だが、ジョブが失われるそんな事があり得るのか。
「その様な事が起きうることなのでしょうか?」
「過去の話では『勇者が魔王相手に臆した時』『剣聖は女に現を抜かして剣の修行を怠った時』にそのジョブを失ったと聞いた事が御座います。恐らくはその類かと思われます。ついでに調べた所、あの三人にはそれが起きた可能性が御座います」
私は話を聞いて驚いた。
勇者は同じ五大ジョブの女性を犯そうとし、剣聖は騎士に死にかねないような大怪我をさせていた。
そして大賢者は何かと横柄だった。
「それは本当の事かね」
「王家に仕えている者のうち信仰の熱い者数人から聞いた結果でございます」
これでは勇者等では無い。
ならず者では無いか?
「それでは彼等は…」
「教皇様の思われる通り『女神の逆鱗』に触れ、その資格をはく奪された者に御座います」
こんなガラクタだからエルド6世は寄こした。
そういう事だ。
異世界人である事は間違いない。
「『最早勇者でない以上教会、聖教国の支援は必要ない』但し異世界人ではあるのだから、最低限のお金と身分証を渡し、明日でも出て行って貰う。その辺りが妥当だ。私は顔を見たく無いから、トーマ司祭、貴方が執行しなさい」
「解りました」
横に立っていたトーマに任せました。
勇者資格を失った、ただのゴミとは私は話もしたくありません。
「確か、トーマ、ジュベル、私が聞いた話では勇者を含む五体ジョブが失われた時には代わりに『引き継ぐ者』が現れると聞いたのですが間違いありませんか?」
「「はっ、間違い御座いません」」
「それならこれより教会は彼等を探し出す事に注力する事にします『本物の勇者』を手に入れる事を最優先にします。それを全ての教会に通達して下さい」
私は勇者達をこよなく愛しますが、それは女神の使徒だからです。
本物の勇者の為なら何でも致しますが。
その資格を失った者には寛容には成れません。
◆◆◆
それから5日後、三人は旅立つ事になる。
大河と聖人の治療はしっかり行われ『ある程度まで治った』
そして金貨を1人当たり15枚(日本円で150万円)渡した。
これが教会の『彼等への最後の慈悲』であった。
このお金と治療が『教会の手切れ金』であった事を彼らは知らない。
【閑話】緑川先生の旅立ち
神代くんの言っていた通りだった。
冒険者ギルドで登録をすると
「緑川様は『異世界人』そして上級騎士のジョブ持ちなのでA級スタートです。ただこれは形上であって3回も討伐依頼を受ければS級になります」
「S級というのは最高レベルなのではないですか?」
「上にSS級やS級も居ますがこの世界でS級以上は数える程しか居ません。その殆どが異世界人です。緑川様は上級騎士のジョブなので直ぐに肩を並べると思います。」
こんな感じだった。
「あと、仲間を集めたいのですが…」
「あっだったら、すぐに掲示板に貼りだします。 そこの酒場で待っていればすぐに集まってきますよ『異世界人』ですから」
◆◆◆
言われるままに ギルドに併設された酒場で座っていると直ぐに声が掛かってきた。
「緑川様ですか?」
「私が緑川ですが」
「良かった、私、アマゾネスのアルカと申します、メンバー募集をしていると聞いたのですが」
「はい、しています。しかも3時間位しか時間が無いのにパーティメンバーを集めなくてはいけないのです」
「急ぎなんですね! ならば私と一緒に直ぐ出ましょう! 10人位で良ければ直ぐに」
「ちょっと、アルカ、貴方緑川様の周りを知り合いで固める気なの? ギルドに貼り紙には『此処で待つ』と書いているのよ! 連れ出すのは違反だわ」
「ちっ!それじゃ改めまして 私はアマゾネスのアルカ、近接戦闘が得意な女戦士です! ランクはC級です。異世界人の緑川様からしたら大した事はないですが、このギルドにいる戦士では結構強い方になります。 もし、パーティーに入れて貰えたら『夜もお任せ下さい』」
「えーと、はい」
これはどうしたら良いんだ。
「ちょっと! 脳筋女は汗くさくて困りますね。私の名前はシルカと申します。緑川様には及びませんが貴重なジョブ、魔法使いです。アカデミー出身なので知識の豊富さが売りなのです」
アカデミー、日本で言う学校の様な所か。
「奇遇ですね、私は前の世界で教師をしていました」
「まぁ先生でしたの? 異世界の学問について教えて頂きたいわ」
「ちょっと、パーティの面接は手短にして欲しい…後ろがつかえている」
シルカさんと話している間に、後ろに行列が出来てしまっていた。
男女含んで見た感じでは50人近く居る様な気がする。
これじゃ時間内に決められないな。
仕方ない…私はギルドの受付に話をしに行く事にした。
「早目に仲間を決めないといけないんですが人数が多すぎて、何か良い方法はありますかね」
「緑川様はパーティメンバーに何か拘りはありますか?」
「それが、お恥ずかしい話、こういう事じたいが初めてですのでどうしたら良いかと」
「それなら、ギルドの方で決めさせて頂きましょうか? 冒険者ギルドではパーティの斡旋や、それぞれの相手に相性の良いパートナーを選んでいます」
私はこういう事は素人だ。
プロに任せた方が良いのかも知れない。
「それじゃ、お任せします」
「はい、ただ人数が多いので1時間位お待ちください。高位冒険者が寛げるように作ったサロンで休んでいて下さい。それで何人位のパーティにするおつもりですか?」
「そうですね、それなら3人位でお願い致します」
私を含んで4名、こんな感じがバランスが良いだろう。
◆◆◆
「この3名で如何でしょうか?」
ギルドの職員が選んだのは
アルカ アマゾネスと女性ばかりの村の出身でジョブはナイフ使い C級
燃える様な赤毛に小麦色の肌の南国風美人。
シルカ 没落貴族だが頭が良くアカデミーに推薦で入った。ジョブは魔法使い C級
背が低く紺色の髪に病的な白い肌、見た目は薄幸の美人。
イルカ 元スラム出身だが、教会で回復魔法を学んだ。ジョブは初級ヒーラー D級
背が高く色白。髪の毛は茶髪。近所の綺麗なお姉さんという感じの美人。
「これが私のパーティですか? 本当に私で良いんでしょうか?」
「「「勿論です(よ)(わ)」」」
「緑川様は剣士ですから、近接戦闘が得意なアルカ、遠距離魔法が得意なシルカ、そして回復魔法が得意なイルカ、ギルドで考えた完璧なパーティです」
「素晴らしい、本当にありがとう」
私は早速パーティメンバー登録をした。
「それで、早速で申し訳ないのですが、明日から演習があるんだ、早速だが一緒に戦ってくれますか」
「勿論、一緒に頑張ろう」
「多分、演習ならゴブリンですね、私の魔法で焼き尽くしてやります」
「私は多分必要ないでしょうが、お供します」
こうして私はギリギリだが素晴らしい仲間を手に入れた。
◆◆◆
演習の日、城に来た私のパーティメンバーを見て皆は驚いていた。
そりゃそうだ。
冴えない中年教師がこんな美人を仲間にしているんだ。
驚くだろう。
「嘘だろう、あの緑川のパーティ美人ばっかりじゃないか?」
「何で奴隷に拘っていいたんだろう? 此処は異世界なんだ、冒険者にもエルフが居るかも知れないじゃないか」
「理人と緑川がリア充に見える…それに引きかえ」
「私を見るな…と言いたいけど同感」
これは確かに目を引くな。
「緑川先生」
「どうしたんだい?」
「それ緑川先生のパーティですか?」
「そうだよ…異世界人はギルドでも人気者らしいぞ、沢山の方が私とパーティ組みたがっていたよ」
「それなら、僕でもいけますかね」
「はははっこんな中年おじさんの私でもこんな素晴らしい仲間が出来たんだ、君なら余裕だ」
「ありがとう」
演習は簡単に終わった。
流石は全員が冒険者、私より素早く動き簡単にゴブリンを狩っていく。
苗床になった女性も居たが、彼女達が簡単に殺した。
『狂っているから同じ女としてこんなことしか出来ないのよ』そうシルカが言っていた。
残酷な様だが仕方が無い事だ。
私は理解できる。
だが、生徒がこれに耐えられるか心配だ。
◆◆◆
私の影響と神代君の影響だろうか?
演習が終わった後の、自由時間に私の元生徒たちは『奴隷商』と『冒険者ギルド』に入り浸っていた。
そして『旅立ちの日』にはもう生徒同士で組んでいるパーティは無くなっていた。
本当に良かったのだろうか?
私は『仲間が居ないから』なんだぞ。
気心が知れた親友や恋人の方が本当は良いんだぞ。
そう言いたかったが『私は教師』ではもう無いので止めた。
神代君のパーティが多分一番正しい判断だと思うが、言っても無駄なのだろう。
理由は兎も角生徒からは私のパーティも『ハーレムパーティ』に見えるだろうから、無理だ。
出来る事なら、今いる生徒たちが欠ける事無く無事戻れます様に…
そう思いを込めて「いってきます、またな」私は大きな声で叫んだ。
※ もう一話 閑話を追加します。
【閑話】ユウナSIDE 私のお兄ちゃん
私の名前はユウナ。
凄く嫌われる容姿を持った犯罪奴隷なんだけど…
スラムの子にとって『奴隷』って凄く幸せなんだよ。
奴隷には最低限の権利があるんだもん。
ご飯が1日1回貰えるし、ご主人様の庇護があるから殺されない。
少し前まで盗賊の頭目をしていたけど、何時かは殺される盗賊より命が安全な奴隷の方がまだまし。
スラムで普通に生活するのも命が危ないし、保証がある奴隷の方が絶対に良いよ。
本当に。
「竹丸お兄ちゃん」
「なんだいユウナ」
いま私は食堂に来ている。
竹丸お兄ちゃんは私が床に座ろうとすると椅子を引いて座る様にいった。
「私は奴隷だから床に座るから良いよ? パン位はくれるよね?」
「良いから席につきなよ..ほら」
私は奴隷で真面に食事を注文して食べないから椅子には座れない。
それなのに何でなのかな?
他の奴隷だって床に座ってパンをかじっているよ。
「あの、竹丸お兄ちゃん、お店の人に怒られるよ」
そういったら竹丸お兄ちゃんが店員さんに声を掛けた。
「すみません」
「はい、なんでしょうか?」
「普通に食事を2人前食べるなら、この子も席に座ってもいいですか?」
「此処のテラス席なら良いですよ! 別に奴隷だからって訳じゃ無くてね臭いからね、ちゃんと衛生的な恰好をして、お金を払ってくれるなら奴隷だって店内で食事してもらって構いません」
「そう、ありがとう。ユウナは何を食べたい?」
「お肉」
「それじゃ肉料理でお勧めの定食2人前」
「はいよ」
竹丸お兄ちゃん、沢山食べるんだなぁ。
肉一切れくれないかなぁ。
お肉なんて最近食べてないよ。
暫く待つとオーク肉のステーキ定食が2つテーブルに並んだ。
「さぁ食べようか?」
「えーと竹丸お兄ちゃん…どれ食べて良いの?」
「ちゃんと1人前別にとっただろう? それ全部好きに食べて良いんだよ」
「…ほんと」
「どうぞ」
「うん!」
竹丸お兄ちゃん…なんでこんな優しいんだろう?
ご主人様で無く『お兄ちゃん』って呼んで欲しいって言うし。
これ凄いご馳走だよ。
こんなご馳走スラムの子じゃなくて普通の家の子でも誕生日とかしか食べさせて貰えないよ。
「これなかなか美味いな」
「うん、頬っぺたが落ちる位美味しいよ」
「そうか、それならこれもやるから食べな」
「良いの?」
「ああっ食べて良いよ」
やっぱり凄く優しなぁ~
こう言う凄く待遇の良い奴隷って多分『愛人奴隷』とか『性処理奴隷』だよね。
あそこのエルフの奴隷みたいな高級奴隷の待遇だよね。
ユウナは髪は緑で赤目だし需要がある様に思えないんだけどなぁ~。
それにガキだし、こんな容姿だから、ついた字が『怪物少女』なんだけど。
どう考えても『それ』としか思えないんだけど、勘違いだよね。
「あの竹丸お兄ちゃん、奴隷と手を繋いで楽しいの?」
「まぁね」
う~ん。
解らない。
これは本当に『愛人奴隷』の様な気がするよ。
「えーと、此処は洋服屋さんだよね」
まさか、洋服を買ってくれるの?
「流石に、その服じゃ汚いからね、普段使いの物3着に下着、あと靴を1足買おうと思う」
「あの私…奴隷なんだけど」
「気にしない、気にしない、どんな服が欲しいか希望はある」
「ごめん、竹丸お兄ちゃん…私服なんて買って貰った事無いから解らない」
「そう、俺も解らないから店員さんに任せようか? すみません、この子に似合いそうな旅服3着に下着3着靴下3足それに靴を下さい」
「えーとこの子にですか?」
どう考えても可笑しいよね。
店員さんも顔が曇っている。
「そうだけど? ちゃんとお金なら払うよ」
「解りました」
竹丸お兄ちゃんが『異世界人』だからだよね。
多分、普通の人だったら売って貰えなかったよ。
どう見ても私、スラムのガキだもん。
「うん、似合っているよ! それじゃこれ下さい」
「畏まりました」
買っちゃった。
新品の服、しかも3枚。
「良いの?! 新品の服なんて買って貰って」
「うん、ユウナに似合うと思うからね」
どうしよう、こういう時にどういう顔して良いのか解らない。
顔が赤くなっちゃうよ。
私に物なんて買ってくれた人なんて居なかったんだもん。
「ありがとう」
「どういたしまして、だけど、そんなに抱えて歩いていたら転んじゃうよ」
「転んでも良いもん」
えへへっ、洋服迄買ってくれるんだから『愛人奴隷』決定だよね。
夜は頑張らないと。
というより、竹丸お兄ちゃん『異世界人』じゃない。
異世界人とのそういう行為って生まれてくる子が優秀だから、お金を払ってして貰うんだよね。
う~幸せ過ぎる。
「それじゃ、宿屋に行くか?」
あれ、流石に夜まで待てないのかな?
私は勿論良いんだけど…まだ明るいのに。
「うん…」
一応は私も女だから、しおらしくした方が良いよね。
そのまま竹丸お兄ちゃんに連れていかれたのは『高級宿屋』だった。
あはははっ、これ相当頑張らなくちゃ。
部屋は大きくて綺麗だし、お風呂もついているし。
「それじゃ、ユウナお風呂入って来なよ」
「うん…」
流石に照れる。
シャボン使って綺麗にしないと。
流石にノミとか居ないよね。
うん、大丈夫だよね。
「竹丸お兄ちゃん、今出たよ」
「そう、それじゃ、僕も入ろうかな」
そういって竹丸お兄ちゃんはお風呂に入っていった。
竹丸お兄ちゃんが出て来たら、頑張らないと。
だけど、どうすれば良いのかな?
解らないから竹丸お兄ちゃんに任せれば良いよね。
「ふぃ~良い湯だったな、あれユウナ、なんでシーツ巻いて裸なの? 折角下着に洋服買ってあげたんだから着替えなよ」
「えーと、服着るの?」
「うん、暫く休んだら、今日は奮発して夜も美味しい物食べに行こう! 新しい服を着ていればもう、お店に文句は言われないからね」
「そうだね」
これは夜に持ち越しなのかな。
流石にまだ夕方だから、しないのかな。
その日の夜は竹丸お兄ちゃんにミノタウルスのステーキを食べに連れていって貰った。
夜寝る時に裸になって迫ってみたんだけど。
「僕だって男だから気をつけないと…ユウナは可愛いんだからね」だって。
思わず顔が真っ赤になっちゃったよ。
私的には押し倒したい位、なんだけどなぁ~。
こんな緑髪で赤目の私を可愛いなんていう人、竹丸お兄ちゃんしかいないし。
それに竹丸お兄ちゃんは異世界人なんだから女なら誰でも『抱きたくなる』のに…
「私が可愛いなら抱いて」
頑張って言ってみた。
「解かった」
そう言って竹丸お兄ちゃんが抱きしめてくれた…あれっ。
頭を撫でてくれて…ただ抱きしめてくれる…それだけ。
正直いって竹丸お兄ちゃんが何をしたいのか解らない。
だけど、こんなに優しくしてくれて、幸せにしてくれるなら…何でもしてあげたい。
心から本当にそう思った。
※ これで【閑話】も一応、終わりです。
第二部は「ざまぁ」しないを少し更新した後スタートします。
第二部の前にキャラクター紹介
第二部の主要キャラクター紹介
神代理人
この作品の主人公。
クラス召喚に巻き込まれたが『神職(神主の息子)』の為ジョブもスキルも貰えなかった。
何故か翻訳だけはあるが、これは女神じゃ無く別の要因の可能性が高い。
他の生徒は全員『異世界人』になったが、何も貰わなかった為、此の世界で唯一の日本人となった。
テラスちゃん
天照の分体。異世界人にならないで『日本人』のままでいた理人を高く評価して様々な加護を与える。
今現在は理人と別れているが、此の世界に日本人は理人しかいない為祈るとかなりの確率で顕現する。
異世界の女神と異世界人になった元日本人が嫌い。
平城綾子
この作品の本来メインヒロインだったが、いつの間にか他のキャラクターに食われつつある。勇者だった大樹に『魅了』を掛けられた。その状態から理人が取り戻す為に神の借用書を使い「理人を好きになった」一見正統派美少女だが…本性はとんでもない悪女。ジョブ大賢者
北条塔子
もとの世界では北条財閥の娘で、お金や権力を使いたい放題使って悪い事ばかりしていた。
だが、ある事件が元で理人を好きになり…色々な方法で手に入れようと画策していた。
元から理人が好きだったが、更に神の借証書で好きになる。彼女の愛はヤンデレレベルを上回り、理人であれば肉片でも愛せる位異常。また理人以外はほぼゴミの様に思っていて、平気で殺せる。ジョブ聖女
フルール ルーラン
金髪色白の美少女、犯罪奴隷として売られていた。公爵家の汚れ仕事(暗殺、拷問)をしていたが隣国に姉が嫁ぐ事により実家に捨てられる、公爵家に嫌われて圧力をかけられ売れない様にされていた。その美貌は痣だらけで汚れている状態でも理人を引き付ける程。
『黒薔薇のフルール』のあざなを持つ。
その忠誠は理人にのみ誓われる。
第二部はこの4人の話を中心に回っていく。
第二部スタート 引き入れる
旅だっては見た物の俺たちはこの先どこに向かうか決めかねていた。
綾子も塔子もフルールも俺を凄く愛しているのが解かる。
特に、綾子にも塔子にも『神の借用書』を使ったのだから、負い目もある。
だからこそ死ぬ気で守らないといけない。
お爺ちゃんが言っていた。
『神代家に生まれたからには『死ぬ気で女を守れ』』と。
これは俺の家の家訓だ。
「話しがあるんだ、実は三人に伝えたい事がある。俺は君達に戦って欲しくない」
「理人君、私は大賢者だよ、流石にそういう訳には」
「気持ちは嬉しいけど、聖女の私がそういうわけには理人、いかないわ」
「それは本気で言っているのですか?」
「笑わないで聞いて欲しい! 俺の家、まぁ神代家なんだが結構古臭い事にな『男は外に出て働き女を守る』そういう家訓があるんだ。まぁ将来は兎も角、三人とこれから暮らすんだから、この家訓を守りたいんだ…もしどうしても自分で出来なくなったら、その時は頼るから暫くは、俺一人で頑張らせて欲しい」
演習はゴブリンだから良かった。
俺はテラスちゃんの話では『魔族』や『魔物』と戦わないで済むように話がついている。
どのレベルの魔物から有効か解らないが…一緒に戦っているうちに違和感がでてくる可能性が高い。
ならば、『戦わせない』という選択が一番良い。
家の家訓は本当の事だ。
これでどうにかなると良いんだけどな。
「あの、理人君、それは私に専業主婦になって欲しい? そういう事だよね! 謹んでお受け…あたっ」
「理人、それは私が好きだから、戦って欲しくないそういう事よね? それなら仕方ないよ、うん、解った理人を一番理解して…痛いっ、何するのよ綾子」
「先にぶったのは塔子ちゃんだよね?」
「綾子おおおーーっ」
「あの宜しいんですの? 理人様に見られてますわよ!」
「「あっ」」
「別に気にしないで良いよ、これからは堅苦しいのは無しにしよう! どうせ長く一緒に居れば取り繕う事なんて出来なくなるからね…俺だって変な面沢山あるから」
まぁお互い学生だもんな。
異性に良く思われようと「外面」があるのが当たり前だ。
誰だって異性に好かれたいそう思うのは当たり前だ。
「そうですわね…どんな残酷な人間でも好きな人の前では優しくなる。それは当たり前ですわね。それはそうと本当に良いのですの? 私に働かないで良いなんて言った人間は初めてですわ」
「ああっ本当に構わないさぁ…『死ぬ気で女を守れ』それが家の家訓。それなのに戦闘の場に女の子を立たせちゃったらご先祖様に面目が立たないんだ」
「私は貴族ですからわかりますわ。家訓とは守る物ですわね。それでは私はそうですわ、留守を守るとしますわ」
「フルールさんそれはどういう意味ですか?」
「フルール、何が言いたいのかしら?」
「ええっ 妻は夫の留守を守る者ですわね」
「フルールさん、私貴方が嫌いです!」
「ええっ綾子気が合うわね、私も嫌いだわ」
「そうですか? 私はお二人とも好きですわ」
「「えっ」」
「だって理人様が貴方がたを好きなんですから、理人様が好きなら豚でも愛せますわ」
「「やっぱり嫌い」」
何だか仲良さそうで凄く羨ましい。
◆◆◆
その日はただ王都を離れて次の街まで歩いた。
そこに宿をとりはやめに寝た。
深夜になり俺はフルールに会いにいった。
フルールだけには俺の状態を知って貰おうと思ったからだ。
軽くノックをするとフルールは直ぐに反応した。
「理人様、もしかして夜這いですか? 勿論理人様なら受け入れますわ」
「フルール、ちょっと話をしたいんだが良いか」
「お話しだけなのは残念ですが、ええっ構いませんわ」
「フルールは女神は好きか?」
「女神と言えばマインの事ですわね…虫唾が走る位嫌いですわ」
これなら話しても良いだろう。
俺は自分の事についてフルールに全て話した。
「やはり素晴らしいですわ…私は本当にあの女神マインが嫌いでして、綺麗ごとばかりの頭が花畑の聖職者も嫌いですの…敵対する神が居るなら是非信仰したいですわね」
本当に女神が嫌いなんだな。
これなら時期を待って『日本人にならないか』と話しても良いかも知れない。
だが、それより聞かないといけない事がある。
俺はテラスちゃんのお陰で魔族と知能のある魔物とは争わない事が決まっている。
そうなれば自然と敵は『人間側』になる。
更に言うなら『異世界人(元日本人)』を狩ればスキルやジョブが手に入るしレベルも上がる。いう事無しだ。
だが、流石に何も悪い事していない人を手にかけたくない。
それをする気なら、とっくに同級生を狩っている。
だから『悪人の異世界人(元日本人)』を狩りたい。
その事を相談してみた。
「気にする必要は無いのですわ…悪い異世界人なんて腐る程いますわよ」
「そんなに居るんだ」
「居ますわね! この近くならジャミル男爵、元大賢者がクズですわね」
こうして俺の最初の目的地はジャミル男爵領に決まった。
悪い異世界人には違いませんわ
理人様から相談を受けましたわ。
これは2人だけの秘密なのですわ。
何て甘美なお話しなのでしょう。
綾子も塔子も知らない、私と理人様だけの秘密。
これは理人様が『私を愛し、信頼してくれている』そういう事に違いありませんわ。
しかも、まぁ二人と一緒なのは不本意ですが『働かないで良い』なんて初めての経験ですわね。
今迄の周りの人間は私を利用するか、すり寄ってくるクズしか居ませんでしたわ。
本当に…『私の為に生れて来た様な男性』ですわね。
理人様の要望に応える為にも『悪い異世界人(元日本人)』を探さなければいけませんわね。
『悪い異世界人等腐る程いますわ』ですがこれは半分が本当で半分が嘘なのですわ。
悪い事した異世界人(元日本人)は確かに多くいますが。
その殆どが過去の事で『償っている方』が多いのですわ。
若くして転移してくる方が多く、力があって、それを咎める人が居ないのですわ。
若い頃はやりたい放題。
その結果不幸を振りまく存在も多いのですの。
ですが、大体が途中から更生をしだして、殆どの方が真面になるのですわ。
まぁ、自分に力がある事が解り、チヤホヤされる様になると、最後には『名誉』が欲しくなるのですわね。
だから、最初は馬鹿な事をしても、最後にはそこそこ立派になる人物が多いのですわ。
それが異世界人なのですわ。
これは当たり前の事なのですわ。
最初は、力があるから『何でも出来る』『何をしても許される』その二つに過信しますの。
そして『手に入らない物がある』と無茶をしますの。
欲しい物を無理やり奪ったりしますの。
恋人が居ようが、婚約者が居ようがお構いなしに、好きな女を無理やり手に入れたり、
そして、気に食わないと暴力を振るいますわ。
その能力の高さ、魔族と戦って貰わなければ困る国や貴族はそれを見て見ぬふりをしますの。
だけど、すぐに『気がつきますの』、自分であれば、そんな物、いやそれ以上の物が簡単に手に入ると言う事にですわ。
それに気がつくと結局は簡単には手に入らない『名誉』が欲しくなりますの。
今現在は、そういう事が起きないように召喚の時に時間を使って『異世界人(元日本人)であれば何でも手に入る』そういう事を国が教える様になりましたの。
あらかじめ異世界人に好意のある者をメイドにしたり、貴族とのお見合いをさせたりしますわね。
そして『奴隷』ですわ。
そこには決して異世界には居ない、綺麗なエルフやフェアリーという存在が居ますの。
それが、自分なら簡単に手に入ると言う事を意識させる事で、犯罪を犯す様な異世界人は減りましたわね。
ですが、ひと昔の異世界人は違いますわ。
国が経験不足で『そう言った教育』をしなかったせいで、ひと昔前の結構多くの異世界人は『何かしらの犯罪』を犯していますわね。
そういう意味では、ひと昔前に召喚された異世界人は『全員理人様の敵ですわ』
ですが…ここからは理人様には言えない事なのですが…
彼等の多くは『罪を償った者が多い』のですわ。
例えばある異世界人のお話しをしますわね。
今みたいな制度が定まる前の事ですわ。
異世界から召喚された少年があるパン屋の店員の女性を好きになりましたの。
ですが、その女性は既に結婚して夫と子供のいる身でしたの。
ただの異世界人なら良かったのですが彼のジョブは『聖人(聖女の男版)』でした。
どうしてもその女性を欲しかった彼は王に対してこういいましたのよ。
『彼女がどうしても欲しい。もし彼女を僕にくれないなら『戦わない』』
その後は…お決まりですわ。
聖人は勇者パーティの防御と回復の要。
どうしても必要な戦力なので、国は彼女を無理やり夫と別れさせ彼に与えましたの。
毎晩の様に彼女は泣きながら彼に抱かれました。
そうしないと自分達の夫と子供が街が国が困るからですわね。
ですが、ある時彼は気がつきましたの。
『聖人である彼は幾らでもお金が稼げると言う事』そして『奴隷商に行けば彼女より綺麗な女性が金貨10枚もしないで買える事』に気がついたのですわ。
そして彼女は要らなくなり…返しました。
ですが…そこで彼女は普通に過ごせるのでしょうか?
過ごせる訳ありませんわね…旦那にも子供にも、街の人々にも『異世界人に犯されていた』そういう事実を知られてますからね。
ここ迄なら…ただのクズ男の話ですわ。
ですが…彼は後悔しましたの。
多少は良心の呵責があったのでしょう。
そして考えた結果…彼女や夫や子供にお金を払いましたの。
その金額は金貨1000枚(約日本円にして1億円)
この世界は賃金が低いのでこの金額があれば自分達はおろか自分の子供下手すれば孫迄働かないで暮らせますわね。
まぁ、レベルが上がれば竜すら狩れる彼からしたら、こんな大金ですら半月もあれば稼げますわね。
彼女達は貰ったお金で国を離れ、帝国に行きパン屋を趣味で開き、遊びながら暮らしているそうですわ。
そして、彼はその事件の後は決して、この様な犯罪を犯さず、まぁ複数奴隷を購入したそうですが、魔族と懸命に戦い、それが評価され、貴族になりましたわ。
さぁ、ここで問題なのですわ?
確かに彼は悪い事はしましたわ…ですが償ったと言う事になりませんか?
多分、この国の人間、貴族でも同じ事をしても此処までの償いはしませんわ。
この世界は貧しい者が多くいます。
言い方は悪いかも知れませんが、この被害にあった女性のレベルなら金貨5枚も出せば奴隷として買えますわ。
その彼女を傷物にした代償で金貨1000枚払っていますわ。
実際に彼女やその家族は莫大なお金を貰い、その後の人生を幸せに過ごしています。
そして、ここ迄のお金を貰ったせいか『その罪を許しています』わ。
簡単にお金を稼げるからした事と言うのは明白ですわ。
ですが同じ事をしたこの世界の人間は此処までの償いは誰もしていませんわね。
つまり、『悪い異世界人(元日本人)等腐る程いますわ』は正しいのですが…こんな風に罪は一応償っている方が多いのですわね。
ですが…そんなのは関係ないのですわ。
だって、理人様には『沢山の異世界人(元日本人)』を狩って貰って強くなって頂かないとなりませんわ。
だから…『罪を償った』そんな話をする必要はありませんわ。
『悪い事をした異世界人(元日本人)』には違いありませんからね。
冒険者登録と生首ケーキ
ジャミル男爵領。
通称ジャミル街。
人口2000程の街で極端に栄えている訳でもなく、かといって寂れている訳でもない。
ごく普通の街、そんな感じに思えた。
街には、ほぼフリーパスで入れる。
外見が日本人である俺たちは異世界人と解かる為、特に身分証明書を出す必要もなく素通りだ。
まぁ一般の人はこんな小さな街でも足止めされて、簡単なチェックをされていた。
「さてと冒険者ギルドに行くか?」
「「「はい」」」
王都で登録しても良かったが、フルールは既に冒険者登録がされている。
そして有名人なので混乱を避けるために他の街でする事に決めた。
フルールの話では何処で登録しても何も変わらないと言う事でこの街で登録する事にした。
「げっ、フルール様」
フルールの顔を見るとギルドの受付嬢は露骨に嫌な顔になった。
「あらっ、何て顔をしていますの? 私は高位冒険者の資格持ちですわよね? それが、なぜ『げっ』なんて言われなくてはなりませんの?」
「すみませんフルール様」
話しを聞くとフルールは冒険者としてのランクはAランクで『拷問女王』の字(あざな)を持つのだという。
ギルドの職員の顔は皆して青い。
周りのヒソヒソ声を聞くと何となく事情が分かった。
「職員も大変だよな…またあんな死体を持ち込まれるのか」
「私、他の街にいくわ、幾らお尋ね者の盗賊や犯罪者でも頭が真っ二つにされた死体や、四肢が切断されて断末魔の顔をした死体は見たく無いわ」
「それなら良いよ…俺は酸みたいな薬品で顔半分以上が溶かされた男の死体を見たんだぜ」
「まだ、死んでいるなら良いよ!俺なんて『頼むから殺して下さい』を繰り返して言い続ける女を持ち込んできたのを見たことがあるぜ」
盗賊や犯罪者の懸賞金や達成金を貰う場合は『死体を持ち込みか』もしくは『当人を連れてくる』かしないといけない。
フルールはそれらの者を持ち込むときに『凄く状態が悪く』見るに堪えない状態で持ち込むからこんな反応をされるんだろう。
まぁ字が『拷問女王』なのだから、拷問の後に恐らく持ってくるのは想像がつくな。
◆◆◆
「もう怯えないで下さいですわ。私貴方達に危害を加えた事はあって? ありませんわよね?」
「はい…それではフルール様、本日のご用件はなんでしょうか?」
「三人の冒険者登録とパーティ申請ですわ」
「畏まりました、それではパーティのリーダーはフルール様で」
「違いますわ、私奴隷ですので、リーダーは理人様ですわ」
「ちょっと待ちなさい! リーダーは私よ!」
あっ、綾子が悪そうなにニタリと笑っている。
最近になり綾子の性格の悪い部分を偶に見る事がある。
前の世界では『なんでも完璧にこなして、優しくて正義感が強い』綾子はそんな子だった。
だが、そんな完璧な子なんて居るわけが無い。
こうして『素の姿』を見せてくれるのが結構好きだったりする。
口に出しては言わないけどね。
「そんな約束したかな? 私はリーダーは理人君が良いな! 塔子ちゃんが嫌なら仕方ないから私とフルールさんと理人君でパーティを組むから塔子さんはソロで良いんじゃないかな? そう思わないフルールさん」
「私も賛成ですわ…それで良いですわね、理人様」
「図ったわね、最初から二人してそのつもりだったのかしら、理人は知らなかったのよね」
「俺は余りリーダーとか向かないから、勝手に決めてくれて良いよ」
「「駄目(ですわ)」」
「まぁ良いわ、理人なら良いわよ…最初からそうしたいなら私にも言えば良いのに。理人、貴方以外じゃ、絶対に大揉めするから、リーダーお願いね。全く私は理人は昔からこういう目立つのが嫌いだから、自分から立候補しただけだもん。本当に酷いわよね、2人とも理人に無理やりリーダーを押し付けるなんて」
「理人君、やっぱり嫌なら私が変わってあげる」
「理人様、名前だけのリーダーで良いのですわ。仕事は全部私に丸投げで構いませんわ」
塔子が2人に対してアッカンベーをしている。
「馬鹿ね本当に昔から理人は仕事が嫌いなんじゃないないわ、目立つ事や肩書がつくのが嫌いなのよ、私は幼馴染で知っていたからね。自分から立候補したのよ」
関係は微妙だったけど、流石は塔子良く俺の性格をしっているな。
「塔子ありがとう。でも良いよ!この中で俺一人が男だし、フルールの主人は俺だから、リーダー引き受ける」
「まぁ理人がそう言うのなら良いわ、頑張ってねリーダー」
「ありがとう」
二人が憎たらしそうに塔子を睨んでいるが…本当に仲が良いな。
やっぱり男なのか疎外感を最近少し感じるんだ。
仲が良くて本当に羨ましいな。
◆◆◆
「それではまず、登録をさせて貰います、三人は異世界人なので最初からC級スタートです。頑張って下さい。パーティリーダーは理人様で、それでパーティの名前はどうしますか?」
「パーティの名前か…どうしようか?」
「お任せで構いませんわ」
「私も同じ」
「任せるわ」
「自由の翼は苦労しそうだし、ブラックウイングは何だか死亡フラグの様な気がする…フルールは黒薔薇なんだし、塔子も綾子も似合いそうだから、ブラックローズで良いか?どうだろう?」
「黒薔薇(ブラックローズ)ですか?最高ですわ」
「そうですね構いませんよ」
「まぁ良いんじゃないのかしら」
「それじゃ、ブラックローズで」
「解りました…それではブラックローズで登録しますね…冒険者としてのルールはベテランのフルール様が居るので大丈夫ですよね…あと個人的お願いですが素材や討伐証明の持ち込みの時…余り猟奇的にしないで下さいね、フルール様特にお願いいますね…生首ケーキとか止めて下さい」
「もう、しませんわ、理人様のパーティなので迷惑掛けませんわ」
「信じていますからね」
「クドイですわ」
「これで個人の登録とパーティ登録は終わりました。こちらが冒険者証になります」
金属製のプレートを貰った。
身分証明書件、銀行のカードも兼ねていてギルドにお金を預ける事も可能らしい。
こうして俺たちの冒険者登録は終わった。
◆◆◆
「そう言えばフルール、さっき聞いた生首ケーキってなに?」
「あれはですね、結構大物の盗賊を討伐した時がありまして、その日が私の部下の黒騎士の1人の誕生日でしたの。街についたのが夕方でケーキは売れちゃて無いと言う事でしたわ。クリームだけならあると言う事でしたから討ち取った盗賊の生首にクリームでデコレーションしまして、仕方なく冒険者ギルド併設の酒場で討伐&誕生パーティをしましたの。多分その事ですわ」
「生首を飾ったのか…黒騎士の方はどうだったんだ」
「『流石フルール様いつも通りですね』と普通にエールを飲んでいましたわ…ちなみに黒騎士は一般冒険者に偽装した状態での事ですわ」
冒険者が生首ケーキを中心に酒やご馳走を食べている…確かに猟奇的だな。
「凄いな、それ」
綾子や塔子も流石に引いている。
「もしやりたいのでしたら、言って下されば、またデコレーションしますわ」
「遠慮しておくよ」
「そうですか? 残念ですわ」
魔王よりもフルールの方が怖いと思ってしまうのは俺だけだろうか?
魔物は狩れなくなった。
「行ってきます」
「「「いってらっしゃい(ですわ)」」」
俺は話の通り一人で出かけた。
綾子も塔子も…まぁ完全に俺のことが好きなのは解っているしフルールは奴隷だ。
俺が働いて食べさせていく。
神代家では当たり前の事だ。
神社だけあって、結構厳しい家訓があり。
例え神社を継がなくても、その辺りをしっかりしないと親族からお小言を言われる。
俺の歳の離れた従兄は18歳の時に16歳の子を孕ませできちゃった婚をしたが、叔父さん、叔母さんが言ったのは『責任をとるなら良い』だった。
18歳の従兄は直ぐに仕事を探し、昼間は大工見習い、夜は水商売のダブルワークを始めた。
18歳から24歳まで、働いて『結婚相手』には一切働かせなかった。
最も、そこ迄していた結婚相手が不倫して離婚した時には可哀想で見てられなかった。
叔母さんが言っていた。
『神代家の男は付き合った相手の中で『1番になるの』別れた彼女は何時か思い知る事になる』と。
実際に別れた彼女はすぐに不倫相手と別れ…従兄の素晴らしさを知った。
復縁しないと解かるとストーカーに成程だった。
まだ、俺は学生だから詳しい事は解らない。
だが、それでもこれは神代家の家訓だから守ろうと思う。
◆◆◆
『困った、実に困った』
今日は初日だし、常時討伐依頼をこなそうと思っていた。
討伐の殆どは『常時依頼』が多い。
これは特にギルドに断りを入れなくても受けられる依頼だ。
この間の演習の時にゴブリンは問題が無かった。
恐らくだがゴブリンやオーク位なら知能が低いから問題が無い。
そう思っていたが、これが間違いだった。
森でゴブリンに会った。
何となく様子が可笑しいから、名乗りを上げたんだ。
「我が名は理人」
そこ迄した所で、いきなり両手をあげてヒラヒラしていた。
明かに『降参です』そんな感じに思えた。
敵意が無いようだから様子を見ていると『ついて来い』そう言っている様に思えた。
そのままついて行くと。
「貴方が、邪神様の言う理人さんですね。はじめまして」
「はじめまして、その体格にその姿はもしやゴブリンキングですか」
そうか、上位種の存在を忘れていた。
ゴブリンにだってロードやキングも居る。
つまり『理知的な存在』も居る。
「そうです、貴方の言う通り、俺はゴブリンキング、そして周りにいるのはロードにジェネラルになります」
「やはりそうですか」
「苦労しました、如何にキング種の言う事でもなかなかゴブリンは理解しない。ですがもうご安心下さい。我らキング種がしっかりと管理していますので『野良』でもない限り、もう貴方と敵対する者はおりません。 今頃オークも同じ様にキング種が説得しています。オーガになるとあれでも知能がかなり高いので説明なく理解が出来ます」
つまり、この時点で俺はもうほとんどの魔物を狩れなくなった。
そういう事だ。
困ったな。
これで、俺はお金を稼ぐ手段が無くなった。
暫く考え事をしているとゴブリンキングは俺に大量のお金の入った袋を持って来させた。
「これは?」
「異世界人の殆どは冒険者です。魔物が狩れなければお金に困るでしょうからと邪神様から渡す様に言われました。我々は人の金等使わないので『必要のない物』ですから、全部差し上げましょう」
これは凄く大金だ。
色々なお金が混ざっているから解らないが、大金なのは解る。
「ありがとう」
お礼位はいうべきだ。
大金をくれたのだからな。
「どういたしまして、食事でも一緒にとも考えましたが『ゴブリンの食事』は人間には不味いらしいですからな…そうだ性欲の方を満たしますか? 苗床の女が8人居ますから自由に使って貰って構いませんよ」
「いえ、遠慮します」
人間としてなら此処で戦って女性を救うのが正しい。
だが、最早ゴブリンたちは味方なのだ。
友好的でお金迄渡すゴブリンを殺す事は俺には出来ない。
見たら気が変わるかも知れないから『見ない』
ただ、心から『ごめんなさい』謝るだけだ。
「そうですか、残念です。理人様はこれから先異世界人と戦う可能性が高い方です。敵の敵は味方。もし困った事があればいつでも訪ねて下さい」
「有難うございます…無理元で聞くのですが邪神様に関係ない魔物はいますか?」
「全ての魔族は邪神様を崇拝しています…理解できない馬鹿はいますが…もし狩りたいのなら、魔物ではありませんが『竜』は邪神様は関係ないので狩っても問題はないと思います。」
たしかワイバーンは討伐対象だったな。
「ワイバーンは」
「竜ですね」
どうやら俺は…ほとんどの魔物を狩れなくなってしまった。
狩るならいきなりワイバーン…果たして俺に狩れるのだろうか?
取り敢えずゴブリンキングからもらったお金をアイテム収納に放り込むと俺は再度お礼を言って、ゴブリンの巣穴を立ち去った。
ワイバーン討伐
ゴブリンキングから貰ったお金は銅貨から金貨まで沢山あったが、全部合わせると金貨400枚分(日本円で4000万円分)あった。
最も、これでは働いているとは言えないので、ワイバーンを見に、ワイバーンが居るという岩場迄来た。
途中まで、ゴブリンキングがつけてくれた。ゴブリンが案内してくれた。
ゴブリンは後ろ姿を見る分には緑色の臭い子供に見えるから、問題無い。
ただ、前から見ると『年とった悪い妖精』みたいに見える。
敵じゃないと解っているせいか…そこ迄気持ち悪くない。
ただ、臭いだけだ。
近くまで来るとゴブリンは指をさして帰っていった。
何となく『此処からは危ないから案内出来ない』そう言われた気がする。
言われた方向に歩くと森を抜けて岩場があった。
そこにはワイバーンが数匹飛んでいた。
まるでプラテノドンだな。
子供の時に読んだ恐竜図鑑を思い出した。
見た感じでは仲間同士はそれ程助けあっている様に思えない。
流石に空を飛んでいるワイバーンは狩れない。
だが、ここは岩場で恐らくは巣なのだろう。
羽を畳んで休んでいる個体が居る。
万が一群れで助け合う。
そんな事があったら危ない。
手始めに、群れから離れた個体を狙った。
『草薙の剣召喚』
俺の手の中に日本の神話に出てくる草薙の剣が現れた。
恐らく勇者の聖剣召喚が『日本仕様』になったのかも知れない。
確か、ダチョウを殺す時は気がつかれない様に後ろから近づいて喉を斬るんだったな。
鶏も同じで食べる時は一瞬で鎌で首を爺ちゃんが跳ねた記憶がある。
同じ様に静かに近づき…一気に喉を狙った。
「クワァァァ」
一言声をあげたと思ったらすぐに絶命した。
流石に首は跳ねていないが、半分位はざっくりと斬れた。
アイテム収納に入るから…死んだという事だ。
ジョブと言うのは凄いな。
恐らく、これは『英雄』『剣聖』の影響に違いない。
感覚で言うなら、大きな凧、そうお正月に上げるあれ。
あれをカッターで斬る位に滑らかに斬れる。
何だ、簡単じゃ無いか。
他の竜種は結構な相手だと聞いたが、ワイバーンは複数で来られなければ強敵じゃない。
結局、俺はこの日6羽のワイバーンを狩り冒険者ギルドに戻った。
体が熱くなったから、多分レベルが上がった筈だ。
だが『人間を狩った時』程は強く成った気がしない。
やはり、俺の神はテラスちゃんなのでそういう仕様なのかも知れない。
◆◆冒険者ギルドにて◆◆
俺はゴブリンキングから貰ったお金はアイテム収納に入れたままにして、6羽のワイバーンの買取り依頼をした。
基本、殆どの魔物は常時依頼だから、依頼書を剥がす必要は無い。
「理人様、本日はどういったご用件でしょうか?」
「ワイバーンを討伐してきたので報告と買取りをお願いしたい」
「ワイバーンですか? 流石異世界人ですね。それでは買取り、させて頂きますのでこちらにお出しください」
俺は異世界人(元日本人)じゃなくて日本人だが、それは言わない。
「此処じゃ無理だと思います」
「そうですか? まさか2羽ですか…凄いですね、それじゃ倉庫に行きますか?」
「お願いする」
「さぁ、此処であれば広さは充分あります。2羽が大物でも充分です。さぁどうぞ出して下さい」
「それじゃ出しますね」
「えーと…1羽、2羽嘘3羽…まだあるんですか?」
「全部で6羽です」
「嘘、6羽、すぐに応援連れてきますから、暫く待っててください」
凄く慌てて走っていったな。
簡単に狩れたから気にしなかったけど…やはり本来は強敵なのだろう。
何だか髭もじゃ親父が焦った様に来た。
「儂は此処のギルマスのボルドーだ。なんでもワイバーンを6羽狩ってきたそうだな…凄いな1羽ビッグサイズが居るじゃ無いか」
「とんでも無い話ですよね。ワイバーン1羽だけでも騎士が20名で倒すのに、それを6羽なんですから」
「まぁ、異世界人としてもあんたは凄く優秀だ」
これで優秀なのか?
これで優秀なのだとしたら…敵の魔族はどうなんだ。
物凄く弱いか、異世界人(元日本人)は歯が立たないんじゃないのか?
「そうですか、有難うございます。まだ新人なので教えてください。異世界人でもワイバーンはそんな簡単には狩れないのでしょうか?」
「ああっ、まだ転移してきたばかりだろう? この時期にワイバーンなんて狩れるのは5職だけだ、それも精々がソロなら1羽か2羽だ。6羽なんて普通はあり得んよ。所でお金の方だが少し待って欲しい」
「何故ですか?」
「ワイバーン1羽辺り金貨60枚(約600万円)それが5羽で金貨300枚。ビッグサイズは金貨90枚(約900万円)だから流石にギルドの金じゃ足りない…だが貴重な素材だから直ぐ売れるから1週間とは掛からない。他に討伐報酬が1羽金貨10枚だから6羽で金貨60枚。こちらは直ぐに振り込む」
話しでは大きなお金、金貨30枚以上はギルドで作った口座に振り込まれるそうだ。
凄いな金貨390枚+60枚。合計450枚(四千五百万)か。
お金はこれで解決した。
欲しければワイバーンを狩れば良い。
問題は『この程度の事を異世界人が出来ない事だ』
「今の話だと『異世界人はそんなに強くない』とも取れるんですが、どうなのでしょうか?」
「つえーよ! 1年も経てばよ殆どの異世界人はワイバーン位は狩れる。この世界の人間じゃそんな事が出来るのはごく一部だ。だが、流石に最初から無敵な訳じゃない」
ある程度強くなるまで1年掛る・
更に強くなっても『俺が思っている程強くはない』そんな気がしてならない。
「それじゃ、魔族に対抗できるようになるにはどの位掛かるんでしょうか?」
「魔族の雑魚でワイバーン位と考えると1年位だな…まぁ5職は別格だが」
と言う事は普通の異世界人は1年以内に魔族と戦うと負け確定と言う事だな。
その割にはギルドマスターが落ち着いているのはどうしてだ。
「問題が無いんですか」
「あると言えばあるが…考えても仕方ねーだろう」
諦めている。
そういう事か。
まぁ良い。
俺はまだこの世界について知らない。
これからおいおい知って行けばよいさぁ。
まぁ今日は凄く稼げた。
皆と一緒に美味しい物でも食べて、少し豪華な宿屋に引っ越すか。
ジャミル男爵の罪
「ただいま~」
「「「お帰りなさい(ですわ)」」」
三人に今日の出来事について話した。
勿論、ゴブリンキングやゴブリンの事だけは内緒だ。
綾子と塔子はピンと来てないようだが、フルールは驚いたような顔をしながら話し出した。
「ワイバーンを単独で狩ったんですの! 流石理人様ですわね。まるで勇者みたいですわ」
フルールだけは三人の中で俺の事を全部知っている。
こういう腹芸が出来るのは流石だな。
「思ったよりは簡単だったよ」
「流石ですわ、普通は騎士が束になって倒す存在なのに、それを6羽も狩るなんて本当に素晴らしいですわ」
「ワイバーンって翼竜みたいな奴だよね…流石理人君、本当に凄いよ」
「そうだよね、理人って本当に凄い…うん流石だよ」
「この位なら何とかね…ワイバーンを1羽狩ると金貨60枚になるから、これで生活の目途も経ったし、今日は美味しい物でも食べに行かない? あと宿屋も表通りにある良い場所に移動しよう」
「理人君がそう言うなら、うんそうしてくれると嬉しいな」
「私も同じ、お風呂、せめてシャワーがある場所が良い」
「ハァ~ それ結構高い宿屋ですわよ」
「フルール、高いってどの位?」
「まぁ1泊、銀貨5枚位だと思いますわ」
約5万円って事か。
それ位なら別に構わないな。
本当なら、家を購入したいが表向きは『魔族を狩る旅』をしなくてはならないから定住できない。
それなら、良い宿屋に泊まる位の贅沢は良いだろう。
「別に、それ位なら構わない。早速移動して、飯でも食いにいこうか? フルール何処か良い宿屋とレストラン知らない」
「お任せくださいですわ」
フルールは本当に凄いと思う。
元が公爵令嬢なのに解らない事が無いんじゃないか?
そう思える程に何でも知っている。
この世界には勿論スマホなんて無い。
そう考えたら、物知りな人物が如何に重宝するかが良く解る。
フルールが居なければ、門構え良いお店に飛び込みで入らなくてはいけないし、宿屋も同じだ。
「このお店がこの辺りでは高級店ですわ」
見た感じ豪華で、装飾も綺麗だ。
食べた味は…多分ファミレスの方が美味しい。
よく考えて見れば、この世界に来て食べていた料理は王宮の物だった。
恐らく、異世界人への接待も入ってきたからかなり豪華な物だったのだろう。
「凄く美味しいのですわ」
「…そうね」
「こんな感じなのね」
美味しいというフルールに対し、綾子と塔子の顔は少し引きつっている。
この三人を見ていると、如何にこの世界の飯が美味しくないのかが解かる。
まぁ、日本で暮らして居れば、1000円も出せば美味しい定食が食べられる。
仕方ない事だな。
綾子と塔子はもうあの美味しい食事を食べる事が出来ないのか…そう考えると少し不憫に思えた。
◆◆◆
深夜になり俺はフルールを起こした。
今日は綾子と塔子が左右で上がフルールなので、上手く抜けだす事ができる。
この部屋にはベッドは4つあるのに…まだこの寝方は継続中。
一回腕枕を頼まれてした事があったが…起きたら手が痺れていて痛かった。
だから、今はしてない。
今日の夕飯の時にワインも飲んでいたから、2人はぐっすりと寝ている。
此処から二人に聞かれてはいけない内容だから、念のため、こっそりと借りていた別部屋に移動した。
「これは2人で愛の営みをしたい、そういう事なのですわね」
「違うよ…解っているだろう?」
「そうですわ…ジャミル男爵の事ですわね」
「それだよ」
「まぁ、簡単に言うと女の敵ですわ」
フルールの報告ではこうだ。
本名は ジャミル 鈴木
下の名前はカッコ悪く嫌っていて、当初から『ジャミル』と名乗っていた。
黒目、黒毛だから間違いなく日本人だな。
ジャミル男爵の悪い所は『兎も角女癖が悪い』
自分好みの女が居ると、絶対に手に入れないと気が済まない。
半分レイプ紛いに犯された者、脅されて従わざる得なかった者。
汚された女性の数は二けたで納まらない。
その多くは、恋人、夫を持っている家族持ち等が多い。
そのせいか寝取り癖があるという噂もあるが、生娘だから大丈夫という訳では無い。
運が良いのかどうかは解らないが、ジャミルは飽きっぽい。
一か月位、楽しんだ後は、まるで興味が無くなったようにポイ捨てする。
「この行為は今でも続いていますわ…ただ問題なのは」
「何かあるのか?」
「その行為の全ては示談になっていますわね」
「どうしてだ」
「異世界人にとってはお金なんてどうとでもなりますわ…その能力を生かせば幾らでも稼げますわ」
確かに俺が簡単に稼げるんだ。
他の元日本人が稼げない訳無い。
「確かにな、だがお金じゃ許せない。そんな女性だっているんじゃないか?」
「そういう女性が問題なのですわ」
話しを聞けばとんでもない人間だった。
散々弄んだ女性に莫大な慰謝料を用意する、その額は金貨1000枚(日本円で約1億円)
これで大体の人間は納得するらしい。当人が納得しなくても家族やその親族が勝手に示談に応じてしまう。
稀に、それをはねつける存在がいたら…今度は異世界人ならではの力や権力を使い圧力をかける。
「最低なお話しなのですわ、仕事を奪ったり、場合によっては『家族の命や生活を壊す』そういう脅しをかけますの」
まるで、元の世界の半グレかヤクザだな。
「それじゃ脅しであって示談じゃないな」
「そうですわね、ですが殆どの人間がそこに行く前に『示談』に応じますの。権力者で異世界人。だれも逆らえませんし、何より貧しい人が多いのでお金の魅力に勝てない…当人が勝てても周りが勝手に謝罪を受け入れてしまうのですわ…理人様どう判断しますの」
やっている事は悪だ。
だが示談は終わっている。
フルールの話では『死人までは出ていない』そして割とその後は幸せに暮らしている人間も多い。
どうすれば良い…『悪』か『善』か…
なんだ、余り考える必要は無い。
すっかり忘れていた。
『日本を捨てた時点でテラスちゃん的には悪だ』
与えられた力で悪い事をするなら…その力を奪えば良い。
そこから後は…その時のそいつの態度で決めれば良い。
それだけだ。
家事
「おはよう」
「おはようございますですわ…って理人様、一体何をしていますの?」
「此処の宿屋はキッチンがついていたから、料理しているんだ。朝市に行って買ってきたんだが、今一前の世界と違うから、味の保証はしないけどな」
《嘘ですわ、黒薔薇の私が傍に居ながら、立ち去る気配すら感じませんでしたわ、凄い隠形ですわ…それより、まさか》
「あっ、あの…下着」
「ああっ、貯まっていたから、洗濯して室内干しにしたんだ」
「流石に下着は自分で洗いますわ」
「気にするな、俺は神社で育ったから、洗濯には慣れているし、料理もする。まぁ爺ちゃんと二人で暮らしていたからな、それにお手伝いの巫女さんの衣装も俺が手洗いしていたからまぁ気にしないで良いよ…」
「そうですか、まぁ理人様がそれで良いなら良いのですが、それより何故音を殆ど立てずに立ち去って、更に音を殆ど立てずに家事が出来たのです…解りませんわ」
「それなら、爺ちゃんがさぁ『音を立てるな』って小さい頃から言われていてさぁ、起こさない様に家事をする修行をしていたんだよ」
「あの、お爺様は一流の暗殺者ですの?」
「神主だけど、そこら辺に良くいる年寄りだけど?」
《そんな訳ありませんわね、絨毯に落ちる針の音ですから気がつく私が、気がつかないレベルの隠形、アサシンだって敵いませんわ》
「そうですか、素晴らしいお爺様ですわね」
「まぁね。それより料理が完成したから二人を起こして」
「解りましたわ」
「えーと、フルールさん洗濯してくれたのは嬉しいけど、流石にこれは無いよ」
「この部屋には理人もいるのよ、気をつけてよ、恥ずかしいわ」
「これを洗って干したのは理人様ですわ」
「「えっ」」
「ああ、気にしないで良いよ、俺は元から修行で洗濯は得意だからな、あと料理もある程度は出来るから作ってみたんだ…とりあえず食べよう」
「理人君の手作り…うわぁぁぁぁ美味しそう」
「理人が作ってくれたの?」
「まぁね、ただ俺が本来得意なのは和食なんだけど、食材が手に入らないから洋食。しかも、食材全部は揃ってないから…かなり適当だけどね」
「理人様の手作り…口の方を合わせますわ」
「私、理人君が作ってくれたなら泥団子だって食べるよ」
「そうね、理人の手作りなら、不味くても完食する自信はあるわ」
何気に酷いな。
俺は本当に家事は出来るんだけどな。
「…美味しいのですわ。これレストランや王宮の料理よりうまいのですわ」
「理人君、これ美味しい…うん凄く美味しい」
「上手いわ、理人って欠点が本当に無いわね、これなら日本でだってレストランで出せるわ」
「フルールは兎も角、綾子も塔子も酷いな。俺いつも弁当持って来ていたよな? あれ自作だから…クリームシチューを作りたかったんだけどな、野菜や材料が違うから半分勘で作ったから大した物じゃないよ」
「理人君、お世辞じゃないよ! 本当に美味いよ。この世界に来て一番美味しいよ」
「うん、確かにこの世界の味付け微妙に残念なのよね」
「私も、凄く美味しく感じますわ」
「そうか、なら暫くは家事は俺がするよ」
俺はエプロンを外して席を立った。
「それじゃ、洗い物は任せた」
「理人君何処に行くの?」
「こんな朝から、もう出掛けるの?」
「この世界の冒険者は結構朝から働くみたいだからな、慣れないとな」
そう言いながら、俺はフルールに目配せをした。
「行ってらっしゃいませ、理人様」
「「行ってらっしゃい」」
三人に見送られて俺は今日も稼ぎに出掛けた。
◆◆◆
と見せかけて俺は街の入口の所でフルールを待った。
「お待たせしましたわ」
フルールが駆けてきた。
こうして見る分には普通に美少女だ。
「それじゃお願いできるかな?」
「はいですわ」
俺はフルールから『道具』を一式貰った。
フルールは汚れ仕事を扱っていた黒騎士を率いていた。
つまり、暗殺はお手の物だ。
この世界には俺の知らない『魔法』という物がある。
だからこそフルールに頼らないといけない。
道具の中にはマントとナイフが入っていた。
「このマントは?」
「これは見隠しのマントですわ、これを着ていれば余程の相手以外、姿は見られないのですわ」
「このナイフは?」
「ある種の毒蛾の交配を繰り返して作った鱗粉毒が塗ってありますわ、これで刺されたら3分と待たずに死にますわね。まぁ聖女でもない限り死にますわ」
流石としか言えないな蛇の道は蛇、正にそれだ。
「フルールありがとう、今夜早速、ジャミル男爵に攻撃を仕掛ける。今夜遅くなると二人に伝えてくれ」
「解りましたわ…ですが私がついて行かなくて宜しいんですの?」
「ああっこれも男の仕事だ」
「理人様の世界の男って凄いですわね…あっ違いますわね、理人様が凄いのですわね」
「そんな事ない…それじゃ行ってくる」
まずは普通の狩りをして、それが終わったら…夜に備え休もう。
VS ジャミル
どれ位凄いんだ。
三人分のジョブがあるせいか、凄く成長が早い気がする。
冒険者ギルドで話を聞いた所では『五大ジョブ』でも最初はそんなに凄い力は使えない。
それなのに、昨日の今日で俺にとってワイバーンは既に鳥を狩る様に狩れる。
昨日は時間を掛けて6羽。
だが、今日は僅か3時間で既に10羽狩れている。
ついでに卵も8つあったから貰っていった。
全部でワイバーン14羽、卵8つ。
これ位あれば、今日一日、遅くまで狩りをしていた。
そう言い訳がつくな。
そう考え俺は森に戻ってから木に登り、携帯食を食べ休んだ。
しかし、食べてはみた物の…これは凄く美味しくない。
今度、自分で燻製や干物や干し肉でも作ってみるか?
スマホも本も無いから、寝る事位しか出来ないな。
暫く仮眠をしながら夜に備えた。
そろそろ良いだろう。
時計が無いから正確な時間は解らないが、月が出ているから相当経ったのだけは解かる。
俺はジャミル男爵の屋敷へと向かった。
◆◆◆
貴族とは言え男爵だからかそこ迄凄い屋敷には思えない。
粗暴な性格の為か使用人も寄り付かず数人しかいないようだ。
フルールから貰った見隠しのマントは凄いな。
さっき使用人らしき男とすれ違ったが全然気がつく様子はなかった。
ジャミル男爵の部屋を探す途中で、女性のすすり泣く声が聞こえてきた。
近くまで行くと二つの部屋から聞こえてきた。
ドアから聞き耳を建てると…
「貴方ごめんなさい、ごめんなさい」を繰り返す声と「こんな汚された体じゃもう結婚できないよ…ううっ死にたいよーーっ」そんな声が聞こえてきた。
ドアは外からカギが掛かっている。
これでジャミル男爵の黒は確定だ。
ふと疑問に思った事がある。
最初の方は『この世界の仕組みが解らなかった』それで説明がつく。
だが…何故ジャミル男爵は未だにこんな事を行っているんだ。
それこそ、金があるなら奴隷でも大量に買えば合法的になるのに。
俺からしたら、それでも黒だけど、国の法律的には白。
まぁ良い『こんな事する奴の心』なんて解らなくて当然だ。
俺はジャミル男爵の寝室に忍び込んだ。
しかし、不用心だ。
少なくとも魔族と戦っている様な男が何も気がつかずに眠っている。
先手必勝。
『『神の借用書、請求バージョン』』
時間が止まり、ジャミル男爵と俺のステータス画面が現れた。
久しぶりに見る画面だ。
此処からは欲しい物を俺に持ってくればその能力が貰える。
欲しい物を『掴んでも』俺の方に持って来なければ移動はされない。
ジャミル
LV 18
HP11400
MP22800
ジョブ 大賢者 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、複合魔法レベル42(聖魔法以外全ての魔法を使える魔法 但しレベルは上がりにくく最上級を越える物は身につかない)
早速欲しい物を移動した。
『大賢者』を取り上げた→ 『過去にクラスの虐めから逃げられる様に願った分が借用書から消えた』
『複合魔法』を取り上げた→『自殺未遂をした時に『死にたくない』に神に祈った分が借用書から消えた。』
『アイテム収納』を取り上げた→ 『盗難事件の犯人が自分だとばれない様に神に祈った分が借証書から消えた』
アイテム収納を奪っても自分にはメリットが無いのは解っている。
だが、此奴からは取り上げる。
この後の人生
尚、これで1/3も回収していない。
神代理人
LV 19
HP 27000
MP 37100
ジョブ:英雄 剣聖 大賢人 日本人
スキル:翻訳.アイテム収納、複合術式(全LV32)剣術 防御術 草薙の剣召喚 魅了
※複合術式とは全ての術が使える事を意味する。
※非表示の物あり
ジャミル
LV 18
HP1200
MP900
ジョブ 異世界人
スキル:翻訳
結局、此奴から手に入ったのはHP MPと複合術式が上がっただけだ。他のスキルと違いレベルがある物だけは似た物を奪えば加算されるみたいだ。
レベルが無い物はやはり奪っても何も変わらない。
此処で少しだけ思ったのは、ジャミルからスキルを奪った事で、恐らくレベルも上がった可能性がある。
よく見ておけば良かった、失敗した。
しっかりと、元のレベルを把握するべきだった。
これじゃワイバーン討伐や演習であがったレベルもあるから『ジャミル』にした事でどの位レベルが上がったのか解らない。
だが、相手を殺さなくてもただ奪うだけでもレベルが上がる事が解かったのは行幸だった。
さて、これから此奴をどうするか…
殺さなくても良い気もする。
どうするか? 殺すべきか殺さずに置くべきか?
考えた末、俺は黙って立ち去った。
そして時間が動きだした。
◆◆◆
これは俺なりの判断だが…もしここで俺がジャミル男爵を殺してしまったら、あの二人の女性はただのやられ損だ。
もし、俺がジャミル男爵を殺してお金を与えても…盗難者扱いされる可能性もある。
それを考えたら生かしておいた方が良い。
フルールの話では今迄は確実に示談はされているのでちゃんとお金は払われるだろう。
恐らく能力が無くなれば、ジャミル男爵は破綻する。
男爵が治める土地だから、それ程この街は裕福では無い。
それじゃ慰謝料については何処から支払われているのか?
恐らくは俺と同じだ。
異世界転移者のその能力を生かして狩り等で稼いでいるに違いない。
その能力は今無くなった。
今は放っておこう。
◆◆◆
俺は一度、城壁を越えて森に戻り、深夜に門番と話し街に入った。
俺が宿屋に戻ろうとすると宿屋の前でフルールが待っていた。
「それで理人様守備はどうでしたか?」
俺は今日の事について伝えた。
「理人様、それは甘すぎますわ」
「違う、今は殺さなかっただけだ」
「今は?」
まぁ、数日の我慢だな。
不思議そうな顔でフルールが見ていた。
時と場所
「甘いのですわ、理人様私も参ります、今直ぐ殺しにいきま..」
「待て、俺に考えがある。だから今日はこのまま帰ろう」
「本当に大丈夫なのですわね? 甘い考えでないのですわね」
「まぁな」
あの場はああするしか無かった。
何しろ『あの二人』が居たのだからな。
あれが汚される前なら『助ける』そういう選択もあった。
あの場で俺が助けても仕方ない。
恐らくジャミルに連れ去られた事は周りも知っている。
顔も知らない彼女達に俺が出来る事は少ないだろう。
だからこそ彼女達にはお金が必要なんだ。
『家族が納得する』『人生をやり直す』『遠い場所に引っ越す』それが可能な莫大な金が。
だから、あの場は引いた。
『引くのはあの時だけだ』
「まぁ理人様が言うなら仕方ないですわね」
なんだかフルールが冷たい様な気がする。
今迄と雰囲気が違う。
◆◆◆
「行ってきます」
いつもの様に朝食を作り4人で食べて出掛けていく。
勿論、今日もワイバーンを狩る為だ。
「「いってらっしゃい」」
「いってらっしゃい…ですわ」
あの日を境にフルールは俺への興味を無くしたように見えた。
今日で3日間…夜も1人だけ別のベッドで寝ている。
もしかしたら俺に愛想をつかしたのかも知れない。
まぁ良いや…
俺はフルールに目配せをした。
◆◆◆
街の入り口でフルールをまった。
「何か御用でしょうか?」
いつもと違うな。
『ですわ』がない。
目がまるで死んだように曇っている。
まぁ、何となく解かる。
フルールからしたら、俺が甘い事をしたのが許せない、そんな所か。
「まぁフルール、今日は俺に付き合え」
「まぁ奴隷ですから付き合いますよ」
俺はこの日を待った。
ジャミル男爵の屋敷を見張り、2人が解放されるのを待った。
変装しながら、屋敷の使用人から情報を集め、2人に慰謝料が払われたのも解かった。
そして…今日『狩りにジャミル男爵が出る』その情報を掴んだ。
この世界では鑑定は滅多にしない。
屋敷から出ないで暮らすジャミル男爵は恐らく自分が弱体化した事に気がついていない筈だ。
弱体化したとは言えジャミルのステータスは
ジャミル
LV 18
HP1200
MP900
ジョブ 異世界人
スキル:翻訳
だ、普通の騎士並みの力はある。
攻撃魔法やアイテム収納でも使わなければまずバレない。
恐らくジャミルは気がついていない。
俺はフルールを連れてワイバーンの岩場にむかった。
◆◆◆
「ここはワイバーンの岩場ですか…まさかワイバーンを狩れる所を見せてご機嫌をとろうとでも?」
「いや違う、まぁ暫く様子を見ていろよ」
「ハンッ…まぁ見ろというなら見させてもらいます」
暫く様子を見る事数刻…ジャミルが来た。
来ると思った。
しかも一人でな。
此奴のステータスは凄く高かった。
それこそ、勇者の大樹すら上回る程に..俺がこんな『反則技』がつかえなければ間違いなく強者だ。
恐らく金に困ったら『狩れば金が手に入る』そう思っている事だろう。
そして、この辺りで大物と言えば『ワイバーン』だ、だから此処に居れば来ると思った。
「貴方はジャミル男爵様ですか?」
「そうだが、その顔は私と同じ『異世界人』だな、綺麗な女を連れているようだが…同胞からは奪わない、安心…するんだな」
「有難うございます」
「それで…その様子じゃこちらに来たばかりか? うちの屋敷にくるか?」
「それはどういう事ですか?」
「まぁ解らないかもしれんが5職以外の異世界人の中には先の異世界人に仕える存在も多い…まぁ俺に仕えるなら、金と女はやるぞ…平民で良かれば犯し放題にしても許される方法も教えてやる」
「そうですか? 有難うございます」
俺は話しながら、フルールから貰ったナイフをジャミル男爵の心臓に突き刺した。
「貴様、何故?…うぐわぁぁぁゲホッ」
ジャミル男爵はあっけなく死んだ。
何だかまた力が増した気がする。
その死体をそのまま、ワイバーンの方に放り投げた。
ワイバーンは予期せぬおやつに飛びつくようにジャミル男爵を食べた。
「終わったな」
「これはどういう事ですの?」
良かった『ですの』だ。
「最初からこうするつもりだった…あそこで殺してしまえば二人の女性に金が払われない。生かすつもりはなかったが、時と場所が悪かった…それだけだ。そして今は時と場所が良い。この場所に他の人間は居ない…そしてワイバーンが食べてしまったら、もう証拠は残らない…完璧だろう」
「流石は理人様ですわ…私の予想以上ですわ…すみません私」
「気にする必要は無いな、裏仕事をしてきたフルールからしたら俺は相当甘く見えるのだろうな」
「敵には厳しく、それ以外には優しい…それは問題ありませんわ」
「それじゃ帰るか」
「ええっ」
フルールが腕を絡めてきた。
機嫌が直って本当に良かった。
【閑話】ジャミル 鈴木の生涯。
俺の名前はジャミル。
俗にいう異世界(日本)からの転移者だ。
勿論、ちゃんとした日本の名前もあるが、それは虐められていた過去と一緒に捨てた。
だから、ジャミルで良い。
元の俺は毎日の様に虐められていた。
上履きが無い事は日常茶飯事だから、いつもスリッパでいた。
教科書は破かれていて、机の中はゴミだらけ、更に言うなら彫刻刀で『キモイ』『死ね』などと机の上には書かれている。
教師なんて宛にならない。
この机を見たなら俺が虐められている事は解かる筈だ。
だが、教師は注意一つしない。
新任教師に『あいつ等をどうにかしろ』と言っても荷が重いのも解かる。
家は親父と二人暮らしだ。
母親は既に病気で居ない。
問題なのは親父が工場で働いている事だ。
そして虐めの中心人物の親が、その工場を傘下に持つ会社の社長と言う事だ。
此処が都心部なら良かったが…片田舎だ。
それ故に働き口が限られる。
まして親父は高卒だから、この工場しか働き口がない。
俺の虐めについて親父は学校に抗議してくれたが…相手が親会社の社長の息子だと解かったら、どうする事も出来なくなった。
「…ごめんな」
俺が責めるとそれしか言わない。
親父が仕事が無くなれば俺も困るから…もうどうする事も出来ない。
俺に魅力があれば助けてくれる女子が居たかも知れない。
運動神経が良ければ、頭が良ければ何か出来たかも知れない。
だが…俺には全てが無かった。
太った体に、醜い顔。
あははははっ、そりゃ誰も助けようとは思わんよ。
俺は大人になるまで我慢するしかない。
高校を卒業したら都心に行けばよい。
親父もそれには賛成してくれて、俺の為にお金を貯めてくれている。
親父は弱いだけでクズじゃない。
それだけが救いだった。
その俺に人生の転機が訪れる。
何時も様に教室で暴力を振るわれていると急に床が光りだした。
そう、異世界転移に巻き込まれたんだ。
◆◆◆
次々にムカつくクラスメイトがジョブを貰い転移する中『俺は最後まで待った』
もし彼奴らが異世界に行くなら、俺は此処に残るだけで助かる。
「どうやら、貴方で最後の様です、さぁジョブとスキルを差し上げますから」
「俺異世界になんて行きませんよ」
「何故ですか、貴方達が行かないとその世界の人間が困るのです」
「ですが、俺は先程女神様が異世界に送った人間に虐げられていました、彼奴らの顔なんて見たく無いのです。 これで平穏に暮らせます。さぁ元の世界に戻して下さい」
これで良い。
このまま元の世界に帰れば、彼奴らが居ない生活が送れるはずだ。
「それもありかも知れません…ああっ」
何だか女神の顔が曇った顔になった気がする。
「すみません、貴方には絶対に行って貰わらないと困る事になりました」
話しを聞くと、最後に残っていたジョブを確かめたら『大賢者』のジョブだった。
このジョブは五大ジョブと言って、俺が行く世界にとって必要なジョブとの事だった。
「俺はあいつ等が嫌いなんです。どうにかして貰えませんか」
「それなら大丈夫ですよ? 貴方のジョブは『大賢者』 他に『勇者』『聖女』『剣聖』『大魔道』が居ますが、最上級のジョブです。貴方はもう虐げられません。安全です」
「ですが『勇者』『聖女』『剣聖』『大魔道』が俺を虐げてきたら無理じゃないか」
「そうですね…ですが」
「情報を教えて下さい。誰が5職なのか…その中に俺を虐げた奴が居なければ考えます」
あははははっ良かった。
いねーや。
「それなら引き受けよう」
こうして俺は異世界へと旅立った。
◆◆◆
異世界で俺は『勇者パーティ』と共に戦うのを拒んだ。
俺を直接虐めていた奴ではないとはいえ、何も手を差し伸べてくれなかった奴なんか信頼は出来ない。
「仕方が無い、そこ迄嫌なら、他で頑張れば良い」
話し合いの結果、俺は1人で活動して良い事になった。
ただ、その代わり将来貰える、報償はかなり削られた。
勇者パーティなら将来『伯爵』の地位が貰えるが『男爵』まで落とされ、その際の領地も小さい物になる。
そんな感じだ。
それで良い、嫌いなこいつ等と縁が切れるなら、それで良い。
俺はこの時に名前も棄てた。
いつもパシリや、蔑むときに呼びつけられたから、名前が嫌いだった。
そして 鈴木 ジャミル、そう名乗る様にして、冒険者証もそう登録した。
◆◆◆
俺には趣味が無い。
正確にはあったがPCも秋葉原も無いこの世界では何も出来ない。
だから、家は住めれば良い。
そんな感じに安宿で生活していた。
ある日の事だ。
俺が歩いていると残飯を漁っている少女が居た。
みすぼらしい姿をしていた、美少女とまでは言えないが愛嬌のある子だった。
多分スラムの子だろう。
何時もなら気にしない…だがこの時何故か俺は昔しを思い出してしまった。
理由もなく虐められていた頃の自分をだ。
「これで美味しい物でも食べな」
そう言って金貨1枚渡した。
だが、これが間違いだった。
彼女はキョトンとした顔をしていた。
もしこの時に渡したのが銅貨だったなら、あるいは銀貨だったら俺の運命は違ったのかも知れない。
その日の夜にその少女が俺の宿に押しかけてきた。
「どうかしたのか?」
「あの…金貨貰っても私には返す物が無いから…これで返させて」
そういうと、服を脱ぎ始めた。
「そう言うのは要らない」
「駄目! 私はスラムに住んでいても物乞いじゃない..ゴミは漁っても違うから」
どうしても引かない彼女に俺は受け入れる事にした。
次の日、起きると彼女は居なかった。
これだけなら美談だよな?
だが、ここからが違った。
毎日の様に俺に声を掛ける奴が増えてきた。
金貨1枚が不味かったんだ。
金貨1枚は日本円にして約10万円。
日本なら高級フーゾク店と余り変わらない。
だが、此の世界は凄く貧しい。
高級娼婦ですら銀貨3枚も出せば充分。
その辺りの娼婦等銀貨1枚も取らない。
金貨1枚で家族三人が1か月暮らせる。
それが1晩で手に入るんだ…スラムの人間なら体位は使うよな。
「ねぇ、あたいまだ初物だよ?良かったら今晩どうかな?」
「良かったら家の妻抱きませんか? くたびれているから銀貨5枚で良いですよ?へへへ、テクニックは抜群だから」
「婚約者が借金作って…金貨2枚必要なんです。5日間言いなりになりますから、どうにかしてくれませんか?」
俺は困った。
身なりを見れば解るが靴さえ持ってない人間も多くいた。
金が無いと困る人間なのは良く解った。
最初はただで渡そうかと思ったが…止めた。
この状況で、そんな事したら、これ以上に収集がつかなくなる。
まぁ、所詮は、この間まで童貞だった人間ですよ…言い値で買う事にした。
俺は本当に容姿が良くない。
そんな俺に媚を売って抱かれなければ生きていけない。
そんな女が山ほど居る世界。
そして貧しいからこそ『女の体に価値はない』
戦後日本でもお金が無かった時代にゆで卵1個、おむすび2個で体を売った人が居ると聞いた。
多分、それに近い。
人妻を買って抱いても、旦那さんがお礼を言う…そこ迄この世界のスラムは貧しかった。
必死に狩りをし、時には魔族や魔獣を狩ってお金を手に入れては女を買う生活。
それを続けたら…可笑しな事に人から感謝された。
「ジャミル様のお陰で娘が助かりました、ありがとう」
「俺はただ買っただけだ」
「こんなくたびれた27歳の女金貨1枚で買ってくれるのはジャミル様位ですよ」
何でだ。
「ジャミル様、ありがとう」
俺はただ買っただけだ。
「ジャミル様があたいを抱いてくれたおかげで今度屋台を出すんだよ、屋台と権利が手に入ったのは金貨であたいを買ってくれたからだ」
困った。
俺はただお金で女を買っただけなのに…感謝される。
中には…
「私の体に金貨1枚、本当に良い女になった気分だよ…ありがとう」
笑いながら感謝される。
そんな生活をしていたら…『勇者が魔王獣を倒した』という報告を受けた。
俺達の召喚は魔王退治でなく魔王獣退治だった。
これで、俺達は自由。
もし、また魔獣や魔王が現れたら、それは新しく召喚された異世界人が行う。
俺達は…これからは、倒す方で無く守る方の仕事がメインになる。
俺は魔王獣討伐に参加しなかったが…それでも金目当てが本音だが、沢山の魔族や魔物を倒したから問題無く 男爵位と領地が貰えた。
この領地にスラムは無い。
だが、同じ位貧しい者も居る。
そして、今度は困った事に俺は領主。
つまり、税金を取り立てる立場だ。
『金が無く、税金が払えない、そういう存在が山ほど居た』
日本みたいに甘くない。
税金が払えないなら…奴隷落ちか死ぬしかない。
しかも、スラムの時の様に金貨1枚で済むような金額でない額の者が多い。
今回も仕方ない…スラムの時の様に『女を買ってやることにした』
これは良くないのは解かる。
だが、真面に税金を取り立てたら…奴隷落ちだ。
家族と一生会えないで、娼館で働く生活になるのは目に見えている。
なら、不細工とはいえ1晩抱かれて済むなら、その方が幸せだろう。
そう考え、関係を持った。
だが、それが不味かった。
この辺りは封建的でスラムと違い俺が買った女は『傷物女』として周りから蔑まされているようだった。
◆◆◆
最終的に俺が考えたのは1か月以上自由にさせてくれれば、一生家族で暮らせる金をやる。
そういう方法だった。
もっと条件を楽にしようか考えたが止めた。
楽して金を貰えたら、本来困って無い人間まで、やるに決まっている。
流石に1か月も家族を差し出すのは…周りからクズ扱いされる。
だが、奴隷落ちしなければ生きられない。
もう死ぬしかない…そんな人間が沢山いる。
『1か月の地獄』『クズ扱い』それを天秤にかけても必要な人間を助ける手段だ。
お前のやっている事はクズだ。
解っている。
だが、俺みたいなクズが必要なんだ。
だから…1か月で金貨1000枚(1億円)なんだ。
これだけあれば、この街を出て好きに暮らせる。
一生楽に暮らせる。
避妊紋を解らない様に自分に刻み込んで貰った、これで妊娠という不幸避けている。
俺はクズなんだろうな。
自分でもそう思う。
恨まれても仕方が無い。
だが、俺は馬鹿だから、これで自分も周りも良くなっている。
そう思うんだ。
◆◆◆
ジャミルが死んだあと葬儀が行われた。
恨まれている…ジャミルはそう思っていたが、貴族は殆ど葬儀に来なかったが…平民の多くが涙で彼の葬儀に出ていた。
その大半は女性で棺桶に縋りついて泣く者までいた。
その理由を知る者は少ない。
フルールSIDE 今夜はゆっくり眠れそうですわ。
「待て、俺に考えがある。だから今日はこのまま帰ろう」
「本当に大丈夫なのですわね? 甘い考えでないのですわね」
「まぁ理人様が言うなら仕方ないですわね」
私はこの瞬間…失望をしてしまいました。
凄く甘いのですわ。
『人を殺せるチャンス』を見送る、それに何の意味があるのでしょうか?
私の今迄の人生のなかでこんな決断は有りませんわ。
例えば、相手がグレー、限りなく白に近いグレーでも私は殺してきましたわ。
先代黒薔薇から、その様に教育を受けて参りましたから、どうしても理人様のこの行動が理解できなくて許せませんでしたわ。
優秀な黒騎士にも詰めの甘い者は多くいます。
ですが、この詰めの甘い者はいかに優秀でも『いつかは死んでしまいました』わ。
偶にゴブリンが可哀想だからって見逃す駆け出しの女冒険者が居ますが、それじゃ次に自分が負けた時に見逃してくれるのか? そんな事はありませんわ。
確実に手足を折られて苗床一直線なのですわ。
人も全く同じなのですわ。
『死にたくない』『助かりたい』その一心から涙ぐみ慈悲を乞い、靴まで舐める者も多くいます。
ですが、そんな存在の多くも、自分が有利になった途端に反旗を翻すのですわ。
『敵を殺せるチャンスを捨ててはならない』これは、私の生き方なのですわ。
理人様の事は凄く愛していますわ。
その反面『自分の生き方』を否定されたみたいで凄く悲しくなりましたわ。
私は理人様が死ぬ所を見たくありません。
多分、この様な甘さを持つ理人様はこの先きっと長く生きれない様な気がしますわ。
悲しくて仕方がありません。
自分と同じような生き方をしようと『光り輝く存在』そんな理人様が…死んでしまう。
そんなビジョンが頭の中をぐるぐる回ります。
考えた末、私は少し距離を置く事にしましたわ。
愛してなければ…きっと理人様が亡くなっても、何とも思わない。
ですが、今の私が理人様を失ったら…多分壊れる気がしますわ。
狂ってしまいますわ…八つ当たりで無関係な人間を沢山殺しそうで怖いのですわ。
『理人様はああ言うけど..心配で眠れませんわ..ああっ殺したいですわ』
『ジャミルを殺さないと、夜が怖い、いつ襲ってくるのか心配で眠れませんわ』
自分が死ぬの何て怖くありませんわ。
理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が理人様が…殺されてしまいますわ。
眠れない…本当に眠れませんわ。
人を殺さず見逃す…怖くて仕方ないですわ…耐えられませんわ。
『こっそりと殺す』
だけど、きっと理人様はその事に気がつく。
殺したい。殺したい。殺したい。殺したい。
このままでは私、壊れてしまいそうですわ。
◆◆◆
「まぁフルール、今日は俺に付き合え」
「まぁ奴隷ですから付き合いますよ」
「ここはワイバーンの岩場ですか…まさかワイバーンを狩れる所を見せてご機嫌をとろうとでも?」
「いや違う、まぁ暫く様子を見ていろよ」
「ハンッ…まぁ見ろというなら見させてもらいます」
ワイバーンなんて狩っている場合じゃありませんわ。
『ジャミル』をどうにかしないといけませんのよ。
えっ…あれはジャミルですわ..
どういう事ですの。
「貴方はジャミル男爵様ですか?」
「そうだが、その顔は私と同じ『異世界人』だな、綺麗な女を連れているようだが…同胞からは奪わない、安心…するんだな」
「有難うございます」
「それで…その様子じゃこちらに来たばかりか? うちの屋敷にくるか?」
「それはどういう事ですか?」
「まぁ解らないかもしれんが5職以外の異世界人の中には先の異世界人に仕える存在も多い…まぁ俺に仕えるなら、金と女はやるぞ…平民で良かれば犯し放題にしても許される方法も教えてやる」
「そうですか? 有難うございます」
心臓を一突き…実に見事ですわね…私心配する必要はなかったのですわ。
この瞬間、理人様が死んでしまうという不安感は消し飛びましたわ。
ああっ嬉しいのですわ…理人さまは『死にませんわ』
死んだ死体をワイバーンに放り投げる理人様…なんて素晴らしいのでしょう。
思わず見惚れてしまいますわ。
あそこで咀嚼しながらジャミルを食べているワイバーンの背景も素敵ですわね。
「終わったな」
「これはどういう事ですの?」
理人さまが『死なない』と解かると何故こんな事をしたのか疑問が湧いてきましたわ。
「最初からこうするつもりだった…あそこで殺してしまえば二人の女性に金が払われない。生かすつもりはなかったが、時と場所が悪かった…それだけだ。そして今は時と場所が良い。この場所に他の人間は居ない…そしてワイバーンが食べてしまったら、もう証拠は残らない…完璧だろう」
「流石は理人様ですわ…私の予想以上ですわ…すみません私」
「気にする必要は無いな、裏仕事をしてきたフルールからしたら俺は相当甘く見えるのだろうな」
これは策略であって『甘さ』ではありませんわ。
本当に、本当に安心しましたわ。
「敵には厳しく、それ以外には優しい…それは問題ありませんわ」
理人さまは『理人様』
私が心配なんてしなくて良いほど素晴らしい方なのですわ。
多分私が今後、気に病む必要はありませんわね。
「それじゃ帰るか」
「ええっ」
もう心配はありませんから、今夜はゆっくり眠れそうですわね。
コンビニ (第二部 完)
俺は今回のジャミル男爵の件で、フルールが隠している部分がある事を知っている。
それはジャミル男爵にも『良い面』がある事だ。
これは当たり前の事だ。
マンガや小説の様な完全な悪は居ない。
実際の世界ではどんな悪人だって良い面の一つや二つはある。
逆に言えば、善人にだって悪い部分だって普通にある。
そんな事は『知っている』
俺の傍にいる『塔子』が正にそうじゃないか?
俺の事が好きになってからの塔子は優しいが…昔は俺に虐めをしていた相手だぞ。
多分、優しくて優等生に思えている綾子だって多分悪い所はあると思う。
だけど、それは当たり前だ。
『人間なんだからな』
きっと俺にだって沢山ある。
フルールは俺が躊躇しないように、俺に嫌な思いしないように『ジャミル男爵の良い面』は隠して報告していた。
これをどうとるか解らないが、俺はこれを『俺に対する優しさ』ととる。
俺に対する罪悪感や俺に殺される人間への罪悪感を一人で抱え込むんだ。
結構辛いと思う。
悪役令嬢…黒薔薇と呼ばれた彼女が、俺の為を思ってしてくれる行為。
それが不覚にも可愛いと思ってしまった。
『そろそろ良いかも知れない、俺はそう思った』
◆◆◆
俺はテラスちゃんに祈った。
『呼んだ~』
テラスちゃんの声が聞こえた。
こんな簡単に話せて良いのか…多分、生涯を神に捧げている神主の爺ちゃんだってない筈だ。
『フルールの事ですが』
『二人目の日本人にと言う事ね…別に構ないわ…だけど理人あなた悪女キラーなんてスキル誰かから貰ってないわよね?』
『どういう事でしょうか?』
塔子とフルールは兎も角、綾子は普通の女の子だよな。
『ただの冗談よ…だけど、理人可笑しいのよ、普通は人を好きになる上限が10なのに、皆10を越えて貴方が好きみたいよ』
『それどういう事でしょうか?』
『全世界と貴方なら、貴方を選ぶ。貴方への愛が普通の愛だとしたら、他の全ての人間の命が蟻以下ね』
塔子やフルールならそうかも知れない。
だけど、あの優しい綾子は違う筈だよな。
『冗談ですよね』
『そうね、そういう事にしておきましょう。それでフルールだけど、日本人にしたわよ。だけど『今はただの日本人』ね』
『俺と何か違うのですか?』
『当たり前じゃない! 貴方は神主の家系なのよ! 先祖代々社を祀ってくれて、供物も毎日上げてくれて社の掃除をし祈ってくれていた一族なのよ…我々神からしたら『一番助けなければならない存在』に決まっているじゃない。貴方の神代一族とは1000年以上の付き合いがあるのよ。普通の日本人とは違うわ』
確かに言われてしまえばそうだな。
『そうですね』
『とりあえず、フルールは『日本人見習い』って感じ。理人が一緒の時に理人が共にと望んだ時だけ日本人の生活が送れる…それだけね、能力は何も使えないからね』
『そうなんですか』
『それでも特別よ..まぁ、詳しい話は理人がしなさい』
『俺がですか?』
『普通の日本人は『神様に会えないし神託も降りない』大切な子であるけど、そこに差はあるのよ』
『言われて見ればそうだな』
『日本人にしたんだから、日に二度のお祈り位はさせなさいね』
そう言うとテラスちゃんの声は聞こえなくなった。
◆◆◆
深夜になるのを待ち俺はフルールを起こした。
あれからフルールはまた一緒に寝る様になり、今日は上の番だ。
「あっもしかしてお手洗いですの?」
「今日は違うよ…とりあえず少し散歩しないか?」
「散歩ですか…二人きりですわね、お供しますわ」
俺はフルールを連れだした。
「急に散歩だなんてどうかしましたの?」
「フルールには俺の事について話したよな?」
「ええっ聞きましたわ」
「それでな、フルールを日本人、まぁ俺が信仰する神様に俺と同じにするようお願いした所許可がおりたんだ」
「それは、日本人に成れた…そういう事ですの? それでは私も同じ能力を得ましたの」
「そういう事ではないらしいよ、今のところは俺と一緒の時に日本の恩恵を受けられる。それだけだな。」
「言われている意味がさっぱり解りませんわ」
「それを説明しようと思って連れ出したんだ。早速買い物をしようか?」
「こんな深夜に空いているお店なんてありませんわ」
「この世界ならそうだな、だが、俺の世界では違うんだ」
俺はコンビニを探そうとしたら路地から光が見えた。
そこにはこうこうと光る、看板があった。
「何ですの? この光り輝くお店は」
この世界には街灯すら無い。
そんな世界の人間がこんな物を見たら驚くのは当たり前だな。
「コンビニという便利なお店で24時間365日ずうっとあいているんだ」
驚いているフルールの手を引っ張って中に入った。
「凄く明るいのですわ、今は夜なのにまるで昼間の様ですわ」
そこからか…まぁそうだな。
「確かに、それも凄いけど、商品を見て回ろう」
「はい、ですわ」
フルールに会って俺は初めて、はしゃぐ様な仕草を見た気がする。
こういう所は案外子供っぽいのかも知れない。
お店の中を小走りで走り回り商品を見て回っている。
これはテラスちゃんが特別に作った店なのだろう。
他にはお客が居ないから問題ない。
レジにいるお兄さんは…変な顔をしているが文句は言わないようだ。
「これは何ですの?」
「カップ麺、お湯を入れて食べるんだ」
「これは…なんですの?」
「ショートケーキ、上に載っているのはイチゴとクリーム、甘くておいしい」
「これはこれは、なんですの?」
片っ端から聞いて来る。
まぁ見た目からは想像がつかない物が多いからな。
フルールは片っ端からカゴに突っ込んでいたが…
「フルール、此処で食べるだけにしとこうか? 持ち出しても他の人間が見たら違う物になるからな」
「そうなんですの?」
目が物凄く悲しそうだ。
こんなフルール初めてみたな。
結局フルールはショートケーキとメロンパンとカップ麺とから揚げ他、お菓子を沢山買った。
俺が、カップ麺のキツネうどんと幕の内弁当とコーラとお茶を買った。
そしてイートインスペースに移動した。
「ほら、此処で食べれるよ」
「理人様の世界は本当にすごいのですわね」
うん、本当にそう思う。
この世界じゃ貴族だって味わえない生活が誰もが送れる。
「そうだな、早速食べようか?」
「そうですわね」
フルールは直ぐにメロンパンにぱくついた。
普通に笑っている。
こんなフルール見たことが無い。
「味はどうだ」
メロンパンって俺は美味しいと思った事が無い。
「美味しいのですわ、こんな甘い食べ物そうそう食べられませんわよ」
これで驚いていたら、横のショートケーキを食べたらどうなるんだ。
「フルールの買ったなかで、一番美味しいのはその白い奴だと思う」
「これですの?早速..??? これ物凄く美味しいのですわ、生まれてから今迄ここ迄美味しい物は食べたことがありませんわ…甘くて柔らかくて、本当に蕩けますわ」
この世界にクリームは無い。
こうなるのも当然だな。
俺は幕の内弁当を堪能しながら、キツネうどんを食べてコーラを飲んだ。
久々に楽しんだ俺でもここ迄美味しいんだ、初めて食べたり飲んだりしたんだ感動はけた違いだろう。
「そうだろうな」
「それで…あの塔子も綾子ももうこれは…」
「ああっこの世界の女神の恩恵を知らないとはいえ受けてしまったからな、もう『日本』の恩恵は二度と受けられない」
「ハァ~ 異世界にきた方は馬鹿ですわね。どう考えても元の世界の方が恵まれていますわ」
「そうだな」
「私なら死ぬ程抵抗しますわ」
「そうだな」
それしか言えない。
あれは巧妙な罠みたいなもんだ。
今思えば、先祖代々祈り続けてきた、その祈りが『臭い』として染み付いて『女神』から守ってくれたんだ。
そうじゃなければ…俺も同じになっていた。
「それで私気がつきましたの…理人様ここで暮らすのがベストですわ…ここから狩りにいけば、この素晴らしい生活を堪能しながら生きられますわ」
コンビニに住み着く…浮浪者みたいだな。
「フルール、他にも沢山良い事があるから、今日は帰るぞ」
「理人様もう少しだけ、もう少しだけよいじゃありませんの」
結局、フルールにねだられて暫く離れられなかった。
最後にアイスを買ったフルールは更に騒いでいた。
「フルール行くよ、あとこの事は内緒な。それからこれからテラス様への祈り方教えるから朝晩祈るんだぞ」
「糞女神と違って、こんな事してくれる神様なら幾らでも祈りますわ…本当に素晴らしい神様ですわ」
「まぁな」
余り長く居ると、2人が目を覚ますかも知れない。
ずうっとコンビニの方を見ているフルールの手を引きながら宿屋に戻った。
◆◆◆
これでジャミル街でやる事も終わった。
今度は何処に行こう、何をしようか…
時間は沢山あるんだ..ゆっくり考えれば良い。
※ これで第二部部分が終わりです。
少し【閑話】という形で勇者や他のクラスメイトの話を入れてから第三部がスタートします。
【閑話】木崎くん 二人目のパートナー
「お前『悪魔の子』の頭目ユウナだな。賞金が掛かっているから殺(やら)して貰う」
やっぱり、こういう事になるよね。
良かった。
奴隷になっていて。
私は胸の少し上に彫られた奴隷紋を見せた。
「私『犯罪奴隷』になったんだよ? だからもう無罪なの、ギルドに届も出されたから賞金も貰えないよ~だ」
「何だよ、このクソガキ…あームカつく、ボコって」
「殴りたければ殴れば~。だけどユウナの所有者は『異世界転移者』のお兄ちゃんなんだけど…死ぬ覚悟はあるのかな?」
「そんな…悪かった」
ふぅ~良かったよ。
もし、お兄ちゃんの『犯罪奴隷』になってなければ、私は今殺されて首だけになっていたよ。
そして冒険者ギルドにそのクビは届けられていたよ。
しかし、幸せ過ぎて怖いなぁ~
お兄ちゃんは今、オーガを狩りに行っている。
私には「ユウナ~お小遣い上げるから、服とか好きな物買って遊んでいて良いよ」と出掛けてしまった。
貰ったお小遣いは金貨2枚。
凄いよね~。
信じられないよ。
こんなお金があるなら、真面な奴隷が余裕で買えるのに…なぜユウナなのかな。
本当に解らないよ。
それに、今は普通の服を着て歩いているけど…部屋の中はドレスがあって、お菓子もいっぱいある。
貴金属迄ある。
まるでお姫様みたい…
緑の髪に赤い目、こんな醜いユウナに…本当に解らないよ。
好きだと言うのは凄く解るの。
愛されているのも良く解るの。
だけど、ユウナはどうしてあげたら良いのかわからない…
折角、勇気を出して、裸で待っていて抱きついたのに…押し倒したのに。
真っ赤になって手を出してこない。
女として魅力が無いのかな…そう思ったけど違うみたいだし。
「ユウナはそんな事しなくても良いんだよ。傍に居てくれるだけで幸せなんだから」
そんな事ばかり言って、困るよ。
だったら、そのまま最後まで行っていいのに…
大体『異世界転移者』はやって良しなんだから、普通の男と違って、性交その物がご褒美みたいなもんなんだから。
むしろ最後までしたいのはユウナの方なんだから。
凄く素敵なお兄ちゃんだけど…初心なのかな、此処だけが不満。
正直、こんなお金貰っても、どうして良いか解らないんだよね。
宝石も興味ないし…精々美味しい物を食べる位しか…
仕方ないよね…本来はこういうお店って魅力が無いババアが来るお店なんだけど…
「ユウナ様、いらっしゃいませ」
「うん、今日も何か良さそうなのある?」
「そうですね、この紫のスケスケのベビードルなんかどうでしょうか? 下着もセットで身に着けるとよりセクシーですね」
「それ頂戴…あとピンクで子供っぽい感じで、セクシーな感じのあるかな」
「ピンクなら、これ如何ですか?」
「それも頂戴」
「はい」
ハァ~子供なのにランジェリーショップの常連になるなんて思わなかったよ。
だけど…してくれない癖に、こういうの見るとお兄ちゃん喜ぶんだよね。
喜んでくれるお兄ちゃん見るのは嬉しいから…思わず通っちゃう。
◆◆竹丸SIDE◆◆
手に入れた奴隷が可愛すぎて困る。
見た瞬間から一目惚れだ。
僕の親はヤンキーだった。
そのせいで美人は駄目。
虐めにあったせいで同い年の女の子は駄目。
そんな僕が、異世界のスラムで出会った少女。
それがユウナだった。
同級生は『エルフ』や『ダークエルフ』狙いだけど…
僕から見たらユウナの方が百倍可愛い。
緑の髪に赤い目。
ユウナは僕が好きなアニメの主人公そっくりだった。
魔法少女物で変身すると大人になる…そんなアニメ。
将来は解らないけど、ユウナなら大人の姿になっても愛せる。
そういう自信がある。
僕はロリコンから、ユウナコンに進化してしまったのかも知れない。
本来なら一緒に狩りや依頼をするのが普通だが…そんな事は出来ない。
『あんな可愛いユウナにそんな事させられるかーー』
結局僕は1人で依頼をこなしている。
まぁ僕は『聖騎士』だから余裕なんだけどね。
「凄いですね、オークにオーガ…多分金貨30枚は行くと思います」
日給で約300万、流石に疲れるから週に1~2位しか出来ないけど、2人で暮らすなら充分だな。
大金を手に入れたら、屋敷でも買って、楽しく遊んで暮らせば良いや。
今のところは金貨400枚(4千万円位)だ。
あと、金貨1600枚溜まったら…もう働くのを止めて、小さい屋敷でも買ってユウナと遊んで暮らすのも良いかも知れないな。
◆◆ユウナSIDE◆◆
下着も買ったし、食材も買ったし…こんな物よね。
今日はどうやって…頑張ろうかな、そうだ裸エプロンでも…
「ユウナ…」
嘘、生き残りが居たの? 何でユウが居るの?
どうしよう?
「ユウ、どうしたの?」
「どうしたの何も、ユウナ『悪魔の子』が無くなってどうして生きて行こうか思っていたのよ…ユウナ、その分じゃ良い金づるでも見つけたのかな?」
「違うよ、主? 恋人? あはははっ、そんな感じの人と暮らしているの」
「えーっ、ユウナもいっちゃなんだけど不細工じゃん」
「そうかも知れないけど、お兄ちゃんはそんな事気にしないもん」
「お兄ちゃん? ユウナがお兄ちゃん!」
「何だよ..悪いか? 殺すよ」
「ユウナはそうじゃないとね…それで行く所ないんだよね、私..下手したら殺されちゃうからさぁ…ユウナの所に匿ってくれないかな?」
「何で私が匿うの」
「そりゃ、ユウナだって匿って貰っているんでしょう…捕まったらこまるでしょう」
「私は、ほらこれだから…関係ないよ、それじゃあね、ユウ」
私は奴隷紋をユウに見せた。私はもう関わらないよ…
それにユウが可愛い子なら良いけどさぁ…此奴、水色の髪に私と同じ赤目なんだよね。
私と同じで不細工なんだもん..お兄ちゃんも嫌がるよね。
「言ってやる…ユウナの大好きなお兄ちゃんにユウナが頭目時代どんなに悪人だったか、探して言ってやる、匿ってくれないなら..」
不味い、折角お兄ちゃんとラブラブなのに邪魔されたら不味いよ。
こんな幸せなのに..殺すか、ユウを殺す…駄目だ、万が一バレたらご主人様のお兄ちゃんに迷惑が掛かる…どうしよう。
仕方ない。
「ユウ、仕方ないお兄ちゃんに会わせてあげる…ただ助けてくれるかどうかはお兄ちゃん任せ、駄目だったら諦めてね」
「解かった」
◆◆◆
「ユウナ、その子は一体誰? もしかして友達」
ユウナの友達なのかな?
ユウナに負けず劣らずの美少女だ。
異世界っていっても、変わった種族がいるだけで、人間はほぼ地球と同じなのに..
この子もユウナみたいだ。
「う~ん、お兄ちゃん正直に言うね『悪魔の子』の時の仲間なんだよ…匿って欲しいって頼まれたの、余りにしつこいから連れて来たんだけど、嫌だよね、うん直ぐに叩き出すから」
「ユウナ、お願いだからそんな事言わないで、お兄さん、お願いだから助けてよ。助けてくれたら何でもするから…見捨てないで」
ユウナ次第だな。
俺からしたら『手元に置きたい』だけど、それでユウナがへそを曲げられるのが怖い。
まずは聴いてみよう。
「ユウナ、教えて欲しいんだけど、ユウナやそこの子みたいに目が赤かったり、髪の色が水色や緑色の子って見ないけど、珍しいの?」
「そうかお兄ちゃんは異世界人だから知らないんだ、私達みたいなのは『忌み子』なんだよ、本来の人間と少し違った子が生まれると不吉の元凶と言われてそのまま殺されちゃうんだよ、だから滅多にいないよ…悪魔の子の中にも私とユウしか居なかったよ」
そうか、だから居なかったのか。
「そうか、その子はユウって言うんだ…匿うってユウ、ユウナと同じにすれば良いって事かな?」
「えっ、ユウナと同じにしてくれるの? ならユウ頑張るよ、お兄ちゃんの為に何でもしてあげる」
「まぁ、ユウナ次第だな、ユウナが良いって言うなら僕は構わない」
「ユウナ~お願いだよ~助けて…ユウ死にたく無いよ~」
「仕方ないから良いよ」
「ありがとう、ユウナ」
「良いよ別に…だけど」
『お兄ちゃんに色目使ったら..殺すからね(笑)』
『解かった…ユウナ』
「お兄ちゃん有難うございます、これから宜しくお願い致しますね」
「ああ、宜しくなユウ」
こうして僕のパーティにもう一人仲間が加わった。
戦力は変わらないけど…モチベーションアップにはもってこいだな。
◆◆◆
「ユウ、お兄ちゃんに手を出すなって言ったよね?」
「ユウは手を出していないよ? だけどお兄ちゃんがユウを好きになったら仕方ないよね? ユウナちゃん」
「生意気、随分と大きな口を叩くのね…だったら」
「ごめんユウナ、いえユウナ様、そんなナイフなんて持たないで…だけど、こんな生活させて貰っているんだよ! お兄ちゃんに何かしてあげたいの」
「そうよね…はぁ本当に、そこだけはメンドクサイよね」
「私もそう思う、好きなら、しても良いのにね」
「本当『異世界人』の子供なら普通に欲しいのに..」
「ハァ~また今日も買いに行く?」
「もうあのお店の常連になっちゃったよ」
「そうだよね…そうだ、今日は精力剤とか買ってみない?」
「そうしてみようか?」
精力剤を使っても、襲って来なかったせいで二人は余計にモヤモヤした。
【閑話】緑川さん 凄く幸せだ
私の名前は緑川…まぁ冴えない教師をしていた。
教師としての人気は平均的…可もなく不可もなく。
結婚はしていたが…
「貴方には面白みが無い」
「まだ教頭に成れないの?」
と結婚三か月目から罵倒される毎日だった。
私はそれでも妻に尽くしていた。
だが、私は教師なんだ…職業柄生徒を優先しなければならない時が多い。
生徒が補導された。
生徒が喧嘩した。
そういう事が起きれば、休みだろうと夜だろうと行かなくてはならない。
「私より生徒が優先なのね」
そう言われても仕事だ仕方ない。
私はこれでも頑張っているんだ。
休みの日は君との食事に買い物、どんなに疲れていても一緒にいたじゃないか。
それなのに…
「はぁ、私を抱きたい? 気持ち悪い」
「夫婦だろう…偶には」
「そう言うの良いから…どうしてもと言うなら夫婦だから義務で付き合うから、さっさとすまして」
この時から…多分、夫婦関係は壊れていたんだと思う。
これから暫くして妻が不倫していたのが解かった。
悔しさから慰謝料でも請求してやろうと思ったが…止めた。
不倫相手の横に居る妻は…私が昔愛した妻の顔だった。
結局、慰謝料無しの財産分与無しで別れた。
相手の男はそこそこ金持ちだったのと罪悪感があったのか慰謝料を寄こすと言ったが、過去を否定された様に思えて断った。
「これで今日から他人だな」
「そうね、慰謝料を請求しないでくれてありがとう」
緑色の紙切れ1枚で簡単に夫婦生活が終わった。
それからは…もう恋愛は止めた。
教師である事にまい進した。
もう恋愛なんて私はしないだろう…そう思っていたが..
◆◆◆
「木崎君、今日も随分稼げたな」
「同じ戦闘職だから効率が悪いかと思っていたけど、結構いけますね、先生」
「いや、もう先生じゃないからな、緑川でいいさ」
「それじゃ緑川さん、今日も山分けで」
私は生徒の木崎君とパーティを統合して、ラバーズファミリーというパーティを組んだ。
一応、私がリーダー 木崎君が副リーダー、構成員にユウナ、ユウ、アルカ、シルカ、イルカが居るが、実質、狩りをするのは私と木崎君だけだ。
最初、木崎君を見つけた時『道を踏み外した外道』に思えたが違った。
此の世界ではロリコンは問題にならないし、話を聞くと保護に近かった。
何より一緒に居る二人の少女は笑顔で木崎君を見つめていた。
私が何か言う必要は無いだろう。
それまで、私は新しい仲間と共に狩をしていたが…力の差は歴然だった。
しかも、自分に好意を持っている人間を危ない目に合わせたくない。
そんな時、木崎君と会った。
異世界は彼を成長させたのだろう。
まるで別人だった。
私と違い、彼は『恋人』を戦わせない選択をしていた。
これに背を押され私も同じ様にする事にした。
◆◆◆
ギルドで二人で一斉に、オーガを出した。
今日狩ったオーガは実に40を超える。
背中をお互いに任せられるからこその成果だ。
「相変わらず凄いですね、ラバーズファミリーは」
自分でもそう思う。
「それじゃ何時も通り、金貨2枚ずつ貰って残りはパーティ口座で良いですよね」
「そうだね」
二人して同じ宿屋に戻った。
一応、家族をお互いに持つ身…治安のよい表通りを選んでいる。
「それじゃ緑川さん、また明日」
「木崎君、また明日」
此処からはお互いに家族の時間だ。
◆◆◆
「ただいま」
「「「お帰りなさい、貴方」」」
宿に帰ると、アルカ、シルカ、イルカの三人の妻が出迎えてくれる。
私は木崎君を見習って『仲間を戦わせない』道を選んだ。
そして、その結果…結婚という事になった。
此の世界の結婚は、ギルドに届を出してお揃いの指輪をつけるだけだけが。
まぁ、私は結構な歳だし…彼女達は私からしたら20代中盤から後半だが寿命が60年のこの世界では結構な歳なのだとか。
「貴方、聞いてますか?」
「ああ、ちゃんと聞いているよ」
「今日のご飯は私が作ったんです」
「凄く美味しそうだ」
「それじゃ、ご飯の前にお風呂で汗を流して下さい…お背中流しますね」
「シルカズルいよ」
「それじゃ、お風呂はシルカに譲るから今日の夜の務めは私が貰うね」
「「順番は守って」」
「人生時間は沢山あるんだから、ゆっくりしよう」
「「「はい」」」
「それじゃ、明日は木崎君と話して休みにするから、一緒に買い物にでも行こうか?」
「良いんですか」
「お出かけ、嬉しいな」
「凄く楽しみ」
此処には私が欲しかった物が全てある。
今の私は…凄く幸せだ。
【閑話】せめて勇者らしく
困った。
俺の名は大樹、勇者パーティ『ブレーブ』のリーダーだ。
メンバーには大河に聖人が居て『勇者』『剣聖』『大賢者』の最強パーティの筈なのだが…ひょんな事で能力を失ってしまった。
俺達は『資格』が失ってしまったのが、ばれると不味いから、ばれる前に北の大地を目指している。
北の大地を越えれば、その先はルブランド帝国、もう一神教ではないから、今の俺達でも問題無く生きれそうだ。
だが、その前に『自分達が死んだ事』にしなければならない。
「大樹よ、今のままじゃ真面に狩りが出来ないぞ」
「確かにそうだな」
「それでどうするんだ?」
「今は黙って北の大地に向うしかないだろう」
「このままじゃ戦力不足だぞ」
「お金があるうちに奴隷か武器を買おう、僕は可愛く強い美人の奴隷が良いな」
「聖人、俺も欲しいが、その前に俺たちは『死んだ事』にしなくちゃならない。死んだら…奴隷も武器も捨てなければならない…我慢だな」
「仕方ねーな」
「そうか…」
「だから、今は食い物以外に金は使うなよ」
「ああっ」
「教会の奴、金をもうくれないみたいだからね」
「あいつ等、薄々気がついていそうだ、決定的にばれる前にやるぞ」
「「おーっ」」
ただひたすら、北の大地を目指して歩いた。
そこ迄いけば希望がある。
金は手を付けないで、急いで歩いている。
途中死んだ事にして別人にならなくてはいけない。
目指すは北の大地…そこには魔族の幹部が居る。
そいつに戦いを挑んだ振りして死んだ事にすれば良い。
だから金は使えない。
この金は俺達が人生をやり直す金だ。
金は1人当たり金貨15枚(約150万円)この旅で金貨5枚で納めて残りの金貨10枚で、新しい生活をする。
それがこの計画だ。
だが、この旅は不安で仕方が無い。
聖人は魔法が何故か使えない。
俺も大河も剣は振るえても精々がゴブリン、1体ならオークはどうにか狩れる、冒険者としてはDランク以下、だが異世界人の為最初からAランクだった。
流石にAランクなのにゴブリン3体を持ち込んだら、凄く嫌な目で見られたので…もう冒険者ギルドに持ち込みはしていない。
ただただ、北の大地を目指して歩く毎日。
それ以外は何もない。
女が欲しい…だが金には限りがあるし、此の世界の安い風俗はシャワーも無く、性病持ちが多くて怖くていけない。
後で聞けば、此の世界には奴隷が居る。
それならあんな事をする必要は無かった…多分あの行為が元で能力を失ったんだ。
◆◆◆
「あのよ、ちょっと金恵んでくれねーか!」
「俺達がなんで金を恵まなければいけないんだ!」
「バーカ、これは常套文句なだけだよ…お前等は…本当は弱いんだろうが..見ていれば解るぜ」
「俺は勇者だぜ、仲間は剣聖と大..」
「うるせーよ!」
思いっきりぶん殴られた。
「この野郎…」
駄目だ、何も出来ない。
「貴様、斬り殺してやる」
大河が剣を抜いた。
「止めろ大河っ」
「あっあああああああああーーーっ俺の腕がぁぁぁぁーーーっ」
「大河―――っ」
大河が剣を抜いた瞬間、相手が剣を抜いて大河の腕を斬り落とした。
「剣が真面に振るえてないな、と言う事は此奴は大賢者か? それじゃこっちが…剣聖かな」
そう言うと聖人の方にその男は剣を横殴りに振るった。
「聖人―――っ」
「うわぁぁぁーーーっ」
聖人が死んだのが解かった..生きている訳はない。
だって体が上下に真っ二つになって内臓が飛び散っている。
これじゃ、教会で見たハイヒールでも治らない。
終わった。
大河を拾って、逃げるしかねー。
「狙いはこいつなのかな?」
嘘だろう、一瞬で大河の傍に移動しやがった。
「うわぁぁぁぁぁーーっ」
大河の首が一瞬で宙に舞った。
あああっ、何が起きているんだ。
チクショウ、俺に勇者の力があれば…こんな奴。
足が震える。
チクショウ小便まで漏らしたじゃないか…
逃げたい、だが逃げられない。
此奴は聖人を大河を殺した。
俺はこいつ等のリーダーだ…1人だけ生き延びるなんて選択は無い。
此奴らが居ない人生は退屈だ。
「ほう…少しは顔つきが変わったようだ。なら盗人の真似は止めだ。俺は魔族幹部 剣鬼ソード、いずれ勇者を殺す男だ…異世界人が居る、そう聞いて来たが雑魚のようだ」
「いずれじゃない…此処にいる、行くぞソード」
何もかもが敵わない。
俺は此処で死ぬ。
相打ちで良い…此奴に一撃を加えたい。
俺は昔習った剣道を思い出した。
上段に構える。
これで良い、これしかない。
痛みを感じたらそこに思いっきり叩き込む。
「目つきが変わったな…その目は嫌いじゃねー」
ソードが踏み込んできた。
突きか…腹が痛い。
何か出来るとしたら此処だ。
俺は思いっきり剣を振り下げた。
頭にあたった…これで相打ちだ..
ボキっ…えっ。
「ぐふっあああああっ…」
「無事だ…だから一撃貰ってやった。 だが魔族の頭は固い、聖剣でもない限り砕けない」
くそ…俺が、勇者のままだった聖剣を持っていた…ごめんな..俺敵も討ってあげられなかった。
「ぐぼっハァハァ」
「その意気に免じて止めを刺してやろう」
地面がだんだん遠くなる。
俺の首が宙に舞ったんだ。
その証拠に首のない体が見える。
此奴が北の大陸の魔族の幹部…ここ迄来ていたのか。
こんな奴一体誰が倒すんだ…
死の間際、何故か俺は『理人』の顔が浮かんだ。
多分彼奴なら…気の迷いだ。
※同じような世界に理人でなく別の人間が転移したら?
IFの世界『幻魔の血』投稿しています。良かったらお目汚し下さい。
第3部スタート ヤキモチ
「あやしい」
「本当にあやしいですね」
最近、私と綾子とフルールで話し合いまして理人を独占できる日を作ったのよ。
簡単に言えば『まる一日デート出来る日』の事です。
勿論、理人は皆に平等にデートしてくれるんだけど。
「本当に可笑しいよね、なんでフルールのデートの時だけあんなに嬉しそうなのかな? あの笑顔って、塔子ちゃんやフルールが来る前は、私に良く見せてくれた笑顔だよ」
「そうよね、勿論、私に向ける笑顔とも何だか違う気がする」
昔から『理人』ばかり見ていたから解るわ。
フルールと出掛けた時の笑顔が100だとすると私や綾子と出掛けた時の笑顔は80位しかない。
普通の人じゃ区別はつかないかも知らないけど、私や綾子は重度の理人マニアだからその違いは良く解るわ。
一体何が違うの?
私も綾子も、理人が喜ぶ様な場所を探して頑張っているのに…全力で喜んでくれてない気がする…
理人。
同じなら仕方ない…此処は異世界だから、フルールも綾子も必要な存在だから…
私だけを好きになってというのは虫が良すぎるのも解かる。
だけど…同じにして欲しい…な。
◆◆◆
「それで塔子ちゃん、これからどうするの?」
「それを考える為にお茶しているんでしょう? まぁ夕方まで二人は帰ってこないから」
「普通に同じに時間は貰っているから…文句も言えないよね」
「確かに、ただ『楽しそう』ってだけで、文句なんて言えないわね、だけど少しだけ解かった気がするわ」
「塔子、何か解かったの?」
「まぁね…フルールって地元民じゃない?だから良いお店とかに詳しいんじゃない」
「あーっ確かにそうだよね? 失敗したーーっ。私…エスコートとか全くしてなかったよ。だって理人君と一緒に歩いているだけで楽しいんだもん」
「私だって一緒よ? 大体私達って…その周りが居ないとその力は発揮できないのよ」
「塔子ちゃん、それどういう意味?」
「そうね、例えば、前の世界ならこんな場合『完璧なデートコース』を使用人に考えさせて、3つ星レストランを予約させれば、済んだのよ…だけど此処じゃ出来ない。私も理人と一緒に居られるだけで嬉しいし、幸せだからつい『理人の好きな所で良い』そう言っちゃってたけど…これってエスコートを放棄した、そういう事じゃない」
「確かにそうかも…うん、私も色々丸投げしてたよ…そうかぁ~ 油断した。確かに折角デートまで漕ぎつけたのに…気がついたら手抜きデートになっていたなんて…そんな」
そうなのよね。
私も綾子もお嬢様だから『自分で何かするのは苦手』なのよ。
それに対してフルールは何でも自分で出来る。
それにこの世界出身だから、きっとお洒落なお店とかも詳しいのだろう。
普通に考えたら…勝ち目は無いよ。
「綾子、こうしちゃいられないわ…お店の情報とか調べないと」
「だけど塔子ちゃん、暫くしたらもうこの街を離れるから意味無いよ」
「そうね…」
次の街から…頑張るしかないか..
◆◆◆
「理人様、これ美味しいですわね」
「確かに、これは美味いよな。だけど良くコーラが飲めるな」
今日のデートはフルールの順番だ。
だから、2人で『日本』が堪能できる。
今日は朝からドルマで ハンバーガーセットを食べている。
綾子や塔子に悪いと思いながらも…ポテトとコーラとWバーガーはとても美味しく感じる。
「一瞬、毒かと思いましたが、これは病みつきになりますわね…本当に理人様の世界は凄いいですわ」
今日はこの後、遊園地に行こうと思っている。
ただ、これはまだいけるかどうか確証がない。
だけど、何となくいける様な気がした。
その30分後、ネズミの帽子を被ってまるで子供の様にはしゃぎまわるフルールが俺の横に居た。
遊園地デート
「しかし、凄いですわね…理人様の世界ってこんなにもキラキラ輝いていてまるで夢のようですわ」
そういうフルールは口にクレープのクリームをつけていてまるで子供のようだ。
しかしテラスちゃんのご利益は凄い。
俺は、はしゃぐフルールに『遊園地に連れていってあげたい』そう思っただけで、路地を曲がったら遊園地だった。
入場料はまぁ、元の世界の金額に相当するが、稼いでいるから問題無い。
フルールが夢のようだ。
そう言うのは解かる。
だってこの遊園地の名前は『ネズミ―ランド』世界で一番金持ちのネズミが持っているという設定の夢の国なんだから。
しかも、本当の世界なら並ばなくちゃ乗れないのに、貸し切り状態。
これで楽しくない訳がない。
「理人様、あれなんですの?」
「ジェットコースターだな…乗りたいのか?」
「乗りたいのですわ」
途中何回も回転する結構なマシーンだけだ大丈夫かな…まぁ良いや。
「へんな物つけますのね」
「まぁ落ちないようにな」
ジェットコースターが動き出した。
フルールは驚いた顔をしたが、直ぐに笑顔になった。
凄く可愛いな。
「きゃぁぁぁぁぁーーー凄いのですわ、こんな速さ飛竜だってだせないのですわーーーっ」
フルールがやたら可愛く見える理由が解った。
何時もの作り物の様な笑い顔じゃないからだ。
俺は傍にいて何で気がつかなかったのだろう。
小さい頃から、ただ暗殺や拷問、それだけしかして来なかったフルールと俺や塔子や綾子じゃ大きな違いがあったんだ。
フルールはきっと心から何かを楽しんだりした事は、恐らくその人生で無かった筈だ。
普通に考えたらそうだよな。
この間のコンビニの時からそうだった。
あの時から、フルールは『本当の意味で笑う様になった』多分そうだ。
元から美少女だったけど、今のフルールはそれに、何とも言えない『可愛らしさ』が加わった気がする。
つい見惚れる位に…
「あっ、もう終わりですの…理人様、私を見つめてどうかなさいました?」
「いや、可愛いなと思ってな」
「もう、そう言って頂けると凄く嬉しいですわ」
ネズミの帽子を被って首からポップコーンが入った容器をぶら下げている。
こんなフルールを見たらきっと黒騎士は驚くだろうな。
自惚れじゃないけど…こんなフルールはきっと俺しか見たことが無い筈だ。
「それじゃ、次は何に乗ろうか?」
「そうですわね…あれが良いですわ」
「観覧車か、それじゃ早速乗ってみようか?」
自然と俺はフルールの手をとってしまった。
多分、俺も今が凄く楽しい。
よく考えて見たら、やたら神社の修行や手伝いをさせられていたから、こんな風に遊園地に来た思い出なんて無い。
多分今しているのは俺が日本でしたかったデートだ。
自分では平気に俺に腕を絡めて来るくせに…手を握ったら、フルールの顔が赤くなった。
そのまま観覧車に乗り、2人で景色を楽しんだ。
可笑しな事に観覧車から見える景色はこの世界の物じゃなくて日本の物だった。
「この見える景色が理人様の居た世界の景色なのですね…あれは何ですの?」
「ビルだな、結構高い建物だろう?」
「凄いですわ、王城が小さく見えますわね」
「そうだな」
「あれは何ですの?」
「車、まぁ馬が居なくても動く馬車みたいな物だよ」
「凄いですわ」
恋人同士と言うより親子みたいだな。
凄く嬉しそうに俺に聞いてくる。
『楽しいに決まっている』よな。
もっと早く気がついてあげるべきだったんだ。
フルールには『楽しい思い出』すらも無かった事に…
その後も、お化け屋敷に、室内ジェットコースター、と色々回った。
そして、いま『小人の国』というアトラクションを楽しんでいる。
「理人様、今日は本当にありがとうですわ」
「どう致しまして」
「私、黒薔薇でしたから『利用されるか利用する』そんな付き合いしか知れませんでしたわ。それは家族でも同じでしたわ。よく子供は無条件で可愛い。命より恋人が大切。そんなのはあり得ない、そう思っていましたの」
確かのフルールの環境ならそうだろうな。
「それは仕方ないと思う」
「嘘をつきたくないから言いますわ。 私は汚れの仕事を沢山してきましたわ。ですから沢山の家族や恋人同士、夫婦『お互いが愛し合っている』そういう人物を拷問にかけて来ましたわ。ですが誰1人本当に愛している者には出会えませんでしたわ。 最初は「愛している妻や子供を助けてくれるなら喜んで死ぬ」そういう人物もいましたが、鞭を打ち込み、片目を焼いただけで「俺を助けてくれ、妻や子供はどうなっても良い」そう変わってしまいますわ。だからこそ私は『真実の愛』なんて無い…そう思っていましたわ」
「そうだな、人間の多くは最後には『やっぱり自分』そう思うだろう」
「ですが、それが違うと解りましたの。多分私理人様の為なら笑って死ねる。そう思えますわ。まさか、絶対に無いと思っていた『真実の愛』を自分が陥るなんて思っていませんでしたわ」
フルールにとって多分楽しい事なんて殆ど無かったのだろう…
「フルール『真実の愛』なんて凄い物安売りしちゃだめだ」
「そんな、本心ですわ。私は本当に…」
「だ~め。だってこれからもこの楽しい人生は続くんだ。いやそれ以上に沢山楽しい事をしながら沢山過ごすんだ。こんなもんで払っちゃ駄目だよ」
「そうなのですか? それなら私は一体幾つ『命』を払わなくちゃいけないのでしょう?100個でも足りないかも知れないのですわ」
「フルールが楽しんでくれると俺も楽しい、だから貸し借りみたいな事を考えずにただ、仲間同士仲良く楽しく暮らせるように皆努力する…それだけで良いんじゃないか?」
「そうですわね…ですがそこは『フルールと二人で』の方がロマンチックですわね」
「そうだ…ごめん」
「冗談なのですわ…ですが理人様は『私にとって唯一の太陽』なのですわ…それじゃ二人がやきもきしてそうですから帰りますか」
「そうだな、何処かの屋台で何かお土産でも買って帰るか」
「そうですわね」
心が少しチクッとした気がした。
俺やフルールはこんなに楽しいのに…綾子や塔子はこの楽しさをもう味わえない。
俺もフルールもケーキやクレープを食べていたのに二人にはあげられない。
これからお土産で買って帰る物は、美味いと評判だが俺から言わせると不味いドーナッツに冷えてない果実水だ。
全然違う…
これを聞くと多分テラスちゃんは不機嫌になりそうだ。
だけど…腹を括って聞いてみよう。
どうしたら二人を『日本人』に戻せるか….
もし来れるなら、この場所に今度は4人で来たい。
あるかどうかも解らないが『もう訊かない』という選択は無いな。
祭主
帰りがけにフルールに話した。
「あのさぁ…フルールと二人きりも楽しいけど、あの二人が一緒ならもっと楽しいだろうな..」
「そうですわね、私は2人きりが一番良いですが、4人だから楽しめる、そういう物もありますわね」
「そうだよな」
「私にとって命より大切な人は理人様ですわ…ですが命の次に大切な人となるとあの二人ですわね」
「そうだよな、悪いけどフルールは先に帰っていてくれるかな?」
「どうかされましたの?」
「無理元で、2人の事をテラス様に祈ってみたいんだ」
「それなら私も一緒に祈った方が良いのですわ」
「いや、今回はテラス様にとって嫌な願いをするから、俺一人の方が良いと思う」
「それなら仕方ありませんわ…少し寂しいですが先に戻っていますわ」
笑顔で帰って行くフルールを見送りながら俺は近くの森に向った。
◆◆◆
此の世界には神社は当然無い。
懐中式のミニ神社は作ったが…今回はお礼でなく『お願いだ』空気が良く自然がある場所の方が良いだろう。
今回の祈りは正直言えば気が重い。
今迄の祈りはほぼ感謝のみの祈りが多かった。
だが、今回は『お願い』だ。
良く『神頼み』なんていうが本来はしちゃいけない事だ。
まして神主の家系の俺がそんな事…本来はすべきではない。
だが、今回だけは仕方が無い。
森の開けた所で祈りを捧げた。
『呼んだ~』
テラスちゃんが現れた。
この世界に日本人は俺一人(フルールは微妙)なので簡単に顕現してくれる。
神が現れてくれる事じたいが本当は奇跡なんだ。
そこから『願う』なんて本当は無礼な話だ。
『今回は..』
『私は神..言わなくても理人が思っている事位解かるわ…あの二人の犬の事ね』
やはり辛辣だな。
俺の返事を待たずにテラスちゃんは話しを続けた。
『あの二人は好きか嫌いなら『大嫌い』なのよ…人間で言うなら犬嫌いなお母さんが、可愛くも無い犬を飼いたいと可愛い息子が言うから仕方なく飼育を許可している。それに近いわ』
テラスちゃんからしたらそうだろう。
しかも綾子も塔子もこの世界の女神から貰ったジョブは良い物だ。
当たり前だ。
だが、ここで引き下がる訳にはいかない。
『何か許して貰える手は無いでしょうか? 勿論、その為に犠牲が必要なら、払える物なら払います』
『そこ迄言うなら、方法は無く無いわ…私は貴方が本当に可愛い。代々私に仕えていてくれた一族だからね。 だから無条件で助けたわ。 貴方とフルールだけなら、このまま面白可笑しく生きる事も出来る。本当にあの二人を『日本人』にしたいの、それは苦難の道なのよ』
『それでも俺はその道を選びたい』
『覚悟があるなら良いわ、貴方がこの世界で私の『祭主』になれば良いのよ』
祭主…本来神社のトップは宮司だ、だがその上に大宮司が居てその上に『祭主』が居る。
だが、その地位は皇族や華族しかつけない。
良く俺は爺ちゃんの事を神主と呼ぶが…本来は宮司、神社のトップだ。
神代一族は代々宮司の一族…だが流石に大宮司や祭主にはなっていない。
つまり…テラスちゃんはこの世界で俺に『神職の頂点になれ』そう言っている。
『祖父でさえ宮司なのに俺が祭主で良いのでしょうか?』
『別に構わないわ…この世界には氏子はフルール一人しか居ないわ、一からいやゼロから始めるのだから、構わないわ。だけど、これは完全に『女神』を敵に回す事になる。それで良いなら良いわ、2人を許してあげる』
これ以上名誉な事は無い。
だが、これは場合によってはこの世界を敵に回す事がほぼ確定する。
『俺にとってこれ以上の名誉は無いです。 ですが他の皆に聞いてみないと…』
『それなら決定ね、だって貴方が命より大事で私に感謝を捧げるフルールが断るわけ無いわ。それに二人は貴方に全部捧げているんだから…』
言われて見れば確かにそうだ。
『その通りですね』
『では、貴方は今から『祭主』フルールが『大宮司』塔子と綾子が『宮司』と言う事で良いわね…流石に直ぐに行動しろとまで言わないわ…貴方はもう『祭主』だけど、他の三人は貴方を介してその地位を授けなさい。 まぁ教化していくのはまだ先で良いわ…だけどこれで『女神イシュタル』は明確に敵、それだけは心に刻みなさい。そしてそれを信じる者は邪宗を信じる者だから敵だわ。理人、貴方の敵は元からだけど魔族じゃない、魔物でも無い。
『女神イシュタル』とそれから加護を貰った異世界転移者と女神信者よ』
元からそうだ。
そう考えたら…腹を括るかどうかだ。
『解りました。ですが『戦う』だけでなく『教化』して氏子にする。そういう戦い方をしても構わないのでしょうか?』
『それでも良いわ…まだ、行動を起こすのは早いから今暫くは今のままで構わない。ですが時が来た時は『必ず行動を起こしなさい』』
『解りました…無理なお願いをきいて頂き有難うございます』
『良いのよ、貴方は特別な子だから…神代一族の貴方がこの世界に転移した、それは大いなる運命だったのかも知れないわ…それでは頑張りなさいね』
『はい』
テラスちゃんは消える様に去っていった。
俺は体が痛くなり…暫く動けなくなった。
※私は神道は余り詳しくないので、突っ込みは許して頂けると助かります。
4人で
「理人君…何でフルールの時だけ凄く楽しそうなのかな?」
「理人…なんで私の時と笑顔が笑顔が笑顔が…何で違うのよ…ねぇ何故?」
綾子も塔子も…何だか怖い。
後ろに般若が見えるのは気のせいだろうか?
フルールは『私は知りません』って顔でそっぽを向いている。
命懸けでも助けてくれる…その筈のフルールが助けてくれない。
よく見ると少し笑っている様に見える。
あれっこっちに歩いてきた。
助けてくれるのかな。
「仕方、ありませんわ…だって理人様が心から愛しているのは私だけなのですわ…」
「「くっ…」」
丁度良いタイミングだ。
今なら『本当の事を話せる』な。
俺は『自分の事について』都合の悪い部分を伏せて話した。
流石に心まで奪った事は言えないな。
「そんな事があったの?」
「そんな、大変な状態だったんだ大丈夫?」
良かった、内緒にしていた事を怒っていない。
「まぁな」
「しかし…酷い、私そんな事になるなんて女神に聞かなかったよ」
「私だってそう、てっきり魔王さえ倒せば帰して貰えると思っていたわ、こんなの詐欺よ、詐欺」
「俺もそう思う…何のリスクも説明せず、テラス様も『誘拐犯』そう言っていた。それで二人ともどうする?」
綾子も塔子も貰ったジョブは素晴らしい物だ。
このまま城に残った方が幸せの可能性が高い。
俺は『祭主』になった。
神道で言うなら頂点。
此の世界の女神教でいうなら…教皇みたいな存在だ。
だが、それは『他に居ないから』に過ぎない筈だ。
そうじゃなければ俺みたいな若輩者がこの任につける筈が無い。
そしてフルールが大宮司…これも破格だ。
少なくとも『祭主』『大宮司』も通常の神社には居ない。
普通の神社の最高責任者は宮司だ。
裏切者で犬以下とテラスちゃんが言っていた塔子や綾子に『宮司』の地位を与える。
この意味を知らなければならない。
簡単な事だ…これは試練なのだ。
これは他の話にするなら。
『キリスト教の国ローマにたった4人で神道を広めろ』
『何万という構成員を抱える大きなヤクザにたった4人で攻めこめ』
これに近い。
新興宗教なら『教主 副教主 幹部2人』だからこその役職だ。
「どうするって…理人君」
「何が言いたいの?」
「俺は2人を日本人に戻して欲しいとテラス様に頼んだ。その条件が俺が『祭主』になってフルールが『大宮司』になり綾子と塔子が『宮司』になってこの世界にテラス様の教えを広める事だった。これを行うと言う事は…敵は魔族でなく『女神になる』そして『それを信じる人々』も敵だ。好きな方を選んで良いよ…このままお城で暮らし女神の加護の元に魔族と戦い、此の世界の英雄になるか? それとも俺と一緒に『女神』を敵に回すか…この場合は最悪同級生と戦う事になる。好きな方を選んでくれ…俺を選ばなくても恨んだりしない」
綾子と塔子は…本来なら女神の元魔族と戦った方が幸せな可能性が高い。
態々捨てる必要も本来は無い筈だ。
だがそれでも…一緒に戦って欲しい。
そう俺は思う。
「私は元から女神が大嫌いなのですわ。あの高慢ちきな顔が歪むのが見れると思うと凄く楽しいのですわ…それに理人様の敵なら全員殺す女、それが私ですわよ」
「私は凄く怖い..だけど理人君の敵になるのは死んでも嫌だから『宮司』になるよ」
「そうね、聖女の地位は捨てがたいけど…理人に比べたらゴミみたいな物だから良いわよ」
「良かったありがとう」
「良かったですわね..これで私二人を殺さなくてすみましたわ。大体、理人様は自分の事を考えたら、この話に乗らなくて良かった筈ですわ…ですが二人の為にこんな無茶な事をしたのですわね。そこ迄して貰っても『女神』の側に着くなら…最初の敵としてお二人を殺すつもりでしたわ」
そう言いながらフルールはスカートから手を出した。
もしかしたら、手で武器か薬品を握っていたのかも知れない。
◆◆◆
その後俺は簡易的な儀式をしてフルールを大宮司、2人を宮司にした。
その後テラスちゃんに祈ったら、いつもの様に姿を現さず…
『これからは惑わされる事無く精進するように』その一言だけ声が聞こえて来た。
儀式が終わり…祈るようにしてお店に入ると…コンビニに入れた。
綾子と塔子は驚き喜んで片端からカゴに突っ込んでいった。
そのまま4人でフードコートで食べた。
久々に罪悪感を感じないコーラは凄く美味く、30本買ってアイテム収納に突っ込んだ。
『祭主』になって良かった…本当に俺はそう思った。
テラス教団
俺達は、話し合った結果『北の大地』を目指す事にした。
此の世界は『女神教』が主流だが、ここから先には違う宗教もある。
特にルブランド帝国を境に他の神を信仰する民族が居る。
一旦、その境界にあたる北の大地まで進み、そこからアレフロードに再度向かいながら布教していく。
それが俺の考えだ。
『宗教とは相手の信仰をこちらに塗り替えていく事…この世界の人間がテラスちゃんの敵ならやり方はある』
普通ならこんな汚い事はしない。
だが、長年歴史のある『女神教』に勝つにはこの方法しか思いつかなかった。
多分、これから俺がする事は…卑劣な事だし、歴史的にも悪人扱いされるかも知れない。
だが、相手が完全な敵なら『何をしても良い筈だ』
俺は自分の意見をテラスちゃん、いやテラス様に相談する事にした。
今迄は『テラスちゃん』と呼んだ事もある。
だが、これからは『テラス様』だ。
俺は1人、身を清めてから夜中に森にいった。
『呼ばれましたか』
やはり、テラス様も何時もとは違う。
『はい』
『それで今回はどの様な話でしょうか?』
『実は…布教をするにあたり『テラス教団は現世利益をうたおう』と思うのです。ただこれには特殊な加護が必要なのと…やり方はかなり汚いやり方になるので、やって良い事かどうかのご相談です』
『それはどの様な方法なのでしょうか?』
俺は自分の考えをテラス様に話した。
『成程、それは日本でやるなら最悪ですね…私は絶対に止めました…ですがこの世界で行うなら何の問題もありません、それで困るのは『全て敵ですから』思う存分やりなさい。そうですね。今回の貴方の布教に必要な加護は大国主命(大黒様の神道での名前)の加護だと思います。その力を授けて貰える様に致しましょう』
大国主命様とは仏教で言う所の大黒天様だ。
そのご利益や加護が貰えるなら….確実に成功する筈だ。
『有難うございます』
『良いのです…確かに良いやり方とは言えませんが…効果は抜群だと思います』
『お許し頂きありがとうございました』
俺は…森を後にした。
◆◆◆
俺は今後の布教活動について三人に話した。
最初はフルールにだけ話すつもりだったが、これから一緒に頑張っていくんだ…全員に話すべきだ。
「こんな感じで布教をしていこうと思う」
「流石は理人様ですわ…それなら確実に成功しますわ。やはり最初はスラムからスタートですの?」
「そうだな、最初はスラムから…そして商人がターゲットだ。そこからは様子見だな」
「理人…凄い事考えるのね、それなら確実に上手くいく、かなり悪どいけどね」
「私もそれで良いと思います、失敗は無いとおもいます」
「三人とも賛成してくれて嬉しい…正直言えば、2人が賛成してくれると思わなかった。特に綾子には絶対に反対されると思っていたんだ」
「私は反対何かしないよ…だって私の為に頑張ってくれるんだもん」
「綾子違うわ、私の為よ」
「二人とも見苦しいですわ、三人の為ですわ」
全員が賛成してくれると思わなかった。
この布教は絶対にうまくいく。
俺は確証した。
◆◆ 1か月後 北の大地◆◆
「ようやく着いたな」
「それでどうしますの?ルブランド帝国からやりますの?」
「そうだな、そこから行くか。 今日は休んで明日からスタートしよう。まずは俺が一人でやってみる。それで上手く行きそうなら…1週間後から皆でやろう。 この一週間は3人で教団に出来そうな場所を探して欲しい。資金は幾らでもある。フルールお願いできるかな」
「任されましたわ」
「私達はフルールと一緒に活動すれば良いのね」
「解かったよ」
「頼んだよ…それじゃ今日は、レストランで食事して景色の良いホテルにでも泊まるか」
「良いですわね、私温泉付きが良いですわ」
「そうね…良いねそれ」
「和食が食べたいからファミレスで良いわ」
すっかり三人とも『日本の生活』を楽しんでいる。
だが、これは布教をするという義務に対するご利益だ。
しっかりと頑張らなくてはいけない。
◆◆◆
朝がきた。
今日から布教の始まりだ。
「行ってきます」
「「「行ってらっしゃい」」」
さぁ出掛けよう…向かうはこの国のスラム、それも貧民街だ。
「貴方は神を信じますか?」
「あんた司祭ですか…どの神か知らんが誰が信じるか!」
「それは何故ですか?」
「神が居るなら、何故俺たちはこんな貧しいんだーーっ。妻は貧しさの為病気で死んだ!娘が娼婦になって俺を..俺を…」
「それは女神イシュタスが悪いのです。正しい神を信じれば救われます…貴方は神テラス様を信じますか!」
「どうせお前達も綺麗ごとばかりで、助けてくれねーんだろう…」
「いいえ、テラス様は必ず貴方達を救い…ます、女神イシュタスは邪神なのです。だから貧乏な恵まれない人が生まれるのです」
「はんっ…それじゃお前達はどうやって救うって言うんだ…もし娘が娼婦なんかしない未来があるならよ…幾らでも信じてやるよ…綺麗ごとばかり言うな」
これなら絶対上手くいく。
「邪神イシュタスこそが、魔王や邪神を越える悪なのです…唯一無二の神はテラス様なのです。あるかどうか解らない『来世』の事ばかり言ってごまかす『女神教』も本当は詐欺なのです」
「何が言いたいんだ」
「良いですか? 貴方の娘が体を売らなければ生きていけない…それなのにシスターは清らかなまま生きています。そんな人間信じちゃ駄目です。 まずは貴方の娘をそんな辛い現実から救い出す、それが正しいのです」
「なんだ..それじゃアンタたちを信じれば、助けてくれるのか?」
「はい、テラス様は来世の保証は勿論、現世利益も保証するのでーす」
「なら、救ってみろよ…もし救ってくれたら…何でもするし…悪魔だって信じる…」
「貴方はたった今救われました…もうこの先の事は心配する必要はありませーん」
「何も変わらないじゃーねーか」
俺は金貨10枚を渡した。
「金貨…なっ、あんた」
「テラス様を信じ入信するなら…支度金として金貨10枚差し上げます。そして貴方が誰か1人入信者を連れてきたらその都度金貨1枚差し上げます。 体を売るより健全で、お金になる筈です。金貨10枚これで貴方は…救われませんか? まだ、直ぐに全部は出来ませんが、やがて神社、まぁ教会みたいな物を作ります。そこでは入信者には他にも沢山支援するつもりです、具体的には教団としてスタートしたら1日金貨1枚の仕事を斡旋します…入信してテラス様を信じるだけで、その金貨もこれからの生活も救われるのです…貴方はテラス様を『信じますか』」
「なぁ、今迄俺の事を助けようとしてくれた人は居なかった…本当にあんたはこんな大金見知らぬ俺にくれるのか?」
「はい、現世利益救済が『テラス教団』の使命です…さぁ貴方はテラス様を信じますかーーっ」
「信じる…これなら娘も救われる」
「それでは神社が出来たら、通って来て下さい。それじゃこの氏子名簿に名前を書いて下さい」
「はい」
こうして俺たちの布教はスタートした。
浸食 隔離
大国主命とは大黒様の事だ。
つまり、打ちでの小槌を持っている。
それをスキルにして貰った。
簡単に言うと、アイテム収納の中で無限にお金や宝が増えていくようにして貰った。
普通では考えられないスキルだ。
そのお金を信者になった者には金貨10枚(約100万円)を与えていく。
更に信者になった者は『勧誘』する資格を与えた。
勧誘して信者になるとと1名につき金貨1枚(10万円)を勧誘した者に与えるようにした。
勧誘される側は信者になっただけで金貨10枚(100万円)貰えるのだから、貧しい者は断る可能性はまず無い。
例えば
信者になり(100万円) 友人10名勧誘して(100万円) 簡単にこんな金額が手に入る。
知り合いや友人同士での取りあいだから、早ければ早いほど勧誘チャンスが増える、から早く信仰した者の方が有利だ。
これは日本でいう悪徳商法を参考にした物だ。
お金でなく、信仰を得るという違いがあるが、ほぼ同じと言って良いだろう。
「この方法は凄くずるい方法ですわね」
「100万円あげるから信仰して下さい。簡単に信仰していきそうだけど、それで良いのかな」
「綾子、これはそんな単純な物じゃないわ、これが進んでいった場合…次があるのよね?」
「信者になった後も継続してお金が貰えるのがミソなんだ、氏子になって信者になり、話を聞いた者には毎回銀貨5枚を支給していく事を考えている。それに宮司になった事で塔子は祈祷師、綾子は陰陽師になったけど、対外的には塔子は『聖女』だ。それが女神が悪神だというのだから、心も動く者も多く居ると思うよ」
「理人様、私や塔子は、それによっておこる事は解っておりますわ」
大宮司という立場からフルールには塔子や綾子に一切の敬語は使わないで良いと言ってある。
「流石だな。これが進んでいったら…テラス教に入信しなければ…普通の人間は生活が出来なくなる」
「一部のお金持ち、権力者とテラス教信者以外はまず、生活出来ませんわね」
「私はこの話の恐ろしさを知っています…成功したら、本当にその通りだわ」
「フルール様に塔子ちゃん。これそこ迄の事なの」
「綾子…そろそろ、本性を見せようよ!知らない振りしていると理人に嫌われるかもよ」
「…そうですね」
まぁ薄々は知っていたけどね…
綾子にも二人と同じ様に黒い所がある。
◆◆◆
この世界初めての神社の場所は直ぐに決まった。
なんて事は無い。
潰れた教会があったから、そこを改造し神社風にした。
御神体は勿論テラス様だ。
本当の神社と様式が異なるのは仕方が無いだろう。
「ここで毎朝1時間、テラス様にお祈りをして貰う。それに参加する者には銀貨5枚(約5万円)を無条件で払おうと思う…但し、その際に作業を頼む事もあるけどね。作業の殆どはボランティアだ」
つまり、1日5万円が支給され30日毎日来れば150万だ。
多分、毎日来ない人も居るかも知れない。
だが、来れば確実に銀貨5枚が貰える。
これで『嫌な仕事』『無職』から解放されるだろう。
◆◆◆
「貴方はテラス様を信じますか?…テラス様は邪神イシュタルと違いまーす。今直ぐ貴方を救いまーす!」
マネーイズストロング(お金は力だ)その力は絶大だった。
ルブランド帝国のスラムから平民層はほぼ信者になった。
月収金貨15枚、日本円にして約150万、これが休まなければ固定で貰える。
更に1名勧誘すれば金貨1枚…しかもこの勧誘は相手にとって良い事しかない。
中には強者で月収で金貨500枚(約5000万円)達成する者もあらわれた。
今では街のあちこちで「テラス様を信じますかーーっ」その声がこだまする。
途中役人に『賄賂』の要求があったが…「入信したらお金になる」と伝えたら、入信した。
役人の力を使い、どんどん入信者を増やし月に金貨120枚以上稼いでいる。
実質、フルールや塔子に綾子が布教したのは3日間位で、その後はひたすら事務仕事や配給の仕事をしている。
奴隷商にも顔を出し、話をして、やる気のある人間は全員買った。
お金の支払いは『他の人間と同じ』、基本買った金額は無利子で貸して、自分で働いて買い戻ししていくシステムだ。
殆どの人間が1か月前後で自分を買い戻していく。
『ちなみに彼等は、まだ本当の意味で『テラス様の信者』とはテラス様も俺達も認めていない』
本当の信者と認めるのはまだまだ先の事だ。
此処からは次の段階だ。
『テラス教の信者は『テラス教信者以外の者との付き合いを一切禁ズ』』
これを俺は伝えた。
ここからが…本当の意味での勝負だ。
※次回は【閑話】で女神サイドの話を書く予定です。
【閑話】女神SIDE
「可笑しい、何時まで待っても『感謝の祈り』が届かない」
普通は、勇者召喚をした後には必ず、信者からの祈りが増え、信仰が高まる。
私は女神だ…だからこそ、この『信仰』が必要なのよ。
信仰が無ければ、私の力は弱まっていく。
こんなに信仰の力が集まらない事なんてなかった。
いや、過去に1度はあったが、あの時は勇者が序盤の街で殺された時だ。
だけど…勇者が死んだら、私には解る。
それは『勇者のジョブ』その物が私の元に帰ってくるからだ。
勇者を含む五大ジョブは二つと無い存在。
その持ち主が死んだ時は必ず私の元に帰って来る。
だが、そのジョブが戻らないと言う事は…勇者が生きている事になる。
それなら、何故…信仰が上がらないのか…解らない。
◆◆◆
創造神様が私の元にやってきた。
「創造神様が自ら、急に来られるなんて、何かあったのでしょうか?」
「この世界を任したのは儂だ…だからお前を信じているが、邪神側からお前が不正をしているのでは無いか? その様な申し出があったのだが心当たりはあるか?」
まさか、他の世界から少年や少女をこちらに連れてきているのがバレた…
いや、バレているなら創造神様の性格なら即処分が下る筈だ。
「いえ、心当たりはありません」
「そうか…そうか…まさかとは思うが、他の神が慈しみ育てた存在を言葉巧みに騙し、自分の世界に連れてくる様な事はして無いよな」
「その様な事は…致しておりません」
「そうか…ならば良い。もしその様な事をしていたのなら女神と言えども、消滅処分じゃ」
これは流石に不味いのかも知れない。
消滅…本当にそんな事があるのか…
私は女神だ。
「本当に私は…」
「ほぅ~しらを切るのか? 実はな、もう実態は掴んでおったのだ。異世界の神の分体のテラスという神の分身が儂の所に訴えてきてのう。こちらでも詳しく調べたのじゃ。邪神や魔族の代表や天使からも話を聞いて、残るはお前だけになっておったのだ。 黙って非を認めて反省するのであれば許すつもりでおったが、もう許せぬ」
「待って下さい! 消滅だけは、消滅だけはお許し下さい」
創造神様が黙った状態がかなり続いた。
実際には数秒かも知れなかったが、私には凄く長い時間に感じた。
「お前の処分は置いておき、まずは異世界の神からの和解条件は『この世界で自由に布教する権利』と『向こう300年お前がこの世界に一切の干渉をしない』だ」
「待って下さい…そんな事されたら、あの世界の人々はどうなるのですか? 私を信じ…」
「その世界の人間の可能性を信じずに、安易に他の世界の人間を攫って来たんだ…お前にそれを言う資格はない。 よく考えろ。向こう側が一方的な被害者だ。向こう側の世界から大量に誘拐し、詐欺に近い事をしていたお前の罪が『布教』と『300年の謹慎』で済むんだ。随分と寛大な処置だと思うが、違うか?」
「解りました」
もう既に決まってしまった様だ。
今更、私が口を挟んでも…何も変わらないわ。
「あと、邪神側からだが」
「まだ何かあると言うのですか?」
「今のは異世界の神に対する責任じゃ…お前のイカサマみたいな方法で魔族と人族の勢力図はかなり人族に傾いておる。それに対しての償いじゃ。『300年の謹慎が終わった後、向こう300年『五大ジョブ』を授けるのを禁止』だ。」
これじゃ実質600年、私はこの世界に大きく関われなくなる。
余りに重い。
「創造神様『異世界転移』を行っていた女神は私だけじゃありません。他にも沢山います。それが何故私だけこんな罰を受けなければならないのでしょうか?」
「イシュタス、お前だけじゃない。今迄、異世界転移に関わった神のその全てをこれから罰するつもりだ」
「そんな…」
「これで済んで良かったと思う事じゃ。テラスの本体の神の仲間だけで八百万の神々がおる。他にもイエスだ釈迦だと異世界の神がおるんじゃ。その殆どが怒っており、生きた心地がしなかった。場合によっては神同士の全面戦争になる所じゃったんだ」
「たかが、人間の事で向こうの神はそんな事までするのですか..」
「お前が攫った癖にジョブを与えなかった子供がおったじゃろう?」
「他の神の臭いがした子ですね…」
「他の神の臭いがした…だったら何故、その時に思い止まらなかったのだ。その子がその世界の天照様に代々愛されておる一族の子だ。いわゆる神の愛し子に近い存在だった。そんな子に手を出して向こう側の神が怒らないと思うのか?」
「まさかここ迄の事になると思いませんでした」
「ハァ~まぁ良い、これから300年この世界に関われない様に天界に引き戻す」
「待って下さい。せめてこの場所に居させて下さい」
「それは無理な話だ、良いかこれは温情なのだ。天使にも落とさず、女神のままで300年ただ天界で楽しく暮らすだけ等本来は軽すぎる。ここ迄優しい罰で文句をまだお前は言うのか?」
「解りました、謹んで罰を受けます」
◆◆◆
『時間』を与えてしまった事がどれ程不味かったか。
それを300年後創造神やイシュタスは思い知る事になる。
常世の国
「フルール、商人の動きはどうだ」
「この街、いえこの国の商人の殆どが商会から露店迄、入信しましたわ」
そりゃそうだ。
日本にしたら月給150万円 年棒年収1800万円の集団顧客を見逃すわけにいかないよな。
しかも、彼等はあぶく銭だから、湯水のようにお金を使うんだからな。
まさにバブルだ。
最早、この国にはスラムすら無い。
「貴族の方の動きはどうかな?」
「入信しないと権力があっても、上手く行かないので7割以上の者が入信しましたわ」
「あとの三割は『女神教絡み』か…まぁ良い、それで塔子、物価の方はどうなっている」
「かなり急激に上がっているわね。今迄は芋1個日本円で計算すると80円だったのに今では800円よ、約十倍にまでなっているわ…もう、信者か余程の金持ちじゃない限り生活は困難ね」
収入が増えれば、その分物の価値が高くなる。当然の事だ。
やがて金貨15枚(150万円)の価値が恐らく15万円~25万円の価値迄下がって落ち着くだろう。
「上手く行きそうだな『信者の高利貸しには特例で信者以外にも貸付して良い』と許可してみようか? 但し容赦なく取り立てる約束しをてだが、どう思う?」
「良いんじゃない。お金に困ったら、死ぬか入信するか決めるだろうし…」
「それじゃ、頼んだよ」
「解かったわ」
「あの…理人君、確かに信者は増えたけど、この国の人、最低限しか働かなくなっちゃたけど良いの? 不味くない?」
余りに働かないから、信者には最低限働くようにふれを出した。
この最低限とは日本に近い、1日8時間で月20日間、まぁかなりホワイトだ。
教団の仕事をボランティアを含みしても良いし、元の仕事をしても構わない。
勿論、これ以上働いても文句はない。
何処の世界にも『より良い暮らし』が欲しい存在がいるから…案外頑張る存在も居る。
教団の仕事をしてもお金は出ない。
だが『私は教団の為に頑張っている』そういうステータスがあるのか、積極的に参加する者も多くいる。
最も7割以上が…義務だけ果たして遊んでいる。
綾子はこの7割の事を言っている。
「今はそれで良いんだよ?」
「どうして不味くないかな?」
「大丈夫! 働かないで高収入なのは『この国の人だけ』だから」
この作戦のミソは此処にもある。
この国の人間はお金を持っている。
他の国から幾らでも買えるから困らない。
この国がお金持ちの国…それが知れたらどうなるか?
商人は此処に集まってくる。
普通に考えてそうだろう。
『ここに持ってくれば、高額で買って貰えるんだ』
芋1個800円で売っている国なんだぜ。
この国で商売したらもう芋1個80円の国で売りたいなんて思わないだろう。
今はこれで良い。
この国の人間がどれだけ堕落しようが『お金はある』だから、他から欲しい物は何でも手に入る。
『働かない』この問題は更に現状が広まった時に考えれば良い。
「確かにそうだね」
「ああっだけど、かなり遠くない未来に、その問題に直面するから、今から少しずつ対策は練るけどね」
他の国で苦しんでいる者がこの国を見たらどう思うか?
来なくなる商人と物資…貧窮する人間。
今迄の信仰を捨てさえすれば幸せになれる国がある。
そして、そこに居るだけで幸せになれる国。
そう…ガンダ…違う、常世の国、常世の国だ。
【閑話】あるシスターの生涯
私はマドラ…
小さな教会でシスターをしています。
「あの…リンゴ一つ銅貨1枚(1000円)なんて酷すぎます!」
今日は、私の教会で保護している子供の誕生日です。
普段は買い物に来ないで頂いている供物で生活しているのですが…今日くらいは美味しい物を食べさせてあげたくて買い物に来ました。
「なに言っているんだい! リンゴや芋1個、銅貨1枚は普通じゃ無いか?」
「そんな訳ありま…あれっ」
私は気が触れたのでしょうか?
周りのお店の小札が全部が高額なのです。
銅貨5枚じゃ…到底、教会の子に何も買ってあげられません。
そのまま、トボトボと歩いて帰るしかありませんでした。
更にこの状況でも大変なのに…
「シスター、倉庫の食料がそろそろ無くなります」
「そんな、何故そんな事になっているのですか?」
「それが、最近信者の方からの寄進が減ってきています」
そう言われて見れば、教会に顔を出される方も見かけなくなりました。
「何故、その様な事になっているのでしょうか?」
「それが、最近『テラス教』というのが巷に蔓延しておりまして…女神教から抜けて行く者が増えています」
「離団する者が居るのですか? 邪教に惑わされる信者などいりません。イシュタス様は本当に存在し、教皇様は各国の王より上の存在、王ですら『破門』を恐れる。それが我が教団なのです。 もし、離団するなら、ただの離団ではなく『破門』にする。そう伝えなさい」
此の世界で一番怖いのは『破門』です。
王や貴族ですら…恐れるのですから、これで目を覚ましてくれる筈です。
ですが…
「あのシスター…皆さん破門で良いそうです」
「そんな…」
私はどうしたら良いのでしょうか?
私は我慢できますが、此処には沢山の孤児がいます。
「マドラ様…お腹すいたよー」
「パンも無いの…」
「何か食べたいよ」
今迄は私はただ祈るだけで良かった。
教会からも殆ど外出しないで生活が出来た…
それがとうとう、此処に誰も来なくなった。
熱心な信者も誰も来ない。
居るのは…16人の孤児だけだ。
どうしよう…
何か売るものはないかな…銀の食器にそうだ祭事に使う金の像があった。
これなら、お金になる。
「すみません、イシュタス教の方の物は買い取り出来ません」
何を言われたのか解らない…
この国は確かに他の宗教もあるけど…一番多いのは私達だ。
私達、しいては教皇様に逆らえば、王とて生きていけない。
そう言われている。
更に言うなら…勇者召喚はイシュタス様しか出来ない。
此の世界を救い続けているのはイシュタス様だ。
「この世界を救い続けたのはイシュタス様です。その使徒たる私に」
「はぁ~、あんたら邪教の使徒が何を言うんだ! 皆を救ってくれる神は唯一絶対神、テラス様だ、そして理人様こそが救世主なんだ」
「邪教に犯された存在『破門』です」
「上等、上等…あのな、潰れかけた店で借金生活していた俺を救ったのは勇者でも何でもない。テラス教団だ。特に理人様は死ぬ気で金を稼いで、そのお金を皆に使っているんだ。解かるか? 自分は贅沢しないで全部だぞ」
「そんな..」
「そんなじゃねーよ! 女神? お前の所の教皇は贅沢して宝石迄身に着けて、俺らに何もくんねーじゃねーか」
「私達は皆の心を救おうと」
「なぁ、ならシスターよ、お前娼婦か奴隷になってその金全部誰かにやればいいじゃん」
「何故そういう話になるのですか?」
「テラス教の方々が来るまで、この辺りの貧しい女は皆、体を売って生活していたよ…今の俺の嫁もな、俺が病気の時に俺を助ける為体を売っていたんだ。お前達が高いポーションを売りつけたからな」
「そんな事ありません…ポーションは材料費が高額で銀貨1枚は良心的です」
「俺の病気はその銀貨1枚のポーションが2日に1回必要だった。だがお前達は決して安く販売したりしない…だから俺の嫁はポーション欲しさに街角に立った。幼馴染で俺以外に体を許した事が無い嫁がだぞ」
「確かにお気の毒だと思いますが、幾ら言われても私にはどうする事も」
「ならば、俺を救おうと体を売った嫁はアンタより遙かにえれえーよな」
「そんな体を売るなんて女神を信仰するシスターが出来る訳ない」
イシュタス様は処女神。子供を作る以外の性交を嫌う。
それに教会が娼婦なんか認められない。
「だから、あんたら本気で人を救う気があるのか? テラス教徒の幹部の一人は『元聖女様』だぜ。人を救う為に無料で治療しているよ。最も塔子様に頼らなくてもテラス教の信者は余裕があるからポーション所かハイポーションだって普通に買えるんだ。なぁあんたどう思う! 教皇はよう…偉そうな事言うけど、だれも救わないじゃねーか」
ここ迄嫌われているの…
イシュタス様…私はどうすれば良いの。
子供達を飢えさせてはいけない。
だから、どうしたら助けて貰えるのか、頭を下げた。
そうしたら…『俺はただの信者だが、一瞬でアンタらを救えるぜ』
この店主はそう答えた。
藁にもすがるつもりだった。
最悪、奴隷として娼館に売られるのか? そう思った。
だが、子供まで一緒の意味が解らない。
そのまま子供を連れてきてついていった。
そこはテラス教の教会? 神社と言うらしい場所だった。
凄く綺麗な男の子がどうやら教皇みたいな地位らしい。
「此処に来れば、助けてくれるって聞きました…子供達を助けて下さい! 私はどうなっても構いません」
「貴方はテラス様を信じますか? 邪教を捨てテラス様を信じるなら直ぐに救われますよ」
心の中に迷いはあった。
今迄、私は…止めよう。
孤児…子供たちを飢えさせる位なら悪魔にだって魂を売るわ。
「信じます、信じますから…救って下さい」
「解りました…はい」
「金貨10枚…貸してくれるのですか? 有難うございます、これで飢えが凌げます。子供達が…えっ」
嘘でしょう…私だけでなく、理人様は子供一人一人に金貨10枚を渡しています。
何が起きているのでしょうか?
「違います、これは貸すのではなく差し上げるのです…良いですか?確かに心を救うのは大切です。ですが飢えに苦しみ貧困にあえぐ者を救うのは『お金』や『食料』です。少なくとも私はそう考えます。」
確かにそうだ…実際に今の私じゃ子供は救えない…
だからこそ、未来ではなく、今そこで苦しむ人たちを救うにはこの方法しか無いのです。
これなら、娼婦だろうがスラムの人間も救える。
「ですが…お金をばらまく、そんな事に意味があるのですか?」
「富は皆で分け合う物です。教皇の杖一つ売り払えば、何千の人が救えるのでしょうか? 枢機卿が住む館や領地を売り払えば、きっと何万もの方が救われる筈です。俺は誰かが富を独占するのでなく、全ての人にいきわたる世界、それを作りたいのです」
私は一体何をしていたのでしょうか?
教会の為に集めたお金は本当に全部人を救う為に使われている…
違う…この人の言う通りだ。
誰もが知っている。
教皇が住む聖教国の大聖堂兼城で教皇は贅沢をしている。
煌びやかな聖騎士に囲まれ、美食を食べている。
人々が如何に苦しみ、飢えても教皇や幹部は飢えない。
『騙されている』だれもが一度は疑問にもつわ。
だが、それは言えない。
「私は邪教のシスターでした…ですが人々を救いたい、その気持ちは本当です。こんな私でもテラス様を信じるなら人を救えるのでしょうか?」
「貴方ならきっと救えますよ」
この時見た理人様は…教皇とは違い、本当に気高い存在に私には見えた。
◆◆◆
「皆…このムカつく女神像壊しちゃいましょうか?」
「「「「「「「「「「「「「「「「は~い」」」」」」」」」」」」」」」」
私は馬鹿だ。
こんな邪神の様な女を祀っていたなんて。
此奴は誰も救わない『イシュタス』『女神教』そんな者は人を救わない。
「此奴が悪いんだよね」
「そうよ…この馬鹿が皆を苦しめていたの…だからやっつけちゃいましょう」
「はーい」
「泥団子ぶつけてやるーー」
「鋸で斬っちゃえーーっ」
皆で思い思い壊した後、最後は火にくべて燃やした。
3日後…テラス様の像が届いた。
それと同時に大量のお金も部屋に運び込まれた。
なんでも拝みに来た信者の方に銀貨5枚配るのだそうだ。
邪教のシスターだった私に、この新しい神社を理人様は任してくれるそうだ。
今、私の本当の救済が始まる。
今迄とは全く違う…本当に私は人を救う事が出来るのだから。
「貴方はテラス様を信じますか~」
「貴方はテラス様を信じますか~」
子供達と共に頑張るぞ~っ。
その後マドラは実に20の教会にの責任者の説得に回り。
その全部を『テラス教の神社』に変えた。
68歳で亡くなるまでテラスを信じイシュタスを呪い続けた。
王国の危機?
「これはどう言う事ですか?」
久々に馬車で城下町に出たら、町が廃れていた。
見間違いではないだろうか?
思わず目を擦る位に…
此処は王都のメイン通り。
それなのに閉まっている店が沢山ある。
本来なら、此処に店を構えるのは商人の憧れの筈なのに…
凄く可笑しいわ。
此処が私の国アレフロードなの?
「姫様、それがルブランド帝国の方が今凄く景気が良くてそちらに行ってしまったようです」
「そんな、帝国なんて野蛮な国に…ですが、幾ら何でも可笑しくないでしょうか? この辺りには王宮御用達の商会もある筈です」
「私も詳しい事は知りませんが『対面を保つ事が出来なくなりましたので返上します』と王宮に届を出して去っていったとの事です」
これはかなり不味いのでは無いですか。
馬車から見る限り、かなりの店が閉まっている様に見えます。
開いているお店は1/5も無いでしょう。
ここ迄王都のお店が閉まったのは見たことがありません。
待って…こんなにお店が閉まっていると言う事は…スラム近くの貧しい者はどうしているのでしょうか?
商人が居ないなら…手伝う仕事が無い。
このままでは餓死している人間も居るかも知れないわ。
「スラムに向って下さい」
「姫様、危ないです!」
「近づける所までで構いません」
「解りました」
騎士5名の警護です。
何を恐れる必要があると言うのですか。
「可笑しいですね…見た感じ誰も居ない様に感じますが」
「確かに見た感じ子供一人居ない様に見えますね」
「騎士のうち二人、ちょっと様子を見てきてくれませんか」
「「はっ」」
暫くして騎士が戻ると信じられない事を言い出した。
「ご報告いたします…スラムの住人が一人も居ません」
「何ですって…あんなに居たスラムの住人が居ないのですか?」
「はい」
よく考えて見れば…さっきの通りにも人が少なかった気がします。
何か良くない事が起きている気がします。
今日は買い物に来たのですが…何か嫌な予感がします。
必要な物だけ買ったらすぐに王城に戻らないと…
「何でこんな物しか無いのですか?」
私は今回の目的である宝石商に来ています。
次の舞踏会でつけるブローチを買う為にです。
「すみません姫様、良い宝石の殆どをルブランド帝国の宝石商に持っていかれました」
言われて見ればショーケースの中がまばらになっています。
このお店のこんな状態見たことがありません。
「そんなにルブランド帝国の方は景気が良いのですか?」
「…はい、それで申し訳ないのですがその…当店も王室御用達を返上する予定です」
「何でですか? 何代にも渡り王室御用達を務めていたポートランド商会がですか」
「はい、すみません」
「解りました…父にはあらかじめ私から打診しておきましょう」
「助かります」
「その代わり、嘘ではなく本当の理由を教えて下さい」
「それが…」
嘘でしょう。
この国ではもう真面な商売が出来ないなんて、信じられません。
それにこんなになる迄、何故誰も気がつかなかったのでしょう。
「解りました…直ぐに城に帰りますよ」
◆◆◆
城に帰った私が見た物は…机の上に大量に積まれた『退職願い』だった。
テラスのペンダント
「今度はこれを信者に渡そうと思う」
「ただのペンダントに見えるけど理人君」
「私にもそう見えるわ」
「でも理人様の事ですから、ただのペンダントじゃ無いのですわね」
いや、これはただのペンダントだ。
但し、特別な意味を持たせる。
「これはテラスのペンダントだよ」
「「「テラスのペンダント!」」」
魔族相手に、いちいち名乗りをあげるのも大変なのでその改善策の為に考えたのがこの『テラスのペンダント』だ。だが、その時に妙案が浮かんだ。
最初、これは俺だけで使う予定だったが、信者が襲われない。
そういう事になればどうなるか。
益々、入信者が増えるのでは無いか。
そう考えた。
そこで、テラス様にお願いして邪神様、魔王に連絡して貰った。
その結果、実現した品がこれだ。
「なんと、このペンダントを身に着けた者は、自分から攻撃を仕掛けない限り、魔族から襲われなくなるという優れものなんだ、どうだ凄いだろう」
「そんな素晴らしい物があるなんて知りませんでしたわ」
「すごいですね、それで理人君、そのペンダントには魔法でも掛かっているの?」
「神の力でも宿っているのかしら」
本当はただのペンダントだ。
ただ、裏で邪神とテラス様で話をして『襲わない』約束がされているだけだ。
俺は、その事を三人に説明した。
今現在、テラス教団の信者にならない者の多くは高位冒険者等の『稼ぐ手段』を持っている者だ。
他にも騎士等のうちプライドの高い者も多く居る。
だからこそ、これが出回ったらどうなるか?
まず商人や貴族からの護衛依頼は無くなる。
今現在、テラス教団には元山賊や元盗賊も多く居る。
人を襲って捕まったら縛り首みたいな生活より安定して月150万の生活の方が良いに決まっている。
帝国はテラス教団の為に急速に潤ってきた為、帝王や貴族の大半が信者になった。
テラス教団の信者同志しか付き合えない。
そういう決まりを作った時に、慌てて帝王から連絡があり、入信の旨の報告があった。
その時に『免罪符』の発行も正式に許可を得た。
テラス教団に入れば過去の罪も許されるとあって犯罪者の多くが、こぞって入信してきた。
何を言いたいのかと言うと今現在、北の大地周辺には盗賊は居ない。
話を戻すが…
人による被害が無い状態で魔族や魔獣の影響が無くなればどうなるか?
高位冒険者のステータスが低下する。
護衛依頼も無くなれば、魔獣や魔族討伐自体の意味がなくなる。
精々が安い、採取依頼ばかりになる。
それでも、まだやり続けた人間が居たとしても、テラス信者は戦わないし、困っても助けないから生活が苦しくなる筈だ。
「まさか、邪神様や魔王と話がついているとは思いませんでしたわ」
「それじゃ、理人君、実質、もう魔王の問題はかたづいた、そういう事なの?」
「…いつの間に凄いわね」
「そんな事無いよ…ここ迄すると、恐らく邪魔がそろそろ入って来そうだしね」
「「「邪魔」」」
「そう、多分帝国に置ける、最後の敵と戦わないといけないかも知れない」
騎士の多くはもうテラス教団に入信している。
仕事をしながら、来たり来なかったりだが、事実上衛兵も含め落ちたと思って間違いない。
後厄介なのは聖属性の物だ。
やたらプライドが高くお金で靡かない。
本当の意味での『女神教徒』
そいつらをどうにかしなければ完全に掌握したとは言えない。
それが終わったら、聖教国に王国、まだまだ敵は多い。
まだ先は長いな。
人として扱う必要は無い
テラスのペンダントの効果は直ぐに出た。
このペンダントをしているだけで魔物や魔族が襲って来ない。
その効果は絶大だった。
とうとう帝国だけではなく近隣諸国からも入信したいという話が来ている。
だが、問題なのは『テラス教徒意外と付き合えない』此処で少し躊躇している人々が居るようだ。
遠く離れた親類や知り合いや恩人に女神を信仰する人が居たら流石に躊躇するだろうし、過去に女神の恩恵にあった人はおいそれとは捨てられないだろう。
それに何より聖教国イシュタリカが存在する以上、最終的に『信仰で上回らなければ勝てない』
その為には二つの作戦を建てている。
その一つは『女神イシュタス』こそが悪である。
世界をそういう風に変えていく事だ。
だが、これを行うと『異世界転移者』である同級生たちが困る事になる。
しかしこれは避けては通れない壁なのだから仕方が無い。
◆◆◆
俺は道真も能力を使った。
その状態で、マドラを呼んだ。
今、彼女は帝国にある教会の責任者に仮にしてある。
「お呼びでございますか、理人様」
「いつも本当にご苦労さん、テラス様も貴方の素晴らしき信仰に何時も感謝しています」
これは嘘だ。
だけど、宗教者である彼女達には一番うれしい言葉だろう。
「そんな、私はテラス様の素晴らしさを伝えているだけです」
なんだかんだ言っても彼女達は本物の宗教者だ。
しかも、今迄と違って本当に人が救われていく姿をみているからこそより熱心に信者を増やしていく。
「これからいう事は『この世の真実』に関わる事なので真剣に聞いて欲しい。これは貴方を全面的に信頼しているからこそ伝えるのです、是非あなたの口から信心深い他のシスターや聖職者にも伝えて欲しい」
「解りました、宜しくお願い致します」
俺は話した。
今迄皆が善だと信じていた『女神イシュタス』こそが、邪神であると言う事をまず伝えた。
そして邪神と言われている、魔族の神こそが実は善神なのだと。
「そんな、元から逆だったのですか」
既に彼女の中でイシュタスの存在は地に落ちているから素直に聞いて貰えた。
「よく考えてみれば気がつかないか? 勇者は魔族の国に攻めて行くけど、魔王は城から動かない、どちらの方が本来は善なのかは普通に考えれば解るだろう。争いを好まず、城から出ない魔王の方がより戦争を望まない人格者だと思う。そうは思わないか?」
「曇った目で見なければ真実が見えてくるのですね。確かにそうだと思います」
「だろう? 他にも強い魔族は魔国から滅多に出て来ない。逆に人間側からは戦争を仕掛けている…これも聖教国の影響だ」
「確かにそうだと思います。私も教皇は悪人だと最近認識した所です」
「本来は魔族の神である邪神は温和な方らしいのだ、だが人間側から攻撃を仕掛けられるから防御手段として攻撃していた。それが真実だ」
「すると人間側から攻撃さえしなければ魔族側からの攻撃は無い…そういう事でしょうか?」
「その通りだ。実際に作ったテラスのペンダントは、実はご利益はない。ただ『こちらは攻撃しませんよ、だからそちらも攻撃はしないでね』そういった意思表示を示しているに過ぎない。それだけで魔族の大半は攻撃してこない。実に紳士的な対応じゃないかな」
「確かに、そうだと思います」
「だからこそ本当の姿を知って貰いたい。 魔国は友好国『聖教国イシュタリカ』こそが敵対国であり、教皇こそが魔王みたいな存在だ」
「我々の本当の敵は『聖教国イシュタリカ』であり女神いや邪神イシュタスこそが悪なのですね」
「そうだ、そこで、その事を念頭に入れてこれから布教をして欲しい。女神を信仰する教徒は魔族や魔物みたいな存在なのだと認識して欲しいんだ。特に貴方達が説明しても入信しない存在は最早『人として扱う必要は無い』そう思うのですが如何でしょうか?」
「その通りだと思います」
「『テラス教信者以外は人間ではない』それもこれからは布教にあたってお伝えください。勿論…そうですね10回以上入信を断るレベルの人間には『人権を認めない』そこ迄厳しくして良いかと思います」
「はい直ちにその様に致します」
「頼みましたよ、マドラ」
「はい」
今現在、帝国の奴隷はほぼいない
更に娼婦も少ない。
この状況だと、多分そのうち問題が起きる。
『身代わりになる人間が必要だ』
俺は祭主なのだから
『テラス信者以外は人間ではない』
その話で真っ先に動いたのは宗教者と奴隷商人だった。
それぞれが、何度もどのケースでどの様に適用になるのかを聞きに来た。
そして出来たのが…
奴隷商人たちが冒険者を巻き込み作られた『奴隷狩り部隊』だった。
奴隷商や娼婦の不足を賄う為に彼らは外に出る事を決意した。
聖教国イシュタリカ付近にまで遠征して狩りを行うようだ。
その際には必ず宗教者、司祭、シスターを必ず2人以上同行して確認し改宗の意思を確認する。
帝国に攫ってきてからも五日間監禁して宗教者が改宗の意思を確認する。
それでも改宗の意思がない者は晴れて『人でなし』として自由にして良い事にした。
『人でない』はかっての魔族と一緒、簡単に言えば犬以下だ。
宗教者たちが作ったのが『異教狩り部隊』。
基本彼らはあくまで『改宗』が目的だ。
その為、辛抱強く改宗を迫る。
だが、それでも改宗をしない者は最後には『魔族』と同じ扱いをする。
果たしてこれで良いのか? それは俺には解らない。
やりすぎに思う反面、甘い様な気もする。
そして、その結果恐らく、かなりの人間が地獄を見る筈だ。
その人達は悪なのか?
多分悪ではない。
それはあくまで道徳としてだ。
女神を信じ、この世の中を救おうとした人が大半の可能性が高い。
本当の悪が居るとしたら、それは恐らく、宗教の名を借り、人々からお金をむしり取りのうのうと暮らす教皇を中心とした権力者たちだ。
その証拠にマドラ達元シスター達は働かないで良い現在の環境でも寝る暇も惜しんで活動している。
そんな彼女達を騙し、救いもしない宗教を作り上げたのが教皇達だ。
自分の私利私欲の為に宗教を悪用している存在。
それが本当の敵。
それ以外は…ただ騙されて、洗脳されて『本当に人を救いたい』その心を捻じ曲げられただけだ。
だが、なまじっか『人を救いたい』その気持ちを利用されている為…その洗脳は解けない可能性もある。
そういう人間を犠牲にするのは…心が少し痛い。
だが、女神を信仰する以上は如何に『善人でも悪人』そう判断しなくてはいけない。
俺は祭主なのだから。
【閑話】教皇の死
今、この国に何が、いえこの世界に何が起こっているのでしょうか?
此処は聖教国イシュタリカ、女神の名を冠した国。
此の世界の教えの中心、宗教国家。
女神の加護があるこの国は今迄決して困った事など起きなかった。
魔王の住む魔国から一番遠い国だから魔族が踏み込んでくる事は無い。
この世界で一番安全で、豊かな国。
それがイシュタリカ。
そして、私はこの国の教皇ロマーニ8世。
王ですら私の前には跪く。
勇者達を除くならこの世界で一番尊い存在。
私からの『破門』を受ければこの世界で生きて等いけない。
それは王や貴族とて一緒の筈…
それなのにこれは何でしょうか?
目の前に信じられない数の破門状が来ています。
私や司祭やシスターが破門にしたという手紙以外に自らの破門願いが多数。
中にはシスター自らが『破門願い』ではなく『破門届け』として出してきた物もあります。
まるでこの世界の全てが女神や私の敵に回った様に思えます。
可笑しい。
何が起きてしまったのか全く解らない。
私が幾ら祈ろうと神託がおりて来ない。
こんな事は今迄全く無かった。
しかも、この国に来る商人が著しく減っていた。
「皆さん、今この国、いやこの世界に何が起きているのか知っている者はおりますか?」
私が司祭たちに尋ねると静かに1人の司祭が話し始めた。
「それが、ルブランド帝国を中心にテラス教という邪宗が存在しておりまして日に日に勢力を増しているそうです」
テラス教…北の大地近辺にある数少ない邪宗の一つでしょうか?
「それが数を増しているのですか? そんな物に惑わされるなんて…まぁ良いでしょうお望みどうり破門にしてあげましょう…それも絶対に戻れない『永久破門』にしてくれます」
これは流石に怖いでしょう。
『永久破門』これを受けた者は死よりも辛い人生が始まるのです。
きっとここ迄詫びに来るに違いありません。
「多分、それは意味を成しません」
「何故ですか?」
「テラス教団の中心には聖女塔子様がおります。そして塔子様自らが、イシュタス様を非難しているのです」
「聖女様、自らがですか? そんな馬鹿な」
「事実でございます」
勇者達が死んで…聖女が敵に回る。
そんな事があるわけが無い…しかも勇者達からジョブが消えたという話も上がってきた。
女神様ですら先が読めない何かが起きているというのですか。
そうだ、まだ一人います。
「大魔道様、大魔道様は今何をしているのですか? 今直ぐ保護を」
「無駄です。大魔道様もテラス教団の幹部の1人です」
そんな女神の使いたる五職のうち3人が死に、2人が背信…一体どういう事なのでしょうか。
私にも解りません。
◆◆◆
日に日にこの国から商人が消えていきました。
御用達の大商会までが『破門届け』を出して去って行く。
理由をきけば、皆テラス教絡みだ。
「貴方の娘が死に掛けた時命を助けたのは司祭達だった筈です、それが何故…」
「ふんっ、その時は莫大な寄進をした。対価は払っているのに何故感謝が必要なんだ?テラス教のシスターや司祭たちは無料で治療をするばかりかお金迄くれる、どっちが正しいか子供だって解る」
「そんな、無料で治療してお金迄出す、なんてあり得ません」
そんな事等出来る筈はありません。
「それが出来るからこそ、本物の神の使いなんじゃないんですかね」
振り返りもせずに去っていった。
このままでは聖教国であるこの国が滅んでしまうかも知れない。
今迄の邪教とは全く違う。
◆◆◆
とうとうここ迄大きな事になりましたか。
教皇である私がこんな粗食を食べると言う事は…他の者はもっと厳しい生活をしているのでしょうね。
最早、もうどうする事も出来ないのかも知れませんね。
「良いですか、皆さん…我々は宗教者です。今の状況は女神イシュタス様に縋るしかありません。それ以外に救われる方法が考えつかないのです。そこで私は断食の儀式をしようと思います」
「そんな教皇様、死ぬ気ですか」
断食の儀式とは命懸けで神に問う方法で、食事や水を一切取らずに祈り続ける方法です。
これは神託が行われるか、自身が死ぬまで行う儀式だ。
「最早、これしかあり得ません」
そして私は教会に閉じこもり祈り続けました。
どの位祈り続けたか解りません。
3日、4日なのか7日なのか…
そして奇跡はおきました。
私の前に光が降りそそいできました…
そして私の目の前には…嘘だ、何故天使が…
これは本来、女神様が…可笑しい。
「人間よ、私の名はシラン。イシュタス様に仕える最上級の天使である」
知っている。イシュタス様の右後ろに描かれている天使様だ。
「シラン様…一体何が起きているのでしょうか?我々をお救い下さい」
「それは無理だ、今の我々にお前達を救う力はない」
「何が起きたのでしょうか」
「イシュタス様が今現在、その力が振るえなくなった。そしてそれに伴い我々眷属もこの世界に関与できない」
「そんな、それでは我々は今後どうすれば良いのですか」
「…それは答えられない。今回もお前の願いに特例で答えただけだ..今後はいかなる願いも我々に届く事は無い」
「そんな、我々を見捨てるのですか…」
「すまない、それに対して我は答える事が出来ない」
それだけ言うとシランは消えていった。
◆◆◆
「わはははははっ女神はこの国をいや、此の世界を見放したのだ。この世界に生きる価値はない…私はこの世界から消える事にする。皆の者よくぞ今迄仕えてくれた…強制ではない、だがこの世界に女神様が居ないなら、死ねば良いのだ。死ねば我々は天界に召される。そこにイシュタス様やシラン様がおられる…天界で待つぞ…」
それを皆の前で高らかに宣言をすると教皇は、首にナイフを当て一気に引き裂いた。
その言葉を聞き、次々と司祭やシスターも自殺していった。
聖教国の中央教会には最早死人しか居ない。
まだ国には事情を知らない人間は沢山いる。
だが治める教皇や司祭、その縁者は全員が死んでしまった。
事実上、イシュタリカが滅んだ瞬間だった。
【閑話】異端審問
「良いですか皆さん、皆さんには二つの道があります」
沢山の人間が男女問わず縛られて転がされている。
共通しているのは…皆が礼拝用の服を着ている事だ。
その先には間仕切りされた二つの部屋が見えるようになっていた。
その一つは幸せの部屋。
美男美女が幸せそうにご馳走を食べ、お酒を飲みながら楽しそうに談笑している部屋。
もう一つは不幸の部屋。
三角木馬に鞭、そしてアイアンメイデンがある拷問部屋だ。
「貴方達は此処に連れて来られて10日目です…そろそろ決めて下さい。今迄かなりの方が改宗して人生を謳歌しています…邪教の女神を信じ拷問の末死ぬか? それとも尊いテラス様の元幸せに暮らすか選んで下さいな…好きな方を選んで頂いて構いませんよ、騎士の皆さん、1人ずつ放してあげてくださいな」
「まず、最初は貴方ね…好きな方をどうぞ」
「私は..私は、幸せの部屋を選びます…ううっ」
「そうね、でもイシュタスは良いんですか? あの詐欺女を信じていたんじゃないの?」
「ううっ、もう良いんです…あの女神様は私達を救ってくれなかった」
「賢明ね、それじゃこれを踏んで幸せの部屋に行きなさい」
そう言って床に放り出されたのはイシュタスの顔が刻印された板だった。
「はい」
「そうそう、良いわよ…それで良いのよ。あと女神様と呼ぶのは禁止、馬鹿女とかで充分だからね。貴方は本当に正しい選択をしたのよ…もし今、そちらを選ばなければ、お腹の子が流産するまで腹を殴った後に、貴方は生涯性奴隷として死ぬまで解放されなかったわ」
「解りました」
ふふっ顔が青くなったわね。
「それが、そこでご馳走を食べてから金貨10枚貰って解放されるのよ…最後の最後に良い選択をしたわね、旦那が居なくて困っていたんでしょう? もう貴方もその子も幸せになれるわよ」
「本当ですか?」
「本当よ…テラス様の名前で約束するわ」
「有難うございます」
「さぁ次はどなたですか?」
「俺は、ダル。クルセイダーだ。女神に選ばれた戦士…此処には同胞を救いに来た」
「ふっ、馬鹿なテラス教徒、私を誰だと思っているの? 私はアークプリーストのクアラ。観念なさい、イシュタス様から授かった、この力で浄化してあげるわ」
「同じく、アークウイザードのミンティアよ!観念なさい」
あらあら、ようやく聖属性の人間に会えましたね。
此奴らが『最大の敵』だわ。
改宗すら無理な存在…
勇者達の次に女神に愛された存在。
「態々、そちらから乗り込んでくるとはね、ですが貴方達は…まぁ良いでしょう、騎士達、此奴らを取り押さえなさい」
「ふっ、たかが騎士風情に僕が負けるとでも…行くぞホリーソード…えっ」
「何をしているのダル。見ていなさいこれが女神の代理人の使う最強の力、ゴッドネスアローっ。女神イシュタス様から届く力を光の槍にして打ち込む技。この技の前にはどんな相手でも…死ぬ…あれっ」
「むっ、ならばこれでどうですか、全て吹き飛べゴッドネスブロー…嘘風が出ない」
馬鹿じゃないだろうか?
此処はテラス教の本部。
こう言う場合に備えて理人様がテラス様に頼んで結界が張られている。
それに理人様がテラス様から受けた神託では、女神は暫くこの世界に関与できない。
それなのに女神由来の力なんて使える訳は無いわ。
「もう気が済んだかしら? さぁ騎士、こいつ等を取り押さえなさい…貴方達の未来は地獄しかありません」
「待った、改宗する…改宗する」
「私も改宗するわ」
「私も…えへへ」
馬鹿ね、貴方達は無理。
だってイシュタスそのものの力を使うんだから。
「貴方達は女神の手下その者、改宗する必要はありません…手足切断をして舌を切って、鎖につなぎます。無料開放すれば、娼婦不足の代わりにはなるでしょう」
「「「そんな」」」
大勢の人間が彼等を利用したから…あっと言う間に彼らは使い物にならなくなった。
鎖に繋がれた彼等からはうめき声を昼夜出していた。
多分喋れたなら…『助けて』…そして最後には『殺して』そういう言葉が聞こえて来ただろう。
木崎君と緑川さん
「久しぶりですね木崎君に緑川さん」
今日、教団本部に二人が捕らえられて来た。
2人ともジョブの力があるので冒険者として暮らしていたが、物価の上昇した為生活が苦しくなり、家族共々、王国から帝国に移動中にフルールの配下の黒騎士に捕らえられたのだそうだ。
フルール曰く『片方は兎も角、片方は聖騎士でしたので処分する予定でしたが、理人様のお名前が出たので連れて来ました』との事だ。
「「ふぐぅうううううっ」」
「あっゴメン」
俺は2人の縄を解かせ、猿轡を外させた。
「これはどう言う事なんだい? 神代君、まさか君は女神様を裏切ったのかい」
緑川さんが避難がましい声で言ってきた。
「緑川さん、俺は女神から何も受け取っていない。俺は神道、神社の家系です。女神なんか信じないのは当たり前じゃないですか? それに女神は犯罪者で誘拐犯なんですよ…木崎君も聞いて欲しい」
「「解かった」」
俺は、テラス教団の活動と女神が如何に酷い神であるかを二人に伝えた。
此処から先は2人が決める事だ。
もし2人がこちらに来なくても今回は見逃す。
だけど、立ち去ったら、次に会った時は敵だ。
「以上が、俺が2人に伝えたい事だ…それでどうする?」
「僕には守るべき仲間が居る。ユウナにユウだ…三人して幸せに暮らす方法はテラス教団に入るしかない。入信を認めてもらえるかい」
願っても無い事だ。
「勿論、歓迎するよ、ただ聖騎士と言うのはテラス教的に良くないんだ、だからジョブチェンジをさせて貰うよ…それで良ければだけど」
「仕方ないよ、それに今現在、女神の影響かどうか解らないけど、力が弱まった気がするんだ、だから、問題無い。今の僕は2人が大切だから、2人の為になるなら他はどうでも良い」
木崎君…本当に変わったな。
凄く強くなった気がする。
なんだか『家族を守る』そんな強い意思を感じる。
今の俺は『道真』の力を使っているから…嘘偽りがないのは解る。
「それじゃ金貨三人分で30枚…はいっ誰か1人案内をさせるから、観光するもよし、大好きなガ…いや恋人とデートを楽しんでも良いよ…暫く休んで慣れたら色々手伝って貰うよ」
「解かった、神代君、色々ありがとう」
◆◆◆
木崎君はこれで良い。
多分、これから先は皆と打ち解けて普通に生活をする事が出来るだろう。
問題は緑川さんだ。
心の中に揺らぎがある。
「それで緑川さんはどうしますか?」
道真の力で俺には嘘はつけない。
「私は少し迷いがある。この世界の平和を守ろうとしていた女神イシュタス様が悪い神にはどうしても思えないんだ」
俺は酷い扱いをされていたが、他の皆は違う。
甘い言葉を囁かれていて。チートを貰い救世主である様に言われていたのだろう。
「信じられないのなら、仕方がありません。それでどうしますか? 帝国は既に帝王も含みテラス教徒です。もし否定されるならこの国には住めませんよ?」
「どちらが正しいか解らないんだ」
「緑川さん、他人が育てた子供を勝手に攫えば幾ら理由があっても犯罪ですよ? それを行い、無理やり戦争に駆り出すのは悪い事では無いんですか?」
「それは…だが、もし自分が大切な世界が大変な事になれば藁をもつかむ気持ちで縋る事もあるだろう。そう言った事に寛大さは無いのですか?」
もしかしたら緑川さんは駄目かも知れないな。
「それなら緑川さんは此処を出ていく事をお勧めします。此処に居たら手順を踏んで、それでも入信しない物に人権はありません。今なら追手をかけませんよ」
「待ってくれないか? しばらく考えたいんだ」
「待てないんですよ! 此処に居たら手順を踏んでそれで入信しないなら『異教徒狩り』にあいます。そしてそれは合法です。貴方の大切な仲間や貴方自身も奴隷にされる可能性があります」
「そんな考える時間も貰えないのか? 酷いじゃ無いか?」
「ならば、立ち去る事をお勧めします」
結局、緑川さんはパーティメンバーに説得されて入信した。
だが、木崎君と違いまだ、女神に未練があるようだ。
暫くは監視しないと駄目だな。
ユウナとユウ 薔薇
「此処が皆さんの居住区域になります」
凄いな、これエレベータは流石に無いけど、団地とかマンションに近い。
「お兄ちゃん、本当に凄いね、こんな所に住めるんだね」
「お兄ちゃん…あの人と知り合いなの?」
「一体どうしたって言うんだユウ」
「ううん、何でもない…」
凄くユウナははしゃいでいるのにユウの様子が可笑しい。
さっきから何故だか浮かない顔をしている。
気のせいか。
「それでですね、この部屋は凄い事に魔石を使った冷暖房にキッチン、お風呂にトイレもあるんですよ」
「成程、凄いですね」
「家賃は金貨1枚、それに魔石代金も含みますから、凄いでしょう?」
前の世界で言うなら電気ガス水道、家電、家具がついて4LDK 10万円は安い、トイレにはウオシュレットもどきに洗濯機もどきもある..まぁ全部劣化品だが、これまでとは大違いだ。
よくぞまぁ、おもちゃみたいなレベルだが再現した物だ…流石だな。
「有難うございます」
「今日は、ここ迄です。あとはゆっくりお休みください」
凄くはしゃいでいるユウナに対して暗い顔のユウが凄く気になった。
◆◆◆
私は今ユウと一緒に外にいる。
お兄ちゃんには夜の街を歩いてみたい。
そう言って出て来た。
「俺も行こうか?」
そういうお兄ちゃんに「女の子同士の話があるから」そう言った。
「それなら仕方ないな」
とお兄ちゃんは留守番だ。
「それで、ユウ何かあったの? 昼間から様子が可笑しいけど!」
「あの..どうすれば良いのかな? あの理人さんが『悪魔の子』達を壊滅させて殺した人なんだよ…ユウナ」
「そうなの…それでユウはどうしたいの? 仲間の復讐? それともこのまま黙って暮らす? まずはそれを決めないといけないよ」
どうしたものかな。
確かに身を寄り添って生きては来たよ。
だが、友達かどうかと聞かれたら多分『友達じゃない』
お互いが生き残る為に寄り添っていた。
それだけの関係。
私が頭目になったのは容姿が悪いから皆から嫌われていたからにすぎない…舐められる訳にいかなかったからだ。
運よく子供の中だけだけど…実力はあった。
頭目になってからも何回仲間に襲われたか解らない。
私を殺して頭目になりたい人間が数人いた。
私の命が助かったのは、あの場に居なかったからだ。
誰が敵なのか炙りだす為に…少し距離を置いた。
まぁ、誰が敵か、知る前に全員殺されちゃったんだけどね。
ユウは逆に弱いから虐められていた。
聞いてはいないけど、あの時にユウが死ななかったのは虐められてアジトに居なかった可能性が高いよね。
さぁどうするのかな?
『今更、あいつ等なんてどうでもいいんだよ』
ユウ、私は今の生活を捨てるのはまっぴらごめん…
私にとって大切なのは『お兄ちゃん』だからね。
理人さんと会った時、お兄ちゃんは嬉しそうだった。
多分、友達それも親友に近いかも知れない。
復讐しても勝てない相手だし…万が一成功してもお兄ちゃんは悲しむし、此処に住めなくなる。
ユウ、貴方は今の私にとって命の次に大切な仲間。
だけどね…お兄ちゃんは命より大切なんだよ。
家族すら嫌った私。
仲間からも嫌われた私。
そんな私を心から愛してくれたお兄ちゃん。
沢山の沢山の愛情をくれたのに…私は膝枕しかしてあげていない。
だから…ユウごめん。
貴方の選択次第じゃ『貴方を殺す』…ごめんね。
「ユウナ、彼奴らは友達じゃないからどうでもいいんだ。だけどね、だけど『元悪魔の子』だってバレたら不味くないかな?」
うん、ホッとしたよ。
「確かに不味いね、万が一バレてお兄ちゃんの立場が悪くなると不味いもんね。最悪追い出されちゃうかも知れないけど、正直に理人様に言いに行こう…私達は追い出されるかも知れないけど…多分、お兄ちゃんは残れるよ」
「此処に住みたいな」
「そうだね」
◆◆◆
急に木崎君の仲間が会いたいと言って来た。
「こんな遅くにどうしたんだい木崎君は一緒じゃないのか?」
「はい…私達二人だけで会いに来ました」
「大体、何の用事か解るけど…自分の口から聞きたい」
「私達は…『悪魔の子』なんです。更に言うなら私は頭目でした」
「私も…ごめんなさい」
「それで仇でも取りにきたのかな」
「違います、そんな事しません。ただそれがバレてお兄ちゃんが困った事になるのが嫌なんです」
「場合によってはユウナと一緒に追放されても構いません…お兄ちゃんは此処に置いて下さい」
今の俺は道真を使っている。
だから、これが本当だと言う事が解かる。
二人ともガキだけど良い奴だ。
木崎君は本当に仲間に恵まれたな。
「木崎君は『き』俺は神代だから『か』 前の世界では出席番号が近いから何かと一緒に何かする事が多かったんだ。 悪魔の子の時の事は加害者の俺が言うべきではないが気にはしていない。ただ、あの時、あの国の法律では『殺されても仕方が無かった』これは解かるよな」
「それは解ってやっていた…殺されて仕方ないよ」
「盗賊だもん…それしか無かったんだもん」
「二人とも考えて欲しい。この国ならいやテラス教が目指す世界なら、全員盗賊に成らないと思わないか?」
「「思う」」
「全て貧しさが悪かったんだ。あの時の俺には救う力が無かったんだ、だが今なら救える。寧ろ助けてあげられなくてすまなかった。ごめんな」
「良いよ、謝らなくて、盗賊だもん」
「殺されても仕方ない」
「そうか、俺と木崎君は結構、仲が良かった。許してくれてありがとう。それと、彼奴の好みも知っている《ロリコンなのは当人から聞いたし、その手のアニメも好きだったよな》 君達二人は木崎君の理想の女の子だよ。そうだ落ち着いたら三人の結婚式を俺があげてやるよ..どうかな」
「「本当ですか!」」
「約束するよ…それで、今現在テラス教団では少年少女部のリーダーを必要としている。そこでユウナがリーダー、ユウが副リーダーになって纏めてみないかな? 暫くは、指導者について勉強になるけど…月に金貨5枚更に上乗せして報酬を払うよ…どうかな」
盗賊団の頭目とその部下…うってつけだよね。
「喜んで引き受けます、やった…これで私もお兄ちゃんにプレゼントをあげれる」
「うん、やった」
「それじゃ、指導係のお姉さんも折角だから紹介するね」
「「はい」」
「私の名前はフルール、黒薔薇のフルールと言えば解りますわね! 薄汚くか弱い少女から2本の美しいバラに育てあげましょう! 私に黙ってついて来れば良いのですわ。咲き誇るバラに確実に育ててあげますわ。 大丈夫ですわ。安心して良いですわ。死なない限り確実にバラにして差し上げます。さぁ一緒に咲き誇りましょう、まずは半年で黒騎士並みに育てて差し上げますわ」
「あっあああっ、黒薔薇のフルール様、目をつけられたら即自殺した方が幸せだっていう恐怖の代名詞」
「黒騎士並みって..あの死神より強いって噂の騎士…本当に居たの」
「丁度仲間が少女を育てたい。そう相談を受けていたんだ。頑張れよ」
「あら良くご存じですわね。『悪魔の子』そんな謙遜は要りませんわ。直ぐに本物の悪魔なんて雑魚だと思える位にはして差し上げますわ」
「「宜しくお願い…致します」」
「宜しくですわ」
良かった、良かった。
少年少女部のリーダー候補も見つかったし、フルールの『薔薇』を育てたいって希望も叶った。
明日は久しぶりに木崎君からオタ話でも聞こう。
緑川さん: モヤモヤする
「此処が皆さんの居住区域になります」
これが理人が考えた住処なのか、確かに凄いな。
だけど、私はこんな所で暮らしていていいのか?
頭の中に迷いがある。
確かにあの時に女神であるイシュタス様は言っていた。
『この世界を救って下さい。この世界を救えるのは貴方達だけなのです』
あの時の慈愛に満ちた顔は正に女神にしか見えなかった。
確かに理人には真面なジョブをあげていなかったのは知っている。
だが、何か事情があるのかも知れない。
少なくとも元教師である私が片方だけの意見を聞いて決断するのは良くない事だ。
もし生徒が揉めていたら、両方の意見を聞いてから平等に判断する。
それが私の考えだ。
「貴方、本当に凄いわ、こんな所に住めるのね」
「本当に信じられない」
「見たことも無い物ばかり、本当に凄いよ」
「確かに凄いな…」
何故だろう? なんだかモヤモヤする。
「それでですね、この部屋は凄い事に魔石を使った冷暖房にキッチン、お風呂にトイレもあるんですよ」
「確かに凄いなこの世界に来てまさかマンションみたいな建物を見るなんて思わなかった」
「この建物は、理人様の肝いりで作られましたから、しかも家賃は金貨1枚、それに魔石代金も含みますから、凄いでしょう?」
前の世界で言うなら電気ガス水道、家電、家具がついて4LDK 10万円 確かに安い、トイレにはウオシュレットもどきに洗濯機もどきもある..部屋だけ見たら前の世界に戻ったようだ。
「案内、有難う」
「今日は、ここ迄です。あとはゆっくりお休みください」
凄くはしゃいでいる三人の妻を見ながらも心は何故かモヤモヤしていた。
◆◆◆
本当に此れで良かったのだろうか?
私は女神様からも王様や王女様からも『この世界を救って欲しい』そう頼まれた。
神代君のように『頼まれなかった』訳じゃない。
しっかりと頼まれたのだ。
あの中で大人は私一人だった。
だから、交渉は私がした。
(回想)
「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も…だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」
「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」
(回想終わり)
私は王女に約束した。
私との約束を守り、マリン王女は訓練も生活の保証もしてくれた。
もし送還呪文も研究していたのなら…向こうは約束を果たしているのに…こちらは約束を果たさないで反故にした事になる。
本当にそれで良いのか?
もし、神代君が魔族の討伐をしているなら、手伝えば良い。
それだけだった。
だが、神代君は、女神こそが本当の敵だと言っている。
幾ら考えても…私にはそうは思えない。
誘拐と言えばそうだが…それを持ちだして良いのは神代君だけだ。
他の人間はジョブにスキル充分な対価を貰っている。
それにあの女神様は自分達でどうする事も出来ないから我々を呼んだ。
女神として自分の力じゃ助けられないから…我々に縋った。
これを悪と言っていいのか?
どうしても心がモヤモヤする。
新しい新居ではしゃぐ妻たちを前に私の心は…モヤモヤが晴れなかった。
それは言わないで欲しかった
「ユウナにユウ、凄く頑張っているな」
「あはははっお兄ちゃんの為だからね」
「うん、幾らでも頑張れるよ」
2人ともよく頑張っているな。
フルールの指導は多分相当きつい筈だ。
今は、もう生物の解体位はさせられている筈だ。
流石は元盗賊と言う事か…そういう事に免疫があるのだろう。
「フルール、2人の調子はどうだ?」
「筋は良いですわね…なかなか才能はありましてよ」
子供なのに頑張っているんだ、少し位何かしてあげてもよいだろう。
「フルール、少し二人の訓練を休ませてよいかな?」
「理人様がそう言うなら構いませんわ」
「それじゃ、これからお茶にしようか? ユウナは木崎君を呼んできて、ユウは悪いけど綾子と塔子を呼んできてくれるかな?」
「「解りました」」
これは皆驚くだろうな…今から楽しみだ。
「神代君、これからお茶をするんだって」
「ああっ木崎君もユウナもユウもかなり頑張ってくれるから、個人的なお礼だよ」
「と言う事はただのお茶じゃないんだよね」
「流石、木崎君、多分ユウナとユウは凄く驚くと思う」
「サプライズが好きだったのか? 神代君にそんな面があるとは知らなかったよ」
「理人様、私には、私には無いのですか…酷いのですわ」
「理人君…酷い」
「理人は…」
ハァ、子供相手に何でムキになっているんでしょう。
「ちゃんと感謝しているからこうしてお茶に誘っているんじゃないか…勿論三人には感謝しているよ」
「それなら良いのですわ」
「理人君…ありがとう」
「それなら良いのよ」
「神代君…大変だね、まだうちの方が楽だな」
木崎君は本当に凄いな。
こんな何もしなくても生活が出来る環境でも、何かしら仕事を探して頑張っている。
ユウナにユウもフルールの訓練にちゃんとついて来ている。
多分、本物の日本人に成れるとしたら…次は木崎君達だな。
「あはははっまぁね! だけどその分毎日が楽しいんだ。木崎君も同じだろう?」
「当たり前じゃ無いか」
「それでさぁ、一応テラス様にお伺いを立てたんだけど、テラス教ではロリコンって罪には成らないってさぁ! テラス様曰く『年齢制限を設けたのは人間側で関与してないわ。大昔には1ケタ代で結婚した時代だってあるのよ』だって神的には問題ないそうだよ。それで、まだ時期は決めていないけど、三人の結婚式をしようと思っている」
「僕はロリコンじゃ…無いよ」
「木崎君がロリコンなのは有名だよ、ねぇ塔子ちゃん」
「そうね知っているから隠す必要無いよ」
「ロリコンって何ですの?」
「お兄ちゃんロリコンってなに」
「お兄ちゃん教えて」
「ううっ、後で話す。それより神代君、君はどうなんだ? 僕より先に祭主である君が結婚するべきじゃ無いか?」
「確かにそうだな、それじゃ結婚するか」
「理人様…嬉しいのですけどこれはありませんわ」
「理人君…うれしいけどさぁ…もう少しね」
「理人、貴方場所と雰囲気を考えなさいよ..まぁ嬉しいけどさぁ」
「神代君…今のは無いよ…」
確かに今考えたらそう思う。
だけど…流すしかもうないな。
「それじゃ、二組一緒に結婚する、それで良いかな」
「ハァ~そうだね、腹を括るかな。うん結婚するよ、ユウナ、ユウ、本当に僕で良いの?」
「「はい」」
なんで、三人とも俺を見てくるんだ。
「綾子、塔子、フルール、俺と結婚してくれないか?」
「もももも勿論ですわ」
「お嫁さんえへへっ」
「私も、うん花嫁さんになってあげるわ」
勢いって怖いな、まぁこうでも無ければ話が進まなかったから良いか。
◆◆◆
「それで、これが実は皆へのお礼…じゃじゃーん」
「こここれは、シュークリームにエビマヨか? 神代君、これは一体」
「なんだかすごく美味そう」
「なにこのお菓子、凄い」
フルールに綾子に塔子は驚かないよな…何時も食べているし。
よく考えたら、材料は持って来れないけど知識は持ち込める。
僕達は図書館にもネカフェにも行ける。
解らない事はそこで調べて来れば良いだけだ。
これは建物にも生かしているが、料理だって調味料だって知識があればこの世界の材料で再現すれば良い。
「覚えていた知識を元に再現してみたんだ、本物には及ばないけど食べて見てよ」
「ああっ、凄く懐かしいありがとう」
「こんな美味しい物初めて食べたよ」
「凄く美味しい」
いつか木崎君達にも本物を食べさせてあげたい。
心から思った。
※ 緑川さんの話をアップするつもりでしたが思いつかず、先にこちらをアップしました。
緑川さん: 説得
やはり緑川さんは上手くなじめていない気がする。
テラス教ではこれでも良い。
最低線教会に来て話を聞けば、お金が貰える。
だが、木崎君達のようにそれ以外にも仕事や生きがいを見出している人も居る。
緑川さんの奥さんたちは皆、しっかりと仕事をしだした。
アルカさんは、猟師に混じって狩をしているし、シルカさんは子供相手に学問を教えるのを手伝っている。
そしてイルカさんは教会の治療院を手伝っていた。
そんななか、緑川さんだけが何もしていない。
同郷のよしみだ…俺が少し気に掛けるしかないのかな。
「緑川さん、少し良いかな?」
「神代くん、何かようかい?」
この人は俺のクラスの担任だった。
割と熱血漢で、正義感が強かった筈なんだけどな…今はそれも見る影も無い。
何だか、まるで炊き出しに並ぶ浮浪者ように教会に来てお金を貰っていく。
これは、信者として最低限の義務は果たしている。
だが、此の場所に緑川さんには居て欲しくない。
「緑川さんはこの国やテラス教を見てどう思いますか?」
「私には解らないんだ…」
「それじゃ、少しお話ししましょう。あそこの子供やお母さん達を見てどう思いますか?」
「どうって…なんとも」
「あのお母さんね、元娼婦でした。あそこの子供はそれでもお金が無くてパンも真面に食べる事も出来なくて死に掛けた事もありました」
「何だって!」
「知っていますか?スラムの貧しい場所で立っている娼婦の値段、銅貨3枚、日本円にしたら3000円にもならないんですよ。それじゃ真面に生活なんて出来ませんよね」
「そこ迄酷いのかい」
「スラムでは普通に餓死する人間、体を売り続けた結果性病で死んでいく人間、子供を奴隷に売る人間、そんなのは日常茶飯事です」
「…」
「信じられませんか? 木崎君の連れている少女も元は盗賊です。 貧しかったからそれしか生きる方法が無かったんです。全部を女神や国のせいとは言いませんが、神なら権力者なら救えた筈です」
「本当にそう思うのかい?」
「はい、例えば王女や王の王冠です。あれを売れば100人単位の人間が5年間は生活が出来るでしょう…だけどしないじゃないですか? 緑川さんは教師だったんでしょう? 独裁者の居る国は住みやすい国かどうか解らない訳無いでしょう」
「独裁者?」
「王や、王女は異世界だから紛らわしいですが間違いなく独裁者でその周りの貴族はその利権を貪っている人達じゃないですか?」
「それは、此処の世界では仕方が無いのじゃないか?」
「では私達の国は、仕方ないで済まさないで頑張った結果、変わったのではないですか? 緑川さんが授業で選挙の大切さを俺に教えた筈ですよ」
「確かにな」
「俺は思うのです。結局は女神も国も救わない人が山ほど居る、ですがテラス教なら確実に救えている。敢えて、此処は先生と呼びますが、先生は、あのお母さんにテラス教は間違っているから、今から娼婦に戻れ。あの子達にもう一回食べ物に困る生活に戻れと言えますか?」
「そんな事言える訳ないだろう」
「それならば、どちらが正しいか緑川さんにも解る筈です。 それに考えて下さい。王女はペテン師です。」
「それは言い過ぎじゃないかね」
「あの王女は大きな嘘をついた。『元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します』とね」
「それの何処が嘘なんだね」
「緑川さん、此の世界に来た地球人は我々が初めてではありません。過去に沢山居ます。彼だって同じ事を頼んでいたそうです。ですが未だにそれは見つかっていません」
「それはどう言う事だ」
「いまだに無理と言う事は、良い方で研究はしているが実現できない。悪い方だと研究すらしていない。そういう事だと思いますよ」
「あははははっ確かにそうだ、私はそんな事も見破れなかったのか?」
「それで緑川さん、今後どうしますか?」
「どうするかとは?」
「今必要なのは、教育や学問です。元教師なのですから、力を貸して貰えませんか?」
「私にも何か手伝えることがあるのかい」
「勿論です」
「そう言われては頑張るしかないね、うん力を貸すよ」
「それじゃお願いします」
これで大丈夫かな…
お札
緑川さんは、シルカさんと一緒に子供に勉強を教え始めた。
此の世界の学問と違うから悪戦苦闘をしているが、多分そのうちなんとかなるだろう。
今後、他のクラスメイトも来るかも知れないから、対応を決めて置いた方が良いかもし知れない。
今回は上手く行ったが、最初から喧嘩を売って来る者や、場合によっては戦争を仕掛けてくる者も居るかも知れない。
いや、確実に居る筈だ。
同級生の中には『貴族の元』に行った者も居た。
その辺りは敵になる確率は高い。
此処までは順調だったが、此処からは何が起きるか解らない。
それより、今は、計画を先に進める事にしよう。
打ちでの小槌は望んだ物が金銀財宝なら何でも出せる。
テラス様に頼んで『自分達が望んだお金』を出せるようにして貰った。
簡単に言えば、10万円札、1万円札 5千円札 1千円札を発行する。
レートは金貨1枚当たり1万円札と交換。
こうする事でこの国から外から買い物に来た人間は、お金の価値が1/10になってしまう。
暫く様子を見て、テラス関係は国も含み新しいお金しか使えなくすれば、既存のお金は最早価値が無くなる。
まぁ何処まで上手くいくか解らないが、これが上手く行けばかなり今後は楽になる。
「これが、理人様の世界のお金なんですわね」
「そうだよ、まぁ紙なんだけど、ちょっとした仕掛けがしてあって偽物は作れないんだ。透かしっていってね…こんな感じ」
「これは凄いですわね。こんな技術はこの世界にはありませんわ」
透かしが無いなら、完璧だな。
「それで、これからは金貨でなく、此方の通貨で全て払うようにしたいんだが、ちゃんと通用するように上手く手配できるかな?」
「帝王には話は通されていますの?」
「ああっ許可なら貰ったよ。新しいお金で20億円を渡してある。貴族達にも2億円渡した。だからこのお札が使えるようになるのを待ちどおしく待っている筈だ」
「なら、簡単ですわね。国内限定で今あるお金は期間限定で金貨1枚=10万円のレートで交換しまして、それが過ぎたら1万円にしかならない。そういう触れ書きをだせばよいのですわ。その後の事も、まぁ私と黒騎士に任せてくれればどうにかしますわ。せっかくですからユウナとユウにも危ない仕事じゃないので責任ある仕事の幾つか任せたいと思いますわ」
フルールは本当に頭の回転が速く、1いうだけで10の事をしてくれるから助かる。
「今回の仕事には塔子と綾子も加えて欲しい」
「あの二人も…」
「ああっ、確かに頑張ってくれてはいるが、フルール程手際が良くない。だから少し仕事のやり方を教えてくれると助かる。俺も人の事は言えないがな」
「褒めて頂いて、有難うございますですわ…それなら今回は手伝って貰いますわ」
「頼むよ」
「任されましたわ」
此処から先、まだ大変だ。
上級国民
「帝王様、テラス教を国教と認めて良かったですな」
「全く、その通りだ。最初は胡散臭いと思っていたが、凄まじいな…我々は濡れ手に粟で莫大な利益を手にする事が出来る」
我々は、既に全部の金貨を既にテラス札に交換してある。
交換レートは 10万円=金貨1枚。
だが、直ぐにテラス教の方で 交換レートは 1万円=金貨1枚に引き下げられる。
つまり、金額はそのままだが価値が10倍になるから、資産が10倍になったようだ。
この金額があれば、俺の代だけでなく10代先まで遊んで暮らせる。
「しかし、良かったのですか帝王様、国を丸ごと譲ってしまって」
「まぁな、父上が亡くなってこの国の治世も難しい。実際にこの国を回しているのは最早、帝王や貴族ではない。テラス教なのだよ! 今ある城のお金を10倍にして億単位のお金が貰えるなら潮時だ。俺としては新参者の国と散々馬鹿にされ、金だけ大きな国から取られていた国が最後に世界の中心に近い状態になったんだ、これで良い」
「実質、帝王や貴族の位は無くなっても、上級国民という新たな地位を貰える、さらに一代限り最上級国民としての扱い、なら問題はありませぬな」
「確かに、何もしないで地位が保証されて、お金はどれ程使っても減らない位あるのだ、正直急に、王子から帝王になり、政治で困っておったのだ…政治の事はさっぱり解らん、宰相に言っても『それは王が判断する事でございます』としか言わぬ。渡りに船だな」
流石に国家予算10年分を個人資産にして良いと言われれば…もう引退しても構わぬ。
しかも最上級国民として地位の保証に月に8000万円の支給。
この方が遙かに良い。
「しかし、宰相殿が急に体調を壊し、亡くなるとは思いませんでしたな」
「まぁ、父も宰相もかなりの歳だ。いつ亡くなっても可笑しくない歳であった。今いる王子は俺以上に頭が悪い…これで良かったのだ」
「そうですな、今回の件で男爵以上の地位にある者の多くは今回の件で皆、爵位に応じた上級国民になるそうです。今後働かないで、今以上の生活が出来ますからね」
「まぁ我々は良い事尽くめだ。それに引き換え、王国や聖教国は今では餓死者まで出ているそうだ…テラス様様だ」
「王国や聖教国では食料が手に入らずに、貴族からの亡命者も沢山出ていますからな。そろそろ国としての面子も保てなくなるのではないか?」
「金貨の価値を下げ…最後には金貨の廃止、それでほとんどの国は終わるかも知れませぬ。それに対して我々は、大量のテラス札を持っている。教皇だろうが王国の王だろうが一気に資産を持たない存在に落とされる…恐ろしい話です」
「まぁ、世界有数の金持ち権力者になる切符を貰った我々は幸運だったそういう事だ」
「何もしないで贅沢して暮らせる…なんて素晴らしい世界なんでしょうか」
「その通りだ」
世界は大きく変わりつつあった。
※次回は少し視点をずらして 王国か聖教国の閑話を書こうと思っています。
王国SIDE:理人討伐
上手く事が進んで良かったですわ。
流石に私も王の暗殺は初めての事ですから少し緊張しましたわ。
理人様に上の階段に昇って貰う為には『王』になって貰う必要がありますから必要な事なのですわ。
宰相に先代の帝王この二人は頭が良く、一応はテラス教を国教として認めてくれていた物のまだイシュタスに未練がありそうでしたわ。
それに加えて先代の帝王と宰相はアレフロード王国や聖教国イシュタリカとも親交があり同情していましたから目の上のたん瘤でしたの。
だからこそ『退場ねがいました』わ。
残念ながら継承権のある王子は馬鹿ですし、その取り巻きもお金で転ぶ様な奴しかいませんから、2人さえいなければ簡単に落とせますわ。
ルブランド帝国も無事手中に収め…時期を見て、神聖テラス帝国に名前が変わりますわね。
勿論、初代帝王は『神に選ばれた男 理人様』ですわ。
◆◆◆
「何故、我々がこんな思いをしなければいけないの」
王女マリンは。貧窮していく国に嘆いたいた。
異世界人を勇者を含み召喚して、魔族と戦う要になる国。
魔族を退け、世界を魔族から救う勇者。
その勇者輩出国…それが我が国、アレフロード王国。
それが今、大変な事になっています。
魔族が襲って来たわけでもありません。
今現在の最大の敵は…お金と宗教。
そして人間です。
「ペテン師国王を許すなーーーっ」
「魔族は敵じゃ無かったのに、邪神イシュタスが攻撃を仕掛けたから、人間を襲うようになったんだーーっ」
そんな事が今、ゆっくりと浸透され国民から囁かれるようになりました。
最初は放っていたのですが、それが日に日に増えていき、国を出ていく者が増えてきました。
1人捕らえ詳しく話を聞くとルブランド帝国が一枚噛んでいるのが解りました。
しかも、そこに更にテラス教団という得体の知れない教団まで絡んでいる。
そういう話でした。
「テラス教の信者になれば、魔族から襲われない人生が約束されるんです。しかも豊かな人生の保証までされるんです。私はこの国で悪い事はしていません。国を自由に出ていくのに問題が無い筈です」
そんな馬鹿な事を言ったそうです。
これが、我が国が疲弊した原因です。
そんな訳はないのに…騙されているのでしょう。
ですが、教えてあげる必要はありません。
こんな背信者は死ねば良いのです。
「そうですか、貴方の様な人間はこの国には要りません。とっと立ち去りなさい」
「はい」
ですが、真実を知る必要があります。
その為、密偵を放ちました。
ですが…誰1人帰って来ません。
手練れの筈の密偵が誰も帰って来ないのです。
仕方なく、闇騎士を使う事にしました。
私の子飼いの騎士、国でなく私に忠誠を誓っている騎士です。
これなら黒騎士クラスが出て来ない限り大丈夫な筈です。
暫くして闇騎士が帰ってきました。
「それで真相はどうだったのでしょうか?」
「はっ、真相は真実でございました。ルブランド帝国に貧民は存在無く、全ての民が貴族並みの生活をしておりました。更にテラス教に入るなら、テラスのブローチという物が貰えて魔族に襲われない生活が保障されています」
まさか、話が全部本当だと言うのですか?
「それは本当の事ですか?」
「誓って。全ての不幸はイシュタスが起こした。そうテラス教では言われています。 魔王は心優しい存在で、自分からは本来は攻撃したくはないがイシュタスが勇者を寄こして攻撃してくるから、人類と戦うのだ。と言っておりました。その証拠に魔王は城から出て戦った事は無い。そう言っていました。あの国ではイシュタスと勇者達は大罪人扱いです」
「それを皆が信じている、そういう事ですか?」
「はい…あの国ではアレフロードとイシュタリカこそが悪の根源だと言われています」
「一体誰が、誰がそんな事を言い始めたのですか」
「神代理人、異世界召喚者の少年です」
「あの少年が…」
あの少年ならイシュタス様を恨んでいるのが解かる。
そして勇者達にやりたい放題させていた我々も恨んでいたのでしょう。
和解したそう思っていたのですが、違っていたようです。
待ってそれじゃ…
「魔王に対する最大戦力の聖女と大魔道の少女は一体どうなっているのですか?」
「聖女である塔子様を中心に綾子様も加わりまして、イシュタス様を邪神としてテラス教の布教につとめております…以上です」
「そうですか…待ちなさい。何故お前から話を打ち切るのですか? 無礼です」
「姫様、これが私の最後の忠義になります。私は姫様には沢山の恩が御座います。ですが恨みもある。これにて闇騎士の地位を返上させて頂きます」
「何故ですか、貴方は..」
「剣聖や勇者に怪我をさせられ騎士を続けられなくなった者の1人が私の許嫁でした。お見舞いをして頂き、気にかけて下さったのは理人様です。『助ける準備がある』そう連絡を貰ったそうです」
「そう…ですか」
「城を去った後迄、理人殿は、自分が不遇だったのに気にかけて下さったのです。それに私には勇者も剣聖も邪悪な者にしか見えませんでした。女の私から見たら身の危険を感じる程に…今の私にはテラス教の方が正しく思えます」
「黙って行かすと思いますか?」
「そう言われると思いました。最後の忠義は終わりですよ。忠告いたします、もし私に手を出すなら、黒騎士として貴方の命を頂きます」
そんな薔薇の紋章。
「それは薔薇の紋章…」
「今の私は黒騎士に所属しています。知ってますよね! 黒騎士を殺せば、フルール様を敵に回しますよ? 争いの種はまかない方が良いと思いますが…」
「もう、貴方の顔も見たくありません。立ち去りなさい。追っては掛けないわ」
「それでは立ち去らせて頂きます」
あの者は戻ってきてくれただけ忠義があったのでしょう。
あの分では他の密偵は全部…むこうに寝返った。
そう思わなくてはならない。
減ってしまった騎士や衛兵。
最早、この国には帝国と戦う力はありません。
ですが、今動かないとこの国は終わってしまう。
だが、神代理人、貴方は大変なミスをしました。
異世界人はイシュタス様の使いだからこそ、特権階級なのです。
もし、イシュタス様が邪神なら悪の手先になるのです。
私はお父様に頼み、いまこの国付近に居る異世界人を全員集めて貰うよう頼みました。
果たして貴族の妻になり甘い生活を送っていた者が…権力や栄光を手に入れた者がそれを手放すでしょうか?
先手を取られてしまいましたが、此処からは反撃の時間です。
◆◆◆
「皆さまにお話しがあります! 貴方の元仲間の神代理人がイシュタス様を邪神と扱い『貴方達を邪教徒』として扱うようです」
「そんな神代が..」
「何かの間違いではないですか?」
「事実です、今現在この国はお陰で国力が下がり、皆さまには影響が出ていると思います、特に貴族の家にいかれた方は困っているのでは無いですか」
「はい、領民がかなり去ったと聞いています」
「私の夫も最近はいつも暗い顔ばかりです」
「そうでしょう! 我が国は神代理人を大罪人と認定しました。皆様には神代理人たちの討伐をお願いしたいのです…もし首尾よく仕留めた者には嫁いだ実家の爵位を公爵にする準備が御座います。まだ爵位を持っていない者には伯爵の爵位と領地を差し上げます。お願い致します。あの反逆者を討伐して下さい」
此処にいる異世界人は18人。
それぞれが、事情を抱えこの国から離れられない者ばかり、しかも夫や妻も此処にいる。
これで大丈夫な筈です。
「マリンの願いを聞いて欲しい。無論、儂からも頼むこの通りだ」
父が頭を下げる事は滅多にないわ。
これで動かない貴族は居ないでしょう。
異世界人に掛かれば簡単な事でしょう。
マリンの目論見どうり、全員が理人の討伐を受けた。
王国SIDE:神代理人 暗殺計画
「神代ってただの冒険者だったよな? なら殺すのは簡単じゃないか?」
「確かにそうかも知れないが、北条と平城がついているじゃ無いか? 聖女に大魔道、最強の敵だろう?」
「ああっ、だが殺すのは神代だけで良いんだろう? だったら一人の所を狙って殺せば問題ないんじゃねーか」
「そうね…私は直接は参加は出来ないけど、旦那が伯爵家の長男だから、必要な兵隊、武器や魔道具があったら言って幾らでも用意するわ」
「本当に、凄く迷惑よね。私はもう子爵のクリード様と結婚しているから、神代のせいで肩身が狭いのよ」
「解かるよ、あの馬鹿が変な教団起こしたせいでうちの領内の経済もガクガクだもん。まだ結婚して無いけど婚約者から親族全員が頭痛めているよ。今回の話を聞いて兵が必要なら出すって言っていたよ」
「そうか、お前達は全員貴族の家に居るんだものな」
「そうよ、私の婚姻相手は伯爵家だからマリン王女の為に動く義務があるのよ、私のジョブは魔法使いでショボいから、金銭や物資の面で強力させて貰うわ」
確かに18名いるけど、そのうちの8名は貴族に嫁いでいる。
中には妊娠中の者も居るから戦力には成らない。
その分、金銭や物資で協力して貰う事になった。
「実質の戦力は10名。そういう事だな」
「それでどうする?…やるならしっかり作戦を建ててやらないとな」
「なぁ…本当に神代殺すのか? 一応同級生だったんだぜ」
「あのなぁ…俺たちの権利や名誉は『女神の使い』その扱いによる所が強いんだ。もしそこがひっくり返れば全て失うんだぞ」
「そうか…一応同級生だから、殺したくなかったんだけど、仕方ないのか」
殺すのに賛成した者が5割。
迷っている者が3割。
殺したくない者が2割…そんな所か。
だが、情報だと、神代は帝国で大きな力を持っている。
そんな人間に面と向かっては戦えないな。
小人数で戦っても、相手には聖女と大魔道も居る。
そこの切り離しをしなければ、絶対に勝てない。
幾ら話しても、話がまとまらない様だから…俺がやるしかないな。
「いや、やはりここは暗殺じゃなくちゃ駄目だろう? 正面切って戦えば帝国と戦争になりかねない」
「そうだな…それじゃ具体的にはどうする?」
「それなら、俺の出番だな」
「吉川、一体どうするつもりなんだ」
「俺のジョブはアサシン、つまりは暗殺に向いている…そこでだ、まずは場所の確保だが…」
今や伯爵の妻になった霧崎に、帝国に近い場所に伯爵家で屋敷を持っていないか聞いたら、小さ目だが屋敷を持っているそうだ。
「そこは貸して貰えるのか?」
「王や王女からの肝いりの話よ。絶対に貸して貰えるわ」
「そうか、それじゃその場所を押さえてくれ」
「それは良いけど、どうするの?」
「その場所でパーティを開くんだ、まぁ前の世界で言う同窓会みたいな感じだな」
「それだと、北条や平城が一緒じゃない」
「そこはお前達女子が上手く斬り離せよ…まぁ、同窓会みたいな物だから男女別れてとか言う時間を作っても良いんじゃねーか。」
「そうよね」
「ああっ、そこで神代一人になった所を、俺がやる。まぁ万が一の備えて他の9人も備えてくれ」
「待てよ、それなら10人でやった方が良いだろう」
「それは最後だ…可能なら1人で殺して、残りの9人が傍観者、貴族夫人の8人と一緒に、俺の正当性を訴えてくれ。それで後々の問題も解消だ」
これで神代は終わりだ。
恨みは無いがこの吉川達也の出世の為に…消えてくれ。
理人死す
「理人様、同窓会という行事のお知らせがきておりますわ」
どうやらクラスメイトが集まってパーティをするそうだ。
今現在、俺への手紙は全部フルールを通して届けられる。
そして、俺に渡される前に必ず、フルールが一旦目を通す事になっている。
これはこの世界に俺が疎いから、フルールに意見を貰う為にそうした。
「同窓会か懐かしいな…綾子に塔子、木崎君に緑川さん、皆誘って久しぶりに集まるのも良いな…これは参加しないとな」
「参加されるのですか? それなら黒騎士の護衛をつけますわ」
「要らない、要らない、昔の仲間と会うだけだからな」
「理人様、幾ら仲間とは言え油断は禁物ですわ」
「大丈夫だってこっちには、塔子に綾子、緑川さんに木崎君もいるから」
「ですが」
「くどいよフルール、気にしなくて良いから」
「理人様がそう言われるならそうしますわ…ですが、凄く心配なのですわ」
「大丈夫、大丈夫だから」
「そうですか」
こう言って俺はフルールの話をあまり聞かなかった。
そろそろ経済以外に手を出さないといけない。
その為にはクラスメイトの協力が必要だ。
この分野の事はフルールは頼りにならない。
だから『仲間』に頼らなければならない。
塔子も綾子もまだ頼りない。
クラスメイトにこれから頼らなければならない。
なんでも18人もで行われるパーティだ。
俺にとって必要な人材も必ずいる筈だ。
「本当に、私や黒騎士の護衛は要らないのですの?」
「まぁな、彼奴らに腹を割って話さないといけない事もある。だから今回は要らない」
「どんな話ですの?」
「莫大な利益に繋がる事だからな、これはまだフルールにも相談は出来ない」
「寂しいですわね」
「まぁ、安心してくれ、俺なら大丈夫だ」
◆◆◆
同窓会当日になった。
まぁ性格には同窓会もどきだが…
「なかなかの会場だわね」
「そうね、理人君、皆と話すのは久しぶりだね…凄く楽しみ」
「理人様一行ですね、此処で武器は預からせて貰います」
塔子と綾子には他に小型の杖を隠すように持たせている。
俺は..まぁ武器が無くても大丈夫だな。
「これは俺の剣だ、宜しく頼む」
二人も大きな杖を預けた。
最悪、俺は剣なら何時でも『本物』を呼べるから関係ない。
そのまま案内されるままついていった。
「北条さんに平城さん、お久さぁ~ こっちで女子が集まって女子会しているから、まずはこっちに来てよ、神代君との恋愛話聞きたいなぁ」
「まぁ仕方ないか、私は綾子とこっちに少し参加してくるからね」
「そう、それじゃ後でね」
「それじゃ、緑川さんと木崎君はこっちかな、行こう」
「そうだな」
「僕は余り、皆とは話したくない」
「上に行くと義理事があるから我慢だな…まぁ頑張れ」
「仕方ないな」
木崎君は顔色が余り良くない。
同級生が好きでは無いからな。
緑川さんは…何で顔色が悪いんだ。
まぁ良い…
「神代久しぶりだな」
「久しぶりだな、吉川、元気にしていたか?」
「まぁボチボチだな、しかし凄い活躍じゃないか? 帝国を自分の物にしてしまうなんて」
「まぁな…これから先ドンドン変わるからな、皆には色々強力して貰わないといけないからな」
「そうだな、協力は惜しまないさぁ」
吉川は昔から野望を持っていたな。
此れなら俺の期待に応えられるかも知れないな。
一応『同窓会』みたいな物だし、記録水晶で記録でも撮るか…
パーティは進むが一向に塔子も綾子も別室にいったままだ。
俺はドリンク片手に皆と話した。
さっきから緑川さんが俺と目を合わせようとしない。
なんだ…後ろめたい何かがあるのか。
「神代」
「吉川…えっ」
俺の腹にナイフが刺さっていた。
その刃は後ろに突き抜けている。
「あはははははっやったぞ、これで終わりだ」
「貴様ぁーーーっ!吉川、何故だーーっ」
「あはははっ馬鹿だな、お前..俺たちは王国の人間だぞ、お前の敵だよ、敵、ただ昔同じ学校で過ごしたからって信頼しすぎだって言うの…バーカ、バーカ」
「ハァハァ….そうかよ」
「吉川、貴様、理人君に何するんだーーっ」
「おっと、お前は殺さないから静かにしてくれるかな?」
「緑川先生…何をしているんですか? 何故僕に剣を向けるんですかーーっ」
「私は教師だ、だがこの場合は多数決で決めさせて貰った。18人の教え子たちと2人なら18人の教え子をとる。それに我々に力をくれたのは女神イシュタス様だ、その力で私は嫁を貰う事が出来た。感謝しかないんだぞ、お前が悪いんだよ…確かにお前は気の毒だが、神に背くなど…言語道断だぞ…」
そうか…緑川さん…緑川で良い、此奴は敵だったんだな。
「ハァハァ…」
「理人君..くそ、こうなったら、フルール様、理人君が危ない救護を頼む」
「貴様ぁ~何処に連絡している、殺すぞ」
「もう同級生だと思わない…親友を傷つけるなら、先生も同級生も関係ない」
あはははっ木崎君、君は本当の友達…なんだな..ああっ、だんだん周りが見えなくなってきた。
多分、そろそろ死ぬな…
「貴様ぁーーーー」
木崎君が緑川を殴った。
顔がひしゃげている…流石は木崎君…強いな。
ドアが開く音がした。
「良いですか、相手は異世界人ですわ、真面に戦っては駄目ですわ、王硫酸の使用を許可しますから、思う存分使いなさいですわ」
「「「「「はっ」」」」」
「り、理人様、理人様、理人様ぁーーーーっ死なないで下さいですわーーーっ」
「…フルール、塔子と綾子はハァハァ無事かな、ハァハァ」
「大丈夫ですわ、隣の部屋に居ますわよ」
「そう…良かった」
「そんな、理人様ぁぁぁぁぁぁーーーっ」
「あははははっ、目的は達成された…撤退だーーっ」
「貴方と緑川は許しませんわ…黒騎士、2人に全面攻撃、他は構わないで良いですわ」
「「「「はっ」」」」
黒騎士は小瓶の中の薬品を二人に振りかけた。
「ぎゅあぁぁぁぁぁーーーーーっ」
「こんな馬鹿なぁぁぁーーー顔が顔が溶けるーーっ」
二人は大怪我をしながら、走り逃げていった。
駄目だ…もう..
「フルール…後は頼んだ」
「理人様ぁぁぁぁーーー」
「嘘、嘘信じないわ…理人が死ぬなんて」
「理人君…理人君が冷たくなっている…うあぁぁぁぁっ 理人君が死んじゃったよ。うふふあはははははっ、皆殺しちゃおう..うん殺しちゃおうか」
「殺したら駄目よ綾子、もっと酷い事しないと」
「うふふ、あははもっと酷い事って何かな?」
「死にたいって懇願する程酷い事するのよ…フルール」
「捕まえたのは1人だけですわ」
「たたたた、助けて」
「理人君、死んじゃったんだからね…あははははっ無理だよ」
「取り敢えず、手足を切断して足と手を逆につけてやるわ…」
「それじゃ、私は顔を焼いちゃおうかな」
「それじゃ…私はその後、ゴブリンの巣穴に黒騎士と捨ててきますわ」
「ややや止めてーーーっお願いよ」
「理人」
「理人君」
「理人様
三人の悲しみは復讐心でしか満たされない。
理人之命
「助けて下さい…」
「何で私が助けると思うのですか? 貴方は恋人を殺されたとして許せます? 許せませんわよね?」
「助けて…助けて…北条さん」
「北条さん? 豚が私に『さん?』様の間違えですよね…己の立場を知らない豚はこれだから…ほうら…」
「ぎやぁぁぁぁぁぁーーーっ、助けて、助けてよ平城さん」
「由香里ちゃん..酷いよ、私がさぁ理人君を好きなの知っていて殺すんだから…あははははっ、大丈夫、まだ殺さないよ? 命は私は助けてあげる…だけど、死にたいって言う位酷い事するから」
「そんな…助けて下さい!、何でもします」
「そう?よりによって私に頼むんですの? そうですわね? 命を助ける代わりに死ぬまで娼婦として生きるのと、拷問されながら「殺して下さい」って言う位残酷な事されるのはどちらが良いんですの?」
「そんな…」
「5.4.3.2.1…はい時間切れですわ、拷問コースに決定ですわ」
「そんな…」
助けてが殺してに変わる迄そんなに時間は掛からなかった。
◆◆◆
俺は今死んだ。
普通に考えたら回避できた筈だ。
持っていた能力の一つを使っただけで回避できた。
だが、それは敢えてしなかった。
その理由は3つある。
一つ目は異世界人(日本人)の敵を明確にあぶりだす為。
魔族と和解している帝国にとっての最大の脅威は異世界人だ。
その反面、味方になってくれるなら強い味方だ。
木崎君のように仲間になってくれるなら大歓迎だが、敵になるなら殺す事も視野に入れなくてはならない、恐ろしい敵だ。
今回の事で、王国に居る18人と緑川の合計19人は敵と解った。
他の人間も王国の庇護下にいるのだから、敵対して問題無い。
今迄の様な友好的な態度をとる必要は無い、ジョブだけ取り上げてポイかあるいは殺しも視野に入れて良いだろう。
俺を殺そうとしたんだから…容赦しない
二つ目はこれでアレフロード王国に何時でも戦争を仕掛けられる。
俺は、まだ祭典こそ行われていないが、帝国に実質的な王だ。
それを殺そうとしたんだ『戦争』した所で誰も咎めない。
国と国の争いには正当性が必要だ。
これで俺個人ではなく帝国として正当な理由で戦争が仕掛けられる。
そして最後の三つ目の理由は『神』になる為に必要だった。
◆◆◆
「初めて話しますね、理人」
目の前にこの世の者とは思えない位気高い美女が立っている。
何処と無くテラス様に似た存在…
「私の様な者が、まさか貴方様に出会えるなんて思いもしませんでした…天照さま」
「そう畏まる事はありませんよ、眷属のテラスを通して貴方を見ていましたからね…すみません一度死んで貰って」
「いえ、構いません、俺が死ぬ必要がある事はテラス様からも聞いておりましたから」
テラス様はあの世界をもうイシュタスに返すつもりはない。
あの世界の…テラス教の本当の意味での『象徴』が必要になる。
その為『神』になる為に一度死ぬ必要があった。
俺が、あの世界で生まれたテラス教の神になる事で、他の神から今後の介入がしにくい状況に出来る。
「さぁ、これからあの世界での貴方の真の戦いが始まるのです。千引岩(あの世とこの世の境界の岩)はどけさせてあります。決して何があろうと振り返らずに一気に走り抜けるのです」
確かに此処で振り返ると大変な事になるのは解っている。
「はい」
俺は、そう答えるとひたすら走った。
やがて地上に出た俺は千引岩を閉じた。
こんな大岩を簡単に動かせる。
俺が完璧に神になった証拠だ。
凄いな、この感覚は全能感と言うのか…今なら何でも出来そうな気がする。
外は夜で月が綺麗だった。
さぁ、あちらの世界に帰ろう…ただ願うだけでそのまま、次元を超えて戻る事が出来る。
『理人之命(りひとのみこと)帰って来たのですね』
『テラス様、ただ今戻りました』
『そう…ならば、皆、心配しているから直ぐに顔を出してあげなさい』
『解りました』
理人之命
職業:神(全ての能力が統合され神に到った。)
HP:無限
MP:無限
装備:草薙の剣、八咫の盾、八尺の鎧
◆◆◆
「ただいま~」
「理人様ですわ、死んだのでは無かったのですね」
「理人、嘘、死んでいなかったんだ…良かった」
「理人君、良かった~良かったよーーーーっ」
異世界に新たな神が誕生した瞬間だった。
※神道では死んだ人間が神になる、そこからの話です。
ですが、ご都合主義なのでこの物語は理人のみ適応にさせて頂きます。
材料?
「はぁはぁ」
まさかこんな事になるなんて、硫酸がこの世界にもあるなんて知らなかったぞ。
木崎の反撃までは予想はしていたが、まさか硫酸みたいな物を掛けられるとは思わなかった。
しかも、木崎の攻撃はポーションである程度治ったが、この焼けただれた顔は治らない。
「アルカ、シルカ、イルカ~逃げるぞ」
「貴方、何があったのか説明してくれる」
「酷い顔ですね、その怪我は薬品によるものじゃないですか、だとしたらもう」
「これは治らないわ、一応ヒールは掛けるけど…薬品によって顔の筋肉から骨まで溶けている、無理だよこれは」
「時間が無い、逃げるぞ」
「ちょっと待て、貴方何があったか教えてくれる」
「説明している暇は無いんだーーーっ」
「理由位は聴かせて…それじゃ無ければ動かないわ…それにそこ迄されたなら、こっちだって報復するわよ」
「そうよ…大切な人をそんな目に合わせられたら黙っていられない」
「解かった…説明させて貰う」
私は自身にあった事を事細かに説明した。
「貴方…それで全部か?」
「それで全部なのですか?」
「本当にそれだけなの?」
「そうだ、だからすぐに此処から逃げなくてはならないんだ」
「ほう…貴方、いや緑川…あんた外道だな」
「本当に最低の人間ですね」
「あの聡明な貴方は何処に行ったのかしら」
なんだ、これは…
「通報もしない、確保もしない、これが最後の情けだ。1人で出ていきな」
「そうね、本来なら確保するか殺さなくちゃいけないわ…だけど、最後の情け見逃してあげる」
「そこ迄しか出来ないよ」
何故だ…そうか私が酸を被って醜くなったからか…
「そうか、私がこの姿になったからか…そんな女だったなんて」
「ふざけるな! 私達はこれでも冒険者だぞ! 怪我なんて隣り合わせだ、例えドラゴンブレスで焼かれた姿でもわかれたりしないぞ!」
「「うん」」
「それじゃ、なんで私を見捨てようとするんだ…私は」
「冒険者だからだ!」
「そうよ、確かに実力は貴方には及ばない、だけどそれでも冒険者なのよ! 冒険者は約束を果たす為に努力をする。場合によっては死ぬ事があってもね…それが出来ないならクズなのよ」
「護衛依頼を受けたら、死ぬ事になっても守らなくちゃいけないわ」
「そうだ、それに義理を大切にするのが冒険者だ」
「私はどっぷり浸かってはいないけど、それでも約束は守るよ」
そうか…
「その事については、後で謝る、だからついて来てくれないか?」
「ハァ~緑川さん、あんた本当に教師だったのかよ! 住む所から仕事に生活まで全部、理人様が用意してくれたんだろうが…それを殺す手助けをしたんだぞ」
「恥ずかしいわ…嫌なら世話なんて受けないで、決闘を申し込みなさいよ。クズが」
「一緒に先生として死ぬまで過ごせると思っていたのよ…残念ですよ」
そんな…全部失うというのか…まぁ良い。
私は異世界人だ彼女達と別れても、次がある。
理人は殺せたんだ、貴族籍が貰える。
そうすれば、彼女達以上の女と暮らせる…
「そうか、絶対後悔するぞ!」
「「「見逃す(から)(は)とっとと出て行(け)(きなさい)!」」」
「覚えていろよ!」
大丈夫だ、王国に着けば全てが上手く行く。
自分から幸せを逃すなんて馬鹿な女だ。
折角、貴族の妻になれたのに…馬鹿な奴らだ。
◆◆◆
「理人君、直ぐに追撃しないで大丈夫なの」
「緑川は許せませんから消した方が良い筈よ」
「フルールはもう手を打っているんじゃないか?」
「流石は理人様ですわ、ちゃんと見張りをつけて放置しておりますわ」
流石だな。
此処で捕まえても意味がない。
王国に逃げ帰らせた方がより多くの物が手に出来る。
つまり…異世界人に対してではなく王国につけをまわせる。
あれだけ纏まった異世界人を使ったんだから国が絡んでいるに違いない。
殺して終わりではなく、そっちに話を持っていった方が面白い。
王国がこれから火の海になる…それが解ったら、彼奴らはどんな顔をするのだろうか?
しかし…思った以上に異世界人(日本人)の多くが敵になったな。
結局、こちらの味方になってくれたのは木崎君1人か?
やはり緑川は駄目だったんだな。
計画的では無いかも知れないが、結局は裏切った。
ただ、馬鹿みたいにてんぱっていたから、多分直前で計画に乗ったのだろう。
多数決で決めるとしても塔子と綾子が入ってないじゃないか?
まぁどちらにしても許せる事ではない。
「それで、理人様ぁ~死ななかったカラクリは教えて頂けますわとねーーーっ!」
「理人君、酷いよ…私、私、本当に悲しかったんだからーーー」
「理人…ちゃんと教えてくれるよね(怒)」
ヤバイ、まぁ覚悟はしていたけど…かなり怒っている。
うん…それより、床に転がっている…人形? いや蛹、違うななんだこれ。
「後でちゃんと説明するけど、そこで転がっているのは一体なに?」
「これですか? うにうにですわ!」
「うにうに?」
「はい、本当は赤ん坊から作るのですが、女性の手足を切断した状態をダルマ女というのですわ。そこから更に歯を全部抜きまして、更に穴を使い心地良い様に加工するのですわ。まだ作成途中ですが、薬品を使って体を柔らかくして、感度もあげますの…まぁ究極の性奴隷ですわね…完成したらトイレの横に設置…」
「待って、その材料って何を使っているんだ」
「由香里よ由香里、まぁ理人を殺したんだから当然よ!」
「由香里ちゃんですよ? だって理人君を殺したんだもん」
いや、凄く可愛らしく話しているけど…ちょっと怖い。
まぁ良いや…俺は指をパチンと鳴らした。
その瞬間由香里は光に包まれ、元の状態に戻った。
「殺して…殺してくださぁぁぁぁぁーーーい…」
「体は元に戻った筈だけど、大丈夫か? 三端…」
「あっ私のうにうに…」
神だからこの位は簡単だ。
「ひぃ~神代君、私が私が悪かったのよ~ ただ来るだけで良いって言われて..許して下さい」
服も来てない状態なのに土下座してきた。
神になってしまったせいか…道真すら使わずに真偽が解かる。
嘘は言ってない。
まぁ、本好きの地味子が三端さんだから、大方逆らえずについて来た。
そんな所だな。
かなりひどい目にあったようだし、ジョブだけ取り上げて牢屋で良いや。
あれっ、何もしないのに『ジョブがとれてしまった』しかも、一瞬で粉々になった。
後でこの辺りの事はテラス様に相談だ。
まぁ、職業が無い無能ならもう脅威ではないだろう。
「まぁ良い、良いよ、命は助けてあげるし、牢屋には入れるけど、三職昼寝つきの良い生活を保証してあげるよ…だから証言をしっかりしろよ」
「何をかな?」
「俺を殺そうとした経緯だ…これから王国と場合によっては戦争をする事になるんだからな」
「そんな..」
「ちゃんと話すなら、俺が責任もって好待遇を保証する、だが嘘をつくなら、俺は知らないな」
「話す…嘘なんかつきませんから…」
「そう、それなら良いや…それじゃ後はフルール頼んだよ」
「任されましたわ」
次は木崎君だな…
『親友』かぁ…なんだかちょっと気恥ずかしいな。
木崎君 日本人になる。そして夢の国へ
「皆、大変な所だけど聞いて貰いたい、木崎君とユウナとユウを『日本人』として迎え入れたいと思うけど、どう思う?」
「私は賛成ですわ。木崎さんは最後まで裏切りませんでしたわ。それにユウナとユウは薔薇候補ですので、私の大切な部下ですわ。反対する理由はありませんわね」
「そうね…最後まで理人を裏切らなかったんだから良いわ」
「まぁ、元から木崎君は理人君と仲が良かったよね、私も賛成だよ」
フルールも塔子も綾子も賛成で良かった。
今回の件で『結婚式』は先送りするしかない。
だから、こそ先に何かお礼がしたかった。
満場一致で木崎君を『日本人』にする事が決まった
◆◆◆
「神代君、生きていたんだ、本当に良かった…凄く心配したんだ…」
やはりいい奴だ、いきなり泣き出した。
それに横に居るユウナもユウも心配そうに俺を見ている。
結局、本当に信じられる人間は、フルールに綾子に塔子、木崎君にユウナとユウ。
これだけか…緑川の元妻も信頼はおけるが、旦那がああなった以上、今は何かしてあげられないな。
結構頑張ってくれていたのに残念だ。
緑川をつけさせた黒騎士の話では『冒険者として筋を通す』そういう人物の様だから、この先なにか考えてあげないとな。
まぁ良いや。
今は、木崎君の事だ。
「心配させてごめんな…今は何があったのか一旦置いておいて欲しい。 親友って言って貰えて嬉しかったよ…そこでお礼がしたいんだ、受取って貰えるかな?」
「一体、何をくれると言うんだい? 僕は君を親友だと思っているんだ、今の幸せの半分は君から貰った物だ。これ以上は受け取れないよ」
「あの、ユウナも少し、きついけど幸せだから、貰えません」
「うんうん、幸せだから要らない..あっだけど貰えるならお休みが欲しい..」
「「ユウ」」
「あらっユウは私の訓練のお休みが欲しいのですか? ならユウだけお礼はあげませんわ」
「フルール様」
顔が青いな…可哀想に。
「フルール」
「理人様冗談ですわ。ユウも全く冗談位わかりませんと困りますわ」
「まぁ、金銭とかじゃないから、気楽に受け取ってよ…ほら」
俺は木崎君やユウナやユウを『日本人にしたい』そう願った。
前はテラス様にお願いをしなくてはならなかったが、今は俺も『神』これ位は出来る。
俺の手が光り、三人に光が降り注いだ。
「これで良しっと」
「神代君、一体、何をしたの?」
「三人を『日本人』にしただけだよ」
「「「…」」」
「「「…」」」
フルールと塔子と綾子は黙っている。
木崎君たちは別の意味で黙っていた。
「なにそれ…日本人になるってどう言う事」
「「日本人」」
まぁ普通に驚くよな。
「論より証拠、少し木崎君たちと出掛けてくるね」
「「「…」」」
フルールたちは何か言いたげだけど黙ってくれてはいる。
少し怖いな。
後で纏めて説明するけど…
うん、今は忘れよう。
◆◆◆
「この辺りで良いかな? ほら行くよ」
俺は意識を集中して、ある場所をイメージした。
「行くってどこへ…此処は行き止まり…えっ」
「なにこれ…お城がある」
「この建物、なにかな」
「夢の国ネズミ―ランドへようこそ!」
どうだ、驚いたろう…あはははっ子供と一緒なら此処が一番だよね。
木崎君だけじゃない、ユウナもユウも頑張っているとフルールから聞いたからご褒美も兼ねて良いんじゃないかな。
「ネズミ―ランドだね…それに僕達以外誰も居ないなんて」
「思う存分楽しんでくると良いよ…何故か従業員は仕組みは解らないけどいるし、隣接したホテルも泊まれるよ。但し、此処で購入した物は俺達以外に見せたら他の物に変わるから注意してね…それじゃ7泊8日の新婚旅行存分に楽しんできて」
「「「新婚旅行」」」
「そう、本来は結婚式を考えていたけど…先延ばしになりそうだから…先に旅行をプレゼントだ。そうだ、なんなら、向こうとは別に此処で三人で挙式をあげても構わないけど…祈るのはテラスちゃんか俺にして(笑)」
「ハァ~どうやら僕の親友は、とんでもない力を持っているらしい。お言葉に甘えさせて貰うよ。帰ってから君に何があったのか教えて欲しい」
「解かったよ、約束する」
「あの、此処はどう言う所ですか…凄く楽しそう」
「夢の国…天国なのかな?」
「あはははっ詳しい事は木崎君に聞いて、そうそう、これは新婚旅行だから、子作りしても良んだからね」
「神代君!」
「「…子作り」」
「それじゃ7日後に迎えに来るから思う存分楽しんで、はいこれはお小遣い…それじゃあね」
「ちょっと神代君」
「新婚旅行…楽しんできてね」
『親友』そう呼んでくれたんだから、この位はさせて貰うよ。
神の土下座
神になった俺に最早怖い物は無い。
そう思っていた俺だが…
今、俺は最大の恐怖と戦っている。
「護衛は要らない…そう言っていましたが…まさか最初から死ぬつもりだったんですの? 説明もしないなんて酷いですわ。わたくし仇を討った後に死ぬつもりでしたわ」
「本当に酷いわよ…理人が死んだら生きていけないのに…死んじゃうなんて」
「正直凄く怒っていますよ! …反省して下さい…でも理人君が生きていて良かったよ」
三人とも凄く取り乱している。
そして、俺は…土下座をしている。
流石に涙流しながら怒られたらこれしか出来ない。
かなり心配をさせてしまったのだから、仕方が無いな。
一しきり怒りが収まるまで待って、説明を始めた。
「「「神になった」」」
三人とも驚いている。
神になったからと言って姿形が変わる物じゃない。
見た目はそんなに…いや何も変わらない。
実際には『神モード』があるが、服が変わる位で大きく姿は変わらない。
「神ってあの神ですの?」
「神って神様になった、そういう事で良いのね」
「神様ってなれるの?」
「テラス様、曰く、此の世界で象徴になる存在が必要らしいんだ、テラス様は神だけど天照大御神の眷属だから、此の世界に根ざして無いそうだよ…今回の異世界人誘拐事件がある程度片付いたら、此の世界には頻繁に来れないそうだ…まぁ神って言っても見習いだから、そんな気にしなくて良いよ」
「気にしないなんて出来ませんわ」
「神様って気にしないで良い訳ないでしょう?」
「そうだよ…」
とは言え、最早とんでもない存在になったのは解かる。
最早この世界で俺と戦える存在は邪神様位しかいない。
此の世界には、邪神様とテラス様、そして俺しか神は居ない。
邪神様やテラス様には敵わないが、多分俺一人でも一国相手に簡単に勝てそうな気がする。
特に今は王国も聖教国も悲惨な状況だから、簡単かも知れない。
それに今迄持っていた能力は全部吸収されていた、道真等の能力も全部含み。
まぁ『神は騙せない』『天に向かって唾を吐けば自分に返る』もはや何処まで出来るのか解らない。
しかも、此の世界の神だからなのか『いちいち貸し借り』を持ち出さなくても、自由に能力も奪える。
これはテラス様にもない能力だ。
その反面、能力を奪ってもしれはもう自分の物にならない…いや、それすら要らない。
恐らく能力はカンストし、スキルもジョブも作り放題なのだからそうなっているのだろう。
回復能力も聖女なんて比べ物にならない三端さんを一瞬で治せたことでも解るが、指を鳴らして念じるだけで、死人すら蘇らせそうな気がする。
テラス様は、此の世界の人間側の管理者にする為に、俺を神にした可能性が高い。
そして邪神様と仲良くなれるレールを敷いてくれた。
本当の事は解らないが…この辺りがテラス様のシナリオに近い気がする。
「確かに神にはなったけど…皆からそう思われると寂しすぎる、だからこれまでどおりが良い…そうして欲しい。 それに神なら俺だけじゃ無くて塔子のお爺さんも神だろう『北条こそが神なのだがははははっ』と」
「それは恥ずかしいから言わないで欲しいです。確かに北条家は『財閥で出来ない事は無い』と言われていてお爺様は増長していますが…関係ないじゃない。そんな事言うなら、その北条から崇められる神代家の方が怖い位よ」
神代は確かに普通じゃないけど…残念ながら俺は詳しくは知らない。
「なぁ、フルールは黒薔薇、塔子は今天皇と言われる北条家の娘、綾子だってお嬢様、皆が特別な人間だろう? だけど、特別扱いさせれどうだ、楽しかったか?」
「そうですわね、確かに面白くありませんでしたわ、理人様は理人様、それで良いと思いますわ」
「私もそう思うわ…」
「私もそうですね…うん理人君は理人君、そうだよね」
これで、どうにか収まったかな。
「そう言えば、木崎はどうなったの?」
「そう言えばユウナとユウもお休みですし気になりますわね」
「木崎君はどうしたの?」
「ああっ木崎君ならユウナとユウと一緒にネズミ―ランドに行っているよ、7泊8日で、ホテルの多分スイートルームで夜も楽しんでいるんじゃないか」
「「ネズミーランド!」」
「ネズミーランドってなんですの?」
「フルール、ネズミーランドって言うのはこの前の遊園地の何十倍も凄いのよ」
「…何十倍…あれより面白い施設がありますのね…」
「理人君、それは凄く狡いと思います」
確かにネズミ―ランドはやり過ぎたかも知れない。
ただ『親友』と言葉が嬉しかったからな…
仕方ない…
「ある程度やる事が終わったら…ネズミーランドでも温泉でも何処にでも連れていくから、今は許して欲しい」
「「「解か(った)(りましたわ)(ったよ)」」」
さっさと終わらせないとな。
※感想欄からの答えと少し話の進み具合が変わりました。ご了承下さい。
王国SIDE: マリン王女の憂鬱
ああっ怖くて仕方が無い。
国からどんどん人が流出している。
王都ですら廃墟に近い状態になっています。
貴族街すら屋敷に住んでいる人間はまばらになっています。
宝物庫のお金や宝が無くなるのは時間の問題です。
父は、異世界人にお願いして数日後から、もう世を嘆いて部屋に籠ってしまいました。
これもあの、異世界人…理人のせいです。
確かに、女神は彼に酷い事をしたのかも知れません。
ですが、私達アレフロードは彼に酷い事をしていない筈です。
確かに他の転移者と最初は違ってましたが…途中からは同じ、それ以上に扱っていました。
聖女と大魔道と一緒にパーティを組む事すら許しました。
勇者や剣聖と同じに扱う事が出来ないのは当たり前です。
少なくともそんな酷い事をした覚えはありません。
それなのに、それなのに…あの男は..何故この国をここ迄貶めるのでしょうか?
このままではもう国そのものが終わってしまいます。
理人を敵に回せばフルールを敵に回す。
そんな事は解っています。
ですが、お父さまがこうなってしまった以上は私が頑張るしかないのです。
私はアレフロードの王女なのですから。
◆◆◆
理人暗殺から、異世界人が帰ってきました。
「吉川殿、その御姿は…」
「ハァハァ、どうにか理人は殺したぞ」
ですが…それと引き換えにこれですか。
黒薔薇や黒騎士が使う王硫酸攻撃。
流石はフルール、酷い攻撃をしますね。
硫酸を使い体を溶かされると、回復魔法やポーションでは治療が出来ません。
焼けただれ固まった皮膚を正常と判断されるからかも知れません。
兎も角、この攻撃は恐ろしいのです。
剣で避けられない。
鎧を着ていても、隙間から入り込み焼けただれる。
避ける事しか出来ない、恐ろしい攻撃です。
吉川と内通していた緑川は特に酷く、顔は焼けただれていて二目と見れない顔をしています。
他の仲間もそこまでで無い物の皆が酷い有様です。
貴族と婚約していた者や貴族の妻となった者は…どうなるかは私にもわかりません。
その分を上乗せして報奨を与えるべきですね。
『心から感謝していますよ』
「貴方達の恩には充分報いましょう。此処にいる者には最低限男爵以上の爵位を与えます。特に中心となって働いた吉川殿には公爵も検討したします…まずはヒーラーに頼んで全員の治療を致しますわ、取り敢えずは下がってお寛ぎ下さい」
「ああ、有難うございます…ハァハァ」
可哀想ですがあの傷はもう…治りません。
きっと後遺症も…治りません。
その分は爵位とお金で保証してあげます…ごめんなさい。
◆◆◆
「それで、今回の異世界人に渡す爵位なのですが…」
「好きな様に差し上げて問題ありません…爵位の返上が相次ぎ、60以上の爵位が返上されています、貴族街の屋敷も30近い空き家がありますから差し上げられますよ…問題はお金と人です」
「そんな財務状況なのですか…仕方ないです、宝物庫から国宝を幾つか手放しましょう」
「そうですね…ですが此処の所美術品も安く買い叩かれますから…」
「それでも…金策に走って下さい」
『平民が貴族になるのは、トカゲがドラゴンになるより難しい』そう言われていたのに…
自ら返上するなんて…うふふふふ、本当にどうなってしまうのでしょうか…
きっと、もうこの国も長くない…そうかも知れません。
それでも、私は1日でも長くこの国が続くようにしなければいけません。
私は王女なのですから。
◆◆◆
手紙が届きました。
差出人の名前は…神代理人…
死んだ筈です…
駄目です…頭の中がグルグル回ります。
これから、私は、私の国はどうなってしまうのでしょうか…
終わる聖教国
私は教皇代理のマルボー二。
この国の上層部は全員が自殺してしまった。
その為司教の中の古株である私が選ばれたのだ。
だが、もうすぐこの国は終わる。
今迄祀っていた女神イシュタスが、帝国に置いて邪悪なる存在として扱われるようになった。
それが今全世界に広まりつつある。
そしてこの結果…この国は滅びつつある。
いや、もうすぐ滅びる。
青い空に突然、人間が現れた。
いや…空を飛んでいるから人で無いだろう。
何者なんだ…空を飛べる魔法はこの世界には無い。
それでも飛べる、そんな存在が居るとしたら、それは神だ。
大きな声が国中に響いてきた。
誰もがこの声を聞いているだろう。
「私は…神、理人之命である。邪悪な女神イシュタスはこの地を去った。今、此の世界は三人の神で治められている。テラス様に魔族の神である邪神様…そしてこの私だ。最早この世界にイシュタスは居ない…悔い改めよ! 今こそ邪教をすて我がテラス教に入るのだ」
誰もが、その存在感に恐れおののく。
空に浮かんだ人物が『神』である事を誰もが信じた。
人間としての本能が…人では無い存在なのだと信じさせられる。
私も同じだ。
「神、理人之命様…我々は、我々はどうすれば良いのでしょうか?」
「簡単な事です…イシュタスの女神像を壊し、この地に来る、テラス教の信者を受け入れるのです…この国において私とテラス様を祀るのであれば、この国を再び聖教国と認めましょう…そしてこの国において私やテラス様は悪しき神であるイシュタス以上の加護を与える事を約束しよう」
聖教国は今現在、一番貧しい。
司祭ですら食べるのに困り、民衆に到っては餓死者が出ている。
「私は、今この国の教皇をしているマルボー二と申します。本当に、貴方様を信じればこの国を救ってくださいますか?」
「神の名の元に約束しよう」
「ならば、このマルボー二にお任せください。3日間以内に神、理人之命様に全国民が恭順するようにさせてみせます」
言葉に嘘は無いようだ。
これでこの国は大丈夫だろう。
悪く言えばこの国は狂信者の国。
神の言うがままに逆らわずに生きて来た国だ。
女神イシュタスが存在しなくなり、機能が停止しかかっている。
そんな状態で新たに神が降臨すれば『神が欲しい彼らは新たな神に従うだろう』
神になったせいか、人が嘘をついたかどうか直ぐに解る。
この国は本当に恐ろしい…本当に狂信者しかいない。
ただし、嫌な話『ビッチ』だ。
俺が神だと解かったのか…まるで犬の様に尻尾を振る。
この国は放って置いても3日間で本当に恭順するだろう。
帝国に連絡をとり、食料や物資を持ってくる。
後は帝国の時と同じ様に入信させて、同じ様な待遇にすれば良い。
暫くは、帝国に余りある食料や物資を持ってくれば大丈夫だろう。
◆◆◆
これで三強国のうち二国は抑えた。
孤立している王国等…叩のは簡単だ。
マリン王女辞めるってよ。
私が手紙あけると共に王国の空に神代理人の顔が映し出された。
それは王宮の窓からも見える。
私はテラスに走り、直接理人を見た。
その顔は物凄く大きく、この国の何処からでも絶対に見えるだろう。
「なっなにこれ、理人は殺した筈よ…」
「自分から暴露してどうすんだ? 今のお前の声は全国民に聞こえてしまったぞ..」
「えっ、今更遅いな…マリン王女、この会話はこの国中に聞こえている、お前が俺を殺そうとした事は全国民に知られてしまったな…ついでに言うと、俺を殺そうとした人間は吉川を含む異世界人だ。賢明なアレフロードの国民の諸君、もはや女神イシュタスはこの世に居ない…この世界に居る神は三人、私と魔族側の神である邪神、そして私より上位の神テラス様だ..この事は既に聖教国も認めた」
よりにもよって神を名乗るなんて、不届きすぎます。
「偽りの神を名乗る不届き者、この国はイシュタス様により勇者を召喚する事を」
「忌まわしき悪しき風習を行う等言語道断である。 雷よあれ!」
「そんな馬鹿な…ああっ…ああああっ」
空に映し出された理人が手をおろした瞬間に雷が落ちた。
しかも、落ちた先には『異世界人召喚の魔法陣』があった。
この魔法陣は古の時代に我が国が女神イシュタス様から貰ったもの…人の手で作る事は出来ない。
さらに言うなら魔王ですら破壊する事は叶わない…絶対不破の物の筈。
それなら、あの理人は…本物の神という事になる。
「これでも解らないのか、それならこれなら解かるか?」
そう言うと理人は剣を抜くと振り下ろした。
目でその先を追うと…嘘でしょう。
あのエルド山の上の部分が吹き飛んでいる。
「あああっ、待って、待って下さい」
嘘、私の声が届いていない。
「アレフロードの国の者よ。最早此処は安住の地では無い…さっさと立ち去るが良い。帝国でも聖教国でも好きな国へ行くのだ、どちらの国へ行ってもイシュタスを捨てテラス様を信仰するならば、救いの手が差し伸べられる。さぁ、今直ぐ逃げるのだ、私が罰をこの国に与える前に…」
そんな、そんな貴族迄もがこの国を捨てて逃げ出すと言うの…
とはいえ、当たり前よね…ただ手を振るだけで雷を落とし…剣の一振りで山を砕く存在。
魔王でも無理だわ。
そんな存在、神しか居ない…
一斉に門から飛び出すように国民が…飛び出していく。
終わりだ…もうこの国は終わるわ。
空にあった顔が消え、人の大きさの理人が私の元に現れた。
「お久しぶりです、マリン姫」
「理人ど…いえ理人様…この度は私が…いえ、全て私が悪いのです、どうかこの身一つでお許し下さい」
死ぬしかないわ。
こうなったら私が死んで、その命で償うしかない。
自決用のナイフで首を描き切った。
これで死ねる…責任者の私が死ねば、温情もあるかもしれない。
指がなる音がした。
やはり、神代理人は神だったんだわ。
だって死んだ筈の私が生きているんだから…
「そんな自決も許されないなんて…私はどうやって償えば良いのでしょうか?」
なんで困った顔をするの…解らない。
「あの、マリン王女は何か悪い事をしたのですか?」
何を言いたいの…
「私は貴方を殺そうとしました…謝っても許される事ではありません」
「それは別に大した事じゃ無いから良いよ..許してあげる。逆に此処まで追い詰めてすまなかったな」
「あの..どう言う意味でしょうか?」
「いや、俺はアンタに余り酷い目にあわされて無いんだよ…勇者や剣聖の話は女神の使い扱いだから、マリンにはどうする事も出来ない…今回の件だってここ迄国が酷くなればその現況を恨みたくなる….当たり前だ」
何を言い出すの…
まさか、温情をくれるっていうのですか。
「それでは理人様は私をどうしたいのでしょうか?」
「もうマリン王女じゃこの国を回せないだろう? だから、上級国民として我が国に迎え入れようと思う」
「えーとそれはどう言う事でしょうか?」
「もう頑張らなくて良いよ…簡単に言うとかなり上の身分、まぁ元帝王と同じ地位と一生遊んで暮らせるお金をマリンと王様に上げるから…王女なんて辞めて、楽しく暮らせばという提案だよ」
やはり神なのね…全て見透かされているわけか。
「神様相手に嘘ついても駄目ですね…私はもう疲れました。神、理人様のご自由にどうぞ…父も文句は言わない筈です…その有難うございます」
「もう、王女なんて苦労は終わりです。これからは1人の女の幸せを考えても良いでしょう」
「そうさせて頂きます。この城は出て行かないといけませんか?」
「そうですね…帝国にもっと住み心地の良い部屋を用意します。あと宝物庫の宝や財宝は持っていけるなら持っていって自分の財産にしても良いですよ…あとは、そうですね自由は約束しますが…フルールが是非片腕に欲しいそうです」
え~と…フルール。
「フルールが(汗)」
「ええっ、何でも王女の体から『漆黒に輝く薔薇を一輪作って差し上げますわ』だそうです」
「冗談ですよね…神、理人様は自由を下さると言いましたよね」
まさか…
「そんなに慌てることですか…」
「あの…フルールが黒薔薇をに私をすると言ったのですよ…」
「はい?」
「自由なんてありませんよ…薔薇じゃ無くて黒薔薇にしたいなんて地獄です」
「マリン王女、私は神ですから…死んでも生き返らせますから安心して下さい」
「ああっ、神様でも黒薔薇からは守って下さらないのですね..」
「すみません…多分無理です」
「受け入れます….よ」
私は王女なんて重圧に耐えられなかった…神は何もかもお解りなのですね。
これからは…まぁ今は考えるのはやめましょう。
◆◆◆
マリン王女は本当に行動が素早いな。
さっさと王と一緒に来て、王族の権利を手放した。
それと同時に、今回の実行犯の吉川をはじめとする緑川さんを含めて18名が集められた。
しかもしっかりと手錠をされている。
「よう、緑川さんに吉川達久しぶり」
「神代君…生きていたのか?」
「そんな神代が生きていたんて…俺は」
顔が皆、青くなっている。
まぁ殺そうとした相手が生きていた。
当然だな。
「そんなに慌てないで良いよ、それでね君達には二つの道がある。君達が選んだ方に、塔子や綾子、木崎君に三端さん以外は従って貰うからね、ちゃんと決めてくれよ。一つはこのまま異世界で暮らす。最もこの場合は俺を襲った事がバレているから、世界中から非難されるし、命の危険もある。もう一つは日本に帰る事、此方を選んだ場合は日本に帰れる事を保証する。どうだ?」
「ちょっと待ってくれ、日本に帰れるのか?」
「ああっ帰れるよ…但し全員残るか、全員帰るか…僕だけ、私だけは駄目だから話し合いで決めて欲しい」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「解かった(わ)」」」」」」」」」」」」」」」」」」
結局、話し合いの末…皆は日本に帰る事を選択した。
異世界人SIDE:異世界から帰ったのち?
◆◆テレビより◆◆
「今日未明、水路より少年の腐乱死体が見つかりました。死体はかなり多くの人間から暴行を受けておりナイフの様なもので刺殺された模様です」
「死体の身元が解った模様です。死体の身元は神代理人、●●高校の学生です」
「いや、酷いですね…とうとう●●高校から死人が出ましたよ、あの高校の少年AはBとCと共謀して警察官や自衛官を襲ってまだ逃げているのでしょう?」
「流石に、此処までの事をしたのだから本名を晒して指名手配をしても良いと思いますよ」
「少年保護があるとはいえ残忍極まりない犯罪です、少年とはいえ、今回の事件は悪質すぎます。特に少年Bはその後の余罪で少女に薬品の様な物を使い乱暴をしようとした。そういう疑いがもたれています」
「しかし、良く逃げますね…なぜ捕まらないのでしょうか?」
「それは解りませんが、なんだかの逃走手段があるのでしょう」
「此処で速報です…神代理人の殺人には三人は関与していない模様です。現場の証拠から担任の教師緑川と複数の生徒が関与しているようです。警察では緑川を」
◆◆◆
「う~ん、此処は何処だ…日本じゃないか? おい戻ってきたようだぞ」
どうやら、日本へ戻ってきたようだ。
死んだと思っていた、大樹、大河に聖人まで居るじゃないか…
私はまるで眠っているかのような倒れている生徒を一人一人見て回っていた。
やはり、神代に平城、北条、木崎に三端は居ない。
それが、今までの出来事が夢では無かったという事を思い知らされる。
自分の顔を近くの水たまりで見てみた。
どんな基準で治したのだろうか?
酸で溶けたはずの顔はある程度は治っていた。
あくまで、ある程度であって完全には治っていない。
醜く焼けただれていた私や吉川の顔は、火傷を負った跡がある位まで治されていた。
多分、神代君が、困らない程度までは治してくれたのだろう。
殺そうとしたのに此処まで治してくれたのだ…文句は言えないな。
軽く手足を振ってみた。
あの世界の様にスピードは出ない。
元の非力な私だ。
この分なら、ジョブやスキルは無くなったようだ。
元の日本人に戻った。
そういう事だな。
今まで眠っていた生徒たちが一斉に目を覚ました。
「あれ…俺たちは死んだんじゃないのか?」
「大樹に聖人、不思議だな死んだはずなのに生きている」
「まるで夢みたいだね」
死んだと聞かされた三人は生きていた。
「先生…俺」
「吉川も気が付いたのか」
「はい、この傷」
「火傷程度までは治してくれたようだ」
吉川と私は顔に火傷の跡がある。
他の生徒も同じだ…
だが、薬品で溶けたようなものでなく、火による火傷程度になっており…二目と見れない顔では無かった。
討伐でできた傷などはそのまま残っていた。
基準が解らない。
まぁ、無事に日本に帰ってこられた、今はその事だけで胸がいっぱいだ。
◆◆◆
異世界に長い間行っていたが日本では2週間位しか過ぎてはいなかった。
異世界に行った等といっては可笑しく思われるから、記憶が無いで全員で通した。
世間では神隠し事件として大きく取り上げられた。
だが….
「緑川、神代理人殺害容疑で逮捕する」
何が起きたのか解らない。
「神代君が死んだ…そんなバカな…彼は」
「神代らしき男性の死体が見つかったんだよ、かなり凄い暴行を受けたあとナイフでつかれて死んでいた。彼はの後はなんだ、やっぱりお前たちが絡んでいたんだな」
異世界で神になりました。
そんな事は言えない…
「いえ、何でもありません」
「まさか、生徒みたいに異世界にいったなんて馬鹿な事は言わないよな?」
私は黙って警察についていくしかなかった。
◆◆◆
「いい加減にしろ、このゴミ野郎がっ」
「私は、本当に何も知らないんだ」
「そんなわけねーだろうがっ、お前は一体どこの組織に入っているんだ…あんっ」
警察の取り調べは容赦が無かった。
「先生よ..お前ら全員麻薬をやっていただろう?」
「やってない」
「そうか…なら、なんで全員、異世界に行っていたなんて幻覚を見ているんだ? 麻薬でも決め込んで乱交パーティーもしくは売春させていたんだろうがーーーっ」
「そんな事はしていない!」
「だったらよーお前の生徒が産んだ子はなんだ…目が青いじゃないか…外人相手にお前がみだらな事をさせていた証拠だろう」
「…」
「それに生徒やお前の体の傷はなんだ? どう見ても刃物でつけた傷があるよな?正直に吐けや」
結局、罪を認めない私や吉川は神代の殺人罪で起訴された、そして他の16人も殺人ほう助で罰されることになった。
神代の体からは我々の指紋を含み沢山の証拠が出てきた。
大河や大気、聖人は平城綾子への暴行未遂に失踪、北条塔子の失踪の関与を疑われたがこちらは立証されず罪には問われなかった。
だが、連続警察官襲撃事件で逮捕されたと聞いた。
私は解ってしまった…これは…我々が異世界で起こした罪だ。
私や吉川たちは確かに神代を殺した。その後神として復活したとしても殺してしまった事実は変わらない。
そして大樹達がやった事も騎士への暴行などをこの世界の罪に治せば警察官の襲撃事件となるだろう。
つまり、異世界で行った事を日本で償いをさせられている…それだけの事だ。
神代は神なのだ、死体や証拠を作るのは簡単に出来るだろう。
これは冤罪ではない。
場所は兎も角、全員がやった事だ。
その後、我々以外にも過去に神隠しになった者が続々と見つかったが、そのすべてが何かしらの罪で罰された。
多分彼らもきっと異世界で何かした人物なのだろう。
牢屋で異世界に居る妻たちを思い出しながら反省をするしかない。
『もう一度やりなおしたい』
そう思うが…それはきっと叶わない。
罪を認め死ぬまで、私が知っている神に祈りながら過ごすことしかもう出来る事はないないだろう。
◆◆◆
「●●高校の出身者は、絶対に採用することは禁ず」
これは最近、ある人物が発した言葉だ。
発した人物は北条巌。
塔子の父親だ。
沢山の同級生が戻ってきたなか実の娘塔子が戻ってこない。
その事に怒りを覚えていた。
「お前らの息子達はボディーガードもしないで暴行事件か…最早援助はしないし、契約も解除だ」
その前には男女6人が土下座をしていた。
大樹達の両親だ。
そして彼等を見下ろしたように巌の横に座る人物がいた。
平城誠、綾子の父親だった。
「「「「「「すいません、すいません、助けて下さい」」」」」」
「巌さん、北条家と平城家が本気になって探して見つからなかったと言う事は最早娘たちは帰ってこないでしょう」
「ああっ、そうだ…神代家からはあの理人君は『似て非なる者』だそうだ。まぁそれは誰も証明は出来ないらしいが、少なくとも神代家ではそういう見解らしい」
「理人君が傍にいるなら問題は無いな…神代の血筋が傍にいるなら不幸な事にはなっていないでしょう」
「そうだな、だが、それと私たちが娘に会えなくなったのは別だ」
「そこのボンクラのせいで娘にあえなくなった…まぁ半分八つ当たりだが…北条はもうお前たちには微笑むことはない」
「そうそう、そういえば、今度の市議会選だけど、平城家は一切、手を貸さないから頑張って」
「もう良い…だれかそこのゴミを捨ててこい」
日本最大の財閥に裏から政治家を仕切る平城家…そこを怒らせた大樹達の親達に未来はないだろう。
特に自分の娘を守る事を条件に援助をしてきた巌はもう彼らを確実に嫌った。
もう実業家としての人生は諦めるしかない。
※クライマックスまで数話、最後まで宜しくお願いいたします。
異世界人SIDE:異世界から帰った後? ある少女の物語。
あはははっ惨めなものね。
異世界に行って全てを失ってしまったわ。
異世界に行くまでの私は優等生だった。
お父さんは上場企業の役員でお母さんは専業主婦。
私は有名私立大学を目指していた、模試ではA判定だから多分行けたはずだ。
そんな私が異世界転移に巻き込まれた。
正直怖くて仕方が無かった。
だって幾らチートだと言った所で、死なない可能性はゼロじゃない。
だから、お見合いには進んで参加したのよ…
そうしたらね..居たのよ、リアル王子様…
本当は王子じゃない。
子爵だけど、ランスロット様。
風で靡く金髪にすらっとした足…映画のスターにだってこんな人は居ない。
気がつくと私は恋に落ちていた。
こんな素敵な方が私を好きになるなんて信じられなかった。
彼は何処までも優しく..
「子供の頃の夢は白馬の王子様と結婚する事でした」
そういう私に…
本当の白馬に乗って迎えにきてくれたの。
「はははっ僕は王子じゃ無くて子爵だけど結婚してくれるかい」
勿論「はい」と答えましたよ。
それからは甘い毎日でした。
なんでもランスロット様の家では決まりがあり、結婚したら1か月間部屋にこもりっきりで子作りしなくてはならないそうです。
食事とトイレ、お風呂以外は部屋から出る事も叶わないそうです。
男性経験が無い私は顔を赤面してしまいましたが…お義母様も優しく…
「貴族の家に嫁ぐと言う事は跡取りを作る事が重要なの、貴方とランスロットの子供が見たいのよ…孫を私に抱かせて欲しいわ」
といわれ了承する事に。
なんでもお義母様は、あと少しでこの家を親戚に取られそうだったらしいの。
夫を亡くして困っていたが、運よく子供が居たから取り上げられず家を守れた。
そういう話をきかされました。
恥ずかしいけど、幸せな日々を過ごしてから暫くして、大変な事が起きてしまいました。
それは神代君が反旗を翻し国が大変な事になっている。
そういう話でした。
マリン王女から招集が掛かり、クラスの皆が集められました。
行きたくは無いけど、ランスロットの立場が悪くなるから行きました。
その時に酸が掛かって手に大きな火傷を負う事に。
神代君はその時に刺されて死にました。
正直可哀想だと思いましたが…私はランスロット様との生活を取り戻せたので満足だったのですが…
何故か、神代君が神として蘇り、多数決で日本に帰る事が決まってしまったのです。
私は…私は帰りたく無かった…ランスロット様。
そんな願いは叶わなった。
◆◆◆
「神谷順子…いい加減吐け、神代の殺害現場からお前のハンカチが見つかった。お前も殺しに関わったのか?」
何がなんだか解らない。
ランスロット様と離れて…家に帰り両親に泣かれた後…私に待っていたのは警察の事情調書だった。
可笑しな事に、神代君が死んだのは異世界だ、この世界じゃない。
だが、そんな事は言えない。
死んで神様になったし、私は関係ない。
そんな事は言えないし、言ったらキチガイ扱いだ。
結局、警察の話では私は傍観していただけという事で釈放された。
だが、ここからが地獄だった。
「警察から聞いたわよ、貴方、危ないグループと付き合っているんだって」
「この面汚しが」
お母さまに泣かれ、お父さまにビンタをされ、暫く私は部屋で反省しろと出して貰えませんでした。
私の不幸はそれで終わりませんでした。
暫くして私は…良く吐くようになり…気になって検査薬を使ったら。
「嘘…妊娠している、そんな…」
どうして良いか解らない。
こんな事両親に相談出来ない。
どうしよう…
相談が出来ないまま時間が経ち…お腹が大きくなってきました。
『もう誤魔化せない』
私は母親に話しました。
「あんたって子は一体何をしているの? 父親は誰なの?」
ランスロット様はこの世界に居ない。
「知らない…」
パン、パン、パン
えっ
「なんてふしだらな女に育ったのよーーーっ母さんは母さんはハァハァ」
「痛いよ…お母さん、お母さん」
顔が腫れても…お母さんは止めてくれなかった。
泣きながらのビンタが終わった後、私は産婦人科に連れていかれた。
「おめでとうございます、妊娠しています」
そんなのは知っていた。
だが、ここからが問題だった。
お母さんが堕胎について聞いていたが…
「もう周期的に降ろせません」
そういう風にお医者さんが説明していた。
家に帰るまで、家に帰ってからもお母さんは黙っていた。
そして私は部屋に引き籠った。
夜にお父さんが帰ってきてお母さんと話した。
お父さんにも殴られる。
そう思っていたが違った。
「お前には失望した。子供が産まれるまでは面倒見てやるが、産んで暫くしたら出て行け」
そう言うなり…お母さんと部屋に引っ込んでしまった。
なんでこうなるの…
ただ、異世界に行っただけでこんな事になるなんて。
ランスロット様、私を助けて。
そこからが地獄だった。
私をまるで汚物を見る様な目で見る両親との暮らし。
高校は自主的に退学した。
この子が生まれたらこの家も出なければいけないから、コンビニでバイトも始めた。
憧れのキャンパスライフはもう夢になってしまった。
これなら…帰って来たく無かった。
私は残りたかったのに…
神頼みをしようと神社に行った。
だが…可笑しいな、ちゃんとお賽銭を入れたのに弾かれるように入らない。
幾らやってもお賽銭が入らない..そうか神様にも嫌われちゃったのか….
なんでこうなっちゃったのかな。
◆◆◆
やがて子供が産まれた。
金髪に青い目の可愛い子だった。
だが、更に両親は…
「なんてふしだらな女なの、よりによって外人だなんて」
「お前、やっぱり危ない奴と付き合っていたのか…噂で聞いた通りだ顔も見たくない出て行け」
「お父さん、お母さん!」
「もうお母さんなんて呼ばないで頂戴」
「私の娘じゃない」
駄目だ….当たり前だよね、外人の子を産んだんだし父親の名前すら言えないんだから。
「今迄お世話になりました…」
それしか言えなかった。
◆◆◆
どうしよう…どうしたら良いの。
今の私は親から貰った手切れ金の50万円しかない。
これが無くなったら終わりだ。
神様すら私を拒むんだから…もう終わりだよね、あはははっ死のうかな。
赤ちゃんごめんね。
うん…神様?
そうだ、私は本物の神様の居場所を知っている。
『神代神社』
神代君は神になった。
あの場所なら、もしかしたら神代君に会えるかも知れない。
そんな資格は私には無い。
だけど…縋るしかない。
夜だったけど構わずに神社に行った。
『神代君…神代君、私が悪かったわ…謝る、謝ります…だから助けてよ…お願いよ、お願い』
どれ位、祈ったか解らない。
だけど、私は知っている。
神代君は神様になった…だから、居るんだ。
『呼んだかな』
『嘘、神代君の声が聞こえる…』
『違うよ..僕の名前はリヒト、リヒトちゃんって呼んで』
『神代君と違うの?』
『う~ん、簡単に言えば眷属って感じかな、君は…僕と波長があうね』
『そうなの…それで助けてくれるの?』
『そうだね、君は神の加護を捨てて異世界に行って、神殺しに携わっていた、大罪人だよね』
『やはり無理だよね助けて貰えないよね』
『いや、罪は償えば良いんだよ…今僕は探しているんだ』
『何を?』
『この地域にテラス教を広めてくれる人を』
『神代君の宗教』
『それだよ…僕と一緒に日本にテラス教を広めない? そうすればやがて罪は許され、幸せになれるよ…テラス教は現世での幸せを約束するから』
『本当?』
『うん、まず最初は…はい』
嘘でしょう、私の前に札束が現れたよ。
『これだけあれば、生活に困らないでしょう』
『この子の為にも頑張るわ』
やがて世界に
「貴方はテラス様をしんじますか?』
の声がこだました。
そして彼女は『神聖テラス教の教祖』神谷順子として世界に名を広めた。
※神谷順子の物語はこの一話で終わります。
物語はもう少しだけ、続いていきます。
異世界人SIDE:異世界から帰った後?ジャミル
何故か目が覚めると日本だった。
俺は異世界人にナイフで刺され、ワイバーンに食われた筈だ。
あれは夢だったのだろうか?
そんな訳はない。
記憶が鮮明すぎる。
こんな鮮明な夢なんて見るわけが無い。
女神から説明を聞いて無かっただけで、死んだら元の世界に帰れる。
そんな話だったのか?
しかし、此処は何処だ?
何だか地元では無いようだ。
しかし..嫌だな。
俺が此処に戻ってきたと言うなら、あいつ等、他の同級生も戻って来たと言う事だ。
また虐めが始まるかも知れないな…今の俺には異世界での能力は無い。
だが、帰らない訳にはいかない。
親父が家で待っている。
俺が街を出て都心で生きていく為のお金を貯めているに違いない。
だから、帰らない選択は無い。
俺だけ別の場所というのは、女神様が気をきかせてくれたのだろうか…解らない。
よく場所を調べたら…隣町だった。
制服のポケットに手を突っ込むと1000円札が入っていたのでそれを使い電車に乗った。
異世界に居たせいか…街並みも電車も凄く懐かしく感じる。
何年もあの世界に居たんだ。
そりゃ、そうか…
あれ…鏡に映る、この姿は誰だ。
これは、この俺、鈴木誠の姿じゃない。
ましてジャミル鈴木の姿でも無い。
かなり美形に見える。
これはもしかして、異世界から帰った時に女神イシュタス様がくれたものなのか?
解らない、全く解らない。
だが….この姿で親父は俺が解かるのか…まぁ会ってみて解らなければ、最悪1人で暮らすしかない無い。
◆◆◆
「誠…誠じゃないか? お前今迄何をやっていたんだ」
親父に泣きつかれた。
俺は結構長い間、此の世界に居なかったそうだ。
それは同級生たちも一緒で、同級生たちは俺より少し前に駅前広場で寝ているのを発見されたそうだ。
「それでな….誠、お前何をしたんだ?」
俺が何かしたのか?
此の世界での俺は人畜無害の筈だ。
ひたすら虐めに耐えていただけ…俺は誰も傷つけていない。
「親父、俺には心当たりが何も無いんだが」
「そうだよな…お前が沢山の人間と不倫が出来るわけ無いよな」
不倫…異世界でという事ならお金で買っていたとは人妻も沢山相手していたから『不倫』もしたのだろう。
だが、日本ではそんな事をした記憶は無い。
「そうだよ親父、俺がそんな風にモテる男に見えるか?」
「見えないな」
「そうだろう…年齢=童貞年齢なんだからな」
「そうか父さん安心したよ」
俺がこの世界でモテるわけが無い。
◆◆◆
「親父、この人たちは?」
「いや、お前が妻を寝取ったと言いがかりをつけて来たんだ」
全部で何人居るんだ女の数だけ数えれば何組か解るな。
10組位居る。
「あんた随分逃げてくれたな…ようやく捕まえたよ」
「何の事でしょうか?」
「お前が俺達の妻を寝取ったんだ…こちらは証拠だって掴んでいる」
そう言うと男が写真を放り投げた。
嘘だろう、俺が年上の女性とラブホテルに入っていく写真やらなにやら沢山散らばった。
これは…なんだ。
何も知らない。
だが、写真に写っている男は俺だ。
俺の顔色を見た親父が土下座をしていた。
「すみません、息子がこんな事を本当にしていたなんて」
「親父、俺はそんな事をしていない」
「嘘つくな、だったらこの写真は何なんだ、どう見てもお前にしか見えない」
◆◆◆
「なぁ、俺達が嘘を言って無かったのは解かっただろう? そいつは俺の妻を寝取った、それだけじゃない、逃げていたんだ…その後俺たちは話し合いの結果離婚はしない事にしたんだ。…俺たちは慰謝料を請求する。」
「慰謝料って幾ら位必要なんでしょう」
「俺達1人当たり500万円」
嘘だろう10人居るから5000万円。
俺が払わないといけないのか。
いや可笑しすぎる。
「そんなお金持っていません」
「そうか、そうか…じゃぁ一生かけて払ってくれ」
何が起こったんだ…
何故こんな事になっている…
今の俺には真面な話、何が何だか解らなかった。
異世界人SIDE:異世界から帰った後?ジャミル2
なんだよこれ…俺の被害者という男女の数は増えていき…その数は30組になった。
親父と一緒に弁護士に相談した所
「此処まで証拠が揃えられていたら、誰がついても勝てないでしょう」
そう言われてしまった…しかも未成年でも払わなくちゃいけないそうだ。
「それじゃ、こんな金額払わなくちゃならないんですか…」
俺には全く身に覚えはない。
異世界に俺が行ってやっていた事をそのまま返された気もする。
「争えるのはそこだけですね。慰謝料は請求金額は自由です。1億だって請求できます。ですが、今回の場合は、離婚せず再構築したのですし、更に貴方は未成年だ。流石に500万は多すぎます。もし、この地域が青少年育成条例の該当地域なら、此方も更に強くでれますが、残念ながらその地域じゃありません。ですが頑張れば減額は可能かと思います」
話を聞くとかなり減額が出来そうなので、そのまま弁護士の先生に頼む事にした。
結局、それぞれの家庭と調停をする事になった。
「ふざけんな、人の嫁を寝取って反省が無いのか?」
「お前、人として間違っているぞ」
等、散々罵倒されたが…弁護士の先生の
「そこ迄こじれるなら裁判しかありませんね! ですがその場合は『未成年の子供』と不倫をしたという事実をこちらも追及するしかありません。そういう事ですが良いのですか」
その一言で何処の家庭の話も纏まった。
結局、1人当たり500万円の請求が1人当たり30万円まで下がった。
だが…払うべき金額は900万円を超える、それに弁護費用はかなり負けて貰ったがそれでも240万円払わなくてはならなく…この齢で1140万の借金が出来た。
最早にっちもさっちもいかない状態だが、その場の話は終わった。
「さてと、今度は自己破産手続きをしますか?」
「「はい」」
なんでも自己破産手続きは未成年であってもでき、慰謝料の請求先は相手が未成年であっても親には出来ないらしいので『俺一人自己破産すれば』収まるらしい。
結局、その後、この弁護士が動いてくれて自己破産も成立して弁護費用の300万円だけで終わった。
なかなか有能な弁護士だったんだな。
◆◆◆
「さて、全部終わったな..親父」
「歯を食いしばれ..」
俺は親父にボコボコに殴られた。
「いいか、今回の300万はお前を東京に送り出す為に貯めてたお金で払ってやる…だが、お前が女にだらしない人間だと言うのが良く解った絶縁だ、あと俺はもう助けない、このまま此処で高校卒業までは面倒見てやるが..あとは自分で生きていけ」
「親父…」
正直言えば、自分の身に何が起きたのか解らない。
だが、異世界で俺がやっていた事は、お金を渡していたとは不倫だ。
その分のつけをこの世界でさせられた…そういう事か。
しかし、異世界で過ごした期間は数年だ。
だが、なんでこの世界での俺は未成年なのか解らない。
これもきっと女神の仕業なのか?
まぁ良い…仕方なく高校に行くと..同級生たちはもっと悲惨だった。
クラスの半分以上が犯罪に関わり警察に確保されていったようだ。
残った半分という生徒も自宅謹慎という事だった。
教室に来ているのは俺一人だった。
『あいつ等結構異世界でえぐい事をしていたからな』
これ位で済んだ…そう思うべきだな。
俺は自習となった教室で一人教科書を広げた。
※ 本当は前回の話でジャミル鈴木の話は終わる予定でしたが。感想を貰ったので一話足してみました。
次回からは本編です。
変わり始めた異世界
これで大国である、王国、帝国、聖教国は抑えた。
この三国が落ちた時点で、後の国は放って置いても変らず負えないから、後は時間の問題だ。
今日はマリン王女が帝国に来る予定だ。
「良く来ましたね」
「はい、もう私もお父さまも王族の権利は返上します。これがその誓約書です」
「確かに受け取りました」
王印を押した状態の書状を受取った。
此処に来るまで王家の馬車で来たが、これからはそう言った事は無い。
最も、この帝都は治安が良いから問題もまず起きない。
「それじゃこれが上級国民の証です。王家みたいに義務はありません、逆にかなりの権利があります。少なくとも貴方と前の王が生涯遊んで暮らせると思います。王国の歴史的財産などもマリン王女達が必要な物以外は販売して全部渡しますので…」
「それは義務も無い状態で遊んでいて良いというお話に聞こえるのですが」
「その通りです。貴方の子供の代までは遊んで暮らせる生活を保証しますよ」
「随分と待遇が良いと思いますが宜しいのでしょうか? 私はその…」
まぁ俺を殺そうとした事を気にしてそうだな。
「それはもう終わった事だから気にはしてません。それに勇者達には逆らえない状況を考えれば待遇は良かった。それに国があそこ迄疲弊していれば恨むのも当たり前です」
「そう言って頂けると助かります、ですがこの国を見て改めて思いました、私も父も為政者としては不向きだったようですね」
「そうでも無いと思います。この国、いやこの世界は今が一番幸せな世界なのです。多分これから暫くは下がる一方だと思います」
「そう、なのですか?」
「はい、その下がり方を抑えるのが私のこれからの仕事ですね」
「大変なお仕事が待っているのですね」
「そうですね…ただ自分が始めた事ですから…それで前王は?」
「はい、引き籠りからは立ち直ったのですが…その重圧から解き放されたせいか遊んでばかりです」
今思えば、あの国を苦労して回していたのはマリン王女だったような気がする。
マリン王女はかなり苦労をしていたんだな。
「これからは自由ですので、好きな様に生きて下さい」
「そうですね、私は…多分遊び歩くのは無理ですね…暫くはフルールを手伝いながら、理人様でも口説こうと思います」
「今、何ていいましたか」
「うふふっ冗談ですよ? ですが三人は埋まっていますが、王を飛び越え神になったのです。もう一人位増やすのも手ですよ? その気になったらお待ちしていますよ」
そう言いながらマリン元王女は立ち去っていった。
これで、最早この世界で俺がやる事はほぼない。
神として人々を助けていくだけで良い。
それで…この後釜は…
◆◆◆
「私は理人様の傍から離れるのは嫌ですわ…それに花嫁になるのですから、王にはなりたくありませんわ」
塔子と綾子には恐らく、そこ迄の事は出来ないな。
マリン王女ならギリギリで来そうだが、ようやく重圧から離れた彼女には頼みたくない。
そうとなれば…
「フルール、こんなのはどうかな?」
「成程、直ぐには無理ですが、少しお時間を頂ければ大丈夫そうですわね」
「頼んだよ」
「心得ましたわ」
◆◆◆
新婚旅行から木崎君が帰ってきた。
「どうだい、楽しかったかい」
「ああっ、まさか異世界に来てネズミ―ランドに行けるとは思わなかったよ」
「「理人様、凄く楽しかったよ」」
「楽しんで貰って何よりだよ…それじゃ話そうか」
「そうだね…」
俺は今迄にあった事を全部木崎君に話した。
「まぁこんな感じだ」
「随分と色々な事があったんだね..しかし神になったのか…想像以上に驚いたよ」
「まぁね、それで木崎君にお願いがあるんだ」
「お願い?僕に出来る事なら何でも言ってくれ」
「なぁに、簡単な事だよ。木崎君にこの世界の統括責任者、まぁ前の世界でいう大統領もしくは総理大臣になって欲しいんだ」
「流石に僕じゃ無理だよ」
「大丈夫だよ、俺は出来ない人間には頼まないよ、ユウナとユウと共に頑張れば必ず出来るさ…勿論いきなりじゃないよ、俺もフルールも塔子も綾子もちゃんと木崎君のサポートを暫くは続けるから安心して」
「そう言われたら断れないな、解った、引き受けよう。ユウナとユウも良いか?」
「「うん大丈夫だよ」」
三人の関係が変わった気がする。
神とは困ったものだ、考えただけで答えが解ってしまう。
木崎君、とうとうやったな…まぁ良いや。
「それじゃ、頼むよ…暫くしたらようやく片付いたから合同で式もあげよう」
「何だか、本当にすまないな」
「良いって」
これで一安心だな。
※本編は恐らくあと3話~5話で完結予定です。
今暫くお付き合いお願い致します。
【最終話】これから
あれから1年がたった。
テラス様にもうこの世界を任されるようになったが…
『いやぁ…どうだい調子は…』
『仏っちゃん様、仰せの通りに組み込みました』
『ねぇ私の方は』
『マリアちゃん様の方も取り入れましたよ』
結局、テラスちゃんだけで納まらず他の仏や神も『異世界での権利』を主張した。
日本の神や仏で話し合いの結果…それら全部を統合した新しい宗教にテラス教は生まれ変わった。
ただ、此の世界が元々一神教の為、複数の神や仏が存在出来ない。
その為、酷い事に全部を統合した存在に俺は作り替えられた。
神であり仏であり神の息子でもあり、その他エトセトラ…幾つの神や仏の力が加わったのか解らない。
神になった時の力が1理人だとすると、今の俺の力は10万理人を越える。
もう邪神であっても指先一つで滅亡させ、指先一つで復活出来る。
此処までの事になり、大勢の神や仏の怒りを買った創造神は300年の期限ではなく、此の世界その物を地球の神に受け渡す事を約束させられた。
そして女神イシュタスはこの世界の管理責任を問われ…下層世界の女神へと落とされる筈だったが…それを拒否。
その結果、世界の管理責任の無い『自由女神』となった。
自由女神とは聞こえが良いが…実質はノラ女神だ。
本当に何を考えているのか解らず…創造神も頭を痛めているそうだ。
俺の方はというと、神や仏との定義合わせで四苦八苦している。
親友の木崎君の結婚式は何とか執り行ったものの、自分達の方はまだ先になりそうだ。
木崎君といえば、例のネズミーランドの婚前旅行?で、向こうでも神でなく世界で一番金持ちのネズミや熊に祝われて結婚式もしたそうだ。
その際にしっかりやっていた結果、ユウの方が妊娠。
此方の結婚式ではユウはお腹が出ていた。
その結果…ユウナに毎晩の様にねだられているそうだ。
可哀想なので『精力倍増』のスキルをあげた。
ただ、神って奴はヤバイ。
木崎君と彼女達は『やったのか』そんな事を考えただけで親友の初夜の映像が見れてしまった。
勿論、慌ててチャンネルを回すように切り替えたけどね。
三端由香里、通称ゆかりちゃんは、此の世界で引き籠りながら小説を書いている。
元がいじめられっ子で気の弱い彼女は向こうに戻っても碌な事は無いから、此の世界に残した。
俺が心を見透かした結果…木崎君ほどでは無いが『俺を殺したくない』そう思ってはいた様だ。
だが、助けるために行動を起こした木崎君と、ただ見ていただけの彼女は明らかに違う。
俺が死んだ時硬直して動けなかったから、簡単に捕まった。
それが多分、真実だ。
まぁ木崎君が親友なら彼女は友人、遊び友達位には思っていてくれたのだろう。
しかも怖い思いもしているので保護してあげた。
彼女の書く小説は日本が舞台だから、此の世界の人間から見たら意味が解らない。
ただ、塔子や綾子に木崎君には人気があるから、そのままの人生で良いかも知れない。
木崎君が王だから、彼が読んで面白ければ充分価値がある。
マリン王女はあれから、真面目に俺を口説こうとしてくる。
最もフルールにその度に撃退されている。
一度「三人を正室にして側室にでもするか」そう言ったらフルールに怒られた。
神になった俺を口説く存在等…他には居ないからな。
「三人が認めたらね」と言ったら…最近は三人のご機嫌取りを良くしている。
何故惚れられたかは…神の俺でも解らない…だがどうやら本気のようだ。
◆◆◆
日本の神々と異世界の神々の間で『地球人を召喚する場合地球側の神や仏2人以上の承認を得て対価を支払う事』という事が決まった。ただそれさえも、緊急以外では行わないという約束が決まった。これでもうライトノベルの様な事はもう起きないだろう。
これは、他の異世界にも適応された。
これから、余程の事が無い限り異世界に地球人が召喚される事は無いだろう。
そして
◆◆◆
ようやく、俺達の結婚式が出来るようになった。
人間として出席しているのは木崎君とユウナとユウ、マリン王女だけ。
その他の存在は…
「これは流石に緊張する…」
「あはははっこれは…流石に…」
「うん、豪華すぎる」
「この方たちがどうかしたのですの」
嫌この面子に驚かない人間は居ない。
だって、天照大御神様から釈迦様にキリスト様、オーディン様…一体どれだけの神や仏がいるのか解らない。
それらの神々に祝福されながら俺達の結婚式は無事終わった。
◆◆◆
結婚式に来てくれたゼウス様達からの贈り物にネクタルがあったので三人に食べて貰い不老不死になって貰った。
「さてと、今日はこれからどうしようか?」
「そうですわね、時間は幾らでもありますから、ゆっくり考えればよいのですわ」
「そうだよ、永久に時間があるんだから」
「無限にあるとなかなかやる気が起きないよね」
これからはやりたい事を好きなだけやれば良い。
さぁ今日は何をしようか…
ようやく穏やかな日常が俺達に訪れた。
FIN
※話が大きくなり、収拾がつかなくなりそうだったので、こんな感じで一旦終わりにしました。
ややダイジェスト気味になった事をお許し下さい。
少し休みましたら、これのIFに近い話『幻魔の血』を再開致します。
また、そこから少しあけまして、新作を書く予定です。
応援有難うございました。
あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。
この作品では今迄私の作品で負け役だったリヒトをあえて主人公に抜擢しました。
神代理人、合わせて読むと『かみだいりにん』と読めます。
ケインの物語は無事、書籍化されました。
そこでケインの物語は私の中で終わりました。
実はこのケインも昔から読んでくれていた読者様は解かる通り、最初は結構ゲスなキャラでした。
今回は負け役だったリヒトの晴れ舞台でした。
これからは今書きかけの作品を仕上げて…暫くしたら新作を書く予定があります。
また何処かで。
有難うございました。