異世界からの転移..全てを失ったけど…幸せだ!

全てを無くしました

「はははっ 全部無くなってしまった」

僕の名前はセレナ、トリスタン。

トリスタン公爵家の三男に産まれた。

よくある、家督争いもなく二人居る兄も末っ子の僕には優しい。

しかも冷や飯食いでもなく、叔父であるスタンフォード伯の家に子供が居ないから養子に入る事が決まっている。

それだけじゃない、何と僕の婚約者は美姫と名高い、ジョセフィーナ姫だ。

ジョセフィーナ姫は末姫だから王家の家督権は無い、だから正式に結婚した時には僕と一緒にスタンフォードを継ぐ事になる。

毎日が楽しく、毎日が幸せだ…こんな日がこれからも、これからもずっと幸せが続くとそう思っていた。

だが、この幸せは…ある日、全部終わってしまった。

勇者によって全てが壊されてしまった。

魔王が復活して魔族が魔国に集まりつつあった。

そこで、各国の王が話し合いの結果、聖王国が古に伝わる勇者召喚を行う事になった。

そして伝説に伝わる光の勇者、天空院 翼が召喚された。

翼は魔王討伐を引き受けると、1年もたたずに魔王を倒し帰国した。

聖王国にて叙勲がされ、約束が果たされる時が来た。

勇者との約束、それは魔王を倒したなら「望みの物を与える」そういう約束。

「勇者よ、さぁ約束だ望みの物を何でも与えよう」

「そうだな..まずは」

そして勇者が望んだ物の一つにジョセフィーナが入っていた。

こうして、僕は婚約者を失った。

《相手が勇者じゃ仕方ない…世界を救ったんだ》

彼がこの世界にしてくれた事を考えたら..諦めるしかないんだ。

僕は身を引くしか無かった。

しかし、僕は女々しい人間なんだ。

暫くたって、どうしてもジョセフィーナに逢いたくて、こっそりと勇者の屋敷に忍び込んだ。

そこで僕が見た物は…

「ブス、俺に触るんじゃねぇよ」

「そんな、私は貴方の妻なのですよ..それなのに..」

「うるせーな、お前とは体だけの関係だ..それ以上でもそれ以下でもない」

「私を望んだのは貴方じゃないですか? 私には婚約者も居たのに..酷い…」

「そうだな、子供を産んだら、婚約者に返してやろうか? そうだ、子供が出来るまでやりまくって妊娠したら婚約者の元に返してやるよ」

「そんな、傷物にして..そんな事を..そんな..」

「うるせーな、どっちにしろ妊娠したら解放してやるから、それまで頑張れよ」

「そんな、貴方は私を愛していないのですか?」

「愛してないな、ただ面が良かったから選んだだけだ..」

「そんな、貴方が好きなのはやはり聖女様..女魔導士様なのですね..最低です」

「あいつ等か? あいつ等も。同じだぞ、妊娠したらお払い箱だ..お前と同じで愛してない」

「貴方は最低の人ですね…」

見てられなかった。

「翼…貴様幾が勇者でも許せない..僕は、僕は..」

「何だ、お前、そうかお前がジョセフィーナの婚約者か..終わったらこんな女返してやるから、そう怖い顔するなよ..なぁ」

「翼..」

「だから、やるだけやって妊娠したら返してやるって言ってんだろうが..」

「許せない」

「セレナ..」

ジョセフィーナの声が聞こえた気がした、そして僕は気を失った。

水が落ちる音がする。

ここは何処だろうか..暗いしジメジメしている。

「目を覚まされましたな」

うん、目の前に王家の専属の騎士がいる。

「ここは何処でしょうか?」

「バスチーナ牢獄です」

「どうして僕はここに..」

「セレナ様は勇者 翼様の屋敷に忍び込んで居たのを捕縛されました」

《そうか、多分後ろから衛兵にでも殴られたのか、頭がずきずきする》

「それで僕はこれからどうなるのかな?」

「本来であれば死罪になります、何しろセレナ様は帯剣をしていましたから勇者様を暗殺しようとしたとも取れます」

「そうか」

「ですが、そうなりません」

「何故?」

「今回の事は王家も同情的でした、そして他ならぬ勇者様からも穏便に済ませて欲しいといういう口添えがありました」

「そうなのか…」

「はい、だから貴方は貴族籍を失い、国から追放それだけです」

「国を追放されたら..結局は野垂れ死にじゃないのかな..」

「違います、貴方はこの国からのみの追放なので他の国で普通に生活出来ます、ご実家から持たせて欲しいとお金も預かっています」

騎士からお金と手紙を受け取った。

貰った袋には、贅沢しなければ一生暮らせる金額が入っていた。

そして手紙には…

父や兄弟からのお詫びが書かれていた。

「お気持ちは同じ男として解るつもりです..ですが相手は勇者様ですから」

「うん、頭では解っているんだ」

「お気の毒ですが..馬車で国境までお送りします..ここだけの話ですが、今回の裁決採決は 貴方がこの国に居ては辛いだろうというお考えもあります」

「そう..この裁決採決に関わった方にお礼を伝えて下さい」

「必ずお伝えします」

こうして僕は全てを失い国から追い出された。

【閑話】勇者の事情
俺の名前は 天空院 翼、まぁ気弱な男だ。

本であれば何でもよく読む。

マンガから小説、ライトノベルまで…

そして、俺には友達が居ない、別に虐められているわけでも無く、人付き合いが凄く苦手なんだ。

そして夢は..現実的な夢では「引き籠り系のユーチューバーとかに成れたらいいな」と思う。

現実的でない夢では「異世界転移..勇者に成れたらいいな..」そう思う。

いつものように学園に通う最中、車に轢かれた。

人生が終わった…そう思っていたら..

《あれっ何故か生きているぞ..》

「お目ざめですか?」

「ああああ貴方はもしかして?」

《これはもしや、あれなのか?》

「そう、女神です..多分、貴方が思った通りです」

「異世界転移ですよね..俺が勇者に成れるんですか?」

「成れますよ、ええっ成れますとも!」

「だったら、お願い致します!」

「ただ、その前に説明を聞いて下さい..良いですか?」

「解りました」

「あの、言いにくいのですが、私は貴方の思っている通り、異世界転移の女神ですが、貴方が思っているほどの能力はありません」

「そうなのか?」

「はい、よく魔王を倒したら元の世界に帰してあげるという話がありますが..それが出来ません、片道切符です」

「そうですか、別に構いません(勇者に成れるなら要らないよな) ですが、そのチートは貰えるんですよね?」

「はい、魔王と戦う勇者の召喚が今回の趣旨ですから充分に差し上げます..」

「なら充分です..女神様、それであの..ですね」

「言わなくても解ります、勿論、強いだけでなく、容姿も端麗にしますよ..間違いなくモテモテです..心配ならモテるチートも更にあげましょう、勇者の力は子供にも一部伝わるので子作りもお願いしたいですからね…うふふ、その代り制限として、最低でもあちらの世界で5人相手に子供を作って下さい..どうでしょうか?」

「お願いします..有難うございます」

「それではお行きなさい..勇者 翼!」

てなことがあってな…

着いてから可笑しいんだ、男は美男子しか居ないのに..女はブスしか居ないんだ..

少し、話しをして男は不細工が一人も居ないのに..女はブスしか居ないんだよ。

そして、王家の白百合と呼ばれている美姫、ジョセフィーナ姫を紹介されたが…凄いブスだった。

周りの女が化け物クラスだとすると..まぁ学園の全校生徒の中で群を抜いて1番のブス..だけど、人に見えるだけマシなレベルだ。

美醜逆転ならいいな..だから早くここから出たい。

さっさと魔王討伐に行こう…そして、「俺から見て美少女を探すんだ..」

そうしたらさ..

王家から聖女と女魔導士がパーティとして加わった、これがまた酷いブスなんだ。

「いやぁ流石に美男美女絵になりますな..」

これ何の冗談..気持ち悪いんですが…正直言って..これが美少女ならお笑い芸人の女は皆んなトップアイドルなんですが..

よく、ゴリラに似ているからゴリ子とかさ呼ばれている女いるじゃん、その以上に酷いレベルなんだよ..

《仕方ないなここは美醜逆転なんだろうな…お金も貰えるようだから奴隷でも買おう》

二人と一緒に旅に出た

「勇者様は照屋さんなんですね..目を併せないなんて」

「本当にそうだね..シャイなんだから」

ゴリラに限りなく近いゴリ子と潰れアンマンから具が出たような女じゃないなら..普通に顔見て話すさ。

街についた。

直ぐに二人をまいて奴隷商に行った

「一番醜い奴隷を見せてくれ」

確か、これで俺が好きな美醜逆転の小説なら とびっきりの美少女が出て…ゲロゲロ…おえっ

何だよこれ..化け物にしか見えない

全部見せて貰ったけど..気持ち悪い奴しか居ない..仕方なく俺は..声だけ可愛い背の低いゴブリンみたいな女を買った。

銅貨5枚なら良いや…

目を瞑って声だけ聴けば..少しは癒されるさ..声だけは美少女だからな…

旅を続けて半年..ようやく諦めがついた。

この世界は美醜逆転でも何でもなく…女の美しさのレベルが低いんだ。

多分、この世界にはグラビアアイドルクラスなんて居ない..何しろサキュバスまで大阪のオバちゃんの方がまだ綺麗な感じだ。

サキュバスに遭遇した時に聖女が「美しさに惑わされないで」なんて言っていたが..三段腹のオバちゃんに誰が心奪われるんだよ。

そして…あの時にあった美姫と言われたブスがこの世界では本当に凄い美少女なんだな..前の世界なら確実に全校で1番のブスなのに

ここに居る、聖女や女魔導士もこの世界じゃ美少女なんだ…

そう言えば、俺….この世界で5人相手に子供を作らなくちゃいけないんだな..

正直、目を潰そうかな、真面目に悩んでいる。

結局、魔族にも、エルフにも美形は居なかった…美しき旋律者なんていう女の魔族も居たが..やめれ「お前は三段腹デブ子だ」そう叫びたくなった。

気が重い..だが、女神との約束だ..5人と子供を作らなくては…

顔に布でも撒けば出来るか…だが、それでも..この世界で美少女と呼ばれる女が限界だ..

だって、他の女は..まるで化け物なんだからな..仕方ない

あのジョセフィーナ姫と聖女と女魔導士、声だけ可愛い奴隷、あと1人..どうにか頑張って…その後は..森にでも行って隠居してくらすか..

結局、俺はジョセフィーナ姫と聖女と女魔導士、声だけ可愛い奴隷とメイドと一緒に暮らす事にした。

このメイドは実は娼婦だった女だ…更に不細工、だけど前の世界の場末の風俗嬢みたいな感じでテクニックがある..仕方ないさ..

だけど、此奴ら…最近、やたら…永遠の愛とか言い出しやがる…嫌だよ..

正直、エッチだってしたく無いんだからな…一生なんて絶対無理だ。

そんな中、ジョセフィーナの元婚約者が来た。

そんな必死にならなくても妊娠させて子供が出来たら..返すよ..要らないんだから..本当にさ..寧ろ、引き取ってもらいたい…

だけど女神との約束だから悪いな..ドブスでもこいつ等位しか真面な女に見えないんだからさ..

此奴が屋敷に入った事をどうするか聞かれたが…

「何もしないで良い」って言ったさ…確かに此奴から女を奪ったんだからさ…ブスだけど..

でも、俺から見たらこの凄いブスが…この世界では絶世の美少女なんだろうからさ..此奴にとっては大切な彼女だったんだろうな。

前の世界が懐かしいな..だってただ学校に行くだけで…ちゃんとした普通の女の子に逢えるんだから。

あの世界に居たら…少なくともこいつ等以上に可愛い彼女が出来たと思う。

だってクラス一ブスな丸子だってこいつ等より数倍美人だ。

この世界の女は化け物並みのブスしか居ない..全員に愛されたって…嬉しくもない..

帰りたいな…帰れないけど…帰りたい。

現世に転移!
運が悪かった。

国境まで騎士が数名ついて来てくれたんだが、それが仇になった。

騎士がついていたからお宝でも積んでいると思ったのだろう…盗賊団に襲われた。

しかも、それはあっている..僕は人一人が一生食べていけるお金を持っていた。

騎士も強かったがこの盗賊団の人数は多かった。

1人1人死んでいき、とうとう僕1人..僕はこれでも剣の腕はたつ..だが多勢に無勢..8人程切り殺した所で…心臓を貫かれて死んだ。

………

「セレナ…セレナ、起きなさい」

《あれっ可笑しいな..僕は死んだはずじゃ..》

「ええっ貴方は死にましたよ..」

「貴方は女神イシュタリア様ですか..」

「流石は信徒だけありますね、一目で解かるなんて」

「僕はイシュタリア信徒です..生まれてから今迄ずっと祈りをかかした事はありません」

「そうですね」

「そんな僕が貴方の姿を見間違える訳がありません」

「私はそんな貴方を傷つけました」

「勇者の事ですか..でも世界を救う為には仕方なかった..そうですよね」

「はい、ですが結果私は貴方から全てを奪ってしまった…その償いをしようと思います」

「女神様が償う事なんてありません」

「ですが、それでは私の気が済みません..だから貴方にはもう一度別の人生を与えます」

「それは一体..」

「勇者の世界に行って貰います」

「勇者の世界?」

「はい、貴方には 天空院 翼の世界に行って、天空院 翼になるというのは如何でしょうか?」

「翼に?」

「はい、翼の居た世界は、此処よりも高度に進んだ世界で、安全な世界です..そこで勇者に成らなかった翼が歩む筈だった人生を生きてみては如何でしょうか?」

「死んだ僕に新しい人生を下さるんですか? 」

「はい、こんな事しか私には出来ませんが..」

「有難うございます」

「はい、ではお行きなさい」

女神 イシュタリア

良かったわ..素直に行ってくれて、向こうから魂を一つこっちに持ってきたのがばれそうだったのよね…これで誤魔化せるわ!

しかし、こっちの世界の人間は良いわね…チートくれとか言わないしね…女神として素直に祝福しましょう..貴方に幸がある事を..

別に誰でも良かったのだけど…少し位は依怙贔屓しますわ..より私を信心してくれて、あそこまで酷い事になっても私を信じたセレナ..

次こそは幸せにね…もう私のご利益は届かないのだけどね…

転移直後 教室にて
うーん、ここは、そうか僕は天空院 翼になったんだな

えーと、姿形は..僕のままだな..あれっ何故か 翼の記憶もある..

ただ、感情は..ちゃんと僕のままだ。

《それは意識阻害で周りには貴方が 翼に見えています..すこしづつ薄れていって暫くしたら貴方を認識するはずです》

えっ女神様?

《そうですよ? あと、そのままじゃ困るだろうから、困らない程度に翼の記憶も入れて置いたわ..これで本当に最後、頑張って》

はい

女神イシュタリア

《やっぱり、良いわー この世界の人間と違って初々しいわね..この程度で感謝してくれるんだから..お別れなのが残念ね》

僕はそのまま前を見た。

ここは学園って所だな…どうやら僕は机で俯せになって寝ていたようだ。

そのまま起きて前を見た..

《ななななな、なんだ此処は、天国なのか? この世の物とは思えない美女ばかりだ》

きょろきょろと辺りを見る。

男は普通だが、女性が綺麗すぎる、可笑しい、可笑しすぎる。

美しくない女性何て一人も居ない。

《これがこの世界の女性なのか? これが翼の世界…天使にしか見えない》

思わず、見惚れるように見てしまった。

そして、近くにいる1人の女の子と目が合った。

「お前、何見ているんだよ、キモイんだよ!」

《確かに言われても仕方ないと思う…確かにジロジロ見過ぎていた》

「ごめんなさい」

《ここは謝るべきだ》

「大体、翼はよ、この学園にはブスしかいねーとか言って無かったか? 馬鹿にしているのかな?」

「そうそう、見る価値も無いとかいっていたよね?」

《翼ってそんなに理想が高いのか…こんな女神様や天使にしか見えない、こんな凄い美女にブスだなんて…可笑しいよ》

「何とかいえよ、黙ってないでさ!」

「素直に謝るよ..こんなにも綺麗な女性にブスだなんて、僕が悪かった、ごめん」

「「「「…..」」」」

「あははははっ可笑しいので、それは何の冗談なのかな?」

「昨日まで見る価値も無いとか言って無かったかなかな?」

「謝るよしか言えない..」

《それは僕じゃないんだが》

「そう? それじゃ、私は綺麗って事で良いんだよね?」

「綺麗だと思うよ!」

「そう、だったら、私が綺麗に思える点を5個いって、ちゃんと言えたら信じてあげるよ!」

「目が凄く綺麗で思わず吸い込まれそうになる。髪が長くて艶やか。鼻も高いし、唇も艶やかだし、顔も小さいし..スタイルも良いし、足も凄く綺麗でそれで..」

「ああ、もう良いよ5個超えているし..とりあえず様子見、私は様子見してあげるよ」

「そうだね、悪口言われて嫌な気分にさせられるよりましかな..私も考えてあげるよ」

「だけど、今迄が今迄だからね..まぁ解ったわ」

《翼ってこんなに嫌われいるんだ..こんな美女たちを怒らせるなんて何しているんだか》

「今言った事が嘘じゃないならこれから証明してね..とりあえず貴方は女子の中では最低な男だったんだから」

「解った、これからは気をつけるね」

何からして良いのか解らない…

正直言って話したいのだが、此処まで綺麗な女性になんてどう話掛けて良いのか解らない。

正直いって貴族同士の夜会や王に謁見した時の方がまだ緊張しなかったと思う。

何も出来ないまま一日が過ぎていった。

一日の終わり
僕にとっての初めての学園が終わり帰路についた。

正直、目が眩むかと思った。

だって…美女や美少女しか居ないんだ..子供まで女の子は可愛い。

それなのに、そんな綺麗な女の人が凄い短いスカートを履いて居たりするんだ..

確かに冒険者とかしている女性は軽装だったけどさ..貴族は勿論、街娘だって肌を晒す女性は殆ど居なかった。

仕方なく僕は下を見ながら帰路についた。

だが、これだけじゃない…

「お母さま、ただ今帰りました」

「お母様、翼お前どうしたんだい急に」

「えっ」

《ああ、そうか翼はお母さまなんて言わない、ババアとかお前とか呼んでいたんだ..だけど、こんな綺麗な方にそんな事、僕は言えない》

「何でもないよ母さん、少しは態度を改めようと思ったから、これからは言葉遣いを気をつけるよ」

「そう? 三日坊主で無い事を祈るよ」

「はははっ、うん頑張るよ」

そして次はこれだ。

翼の記憶でなんとなく解かっていたけど..見ると凄く強烈だ。

「あははは、何これ可笑しいの!」

この子は、まひる翼のいや、僕の妹だ..これも又困る。

だって、テレビを見ながら、薄着でパンツ丸見え状態で俯せになってソファで足をバタつかせているんだから…

妹とは言え、僕から見たら美少女だ、目のやり場に困ってしまう。

ちなみに父親は海外出張中らしい…何処に行っても美女だらけ嬉しい反面、気が休まらない。

「うん、お兄ちゃん帰ってきたんだ」

「うん、ただ今」

「だったら、ジュース持ってきてくれる?」

解ったよ..僕は冷蔵庫から缶ジュースを取り出し持っていった。

「はい..これで良い?」

「……うん」

「じゃぁね」

僕は二階に上がり、部屋に行った。

(母、妹SIDE)

「お母さん、お兄ちゃん可笑しくない?」

「何か可笑しかったね…私の事をお母様だなんてね!」

「そうだよね! ジュース持ってきてはいつもの絡みで、絶対にとってくれないのを解って言っていたのに..変だよ」

「でもいつもより良いんだから良いんじゃない?」

「それもそうか!」

「きっと又ライトノベルだっけ? そんなのに感化されているだけじゃないの?」

「そうだよね…それじゃ暫くしたら又元に戻るね」

「そうそう、あの翼が何時までもあんな状態でいられると思う?」

「思わないな..暫くしたら、また陰湿に喚き散らすに決まっているよね!」

「そうそう、どうせすぐにババアだのお前って呼んで喚く様になるわ」

「期待しちゃだめだよね」

「期待しても裏切られるだけだからね」

《何だ、この部屋は 不気味な人形が沢山あるよ、美少女なのに目玉が大きかったりこれは何だ気持ち悪いか捨てよう》

《この絵画も何だ、美少女っぽいのに何だか等身が可笑しい、呪いの絵か? これもだ》

《何でこう、呪いの絵みたいな物が多いんだ、この本もそうだ、捨てよう》

ふぅ、これで一区切りついたな..これが記憶にあるパソコンか?

今日は疲れたな、早目に寝よう。

家族と
結局僕は、とびっきり綺麗な女の子の写真集を残して全部処分する事にした。

変な人形や書物はアニメやマンガという物らしいが美的感覚が合わないせいか不気味にしか思えない。

そして、やっぱりこの世界の女性は全ての人が恐ろしい程に美しい。

僕の目からしたら全てが想像を上回る美女しかいない。

今迄、僕はジョセフィーナを上回る美女なんて存在しないと思っていた。

他国の王族も含み、恐らく前居た世界じゃ間違いなく世界一だったかも知れない。

それがだ…この世界だったら、多分並み以下だと思う..何しろジョセフィーナ以下の女性がまず見つからない。

母親や妹ですら遙かに綺麗だし。

お年寄りですら気品がどことなく漂ってくる。

勇者、翼がこの世界の人間だったなら、この前の言動も理解できる。

この世の者とも思えない美女に囲まれていたんだから、前の世界の女性がブスに見えるのも仕方無いと思う。

だったら娶らなきゃいいのにとは思うが、そこは何かの事情があるのかも知れない。

これから何をすればいいのだろうか?

まずは知識の収集だ、女神様がある程度この世界の事が解るが万全ではないと思う。

前の世界よりかなり進んでいると思う、勉強も含みかなり頑張る必要があるだろう。

そして、この世界の女性に対しての慣れが必要だ。

まずは家族からだな。

何からしようか?

うん、何も出来る事は無いな..

仕方ない、何か買ってこよう…

翼の記憶によれば、近所に手作りの最中アイスの店がある。

そして、その最中アイスの小豆味をお母さまや妹が好きだった筈だ。

試しに購入してこようかな?

一緒に食べれば、少しの時間は会話ができる筈だ。

「あらっ出かけるの?」

《この子が外出なんて珍しいわね》

「ちょっとね」

小豆味の最中アイスを3個買ってきた。

「お母さま、まひる、、小豆アイスを買ってきたんだけど食べない?」

「あらっ、翼が買ってきてくれたの? 頂こうかしら」

「お兄ちゃんがアイス? 珍しいね、うん食べる」

《お母さん、お兄ちゃんどうしちゃったのかな..おかしいよ?》

《ええっ、いつもは引き籠って部屋から食事とトイレとお風呂の時しか出て来ないのに..変ね》

「翼っ…えーと」

「何、お母さま..」

「あのね、そのどうしたの? お母さまって、どうかしたのかな? ちょっとおかしいわ!」

「お兄ちゃんとお話するの久しぶりだと思うの..どうしたの本当に何かあるのかな?」

《確かにそうだな、何しろ、翼って結構家族に辛く当たっていたようだし..》

「旨く言えないけど、結構、僕って酷い事してたと思う、だから、これからは少しはマシになろうと思って…」

「そう、だけど、お母さまは言い過ぎよ、そうね普通に母さんで良いわよ」

「そうなんだ、お兄ちゃん頑張ってね..まずは半引きこもりを辞めようよ?」

「解った、母さん、まひる」

その日、僕は寝るまでリビングに居るつもりだった。

まひるとテレビを見ながら母さんと話しをした。

笑うと綺麗な母さんがさらに綺麗になる。

まひるの笑い声は凄く可愛くて天使の様だった。

凄く、楽しいんだけど…服装が刺激的で困る。

何で、太腿が見えるような服をきているんだろう。

「お兄ちゃん、鼻血が出ているよ」

「どうしたの本当に」

刺激が強すぎるよ..

結局僕は早目にリタイアした。

朝の出来事
色々考えていたら眠ってしまったようだ。

階段を降りて歯を磨こうと思っていたら…

「おおはよう..」

「お兄ちゃんおはよう! どうしたのへーん!」

変にもなるさ、とんでもない美少女がタンクトップという肌の露出が多い服を着て、これまた足が丸出しのミニスカートを履いているんだから。

《何を言って良いか解らない》

「いや、まひるは、いつ見ても可愛いなって、思わず見惚れそうになった」

「昨日から何の冗談なのかな? お兄ちゃん前には俺もこのアニメの主人公みたいな妹が欲しいって言っていたよね?」

《それは僕じゃない》

「そうだね、少し反省したんだ、これからは少しは真面な兄貴になるよ」

「そう?まぁ無理だと思うけど頑張ってね..少しは真面になってくれたらありがたいよ、何しろ友達からもお兄ちゃんの評判は凄く悪いから」

「解った気を付けるよ!」

「母さん、おはよう!」

「おはよう、翼、今日はちゃんと起きて来たわね! そう言えば良いの? あのフィギュアやポスター大切にしていたんじゃないの?」

「いいんだ、もうあういう物からは卒業しなくちゃね..あんな人形より、母さんやまひるの方がよっぽど綺麗だしね」

「あら、そうお世辞でも母さん嬉しいわ」

「お兄ちゃん..それは無理があるけど、オタクを辞めるんなら賛成だな」

「さぁ、せっかく早く起きたんだから朝食にしましょう..直ぐに準備するわ」

家族だからだろうか、それとも、少し耐性が出来たのかな?

割と普通に会話が出来た。

「それじゃ行ってきます!」

「「行ってらっしゃい」」

僕の方がまひるの中学より遠いので先に家を出た。

「あのさぁ、まひる、翼なんだけど」

「何だか本当に変わろうと思っているみたい」

「そうだわね、何しろあんなに大切にしていたフィギュアやポスターを捨てた位だからね」

「本当に驚いた..しかもまひるに見え見えのお世辞まで言ってさぁ..ブスなのは自覚しているのに」

「そうね、私に対してもしっかり、母さんだって」

「この間までは、口を開けばブス、俺も可愛い妹が欲しかった、何ていっていたのにさぁ」

「それなら私も一緒だわ、ババアかおいだったもの」

「そのくせ、自分はちゃんと呼ばないと切れるし、正直、何様って言いたくなったわ..兄妹なんだからお兄ちゃんも不細工なのに..」

「まぁ翼はやたら面食いだからね..」

「だけど、変わろうとすることは、まひるは良い事だと思うの! お兄ちゃん友達1人も居ないし、人の友達迄ブス呼ばわりするから友達も家に呼べないし」

「まぁこのまま、本当に変わってくれたら母さんも嬉しいわ..まひる、直ぐに家を出ないと遅刻..」

「あっいけない..行ってきますお母さん」

「はい行ってらっしゃい」

だがこれはまだ始まりに過ぎなかった。

登校にて
何故なのだろうか?

どこか僕が可笑しいのか?

綺麗な女の人が僕を見て笑っている。

《そうか、翼は結構嫌われていたから..仕方ないか》

この世界の女性は凄く綺麗だ、まるで神話世界の女神や天使を彷彿させる。

僕も頑張れば誰か1人位は好きになって貰えるのだろうか?

今は無理だろうな..嫌われているし…だけどいつかは友達になって出来れば交際したいな。

《嘘、あの子凄くイケてない! 芸能人なのかな?》

《昨日見たBLの王子様が、王子様がここに居るよ..》

《あんな綺麗な男の子見た事無いな..私じゃ釣り合わないよね》

《観賞用だよね、きっとあんな男の子綺麗な彼女が居るに決まっている》

意識阻害は、翼を知っている人間に違和感を感じさせない為に存在する。

それも少しづつ違和感を補正していまの彼(セレナ)その物を翼として感じるようになる。

だが、元々翼を知らない人間には、意識阻害は必要ないし、要らない、だから本来のセレナの姿が見える。

セレナが居た世界は女のレベルは現世より恐ろしく低い、だが男のレベルは物凄く高い。

勇者である翼が「男は美男子しか居ない」そう言う程に。

毒舌の彼ですら「美男子」に見える男性しか居ない。

そしてセレナはその世界でも美少年だ、それは彼があの世界で美姫と言われるジョセフィーナ姫を射止めた事からも解かるだろう。

つまり、何が言いたいのかというと「美少年の中の美少年」「現世より遙かに綺麗な男性が居る世界での究極の美少年と言える」

そして、貴族として育った、だから何とも言えない優雅なオーラがある。

《さっきから、態々足を止めてみているよ、やっぱり翼は嫌われていたんだな》

翼の記憶では女の子に嫌われていた記憶しかない、根暗で陰湿、それが翼だったのだから当たり前だ。

だからこそ、セレナは自分が女の子に嫌われていると思っていた。

「だから、そういう気はないって..馬鹿じゃないの?」

「はぁー、散々奢らせるだけ奢らせて逃げやがって、やれないならお前みたいなブサイクに奢る訳ないだろう」

「下心見え見えだってーの、私はそりゃ不細工だけど、やりたいだけの男なんてカラオケまでしか付き合う訳ないでしょ 馬鹿じゃない」

「うるせいーな、お前今日は学校休んでつき合えよ!」

「はぁー何言っているの、馬鹿じゃ無いの!」

「お前が逃げるから悪いんだろうが?」

「はぁ、頭おかしいの? 元々カラオケだけで良いからって言うから付き合っただけしょっ」

「だからって1万5千円も飲み食いして、気が付いたら居なくなりやがって..」

「奢ってくれるって言ったの健司でしょう? 危なそうだから逃げるのは当たり前じゃん」

「どうせ、不細工で遊び人なんだから、男とやりまくっているんだろう!」

「私は夜遊びしているだけで、そんな事はしないんだよね! そういう相手が良いなら他をあたれば良いでしょ!」

「いい加減にしろよ..おらっ!」

「痛い、いきなり殴るなんて最低!」

「うるせいよ、おらよ」」

「痛い」

《どうせ、誰も助けてくれないよね、綺麗で可愛い子は良いな..こういう時はさぁ..今日に限って連れは誰も通りそうにないし、ボコられれば気がすむのかな》

「おらおら、どうしたブース」

「好きなだけボコれば良いじゃん! 私は幾らブスでも好きな男じゃなくちゃ、そういう事はしないんだよ、クズ野郎」

「じゃぁ、処女決定じゃん、お前みたいな女好きになる奴なんて居ないさぁ、体目当て以外じゃな!」

「そんな女をホテルに誘おうとしたあんたもかなりの不細工だと思うけどね」

「うるせいな、殺すぞ!」

見てられないな。

「その子が可哀想だろう、いい加減にしませんか?」

「お前なんだ、何だお前は2年の翼じゃないか? オタクが何を粋がっているんだ、とっとと失せろ!」

「はー..解りました、虐められたく無いのでこれで失礼しますね、それじゃ行きますか?」

僕は手を差し延ばした。

「あっありがとう..」

《何この人、後輩なのかな? サラサラした髪に、涼しげな顔..凄い綺麗..》

「待てよ、翼、さり気なく何連れて行こうとしているんだ..手前っ」

「だって、この人好きじゃないんでしょう? だったらこれでいいんじゃないですか?」

「お前、何言っているんだ! ふざけんなよ!」

「好きでもない、可愛いとも思わない、だったらつき合う必要ないでしょう!」

「お前、生意気なんだよ、しゃしゃり出てきやがってよ、マジでムカついた」

「だったら?」

「こうするんだよ!」

「やめて」

《健司はボクシング習っていて喧嘩が強いんだ、危ないよ..》

「大丈夫だよ!」

《この世界の男ってこんなに弱いのか? まるで止まって見えるんだが》

仕方ない、僕は交わして軽くお腹に一撃を入れた。

「うげっ」

「まだやる?」

「うるせーな、この野郎ムカついた、マジでムカついた、半殺しにしてやんよ」

《しかし、本当に遅いな、これじゃオークにすら敵わないんじゃないかな》

簡単に躱して軽く顔を殴りつけた。

「うげっ 殺してやる」

「あのさ、これでも手加減してあげているんだけど、次からは本気で殴るよ?」

少し、殺気を込めて睨みつける。

騎士団長程には上手くないが、それでも殺気を込めれば相手は…怯える。

相手は怯んだ、もし、相手に殺し合いの経験があれば腰も立たなくなったかもしれない。

安全な世界で生きて来たからその怖さの原因が解らない。

だが、ここで引かなければヤバイ、それだけは解った、だが経験の無さが怖さを鈍らせ強がってみせた。

「けっ、ブスとオタクでお似合いだ、勝手に乳繰り合って居ろよ、やってらんね!」

「今度、手を出したら..」

「出したらどうすんだ..」

「殺すよ」

僕は更に殺気を込めて睨みつけた。

《不味い、此奴可笑しい..あの目、本当に殺す気なのか..ヤバイヤバイヤバイ》

「そんなブスもう手なんて出さない、それで良いんだろう..」

「それで良い」

逃げるように健司は立ち去った。

「大丈夫だった?」

「大丈夫..本当にありがとう、貴方こそ大丈夫でしたか?」

「うん、全然、一発も当たって無いし」

《可哀想な位に弱かったし》

「あっ不味い、遅刻しちゃう..じゃぁね!」

「あっ..」

《行っちゃった、彼凄く綺麗でカッコ良かったな、翼っていうんだね、覚えた同じ学校なんだから探せば簡単に見つかるよね。》

授業と帰り道と妹達
《ふぅ何とか遅刻しないで済んだ》

そのまま、靴箱で靴を履き替え教室に向かった。

相変わらず、僕を見ながら女の子達は何か喋っている。

クスクス笑いをする子もいるから、何か馬鹿にされているのかも知れない。

《転校生なのかな? 初めて見る顔だけどカッコいいね》

《私もそう思う! あんな子を見逃す筈は無いから多分転校生だよ》

《芸能人やモデルでも..居ないよね、あのレベルは》

少しずつでも誤解を解いていかないと、せっかく綺麗な女性に囲まれているのに嫌われているのは悲しい。

「おはようございます!」

まずは挨拶から始めよう。

「「「「おはよう!」」」

うん、知らない女の子達だけど挨拶が返ってきた、少し嬉しい。

まるで天使の祝福なような笑顔..見ているだけで幸せになる、そんな笑顔..だから思わず僕は

「ありがとう」

精一杯の笑顔で返した、到底天使の笑顔には届かないけど。

名残惜しいけど、残念ながら急がないとホームルームに間に合わない。

「それじゃぁ..」

軽く、挨拶をして教室へと急いだ。

《ありがとうだって..あれきっと私に言ったんだ..》

《ちょっと図々しいですわ、あれは私に向けられた笑顔なのです》

《そんなわけ無いじゃない? あのお礼と笑顔は私の物です》

《あっ、又会えますわ..きっと》

「皆んなおはよう!」

「はい、おはよう」

「おはようさん」

「おは」

男女まばらだけど挨拶が返ってきた。

まぁこんな物かな。

《天空院が挨拶なんて珍しいな..》

《昨日いった事は本当なのかな? 挨拶かぁ初めて見たわ》

《まぁ良いんじゃないかな、挨拶したら返してあげても》

とりあえず、席についた。

カバンを置き教科書を出して授業の準備をした。

こうして、授業が始まったんだが…翼って馬鹿だったんだ。

《可笑しいな、翼の記憶が少しはある筈なんだが、全然解らない…》

《いや、言っている意味は解るけど、答えが思いつかない》

「それじゃ、天空院次の問いを答えなさい」

《全然解らない..くそトリスタンの名を持つ僕が解らないなんて、なんて生き恥だ》

「解りません」

「お前はいつもそればかりだな…もういい座りなさい」

「それじゃ、この問いが解る者」

「はい」

「それじゃ緑川」

「はい、それは、X=18-2になります」

「うん、正解だ」

《これは問題だ、僕が居た世界よりかなり進んでいる、翼が馬鹿なのもそうだが、僕はそれ以上に解らない、今日からもう勉強しないと》

はぁ自己嫌悪だ..何も解らない..

「あのさ..昨日謝ってくれたからいうけどさ..少しは現実に目を向けて頑張った方が良いと思うよ!」

「そうだね..頑張らないと不味いと思う」

《あれっ本当に素直だ》

「そうだよ、根拠のない<自分は選ばれた人なんだ>とか言っていると落第しちゃうよ?」

「そう思います ありがとう 氷崎さん」

「素直に聞く気になったんだね、だったらこれからは少しは身をいれて勉強する事いいわね」

「解った、ありがとう氷崎さん」

「余り素直なのも気持ち悪いわね、だけど貴方が1人勉強しないからクラスの平均点が下がるのよ、少しは頑張りなさい」

「解った、僕、氷崎さんの為にもクラスの為にも頑張るよ」

「べべべ勉強は自分の為にする物よ、他の人の..為にするものものじゃないわ」

《私が噛むなんて、可笑しいな、きもい筈の翼に一瞬ときめいてしまった..こんな人に..気のせいだよね、うん気のせいだ》

「解った、頑張るよ!」

「解ったなら良いわ」

《珍しいな、天空院が氷崎の忠告を素直に聞くなんて》

《昨日、謝った事嘘じゃ無いのかな?》

《少なくとも今日は女の子の悪口1回も言ってないよね》

《まぁそのうちボロがでるんじゃないの?》

《人間、そう変わるもんじゃないって》

《そうだよね》

しかし、翼って駄目人間じゃないか!

良くこんな駄目人間が「王よそれは違う、民という物は~」とか「貴族の諸君、貴族たるもの矜持が~」なんて言えたな。

授業に追いつけない僕が言えた義理じゃないが、どう見てもこのクラスで一番の馬鹿だろう。

「馬鹿の癖に他人より優れていると思い見下し、虚勢を張り、指摘されると切れるか変な話で煙に巻く」そんな人物だったんだな。

正直、女癖以外では僕は尊敬していたんだが…「僕の尊敬を返せ」そう言いたくなる。

今日一日は生き恥地獄だった。

さてと帰ろう..

「さようなら!」

「うぇ、私にいったのか、さようなら」

「はいはい、さようなら」

「じゃぁね」

「おう、じゃぁな」

やはりまばらだな…

《ねぇ、天空院くんだけどさぁ》

《挨拶はするようになったね》

《今迄は挨拶しても無視だったのに…》

《今日は自分から挨拶してたよ》

《変わろうとしてんじゃねえの》

《まぁ、氷崎の話も珍しく真面に聞いていたしね》

《まぁ暫く様子見た方がいいんじゃね》

《今迄が今迄だからね》

今日はどうするかな?

あれっ、まひるじゃないか、横にいる二人は友達かな? 

やはり、兄妹なんだから挨拶位はするべきだろうな。

「まひる、今帰り? 横に居るのは友達?」

「お兄ちゃん何で?」

《うわぁ、よりによってこんな所でお兄ちゃんに会っちゃったよ…最低》

「今、学園の帰りなんだけど、見かけたからさぁ..そうだ、初めまして、まひるの兄の翼と申します、これからも妹を宜しくお願いしますね」

《見られたくなかったな、まぁこの二人はお兄ちゃんがキモイってちゃんと話していたから良いか..》

「もう、お兄ちゃんあっちに行ってよ!」

「解った、直ぐに行くからそう言わないで..それじゃね、まひるを宜しくね」

「…..」

「……」

「ごめんね、お兄ちゃんが不愉快な思いさせて、もう話掛けないように言うからさぁ」

「あのさぁ、まひるちゃん、お兄さんの事オタクでキモイって言って無かった?」

「えっキモイじゃん」

「どこがキモイのかな? まひるってブラコンだったんだね、あんなカッコ良いお兄さんだから紹介したく無かったんだ…」

「えっ、何の事?」

「まひるちゃん、酷いよ、私の好み知っているよね、それなのにさ…あんな綺麗なお兄さんが居た事黙って居たなんて、親友なのに」

「何言っているか解らないよ?」

「うちのお兄ちゃんが真面で羨ましい? あんな王子様みたいなお兄さんが居るのに! 可笑しいよ!」

「まひるちゃん…わたし、親友に嘘はいけないと思うの!」

「そうそう、親友は喜びを分かち合う物だよね!」

「二人とも何だか怖いんだけど..いったい何なのかな..」

「いい、まひるちゃんこれからの答え次第で、私付き合い方変えようと思うの」

「私もそうだよ」

「本当に何なの、さっきから怖いよ! 本当に何言っているか解らないし」

「「お兄さんを紹介して!」」

「冗談だよね?」

「だってねぇ、凄くカッコ良いんだもん、あんな男の人が居るなんて..信じられないよ」

「あんな綺麗な男性と一緒に暮らしているなんてまひるが羨ましくてなりません..で紹介してくれるよね?」

「冗談でしょう! 悪い冗談はやめて怒るよ!」

「まひるこそ、酷いよ、幾らブラコンでも紹介位してよ親友でしょう?」

「そうだ、そうだ、紹介位してよ、親友なら」

「私はブラコンじゃないから..だけど本気なの?」

「「本気です」」

「ちなみに紹介しなかったら?」

《何が気に入ったのか知らないけどさぁ お兄ちゃん平気で人を傷つけるからな..紹介したくないよ..話もオタクみたいな話しかしないだろうしな》

「親友辞めちゃおうかな?」

「LINEOの登録外しちゃおうかな?」

「本気で言っているの?..はぁ仕方ない..良いよ紹介するよ..だけど、毒舌だから嫌な思いしても私のせいじゃないからね」

「うん、あの王子様キャラなら許しちゃう」

「そうそう、漫画の毒舌イケメンキャラ、いいね」

「それで何時紹介すれば良いの?」

「「はぁ..何言っているの今でしょう!」」

「なに」

「これから、まひるの家に遊びに行くから紹介してよ」

「そうそう、お兄さん帰ってくるまでずうっと待っているから宜しくね」

《これ、何かの虐めなのかな? 違うよね、気持ち悪いお兄ちゃんを見て馬鹿にする虐めじゃないよね?》

「いいよ、解ったよ」

「あれっまひる 何で泣きそうな顔しているの?」

《そんなにお兄さん紹介するの嫌なのかな、だけど友情と恋愛は別物よ》

《そりゃそうか、ブラコンだからそうかな…だけどこれは譲れないよ》

「別に何でもない」

はぁ、足が凄く重い…帰りたくないな…

妹の友達と
本屋に来た。

翼は結構甘やかされていたみたいでお金を沢山持っていた。

《さてと、どの程度から始めればいいのだろうか?》

色々と本を読んだ結果..小学生の低学年から始める事にした。

参考書や問題集をてっとり早く選んだ。

此処から始めるしかない…

その頃、

「お兄さんまだ帰ってこないね..何時になったから帰ってくるのかな?」

「多分、もうそろそろだと思うけど..」

「気にしないで良いよ? 帰ってくるまで待っているからさ」

「所で、お兄さんって何時も何をしているの?」

「部屋に居るから解らないけど、アニメとか好きだよ..みての通りオタクだからさぁ」

「はぁ? 何言っているの?あれの何処がオタクに見えるの? 優雅に音楽を聴きながら読書とかしてそうにしか見えないんだけど!」

「そうだよね! そんなのとは無縁の存在にしか見えないよ!」

《そう言えば、今日の朝、全部捨てていたっけ》

「冗談だよ! これから紹介するから直接聞いて」

「うん、そうする」

「ただいま!」

「お帰りなさい、お兄ちゃん! 友達がさ、紹介して欲しいんだって!だから手が空いたら私の部屋に来てくれる?」

「解った」

せっかくの誘いだから、どうしようかな?

部屋にカバンや参考書を置いて、着替える..しかし、余りセンスの良い服が無いな..

制服の上着を脱ぐだけで良いか..何かおもてなししないと、そうだ紅茶があったから持っていこう。

僕は紅茶セット一式とリビングにあった紅茶セットを用意してまひるの部屋に向かった。

「まひる、お待たせ!」

「お邪魔してます、翼お兄さん、私まひるの友達の三津島裕子って言います!」

「わ私は、奥山恵子です!宜しくお願いします!」

《うわっ二人とも凄く可愛いな..》

「ご丁寧に、僕は今朝、紹介した通りまひるの兄の翼って言います、これからもまひるをお願いしますね!」

「「はいっ」」

「それじゃ、紅茶入れるね」

《紅茶の入れ方には自信があるんだ、何しろ前の世界では目の前で紅茶を入れる風習があったからね》

僕は茶葉をポットに入れてお湯を注いだ。

「暫く蒸した方が旨いんだ、暫く待ってね」

「そう、なんですか?」

「うん待っている」

《お兄ちゃん、何時こんな紅茶の入れ方覚えたのかな》

「そろそろいい頃だ」

僕は右手にポットを持って高い所から紅茶を入れた、こうすると何とも言えない香りが漂うのと空気が入り美味しくなる。

《お兄ちゃん、本当にどうしちゃったの?》

《やっぱり、凄く優雅…本当に絵になる..》

《どう見ても王子様にしか見えないよ、本当に綺麗》

「それじゃゆっくりして行ってね!」

《嘘、お兄ちゃんが空気を読んだ!》

「ちょっと待って下さい! 翼お兄さんはこれから忙しいんですか?」

「いや、特には用はないけど..」

「それだったら、少しお話しませんか?」

「そうですよ、せっかくだから少しだけでもお話ししましょうよ?」

「それじゃ、少しだけお邪魔させて頂きます」

《嘘、2人ともどうしちゃったの? 顔何か赤くして お兄ちゃん頼むから毒舌やオタ話は辞めてね》

本当は気の利いた話を振らなくちゃいけないんだけどな..そうだ。

「そういえば、三人ってどんな感じの友達なのかな?」

「私達は遊び仲間なんです!」

「何時も一緒に居るんです」

「そうなんだ、まひるにこんなに可愛い友達が居たなんて知らなかったよ」

「そんな可愛いだなんて! 困ってしまいます」

「可愛いだなんて、ありがとうございます!」

《何、何なの! キモイお兄ちゃんに可愛いって言われるだけで何でそんな顔になるの?》

「所で翼お兄さんには彼女とか居ますか?」

「居ないよ! 見ての通り僕はモテないからね!」

「そんな本当かな怪しいなー」

「本当だって、逆に聞くけど二人ともこんなに可愛いんだから彼氏がいるんじゃない?」

「裕子は居ません、フリーですよ、フリー」

「恵子も居ません」

「本当? 怪しいな、こんなに可愛いくて綺麗なのに…」

「そうですか..」

「本当に居ませんってば、信じて下さい」

「うん、解かった信じるよ..それでいい?」

「「はい」」

《その二人はお兄ちゃんとは違うんだからね、モテるけど面食いだから相手が居ないだけなんだからね》

「所でお兄さんの趣味は何ですか?」

「趣味ね…何だろう?」

《父上の恥にならないように何でも習ったからな..》

「あの、焦らさないで教えて下さい!」

「そうだね、剣術と読書かな」

《狩りや馬術は翼の記憶だと余りしないようだし..こんな物かな》

「剣術、剣道じゃなくて?」

《お兄ちゃん、また悪い癖が出た》

「お兄ちゃん、冗談は辞めて!」

「いや、冗談じゃないんだけど」

「それじゃ、翼お兄さん、何か見せて下さいよ」

「そう、ここじゃ狭いから庭で良い?」

「「はい」」

「じゃぁ、僕は用意してくるから先に待ってて」

確か部屋にこちらの世界の父さんのお土産の木刀があったな、後は台所からリンゴでも持っていくか。

《お兄ちゃん…やっぱり中二病が出てきた、せっかく真面に見えていたのに..おしまいだよ、どうせアニメのキャラクターの真似でもすんでしょう..》

「お待たせ!」

「お兄ちゃん、カッコ悪いから辞めよう!」

「まひる、何止めてんの? せっかく翼お兄さんが剣術見せてくれるっていうのに」

「二人ともみたい?」

「「見たいです」」

「それじゃ、まずは軽く型からね」

体の力を抜いて軽く素振りをする、木刀が唸りをあげて音を出す。

誰が見ても素人のチャンバラには見えない、今の翼がセレナだった頃、貴族の義務として討伐があった。

その為、子供の頃から学んだものだ。

《嘘だ..ナニコレ、いつもの中二病のアニメの真似じゃないよ》

《何て優雅なの、思わず見惚れちゃった》

《恵子は剣なんて知らないけど、これが凄いのは解るよ》

「これじゃ退屈だよね..だから此処から..そうだ、まひるこのリンゴを投げてくれる」

「何考えているのお兄ちゃん」

「あっだったら私が投げて良いですか?」

「うん、裕子ちゃんでも大丈夫」

「それじゃ投げますね..はい」

飛んできたリンゴを軽く木刀で上に弾きあげる。

そして落ちて来たリンゴを刀身で受けとめバランスを保ちピタリと止めてみせた。

「嘘っ、それって時代劇で見た事があるよ..凄い」

「本当に出来るんだ..凄い翼お兄さん..凄いです」

「どうしちゃったのお兄ちゃん」

「まだ、これからだよ」

僕はリンゴをそのまま上に弾くと体を回転させ同じくピタリと刀身をブラさずに受け止める。

そして、今度は更に高くリンゴをはじき、飛び上がり回転して着地して、同じように刀身で受けた。

勿論、ピタリとリンゴは動かない。

《あれってまるで、映画の主人公がやるような奴だよね》

《昔、見たドラマの騎士がやっていたような気がします..本当に出来るんだね》

《何が起きているの? お兄ちゃんどうしたの?》

「はい、これで終わり、それじゃ邪魔しちゃいけないからこれで部屋に戻るね..そろそろ勉強しないと」

「はい、有難うございました」

「また、遊びに来ますので宜しくお願い致します」

「こちらこそ、宜しくね!」

「「はい」」

しかし、凄く可愛かったな..この世界の女の子は美少女が多いけど、その中でもかなり可愛い方だと思う。

何とか誤魔化したけど、心臓がバクバクしていた。

《あれは妹の友達、友達、うん大丈夫だ》

さてと勉強しなくちゃ…僕は小学三年生の参考書とドリルを取り出した。

「ねぇ、お兄ちゃん可笑しいでしょう? 余り関わらない方が良いよ」

《そのうちボロが出るから..》

「まひるちゃん、あれの何処がオタクでキモイのかな? 凄くカッコ良かった..うん胸がときめいちゃうよ」

「まひる…あれはオタクじゃなくてリア充の方がまだ近いんじゃない? 確かに剣術とかいうと中二っぽいよ?」

「ほらね?」

「だけど、あそこまで出来るなら、本当に剣術だと思うよ、アニメのキャラじゃなくちゃ出来ないような事が出来るんだからさぁ 何かの流派を極めましたって言われても、本当なんだと思う位凄いんだけど」

「そう、だったら知君に告白するのは手伝わなくて良いんだね、裕子ちゃん」

「それ取りやめたから良いよ! 知君より100倍位翼お兄さんの方がカッコ良いもん!」

「嘘でしょう? 恵子ちゃんも何か言ってよ!」

「そうね、まひる、私の義理の妹にならない?」

「何を言っているのか解らないよ、恵子ちゃん!」

お兄ちゃん魔法でも使ったの?

二人が可笑しくなっちゃったんだけど..

【閑話】 智子 王子様は何処に!
私は今日、物凄くカッコいい男の子にあった。

まるで夢でも見ているみたい…

私はまぁ、その遊び人だ、夜遊びが好き一晩中遊んでいる事も多い。

クラブにいったり、カラオケで遊んでいたり、家にはいない事が多い。

外見は、まぁ完全に遊んでいるようにしか見えない..うん。

そして、物凄く可愛い訳ではないな..お化粧して着飾ってようやく人並みかな? 

ただ、スタイルだけは良いのと、割と露出の多い服を着ているから男は結構寄ってくる。

高校生なのでお金も無いから、寄ってくる男にたかって遊んでいる。

そんな生活しているから女の友達は少なく「男に媚びている」とか「股が緩い」なんて陰口を叩かれている。

「股が緩い?」何を言っているんだか?

確かに遊び人で派手だけど、そう言う事はしないんだよね!

そういう事は「本当に好きになった人としかする気はないよ?」案外身持ちは固いんだから。

派手な格好して遊んでいると男が寄って来て奢ってくれるからしているだけなんだから。

本当に男って馬鹿だよね、ミニスカート履いてさぁ胸元が空いた服着て居れば勝手に寄ってきて奢ってくれるんだからさぁ。

しかし、この間は不味かった..健司という奴がいてさぁ..しつこくナンパしてくるから、仕方なくカラオケだけつき合ってあげたんだけど..

しつこいったらありゃしない、多分、あいつ私がトイレに行った時にカバンとかあけて学生証でも漁っていたのか学園近くで待ち伏せしてやんの。

しかもカラオケ奢った位で偉そうに、下心丸見えなんだから普通逃げるでしょう?

ボギャブラリーが貧困でボクシングの自慢ばかり、しかも話の大半が暴力自慢、話していても全然楽しくないっていうの…

しかも此奴、本当に馬鹿なのか、朝、学園近くで待ち伏せして散々喚いた挙句、ボコってきて。

本当に最低な男…こんな人前で暴力振るう何て馬鹿なのかな、そうとしか思えない。

助けは…残念、私は嫌われているから誰も助けてくれないな….せめて警察でも呼んでくれないかな..

知り合いも通らないし..このままボコられるしかないか..

マジ最低…本当に殴って来て….それでもいう事を聞かなかったら..罵倒しやがんの、やっぱり、付き合わないで良かった本当にそう思う。

まだ続くのか…そう思ったらさぁ、本当にそう思っていたらさぁ…凄いんだよ!

まるで物語の主人公の様な、王子様みたいな男の子が間に入ってくれたんだよ!

一瞬、自分の目を疑ったよ….

あっという間に健司を倒してさぁ..

「大丈夫だった?」

「大丈夫..本当にありがとう、貴方こそ大丈夫でしたか?」

猫かぶっちゃうのは仕方ないよね。

「うん、全然、一発も当たって無いし」

確かにそうだ..うん。

「あっ不味い、遅刻しちゃう..じゃぁね!」

「あっ..」

名前も名乗らずに行っちゃったよ…

下心が無いっていうのはこういう事なんだよ…

健司が翼って言っていたし、うちの制服を着ていたから直ぐわかる..

本当にカッコ良いな….

こういう男の子とならバカップルになっても良いよ..いや寧ろなりたい。

こういう子とならホテルだって何だってつき合うよ…いや寧ろホテル代だって出しちゃうかな!

だって、だって….本当にカッコいいんだもん..

「静香、お願いがあるんだけど?」

「智子、私に相談って男の子の事でしょう?うん何でも聞いて!」

この子の名前は本田静香..この学園の男の子、特に美形には詳しい。

女の子に出回っている男子のランキング表は彼女が作っていたりする。

「えーとね、凄い美形で王子様みたいな感じで、翼様っていうんだけど..情報をお願い」

「居ないよ..」

「嘘だ..そんなハズないよ!」

《あんな美形なんだもの貴方が知らない筈ないじゃない》

「もしかしたらさぁ…吊り橋効果で本当はそんな美形じゃないんじゃないの? 私基準の美形には居ないよ..根暗でキモイ奴なら確か1人いたけどさぁ」

「根暗でキモイんじゃ違うな…」

「だけど、可笑しいな..そんな子が居たら確実にチェックしているんだけどな…そう言えば謎の転校生が王子様みたいなんて噂があったけど、先生に聞いたらデマだったよ! 転校生なんて居ないってさぁ」

「そうなんだ、解ったごめん!」

翼様..何処に居るのかな..はぁ..

【閑話】 裕子 理想の男性が現れた!
私は今、家に帰ってポスターやCDの処分をしている。

正直、私って凄く男性に対しての理想が高いんだと思うの!

だってさぁ、本当にときめかないんだから仕方ないんじゃないかな?

正直言って、そこそこ私は可愛いい、背は少し低いんだけどそれが一部の人には良いらしい。

だけど、今迄、結構、手紙や告白は受けたけど…付き合う気にはなれなかった。

「何でかって?」だってときめかないんだもの仕方ないじゃない!

しかも、告白する奴の多くに妥協が入っている気がして仕方ない、近くの高校には有名な「剣道小町」何ていう美少女がいるし、他にも名前が通った美少女がいる。

うちのクラスの男子の多くも一度は憧れた事がある筈だ。

だから、ある意味、私への告白も妥協なのかも知れないと思う。

実際にこの学校にも「麗しの生徒会長」なんて呼ばれる女の子が居るし、もし私とその「麗しの生徒会長」が同時に告白したら絶対にあっちを選ぶはずだ。

つまり、「私が好きで好きでたまらない」んじゃなくて、適当な所で妥協している..そうとしか思えない。

だから、全員交際をお断りした。

そんな事を恵子やまひるに話したら..

「何様なのかな?」

「はいはい、解りました」

だそうだ。

身の回りに好みの男性が居ないからアイドルに逃げた。

そのアイドルだって私が点をつけるならせいぜい60点位..でも私の周りには30点以下しか居ないから仕方ないよね。

ネットも含んで、それ以上の男の子が居ないから惰性でファンなだけだし…

アイドルが相手でも、他の女の子の様に結婚したいとか彼氏にしたいとまでは思えないんだよね..

だけど、何処にも好きになれる相手がいないんだから仕方ないくこの60点アイドルのグッズを集めている。

恵子は良く漫画や小説を読むけど…まぁ本の中まで探せば、居る事はいるけど..本の中の王子を好きになっても仕方ない..虚しいだけだよね。

簡単に言えば..私はとてつもなく理想が高いのよ。

でもこのまま行っても仕方ない…まひると恵子が、男と付き合ってみればと言われて「このままじゃ」と思い 知久と試しに付き合おうかなと思っていたんだ。

まひるが「知久くんってクラスのアイドルだよね? 何でそんな事いいだしたのかな?」とか言っていたし、

恵子には「あんた何様なの?」とか言われたが、一度は告白も受けたしいけるんじゃないかと思う。

まぁ断られたらそれで別に構わないし…

所詮30点の男の子、断られたって別に何とも思わない。

そうしたらおせっかいのまひるが「男の子に目を向けるのは良い事だよ」とか言い出して、知久に「機会をみて言って来る」と言い出した。

そこまでしなくても別に良いのに…

まぁどうでもいいや…

何て思っていた事がありました。

そしたらね、そしたらね…見つけちゃったんだよ! 見つけちゃったんだよ! 100点満点、いや10万点以上の男性。

それが、灯台下暗し、何と、まひるのお兄さん…翼さんがそうだったんだ!

可笑しいと思ったんだよね、まひるってさぁ、散々人の家には来るくせに絶対に自分の家には呼ばないんだ。

「遊びに行く」って言っても、「また今度」とか「今日は駄目」とか言って絶対に断るの!

私だけじゃなく恵子もそうだったから、2人してある日問い詰めたんだ。

そうしたら「根暗で性格の悪い兄貴がいるから」だってさぁ…まぁ友達だし、それなら仕方ないかな、そう思ってたんだけど..

まひるって嘘つきだよね!

多分、凄いブラコンなんだと思う..あんなにカッコ良いお兄さんだから見せたく無かったんだよ!

親友なんだから会わせてくれても良いのにね…まぁ解らなくもないけどさ…

あった瞬間に電流が走ったもん..

ようやく理想の人に巡り合ったんだって涙が出そうになっちゃった。

「今、学園の帰りなんだけど、見かけたからさぁ..そうだ、初めまして、まひるの兄の翼と申します、これからも妹を宜しくお願いしますね」

たったそれだけ..ただ挨拶されただけ、それだけでまるで時が止まったように何も言えなくなるの…信じられないよ!

まひるを見たら凄く嫌そうな顔をしてた。

多分、お兄さんが美形なのがばれるのが嫌だったんだね…

もう遅いっていうの…

「もう、お兄ちゃんあっちに行ってよ!」

直ぐに追い払おうとしてさぁ…

「ごめんね、お兄ちゃんが不愉快な思いさせて、もう話掛けないように言うからさぁ」

悪いけどもう騙されないよ…

恵子と一緒に問い詰めた。

はっきり言ってこれ以上誤魔化すようなら、もう親友でも何でもないよね?

そう思った、恵子も同じだったかも知れない。

「親友辞めちゃおうかな?」

「LINEOの登録外しちゃおうかな?」

ここまで言ってようやく紹介して貰えるようになった。

まだ、最後の抵抗で

「本気で言っているの?..はぁ仕方ない..良いよ紹介するよ..だけど、毒舌だから嫌な思いしても私のせいじゃないからね」

だって、だけどあんな挨拶をするような人がそんな人とは思えよ、悪いけどさ。

それに万が一本当にそうだとしても受け止めちゃうよ!

《この豚が》

とか言われても《私は醜い豚です、だけど傍に置いて下さい》うんそう答えちゃうかも知れない。

時間を置いたらまた、まひるが誤魔化しそうだからさ、無理やり今日紹介して貰う事にしたんだ。

そしたら、そしたら…マジか? マジなんですか? 凄く優雅なんだもん..驚いた。

紅茶の入れ方が凄く綺麗、一瞬映画のワンシーンを見ているみたいだった…

直ぐに行こうとするから直ぐに引き留めたよ

今思うと「ちょっと待って下さい! 翼お兄さんはこれから忙しいんですか?」必死さが滲み出ていて凄く恥ずかしい。

思いっきり大きな声だしちゃったよ。

しかも何処が毒舌なのかな?

私の事、私の事「可愛い」なんて思わず顔が真っ赤になっちゃった..

しかも、こんなにカッコ良い翼お兄さんなのに、彼女が居ないんだって..信じられない。

ああ良かった..本当に..

一生懸命、「裕子は居ません、フリーですよ、フリー」ってアピールしたよ…

「本当? 怪しいな、こんなに可愛いくて綺麗なのに…」だって、だって…また可愛いって言われた。

話を止めると席を外しちゃいそうだから..趣味について聞いてみたんだけど…

何か考えているらしくなかなか答えてくれなくて…

「あの、焦らさないで教えて下さい!」とついせかしちゃった。

「そうだね、剣術と読書かな」だって

剣術? この辺りがまひるが言っていたオタクの面なのかな?

剣道じゃない辺り中二が少し入っているのかな? だけど別にいいじゃん!

その分割り引いてもカッコ良いんだからさ…

そう思っていたんだけど…

あの、《本物じゃん..どう見ても凄い腕前だよね…本当に剣道じゃなくて剣術じゃん》

正直、「私は実は勇者です」とか言われても信じてしまいそうな位綺麗だった..

一番、近い所だと、騎士とかが近いかな。

実はアーサーの生まれ変わりです…とかランスロットって言います…そう言われても信じちゃうよ。

本当にその位凄いんだよ!

全てが完璧すぎるよ…

これから、私はまひるの家に入り浸るつもり!

親友の私に嘘ついたんだから良いよね?

明日から毎日行かなくちゃね…

多分、恵子も一緒だと思うけど…

そして出来る事ならお近づきになりたいな…

【閑話】 恵子 本当に..本当に居るなんて
私は文学系の美少女を装っています。

確かに本は好きだけど、実際の所は悪食。

《本》であれば何でも読む..何が言いたいのかと言うと…漫画でもライトノベルでも何でも読むの。

ええっBLから何からね。

だから、皆が思っている、文学少女では無いの!

文学少女+腐女子っていうのが一番しっくり来るかも知れないわね。

私の家には、友達に見られたらひかれるような本が沢山ある。

最近のブームは逆ハーレム物に少しだけ、本当に少しだけ嵌っています。

この事は、親にはバレているけど、勿論友達にはバレていない。

「本ばっかり読んでないで貴方も中学生になったんだから少しは現実に目を向けなさい!」

「はいはい、解りました」

《いつも親はこればかり…本当に嫌になる》

これに増して最近は..

「そんな現実に居もしない男の子に憧れてどうするのかね..ちゃんと目を向けないとお母さん心配だわ!」

《だけど、現実の世界の男の子なんて子供みたいだし碌なのいないじゃない! 好きになんてなれないよ》

「心配しなくて良いよ、そういう気になれないだけだからさぁ」

《正直、恋愛はまだ私には早いと思うよ..だって好きになれそうな男の子なんて居ないんだもん!》

「少しはまひるちゃんや裕子ちゃんみたいに明るくしないと彼氏が出来ないわよ!」

《彼女達だってお母さんが思って居るほど明るい訳では無いのに..私ってそんなに暗いのかな?》

「煩いな、善処します..これで良いんでしょう?」

「まったくもう!」

だけど、現実問題として男子と付き合うなんて無理だよ!

粗暴でガキで、エロくて本当に猿みたいにしか見えない..まひるは彼氏が欲しいなんていっていたけど、何が良いのかしら?

逆ハーなんて要らないわよ!

1人で良いのよ! 1人で!、思わず小説の主人公に突っ込んだ事があったわ。

別に「傾国の美少年セレス」と付き合いたいなんて言わないわ、貴方の取り巻きの1人「伯爵の次男で騎士見習いのクロード」で良いのよ!

わけて頂戴…そうしたらさぁ悪役令嬢なんて私が消してあげるから…虚しいわね…小説のヒロインに馬鹿みたい。

結局は、私は子供なんだわ..よく大人びてる、なんて言われても中身は中学生のガキなのよ..まだ恋愛は早いと思う。

誰かとデート? あり得ないわね..だけど、このままじゃ一生真面な恋愛なんて出来ないんじゃないかな?

そう思っていた時期があったんだけどね…

とんでもなく近い所に…居たのよね。

まさか、友達のお兄さんが正にそれだと思わなかった。

まひるって凄い嘘つきだ、だけど気持ちは解る気がする。

こんなお兄さんが居たら..私だってブラコンになって女なんて追い払うと思うからさ..

だって、そこに居たのはまるで「傾国の美少年セレスのお兄さんのセレナ」に見えるんだから。

セレナってのはセレスのお兄さんで、公爵家の長男。

私的にはセレスより、落ち着いた雰囲気で大人のセレナの方が好みです..はい。

乙女小説のキャラクターがいきなり目の前に現れたらどうなるのか?

答えは簡単…見惚れてしまい体が動かなくなるの…本当にそうなるなんて初めて知ったよ..

体に電流が走るのよ..

出会いは本当に突然起こるの..

こんな風にね…

「まひる、今帰り? 横に居るのは友達?」

なんでこんな人とまひるが知り合いなの? 

まさか、まさか彼氏とか? そうだったら多分私は友達でいられないわ..羨ましすぎるもん。

なに嫌そうな顔しているの? そうか私達に見せたく無いののね..

「今、学園の帰りなんだけど、見かけたからさぁ..そうだ、初めまして、まひるの兄の翼と申します、これからも妹を宜しくお願いしますね」

そう、兄妹なんだ、良かったわこれで親友でいられるわね…

「もう、お兄ちゃんあっちに行ってよ!」

「解った、直ぐに行くからそう言わないで..それじゃね、まひるを宜しくね」

あんた何してくれるの?

お兄さんを追い払うなんて! そこは親友なら紹介してくれるべきじゃない。

はぁ行っちゃったじゃない何してくれるのよ!

「ごめんね、お兄ちゃんが不愉快な思いさせて、もう話掛けないように言うからさぁ」

どの口が言うのかな?

あれが気持ち悪いお兄さん?

正直あれが不細工ならこの世界に美形なんて存在しないわよ!

ええっあれだけ美形なら..性格がどれだけ可笑しくても許しちゃうわ!

赤ちゃん言葉で「恵子たん..はぁはぁ」とか言っても笑顔で「はーい」って返すわよ!

もちろん、こっちから抱きしめちゃうよ…

まったく、これ以上誤魔化すなら友達辞めるわ..思わずスマホ取り出してさぁ..

「LINEOの登録外しちゃおうかな?」と言っちゃったよ。

「本気で言っているの?..はぁ仕方ない..良いよ紹介するよ..だけど、毒舌だから嫌な思いしても私のせいじゃないからね」

はぁ? 何を言っているのかな?

これ程の美形なんだよ毒舌でも良いよ..うん。

リアルセレナなんだよ! リアル乙女ゲーキャラなんだよ! 芸能人のパチモンじゃないんだよ!

《こんな事も出来ないのか愚か者!》何て言われたって

《愚かな私をお許しください》 《愚かな私を導いて下さい》 そう答えちゃうよ..間違いなく!

正直ご褒美にしかならないわ..

誤魔化されそうだから、なし崩し的にその日のうちに紹介して貰う事にした。

やっぱりまひるは嘘つきだ..これでもかって位に優雅で優しいじゃないの。

「可愛いい」だなんて..乙女ゲーのヒロインが心を根こそぎもっていかれるのが解る気がするよ..本当に。

私、この人に言われたら多分、何でもしちゃう気がする。

きききキスとか..それ以上でも多分してしまうかも知れないわ..

だが横を見ると..うん裕子も同じみたいね..

恋人の話しになったら

「裕子は居ません、フリーですよ、フリー」

こんな凄く、必死な裕子初めて見た..おかげで少し冷静になれたよ。

「恵子も居ません」

だけど、顔が赤くなってドキドキが止まらなくなりそう。

そして、翼お兄さんの趣味は「剣術と読書」なんだって。

思わずキャーとか黄色い声あげそうになっちゃった。

剣道じゃなくて剣術だよ?

リアル乙女ゲーキャラじゃん!

そして剣術を見せてくれたんだけど…本物にしか見えない。

目がね、目がね..凄く幸せなんだよ、緩みっぱなしになるの..あり得ないわ..本当に。

見続けるとね、まるでパズルのピースが嵌め込まれていく見たいに「好きという気持ちが組み上がっていくの」

気のせいか、本当に彼の周りに白百合が見えて、その後ろにお城と綺麗な高原が見えてくるの!

この人が手に入るなら他は何も要らないわ..子供の筈の私の心に何だか変な物が芽生えてくるのよ..

この人が私の王子様…運命の人..今なら解る、恋人の為に喜んで死んで行くヒロインの気持ちが..

私もこの人の為なら..喜んで死ねるわ…

「嘘でしょう? 恵子ちゃんも何か言ってよ!」

あれっ何、まひるが何かいっているわ…

「そうね、まひる、私の義理の妹にならない?」

そうね、将を射止めるには馬から..まずはまひるから攻略しようかしら..

親友なんだから..毎日遊びに行こう…うんそうしましよう..

体育にて
結局、徹夜で勉強してしまった!

一応、まんべんなく進めていき、小学五年生の分まで進めた。

しかし、面白いなこの世界の学問は..学ばなくても良い事まで学べるし解くために考えるのが実に面白い。

前の世界の勉強は生きる為に学ぶ、それに尽きた、将来、領地経営に必要な事を詰め込むだけ詰め込む..そこには遊びの要素なんて無い。

この世界の学問は大切な事から、それこそ、こんな事社会に出て使わないだろうって事まである…素晴らしいな。

殆ど全ての者がこんな素晴らしい学問が学べるなんて凄いな!

僕の居た世界じゃ貴族だって数学って分野だと足し算、引き算、掛け算、割り算位しか学ばない。

その代り、8ケタ×8ケタ位の計算なら暗算で出来るがそれだけだ..そう考えると本当に素晴らしい。

もう4時か! 流石に3時間は寝ないとキツイな..少し休むか..

「おはよう母さん、おはよう!まひる..」

「….翼なのよね..うん翼だおはよう!」

《あれっ可笑しいわね一瞬、翼が別人のように見えたわ》

「うん…お兄ちゃんおはよう!」

《あれっ、一瞬、お兄ちゃんが..うんお兄ちゃんだ》

「うん、美味しそうだね」

今日の朝食は洋食か..

「それじゃ頂きます」

「頂きます」

《この子が、朝ちゃんと起きてくるのも珍しいんだけど..可笑しい、いつもと食べ方が違う..》

「お兄ちゃん、どうしたの?」

《何時も、くちゃくちゃ汚らしい音を出して食べるのに、何だか今日は綺麗に食べている…というか何で優雅に見えるのかな?》

「どうしたのって?」

「何だか何時もと食べ方が違うから..」

「そう? 気のせいじゃない?」

「本当?気のせいなのかな?」

《お母さん、お兄ちゃんが変だよ!》

《そう、?だけど良い方に変わる事は良い事だわ..今の方がずうっと良いわ》

《そうだね》

「いつもと変わらないと思うよ」

「そうだね」

《うん、今の方がずうっと良いや..もしかして変わろうと思ったのかな?》

「おはようございます! 翼お兄さま!」

「おはようございまぁーす!翼にいさまー」

《あれっ恵子、翼にいさまー、なんてネコナデ声気持ち悪いわよ》

《そういう裕子だって何?お兄さま! 似合わないわ何匹猫被っているのかしら?》

「おはよう、三島さん、奥村さん、今日も可愛いね!」

《この位なら良い筈だよな、貴婦人を褒めるのもマナーだと思う》

「そそそんな可愛いなんて、困ってしまいます..翼お兄さまもカッコ良いですよ」

「ありがとう! お世辞でも嬉しいよ」

「本当に、翼にいさまは凛々しいですよ..決してお世辞じゃありません!」

「奥村さんもありがとう!」

「そんな、お礼何て..」

「あの、所でこんな朝早くからどうしたの?」

「私は親友のまひるちゃんを誘いに来たの」

「私もそうです」

「そう、それじゃまひる呼んでくるね..」

「まひる、友達がきているよ..」

「こんな朝早くから誰かな? あれっ裕子ちゃんに恵子ちゃんどうしたの?」

「迎えに来たの一緒に学校行こう!」

「うんうん」

「あれだけど二人とも方向が逆じゃ..」

《《しっ余計な事言わないで(よ)》》

「そうそれじゃ一緒に行こうか?」

《三人の邪魔しちゃいけないよね》

「それじゃ、僕は先に行くね、じゃぁ!」

僕は走って家をあとにした。

「あっ翼お兄..」

「翼にいさま..行っちゃったじゃない!」

「裕子がちゃんと呼び止めないからでしょう?」

「恵子だって同じじゃない..」

「あの、2人ともどうしたの?」

「「別にー(何でもないわ)」」

「そう、なら良いんだけどさぁ、昨日から可笑しいよ?」

「そんな事ないよ気のせいだよ!」

「うんうん、気のせい、気のせい」

「なら良いんだけど..まぁいいや!」

まずは基本は挨拶からだ、とりあえず顔見知りには片っ端から挨拶をしよう。

「おはようございます」

「何だ、天空院か..おはよう」

「おはようございます!」

「はいはい、おはよう..」

流石に何か会話を入れたいと思うけど、翼って嫌われているからまだ辞めた方が良いな。

だけど、あんなに嫌われている記憶があるのに、男女問わず挨拶は返してくれるんだ..良い人ばかりだ..これが貴族だったら「ふん」とか言われてそっぽ向かれるのに。

《今日もまた会えたわ..》

《やっぱり凄く綺麗、たまりませんわ》

《だけど転校生じゃないらしいわよ?》

《そのミステリアスな所も素敵!》

《私も挨拶..したいな》

《今日もまた僕の方を見ている、やはりどこか可笑しいのかな..今度聞いてみようか?》

教室に入るまで不思議な事にやはり同じ様に足を止めて見ている女の子が居る。

気にしちゃ駄目だ、頑張れば何時か嫌われないようになれるさ..

しかし、この世界は一体どうなっているんだ…信じられない事に綺麗な子しか居ないじゃないか!

「ここは女神の暮らす国です」何て言われても信じてしまうよ…

少なくとも、まだ僕は醜い女性になんて会っていない..

教室に入った。

「おはようございます!」

「おはよう..」

「おはようさん」

「おは」

うん、昨日と変わらないな..1日じゃ何も変わる訳ないか…

解らない授業が今日も始まった。

とりあえず、ノートだけは取ろう..そうしないと追いついた時に困るから..

そして今日は体育がある。

翼は運動が嫌いだったみたいだけど..僕は体を動かすのは大好きだ。

しかし、翼はなんで体育が嫌いだったんだ…知識はあるけど感情迄は解らない。

あれ程凄い戦いが出来るのに….風の様に動いて烈火のように斬り込む、そんな事が出来る翼が体を動かすのが嫌いなんて可笑しいだろう!

さてと

「今日の授業はバレーボールをするぞ、何時ものように仲間を作ってチーム戦だ」

《ちょっと待ってくれ、僕は誰と組めばいいんだ? 翼に友達なんているのか?》

結局、僕は余り者同士で組んだ組みに入った。

だけど、バレーボールって何だ?

幸い、最初は見学らしい、ならルールを見て覚えればよい。

ボールをはじき返せば良いんだな。

「そこのチームコートに入れ」

《僕たちのチームの番だ》

ボールが飛んできたぞ..良し..追いついた..あれっ思った方に弾けないな。

「おーい翼がザルだ…狙え狙え」

「いっちゃ可哀想だって、そんなの当たり前なんだから」

《チクショウ、チクショウ..》

「翼がいるんじゃ勝てないよな..」

「あれじゃな..負けは最初からきまっているしょ..頑張るだけ無駄」

《何だ、味方もやる気が無いのか..翼、君は一体なんなんだよ、僕の世界を救った勇者だろ..僕にとっては最低な奴だけど..憧れている面もあったんだぜ》

ボールがまた僕の所に飛んでいた、真っすぐ飛ばなくても拾ってやる…あっ飛んだ。

ボールは凄い勢いで飛んでいき…残念ネットに引っかかった。

そうか、手で打つと思うから思うように飛ばないんだ、この手が剣だと思えば良い..敵の攻撃を弾いて相手にはね返す..そう思えば簡単だ。

僕は暗殺者のクナイを剣で弾いた事がある。

それに比べれば簡単だ…今の僕は翼…だけど、本当はセレナ、トリスタンだ公爵家の人間がこれ以上惨めになってはいけない。

翼は嫌いだったけど、勇者だった..国を世界を守ってくれたんだ、その勇者をこれ以上馬鹿にさせてはいけない..

「さぁ此処から反撃だ..こい!」

「あはははっ翼が何かいっているぞ! よし打ち込んでやるよ!」

「翼の癖に生意気なんだよ!」

「さぁ来い..僕は逃げない」

挑発したから勿論、僕の方にボールが飛んできた。

集中したからボールがまるで止まって見える。

そのボールを全力で相手めがけて叩く。

ボールは凄い勢いで相手に飛んでいき、相手の顔面に突き刺さった

そして、そのまま相手は倒れた。

そして相手は立ち上がって来なかった。

「大丈夫か相原っ」

体育教師が走ってコートに入ってきた。

「気を失っているぞ..おい、体育の時間は自習だ.. 天空院悪いがお前もきてくれ」

体育教師と一緒に僕は相原の足を持ち保健室に運んだ。

保健室で相原は目を覚ました、体には問題が無いみたいだ、良かった。

特にルール違反をしたわけでも無いが、相原に謝った。

「いや、俺が油断したのが悪いんだよ、気にするな」

「そう言って貰えると助かる」

《うん、良い人だなこの人も》

「相原も大したこと無いみたいだからな、天空院はもう授業に戻れ」

「はい!」

《しかし、彼奴あんなに熱血漢だったかな? 冷めた奴だった気がするんだが..まぁ良いか》

剣道小町
体育の終わった後は特に何も無かった。

いつものように、解らない授業を受けて一日が終わろうとしていた。

変わった事と言えばボールをぶつけた相原が、

「お前も熱くなる時があるんだな! 少し見直したよ!」と肩を叩いた事だ。

このクラスの女の子はと言うと..

「相原くんってやっぱり男らしいね..怪我させた天空院に声かけてさぁ..」

「本当..幾らやる気を出して来たからってあれは無いわ..」

相原の株が上がり、僕の株は逆に下がったみたいだ..

そんな中、氷崎さんだけが

「まぁ、最初は仕方ないわよ…だけど、スポーツだけでなく勉強も頑張ってね!」

氷崎さんは頭が凄く良い事が解った。

そしてクラス平均を凄く落としている翼に凄く腹を立てて居るらしい。

僕なりに頑張っているよ…まだ小学生位の物しか解らないけど…

「うん、期待に応えるように頑張るよ..」

「そう..解ったわ」

氷崎さんは背が低いけどクールビューティーという感じの子だ。

冷たそうな美人、そんな感じ..

勿論、こんな子に嫌われたく無いから頑張るしかない。

授業が終わり、放課後になった。

僕は気になっていた剣道部を見に行く事にした。

僕の趣味や得意な物は、乗馬や狩りなのだが、こちらでそれをやるのは結構難しそうだ。

冒険者ギルドも無いから討伐も出来ない…

本当に平和なんだなこの世界は、いつも誰かが傷つき泣いているあの世界とは大違いだ。

結局、よく考えた末、剣術位しか日常出来ない事が解った。

せっかくなので、この世界の剣術である、剣道を見に行く事にした..

剣道場についた、部活は普通沢山の人が居る筈なのだが、1人しか居なかった。

まるで、戦女神 アテス様にしか見えない、今までに見た事が無い…嫌、想像も出来ない位の美少女が竹刀を振っていた。

《綺麗な人だな…本当に凄く綺麗だ..この世界の女性はたしかに物凄く綺麗だけど、此処までの人はテレビや写真集でしか見た事が無い》

「そこの男子..覗きは最低よ出ていきなさい!」

「ごめんなさい! 覗く気は無かったんです..ただ剣道部の見学をしたかっただけなんです」

「そう、残念ながらこの学園に男子剣道部は無いわ..女子の剣道部員もわたし1人だけ、それでも見たいの!」

「はい、宜しければ!」

「そう、解ったわ..見たければ邪魔にならない様にその辺で見てなさい、所でキミ剣道の経験は?」

「ありません」

《はぁーまた私目当てのクズが来た..だけど一応部だから断れないんだよね..仕方ない》

私は私、自分の練習をするだけ。

女の子にしては凄いな、冒険者や騎士には到底敵わないけど..うんさまになっている。

見た目も凄く綺麗だ…だけど残念これだと実戦には使えない。

《何よ、彼奴、食い入るように見ているわね…最低ね..幾ら私が美少女だからって破廉恥な目で見ないでよ..》

上半身はまずまずだけど下半身がなってないな..鍛錬不足だ。

それにああも直線的な動きじゃ相手から攻撃が悟られやすい..しかも攻撃が軽すぎる。

ゆえに実戦では役に立たない。

魔獣はともかく、この分じゃ人も殺した事もないんだろうな…

「さっきから何をブツブツ言っているのかしら? 剣道に興味がないなら出ていってくれない?」

《きっと、綺麗な足がとか胸がとか考えていたんでしょう..不謹慎だわ》

「そんな事は無いよ、えーと..」

「心美、天上心美よ! 貴方は?」

《本当にしらじらしいわね、知らない訳ないでしょうが!》

「天空院 翼」

《なに、此奴が翼、友達が言っていた根暗でオタクで毒舌の?..最低な奴じゃない》

「それで! 何を言っていたのかしら?」

《どうせ、変な事でしょう..》

《本当の事をいうべきだよな》

「いや、まだまだ甘いなと思ってさ」

《オブラートに包んで言ってあげよう、うん》

「私の剣の何処が甘いっていうのよ! 聞き捨てならないわ、天上家の剣にケチをつける気!」

「気に障ったのなら謝りますごめんなさい」

「謝らなくて良いわ、嘘じゃないなら指摘してみなさい!」

「剣道に当てはまるか解りませんが..まず第一に下半身の強化不足に攻撃の軽さ、ただ見ただけでその二つが浮かびますね」

《此奴はオタクなのよね…幾らでも嘘がいえるわ》

「本当にそうなのかしら? だったらどこが悪いか答えてみなさい!」

「そうですか、だったらさっきの素振りをしてくれませんか?」

「こうかしら?」

「そうです..ここの重心が」

《やっぱり最低、私の体を触りたいだけじゃない! それならいいわ..」

私は竹刀を翼に向けて振り下ろした。

「危ないな、当たったら痛いじゃないですか?」

「当てようとしたのよ!..だけど、なんで嘘躱せるの?」

「この位なら..」

《嘘..少し位痛い目にあわそうとして打ち込んだのよ 完全に死角を突いた筈なのに》

《まぐれなのかな? だけど、まぐれじゃ躱せないはず..》

「あのさぁ、貴方から見て私は未熟なのよね、だったら貴方の剣を見せてくれる!」

「いいですよ」

さてどうしようかな?

僕は竹刀を受取り軽く構えてみせた。

「何、その構え! マンガか何かの真似? そんな変な構え剣道に無いわよ!」

「僕のは剣術ですから..」

「そう、剣術ねはいはい..じゃぁどうぞ!」

「それじゃ..」

《えっ?》

《嘘、凄いわこれ、まるで何処かの流派の演舞みたい..綺麗..こんな事が出来る人が言うなら嘘じゃないのかも..》

「凄いわね…貴方、ごめんなさい謝るわ、私の甘い所教えてくれる!」

翼が私をペタペタ触ってきたけど..悪いと思わない..だって真剣に教えてくれているのが解るから。

決して嫌らしい考えからじゃないのが解る..だけどさ、私だって女の子だよ胸やお尻を触られるのは少し恥ずかしいわ。

翼と目があってしまった。

《ななななな..なにこれ、凄い美少年じゃない!どこがキモイ男なのかしら? 》

剣道している時は集中しているから周りが見えてないのだけど..何故気が付かなかったのよ私!

まるで、佐々木小次郎じゃない! 剣が強くて二枚目で…凄いわよ..

正直私と並んだら見劣るのは私じゃないかな..

見れば見る程、綺麗、こんな男の人居るんだ、男なんてと思っていたけど..この人はまるで別の生き物のように違うわ。

「あのね、それで教えて欲しんだけど!それが全部出来るようになるとどうなるの?」

「そうだね、試しにやってみようか?」

「お願い!」

「最初は今迄の心美さんの形」

「そうね!」

《嘘、今日見ただけで天上流の型が出来るなんて..》

「それで、これが課題を全部クリアした型」

「凄いわ、全然違うわ..明らかに速いわ」

「まぁ、こんな感じですかね..」

「ありがとう、それで良かったら、一緒に素振りしない? 1000回位!」

「そうですね体を動かしたいから良いですよ!」

「ありがとう、それじゃしようか?」

「はぁはぁはぁ、凄く気持ち良いわね、今度は私が打ち込むから受けてくれる?」

「良いですよ! どうぞ!」

凄く打ち込みやすいわ…私にあわせてくれているのよね…

「はぁはぁはぁ、凄く良いよ..本当に凄く..私の全てを受け止めてくれる? くれるよね? 」

「ちょっと待って下さい、何をするんですか?」

「本気で攻撃するから全部受け止めて頂戴..」

「解りました」

「凄い!凄い! はぁはぁ..本当に凄いわ、これもあれも、全部受けてくれるのね..はぁはぁはぁだったらこれはどう..」

「凄いですね技が多彩なんだ」

「凄く気持ちい…いいわ..本当に、この時間が終わってしまうのが勿体ない位..本当に気持ち良いわ!」

「そうですか..全部受け止めるから思う存分打ち込んで来てください!」

「ずるいわ..私ばかり本気になって翼はすましていて、はぁはぁはぁ本当にずるい!」

「凄かったわ、本当に私の全てを受けきっちゃうなんて、翼…いえ翼くん..今日私の家に遊びに来ない!」

「良いんですか?」

「良いに決まっているわ..それじゃ着替えてくるから一緒に帰ろう..」

こうして僕は「翼」になって初めて女の子の家に行く事になった。

天上心美
私の名前は天上心美。

天上流道場の娘として生まれた。

兄はいるのだけど、剣の才能が余り無いので、多分跡取りは私になると思うわ。

最も才能が無いとは言うけど…全国大会にはでているのだけどね…

そういう私は「剣道小町」なんて言われているけど、どうしても勝てない人が1人いる。

それが悔しい私は殆ど毎日剣道漬けの日々を送っている。

天上家は剣道第一主義の家だ。

お母さまは、「鬼百合」と呼ばれた女剣士で剣の世界で知らない者は居ない。

お父様は「豪剣」と呼ばれてお母さま程じゃないが有名だ。

どちらが強いのかと言えば天上家に生まれたお母さまだが、一撃の強さならお父様かも知れない。

そして、その二人が敵わないのがおじい様だ。

おじい様は2人より更に高みに居る…そんなおじい様には2人がかりでも敵わない。

剣聖なんて呼ぶ人も居るがおじい様曰く「まだまだ修行の身じゃよ、その呼ばれ方は過分すぎるのぉ」と断っていた。

だけど、日本、いや世界でもおじい様に勝てる人なんて思いつかないから剣聖でいいんじゃないかな? 私はそう思っている。

何が言いたいのかと言うと…私の人生は過去もこれからも剣道が中心だ。

それ以外は考えられない。

他の女の子に言わせると「可哀想」とか言われるが、私は剣道が死ぬ程好きなんだからこの環境は持って来いだ。

そんな私はいつも1人で剣道部の道場で竹刀を振っている事が多い。

何で1人なのか? それは全員辞めちゃったから..

最初は女子剣道部にいたのだけどね..練習で張り切っていたら..気が付いたら皆んな辞めちゃったの..

天上家の娘で中学から実績のあった私は、推薦でこの学園に入った…だから強くしなくちゃならないのよ。

だから、練習メニューの変更をお願いしたのよ。

そしたら馬鹿扱いされた挙句、可笑しな人扱い。

最終的には「貴方がそのメニューで出来るならやってあげるわ」って言うからやってみせたのよ。

私が出来たんだからやるのが筋よね。

「とりあえず、素振り200回を5セットしようか?」

そんな練習を続けたら二日よ! 二日で全員が辞めちゃったのよ信じられないわ..かなり練習量落としたのに。

女子剣道部が無くなっちゃったから..そのまま男子剣道部に吸収される形になったの。

本当に嫌だったのだけどね、剣道部に所属しないと大会に出られないから仕方ないのよ..

人の着替えを覗くような人も居たけど我慢したわよ..まぁ実力行使してきたら殺すけどね..

だけど許せないのは、練習について来れない事よ..

素振り3000回もまともに出来ないし、私がちょっと本気で掛かり稽古したらさぁ、直ぐに立てなくなるの?信じられない。

この私が覗きまで許してあげたのにさ..結局、最後は「もうついていけません」とか「幾ら心美さんの傍でも地獄には居たくない」とか言って居なくなっちゃったわ。

本来なら私1人の剣道部なんて認められないんだろうけど、実績を残しているからそのまま認められているわ。

全国大会個人戦2位、剣道小町の看板があるからかしらね…

ただ、1人になってからが煩いのよ..勝手に見学しにくるわ..剣道に興味が無いのに入部希望者がでるわ…

その殆どが「私目当て」最初は親切に対応していたのよ..だけど、全員が剣道に興味がない人ばかり..

挙句の果ては「君みたいな人に剣道は似合わない」なんていう奴迄いたわ..私から剣道をとったら何も残らないのに..馬鹿じゃない。

だから、無理やり引きずり込んで練習に付き合わせていたら、最近は随分減ったわね。

私と付き合いたいなら「死ぬ程、剣を磨きなさい」それしか言えないわ。

だって私自身が剣しか無いんだもの。

私にとって人と本気で付き合うという事は剣の延長にしかありえないのだから

そしてそう言う人じゃないと私だけじゃなく、私の家族ともつきあえないのだからね

そんな人なかなか居ないわね…剣道の大会の全国大会ですら居ないわ..

まぁ、女ならカマキリに似たブサイクなのが居るけど残念ね、貴方が男ならライバルじゃなく恋人になれたのに

不細工でも別に良いのよ..真剣に剣に打ち込んで居ればね..

なんて思っていたんだけど…

運命は怖いわ..突然現れるんだもの。

私が竹刀をいつものように振っていると視線を感じたのよ..

それがね舐めるように全身みているからさ、注意したのよ..まぁ多分覗きかなそう思っていたんだけど..

見学したいというから仕方ないなと思ったの..

そうしたら、また舐めるような視線で見てくるからさぁいい加減頭に来たのよ..

「さっきから何をブツブツ言っているのかしら? 剣道に興味がないなら出ていってくれない?」

不真面目だと思ったわ。

そうしたらさぁ、よりによって私の剣にケチをつけてきたのよ..正直腹がたったわ、剣一筋に生きている私に向ってね..

「いや、まだまだ甘いなと思ってさ」

何ふざけているのかしら? 人の人生否定する気なの? 喉でも突いて黙らせようかしらね!

だけど、そんな事したら問題になるわ…だから少し我慢してあげる事にしたのよ..

何処が甘いか聞いてあげるわ!

「私の剣の何処が甘いっていうのよ! 聞き捨てならないわ、天上家の剣にケチをつける気!」

「気に障ったのなら謝りますごめんなさい」

「謝らなくて良いわ、嘘じゃないなら指摘してみなさい!」

「剣道に当てはまるか解りませんが..まず第一に下半身の強化不足に攻撃の軽さ、ただ見ただけでその二つが浮かびますね」

《多分、嘘ね だけどもう少し茶番に付き合ってあげるわ》

「本当にそうなのかしら? だったらどこが悪いか答えてみなさい!」

そうしたら素振りをさせるのよ、そして私の体を触って来るのよ!

やっぱり! そういう奴だった..最低ね、だったら少し痛い目に遭って貰うわ、貴方が悪いのよ!

「危ないな、当たったら痛いじゃないですか?」

《嘘、何で躱せるのよ..何で》

「当てようとしたのよ!..だけど、なんで嘘躱せるの?」

「この位なら..」

完全に死角を突いた筈なのに…信じられないわ、まぐれよ! まぐれ! だけどまぐれとも言い切れないわね

良いわ、見極めてあげる。

「あのさぁ、貴方から見て私は未熟なのよね、だったら貴方の剣を見せてくれる!」

「いいですよ」

本物なのか偽物なのか見てあげる。

「何、その構え! マンガか何かの真似? そんな変な構え剣道に無いわよ!」

やっぱり嘘だったのね失望したわ..私を騙したのね..

「僕のは剣術ですから..」

もう何も期待して無いわやって見なさい、馬鹿にしてあげるわ心が折れる位罵ってあげるわ

「そう、剣術ねはいはい..じゃぁどうぞ!」

「それじゃ..」

嘘嘘嘘..凄く綺麗、こんなの見た事ないわ、見誤っていた、この人私より遙か高みにいるわ..お母さまと同じ位の所に、素直に謝るわ。

こんな事できる人が居るなんて。

「凄いわね…貴方、ごめんなさい謝るわ、私の甘い所教えてくれる!」

こんな凄い人から指導を受けれるチャンス見逃がせないわ..土下座してでも教わりたいわよ。

もう触られたって気にならないわ..ちょっと恥ずかしいけど..

ここでようやく私気がついちゃったのよ…この人、凄い美少年なんだって、私って本当に可笑しいのよ、剣に関わってないとアイドルだってジャガイモに見えちゃうの…

この人と並んだら..うん私の方が見劣るわね..まるでそうね、佐々木小次郎みたい..剣が強くて優雅でカッコいい..うん。

正直教えて貰った事は何となく解った。

だけど、それが出来るようになるとどうなるのかしら?

「あのね、それで教えて欲しんだけど!それが全部出来るようになるとどうなるの?」

私より高みにいるんだから言葉使いも変わるわよ..ええっ。

「最初は今迄の心美さんの形」

嘘でしょう、凄い凄いって思っていたけど、見ただけで私の型が出来るようになるの!..

「それで、これが課題を全部クリアした型」

嘘でしょう、こんなに見違えるように変わる訳..こんなのお母さま、いやおじい様からだって教わって無い..

「凄いわ、全然違うわ..明らかに速いわ」

「まぁ、こんな感じですかね..」

さらっと言うわね..天上流の新しい形を貴方は教えてくれたのよ..それなのに..もう我慢できない!

「ありがとう、それで良かったら、一緒に素振りしない? 1000回位!」

「ありがとう、それじゃしようか?」

「はぁはぁはぁ、凄く気持ち良いわね、今度は私が打ち込むから受けてくれる?」

凄く打ち込みやすいわ…私にあわせてくれているのよね…

「はぁはぁはぁ、凄く良いよ..本当に凄く..私の全てを受け止めてくれる? くれるよね? 」

「本気で攻撃するから全部受け止めて頂戴..」

「凄い!凄い! はぁはぁ..本当に凄いわ、これもあれも、全部受けてくれるのね..はぁはぁはぁだったらこれはどう..」

「凄く気持ちい…いいわ..本当に、この時間が終わってしまうのが勿体ない位..本当に気持ち良いわ!」

 本当に良いの、本当に良いのね..

「ずるいわ..私ばかり本気になって翼はすましていて、はぁはぁはぁ本当にずるい!」

私は剣道家なのよ、私が好きな人に捧げるのは他の女の子と違うの..

私が捧げるのは「剣」なのよ..私にとってこれはね心を捧げるのと同じなの..

これを捧げるという事はね「私の全部を捧げた」って事なのよ..

普通の女の子が「好きな男の子に体を捧げる」のと同じ事なのよ..

凄いわね、全部受け止められちゃった..

「凄かったわ、本当に私の全てを受けきっちゃうなんて、翼…いえ翼くん..今日私の家に遊びに来ない!」

私は今日初めて男の子を家に誘った。

だって、全部捧げられる男の子に出会えたんだから仕方ないと思うの。

天上家にて?

「お母さま! 今日これから友達を家に連れて行きたいのだけど良いですか?」

「心美、それは男の子なの? それとも女の子なの?」

「凄く凛々しくてカッコ良い男の子なんだけど」

「男の子! それは心美、解かって言っているのね? ただの友達を連れてくるそう言う意味じゃ無いのよね?」

「うん、お母さまだから先に言って置くけど、心美の全てを捧げて受けとめてくれた人なんだから..」

「そう、解ったわ、お父様にも言っておくわね、全員で歓迎するわよ..」

「うん、歓迎してあげて」

《流石に二人っきりじゃ無いか..》

「どうしたの翼くん..あっ解った、もしかしたら私と二人っきりだと思っていたんでしょう..私は構わないのだけど..今日はね家族に紹介するわ」

「まさか、そこ迄の事は考えてないよ..だけどいきなりお邪魔して良かったの?」

「いいの、いいの翼くんは特別だからね、多分これからも!」

《本当は私の家族はなかなか会えないのよ、特におじい様に稽古をつけて貰いたい人は2年待ちだったりするんだけどね!》

「そう、何か解らないけど嬉しいな、所で天上さんの家族も剣道は得意なのかな」

「私の事は心美って呼んでくれないかな!」

「どうして?」

「だって、私より強いんだからさぁ..そう呼んでくれると嬉しい」

「心美…さん」

「さん..ね、今は良いわ、だけど何時でも心美って呼んでくれて構わないからね、それでうちの家族なんだけど、全員、剣道は得意だよ」

「強いの?」

「強いよ、兄さんを除いて全員が私より遙かに強いよ! もう達人って呼ばれる位にね!」

《どの位なのかな? 騎士位かな? まさか騎士団長位..王都にいる宮廷騎士位並み..この世界の強さが解らないけど凄く楽しみだ》

「それは凄く楽しみだ」

「やっぱり、翼くんは私と同じだね…多分うちの家族も楽しみにしていると思うよ!」

《やっぱり私と同じだ..強い人の会えると思うとワクワクするよね》

「そう? ご期待に沿えると良いんだけど」

「沿えるよ、絶対に私がそのね..見込んだ人なんだから..」

「お嬢様迎えに来ました」

「えっ車、何で!」

「百合子様が早く会いたいという事なので私めがお迎いに参りました」

「そうありがとう、それじゃ翼くん 乗って乗って!」

《初めての車..緊張するな》

「うん、解かった、だけどこの車凄いね、何時も送り迎えして貰っているの?」

「いつもは歩き、その方が足さばきを覚えられるから..今日は特別よ、翼くんを招待したからね」

「そうなんだ」

《あの気難しい心美お嬢様があんなに笑顔でいるなんて..信じられない》

「どうしたの加藤?」

「いえ、何でもありません!」

「そう、なら良いわ」

《何時ものお嬢様だ、あの少年にだけなのか!だけど少年これからが大変だ、君が行く所は…地獄なのだからな》

「加藤、今度は翼くんをみつめてどうかしたのかしら?」

「本当に何でもありません」

「だったら早く車をだしたらどうかしら?」

「はい」

「着いたわ、此処が私の家、道場と家が一緒になっているのよ!驚いた?」

「道場なんだね!」

《余り驚かないのね!これ見て何も動揺しないなんて流石翼くんだ、普通は門構え見ただけで驚くのに》

「さぁ、入って入って」

僕は心美さんに手を引かれてついていった。

そして、着いた先は道場だった。

やはり、世の中そんなに甘くない、こんな綺麗な心美さんと簡単に仲良くなれる筈が無い。

家に招待して貰ったと思いちょっと舞い上がってしまったけど、道場への招待..一緒に剣の練習がしたかっただけなんだ。

まぁ良いや、剣術は大好きだし。

「ようこそ天上家へ私が、心美の母の百合子と申します」

「ご丁寧に、綺麗な方なのでお姉さんかと思いました、僕は..」

「まだ、名乗らなくて結構です。 またお世辞も結構です、その後を聞くかどうかは私達と立ち会ってからにしましょう? あっ勝たなくても結構です、己の強さを示せばそれだけで充分ですわ」

「少年、俺は名前もまだ名乗らんよ..此処は天上家、名前を名乗りたいなら、名を教えて貰いたいなら剣で示せ」

「僕も同意だね」

「わっぱ、まぁ気張らず頑張れや」

「ごめんね、翼くん、家ってこんな家なんだ!」

「謝る事ないよ、強さに正直な事は良い事だよ..」

「そう言って貰えると助かる..頑張ってね」

「解った」

「随分と心美はその少年を買っているのね何故かしら? 母さまにはただの優男にしか見えないわ」

「翼くんは心美が全てを捧げた人です。当たり前の事ですわ」

「そう、解ったわ..母さまが目を覚ましてあげるわ、最初から私じゃ大人気ないわ、輝彦貴方が相手なさい!」

「やっぱり僕が最初な訳ね、はいはい、心美んに恨まれたくないけど仕方ないね!」

「お兄さま、最初にいっておきますが、翼くんはお兄さまより遙かに高みに居ますわ」

「はははっまさか..強い剣士なら僕が知らない訳無いよ..だけどこんな奴..知らないな..」

「輝彦、慢心するのは貴方の悪い癖ですよ..さっさと始めなさい」

「ほら、竹刀だ、解ったよ母さん、じゃぁどこからでもどうぞってね」

「それは始めて良いって事ですか?」

「ああっ何処からでもきたまえ」

「防具はつけなくて良いんですか?」

「君相手には要らないね、君はつけても良いよ?」

「僕も要りません」

《全身、隙だらけなんだけど良いのかな? だけど剣士なんだから多分これは誘いだよね》

まずは小手調べだ..一見油断させておく作戦なのかも知れない。

僕は飛び込む様にして間合いに入った、そしてそのまま頭めがけて竹刀を振り下ろした。

こんな軽い物じゃ致命的な物にはならない、だから振り下ろす際に竹刀に思いっきり力をいれ振り下ろす必要がある。

騎士が戦場で剣で甲冑の上から殴る様な方法、これなら多少はダメージを与えられる筈だ。

バシッ

「えっ..」

「馬鹿が過信しずぎじゃな」

そのまま輝彦は気を失った。

「凄い、凄いわ翼くん..こんな技も知っているなんて..」

「お父様、あれはまさか、薩摩」

「うむ、示現流に近いが微妙に違うかもしれん、なかなかやりおる」

「やれやれ俺がやるのか、正直輝彦に勝ったんだから、心美の友達なら充分じゃないか?」

《友達ならそれでいいでしょう! だけど、貴方、心美を見て見なさいな..あれを》

《そうか、将来の結婚相手候補、そこまで考えろと言うのか?》

「少し、大人気ない気がするんですがね」

「油断するでないわ..あの子まだ引き出しをもっていそうじゃ」

《お父様がわっぱじゃなくて、あの子..貴方じゃ荷が重そうね》

「貴方、油断しないで」

「お前迄、まぁ良い本気で行くよ」

「くれぐれも気をつけて」

「少年、さっきお前が倒したのは輝彦、心美の兄だ、その分だと心美にも勝ったのかな? まぁあの子が連れて来たという事はそういう事だな」

「えっまぁはい!」

「だが、どちらも日本一には一度も成っていない未熟者だ…本物の剣士の技をお見せしよう」

《お見せしようと言われてもね..確かに強そうだけど..殺気が全然ない…多分人を殺した事もないし、本当の地獄を味わってないんだろうな》

「楽しみにしていますよ」

「そうか」

凄い勢いで竹刀がうなりをあげている。

《確かに速い、当たったら竹刀でも怪我をするかも知れないね..だけどさ当たらなければ意味がない、前の世界では訓練でも実剣でやってたんだ、当たれば死ぬかも知れないそれを体に沁み込ませるためにね》

「凄いわ翼くん、お父さまの剣を簡単に凌いでいるわ..」

「本当に凄い子ね、謝っておくわね、貴方は本当に良い子を連れてきたわ…はぁ私の方が男を見る目が無い、そういう事ね」

「そうじゃな、巌は押されていそうじゃな..最近少しは腕をあげたがそれだけじゃ、実際に 「私に勝てたら」という条件はクリアしないで結婚したんじゃから半端もんじゃ」

「お父様、そんな事言っていたら私、いき遅れてしまいましたわよ、私は強いですから..下手すりゃ一生結婚なんて出来くなります」

「だが、その子はどうじゃ、子供なのに巌より強いではないか?」

「….そうですわね..」

「ちょこまかと逃げるなんて男らしくないぞ!」

「解りました、それじゃ逃げません!」

《ふぉふぉ今度は正面から行くのかの..》

《流石にこれで主人の勝ちは決まりましたね、豪剣の巌..正面から戦えば負ける筈がありません》

《まだ解らんよ、まだあの子何か持っていそうじゃわい》

「翼くん、なんでそのまま行けば勝てたのに..」

「うん、これは勝ち負けを決める試合じゃないでしょう? 僕という人間を知って貰えれば良いんでしょう?」

《あの子の勝ちじゃな..あの剣戟の中、心美と話ししておるの》

《しかも余裕迄ありそうですね..》

「だけど、心美さん、僕は負ける気はないよ..本気で正面から行ってみたい、そう思っただけだから、行きます!」

「何! この俺が押し負けるだと..」

「手数を出すやり合いも楽しいですが、こういう力対力のせめぎ合いも楽しいですね」

「子供でその力..とんだ化け物だね少年…だが悪くないなこういうのも」

「そうですね…」

「俺の名前は巌だ、天上巌、認めるぞ、その力を」

「ありがとうございます! ですが、これで終わりにさせて頂きます」

「こい、少年」

僕は巌さんの竹刀を絡めとるようにいなしてそのまま頭に竹刀を叩き込んだ。

そして距離をとり..構えた。

「少年、お前の勝ちだ」

「えっですが、まだ巌さん動けるじゃないですか?」

「待て、待て、お主何か誤解しとらんかの?」

「まさかルールを知らないの?」

「ごめんなさい、翼くん、翼くんは剣道を知らなかったのを忘れていたわ」

「ともかくこの試合はお主の勝ちじゃ」

はぁ、そうだったんだ、ただ当てるだけで良かったんだ…てっきり動けなくなるまでやるもんだ、そう思っていたよ。

「だから、あんなに勢いをつけていたんじゃな」

《そんな発想は古武術位にしかないのぉーより実践的じゃな…だが誰がこの子を指導したんじゃ.》

「凄いわね、翼さんで良いのね、覚えたわ、心美とのお付き合いは許しましょう..ですが今度は私が相手ですわ」

天上家にて?

「天上百合子、ここの道場の道場主をしています、さぁ貴方も名乗りをあげなさい」

「天空院 翼です、宜しくお願い致します」

《巌さんよりは強そうだ..だが、良い所冒険者の中級レベル位にしか思えない》

「それじゃ行きますよ..」

確かに早い..心美さんよりも巌さんよりも、だが、この程度の素早さなら前の世界なら森の民なら子供ですら出せるだろう。

だから、簡単に躱せる。

「これを躱せるのですか?..なかなかな物ですね、まだまだスピードをあげていきますよ!」

《嘘、お母さまの攻撃を初見で躱せる何て..》

《俺ですら竹刀で受けるのが精一杯なのに..》

《もう既に勝負は見えているのぉ》

「どうぞ」

「どうしました? 逃げているばかりでは勝てませんよ..はぁはぁはぁ」

「僕の剣は..貴方の様な綺麗な女性を傷つける物ではありません」

「わ、私を女性扱いですか、剣を持ったこの私をですか..聞き捨てなりません..ならばこれを受けて見なさい..天上流、五月雨突き..」

凄い、これは前の世界には無かった..突きの連続、だがこの技に意味はあるのか?

一撃で倒せない突きに何の意味があるんだ、突きを外したら、殺されてしまうリスクも多いのに。

それに正面から正直に打ち込んでくるなら回り込んでよければ良いだけだ..

《翼くん、凄い、凄いなんて物じゃない..お母さまの五月雨突きを簡単に躱すなんて》

《あれを簡単に躱すのか》

《まぁ、ああも正直な剣じゃ、あのレベルの相手には通じぬよ》

「次はどうしますか?」

「五月雨突きを躱すなんてはぁはぁ凄いわ..これならどうかしらね 天上流、古月」

成程、一旦下に振り下ろした剣をそのまま反る形で上にはね上げてくるのか..確かに不意打ちには持って来いだ、だが剣が正直すぎる。

「貴方の剣は正々堂々として僕は嫌いじゃないですが…正直すぎます、これじゃ避けて下さいと言っているような物です」

「その様ですね..それなら、これも受け止めきれますか..奥義..流水」

女性ながらの流れるような剣裁き、平和なこの世界で此処まで身に着けた..それは尊敬します。

ですが、それと同じような技は前の世界では初級者ですら使えます。

そのまま剣を受け流して流れのまま弾けば..剣が絡めとれるんです。

翼は流れるような竹刀の動きに合わせて竹刀を絡ませた。

その結果、、百合子は竹刀を手放せずにはいられなかった。

「そんな流氷が破られるなんて..」

「百合子お前の負けじゃよ..奥義?そんな物ばかりに頼っているからそうなるのじゃ、みて見ぃ翼殿をさっきから技らしい技はらしておらんよ!情けない..全ての技を完璧に使いこなせば全ての技が奥義並みになるのじゃ..」

「私はまだ未熟だったようです…翼殿、私の負けです..負けたのですから、先程のお言葉も素直に受け取りましょう?」

「ちょっとお母さま!」

「大丈夫、とったりしないわよ、安心なさい!」

《残念、あと17年早く会いたかったわ…》

「さてと次は儂じゃな..翼殿、これでやらんか?」

「真剣ですか..良いですね!」

「そう言ってくれると思ったわい..主は儂の若い頃に似ておるからの」

僕は真剣を受取り、鞘から抜いて構えた。

天上家にて 終わり 勇者に感謝

「よくそこまで身に着けたものよ..竹刀より真剣が様になっておる..さぞかし名のある者に鍛えられたのじゃな!」

確かに僕は公爵家..剣を教えてくれた者は王宮騎士や騎士団..そして上級冒険者だ。

「えぇ、自慢の師匠達です!」

「そうか、才のある者が素晴らしい師を得て若くして達人に至ったその素晴らしさは認めようぞ、だが若い、儂は剣一筋60年..才ある物が努力し長い年月の末たどり着くその領域があるのじゃ..ここまでの褒美じゃ..身内にも見せなかったその技をお見せしよう」

「参る」

確かに言うだけの事はある、まるで風のようだ、油断したらあっという間に首が飛ばされるだろう。

「ちょっと待って下さいお父様、相手は子供です、そんな事をしては..」

「だからお前は未熟なのじゃ..目の前に居るのは見た目通りでは無い..至高の存在じゃ、少なくとも儂の人生の中で初めて会えた好敵手じゃよ…悪いが手加減なんかできぬ!」

「ですがお父様..」

「お主の目は節穴か? こ奴は涼しい顔してよけよったぞ!」

《嘘、おじい様が寸止めしたんじゃなくて、翼くんが避けたの?》

《この少年が剣聖と言わしめるお父様と対等というのか?》

「おっと済まぬな翼どの、儂の名前は鉄心じゃ..血がたぎり、名乗り忘れたわい…認めたら名を名乗る約束じゃったな! 」

「ご丁寧にならば、私の名前は天空院 翼と申します、以後お見知りおきを..」

「忘れる事は無いわ!例え家族の名前を忘れても主の名前は忘れん! さっきのはただの遊びじゃよ、此処からが本番じゃ」

この人本当に僕を斬る気で来ているよ..だけど、甘いなこの人もやっぱり、人を殺した事は無いんだろうな、本当の剣聖なら僕はとっくに死んでいる。

速いな、言うだけあって他の人よりも攻撃にも重みがある。

だが、それだけだ…

「涼しい顔してよけよる..我が人生でお前以上の敵にあった事はないわ..剣一筋に生きた儂の剣をここ迄避けたのは主だけじゃ!」

剣一筋か..聞こえは良いけど楽な人生だったんだな、だから剣に何も重みがない。

前の世界の住民はね、皆んな何かを背負って剣を振っていたんだ。

「剣一筋ですか?」

「そうじゃ..来る日も来る日も剣を振り続けてきたんじゃよ..主の何倍もの人生をの」

剣はただ振る物じゃない、命を葬る道具だ。

その道具は大切な者を守る為に振るう。

僕たち貴族は領民を守るために振るうんだ…自分が死んだら領民がどうなる。

女達は辱められ、男は殺されるかも知れない。

だから殺される覚悟で殺す覚悟で振るうんだ。

泥だらけになり血だらけになり…

そんな剣だけ振っていれば良いなんて人生、楽で良いよな..

「そうですか…ならば殺す気で打ち込んで来てください」

「主は儂を愚弄する気か..慢心しているのか? ならば本気の本気を見せてみようぞ」

《えっ そんなのってありですか?》

「これが真の奥義じゃ..行くぞ」

「お父様、それは、光纏お出来になったのですか?」

「嘘、おじい様、それは作り話しでは無かったのですか」

「少年、負けを認めた方が良い..それを受けたら真面目に洒落にならない」

気を纏えるのか..

「翼くん、負けを..」

「あの、さぁ僕ってそんなに弱く見える?」

「翼くん、何を言っているの?充分強いよ、本当に!剣聖と呼ばれるおじい様が本気になる位だもの..だけど..」

「僕が負けると思う..」

「ごめんなさい..」

「そう? なら応援してくれるかな..それだけで充分..」

「解った、何ももう言わない、頑張って、心美の為に頑張って!」

《翼くんは剣士だから..負けなんか認められないよね》

「伝説にある気と言う奴じゃ、それを光のように纏う..」

「それってズルくないですか?」

「確かに知らぬ者にはそう思えるかも知れぬ、だがこれも剣の究極系じゃ..」

確かに気を使えば強くなるよ..何倍もさ

だが、それは試合や練習でつかったら地力がつかないでしょうに…

だから、本当の戦いの場でしか使わない。

「そんな物が究極の訳がないし、本当の剣じゃない」

「ほう、負け惜しみかの..」

《ギア2》

「嘘、翼くん..それ光纏 しかも凄く綺麗」

「お主も使えるのか..」

「もう、終わりにしましょう、そんな物を持ち出すなんて気がそがれました」

僕は鉄心と言う名のじじいに怪我しないレベルで峰打ちした。

鉄心はあっけなく倒れた。

「儂を弟子にしてくれんかの?」

「お父様はもうお歳ですから..翼ちゃんお姉さんに指導して下さらない? 指導してくれたらいい事してあげるわよ!」

「ちょっとお母さま何を言い出すんですか? いい齢してお母さまにはお父様が居るでしょう?」

「あらっ、だけど翼ちゃんにとって私は綺麗なお姉さんらしいわよ?」

「そうよね翼ちゃん!」

「翼くん、こんな年増の話なんて聞かなくて良いわ..お姉さんが好きなら、心美だってひとつ年上だからお姉さまだよ!」

「年増! いま私の事を年増って言いましたか? 心美」

「いいましたよ! 年増おばさん」

「心美、そこになおりなさい」

「少年、いや翼様どうだろうか? 妻と心美をあげるから私に指導してくれないか?」

「そうじゃ」

ゴツ、ゴツ。

「何するんですか!」

「いたいけな年寄に何するんじゃ!」

「言って良い事と悪い事があります! 僕みたいな半端者に心美さんや百合子さんをよこす?辞めて下さい」

「なんじゃ不満なのか?」

「そういう事じゃないんですよ! 本当に愛してくれるなら、好きになってくれるならどれだけ嬉しいか解らない…それこそ命と引き換えでも良いと思える位に…」

「いやだから、百合子は冗談じゃが心美はの」

「そうそう、百合子は冗談だよ」

「そんなこと言われたら本当に欲しくなります..心美さんみたいな高嶺の花、今の僕じゃ絶対に届かない..どんなに渇望したって手が届かないのは解かっていますから」

「いや、じゃからのう」

《どう見ても心美はほの字じゃろうが..》

《そうじゃないなら家には連れてきませんわね》

「あのさ..私は、翼くんが好きだよ..本当に..」

「冗談でも凄く嬉しいよ、嬉しくて仕方ない位..だけど」

「だけど、何! ねぇ何!」

「心美さんみたいな綺麗で可愛くて、天使、いや女神みたいな人が僕なんかを好きになってくれるなんて信じられない」

《嘘、本当..本当なの、そんな風に思ってくれているの? これって完全に両思いじゃない! 》

《何で、あれ程の美男子で自分に自信がないんじゃ?》

《凄い美少年ですのにね..》

「そう、信じられないの、それだけなのよね? それなら簡単だわ..私が信じられるようにしてあげるわ…だから」

「だから?」

「逃げないでね翼くん」

「どうやら話は終わった様じゃの..流石に腹が空いたわい、飯にしようかの」

「そうだね、輝彦も起こして飯にしようか?」

「そうだ、翼さんは今日は泊まっていきなさい..親御さんにはこちらから連絡入れておくから」

「うん、そうしようよ翼くん」

結局、その後は天上家の人達と夕飯を食べた。

最初からもてなしてくれるつもりだったのだろう、すき焼きを用意してくれていた。

よく考えて見ればこの世界は平和だ、人を殺した事無いのも、何かを背負わないのも仕方ないのだろう。

そんな環境であそこまで強くなった鉄心おじいさんは凄いのかも知れない。

死ぬような思いをしないで気が纏えたのだから..

うん、凄い才能だ。

結局僕は..天上家の人達に週一で練習をつける約束をしてしまった。

そして、心美さんには剣道部に入る約束をさせられてしまった。

なぁ 勇者 翼、お前は凄いな..こんな平和な世界から来たのに魔族と戦ってくれたんだな…

誰もが手を汚さずに生きれる世界から来たのに、手を汚してくれたんだな…

正直、恨みもあったが..今は感謝しかない…世界を救ってくれてありがとう、国を救ってくれてありがとう..

僕は、この世界で「天空院 翼」の名前を輝かせるように頑張るよ..

友達が可笑しくなっちゃった! まひる視点
「ねぇまひるちゃん、今日も遊びに行っていい?」

「えーと、だけど遊ぶなら裕子ちゃんの家の方が良くないかな!」

「何でーまひるちゃんの家の方が良いに決まっているじゃん」

「だけど、裕子ちゃんの家の方がSUMOCHIがあるし、新しいソフトもあるよ」

「あっだったら外して持っていくから良いよね..」

「私も勿論勿論良いよね? 友達だもんね!」

「えーと..はい..」

別に遊びに来るのはいいよ..だけど正直怖いよ..だってこれまだホームルーム前なんだからさぁ..何で必死なのかな..

まぁ別に良いんだけどさぁ..それにこの二人クラスの人気者だから、断れないし..親友って言うけど力関係はあるんだ。

休み時間も..

タタタタタタッ..

「まひるちゃん お話があるの!」

「私も、私も..」

直ぐに走ってくるしさぁ、

「あのね! 翼お兄さんってどういう子が好みなのかな?」

「あーそれ私も聞きたい!」

「お兄ちゃん? お兄ちゃんの好きなタイプかぁ…今は解らないけど、昔はアニメの声優さんが好きだったかな..確かえーとツンデレ萌え?とか言っていたかな」

「そうなんだ、ギャップが好きなのかな?」

「成るほどね..あの手のタイプか..」

「所で、今日の授業でさ」

「それでね、翼おにいさんって..」

私は普通の事が話したいのに話させて貰えない。

何で可笑しくなっちゃったんだろう?

これがカッコ良いお兄ちゃんだったら解る..だけどあのお兄ちゃんだよ!

馬鹿でアホで自尊心が高くて、引きこもりのオタ..可笑しいよ。

「あのさぁ、2人ともお兄ちゃんの何処が良いの?」

「全部かな..」

「全部だよね!」

ななんで二人とも乙女の顔になっているのかな?

祐子ちゃん…凄く理想が高かったよね、沢山の男の子が告白して轟沈してったよね。

アイドルまで馬鹿にしてたよね..

恵子ちゃんは…凄く大人っぽくて..男の子って子供よね

なんてこの間まで言っていたよね…可笑しいよ。

給食の時もそうだよ、何で私の所にプリンが3つあるのかな?

「まひるちゃんプリンが好きだったよね?」

「将来の妹にプリンの一つ位譲るわ..」

ねっ可笑しいよね…

授業が終わるとさぁ

「それじゃ、まひるちゃんまた後で..」

「また後でね..」

「うん、また後で..」

「お母さんただいま!」

「まひる、お友達がきているわよ..」

えっ、まさか….なんで私より先に家に居るの..まっすぐ帰ってきたのに…

「まひるお帰りー SUMOCHIとソフト持ってきたー」

嘘でしょう、裕子ちゃんそれ勝負服だよね…

ミニスカート履いて…裕子ちゃん自分の体で足が自慢だよね..だけど普段見せないよね。

「見せる相手が居ないからね」何て言っていた筈だよね

「まひるー私はまひるが好きな本持ってきたよー」

こっちもか…恵子ちゃん、そのセーターのロングスカート..大人っぽく見えるよ..

これも方向は違うけど勝負服..文学少女タイプだよね…

「翼お兄さん、いつ位に帰ってくるのかな?」

「大体寄り道しないなら、もうすぐかな?」

「そう、所でお兄さんの部屋って何処?」

「私の部屋の前だよ..」

「みたいなー何て!」

「駄目だよ、その前にカギが掛かっているし」

「そうか、残念」

「あの部屋の前までいってきても良い..」

「良いけどさぁ..」

二人とも可笑しいよ…恵子ちゃんの漫画でいうなら メスの顔になっているよ..

「まひる、今日翼、友達の家に泊まってくるって…」

「「…..」」

「まひるちゃん、また明日くるね、SUMOCHIは置いていくから自由に遊んで良いからね」

「私も本置いていくから、自由に読んでて良いからね」

何、何なの..もう帰っちゃうの..何で!

これ置いて帰られても困るよ。

「さて、SUMOCHIもあるし」

「本もあるし」

「「まひるの家に遊びに行こうか..」」

本当にお兄ちゃん、2人に何したの?

お兄ちゃんの正体は元勇者(勘違い)
家に帰ると母さんが起きて待っていた。

「翼、引きこもりの貴方が外に出るようになったのは良い事だわ、でも外泊する時は事前にちゃんと連絡しなさい..まぁ親御さんからは連絡がありましたけど..天上さんて誰かしら?」

「無断で外泊して申し訳ございませんでした。天上家は同じ学園の天上心美さんのご自宅です。別にやましい事は無く剣についてご家族の方を交えてお話ししていました。」

居場所をちゃんと報告しなかったのは僕の落ち度だ、しっかり報告をするのは子供として当たり前の義務だ。

「今回の事は良いわ…天上心美さんってあの剣道小町よね、親御さんも、おじい様も高名な剣道家で大きな道場を構えているお宅..間違いないわよね」

「はい、それで間違いありません」

「所で、そんな天上家の方と何で剣道の話をする事になったの?」

うん、普通に考えたら可笑しいよね..そのままは伝えられないな…

「実は、剣道部を見学しまして、心美さんとなりゆきで一緒に練習する事になりました。少し才能があるみたいです。」

「へぇー翼がね」

「はい、それで剣道部に誘われまして入部する事になりました」

「そうなの? 剣道部に入ったのね!」

「はい、それで部活とは別に週一度、天上家の道場で練習をつけて貰える事になりました」

《本当は僕がつけるんだけどね…》

「凄いわね…本当なの!」

「はい!」

「そう、母さんも応援するわ..頑張るのよ!」

「はい、母さん、これからは余り、心配させない様に頑張るよ!」

「そうね..そうだ朝食は?」

「食べてきました」

「そう、だったらコーヒーを淹れてあげるわ」

《可笑しいわね、これが本当に翼なの、どもったりしないでこんなにハキハキ話すなんて..まるで別人みたい..この子が剣道を始めるなんて信じられないわ…しかも自分から謝るなんて、この子も変わろうとしているのね》

「ありがとう母さん!」

《ここまで変わるなんて、夢みたい、母さん嬉しいわ》

「お兄ちゃん、おはよう! 昨日 裕子ちゃんと恵子ちゃんが来ていたんだよ..」

「そう、それは残念だったな」

「二人とも会いたそうだったよ!」

「それは悪い事したな、今度何か埋め合わせするよ!」

《お兄ちゃんも変だ…こんなこと言うお兄ちゃんじゃなかったよ》

「そう、だったら最中アイス奢って..」

「うん、それじゃ、ご飯を食べ終わったら買ってくるよ!」

「所で、お兄ちゃん昨日は何していたの、友達の家に泊まってくるなんて初めてじゃない?」

「うん、天上さんの所で剣道について語っていたんだ..」

「天上さんって天上心美…?」

「そうだけど」

「何で!」

「剣道の話をしてた、実際に竹刀を交えて」

《あれっ、そう言えばこの前、剣術を見せてくれていたっけ…お兄ちゃんは、あれあれっ》

「そうか、凄いね、あの剣道小町と竹刀を交えるなんて」

「うん、だけど、天上さんよりもお父さんやお母さん、そして鉄心さんの方が強かったよ」

《あれっ、鉄心..天上鉄心って生きる伝説、剣聖とか呼ばれていたんじゃないかな? 現代最強とか..後でネットで調べてみよう》

「それでお兄ちゃん勝ったの?」

「まさか!心美さんには何とか勝てたけど、他の人には全然歯が立たなかったよ…全然」

《これで良い筈だよな?》

《剣道小町に勝ったの? 確かあの人も男子含んで高校最強とか言われていなかった?》

「そう、お兄ちゃん凄いね」

「これからは少しはまひるが自慢できるお兄さんを目指すよ..今迄ごめんな!」

「…..うん頑張ってね!」

《私、わたし..何でお兄ちゃんの事..気持ち悪いなんて思っていたんだろう..普通じゃないかな》

「あのさ、まひる、翼ってそんなに剣道出来るの?」

「うん、この間、はじめてまひるも見せて貰ったんだけど..凄くカッコ良かったよ..そうだ今日は日曜日で学校が休みなんだからお母さんにも見せてあげたら..」

「そうだね、じゃぁまひるがご飯を食べ終わったら裏庭で少しやってみようか?」

「いい、これが基本の型..」

体の力を抜いて、基本に忠実に竹刀を振った。

この竹刀は天上家で貰ってきたものだ。

「凄いわね…翼..だけど、それ何処で練習して身に着けたの?」

「まひるも..聞きたいな..」

《ヤバイ、どう説明しようかな..》

「部屋で一人で木刀振っていたんだよ」

「そう、凄いわね」

《それだけで、そんなに成れるのかな…可笑しいよ…》

「うん」

他にも幾つか技を見せてみた。

こちらの世界の技の方が無難だろう…だから百合子さんの技を模倣してみせた。

「行くよ..五月雨つきからの古月..」

この位は大丈夫だよな..

「凄いわ翼..」

《こんなの出来る訳が無い..凄すぎる》

<まひるSIDE>

可笑しな事に、さっきから見ていたら、お兄ちゃんがカッコよく見えてきた。

まるで王子様みたいに、お母さんも誤魔化しているけど…可笑しく思って居ると思う。

だけど、今ようやく解った。

お兄ちゃんは多分「異世界に行ってきたんだ」

お兄ちゃんの本に書いてあったよ、異世界に召喚されて勇者に成る話が..そして魔王を倒してまた帰ってくる話がさぁ。

お兄ちゃんは夢を叶えたんだ..きっと何らかの方法で異世界に行って帰ってきたんだ..

だから、あんなに違うんだ。

だけど、これはまひるだけの秘密..誰にも言わないよ。

「お兄ちゃん!お兄ちゃんってライオン倒せる!」

「ライオンかライオン位なら簡単だよ..」

《その位の生物なら簡単な筈だよな》

《ほらね、多分、魔王やドラゴンと戦っていたんだ..じゃなくちゃライオン位なんて言わないよ..》

「そうか、ライオン位なら倒せるんだ、凄いねお兄ちゃんは!」

「もっと頑張るからね..」

「うん頑張ってねお兄ちゃん!」

「どうしたの二人してコソコソと母さんは仲間外れなのかしら?」

「いや何でもないよ..お兄ちゃんは凄いな..そう思っただけだよ」

「そうね、頑張っているわね..本当に随分マシになったかしら?」

《だけど、お母さん驚くだろうな…お兄ちゃんが勇者だったって知ったら..》

家族でお出かけ
「ごめんね、裕子ちゃん今日は家族でお出かけするんだ…恵子ちゃんにも伝えて置いてね!」

これは嘘..だけどこれから本当になるんだから良いよね?

だってね、お兄ちゃんに掛かっていた魔法が溶けかけているんだ..

今日の朝から..

さっきまで、私はお兄ちゃんに「魅了の魔法を掛けられているんじゃないかな?」そう思っていたんだ。

だって嫌いな筈のお兄ちゃんが何故かカッコよく見えてくるし…何よりもうちのクラスの美少女2人があんなになっちゃったんだから..

勇者になると外見が醜くても魅了の魔法が掛かって美形に見えるっていうあれ…

でも違っているような気がするんだよね!

魅了の魔法なら、そのままの姿形が綺麗に見えるだけだからさ..

今の私にはお兄ちゃんが状況によって二つの姿に見えるの..これは多分兄妹のとっても深い絆のせいだと思うの。

私とお兄ちゃんは兄妹…だからきっとこそ、両方の姿が私には見えているんだと思うの。

勇者に成る前の、お兄ちゃん、オタクで自分勝手でどうしようもないお兄ちゃん。 (← こっちが多い)

王子様みたいで物凄ーくカッコ良くてうん、まるで物語の主人公みたいなお兄ちゃん。(← 偶に見える)

多分、私は家族だから..認識をずらす様な処置をこっちに来る際に神様がしたんじゃないかな?

その証拠に、元のお兄ちゃんを知らない裕子ちゃんや恵子ちゃんには、王子様みたいなお兄ちゃんが見えていたみたいだし..ズルいよね!

妹だからって..さぁ..

意識を集中したり、カッコ良いな..なんて思っているとさぁ..本物のお兄ちゃんが見えてくるんだ。

うん、凄くカッコ良い…

多分、異世界とこっちでは時間の進み方が違うんだろうね..私が過ごした1日が向こうでの何年になっているんじゃないかな?

だって、そう考えないと可笑しいもの。

あんな我儘で年上なのにガキみたいだったお兄ちゃんがだよ…凄い大人になっているんだもの…。

いま考えれば、お母さんに「いい加減馬鹿なこと言うのは辞めなさい」って怒られてプチ家出した時があったけど、あの時に転移したんじゃないかなと思うの。

そして厳しい世界で生き抜いて帰ってきたんだ..お兄ちゃんは..

だから、多分お兄ちゃんには妹成分が足りないと思うの…

よく考えれば、少し前からお兄ちゃんの目が昔と違って凄く優しい目になっていたし、何とも言えない顔で私を見ていた物。

多分、私にとっての数日間の間にお兄ちゃんは何年もの月日を異世界で過ごしてきたんだよね..そして、お母さんや私に逢えなくて寂しかったんじゃないかな?

だから、お母さんや私に凄く優しいお兄ちゃんになったんだと思うの。

だから、今日は…

「お母さん、偶には家族で何処か出かけない?」

「えっ! そうね翼が良いんだったらいいわ..」

《昔のお兄ちゃんなら此処で確実に断るよ..忙しいとか、勝手に行けばとか言ってさぁ》

「そうだね、せっかくまひるが誘ってくれたんだから出かけるか! 何処に行こうか?」

「….」

《ほらね、やっぱり違う、お母さんのあの顔面白いの! 絶対に断ると思ったんだろうね》

「そう、だったらお母さんこれから支度するわね..翼はどこにいきたいの?」

「特に無いから、お母さんかまひるが決めて!」

「だったら、デパートに行かない、お母さんどうかな?」

「デパートね良いわね、翼もそれで良い?」

「うん、任せるよ!」

《この世界の事は余り知らないから、何処でも楽しそうだ》

前の世界では家族で気軽に出かける事は少なかったな..

「どうしたの翼ったら変な顔をして..」

「いや、母さんが運転する車に乗るの久しぶりだなと思ってさ..」

「そうね、こうして翼と車に乗るのは久しぶりかしら」

「お兄ちゃんは誘っても一緒にお出かけしてくれないからね!」

「そうだったかな?」

「そうだよ!」

「うわ、凄いな」

《何なんだこの巨大な建物はたしかに知識にはあるけど…ここ全部が商品売り場なのか? 王城よりでかいぞ!》

「うん、どうしたのお兄ちゃん?」

《久しぶりだから感動しているんだ..良かったねお兄ちゃん》

「どうしたの翼、大きな声をあげて」

「何でもありません」

「そう、なら良いわ」

やっぱり、お兄ちゃんは変わった..荷物を持ってくれたり、レストランでは椅子を引いてくれたり..

お母さん驚いているよ..

だけど、お兄ちゃんに私なりにお願いがある。

難攻不落のあれに挑戦して貰いたいんだ..

「ねぇ、お兄ちゃん、お兄ちゃんは射撃とかは得意?」

「射撃かーどっちかと言えば弓の方が得意だよ!」

「翼、弓なんて出来るの?」

「少しだよ、あくまで少し」

「流石に剣みたいに使えないでしょう」

「うん」

《お兄ちゃんは弓も使えるみたい..》

「お兄ちゃん、屋上に射撃があるからやってみせて」

「そう、いってみようか?」

「いらっしゃい、1回500円で玉は5発だよ..頑張って

この射撃の最高の景品はSUMOCHI、つまりは高級ゲーム機だ。

だがズルい事に当てて落とした人は居ない..随分前に景品がブレーブステーション3だった頃に何万円も使って前側に落とした人がいたけど、後ろじゃなくちゃ駄目だと貰えなかった。

それ以前に、これ弾を連射で当ててもなかなか動かない、絶対に採れない..つまりズルだ。

「おじさん、これって後ろに落としたら確実に貰えるんだよね!」

「おっ嬢ちゃん詳しいね..そうだよ、前は駄目、後ろに落とした場合のみしか上げられない..と言う事はお嬢ちゃん過去に挑戦したことがあるね」

「うん、採れないからお人形に変えた キデーピーの人形に」

「あっ思い出した、大きな人形をとった嬢ちゃんだ..大きくなったな..これはおじさんピンチだ」

「お兄ちゃん、あのゲーム機が欲しいな」

「まひる、幾らお兄ちゃんでも取れないわよ?」

「頑張ってねお兄ちゃん!」

翼は家族に結構酷い事してたみたいだ..それなのに妹も母さんも凄く優しい..

偶には良い所を見せても良いだろう..

「それじゃやってみようかな!」

「はいよ500円」

500円渡すとコルクの玉を5発貰った、これをこの銃に詰めて撃てば良いんだな。

《必中》のスキルを使った、普段は狩を楽しむために使わない、これは弓や銃で相手を確実に仕留める時に使う技だ。

弾は確実にゲーム機の頭に当たった..だがゲーム機はビクともしない。

「惜しかったな兄ちゃん!」

白々しいな、これ絶対に取れないだろう..

「これ本当にとれるのか?」

「そう簡単に取れたらおじさん、破産しちゃうよ」

明かにズルだな..ならこっちもズルをしよう

《必中、貫通》

必中は狙った所に確実に当てる技だ、貫通は人を貫通させる程の威力で何でも打ち出す。

壊れるといけないから箱の上部を狙う。

「それじゃ、行くよ」

僕が引き金を引くと、まるで本物の銃のように弾がはじき出される..そして弾はゲーム機の上に当たりそのままゲーム機を弾いた。

勿論、しっかりと後ろに落ちた。

「そんな..馬鹿な..」

「これは確実に貰えるわよね..」

「ああっそうだな..だけどその銃を見せてくれるか?」

「何も細工なんてしてませんよ」

「本当だ..そのゲーム機は兄ちゃんの物だ…持っていけ」

「流石、お兄ちゃん凄いしカッコいい..」

「まだ弾は三発あるんだが」

「あっ、そうだな」

「ゲーム機は置かないのか?」

《流石にもう一度は無いだろう》

「兄ちゃんまだゲーム狙うのか..よしおっちゃんと勝負だ」

《必中、貫通》

「そーれと..」

「嘘だろう、また取りやがった..」

僕はゲームに興味ないし、母さんとまひるの分は取ったこれで良いかな。

「兄ちゃん、二台も取られるなんて考えてないからもうゲーム機はないぞ」

もう要らないな..そうかゲームで遊ぶならソフトが必要だな..

その後、二発の弾を使ってスーパーマルコシスターズとトラコクエストをとった。

「はい、これも母さんとまひるにプレゼントするよ」

「ありがとうお兄ちゃん!」

「母さんは余りゲームはしないけど、せっかくだから頂くわ..」

後ろからおやじの泣き声が聞こえた気がしたが気のせいだろう。

後日談だが二台ともSUMOCHIは壊れていた。

だけど、保証書で修理できたとまひるが喜んでいた。

【閑話】 勇者の事情?
俺の名前は天空院翼..

魔王を倒した勇者でお姫様と聖女と女魔導士に少女とメイドと暮らしている。

羨ましいって?

だったら、この生活お前にくれてやるよ!

いや、真面目に貰って下さい..そして、その世界に戻してくれ…

そしたら、この屋敷も女も名誉も全部あげるからさ..

無理だよな、だってあんた神じゃないもんな..

だけど、ブスは3日で慣れるというけどさぁ..全部がそうだと難しい…

早く、この5人と子供を作って隠居生活したいんだが..無理..立たないんだ。

そればかりか、酷い時には吐いてしまうんだ..

此奴らが性格が悪ければまだ良かった…だけど、凄く性格が良いんだ..それがまた悲しい。

特に、ジョセフィーナ…此奴は相思相愛の婚約者から引き離した、恨まれても仕方ないのに、尽くそうとしてくれている。

一応はこの中では一番真面だ..それでも気持ち悪い位醜いが..

俺は子供が出来たら婚約者のセレナに返してやるつもりだった。

わざわざ屋敷迄きたんだ、好きなのは解ったしな…ブスだけど。

だから何も罪に問わない様に頼んだ..なのに国を出ていく事になり、盗賊に殺されやがった。

死なれて困るのは..俺だぞ!

俺はさ、どうにか頑張って子供を作って、彼奴に詫びるつもりだったんだ。

「女神に頼まれ子を設ける必要があった」とか話して「本当に済まないが俺は魔神を警戒しなくてはならぬ」とか言ってな。

この世界で美人である聖女や女魔導士やメイドに少女..俺のブスハーレムを譲るつもりだったのに…何で死ぬんだよ..

それで、お前にとって美女ハーレムが手に入って俺はこのブス軍団とお別れWINWINだろうに..

押し付ける機会が無くなったじゃないか…お前は人気者だから上手く行くかもしれなかったのに..

案外こいつ等ブスなのに男の好みは煩いんだよ…

流石にセレナが死んだ日はジョセフィーナは泣いていたな..気持ち悪い女だが心が痛むんだよ。

だけど、俺は悪くない..そう思うが…俺が来なければ、お前は死ななかった…まぁ世界は魔王に滅ぼされたかもしれないけどな..

もしくは、魅力のチートを俺が貰わなければお前は幸せだった…このブス達もな..

だから…《ごめんよ..》

この世界は本当に悪意に満ちている。

食事も旨いし気候も良い…なのに女だけが最低なんだ..

絵画から彫刻まで醜い女しかいない..今までは前の世界の女で抜いてきたが最近では記憶が薄れてきた。

ボーイズラブに走れたら…本当は幸せなんだが…俺には無理だった。

彼奴らと美少年…不細工でもまだ女の方が良いみたいだ..幾ら美少年でも無理だった。

だから、最近、勇者の権限でちょっとした奇習をバラまいた。

「勇者様の世界では男も乳首を隠すんですか」

「ああっこちらにしたら可笑しな風習だと思うがな」

これを地道に流行らせた結果、男が裸になっても女と同じ様にブラジャーのような物をつける風習をつくれた。

これで、風呂やプールに行って下さえ見なければ脳内変換して一部の男が貧乳美少女に見えなくもない。

虚しいな…

もう高望みはしない..普通でも良い、地味子でもいい..一人で良いんだ..平均的な女の子に会わせてくれ

そうしたら、俺の栄光なんて全部やるよ…

徹夜明けの朝錬
ようやく、小学生の分の勉強が終わった。

この世界の勉強は本当に面白いな..

僕は公爵家に生まれたから遅くまで勉強する事は苦ではない。

父上の書類の仕事を手伝ったり、場合によっては魔獣の討伐の指揮をとったりして眠れない事が多かった。

また、基本貴族として学ぶ事の多くは詰め込み式なので覚える事は苦にならない。

さてと、明日からは中学生の分がスタートできる。

もう少し頑張れば何とか追いつける..

《もう4時..今日は寝よう》

ピンポーン

《まだ、5時じゃないか..誰だこんな時間に》

ピンポーン

《不審者だといけないから僕が出よう》

「こんな朝早くから誰ですか?って心美さんじゃない..どうしたの?」

「おはよう、翼くん、朝練に誘いに来たよ..まだ起きていなかったの? さぁ着替えて、着替えて!」

「朝練って何?」

「翼くん、剣道部に入ったじゃない! だからこれから練習だよ!」

《そういえば僕は剣道部に入ったんだっけ..そうだった》

「お兄ちゃん、こんな朝早くからどうしたの? あれっ天上心美..さん..」

「どうしたの翼..こんな早くからお客様?」

「はじめまして! 翼くんのお母さまと妹さん、私は天上心美と申します、今日は翼くんを剣道部の朝練に誘いに来ました!」

《本当に剣道が好きなんだな!》

「おはようございます..こんな格好ですみません..母の速野(はやの)です、至らぬ息子ですが宜しくお願い致します」

「私は、まひる…宜しくね心美お姉ちゃん!」

《本物の剣道小町だよ..やっぱり元勇者のお兄ちゃんの彼女はこの位じゃなくちゃね..裕子ちゃんや恵子ちゃん ご愁傷さま》

「こちらこそ宜しくね、まひるちゃん」

「うん!」

直ぐに僕は着替えを済まして準備した。

その間、心美さんはコーヒーを入れて貰って飲んでいた。

母さんもまひるも本当は朝は遅い、明日からは早起きしてこっちから行こう。

今日の朝食は諦めた。

「お待たせ、それじゃ行こうか?」

「うん、行こう!」

「翼 大丈夫かしら? 朝弱いのに続けられるかしらね」

「大丈夫だよ!」

《まひるが翼を認めるなんて、お兄ちゃんとは仕方なく呼んでいたけど、心の中では馬鹿にしていた筈なのに..》

「どうして、そう思うの?」

「だって、お兄ちゃんだから!」

《どうしたのかしら? 何か尊敬しているように聞こえるんだけど》

《だってお兄ちゃんは元勇者だもん!》

「あのさぁ、こんな朝早くに学校に行っても閉まっているんじゃないの!」

「閉まっているよ!」

「じゃぁ、何で?」

「うん、だから天上家の道場で練習しようよ」

確か、天上家で練習するのは週一の約束だったはず..

「あのさぁ..」

「翼くんは私と朝練するのは嫌?」

ズルいよな..こんな風に見つめられたら断れないよな..

「いいんだけど…僕は授業についていけないから勉強もしたいんだけど…」

「あははは、可笑しいの!」

「僕、何か可笑しい事言ったかな?」

「翼くんは馬鹿でも良いんだよ、剣がこんなに強いんだから!」

「だけど、この先進学とか考えたら勉強しないと..」

《母さんは僕に大学に行って欲しいみたいだしな..》

「しなくて良いよ、大学に行きたいなら、剣道推薦で行けばいいんじゃない? 多分、おじい様が何処でも推薦してくれるよ!」

「推薦って..」

「私だって頭は良くないけど、多分推薦で大学に行って学費も免除になると思うよ..翼くんも一緒の大学に行こう!」

「学費も免除かいいな、それ、だけど僕でも大丈夫なのかな?」

「あのさ、翼くんはおじい様より強いんだよ! 実力を見たらさあっちこちからスカウトが来ると思う」

《目立ちたくは無いけど…学費免除で推薦は良いな..母さんも喜ぶだろうし..》

「よくぞ来られた翼殿!」

うわぁ家族総出で門の前に居るよ…

「これはいったい何事ですか?」

「これから、貴方に師事するのです、弟子が出迎えるのは当たり前の事ですわ」

「翼殿..師匠、どちらで呼んだ方が宜しいかな?」

「この前の非礼をお許し下さい..是非未熟な私めにも手ほどき下さい!」

これ絶対、毎日来なくちゃならないよな。

「解りました それじゃ手ほどきしますかね」

「「「「宜しくお願いします(わ)(ね)」」」」

「それじゃ、今日は皆さん普段着で靴を履いて下さい」

「靴を履くのに何か意味があるのかのぉ」

「それは後でお教えします..まずは準備お願いします」

「全員、準備は整いましたわ」

「それじゃ、今から走りに行きますよ..そうですねあの裏山を走りましょう?」

「ジョギングですか、意味は..」

「ごめんなさい..今は僕が教える立場ですよね..終わったら説明しますから今は何も聞かずに..走って下さい」

僕は先頭にたって走った。

一切休まず、獣道の様な山を走っていく。

多分、最初にダウンするのは心美さんだろう..心美さんが走れなくなったら辞めよう。

だが、意外な事に一番最初に走れなくなったのは巌さんだった。

「はぁはぁ、翼殿、もう俺は走れそうもありません!」

「だらしない、ほら僕が押しますから休まない」

《鬼じゃな..やはり》

《剣の鍛錬になったら人が変わったわね..素敵ね》

《僕ももうすぐ走れなくなる..まずい》

《はぁはぁ..私も限界は近いわ》

それからもひたすら山道を走った。

まぁ1時間位休まず、早いペースで走らせたからもういいだろう?

全員に落ちていた木の枝を放り投げた。

輝彦、心美、巌はよけきれずに枝が当たった。

百合子と鉄心は簡単によけた。

「はい、今輝彦さん、心美さん、巌さんは死にました」

「えっそれはどういう事なの?」

「聞くまでもないじゃろう? 気を抜いた所に物が飛んできた..これが小刀とかじゃったら怪我か死じゃな」

「そんな事も解からないなんて、やはり平和ボケしているわね」

「まぁ、そんな所ですね..折角だからもう一つの今日の練習の趣旨も教えます」

「それは一体なんなのでしょうか? 翼くん」

「これは天上流の欠点を無くす訓練なんだよ…だけど、これをすると剣道は間違いなく弱くなる」

「やはり、そうじゃったかの」

「何となくは解かっていましたわね…最初から突き付けてきましわね」

「私は解らないわ..どういう事なのかしら!」

「僕も解らないよ..何がなんだか..」

「俺も解らないな」

「鉄心さんか百合子さん、解ったのなら伝えて貰えますか?」

「儂が言おう..すり足を捨てよ..そういうことじゃ!」

「ちょっと待っておじい様、すり足は一番の基本、それを使わない剣道なんてないわ」

「だけど、心美さん、実際に戦いがあった時には靴を履いている事が多いはずだよ、そんな場面ですり足は使えるのかな、それにこんな山道じゃぁ使えない..だから捨て去る必要があると思う」

「儂は解る、儂の父親は戦争経験者じゃからの..確かに親父は戦争に行った時に軍靴での戦いで苦戦したらしいからの」

「それは別にしても確かに実際の戦いの多くは靴をはいた状態が殆どですわね」

「だけど、剣道の基本はすり足が基本だから、それを学んだら剣道では勝てなくなる、そういう事か!」

「何時かは、すり足を上回る力がつきますが身につくまではそうなると思います」

「儂はもう決めておるぞ、すり足は捨てる..そして親父ですら出来んかった上を目指すのじゃ」

「心美も決めました、戦場で負ける天上流に価値はないわ..翼くんにおじい様とついていくわ」

「僕も同じかな..剣道の才能はそもそも無いから、翼師匠の剣術を学んでみたい」

「私は..考えさせて下さい..」

「俺も」

「そうじゃな、道場の方もあるからの..慎重に考えるのじゃ..」

「その方が良いと思います、此処からは多分思っている以上の事になると思いますから..」

結局、暫く考えるそういう事で今日の練習は終わった。

【閑話】 狙撃の王子様
おじさんは、おじさんは今最大のピンチを迎えている。

「おじさん、射撃良いすか?」

金髪に黒髪の一見チャラそうな奴が来た。

「あいよ、5発で500円ね」

何か可笑しいとは思った。

カメラの様な物で撮影しているしな。

しかも他の景品に目もくれず、ひたすらSUMOCHIだけを狙っている。

「おじさん1万円分追加..」

「あいよ」

弾を渡した、悪いが多分、SUMOCHIはとれない..この間2連ちゃんとられたから鬼のようにとれないようにしたから..

結局、1万円分の弾を打ち尽くし終わった。

「おじさん..10万円分追加..」

この頃には沢山の見物人が集まっていた。

「いや、流石にそれはやらせられないよ…いい加減に辞めた方が良いぞ」

「はぁ、こっちはお客だよ、断るのは可笑しいだろう…」

「だけど、可笑しい金額だ、その金額出すなら6階のおもちゃ売り場で買えばよいだろう」

「このSUMOCHIが欲しいんだよ..沢山しちゃいけないなんて書いてないだろう」

「そうだ、そうだ」

「インチキじゃないならやらせてやれよ じじい」

「はぁい!ピカリンの闇を暴くです…今日は射的の闇を暴くです! 果たしてSUMOCHIは幾らでとれるのかな?」

ヤバイ、此奴は有名なYANチューバ―だ…景品がとれるまでやったり、アタリが出るまでくじを引き続ける奴だ。

仕方なく、10万円分の弾を渡した。

沢山連射していたが..

「これ、可笑しいよな、もう5万円分の弾を打ち尽くしても動かねえよ..」

「これで7万円分だ、ぜっていこれ取れないだろう」

周りからも非難の声が上がってきた。

《あれじゃお金をゴミに捨てているようなもんじゃん》

《あれでとれないならインチキじゃん》

「もう10万円分、終わるよ..これおっちゃんインチキだろう..もう10万」

「もう辞めてくれ..」

この場所の商売は俺の為に昔の弟分が世話してくれたんだ。

的屋で全国回るのはじじいになったら辛いだろうって、知り合いに頼み込んでここのお祭り広場にいれてくれたんだ。

だが、こんな噂が広まったら商売にならない。

それ以前にデパートから追い出されちまう。

「辞めないよ..おっちゃんがインチキって認めるか、とれるまで..早く弾だせや..もしくはインチキって認めろや…おっちゃん」

「やらせてやれよ」

「やらせろ、やらせろ」

辞めさせられないな..

「ほらよ10万分」

終わったな…仕方ないな…

「裕子ちゃんは元から持っているし…まひるは手に入れていいなぁー、SUMOCH持って無いの私だけだよ..」

「まぁまぁ、だからお兄ちゃん連れてきたんじゃない」

「幾ら、翼お兄さんが射撃が得意でも無理だよ..」

「だけど、私のはお兄ちゃんがとってくれたんだよ」

「そうなの? じゃぁ翼お兄さんがとってくれたらキスしてあげる…何てね!」

「ふざけるな恵子ちゃん..それは可笑しいよね..」

「そんな事言うなら帰るよ、恵子ちゃん」

「ごめん、冗談だって」

《ちぇっ、旨く行ったらSUMOCHIが手に入ってキス迄できたのに..》

「笑えない冗談だよ! 恵子ちゃん」

「まぁ冗談なら良いけどさぁ」

「おじさん、僕もやらせて貰っていい?」

「兄ちゃん辞めとき、辞めとき、これ絶対にとれへんで!」

「そうですか、でもやります…はい500円..」

《此奴なら、此奴ならとれるかもな》

「はいよ 5発ね」

「おじさん、今日も悪いね..」

《必中、貫通》

「流石に三連ちゃんは無理だろう」

「三連ちゃん?」

パンっ

「流石は兄ちゃんや仕方ない、持っていきSUMOCHI…」

「はい、恵子ちゃん」

「翼お兄さんありがとう、屈んでくれる?」

「何をしているのかな? 恵子ちゃん..」

「まひるちゃん、怖いよ..」

「裕子にも何かとって下さいよ 翼お兄さん!」

「それじゃ、あれ セルランの冒険というソフトで良い!」

「はい、それでお願いします!」

《必中、貫通》

パンっ

「流石兄ちゃんだ、ほれソフトだ」

「はい裕子ちゃん」

「うわぁありがとう、これ一生大切にします!」

「私も、私も..お兄ちゃん、まひるもソフト欲しい」

「なんだ、ちゃんととれるじゃないか?」

「ピカリンが下手糞なんじゃないのかな?」

「寧ろ、受け狙ってわざととらなかったんじゃね?」

「それじゃピカリンがやらせだって事じゃないか..ひでぇな」

「そう言えば、私デディの人形とった事あるよ」

「私も昔MP3プレイヤーとったよ..」

「こんなのやらせだ! そいつと親父がグルなんや..違うというなら、この銃でやってみろや!」

「良いですよ!」

《必中 貫通》

「これで良い? まひるとれたよ!」

「兄ちゃんほんとうにかなわんな、ほれっ」

「うん、これ欲しかったの…ありがとうお兄ちゃん」

「だけど、あの人凄いね..三発で ゲーム機にソフト2本なんて..」

「しかもカッコ良いよね、まるで射撃の王子様みたい…」

「絵になるね」

「お母さん、私もSUMOCHI欲しい..」

「駄目よ、うちはお父さんが失業してお金が無いんだから..」

「おじさん、前みたいにもう一度置いて貰えるかな」

《しゃぁねぇ、今日は助かったからな..礼だ》

「悪いね」

「ここまで来たら、とれよ」

《必中、貫通》

パンっ

「凄い、あの人またとったよ!」

パンっ

ソフトを狙った..マルコシスターズを落とした。

「あいよ..だけど兄ちゃん、これで出禁で良いか? 流石に赤字だ..」

「あのゲーム狙い無しで手を打ちませんか?」

「解った…今度からはゲーム機狙いは無しって事ならいいや」

「そら行った、行った」

「はい、これ!」

「お兄ちゃん、このSUMOCHI…くれるの?」

「これもね」

「わーい、マルコシスターズだ」

「あの、こんな高額な物貰う訳にはいきません」

《どうしようかな?..そうだ》

「その飴くれる?」

「うん、はい」

僕は急いで口に入れた。

「ありがとう、じゃぁゲームと交換だね」

「あの、貰う訳には…」

「交換したんですよ..もう飴は食べちゃったから、これはその子の物ですよ」

「すみません..有難うございます、本当に有難うございます!」

「お兄ちゃん、ありがとう..お礼に大きくなったらお嫁さんになってあげる! ちょっと屈んでくれる?」

「これで良い?」

「チュッ..直ぐに大きくなるから待っててね、お兄ちゃん!」

「うん、待っているよ、じゃぁね」

「バイバイお兄ちゃん」

「バイバイ」

《あっ、あれ、私が、私がしたかったのにー》

《お兄ちゃんフラグばらまきまくりだよ》

《あれは子供、あれは子供、あれは子供》

「あれっどうしたの? 子供って可愛いよね? 結婚してくれるって、案外子供でも嬉しいものだね」

《あれ、絶対あの子本気だと思わない?》

《同じ事、私が子供の時に翼お兄さんにされたら..忘れないと思うな..一生》

「あの..翼お兄さんが良いなら裕子を..」

「何を言い出そうとしているのかな? 裕子ちゃん!」

「私、翼お兄さんが良いなら将来..」

「恵子ちゃん..何を言おうとしているのかな? 」

「あははは、嘘ばっかり、ゲームのお礼ならもう良いよ! だけどそういう事は本当に好きな人にとって置いた方が良いよ」

《お兄ちゃん、鈍感なのもライトノベル並みなんだね》

《冗談じゃ無いのに..》

《本気なのに》

「そうかも..本当に好きな人(翼お兄さん)にちゃんと今度伝えます」

「私も、そうします(相手は勿論 翼お兄さんですよ)」

「それじゃ、そろそろ帰ろうか?」

「もう少し、お喋りしませんか?」

「じゃぁ、少しだけファミレスにでも寄っていこうか?」

「「「うん」」」

「ピカリンだか何だか知らないけどよ..お前が下手糞なだけじゃ無いのか?」

《嘘だ、周りが僕を変な目で見ている..まずい》

「はい、今回は白、紛らわしいけど白でした…だけど、難易度は高いから余りお勧めではありません..それじゃおっちゃんさらばや」

慌ててピカリンは走り去った。

【閑話】勇者の事情(完結編)
「目が悪くなる魔法ですか? 良くなる魔法でなくてですか?」

「そうだ、無い物か?」

俺は今日、宮廷魔術師 師団長の所に来ている。

勇者という立場は要人でも簡単に会えるのでこういう時は良い。

「ブラインドという魔法はありますが、これは相手の視力を奪う物なので何も見えなくなります」

「それじゃ駄目なんだ…あくまで視力が悪くなるだけの物が欲しい」

「理由をお聞きしても宜しいですか?」

俺は誤魔化す事にした…それが一番誰も傷つかない。

勇者の力を手に入れる為に大きな代償を払う必要があった事。

その代償は女神でも解らなかった。

そして、その代償が「女性が醜く見える」そういう物だった。

《これで良い筈だ、俺は本当にこの世界の女が不細工に見える..多分こうなる事は女神は知らなかっただろう..これは俺にとって大きな代償だ》

「そうだったのですね…凄く辛かったでしょうね、だから王女様や聖女様にも辛くあたっていたのですね」

「ああっ、本当に尽くしてくれる..良い奴ばかりなのに顔がモンスターに見えるんだ..正直狂いそうだ」

「そこまでだったのですか?」

「そこ迄だ」

「ですが、それなら女性の居ない人里離れた場所で暮らすという事ではいけないのでしょうか?」

「俺の力は..遺伝するらしい、この世界の為に、5人以上の女性と子供を作ると女神と約束した」

「そうですか…ならば、私がどうにかしましょう…幾つかの方法はございます…いずれも禁呪ですが勇者様に使うなら誰も咎めないでしょう!」

「そうか、一生恩にきる」

「それでこれが勇者様に対して有効かと思える対処魔法です」

?「ホワイトマスク」

 この魔法に掛けられた人間は全ての人間が白い仮面をつけた状態に見える。
 男も女も全員。
 この魔法はその昔、勇者に仕えた魔術師の大規模魔法を封ずる為に、敵味方の区別が解りにくくする様に魔王が編み出したとされる。

?「障害フェイス」

 この魔法に掛けられた人間は人の区別がつかなくなる。
 顔にモザイクが掛かったように見え区別がつかない。 男女全員。
 この魔法はその昔し、勇者に仕えた 優秀な斥候の動きを封ずる為に 報告が出来ない様に魔神が作ったとされる。

?「女神パラダイス」

 全ての女性が女神イシュタリアに見える。
 この魔法は、その昔、女神の美貌に対して暴言を吐いた美少年に女神が用いたとされる。
 女神イシュタリアを愛する者には至高の魔法と言われるがつかわれたことは歴史上2人しかいない。
 
 ちなみに、用いられた1人は先の美少年…暫くしてから狂い自殺した。

 もう一人は、女神教徒。 女神を心から愛してやまない彼は勇者でもないのに、命を賭して先の魔王と戦い続けた、そして、自分の命と引き換えに魔王を倒した。

 その事に感銘を受けた女神はその教徒に二度目の命を与え、褒美をとらせようとした。
 だが、その教徒の望みは「女神、その物であった」 その使徒の美しさと自分を思う心に答えたい反面、自分が女神である以上答えられない。
 その時に過去に使った魔法を思い出した女神は「私は貴方の気持ちに答えられない..その代り貴方の世界を私で満たしてあげましょう」そう伝えこの魔法を用いた。

その教徒が亡くなった時は何とも言えない幸せそうな顔をしていたという。

?番は駄目だ、幾らマスクをしているとは言え、元の顔が思い出されるだろう..

?番はこれを選んだら破滅だ、誰が誰だか解らなくなったら生活が真面に出来なくなる。

そう考えたら?番しかない。

この世界の女の醜さは顔だけだ..体に関しては普通に色々なタイプがいる。
幸い、女神は凄く美人だ..そう考えたら、これしか無いのかも知れない。
ただ、全ての女性が女神の顔に見える事に若不安を感じるが、今よりはずうっと良い..良くてブス、本当に不細工だとゴリラ以下..正直オークやゴブリンと変わらない位不細工な女もいる..これの方が良い筈だ。

「それでは女神パラダイスで」

「やはり、そうですよね、美しい女神様に全ての人間が見える..私は怖くて(げほん)出来ませんが最高の筈です では神託を使って魔法を行使する必要がありますので 神官を呼んできますね」

宮廷魔術師 師団長が 10人程の神官をつれて来た…皆不細工な女だ。

「それじゃ行いますよ..」

「頼む」

目を瞑り、そのまま居ると目に何か熱い物が入ってきた。

「終わりました、どうですか?」

俺は静かに目をあけて、不細工な神官をみた。

《エロイ、美しい女神の顔ではぁはぁ言いながら床に倒れている》

この世界に来てはじめて下半身がうずいた。

「成功だ..師団長どの..一生恩に着ます..これ使って下さい..」

「この様な物は頂けません..」

「良いんだ..」

俺は金貨の大量に入った袋を師団長に渡した。

「解りました、これは今後の魔法研究資金と教会への寄付に致します」

「おう、じゃあな..」

俺は走った..街の女が全部、女神の顔に見える..だが、やはり、相手するのはあの5人だ。

「どうしたのですか 翼様」

「皆んな、俺が悪かった…愛している!」

《顔だけだったんだ..顔が真面ならそれぞれが独特の良いスタイルをしている》

「本当ですか? あの永遠の愛は、誓って頂けるのですか?」

「ああ、勿論だ..」

その日の翼は今迄の事が嘘だったように5人相手に愛し合った。

月日は流れ、子供も生まれた…だが生まれた子供のうち、女の子は全員母親と全く同じ顔だった。

30歳になって女性たちの体つきが変わっても顔は若くて美しい女神の顔だった。

美しき女神の顔に囲まれながら…翼は生きていく..

翼が死ぬ時には笑っているのだろうか? 悲しんでいるだろうか? 

その答えは 勇者 翼しか知らない…

【閑話】女神の罰

私は女神イシュタリア..これは私の罰だ、甘んじて受ける事にします。

5人の人生を狂わしてしまったのだから仕方ありません。

1番の被害者は「ジョセフィーナ姫」

勇者、翼やセレナじゃ無いのかですって?

違いますよ? ジョセフィーナです。

だって、彼女は「この国、いやこの世界で一番美しい人」なのですから。

婚約者のセレナは、恐らくこの世界でも有数の美男子…

それなのに、そんな幸せが壊されて、「凄く不細工な 勇者 翼」の物になったんだから..

確かに 勇者翼の基準では「不細工なブス」でしょうね? でもこの世界では最高の美女なの..そしてお相手は美男子しかいない世界の男がよりどりみどりだったのよ..

彼女に起きた事を私が代弁するなら

「王子様のように綺麗な男性と別れさせられて…オーク並みに不細工な男と結婚させられた挙句..ブス呼ばわり」

そういう事なのよ? 今迄、世界一の美少女と扱われていた彼女が…悲しくて仕方ないと思うわよ..

しかも、そんな美しいと言われた彼女が気持ち悪そうに見られながら 抱かれる訳..地獄よね。

2番 3番の被害者は 聖女と女魔導士だと思うの。

間違いなく彼女達も美少女なのにね

国を救って貰ったから「凄く不細工な 勇者 翼」の物になったんだから..

間違いなく美少年がよりどりみどりなのにね…

まぁ、勇者翼やセレナも確かに被害者ね..この辺は皆さんご存知でしょう?

さて、私の償い罰は… 「物凄ーく不細工な 翼みたいな男とイチャイチャしている自分の姿を見なければいけない事よ」

前の2人は良かったわ..最初の一人はまぁ気に入らないけど..狂ったような顔をして面白かったの。

二人目は、私の事が本当に好きだったのね..女神じゃなければ添い遂げたい位良い人だった。

だから普通に見てて楽しいのよ。

私にそっくりな女性に告白して、愛を囁き、子供も作って、うん幸せな自分の一生をみた感じ..多分人間だったらこんな人生なんだと幸せな気分になったわ…

今回は、不細工な男と暮らしている自分を見させられる訳ね…

でも仕方ないわね..私の持つ一つの世界を救って貰ったんだから…

不細工な男と愛し合い、子供を作って一緒に人生を歩んでいく..汚された私をみていく事..多分これが私の償いだわ..

屈辱のテスト返還..そして彼女が見た物は..
僕にとっての辛い時間が来た。

そう、テストの返却だ。

空いた時間をフルに使い、勉強しているが今現在は、中学一年生位の実力しかないだろう。

そして今日は幾つかの教科で先日行われた抜き打ちの小テストが帰ってくる。

そして、何時もの屈辱がはじまるんだ。

「天空院くん、テストどうだった?」

怖い笑顔で氷崎さんがくるんだ。

正直、凄く恥ずかしい..こんな馬鹿な自分のテストを見られたくはない。

トリスタン公爵家の人間は文武両道、何事においても頂点を目指さなくてはならない..まぁ僕は兄程ではなく完璧じゃない。

だが、それでも落ちこぼれるような事は無かった。

それが、自分で考えても…馬鹿にしか思えない..

最近、僕は勇者、翼を見直すようになったが…

それでも、それでもだ…もう少しは勉強していて欲しかった。

「頑張ったけど、まだ努力が足りなかったみたいだ..まだ基礎から勉強し直している最中だから許してね!」

つくり、笑顔で答えるしかない。

「そう、良くなかったのね..で点数は?」

僕は、手にしてテストをそのまま氷崎さんに渡した。

「38点なのね..」

「ごめんとしか言えない..」

「いいわよ勉強は自分が、頑張る物だから..他のテストはどうだったの?」

「言わないと駄目?」

「無理にとは言わないけど..知りたいわ!」

これは絶対に教えろという事だ。

騎士団の団長並みに気が出て見えるのは、僕の見間違いだと思う..

《しかし、天空院も可哀想だな..あそこまで壊滅的だった成績が数日で変わる事はないだろうに》

《氷崎さん、眼鏡ブスとか言われてたからその八つ当たりもあるんじゃない?》

《そうかもね、反省したのかな、結構酷い事言っても最近は言い返してこないよね?》

《昔のつもりできつい事言ったのにさぁ..ゴメン悪かったって..こっちが虐めているみたいになるよね》

「うん、現代文が48点 英語が24点 科学が37点 数学は今見たから良いよね」

「そう、だったら私はもう文句は言わないわ..後は自分でどうにかしなさい」

「頑張るよ..いつかは氷崎さんに文句言われない位にはなってみせるよ」

「解ったわ…だけど、勉強は私の為じゃなく自分の為..良いわね!」

《文句を言わないって..呆れられたんだな..仕方ないか》

「あのさぁ、氷崎さん、もう少し優しくしてあげても良いんじゃないかな? 直ぐに成績何て上がるわけ無いよ?」

「そうだよ、最近は..凄く優しくなったよ! 天空院くん」

「あのきつい剣道部にも入ったらしいよ」

「私がきついのは元の性格だから変わらないわ…だけど、怒ってなんてないわ、寧ろ感心しているのよ!」

「何を?」

「宇崎ちゃんに言って置くけど..天空院くんの方が貴方より成績は上よ!」

「嘘…本当?」

「ええっ、 現代文が48点 英語が24点 科学が37点 数学は38点、まだクラス平均より下だけど、少なくとももうビリじゃないわ..」

「本当に..凄いね、それ」

「ええっ だからもう、私が天空院くんに文句をいう事は無いわね」

「そうか、誤解していたみたい悪かったわ」

「良いのよ」

正直、私はさっきわざと天空院くんに辛くあたっていた。

だって、さっきの私の頭に何が浮かんでいたと思う?

《天空院くん、頑張ったね!見直したわ 凄いわね!》

これよ! これ…

本当に怖いのよ…そのまま思わず抱きしめそうになったわ..

気持ち悪くて嫌いだった天空院くんが最近カッコよく見えたりするし、さっき見た横顔なんて一瞬見惚れてしまったわ。

それは、他の女の子も同じ、見直したという子から..凄い子だと《天空院って良くない》何ていう子もいる。

そして最近は、あれよ、あれ、教室の窓に貼り付いている女の子。

最初はこのクラスの新井くん目当てだと思っていたけど、天空院くん目あてみたいだわ…ちなみに新井くんは野球部のエースこっちの方が普通じゃない?

流石にこれは無いわと思っていたけど..本当にそうみたいなのよね…だけど、幾ら良くなったとはいえ、あの外見なのによ…

だけど..私も可笑しいのよ..最近、何だか、天空院くんがね..凄く綺麗に見えちゃうのよ..

天空院って…解らない..本当に解らないわよ。

剣道家としての最後 天上心美
私は今隣の学園に来ている。

その理由は雌雄を決する為..

宿敵、東条楓と戦う為に..此処に来た。

「東条さん、お久しぶり..」

「何だ、天上じゃないか?大会以外で会うのは初めてだね..」

「そうね、貴方と私は会う時はいつも竹刀を交える時でしたわ」

「それでどうした? 何か用があるのかな?」

「ええっ、少しお話がありますの?」

「そうか、まあ、いいや取り合えず道場に行こうか?」

「はい」

「知っていると思うが此処には私しかいない..まぁ同じ状態のあんたなら解るだろう?」

「一心不乱に竹刀を振り続けると何故かいなくなってしまうのよね..不思議な事に!」

「まったく同感だな..」

「私のお母さんは「鬼百合」、貴方のお母さまは「鬼姫」お互いがライバルで私達の師匠、本当に似た物同士ね..」

「本当だな。だが私はお前のように華がない..幾ら剣道が旨くても..」

「あらっ 貴方の応援に凄い美少年がきてましたが?」

「まだ、付き合ってないんだ..」

「そうでしたの? 思わず貴方に彼氏が出来たのかと思いましたわ」

「この顔だぞ..告白するのが怖いんだ..」

「残念でしたわね…貴方が男でしたら凄く綺麗な彼女が出来たかも知れないのに.。まぁそれも手遅れですが」

「あははは、それどんな美少女だよ..」

「私よ。私貴方の剣道には惚れていましたのよ。貴方が男性ならこっちから告白してましたわ」

「へぇ 剣道小町が彼女か……私は運が無かったな..男だったら幸せだったのか?」

「そうですね」

「それで今日は何しにきたのかな? まさか話をしに来た訳じゃないでしょう?」

「ええっ、今日は真剣に戦って貰おうと思いまして」

「おい、勝負って事なら、残念ながらお前は私に勝った事はないだろう」

「ええっ! だからこそ、貴方が相応しいのよ。天上心美の最後の試合相手に。貴方との戦いで心美の剣道の締めくくりにするの」

《あの心美が剣道を捨てるのか。凄い気迫だ。これは剣道家として断る事は出来ないな》

「解った、その勝負受けよう..」

「ええっお願いするわ」

もう会話は要らない。目の前の最強の敵──いえ、最強のライバル、東条楓を倒すだけだわ..

残念ながら一度も勝った事が無い。

だから、私は万年、全国2位。

顔だけで貰った「剣道小町」 そう陰口を言われ続けた。

だけど、仕方ない…東条楓は本当に強いんだから。

天上心美、私以外で全てを剣道に捧げていると思える数少ない女。

いつも後ろに此奴が居たから私は更に強くなれた..

私と違い全てを持っている女..だが此奴が居たからこそ私は孤独ではなかった。

同じような奴がいる。

それだけが孤独を癒してくれた。

「さぁ準備が出来ましたよ楓さん」

「こっちも出来たぞ」

「では始めますわよ」

「あぁいくぞ」

流石は楓さん、王道の上段の構えですね..下手に踏み込もう物なら確実に打ち込まれる。

相変わらず心美は突き狙いか。天上流の突きは厄介だが──それだけだ。

「そりゃぁ」

「そりゃぁーっ」

こんな小手調べじゃ無理ですね..だったら..今私が出せる最強の技をだすしかない..

「行きますわ楓さん..」

「さっさと来い」

「天上流、奥義 五月雨突き」

お母さまの必殺技..これなら!

「だが、甘い」

私が繰り出した連続の突きを楓は難なく躱した。

ここからですわ.. 私が憧れたお母さまの技..幼き日に見た綺麗な月。

「奥義──古月」

「何っ!? これ!」

決まりましたわ──.えっ!?

パーン。

「今のは危なかったな。今までで一番突きも速かったし、最後の技、躱せたのは運だよ」

「悔しいけど、貴方は私より高みにいますわね」

「私のは実戦剣道、天上流は綺麗だからね.その分の差だと思う」

「私の剣道はお遊び、そう言いたいのかしら?」

「少し思う所はあるよ、だけど、華が無いと商売にならない、ゆえにうちの道場は貧乏道場、天上流は大きな道場でお金がある、世知辛いよね」

「そうね..私より強い貴方が記事にならないで、2位の私が記事になる…私が美少女だから!」

「全く、自分で美少女なんて言うのお前位だよ? まぁ本当に綺麗ではあるけどね」

「貴方も、剣を振る姿は美しいわ!」

「それ限定か……まぁこの通りカマキリ女とか言われるブスだから仕方ない」

「あははは、そうね」

「酷いな何気に……ははは」

「私、剣道を止めます!」

「おい、私達から剣道をとったら何が残るって言うんだ..止めてどうするんだ!」

「貴方に勝てない剣道は捨てて、剣術に転向しますのよ!」

「何だ!それなら剣を捨てた事にならないじゃないか?」

「そうですね……ですが剣術ではもう大会には出れませんから、貴方とは戦えませんわ!」

「だったら、大会以外でやれば良いじゃないか! 今日みたいにな」

「そうですわね」

「それにさ……」

「それに何ですか?」

「ほらっ私って天才じゃない? そんな私が本気になれる相手なんて万年2位とはいえ天上位しかいないからね」

「言ってくれますわね! 剣術の腕を磨いて直ぐに追い越して差し上げます」

「それでこそ、天上心美だ。剣術を磨いて納得したらまたやろう」

「ええっ」

これで剣道には未練はありませんわ..剣道家の心美は今死にました。

これからは剣術家の心美を目指します…

小さな敵 を大きく倒す
今日僕は 健司という先輩に呼び出しを受けた。

横で他に2人居てニヤニヤしている。

この手の事は後を引くと面倒くさいのでちゃんとしなくちゃいけない。

「お前さぁ調子に乗りやがってムカつくんだよ..この前も邪魔しやがってよぉー」

この前、女の子を助けた事を根に持っているのはありありだ。

「お前がちょっとばかし強くてもよ..俺の後ろにはマッドドッグがついているんだぜ..」

《マットドッグって何だろう?》

「マットドッグって何でしょうか?」

「お前、舐めてんの? 県下最強の喧嘩チームを知らねぇ筈が無えだろうが!」

《成程…有名な半グレ集団だ..しかも裏ではヤクザと繋がっているとかいう奴らで100人以上いるという奴らだ》

「それで、僕にどうしろと?」

「とりあえず、土下座しろ!土下座だ」

「断ったら?」

「お前、最近、女にモテるみたいじゃん? あの中の誰かが攫われたり、不幸な目に遭う..それだけだ」

《汚いな、女の子の名前を明かさない事で守れないようにしている…仕方ない..》

僕は土下座をした。

これは別に辛くない…貴族って生き物は腹芸の一つも出来なくてはならない、都合の悪い時は靴だって舐める。

但し、この借りは安くないぞ。

「これで良いか?」

「ああっとりあえずはな、明日から毎日 2万持ってこい、それで勘弁してやるよ!」

「健司、俺たちの事忘れているぞ!」

「じゃぁ、負けてやって明日から3万な! 持ってこなかったら知らねーぞ!」

「解りました..」

「健司、お前どうしたのよ? ただのオタク締めるのにさぁー態々俺たち迄呼んでよー」

「健司くん、何か弱くなっちゃった? ボクシングで一発だろうに..」

《やっぱり気のせいか? 翼みたいなオタクが強い訳ねえよな》

「俺がどうにかしてたみたいだな..まぁ、金も入るし良いんじゃね!」

「持ってこなければ、智子か彼奴の親しい女に不幸になって貰えばいいさ!」

「それで、翼がわりーぃんだって言ってボコるか、輪そうぜ!」

「良いなそれ、3万なんてどうせ1日2日しか無理だろう? そうなるの確定じゃん」

「ははははっ 健司くんはそうじゃなくちゃな..」

さて、どうするかな?

答えは簡単だ、上を潰せば良い..下から叩いても無駄なのは解かっている。

昔、領内に巣を食っていた 盗賊ギルドを潰した時に父上がしたのと同じ事をすれば良い。

一番、頭って誰だ..マッドドッグの頭か? いや、それをどうかしてもヤクザが出てくるんだよな? この街を仕切るヤクザ? いやそれだって下部組織だな….

スマホで調べた..一番の頭って考えるなら此処だ。

広域暴力団 関東地獄煉獄組に仕掛けなければいけないのか?

構成員が8千人…全部でこれだけだとして本家には何人居るのか?

まぁ、やるしかない…

人数が多いな..武器位は必要かな..刀や剣は殺してしまうから駄目だろうな..

仕方なく、僕はホームセンターで短い物干しざお(ステンレス)1本と鉄の無垢の棒1本を買った。

そして1時間後、僕は組事務所前に居た。

「天空院 翼ですが、組長さんにお話しをしに来ました」

「はぁーガキがくる所じゃねぇーぞ..あっちに行きやがれ..」

「そういう訳には行かないんですよ!」

「うるせーな、あっちに行かないんなら痛い目に遭わすぞ、このガキが..」

「そうですか? ならば仕方ありません!」

「はぁ?」

《ギア2》

僕は体に気を回すと、そのまま男の後頭部に手刀を叩き込んだ。

「うげっ」

男は一言だけ声をあげるとそのまま気を失った。

だが、流石は暴力団..すぐにそれに気が付いた..

「お前、何しているんだ..」

流石はプロ..懐に手をいれている…手には多分ドスを持っているのだろう。

だが、残念だ、前の世界の男ならもう攻撃に入っている..甘いな。

僕は手に持った、物干し竿で横殴りした..男は簡単に飛んで行った。

正直、死なないように手加減する方が難しい。

「ヒットマンだ..組長をお守りしろ」

奥から声が聞こえた..

「何だガキじゃないか?」

ドキバキ!

「気をつけろ、此奴ただのガキじゃねえぞ!」

ドキバキ!

何だ此奴ら、鉄心さん所か巌さんより遙かに弱いじゃないか?

これで良く暴力のプロを名乗れるな…前の世界なら、恐らく銅級冒険者でも狩れるんじゃないか?

人数だけは凄く多いな..ゴブリンみたいだ..もう20人は倒したのに..まだぞろぞろ出てくる。

「はははっガキの癖にやるじゃないか? 組長に合わせろだ?ちょっと痛い目にふげっ!」

不意打ちも仕方ないだろう? だって此奴 銃を持っているんだから。

バンッ..

ようやく撃ってきたな..だけど本当の銃って紙ピストルみたいな音だ..

だけど、銃口さえ見ていれば当たらない..はっきり言ってエルフの弓やゴブリンの矢の方がまだ怖い..

「ここまでしたらお前はもう終わりだ、ガキだからって手加減はしねえ..死ね!」

死ねと言いながら優しいね..狙いが肩だ..

だから感謝の意味を込めて..思いっきり殴った…勿論、死なない様に..

「まて、お前はヒットマンなのか?」

「違う、この組ゆかりの者に大事な物に手を出すと脅されたから話しをしに来ただけだ!」

「そうか、儂はこの組の若頭をしている國本というものじゃ..話を聞こう..それからじゃ..」

「おい、國本..儂も話を聞こう..なにやら誤解があるようじゃからの..」

「組長..解りやした!」

結局、この後応接室に通して貰った。

「儂がこの組の組長の後藤田辰尾 だ」

「俺が若頭の國本英雄じゃ..」

「天空院 翼です」

《この人達は..人を殺した目をしているな..前の世界で言う盗賊並みには強い》

「ほぉーなかなかの目をしておる..」

「その齢でそんな目が出来るのか?」

「それで、うちの若い衆がお前に何をしたというんじゃ?」

僕は今朝の事を話した。

「儂は盃を躱した組員は全部名前を知っておるが、そんな奴は知らんぞ! 國本は知っておるか?」

「俺も知りません、組長..」

「間違いじゃ無いのかね?」

更に詳しく話した..

「はぁ..うちの傘下の弱小組織 目羅組の可愛がっている半グレ、マットドックの可愛がっている学生? 知らんわけじゃな」

「そんな奴、俺だって知らん..それが何でこうなるんだ」

「はぁーそんなの当たり前だろう? 健司の裏にマットドックが居て、その後ろに目羅組がいる、そしてその頂点が此処だ!」

「たしかにそうじゃな? それで手を出さない様に儂に頼みに来たのか?」

「おめえ、逆恨みしやがって、まぁ良い、此処まできたお前に免じて、マッドドックと揉めても目羅組に出ない様に言って置くそれで良いだろう..組長も」

「そうじゃな..男としてお前を建ててやろう」

《本当に甘いな..》

「そういう事じゃない…もし僕の大切な者が傷付けられたら、あんたを殺す..そう言いに来ただけだ!」

「ガキが調子にのるんじゃねぇ..組長を殺すといわれりゃ..殺るしか無くなるんだぞ..解かっているな」

「こちらも大切な者に手を出すと言われちゃ…死ぬ気でやるしかなくなる..だけど、僕はそうしたくないんだ..」

「まぁ良いじゃないか? こんな馬鹿に殺されるのは儂は嫌じゃな..その健司とやらをどうにかしたらええんじゃろ!」

「そうしてくれると助かります..本当に」

《ようやく笑いおった》

「絶対に手を出さない様にしてやるが、文句はいうなよ!」

「言わないですよ…してくれるならね..」

「それでじゃな、儂には孫娘がおるんじゃよ…良かったら友達になってくれんかの?」

「組長、正気ですかい?」

「ああっ、あ奴も友人を欲しがっていたから丁度良いじゃろう!」

「えっ..友達ですか?」

「そうじゃ.. お主派手に踊ってくれたの? まだお主は被害に遭っておらんじゃろう? こっちはどうじゃな?」

「組員が怪我をして何人かは病院送り..壁は壊れて高い花瓶も真っ二つ..組長の願い位聞いても良いんじゃないかなぁ..」

「それでチャラにしてやるぞ? どうじゃな?」

「解りました」

確かにそう言われれば断れない…

残酷注意(苦手な人はこの話を飛ばして下さい) 水は上から下に流れる

「國本さん、本家の若頭が一体なんの御用ですか?」

「目羅よーお前とんでもない事をしてくれたな!」

「うちの組が何かしたんですか? 身に覚えはないですが」

「うるせえんじゃ! 俺が話しているじゃろうな..な..俺の話をお前は遮る位偉いんか」

「すみませんでした..」

「お前が可愛がっている、マッドドッグという半グレに出入りしておる健司ちゅー奴がなヤバイ奴に粉かけたんじゃ!」

「そんな、末端の末端まで流石に管理出来ませんよ..言いがかりです」

「普通ならそうじゃな! だが、そのせいで組長が狙われる事になったんじゃ..これが極道ならどういう事か解るな!」

「そんな..」

「お前、今本家がどうなっとるか知っているか? 組長を守った組員が多数病院送りじゃ..」

目羅は黙って懐からドスを取り出した…. 近くにあったゴムで小指を縛ると、板も用意せずそのまま指を詰めた。

「國本さん、これでこれで勘弁して下さい..あと組に勝ちこんだ奴はうちで必ず始末しやすから」

「それは良い..もう手打ちが終わっている」

「そうですか..」

「ただな、その条件が..健司ちゅう奴が二度と手を出さない..それが条件なんじゃ..」

「お手数を掛けました..そっちはこっちでどうにかしやす」

「指..早く病院に行けよ..指は貰わんから急げばくっつく…組長には俺がしっかり伝えて置く」

「本当にすみませんでした」

「ふざけんじゃねえぞ..この野郎」

「どうしたんですか大貫さん」

「昌よー、お前の所に出入りしている健司か? そいつがよヤバイ奴に手をだしたんだよ..その結果、本家が襲われた」

「大貫さん..ですが、健司はマッドドッグの正式メンバーじゃねぇよ!」

「ああん? そんなの関係ねぇな..出入りはしてたんだろうが?」

「してました..」

「そのせいで親父はよ..エンコ詰めるはめになったんだ..知らねえじゃ済まねえんだよ!」

「そんな..」

「おかげで目羅組は今幹部も含んで機嫌が全員悪い訳よ! 俺もお前達と仲が良いもんだからこれものよ..」

「指が…」

「ああっ1本な..俺が来たのはせめてもの情けじゃ..兄貴が来たら殺しちまう..なぁに殺しはしない..ちょっとバットを背負って貰うだけじゃ」

マットドックの幹部は目羅組により裸にされ正座させられた、そして…

「両手で頭をかばっておけ..」

バットで全員が滅多打ちにされた..

叫び声が倉庫にこだました..

「はぁはぁはぁ…大貫さん 勘弁して下さい..死んじまう..」

「…..すいやせん、すいやせん.」

「で、健司ってガキはどうするんだ? 此処までの事をしたんだ..その返答で今後のお前の人生が決まるぞ..」

「こ殺します..」

「まだガキだ殺すまでしないで良い..ただ、取り巻き共々方輪にして、この街に居られない様にしろ..こっちで見かけたら若い衆が何するか解らんからな」

「はい..」

「昌さん、どうしたんですか? 俺だけじゃなくてこいつ等まで労ってくれるなんて? それにどうしたんですかそれ?」

「ちょっとな、健司、悪いな! お前達には片輪になって貰う!」

「えっ..」

ガキッ..ボコッ

「お前ら、頭は辞めておけ..死んじまうからな..体だ体だけ殴れ」

「ひぃ..ああああっやめてくれ..嫌嫌、やめてくだ..さい..俺なにかしました.か….ああああっ」

「あああああっ、何でこんな事するんですか..いぎゃぎゃぎゃぎゃ…」

「…..」

「な…なんで死んじまう、死んじまうよ..いけないんですか..俺、昌さんに.何かしま….したか」

「馬鹿な事やるからお前がいけないんだ..上がこうしろって言うんだ、仕方ないだろう、殺されないだけましだと思って諦めな..悪いな..」

「やだ..足が、俺の足が…手も..」

ゴキッゴツ….

暫く殴られ続けて..三人が動かなくなった。

「昌…間違いなくこいつ等歩けないよ、多分二度と真面な体にならねー.」

「昌..さん..」

「何で、こんな..俺たちなにも..してない」

「俺、ちゃんと金持ってきてました…それなのに..」

「お前さぁ、ヤバイ奴に脅し掛けただろう? そいつな..目羅組飛び越えて本家に殴り込み掛けたらしいぞ? 結果目羅組の組長がエンコ飛ばして..俺らもこれもんよ..」

よく見たら、昌さんもボロボロだ..前歯も無くなっている…

「なぁ殺されないだけ良かったと思って、その片輪の体で済んだ、そう思えよ..復讐とか馬鹿な事するなよ..次は殺されるかんな..」

「解りました」

「あと今すぐこの街から出ていけ..」

「俺ら高校生..」

「死にたくないなら出ろ..目羅組に殺されるぞ..」

「そんな..」
「金も無いのに..」
「まだ」

「仕方ない..俺のおじさんが的屋やっているから紹介してやるから..そこへ行け..」

「俺..」

「いや俺も」

「グタグタいうんじゃねえ..このままこの街に居ると俺たちがお前達を殺さなくちゃなるんだ..俺を人殺しにするんじゃねえ」

「「「すいませんでした」」」

俺たちはヤバイ奴に関わった、そのせいで片輪になった。

この足はもう真面にならないだろう..

この手も..

馬鹿な事したから片輪になって高校にも居られなくなって..街から居なくならないといけない..

敵に回しちゃいけない奴だったんだ..翼は..

真面に歩けず、体を引きずる三人を月が照らしていた。

剣道部廃部とお嬢様参上

「先生、剣道部は廃部する事にしました!」

「どういう事ですか天上さん!」

「元々、5人居なければ認められない部を特例で認めて頂いていたのですから問題は無い筈です!」

「それで、辞められてどうするのですか?」

「より一層、道場にて剣に励むつもりです」

「そうですか? 残念ですが認めざるをえませんね、受理します」

「少し良い、翼くん!」

良いも何も教室まで入ってきているのだから拒めないよな..

だけど、周りの注目が凄い事になっている..

「何で心美様が天空院の所に来るわけ..」

「何の用事なのかしら?」

「しかし、いつ見ても綺麗だな..」

「別に良いけど? 場所変えない?」

「変える必要はないわ..実はねさっき剣道部は廃部してきたのよ」

「剣道部、無くしちゃったの?」

「ええっ、もう私には必要ない物だわ!」

「そうかな!」

「そうよ! それでじゃ、放課後迎えに来るから、そのね、教室で待っててね!」

「解った」

「用事はそれだけ! それじゃまた後でね!」

心美さんは笑顔で去っていった。

《何で、心美先輩と翼があそこまで親しいんだ?》

《そりゃ、同じ剣道部だからじゃないかな?》

《何だか、それだけじゃない気もするけど..》

《剣道部、廃部にしたとか言って無かった?》

《聞き違いだと思うよ…剣道小町だよ?》

《それより、放課後迎えに来ると言って無かった?》

《羨ましいな…》

「翼くん、迎えに来たわよ! さぁ行こう! 直ぐ行こう! 今行こう!」

笑顔でグイグイ引っ張って行こうとする..こんな綺麗な人に手を握られるとちょっと顔が赤くなる。

「ちょっと待って心美さん!」

気が付くと僕の右腕に心美は腕を絡げていた。

「時間は待ってくれないのよ!」

《心美さん、剣術が絡むと途端にせっかちになるな..》

《嘘だろう…心美先輩が、あんな笑顔をしているなんて..》

《それより、手を繋いでいるぞ..》

《嘘、腕を組んでいる…なんで翼なんだよ》

そのまま引きずられるように教室を後にした。

「さぁこれで剣道には未練はないわ..今日は何を教えてくれるのかな? 楽しみだわ..」

「あのさぁ、週一回の約束だったよね?」

「何言っているのかしら..剣道部は毎日稽古だったのよ…その分を一緒に稽古すると考えたら、剣道部が週に6回、天上家の稽古に付き合う約束が週1回、そう考えたら 週7回稽古に付き合って貰えるはずよ!」

「そんな事したら、毎日心美さんと過ごす事になるんじゃない!」

「私じゃ不足かしら? 何だったら家に引っ越してきても良いのよ? そうしたら寝ている時以外はずうっと一緒に居られるわよ!」

「….」

「どうして黙っているのかしら? 嬉しく無いのかしら?」

「嬉しいけど、それって結婚しているみたいだなと思って..」

「なんだったら結婚しちゃう?」

「えっ..」

「冗談よ! 冗談..」

「そうだよね」

《一瞬、想像しちゃったよ…そんな旨い話はある訳が無い..》

《翼くんと結婚出来たら..あの剣技もあれも全部私の物だわ..朝から晩まで、ずうっと剣術して..剣術..出来るわ》

そのまま歩いていると、目の前に黒塗りの豪華な車が止まった。

車からこちらにゆっくりと1人の少女が歩いてくる。

うん、前の世界でよく見た貴族の娘、そう見えた。

心美さんが日本風撫子美少女だとしたら、この人は西洋風貴族令嬢美少女だ。

「貴方が 天空院翼さんですわね、初めまして、私は、後藤田麗美と申しますわ、宜しくですわ!」

余りに自然に手を差しだした。

僕はその手を取り、手の甲にキスをした。

「僕が、天空院翼です、麗美さん、宜しくお願い致します」

「では本日は挨拶しに参りましただけですので、これにて失礼しますわ..ごきげんよう!」

「はい..」

《あれっ、この人って誰だ..あっ、あれか..》

麗美さんはスカートを翻すと去っていった。

「つ.ば.さ.くーん、今の人は誰かな?」

「後藤田麗美さん..ですね..」

「随分、親しそうだけど、ど.う.い.う関係かな?」

「遭ったのは初めてだよ、しいて言うならお父さんと知り合いという感じかな」

「そう、初めての人の手に、きききき、キスなんてしちゃうんだ..へぇー、軟弱者ー」

「あれは挨拶だよ」

「挨拶? 本当に..じゃぁ 私にもしてくれる?」

心美はおずおずと手を差しだしてきた。

その手をとり同じ様に手の甲にキスをした。

「えっへへへっ」

「どうかしたの?」

「何でもないわ..」

《挨拶なのよね..だったらこれ毎日して貰おう》

「どうしたの、本当に変だよ!」

「何でもないわ」

正直乗り気じゃありませんでしたわ…

おじい様とお父様がヤクザをしているから友達自体殆どいませんの。

女は若干の理解ある友達はいますが、男に関しては壊滅的ですわね..

まず、寄ってこないですし、偶に寄ってきても、私の嫌いな不良っぽい人ばかりですわ。

仕方なく、妥協に妥協をして付き合おうとしたら、お父様どころかうちの組員を見て逃げ出しますのよ…

せっかく、私が友達になってあげても良くって..そう考えてあげたのに..

仕方無いですわね..半分諦めましたわ。

正直これはお父様のせいですわ..これは凄いハンデですわ。

だから言いましたのよ「私に男友達が出来ないのはお父様のせいですわ」と

そうしたら、お父様は「まだ、お前には早い」と言うばかり、本当に子離れができていません。

それだけならまだしも「國本を越えるような奴じゃないと交際は認めない」ですって..

國本ってお父様の組の若頭…「行け行けの行ったきりの國本」と若い頃は呼ばれていて..凄い武闘派ですのよ!

そんなの勝てる男なんている訳ありませんわよ…

それなのにに、お父様が「この男と付き合ってみないか?」なんて突如言い出しましたの、可笑しいですわ? なんでもおじい様からの肝いりだとか..

しかも國本まで「あの男ならこの國本も賛成です」ですって 本当に可笑しいですわ?

《これはもしかして政略結婚が前提のお話なのですか? そして相手は多分組関係の方ですわね》

だから気が乗りませんでしたの..

何て、さっき迄思っていましたのよ..それが…

「あの方です、お嬢様..」

嘘ですわね..あれは、あれは人ではありませんわ..しいて言うなら、物語の中の人、王子様とか貴族の令息そんな感じでしてよ..

「本当にあの方ですの! 今更違うなんて言いませんわよね..」

お父様 グッジョブです、あの方と付き合えるなら、今迄のハンデは忘れてあげますわ..

「間違いありません」

「そう、だったら車を止めて頂戴!」

「はい、お嬢」

ゆっくりと近づいていきます…隣に邪魔者がいますが気にしませんわ..

「貴方が 天空院翼さんですわね、初めまして、私は、後藤田麗美と申しますわ、宜しくですわ!」

手を出してみましたの..これはただの冗談です..ですが私が見た幼い頃の夢ではここで王子様が跪いて手にキスしてくれますの..

《えっえっえー》

これは、これは、私が見た夢..そしてお顔を見たら..見たら…嘘ですわね、多分この方の顔が..私の王子様のお顔ですわ..

これは不味いのです、今の私は顔まで茹蛸のように真っ赤ですわ..

なごり惜しいですが、挨拶は済みましたので今日はこのまま立ち去りますわ..

ウサギと熊 (動物に対する残酷な描写あり 嫌いな人は避けた方が良いかも知れません)
天上家に着いた。

話し合いの結果、僕から剣術を教わるのは 鉄心さん、心美さんの2名になった。

百合子さんと巌さんは道場があり、門下生が居るため、天上流の型を崩す訳にいかず今は諦める形となった。

輝彦さんは道場で師範をしながら、剣以外の道も視野に入れ人生を考えるそうだ。

「私としては、こんな天上流よりもそちらを学びたいのですが..道場主としての肩書がありますので口惜しいです」

「百合子1人には任せられないのでね..」

「君に負けた事で諦めがついたよ、僕には才能なんて無いってね、別の道をこれからは探すさ」

だそうだ。

「あの、鉄心さんは良いんですか?」

「儂はもう形上は引退した身じゃよ..好きにさせて貰うさ…師匠」

「師匠?」

「請いて教えを頂くのじゃ..そう呼ばせて頂こう」

「それじゃ、翼師匠、宜しくお願い致します」

「それはやめて下さい、僕自身がまだ修行の身ですので..」

「おじい様と同じような事いうのですね」

「良いからやめて下さいね..やめてくれないなら教えませんよ..」

「解った(わ)」

「それで今日は何を教えてくれるのじゃ..」

「楽しみだわ」

「今日はウサギ狩りをしようと思う..幸い、道場の裏の山は天上家の山ですよね」

「うむ..そうじゃ..じゃがウサギ狩りじゃと..儂は弟子じゃからのいう通りにしますが..」

「ウサギさんを捕まえれば良いの?」

「そう、まずはその考えで良いよ!」

3人で山に登って行った。

「これではウサギを探すのも一苦労しそうじゃの」

「なかなか居ないわね..」

「あのさぁ、もう訓練に入っているんだから静かに!」

「「……」」

僕は周りの気配を探った。

よく見れば、獣道や糞等の手掛かりが山ほどある。

それらから考え茂みを探す..居た..

静かに気配を消しながら近づき..ウサギの逃げる方向を塞ぐ..

「ほら、捕まえた!」

「ほう見事な物じゃな..」

「ウサギってそうやって捕まえるのね..」

「それじゃ、2人とも僕は此処で休んでいるからウサギを捕まえてきてね ノルマはそれぞれ3羽で良いや!」

「あい解った」

「ウサギと剣術、何か関係があるの?」

「それは後で教える..とりあえず、さっさと行け..」

《うむ、それで良い、教える時は厳しくなければいかんからの》

「解った、行って来る..」

僕は木の根っこに寄りかかり休むことにした。

本当に休むのではなく、周りを警戒している。ちょっとだけ注意が必要な気配がある。

1時間位たったろうか、鉄心さんが帰ってきた。

「3羽捕まえてきたぞい」

「思ったより速かったですね..もう少し時間が掛かると思っていました」

「儂は田舎育ちでのこの手の事は得意なんじゃ..」

「そうですか? それじゃ心美さんが帰ってきたら続きをしましょう?」

「続きとな? これはウサギを捕まえる訓練じゃ無かったのかの? 弱い動物ほど気配を感じ隠形に優れる、それらを捕まえる事によって神経を研ぎ澄ます、それとは違っているのかの?」

「半分、正解です」

「これで全部じゃ無いのかの..奥が深いの」

それから1時間半…ようやく心美さんが帰ってきた。

「ウサギさん、何とか捕まえたわよ..」

鉄心さんと違ってかなりボロボロだ..

「それでこれからどうするのじゃ..」

「そうですね、鉄心さん 一羽ウサギを下さい..」

「こうします..」

「そんなウサギさん..いやぁ!」

僕はウサギの首を跳ねた..そして皮を剥がした。

「なんで、そんな事するの、そんな残酷な事、なんで平気に出来るの?」

そんな言葉は無視だ..

最初に足を切り落として肉の解体を終わらせた。

「こんな感じだ..それじゃ二人ともやってみて..」

「これを儂らにやれというのじゃな…意味はあるのじゃな?」

「その辺りから説明しないといけないんですね..良いですか? 戦うという事は弱肉強食なんです。ウサギは弱いから強者から逃げる為に努力する..もしかしたら二人とも何も考えずに追いかけていたんですか?」

「どういう事なのじゃ..」

「つまり、これは力関係はともかく立派な戦いです..貴方達はそれに勝った、だからウサギは殺され戦利品になった…それだけです」

「だからといって、そんな、こんな可愛いウサギを殺すなんて..できないよ.」

「鉄心さんも同じですか?」

「儂は..やるぞ..なぁに、小さい頃はニワトリを絞めて食っていたんじゃ..簡単な事じゃよ」

「キュウ..」

「おじい様..そんな事..するんですか..」

こんな簡単な事をするのに、決意がいるのか?

こんな事、冒険者になろうという奴なら子供の頃から経験する..

冒険者になって最初の頃は、薬草の採集と小さな魔物や、こういった小動物の狩りだ..

解体が出来なくちゃ、素材の回収も出来ないから、冒険者には成れない。

メイドだってそうだ、こういう生き物を殺す仕事は新人の幼いメイドの仕事だ..

「何をしているんですか? 心美さんもさっさとやって下さい!」

「私には…私には出来ないわ..」

「そうですか..なら僕にはお教えする事は何もありません..帰って下さい!」

「嫌です!」

「だったらウサギを殺して..出来ないなら..去って下さい!」

「それも出来ないわ!」

「鉄心さんの方はどうですか? 下手糞ですがちゃんと解体は出来ているようですね、後1羽頑張って下さい!」

「下手糞なのは、ニワトリなら絞めた事もあるがウサギは初めてじゃからな..仕方ないんじゃ」

「今日は別に覚悟の問題ですから構いません」

《この世界じゃ皮や肉は売れないしね》

「もういいですよ..心美さん!」

「それじゃ翼くん..」

「心美さんには剣道の道があるじゃないですか? それで強く成れば良い..出来ないからって友達じゃ無くなる訳じゃないですから..」

「それって..」

「これが出来る事が、最低条件です、それすらできないのなら諦めて下さい..」

《いやだ..翼くんの目が怖い..違う怖いんじゃない..諦めたような目をしている..嘘だ、これが出来ないと友達でなんて居てくれない..》

「翼くん、心美やるよ..ちゃんとやるから..そんな..そんな目で見ないで..」

「そう、だったら、さっさとやる!」

「うあわわわわわわわわわっ はぁはぁはぁー」

ウサギの首が宙に飛んだ..

「心美、心美ちゃんと出来たよ..」

「そこから、ちゃんと皮を剥がして解体して下さい!」

首の無いウサギがピクピクしながら逃げようとしている..

「ああああああっうわああああん..ごめんね、ウサギちゃん…ごめんね..うっうっ、はぁはぁ..」

皮を剥がれて首がない..それでもウサギは本能なのか一生懸命逃げようとしていた..体をピクピクさせながら震えながら..

「何、手を止めているんですか? そこから肉の解体があるんですよ..」

「はぁはぁはぁ..ちゃんとやるよ、心美ちゃんとやるよ..」

ウサギに叩きつけるように心美はナイフを落とした..

「これで良いんだよね? ちゃんとしたよね? だから..(ボソッ)捨てないでよ…」

良くは無いな..これは切ったというよりめった刺しした状態だ。

「どうかした!」

「もう大丈夫..だよ..ちゃんとやるから..」

結局、心美さんは泣きながら3羽のウサギの解体をやり遂げた。

可愛らしい顔を涙と鼻水でグチャグチャにしながら…

パチパチパチ

僕は今、ウサギの肉を木の枝に刺して焼いている..塩コショウでだけで食べるウサギステーキだ。

「これはなかなか美味じゃな..」

「どうですか、心美さんは?」

「これ美味しいわ..」

《良かった、これで食べれないなら、僕にしてあげられる事は無い..》

「良かった、これでまた一緒に居られるね…」

「嘘、そんな事言わないでよ..心美何でもするから、ちゃんとするから..」

「しかし、いきなり荒療治じゃな..一番最初からこれとは..」

「鉄心さん、これはある国の話です..幼い子供が狩をして動物を捕まえて生活の足しにする、そんな生活をしているのです」

「アフリカとかの話かの?」

「そういう国ではこの程度の事は当たり前の事です..日常なのですから..」

《前の世界では6歳から冒険者見習いをしている子供が山ほど居た》

「そうじゃな..だが、それと剣と何の繋がりがある」

「はっきり言いますね…そういう環境で育った子がいたら、恐らく10歳位の子ですら心美さんを簡単に倒すでしょう?」

「聞き捨てならないわ..幾ら翼くんでも..」

「その子達は毎日狩をして場合によっては戦って生きています..心美さんは殺せない、相手は殺しに掛かってくる..最後までやるなら負けるのは心美さんです..だって殺せない心美さんに対して相手は一度勝てば良いんだから」

「そうなる..確かにそうなるのぉ」

「….」

「では、今の社会で強くなろうとするなら..ここからスタートしなくちゃならない..僕はそう思います..だからこれは必要な事なのだと思います。」

「それで、一体、翼殿は何をしようとしておるのじゃ」

「二人の目標は…とりあえず熊の討伐です」

「あの、翼くん、熊ってあの熊..ベアー?」

「それです、それを簡単に倒せる強さ、そこが到達点です」

《日本にライオンは居ないし、白熊も居ない、象もサイも居ない だから暫くは熊で妥協するしかない》

「それは豪快な話じゃ..だが真剣で熊とやり合う、悪く無いの」

「そんな事考えていたの..凄いわ..だけど、翼くん..そんな事できるの?」

「できるよ..《ギア3》…こんな風にね..」

「「えええっ..」」

翼は茂みに居た熊に突っ込み、ただの枝で首を跳ねてみせた。

「これはただの熊..目標はヒグマです..頑張りましょう! 」

この程度の事なのに二人は何故か驚いた顔をしていた。

【閑話】 交際
「お父様、今日、天空院翼さんに会いましたわ」

「それでどうだった? あの親父が國本が薦める男は!」

「本当に宜しいのですね? 私としてはこの話は棚ぼたですわ! てっきり野蛮なタイプだとばかり思っていたら..王子様みたいな方でした」

「本当なのかそれは?」

「はい、確実に関東地獄煉獄組とは正反対の存在ですわ..あの方と付き合うという事は私は堅気の世界で生きて良い、そういう事でしょうか?」

よっぽど気に入ったのか? ここまで饒舌な麗美は初めてだ。

「そういう事ではない..そう聞いているが、親父からはあの男なら組も孫も任せられる..そう言っていたが..」

《どういう事なのかしら? まさかあの容姿で強いというの? ありえないわ》

「それは、翼さんが、國本やおじい様の言う、男の中の男、そういう事なのかしら?」

「そうみたいだな、ただ、父さんはその翼という少年を知らないんだ…どんな男なんだ!」

どんなもこんなも、王子様以外ありえませんわ、産まれながらの高貴な身分そう言われても信じますわ。

それの何処にこんな男臭い、任侠なんかがありますの?

「王子様、貴族、そういう感じの方ですわね..一目見ただけで気持ちの全てを持っていかれる、引き込まれるそんな素晴らしい方ですわ」

「それは麗美は気に入った..そういう事で良いのか?」

「ええっ勿論ですわ…あの方で良いのであればお話を進めて頂いても構いませんわ、そうですわね、婚約位までなら直ぐにでも..」

あの気難しい麗美が此処まで気に入るなんてな、しかもよく見るとほんのりと顔が赤いじゃないか?

「それがな、力関係でそこ迄でなく、友達になって欲しいと親父が頼んだようなんだ」

《あのおじい様が頼む..そんなの信じられませんわ!》

「何だ竜星に麗美、ここに居たのか?」

「おじい様に國本..」

「どうした麗美、そう言えばもう天空院には遭ったのか?」

「はい、早速本日挨拶して参りましたわ!」

我が孫ながら解りやすい..顔にでているわい

「そうか、そうか、それでお眼鏡には叶ったか?」

「はい、おじい様、麗美は物凄く気に入りましたわ!」

「そうか、だったら頑張って口説く事だ、あの少年に限り、全てを許す」

「親父、それはどういう事だ?」

《可笑しすぎるぞ、麗美に関しては俺以上に煩い親父が..何故だ》

「言葉の通りだ、相手が 翼に限り何をしても構わぬ、普通に付き合うも良し、何だったら体を使って既成事実を作っても良いぞ」

「あの、おじい様..本当なのですね? いままでデートすら許さないと言っていたのがどういう事ですの?」

「正直、気に入った、どうせいつか孫娘を任せるならああいう男に任せたい..そう思っただけだ」

「親父、ちょっと待ってくれ、麗美から聞いた感じだと組なんて入れられそうもない子じゃないかと思うのですが」

「そんなたまでは無いな..もし入れるなら見習いはおろか組員飛び越して幹部、お前が継がないなら飛び越して組長でも構わんな」

「あれは良い..もし入ってくれるなら安心して引退できる、俺の後釜、若頭からスタートって所ですかね」

「あの、親父、どうしても信じられねー..國本以上じゃ無ければ交際は認めない、そういうはずじゃ無かったんじゃないか?」

「何を言っておる! そんなの当然満たしておるわ」

「じゃぁ、一回、國本とやらせてその結果次第という事にさせて下さい」

「そんな事は出来ないな..」

「やはり満たして無いんじゃないですか?」

「そんな事したら國本が殺されるわ..」

「國本?」

「絶対に勝てやしません..マシンガン使っても勝てる気がしませんぜ」

「「冗談だよな(ですよね)」」

その後、話が進みこれでもかという位上機嫌な麗美が居た。

その笑顔は今まで見た事無い位晴れやかな顔だった。

お兄ちゃんの正体は元冒険者(勘違い)
今日は久しぶりにお兄ちゃんが家にいる。

最近のお兄ちゃんはいつも天上家に剣道の練習に行っている。

その為、帰るのが遅いのでいつも少ししか会話が出来ない。

だから、こうして一緒に居られるのが凄く嬉しい。

今の私には、本当のお兄ちゃんの姿が見える。

異世界から帰って来てからのお兄ちゃんは..王子様みたいにカッコいい!

正直、ブラコンって言われても構わない..だって、凄く好みなんだもん..本から出て来たみたいなんだもん仕方ないと思わない?

今日は独り占めできる、そう思って居たのに…

「まひる遊びに来たよー」

「翼さんもこんにちはー」

やっぱり来た、お兄ちゃんが居ると知ったら来ない訳がない…

「裕子ちゃん、恵子ちゃん..今日は…」

「あっ!三津島さんに奥山さん、いらっしゃい、ゆっくりしてってね!」

「はいっ翼お兄さんゆっくりしていきます..」

「はいっ そうだ翼お兄さんあとでこちらで話しませんか?」

「そう? でも邪魔しちゃ悪いから..」

「「邪魔なんかじゃありません」」

「あははっそう? だったら後でお邪魔させて貰おうかな?」

「「是非」」

しかし、2人とも凄い恰好になって来たな..

祐子ちゃんは更にスカートが短くなってパンツが見え隠れしているし、上着のタンクトップからブラが見えている。

これ、勝負服所か半分痴女だよね..ビッチにしか見えないよ。

恵子ちゃんは一見清楚に見えるけど、よく見るとブラウスが透けているし、スカートもタイトだけどミニだ。

文学少女じゃなくて、服装だけなら痴女教師みたい..

まぁ、お兄ちゃんの気を引きたいから此処までしているのは解るんだけど..

お兄ちゃんの衛生上宜しく無いから辞めて欲しいと思う。

「翼お兄さんまだかな?」

「遅いよね..」

完全に私が目当てじゃ無いのは解る。

祐子ちゃんは私とゲームしているけど気が入って無い..昔みたいに負けても悔しがらない。

恵子ちゃんは小説を読んでいるけどペースが凄く遅い。

そしてお兄ちゃんが来ると..

「まひる..ジュースとお菓子持ってきたからあけてくれる」

この瞬間から二人が急にしおらしくなる。

「私、近くだからあけるね」

祐子ちゃんが開けた。

「ありがとう」

この程度の事でなんで恵子ちゃんは悔しそうな顔をするのかな? まぁ解るけど!

「あれっ、お兄ちゃん手に持っているのは何かな?」

「いや、最近作ったんだけど、プレゼント..大した物じゃ無いけど」

「えっプレゼントですか? 私にですか?」

「翼お兄さんのプレゼント..凄く楽しみです」

この二人、男子からのプレゼントなんかで喜ぶ事は殆どない。

良い物や高い物を貰ったらお礼位は言うがそれだけ..安い物や好みじゃ無い物は私に寄こすかゴミ箱いきだった。

最近は何故か色々な物をくれるけど…

ちなみに恵子ちゃんの宝物はSUMOCHIだ、これはお兄ちゃんが射撃でとってプレゼントした物。

中身は暇さえあれば磨いていて、箱を抱いて寝ているらしい..流石に引くよね?

祐子ちゃんはセルランの冒険というソフト お兄ちゃんが射撃でとった物で飾り棚に入れている。

しっかり保存用にして同じソフトを買ったんだって…なんだかなぁ…

「はい、これ!」

「お兄ちゃん、これなぁーに!」

「うん、ウサギの皮で作ったポーチだけど?」

「このポーチどうしたんですか?」

祐子ちゃん、凄くうっとりしてポーチを抱きしめているし..

「最近、剣術の修行でウサギを狩っているから、そのウサギの毛皮から作ったんだ」

「これは翼お兄さんの手作りなんですね!」

恵子ちゃん毛皮とか駄目な子だよね..この間は毛皮着る人間なんてゴミみたいな事言っていたよね?

「うん、そうだよ、ウサギを捕まえて毛皮を剥いてなめして作ったんだけどどうかな!」

「翼お兄さんの手作りなんて..凄く嬉しいです、有難うございます!」

「こんな素敵なポーチ有難うございます…一生の宝物にします」

「そんな大袈裟だよ、欲しければ又作るから気にしないで普段使いして、その方が嬉しいから」

お兄ちゃん、そんな事言わない方が良いよ..多分、2人ともそれ毎日身に着けるよ..

「お兄ちゃん、ありがとう、まひるもこれ大切にするね..だけど、お兄ちゃん、こんな事も出来たんだね」

「うん、小さい頃にちょっとね」

そんな事してたら怖いよ..子供がウサギ殺すなんて..

しかし、凄いよね、この二人ウサギ殺しの話をしてたのに..全然引かないで寧ろ余計に好きになってないかな?

「それじゃ、余り邪魔しちゃいけないから、僕はこれで、2人ともゆっくりしていってね!」

「「あっ」」

「まひるちゃん、翼お兄さんって器用なんだね..これ凄く綺麗」

「本当だよね..」

ウサギ殺しはスルーなんだね…

多分、同じ事クラスの男子がしたら..

「こんな物要らないわ..可愛いウサギを殺すなんて最低ね」

「私はこういう野蛮人が一番嫌いよ」

と言ってその後、無視するんじゃないかな?

確かに凄く旨いけど..

「「じゃぁね まひるちゃん、また明日」」

「うん、また明日」

しかし、お兄ちゃん..異世界に行ってから定番通り、冒険者がスタートだったのかな?

ウサギの解体が此処まで上手いって事は 素材の解体の仕事をしていたんだよね..

そう考えたら、お兄ちゃんの異世界生活は 冒険者→上級冒険者→勇者だったのかな?

まぁいいや、またかまかけて教えて貰おう..

朝の出来事?
「おはようございますわ!」

「あのどちらさまですか?」

家に綺麗なお嬢様みたいなお姉さんが訪ねてきた。

「私は後藤田麗美と申しますわ、こちらの翼様とご学友になりましたのでご挨拶に参りましたの」

天上心美さんも凄いけど、この後藤田麗美さんも凄い綺麗だー、裕子ちゃんに恵子ちゃん..ご愁傷様…

「そうですか、ですがお兄ちゃんなら天上家に剣道の稽古をしに行っているので居ません」

「それは残念ですわ、もしかして貴方は妹さんですの?」

「はい、まひると申します」

「そう、まひるちゃんも仲良くしましょう!」

翼様と仲良くするって事はこの子も妹みたいな物ですわね..

「よよ宜しくお願いします」

「まひる、誰か来ているの?」

「あっお母さん、お兄ちゃんの友達が来ているよ..」

「翼の友達? 時間があるなら上がって貰って..」

「だそうです、お時間は大丈夫ですか?」

「そうですわね、せっかくだからお邪魔させて頂こうかしら?」

「どうぞ、どうぞ..」

これが一般的な家庭ですのね..考えて見れば、普通の友人の家に上がるなんて初めてですわね..

「コーヒーをどうぞ!」

「これは、まひるさん、貴方が入れてくれたの?」

「はい、インスタントですが..」

「ありがとう」

ただのインスタントコーヒーですが、家の者以外で入れてくれた人は初めてですわね..

「お母さまですか、初めまして後藤田麗美と申しますわ、この度 こちらの翼様とご学友になりましたのでご挨拶に参りましたの」

「ご丁寧に有難うございます、貴方みたいなしっかりしたお嬢様が家の子と友達になってくださるなんて、母親として嬉しいわ」

「そんな照れてしまいますわ..有難うございます!そう言えばお土産がございますの! こちらを皆様に、それでは私はそろそろ失礼しますわ!」

「そんなご丁寧に有難うございます..」

「麗美..お姉さん?また来てくださいね!」

「ええっまた越させて頂きますわ..ごきげんよう!」

流石はお兄ちゃん…どうみてもお嬢様だよ!

やっぱり、お兄ちゃんには 天上心美とか、麗美お姉さんみたいな人と付き合って貰いたいな..

流石に、裕子ちゃんや恵子ちゃんがお兄ちゃんと付き合うのは何か嫌だ..

あの人達なら諦めがつく..今の一押しは悪いけど、麗美お姉さんかな、ちゃんと挨拶をしに来たしまだ解らないけど、気品があるよね…

そして凄く綺麗..

「そう言えばお母さん、お土産って何だったの?」

「あらっ、時計みたいね…これイミテーションじゃないのよね..」

「どうかしたの?」

頂いた袋にも書いてあったけどさぁ..中身も同じだとは思わなかったよ..

「ロラックル メテオシャイン って書いてあるのよ..」

やっぱり、麗美お姉さんは凄いお嬢様なんだな..ただでさえ高級なロラックスの時計なのに隕石を使った限定モデルだよね..

時計コレクターの裕子ちゃんのお父さんの雑誌に確か書いてあった奴だ..

「凄いね…」

「ロラックスだから高級品なのは解るんだけど..これ幾らなのかしら? 流石にこんな何十万もするもの貰えないわ!」

「お母さん、一桁間違えているよ…その時計多分、300万位、しかも限定生産品だから手に入らない物だと思う..」

「一千200万!…そんな、これは貰えないわ..」

「貰って良いと思うよ?」

「あのね、まひる、これ、お父さんの年収より高いのよ..」

「うん、凄いよね」

だけど、お兄ちゃんは勇者で冒険者、物語なら結婚相手はお姫様か聖女が定番…そう考えるならこの位のお嬢様じゃないと釣り合わないよね。

「まひる、何平然としているの?」

「だってあの位のお嬢様じゃないとお兄ちゃんとは釣り合わないもの」

「どうしたの、まひる? 何か随分翼の事を高く評価しているけど」

「うん? だってお兄ちゃんは最高のお兄ちゃんだもん」

「まぁ兄妹が仲の良いのは良い事だけどね…可笑しいわね」

「何も可笑しくないよ? まひるお兄ちゃんの事大好きだもん」

「そう、なら良いわ」

この子本当にどうしちゃったんだろう?

朝の出来事?
「お嬢どうでした?」

「残念ながら居なかったわ!」

「そうですかい、それは残念でしたね..」

「えぇ、だけど、ご家族に会えたからご挨拶してきたわ..あれだけの男、きっと沢山の敵がいますから、地道に固めないとね」

会って無いと聞いて機嫌が心配だったが案外機嫌が悪く無いな…

「そうですか、そう言えばプレゼントをご用意したんでしたね、一体何をお持ちになったんですか?」

「時計よ、大した物じゃ無いわ4つで1200万程度の安物よ!」

「……」

お嬢はズレていると思ってやしたが、此処までズレているとは思いませんでした。

「お嬢、普通は初対面で1200万の物を渡したりしませんよ」

「そうかしら? お父様はともかくとしておじい様は「幾ら使っても構わん」と言っていましたし、やっぱり最初からかました方が良くなくって」

確かにあの鬼神の様な男が手に入るならどれだけお金を使っても安いと思いやすが..もう少し常識を考えた方が良いかもしれやせんよ。

「ですが..」

「あらっもしかして足りなかったのかしら? 車かマンションの方がインパクトがあったかしら?」

「お嬢、落ち着いて下さい、お嬢は普段はそんなにお金を使いましたか?」

「使わないわ..ここぞという時だけよ!」

「そうでしょう! 普段は使いませんよね! お嬢がつけている時計、確か10万円ですよね..」

「そうですわよ! これはお父様が誕生日に買ってくれた物ですわ..余り高級な物は良くないと..あれっ私、可笑しかったかしら?」

「会長は欲しい物を手に入れる為にはお金に糸目をつけないタイプです。一般人からかけ離れていやす、お父様の竜星さんの方がまだ真面ですから今度からはお父様にご相談した方が良いかと思いやす」

《確かにこれは行き過ぎたかも知れないわ..だけど、あんな王子様みたいな人に安物なんて似合いませんわ、次はバイクかフェラーリ辺り、案外マンションも良いかも知れませんわ》

「ですが、それでもあえておじい様の方法を取りますわ! 欲しい物を手に入れているのはおじい様、お父様ではなくってよ? 私、今迄本当に欲しい物なんて無かったのですわ…ですが、翼様は絶対に欲しいのですわ、何と引き換えにしても….だったら欲しい物を確実に手に入れているおじい様を見習うのは当たり前なのですわ」

「まぁ 私如きが口を出す問題じゃないですが..頑張って下さい..」

「言われなくても頑張りますわ、それで、手筈はどうなってますの?」

「ちゃんと、お嬢の転校は済ませてあります、そしてクラスも一緒になるように根回し済みです…なぁに、あの学園の教頭と教師がうちの系列の金融からちょっと摘まんでいたので..」

「その話は私に言わなくても良くってよ..私には結果のみ話なさい」

「解りやした」

お嬢は子供のくせに、こういう所はまるで会長そっくりだ..目的の為には手段を選ばない。

最近はあの魔性と言われた亡くなった姉(あね)さんに似て来た…だが中身は..会長に限りなく近いのかも知れない..

「人の顔をまじまじ見て失礼ですわね..」

「いや、お嬢、すまねぇ」

「まぁ身内だから気にしませんが…そんな目で私を見たら..」

「いや、お嬢..」

「殺したくなってしまいますわ」

「….」

「冗談ですわよ? あははははっ何黙っているの?」

「いや、何でもありやせん」

これでも人を殺した事があるんだが、会長やお嬢のこの目はいけねぇ生きた心地がしねぇ。

心美の変身

「あはははっ動物を殺すのって楽しいわ..」

可笑しいな何を間違えたのかな..心美さんがまるで別人のようになってしまった。

可愛いウサギさん、何ていっていた彼女が..嬉々として動物を狩っている。

さっきも、ハクビジンを撲殺していた。

幾つも転がる小動物の死体の数、そして血塗られた服で心美さんは笑っている。

「いや、楽しまれても困るのだが..」

《何処で間違ったのかな、ただ普通に殺せるだけで良かったのに..喜んで殺すなんて..》

「やっぱり、剣は人殺しの道具、そう考えたら生き物を殺さない剣技なんて意味無いわ..ようやく解ったわ、翼くんありがとう!」

凄く綺麗な笑顔なのにどこかゾクッてする。

「どういたしまして」

笑うしかない、このまま行ったら、本当に人を殺しそうで心配だ。

「翼殿..こうなった責任は何時かとって貰うかも知れないの」

「何かすみません」

「まぁ、剣としては腕前は上がっているから文句も言いにくいがの」

そういう鉄心さんも頭の潰れた狸を手に持っている。

今日の成果は ウサギ6羽に、アライグマ2匹、狸1匹にハクビジン1匹 合計10 初級冒険者にしてはまずまずだな。

しかも、これ僅か3時間半だからね..だけど、朝がどんどん早くなって今じゃ3時起きになったよ。

「ねぇ、もう私高校に行く必要が無いと思うの? そう思わない? 今日も学校休んでこのまま続けない!」

「この間のは特別、ちゃんと学校に行かないならもう教えるのは辞めるよ」

「ごめんなさい」

「解ってくれれば良いよ」

今日の獲物をカゴに片っ端から詰めて天上家に戻る。

そして裏庭で..

片っ端から皮をはぐ..

「やっぱり、命を奪ったからには、余すことなく利用するのは義務だわ」

ハミカミながら心美さんは皮を剥いでいる、ナイフを器用に使いながら。

皮を剥いで肉塊の入った樽とその横の血だらけの皮がなければ天使に見えるような笑顔だ。

これは前の世界では普通に見ていた光景なのに、何か間違った気がするのは気のせいだろうか?

「剣を極めるには必要な事なのかも知れないが..何故だか俺は涙がでそうなのだが、何故だろうか?」

巌さんは悲しそうな目で心美さんを見ている。

「これは剣道じゃないわね..私には無理かもしれないわ」

百合子さんも遠い目で見つめている。

「そう言えば、この前は済まなかったの」

「そうですよ、お父様あと少しで大変な事になりそうでしたわ..」

「動物って簡単に殺したら不味かったのじゃな…儂が小さい頃は罠とか仕掛けて普通にとっていたからの」

「今は不味いらしいですよお父さん、幸い門下生に弁護士と警察のお偉いさんがいたから全部旨くやってくれたから良かったですが」

「世の中不便だの、儂が小さい頃はスズメをとってスズメ焼きにして食べたりしたものじゃ」

「今はもう令和ですからねお父様、いつまでも昭和の気分でいられても困ります」

狩り取られた命は干し肉になる為に干されていた。

皮も同じ様に剥ぎ取り水につけてある、後で陰干しする。

「天上流の道場が..猟師の家みたいに見えるのは俺だけかな..」

「言わないで貴方..」

「あの優しかった心美が、別人のように見えるのは気のせいかな?」

「本当に言わないで貴方…剣とは..色々捨てないと極められない物なのよ..きっと、多分」

「翼くん、これからシャワー浴びるけど良かったら一緒にどう?」

「いや、僕は門下生用のをお借りします」

「そう? 一緒に入りたくなったら何時でも良いからね..」

流石の僕でも冗談なのは解るよ。

「今日も飯は肉ばかりじゃの..」

「仕方ないじゃ無いですか? 翼さんやお父様に心美が狩ってくるんですから..」

「魚が食べたい..」

「何か言いました」

「いや..何もいっとらんよ」

「はい、翼くん、これね私が料理したんだよ、食べて」

まぁ、塩コショウでただ、焼いたウサギ何だけどね..

「ありがとう」

「行ってきます!」

「行ってきます…」

「心美、その恰好どうにかなりませんか?」

「お母さま、これは初めて私が狩ったウサギを翼くんが加工して作ってくれた物..宝物なの」

「そうですか? 心美が良いなら良いですが..」

心美さんは僕が作ってあげたウサギのポシェットを肩から下げているし、他にも毛皮を幾つか身に着けている。

何となく前の世界の駆け出しの冒険者スタイルに見えるが、周りからは不評みたいだ。

翼の記憶と併せてみると..確かにちょっとおかしい。

「流石に熱くない? ポシェット以外外した方が良いよ」

「翼くんがそう言うならそうする」

心美さんに手を引かれ走りながら学園へと向かった。

【閑話】麗美の恋物語 小学生編 (残酷注意 嫌いな人は読まない方が良いかも)

「先生、くれぐれもお嬢には手を出さないで下さいね!」

「何を言っているんですか? まだ子供でしょう? 大人の僕が手を出すわけ無いじゃ無いですか!」

「それなら、安心ですが、組長はお嬢を宝物のように思っていやす、手を出したらただじゃすまない! それだけは頭に入れて置いて下さいね」

「解りました」

お金は弾みましたが、ヤクザと解かっても家庭教師を引き受けてくれた人に余り惨い事はしたくない。

だけど、この先生、案外お嬢の好みだから絶対に何かやらかします..

「初めまして、先生、麗美と申します..宜しくお願いします」

《この子、確かに小学生だけど..凄く綺麗だ、手足は長いし等身が違う、流れるような髪に引き込まれる様な綺麗な瞳…言われた意味が解かった気がする》

「どうかしましたの? 私を見つめて..急に黙るなんて..」

「あっ、すいません、僕は堤崎慎吾と申します、これから宜しくお願い致しますね麗美さん」

「麗美さん、なんて堅苦しいわ麗美と呼んで下さい!」

《この子は魔性なのか? 子供とは思えない…》

「それは..」

「麗美ですわ..」

「解りました、麗美..」

「はい良く出来ました」

普通に勉強をしていた。

この子は学校に行ってないと聞いていたが頭は悪く無い。

正直言ってしまえば、既に小学生の課題は全部終わっている、このまま国立の中学を受けても受かるだろう。

《何で家庭教師が必要なんだ》

「先生どうかしました?」

「いや、何でもない..」

しかし、目のやり場に困る。

ミニスカートからはパンティがチラチラ見えるし、僕の角度からは覗こうと思えば小さな胸が見えてしまう。

「先生、さっきから鼻息が荒いし、目が赤いわ..もしかして私が欲しいとか?」

「そんな事はありません」

「本当でしょうか? さっき足の奥を見ていましたし、その前は胸を見ていましたよね..先生」

急に麗美は椅子から立ち僕の後ろから手を回して抱きついて来た。

「何をするのですか..」

「何かしたいのは先生じゃないのかしら? ちゃんと責任が取れるのなら、したい事しても良いですわよ..」

《駄目だ、欲望に逆らえない..この子は魔性だ..》

「麗美、僕は君が欲しい..」

「責任がとれるなら..良いですわ..お好きになさっても..」

僕は、麗美を引き剥がすとそのまま、覆い被さった..そして..

「先生、何をなさっているんですか!」

「待って、茂木、先生はちゃんと責任をとるとおっしゃいましたわ..」

「そうですかい..だったら組長と話して貰いましょうか」

「先生、どういう事ですか? 麗美に手を出したそうですな!」

あれ程忠告したのに、冷静に話しているが組長の目を見れば怒り狂っているように見えやす。

「すみません、本当にすみません、魔が差したとしか思えません..」

声が震えていますなぁ..ありや駄目だ。

「先生よぉー魔が差したとはどういう了見ですかい..魔が差したとはよぉ…遊びだったそういう事かい、なぁ」

「違います」

「だったら、何なんだ、まさか大事な孫娘を傷物にしようとして..魔が差しただぁー ちゃんと説明しろや..」

「…..」

「だんまりか、お前どう責任取るつもりなんじゃ」

「謝れっていうなら、幾らでも謝ります..お金なら..」

バキ、ドカッ..

「お前舐めているなー金で済む問題じゃないんだよ」

《歯が、歯が..》

「あああっ..許して下さい..何でもしますから..」

「じゃぁ、何をしてくれるんだ、どういう風に誠意を見せてくれるんだ..」

「…..」

「また、だんまりか..」

後ろのドアが空き麗美が入ってきた。

「麗美、麗美、麗美 助けて..」

彼女に縋るしか助かる方法はない..

だが、よく見るとさっきまでの麗美じゃない、まるで蛇の様な冷めた目をしている。

綺麗な顔と重なって恐ろしい物にしか見えない。

「馴れ馴れしいわ..人を呼びつけて..」

麗美は近くにあった、陶器の灰皿で僕を殴りつけた。

「あああああっああ..痛い、麗美、何で!」

「責任も取れないようなゴミの癖に麗美? 呼びつけにする訳?」

今度は腹を蹴った..

「何でだ麗美..」

「貴方みたいなゴミに興味はないわ..本当悍ましいわ..私は失礼します..」

「待って、待って..」

「それでよ..責任なんだが..流石に殺すのは可哀想だと思うんだ..」

「た助けてくれるんですか?」

「ああ命はな..ただ落とし前として両手と両目で許してやろう..後は頼んだぞ茂木!」

「へぃ」

「なな、これは冗談だよな..なな」

「冗談じゃありやせんよ..ただ、可哀想だから手は手首から先にしてあげますよ..何処からとは組長は言いませんでしたから..これがせめてもあっしの慈悲です」

目が笑っていない..本当にやる気だ..

「何でこうなるんだ、まだ何もしていないだろうが..」

「していたら、東京湾で魚のエサでしたね..」

「なぁ、頼む許してくれ、なぁ..僕は麗美に誘われただけなんだ..悪く無い」

「ええっ誘ったのはお嬢でしょうね..」

「知っているなら..」

「可哀想だから、教えてあげますよ..先生には3つの選択があったんでさぁ」

「…何の事ですか..」

「そして、最悪の選択をした」

「だから、何なんだよ…」

「一つはあっしの忠告を聞いて、何もしない選択」

「….」

「二つ目は今の選択」

「ふざけんなよ..」

「三つ目は..もう貴方は知る必要が無いでしょう..それでは始めさせて頂きます」

「やめろーっ、やめやめ..ああああああ 僕の手が..手が..」

「うるせいな…静かにしていろ」

猿轡をかませた..

「うぐうぐうぐっ」

「出来るだけ早く済ませてあげますよ」

「うぐーっうぐうぐっ..すんすん」

気を失ったな..後は両目だけだ、

あらかじめ熱した棒を目に当てて一気に差し込んだ..焼けるような匂いが立ち込める

「あがががががががががーっ」

「あと一回でさぁ」

「ああああああっ」

「組の医者に連れて行きやすから死ぬことはありませんぜ..ただ、この事を警察に垂れ込んだら、あんたの妹さんや両親を殺します..脅しじゃないんでね..ゆめゆめ忘れない様に..」

馬鹿な奴だ、ちゃんと責任取れば幸せな未来もあったろうに

答えは簡単だった…

「責任とって将来結婚します!」 「愛してます」だったのによぉ

お嬢もその答えを望んでいた。

そう答えれば、婚約になってお嬢が16歳になったら結婚してハッピーエンドだった。

これは、家庭教師の話でも何でもない、お嬢なりの告白だったんだぜ..

11歳のガキが自分の体を使ったな..

ちゃんと思いに答えれば、お嬢は本当に体位差し出すさ..自分がヤクザの娘だって知っているし、そのハンデもな..

だから、案外尽くす女になったかも知れねぇ..

だが、アンタは最悪の答えを出しちまった..

さっきのお嬢..ちょっとだけ悲しそうだったぞ…

俺? 俺は怖いから手なんか出さない..組員も恐らく..だってよ..お嬢って..旨く言えないが恐ろしいんだよ。

四六時中一緒に居るなんて地獄の方がましさ..

【閑話】麗美の恋物語 中学生編 (残酷注意 嫌いな人は読まない方が良いかも)

「後藤田麗美さん 僕と付き合って下さい」

はじめての告白ですわ…

私は家があれなんでこんな経験はありません。

「それは 私の家の事も全部解っての事ですの?」

顔を赤くしながら決意の籠った顔..をしてますわね。

「勿論です..全部知っての上です..僕は麗美さんを愛しています!」

「そうですか..それならお返事は放課後まで待って下さい」

「解りました」

「それでは放課後此処でおまちしておりますわ..」

本気なのかしら?

本気であれば受け止める準備はありますのよ..私はハンデ持ちですから..

それこそ、身も心も全て捧げても良いですわ..

「あの、麗美さん、返事の方は..その」

顔が真っ赤でしてよ..

「貴方は私がヤクザの組長の娘って知っていますのよね..それって危ない目にも遭いますのよ、解っていまして?」

さぁどう答えますの..

「知っています..僕が、僕がそういう事になったら命がけでも守ります」

必死そうに答えますわね..

「そう、だったらこれを渡しますわ..」

「これってカギですか?」

「私、0か100の女ですの..ハイラットホテルの1104に今日は泊まっていますわ..もし貴方が言った事が本当なら、私の全てを捧げますわ」

「それって..その」

顔が真っ赤ですわね。

「私の初めてを捧げます..朝までずうっと一緒ですわ..貴方の気持ちが本当でしたらね」

「僕は、僕は本気です」

「そう、ならお待ちしておりますわ」

嘘だろう、今日僕は告白をした。

憧れていた、後藤田麗美さん…多分学校一の美少女、いや彼女より綺麗な人を僕は知らない。

ヤクザの娘..そんなの知らないよ..関係ない。

想いを込めて告白した…そうしたら..OKみたいだ..しかも一気にホテルなんて夢みたいだ..

ホテルに着いた、凄く高級なホテルで驚いた..

ドキドキする気持ちを押さえてドアをノックした。

「おう、入りな..」

「えっ、何で 麗美さんじゃない..」

「良いから入れ..」

いきなり、引き摺りこまれた。

「嘘、ヤクザ..僕を騙したんですか?」

「騙して等いない..お嬢なら一つ上の部屋で待っている、シャワーを浴びてな..」

何が何だか解らない..

「お嬢に約束しただろう? 何があっても守るってな…頑張れよ..はら、これはドスだ」

「僕は何をすれば良いんですか?」

「なぁに犬と戦って貰うだけだ、犬も追い払えないならお嬢を守る事は出来ないだろう?」

良かった、犬か..これ持って喧嘩しろとか言われると思ったよ..

「ちょっと待って下さい..それ犬じゃ..」

「犬じゃ..土佐犬の櫓錦..闘犬で大関を張っていたお嬢の犬じゃ..まぁ見ての通りライオン並みの体をしているがな..」

「ややややめて..」

「何を言っている、お嬢を狙うのは敵対する組織じゃ、待ってなどくれないんだぞ..櫓錦、行け」

「やだやだやだ..来るな..」

櫓錦は吠えもせず、僕の周りを回っていた、僕は威嚇の為にナイフを前に出した..

「待って、待って下さい..麗美さんの事はあきらめ..」

櫓錦が僕のナイフを持った手のひじの部分に噛みついた..そして首を振った。

「あがややややややあががががっ..僕の腕が…」

櫓錦は加えていた腕を顔を振り飛ばした..腕が明後日の方向に飛んでいく。

そのまま櫓錦は僕の顔に噛みついた..僕の左耳が無くなって..口から吐き出していた。

「ややややめて..もう嫌だ」

「終わりだ、櫓錦..」

黙って櫓錦は下がっていった。

「痛い、痛い痛い…助けて、助けて下さい..」

「お前、洒落にならん事いったな…あきらめますとは何だ」

「痛い、痛い、痛いんです」

「まだ終わっていないぞ..けじめだ、残った手から指1本貰うぞ..」

「いあやだ、嫌だよー..これ以上痛い事しないで」

「お嬢、此奴は駄目だ」

「麗美さん..たしゅけて、助けて..」

情けない目..期待した私が馬鹿でしたわ…

「貴方は 私を守るんじゃなかったのかしら..」

「痛いんです..痛い..助けて..」

「貴方を信じてつきあったとして、貴方は私が危ない目に遭っても相手が怖かったら見捨てるのですわね..ゴミですわ」

可笑しい、こんなの麗美さんじゃない..まるで爬虫類みたいな目で..

「まぁ良いですわ..命は助けてあげますわ..この後、組関係の病院に連れて行くから死にはしません..まぁ手や指耳が無いのは不自由ですがそれだけです」

「そんな..」

「軽はずみな貴方が招いた事なのよ…それ位は我慢なさい..あと、今夜の事を誰かに言ったら..家族事皆殺しにしますから..いいわね」

「わ、解りました..誰にも..いいま..せ」

「あら、死に掛けていますわ..病院に運んで下さいな」

「お嬢….」

「泣いてなんかいませんわよ..」

馬鹿な奴だ、命がけで戦えば良かったのに..万が一勝てばお嬢はお前の物だった。

もし勝てなくても、死んでしまったとしても、最後まで裏切らなければ生涯お嬢はお前に操をたてただろう..

言葉には責任位持てっていうんだ…

これで暫く、お嬢の機嫌が悪くなって俺たちが当たられるんだぞ…

病室で目が覚めた..

僕の片腕は無く、耳も無い、そしてもう片側の指もないのが解る。

病院から搬送されこの大きな病院に運び込まれたらしい…

事故にあった僕を親切な人が小さな病院に運び込んでくれた..そうなっていた。

僕は、何も語らない..話したら家族の命が危ない..

悪魔の様な女、麗美..今の僕にはもう天使には見えない..恐ろしい魔女、悪魔にしか見えない。

もう僕は人生で彼女に関わる事は絶対にないだろう…

変わる日常と転校

「最近、私可笑しいのかな? 天空院くんがカッコよく見えるようになったんだけど..」

「やっぱり..私も少し、ううん凄くカッコ良く見えるんだよね…まるで王子様みたいにさ」

「外見だけじゃないよね、急に頭も良くなったし..別人みたい」

「あの氷崎さんが引き攣っていたよね..だって天空院くん、この間のテスト学年2位だったんだからさ」

「それだけじゃないよ、バスケもバレーボールでも授業中凄かったじゃない..」

「はぁー覆水盆に返らず..なんであの魅力に気が付かなかったのかな..せっかく同じクラスなのにさ..」

「流石に、心美先輩相手じゃ張り合う気にならないな..しかもあれだし」

「ああも引っ付いていたら割り込めないよね..」

「翼くん、また後でね…」

「朝から一緒に腕組んで登校してくるし..」

「お似合いだよね..」

「確かにそうだけど、最近何故か、心美先輩、変な毛皮身に着けてない?」

「あれ、変だよね..」

まだ、僕はクラスでは避けられているのかな? 

僕の顔を見ながらヒソヒソ話しをしているし…

「あの..僕がどうかしたのかな? まだ悪い所があるなら治すように努力するよ..」

「あっ天空院くん、天空院くんは..うん、悪い所なんて無いよ、本当に大丈夫だよ!」

「だけど、皆んなよそよそしいから..まだ嫌われているのかなと思って」

《天空院くんって….カッコよくなって毒舌で無くなったら..天然になったのかな?》

「きききききき嫌ってないよ..本当だよ..さっきの話は心美先輩が毛皮みたいな物良く持っているから何故かな?と思って」

《皆んな恥ずかしくて話せないだけなんだけどな..》

「あれ、僕が作ったんだよ…欲しいの? まだ幾つか持っているから一つ上げるよ! はいどうぞ」

「嘘、くれるの? 本当! ありがとう..可愛いポシェットだね…あっこれ天空院くんが作ったんだ…モフモフして良いね、大切にするね!」

《こんな物で喜んでくれるならもっと作って配ろうかな..》

「えへへ、天空院くんに貰っちゃった..良いでしょう? 手作り品なんだって..」

「羨ましいし、ねとましいわ..それじゃ心美先輩のあれもそうか…だから大切そうに身に着けているんだ」

「ちょっと待って、それ、何で貴方が貰えるの? 可笑しくない?」

「私が可愛かったからだったりして..」

「それは無いでしょう..」

「無いない」

「うがーっちょっと幾らなんでも酷くない?」

「私も天空院くんに..」

「ホームルームをはじめますよ..」

「そんな..」

「今日のお知らせは二つあります..一つ目は、天空院くん、最近の貴方はまるで別人のようで目を見張るばかりですこの調子で頑張りなさい」

《やっとここ迄来た..長かったな、これでようやく皆んなと同じ土俵に建てた..更に頑張ってトリスタンに翼の名前に恥じないよう生きないと》

「はい、頑張ります!」

「先生も応援していますからね…それと今日は転校生のお知らせがあります..後藤田さんお入りなさい!」

「はい、後藤田麗美と申します、皆さん宜しくお願いします!」

《別に宜しくしなくても良いのよ!》

《凄く綺麗な人だな..》

《心美先輩も良いけど..麗美ちゃんも別の意味で可愛い..》

「「「「「「宜しくお願い致します!」」」」」

「麗美さんの席は..そうね、天空院くんの隣が良いわね、確か後藤田さんは天空院くんとは面識があるのよね..」

「はい!」

「それじゃ、小松さん窓際の席に移って頂戴..」

「あの、先生..」

「なぁに! 小松さん!」

「何でも..ありません…」

《ごめんなさい、小松さんだけど、教頭先生からお願いされているの..ごめんね》

「それじゃ後藤田さんあちらの席に..」

「はい」

「翼様、これから宜しくお願いいたしますね!」

「宜しくお願いします!」

傍であらためて見ますと、又一段と見惚れてしまいますわね..しかもこれで凄くお強いのですわね。

「どうかしましたか?」

「何でもありませんわ」

《あれって依怙贔屓だわ、何で天空院くんの隣な訳?》

《もしかして、後藤田さん…翼くん狙い!》

《何で、翼ばかりなんだよ..》

《あいつ、変わりすぎだろう》

「翼くん、遊びに来たわ、げっ後藤田麗美..何なの?」

「げっとは何ですの? 貴方誰ですの?」

「朝、この間の朝会ったじゃない…天上心美よ!」

「あらっ そういえば物凄く暑苦しそうな人が翼様の傍に居ましたわね…思い出しましたわ!」

「暑苦しいですって!」

「ええっ、暑苦しくて汗臭いですわ..」

「そういう貴方は…そう老け顔だわ」

「貴方目が腐っているのかしら..私みたいなタイプは大人っぽいと言いますのよ? まぁ乳臭い小娘には解らないですわね」

《お父様の教えだ…女同士の争いに巻き込まれると大変な事になる、逃げるが勝ちだ》

「乳臭いですって! 私みたいなタイプはみずみずしいと言うのよ、おばさん!」

「やっぱり馬鹿ですわね..私年下ですわよ? 頭が可笑しいのかしら?」

「馬鹿ですって..翼くんどう..いない」

「貴方が私に絡むから翼様が逃げてしまいましたわ」

「「貴方が悪いのよ(ですわ)」」

二人は睨みあいながら手を震わせていた。

未来の選択
教室から旨く逃げられた。

屋上に来て1人で考える。

幾ら僕が恋に鈍感でも流石に解る..心美さんも麗美さんも僕に好意を抱いてくれている。

正直言うとこの世界の女性は皆んなが綺麗だ。

まるで天国にでも迷い込んだように綺麗な女性しかいない..多分、この世界には醜い女性なんて居ないと思う。

そして、その美しい女性の中でもこの二人は群を抜いて美しい。

例えば心美さんだ、能力は正直、騎士や冒険者としても未熟だが、美しさだけなら、伝説の騎士女神にすら勝るとも劣らない。

だけど、何かが物足りない..美しさはジョセフィーナですら比べ物にならない..

だが、ジョセフィーナは気遣いが出来、国や将来の事を常に考えていた。

そして、僕と婚約してからは僕が将来継ぐであろう、領地の事について勉強していた、それこそ寝る間も惜しんで。

水害対策に、領民の事..自分の事よりも何よりも、領民や領地について考える…美貌もあるが真摯に打ち込むその姿にも惚れたんだ。

心美さんは目を奪われる程美しい..男としては欲しくて欲しくて仕方ない..だが貴族として過ごした人生が邪魔をする。

「好きだ」と答えて共に過ごしたい反面、「それで良いのか?」そう言う自分も居る。

では麗美さんはどうだ、正直殆ど面識はない、だが、死んだお母上が居たなら確実に「この子を選びなさい」そういうと思う。

僕は公爵家の人間だ、初めて会った人間の値踏みが出来ないと生きていけない、そしてそんな僕の目から見た彼女は父上の言う「碌でもない目をしている」

この碌でも無い目と言うのは父上は嫌うが貴族としては重要なんだ。

例えば、母上だ、僕は三男で末っ子という扱いだが実際には僕の上には三人の兄が居た。

つまり、本当は四男だった筈なのだ、だが母上は私の上にいた兄の一人を兄としては認めず、父上の子供として認めなかった。

何故認めなかったのか?

それは側室の子だった為だ..そして父上は側室にかなり入れ込んで居た。

その事に気をやんだ母上は側室とその子供を殺してしまった、しかも事故死にしか思えない様に..

どうやら側室の子はかなり利発な子だったらしく、兄上の地位が脅かされるそう思ったらしい。

こういう事を気取られずにさらっと出来る。

顔色も変えずに人も殺せる、謀略を張り巡らせる…こういう人間には独特の目つきや雰囲気がある。

母上はこういう人間が好きだった。

「大事な息子の人生を預けるんだもの、人位サラッっと殺してくれなきゃ」

ジョセフィーナや義姉は言われたそうだ。

そんな母上だから…絶対に麗美さんは気に入る。

何しろ母上と同じ碌でもない目をしているんだから。

そして僕はこの禄でもない目が好きだ..

この世界の僕が貴族であったら頭を下げて貰うべき女性なのかも知れない。

だが、この世界は凄く平和なんだ..人を殺した事が無い剣聖が要る位に…

正直言うなら、此処まで深く考えなくても、普通に結婚して普通に過ごせる位に…

だから、「誰と結婚しても多分幸せに暮らせる」

この人と一緒じゃなきゃ人生が詰む….そんな事は無い..

だからこそ、誰を選べば良いのか…正直僕にはまだ選べない…

待ち伏せと友達
「翼様! おはようございます!」

《まだ明け方の3時30分、正直言ってお肌の大敵ですわ..ですがこの時間に来ないと翼様には会えません。》

「あれ? 麗美さんどうしたの?」

「いえ、これから天上家で朝練に行くのですわね..私も同行させて頂いても構いませんか?」

《まひるさんから情報を頂きましたの…この時間に翼様が出るというお話しを》

「別に構いませんが余り面白く無いですよ!」

「別に構いませんわ、翼様の強さを見たいのですわ…さぁさぁ車にお乗りになって」

《多分、この訓練を見れば、翼様の強さの秘密の一端が見れる筈です》

「まずまずの門構えですわね」

「おはよう!翼くん..げっ何で麗美がいる訳?」

《本当に嫌そうな顔をしますわね..》

「貴方に、麗美呼ばわりされる筋合いはありませんわ..まぁ今日は許してあげますが!」

「そう、じゃぁ後藤田さん、貴方は何の用なのかしら?ここは天上家の道場です…お引き取りを..」

《そうきますのね..》

「今日は見学にきましたのよ!」

「そうですか? ここは神聖な道場、まして早朝の特別訓練は師範クラスすら参加させていません、10年早いです!」

《そうそう自由にさせません..ええ》

「あら天上流とは凄く心が狭いのですね…」

「心が狭い..そうですか?それなら、特別に参加を許しますが..責任はとりませんよ」

《動物の解体を見て気絶でもすれば良いです》

「ええ、構いませんわ!」

「山に入りますのね?」

「そうだよ、僕の訓練の仕方は自然を使った物が多いんだ..」

「へぇー自然を利用するんですのね..」

《体を鍛えているだけ..今日は収穫はないかも知れませんわね..》

「ほほほ..若いお嬢さんには刺激がありすぎるかも知れませんのぉ」

「おじいさんは誰ですの?」

「儂の名前は天上鉄心..まぁ只の爺じゃ」

「へぇー有名な剣聖さんね..」

「少しは儂の名前も知れたもんじゃな」

「表の世界じゃ強いらしいですわね..」

「ちょっと、貴方、おじい様に失礼です」

「あら、ごめんなさい、私正直な物でして..強いのかも知れませんが、何故か怖さを感じない物ですから」

「それで、山で一体何をしますの..」

「うん、狩りをするよ」

「狩りですの..あの皆さん木刀しかお持ちでないようですが?」

「ここは道場よ…木刀を使うのよ」

「….要領を得ませんわね!」

「さてと、今日は大物狙いで行こう..鉄心さんはイノシシ、鹿、心美さんもそろそろもう少し違う物を狙ってみようか?」

「木刀で猪はちょっと辛そうじゃな..」

「そうだね、一撃で仕留めないと逃げちゃうから、その辺りが難しいかも..あと、必死で反撃もしてくるから注意も必要だね」

「真剣なら余裕そうじゃが..木刀じゃ難しそうじゃ」

「真剣でなら余裕でしょう..それじゃ訓練にならないじゃないですか..」

「そうじゃな..」

「翼くん、私は..」

「そうだね…じゃぁ心美さんは真剣を使って良いから鹿を狙って行こう..猪は反撃が怖いから今日は辞めておこうか?」

「そう..いきなり手強くなるのね..」

「最初は、角が短い弱そうなのを狙ってね」

本当なら、中間の生物が居れば良いんだけど居ないんだから仕方ないな。

翼様が何を言っているのか解らないですわ..

正確には解かっているけど..何をしようと言うんですの?

「そう、それで翼くんは後藤田さんと一緒なんだ!」

「だって仕方無いでしょう?」

「へーそう、私が大物に挑戦するのに、心配じゃないの?」

「心配なんてしないよ、信頼しているからね」

嫌だ顔が赤くなっちゃうよ…

「そう言われちゃ仕方無いわ、後藤田さん翼くんに変な事しないでよ..」

「流石に山の中じゃしませんわよ」

「そう、なら良いわ」

「さてと翼様は何をしますの?」

「いつもは何もしないんだけど..麗美さんは僕の強さを知りたいんでしょう?」

《こんなに探る様な目してたら解るよ…まぁ敵じゃないから殺気はないけど..》

「知りたくない無いと言ったら嘘になりますわね」

「それじゃ、見せてあげるよ」

《僕だって多少は見栄もあるからね..ギア2》

「凄いですわね..木刀でこんな大きな木が斬れますのね..」

物理的に出来ないのは知っていますわ、ですが國本も長ドスで石を割りましたわ、同じ事ができますのね。

そしてあの跳躍、まるで空を歩いているみたい..凄いですわね..まるで昔話の牛若丸ですわ

「多分、鉄心さんでも出来る事だから、そこまでの事ではないと思うよ..」

「そうですか? 私は剣技には疎いのでそんな物ですのね」

《違いますわ..天上鉄心は達人でしてよ..逆を言えば剣聖と言わしめた彼にしか出来ない、そういう事ですわ》

「さてと、麗美さんが見たいのはこんなのじゃなく、純粋な戦闘力ですよね」

「あらっそんな事はありませんわ」

「大丈夫ですよ隠さなくても、あの後藤田さんのお孫さんなんだから、そういう基準もあるでしょ」

《騎士の家の子と付き合うなら、その親は交際相手に強さを求める、貴族の子なら教養と家柄、後藤田さんの所は裏ギルドと似たような物だからある程度の強さが必要なのだろう》

「すみません、試す様な事をして..」

「大丈夫..家と家の付き合いには必要な事です」

《麗美さんはうちに挨拶に来る時、手土産を持ってきた。しかも高級品だ、翼の記憶にはこんな話は無い。これは前の世界でいう家同士の親交を深める、そういう意味があるのだと思う..辰雄さんや國本さんの話を踏まえると婚約という視野もあるかも知れない》

「家と家ですか..そんな事初めて言われましたわ」

《これは..凄い不意打ちですわね..私だけでなく、うちの事まで考えてくれますの? そんな人誰も居ませんでしたわ、油断したら涙が出てきそうですわ》

さてと、この山は今少しだけ危ない、この間殺した熊はメスの熊。

自分のつがいの相手を殺されたオスの熊が徘徊している..気を張って何時も居場所を特定していたが、心美さんや鉄心さんの事を考えたら狩るべきだろう。

「まひるとも仲が良いみたいだし、母さんも気に入っているから行こうか?」

「何処に行きますの..」

「見せてあげるよ..」

「嘘ですわよね! 流石にこれは..逃げないとまずいですわ..気が付かれる前に」

うん、熊だ..しかも思ったより大きいな、ただ、それだけ。

「大丈夫、もう相手は気が付いているよ..正々堂々と正面から行くよ」

「翼様、木刀じゃ熊は倒せませんわ..」

《真剣でも難しいですわ..もしかして、この人は..ただの馬鹿でしたの? 死にますわよ..》

「そんな事は無い、簡単さ..」

《はぁ、こんな生物を相手にするだけで心配されるんだな、オークより弱いのに..》

「冗談ですわよね..一緒に逃げましょう?」

「さぁ、熊こう、行くよ」

「がるるるるる!」

確かに普通の人間なら当たれば致命傷だけど、こんなのは交わすのは簡単だ。

《嘘、嘘嘘、熊の攻撃をまるで遊んでいるように躱しますの..綺麗》

熊が大振りで手を振り回してますが翼様にはかすりもしません。

しかもワザと引きつけてギリギリで躱します、こんなの人間業じゃありませんわ…

「この程度の相手なら結構、楽そうでしょう?」

「しっ信じられませんわ..」

「たかが熊ですよ! 倒す気になれば..」

躱すのはまだ解ります..相手は熊ですわ…木刀で無くて真剣でも死にますわよ。

牛ですらハンマーで叩いてもなかなか死にませんのよ..

まして相手は熊ですわ..そんな木刀で叩かれてもビクともしませんわ…

「そんな木刀で叩いても..そんな何で..」

「ねっ、簡単に倒せたでしょう?」

どうして、どうして木刀で軽く叩いただけで首が陥没しますの?

確実に死んでますわね..

「凄いですわ…本当に倒してしまいましたわ..」

「この程度なら朝飯前です」

ええっ本当に朝飯前ですわね。

「それで、翼さまは人は殺せますか?」

「進んで自分から殺したいとは思いませんが、敵対するならその手段も仕方ないでしょうね..」

おじい様や國本が気に入ったのも解りますわ..この実力で人を殺す覚悟もある。

私が望んでいたのは..待っていたのはこの人ですわ。

「はぁはぁはぁ..私、息が出来ない位感動してますの..翼様」

「はい?」

「翼くん、やっぱり熊を倒していたんだね、流石だわ」

「これは見事な熊じゃな」

《まぁ良いわ、時間はたっぷりありますから、絶対に私の者にしてさし上げますわ》

「あら、心美さんの鹿は随分小さいのですわね..」

「あんたね..これでも実際に狩るのは難しいのよ」

「そうなんですのね..でもおじい様の鹿は結構大きいですわ」

「そりゃおじい様は達人ですから」

「まぁ、心美さんがビリなのは確定ですわ」

だけど、関心しましたわ、この子はこれでも、生き物が殺せるのですわね。

こういう友達も居ませんでしたわ…この子ならきっと私の全てを知っても友達でいてくれますわね。

「心美さん、良かったら友達になりませんか?」

「何を言い出すのかしら? まぁ良いけど!」

「そうですわよね? 貴方も友達少なそうですから」

「失礼ね.喧嘩売っているのかしら?」

「違いますわ….貴方が男で翼様に会う前に会って居たら惚れていたかも知れませんわ!」

「あんた、まさか..そっちのけがあるの..」

「男ならと言いましたわ」

「そうよね、あれっちょっと待って同じような事最近誰かに言った気がするわ」

「そうですか、まぁ良いわ」

この方は何処までも真っすぐなのですわね..まぁ少し頭は可笑しそうですが..

だけど、もし心美さんが男だったら、多分責任も取るでしょうし、櫓錦とも死ぬ気で戦ったのでしょうね…

そう考えたら、今日は凄く良い事がありましたわ…。

「所で麗美さん!」

「何でしょう?」

「貴方も剣術、やらない?」

何か大変な事になりそうですわね..まぁ仕方ありませんわ..

「ええ、良いですわ」

白熊

「どうだった、麗美?」

「お父様、想像以上でしたわ..あれでは國本が可哀想ですわね、本当に戦ったら死んでしまいますわね..」

「本気か..」

「ええ、何しろ木刀一つで大きな木を切断するし、熊すら一撃ですのよ!」

「そんな事できる訳ないだろう?幾ら何でも可笑しすぎる..ちょっと待て..そこのお前、國本と親父を呼んできてくれ」

「解りやした」

「竜星、儂は組長じゃ幾ら親子でもお前から来なければ筋が通らんだろう?」

「すみません、親父、ちょっと動揺しまして…麗美が可笑しな事言うもんですから!」

「麗美、何を言ったんだ、同じ事を儂にも教えてくれないか?」

「可笑しな事を言っていませんわ、國本が石を砕くのと同じ様に大木を斬って、熊を殺した、そう言っただけですのよ?」

「お嬢、それは勘違いじゃないですか?」

「そうだな、國本、お前にも出来んだろう?」

「へい」

「可笑しいですわよ! 國本は昔し石を割って見せてくれましたわ!」

「お嬢、石は固いですが、案外石目に沿って叩けば割れるんですよ..ですが大きな木は木目に沿って切る事が出来ないからそう簡単には斬れません」

「そうなの? まぁ翼様ですからお前に出来ない事が出来ても不思議じゃありませんわ」

「いや常識的に出来ないと思うのだが」

「おじい様、私、嘘をついていませんわよ!」

「だが、お嬢、そんな事できたら達人ですよ」

「あらっ、翼様は多分達人ですわよ!」

「あのな、確かに強いのかも知れないが、達人なんてそう簡単には居ないと思うよ..麗美が美化したい気持ちは解るがね」

「お父様、確実に翼様は達人ですわ…だって天上鉄心がお弟子さんみたいにしていましたわ」

「鉄心だと、剣聖と言われるあの鉄心か..」

「流石にお嬢、無理があります..もし、そうなら翼殿は日本一ということじゃありませんか?」

「そうね、日本一なのかも知れませんわね..」

「所で、それは何処で見たんだ」

「おじい様、天上道場の裏山ですわ..」

「天上道場?」

「はい、天上心美さんとも友達になれたのでこれからもチョクチョク行くと思いますわ」

「そうか…麗美、さっきの話は本当なんだな?」

「嘘は言いませんわ…」

「だったら今度、うちに連れてきなさい..お父さんも会ってみたい」

「はい、それでは近いうちに連れてきますわ」

親父や國本は認めたかも知れないが..俺はまだ認めていない。

麗美は目に入れても痛くない程、可愛い俺の娘だ..そう簡単に認められるか!

「ワンうーっワンワンうーっ」

最近、可笑しいのですわ、絶対に鳴かない櫓錦が良く吠えています。

「櫓錦..どうしたのかしら? 元闘犬の貴方が鳴くなんて」

「うーっうーっワウ..」

「まぁ良いわ、もう齢だもの、仕方ないわね」

もし、櫓錦が喋れたら..その恐怖を語ったのかも知れない…この屋敷の何処かに化け物が居ると!

何時もは授業が終わると心美がくるのだが、この日は来なかった。

麗美があらかじめ手回しをしていたから。

「心美さん、明日一日翼様を貸して下さらないかしら?」

「嫌よ! だけど、なんで?」

「その、お父様が会わせろって煩いのよ」

《うちのお父様もお母様も男女交際は煩かったわ..これは仕方ないことですね》

「そういう事なら仕方ないわね」

「流石は心美親友だわ、ありがとう!」

「なぁに懐いているのかな..親友だなんて、親友..そうね親友の頼みだもん仕方ないわ」

《案外チョロいですわ..そして多分私と同じでボッチなのかも知れないですわね》

「ありがとう、心美、それじゃ..」

「翼様、今日は家に来て下さい..そのお父様がお会いしたいというので..」

「でも訓練が..」

「心美さんに許可は得ましたわ」

「そう、それなら..よく考えてみたら、僕から挨拶に行ってなかったね..うん行くよ!」

麗美さんの家に久々に来た。

「その節はどうも..」

少し気まずい..この前怪我させた人だ..

「そんな気になさらずに..貴方は客人なんだからな今日は堂々としてれば良い..」

「気に何かするな、あれは浮世のサガだ、もう気に何かしてねーよ..俺は強い奴が好きだかんな..今度、酒でも飲もうや」

「お前達、翼様はおじい様やお父様のお客よ..口の利き方に気をつけなさい」

「いや、この方が親しみやすくて良いよ..ありがとう..」

「おおっおう」

「全く、翼様は心が広いんですわね..それじゃ行きましょう」

《お嬢が怖くない..》

《お嬢から恐怖が消えている》

「「「「お嬢頑張って下さい」」」」

「お前達、何さぼっているのかしら? サッサと働きなさい! 」

「「「「解りやした」」」」

「翼さん久しぶりだな」

「今日は前みたいに殺気を出していないな..あの時は冷や冷やしたぜ」

「後藤田さん、國本さん..その節はどうも、また結構な物をありがとうございます、それで今日はどうかしたんですか?」

「今日は何でもない、竜星、麗美の父親を紹介しようと思ってな..その後はまぁ席を設けるんでゆっくりしていってくれ」

「そうですか! 有難うございます」

《しかし、本当に凄いですわね…おじい様を前にしたら現職の総理大臣ですら緊張しますのに..普通に話していますわ》

「初めまして、竜星、麗美の父親です….」

「初めまして、麗美さんとおつきあいさせて頂いています、天空院翼と申します」

《何でですの、お父様..相当不機嫌ですわね》

「所で君は、あの天上鉄心を弟子にしているんだって?」

《そういう事に..なるのかな?》

「まぁ、稽古は一緒にしていますが…」

「そうなのかい? そう言えば熊を簡単に倒したって本当かい?」

「まぁ一応..」

「いい加減なこと言うなよ、どこの世界に剣聖を弟子にしている高校生がいるんだ、なぁーふざけているのかい?」

《まぁ、普通はこうだよな..前の世界で僕が剣聖を弟子にしているなんて言ったら お父様も同じ事いうよな》

「嘘ではないですね..弟子はともかく稽古は付けています」

「ほう、じゃぁ熊も一撃で倒したと…お前は宮本武蔵の生まれ変わりだとでも言いたいのかい?」

今の僕は、天空院翼だ彼奴は嫌な奴だったけど、僕の世界を救ってくれた。

この名前は勇者の名前だ..馬鹿にされる訳にはいかない..

公爵家の僕が国を救った勇者の名前を辱める事は絶対できない。

「宮本武蔵? そんな奴なんか秒殺だ..熊、よく熊一匹殺せない人間がヤクザなんて張れますね..」

《翼様..不味いですわ、お父様を怒らせたら》

《今の侮辱は不味い..これでは竜星は引けない》

「そうかい、吐いた唾は飲むなよ..じゃぁ証明して見やがれ」

「そう? じゃぁ組員全員病院送りにして証明しますか?..それで良いんですか…」

《余りやりたく無いけど..》

「待て」

「いや、親父待てない..そんな事しなくても簡単さ…僕が用意した奴と戦って貰えばいいさ」

「その方が気が楽でいいですね」

「おい、お前、連れて来い..」

「待て、竜星さん..いや若は何を..」

「熊なら倒せるんだろう? だから用意したんだよ..熊」

「待て竜星大人気ないぞ..翼殿も強情張らずに..」

「熊を倒せば良いんですね..」

「まぁ熊位なら翼様なら楽勝ですわね!」

「お嬢、前の話は..」

「本当の事よ、熊なら楽勝ですわ」

「そうですかい」

「そんな、お父様ふざけないで..これは!」

「麗美、熊だろう? 白熊も熊だ…ははははっしかも此奴は3.5メートルの超大物、体重も800キロを超えるまぁ化物だ」

「竜星、ふざけているのか? 」

「ふざけているのはそいつだろう? 剣聖が弟子だ、熊を一撃だ..どうせ麗美が自慢話を信じたのだろう? 私はこう言う嘘をつく奴が嫌いなんだよ!」

《白熊ね..確かにこの世界では強いのだろうけど..オーガどころかオークの方が強そうだ、同じ熊なら六本足熊の方が此奴よりはるかに大きい》

「竜星さん…」

「何だぁー怖気づいたか?」

「麗美さんはアンタの子供かも知れないけど僕の友達だ…」

「だからなんだ..」

「嘘つき呼ばわりしたよね? 此奴倒したら謝って下さいね?」

「ああ、幾らでも謝るさ..倒せたらな..」

「流石、組長が見込んだ男..凄いな」

「國本…」

「すげーや、白熊を睨んでやがる」

「これはやりすぎだ止めないと..」

「翼様..辞めて下さい、死んでしまいます」

「僕を舐めるな!」

「翼様?」

「おい..」

「ここまでで充分だ、充分男気を見せた充分だろう」

「いい加減、そいつを離しませんか? 早くして下さい!」

嘘だろう、此奴死ぬ気なのか! 俺はただ脅すだけの予定だった。

嘘つきのガキ、自分の思い人を大きく見せようとする麗美、その両方にお仕置きするだけの予定だったんだ。

白熊だぞ..白熊、馬鹿なのか! 死ぬぞ..

「本当に放すぞ..」

「しつこいですよ..」

「凄い意地っ張りじゃな..」

「全く、こんな事位で命張りやがって」

「翼様..辞めて、本当に死んでしまいます..死んでしまいますわ..」

「はぁ、竜星さんてはったり野郎なんですね..良くこんな人でヤクザやれますね..こんな人破門した方が良いですよ..」

「「「ああっ」」」

「そうかい? そこまで言われちゃ引けないな..放せ!」

「竜星さん、本気ですか?」

「放せって言っているんだ..」

「はい」

だが白熊は翼の所には来ない..本能がそうさせたのかも知れない。

「ひっ!」

《ギヤ2》

「熊公、そっちに行くんじゃない..」

「がやるるるるる..」

拳を握りしめて思いっきり白熊を殴り倒した..手ごたえはあった。

白熊は数メートル吹っ飛んだ..

「白熊が…あああ」

「スゲーっ だが」

「ああっ熊を倒したのは嘘じゃ無いんだろうな?だが白熊は別だ」

流石、熊とは違う..顎にぶち込んだのに死なないんだな。

「はぁぁぁぁぁっ 」

白熊の攻撃をかわしながらひたすら殴った。

オーガのこん棒を躱しながら戦った事を思い出す..確かに強いのかな?

久しぶりだなこの感覚..

「おいっ..人って白熊より強くなれるのか?」

「嘘じゃ無かったんだな..」

「最初から言っていましたわよ私..」

「あははははっあの時のカチコミでも手加減していたのかよ..スゲー」

だが、怖くない…だってこの攻撃あたっても多分致命傷にならない..

この世界の地上最強の肉食動物が..こんな物か..

さぁ此処からは一方的になるな..

ひたすら蹴り続けた…そして白熊は..許しを乞う様に涙を流し始めた。

「白熊が..泣くのか..」

何だか可哀想だな…多分此奴、戦いを知らない…もしかしたら野生で無いのか..

あの熊よりも覚悟が無いな..

「良いよ…見逃してやる..」

白熊は逃げ出し檻に戻った。

「可哀想だから殺さなくても良いですよね?」

「ああっ良い、良いとも..」

「お父様! 翼様と私に謝るのでは無くて?」

「ああ、そうだったね..翼君、済まなかった..なぁこの通りだ」

「気にしないで良いですよ…」

「お父様、私には..土下座で謝って下さいね」

「麗美..」

「私、結構怒ってますわ」

「解った..」

「麗美さん、それは辞めてくれないかな? 親は敬う物だよ、そんな事したら嫌いになるよ..」

「冗談ですわ..お父様も本気になさらないで」

《あれ、翼殿が居なかったら絶対に土下座させていたな》

《お嬢ですから、その後頭踏んでいたでしょうね》

「おじい様、國本どうかしたのかしら?」

「何でもない..」

「しかし、翼様は凄いですわね、素手で白熊相手に勝てるなんて!」

「あの位なら何とか..それにあれ野生で無いからそんなに強く無いし」

「そういう物なのですか?」

「うん、野生と飼育された物じゃ雲泥の差だよ..それに僕は名前に誓ったんだ!」

「何をですの?」

《それでも白熊には勝てんよな》

《ええっ、普通は一撃で死にますよ》

《あれは確かに動物園から無理やり借りた物ですが、普通に巨大な肉を骨ごと食べていましたよ》

「出来る事なら、勇者の様に生きるってね」

「翼様なら..簡単ですわ」

勇者 翼…白熊には勝ったぞ…魔王にすら勝った君には届かないだろうけど..この世界で君の名前には傷一つ付けない..

だから、安心してくれ。

白熊倒したのち
今、僕は凄く困っている..

「翼くんは凄いな…あんな技何処で身に着けたんだ! 白熊に勝てるならゾウやサイにも勝てるのかな?」

竜星さん..そう言う目で見ないで欲しいな..これ勇者や聖女を見る子供の目に近いよ..

「そうですね、やって見ないと解りませんがゾウやサイとも戦ってはみたいですね..」

《身に着けた方法は誤魔化さないと》

「だったら、今度..」

「駄目ですよ…動物園は..あの白熊可哀想でしたよ! 戦うなら野生じゃないと意味無いですから」

「そうだね、確かにそうだ..そうだ、だったら今度俺と一緒に海外に行かないか? どうだろうか?」

「あの、僕は学生ですから、そんな海外に行くお金なんてありませんよ」

「何を言っているのかな? そんなのは俺が出すから気に何てしなくて良いんだよ..」

《何でしょうか..あの態度、わが父ながら何て言う変わり身なのかしら?》

《まぁ気に入ったみたいだから良いんじゃないか?》

《お嬢、反対より良いじゃありませんか?》

「翼様、ですがあの体術は一体なんですの? 私も剣術以外は知りませんわ」

「俺も知りたいな..あれまるで格闘マンガの主人公みたいだった」

《これは誤魔化すしかない..どうしようか? そうだ….あれだ..あれ》

「光纏という鉄心さんが使う技の応用です」

「本当にあったんだ..光纏、あれは嘘じゃ無かったんだ..凄いぞ翼君」

「お父様、それって何ですの?」

「竜星、それは一体何なんだ!」

「究極の武..光纏、気を体に纏わせ神の様な力を振るう…正に人でありながら神に等しい力を引き出す、剣聖、鉄心の技」

「冗談ですわよね..流石に..気とか神とかありえませんわ」

「本当ですよ、あんな物そこまで大したものじゃありません」

「あのさぁ..剣聖である鉄心が生涯をかけて編み出した技が大した物じゃないのか?」

《どうだろうか? 僕は3年位で出来るようになったが..この世界じゃ気そのものを扱う人が居ないからな》

「そうですね、才ある物が2年修行すれば出来ると思います」

《それって鉄心をして才能がない、そういう事なのか? 》

「そうか、君は凄いよ..」

《正に武蔵..いやそれ以上の天才としか思えない…よく考えたら素手で白熊倒したんだからそれ以上か?》

「お父様、いい加減に独占しようとするのは辞めて下さらない?」

「別に良いじゃないか? 翼君、卒業したら俺の所に来いよ、一応ちゃんとした企業だから」

「竜星、それは喧嘩を売っているのか?」

「いや、親父違う…だけどヤクザよりうちの方が良いかなと思って、裏では企業舎弟だけど、名前が通った会社だから両親も安心じゃないかな..」

「ほう、それは組よりお前の会社に入った方が幸せ、そう言いたいのか?」

「そりゃそうでしょう? 一応うちは上場会社だから」

「うちだって代々続く組じゃないか?」

「翼様、少し散歩しませんか? 三人は放って置きましょう!」

「その方が良いかも知れませんね..」

「私は何も聞きませんわ..正直知りたいですが、翼様お困りのようでしたから」

「そうしてくれると助かります」

裏家業の癖にお父様もおじい様、國本まで理性を無くしすぎですわ、訳ありの人間に根掘り葉掘り聞かないのが仁義じゃ無かったのかしら?

この歳で あのような事が出来て、此処までの考えをお持ちになるという事は、絶対にそれなりの事情がおありの筈ですわ。

だって、今迄、誰にもバレない様に隠して生きてきたんですから17年も..それをずけずけとよく聞きますわね..

「それで、この様な家族ですが..その.ね..えーとお付き合いして頂けますの…?」

「面白い家族ですね..楽しそうで良い家族だと思いますよ!」

《面白い? この状況で..そんな事言えるのは翼様だけですわよ》

「そうですか? 面白いですか、そう言って頂いたのは翼様だけですわ」

《この人は、私だけでなく、このコブのような家族も気に入ってくれたのですね》

「だって凄く居心地が良いですよ」

《よく考えたら剣術馬鹿娘の家族と普通に..いや可笑しな付き合いしていましたわ..気にする必要は無かったですわ》

「だったら何時でも遊びに来て下さいね..」

「そうさせて貰うよ」

「何をいっているのかな翼君は、今日はすき焼きを用意したんだからまだ帰らないよね?」

「宴を用意するって伝えた..まぁそこのバカ息子がやらかしたから少し遅れたが..」

「すいません、それじゃご馳走になります」

ここは凄く居心地がいいな…

【閑話】麗しの生徒会長

私の名前は 二条院絵里香、良く周りの人は「麗しの生徒会長」なんて呼びます。

そして、完璧な美少女と周りの者は称えますが…私からしたら馬鹿としか思えません。

確かに私は家と美貌には恵まれましたが、他の物は自分で勝ち取ったのです。

頭で私に勝ちたいなら死ぬ程勉強すれば良い事です。

私の場合はまんべんなく出来なければならない事情があります。

だから、自分の全てを勉学にかけたら確実に勝てる筈です。

スポーツ、習い事、何でも一つで良いなら確実に勝てる筈なのです!

ですが、この学校には私に勝てる人間が居ないのです..

どこまで愚かで、何処まで努力をしないのでしょうか?

だから、私の目には「虫にしか見えないのです」 最も、そんな素振り一切見せていません。

「御機嫌よう、絵里香様!」

「はい、御機嫌よう」

今挨拶したのは私の取り巻きの1人…彼女達は一つだけ努力をしています。

それは私に「好かれよう」という努力..だから虫とは思いません。

ですが、これはこれで不毛ですわ…だってそんな努力今しか役に立ちません。

私の傍に真に居たいなら、勉学に励むべきです、そして国立大学にに入り、お父様の会社に入れば、生涯の付き合いになるかも知れません。

そんな事も解からないのです。

「絵里香様、これ読んで下さい..」

手紙を渡して走り去る..こういうタイプが一番嫌いです。

「待ちなさい!」

「…」

「この手紙は読むに値しませんから持って帰って下さい!」

自分の気持ちも口で伝えられない弱者が私に何を望むのでしょうか?

「そんな..」

「持って帰らないのですか? これは私の物で良いんですね?」

「はい」

ビリビリビリッ

「えっ」

「読みたく無いので破棄しました、では御機嫌よう!」

私は努力しない人間が嫌いです。

こんなの迷惑でしかありません。

私は今の状態に居るため努力しています、寝る間も惜しんで勉強。皆んなの為の生徒会運営、女を磨くために習い事。

それが今の私なのです。

その私に何の才能もない、何の取り柄の無い男が何故付き合えると思うのでしょうか?

例えば、どこぞの双子みたいに「私を甲子園に連れていく」と約束をして死ぬ程努力して甲子園に行ったならちゃんと応援もします、そしてそこから私に告白するならちゃんと答えます。

スポーツを頑張って、オリンピックを目標にしてメダルでも獲得するなら、勿論真剣に考えます。

なのに、私の周りにはクズしかいません。

本当に解かっているのでしょうか?

私は「二条院」の娘なんですよ…兄や姉が居るから序列こそ低いですがそれでも財閥の娘なんですよ。

もし、私と添い遂げるなら死ぬまで努力が必要になります。

そうでないなら、親族に会う度に惨めな思いをするだけです。

二条院の名前に恥じない様に..死ぬまで努力する人間、それが私なのです。

私が望むのは私の横に並び共に死ぬまで努力する人間、それだけなのです。

だからこそ、真剣なお答えが欲しいのなら…その可能性を見せて欲しい…それだけなのです。

王子なんている訳が無い

「王子様がいる、何を言っているの?」

「最近、街で王子様みたいな男性が居るんです..あの方なら絵里香様とつり合いがとれるかも..」

やはりこの子もその程度..私の何を見ているのでしょうか?

少しばかり外見が整っていようがそれだけじゃ意味ありません…

ただ、見栄えだけで良いなら、お父様にお願いすればデートのエスコート位なら芸能人にやらせられます。

「外見だけじゃ意味は無いのです!」

「ですが、あの天上心美がご執心のようなのでもしかしたら中身も優れた殿方かも知れませんよ?」

天上心美さんですって、あの方は確かに素晴らしいですね。

残念ながら日本一はいつも逃していますが、恐らく日本で2番目の女剣士でしょう。

一心不乱の剣に打ち込む姿は本当に美しかった。

もし、彼女が男なら、私の心を捕らえたかも知れません。

「そう、天上心美さんが…それは興味ありますね..」

「でしょう? 天上心美の好みは強い男、ならばかなりの凄腕かも知れませんよ?」

噂では剣道の達人以外眼中には無いって言っているらしいわね..なら一点豪華主義の素晴らしい殿方なのかも知れませんね。

「それなら見てみたいですね」

「隠し撮りですが..」

「あら、スマホの写真があるのね..」

何なのよこれ..人間なの? 合成じゃないのよね..見た目は完璧に王子のようにしか見えない。

しかも、それがお化粧とかで作られたものじゃない..ナチュラルで綺麗..まるで少女漫画のキャラクターが飛び出した。

そんな感じだ。

「どうですか?」

「外見は..良いじゃない!」

良いなんて物じゃないわ..凄すぎよ、凄すぎ..私が普通の女の子ならこれだけで告白してしまうわ…

だけど、だけど、私は二条院なの..それだけじゃ駄目なのよ..

「そうでしょうね…それで良かったら生で見に行きませんか?」

「そうね..」

連れられてきた。

遠くから隠れて見ている..なんで私がこんな事しなくちゃいけないのかしら?

「きました..絵里香様」

流石に、綺麗だわ..あれっ何であの方までがいるの?

「絵里香様 どうかしました?」

「何であの人がいるの..」

「天上心美..」

「違うわ、後藤田麗美様、麗美様が何で..」

「絵里香様?」

「もう帰って良いわよ..」

「どうしたのですか?」

「良いから帰りなさい..」

何でこんな所にいるのでしょうか?

「麗美様..お久しぶりです!」

「貴方は絵里香じゃない..本当に久しぶりですわね、こんな所でどうかしましたの?」

「いえ、近くまで来る用事がありましたので」

「そう、そうだ、翼様、心美さん、お願いがありますの!」

「嫌よ! 練習を無くして、その子も含んでどっか行こうって言うんでしょう?」

「ええ、そうですわ」

「だったら、貴方だけ行けば良いじゃない? 私は翼様と練習するわ」

「友達でしょう? お願いしますわ..」

あーあ..これズルいわ…また友達持ち出して。

「解ったわ、友達だもの仕方ないわ」

「翼様も宜しいでしょうか?」

「僕は別に構わないよ」

麗美様のこの顔..私は知らない、いつも狼のようで孤高が似合う麗美様。

それがこんなに優しそうな顔をするなんて..天空院翼…何者なんでしょうか?

しかも、天上心美も満更で無さそう..まさか二股なの?

私は観察するように見ます..目が合ってしまった..これは魔性の目..気が付くと吸い込まれそうになる。

今迄、同世代で自分より上、そう思えるのは麗美様だけでしたが..この方も同じ..

いや、間違いよね..

「ここで良いかしら」

「ええっ構いません」

せっかく時間があるんだから..見極めてあげる。

1番でなくとも
さすが麗美お姉さま、入る店が違います。

ファミレスでなくて純喫茶、お話しするならこういうお店かホテルじゃないと煩くてたまりません。

麗美お姉さまは入って注文をしました。

「おすすめのホット4つお願い」

「畏まりました」

先に注文して自分が払う立場になる。

さらっと出来るのがかっこ良いのです。

「そういえば翼くんって嘘つきよね」

「どういう事かしら心美さん、いきなり翼様を嘘つき呼ばわりするなんて」

何のことなのかな、だけど凄いわ今一瞬、麗美お姉さまの顔つきが変わりました。

この顔を見た人はすくみあがるのに、ここでは全員スルーですか..

「僕、何か心美さんに嘘をついていたかな?」

「ええ、ついていたわ、馬鹿みたいな事いっていたのに掲示板に名前があったわ..成績上位者として」

「当り前ですわ、翼様なのですから」

「だけど、翼くん、授業についていけないほど頭が悪いって言ってたよね? それが何で学年上位なのかなと思って」

うーん確かにそうだ。

「結構勉強頑張ったんだよ」

「だけど、翼くん、確か凄く、そのね」

「うん、確かに昔はかなり馬鹿だったかな?」

もう忘れたいんだけどね。

「それが学年で2番、変わりすぎだよ」

「ちょっと待って心美さん、翼様ってそんなに馬鹿だったの」

「うん、私以上にね」

「私は凄く頭が良い姿しか見てませんわ」

「最近、凄く頑張って勉強したから..確かに少し前の僕は後ろから数えた方が早かった位…だね」

「あの、翼さん..それって学年でビリに近い成績から2番になったという事なのでしょうか?」

「まぁね…」

《余り話したくない話なんだけどな…》

「どのように勉強されたのですか?」

「たいしたことないよ! 最初は9時間、剣道始めてからは6時間ひたすら勉強しただけだからさ」

「そんなにされたのですかね」

「この位、勉強しなくちゃ上は目指せないから..正直、今までが遊びすぎたと反省しているよ」

何なんでしょう..この人は、私が望むべき姿じゃないでしょうか?

「それで、天上さんや麗美様とお付き合いされているのですか?」

「まさか! まだまだ高嶺の花だよ…二人に愛されるにはまだまだ足りないよ..」

「何を言っているのかな…私の気持ちは伝えたはずよ、それにおじい様に勝てるのに足りないなんて可笑しいよ」

「そうですわ、うちは家族ぐるみで翼様を気に入ってますのよ? 勿論、私もですわ」

「あの、天上さん聞いても良いでしょうか?」

「何かしら?」

「天上さんは噂では、自分より強い人しか付き合わない…そう聞いた気がするんですが..」

「もしかして、翼くんの剣の腕前の事? 私はおろかおじい様でもかないません」

「冗談ですよね…天上さんのおじい様は剣聖なんて呼ばれる凄腕の剣道家ですよね、からかってますよね?」

「本当ですわ、何しろ翼様は素手で白熊を倒せるのですわ..凄いですわよ」

「あらっ 麗美さん、わ.た.し.そ.れ初耳なんですけど」

「わざわざ言いませんわよ」

嘘、いくら何でもありえません、剣聖より強く、白熊すら倒して頭も良くてかっこよい..

だが、あながち否定もできません。

あの、麗美様が凄く優しい顔をしています、さらにあのご実家が認めるという事は只者の訳もありません。

話し半分にしても凄い方なのでしょう!

そして努力家でもあります。

考えれば考えるほど欲しくなります。

今まで人なんか好きになりませんでした。

だって私はあくまで選ぶ側ですから…

だけど、この方が欲しいなら..選ばれる側にならなくてはいけません。

だって、どう見ても麗美様に心美さん、この二人は確実に愛していそうです。

そこに私が加わったら..多分1番ではない筈です。

そして二人は強力です…

それでも、それでも…私は..

この人に…惹かれます。

「翼さん…おじい様に会って下さいませんか?」

「何で?」

だって二条院以上に輝く光を見つけてしまったんですから。

コーヒー
「絵里香さん、それは私に喧嘩を売るそういう事なのかしら?」

「麗華様、そんな気はありません…ですが..」

まぁ、この子なら仕方ないですわね、私と同じでお相手に恵まれない家柄ですから..

「いいですわ、なら正々堂々と勝負しましょう」

「はい」

嬉しそうな顔ですわね..まさか絵里香と男を取り合うとは思いませんでしたわ!

「二人で嬉しそうに話しているわね、なら私もライバルね!」

「何でですの?」

「何でですか?」

「それはど.う.い.う.い.み.か.し.ら?」

「絵里香はまぁ私と同じに考えるならお姫様ですわ、翼様が王子様だとしたら結ばれるかも知れませんわね」

「私は一体なんだというのかしら?」

「そうですね、騎士ですわね..だから、私や翼様、絵里香を守る存在ですわね」

「そうですよね! 天上さんは素敵な騎士様ですね…」

「それはさり気なく、私が翼くんと釣り合わない、そう言いたいのかしら?」

「汗くさい脳筋女にしては良く解りましたね」

「脳筋ですって..自分だって老け顔じゃない?」

「あら、目まで腐っているのかしら? 私みたいなのは大人っぽいって言うんですのよ?」

この二人実は凄く仲がよいんじゃないかしら?

だって、麗美様が本音で話してますからね…

こんな普通の麗美様は滅多に見られません。

人を一段下に置き、自部は高みから見下ろす…それが麗美様。

そして興味が無くなった者には冷徹な麗美様。

その証拠に麗美様がたまに見せる蛇の様な恐ろしさがどこにも出てきません。

ここでは、「剣道小町」も「麗美様」もコホン「麗しの生徒会長」もただの人なのですね…

居心地が良い筈ですわ…

「それで..話は戻しますが..おじい様に会って貰えませんか?」

「どうしてかな?」

こっちの世界に来てから..普通のおじい様に会った事が無い気がする….

「実は私のおじい様は、その孫離れができないので、友達は一度会わせないといけないんです…駄目ですか!」

こんな綺麗な子に上目づかいされたら…断る訳にいかないな…

「別に構わないけど、何時が良いの?」

「だったら、これから良いですか?」

「私も行って良いかしら?」

「心美駄目ですわ!」

「何で、別に良いじゃない」

《この子のおじい様 二条院権蔵ですわ、一般人が簡単に会って良い人間じゃありませんわ》

《あのさぁ。私も天上鉄心の孫なんだけど..》

《そうでしたわね、ただの汗くさい女じゃありませんでしたわね…ですが、今日は遠慮するのが礼儀じゃなくて?》

《あんたね..まぁ良いわ、変わった家族を持っているのはお互い様だしね》

《そうですわよ》

「そういう事なら私達は此処で失礼しますわね..お父様に宜しく言ってくださいまし」

「はい 麗美様」

「それじゃまた明日」

「はい、天上さん」

麗美はレシートを持って支払いをしていた。

本来は僕が出すのが正しい筈だけど…正直キツイ。

だってこのコーヒー1杯3200円なんだもの…

元公爵家だといってもこっちでは普通の家の子。

無い袖は振れないのだ。

前哨戦
本来はもう少し長めにする予定でしたが 思ったより長くなりそうなのでここで切りました。

【本文】

「おじい様、今日友達を連れていきますから宜しくお願い致します」

「ほう、絵里香が友達を連れてくるなんて珍しいな..それで男の子なのか女の子なのかね」

「はい、男の子です!」

「ほう、男の子なのか、それはお爺ちゃんが挨拶しなくちゃな..」

「はい、勿論です」

電話を切り権蔵の顔に不愉快さが浮かんだ。

横にいるベテラン秘書の顔が曇った。

この状態の権蔵の傍でこの程度で居られるのは流石ベテランとしか言えない。

「今日の、首相との会談は取りやめだ..直ぐに伝えろ」

「畏まりました」

《お気の毒に、3か月前から頑張って取ったアポイントが無駄になった..首相もお可哀想に》

さてと絵里香が連れてくるボーイフレンドか誰だろうか?

絵里香と同い年位で能力に秀でた者…家柄なら六条あたりの息子か..或いはIT企業の寒川あたりの息子..

だが、それでも二条には届かない。

女だから対象外だが、ヤクザの娘の麗美位しか二条が欲しい人間は居ない。

あの娘は儂の目を睨みながら話おった..まぁ足は震えておったがな…

儂の挨拶に耐えられた子供は後にも先にもあ奴だけ..酷い者なら失禁迄しおった。

その儂に絵里香が紹介する…はははは実に面白い!

折角だから、家族全員来られる者を集めてもてなすとしよう。

「おい、お前、家族で来れそうな者は全員集めろ!」

「はい..」

《嘘だろう..そんな会談ならメリケン国の大統領だろうがきたがるだろう…だれが来るのか知らないが..そんな場所じゃ首相だろうが真面にしゃべれない..大人気ない..》

「何をしている、急げ..」

《これじゃ絵里香様..友達が出来ないな..お可哀想に》

「はい、ただ今」

やはり、この子もお嬢様なんだな..凄い車が迎えに来た..ロールスロイスのリムジンって奴かな?

しかもお付きの人までいるなんて..

「さぁ、翼さんお乗りになって」

《絵里香お嬢様が先を譲った..この人は何者なんだ》

「いえ、此処はやはりレディーファーストです、絵里香さんからお乗りください」

「いえ、今日は私がホストですから、どうぞ!」

「それでは遠慮なく」

《何処のお坊ちゃまなんだろうか?しっかりしているな..》

「僭越ながら、そちらの方はどちら様でしょうか?」

「私のお客様です。麗美お姉さま以上に大切な方です..その説明では駄目でしょうか?」

「いえ、..解りました、それならシールドを張らせて頂きます」

後ろの席と前側の席の間に防音ガラスが張られた。

「ここまでまだしなくても良いのに、仕方ない方です」

「なぁ、絵里香様がお連れになった男は何者なんだろう?」

「多分、婚約者候補じゃないのか?」

「確かにあの容姿にあの風格只者では無いな..」

「ああっ隙が全然無かった」

「そう思うか?」

「あれをどうにかしろと言うなら銃器を使って10人は必要だ」

「元SPのお前が言うのなら間違いないだろう…だが子供だぞ」

「まぁ、思い間違いだと思うが..」

《何故だろうか? 権蔵様以上にあの子供に仕えたい、そう思ってしまった…気のせいだ》

「困ったおじい様..」

思わず、言葉が出てしまった。

なぜ、メイドや執事に護衛役まで総出で門の周りにいるなんて..しかも殺気だって..

《お嬢様と付き合う..相手..》

《これは、これは見定めなくては》

《孫の様に可愛い絵里香お嬢様の相手..そう簡単には許せないぞ》

仕方ない、殆どは他愛の無い物だけど..

多分、これはテストなのかも知れないな、ならばやるしかない…

僕は殺気を放った..騎士団長とは比べ物にならない..精々が騎士程度だが、これはそういうテストなのだろう…

「あれっ、どうしたの? 皆んな急に静かになって..ねぇ..挨拶位しなさい」

「はい、お嬢様..」

「どうかしたの?」

「それが、体が震えて、旨く喋れません」

よく見ると、一部の人を除いて震えています。

「お客様、こちらの無礼は謝り致します、どうかそ.れ.を納めて下さい」

「お眼鏡に叶いましたか?」

「ええっわ.た.し.ど.もは充分です、ですからどうか!」

「解りました」

《元SPだった俺が怖さを感じるなんて..何者なんだ》

《あんな奴、戦地にも居なかったぞ..》

「何をしたのか知りませんがお客様に無礼です…翼さんは剣の達人なのですから気を付けて下さい」

《そうか、剣の達人だからあの気なのか》

《そう言えば、剣聖と言われる鉄心が同じような技を使えると聞いた事がある》

《あれは噂で見た物は居ないという話じゃないか?》

《だが、あの少年がやった事はそれとしか思えない》

「気をつけます..」

流石は翼さんですね。

全然動じていません..流石です。

「さぁ行きましょうか?」

「そうだね…」

何か歓迎されてない気がする…まぁ挨拶なんてこんな物か..

敵対する貴族に挨拶に行った時に比べればましかな..

大きな門を入り中に入った。

「それでは翼さん着替えて参りますので暫くお待ちくださいね」

「うん」

「それではご案内いたします」

このメイドを見ても教育が行き届いているのが解る..歩き方仕草大したもんだ。

「こちらで今暫くお待ちください」

しっかりと案内が終わると挨拶をしてメイドは立ち去った。

《あれは何処のご令息なのかしら、この家に長く勤めているけど、あれ程の美男子は見た事がありません》

暫くすると紅茶と菓子が用意された…

これは昔飲用していた物並みに美味しい、高級なのが解る。

「お待たせしてすみません」

「待つのは慣れているから大丈夫だよ」

大体の貴族はわざと待たせる、例え暇であってもそうする者が多かった。

上の爵位の者は待たせないのが習わしだが下級なら待たせる。

僕は公爵家だが、後継ぎでは無いそしてあの時点の僕は公爵家の子供、すなわち爵位持ちでは無いので何処に居ても待たされるのが当たり前だった。

「そう言ってもらえると助かります」

「だけど、流石は二条家、紅茶からして違いますね、此処までの紅茶はなかなか、香りからして違いますね」

「そうですか..私は詳しくは存じませんので後で聞いておきます」

「この九谷焼のツボもなかなかの物ですね」

「そうなのですか?」

不味い、しくじったのか?

前の世界ではこういった待ち時間に出された物や調度品を褒めるのが礼儀だったのだが..こっちでは違うのか?

「うん、色合いが綺麗だと思う」

「そうですか? そうですわ丁度メイドがおりますから紅茶について聞いてみましょうか..ちょっといい?」

「何でございますかお嬢様」

「こちらの紅茶について翼さんがお褒め頂いたのだけど、説明してくれる?」

「はい、こちらの紅茶は ドイツから取り寄せたブランド紅茶です、ポットを温め60秒ほど蒸らしてお出しした物です」

「そうですか! 美味しい筈ですね、この紅茶の場合は120秒蒸らすとどの様な味になりますかね」

「試しに120秒で入れて見ますか?」

「お願いして宜しいのですか?」

「お客様のご要望ですから…」

本当にそうなのでしょうか?

まぁ試してみますか..メイド長から教わったのが60秒なんだけど。

「どうかなさったの?」

「メイド長、お客様がこちらの紅茶を120秒蒸らした物がご希望だそうで」

「それはまた随分紅茶通の方ですね」

「そうなのですか?」

「誰でも美味しく感じるのが60秒位、通の方は物足りないらしくもう少し蒸らす時間を増やすのですよ..そうですか、良いでしょう、私が持っていきます」

「紅茶のお代わりをお持ちしました」

「有難うございます」

カップの持ち方からスプーンの置き方まで..完璧なマナーですね..

しかも優雅に美味しそうに飲んでいらっしゃる..ただの知識じゃなくて本当に楽しんでいますね..

「お代わりをお持ちしましょうか?」

「お願い致します」

ああも優雅飲んで頂けるとメイド冥利に尽きますわね、紅茶の味が解るのは二条家では権蔵様に実朝様の2人だけ

他は全員ただの知識だけの方ですのに。

「お代わりをお持ちしました」

「有難うございます..あれ、これもまた美味しいですね..さっきより良いかも知れない」

「流石でございます、こちらは180秒で入れてます、紅茶の好きな方にはこの方が宜しいかと思いまして」

「うん、確かにこの方が美味しいです、そうかあと60秒蒸らすだけで此処まで香りと味わいが増すのですね..有難うございます」

「どういたしまして」

「どうでしたかメイド長」

「凄いわ、本当に紅茶について味わってましたね、しかも優雅に飲んでいらっしゃったわ…次回からあの方が来たら私が紅茶を入れます」

「そんな」

「貴方達のような未熟者には入れさせられません、もし入れたいというのなら死ぬ気で紅茶の勉強をなさい」

「そこまでの方なのですか」

「本当に紅茶を好きで楽しまれているのよ、それに答えなくて何のメイドですか?」

「メイド長、絶対にそれだけでは無いでしょう?」

「さぁ、仕事は沢山あります、さぼっている時間はありませんよ」

「はーい」

未来が楽しみな少年ですね、こういう方にお嬢様とは結婚して頂きたいものです….

本戦?
おじい様は困った事に人の値踏みをします。

あった瞬間にその人間の価値が解るそうです。

この直感が怖い事に外れた事がないそうです。

部屋に入った瞬間、思わず私は驚いてしまいました。

《なんで家族が此処までいるの?》

空お兄様に 海人お兄さまに 陸子お姉さま、それに覇人お父様まで..これでお母さまが揃えば全員です。

華子お母さまはこの家にいない事はまず無いので、あとで来られるのでしょう。

普通は権蔵おじい様1人なのですが..

しかし、エスコート役の私が驚いている訳にはいきません。

「翼さん、こちらが私の家族です」

「初めまして、天空院 翼と申します、未熟者ですが宜しくお願い致します」

この瞬間がおじい様にとっては至福の時間なんだそうです。

上から見下ろすように奥の椅子からこちらを見下ろしています。

新たな才能との出会い..それは莫大なお金以上の価値があるそうです…

《成程、これは上級貴族や王が行う謁見に近い物だ、玉座から見下ろす王に近い存在、そういう事だな》

「ほう、儂から目を反らさずにいる、なかなかの目力じゃな..」

《残念ながら力不足だ、これでも元公爵家の人間、姫の婚約者だ継承権は無いとは言え姫といっしょに過ごし、度々本物の王と会い、更に上級貴族と過ごしてきた..これ位で怯む訳が無い》

「お褒めに預かり光栄です」

こちらも目力に意思を込めて対応する。

上級貴族ともなれば、この仕草一つで信頼を勝ち取らなければならない事がある。

だからこそ仕草一つでも完璧にこなさなくてはならない。

そして、そこに僅かに気を込める、強い意思に気をこめて意思表示するのだ。

汗が止まらなくなり、心臓が早くなる。

この儂が、見定める事が出来ないとは、しかも同じ事は覇人や孫たちにも起きているに違いない。

その証拠に、儂が黙っているのに話しをしようとしない。

こんな事はなかった、総理だろうと皇族だろうが…こんな事は無かった。

それでも更に見定めようとすると…なんだこれは、黄金いや王、解らないが..とんでもない物が見えてきた。

正直、此処にいるのも息が詰まってつらい。

「翼さんと言ったかな..歓迎する..ゆっくりしていってくれ…はぁはぁ」

「ありがとうございます」

やり過ぎだとは思わない。

恐らく、この場に居るのはこちらの世界の一流の人間なのだろう。

その中でも自分が通用するのか知らなければならない..

天空院 翼の名前を知らしめなければならないのだから。

本戦? 二条家の人々

「はぁはぁはぁ..誰か水を持ってきてくれんか..」

絵里香が連れて来た、あの方は何者なんだ..

儂の眼力に耐えられる所かはじき返して..更にこちらに圧力をかけて来おった。

信長に睨まれた秀吉、蛇に睨まれたカエル..儂はいつも睨むほうじゃった

だが..今回は違った。

あれは一体誰なんだ..社交界でも名前など聞いた事も無いただのガキがだ..この権蔵をビビらせた。

異常…そうとしか思えない。

儂でさえこれなんだ..儂の息子も孫も溜まったもんじゃない…

一言も話さず、ただただ、暴風雨が過ぎ去るのを待っていた..気絶しないだけまだましだ。

最後までたっていたのを寧ろ褒めてやりたい位じゃ。

儂は水を飲み干し少し落ち着いた。

「覇人、お前から見てあの少年はどうだ?」

「まだ震えが止まりません、あの少年が何処かの代議士の息子なら今から確実に後ろ盾になりますよ、あの子なら簡単に総理位になれそうですから」

「そんな物ではない..なぁ覇人、儂が今の大臣を見た時に言った事を覚えておるか?」

「確か札束が落ちている、そう言われたと思います」

「そうだ、100万円の札束が1つ見えた..だがな、あの子、いやあの方の後ろに何が見えたと思う?」

「相当な物がみえたのでしょうね」

「ああっ見渡す位の黄金に、大きな城..更に王冠が見えた..」

「本当ですか?」

「お前も身をもって経験したのではないか..」

「確かに..カントローネの総帥相手にすら感じ得なかった程の圧力を感じましたが」

「お前迄感じたのならそれは間違い無いということじゃ」

「とてつもないのは間違いが無いと思います、空に 海人に 陸子は未だに体調がすぐれない、そう言って休んでいますから」

「あれは想定外じゃが、だらしない」

あんな化け物みたいな者を目にしたんだから仕方ないと思う…なまじっか人の力量を計られる素質があるからこそだ。

「仕方ないと思いますよお父様、私やお父様ですらこれなんですから」

「まぁな、それで今、あの方の相手は誰がしているんじゃ」

「華子と絵里香がしています」

「そうか、まぁもてなすと約束したからには晩餐までにはしっかりしないと」

「三人が心配です」

「まだ時間はある、大丈夫じゃろう」

【空の場合】

俺の名前は二条院空、二条院家の長男に生まれた。

俺は自分より上の人間は2人しか知らない、1人は言わずとしれたおじい様、そしてお父様だ。

小さい頃から俺は二条に相応しい人間として育てられた。

小学生の頃から帝王学を学び、全ての人間は二条にかしずく、そう学んだ。

形上、仲の良いという友人はいるが、彼らですら駒にしか思えない。

それなりの家柄に資産家の子供だから、それなりに扱っているそれだけだ。

将来は俺の手駒になるのだからな、俺は物を大切にする方なんだ..

俺の中で本当の人間は家族だけだ…それ以外はただの駒、そう思っていた。

だが…

【海人の場合】

俺の名前は海人 二条院家の次男に産まれた。

兄貴の空は自分こそが次の二条を背負っていく人間そう思っているようだが…

それは間違いだ、兄貴は何でもそつなくこなしているが..ただそれだけだ。

本当の王者に必要なのは「器」だ、親父は兄貴に近いがおじい様は違う。

目で睨まれただけで体が硬直してしまう眼力に人の器を見抜く力..あれこそが真の帝王だ。

だから、俺は学問より、より実践的な物を学ぼうとしていた。

それこそが二条の当主に必要な物だからだ…そして、その器に関しては二条では恐らく3番目になるそう思っていた。

だが…

【陸子の場合】

私の名前は陸子 二条院の長女に産まれました。

生まれながらの二条院の娘、社交界の華とは私の事。

仕方ないわ、この美貌にこの知性、そして生まれながらのオーラ。

どうしたって庶民には身につかない物なのですよ。

私と釣り合う男なんてまず居ないでしょうね..だって二条院なんですから..

最近不満なのは、エスコートをお兄さま達に頼む事しか出来ない事..

だって、家族より魅力的な男なんて存在しないんだから仕方ないと思うの。

まぁ、それは絵里香も同じだと思うわ。

そんな絵里香が男を連れてくる..「.まだ子供だから仕方ない」かそう思っていたわ。

私も何回か経験したわ..だけど、多分相手の男の子は立ち直れなくなるわ。

二条を前にしたら、真面にしゃべれなくなるし、卑屈になるのよ..貴方の恋は確実に壊れるわ。

まぁ、その後のフォローは私の仕事ね。

二条の女についてゆっくりお話ししなくちゃね..

なんて思っていたのに。

「お父様、あの魔王の様な男は一体何者なんでしょうか?」

「親父、あの海の様に器の広い人は誰なんだ?」

「お父様、あの方は何処かの国の王子様でしょうか?」

一体どうしたんだ、ノックも忘れて入ってくるとは

「お前達、どうしたんだ? ノックもしないでいきなり..お父様の前だぞ」

「「「おじい様」」」

「良い良い、そんな畏まらなくとも家族じゃからな、しかしこうも見事に別れるとはな..」

「本当にそうですね」

「お父様、おじい様一体何を言っているのでしょうか?」

「いやな、魔王に器の広い男に王子様か、随分同じ二条なのに割れたなと思って」

「兄貴には魔王に見えたのか? 相変わらず気が小さいな、俺にはまるで竜馬の様に底が見えない器の男に見えたぜ」

「お前は楽天的すぎる…あれはどう見ても全てを踏みつぶすような魔王にしか俺には見えなかった」

「海人お兄さまのはまだ解りますが、魔王? 空お兄さまはお疲れなのでは? あの気品に包まれたオーラ気高い人にしか思えませんよ!」

「まぁ良い、空、お前から話を聞こう、どんな印象だ」

本当にここまで違って思えるのか、未熟とは言え二条だ、人の値踏みは得意なハズなのに此処まで家族で割れたのは初めてだ。

「とてつもない意思に力、此奴に逆らったら生きていけない…そんな感じです。適度に距離を取りつつ友好関係を築くそういう付き合いが必要な人物かと」

成程な、恐怖を感じたんだな..

「解った、海人はどうだ」

「とてつもなく懐が深い人間だ、彼奴の下にならついても構わないそう思えるような感じだな、どっちが上になるかは将来の事、俺は親友になりたい、ああいう男ならな」

ほう、俺とお父様以外を認めない海人が対等以上の関係を結びたいそう思ったのか?

「そうか、最後に陸子はどう思った」

「あれほど気高い人は居ません、まるで王子様その物、どこか大国の王族、そう言われても信じます。」

「そうか、しかし本当に割れますねお父様」

「全くじゃな」

「それでお父様やおじい様にはどのように見えたのですか?」

「儂には黄金、城、王じゃな」

「私は宇宙、そんな感じか」

「しかし、ものの見事に割れたもんじゃ」

「二条の眼力でも全く違う物に見える、全く凄いものですね」

「全く…だが敵に回しちゃいけない、友好関係が必要、それだけは一致しておるわ」

「二条にとっては重要な人物、それだけは間違いない、そういう事ですね」

「うむ」

本戦? 華子と絵里香

「そう翼ちゃんと言うのね!」

「あのお母さま、あまりベタベタしないで貰えますか?」

さっきもそうなのだけど、いったいどうしちゃったの…

本来ならあの場所ではおじい様からお話があって、その後はお父様がお話になる、そして最後は兄姉が話しかけてくる筈だ。

そして、大抵の者がその重圧に負けて卑屈になっていく。

普通に考えて「昭和の怪物」と呼ばれ政治家や企業の社長ですら歯牙に掛けないおじい様。

そして、そのおじい様に全てを任されつつあるお父様。

既にグループ会社のうちの数社を任され社長に就任している、空お兄さま。

そして、それを支えている海人お兄さま。

その重圧に普通の学生が耐えられる訳が無い筈..

そして、その無力さを悟った後に陸子お姉さまのお話がある。

私としては根ほり葉ほり聞かれて、最後に「友達として仲良く」そういう言葉聞ければ及第点だと思っていた。

実際に、そこまでたどり着けたのは少数だし、そのうちの一人は空お兄さまの片腕として専務を任されている。

陸子お姉さまに到っては、お姉さまの性格もあるのだけど、お姉さまの目で合格した者は誰もいない。

これは本当の友人になれるかどうかの試験。

二条の圧力に耐えられるかどうか、そういうお話だ。

なのに、おじい様以外がお話ししなかった。

正直、何がなんだか解らない…怒らせて反対されたそう思ったのに。

「翼さんと言ったかな..歓迎する..ゆっくりしていってくれ」

歓迎なんて言われた方はいなかった..本当に解らない。

そして、この母の対応。

こんな顔の母は見た事が無い。

「いいじゃない? 絵里香ちゃんが連れて来たんでしょう? 場合によってはお婿さんになるかも知れないんだから」

本当はこんな人じゃない。

前に、空お兄さまのお付き合いしている人が「お母さま」と呼んだ時は..「貴方如きに母と呼ばれる筋合いはありません」と言っていた。

この母が「ちゃん」と呼ぶ人間は凄く少ない。

何しろ、兄妹でも「ちゃん」と呼んで貰えるのは私と海人お兄さまだけ..空お兄さまも陸子お姉さまも「空」「陸子」としか呼ばない。

「あの、お母さま! さっきから翼さんが困っています、止めて下さい」

「そう、本当に翼ちゃん困っているのかな?」

「正直、困っていますね、貴女の様な美しい方と何をお話しして良いか解りません」

《この人、見ているとマーガレット叔母さまを思い出す、何が逆鱗に触れるのか気をつけないとな》

「あらっ、お上手ね、ありがとう」

やっぱり可笑しい、何時もなら「見え透いたお世辞等、結構」そう言う筈なのに。

「貴方を見ているとある方を思い出します」

「あら、それはどんな方かしら?」

「そうですね、何時も中心に居てまるで太陽の様に人を輝かせるのが巧い方でした、その方の傍に居るだけで誰もが輝いて見えるそんな方です」

「それは素晴らしい方ね」

「ええっ、幼き私から見たらまるで物語の一部を切り取った様に見える事が沢山ありました、どんなに輝く宝石でも光無くして輝く事はありません」

「そうですわね」

「はい、まるで光のような方でした」

《太陽とか、光に例えないと良く癇癪起こされたな..懐かしい、内助の功を言わないと直ぐに不機嫌になる..》

「その方に私が似ている、そういう事なのですね」

《マーガレット叔母さまは元気だろうか..》

「はい、だって貴女という光があるからこそ家族が光り輝いている、そう見えますから」

本当に凄い子..私の本質を見抜いた人なんてだれも居なかったのに、義父様にすら見破れなかったのにな..

私が裏で頑張らなければ二条家は円滑になんて回らないわ、野心家の旦那に野心家の長男、虚栄心が高い長女。

そして、未だに巨大な権力を手放さない祖父、本当に大変なのよ。

人間として魅力があるのは海人と絵里香位…それ以外は本当に野心と野望しかない。

私が巧く立ち回らなければ壊れてしまいかねない..

それが解るのね…光に例えて伝えてくるなんて…驚くわ。

「本当にいい子ね…残念だわ私があと20年若ければ放っとかないのに..」

「お母さま..いい加減にして下さい!」

「冗談よ、冗談、私が陸子相手ならいざ知らず、貴女の大切な者をとったりしないわ!」

まぁこれだけの男なんだから、絵里香が夢中になるのは当たり前だわね..

しかも、気品もあって美男子なんだから…だけど、何処をどうしたらこんな子が庶民から産まれるのかしら?

「お母さま!」

「はい、はい、お邪魔しませんよ..その代わり頑張ってね! 絵里香ちゃん」

「ななな何を頑張れっていうんですか!」

「あらっ、まだ絵里香ちゃんには早いお話しだったわね..それじゃぁね翼ちゃん、晩餐になったら呼ぶからゆっくりしててね!」

「はい」

「それじゃ絵里香ちゃんちょっと良いかしら」

やっぱり可笑しい..

この二条邸内で、男性と二人きりになるなんて考えられない。

しかも、あのお母さまの態度、幾ら私が子供でも解る…遠巻きに「既成事実」を作っても良い。

そういう事だ…つまり「友達」としてではなく恋愛として付き合っても良い、そういう意味..

早い話とは言っていたけど..キス位しても「あらあら」とかで済まして貰えなそうな位に認めているのは解る。

とんでもなく気に入って貰えたのは解る…

しかも、私と海人お兄さましか「ちゃん」とは呼ばないお母さま。

「ちゃん」と呼ぶのは…特別な人だけ..

《絵里香ちゃん、翼ちゃんを頑張って落としてね! 私、ああいう子供が欲しいのよ! もし落としてくれたら二条は貴女の物になるかも知れないわ》

《お母さま!》

《私が本当に欲しい物は絶対に手に入れるの絵里香ちゃんは知っているわね?》

《はい…》

《応援するから絶対に手に入れるのよ良いわね!》

《はい》

応援して貰えるのは嬉しいけど..このプレッシャーは何なのでしょうか?

「困ったお母さま!」

私は自分の為、お母さまの期待に応えるために翼さんの所に戻った。

本戦? 乗馬
正直いって何をお話ししていいか解りません。

だって、今迄、男性と話しちゃいけない、そんな生活だったんだから..

男性すべてを排除されていたような生活の私は、何を話せば良いんでしょうか?

命令ならできますが..

「あの、趣味はなんですか?」

やっと絞り出した言葉がこれです。

「趣味ですか? 一番得意なのは剣術かな? 他には乗馬とか..そんな感じ、絵里香さんの趣味は?」

あれっ、乗馬? 普通の家庭の方の筈ですが..

しかし、お見合いみたいです..私の趣味..

「その、私は実はこれと言って..ありません、色々と習ってはいるのですが..」

《成程..》

「良く解ります..色々習っているけど、どれが自分にとってのライフワークか解らなくなる、そんな感じでしょう?」

「良く、お解りですのね..」

《貴族にはよくある事だからね》

「うん、結構周りにいたからね」

「そうですわ、乗馬が出来るのならこれから馬を見に行きませんか? ここにもおりますのよ?」

「それは素晴らしい..良いんですか?」

「はい、構いませんよ」

流石にこれは冗談ですよね..

「絵里香お嬢様…此処に来られるなんて珍しいですね」

私はあまり乗馬は得意じゃありません..だから此処には殆どきません。

「お客様が乗馬が趣味なのよ..だからお連れしたのよ」

「乗馬ね..だけど絵里香お嬢様、今は放牧していまして、鞍は勿論、手綱もはみすらつけていませんよ」

「それは残念ですわね」

「しかし、凄く手入れの行き届いた良い馬ですね」

「解るのかい? この中には現役の競走馬だっているんだ..凄いだろう」

「特にあの馬は素晴らしい」

「はははっ、兄さんはその齢で競馬をやっているんだな..だからオグロマックキングを知っているんだ」

「そういう名前なのですか?」

「なんだ、知っていて言ったんじゃないのか?」

正直、お客様に対して凄く無礼に思いますが..翼さんが楽しそうなのに注意なんてしません。

「はい、いいなぁ、乗ってみたいな-」

「いいぜ、乗れるなら乗っても..わははっ最も鞍もついて無いが..」

「本当ですか、有難うございます!」

「おい、待て、待てよ、冗談を真に受けるなよ..危ない..」

うん、冗談なのは解かっている。

だけど、馬に乗りたかったんだから仕方ない。

「翼さん、危ないですわよ!」

「大丈夫ですよ..ほら」

僕は馬の横がわに立ち、鬣を掴みながら騎乗した。

大きく鬣を握り直して、重心を移動して走らせた。

「絵里香お嬢様、あの方はどこの方ですか?」

馬、馬鹿の佐平治が「あの方」とか言い出しましたわ。

「私のお客様で翼様です」

「凄い方だな、裸馬を簡単に乗りこなすなんてな、しかも相手はサラブレット..流石、乗馬が趣味というだけある半端ないな」

翼さんは庶民の筈..なのになんでこんな華麗な乗馬がお出来になるのかしら?

「本当に凄いですわね..」

「凄いなんてもんじゃない..オグロマックキングがまるで松を乗せた時の様に喜んでいやがる..」

凄いですわね、馬馬鹿の佐平治がここまで褒めるなんて..

「ありがとうございます絵里香さん..そう言えば絵里香さんは何故乗らないんですか?」

「私は乗馬が苦手なんです..」

「そうですか? だったら一緒に乗りましょう?」

「えっ」

僕は絵里香さんに手を伸ばした。

そして、手を握った絵里香さんをそのまま引き寄せ自分の前に持ってきた。

《えっ、お姫様抱っこ..そんな》

「結構、ここからの景色って良いでしょう?」

「本当、少し目線が高くなるだけでこんなに違うなんて」

「でしょう? だったら少し歩いてみましょう..」

「はい」

景色もそうですが、お姫様抱っこのせいで頭が正常に回りません、頭一つ上に翼さんの顔があるのですから..

しかも、しかもしっかり抱きしめられているのですから..

凄いな、裸馬で騎乗が出来るだけで凄いんだが..2人で乗るなんて..凄い上級者だ、はっきり言って俺以上じゃないか?

「絵里香ちゃん、翼ちゃん、暫くしたら晩餐会するって…あらっ」

「はい、お母さま!」

「絵里香ちゃんだけズルいわ..」

「お母さま、何をいっているんですか?」

「えーずるいいー私も私もー」

「困ったお母さま、翼さんお願い出来ますか?」

まったく、せっかく良い雰囲気でしたのに…邪魔してどうするんでしょうか?

「勿論良いですよ…喜んで」

我が母ながら、なんて顔をしているのでしょうか..明らかにはにかんでいますわ。

しかも手の出し方が..少しパ二ㇰっているんでしょう?

服で手を拭いていますわね..はしたない。

「ありがとう…翼ちゃん」

お母さまの横柄さが全く起きません。

凄く楽しそうにまるで少女のようにはしゃいでいます。

あんなお母さま、私は見たのは初めてです。

「はぁはぁ、本当に楽しかったわ..有難うございます」

「こちらこそ..」

「そうだわ、こんなに楽しませて貰ったんだもん、何かお礼をあげなきゃね..そうだわオグロマックキングを差し上げます..ちゃんと飼育はこちらでするから安心してください..何時でも乗りに来て下さいね」

「お母さま!」

「良いのよ、あの人には言って置くから..それじゃまた後でね…翼ちゃん」

まったくお母さまは何を考えているのでしょう..

本当に私を応援してくれているのでしょうか?

【閑話】勇者の死
「楽しい人生だった」

異世界に来て勇者になった。

女性が醜いのには困惑したが、自分の周りの女性は全員が献身的に尽くしてくれた。

女神に見えるようになり、全員が同じに見えるようになってからは戸惑いもしたが、見分けがつかなくなるような事も最初だけだった。

誰もが憧れる勇者という名の地位。

使いきれない程の莫大な財産。

街を歩けば誰もが好意的に接してくれる。

前の人生ではどんなに頑張っても手に入らないだろうな。

全てに見送られながら…俺は死を迎えようとしている。

年齢86歳..よく生きたもんだ。

そして、妻たちは美しい女神の姿のまま近くにいる。

先に死ねて幸せだ。

この中の誰かが死んだら、俺は暫くは立ち直れない。

皆んなに囲まれて死ぬ…これは凄く幸せな事なんだ..

「皆んなありがとう..この世界全てに祝福を..」

「「「「「「勇者様」」」」」」

うん、幸せだ..

こうして異世界から来た勇者 翼は死んだ。

その後、勇者翼の遺体は 聖剣と聖なる盾と共に埋葬された。

その埋葬された場所には花が沢山置かれ。

毎日の様に誰かがお参りにきていた。

「戻って来られましたね」

「有難うございます、女神イシュタリア」

「勇者として世界を救って貰って有難うございます..心から礼を言いますよ」

「お礼何か要りません、寧ろお礼を言いたいのは私です、素晴らしい人生を有難うございました」

「そうですか..満ち足りた人生で良かったです」

「女神様にお聞きしたい事があるのですが?」

「何でしょうか?」

 「セレナという貴族の少年はその後どうしたのでしょうか?」

「気になりますか?」

「はい」

「詳しい事は伝えられませんが..それなりに償いはさせて貰いました、案外幸せになっているかも知れません」

「そうですか..それなら良かった」

「もう心残りはありませんか?」

「ありません」

「それでは天国迄私がいざないましょう」

こうして 勇者翼は天へと召された。

だが…

私がイシュタリアに見えたのですね。

私はセルガ..イシュタリア様に仕える女神の1柱..そして姿形はイシュタリア様に似ていません。

女神にはそれぞれが司る仕事があります。

私の仕事は功績のあった者を天国へいざなう事。

この仕事は上位の女神であってもする事は出来ません。

だからイシュタリア様でも導きは出来ないのです。

イシュタリア様を信仰する者が行う「女神パラダイス」 死んでもその効力は消えないのですね..

信仰の力とは本当に凄い…本当にそう思いますよ。

晩餐
お母さまは一体何がしたいのでしょうか?

折角の2人きりの時間が潰されてしまいましたわ。

そういえば、これから晩餐なのだけど..まさか!

「あの、翼さんはテーブルマナーとか解りますか?」

「テーブルマナーって何? 綺麗に食べれば良いんだよね?」

まさかテーブルマナーを知らないなんて..

だけど、今からじゃ間に合いませんわ..

「そうですわね」

なるようにしかなりません。

「翼、翼..こっち、こっち..俺の横で食おうぜ」

海人お兄さま..は元からこんな方ですね..だけど席順を無視するほど気に入られたのですね?

「そうね、かたっ苦しい事は今日は良いわよね…じゃぁ私は此処にしちゃおうっと」

お母様まで…

何時もの席順は 中央におじい様、その右がお父様、左がお母さま その一つ前が右が空お兄さま 左が陸子お姉様。

その前が 右が海人お兄さま、左が私..そしてお客様を一番下の席に座らせる..そんな家族でしたのに..

大臣だって下の席なのに…

百歩譲って海人お兄さまの横はまだ解ります..ですが、反対側の席にお母さまが座るのは可笑しすぎます。

「お母さまの席はそこじゃないでしょう!」

「えーっ、何で!何で! 別にここでも良いじゃない..」

この話し方..悪役令嬢ですら生ぬるい、そう思える程の怖いお母さまがまるで子供か少女みたになっています..

「ねぇ、翼ちゃん、良いわよね!」

「ほらお母さま、翼さんが困っていますわよ」

梃子でも動きませんわね…

「そんな事ないわよ」

「本当に困ったお母さま」

「あらっ、両脇は埋まってしまったのね、なら私は対面にしますわ」

これ何? 陸子お姉さまが..そんな場所に、その前に翼さんは私のお客様です。

「陸子お姉さま..席が違いますわ..」

「あらっだけどお母さまがそこに座っているのですから今日は自由じゃなくって?」

そう言われれば何も言い返せません!

仕方なく私は陸子お姉さまの隣りに座りました。

こうなると、おじい様も中央には座れませんので右側奥にその対面にお父様、そしておじい様の左側に空お兄さまが座る、変な席順になってしまいます。

こんな事をしたら、普通はおじい様が激怒するはずですが…何故か怒りません。

そして、空お兄さまやお父様も何も言いません。

可笑しすぎます。

そして、奇妙な席順で晩餐会は始まりますが…ちゃんとテーブルマナーが出来るじゃないですか?

確かに、日本人が知っているテーブルマナーと少し違いますが、国が違えば多少の違いはあります。

ですが、この優雅な食べ方は絶対に素晴らしいマナーです。

「綺麗..」

その証拠にお母さまはその仕草に見惚れています。

正面の陸子お姉さまも見惚れているのが解ります。

割と海人お兄さまはマナーを無視しますが、きょうは静かに食べています。

おじい様や空お兄さまもたまにチラチラと翼さんを見ています..

こんな美しい仕草の食べ方がマナー違反な訳ありません。

静かな食事が終わり、紅茶が入り雑談が始まりました。

此処からがまた大変なのですが….

「所で、翼君って言ったね君は何をしているんだ!」

はじまりましたわ…此処にいるのは全員一角の者です。

未成年の者が勝てる要素はありません..

「普通の高校生です」

《この世界の僕は只の高校生、貴族の息子でも何でもない..》

「はんっ、普通の高校生ね..それが何で絵里香の友達になれると思って居るのかな?」

相変わらず、空お兄さまは人を身分で見下すのですね…

「幾ら言われても、僕は普通の高校生ですから、それ以外の者じゃありません」

《なぁ、絵里香、そんな訳無いよな!》

《海人お兄さま..翼さんは謙虚なだけです》

《なぁに? 翼ちゃんの事? お母さんも混ぜて頂戴》

「絵里香が連れて来たんだ、そんな訳ないじゃろう? 何か特技でもあるんじゃないか?」

「特技ですか? 剣術と馬術を少々出来る位です」

「あーっ、忘れていたわ」

「どうした華子、大きな声を出して」

「さっき、翼ちゃんに オグロマックキングあげたのよ! 別に良いわよね!」

「何? あれは引退こそしたけど名馬だぞ..それをお前は」

「だって、誰も乗りこなせないじゃない? だったら乗りこなせる翼ちゃんにあげた方が良いわよ? そう思わない!」

「乗りこなせる訳が無い..佐平治を呼べ..」

「何でございましょうか?」

「そこの子がオグロマックキングをに乗れたと言うんだが本当か?」

「乗れたと言うより乗りこなしたが正解だな、正直、松が乗った時より機嫌が良かったぜ、しかもあの誇り高い馬が二人乗りを許したんだ..もう良いだろう? じゃーな 翼様」

相変わらず無礼ですね..だけど、馬に関しては彼以上の人物はなかなか居ませんからおじい様も大目にみています。

「うっ、馬術が上手い高校生か..だが、その位では..」

「それだけじゃ無いと思うわよ…翼ちゃんは!」

何故、お母さまが胸を張っているのでしょうか?

まるで、自分の自慢の息子か自慢の旦那を紹介している..そう見えます。

その証拠に、空お兄さまもお父様も顔を引きつらせています。

「剣術が少しできます」

少しじゃ無いですよね?

天上鉄心より強くて白熊ですら勝てるのですよね..話半分にしても達人の筈です..

「剣術が出来る? どの位? 全国大会は出た事があるのかな?」

また、空お兄さまの悪い癖ですわ..

「出た事はありません」

「だが、自慢する位だから、少しは出来るのだろうね? そこの君、佐門次を呼んでくれないか?」

お父様もお母さまがオグロマックキングをあげて、褒めているから気にくわないのね…

「お呼びでございますか、旦那様」

「ああっ悪いな仕事中に」

「別に構いません、私の仕事はこの屋敷の警備だけですから..先程、未熟な者から大変な方がお客で来たと聞きました..その話しでしょう?」

「そうだ、悪いが立ち会って貰えないだろうか?」

「良いですが..怪我させちゃいますよ」

「構わない」

「どうだ、本当に剣術が得意と言うなら、この佐門次と立ち会ってみないか?」

正直どうでも良い位弱いな..だが、いい加減腹が立ってきた..今の僕は天空院翼、そうそう馬鹿にされる訳にいかない。

「いいですよ.. 手加減を間違えたら許して下さいね」

裏庭まで出てきた。

この程度の相手ならあの場で素手で良いのに..

「最初に言って置く、この佐門次は元警視庁のSPの隊長をしていた、そしてあの天上流から中伝を貰って あの剣聖 鉄心からも指導頂いた強者だ..それでもやるのか?」

なんだ、ただの小物じゃないか..

「そうですか..じゃぁハンデで、真剣と木刀で..」

「その位のハンデは必要だな..だそうだ佐門次は良いか?」

「その位じゃハンデは埋まりませんぜ」

「まぁそれなら良いだろう」

「勘違いですよ、僕が木刀で、そっちが真剣..当たり前でしょう?」

「馬鹿にしやがって」

「それでも無理ですね、さっき外で見た護衛全員で良いや..」

「ちょっと待て、それは当家のガードマンや警備体制を馬鹿にしているのか?聞きづてならんな!」

「こちらもいい加減腹が立ちました..そうですね、僕は一旦外に出ます、30分後にもう一度入ってきますから、ガードして下さい、そしてここ迄たどり着いたら僕の勝ち、止められたら僕の負けそれでいいや..総力戦でやりましょう」

「そうかい、そこまで言われちゃ手加減できないぞ..」

「そうですか? 僕は可哀想だから思いっきり手加減してあげますね..」

「まぁ、空お兄さまやおじい様、お父様が言ったんだから仕方ないですわね」

「絵里香ちゃん..それってカッコ良い翼ちゃんが見れるって事なのね..」

「ええお母さま」

「絵里香、翼でも流石にそこ迄じゃないだろう..物理的に無理だと思うぞ」

「麗華様と天上心美さんとお茶をしたんですが、何と言っていたと思いますか?」

「それお母さんも聞きたいわ」

「何て言っていたんだ?」

「天上心美さんは自分よりも剣聖、鉄心よりも強いと言っていました」

流石に白熊は嘘だと思いますが..

「まぁまぁ、それじゃ楽勝ね」

「冗談だよな..」

「あの、翼という奴絵里香の前だからってカッコつけすぎだ」

「ああ、流石にあれはないだろうな、この屋敷の警備は万全だ、それこそ傭兵が1チーム来ても返り討ちに出来る程に」

「お父様もそう思いますよね..どうしたんですか? おじい様?」

「儂は、正直もう解らん..ただ一言言っておく..もし突破されたら、その意味を知る事だ」

正直やる意味が無かった..

全員を素手で無効化できた..その結果がこれ..

「人が悪いですよ 翼殿..天上流の皆伝者だなんて、知っていたらこんなのやりませんよ!」

別に皆伝じゃないんだけどな..

「別に皆伝じゃ」

「そんな訳ないでしょう? 五月雨突きからの古月、あんな技「天上」の名前を持つ人しか出来ません..それが出来るんだから」

「いや違った様だ..すみませんでした..翼殿」

「何が違うんですか、佐門次様..」

「この方は..この方はな..剣聖 鉄心様のご師匠だそうだ..いま天上家に問い合わせた」

「それじゃ、翼殿は..日本一、いや世界一の剣術家..そういう事ですか」

「本当にすみませんでした..」

「剣術が出来ようが馬術が出来ようが、野蛮人には違いありませんわ」

「陸子、お前」

「そういう事ですわよね、空お兄さま!」

「そうだな..うんそうだ」

《此処までしてもまだ…本当に困ったお姉さまにお兄さま》

《でも良いんじゃないかしら..もっとカッコ良い翼ちゃんが見れるんだから》

《そうですわね》

《あれは年下だが、俺より上だな..はっきり言えば兄貴より、いや親父よりこの家の当主が似合うぞ》

《その口調、余程翼ちゃんが気に入ったのね》

《ああ》

《だったら、あの子絶対に手に入れてね..空や陸子は要らないから》

《お母さま?》

《あら、やだ私ったら..うふふふふ冗談よ、冗談》

ダンスと陸子

「ごめん用を思い出した俺はこれで失礼させて貰うよ、ゆっくりしてってくれ」

空お兄さまは逃げましたね。

「翼さん、良かったら私と少し踊って下さらない?」

「此処には楽団も居ないようですが?」

「そうね、これは只のお遊びです…それとも音楽が無いと何も出来ませんか?」

今度は、ダンスのテストか…

「お姉さまいい加減にして下さい、翼さんは私のお客ですわ!」

「大丈夫ですよ..絵里香さん、陸子さん、その遊び乗りました!」

世界が違うから所々違いはあるだろうけど..これでも貴族だダンス位できるさ。

嘘でしょう..私がリードされている。

自分が未熟だと思い知らされる..

これは子供のダンスじゃない..洗練された大人のダンスだ。

「やっぱり、翼ちゃんはあれだけじゃ無かったわね」

「お母さま!」

「馬術に剣術…そしてテーブルマナー..そこまで出来る子がダンスが出来ない訳ないじゃない? 陸子も可哀想にあれ、大人じゃないとパートナーなんて勤まらないわよ」

「本当に凄いですわね」

「さて、流石に可哀想だから助け船出してあげようかしら? 翼ちゃーん、次は私と踊って」

なんなんでしょうか?

お母さまがここまで優しい顔をしているなんて..

オグロマックキングはあげてしまうし..身内にだってこんな顔滅多にしませんわ..

「海人、お兄さま?」

「俺もこんなのは初めて見たな..あれっ、翼が10億円くれって言ったら多分小切手きるぞ..」

「冗談ですわよね?」

「あながち冗談とは言えないな..」

お母さまと踊っているのを見て解る。

あれは自分の様な若輩者が躍るダンスではない…

洗練された大人が躍るダンスだ..

さっきの自分とのダンスだってそうだ始終リードされっぱなしだった。

ここまで来たら認めるしかないわね..

「流石、翼ちゃん、本当に何をやってもお上手ね..惚れ惚れしちゃうわ..そうだ、私ともお友達になってね」

「はい喜んで」

「うんうん」

「お母さま、私も翼さまと友達に..」

「陸子、貴方は駄目ね..だって性悪なんだもん! と言う訳でー 仲の良い者同士で、あっちで楽しみましょう..」

「お母さま?」

「それは流石に..」

ぴゆーっという音が聞こえる程の早さで華子は翼の手を取り部屋から出ていった。

それを追いかけるように絵里香と海人が走っていった。

それを、権蔵と覇人と陸子は複雑そうに見ていた。

「結局、底は見え無かった」

「ですが、少なくとも二条なんて彼の前では只の名前でしかないのでしょうね」

「うむ、気が付いたか?」

「この警備を正面から突破して来れると言う事は何時でも我々の命は奪えるという事ですね」

「そうじゃ、仕事柄恨みを買う我々は、この警備に一国の首相並みに警備を敷いている」

「つまり、彼がその気になれば、そんなの何時でも簡単に無効化できる」

「それにプラスして、馬術が旨く、マナーも完璧だ、そして社交性の高さはダンスを見れば解る」

「ええっ多少の違いはあるもののあれはしっかりした物です」

「さっき、少し調べた所、世間では王子様と呼ぶ者もいるが..普通の庶民の子だ」

「トンビが鷹どころか、ワイバーンを産んだ、そんな感じですね」

「それ以上かも知れんな..なにせあの華子が片時も離れようとしない..」

「華子が優しくする人間、それは普通ではない程優秀な人間、それ以外はあり得ない」

「儂以上に、人を見抜く力にたけている、しかも自分では知らないうちに」

「その華子が ちゃんで呼んでいますからね..」

「その優秀さは保証付きじゃ..」

「あの、おじい様、お父様、私はどうしてお母さまにあんなに嫌われているのでしょうか?

《華子は人間の本質を見抜く、多分心を覗かれて嫌われたんじゃないか…》

《空と陸子は裏表が酷いから仕方ない》

「さぁどうしてかな? 儂には解らん」

「私も解らないな..」

「そうですか? あの、かなり私の方が年上ですが、私も翼様と..そのお付き合いさせて貰っては..駄目でしょうか?」

「別に構わんが」

「別に良いが..」

「そうですか? それじゃ私も頑張りますね」

《我が、孫ながらこの変わり身、華子が嫌う訳じゃな》

《こういう所が嫌われるんですよね..》

「何かおっしゃいましたか?」

「まぁ頑張れ」


凄く疲れた..出来る出来ないは別にして..僕はこういう事は好きでは無い。

あの後、楽しく話をして家まで車で送って貰った。

絵里香さんに海人さんに華子さん..とは仲良くなれた気がする。

だけど、他の人の印象は余り良くないだろう..

はっきり言うと、天上家の人や麗美さんの組織の人とは一緒に居て苦にならない。

だけど、二条家の人とは反りが合わない。

多分、前の世界なら天上家や麗美さん達は仲の良い貴族でお互いに助け合う家。

二条家は気の置ける相手となるだろう..

此処での僕は貴族でも何でもない..ただの学生だ..無理して付き合う事も無いだろう。

「お兄ちゃんどうしたの? 帰ってくるなり疲れた顔して」

「色々と疲れてね」

《何だか哀愁が漂ってるよ、だけど、そんなお兄ちゃんも素敵だな》

「そう、そうだお兄ちゃん、アイスが買ってあるんだ、良かったら食べる」

「うん、頂こうかな?」

「じゃぁ持ってくるね」

「うーん美味しい、ありがとう、まひる」

「どういたしまして」

《しかし、見れば見る程..うんカッコ良いな..お兄ちゃんのせいで、他の男子がもうジャガイモにしか見えなくなってきたよ》

「どうかしたの? こっちを睨んで、また僕何かやっちゃった?」

「ううん、何でもないよ..気にしないで」

「そう、なら良いんだけど」

《こういう所は朴念仁なんだよね…》

この世界に来てから、本当に思うんだよな..この世界には美人か美少女しか居ない。

例えば、妹のまひるだ..自分では普通だよ..なんて言っているけど、前の世界なら、「世界一の美少女です」っていっても通用する。

うん、凄く可愛い。

「どうしたのお兄ちゃん! お兄ちゃんこそ、まひるを見つめてどうしたのかな?」

「いや、まひるはいつ見ても可愛いなって思ってさ..」

「おおお兄ちゃん..冗談はやめてよ」

「あっゴメン..アイスありがとうごちそうさま」

こういう事を真顔で言うんだから、お兄ちゃんは本当にズルいと思う。

こういう事を言われるとドキドキし始めて汗が噴き出してくる。

あれはお兄ちゃん、あれはお兄ちゃん、あれはお兄ちゃん、あれはお兄ちゃん、あれはお兄ちゃん..

スーハ―スーハ―..うん、これで大丈夫。

天上心美に後藤田麗美さん、他にも沢山の女の子がお兄ちゃんに熱をあげている。

祐子ちゃんに恵子ちゃんもそうだ。

しかも、2人が、学校で「お兄ちゃんがカッコ良い」なんて話しをしているから、バレてしまった。

そりゃ、あの二人が急にアイドルの話をしなくなって..私に優しく成れば、なんかある、そう思うのは当たり前だ..

中学生の女の子なんて噂が好きだから絶えず聞き耳を立てている。

そうなれば…うちに様子を見にくる子が居ても可笑しくない。

その結果…

「まひるのお兄さんって凄くカッコ良いんだね…驚いた」

「カッコ良いってどの位?」

「誰も敵わない位」

「幾らなんでも盛り過ぎだって」

「だったら見て見れば良いじゃん..芸能人なんてゴミに見える位カッコ良いんだから」

こう言う話しになると..見に来るよね..

結果..「本当だった..あれは凄いね..」

そんな事が何回もあったから..とうとう、うちの中学で「まひるのお兄さん、王子様」なんて言われるようになった。

恵子ちゃんも裕子ちゃんもお兄ちゃん、お兄ちゃん..

何時も話はお兄ちゃん、お兄ちゃん..

お兄ちゃんがカッコ良いのは、私が一番知っているよ..だって一緒に暮らしているんだからさ。

「お母さん、お兄ちゃんと私って血が繋がっているよね..」

「まひる、怒るよ、そんなの当たり前でしょう」

万が一、私が拾われたか、お兄ちゃんが拾われていたら嬉しかったけど..現実は残酷だ。

いっそうの事、2人して異世界にでも召喚されないかな..何回も起きる訳が無いか..

このままだと、私は可笑しくなってしまう。

だから..早く、お兄ちゃんには恋人を作って欲しい。

私が納得するような、素敵な恋人をさぁ…

だから天上心美でも後藤田麗美さんでも構わない早くくっついてくれないかな..

そうしないと私は..お兄ちゃんを押し倒してしまうも知れないから…

生徒会長と妹

「ごきげんよう! これはちょっとしたものですが家族でお召し上がりください!」

やっぱり、この人も来るんだ…

「有難うございます、所で二条院会長がなんで私の家にくるんですか?」

「それは、生徒との親交を深めようと思いまして..」

嘘に決まっている、だって今迄個人的な付き合いが一切ない。

それなのに、こんな高級チョコを持ってくる意味が解からない。

これ一粒3800円の高級チョコ、それが24個入っている..まぁ麗美さんには全然敵いません..

「そうですか? だったらこれからどうしましょうか?」

わざわざ家にくるなんて、お兄ちゃん目当てに決まっている..

それ以外の理由で「麗しの生徒会長」が家にくる訳が無い。

「せっかくですから、ご家族にご挨拶でもしようかと思います」

「そうですか? お兄ちゃんなら居ませんよ..お母さん、生徒会長がきたよー」

「えっ翼さんは居ないんですか?」

「はい、お兄ちゃんは早朝から天上家に剣の稽古にいっています」

ほら顔色が変わった、やっぱりお兄ちゃん目当てだよね。

「そうですか? それは残念です」

「あらっ、その方も翼のお友達? お時間があるならコーヒーでも飲んでいきませんか?」

「せっかくだから頂きます」

《ねぇ、まひる、最近の翼って凄くモテるのかしら? 可愛い子ばかり来るわね!》

お兄ちゃんは勇者なんだ、だから当たり前だよ…とは言えないよね..

《うん、凄くカッコ良くなったからね、お兄ちゃん》

《そうよね》

「あの、どうかされましたか?」

「どうぞ、上がって下さい」

「それで、二条院会長はどうして私の家に来たんですか?」

「それは、さっきも言いましたように生徒との親睦を深めようと..」

「本当の事を教えて下さい..お兄ちゃん目当てでしょう?」

「それは..」

「麗美さんも天上心美さんも、心に正直でしたよ? 会長は違うんですか?」

「私も..そうです」

「そうですか! 頑張って下さい」

「あの…ですね」

「会長、コーヒー冷めちゃいますよ..どうぞ」

「頂きます..」

「お兄ちゃんカッコ良いでしょう?」

「はい、凄くカッコ良い…と思います」

そりゃ、そうだよね、お兄ちゃんは勇者なんだから、当たり前だよ。

「それじゃ..会長そろそろ学校に行きましょうか?」

「まひるさん、一緒に行きましょう? 車の方が楽ですよ!」

「それじゃ、お願いします」

「お母さん行ってきます」

「お邪魔しました」

最近まで、絵里香様の事を凄いと思って居たけど..もうどうでも良いと思う。

だって、絵里香様の家から帰ってきたお兄ちゃんは、凄く疲れた顔をしていた。

お兄ちゃんにとって誰かと仲良くなるのは..多分、凄く楽しい事なんだと思う。

麗美さんの家に行っても、朝から迷惑な位、天上家に連れて行かれても楽しそうに話す。

実際に裕子ちゃんや恵子ちゃんと一緒に居ても笑顔だ。

だけど、二条家から帰ってきた時は、凄く疲れた顔をしていた。

だから可哀想だけど..絵里香様は無いと思う..ご愁傷様..

まだ、裕子ちゃんや恵子ちゃんの方が望みがあると思うな..

それに、あんなに疲れたお兄ちゃんは余り見たくない…だって王子様の様な笑顔だけど少し曇るんだから..

「絵里香会長、お兄ちゃん何かあったんですか?」

「どうかされたのですか?」

「いえ、絵里香会長の家から帰ってきたお兄ちゃん、何だか疲れていたから気になりました」

「ごめんなさい、家は家族が特殊なので..本当にすみません」

《はぁ..ただでさえ、私は出遅れているのに、おじい様に、お父様に、空お兄さまに陸子お姉さま..ハンデがあり過ぎます》

「何があったのか気になります..」

絵里香からまひるはおおよその事を聞いた。

はぁ..これは駄目だと思うな..

お兄ちゃんは勇者だったから、多分、貴族に嫌がらせされた経験もあると思う(まひるの妄想です)

「それでね、まひるさん、私の味方になってくれませんか?」

「なんでですか?」

「何でって、それは…そうだ、もし味方になってくれたら、姉妹の誓いをしても宜しくてよ!」

姉妹の誓いか..以前の私なら喜んだんだろうな、

気に入った上級生と姉妹のように付き合う..うちの学校に古くからある風習..

生徒会長は女の子にもモテるから、かなりこの申し込みもあるらしい..全部撃墜だけど..

「すみません、お断りします!」

「何ででしょうか?」

「会長はお兄ちゃんの為に二条家を捨てる覚悟はありますか?」

「そこまでの事なのでしょうか?」

「普通はそこまでじゃないと思います、だけど!お兄ちゃんの事を好きな女の子は、その位の事をあっさりする位好きだと思います!」

普通は此処まで考える事じゃない…だけど、麗美さんも、天上心美も、裕子ちゃんも恵子ちゃんもお兄ちゃんを確実に1番に考えている。

それは見ていて解かる。

それに、お兄ちゃんの居場所がちゃんとある。

麗美さんの家族がヤクザだと知った時はショックだったけど、お兄ちゃんに聞いたら凄く楽しそうだった..ちゃんと居場所がある。

天上心美の家族は剣道ばかりで頭が可笑しいけど..お兄ちゃんはいつも楽しそうに話している..だから居場所があるんだ。

裕子ちゃんや恵子ちゃんの家族は解らないけど…多分、あの二人なら家族と揉めたら、あっさり家族を捨てると思う。

《確かにそうかもしれない..》

「確かにそうなのかも知れませんね」

「はい、だから、お兄ちゃんに真剣になれない会長にはお力になれません!」

二条って何なのでしょうか?

今迄、二条の名前に誇りを持っていましたけど、足を引っ張るばかりです。

「解りました..覚悟を決めます..二条よりも何よりも翼さまを優先する事を約束します」

「そうですね、頑張って下さい」

「何でしょうか? その反応は! 一代決心したのに…」

「恋愛に真剣になるのは当たり前だと思います..会長は今ようやく同じ土俵に立ったそれだけです」

「そうですね」

《何だか、現実を思い知らされた気がします…ですが私は諦めません》

絵里香様…ご愁傷様..お兄ちゃんは勇者なんだよ?

妹の私からみても最高のお兄ちゃんなんだから..居場所一つ作れない、疲れた顔をさせる..貴方をお姉ちゃんと呼ぶ事は無いとおもう。

誘拐
今迄この隙を待っていた。

俺の仕事は「関東地獄煉獄組」と「二条家」に喧嘩を売る事だ。

その為に、俺は千の兵隊と武器を持ってきている。

しかもこの千の兵隊は長い時間を掛けて関東に潜らせてきた。

そして、今現在は、某県の岬の近くに作った要塞のような屋敷に集めてある。

俺の仕事は簡単だ。

後藤田麗美と二条院絵里香を誘拐して此処に連れて来ることだ。

そして連れてきた後は、2人を人質に、無理難題を吹っ掛ける事。

その内容は、到底飲めない内容になっている。

そして、飲まなかった事を理由に、2人を殺害する。

その際は勿論、惨たらしく弄んで、楽しんでから殺す。

そうすれば、向こうから乗り込んできて戦争となるだろう…

そう、俺は要求を通す為の交渉でなく、「戦争になる火種」を作るのが仕事だ。

あくまで、こちらからでなく、あちらから戦争を仕掛けた…そういう明文を作る為の工作員それが俺だ。

暫く、尾行をして様子を見ていたが、隙が全く無かった…

いつもボディガードが付いていて車で送り迎えされていた。

その為、簡単にはいきそうに無かった。

だが、今は違う。

二人の女が男に現を抜かし、他の女1人が加わって3人で過ごしている事が多くなった。

ボディガードは居る物の数は前とは違い数が少ない。

これなら、どうにかなるだろう。

《ボディーガード1名..運転手沈黙させました》

《こちら、二条の運転手とボディーガード2名沈黙しました》

これで良い…これで2台の車の後ろにつけた車に連れ込めば完璧だ。

「随分、遅くなりましたわね」

「そうですね」

「それじゃ、今日はこれまでね..」

「「「それじゃあ」」」

「おい、きたぞ..」

「解かっている…車の前まで来るまで引きつけてからだ」

「あれ、可笑しいですわ..私が来たら直ぐにドアを開ける筈ですのに..不味い..絵里香、直ぐに車から離れて..」

「おっと、もう遅い..」

「絵里香!」

「お前が素直についてくれば今は何もしない、逃げるならこの場でこの女を殺す」

「仕方ありませんわね..」

「素直な事は良い事だ」

「何をしているのかしら? 私の友達に手を出すなら..」

パス、パス、パス…

「えっ..」

こんな簡単に人を撃つ物なの?

くっ 苦しい..息が出来ない..はぁはぁはぁ..

せめて助けを呼ばなきゃ..このままじゃ麗美も絵里香も連れて行かれちゃう…

「心美ーっ」

「急所は外してある、直ぐに救急車を呼べば助かる..素直についてくるなら、救急車を呼んでやる..逃げるなら、2人が死ぬことになる」

「卑怯者..仕方ありません、ついていきますわ…心美、巻き込んでごめんなさい..」

《駄目、駄目..逃げて..早く》

「大丈夫ですわ..」

私が友達を助ける為には..ついていくしか方法が無かった。

お見舞い
心美さんが僕の目の前に横たわっている。

僕は天上家から知らせを聞いてすぐさま病院に駆け付けた。

病室の前には鉄心さんしかいなかった。

他の家族は入院の準備や道場の事もあり、一旦戻ったそうだ。

「翼殿!」

「心美さん! 心美さんは大丈夫ですか!」

「命という意味なら大丈夫じゃ、だが剣道家と言う意味なら終わりかも知れぬ」

「すいませんでした..」

「何故、翼殿が謝るのじゃ..」

僕が人の殺し方まで教えなかったからだ..

この世界は凄く平和だった…だから教えなかった。

人を疑う事を、警戒心を持って接する事を…

「こういう時の対処法を教えていなかった..」

「それは翼殿が謝る事ではない」

「ですが」

「そんな事は儂でも教えん、だが悔やまれる!」

詳しい容態を聞いた。

心美さんは銃で撃たれていた。

お腹に一発、足に一発。

お腹の傷は運が良く致命傷は逃れていた、だが足の一発は関節にあたっていた。

その一発が、心美さんの未来を奪った。

リハビリしても歩けるようにはなるが、もう元の様には戻らないそうだ。

「心美さんが目を覚まされました」

鉄心さんが最初に入って僕がそれに続いて入った。

目を覚ました心美さんは叫ぶように言った。

「麗美、と絵里香..を助けて..」

これは僕に言ったのか、鉄心さんに言ったのか解らない。

だが、僕も鉄心さんも静かに聞く事にした。

「心美さん、今はゆっくりと休んで、後の事は任されたから」

「どうするの?」

「相手が解らないから、今は情報収集しかないと思います、取り合えず、何か目的があるのなら暫くは大丈夫でしょう、まずは麗美さんの家か二条家に行く、それしか無いと思います」

「冷静なのね..」

「冷静で無いと助けられる者も助けられませんから…鉄心さんは心美さんをお願いします。又襲われるかも知れませんから」

「お主」

「心美さん..」

「何かしら?」

「貴方の人生が変わってしまっても、僕は傍に居ますから..」

「何を言っているの..」

「僕は心美さんが大好きだと言う事です」

「凄く嬉しい..だけど今はそれどころじゃないわ」

「はい..では僕は僕で動いてみます」

「お願い..私は友達を守れなかった、何の為の剣道か解らないわ..頼める人は翼くんしか..」

「頼む必要は無い..友達の為に何かするのは当たり前の事だから..それじゃ..」

「あっ」

「また来ます」

心美さんは多分、まだ気が付いていない..自分の足がもう動かないという事を..

だが、自分の事よりも何よりも「友人の助け」を望んだ。

今の僕がする事は、敵の特定と殲滅、それだけだ..

僕は振り返らないで病室を出た。

「待たんか、翼殿!」

鉄心さんが追いかけて来た。

「どうかしましたか?」

「翼殿…その顔は..」

「どうかしましたか?」

「相手を殺す気じゃな!」

気づかれたか…流石にこの甘い世界とは剣聖と呼ばれる事はある…

「当たり前ですよ…」

僕は冷たくなればなるほど、静かになる。

そうするように小さい頃いから生きていたから..今僕はこれでもかと言う程心は冷え切っている。

どれ程残酷に殺すか..それしか思いつかない..相手に家族が居たら、その中に赤子が居ても今の僕は火にくべて殺せるだろう。

「それを心美が望まなくてもやるんじゃな」

「はい」

「なら、それは儂がやる、なぁに先が短い年寄りじゃ気になどするでない」

「駄目ですね、貴方じゃ多分銃には敵わない」

「そうじゃな..」

「まだ、殺すと決まった訳じゃありません、麗美さんが無事に帰ってきて犯人が罪をちゃんと償うなら、何もしないかも知れないですし」

「そうじゃな」

「はい」

《あれは、修羅の目をしておる、犯人が償うと言っても殺すだろう..人を殺した事が無い剣聖…口惜しい..止める事もたしなめる事できぬ》

拾っても良いだろう!

「あっ翼さん、大変申し訳ないですが今日は建て込んでおりますので後日来てください!」

「それで、後藤田さんは何処に?」

「さぁ、二条に行くって言っていました」

孫が誘拐されたんだ、それは大変な事になっているだろう。

追い返すのは僕を巻き込まない為..解かっている。

二条に出向いているのは今後の対策の為だ..

なら、ここに居ても仕方ない..余り行きたくないが二条に行くしかない。

「翼様、今日は建て込んでいますし、お嬢様も居ませんので日を改めてお越し下さい」

「絵里香さんが居ないのも事情も解ります..その事でお話にきました」

「しばし、お待ちください…はい、はい..権蔵様と覇人様がお会いになるそうです..」

「解りました」

中には 後藤田さんに國本さん、二条家の人が揃っていた。

「翼ちゃん..絵里香ちゃんが、絵里香ちゃんが..」

華子さんが泣きながらこっちに走ってきた。

「事情は、天上家の方で聞いてきました..」

「天上、天上家にも何かあったのか?」

「二人が攫われた現場に心美さんが居ました、助けようとして銃で撃たれたそうです」

「それで、心美さんは大丈夫なのか?」

「命は助かりました..」

「そうか、それは良かっ」

「良くは無いんですよ! 権蔵さん! 心美さんはもう満足に歩けない、好きな剣道をする事も出来ない! 何が良かったんですかね!」

「済まない..」

「それで、こんな事は誰がしたんですか? 誰が!」

「相手は解かっておる、目的もな..」

「辰夫さん、相手は誰ですか、目的は?」

「相手は関西連合煉獄会だ、そして裏には二つ橋家がいる」

「目的は?」

「関東と戦争をする為の名目作りだ!」

「戦争?」

「ああっ、ヤクザという物は名目が必要..こちら側から攻めてきた、そういう名目が欲しいのだろう」

「人質を誘拐して置いて、それでも攻めてきた? そんな事が通用するのでしょうか?」

「それは事がすんだら、若い者が勝手にやった、組は関係ない、そういう事にでもするのだろうな..」

「それで、皆さんはどうするのですか?」

全員の顔が暗い..もう結論は出ているのだろう..

「何もしない..」

やっぱりな、後藤田さんは組長、二条は財閥..娘1人の為にそれらを動かす訳にはいかない。

しかも、戦争をする位だから向こうは確実な勝算がある、そう考えて良いだろう…

こうなるのは解かっていた。

実際、僕は前の世界では三男だった、貴族の弟はという物は、兄が成人するまでに何かあった時のスペアだ。

つまり僕の父上でも同じことをする。

「誰1人動かないか..仕方ない..お二人を捨てるんですか…いやはや立派な財閥に組もあったもんだ」

「お前いい加減にしねぇか! 組長の気もしらねぇで!」

「國本さん..どうせ、アンタも動かないんでしょう? だったら、何処に二人が居るか位教えて下さいよ!」

「あっあああっ」

知らないうちに僕の気が漏れているようだ、だが今は気にしない。

「教えてくれますよね..」

「解った…」

関東での拠点に二人が監禁されている事。

そして、解放の条件が組の解散と、二条の今行っている事業の撤退…どう考えても出来ないのを解ってて言っている事。

それらについて教えてくれた。

「それでどうするんだ?..どうせ翼だって何も出来ないだろうが?」

「僕ですか? 皆んなが捨てるって言うなら、僕が貰います…二人とも凄く魅力的な女性ですから!」

もう聞く事は無い…僕は二条家を後にした。

目的は解った、場所は解った…そして時間もない、なら僕のする事は一つだ。

そして、僕は2人が監禁されている施設がある岬にいる..

どう見ても、要塞にしか見えない…後ろは断崖絶壁、しかも道は一本道で身を隠す事も出来ない。

正面から行くしか方法はないだろう。

考えても仕方ない、突き進むしかないのだ。

一本道を進むと直ぐに見つかった。

「お前は一体何者だ!」

誤魔化すしかないだろう..それとも

「天空院翼と申します、後藤田さんと二条さんの代わりにお嬢様たちの安否確認に来ました」

こんなものだろう..

「何だと!」

「こちらは交渉に応じた、実は二人とも殺されていたでは洒落にならない、だから僕が来た訳です」

「確かにな、お前一人か? ボディチェックはさせて貰うぞ?」

「勿論」

「安否確認に学生1人..武器は持っていない!  解った」

「ガキ、行って良いぞ、特別に確認させてくれるそうだ、まだ指一本触れちゃいない..まだな、ちゃんと伝えろよ..それと下手な真似するなよ、したらハチの巣だ」

「解りました…怖いからそんな事しません」

「それが賢明だ」

僕は館に向って歩き出した。

脱出..そして死(残酷な描写あり 注意)

私は今地下室に閉じ込められています。

「うーうーうっ」

猿轡をされ床に転がされています。

「そんな目で俺を睨むんじゃねーよ」

足で頭を踏まれているが縛りあげられているので何も出来ませんわ。

横には絵里香も居るが…メソメソしているだけなので凄く鬱陶しいですわ。

あの時、私は判断を見誤りましたわ。

私が一緒に捕まっても人質が二人に増えるだけでマイナスでしたわね。

そう考えたら逃げ出すべきでしたわ。

「何だ、その目はよー、そんな顔してられるのも今のうちだけだぜ? お前の実家が条件を蹴ったら、お前達は俺たちが自由にして良い事になっているんだ…まぁ到底飲める条件じゃねーからな..犯し放題にされるのも時間の問題だぜ..そして犯し終わって用済みになったら残酷に殺して首でも送りつけるかなぁ..」

馬鹿らしいですわ..そんな事は覚悟済みでしてよ..そうなる前に速やかに死にますから関係ありませんわね..精々私の死体でも犯して喜ぶ事ですわ…

ただ、気になるのは横の絵里香ですわね..多分この子は汚れてしまう前には死ねませんわね..今の話を聞いてますます泣いてますわ..

まぁ、今の私は自分が死ぬことで精一杯ですわね..

「兄貴、そいつらの安否確認に人が来たみたいです..兄貴を呼んできてくれって四宮の兄貴が..」

「そうか、今行く」

誰が来たのかしら、國本辺りですわね..ですが..救出は無理ですわ。

死ぬとしたら見張りが居なくなった今がチャンスですわ…

私は唯一自由になる頭を床や壁に打ち付けた..猿轡を噛ませられているし足も手も縛りあげられていてはこれしか方法はありません。

がつーん、がつーん、がつっ..

頭は頑丈ですわ..血が出てきていますし、痛いのに..なかなか死ねません..

私を見て絵里香が騒いでいますが、無視するしかありませんわ…どうせ死ぬなら綺麗な体で死にたいですわ..私の体に触れて良いのは翼様だけ…

がつがつがつ…

頭は朦朧としてますのに..まだ死ねません..

暫くして無理な様なら「顔を潰す」方に切り替えた方が良いかも知れません..顔が潰れた醜い女なら抱きたく無くなるかも知れませんわ。

横で絵里香が震えてますが構う余裕はありません..早く死なないとなりませんから…

私が死ねば、おじい様が必ず、皆殺しにして下さいます…地獄に落ちるが良い..ですわ…

しかし、詰まらない人生でしたわ…ヤクザの娘に産まれて碌に友達も出来ませんでした….

折角、好きな人が出来て、楽しいって思いましたのに..もう終わり..はぁはぁ..会いたいですわ..翼様..

がつがつがつがつ…がんがんがん..

まだ死ねませんの…翼様、翼様..翼様..死ぬ前に会いたいですわ…だけど..

「面会だ、3分時間をやる..お前何しているんだ..」

《嘘、翼様ですわ..最後に会えましたわ..これでもう思い残す事はありませんわ》

「約束が違います..無傷なハズではありませんか?」

麗華さん、流石..足手まといにならない為に死のうとしたんだ..

それに比べて、絵里香さんは泣いているだけか..

「これは、その女が勝手にやっていた事だ俺は知らねー」

頭はそうだ、だけど、それ以外にも明らかに怪我をしている..暴力を振るっていた証拠だ。

「嘘つきは嫌いですよ」

僕は手早く口を押えた、そのまま、反対側の手でチョキを作るとそのまま下から目に押し込んだ..これでこの男はもう生涯目が見えない。

そして胸にさしていたボールペンを飛び出している目の下から頭に届く様に押し込んだ..脳にボールペンが届いたのだろうか?

男は静かになった。

幸い、男はナイフを持っていた..これで麗美さん達の縄をほどける。

「大丈夫? では無いですね、その頭..ごめんなさい..遅くなりました」

「翼様、来てくれるなんて思いませんでしたわ…これだけでもう思い残す事はありませんわ..さぁ」

この人数相手では翼様でも無理ですわね..それなのに此処に来てくれた..そして此奴を殺したという事は..

私と死ぬために来てくれたのですわね..やはり翼様は他の男とは違う..

「麗美さん、まだ死ぬのは早いよ..命がけで僕頑張るからさ..でもそれが届かない時は..」

「解かっていますわ」

最後まで希望を捨てませんのね..ですが、それでも無理だった時は一緒に死んで欲しい、そういう事ですわね..ええっ喜んで死にますわ。

「ほら絵里香さんも行くよ」

「ひっひっ..ひっ人」

「どうでも良い..だけど此処で叫んだりしたら死ぬことになる..そんな事したら放っておくよ」

「いいいや….」

《ぱーん》 麗美さんが絵里香さんを引っ叩いた。

「いい加減にしてくれますか? さっきからピーピー煩いですわ! それに命がけで助けに来てくれた翼様に対してその目、許せませんわ」

「ひっ..ごめんなさい..」

ざっと見た感じ、この屋敷には物凄い人数が居る..一点突破それ以外に方法はないだろう..

《二人とも僕に静かについてきて》

《解りましたわ》

《はい》

幸い僕は「武器を持っていないガキ」そう思って油断している。

だから、まだ警戒されていない..

階段を上に上がるが見張りは2人しかいない…しかも片方はスマホで何やら遊んでいる。

《ギヤ2》

静かに後ろから近づき口を押えそのまま持っていたナイフで首を掻き切った。

もう一人がこちらに気が付いたがもう遅い..そのままナイフを胸に突き刺した。

運良く二人とも銃を持っていた。

一つを麗美さんに渡し、一つを自分で持った。

「キャーっ」

ただでさえ逃げ出せる確率が少ないのにこんな爆弾抱えていちゃ危なくて仕方ない..

「ごめんね」

僕は絵里香さんに当身を食らわせて気絶させた。

放って置けないので肩に担いだ。

「次に出くわす前に入口に急ごう?」

「はい..」

凄いですわ..惚れ惚れしちゃうわ..躊躇なく殺す姿..素敵ですわ。

しかも、あれは私を傷つけた事に凄く怒っていますわ..その証拠に最初の男は残酷に殺しましたわ..こんなに思われているなんて凄く幸せですわ。

ここからは時間の勝負だ、小走りで入口を目指した。

「人質が逃げ出したぞ」

気づかれた..パン…額に一発で当て殺した。

銃声が響いたから、もう隠れながらは無理だ..

「麗美さん、全速力で走るよ!」

「はい」

麗美さんがついてこれるギリギリの速度で走った。

そして、顔を合わせる度に敵を殺して殺して殺しまくった。

パン、パン、パン、パンパン、パン6発の弾で6人殺した。

麗美さんから予備の拳銃を受取り更に殺す..

麗美さんは..うん、凄いと思う..前の世界で僕は初めて人を殺した時は震えていた。

だが、震えもせずについてくる。

相手は銃を持っている者もいるが怖くない..麗美さんは殺す訳にいかないから避けて撃って来るし僕に対しても絵里香さんを避けようとしているからよけやすい..

パン、パン、パン、パン、パン、パン 同じく6発の弾で6人殺した。

だが、殺した相手の一人が銃を持っていたのでさらに追加。

パン、パン、パン、パン これで弾は打ち止め、ここからはナイフで戦わないといけない。

「居たぞ、貴様殺してやる..」

《そんな事言う位ならさっさと殺さないと..だから死ぬんだ》

喉から首にかけてナイフで切り裂いた..

「男は殺して構わない」

《今更か、遅い》

「はぁはぁはぁはぁ」

不味いな麗美さんがもう限界だ..だけど入口はすぐそこだ..

もうナイフも血糊で斬れない..

「入口が見えて来た..」

「ええっですが..」

十人以上が待ち構えている..

僕は絵里香さんを叩いて起こした..

そのまま、絵里香を下におろして突っ込んだ、

オーガを倒すつもりで殴りつけた、オーガのこん棒を避けるように避け殴りつける、後ろ側に二人を庇いながら入口に近づく。

倒しても倒しても追加で人が出てくる。

ようやく入口にたどり着いた。

外には見張りは居ない可能性が高い…

ドアのカギは掛かっていなかった..ここから二人を逃せば良い..

「ついたね、麗美さん、絵里香さんを宜しく..」

「待って、翼様は、翼様はどうなさりますの?」

「ここで食い止めるから早く逃げて..」

「そんな、それでは翼様は..」

「バイバイ..僕がした事が無駄になるから..早く.早く行って」

ここで私が戸惑っていたら、翼様がしてくれた事が無駄になる..

「必ず、生きて帰って来て下さい!」

「うん」

僕は2人を出すと内側から扉をしめた。

これで、此処を僕が守っていれば二人を追いかける事は出来ない。

逆に僕は此処から動けない。

さぁ掛かって来い..

少しでも時間を稼がないと..

ドガガガガガガガガガがガガガガッ…

「最初からこうすれば良かったんだ..チクショウ..」

《マシンガン..まだ終われない、今此処で倒れたら..追いつかれる..倒れる訳にいかない》

「何だ此奴、化け物か? たった1人で何十人も殺しやがって..しかも人質まで逃がしやがった..」

「まだ…終われない…」

「何だ、此奴」

ガガガがガガガがガガガ

「まだ倒れないぞ、此奴、だけどもう反撃して来ないぞ..」

「だったら、誰が倒せるか勝負だ..」

パン、パン、パン、パン..

ズガガガガガガガ

「まだ、倒れねーーぜ、だけど此奴もう肉片みたいじゃん」

耳は千切れて手足も千切れていた。

王子様と言われた美しい顔は、穴が空いて、目が飛び出し、下に落ち、口の半分は裂けて歯がむき出しで見える。

「此処は..とお..さない..」

ガガがガガガガガガッ  パンパンパン..

頭の半分が吹き飛び..脳みそが下に落ちた。

「とお、さ..ない..」

「化け物..こっちにくるな..」

死んでいる筈だ、頭を吹き飛ばして死なない人間なんていない..だが此奴は喋っている..

怖さで入口に近づく気になれない..

「これ…で..大丈夫..」

翼だった物はそのまま倒れた..

勇者翼…僕は駄目だ…君は僕の世界を救ってくれたのに..僕は..救いきってない…

だけど、僕なりに頑張ったんだ..これで許して欲しい..この世界で、天空院翼の名前を輝かせてあげれなくてごめん..

そこには、ただ、ただ、天空院翼と呼ばれたセレナトリスタンの肉塊が横たわっていた。

人にすら見えない程に壊されて。

「人質は失った、だがこれで戦争の口実は出来た..そう考えたら僥倖だ..ここまで殺されたんだ、口実は出来た、もう人質は必要ない..後は攻めるだけだ」

そして、守る事も出来ずに…

女の戦い

「歩きなさい..」

「もう歩けない..」

「そう、だったら死ぬのね」

「麗美様、そんな、なんで..」

「私は貴方を置いていくから、歩けないなら捕まって犯されてから死ぬと良いですわ..さようなら」

「なんで..そんな、なんで」

「今の私の命は軽くない..翼様が命と引き換えに救ってくれた命なのです..だから貴方如きの命とは釣り合わない」

「見捨てるのですか?」

「そうしたく無いから歩きなさい! 私はこれから戻って説得しなければなりません、ついて来れないなら置いていきますわ」

「なんの説得..」

「決まっていますわ…あいつ等と戦争して皆殺しにする、説得ですわ..関わった者は皆殺しですわ..それこそ赤子だって子供だって皆殺し..翼様の命はこの地球より重い..」

「あの..」

「何かしら? 足手まといになるなら置いていきます」

役立たずを引っ張りながらようやく通りに出ましたわ。

だけど、まだ安心できません..ここは人通りが少ないですから…

「お嬢ーっ」

「國本!」

「お前がどうして此処にいるのですか?」

「翼..殿が飛び出ていかれたからもしやと思いここに来ました」

パーンっ

「お嬢、いきなり..」

「遅い、遅い、遅いのですわ..翼様はもう…居ません」

「お嬢?」

「直ぐに車を出しなさい..良いから直ぐに」

「はい..」

お嬢の様子を見れば何があったか解る。

本当にやりやがったんだ..一人で..そして、「居ない」と言う事は死んだのだろう..

「男の中の男」って言うのはこう言う奴を言うんだろうな..

ヤクザの中では良く言う言葉だ…だがな、今はそんな奴いねーよ…

その証拠に、あれだけお嬢と慕いながらも結局、アンタしか動かなかったんだからな..

俺も歳をとったもんだ..結局、此処に来ることしか出来なかった。

アンタはスゲーよ….偏屈な組長が何時もアンタの事を話すと褒めていた。

お嬢も一緒..俺だってよ仲間と思って居たんだぜ….

だからよ、アンタの敵は俺が、取れねーな..だけど仕返し位はしてやるよ..それで勘弁してくれ。

「絵里香様と麗美様..ご無事で何よりで..」

「煩い、死ぬと良いのですわ」

「….」

「足手まとい、さっさとあっちに行きなさい」

「麗美様、いくら何でも当家のお嬢様にその態度は..」

「なぁ、おっさん! お嬢も俺も今凄く気分が悪い…そのガキを連れてさっさと引っ込んでくれないか?」

「なぁ..」

「何だ」

「はい、お嬢様さぁ行きましょう..」

「…うん、うっうっうっうわぁーん」

「これでも本当に二条ですの? 捨て子じゃないのかしら…絵里香、私、貴方が大嫌いになりましたわ、これからは赤の他人ですわ、友達でもなんでもありません」

「何で、わたわた私…」

「絵里香みたいなゴミに関わった為に大切な者を失いましたわ..貴方を見ていると殺し.. いえ、あんたみたいなクズでも翼様が命がけで救った命です…殺すとは言えませんわね..」

「私は私は私は…」

「もう喋る気はありませんわ」

これは八つ当たりなのは解かっていますわ..あの時、この子を見捨てていれば、翼様は死ななかった。

助けに来てくれた時もこの子をが居なければ、翼様は死ななかったかも知れない..どうしてもそう考えてしまう。

だけど、そんな事はない..例え捕まったのがこの子だけでも翼様は助けに行ったでしょうね…

「麗美ちゃん、絵里香ちゃんお帰りなさい..それで翼ちゃんは居ないの?」

絵里香じゃ何も話せないだろう..話すしかない..

「麗美、良かった無事で何よりだ..」

「父さんも心配したんだぞ..」

「無事じゃありませんわ..おじい様とお父様の目は節穴ですの? ここに翼様が居ない事に気が付かないなんて..」

「「麗美..」」

「ええっ私は無事ですわ..ちょっと怪我した位で何でもありませんわ..ですが、翼様は翼様もうこの世に居ない..ええっ見捨てられた私を助けるために死んでしまいましたわ..」

「麗美..すまない..儂は」

「ええっ 良いんですのよ! おじい様は組長ですもの、組と私を天秤に掛ければ、組を取るのは当たり前ですわ..でも、でも翼様は違いましたわ、自分の命を捨てて助けに来てくれましたの! あんた達みたいな安っぽい愛情で無く本当に愛してくれていた..そうですわ」

「お嬢言い過ぎです」

「國本、貴方や他の組員も同じですわ..いつも、お嬢、お嬢って言って、何かあったら..何て言っていたくせに役立たずです..」

「すいやせん」

「そうだな、俺や親父はどうしても組織を守らなくちゃならない..そう言われても仕方ないな..」

「それで、お父様やおじい様はこれから何をするのですか?」

「それはこれから話し合ってだ..」

「皆殺しですわよね! 私を誘拐して翼様が殺されたんですもの…それ以外ありませんわよね!」

「麗美、落ち着け..今は」

「充分、落ち着いていますわよ? これ以上どう落ち着けって言うのですか?」

「これから二条家の者も呼んでくる…辛いだろうが詳しく話しをしてくれないか? それからだ..」

「幾らでも話しますわ..彼奴らを皆殺しにしてくれるなら」

関東地獄煉獄組と二条家の主だった面々が集まった。

「麗美、済まぬが、詳しい事を話してくれないか?」

「ええっ良いですわ」

麗美の顔は真っ青に青ざめていた..そして目には涙が溜まっている事は誰が見ても解かった。

それでも、麗美は話をしきった。

「私のせいだわ、私が泣きついたから..翼ちゃんが..」

「それは違う、彼は勇気ある少年だ、お前が言わなくても助けに行っただろう..」

「そうね、貴方達とは違いますからね..彼は..」

「華子、お前!」

「お母さまもおやめになって..」

「絵里香..何かしら?..私に指図するのですか?」

「お母さま?」

「二条の面汚しにお母さま何ていって貰いたくないわ..自分の為に手を汚してくれた翼ちゃんを怖がったんですか? 何様なのかしら?」

「お母さま、私は、私は」

「死ぬのを覚悟で助けに来てくれた..そんな翼ちゃんに余裕なんてあるのかしら? 殺さなければ自分の大切な人が汚されて殺される、だから自分の手が汚れるのを覚悟で殺した..ねぇ、そんな人を貴方は怖がるの? そして、何もしないで足手まといになって泣き喚いて..それなのに..捨て石になって死んでくれて..それなのに、貴方は何もしない..本当に私の子なのかしら..」

「私は怖かったんです..本当に..」

「そう、怖かったの? だけど、翼ちゃんはもっと怖かったんじゃないのかしらね? 最初から死ぬ気で行ったんだから、生きて帰る、そんな考えすら無かったのかも知れないわ..関わらなければ、今頃街で遊んでいたのに..それでも行ってくれたんじゃない? ここに居る誰もが行かない..そんな場所に貴方の命を拾いに行ってくれた..そんな人が怖かったのね..死ぬ気で助けてくれた人を怖るなんて最低だわ」

「私は」

「私は何かしら? それで貴方はどうするの? 翼ちゃんはもう多分死んじゃったのよ! 責任何て取れないわ、ねぇねぇどうするの? 命を救いに来てくれた男に最後に見せたのが、そんな泣き顔なの? 」

「お前、絵里香だってもう..」

「貴方だって同じ、助けに行かなかったじゃない..二条なんだから総理でも防衛庁でも動かせるでしょう!」

「今の二条にはそんな力は無い…昔じゃないんだ」

「ないわね、解っているわ…もう良いわ、絵里香、下がりなさい、暫くは顔も見たくないわ..」

「お母さま」

「下がりなさい」

「それで、貴方達はどうしますか? 弔い合戦位しますわよね? 当然よね、その位してあげなくちゃ翼ちゃんが可哀想だわ…そう思わない麗美ちゃん?」

「全員皆殺しにしなくちゃ気が収まらないし..胸が張り裂けそうです..お願いします、翼様に恩がある、そう思うなら立ち上がって下さい」

此処からが私の戦い…華子様に先を越されたけど、戦争に持ち込み翼様の敵を取らせる..それが今の私の仕事だ…

それが終わるまで、私は死ねない…だけど、それが終わったら..翼様に会いたいから、会いに行きますわ…

翼がいない日
翼くんが出ていった後..言っていた意味が解かった。

もう、私は..剣道が出来ない体になってしまっていた。

だけど、可笑しいわ..何故か悲しくない..

私は死ぬ程、剣道が好きだったはずだわ..なのに何故か悲しくない..

友達が誘拐されて銃で撃たれて入院しているのに悲しくない…

友達の事は翼くんに任せておけば大丈夫だわ..多分、相手は大怪我するんじゃないかしら…

何故、私が悲しくないか、私は解かってしまったわ。

それは、今の私にとっての一番は剣道じゃないからだわ。

私の一番は翼くんになってしまったから…悲しくないわ。

少し、残念に感じるだけだわ..

だけど、だけどね

「貴方の人生が変わってしまっても、僕は傍に居ますから..」

「何を言っているの..」

「僕は心美さんが大好きだと言う事です」

あの時は、気が動転していてさらって流しちゃったけど..

これってプロポーズよね…違うのかしら

「凄く嬉しい..だけど今はそれどころじゃないわ」

本当に馬鹿だわ..何故こんな事言っちゃったのよ..

普通はここで「愛してる」か「私も大好き、だから一生傍に居てね」そう言うべきだったのに…

本当に私って馬鹿だわ、千載一遇(?)のチャンスを逃すなんて..

だけど、あのタイミングで言う翼くんも悪いと思うの? そうよね…

本当に私って現金だわね…もう足が真面に動かないのに、剣道も出来なくなったのに..嬉しくて仕方ないんだから。

翼くんなら、多分簡単に解決してくるわね..銃なんてきかないわ…だって剣聖より強いんだから..

帰ってきたら、今度は私からいうわ..

「本当に傍に居てくれる?..本当に大好きって」

もし、受け入れてくれるなら、これから剣道の代わりに、料理や裁縫を勉強しようかしら?

お弁当とか作るのも悪く無いわね…

だが、心美は知らない…もう翼は何処にもいない事を..死んでしまった事を..

ご家族を死なせてしまった、この報告は私がするべきですわ。

おじい様と一緒に、天空院家にきています。

「麗美さん、冗談は辞めて下さい、お兄ちゃんが死ぬハズないじゃないですか?」

「それは..本当なのでしょうか?」

今にも泣き崩れそうな母親に対してまひるは笑っていた。

だから、私はまひるにも解るように事細かに話した。

翼様のお母さまは泣き出してしまい涙が止まらなくなっていた。

だけど、それでも、「貴方は何も悪く無いわ」と小さな声で答えると奥に行ってしまった。

だが、それでも、まひるは笑っていた。

《これでも妹なの?》

「翼様が死んだのよ..貴方は悲しく無いの?」

「うん、だって死ぬハズないもん、麗美さんは死ぬ所を見たの?見てないよね? だったら解らないよ..だからお兄ちゃんが、本当に死んだそれが解るまで私は信じないもん..だからまだ謝らないで良いよ」

甘いな、うん、麗美さんは甘い!

お兄ちゃんは勇者なんだよ!たかがヤクザに何か殺せる訳がないよ?

相手が魔王かドラゴンじゃなくちゃ無理だって..

「そうよね、まだ解らないわね、翼様ですもの、案外逃げているかも知れませんわね..ごめんなさい」

だけど、生きているなら帰ってきますわ..此処にも居ないって事はもう死んでいますわ…何よりいかな達人であろうとあの状態で助かる訳はありません。

「うん、大丈夫だって」

まひるは勘違いをしている。

確かに、天空院翼、いやセレナ、トリスタンは強い..だが、勇者じゃない…ただの人間の強者だ。

戦い方次第では殺せるのだ….そして、翼はもう既に死んでいる事を..知らない。

「関西連合煉獄会もしくは二つ橋家から連絡は?」

「組長、それが可笑しな事にまだどちらからも連絡はありません」

可笑しい、麗美の話では翼殿は何人も相手を殺した。

巧妙なあいつ等の事だ、ヒットマンを我々が送り込んだ、そういうねつ造をする筈だ。

それで、こっちに攻めてくる大義名分にする筈だ。

なのに、何も無い…

しかも水面下でも何も動いて無い…

親しい他の団体に動きがあったら教えて欲しいと頼んでおいたが何も連絡が無い..

何が起こっているんだ…

「國本、これは様子見を送る必要があるかも知れないぞ…人選をしてくれ」

「確かに、可笑しすぎます..こっちから探りの電話を入れてみますか?」

「いや、要らない..直接見に行った方が良い..」

「それでは人を集めておきます」

不気味な程に何も起きない一日が終わった。

最強の援軍と事態の収束
時は少し遡る..

可笑しい、勇者は死んだ筈なのに何故か勇者の助けが聞こえてくる…

魔王は死んだ、勇者も歳をとって死んだ..だから我々に声が届くはずがない..

勇者、天空院翼は..我々と共に此処にいる..なのに声が聞こえてくる。

我らを求める声が..

誰が求めているのか、静かに聞いてみた..何故だ!

何故、そこに翼が居るんだ..しかも死に掛けているではないか!

天空院翼がいる…ならば、守るのが我らの宿命だ。

「しかし、此奴は化け物か? 死ぬまでにこんなに殺しやがってよ..」

「薬中か何かじゃねぇ..確か麻薬をやるとなかなか死ななくなるって聞いたぜ」

「だが、此奴は馬鹿だな、銃ぐらいならともかく、マシンガンに人間が敵うかってーの 脳みそぶちまけて死んで、気持ちわりぃ」

「本当なら、今夜あたり、あの女達が犯し放題だったのによ、此奴のせいで死体処理じゃねぇか..マジムカつく」

「本当、ついてね」

「それで、これどうするよ? ほぼ肉片だぜ、俺は触るのは嫌だぞ」

「そうはいってもかたずけないと..兄貴たちが怖いぞ」

「本当に最後までムカつく奴だ」

指揮が下がるから言えない..だが此奴は..凄い奴じゃないか..俺達みたいに汚れ仕事じゃない..

純粋にあの二人のうち1人が多分恋人だったんじゃないか…

そして、命と引き換えに救い出しやがった..無駄死にじゃねえよ..此奴は勝ったんだ..千人相手にな..

目的を果たしたんだ..此奴の勝ちだ..俺たちは負けたんだ。

ドスン、ドガ-ン、屋根を突き破り二つの物体が現れた。

一つは朽ち果てたマンホールの様に見える。

そして、もう一つは錆びた棒切れの様に見える..

その二つの物体が、翼の肉片を庇うように落ちた。

そのうちの一つ、マンホールの様な物体が翼の肉片の上に覆いかぶさるように倒れた..

そして、光り輝き始める..千切れていた肉片が這うように集まってくる。

崩れ落ちた脳みそまでが、まるで生き物のようにマンホールの様な物体の下に入り込んでいった。

何が起きたか解らない..だが不味い事が起きる、その事を本能で悟った組員が銃で撃った、だがその弾は手前で弾かれた。

何か見えない壁が攻撃を拒んでいた。

「誰かマシンガンを持って来い」

直ぐに2丁のマシンガンが持ってこられて弾が撃ち込まれた

ガガガガガガガガガガガガ

がガガガガガガガガガガガガッ

だが無数の弾丸が撃ち込まれるも全て見えない壁に阻まれ一発とも届かない。

光が収まり、マンホールの様な物体の下から傷一つない翼が現れる。

可笑しい、僕は死んだ筈だ..

確実に死んだ筈だ…体中が千切れて..死んだ記憶が僕にはある。

錆びてボロボロの丸い物体から光がでて僕を守っていた…知っている..これは、聖なる盾..ありとあらゆる攻撃から守り死に掛けの勇者を蘇生させた。 ドラゴンのブレスすら効かない最強の防具だ

そして、目の前にある錆びた棒…これは聖剣だ、ありとあらゆる物を切り裂き、ドラゴンの強靭な鱗さえバターの様に切り裂く。

どちらも、朽ち果て、錆びついているが僕が見誤る訳が無い..

僕が生きている、それがこの二つが本物である証拠だ。

「さぁ、第二ラウンド開始だ..」

周りの人間は恐ろしい者を見るような目で見ている..そりゃそうだ、肉片になった人間が再生して生き返ったんだ..そりゃ恐ろしいだろう。

「お前は何者なんだ..化け物..」

僕は何者なのだろうか? ここに聖剣と聖なる盾がある、そして僕の名は 天空院翼だ、なら名乗る名前は一つ。

「僕は、天空院翼、勇者だ! 」

僕は手加減などしない…さっき一回死んだ..前にも一度死んだ..特に今回のは、自分だけでなく大切な人すら死ぬ可能性があった。

「勇者? 中二病かお前?」

僕は軽く剣を振るった..

「馬鹿か? そんな所で剣を振ったって…えっ」

その場に居た、男5名は真っ二つになった。

当たり前だ、これは聖剣、人間など紙切れのように斬れる。

「ひっひっ..化け物が生き返りやがった..たたたた、たす」

「人殺しならプライド位持ちなよ? みっともない!」

人を殺す様な人間なら、自分が殺されても仕方ない…その位の覚悟が無いならやるべきじゃない

見逃すわけがない….軽く一振り..首が飛ぶ..

周りに居た者は全員奥へと逃げた。

都合が良い..僕は逆に外に向かった。

この要塞は岬に立っている..そして後ろは断崖絶壁だ。

なら、岬事叩ききれば、海に落下する…この高さから要塞事海に叩き込めば..生き残る事は無いだろう。

「聖剣よ力を貸してくれ」

凄い、剣と盾の錆が綺麗に落ち、美しい本来の姿が顔を出した。

そして、その剣を思いっきり岬に叩きつけた。

岬は簡単に罅が入り、そのまま要塞事海に落ちていった。

高さはどう見ても百メートル近くある..だれも生き残れないだろう..

「何が起きたんだ..地震か..」

「おい、要塞が落下して..逃げるぞ…」

逃げる場所も時間もない。

だが、その間もなく海に叩きつけられ..要塞は崩壊した..

これで、終わらせる訳には行かない..此奴らに命じた奴がいる..ならばそいつ等もどうにかしなければ..終わらない。

関西連合煉獄会、此処と 二つ橋家此処と話をつけなければ又同じ事が起きるかも知れない..

だからやるしか無い、だが皆殺しと言うわけには行かないだろう..そんな事をすればこの国が可笑しくなってしまうかも知れない。

そして、僕は関西に来た。

そして、関西連合煉獄会に公衆電話から電話をした。

「組長さん居ますか?」

「あん? お前誰だ?」

「関東地獄煉獄組のゆかりの 地掘腕尾って言います、アンタたちが関東に送り込んだ1000人はもう死んでいます」

関西連合煉獄会でも情報は入っていた。

連絡がつかないので調べたら岬事無くなっていた..そういう情報の報告を受けていた。

「貴様、爆薬でも使ったのかよ、極道の風上にも」

「僕はテロリストなんで極道じゃありません、報酬次第で戦争を仕掛ける戦争屋ですよ..それで組長に変わって貰えませんか?」

途中、何人かを得て組長に変わった。

「戦争屋とか言ったな? お前お金次第じゃ、こっちに着くのか?」

「着きませんよ…ただ、これから起こる事を予告しに電話しただけですから..関西サンシャインタワービルを破壊します..これで今回の戦争は終わりにして下さい..これ以上来るなら皆殺しにしますからね..」

「待て、冗談は..」

これで良い、まだ、建設途中の関西サンシャインタワービルは地上85階でショッピングモールも併設した巨大なビルだ。

ここを作る出資は二つ橋家..壊されたらかなり痛い筈だ..

幸い、今日は休日、余り人は居ないだろう…居たとしても二つ橋家や関西連合煉獄会の関係者..心は痛まない。

工事現場に入り込み、鉄骨という鉄骨を片っ端から切り裂いていった。

僕は万が一あっても聖なる盾が守ってくれるだろう。

途中、何人か人に会ったが当身を食らわせ、そとに放り出した、怪我位はしているが死にはしないだろう。

何本かの柱を斬った時にぐらつきを感じた..そろそろ良いだろう..僕はビルを後にした。

「何だ、組長が言うから見に来たが何も起きて無いじゃないか?」

「そりゃそうですよ、此処を爆破するなら、相当な爆薬必要ですよ..そんな量の爆薬はそう簡単に持ち込めません」

だが、可笑しな事にビルが揺らぎだした。

「気のせいか、ビルが揺れているような気が..」

「嘘だろう..ビルが、ビルが倒れてくる..本当に..本当に破壊されたのか」

土埃をあげて関西サンシャインタワービルは破壊された。

これで、手を引かないなら、今度は殺すしかなくなる..

聖剣と聖なる盾を「体にしまう」と僕は関西を後にした。

そして、これが元でこの争いは収束していった。

最終話 いつか勇者のように

二条院の華子さまと我が孫娘、麗美の怒りは凄かった。

ここまで来たら、もう戦争しかないだろう…儂は正直戦争はしたくない。

勝ったとしても沢山の人が死に…そればかりか沢山の懲役が出る。

だが、もう止まらない…普段は冷静な國本からしてやる気なのだ..儂が止めた所で無理だ。

だが、戦争の準備をしている最中に電話が鳴った。

「組長、煉獄会から電話です」

「ああっ、よくも掛けて来られたもんだ..代われ..」

「へい」

「後藤田、貴様には仁義ってもんはねえのかよ!」

何を言っておるんだ、此奴は、儂の孫を誘拐して、翼まで殺したくせに

「何を言っておるのか知らんが、汚い事に掛けてはそちらが仕掛けてきた事だろうが」

「それは認めよう..だが、物事には限度があるだろうが! 確かにこっちは卑怯な事をした、だがそれは極道の範疇だ」

「孫娘を人質にする事や、その思い人を殺すのが極道の範疇な訳無いだろうが、ボケ、殺すぞ」

「解った。俺が全部悪い、もういい辞めてくれ」

「辞めてくれだ!どの面下げて言うんだ、皆殺しにすんぞ!」

「いい加減辞めてくれ、降伏する、二度と関東には手を出さない..だから、なぁ終わりにしてくれないか..」

可笑しい、こんな弱気じゃない筈だ..

「儂が何かしたって言うのか?」

「しらばっくれるな…地掘腕尾だ、あんな狂犬みたいなテロリスト送り込みやがって..こっちは組員1000人殺されて..後ろ盾の二つ橋家は破産寸前..もう良いだろう、この辺りで勘弁してくれ..何か条件があるなら譲歩する..終わりにしてくれ」

1000人殺した? 二つ橋家が破産した..訳が解らないが、そんな事が出来る人は1人しか知らん。

「あれはうちの孫娘が気に入っておっての..どうじゃ恐ろしいか?」

「あんな化け物、誰だって怖いに決まっている..なぁ..終わらせてくれ」

「そうじゃな、条件次第で考えよう」

「解った、それで条件は?」

「税金の掛らない金で30億….それで手打ちだ」

「そんな金..」

「出来なければ死ぬんだな」

「直ぐに用意する..それで終わりにしてくれるんだな」

何だ、あっさり30億払いやがった、一体何をしたんだ…

「二条権蔵…お前の正体はこれなのか?」

「何を言っているのか知らないが、孫娘を攫ったんだ..ただでは置かぬ!」

儂はまだ何もしてない..きっと後藤田さん辺りが先に動いたんだろう。

だが、この話に乗るべきだ..

「儂はお前に何が起きているかは知らぬ..だが本当の怖さはこれから始まる..思い知るが良い」

「俺は殺されても良い..それなりの事をしたんだ..仕方ない、だが頼む、家族だけ家族だけは助けてくれないか?」

後藤田さん、何したんだ..

「一体、何が起きたんだ、場合によっては止めてやっても良い」

1000人からのヤクザが要塞ごと殺された…関西サンシャインタワービルが破壊された。

これは後藤田さんじゃないな..二つ橋家も終わりじゃ. こんな事できるのは..一人しか知らない..彼奴だ。

この状態に乗らないのは馬鹿がする事だ。

「二条には闇がある..そしてその闇は深い..その闇の怖さが解ったか?」

「嫌と言う程に」

「ならば、お前の財閥を合併吸収してやろう、そうすれば、今度は闇がお前の味方になるかも知れないぞ」

「それは」

「あの事業で失敗したなら、もう後が無いんじゃないのか?..こっちは放って置いても良いんだ、なぁに死にたい人間はそのまま死ねば良い」

「解りました…お願いします」

「うむ..任せておけ」

これは絵里香でも陸子でも与えて二条に迎え入れなければならない、他に等渡せない。

行かない訳には行かないよな…

気が進まないまま僕は二条家に来ていた。

本当なら関東地獄煉獄組の方がアットホームなんだけど、多分此処にいるんだろうな.

「翼様..翼様ではないですか..皆さん心配していたんですよ..さぁこちらにきて顔を見せてあげて下さい」

見つかってしまった..まだ心が定まっていないのに..

「翼ぁーあんた、あんた無事だったんだな..良かった、本当によかった」

いきなり國本さんに抱き着かれた…心配してくれたんだ..いいなぁこういうの?

「國本、私を差し置いて翼様に抱き着くなんて後で覚えてなさい..翼様、麗美は麗美は..信じていました、翼様は絶対に死なないって」

「うん、また会えたね..」

「本当に心配したんです」

「解かっているよ..もう大丈夫だから」

「大丈夫?」

「うん、全部終わったからね…安心して」

「終わったって…えっ終わりましたの?」

「うん」

「翼ちゃん、流石ね無傷で帰ってくるなんて、それに比べてまぁ良いわ…死んだんじゃないかと気が気でなかったのよ..無事で良かったわ」

「絵里香さんは大丈夫でしたか?」

「絵里香? そう絵里香ねあの子なら無事よ…」

「そう、良かった..」

しかし、何で絵里香さんはあそこで隠れているんだ。

「絵里香さん..どうしたの?」

「ごめん.なさい..」

「どうしたの? 何か僕に怒られる事をしたの?」

「役立たずで、足手まといになって、怖がって本当にごめんなさい..」

はじめて人を殺す所を見たんだ、当たり前だ..僕だって初めて見た時はその日の夜はご飯が食べれなかった。

だから僕は頭にポンと手を当てた..これは泣いていた僕にお母さまがしてくれた事だ。

「泣かないの、僕は気にしていないから、怖かったんでしょう? それが普通だよ」

「だけど、私、私、本当に..」

「だったら泣かないでくれるとありがたいな…どうして良いか解らなくなるから..」

《うわぁ..うん凄く優しくて暖かい..なんで私この人が怖かったの..こんなに素敵なのに..》

「うん、解かりました、もう泣きません」

「うん、絵里香さんはやっぱり笑顔の方が可愛いよ..じゃ」

「あっ」

「それじゃ」

「翼様、何処に行くのですか?」

「心美さんが心配していたから、お見舞いと状況を説明しなくちゃ」

あっ、翼様が死んだと思って気がどうてんしていましたわ..心美の事を忘れていましたわ..不味いですわ、凄く気まずいですわ..

「待って下さい、翼様、私も参りますわ」

「私、私も行きます」

「絵里香、貴方..」

「私を助けようとして撃たれたんです..私も行きます」

「少しは真面な顔をするようになりましたわね、今の貴方は嫌いじゃありませんわ」

「直ぐに嫌いになると思いますよ? 今度は負けませんから!」

「いい度胸してますわね? 10年早いですわよ」

「だったら皆んなで行こうか?」

「「はい」」

「待って下さい、今 後藤田組長と権蔵様が来ますから」

「すいません、また今度来ます」

「おじい様には私から伝えますからって伝えて下さい」

「絵里香様、お願いしますよ、私怒られるの嫌ですからね」

「はい、安心して下さい」

「だから、おじい様言った通りだったでしょう?」

「本当に凄いのお、翼殿、何人斬った? 今のお主、更に凄味がましておる..儂が剣聖ならお主は剣神..もはや何をしても勝てる気がせん」

「おじい様、冗談は辞めて欲しいのだけど..」

「まぁ、そういう事にしておくかの」

「麗美様、あれ全部本当だったんですね..凄いですわ、翼さん! だからあんな事が出来たんですね」

「怖がっていたのは誰かしら?」

「ええっ確かに、だけど、もう怖くはありません」

「なんだか、お見舞いに来てくれたのに仲間外れにされている気がするのは何故かしら?」

「そんなことありませんわ..感謝していますわ」

「迷惑かけてごめんなさい..」

「いいわ、役に立ってないから」

僕は此処でこっそりとダメもとで体の中の「盾にお願いをしてみた」 心美さんの足が治るようにと..

手が薄っすらと緑に輝いた気がした。

多分、これで触れと言う事なのだろう..

「翼くん、私の足が好きなの?」

「ちょっと翼様、触るならそんな筋肉女の足より、私の足の方が良いですわよ!」

「絵里香も足なら自信があります」

勇者って凄いな…劣化版とはいえ、聖女の回復の力迄盾があれば使えるのか..

「翼殿..もしや気を使ったのか?」

「ええっ多分、もう大丈夫なはずです」

「翼くん 何を言っているのかしら?」

「心美さん、ちょっと立ってみてくれる?」

「私、まだ、立てないわ..」

「大丈夫、心美さんなら」

「そこまで言うなら、転んでも頑張るわ」

あれっ、可笑しいな..何故か痛くない..

しかも、力が普通にはいる..可笑しいわ。

「翼くん、普通に立てるわ..痛くないの..」

「良かった..それじゃ歩いてみて..」

「えっ、流石にそれは..無理だと思うわ..嘘歩けるわ..何で!」

「多分、走っても跳ねても大丈夫だと思う..」

「そうみたい..もしかして治っているの?」

「多分..」

「ちょっと心美、なんで服を脱ごうとしていますの..翼様が居ますのに..」

「ごめん、外に出てます」

「居てもいいのよ?」

僕はすぐさま、病室から外に出た。

「可笑しいわ..お腹の傷も足の傷も無いわ」

「心美、まさか仮病でしたの?」

「そんな訳無いじゃない? 私入院しているのよ?」

「それは気の応用じゃな..だが、此処まで使える人間なんて他には居ないし、過去にも聞いた事が無い..」

「治ったようだね、良かった、本当に」

「翼くん、ありがとう」

何で私って此処で止まっちゃうのよ、言いたい事があるのに..

「どういたしまして」

「翼殿? お主は何者じゃ? 本当に剣神..な訳はあるまい」

「僕ですか?」

何といえば良いのかな…

「天空院翼、勇者の名前を貰った、勇者に成りたい男です」

「「「「勇者になりたいって」」」」

「あはははっ、家族が心配しているから..帰りますね」

「ちょっと、詳しく教えなさい!」

「翼様、詳しく教えて下さい」

「だから凄かったんですわね」

「勇者かの..翼殿なら名乗っても問題ないじゃろうな? 詳しく教えてくれぬかの?」

「ま~たね~!」

「ちょと待ちなさい..私、伝えたい事があるの!」

僕は病室を飛び出し家に帰った。

「嘘、翼なの..死んだと聞いていたから母さん、心配したのよ」

泣いていたんだと思う..

「ごめんなさい」

「無事なら良いわ、疲れたでしょう、詳しい事は休んでからで良いわ」

「本当にごめんなさい」

「お兄ちゃんお帰り」

「ただいま、まひる!」

「そういえば、まひる、貴方..お兄ちゃんは大丈夫って言っていたけど何でそう思ったの」

「だって、お兄ちゃんは勇者だもん、死ぬわけ無いよ! そうだよねお兄ちゃん!」

えっ、何でまひるは知っているんだ?

やっぱりね、見てれば解るよ…だけど、ますますカッコ良くなってるし..前よりも更に..兄妹なんだから気が付くのは当たり前だよ..

「それは」

「言わなくて良いよ..まひるはちゃんと知っているから..」

「そう..」

「うん、今はお休み..お兄ちゃん」

お兄ちゃんは勇者だから、またきっと世界の平和の為に戦う日が来るかも知れない。

だから、平和な時には楽しく過ごして欲しい..

「うん、流石に疲れた…今はとりあえず、眠らせてもらうよ」

「お疲れ様、お兄ちゃん」

僕は2階にあがるとベットに潜った。

脳みそまで吹き飛ばされた僕は前と同じ僕なのか..

何故、僕に勇者の象徴の聖剣と聖なる盾が力を貸してくれたのか?

今は解らない..だけどまた命を貰った..

僕の名前は、天空院翼..本物の勇者のように..この名前を輝かして見せる。

それこそが、世界を救ってくれた君への恩返しになる..そう思うから

FIN

【閑話】 詰んだ

「これは一体、何でしょうか?」

「翼様、お帰りなさいませ」

「翼さん、お帰りなさい」

「翼くん、ちょっと良いかな?」

可笑しい、何で皆んなが家に居るのかな…解らない。

「翼、ちょっと良いかしら? 彼女達と話す前に母さんお話があるの?」

「まひるからも..あるから」

嫌な感じがする..

恐ろしい、死んだ時以上の恐怖が背中に走った。

母さんとまひるに連れられてリビングに来た。

「母さん、引きこもりだった、貴方に友達が出来たのは嬉しいのよ..だけど、あれは何かしら?」

「さぁ?」

「あのね、先程、それぞれの家から電話があってね..娘を宜しくお願い致しますって、そう言うのよ? どういう事なのかしら?」

「解らないんだけど..」

「本当にそうなの? だけど、二条さんと後藤田さんからね、娘を貰ってくれるって貴方が言ったって言うのよ?」

何か勘違いしてるんじゃ…あっ! まずい、これは不味い..思い出した。

「僕ですか? 皆んなが捨てるって言うなら、僕が貰います…二人とも凄く魅力的な女性ですから!」

言っていた..うん、本当に言っていた..

「母さん、ごめん..言っていた..」

「本当にそうなのね…それで天上さんはね、プロポーズされたって言うのよ?」

プロポーズ?

「貴方の人生が変わってしまっても、僕は傍に居ますから..」

「何を言っているの..」

「僕は心美さんが大好きだと言う事です」

ヤバイヤバイヤバイヤバイ…言っていたよ..

「お兄ちゃん..ここは異世界じゃないんだよ? ハーレムなんて作れないし..沢山の人と結婚したら…重婚になるよ? 犯罪だよ」

「母さん..どうしよう?」

「簡単よ..事実婚にすれば良いわ..うん、これで解決よ」

「それ、不味く無いの?」

「ええっ大丈夫なハズよ..お父さんも賛成だって..」

「お母さん、お父さんは固いからそんな事言わないと思う..お母さんも何か変だよ..」

「だって、お父さん係長から..常務取締役に昇進したのよ」

「どうして..」

「お父さん、直接、翼にお礼を言うって言ってたわよ」

暫くしたら、本当にお父さんから電話が掛かってきた..

「翼ーっ、お前凄いじゃないか? 二条の御嬢さんに気に入られているんだって? しかも、他にも凄い令嬢に気に入られているんだろう? 父さんも応援するから頑張れよ」

可笑しい、あんまり話した事は無いけど…こんな人じゃ無かった..もっと普通の人だった筈だ。

「どうしたの父さん?」

「いやぁ、父さん言わなかったけど、部長から凄く嫌われて.こんな所に飛ばされちゃったんだけどさぁ..昨日、二条家の秘書って人が社長に会ったらしいんだわ..そしたら、社長から直接電話があって..二条権蔵様の知り合いならそう言ってくれと言われてな..昨日づけで常務になっちゃったんだわこれが..」

「そそ、そうなんだ良かったね!」

「ああ、しかも給料は10倍だってさぁ..年収で5000万だって..これからは沢山お小遣いもやるし、欲しい物なんでも買ってあげるからお嬢様に宜しくな..あっ、それじゃ仕事に戻るわ」

「母さんも昨日から、常務婦人よ! 常務婦人、これで近所の同じ会社の人に気なんて使わなくて良いわ..だってお父さんより偉い人なんてもう近所には居ないもの」

「良かったね…」

「お兄ちゃん..大丈夫? まひるはお兄ちゃんの味方だよ、まだお兄ちゃんも学生なんだし、幾ら勇者だってこっちじゃ学生なんだからゆっくり考えれば良いんだよ!」

「そうだよね、まひる、僕はまだ高校生だからゆっくりで良いよね?」

「うん、そうだよ!」

「まひるちゃん、ちょっと良い?」

「何ですか? 生徒会長!」

「まひるちゃんは、推進派、それとも反対派?」

「それって、何ですか?」

「だから、私達が、翼さんと一緒になる..」

「反対、反対、反対..まだ早いと思うよ..」

「そう、これでも?」

「そんな1万円位でお兄ちゃんを売らないよ」

「違います、これは私の味方になってくれた場合の1日の報酬です」

「1日1万円..」

「あら、足りませんわね、絵里香!私達の妹になるかも知れないのよ! これ位付けなきゃね」

「そうですわね麗美様..」

「何かな? この黒いカード? こんなカードなんかいらないよ..」

「それは、ブラックカードですわ..最高レベルのクレカですのよ、それがあれば家だろうが船だろうがなんでも買えますわ」

「….」

「そうだ、更に、二条の系列の南部デパートの外商の権利も付けちゃう..これで、欲しい物は何でも手に入ると思うけど」

「あ..う..」

「で、まひる..お.ね.えちゃ.んって呼ぶ気にならない?」

「あの..」

「おねえちゃん..」

「はぁはぁはぁはぁ…そんな物じゃ、まひるは..お兄ちゃんを裏切らない、の事ですわよ?」

《絵里香、あと一押しですわね》

《はい》

不味い、何だか外堀が全部埋まってしまった気がする..

ちゃんと前向きに…先送りにしないと不味い。

好きか嫌いかと言えば、三人とも嫌いじゃない。

特に、麗美さんと心美さんは一緒に居て凄く楽しい..

前の世界なら、「全員と結婚する」それで良かった。

だけど、この世界ではそれが出来ない..だから先送りするしか無いのだ..

仕方ない…

「皆んな、凄く大好きだよ!」

「翼くん..本当?」

「翼様..麗美は信じていましたよ..当然ですわ」

「私、私..本当ですか? 良かったもう二条には帰れなかったんです..良かった」

なんで母さんやまひるの前で告白しなくちゃならないんだ、正直恥ずかしくて堪らない。

「だけど、僕は学生で皆んなを養うお金も無い..だからもう暫く待って欲しい..一人前になったらちゃんと答えを出すから」

これで良い筈だ..

「翼くん、だったら家の道場の後を継げば良いわ」

「お父様かおじい様に言えば会社の一つや二つ貰えるから問題ありません」

「そんな事しなくて大丈夫ですわ..この間のお仕事のお金を銀行口座に振り込んだっておじい様から聞きましたわ」

嫌な予感がしたんだ..

三人と一緒にATMに来た..

「翼くん、幾ら入っているのかしら?」

「幾らなんですか?」

目が可笑しいのかな?

15億円って見えるんだけど…あと何で僕の口座番号わかるのかな?

こんなの貰えないからから、振り込み人の後藤田さんに電話した。

「気にしないで良い..翼殿のおかげで濡れ手に粟で稼いだお金のその半分だ…それより孫娘を頼む」

「解りました」

「「「それだけあれば問題ない(かしら)(ですわ)(ないよ)」」」

詰んだ、僕にはもう逃げ場はなかった。

【閑話】 武器の心
我々の使命は終わった。

勇者と共に数々の敵と戦い、時には守り、時には切り裂き全ての敵を葬ってきた。

そして魔王を倒し使命が終わった。

だが、その後も勇者は常に我らを大切に扱い、常に行動を共にしてくれた。

だが、その勇者も歳をとり死んだ…その後は..一緒に棺に入った。

確かに勇者に殉ずるのは悪くはない..だが、我々は死なない..幾多の時を得て魂を得ている。

感情もある…だが使い手が居ない以上は朽ち果てるしかない..どんなに意思があっても武器は自分では何も出来ない。

魔王が滅んだ世界では..もう我々を必要とする者は居ない..そしていつかは忘れられていくのだろう…

自分達が物である以上は幾ら望んでも他の生涯は選べない..

どの位眠っていたのだろうか?

あれ程光り輝いていた我らが錆びだらけだ..今の我々を見て、聖剣や聖なる盾と解る者は居ないだろう。

使い手が居ない、剣や盾は朽ち果てるしか無い..

だれも気が付いてはくれない..だが我々には意志がある。

意思があるまま朽ちていくのはとてつもなく辛い物があるのだ。

だが、可笑しな事に声が聞こえてきた。

翼なのか? だが、翼にしては力は強くない。

神の加護も持っていない…なのに何処か懐かしい気がする..

まるで、翼が未熟だった時と同じような気がした..

更に探ると..おかしな事に気が付いた。

翼ではない、翼は此処で今死んでいる、なのに翼の様に思える。

全くの別人、なのにどことなく翼に似た気を持っている少年..解らない。

だが、死に掛けている。

そして、何故意思の疎通が出来るのか解らないが..助けを呼ぶ声が聞こえてくるのだ。

助けを求める謎の翼に似た気を持つ少年。

我々が助けない..そんな選択はない..

そして、我々は時空を超え助けに行った。

既に、息絶えていたが問題無い..この位の状態なら、盟友たる盾が元に治してくれるだろう。

《ははは、此奴の声が何故我々に届いたか解ったぞ》

何時もは口数が少ない盾が気分良さそうに話し出した。

《此奴はイシュタリア信徒だ》

だが、そんな理由だけで聖なる我々が呼べるわけが無い..それだけで呼べるなら全員が勇者だ。

《此奴は翼の代替品…翼の存在を埋めるためにこの世界に加わった者、元は我々の世界に居た者》

そうか、此奴は翼の代わりにこの世界に来た者..

《そう、翼の代替に天空院翼になった者》

ならば此奴は翼ではない…

《だが、この世界では翼だ》

ならばどうする…

《どうせ、世界は平和になった、我々はもう要らない存在だ》

ならば未熟な翼を使い手に選んでも問題はないだろう..魔王は居ないのだから..

《朽ち果てる位なら未熟な使い手だろうが..良いだろう》

ならば、此奴を所有者と認めるのに依存は無いな..

《無い..》

平和な世界の天空院翼…

勇者じゃ無い天空院翼…

守りたい者を守るために..我らを使うが良い。

まだ、意思の疎通までは出来ない…

だが…ここまで躊躇がないのか? 人を殺すのに戸惑いが無いのか?

これは…面白い..どんな使い手になるのか..いつか意思が疎通できる日を楽しみにしているぞ。

【閑話】 未来
結局、僕は自分の家の近くのマンションに住んでいる。

このまま家で暮らしても良いが、この人数じゃ手狭だから…

しかも、マンションを購入しようとしたら、二条家の方で用意されてしまった。

タワーマンションの最上階で12LDKって何だこれ…

正直言って、僕はこの世界で何一つしていない。

後を継ぐ領地や地位も無い..ただの高校生に過ぎない。

だが、それを言うと…

「うちの道場を継げば良いだけだわ」

「私と事実上結婚したのですから、お父様の会社かおじい様の組を継げば良いのですわ」

「二条の会社の子会社なら明日から社長です…頑張り次第で二条の総帥も狙えます..あとお母さまが顧問にって」

此処でも詰んでいた。

僕の体の中には今でも聖剣も聖なる盾も居る。

そして、その能力は使えるが、この世界には魔王は居ない、表向きは凄く平和な世界だ..

この世界には魔王が居ない…魔王が居ないから..勇者も存在できない。

あの後、僕の所に警察が来て、任意同行を求められた。

破壊されたビルや岬の近くの防犯カメラに僕が映っていた為、詳しく聞かれた。

仕方なくとぼける事にした、その結果、1日だけ泊まる事になったが…

「すみませんでした、釈放です」

あくる日には釈放された。

僕を迎えに鉄心さんが来ていた。

「儂はこう見えても警察や自衛隊にも指導で招かれる事もあってのう」

「ありがとうございます」

「いや、簡単じゃよ…鉄骨を斬れるような者や大地を切り裂く様な者がいる訳ないじゃろう..そう言ってやったわい」

この世界の常識じゃ僕が行った事は誰にも出来ない。

誰にも出来ない事は、立証できない。

だから、起訴すらしようがない..そういう事らしい。

「最も、儂は信じておらんよ! 翼殿なら、斬れると思う..だが言う必要はあるまい」

「そうですね…有難うございます」

「うむ、その代わり、心美にも言わんから、儂にだけこっそりと見せてくれんか?」

「仕方ない…鉄心さんには今度お見せします」

「ほう、やはり出来るのじゃな?」

「ただ、そう簡単には出来ませんので暫くしてからで宜しければ」

「あい、解った」

季節は流れて僕は46歳になった。

妻たちの実家の力は借りたくないから、別の道を探して政治家になった。

そして、今現在は若くして総理大臣になり、派閥も持っている。

だが、実際は裏で妻たちの実家が暗躍していた様だ…

所詮、僕が一人で成した、そうは言えない。

僕は政治家になった時の公約..一夫多妻、一妻多夫の法案を通す事に成功した。

人は僕を優秀だと言うが..僕はそうは思わない。

何故なら、本当の翼は勇者だからだ..

そして、僕は伯爵家を守る..元々そういう人生だった。

そう考えたら、元の人生とそうは変わらない。

「総理、総理が強硬な事ばかり言うから、とうとう某国が核ミサイルを発射しました..迎撃しても多大な被害がでます」

「そうか..」

「そうかじゃありません..直ぐにご命令を.」

「要らないよ..僕が喰いとめるから」

「何を言っているんですか..頭が可笑しくなられたのですか?」

「大丈夫だよ..ここは任せる..」

「総理、、何処に行くのですか?..」

「天空院 翼って総理だけじゃない..勇者なんだぜ! 核ミサイル! そんな物簡単だ!」

僕は、体の中から、聖剣と聖なる盾を取り出すと走り出した。

勇者の翼が魔王を倒し世界を救ったなら…

僕は、核ミサイルからこの国を守って見せる..

これで僕は、君の足元にようやく追いつけたのかな..

「まひる、何を呑気にしているの..不味いですわよ..」

「麗美さんも第一婦人ならどっしり構えていれば良いのよ」

「核よ核..あんな物…どうにもできないよ」

「だったら教えてあげるよ..お兄ちゃんじゃなかった、私達の旦那は勇者だもん、核なんかどうにかしちゃうから大丈夫だよ」

「「「「「勇者!」」」」」」

「うん、だから気にしないでショッピングに行こう!」

「まひるさん、翼くんの何を知っているのかしら?」

「それはお兄ちゃんに聞いて、心美さんも奥さんなんだから」

「本当に平気なの?」

「多分」

《何で総理大臣がコスプレして走っているんだ》

《核の恐怖で気が触れたのか..終わりだ..》

「大丈夫、僕がきた…安心しろ」

僕は聖剣を核ミサイルに向けて思いっきり振った。

FIN

あとがき
私の作品を読んで頂き有難うございました。

私の書いた多くの作品は、大昔に自分が書いた作品のリメイクや参考に書いています。

実は、この作品の主人公や一部設定は「世界で2番目だった僕」という作品で使った物です。

最も、その作品の主人公は 世界征服結社の副総統で、ヒーローに叩き潰された後のお話しです。

ですから、設定はまったく違います。 だが、流れやヒロインはほぼ同じです。

そして、本来は後数話は続きます。

ですが、そのお話は多分書いてはいけないので封印します。

ヒントは 「日本でもリアル社会に1人だけ聖剣を持っていて神の子孫がいます」

その高貴な方の継承権が翼が持つことになる..そういうエピソードですが..書いちゃまずいでしょう?

なので封印です..

読んで頂き有難うございました。