廃棄勇者! 壊れた勇者はご主人様の幸せだけを考えています。

古の賢者死す。
駄目だった…賢者と呼ばれた儂が600年掛っても作れなかった。

若き日に見たあの勇者…他の勇者とは違う『始まりの勇者』

あれから、幾多の勇者と共に行動するも、全てが紛い者にしか見えなかった。

劣化した能力に、女や金権力に固執する姿は滑稽で、見る度に儂を落胆させた。

『あれは勇者ではない』

300年、色々な勇者と付き合った儂が導いた結論がそれだった。

そこから、600年は『本物の勇者』を作る事に没頭した。

悪い事も沢山した。

若き才能ある子を攫い、改造を施し何十という数の少年を殺した。

才能ある少女を監禁して才能ある男に犯させ…子供を取り上げた事もある。

そんな子供も何人殺したか解らない。

結局、最後はホルムニクスの研究に落ち付き、幾つもの生命を生み出す…そして殺した。

この施設の処理場には一体何人の死体があるのか最早解らない。

だが、儂はもう一度会いたかったのじゃ…儂が賢者でも無くまだ少年だった頃憧れた英雄。

始まりの勇者みたいな勇者に…

これで終わりじゃな…Y-00421 この子も始まりの勇者に及ばぬ。

結局は廃棄するしかない。

こんな物は到底、始まりの勇者に及ばない。

もう儂は死ぬ…秘薬を使い…延命してきたが終わりが来たようじゃ。

結局儂は『始まりの勇者』を作れなかった。

ここ迄手を汚した儂は、地獄落ちじゃな…

もう始まりの勇者様には会えないだろう…ただただ会いたかった。

「…」

古の賢者アレスは手を汚しながら、最後は1人寂しく命を終えた。

お月様が綺麗。
僕の名前はY-00421…勇者になれなかった失敗作だ。

賢者様は言っていた。

勇者になれば…此処から出してくれると。

勇者になれば、綺麗なお姫様と結婚して幸せになれるんだと。

だけど、僕はお姫様で無くても良かった。

誰か1人で良い『頑張ったね』そう言って抱きしめてくれる存在が欲しかった。

ここから出て、外の世界が見たかった。

だが、そんな事すら叶わない。

僕が出来損ないだから…何も出来なかった。

勇者に何てなれなくても良い…普通の子で良い。

普通に愛されて、普通に散歩して、偶に美味しい物を食べる、それだけで良かったんだ。

だが…そんな事すら僕には手に入らない。

僕が出来損ないだから。

「お月様が綺麗だね」

僕の周りに沢山の死体が転がっている。

ここは出来損ないの廃棄場。

周りは大きな塀に囲まれて空だけが見えている。

液体食料も無いからお腹が空いたな…

多分、暫くしたら死ぬんだろうな…

空気がこんなに美味しいなんて…

風がこんなに気持ち良いなんて…

死ぬまであとどの位だろう…これが僕の人生で自由で居られる最初で最後の時間だ。

もう一人の落ちこぼれ
「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」

何故、私が召喚魔法を使っているか?

魔法学園の召喚式…違うわ。

世界を救う魔法少女でパートナーが必要だから…違うわ。

答えは家を追い出されたからよ…追い出されたのよ…その出来損ないだからね。

私はこれでも、お嬢様だったのよ。

バルドール侯爵家の三女。

マリル、フランソワ、バルドール。

それが私…

でももう家を追い出されたから、今はマリルね。

アントニーお兄ちゃんは既に16歳で宮廷騎士に入団。
お姉ちゃんのシャルは、アカデミーに入って今や有名な研究者だ。

それなのに私は辛うじて魔法学園には入ったものの…成績は最下位。

家の面汚しと言われ..とうとう、金貨10枚(約100万円)を持たされ絶縁されて追い出されたわ。

本当の馬鹿というのは私の事を言うのよ。

いい? 大抵自分で馬鹿って言っている人は…努力不足なの。

私みたいに18時間勉強や訓練をしても最下位だった人間が初めて言って良い言葉なのよ?

つまり、私みたいに本当の馬鹿はまず居ないのよ?

そして私は…お金がないから大変なのよ。

アルバイトを掛け持ちしながら、どうにか生活をしているわ。

金貨10枚…これが私の生命線…これが無くなったら、人生詰むわね。

そんな私の唯一の楽しみは、この召喚魔法を唱える事なのよ。

行き掛けの駄賃に実家からこっそりと持ち出した『召喚魔法の書』。

そして、杖。

何回唱えても、何も出て来ない…いくら求めても出て来てくれない。

何時も私は一人ボッチだ。

だから、何でも良い…犬でも猫でも、私の傍に居てくれる存在が欲しいのよ。

一番欲しいのは…王子様かナイトタイプの美少年ね。

まぁ、私みたいな未熟者には無理ね。

お兄様もお姉さまも小動物なんだもん。

私みたいな落ちこぼれには無理…それでもあきらめきれないのよ。

だけど、幾ら頑張っても何も出て来ない…呼び出す事すら出来ない…やっぱり私は大馬鹿だわ。

そして物語は始まる。
「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」

もう、何回唱えたか解らないわ。

恐らく数千回という単位で唱えているのに、何も出て来ないわ。

兄姉どちらも10回以内で成功させたのに…魔法陣は間違っていないわ。

私はやっぱり…落ちこぼれだわ…死ぬまで唱えても何もでないのかしら。

なんでもいいのよ…私の傍に居てくれる存在、それが欲しいの。

ひとりボッチはもう嫌だ。

猫でも良い、犬でも良い…私を見てくれる存在、それが欲しいのよ。

多分、出て来ない…

解っているわ。

それでも、それでも…私は諦めきれない。

「何処かに居る、気高く強く美しい存在よ…我が願い、希望を聞き、今ここに現れよ 召喚」

嘘…魔法陣がキラキラと輝きだした。

しかもかなり大きい。

この大きさなら、最低でも犬位の大きさのパートナーが来る。

これで一人じゃない。

嘘…嘘…なんで、幾らなんでも輝きすぎだわ。

まさか…魔法の暴走…不味いわ、不味いわよ。

ドゴーンッ、バーンッ。

大きな音を立てて光は消えていた。

『失敗?』

「うるせーぞこら、何時だと思っているんだーーーっ」

「静かにしろっ」

怒鳴り声が聞こえてきたが、まぁ放って置けば終わるわ。

どの部屋が大きな音を出したかなんて解らない物。

それより…嘘、何かが居る。

私は直ぐに魔法陣に駆け寄った。

嘘…綺麗な銀髪に女の私から見ても綺麗な白い肌。

目を瞑っているけど…それでもこの少年が凄く綺麗なのが解かる。

月に照らされた姿は正に物語の王子様にしか見えないわ。

「まさか、本当に来てくれた、なんて信じられないわ」

「ううん…貴方は誰?」

「私の名はマリル…貴方のご主人様よ!」

「ご主人様?」

首をかしげる姿は..うん凄く可愛いわ。

パートナー

「あんた、名前は?」

「僕はY-00421…廃棄物…ゴミです」

ゴミ?

この子がゴミだって言うの?

綺麗な銀髪に白い肌。

見た目は…そう王子様と言っても過言では無いと思うわ。

「Y-00421? もしかして特殊部隊のコードネームか何か? 廃棄って除隊でもされたっていうの?」

どうみても軍人には見えないわ。

まるで…そうね、新品の人間みたい。

「私はアレス様が勇者を作ろうとして失敗して廃棄された…ゴミです」

アレス…古の賢者じゃない。

確か、もう数百年も前の偉人だわ。

『作ろうとした?』もしかしてホルムニクスみたいな物かしら?

だけど…どう考えても猫や犬なんて比べ者にならないわね。

だって、彼は人間。

しかも、凄い美少年なんだから。

「あの、あんたは捨てられたという事は、所有者は居ないのよね」

「はい、捨てられた存在ですから…」

「それなら、貴方わたしのパートナーになりなさい」

「パートナーってなんでしょうか?」

「私と一緒に生涯を過ごす存在よ…お互いに助け合って生きるのよ」

私が酷い事をしているのは解かるわ。

『作られた存在』の彼にはきっと記憶が無い。

だから、そこにつけ込んでいるのは…解るわ。

だけどね…一人はもう嫌なの。

1人ボッチはもう嫌なのよ…

「僕で宜しいのですか? 能力が無くて捨てられた存在ですよ? 貴方が呼んでくれなければ、あのままただ死んだ存在…役立たたずです。それでもマリル様はパートナーにしてくれるのですか?」

「あのね、私は貴方を召喚魔法で呼んだのよ? 召喚魔法は生涯のパートナーを呼び出す魔法なの…それで貴方が来たと言う事は『運命』なのよ…私が望んで呼び出して、貴方が来た。私が拒む訳ないわ」

彼の中身は解らないわ…だけど召喚で来たと言う事は『私にとって必要な存在』という事だわ。

それを差し置いても…見れば見る程綺麗。

こんな人と生涯を一緒に過ごすなんて…それだけでも充分よ。

「本当に良いのですか? 僕みたいな者で良いなら、マリル様と一緒に居たいです。パ、パートナーにして下さい」

「解かったわ、たった今から貴方は私のパートナー、生涯を一緒に過ごすのよ! 良いわね」

「はい」

「そうね、一緒に暮らすなら名前が必要ね」

「名前ですか?」

「そうよ!Y-00421以外に名前は無いの?」

「ありません」

やはりホルムニクスなのかな?

だったら、私がつけても良いわよね。

賢者アレスが作った存在。

そして、銀髪の美しい美少年。

だったら…そうね…単純かもしれないけど『銀嶺の勇者』から名前をとろうかしら。

彼も銀髪で美少年だった…そういう伝説があるのだからね。

「なら、貴方の名前は今日からセレスよ」

「セレス…それが僕の名前…僕だけの名前」

「そうよ、セレス、これから宜しくね」

「はい、マリル様」

今日からはもう一人じゃない。

彼セレスが何時も私の傍に居るもの。

「うん」

こうして私は生涯のパートナーを手に入れたのよ。

魔法学園 退学

「すみません、今日で魔法学園を辞めようと思います」

うん、解っているわ。

金貨10枚じゃ学費は払えない…辞めるしかないわね。

「マリルさん、マリルさんが寮から出られて3日位したらご実家の方が来られて正式に退学になっていますよ」

ハァ~よく考えればそうだわね。

実家から縁をきられたんだから当たり前だわ。

寮費の節約の為に近くに部屋を借りて引っ越したのだけど…実家を絶縁されたのだから退学になっていても可笑しくないわね。

「そうですか…お世話になりました!」

「まぁ気を落とさずに頑張って生きて下さい」

まぁ成績も最下位だし、真面な魔法も使えないんだから、居ても仕方ないわ。

冷ややかな営業スマイルで私は送り出されたわ。

だが…これで良いのよ!

だって、勉強したけど『何も身につかなった』

此処で学ぶ事は何もないわ。

辞めて正解。

敢えて、私は此処にセレスを連れてきていない。

もし、セレスを見たら、恐らくは退学は取り消し、無理やり復学させられる可能性もあるわ。

だって、兄姉だって小動物しかパートナーに出来なかったのよ。

人間をパートナーとして呼び出した人なんて、それこそ伝説にしか居ないもの。

『魔法の素質を見るにはパートナーを見よ』

そんな考えが昔はあったみたいだわ。

そう考えたら、私は『伝説の魔法使い』並みに凄い事になるわ…

なんだか、不味い事になりそうだわね…だから、退学で正解だわ。

◆◆◆

「セレス、服だけ買ってきたのよ!これを着たら出掛けるわよ」

「マリル、何処に行くの?」

「買い物よ、買い物…あなた何も持って無いじゃない!生活に必要な物を買ってあげるわ、その後は冒険者ギルドへ登録よ」

流石ボロ着のままじゃ出掛けられないから、服だけ買ってきたのよ。

「マリル、解った…僕、外出するなんて初めてだから楽しみだよ」

「そう? ほら行くわよ!」

私は手を差し出したわ。

べべ…別に美少年だから手を繋ぎたい訳じゃ無いわ…

こうしないと迷子になっちゃうから仕方ないないじゃない?

◆◆◆

見られているわね。

まぁ、当たり前だわ。

だって、セレスは超がつく程の美形なんだもん。

お兄様も良く美形だと言われていたけど…全然レベルが違うわよ。

だって、セレスは…私が生まれてから今迄で見た、どの男性よりも綺麗なんだから。

だけど、そんなセレスは残念ながら…私のパートナーなのよ!

パートナーと召喚主は『どちらかが死ぬまで別れないの』つまり、セレスは私の者なのよ。

残念ね。

セレスに必要な日用品を一式買い…今二人で武器屋に来ている。

冒険者登録の前に武器は購入した方が良いわ。

余り予算は無いけど…出来るだけ良い物を買ってあげたいわね。

セレスは、凄く綺麗なんだから、変な物は持たせたく無いわ。

「いらっしゃいませ」

「さぁ、セレス、此処が武器屋よ…ここで貴方が使えそうな武器を選んで」

「解りました」

『うっ嘘でしょう…武器ってこんなに高いの? 金貨3枚位からしか無いじゃない』

どうしよう…

劣化魔法

マリルは『武器を選んで』って言うけど…余り予算は無いよな。

僕には新しい服を買ってくれたけど、マリルの服は所々ほつれている。

だから、出来るだけ安くて質の良い物を選ばないと…

『広域鑑定』を無詠唱で使った。

これは『神眼の勇者』が持っていたスキルだ。

オリジナルの勇者なら街や村ごと鑑定して高級な物や必要な物のありかすら特定できる。

出来損ないの僕じゃ…精々が半径10メートルしか使えない。

貴重な武器が2つこの店にある事が解かった。

1つは…お店の奥に飾ってある黄金の剣。

沢山の宝石が嵌め込まれていて…うん物凄く高そうだ。

もう一つは樽に無造作なに放り込まれている複数の中にあった。

錆だらけで汚い。

剣というには細すぎて半分の厚さしかない。

だが、長さは通常の剣より少し長い。

なんだ、これ…良く解らない…

やはり僕は出来損ないだ、本来なら『広域鑑定』だけで物の名前や特色も解かるのに…貴重な物としか解らない。

仕方ない『鑑定』

僕は無詠唱で鑑定を使った…結果。

偽聖剣 デュランダル

古き女神●●が聖剣を作る練習として作った剣。

結局、古き女神●●は聖剣を作る才能が無く、本物は完成しなかった。

本来宿る筈だった『聖』『光』の魔法は付与されていない。

だが、『不破』のみ宿っており…破壊される事は無い。

これが良い…多分金額も高くはない筈だ。

「これは幾らでしょうか?」

「ああっそれか? それは冒険者が使い潰しで使う様な物だから、銀貨2枚で良いぜ」

「マリル、これにします」

「ちょっと、セレス、そこ迄安い物にしなくて良いわ…ほら、このナイフとかの方がいいんじゃない?」

「いえ、初心者ですから、この剣で充分です…より良い装備はもっと腕をあげてからで大丈夫です」

多分、この店じゃ1番の業物がこれじゃないかな?

態々お金を使って『劣る剣』を買う事も無いだろう。

「そう? セレスがそう言うなら良いわ…そうね、冒険者をしてお金が溜まったらもっと良い装備買ってあげるわ…店主、この剣を貰うわね」

「あいよ」

一瞬、この店主嫌な顔をしたな…マリルは貴族らしい恰好をしているから..お金がとれる、そう思ったのかも知れない。

マリルは剣の代金銀貨2枚にお手入れセット銅貨5枚の代金を支払った。

◆◆◆

「セレス、本当にそれで良かったの? 言っちゃなんだけど錆錆だわ」

「実際の所は解りませんが錆びる前は、そこそこ良い剣だったみたいです。上手く錆を落とせたら掘り出し物かも知れません」

「へぇーそうなんだ? よく解かったわね?」

「何となくですよ」

流石に、こんな劣化魔法しか使えないなんて…恥ずかしいからマリルには内緒にしておこうっと。

冒険者登録

冒険者ギルドに来たわ。

「おや、マリルさん、今日も薬草の採取かしら」

本当にムカつくわね。

冒険者の階級はSから始まりFまであるわ。

私は…勿論…F。

その理由は、初心者冒険者は、2人以上のパーティじゃないと討伐は受けられないから。

ギルドから斡旋はしてくれたけど…女冒険者は足手纏いの私を嫌い、男の冒険者は受け入れてくれそうだったけど、どう見ても体目当てだったわ。

いきなりお尻を触られたから文句言ったら『お前みたいな奴、それしか使い道ないだろう?』だって言うから蹴飛ばして逃げたわ。

しかも自分達が斡旋した癖に『冒険者同志のトラブルは自己責任』ですって本当にふざけているわね。

「違うわ、パーティ登録よ」

「マリルさんが~良く組んでくれる人が居ましたね…って横の方ですか?」

「そうよ…それがどうしたのよ?」

驚くわよね…だってセレスは凄い美少年だし…伝説の銀嶺の勇者に似ているんだから。

「あの…マリルさん、騙しちゃいけませんよ? あの、貴方、この冒険者は出来損ないのマリルですよ…貴方が望むならもっと他の…それこそ大きなクラウンのマスコットにだってなれます! やめましょう」

「あんたね、ギルド職員が、そんな事して良いと思っているの? 職権乱用だわ」

「私はギルド職員として、いたいけな美少年が毒牙に掛かるのは見逃せませんわ」

「あの…僕はマリルが好きでパーティを組みたいのです。可笑しな事は言わないでくれませんか?」

「本当ですか? 貴方なら、ほらあそこのC級冒険者のお姉さんとかでも充分いけますよ? こんなのと組むなんて勿体ないですよ! なんでしたら、私が養ってあげても良いですし、専属」

「いい加減にしてくれる? セレスは私のパートナーなのよ? いい加減にしないと怒るわよ」

「マリル以外は考えていません」

全く、セレスが美少年だからってふざけているわね。

「それなら仕方ありません、此方の書類を書いて下さい。名前と職業以外は書かなくても大丈夫ですよ」

「有難うございます」

「セレス、大丈夫書ける?」

「ええっ、名前と…職業を書けば良いんですよね」

「そうよ…ボソッ職業は剣士って書きなさい」

「セレス…職業は、剣士…とこれで構いませんか?」

「構いません…それじゃこれで登録します…セレスさん、本当に後悔しませんか?」

「はい」

「あんた、いい加減にしないと怒るわよ!」

「はいはい…それで、パーティ名はどうしますか?」

「えーと考えてないわ…セレス、なにかあるかしら?」

「そうですね…エターナルラバー…永遠の愛っていうのはどうでしょうか?」

「ちょちょっとセレス、恥ずかしいわ」

なななな、なにを言い出すのかしら『永遠の愛』なんて…

「駄目ですか?」

ううっ、そんな目で言われたら断れないじゃない。

「うん、それで良いわ、私も…うんそう考えていたのよ」

「良かったぁ」

はぁ~男性に免疫の無い私には刺激が強すぎるわよ…全くもう。

「はいはい、エターナルラバーですね…はい登録終わり、これがセレスさんの冒険者証です。無くさない様に気をつけて下さいね…これで二人ですから今日から討伐依頼も受けても良いですよ…私はもう、やる気が失せたんで、詳しい事はマリルさんが説明して下さいね。」

しかし、何時にもましてこのギルド職員、やる気が無いわね。

まぁ、仕方ないから、後で冒険者のルールは私が教えるわ。

「それじゃ、行くわよ、セレス」

「はい、マレル」

「今日は何も依頼を受けないんですか?」

「うん、今日はこの後、セレスとデートだからね」

「…デート」

「それじゃ、明日から宜しくね」

「宜しくお願い致します」

「…はい解りました」

本当に気分が良いわね。

今迄、散々馬鹿にされてきたけど、今日は皆が私に注目しているわね。

だって、セレスって凄い美形だから女性の冒険者も受け付けも羨ましそうに私を見ているわ。

こんな事は初めてだわ。

◆◆受付嬢SIDE◆◆

しかし、凄い美形だったなぁ~

銀髪のあの髪に精悍な顔立ちの美少年。

まるで、銀嶺の勇者の少年時代にそっくりですね。

まさか、本物って事は無いでしょうが…子孫でしょうか?

それはそうと、マリルさんも良かったですね…

少しからかってしまいましたが、あの方は本当に不運ですし、不器用ですから…

まぁ、彼氏の居ない私には、目の毒ですが…

「ハァ~本当に羨ましいですね」

女冒険者に絡まれないと良いのですが…まぁ気に掛ける必要も、私には無いですね。

いなくなったセレス

「さぁ、セレス、今日はお祝いだから、思う存分食べてね」

少し、お財布に痛いけど、今日はセレスの歓迎会も兼ねるからこの位良いわよね。

私はセレスを連れてレストランに来た。

ここは貴族も来る位の場所だから凄く美味しい。

その分、高価だけど…うん、それは頑張れば良いのよ。

「此処、高そうだけど、大丈夫ですか?」

「うん、そうね、明日から頑張れば大丈夫よ!」

「ありがとう、マリル」

「別に、良いわ…その分、明日から頑張って」

金貨2枚は覚悟しないとね…だけど、セレスが喜んでくれるならそれでいいわ。

『目に入れても痛くない』って言うけど、セレスはそれ以上だもん。

「マリル、これ凄く美味しい」

「そう、良かったわね」

『碌な物を食べたことが無い』そう言っていたから連れてきたけんだけど…良かったわ。

本当に美味しそうに食べているわね。

それじゃ、私も頂こうかしら。

こうして誰かと一緒に食べる…それだけで楽しいわ。

「あらっ、マリルさん、平民がこんな所で贅沢していて良いのかしら?」

「げっ!イライザ」

「イライザですって、貴方何時まで侯爵家の令嬢のつもりなの?」

「私は確かに絶縁されているわ…だけどね、まだ貴族籍はお情けで抜かれてないわ。つまりまだ侯爵家の人間なのよ? 子爵家の貴方よりはまだ上だわ」

時間の問題ではあるけどね。

「はぁ~、本当にみっとも無い…まぁ良いわ、それじゃ…あれ、なかなかの美少年を連れているわね、貴方良かったら私の所にきませんか? 高待遇で…」

「すみません、私がお慕いしているのはマリルだけです」

「そうですか? まぁ良いわ、困ったら私の所に来なさい…雇ってあげるから…それじゃあね『今はまだ侯爵家のマリルさん』」

あー本当にムカつくわね…

「セレス冷めないうちに食べましょう」

「はい」

◆◆◆

「それじゃ、セレス一緒に寝ましょうか?」

「あの…良いんでしょうか?」

「何が?」

「あの、僕がマリルと一緒に寝ても」

「嫌なの?」

「そうでは無いですが…」

「私は気にしないわ! 貴方は私のパートナーなのよ、どちらかが死ぬまで一緒に居るんだから気にしないで良いわ…ほらっ」

「そうですか」

ふふっ、布団に入って来たわね。

多分、わたしはもう結婚なんて出来ないわね。

だって、セレスより良い男なんて見つからないわ…絶対。

「ほら、もっとくっつきなさい…寒いから」

「はい」

う~ん。

凄く良いんだけど…顔が近いから…今夜も眠れそうにないわね。

◆◆◆

「う~ん、うん?」

あれっ…いない。

「セレス? 嘘…セレスがいないわ」

何処に行ったの? いない…いないわ。

「セレスーーっセレスーーっ」

私は部屋を飛び出して、周りをみたけど…

何処にもセレスは…見つからなかった。

セレスくん…それ鳥じゃないから

僕みたいなゴミをパートナーにしてくれたマリル…

お金が全く無いのは解っている…

それなのに、自分は古い服を着ていても僕には新品の服を買ってくれた。

美味しいご飯を食べさせてくれた…

だから『恩を返したい』

マリルは僕にとって『唯一の人』だから。

マリルはまだ寝ている。

凄く可愛いい。

何時までも見ていたいけど…今日僕は狩りに行く。

毛布と布団をそっとかけ直した。

『マリル行ってくるね』

そう言葉には出さずに僕は出掛けた。

◆◆◆

初めて一人で外の世界に来た。

話しで聞いていた、緑は何処までも綺麗で、空も本当に青かった。

マリルの為に今日僕は初めて狩りをする。

とはいえ、僕は…所詮、廃棄された存在。

本当の勇者みたいに強ければ良かったのに…

凄く弱い、精々が大きな鳥とトカゲが狩れる程度だ。

龍とか狩れない。

それにどの生き物が高額な物なのか解らない…

仕方がない、片っ端から狩っていけば良いよね。

取り敢えず『聖剣覚醒』と。

デュランダルは偽聖剣とはいえ、聖剣という位だから、覚醒させれば少しは使い物になるような気がする。

思った通り…刀身が青く輝き…キラキラと輝きはじめる。

他には…解らない。

まぁ出来損ないの僕じゃ鑑定でも簡単な事しか解らない。

それに、聖剣の力も100パーセントは引き出せない。

それでも聖剣とつく位だ、偽物でも普通の剣よりは強いよな。

『威圧』流石に目的の獲物にたどり着く前に弱い動物に会うといけないからこの位掛けた。

目的の鳥とトカゲは…ようやく見つけた。

僕は『自動収納』の魔法を唱えた。

『自動収納』これは収納袋を魔法にした物だ。

しかも、倒した存在は自動で収納していく、優れもの。

オリジナルの『袋の勇者』なら魔王城ごと収納出来たという伝説もあるが…

僕は失敗作なのでそこ迄の収納は出来ない。

精々が大きな屋敷2つ分位しか出来ない。

岩場には目的の大きな鳥が無数にいた。

その数は30位…逃げられるといけないから、こっそりと近づき倒していく。

『隠形』

これは気配を消す魔法。

優れた勇者は一瞬で気配を消せるが、僕には出来ない。

だからこそ、こんな魔法に頼らなければならない。

本当に、才能の無さに悲しくなる。

「ぐわぁぁぁぁーーっ」

本当に僕には才能が無い…1羽倒した途端に鳥が声をあげた。

運が良い…もし逃げられたらこの1羽で終わる所だった。

他の鳥も僕を侮ってか襲い掛かってきた。

複数の鳥…こんな存在に僕は奥義を使わないと勝てない。

「これが奥義…光の翼だぁぁぁぁーーーっ」

無数の光の翼が展開して鳥に襲い掛かる。

結局、倒したのは18羽…あとは逃げた。

勇者の奥義を使ってようやく無数の鳥を倒せる。

自分の才能の無さに悲しくなる。

僕が本物の勇者だったらマリルに楽をさせてあげられるのに…

鳥しか狩れない。

『合計19羽か…これで服とか買えるかな』

無理だろうな…仕方がない。

トカゲでも狩ろうかな。

鳥が居た岩場から少し奥に4匹の大き目のトカゲが居た。

僕に気がつくとトカゲの3匹は逃げて1匹だけ襲ってきた。

『一閃』

簡単に倒せた…まぁ只のトカゲだから…

初日だし、今日はこの位で良いか?

僕はきっとマリルに依存しているのかな?

マリルに会いたくて仕方がない…うんギルドに寄って換金したらすぐに帰ろう。

◆◆◆

「セレス~っ!ヒクヒクスン…何処に行っていたの~」

泣いているマリルに抱き着かれた。

まさか、探してくれていたのかな…凄く嬉しい。

「ごめん…お世話になりっぱなしだから、狩をしてきたんだ…少しでもお金になればと思って」

目が腫れているし…泣いていたのかな…そうだよな、僕もきっとマリルが居なくなったら泣く…

「そう言う事なら…ひくひくグスン、次からはちゃんと言ってからにしてよね…その心配だから」

可愛いと思ってしまうのと嬉しいと思ってしまうのは良くないよね…

「ごめん」

「もう良いわ、それで何を狩ってきたの?」

「鳥とトカゲ」

「え~と鳥とトカゲじゃ…まぁ今日の夕食代位しかならないわね…換金しに行こう」

「うん」

マリルと一緒に受付に言った。

「あら、マリルにセレスくん、早速何か狩ってきたの…良いわ査定してあげる」

「あの…此処じゃ狭くて出せません」

鳥1羽でも此処じゃきついな…

「何を狩ってきたの?」

「鳥とトカゲです」

「セレス、随分大きな鳥なのね…まさか時期外れだけどロック鳥? 凄いじゃない、1週間の生活費になるわ」

「ロック鳥…それなら此処じゃ少し狭いですね…裏の倉庫に行きましょう」

「有難うございます」

◆◆◆

「そう言えばセレスくん、手ぶらだけど…ストレージ持ちなのかしら」

「はい」

「凄く優秀ですね…やはり、マリルと別れて他のパーティに」

「職権乱用よ!」

「あら、ごめんなさいマリル…それじゃセレスくん…早速出してくれる」

「はい」

僕は収納から鳥を取り出した。

「セレス…それ」

なんでマリルと受付のお姉さんが驚いているんだ。

「セレスくん…それ鳥じゃないから…ワイバーンだから」

なんで驚くんだろう…

『私のセレス』は凄いのよ…驚いた

「鳥が19羽とトカゲが1匹…マリル、僕なりに頑張ったけど、これが限界だった」

「あばばばばっ、あはははっワイバーンが19羽で地竜が1頭…それ1羽狩る為にA級冒険者のパーティ全員で掛かるんですよ…こんなの到底受付じゃ処理出来ないから、ギルマス呼んできますね」

受付嬢が可笑しくなるのも当然だわ。

だって、この数のこんな大物パーティ所かクラウンでもまず無いわ。

それに気がついてないけど…それを全部収納するストレージ持ちなんて居ないわね。

「セレス…あんた何者なの?」

「僕はただのゴミ…です」

これがゴミ? 可笑しいわよ、どう見ても『勇者』その者だわ。

レベルの低いうちはどんな勇者でも、オークやオーガが狩れたら良い方でしょう?

それが、いきなりワイバーン? なにこれ?

『銀嶺の勇者』…ううん、それ以上だわ。

こんな存在が居たら、魔王なんて尻尾巻いて逃げるわよ。

まぁ、今は魔王は居ないけど…

「セレス、自分の事をゴミというのは止めなさい…貴方は私の大切なパートナーだわ。私にとって宝物なの、だからね」

「解りました」

なんでセレスが自信が無いのか解らないわ。

恐らく、セレスより強い人間なんて居ない気がする。

「それでセレス、怪我は無い? 体は大丈夫?」

「僕は大丈夫です。それよりマリルの方が…膝から血が出て…」

「セレスが居ないから探し回ったんじゃない! その時転んだのよ、全く心配させないで」

「ごめん、マリル…ヒール、うんこれで治った」

え~と…ヒール?

「嘘、セレス、ヒールも使えるの?」

「あっ…はい、だけど出来損ないなので『ハイヒール』までです。パーフェクトヒールは使えません」

パーフェクトヒールなんて『死んでなければなんでも治る』伝説の魔法じゃない?

出来なくて当たり前だわ…そもそも、教会の熟練ヒーラーでも『ハイヒール』しか使えないわ。

昔いた聖女だってハイヒール止まりも多かったのに….

「えーとね、それで本当に失敗なの? 可笑しいわよ…」

「確かアレス様は、それじゃ『始まりの勇者』になんて届かないって怒っていました」

それこそ、伝説じゃない…アレス様、頭が可笑しくなったのかな…

「セレス、それ…伝説に残る最強の人だから…他に何か言っていなかった?」

「そういえば、出来損ないの『銀嶺』はどうにか超えたとか言っていた様な気がします」

『銀嶺の勇者』…私が知る限りなら最強勇者じゃない?

それを越えた?

「凄いじゃない」

「そうなのでしょうか? 歴代の優れた勇者や聖女、賢者、剣聖の遺伝子を組み込んだのに…この程度なんです」

アレス様、貴方なにやっているの…どう考えても完成品でしょう。

「セレス、貴方は出来損ないじゃないわ、私の最高のパートナーよ自信を持ちなさい」

「解りました…それでマリス、今日の狩でどの位稼げたの?」

確かワイバーン1羽金貨50枚(500万円位)だから、それが19で金貨950枚(9500万円) 地竜が金貨70枚(700万円位) 合計金貨が1020枚(1億200万円)….

あはははっ、もう一生働かないで良いわね。

※ 異世界なので同じ一億円でも価値が違います。

「セレス…多分贅沢しなければ一生暮らせるわ…」

「本当に? こんなの狩った、だけでですか?」

「あの、セレス…セレスが狩れないレベルってどんな存在の事を言っているの?」

「『世界は我のものだ~』って叫ぶ奴とか? 黒い鱗で王城よりも大きく『国など滅ぼしてくれるわ~』て叫ぶドラゴンとかですね…シュミレーションで戦いましたが死に掛けました」

それ…魔王グラディウスに漆黒の黒竜じゃない…世界を滅ぼせるレベルだわ。

「凄いわね」

「ギルマスを連れてきましたぁ~」

あはははっ流石のギルマスも顎が外れそうな位驚いているわね。

『私のセレス』は凄いのよ…驚いた。

二人が本当に欲しかった者

「スゲーなこれ、恐らくは個人として歴代一位の討伐だ…それで相談なんだが…流石にこの金額を払うと他の業務に差し支える…今日は金貨100枚にして残りはギルドの口座に分割で入れる形でお願い出来ないだろうか?」

「セレス、どうする?」

幾らパートナーでも今回稼いだのはセレスだわ。

だから、セレスが決めないとね。

「マリルは今現在お金ってどの位必要かな?」

「少し贅沢をするとしても金貨5枚もあれば充分よ」

大体、私は今の生活で充分だわ。

独りじゃないそれだけで良いのよ。

「それじゃ、余裕を持って金貨10枚残して口座に入れて置いて下さい」

「すまないな1か月位で全額入れて置くからな、あと二人とも今日からランクはCだ。確かに凄いが、一度の狩であげれる限界が此処までなんだ、その代わりもう一回大きな依頼をこなしたらAにあげるから許して欲しい」

「別に構いません、寧ろ有難うございます」

「ああっ当然だ、ワイバーンを楽に狩れる程の人材はこのギルドには居ない。これからも宜しく頼むぞ…それじゃ悪いが、これからワイバーンの解体やオークションの手続きで忙しくなるから…これで失礼する」

「有難うございました」

◆◆◆

「凄いじゃないセレス…気がついたら私もCランクよ、私何もしてないのに。セレスありがとう」

「寧ろ、お礼を言いたいのは僕だよ」

「何で? 私、何もしてあげてないわ」

「美味しいご飯をくれました…暖かい寝床をくれた…廃棄された僕に居場所をくれました…何時も傍に居てくれた…これは僕にとってかけがいの無い物です」

マリルは優しい。

自分の生活が厳しくても、僕には新品の服や靴をくれた。

お金が無いのに『僕に会えた事を喜んで豪華な食事をくれた』

そして、何より『傍に居てくれる』約束をしてくれた。

『パートナー』破棄された僕には一番欲しくて手が届かなった存在。

僕がゴミでなく人で居られる場所。

それがこの場所だから。

「そんなの当たり前じゃない、貴方は私のパートナーなのよ? 死ぬまで一緒に居るんだから、当たり前じゃない!」

「そうだね、ねぇマリル、マリルは何が欲しい? マリルが欲しい物があるならこれから買いに行こう…足りないなら僕がもっと稼げばいいんだから、あんな鳥やトカゲなんてマリルの為なら100だって1000だって狩ってあげるよ…マリルは何が欲しい?」

そう、僕にとってマリルこそが『本当に欲しかった者』だから。

他は何の価値も無い。

「セレス、私が欲しかった者ならもう手に入ったのよ」
「えーと?」

「貴方よ、セレス、それじゃ折角だから今日は『セレスにご飯奢って貰うわね』行こうか?」

「うん」

僕はおずおずとマリルの手を握ろうとしたら、マリルから繋いでくれた。

そうか…マリルも同じなのか…嬉しいな。

「あのね、2人とも私の前でイチャつかないで貰えます? それはそうとCランクおめでとうございます…用は済みましたよね? それじゃとっとと帰って下さい!」

「「あっ…すぐに帰ります」」

受け付けのお姉さんが居るの忘れていた。

二人して慌ててギルドを後にした…

サプライズ

僕は今、ギルドに来ている。

マリルに何か買ってあげたい…そう思って聞いたけど…

『別に要らないわ、セレスが居てくれたら充分なのよ』

と言って、本当に何も欲しがらない。

僕はマリルに色々買って欲しいんだ…

僕が一方的に貰うばかりだから、何か返してあげたい。

そう思っているのに『欲しがってくれない』

洋服だって、無理やり言ってようやく2着だけ買ってくれた。

それもお店で一番安い奴だ。

だから…僕はマリルにプレゼントをしてあげるつもりだ。

パン屋のお姉さん曰く…サプライズプレゼントをしてあげると女の子は喜んでくれると聞いた。

冒険者酒場のお姉さんから、どういう物を送ったら喜ばれるか聞いたら『そうね、私だったら家かな』そう言っていた。

他の人に聞いても『家が欲しい』という冒険者が多く居たから…うん、これが良い。

確かに今借りている部屋は凄く狭いし…設備も悪い。

受け付けに来た。

「セレス様今日はどう言ったご用件でしょうか? まさか買取りですか?」

「いや違うよ…家が欲しいんだ。マリルが喜ぶような家ってどんなんだろう?」

家や土地の販売は冒険者ギルドでしているらしい。

「マリルさんが喜ぶような家ですか…そうですね、女の子だったらやっぱりアパートメントタイプで、治安が良くて、魔道具を使ったお風呂にトイレ、キッチン付きに住むのが夢じゃないですか? 私もそんな家に住むのが夢なんですよ…そういう家に美少年と一緒に…ゴクリッ…ああすいません」

「そう言った物件ありますか?」

「それなら、このギルドの前にあるじゃないですか? 凄く大きな10階建ての建物、あれがそうですよ」

「昇るのが大変じゃないですか?」

「魔道具の昇降機がついていますから問題無いですよ…ちょうど10階が実は売りに出ていますよ」

「それで幾らなんですか?」

「それが急に田舎の家を引き継がなくちゃならなくて即金なら金貨200枚(約2千万)で良いそうです」

「それは安いんですか?」

「確か9階で同じような部屋が出た時金貨320枚だったから破格値です」

「それなら購入しようと思います…口座からの引き落としでお願いします」

「解りました…ハァ、マリルが羨ましいですね…イケメンで有能…あっなんでもありません…それで家具や必要な物はどうしますか?」

折角なのでそれらも頼む事にした。

マリルに相談するときっとまた遠慮すると思ったから。

ギルドに全部で金貨250枚払って、全て任した。

1週間後には引き渡しが出来るという話だ。

「それじゃ、よろしくお願いいたします」

「はぁ~本当に羨ましい…はい任されました」

◆◆◆

「マリル、実はプレゼントがあるんだ」

「セレスがプレゼント? 楽しみーーっはい」

手を出してくるマリルに…

「ごめん大きくて渡せないからちょっと一緒に出掛けよう」

「解かったわ、そう、お店で渡されるのね」

「そうかなぁ」

サプライズは解らない様にするのが良いって教わったからね。

「凄く楽しみだわ」

◆◆◆

「え~とギルド? 何?」

「違うよ、マリルこっち」

僕はあらかじめ購入したアパートメントの方に手を引っ張っていった。

「えーとアパート…何かしら?」

「良いから、良いから」

「なに? セレスどうしたの?」

「ここの10階を買ったんだ…行こう」

そのまま昇降機のマリルを乗せて10階を押した。

「え~とセレス…これ買ったの?」

「うん、どう、気に入ってくれた?」

「凄く嬉しい、だけど、どうしてこれを買ってくれたのよ」

「これから、死ぬまでマリルと一緒に居るんだから、部屋位は必要じゃないかと思って」

「確かにそうだけど…それだけ?」

「他の人に聞いたんだ! 結婚したらマイホームが必要だって」

「結婚」

死ぬまで一緒にいるんだから結婚したような物だよね…違うのかな。

「違うのかな? 僕の勘違い?」

「あははははっ、そうね、死ぬまで一緒に居るんだから結婚と同じね…うん、そうだわ」

なんで急にマリルは赤くなるんだろう? 呼吸も可笑しいし….

「マリル、鼻血が出ているよ」

「仕方ないじゃない! 私はこう言うのに免疫が無いんだからぁぁぁーーっ、全くもう」

顔を赤くしているがマリルが喜んでくれているのが解かる。

サプライズは成功したのかな?

キスだけで

セレスが部屋を買ってくれた。

しかも『結婚』という言葉まで使われてしまったわ。

悲しいけど、私にはまったく男性経験というのが無いのよ。

実家に居たころは才能のない私には縁談の話は全くなかったわ。

学園でも最下位の私によって来る男は居なかったんだから。

それがいきなり『結婚』という言葉を使われて動揺しないわけがないじゃない。

年齢=付き合ったことがない年数なんだから。

パートナーだから確かに一生離れることはないわ。

だけど、それと結婚は違うわ。

まぁ、人間のパートナーを呼んだなんて話は他にはないだろうから…ね。

『結婚かぁ~相手がセレスなら構わない…ううん、むしろ最高だけど』

私はセレスに何をしてあげればよいのかしら…

私、何もしてあげてない気がする。

そうよね…結婚するということは…そういう事よね。

胸は貧相だし…お尻は小さい。

まるで子供みたいだけど…顔は悪くないわ。

セレスだって、男ではあるんだから、性欲はあるはずだわ。

それしかないわね。

私は一人で下着を買いに出かけた。

◆◆◆

「ふぃ~良いお湯だったわ…セレスも入ってきたら」

「はい、それじゃ入らせていただきます」

この下着結構恥ずかしいわ。

『新婚さんならお勧めですよ』

何ていうから買ったけど、このベビドールもスケスケだし。

パンツも透けているし、変な所に穴まであるわ…下品だわ。

だけど、セレスも男なんだから、こういうのも好きな筈よね。

「マリル…あれ何で明かり消しているの?」

「良いからセレス、ほらね」

流石に明るい状態じゃ無理だわ。

「もう、寝るんですか? まだ早いですが…」

「違うわ…ほら、私たち結婚したみたいなものじゃない? だから…ほらね」

本当に鈍いわね。

「あの…マリル、そういう事はマリルが本当にしたいと思った時で良いですよ…体が震えているし」

「あのね、私だってセレスに何かしてあげたいのよ…だけど、こんな事しかできないの」

「そういう事は、マリルが性処理して欲しい…そう思った時に求めてくれれば良いんです…無理する必要はありません」

え~と性処理?

こういうのって『女が捧げて男が貰う』筈だわ。

それが性処理。

「セレスは私を抱きたくないの?」

「性的という意味なら、僕は勇者の欠陥品だから殆どありません。性欲はすごく低いんです。ですが『マリルを独占したい』そういう意味ならあります」

「それは欠陥品だから?」

「違います、恐らくは勇者って女神の使者だから、かなり性欲は低い存在が多いみたいです…一部論外な存在もいたらしいのですが」

「そう、なんだ…へぇ~」

嘘、それじゃどうしたらいいのよ。

「ですが、勇者の中には『女にもてるそんな加護やそっちの加護も貰っていた存在』も居まして、同じ能力も僕は持っています…ですから、性処理をしたいなら何時でも言ってくださいね」

なっ、なっなんて事いうのかしら?

それは…私が求めればいつでも『できる』そういう事よね。

だけど、最初くらいはセレスから…求めてもらいたいわね。

でも『性欲』は低いのね…仕方ないわね。

「そう、それじゃもう寝ましょう」

「はい」

◆◆◆

馬鹿じゃないの?

あんな事言われて眠れるわけないじゃない?

理想の美少年とこんなスケスケの下着つけて一緒に寝ているんだから。

私が目を開けるとそこにはセレスの顔があった。

「マリル、眠れないんですか?」

「せせせセレス起きていたの?」

「つい、マリルの寝顔が可愛くて見続けてしまいました」

「そ、そう?」

これで性欲が低いなんてひどいわ。

これ…欲が無いなら純粋な愛じゃない。

この状態でどうやって眠れっていうのよ。

「はい」

「あのね、セレス、さっき言っていた性処理の事だけど…」

「マリル、もしかして興奮して眠れなくなったとか?」

「違う…いえ、そうよ…正直言えば少し怖いわだけど…ね、興味なくもないわ」

ああっもう、自分から言うしか無いのかしら。

だけどさすがに『性処理お願い』なんて言えないわ。

「そうですね、それじゃキスだけでもしてみますか?」

「えっ、キス…そうよね…うん、お願い」

そういえば私、セレスとキスもした事なかったわ。

「うんぐ..うんうんうううー-っぷはぁ、うんぐ」

な、なにこのキス…普通はこんなんじゃ…あっあああ。

「うんぐううう..ハァハァちゅぷ、ああうんぐっううー-」

頭がぼうっとなってきたわ。

体に力が入らない…それになんで…体が熱い。

股の間が湿ってきて、涎が垂れ流し状態で恥ずかしいのに口が離せない。

「うんぐ、うんぐうんうんごくっうんううん? うううんっ」

何これセレスが私の涎を飲んでいる…私もセレスの涎を飲んで…これでもキスなの…

「ハァハァうんぐ、あああっうんうん、あああん、うぐっ
うう」

胸が顔が熱いわ…心臓も爆発しそうなくらいよ。

「うんぐ、うんうんああっうん、セレス、うんぐうんぐぷはぁ、うんぐうんぐごくっうんぐ、ぷはぁ」

※セレスはキスしかしていません。

「ぷはっうんぐ、うんぐっ..ダメっあああぁぁぁぁー-っうんぐ」

ぷしゅー-っ.。

嘘、今またから何か出た。

それに嫌…まさか

ちょろちょろ。

もしかして、私漏らしちゃったの..

だけど、だけど…セレスとのキスが…ううん、セレスのキスが気持ちよくて止まらない。

「あああーっセレス、うんぐううんあっううん、ぷはっうんぐ」

なんて舌なのよ..口の中が全部セレスの物になったみたいで、思考ができなくなる。

「あああー-っセレス、うんぐっうううんぷはっ」

セレスは息継ぎの時に口を離してくれるけど、最早喘ぎ声しかだsないし…下半身が股が切ない。

触られてもいないのにさっきからグッショリと濡れていて…何回もいかされて、おしっこまで漏らしているのに..止められない。

※セレスはキスしかしていません。

このキスがすごく気持ちよい…

嘘でしょう…私キスだけで10回以上いかされちゃった。

「あああー-っ」

目の前が白くなって、私はそのまま快感の中眠りに落ちた。

◆◆◆

なんだ、夢だったのかしら…こんな下着来ていたから、変な夢…あれっセレスが居ない。

まさか、また…あれっパンツもシーツもない。

ベッドは…ぐしゃぐしゃに濡れているじゃない。

これって…

「セレス..これ…」

「おはようございますマリル…さすがに濡れていたら気持ち悪いかと思って洗っておきました」

「そう、あはははっそうね…ありがとう」

私キスだけで…何回もいかされて、快感でおしっこまで何回も漏らして…パンツまで洗って貰っているの…恥ずかしい…もう開き直るしかないわ。

「どういたしまして」

「それでね、セレス、セレスはそのね」

「可愛らしいマリルが沢山見れて幸せですね…それになんだかマリルを本当に独占できたみたいで嬉しかったですね」

あくまで性的なものじゃないのね。

「そう…それならキス、これからもしていいわよ」

「ありがとう、マリル嬉しいよ」

だけど…セレスは凄すぎるわ…キスだけでこんな可笑しくなるなら、これ以上の事をされたら…どうなるのかしら。
想像すらできなくて怖いわ。

セレス君…それトカゲじゃないから
『働かざる者食うべからず』

だから、今日も僕は狩りに出た。

マリルは『もう一生困らない位のお金があるわ』そういうけど、人間サボっていちゃ駄目だ。

だから、働かないといけない。

僕は欠陥品、それを忘れちゃ駄目だ。

人一倍頑張らなくちゃ…駄目だ。

しかし、あの鳥やトカゲがお金になるなんて思わなかったな。

ワイバーンに地竜…冗談みたい…

シュミレーションじゃ『こんなのは子供でも狩れる』そう言われていたのに…可笑しい。

これがお金になるなら…黒いトカゲや赤いトカゲは幾らになるのかな。

凄く気になるな。

というわけで、岩場の谷まで来てみた。

「愚かな人間よ…我は静かに此処にいる、眠っている我を起こすような愚を」

ああ、このトカゲは煩い、幾ら話が出来ても所詮はトカゲだもんな。

「人間よ」

ああっ本当に煩い。

喋るから、狩りにくい…

これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ、これはトカゲ…

喋る奴はやっぱり狩りにくいな…まぁ良いや。

「トカゲと喋る趣味はないから…悪いけど狩らせて貰う」

「愚かな人間よ、喋れるなら戦いも回避できようが…齢6千年を生きる我に勝てる存在など居ない…もう良い、死にたいのなら何も言わぬ」

この手のトカゲは本当に煩い。

こういう自分こそが強いという事を馬鹿みたいに繰り返しいうし…本当にうざいな。

もう聞く耳は持たない。

「これが奥義、光の翼だぁぁぁぁー――」

「貴様ぁぁぁー――人間の分際でぇぇぇぇー-許さぬーーっ」

ああっ本当に全く。

はぁ~本当に自己嫌悪だ…こんなトカゲを倒すのに『奥義』を使わないとどうにも出来ない…はぁ自己嫌悪しかないな。

「我に勝つとは人間よ…誇るが良いぞ…さらば…じゃ…」

さてと肝はマリルの為にとっておいて、後はギルドに売り払っちゃおう。

◆◆◆

「すみません買取をお願いします」

「ひぃ、セレス君…またワイバーンか地竜でも狩ってきたの? あのどれ位?」

ギルドとしては嬉しいのですが、あの後解体やら色々あって2週間帰れなくなりました…また残業ですか…仕方ありませんね。

「今日は1匹だけです、ただ、少し大きいのですが…」

「そう1匹なのね…それならいいわ、裏の倉庫の所に出して置いて」

「いやですね、大きいって言ったじゃないですか? 倉庫になんて入りません」

え~と、今おかしな事聞いたのかな?

倉庫ならワイバーン数十羽、地竜だって同じく数十匹入るわ…そこに入らないって…いうの?

まさか、ギガントワイバーン、あんな災害級の化け物を狩ってきたの?

セレス君ならあり得る…あれ1羽で街が1つ壊滅するのに…

「ギルマス呼んできますね…そうだ、今なら空いているから、ギルドの裏で待っていてください」

「流石にあそこなら大丈夫…多分置けます」

「あはははっ待っていて下さいね」

私は走ってギルマスを呼びに行った。

「ハァハァ、ギルマス、セレス君が、セレス君がまた狩ってきました」

「はははっ凄いなアイツはこれでA級かぁ。これでこのギルドのエースだな、どれ俺も見に行くか?」

◆◆◆

「セレス君、お待たせギルマスを連れてきたわ」

「今日はどんな獲物を狩ってきたんだ、楽しみだ、此奴がギガントを狩ったとか言っていたが…」

「受付のお姉さん大袈裟だから…黒トカゲですよ」

「なんだ、ブラックリザードか、おい、ちゃんと確認しろよな」

「なんだ、そうだったんですか? 驚かせないでください…でも大きいんだから亜種かしら」

「折角だから見せてみろ…まぁワイバーン程じゃねーが、ブラックリザードの亜種はすげーよ」

僕は袋から黒トカゲを取り出した。

「嘘…嘘だろう…あっぁぁぁー-ああっ」

「ギルマス…これは..ああっー--っ」

「間違いない…此奴は冥界竜バウワー…世界を滅ぼせると言われている竜の一体だ」

「ただの黒トカゲですよ…大きいだけの、嫌だなぁ~」

「セレス君、これ黒トカゲじゃないからー――っ『冥界竜バウワー』魔王より強い、最強の竜の一体だからー-っ」

「それで幾ら位で買い取りできますか…」

「これはもうギルドじゃなくて、王族が一部買取りをして残りはオークションだが金貨10万枚(1千億円)は固いぜ」

「へぇ~これでそんなになるんですね」

そんなお金になるなら、白い奴と青い奴も今度狩ってこようかな。

「それじゃ、後のことはギルドに任せて良いですか?」

「良いぜ、こんな大物があれば我がギルドの成績は間違いなくトップ5入りだ、死ぬ気で仕事してやるぜ」

「あはははっ今度は1か月帰れないかなぁ~はぁっ」

「それじゃ、マリルが風邪気味なので帰りますね」

「ああっマリルにも宜しくな」

「ええっ伝えておきます」

僕はギルドを後にした。

◆◆◆

「ごめんね、ゲヘッゴホッ」

「僕こそごめん、看病もしないで狩りに行って」

「別にいいわ…ごはんまで作って出かけたんだから…本当に真面目ね」

「あのね…実は病気によく聞く素材があってそれを取りに行きたかったから、出かけてきたんだ」

「そうなの? こんな大した事ない風邪で大げさだわゲヘゴホ…」

「それでも心配なんだ、マリルが死んだら、僕は生きていけないから」

「ななななっ何を言うのよ…大げさよ」

「すみません…それで取ってきた素材で料理を作りましたから、食べてくれますか?」

「セレスが作ってくれたんだから、食べない訳ないわ」

はぁ~しかしセレスは凄すぎるわ…強くてすごい美少年で、家事まで出来るし…更に言うならあっちも凄いなんて…何処が出来損ないなのかしら?

あの伝説の賢者耄碌でもしたんじゃないの…

「あの、すごく不味いんです。薬膳ですから…その代わり効能は抜群です」

「大丈夫よ、セレスが私の為にとってきてくれたんだ物、絶対に食べるわよ…」

「ありがとうございます」

うっ…これがそうなの…確かにマズそうだわ。

ちゃんと焼けているのに…生臭くて気持ち悪そう…

セレスの料理じゃなくったらゴミ箱行きにするわよ。

「うげっゴホッ…ハァハァ…大丈夫よセレス、ちゃんと食べるわ」

不味い、本当にまずいし…苦い。

だけど、そんな目で見られたらパートナーとして『食べない訳にいかないわ』

「うがっげっうっ、もぐもぐ..ゴクリ…ハァハァ」

「マリル、無理しなくても」

「うげっごぼっ、食べるわ…見てなさい…」

私は死ぬ気で流し込んだわ。

何回戻しそうになったか解からないけど…セレスの為だもん全部飲み込んだわ。

「マリル完食してくれてありがとう」

「ハァハァ、だけどこれ本当にまずいわ…なんなの」

「黒トカゲの肝です」

「そうね…確かに風邪によく効いて滋養もあると聞いた事があるわね…でもここまでまずいのね」

「確かにまずいですね…だけど、これを食べるともう一生病気に掛からないし、死ななく…」

「セレス、流石にそれはないわ、滋養に良いとは聞いたけど一生病気に掛からない訳はないわ…ただのトカゲの肝だもの」

「そうかも知れませんね、だけど効いてよかったです。マリルの顔色も良くなりましたから」

「良薬は口に苦し…確かにこれは良薬だわ、気のせいか体がもう辛くない気がする」

「そう、それなら良かったです」

セレス…心配してくれたんだ…

『ありがとう』

粗悪品ですよ。

風邪が治ったので冒険者ギルドに行こうと思うのよ。

流石にセレス一人に寄生していられないわ。

お金がまだ、沢山あるとはいえ、自堕落に過ごすわけにはいかないわ。

「セレス、冒険者ギルドに行きましょう」

「そうですね、今のマリルは不老だし、基本的に余程の事が無いと死なないから、小物の狩りなら安心です」

「またセレスったら冗談ばかり…まぁ良いわ、行くわよ」

「はい」

◆◆◆

「あれが、エターナルラバー….」

「二人揃えば、魔王でも遊び半分で殺せるという、化け物パーティー…」

「やばいよ、俺、マリルを馬鹿にして酷いこと言っちゃったよ」

「俺なんか、押し倒そうとしたんだぞ…どうしよう」

「逃げるしかない…良いか、あの二人にはもう『法律』なんて関係ないんだ。怒らせたら国が総出で戦っても蹂躙されるだけだ…俺は田舎に帰る…死にたくないからな」

「ああっ、バウワーを殺した時点で、もう誰も何も出来ねーよ、多分、本当この世界の本当の支配者は『あの二人』だ」

「なんで、皆、こっちを見るのかしら?まぁセレスは凄い美少年だから解らなくも無いけど…目が合うと伏せて逃げ出すのは解らないわね」

「マリルが可愛いからじゃないかな」

「また、そんな事言って、そういう事、真剣で言ってくれるのはセレスだけだわ」

「そんな事無いですよ」

顔が赤くなる…じゃない

「と、とりあえず、足止めないで、あるくわよ」

◆◆◆

なんでカウンターを飛び越えて受付嬢が走ってくるのかしら?

しかも明らかに、仕事を放りだしたわね。

「『ジェノサイドクィーンのマリル』様に『英雄セレス』様、お待ちしておりました。ギルドマスターが奥でお待ちですのでサロンの方にお願いいたします…あと、私はエターナルの専属になりましたエミリアと申します。これからはカウンターに並ばなくて大丈夫ですので何時でも声を掛けて下さいね」

ジェノサイドクィーン? それ字(あざな)なの? それになんでサロンなのよ…

そうか、そうね、私は兎も角セレスはワイバーンを狩ったんだから、待遇が良くなっても可笑しくないわね。

「解ったわ、だけど前に居た…え-と誰だっけ? 口の悪い受付嬢はどうしたの?」

「ああっ、彼女なら他の支部に移転予定ですね」

「そうか、残念ね」

「残念ですか…ああっそれなら移転中止にします、ご安心ください!」

「そう…お願い」

なんでさっきから、ヘリ下っているのかしら? 

解らないわね。

◆◆◆

「待っていたぞ、エターナルラバー…ようやくこの間の狩りの概算見積が出たぞ」

「概算見積? 何それ」

なんの事なの?

ワイバーンや地竜のお金なら清算済みの筈だわ。

「まぁ良い、バウワーの買取り値だが、王族側の素材の買取り値段にオークションの買取り値段の下限を合わせて金貨12万枚(1千200億円)以上にはなる。肝があれば、18万枚も手が届いたが、まぁ切り取ったと言うことは使ったのだろうな…クリフ王が残念がっていた」

何を言っているのか解らないわ。

「はい、あれはどうしても必要だったんです」

「仕方ないな、まぁ誰かから依頼を受けたのか? 『不老不死』に『身体強化』誰もが欲しがるからな…まぁ無いのも頷ける」

「はい」

「…」

「それでな、『冥界竜バウワー』を倒したからクリフ王が『ドラゴンズスレイヤー』の称号と『八花勲章』の授与をして下さるそうだ、王から正式に書面が届く…凄な」

「それって凄い事なんですか?」

「ああっ凄いぞ、マリルは家を出されているからな、これで汚名が晴らせるんじゃねーか? 何しろ『ドラゴンズスレイヤー』を貰った奴なんて勇者以外いねーからな」

「それなら喜んで頂きます」

「…」

「あと、喜べ今日からこの世に8人しかいないS級冒険者だ、おめでとう、冒険者のトップだな。このサロンも使い放題だ」

「サロンって」

「ああ、この部屋で色々な話が出来る。茶菓子や食事、お茶は好きな物をこちらで用意する」

「あの…それは、マリルが好きな、スペシャルカップケーキもお願いできる。そういう事ですか?」

「ああっ可能だ」

「それじゃ、早速、ケーキとアップルシナモンティーをお願いしても良いですか?」

「ああ、いいぜ、それじゃ俺は仕事に戻るが、ゆっくり休んでいってくれ、じゃあな、期待しているぞ」

「ああっ頑張ります」

「…はっ、余りに突拍子もない話でフリーズしちゃったじゃない? 冥界竜バウワーって何? 国どころか世界を滅ぼせる竜じゃない!」

「あの黒トカゲが、そんな存在なんて知りませんでした、可笑しいんですよ? アレス様のシュミレーションでは『こんな奴子供でも倒せる、瞬殺出来なきゃ話にならん』そう言っていたんです」

嘘でしょう? 幾つもの国が連合組んで戦っても勝てない…そんな伝説の存在。

昔、暴れた時には大国を含む8つの国が2日間で滅ぼされたのよ。

「あの…もしかしてあの肝って…もしかして」

「はい、僕が倒した黒トカゲの物ですね。あれ伝説程凄くないんですよ? 確かに『不老』については本当ですが『不死』は眉唾です。首を切り落とされたり、胴体真っ二つ位なら再生して死なないですが…白いトカゲとかのブレスで消滅させられたら死んでしまいますし『身体強化』だってせいぜいが木々を飛び越えられる程度が精いっぱい、魔法もまぁ使えるようになるけど、アレス様には全然追いつかないそうです…粗悪品ですよ。ですが、もうマリルが病気にならなくなる…せいぜいが健康グッズです…さぁ、お茶とケーキ楽しみましょう?」

「そ…そうね」

セレスは…冗談は言わないわね。

後で、森に試しに行こうかしら…

あれっ…その前に..

「どうかしました?」

「えーと、『ドラゴンズスレイヤー』『八花勲章』『金貨12万枚』『S級ランク』」?」

「はい、これでようやく少しは贅沢できますね? 一息つけそうです」

「そうね…」

一息なんて話じゃない…もはや人生のゴールじゃないかな。

クリフ王とバルドール侯爵

「バルドール侯爵、ちょっと良いか?」

王宮でクリフ王に声を掛けられた。

なぜ声を掛けられたのか解らない。
「はっ別に構いませんがどういったお話しでしょうか?」

「君の娘のお話だ」

「私の娘のお話ですか?」

シャルがまた何か活躍でもしたのか?

「そうだ…彼女は凄く素晴らしいな、特に最近の活躍は素晴らしい物だ」

「そうでしょう…シャルは私の自慢の娘でして…」

そうか、シャルが何か活躍したのか、王の目に止まるなど、流石は我が娘だ。

「シャル?…そんな凡人の研究者では無い…そうか言い方が悪かったようだ、余が言いたいのは、お前が捨てた娘だ」

「なっ、するとマリルの方ですか? あいつが一体何をしたというのですか?」

馬鹿なあのマリルがか?

「冥界竜バウワーをたった二人で討伐、S級冒険者にてドラゴンズレイヤーだ。バルドール侯爵、なんでマリル殿を家から追い出したのだね? お前が繋ぎとめていれば、最強の配下を余は持つことが出来た…もはや帝国など恐れるに足らない。この国が大きくなる一歩を踏み出せた」

「あの、出来損ないがですか?」

本当にマリルなのか?

「なぜ、お前は自分の娘を色眼鏡で見るのだ、全く、出来損ないと言うのなら、お前の他の二人の子供だ、アントニーは宮廷騎士だがせいぜいがオーガが狩れるかどうかだ、シャルという娘はアカデミーの成果も芳しくない」

「二人の事をなぜ王は知っているのですか?」

「ハァ~、マリル殿があそこ迄の実力なら、他の兄や姉も何かあるか調べるだろうが…マリル殿と違って二人とも只の凡人であった…本当に使えぬな…なぁ、今回国は、金貨4万枚(約400億)の素材分をマリル殿から買い受ける、だがもしマリル殿が余の家臣なら他の素材も国がもらい受ける事も出来たのだ…さらにマリル殿はこれから先も同じような素材を手に入れるかも知れぬよ」

「ま、マリルがそこ迄の逸材だったのですか?」

「今回は余の方から千年近く授けた事のない『ドラゴンズレイヤー』の称号と一番栄誉ある『八花勲章』を授ける事とした。なぁ勇者ですら手にできにくい栄誉を送るのだ…そこまでの存在がなぜ、家を追い出されるのだ…お前の目は節穴か?」

「そんな、マリルは私が知る限り、才は無く」

「大器晩成という言葉もある…大方マリル殿はそういうタイプだったのだろう…それも見抜けぬとは本当に情けない」

「にわかに信じられません」

「余は事実を言ったまでだ」

「クリフ王、何やら面白そうな話ですね」

「おおっマルスン宰相、いやなに件のマリル殿について話をしていたのだ」

「エターナルラバー『ジェノサイドクィーン』のマリル殿ですね」

「そうだ、この馬鹿が実の娘の事なのに何も知らぬのだ」

「パルドール侯爵も惜しい事をしましたな、冥界竜バウワーを2人で倒せるような女傑を家から追い出すなど愚の骨頂ですぞ」

ジェノサイドクィーン? あのバウワーを倒した?

あのマリルが…

「お前は叙勲の際は王宮に来なくて良い」

「なぜでございます」

「主役はマリル殿だ、気を悪くされては困る、そんな事も解らぬのか? 暫く余はお前の顔を見たくない、王宮にも用が無いなら来る必要は無い」

そう言われるとクリフ王は不愉快そうに歩いていかれた。

◆◆◆

「マルスン宰相、先ほどの話は本当でございますか?」

「残念でしたね。もし貴方の手元に居れば『王宮魔法師団長』もしくは『宮廷護衛騎士団長』どちらかは確実。貴殿の一族の悲願である公爵にも手が届きましたものを…」

「ならば、今からでも遅くは無い」

「マリル殿には手出し無用にして頂きたい、これはこの国の指針です」

「なぜですか? 私の娘です」

「良いですか? 娘などと思わないで頂きたい。マリル殿は…もはやこの国の最重要人物…王ですら気を遣う存在なのです。くれぐれも粗相のないように振舞ってください」

「そんな馬鹿な…」

「冗談ではないですぞ…冥界竜バウワーを倒した存在を敵に回したら…国ごと滅びます。最早この国で一番の力を持っているのは王ではない。エターナルラバーこそが最高権力なのです…忘れないで頂きたい」

マリルが…あの馬鹿が…最高権力。

一体、何が起きているのだ…駄目だ頭が回らない。

セレス君は心配性

マリルに誘われて森に来た。

黒トカゲを食べて確かに強くはなったけど…

もっと強いのが山程いるんだから、心配だ。

出来る事なら街から出てほしく無いのに…

「セレス、ねぇ、私ってどれ位強くなったのかしら?」

「ほんのちょっとですよ? 期待する程じゃありません」

「だけど、伝説の冥界竜バウワーの肝を食べたのよ…そんな訳ないじゃない」

鳥や普通のトカゲならどうにかなるかも知れないけど…

『我こそはこの世の支配者だー-』なんて変人に少し抵抗できて何とか逃げ切れる位。

やりあったら、運が良くないと勝てない。

それしか強くなっていない。

ああぁ、なんで周りは無責任な事言うんだよ。

「そうかな? ただの黒トカゲだよ…まぁ大きいけど」

「違うから…バウワーだから…それに私ってジョブが無いから魔法が真面に発動しないのよ…だからどんな魔法でも使えたら恩の字なのよ」

「ジョブが無い? それはマリルにとって困ることなの?」

「そうよ、平民ならともかく貴族だったんだから、最悪よ…おかげで家を追い出されたのよ!」

「それじゃ、マリルはジョブが欲しんだ」

「当たり前じゃない? どんなジョブでも例え『お針子』でも欲しいわよ」

そうか、ジョブってそんなに欲しいの…僕は出来損ないだけど、ほぼ全部のジョブを持っている。

そんなに欲しがるものだったのか…

僕のジョブには『付与師』がある。

僕はマリルのジョブスロットを見た。

う~ん二つしか無いのか…勇者と聖女は特別だから、付与は難しいし、僕ですら上手く使えない。

そう考えたら…う~んやっぱりマリルが心配だから『剣聖』『賢者』が良いかな。

うん、これが多分…良いな。

「それじゃ、マリル『賢者』『剣聖』とかのジョブは欲しい?」

「四大ジョブじゃない?欲しいに決まっているわ」

「そう?」

それじゃこの二つをコピーして付与と。

ついでだから、スキルも見るかな。

あちゃ~スキルスロットも3つしか無いのか…

だったら『全属性魔法の才能』『限界突破』を入れてあと一つは空けておこうかな。

「当たり前じゃない? そんなジョブが手に入るなら、死ぬほど努力するわよ」

良かった、もう付与した後だよ。

「それじゃ『限界突破』とか『全属性魔法の才能』とかのスキルは?」

「それ伝説のスキルだから…欲しいに決まっているわ…ってなんで私光っているのよ?」

それじゃ付与。

「マリルが欲しいっていうから『付与』してみました」

「それってどういう意味?」

僕はマリルに付与した事について話した。

「ハァ~それじゃ私は『賢者』に『剣聖』のジョブに『限界突破』と『全属性魔法の才能』のスキル持ちになったというの?」

「一応はそうだけど、碌なもんじゃないですよ?」

「何で…伝説みたいな話じゃない!」

「多分、剣聖グラフォードになら勝てるかもしれませんが、成長しても本当に強い『剣聖、ソード』相手なら確実に負けますよ? 魔法だってたかが知れています」

《ちょっと待って『剣聖グラフォード』になら勝てるって言ったわよね…伝説のドラゴンズレイヤーじゃない?ソードに負ける? 言葉使いはきもいけど歴代最強の剣聖よ》

「あのソードに負けるって少しは持つの?」

「少しは…ですよ」

「あの、剣聖ソードってどんな相手も一太刀で倒したって言う伝説があるのよ?」

「まぁ成長したらですよ、マリルも『腐っても剣聖』なんだからってことです。それじゃ、折角ですから魔法の練習でもしますか?」

「私、魔法が本当にうまくいかないのよ…」

「それじゃ、簡単なファイヤーボールからいきましょう」

「そうね、私やってみるわ…ファイヤーボール..何?」

杖が光るとまるで小型の太陽のような輝きのボールが出た…どう見ても直径で10メートルは超えている…

それが木々を燃やし尽くしながら飛んでいき数百メートルの木々を燃やして止まった。

「あああっ、あのセレス?」

「やはりこの程度かぁ~やはりマリルが心配です。できたら街から出ないでほ…」

「いあ…あのセレス…これファイヤーボール…」

なんで驚いているのか解らない。

「まだまだ未熟ですよ…僕がシュミレーションで戦った変人なんて『これが余のファイヤーボールだ』なんていって都市一つ壊滅させるファイヤーボールを投げるんですよ! もっと凄いのもいるんです…そのレベルじゃ、弱い変人とどうにか戦える位なんです…」

「え~と多分、それ言っていたのって確か物語に出てきた『大魔王』だから…冗談よね」

「ただの変人です。あとはこれ使ってみてください」

僕はただの鉄の剣を渡した。

「鉄の剣がどうしたの?」

「折角だから使ってみない?」

「そうか、私『剣聖』でもあるのね」

「まぁどちらも女神様がくれる物を解析して作った劣化版、アレス様曰く『始まり』には届かないそうです…それじゃ」

「そうね…あの岩も木も簡単に斬れるじゃない? 凄いわ」

「まぁ『腐っても剣聖』だからね…だけど、この程度じゃ、喋るトカゲには適わないからね、鳥や喋らないトカゲだって10も倒せば限界だから…本当に気をつけてね…僕は心配で仕方が無いんだ…マリルが怪我したら僕は、僕は…」

《全く、それってワイバーンや地竜の10体位なら倒せるし、将来はあのグラフォードに勝てて並みの魔王には勝てるって事よね。だけど…》

「そうね、セレスが心配するといけないから、気をつけるわ」

「うん、そうしてくれると僕も嬉しいよ」

《本当にセレスは心配性なんだから…まぁ嬉しいんだけど》

家族会議

これは家族会議をする必要がある。

クリフ王が半分お怒りだ。

今までは、侯爵という家柄のおかげでよく声を掛けて貰えた。

私の代になって、いや歴代のパルドールの党首で『顔を見たくない』そこまで言われた者は無い。

しかも『王宮にすら用がないなら来るな』という事は、事実上、城には来てほしく無い。

そういう事だ。

『まずい』これは本当に不味い。

しかも、マルスン宰相から「マリルに関わるな」と言われた以上は、関わることは出来ない。

しかも…叙勲の儀式に我が家は立ち会う事すら許されない。

ほぼ全ての貴族が集まる、叙勲…さらにこれ程の功績だ、その後はパーティーに恐らくパレードまで行うだろう。

その全てに『我が家は関われない』

莫大な利益に王からの信頼…我が家の宿願であった『公爵』その全てに手が届いたはずがこれだ…

私は…マリルを傍に置いて置きたかった。

才能があるからじゃない。

才能が無くても娘なのだ、愛情はある。

だが、家族の口車に乗って馬鹿なことをしてしまった。

恨まれても仕方がない。

例え、才能が無くとも、我が家で普通に暮らさせればよかったのだ。

魔法学園からも追い出さず…せめて様子を見るべきだった。

今活躍しているという事は、あと半年様子を見れば、才能が開花したはずだ。

「カロリーヌ、話がある」

「何か御用ですか?」

「マリルの事だ」

「あの出来損ないがどうかしたのですか? また何かやらかしたのですか? もう家を追い出して貴族籍から抜いたので他人…放っておけば良いのです」

「そう思うのか?」

「そうですよ、兄のアントニーは魔法の才能、姉のシャルは研究者として国に仕えているのに、あの子は何の才能も無い出来損ないなんですから」

「それはお前の目が節穴だったからだ…私は魔法学園卒業までは傍に置きたかった」

「あなた…あんな子が居たら、二人の縁談に差し障るのよ、あんな出来損ない….」

「八花勲章…」

「勲章がどうかしたのですか?」

「今度、マリルがその勲章と『ドラゴンスレイヤー』の称号を貰う…そして我が家はその権利に一切関れない…その意味が解るかね」

「馬鹿な、あのマリルがですか…そんな…」

「しかも、冥界竜バウワーをたった二人で倒した…これのどこが出来損ないなのだ! なぁ? 最早国ですら手が出せない位の実力者だ…」

「そんな…あのマリルが…」

「家族で話し合わなければならない…今後どうするかをだ? 二人にも声は掛けてあるから直ぐに戻ってくる…ハァ~頭が痛い」

◆◆◆

「ハァ~マリルが、そんなのは眉唾ですよ? 父上馬鹿らしいですよ」

「そうよ、あの出来損ないのマリルが、そんな訳ありませんわ」

「だが、マリルの事は王に宰相、他の貴族に知れ渡っている」

「ですが…そうですわ、マリルじゃなくて一緒の男性が優秀なだけですわ」

「父上、魔法学園最下位の人間が満足に魔法が使えるとは思えません」

「そうよ、あの運動音痴のマリルが、そんな簡単に強くなるとは思えませんわ」

「あなた、こんな短期間にそんな、強くなる方法なんてないわ」

「だが、どうすると言うのだ?」

「父上、すべて私にお任せ下さい…貴族の権力でねじ伏せて見せます」

「そうね」

嫌な予感がする、だが、もう我が家には跡が無い。

マリル…

私は…この家族の提案を蹴ることが出来なかった。

「解った、全て任せる…」

どちらが正しいのか解らない。

だが、この結末がどうなろうと私は責任を取るつもりだ。

決闘
今日はマリルと一緒に王城に行く日だ。

とりあえず『ドラゴンズレイヤー』の称号と『勲章』の授与を受ける日。

僕にとってはどうでも良い日だが、マリルにとっては全然違うらしい。

「そんなに緊張する事なの?」

なんでか、いつもと違ってカチンコチンだ。

「そりゃ緊張するわよ! 落ちこぼれと言われた私が、国王様に会うのよ…しかも直々に勲章が貰えるなんて、今でも夢みたい…これで実家のお父様たちもきっと認めてくれるわ」

黒トカゲレベルを討伐しただけで…こんな栄誉が貰えるなんて。

この国はかなり他の国より甘いのかな。

まぁ良いや…街を見て歩いても騎士を見ても、今の所マリルより強そうな人間は見たことが無い。

凄く、安全な国だな。

「セレス様、マリル様、お迎えに参りました」

「嘘っ!ユニコーンの馬車に八花の王家の紋章なんて…」

なんでそんなに驚くのかな?

あれがマリルが欲しいなら何時だって捕獲してくるのに…

「そんなに驚く事はございません、貴方はこの国にとって、王にとって重要な人物なのです。この位は当たり前です。さぁどうぞお乗りください。この馬車は王家の馬車の中でも最高の六輪の車の馬車、高位貴族ですら乗れない最高峰の物です。恐らく王族以外で乗るのはお二人が初めてなのです…さぁどうぞ」

まだ固まっている。

仕方がないな…

「さぁマリル、手を」

「うん」

僕が先に馬車に乗りマリルを引き上げた。

恐らく僕がしなければお付きの人がしたと思うけどね。

「凄いわ、この馬車、中にお茶のセットまであるわ」

「確かに、お菓子にお茶は良いものですね」

御者から声が掛けられた。

「はははっこれは内緒ですが、パレードの時にはもっと大きな馬車を王が作ると言ってらっしゃいました。それこそ遠くからでも見える位の大きな物らしいですよ」

「凄いわ」

「確かに凄いね」

そんな物に価値は感じない。

だが、マリルが喜んでいるから良いか。

◆◆◆

王城につき門を通り、まさに入ろうとした時に声を掛けてきた人物がいた。

「よう、マリル」

「久しぶりねマリル」

「アントニーお兄様にシャルお姉さま? もしかして二人もお祝いに…」

マリルの顔が綻んだ気がした。

良かったな…

「違うな…ドラゴンズレイヤー、マリル貴様に決闘を申し込む」

そういうと、この男はマリルに手袋を投げた。

「待ちたまえ、マリル殿はこれから受勲だ、そのめでたい場所で決闘騒ぎなど言語道断だ。護衛を任されている者として見逃せない」

「ほう…だが決闘は貴族としての当然の権利、それは国王とて阻めない筈だ」

マリルが悲しそうな顔になった。

『此奴は許せない』

「そうか、それならパートナーとして僕が受けよう」

「馬鹿か? 俺が手袋をぶつけたのはマリルだ、ゆえに相手はマリルだ」

「そうか」

まぁ良いや…心配だから様子を見たけど…全部アリ以下の存在だ。

『この城に居る人間全員』でもマリルなら十分倒せる。

心配しないで良いよな。

「お兄様、この決闘は…お父様やお母様も知っているのですか?」

「ああっ勿論だ」

このいけ好かない男の視線の先には中年の男と女がいる。

あれが多分、マリルの親だな。

◆◆◆

誰かが話に行ったのか貴族達がこの場に集まってきた。

後ろから王冠を被った数人がこちらに来た。

多分、王族だ。

「一体、何が起きたのだ、これから受勲だと言うのに」

「はっ、クリフ王、パルドール侯爵の息子と娘がマリル殿に決闘を申しこまれました」

「なんと、これから式典があると申すに、決闘騒ぎなど、パルドール侯爵、申し開きはあるか?」

「お恐れながら決闘の権利は貴族の権利、王族とて止める事は出来ませぬ、ましてマリルはもう貴族にあらず、故にこの決闘を受けぬという道理は通りません」

「なっ」

「だが、パルドール侯爵、これから受勲という時に縁を切った娘とはいえ、この騒ぎ、大人気ないのではないか? 更に今回の式に貴方達は招待していない筈だが」

「宰相殿、それが気に食わないからの決闘ですぞ」

「この国だけじゃない、他国からの来賓も居るのに…なんて事を..」

「貴族の権利を行使するまで」

ああっ不味いマリルが泣きそうな顔になっている。

『許せない』最悪、この場に居る人間全員、皆殺しにしてしまおうか?

「貴族の権利を持ち出されては仕方がない、この決闘を許すとしよう…それで時と場所は?」

「今、この場所…そして時は今でお願いする」

マリルは決闘をしたくないのだろうな。

だが、これじゃ、しない訳にいかないだろうな。

「あの、こんな場所で戦ったら、怪我人や物が壊れる可能性があるので止めませんか?」

「逃げるのか?」

「そうじゃない…正論を言っただけだ」

「平民の分際で、もし怪我人や物が壊れたなら、こちらが全部その費用を負担しようじゃないか」

「王様、これも付け加えて下さい」

「解った約束しよう…客人である二人に…申し訳ない」

これで一つは解決した。

◆◆◆

「マリル、マリル、しっかりして」

「…そんな、お兄様がお姉さまが…なんで、なんでなのよ…」

駄目だ、さっきからショックで頭が回ってない。

仕方がない…

「マリル、何か衝撃がきたら、ファイヤーボールと剣を振る事」

そう伝えて杖と剣を握らせた。

まぁ、今のマリルなら眠っていても攻撃を躱すから良いや。

当たっても多分『痛いじゃない』で済むだろうし。

「それじゃ..はじめ」

あの二人。何をする気だ。

「ふん、私は宮廷騎士団故に、宮廷騎士団36名で相手する!」

「私はアカデミーの誇る戦闘魔法メイジ18名で挑むわ」

「卑怯じゃないか?」

「ふん、貴族にのみ助太刀は許されるのだよ…ドラゴンスレイヤーならこれでも余裕だろ!」

まぁね…

「マリル、いい加減目を覚まして、ファイヤーボールに剣を振って!」

「…ぶつぶつ…家族して..あっごめんセレス『ファイヤーボール』「えー-いっ」

前と同じ10メートルはあるだろうファイヤーボールが飛んでいき、近くの物を消し炭にしながら王城に飛んで行った。

触れた者は炭のように焼けただれていく。

更に剣劇は風の刃となり周囲の者を真っ二つに切り裂いた。

相手だけではなく、王も貴族も来賓も上下に真っ二つか、炭みたいに焼けて死んでいる様に見える。

最早、目に入る範囲で生きているのは…僕とマリルだけだ。

まぁ、当たり前だ。

幾らマリルが弱いと言っても『マリルは僕側の人間だ』

アリが体を鍛え、最強のアリになっても、人間の赤ん坊が倒れただけで潰れて死ぬ。

人間とアリ、その位の差はある。

「あああっセレス、私、私…沢山の人を殺しちゃった」

「別に良いんじゃない? さぁ帰ろうか?」

「嫌、嫌いやぁぁぁぁぁー――っ」

仕方ないな…マリルの為だ。

『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』『パーフェクトヒール』

「はい…全員生き返らせた…これで良い」

「…うん」

「この決闘はマリルの勝ちで良いんだよな?」

「間違いなくマリル殿の勝ちだ」

「そう、それなら良かった…あと壊した物の弁償はマリルのお兄さんがするんだよな」

「その通りだ、それは決闘前に約束した」

「それなら良かった」

「どうしたというのだ」

周りの貴族は真っ青な顔をして見ている。

特にパルドール侯爵家の人間は死んだような顔になっていた。

マリルも顔は青い。

「嘘だ…」

そりゃ顔も青くなるか…何せ王城が半分近く崩壊しているんだからな。

僕は走り出すとサーチの魔法を使った。

幸い、ほとんどの者が決闘騒ぎで外に居た為負傷者は8人しか居なかった。

めんどくさいので8人にも『パーフェクトヒール』を掛けた。

これで負傷者はいない筈だ。

流石の僕も城は直せない。

「そうそう、クリフ王に言っておく。パルドール侯爵は貴方の家臣だ。確かにマリルの元親かも知れないが縁は切れている。 その家臣がここまで無礼を働いた。この責任をどう感じる? 今日はマリルの精神も穏やかでないから帰る。場合によってはもう称号も勲章も要らない…この国から出ていく事も視野にいれて考える。不愉快だ」

「待ってくれ」

「待たない…謝罪なら後で来い」

「この国が嫌になったなら帝国に来ると良い…すぐに九柱騎士の団長に取り立て、欲しければ公爵にしてやるぞ…帝国は強い奴が好きだ…がはははっ」

「待ちなさい、此処から出ていくなら是非、聖教国へ『パーフェクトヒール』が使えるなら大司教の地位を用意しますぞ」

僕は泣いているマリルの顔をマントで隠すと『考えます』とだけ伝えてその場を後にした。

帝国

決闘騒ぎとは、何とも面白い。

クリフの若造が『ドラゴンスレイヤー』の称号を贈ると通達してきおった。

どうせ、せいぜいが火竜でも狩ったのか、そう思ったが、あの『冥界竜バウワー』を狩ったのだという。

何の冗談かと思えば…本当に王国に素材が出回っておった。

これは由々しき問題だ。

我が帝国と王国は戦争こそしないものの仲は決して良くない。

そんな国に、そんな猛者が現れたのなら、この世界の勢力図が傾いてしまう。

だが…

「あの二人が件のエターナルラバーか?どう見てもただの若者にしか見えないが…ギルフォード、どう思う?」

「はっ、帝王様、男の方は兎も角、女の方は…只の少女にしか思えません…隙だらけで、あれなら秒殺も可能です」

「それでは、大した実力者では無い…そういう事か?」

「はっ、その通りでございます…ですが、あの男は…」

「男の方がどうしたと言うのだ」

「かなりの強者です。私とて必ず勝利を拾えるとは思わぬ程の恐怖を感じます」
「『剣聖』のギルフォードが恐怖を覚える相手か…気になるな」
確か少年の名はセレス、心に刻む必要があるな。

「いや、幾ら強くてもまだ若い、脅威になるのは10年後でしょう」

「それなら、今は静観でよいな」

「その通りでございます、ガルバ帝王」

今の時代に『勇者』『聖女』『賢者』はいない。

だが『剣聖』だけは現れた。
その『剣聖』こそが、ギルフォードだ。

ギルフォードを臣下に迎える為に…幾ら使ったか解らぬ。

そのギルフォードからして『冥界竜バウワー』等倒せぬ。
大方寿命で死に掛けたか、ほかの『支配竜』と戦い傷を負った状態だったのだろう。

「はじまります」

「うむ」

どうやら決闘が始まるようだ。

「マリル、何か衝撃がきたら、ファイヤーボールと剣を振る事」

「ふん、私は宮廷騎士団故に、宮廷騎士団36名で相手する!」

「私はアカデミーの誇る戦闘魔法メイジ18名で挑むわ」

「卑怯じゃないか?」

本当に卑怯だ女1人に大人数。
帝国なら勝っても誰も称賛などせぬ。

「ふん、貴族にのみ助太刀は許されるのだよ…ドラゴンスレイヤーならこれでも余裕だろ!」

真のドラゴンスレイヤーなら余裕ではあるが、あの少女震えているではないか?

大丈夫なのか? 明らかに動揺しているぞ。

「マリル、いい加減目を覚まして、ファイヤーボールに剣を振って!」

「…ぶつぶつ…家族して..あっごめんセレス『ファイヤーボール』「えー-いっ」

なっ、なんだこの攻撃は…まるで魔王ではないか?

「危なかったですな…帝王様、訂正します。あれこそが王者の剣、私でなければ…」

「ギルフォード――っお前、体がー-」

目の前で魔剣クラソと共にギルフォードは上下にゆっくりと離れていった。

そして、この俺も…終わりだ。

目の前が暗くなった。

これが死という物か…

「パーフェクトヒール」「パーフェクトヒール」

「…」

「…」

生き返ったのか?

そんな馬鹿な…パーフェクトヒールは『死んでなければ何でも治す』最強回復呪文。

そんな者を行使する者が存在する…訳が無い。

あの呪文は『聖女』の中でも優秀とされる者が唯一覚えられる究極呪文。

それに『人間が使ったのでは死人は蘇られない』更に連発など出来ぬ。

「ギルフォード?」

なぜギルフォードが泣いている。

「ああっ、私は見誤りました…彼らこそが私の真の仲間…4人のうちの2人なのです…ああっ帝王様」

「それなら…何がなんでも我が国に貰わなければな…だがギルフォード、お前は良いのか? 帝国最強の名前が名乗れぬぞ」

「そんな物何時でも返上します。あの二人こそが、私の生涯の仲間であり友なのですから」

「なら決まりだな、何がなんでも我が国に迎えるぞ」

「はい」

世界の四職の内2職が目の前に居るのだ…手段は選ばぬ。

◆◆◆

「この国が嫌になったなら帝国に来ると良い…すぐに九柱騎士の団長に取り立て、欲しければ公爵にしてやるぞ…帝国は強い奴が好きだ…がはははっ」

まずはこれだ。

勲章なんてもので誤魔化さね。

最初から爵位でぶつける。

聖教国

こんなめでたい席で決闘騒ぎなど…馬鹿な事をするものです。

「教皇様、こんな野蛮な国、さっさと去りましょう」

私が教皇ロマーニ様に仕えて3年がたちます。

まだ、見習いですが可愛がられてこうして傍に仕える事を許されました。

私の周りには教会屈指の聖騎士が5人教皇様を守る為にいます。

この聖騎士は聖教国きっての腕利きです。

「まぁ、待ちなさい、あのバウワーを倒した者の実力、見させてもらいましょう」

その後は散々です。

一回なんて私共々、教皇様や聖騎士も死んだ位です。

ですが、さすがは教皇様…

「待ちなさい、此処から出ていくなら是非、聖教国へ『パーフェクトヒール』が使えるなら大司教の地位を用意しますぞ」

とだけ伝え、その場を去りました。

◆◆◆

「ロマーニ様、本当にあれで良かったのでしょうか?」

私事、教皇ロマーニは怒りで体が震えています。

「良いわけありません、まずは『パルドール』の関係者は全員破門にします。あとはクリフ王には教会を通じて二人の身柄の保護をして頂きます」

私はあの時気が付いてしまいました。

セレス殿は恐らく…最低でも天使、もしかしたら神かも知れません。

『パーフェクトヒール』は『死んでいなければ何でも治してしまう究極の呪文』です…ですが死人は生き返らえせる事は出来ません。

もし、それが出来る存在が居るとすれば『天界の住民』か『女神に愛されている愛し子様』です。

過去の教会の文献に『死んだ人間を蘇らせた存在』は二人いました。

片方の方は『天使長』片方の方は『女神の騎士』でした。

そう、あのセレス様は人間ではないのです。

人間で一番偉いのは私教皇と言われますが…それはあくまで建前です。

信仰対象である『セレス様』と比べて良い訳がありません。

それにあの『マリル様』あれほどの剣に魔法…四職に間違いありません。 場合によっては『勇者』の可能性すらあります。

「よく堪えましたね」

「セレス様やマリル様の事を思えば、あそこでパルドール等、斬り捨ててもよかったのですが…」

「それを貴方が行えば、折角、正体を隠しているお二人に迷惑が掛かります」

「それでは、どうなさるのですか?」

「あくまで、表向きは大司教としての勧誘…ですがあの二人が望むのであれば『欲しい物はすべて教会で差し上げましょう』そういう勧誘でいこうと思います」

「具体的にはどうしますか?」

「あの二人は相思相愛なのでそれは壊してはなりません…そうですね、まずは『友人』になる。そこから始めましょうか?」

「「「「「はっ」」」」」

聖教国も動き出した。

パルドールの最後?

「さて、パルドールとそこの者達、この責任をどうとるというのだ?」

もう終わった。

『侯爵』もつけなければ、名前も呼ばず『そこの者』最早なにも取り繕う事は出来ない。

もう死ぬしかない。

この決闘が始まる時から覚悟はしていた。

『私はもう死ぬしかないのだ』と。

もし、アントニー達が勝ったとしたら、マリルは大罪人…実力も無いのに騙して栄誉をかすめ取ろうとした娘となる。

幾ら追い出した娘だとしても忍びない。

『命乞い』には私の命が必要だ。

逆にマリルが勝ったら『栄誉ある祝典をつぶし、王や他の貴族の面目を潰した』

その責任は私にある。

最初から『私の命は無くなる』それは解っていた。

あの時の家族の様子から…何を言っても無駄というのは解っていた。

こうなった時の覚悟はできている。

「パルドールの家名、家督はすべてマリルに譲る、領地、資産は金貨1枚に至る迄、全て今回の責として国に支払う…そして我ら4名は、今回の責として『即刻貴族として名誉ある死』を、これでも足りないのは解っておりますが、何代もの間仕えてきた忠誠に免じ、これでお許し下さい」

「待ってくれ父上…俺は死にたくない」

「嫌だよ…私は死にたくないよお父様~」

「そんな、せめて子供たちだけでも…」

「見苦しいぞ…お前たちは負けたんだ! 卑怯な事迄して負けたんだ! 王や他の貴族の前で恥を上塗りするな!」

「待て、私はそこ迄望んでない…流石に命までとろうと思わぬ…」

「そこまでの事ではないと思う…領地を売り払い、弁償、それでおさまるはずだ」

「クリフ王にマルスン宰相…それでは、今私が差し出した物から3名の命だけ返して頂こう…」

「待て…」

「死んでお詫びする…目の前を血で汚す事、お許し下さい…ごめん」

「待ちたまえ!」

「お前は、ギルダー伯爵!」

駄目か、邪魔が入った。

本当の意味でおしまいだ。

「貴殿は勘違いしておる。決闘で負けた者の命をどうするかは勝者が決める、アントニーの命とシャルの命をどうするか決めて良いのはマリル殿だ。更に宮廷騎士団36名に戦闘魔法メイジ18名も生殺与奪の権はマリル殿にある…衛兵よ何故動かぬ、アントニーとシャル、それに加担したもの全てを拘束して捕縛せよ! その後の賠償は、話し合いだが…貴公が思っている程安くはない」

「「「「「はっ」」」」」

やはり、間に合わなかったか。

「ギルダー、それは余りに厳しすぎるのではないか?」

「なぜそう思うのだ」

「騙されてはなりません。王宮が壊れた…それはそれで大変ですが、肝心な事を忘れております」

「私が何を忘れたというのだ!」

「王宮の壊れた部分の中には宝物庫がございます。私の勘違いでなければ、エリクシャールをはじめとする国宝級の代替えの聞かぬ宝が恐らく無数破損しているはずです。 果たしてそれらの貴重な品の弁済がいかに侯爵とはいえ領地を手放すだけで足りるのでしょうか?」

「確かにクリフ王…言われてみれば、パルドール全部と交換でも全然足りませぬな」

「そういう事になるのか…ハァ、どうしたものか?」

馬鹿な息子に娘だ、マリルが魔法を放ったあの瞬間から、最早我らはスラムの住民以下になってしまったのだ。

あのまま『すぐに死を受け入れる』それが唯一の救いだった。

そうすれば、ギロチンで楽に死ねただろう。

だが、救いはある。

「いえ、そうはなりませぬ、息子と娘は今すぐ処刑すべきです」

「そんな父上、私を見捨てるというのですか?」

「そんな、お父様」

「その権利は、お前にはない…そういう話ではないか?」

「それは違います。彼らは決闘で負けました。その際に巻き込んで教皇様、帝王様を殺しています。その責は勝者のマリルに求めるのは間違っております…ならば王族に手を掛けたその責は息子と娘にある。即刻死刑が妥当かと」

「…どうしたものか? マルスン何か良い方法はないか?」

「他国の来賓の方は出て行ってしまわれました、直ぐに使いの者を行かせ、数日この国に滞在して貰えるよう頼みました。 正直この話は大きすぎます、幸いここには、この国の大半の権力者がおります、この後会議をされるのが宜しいかと思います」

「それしかあるまい…パルドール侯爵、すまぬが話が終わる迄牢屋に繋がせて貰う…話はその後だ」

「解りました」

「「「…」」」

もう私にはどうする事も出来ない。
さっさと『4人して死んで、領地で償えばそれが一番良い方法だった』

宝物庫やマリルの権利や他国の王を殺してしまった。

その現実に気づかれる前に『済ませたかった』

その状態でパルドールの名前をマリルに渡せば、パルドールの名だけは残った。

つまり『家』は残せたのだ…

だが、もうそれも終わりだ…

もう、何も残せない、ただ汚名を残し…この後の人生は『死よりつらくなる』

今楽に死ぬ…それが最良の選択だった。

「お父上」

「お父様」

「あなた…」

「意地汚く、生にしがみつきおって、潔さも知らぬのか? 『死ねなかった』その辛さをかみしめて生きなさい。私も同じだ」

もう私にできることは無い。

パルドールは恐らく名前も残らず終わりだ。

裁きに従うそれ以外にもう私たちに出来ることは無い。

教皇は隣人?
とりあえず、家には帰ってきた。

マリルは落ち込んでいて喋らない。

半泣き状態で部屋に籠っている。

直接聞いた事は無い。

だが、マリルの中には『家族に認められたい』その気持ちが強くあった筈だ。

そして受勲こそが、家族に認められる一歩だった筈だ。

だが、それは家族によって阻まれた。

ハァ~これはどうして良いのか解らない。

トントン

僕はノックしてからマリルの部屋に入った。
マリルは布団にくるまって隅にいた。

「なによ!」

かなり落ち込んでいるのが解る。

「あのさぁ…落ち込んでいても良いし、引き篭もりたいならそれも良いよ…だけど、これからどうしたい?…それだけは決めて欲しい」

「今は何も考えたくないわ!」

「そう…僕はマリルが幸せになれるなら他はどうなっても構わない。それは僕自身も含んでね…だけど、どんなに辛くても今は、しっかり考えないと不味いよ…特に君の家族をどうするか…」

「私の…家族?」

普通に考えて『決闘に王様の前で負けた』それにあの損害只では済まないだろう。

それに加えて決闘の勝者に本来は生殺与奪権があるから…その話し位はくるだろう。

「そう、マリルが勝者だから、その後についてきっと話し合いの場が求められる…だから決めないといけない…これだけは急がないと…」

マリルは一瞬顔を曇らせた。

「そう…それじゃ、その事はセレスに任せる…ごめん、今の私はきっとうまく考えられない…ただ、命だけは助けて欲しい…それ以上はきっと望めないし、望んじゃいけない」

幾ら泣いていてもこういう交渉は待ってくれない。

「解った」

ただ…あのやらかし方…どうして良いか解らない。

王城崩壊…その弁償となれば手持ちで足りない。

待て…黒いトカゲであんな金になるんだ…青いワンコとか赤いトカゲを狩れば…う~ん、それも視野にいれてと…最初に誰と話せばよいのか?

「セレス様、おはようございます」

「おはよう…?….」

◆◆◆

「あの、なんでこんな所に居らっしゃるのですか?」

「私たちもこの建物に引っ越してきたものですから…」

何故なんだ…教皇が…なんで箒を持って廊下を掃いているんだ。

「あの、教皇様、なぜこんな所で掃除をしているのでしょうか?」

教皇だぞ…それがなんでこんな場所にいるんだ?

「いゃぁ~掃除なんて数十年ぶりですが、セレス様とマリル様の為と思えば、自らしたくなりましてな…おや、顔色が悪い様子、何か困りごとですかな?」
「まぁ、色々と…」

「おや…それじゃお茶でも飲みながら、如何ですか? ご相談に乗りますぞ」

「それじゃ聞いて頂けますか?」

部屋の中はこれでもかと豪華になっていた。

「どうぞ、おかけください」

何故上座なのか解らないが進められるままに座った。

僕は、今までの事を相談した。

「凄く優しい方なのですな…まるで『聖女様』のようですね」

「はい、マリルは凄く優しいんですよ、ですが聖女ではなくジョブは『賢者』と『剣聖』ですね」

《ななな、Wですと…やっぱり睨んだ通りでした…それなら》

「そうですか…それでセレス様のジョブは何でしょうか?」

マリルの話じゃジョブが無いと厳しいんだっけ?

『パーフェクトヒール』を使ったから…『聖人(聖女の男版)』と死んだ人間を生き返らせたから教会関係者なら可笑しく思われるといけないから『天使』をセット…あとマリルのパートナーとして『勇者』をセット…まぁ幾らでも組あわせる事が出来るけど、この3つで良いか?

僕やマリルのジョブは『偽物』だ。

一応、ばれるかどうか…試してみても良いだろう。

「良かったら、鑑定して頂けませんか?」

「そう…ですか。マルロー、マルロー」

「はい、教皇様、なんの御用でしょうか?」

「貴方の審議眼で、セレス様のジョブを見て欲しいのです」

「解りました…うわぁぁぁぁぁー-っ、貴方様はー――っ」

何でいきなり土下座しているんだ?

解らない…

「どうしたと言うのですか?」

「このお方は『天使様』で『勇者様』で『聖人様』です」
「なんですって…」

《こんな奇跡に巡り合うなんて思いもしませんでした。天使様クラスに仕えた人物など伝説の中にしかいませんよ。こんな方に悲しい思いはさせられません…ええっ『何を犠牲にしても』》

「そんな大した物じゃないんですが」

「あはははっ謙遜なさらずに『パルドール家』の件は私に任せて下さい…そうですね、一生修道士と修道女として教会で過ごさせるのは如何でしょうか? これなら命は助かるし、罪も償わせられます。それにある程度会心したら…マリル様に会わせる事も可能ですよ」

「流石は、教皇様、素晴らしい」

「そうですか…お褒め頂いて光栄です。ですが教皇なんて呼ぶ必要はありません…これからはロマーニと呼び捨て下さい…私たちは、貴方様たちに仕えるべき下僕なのですから」

「はい?」

まぁ良いや…これでマリルも、少しは元気になってくれるだろう。

「それでは、私たちは『すぐに王城』に行きますので、部屋でゆっくりとお待ちくださいませ」

「ああっ…解りました」

理由は解らないが…これで多分大丈夫だよな。

勇者絶対主義

私は今日…奇跡に出会う事ができた。

我が家は代々『勇者絶対主義者』だ。

それは代々受け継がれてきた。

『普通の人間と『勇者』を含む四職を一緒にしてはいけない』

当たり前の事だ。

『女神の寵愛を受けた人間』

『神の御使い』

それが勇者様なのだから『人間で一番偉いのは勇者様』だ。

だからこそ『勇者様の幸せが一番』なのだ。

そんな考えの私が教皇になったのに…今の時代には…なぜか勇者様が居なかった。

勇者様が居ない=魔王が居ない。

教皇としては喜ぶべきだが…私の思いは複雑だ。

何故『私は勇者様に会えない』のかそう何回思った事か解らない。

我が派閥は生まれた時から『勇者様達』への忠誠を代々継ぐ。

結婚の時の誓いさえ『世界で5番目に愛している』そう誓うのだ。

これは例えどれ程、家族を愛していても4職の方を優先するという考えだ。

勿論、夫が居ようが、妻が居ようが…四職の方が望まれるなら解れて結婚、いや奴隷にすら喜んでなる。

そういう教えなのだ。

『当たり前だ』

勇者様たちは、人間で一番『神に近い』存在なのだ。

我々は『死ね』と言われれば喜んで死ねる。

それが『勇者絶対主義』なのだ。

私はこの世に生まれて…どれだけ勇者に会いたいと望んだか解らない。

今まで幾ら望んでも『現れてくれなかった』

ようやく現れた『剣聖』を帝国に取られた時は苦しくて仕方なかった。

だが、剣聖は四職では一番下、時代によっては複数現れた事もある。

本当に信仰するのは他の三職だ。

事実、魔王相手に三職で戦った時すらある。

そんな我らの願いが叶ったのか…目の前に勇者のセレス様が居る。

しかも天使で聖人でもある。

そして、心を痛め傷ついたマリル様が居る。

そんな私が…初めて勇者様から頂いたお願い。

例え、戦争しても叶えて見せる。

「それでは、私たちは『すぐに王城』に行きますので、部屋でゆっくりとお待ちくださいませ」

「ああっ…解りました」

ああっ何という響きだ…すぐに行動を起こさねば。

◆◆◆

「マルロー、今すぐ枢機卿に連絡、急ぎなさい」

「通信水晶をつかい連絡済みです…今現在牢獄に居るので処刑されないように手配済みです」

「そうですか…では枢機卿に『パルドールの4人』は聖教国で貰い受け罰を与える…そう伝えなさい」

「はっ…その他の人間はどうしますか?」

セレス様やマリル様にとって大切なのは『マリル様の家族』だけです。

『他は要りません』

「そんな者を救う必要はありません『好きにしろ』とお伝えください…いや、マリル様に杖や剣を向けたのです死罪で良いでしょう」

「それではその様に致します」

「すぐに私も向かうという事も伝えておいてください」

「はっ」

私は、今いる者達に事情を話した。

「ようやく、ようやく女神様が私たちの願いを叶えてくれたのですね」

「やはりあの方達が私達の仕える人だったのですね」

沢山の声が上がる中…城に行く者を選ぶので一苦労しました。

何せ『全員が行きたがる』のですから。

仕方なく、その中から20名を選び城へ迎えに行く事にしました。

まぁ教皇である私が一回死んだのですから…逆らう事等許しません。

セレス様やマリル様が喜ぶようにすると致します。

教皇は急いで帰りたい

「クリフ王、パルドール家の者を引き渡して貰おうか?」

挨拶そうそう、私はすぐに要件に入った。

折角、勇者様達が居る、建物のお二人以外の部屋を購入したのに…こんな場所で油売っている場合ではない。

「いかにロマーニ教皇様とはいえ、これは内政干渉です。引き渡す訳にはいきませんな」

この男は何を言っているのだ?

私はすぐに帰りたいと言うのに…

「では、クリフ王、貴方は破門にしましょう…今後、そしてこの国から教会は手を引かせて頂きます…そうですな、この国の人間は全員破門という..」

「なっ何を言われるのですか?…なんの冗談でしょうか?」

いえ、私は本気なのですが…クリフ王は何を言っているのでしょうか?

「冗談ではありませんよ! 私、貴方が許可した決闘で死にましたからね? 教皇と大司祭に聖騎士を殺したのですから重罪ですよ…場合によってはクリフ王、貴方の首すら要求しても可笑しくない筈ですが」

「ですが…その」

「私が生きているのはセレス殿のおかげ、この国のおかげではないのです…この国が私にした事は『私を殺す原因を作った』それだけですね…あっマリル様には責はありません、この国の王クリフ王にパルドールにその責があるのです。 教皇が死ぬ原因を作った原因の者を聖教国が貰うのは当たり前だと思いませんか?」

忘れてはいけませんよ。

私を殺してしまった事を。

「解りました…パルドールの4名を引き渡します。ですが他の者は流石に」

「ええっ要りませんよ…これはあくまで提案ですが、その人間を死刑にして、関わりのある一族から爵位や財産を取り上げるのが宜しいかと思います…そうすれば少しは王城の再建の足しにはなるのではないでしょうか?」

「それは、今検討中で…」

「私を…殺した…それを忘れてはいけませんよ」

「確かにその通りです…必ずや重罪として裁かせて頂きます」

《彼らは優秀な存在だから、どうにかしたかったが…教皇様にこう言われたからには庇いきれない》

「そうそう、あと、セレス様にマリル様だが、ドラゴンスレイヤーは認めますが、勲章や貴族の地位を与える事は認めません」

「な、何故でございますか?」

「良いですかな? 彼らは貴方より、いえ私より偉いのです! そんなお二人に、たかが王が勲章を授けたり、自分より下の地位を与える等、言語道断です」

「一体、何を言い出すのですか…それは幾らなんでも」

「セレス様は勇者様です…そしてマリル様は賢者様、もし話す機会があったら必ず敬語を使い、必ず上座を譲りなさい…解りましたか?」

「はい?」

「それじゃ…聖騎士にパルドールの方をお引渡し下さい。私は忙しいので直ぐに帰ります」

「あの…」

「帰ります…忙しいのです、引き止めないで下さい!」

さぁ早く家に帰りセレス様に伝えてあげて安心させなければ。

最速で帰りましょう。

聖騎士アールとセレスの剣
一体、何が起きているのか解らない。

「すみません、セレス様、今度こちらに引っ越してきました、マドローネと申します、どうぞ宜しくお願い致します…これお近づきの印です。A5ランクのミノタウルスのお肉です、マリル様とお食べ下さい」

何が起きているのか解らない。

このアパートメントが司祭やシスターで埋め尽くされていた。

今まで住んでいた人は居なくなり…ほぼ全部が教会関係者しかいない。

同じ10階にある部屋の傍には金色の鎧の騎士が立っていた。

僕の勘違いで無ければ、あれは聖騎士の中でも選ばれたエリートしか着れない特殊な鎧だ。

誰が住んでいるのかは解る。

ロマーニ教皇だ。

僕が傍を通るといきなり敬礼された。

しかも剣を捧げるようなポーズ。

「これは一体、なんでしょうか?」

「これは、これはセレス様、我らが崇める至高の勇者様…これは聖騎士の最高の敬意の敬礼でございます。それで、何か御用でしょうか?」

「いや、特には無いけど…気のせいかこの建物が急に教会関係者で埋め尽くされた気がするんだけど」

「それは当たり前でございます。この建物には教会が女神様の次に崇める、至高の恩方様が2名も居ますので…教会で全ての部屋を買い上げました」

そうか…だから、教会の関係者しか居ないのか。

「それって、僕が居ない間はマリルを守ってくれる…そういう事かな?」

「その通りでございます…何時でも我々は貴方様お二人を守り致します。それが使命でございます」

「そう、ありがとう」

まぁ役には立たないだろうけど…居ないよりはましだな。

マリルはどうも、危うい所があるからな。

まぁ良いや。

「あのさぁ…マリルがこの間の決闘から塞ぎ込んでいて真面に食事をとらないんだ…1人で飯食うと美味しくないから一緒に飯食わない?」

「わ、私めがでございますか?」

「ああっ、無理にとは言わないですが…」

「喜んでお相手させて頂きます」

よく考えたら、僕はマリル以外に話す相手は少ない。

肉を焼いて、スープとパンの簡単な食事を用意した。

「そんな、勇者様に支度をさせるなど..」

「良いから座って…何時も僕が作るんだから、気にしないで」

「はい」

聖騎士とはいえ教会関係者、話が凄く上手くて聞き上手だ。

気が付くと僕は彼に色々と相談していた。

「君と話せて良かった、良ければ名前を教えてくれるかい?」

「はっ、私はアールと申します」

「アールさん…覚えた、もし上手く行ったら、今度お礼させて貰うね」

「そんな、当たり前の事を申しただけです」

「そう? 解った」

「それでは失礼させて貰います」

◆◆◆

「なぁマリル、落ち込んでいるのは解る…だから僕は此処にいる事にするね…なにか話したい事や僕が必要になったら呼んで欲しい」

僕は廃棄された人間だ…だから人生経験が少ない。

色々な知識はあるが…それは自分が経験した事じゃない。

だからこそ、こういう時にどうして良いか解らない。

人の心が心の底からは解らない。

凄く心配なのにどうして良いか解らないんだ。

『そういう時は、傍に居てあげるだけで良いんですよ…あとは相手が話し始めたら話を聞いてあげれば良いんです』

そう、アールさんが言っていた。

だから、僕はそれだけ伝えるとドアの傍に座っていた。

暫く待っていたら…ドアが開いた。

「よく考えたら、泣く必要は無いわね」

そういうマリルの顔は眼が腫れていた。

「そう?」

「ええっ、子供の頃の事から考えたのよ…小さいときからお母様も、兄さんに姉さんも私の事を馬鹿にしていて可愛がって貰った記憶が無いのよ…何時も姉さんや兄さんばかり、食事すら家族とは別に食べていたのよね。お父様はまぁ普通に接してくれたけど、それでも他の三人が優先だったわ」

「そうなんだ」

「うん、だから私、心の中で『認めて貰う』より『見返してやる』そういう気持ちの方が強かったみたい! セレスのおかげで吹っ切れたわ」

そういうマリルの声はまだ元気が無い。

「それなら良かった」

「それで、皆はどうなったの?」

「教皇様に頼んだ」

僕は此処迄の経緯をマリルに話した。

「そう、命は助かるのね? それなら良いわ…まぁ産んで貰った恩と育てて貰った恩があるから…うん、考えるのは良くないわ…忘れるわ」

「それが良いのかな?ごめん、僕は家族とかよくわからない」

「セレス? 何を言っているの? 貴方は今の私の一番大切な家族じゃない?」

そうか…僕がもしマリルにあんな事されたら…きっと悲しくなる。

「そう、それなら…解る」

「あ~あ、お腹すいたわ」

「それじゃ肉があるから焼こうか?」

「お願い」

まだ、悲しそうな顔を少ししているけど…うんきっともう大丈夫だ。

◆◆◆
「アールさん、昨日はありがとう」

「セレス様、それで何か進展はありましたか?」

「お陰様で」

勇者様の為になったのなら、これ以上の幸せはありません。

良かった…今日は昨日と違い笑顔だ。

「それでね、お礼なんだけど、君は騎士だから、剣を作ってみたんだ」

けけ…剣? 作った? 何故?

「剣ですか?」

「そう…流石に僕じゃ『聖剣』は作れないから魔剣になるんだけどね…昔、勇者が使っていたクラソスを模してみたんだ。オリハルコンやミスリルは斬れないけど、鉄や岩なら何とか斬れる。あと、杖も兼ねているから、君に魔力があれば…ほらこんな風に魔法を纏って斬ることも出来る…それに君しか使えない様に魔法で所有者を刻んだ」

私はそんな事が出来る『魔剣』なんて知らない。

クラソスは最上級の聖剣…岩や鉄が斬れるなら、それは、普通の聖剣に限りなく近い…そんな物を作れる人間は伝説の『鍛冶の勇者』しか知らない。

確か、かの人物は、聖剣が無い時代に自ら聖剣を打って戦ったという話だ。

だが…剣を作った事が何故私のお礼になるのだ。

「あの勇者様、それでその剣…」

「アール、君の剣だ…柄に作者として僕の名前を入れたよ…まぁ下手なりに手作り品でお礼がしたかったんだ…はい」

「ああああっありがとう…ございます」

涙が出そうになり、手が震えてきた。

何故なら…多分この剣は国宝処でない。

小城並みの価値はある。

勇者が作った『聖剣に近い剣』

こんな物を貰ってしまってはタダでさえ『勇者命』の私が…生涯の忠誠を誓わない訳が無い。

準聖剣
「へぇ~、アール殿はその剣を頂いたのですか…良かったですね~」

ああっマルロー大司教が、凄く嫌な目で見ている。

気持ちが解るから、どうして良いか解らない。

俺たちは『勇者絶対主義者』だ。

自分の命以上に『勇者』を大切に思っている。

この建物の中には声を掛けられるだけで感極まる、そんな人ばかりしか居ない。

その状態で…俺が勇者様から手料理を貰って、剣迄貰ってしまった。

「はい、勇者セレス様は素晴らしい方で、ご相談に乗ったら、お食事にこの剣を頂いたのです」

「そうですか…ですが勇者様から頂いたのであれば『鑑定』位はするべきです…どうれ…えっこれは…『準聖剣 クラソニア』なななっ」

【準聖剣 クラソニア】

聖剣クラソスとほぼ同じ工程で作られた剣。
女神の祝福が込められていない代わりに魔法が込められており、聖杖の力が一部使える。
刀身そのものは鍛冶の熟練度の高いドワーフが鍛えた物を優に超えミスリル以下の剣は切断可能となる『斬鉄』『斬岩』のスキルが組み込まれている。
所有者:アール

※アール以外が使うとその能力は使えない。

「準聖剣…?」

「この剣は教会にある、聖剣を除き、恐らくはこの世界で有数の剣です。聖剣が勇者様しか使えないのに対してこの剣は…アール、貴方しか使えない…こんな物を打てる様な存在は伝説の『鍛冶の勇者様』しか居ない…アール…セレス様は『鍛冶の勇者様』だったのだ…その渾身の一振り…その剣は国宝を超える名剣ですよ」

そんな、そこ迄の物だとは知らなかった。

「そんな物を頂いたとは…私は生涯セレス様に忠誠を」

「はんっ、そんなのは当たり前だろうがっ 勇者様の手料理?それだけでも羨ましいのに、教皇様や私を差し置いて、そんな素晴らしい物を貰うなんて…そんな剣、聖騎士団総隊長ですら持っていません…魔剣じゃない準聖剣なんですよ…それこそ、その剣に見合う位強くないないと行けませんね? それ…どう見ても友情の証しにしか見えませんから」

「ははははっ、当たり前じゃないですか? 死ぬ気で頑張るに決まってます」

「そうですか…それじゃ本当に死ぬ気で頑張って下さい」

此処迄信用されたからには…死ぬ気で頑張るしかないだろう。

◆◆◆

「そういえば、私が閉じこもっていた時、だれか来ていたみたいね」

「アールさんという聖騎士に相談に貰っていたんだ」

「そうなの? それでお礼はしたの?」

「うん、まぁ大したもんじゃないけど…余りに酷い剣を下げていたから剣を作って贈ったんだ」

「凄いわね、剣まで作れるんだ」

「まぁ、錬金で5分で作った簡単な物だよ…まぁ少しは気合を入れたけどね」

「そうなのね…それなら私もセレスに杖か剣を作って貰おうかな?」

「それなら1か月いや3か月は欲しいな」

「なんで、5分で作れるんでしょう?」

「マリルの為に作るなら、ちゃんと魂込めてしっかり作るから」

「解ったわ、楽しみにしているわ」

マリルに頼まれたら本気で作るしかないな。

マドローネと守護と癒しのルビー

「そういえば、セレスこの肉はどうしたの?」

沢山の肉を頂いたんだった。

思い出した…マドローネさんという女性から頂いたんだった。

「そう言えば、このお肉貰ったんだ」

「そう、このお肉凄く上等なお肉よ? ちゃんとお礼はしたの?」

「そういえばしていないな…した方が良い?」

「お返し位はした方が良いわ」

「そう…なら、何か作ろうかな?」

相手は女性だし…指輪は特殊だと聞いたことがある。

だったらペンダントが良いかな。

「へぇ~作るんだ…見せて貰っても良い?」

「別に構わないけど…大して面白くないよ」

「それでも見たいわ」

それじゃ何を作ろうかな?

思い浮かべるのはペンダントで…イメージはそうだな…ダイヤはマリルの物を作るイメージと被るからルビーが良いか…

教会関係者だから…癒しを少しだけプラス。

あと、魔法耐性を少しつけて…

「錬金」

これで完成…

「ふぅ…できた」

「セレス…今、何をしたの?」

マリルは何を言っているのだろうか?

ただ『錬金』をしただけなのに。

「錬金だけど…何かおかしいのかな?」

「セレス…錬金って言うのは、何か対価を払って物質を代える事よ…例えば、石を金に変えるとか…それでも小さな小指の先位の金が作れる人すら…今は居ないのよ? それセレスは…何から、そのネックレスを作ったの?」

錬金の基礎じゃないか?

「空中に漂っている元素を固定させて」

「解らないわ…解りやすく」

「簡単に言えば、空気から物を作りだすんだ…流石に無から有は作れないよ…最も僕は出来損ないだから自分以上の質量を作るのは難しいし、作るのに数分の時間がかかるよ。伝説の女勇者は一瞬で鎧も作れたらしいし、無限に空気から宝石や金を作れたらしいです…まぁ出来損ないの僕じゃ『剣』や『鎧』その位の大きさが限界です。ダイヤみたいに難しい物だとせいぜいが頭位の大きさの物しか作れない」

「あの…セレス常識を覚えよう…ねえ..それ、考えようによっては世界一の金持ちという事じゃない…例えば王様の王冠とか」

「あんなおもちゃみたいな物、簡単に…」

「まぁ良いわ…セレスだもんね、もう驚かないわ」

「マリル? なんで遠い目をしているいのかな?」

「何でもないわ…」

何で驚くのか、理解できない。

こんなおもちゃ作るのは『錬金』の基礎なのに…

◆◆◆

「マドローネさん、この間はお肉ありがとうございました。美味しく頂きました」

「いえ、勇者様に喜んで頂けたなら、それだけで私は嬉しいんです」

「そうですか? でも折角お返しの品を作ってきたので貰って下さい」

作った? 

これは凄いわ…勇者様の手作り品なんて、家宝だわ。

「ありがとうございます…えっそんな、こんな大きなルビーのネックレス頂けませんわ」

嘘ですよね…このネックレスに使われているルビー…教皇様のより大きい。

こんなルビー幾らするか解りません。

「これは僕の気持ちです、気にしないで受け取ってください」

「そこ迄言われるなら頂きます…ありがとうございます」

よく考えたら手作り品です。

イミテーションに決まってますね。

それでも『勇者絶対主義』の私には宝物です。

お母さまもお父様もきっと羨ましがるでしょう。

「見たぞ…マドローネ、お前迄そんな…勇者様から頂いたのか?私も教皇様もまだ、一緒に食事もしていないのに」

「マルロー大司教様…お肉のお返しに頂いちゃいました。無理したかいがありましたわ…おかげで今月は貧乏生活です」

「それでも羨ましい…勇者様から貰ったのだろう」

「流石に本物のルビーじゃないと思います…ですが私にとっては」

「それは誰もが同じじゃないか、勇者様から貰った、それに価値があるのです」

「解っていますよ」

「セレス様だが、鍛冶の勇者かもしれぬ、そのネックレス鑑定させてくれ」

「解りました」

「鑑定」

【守護と癒しのルビー】

ハイヒール 30回分の魔力が込められており、このルビーの持ち主
は当人の魔力に関係なく1日30回ハイヒールが使える。
これは宝石の力の為、自分の分の魔力は一切消費されない。

このネックレスの持ち主は危機が訪れた時に1日1回30分に限り、あらゆる魔法や攻撃を防ぐことが出来る。その防御力はドラゴンブレスにも耐える事が可能。

持ち主:マドローネ
※持ち主以外にはその効力は発揮できない。

「あの…これ」

「どう考えても教皇様のルビー処じゃないな…しいて言うなら魔石のルビー…こんな物世界に二つと無い」

「我が家の家宝にします…セレス様の為なら…私死ねます」
「ハァ~そんなのは我が派閥じゃ当たり前じゃないですか…」

「そうですね…あははははっ」

知らないうちにセレスは人を引き付けていく。

教皇も…

凄い勢いで走ってロマーニ教皇様が馬車を降り走ってくるのが解った。

マリルに気が付かれないようにこっそりと下に降りて待つことにした。

「この度は本当にお世話になります」

教皇自らが動いてくれても確実じゃない。

マリルにぬか喜びをさせない為に事前に聞いて置く必要がある。

「ハァハァ、ゼイゼイ、セレス様、パルドール家の4名の件は無事に話が終わりました」
話を聞けば、聖教国の修道所で引き取る事が決まったそうだ。

無事に引き取りが終わって、聖騎士たちが修道所に連れて行っている最中だそうだ。

「本当にありがとうございます」

「いえいえ、勇者様の為ならこの位大した物じゃありません」

「それで、お礼と言ってはなんですが…こんな物を作ってみたんです」

「これは何ですか?」

ちょっとだけ気合を入れて作ったんだ。

教皇様には気に入って貰えるかな。

まぁ…1時間位掛けたんだ。

「法衣です。一応魔力を込めて作ってみました」

「勇者様がこれを?」

「はい」

「この衣は一生大切にしますね」

少し気合をいれただけなんだけどな。

こんな笑顔を見せてくれるなら、もっと頑張った方が良かったかも。

「それじゃ、本当にありがとうございました」

「また、何かあったらご相談下さい」

本当に聖教国の人って良い人が多いな。

◆◆◆

「教皇様も勇者様に何か貰ったのですか?」

「ええっ、可愛いものですね、手作りの法衣だそうです」

孫から貰ったプレゼントより嬉しいものです。

勇者様が自ら作ってくれたのですから。

「セレス様が作られたのなら…多分、また飛んでもない物の様な気がします」

私も若いころは鑑定士として活躍した時期がありました。

そう言うなら調べてみますか。

「そうですか? 何か付与でもしてくれたのですかね…それじゃ【鑑定】」

えっ…これは…

【白の聖衣】

その昔、魔王ゾーラが身に纏まっていたという【闇の衣】のついになる存在。勿論、そんな物は存在しない…恐らくは技術解析により作られた高品質な品。

全ての悪意のある魔法を無効にする。
その魔法には魔王が使う死の魔法も含む。

炎や氷にも有効。
但し、物理攻撃(刃)などには弱い。

所有者 ロマーニ教皇

「教皇様?」

「あはははっ、マルロー、私はセレス様の為なら喜んで死ねる。あの方が欲しがるものは全てを犠牲にしても手に入れる事でしょう。こんな名誉ある贈り物、どんな教皇も貰った事は無い。セレス様は歴史状で最も女神に近い勇者様です」

「教皇様もですか…ハァ~本当に羨ましすぎます…どんな物か私も見させて頂いても?」

「驚きますよ」

「もう驚き…あっあああああっ国宝級どころか伝説級…あああっ」

「凄いですね…これは恐らく、伝説に伝わる翆玲の羽衣すら霞む存在ですよ」

魔王の魔法を完璧に防ぐ防具なんて私は知らない。

勇者の鎧でも緩和はするが完ぺきではない。

セレス様は勇者の他に天使のジョブまで持っていた。

考えられる答えは…女神が自分に仕える天使を勇者にして送ってくださった。
そういう事に違いない。

そうでもなければ…こんな人知を超えた物は作れない。

『鍛冶の勇者』だろうが、これ程の物を作った記憶は無い。

「マルロー…セレス様は勇者の枠でおさまりません…セレス様の意思は女神様の意思に等しい…【すべての人間はセレス様に逆らう事を禁ズ】そういう世の中にする事が私達の使命です」

「あの教皇様…」

「この意思に逆らう事は、絶対に許しません」

狂っている…そうマルローはこの時思っていた。

だが…もう止まらなかった。

変わりつつある日常
「何処に行かれるのですか?セレス様にマリル様?」

「買い物にね…行こうと思うの」

「それなら、私にお申し付け下さい、なんでも買ってきますよ? 費用は教団しいては聖教国が全部負担しますからご安心下さい」

「流石にそれは悪いので、良いですよ」

「いえ、これは国を挙げての事なので気にしないでください」

「そ…そうなの? だけど今日は二人で散歩兼ねて出かけるだけだから良いわ」

「そうですか…それなら荷物持ちを兼ねて聖騎士でもお付け…」

「「大丈夫です」」

これ以上話していると、教皇様や大司教も出てきそうなので、そそくさと急ぎ出かけた。

「マリル?」

「セレス…そろそろ常識を覚えないと不味いわ…というかもう手遅れだけど、ロマーニ教皇はただでさえ【勇者絶対主義者】なの、それにあそこ迄親切にしたら…どうなる事か…」

「どうなるのですか?(ゴクリ)」

「そうね、例えば貴方が大国のお姫様を好きなったとするじゃない? そしてそのお姫様は婚約が進んでいて、明日が結婚式だとするわね」

「はぁ」

「多分、直ぐにその婚約は破棄、そのお姫様は貴方の横に居るわ」

「はははっまさか?」

冗談ばかり、あれしきの事でそんな…

「いいえ、本当よ! それどころか…王妃様と結婚したいと言っても連れてきそうよ…あの教皇なら」

「冗談ですよね」

「冗談じゃないわ…お城が欲しいというなら王国の王城でも帝国の王城でも分捕ってきそうよ…あの教皇様」

「そう…ですか? まぁ僕はマリル以外必要ないので関係ありません」

「そ…そう?」

「はい!」

「それなら、余り関係ないわね…その、ありがとう」

僕は、人工的に作られた存在だ…

そのせいか『欲』というものが全く無い。

僕にとっては宝石もそこらの石も鉱物として同じ価値しかない。

食事だって美味しいという事は解るが…好ましいだけで、どうしても食べたいという欲も無い。
以前食事代わりに食べさせられていたエネルギーチューブは、本当に不味い。
あれに比べれば、土だって美味しく感じる。

女性に関しても『美人』『不細工』の差が僕には解らない。

何となく周りの人間の反応でそれが解るだけだ。

僕にとっては『マリルが大切』それ以外は無い。

もし僕が何かを考えるなら…それは、マリルと一緒に考え学んだ事が多い。

「どういたしまして」

にこりと笑うマリルの笑顔…これ以上欲しい物はない。

※つぎは予定を代えまして『困った事になった人』を書く予定です。

 ありがとうございました。

学園長失脚

『この無能!お前のせいで貴重な『賢者』を教会に取られてしまった、どうしてくれるんだ! アカデミーは貴重な人材が欲しいからこそ学園を運営しているのだ!』

『マリル様の成績が低い? 嘘を申すな、簡単に王城を半壊させる魔法使いをお前のせいで聖教国に取られた…責任を取れ』

私の人生は…終わってしまった。

アカデミーと国から此処迄責められたら終わりだ。

◆◆◆

私の名はモグリード。

魔法学園の学園長をしています。

若い頃から教職を目指し…幾人もの優秀な生徒を育てあげ…長い年月の末…ここ王立魔法学園の学園長までのぼりつきました。

研究職としてならいざ知らず、教職者としてなら、これ以上の地位はありません。

貧乏だった私がよくぞ此処迄…自分でも信じられません。

ですが…その為には、人知れず努力をしてきたのです。

その結果が…

「モグリード、お前は解任だ…今までご苦労さん…無能め」

「納得いきません、私は今まで教育一筋に生きてきました。そしてあと少しで退職…」

「あのさぁ…マリル様は賢者と剣聖のジョブ持ちだ…剣聖を見抜けなかったのは仕方がない。専門分野じゃないからな。だが『魔法』に関しては我々はプロだ。アカデミー出身で学園長までなったお前が見抜けなかった…これは大きな失態だ」

確かに私や教師はマリルを色眼鏡で見ていた。

だが、それは彼らが考えている物とは違う。

『逆なのだ』 本来なら発火の魔法すら使えぬ落ちこぼれ等、間髪入れずに退学だ。

だが、彼女は侯爵令嬢。

それゆえに実家から学費が払われなくなるまで在籍させて置いたのだ。

そのマリルが賢者のジョブ持ちで王城を半壊させた…にわかに信じられない。

「ですが、マリルはジョブ検査の判定でも『無能』と判断が出た」

「はんっ! 言葉に気をつけよ、マリル様だ! 教皇様ですら敬う方を呼びつける等、お前は何様だ! その鑑定した司教はいま、その資格を奪われ国外追放されているよ」

私は教職者だ…もし1の才能しか無い生徒が居たとしても2や3に才能を伸ばし、当人が努力するなら5にだってしてあげられる。

だが…ゼロはゼロだ。

魔法すら真面に発動しないゼロの人間に魔法を教える事は出来ない。

幾ら座学が完璧でも…この才だけはどうすることも出来ない。

「ですが、その後も魔法が真面に発動しなかったですし、バルドール侯爵家からも、幼いころから才能が無かった、そう聞いております」

「それはお前たちの指導不足じゃないのか?『賢者』程の才能を見逃した…この事実は変わらんよ」

「そんな…それで私はどうなるのでしょうか?」

「お前はクビだ。最後の情けでクリフ王は慰謝料の請求はしないそうだ…退職金は無しで良いそうだ」

「そんな…そんな事されたら、私や家族は」

「あの…よく考えろ! 王に嫌われ、アカデミーから嫌われ、教会からも嫌われる、お前達がこの国で生活など出来るわけがなかろう? これは私とお前の仲だから特別に教えてやる『早くこの国から出ろ』」

「なぜだ…」

「良いか、あの教皇は『勇者絶対主義者』なんだぞ…もし、お前たちがマリル様を迫害していたと知ったら処刑しかねないんだ…まだ何も起こらないうちに教員全員退職して、マリル様を馬鹿にしていた生徒と一緒に国を出る事だ…良いか、帝国も聖教国も駄目だ…その先にまで最低逃げろ」

そこまでしないと駄目なのか?

マリルを馬鹿にしていた…そういうなら学園の生徒の殆どが該当するやもしれん。

「そこ迄しないとならんのか?」

「正直解らない…だがアカデミー長官も王から直に怒られ機嫌が悪い…教会はセレス様とマリル様を『教皇様』以上の聖人として扱う触書を出す可能性があるという噂だ…念には念を入れた方が良い」

「解った…済まない」

「まぁ…気を落とすな」

それから数日のうちに魔法学園の教師の大半と生徒の半数以上が辞めて…国から出て行った。

その行動が正しかったかどうかは…この先解る事だろう。

酒場での出来事

「セレス様、マリル様、良かったらよっていって下さいよ」

いきなり、街のレストランで声を掛けられた。

確かにこのレストランは僕やマリルの行きつけだが…声を掛けてきた店員に身に覚えが無い。

初めて見る顔だ。

「どうする? マリル?」

「そうね、お腹すいたから食べていこいうか? おじさん、いつものお勧めの定食2つ」

「はい、ありがとうございます…ですが、今日は少しメニューが変わりますが宜しいですか?」

「うん、日替わりだから、変わるのよね、いつもの事じゃない?」

「それならば、腕によりを掛けて作ります」

「うん、お願い」

なんでこんなに愛想がいいんだ?

しかも、店内の店員にも誰一人知っている人間がいない。

席も…なんだこれ、個室に通され、どう見ても調度品からすべてが違う。

「これは一体?」

「ここはセレス様とマリル様ようの特別室でございます」

何故かオルゴールの音色が流れてきた。

「まずはアミューズをお楽しみ下さい。白身魚とオルマンエビから作ったムースをサーモンのキッシュの上に載せてあります」

マリルが口をパクパクしている。

まぁマリルは令嬢だったからマナーには困らない。

確かに…見た目は凄く奇麗で、基本味音痴な僕ですら美味しく感じる。

「前菜は タイイのカルパッチョです…タイイは海から飛竜便で取り寄せました」

うん…食に全く拘りの無い筈の僕でも…美味い。

マリルも普通に食べているが…満足そうだ。

「ダル豆と海鮮をミルクで煮込んだスープでございます」

「セレス…これランチじゃないわ」

「そうだね」

美味しそうにマリルが食べているから良いや。

「A5ランクの牛ヒレ肉のポワレです」

凄いな…僕ですら美味いのが解る。

「これ凄いわ…お父様に昔連れて行った貰った食事より美味いわ」

「確かにこれは美味いですね」

「デザートは アイスを使ったイチゴムースのパフェです…あっパンのお代わりは要りますか?…アイスティーのお代わりは如何でしょうか?」

「それじゃパンのお代わり良い」

「はい」

バスケットで最初に出されたパンも美味しい。

「それじゃ僕はアイスティーをお願いします」

「はい」

氷の入った飲み物なんて、今まで飲んだこと無いな。

マリルもこれには驚いたようだ。

「最後に南方の飲み物カフィでございます」

これで、終わったようだ…

だが、これはどう考えてもランチじゃないような気がする。

「これはまるでディナーコースだわ、それも上級貴族ですら滅多に食べない位のもの…」

「確かに…これどうしたんですか?」

給仕の方がにこやかな顔でこちらに話しかけてきた。

「何をおっしゃいますか? 勇者様に賢者様なのですから…世界最高レベルの料理を食べて頂くに決まっています」

「えーと…何?」

「料理をしたのは、聖教国から連れてきた三ツ星レストランの中でも最高峰のシェフと言われるドルマンシェフ。食材は『勇者様や賢者様に』と世界の信者から集まってきた物です。 王ふぜいが食べる物と一緒にして貰っては困ります」

「あの…前のここの人たちは…」

「そうよ…どうしたの?」

「聖教国の一等地のレストランと交換しましたのでご安心下さい」

「そうですか」

「それなら良いわ」

しかも、幾ら言ってもお金は受け取ってくれなかった。

暫く話していると奥からシェフまで出てきて…

「世界一の貴人に食べて貰える栄光を頂いているのです…お金なんて貰ったら罰があたります。しかもここのシェフに成ることで教皇様から一級信者の地位まで頂いたのです…どんな料理も作りますから…お礼と言うなら毎日食べに来てください」

「わたくしめも同じでございます…お二人の給仕をする事が最大の幸せなのです。もしお礼というなら、明日も来てください」

こんな騒ぎになった。

仕方なく、明日も食べにくる…そう伝えて外に出た。

だが、この騒動はこれだけでじゃすまなかった。

閑話:ジョイ

「良いですか? 何よりも敬う、そういう気持ちが大切なのですよ? 良いですか…さぁハイ!」

「「「「「「「「「「「人間で一番偉いのは、セレス様です! その次に偉いのはマリル様…他の人間は虫けらです!」」」」」」」」」」」

俺の名前はジェイ。

馬鹿なパルドール家の長男アントニーに騙されて勇者様と賢者様に決闘を挑んでしまった。

何故、あの時俺は加担してしまったのだろうか?

ドラゴンズレイヤーの称号が羨ましかったから?

自分たちなら勝てる…そんな馬鹿な事を考えたから?

今思い出しても…相手は人間ではない。

女神に愛される人間…その凄さが解らなかった。

だけど、知らなかったんだ…

まさか…相手が賢者様だったなんて。

アントニーの馬鹿野郎が『出来損ない』なんて言いやがって…

どうしてくれるんだ…俺の母さんは『勇者絶対主義者』なんだ。

親父だって母さん程じゃないが少しは弱いが『勇者崇拝主義者』だ。

ばれたら…「そこに直れ」と言われて殺されるかもしれない。

運が良かったのか、悪かったのか解らない。

下手したらあの場で処刑されても仕方が無かった。

だが…首謀者のパレドール家の人間が死刑で無いのに死刑は納得できなかった。

だから、貴族の権利で裁判をしようとしたら…裁判にならず、聖教国の大司教の一声でこうなった。

修道院という名の更生施設で過ごしている。

最早俺には帰る家も無い。

家に帰ることも出来ない俺は『徹底的に勇者絶対主義』を前面に出すことにした。

俺は『勇者崇拝主義』の父から聞いた事がある。

『絶対主義』と『崇拝主義』の違い。

絶対主義は勇者たちは聖なる存在。

そう考えるのに対し崇拝主義は、勇者を兵器と考える事だ。

『勇者とは魔王すら倒せる最強の兵器なのだ…だから逆らってはいけない』

そういう考えが主だった。

「勇者様こそがこの世のすべてです。他の人間は全てを捧げるのは当たり前です」

「勇者様や賢者様の命に比べれば1万の命ですら軽いのです」

それを自分から言い出した。

パレドール家の者や他の収監者にひかれていたが…

「ジョイはクラン家の者だったのか? だったら同士じゃないか?」

「はい」

「ならば、なんでこんな事を?」

「実は…」

俺はマリル様が賢者だった事を知らなかった事をはじめ、全部話した。

「そうか…確かにあのタイミングじゃわからないな…それで」

「残りの人生はセレス様やマリル様の為に使おうと思います」

「よくぞ、言った」

◆◆◆

暫くしたら、両親から手紙が届いた。

何でもセレス様やマリル様の家の近くで良い家が売り出されたから買ったそうだ…それで俺も一緒に住もうという誘いだ。

その事を司祭様に相談したら。

「ジョイ…君はここにきて見違えるようになりました。他の者とは違い、もう同士と言えるレベルです…よろしい、この修道院を出ることを認めます….あとは…」

「この身を持って生涯、セレス様やマリル様への忠誠を誓います」

「宜しい、同士ジョイ、行きなさい」

こうして俺は、穏やかな生活を取り戻し…

いや、勇者様達の為に生きる、最高の幸せを手に入れた。

みんなあげちゃう

食事が終わり買い物に来たけど…なんだこれ?

「なななな…何事?」

「セレス様にマリル様、これは幻のうっここ鳥の卵ですどうぞ」

「これは有機村のトマトですよどうぞ」

「最高級のルビーでございます…どうぞお持ちください」

マリルが慌てている。

何だか見てて面白いな。

「かかかかか…買わないわよ!」

あわあわしながら答えるマリルに皆が物を押し付けてきた。

「「「「「いえいえ、お金を貰うなんて滅相もありません、これは貢物でございます」」」」」

「へっ…」

「どういうことですか?」

話を聞くとここに居るのは…というかこの街に住む多くの人は殆どが『女神教』の信徒だそうだ。

何でも僕やメリルに物を渡すのは『女神に供物を捧げるのに等しい』そういうことらしい。

だから、皆してこうやって物を押し付けてくる。

いつの間に入れ替わったんだ。

確かに言われてみれば…街はそのままだが、人はかなり違う。

「いつから此処に住み始めたんですか?」

「セレス様やマリル様のお話を聞いて引っ越してきました」

「相場の3倍位で話したら、即決で売ってくれたので家を買いました」

「教会がお金を貸してくれたのでおもいきって引っ越してきました」

駄目だ..これ。

「セレス…もう持てないわ…助けて」

そういうマリルは既に両腕一杯の荷物を押し付けられていた。

仕方なく僕は『収納』を使った。

『自動』でなく普通の物だ。

するとマリルの持っていた荷物が僕の手に移り消えていった。

「勇者様は『収納魔法』をお持ちだ…これなら幾らでも捧げられる」

幾ら僕でも、こんな沢山の物を貰うのは気が引ける。

「マリル逃げよう」

そう伝えると僕はマリルの手を取って逃げ出した。

◆◆◆

「…此処迄くれば一安心かな」

「そうね」

僕とマリルは商業地域を抜けて噴水がある広場にきた。

お店も無いし、周りには子供しかいない。

これで、安心だ。

「うわぁー-お姉ちゃん奇麗」

「そそそ、そうかしら?」

「うん、お姉ちゃんみたいに奇麗な人、私初めてみた」

「そうかしら? そんな事ないわよ」

そう言いながらマリルは顔が赤い。

純粋に子供とはいえ褒められたから嬉しいんだな。

「お兄ちゃんもカッコよいよ」

「そうありがとう…」
何だか嫌な予感がする。

「お姉ちゃん、お菓子あげる」

「お兄ちゃんにもあげるね」

「そんな悪いわよ、このお菓子は自分で食べた方が良いわよ…お姉ちゃんは家にあるから」

「ううん…お姉ちゃんに食べて貰いたいの」

「そう? ならこの飴だけ貰うわ…ありがとう」

「お兄ちゃんも食べてよ…ほら」

「それじゃ貰おうかな?」

僕はビスケットの様なお菓子を貰った。

「えーっキャルナばかりずるいよ! お兄ちゃん私のも食べて」

「ちょっと私が先に並んでいたのよ…あんたこそ遠慮しなさい」

「お姉ちゃん、私のはケーキよ食べて…」
「そんな安物食べないわよ…マリルお姉ちゃんは私のこのクッキーを食べるのよ」

「いいよ、それじゃセレスお兄ちゃんにあげるから…はい、あーん」

ちょっと待て…僕たち『名前なんて名乗ってない』

「あの…なんで名前を知っているの?」

「「「「「だって勇者様と賢者様だもん、知らない訳ないよ?」」」」」

「マリル!」

「うん、いこう」

二人して一緒に走り出した。

「待ってお兄ちゃん…お姉ちゃん」

「まだ子供だけど…絶対に役に立つから…お願い傍に置いて」

「いう事なんでも聞くから…お願いします」

「ハァハァ…お話し、お話だけで良いから…お兄ちゃん」

さっきまで純粋な子供だと思っていたのに…今は欲にまみれた存在にしか見えなかった。

まさか幼女や幼児に追いかけられるとは思いもしなかったな。

洗脳と言う名の治療

「はぁ~どこに行っても気が休まらないわ」

あのあと、俺とマリルはすぐに帰ってきてしまった。

何処に行って色々な物を押し付けられる様に渡される。

欲しいとも言ってないのに…次々と物が増えていく。

僕も本当にそう思う…

街中も普通に歩けない…

「確かにそうですね」

「本当にそうよ…これからどうしようか?」

「まぁ、本当に困ったらどうにかしますよ」

「えっ…どうにかなるの?」

「ええっ」

マリルは本当の意味では現状に困っていない。

恐らくは今まで『認めて貰えなかった分』認めて貰えて嬉しい。

そんな気分が少しはあるような気がする。

困るのが半分、嬉しいのが半分じゃないかな。

◆◆◆

「ハァ~貴方達は、まったくもって頭が可笑しいのですか?」

私事パルドール元侯爵は、今修道院で更生を受けている。

だが…我々4人は凄く遅れている。

「なんで娘を崇めなくちゃいけないのよ!」

「カロリーヌ…お前はふざけているのか? マリル殿は女神の使い、この世界で2番目に尊いかた、最早お前の様な下賤の者の娘ではない、それが解らぬのか? 命まで助けて貰ってその態度…万死に値する」

「妹を崇めろ! ふざけんじゃねーよ」

「アントニー…お前はふざけているのか?」

「なんで私が…こんな事になるの?」

「シャル…それは本気で言っているのですか?」

我が家族ながら本当に馬鹿だ。

此処は修道院という名の洗脳施設だ。

此処にきた時点で『勇者を心から慕うようにならない』限り開放はない。

幾ら逆らっても無駄なのだ『長い時間を掛けて』そうなるまでこの治療は続くのだから。

最終話: 日常

「ねぇマリル…これがマリルの欲しかった物なの?」

「違うわ」

「だけど、皆に認めて貰いたかったのでしょう?」

「確かにそうだけど…」

「ならば、これで良かったの…かな…」

「違うわ」

今のマリルには戸惑いがある。

マリルは『劣等感』が凄く強い。

多分、1番に家族、そして次に他の人に認めて貰いたかった。

だが…今の状態は違うようだ。

僕にはどうして良いか解らなかった。

そして…

◆◆帝国の首都ボンゴウム◆◆◆

「マリエッタちゃん、今日はオーガかい? なかなか凄い活躍だね」

「うん…まぁね」

「旦那さんのセイルさんも美形で羨ましいわ」

「うん、自慢の旦那なの」

お金は全部降ろして、僕の収納魔法でストレージに入れてある。

勿論、マリルにもこの魔法を覚えて貰い、同じようにお金が入っている。

「今日はね、良い魚が入ったのよ、お刺身でも食べられるよ」

「それじゃ貰おうかな? マリエッタも夕飯はお刺身で良い?」

「うん、凄く楽しみ」

「それじゃ、それ…下さい」

「あいよ」

結局僕たちは、ギルドの口座から時間を掛けて全てのお金を降ろした。

二人なら一生どころか…何回生まれ変わっても使いきれない程のお金がある。

それなら…何がやりたいかゆっくり考えれば良い。

だから…すべてを放りだして逃げだした。

マリルという名前、セレスという名前を捨てて…マリエッタとセイルになった。

この世界には『魔王』はいない。

それなら『勇者』も『賢者』も要らない。

きっと僕たちはもう….その肩書きを名乗る事は無いだろう。

◆◆◆

「マリエッタは何がしたい?」

「そうね…今は普通に暮らしたいわ」

「そうだね…それじゃ『普通』に暮らそうか…ところで普通ってどうすればよいのかな?」

「私も解らないわ」

「まぁゆっくり考えれば良いんじゃない?」

「そうね」

時間は沢山あるし生活にも困らない…ゆっくりすれば良いよね。

◆◆◆

「まさか…ここ帝都に四天王の一人マーモンが責めてくるなんて」

「おしまいだ…魔王よりも強いという彼奴がくるなんて」

「逃げるしかない、マーモンには誰も敵わない」

「まさか帝王様と剣聖様の留守にくるなんて…」

「たった一人に帝国は滅ぼされるのか」

「終わりだ」

なんだか、騒がしいな。

「何かあったのかしら?」

「さぁ…行ってみようか?」

「うん」

なんだ…酔っ払い? 山賊?

そんな感じの男が暴れている。

魚屋のおじさんの屋台や串焼き屋の屋台がひっくり返されていた。

「ひどいな」

八百屋のおばさんと娘さんが逃げ遅れ暴力を振るわれそうになっていた。

兵隊もなぜか怯えて助けない。

いつも、サービスしてくれているし、仲良くしてくれているから『酔っ払いの馬鹿』から助ける位良いよね。

「お前、なにやっているの? 人に迷惑かけんなよ…」

「逃げて…お兄ちゃん」

「貴方達だけでも逃げて!」

「おばちゃん大丈夫だよ…僕たちはこれでもDランク冒険者なんだから」

「駄目―――っ」

「我こそは四天王の一人…」

「煩い黙れ…憲兵に突き出してやる…うらぁぁぁぁー――っ」

「ぐふっ…やるな」

此奴、変人にしては強いのかな?

これで倒せないなんて…
「今度はこちらから行くぞ、剛腕の…」

「もういい加減に寝ておけよ」

「ぐふっ、貴様」

《凄い、あのマーモンと互角にやりあっているなんて…》

《何者なんだ…》

「此奴は…」

「そいつは魔族の四天」

そうか…魔族なのか…まぁこの力じゃ雑魚だろうな。

魔族なら…うん倒さないと不味いな。

「貴様…殺してやる」

「剣技…オリハルコン斬り」

「うがぁぁぁぁー―――っ」

この程度で真っ二つなんて『やっぱり雑魚』だった。

「おばちゃん、娘さん怪我無い? 大丈夫」

「はい」

「…お兄ちゃんありがとう」

「マリエッタ…帰ろうか?」

「そうね…帰ろう」

雑魚魔族も倒したし…明日からも普通に暮らせるといいな。

FIN

あとがき

えーと…

あとがきです。

この作品は『クズ勇…こんな素敵な方を捨てるなんて…私が貰うわよ!』
の異世界編を書いてみようと思い書き始めました。

色々と考えて書いていたのですが…主人公を強くしすぎてうん、実に困りました。

このまま書いていてもだらだらと日常が過ぎていくだけなので…思い切って、此処で終わりにしました。

少し、いやかなりスランプです…

また面白い話が思いついたら書きますので宜しくお願いいたします。

もう一つの話は数日間を置いたら書き始めます。

ありがとうございました。

石のやっさん