クズ勇..こんな素敵な方を捨てるなんて..私が貰うわよ!

廃棄された僕
「Y-139 は廃棄だな..」

聞こえているよ…

「こんな役立たずに時間を掛ける訳にはいかない」

解かっている。

こうして僕はそのまま穴に捨てられた。

ここには人造的に作られた勇者のなり損ないが捨てられている。

僕、以外の者も捨てられているがその殆どは死んでいる。

ここの施設の穴の中では魔法も使えない。

ドラゴンの数倍の力があっても破壊は出来ない..ここに捨てられたら、ただただ静かに死んで行くしか無い。

僕に魅力があれば何処かのお姫様が引き取ってくれたのだろう…

僕に無双する力があればミステルナイトに成れたのかも知れない….

僕に強大な魔力があれば何処かの国で宮廷魔導士として生きれたのかも知れない..

だが、欠陥品の僕にはそんな夢も見る事が出来ない…

お披露目の前に基準を満たさなかった僕は..廃棄されたのだから..

「もう疲れたな…作り出されてからずうっと休む間もなく訓練..普通の人間に産まれたかった」

普通の人間に産まれたら..恋愛をしたり..家族がいたり..今とは違った筈だ…

僕たち人造勇者は規定値さえ満たしていればお披露目に出られる。

そして、そこで各国と交渉して将来属す国を選ぶ..

ある者は綺麗な王女様の結婚相手に..

ある者は国認定の勇者となり数々の特権が与えられ国を守る。

だからこそ、僕たち人造勇者を人々は羨ましがる。

だが、そのお披露目にたてる人造勇者1人に対して廃棄されている人造勇者がどれだけいるのか人々は知らない。

そして廃棄された者には死しかない…

僕はあと何日生きられるだろうか…死ぬまでの時間は僕が生まれて初めて手に入れた自由..

せめて夢見ながら..楽しく死んでいこう…

それが僕の最後なのだから…

出会い

「世界を司る6つの力よ運命に導かれし我がしもべを導きなさい」

私は六芒星の前で杖を振るっている。

魔法学院の生徒…違うわ

魔法使いの見習い….違うわ..

魔法使いのお嫁さん…全然違う..

私は…東京で暮らす、普通の女の子よ。

それが何で召喚の呪文を使っているのかって?

宝くじって買わないと当たらないじゃない?

だったら召喚の呪文も同じだと思うのよ!

毎日唱えていればいつか呼び出せるかも知れないじゃない!

正直、6億円当たるのと使い魔を呼び出せるのを天秤に掛ければ…案外同じ位かも知れない、そう思うのよ!

勿論 一等は 美少年で王子様タイプ  二等は 凛々しい勇者タイプ  三等はしゃべる猫とか?

幼稚園から今迄暇さえあれば唱えていたのよ..そろそろ当たるんじゃないかな?

呪文や魔法陣は本やインターネットで調べた物を使っている。

中には本物もあると思うの..

私の名前は 白百合京子、お父様は白百合製薬の社長をしている。

本来なら、次女とは言えお嬢様として扱われ、執事やメイドに傅かれお屋敷生活をしている筈なんだけど…

「お前の様な娘は要らん」

そういうお父様の一言で屋敷を追い出された。

300万円の手切れ金を渡されて…

なぜ、そうなったのか?

それは、私がお兄さまやお姉さまに嫌われているから…

私には百合子と言う名前のお姉さまと東吾というお兄さまがいる。

その二人の兄姉は恐ろしく優れている。

兄の東吾は中学から国立に入り、高校、大学と全部国立を卒業している..しかもその全部を首席で..そして研究員として父の会社に入り今や父の片腕だ。

姉の百合子は凄く器量が良い、母の「この子は絶対に美人になる」そういう確信から、白百合の紋章にちなんで名前も百合子、名前にまで百合が入っているのは今迄無かった、母の愛を受け止めて育った姉は美人に育ち、正に彩色兼備の完璧お嬢様に育った。

その兄姉に比べると私は到って平凡。

どんなに努力しても何一つ二人には勝てなかった。

そして、才能も無く変わり者の私は家族から孤立していった。

寝る間も惜しんで勉強しても駄目、死ぬ程頑張っても部活で成績が上がらない。

私みたいな人間こそが…馬鹿なのよ…

1日16時間勉強しても並みの成績しかとれない..

手が擦り切れる程ラケットを振っても駄目..

努力もしないで成績が出せない人は「怠け者」本当に努力しても何も手に入らない物が本当の馬鹿なの..

本当の馬鹿..馬鹿は白百合には要らない..

普通じゃない子は白百合に要らない..

そして、こんな劣等生は妹として要らない.. 

だから、私は「白百合」から捨てられた。

ここで、泣くような子なら同情して端っこに置いてくれたかも知れない。

だが、私は泣かなかった。

多分、私は何処か本当に可笑しいのかも知れない。

何時からか自分の感情が余り外に出せなくなった。

そして、そんな私は学校でも孤立していった。

姉の様なお嬢様学校に行けなかった私は普通の公立の高校に入った。

最初は、白百合と言う事で期待をされていたが、成績が悪い私は直ぐにメッキが剥がれた。

最初は取り巻き見たいな子がいたんだけど..お金を持っていない私から皆んな離れていった。

白百合の娘だから奢って貰える…そう思っていたのかな?

だけど、私、白百合だけど、お小遣いが1日200円、昼食費コミなんだ..奢れないよ、パンとジュースで終わりなんだから。

「あいつ凄く貧乏くさいな」

「多分、妾の子なんじゃ無いの? 何時も貧乏くさい」

多分、白百合じゃなければ同情して貰えたんだろうな…

ともかく、白百合の苗字があるのにカーストは最下位..

まぁ、虐められない分幸せかな..無視はされているけど…

高校位は卒業しないと将来困る。

だから、貰った300万を切り崩して高校卒業までは持たせなけれないけない。

既にこのアパートを借りるのに25万円使ってしまった。

アパートの保証人にすら白百合では誰もなって貰えず、保証会社を使った。

家財道具に5万円使ってしまった。

残りは270万円

将来を考えたらバイトも探した方が良いだろう。

だが、バイトに受かっても保証人をどうするか考えなければならない。

《状況は最悪ね..》

いくら考えてもどうしようも無い事は、どうしようもない..

だから、私は日課の召喚魔法を唱える事にした。

「世界を司る6つの力よ運命に導かれし我がしもべを導きなさい」

1人は嫌…

本当に誰でも良いよ…

私を見てくれて…

傍に居てくれればそれで良い…

本当に何でも良いの..

来て..

通販で買った、唯一のぜいたく品、英国製の魔法の杖18000円を振った。

何も起こる筈が無い..

だが、今日は違った…

《嘘、魔法陣が光輝いている..本当..これは夢では無いの?》

まばゆい位に光が広がっていく..うんマンションで良かった、家賃4万円だけどカーテンを閉めているから、光は他に漏れないだろう。

そして、魔法陣の中心に間違いなく男の子がいる。

「ここは…」

起きない筈の事が起っちゃった。

奇跡が起っちゃった。

奇跡に感謝して体を震わせながら声を出す。

「あんた誰なの?」

上手く言えない物なのね..

捨てられた少年と捨てられた少女はこうして出会った。

はじめての夜
なんと答えれば良いのだろうか?

さっきまで僕はY-139と呼ばれていた。

だけど、今の僕にはその名前も無い..廃棄されたから..

「聞こえてないの? あんた誰?」

「聞こえてはいるのですが…何て伝えれば良いのか解らないんだ」

「何故? 名前も答えられないの?」

どうしてなのかな? 凄く悲しそうな顔をしている…

「今の僕には名前はない..しいていうなら勇者に成れなかったクズです」

「クズ?、それはどういう事なの?」

この人の何処がクズなのか解らない..

銀色、いやプラチナブランドの綺麗な髪。

少し赤み掛かった綺麗な瞳。

整った顔立ち、ちょっと幼いけど此処までの美少年は見た事が無い。

「僕は能力無いから、廃棄、捨てられたんです」

ここまでの美少年なら観賞用でも価値があるわ..多分この世界のお姉さんなら養いたいそういう人が山ほどいる筈だ。

「そうなの?」

「は….い、所でなんで僕はここに居るの..廃棄されて死ぬのを待っているだけだったのに」

「私が召喚したからよ!」

「そうなのですか? 貴方は大魔導士様..それで僕をどうしようというんですか?」

「そうね、貴方を呼び出したのは魔導士ではないけど、私だわ..だったら貴方を私の者にしても良いのよね?」

「廃棄されたクズ勇者..ですから..」

「そう? だったら決めたわ、貴方は私の傍に居なさい…死ぬまでね!」

「良いんですか? 僕は能力が低い本当にクズですよ!」

これほどの美少年がなんでクズなのかしら?

「良いわ、出来る事をしてくれれば構わない..いいわね..もう一度言うわ!私に仕えなさい!」

「はい」

良かった。

これで今日から一人じゃない。

だけど、これでいよいよアルバイトをしないといけないわね..彼は私が養わないといけないわ..

「だけど、出来る事はして貰うわよ? うちは裕福じゃないからね?」

「はい、勿論一生懸命仕えさせて頂きます」

「そう、ありがとう! それで貴方は何が出来るの? 廃棄されたとは言え勇者候補だったのだから強いんじゃないの?」

「弱いです..」

《黒龍はどうにか素手で倒せるけど白竜になすすべもなく逃げる事しか出来なかった》

「そう、それじゃ..そう頭は良いんじゃないの?」

「余り良くないです..ごめんなさい…」

《本1冊覚えるのに1時間も掛かる位だもん..》

「何か特技は?」

「多分、ありません」

「本当に使え無いわね..でも良いのよ! 私は寛大なご主人様だから、気にしないわ! これから頑張れば良いのよ!」

「はい、頑張ります、ご主人様!」

「さぁ今日は遅いわ、もう寝ましょう!」

「はい、ご主人様!」

ままま不味いわ..布団が一組しか無いわ..

「あの、そのね..布団が一組しかないの? 一緒に..」

「僕なら大丈夫ですよ」

「風邪引くといけないわ、それじゃ..毛布だけでも使って」

「有難うございます」

そう言えば、まだ名前を付けていなかったわ。

明日までに考えよう..うん。

はじめての朝
朝起きた。

直ぐに私は横を見た。

うん…夢じゃなかった。

朝起きたら居ないんじゃないか?

余りの寂しさに見た夢なんじゃないか?

思わず、そう思ってしまった。

だけど、彼は居た。

今迄の人生で唯一の私の成功。

何も手にする事が出来なかった私が唯一手に入れた者。

それが横で寝息を立てて寝ている。

《名前を考えないとね! 母親が自分の子を愛おしく思う気持ちが良く解るわ..》

クズって言っていたから..クスオが良いかな?

駄目ね、そんな適当なのは駄目だわ。

浮かんでは消し、浮かんでは消しを繰り返す。

駄目駄目、最高の名前を考えないと。

1時間考えようやく私が思いついた名前は「翼」だった。

彼は廃棄されたと言っていた。

それは多分、私と同じ、いやもしかしたらそれ以上に底辺なのかも知れないわ!

だから、そこから羽ばたいて貰いたい。

そして、何もない私が未来に進むパートナー…だから翼にした。

うん、これが良い..私は翼と一緒に未来に羽ばたくのよ..

まだ寝ているわね…

可愛らしい寝顔、何時までも見ていたくなるわ..

ただでさえ美少年なのに彼は私の努力が実った結果.、本当に目の中に入れても痛くない位に可愛い。

普通、どんな美少年だろうとじっくり見れば、どこか欠点が見えてくる。

召喚した私の贔屓目もあるのかも知れないが、欠点なんて見えて来ない、見れば見る程、愛おしさがこみ上げてくる。

これの何処が失敗作なの?

翼より美しい人間なんて見た事が無い。

兄や姉?

あれは人工的な物..こんな風に美しいと思った事は無いわ。

「まだ寝ている」

多分、疲れているのね、好きなだけ寝てて良いわ。

さてと、今日は学校は休もう、翼の服に翼の靴も買わなきゃいけないし..生活用品も買わなくちゃいけないし…

卒業だけ出来れば良いんだから..休んで良いわ。

「おはようございますご主人様!」

ようやく起きたのね..

「ご主人様を待たせるなんて最低よ!」

可笑しいわ、なにか優しい言葉を掛けようと思ったのに..なぜ憎まれ口しかでないのかしら?

「ごめんなさい、ご主人様、明日からからちゃんとします」

「別に良いわ..別に何かして貰う事も無いから..」

さてどうしようかしら..そうね、まずはご飯ね..

「朝食にしましょう! といっても大した物はないけどね」

「はい」

あらかじめ、炊いていたご飯に、味付け海苔に卵、インスタントの味噌汁。

実に味気ない朝食ね。

1人で食べるつもりだったんだから仕方ないじゃない。

「こんなご飯初めてです」

「大した物じゃないわ..良いから食べなさい!」

「はい」

私は箸だけど、翼にはフォークを用意したわ。

「あの、ご主人様、僕も同じのが良いです」

「そう、だけど難しいわよ?」

「頑張ります」

「そう、なら頑張って」

あれ、危なっかしいけど..ちゃんと箸で食べているわ。

「ごちぞうさまでした」

「ごちそうさまでした」

あれっしっかり挨拶できている..何でだろう!

「何で貴方は箸が使えて、ごちそうさままで言えるのよ!」

「ご主人様の真似をしました」

「そう..」

凄く賢いわね..頭悪くないじゃない。

「それじゃ、私は買い物をしてくるわね」

一緒に行きたいけど、流石にこの恰好じゃ連れて歩けないわ。

靴も無いし、ボロ着のまま連れ歩くのは可哀想だわね。

「はい、それでご主人様、僕は何をしていれば良いでしょうか?」

「そうね」

あんな簡単に真似ができるなら インターネットの使い方を教えようか…出来たら御の字だわ。

色々教える事が省けるからね..

「それじゃちょっと良い?」

パソコンを立ち上げて見せた。

よくよく考えたら文字すら解らないのだからネットサーフィンも出来る訳が無い。

「これで色々調べるのですね」

「そうだけど、よく考えたら翼は文字が解らないわね..」

だったらスマホを渡そう。

どうせ、誰からも掛かって来ないし。

これなら、音声認識 CONTOROを使えば良いわ。

簡単に使い方を教えた。

「それじゃ行ってくるわね!」

「行ってらっしゃい」

外に出てから気づいたわ…音声で調べても、回答は文字だから意味無かったわ..

まぁ仕方ないわ、帰ったら一つ一つ教えていくしかないわね。

すき焼きとネット
さて何から買おうかしら?

翼に似合う服、似合う服..一生懸命考えた結果、店員に丸投げしたわ。

だって私って服のセンスが余り無いから…うん、任せた方が無難ね。

「あのどの様な方の服なのですか?」

「そうね、凄くイケメンで可愛らしい感じかな..うんともかく美少年ね」

「はぁ..それでサイズは解りますか?」

「計って来たわ!」

このお客さん..サイズじゃ無くて全部採寸して来ているし..

さっきからハァハァ言っているし、本当に彼氏が好きなのね..いいわより本気で選んであげましょう。

「そうですか、それじゃ..これとこれ、あれはそれで、これはこれと併せて、これはこれで..」

目まぐるしく動くわね、この店員さん..

「これで、どうですか?」

うん、私が選ぶよりよっぽど良いわ..

「全部頂くわ」

「有難うございます..全部で37650円になります」

結構いったわね..だけど翼の為なら仕方ないわ..

「そうだ、下着もそのお願い」

「はい」

その後、靴を三足買った。

結構地味に痛いわね。

あとはご飯だわね。

あんな朝食で喜ぶなんて、だったら今日ぐらいは本当に美味しい物を食べさせてあげよう。

奮発してすき焼きの材料を買った。

一度位は良い筈よ..

「ただいま!」

「おかえりなさい、ご主人様!」

「あらっ もう挨拶を覚えたのね..随分早いわね!」

「はい、ずうっとネットをして覚えました..」

あれ、スマホを渡した筈なのにパソコンがついているわ。

検索しても文字が読めないから何も解らないわよね..なんで?

「翼ー 文字..」

「はい、法則を見ながら考えたら解るようになりました、スマホよりパソコンの方が調べやすいので使わせて貰いました」

「そう、凄いわね..」

これの何処が頭が悪いの?

日本語って凄く難しい筈よ!

それを半日でマスターしたの?

「そう、もっと頑張るのよ!」

本当は褒めて頭を撫でてあげたいのに、なんでこう上手く話せないのかしら?

「はい、頑張ります…それでご主人様はご主人様とお嬢様、どちらで呼ばれたいですか?」

何それ、どっちも捨てがたいわ..

「そうね、とりあえずはご主人様でいいわ」

「はい、ご主人様、それでパソコンにこれが入っていたのですが使っても良いですか?」

「株の取引きのソフトね」

15才の時にお父様から、株の取引き口座を開設して貰った奴の残骸..

「未成年でも自分で取引き出来る証券会社を選んだ、お前も白百合の家系なら増やしてみろ」

そう言われたわ。

だけど、お兄さまやお姉さまはちゃんと増やせていったのに私だけがどんどん減っていった。

これも私に両親が失望した原因。

「お前は真面にお金の運用も出来ないのか?」

減る度に怒られ、お兄さまやお姉さまは褒められて..嫌な記憶しかない。

お兄様やお姉さまに聞いても何時も嘘ばかり教えられて..もう殆どお金は入ってない筈。

嫌な思い出しかない.

「いいわ、自由にして、無くなっても構わないからね」

「はい」

私はパスワードと必要な情報を教えた。

さてと、早速私はすき焼きを作り始めた。

翼は相変わらずパソコンに噛り付いている。

「翼ぁーご飯が出来たわよ!」

「有難うございます、ご主人様!」

「今日は奮発してすき焼きよ..美味しいわよ!」

「ありがとうございます、ご主人様! すき焼きって何ですか?」

「ご馳走よ、さぁ食べましょう!」

しかし、美味しそうに食べるわね..

しかも、昨日の今日なのに箸を完璧に使いこなせているし..

「どうかしましたか、ご主人様!」

「何でもない、さっさと食べなさい」

「はい」

「さてと、今日は貴方の服を買ってきたから、お風呂に入ってからパジャマに着替えなさい」

「はい、だけど、お風呂の使い方が解りません」

えーとだったら私と一緒に…何を考えているのかしら私..

「ネットがあるでしょう? ちゃんと調べてから入りなさい、良いわね!」

「そうでした」

ネットが使えるようになっていて良かったわ..じゃなきゃ一緒に..それはそれで…馬鹿じゃ無いの。

シャワーを浴びて綺麗になりパジャマに着替えた翼は…はぁ凄すぎるわ。

「どうかしましたか? ご主人様!」

どうかしましたかじゃないわ..なにこれ..人間離れしているわ。

どうみても、小説の主人公じゃない..ハリウッドスターが裸足で逃げ出すわよ。

「へぇー少しは綺麗になったじゃない!」

「ありがとうございます」

「それじゃ、さっさと寝るわよ!」

「はい」

「何、毛布をとろうとしているのかしら? 一緒に寝るのよ..」

「えっ」

「昨日と違って、今日はちゃんと綺麗になったんだから良いわよ..ほら」

「ありがとうございます」

あれっうわぁ凄く良い匂いがするじゃない..これ位いいわよね?

だけど、私、多分今日は眠れないわ..

アルバイトとコーラ

気が付くと50万円も使ってしまったわ。

既に1/6も…

はぁ~直ぐにでも働かないと…

仕方ないわ、今日も休んでバイトを探さないと。

だけど、少し寝苦しいわね…

えっ..嘘、顔が近いわ、抱きしめられているの?

うん、これは仕方ない事だわ、起こしちゃうのは可哀想だわ..暫く、このままでいるしかないわね。

べべ別に下心がある訳じゃ無いわよ。

「おはようございます!ご主人様」

「おはよう..」

ちょっと残念ね…

さてと昨日の残り物で牛丼を作った。

「ご主人様、今日も美味しそうですね」

「残り物を掛けただけよ! 頂きましょう」

「「頂きます」」

「今日は翼はどうするの?」

「ご主人様の用事が無いなら、もう少しネットで知識を集めようと思います」

うん、まだ知識不足だから仕方ないわね

「そう、だったら頑張ってね、お腹が空いたら冷蔵庫の中の物好きに食べて良いわ」

「ご主人様はどうされるのですか?」

「私も今日もちょっと出かけてくるわ」

「そうですか? 行ってらっしゃいませ」

なんだか少し寂しそうだわね..

「行って来るわ」

色々考え、バイト先を選ばなくちゃね。

家から追い出されたとはいえ、変なバイトをしていたら実家に連絡が入るかも知れないし…

接客も愛想笑いも苦手な私は結局…

「若い女の子で此処のバイトは珍しいですね..うちは人手不足だから歓迎だけど..良いの?」

「はい、お願いします」

私が選んだのはパソコンの解体のお仕事。

壊れたパソコンが運び込まれてきて、メモリやCPU、液晶等を分解して仕分ける仕事だ。

これなら接客や愛想笑いもしないで済むし..

固い仕事と言えると思う..まぁ女の子らしいとは絶対に言えないけどね..

その代り時給は夜間なのに980円と低いけど仕方ないわ。

だけど、暫くは翼と一緒に居たいから..仕事は1週間後からにして貰った。

これでどうにか仕事も見つかったわ…

さぁ帰ろう。

だって、家には翼がいるんだから…

仕事も見つかったし、翼にお土産でも買って帰ろう..

たこ焼きが良いかな? フライドチキンにするか..そうだあれも買って帰ろう..うん驚くだろうな。

「お帰りなさい― ご主人様!」

あれ、喋り方が変わっているわね..

顔を笑顔で少しは緊張が取れたのかしら?

「ただいま、翼..今日はお土産買ってきたから一緒に食べよう!」

「ありがとう、ご主人様」

結局、私はたこ焼きとコーラを買って帰ってきた。

「これも物凄く美味しいですね」

「でしょう? 私も好物なのよ..その飲み物も美味しいわよ!」

炭酸水でこの味付けは無いでしょう? これは驚く顔が見たくて買ってきたのよ..

「これも美味しいですねご主人様」

「….」

驚かないの?

「あの、翼はこの味大丈夫なの?」

「ご主人様に会う前は…不味い物しか食べた事が無いから、ご主人様がくれる物は何でも美味しいですよ」

「そうなんだ..」

思わず、憎しみが湧いてくるわね..翼にそんな不味い物を食べさせていたなんてね…

「こんな物で良ければ何時でも買って来るからね..ゆっくり食べなさい」

「有難うございます」

「そうだ翼、明日はお出かけしない?」

「何処かに連れて行ってくれるのですか?」

「そうよ」

「楽しみです、有難うございます」

「ええっ楽しみにしていなさいね」

拾ってくれたから..

「あと何日生きられるのかな?」

いい加減お腹もすいてきた…

ここには死体しかない、空を見たのは何時ぶりだろうか?

空ってこんなに青かったんだ..

お披露目まで進んで、パートナーを見つけられた人造勇者は美味しい物も食べられるらしい。

産まれてから今迄、チューブに入った流動食しか食べた事は無い…

僕は何も知らないで死ぬんだな..

この施設の外の世界の事は本でしか知らない…

あと僅か、あと僅か数字が高ければ、外の世界に出れた。

そうしたら、僕にはどんな人生があったのかな?

綺麗な王女様に選ばれ結婚が出来たのかな?

白銀の鎧を来た騎士になれたのかな?

それとも宮廷魔術師?

勇者?

冒険者や賢者様に引き取られてその手伝い…なんでも良かった。

外の世界に行きたかったな…

「世界を司る6つの力よ運命に導かれし我がしもべを導きなさい」

何処からともなく声が聞こえる..

僕の近くの地面が光輝いた..

嘘だ、これは召喚魔法だ!

周りには僕以外は死体しかない..

僕で良いのかな?

僕しか居ないんだから僕で良いんだよね?

迷わず、光の魔法陣に飛び込んだ..

誰が呼んでくれたのかな?

光の先に僕が見たのは..背の低い女の子…この人が呼んでくれたんだ..

だけど、此処は何処なんだろうか?

「あんた誰なの!」

声が凄く可愛い..この人が僕のパートナーなんだそう思うとより一層そう思える。

だけど、僕には名前は無いんだ..どう答えて良いか解らない。

「聞こえてないの? あんた誰?」

「聞こえてはいるのですが…何て伝えれば良いのか解らないんだ」

ごめんなさい、僕は失敗作だから名前が無いんだ。

「何故? 名前も答えられないの?」

だって廃棄されたから名前そのものが無いんだから

「今の僕には名前はない..しいていうなら勇者に成れなかったクズです」

素直に答えるしかない..失望されたかな?

また捨てられちゃうのかな?

「クズ?、それはどういう事なの?」

まじまじと見つめてくる..説明するしかないない..

どうか捨てられませんように..初めて神様に祈った。

「僕は能力無いから、廃棄、捨てられたんです」

「そうなの?」

「は….い、所でなんで僕はここに居るの..廃棄されて死ぬのを待っているだけだったのに」

「私が召喚したからよ!」

やっぱり召喚者だ…こんな僕を召喚してくれるなんて..

「そうなのですか? 貴方は大魔導士様..それで僕をどうしようというんですか?」

あの場所から召喚できるなんて絶対に凄い人だ。

「そうね、貴方を呼び出したのは魔導士ではないけど、私だわ..だったら貴方を私の者にしても良いのよね?」

良いに決まっている、廃棄された僕にはパートナーは居ない..

「廃棄されたクズ勇者..ですから..」

「そう? だったら決めたわ、貴方は私の傍に居なさい…死ぬまでね!」

パートナーだ..夢にまで見たパートナー…もし、僕に能力があれば、お披露目の後に僕を獲得したご主人様から掛けられる言葉だ。

「良いんですか? 僕は能力が低い本当にクズですよ!」

クズなのに…廃棄勇者なのに..パートナーが出来た..だけど本当に良いのだろうか?

「良いわ、出来る事をしてくれれば構わない..いいわね..もう一度言うわ!私に仕えなさい!」

良いんだ、僕で良いんだ。

「はい」

この人の為なら何でも出来る。

出来損ないのクズだけど…この人の為なら人殺しだって神殺しだって喜んで出来るよ..うん。

僕の宝物
ご主人様からスマホというのを借りた。

最初は、言葉しか解らないからそれで色々調べたけど、文字が解らない。

文字、うん少し難しいけど暗号解読は施設で教わったから問題ない。

スマホを叩くこと3時間、どうにか文字は解読できた。

日本語は確かに難しいが、財宝のありかとかの暗号に比べれば簡単だった。

さてとこれからどうしようか?

知識は得られるだけ得た方が良い。

日常生活で問題がないレベル位までは覚えた。

ただ、このスマホは使い勝手が悪い。

ご主人様が見せてくれたパソコンを使わせて貰おう。

うん、こっちの方が見やすいし凄く楽だ。

作業しながら部屋を見まわした。

凄く質素だと思う。

何しろこの部屋にはベッドすらない。

必要な物、最小限しかない。

だったら、僕がお金を稼ぐべきだ。

賢者様や研究者の中にはお金を稼ぐのが苦手な人が多い、そう教わった。

その場合はパートナーである僕が稼ぐのは当然の事だ。

ギルドにでも入って獲物を狩れば良い、当座の間はオーガ辺り狩ってくれば生活費になるかな..

無い、無い、この世界にはギルドも無ければ、魔物もいない..お金が欲しいのに、ご主人様の為に必要なのに。

何か無いかな..お金、お金…

僕には身元が無いから働くことはできない…

身元は後でどうにか偽造するにしても、その前にお金がないと何も出来ないじゃないか..

結局、今の僕にできてお金を増やす事が出来そうな物は、投資とかギャンブルとかしかない。

このパソコンの中にはご主人様の株のソフトが入っていた。

今の僕に出来そうなことはこれを増やすことだ。

だけど、これはご主人様の物だ、勝手に触るわけにはいかない。

ご主人様が帰ってきた。

ただ、文字を覚えただけなのに凄く褒めてくれた。

そして今日は、今まで食べたことが無い..当たり前だけど、凄くおいしいご馳走だった。

すき焼き..知っている..これが高いという事をネットで知っていた。

しかも、自分は余り肉をとらないで、僕の茶碗に沢山入れてくれた。

拾ってくれただけでありがたい…

生かせて貰えるだけでありがたい….

それなのに、ご主人様は凄く優しい。

少しでも力になりたい。

この人の笑顔が見たい..喜ぶ顔が見たい..そう思った。

勇者になるよりも、お姫様と結婚する未来よりも…この人の傍に居たいそう思った。

シャワーを浴びてパジャマに着替えた。

ご主人様が僕を見つめている。

好意を持たれているのは解る….だって僕達人造勇者にそれを望む者もいるから。

お姫様の伴侶として選ばれた場合、出来ないと困ってしまうから…知っている。

「どうかしましたか? ご主人様!」

あえてそう答えた。

もし、本当に僕が欲しいなら最初位はご主人様から求めて欲しい..

それに僕の髪の毛からつま先まで全部ご主人様の物なんだからいつ求めてくれても構わない。

「へぇー少しは綺麗になったじゃない!」

ただの言葉、だけどこれにすら愛情が感じられる。

「ありがとうございます」

澄まして答えたけど。愛おしさがこみ上げてくる。

僕はどうしようもないくらいこの人が好きなんだ。

「それじゃ、さっさと寝るわよ!」

「何、毛布をとろうとしているのかしら? 一緒に寝るのよ..」

「昨日と違って、今日はちゃんと綺麗になったんだから良いわよ..ほら」

ご主人様が僕の胸元でうずくまるように寝て来た。

どうして良いか解らない。

今の僕には時間は沢山ある..

今はこの愛しいご主人様の寝顔を見ていたい…そう思った。

僕はやっぱり不良品

先に目が覚めた。

凄く愛されているのが解るからご主人様抱きしめてみた。

目が覚めたご主人様は顔を真っ赤にしながらも僕が起きないようにじっとしている。

本当に可愛いし、凄く愛おしい。

だけど、何時までもこうしてはいられない。

「おはようございます!ご主人様」

「おはよう..」

ご主人様の残念そうな顔が見れた..うん愛されているのが解る。

今日は何をするのか聞かれた。

「ご主人様の用事が無いなら、もう少しネットで知識を集めようと思います」

本当は違う、早速投資をしてみようと思う。

ご主人様は出かけるみたいだ…少し寂しいけど…都合が良いかも知れない。

部屋を見まわした、僕の服は新品、しかもどれも、これも上質な良いものだ。

それに比べてご主人様の服は..良い物かも知れないが..古いような気がする。

そしてかなりくたびれている。

それに、ご主人様はまだ学生なのに働くみたいだ。

昨日、求人情報を見ていたから解る。

早く力になりたい、だから僕はズルをする。

株の投資ソフト画面を見ながら

「プルゴキネーション」

未来視のスキルを唱えた。

これで僕には5時間後の未来が見える。

正直、この呪文も僕が廃棄品になった一つの理由だ。

「数秒先が見えるなら、戦闘で役に立つ、数日先や数年先が見えるなら予言に使える..本当にお前は使えないな」

「….」

「希少な未来視のスキルなのに5時間…本当に使えない」

嫌な思い出だ。

自由に時間調整が出来るなら、それこそ5分先が何回も見れるなら、幾らでもお金が稼げる。

だけど、僕には5時間後しか見えない。

だから、9時にこのスキルを使って終わりまじかの状態を見て、株を買う。

つまり、1日一回しか儲ける事が出来ない。

やっぱり僕は…廃棄品、不良品なんだ..本当にそう思った。

小さな幸せ
「翼ー 株で2万円も稼ぐなんて凄いじゃない!」

あの中には2万円も無かったはずだわ

1日で倍にする何てそう簡単な事じゃないはず..

「たまたまですよ..」

未来が見える事はまだ伝え無い方がいいかも知れない。

期待させちゃいけないし…

「そんな訳無いじゃない! まぁ良いわ、やっぱり貴方凄いのね」

「そんな事言われたの初めてです..有難うございます」

優秀何て物じゃ無いわ..文字が解らない状態から 投資?

しかも黒字なんて…翼が優秀じゃ無いなら世の中に優秀何て人間いないわ。

「所で、ご主人様、2万円ってどの位の価値があるんですか?」

「そうね、3日間分の生活費って所かしら?」

やっぱり、これじゃじり貧だ..もっとお金を稼がないと。

「さぁ翼出かけるわよ!」

「はい、ご主人様」

ご主人様が凄い笑顔だ..うん楽しそうだから僕も嬉しい。

「翼、どこか行きたい所はある?」

「ご主人様が連れて行ってくれる所なら何処でも良いですよ!」

「そう、そうしたら今日は初めてのお出かけだから、近くを案内するわ」

スーパーに、コンビニ..お店が知っている物と全然違う..馬車じゃ無くて車が走っている。

インターネットで事前に知っていたけど、直接見ると全然違う。

恐らく、僕が過ごしてきた世界より文明が数段進んでいる。

前の世界ですら落ちこぼれの僕がこの世界で…何が出来るのだろうか..

「どうしたの翼?」

「僕が過ごしてきた世界と全然違うから吃驚しちゃって」

「そう..そりゃそうだわね」

《ねぇ、あの男の子俳優かな?》

《絶対にそうよ..しかし、凄く綺麗な男の子ね…プラチナブランドも綺麗..》

《横に居るのが彼女かな?》

《違うでしょう? マネージャーかなんかじゃない?》

折角のご主人様の笑顔が曇ったじゃないか? ふざけんなよ…

「ご主人様、手を繋ぎませんか?」

「えっ!」

僕はネットで見た恋人繋ぎという手のつなぎ方をした。

うん、少しご主人様が赤くなった。

「それじゃ行きましょうか?」

《嘘、手を繋いだ、しかもなにあれ..》

《何であんなチンチクリンがあんな良い男と付き合っているの?》

《信じられないわ》

「うん!」

やっぱり、ご主人様はこうでなくちゃ..悲しい顔も綺麗だけど、笑顔はその何倍も可愛い。

ご主人様が疲れたというのでベンチに座って休んでいる。

ジュースとハンバーガーを買ってくれた。

これもまた美味しい。

「これも凄く美味しいですね」

「そう? こんなのは普通の物よ..そのうちもっと美味しい物を食べさせてあげる」

「ありがとうございます」

「良いのよ」

「あのご主人様、あれは何ですか? もしかして富くじみたいな物ですか?」

「あれは宝くじね」

「そうなんですか?」

「うん、ドラゴンくじって、色々な種類があるけど、数字を当てて、当たると賞金が貰えるのよ」

「数字を当てるだけでお金が貰えるんですか?」

そんなうまい話、そうそうある訳が無い。

「そうよ」

「どの位の金額が貰えるんですか?」

「そうね、6つ全部の数字を順番を間違えずに当てたら、確か2億円貰えるって聞いたわ」

「そう、なんですか..凄いですね」

「何だったら、1枚買ってあげるわよ?」

「本当ですか?」

「うん、はい300円」

僕は宝くじ売り場に買いに来た。

聞いた所、今日の18時30分、締め切りで抽選は19時からだそうだ。

今の時間は16時..だったら..

「プルゴキネーション」

横のボードにやっぱり当たりの数字が貼られている。

全部当てて.いや、何か問題があるといけないから..3等にしておこう。

それでも金額は376600円..これならご主人様も怪しまないだろう。

「買ってきました、当たったら全部ご主人様にあげますね」

「そうね、だけど、宝くじは夢を買う物なのよ、まず当たらないわ」

「それじゃ万が一当たったら..買い物に行きましょう..」

「はいはい、もし当たっていたらね」

こういう所は凄く可愛いわね..だけど残念だわ、宝くじはまず当たらないのよ。

でも300円位でも当たったら一緒にアイスを食べるのも良いわね。

さっきから、宝くじを宝物のように持っているわね..

こういう子供っぽい所も素敵だわ。

今後の事を考えたらお金をあんまり使えない貧乏デート。

日常の生活の基盤を教えて、あとはただ見て歩くだけのウィンドウショッピング。

横に翼がいるだけで凄く楽しい。

本当にそう思うわ..だってどんな宝石よりも彼が居るだけで輝いて見える。

「さてと、折角だから、さっき買った宝くじ見に行こうか?」

「はい」

「あれ、数字が同じ うそ、5個目まで同じ..あと一個で..残念だわね..ハズレ..えっ5個合っていたら3等じゃない」

「やりましたね、3等ですね」

「3等の賞金って幾らかしら、こういうのって1等だけが高額でそれ以外は案外低いのよ..嘘、3等でも37万6千600円..」

「これで、暫くの生活費が稼げましてね」

「翼..貴方、もしかして幸運値が高かったり..」

「それ、なんですか?」

「ううん、何でもないわ」

今迄、不幸だったのが嘘みたい..

翼は本当に..天使だわ。

三等で正解
ご主人様は僕に全額くれると言ったけど…僕はこんなお金は要らない。

「これは翼のお金だから、大切に使いなさい」

「当たったら全部ご主人様にあげる約束でしたから、これは全部ご主人様の物です」

「だけど..これは大金だわ」

そうだ、次に何かする時にお金は必要..

「このくじはご主人様に渡すから換金して、ご主人様の口座に入れて下さい」

「それじゃ、翼の物じゃないじゃない!」

「これは2人のお金、それで良いんじゃないですか!」

「だけど、翼..」

「そうだ、だけど、日常品を買いたいから、その中から1万円だけ下さい」

「あのね、だけど、これは..」

「僕の欲しい物はご主人様からしか頂けません」

「何、それ!」

「ご主人様の笑顔を見る事をはじめ、傍に居られるのが凄く嬉しいんです..ご主人様は僕を捨てたりしませんよね?」

「そんな事しないわ..馬鹿じゃ無いの!」

「なら、一緒で良いですよね」

《嘘、あの女、あんなイケメンから告白受けているの?》

《生活費を入れる話かな..同棲しているのかな..良いな》

「解ったわ…翼が良いなら良いわ、だけどこの金額は翼のお金、必要になったら言いなさい、良いわね!」

「はい」

これ、まるで同棲か結婚みたいじゃない?

「これからは口座を一緒にしよう!」

そう言われているのも同じじゃない..

「どうかしましたか?」

「別になんでも無いわよ」

くじは後日換金する事にして、今日はご主人さまがお金を出して良い肉を買ってくれた。

家に帰ったら焼いてくれるそうだ…うん、嬉しい。

今、ご主人様が肉を焼いてくれている。

その間、僕はパソコンでドラゴンくじについて調べてみた。

やっぱり、3等にして良かった。

高額のくじの払い戻しは銀行でしか出来なく、しかも50万円以上の高額当選は未成年には払い戻せない。

あの時、感じた違和感はこれだったのか…

勇者という者は直感に優れていないといけない。

優れた勇者は直感で危機を乗り越える。

例えば、この道を進んではいけない、そういう物が確実に解る。

人造勇者にもかなり劣化してはいるが、そういった能力もある。

但し、不良品、廃棄された僕は、この危機管理能力が1/3しか働かない。

しかも、何か可笑しいという位しか感じる事が出来ない。

今回の場合は直感が働いて良かったとしか思えない。

1等を取っていたら、家族と仲が悪いご主人様を困らせる事になったかも知れない。

これで方針が決まった…暫くはくじで50万円以下の当選と投資を繰り返す。

資金が溜まったら、戸籍を裏で購入する。

そこから先はまた後で考えれば良いだろう。

「翼、お肉が焼けたわよ..」

「うわぁ 凄く美味しそう..」

うん、考えられない位幸せだ..

戸籍とお金

「20代前半の男の戸籍が欲しいだって? あるにはあるが高いぜ!」

僕は、今、戸籍屋に来ている。

戸籍屋とは何かって?

文字通り戸籍を売っている人だ….当然真面な仕事ではない。

だが、裏の仕事では結構有名な仕事だ。

例えば、財産の無い老人が死に掛かっている。

彼は、貧乏だったが借金をした事が無い。

だが、財産も無い…奥さんに財産を少しでも残したい。

そういう時に使われる事もある。

こういうケースでは「当人が奥さんと離婚をして戸籍を売る」

死んだあと、葬儀も行わずに死亡届も出さない。

そして死体は裏で処分される。

そうして戸籍を売る。

戸籍屋は相手に対価として500万程度のお金を払う。

こうして、亡くなった人間は親族にお金を残す事が出来て、戸籍屋は空白の戸籍を仕入れる事が出来る。

この戸籍はどういう人物が買うのか?

一例だと詐欺師だ。

まず、借金の無い戸籍を白戸籍と言い「良質な戸籍」として扱われる。

今迄、借金をしなかった..そういう人間なら確実に、多額の借金が可能。

なりすましをして多額の借金をしてお金をかき集め…借りれなくなったら、自殺に見せかけていなくなれば良い。

また、犯罪者が新しい人生を始める際に別人になれば、前の人生は関係なく新しい人生を歩むことが出来る。

ともかく、戸籍という物は欲しがる人物が多い。

そうした、人たちの為に出来た商売…それが戸籍屋だ。

ブラックな仕事の反面…以外に戸籍屋は信頼が置ける人物が多い。

それはリピーターが居てお金を落とすからに他ならない。

また、口の堅さが無ければ顧客に信頼が得られず、場合によっては殺される商売だ。

戸籍のリストを見せて貰った。

何人ものリストを見せて貰ったが(勿論状況のみしか書いてない)

その中に気に入った物があった。

22歳の少年で孤独死した者…彼には両親が居なくて尚且つ数年の間、引き籠っていた。

その間のお金は祖父母が出していたが、祖父が死んで収入が無くなり…そのまま引き籠って死んだ。

その祖母が自分の老後のお金をどうするか考えた結果…此処に行きつき売られたという事だ。

しかも、これが良いと思った理由が…

「それはな、俺が直接仕入れた奴だな」

そう、この戸籍はこの男が直接仕入れた物、間に誰かが入っていないから足がつきにくい。

「これが欲しい..幾らだ」

こういう交渉の時はぶっきらぼうな方が良い..

「それは高いぞ..4千万だ、その代り、住民票から、保険証 印鑑証明まで全部ついているぜ..しかもそいつには友人もいないし、顔写真が必要な登録も一切して無いから、絶対にバレない、最高の戸籍なのは保証してやる」

ただ、買えればだがな…

「7千3百万で買うよ..その代り、特殊な払い方で税金も支払って貰う事になるが良いか?」

「マジか? 話を聞こう..」

僕はドラゴン6の一等賞金が当たったくじと紙を見せた。

「今回1回こっきりだが、ドラゴン6に不正が行われる情報が手に入った、そこで購入したらものの見事に当たった」

「そうか、だがそのくじが本物だという証拠は?」

「先にくじを渡す..換金できるのが解かってからでいい」

「それなら良いだろう..換金できるのが解ったら、俺がお前に3百万渡そう..7千万で良い、その金で何処かの賃貸を借りろ、そこに直ぐに住民票を移して、印鑑手続きをして国保の切り替えをすれば、問題無い、そしたらお前はもう別人だ..古いアパートの引き払いはサービスでしてやるよ」

半信半疑で男は銀行に行った。

くじと一緒に貰った紙には購入の経緯が書いてある。

購入した店から、くじを手に入れた経緯迄..くじはあっさりと本物だと認められた。

《マジか?これ本物だぞ..》

僕は銀行の前で待っていた。

「本物だったな..マジであんた何者なんだ!」

「僕は孤児でね..そこから先は言いたくないな」

「まぁ、客を探らないのもこの仕事の鉄則だ..ほらよ3百万、それと今の住民票と保険証と実印と印鑑証明だ」

「有難うございます」

「礼を言うのは俺だぜ..あんがとよ! 」

「また、何か相談する時はお願いします」

「ああ金になるなら協力するぜ!」

男は笑顔で去って行った。

さてと、

僕は今の住処の近くの不動産屋さんに行った。

「どんな物件をお探しですか?」

どうしようか?

買うなら、もう少しお金が溜まってからにした方が良いだろうな…

「家賃が20万円位の物でセキュリティがしっかりした物で直ぐに住める物をお願いします」

「そうですか、それじゃ今から資料をご用意しますね」

幾つか物件を見せて頂き、3LDKの物を選んだ。

メゾネットになっていて最上階なので専門の屋上がついている..しかもペット購入も可能でオートロックに管理人在住..うん問題無い。

しかも、駐車場も別料金だがあるから、先々、車を購入した時にも良いだろう。

しかも、この会社の自社物件なので手続きが簡単だ。

「ここに決めます」

「そうですか! 自画自賛じゃないけど、これは凄く良い物件ですよ..ですが見ないで決めて良かったんですか?」

「はい、内覧中に他の方に取られたら悲しいので即決させて頂きます」

それから手続きをした。

その際に、銀行口座を作って無い事に気が付いたが..

「後で構いません」

と笑顔でお姉さんは答えた。

近くの銀行で口座を作り、ついでなので、住民票の移転と念の為、印鑑を変えて印鑑の住所変更を済ませた。

《もう、夕方か..そろそろ帰ろう》

当たりくじはもう一枚ある。

明日は僕の分も換金に行こう..

そうしたら、ご主人様の為に..色々買えるかな?

ようやく、少しだけ恩返しができる…

「随分、遅かったわね..」

少し、ご主人様の機嫌が悪い..

「すみません、物珍しくて色々見ちゃいました」

「別に良いわ..それなら、翼がくじに当たったから余裕があるから今日も外食しちゃおうか?」

「良いですね」

「うん、翼は何が食べたい?」

「ご主人様と一緒なら何でも良いです..」

「そう、だけど、偶には翼が選んで!」

「そうですか? ならカレーとかはどうですか?」

「良いわね! いきましょう」

やはり、ご主人様の笑顔は可愛い..この笑顔を見れるなら。

僕は幾らでも頑張れる。

守る

白百合京子か飛んで火にいる夏の虫だな。

体は胸も無いし好みじゃ無いが顔は良かったな..

保証人も無し..しかも求人募集の見方も解らない馬鹿女だ。

うちは日勤で時給1000円だ。

だから、夜間働くなら25%増しの1250円、これが正規の時給。

そんな事も解からずに、時給980円で納得していた。

つまり、此奴は馬鹿なのか訳ありの女だ。

こういう奴は何をしても訴えない。

訴えると困る事が多いから大抵は泣き寝入りする。

保証人が居ないという事は頼る相手が居ないという事だ。

従業員に徹底的に虐めさせ、助け船を出して僅かなお金で愛人にしても良い。

仕事で失敗をさせて借金漬けにして奴隷にするのも良い。

それとも監禁して犯すか..泣きつくとこが無いから案外そのまま手元に置けるかもしれないな。

いずれにしても、自分の物にするのは時間の問題だろう。

《此奴、こんな事を考えていたのか?》

ご主人様がもうじき働きに出る。

万が一にも大変な目に遭うといけないから、どんな会社か調べたら…社長が婦女暴行で捕まった事件があった。

その他にも労働基準法を無視したり、賃金未払い等..とんでもない会社だった。

だから通りすがりに、この社長のちょっと頭の中を覗いたら、とんでもない奴だった。

こういう汚い部分をご主人様に見せないのもパートナーの仕事。

だから、相手の人間の心を除く能力も僕たちにはある。

最も廃棄品の僕は表層しか読み取れない。

探索に優れた人造勇者なら、心にダイブして深層心理まで全部読み取れる。

やっぱり、僕はクズなんだ。

思わず頭に来て周りを見たら人が居なかったから、当身で気絶させてしまったが…どうしようか?

僕の居た世界なら殺して捨ててしまえば問題無いが..この世界だとそれは不味い。

裸にしてゴブリンのエサにする事も出来ない。

上手く行くか解らないが..僕は頭を振動させた。

何をしているのかと言うと脳を壊している。

外傷が残らないようにして…

素早く脳を内側から頭蓋骨に打ち付けるように振動させる..

これで、脳障害が起きる。

これは 敵対する相手だが命を奪ってはいけない時に行う。

例えば、

取引相手が頭脳派の場合、居なくなってしまったら取引そのものが無くなってしまう。

だが、優秀な場合はその交渉が不利になる。

こんな時にその優秀な人間を使えなくすれば良い..生きているから契約は続行、そしてその代理人との取引きになるから楽だ。

本当に凄い人造勇者なら、壊し方を調整して、色々出来るが..僕は壊す事しか出来ない。

まぁ、どうなっても、ご主人様の敵だ..どうでも良い。

こんな物で良いか..

暫く様子を見るか?

揺り動かした..

「こんな所で寝ていると風邪ひきますよ..」

「うん、あれ僕は何でこんな所で寝ているんだろう…所でお兄ちゃんは誰?」

お兄ちゃん? これは幼児退行しているのかな?

「いや、君が此処で寝ていたから風邪を引くといけないから起こしたんだけど大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ」

「良かった、所で僕のお名前は? お歳は幾つかな?」

「うーんとね..ゆうき…5しゃい」

「偉いね、ゆうきくん…じゃぁこれ上げるからお菓子でも買いな..お兄ちゃんはもう帰るね」

「100円も..ありがとう」

「じゃぁねゆうきくん」

「うん、バイバイ」

これで多分、大丈夫だ….だが念には念を入れおこう。

帰りに、戸籍屋に会いに行った。

「もしかして、何か儲け話ですか?」

「貴方に直接関係ないが、PCテクニカ二クスという会社の社長がいま、脳障害を起こしているらしい..多分、今なら簡単に騙せる」

「俺に関係ないが..なかなかの情報だな..それは俺の顧客に流したら喜ばれる..それで幾らだ」

「そうだな、ここのコーヒー代を持ってくれれば良い」

「安すぎないか?」

「儲けるつもりが無いから、先に話したんだ..」

「そうか、まぁ、がせじゃ無かったら、謝礼位はさせて貰う」

「それじゃな」

「ああっ」

これでもう終わりだ。

5歳の頭じゃ詐欺師から会社は守れないだろうから…

ご主人様にお土産を買って帰ろう..

「お帰りなさい、翼!」

「ただいま、ご主人様、今日はお土産を買ってきました」

「何を買ってきたの?」

「お寿司です」

「お寿司良いわね..だけど、これじゃお小遣い直ぐに無くなっちゃうわよ」

「大丈夫ですよ」

「そう?まぁ無くなったら、またあげるから良いわ」

「ありがとうございます」

「それで、ご主人様、明日デートしたいんですが受けて貰えますか?」

「ででででデート..いきなりね..いいわ、うん受けてあげる」

顔が、凄く真っ赤になっている、凄く可愛い..

「ありがとうございます」

「それで、何処に行くの?」

「それはお愉しみにしててください」

「解ったわ..」

デートか..

この前のは、ちょっと違う気がする..うん。

明日は本物のデート..

翼がデートと言ったんだから本物のデートよね…

凄く楽しみだわ..今日は眠れないと思うわね..

翼の過去とご主人様のプロポーズ??
明日はデート..駄目ね…興奮して眠れないわ。

横を見ると翼も寝ていないわね..

そうだ、

「ねぇ、翼について教えてくれる?」

「僕についてですか? 前にも話した通り 人造勇者のクズ..失敗作です..」

「聴きづらいんだけど人造勇者って何?」

「良いですよ..人造勇者は..人造勇者って言うのは、過去の勇者の遺伝子や偉人の遺伝子から作られた人造人間です、僕の場合は万能型を目指して作られたY-139..というタイプです」

何だか、化学なのか魔法なのか解らなくなってきたわね。

「それって凄いんじゃないの?」

「ええっ、女神すら恋をしたという美少年セレスに、たった1人で魔族に立ち向かい勝利したジェイク、その他にも優秀な遺伝子が組み込まれていると聞いてますが..失敗作なので..旨く能力が使えません」

「あのさぁ..私から見て翼は優秀にしか思えないんだけど..廃棄までする必要は無いと思うんだけど」

「人造勇者は連合によって各国団体ごとに人数が決められているんです」

「どういう事?」

「人造勇者は戦力としても優秀で、僕みたいな失敗作で無ければ驚異的な力を持っています」

「だから?」

「それこそ、優秀な人造勇者を20人も持てば世界征服も可能な位」

なにそれ! 桁が違うじゃない..

「だったら、多少能力が低くても廃棄なんてする必要ないじゃない!」

多少能力が低くても貴重な筈だわ..

「暴挙を防ぐために連合組織では各国をはじめ、団体ごとに所有する人造勇者の数が決められています。例えばタルダロスという大国で12人、トリスタンという小国だと3名…その他、冒険者組合で10人、特別な手柄を立てた者に破格の計らいで1人下賜するという風に定員が決まっているんです」

「それって…もしかして」

「そうです、手に入れられる数に制限があるから、質に拘り、より優れた人造勇者を欲する..そういう事になります」

「だからなの…そのごめんね..」

「良いですよ..その為、能力の低い者は処分される、そういう事です」

「ごめんなさい」

悲しい顔なんてしなくても良いのに…本当にご主人様は優しいな。

「話しを続けますね…人造勇者として施設での過程で優秀な者はお披露目にでられます」

「お披露目って何?」

「お披露目とは、年に一回行われる人造勇者と欲される方との出会いの場です」

「何それ..」

「簡単に言うと、人造勇者が欲しい国や団体は、条件を事前に連合に伝えます。そして実際に人造勇者を見てどうするのか決めるのです」

「何だか奴隷市場みたいじゃない」

「違いますね..選ぶ権利は人造勇者側にありますから」

「国や団体じゃ無いの?」

「はい、だからこそ選んで貰う為に破格値の待遇を用意する訳です」

「凄いわね」

「過去には、美姫1人に側室4人つき、次期国王という待遇もあったそうです」

「本当に凄いわ..」

「だけど、人造勇者が選ぶのはこれ一度だけ…後は1人の方にその一生を捧げます」

「それって..」

もしかして、これって究極の恋愛じゃないの..

「はい、人造勇者にとってのパートナーは伴侶以上です、だからこそ人造勇者と結婚される方も多いと聞きます」

うん、ちょっと待って..私..翼のパートナーよね..

「ちょっと待って..」

私はテレビをつけた。

「この子と私、どっちが可愛いかしら?」

「ご主人様に決まっているじゃないですか!」

この子 OKB28のセンターなのに..

「じゃぁ..この子と比べたらどうかな?」

「ご主人様ですよ..」

「だったら、この子..胸も大きいしスタイルも良いわ」

「僕にはご主人様以上の人なんていませんよ」

やっぱり、そうだ..いやだ顔が、どうしようにやけてしまうわ。

「だから前に言ったじゃないですか? 僕の欲しい物はご主人様しか持っていないって」

「翼、それじゃ私が翼と結婚したいっていったら…どうするかしら?」

「廃棄勇者の僕で良いなら喜んで!そんな嬉しい事なんて…他にはありません」

「そっ、そうなんだ.」

これってもう婚約しているようなものよね…

というか、今のは..嘘..私プロポーズしたみたいじゃない…しかも返事はイエス..そういう事じゃない..

今迄の運の無さが嘘みたい..

「あのさぁ..翼、もうちょっとこっちに来なさい」

私は翼の頭を抱きしめるようにして寝る事にした。

翼を見るとなんだか嬉しそうに見える。

私は多分眠れない..だって、だって..プロポーズを受け入れてもらったような物だもん..

こんなのって、眠れるわけないじゃない..

買う、買う
「あの翼、此処は何?」

「ここはご主人様と僕の新しい住処ですよ!」

「あのさぁ..翼、表札に書いてある 水城翼って誰?」

そう、僕があの戸籍を気に入って直ぐに決めた理由は、同じ名前だったからだ。

この名前はご主人様が僕にくれた名前..出来る事なら変えたくはなかった。

同じ名前が売り出されていたなんて奇跡に近い。

「僕の名前です」

「この苗字..どうしたの?」

「買いました」

「えっ戸籍を買ったの? それって不味く無いの?」

「本来は危ないのですが、信頼できる筋から買いましたので問題はありません」

「それで、このマンションはどうしたの?」

「借りました」

「どうやって?」

「戸籍があるので僕の名前で借りました」

「そう」

昨日の話しで何となく思ってはいたんだけど…人造勇者って桁が違いすぎるわ。

今になって思えば…幾ら能力が低くて廃棄されたとはいえ、それは人造勇者の中での話。

よくよく考えれば、ヒーローの欠陥品が居たとしても空が飛べたり、通常の人間よりも遥かに強い筈だわね。

「どうしました、ご主人様?」

今日は普通のデートのつもりだったのに..少しがっかり..

「何でもないわ」

「そうですか?」

「それで、翼、今日はこれからどうするの?」

「ご主人様と一緒に家具や家電を買いに行こうと思います」

「そう」

これはデートなのかな? 

TKK 大村家具にご主人様と来た。

TKK、大村家具は高級家具店で有名で質は良いが値段が凄く高い。

100万円くらい持ってきても上質な物なら椅子2脚しか買えない。

「翼、此処は凄く高いのよ..不相応だわ」

「ご主人様、そんな事無いですよ、ご主人様に相応しい家具何てこういう店にしかありません」

「そう..それならみて見れば..金額に驚くわよ」

本当に此処は高いのよ…うちの父親ですら躊躇するような物ばかりなんだから…

「大丈夫です、任せて下さい」

「そう、まぁ見るだけでも楽しめそうね」

ご主人様とソファセットを見に来た。

その中の一つをご主人様は食い入るように見ている..

「そのソファセット随分気に入られたんですね」

「うん、これ華麗なる家族というドラマで使われた物に似ているのよ」

「そのドラマ、好きだったんですか?」

「うん、私がちゃんとした子だったら、ああいう生活があったんだ..そう思えて」

「そうですか」

「そのソファが気に入られたんでしょうか? 流石お目が高いです、そのソファは 華麗なる家族で使っていたモデルと全く同じ物なんです」

「あっやっぱり、そうなんだ、似ている筈だわ」

「もし気に入られたのなら購入されては如何でしょうか?」

「えーと、他も見させて貰える?」

280万、こんなのは買えないわ。

《馬鹿じゃ無いの、貴方達みたいな若い貧乏人が買える訳無いじゃ無いの..ベタベタ触られたら困るのよ》

「ご主人様、これ気に入ったんですよね..だったら買いましょう、お金なら大丈夫ですから」

「翼、そんな勿体ないわ」

「ご主人様に使うお金に勿体ないなんて物はありません」

「あの、そのソファセット購入されるんですか?」

「はい、現金で購入させて頂きます」

「ありがとうございます、他にも必要な物はありますか?」

《なにこれ280万のソファセットが買えるなら上客だわ..貼り付いていたら他にも買って貰えるかも》

「そうですね、この間取りの部屋に住むんだけど、一式揃えたいから色々見せて下さい」

「一式でございますね..解りました一つ一つ厳選した物をご案内させて頂きます」

《これ、今日来た客の中で最高の客じゃない..》

「宜しくお願い致します」

《翼、無理しなくて良いわ》

《何言ってるんですか? ご主人様との新生活なんですから頑張りますよ》

新生活…あれっこれってまるで新婚生活をスタートするみたいじゃない..

《そそそそそそうね..解ったわ、確かに新生活だわ…だったらちょっとだけ贅沢しようかしら》

《お金は余り気にしないで下さい》

「若奥様、どうにかされましたか?」

《若奥様…》

「何でもないわ..大丈夫よ!」

この店員何て事言うのかしら? まだ、まだ、早いわよ..

「そうですか? それではベッドからご紹介しますね…この辺りのベッドがお勧め品です」

「へぇー結構あるのね」

「品揃えの良さも当社の売りですので..高級な物も沢山取り揃えてあります。 この辺りはイギリスベッドですからかなり高級な..」

ご主人様と一緒に寝るなら、大きい方が良いな..この辺りのベッド..大きくて良さそうな気がする。

「ご主人様、これなんか良さそうですよ」

「クイーンサイズのベッドね確かに良いわね..だけど、私や翼ならもう少し小さい方がいいわ」

こんなに広いとくっついて眠れないじゃないの..

「そう、だったらこれなんか良さそうですけど..」

「うん、サイズとか凄く良さそうだわ..だけどこれも高いわ」

《高いのは当たり前じゃない..それシモンダのベッド、五つ星ホテルでも使われているんだから》

「だけど、これなら、ご主人様に抱きしめて寝て貰っても、手が痛くならないと思う」

「ななななな、何を翼は言っているのかしら..だけどそうね、確かに柔らかいわ」

「それじゃ、これでお願いします!」

「はい、畏まりました」

《シモンダのベッド…228万円..を即決>

それじゃ、他の物も見せて下さい。

「はい、ただ今」

「これが良いと思いませんか?」

「こっちも捨てがたいわ」

《カリダのダイニングセット…120万円>

《高級布団一式…160万円》

《オーダーメイドカーテン 220万円》

「有難うございます..これで一式揃いましたわね」

「ええっ」

《本当に払えるのかな..計算したら小物も含んで1280万もします..》

「そうですか? はいこれで足りている筈なんだけど数えて下さい」

「はい..ちょっと待って下さい..金額が多いのでもう二人程呼んでまいります」

《凄い、本当に持っていたわ》

「解りました」

「はい丁度、1280万円ありました、それではこちらの書類に住所をお書きください、商品は後日配送して組み立てますから」

「はい」

「いいなぁ、あの若奥さんが羨ましいわ」

「あんなにイケメンの旦那さんが居て、高級家具を値段も見ないで買えるなんて..羨ましすぎる」

「だけど、旦那さんの方がご主人様って呼んでいたから、あのお金、奥さんが稼いでいるんじゃないかな?」

「だったら余計に羨ましいわ..」

「それで、翼今度は何処に連れて行ってくれるの?」

もう驚かないわよ..

「そうですね、次は安田電機で家電を一式揃えましょうか?」

「ええ、良いわね..」

ここでも、最初は誰も話しかけて来なかった..だけど

「そのテレビは最新型の8Kテレビですね..80インチと大画面なので映画館並みの映像と音楽が楽しめます」

《流石に158万、この若さじゃ買えないだろうな》

「ちょっと大きすぎますね..二サイズ位小さいのありますか?」

「そうしますとこちらの商品になります…60インチでお値段も安くなりますからお勧めです」

「値段も40万円でお手軽ですね..ご主人様、これどうですかね?」

「凄くいいわね、それにしましょう」

「それじゃ、これを買いますが、他も見せて頂けますか」

「はい」

《これは..沢山買ってくれそうだな》

「冷蔵庫は、これで、電子レンジはこれ、洗濯機はこれ、ついでに食器洗いに、空気清浄機に掃除機に炊飯器、他に新生活で必要な物で、最新の物を見せて下さい」

「はい、これはあれで、あれはこれで、これは最高の物です」

「それじゃ、全部頂こうかな? ご主人様も良いですか?」

「いいの?」

「勿論ですよ、ご主人様」

《この人達、何者なんだ..全部で600万円..IT社長とかかな》

結局、これらの商品も送って貰う事にした。

「ご主人様..そろそろ、遅いし食事して帰りませんか?」

「そうね」

「それでお願いがあるんですが、明日も、そのデートしてくれませんか?」

「ええ、良いわよ」

しかし、信じられないわね…凄すぎるわ..

好きという気持ち
この部屋に居るのもあと3日間と考えると感慨深いわね。

「どうかされたのですか? ご主人様!」

「ここ暫く、まるでジェットコースターみたいだなと思って」

「そうですか?」

「そうよ..良い意味で何が何だか解らないわよ」

「ご主人様が良いならそれで良いと思いますよ!」

ご主人様か..ご主人様って言われているけど、私って翼に何もしてあげていない..

「ねぇ..翼って欲しい物は無いの?」

「欲しい物ですか? 別にないですね、ですがしいて言うならご主人様ですか」

「わわわわわわ 私っ!」

「はい、僕にとってご主人様以上に好きな物も好きな人もいません」

覚悟を決めるべきだわね…

翼は絶対に私を裏切らない..

生涯傍にいてくれて…

これでもかと尽くしくれる..

これ以上無い位に愛されているのも解かる。

「そう、解ったわ..シャワー浴びてくる」

顔は..うん、自分で言うのもなんだけど、そこそこ可愛いわ。

だけど、体は貧相だ..胸も無いし、チビだし中学生にすら間違えられる..

こんな、物で良いなら..翼が欲しいなら..あげるべきだ。

だって、ご主人様何て呼ばれているけど、私は翼になにもあげていないんだから..

私は念入りに体を洗った。

「ふぅ、気持ち良かったわ..翼も早くシャワー浴びてきなさい」

「はい、ご主人様」

翼はシャワーを浴びに行ったわね…

下着はこれで良いかな…私の体型じゃ余りセクシーなのは似合わないし持っていない。

もう少し大人っぽいのも買っておくべきだったわ。

結局、迷った末私は ピンクのブラにピンクの下着、同じくピンクのキャミソールを選んだ。

恥ずかしいから、電気を消して、先に布団に入った。

翼は自分からは多分何もしないし、してこない..

だから、私から誘う必要があると思う..

私は男性と付き合った事が無い…キスどころか手すら握った事も無い。

どうして良いか解らない..

「ご主人様..電気消してどうしたんですか?」

私は黙って、自分の布団の横をポンポンと叩いた。

言葉がでない..私にはこれで精一杯だ。

「ご主人様?」

「翼、私を好きにして良いわ..」

顔が真っ赤になり、心臓がこれでもかって位早くなる。

翼が布団に入ってきた。

どうしよう? 体が震えてきた。

翼の唇が私の唇に触れた。

軽いキスだ..

これは私のファーストキス..

体の震えがさらに増した..翼が好き..本当に好き..だけど…少し怖い..

だけど、翼に喜んで貰えるなら、幾らでも我慢できる。

「もっと、好きにして良いわ..」

口を震わせながらなんとか言えた。

「ご主人様、無理しなくて良いですよ..」

「無理なんてしてないわ」

「だけど、体が震えていますよ」

「仕方ないじゃない、こんな経験した事ないんだから..」

「だったら無理しないで下さい」

「嫌なのよ..翼は私になんでもくれるわ..今日買ってくれた物だってそうだわ、多分私が死ぬ程頑張ったって何年も貯金しても買えないのよ」

「気にする必要なんて無いんです..僕はご主人様が笑ってくれればそれが幸せなんですから」

「嫌なのよ、私だって翼に喜んで貰いたいもの! だけど、翼は私しか欲しく無いんでしょう..だったらこれしかあげられるものはないわ」

「僕はご主人様に沢山の物を貰っていますよ」

「だけど、それ以上に沢山の物を貰い過ぎているの、もし私がもう少し大人なら結婚だってしてあげるわ、だけど、今の私じゃ、こんなものしか与えられないじゃない..だから、貰ってよ..これしかあげられないんだから」

僕はこれで充分なんだ..愛されているだけで嬉しいんだから..

だけど、それじゃ納得してくれないんだろうな..

「ご主人様! だったら僕と結婚してくれませんか?」

「出来ないわ」

「どうしてですか? 僕の事は嫌いですか?」

「好きよ、大好き..これでもかって位大好きだわ..だけど、私は16歳なの、未成年なのよ..無理なのよ」

「それでも、もし結婚出来るなら、お嫁さんになってくれますか?」

「翼が良いなら、してあげるわ」

「それじゃ、僕と結婚して下さい」

「いいわ、結婚出来るようになったら、翼と結婚する..こんな口約束でいいの」

「はい、それが一番僕が欲しい物ですから」

翼は優しいわ..本当に私を大切にしてくれているのが解る。

だけど、これで良いのかな…結局、私は口約束だけで何もあげていないじゃない..

翼が私が欲しいっていうなら、死ぬまで一緒に居てあげる..そういう気持ちでいる。

それしか無いのかな..

だけど、これって結局は、私が一方的に貰っているだけだわ…

優し過ぎるのも考えすぎよ。

良かった、ご主人様が結婚してくれる。

これは、僕たち人造勇者にとって一番欲しい物だ。

人造勇者はご主人様の物だ..そして相手に拒まれない限り生涯を共にしなくてはならない。

自分の全てはご主人様の為にある。

だが、主人にとって人造勇者が全てでない場合もある。

例えば、主人が結婚しても仕える場合だ、これはこの世の地獄だ。

誰よりも愛し、誰よりも大切な人が他人の物になるのだから..

多分、僕はこの辺りにも欠陥があるのかも知れない..

他の人造勇者以上に独占欲が強いのかもしれない..

ご主人様が他の者を好きになる、そう考えると凄く胸が苦しくなる..

他の人造勇者の様に 主人の愛が他に移っても仕える事なんて僕には出来ないと思う。

デートの前に切り離し
ご主人様が結婚してくれるって言ってくれた。

凄く嬉しい。

ご主人様との結婚だけど..実は簡単に出来る。

16歳じゃ結婚できない…それは両親が反対した場合。

ご主人様の両親の片親が保証人になってくれれば出来る。

僕は成人しているから誰でもいいから保証人1人。

これは代行業者で2万円の所があるからそこに頼んで書いて貰えば良い。

実はもう既に準備はしていたんだ、「結婚」は夢だから。

日にちは少し遡る。

「はい、これで良いのよね…約束の300万、を早く頂戴!」

この女の名前は恵子、ご主人様の母親だ。

しかし、本当にご主人様の事なんて眼中に無いんだな。

それがこの態度で解る。

だって、僕はこの女にご主人様と合わせていない。

しかも、まだご主人様の欄は空欄なのにサインして判子を押しやがった。

天下の白百合製薬の奥様…それが表の肩書。

だけど、その裏は浪費癖のある馬鹿女だ。

高級バッグに、時計に、裏カジノ、挙句にホストにまで手を出していた。

実際には旦那は不自由ない位の小遣いとして月に200万以上は渡しているし、ブラックカードも持っている。

だから普通は困らない。

だが、几帳面な旦那はちゃんと領収書の提出を恵子にさせていて、カードの明細書もしっかり確認していた。

その為、高級バッグやブランドには困らないが、裏カジノやホスト代の支払いに困っていた。

今までは、買った物を質屋に売りさばき工面していたらしいがそれももうばれ掛かっている。

正直、こんな情報はどうでも良かった、ご主人様の為に白百合製薬になんかしてやろうと思った結果、たまたま知っただけの情報。

だが、つけこむなら今だ。

多分、そのうちバレてこっぴどく怒られるが、多分それだけだ。

外面を気にする白百合家なら、立場は悪くなっても離婚は無い。

だからこそ、今が数少ないチャンス。

ご主人様を白百合から切り離す、良いチャンスなのだ。

例えば、頑張って資産を築いても未成年を理由に親が管理すると言われれば取り上げられる可能性もある。

だが、結婚してしまえば、この国の法律では成人したとみなされる。

ちゃんとした独立した扱いになる。

選挙権も無く飲酒や喫煙は出来ないが、立派な成人。親が手を出せなくなる。

そして「僕とご主人様を引き離せなくなる」

そう考えたらよい情報だった。

「ありがとうございます」

「別に良いわ、もう要らない子だしね、白百合の姓を名乗らなくなるなら寧ろ有難いわ」

「そうですか」

「正直、あの娘はあまり好きじゃない、百合子と違って出来が悪いから、本当に恥さらしだわ、私の子とすら思いたくないのよ、まぁ本当に嫌いだから嫌がらせ位しようと思っていたけど、貴方が全財産くれたからこれでいいわ、貧乏人を虐めても仕方ないからね」

「ありがとうございます、京子さんと結婚するために貯めたのに、ご実家と揉めていると聞いて困っていたんです。結婚資金にと貯めた300万ですが結婚できなければ元もこうもありません」

「そうね、私にきて正解だわ、主人だったら許さないでしょうからね、まぁ最後に300万私にくれた、これがあの子の唯一の親孝行ね」

「だけど、何でそこまで京子さんを嫌うんですか?」

「だって、能力がないんだもの、白百合の恥さらしだわ..もう良いわよね..貧乏人なりに幸せにね..」

僕と同じだ..ご主人様も捨てられたんだな。

さてと…これで、ご主人様と白百合はもう関係ない..白百合には何やっても構わない..な。

「おはようございます、ご主人様」

「ううん、おはようって翼!」

「あのさぁ、もしかしてかなり前から起きていたの?」

「はい」

「もしかして、私の寝顔を見てたりしないわよね?」

「見てました、いつも、凄く可愛いですよ..特に熟睡してよだれを垂らして寝ている顔が一番好きです」

「恥ずかしいから、余り見ないで…ちょっと待って、今いつもって言わなかった?」

「はい、いつも見ています」

本来は怒るべきよね?

だけど、翼は私が好きで好きで仕方ないんだから、仕方ないわ。

「余り見ないでね..恥ずかしいから」

「気をつけます」

絶対に守らないわよね..明日からは早く起きるようにしよう…

「それで今日は何処に連れてっていってくれるの?」

「今日は、ご主人様の服を買って、それから遊園地に行きませんか? その後はサプライズを考えています」

本当のデートだわ..うん凄く楽しそう。

「凄く楽しみだわ…サプライズって何..」

「今はないしょです..」

「まぁ、良いわ..それじゃ支度して行こうか?」

「はい」

せっかくの翼とのデートなんだから..少しでも長く楽しみたいもの。

婚約
女神のストリート。

此処には高級品からお手軽な物まで色々な服が売っている。

此処を選んだのには理由がある。

此処にはショッピングモールの他にも遊園地やお洒落なお店もある。

ついでに言うと巨大ロボの実物大の模型もある。

「ここを選んだのね?」

「はい、此処なら今日一日のデートに必要な物が全部揃っていますから」

まだ、翼と会ってからそんなに月日はたってない。

それなのに、言葉や文字を全部覚えて..私が喜びそうな事まで全部..どれだけ凄いのかしら..

「ありがとう、翼、それで最初は何処にいくの?」

「最初は洋服を買いに行きましょう? 今日のデートで着る服から、これから着る服までこの際、揃えちゃいましょう」

「翼、そんなに無駄遣いして大丈夫なの?」

「ご主人様に使う、お金に無駄なんてありません」

これだもんね、真っすぐな顔でこんな事言われちゃ、要らないとは言えないわ。

ご主人様の洋服は良い物かも知れないけど..古い物が多い。

今着ている服だって恐らく数年前に買った物だろう、それに比べて馬鹿女の恵子の服は新しい物だった。

それなのに、ご主人様は僕には新しい物を用意してくれた。

今度は僕がご主人様を喜ばせる番だ。

「ここなんてどうですか?」

「ええ、良いわね..」

ご主人様の事だから、豪華な物を選ぶと断られるかも知れない。

だから、このお店をあらかじめ選んで置いた。

マークスバウンダー…大体、シャツ1枚が12000円位、上着で2万5千円位。

一応ブランド物だけど、高価過ぎず、安すぎない..贅沢を好まないご主人様に丁度良いかも知れない。

「こんなのどうですか?」

正直僕には良く解らない、だからネットの受け売りだ。

「ちょっとスカートが短すぎないかしら?」

「ご主人様は足が綺麗だから絶対に似合います」

「そう? じゃぁこれにしようかな!」

「絶対に似合いますよ」

「そう..本当に」

「はい」

「それじゃご主人様、暫く服を選んで居て下さい」

「翼は何処に行くの?」

「ちょっとトイレに行ってきます」

「そ、そう」

店員さんにご主人様を頼んだ。

《似合いそうな服を、沢山選んであげて下さい、お金は気にしないで良いですから》

《解りました》

《いいなー、あんなイケメンの彼氏が服を買ってくれるなんて..商売は商売、頑張りますか?》

僕はトイレに行くふりをして貴金属店に来た。

貴金属店もあるからこの場所を選んだ。

ジュエリー紬…此処はお手軽な物から、高価な物まで色々な貴金属がある。

「あの、スイマセン、婚約指輪と結婚指輪を見せて下さい」

「はい、ただ今、こちらのコーナーに色々ありますよ..サイズは?」

僕はあらかじめ調べて置いたサイズを伝えた。

「この辺りは如何でしょうか?」

「そうですね、婚約指輪はもう少し予算をあげて頂いて、石は小粒で構わないのでルビーの良石の物にして下さい」

「ご予算は幾ら位でお考えですか?」

余り派手な物はご主人様は好まない..高額な物だと遠慮されるかも知れない。

「予算は300万円位で、余り石は大きくなくて良いので石の品質に拘って下さい」

「解りました、今、予算に合うものをお持ちします」

《300万円..って事は年収で1200万..この若さで、このイケメン..羨ましすぎるわ》

「どうでしょうか?」

「それじゃ、これでお願いします」

《嘘、これは一つだけ混ぜて置いた480万円の物..凄いわね、この人》

「あとは、結婚指輪ですね」

「そちらは安い物..そうですね二人で50万円位でお願いします」

ご主人様は学生だ、普段使いで嵌めるなら高価で無い方が良いだろう。

「解りました」

会計を急いで済ませてご主人様の元に戻った。

「トイレ長かったわね..もしかして体調が悪いの..大丈夫?」

「大丈夫です、お待たせしてすいません」

「そんなに待って無いから良いわ」

「それで洋服は決まりましたか?」

「うん、これにしようと思うの?」

「凄く可愛いですね、似合っています」

「ありがとう」

「それで、他は?」

「これだけで充分だわ」

本当は、もう数枚欲しいと思う..だけどご主人様が言うならそれで良いか?

他の服は今度買えば良い…

「そうですか、それじゃ今日は今着ている、それでデートしてくれませんか?」

「ええっ良いわよ!」

会計を済ました。

ご主人様が選んだのはコート2枚にスカート3枚にズボン1枚 セーター3枚..正直少ないと思う。

今着ている物を除き、着ていたものも含んで家に送って貰った。

やはりご主人様にはミニスカートが良く似合う、うん凄く可愛い。

「どうしたの?」

「いや、凄く可愛いな..そう思って」

「そう、ありがとう..」

翼って本当に私が好きよね..こんなチビで胸もないのに、ここにはモデルみたいに綺麗な人も沢山いるのに私しか見えて無いんだから..

《あの男の子凄く綺麗だよね..》

《あの横にいるの彼女かな》

《多分、妹じゃない? 彼女だとしたら釣り合わないわ》

幾らでも言っていいればいいわ…翼は私だけが好きなんだから..

「それじゃ行きますか」

「うん!」

私は翼の手を取りつないだ…

遊園地でのご主人様は凄く可愛かった。

ジェットコースターに乗っているご主人様。

お化け屋敷で怖がっているご主人様…

見ていて飽きない..幾らでも見続ける事が出来る。

「翼..幾ら何でも私を見過ぎじゃない..恥ずかしいわ」

「僕の全てですから」

解かっているけど、口に出されると凄い攻撃力じゃない..

目が合わせていられなくなる。

「知っているわ」

それが嘘じゃないのは知っている…生まれてから私を愛してくれた人なんて貴方しかいないんだから。

僕は片膝を突き、プロポーズする事にした。

「ご主人様、愛しています僕と結婚して下さい」

指輪を取り出した。

そうか、そういう事なのね? さっき居なくなったのはこの為か..

「わわわわ解かったわ、ふつつか者ですが宜しくお願いします。大体、私もうとっくにOKしていたわよ」

だけど、言葉にすると全然違うわ、思わず動揺しちゃったじゃない。

僕はご主人様の左手薬指に指輪を嵌めた。

「それじゃ行きますか?」

「何処に行くの?」

そうよね、これはちゃんとした婚約だわ..だったら、もう..

なななな何考えているの..私…

「区役所に行きましょう?」

「へっ! 区役所..何で」

まだ、私は気が付いていなかった、翼のサプライズはまだ途中だという事に….

結婚~結婚式
区役所に来ている。

「翼、これはどういう事なの?」

「はい、16歳で結婚したい場合は両親のどちらかが認めてくれれば可能なので説得して来ました」

最も、揉めるのが覚悟なら勝手に書いて出すという方法もある。

裁判になっても「婚姻」の事実は消えない。

一回戸籍上離婚にはされるかも知れないが「1度結婚した彼女は成人」だから改めて結婚すれば良い。

だけど、僕はご主人様の戸籍を汚すのが嫌なので正攻法にした。

「このお母さまの保証人、本物なの?」

「はい、少々手間取りましたが、何とか書いて貰いました」

「それなら良いわ..ここに私の名前を書けば良いのかー」

「ご主人様が、大丈夫なら..お願いします」

白百合の名前に未練は無いし、何より翼が喜んでくれるなら何も問題ないわね..

私はサインをそのまま記入してハンコを押した。

「せっかくだから一緒に出しましょう!」

「はい、ご主人様!」

書類はそのまま受け取って貰え無事に終わった。

「だけど、結婚って結構あっけないものなのね..これで、私翼の奥さんになったのね余り実感が湧かないわ」

「確かにそうですね、だけど、これでご主人様は、水城京子。僕の奥さんです」

《独身の私の前であまりイチャつかないで欲しいな》

「お客様、他のお客様の邪魔になりますので..その」

「「スイマセン」」

《《だけど、他に人居ないんだけど(じゃない)》》

「翼と一緒に居ると、本当にジェットコースターね」

「ジェットコースターですか?」

「だって、私、今日プロポーズされて、OKだしたら、もう人妻なんだから、そうじゃない?」

「そうですね、だけど、僕にとってこれだけがどうしても欲しい物だったんですいません..」

「別に良いわ、翼が私の事を凄く好きなのは解かっているから」

本当に翼は私が好きよね。

翼なら、多分誰だって好きになるわ…それなのに私..私しか愛さない。

これ嬉しすぎるわよ..

「はい」

「それで、流石にこれで終わりよね..」

「まだ続きがありますよ」

「へぇー何処に連れていってくれるの?」

「ホテル、ハイアットワープです」

「えっ ホテル」

そそそそそそ、そうよね、私達もう結婚したんだもん、そういう事よね。

この間の続き、そういう事ね。

うん、私は翼の奥さん、それなら、そういう事してもいいんだし。

翼は私が大好きで、私しか好きにならないんだから..するのも当たり前だわね。

今度こそ腹を括らなきゃね。

今日は下着も新しいし、うん何も問題はないわ。

「はい、ホテルです..行きましょう」

「うん….」

私の手をとり、翼が歩き出した。

私は顔が凄く真っ赤だ..俯きながら歩くのが精一杯だ。

だけど、少しは緊張しなさいよ!

私がこんなにドキドキして真っ赤なのに平然として歩いているわね。

ちょっと憎らしいし、ずるいわね。

「着きましたよ、ご主人様…」

「う、ううん」

流石にこれからの事を考えると声がでない。

だけど、私凄く大切に思われているのが解る、高級ホテルをとってくれているんだもん。

「ご予約された水城様ですね」

「はい」

「それじゃ準備は整っていますので、こちらへ」

「はい、ご主人様、暫くお別れです」

「ええっ何?」

「ご主人様をお願いしますね」

「翼、これはどういう事なのかしら?」

私は、今白い純白のウェディングドレスを着ている。

そしてその前にはタキシードに身を包んだ凄く綺麗な翼が立っている。

「結婚式です」

「それは解るわ..だけど結婚式何て私、聞いて無いわよ!」

「すいません、言い忘れました」

「全くもう!」

「すいません」

「だけど、翼にしては珍しく手順を間違えているわ、普通は式が先よ」

「そうですね」

「何か理由があるのかしら」

「特にありません」

「そう、翼の失敗なんて珍しいわね」

理由はちゃんとある、それは少しでも早く、ご主人様を自分の者にしたかったからだ。

式なんて何の効力も無い..僕にとって縁を結ぶという事は 事務的な事の方が重要なのだ。

結婚式と言いながらも、翼も私も呼ぶ相手が居ないから二人だけだ。

神父さんの前で誓い合い、キスをして指輪を交換するだけの式。

終わった後はホテルの従業員の方がお祝いの声を掛けてくれた。

そして写真の撮影が終わり..これで終わり。

そして、翼は私を抱きしめるとそのままお姫様抱っこで部屋に運んでくれた。

そしてベッドに優しく寝かせてくれた。

いよいよ私は腹を括らなくちゃならない。

えーと、その、えーと

あれっ、何もしてこない…

「何で満足そうに寝ているのよ!」

まぁ良いか…もう結婚もしたんだし、翼も満足そうだから..二人の時間は山ほどあるわ。

私はドレスを脱ぎ捨てると何時もの様に翼の頭を抱きかかえるようにして眠る事にした。

こうして眠ると私も落ち着くし、翼も何だか嬉しそうに見えるから。

呼び名

「そういえば、私明日から働きに行かないといけないのよ..」

「ご主人様の勤め先から電話が掛かってきて会社が大変な事になっているから見合わせて欲しいと連絡がありました」

「そうだったの?」

「はい」

「あのね..今思ったんだけど、そろそろご主人様って言うのを辞めない?」

「どうしてですか?」

「結婚したじゃない? それなのにご主人様って言うのは可笑しいと思うのよ! どっちかと言うと私が奥さんなんだからご主人様って呼ぶのが正しいわ」

「そうですね、そうしたらご主人様は何て読んで欲しいですか?」

「そうね..京子って呼んで欲しいわ」

「京子さま..こんな感じですか?」

「さまも要らないわ」

「京子..なんだか呼びづらいですが..」

「ふふふっ、慣れてね!」

「解りました」

翼が珍しく困った顔をしてたわね..何時もドキドキしっぱなしだったんだから、たまにはいいわよね!

そして僕はまた戸籍屋に来ている。

悪い事をするなら他にあたっても良いが…そういう気はない、だから窓口は一つだけで良い。

「また、何か良い情報か?..そうだ、これ僅かだが謝礼だ」

「謝礼?」

「例の工場の情報だ..あんたの言う通りだった、まるで子供の様に社長がなっていたぞ」

「そうですか…それで」

「あん? ああっ会社ごとただ同然で譲る契約をさせてぶんどり、ついでに架空の借金を負わせて家から何から全部貰ったって言っていたな..」

「なら頂こうか」

札束3つ300万か..これはもうあの会社は終わったな…

「それで、今度は何だ?」

「大した情報じゃないが、大手企業の婦人がお忍びで派手に遊んでいるらしい..」

そう、彼奴は身分を偽って遊んでいる。

「それはそれは..それで今回の謝礼は」

「別に要らないな..そんな大した情報じゃないだろう?」

「そうか、なら好意に甘えよう..だが、前回と同じで良い話だったらまた謝礼を払おう」

「本気か?」

製薬会社の社長夫人が遊び歩いているだと..

ホストクラブで借金漬にしても良い…上場企業の社長の旦那が居るから幾らでもとれる。

いっその事、未成年でも抱かせれば…恐喝し放題だ。

普通に考えてこれ位は浮かぶ。

更に、「製薬会社」と言うのは利用のしがいがあるかも知れない。

「まぁな」

「貴重な情報だ、また何かあったら宜しくな」

憂さ晴らしはこれ位で良いだろう…あの女は何もしないでも身を亡ぼすタイプだ。

尤も、多分、白百合の誰かがケツを拭くから、大した事にはならないだろうけど..まぁ良いや。

【閑話】 白百合家の人々
「白百合社長、最近の娘様、凄いですね!」

「うん、どうかしたのかな?」

「いや、株について凄く勉強されたのでしょうね! 最近凄く調子良いですよ」

本来は、株屋(証券会社)は守秘義務があるからこんな事は言わない。

だが、白百合製薬の上場をこの会社が取り仕切った事とその後のつきあい、子供に社長が株を勉強がてらやらしている関係で口が軽くなっていた。

「そうかね、まぁうちの子供は優秀だからね」

「そうでしょうね、いや羨ましい..しかも、会社に対する愛が強いんでしょうね、自社の株も随分買われていますね」

「そうか、そうか」

「それに比べて、他の方は少し..」

「まぁ、相場を読み切るのは難しいからね」

流石だな百合子は、東吾は仕事をしながらだから上手く行かないのは仕方ないだろう。

京子はやはり駄目だ..

切り捨てて正解だ。

俺は別に京子が憎い訳ではない。

差別は一切しない、優秀かそうでないかでのみ判断する。

それは白百合という家に産まれたのだから当たり前の事だ。

もし、京子が優秀で東吾や百合子が無能なら..切り捨てるのは東吾か百合子になった筈だ。

だが、この時に英彦(白百合製薬社長)は気が付いてなかった

証券会社の彼が褒めた娘とは「百合子ではなく京子」であった事に。

「最近は随分優しいわね…どうかしたの?」

可笑しな事に今迄、クールだった輝樹が凄く優しくなった。

「いえ、最近の恵子さんは凄く綺麗になったなぁーって、なぁ皆んな!」

「「「はい」」」

このババアが白百合製薬の社長婦人だったとは知らなかった、旨い事垂らしこんで太客にすればナンバー1も夢じゃない。

「恵子さん、恵子さん、俺、明後日誕生日なんです、俺の誕生日会開いてくれませんか?」

「それって、この店を貸し切って欲しいという事かしら?」

「はい」

「だけど、何で私なのかしらね? 輝樹には他にもお客がいるでしょうに」

「せっかくの誕生日だから、大好きな恵子さんと俺過ごしたいんですよ駄目ですか?」

幾ら掛るのかしら?

この間の300万もまだ200万はあるわ..それにここ暫く冷たかった輝樹も何故か私に靡いているわ…

それに他のお客を差し置いて、贔屓の輝樹の誕生会を開くのは良いわね…

まぁ幾らか知らないけど..これで足りるんじゃないかしら..

「良いわ、明後日の貸し切りを私の名前で入れて置いて頂戴な」

「有難うございます」

しかし、急にサービスが良くなったわね…

「楽しかったわ…今日のお支払いは..」

「次でいいっすよ…輝樹さんに言われていますから」

「そう、今迄は一切、駄目だったわよね」

「いやぁ、良くわかんないすけど..輝樹さんに言われているんで..案外、輝樹さん年上が好きだから..本気..すいません」

「良いわ、これチップ、輝樹にも宜しく言って置いてね」

「あざーす」

「百合子、聞いたぞ!お前最近投資の方の調子が良いんだってな!」

「まぁ、お喋りな方ね..ボチボチですよ」

可笑しいですね、最近はずうっと横這いか下降ですのに..

「まぁ、良い、父さんも鼻が高いぞ、お前に百合のつく名前を付けた時にどうかと思ったが、正にお前にこそ似合う名前だ」

「まぁ、お父様ったら」

「この調子で頑張れ、お前が24歳になったら系列の会社の一つを任そうと思う、そこでの頑張りで、東吾以上に成果をあげればお前が後を継ぐ目もある、頑張れ」

「もう、何回も聞いていますわ..その為に頑張っているのですから」

ここ暫く..親父の俺を見る目が怖い。

ミスはしていない。

だが、これと言って素晴らしい成果もあげていない…

以前は母が百合子、俺には父という構図があったが最近では父も百合子側になりつつある。

京子の事を考えても、大きな失敗をすれば父は俺を切り捨てるだろう。

俺が白百合の後を継ぐのであれば、大きな仕事を成功させて会社に貢献する必要がある。

父の信頼が俺にあるうちに手を打たなければならない…

俺が仕事で大きな成功を納められないなら…百合子の足を引っ張る必要がある…何か方法はないものか…

5歳なの?
今日は京子と一緒に学校に来ている。

高校で結婚した後の対応を聞かなければならない。

ちなみに、京子と呼んでいるのは、ご主人様のご要望なので仕方ない。

京子様とか、京子さんと言うと機嫌が悪くなるので..そう呼ぶしかない。

「ご結婚なさったのですか…おめでとうと言いたい所ですが..それは重大な校則違反になります」

確かに、校則の中に「不純異性交遊禁止」とある…だが..

「確かに、校則に不純異性交遊禁止と書いてありますが、結婚は不純では無いと思います、そしてこの国では今はまだ16歳で結婚は認められています」

「確かにそうです、ですが私が言いたいのは、満足な学園生活が送れないのではという危惧です。男女で結婚していれば、その先の関係も想像するでしょう? 性的な事で冷やかされるかも知れませんよ? 共学なのですからね!」

「確かに」

学校の教師は夜間部を薦めてきた。

夜間部であれば、社会人も多く在籍していて、シングルマザーも居るし 30歳前後の社会人もいるそうだ..

「どうしますか? ご主人…いや京子」

「そうね、一応は在籍しておこうかしら!」

とりあえずは京子は夜間部に在籍する事になった。

「ご主人様…良かったのですか?」

「また、ご主人様になっているわよ! 別に良いわ..友達も別に居ないし、そう考えたら、私も同じね、翼しか居ない..わね」

「そうですね! 僕には元からご主人様しか居ませんから..そう言って貰えると凄く嬉しいです!」

「本当に? まぁ翼の場合は本当なのは解かっているけど..」

僕が廃棄された理由には「ご主人様への依存」がある。

人造勇者の中には王族や貴族に選ばれて伴侶に選ばれる可能性もあるが、勇者として戦いに重きを置く場合もある。

基本的に人造勇者は「主人1人の物だが」主人は必ずしも人造勇者1人の物ではない。

例えば、国王が人造勇者を所有した場合は、王妃や王子が居るから如何に人造勇者が見目麗しくても1番とはなりえない。

だが、人造勇者の一番は常に「ご主人様」以外はあり得ない。

だが、普通の人造勇者は普通にそれを受け入れる。

例えば、女の王族が人造勇者を所有していたとして、他の男性と結ばれたとする。

その状態であれば、その男性をも守るのが通常の人造勇者..?主人?その伴侶や家族という優先になりちゃんと守る。

だが僕はご主人様が1番で、他の人間には関心が持てない。

そして、人造勇者として致命的な事に、やきもちがある。

例え伴侶に選ばれた人造勇者であっても、主人の浮気には基本的に寛容。

だが、僕だったら…こっそり主人に解らない様にその相手を殺してしまうかも知れない。

僕にとって、ご主人様が女神だとすれば、他の人間はただの虫けらにしか見えないのだから仕方ないと思う。

「僕にとってのご、京子は命より大切な人ですから」

「ありがとう」

全てが本当だって解かっているわ..だからこそ翼に何か返してあげたい。

だけど、翼が欲しい物は一つしかない..それはもうとっくにあげているのだけどね..

「それで、今日はこれからどうしますか?」

「そうね、そう言えば結婚したのにお互いの事は余り知らないじゃない? 良かったら今日は沢山お話ししない?」

「良いですよ」

途中、コンビニに寄ってジュースやお菓子を買い込んだ。

「さぁ、京子、聞きたい事があるなら何でも聞いて下さい!」

何から聞こうかしら?

「翼の好きなタイプの女性はどんなタイプかしら?」

「京子です」

うん、こう答えるのは解かっていた。

「そうじゃなくて、好きなタイプの女性の事よ! 胸が大きいとか小さいとか、背の高さとかの事」

考え込んでいるわね..どうしたのかしら立ち上がって..

「これを見て下さい..これに写っている人が正に好みです」

「これって鏡じゃない..写っているのは私だわね」

「はい、だから背の高さも胸の大きさも顔の好みも、全部ご主人様..すいません京子って事ですね..」

そうきたか、まぁ翼は私が大好きなんだから仕方ないわね…

折角、結婚したんだから翼の好みになろうと思ったんだけどな…このままで良い…そういう事よね。

それは、そうと..うーうーこれも聞かないと不味いわよね..私、もう妻なんだから..

「翼、あのね、えーと..その翼って..性欲とかは..そのあるの?」

なんだか翼ってそういうのが無縁に感じるわ..案外、人造勇者だから、無いという事もあるかも知れないわ..

「京子、限定ならありますね! 他の女性は一切相手にしたいと思いませんが」

「ああああああるんだ..その割には、その、手とか出してこないじゃない? もしかして我慢しているとか?」

もう結婚までしてるし、我慢なんてしなくても良いのに…

「正確には性欲より独占欲ですか..京子を自分だけの物にしたいとか、何時も一緒に居たいとかそういう気持ちが物凄く強いですね」

「そうなの?」

「はい、僕の欲しい物は、京子の愛、京子自身です..それ以外は何も求めません..僕にとっては貴方が傍に居てくれる、それが最大のご褒美です」

顔が赤くなるわね..ある程度気持ちは解っていたけど、直接聞くと..破壊力が凄すぎるわ..

「独占欲が強いのね..だけど、その、性欲については、答えてないわよ..」

流石に何回も聞くのは恥ずかしいわ..

「多分、普通の人間よりは少ないかも知れません..ご主人様、いえ京子の一番好きなのが僕なら要らないかも知れません..だけど、そういう行為って愛する者同士の営みと知っていますから、そういう意味ではありますよ..」

そうなのね、そう言う行為も翼にとっては私が好き..その延長にあるんだ..

これ、凄く理想的なんじゃないかな..

「そうなんだ、へぇーそうなんだ..」

顔が赤くなって旨く喋れないわ

「はい、だから京子が僕を求めるなら幾らでも言って下さいね、一晩でも二晩でもお相手できますから.」

「えっ、何..それ..」

あれって、そんなに出来るものなの? 時間が可笑しくない? 

「僕はなり損ないですが、人造勇者です。その手の遺伝子も入っています、王家のその手の儀式で48日間部屋に閉じこもり子作りする儀式もあるそうで、知識もあるから多分、京子も満足してくれると思います」

そういう経験はないけど..話だけでも凄い..と思う..快楽で身を滅ぼしそう..

何を考えているの、私..

「そそそそそ..そうなんだ、翼って..その、うん、凄いわね..」

「だけど、実際にはした事が無いから、こちらの世界では本当に凄いのか解りません」

結局、欲望に負けた..少しだけなら良いわよね…一応、妻なんだから..

キス位なら良いわよね..

「だったら、そうね、その..大人のキスをして..くれるかな?」

「良いですよ」

うぐっ、ちゅうううん..

…………

………

「はぁはぁはぁ..はぁ..もう駄目..」

「はい…それじゃこれで離しますね」

きききキスだけでこれなの?

こんなのは普通と全然違うわ..舌からの快楽で頭が一杯になっちゃうわ..

体は熱くなるし、お腹の下もじんじんしだして..可笑しくなる。

そして、何よりも、この時間が永遠に続けば良いと思っちゃうし..翼以外、何も要らない..そう思ってしまう..

僅かな時間なのに..嘘..

「もう、2時間もたっちゃったの? キスしていただけなのに..」

離れてみて解るけど..翼も私も顔が涎と唾だらけだ…

「そう、みたいですね」

キスだけでこれなら、この先の事をしたらどうなっちゃうの?

これは麻薬と同じ..その位凄いわよ..

気をつけないと駄目だわね…

「本当に凄いわ..まだ余韻でぽかぽかしているし、ほわっとしているわ..」

「それなら良かった」

「所で、翼って本当の年齢は幾つなの?」

案外、本当の年齢は思ったより上なのかも知れないわ..だって何でも出来るんだから..

「僕ですか? 多分5歳位です」

「えっ、翼って..5歳? 十五歳とか二十五歳とかじゃなくて?」

「はい、最も生まれた時からこの姿ですけどね」

うん? 5歳って子供じゃない..だけど..姿形は大人だから..問題ないわよね?

社会的信用
お金は幾らでも くじを買えば手に入る。

だけど、遊んでいるような姿をご主人様、京子には見せられない。

だから3時まではしっかりと投資をする。

2台のPCでご主人様の投資と同じく自分の投資をしている。

白百合製薬の株は両方とも5%を越えない様に気をつけながら購入した。

多分、2人合わせて全株数の9.5パセーント..まぁ大株主と言えなくもない。

正直、こんな会社潰れてしまえと思う事もあるが、ご主人様は家族に認められたい。

そういう感情もあるから、株を保有している。

だが、この会社に何かするつもりはない。

株主総会で、現状を見せたら..株は手放すつもりだ..

《京子は凄いんだぞ》

その姿を見せたらもう関わる事は無いだろう、既に京子は水城で、白百合ではない..

もう縁が切れている。

怖いのは「子供だから」と言って何かあった時に尻ぬぐいが来るのが困る。

未成年の場合は親がかなりの権限がある。

そこを付け込まれない様に「僕と結婚して」法的に成人扱いにした。

これでもう、京子を縛る物は無い。

これから先、どれだけの資産を得ようがそれは京子の物、親や兄弟になんて分けてやる必要は一切ない。

さてと、次にしなければならないのは、社会的な信用だ..

既にお金はあるが…社会的には2人とも無職だ…お金が幾らあっても信用がないのは問題がある。

例えば何か揉め事が起きた時に只の無職と会社員なら、会社員の方が信頼性がある。

だからといって、勤める気はない。

だから、僕は会社の社長になる事にした…

「合同会社 ドラゴン予想研究所」

そう、宝くじの数字を予想する研究所を経営する形にした。

会社の登記など、簡単にできる。

そして、小さなビルのワンフロアに事務所を借りてセキュリティだけはしっかりして..

謎のそれっぽい機械を用意した(宝くじのルーレットモドキや ボールモドキ)

これらは電気で動くが..ただの飾り。

これで、これからどれだけドラゴンくじに当たっても「予測出来た」で済むだろう。

だが、この会社だとくじを購入したのが個人と法人の区別という話がそのうち出る。

だから、これからはドラゴンくじは会社で購入する。

その代り、僕の給料を年収で10億にする。

これで、世間的にも、社長で通用するはずだ。

恐ろしい事に年収で10億でもこの国は手取りにしたら3億位になる。

つまり、1か月あたり1人2500万位の収入にしかならない。

本当は京子も社員や役職にしたいのだが、多分、京子にお金があると解かるとクズ母がお金を借りに来るかも知れない。

そして、京子は優しいから、捨てた親でもお金を貸したり、あげたりするかも知れない..だからしない。

「京子..はいこれ」

「これって名刺! 翼が会社の社長になっているわね」

「はい、会社を作りましたから」

「会社って、そんな簡単に作れるの?」

「簡単ですよ、税務署や区役所に届けだして登記すれば出来ます..ただ儲かるかどうかは解りませんが」

「だけど、どうして急に会社なんて作ったの?」

「世間的には僕たち無職ですから..信用の為です」

「だけど、それじゃ私は、無職のままじゃない!」

「うん、京子は社長夫人じゃない? 僕の奥さんだから」

「そそそそ、そうよね..社長の奥さんなんだから社長夫人よね..うんそうだわ..うん」

「それじゃ、これ通帳..来月からやりくり宜しくね」

「うん..頑張るわ」

「嘘、翼..2500万もはいっているわ…給料はいったい幾らなの?」

「年収で10億円です、これ位あれば一応、胸を張って社長夫人って名乗れると思います」

「ねねねね年収10億ね..10億..凄いわね..」

会社の規模は解らないけど…多分これはお父様個人の収入を越えているわね…

「上場企業役員と考えたらTOPクラスではありますが、まだ僕たちには資産がありません..だから大した事ありません」

「へぇ-そうなの?」

「そうですよ..例えば白百合家には代々からある家や土地や自社ビルがありますが、まだ僕らにはありませんから、まだまだです」

考えるレベルが違うわ..

「そうなのかな..充分だと思うけどな…」

「目指すは個人資産2兆円です、まだまだ遠いです」

「それって、日本一を目指しているって事よね?」

「はい、僕の奥さんは日本一いえ、世界一の奥さんなのでそれ位目指さないと..」

翼にとって私ってどんだけなのよ..才能が無くて実家から300万持たされて捨てられたのに..

「翼にとって私ってどの位の価値なのかしら?」

「世界中の全てのお金以上としか言えませんよ…」

「そそそうなんだ..うん..そう..ありがとう..」

そう言うと思ったけど..直接聞くと凄いわ..うん、300万の私が..世界中のお金より価値があるなんて..うん..そんなの翼だけだわ。

「そういえば、株主総会の案内がきてましたから、一緒に行きませんか?」

「へっどこの総会?」

「白百合製薬です」

「…..行くの?」

「はい、一度ご挨拶を兼ねてうかがいましょう」

「解ったわ」

今のご主人様を見た時の反応が楽しみだ..

【最終話】 株主総会

京子は本当に質素な物を好む。

だから株主総会用に服からバッグから新調した。

PASSOKINGのバッグ2000万にELSISUのスーツ360万、GUSSSSの靴62万円。

時計はERLUGUSIS 280万円

こんな感じかな。

僕の方は

アドラーマのスーツに GUESISの時計に アイシクールの靴

こんな感じで良いだろう…

「京子ーっそろそろ行こうか?」

「そうね…うん」

どうやら緊張しているみたいだ。

これで良い筈だ、今回京子に用意した物は全て、あの男、高広(白百合製薬の社長、京子の父)ですら解るブランドだ。

そして、恐らく製薬会社の人間はある程度までの高級な物しか身につけられない。

大病院の院長等との付き合いがあるから自然とそうなる。

つまり、今の京子の姿は白百合家の者以上に着飾った姿だ..

そして、白百合の株主総会は..ある伝統がある。

今日で勝負をつける…

株主総会は今回は帝都ホテルで行われる。

廊下で、高広が家族と歓談していた。

まぁ義理の父ではあるから挨拶位はしておこうか?

「京子! せっかくだから挨拶をしに行こうか?」

「えっ、良いよ..」

ご主人様が乗り気でないのは解る..だがここを乗り越えないと先に進めない。

「一応は家族でしょう? 挨拶位はしておかないと..」

「でも..ちょっと」

僕は手を引っ張っていった。

「初めまして、お義父さん..」

「だれだね君は? 私は君みたいな子供を持った覚えはないが..」

「私にも君みたいな弟はいないな..」

「手順を踏むのであればお付き合い位はしても良いですが..弟はいませんわね」

「恵子さんから聞いて無いんですか? 私は水城翼と申します。この度、京子さんと結婚しましたのでご挨拶させて頂きました。 ほら京子」

「お久しぶりです、お父様、お兄さま、お姉さま」

「ほう、京子はまだ未成年の筈だが..」

「はい、ですが恵子さんが承認して下さいましたので無事結婚出来ました..その挨拶です」

「そうか、それはわざわざ..だが、その子は、捨てたような子だから、挨拶は要らない..結婚したという事は学業すら学ぶチャンスを捨てた、もはや呆れて物も言えん..もういい顔も見たくない」

「そうですか? だけど、僕も京子もこの会社が好きだから結構株をもっているんですか..」

「株を持ってらっしゃるの? 何株? どうせ100株くらいでしょう?」

「私が全株の4.8%で京子も同じく4.8%..合計9.6%ですね、これは約1割ですよ? この会社の約1割は私達の物ですね」

「なっ..」

「高広君も大変だね、こういう無礼な娘を持つと..株主に敬意を称さないのが白百合製薬なんですか? 」

「すまなかったね..まだ妹は幼くて..僕から謝るよ」

《約1割..大株主と言っても可笑しくないじゃないか》

「うん、東吾さんはちゃんとしていますね..ちなみにさっきの話を弁解すると学業は要らないんです..私から言えば馬鹿やブスは大学に行かないといけないけど…天才で美人はそんな所行く必要はないですから」

「詭弁だ..それは学歴のない者の負け惜しみだ」

「高広くん、僕や京子さんが1週間でどの位稼ぐと思います? 大体3億~10億位です..この国の官僚になって生涯2億ぽっち…ほら行くだけ無駄でしょう?」

「京子、それは本当なのか?」

「はい、お父様..」

「そうか、逆玉に乗ったのだな..それはそれで勝ったといえるのかもな..」

「お義父さんとはいえ、高広くん、それは京子に対して失礼ですよ..彼女は私の仕事上でもパートナーですからね」

「えっ、京子がビジネスパートナー..そうなのか?」

「はい、流石は白百合の家系..素晴らしい女性でした..彼女と一緒なら、私は1週間もあれば10万円を3億位には出来るでしょう…最高の女性です」

ここで、高広や東吾、百合子は2人の服装をみた..

《凄い..全て一流品じゃないか..3000万位掛かっている..》

「そうか、京子はそこまで成長したのか..凄いな、撤回だ..お前は紛れもなく私の娘だった..私の目が曇っていた、素直に認めよう」

「良かったな、京子、お義父さんが認めてくれて」

「うん…」

株主総会が始まる時間になった。

会場に行くと、前の席に案内された。

沢山の株を購入したのはこの為だった..

白百合製薬の株主総会は、この位の株を持っていると最前列に座る事ができる..つまり、大株主だと一目で解かる。

高広が色々な説明をしながら、こちらをチラチラ見ている。

自分が要らないと言った子供が僅かな期間で此処まで這い上がってきたんだ..驚きだろう。

その後は立食パーティーだったが、流石に社長が1人の所にずうっといる訳にはいかない..挨拶だけして離れていった。

そして、お土産を貰い、高広や役員に送られて帰った…

こうして株主総会が終わった。

「どうでした京子?」

「そうね..正直、何でこんな家族に認められたいなんて思っていたか解らないわ..」

「そうでしょう」

「これは、翼の仕込みよね? 私の劣等感を無くす為に..白百合製薬の株を買ったんでしょう?」

「はい」

「やっぱりね! 今迄、凄い人だと思っていたお父様が、大した人物に思えなかったわ..正直言うと認められてもそれほど感動しなかったわ」

「そのようですね..」

「うん、翼の方が100倍以上凄いわよ」

「だけど、僕は全てご主人様の物ですから」

「うん、そうよね! その代わり私は全て翼の物だわ」

「ありがとうございます」

珍しく翼の顔が赤いわね..

二人は、その後も何不自由なく幸せに暮らしました….

FIN

【閑話】 親子

株主総会の件が終わり、一段落がついた。

僕がご主人様、いや京子にしてあげたい事は自信をつけさせる事だった。

あれから、暫くして僕たちはタワーマンションに移り住んだ。

当初は六本木にある有名なマンションを買おうとしたが京子に反対された。

「あそこは維持費が凄く高いから辞めよう」

そう言われた、僕にとって正直住む場所は気にならない、ご主人様、京子が傍に居るなら、山奥の小屋でも良い。

ただ、京子の為に用意する物だから…京子の好きな所で良い。

結局、遊園地がすぐ傍にあり、区役所も近くにあり、治安が良い場所のマンションを買った。

価格は2億8千万..まずまずしたが、管理費が意外に安いので此処にした。

ちなみに白百合製薬の株はもう既に全部手放している。

京子のトラウマが治ったからもう必要も無い。

此処に住んでから暫くして、高広から、小包が届いた。

「京子、お義父さんから小包が届いているよ..」

小包には綺麗な陶器の時計があり、高広の自筆だろうか「結婚おめでとう」と書いてあった。

それから暫くして秘書が家に来て1千万お祝い金を持ってきた。

「高広様からの結婚の祝い金です..お嬢様..最近では高広様は何時もお嬢様の事ばかり話しています」

「そう、ありがとう..」

素っ気なく返していたが、その顔は嬉しそうだった。

うん、少しお返ししておこう。

京子と二人である時計を探していた..かなり高額だがそれはあった。

サンジェルマンロタックスオイルスター これはロタックスの中でも珍しい文字盤で凄く変わっている。

数が少なく売りに出たら高額だ。

高広の趣味が時計集めだと言っていた事。

京子にこの時計を持つのが夢だと言っていたから丁度良い。

通常は4500万の相場だが、足元を見られて5000万だったが即金で買った。

そして、結婚祝いのお返しとして送った。

ちなみに、恵子と東吾と百合子からは届いて無いから何も送らなかった。

暫くしたら、高広からお礼の電話が掛かってきた。

「京子、お義父さんから電話だよ」

「どうしたのお父さん?」

「この時計、ありがとう…一生大切にする..」

案外不器用なだけの男だったのかな..

「それね、翼と一緒に探したんだ..結構見つけるのに苦労したんだ」

話を聞いてみると、もう既に京子の家族への劣等感が無くなったような気がした。

「そうか、それじゃ翼くんにも、お礼を言わないとな変わってくれないか?」

ちゃんと礼を尽くしてくれるなら、馬鹿にはしない..

「お義父さん、お久しぶりです」

「こちらこそ、この間は失礼した..」

「いえ、こちらこそ目上の方なのに高広くんと呼んで申し訳ありませんでした」

「あの場合はこちらが礼を失したんだから仕方ないさ」

ご主人様、いや京子を喜ばせてくれるなら、ちゃんと親として扱うさ。

本当は「白百合製薬を乗っ取ろうか」とか「潰せないか」とか考えていたが辞めた。

今、それをしたら京子は悲しむかも知れないから..

それからも、ちょくちょく連絡があり高広とは偶には食事を一緒にする間になった。

だが、他の家族からは連絡が来ない。

それから暫くして、恵子から連絡があった。

「助けて頂戴..借金が溜まってしまってどうしようも無いの..このままだと私終わってしまうわ」

「僕たちより優秀な百合子さんがいるでしょう?」

「そうだわ、百合子姉さんにどうにかして貰えば良いじゃない?」

「それが、東吾も百合子も助けてくれないのよ..このままだと私..何されるか解らないわ..」

「翼…助けてあげて..」

「京子が言うなら良いけど…条件付きにします」

僕は、助ける条件として、お義父さんに一緒に話すという条件をつけた。

「そんな..」

「大丈夫ですよ、お義父さんに話すだけです…それでお義父さんが助けてくれるなら、それまで、もし助けてくれないなら、僕たちが助けますから」

「大丈夫よ、お母さん」

その日の夜に二人は家に来た。

お義母さんはまだお義父さんに事情を話していないらしい..

お義母さんが事情を話すとお義父さんは怒りだした。

「お前は何馬鹿な事しているんだ、嫁いだ娘に迷惑を掛けるなんて」

案外常識人なのかな..

「ごめんなさい..貴方」

「それで幾ら、借金したんだ..仕方ない俺が出す..その代わり二度と京子に恥をかかせるな..」

「解ったわ..でも貴方..」

「幾らだ、お前がそんなしおらしい顔をしているんだ500万か1000万か? 出してやる..但しもう夜遊びは許さないからな…良いな!」

「それが..」

「幾らなんだ..」

「3億6千万..」

「何だと..本気で言っているのか? …そんな金直ぐには用意出来んぞ..何に使ったんだ」

「知らなかったの…ブラックダイヤモンドというお酒が1瓶3000万もするなんて..」

ネットで調べた…通常は1本300万位、だがホストクラブ相場なら3000万らしい。

「翼..払ってあげようよ..どうにかなるわよね」

「翼くん、京子払う必要は無い..こんな白百合の面汚しの為にそんなお金..」

「お父さん..だけど私は払ってあげたい、居場所がなくなる辛さは良く解るから..その代わりこの話は終わりにしてあげて」

「良いのか? そんな大金.. 翼くんはどうなんだ」

「仕方ないですね…京子を産んで貰ったし、結婚の保証人になってくれた..まぁ今ある現金全部かき集めればどうにかなるでしょう」

本当は楽勝だけどね..

「本当..京子、翼さん…ありがとう..」

「京子、翼くん、済まない..本当に迷惑かけて..」

次の日、現金を用意して待ち合わせ場所に行った。

恵子さんだけでなく、高広さんも居た。

一緒にホストクラブに行った。

お金を払うと言ったら急に対応が優しくなった。

「また、宜しくおねがいしますね..」

「もう二度と来ません..コリゴリです」

「そう言わないで」

「お金を払って領収書も貰ったから終わりで良いでしょう? これはちゃんと税申告しますから気を付けてくださいね…」

「そう? 借金はこれで終わりだけど..呼び込むのは俺らの自由でしょう?」

「あのさぁ..今回は面倒くさいから、お金払ったけどさ..次くるようなら..殺すよ..全員!」

僕は気を放った…人造勇者が本気で殺気を出すと、森の魔獣ですら襲ってこない。

僕は失敗作だから、そこまでは出来ない。

だが、それでも人間相手に放つと..

「だんまりですか? なら今殺しちゃいますかね..ついでにその自慢の顔の鼻を削いで、目を潰しちゃいましょうか?」

「あああああああっ…しない、何もしない..お金も返します..だから殺さないで..」

「冗談ですよね…」

「お金は良いですよ..払います..だけどまた絡んでくるなら、今の冗談が本当になります」

「解った…俺らはもう構わない..だから帰ってくれないか..」

彼らの殆どは失神寸前だった。

しかも何人かの人間は漏らしていた。

《あれは、本当に人を殺す人間だ..多分逆らった瞬間に本当に鼻が無くなったかも知れない…もう二度と関わらない》

《死にたくないなら..関わっちゃいけない》

「約束破ったら..嫌ですよ…それじゃ帰りましょう」

「「……」」

「流石は翼..お芝居が美味いわね」

「ははは、バレました? ああでもしないと又関わってくるでしょうからね」

「そうか、お芝居か大したもんだ…」

「凄いわ、お母さん本気にしちゃったわ」

「それで、お義母さんなんで此処にいるんですか?」

「何でお母さんがいるのよ」

「良いじゃない、お母さん外に出掛けるとお父さんに怒られるから此処しかいけないのよ」

「私達、新婚なのよ? 余り邪魔しないで! 姉さんか兄さんの所に行けばよいでしょう」

「あんな子達、子供じゃないわ…困った時には助けてくれないんだから..私の娘は貴方だけよ」

「そんな事言われても許せないわ」

そう言いながら京子は凄く嬉しそうだ。

「直ぐには解かっているわ..だからこうして足を運んでいるんじゃない…それに今日はお父さんも後でくるわ」

最近、京子の両親が入り浸っている。

今日もこれから一緒に食事をする..

「もう、新婚なのよ? いい加減にして」

「親子なんだからいいじゃないか? なっ翼くん」

「そうよ親子なんですもの..良いじゃない」

二人っきりも良いけど…これはこれで良いな..

だって、京子は文句言いながらも笑顔なんだから…

「そうですね、もう少し日数を減らして貰いたいですがこれはこれで良いですね」

僕は4人分のステーキを焼きながら笑顔の京子を見ていた。

【閑話】 家族
不味い事になった。

まさか、京子があそこまで力をつけるなんて..

最早、俺はカヤの外だ..

良く勘違いしているが、親父は別に俺を気に入っている訳ではない。

ただ、能力が高いから俺を可愛がっていただけだ…

京子について部下に調べさせたら…凄かった。

完全に負けだ..はっきり言う、白百合は勝てば良い。

その為、身内同士でも騙し合いは許容内だ。

ちゃんと裏をとり調べないのが悪い..それだけだ。

勝者が全て…だから俺が京子を騙して陥れるのも許されるのだ。

だが、今の俺はそれでも負けた..つまり

「汚い事までして負けた敗北者だ」

勝てば、「汚い事」は関係ない…だが負けた時には「汚い事までした」それが浮上する。

今の親父の眼中には俺は無い。

次に追い出されるのは多分俺だ。

だが、

「白百合製薬はお前に継がせる」

親父がある日言い出した。

だが、その目には昔の様な期待は無い…それに未だに親父もお袋も京子の家に入り浸りだ。

「どうして?」

「京子たちは白百合は要らないそうだ、京子や翼くんに継ぐ気はないかと打診したらな」

「何て言ったんだ..?」

「百合を摘むつもりはありません、百合はお兄さまかお姉さまにあげて下さい..私は翼と一緒に他の花を沢山摘みますからだとさ」

「そうですか? それで私ですか? だけど、白百合を手放すなんて馬鹿ですね」

「普通はそうだな..だがな、京子は初代様や二代様と同じだ..一代で行商から白百合を築き上げたそのセンスと同じ物がある…いや、それ以上だ..僅かな期間で既に驚く資産を築いている..私やお前と違って「白百合」すら小さいのだ..」

「それで親父は?」

「私は暫くしたら、社長を引退してお前に譲る…まぁ頑張れよ」

「親父、親父にとって白百合は全てじゃなかったのか?」

「まぁな、今迄はそうだったが、京子や翼くんが、白百合だけじゃなく沢山の花をくれるそうだ..もう拘らない」

「そうですか? 負けた、思う存分負けた…だけど、俺は俺のやり方で会社を大きくしてみせる」

「まぁ、気張らずに頑張れ…だが、もしつかれたら京子の所に来ると良い..」

「何故です?」

「妹として接してくれると思うぞ」

「お母さま、どうしたのですか?」

「今度ね、お母さんはお父さんと一緒に二人で暮らすのよ」

「どうして急に..」

「困った時に助けてくれない娘は要らないわ..本当の娘の近くに引っ越すのよ」

「そんな、私はこれからどうすれば良いんですか? 会社は東吾兄さんが跡取りと決まったんです..何もないじゃないですか?」

「情けない子…私が言えた義理で無いけど..百合の名前があるのに何も出来ないのね」

「私は、私なりに頑張りました..」

「貴方はね、試験に落ちたのよ」

「何の試験ですか?」

「私と母子でいる試験..はっきり言うわ、確かに借金はしたけど、私の資産はあの借金の数倍はあるわ..正直に言えば白百合製薬を除く手持ちの株の半分も売ればそれで済む事なの..」

「だったら何で私に?」

「そう、あれは私の為に私財を投げうってくれるかの試験..貴方は私よりお金をとったわ..」

「ですが、あんな金額..私のほぼ全部を手放さなければ..」

「だけど、京子や翼くんは手放したわよ」

「….」

「あの子はお金でなく母親としての私が欲しかったのよね…実業家としては甘いわ、だけど子供としてなら満点よ」

「それで、お母さまはどうするんですか?」

「そうね、不出来とはいえ、貴方も娘..良いわ、葉山の別荘も、私の持っている株も全部あげるわ、売れば一生遊んで暮らせるし、そのまま東吾と一緒に白百合を盛り立てるのも良いわ、自由にしなさい..」

「そうですか..それで出ていかれるのですね..」

「そうね、もう実業家の妻としての人生は終わり、残りの人生は高広さんの妻、京子の母としての人生を始めるわ」

「そうですか、それならもうお会いする事も無いかも知れません、お母さまもお父様も白百合を捨てるのですね」

「そうね..だけどね、人生に疲れたら、京子の所に来なさい」

「行く事はありませんわ」

「そうだけど、覚えておいて、京子にとって貴方はまだ姉だという事をね..」

結局、京子の欲しかった物は家族だった。

だから、同じマンションに同じ大きさの部屋を買った。

一応、新婚なんでフロアは別にした。

名義はお義父さんとお義母さんの共同名義…これで泊まらないでくれると良いな。

「凄いな、これ買ってくれたのか?」

「億ションをポンって..自分の娘と義理の息子とはいえ凄いわね..」

「さぁ、中に入って下さい、家具も京子と一緒に買ってきたんですよ..」

家具は中塚家具で、京子と一緒に好みそうな物を揃えてきた..

「家具まで凄いわ..」

「そんな事無いでしょう」

「いや、翼くん、我々の家は確かに豪邸だが代々の物だから古くて使い勝手が悪いんだよ..」

「言われてみればそうかも知れませんね」

「何で、ブラックダイヤモンドが5本もあるの? 1億5千万…」

「本当か?」

「いやお義母さん、それはお店での金額が高いだけで、普通に買うだけならプレミアがついても1本300万くらいです」

「そうなのね」

《それにしても1千500万じゃない?》

「それじゃ、僕たちは部屋に戻るので暫く寛いでいて下さい..夕食は予約を取りましたからお出かけしましょう? 京子いこうか?」

「そうね、それじゃお父さん、お母さんまた後で」

「親として完敗だな..」

「ええっ、翼さんから聞きましたけど、京子が欲していたのが私達なのですか」

「そのようだな..親離れ出来ない、そういうのは簡単だが、事業を成功させた上で親孝行がしたい..これは正に理想の子供だ」

「それは、私や貴方も出来ませんでしたわね…でも良かったのですか? 会社まで引退して」

「本来は勝者の商品が白百合製薬の跡取り..完璧に勝ったのに要らない..なら欲しい物の一つもやらんとな」

「それが親としての私達ですか…あの子にとって、家族の価値は会社以上..凄い価値があるんですね、私達って」

「そうだな、まぁ一番は違うが仕方なかろう」

「ええっ」

「事業も引退したし、孝行したいならこれから一緒に楽しもうか?」

「そうね」

「さて、孝行者の娘達が呼びにくるまで、そこのブラックダイヤモンドでも堪能しようか?」

「そういえば、貴方とお酒を飲むのは久しぶりだわ」

「そうだな」

「ええっ」

「そろそろ時間だわ..翼」

「うん」

「翼..あのね..ありがとう..」

「どういたしまして」

翼は私が一番欲しい物が解かっていたのね..

「だけどね翼ー 私にとって貴方以上に大切な者はいないわ」

「僕も同じです」

「それじゃお父様達を呼びにいこうか?」

終わり

あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。

実はこの物語は最初の予定では「悲愛」の予定でした。

翼は凄い能力をもっているが、人造勇者の失敗作なので数年で死ぬ。

そういう話でしたが、気が付いたらHAPPYENDです。

私の作品は結構着地が変わってしまいます。

それでも最後まで読んで下さった皆様有難うございます。

次回作は..スタートしています。

また何処かで、読んで頂けたら..幸いです。

感謝を込めまして…本当にありがとうございました。