俺にとって女より大切な物なんて無い。
もし人間が欲しい物を一つだけあげたら何になると思う?
俺は子供の頃に気が付いてしまった。
それは…女だ。
考えて見りゃ解るだろう、何で良い車に乗ろうと思うんだ?
純粋に車を好きな奴も居るかも知れないけど..女にモテたいからじゃないか?
何で勉強を頑張るのか?
頭が良くて高学歴だったら女にモテるからだよな?
何でお金が欲しいのか?
お金があれば女にモテるからじゃないか?
だったら、女にモテれば他は何も要らないんじゃないか?
少なくとも俺はそう思うぞ。
最高の女に囲まれて生活出来るなら他は何も要らないと思う。
極論だけど、大きな家に住んで高級車に載って政治家になれる人生だけど生涯童貞。
凄く貧乏だけど借金は無く、綺麗な女性がより取り見取りでやりたい放題。
多分、お前だって後の方を選ぶんじゃないかな?
だから、人間は結局女にモテれば他は何も要らないんだって…本当は解っているんじゃないか?
まぁ、解らなくても良いよ..少なくとも俺にとって…女より大切な物なんて何もない。
それだけだ。
転移前 子供篇
子供の時から女を愛するしか無かった。
俺は生まれながらに誰からも愛されなかった。
だから、家族では無く女に縋る生き方しか選べなかった。
俺は酒乱で暴れて、ギャンブル好きな両親の間に生まれた。
父親は給料が入ると、その殆どをギャンブルか男同士の付き合いと称する飲み会で使ってしまう。
お金の無い事に耐えかねた母親が水商売に働きに出たのだが、お金を使う楽しさとお酒に溺れ、男に溺れ家に帰ってこなくなった。
所謂、俺は放置子だった。
お金はたまにどちらかが、良心の呵責に耐え切れなくなって置かれている500円だけ。
大体が3日間に一回位の割で置かれている。
それだけで生きて行かなくてはならない。
ちなみに両親は俺が寝ている時に帰ってきたり来なかったりだ。
たまに酒臭く寝ている時があるが、起こしても碌な事にならないので起こさない。
機嫌が良いと1000円位くれる時もあるが、機嫌が悪いと殴られる。
ある意味危険なギャンブルだからしない。
だが、この状態はまだ幸せだったんだ、本当の地獄はこれからだった。
転移前 要らない子供
ただでさえクズだった父親に女が出来た。
こんな父親に惚れるような女だ碌なもんじゃない、髪は金髪だし、喋り方は下品だ。
そして、若くもない。
だが、そんな女に親父は嵌っていった。
母親は母親で若い男に嵌っていった。
そして、俺の事はどちらも考えなくなった。
良く二人で言い争っているのが聞こえる。
「若い男と付き合っているのは知っているんだ! 別れてやるから此奴を引き取りやがれ!」
「あんたこそなに? 金髪の女を連れ込んでいるじゃない! 離婚してあげるわ! その代わりこの子を引き取って! 最後位父親らしくしたらどうなの?」
俺の押し付け合いだ..引き取るのでなく、押し付け合いをしているんだ!
だったら、子供なんて産まなければ良かったのに…
その前に、結婚なんてしなければ良かったのに…
俺は要らない子供なんだ、本当にそう思った。
その話し合いがエスカレートしてとうとう、最近では、
「お前さえ生まなければ、私は幸せだったんだ!」
「お前さえ生まれて来なければ俺は自由に生きられたんだ!」
全て俺が悪い事になっていた。
要らないなら捨ててくれよ、そう思った。
もう解ったよ、俺は要らないんだろう、解ったからさ..やめてくれ..
心が痛いんだ..
結局、2人の親は離婚をした。
だが、俺はどちらも引き取らなかった。
形上は、父親の籍には入っている。
だが、2人ともこの家を出ていき..この家に俺は1人ボッチになった。
転移前 どうすれば良いんだ!
「いいか? 俺について何か聞かれたら、お金が無いから出稼ぎに行っていますそう答えるんだ。しつこく聞いてきたら、この携帯番号に連絡してください、そう言うんだぞ! 本当はお前なんかに金は使いたくながそれを約束するなら光熱費だけ、俺が持ってやる、解ったな」
「私について聞かれたら、朝から晩まで働いている、そう言うのよ? 解ったかしら? それだけ約束したら一か月に1万円を送金してあげるわ、解ったわね」
それだけ言うと二人は出て行った。
住む家があるのはラッキーだと思わなければいけない。
この家は祖父と祖母が残してくれた物だが、作りは古くボットン便所だ。
しかも昔は銭湯が近くにあり、家が傷むからという理由でお風呂がついていない。
しかも、都心とはいえ4坪の激狭な物だ、売ってお金にして、俺にボロアパートを借りるよりこのまま住ませた方が良いそう考えたんだと思う。
何をいっても無駄だから言わなかったけど、一か月1万円でどうやって生活しろって言うんだ..
まぁ、死にたくないならやるしか無いけど。
1日300円ちょっと…カップ麺にパン、そんな物しか思いつかないや….
転移前 初めての焼肉
正直、毎日がひもじい。
ご飯と言ってもお金が無いから、朝食は水をがぶ飲みするしかない。
お昼は給食が出るから良いけど、夕飯は パン1個と野菜ジュース、そんな生活だ。
1日300円なんて生活はそれで精一杯だ。
服も自分で洗って、唯一の楽しみはテレビ、それしかない。
3件隣には霧島奈々が住んでいる。
霧島さんの家はお父さんは居ない..だけど、お母さんが事業をしていて裕福だからよく外食にいく。
正直言って羨ましい。
今日も焼肉を食べに行くそうだ、羨ましい、焼肉なんて生れてから一度も食べていない。
「いいなぁ、僕にもあんなに優しくて綺麗なお母さんが居たらな」…考えていたら涙が出て来た。
「あらっ褒めてくれたの? そうだ、今日これから奈々と一緒に焼肉食べに行くんだけど一緒に来ない?」
声に出ていたようだ..奈々ちゃんのお母さんの真奈美さんに聞かれていた。
「良いんですか? 有難うございます!」
お肉が食べれるチャンス見逃すわけが無い。
真奈美さんが運転する車に奈々ちゃんと一緒に載った。
「お母さん、何で省吾くんが居るの?」
「二人で食べても寂しいから誘ったのよ!」
「ふーん、まぁ良いけど」
余り歓迎されていないような気がする、仕方ないかな。
「省吾くん、食べたいお肉ある?」
今迄食べた事が無いから解らない。
「お勧めでお願いします」
「そう、だったら、ファミリーセットとカルビ3人前、ロース3人前で注文するね」
「有難うございます」
お肉が焼けると真奈美さんが僕や奈々ちゃんのお皿に入れてくれる。
初めて食べる焼肉は..涙の味がした。
「うまい、美味い、本当に美味い」
「省吾くん、大げさだよ、普通のお肉だよ!」
「奈々ちゃん、だけど僕、焼肉なんて僕は初めて食べたから本当に美味しくて」
「そう、だったらこれもあげるよ!」
「ありがとう、良いの?」
「うん」
「奈々! それ脂身だからでしょう? 駄目よ食べなきゃ!」
「えっ」
「もう、省吾くんが食べちゃったよ!」
「まったく、もう」
その日僕はアイスクリームまでご馳走になりお腹いっぱいになった。
こんなに楽しかったのは生まれて初めてだった。
何かお返しがしたい、だけど俺には何も返す物がない、だから
「真奈美さんありがとうございます! 本当に美味しかったです」
出来るだけ、笑顔を作って最高のお礼を言った。
「そう、満足してくれてよかったわ」
「ねぇ、奈々には?」
「奈々ちゃんもありがとう! 今日は本当に楽しかったよ!」
「うん、奈々も楽しかったよ」
「二人で食べても寂しいからまた食事に誘うから、良かったらきてね!」
「はい、有難うございます」
今日一日で解かった事は、女性と仲良くなるとご飯が食べれる。
そういう事だ。
転移前 ありがとう
焼肉を食べてから、俺の人生は変わった。
女性を褒めれば良い事がある。
それが解った。
「祐樹くんのお母さんって凄く綺麗だね、まるで紺野愛子みたいだ」
伝わるように褒める。
それが伝わると
「省吾くん、おばちゃんがが紺野愛子みたいって言ってたってほんと?」
「いやだな祐樹ママがおばちゃんだなんて、僕にはせいぜいお姉ちゃんにしか見えないよ」
こんな感じになる。
「そう、褒めてくれてありがとうね、これ飲む?」
「うわっコーラーだありがとう祐樹ママ」
こんな感じに物が貰える。
だから、俺は、女性に優しくするんだ、そうすれば少しだけ幸せになれるから。
同い年の子や年下も同じ。
基本、俺は新しい服もおもちゃも無い…だから、最初、良く虐められていた。
だけど、クラス委員の加奈ちゃんに庇ってもらった事があった。
やっぱり俺には返す物が無い..だから感謝するしかないんだ。
「ありがとう加奈ちゃん、助けてくれて..加奈ちゃんって可愛いだけじゃなくて強いんだね!」
そう伝えた。
「省吾って馬鹿じゃ無いの!」
そう言って真っ赤になって走っていっちゃった。
だけど、次の日から加奈ちゃんは虐められそうになると直ぐに飛んできてくれて助けてくれた。
女の子って凄く優しい、ただ褒めるだけで本当に親切にしてくれるんだ。
男だとこうは成らない。
だから、俺は女の子が凄く好きなんだ。
加奈ちゃんが休みの時、他の女子に虐められそうになったんだ。
「省吾ってさぁ加奈に助けられているからって生意気じゃね? 貧乏なくせにさぁ」
不味い事に囲まれた。
虐められるのは嫌だから、考えて話した。
「貧乏なのは解っているよ、服装も汚いしね、堀田さんみたいな綺麗な子から嫌われているのも知っているよ? だから俺、話しかけない様にしてるじゃん..どうすれば嫌わないで貰えるの? 好いて欲しいとは言わないよ?だけど、堀田さん達みたいな可愛い子に嫌われるの結構辛いんだよ..お金が無いから貧乏は辞めれないけど..努力はするよ! 悪い所があったら言って」
「いや、あのわたしも、そうわたしたちも悪かったよ..ごめん!」
その日、堀田さん達は僕に給食のミカンをくれた。
女って皆んな優しいじゃん。
俺の母親を除いてさ..
男なんて同情はしてくれても馬鹿にしてそのくせ、俺を助けてくれない。
その日、僕は、堀田さんに駄菓子を奢って貰って帰っていた。
10円のガム二つ..凄く美味しい..
「堀田さんって優しいよね? いつも本当にありがとう..」
「あのさぁ 省吾って本当は誰が一番好きなんだ? わたしだったりするかな?」
「うん、解からないや」
「それずるいよ! まぁ今じゃ無くて良いから、いつか答えてね」
「うん」
正直、女の子は皆んな好きだ…誰が一番かなんて解らないや。
今日も何時もの様に家に帰った。
だが、家には明かりがついている。
これはどちらかが家に居る…そういう事だ。
家に居たのは2人ともだった。
いきなり俺は母親にはたかれた。
「あんた、私に恥かかせないでよ、物乞いみたいに近所にたかっているんだって?」
正直腹が立つ、だから黙っていた。
「女にたかって生きるなんて男として最低だぞ!」
本当に腹が立った..だから睨め付けた。
「何だ、その目は、親に対して何だ」
殴りつけられた..もう構うもんか。
「お前ら何か親だと思ったことは無い..よっぽど他の人達の方が優しいよ…お前らはクズだ」
「このガキが偉そうに親に意見しやがって..この野郎」
どうせ、何を言っても殴られるんだ…
「クズが何いっているの..義務も果たさないくせに」
馬乗りになって殴られた。
「本当に可愛げのない子だよ、誰に似たんだか」
「お前だよ糞ババア!」
糞ババアも暴力に加わった。
余りに怒鳴り声がしたせいか、真奈美さんが駆け付けて来た。
玄関のドアが空いているからそのまま入ってきた。
「貴方達、子供に何しているんですか? 何をしたか解りませんがここ迄暴力振るうなんて大人として恥ずかしくないんですか?」
「気のつええババアだな、だから旦那に逃げられるんだ」
「本当、人の家にずかずかと、不法侵入ってしっているのかしら?」
「解りました、そういう態度取るなら、今直ぐ警察を呼びます、それで良いんでしょう?」
「余計な事するんじゃねー」
親父が真奈美さんを殴ろうとしている。
「やめろ~」
僕は初めて親父に飛び掛かった。
「うるせいガキがー」
僕は手で弾かれた..そしてそのまま頭をテーブルにぶつけた..
凄い、音がした、頭から大量の血が流れている気がする..
「俺がわるいんじゃねーこのガキが悪いんだ」
「そうよこのガキが悪いのよ」
「何を言っているんですか..早く救急車を呼ばないと死んじゃいますよ..早く、早く」
両親が死という言葉を聞いて慌てて逃げる様子が見える。
真奈美さんが僕を抱えながらスマホで電話していた。
「真奈美さん..助けてくれてありがとう..凄くうれしかった..」
どうにかお礼を言えた。
多分、俺は死ぬんだと思う..頭が真っ白になってきた。
………
綾小路ルイズとの出会い。
さっきからホッペたを触るのを辞められない。
ついプニプニしちゃう。
善行はしてみる物ね、まさか道路で倒れていたのが男の子なんて…
これは、凄いついているわ..男の子が倒れているなんて凄い奇跡ですわ。
だけど、こんなに可愛らしい男の子に誰がこんな暴力を振るったのかしら。
その場に私が居たら、八つ裂きにしていますわ。
《目を覚ましましたわ》
「うーん、あれっ膝枕されて..あり」
「えっ、膝枕、あっ..」
そうですわ、私、膝枕を堪能していたのですわよ..不味いですわ。
早く立たないと..
どさっ..何をやっているの私..彼を、男性を落とすなんて。
「誰でも良い、早く来なさい!」
「お嬢様、どうしました!」
「早くしなさい、直ぐに早川先生の所へ、グズグズしない! いい事? 彼の為に雇ったのよ? 彼に何かあったら首なんだから!」
「はい、お嬢様!」
「あの、俺なら大丈夫ですよ? たん瘤が出来た位です」
「駄目駄目駄目だわ、何かあったらどうするの? 絶対に診察受けなくちゃダメ―!」
「解りました」
「さぁ、早く診察に連れて行って」
「はい、お嬢様!」
「お前達、この館のカーペットをもっと高級な物にすぐに替えなさい! さっき彼の頭を落とした時にどさって音がしましたわ、もっと安全で高級な物に替えなさい..直ぐによ、直ぐに」
「お帰りなさい!心配はしていませんわよ? 先生から先に連絡を貰いましたから」
「ありがとうございます! お嬢様が俺を助けてくれたんですね」
「そうよ、道端で死にかけていたから助けてあげたのよ! 命の恩人なのよ私..膝枕位で文句言ったりしないわよね!」
落とした事を気にしているのかな?
「可愛らしいお嬢様に膝枕して貰って何で、俺が文句言うんですか? 最後は落とされてしまいましたが、凄く気持ちよかったですよ!」
「嘘、文句言わないの? お嬢様、可愛い、なななななっ..嘘..かはっ..貴方私を萌え殺す気なの? 残念、私、その位で取り乱したりしませんわ!」
「あの、俺、可愛らしいお嬢様に膝枕して貰って嬉しいとしか言ってない..」
「あーまた可愛いって言いましたわ! かはっ..貴方、庶民のくせに私の膝枕を堪能したいなんて、男でしょう..良いですわ..してさし上げても良くってよ!」
これは嘘ですわよ! 彼が来ましたわ….嘘、本当に私の膝に頭を載せてきましたわ..
《はーはーはーゼイゼイ..流石の私も余裕はなくってよ》
「それじゃ、もう少しだけお言葉に甘えさせて貰うね」
ちょっと、これは不味いわ..本当に不味いの..何で顔を外では無く内側に向けるのよ!
鼻息や息が私の下半身に当たるのよ..不味いわ、本当に不味いのよ、こんなの私耐えられないわ!
これ、絶対に私を萌え殺す気だわ..いえそれ以上よ!
「ようやく起きたのね? もう充分堪能したわよね! だったら降りて!」
「はい」
「ちょっと私、席を外すわよ」
「解りました」
「早く、私をトイレに運びなさい、その後すぐに足をマッサージをして頂戴!」
トイレを我慢して、2時間もの間膝枕をしていたから足も痺れて大変な事になっていましたわ。
廊下迄頑張ったのが限界でしたわ。
「お待たせしましたわね、まずは自己紹介からね、私は綾小路ルイズ、ルイズって呼んで貰ってよいですわ、貴方は?」
「俺は、水原省吾って言います」
「それで、その体の怪我はどうなさいましたの?力になりますから教えなさい!」
俺は事情を話した。
ルイズお嬢様は直ぐに部下を走らせた。
「可笑しいですわ、確かに水原家はありましたが前に住んでいたのは水原祥子さんっていう女性で母親の虐待で亡くなっていましたわ、霧島真奈美さんは確かにご近所に居ましたが独身の方で貴方の事は知らないとの事ですわ」
「そうですか?」
「多分、記憶が混乱しているのね..暫くはこの屋敷で寛いで居ると良いですわ」
「本当に有難うございます」
「困っている男を見捨てないのが女なのよ!」
こうして俺は綾小路家にお世話になる事になった。
見ているだけの仕事です
正直、自分が置かれている現状が解らない。
自分の記憶が可笑しいのか、それとも他の原因なのか解らない。
綾小路さんのいう事にはぼくの知っている自分の住所には俺は存在しなかった。
真奈美さんは存在したが、俺の事は知らなかったらしい。
まぁ考えても仕方ないか..
今はこの生活に慣れる事からスタートだな。
朝起きた、流石はお屋敷だこんな早時間なのにもうメイドさん達は仕事している。
「すいません、俺にも何か手伝わせてくれませんか?」
「あらっ君は、省吾くんね! 男の子は何もしなくて良いのよ! 居てくれるだけで充分なの!」
「だけど何かお役に立ちたくて、何か手伝わせてくれませんか?」
「どうしてもと言うなら、そうね手伝って貰おうかな?」
「はい」
これは一体何なのかな?
椅子に座ってアイスレモンティーを飲んでいる。
横には小さなテーブルがあってお菓子がある。
俺はここでメイドさん達を見ているだけで良いらしい。
正直手伝った気がしない。
「あの、凄く悪い事している気がするんですが」
「えっ、何で、メイドだって女ですよ? ただ、男性が見てくれるそれだけで、いつも以上に仕事に身が入りますわ」
「それじゃ、本当にここで見ているだけで仕事になっているんですか?」
「はい」
何が何だか解らない、だけど、そんな事で喜ばれるならまぁ..良いんだけど
足りなさすぎるのよ!
「足りなすぎるのよ!」
「綾小路さん、何で俺縛られているんですか?」
「そんな事も解からないの? これだから庶民は困るのよ!」
「あの、俺、何か悪い事しましたか?」
「ええ、したわよ」
「あの、何をしたんでしょうか?」
「全然、私に構ってくれないじゃない..」
「そんな事無いと思うのですが..」
「全然構ってくれてないわ! 朝は「おはよう」っていった後ご飯食べてどっか行っちゃうし、夜は夜でご飯食べて少し会話したらどっかいっちゃう..全然構ってくれないじゃない!」
「普通に会っていると思うんですが..」
「足りないわ! 足りない、良い?一日は24時間あるのよ? そのうち睡眠が8時間取るから16時間、そこから、私が学校へ7時間使うから、残りは9時間あるのよ? 毎日、毎日すぐに飛んで帰って来ているのに、貴方はいつも居ないの! 少なすぎるわよ、9時間もあるのに私に使ってくれる時間はたったの3時間位..こんなのないわ」
「だけど、俺迷惑かけているからお手伝い位したくて」
「そんなのは良いの? そんなのは良いから、私に時間つかいなさい!」
何か解った気がする…多分、綾小路さんも寂しいんだ。
昔の俺と同じだ。
簡単に紐はほどけた。
だったら、俺が一人で寂しかった時にして貰って嬉しかった事をすれば良いだけだ。
後ろから俺は綾小路さんを抱きしめた。
「ちょっと、待ちなさい、庶民の癖にいきなり私に抱き着くなんて贅沢ですわ..離しなさい!」
「嫌です!」
「そう、離してくれないのね…庶民のくせに生意気だわ..良いわ私の体の感触を堪能するとい良いわ」
「そんなんじゃありません、俺は綾小路さんが好きなんです」
「好きって言った..好きって」
「ええ、好きですよ..行き場の無い俺に住む所をくれた、そんな綾小路さんを嫌いなわけ無いでしょう?」
「また、好きって…好きっていったわ..好きって..貴方、私をやっぱり萌え殺す気なの..はぁはぁ..ヒュウ―、残念ながらその位では倒されませんわよ?」
「あのね、俺凄く心細かった時にね、膝枕して貰って優しくして貰って凄く嬉しかったんだ…だから同じ様にしてあげる」
よよよ良く考えたら、今私は抱きしめられているのですわよ..これですら耐え切れなくなってきているのに..膝枕ですって..
そんな男性何て何て何て何て..知りませんわよ..
頭に男性の膝が触れてきますわ…ああ….意識が飛んでいきますわ。
あれっ可笑しいな?
綾小路さんは俺に膝の上で寝ている。
たまに「えへら、えへら」と涎を垂らしている。
いつもの凛々しさが無くなっているし尖った部分が全くない。
《多分、これが綾小路さんの素なんだろうな…》
足がしびれて来たけど我慢我慢。
結局、綾小路さんが起きたのは2時間後だった。
起きた、綾小路さんはいきなり素に戻った。
「いきなり、膝枕をする何て、私で無かったら襲い掛かってますわよ! 男なんですからもう少し自分を大切ににしなさい、良いわね!」
「解りました!」
こんな可愛い子が何で俺みたいな人間に此処まで優しくしてくれるのかな?
どう考えても話が可笑しすぎる…
メイドさんと廊下で会った。
「ちょっとお話しても良いですか?」
「ええ、何でも聞いて下さい! 」
「あの、何でこのお屋敷の方は俺にこんなに優しいんですか?」
「男性に優しいのは当たり前ですよ! そんなの当たり前じゃないですか?」
《あれっ? 男性に優しいのは当たり前ってどういう事無かな》
「あの、どうして男性に優しいのが当たり前なんですか?」
「あっ成程! その記憶迄無くしてしまわれましたのね? 男性一人に対して女性が50人、殆どの女性が恋愛も結婚もしないで人生が終わるんです! だから皆んな男性に気に入られようと真剣なんですよ」
《あれっ可笑しいな…》
「そうだったんですね? 俺、その記憶も無くしていたみたいです。 教えてくれてありがとう」
「いえ、困った事があったら何時でも声かけて下さいね、私はシルエッタと申します…宜しくね翔さん」
「はい、宜しくお願い致します」
シルエッタはスキップしながら鼻歌を歌いながら歩いていった。
《会話しただけで喜ばれるなんて..本当に記憶を無くしただけなのかな俺…暫く記憶について考える必要があるのかも知れない》
寝る
ここでの暮らしが楽しくてテレビも見てなかった。
「本当に男の子って少ないんだ」
思わず口に出てしまった。
シルエッタさんを疑う訳で無いけど..可笑しすぎる。
可笑しい事に俺には沢山の男性に囲まれて虐められた記憶がある。
そして、不細工な親父がいて、その親父は女になんてモテていなかった。
男が貴重ならあの不細工な親父だってもう少しモテた筈だ。
しかも、男の子が生まれるとどんな家族でも大切にするらしいが、俺には虐待されていた記憶しかない。
確かに周りの女の子は優しかった記憶はあるけどこんな無条件に優しかった訳じゃない気がする。
だから、信じられない。
テレビでいう事が本当なのかどうか試してみたかった。
そして、そんな事が感謝になるなら毎日でもしてあげたい…本当にそう思った。
そのままの足で綾小路さんの部屋に向った。
そろそろ家に帰ってきている頃だ。
この前、少しでも一緒に居て欲しい、そういう事を言われた気がする。
「綾小路さん帰ってきていますか?」
ノックをしてドアを開けた。
綾小路さんは着替えをしていたけど..
「どうしたの? すぐに来るなんて少しは解ったのかしら? 良い心がけね!」
やっぱり記憶とは違う..俺の記憶だと着替え何て覗こうものならきゃあきゃあ言われて大変だった気がする。
綾小路さんは平気で下着姿になり着替えていた。
思わずじっくり見てしまった。
「女の子の着替えが珍しいの? やっぱりあんた変わっているわね」
「なんだか、記憶が混乱していて可笑しんです」
「やっぱりそうなのね、ちゃんと私が面倒みてあげるから気にしないでいいわよ」
「有難うございます」
「いいのよ、同い年位の男の子と過ごせるなんて役得なんだから!」
「それならい良いんですが」
「気にする必要なんてないわ…恩を感じるならわたしと出来るだけ一緒に居る事..いいわね?」
「はい」
《テレビやネットの話は本当なんだ..だったら..》
俺は綾小路さんの座っている後ろに回り込んだ。
「どうしたのかしら? 急に私の後ろに来てどうしたの?」
そのまま後ろから綾小路さんを抱きしめた。
「ああああわわわわっいきなり何をするのかしら、この庶民は、ははっ放しなさい..」
「綾小路さん、大好きです、このまま暫くいさせてください」
「すすすす好きっていった..いいや大好きって、大好きって..この庶民、恥を知りなさい、私を殺すつもり、また萌え殺す気なのね、残念ね、私はその位じゃ、じゃじゃじゃ平気だわ」
「変な綾小路さん、俺はただ抱きしめているだけだよ..だけど、綾小路さんって凄く良い匂いがするんだね」
「髪の匂いなんてかがないでよ、恥ずかしくなるわ..ねぇ聞いてるの?」
「うん、綾小路さんの良い匂いがする」
「あの、ね、その、恥ずかしいのよ..」
「そうなんだ、だけど綾小路さん嬉しそうに見えるよ」
「そんな事ない、そんな事はないわ..本当にそんな事ないんだからー」
そのまま綾小路さんをお姫様抱っこした。
《うううう嘘っこれお姫様抱っこじゃない? こんな夢の様な話し、何?何が起きているの》
そのまま、綾小路さんをベットに運び寝かせた。
「待って、ねぇ待って、私、経験ないのよ..だけど、するなら私がリードするからね..待ってね!」
「俺も無いですよ?」
「いいわよほら」綾小路さんが手を広げた。
そのまま俺は綾小路さんの隣で横になった。
「それじゃお昼寝しましょうか?」
「はっ、お昼寝って、何を言っているのかしら!」
「テレビで言ってたんです、こうやって寝るのが女の子の夢だって」
「そそそういう事なの..へぇーそういう事ね..」
《本当にこういう所はガキなんだわ、寝るって違う意味でしょう..全く》
「はい」
《嘘、手を握りしめるなんて、生殺し状態じゃない..》
スヤスヤ眠る翔を見ながら、ルイズは悶々としていた。
そして数時間後、元気いっぱいの省吾に対しルイズは目に隈が出ていた。
キス、キス、キス
「結局一睡も出来なかったわ…」
お昼寝と言いながらあの後ずうっと寝てるんだから…まぁ寝顔見たさに起こさなかった自分が悪い..それは解る。
だけど、体が痛い事は痛いのだ。
「お嬢様、同情はしませんよ! 男の子に手を握られて寝て居たんですからね…そんな幸せな時が過ごせるなら、手が千切れたった本望、そう思うのが普通なんですから…」
「むぅ..解っているわよ! だからこうやって湿布だけ貼って黙っているんじゃない!」
「そうですよねー、あんな良い思いしたんですから、寝不足で学校を休んだりしませんわよね?」
「いや、流石にこの状態で学校はいけ..」
「お車の準備が出来ています..お時間が無いからお食事は無理そうですね! シャワーのお時間もありませんわね…早く着替えて行って下さい!」
「貴方、使用人のくせに..」
「何ですか!」
廊下のメイドもこっちを睨んでいる…確かにラッキー過ぎる。
もし、部屋に忍び込んで男性の横で一緒に寝て、寝顔なんて見てたら懲役15年は固いだろう。
そんな罪を犯さないと手に入らない幸運な体験をした私に冷たいのは当たり前だ..諦めよう。
「行ってきます..」
「はい、いってらっしゃませご主人様!」
何だか腹黒そうなメイド達に見送られながら屋敷を後にした。
さて、今日は何をしようかな?
現状が本当に信じられない…前の世界じゃ生きていくのに大変だった。
ご飯なんて、食べれない日の方が多かったのに此処では毎日美味しいご飯を作ってくれるし、いつも優しい何も持っていない自分が何を返せば良いのか解らない。
省吾は気づいてなかった。
自分という人間の価値に…彼が傍に居るだけでこの世界の女は幸せを感じる。
ただ、話をしてくれるだけで嬉しい..そう感じている事に…
例えば、昨日、ルイズにした行為…もしキャバ夫(キャバ嬢の男版)にして欲しいなんて頼んだら、シャンパンタワー5回じゃ足りない。
いや、それ以上にそんな長い時間拘束させてくれる男なんて滅多にいない。
考え事しながら省吾が歩いていると前からメイドのシルエッタが歩いてきた。
「おはようございます、省吾くん、随分とお嬢様と仲良くなったんですね!」
爽やかな笑顔に皮肉が入っているが省吾は気が付かない…
「仲が良くなったというより、恩返しがしたくて、俺、皆んなに凄く優しくして貰っているのに返す物が無いから..」
「男の子はそんな事気にする必要なんて無いんですよ! 居てくれるだけでい良いんです!」
「そうは言っても、悪すぎるから…そうだ、シルエッタ屈んでくれる?」
「どうされたんですか? 省吾くん」
「チュッ!」
俺はシルエッタの頬にキスをした。
前の世界で加奈ちゃんにも堀田さんにもお礼としてねだられた事がる。
「わわわたしの事が好きならキス出来る?」
「良いよ!」
僕が頬っぺたにキスをすると顔を真っ赤にして喜んでくれた。
残念な事に前の世界だって綺麗な男の子のキスはそれなりに価値がある…それに気が付いてない。
まして、この世界ではその価値は比べ物にならない位高い。
「ななななな..キス、キス…省吾くん、何でキスなんて、キスなんてしてくれたの?」
「それはシルエッタお姉ちゃんが好きだからだよ!」
《ああああっ省吾くんが未成年なのが口惜しいわ、彼が成人だったらすぐに結婚申し込むのに》
「省吾くん、あああわわ私、信じちゃいますよ..大きくなったら私と結..ぶべべべ」
他のメイドから蹴りが飛んできた…冗談では無く本当にシルエッタは蹴り飛ばされた。
「いきなり、何をするんですか?」
「貴方、未成年の男の子にそんな事させて恥ずかしくないんですか? 省吾くんお姉ちゃんが来たから安心して!」
「違うよ、お礼がしたくて自分からしたんだよ! だからシルエッタお姉ちゃんは悪くないんだ」
「ええっ..そうだったのシルエッタごめんね!」
「いたたたた..良いよ、確かにそう見えるもんね..」
「そうだ、お姉ちゃんにも..はいっ チュッ」
「嘘、本当に..頬っぺたにキス…わたし、今日から顔を洗わない…」
「駄目だよ、汚いとキス出来ないからちゃんと顔を洗わなきゃ..」
「えっまたしてくれるの?」
「お姉ちゃんさえ良ければ..」
「うん 良いに決まっているわ、それじゃもう一回..」
「貴方、何をしているの? 見てましたわ..後ろをみて御覧なさい!」
「何? この行列..」
「省吾くんのキス待ちですわ..流石に何回もじゃ大変だから1人一日1回までです」
「そんなー」
「省吾くん、私達もして貰えるのよね?」
「うん、良いよ..」
その日全てのメイドは異常な程に仕事熱心だった。
「シルエッタ…これは一体どういう事なのかしら?」
「何がですか! お嬢様?」
「何で、省吾にはあんなに沢山のデザートがあるのかしら?」
「それはですね…お嬢様とはお金のお付き合いだけですが…省吾くんとは愛あるおつき合いだからです」
「そう…解かったわ…だけど、省吾固まっているじゃない? ねぇ普通に考えて30個以上のデザートなんて食べられないわよね?」
「あはははは…そうですね..確かに多すぎますね..今日の所はお嬢様も手伝って良いですわ…」
「そうよね食べられるかしら?」
事情を知ってルイズがむくれるのは三日後だった。
別れは突然に
ある日突然、黒い服にサングラスの女が大勢押しかけてきた。
「男性保護施設、DHSの者だ、こちらに男性が監禁されているという情報があった、調べさせて貰う!」
「何の権利があって屋敷に立ち入ろうとしているのですか? ここは綾小路家の屋敷です」
シルエッタが追い払おうとするがそうは行かなかった。
「男性保護法第三十二条第3号、DHSは男性保護の活動において如何なる場所への踏み込み調査も可能とする、ここが総理官邸であっても我々は立ち入り可能なのだ..どけ」
20名からなる捜査員が屋敷に踏み込んできた。
そして一人の捜査員がすぐに声をあげる。
「男性発見! 未成年と思われる男性を保護..」
「これはどういう事でしょうかね、流石に男性を監禁したとなると綾小路家とはいえ問題になるでしょう…メイドの貴方達に言っても仕方のない事でしょうが…あとで何だかの判断が下されるでしょう、覚悟して下さい!」
悔しそうに歯ぎしりをするメイド達。
「すいません、俺は行き倒れの所を助けて貰ってそのまま住み着いているだけです、ですから監禁等されていません!」
「本当にそうなのですか? 脅されているのなら大丈夫ですよ? 我々がいます!」
「本当です、倒れている所を助けて頂いて、記憶を一部無くした俺を助けてくれただけなんです…ここでの生活は俺が生きてきた中で多分、一番幸せな日々です。」
「そうですか、綾小路家の監禁の話は取り下げます、ですが貴方はどう見ても未成年ですし男性です。記憶喪失の男性を保護したのに申告しなかったのは重大な違反なのです」
「俺は此処に居る事は出来ないのですか?」
「将来はともかく、未成年であり男性である貴方は男性保護施設に一度保護する必要があります、最低線の義務教育を終えたら後は自由です、最もちゃんと休みはあるのでその時に此処に来たければ来れば良いと思います」
「そうですか、解りました、ただ綾小路さんに挨拶はしたいので暫く待って貰う事は出来ますか?」
「その位なら宜しいですよ!」
綾小路さんやシルエッタさん達メイドさん達に別れを告げた。
皆が泣いていた、俺みたいな人間に泣いてくれた人は殆ど居なかったはずだ。
記憶に齟齬があり解らないがここに居た時間程楽しい時間を過ごした事は無かったと思う。
だから、俺はいつかこの場所にお礼をしに帰ってこようそう心に誓った。
ただいま。
男性保護施設に入って8年が過ぎた。
これで俺も成人した事になる。
このまま、ここに居ても良いし..外で暮らしても構わない..
俺の気持ちは決まっている。
懐かしいあの場所に帰ろう。
子供の時に幸せな時間をくれたあの場所へ…
楽しい時間を作ってくれたあの場所へ..
この世界の女性は本当に僕に優しかった..信じられない位に優しく甘い。
保護施設の人も知り合ったすべての女が僕に優しかった。
だけど、その中でも…綾小路家の人は行き場の無い俺に居場所を作ってくれた。
俺は目一杯の花束を買い込んだ。
何て言えばいいのかな…色々考えて口から出たのは「ただいま」だった。
此処が俺の居場所だったから…
「お帰りなさい」
優しい声と共に再び時間が動き出した。
FIN