第一章 僕は弱いんです。いじめないで下さい。だけどそれ以上いじめるなら、、、死ぬよ 黒木省吾篇
僕の名前は黒木省吾。
絶賛、虐めにあっている一人の高校生だ。
虐めって簡単に言うが、僕の虐められ方は度を越していると思う。
教科書を破かれたり靴を燃やされるのは日常茶飯事。
だから基本、僕はスリッパを履いている。
机は悪口が彫刻刀で彫られれている。マジックじゃないんだ彫られているんだ。
トイレの大に入ろうものなら、上から水がバケツ事降ってくる。
だが、この位ならまだいい方なんだ。
酷い時には裸で手足を縛られてフルチン状態でロッカーに閉じ込められた。
そしてサンドバックと称してゴミ袋を手に嵌めて僕を殴りつける。
ゴミ袋をしている理由は手を汚したくないからだって…笑えるよね。
そして今日も僕はただ、虐められるだけに学校に通う。
黒木省吾篇 セレスの遺品
先日、僕の親戚の黒木セレスくんがバス事故で無くなった。
黒木セレスくんは僕の数少ない友人の一人だ。
お互いが良く虐めにあっていたからなのかも知れない。
良く二人で話していた。
最も、その話しは建設的な内容でなく、殆ど虐められ自慢だ。
「よく教科書がなくなるんだよね」
「無くなるだけなら良いよ、僕なんて目の前で燃やされるんだよ」
「半端ないね」
こんな傍から見たら痛い会話だ。
だが、そのセレスくんが死んでしまった。
最初、その話しを聞いた時には自殺したのかそう思ったが、違っていた。
単なるバス事故だった。
そして今日僕は、セレスくんの形見分けを貰いに、セレスくんの家に来ている。
「よく来たね省吾くん」
「おじさん、お久しぶりです」
「同じ歳の親類は少ないからさぁ 省吾くん良かったら、欲しい物全部持って行ってくれないか?」
「おじさん、そうしたら寂しくないですか?」
「ああ、僕の分なら数点とったから大丈夫だ。ゲーム機でも何でも持って行ってあげてくれ」
「解りました」
僕は仏壇のセレスくんの写真に手を合わせてから、セレスくんの部屋に行った。
セレスくんは余り物を持っていなかった。
結局僕は、漫画数冊と携帯ゲーム機を貰う事にした。
漫画を物色している時におかしな本を見つけた。
「卑怯道教練書 極意」 明らかに古い本でしかも汚い文字で筆書きだ。
「省吾君、どうだい、欲しい物はあったかい」
おじさんは僕の手の本を見た瞬間、顔色が変わったがすぐに元に戻った。
「それはセレスが大切にしていた本だ。持っていっても良いけど捨てたりせず、君だけが読んでくれ」
「解りました。」
僕は、漫画やゲーム機と一緒にこの本も頂く事にした。
黒木省吾篇 卑怯道とは何か
「卑怯道」とは何か。
人間は潜在能力のうち30%しか使っていない。
そして色々な拳法の多くは残り70%のうち何%を引き出すかが強さのカギとなる。
又多くの拳法の多くはそこに奥義を置いている。
だが卑怯道は違う。
相手が使っている30%を如何に下げさせるか、そこに重きを置いている。
可能なら、相手の能力を5%以下に落とし、その瞬間に自身の力の最大30%をあて倒す。
その為「卑怯道に二手はない」全ての技は一撃必殺のみである。
二度は同じ相手には使えない虚拳と言える。
古き時代よりある暗殺拳だが、その能力は誰からも評価されない。
最初に編み出した人間はこれで何人もの強者を葬り去ったが、軽蔑されただけだった。
そして、その戦いを見た者は語る
「あれは卑怯を極めし者、如何様に強くても学ばせることは恥である」
と、一説によれば柳生十兵衛の片目を潰した男はこの技を使ったとされるが、余りの卑怯さゆえに歴史から抹殺された。歴史の闇に消された拳法それが卑怯道である。
黒木省吾篇 僕は金魚も殺せなかった。
僕は先日、セレスくんの遺品の中に有った「卑怯道教練書 極意」を読んだ
これは全くオリジナルの拳法の本で全3章からなっている。
最初の1章と2章が心の鍛錬篇で3章目が技の鍛錬だ。
そして最初の1章目には残虐性を身に着ける事が書かれている。
その方法とは生物を殺す事に慣れる事だった。
最初は金魚からスタートして鼠、ウサギとより大きいものを殺す事により残虐性を身に着ける。
そんな方法だ。最終的には人を殺して完成。
僕は教本の通り、金魚を買ってきて試そうとした。
1匹目は何とか殺したものの2匹目は殺せなかった。
1匹目を潰した感触が気持ち悪い。
潰した金魚がピクピク動いている。
それを見るたびに心が痛んだ。
僕にはこの拳法は使えない。
僕は鍛錬を辞めて、ただの読み物としてこの本を読む事にした。
黒木省吾篇 僕にも守りたい者がいる
僕には妹がいる。
黒木祥子。一つ年下の妹だ。
僕への虐めは早いうちから始まっていたので校内では一切関わらないように伝えてあった。
校内では一切きか、口を聞かないように頼んだ。
最初、妹は「どうして?」と納得いかないよ感じだったが、懸命に頼むと了承してくれた。
幸いな事に、学校への通学は電車を使う程の距離だったので、誰も気が付いていない。
そして、教師も僕の虐めに巻き込まれさせたく無い、そういう気持ちを察したのかその様に扱ってくれた。
虐めからは助けてはくれないが、この一点についてだけは感謝している。
今日も、妹を先に行かせて、遅れる事10分してから僕は学校にむかった。
だが、この日は違っていた。
学校のある駅で僕が降りると妹が絡まれていた。
嫌がる妹の手をとり繁華街の方へ連れて行こうとしている。
これは不味い。僕はカバンを放り投げるとすぐに走り出した。
「何をしているんですか、やめなさい」
「てめぇ邪魔すんじゃねぇ….何だ省吾かすっこんでろ」
「いいから、離せよ」
「お兄ちゃん、助けて」
「お兄ちゃん? そうかお前ら兄妹だったのか」
「良いからやめてくれ!」
「てめぇこそあっち行け、殴られたいのか?」
だが、周りの人の目が集まった事に気が付くと、大河武士は「覚えていろよ」の捨て台詞を残して去って行った。
「大丈夫か? 祥子!」
「お兄ちゃんのおかげでね!だけど怖かったよ。行き成りナンパしてきて無理やり連れて行こうとするんだもん」
「あぁ、あいつは凄くしつこくて陰湿な奴なんだ。僕の妹と知られたからには何かしてくるかも知れない、気をつけて」
「解ったよ、だけど又お兄ちゃんが助けてくれるんでしょう?」
「勿論、だよ」
僕たち兄妹は学校へと向かった。
黒木省吾篇 大河武士
俺は基本、一匹狼だ。他の奴らを暴力で従わせてはいるがあくまで手下だ。つるむことは無い。
女をナンパするのも犯すのも自分1人でやる。勿論虐めもだ。
そうしないと、せっかく手に入れたおもちゃを周りの奴が欲しがり、まだ使いたいのに譲らなきゃなくなる。
せっかく、レイプを楽しんでいるのに「そろそろ変わって下さい」なんて言われて、充分楽しめない。
輪姦なんて楽しくも何ともねぇ。 俺一人で犯し、壊して遊ぶ。それには一切必要がない。
だから、ある時から誰ともつるまなくなった。俺一人で充分だ。
最も、要らなくなったゴミはくれてやる事もあるが、それだけだ。
俺は今日新しいおもちゃを見つけた。
黒木祥子だ。
俺がいつもの様にナンパをしていたら、同じ学校の制服を着ている、つらの良い女を見つけた。
すぐさま、ナンパして繁華街に連れて行こうとしたら、邪魔が入った。
俺が虐めている、黒木省吾だ。
いつもなら、俺が脅せばすぐに消えるのに今日は随分粘りやがった。
だが、その時に良い事を聞いた。
「お兄ちゃん、助けて」だ。
省吾の妹だったのか、なら簡単だ直ぐに身元の判断がつく、同じ黒木の苗字で1年を探せばすぐだ。
放課後に続きをすれば良い。むしろ学校の方が連れ込める場所がある。
今朝邪魔した分思いっきり壊してやる。
俺は、その時の光景を思い浮かべにやついた。
省吾篇 祥子無惨
今日の昼休み、学食に居ると今朝の男が近づいてきた。
「祥子ちゃんお久しぶり」
私が無視して立ち去ろうとすると、
「立ち去って良いのかな? 省吾君、死んじゃうかもしれないぜ、、、あぁ可哀想に」
「お兄ちゃんに何したの?」
「まだ、何もしてねぇーよ、だけど祥子ちゃん次第では省吾が大変な事になると思うよ」
「お兄ちゃんに何もしないで」
「その事について話し合おうか?ここじゃ話しづらいから、ついて来い。言って置くけど逃げたりしたら省吾がどうなっても知らない」
「わかったわ」
仕方なく、私はこの男についていった。
この男は私を旧部室のある場所に連れ込んだ。
「お兄ちゃんはここに居るの? 早く返して」
「お前の兄貴なんて知らんよ。俺はただ省吾について話し合おうと言っただけだ」
「そう、貴方がお兄ちゃんを虐めているんだ。だったら虐めをやめてくれない」
「お前次第だな」
「どうすれば良いの?」
「そうだな、今朝のナンパの続きだ」
「デートでもしたらもう虐めないでくれるの?」
「違う、その続きだ、さっさと服を脱げ」
「頭おかしんじゃない? 帰る」
「返すと思うか。」
私はこの男に行き成り顔を殴られた。
しかも倒れ込んだ私を何回も蹴り込んでくる。
「いや、やめて痛いよ」
「やめる訳ないだろうが、やめて欲しいなら服を自分から脱げ」
「いやぁ、嫌」
「自分から脱ぐって言うまで蹴とばしてやるよ」
「絶対に言うもんですか」
私の顔は腫れあがっているだろう。多分、手足も旨く動かせないと思う。
そんな、私をこの男は見ながら、無理やり服を脱がした。
抵抗しようにももう体は動かない。
私は全裸にされ、そのまま放置された。
「今の鼻血と鼻水だらけのお前なんか汚くて抱けねーよ。体が治った頃もう一度聞くわ」
「服、、返して」
「返すわけねーだろ、抵抗しやがって、こいつは燃やしておくから裸で帰るんだな」
「訴えてやる、、絶対に」
「誰に? 俺、大河なんだぜ、校長もそうだが警察だって親父の力でどうにかなる。恥かくから辞めておくんだな。それにそんな事したら、お前のお兄ちゃん死んじゃうかもな」
ただ、私は惨めに泣くしかなかった。
省吾篇 黒き炎を身に宿して
僕は祥子を探していた。
何時もなら気にはしなかったが、今日は今朝からあんな事があった。
だから、何気なく祥子の様子を見ていた。
昼休みが過ぎても祥子はクラスに帰ってきていないらしい。
校舎を探し回り、何処にも居なかったので、噂のある旧部室にいって見た。
そこは大河がいつも居て、他の生徒は近づかない場所だった。
最初、誰も居ないように思えたが、はじの方でブルーシートに包まっているいる人がいた。
僕は静かに近づいた。
女の子だ。裸の女の子が震えていた。
「祥子?」
「お兄ちゃん、、わあああああああああああああああん」
泣いている祥子を僕は見た。 その祥子の顔は痣だらけだった。
鼻はもしかしたら折れているのかも知れない。鼻血だらけだった。更に前歯が2本折れていた。
頭を触ると恐らく切れているのかヌルっと血が付いた。体は痣だらけで傷がついて無い場所がない
。
僕は泣き止むまで祥子を抱きしめていた。
祥子は落ち着くと何があったのかポツリポツリ話し始めた。
僕は、祥子が大事な物が失われてなかった事を少しだけ安堵したが、今の状態の祥子を見て初めて殺意を覚えた。
僕は祥子が落ち着くのを待つとジャージを着せてタクシーに乗り病院へと連れて行った。
病院へ連れて行き、母さんに電話を掛けた。
母さんはパートが終わり次第病院に来てくれるそうだ。
診察の間も祥子は怯えたように僕の手を離さなかった。
診察の結果は、祥子の鼻の骨は完全に折れていた。その傷は場合によっては残るかも知れない。歯は前歯の2本以外にも複数折れていて入歯が必要になるそうだ。肋骨にも足にも罅が入っていた。事件性を感じた医者は警察にも連絡をしたらしく警官が二人病院に来た。
祥子は今、治療を終えて病室で寝ている。
僕は、両親と警官に事情を聴かれた。
最初、両親はかなり憤っていたが、相手が大河であると解ると急に静かになった。
聞いていた警官も最初は暴行、傷害という言葉を使っていたのに相手が大河だと解ると急に「未来ある子供同士の事だから大きくしてはいけない」その様に言い出した。
「ここまでの事なのに警察は本当に何もしてくれないんですか?」僕が責めるように言うと、警官の一人は悔しそうな顔をして「大河絡みは警察でもどうしようもできないんだ。すまない」と謝られた。
そうか、家の親も警官も大河は怖いんだ。確かに僕だって怖かったさ、だけど憎しみって怖さを凌駕するんだな。
もう怖くも何ともない、僕なりの方法で大河に復讐してやるよ。
省吾篇 家族会議
眠っている妹を置いて僕と両親は家へと帰ってきた。
そして、今後の事を話し合う事になった。
「父さん、今日の事は事件にしないよにしようと思うんだ」
知っていたよ。どうせ父さんは大河が怖いんだよね。
「母さんもそう思うわ。祥子は女の子だから変な噂がたったら困るし」
やっぱりね。
「それは解るけど、大河の親父には言うよね謝罪くらいわ、流石にして貰うよね」
「無理言うな、俺の会社の親会社の社長だ」
ほらやっぱりね。期待なんてしてないさ。
「母さんは?」
「祥子の将来を考えたら大きくするのは何も良い事ではないわ」
やっぱり怖いんだ。
もう親なんて思わないよ。
「解ったよ。その代わりこれだけは約束して、祥子が退院したらすぐに転校させてあげて。そうだね、母さんは一緒に引っ越してそのままついて行ってあげて」
「お前、何をいいだすんだ」
「大河くんに目をつられたんだよ? 最低でもそこまでしなければ祥子の人生めちゃくちゃにされちゃうよ。まさか父さんも母さんも祥子を差し出すの?」
「省吾、貴方お父さんに謝りなさい」
「なぁに母さん? 娘も助けられないんだから、せめて祥子と一緒に逃げてよ。それとも大河くん殺してくれる?」
「省吾、いい加減にしなさい。実の母親に人を殺せって言うの、馬鹿にして」
「いや、母さん、、省吾の言うのは最もだよ。俺には子供を守る力が無いのかも知れない。ここまで自分の娘がされて仕返し一つ出来ない。なら、省吾の言う通り、娘を守るためには逃げるしかないさ。母さんだけにしたのは僕がここを離れらないからという意味だろう」
「そうなの、それならこんな嫌味ったらしく言わなくてもいいじゃない?」
「ねぇ母さん、これは本気の嫌味だよ。だって、僕が酷い目にあっても祥子が酷い目にあっても怖がって助けてくれないんでしょう? その状態でも会社にお父さんはいたいんでしょう? お母さんだって同じだ。でもね、解らなくもないんだ。父さんがその会社を辞めてしまったら生活は大変な事になるからね。だからこれは本気の嫌味、、、これ以上はもう言わないから今日だけは我慢してよ」
「言われても仕方ないよ母さん」
「そうね、」
「だから、祥子だけは何があっても逃がしてね」
「あぁ約束するよ。お前の言う通りにする」
「母さん、すぐに転校先の学校と転居先のアパートを探すわ」
「良かった、、お願いするね。」
「お前はどうするんだ」
「暫くしたら僕も転校しようかな。だけど、その前に大河武士でも殺しちゃおうかな?」
「お前、、、」
「冗談だよ」
僕は笑った。
省吾篇 下準備
大河武士は悪ぶれずに今日も学校へ来ていた。
それでこそ、大河武士だ、僕は拍手を送りたかった。
大河は僕を見つけるとニヤつきながら近づいてきた。
「省吾、てめぇ昨日はよくも邪魔してくれたな?まだ気が治まらねぇ」
僕は周りに聞こえないように大河に囁いた。
(女子供しか怖くて相手出来ない強姦未遂野郎が何をするって言うんですか?)
「てめぇふざけやがって、いい度胸だ殺してやるよ」
(殺せるの、僕が? 笑ってしまいますよ、はははは)
大河は僕に殴り掛かってきた。僕はそれを除けもせず受けた。
転んだ僕を大河は何回も蹴ってきた。
「どうだ、思い知ったか?」
(全然、お前みたいな弱い奴に蹴られたって痛くも痒くもないね、ゴミ野郎)
大河の暴力は続く。結局は余りに酷いので教師が止めに入ってようやくこの暴力は止まった。
保健室にて治療を受けると僕は痛い体を引き釣りながら授業を受けた。
周りの目は気の毒そうな目に変わっていた。
流石に、ここまでの暴力を受けている僕に更なる虐めをする生徒はいなかった。
一部の生徒からは「大丈夫か?」そんな声も掛けてくれる者もいる。
まだ、まだ僕は虐め続けられなければならない、この痛みこそが大河を倒す手段だ。
怪我した状態で僕はわざと大河の前を横切った。
「てめぇ、ふざけんなよ」
(僕はまだ生きてますけど?殺す殺すって口先ばかり本当に弱いな。これじゃ小学生だって殺せないんじゃない)
周りに聞こえないように挑発した。
「貴様ぁーぜっていに殺してやるよ」
(殺せもしない癖に)
周りに聞こえないように挑発する。そして今回も教師が数人きて大河を止めた。
「黒木くんも職員室にきたまえ」
「行きませんよ。どうせ大河の肩を持つだけでしょう? 僕を殺す事に手を貸している人と何て話したくありません」
そのまま大きく声を荒げて僕は学校を後にした。
僕はその足でコンビニでプリンを2個買って、病院にお見舞いに行く。
妹の祥子は痛々しい顔で笑顔を作りながら出迎えてくれた。
「お兄ちゃん、ボロボロだね。まさか」
「うん、大丈夫だよ。大河の事なら心配しないで良いよ。祥子が退院するまでには終わるから」
「何かするの?」
「何もしないよ。だけど、退院してすぐに祥子を転校させるように母さんに言っておいたから大丈夫だよ」
「お兄ちゃんは?」
「少し遅れて転校するかな? 同じ学校になるかどうかは解らないけどさぁ」
「まぁ、お兄ちゃんが一緒ならいいや」
「そう」
「うん」
駄目だ、痛々しくて見てられない。
見ていると涙が出てしまう。
「お兄ちゃん、大丈夫なの? その怪我、痛いんじゃないの?」
「全然、そんな事よりお前の方が痛々しいよ」
「そりゃ痛いよ、骨折しているんだからさ、怪我も後が残るし」
「祥子は可愛いからそれでも大丈夫だよ?」
「そんなこと無いよ、この怪我じゃあ多分結婚も出来ないかもしれないよ」
「祥子ならそんなこと無いって」
「じゃぁもし私が結婚出来なかったらずうっとお兄ちゃんも結婚しないで傍にいてくれるかな?」
「いいよ、可愛い妹の頼みなら何だってきくさ」
「そう、それなら逆に怪我して良かったかも知れないな」
「馬鹿な事言っていないでプリンを食べたら休んで。」
「寝るまでお兄ちゃん傍に居てくれる?」
「あぁ居るとも」
(祥子じゃぁな幸せに)
省吾篇 卑怯道炸裂 死ぬのは僕だ
僕は今、手紙を書いている。複数のマスコミ、警察、そして学校の校長宛にだ。
この手紙こそが、大河の打倒の最後の秘策になる。
これで、準備は終わった。
そして。それらをポストに入れると僕はぐっすりと眠った。
朝がきて今日と言う日が始まる。
歯を磨き、顔を洗い何時ものように朝食を食べて、両親に朝の挨拶をした。
清々しい朝だ、復讐には丁度良い。
これが終わった時にはお前の人生は終わる。
死よりも苦しい地獄が待っているはずだ。
さぁ後はここで大河を待つばかりだ、電車の音を聞きながら僕はホームで大河を待った。
大河は親に守られていると思われるのを嫌がり電車で通学している。
8時05分、目的の大河は現れた。
さぁここからが勝負だ。
僕は静かに大河の前に近づいた。
(あれっ大河くん。今日も僕は生きているよ?所詮ゴミだね。だから女に持てないんだよ? レイプでもしないと女から相手にされないからレイプしてるのかな? ゴミ人間)
周りに聞こえないように挑発する。
「てめぇ絶対殺してやる、殺してやるよ」
こいつやっぱり馬鹿だな。こんなに大勢の前で殺してやるなんて。
(殺せるのかな僕を?レイプ魔野郎がさぁ)
「この野郎絶対に殺す」
ようやく掴みかかってくれたな。あとはタイミングだ。
やっと電車がきたな。このタイミングだ。
「殺される、助けてくれこいつに命を狙われているんだ。頼むから殺さないでくれ」
「何をいって」
僕は足で後ろに飛びそのままホームへと落ちていった。
その時にタイミングよく電車が来て、僕は踏まれた。 体がバラバラになっていく感覚が解る。、、、グチャグチャグチャ、、、僕は死んだ。
「おい、、」
唖然とした大河が最後に間抜けな顔をし、吐きながら、僕を見つめていた。
省吾篇 誰も信じてくれない
「人殺しだ」
その言葉を口切にホームの中はパニック状態になった。
大河は我にかえると「俺は殺してない、此奴が自分で死んだんだ」そう怒鳴った。
だが、すぐに警察官が駆け付けてきて取り押さえて大河を警察へと連れて行った。
「俺は殺していない、あいつが勝手に死んだんだ。」
「お前、ふざけているのか?殺してやるって叫んでいるのを周りの人間が見ているんだ。言い逃れするんじゃない」
「俺はそう言った。だが、それは脅していただけで本当に殺しちゃいない」
「あのなぁ、後でビデオも見せてやるが、しっかりとお前の殺す瞬間が映っているんだ。言い逃れは出来ないぞ。 少しでも罪を軽くしたいならちゃんと罪を認めた方が良いんじゃないか?」
「俺は大河だぞ、そうだ親父を呼んでくれ」
「お前は未成年だ。ちゃんと親も呼んである。だが、親父さんが来たところでどうにもならないぞ、殺人事件を見逃す程、警察は甘くない。」
暫くして大河幸三が弁護士を連れてきた。
「息子がこちらに逮捕されたと聞いて飛んできたんだがいつもの様に見逃しては貰えないか」
「幸三さん、私は親戚だからと甘やかしすぎたようだ。もう武士には愛想がつきた。」
「そう言わないで、何とかしてくれ、この通りだ」
「貴方は武士君が、何で逮捕されたのか知らないのか?」
「電話を貰って飛んできたから知らん。何をしたんだ彼奴はそこまで、お前が怒るという事は傷害か?まさか強姦か? 相手の親にはしっかりと詫びて示談する。だから助けると思ってな、この通りだ。彼奴は多少暴れ者だが根は良い奴なんだ。この通りだ。」
「幸三さん、いや幸三、親戚だからこの際、言わせて貰うぞ、あんたがそうやって甘やかすから飛んでもない奴に育ったんだ。何をやったか教えてやろう。殺しだ。しかも大勢の前で命乞いする少年を殺したんだ。流石に庇いきれん。これからはもう親戚とは思わないでくれ。」
「それは、何かの間違いじゃないか? 流石にそこまでの事をしでかす奴じゃない。」
「後は、担当の警官と話してくれ、最初に言って置く、勇士はいまも罪を認めていない。だが、証拠のビデオはしっかりと電車会社から上がってきている。しかも大勢の証人付きだ。言い逃れは出来ない。親としてちゃんと反省させて罪を認めさせる事だ」
その後、幸三は弁護士を連れて武士と謁見した。
「親父、俺は殺していないんだ、信じてくれ」
「武士、いい加減にしろ。儂はさっきビデオを見せて貰ったぞ。お前がしっかりと殺してやると叫んで突き落とした映像が映っていた。お前は儂にまで嘘をつくのか?」
「違うんだ、親父、俺は本当に」
「いい加減にしろ、他の事はともかく、今回は殺しだ。もう、愛想もつきた。本当の事を言えないならもう勝手にしろ。」
「まぁまぁ幸三さん。ここで怒鳴っても仕方ありませんよ。ここはどうやって罪を軽くするのかそれを考えなければ」
「俺はどうなるんだ?」
「まずは、罪を認める事です。」
「俺は殺してなんていない。」
「流石にビデオに映っている物を否定は無理ですよ。それに証言もある。」
「、、、、」
「本当の所は解りません。ですが認めないと大変な事になります。最悪死刑や無期懲役が待っている。 それでも無罪を訴えますか。どうしてもというならやりますが、まず勝てません。」
「なぁ、殺した事を認めた場合はどうなる」
「武士様はまだ少年。そして初犯ですからかなり刑期の短縮が見込めます。突発的にという事にすればかなり短く出来るかも知れません。懲役8年、旨く行けば3年で済むかも知れません。」
「それでも、そんなになるのか?」
「武士、いい加減にしろ、人一人殺したんだぞ、それが嫌なら勝手にしろ。」
「解ったよ、認めれば良いんだろう?その代わり出来るだけ短くなるようにお願いするよ」
「おお前は人を殺して反省もしてないのか?」
「本当に殺していないんだ、反省なんてできるか、だがそうしないと大変な事になるのなら、認めてやるよ、そして反省した振りをしてやるよ」
「お前には本当に愛想がつきた。今回の件までは仕方ない面倒を見てやるが、その後の事は知らん。儂はこれから相手に謝りに行ってくる。」
「親父、そんなことしないでくれ、俺はあいつに陥れられたんだ。」
「まだ、そんな事を言っているのかお前は」
その後、弁護士と武士は話し合い、挑発されてかっとなって殺してしまった。それで通す事に決めた。
省吾篇 黒木家と幸三
幸三は謝る為に黒木宅に訪れた。
「帰って下さい。」
だが、これで帰ったら息子の為にならない。だから今までは下げた事のない頭を下げた。
「息子さんには大変済まない事をしたと思っているだが息子も悪気がなかったんじゃ」
「悪気がない? ふざけるなよなぁ、息子はずうっとお前の息子の虐めに耐えていたんだ。俺がお前の取引先の会社に勤めていたからな、、」
「そんな事は儂はしらない」
「知らないで済むか? しかもお前の息子はうちの娘までレイプしようとした。娘はいま大怪我をして入院している。なぁ、自分の妹がレイプされそうになって止めに入ってよ、それで逆恨みして殺されたんだよ。うちの息子はお前のガキに、どこが悪気が無いんだよ。なぁ教えてくれよ」
「そそそんな嘘じゃ」
「嘘じゃねぇよ、だったら今から娘の病院に連れてってやるからこい」
幸三は唖然とした。
「これをうちの息子がやったと言うのか?」
「なぁ、これでもあんたの息子は悪気が無かったというのか? 娘に一生残る怪我をさせてさぁ、それでも彼奴はな、あんたの息子に何されるか解らないから妹を転校させてくれと俺に頼んだんだよ。 嫌な話だが俺はあんたの取引き先の会社に勤めていたからこれすら見て見ぬふりをした。なぁ、復讐も考えずにただ妹を逃がす事だけを考えていた息子をレイプできなかった腹いせで散々暴力を振るって殺したんだ。これでもあんたの息子は悪気が無かったというのか」
「嘘だ、嘘だ嘘だ、、」
「だったら医者や学校に聞くんだな。」
「とりあえず、帰ってくれ。示談には応じられない。正直あんたを殺したくてしょうがない。」
「頼むから、息子を許してくれ」
「だったら、あんたが責任もってあんたの息子を殺してくれ、そしてあんたのお嬢さんをレイプしろ。それで初めてお相子だろう?」
「、、、、」
「怒ったのか? だが、あんたの息子は同じ事をしたんだぞ」
「済まなかったとしか言いようがない。納得いくかどうかは解らないが儂なりにけじめはつけさせてもらう」
そう伝えると幸三は病院を立ち去った。
省吾篇 調書
「悪気は無かったんだ、本当にかっとなって殺しちまったんだ」
武士はその様に罪を認めた。
「かっとなってね。嘘をつくんじゃない。なぁ妹をレイプしようとして邪魔された腹いせで執拗に狙って殺したんだろう? いい加減にしろよ小僧。なぁどう見たって計画的じゃねぇか? ここまで悪い奴は俺も初めて見た。ちゃんと罪と向き合え、嘘ついても良い事なんか何もないぞ」
「俺は、そこまでの悪じゃねぇ」
「そうかい?、じゃぁ聞くが、殺された省吾君は、君が無理やり妹さんを連れ去ろうとした時に守ったんだよな」
「、、、、」
「だが、それを頭にきたお前は、その妹さんを攫って暴行傷害を加えたんだよな」
「、、、、、」
「黙ってても良いぞ。もう裏付けも取れている」
「、、、、」
「そんな妹さんを逃がそうとした省吾君に、頭にきたお前は顔を見る度に殺そうとしたんだよな」
「俺はそんな事をしていない」
「いや、これも全部裏付けが取れているんだ、しかも省吾くんがお前に殺されそうになっているのに気が付いてマスコミや警察に手紙を書いていたんだ、お前の二転三転する証言と違って信頼性が高い。だからもう証言しなくて良い。調書には反省なしとして出させてもらう」
「待ってくれ、俺は本当に、本当に殺していないんだ」
「また、君は証言を変えるのか、嘘に付き合う程本管は暇ではない」
警察官は取調室を後にした。
省吾篇 手紙
マスコミ、警察、学校の皆さんへ
僕の名前は黒木省吾と言います。
僕は今、計画的に殺されようとしています。
僕は大河武士という同級生に虐められていました。
その大河武士は僕の妹を狙っていました。1度目は僕が旨く逃がし
二度目の時はレイプは免れましたが暴行により一生残る怪我をさせられました。
僕は妹が再度同じ事をされないように転校をさせるように両親にお願いしました。
ですが、この事に腹を立てた大河武士は執拗に僕を殺そうとして行動しています。
多分、暫くしたら僕は殺されてしまうでしょう。
警察や学校関係にも大河武士について相談しましたが大河幸三の力があるせいか
助けてくれそうもありません。
僕は多分、もうじき殺されるでしょう。それは構いません。
ですが、その後に妹が何かされたらと思ったら死んでも死にきれません。
もし、僕が殺されたらその犯人は大河武士です。
だからお願いです。もし殺されてしまった僕が哀れと思うのなら、大河武士を止めて下さい。
皆さんにすがるしか無いのです。
妹を守って下さい。
それだけが僕の願いです。
黒木省吾
省吾篇(最終話) 結末
省吾の手紙は世間に波紋を呼んだ。
マスコミとしては殺された黒木省吾の直筆の手紙がある為トコトン掘り下げた。
妹をレイプから助けて殺された黒木省吾は悲劇の少年として祭り上げられる。
そして、その手紙の影響は学園にまで及んだ。
ここまで、大事になった為、生徒は大河が殺してやると叫びながら暴力を振るっていた事を証言した。
先生達の一部も余りに暴力が酷いから止めた事があったと証言した。
校長は世論の的になりたくないのか急に暴行があった事を認め、暴力を止められなかった事を謝罪した。
そして大河武士の恐怖が無くなった為に過去にレイプされた少女達が大河武士を訴えた。
黒木家の家族は、涙ながらに息子の死を世間に訴えた。
世間は大河武士を悪者として断罪している。
警察に居た、大河の親戚の副所長はここまで大事になった為に辞任した。
それでも追及は止まらない。
幸三の娘は既に婚約者がいたが、先方の両親からお断りの連絡が入った。
「流石にレイプ犯の人殺しの弟がいる女性とは結婚は出来ない」
そう言われた時のショックは隠せない。彼女は弟を一生恨んで生きるだろう。
幸三は自分の事業を全部手じまいすると、そのお金の半分を黒木家の慰謝料として払った。
残り半分の半分は自分の息子が犯した女性の慰謝料にして最後の財産は娘に渡した。
その後の幸三を見た者は居ない。
先祖からの莫大な財産、それ全部を手放す事が、彼の言った償いなのだろう。
そして、第一審で大河武士は死刑が求刑された。そして上告は却下。これにより死刑が確定された。
余りの反省の無さと変わる証言。読み上げられるレイプ犯罪の数々、陪審員の女性は黒木の手紙を聞いて泣き、その無念さを痛感していたようだ。
最後まで「俺は嵌められたんだ」そう叫ぶ武士に誰もが侮蔑の目を向けた。
以上が今回の事件の顛末だった。
省吾篇 エピローグ
「お兄ちゃん、何で死んじゃったの? 私お兄ちゃんが居なくなったらどうすれば良いのかな?」
「ねぇ、お兄ちゃん。お兄ちゃんがずっと傍に居てくれるって言ってくれて凄く嬉しかったんだよ。兄妹なのに可笑しいと思うかも知れないけど私はお兄ちゃんを愛していたんだから」
「お兄ちゃん、本当は私を守るための自殺だよね。これってお兄ちゃんの本に書いてあった。罪被せって技だよね。何で使っちゃうの」
罪被せ=自分が死ぬ時に相手に殺人の罪をかぶせる技。卑怯道の技の一つ。
「お兄ちゃんが死んじゃったよおおおおおおおおおおおおおおおお」
「そうだ、お兄ちゃんの復讐をしなくちゃね、、まだ生きている人がいるし、全員死ななきゃ可笑しいよねあはははははははははははっ」
省吾篇 完
省吾篇 後書き
この作品は『僕は弱いんです。いじめないで下さい。だけどそれ以上いじめるなら、、、殺すよ。』の外伝です。あちらを書き上げた時に思ったのは、誰しも残酷には慣れないのではないか? そう思って書いたのが省吾篇です。人を殺す事が出来ない人間だったらどうしたら良いのだろうか? そう考えた時に自分が死ぬことによって、相手を潰すでした。又、前回の作品が鬱展開が多いという話しだったので少し軽めにしてみました。 18禁版はまだ書く自信fが無いのでまた力ついたら着て行こうと思います。第二章は、まだ考えて無いので、思いついたら再度UPします。その際は宜しくお願い致します。 いつか実力がついたら卑怯道の創始者の柳生十兵衛の目を潰す。そんなストーリーを書けたらと思いますが、今の私では夢又夢です。
では、、、読んで頂いて有難うございました。
第二章 大好きなお兄ちゃんが死んじゃいました。だからムカつくので、、、皆殺しよ 黒木祥子篇
大好きなお兄ちゃんが死んじゃいました。
私を守って殺された、そういう事になっています。
ですが、それが違う事を私は知っています。
私を守る為に、自分の命を使って戦ってくれたんです。
これって、愛ですよね!
正直に言います。
私は重度のブラコンです。
お兄ちゃんを愛しています。
他の人なんて眼中にありません。
流れるような黒い髪に黒く輝く黒い瞳。まるで物語の王子様のようです。
親戚のセレスくんと一緒にいるとまるで乙女ゲームの一場面を見ているみたいです。
セレスくんも好みだけど、お兄ちゃんとは比べ物にはなりません。
兄妹に生れたのが残念です。だって兄妹じゃ結婚が出来ません。
まぁ、お兄ちゃんの結婚の邪魔をして独身で過ごして貰えば良いんです。
二人で独身で一緒に暮らしていれば結婚しているのと同じですよね。
実は、お兄ちゃんが虐められている時、私はラッキーだと思っていました。
だって、中学の時には凄くモテていて何度も告白されていたんだもん。
何度、邪魔しても虫のように湧いてくるの本当に嫌になっちゃう。
高校でもモテそうになったけど、大河に嫌われたから虐められたおかげで虫がよって来なくなった。
おかげで家にも真っすぐ帰って来るし、お兄ちゃんを独占できたから嬉しかったな。
涙ぐんでいるお兄ちゃんを抱きしめた時には凄く嬉しくて仕方なかった。
大河に暴力を受けて怪我した時も、実は私はラッキーだと思っていた。
結局は最後まではされていないし、顔や体に傷は出来たけどさぁ
その責任をお兄ちゃんは感じてくれていて、今でも想いだすんだ。
「そりゃ痛いよ、骨折しているんだからさ、怪我も後が残るし」
「祥子は可愛いからそれでも大丈夫だよ?」
「そんなこと無いよ、この怪我じゃあ多分結婚も出来ないかもしれないよ」
「祥子ならそんなこと無いって」
「じゃぁもし私が結婚出来なかったらずうっとお兄ちゃんも結婚しないで傍にいてくれるかな?」
「いいよ、可愛い妹の頼みなら何だってきくさ」
「そう、それなら逆に怪我して良かったかも知れないな」
そんな話し、結婚しないでずっと一緒にいてくれるのなら、もう事実上結婚したような物だよね。
これで、この後は二人で転校してラブラブな生活が待っているはずだったんだ。
なのにお兄ちゃんが死んじゃった。
しかも、私を守るために、、、ずるいよ。
死んでまで私を守るくらい好きだなんてさぁ、、、、
私はお兄ちゃんの事がもっと、もっと好きだったのに
もっとかっこ良く告白して貰いたかったな、、、
復讐をしっかりして死んでいたからもう復讐相手もいないじゃ、、、、、
あれ、、、、、
あれ、、、、、、
彼奴らって不幸になっているけど生きているじゃん。
お兄ちゃんは死んじゃったのに生きているじゃん。
これって不公平だよね。
大事なお兄ちゃんは死んじゃったのに生きている。
、、、、、だったら殺さないといけないよね?
、、、、、絶望に追い込んで殺さなけりゃ可笑しいよね?
あははははははははははは、、復讐相手、、、いるじゃん。
祥子篇 吊るす
私が最初に殺す相手に選んだのは大河涼子だった。
何故かって言えば、此奴しか住所が解らないから。
他の人は何処に居るか解らない。
だけど、大河涼子だけは幸三の連絡先として慰謝料を両親が貰う時にメモをとっていた。
だから、家を探せば何処かに住所のメモがあるはずだ。
さて住所は解ったけど何からすれば良いのかな?
まずは、住所でもネットに晒せば良いのかな?
私は漫画喫茶に行くと「レイプ殺人犯の姉として大河涼子の住所」を幾つかのサイトに晒してみた。
1週間ほど様子を見たけど、何も起きなかった。
仕方がない、直接押しかけてみよう。
大河涼子の住処にいってみた。
高級マンションではなく何処にでもあるような普通のアパートだった。
私はインターホンを鳴らしてみた。
「大河ですが、、、」
「私は黒木祥子と申します。少しお話しできませんか?」
「黒木さん、、、解りました。今開けます」
涼子は確認すると祥子を招き入れた。
「今、お茶を用意するわね」
私は家の中を見回す。とてもシンプルな部屋で必要な物以外は何も無かった。
「何もない部屋で驚いている?」
「正直もう少し豪華な部屋を想像していました」
「まぁ、一応はお父さんがお金は残してくれたから生活には困らないのだけどね」
「それなら何でですか?」
「私は多分働く事が出来ないからね、お金は大切に使わないと」
「何故ですか?」
「殺人犯の姉じゃ、なかなか採用は難しいのよ。それに元お嬢様だから大した仕事も出来ないしね」
「そうかも知れませんね」
「それで、今日は何の用なのかしら? 何か言いたい事があるなら聞くわよ」
「兄への謝罪文を書いてくれませんか?」
「兄への謝罪文? もう慰謝料も払ったし、弟は刑務所に入って死刑囚終わった事だわ」
「えぇ確かに、だけど大河家の人間は殺された兄に誰も謝ってくれてません」
「父は謝ったと思うのだけど違う」
「いえっ 両親には謝っていましたが兄本人には誰も謝っていません。貴方の弟さんは未だにあれだけ証拠があるのに、無実だばっかり、死んだのは兄なんですよ」
「そう言われればそうかも知れないわ、私もあの事件で婚約者も何もかも全て失ったから謝ってないわ」
「だから、兄に謝って欲しいのです」
「わかったわ、どうすれば良いの? お墓参りでもすれば良いのかしら?」
「そうですね、兄への謝罪文を書いて貰うのはどうですか?」
「謝罪文? そんな物どうするの?」
「兄のお墓に入れて貰おうかと」
「それで気が済むなら書くわよ」
「それじゃお願い致します」
祥子は謝罪文の確認をした。
「これで満足かしら」
「そうですね」
祥子は涼子の後ろに回ると首にロープを掛けるとそのまま締めた。
「なっ何で」
「だって貴方も婚約者も生きているじゃないですか、、、本当に謝るつもりなら死ぬべきです」
「何でよ、私は何も、何もして、、ゲヘゴホ」
「貴方は悪くないわ。だけど大河武士の身内でしょう?私は大好きなお兄ちゃん殺されたんだよ! 同じ思いを武士や幸三に思い知らせるには身内を殺さなけりゃ解らないでしょう?」
「ゴホゴホ、だけど、、、死にたく」
「死にたくないって言うの? だけど駄目」
「そう、、、、ゴホゴホ、、解ったわ」
涼子は抵抗をやめた。暫くすると体から力が抜け息をしなくなった。
そのまま祥子はドアに涼子を吊るすとその近くに謝罪文を置いた。
これで自殺に見えるだろう。
幸いな事に涼子のスマホには幸三の連絡先が入っていた。
私の気は全然晴れなかった。
それは、思ったより涼子が善人だったからかも知れない。
だけど、仕方ないお兄ちゃんを殺した人の家族なんだから。
そう自分に言い聞かせ私はそこを後にした。
祥子篇 大河涼子
私の人生はあの事件を機に総てが変わってしまったわ。
大河家で育った私はいわゆるお嬢様という生活をしていた。
大きな家に住んで、身の回りの世話はお手伝いさんが全部してくれていた。
学生時代は車で送り迎えして貰っていた。
社会にでて働きにはでたのだけど勤めている会社はお父様の系列の会社だった。
だから、上司すら私に気を使っていた。
まぁ自社の社長のその上の会社の社長の娘じゃ気を使うわよね。
欲しい物は何でも買って貰えたし、やりたい事の大半はお父様にやらせて頂いていたわね。
だけど、弟の武士は何故か馬鹿な事ばかりしていた。
普通に頑張っていれば何でも手に入るのに、暴力事件ばかり起こして警察のお世話に良くなっていた。
まぁお父さんが叔父さんに話しをすれば大概の事は無かった事にして貰える。
被害者にもお父様がしっかり慰謝料を払って示談にするから問題はなかったのだけど。
ただ、このアホな弟はその状況に関わらず、それが自分の力だと思いこんでいたみたいだった。
まぁ私には関係ない、そう思っていた。
それに私はもう婚約していてもうじきこの家を出て行くのだから弟なんて関係ない。
そう思っていた。
婚約者の誠二さんもお父様と同じ実業家だったし、凄くウマが遭うので結婚生活が楽しみだった。
これからも楽しい人生が待っているそう思っていた。
だけど、違った。馬鹿な弟が人殺しをしてしまった。
その日を境に私の人生は変わってしまった。
心の底から愛していた誠二さんからは婚約破棄をされた。
大河のお嬢様と言われていた私は一転して犯罪者の姉と呼ばれるようになった。
だが、少しだけ良かったのは会社を既に退社して,婚約準備中だったので惨めな姿をさらす必要がなかった事位かな。
馬鹿な弟は殺人の決定的な証拠があるのに否定ばかりした。
その結果、遺族から恨まれ、世間からもどんどん嫌われていった。
せめて罪を認めて素直に謝罪すればここまで大河の家は悲惨な事にならなかったかも知れない。
結局、父は罪悪感からその財産の全てを手放した。
そのうちの半分を遺族へ、残り半分の半分を他の被害者に、そして残り1/4は私の為に残してくれた。
正直いって1/4でも物凄い大金だった。10億円の金額なんだから。
だけど、税金で持っていかれて半額の5億円が私の手にした全財産。
だけど、これからは私1人で生きていかなくてはいけない。
そう考えたら、この5億円を無くしてしまったら人生が終わる。
だから、5億円は銀行に預けて仕事を探しにでた。
惨めだった。何処の面接を受けても不合格。
当たり前だわ、レイプ殺人者しかも太々しい奴の姉、大河の苗字は有名すぎるもの。
誰も相手になんかしてくれないわ。
今になってみればお父様がこのお金を私に残してくれたのは解るわ。
1人で生きていけない私に生きる為のお金を残してくれたのね。
貰ったお金で家を買って引き籠って暮らそうとも思ったけど、辞めた。
今の住所がインターネットに晒されていたから、下手に家を購入したら逃げられなくなる。
そう考えたら、何かあったら引っ越しできる賃貸が理想だ。そう思いアパートを借りた。
引き籠り生活をしていたのに、やはり住所は特定されていた。また、変なビラがポストに投函されていた。もう逃げた方が良いかも知れない。地元を離れて東京にでも行こうかしら。
そうしたら、もう私なんて知らない人しかいないから安全かも知れない。
そう考え引っ越し先を決めようと考えていた頃。彼女が訪ねてきた。
最初、居留守を使おうと思ったけど、それは出来なかった。
実は、彼女のお兄さんの葬儀の会場に父と一緒に行った事がある。
入ろうとしたが、父も私も入る事は出来なかった。
涙、流している家族の前に立つことが怖くて父も私も逃げてしまった。
特に彼女は狂ったように、お兄ちゃんと叫んでいた。
絶対に彼女と話さなければいけない。そして謝らなければいけない。
部屋に通して暫くは普通の会話をした。
正直、泣かれるのか、それとも怒鳴られるのか、そう思っていたので冷静な彼女の対応に驚いた。
そして話は進み謝罪の話になった。
「兄への謝罪文を書いてくれませんか?」
「兄への謝罪文? もう慰謝料も払ったし、弟は刑務所に入って死刑囚終わった事だわ」
正直、口でなら幾らでも謝ろうと思った。だけど書面にするのは正直怖かった。
後から書面を使われて何かされたらと思い、つい反論をしてしまった。
「えぇ確かに、だけど大河家の人間は殺された兄に誰も謝ってくれてません」
「父は謝ったと思うのだけど違う」
「いえっ 両親には謝っていましたが兄本人には誰も謝っていません。貴方の弟さんは未だにあれだけ証拠があるのに、無実だばっかり、死んだのは兄なんですよ」
言われて見ればそうだ。だれも省吾さんには謝っていない。言われても仕方がない事だ。
「そう言われればそうかも知れないわ、私もあの事件で婚約者も何もかも全て失ったから謝ってないわ」
「だから、兄に謝って欲しいのです」
「わかったわ、どうすれば良いの? お墓参りでもすれば良いのかしら?」
確かに私は自分の事ばかりで頭が一杯でちゃんと謝罪してなかったわ。
弟がした事とは言え謝るのが筋だ。
「そうですね、兄への謝罪文を書いて貰うのはどうですか?」
「謝罪文? そんな物どうするの?」
そう言えば最初から彼女は謝罪文と言っていたわね。
だけど、今更そんな事してどうするのかしら。
「兄のお墓に入れて貰おうかと」
「それで気が済むなら書くわよ」
「それじゃお願い致します」
そうか、彼女は大好きなお兄ちゃんへ私達の謝罪を届けたかったんだ。
なら書くしかないな。
祥子は謝罪文の確認をした。
「これで満足かしら」
「そうですね」
これで満足して貰えたのかな。
祥子は涼子の後ろに回ると首にロープを掛けるとそのまま締めた。
「なっ何で」
「だって貴方も婚約者も生きているじゃないですか、、、本当に謝るつもりなら死ぬべきです」
「何でよ、私は何も、何もして、、ゲヘゴホ」
ちょっと待って、私は何もして無いじゃない。何で殺されなければいけないのよ。
「貴方は悪くないわ。だけど大河武士の身内でしょう?私は大好きなお兄ちゃん殺されたんだよ! 同じ思いを武士や幸三に思い知らせるには身内を殺さなけりゃ解らないでしょう?」
「ゴホゴホ、だけど、、、死にたく」
弟がした事で私は死にたくない。私は何もしてないのよ。
「死にたくないって言うの? だけど駄目」
「そう、、、、ゴホゴホ、、解ったわ」
そうか、彼女は私達を殺したいんだ。彼女にとっての大切な人は多分、兄だったのだろう。
武士には恋人は居ないから。大切な人というなら私になるのかも知れない。
だけど、うちは貴方達と違って姉弟愛なんて無いんだけどな。
多分、私が死んでも武士は貴方の様に悲しそうな顔をしないわ。
貴方にとってお兄さんは凄く大切な人だったのね、多分私にとっての誠二さん以上に、、、
ごめんね、そんな大切な人を奪っちゃって、私があの馬鹿をしっかりと教育していれば、、、
悪い事するたびに殴りつけて教えていれば、貴方にそんな顔させなくて良かったのに。
いいよ私を殺して。
涼子は抵抗をやめた。暫くすると体から力が抜け息をしなくなった。
祥子篇 殺してやるのは救いにしかならない
私は涼子のスマホにあった幸三の住所に来ていた。
最初、幸三を殺してやるそう思っていたが、、、幸三を見た時に、もう殺す気が無くなってしまった。
あの権力者を地でいく幸三が乞食のようになっていた。
大量の空き缶を袋に入れて歩いていた。
服は恐らく拾ったのだろうか、ヨレヨレの服だし汚い。
あの分では恐らく風呂にだって満足に入っていないと思う。
住所は後ろに見えるボロボロとしか言えないアパートだ。
此奴を殺すのは、楽にしてやるだけになってしまう。
大河武士はこのまま死刑になるだろう。
大河涼子は昨日殺した。もうすぐ遺書と共にこいつにも死んだ事が伝わるだろう。
もう、幸三は地獄の中で生きている。
楽にしてやる義理は私には無いわ。
私はその場を後にした。
祥子篇 大河幸三(祥子篇 最終話)
儂はもう生きて行く気力もない。
こんな歳になっても事業を頑張ってきたのは息子の武士にこの仕事を受け継がせたかったからだ。
だが、その息子は刑務所に拘留されている。
死刑の判決がでたのだから、もうじき死ぬだろう。
娘には申し訳なかったとしか言えない。
婚約も破棄になってしまい申し訳ない。
彼奴にはお嬢様の生き方しか教えてなかった。
だから、他の生き方は出来ない。
だから、死ぬまで生きていけるお金は残した。
それで許されるとは思っていないが
残りの人生は弱い物として生きようと思う。
お金なんて必要ない、権力なんて必要ない。
息子が殺してしまった省吾くんや傷つけた女性以下の生活を送ろう。
その位しか、償う方法が解らない。
後はただ、ただ冥福を祈り生きて行くそれしか考えつかない。
死ぬことも生きる地獄を選ぼう。
それで惨めに死んでいく、それこそが償いだ。
だが、この幸三の思いは叶わなかった。
数日後、娘の自殺を目にした。
幸三は、娘をともらうと首を吊って死んだ。
もう全てが嫌になった。そう遺書には書いてあった。
祥子篇 エピローグ 微笑みのなかで
結局、あのじじいは死んでしまった。
死ぬのなら直ぐに死ねって言いたい。
武士を殺したいと思ったけど流石に刑務所の中じゃ無理だし。
これで関係者は全部殺したはずだ。
流石にお兄ちゃんの死に関わって無いのだから虐めていた奴までは殺せない。
校長だって流石に殺すほど悪い事はしていない。
もう私の復讐は終わってしまった。
「祥子ちゃん、紅茶が入ったわよ」
「父さんも一緒に頂くか」
結局、うちはお兄ちゃんが死んだ慰謝料で裕福になった。
もう父は働くのをやめて遊んでいる。
「しかし、省吾は親孝行だな死んでこんな生活させてくれて」
「本当にね」
「そんな風に思っていたんだ」
「どうしたのよ祥子」
「、、、ううん何でもない」
あれっ、この人達って何なのだろう?
私が傷ついた時に助けてくれなかったよね?
お兄ちゃんが傷ついた時も助けてくれなかったよね?
そもそもお兄ちゃんが虐められていた時も何もしなかったよね?
それで、お兄ちゃんが死んだお金で何で幸せになるのかな?
少なくとも涼子は詫びていたよね?
幸三は辛い人生を歩もうとしていたよね?
武士は詫びて無いけどもうじき死ぬからいいや。
この人たちは死ななきゃいけない人だよね?
私は静かに台所に向かう。
その場にあった包丁を手に取りリビングにむかう。
「お父さん、お母さん」
「なあに、祥子ちゃん」
「あらたまってどうした」
「、、、、、、、、、、、、、死んで」
ザクザクザクザクザクザクザク
まずいわ、何も考えずに殺しちゃった。
私はどうしようかな?
もう何も思い残す事は無いような気がする。
多分、お兄ちゃんは私には生きて貰いたかったんだよね?
その為に命まで捨てて守ってくれたんだから。
だけど、駄目だ、わたし、お兄ちゃんが居ないと楽しくないの。
毎日、毎日ただ生きているだけ、本当につまらないし退屈なだけ。
多分、私の心はお兄ちゃんが死んだ日に死んじゃったんだと思う。
もし、お兄ちゃんが私を助けたかったなら、死ぬんじゃなくて一緒に逃げるべきだったんだよ。
私は気が付くとお兄ちゃんの部屋に居た。
毛布にくるまるとお兄ちゃんの匂いがした。
お兄ちゃんに抱きしめられているみたい。
「ごめんね お兄ちゃん」そう呟くと祥子は包丁で首を掻っ切った。
空耳かも知れないが「別に怒ってないよ」そう聞こえた気がした。
だから、祥子は頑張って笑顔のまま死んだ。自分の兄が喜んでくれるようにと、、、、
祥子篇 エピローグ 呪われたんだ
大河武士は今牢獄の中で死ぬのを待っていた。
正直、死ぬのはさほど怖くは無かった。
だが、最近になってだんだん別の事が怖くなってきた。
死ぬのではなく、別の事だ。
最近は時間があるので、省吾の死に方を考える。
電車の中に吸い込まれるように落ちて行き目の前でぐちゃぐちゃになった。
あれを見るまではステーキが好物だったが今では肉は食べれなくなった。
今考えてみたら可笑しいんだ。
確かに俺はあの時に「殺してやる」と叫んだが、殺す気はなかった。
彼奴はどうだっただろうか?
助けを呼んでいた。
最初、俺を陥れるつもりの自殺かと考えたが、違うと思う。
彼奴と目が遭った時に悲しそうな顔をしていた、、、と思う。
自信はないが、少なくともそう見えた。
その後に、吸い込まれるようにして落ちて行った。
そう考えると、あれは得体の知れない何かに下に引っ張られたのでは無いだろうか?
俺は落としていないし、彼奴も自殺じゃない、となると得体の知れない物に引き刷りこまれた。
そう考えるのが正しいと思う。
俺との喧嘩中にその得体の知れない何かから俺に助けを求めたのではないだろうか?
彼奴が可笑しくなったのは妹に手を出したせいだと思っていた。
だけど、その事位であそこまで性格は変わるだろうか?
しかも、殴るだけ殴られる。それなのに挑発を辞めなかった。
あの時点で彼奴はもしかしたら黒木省吾ではなく、何かにとりつかれていたのではないだろうか?
少なくとも俺が虐めていた彼奴とは別人のような気がする。
そして彼奴の妹だ、俺は確かにレイプをするような人間だが、あの時俺はレイプしなかった。
普通なら彼奴の妹は顔だけは良いから多少怪我させてもやる事はやるはずだ、それなのに暴力だけ振るって、その後はしなかった。何故かあの女には性的な事以上に壊したい。そういう気持ちが強く働いた。
そして、俺の姉は死んでしまった。
確かに婚約破棄はショックだっただろう。
だが、俺の姉に勇気は無い。死ぬ勇気が無い姉が死ぬなんて可笑しい。
親父は財産を手放して償いの人生を歩むと言っていた。
そんな人間が死ぬはずがないと思う。
そして驚く事にそれだけでなく、省吾の家族も全部死んでしまった。
しかも、殺したのはあの妹だそうだ。
人を殺せるほどの奴が俺に好き放題殴られる訳は無いだろう。
かなり残酷な光景だと聞いた。
果たして彼奴に出来るだろうか? 出来ないと思う。
だったら誰があいつ等三人を殺したんだろうか?
今迄解らなかった。
だけど最近になって犯人が解った。
あのベットの下に居る奴だ。
今日も俺に「お前は死なないの?」と聞いてきやがる。
俺は化け物には殺されない。殺される前に自分で死んでやる。
武士の死刑は結局、執行されなかった。
看守が目を離したすきに首を吊って死んでしまったから。
だが、あの男が自殺をするのだろうか?
被害者側、加害者側も全てが死んでしまった。
何があったかは誰も知らない。
祥子篇 後書き
今回も読んで頂き有難うございます。
前作 『僕は弱いんです。いじめないで下さい。だけどそれ以上いじめるなら、、、殺すよ。』
から、少し残酷な描写を減らすようにしたら、、、駄目ですね。 色々な葛藤が旨く書けなくなりました。
復讐の手段を緩くすると途端に臨場感が無くなりました。
商業誌や沢山の縛りのある中で悲惨さや怖さを描ける人はある意味天才だと思います。
少女漫画の復讐物なんて凄く旨く縛りの中で表現しています。
試行錯誤しながら、書いて行きますのでこれからも宜しくお願い致します。
石のやっさん
第三章 異世界にいっても虐めないで下さい、、、、もし虐めるなら殺すよ 黒木聖来篇
僕の名前は黒木 聖来(せいれ)。
どこにでもいる普通の高校生。
ただ、一つ違うのは変な拳法の伝承者なんだけど、かっこ悪くて使えないんだよね。
学校ではとにかく目立たないようにモブに徹している。
何しろ、うちの黒木の一族はよく虐めにあう家系だから。
巻き込まれないように、目立たないようにしなくてはいけない。
だから、クラスで何でも真ん中になる様に努力している。
成績は20人中間の10番。体力測定も10番。
何でも真ん中になるように頑張っている。
そして、活躍もしないように、かといって悪すぎもしないそんな立ち位置を目指していた。
ただ、友人関係を除いて。
「おはよう聖来、相変わらず眠そうな顔をしているわね」
この挨拶をしている女の子は高月真理。小さい頃からの幼馴染。何故か僕に付きまとってくる。
学校では猫みたいに可愛いと結構人気がある。
「本当に聖来は朝は弱いなぁ、もう少しシャキッとしろよ」
この挨拶をしているのが神代高貴。まさにリア充を地で行く人。
スポーツ万能にしてイケメン、、但し成績は余り良くない。だがその事で逆に好感が持たれている。
僕のクラスに他に17人生徒はいるが仲が良いのはこの二人だけだ。
別に虐められている訳ではない。
ただ、関心がない。それだけだ。
多分、相手も僕のことは関心がないだろう。
いや、関心を失わせた。それだけだ。
聖来篇 よくある床が光る話し
うちの家系は良くトラブルに巻き込まれる。
実際に親類ではその事が元で死んでしまった人も多い。
だから、僕は人とは極力関わらない生活をしている。
それでも、真理や高貴は構ってくるのだが、それ以外の人間とは距離を置いている。
この距離の置き方が実に難しいのだ。
余りに無視していると虐められる対象となる。
逆に仲良くしすぎると友人となってしまう。
だから、僕は適当に会話をしながら、極力、本を読んでいる。
こうしていれば、余り話しかけてくる人は少ない。
最も、真理や高貴はそんな、本を読んでいるから話しかけて来ないでバリアーを壊して話しかけてくるんだけど。
僕の読んでいる本はライトノベルが多い。
最も僕は普通には読んでいない。
どうやって主人公を倒すか? そこに重点を置いて読んでいる。
例えば、僕が魔王だったら、まずはヒロインを人質に必ずとるだろう。
「よく来たな勇者よ」なんて言わない。直ぐに攻撃だ。
それ以前に、強くなる前のレベル1の時に幹部クラスに殺させる。
それだけで終わるのだ。
だから、勇者が魔王に勝てるのは物語の中だけだと思う。
そして、今日も、本を読んでいるから話しかけて来ないでバリアーを無視して真理が話しかけてくる。
「また本読んでいるの、良く飽きないね」
「本読むのは楽しいからね」
「だけど、本ばかり読まずに少しは友達でも作った方が良いんじゃない?」
「僕は静かなのが好きなんだ」
「真理の言う通りだ。少しはだな、男の付き合いもした方がよいぞ」
「巨乳と貧乳どっちが好きかとか?」
「何の話だ」
「いや、高貴がこの間話していた内容だと思うけど?」
「高貴、そんな事話していたのサイテー」
そう言いながら真理は自分の胸を隠すようにして話している。
「聖来、お前覚えていろよ」
いつもの様にじゃれあって居ると急に床が光りだした。
これって、もしかしたら異世界召喚なのか?
僕は自分の家系のトラブル体質を心から呪った。
聖来篇 召喚~初めての殺人
気が付くと僕たちは全く違う場所に居た。
まだ気が付いているのは僕だけみたいだ。
近くに、真理と高貴がいる。
他の生徒は巻き込まれていないようだ。
暫くすると騎士の様な者が現れて周りを取り囲んでいる。
どうやら危害を加えてくる様子が無いので僕はまだ気が付いてない振りをした。
暫くすると高貴、真理と起き始めた。
すると騎士の一人が大きな声をあげた。
「起きたな、とりあえずついて来い。」
明らかに高貴、真理に動揺は走っているが、訳が分からないのでついて行った。
「ようこそ、勇者の皆様方、私はこの国の第二王女マリーナと申します」
「勇者? 勇者って何ですか? ここは一体?」
「それについては儂から話そう」
「お父様、ではお任せ致します。」
「うむ、儂はこの国の国王リュウト四世じゃ。今この国は魔王に進行を受けている。そこで勇者の諸君にはこの魔王と戦って欲しいのじゃ」
「解りました。俺はこの国を救う為に戦わせて貰います」
「私も解りました」
「おや、もう一方はどうなさったんですか?」
「僕は、適性があったらで良いですか?」
「適正とは何でしょうか?」
「そちらの二人は多分本当の勇者だと思うんです。ですが僕は近くに居ただけで多分巻き込まれただけだと思います。だから、僕にその才能があったらという事で許して頂けないでしょうか?」
「解りました。それではステータス次第という事で宜しいでしょうか?」
「はいお願い致します。それでステータスとは何でしょうか?」
「この世界に呼ばれた者には最初から普通では考えられない力が与えられています。そしてその力は数字として見る事が出来ます。それがステータスです。」
「そうですか」
「はい、それでは皆さんステータスを見せて下さい」
「どうすれば良いのでしょうか?」
「ステータスオープンと言えば見えます。」
「では俺から行きます。ステータスオープン」
高貴
LV 1
HP 1800
MP 1650
クラス 勇者
スキル:鑑定.異世界言語、光魔法
「流石は異世界者、最初から勇者が出るとは」
「次は私ね、ステータスオープン」
真理
LV 1
HP 600
MP 3650
クラス 聖女
スキル:鑑定.異世界言語、光魔法
「聖女、これも素晴らしい」
「それじゃ、最後に僕だね」
聖来
LV 1
HP 80(2200)
MP 65(3200)
クラス 一般人(卑怯者)(運命と戦う一族)
スキル:鑑定.異世界言語(隠ぺい)
( )の中は他の人からは見えません。
「これほは本当に巻き込まれたみたいですね。貴方はどうしますか?」
「これでは二人の邪魔になるので出て行きます。暫くの間の生活費と身元保証はお願い出来ますか?」
「解りました。それでは、銀貨3枚と身元の仮保証証を渡します。それで良いですか?」
「はい、有難うございます」
「ちょっと待ってくれ、聖来も一緒にいさせて貰えないでしょうか」
「そう、お願いします。一緒に居させて下さい」
「いいって二人とも、僕には素質は無いんだから、もし外で冒険者でもして力を付けたら戻ってくるよ。まぁ無理だったら、どうにか暮らしてみるさ」
「そうか」
「でも聖来、本当に大丈夫なの?」
「僕からしたら二人の方が心配だよ。魔王と戦うんだから、頑張ってね」
「じゃあね」
「では聖来さんはこちらへ」
「はい」
世来はお金と仮の身分証とナイフを貰い城から出された。
「もう二度とここには来るなよ」
さっきとは違って態度は冷たい。
そうだよな。勇者召喚で力の無い者を呼び出したら歓迎何てされない。
放り出されるよな。
まぁいいや。もうここに戻る気はない。
僕が居なければ、高貴と真理は旨く行くだろう。
高貴は真理の事が好きだった。
真理は恐らく、僕の事が好きだったと思う。
だけど、多分二番目に好きなのは高貴だ、僕さえ居なければくっつくだろう。
邪魔者は去るのみだ。
森の中を進んで行くと街があり、そこで仕事を探せば良い。との事だった。
高貴や真理が一緒の時に聞いたから嘘はつかれてないだろう。
森の中を歩いていると後から騎士が2人きた。
「どうしたんですか?」
目的は解っている。僕の処分だ。
勇者や聖女に混じって一般人が召喚されたのが気に食わなかったのだろう。
多分、王様か王女の差し金かな。
「いや、お前を処分するように頼まれてな」
「助けて貰えませんか?」
「すまないな、これが俺たちの仕事だ」
「本当にすまん」
思ったより善人だ。気が引ける。
「そうですか、では」
「何をしている?」
「助けて貰えないなら、せめて楽に死にたい。だからしゃがんでいるんです。騎士ならこの状態の首なら一撃で落とせるでしょう?」
「すまない、せめて楽に死ねるようにしてやる」
「お願いします」
そう言いながら、黒木は短剣を見栄あない位置で抜いた。相手からしたら確実に殺せる。しかも自分から死を選んでいる。
その驕りにこそ黒木の技の真骨頂がある。
1人の騎士が全力で剣を振るった瞬間。黒木は右に飛びのいた。
そして騎士の首筋に短剣を当てるとそのまま引いた。
そしてそのまま止まらずにその短刀を二人目の喉に突き刺した。
僕にとっての初めての殺人。
だが、僕はその為の訓練をしていたので別に気にならない。
騎士の装備のうちで使えそうな小手と脛宛を貰った。
流石に紋章つきのフルプレートは纏えない。
売れるかもしれないので剣2本は頂く。
お金は二人合わせて銀貨8枚持っていたのでこれも頂いた。
そして、僕は再び街を目指した。
とりあえず再びステータスを見て見た。
聖来
LV 3
HP 240 (4200)
MP 120 (5200)
クラス 一般人(卑怯者)(運命と戦う一族)
スキル:鑑定.異世界言語(隠ぺい)風魔法
レベルは上がって風魔法を覚えたな。魔法については街についてから調べよう。
とりあえず、街に行かない事には休めない。
僕は再び街を目指した。
聖来篇 冒険者ギルドへ
僕は街につくと最初に宿をとった。
僕1人なので一番安いボロ宿にした。
そして、僕は今冒険者ギルドに来ている。
僕がこの国から貰ったのは仮の身分保証書だ。
だから、この仮の身分保証書を本物にしなければならない。
その為には冒険者になるのが一番だ。
冒険者ギルドを選んだ理由は三つ。
一つ目の理由は、騎士を殺してしまったので時間が経つとこの仮の身分証が使えなくなるかも知れない。
二つ目の理由は、冒険者ギルドは国を越えた組織だから最悪、他の国へ移っても身分証明として使える。
三つ目は、、僕の思った通りならこれから解る、、と思う。
「冒険者ギルドへようこそ! 本日はご依頼ですか?それとも登録でしょうか?」
「登録をお願いします。」
「登録には銅貨1枚掛かりますが宜しいでしょうか?」
僕は銀貨1枚と仮の身分証を渡した。
銅貨9枚が帰ってきた。
「王城の仮身分証明書。凄いですね!所でご説明は必要ですか?」
「何も解らないので細かくお願い致します」
「畏まりました」
簡単に説明すると、
冒険者の階級は 上からオリハルコン級、ミスリル級、金級、銀級、銅級、鉄級、石級にわかれている。
そして、案外上に行くのは難しく、銀級まで上がれば一流と言われていて、この街には金級以上の冒険者は居ない。
殆どが、最高で銅級までだそうだ。
級を上げる方法は依頼をこなすか、大きな功績を上げるしか方法はない。
銀級以上になるとテストがあるそうだ。
ギルドは冒険者同士の揉め事には関わらない。
もし、揉めてしまったら自分で解決する事。
素材の買取はお金だけでなくポイントも付くので率先してやる方法が良いらしい。
死んでしまった。冒険者のプレートを見つけて持ってくれば、そのプレートに応じたお金が貰える。
そんな感じだった。
「あの、もし他の冒険者に強盗とかされそうになったらどうすれば良いですか?」
「自分でどうにかするしかないでしょう? 説明の通りです」
「例えば、それで殺されそうになったら?」
「戦うしかないでしょうね」
「その際に相手を殺してしまったら」
「強盗、盗賊は犯罪だから殺してしまっても問題ないわ、ギルドにしっかり報告してくれれば良いだけよ」
「そうですか」
「後は大丈夫?」
「はい」
「それでは、冒険者証が出来たから渡すわね。はい、初めてだから石級からスタートよ」
「あの、王様から貰った仮の身分証明書って何か意味があったのですか?」
「無いわ。冒険者になるのなら、大きな犯罪さえして無ければ問題無いし、何であんな紙を王城が発行したか不思議ね」
仰々しく渡しやがって、ただのポーズじゃないか。
「ありがとうございました」
聖来は銀貨を見せびらかすようにしてギルドを後にした。
だが、後でギルドの受付嬢は、青い顔をしながら頭を抱えるようになるとはこの時は思っていなかった。
聖来篇 よくあるテンプレを悪用する。
わざと人通りの少ない路地を歩いていた。
「お前羽振りが良さそうだな?その銀貨をこっちに寄こせ」
「何で?」
「うるせぇ、痛い目会いたく無けりゃ有り金全部寄こしやがれ」
はい強盗確定。僕は首筋にナイフを当てるとそのまま首を掻き切った。
そして、冒険者証と財布を抜き取った。財布の中には銅貨しかない、しけている。
近くのごみ箱にそのまま死体は捨てた。
「ここを通りたければ有り金全部寄こしやがれ」
「何で?」
「有り金全部置いて行かないなら命の保証はしない」
はいギルティ。
今度は僕は喉にナイフを刺してそのまま殺した。
そして同じ様に冒険者証と財布を貰った。
「俺は銀級冒険者のコンロンだ、貴様は生意気だ死にたくないなら有り金全部、、」
はいギルティ。
心臓にナイフを突き立てると殺した。
そして同じ様に冒険者証と財布を貰った。
「貴様、良くも俺たちのパーティのメンバーを殺したな、殺してやる」
相手は5人居たが、僕はレベルが上がっているのだろう簡単に殺せた。
そして同じ様に冒険者証と財布を貰った。
「よくも、あたしの、、恋人を殺してくれたわね。地獄を見せてあげるわ」
女だ、可哀想だから余り傷がつかないように首筋を斬って殺した。
そして同じ様に冒険者証と財布を貰った。
半日で70人程の冒険者を殺したらもう襲ってくる者は居なくなった。
聖来
LV 70
HP 5600 (98000)
MP 2800 (121240)
クラス 一般人(卑怯者)(運命と戦う一族) 暗殺者 ナイフ使い
スキル:鑑定.異世界言語(隠ぺい)風魔法 解体
今回の殺しで随分レベルも上がった。
そしてこれからは換金タイムである。
僕は再び、冒険者ギルドを訪れていた。
「どうしました。もしかして依頼を受けに来られたのですか?」
「いえ、違います。 これを換金しに来たのです」
「こ、これは冒険者証、、、70枚も どうされたのですか? まさかドラゴンにでも襲われていたのでしょうか? それにしても多すぎます」
「いえ、全員、僕に対して強盗をしてきたので返り討ちにして持ってきました」
「なな70人も?、、すいません。ギルドマスター室まで来て頂けますか?」
「解りました」
「どうかしたのか?ミーシャ」
「実は、この新しく冒険者登録をされた聖来様が70人冒険者を殺してしまいまして」
「ななな70人!こいつは何をしたんだ。話を聞かせてくれないか?」
僕は事細かに話した。
ギルマスも受付嬢のミーシャも頭を抱えた。
確かに筋は通っている。
ギルドでも強盗を殺しても問題がないと説明している。
そして、聞く限り此奴の言う事は正しい。
だが、異常だ。
確かに、お金を出せと脅したら強盗だ。
だが、普通はだからと言って殺さない。
精々が衛兵に突き出して終わりだ。
そしてその後は降格させて暫く奉仕活動をさせる。
つまり、殺しても良いが普通はこの程度で済む事なのだ。
そしてプレートの買取だ。
もってこられた以上買い取らなくてはいけない。
こいつはギルドのシステムを完全に悪用した。
だが、何一つ間違ってはいないから追及できない。
ただ、此奴が残酷なだけなのだ、
この街から70人の冒険者が死んだ。
此奴は70人の冒険者を殺して経験を積んで尚且つお金迄手に入る。
正に一石二鳥だ。
ただ70人と言えばこの街の冒険者の半分だ。
此奴はお金も手に入り、経験を積んだが、ギルドは貴重な冒険者が死んで尚且つお金が取られる。
理不尽だ。
だが、ルール上咎められる問題は無いので頭を抱えながらも支払うしかない。
ギルマスとミーシャの苦悩は続いた。
聖来篇 王女と王の悪だくみ
傷か報告を聞き、国王リュウト四世は動揺していた。
自身が差し向けた騎士が2人とも殺された。
しかもその傷から考えられる限りどの騎士も一撃のもとに殺されている。
2人の騎士は上級騎士だ。
しかも、2人とも中堅どころのベテランの騎士だ。
少なくともその辺の者になど遅れを取る事はない。
例え相手が勇者であっても初手であるなら勝ちを拾う事はできるだろう。
だが、そんな騎士があっさりと殺されてしまった。
もしや、彼奴は暗殺者だったのか?
そう考え、勇者や聖女に聞いたが、ごく普通の平凡な人間だった。
そうとしか言わなかった。
その言葉には嘘は無いだろう。
これ以上考えても仕方ない。
上級騎士以上の素質のある人間を手放してしまったのは惜しいが、まぁそれだけの事だ。
「お父様、冒険者ギルドからお手紙がきています。」
「ギルドからの手紙か珍しい」
だが、国王のリュウト四世はその手紙を読むと更に動揺する事になった。
「70人もの冒険者を殺しただと!」
「お父様、そんな魔族がもう攻めてきたのですか?」
「違う、これを見て見ろ」
王城からの身分証明を貰い冒険者登録をした者が片っ端から冒険者を殺している。
その数はたった1日で70人にも及ぶ。
法的には相手が強盗行為を働いていたので問題は無いが、一体どういった理由であんな狂犬の様な男を紹介したのか説明が欲しい。
こんな内容だった。
「身分証明を発行した者はここ暫くは1名しかいませんわ」
「多分、聖来だったか、勇者と一緒に召喚された奴で間違いないだろう」
「そんな、、確かあの者は騎士に殺させたはずなのでは?」
「その事なのだが、騎士は返り討ちになって殺されていた。」
「そんなバカな、勇者であっても召喚直後じゃ騎士に何て勝てないハズ」
多分、王城に残っている勇者や聖女であってもあっさり殺されるだろう。
「だが、これは事実だ。騎士を殺し、そして冒険者70名を殺した。」
「それで、お父様はどうするつもりなのですか?」
「騎士2名については魔物に襲われた事にして恩給でも出すしかないな、冒険者殺しについては法に触れていない以上は黙認するしかない。」
「そうですわね」
「あぁだが、王城の紹介状を持っている以上ギルドに誰か人を送って様子を見なくてはならない」
「だったら、第三王女のマリアに行かせては如何かしら?」
「あれなら、王女が見に行ったと体面が繕えるな、そして失ってしまっても問題がない」
「そうですわ、第一王の姉さまは隣国に嫁がなければなりません。第二王女の私はこの国の後をついで婿を取り、国を治めなければならないわ。ですが、マリアは妾に産ませた子。王位継承もないし、要らない子ですわ」
「そこまで言うでない、マリアーナ、確かにアイツはお前達のように王族の象徴の金髪ではない、だが利用価値はあるのだ。一応は儂の血を引いているのだからな、、それに汚れ仕事をしてくれる者は彼奴しかいないではないか?」
「そうですわね、だったら、勇者、聖女を私の直轄にして、そうですわねあの聖来という者はマリアの下につく者としては如何でしょうか?」
「それに何かメリットはあるのか?」
「聖来という男が何かしたら、それは全部マリアのせいにすれば良いのです。そうすれば、マリア以外の誰も責任をおわなくてすみますわ。」
「成るほど」
「そして実際のマリアの状況を知らない民衆には、第三王女の下についているのですから正当な扱いをしている、そう思えるでしょう」
「うむ、良い案じゃ、そうしよう、早速、マリアをギルドに行かせなければな」
「はい」
「おい、誰かマリアを呼んできてくれ」
2人は悪そうな笑顔を浮かべていた。
聖来篇 ギルド室にて
僕が盗賊退治の依頼を終わらせて帰ってくるとギルド長の来賓室に呼ばれた。
ここへ呼ばれたのは初めてだ、、厄介事に巻き込まれそうな気がした。
「聖来、頭を下げろ、王女様の面前だ」
僕は黙って頭を下げた。
目の前の少女を見た。
見た感じは、そう前にあったマリーナという王女に少し似ている。
だけど、髪の毛は金髪で無く赤毛だ。
だが、何よりも気になったのはその眼だった。
どこまでむ吸い込まれそうな黒い目。
腐ったような目。
まるで世の中に絶望したような目。
犯罪者ならまだしも王女なんかがしている目ではない。
「私は第三王女のマリアと申します。今日ここに来たのは貴方の行いについてです。」
「僕の行いですか? 僕は何も悪い事をしていません」
「確かにそうです。ですが、余りに容赦無しの行動、、少しは自重できませんか?」
「無理です。そうしなければ殺されてしまいます」
「仕方の無い方ですね。 もう良いですよ」
「もう、良いのですか?」
「はい、一応王城からの紹介状を出しているので注意位はしなくてはいけませんから」
「そうですか? 用事はそれだけですか?」
「いえ、今日から貴方は私の部下となりました。その報告です。」
「それは具体的にどうすれば良いのですか?」
「出来る事なら王城に一緒に着て頂けませんか? ちゃんとした待遇をさせて頂きますから」
「そうですか、、でも断ったら」
「そうですね、、断って頂いても構いませんよ? ただその場合は私を殺して行って下さい」
「そうですか?」
聖来は素早く短剣を喉にあてがった。
ギルドマスターが対応しようとしたが間に合わない。
「怖くないのですか?」
「聖来辞めろ、さもないとギルドを追放するぞ」
「怖くなんてありません。どうせ私は要らない王女。死んでもだれも悲しみません。」
「マリアは王女なんだろう」
「えぇ ですが私は、、、まぁ私の部下にならない貴方に説明しても仕方ないでしょう、、さぁ殺しなさい、私も仕事できています。貴方が自由に生きたいのなら私を殺すだけで良いのですよ? この国では無理でも他の国に行けば再び冒険者を続けられます。」
「何でお前を殺さないといけないんだ?」
「多分、貴方を説得できないと私には、今以上の地獄しかありません。だったら殺して貰った方が幸せなんです。」
「解りました、貴方と一緒に王城に行きます。その代わり貴方について教えて下さい」
「それが条件なのですね。解りました」
聖来篇 再び王城へ
僕は王城に戻る為に馬車に乗っていた。
「私についてお話しする約束でしたね、、余り聞いても面白くありませんよ?」
「ですが、教えてくれるんですよね?」
「はい、約束ですから」
マリアは自分についてポツリポツリと話し始めた。
自分の父親は王だが自分は妾腹である事。
しかも、母親は婚約をしており、お城を下がる前の侍女だったが王の戯れで犯された。
侍女と弱小貴族では何も言えずそのまま泣き寝入りするしか無かった。
傷物になっても母を愛していたその男性は家を捨てて母と結婚しようとした。
だが、その時に悲劇は起こった。
この時に母は私を身ごもっていた。
つまり、王の子を身ごもっていたのだ。
そのまま黙っていてくれれば良かったのに、侍女の両親はお金や地位欲しさにその事を王城に伝えた。
結果、母を連れ去るのに抵抗したその男は殺され、母は妾として王に召される事になった。
だが、母は自分の恋人を失ったショックで自暴自棄になっていた。
勿論、恋人が死ぬ原因になった私に対して愛情は無く、何回も堕胎しようとしたそうだ。
だが、それをすれば自分の実家や恋人の実家がタダで済まなくなる。そう言われて私が生れるまでは生きたそうだ。自分達を売った実家であっても愛情があったのかも知れない。
私が生れると役目は果たした。そう言わんばかりに王城から飛び降りて死んだそうだ。
「私の生い立ちはこんな感じかしら、聞いても何も楽しい事は無かったでしょう?」
これが吸い込まれそうな腐った目の正体か。
生きる事に執着がなく絶望しているだからか?
「そうか、それで今はどうなんだ?」
「今? そうね一応は王の血を引いているから王族だけど、継承権は無いわ、一番上の姉は隣国に嫁いで次期国王の王子と結婚。二人目の姉はこの国をついで婿を貰うだろうから、、まぁ無力ね」
「だったら、何で僕を部下にする必要があるんだ」
「そうね、貴方に対する鈴みたいな物かしら、貴方、この数日で凄い武勇伝を見せたじゃない。王としては見逃せなかったのでしょうね」
「そういう事か?」
「えぇまた貴方を殺す為に騎士を二人差し向けたから実力をつけて復讐される事への予防もあるわね」
「そうか」
「多分、私の部下と言うのは別にして何かしら報奨が貰えると思うわ、精々吹っ掛ける事ね」
「あぁ、そうさせて貰う」
そして馬車は王城へとついた。
王城へ着くと今までとは打って変わって歓迎された。
何故か勇者と聖女である高貴と真理は居なかった。
「よくぞ戻られた 聖来よ」
僕は隣のマリアに合わせて片膝をついた。
「そう畏まらなくても良い、こちらの手違いで苦労を掛けた。詫びに何か報奨をとらす。欲しい物があったらいってみよ」
これは報奨をやるから、暗殺しようとした事は忘れろ、そういう事だな。
「何でも宜しいのでしょうか?」
「何が欲しいのか申せ、王の名のもとに無茶な物でない限り与えよう」
これって凄くかっこ良く聞こえるけど、無茶な物は与えないそう言っているだけだろう。
「ならば、マリア様を頂けませんか?」
隣でマリアが唖然とした顔をしていた。
リュウト四世もその顔は驚きを隠せない。
「それはマリアを妻にしたい、そういう事で間違いないか?」
「はい、その通りでございます」
リュウト四世は考える。
「解った。確かにこの国に勇者と召喚された者は王女と結婚する習わしがある。だから王女マリーナは恐らく勇者、高貴と結婚する事になるだろう。 そう考えるなら勇者並みの力のある聖来殿が王女を望むのは当然といえよう、、、だが王女を娶りたいなら力を示して貰いたい。 王国騎士団 団長と戦い勝てばその望みを叶える。そのチャンスを持って報奨とす」
「有難き幸せ」
黒木は気が付いていた。
城中に伏兵が居る事を。
恐らく、ここで敵対する事をするか、無茶な事を言えば殺しにくるだろう。
だが、それと同時に全てに絶望しているマリアをどことなく気に入っていた。
自分は絶対に勇者のようには慣れない。
あくまで卑怯者だ。
あの濁ったような腐った目のマリアなら、そんな自分でも受け止めてくれるのではないか?
そんな可能性を見つけていた。
「ならば、いつ騎士団長と立ち合う」
「何時でも、何処でも」
やばい、ついうちの家訓通りに答えてしまった。
「ならば、今すぐで良いな、王城内の修練場にてすぐに模擬戦を行う事としよう」
少し時間を置いて修練場に案内されて行く。
そこの椅子にはリュウト四世、マリーナ、マリア そしてその横に護衛の者がいた。
不思議な事に高貴と真理は居なかった。
「お前が聖来か少しは腕が立つようだが、俺の名はドラド、王国騎士団にしてこの国最強の騎士だ」
「そうですか? それでルールはどうしましょうか?」
「お前が決めて構わん」
「そうですか、だったらルール無用、どちらかが死ぬまで、それでどうですか?」
周りがざわめく、ここに居るのは紛れもなく王国最強、勇者である高貴ですら今の所は5分と戦えない。
最も、勇者は急激に強くなるからあと半年もしたら抜いていくだろう。
だが、今は間違いなく最強なのだ、、、、魔族とだって1対1で戦える猛者だ。
「騎士を愚弄するのか、、それとも死にたいのかな」
黒木にはカッコたる自信がある。そしてこれは馬鹿にした訳ではない。
卑怯道に二手は無い。強者を生かせば、再び力をつけ挑んでくる。
そして、その時は自分が死ぬ時になるかもしれない。
だから強者と認めたからこそのルールだ。
「いえ、貴方は強い、だからこそ命がけの死闘がしたい愚弄などしない、寧ろ敬意だ」
「ならばこのドラドお前の敬意に全力で答えよう」
騎士団長ドラドとの死闘が始まった。
だが、この戦いは簡単に終わった。
黒木が最初の一閃でドラドの首にナイフを突き立てて終わった。
「勝者、聖来殿」
周りは驚きを隠せない。
だが、黒木からしたら当たり前の事だった。
ドラドは所詮は騎士だ。常に人を殺していない。
どちらかと言えば魔獣や獣との戦いが多い。
そして対人戦であっても騎士が相手だ、さほどスピードのある相手はいない。
それに対して黒木の卑怯道はスピードが命だ。
しかも、卑怯道は人を殺す技。
そして、黒木はずっと人のみを殺してきた。
つまり、相性の差なのだ、もしどちらがより多くの魔獣を狩るか、そういう勝負なら黒木は間違いなく負けていただろう。
「聖来殿、そこまでの力がおありとは一体貴方はどの位の力を身に着けたのだ」
聖来
LV 99
HP 7920 (138600)
MP 3960 (171468)
クラス 一般人(卑怯者)(運命と戦う一族) 暗殺者 ナイフ使い
スキル:鑑定.異世界言語(隠ぺい)風魔法 解体
↓
聖来
LV 60
HP 69300 (138600)
MP 85734 (171468)
クラス 一般人(卑怯者)(運命と戦う一族)(暗殺者) ナイフ使い
スキル:鑑定.異世界言語(隠ぺい)風魔法 解体
隠ぺいを使い上の能力を下のように変えた。
多分これ位で無ければ彼奴には勝てなかったはずだ。
「最近、ステータスって見て無かったんです。宜しければ見ます」
「見せてくれるのか?」
僕は隠ぺいが使える。だったら見せた方が信頼が得られるだろう。
リュウト四世、マリーナ、マリアは僕のステータスをのぞき込む様に見た。
「レベル60でHP69300だと、、これでは勝てぬはずだ」
「あの状態からここまで自分を鍛え上げたのですか?、、正直勇者以上」
「、、、、、」
「流石は聖来殿、、、約束通りマリアはお前にやろう、とはいえ王族を娶るのだ、爵位はそうじゃ子爵にするとする。家名はヘンドリックでどうじゃ、、そちらの国の名前は少々読みづらい、セレ、ヘンドリックそう名乗るが良い、、そして結婚は形だけ明日にでも行い、国民には触書をだそう、、、戦時中なのですまんな」
聖来ことセレは驚きを隠せない。
マリアだけで良かったのに爵位と家名までもらってしまった。
どういう事なんだろうか。
実は国王リュウト四世にとって貰って欲しい報奨はマリアだった。
マリアは王族だが王が婚約者のいる侍女を犯して作った子という事を貴族の殆どは知っていた。
しかも、その侍女は身分が低かった上に産んだあと王への当てつけのように自殺。
又、その恋人も王に逆らい処刑された。その上マリアには王族の象徴の金髪も無かった。
つまり、そんな王より嫌われる可能性が高いマリアを娶る貴族等は何処にも居ないのだ。
だが、継承権が無いとはいえ王族。下手な身分の者には与えられない。
騎士等が手柄を立てた時に無理やり押し付けよう、そう思っていたのだ。
だが、王は実は噂程マリアを嫌ってはいない。
自分の血は半分入っているし、犯した侍女についてはその後死ぬほど後悔した。
実際にリュウト4世はそのあとは女癖の悪さは無くなった。
もし手柄を上げる者がいなかったら最悪、修道院にでも行かさなければならない。
勿論、2人の姉と比べたら遙かに下。だけど他人に比べたら大切な肉親。
少なくとも公爵の命と比べればマリアを取るくらいの愛情はある。
そんなマリアを貰ってくれるのだ困らない程度の物はくれてやろう。
リュウト4世はそう思い、爵位と家名を与えた。
ちなみに、結婚式を大々的に行わないのは貴族が参列で戸惑わないようにする為である。
聖来篇 騎士達とセレ
騎士団のヘイトは溜まらなかった。
それはセレが言ったこの言葉によるものが大きい。
「いえ、貴方は強い、だからこそ命がけの死闘がしたい愚弄などしない、寧ろ敬意だ」
しっかりとした敬意をあらわしての戦い。
そして手を抜かずに真剣に戦った事。
これは騎士にとって尊い物だ。
それに対してドラドは全力で答えた。
「ならばこのドラドお前の敬意に全力で答えよう」
それが及ばなかっただけだ。
しかも、セレはしたたかな事に王の話が終わったあとに再び騎士の前に現れた。
一瞬、緊張が高まったが、セレは騎士団長の遺体に手をあわせた。
暫く目をつぶり手を合わせ終わると副団長や他の騎士に声を掛けた。
「すまないな、明かに団長は強者だった。今までに戦った事がない位に強かった。強者相手に武人の血が騒いだ。本気で戦いたいそう思ってしまったんだ。」
「そうですか、団長はそんなに強かったですか」
「ああ、今まで戦った中で最強だと思う。もし、あの時に僕が手加減を少しでもしたら死んでいたのは僕だった」
「そうですか、それなら私から言う事は何もありません」
「そうだ、強い者どうしが戦って負けた方が死んだ、騎士としては決して恥ではない、セレ殿がそんな顔をする必要は無い」
「幸い、団長は独り身だ家族は居ない。騎士と戦った者として礼は尽くして貰った、気負いめされるな」
寧ろ、騎士達は尊敬の念をセレに向けた。
だが、これは全てセレの策略だという事を騎士達は知らない。
部屋にセレが帰るとマリアが待っていた。
「あれっ何で僕の部屋にマリア様がいらっしゃるんですか?」
マリアはクスクス笑っている。
「だって、私しは報奨としてセレと結婚が決まってしまいましたもの。婚約者が相手の部屋に居ても可笑しくないでしょう?」
「確かに、、、、つい弾みで言ってしまったけど、マリア様は良かったのですか?」
「そうね、、、まぁ私は多分、政略結婚の道具、しかも余り人気の無い道具。そう考えたら、じじいでもなく若くて、しかも結婚前に会えた。そう考えたら良かったと言えるかもしれないわね。」
「そう、それなら良かった」
「それに騎士団長と戦って勝ってくれたから、面子もたつし言うこと無いわ。だけど、良かったの?私嫌われ者よ?」
「そうかな、凄く可愛らしいし綺麗なお姫様にしか見えないけど?」
「生い立ちは話したわよね。可愛らしくて綺麗なら真理様が居るでしょう? たぶん彼女は貴方のこと好きなんだと思うわよ」
「彼女じゃ無理だな、、僕もマリア様とは別の意味で闇は抱えている。、、多分絶望を抱えているマリア様じゃないと一緒に生きていけないと思う」
「そう、同情で無いならいいわ、、その闇の話し結婚式の後で良いから教えてくださる」
「勿論」
「じゃぁ明日は結婚式なのでそろそろ帰るわ」
「そうだね、だけど早すぎない?」
「それだけ、厄介者を出したかった、そういう事かしらね」
セレは思った。もし厄介払いなら僕に爵位を与えないと思う。
家名も与えないと思う。
多分、国王は思ったよりマリアに愛情があるのではないか?
僕はそう思った。
聖来篇 思ったより優しい世界
何故か今回は暗い展開になっていきません。 ですが、、そのうち暗転します。
【本文】
次の日にマリアと僕の結婚式と子爵の拝任式が行われた。
リュウト四世、マリーナと王城にいる貴族のみで行われたひっそりとした物と言われたが、僕には盛大な物にしか思えない。
これ以上何かを貰わないようにしないと怖い。
ここは貴族社会、報奨には義務が付きまとう。
余りに会えないので高貴と真理について聞いてみた。
今は騎士団の1/3を引き連れてレベル上げに行っているのだそうだ。
僕も離されないように頑張らなくてはいけない。
式が終わったあとマリアと一緒に謁見室に呼ばれた。
僕は仕える者として膝磨づこうとしたが、王とマリーナに止められる。
「公式の場所以外では膝磨づかなくて良い、マリアを娶ったのだ家族とも言える」
「そうですわ、私くしの義弟とも言えますから」
なんだか、思ったより優しく感じる。
「宜しいのですか?」
「良い、しかしセレ卿はどこかで身のこなしを教わられたのか?勇者や聖女とは違うが」
「あの二人が何かやらかしましたか?」
「いや、何でもない」
僕は何か嫌な予感がした。
「所でだセレ卿、爵位として子爵の地位を与えたが今現在は魔族と戦っている最中なので安定した土地が無い、暫くは報奨金を毎月与える事で満足して頂けるか?」
「報奨を頂けるのですか? それでしたらマリアが元王族として恥じない金額だけ頂ければ充分です」
「本当にそれだけで良いのですか?」
「はい、そうだ、貴族としての義務もありますから、暫く騎士達と鍛えたら僕も遠征に出ようと思います。ただ、結婚したばかりなので暫くは近場で活動します。良い場所を教えて下さい。」
「そうか、、よく自分で考えるものだな」
「どの位稼げるか解りませんが、国に納めるのはお金と素材どちらが宜しいでしょうか? 手にした物の半分を納める。それで宜しいでしょうか?」
「あぁ、だったら素材で頼む、鑑定して一般的な買取金額の半分を貰おう」
「ありがとうございます」
「ではもう、マリアもセレ卿も下がってよい。今日はゆっくりするが良い」
「なぁマリアーナ、あの対応をどう思う?」
「勇者や聖女と違って謙虚に思います。」
「最初、王女であるマリアを望んだ時には傲慢な奴そう思っていた。だがセレ卿は馬車の中でマリアの生い立ちを聞いていたそうだ。」
「そうなのですか?」
「ならば、普通はお前を望むだろう? お前と結婚すれば次期国王が内定する」
「たしかに傲慢な者なら私くしを望むと思います」
「だが、セレ卿はお前でなくマリアを選んだ、、、それは同情からかも知れないが」
「確かに普通であれば選びませんわ、、まして事情を知っているならなおさら」
「うむ、そして今日の話じゃ、勇者や聖女のように一方的にこちらに求めるのではなくちゃんと臣下になって一歩下がり、こちらにもメリットのある話しに納めた」
「半分も納めるなんてお人よしですわね、ギルドの買い取り額は既に税金を引いた価格だと言うのに」
「その辺りは経験の問題とも取れる。」
「そうですわね、、、勇者と聖女を貰った、私くしの方が外した感じがしますわ」
「まぁ仕方ない、決めたのはお前じゃ」
「でも、それで良かったとも思いますのよ、あの子にも少しは良い事があっても良いのですわ」
「そうじゃな」
「私達王族にとって、どうしても大切なのはお父様になります。姉様は嫁いでいますから、この国で次に大切な命は私くし。これは仕方が無い事です。」
「そうじゃな、儂も同じ考えじゃ」
「そして、お父様は王様、私くしはその後を継ぐ者、そう考えたらあの子にどうしても汚れ役を押し付けるしかありませんわ」
「そうじゃな」
「私くしもお父様もあの子にはこれからも汚れ役を押し付けなくてはいけません。だけど、家族としての愛情はあるのです。少なくともお父様と自分の命の次に大切なのはあの子の命ですわ。」
「全く同じ考えじゃな」
「ならば、あの子を好きになってくれて守ってくれそうなセレ卿があの子を貰ってくれたのは良い事ですわ」
「そうだな、あの子には王として辛い思いをこれからもさせる。これ位の幸せはあっても良いだろう」
「ええっ私くしもそう思いますわ」
聖来篇 日常
聖来がセレと呼ばれるようになってから、彼の日課は、、凄いの一言だった。
3日間程、休みをとり、マリアと一緒に城下町を見学したかと思うと、4日目からはもう近くの迷宮に潜っていた。
これにはリュウト四世、マリーナも驚いた。
「もう少しゆっくりされてはどうか」
そう進言したのだが、彼はにっこりと笑いながら。
「私の妻は王族なので、それに釣り合う存在で居たいのです」
そうにっこりと笑った。
そして、毎日のように迷宮に潜りに行った。
最初、リュウト四世、マリーナは騎士をつけると言っていた。
だが、それは
「騎士は国の財産、私は形上とはいえ貴族です、もし、私に騎士の護衛がついたら王族を娶ったからの依怙贔屓ととられ兼ねません。 だから、実績を上げるまではお断りさせて下さい」
正と断られた。
最初、もしかしてこの国から出て行くのか?
そう邪推もしたが、毎日のように持ち込まれる素材に、その考えは吹き飛んだ。
「凄いな、セレ卿は毎日のように迷宮に潜って」
「そうですわね、あの素材の数々あれを見せられては誰もさぼっているとはいえませんわ」
「最近では彼を否定していた貴族も、彼の事を認め始めたしな」
「あの、傲慢なコーディック公爵が、何故、彼にストレージを与えてあげないんだと抗議してきましたわ、本当に驚きでしたわよ」
「確かに、素材をあれだけ持ってくるのだ、必要な物だな」
「えぇ、、貴族の間でも民衆でも高貴を勇者と呼ぶのに対してセレを英雄と呼ぶ者もおりますわね」
「まさに、英雄だろう、クラスやスキルに恵まれない者が努力で力をつけていく、そして国に対して必要以上に貢献していく、まさに理想的な関係だな」
「そうですわ、納めた素材にも貴重な物もありましたわ、、地竜の鱗なんてクローネ伯爵が探し回っていた物ですし、、それを彼が持ってきた時には泣いてましたわね」
「あれは万病に効くからな、クローネ伯の娘はあれが無ければ死んでいたかも知れぬ」
「それに比べて勇者達は、、余り良い噂を聞きませんわ」
「うむ、、余り活躍をしていないようじゃの」
「今度の遠征に失敗したら、不満が噴き出す可能性もありますわ」
「まぁ 結果待ちじゃな」
聖来篇 勇者の遠征 騎士の独り言
勇者である高貴、聖女である真理は伸び悩んでいた。
王城での訓練で多少実力はついたものの、今でもその実力は騎士とそう変わらない。
遠征と称してダンジョンに潜ってはいるけど、一向に才能は開かない。
最近では随行している騎士からもあきれられている。
騎士とて自分だって強くなりたのだ。
それなのに、我慢して魔物を痛めつけ止めを譲っているのに、出てくるのは愚痴ばかり。
更に聖女に到っては魔物に同情までする。
ゴブリンとて多少は知能はある、殺されそうになれば命乞いの真似事位するさ。
可哀想なんて言って逃がすなよ。
そこまで追い込むのにどれだけ苦労したと思っているんだ。
魔物に友情や愛情は通用しない。
何度言ってもそれが解らない。
万が一同じ個体に出あったとしよう、そいつに次回負けたとして
「この前は見逃したろう」
と言ったところで殺されるだけだ。
そして、あんたの大事な聖女様は沢山の魔物に犯され苗床にされる。
そんな未来しかない。
その位はこの世界の人間ならガキでも知っている。
お前達が逃がす事でどれだけの人がこの先襲われるか考えられないのか、、此奴らは。
また、この遠征にどれだけのお金と労力が掛かっていると思ってんだ。
全騎士の1/3 200人が来ているんだぞ。
本来なら、こんなゴブリンの洞窟はさっさと走破して、最低でもオーク、可能ならオーガの洞窟に行って蹂躙出来る力を身に着けなきゃいけないんだ。
それなのに、甘い事ばかり言いやがって責任を果たしてから言えよ。
それに比べて、セレ様はどうだ。
仲間からきた手紙だとご自分1人で実力を身に着けたそうだ。
しかも、冒険者として身を立てているのに、あれ程冷遇したのに戻ってきてくれた。
門番は死ぬほど後悔したそうだ。
そりゃそうだ、「もう二度とここには来るなよ」そう言って追い出したんだからな。
だけど、セレ様はもう一度会った時にこう言ったそうだ。
「貴方が冷たく追い出してくれたから、僕はここに居る、悔しいと思う気持ちが僕を強くしてくれたんだ、、ありがとう」
だってよ、、言えないよ、、俺だったらぶん殴っているよな。
しかもよ、あのドラド様に勝ったんだよ。
殺してしまったのは騎士として生きているんだから、、仕方ないさ。
ちゃんと、詫びもしたらしいし、ドラド様の強さも称えたそうだ、、
幾ら強くなったからって、王国最強に手加減なんて出来ないだろう。
王国最強に勝って実力を示して沢山の素材を納めている。
そりゃあ、報奨も弾むのも当たり前だ。
結局、セレ様は自分の力で地位も姫様も手に入れた。
望んだ姫様がマリア様なのがまた泣けてくる。
あの方は不憫だったからな。
なぁ勇者、あんたの友達はクラスもスキルも殆ど無いのに鍛え上げて強くなった。
王国最強に勝ったし、いつも頑張っているから、、英雄と呼ばれているんだぞ。
女神に愛され、クラスもスキルも恵まれているあんたが、未だにゴブリン相手にてこずっているって可笑しくないか。
聖来篇 落ちた勇者
最近、高貴はこの世界は詰まらないと考えるようになった。
元の世界の様に娯楽は無い。
勇者だから扱いは凄く良い。
だが、それだけの事だ。
待遇は良いが、朝から夜までただひたすら訓練ばかり、無双できるかと思えば、未だにゴブリンを相手に戦っている。
自分は勇者じゃ無いのか?
普通に勇者と言えば、簡単にオーガやドラゴンを倒すだろう。
だが、自分にはその無双する力が現れない。
最近では騎士達にも裏で陰口を叩かれる。
俺だって頑張っているんだ。
だが、その努力をだれも認めてくれない。
「本当に、この調子で魔王なんて倒せるのかな」
無理なんじゃないか、、そうとしか思えない。
聖女である真理も最初は、異世界ではしゃいでいたが、今では余り喋らなくなった。
恐らく聖来は俺に真理を託したのかも知れない。
確かに、俺は真理が好きだった。
多分、真理は一番好きなのは聖来だ。
そして2番目に好きなのは恐らく俺だろう、そしてお前が居なくなれば俺を好きになる。
そうお前は考えたんだと思う。
最初は感謝した。
だが
お前の友情、、確かに最初感謝したけど、、、俺は勇者だ、、よく考えたら真理以上に綺麗な女が選び放題じゃないか?
俺の事を好き、、そう言いながらキス一つさせない女なんて、、もう要らないな。
魔王討伐の後なら幾らでも女は選び放題、、ハーレムだって作れる。
そう考えたら、、こんな女はお前に返してもいい。
聖来は勘違いをしていた。
高貴は清廉潔白な男、そう思っていた。
それは、普通の世の中に居たからそうだっただけだった。
女にモテたいから勉強をし、チヤホヤされたいから優しく正義漢のある男を演じた。
本来の高貴の姿は、前の世界であれば顔を現わさなかったかも知れない。
だが、この世界は前の世界とは違う。
勇者である彼には、トコトン甘く、その反面トコトン厳しい。
そして高貴は考える、どうしたら魔王と戦わなくてすむのだろうか?
どうしたら自分が辛い思いをしないですむのだろうか?
それは、、高貴の心に闇を落とした。
勇者が闇に落ちるのは時間の問題だった。
そして高貴の心の弱さが、、この世界にとって不幸を巻き起こす事になる。
聖来篇 聖女と勇者が死んだ。
戦いへの恐怖が高貴を狂わせた。
騎士が勇者のテントを見たら、高貴が居なくなっていた。
次に聖女である、真理のテントを覗いたら、、死んでいた。
しかも、、、、首が無かった。
騎士達には何があったか解らず、、その事を国王へと報告した。
「はぁ、はぁ はぁ、、これで良い筈だ」
高貴は走っていた、魔族領に向かって。
時は昨日の夜に遡る。
「なぁ真理、もう俺は、、限界だ一緒に逃げてくれないか?」
「何を言っているの高貴、貴方は勇者なのよそれが逃げてどうすんのよ」
「だが、未だに俺たちはゴブリン位しか倒せない、、恐らく魔族と戦ったら一たまりも無いだろう」
「確かにそうね、、だけど、私達が頑張らないと、この世界が終わってしまうのよ」
「だけど、俺は怖いんだ」
「私も、怖いけど一緒に頑張ろう」
「なぁ真理、一緒に魔族領に逃げないか? 勇者と聖女が一緒に亡命したら受け入れてくれるんじゃないかな」
「高貴、、おかしいよ、、まさか、、本当に見捨てるの?、、そんなの高貴っぽく無いよ」
「そうだな、俺が間違っていたよ」
「高貴、解って えっ、、、何で」
高貴は剣で真理の首を跳ねた。
「魔族領には俺一人で行く事にする」
高貴は魔族領へとひた走る。
だが、高貴は魔族領につく事は無かった。
もし、高貴が真の勇者に目覚めていたら、交渉出来たかも知れない。
出来ないにしても魔族領には入れただろう。
真理が居たら、、、いや同じだろう。
オーガはおろか、オークにも勝てない人間が夜1人で走っていたら、ただ死ぬだけだ。
だが、これで人間側は希望を失う事になる。
どんなに役立たずでも、勇者や聖女は必要だったのだ。
魔王に対する切り札を失った、国王は、森の魔女と言われる、リリアを呼んだ。
絶望的な状況を少しでも、、、取り返す為に。
聖来篇 誰かの抜けた穴は誰かが埋めなくてはならない
国王のリュウト四世は頭を悩めていた。
聖女が殺され、しかも殺した相手が勇者だ。
そしてその勇者は、、、魔族領へ向かって死んだ。
恐らく、亡命でもしようとしたのだろう。
手柄として、聖女の首でも持参しようとしたに違いない。
とても国民に言う事は出来ない。
だが、どう繕っても勇者の死と、聖女の死は伝えなければならない。
流石に裏切った挙句に聖女を殺したとは言えないから、魔族に殺された事にするしか無い。
だが、どう考えても不味い。
そこで国王は森の魔女リリアを呼んだ。
「お久しぶりですね、国王」
「リリア、久しぶりじゃな、、相変わらず、綺麗じゃな」
「私は、年を取らない、悠久の時を生きておりますので何時までも同じですよ」
「そうじゃったな、その容姿で儂よりも年上なのじゃから、子供の頃からの知り合いでなければ信じられないな」
「そんな、話でこのリリアを呼んだのか、、他に話があるんだろう?」
「実は」
「大方、勇者の事じゃないのかい?」
「知っておられましたか」
「あぁ、もう既にどこでも不安でいっぱいだからな」
「なぁ リリア殿何か良い方法は無いか?」
「あるにはある」
「手がるのか? それはどんな手段なんじゃ」
「勇者召喚が考えだされる前に魔獣と戦う為に編み出された、英雄付与だ」
「それは、どんな魔法なんだ」
「英雄付与さ、、人間の能力を4倍にするそういう魔法さ」
「凄いじゃないか、それなら騎士全員に掛ければどうにかなるかも知れないな」
「そういう訳にはいかないさ、英雄付与は体に凄い負担が掛かる、普通の者じゃ死んでしまうね」
「美味い事いかないもんじゃの」
「この国でもし、英雄付与が可能な者が居るとしたら、かの英雄セレ子爵殿位だ」
「セレ子爵位なら可能なのだな?」
「あぁ、セレと私とマリアの三人でパーティーを組んで、魔王の暗殺を目指す、、それしか方法は無いな」
「それはどの位の可能性があるのじゃ」
「限りなくゼロ、、やらないよりはやった方が良い、、それ位のもの」
「そんな事に、娘の命とセレ殿の命、、そしてリリア殿の命を使わなければいけないのか?」
「勇者は運よく雑魚に殺されたから、魔王軍の耳にも入っていない、、勇者と聖女が死んだ事が解れば、魔王軍は進行してくる、その前にしなくてはいけない、、しかも限りなく勝てない賭けですが」
「それが、最後の可能性という訳じゃな」
「えっえ、、しかも限りなく分の悪い掛けね」
聖来篇 逃げられない運命
今回の作品は、、復讐じゃなくなってしまった。
虐められてないし、、、すいません
国王リュウト四世とマリーナは気が進まなかった。
これから、セレとマリアを呼びださなければならない。
「あのクズ勇者、やってくれましたわね」
「うむ、あれ程大切に扱ったと言うのに、、」
「しかも、聖女迄殺して魔族側に寝返ろう等と許せませんわ」
「だが、これで儂は鬼にならなければ成らなくなった」
「そうですわね、、魔王を倒せる可能性のあるのは異世界人のみ、セレ卿に頼むしかありません」
「城から叩き出し、冒険者になり実力をつけ実績をあげた者、それなのに城に戻ってきてくれた者」
「そうですわね」
「そして、マリアを娶ってくれて幸せにしてくれて、貴族としての責を果たしながら、素材をも献上している、、、そんなセレ殿に死ねと言わなければならんのか、、、余はなんて恥知らずなんじゃろな」
「それは私くしも一緒です。汚れ仕事を全部妹に押し付けて、そして今はセレ殿と一緒に、、死ねという様なお願いをしなくてはならない、、 こんな恥知らずな姉は世の中に居ないでしょうね」
「その通りじゃな、自分たちは光の道を歩きながら、、身内を死に追いやる、、今回ほど嫌になったことは無い」
「それもこれも、あの馬鹿勇者がやらかしてくれたからですわ、、、恨んでも恨み切れませんわ」
「だが、それを言っても仕方がない、勇者の管理責任はお前や儂にある」
「そうですわね、、、だけど、私は今回の件で女神すら信じられなくなりましたわ、、なんで、セレ殿でなく高貴が勇者だったのか、、何を考えているのか」
「その話は無しじゃ教会関係者が煩いからの」
セレとマリアが呼び出しを受け、謁見室に訪れると王冠を外したリュウト四世とマリーナが居た。
しかも玉座ではなく下に座っていた。
「これは一体、、」
本来なら王が話しかける前に貴族とは言え声を掛けるのは不敬だ。
だが、その異様さからつい声に出てしまった。
「すまぬ、それしかセレ殿には言えぬ」
今迄に起こった事をリュウト四世は包み隠さずに話した。
その表情をセレは慎重に見ていた。
嘘はないだろう。
という事は、自分が高貴を見誤っていた。
行動を一緒にしていれば、高貴の本性も見えたかも知れない。
だが、自分がそのチャンスを捨てた。
光り輝く、高貴や真理に対して自分は闇だ。
だからこそ、一緒に居たくなかった。
だから、傍に居る事から逃げた。
それがまがい物だと気が付かずに。
その結果、、自分を好いてくれた幼馴染が殺されて、この世界の人が危機に晒されている。
責任は自分にあるだろう。
「それで、済まぬが、、そのセレ卿、パーティを組んで魔王討伐をしてくれぬか?」
「パーティとは誰と組むんですか?」
「ここに居る、リリアとマリア、そしてお主の三人じゃ」
「ならば、パーティはいりません」
「まさか、そなた1人で魔王を倒すとでもいうのか?」
「ええっ」
「貴方は馬鹿なのですか? たった1人で魔王討伐等、、、出来る訳がありません」
「ですが、三人なら出来るとでも? 僕は三人より1人の方が強くなる」
「セレ卿、、何を言っておるのじゃ」
「1人なら僕は何処までも残酷に戦える、、、1人で居る時の僕は魔王よりも残酷だから」
セレは笑いながら出て行った。
「リュウト四世、自分1人でやると言うのなら任せよう、、無理強い出来る問題ではない、よもやセレ殿魔族側に付こうとは思っていないだろうな?」
「貴方、まさか本当に1人でやろうと言うのですか?」
「今の僕にとって君は弱点になる。自分の命より大切だからね、、マリアがこの国に居る限り、裏切る事はない、、約束するよ」
リュウト四世とマリーナは考える。
これは自殺だ。
どう考えても魔王と一人で戦うなんて出来る訳がない。
なら、なんでそれをやるのか、マリアだ。
結婚してからの2人は周りが羨むほどの関係だったと聞く。
マリアを守むる為の明確な意思表示。
つまり、自分の命一つでマリアは許して欲しい。
そういう事だ。
「解かった、セレ卿、思いのままに戦え、、そして出来る事ならこの国を救って下され」
「ならば、セレ.ヘンドリック、、その名の下に魔王を倒してみせましょう」
聖来篇 お別れ
大見得を切った。
もう、後戻りはできない。
もうやるしかない。
「ねぇセレ、何で貴方ばっかり貧乏くじを引こうとするのですか?」
「そうでも無いでしょう? お姫様と結婚までして貴族にもなった」
「その姫は誰にも貰い手がない姫で、貴族とは名ばかりで搾取されるだけ、、どこにも幸せなんて感じませんが」
「それは人それぞれ、少なくとも僕にとって、マリアは大切な人だ」
「そう、、、、ですか」
「ねぇ、、マリア、魔王の討伐が無事終わったら、領地を貰おうと思うんだ」
「領地ですか?」
「君と一緒に、森を散歩したりしながら毎日をゆっくり過ごしたい、、貰えるかな?」
「間違いなくもらえると思います」
「そう、じゃぁ頑張らないとね、、、じゃぁね、、さよならマリア」
さよなら、、そう、行くのね。
もう会えないのかな?
死ぬ気なんだ。
「いってらっしゃい、、待っている」
これしか言えない。
「うん、行って来る」
聖来篇 魔王城への道
セレは魔族領の一番手薄な場所から魔王城に向かった。
この時のセレのステータスは
聖来
LV 150
HP 218600
MP 261468
クラス :卑怯者 運命と戦う一族 暗殺者 ナイフ使い
スキル:鑑定.異世界言語 隠ぺい 風魔法 火魔法 解体
高貴と違い地道に努力をしていたセレは此処までの力を得ていた。
だから道中の魔物はただの経験値にしか過ぎなかった。
さぁ魔族の集落を見つけたぞ。
そこは人間で言うなら村だった。
人に直すならのどかな農村と言った所だろうか?
ごめんなさい。
謝ると僕は農村を襲い始めた。
多分、魔族の子供だろうか、、静かに首を掻っ切った。
後ろで喚いていてこっちに来たのは親だろうか、、、切り殺した。
僕からしたら、ほぼ無抵抗に近い魔族を蹂躙した。
命乞いする者、老人、無表情で殺した。
殺して、殺して、殺し続けた。
2時間程経った後には村に生きている者は誰も居なかった。
戦うという事は綺麗ごとではない。
ここで情けを掛けて生き残りが居たら、、直ぐに相手に情報が洩れる。
相手が魔族である以上殺すしかないのだ。
マリアも汚れ仕事をこなしていたらしいが、無抵抗の者を殺すような事はしていないだろう。
多分、人すら殺した事が無いかもしれない。
だから、、、この仕事は僕がやるしかないのだ。
これからも僕は魔族を殺して行く。
そして経験値になって貰う。
魔族を殺して経験値と物資を補給。
1人で行うなら効率が良い。
だだし、その残酷性を除けばだ。
実はセレにはお目付け役として斥候スキルを持つ騎士がついてきた。
勇者の様に裏切る事があってはいけない、そう考えての事だ。
「私が見ているのは魔王等比べ物にならない化け物だ。魔族とはいえ幼い者を縊り殺し、家族をも皆殺しだ、、しかも無抵抗の者まで殺して殺して殺しまくる、、、あれ程魔族を殺したんだ、、絶対に魔族は手を組まないだろう」
「お前、何が化け物だ、、貴様、、あの方は皆んなの為にあれをやっているんだ、、勇者のスキルも聖女のスキルも無い、ただの人間なんだぞ、セレ殿は、、そんなただの人間が一人で魔王と戦うなら、、ああやって弱い魔族を蹂躙しながら経験値を貯めていくしかないだろうよ、、二度と化け物なんて言ったら、俺は許さないぞ」
「そうだ、人類を救う為だ、、セレ殿はあの姿をマリア様に見せたくなかったんだ、、だからご自分1人で戦っている、、、さぁもう帰ろう」
「帰るのですか?」
「あぁ、セレ殿は鬼神のごとく戦っている、、そう報告して任務は終わりだ、、さぁ報告をしに帰ろう」
だが、この後のセレの行動をもし見ていたら騎士達は顔を顰めたろう。
毒を井戸に放り込み、村に火を放ったのだから。
次々にセレは村を蹂躙していく。
食料を奪い、物資を奪い、情け容赦なく女子供を殺して火を放ちながら。
第三者がセレを見たら野党にしか見えないだろう。
村人を殺して物資を奪って火魔法で火をつけ風魔法で煽る。
どう見ても正しい行いではない。
それを幾度か繰り返したころ。
いよいよ魔族軍と戦闘になった。
「貴様、よくも罪の無い者を殺したな、、この魔族騎士ギース様が剣の錆にしてくれる」
魔族側の騎士が襲ってきた。
だが、この時にはセレのレベルは250を超えていた。
騎士の名乗りを聞く暇がないとでもいうように火魔法を放つとあっさりと死んでしまった。
「貴様、騎士の名乗りを」
セレは無視して突っ込んでいく、そしてそのまま切り殺した。
もはや、魔族の騎士など相手にはならなかった。
殺して、殺して、殺しまくる。
出来た屍から装備と食料を奪い魔王城に向かった。
「我こそは四天王の1人、黒き疾風のライーザ」
今、四天王との決闘が始まらなかった。
騎士を殺し続けたセレのレベルは900を超えていた。
だから、四天王ですら最早相手にならず楽に勝てた。
そしていよいよ魔王城へとセレはたどり着いた。
聖来篇 対魔王
魔王城に入りながら敵を倒す。
無抵抗な者等関係ない。
皆殺しにしながら進む。
そして、大きな扉をみつけた。
恐らく、この扉の先に魔王が居る。
僕は扉をあけて中へ入った。
「よくぞ、来た勇者よこの魔王、貴様を歓迎してくれよう」
僕は勇者ではない。
だが、あえてそれは言わない。
さぁ、これからは僕の時間だ。
僕は、自分の学んでいた卑怯道を思う存分使ってみたかった。
こんな物騒な技人に何か使えない。
魔王に通用するのかみものだ。
「魔王よ、いくよ」
「ふっ人間の技が我に聞くと思うか」
普通なら効かないだろう。
だが、魔王が人間型で良かった。
これなら充分戦える。
僕は、短剣を取り出して切り掛かる。
魔王はこれを簡単によけてきた。
そこまでは読めるだろうな。
そこで僕は、短剣を落とし、そのまま目をついた。
まさか、短剣がおとりで目つきをする何て思わないだろう。
僕の指はそのまま吸い込まれるように魔王の目をついた。
そして、そのまま目から火魔法を流し込んだ。
「うわぁぁぁぁっ貴様、我の目を潰したのか、、卑怯者めが」
戦いに卑怯もへったくれも無い。
だが、僕は自分の指に痛みを感じた。
指が解けてない。
「卑怯者め、我の血は酸だ触れれば人間の体等一たまりもないわ」
「流石に魔王だそうこなくちゃ」
「余裕そうだな、、ならば今度はこっちの番だ」
魔王の攻撃が始まる。
だが、そのスピードならどうにか避けられる。
脅威なのはその威力だ。
恐らく一度でもあたってしまえば僕の命は無くなるだろう。
だが、それが面白い。
卑怯道の基本はスピードだ。
スピードでさえ勝っていればどうにかなる。
次は首筋を短剣で狙ったが、、、無理だった。
固くて逆に短剣の方が欠けた。
「我の体は鋼より硬い、、剣等きかぬ」
「そうかな、ならこれなら」
「はははは、又目か? 流石に二つしかないからもう一つはやれん」
ただ目を瞑るだけで刺さらなくなるのか、、人間なら瞼の上からでも潰せるのに。
「お前は、種族の差が解らぬのか?」
「種族の差だと」
「例えば、蟻が自分を鍛え上げたとする。そして最強の蟻になった」
「それがどうかしたのか」
「何もしない幼子に踏みつぶされて死ぬ」
「それが、僕とお前との差だ言いたいのか」
「そうだ、お前はここに来るまで体を鍛え上げたのだろう?」
「確かにな」
「我は体等鍛えたことは無い、、生れて直ぐに強者だ」
口が空いた。
チャンスだ、僕は口に手を突っ込んだ。
「風よ吹き荒れろ」
手から風魔法をぶち込んだ。
魔王といえども、生き物だ体の中からなら効くはずだ。
「き貴様、、、これは効いたぞ、、だが代償は高かったな」
僕の腕が、そのまま無くなっていた。
魔王に食われたのだろう。
「少しは効いたのかな」
これで効き目が無かったのなら万事休すだ。
「あぁ効いた、、だがこんな物じゃ殺せん」
腕一本犠牲にしてこれか。
早目に勝負を決めないと出血多量で終わるな。
そろそろ、もう一つの効き目が出てくるころだ。
「魔王、どうだ、体の方は」
「確かに体の中から魔法をぶち込まれたから痛いがそれだけだ、、、な違和感がある」
「勿論、手にも指にも毒を塗って置いたからな、それを食べたんだ無事ではすむまい。さらに傷ついた食道や胃からそれは入り込むだろうよ」
「そうか、それでは勝負を急ぐとしよう」
ヤバイな手が無いせいかバランスが旨く取れない。
そして何よりも痛い。
だが、それは相手も一緒だ。
技が大振りだ。
此処からは時間の勝負だ。
毒で魔王が死ぬか、一撃食らって僕が死ぬかだ。
僕は素早く動き回り魔王をけん制する。
だが、魔王は動かない。
仕方なく、僕は遠巻きに魔法を使った。
だが、それは一切通用しないようだ。
やはり、勇者や聖剣でなければ大きなダメージは入らないのかも知れない。
だが、魔法を打った事は無駄ではなかった。
魔王の服が破れていた。
僕はスピードを上げて指をへそに突き立てる。
普通の人間なら致命傷のはずだ。
だが、魔王には効かないだろう、、だから今度は火魔法だ。
「燃えつきろー」
指が酸で溶けるまで魔法を流し込んだ。
指がそのまま溶け落ちる。
僕は何でこんな戦いをしているんだろう。
もうじき僕は死ぬと思う。
僕は、静かに生きてきた。
そして静かに死んでいくだけだったはず。
勇者になんかなるつもりは元から無い。
だったら、戦う必要もないだろう。
なんでだ、なんでだ、、、そうか、僕も、、
主人公に、、、ないな、、
そうか、誰かに認めて貰いたかったんだ、、、お前は凄い奴だって。
そして、誰かに好きになって貰いたかったんだ。
本当の自分を
だから、命がけになるのか。
「さぁ、魔王、命が尽きるまで戦おう、最後に言って置く」
「何だ」
「俺は勇者じゃない、、英雄だ」
エピローグ
「これをたった1人でやったのか凄まじいな」
次の斥候役の騎士は驚きを隠せない。
魔族領にはいってからの死体の数々、、正直見ていて吐き気がする。
そして静まり返った、魔王城、魔族1人見かけない。
あるのはただの死体だけ。
そして玉座の近くには魔王の死体と英雄セレの死体があった。
魔王の体は余りダメージはない。
それに対してセレの体は片手が無かった。
更に残っている片手も指が3本しか残ってなかった。
普通の人間が魔王と戦うという事はこういう事なんだ、己の全てを捨てて戦ったのだろう。
よく見ると体はあちこち破損している。
騎士はセレの遺体を自分が血だらけになるのも構わず担いだ。
「セレ卿、、済まなかった」
彼は勇者じゃない、、寧ろ最初に会った時には才能すらなかった。
なのに、彼は努力で鍛え上げ、騎士団長にすら勝った。
強いからと言って全てを押し付けてしまった。
この人は、ただ鍛え上げただけの人だったのに。
ただ、好きな人と一緒に楽しく過ごしたかった人に全てを押し付けてしまった。
「セレ卿、今から連れて帰りますから、もう暫く待ってくださいね」
騎士達は交代でセレをおぶって王城へと帰ってきた。
そして謁見の間へとその亡骸を降ろした。
本来なら不敬だが、王であるリュウト四世とマリーナ、マリアは黙って報告を聞いた。
マリアは泣かなかった。
だが、セレの遺体に縋りつくように抱きついていた。
「余は、この世界の全てをセレ卿に押し付けてしまった。 そしてセレ卿は自分の全てを使ってこの世界を救ってくれた、、、この恩に何を報いれば良いのか、、死んでしまったら返せぬではないか」
「勇者でも聖女でも無くこの世界を救ってくれたのはただ1人の人間でしたわ。 ですが、勇者でも聖女でもない人間でも出来たなら、、この世界の人間がするのが筋です。 死んでしまったら謝る事もできません」
その後、マリアは王女を辞めて出家してしまった。
その教会の墓地にはセレの遺体が安置されている。
そして、リリアも同時にこの世から居なくなった。
何処に行ったかはだれも知らない
国王はセレの事を国民に発表した。
そして英雄セレの話は未来永劫語り継がれていく、、、
だが、セレが使った 技は誰も知らない。
そして、最後の卑怯道の使い手は異世界で死んだ。
こうして知らない所で、謎の拳法は人知れず消えていった。
全ての後書き
「僕は弱いんです。いじめないで下さい。だけどそれ以上いじめるなら、、、殺すよ。」は私の書いた作品の中で一番、感想や評価を頂けた作品でした。そこで、終わった後に「外伝」を書いて見たのですが、旨く行きませんでした。 この外伝の中で主人公が使う技、卑怯道の創始者が柳生十兵衛と戦うシーンを書いて見たかったのですが、、実力の無さから断念しました。 そして、卑怯道に見えなくなってしまいましたが、その強さを書きたくて異世界篇を書いて見ましたが、、、旨く書けていません。 これ以上書いてもグタグタになりそうなのでこのシリーズはこれで終わりとさせて頂きます。 応援ありがとうございました。
これは昔に書いた作品なので、文章の読みにくさ等はお許し下さい。