_勇者に恋人も幼馴染も奪われた! 『たかが数回やっただけで自分の女にした気になってんじゃねーよ、バーカー』(仮)

1話 追放…されないように
パーティーリーダーであり勇者のジョブを持つガイアが俺に告げる。

「悪いが今日でクビだ」

「ちょっと待ってくれないか?」

 ガイアとは俺は幼なじみだ。

 俺はそれなりに仲良くやってきたつもりだったが…

 そんな風に思っているのは、どうやら俺だけのようだな。

 剣聖のエルザ

 聖女のマリア

 賢者のリタ

 五人揃ってSランクパーティー『ブラックウイング』そう呼ばれている。

かなり中二病な名前だがまぁガイアは勇者だし、剣聖や、聖女、賢者まで居るから誰もそうは言わない。

確かに俺の能力は他の皆より劣っている。

ジョブの差で成長した3人に能力が追いついていないのは事実だ、仕方ない。

だから、別の面で俺は頑張っていた。

俺をガイアが追放したい理由、それは解る。

『ハーレムパーティにしたいんだよな』

腐っても俺もSランクパーティーのメンバーなんだぜ。

此処を出れば、幾らでも次があるんだからしがみつく必要は本当は無い。

こいつ等が凄いだけで他のSランクパーティーならまだ通用するし、Aランクまで落とせば幾らでも受け入れ先はある。

その位の価値はあるんだよ、俺にはな。

だがガイア…お前のやり方が気に入らねー。

「ついて来れないのは分かっているだろ理人」

「そうだな、確かに侍マスターの俺じゃ戦闘で皆について行くのは…難しいな」

確かにその通りだ。

だがな、ガイア…お前の目的はそれじゃねーよな。

お前の狙いは解っている、ハーレムが欲しいんだろう?

「勇者とし大きく飛躍するには大きな手柄が必要なんだ。残念ながらお前とじゃ無理なんだ。なぁ分かってくれよ、パーティを抜けてもお前が親友なのは変わりないからな。」

ああ、別に親友で良いぜ。

『友情』と『愛』は別…それで良いんだよな。

この世界の親友は、親友の恋人に手を出さない。

結構モラルが高いからなこの世界。

それは別に良いぜ、前の世界で慣れている。

だが居場所を奪うのはルール違反だ。

虐げたりするのも同じだ。

男の友達が俺しかいねーガイアにとっては『これでも親友』なのか…まぁそれで良いなら構わない。

それで…他の奴はどうなんだ。

俺は付き合っていたリタの目を見た、彼女ももう昔の優しい目をして居ない…もうガイアに取られた後な訳ね。

「私もガイアの意見に賛成だわ!貴方はもうこのパーティについていけないじゃない。きっと近いうちに死ぬか大怪我をするわ..さっさと辞めた方が良い…これは貴方の事を思って言っているのよ」

まぁ、そう言うだろうな!

ふと、リタの左手に目が行く。

薬指には見覚えのない指輪があった、これは多分ガイアが買い与えた物だろう…そんな露店の安物で釣られた訳ね。

勇者と侍マスター、ガイアを選んだわけだ。

他の2人も同じ様な指輪をはめていた。まぁそう言う事だ…

ハーレムパーティに俺は要らない…だから追い出す。

そう言う事だ…だがやり方が気に食わない。

だから、俺は

「リタ…そんな事を言わないでくれよ、確かにこの先は厳しいかも知れないけど、あと1年、いや半年で良い…此処に居させて貰えるように頼んでくれないか?  なぁ頼むよ?」

「….」
だんまりかよ。

「なんで何も言ってくれないんだよ」

「もう、貴方を愛していない」

そんな事は…もうとっくに気が付いていたさ。

「リタがガイアと恋仲になったのは知っている! それでも俺は幼馴染で友達だろう?居場所迄奪わないでくれ」

「し..知っていたの?」

「まぁな…別に恋人に戻りたい訳じゃない…此処にいたいだけだなんだ」

「ごめんなさい!」

「もう気にしないで良い…だが、此処に、頼むから居させてくれないか?」

もうどうでも良い事だ。

ただ、俺が振られて、今はガイアが彼氏、それだけだ。

「大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティでも探すんだな」

「ガイア、頼むから、此処に居させてくれないか? 1年、いや半年で良いんだ、此処に置いてくれよ!」

 ガイアは俺とリタが付き合っているのを知っていて口説いた。

まぁいいさ…前の世界でも『恋愛と友情は別』そういう親友は山ほど居た。

だがな、俺はこの世界に転生して、この世界のやり方に従った。

ガイアがこういう奴なら『そういう付き合い方』をすれば良い。

ガイアは勝ち誇った顔で俺を見ている。

思いっきり、俺をあざ笑っているんだな。

何をしても優秀で、顔も良くて、強くて、おまけに勇者に選ばれた。

そんなお前は『自慢の親友』だったよ。

リタは確かにおれの恋人だったが、それもお前のパーティに居るから選んだだけだ。

勇者パーティに居るならメンバー以外に選択肢が無いからな、エルザとマリアをお前のお気に入りだ。

だから、余り物を選んでやったんだぜ。

「さようなら、リヒト」

「さようなら」

「貴方より!ガイアの方がごめん…」

 三人の幼なじみが一斉にお別れの言葉を言ってくる…まだ出て行くと決めてねーよ。

「あのよ!何でもするから此処に居させてくれないか?」

「情けない奴だ、そんなに此処に居たいのか? なら、それを態度で示せ」

「そうね…本当に居たいなら態度で示すべきだわ」

「私は潔さが必要だと思うが…」

「そうね」

「解ったよ」

俺は『五体投地』を行った。

五体投地とは一般的には知られてないが『土下座』を超える謝罪行為だ。

大地に寝転がり…どうとでもして良いという事を表現している。

ガイアは意地悪くにやりと笑った。

ガイアはこの意味を知っている

「五体投地か…仕方が無い3か月だ、3か月だけこのパーティから抜けるのを待ってやるよ」

「ガイアありがとうな!ガイア達は世界を救う勇者達だ、俺はただの侍マスター…せめてこの3か月ガイア達との最後の思いでにさせて貰うよ」

 「そうか、そうか…まぁ頑張れよ」

他の三人はもう、何も言わなかった。

第2話 俺も転生者だが…話があわねー 【ちょっと嫌な表現があります】
この世界には転生者は1万人に1人位の数で生まれる。

だから、知識チート等も滅多に起きない。

前に俺と同じ転生者に会った事があるが…話が合わない。

恋愛観などが凄く違った。

「僕はライトノベルが好きで書いているんです」

そう言っていた奴から何冊か本を買ったが…訳わかんねー。

その話は正に俺と同じような状況の奴が主人公だったんだが…

可笑しいんだ。

簡単に説明すると、勇者パーティに主人公が在籍していて、その中の一人と主人公が付き合っている。他の二人はまぁ幼馴染と姉みたいな存在だ。主人公は仲良くしていたつもりだが、気がつくと勇者に恋人が寝取られていて…他の二人ももう勇者の恋人になっていた。

そして4人から馬鹿にされてパーティを追放になる。

失意のどん底に落ちる主人公。

だが、そこからは本によって違うが…力をつけ新しい仲間(新たな美少女)と一緒に成りあがる。

可笑しくないか?

俺が可笑しいのか?

好きだった恋人は?

幼馴染と姉みたいに思っていた人は?

『もうどうでも良いのかよ!』

他の女で代替えが聞くなら…本当はそんなに元から好きじゃなかったんじゃねーの?

奴隷を買って恋に落ちたり、新しい仲間を直ぐに好きになる位なら、薄っぺらな関係じゃねーのかな?

『それって、元からそこ迄好きじゃなかったんじゃねーの』

元恋人も幼馴染も、簡単に諦められて『他の女』で良いなら、所詮本当の『恋』や『愛』じゃなかったんじゃねーの!

もし、元の恋が実っても…次にそれ以上の女に出会った時、お前はどうするの? 自分から別れるんじゃないの?

どう考えてもそう言う奴だよな?

実際に多くの奴は1人じゃなくハーレム状態になるんだからな。

『本気で恋していなかった』

その結果、他の男に取られた。

それだけじゃねー?

だって、本当に好きなら…そこから巻き返しをする筈じゃねーか?

少なくとも俺の前世ならそうだ。

俺がその事を話したら。

「中古女なんて要らないでしょう?」

「他の男に抱かれた女はヒロインに普通はしない」

そんな気持ち悪い事言っていやがった。

はぁ?

俺からしたら『宇宙人に思えた』

まるで他の似たような世界からの転生者なのか…そう思える位に、考え方に差がある。

そもそも『中古品』の何処が悪い。

俺がいた世界じゃ『美少女』『美女』の多くは非処女だ。

しかも、処女の価値は『心』にしかない。

入れたら痛がるし…ちゃんと中迄洗ってない子が多いから汚い。

貰ってみたら解るが、大体マン粕が竿にこびりついて不衛生だし…そんな良いもんじゃねーよ。

血だってついてガビガビになるしな…挙句の果てが痛がって場合によって上手くいかない。

俺の世界の少年には『処女を抱くのはめんどくせーから他の男に抱かれてからきてくれ』そういう奴さえいた位だ。

まぁこれは極論だが…現実社会の美少女なんて、殆ど非処女だよ。

実際に俺が前の世界で付き合っていた大学生の彼女は…俺で12人目。

さらに俺の前の男は俺の先輩だ。

江ノ島でナンパした女子高生は男性経験は50人を超えていたし…

本当の所は知らないが女子高生の95パーセントは非処女だと週刊誌で書いてあった。

俺だってソアラに乗って六本木や渋谷で夜中にナンパしていた。

そんな世界で俺は生きてきた。

だから…美少女の大半は中古女だ。

そう言い切れる。

「たかが1人の男に抱かれた位で…もう女として価値が無いのかよ! 優しい筈の主人公が見捨てた挙句、ただ他の男に走っただけで『ざまぁ』されなくちゃいけないのかよ!」

「他の男に抱かれた時点でアウト」

「気持ち悪いでしょう、そんな女、主人公を捨てたからアウト」

どうしてここ迄話が合わないのか…わかんねぇーよ。

よくよく話したら。

俺が生きた日本は1970年代。

他の人間が生きたのは2000年代以降。

こんなに30年で日本は変わってしまったのか…

話が全く通じない。

俺の頭が可笑しいのか?

第3話 『友情と愛情は別』それが俺の世界だった

まず此処で今の状況を整理した方が良い。

彼奴らが肉体関係にあるかどうかだが…絶対にない。

ガイアが勇者で他の三人が三職(聖女 剣聖 賢者)である以上、やりたくても出来ない。

勇者は孕ます方だから良いが、三職がもし妊娠でもしたら生々しい話だが10か月近く戦闘が出来なくなる。

その為『やりたくても出来ない』

精々がいちゃつきあっているだけだ。

もしかしたら性処理位はしているかも知れないが、この世界は何故か俺の前居た世界より、性行為の技術が進んでいないから…精々が手でしてやって胸を触らしてやる位じゃねーのかな。

まぁ『出来ないあいつらが可愛そうだから回数にカウントしてやるが(笑)』

それでも精々が数回位だろう。

この世界には残念ながらコンドーさんは無い。

魔術的な物で『避妊紋』という物があるが…

四職である彼らは外聞があるからそんな物を彫れない。

見られないとはいえ呪術的な入れ墨を入れるのは『聖なる存在』の彼等には不味いだろうな。

『だが、俺は彫れる』

だから、俺は奴隷商に来た。

まぁ、元は性処理奴隷に彫り込んだ物から進化した物だから、当たり前だな。

◆◆◆

「これは、これはリヒト様、今日はどういったご用件ですか?」

勇者パーティだから名前はそこそこ知られている。

旅から旅の勇者パーティだから『奴隷』には縁が無い。

だから相手もお客とは思っていないだろう。

 「今日は俺に避妊紋を彫って貰いたくてきたんだ」

「リヒト様が…避妊紋ですか?」

普通に考えて勇者パーティの俺が『避妊紋』を入れるのは可笑しい。

傍から見れば『やる』そういう宣言にも見える。

だから、俺は此処で少し小さな爆弾を落とす事にした。

「うちのパーティは『妊娠はご法度』じゃないですか? 普通なら適齢期の女性がそういう経験が無いなんて可哀そうでしょう?」

「確かに…まさか性欲処理までしなくてはならないなんて勇者パーティに所属するのも大変ですな」

「まぁね」

奴隷商には情報の守秘義務があるから、これが他に伝わることは無い。
だが、もし大きな問題が起きた時に『証言』は得られる。

それに『前世で言うなら『いざやれる』というチャンスに財布にコンドームが無いから断られる』それを防ぐ為にも入れて置く意義はあるだろう。

「それじゃ、入れさせて頂きますのでこちらへどうぞ」

どんな仕組みか解らないが、俺のお尻に筆で呪印を書いたらそのまま刻み込まれた。

刺青の様に痛いものを考えていたがそれは違ったようだ。

「これで終わりか?」

「はい…これで解除するまで妊娠させる事ありません、銀貨3枚になります」

「ありがとうよ…解っていると思うが、他言無言でお願いする」

「こちらも商売です、ご安心を」

これで一つ事前準備が済んだ。

◆◆◆

「おばちゃん、その蟹を3つくれ」

「そこのトマトも5つくれ..あとニンニクもな」

俺は市場に来ている、久々に料理の腕を振るってやる事にした。

この世界に転生してから、俺は昔の生き方を封印した。

地に足をつけて生活する…前の世界のじじいにしつこく言われた事だ…

そんな生活も良いんじゃないないか?

この世界に来てそう思っていたが止めだ、止め…

誰か1人とただ慎ましく、地味だが幸せな生活、それも良いな、そう思った。

この世界の生活に慣れすぎたのだろうな。

前の世界は…どうだった?

綺麗な女に群がる男。

選ばれるのは…その中の一人。

キラキラ光るミラーボール…そこで踊るワンレンボディコンの美女。

汗とタバコとアルコールの匂いがする綺麗な女。

踊っている時から声を掛け続け、無視され、馬鹿にされ…それでも食い下がり…手にする栄光。

タバコに汗臭いセクシーな美女との一夜。

それが溜まらない。

それは…女の取り合いと言う名の戦場だ。

そこに俺は戻る。

1人何てもう思わない…狙うは全員。

友情は捨てない。

ただ『友情と愛情は別』そういう男の世界に戻るだけだ。

第4話 男の遊び

「さぁ、今日の夕飯はリヒト特製の、蟹のパスタ異世界風にバジル風味のスープだ…うめーよ!」

なんだ?

変な目で見てどうした?

「これ、お前が作ったのか? 美味そうだな」

「レストランみたいじゃないか?」

「何かの記念日ですの…なかなか豪華ですわね」

「凄く美味そう」

本当は俺様系の男になりたかったが性格的に成れない俺はモテる為に料理も頑張った。

今迄は必要ないから手抜きしか作らなかっただけだ。

「まぁな、少し考えを改めたんだ…皆は四職、これからの人生栄光もあるけど大変だよな、良く考えたら俺は最大でも、魔族領の中盤でリタイア…その後は俺は冒険者か村に帰るかだ…ガイア達は貴族になるか領主になるのか解らないがもうおいそれとは会えないだろう?最後の数か月…思い出作りをさせてくれ」

「そうか…解った」

「そうか、確かに立場が変わるとそう言うこともあるよな」

「それなら良いですわ…残りの期間は意地悪はもう言いませんから仲良く暮らしましょう」

「そうね…うんそれなら良いよ…了解」

美味しそうにパスタを食べる四人を遠い目で俺は見ていた。

◆◆◆

今日の俺は単独行動だ。

ガイア達は四職だから支援金で結構な生活が出来ている。

だが、俺はパーティに所属しているが、この支援金が貰えない。

だから、自分の食い扶持は自分で稼がないとならない。

だから、このソロ活動で生活費を稼いでいる。

だが…これが良い。

腐っても俺はS級….かなりの大物が狩れる。

しかも勇者達と違って搾取はされないから…個人資産という事なら金貨10000枚(約10億円)弱はある。

凄いかどうかと言えば、凄く無いと思う。

ギルドのトップランクのS…簡単に言えば世界のトップクラスになってもこれだ…余り夢が無いだろう?

まぁ、これだけのお金がギルドの口座にあるのは、誰にも伝えていない。

冒険者ギルドには守秘義務があるから安心だ。

と言う訳で…今日は狩りに行くと言いながらサボりでお茶をすすりながら、街を見ていた。

◆◆◆

時間はたっぷりある、三人ようにプレゼントを用意するか…

ちゃんとした宝石商でネックレスを用意した。

これがミソだな、高級店の箱に入り高級な紙袋に入る…違いはしっかり解かる。

「これは、これはリヒト様、今回はどんな物をご希望で」

「少し見させて欲しい」

「解りました…何かあったらお声を掛けて下さい」

色々考えた結果…

エルザには、髪の色に合わせた赤い石の物を選んだ、鎖は短めにして 勇ましくボーイッシュなエルザには凄く似合うと思う。

マリアには、透明な前世で言うダイヤ似た石を選んだ、清楚なイメージの聖女の胸元にはピッタリだ。

リタには、青い宝石を使ったペンダント。髪の毛の色と合っていてリタに似合っていると思う。

買ったからと言って直ぐにプレゼントするわけじゃ無い。

渡すタイミングを外したら、只の無駄使いだし、感謝もされない。

後は、薬屋で幾つか悪用出来そうな薬を用意。

この世界には薬事法も無く危ない薬も無許可で買える…凄く便利だ。

『偽装眼鏡』を道具やで2個買って…準備はOKだな。

他に必要な物があれば、買い出しは率先して俺がやる予定だから問題ないだろう。

後は情報を仕入れて…これで準備はOKだ。

◆◆◆

少し遅くに宿屋に帰った。

今日もイチャついているのだろうか?

ドアの前で様子を伺う。

リタとエルザの部屋からは光が漏れている。

という事は今日イチャついているのはマリアか…

暫く様子を見ているとガイアの部屋からマリアが出てきた。

こんな時間に帰るようなら、今日は何もしてないだろうな。

マリアが自分の部屋に戻るのを確認してガイアの部屋をノックした。

「ガイア…いるか」

「なんだ!リヒトか? こんな夜遅くになんのようだ?」

イチャついた後にしてはベッドも乱れてないし…此奴女が部屋にいたのに何しているんだ…

「いや、奢るから偶には一緒に飲みに行かないか?」

「男同士で飲んでも面白くないだろう…行く意味がないだろう?」

「そう言うなよ…面白い場所を見つけたから行こうぜ」

渋るガイアを説得して俺は二人で夜の街へ出かけた。

◆◆◆

「一体どこに行くつもりなんだ? 飲むならギルドの酒場で良いじゃねーか?」

「まぁまぁ、そうだガイアこの眼鏡を掛けてくれ」

「なんだ? その変なメガネは?」

「この眼鏡は『偽装眼鏡』って魔道具で容姿が違って見える眼鏡だ…これを掛ければ、ガイアだと誰も解らない」

「なんで、そんな物が必要なんだよ…」

「良いから、良いからほら」

「解ったよ…」

え~と此処で良いんだよな…

「さぁ、ガイア着いたぞ」

「変な所にくるんだな」

「良いから行こうぜ」

階段を下ってドアを開けた。

「なななななっ、なんだ此処は!」

ガイアが驚くのも無理はない。

下着姿…半裸の女性が台の上で踊っている。

幾つもの台があってその周りにカウンターがあって、そこに座ってお酒を飲みながら、女のダンスを見る。

まぁ前世で言うなら…海外のストリップみたいな物だ。

「ガイア、好みの子が居たらそこのテーブルに行こうぜ…此処は俺のおごりだから気にするな」

「ああっ…」

目が泳いでいるな…勇者だなんだ言っても、中身は田舎者。

こういう大人の遊びには慣れていないだろうな…

「どうだい? 気に入った子は見つかったか?」

「ああっ、あのテーブルにする」

おーお顔を真っ赤にして…異世界の定番のエルフか、実にガイアらしいな。

俺は…スタイルが良すぎてちょっと好みから外れるけどな。

「それじゃ、そこに座るか? エール二つ下さい」

型じょうはエールを飲みながらストリップ、ヌード、ダンスを見て楽しむ…そういう娯楽だ。

「リヒト…すげーなこれ」

「だろう?…それじゃ座ろうか?」

食い入るように踊り子を見ている。

「ああっ」

「どうだガイア、なかなか楽しいだろう? だけど俺と違って女の裸は何時も見ているんじゃないのか?」

「ああっ、彼奴らとは服の上から触ったりしているだけで、裸は胸位しか見てねーよ…それも服の隙間からな」

なんだ…流石に手コキ位は経験していると思ったが違うのか?

まるで小学生か中坊の付き合いだな。

「そうか、あとこの遊びはな自分のテーブルの前に銅貨を1枚置くんだ…ほら置いてやったぞ」

「どうなるんだよ…」

「こうなるんだ」

「お客さん…凄く男前ね、愛しているわ…チュッ」

裸のエルフに胸を押し付けられてキスをされて…顔が真っ赤だな。

「リヒト…これすげーな!」

「だろう? それでなガイア、今迄悪かったな、パーティに男はガイアを除いて俺しかいない…こう言うことは俺が教えてやるべきだったな」

「そんなの別にいいよ、これからも誘ってくれよ」

「ああ、良いぜ、少しだけ、話をしても良いか?」

「いいぜ…」

「勇者パーティでエッチな事をするのが禁止されているのは妊娠の問題があるからだ…正確には妊娠によって旅が続けられなくなるのが問題だ」

「ああっ、そうだ、だから出来ないんだ」

「それは、あの三人が相手だからだ、他の人間を妊娠させても別に旅に支障は出ないし…他の女性なら妊娠させても魔王討伐に問題は起きないだろう?」

「だが、他の女を妊娠させたら責任は負わなくちゃならないだろう?」

確かにそうだ。

「ああっ、だからプロを相手にすれば良い」

「ププロ?」

「ああっこの場合は娼婦とかな、相手はプロだから避妊はしっかりしているし、お金を払って買っただけだから問題は無いはずだ」

「だが、勇者の俺がそんな事したら醜聞にならないか?」

「だから、その『偽装眼鏡』を使うんだ、鑑定でもされなくちゃ絶対にばれない」

「そうか…確かにそうだな」

納得したようだな。

「それで、さぁガイア、そこのエルフの踊り子と幼馴染の三人、どっちが可愛いかな」

「あはははっ、この子に比べたら、彼奴らはチンチクリンのオカメポンチだ」

まぁ此処は高級店だからな。

「そうか、そんなに気に入ったなら童貞捨てて来いよ…ショートで銀貨3枚、オールナイトで銀貨6枚だ…俺が奢ってやるよ、朝方俺が迎えにくるから、三人には俺が酔いつぶれて仕方なく近くの安宿に泊まった事にしようぜ」

返事を持たずに俺は銀貨6枚をテーブルに置いた。

「良いのか?なんだか悪いな」

「良いって、あと銅貨6枚渡しておく…此処の部屋代は別料金だからな」

「え~と私を買ってくれたのはどっちかな?」

「そっちだよ」

「お客さんありがとうございます…凄く二枚目ですね、私頑張っちゃいますね」

「ああっ…お願いします」

腕を組まれて真っ赤なガイアを俺は笑顔で送った。

第5話 朝まで

オールナイトコースでぶち込んだから今夜はガイアは居ない。

さてどうするか?

ガイアは明日の朝まで帰ってこないから…俺は三人の相手でもするか?

高級なワインを用意して、高級なつまみを買う。

ついでに薔薇の花束を買った。

薔薇の数は15本ずつ…こんな物か…

誘うのはルール違反じゃない。

『思い出作り』これにはガイアも了承したし、三人も了承した。

暫くしたら、またガイアの所に戻ると言って置けば、ガイアに嘘を言った事にはならない。

◆◆◆

「マリア…起きているか? 少し良いかな?」

ドアが開いたがマリアの顔には明らかに不機嫌そうな表情が浮かんでいた…

「リヒト、何かようなのですか? もう寝ていたのに…失礼ですわ」

俺は用意していた薔薇の花束を渡した。

マリアの顔がきょとんとした驚いた顔になる。

そりゃそうだ…俺達5人は幼馴染…しかも村育ち…こんな事をする人間は周りにはいない。

都心部にはいるかも知れないが中世に近いこの世界の田舎にはいないだろう?

「マリアの年齢分の薔薇を包んで貰った、月より美しく女神の様に美しいマリアの時間をほんの少しだけ、この俺にわけてくれませんか?」

「あああっあの…困りますわよ」

そう言いながらも顔が赤い。

「マリア…別に二人っきりで飲みたい訳でないよ…ガイアに誤解されるのは嫌だろう? それは同じだ…他の二人もこれから誘うから、それなら平気だろう?」

「ええっ…そう言うことなら良いですわ」

◆◆◆

トントン

がばっとドアが開いた。

セキュリティって考えたら不味いだろう。

まぁ剣聖に勝てるような奴まずいないか。

「なんだ…リヒトか? こんな夜にどうしたんだ?」

「偶には幼馴染と飲みたい夜もあるさ!その相手が奇麗で美しくそうだな孤高の狼の様に美しい相手ならなおさらな…はいこれ」

「薔薇…なんで」

「エルザみたいな美女を誘うのに手ぶらもなんだから、買ってきたんだ…少しだけ付き合ってくれないか?」

「あっあああ、あのな…その」

やはり慣れていないな…まぁ当たり前だ。

特にエルザはボーイッシュだから小さい頃は女扱いされていない。

俺からしたら、前世で言う陸上女子みたいで可愛く思えていたけどな。
「流石に俺と二人っきりじゃ嫌だろう、皆も一緒だ」

「ああっそう言うことか? それなら構わない」

◆◆◆
さてと..最後はリタだな…これが多分手ごわい。

トントン…

「なぁに、なんかよう!」

相変わらずリタは寝起きが悪い。

基本的に早寝だ…多分もう寝ていたんだな。

「いや、リタと酒を飲みたいと思ってな」

「なんで…飲みたい訳!」

「いやまるで草原に咲く綺麗な一輪の花みたいなリタと一時を過ごしたい…可笑しいか?」

「ええっ…なにそれ」

急にもじもじしだした。

都心部は兎も角、中世の田舎の女性なんてこんなもんだ。

優しい言葉なんて、なかなか掛けて貰えない。

世界はまだ『男尊女卑』都心部は流石に違うが田舎なんてそんなもんだ。

「いや、リタ一人じゃないよ、皆でだ」

◆◆◆

「さぁ、あがって、あがって…」

「なんだ、このローソクだらけの部屋は?」

「なんだか良い匂いもしますわね」

「あっおつまみが凄い」

前世で言う間接照明に香水を振りかけた部屋だ。

本当はこれにローソファーが欲しいが、残念ながら無いからお洒落な座布団で代用だ。

「まぁな、皆をもてなす為に用意したんだ」

ちなみにおつまみはピザにパスタ…この世界ではなく俺の前世の料理に似せた物…他にはサラダや肉料理もある…女性を口説くにはイタ飯が定番だ。

「おい…皆と言う割にはなんでガイアが居ないんだ?」

「ああっガイアは外で飲んでいて盛り上がっている…まぁ冒険者の男達とだけどな…疎外感を感じたから一時退避だ」

「そうなのですか…それなら仕方ないのですわ、それでなんでこんな飲み会を考えたの」

「うんうん…こんな風に誘われたこと無いよね」

「いや…これはIFの世界なんだよ…ガイアが勇者にならなかったら俺が皆にしていた事だ…」

「なんだ…それは」

「どういう事ですの?」

「なになに?」

「だってそうだろう? 勇者パーティに所属しなければ複数婚は出来ないから、ガイアは1人しか結婚は出来ない…そうしたら恐らくは残った2人のうち1人と俺は結婚する、そういう未来が待っていた筈だ…三人の中の誰かと結婚する未来…それが俺の夢だったんだ」

結婚…このキーワードは使える。

余程嫌われてなければ『結婚したい程好きだ』この言葉に嫌悪感を感じる女は居ない。

「確かにそうかもな? その相手は私かも知れなかったな…確かにそう言う未来もあったかもな」

「まぁ無いとはいえませんわね」

「そうだよね、ガイアが選ぶのはマリアかエルザの可能性は高いから…そうか私がリヒトのお嫁さん…あったかもね」

間違いなく、この三人の中から1人が俺の嫁だったはずだ。

「だが、それはもう無い…三人はガイアの側室になるんだから、その未来は無い…だから一緒にすごせる残り僅かな期間…自分の思いは伝えようと思うんだ…勿論、皆が俺に答えてくれることは無い…それは解っているけど…気持ちだけは伝えさせて欲しい…さぁ飲んで食べてくれ」

「リヒト…お前、そんなに」

「まさか、そんな」

「そうだったの」

「あはははっ、そこから先を聞くと未練が増すから聞かないよ、ほら笑顔で楽しんで」

「ああっ」

「そうね」

「うんうん」

今日はいわばジャブだ。

だから手を出さない…『好意をもった良い奴』そのイメージをつけるだけだ。

昔話に花を咲かせた。

今はこれで良い…彼女達の傍に居れる人間は俺とガイアだけだ。

『勇者パーティ』だからな…ガイアが一番、俺は2番…

もし、勇者と三職、その関係が無ければこの関係はどう転んだか解らない。

ガイアが100で俺への思いが0なんてことは無い。

俺だって幼馴染だガイアが100なら俺への思いだってどう安く見積もっても70はある。

最もこの30の差は今現在は絶対的な差だ。

この30をどう埋めていくか?

それが今の課題だ。

「どうしたんだリヒト、難しい顔をして」

「皆…幸せになってくれると良いな…そう思ってさ」

「急にどうかしました…可笑しいですわよ」

「どうしたの? なんで?急に」

「ああっちょっとだけ思ったんだ『悔しいな』ってな、俺にとっては皆は一番大切なな女性なのに…ガイアにとっては三番目以下なんだから…」

「悪い…それは余り触れないで欲しい」

「そうですわ」

「うん…余り考えたくないよ」

彼女たちはガイアの一番じゃない…それは自覚している筈だ。

魔王討伐後…恐らくはまだ見ぬ権力者の娘が恐らくは正室になる。

それがお姫様なのか貴族の娘なのかは解らない。

最高で王配…最低で上流貴族の娘が正室となる。

『つまらない話…まるで糞』

俺はこう思ってしまうな…命がけの戦いの末…惚れた男の恐らくは3番目以下、正室以外にもう一人位教会か王国が嫁を送り込むのが通例だ…本当に糞だ。

「そうだな…もう言わないよ、だが俺は三人が好きだ、世界中で一番な、だがその願いは叶わない!三人もガイアの一番で居られる期間は今だけだ…頑張れよな!」

「「「リヒト」」」

「応援するとは悔しいから言えないけど、三人が幸せである事を俺は祈っているよ」

「ありがとうな…まぁお前も飲め」

「そうですわね、酌位ならしてあげますわ」

「あっ、それ位なら良いよ」

勇者パーティだから気晴らしも出来ないよな。

少しは打ち解けてくれただろう…

しかし、チョロいな…皆、酔いつぶれているな。

20倍に薄めた眠り薬でこれか…

体目当てならこれでもうOKだ。

だが…俺が欲しいのはそれじゃない…だから毛布でも掛けてやるか。

「お休み」

俺は三人に毛布を掛け部屋を後にした。

ガイアを迎えに行かないといけないからな。

第6話 ちいさな皹

そろそろよいんじゃないか?

俺はガイアを迎えにきている。

まだ時間はあるが、流石にオールナイトでやりっぱなしじゃないだろう。

受付で話をしてそのままガイアの部屋に向かった。

一応は宿屋とはなっているが、此処の宿屋はこの間のお店と繋がっている。

まぁ俗にいう連れ込み宿だ。

「ガイア~もう起きているか?」

ドア越しに声を掛けた。

「ああっ、リヒト、少し待っててくれ…」

この分だと朝もしたんだな…まぁ良い。

「ああっ、それじゃ直ぐそこの酒場で待っているよ」

「おおっ」

高級店のオールナイトコースだ…しかもガイアの憧れのエルフだ充分楽しめただろうな…

酒場で待つこと1時間ようやくガイアが来た。

「待たせたな」

「まぁ初めてだったんだから仕方ねーよ…どうだ楽しめたか?」

「ああっ、凄かった…あんな綺麗で美人なエルフがあんな事やこんな事…本当に凄かった」

そりゃそうだ…高級風俗だからな。

「そりゃ良かったな、まぁ俺も悪かったよ…」

「うん? どうしたんだリヒト? 何故俺に謝るんだ」

「いや、このパーティでガイアを除けば男は俺1人だ、もう少し色々考えてやるべきだったと思ってな」

「そうかこういう遊びも良いもんだな…それでリヒトはどんな子指名したんだ」

「ああっ、俺は宿に帰って三人と酒を飲んでいたよ」

「ちょっと待て…三人に手を出してないよな?」

「ああっ、妊娠なんかさせたら教会から殺されるからしないよ」

「そうか、それなら良いや…それでなんで遊んでいかなかったんだよ」

「あのな!ガイア、俺にはガイア以外に三人の幼馴染がいる…お前とバカ騒ぎするように三人とも遊びたいんだ、お前ら4人はこれからも一緒だろう? 俺には期限がある…故郷に帰っても、知り合いがいるだけだ…俺には大切な親友との最後の期間なんだよ、一線は超えられないんだ…楽しく過ごしたい…駄目かな」

これならどうだ?

反論できないだろう。

「そう言うことか? なら良いぜ…どうせ今はやれない女だからな…最もやれる頃にはババアだし…ああっ三職じゃなければ…」

ガイアも三人も気がついていないが、実は盲点がある。

ガイアと違い多分『俺はやれる』

妊娠しちゃ不味い…四職に避妊紋を刻めない…だから出来ない。

だが…俺は避妊紋を刻んでいる…表向きは兎も角『溜まっている事の発散』位で文句は言われないだろう。

「なぁガイアに聞きたいが…これからも俺が夜こういう所に連れてきてやれば…三人は貸して貰えたりするのか?」

さりげなくだが今ガイアの本音が漏れていたな。

「俺は別に構わないけど…良いのか? それで…実際に経験したから解るが多少イチャイチャ出来ても、結局やれないと俗にいう『蛇の生殺し』だぞ」

蛇の生殺し…この世界にもある言葉なんだな。

「俺はそれで構わないよ、ガイアと同じように三人も大切な幼馴染なんだ、それにもしガイア達が四職にならなければ…あの三人のうちの誰かと結婚したはずなんだぜ…一緒に居られる最後の期間、恋愛ゴッコがしたい、それだけだ」

「そうか…ならリヒトは俺が外で楽しむ金を用意する、その代り、別れるまでの期間、お前の恋愛ゴッコの許可をする…それで良いのか? 凄く悪い気がするが良いのか?」

なんで悪いんだ?

「何で悪いと思うんだ?」

「そりゃ…やれないし…なによりあいつ等、そこ迄、美人じゃ無いだろう? 悪いと思うのは当たり前だろう?」

「ああっ確かにそうかもな…変な事聞いても良いか?」

「遠慮するな、親友だろう?」

そうだな…

「あのさぁ、もし三人をくれたら、エルフかダークエルフの美女奴隷をやるって言ったらくれたりするのか?」

「馬鹿だなリヒト…魔王討伐の駒に必要だからそりゃ無理だ…だがそれが無いと考えたら…その条件ならくれてやっても良いぞ? そうだ討伐の後で良いなら…交換してやろうか? 最もその頃はババアだから…あはははっ、流石のリヒトも交換したくないだろう?」

「先は解らないが…それが本気なら交換して貰おうかな?」

「お前、本当に、俺を含んで幼馴染が好きなんだな…ああっ考えてやる」

まぁ流石に冗談だろうな。

「そうか…それなら、今度はいつにする?」

「リヒトが良いなら、今日が良い…なんなら毎日でも構わない」

「解った、了解」

まぁ童貞を喪失したばかりじゃこんなもんか。

第7話 準備

これでガイアには了承を得たわけだ。

これで何か問題が起きても『ガイアが許可した』で済む。

女を口説く事…これは俺にとっては簡単だ。

だが『特定の女を口説く』こうなると難易度はグンと高くなる。

例えばAという女を例にしてみよう。

Aという女に振られたから同等の女、もしくはもっと可愛い子と付き合いたい。

これは難しくない…Aより可愛い子を片っ端から声を掛けていけばよいだけだ。

だが…Aが好きでAと付き合いたいとなると少し事情が違う。

Aに好かれなければ、それで終わる。

俺の前の世界のホストにナンパ師、その全ての人間が難しい…そう言うのは『特定の人物を口説く事だ』

ただし、今回はアドバンテージは俺にある。

宿屋に戻り、ガイアはそのまま寝てしまった。

俺はそのまま、朝市に行く。

今日は何を作るか…

前と違い何でもあるわけじゃ無いから…見てからだな。

スーパーはこの世界には無いからな。

◆◆◆

この世界の宿屋は調理用のキッチンがある…結構便利だ。

「今日の料理は、リヒト特製フレンチトースト風ハチミツパンに、ミニハンバーグに、アンチョビ乗せサラダにオークスープだ美味いぞー-っ」

手は抜かない…胃袋を掴むためにな…ちなみにガイアは眠そうだから同じものをお盆に載せて部屋に置いてきた。

「リヒトなんだこれは? 今日も凄いごちそうじゃないか?」

「今日も凄いですわね…美味しそうですわね」

「うんうん、美味そうだよ」

調味料チートは確かに出来ない。

だが、そう言った美味しい料理は都や大きな都市だけでしか食べられなく…しかも高い。

前の世界でも牛丼やステーキは昔は高額だった…この世界もまた『美味しい物』はまだ高級な世界だ。

「さぁ、食ってくれ」

「ガイアが居ないけど、どうしたんだ?」

「ああっガイアは二日酔いだから、部屋において置いた」

「そうなのですの? まぁ明け方まで飲んでいましたから仕方ありませんわね」

「ガイアも結構飲んだんだ…今日は狩り出来るのかな」

「まぁ3時間位したら、声かけてみるよ」

「頼んだ…しかし、随分ご機嫌だったんだな」

「まぁ、ガイアだって男同士で馬鹿やりたい時もあるだろう」

実際はやっていたんだけどなぁ。

「そうか…しかしリヒトこれ美味いよ…特にこのフレンチトーストか? ハチミツが掛かっていて美味い!」

「このハンバーグって言うのも美味しいですわね」

「それを言うならサラダのドレシッングも絶品だよ」

そりゃそうだ…これらは前世の記憶から作っている。

この世界で再現すれば…かなりのごちそうだ。

「これは、本来未来の嫁さんになる人の為に身に着けただからな…まぁそれは無くなった…まぁお別れの時まで楽しんでくれ」

「ああっ…そうだったのか…なんだか済まないな」

「そう言う事だったんですのね…随分と手の込んだ物ばかりだと思いましたわ」

「なんだか…ゴメン」

「まぁまぁ気にするな…俺はこれからも手を抜かないから、お別れまで堪能してくれ…ガイアはあと数時間寝ているだろうから…俺はちょっと依頼の話をギルドで聞いてくる」

「なんだか済まないな」

「気にするなよエルザ…別れるまではしっかりとフォローするからな…まぁもし感謝してくれるなら、昨日みたいにお礼してくれれば良いよ」

「あんなのでお礼になるのか?」

「まるで私達を楽しませるように飲んでいただけですわ」

「凄く楽しかったけど…あれじゃ私達が楽しんでいただけでリヒトの負担が増えているだけじゃないかな」

「そんなことは無いぞリタ…俺にとっては三人は凄い美女なんだぞ! それこそ帝国の赤髪の騎士姫や天使の歌声と言われるフローラなんかよりずうっとな! そんな三人と一緒に居られる…凄いご褒美じゃないか?」

「まぁ、リヒトがそれで良いっていうなら、うん別に構わないよ」

「それ位なら構いませんわ」

「それなら私も良いよ」

焦らない、焦っては全てが終わる…

「ありがとうな…それじゃまたガイアが居ない時にでも飲もう…一応俺からガイアに許可を得たから安心してくれ」

「そうなのか…」

「それなら大丈夫ですわ」

「うん…それなら良いよ」

今一瞬悲しそうな顔になったな。

まぁ、自分の未来の夫が幼馴染とは自分が居ない時に会うのを許可した…それが嫌だったんだろうな…うんうん順調だ。

◆◆◆

俺は冒険者ギルドで直ぐに依頼を出した。

「すぐそこに適任者がいますが…本当に?」

「ああっ、勇者ガイアだって年頃だ、隠れてそういう処理も必要だろう?」

「そうですね」

「ギルドを通せば秘密が守られるからな…頼むよ」

「解りました…ゼルクさん…あちらのお仕事です『別部屋を使って下さい』」

「おおっ…おおっリヒト様が…」

「違う、ガイアだ」

「リヒト様聞こえちゃいます」

「そうだな」

しかし…勇者は凄いな…こんな事でもサロン(個室)を使えるなんて。

◆◆◆

「すげーな初めて入ったわ…サロンなんて、此処の菓子食べて良いのか?」

「好きなだけ食べてくれ…お金も上乗せするから、半分顧問になって欲しい?」

「顧問? 俺は…その娼館や風俗の情報で生きている人間だぜ…そんな俺に顧問? 何か知りたいのか?」

まぁ普通はそうだな…銅貨3枚(3000円)で風俗情報みたいな情報を売っているんだからな。

この世界には風俗情報誌が無いから失敗したくないならこう言う情報を買うしかない。

「ああっ、その風俗情報を知りたいんだ」

「ほう、成程リヒト様も男って事だな」

「違う…相手はガイアだ、守秘義務をしっかり守るVIP店で、最高の女性が居るお店…そして気に入って女性が出来た場合は身請け可能なのが理想だ」

「勇者絡みなのか?」

「ああっだからこそギルドを通した…1か月集中的に情報が欲しい…報酬は金貨3枚、勿論口止め料込みだ」

「もし俺が裏切ったら」

「殺して終わりだ」

「冗談だよな?」

「冗談だ…だが勇者が店に行くんだ…その情報が流れてその原因がお前だって解かったら…人生詰むぞ」

教会から嫌われるからな…

「ああっそうだな…絶対に守る…それで勇者ガイアはどんな趣味なんだ?」

「まぁエルフが好きだな」

「なら、とりあえずは『フォーレスト』が良い…あそこのエルフは質が高く美人が多い、サービスはソフトだが初心者には良いだろう。物凄く馬鹿高いが身請けも可能だぜ」

「そうか…それで早速今晩の予約は出来るかな…オールナイトで」

「本来は予約制で1週間前が当たり前だがVIP用の特別な子なら可能だ…ただオールナイトなら金貨1枚+銀貨2枚が掛かるぜ」

約12万円か…高級風俗にしては前世に比べたら安いな。

「よし、頼んだ…勇者の身分は相手に伝えても良いけど、みだりに口外しない様に伝えてくれ…あとは出来るだけガイアのオキニになるような子のチョイスも頼む」

「指名になるから+銀貨1枚になるぞ」

「ああっ構わない」

「了解した」

俺はゼルクに金貨2枚と銅貨3枚支払い、サロンを後にした。

◆◆◆

さて…次は依頼を探さないとな。

勇者パーティは魔王討伐の旅の間に、地域の人間に対してもボランティアで塩漬依頼を受けたりしなくてはならない。

まぁ『勇者たちのクリーンなイメージの為』だな。

今のガイアじゃまだ魔王や幹部には届かない…実績やレベルを上げる為でもある。

「それで、何か良さそうな依頼はありますか?」

「そうですね…この辺りは結構平和ですね…」

「そうですか…でもこの辺りで少し依頼を受けておきたいんです」

「手ごわい相手だと、スライムとかですかねオーガは少数ですし、オークやゴブリンは中級冒険者で充分ですから…」

「そうですか? それならスライムの討伐を受けさせて貰います」

「はい…それなら、ビィの湿地帯に出没しますので討伐をお願いします」

「はい」

ビィの湿地帯…あの辺りは確か…これは使えるかも知れないな。

スライムは良く雑魚と前の世界でされているが…実際はかなり厄介だ。剣で倒すならコアを破壊しなくちゃ死なないし、大きさも軽自動車の半分はある…個体によっては酸や毒を吐くものもいる…そして何より足場の悪い湿地帯にいる。

ゲームと同じに考えてはいけないんだ。
ゴブリン、オークより難易度は高くオーガと同クラスだ。
しかもその割に素材は使えないから討伐報酬は少ない。

だから引き受け手は少ない…

まぁ本来なら、俺達からしたら雑魚だ。

だが今回は…何か仕込む場所には良い場所だ。

第8話 散々

「依頼を受けてきたぞ…スライムの討伐だ」

「はっ、またメンドクサイ物を受けてきたな」

「あれは私も嫌いだ」

「私も苦手ですわ」

「私は得意だよ、魔法一発だからね」

「確かにそうだけどな…エルザはスライムみたいな奴でも斬れるようにならないとならないし、マリアだって対処法を覚えないと不味いでしょう」

「確かにそうだ」

「そうね」

「そうだな、俺達なら楽勝だろう!」

「そうだな、斬って斬って斬りまくるぞ」

「そうね、私もリング系の魔法での対処の練習が必要かも知れませんわ」

「まぁ私は問題なく対処できるけどね」

これが勇者の力か羨ましいな…

言葉一つで人を惹きつけ奮い立たせる…凄いなぁ…羨ましい。

「それじゃ…1時間くらいしたら出発で良いか」

「「「「了解」」」」

今日は機嫌よく受けてくれたな…いつもガイアは一言二言文句が入るのに…

この後の夜があるからか…

◆◆◆
俺が案内して、ビィの湿地帯についた。

「場所は此処なんだが、俺はどうしたらよい?」

「そうだな、4人の連携を中心にした戦いをしないといけないから外れてくれないか?」

「了解…それじゃ俺は離れた所で自分の食い扶持を稼ぐとするよ」

「ああっ、そうしてくれ」

三人は不思議そうに俺を見ているが、ガイアが言ったから反対は無い。

実際はスライムは強敵だが刀を使う俺には楽勝だ。

この中で俺だけは褒賞が無い代わりに狩った物を買い取って貰える。

まぁ勇者パーティだからズルはしないと信頼もある。

多分ガイアの中で『風俗代』を稼がせる為の別行動だろう。

◆◆◆

俺はガイア達に伝えていない事が2つある。

この湿地帯の中にある茂みや周辺の森にはドラゴンビィという雀蜂を3倍にしたような大きな虫の巣が無数にある。
特に湿地帯の中の茂みには沢山の巣があり入り込むと襲われる。

この辺りのスライムはギルドは公表していないが亜種が多く、酸や毒を吐く凶暴な種類が多い。

勿論、勇者パーティである彼等なら『知識さえあれば』充分な対処が可能…だが事前準備が出来て居なければ…さてどうなるのだろうか?

◆◆◆

「皆、確かにスライムはそこそこ強いが…所詮はそこそこだ! この位の魔物は一人で倒せないようではこの先の戦いに勝利は無い! もし襲われてもスライムの体に取り込まれるまでの時間に救出すればいいだけだ…まずは散開して各自対処でやってみようぜ! 難しかったらペアに変更だ」

「ああっ私はスライムを斬れるようにならないといけないからからそれで良い」

「まぁ、私の火の魔法はスライムの天敵だから問題ないよ」

「あの…皆はそうかも知れませんが、私は回復メインですわよ」

「マリア、不安なのは解る…だが、聖女だからって戦う状況はこの先山ほどある…不得手なのは解るが、リング系の呪文を上手く使ってみてくれ」

「解りましたわ」

リヒトが抜けたフォーメーションなら…確かに自分の身を自分で守らないといけませんわ。

ガイアやエルザに存分に戦って貰う為には私やリタも防御力を身に着ける必要がありますわ。

こうして私達はバラバラになってスライムを狩り始めましたわ。

「ホーリーリング」「ホーリーリング」「ホーリーリング」

ぶしゅうううっ

良かったですわ、最近身に着けた『ホーリーリング』を三発位打ち込めば倒せますわね。

これなら囲まれなければ倒せますわ。

どうにかなりますわね…

どうにか2体のスライムを倒してゆっくりしていると…

銀と紫の個体が居ましたわ…

危ない所でしたわね…確か前にリヒトから聞いた話では『色のついた個体』は亜種で危ないという話でしたわ。

大した事は無いと思いますが…初めてのスライム狩なので見送りましょう。

暫く、無難に狩りをして更に追加で1体の狩りをしていた所、向こうからガイアが走ってきたのが見えましたわ。

その横をエルザが走り…少し遅れてリタが走っています。

『何があったのでしょうか?』

「ガイア、エルザ、リタ…どうかしたのですか? そんなに慌てておかしいですわよー――っ!」

私がそう大きな声で声を掛けたら…三人とも私の方に走ってきます。

周りに何か見えるのですが…嘘…あれはキラービィかドラゴンビィですわ…不味いですわ逃げないと大変な事に…嘘ですわね、三人とも私に…まさか擦り付けようとしていますの…不味いですわ、最低ですわよ。
私も急いで走り出しました。

「最低ですわよ、まさか擦り付けをしようとするなんてー――っ」

すぐさま私も走り出しましたわ…ですが…

ねちゃっ…なに…嘘、今私が踏んだのは…銀色の個体、まさか亜種。

嘘ですわ、小型のスライムを踏んでしまいましたわ。

「ガイア、エルザ、リター-っ」

三人はもう私のすぐ後ろまで来ています。

数えきれない程の蜂の魔物を押し付け三人は走り去っていきました。

「マリアー-!済まないな…俺は勇者だ死ぬわけにはいかない」

「許してくれー-っ恨むなよ」

「ごめんねマリア、私貴方の事はわすれないよー――っ」

嘘、嘘…嫌ですわー――っ

私の体を無数のは蜂の魔物が刺してきます。

「痛いっ痛いっ痛いですわー――っ誰か助けていやぁぁぁー――っ」

ぶしゅー――っ

何かが顔に掛かりましたわ。

「ああああっ熱いっ熱いですわー――っ、誰か」

走らなきゃ…走らないと死にますわ…ですがスライムが纏わりついて…

これで終わりですの…私終わりですの…

恨んでやりますわ…ガイア、エルザ…リタ…許しませんわよ…

呪ってやる…死んだら呪ってやりますわー―――っ

私は歩く事も出来ずに…そのまま倒れ込んだ…

『お前らなんて…死んじゃえば良いのですわ』

◆◆◆

三人が走ってこっちにきた。

「どうかしたのか?」

「蜂…蜂の魔物に襲われたんだ…痛ぇー-」

「凄く痛い、何か薬を持ってないか」

「凄く痛んだよ…ぐすっリヒトどうにかしてよ…痛いよー-っ」

「どうにかするけど、後で文句言うなよ…セクハラとか無しな」

「解ったからどうにかしてくれ」

俺はガイアの服をはぎ取ると背中に三か所刺された跡があった。

ピンセットを収納袋から取り出し…針を抜いて口をつける。

「止めろ気持ち悪い」

「俺だってそんな趣味ないわ…毒を吸い出すんだから仕方ねーだろうよ」

気持ち悪いのを我慢して毒を吸いだした。

「次はどっちが良いかな」

「私は、その…」

「どうでも良いから痛いのどうにかしてよ…リヒト」

エルザが服を脱ぐのを躊躇している間にリタが割り込んできた。

「悪いな…」

俺はリタを裸にした。

ガイアと違って背中からお尻に掛けて10か所位刺されている。

「嫌、いやぁぁぁぁぁー-痛い、あんいやぁぁぁー-」

何だか悩ましい声を出しているが、棘を抜いて毒を吸い出しているだけだからな…

まぁ、絵面は嫌がる少女を押し倒してひん剥いて背中からお尻迄吸っている変態に近いが…不可抗力だ。

「ハァハァ、少し楽になったよ…ハァハァ」

「さぁ次はエルザだ」

「あのなぁ…」

「エルザ、恥ずかしがるのは良いが、これ結構ヤバい神経毒なんだ、見ろ俺の唇、少し腫れているだろう…俺が嫌ならガイアに頼もうか?」

ガイアは俺の唇とエルザを見比べて…首をぶんぶん横に振った。

恐らく童貞喪失して無かったら口が腫れてもやったかもな。

「解った、女は度胸だ!」

いや上半身しか刺されていないのに下まで脱ぐ必要は無いからな。

「ああっ駄目だ痛い、痛い痛いぞリヒトー――っ」

少し悩ましい声だが、刺されたのは6か所位だからそんなでもない。

俺は最初から気がついている。

知ってて敢えて触れなかった。

「所でマリアは何処に居るんだ?」

置き去りにしたのだろう…予定ではリタの可能性が一番高いと思っていたが違うようだ。

「マリアは…もう手遅れかも知れない…」

「逃げる時犠牲になってくれたんだ」

「マリアのおかげで逃げられたの」

嘘だな嘘をつく時の癖が皆出ているぜ。

「助けに行ってくる!」

「よせ…無駄だ」

「行ってもお前迄怪我するか死ぬだけだ」

「そうだよ…」

「あのなぁ…俺って馬鹿だからさぁ上手く言えないけどよマリアの方が俺の命より大切なんだよ! 勿論お前ら三人も同じだ…馬鹿野郎いい加減気がつきやがれー――っ」

「「「リヒト」」」

俺は薬瓶を放り投げ走り出した。

より状況をドラマチックに演出する…これも前世で学んだ事だ。

やってる事はクズの極みだがな…

第9話 マリア無残 破壊と喜び

俺は、バクベアーの体液から作られた防虫薬を自分に振りかけた。

バクベアーはビィ系の魔物の天敵…これで余程の事が無ければ近づいてこない。

そして俺は侍マスターのジョブ持ちだ。

このジョブの最大の恩恵は刀が上手く使える事…つまりスライムを斬るには最高のジョブだ。

俺は三人が走ってきた方向を中心に探した。

すると…無数のスライムが集まっている場所があったのでそこに向かい…スライムを数匹斬った…やはり居た。

マリアだ…だがその姿はもう勝手の美貌は何処にも無い。
頭部は表面を溶かされ2/3の頭髪が無かった。

恐らく酸で溶かされたのだろう…頭髪が無い所は焼けただれている。

もう髪は生えてこないだろうな。

顔も半分が酸で焼かれていて顔左半分から左胸下まで焼けただれている。
他にも体中が酸で焼かれていた。

見方によっては日本の顔が崩れた幽霊の方がましに見える。

ゾンビですら生ぬるい位だ…だが…

死んではいない。

スライムはゆっくり時間を掛けて溶かして食べるから命は助かる事が多い。

だが、亜種は酸を出して溶かしながら食うから『女としての一生は終わる』顔から体から表面が酸で焼かれ溶かされた状態…そんな女誰も最早相手にしないだろう…

どうやらドラゴンビィに刺された場所は運が良いのかスライムに溶かされたようだ…銀色のスライムが死んで居たからそいつが食べたのかも知れない。

もう裸同然だが、残っている布をはぎ取った。

何故か持っている大量の水で体を洗いポーションを振りかける。

火傷は治るが…歴戦の戦士の傷が消えないように…醜く跡がしっかり残る。

これで命は大丈夫だ…但し顔の半分はまるで手にかぎ爪をつけた悪夢に出てくる有名な殺人鬼のようだ。

何故か持っているシーツに包んで背中に担いだ。

◆◆◆

はぁはぁ…ぜぃぜぃ…

流石に湿地帯を人一人担いで歩くのは大変だな。

「リヒト、それって生きているのか?」

「ああっ生きてはいる…だが」

「良かった助かったんだ、無数の蜂の魔物にたかられた時はもう駄目かと思ったぞ」

「マリア…良かった、良かったよー-っ」

「そうでも無いんだ…これ」

シーツを少しずらしてマリアを見せた。

「うっ、これはまるで化け物じゃないか!」

「これは酷いな…うっ」

「ううっ気持ち悪いうぇぇぇぇぇー-っ」

「悪い…まだ手当しないといけないから、俺だけ先に帰るわ…あと1部屋追加で宿屋借りる…じゃあな」

それだけ伝えて俺は一人先に宿に戻った。

◆◆◆

ポーションで傷が塞がっているから包帯はまく必要は無いな。

このままじゃかわいそうだから顔の半分だけどうにか包帯を巻いた。

後はどうする事も出来ないな。

起きたら…

まぁその時の対処だ。

「いやぁぁぁぁー――っ嫌ぁぁぁぁー-っ」

気がついたようだ…一応宿屋には事情を話して、周りが空いている部屋にして貰ったから問題は無いだろう。

「マリア…大丈夫だから落ち着いて、なぁ」

「あああっー――ああリヒト、私、私怖い夢を見たの…本当に怖い夢を見たのですわー――っ」

現実と夢を混在しているのか…

「マリア…ごめん」

「リヒト…なんで謝りますの」

そう言いながらマリアは自分の体に目を落とした。

「嘘…裸、なんで…嘘、嘘ですわー――っ嫌っいやぁぁぁぁぁー――っ、そんなあれが本当だなんて…そんな嫌です…嫌ですわー――っ」

「マリア…」

今は声を掛けても無駄だ。

俺が声を掛けられるのは…マリアが落ち着いてからだ。

どの位経ったのか解らない。

俺は傍で眠ってしまったようだ。

周りを見るが、三人が来た感じは無い。

マリアは…

「うふふっ、うふふっ私…化け物みたいですわね」

「あはははっまだゴブリンの方がましですわー――っ、なんなのです、この醜い顔は…あはははっ終わりですわ…終わりですわねー――っ」

自虐気味に叫んでいる。

かなり心が痛む…

「あの…マリア?」

「あのね…あの馬鹿たちは私に蜂の化け物を押し付けましたのよ…最低ですわ、将来側室とは言え、夫になる人と一緒に側室になって支える人間に裏切られましたのですわ」

まぁショックだろうな…流石の俺も裏切りまでは考えていなかった。

ただ逃げ遅れるのはリタかマリアだとは思っていた。

ただ、まだガイアもエルザもリタも若すぎる。

命がけで家族を守れるのはある程度の大人で人間関係が構築されてからだ。

実際に前世では危ない人間に絡まれて彼女や妻子供を見捨てて逃げる奴は多かった。

まだ10代半ばの彼らに、それを押し付けるのは酷な話だ。

自分の命と他人の命…他人の命を取れる人間は友情や愛があっても難しい。

ドラマや小説みたいな綺麗ごとは現実にはなかなか無い。

そんな事は今のマリアには言えないが。

「…」

「そうですわよね…リヒトには何も言えませんわね…あはははっ私は化け物、化け物ですわ…恋人も友人も全部失って、捨てられた化け物ですわ…うふふふふふっ」

「それは違うぞ…俺は捨てない」

「同情ですわね…惨めになるだけですわ…だいたい貴方はモテるのですから…さっさと捨てていくと良いですわ…私はこの世を恨んで死んでいきます、うぐっうぐっううん…ハァハァなにしますのふざけないで下さい…殴りますわよ」

俺はマリアに抱き着き無理やりキスをした。

「俺は同情とかじゃない、マリア達が好きなんだ…死ぬのって自分を捨てるって事だよな…捨てちゃうならマリアを俺にくれよ、うぐっううん…ううん」

今度は舌を噛まれた。

「ハァハァ調子に乗らないで欲しいのですわ、幾ら化け物みたいな容姿でもそこ迄軽い女じゃないのですわ、本当にこんな私でも愛してくれますのかしら? どう見ても化け物ですわ…金貨1枚で買えるような奴隷でもまだ私よりはマシですわよ…それでも私を愛すって誓えますの? 無理ですわね…今のキスも同情ですわよね…惨めに、うぐっううんうんぷはぁ」

暴れるマリアに無理やりキスをした。

「これが同情だと思うのか…俺はそれでもマリアが好きなんだ」

「嘘ばっかりですわ、そんなに私が好きなら抱けますわよね! こんな醜い女抱けませんわよね…所詮あなたも偽善者ですわー-っ」

俺の前世は『悪食』だった、どんなブスでも抱けるなら抱く。

だから普通に抱けるけどなぁ。

普通は無理だが…俺には出来る。

「マリアから言ったんだからもう止まらないから、今更嫌だって言っても無駄だからな…ほら」

俺は自分の股間にマリアの手を持ってきた。

「ああっあの…これって反応していますの…ちょっと待って欲しいのですわ…私これでも…うぐっううん…ハァハァ少し…」

「だ~め」

「ちょっと、待って欲しいのですわ…気持ちはわかりましたわ…その私もリヒトが好きですわ…ですが」

「駄目、待ってあげない」

「それならせめて、せめて私の好きな所を…そう5個、5個あげて」

「可愛い、性格が好き、しぐさが好き、声が好き、振舞が好き、その他全部好き」

「解りましたわ、わかりましたわ…仕方ないですわねもう…顔が真っ赤になりますわよ…此処迄来たらもう嫌なんて言いませんわ…ただ後悔しますわ…私もう、きっとリヒトから離れませんわよ…裏切ったら殺しますわよ…」

「それで良いよ…うぐううんうんっ」

「うぐっううんうんうん…ぷはぁ」

もうマリアは抵抗をしなかった。

そのまま体を重ね合った。

マリアは多分捨てられるのが怖いのか、偶に体を震わせていたが…

驚く位に何でもしてくれた。

口でも胸でも何でも使って…俺が喜ぶと嬉しそうに笑顔でしてくれる。

確かに容姿は変わってしまったが…その笑顔は凄く可愛く見えた。

「ハァハァ…凄いな…これ」

「リヒト私好き過ぎですわ…本当に壊れるかと思いましたわよ、まぁ此処迄するなら愛していないなんて事はありませんわね…こんなに愛して貰えるなら…とっととリヒトの恋人になれば良かったですわ」

「ありがとう…うぐっ」

「うぐっ…お返しですわ」

もう何回したか解らない、ただかなり暗いから夜になっていた。

三人がいつ来るか冷や冷やしたが…こなかった。

うん? そう言えばガイアと約束があったな。

「マリア、悪いガイアに報告をしてくる」

「私はあの三人が大嫌いなのですわ、だから行きませんわよ…あのそれよりリヒトぉ、あのね」

「ああっ、少し話したら直ぐに帰ってくるよ…続きをしたいからな、あっ!ついでにワインと食い物も買ってくるよ」

「まさか、寝ないでするつもりですの?」

「マリアが嫌じゃ無ければな」

「まぁ、仕方ないですわね…リヒトなら嫌じゃ無いですわ」

俺は後ろ髪をひかれる思いでマリアの部屋を後にした。

10話 マリア オンリーヒロイン

俺はリヒトにマリアの状態について話をしに来た。

三人はリヒトの部屋に集まって何やら話をしていた。

「それでマリアの状態はどうなんだ?」

「さっき見た通りだよ…命は別状ないが、あの容姿はどうにも出来ない…それとな、凄く三人を恨んでいたよ…擦り付けしたんだってなぁ…かなり恨んでいるぞ」

「ああっ否定はしない…認める!」

「謝って許して貰えない事をした…今思えば怖かったとはいえ最低だ」

「私…ごめんなさい」

「マリアはな俺が見つけた時にはドラゴンビィでなくスライムの亜種に体を溶かされ掛かっていたんだ、恐らくドラゴンビィの攻撃を受け動けない状態で襲われたんだと思う…そしてあの容姿になった」

「ああっ…そうか…」

「だけど…言い訳は出来ないな」

「謝る事しか出来ないよ」

「マリアには悪いけど気にするな…戦っていればこんな事もある。だがな、あの状況で恨むななんてマリアには言えない、今回の件は俺を含んで皆がそれぞれ悪い…謝っても無駄だろう? なぁもしマリアと同じ状況に置かれたら、エルザにリタ、そしてガイアは許せるのか?」

「「「…」」」

「許せないだろう? だったらもうやる事は決まっている…パーティ追放しかない」

「ちょっと待て…それじゃ俺は擦り付けをした上にパーティ追放した事になる」

「不味いだろう…そんな酷い事」

「最低な事をした事になるよ…」

馬鹿じゃ無いのか?

最初に擦り付けをした時点でもう、仲良しこよしは終わりだ。

やった方は簡単に考えるが…やられた方は一生その恨みは忘れない。

「良く考えろ、マリアは三人を殺したい位恨んでいるんだ、マリアそのまま手元において置いたら…絶対に足を引っ張るぞ…もし教会で三人が擦り付けた事を言われたら…ガイアは勇者だから大丈夫かも知れないがエルザとリタはなんだかの罰があるかも知れない」

「確かにそうだ」

「だから、先に報告が必要だ…ガイア、明日にでも教会にマリアの解任届けを出した方が良いぞ」

「解った」

「理由は…そうだな4人の連携が取れないからと、今回の件は触れない方が良いだろう、エルザもリタも署名した方が効果的だ」

「本当にそうしないと駄目か?」

「不味いんじゃないかな?」

「だが、そうしないとガイアは兎も角二人はヤバいぞ、教皇様は勇者の次に聖女と序列を決めているのは知っているだろう? 」

「そうだな…ガイア、頼むからそうしてくれないか」

「お願い…」

「仕方ないな…俺もあんな化け物と一緒に居るのは嫌だ…だが纏わりついてきたらどうするんだ?」

「それなら大丈夫だ! 俺が引き取るよ…幼馴染だからな…ただこれまで通りだと不味いから、俺がブラックウイングのサブパーティを作るからそちらに移籍という形をとる」

「リヒト…良いのか? あの化け物と二人で…」

「本当にひきとるのか…」

「あの、大丈夫なの」

ガイアも結構酷いな…少なくとも三人の中で一番好きなのはマリアだった筈だ。

「ああっ構わないよ…俺幼馴染が凄く大切だからな…前に言っただろう『命以上』とな…今回はマリアがこうなったから引き取った…だが、同じ状況にエルザがリタがなっても同じ様に引き取ったさ…まぁガイアは男だからどうするか解らないが」

「なら良い、すぐに書類は書くから、朝一番で教会にお前が出してくれ」

「了解…暫くは看病があるからそっちの世話は出来ない…暫くは我慢して欲しい」

「それは仕方ないな」

「「解ったよ」」

「それじゃ、ガイア…少し夜風にあたるか?」

「そうだな」

多分、今後の相談をするんだ…そう思ったのか…二人は黙って見送ってくれた。

◆◆◆

「それでなガイア…看病があるし顔を合わせて揉めるといけないから俺とマリアは別の宿に移動しようと思う」

「それは構わないが…あのな」

「予約ならしてあるよ…『フォーレスト』というお店だ、コースはオールナイトコースで朝まで遊べる、代金の金貨1枚と銀貨2枚…ほらよ」

「ああっ済まないな」

「良いって事よ…場所解らないだろう? 店の前まで送っていくよ」

「ありがとな」

俺は店の前までガイアを送っていき、その足で教会に向かった。

後は、下着屋に行って、更に露店で香水を買って…滑り込みでチキンを買ってワインとパンを買った…まぁこんなもんだ。

◆◆◆

宿に帰ると窓から外を見ているマリアが目に映った。

「ただいま」

「遅いのですわ…私なんか捨ててどこかに行ってしまったのかと思いましたわ」

目が腫れていて良く見ると少し前まで泣いていたようだ。

相変わらず強がりだな。

「俺がそんな事するわけないだろう」

「そうですわね…うんそうですわ…リヒトはこんな化け物が好きな変態さんですものね」

「あのさぁ…俺は今でもマリアは可愛いと思っているよ…外見なんて魅力の一部にしか過ぎない…だから、その化け物っていうの止めて欲しい」

「解りましたわ」

その後、買ってきたチキンを二人で食べてワインを飲んだ。

そう言えば…随分前に買った宝石のペンダントがあったな。

「マリア…これ」

「これ私にですの…ありがとうですわ」

「ああっ、但し最初に言っておくけど三人にあげようと思っていたんだ…だから後二つ…」

「だったら、それも見せて欲しいのですわ」

「ああっ…これ」

「これはもう要りませんわよね? 私は生涯リヒトの傍から離れませんわ? 私が居ればもう二人は要りませんわよね!」

泣きそうな顔だ…

「どうしてそんな事言うんだよ」

「だって、リヒトが三人を同じ位好きなら…私はもう傷物ですわ…多分、三人の中で私が一番好きでなくなる時がきますわ…そんな時が来たら…きたら、きたら…あぁぁぁぁぁぁー-っ私…私だめですわー-っ」

何処でルートを間違えたのかな…

やはり俺は…不器用だからハーレムなんて作れないな…

うん…良し諦めた。

「解ったよマリア…もう俺はマリア以外の女性は見ない…これで良いか…実はガイアにも勝手だがマリアをパーティから外すように頼んだ…それでな俺がマリアとパーティを組めるようにお願いしたんだ」

「そうでしたの…もう仕方ありませんわね…まぁリヒトは私が大好きなんだからそれで宜しいですわ」

強いな…本当に強い…人は落ちた時にその本性が現れるというけど…凄いな。

「そう良かった…それで明日から宿も移すから宜しくな」

「確かにあの三人には恨みしかありませんかから、会ったらなにするか解りませんからその方が無難ですわね」

「まぁな…俺はまだガイアや二人と暫くは付き合うけど…それは許して欲しい」

「しかたありませんわ、あの二人に一切色目を使わないなら許してあげますわ…あらその袋はなんですの?」

「あの…これは」

いきなりマリアに袋を取られた。

「香水…あらこの下着は…こう言うのが好みなのですね…良いですわ、身に着けてあげますわ…身に付けたらさっきの続きですわね…さぁまずはお風呂に一緒に入りましょう…ですわ」

此処迄変わるなんて思わなかったな。

本当は三人とも幼馴染が欲しかったけど…もう無理だな。

うん、もう腹を括ろう…これからはマリアだけを愛そう。

「マリア…愛しているよ…世界で一番愛している」

「嬉しいですわ…そんな事言われたらもう…何でも許してあげたくなってしまいますわ」

結局、朝まで眠る事なく、マリアと俺は愛し合った。

たった1日だが…お互いにもうして無いことは無い位激しく。

※この話も恐らく後数話で終わります。
 やはり中編位で書くのが私の場合は良いのかも知れません。

第11話 本当のクズは…俺だ

さぁ今日が勝負の日だ。

「それじゃ、行ってきます」

「随分と朝早くから出かけますのね」

「まぁな…今日は色々と忙しいんだ」

「まさか、あの二人と用事があるとか言いませんわよね?」

「それは無い、昨日誓っただろう『マリアだけを愛す』ってな…そう言えばマリアから『愛している』と言われてないよな」

「全く、口に出さないと駄目なんですの?」

「言ってくれると嬉しい」

「愛してますわ」

「絶対に?」

「もう恥ずかしいですわね…絶対に愛してますわ…これで良いんですの?」

「ああっ、行ってくる…そこのバスケットにサンドイッチが入っているから、朝食とお昼にして、まだ体調だって本調子じゃないんだからゆっくりして…」

「その割には随分と色々な事しましたわね」

「まぁ、その…」

「うふふっ冗談ですわ…行ってらっしゃい!」

マリアの笑顔に見送られ、俺は最後の大勝負に出掛けた。

俺が今回した事は…かなりのクズだ。

簡単に言うなら『手の届かないマドンナ』に自分の所まで降りてきて貰う。

俺の前世のクズが良く使った手だ。

裏で攫って沢山の男に輪姦させたり、事故を起こして歩けなくしたり、顔に一生残る傷を作る。

方法はさまざまだが『人間の価値』を落とし…更に落ち込んでいる時に近づき信頼を得て自分の物にする…昭和の悪党の良く使う手段だな。

さらに言うと…俺はこれに麻薬やら媚薬を用意していた。

これで三人をと思っていたが、やはり俺には三人を手に入れハーレムを…なんて出来なかった。

まさか、あそこで逃げ遅れるだけでなく…擦り付けまでやる程、あいつ等がクズだとは思わなかった。

同じ位クズな俺にはそれを咎める権利は無い。

まぁ、まだガキだから『自分の命が大事』それは解るがな。

まぁギャルゲーで言うなら、ハーレムルートを目指していたが気がついたらヒロインルートしか選べなくなった。

そういう事だ。

まぁ、それで良い。

三人の中で一番綺麗で可愛いのは間違いなくマリアだ。

実際にガイアが一番好きなのはマリアで間違いない。

それを取り戻せたんだから…もう充分だろう。

◆◆◆

「流石のガイアも眠そうだな」

「ふぁ~あ…まぁマリアの事もあったしな、だけど凄いな…此処、同じエルフでも、こう格が違うというか…まあ最高だったよ」

「そうか…それは良かったな…流石に疲れているだろうから、今日は休むだろう?」

「いいや、昨日相手してくれた子ティファーにが凄く可愛くてな、今日の予約を入れてしまった」

はははっ俺がお金出すのに…勝手に…まぁ良い。

「それで、書類の方は書いてあるのか?」

「ああっ、書いてあるぞ、ほら…」

「あれっ、何で、エルザとリタの署名まであるんだ」

「ああっ、朝一で用意する約束だったからな…少し待ち時間があったから、いったん戻って書類を書いて、二人にサインをさせてきたんだ」

「そうか…随分早いんだな」

「まぁな、あんな気持ち悪い女、少しでも一緒に居たくないからな」

自分達で擦り付けをしておいて、それかよ。

まぁ良いけどな。

俺はガイアから正式に『マリアのパーティ追放届け』を受け取った。

「それでガイアはこれからどうするんだ?」

「それで相談なんだが…此処昼間も営業しているんだよ」

「はぁ…それで?」

「24時間コースって言うのを特別に良いって言われたんだけど…お金用意できるか?」

「どうしてもと言うなら、どうにかするが…そんなに出来るのか?他の女にしないで良いのかよ」

「ああっ、ティファニーが凄く可愛くてなぁ、もう他の女は要らない位だ」

これはワンチャンあるか…いや、やめよう。

「そうか…それじゃ金貨20枚(約200万)渡しておくからこれで暫く遊んでいてくれ」

「良いのか?」

「ああっ、ただマリアの憎しみが凄く強いから、パーティを独立して暫くは別行動だな…一応、それが今の俺のほぼ全財産だから…大切に使ってくれ…あとパーティからの独立する書類も悪いが今作ってくれるか?」

「ああっそうだな、此処じゃなんだから中に入ろうぜ、ペンと紙貰って直ぐに書くよ」

「ああっ…頼む」

うん、かなりクズに育ってきたな。

まぁ…金が無い宣言したからガイアの性格からして暫くは俺に何か言ってこないだろう。

書類を書くと俺に渡してガイアはまた店の奥に消えていった。

娼館の店員と目が合った。

「参考までに聞いておきたいが…ガイアが嵌まっているエルフの子って身請け金幾ら位なんだ」

「ああっ、それなら金貨300枚(約3000万)ですね」

エルフにしては安い気もするが…高いな。

「結構安いんだな」

「結構、歳くってますからね…まぁそれでも寿命は200年は有るから人族なら充分でしょう、それに随分長い事働いているから、流石に借金も減ってますから…買いますか?」

「いや…ガイアがどうするかだな…俺はパーティで会計しているだけだからな」

「なんだ…正直に聞くけど、買うお金はパーティにあるの?」

「まぁ…余裕であるよ」

「へぇ~そうなのか…まぁそのお金の出どころは聞かないですよ…」

勇者のお金は教会が出すから、青天井と言っても間違いない。

だが…それは前の世界でいう税金みたいなお金なので…馬鹿な事には使えない。

それが娼婦を身請け出来るお金があると聞けば驚くだろうな。

「教えてくれてありがとう」

そう伝えて俺は娼館を去った。

◆◆◆

娼館を去った俺はまず教会に行った。

「すいません、昨日の夜お願いした物は届いていますか?」

「ああっ聖女様、大変でしたね…事態が事態なので直ぐに届きましたよ…勿論、使用許可も下りています」

これは賭けだった。

確率は恐らく4割くらい…かなり大げさに話した結果が良かったんだな。

直ぐに、貰った小包を収納袋に放り込んだ。

「これを勇者ガイアから預かってきました…宜しくお願いします」

「これは?」

「さぁ?」

本当は剝き出しで貰ったが敢えて封書に俺はした。

しかも『願い』でなく『届け』で書いて貰った。

これで時間は稼げるな…

「解りました、勇者様の文ですので大司教様が戻られてから開封させて頂きます」

「頼みました」

そう伝えて、急ぎ教会を後にした。

その足で冒険者ギルドに向かった。

「すみません、パーティの新設の届けとメンバー移動の手続きをお願いします」

ギルドの受付嬢が驚いた顔をした。

「とうとう、追放されちゃったんですか? ですが…落ち込まないで下さい! 貴方が募集すれば 剣姫にアイスドール」

「それは俺の物語じゃない…それに俺は独立で追放じゃない、正式に勇者ガイアから許可を貰って別パーティを作るんだ」

「ああっ、そうなんですか? ええっー―――っ」

目が飛び出そうな位驚いている。

「聖女様を引き抜いて独立するんですか? これは教会もご存じなのですか?」

「先程、マリアのパーティ追放の届けは受け付けて貰った…ほらガイアのサインもある書類も持ってきた」

「本当ですね…解りました、それじゃ受付をします」

俺は自分とあらかじめマリアから預かった冒険者証明を渡した。

「書き換えですが…どうしますか?」

「リーダーはマリアで、俺がサブリーダー、まぁ二人だけどね」

「はい…それでパーティ名はどうしますか?」

決めて無かったな…まぁ良いや。

マリアって名前は前世だと有名な神様の母親だ。

聖女だしこれで良いんじゃないかな?

「『女神の微笑み』でお願いします」

「本当に…それで良いんですか?」

「はい…」

《今は良いかも知れんませんが歳をとった時どうするのかしら? まぁ面白そうだから敢えて言いません(笑)》

「はいどうぞ…手続きは以上です」

上手くいった…スピード勝負だったが、これでもう勝ちだな。

後はお面を買ったら終わりだ。

※次回で本編終了です、そのあと後日談や閑話を書く予定です。

第12話 旅立ち 本編完結

第12話 旅立ち

「おかえりなさい、リヒト早かったですわね」

「まあな、少しでも早くマリアに会いたかったからな…愛しているよ」

そうマリアに伝えて抱きしめた。

「どうかしましたの?」

「うん俺はマリアが好きだ…本当に愛している」

「それは私もですわ」

確かに『今のマリアはそうだ』

だが、今後は解らない。

俺はこれから、マリアにある事をする。

その後でマリアが俺を捨てるなら…悲しいけど…仕方ない。

俺は、マリアを口説く時間を貰った…それだけだ。

「マリア…ちょっと冷たいけど我慢して、多分傷に効くと思うから」

「解りましたわ…服や下着は脱いだ方が良いですわよね」

「ああっ…その方がいいな」

「解りましたわ…明るい場所だと焼けただれていて気持ち悪いですわね…それでも薬を塗ってくれるなんてリヒトは本当に優しいですわね」

「目を瞑ってくれるかな」

「解りましたわ」

裸になりマリアは目を瞑った。

俺は教会で貰った薬をマリアの頭からまんべんなく掛けていった。

貰える可能性は4割も無かった。

この世界に12本しかない秘薬中の秘薬。

死んでなければ全てを治すという最高の薬。

『エリクサール』

マリアの体が光り輝き焼けただれた皮膚が剥がれ落ち元の綺麗な肌になった。

毛髪も元の綺麗な髪にしっかりと生えてきた。

『うん、元の美少女のマリアだ』

「マリア…終わったよ!」

「終わったのですわね…少しは良くなり…?」

「はい」

俺はマリアに手鏡を渡した。

「うそ…治っていますわ…何もかも元通りですわ」

「良かったねマリア…これで俺が居なくても大丈夫だね」

マリアは元に戻った。

これで俺が居なくてもマリアは生活が出来る。

俺を捨てる…そう言う選択が可能だ。

「リヒト…? 何を言いますの?」

「マリアは元通り綺麗になったから、自由に生きれるよ…もう自由にして…」

「ふざけんなー-っふざけんなー-っですわー-っ」

マリアが殴ってきた。

「痛い..痛いってマリアー-っ痛い」

「愛しているって言いましたよね? そして私も愛しているって答えましたわ…なのに、その約束を反故にしようとしてますのー-っ、大体リヒトは焼け爛れた私ですら『愛したのですわね』今の私ならその百倍は愛してくれますわよね? 破瓜の痛みは我慢しましたが凄く痛かったのですわよ…そこ迄させて置いて、その言いぐさは許せませんわー-っ」

今度は噛みつかれた。

「痛いっ、痛いっ痛いよマリア」

「ならもう馬鹿な事は言わない事ですわ、ハァハァ約束しましたわよ『私もうきっとリヒトから離れませんわよ…裏切ったら殺しますわよ』って『私は生涯リヒトの傍から離れませんわ』とも言いましたわ…次馬鹿な事言ったら…リヒトを殺して私も死にますわよ」

「もう言わないよ…でも、もう死ぬまで離さないからな知らないぞ」

「馬鹿ですわね…そこは死んでも離さないですわ!」

「そうだな…ゴメン」

「解れば良いのですわ…それじゃこれから頑張りますわね」

そう言いながらマリアは抱き着いてきた。

駄目だ、綺麗になったマリア相手だと顔が赤くなる。

「あの…マリア?」

「あの状態の私でも愛してくれて、あんな事したのですから…今の私なら10倍、いえ100倍愛して下さいますわよね? リヒト」

「あの…気のせいか性格が変わった気が…」

「これが本当の私ですわ…嫌いになりましたか…」

少し目が潤んでいる。

「いや…本当に100倍好きになったよ」

「嬉しいですわ、それじゃ」

気がつくと俺たちは夕方までお互いに体を貪っていた。

そのまま、宿を引き払って外に出た。

「これからどうしますの?」

「そうだな、南の方に向かって旅に出ないか? 気に入った場所が見つかったらそこに定住しても良いんじゃないかな? 農業しても片田舎で冒険者してもいんじゃないか?」

「そうですわね、魔族領は北ですから南に向かえば向かう程安全ですわね…ですが魔王討伐に参加しなくて大丈夫なのですの…」

「ああっ、ガイアが追放した…そう届けを書かせたから問題ないんじゃないか」

「そうですわね、もうガイア達が勝とうと負けようと関係ありませんし…負けた所で…そうそう人類が滅びる訳じゃありませんから遠くに行ってしまえば…問題ありませんわね」

俺とマリアは手を繋ぎ街から去っていった。

                     FIN

※本編終了  閑話を数話書く予定です。

【閑話】 勇者からは逃げられない。 いや逃げる。

「リヒトお前ふざけた事してくれたな!」

ヤバい…何でガイアが追ってくるんだよ…

魔王城目指して北に進むガイア、それに対して俺たちは南へ進んできた。

本来ならもう会う筈はないのだが…

一応、気配を察したマリアには隠れてもらった。

「あはははっガイア、怒ったりして一体どうしたんだい? エルザにリタは元気かな?」

「元気は元気だが…その件も合わせて話がある」

なんだか雲行きが可笑しくなってきたな。

もしかして…マリアの事は問題ないのか?

「お前、俺との約束を忘れたのか?」

うん…身に覚えが無いな…なんだ。

「余り覚えがないんだが…何か重要な約束をしたか?」

「お前ふざけんなよ!『あのさぁ、もし三人をくれたら、エルフかダークエルフの美女奴隷をやるって言ったらくれたりするのか?』お前は俺にそう言ったよな?」

「確かに言ったけど、確か返事は『くれてやっても良い』だったよな」

「ああ、そうだ俺は『くれてやっても良い』そう言ったんだ」

「それがどうしたって言うんだ?」

「お前らが居なくなってからな、依頼は上手くいかないし教会からも凄く嫌味を言われる様になったんだ…凄く風当たりが酷いんだ」

まぁそれは俺のせいだ…貴重なエリクサールで治療した聖女を追放したらそりゃ厳しくもなる…まぁ言わないけどな。

「大変だな…」

「まぁな…それで、つい売り言葉に買い言葉でな教会と揉めた時に『やってらんねーっ勇者なんて辞めてやる』っていっちまったんだ」

此奴何やってんの、あんな恵まれた環境捨てるなんて。

「直ぐに謝ったんだよな? それで教会は?」

「『他にも勇者は居ますからどうぞ』って言いやがった」

いや基本…勇者大好き軍団の教会が怒るなんて、何やったんだ此奴。

「お前、何やったんだ…普通は教会はそんな事言わない」

マリアの為にエリクサールを寄越すような組織が、そんな事言う訳がないだろう。

「大した事言ってねーよ…ただ、エルフの奴隷が欲しいから金をくれ…そう言っただけだ」

「そりゃ普通に怒るだろう! 一応建前上は教会は博愛主義なんだから」

まぁ、裏で『勇者絶対主義者』の司祭あたりと話せば『仕方ないですね』とくれるかも知れないけどな。

「なぁ、リヒト…お前が間に入っていた時には、もう少し融通が利いた気がするんだが…」

「確かに上手く交渉はしていたけど、流石にエルフの奴隷はないわ…ガイアが勇者じゃ無くなったのは解ったが…どうしたいんだ? それと俺にどんな用があるんだ?」

何となく解かるが…マリアが怖いから無理だ。

「話は戻すがよ…約束したじゃないか? 幼馴染をやったらエルフの奴隷を買ってくれるんだろう…残り二人もやるから…買ってくれよ…なぁ頼む…この通りだ」

「ちょっと止めろよな…」

いきなり往来で土下座は止めて欲しい。

少し離れてマリアがこっそり見ている。

話までは聞こえてないだろう。

「ガイア、二人をくれるというが、奴隷になんて出来る訳ないだろう? まして今のお前は勇者ですらないんだからな…諦めろよ」

「駄目なんだ…本当に初恋なんだ、親友だろう? 幼馴染だろう?どうにかしてくれよ…なぁ頼むよ」

仕方ないな…俺がマリアを連れ出して更に交渉をしなかったからこうなったんだよな…

「それで幾らなんだよ…」

「金貨300枚だ」

おい…俺は金貨20枚渡したよな…少しはだせるだろう。

「俺は足りない分の事を言っているんだ、前に金貨20枚やっただろう?」

「そのお金は使ってしまって無い」

まさか、あのまま通い詰めたのか?

「仕方ない…その金は貸してやる…ただその借金が返せるまで俺やマリアの前に顔を出すなよ」

「解った…俺はちゃんと約束は守る男だ」

俺はガイアにお金をやった気で金貨300枚を渡した。

◆◆◆

「どうしたのです? ガイアもリヒトも様子が可笑しいですわ」

俺は今までの経緯を伝えた。

「そんな大金勿体ないですわ」

「まぁ返せないから恐らくもう来ないだろう…結果的にマリアも引き抜いちゃったし手切れ金として…まぁ仕方ないよ」

「そうですわね…これで終わりと考えたら仕方ありませんわ」

だが…これで話は終わらなかった。

◆◆◆

それから旅を続けて4か月がたった。

マリアと一緒に宿屋に居るとお客が来たと受付から声が掛かった。

訪ねてくる存在なんて居ない筈だ。

誰だろう?

「リヒト様で間違い無いですか?」

「はい…そうですが、どなたでしょうか?」

「私達は、王国奴隷商会の者です…ガイア様により奴隷を2匹お届けに参りました」

奴隷? ガイア…

「奴隷?」

「はい、こちらの奴隷でございます」

嘘だろう…

「リヒト…頼む助けてくれ…お願いだ…」

「リヒト…リヒト…お願い…助けて」

「てめえら勝手に喋るんじゃねー」

「ううっうわぁぁぁぁ」

「痛いよー――っ」

嘘だろう…

そこに居たのは変わり果てたエルザにリタだった。

だが、かっての面影は何処にも無い。

「これは一体どういう事ですか?」

「知りたいなら、彼女達の主人になる事ですな…私どもにも守秘義務がある…但し私達は国が認めた正規の奴隷商、非合法で無い事はお約束しましょう」

「リヒト…なんなのですか?これは、仮にも剣聖と賢者が可笑しいのですわ」

「なぁマリア、流石にこのままにはしておけないな」

「仕方ないですわ…奴隷ならよいですわ」

「それなら、血を頂きます…奴隷紋を刻みますので…」

俺が血を与えると奴隷紋を刻み奴隷商人は帰っていった。

帰り際に…

「そうそう、ガイア様から言づてです『壊れているがちゃんと約束は果たしたこれで借金はチャラな』だそうです」

そう言い捨てて。

◆◆◆

二人は立っているのも難しく、奴隷証人が去るとそのまま倒れ込んだ。

「マリア…俺が二人とも担いでいくから、部屋のドアを開けてくれ」

「解ったわ」

女性に対して酷い対応だが…すぐにボロキレの様な服を脱がした。

「うぷっ…これは酷い」

「これは本当に酷すぎますわ…本来なら私1人でと言いたい所ですが…リヒトにも手伝って貰いますわ」

体が汚いだけじゃなく体中に痣がある。

しかも…傷や痣以外にも虫が寄生していた…マダニか?

俺は数少ない贅沢で風呂がある部屋を借りている。

「マリア、此奴ら風呂場に運んで良いか?」

「汚いし、虫がたかっていますわ…呪文で傷は治せそうですから、虫を採って潰してから体を洗って欲しいのですわ…私は街で念の為ポーションを買ってきますわよ」

「了解」

◆◆◆

「うぷっ」油断をすると吐き気がしてくる。
2?位のマダニみたいな虫が百以上寄生していた。

どうすんだ…これ!

やるしか無いか…

余り体に良くないが、薄めた狩で使う毒を塗った。

すると豆みたいな虫がぽろぽろと落ちだした。

お湯を使って髪を洗ったが…此処には虱の様な虫が跳ねていた。

何だか自分の体も痒くなってきた気がしたが…我慢して髪を洗うが綺麗にならない。

虫以外にも何やら黄色い汚い物がこびりついていてお湯で溶かしてみると…

『うぷっおえぇぇぇぇー-』

これ男のあれじゃないか…

体をお湯で洗い流すと…お湯が糞尿の匂い…肥溜めの匂いに変わった。

めげずに何度も洗うとようやく、見れる位には綺麗になった。

だが、それでも匂いは消えない。

まだ気を失っている二人を抱っこしながら…ベッドに寝かす。

二人とも大きな傷が体に無数にある。

特に両手両足のケンが斬られた様な跡があった。

◆◆◆
マリアが帰ってきたが見た瞬間から匙を投げた。

「これは無理ですわね…凄く下手な治療で治療が終わってますわ…こんな雑な治療じゃ一生歩けませんわね、多分手も真面に動きませんわね」

「一体何があったんだ」

「体の傷から見ると、恐らくは慰み者にされて居たようですわね」

そんな、剣聖と賢者だぞ…

暫く見ていると二人は涙を流し嗚咽を漏らしていた。

◆◆◆

起きるのを待っていたら、まず目を覚ましたのはエルザだった。

「エルザ…何があったんだ」

「あああっあれは地獄だった本当に地獄だった、魔族より…人間の方が…クズだ、ガイアはああああああっクズだぁー――っ」

その声でリタが目を覚ました

「いあやぁぁぁぁー――っ、何でもいう事をききますから殴らないでいやぁぁぁぁー-っ」

二人が落ち着くのを待って…話を聞くことにした。

「あれは地獄だった」

「ガイアはクズだよ…」

ポツリポツリと二人は話し始める。

簡単に言うと、薬をガイアに盛られた挙句…両手両足の健を切られた状態で盗賊のアジトに放り込まれたそうだ。

そんな男ばかりがいる場所で逃げる事が出来ない女が放り込まれればどうなるか…最初は警戒していたが…その日のうちに何十という男に犯されまくったらしい…それが長い間続いたあと、トイレの横に繋がれ、雑に扱われる肉便器になった…だが犯され続け汚れ風呂にも入れて貰えず使われ続けた彼女達は…やがて誰もが使わなくなったらしい

「こんな汚い女とやる位なら豚を抱いた方がましだよな」

「これ、もう汚物でしょう…殺しちゃおうよ」

「「たた、助けて下さい…」」

それからは、本当の慰み者になった。
ナイフで体を斬られて、痛がる姿を笑いながらみられたり…オイルを垂らして火をつけられたり…ただ弄ばれるだけの生活…

確かに如何に二人でもあの状態じゃ抱けない…

「なんでそんな事になったのですか」

「ああっ、あのクズが勇者を辞めてしまって、エルフの女を買ってきたんだ…それからだよ…暴力を振るって、金を稼いでこいって」

「本当にクズ…」

「ガイアが勇者じゃなくなったんなら、放って逃げれば良かったはずですわ」

「甘かったんだよ…立ち直ってくれる…そう信じたかったんだ」

「うん、だからそのまま冒険者でも良いって思っていたのに…リヒトがー-っリヒトが悪いんだよー-っ」

「待てリタ…リヒトは…悪くない」

「解っている…解ってはいるんだよ…だけどさぁ」

話を聞くと…俺のせいだった。

エルフの女を買ってきた後、ガイアは俺の所に行って奴隷になれと二人にいったそうだ…最初は冗談だと思い相手にしていなかったら…こんな事になったらしい…

「待って下さい…そんな状態だったのなら、なんで奴隷になっているのです? 可笑しいですわ」

「それがあのクズの策略だったんだ…私達が慰み者になってから…彼奴は盗賊を皆殺しにした」

「まさか…」

「そうだ…盗賊に捕らわれた者や盗賊の財宝は討伐した者の物になるガイアは『薄汚い豚』と私達を罵って…うっうっ奴隷紋を刻んで…奴隷商に命じて汚いまま此処に連れて来られたんだ」

「リヒトは悪くない…だけどガイアがリヒトに借金があるからって…」

「それはリヒトは悪くありませんわ…ただガイアに手切れ金代わりにエルフの身請け金をあげただけですわ…恐らく返さないそう思っていましたわ」

「なぁ、マリア…それは別にしてエルザもリタも置いてやって良いか…このままじゃかわいそうだ…」

「仕方ありませんわね、奴隷にしてしまったのですから、面倒見るしかありませんわね」

「なぁマリア…二人は真面に動けないんだよな」

「ええっ私が治せない以上まず無理ですわ『エリクサール』は別ですがね」

「ううっ済まない」

「ごめんなさい…」

「別に気にしないでよいさ…俺も原因の一つらしいしな、纏めて面倒みてやるよ」

「「リヒト」」

「それじゃ…今度こそガイアに会わないように更に南にいきますか」

「そうですわね…とりあえずは荷車は必要ですわね…準備が出来たら行きましょうですわ」

「何処に行くんだ」

「何処に行くの」

「皆が楽しく暮らせる安住の地へ」

「「安住の地?」」

「そう…安住の地ですわ!」

エピローグ

更に南へ進んでいきガルドラン帝国に入った。

そこから更に進んで、今は湖があるサガミンという村に来ている。

村とは言うが…寂れてはいるが街が隣接していて買い物には困らない。

帝国は王国とは仲が悪いからある意味縁切り出来た状態だ。

此処迄くれば流石にもう探すのは難しいだろう。

暫く宿屋で暮らしをしていたが…街の人も村の人も優しいので定住を決めた。

マリアは治療師として看板を掲げて治療院をしている。

エルザとリタは転びそうになりながら手伝いをしている。

まぁ転ぶし重い物は持てないし役立たずだ。

土地や家を買おうとしたら…無料で貰えてしまった。

村長曰く…

「若い者がいつかない村ですから来ていただけただけで嬉しい」

との事だ。

ただ一つの誤算は…俺達の正体は簡単にばれた。

まぁ勇者パーティだから仕方ないな。

その結果、俺は村の警備隊隊長に無理やりさせられてしまった。

これは仕方ないな。

◆◆◆

「マリア…あの二人いつ治してやるんだ」

傷跡は治らない…だが健がキレている状態は『治ってない』だからこれは聖女が使うハイヒールなら治せる。

「そうですわね…反省もしていますからそろそろ治してあげますわ」

擦り付けの恨みで治さなかったのだろう。

俺が気がつく事に聖女のマリアが気がつかない訳は無い。

「そうしてやってくれ…流石に可哀そうだ」

「それじゃ、後で治してあげますわ…それでリヒトは治したら…するのですか?」

困ったな…正直言えば抱きたい。

下心が無いと言えば嘘になるが…それ以外にも理由はある。

「マリアしだいだ…俺はマリアに愛を誓ったからな…ただ抱きたいという気持ちはある」

「まぁこれも仕方ありませんわね…ああ毎晩夜泣きされたら眠れませんわ、それに女としてあれに対して苦痛の記憶しかないのには同情しますわ、但し抱く時には必ず私に報告してくださいね…それが彼女達を抱く条件ですわ」

「解った」

結局、その後はなし崩し的に3人一緒に相手して4人で寝る生活が当たり前になった。

三人より綺麗な美女は沢山いる…

だが『思い出』と言う名の宝石を持った人間は他にはいない。

そんな奴はお前だけ…そう言われるかも知れないが…それが俺には凄く価値があるんだ。

ちょっと贅沢出来る暮らしに…三人がいる生活。

これ位の幸せで俺は十分だ…後はもう…要らないな。

「また難しい顔をしていますわね」

「まぁな…今、凄く幸せだな、そう思ってな」

「当たり前ですわ、リヒトは私を愛しているのですわよね? 不幸とか言ったら殴りますわ」

「そうだな」

うん、俺は凄く幸せだ。

                 FIN

※ エピローグを書いてしまいましたが…もう一話話を書きます。
その後にあとがきを書いて終わります。

閑話 ガイアの最後

「ガイア様…今迄ありがとう」

「ティファー、頼むから死なないでくれ…」

折角…身請けしたエルフのティファーが…もうじき死んでしまう。

「なぁ、どうにかならないのか?」

「元とはいえ勇者様なので、最高のヒーラーを用意したのですが…流石に老衰では無理です…お諦め下さい」

「そんな…頼むから死なないでくれ…なぁ頼むよ」

「ごめんなさい…貴方が死ぬまでは生きてあげたかった…これでもエルフだから、その位は大丈夫だと思ったの…だけど…許して…」

「ティファーー――っ」

「ご臨終です」

ティファーの年齢は800歳を超えていた…だがエルフの寿命は1000年近く生きると考えたら…あと200年近く生きられる、当人も、周りの人間もそう思っていたらしい…

だが…人間の人生が50年だとして…40歳を超えたらもう高齢だ。
※ この世界の人族の平均寿命は50年です。

そう考えたら、いつ無くなってもおかしくはない高齢だった。

ただ、その単位が人族と異なっていた為に『まだ大丈夫』そう思っていた…そう言うことだ。

あはははっ…俺は馬鹿だ…

勇者の地位も無くし…プライドを捨て借金をし…その借金をしているという事実が嫌で…幼馴染で将来は側室になる予定だった二人を地獄に落として…そこまでして手に入れた彼女は居ない…

『もう、何も無いな…』

生きていても仕方ない…

そうだ…

生きていても仕方が無い…死のう。

俺は…聖剣を抜いた…光輝かない…

俺みたいな奴とお前も一緒に居たくは無いよな…

俺は輝かない聖剣を首にあて…そのまま引いた。

『俺は馬鹿だった』

勇者だった男が全てを失った瞬間だった。