1話 婚約者の地位が奪われたから、聖女の地位もあげますね
私の名前はマリア…この国の公爵家の娘で「聖女」だ。
そして、ある理由がが元で王太子フリード様の婚約者をしている。
この話を聞くと凄く幸せに感じる人も多いと思います。
だけど、私は、聖女に何て本当に成りたくなかったのよ。
そして、王太子の婚約何て全く関心もないし興味が無かったわ。
いや寧ろ面倒だから、「王太子の婚約者になんて本当は成りたく無い」それが本音。
この日は、何故か、態々王宮に呼び出され、妹の横に居るリード殿下からお叱りを受けている。
何で怒られるのか…本当に解らないよ、だって凄く忙しい毎日を送っているから王子や妹に殆ど接していないし、余り宮中の事は興味ないから宮中に出入りじたいもして無いんだけどな…
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。申し開きはあるか、マリア」
ロゼへの嫌がらせ? 全く覚えは無いわ、本当に忙しいから構ってなんていられないし、実家ともそんなに仲良く無いから余り話もしない。
時間が惜しくて仕方ない私は、そんな物に時間なんてとられたく無いもの。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
本当に身に覚えは無いわ、そもそも私は実家に嫌われているせいか、廊下で会っても妹のロゼは挨拶も返して来ない。
最初はそれでも挨拶位はしていたけど、返さない相手に馬鹿馬鹿しいから私も挨拶をしなくなった、ロゼとは交流その物がない。
当然妹のロゼに何かをした記憶など全く無いし、聖女として既に働かされていて、忙しいからそんな事している暇なんて、全く無いわ。
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながらお前という女は良心が全く無いのか!」
本当に身に覚えが無いわ…聖女の仕事が忙しすぎてそんな事する暇なんて本当に私には無いもの。
「フリードさま…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私は実家に嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、聖女の仕事が本当に忙しいから宮中にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
周りは静まりかえり、王子の取り巻きたちは距離を置いて私たちを見ているわね。
誰もが、黙ってその様子を見ていた。
「待って、フリード殿下そんなに姉を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
何なのかな?この茶番…取り巻きなんて、私には一人も居ないわよ? 傍に居るのは王妃様がつけた私の護衛だし…まぁ無視は貴方が挨拶もしないから心当たりはあるわね。
だけど、ロゼは挨拶しても返してくれない相手なんだから、話掛けないのはお互い様だわ。
フリード殿下の言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出しているけど、これで、何で私が一方的に言われるのか、本当に解らない。
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
もしかして婚約破棄なのかしら…本当に?
ついている…私は凄くついているわ!
向こうから言い出した、これは「私のせいじゃない」私から言い出してないから責任は全部むこうだ。
慎重に、慎重にしなくちゃ。
「では、フリード殿下はどの様にしたいのですか!」
焦るな私、次の言葉を..早く
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
私が聴きたいのはそれじゃない!早く、早く…
「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」
殿下は雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。
まるで舞台に立つ役者のよう。
「今日この時より、フリード・ルーランはマリア・ポートランドとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ポートランドとの婚約を宣言する」
そうよ、それよ私が聞きたかった言葉…籠の鳥の私を解き放つ可能性のある、その言葉。
「それは王や、王妃様もご存じなのでしょうか?」
言質を取らなくちゃ、王や王妃は多分知らない筈…いや王や王妃が知っていたらこんな事を絶対にさせない。
だから…言質を取らないと…まだ王妃や王様は来ていない。
私にとって最高のチャンスだ。
「まだ、知らせていない..だが」
時間が勿体ない…王や王妃が来たらこの話はひっくり返される。
「まどろっこしいです…王家として正式のお言葉か聞いております」
挑発してでも、早く、早く終わらせないといけない…
「貴様、元婚約者とは言え、不敬だが…良かろう王家として正式の言葉として伝えよう」
やった、これだけの沢山の貴族の前での宣言だ如何に王太子とて取り消しはきかないだろう。
私はこれで籠から出られる。
「謹んで、マリア.ポートランド婚約破棄をお受けします」
これで、自由が手に入る、これで私は自由だわ。
勝った…私は勝ったのよ。
ロゼには悪いけど、欲しがったのは貴方だわ…私じゃない。
私が簡単に受け入れた事で留飲が下がったのかフリード殿下は静かになった。
そして、少しだけだけど言葉を弱めた。
良いのよ、幾らでも聞くわ…だって私を自由にしてくれたんだからね。
「そうか…潔いのだな」
断罪でもしたつもり!普通なら泣き喚く、そういう場面ね…だけど私は嬉しいのよ、本当は感謝が言いたい位なのよ。
但し、私には罪は無い、そこだけは後で「利用される元」だからキッチリさせて貰うわ。
「別に、罪は認めた訳ではありません…私はフリード殿下は嫌いじゃ無かったですが…この国の王妃の激務には耐えられそうもありませんでした…だから、その責を他の方が変わってくれるのなら譲ろうと思っていたんですの…ロゼ、誓って下さい! 貴方はフリード殿下を愛してこの国の為に生きれますか?」
自分に酔っているロゼならちゃんと答えるだろう。
良いのよ、フリード殿下なんて嫌いでは無いけど「愛してもいない」から、ロゼ貴方にあげるわ。
「私はフリード殿下を愛し…この国の為に生きると誓います」
「偽りはありませんか?」
「偽りはありません」
それなら良し…本当に愛しあっているなら、うん本当に良かった。
「では、貴方に婚約者の地位と「聖女」の地位をお譲りします」
「「聖女」の地位まで譲ってくれるの?」
「この国の王妃になるなら「聖女」も当たり前ではないですか?」
「あの..お姉さま..ありがとう」
私はこれを手放したかったのよ、寧ろ受け取ってくれないと困るわ。
「聖女」の地位これを受取ってくれるなら、全部あげるわ。
無実の罪に2人して陥れたのだから良心の呵責があるでしょう?
だけど別にいいのよ…そんな事..うん、私を自由にしてくれたんだから…
「マリア…」
「もう、何も言わないで良いですわ…妹は貴方にふさわしいわ…お幸せに」
「済まないな…」
「私はこの国から出て行きます…流石に追手までは掛けないで下さいますか?」
これで本当の自由…ようやく自由に生きられる。
「そこまでしなくても良い」
いえいえ、私がしたいのよ
「いえ、妹にした意地悪は身に覚えがありません、ですが未来の王妃が言ったのですから私に何か手落ちがあったのでしょう..それで許して下さいませ…フリード殿下、妹、いえロゼ様と呼ばせて頂きます」
「フリード様、私はもうこれで良いです、姉の言う通りにしてあげましょう…私は許します…ただのボタンのかけ間違いかも知れません」
「解かった..認めよう」
やった、やったわ…もう遅いわ、此処まで話が進んでしまえばもう絶対に覆せない。
事件の事を衛士が伝えたのか、いきなり国王ユーラシアン6世、王妃マドリーヌ、それにオルド―伯爵を含む古き有力貴族がなだれ込んできた。
だが、もう遅い…既に終わってしまった後だ。
「婚約破棄とは何事ですか?」
「たった今、マリアとの婚約破棄をして新たな婚約者にロゼを指名しました」
驚いているでしょうね…貴方達が私に付けた枷を枷自らが壊したんだから。
「フリード…それは正式な言葉として発してしまったのですか?」
「はい、王家として正式な言葉として伝えましたが何か問題でも?」
ええっ正式の言葉よ..間違いないわ
「マ、マリアはそれを受けたのですか..受けないわよね」
「いえ、しっかりと受けさせて頂きました…聖女の地位もロゼにお渡ししました」
私が絶対に受けるのは解っていますよね。
「そ、そうなの…貴方以外に聖女になれそうな者は居なかったのですが…仕方ないですわね…決して貴方が罠を仕組んだ…そういう事では無いのね」
「はい、私は嵌められた方ですね」
まぁその話には乗りましたけど..
「まぁ良いわ…それでどうするの貴方は?」
「国から出て行く許しも得たので隣国にでも行ってヒーラーにでもなるつもりです」
「規格外の魔力に聖女の技術を会得した貴方なら可能ですね…さようなら」
「待て、女公爵の地位を与える、息子も廃嫡する..この国に居ては貰えぬか?」
「私は聖女には向いておりません、王妃様に師事してどうにか聖女に成れましたが…心までは身につかなかったようです…欠陥品の私は真の聖女にはなれそうもありません」
こんな感じで良いわよね!折角自由になれるチャンス、絶対に手放しませんわ。
「そうか…息子が王族として言ってしまった事だ仕方ない…今迄ありがとう! 王として礼を言う!」
「有難うございます..お世話になりました」
「実家には顔を出さぬのか?」
「出さないで国を出るつもりです..聖女になった時から形だけの親子ですから」
実質縁がきれているような物だしね…
「そうか、ならば好きな場所まで馬車で送ろう…金貨も30枚出す、宝物庫の中から好きな物を一つ譲ろう…今迄ありがとうございました..」
「これ迄本当にお世話になりました」
「ご苦労様でした…言えた義理ではありませんが..幸せに暮らしなさい」
「有難うございます王妃様、いえ師匠」
「師匠と呼んでくれるのね」
それでは聖女の能力を譲渡して終わりね
「はい…では、「偉大なる女神ノートリアよ! 聖女マリアの聖女の義務を、新たな聖女ロゼに移行します」」
マリアの中から黒い靄が現れ、その靄がロゼにまとわりついたが他には何も起こらなかった。
「お姉さま、何をされたのですか?」
「聖女の義務を譲渡したのです! 暫くは大丈夫ですが後は頼みます…解らない事が起きたら王妃様にお聞きなさい!」
これで全てが終わったわ。
「…..」
「それでは私はこれで失礼させて頂きます…最後にロゼ!」
「何でしょうか?」
「ありがとう…貴方は最高の妹よ!そしてフリード様もありがとう!」
「「えっ!」」
「さようなら」
これで本当に終わり…私は自由だわ。
「あの母上、聖女とはいえ…何故あそこまで去るマリアを厚遇するのですか」
「貴方には説明していませんでしたね…聖女とは国に全てを捧げて国を守る盾です」
「国を守る者…それは一体」
まさか、真実を話す前にこんな事になるなんて
「それについては、これからロゼが引き継ぐ事になる」
「はぁ..私はマリア以外聖女が務まる人間は居ないと思っていたのに..」
「母上?」
「貴方達はこれから気の休まる日々は無いと思いなさい」
「王妃様..冗談ですよね、その位大変という事ですよね」
「………」
王様も王妃も黙っている。
そして、その周りにいる古くから仕えている貴族も沈黙している。
これから起きることは決して軽い事では無い…
2話 賭けに負けたから聖女になったのよ!
ようやく、ようやく大嫌いな「聖女の地位」と別れられたわ。
私からフリードの婚約者の地位を奪うなんてね、本当に有難う、ロゼ貴方には本当に感謝しか無いわ、本当よ!
私を聖女から解放してくれたんだから本当に感謝しているわ。
しかし、ロゼは本当に馬鹿だわ、私の何処が羨ましかったのかな。
私は「聖女」になんてなりたくなかったわ。
だけど、家を出た私は「魔力が大きい」だけのただの女、お世話になっていた王妃様から逃げるすべは殆どない。
その道しか無かったのよ。
どんなに嫌でも「聖女」からは逃げれない、半分諦めかけていたわ。
だが、聖女になるに辺り、この国では「聖女になるならばどんな願いも一つ叶える」そういう決まりがあった。
だから、此処で私は考えたのよ、「絶対に叶えられない願い」は何かってね。
無茶であれば無茶である程良い。
「聖女」は子供を作る事は出来ない、逆に「王太子」は絶対に王家の為に世継ぎが必要。
ならば、私が「王太子」が欲しいと言えば、王家は断るかも知れない。
普通なら絶対に受け入れられない王太子との結婚を条件にしたのよ。
これなら、流石に無理でしょう? これなら逃げられるそう思ったのに…
嘘でしょう?…まさか受け入れられると思わなかったわ。
だって「処女」でなければ聖女じゃなくなるから、跡取りが居なくなると困る王太子との結婚なら「聖女」にならないですむと思ったのよ…
結果は、まさか、そこまでして聖女が欲しかったの。
王家の体面も考えずに、まさか王太子まで差し出すとは思わなかった。
王家の跡取りと「後継ぎは絶対に作れない聖女」の婚姻普通は受ける筈は無い。
そうか、他にも王子が居るから、そう言う事か。
王太子を聖女に差し出しても「第二王子が居るから関係ない」そういう事ね。
フリード王太子には悪い事したわ、王子の立場が入れ替わってしまった。
恐らく、これでフリードは王太子から廃太子、普通の王子になる。
しかも、子供を作れないから「1世代のみの王子」になることになるわ。
まぁ解ったら、フリード王太子は怒るかも知れないわ…確かに凄く悪いとは思うけど…
もう、この国から居なくなる私にはもう関係ないわ。
大体、「聖女」なんて商業は最強の貧乏くじなのよ! 決して皆が考えている様な良い職種(ジョブ)じゃ無いわ。
確かに「聖女」になればまるで女神のように皆は崇めるし、色々な方が傅くわね。
王や教皇とも対等に話せる、ある意味女性として頂点にたった、そう見えるでしょうね。
だけど、その代わりに払う犠牲がどれ程の物か解らないのよ…
結婚に出産、女性としてなら普通に持っている幸せな権利を捨てる、それは当たり前。
そして、その後の人生は、本当にこの世の地獄だわ…
多分、これからその地獄の中でロゼは生きる事になるのよ。
私はそんな人生はごめんだわ…
だからね、ロゼ、自由をくれてありがとう…
地獄から解き放ってくれてありがとう…
本当に感謝しかない。
だけど、実家の父も母も悲しむと思うわ。
嫌われている、私でなく、大好きなロゼが「聖女」になったと知ったら…
きっと、お父様もお義母様も悲しむ…だけど、貴方が選んだからね。
この国を去っていく私にはもう関係ないわ
3話 聖女地獄 始まる前
「ロゼ様、こちらにお越しください」
「解りました、参ります」
お城付きの侍女に部屋に案内された。
「それではロゼ様、こちらでお召し物をお脱ぎくださいませ」
「いきなり、何を言うのですか!…無礼ですよ!私は、王太子フリード様の許嫁です」
「これは王妃マドリーヌ様の命で行っております、勿論国王様も知っての事です、ロゼ様の事は勿論存じておりますが従って頂きます…お召し物をお脱ぎください」
「人前で肌を晒すなど私には出来ません」
「私を始め、此処には女性しかおりません、お気になさらず御脱ぎ下さい、脱いで頂けないのであれば無理やり脱いで頂く事になります。」
「解りました、そういう事であれば仕方ありません」
ロゼは恨めし気に侍女を睨みながら下着姿になった。
「さぁ脱ぎましたわ、これで宜しいのですわね」
「下着も御脱ぎ下さい」
「私はフリード様の許嫁です! フリード様にも晒して無い肌を何故晒さなくてはならないのです」
「これは王妃様、しいては国王様の命でございます、脱いで頂けなければ強制的に行わせて頂きます」
「解りました、脱げば宜しいんですね」
「そうして頂ければこちらも助かります」
ロゼは涙ぐみながら全ての服を脱いだ。
人前で裸になるなど、貴族として育ったロゼにとっては初めての経験だ。
「脱ぎましたわ…これで満足かしら」
「それでは、皆さんロゼ様を押さえつけて下さい」
「ちょっと待って、何をするの? 私を裸にした挙句さらし者にする気ですか」
「いえ違います、これを身に着けて頂きます」
「それは!嫌よ嫌、そんな禍々しい物付けたく無いわ、何でそんな物付けるのよ」
「これは貞操帯、ロゼ様の貞操を守るために付ける物でございます」
「嫌ーーーーーっ」
その日の内にロゼには貞操帯が装着された。
泣いていても仕方ない、私はフリード様の婚約者、未来の王妃です、なんでこの様な扱いを受けたのか聞く必要があります。
「これはどういう事なのでしょうか?」
出来るだけ、何事もない様に聞きます、決してうろたえてはなりません。
「ロゼ様は聖女様なのですよ? 死ぬまで処女でいなくてはなりませぬ!当たり前の事ではないですか?」
えっ、何で…そんな話は誰からも聞いてません、侍女が嘘をつく必要は有りませんから真実なのでしょう。
だけど、そんな理不尽な話、認める訳にはいかないわ。
「そんな話は聞いていません!」
侍女に言ったってどうしようも無い、そんなのは解っております、ですが聞かずにはおれません。
「女神ノートリア様は処女神ですので、その御使いである聖女様は永遠に清らかな体でなくてはなりません」
この侍女は一体何を言っているのでしょうか? フリード様は王太子です、未来の王であり、婚約者の私は未来の王妃です。
二人の間に子供が作れない、そんな訳はありません! そんな事をしたら王家が途絶えてしまいます。
「それは可笑しいです…それでは私はフリード様のお子を作れません」
それは困る筈です、私とフリード様の子が未来の王太子なのですから。
「その必要はありません、王家の跡取りは他の王子が作ります」
話しの意味が解りません…フリード様は王太子です、それが子作り出来無いなんて可笑しすぎます。
「可笑しな事を言わないで下さい、フリード様は王太子なのですよ!」
そうよ、これは何かの間違いよ!
「私ごときが申して良いか解りませんが、聖女様と婚約したのですから、フリード様は恐らくは廃太子になり、只の王子になると思います!」
嘘でしょう、そんな訳無いわ…そんな話聞いた事ありません。
「そんな事って無いわ!そんな、姉も同じような話しだったの?」
そうよ、マリアが婚約者だった時にそんな話を聞いた事ないわ。
「いえ、マリア様の男嫌いは有名でしたからね…婚姻までは行わない予定でした、速いか遅いかの差はありますがマリア様もいずれは同じ様になる筈でした、ですがロゼ様は普通に恋愛をされていた方なので早目にするように言われております」
そんな、そんなのって無い..
「嘘でしょう…」
「嘘ではございません! それにこれは貴方の命を守る為でもあるのです」
こんな物が何で私の命を守る事になるのよ、可笑しいわ。
「命ってなによ!」
「ロゼ様がもし、性交をしたら、聖女の力を失います!その様な場合は死刑と言う事もあり得るのです!」
冗談よね、フリード様と愛し合ったら、死刑と言う事なの…
「嘘よね…冗談よね..」
「冗談ではございません!」
此処には私の味方は居ません、フリード様に助けを求めなくてはいけません。
「フリード様、皆がロゼを虐めるのです、助けて下さい!」
フリード様ならきっと何とかしてくれます。
「私も今、王太子を追われるという事を聞いた、一緒に話を聞きに行こう!」
きっと何かの間違いです、あれっですが、フリード様も同じ事を?
二人して王や王妃様がいる部屋を訪れました。
フリード様は、かなり慌てているようで、ノックもせずにドアを開けていました。
「父上、母上、話は聞きましたがあんまりでは無いですか?」
「無礼者ですよ!フリード!王太子でも無くなった貴方が王や私に意見ですか? まぁ今日は見逃しましょう」
「今日はこれで良いが次からは気をつけろ…まぁ親子ではあるから今日は良い、なんじゃ!」
こんな状況で聞く事等一つしかありません。
勿論、フリード様はストレートにその事を聞きました。
「何故私が王太子から王子にならないといけないのでしょうか?」
「聖女と結婚したのだから仕方ない事だと思いますよ? 聖女は清らかな体じゃないといけないのですからね!」
さっき侍女が言った事となんら変わりません。
「そんな…可笑しいじゃないですか! マリアと婚約者だった時にはそんな事言われませんでした!」
そうなのです、私が気になったのはそこです、姉のマリアの時はそんな話はありませんでした。
「はっきり言いましょう! 貴方は「聖女」になる条件でマリアにあげた恩賞に過ぎなかったのです! 勿論、遅かれ早かれ同じには成りました」
此処からは私にとってもフリード様にとっても聞くに堪えない内容でした。
「マリアの恩賞?」
「はい、聖女の使命はこの世の地獄です! 前の聖女である私の妹の事は覚えてますか?」
「イライザ叔母様の事なら覚えています…凄く老け込んで、更に何時も何者かに怯えていました」
「そうです…その理由は「聖女」だったからです! 聖女は常に王国に結界を張り続ける為に魔力放出状態にあります、有事の際には勇者と共に戦う義務が発生します、そして、治療困難な病の治療もしなくてはなりません…他にも、これは恐らくこれから先に体験する事でしょう」
「そんな…そんな話なら私は聖女になんてなりませんでした」
私が成りたかったのは、フリード様の妻であって「聖女」ではありません。
そんな過酷な話なら…引き受けたりしませんでしたよ。
「もう引き継いだ後ですから遅いのです…マリアはイライザを傍に見た私が、小さい頃にその才能を見出し聖女の責務に耐えられる様に鍛え上げた女の子だったのよ? そして今迄、弱音も吐かずに懸命に耐えてきました、正に聖女の鏡でした! 聖女の才能も無く何の訓練もした事も無いロゼや貴方に耐えられるか凄く心配だわ!」
そんな、そんなに過酷なのですか。
「母上、今からでも「聖女」の地位だけマリアに返す訳にいかないでしょうか?」
そうです、「聖女」だけ姉のマリアに返せば良いだけです。
それで全てが上手くいきます、それが良いです。
「マリアが聖女になる恩賞が貴方だったのよ! 下賜した者を取り上げた上に戻れなんて言える訳は無いわ! そんな恥知らずな事は言えないわね…まぁ貴方達が上手くいっていたからと言って放置していた責任は私にもある…だからロゼとの婚姻とロゼが聖女になる事は認めました…後は頑張りなさいとしか言えないわ」
「儂はマリアの頑張りを知っておる…既に聖女はロゼに移った、マリアが生きていた恐ろしい世界を引き継いだのだ頑張れとしか言えぬ! 生涯、性交も出来ず、子も産めない…そして地獄の様な生活が始まるのじゃ、王としては今後も手助けはするつもりじゃ…だが、死ぬ事だけは許さんからそのつもりでな」
「もう賽は投げられたのです…手助けはしますから頑張りなさい! 恐らく、ロゼは3日後から今迄の「マリアの世界」で生きる事になります…心しなさい」
マリアの世界って何でしょう?
どんな地獄が待っているのでしょうか?
横を見るとフリード様も青ざめています。
本当に心配で仕方ありませんが…もう引き返す事は無理なのだとそれだけは解りました。
二人は、まだ始まる前から恐怖を感じていた。
4話 不幸の始まり
「何よ! 何も起こらないじゃない!」
散々脅されていたのに、何も起こらない。
確かに、優秀な聖女を私達のせいで失ったから、その意趣返しで脅されたのかも知れない。
ロゼはそう思う様になっていた。
子供が作れないのは悲しいが、それ以外は決して悪い生活じゃないわ。
貞操帯は装着されている物のフリード様と楽しく過ごせているし、寝る時もベッドこそ別だが同じ部屋で過ごす事さえ許して貰える。
実質、普通に王家に嫁いだのと何も変わらないじゃない!
本当に警戒して損したわ。
食事は実家の物と比べても更に豪華だし、欲しいと思う物は大体が言う前に用意されている。
多分、この生活は死ぬまで許されるに違いない。
私は聖女、だからこその待遇だわ。
「子供が作れない」「フリード様が王太子から落とされ王子になった」この二つを除くなら最高の生活かも知れないわ。
よく考えたら、私は子育てに向いて無さそうだし、王妃になって大変な仕事をするよりは、王族の末席に座って、聖女としての待遇を受けていた方が幸せかも知れないわ。
今の生活をロゼが受け入れた頃、またしても侍女達が流れ込んできた。
「これは何事ですか!」
ロゼの頭に嫌な予感が走った。
侍女たち絡みでは碌な事が無い。
侍女たちは箱に入った大量のポ―ションを運び込んでいた。
「王妃様に言われましてポーションを運んできました」
「ポーション? それは解りますが、この数はは何ですか? まるで治療院じゃ無いですか!
「私も解りませんが、運ぶように言われて持って参りました、きっと王妃様には何か考えがあっての事かと思います」
「そう!解ったわ」
体からまるで生気が抜かれて行くように力が無くなっていく。
ようやく意味が解ったわ。
今日で3日目。
魔力が枯渇していく…この国の結界を維持する為の魔力が全部私から抜け出ていく。
ポーションを飲んでも飲んでも片っ端から魔力が抜けていく。
まるで穴が空いた壺になったように魔力の補充が間に合わない。
体はまるで重しを付けられたように重い。
歩こうとしたら、まるで沼の中を歩いているかのように進めない。
良く姉が体調を悪そうにしていたが、良く体調不良で済んでいたものだ…私は禄に歩く事も出来ない。
仕方なくそのままポーションをひたすら飲み続けながら寝ていた。
ポーションを飲まないと、直ぐに魔力が枯渇して意識が無くなる。
外出から帰られたフリード様が真っ青な顔で私を見ていた。
急に真顔になられて…私に話しかけてきた。
「ロゼ、おいロゼどうしたんだ!」
凄く心配そうな顔をしているわ…心配をかけたみたいね..
「体から魔力が抜けていくんです…ポーションを飲んでも間に合いません」
それだけを何とか伝えた。
「今直ぐ母上に聴いてくる待っていろ」
急に険しい顔のになるとフリード様は走って部屋から出て行ってしまった。
フリードはは走って王妃の元に向った。
そしてノックもせずにドアを開けた。
「何事ですか!」
「ロゼが動けなくなったんです」
多分、母上はこうなるのを知っていたんだな。
顔色一つ変わっていない。
「そう! 恐らく魔力の枯渇ね! 知っていた? マリアの魔力は通常の200倍以上あったのよ、それが「聖女」に選んだ理由なのよ? 普通の子が引き継いだらそうなるわ? ポーションを飲んで出来るだけ静かに生活する、それしかないわ」
嘘だろう! それじゃ、ロゼはこのまま寝たきりで過ごさなくてはならないのか…
「ではロゼはこれから寝たきりに近い生活をしなくてはいけないのですか?」
母上の事だきっと何か対応策がある筈だ。
「そう言う事になるわ…まぁポーションを飲んでいれば命は別状ないから我慢する事ね」
そんな、何も改善策は無いのか!ロゼは一生こんな生活を送る事になるなるのか。
「そんなロゼは一生寝たきりになるのか?」
「そうね、次の聖女候補を探して1人前になれば交代できる…必死に探してみるしかないわ」
そんな方法…それこそ、大きな川で一粒の砂金を見つける位難しいじゃないか、実質出来ないだろう。
「マリアに詫びて戻って貰う」
「それは無理! あの子は「聖女」になりたくなかった、勿論王妃にも興味が無い…聖女になりたくないから子供産めない立場なのに王太子との結婚を望んだ! 私や王はどうしてもマリアを聖女にしたいからあり得ない条件を飲んで、聖女にした、それだけだわ」
「では」
「そうよ、条件をこちらから反故にしたから、「嫌な聖女」を辞めて隣国に行ってしまったのよ! だけどね、彼女はもう何年も「聖女」として結界を張り義務も果たしていた…貴方を与えないなら「無料働きさせた事」になる、結局無料働きさせていたのだから無理ね…王が隣国迄馬車を出したのも、お金を渡したのも、その見返りよ…これで貸し借りは無し、帰ってきて貰える理屈は無いわ」
「そうですね…」
怒り心頭の母上とこれ以上話しても無駄だ。
ただ、謝り立ち去る事しか出来なかった。
だが、これですら不幸の始まりでしかない事をフリードは知らなかった。
5話 聖女の目に映るもの!
その日の夜から、本当の悲劇が始まった。
ロゼがポーションを飲みながら寝ていると声が聞こえだした。
地の底から聞こえて来るような、悲しげで、それでいて不気味な声。
こんなに気持ち悪い声をロゼは聞いた事は無い。
聖女様…救いください、私を助けて…
聖女様…助けて下さい…苦しいのです…この痛みから救ってください。
聖女様、聖女様…聖女さまーーーーっ
お救い下さい..助けて…
ロゼが目を開けると其処には…体が腐った人間の様な者が沢山居た。
体が腐り果てた者が多く、軽傷な者でも頭部に大きな損傷があった。
「フリードーーーっ様! フリード様、助けて!」
体を動かす事も出来ないロゼは精一杯の大声で叫んだ。
ただ事で無いロゼの声に、フリードが目を覚ましてロゼを見ると青いオーブの様な物がロゼを取り囲んでいる。
「ロゼ、大丈夫かーーーっ!」
「大丈夫ではありません! 化け物に、化け物に取り囲まれているんです…早く助けて下さい!」
化け物とロゼが叫んでいるが、フリードには只の青いオーブにしか見えない、最もオーブに囲まれているじたい尋常ではない。
だが、こんな得体の知れない現象は自分は見たことが無い、更に只ならぬロゼの様子にただ事ではないと考えたフリードは、怒られるのを承知で王妃の寝室をのドアを叩いた。
「こんな夜中に…まぁ想像はついていますが…」
「ロゼが、ロゼが青いオーブに取り囲まれているんです!」
「ああっ! それは死者の魂ですね…イライザも良く怖がっていましたね!」
「死者の魂ですか?」
「私の妹、貴方にとっては叔母にあたるイライザを覚えているわね?」
「はい、覚えております!」
「良く怯えたり、青い顔をしていたでしょう? それは「聖女」である為、死者の魂が常にまとわりついてくるのよ…仕方ない事なのです」
死者の魂に纏わりつかれる…仕方ないなんて言ってられない。
少なくともロゼはそれに恐怖を感じ泣き叫んでいる。
「それで、これからどうすれば良いのでしょうか?」
「マリアの場合は小さい頃から私が見出し、聖女になるまでに慣れさせたのよ…実際にイライザやシスター同席で死霊を何回も見せたし、死体に慣れるように霊安室に閉じ込めた事もありました」
「では、慣れていないロゼはどうすれば良いのですか?」
「慣れるしかありませんね…シスターや司祭に頼んでもその場は治まりますが、どうせ暫くしたらまた違う死霊が助けを求めて来ますからね」
「慣れろってそんな…」
ロゼにとっては諦めろ…そういう事じゃないか?
「貴方が手でも握って寄り添うしかないわ…死霊はそう悪い者じゃない、浮かばれない魂なのだから「聖女」なら助けるのが当たり前なのよ! ロゼが未熟だから救えないだけ…本当に気の毒なのは死霊の方だわ! 本来の聖女なら「対話をしたり」「呪文を使って」天に返してあげるのに、それすら出来ないロゼが悪いのよ…全部悪いのは貴方達よ」
「そんな…まさかこんな事になるなんて!」
「貴方達が嘘をついてマリアを陥れた結果、こうなったそれだけよ?」
「陥れて等いません」
「もう嘘はおやめなさい! マリア程の聖女になれば、姿こそ見せませんが死霊は常に纏わりつきます、それらの対処をして結界の維持に魔力を使っていたマリアには、貴方達のような暇な時間はありません! 更に、マリアは教会にも顔を出して色々な魔法を勉強していましたから暇な時間はありません」
「そんな事はありません!」
「いい加減にしなさい! 大体マリアがロゼが嫌いなら一言「国外追放して下さい」で終わります! 更にマリアには取り巻きは1人もいません! 傍に居たのは「聖女を守る護衛」です、全部私や陛下の直轄です…何か言い分はありますか?」
「ありません…ですが、ヒントを下さい! マリアはどうやって死霊と向き合っていたのですか?」
「最初は教会で「ディスカッションアンデット (霊と会話する)」呪文を身に着けて対話していたらしいですが、途中からめんどくさくなり「ターンアンデット」を唱えまくっていましたね…言って置きますが聖女が唱える「ターンアンデット」は死霊にとっては気持ちが良いので「ありがとう」とお礼を言って召されるそうです」
「それでは、ロゼには出来ないでは無いですか…」
「そうね、常に魔力が枯渇状態のロゼには出来ないわ! だけど勘違いして被害者面はお辞めなさい! 死んで癒しを求めてくる死者の魂に救済も与えてくれない聖女…最低だわ! 私達には見えないけど王宮に居たという事はこの国の関係者、もしかしたら王族に連なる者も居るかも知れないのに…彼らの救済は次の聖女を待たなければならない! しかも次の聖女にはその分の負担が掛かる、そこ迄の事を貴方達はしたのよ」
「私は愛するロゼと結ばれたかっただけです…」
「そんな自由は王族には無いわ! 貴方が着ている服どの位するか解る? 平民が5年間死ぬ気で働いても買えないわ! そんな物を私達は普通に着られるのよ? 王族だからね! 王族である以上は「自分より国」当たり前の事です! それをするから王族は贅沢が出来る! 少しは学びなさい!」
「解りました…」
「これ以上言っても仕方ありませんね! 後はしっかりと償い生きていきなさい! それだけです!」
結局、フリードは青いオーブの飛ぶ部屋に戻っていった。
喚き散らすロゼの手を握りながら恐怖に耐える…それしか方法は無いのだから。
6話 マリアの治療院…スタート
マリアは帝国に着くと元からの予定通り治療院を始めた。
マリアは「元聖女」だから教会にも冒険者ギルドにも顔が利く。
教会にも冒険者ギルドにも届を出すと「元聖女」として名の知れていたマリアにはすんなりと許可が出た。
通常は「治療院」みたいな仕事や施設は世襲制でおいそれと新しい施設は作れない。
しかも、教会と冒険者ギルド、更に言うなら国も絡んでくるので、まず申請が通る事は少なく、万が一通るにしても1年位は掛る。
マリアは診療所を始めるにあたって決めていた事がる。
それは、「代金は金貨1枚」にする事、それ以下では一切仕事を受けないし、またそれ以上は絶対に貰わない事。
これは、他の治療院の邪魔をしない為の処置だ。
治療のエキスパートである「聖女」だったマリアが安く仕事を受けたら、他の治療院に通う者は居なくなる。
だからこそ、大金の金貨1枚にした。
金貨1枚は大変な金額ではあるが、その気になれば平民でも用意可能な金額だ。
だが、この金貨1枚には凄く価値がある!
マリアの治療院では基本「生きてさえすれば大体の者は助かる」
そんな奇跡の治療がたった金貨1枚で受けられるのだから…
冒険者ミリダは、その容姿の事で悩んでいた。
A級にまで成り上がり財産も地位もあるが…度重なる戦いで顔を半分焼かれて片目は見えない。
更に左手も無い。
本来なら、英雄として尊敬されて引くてあまたの筈が…辛い人生を送っていた。
「うん? 新しい治療院か! 後遺症の痛みが取れれば良いんだが…金貨1枚か、余程腕に自信があるのだな!」
金貨1枚は大金だが、自分にとっては対した金額では無い。
もし、後遺症が無くなればそれだけでめっけもんだ。
「治療を頼みたいのだが!」
中には若い女が一人いるだけだった。
本当に大丈夫なのかこの治療院は..
普通こう言った治療院は妙齢の女性や年配の男性が行っている場合が多い。
「マリアの治療院へようこそ! お代は金貨1枚になりますが大丈夫ですか?」
「ああっこの傷が楽になるなら安い物だ」
「では前金で金貨1枚頂きます! この代金は改善されなければお返しします」
「ああっ 頼む!」
「ではパーフェクトヒール!」
今、パーフェクトヒールって言ったのか?
聖女のみが唱えられたという伝説の回復魔法。
四肢欠損どころか…死んでなければほぼ助かるという究極の回復呪文…まさかね!
「いま、パーフェクトヒールって言った?」
「はい!」
「そんな馬鹿な…あれっ左手が生えているぞ!」
治療師が鏡を差し出してきたから見たら…顔が治っている、というか…両目で見える。
嘘だ…金貨を何枚積もうが治らないと言われたのに。
しかもはしたなくもついズボンや上着をめくったら小さな傷も治っていた。
「素晴らしい…これで金貨1枚は申し訳ない20枚払わせて貰うよ」
「いいえ、これは仕事ですから金貨1枚で良いのです! 恩を感じてくれるなら私が困った時に助けて下さい!」
「この恩は一生忘れないわ! 冒険者仲間に片端になった者や他の治療院では治らなかった者が沢山居る…紹介させて貰うね!」
「有難うございます」
「いや、こっちの方こそ有難う!」
「伯爵さま、最近冒険者ギルドの横に新しい治療院が出来たそうです」
「左様か? どんな治療院かは知らぬが…孫を治せる訳は無い…」
「帝国のどの治療院でも教会でも治せない、そう言われたのは知っています! ですがその治療院は王国から来た者が行っているそうです」
「ならば、一縷の望みの為に行ってみるか?」
ギルト伯爵は実の息子夫婦を戦争で無くした為に孫のリリアを目の中に入れても痛くない、その位可愛がっていた。
だが、そのリリアが原因不明の病に掛かり、愛らしい顔が腫れあがっていった。
そして、その病の原因は…誰にも解らない…
伯爵は「もし治せる者が居たら金貨100枚支払う」「孫の婚約者候補にしても良い」どんどん報奨を上げても誰も治せなかった。
だから期待はしてなかった。
マリア治療院! よくもまぁ付けた物だ…王国の聖女の名前では無いか!
「ああっ孫の治療を頼みたいのだが!」
「はい、治療費は金貨1枚、前金になりますが宜しいでしょうか?」
何処かで見た気がするが…何かの間違いだろう!
「ああっそんな端金で良いなら直ぐに払おう!」
金貨1枚、確かに大金じゃが、平民ですら払える金額じゃ..大した治療は見込めないだろう!
「成程、これは、呪いが元で病が発症していますね…それじゃやりますか! カースイレイサー(呪いの消去呪文)!」
そんな馬鹿な…呪いの消去等、本来は教会で数人掛かりで何日も掛けてやるものだ。
しかも、原因を一発で見抜いたのか…
「呪いを解呪したのか…」
「はい! 今度は体の治療です…パーフェクトヒール!」
パーフェクトヒールじゃと…秘薬エリクサイヤーに匹敵する最強の治療呪文だ。
だが、リリアの顔は腫れが一瞬で引き、顔色が良くなり赤みをさしてきた。
「お爺ちゃん…どうしたの?」
「孫が治った…」
「これで呪いも病も治ったわ、寝たきりだったから体力不足だけど、これは美味しい物でも食べて運動するしかないわね」
「あの、貴方は…やはり聖女マリア様…」
「元ね! 今は只のマリアよ!」
聖女の奇跡の治療が帝都で受けられるなんて思っても無かった。
「金貨100枚払おう…他にも欲しい物があったら言ってくれ」
「ここはマリアの治療院、金貨1枚それしか頂けません! もし恩を感じてくれるなら、私が困る事にあったら助けてくれれば良いですよ!」
「それじゃ、余りにもすまなすぎる!」
「そうだ、だったらリリアちゃんの友達にして下さい…よく考えたら私、友達が一人も居なかったわ」
「そんな物で良いのか?」
「はい」
「うん、私で良かったら友達にして下さい」
「ありがとう、リリアちゃん!」
聖女の貴重な治療が金貨1枚で行って貰える。
これは凄い事になる、伯爵は思った。
その思いは当たり…
これを機に「どんな怪我でも治せる」マリア治療院は帝都で有名になっていった。
7話 水霊の儀
この国には水霊の儀という儀式がある。
聖女が行う儀式の一つだが、苦行に近い。
どう考えても今のロゼには出来ない。
だから、俺は無理を承知で母上に頼むしか無かった。。
「今のロゼには無理です! 辞めさせて下さい!」
「私もそう思います! ですがロゼは聖女なのです!だから辞めさせる訳にはいかないのです!」
「これは、わが国だけの事では無い…なので国王の儂でもどうする事もできんのじゃ…場所を王宮の中の礼拝堂にした、これが儂のできる精一杯じゃ」
確かに破格の条件なのは解っている、解ってはいるがそれでも今のロゼには耐えられない。
下手すれば、これが原因でロゼが死んでしまうかも知れない、そう思ったら引き下がる訳にはいかない。
「父上も母上も、今のロゼの状態をご存知でしょう? 髪は色が抜け落ち白くなり、体も痩せ細っています…そして毛布をかぶりベッドからはトイレとお風呂の時間以外は動かないのです! 1人でいる事を恐れて、常に傍に私かメイドが居てどうにか生活をしている状態です」
この状態は、母上も解かっている筈だ。
こんな状態のロゼにそんな事が出来るかどうかは考えたら解る筈だ。
「解っているわ! だから殆どの責務は負わせていません! 本来なら難病や大きな怪我をした者の治療もロゼの仕事なのですよ? 私も王も厚顔にも国の為に戦い怪我した者に上級ヒーラーに治療を命じています! この間はバルマン侯爵家の次男ホルンが国命で地龍の討伐をしました、その際に片足、片目を失う大怪我をしたのです! マリアなら元通りに治せたのに、上級ヒーラーだから失ったままです、未来の英雄を国は失ったのです!」
「バルマン侯爵家の長男、リュートは家督の相続権をホルンに譲り家を出たそうだ…その理由が解るか?」
「あのリュートがまさか! 何も聞いておりません!」
「「あの時に殴りつけてでも王太子を説得するべきだった! 本物の聖女様を追い出し偽者を聖女にしたから弟は片端になるはめになった、弟の未来を壊したのは俺だ」 そう言って家を去ったそうじゃ!」
「そんな事があったのですか…」
駄目だ、そんな事があったのなら、絶対に受け入れてはくれないだろう。
「出来ぬ物は仕方が無い…儂も愚王と呼ばれようが、お前のした責任を負おう! だが、今回の「水霊の儀」はその昔、勇者様の無事と世界の平和を祈願した聖女の祈りから始まった、神事じゃ! この国ではなく「世界の平和の祈願」じゃ辞める訳にはいかぬ…教皇様すら来られるのだ」
「ですが、今のロゼに3日間もの間断食して祈り続ける等、死ねという様な物です..」
「その祈祷場所を本来の「水霊の洞窟」から王宮の教会に変えるだけでどれ位苦労したか解りますか? 沢山の打ち合わせをしてようやく教会に、他国の王に認めて貰えたのですよ! その際には「今の聖女は力が無く体調も悪い」そう伝えてようやくです…王である貴方の父も頭を下げました…これで死んでしまうなら諦めるしかありません!」
本来の「水霊の儀」は女神を信仰しているという水霊が居ると伝わっている「水霊の洞窟」に3日間閉じこもり断食をし水を浴びながら不眠不休で祈り続ける物だ。
だが、今のロゼの体調を考え、場所を王宮内の礼拝堂に変えて、食べ物はとらせないがポーションを飲みながら3日間一歩も外に出ないで祈る。
そこ迄緩和した物だった。
流石にこれには教皇や各国の王は呆れていたが…余りに必死に王自らが言う物だから「行ってくれれば良い」と許可を得たものだった。
これが国としても世界としても許せるギリギリのラインであった。
その事をフリードがロゼに話すと…
「そんな一人で3日間なんて居られません、今だって見えないだけで私は死霊に囲まれているのです…うぷっおあげええええっ」
無理もない、あの不味いポーションを暇さえあれば飲んでいる、お腹がポーションで一杯だから食事も真面にとれない…吐くのは当たり前だ。
最近俺は、「吐いているロゼ」「怯えているロゼ」「泣いているロゼ」「眠っているロゼ」しか見ていない。
あの太陽の様な笑顔もなりを潜めていて、今の俺には愛よりも同情の気持ちの方が強い。
「見ていられない」その気持ちがどうしてもこみあげてくる。
俺はイライザ叔母様を女々しいと馬鹿にした事があったが、今のロゼを見ていれば、聖女の世界は想像を絶する物なのは解る。
トイレからお風呂まで「腐った人間」に覗かれ続けていたら、ノイローゼにもなるだろう。
それが死霊で絶対に手を出してこない…そう解っていても恐怖しか無いだろう。
俺がそんな世界で暮らせと言われれば、頭が可笑しくなるかも知れない。
そんな中で暮らすロゼに俺は何もしてあげられない…
それが凄く口惜しい。
「済まない、これはどうする事も出来ないんだ…扉の外に俺はずっと居るからな頑張ってくれ!」
「そんな…そんな…ああああっうわああああああんんんんんんん」
泣いているロゼに背を向けて俺は立ち去るしか無かった。
助けられるなら助けてやりたい、代われる物なら代わってやりたい。
だが、俺には何もしてあげることが出来ないのだから…
8話 金貨1枚
黒塗りの豪華な馬車が診療所の前で止まった。
日本の剣に絡みつく薔薇の紋章、これは王国でも3本の指に入る大貴族バルマン家の紋章だ。
態々、王国から帝国迄馬車を走らせてきた…何が…。
「バルマン侯爵様、どうされたのですか?」
王国でも屈指の権力者のバルマン卿が来るなんて、ただ事で無い筈だわ。
まさか、私を連れ戻しにきたの! ならば..
「本当に恥知らずだが、まずは謝罪をさせて頂く…すまない!」
謝罪? 少なくとも私を連れ戻しに来た、そういう事では無さそうね!
バルマン公爵は自分の生き方にプライドを持って生きているので有名な方だ。
王にすら自分に落ち度が無ければ絶対に頭を下げない、そう言われている、何があったのかしら?
「私が聖女を追われた事なら気にしないで下さい! ほらっ凄く楽しそうでしょう? 気が楽になって幸せに過ごしていますから!」
本当に私は幸せなんだけど、世間的には「国を追放された悲劇の聖女」になっている…逆に申し訳ないわ。
「その節は息子のリュートや儂が力になれず申し訳なかった」
いえ、寧ろそのおかげで自由になれたんだから、余計な事しないでくれて助かった、とは言えないわね。
「本当に気にしないで下さい! それで態々お詫びだけしに来た訳じゃ無いでしょう?」
ただ、お詫びの為だけに来るわけが無いわ、此処に来たという事は、「私で無ければ治療が出来ない」そういう案件があるのでしょう。
「実は息子のホルンが、この様な状態になってしまい…」
これは酷いわ、此処まで酷い状態じゃ並みの治療師では難しいわね。
命を繋いだ、それだけでも、パーフェクトヒールが使えない普通の治療師にしては頑張った方だわ。
片足、片目を失って顔も半分焼け爛れている。
治療師が考えに考え抜いて、命を守るために治療した。
逆にこの治療が行われた為に…治すのが困難だ、もし、怪我して直ぐの状態であれば、パーフェクトヒールの一発で治せる。
「これを治すのは…」
「流石に聖女様でも困難ですか」
「親父…聖女様でも無理なら仕方ない…名誉の負傷として諦めるさ」
大変だというだけであって、治せない訳じゃないわ、此処は私の治療院なんだから。
「誰が治せないと言いましたか? 治せますが、困難でバルマン卿の協力が居るだけです!」
「息子が治るなら、何でもします!」
「ならば」
この治療には「心の強さ」が居る。
治療師の中には呪文専門だと血を見る事にすら耐えられない者も多い。
戦場での治療を経験して、更に高位の呪文を覚えた者でなければ難しい。
残念な事にそこ迄の技術を身に着けた「貴重な治療師」は戦場など行かないからそういう経験を得る機会は無い。
そして、今回はそれにプラスしてパーフェクトヒールが必要。
だから、これは私にしか治せない患者だ。
私は患者であるホルンを台の上に固定した。
「マリア様これは一体!」
「これで固定が終わったわね! さぁバルマン卿、失った足を更に内側から切断、目の内側から更に肉を抉りだして顔の皮をはいで下さい!」
私でも出来るか出来ないかと言われれば私でも出来る。
だが、武門の家であるバルマン家の長がいるのだから任せる事にした。
斬る、その事に掛けては絶対に、バルマン侯爵の方が上の筈だ。
「本当にそれを私がしないといけないのですか?」
「私でも出来ます、ですがその場合のホルンさんの体の負担は確実に増えます、剣の達人の貴方の方が適任です! 武勇に凄れたバルマン侯爵ともあろう方がこの重要な局面で、私にその役を委ねますか?」
「確かに斬る事については私は優れている、皮を剥ぐ事も、素材の回収で若武者時代に経験してる。確かに私がやるべきだ、済まない」
「身内の方にそれをするのは勝手が違う事は解ります、ですが、今回の治療で必要な事です! ホルンさんも頑張って下さい!」
「心得ました」
「それでは猿轡をさせて頂きます!」
流石は、武勇を誇るバルマン家のホルン、怯えが有りませんね。
「うぐっううっ」
「さぁ、宜しくお願い致します!」
流石はバルマン卿、最初は息子だからか手が震えていたが、危なげながらもしっかりとやり遂げた。
「うぐうううううううううっ」
ホルンさんの状態は、くり抜かれたような目の穴を再度穿り出され、顔の皮を半分剥がされ、切断された足を更に内側から切断されている。
私はこれを見るのも好きではない、「やれる」という事と「やりたい」と言う事は別だわ。
治療師という職業でなければこんな光景を見たくはないわ。
「これで大丈夫ですよ!パーフェクトヒール!」
失われた目と足が再生されていく、そして皮をはいだ顔すら綺麗に治っていく。
これが聖女のみが行えたという奇跡の治療なのだというのは誰が見ても解る。
しかも、このパーフェクトヒールという魔法は、聖女の中でも余程の才能が無いと身につかないと聞いた事がある。
王国は、この貴重な存在を馬鹿な王太子の為に失ったのだ。
確かに大変ではあるけど、「もう一度壊す」これさえ出来れば、そう難しくも無いわね。
「あの、聖女マリア様、王国に帰ってきて貰う訳にはいきませんか! 聖女様がお戻りになるなら、このバルマン」
「私は聖女じゃありませんよ? あの国の聖女はロゼです…絶対に帰りません…無理やりと言うなら戦わせて頂きます!」
ようやく手に入れた自由、ええっ絶対に手放しません。
「滅相も御座いません! 息子の恩人のマリア様が嫌がる事をする等、恥さらしな真似致しません」
そんな事は物理的にも出来ない。
四職の恐ろしさは誰もが知っている。
良く、聖女=弱いと考えるかも知れないが、四職(勇者、賢者、剣聖、聖女)の中で一番弱いに過ぎない。
有事の際にはたった4人で魔王の討伐すら成し得る存在なのだ、本気で戦われたら騎士が万単位で必要になる。
だが、騎士の多くはマリア様に恩があるから全員は動かない。
そして、今は魔王が居ないから、勇者、賢者は居ない。
つまり、単独で、聖女であったマリア様を捕らえるなら「剣聖 ジェイク」しか居ないのだが、重症を負った際にマリア様が治療をしたと聞いた事がある。
動く事はまず無いだろう。
単独で世界第2位の武力を誇る「本物の聖女」を捕える等無理に等しい。
更に言うならマリア様は化け物なのだ…「聖女」の能力を「ロゼ様」に移してもその能力は下がっていないように思える。
つまり、自分の能力だけで聖女の能力を開眼したような方の可能性が高い。
実際に聖女の能力を譲渡されたロゼ様が動けないのに、この通りマリア様はピンピンしている。
「それなら良かった! 私は初めての自由を謳歌しているのです…この自由こそが幸せなのですから、決して私を担ごうなどと思わないで下さいね」
治療院で楽しそうにしているマリア様に無理を強いるのは恩人に泥を塗る様な行為だ。
「はい、心に刻んで置きます」
「それじゃ、次の患者を待たせておりますのでこれで私は失礼しますね!」
「有難うございました」
バルマンは金貨300枚払おうとしたが、頑なに金貨1枚しか受け取らなかった。
「ここはマリアの治療院、王様だろうが誰だろうが金貨1枚しか受け取らないわ、その代わりどんな方でも緊急じゃなければ並んで貰います!」
こんな奇跡の様な治療が金貨1枚。
バルマンはその恩恵に預かれる帝国が羨ましく思った。
「しかし、何でうちの治療院の周りが更地になっていくのかしら?」
マリアの周りもまた変わってきた事にマリアはまだ気がついていない。
9話 マリアを中心に街は変わる
可笑しいわ、何が起こっているのかな…
私が治療を行っている治療院の周りの家が片っ端から取り壊されていき空き地になっていく。
此処は冒険者ギルドの横、一等地だ、商売するには最適な土地だ。
普通に考えてそう簡単に土地を手放す訳は無い。
黙っていても沢山の人が通る場所、商人にとっては喉から手が出る位欲しい場所だわ。
そう簡単に土地を手放す訳無いわよ。
本当に可笑しいわね…うちに向って右側から始まって、道路を挟んで反対側の土地まで全部が一斉に取り壊しを始めた。
こんなにも沢山の土地が一斉に取り壊されていく。
中にはまだ新しく綺麗な家もあるのに本当に可笑しいわ。
もし、この辺りで大規模な工事が行われるなら家にも報告が来る筈だし、この場所も「立ち退いて欲しい」そういう話が来る筈。
だけど、私はそんな話は聞いていない、考えても仕方無いわね..解らない物は解らない、私はただ今迄通りに治療を続けるだけだわ!
知らないうちに周りの家や店が壊されていくのに、私には原因が全く解らない。
見ていれば何か解るかも知れないから、その様子を静かに見ていた。
すると1人の老人と目が合った。
見覚えがある…誰だっけ?
「お久しぶりです! マリア様!」
あっ、あの顔は確かローアン、ローアン大司教だわ、だけど何でそんな教会の実力者がこんな所に居るのかしら?
確か何時も、教皇様の傍に居たはず…私はもう聖女では無いわ、「様」位付けた方が良いわね。
「ローアン大司教様、お久しぶりです」
「聖女様に様等付けられると照れてしまいますぞ」
「今の私はもう「聖女」ではありませんので…」
「経緯はもう聞いております、立派になられましたね、パーフェクトヒール迄使えるマリア様を聖女と思わぬ者はおりません! ですが、聖女の地位その物は、あのロゼに奪われてしまったのですね!」
別に奪われたそういう訳では無いのですが…
「妹を酷く言わないで下さい…婚約者が妹を選んだのでそのまま、聖女の地位を押し付けた、それが正解です」
「何とお優しいのでしょう! マリア様の地位は今後考えるとして尊い人なのは間違いないです…ご安心下さい!」
只の治療院の治療師、その方が凄く気が楽なんだけどな…
「それでローアン様、もし知っていたらお教え下さい! 何故私の治療院の近くの土地が更地になっていくのでしょうか?」
「ああっ、それはですね…隣の土地は教会側で買いました、マリア様がこちらに来られたと聞いたのですぐ傍に教会を作る事にしたのです」
あれっ..今何と言ったの? 私の為に教会を作る…そう言ったの?
「えーと私が居るから教会を作る? 何故ですか?」
「貴方様はこれからも沢山の命を救う方です…教会は貴方が困った時に助けられる様に此処に教会を作る事にしました、手が必要な時やポーションが必要な時は何時でも無料で提供しますお声掛け下さい」
私は聖女で無いから、ちゃんとお金を貰っていますよ、そんな私に無料提供、教会が何でかな?
「あの、私は治療師で、聖女では無いのでちゃんと報酬を貰っています」
「金貨1枚ですよね? 聖女が起こす奇跡の様な治療であれば、それは無料みたいな物です」
金貨1枚は充分な大金の筈だわ、それが「無料みたいな物?」聖職者だから感覚がずれているのかな?
「教会を作るだけなら、こんな大きな土地にはならないと思うのですが」
「私の知っている範囲では、反対側に騎士団の詰め所、その横には帝都警備団の本署が出来るそうです…他にも出来るそうですが私も解りません」
えーと、何それ、何でそんな重要な施設が此処に移って来るのよ、それ全部私のせいなの?
「それ全部、私が原因とか言いませんよね?」
「何を言っているのですか? 全てマリア様絡みなのは間違いないですよ?」
「そうですか? ただの治療師の為に大袈裟ですね?」
確かに腕は一流ですが、「聖女」じゃ無いのに、大袈裟すぎますよ。
「ただの治療師ではありません…聖女と言われるのが嫌であれば、「世界一の治療師」そういう呼び方になると思います」
「大袈裟です」
この方は何時もそう言うが「パーフェクトヒール」を使える治療師等他にはいない。
しかし、「聖女」と呼ばせて頂けないのであれば我々はこの方を何とお呼びすれば良いのだろうか?
教皇様や帝王と話しをする必要がありますね。
「大袈裟でも無いと思いますが…では用が御座いますので私はこれで失礼します」
「あっ!お引止めして申し訳ございません」
ローアンは軽く頭を下げるとその場を立ち去った。
10話 新しい称号
「なかなか難しい物だな…聖女を上回る様な称号、幾ら考えても思いつかんな」
帝王 ルドルフ三世は「称号」について悩んでいた。
今迄、帝国シルベスタは豊かで力はある物の他の国より下に見られる事が多かった。
その理由の一つには4職(勇者、聖女、賢者、剣聖)がこの国から出た事が無く、居ついてくれた事が無かったからだ。
だが、奇跡的にも王国と仲違いして「聖女マリア」がこの国に来て診療所を開いてくれた。
これで、他国から「野蛮な国」と言われないで済む。
この国が幾ら欲しても手に入らなかった物をこの聖女が与えてくれた。
そう考えたら、この聖女には「望む物を何でも褒美として差し出しても良い」そう思っていた。
だが、調べさせて見るとこのマリアという聖女は「自由を好み束縛を嫌う」ようだ。
ならば、地位を与え、この国の困り事を相談して後は自由にして貰えば良い。
聖女の力を持つ者がこの国に居てくれる…それだけでありがたいのだ。
だが、この国の学者や有識者に過去に「聖女」を上回る称号を得た女性が居たかどうか調べさせたが、結果は「解らない」という事だった。
確かに「勇者」「聖女」「賢者」は三職、女神の御使いと呼ばれる職種だ。
これを越える、称号等、考えがつかない、勇者であれば「ドラゴンズスレイヤー」等他にも武勇を現す称号はある。
一層の事「奇跡の癒し手」という称号でも作ろうかと思ったが、元聖女である以上は教会にも相談をした方が良いだろう。
これは私だけではなく教皇様にも相談する必要がある。
マリアの称号について通信水晶を使い、教皇アルフド6世様に相談をした。
本来は通信水晶は、有事にしか使えない、だが通信水晶で連絡しても「聖女」絡みなのだから問題は無い筈だ。
アルフド6世様も同じ認識だったようで何も問題は無かった。
「称号ですか?」
「はい、折角、帝国にマリア様が来て下さったのですが、「聖女」という言葉を嫌うご様子でしたので」
「仕方ない事です、私の聞いた話ではマリア様にとって「聖女」は嫌な思い出しかない様ですからね…それで私の方でも実は、その事を考えていたのです」
「教皇様もですか?」
良かった、これで帝国が独自に与えたのではなく、教会から正式に頂いた称号になる。
「はい! それで、聖女と同等以上の称号を教会で与えた事は無いか考えた所、「聖 」「 聖者 」「 聖人君子 」「尊者 」「 聖人 」 が過去にありましたがどうもしっくりきません」
「確かにどれも男性が貰う称号の様な気がしますな」
今一しっくりしない、折角なのだから聞こえの良い称号が好ましい。
「はい、そこで大司教や司祭と話し合った末、尊者が「ひときわ神聖な人」「尊敬できる人」という意味でしたので、「尊女」にする事にしたのです、「ひときわ神聖な女性」「尊敬できる女性」ならマリア様に相応しいと思いませんか?」
「それは本当に素晴らしい称号です…それでその称号は何時お与えになるのですか?」
「本来なら私が行って直ぐに与えたいのですが、王国のまぁ、役立たずとはいえ「聖女」を継いだ者が居るので、いけませんね…本当に口惜しいのですが、そちらに居るローアンと帝王の方で授けて下さい!」
「本当に大変ですな」
「はい、教皇なのに「本物の聖女」の傍に居られなくてあんな…すいません口が滑りました…忘れて下さい」
教会のそれも教皇自らがマリアが本物の聖女そう考えている。
これは王国に対しても優位性がある、実に好ましい事だ。
「聞かなかった事に致します…お気持ちが凄く解ります」
「助かります…マリア様は教会にとっても大切な方なのでくれぐれもお願い致します!」
こうしてマリアの思惑に反して「尊女」の地位をマリアが授かる事が決まってしまった。
(解説) 聖女様 聖女 マリア様 マリアと呼び方が変わる事について。
聖女様 聖女 マリア様 マリアと呼び方が変わる事について。
これは、政治的な意味と信仰の意味の差で生じています。
信仰
女神→ 4職(勇者 聖女 賢者 剣聖)→教皇→王
4職は「女神の使い」とされているので形上は教皇より上になります。
ですが、
政治上は
女神(滅多に降臨や神託はないので除外)
教皇(この世界は宗教の力が強い)→王→4職
となります。
その為、「様」がついたり無かったりしています。
まして、マリアは「聖女を辞めた」ので周りの呼び方も安定していません。
その為です。
11話 水霊の儀中止
実力に見合わない者が無理やり「聖女」になるからこういう事になるのだ…
本当に馬鹿ばかしい。
王国の結界の維持をするだけで寝込んでしまう。
聖女の義務である、治療行為を一切行わない。
そんな人間が聖女である事事態がおこがましい。
本来であれば、各国の要人等で一般の治療師では治せない病気や怪我を治すのも聖女のお勤めだ。
それがあるからこそ「聖女」を有する国は尊敬される。
だが、ロゼが聖女である以上そのお勤めも果たされない。
もはや王国は「聖女の保有国では無い」各国の見解ではそうなっている。
特に自国の王子が難病に掛かり助けを求めたが「出来ない」と答えられた南国では教皇である私に「聖女の称号剥奪」の願い出があった。
ただ、ロゼは実力こそ最低だが、マリア様から「職種(ジョブ)」は正式に貰っている。
恐らく、記録水晶で確認しても職種に聖女と出るだろう。
故に偽物では無いのだ…
幾ら、偽物では無いにしろ、「実力0」のロゼを聖女と認める国は殆ど無いと言える。
だから、水霊の儀も取りやめても問題はない。
これ程の世界的な儀式を「場所を変えてくれ」そういう王国…儀式的にも成立していない。
やりたくない王国に参加したくない国々、なら簡単だ。
止めてしまえば良い…それだけの事。
「「水霊の儀」は取りやめた方が良いでしょう!」
教皇アルフド6世が態々王宮迄足を運んでくれた。
その際にロゼの様子を見て慈悲を下さった!本当にありがたかった…
「有難うございます! 本当に有難うございます! 教皇様!」
「良いのですよ…フリード王子、貴方やロゼの道は棘の道です!ですが女神様は必ず見ています頑張りなさい!」
「はい、有難うございます!」
最早、どんなに頑張っても棘の道しかないでしょうが…
「教皇さ.ま.あ.り.が.と.う.ございます…」
「ロゼ様も気をしっかり持って頑張って下さいね! そうだ、今後の行事は私の一存で執り行う事が困難だと諸国の王に伝える事にしましょう…その方が宜しいのでは無いですか?」
「本当に申し訳ございません…教皇様にはお手数をお掛け致します」
「良いのですよ!」
馬鹿な事だ、聖女の祭事の義務を捨てれば求心力が無くなる事も解らない。
最もこの分では本当に行う事も出来ませんね…
「教皇様、この度は息子の不始末の為にお骨おり頂き申し訳ありませんでした!」
「別に構いません…これから王国は大変な事になるでしょうが気を落とさず頑張って下さい」
「本当に申し訳ございませんでした」
「王も王妃も、もう頭を下げる必要はありませんよ、私が出来るのはこの位しかありませんからね…それでは失礼いたします」
教皇は済まなそうな顔で王宮を立ち去った。
貴重な「本物の聖女」を王国は失った。
聖女が居たからこそ、全ての国が王国に配慮をしていた。
最早、王国に配慮する国は無くなる。
恐らくは、これから世界の国々は「王国」でなく「帝国」に配慮するだろう。
勿論、私の気持ちも既に王国には無い。
私は教皇…女神に仕える者、偽物ではなく本物の傍に居たいと思うのは当たり前だ..
「教皇様、良かったのですか?」
「もう、あそこに居るのは聖女ではない、もう会う事も無いでしょう?」
「ですが、聖女の称号はあるにはあるんですよね!」
「ええっ、正式に譲られていますから記録水晶にも聖女と出ると思いますよ! ですが壊れた聖女にだれが跪くのですか?」
「壊れた聖女!」
「良いですか? 水霊の儀に何故各国の王が態々集まるか解りますか?」
「それは神事だからでは無いですか?」
「それは半分合っていますが、半分合っていません!良いですか?何かあった時に聖女にお願いできるように顔見せの意味が実は大きいのです!」
「顔見世ですか?」
「はい、例えば、王や王族が病に掛かり困った時や、流行り病が起きて国が大変な時に「聖女」を招いて助けて貰う必要があります! その時に助けて貰えるように王族が顔を売る場所、それが半分です」
「それでしたら!」
「解りましたか? 生きていくのが精一杯で、人を助けることが出来ない「聖女」に頭を下げる王族は居ない!そういう事なのです! 実際に私が王達に言う事はありません! 続々と各国の王族から参加拒否の連絡が来ています…そして私も態々参加するつもりはありません!」
「それでは!やはり」
「私は今も昔も「聖女はマリア様」そこはブレません! 何しろあの方は歴代の聖女様でも取得困難な「パーフェクトヒール」が使えるのです…今はローアンに任せておりますが、直ぐに私も帝国に向うつもりです…聖女を越える「偉大なる尊女様」が居るのですから教皇が傍に居るのは当たり前ではありませんか?」
「そうですね! 教皇様が帝国に行く際には私も同行させてください」
「一考しましょう」
「宜しくお願い致します」
こうして教会の活動も王国から帝国へと中心が移りつつあった。
12話 尊女
治療院の窓から外の景色を見た。
私が此処に来た時は、果物や串焼きを売っているお店が全部無くなってしまったわね。
気がつくと治療院の周りがまるっきり変わっていた。
お金と権力の力は凄いわね!
比較的、小さなお店が密集していた筈なのに、元からあるのは冒険者ギルドだけ…あとは全部違うわ。
まぁ私には関係ないんだけど…元の方が買い物が楽で良かったわ。
帝都だからそれでも楽には変わらないんだけど。
「マリア様、お久しぶりでございます!」
「ああどうも…?」
何で?何で?教皇様が普通のお爺さんの様に挨拶をしてくるのよ!
可笑しいでしょう? 普通に考えて今の聖女であるロゼの傍に居る、それが当たり前の筈なのに。
「驚かれましたか? 新しい教会が此処に出来たので来たのですよ! そうだ、教会でこれからささやかな式典とその後に会食をしますからマリア様も来て下さいな」
「解りました、後でお伺いさせて頂きます!」
もう聖女では無いけど、治療師も教会の半分管轄だから断れないわね。
「それではお待ちしております!」
今の私は聖女でも無いし、普段着で良いわよね?
診療が終わってからそのまま顔を出しにいった。
ナニコレ? 嵌められた。
教皇様が正装で、その横には帝王ルドルフ三世様が居るじゃない?
これが、ささやかな式典の訳がない。
ちょっとした社交界のパーティー、それ位の準備が成されている。
「これはどういった事でしょうか?」
「それは私からお話しします! 宜しいでしょうか?」
「教皇様、ローアン大司教様にも伝えましたが、今は自由を生まれて初めて謳歌しています…そっとして置いて貰えませんか?」
「大丈夫です! 教会も帝国も決してマリア様を縛るつもりは御座いません! 便宜上! あくまで便宜上「尊女」という地位を貰って頂けないでしょうか?」
「便宜上?」
「はい! マリア様は聖女を辞めてしまいましたが、普通は歳いってから辞められます…その場合は普通なら「元聖女」と呼ばれながら尊敬される人生を送ります!」
「それがどうかしたのですか?」
「ローアン、元聖女様の地位はどの位にあたりますか?」
「御恐れながら、教皇様より上になるのでは無いでしょうか? 何しろ聖女様として引退まで尽くされたのですから」
そんな、「聖女」って辞めてもついてくるものなの?
確かに歴代聖女は、辞めた後でも権力があった気がする。
聖女テレジア様が王を諫めたり、場合によっては一喝していた話しは有名だ
「ですが、私は全うしないで、ロゼに引き継いだだけです!」
「そこで困ったのです…聖女の資格はロゼに引き継がれました…ですが歴代聖女でも数人しか使えなかった「パーフェクトヒール」を使うマリア様をどう扱うか! それで帝王と話し合いの上に「尊女」という地位を設けたのです…名誉職だと思ってお受け取り下さい」
「あくまで名誉職であって…縛る事は無いのね!」
ああっこれは受け取らないと「元聖女様」の方にされて大変な事になるわね。
半分は強制…そういう事じゃない、仕方ないわ。
「はい、それは私とローアンが約束します」
「なら、良いわ」
「有難うございます!」
そう言いながらも教皇様に帝王様まで居るのだから…絶対に名誉職だけそういう事では収まらない筈だわ。
「元聖女」って呼ばれて崇められるよりはまだマシ、そう考えるしかないわね。
「それで、帝王である、ルドルフ三世様も何故此処に居るのかしら?」
「私の方は「尊女」の地位を正式に帝国が認めるという立ち合いと、近くに騎士団の詰所と帝都警備団の本署を作ったので挨拶だ、そこの責任者も後日行く」
騎士に警備団ならお得意様になりそうだから良いわね。
「それはご丁寧に有難うございます」
「あと、もう一つ相談があるのですが!」
やはり、何かあるのですね….
「王都に張ってある結界と同じ物を是非、帝都にも張って頂きたいのです!」
あれですか? まぁ良いのですが大丈夫なのでしょうか?
本当に大した物じゃ無いんだけどな…
「同じ物で良いなら張りますが…あれそんな大した物じゃないですよ? ワイバーン位までなら簡単に防いでくれますが、本物の龍種相手じゃ1日位しか耐えられません」
あの結界はそこ迄の物だったのか?
ワイバーンが入って来ないだけでどれだけ助かるか解らない、これで帝都の人間がワイバーンやハーピーに襲われたり攫われる事が無くなる、それらの脅威から人を守るために帝国は「竜騎士」を使って警備しているがそれが必要無くなるのだ。
龍種なんてまず来ることは無いが、それを1日食い止められるなら、騎士団の派遣が間に合う。
王国の自慢の結界は、帝国が考える以上の物だった…こんな物国なら何処でも欲しがるし、とんでもない価値がある。
「充分です!是非お願い致します!」
「私は今は聖女じゃありませんから、お金取りますよ? 1人分の治療費と同じ、金貨1日1枚..1か月で30枚…ねっ高いから辞めた方が良いと」
こんな物に金貨30枚、まず断るでしょう? 凄く勿体ないよ?
「払いますから是非お願い致します!」
たった、1か月金貨30枚? 500枚だっていや、竜騎士を他に回せると考えたら2000枚以上の価値がある。
あれっ…龍種、空だけじゃないじゃないか、最早お金に換算など出来ないじゃないか。
「そうですか? それなら構いませんよ!」
「有難うございます…本当に有難うございます!」
これを感謝しないで、何を感謝しろって言うんだ、帝都防衛全部が1日金貨1枚..こんなの無料みたいな物だ。
国宝級の宝石を銅貨1枚で売っている様な物だ。
「クスっ! 帝王様は可笑しな方ですね…お金を貰うのは私ですよ? 有難うございます」
やはり、マリア様こそが本物の「女神の御使い」なのだ、常人なら魔力が枯渇する程の結界を簡単に張ってしまう。
歴代聖女の中でも屈指の魔力保持者、この方を置いて「聖女」等語るのはおこがましい。
帝国や教会は「尊女」を「聖女」より上の存在として認める方針を固めた。
13話 ロゼ お姉ちゃんごめんなさい…
ポートランド公爵夫妻は愛娘のロゼのお見舞いに来ていた。
まさか、ロゼが夢も希望も無い聖女になっていようとは今の今迄知らなかった。
マリアとポートランド家が揉めるのを嫌った王家がわざと事態についての報告を遅らせたのもその原因の一つだ
「ロゼ…本当に大丈夫…変わり果てて、ううっ」
「何でお前が聖女になんてなっているんだ! 話は王より聴いたが、何て馬鹿な事をしたんだ!」
今日は私のお見舞いにお父様とお母さまが来てくれた。
だけど、さっきから泣いてばかりいる。
当たり前だよね!
私がこんなんだからさぁ
「お父様にお母さま、思ったよりは元気ですからご安心下さい…」
最近では、寝たきりだけど、ポーションを飲んでさえいればこうして静かに生活が出来るようになってきた。
「だけど、貴方の女としての人生は終わって…ううっ」
「お母さま泣かないで…お父様御免なさい、私は聖女だから子供が産めません…孫は諦めて下さいね…」
「そんなのは構わんよ…お前が王子と婚約したから遠縁から養子を貰う事にした、ポートランド家は潰れないから安心しろ」
「そうですか…良かった!」
「本当にごめんなさい…」
「もう済んだ事だ気にするな!」
「ええっもう良いのよ…もう」
何も言わないで泣いてくれて…何も言わないで抱きしめてくれる…家族って良いな..
私はこんなにも幸せな中に居たのに、何も持ってないお姉ちゃんから「沢山」の物を取り上げたから罰があたったんだ…
こんな子、女神様が幸せにしてくれる訳ないわ。
お姉ちゃんと私は「お父様は一緒だけど、お母様は違う」
そう、お姉ちゃんは先妻の子で、私は後妻に入ったお母様の子…
お姉ちゃんのお母様は、政略結婚した相手だった…
その時ポートランド家は恐慌でお金が無くなり没落寸前だった。
その時に支援を申し出たのがお姉ちゃんのお母様の実家だった、支援の条件がお互いの子を結婚させ縁を繋ぐ事だった。
愛の無い結婚だったから「お互いに愛していない」ただ一緒に暮らすだけの生活だったらしい。
ただ、貴族である以上子供は作らなくてはならない。
そうして出来たのが、お姉ちゃんだった。
私の小さい頃の記憶では、もう、お姉ちゃんのお母様は死んでいて、お姉ちゃんはお父様に嫌われていた。
お父様曰く、「お姉ちゃんのお母さんは凄く嫌いなタイプだったらしい」 その嫌いなお姉ちゃんのお母様に似ているお姉ちゃん….嫌いなのは当たり前だ。
私が新しいドレスを買って貰っても、お姉ちゃんは買って貰えない。
食事の時も、私がお父様やお母様と一緒に食事をしているのに対してお姉ちゃんは使用人と食べていた。
何時しか私は、お姉ちゃんを使用人と同じ様に扱う様になった。
そんな私でも、お姉ちゃんに敵わない物があった。
それはお姉ちゃんのお母様の遺品だ…沢山の宝石や珍しいオルゴールを持っていた。
どうしてもそれが欲しかった私は、しょっちゅう泣いてお母さまやお父様に泣きついた。
私が泣きつく度に…お姉ちゃんの大切な物は減っていった。
そして
「お父様、これだけは勘弁してください…お母様が私に残してくれたのはこのオルゴールで最後なんです」
流石にお父様も躊躇していた。
だけど、私が駄々をこねると…無理やりお姉ちゃんからむしり取り私に寄こした。
あの時のお姉ちゃんの目は今なら解る。
全てを失って絶望した目だった。
その日からお姉ちゃんは誰とも話さなくなった。
ひたすら本を読んで、ひたすら魔法の勉強をしていた。
もはや自分にはそれしか無い…そう思わせる程、朝早くから夜中まで…死ぬんじゃないかそう思う程に…
だが、私は此処でも最低の人間だった。
どう見ても成績が優秀になりそうな、お姉ちゃんに腹を立てた。
何か一つでも自分よりお姉ちゃんが上になるのが嫌だった。
だから、お父様やお母さまに頼んだ…「学園にお姉ちゃんを通わせないで欲しい」と…
「お前は悪いが学園に通わせない…」
それを聞いたお姉ちゃんは絶望していた。
部屋に閉じこもり泣いていた記憶がある。
これで、お姉ちゃんの人生は終わった。
暫くしてお姉ちゃんは別人の様になっていた。
「貴族の義務である学園にも通わせて貰えないなら、私は貴族では無いのでしょう? 此処を出て行きます」
「待て」
「待つ必要はありません…貴方等は父ではありませんので」
そう言って家を出て行った。
馬鹿なお姉ちゃん…家を飛び出したら、もう貴族じゃない…終わったわ。
そう思っていた。
その後は、私はお姉ちゃんなんか忘れていた。
社交界にデビューも果たして周りの人間は私にチヤホヤする…当たり前だ私は名門ポートランド家の令嬢なんだから。
そんな、私が好きになり憧れたのがフリード様だった。
貴族の少女なら誰しも王太子との恋愛…憧れるだろう…
運が良い、ポートランド家は公爵だ、充分婚約者候補になれる。
私は暇さえあれば、フリード様を追い回した。
話しているうちに、フリード様も私に好意を持ってくれる様になった。
何回も逢瀬を繰り返し、フリード様が愛を囁いてくれるようになった。
ようやく私の恋が実る、そこ迄たどり着いたのに….
お姉ちゃんが現れた…しかも、「聖女」になって、王妃様がまるで自分の子供のように傍らに置いている。
「聖女」の地位は場合によっては王族以上…「私は復讐されるのではないか?」と怖かったが…お姉ちゃんは何もしなかった。
必要以上に話もしないし構っても来ない。
ホッとした…だが違った。
私の、私の愛したフリード様の婚約者にお姉ちゃんはなった。
許せなかった…自分の事は棚に上げて…
相手は聖女…もう誰も当てには出来ない、フリード様に「ある事無い事吹き込んだ」
その結果が…これだ。
こうなった時に私はお姉ちゃんを恨んだ。
だけど…私はお姉ちゃんから奪って来たけど、お姉ちゃんは私から何も奪っていない。
恨んでいいわけが無い…お姉ちゃんの全てを奪って、婚約者まで奪って、そして「聖女」の地位まで奪った結果がこれだった。
あそこで、フリード様を奪わなければ、私は他の人と結婚してポートランド家を継いで家族で仲良く暮らせた。
今の私はどうだろうか?
家族の愛を独り占めして、お姉ちゃんの大切なオルゴールや宝石も私の物、大好きなフリード様に聖女の地位、全部私の物だ。
全部私が奪ったままじゃないかな…
全部、奪い取った結果…が今なんだから…
全部奪い取った私が…何も取らなかったお姉ちゃんを恨む事はできないわね…
「ロゼどうしたの?」
「うん、私は凄く悪い子だったんだ…そう思っただけだよ」
「お前は悪い子じゃない」
「お父様…良いよ…私は悪い子だよ」
「貴方が悪い事したそう思うなら、私が女神様に謝ってあげる!」
「私も謝るぞ」
「ありがとう…お父様、お母さま」
私は奪い過ぎたんだ…きっと女神様も許してくれない。
だけどね一言だけ謝りたい、「お姉ちゃんごめんなさい」
ようやく、私解ったのよ…もう遅いけどね…
14話 ロゼ 涙
ようやく寝たきり生活にも慣れたわ。
こんな生活でもそれなりに楽しみもあるのよ。
ベッドから、外の景色を眺めて一日過ごす事も多いわね。
何か楽しめないか考えて、窓に台をつけて貰ったの。
ここにパンくずを置くと小鳥が来て和むのよ。
本も読めるし..不味いポーションを水代わりに飲んでいる以外はそう悪くは無いわ。
此処は高い場所にある部屋だから窓の外には死霊が居ない
相変わらず死霊は居るけどベッドまでは乗って来ないから窓側を向いていれば見ないで済むし。
だけど、最近は少しだけど、死霊とも向き合う事にしたのよ…だってこの人達は私が「本当の聖女」なら救ってあげれる人なんだから。
「ごめんなさい」 ずうっとは出来ないけど偶に謝る事にしたの…
何も状況は変わらず、助けを求める声はやまないけど仕方ないわ..私が悪いんだから。
悪いと思って話を聞いてみたけど…魔力が無い私じゃ駄目。
ターンアンデットはおろか、ディスカッションアンデットも出来ない私じゃ「助けて」とか「苦しい」しか聞き取れない。
だから「ごめんなさい」しか言えない。
だけど、私は……
それでも…人生の勝者だわ。
王太子ではなく王子になっちゃったけど、大好きなフリード様は私の物。
両親にも愛されて…欲しい物は全部私の物になっている。
公爵家の血筋に、王城暮らし…
そして、女神の御使いの「聖女」の地位。
そう考えたら結局私は幸せなのよ!
そう、私は全てを手に入れたのよ!
落ち込む事なんて無いわ!
私は女神の御使いの「聖女」結界位張ってあげないとね…
ぐすぐすっ..うぇぇぇぇっんぐすぐすっ..私は決して惨めじゃない…
一度泣き始めたら涙が止まらなくなった。
ポロポロの涙は止まる事なく流れる!
ロゼは知っていた。
確かにそれは全部「ロゼ」の物だ。
だが…人間なら誰もが一番欲しい「自由」が無い。
貧民でさえ持っている「綺麗な景色を見て、好きな場所に出掛ける」
それが自分には無い事を…認めたくは無かった。
15話 銀貨1枚
「尊女」という地位を貰いはしたが、私の周りは何も変わりはしなかった。
しいて言えばあの後、騎士団の団長さんと帝都警備団の署長さんが挨拶にしにきた位。
最近では、教皇に間に入って頂き、他の診療所とも提携する事にした。
私も今は、聖女で無いから教皇様と呼ぼうとしたが、露骨に嫌な顔をされて「尊女様」なのですから、教皇から「様 は辞めて下さい」と言われてしまった。
「名前で敬称無しで呼んで欲しい」と言われたが、流石に出来ないので教皇と呼ぶ事にした。
その流れで、ルドルフ三世を「帝王」ローアン大司教は大司教は沢山居る為「ローアン」と呼ぶ事になってしまった。
私が「ローアン」って呼ぶと教皇や帝王が羨ましそうに見ているのだけど…ちょっと辞めて欲しい。
それで、診療所との提携方法は「紹介して貰えたら銀貨1枚払う」そういう感じにして貰った。
これは教皇としっかりと話し合い、「自分が出来ない仕事を私に回しやすくする為」の手段でもある。
今迄は、出来ない治療もお金の為に無理やり施術して患者を死なせてしまうケースが多くあった。
だが、「自分で出来ない治療を紹介してお金が貰える」のであれば紹介するのではないか?
そういう考えからだ。
治療師はプライドが高い人が多いから難しいと思ったのだけど…
「尊女様に困った時に患者を回せるなら凄く助かります」
と感謝された。
ここでも、「尊女」という地位が役にたった。
最も診療所の管轄は教会だし、教皇が「お願い」したのだから断る事はできない…そんな気がする。
ちなみに金貨1枚払えない人の場合は、教会がお金を貸すそうだから安心。
金貨1枚という金額は丁度良い気がする….
確かに大金ではあるけど、普通の人でも死ぬ気で頑張れば稼げない金額じゃない。
ちょっとした病気や怪我なら、金貨1枚なんて払いたくないから普通の治療院に行くから、他の治療師から仕事を奪わないで済むし。
「ふぁ~あ…今日は暇ね」
私が暇と言う事は大病や大怪我をした人が居ないという事だから良い事だわ。
結界のお金が1日金貨1枚貰えるから、お金に困る事も全く無いから言える事だわね。
私がゆっくり休んでいると…けたたましくドアが叩かれた。
傷だらけの騎士が転がる様に入ってきた。
「聖女様! たた助けて下さい!」
「解りました…とりあえずパーフェクトヒール! これで貴方は大丈夫だわ!」
尊女でなく聖女…何があったのかしら?
「聖女様、感謝します…ですが、外にも沢山同じような者が居ます!」
「解ったわ!」
外に飛び出すように出て私が見た物は…傷ついた沢山の騎士や兵士だった。
16話 構わない方が得よ!
外に飛び出した私が見た物は…怪我や疲弊した騎士や兵士だった。
多分、相当急いで旅してきたのだろう…怪我したままの行軍をしなければ此処まで酷くならない。
「エリアヒール」
「エリアヒール…さっさと立ち去りなさい!」
嫌な物を見てしまった。
彼らが身に着けている百合と剣の紋章、私の元実家ポートランド家の物だ。
正確には私が袂をわかった実家だ。
「マリア様、王国に帰ってきて貰う事は出来ませんか?」
「あそこには私の居場所は何処にもありませんでした! 帰る理由はありませんわ!」
「ですが…ロゼ様は寝たきりになり、貴方のお父様も塞ぎこんでおります! どうにか…どうにかお怒りをお鎮め下さい!」
「別に怒っては居ないわ? ただ帰りたくないだけよ? 誰が不幸になると解って帰るのでしょうか?」
「貴方は妹やお父上に愛情は無いのですか?」
「無いわ…だけど、一言言わして貰えば、この責任の多くは貴方達も含むポートランド家の問題だわ」
「何故、ポートランド家の問題と言われるのですか…」
「そうね、例えば、私が小さい頃迫害されていたのは知っている筈よ!此処にいる人の多くやその家族はね、知っていた筈よ!その時体を張って守ってくれたら私は感謝したわ…最後に私がお父様にオルゴールを取り上げられる事になった時にもし庇ってくれたら私はその人には一生感謝したに違いないわ…だけど、貴方達はただ見ていただけだわ!」
「仕えている主に我々は逆らう訳にはいかないのです」
「そう? それでも騎士なんだ!お人形さんの間違いじゃないかな? 正しい事の判断も出来ないんだから人形よね!」
「騎士を愚弄するのは辞めて頂きたい…」
「それは阻止できなかったのね…まぁ良いわよ! 「だけど私が学園に通えなかったのは?」貴族の娘なら絶対に通える筈よね! それすら貴方達は具申しなかったわ!」
「その事は謝りたい…私達には意見を言う勇気が無かった…それは認めよう!」
「だったら今更じゃないの? 更に言わせて貰えれば、ロゼを駄目な子にしたのはポートランド家よ! 私じゃ無くロゼがああなったのは皆が甘やかしたからだわ」
「そんな訳は無い…ロゼ様が寝たきりになったのは間違いなく貴女のせいだ、責任逃れだ!」
「私はロゼが欲しがった物を2つあげただけ…避難されても困るわよ!そう寝たきりになったの? それこそが甘やかして育てた証拠だわ!」
「そのせいで、ロゼ様の人生は終わってしまった…あそこ迄する事は無かった筈だ」
「そこが勘違いなのよ..良い?あの子と私の父親は同じでポートマン公爵だわ! だから、甘やかして育てなければ、私程じゃないけどそれなりに魔力量は増やせたのよ…それこそ、毎日魔力が枯渇するほどの魔法を1年毎日使い続ける、それだけで多分3倍位にはなった筈だった…そうすれば結界を張りながら、常人の生活は送れるわ…まさか…ポートランド家の娘で学園に通っていたのに魔力量が並以下だなんて誰が思うの? そこ迄酷いなんて私も思わないわよ!」
「言いたい事は解った、だが、我々は貴方を国に連れて帰らないといけない」
「あのさぁ…連れ帰ったらポートランド家は終わるけど良いの?」
「なっ!」
「そうじゃない? もし私が聖女に戻るなら、私は国王にポートランド家のとり潰しを願うわよ? そうしたら終わりだと思わない!」
「そんな…」
「そんなじゃないわ! 私はポートランド家が大嫌いなのよ! だけど、何もするつもりは無い!だから構わない方が得よ! 私を国に連れ帰ったらポートランドの歴史は終わる…最もその前に私は本気で暴れるわよ!」
「本気ですか?」
「今の私はもう王国の国民でも無い…帝国に籍を置いている…貴方達と戦うのに一切躊躇は無いわ」
「待って下さいな尊女様!」
「教皇!」
「様子を見ていましたが、マリア様は既に帝国民ですぞ! そして私と帝王ルドルフ三世が、正式に「尊女」とさせて頂きました、揉めるならポートランド家やその家臣は教会を敵に回しますよ!」
「それは可笑しい…ロゼ様は聖女の筈です!」
「ほう!禄に治療も出来ない人間が聖女ですか? 王国には利益はあるかも知れないが、世界でみたら役にたってない様に見えますが…まぁ良いですが「尊女」の地位は「聖女」より上とさせて頂いております…「尊女様」と揉めるなら教会が敵になるそう思って頂いて構いませんよ!」
「待って下さい!」
「帝都警備団のマーケルだ! 今、帝王ルドルフ様の元今後、ポートランド家は帝国への入国は認めない事になった!このまま居るなら牢屋送りになる、さっさと立ち去れ」
ポートランド家の者は最早立ち去るしか無かった。
17話 解散
惨めな者だな…
ポートランド騎士団、騎士団長なんて地位についているが言われた通り、俺は人形だ。
ポール様と皆が慕ってくれるが、騎士なんてギリギリ貴族でそんなに権力なんて無い。
仕官できなければ、それこそ平民に混じって冒険者でもするしか無いんだ。
俺だって! 俺だってなっ 間違っているのは解っているんだ。
マリア様が迫害されて居たのは知っていたさ…
オルゴールの話だって、学園の話だって知って居たさ。
昔の俺なら、そんな奴間違いなく殴っているさぁ。
だがな、俺には家族が居たんだ…俺が騎士を辞めたら家族が生きていけないんだ…
だから、首になるのが怖くて間に入れなかった。
騎士なんて碌な者じゃない!
騎士なんて所詮は仕える人間の犬だ。
エサも貰う為に飼い主に従うしか無い犬なんだよっ
良くもまぁ俺も「愚弄するな」なんて言えたもんだな。
無理に無理を重ねて禄に休みもせず強行軍で来たが、その結果がこれだ。
無理難題を吹っ掛けて挙句の果てに、お情けで治療までして貰った…情けねーな。
もう嫁さんも死んじまったし、ガキは家を出て行った…
どうせこのまま帰っても碌な事はねーしな。
「悪りぃ…団長も騎士団も辞めるわぁ 後はお前に任せる!」
「団長、本当に辞めるんですか…冗談ですよね」
「さっき、マリア様と話してみてよ良く解った…こんなの騎士でもなんでもねーよ! マリア様は人形って言っていたけどよ、犬ころだぜ!」
「それで、団長はどうされるのですか?」
「マリア様に言いにいくのが筋だが、流石に言いにくいからなっ 教会にでも相談するさっ 要らないと言われたら冒険者にでもなれば良い」
「ポール様は本当に辞めてしまうのですね! なら決めました、私も辞めましょう」
「おいっ副官のお前迄居なくなっちゃ駄目だろう」
「ポール、貴方は今騎士団を辞めたのですから、僕が騎士団の団長です! だから僕の自由の筈です….ねぇポール」
「くそっリチャード覚えていろよ…それでどうするんだ、お前は?」
「ポールについて行きますよ? 貴方脳筋で馬鹿ですからねどうせ教会との交渉なんて出来ないですよね? 幸い僕は元から独身ですからなぁーにもしがらみはありません」
「ほう、ついて来てくれるのか?」
「大体ポールが辞めた時点で僕たちには未来なんてないんですよ? 騎士団長がマリア様についたのが解ったら、とばっちりは僕たちに来ますよ?公爵は兎も角あの糞婆は絶対に咎めてきますよ? 場合によっては処刑なんて事もやりかねない! だから貴方は脳筋なんですよ」
「おい…お前そんな奴だったっけ」
「ポートランドじゃ猫の3匹も被らなくちゃ危なくて騎士なんて出来ません、横暴な婆にクソガキのロゼ、しいて言えば、公爵がまだ真面ですが、糞婆に悪ガキの言いなり…皆、仕事と割り切ってしているんですよ? 解りますか?」
「解るな」
「まぁ僕は、貴方に恩義があるから居るだけでしたから、ポールが居なくなるなら辞めちゃいます」
「仕方ないな、俺はもう騎士団長じゃない」
「そうですね、僕ももう騎士団長じゃない…そうだスミス、お前が今日から騎士団長だ良かったな!」
「冗談じゃない…帰ったら八つ裂きにされるだけじゃ無いですか? それに思ったんですよ! 俺は言われっぱなしは好きじゃない…マリア様に時間は掛るだろうが、オルゴールの分と学園の分、叩き返してやります…「これでチャラだ」そういう仕事をしてやりますよ…だから辞めてしまうのでやりません」
「それじゃローランド?」
「はぁ? 今考えていたんですよ、一旦帰ってからオルゴール盗んでこようかって…ですがロゼお嬢様が王宮に持っていってますから無理ですねっ 私も辞めますよ…だれが貧乏くじなんて引くもんですか!」
「結局全員が辞めるのか!」
「そう言うことですね」
「それじゃ…せーの!」
空高く、百合と剣の紋章が飛んだ…地面に落ちた紋章を誰も拾わなかった。
この紋章はまるでこれからのポートランド家の未来を物語っているようにポールには思えた。
18話 ブラザー(修道士)
再び、ポートランドの騎士や兵士がが帝都にきた。
さっき、尊女様と教皇様と揉めて立ち去った筈だ…入れて良い物か悩んだ。
だが、彼らはポートランド家の紋章を手に取っている。
良く見ると、それらの紋章は土で汚れていた。
「何があったんだ」
兵士は兎も角、騎士が仕えるべき家の紋章を外している。
本来はあり得ない。
「俺たちはもうポートランド家に仕えるのを辞める事にしたんだ…更に言うなら王国にも戻りたくはない! もう一度だけで良い帝都に入れて貰えないか?」
「待て、さっきはポートランドの騎士や兵士だから入れたんだ、辞めてしまうならそれは使えないな! とはいえ、さっきまで騎士や兵士だったんだ身分は確かだろう! 1人銅貨3枚で仮身分証明を発行する、3日間以内に、冒険者になるなり職につくか…」
「そうか、なら簡単だ、こっちを出せば銅貨3枚出さないで済むかな?」
「冒険者カード…なら銅貨は要らないな、帝都へようこそ! もう問題は起こさないでくれよ」
「解った」
運が良い事にポートランド家の騎士や兵士は冒険者崩れが多い。
此処に来た者は強行軍の為に屈強な者を選んだ。
その為、全員が冒険者カードを持っていた。
「何事ですか!」
「教皇様、ポートランドの騎士がこちらに来ています!」
「まさか血迷ったのですか? 直ぐに王都の騎士と警備団に連絡してこちらは聖騎士に」
「どうやら違うようです…教会の前に全員が跪いています」
「そうですか…跪いているなら、私が行くしかないでしょう」
「こんな夜更けに何事ですか? まだ尊女様に対して文句があるのでしょうか? 」
「いえ、違います! 私達は、今迄してきたことを尊女様に償いたいのです…その為に此処に来ました」
確かに紋章を外して手にしていますね…彼らなりには、罪の意識があるのでしょう!
「その様ですね…ですが私はまだ信じられませんよ…もし本気だと言うなら、その手に持っている紋章を投げ捨てて踏みつけてみてください」
ポールを先頭に全員が紋章を叩きつけ踏んだ。
彼らの本気が解りますね、あのポールと言う騎士とリチャードは「狂狼のポール」と「氷のリチャード」ポートランド家では1.2を争う有名な騎士です。
なら、マリア様と揉めそうなポートランド家から取り上げて置いた方が良いでしょう!
「本当に償いたいと言うのですね、ならば後は教会に任せなさい…ポートランド家にも文句は言わせません」
「有難うございます」
「それでは、教会で貴方達を見習いブラザー(修道士)として受け入れる事に致します! 日々の生活や住む場所は与えますからご安心を!」
「ちょっと待ってくれ教皇様、私達は騎士や兵士だ…ブラザー等」
「おや、貴方達はポートランドから逃げて教会を頼った、だからブラザーにして教会が保護した、これなら王だろうが誰も文句は言えませんね」
「あの教皇様…私は騎士であり、戦いの中でしか生きられません」
「そんな者はさっき紋章と一緒に捨ててしまった筈ですよ? 償うと言うならやはり見習い修道士から初めて女神様に懺悔をする事から始めるべきでは? 尊女様に償いたいなら、まずは朝早く起きてから診療所の前の掃除でもしては如何でしょうか?」
「ははは、仕方ないですよポール、私はそこから始めます…教皇様、頑張れば聖騎士にもなれますよね」
「はい」
「ですが..」
「おい、ポールっ マリア様に償いたいと言い出したのはお前だ ! マリア様は尊女様だぞ、償うというなら教会から始めるのは当たり前だろうがっ しかも教皇様が間に入ってポートランド家をどうにかしてくれる! ですがじゃねーんだよ…マリアの嬢ちゃん守りたいなら此処で聖騎士になるしかねーんだ」
「マリアの嬢ちゃん?」
「すみません、教皇様、気をつけます…それでどうするんだ!」
「ブラザーから頑張るよ」
「よし決まったな…お手数をお掛け致しますが、全員お世話になります」
「構いませんよ、貴族の横暴から保護するのも教会の務め…ただ貴方達はブラザー見習いですから明日はゆっくりして良いですが、明後日からは朝5時から起きて掃除やミサ、勉強が始まりますからね…頑張るのですよ!」
こうして、ポートランド家の騎士達は 見習いブラザーになってしまった。
思惑とは別に…
「診療所の前を掃いてくれているのねっ 何時もご苦労…どわああああああっ 何でポールとリチャードが掃除しているのよ!」
「昨日言われた事が堪えたんです…償いとして見習いブラザーから始めました」
「あのさぁ…いい歳したおじさんがそれで良いの?」
「はい」
「リチャードも」
「まぁマリアの嬢ちゃんを見捨てたんだから仕方ないな」
「相変わらず口が悪いのね!」
「ああ悪い尊女様…気をつける」
「まぁ、リチャードは怒られないならそれで良いわ…尊女様と呼ぶ姿は似合わないから」
「いや、教皇様に怒られるから気をつける」
騎士が仕えている者に逆らえないのは当たり前だわ。
これ以上いう必要は無い…
よくよく考えてみたら…ポールは隠れてお菓子をくれた事があったし、何も無くなってしまった私にリチャードは笹笛と笹船の作り方を教えてくれた。
少しは気に掛けてはくれていたのだろう。
「そうね、だったらこれからは尊女として私を敬いなさいな」
「「解りました」」
過去はもう良いわ
過去は変わらない、だから、もうそんなに気にもしてもない。
今の私はもう自由なんだからね…
「私をあの場所に戻そうとしない」それだけ気をつけてくれるなら、それで良い!
但し、それをするなら、今の私は何をするか解らない。
19話 崇拝する理由
「ふぅ~ この位になると本当に重いわね…」
「なぁポール手伝った方が良いと思うか..」
「いや、意味無いから放って置こう」
結界に異常があったから見に行ってみたら、黒龍が暴れていた。
この位なら、私一人で充分対処できるから、ついでに狩ってきたのよ。
黒龍を狩るコツは喋らせる前に狩っちゃう事。
トカゲの化け物とはいえ、喋る相手を殺すのは気が引けるのよ…
だから喋る前に殺す、それに尽きるわ!
「ポール、リチャード見ているなら手伝いなさい!」
そう言われても困る…小さな山程ある黒龍を運ぶのに人が2人加わって何の意味があるんだ!
あれを引き摺ってでも運べる事じたいが異常なんだ。
まぁ、形だけ手伝えば良いな。
「「解りました」」
ただ手を添えるだけ、手伝っているふりをするだけだ。
「ありがとう」
「「どういたしまして」」
教皇様が飛んで出てきた。
そりゃ、小さな山程ある黒龍を引き摺っていれば直ぐに気がつくよな。
「尊女様、これは一体何があったのでしょうか?」
「教皇、黒龍が暴れていたので討伐してきたのよ? 折角だから解体してドラゴンステーキに出来ないかしら…これだけあれば帝都の住民全員食べられわね」
私がマリア様を素晴らしいと思ってしまうのは、この時代には魔王が居ない…だから勇者が居ない。
私は教会の中の「勇者絶対主義派」だ。
勇者絶対主義は勇者は女神様の使いなのだから「この世で一番偉い」そういう考え方だ、そして聖女様は2番。
私が崇拝するのは偽物の聖女ではなく「物語の主人公」の様な聖女だ。
聖女様を崇拝しながらも、私はどうしても「勇者」に会いたくなる。
勇者絶対主義の中で生きて来たから仕方ないのです…だがある時ふと思いました。
もし、魔王がこの時代に存在して、マリア様が男なら、間違いなく勇者になるのではないか?
マリア様は規格外だ…恐らくこの人は、聖女だけじゃなく勇者の素質さえあるような気がする。
何しろ…伝説で勇者が苦戦した黒龍をいともたやすく倒してしまうのですから…
「それじゃ、教会でギルドに頼んで解体して貰いましょう…肉は切り分けて、そうですな帝都で無料でステーキを振舞います、ただ、素材だけはマリア様が貰って下さい」
「要らないわ、教会に寄付します」
「解りました…頂戴いたします」
教皇だって人の子です。
自分が崇拝する者に害成すなら…嫌いになるのは仕方ない事だと思いませんか?
20話 マリアの宝物
オルゴール…オルゴールと…
駄目だ、幾ら考えても持ってくる方法が浮かばないわ…詰んだ。
流石の俺でも王宮から盗んではこれねーよ!
そもそもマリアの嬢ちゃんは何でそこまでオルゴールに拘るんだ?
母親の形見だからだ、流石に他の物には出来んよな…あれ…そうだ…良い事思いついたぞ..
この間は好き放題言いやがって…マリアの嬢ちゃん泣かせてやるから覚えて置け!
大体俺もこんな所で、ブラザーなんてやってらんねーっての…
「1か月間の暇が欲しい? ブラザー見習い、リチャード何を言い出すのですか? まだ1週間ですよ」
「教皇様…私は尊女様の為にやりたい事ができました…すみません」
「ほう…尊女様の為ですか、解りました許可しましょう…それで何をするのでしょうか?」
「それは言えません」
この男、偶に「嬢ちゃん」と尊女様を呼び兄妹の様な感じに見える事があります。
崇拝するからこそ解ります。
この人間は決して尊女様に害成さないでしょうね…
「それじゃ、貴方の行動の評価は一か月後ですね、素晴らしい行いであれば評価しましょう…貴方が成りたがっている聖騎士にして差し上げましょう…ですが下らない事であれば、そうですね帝都の公衆トイレの掃除1か月です..宜しいですか?」
「それで良い…有難うございます、それで素晴らしい方だった場合は、手も貸してくれますか?」
「ええっ尊女様の為になる事なら幾らでも手を貸しますよ」
そして、俺は旅に出た…目指すはポートランド領だ!
まぁ、何処にいくのも顔パスだ。
まだ辞めたことは伝わってないらしいな。
領地につくと夜まで待った。
恐らく、俺の勘違いじゃなければ、こっちの方がオルゴールより良い筈だ。
流石に夜、此処に居るのは嫌だな…
せーの..嬢ちゃんの為ならえんやーこら…尊女様の為ならえんやーこーらっ…
さてと問題の物は回収したし帰ろう..ちゃんと埋め戻したからこれでバレないな。
とっとと帰ろう…怖ぇ~からな。
「教皇様、今帰りました!」
「随分と汚らしい姿で…それで、結局貴方は何をしたのですか?」
「これを持ってきました…」
「その骨がどうかしたのですか?」
「これは嬢ちゃんじゃ無かった…尊女様のお母さんの骨だ」
「母親のですか…」
「尊女様はロゼに片っ端から形見を奪われていてな、騎士だった俺はそれを見ている事しか出来なかった」
「ほう~ 尊女様の親の形見を略奪していたのですか?ポートランド家は」
「それで、尊女様は、最後に取られたオルゴールに拘りがあったみたいだが…俺には手は出せない、だから何でオルゴールが欲しいのか、そこから考えたんだ…多分親への愛情からだと俺は思った」
「成程」
「なら、本当に欲しいのは「母親」なんじゃないかと思って連れて来たんだ…此処には教皇様や大司教様に尊女様がいる…最高の墓がつくれるしな」
「信仰とは自分で考え、その為に何ができるか考え行動を起こす事です…素晴らしい、約束通り聖騎士の地位を私が授けましょう…そうですね、直ぐにでも教会の庭に素晴らしいお墓を作りましょう…今直ぐ墓石屋に作らせなさい」
「教皇様…流石に、もう夜ですよ」
「すぐに叩き起こせば良いのです…教皇の名前を出してよいから直ぐに作らせなさい」
「解りました」
夜中なのに叩き起こされて墓石屋は墓石を作らされた。
完成したのは明け方3時、そこから直ぐに教会に持っていき据え付けさせられた。
唯一良かったのは報酬が良かったのと教皇様からお言葉を頂けた事だ。
「嬢ちゃん、ちょっと教会迄きてくれないか?」
「どうしたのリチャード目に隈まで作って…」
「良いから、良いから俺からサプライズだ…」
無理やりリチャードに手を引っ張られて教会の裏に連れていかれた。
そこには、教皇とローアン司教が居た。
「朝から何でしょうか?」
「折角だからリチャード、貴方から説明したら如何ですかな?」
「まぁ、そのな…正直言ってオルゴールの話堪えたんだ…だからよ…これで許してくれ」
「これって…まさか」
「うん、お前のお母さん、フローリア様のお墓だ…ちゃんと骨を俺がとって来た」
「お母さまのお墓…本当に?….うわぁぁぁぁぁん…ありがとう…リチャード…本当にありがとう!」
「そうだな! 俺金が無いからな、この間の治療代と相殺にしてくれないか」
「解ったわ…ありがとう」
大体、何でも抱えすぎだって言うの…女でガキなんだから困ったら我慢しないで泣けば良いんだよ!
まぁ無理させていた大人がいけないんだがな…
リチャードはマリアの泣き顔を見ると安心したように笑顔を浮かべた。
【IF】剣聖ジェイク (最初に考えていたエンディング もう関係の無い話ですがあげてみました)
(前書き)
これは、初期の段階で考えていたエンディングです。
本来は短編で終わらせるつもりでしたが…皆さんの応援でもう少し続けようそう思い改変しました。
ただ、消してしまうのは勿体ないのでアップします。
ではIFの物語をどうぞ!
「リチャード、先程の事といい、オルゴールの事といい礼を言わせて頂きます」
「そんな教皇様に頭を下げられると困ってしまいますよ」
「まさか、尊女様のお母様をお連れになるとは素晴らしい考えです…オルゴールの件も教えて頂き有難うございました」
「良いって、良いって!」
「これは約束の聖騎士の証です…たった今より 貴方は教皇直轄の尊女様つきの聖騎士です」
すげーなこれ、ミスリルの軽装に肩には教会の刻印が彫ってある。
「他のと違う気がしますが」
「それは特別な物です…それを身に着けていれば、私の権限の一部を行使できます…司教クラスに命令も下す事が可能です」
「凄いな!」
「はい、教会の刻印の入った物で…二つと無い大切な物です…聖戦で戦った大昔の本物の聖騎士の着ていた物から作りました」
「何故、そんな貴重な物を私に下さるのですか?」
「私も教会も貴方が尊女様の味方である、そう思い信頼をしました…そして貴方は私の直轄にしました…教えてください! 貴方は誰ですか?」
「俺はリチャード…皆が知っている名前だと「氷のリチャード」ですかね?」
「それは知っています! 氷のリチャードになる前の話を教えてください」
「なる前? 何だそれは」
「可笑しいんですよね…氷のリチャードは無口な事からついた字です…それなのに貴方はお喋りじゃないですか? まるで別人のようだ」
「人は何時までも同じ性格のまま居られない者です」
「そうですかね…ある司祭の話では、氷のリチャードは死んでいて葬儀まで上げたという話ですが可笑しいですね」
「興味深い話だな…」
「だけどおかしな事に、死んだ筈のリチャードが他の地域に現れて不思議な事に冒険者していた…そして、その時期に姿を消した男が居る」
「なんだ…全部知っているんじゃねーか!」
「知っていますよ、ですが「剣聖 ジェイク様」が何で正体を隠しているんでしょうね?」
「全部知っているんじゃねーか」
「知りませんよ? 正体を隠している訳まではね」
「それで、どうする? 聖騎士の話は無しか?」
「いえ、「剣聖様」も勇者絶対主義派では信仰の対象ですので、私は貴方の味方です」
「そうか? なら助かる…それでオルゴールの話だが教皇様はどうするんだ?」
「取り返してあげようかと思いますが…」
「それはそれで良いが…一つだけ言わせて貰うとこれは王国とマリアの話だ」
「そうですが結構酷い話です」
「だな、だがなもし「アリとドラゴン」が争ったらどっちに着くかという話し…」
「その話は尊女様がアリ、そう言う事ですか?」
「いや、マリアがドラゴンでアリが王国だ」
「何が言いたいのですか?」
「マリアが本気を出せば…王都何て滅ぼせる…そんな人間の為に力を貸すのか!」
「それはどういう事ですか」
「文字通り…マリアならたった一人で王都を滅ぼせる」
「確かに尊女様は強いですがそこ迄は…」
「出来る…そうだな! あの黒龍を見てどう思った?」
「何も」
「傷一つ付いて無かっただろう?」
「そう言えば」
「あれは空絶結界…剣聖時代に俺がつい教えてしまった物だ」
「確かに凄いですが、国相手に喧嘩出来るなんて可笑しすぎます」
「あの技の原理は張った結界の中の空気を全部抜く…そういう原理だ」
「それがどうかしましたか?…あっ」
「そうだ…マリアは王都や帝都全部に結界が張れる」
「それは」
「勿論、その中の空気を全部無くすことも可能だ…マリアを怒らせたら最後、帝都も王都も生活する者は全員窒息死だ」
「….」
「だから、オルゴールなんて簡単に取り戻せる…自分で取り戻せるのに手を貸す必要はあるのかな?」
「それでも私は…尊女様の為に手を貸したいと思います…心優しいドラゴンでアリに手を出さないなら誰かが払ってあげないと可哀想じゃないですか?」
「そうだな、教皇…俺もそう思うよ」
今日もマリアは診療所を続ける。
心優しいドラゴンは金貨1枚で奇跡の治療を続ける。
このドラゴンはこんなに嫌な思いをしても…人が好きだから。
(あとがき)
これはもう廃棄案なので本編とは関係ありません。
21話 た.の.み.ま.し.た.よ!
オルゴールや宝石ですか…
頭の痛い問題ですね….
教皇として言ってしまえば、楽なのかも知れませんが…
あれでもロゼは聖女です。
形上は敬う存在でもあるのです…
王や王妃に言えば取り返すのは難しくないと思いますが…態々王国に干渉するのも問題がありそうです。
私→国王→ポートランド家にしてしまえば外交問題になります。
仕方ありませんね….
やりたくはないし、ある意味教会の汚点ではあります。
二代前の悪徳教皇と呼ばれた彼が好んだ者…呼ぶしかないでしょうね。
尊女様の為です…
これが正しいそう思う事にします。
「ローアン…カースのメンバーに招集をかけて下さい」
「カースを呼ぶのですか!」
「彼らなら、間違いなく…尊女様の持ち物を取り返してくれるでしょう!」
「確かに、適任ですが…加減を知りません…大丈夫でしょうか」
「下手に私が動くよりはマシですよ…あの方達もマリア様には尊敬の念を持っているから大丈夫でしょう!」
「解りました」
「お呼びでございますか教皇様 ローアン大司教様!」
「済まないがお願いできるかな…」
「お任せください! 我々カースに掛かれば全て取り返してきましょう…女神の名の元に」
「お願い致しますね…今回は際限なしで構いません」
「ならば簡単です」
「頼みましたよ」
「はっ!」
「ローアン、リチャードを呼んで来て下さい!」
「はい」
「お呼びでございますか! 教皇様…」
「跪きなさい!」
「はっ」
「これより、貴方の功績を認め 教皇直属、尊女様づきの聖騎士と致します…これを受取りなさい」
ミスリルの軽装に教会の紋章の入った剣…凄すぎる。
「それは聖騎士の中でも特別な権限のある者に渡される物です、その剣を手にして発言したことは大司教の言葉と同意とされます…ご注意を」
「はっ光栄でございます」
「そう言えば、実物を見た者が同行した方が良いでしょう…これよりカース達と一緒に王国に行き、ロゼより、くだんのオルゴールや宝石全てを取り戻してきなさい」
「教皇様…それは…」
「頼みましたよ!」
「いや、ロゼ様とも顔見知り…」
「貴方は誰付きなのですかな! 信仰すべき対象は解りますよね? た.の.み.ま.し.た.よ!」
教皇直属で尊女様づきのリチャードには断れる訳もなく…リチャードはカースと一緒に王国へと旅立った。
22話 カース
「お前ズルいぞ!」
「どうしたのかな…見習いブラザーのポール君に皆さん..ふぅっ これからは聖騎士様、リチャード様と呼びなさい」
「うぐぐぐぐぐぅ…リチャード様、あんな事考えていたなら一枚噛ませてくれても良かったんじゃないでしょうかね!」
「ポール、これは1人だからの手柄、沢山の人で行ったら意味が無かったそれだけだな」
「副団長の裏切者」
「こんな人だったなんて」
「甘いんだよ! 此処に入ったら一からだ、俺は嬢ちゃんがどうしたら喜ぶのか! それしか考えない…それが恐らく此処での出世のコツだ…頑張れよ」
まるでリチャードは見せびらかすかの様に鎧をみせ去っていった。
「うぐぐぐぐっちくしょうー」
とはいう物のこれから…カースと一緒に嬢ちゃんの宝物の回収だ。
読み違えた、お骨を持ってきて全て終わりで良いと思っていたんですがね….
「それでは行きますよ、聖騎士リチャード」
「自己紹介とかは要らないのか?」
「我々カースは人に恨みを買う事が多いのでお互いに名乗る事は無い」
「確かに」
カース…本来は「呪われたアイテム」を回収する為に作られた集団。
だが、ある時からは教会や教皇が欲しい物を手に入れる為に行動する集団となる。
カースに狙われたら最後、物であろうと人であろうと教会の物にならなかった物は無いとされている。
欲しい物があれば、何でも「呪われた物」にされてしまう。
昔、とある王国に国宝とされているルビーがあった。
そのルビーを欲しがった当時の教皇はカースに頼んだ。
「このルビーは呪われているから教会が回収する」
そう、カースはその国の王に伝えた…だが、その国の王は渡すのを拒んだ。
結果がどうなったのか?
暫くしてその国の王妃が死んだ…そしてその次に王子が死んだ。
怖くなった王は結局、そのルビーを教会に渡した。
一見そのルビーをの呪いのせいに思えるかも知れないが本当は違う。
ルビー欲しさに、呪いが掛かっている事にして取り上げようとして…渡さないから呪いに見せかけて殺したのだ。
また、ある教皇が夫のいる女に横恋慕した..どうしてもその女が欲しかった教皇はカースに頼んで「呪われている事にして強制的に取り上げた」
教会や教皇の為なら「何でも取り上げる」それがカースだ。
カースに狙われて教会が手にしなかった物は無い…そう言われている。
今の教皇は清廉潔白に生きている為使ったのはこれが初めてだ…
そのカースが、尊女の物を取り返しに王都に向った…返ってくるのは時間の問題だろう。
23話 回収
「聖女ロゼ様…お初にお目に掛かります…教会のカースです」
「そう…ですか…カースとは何でしょうか?」
国王や王妃は相手が教会のカースと解ると何も言わずにそのままこちらに案内した。
フリードも下がらせている…
関わりたくない…それが本音だ。
その為、此処にいるのはリチャード、カース、ロゼしか居ない。
リチャードは顔を見られない様に離れている。
「教皇様直轄の「呪い」の専門家と考えて下さい…今回はロゼ様の体調が悪い原因が呪いにあると思い様子を見に来たのです!」
「呪い…ですか」
「はい…失礼しますが、持ち物を見させて下さい!」
「お願いします」
カースがこの部屋にある物を片っ端から見て行く。
リチャードに対して確認をとりながら、選別をしていく…
くだんのオルゴールは直ぐに見つかった。
「このオルゴールや宝石から悪い波動を感じるのですが…手に入れた経緯を教えて頂けますか?」
「それは、姉のマリアから頂いた物です」
「あの、マリア様に恨まれる様な事はしましたか?」
「何故..ですか…」
「このオルゴールや宝石から禍々しい物を感じます、祓わなければ命に関わります」
「そんな…解りました…それは姉の母親の遺品を私が取り上げた物です」
「そうですか…それでどうしますか? ご自分で祓われますか?」
「私…には…出来ません」
「聖女様、言わせて頂きます、物には念が込められています、特に遺品には沢山の想いが込められています。この場合は子を思う母の想いです、子を思って残した物を奪い取れば、祟られるのは当たり前の事です!これらにはマリア様を思う気持ちが込められています…他人が奪えば呪われるのは当たり前の事です!これは最後のチャンスだと思って下さい、我々が持ち帰り、マリア様のお母様の怒りを鎮めた後にマリア様に返そうと思いますが如何ですか?」
「あの…祓って頂いて返して」
「なりません、貴方が持てば再び呪われます、我々も2回目は助けません」
「お持ちください」
「はい、他にもマリア様から奪われた物はありますか? 2度とカースは来ません、助かりたいなら全部お出しなさい! 今回は祓って差し上げますから」
「わかり…ました」
オルゴールに宝石の数々…ドレス、よくもこんなに取り上げた物だ。
「これで全部ですか?」
「はい」
「それではこれらの物は責任を持って祓わせて頂きます! それでは祓う為の依り代をお願いします!」
「お金…ですか…」
「違います! 想いを祓うには同じ様に想いが籠った品が必要なのです!それはこちらで探させて頂きます」
「そんな..」
「皆さん、想いが籠った品を探しなさい」
「このルビーは如何でしょうか」
「良さそうですね」
「待って…ください…それはポートランド家の家宝で慰みの為に…父が置いて…くれたのです」
「それは良い、きっとご先祖様の魂が力を貸してくれるでしょう」
「そんな..」
「このブローチも…」
「待って…下さい…それはフリード様から…頂いた物です…大切な物なんです」
「それは良い、きっと王子のその想いが貴方を助けてくれるでしょう」
「そんな…酷い..」
「このドレスは」
「魂を鎮めるには同じ数のドレスも必要です…頂いて行きましょう」
「いや…」
カースはマリアの部屋にある金目の物を全部没収した。
そして最後に…
「それでは、呪いを祓う触媒に髪を頂きます」
「髪は髪は許して下さい…髪は…」
「命には替えられない無いと思いますよ…それに貴方の禍が家族や王子に降りかかっても良いのですか? それで良いなら要りませんが」
「ううっ…解りました」
「これで大丈夫です…ロゼ様の呪いは教会で引き受けましたのでご安心下さい」
「…」
カースが立ち去った後には殆ど金目の物は無くなっていた。
何も知らない人が見たら…貴族の部屋とは誰も思わないだろう…
「うっうっうっうわああああああああああんっ」
そして、その部屋からは..ロゼのすすり泣く声が丸一日聞こえていた。
【IF】【リクエスト作品】悪役王子と悪役聖女の物語 これはリクエストでつい考えてしまったEND本編関係無しです
(まえがき)
これは感想欄のリクエストに答えたIFの物語。
本編は関係ありません…あくまでIFです。
王子とロゼが勝った世界…是非味わってください…
俺はロゼに何をしてやれば良いのだろうか?
もう、何が何だか解らない。
王太子でも守れないのに、只の王子になった俺に出来ることは無い。
マリアを真の聖女だと言うが俺にとっては悪魔だ。
彼奴が、俺を聖女になる条件に指名しなければ、俺は普通に王太子だった。
子供が作れないくせに「王太子を婚約者に」なんて…聖女になりたくない為にいった事だろう?
お前が俺の何を知っているんだ?
なぁ教えてくれ!
木の陰から俺が好きで見ていた事があるのか?
ハニカミながら俺の目を見たことはあるのか?
少なくとも俺は婚約するまで、お前なんて知らない…
俺はお前が聖女になりたくないから無理難題として吹っ掛けた結果…王太子を追われた。
これはロゼでなくお前の傍に居ても同じ結果なんだから…文句言っても良いだろう!
確かに俺はお前を陥れた。
だがな、マリア…ロゼを俺に置き換えたらどうだ?
お前は嫌がらせしてないと言えるのか?
俺を好きでもないのに婚約者に指名するのは嫌がらせでは無いのか?
お前は俺をどう思っていたんだ…
俺が悩んでいる時に優しく抱擁してくれた事はあるか?
俺が泣いている時にハンカチを差し出した事はあるか…ないな..
俺はお前が大嫌いだが歩み寄ろうとはした。
だが、お前はそれすら振り払った…
俺は王太子でいる為に死ぬ程勉強したんだぞ…全部潰して..満足か。
だが、解っているんだ…
悪いのは…お前じゃない…本当に悪いのは 「お前にそれを許した父上と母上だ」
そして、「聖女に国防を押し付ける女神とこの国だ」
もう終わりにしよう…
「ロゼ…」
「フリード様…私こんなになっちゃ…いました」
あの明るかったロゼがもうボロボロだ…綺麗な風に流れるようだった綺麗な髪は今や老婆の様に白い。
しかも、ロゼが最後まで拘っていた長髪も無理やり斬られて持っていかれてザンギリ頭だ。
「ロゼ…俺は君を守れなかった…ごめん」
「そんな事ない…こんな醜いすがたの私なのに…いつもいてくれる…わたしさえ捨てれば幸せなのに..全部失った私のそばに居てくれた..嬉しい」
「俺はこの世界が嫌になった..一緒に死んでくれるか?」
「フリード様と一緒なら…構わない、貴方の傍が私の居場所だから」
フリードは死ぬ方法に毒を選んだ…王族が最後の時に自害に用いる安楽死用の毒だ。
二人は手を繋ぎ安らかに死んだ..その顔には悲壮感はないまるで微笑んでいる様に見えた。
その瞬間、大きな音がした…今迄王国を覆っていた巨大な結界が壊れた瞬間だった。
次の聖女が居ない王国はこれから先、未曽有の危機に襲われる事になる。
ポートランド公爵は王命を無視して帝国に進軍した。
だが、優秀な騎士を失っていた為、王都に入る前に全滅して処刑された。
彼が最後に言い残した言葉は「悪魔の子マリアを殺す」そういう言葉だった。
そして、その知らせを聴いた夫人は毒を煽って死んだ。
結界を失った王国は疲弊していき…各国から領土を取られ大国から小国へとなっていった。
マリアは尊女で幸せに暮らして居る…だがマリアは幸せなのだろうか?
本当に欲しかった「家族の愛は手に入らなかった」
だが、ロゼは「自分の為に命を捨てる程愛してくれた王子フリード」「全滅覚悟で戦いを挑んでくれた父親」「最後まで娘を愛した母親」
全て失ったように見えても欲しい物は全部手放さなかった。
後の歴史は語る…不幸な聖女とロゼの物語を…真の勝者はロゼであったと…
(あとがき)
どうでした?
基本、リクエストは受け付けませんので、今回は偶々思いついたからです。
有難うございました。
24話 去り際の攻防
カースのメンバーの半分は王国を出てから程なく近くの森に隠れていた。
こういう仕事をしていると恨みを買い攻撃を受ける事も多い。
特に、物を手に入れた後はそうだ。
その為、相手のテリトリーから出た時には必ず、二手に分かれて片方が、一旦身を隠す。
それによって追跡者がいるかどうか確認がとれるからだ。
案の定、騎士が4名つけて来ていた。
「何処に行ったんだ、カースの連中は」
「持っていかれた物の中には我がポートランド家の家宝がある、取り返せないと公爵が怖いぞ」
「ですが、相手は教会です、揉めたら問題が起きる」
「だから 此処でするしかない、カースだか何だかしらないが全員死んでしまえば問題ない」
「宝は彼らが持ち逃げした…それで終わりだ」
これ等の様子はしっかりとカースによって記録水晶に取られていた。
そして、すぐさま通信用水晶によってローアン大司祭に送られた。
「馬鹿な事を…ですがこれでは仕方ないポートランド家は破門、撃退の許可をします」
「「「「「はっ」」」」」
「見ていたぞ!」
「貴様、出てくるとは好都合! 持っていった物を返して頂こう…素直に出せば命までは取らん」
「馬鹿な、そんな事を信じるとでも? お前達こそ解っているのですか? 教会と揉めると言う事は「破門」と言う事ですよ」
「お前等を片付けてしまえば、何とでもなる」
「無駄ですよ…もう教会に連絡済みで、審判は下された、ポートランド家は破門です」
「貴様、殺してやる!」
「ほう、困ったもんだ」
騎士達は剣を抜く間も無く倒された。
「貴様、俺たちをどうするつもりだ!」
「今はこれ以上何もしませんよ…」
「ですが…これから本当の地獄が訪れるでしょう」
「破門されたのですから、人間と扱われない」
「犬以下でございますね」
「おい、待て、本当にポートランド家は破門なのか!」
「当たり前ではないですか? 教会の物を奪おうとして無事に済むとでも!」
「確かに強盗をしようとした事は認める、だが今迄殺人者であっても破門は無いし、死刑になっても懺悔をしていた筈だ、破門等された例は聞いた事が無いぞ」
「確かに…」
「教皇に逆らった王が大昔に破門されて以来無かった筈だ」
「確かにそうですが、それが何か? 今回は破門それは覆りません」
この世界は宗教心が強い。
破門になると言う事は、最早人として扱われない、女神の祝福の無い、犬以下の存在として扱われる。
奴隷にも人権はあるが破門された者には人権が無い…殺そうが犯そうが何も咎められない。
しかも、真実は兎も角、破門された者が死ぬと輪廻の輪から外れ、転生も出来ず消滅する…そう信じられていた。
「我々は今直ぐに自害する、それで破門は赦して貰えないだろうか」
「それでも無理です…ですが助かるヒントを差し上げましょう…我々が破門にしたのはポートランド家です、あなた方個人では無い」
「それはどういう事でしょうか?」
「これ以上教える気はない…よく考える事だ、では行くぞ」
「「「「はっ」」」」
カース達はそのまま静かに立ち去った。
25話 姉妹だから…
「どうかしたのですか教皇」
診療の合間に、教皇とローアンとリチャードが来ました。
何やら真剣な話があるそうです。
「まずはこちらの品をお受け取り下さい」
えーと、これはロゼに取り上げられたオルゴールや宝石、ドレスじゃない、私の物?見覚えのない物もあります..まさか?
「これはどうしたのですか?」
「はい、尊女様がロゼに取り上げられた物を取り返して来たのです」
「経緯を教えてくれる?」
リチャードがこれまでの経緯について話をした。
「そうですか? 気持ちは嬉しいですが、これらの品はロゼに返してあげてください」
「何故ですか、これは尊女様にとって大切な形見ではないのですか?」
「お嬢ちゃんの宝物だろう」
「教皇、ローアン、リチャード、私のお母様は教会の裏にいます! 皆が何時も祈ってくれて、私も何時でも会いに行けます…だから、これは必要ありません」
「ですが」
「最近、噂でロゼは体調を壊して寝たきりだと聞きました、ロゼはこのオルゴールを大切にしていましたから慰みになるでしょう、お手数ですが返してあげてくれないでしょうか?」
「嬢ちゃん、悔しくは無いのか?」
「そうね、悔しいわね…あの子ばかり両親に愛されて、本当にロゼが憎らしいわね! 多分世界で一番嫌い!」
「だったら少し位意地悪しても罰はあたんねーよ、これは元は嬢ちゃんのだろう?」
「そうね…だけど、姉妹って複雑なのよ? 世界で一番好きって思える時があるのよ!..まぁあの子も4歳位までは真面目に天使みたいに思えたのよね、今の小憎らしいロゼの中に、あの可愛いらしいロゼも居るんだなんてね」
「嬢ちゃん?」
「だけどね…これはリチャードのお陰よ!此処にお母さまを連れてきてくれなければ、きっと今でも憎み続けていたと思うのよ、何時も花で囲まれたお母さまのお墓をみていたらもう、あの実家なんてどうでも良くなっちゃったわ」
「まぁそれで良いならいいんじゃねぇか!」
「うん、結局、私はロゼに聖女の地位を押し付けたから、自由が手に入ったんだから、そのお詫びとして「取り上げられた」を「あげた」にしようかな?…そうだカース達も呼んでくれる」
「解りました」
「尊女様、お呼びですか?」
「今回の事は凄く迷惑を掛けたわね、何時も嫌がる仕事をご苦労様、これ私が作ったポーションだけど皆で分けて」
「有難うございます」
また、これだ、カースである我々を労ってくれるのはこの方位しか居ない。
尊女様が聖女様だった時に「嫌がる仕事をする人は偉い」そう言われた事がある。
あの言葉で救われた者も少なくない。
それでね…事情をカースに話した。
「解りました、そう言った事でしたら、もう一度行ってまいります」
運が良く、「破門状」はまだ教皇の手元に残っていた。
直ぐに、教皇自らが王国に通信水晶で連絡をとり、国王に連絡をした。
「破門」の話を聞いていなかった国王と王妃は驚いていたが、それが無くなったと聞き胸を撫でおろした。
ポートランド家はローアン大司教が同じく通信水晶で連絡をとった、今回の件はマリアの願いが強い事と、祓った後に全て返ってくると聞いた、公爵夫婦はマリアにお礼を言って欲しいと言っていた…ローアン曰くこれは本心で無く「しらじらしく」思えた。
今回の事でマリアの教皇やローアンに対する評価はますます上がった。
今回の結果が王国にどんな影響を与えたかは…まだ誰も知らない。
26話 王国会議?
「王よ!この度のポートランド家の愚行をどう捉えられる?」
この場所には 国王ユーラシアン6世と王妃マドリーヌ、そしてポートランド家を除く王国の高位貴族の殆どが集まっていた。
「その件については皆の意見を尊重し決めようと思う…それぞれの意見を申してみよ」
「御恐れながら、破門は撤回されたとはいえ、ポートランド家は教会に目を付けられております、早々と切り捨てるべきでは?」
ポートランド家と敵対関係にあるポートマス公爵はここぞとばかりに切り捨て案を唱えていた。
「そうですな! フリード様が絡んでいたから今迄申しませんでしたが、ロゼ様の聖女の件も問題があります! マリア様ならお認め致します、あそこ迄の才女です、ですが、学園でも成績が悪く、魔力量も乏しいロゼ様が何故、聖女に選ばれたのでしょうか? その経緯についてご説明頂けますかな?」
娘を聖女にする事に力を入れていたオルド―伯爵家が抗議をした。
王も王妃も口を噤もうと思ったが、それでは正しい判断が出来ないと考え包み隠さず全ての事を話した。
あの場所に居ない貴族にも正しい判断をして貰う為の苦渋の決断だった。
「それでは、正しく聖女だったマリア様は、フリード様とロゼ様の陰謀で失った…そう言う事では無いか?」
「これは由々しき事態だ…正しき聖女の座を奪った挙句、出て行くきっかけを作ってしまった…その時に私がその場に居なかったのが口惜しい、その場に本物の貴族は居なかったのか? 何故命を賭けても止めなかったのだ!」
「その結果がこれですか? この国では重病者や大怪我を負った物には死しか無い…聖女の救いを捨ててしまったのだから、この責任は大きい」
「日和る必要は無い! ロゼの聖女の地位の剥奪、フリードは廃嫡、ポートランド家は貴族籍の剥奪、しかる後にマリア様を正式にポートランド家の当主にするそれが正しい道だ!」
「何と過激な事を言うのだ、幾らなんでも言い過ぎだ!バルマン侯爵!」
「私は大切な息子にこの国のした仕打ちは忘れない、国命で地龍の討伐を命じられ怪我した息子は聖女の治療を受けられなかった、その結果真面な生活が送れない体になった、そんな息子の治療も出来ない偽物の聖女を何故奉る必要がある! あんな女は「贄」と呼べばいい!聖女と呼ぶ必要は無い! そんな息子をマリア様は助けてくれた、ここ等辺で正すべきだ」
流石に此処までは誰も考えて無かった。
だから、沈黙していた。
「私は正しい道を説いたつもりだが誰も賛同はしないようだな…まぁ良い、これは建前だ、実際のマリア様はこんな状態なのに悲壮感も無くただただ笑顔で治療院で生活している、さっき私が言った人生は望んでない」
「それはどういう事ですかな?」
「マリア様はもうこの国には戻らないし、さっきの話に賛同もしない、だが今の話に乗らない貴公達には、道を説くその資格も無い!」
「バルマン卿」
「私の家はマリア殿に借りがある、幸い我が領土は帝国とは、辺境伯のオリンズ家を挟んで接している…オリンズ殿」
「おう」
「たった今より、バルマン家、オリンズ家は帝国シルベスタに仕える事とする! では今度会う時は他国の人間だ、さらばだ」
「バルマン、其方は儂を裏切るのか?」
「裏切りでは無い、先に裏切ったのは王家だ! 忠誠を誓い命懸けで戦った息子を見捨てたのはあの偽聖女、そしてこの国だ! そんな者に仕えられるか!」
「王に対する何たる暴言…許されると思うなよ!」
「許せぬならどうする! 我が息子 「竜殺しのホルン」は尊女様に心酔しておる!「リュート」はフリード王子を止められなかった事を悔いておる。そして私は息子の意見を尊重する…バルマン家が怖く無いなら掛かって来るが良い」
「戦争時は常に帝国から守る盾、オリンズは盟友バルマンと共にある、聖女が居なくなって困るのは常に矢面に立つ我が家なのだ、その力を捨てるような馬鹿には付き合い切れんよ…私は自分の部下が死ぬ姿をみたくないのでな」
「もう良い、バルマン、オリンズ、今迄ご苦労であった」
「今迄世話になったなユーラシアン6世」
「これから他国の人間だが、争いが起きぬ事を祈っておるよ」
会議は、2家が帝国側に行ってしまうという、大波乱からのスタートとなった。
27話 得しているのは私の方よ!
「嬢ちゃん、本当にあれで良かったのか?」
リチャードが正式に私付きになったとかで家に居座っている。
家に居てもお茶くみとお菓子の買い出し位しか無いんだけど、聖騎士の無駄使いだわね。
良いのかな?
「良いに決まっているじゃない? なんで皆がたかが姉妹の喧嘩に出てくるのか不思議だわ」
「姉妹喧嘩?」
「そうよ、確かにロゼは腹が立つけど、結局はロゼが私を羨ましがった、私はロゼが羨ましかったから人生を交換した、それだけの事だわ」
「本当かよ!」
「本当よ、その前は別ね、私とロゼの立場が入れ替わった時だけで考えれば良いのよ! ロゼはフリードを欲しがったけど、フリードは私が悪いのだけど聖女の婚約相手として括られているの、解る?」
「確か、聖女になる条件で婚約したんですよね」
「そうよ! その時にロゼがあんなに好きだなんて知って居たら選ばなかったわ、私は無理難題を言う為だけに選んだんだから、極論、第二案「王座」でも良かったのよ」
「マジですか?「王座」」
「そう、今思うと「玉座」と言えば良かったわ、王太子を選んだのは失敗ね、流石に今直ぐ女王は無理だから、円満解決したかもね、あっゴメン話がそれたわね」
「はい」
「この話は簡単よ? フリードを渡す代わりに聖女を押し付けられたロゼ、 聖女を手放す代わりに要らないフリードを渡して自由を得た私、商人が良く使う「取引」という言葉なら、私の方が得した状態だわ」
「成程」
「だけど、別にあの子の暮らしは聖女になった私と実はそんなに変らないのよ! 多分、私があのまま聖女をやってても、城から出して貰えないで結界の維持、何か起きた時の討伐、重病人や重傷者の治療、籠の鳥と同じ、待遇っていうなら歩けるか歩けないかの差はあるけど城から出れないのは同じよ」
「嬢ちゃんが言うとそれらしく聞こえるな」
「ロゼは地位に拘るから、今回の事が無ければ公爵の跡取りで婿を貰ったはず、そして結婚して子供をコロコロ産んで幸せに暮らせたんじゃないかな? 貴族だから自由では無いけど、今よりは自由だった筈…まぁ公爵家に嫌われているから、そういう人生は私には無いけど、ほら、私自由で幸せそうでしょう?」
「公爵家に居た時より、聖女様していた時より幸せそうですね」
「そうよ、だから簡単なのよ、私はフリードと聖女の地位を出して、ロゼは自由を差し出した、それだけだわ、そして私は一番「自由」が欲しかったから、損したとは思っていない、それなのに周りが騒いでいるだけなのよ」
「確かにそうですね」
「そうよ、診療所も軌道に乗ったし、後は素敵な旦那様でも貰えばそれで充分私は幸せだわ」
「ちょっと待ってくれ、「聖女」の能力は処女で無いと無くなるんでしょう? 不味くないか、それ」
「はぁ~、何を言っているんでしょうか? リチャードは、「聖女」の能力は全部ロゼにあげたわよ! 今の能力は私が訓練で身に付けた物だわ、そんな事で無くなったり、減ったりしないわよ」
嬢ちゃん、素で三職(勇者 賢者 聖女)以上なのか? 化け物..
「リチャード、何か言いたそうね?」
「別に、そうだ、今度教皇様と帝王様に頼んでお見合いでも」
「止めて、私は折角自由を得たんだから、恋愛がしたいのよ」
「解った、まぁ頑張れ」
多分邪魔が凄いと思うがな
「言われなくても頑張るわ」
28話 聖女とは…
「こ.れ.は.どう.いう事なのでしょうか?」
持っていかれたオルゴールや宝石にドレス、ルビーまで全部箱に入っていた。
「本来なら呪われた物は教会保管が原則、今回の場合は経緯から特別に呪いを解除後尊女様が持つ予定でしたが 尊女様曰く、全ての呪いはしっかりと祓われたから返して良いとの事です」
「そう.なのですか」
てっきり、お姉ちゃんが返して欲しくて権力を使った。
そう思って居たけど…違うの…何で…
まさか、本当にお姉ちゃんのお母さんの想いが籠っていて私に悪い影響を与えるから祓ってくれたと言うの?
敵わないな…
私は欲しくて、仕方なくて、全部私はお姉ちゃんから取り上げた。
だから、これ等は全部、お姉ちゃんの物なのに、それなのに返してくれた。
何で、何で、何で! 幾ら考えても解らない。
本当に解らない。
私には本当に解らない、そう言えば「聖女は心清く物欲を持たない」そんな話も聞いた事がある。
お姉ちゃんは、私みたいな紛い物と違って本物だから、本当に物欲も無いのかも知れない。
「フリード様」
「全部返ってきたのか!信じられないな、本当にこれらの物には想いが籠っていて祓う必要があった、そう言う事なのか?」
「た.ぶ.んそうなのだと.思います」
頭が可笑しくなる、恨んだり怒ったりするのが正しいかどうか解らなくなる。
さっき迄、ロゼにこんな事して「殺してやりたい」そう思って居た。
だが、今は、それも無くなった。
物を返してよこしたという事は「取り上げる気は無かった」そういう事だ。
ならば、最初から「祓う」つもりで回収したとしか考えられない。
自分から国を出て行ったがあれは追放に近い。
普通なら恨みこそすれ、こうして心配などはしない筈だ。
そう考えるなら、聖女とは「聖なる女」何処までも気高く、恨みなど持たない女しかなる事は出来ないのかも知れない。
「尊女様からのお手紙も預かっております、フリード様とポートランド家の皆様で読む様にとの事です」
「解りました」
カースは用件は済んだとばかりに立ち去った。
29話 マリアの手紙
親愛なるフリード王子にポートランド家の皆様へ
さぞ、お苦しみの中で過ごされていると思います。
それに比べて、私は自由を満喫して日々心穏やかに過ごしております。
幸せと言っても過言では御座いません。
それはさて置き…
いい加減、恨みの連鎖は断ち切りませんか?
人を恨むのは凄く大変な事です。
私はとっくに疲れてどうでも良くなっています。
母が死にその後の仕打ちには本気で恨み「皆が死んでしまえば良い」そう思った事もあります。
だが、それはもう過去の事ですので今となってはどうでも良い事なのです。
いい加減終わらせましょう!
私は尊女なので、帝国からは出ることは出来ません。
もし、私を心の中で家族とお思いなら、是非皆様で帝都までお越し下さい。
「皆様が幸せに生きれる」方法を考えております。
もし、そうお思いで無いなら結構、このまま破り捨て下さい。
私からは何かする気はありませんのでお互いに不干渉で良いと思います。
お越しになるなら帝国が警戒しますので家臣は最低限でお越し下さいませ。
PS ロゼ、貴方がもし私の妹だと思っているのなら、来るべきです。
お互いの本当の気持ちを知る良い機会だと思いますよ。
マリア
お詫び 残酷な描写がこの先あります
此処までこの作品を読んで頂き有難うございます。
短編とある様に、当初は3話~5話で終わる予定でしたが。
皆様に応援されて気がつけばここ迄話が伸びました。
前のサイトでから私を応援してくれる人は
石のやっさん= 残酷な描写が多い。
知っている人ばかりでしたが、新天地の此処では知らない方の方が多いと思います。
嫌な思いをさせると行けませんので、此処でお伝えさせて頂きます。
第一章のラスト近くに残酷な描写が入ってきます。
ただ、信じて読んで頂ければ…これは必要だった、そう思って頂ける展開にはするつもりです。
宜しくお願い致します。
30話 王国会議? 様子見
会議中に、知らせが入った。
その内容は、カースが持ち去った品をロゼに返しに来た。
そういう内容だった。
しかも、マリアからの手紙が添えられていたらしい。
「その内容は解っておるのか?」
「はっ! 重要な話に絡むと思い、見させて頂きました」
この内容であれば、過去を水に流し、新しい関係を作りたい。
その様に思える。
「ちょっと審議を進める前にこれも考慮してくれ」
王は、手紙の内容とカースが持ち去った品を返しにきた事について説明をした。
「王よ、その内容であれば、和解に話が傾いている、私にはそう取れます」
「此処で処断した為に、ポートランド公爵が意固地になり更に拗れるのは避けるべきだ」
その後、話し合いは夜まで続き、結局は様子見となった。
王命で必ずポートランド家の人間はマリアの元に行く事が前提での話だ。
もし、それを拒否した場合は、再度会議を開き、処断するそういう条件付きでの「様子見」の決であった。
だが、ロゼを王国から出すのであれば、結界の問題が出てくる。
その結界の問題を国王は通信用の水晶で教皇に相談した所…
「その件であれば、尊女様からも話は聞いております、こちらに向った時に連絡を下されれば、その間の結界は尊女様が肩代わりして張ってくれるそうです」
「その様な事が出来るのですか?」
これには流石に国王は驚きを隠せない…
かくして、王命による、ロゼ、フリード、ポートランド公爵夫婦の帝都行きが決まった。
31話 足りない覚悟
「今更、一体私達になんの用があると言うのかしら?」
ポートランド公爵夫人は気が気でない。
今迄、ぞんざいに扱い過ぎていた、義理の娘が今や教皇より力をつけ自分達を呼び付ける。
恐怖しかない。
「だが、行くしかあるまい、王命なのだから逆らう訳にはいかない、しかも命令を下す時の王の顔は一切口答えは許さない、その様に思えた」
「ですが、あの様な状態のロゼも連れて来いなんて、鬼としか思えないわ」
「それは同じ思いだ!だが、相手は今や尊女、この国の王ですら面と向かっては文句が言えぬ存在だ、滞在期間中は言葉使いに気をつけるのだ」
「解りましたが、ロゼが不憫でなりません」
「少なくとも、その期間はマリアが結界の魔力の負担をしてくれる、ロゼにとっても悪い事では無い」
「しかし」
「幾ら言おうが今回は王命だ、しかも今回、行きさえすれば、治療が出来ぬことで帝国に鞍替えした バルマン家、オリンズ家のロゼの責任も不問にする、そう言われればどうする事も出来ぬのだ、「行かない」選択をすればポートランド家800年の貴族の歴史が終わるかも知れぬ」
「そうですね、滞在期間は10日間…それで終わるのであれば我慢するしかありませんね」
ロゼサイド
「そ.う.ですか私がお姉さまの所に行くのですね…」
「はい、その間の結界はマリア様が肩代わりしてくれるそうです」
「この…死ぬような苦痛を伴う結界が…一時外れるのですね…」
一体、お姉ちゃんは何の用があるのかな?
あの手紙の内容から考えると、悪い様な事は起きない気がする。
まるで、私と違って本物の聖女の様なお姉ちゃんだもん…酷い事にはならないよね…
久々に外に出られるんだ…楽しみだな。
今迄の事を詫びて、仲直り出来たら…良いな。
フリードサイド
如何にマリアがお人よしでも、果たして許してくれるのだろうか?
あそこ迄、人生を壊された人間が恨みを忘れない物だろうか?
俺は今回王太子を追われた、今迄死ぬ程頑張ってきた物を奪われ、マリアが憎かった。
だが、カースが奪った物が返ってきた時に、真相を知った。
母親を失い、悲しい状態なのに、新しい母を公爵が娶りその新しい母がマリアを虐めた。
唯一の味方の筈の父親が、虐めている側のロゼや義母の側に立つ。
これがどれ程残酷な事かは計り知れない。
母親の形見すら取り上げ、女なのにドレスすら買って貰えない。
その傍らで、妹は新しいドレスを手に入れていく。
どれ程辛く惨めだったかは想像しやすい。
しかも、優秀なマリアの将来を潰す為に学園にすら通わせなかった。
俺が同じ事されたら、「生涯そんな相手は赦さない」
如何に、「心優しい聖女」と言われるマリアであっても赦せる物だろうか?
今なら解る、俺はロゼ側に立つべきでは無かった。
本当の事は解らない、だがもしかしたら一切の愛情を貰えなかったマリアが欲したのが「俺の愛」だとしたら…
俺はどうすれば良かったのか? 王族の義務として、愛情を知らぬマリアの貢物になるのが正しかったのではないか?
それで国が助かり、マリアが聖女として国を保護してくれるなら、どれ程ロゼが好きでも俺はマリアの手をとるべきだった。
そうすれば、ロゼは幸せに暮らし、国も安泰。
俺が、我慢するだけで全てが幸せだった…我慢をするなら王族である俺がするべきだったのだ。
俺はマリアに謝罪をする…だが謝罪は届くのか?
もし、俺が同じ立場なら…受け入れられない。
公爵やロゼの様に、お気楽には考えられない。
だが、この時のフリードの覚悟等まだまだ足りなかった、そういう地獄が襲い掛かる。
32話 地獄へようこそ!
王国側の結界まで、マリアが受け持つ。
その日の夕方には、ロゼ側の結界は自動的に解除された。
まさか、王都の結界の解除までもがマリアが出来るとは誰も思わなかった。
「嘘であろう…これじゃ尊女であるマリアがその気になれば、何時でも王国は防御を失う、そう言う事か」
「流石の私も此処までとは知りませんでした」
王や王妃はその脅威を知ったのだが
「フリード様、私歩けます」
「良かったなロゼ、暫くの間とは言え、あの苦痛から解放されて」
「はい」
自分の息子達の喜ぶ姿を見て不安が増した。
その日のうちに旅立ち、それから約1か月後、帝国にロゼ、フリード、公爵夫婦がついた。
家臣を連れて来ない様に言われていたから馬車1台に護衛の騎士が5人だけだ。
「此処からは護衛の方にも遠慮して頂きます」
引継ぎを受け…護衛の騎士は帰っていった。
「お前は!」
「はい、尊女様が顔見知りの方が良いだろうと今回の護衛を任されました、リチャードです」
「ポールです」
公爵は動揺を隠せない。
自分が送り込んだ、騎士2人がマリアの手下となって迎えに来たのだ、焦るのも仕方ないだろう。
頭の中で「この裏切者が~」と叫びたくなったが、付けている鎧が聖騎士、しかも教会から彼らを教会で迎え入れる報告は以前受けていたから堪えた。
しかし、やってくれる。
しょっぱなからこれか。
「うむ、護衛の方宜しく頼む」
帝都を進んで行くと違和感を感じる。
「診療所に行く」そういう話では無かったのか?
「可笑しい、この道は帝都の王城への道だ」
「フリード様?」
「おい、道が違うんじゃないのか?」
「いえ、合っております、王城にてマリア様がお待ちしております」
我が家は公爵だ、確かに診療所は小さい、だから王城に部屋でも借りたのだろう、そう思っていた。
だが、
「可笑しいだろう、何故正門でなく裏門に回る! 私は王子だしポートランド家は公爵! 無礼であろうが」
「幾ら何でも可笑しいじゃ無いですか?」
「おい、ポール一体何なんだ」
「こちらで良いのですよ! 王子と公爵達を馬車から、お降ろししろ」
「お久しぶりですねフリード王子、ロゼ、そしてお父様、お義母様!」
「これは尊女様…えっ」
直ぐに騎士達が後ろから攻撃を加え全員気絶させた。
「リチャード良くやったわ! 手鎖に足鎖をして地下の拷問室に放り込んで置いて」
マリアは微笑んでいる、だが、その笑顔は氷の様に冷たく見えた。
「ロゼ、お父様、お義母様、フリード地獄へようこそ!」
33話 拷問 1日目
ぴちゃん、ぴちゃん…水の音で目覚めた。
私、どうなったの? 何でこんな所にいるの?
そうだ、お姉ちゃんに会いに…嘘!
「お姉ちゃん…此処何処?何で私縛り付けられて…いるの?」
周りを見ると、気絶しているフリード様、お父様とお母様が鎖で繋がれている。
「ここはお城にある拷問部屋、これから貴方を拷問する為に決まっているじゃない?」
「嘘だよね、お姉ちゃんはそんな事しないよね…」
「さぁ、女神様に祈りなさい…嘘じゃないわ、私は貴方が大嫌いだから拷問するのよ!それだけよ!」
良く見るとお姉ちゃんの手には鉈の様に大きなナイフが握られている。
「冗談は」
「冗談じゃないわ…それじゃ始めるわね」
お姉ちゃんのナイフが私の指にあたった..嘘、嫌。
「お姉ちゃん嫌、嫌いやああああああああああっ痛いっ、いたあああああぃいいいいいいいや」
私はロゼの指にナイフを宛がい中指を斬り落とし地べたに落とし踏みつけた。
「たかが指一本斬り落とした位で何で泣いているのかな?」
「嫌、嫌..私の指が、指が、指が」
「そうね、もう切断して踏みつけたから、治療師でも治せないわ うふふっもう指の無い生活の始まりだわね」
「助けて、助けてよ、そうだ謝るから、ロゼ謝るから」
「そう? でも遅いのよ! 次は何処を斬ろうかな? 足にしようか? 私は修復専門で解体は苦手なのよね、まぁ初心者と言う事で許して」
「痛い、痛いのよ..何でも許すから、助けて」
「ロゼは優しいね! それじゃ耳を切断するから許してね!」
「ふぐううううううううっ痛い、痛い、痛いのよ…嫌あああああっ」
「まだ片耳だけよ!もう片方あるのよ」
「嫌、耳は嫌、嫌だ~…助けて、助けてよ、ねぇどうしたら、どうしたら辞める、辞めてくれるの」
聞く耳持たない、本当に煩いな此奴、斬っちゃおう
「うわぁああああああっ耳、私の耳」
「お前、ロゼに何をしているんだ?」
「お目覚め? お父様! 拷問しているに決まっていますよ…はいロゼの耳」
「ロゼえええええええっ、マリア貴様、殺してやる」
「お父様? 私だって娘ですよ?」
「煩い、お前は悪魔だ、娘じゃない」
「そう、別に構いません、では続けて」
「辞めろ」
「おい、マリア…嘘だ、嘘ロゼ、ロゼ大丈夫か? ロゼ」
「フリード煩い」
「辞めてあげてくれ、なぁ頼む俺が悪かった」
「だからって辞める理由は無いわ」
「お父様、フリード助けて」
「本当に煩いわね、そうねその目が気に喰わないわ..取ってしまいましょう!」
マリアがナイフを目に差し込み、そのまま前に引き出すと目が飛び出るように前に出た、そしてそのまま切断した。
「うわああああああっ目が目が、いたぁぁっぁぁぁぁぁぁいやあああああああ」
「良いじゃない!まだ片目あるわ」
「辞めてくれ、頼むマリアお願いだ! 儂が悪かった」
「そうね、お父様が悪いから、ロゼがこうなるのよ!」
「償いをしろと言うなら、償う! 王太子じゃなくても王子だ、金でも何でも」
「フリード? 私は尊女なのよ! 貴方が手に入れられる物なら私も手に入るわ、交渉の余地は無いわ」
「悪魔め」
「いやぁぁぁ、お姉ちゃん私が私が悪かったよーーーー助けて」
「そうね、両目無くしちゃうと面白く無いから、今度は鼻ね」
「いやあああああああああっ、鼻いやあああああっ痛い、痛いよ…」
「随分、可愛くなったわ、両耳に片目に鼻が無い、どう? フリードなかなか可愛いでしょう?」
「お前は悪魔だ!」
「悪魔じゃないわ? 元聖女です、はい」
「次は、そうね女にとっては大切な乳房にしますか?」
「嫌だ、嫌よ嫌~ああああああああ痛いよ、死んじゃう、死んじゃうよ」
「嘘、何よこれ、ロゼ、ロゼ…悪魔、私の娘に、娘に何をしているの..今直ぐやめなさい」
「嫌よ、お義母様」
乳房を切断して王子の方へ投げた。
「大好きなロゼの あれっ」
温室育ちじゃ仕方ないのか…気絶しているし。
舌を噛みきらないように猿轡して。
それじゃ皆さん、明日また来ます。
明日は、皆さん方も「参加して貰います」では今日はこれにて。
「うぐうぐううううううううっすんすん」
「貴様殺してやる、殺してやるぞ」
「ロゼ、ロゼ…ねぇ謝るわ、謝るからロゼを赦して」
「駄目よ」
私は最後にロゼが死なない様にヒールを掛けると部屋を後にした。
34話 拷問 2日目
「おはようございます皆さん」
「この悪魔が..」
「少しでも同情した俺が馬鹿だった」
「ねぇ、謝るから、謝りますから娘を助けて」
何か言っているけど…おしっこ垂れ流しの糞尿まみれ、無様ね。
貴方達が甘やかすからいけないのに、馬鹿ばっかり。
「うんぐっうんぐううーっ」
「あら、苦しそうね、猿轡を外してあげるわ」
「たすけてーっ、たすけてーっお願いよ、何でもするから、何でもするから…ねっねっ」
「ロゼ私ではなく、神に祈りなさい」
「いやっいやーっ、女神様助けて、助けてよー」
「今日は、そうね、四肢切断と行きましょうか?」
「冗談やめて、止めてよ~ねねっ そんな事されたらもうどんな治療師でも治せない」
「そうね! それじゃ変更」
「悪魔めっ」
「貴様本当に聖女だったのか本当は悪魔だ」
「助けてあげて..お願いします」
「そうね、此処に王硫酸があります、今日はこれを使った拷問の予定です、こんな風に」
「嫌、嫌、嫌いやあああああああああっ、それだけは嫌」
「そうね、それじゃ、誰かに変わって頂きましょうーーーーーっ! ロゼ、誰か1人選びなさい、そうしたら貴方は今日一日助かる」
「私は、私は…選べない」
「そう、それじゃ貴方がされるしかない」
王硫酸を瓶から顔に垂らした。
びちゃっ、ジュウウウウウッーーーツ
「ぎゃああああああああああっ、熱い、熱い、嘘、私の顔が顔が…」
「あーあ凄い顔になっちゃって、この顔じゃ化け物ね、あははフリード、この顔のロゼを愛する事は出来て…」
「嫌だ、これは夢だロゼがロゼがああああっ」
「ロゼ…」
「あははは」
「ロゼ、可哀想ね、恐らくもう誰も貴方を愛してくれないわね…こんな醜い化け物じゃ」
「嘘、嘘うううううううううっうぎゃうよ」
「口にもかかったから上手く話せないか? はい部分ヒール、これで話せるわね」
「鬼、悪魔…貴方なんかお姉ちゃんじゃない」
「威勢がい良いわね、なら良いわ、今度は胸から行こうかしら」
「あがあああああああああっ熱いいやあああああああっ」
「あららだらしない、気絶しちゃった…しかも垂れ流しなんてみっともないわね」
仕方ない、足にでもかけて見ますかね…
「あがああああああああっやめて、やめて…助けてフリード、助けて」
「解った、此処からの拷問はフリードね、今日の貴方の拷問は終わり」
私は瓶を持ち、フリードの方に向った。
「辞めろ、俺は王子だこんな事して只で済むと思うな」
「済むのよ! 私、尊女だから」
頭から王硫酸をかけた、肉が焼ける音が聞こえて肉が溶け落ちる、一部骨が露出している。
「うわぁぁぁぁぁぎゃあああああああっ、熱い、熱い、俺の髪が顔が…」
死なない様にヒールだけかけた。
「あらあら、フリード王子自慢の髪も顔も台無しね..ロゼが選んだから今日は貴方が拷問の日、ロゼの代わりにたっぷりと硫酸を浴びて頂戴」
「うわあああっ、もふりいだおう」
「あら、喋れない、喋るのに必要な部分だけヒールをかけるわ」
「お前は異常だ」
「そうかな? 正常だと思うよ!」
残りの全部の硫酸を掛けた…
「うがやあああああああああっ、助けてくれ、俺は関係ない、許して…帰して、帰してくれ..」
「ムカつくわね、妹への愛情が無いわ、両目貰うわ」
「嫌だ、いやああああああああめろう」
私は両目にナイフを刺した..。
「ううううううううっうっ熱い、痛い」
「あら、お父様、お義母様何震えているの? 今日はもう終わりですよ、それじゃ皆さんごきげんよう!」
(お詫び)
暫くの間、感想は読みますが、返せません。
この話のネタバラシになる感想が2人程あり、答えてしまうと推理小説で言う考える楽しみが無くなってしまうからです。
第一章にあたる部分が完結しましたら返信いたします。
今暫くお待ちください。
35話 怒ってなど居なかった(第一章 終わり)
「おはようございます皆さん」
「うぐっうぐうう」
「…..」
「頼む、頼みますからもうやめて下さい」
「お願いですからもう」
「それは無理ですね、さぁロゼ、女神様にしっかりお祈りしなさい、助けを求めると良いわよ」
私は猿轡を外した。
「もういやあああああっ殺して、いっそ殺して」
「あらやだ、聖女が死ぬなんて駄目よ? そんな悪い子は四肢切断しなくちゃねーーーーっ」
「嫌、やめていやああああああああっ、痛いのいやああああああっ」
まずは、右足からと..
「大丈夫よ、これミスリルだから簡単に切れちゃうから、それに私は剣の腕もそこそこあるのよ」
「いやっいやあああああっ」
あっさりと、両手両足が斬り落とせた。
「手足が無い何て可哀想ね、まるで芋虫みたい」
「殺して、もういや殺して、殺して、殺して下さい」
もうそろそろ、頭が狂ってきているわね。
「あああっ」
「頼む、なんでもするから解放してくれ」
「ロゼ..可愛そうすぎます…殺してあげてください」
「ロゼ、ねぇ、貴方死のうとしちゃ駄目よ、手足は無い体はボロボロ、さぁどうするのかな?」
「….」
「だんまりですか? それじゃ今日はまだ、ピンピンしているお父様とお義母様に頑張って貰いましょう」
「おい、まさか実の親にも」
「勿論、しますよ..はい」
とはいえ、拷問するのも疲れて来たわね…メンドクサイわね。
ミスリルの剣で二人の手足を切断した。
「あああああっ貴様、殺してやる、殺してやるからな」
「いやあああああああああ、私の手足が、手足が」
「本当に面倒くさいわ..王硫酸をかけるわよ」
「嫌、やめろーやめてくれうぎゃああああああああっああああっ」
「私意地悪はしたけど、此処までして無いわ」
「うん、して無いわ」
「ロゼ? 何であんた魔法を使わないの?」
「私は…使えないから…」
嘘でしょう…学園に通って居ながら…面倒見切れないわ。
「仕方ないわ、少し待ってなさい」
此処まで甘やかされていて、落ちこぼれだとは思わなかったわ。
魔力を計る水晶でロゼを見た。
一般人の4倍…此処までして貴族として少し魔力が高い位にしかならないなんて、甘やかしすぎでしょう。
「今日で終わりで良いわ パーフェクトヒール、パーフェクトヒール パーフェクトヒール、パーフェクトヒール はい元通りと」
「な何で…もう赦してくれたの?」
「マリアなんでだ?」
「どういう事だ」
「赦してくれるの? ありがとう、ありがとう」
「赦すも何も元から私、怒ってないわよ!」
「お姉ちゃん、嘘だよ」
「拷問までして怒って無い訳無いだろう」
「….」
「….」
「どうやらお父様とお義母様は心当たりがあるようね、まぁ良いわ…これが私が人より魔力が多い理由の一つよ」
「お姉ちゃん、どういう事?」
「あのさぁ、学園に行けない人がヒールを覚える方法知っている?」
「知らないわ」
「簡単よ、自分の腕にナイフを刺して、引き抜いて、ひたすら呪文を唱える、それだけだわ」
「そんな事」
「するのよ、毎日、毎日ナイフを刺して呪文を唱える、傷が自然に塞がったら、またナイフを刺すの..するとね、ある時傷が呪文を唱えた瞬間に塞がるのよ、そうヒールが出来た瞬間ね、だけど、これは小さい頃にやると別の効果があるのよ、毎日呪文を唱えているから魔力量も増えるわ」
「市民はそんな事しているのか」
「違うわ、治療師を真剣に目指す人がしている、普通の市民はやらない」
「それと、今回の拷問とどういう関係があるんだ」
「お父様、私は尊女ですよ! 口の利き方に気をつけなさい」
「マリア尊女様」
「本当に馬鹿ね! ロゼはもうとっくに魔力が増やせる時期が終わっているわ…大切な時期に魔法の訓練をさぼっていたせいね、本来ならあの結界の維持は大量の魔力は使わないから、貴族ならどうにか維持は出来る筈なのよ…お父様、お義母様、此処まで甘やかすのは最早虐待だわ」
「面目ない」
「すみません」
「もう成長期を過ぎているから此処までしないと魔力が増えないのよ! 今回の拷問で魔力量を増やして、ハイヒール位使えるようにしたかったけど、その前のヒールも使えない何て、学園で遊んでいたわね、そこ迄面倒見切れないからこれから勉強して覚えなさい!」
「はい」
「はぁ~ ヒールも覚えてないのか」
「私の教育が本当に間違っていたのね」
「本来なら自分で体を治したいと頑張ればもっと魔力量は増えるのに、そう言った思考をしないから、余り魔力量が増えないし、とりあえず、元の4倍までは増えたみたいだから、結界の維持に1使って、生活に1、呪文に2使えるから、覚えれば、ハイヒールの2~3回もしくはターンアンデット2回位は使えるし、普通の生活には困らないわ」
「あの、お姉ちゃん、子作りは無理よね」
「今の所無理だわね、聖女ジョブの水増しでようやく4倍じゃね、だけど、そうね、ハイヒールを覚えて、指を切断して繋げるを繰り返せば魔力量が増えるわね、拷問人生を送るなら何時かは、魔力は増える、聖女のジョブ無しで自力でパーフェクトヒールが使えるようになったら交渉しなさい…尊女として口添いはしてあげる」
「有難う、お姉ちゃん」
「それじゃ、王国分の結界の制御を返すわ」
「ううっ、少し体が重いけど..嘘、普通に生活出来そうです」
「そう、良かったわね…それじゃ」
「お姉ちゃん」
「マリア尊女様」
「尊女様」
「マリア様」
「私は貴方達なんか大嫌い! だけど家族って怖いわ、大嫌いなのに心底嫌いには成れない…だけど私は帝国側の人間、貴方達は王国の人間、これで会う事も殆ど無いでしょう? お幸せに! 私は行くわよ」
「お姉ちゃん…ごめんなさい」
「俺は…すまなった」
「儂は」
「私は」
「もう良いわ、私今凄く自由に生きているからね」
マリアは別に…最初から怒ってなどいなかった。
ただ、妹を心配していた。
それだけだった。
(第一章 終わり)
36話 第一章エピローグ
これで、ロゼも普通に生活出来るし治療に専念出来るわね。
お父様とお義母様はあの後すぐに家督と領地を遠縁の子供に譲って引退。
時間が沢山あるから、今後はロゼの教育をしっかりとするらしい。
ロゼには家庭教師をつけ、しっかりと魔法を覚えさせるそうだ。
だけど…いいのかな?
聖女って「回復魔法を使う最高峰の人間」だと思うのよ。
何時も「自分は才能が無い」って言っていたイライザ様でもパーフェクトヒールを1日2回は使えたわ。
どんな病気や怪我でも治せないと聖女とは言えないと思うの。
だから、その旨を手紙で伝えたわ。
多分、毎日相当しごかれるわね…
まぁ王妃様が、今の家庭教師の何倍も厳しい方を用意してくるかもね。
寝たきりじゃないから、今度は逃げられないわよ。
ちなみに、私だって…何回も泣かされたわ。
子供の時に、ぽきっと腕の骨を折られて泣いていた私に「うん、ヒール覚えたら治せるよ!」と笑っていた、ユーロス先生とかつくのかな?
まぁ私には関係ないわ。
驚いたのはフリードね…何と去勢しちゃったらしいわ。
手紙を見て驚いたのだけど、他の兄弟と折り合いが悪く、今の王が死んだ後かなり悲惨になる可能性が高かったみたい。
そこで、どうせロゼとの間には子供が作れないし「実際に王になれない」と考えたフリードは去勢を決断。
完全に次期王位からドロップアウトした、フリードには手のひらを返して他の王子達は優しくなったそうだ。
こうなってしまったのは、私が悪い…ごめん、貴方には謝るわ。
だけど、案外惚気話ばかりで幸せそうだから良いわよね。
最近になり、バルマンとオリンズが帝国の臣になったと挨拶にきたわね。
別に挨拶に来なくても、うちは金貨1枚持ってくれば王国でも帝国でも関係なく治療をするから関係ないのに。
王国の方はと言うと何とか辛い状態を脱して、バルマンとオリンズが離反しただけで済んだそうだ。
知らないよ…そんな事、私ただ治療院経営しているだけだもん、国の事言われても解かんない。
だけど、王妃様は、家を飛び出した後面倒見て貰ったから、話を聞かなくちゃいけない、これが案外辛い。
そんな物、帝王教育を受けた王子にでも相談して欲しい。
学園にも行っていない私に聞かれても困る
はっきり言うと、金貨1枚一日稼げれば、かなりの贅沢が出来て、楽しく暮らせる。
そのお金で楽しく過ごせればそれだけで良い。
近所のじじばばと楽しくお茶して、同世代の人間と語り合う、それだけで幸せよ。
(第一章 エピローグ FIN)
作者からマリアへ
お前の周りのじじいは…教皇と大司教だし、同世代の人間は最低でも騎士以上しか居ない。
絶対に「平凡では無い」と思うぞ!
第一章 あとがき
此処まで読んで頂き有難うございました。
本来は数話で終わる筈が気がつくと此処まで長い話になっていました。
これも感想欄から応援して下さる方のお陰です。
折角何でこのまま話を続けて行こうと思います。
取り敢えず、10万文字目標に頑張りますので宜しくお願い致します。
応援 有難うございました
37話 第二章スタート 聖女ロゼに幸あれ
「ハァ~魔王でも復活しないかな!」
「嬢ちゃん、何て物騒な事を言うんだよ、仮にも元聖女なのに」
「だってそうじゃない? 魔王が復活すれば、凛々しい勇者様に会えるかも知れないじゃない」
「魔王なんて嬢ちゃんが生きている間に復活しないのは解っているだろう?」
「そうね」
「それに嬢ちゃんなら、素敵な王子様がそのうち迎えに来るって」
「リチャード! 私に喧嘩売っているのかしら? 王子なんて碌な人居ないわ! もうコリゴリだわ」
「確かに」
私の周りは、知った顔ばかりだし、私の事は女神の御使いみたいに扱うから恋愛にはならない。
王族や貴族なんて見てくればかりで碌なのは居ないし。
私の相手は暫くは見つかりそうも無いわね。
さてと、そろそろトラブルメーカーが来る頃だわ。
さっき、教皇から連絡を貰った。
あの馬鹿は本当に馬鹿だわ。
時は少し遡る。
「尊女様、聖女様が逃げ出しましてこちらに向っているそうですよ」
「何で、拷問した私の所に来るのかしら」
馬鹿ね、本当に馬鹿だわ…聖女が逃げ出せるわけ無いじゃない!
しっかりと解らない様に護衛がつくわよ。
私にも、さり気なく6人は何時もついている。
リチャードも正確には教会が私に張り付けている様な者だわね。
「お姉ちゃん、寂しい思いをしていると思って遊びに来ました」
「尊女様、お久しぶりです」
これが正式な話なら歓迎位してあげるわ。
そこ迄でなくても義務さえ果たしてくるなら姉として接してあげる。
だけど、今日は違う。
「全く、フリードがついていながら! ロゼ、貴方逃げ出してきたわね」
「ううっだってお姉ちゃん、ユーロス先生がね! ぽきって、私の腕を折るの、昨日は両手折られて、痛いのよ」
「当たり前じゃない! ヒールが使えるようになったら、何か所も怪我して治すのは当たり前よ? ここから貴方は回復系ならハイヒール、フルヒール、パーフェクトヒールへと進むのよ! 他にもターンアンデットとか聖なる呪文も覚えて行かなくてはならないのよ?」
「だけど、痛いの嫌、お姉ちゃん助けて」
「贅沢いわない」 サクッ
私はナイフでロゼのお腹を刺した。
「お姉ちゃん、私を殺すの、ぐはっ、やっぱり恨んでいたんだ」
「ハイヒール…そんな訳無いじゃない! 大切な妹だもん」
「だけど、お姉ちゃん、今私を殺そうとしたじゃない!」
「馬鹿な事いわない、私なら首を斬り落としても3分以内なら体ごと再生できるもの、こんなんじゃ死なない」
「だけど、痛いのよ、本当に痛いの」
「聖女の修行は厳しいのよ、ヒールの修行は骨折や刺し傷から、ハイヒールは刺し傷や火傷、フルヒールは内臓まで至る怪我薬品による火傷が必要なの、よそ様の体の前に自分の体で試す、パーフェクトヒールは使えない聖女も居たから、フルヒールまで覚えたらギリ聖女として1人前ね」
「そんな」
「治療師の道は厳しいわ」
「嫌だ~私治療師に何かならないよ」
「無理ね!だって治療師の頂点が聖女なんだもん」
「あああ~」
「これから、貴方は何千回と骨を折り、何千回と手足を斬り落とし、王硫酸を何千回と浴びる日々を送る事でしょう! ですが、女神様はそんな貴方の善行を天より見守ってくれていますよ! 聖女ロゼに幸あれ」
しかし、フリードがやけに静かだと思ったけど、真っ青になって倒れそうだわね、やっていけるのかな?
38話 まだ甘い…
実は話の流れで10日間、ロゼを預かる事になってしまっている。
しかも、ユーロス先生からも「心構え位」教えてあげて欲しいって、教皇を通して伝えられた。
可笑しいよね? 私この前心を鬼にして厳しさを教えてあげて、底上げしてあげたよね? 充分だよね?
確かに、あの後、お父様やお義母様と和解したし、ポートランドの美味しい果物も送ってくれたよ。
だけど、いきなりこれは無いんじゃないかな?
まぁ良いや…来ちゃったんだから仕方ない。
さてと
「さっき言ったのは本当だけど、いきなりきつい事しても仕方ないわ、今日は教会で初心者ヒーラーの講習があるから混ざってやってみようか?」
「えーゆっくりしたいよ」
「あなたは聖女でしょう! 聖女らしくしなさい」
「えー」
「はぁ、仕方ないな、お姉ちゃんの拷問フルコースの方がそんなに良いならいいわ」
「それは嫌だ~ 講習受けるよ」
「教皇様、これは尊女様に…聖女様」
「今日これから、初心者冒険者ヒーラーの講習があるんですよね、ロゼも混ぜて下さい」
「はい、ですがそのままのお名前じゃ不味いでしょうから、ロザリオというお名前で参加で良いでしょうか?」
「お願いするわ」
「はい、頼まれました」
「ちょっと、お姉ちゃんは?」
「これからフリードにお説教…甘やかしすぎだから」
うっ目が笑っていない、まるで..怖い
「後でね、お姉ちゃん」
さてと、私はフリードにお説教しなくちゃ。
「フリードちょっと良いかしら?」
「マリア尊女様、お恥ずかしい所をお見せして」
「昔通り、マリアで良いわ、まぁ迷惑かけたし、元婚約者だからね」
「それじゃマリア様」
「うん、それで良いわ! それでね…貴方甘やかしすぎよ! 折角、回復職の厳しさを教えたのに周りが甘やかしてどうするの?」
「別に、甘やかしたつもりは無いんだが」
「此処に一緒に来ているのがその証拠です! 貴方はロゼの伴侶、なら率先してロゼを痛めつけないでどうするの?」
「マリア様、それは流石に可笑しいと思う、何故私がロゼを痛めつけなくてはいけないんだ」
「そう、フリードが出来ないなら家臣にやらせるとかで構わないわ、だけどね、ロゼは聖女見習いなのよ、自分で出来ないなら誰かが体を傷つけなくてはいけないのよ…パートナーなのにそんな大切な仕事誰かに譲るの?」
「それは」
「あの子は心が弱い、この先は解らないけど、あの分じゃ自分で自分の手にナイフも突き立てられないでしょうね、誰かがやらなくちゃいけないわ」
「そんな事俺には出来ない」
「やるのよ!」
「マリア様は強いからそんな事がいえるんです」
「はぁ~ 私はねもう恨んでいないけど、学園に通わせても貰っていない、友達も居ないし、親も私を嫌っていたから、治療師になる為に自分でナイフを突き立てるしかなかった、良い!人に骨を折って貰えたり、ナイフを刺して貰えるのは幸せなのよ、ユーロス先生はプロよ、普通より痛みなく骨を折ってくれる…誰かにして貰えるのは幸せな事だわ」
「治療師の世界はそんな世界なのか?」
「普通にね、だけどロゼはその先に行かなければいけないの! それこそ、貴方がパートナーとして生きていくなら、将来は私が行った拷問に近い事をする必要があるわ」
「俺にできるのだろうか?」
「やるしか、無いわ、愛しているならね、ちゃんと考えて」
「解った」
「お姉ちゃん…皆が私にナイフを刺すの、痛いよ」
当たり前じゃない、冒険者の回復職の講義なんだから、戦いながら回復して戦う…そんなの子供冒険者でも知っている。
だけどね、言わせて貰うわ、貴方が嫌がっているその講義、無料だから凄く人気があってね、受けたくても受けれない子が沢山居るのよ。
「そう大変だったね、今日は後で美味しい物を食べさせてあげるから楽しみにしていてね」
「うん、お姉ちゃん」
貴方は頑張るしかないのよ。
39話 ご褒美をあげる
「さぁ出来たわよ、お食べなさい!」
「凄いご馳走ですね、こんなの王宮でも滅多に出ない」
「ありがとうお姉ちゃん」
「この前、お姉ちゃん黒龍を倒してね、その時の肉が余っていたからそのまま使ったのよ!ドラゴンステーキだから当たり前よ!」
黒龍、嘘だよな、国家レベルで対策を練らなくちゃならいの事だぞ、だけど、本当にその肉が此処にある。
国益を考えたら…よそう、もう終わった事だ。
「「頂きます!」」
俺は騙されない…これも何かの試練かも知れない、マリア様が食べるまで待った。
ロゼ、お前考えなさすぎだぞ。
「うん、どうしたの、冷めると美味しく無いわよ」
「そうですね、頂きます!」
マリア様も食べられているんだから大丈夫だな、気の回し過ぎか。
「お姉ちゃん、体が痺れて、気持ちが悪い」
「吐き気がする」
「ドラゴンの肉って毒があるのよ、ちゃんと毒抜きしないとそうなるわね、だから肉屋じゃなくて教会に私は寄贈しているの! ちなみに今日のお肉は毒抜きしてない」
「それって」
「まさか」
「毒そのものが入っているわ」
「お姉ちゃん酷い」
「ですが、マリア様はピンピンしているじゃないですか?うぷっ」
「だって、元聖女だから毒なんて効かないように修行しているわ」
「お姉ちゃん、毒消しの呪文..うぷっおげえええええっ」
「だすけて..うげええええっ」
「良い、これが毒消しの呪文よ…頑張ってね!」
私は、呪文の書いた紙をロゼに渡した。
「嘘…」
「頑張ってねロゼ」
毒消しの呪文はヒールより下だから簡単な筈だわ。
「はっはっはっ やった、毒消しの呪文覚えられたわ」
「はい、はいロゼは凄いね…だけど、早くフリードにも掛けないと」
「うん」
もう少し時間が掛かると思ったんだけど、案外サボり癖があるだけかも知れないわね。
ちゃんとフリードにも慌てないで対処出来ているし。
「お姉ちゃん酷いよ」
「マリア様、もう少し手加減をして下さい」
「ごめん! 私は治療師としての人生しか生きていないから世間一般の常識は知らない、幾ら言われても知らない物は知らない、まぁ尊女だから要らないのよ」
「お姉ちゃん…」
「マリア様、済まない…そうですね」
何で顔が曇るのかな?
状況を話しただけなのに。
「だけど、此処まで頑張ったから、今度は本当のご褒美をあげるわ」
「本当のご褒美…何をくれるの?」
「何をくれるというのですか?」
「そうね…二人とも男女の営み、今日だけして良いわ」
「あの…お姉ちゃん、それは不味いのでは? 流石に私でもそれ位の分別は解るよ」
「冗談が過ぎますよ、それに俺は去勢していて」
「そう、はい、「パーフェクトヒール」これでフリードの体は元に戻ったわ…それでどうする? こんなチャンス二度と無いわよ…勿論言い出したのは私だから、問題になったら、私が責任をとるわ」
「本当に良いの…かな、だけど私そんな、はしたない事わたし」
「俺もまだそんな」
「強制じゃないから早く決めて、5.4.3.2」
「「お願いします」」
「そうね、極限結界ホーリーウオールっと 寝室に結界を張ったから、楽しんでね! 私は診療室のベッドで寝ているから、終わったら起こして、回数は何回しようと勝手だけど、良い? 終わったらそのまま寝ちゃうんじゃなくて必ず起こすのよ、良いわね」
「解りました、お姉ちゃん」
「解りました」
「あと、この事は絶対に秘密、約束ね..それじゃあね」
随分、喜んでいるわね、私はこの間に教会で貰った物を組み立てて、休んでいるとしますか。
40話 何時でも出来るよ
バルマン公爵家のホルンの治療の時に思っていたのよね。
古くなってしまった傷や治療が終わってしまった傷は、もう一回傷を抉り返さないと治せない。
つまり、体が既に「この状態が正常」と認識しているからだ。
その為、手足が切れて治した体は、そのままパーフェクトヒールを掛けても、手足が無い状態に治る。
これを治すなら、手前で手足を切断してパーフェクトヒールを掛けるしかない。
ちなみに一段落ちた、フルヒールでも四肢切断も直ぐなら治せる。
ただ、時がたった古傷は何をしようと治らない。
そこで、考えた事がある。
もっと効率よく体を治す事は出来ないだろうか?
「お姉ちゃん、終わりました…ありがとう、だけど大丈夫なの?」
「本当に大丈夫なのか?」
カッコつけても無駄、顔が真っ赤でういういしい。
「随分、お楽しみでしたね…これで思い残す事は無いわね..」
「あの、お姉ちゃんそれって」
「うん、ギロチンだけど?」
「嘘よね、それどうするの?」
「うん、こうするのよ…」
私はフリードの頭を押さえつけるとギロチンに嵌め込んだ。
「止めてーーーーーっお姉ちゃん、そんな事」
「冗談はよせ、俺はこれでも王子だ、そんな事したら」
「済むのよ、私、尊女だからね」
ギロチンの刃はそのまま落ちてフリードの首が飛んだ。
「いやあああああああーーーーっ フリードーーーーーっ」
「泣いている暇はない、次はロゼなんだから」
「いやああああああっ呪ってやる、呪ってやる」
「お姉ちゃん、口汚いの嫌い」
同じくロゼもギロチンに掛けた。
同じ様に首が飛ぶ。
「フルヒール、フルヒール…流石に無理か、仕方ない パーフェクトヒール、パーフェクトヒール」
「はぁはぁはぁお姉ちゃん?」
「マリア様これは一体」
「いや、この前に治療した時に思ったんだけど、古傷治すのが大変だったのよ…そこで首から下全部を治せば楽かなってさ。フルヒールでもいけるかと思ったけど駄目だったわ。やっぱり、パーフェクトヒールが必要だったみたい。パーフェクトヒールって結局のところ、修復だけでなく、傷さえ開いていれば元通りなるじゃない! そう考えたら処女膜も再生されて、破瓜も治るよね。ただ、女神の何かが問題になるといけないから首から下全部古い体を捨てて新しくしたのよ」
「あはははっそうなんだ」
「そう言う事ですか…死ぬかと思いました」
「それにこれなら、私も実験に使えそうな体も手に入るからね…一応結界も張ったけど関係なさそう、これで首チョンパさえ我慢すれば、また出来るよ! 金貨1枚でまた受けてあげる、安いよね、あとフリードは後でまた去勢もしてあげるわ」
「お姉ちゃんも常識を覚えよう…私が悪かったよ…幾らそういう事したくても、首を斬り落としてまではしたくないよ? 皆そう思うよ」
「俺も悪かった」
何で私をそんな可哀想な人を見る目で見るのよ…私可笑しくない。
41話 今度は本当に美味しいわよ
今日の治療は朝1件のみ。
金貨1枚の治療院は、案外暇なのよ。
まぁ忙しい時はとんでもないんだけどね。
今日は教会に留守を頼んでお出かけ予定。
一応、リチャードとポールもついてくる。
「うーん、良い朝ね!」
案外、誰かが居る生活も悪くないわ。
よく考えたら、私の傍に人が居るってあんまり無かったわ。
「ロゼ起きなさい! 清々しい朝よ森に散歩に行きましょう!」
「あっお姉ちゃん…お散歩良いわね行こう!」
本当にこの子は良く寝るわね…全くもう。
「フリードも早く起きなさい」
「はい、マリア様」
「朝食も作って置いたわ、このご飯には毒は入っていないから大丈夫よ」
「本当? お姉ちゃん」
「大丈夫ですよね、マリア様」
「本当に信用が無いな..ほらっ」
「お姉ちゃんには毒は効かないじゃない」
「本当にそうでしょう」
「まぁ、体にも良いし、食べてよ!」
「あらっ本当に美味しい、お姉ちゃんこれ凄く美味しいよ」
「本当にこんな美味しいスープは初めてです」
「そう作ったかいがあったわ」
「本当に美味しい、何が入っているの」
「確かに見たこと無い具ばかりだ」
「これよ!」
「嘘、嫌、これトカゲが入っているの、嘘」
「虫まで入っているなんて」
「全部乾燥させているから大丈夫よ? 聖女は本来は生薬のエキスパートでもあるのよ、多分そのうち教わるわ」
「それじゃ、まさか」
「ええっ、食事にこういう物を食べ続ける日も来るわ」
「そんな、こんなゲテモノ食べたくないわ」
「仕方ないじゃない聖女なんだから、フリードもロゼの為だもん食べれるわね」
「聖女って…大変なんですね」
「そうよ」
「あの、今日は森に散歩に行くのよね、お姉ちゃん、それなのに何で兜がいるの」
「私も何でこれを被っているんですか?」
「嬢ちゃん、ちゃんと教えてないのか?」
「おい、尊女様だ馬鹿者」
「ポール、今の上官は誰だ!」
「スイマセンね、リチャード様ですね」
「あのさぁ、リチャードにポール、良く私の前に姿を見せられたわね」
「すいません、ロゼ様、今は教会所属の尊女様付きの聖騎士なので」
「私もそうです」
「まぁ私は寛大だから許してあげるけど!」
「「有難うございます聖女ロゼ様」」
「もう良いわ…それで、何で兜被っているの?」
何だか、昔と違って随分生き生きしているわね。
「嬢ちゃん、これは無いんじゃないか?」
「そう?」
「あのお姉ちゃん…まさか修行なの?」
「マリア様!」
「ええっ、散歩のついでにオーガを狩りに行くのよ」
「お姉ちゃん、流石に冗談だよね?」
「嘘だろう」
「ロゼ様..嬢ちゃんはこういう人だから諦めて」
「諦めて下さい」
「これも聖女には必要な事だわ…頑張るのよ」
二人は、また青ざめる事になる。
42話 聖女の世界
オーガの集落に着いた。
大体30位のオーガが暮らす小さ目の集落。
「ロゼとフリードのデビュー戦には丁度良いわね」
二人はガタガタ震えている。
仕方無いわね…本当に。
「お姉ちゃん、まどろっこしいの嫌い」
2人をオーガーの方に放り投げた。
二人はなすすべも無く..
ズガッボゴッ
「ゲホオオオオオオッ」
「うぎゃあああああああっ」
二人は体が引き千切れて転がっていたが…
「パーフェクトヒール、パーフェクトヒール」
マリアが呪文を唱えると、瞬く間に元の姿に戻った。
「おねえええちゃん…幾ら何でも酷い」
「マリア様、これはあんまりだ」
「仕方ないわね、こいつ等は私が倒すから、リチャード、ポール二人を守っていて」
「「了解」」
マリアが呪文を唱えたり、殴ると確実にオーガは倒れていき、全部のオーガが倒されるまで15分も掛からなかった。
「ふぅ終わったわね!」
「お姉ちゃん、これは流石に可笑しすぎる」
「人を死ぬ寸前まで追い込むのは流石に…何か理由はあるのか」
「はぁ~ あのさぁロゼ貴方は聖女なのよ! 魔王が居る時代なら、勇者と共に魔族と戦う旅に出るの…今は平和だからそれは無い、だけど、もし馬車で移動中とかに助けを求められたら助けない訳? 聖女なんだから見捨てることは出来ないわ」
「お姉ちゃん…私」
「聖女には強さも求められる、だから、お姉ちゃんお父様に騎士団との合同訓練も頼んで置くから頑張ってね」
「聖女の世界は厳しいんだな」
「何、フリード他人事みたいに、貴方もロゼのパートナーだから一緒に頑張るのよ…良い、今回は私が選んだ相手だから、オーガなのよ!だから怪我で済む、だけど、オークやゴブリンに負けたら苗床よ…貴方もロゼが好きなら守れる位の力はつけなさい」
「解りました…マリア様、頑張ります」
「凄く甘くだけど、これが聖女の世界なの、自分の体を犠牲にして治療魔法を学び、毒を飲みながら毒の治療魔法を学び、そして魔法だけでなく生薬等治療全般を覚える、そして有事の際には、民を守るために魔物や盗賊と戦う…そういう世界」
「お姉ちゃん、私は」
「今直ぐ決断するべきでは無いわ!私は妹の貴方に、私の見ている世界を見て貰いたかった…これが聖女の世界だから」
そうか、お姉ちゃんには「称号」なんて必要無かったんだ。
だってお姉ちゃんは生まれながらの「本物の聖女」なんだ。
「ありがとうお姉ちゃん」
初めて私は、少しだけ、本当に少しだけ、お姉ちゃんの世界が見えた気がした。
43話 家族はズルい (第二章の終わり)
ロゼを預かる約束の10日間も残る所、今日で終わりで明日には迎えの馬車が来る。
私は「聖女の世界」しか知らない、だから妹にしてあげられる事は私の見ている世界「聖女の見ている世界」を見せてあげる事しか出来ない。
多分、私は常識を知らない。
解っているよ…その世界から外れた世界で生きてきたから…
ロゼは「聖女の常識」を知らない。
今、ロゼは私の横で寝ている。
最後の夜を私の横で寝たいとはどんな心境なのかな。
我儘で、甘えて、本当に腹がたってしょうがない。
だけど、家族ってズルいな。
あそこ迄、酷い事しようとしたと解っていても赦してしまう。
そして、苦しんでいると解ったら、つい手を差し伸べてしまう。
本当にズルい。
しかも、此奴は本当に…まぁ言っても仕方ない。
翌日になり馬車が迎えに来た。
「お姉ちゃん、また遊びにくるね~」
「ご面倒をお掛け致しました」
二人は笑顔で帰っていった。
全く、こんな、意地の悪い姉の何処が良いのかしらね?
まぁ良いや。
「ちゃんと、聖女の修行をするなら、何時でも来なさい」
軽く、手を振った。
そろそろ、私の休日も終わるのかな…そしたら。
今は考えるのを止めよう。
今は、楽しい日々の中で暮らしている。
それだけで良いわね。
第二章 あとがき
此処まで読んで頂き有難うございます。
この話は、実は第一章の話で終わり予定でした。
ですが、沢山の方から御感想を頂き、つい調子に乗って此処まで書いてしまいました。
次はいよいよ第三章です。
第三章は少し趣向がまた変わります。
44話 第三章スタート 何かが起き始めた。
「剣聖ジェイクが大怪我したって、まさかあのジェイクよ!」
「はっ、戦いに敗れ重傷、治療師による治療は終えましたが、今だ立つ事も叶いません」
「そう、それで何時、此処に来るの?」
「飛竜で運んでおりますので、明後日には此処に来られると思います!」
治療は大丈夫…私が治すから問題は無い。
問題は無いが、一体誰がジェイクを倒したかだわ。
勇者も賢者も居ない、今の時代。
間違いなく、この世界で一番強い男は「剣聖ジェイク」に間違いない。
私は聖女時代に「どうやったら剣聖ジェイクを殺せるか」考えたけど5回に1回は負ける。
剣の間合いであれば100%敵わない。
まぁ私が勝つとのは裏技を使えばであって正々堂々ならまず勝てない。
そんな、ジェィクに大怪我をさせる存在が居る。
考えただけでも恐ろしい。
一体何が起こっているの。
「剣聖ジェイクに何が起こったのか、知っている範囲で構わないから教えてくれる?」
「はっご報告をさせて頂きます」
剣聖ジェイクについて彼は話し始めた。
剣聖ジェイクは魔族の動きに不穏な動きを感じ独自で追っていたそうだ。
その報告はまだ、ギルドにも国にも上がって来ていない。
だから、詳しい事は解っていない。
だが、その際に「何か恐ろしい物」と対峙したらしい、その恐ろしい存在は、恐らく簡単に剣聖の腕を引き千切り、心を折った。
そういう事らしい。
「心が折れた? 相手はあの剣聖ジェイクよ! あの自意識過剰で自信満々「世界一いや史上最強とは俺の事だ!」「勇者? 俺相手に何分持つのかな?まぁ居ない相手の話も何だが、俺には勝てないだろう!」 そんな事言っていた奴だよ!」
「それがうわ言の様に「怖い」を連発しているそうです!」
そんな事あるの?
昔に私が治療した時は片手片足になっていた。
そんな状態でも自意識過剰で笑っていたジェイクが「心が折れた」。
もし、そんな事が起きたのだとしたら…
この世界はどうなってしまうのだろう。
もし、ジェイクが本当に再起不能な状態だったら、誰に討伐や調査の話が来るのだろうか。
不安で仕方ない。
だが、幾ら考えても…答えは解らない。
ジェイクが此処に来るまで、幾ら考えても解らないのだから仕方ない。
マリアは聖女の時にも余り、女神に祈らなかった。
そんな事するより、治癒師の技術を磨いた方が世の為人の為になる、そう考えていたからだ。
だが、そんなマリアが、この時ばかりは祈らずにはいられなかった。
聖女や剣聖すら考えの及ばない何かが起こり始めていた。
45話 剣聖を壊す存在
嘘でしょう? これが剣聖ジェイクだと言うの。
ちゃんと延命の治療がされているが、体の壊れ方が半端ない。
片手が無いと聞いたが実際は違う、根本どころか、胸の一部と一緒に引き千切られていた。
反対側の腕も捻じ曲げられて、足は両方とも明後日の方向を向いている。
これの何処が治療が終わったと言うの?
足の方向も可笑しいのでは立つ事なんて出来ない。
だが、それ以上に…
「怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い…誰か..助けて..嫌だ」
本当に心が折れていた。
ロゼと過ごした10日間が役に立った。
躊躇なくギロチンを使う事が出来る。
万が一暴れられると困るから、教会からリチャードとポールを借りてきた。
「嬢ちゃん、手伝いに来たぜ」
「押さえつけて」
「解った」
「うぷっ、此処まで人間が壊れるのか」
「ポールもギロチンに剣聖を掛けるから早く」
暴れることなくジェイクはギロチンにはまった。
勢いよく刃は落ちていくが、鍛えられた首のせいか切断され無かった。
「うううううううわああああああああああっ」
「リチャード、ポール刃をぶっ叩いて」
「ああっ」
「了解」
刃が落ち首を跳ねると大量の血が2人に掛かった。
流石のリチャードとポールもしばし茫然としていたが…
「嬢ちゃん、何をするんだ」
「首を抱えて…うぷっ」
「私だってしたくないわ..」
私はジェイクの顔をナイフで削っている。
ジェイクは顔も壊されていた。
鼻から陥没していて頭部も半分歪んでいた。
髪の毛も掴んで振り回されたのか無かった…
「ジェイク、頑張ったね、貴方はこの顔も自慢だったものね、大丈夫よ、私が戻すからね」
血が滴る首を抱えながら、陥没している部分や欠損している部分を素早く斬り落とした。
此処までやれば、大丈夫な筈だわ。
「パーフェクトヒール」
「しかし、何時見ても嬢ちゃんのパーフェクトヒールは凄いな」
「正に奇跡だ」
「止めろ、止めてくれ~..俺は俺はああああああっああああ」
剣聖ジェイクともあろうものが、まるで子供の様に震えている。
私の魔法は体を治す事は出来るが心までは治す事は出来ない。
後は教会に任すしかない。
だが、此処まで心が壊れてしまったら、もう戦う事等出来ない可能性が高い。
私の見立てでは、剣聖ジェイクなら、現存する魔族最強の四天王とて引けは取らない筈だ。
必ず勝つとは言えない、だが心が壊れる程体を壊す事など出来る物だろうか?
少なくとも、そんな存在は今は居ない。
魔王が居るなら話は別だが、今は居ない。
その証拠に、勇者も賢者も現れていない。
だが、今解る事は、この世の何処かに「剣聖」すら歯が立たない化け物が存在するという事だ。
歯が立たない…それだけじゃ無い。
四職(勇者、聖女、賢者、剣聖)の中で剣聖が一番優れている物がある。
それはスピードだ。
魔法がほぼ使えない剣聖は肉弾戦で戦う。
その為、スピードだけなら1番早い、ジェイクは解らないが、「神速」と呼ばれていた剣聖も居た。
その剣聖が逃げられない。
うわ言で助けてと言う位だから…ジェイクだって逃げようとした筈だ。
だが、逃げられなかった。
更にあの体はどうだったか? 力で引き千切られた腕、壊れた足…恐らく物凄い力の持ち主にやられた物だ。
四天王には力のある者も居る。
だが、剣聖のジェイクなら、その攻撃だって受けれる筈だ。
肉弾戦で戦う剣聖の体は、恐らく「勇者か勇者以上」の筈だ。
魔法に特化した賢者、回復魔法に特化した聖女、勇者だって特有の魔法を使う。
会った事は無いから絶対では無いが、そこから考えると「剣聖」は肉弾戦特化型…その体を此処まで壊す存在。
勇者でも勝てないかも知れない。
そんな存在が、少なくとも何処かに居る。
神獣やドラゴンの様に人間と関わらない存在ならまだ良い。
魔族や魔王の様に関わってくる存在だったら、その時は人類が未曽有の危機に陥る。
とりあえず、調べない訳にはいかない。
46話 【魔族視点】 忠義と偽魔王
魔王様が現れると勇者に殺される。
何時までこれが続くのか…我々には恐怖しかない。
人間が勇者に希望を見出すように、我々魔族は「魔王様」に希望を見出している。
女神が勇者を遣わすように邪神様が魔王様を我々魔族に遣わしてくれているのだ。
だが、何時も「魔王様」は勇者に倒されてしまう。
何時か、この不文律が壊れ、勇者が倒される日を夢見ていた。
だが、何時までたってもその願いは叶わなかった。
だが、ある時、我々に奇跡が起きた。
先の魔王ゼクトール様が痺れを切らせて人間の地に兵を率いて出られた時だ。
何と勇者が魔王城に攻めて来たのだ。
「魔王めこの勇者ゾノバ様が退治してくれる」
この場には魔王様は居ない…だが馬鹿正直に言う必要は無い。
この時、何か、何かが閃いたとしか思えなかった。
もし、偽物の魔王様を用意したらどうなるのだろうか?
勇者は魔王様が誕生した時に現れる。
人間の寿命は60年。
「偽の魔王様を用意して勇者に倒させる」
そうすれば、勇者は満足して凱旋するだろう。
その状態で、勇者が死ぬまで60年我慢をする。
勇者が死ぬまで人類を騙しとおせば、「人類に勇者が居ない状態になり逆にこちらには魔王様が居た状態になる」
そして、その後は…勇者は誕生しなくなる。
新しい魔王様が誕生したのではなく、「ただ魔王様は生き延びて、勇者が死んだ」それだけだ。
恐らく、新しい勇者は現れない可能性が高い。
咄嗟に私はこの事をゾダーク様に伝えた。
「面白い、それならこのゾダークが魔王様の替え玉になろう! 実力が無いとバレる可能性があるからのう」
「ですが、それではゾダーク様が」
「構わぬ、それでこの呪われた連鎖から逃げられるのであれば、逆に礼をいう」
「このゴーギアをお伴します」
「うむ、どのみち此処に勇者が来た時点で我らに未来はない、ならば最後の花道位飾ろうではないか」
急ぎ、この事を魔王様に伝えるべく文を書く。
窓から、有翼族のガルに魔王様に届けるように頼んだ。
「頼んだぞ」
「この命に代えても」
さぁこれからが我らの出番だ。
「勇者ゾノバよ、四天王の一人我が相手しよう」
本物の四天王のうち三人は魔王様といる。
そして、ゾダーク様は魔王の役を務める。
ならば、俺が四天王の振りをするしかない。
本気で戦うも、全く歯が立たないのが解る。
火球も、氷の刃も簡単に弾かれ…刃がこちらに..
ザクッ
「おのれ、勇者よこの恨み…」
「今日は魔族とはどの程度の者か知る為に来た…本当は魔王と戦う気が無かったのだが気が変わった、四天王がこの程度なら、俺単騎で討伐可能だ」
成程、だから勇者1人なのか..都合が良い。
「勇者が此処までとは、四天王最強の我が…皆の者、直ぐに魔王様を逃がすのだ..早く」
「そうはさせるものか!」
勇者は走っていった。
成功だ、ハァハァ…これで、勇者は俺を四天王だと思い込んだ。
ゾダーク様には申し訳ないが、俺みたいなようやく幹部になった新参者と四天王1人で勇者を無効化できるなら安い物だ。
「よくぞ参られた勇者よ、この魔王が相手してやろう」
「いざ参る」
ハハハッただ殺されるしか無い。
俺は特殊能力を活かして戦うタイプだ…
技を出せば勘付くかも知れない。
なすすべも無く殺されるしかないか。
「わははははっ魔王とはこんな者か? 大した事ねー、俺一人で充分だった」
「おのれ勇者めがーーっ」
魔王様、申し訳ございません、魔族の勝利の為に魔王城の1/4を使わせて頂きます。
「このままでは、済まさん、我と共に死ぬが良い」
「お前、何をした」
「じきに、この城は吹き飛ぶ、お前事な..」
「貴様あーーーっ」
この程度の事で勇者は死なないだろう…だが、これで我の体は吹き飛ぶ。
勇者は「魔王を倒した」として凱旋するだろう。
ゴーギアよ我らで魔族の時代を切り開いたのだ、きっとあの世で邪神様も褒めてくれるだろう。
魔族にとって死は終わりで無い、また次の世界で会おうぞ…
「流石のお前も、これで終わりだ」
「ならば、お前だけは殺す! これが奥義、光の翼だぁぁぁぁぁっ」
勇者によって偽の魔王は倒された。
だが、もし彼の顔を見ることが出来たなら、安らかな顔をしていた筈だ。
「勇者を謀る」事が出来たのだから。
47話 この日魔族は滅んだかもしれない…
「剣聖ジェイクは時間を掛けなくちゃ治らないわね」
「それで尊女様どうするんですか?」
「嬢ちゃん、今度ばかりは駄目だ」
「このままじゃ、何処かの国が馬鹿な事言いだして、ロゼに話が行きそうね」
「あり得ますね…だが今度ばかりは」
「流石の嬢ちゃんも」
「仕方ないわ…ロゼに行かせる訳にいかないから、私がやるしか無いわね」
「あの嬢ちゃん何を言い出しているんだ」
「あのジェイクが、壊されて」
「だから何? 剣聖なんて剣が強いだけじゃない!」
「剣が強ければ凄いんじゃないですか!」
「リチャード、ポール、今回ばかりは私だけじゃ無理だから、手伝ってくれる?」
「まぁ良いが、何をするんだ」
「尊女様のお願いなら何でも致します」
「大した事じゃないのよ、ちょっと馬車を魔国まで出してくれれば良いわ…多分帰りは私は眠っていると思うから緩やかにお願い」
教会で豪華な馬車を借りに行くと…
「大変です、尊女様…ジェイク様のうわ言の情報を繋ぎ合わせた所、魔王が居た、そういう話でした」
「でしょうね、魔王迄行かなくても、それに近い奴がいると思うのよ…だからこれから行ってきます」
「ちょっと待って下さい、いま教皇様に報告して参ります」
「まぁ、急がないから待っているわ!」
「尊女様、何処に行かれるのです! 魔王が居た、そんな状況で魔国等に行くなんて」
「だって私がどうにかしないと何処かの馬鹿が、ロゼを担ぐかも知れないじゃない…ならさっさと対処した方が良いわ」
「ですが、剣聖ジェイク様が敵わない…なのに行くのですか」
「ジェイクが敵わないから行くのよ」
大体皆可笑しいと思わないのかしら?
ジェイクは四職よ(勇者、聖女、賢者、剣聖)それに比べて私は三職(勇者、聖女、賢者)私の方が強いわ。
「最早、尊女様に頼らなければならないのは事実です..解りました」
「それじゃ…状況説明も必要だから…教皇も行きましょう…ローアン後をお願い」
「解りました、尊女様」
「あと、数日、結界が無くなるから、その説明もお願いするわ」
「解りました」
「本当に私も行くんですか?」
「勿論よ、大した事しないから大丈夫」
魔国迄1か月快適な旅を続けた。
「馬車を中心に結界を張っているからただ進めば大丈夫よ」
「信じられないな」
「国を覆っている結界を小さく張ると魔物が死んで行く…なにこれ、ただ進むだけで討伐されて行くなんて」
「嬢ちゃん、半端ないな」
「此処が魔国との境界…此処から先は何が起こるか解らないですぞ」
「教皇、此処で良いのよ、さぁ行きます..結界」
「尊女様、結界を魔国に張るのですか、それでは閉じ込めただけで…」
「此処からが勝負なのよ…空絶結界…はぁぁぁぁぁっ」
「嬢ちゃん、見た目には結界を張っただけにしか見えないが…」
「これは空絶結界、文字通り、空気を拒絶する結界なのよ」
「尊女様、それでは魔国から空気が抜けていっている、そういう事ですか?」
「そうよ、スライムとかは解らないけど、魔族は普通に呼吸していたわ、なら閉じ込めて空気を抜いちゃえば良いのよ! 国中から空気を抜いているから、流石に魔王もも死ぬんじゃないかな?」
「尊女様、解りますが卑怯じゃ無いですか」
「卑怯、いやねポール…相手は魔族なのよ、皆殺しで良いんじゃない? それに私が倒さないでロゼに話が行ったら可哀想じゃない」
「嬢ちゃん、聖女様嫌いじゃ無いんですか?」
「妹だからね、嫌いじゃないわよ…3日間位空気を無くせば、魔王も死ぬんじゃないかな?」
「そうですな、だったら、帝国に連絡をしてその後の調査をして貰いましょう」
「そう、教皇お願いね…流石にこれは疲れるのよ…馬車で休むわね」
「どうぞ、ごゆっくりして下さい」
此処にいた全員は思った、今回は「魔国」であったが、これは普通の国相手にでも出来る事だ。
つまり、その気になれば、マリア1人で国が亡ぼせる。
こんな事が出来るなら誰も敵わない。
「教皇、私がこの魔法を使える事は内緒ね」
「解りました」
「絶対よ、私はまだ化け物扱いはされたくないから」
「解りました」
勇者…賢者…よく考えればその2職以上に「女神に近い」それが聖女だ。
魔王はおろか、これでは魔族のその大半が滅んでしまったのではないか。
教皇はただ驚くばかりだった。
48話 奇跡の対価
流石のマリアも、これは疲れたらしく暫く寝込んでいた。
一国を丸々覆う様な結界に、そこにある空気を全部抜く等、過去に何者も行えた者は居ない。
常人の及ばない魔力を持つマリアだからこそ行う事が出来たのだろう。
だが、その体への負担は計り知れない物がある。
帝国が調査の為に騎士や兵士を総動員させた所、魔王城に一際禍々しく巨大な魔物の死体があった。
「こんな者ともし戦う事になったら」そんな事を考えたらゾッとする。
どれ程の騎士を繰り出した所で勝てる気がしない。
その見た目の禍々しさは、見られただけでも体が凍り付く。
人間等、幾ら居た所で皆殺しにされるだけでは無いのだろうか、そういう恐怖がこの死体からは感じられた。
恐らく、これが魔王だったのだろう、この世の全てを呪う様な顔で死んでいた。
城には他にも沢山の魔族の死体があった、全ての魔族が武装していて中には魔王程では無いがどう見ても騎士団1個師団でも勝てない様な個体もかなりの数があった。
マリアがこれをやらなければ、世界はどうなっていたか解らない。
もし、マリアという存在が居なかったら、勇者の居ない今の人類はこの戦いでかなりの犠牲が出たに違いない。
だが、教皇が驚いたのはそれだけでは無い…実質、魔国が滅んでしまった事だ。
魔国を滅ぼすなど過去のどれ程偉大な勇者でも出来ない。
そんな存在が過去に現れたなら、今頃は魔国は滅んで、世界は平和になっている。
騎士と一緒に歩いて見たからこそ解る。
如何に魔族とはいえ…大人から子供まで苦しんでもがきながら死んでいた。
中には子供抱きしめ、恋人なのだろうか抱き合って死んでいた者もいた。
相手が魔族だからと此処までして良かったのだろうか?
私にはこの光景が地獄にしか見えない。
小さい頃から魔族は人間の敵、そう思って生きてきた自分ですら、そう思うのだ、普通の者が見たらさぞかし残酷な光景に見えるだろう。
中には「魔族が可哀想」「魔族とはいえ此処までする事は無い」そう言いだす人間が現れるかも知れない。
そんな人間は「世界を救って貰った」のに、尊女様に噛みついてくる可能性がある。
これは誰にも見せてはならない。
帝国と協力してさっさと隠蔽しなくてはいけない。
そんな自分に対して「帝王」はホクホク顔だ。
まだ、魔国が滅んだ事を他の国は知らない。
貴重な素材や財宝がまるまる、自分の物になるのだ、喜ばない筈は無い。
既に、帝王から、尊女様の呼び名を更に上の物に上げるように要請を受けた。
この偉業に対して与えるのであるから、考えられる限り最高の物にしなくてはならない。
考えに考え抜いた末の称号が「聖なる勇女」になった。
これはマリア一代だが、「勇者と聖女その両方の特権」が使える。
本来なら大きな領地を与えて莫大な財産を与えたい位だが、絶対にマリアは受け取らないだろう、そこから考えた事だ。
暫くしてマリアのお見舞いに沢山の人が訪れた。
「お姉ちゃん遊びにきました」
「ロゼ、悪いけど体の調子が悪いから構ってられない…」
「だから、お手伝いにきました」
「ロゼ、うちは金貨1枚の診療報酬だから、貴方にはどう考えても無理、だけど来てくれてありがとう…」
「だから、来ても手伝う事は無い、そう言っただろう? だが折角きたのだ、美味しい物でも食べさせてやろう、お抱えのコックも連れて来た、懐かしい味で美味しい物を食べれば直ぐに治る」
「精のつく食材も領地から持ってきたわ、直ぐに料理を作らせるわ」
「お父様、お義母様…何で」
「娘が具合が悪いのに親が見舞いに来るのが可笑しいか?」
「私も迷惑掛けましたからね、これからは少しは母親らしい事をする様に心がけるわ」
今回の事は王国は知らないわ..「精々が私が体調を壊した」それ位しか知らない筈。
「ロゼ、お父様、お義母様来てくれて嬉しいわ、本当にありがとう…ね」
「何言っているのお姉ちゃん!姉妹なんだから気にしないで良いよ」
「折角、来たんだから、体調が戻ったら、また特訓する」
「お姉ちゃん…まさか」
「この間のはまだ序の口…ここからが本番」
「止めよう、これで私は充分だから…本当に」
「なら良いわ、調子が戻ったら…家族で出かけるのも良いわね」
「お姉ちゃん..」
「おい、本当に体の調子が悪そうだな..」
「大丈夫なの」
「大丈夫だから気にしないで」
そういうマリアの顔は白磁の様に真っ白だ。
マリア様に台所を借り作らせた、特製のお粥が完成した。
「ほら、マリアお粥が出来たぞ、お前の好きなホロホロ鳥も入っているぞ」
「暫く、何も食べていなんでしょう? これなら食べやすいわよ」
「何だったらお姉ちゃん私が食べさせてあげる」
「大丈夫…折角だから、食べるわ…ううん、美味しい…本当に美味しいわ」
お粥を一口食べたマリアの手からスプーンが落ちた。
そして、マリアは崩れ落ちるようにベッドに倒れ込んだ。
ガシャーン、お皿が割れる音が響き渡る。
「マリアーーーッ、マリア、おい」
「お姉ちゃん、お姉ちゃん! お姉ちゃーーーん!」
「マリア…そんな何で!」
幾ら呼び掛けてもマリアは起きることは無かった。
幸せそうに、安らかに眠るようにマリアはその生涯を閉じた。
49話 エピローグ
マリアはそのまま眠るように死んでいた。。
報告を受けて駆け付けた教皇やローアン、リチャード達も驚きを隠せない。
ついさっき迄、起きているのが辛そうであったが、普通に生活をしていた。
それが、まさか死んでしまうなんて信じられなかった。
体は冷たくなっているが、話かけたら返事するのではないか、本当に眠っているように死んでいる。
教皇自らが脈をとり、呼吸しているのか確認をした…間違いなく死んでいる。
心の中では危惧はあった、如何にマリアが膨大な魔力があるからと言って、国を丸ごと覆う結界を張り空気を抜く等、普通は絶対に出来ない、出来ない事をするのなら、体に掛かる負担は膨大だ、恐らくこんな事が出来た人間等、歴史にも居ないだろう。
こんな事が簡単に出来るなら「勇者なんて要らない」聖女1人この世にいれば良い事になる。
「人の身で、神ですら成し得ない奇跡を起こしたのですから、やはりこうなりましたか」
「教皇様は解ってらしたのですか?」
「薄々はですよ…ですが魔族を滅ぼす等、それこそ神話の時代から出来た者はいませんよ…恐らく女神にも出来ないでしょう」
「教皇様がそれを言って良いのですか?」
「真実を述べて何が悪いのですか? 勇者であろうと女神であろうと魔王を倒した話は聞いた事がありますが魔国を滅ぼした等聞いた事がありません、神ですら出来なかった事を行った、それは誰が見ても解かることだと思いますが」
「魔国が無くなってしまったから、これからは魔物や魔族は滅んでいくのでしょうか?」
「それは誰にも解りません、魔国が無くなっても世界にはまだ無数の魔族や魔物が居ますからね」
「嬢ちゃん、治療ばかりしていて楽しかったのかよ…なぁ」
「楽しかったと思いますよ、尊女様は何時も治療が終わると笑ってましたから」
「お姉ちゃんが何で死んじゃうの…死ぬなら私の方が良かったんだよ」
「聖女様、そんな事を言っては尊女様が悲しみますよ…尊女マリア様は貴方を守るために、戦い死んだのですから」
「嘘っ…私の為なの! 嘘よ…何で、何でよお姉ちゃーーーーーん」
「これから少しづつ罪滅ぼしをしようと思っていたんだ..親より先に死ぬなんて」
「私だって同じだわ」
「マリア…」
天から光が降り注いだ。
冷たく陶磁器の様だったマリアの顔に朱がさした様な気がした。
マリアの手が動き出した…
「「「「「「「…….」」」」」」」
「ふわーあっーあ、良く寝たわね! うん?どうしたの皆」
「お姉ちゃん..良かった生きていた..良かったよーうううううわああああん」
「えっ、ロゼなんで泣いているの? お姉ちゃん意味わかんないだけど」
「マリア..良かった」
「嬢ちゃん生きていたのかよ..」
「何で皆泣いているのよ? 私ただ寝ていただけだよ?」
そんな訳は無い、シスターから私まで全員がマリアの死を確認した。
だが、これ程の偉業を成したのだ、きっと女神様がマリアを帰してくれたのかも知れない。
「尊女様ご無事で何よりです」
「ただ寝て起きただけですなのに…何で皆泣いているのよ…まるで私が死んでいたみたいじゃない!本当におちおち眠れないわ。
マリアの治療院生活は…まだまだ続く。
第三章あとがき
最後まで読んで頂き有難うございました。
此処までどうにか書いてきましたが、どうも後半が上手く書けて無い様な気がします。
これはまだ、己の未熟さによるものが強いのかも知れません。
もしかしたら、暫くしたら大幅に加筆、修正を行うかも知れませんが、それはかなり先になると思います。
有難うございました。
石のやっさん
第4章のお知らせ
第三章でほぼ完結したのですが、
知り合いから、主人公の恋愛エピソードは無いのか?
そういう話を頂きました。
あと、可能なら10万文字書く癖をつけた方が良いと言う方がいたので恋愛の話を少し続けたいと思います。
宜しければあと少し、お目汚し下さい。
50話 第4章スタート ガラクタさん
この街にはガラクタさんという人が居る。
この人間は、右手が無く左足も無い。
ただ、無い手と無い足の部分に金属で作られた義手と義足が作られている。
顔の半分も恐らく焼けているのだろうか?顔半分に仮面をつけている。
その仮面部分から見える目には義眼が嵌め込まれている。
スラムの小さな宿屋に住んで居て、良く子供に揶揄われていた。
揶揄う原因は決して、その風体からでは無い。
この男が言うには…
「僕は勇者だったんだ、その昔、魔王と戦い手足を失い勇者の能力も失った…だが本当に怖いのは、空から来る奴だ」
その様に何時も言い張っていた。
だが、今現在この世界には勇者は居ない筈だ。
そして魔王も居ない。
前の魔王が居た頃戦った勇者様はもう居ない…寿命で死んだ。
だから、誰が聞いてもそれが嘘なのは解る。
誰が聞いても嘘だと解かる事を真実だと言い張る、頭が可笑し人物。
それが「ガラクタさん」だ。
だが、このガラクタさん、意外に馬鹿な話をする事と体が可笑しい事以外は到って真面でちゃんと法律は守るし、話をすると意外に博学、文字もしっかりと読めるし、汚いながらも文字も書ける。
スラムで、修理屋をして生活をしている。
鍋から剣や鎧まで綺麗に治す…本人曰く修理は得意だが、新しく作る事は苦手らしい。
そんな男が、子供から馬鹿にされながら、それでいてスラムの住民に好かれながら生活していた。
51話 剣聖 再生?
教皇より剣聖ジェイクの治療を依頼されてしまった。
体はもう完璧に治っているのよ。
そういう意味ではもう治療院の仕事は終わっている。
精神の異常を治すのは本来は私の仕事では無いわ。
毒を消したり、呪いの解除は、一時的な混乱を治す呪文はある。
だが、「恐怖に打ち勝つ」そういう呪文は無い。
ならば、どうすれば良いのか?
はぁ~ 溜息しかないわ。
考えられる方法は3つ
「記憶を無くす」「状態異常を無くす」「恐怖を乗り越える」
だけど、最初の二つは難しい、まず「記憶を無くす」は都合よくここ暫くの記憶だけ無くす等出来ない。
記憶を全部、無くしてしまう可能性もある、それこそ剣聖として積み上げて来た剣技もなくしてしまったら、目も当てられない。
「状態異常を無くす」これはもう難しい、聖女である私が色々試しても無駄だった。
戦闘中のチャーム等の一時的な物なら兎も角、本当に心が折れてしまった者の治療など治し方を知らない。
そう考えたら、私に出来るのは「恐怖を乗り越える」事を手伝う、それしかないわね。
そうと決まったら、やる事は一つだけだわ。
「教皇、用意して欲しい物があるんだけど」
「尊女様が言われるなら、何でもご用意しますが…本当にこれを」
「はい」
私はにっこりと笑顔で答えた。
これで本当に良いのか解らない。
だが、ロゼですら試練を乗り越えた。
私の頭にはもうこれしか思いつかなかった。
魔王らしき死体はまだ解体されていない。
更にその周辺にあった禍々しい魔族の死体3体、これ等を小型の貯蔵庫に入れる。
そして、あらかじめ四肢を切断して治療した状態の「ジェイク」を放り込んだ。
ジェイクで無ければ、ミスリルの手錠、足錠にしたが、気がふれて居ても剣聖、引き千切ったり、腕を肉が削げるのも気にしないで引き抜く可能性もある、だからこれしかない。
「止めろー、止めてくれーーーっ」
ジェイクが叫んでいるが、知らないわ。
この貯蔵庫は地下にあり、所々から地下水が沁み出ているから、冷静になれば水には困らない。
しかも、小さなトカゲの様な生き物もいるから慣れれば食べられるだろう。
うん、7日間閉じ込めるには丁度よいわ。
「それじゃ、ジェイク7日後にくるわ…それまで頑張ってね」
「嫌だーーっ、こんな奴と閉じ込められたら殺される、俺はまだ死にたくない、死にたくないんだーっ」
それはもう死体だから動きもしない、だからジェイク所か子供も殺せない。
そんな事も解らない位、頭が混乱している。
暗闇で魔王と一緒の7日間…少しは良く成れば良いのだけど。
確か「白髪の女鬼」では白髪になったけど、期間が過ぎたら…逆に冷静になった。
そういう話だったわ。
ジェイクも治ると良いんだけどね。
52話 剣聖再生? それ創作だから!
「白髪の女鬼」の話は復讐の物語だ。
妻が若い男と浮気をし、更に殺されそうになったゴーガン伯爵が、復讐の為に、妻の浮気相手を殺した。
此処までは良くある話だが、この話で違うのはゴーガン伯爵は妻を殺すのではなく、死んだ浮気相手の遺体の入った棺に閉じ込めて精神的に壊す…そういう話だった。
だが、想像より長い時間遺体と共に閉じ込められていた妻は「発狂」を通り過ぎた後に頭が冷静になり、髪の毛が白髪になるも、浮気相手の遺体を食べながら生き…最後には棺から脱出してゴーガン伯爵に復讐を果たす。
こんな話だわ。
だから、7日間位ジェイクを閉じ込めて置いて、「発狂」を通り過ぎて「冷静」になればもしかしたら真面になるのかも知れない。
精神的な治療なんて、やった事ないから、僅かな文献を元に試してみるしか無いわ。
これでもし、治らないなら、ロゼに行った事を試してみるしかないわ。
取り敢えず、1週間後、どうなるか?
貯蔵庫の扉を開けてみるまで解らないわ。
1週間が経った。
今日はジェイクの様子を見る為にリチャードに同行して貰った。
もし、状態が良いようであれば、治療院に運び込んで手足の治療をする必要がある。
「元の場所には居ないようだから何処かに移動したようね」
「嬢ちゃん、鬼だな、普通は7日間もこんな所に人を閉じ込めようなんて思わないぞ」
仕方ないじゃない…他に直す方法が思いつかなかったんだから。
大体、肉体的な治療じゃないなら、私ではなく他の人の方が適任だわ。
「仕方ないじゃない! 他に方法が浮かばなかったんだから」
「あんな所に居るわね…気絶しているようだわ、リチャードちょっと様子を見るわ」
「解った」
まぁ手足が無い状態だから垂れ流しは仕方ないわね。
髪の毛は、うん恐怖からか真っ白になっている。
案外、美形は凄く得かも、本来なら老婆の様に白い毛が彼に生えているとカッコ良く見えてしまうわ。
暴れる雰囲気は無さそうだから、話かけてみようかしら?
「ジェイク!」
「おおっマリア殿、お恥ずかしい話なのだが、何者かに手足を斬られこんな所に閉じ込められてしまった」
やった、やったわ…上手く言ったような気がするわ
「あっ、御免、それをやったのは私だから、それより周りの魔族は怖くない、大丈夫!」
「怖いか怖くないかだったら、今は怖くない、俺は此奴に成すすべも無かった、生まれて初めて自分の技術が通用しない世界がある事を知った」
確かに此奴は魔王だから、流石の剣聖の技も通用しなかったのね…まぁ当たり前だわ
「世界で一番自分が強い」何て言っていた癖に案外心は脆いわね
「そりゃ、そうよ相手は魔王だもの…多分」
「これが魔王だったのか、俺は此奴が物凄く怖くてな「もう二度と会いたくない」そう思っていたよ、此奴ともう一度戦う位なら死を選ぶ、その位までの絶望しか無かった」
「貴方、自分より強い者は居ない、そう言い切っていたのに?」
「此奴の前じゃ虫けら以下だ…だから此処での生活も地獄だったが3日間位したら「死人は何も出来ない」そう言う事が解ったよ」
「良かったじゃない!」
これなら、もう大丈夫ね…
「パーフェクトヒール!」
「ありがとう! マリア凄く心配を掛けたがもう大丈夫だ!」
「そう、それじゃシャワーでも浴びてから教皇の所に報告に行って」
「解った」
ああっ上手くいって良かったわ、「死んでいなければ何でも治せる治療院」に初黒星がつく所だった。
「しかし、嬢ちゃん良くこんな方法思いついたな!」
「ああっこれは「白髪の女鬼」という本からヒントを得たのよ」
「嬢ちゃん「白髪の女鬼」はアランドン男爵が書いた創作小説だぞ…事実じゃない」
「あれっは実話じゃないの?」
「只の創作小説だぜ」
「あはははっ、まぁ上手くいったから良いじゃない」
「そうだな、そう言う事にしておこうな」
しかし、嬢ちゃんは情け容赦ないな…ジェイク様、糞尿まみれで手足が無いから、凄く冷静に話していたけど..目が死んでいたぞ。
全部スルーして話していたけど、あれはかなり「人としての尊厳」を無くしている。
年頃の娘なんだから、少しは…まぁ言っても無駄だな。
53話 マリア剣聖に恩を仇で返される
「尊女様、ジェイクが剣聖の称号を返還されました」
いきなり、教皇が来て、そんな事を言い出した。
一体何が起きたのだろう?
時は少し遡る。
剣聖ジェイクがマリアの治療を受け、シャワーを浴びたあとの事。
その足で、教皇の元に出向いていた。
「剣聖ジェイク…その様子ではお体の方は」
「ああっ体の方はもう完璧に治った、そして心も問題無い」
「おおっ、それは素晴らしい、これからの貴方の」
「教皇様、その事なんだが、悪いが、俺は剣聖の地位を返上する」
「そんな事は許されません…職業として女神から授かったジョブを返上するなど」
「だが、マリアは妹に地位を譲っているだろう…まぁ職種(ジョブ)はマリアみたいに移し替える事は出来ないがな、剣聖の特権を返して、これからは普通の剣士として生きるさぁ」
「意思は固いのですか?」
「剣聖とは本来魔王の討伐の際には一番に突っ込んでいくのが役割だ、今は魔王が居ないから関係ないかも知れないが、恐怖で縛られている俺じゃもう無理だ」
「そうですか」
「ああっ、マリアに心配させたくないから、こう言っているが、今も体が震えていて怖くて仕方無いんだ」
「確かに、今の貴方じゃ、戦うなんて無理でしょうね、剣聖ジェイク 今迄ご苦労様でした」
「悪いな教皇様」
「ええっ、それで次の剣聖には誰か選ばれますか?それとも教会預かりにしますか」
職種(ジョブ)は普通は誰かに移す等簡単に出来ない…それが出来るマリアが異常なだけだ。
「ああっ剣は使えないがマリアで良いんじゃないか…」
「尊女様ですか…」
「剣聖はマリアに譲る事にする..剣は使えないだろうが、勇者が居ない今「剣聖」は最強の称号、マリア以外に名乗る資格がある奴はいない」
「解りました、その意向に沿うようにする事としましょう」
「有難うございます」
「それでは、この教会を一歩出た時から、貴方はただの剣士、もう剣聖ではない、それで本当に良いのですね!」
「ああ構わない、いや構いません、今迄本当に有難うございました」
「ジェイク、今迄本当にご苦労様でした」
「という訳で尊女様に、剣聖の地位も譲られました」
恩を仇で返すとはこの事だわ。
私は自由が好きなのに、ジェイクはその事を知っている筈なのに..
「ごめんなさい」
「そこを何とか、お願いします」
「嫌です、勘弁してください!」
「この私の一生のお願いです」
「多分、一生のお願いはもう数回叶えています」
「これで最後で良いですから」
教皇が土下座をしたので、私も土下座で応戦している。
「どうしてもというなら金貨1万枚頂きます!」
これなら、流石に諦めるでしょうね…
「解りました、それで引き受けてくれるなら安い物です、ついでに勇者の地位もお願いしますので、金貨2万枚に、この治療院の土地と建物、と生涯税金の免除を約束しましょう…それでは」
「教皇、今何と言いました」
「それでは尊女様、私は失礼します!」
ニコニコしながら教皇は立ち去った。
嘘でしょう! こんな大金出す訳無いのに..何でよ!
マリアは解っていない、前の時には「王太子」すら差し出した。
まして、今の帝国はとんでもなく、マリアの為に潤っていた。
金貨10万枚でも喜んで差し出す位の事をマリアはやってのけていた。
この前は「国のトップ」今回の教皇に至っては実質「世界のトップ」そこに今回は「帝国のトップ」帝王が加わる。
そんな金額何ともない…
54話 女神の愛し子
さてと、尊女様の許可も頂けましたし、教会的には万々歳ですね。
あれだけの事をしたのに無報酬などあり得ません、帝王も心苦しく思っていましたからね「報酬を渡そうにも、また金貨1枚」と言われかねませんでしたから、正に渡りに船です。
私は教皇なのです、女神に仕え、ひいてはその女神の遣わせた「聖人様」に過ごしやすく生きて貰うそれに生きがいを感じています。
私にとっての生きがいは「マリア様に偉くなって貰う事」です。
当たり前ではないですか?
どう考えてもあの方程女神に愛されている方はいません。
望むのなら、教会の名の元に王城だろうと差し上げるのに…
あの方は欲が無さすぎます、まぁ欲が無いからこそ「聖女」なのでしょうが…
それはさておき、これで、また称号の練り直しになってしまいます、まだ授ける前で良かったですね、「聖なる勇女」で勇者と聖女の権利、それに剣聖の権利を足すのですか、そんな存在どうすれば言葉で表せられるのでしょうか?
「ローアン!」
私はローアンに事の次第を話した。
「それなら、簡単です、過去に恐れ多くも、その名を語り戦争を起こして処刑された人間が居たでは無いですか!」
「確かに、あれしか無いですね…帝王にも相談して、その称号に直しましょう」
「ただ、尊女様は嫌がると思いますが」
「こうなっては仕方ないと思いますし許可も得ましたから」
こうして、マリアに与えられる称号は「女神の愛し子」になった。
これは過去に誰も名乗る事は許されなかった最高の称号、この名を名乗り戦争を起こした人物は「不敬罪」で処刑されている。
教会の暴走は止まらない。
55話 ガラクタさん?
ガラクタさんは良く1人で空を眺めている。
ガラクタさんの本当の名前を誰も知らない。
「彼奴は本当に頭が可笑しいんじゃないか? 何時も空ばっかり見てやがる」
「魔王が居ないのに、勇者なんている訳が無い…本当に気持ち悪いよ」
「だけど、きっと可哀想な人なんだよ、あの手足に顔、恐らく魔物に襲われて失ったんだろう、あんな怪我をしたら頭が可笑しくなるって」
「まぁな…」
「皆は知らないんだ、本当に怖いのは空からくるんだよ」
幾ら僕が言っても解かってくれないんだ、誰も信じてはくれない。
「おい、ガラクタ、勇者なんだろう? だったらこれを斬ってくれないか?」
子供達はガラクタの前に岩を持ってきた。
「ごめん、今の僕は聖剣を持ってないから斬れないよ」
「あはははっ やっぱり嘘つきじゃん、今の世の中には「聖女様」「剣聖様」しか居ないんだから」
「ちがっ違う、僕は勇者だ…」
「岩も斬れないのに、何が勇者様なの? そういうのって不敬罪で捕まっちゃうんだよ ガラクタさん」
「…」
「だんまりかよ…嘘つき」
「皆、こんな嘘つき放って行こうぜ」
子供にとってあこがれの勇者を語るガラクタの子供の人気は最悪だった。
ただ、可哀想な人という感じがするから、石を投げられたりはしない。
だが、子供にして見れば、自分達が憧れる存在の名前を、どう見ても可笑しな人物が語るのは許したくはなかった。
だから、揶揄うという形に自然となっていった。
能力が無いと言うのは凄く悲しいな。
全てを犠牲にして戦ってきたのに、此処では誰も僕の事を知らない。
僕が勇者だと言っても誰も信じてくれない。
本当に勇者かどうか今では自分でも解らなくなってきた。
だが、そんな事はどうでも良い…僕は何者かと戦ってきた。
辛うじて瀕死の重傷を負い、そいつは倒したものの…もっと恐ろしい奴が空から襲い掛かってきた。
そいつの恐ろしさだけは覚えている。
今では姿形も思い出せないが、恐怖という形で記憶に残っている。
ガラクタさんは自分の姿を鏡で見た。
この姿からは誰も勇者だとは思って貰えないのは解る。
どう見ても、ガラクタ人間にしか見えない。
不具者も良い所だ。
彼奴は此処には来ないかも知れない。
だけど、来る可能性がある以上は…彼奴って何だっけ…
もしかしたら、僕は勇者じゃ無くて、本当に狂っているのかも知れない。
記憶も所々虫食いだから。
56話 剣聖 権利と義務
診療所が暇だから、留守を教会に任せて散歩している。
折角聖女では無くなったのに、尊女にされた挙句、剣聖に勇者まで押し付けられて、本当にふざけているわ。
さっきギルドの口座を見たら、金貨2万枚が振り込まれていた。
隣なんだから、直接渡せば良いのに、診療所の家と土地の権利書に生涯の免税許可証もギルドで受け取った。
恐らく、しかも、しっかりと教皇と皇帝のサイン入り。
多分、会うと文句言われるとか、返されると思っているんだろうな…
まぁ、決まってしまった事は仕方ないわ。
だけど、放って置いたらパレードやお祭りまでされそうだったから必死で防いだ。
さてと、久々の自由時間だから、何処に行こうかな?
「ジェイクにリチャードにポール、しっかりと伴を頼むわね」
「……」
「あの嬢ちゃん、これは一体どうしたんだ、俺の横に居るのは、剣聖ジェイクに見えるんだが」
「尊女様、私にもそう見えます」
「ああっ、それは只の剣士のジェイクだから気にしないで良いわ、新入りだからこき使ってあげて」
「マリア、これは酷くないか? 俺が一体何をしたって言うんだ」
「尊女様よ! ジェイク、貴方人に剣聖押し付けて置いて良く言うわね、剣聖の職種(ジョブ)は貴方の中にあるのに狡いと思わない?」
「だからと言って、無理やり連れ戻して自分の護衛任務に付けるなんて酷いと思わないのか?」
「思わないわ、だって、今の貴方は只の剣士、尊女様に仕えるなんて凄く光栄でしょう」
「確かにそうなるが、俺は自由が好きなんだよ」
「人の自由を奪っておきながら、貴方だけ自由になんてさせないわ…権利だけ持っていながら、義務だけ返すなんて許される訳ないわ」
「剣聖の特典なら、ちゃんと教会に返上したんだ」
「何を言っているの? 貴方の中に「剣聖」のジョブはある、それは凄く狡いわ」
「これは、他人に与える方法は無いだろう」
「そう? リチャード、ポール、剣聖に成りたい?」
「何を言っているのか解らないが、嬢ちゃん、俺は剣聖なんてなりたくない」
「私も成りたくはないな」
「そう? なら仕方ないわ、私は貴方に剣聖を押し付けられたから、貴方から「剣聖」を取り上げる、ジェィク貴方は本当に剣聖を辞めたいのね?」
「ああっ、自由に生きたいからな」
「解ったわ、ディスバリー」
ジェイクの体から黒い靄が出てきてその靄がマリアに入った。
「それが、妹に聖女のジョブを移し替えた魔法だな」
「そうね、私は聖女のジョブなんて持っていただけで頼った事ないから、必要無かったわ」
「何が言いたいんだ!」
「ジェイクは剣聖のスキルに頼っていたんじゃないの?」
「確かに、そうだが」
「あのさぁ、貴方は今後も剣士で生きるつもりなのよね」
「そうだ」
「だったら頑張るのね、恐らく今の貴方はもうゴブリンにも勝てない」
「…」
「だってそうじゃない? 剣聖のジョブありきで技を磨いていたんだから、その土台の剣聖を抜き取ったら、全部崩れるわ」
「はははっ、マリア、意趣返しはこの辺で許してくれ」
「本当だわ、嘘だと思うなら、そうだリチャード相手してあげて」
「冗談は止めてくれ、剣聖なんかの相手俺が勝てるわけ無いだろう」
「なぁ、マリア俺が本気になれば、騎士団が5個大隊相手に」
「それは昔の事よ、リチャード、可哀想だから手加減してあげて」
「仕方ないなーっ、嬢ちゃん死にそうになったら治療頼むよ」
「おい、その男大怪我するぞ!」
「ないない、それじゃ始め~っ」
「ふっ出来るだけ手加減はしてやる、それでも、えっ! 痛えええええっ」
何だこれ、まるで素人冒険者みたいじゃないか?
「流石に手加減しすぎたな、今度は、ぎゃあああああああああっ」
まるで子供のチャンバラじゃないか?
「ははははっ、なぁマリア何をしたんだ、なぁ幾ら何でも可笑しすぎる」
「だから、剣聖を辞めたいって言うから、剣聖のジョブを私が頂いたのよ! 将来本当に「剣聖」に相応しい人間にこのジョブはあげる事にするわ、これで貴方は本当の一般人、もう並みの剣士以下、恐らくゴブリンを狩る力も無いんじゃないかな、良かったわね、農夫とか商人になって生きられるわ」
「俺は剣士として生きて」
「無理ね」
「だが、マリアは、治療の能力があるじゃないか?」
「簡単に言うと私の力が100だとするじゃない? そのうち95が自前の力で5が聖女の力なのよ」
「…」
「それに対してジェイクは自分の力が2で剣聖の力が98なの、つまり今の貴方は剣聖だった頃の2%しか力が出せない筈よ」
「それじゃ」
「ええ、並み以下ね、多分Fランク冒険者とか駆け出しの冒険者にも負けるわね」
「あの、マリア様、剣聖のジョブを返して貰う訳には」
「無理、だって一度移したジョブはもう戻らないから」
「そんな…」
「良いじゃない、これでジェイクは剣聖とおさらば、普通に生活出来るわ、農民に商人、戦闘職以外で頑張ってね、それじゃもう行って良いわ、さようならジェイク」
「マリア…」
「さようなら」
義務を負わない貴方が権利も持っちゃいけないわ。
57話 ジェイクの最後
駄目だ、あの後一時的な物だろうと思い、剣を振るったら、もう駄目だった。
剣が物凄く重いし、手足の様に感じていた剣がただの棒の様に感じられる。
最早、ただの人になった。
本当に真底感じる。
よく考えて見たら、今迄の俺は剣しか振るってなかった。
そんな俺に何をしろと言うんだ。
だけど、今に思えば自分が如何に図々しいかは解っている。
剣聖の義務を放棄しておきながら、剣聖の力を持ち続けているのはフェアではない。
能力を持っていれば、剣聖と全く同じだ。
特典が無くなっても冒険者ギルドで最強のままだし、剣一つで龍種が狩れるのだから実質何も失っていない。
足枷が無くなった「自由な剣聖」だ。
最も、それが俺の目的だったのかも知れない。
だが、よく考えていれば、これは凄く調子の良い事だ。
責任も義務も放棄しながら、その能力だけを持ち続ける、どう考えても図々しいな。
俺は残りの人生を極力この家から出ないで過ごす事にする。
よく考えたら「剣聖」の能力を持っていれば魔王以外は怖く無かったんだ。
しかも、魔王が居なくなった今は「何も恐れる事も無くなった」。
なのに、何で俺は「剣聖」を手放してしまったんだ…
今の俺は恐怖しかない。
森に行けばゴブリンにも勝てない。
街に居てもF級冒険者とトントン。
弱いと言う事はこんなにも恐怖に溢れている、その事に初めて気がついた。
世の中が全て魔王と同じなんだ。
幸い、剣聖の時に貯めたお金がある、贅沢さえしなければ働かないで死ぬまで過ごせるだろう。
もう、俺はこの家から出ないで過ごす、それで良いんだ。
だが、これが間違いだった。
剣聖ジェイクは魔族だけでなく、人にも敵がいた。
盗賊に犯罪者、数多くの悪人も倒してきた。
当人たちは既に処刑をされた後だが、身内は生きている。
「止めろー止めてくれー」
「ジェイクさんよう! 調子が良すぎると思わないか? 俺の兄貴がもう悪い事はしねーって命乞いしたのに殺したじゃないか?」
「私の夫は、子供の薬代欲しさに泥棒をしました、だけど貴方に捕まって処刑されたんです、どういう気分ですか弱くなるのは」
「俺の弟を返してくれよ、なぁジェイクさんよう」
ジェイクが剣聖の能力を失った事は街中で噂になっていた。
その事を知った者が復讐しにきた。
「何だ、あんたも此奴に?」
「貴方達もですか?」
「ああっ同じだ」
「それじゃ此奴を皆で殺しちまおうぜ」
「そうね、それが良いわ」
「俺も」
剣聖の力を持たないジェイクには防ぐ手立てはない。
「止めろーーーっ、止めてくれーーーっ」
朝までジェィクの悲鳴が止まることなく、ジェィクはそのまま拷問の末、冷たくなって息を引き取った。
58話 剣士としての最後
「此処は何処だ? 俺は死んだのではないのか? 何故生きているんだ」
知らない…嫌、知っている天井だ。
あそこ迄、残酷に殺された俺が生きている訳が無い。
こんな事を出来る人間は、1人しかこの世の中に居ない筈だ。
その1人は恐らく俺なんか助けてくれる訳が無い、全てを押し付けて逃げたんだ俺は。
「目が覚めたようねジェィク」
「やはり、マリアか、まぁそれ以外にあの状況の俺を助けられる存在はいないわな」
「貴方は、只の平民だわ、マリアと呼びつけられる筋合いはないわ」
「あははっ、確かに違いないな、尊女様、それでどうするんですか?」
「どうもこうも無いわね、私は顔見知りが死ぬのが嫌だから命を助けた、それだけだわ、あっ金貨1枚料金として頂くわ」
「顔見知りでも取るのか? まぁ仕方ないほらよ!」
ジェイクは金貨1枚をマリアに放り投げた。
「ありがとうね、それでこれからどうするの?」
「どうしたものかな? もう剣聖は返って来ないんだよな」
「まぁ、無理ね、だけど、貴方は「剣」以外では生きたく無いのね」
「ああ、それしかやって来てないから、他の事は何も出来ないんだ、今ようやく知った」
「剣で本当に生きたいのね?」
「ああっ、だが今の俺にはもう無理だ」
「もし、剣で生きる道があるなら、今度は絶対に手放さない」
「本当に?」
「絶対だ!」
「その言葉に二言は無いわね」
「無い」
「ならば、私が手を貸してあげるわ」
マリアは嗜虐的な笑みを浮かべてジェイクを見ていた。
「それで、何で俺が呼ばれたんだお嬢ちゃん」
「ちょっとジェイクに力を貸して欲しいのよ」
「まぁ俺は嬢ちゃん付きだから、別に良いがなんでポールは一緒じゃないんだ」
「ちょっとポールには刺激が強そうだからね、貴方なら汚れ仕事にも慣れているから問題ないから」
「酷いな嬢ちゃん」
そう、多分リチャードは汚れ役が多かったそれ位は私にも解るわ、だって目が死んでいるからね。
「うんうぐーーーーっうん」
「それで嬢ちゃん、何でジェイクが縛られているんだ」
大八車に縛られてジェイクがいる。
こんな状態で街を歩いていれば、普通は止められるが、私は尊女だから止められない。
女神の愛し子? 知らないわ! 少なくとも私は自分からは名乗りたくは無いわね。
「いや、ジェイクがね、この期に及んで、まだ剣で生きたいみたいだから、そのお手伝いね」
「嬢ちゃん、ジェイクの目から涙が流れているんだが」
「それは感動の涙だわ」
「明らかに絵面は、誘拐犯にしか見えないな」
「確かに、そう見えなくも無いわね」
話しながら、進み、やがて森についた。
「嬢ちゃん、此処は」
「ゴブリンの巣ね」
「それは見て解るが、何故此処に」
「それは勿論、ジェイクを放り込む為ね」
「なっ、そんな事を何故するんだ」
「さぁ、何でかな? そうそう、ジェイク、目が覚めたかしら? 猿轡を外してあげるわ」
「マリア、俺に一体何をするんだ」
「はい、銅の剣…これを持って、ゴブリンの巣に突っ込むのよ」
「嫌だ、嫌だ、俺にはできない」
「そんな言い訳聞かない、さっさとやりなさい!」
私は小さな結界を張った。
それと同時にジェイクをゴブリンの方に放り投げた。
「いや、嫌だ~ 助けて、助けてーーーっ」
「まだ死にそうにないわね、リチャードお茶にしましょう」
「嬢ちゃん、あれ大丈夫か?」
「まだ、大丈夫そうね」
そのまま、結界に入って、持ってきたクッキーを食べながらお茶にした。
暫く、ジェイクを見ていると…
「あら、本当に弱いわね、もう腕が切断されて食べられているわ」
「嬢ちゃん…あれは惨くないか?」
「別に、よくある話し、よくある話しよ」
気がつくと両手をもがれて食べられている。
耳も頬っぺたも齧られていて足も片方無い。
「そろそろね」
私はジェイクの方に近づいていく、ゴブリンは私が怖いらしく逃げていった。
「ハァハァ、マり…ぜぇぜぇ」
「パーフェクトヒール」
「マリア、何て事をするんだ止めてくれぇーーーーっ」
「少しは抵抗しないと意味がないわ、何の抵抗もしなければ剣の修行にならないでしょう、ほら、さっさとやりなさい!」
「嫌だ、嫌だ、嫌だーーーっ」
再びゴブリンの方に放り投げる。
ゴブリンも現金な物で、ジェイクに何かしても私達が何もしないと解かったのか、直ぐに襲い掛かった。
「嫌だ、嫌だ、嫌だこえええええっんだ」
本当に馬鹿だわ、落ち着いて戦えば一撃二撃は当たるだろうに。
あーあ、またなすすべも無く、今度は足から切り取られて食べられている。
「うわあああああああああっ、止めろ、止めてくれーっ」
「嫌だ、嫌だああああああああっ、死にたくない」
まぁ、私がついているから死なないわよ全く。
手足が食いちぎられて、耳も食べられているわね、そろそろだわ。
私が近づくだけで、またゴブリンは蜘蛛の子を散らすように去っていった。
「助けて、助けてーーーーーっ お願いだ」
「今、助けるわ、パーフェクトヒール」
「マリア、俺には無理だ、無理…止めて、止めてくれ」
「仮にも元剣聖でしょうに、全くもう、ほらさっさと行けですわよ」
同じ様にジェイクをゴブリンに放り投げた。
「止めろーっ止めてくれ、頼むよ」
「もう良いの? 剣で生きたくはないの?」
「俺には無理だーーーっ」
「そう、解ったわ、それじゃ終わりで良いわ…帰るわよ」
ジェイクはロゼとは違い男だし身内でもない。
だから、自分が出来ないと決断したならこれで終わりで良いわ。
「あの、マリア、俺は」
「貴方は馬鹿ね、人間すら断罪してきた貴方は沢山の人に恨まれているわ、確かに法律的には正しいかも知れないけど、身内はそうは思わないわ…しかも裁きを受ければ投獄で済む人間すら殺したんだから当たり前よ」
「だが、それは今更どうする事も出来ない」
「まぁ、顔見知りに死なれるのも気まずいから、ポートランド家に推薦してあげるわ、死ぬまで使用人として生きるのね、名前を変えれば大丈夫でしょう、万が一の場合も上級貴族で王家と繋がりがあるんだから、流石に押し入って来る者は居ないでしょう、安心だわ」
「済まないな、尊女様」
「良いわ、今度こそ本当のお別れね…それじゃ」
「あああっ」
あらかじめ用意していた推薦状を渡すとジェイクはそのまま去っていった。
「嬢ちゃん」
「あれは、本当に駄目な人間ね」
「何か意味があったのか?」
「あのね、剣聖の能力は無くなっても、今迄戦った経験は残っている筈よ」
「そういうもんかね」
「ええ、元の能力が2%まで減っても、技術まではそうそう無くなるもんじゃないわ」
「それはどういう事だ?」
「体が覚えているって言うのかな、そういう物がある筈なのよ…だから今が2しか無くても技術はあるから上達は早い筈なのよ」
「そうなのか?」
「ええ、だから例え今が最弱でも、戦い続ければいつかは元にはならないけど、上級剣士位には成れた筈なの」
「それとこれが何か関係あるのかな」
「つまり、何回も死ぬような経験を積まなければ、強くは成れないわ」
「死ぬような…あっ」
「そう、私が居れば死なないからね…だけどあの程度で音を上げるようじゃ無理だわ、まだロゼの方がマシ」
「そうかな」
「そうよ、チャンスはあげたわ、だけどそのチャンスから逃げ出すなら、身内でないんだから無理やり何かしてあげる必要はないわ」
「それじゃ」
「あそこ迄、心が弱いんじゃ、もう剣で生きることは無理ね」
「そうだろうな」
「ええっ、一生使用人として生きれば良いわよ。」
だけど、お嬢ちゃん、あんたは優しいな。
逃げた相手にすら生きれる道をあげるのだから…
「さぁ、無駄骨だったわ、帰りましょう」
「そうだな」
退屈そうに二人は街に帰っていった。
59話 剣聖を待つ者
今日、お父様とお母さまから話があった。
何でも、力を完全に失った剣聖のジェイクが当家の使用人になるそうだ。
お姉ちゃんの手紙には簡単な経緯が書いてあった。
本当に馬鹿だな、と今なら思う。
私は無理やり貰ってしまった方だけど〈大きな力には責任がある〉そんな事も解らないなんて。
まぁ、私の付き人にすれば問題は起こらないと思う、何しろ私は一応、聖女だし傍にフリード様も居るから警備も安心だわ。
ただ、あの偉大なるお姉ちゃんが、その程度の事で満足してくれると思わない。
同じ道を歩もうと努力しだしたから少しだけ解って来た事がある。
治療師の道はとてつもなく大変な道なんだ。
偉大なるお姉ちゃんみたいに「死んでなければ何でも治せる」そこに行きつけば問題無い。
だけど、未熟な治療師は、何時も悲しみがつき纏う。
治療魔法をあと一段階高めていれば救えた。
そんな能力の無さを日々痛感させられる事ばかりだ。
最近では少し魔力が増えたから、お願いして偶に教会で辻治療をさせて貰っている。
勿論大した能力も無いから普通の治療、更に「新人」と言う事で銅貨5枚でお願いした。
倒れる寸前まで頑張ってようやく、「ハイヒール」まで使えるようになった。
あと一つ「フルヒール」まで使えるようになれば、「聖女」として最低限。
死ぬまでに歴代の聖女でも使える者が殆ど居なかった「パーフェクトヒール」を使いたい。
そこにたどり着けば、ようやくあの偉大なるお姉ちゃんの足元にたどり着ける。
何しろお姉ちゃんは「歴代最強の聖女」だと思う。
聖女のジョブを私に譲っても、誰もお姉ちゃんには敵わない。
勇者でも難しい魔王すら討伐してしまったんだからもう誰も敵う訳ないよ。
遊びに行ってお姉ちゃんから聞いた事だけど、あんな完璧なお姉ちゃんが「死んだ人は助けられない」と悔しがっていた。
つまり、偉大なるお姉ちゃんは、その領域に踏み込んでいる。
お姉ちゃんは聖女なんて小さな器で終わる人間じゃないと思う。
「死んだ人を蘇らせる」そんな事が出来たならそれはもう人ではなく「女神」だ。
お姉ちゃんは「女神の愛し子」なんて称号を貰ったらしいけど…違う。
「マリア」その名前こそが称号なんだと思う。
だって、その名前を知らない人間はもう世界に居ないと思うから。
そんなお姉ちゃんが、剣聖を預けてきた。
これは絶対に「お姉ちゃんが私に課した課題」だと思う。
私がお姉ちゃんに立ち直るきっかけをくれた、「あれ」をするしか無いと思う。
私は直ぐにフリード様にもこの事を話した。
「本当にするのか?」
「ええっ、ただ私はお姉ちゃん程、回復魔法は使え無いからポーションを用意して、あとお城地下の拷問室も貸して貰わないと」
「ロゼ…」
「フリード様、私はお姉ちゃんにもこの国にも借りが沢山ある、もし、剣聖を治す事が出来れば、ほんの少しだけ借りを返す事ができる、お願いできないかな?」
ロゼは変わろうとしている、ならば俺もその手伝いをしたい。
これでも王子、出来損ないの王子に出来損ないの聖女。
それでも王子と聖女だ。
「解った、父上や母上にお願いして準備しよう」
「ありがとうフリード様」
笑ったロゼの顔は、今迄で一番凛々しくフリードには見えた。
60話 カエルの妹はカエル ?
「これから、お世話になります、ジェイクと申します、宜しくお願い致します」
俺はこれからの人生、使用人として生きる。
だから挨拶はしっかりしないといけない。
もう剣聖ではない、騎士はおろか、兵士以下だ、その事を肝に銘じて生きていく必要がある。
「初めまして、俺は王子のフリードです、宜しくお願い致します」
「私は、聖女のロゼです、宜しくねジェイクさん」
ポートランド家に行ったら、王城の方に行ってくれと言われたから来たんだが、何だか扱いが違う。
剣聖の時ならいざ知らず、今の俺に、王子や聖女が此処まで丁寧な挨拶をするとは思えない。
「あの、何故、俺にそこまで丁寧に応対されるのでしょうか?」
「それは、将来に期待してです、折角なのでお茶でもしましょう」
「それが良い」
「本当に良いのか?」
「はい、勿論です」
「それじゃ、今日だけお言葉に甘えさせて頂きましょう」
お茶の中には睡眠薬が入っている、私は有能でない、お姉ちゃんみたいに何でもかんでも魔法で行う事は出来ない。
「ごめんなさい、フリード様手伝って下さい」
「解った、ジェイクを運べば良いんだな!」
「はい、折角だから、最初から最後まで私達の手で頑張りましょう、それが皆に認めて貰える事に繋がると思うの」
「そうだな、頑張ろう」
二人はジェイクを地下へ運んでいった。
さて、「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」「私はお姉ちゃん」
「ロゼ、何をしているんだ?」
「私、こんなのは初めてだから、気持ちだけでもお姉ちゃんになろうと思って」
「そうか、確かに、それは必要かもな」
「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」「俺はマリア」
「これだけ言い聞かせれば、多分どんなに残酷な事も出来るような気がするな」
ジェイクを鎖でつないで気付け薬を使って起こした。
「うーん、これは一体、どうしたんだ」
「起きたのね、ジェイク、さぁこれから頑張って」
「何を? えっ」
「キシャ―っ」
私が、今日の為に用意したのはゴブリンの子供、頑張れば子供でも倒せる。
この辺りからスタートするのが良いんじゃないかな?
死ぬ気で戦い続ければ、大丈夫だよね?
「さぁ、頑張って倒してね、倒さないと…罰ゲームが待っているからね」
「なぁ、俺は怖いんだ、止めろ、止めてくれーーーっ」
「大丈夫、子供のゴブリンには貴方でも勝てますよ? さっさとやれですわ」
ジェイクは足を鎖で繋がれているから逃げられない。
腰に銅の剣を刺してあるのに、それすら気がつかずに逃げようとしている。
「嫌だ、嫌だ嫌だーーーーっ」
私はお姉ちゃんの様に死に掛けた状態から治せない、だから、耳が食いちぎられ、指が噛みちぎられた位でストップするしかない。
「ジェイク、何でやり返さないのよ、馬鹿なの? ハイヒール」
「あのさぁ、子供のゴブリンは農民でも倒せるんだ、ちゃんと戦わないとな」
「俺は、俺は怖いんだーーーっ」
まるで、昔の自分を見ているみたい…あはははっ私もこれ位無様だったかな、はぁ自己嫌悪だよ。
「仕方ない、フリード様、お願い」
「解った」
フリード様は剣を振るうと子供のゴブリンを切り捨てた。
王子とはいえ、剣を習うし従軍訓練を受けるから、どうにかオーガ位なら倒せる。
「あの、ジェイク、ちゃんと見ろ、此奴は弱い幾らお前でも倒せる筈だ」
「俺は怖いんだーーっ」
「流石に、今日の今日じゃ無理みたいね」
「そうだな」
「それじゃ、ジェイク、罰ゲームだよ」
「なっ、何をするんだっ」
ロゼは瓶を取り出した。
「簡単よ、これには王硫酸が入っているわ、勝てる相手に勝てないジェイクがいけないのよ?」
「まさか!」
「そうよ、鎖に繋がれている貴方は逃げられないわね」
瓶の中の液体をジェイクに振りかけた。
「ぎゃあああああああああああああっ」
肉の焼ける臭いと薬品の異臭が地下にだだよった。
「大丈夫だよ? お姉ちゃんが私に使った物みたいに肉迄溶けて骨まで達する様なレベルじゃないから、精々が皮が溶けて、その下の肉が少し溶ける程度まで薄めた物だからね、大丈夫、大丈夫…苦しいだけだから、だけど、敵を倒さない限り、これが毎日続くからね、ジェイク、覚悟する事ね」
「ロゼ、お前は聖女なんかじゃない..鬼だぁーーーっ」
「それでも良いわ、それじゃまた明日会いましょう?」
「ジェイク、王子として一言言わせて貰う、王宮に居る者はメイドですら主君の為に命を張る…今の貴殿は使用人以下だ」
泣き叫ぶジェイクを後に二人は立ち去った。
61話 カエルの妹はカエル? 芋虫
一日でその苦労が解った。
こういう拷問に近い事は凄く疲れる、特に精神が凄く疲れる。
良くお姉ちゃんは私の為に頑張ってくれたもんだよ。
こういう事をするのって、本当に心が消耗する。
「ジェイクおはよう!」
「おはよう」
ジェイクは顔が焼けた状態で転がっている。
その近くには水たまりが出来ていた。
「鬼ぃーーーーっハァハァ、此処までお前はするのか?…痛えぇぇぇぇぇっ!」
「はぁ?ジェイク、貴方には私やお姉ちゃんの優しさが解らないのね、まぁ私は聖女だからそんな貴方にも愛をあげるわ、ハイヒール」
どう見ても抵抗も真面にできないジェイクに、まず、恐怖に耐えれるようにしなくてはならないのよね。
「しょうがないわ、少しだけ待って」
「ぐわああああああっ」
「ぐわーーっ」
「うぷっうぷっ」
私の様子を見てフリード様は青ざめた挙句吐いた。
そしてジェィクは凍り付いている。
何をしているのかって?
私は、今ゴブリンの解体をしている。
子供のゴブリンの手足を斬り落とし、歯を抜いている。
これで、完全に無抵抗、何も出来ない。
その状態でポーションを掛ける。
これで、ダルマ女ならぬダルマゴブリンの出来上がりだ。
これを全部で5体作ってと…
「ロゼ、それは一体」
「フリード様、簡単ですよ、ジェイクには同じダルマになって暫く生活して貰いましょう、一緒に暮らしていればきっと、慣れますわ」
「あの、本当にそれをやるのか…流石に可哀想な気がするが」
「嫌ですよフリード様、これは治療ですよ」
「そうだな」
「それじゃ、フリード様、お願いしますわ」
「おい、まさか」
「はい、ジェイクの四肢を切断して下さい」
「解った」
「嫌だ、嫌だいやだああああああああああっ」
あっさりとフリード様はジェイクの手足を切断した。
「痛えええええええええっーーーーーーっ」
「ヒール、これで良し」
「これで良し、じゃねーよ..おいおい、何をするんだよ、なぁ? 俺はもう剣士にならなくて良いんだ、止めてくれ」
「何をいっているの? 農民だってゴブリンと戦うんですよ? そんなに弱くてどうするんです!とりあえず、慣れるまでゴブリンと暮らしてみなさい」
こうして、ジェイクは自らが芋虫の様になり、同じ様に芋虫状態のゴブリンと共に閉じ込められた。
62話 カエルの妹はカエル?
その日から、ジェイクと言う名の家畜の飼育が始まった。
ロゼは、次の日からジェイクを人間として扱わなかった。
「いい加減に止めてくれーーーっ俺には無理だ」
「ゴブリンとすら戦う事が出来ないなら、それはもう人間じゃ無いわ、だからそういう扱いはしない」
「そんなーーっ」
「ねぇジェイク、貴方煩いのよ、幸い声帯位は私の治療でも治せる…だから、暫く声も潰すわ」
「嫌だーーっ止めろ」
叫んでいるジェイクを無視して押さえつけて喉に切り込みを入れた。
ハイヒールだと治ってしまうのでヒールで治す、これで不完全だから命に別条はないが声は真面にでなくなる。
これで煩い声を聞かないで済む。
「うごうごうごっ」
「ねぇジェイク、これで貴方は真面に喋れない、そしてゴブリンの子供と過ごす事になる、もし人として扱って貰いたければ、ゴブリンを殺しなさい、このゴブリンには牙も手足も無い、貴方には歯がある、戦って殺しなさい、それが出来たら元の状態に戻してあげるわ」
「うごうごうごっ」
「まぁ喋れないでしょうけどね、頑張りなさいね…貴方は折角女神から貰った、「剣聖」という至高のジョブを手放した、その愚かさを知りなさい…まぁ私は逆に「自分に無いジョブを望んだ愚かな女」なのだけどね、今はその境遇と向き合っているわ、とりあえずは自分に向き合う事から始めると良いかも知れないわ」
ロゼは扉を閉めて出て行った。
【マリアへの手紙】
お姉ちゃんへ
今私は、お姉ちゃんが言っていた事が少しだけ解る様になりました。
修行すれば修行するほど自分の未熟さが解ってきました。
治療師の道は日々の修行が必要な事がわかり頑張っています。
送って頂いたジェイクも、お姉ちゃんが修行の為に送って頂いた事は解っています。
頑張って少しでも真面な人間に成るように治療をしています。
もし、何か成果が上がりましたら、報告させて頂きます。
妹 ロゼ
ジェイクの地獄の様な治療は続いていく。
そして、誰もが強くは生きられないと言う事をロゼは身をもって知る事になる。
63話 カエルの妹はカエル 破壊
「嘘でしょう…何で、何で!」
あくる日にロゼが見た物は、ゴブリンと仲良く生活しているジェイクの姿だった。
ゴブリンの子供としては、ジェイクの方が大きくて怖い。
ジェイクはゴブリンの子供が怖い。
ならばとコミュニケーションをお互いに取り、敵意が無い事を示した。
その結果、まるで子犬同士が集まって丸まって寝るかの様に身を寄せ合って寝ていた。
ロゼが見たジェイクはもう壊れていた。
目には光は無く、何処までも暗い瞳をしていた。
口からは涎を垂らしていて、口は半開きだ。
剣聖はおろか、人間の尊厳、その物が無い。
これはもう狂人だ。
ロゼは知らなかった。
劣化していてもマリアの妹、拷問にも耐性があったのだ。
だが、一般人が拷問に近い生活を送ればこうなる。
此処まで壊れてしまったらもうおしまいだ。
「ハイヒール」
呪文を唱えながら足りない分はポーションで治した。
「お姉ちゃんは誰?」
ジェイクは恐怖の余り、幼児退行していた。
この時、再びロゼの中の狂気が再び起きた、壊れてしまったと思ったジェイクが《都合の良い》状態だったから。
「私はロゼ、貴方のお姉ちゃんよ」
「僕はどうしたの?」
「うん、剣の修行中に倒れたのよ…だけど治療したから大丈夫よ」
「お姉ちゃんありがとう」
ロゼの口が吊り上がった。
壊れたのではなく、無くしたなら《与えれば良い》それだけだわね。
64話 カエルの妹はカエル 剣聖を失った男の末路
「そりゃー」
「まだまだですな」
「ジェイク君は素質がありますな」
「そう、僕は素質があるんだ、それじゃ頑張ろうかな」
「頑張れば一人前の騎士になれるかな」
「慣れますぞ、その意気で頑張りなさい」
「はい」
「それでは今日の訓練は終わりです、メイドのケティアの方に行って水汲みを手伝いなさい」
「はい」
まるで子供の様にジェイクは笑顔で立ち去った。
「あれがジェイク様とは」
ポートランド家の執事兼、騎士であるハルトマンは涙ぐんでいた。
ハルトマンは過去にジェイクに剣の指導を受けた事がある。
そして《筋が良い》と褒められ、それを誇りにしていた。
まるで閃光のような剣戟も、尊大な態度も無くなってしまった。
見た目は大人だけど、中身はただの子供だ。
メイドに怒られても泣くし、悪戯もする。
ただ、流石は元剣聖、剣の才能はある。
今はまだ、子供だが、何時かは一流の剣士の様になるだろう。
ただ、それが凄く悲しいのだ。
いつかが来ても「一流の剣士」
それこそ、マリア様に仕えているリチャードやポール並みに成れれば良い方だ。
《俺は剣聖、俺より強い奴はいねーよ》
今もあの日の言葉が私の頭に響いてくる。
あの頼もしい言葉を二度と聞く事も無いだろう。
無邪気に振舞う子供のようなジェイクを見ながらハルトマンは悲しくなった。
最早、自分が憧れた剣聖等何処にも居ないのだと解かったから…
「ハルトマン、ジェイクの方はどう?」
「はい、一から剣を教えながらメイドの手伝いをさせております」
「物になりそう?」
「将来的には執事か騎士位にはなれそうですが」
「まぁ上等ね…そこをゴールにしましょう」
「はい」
【ロゼ】
これで良かったのかは、私にも解らない。
だけど、これでジェイクは《生きるのに困らない状態》には時間が掛かるけどなる筈だ。
人間としての生活がいとめない状態から、騎士や執事になれるのだから、これで治療は終わり。
後は人として修行させるだけだ。
多分、他にも方法はあったのかも知れないわ。
だけど《私にはこれしか方法が浮かばなかった》
自分でやってみたから解った。
多分、お姉ちゃんには《あの方法しか思い浮かばなかった》しかもやる方も凄く辛い。
私もお姉ちゃんも凄く狭い世界で生きている。
だから、こんな事しか思い浮かばないんだ。
お姉ちゃんが色々な物を見て学ぶ機会を私が全部潰してしまったんだ。
ただ治療師しかない世界で生きるようにしてしまったんだ。
だから、お姉ちゃんは感情に乏しい気がする。
それでも私を見捨てなかったお姉ちゃんは本当に聖女だと思う。
一歩どころか100歩も1000歩も及ばない。
だけど、私もその背中を見て歩みたい。
お姉ちゃんのように卓越した技術は無い…
だからこそ、私は《人に寄り添う様な》治療を目指して行こうと思う。
志は手に入れた、理想の姿も解った。
だが、自分が、そんな事をしていない事にロゼは気がついていない。
65話 滅びの始まり
その日は昼間だと言うのにナルンベルンの国の空が黒かった。
雨が降ってきたが、その雨は水とは思えない程黒かった。
黒い雨が降った後に空から何かの泣き声のような笑い声の様な物が聴こえてきた。
「うあひゃえーんうひゃひゃひゃひゃ」
そんな風に聞こえる不気味な声がナルンベルンに響き渡る。
「何なんだ、この黒い雨は! しかもこの気持ちの悪い声の様な物は何だ」
ナルンベルンの国王シュバイツは気になって仕方ない。
何が起きているのか解らない。
「誰か、誰かおるか」
可笑しい? 王である儂が声を出しているのに誰も来ない。
普通であれば執事かメイドが駆けつけてくるはずだ。
だが、誰も来ない。
城に誰もいないなんて事は無い筈だ。
貴族、騎士、誰も来ない。
可笑しい、可笑しすぎるぞ。
バルコニーに出て空を見た。
そして、見てしまった。
空から降っているのは雨では無い、信じられない位の魔物の様な物が上空にいる。
そして、その者たちが降らせているのだと、解った。
そして、その黒い雨の様な水に触れた者は…死んでいっている。
少なくともバルコニーから見える範囲の人間は死体になっていた。
遠眼鏡を持ってきて見ていると、人間だけでなく動物も死んでいるようだった。
《この雨は毒なのか?》
だが、何故城に誰もいないのだ。
雨が毒でも城の中なら大丈夫だ、いない訳が無い。
だれもいないので、仕方なく城の中を歩くと、自分が座っている玉座があった。
その玉座の前には不気味な生物がいた。
よくよく見てみると、それは王妃や王子達だった。
だが、頭は王妃の頭に王子2人の頭があるのに体が一つだった。
「ひぃ、化け物」
「貴方の妻や息子に化け物とは何ですか?」
「父よ息子の僕が化け物に見えるのですか?」
「どうかされましたか父上」
「なななな、何があったのだ」
「あはははははっ化け物だってそうだようん化け物」
「あははは、そうね化け物だから人間を食べるのよ」
「うん、ごめんね」
シュバイツは、自分の家族の顔をした化け物にそのまま捕まり、捕食されてしまった。
ナルンベルンの国は、僅か数時間で滅んでしまった。
66話 勝てない
世界は変わろうとしていた。
黒い雨が降り、人は死んでいった。
建物に籠り、逃げていた人間は何者かによって化け物に替えられていく。
だが、それに対抗しようとする者も現れた。
アストラルの国王テルスタンである。
テルスタンは「空の覇者」と言われる国だ。
この国にはワイバーンをはじめとする竜種に乗る騎士達、竜騎士が沢山いる。
雨を降らせる魔物が来たら終わり、そう考えたテルスタンは国境に竜騎士を集中させていた。
「国王の命令である、敵は殲滅、此処で全てを食い止める」
「はっ」
竜騎士達はそれぞれの竜に跨り飛翔する。
一番早く敵にたどり着いたのは《風の騎士団》
「はっはっはっ、俺が乗っているのは風竜だ、空で戦うなら勝てる相手など居る筈がない」
「私が一番槍は貰った」
「私の騎竜、シルフィに勝てる者など居ないわ」
だが、相手が近づくにつき相手の大きさが解って来た。
「なっ、こんなに大きいいのか?」
その瞬間に巨大な手で掴まれた。
そして、その巨大な魔物はまるで人間が小さなトカゲを握り潰すように風竜ごと、次々に竜騎士を握りつぶしていった。
黒い、空の得体の知れない魔物から沢山の手が伸びてきた。
そして、空では絶対に負けないと言われ、《空の覇者》と呼ばれたアストラルの竜騎士6500が全て握り尽くされるまで10分と掛からなかった。
「何故だーーーーっ、命乞いしようにも相手が居ない、宣戦布告も無い、魔族も聖女がどうにかした筈だ」
ならば、あれは何だ!
魔族だとしても普通の魔族じゃない。
空に居る化け物は一体一体がまるで魔王以上に思える。
最早、人類があれに勝てるなんて思えない…
終わりだ。
「ぐえあおう?うえ」
城の中は人間でなく元人間だった者で溢れていた。
あそこに居るのは我が妻が変わり果てた者だ。
「せめてお前だけは苦しませずに殺してやる」
「ぐえあおう?うえ」
その想いは届かず、返り討ちにあい、テルスタン王も魔物の仲間になった。
67話 ガラクタとマリア
帝国に来て、尊女になってから良かった事は自由に散歩が出来る事だ。
変な地位も貰ってしまったけど、余り目立ちたくないから《女神の愛し子》は余り使いたくないわ。
いや、本当に女神に愛されているなら、もっと幸せな人生歩んでいるわね。
まぁ、私に何か出来る相手はいないから、自由にあちこち見ている。
今日も危ないと言う、スラム近くを歩いていたら、面白い者を見つけたわ。
うん、自分と同類の様な人間。
私は聖女として生まれて来た、それに更に魔力も膨大にあり才能にも恵まれていた。
それは権力でさえも太刀打ちできない程に…
別に他の人間を馬鹿にしたり、蔑む訳では無いわ。
どちらかと思えば、ただの孤独。
一匹オオカミ所じゃないのよ?
小さなトカゲの中にドラゴンが混ざっている。
そんな感じね。
そんな風に考えていたら、スラムの近くで見つけてしまった。
恐らく、私と同じドラゴンの様な人。
ジェイク? あれもトカゲよ…しかも心すら弱い、ただトカゲの中で大きいだけだわ。
だけど、私が見つけたのは違う。
体はボロボロ、だけど《本物》彼が勇者だって言うなら信じるわ。
その位に本来なら輝ける人間。
「ガラクタ、馬鹿じゃないのか、勇者の名前を語るなんて」
「嘘つきガラクタ、やーい、やーい」
「勇者を名乗るなんて犯罪だぞ」
ただのトカゲの癖に。
腹がたつわ、彼が《勇者》だというなら多分本当の事だと思うわ。
だって存在感が違うもの。
「醜いわね、人を貶めて何が楽しいのかな?」
「煩い、お前…女神の愛し子様!」
「自分より立場が低い者を虐めて良いのかしら? それが正しいと言うなら、貴方達は此処から居なくなった方が良いわ」
「そんな、何でですか」
「だって、貴方達見ていて私不愉快だもの、虐めて殺しちゃうかも知れないでしょう?」
「ああ謝りますから、赦して下さい」
「ふふっ冗談よ、ただ虐めは見ていて不愉快だからね、もうやめて下さいね」
「「「解りました」」」
彼らは慌てて立ち去った。
さて、どうしようかな?
どう見ても金貨1枚は持って無さそうだし。
「そこの人、名前は何て言うのかしら? 助けてあげたのだから名前位名乗ったら」
「ごめん、僕は自分の名前も解らないんだ、皆は狂人ガラクタって呼ぶよ」
「そう、それじゃ、とりあえずはガラクタって呼ぶわね、良い?」
「構わないよ、皆、そう呼ぶから」
「そう、所で貴方はこんな所で何をしているの?」
「空を見ているんだ、彼奴らが来るか見ている」
本当に変わっているわね…だけど面白いわ、私相手に普通に話しているし。
顔も、うん悪く無いし、もし治してあげたら感謝位するかな。
今迄、自分から請うて友達になった相手はいない。
理由は解らないが、何故かこの男性に惹かれる。
「そう、それで貴方此処で何をして生活しているの?」
「スクラップを治して生活しているんだ」
「だったら、私の治療院で働かない? 少なくとも衛生的な生活は送れるわよ? あと、私の治療院で勤めるならその体も治してあげるわ」
「そうだね、それじゃお願いしようかな」
「うん、任せて」
マリアは初めて、金貨を貰わずに治療をしようとしている。
今迄一度も無報酬では治療はしていない。
そのルールを曲げても良い、その位惹かれてしまっている事にまだ気がついていない。
68話 ガラクタとマリア ?
「約束だから、まずは貴方の体を治してあげるわね、パーフェクトヒール…嘘、1回で治らないなんて、パーフェクトヒール、パーフェクトヒール×10」
普通の人間であれば1回でどんな傷でも治せる《パーフェクトヒール》を10回も掛けないと治らないなんて、彼の底の深さが解る。
普通の人間が10だとすれば10000近い生命力。
やはり、彼は別格。
私が此処までしないと治せない位深い傷。
やはり、彼は《勇者》もしくはそれに近い存在なのは間違いない。
しかし、見れば見る程凄いわね、理想的な筋肉…贅肉一つ無いわ。
手足が、治って焼け爛れていた顔が治ったら、うん凄い美形だわね。
フリード何か比べ物にならない位にハンサムだわ。
「あの、有難うございます!」
「別に良いわ、治してあげたんだから治療院を手伝って貰うわよ?」
「それは勿論、構いませんが、もしかしたら貴方は聖女ですか?」
「元ね、それで貴方は勇者な訳よね? 嘘では無さそうだけど、この世界に勇者は居ない筈よ?」
「多分、僕は何処か此処では無い世界で勇者をしていたんだと思う」
「違う、世界?」
「ああっ僕は記憶が半分近くないけど、その世界で勇者だった記憶はあるんだ」
「そうなのね?」
本当なら頭が可笑しい、そう思う所かも知れないけど、この存在感、嘘とは言えないわ。
「ああっその世界で僕は勇者だった、普通なら他に、賢者や聖女が居る筈だけど何故か居なかった、辛い旅をしながらどうにか魔王と呼ばれる存在は倒した、それで幸せになれる、世界が平和になる、そう思っていたんだ、だがある時、空から禍々しい奴が現れたんだ」
「それで、どうしたの?」
「その時、ようやく意味が分かった、何故聖女や賢者が居なかったのか…そいつは」
「何が…」
「聖女と賢者の首を斬り落とし首から下げていた…勿論死んでいたけど何故だか解った」
「それで、そいつは何者なの」
「解らない、俺は本気で戦ったが、結局は負けた…その結果魔物に変えられそうになって、魔物化が進む前に変りつつあった手足を斬り、顔を削ぎ焼いて、どうにか人間のままで居られた」
「それで、良く生きていたわね」
「ああっ、俺見たいな弱い者は多分虫けら扱いなのだろう…そのまま捨て置かれた」
「捨て置かれた?」
「ああっ、何しろ俺を倒した様な奴が、それこそ万単位で空に居たからな」
「聖女や賢者を殺し、勇者すら倒す化け物が、そんな数」
「だけど、気にしなくて良いかも知れない、違う世界の話だし、もしかしたら僕が見ていた妄想かも知れないからね」
少なくとも彼は勇者なのは間違いない。
だが、他の世界の事なら…この世界、私には関係ないわね。
「さぁ、とりあえずはこの世界は関係なさそうだから、仕事を始めるわよ、貴方も手伝いなさい」
「解ったよ」
69話 ガーラ
しかし、一緒に暮らすとなると《ガラクタ》なんて名前は悪い気がするわね。
何か良い名前は無いかしら。
よく考えたら、私も今迄、治療師しかしていないから、良い名前は思いつかないわね。
かと言って他の人に付けさせるのは嫌だわ。
一瞬他の勇者の名前をとも考えたけど、案外過去の勇者って最後は悲惨な人が多いのよね。
一瞬、頭に《リヒト》とか《ケイン》とか《セイル》《翼》なんて思いついたけど、どれも何か嫌な気がするわ。
特に「リヒト」は絶対にダメな気がする。
結局、考えた挙句思いついたのは《ガーラ》だった。
ガラクタから考えて ガラを最初に思いついて、そこから伸ばしてみた。
《勇者ガーラ》なかなか良い名前じゃないの。
「そういえば、ガーラって回復の魔法を何か使える?」
「ガーラって、もしかして俺の事?」
「ガラクタじゃ可哀想だからつけてあげたのよ? 体が治ったのだから《ガラクタ》じゃ無いでしょう?」
「確かに! ガーラかうん良い名前だ、ありがとうマリア!」
「別に良いのよ! それよりさっきの話だけど」
「回復魔法かぁ、俺は苦手だからハイヒールや毒消しの魔法しか使えないな」
「ハイヒールが使えるの? なら充分じゃない、治療師としても生きていけるわよ」
「そうか? まぁ一応勇者だし、しかも単独で戦わなければならなかったら、覚えるしか無かったんだ」
なんだか、遠い目をしているわね。
まぁ色々ありそうだし、仕方ないわね。
「そう? だけど、それは良い事よ? まぁ何かあったら手伝って貰うわね」
「了解」
しかし、今日も暇ね~、まぁ金貨1枚の治療なんて、余程じゃないと使わないわね。
「マリア、手伝うってこうして一緒にお茶を飲んでいれば良いのか?」
「そうね、今日は暇だから、やる事は無いわ…そうだ、どうせ暇だから、私の結界でも見に行く?」
「良いね、見て見たいな」
二人して出掛けた。
今考えると、こうして誰かと出かける事なんて無かったな。
「どうかな? 帝都全部を包んでいる結界、まぁ大した物じゃないけど」
「これが、聖女が張る結界か凄いね? ちなみにこれって、壊してもまた簡単に張り治せるの?」
「私なら簡単だわ」
「そう? それじゃ試して良い?」
「えっ」
そう言うと、ガーラは拳を握りしめ気を貯めているようだった。
そして、そのまま拳を結界に突き出した。
その瞬間、拳から光の様な物が飛び出して結界は音を立てて砕けた。
やっぱり、ガーラは凄い、私の結界を人間で壊せるなんて初めての経験だわ。
聖女が張る結界を壊せるのなら《勇者》じゃない。
「流石だな、こんな強力な結界を張るなんて」
「だけど、この結界を人間で壊せるなんて貴方こそ凄いわよ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
マリアは初めて対等と思える人間に出会えた。
「それじゃ、何処か行きたい所ある?」
「特に無いな? 何処かマリアお勧めの所があったら、案内してくれ」
お勧め…お勧めって私は解らない…よく考えたら私自身が余り外に出て無いわね。
「あははっ、それならブラブラしてみよう?」
「良いね、それ」
二人は何も考えずにただ街をぶらぶらした。
ただそれだけで楽しい、そう感じた。
70話 ガーラとマリア
ガーラと一緒にただ歩いているだけで凄く楽しい。
この人は本当に《勇者》なんだ、本当にそう思うわね。
誰と歩こうが誰と会おうが、私が聖女になった時から目下の存在にすぎない。
アホな王族も居たけどね、今思えばフリードみたいな元クズ王子、ロゼを見捨てずに一緒に居るから元にしてあげるわ。
あの、フリードや家族にほんの少し惹かれたのは《特別視》しなかったからかも知れない。
まぁ、最悪な人間たちではあったけど、気がついたらギリギリのラインで家族として繋がっていた。
やってくれた、フリードやロゼ、特にロゼに対して友情や家族愛があるんだから、私は愛情や人間関係に飢えていたのかも知れないわね。
ガーラを見ていると何とも言えない気になる。
勇者だから元聖女ふぁ惹かれるのかも知れない。
だけど、それ以上に《同じような存在》として惹かれていくのかも知れないわ。
ただ、街を歩いているだけで嬉しい気持ちに満たされていくわね。
さっきは串焼きを二人で買って食べた。
何時もはお金があるから、ミノタウルスの希少部位のステーキを食べているんだけど、それよりもこの銅貨で買える串焼きが美味しい、露店のリンゴも凄く美味しい、こんな物が美味しいなんて知らなかったわ。
「よう嬢ちゃん、きょうは男連れなんだな」
「リチャード…まぁそうね」
「それじゃ、今日は俺の手伝いは要らないな」
「そうね、要らないわ」
「へぇ? そうか、それじゃ今日は俺は教会にでも顔出すわ」
「そうしてくれる」
《嘘だろう? 冗談で言ってみたら、マジだあの目は、はぁ~あの嬢ちゃんに遅れて来た春ってそんな所か~ だけどこれ教皇様に一応報告しないと不味いよな…まぁ良いや、態々俺が報告する必要は無いな》
「それじゃ、何かあったら教会に声掛けてくれ、まぁ気兼ねなくイチャイチャしててくれ」
「リチャード…後で覚えていなさい」
言うだけ言ってリチャードは去っていった。
「そう言えば私の結界、貴方が戦ってきた相手だと通用するかな?」
「ごめん、俺が壊せるようじゃ、多分無理だと…思う」
「そう、残念だわ、だけど、その相手って、この世界に来ると思う?」
「解らないな、どうしてこの俺がこの世界に居るのかもすら解らないんだ」
「来ないといいわね、だけど、ガーラが居て、私が居ても勝てない相手の事なんて考えても仕方ないわよ? まぁ空でも見ながら備えておいて、来ることが決まったら、戦うなり逃げるなり腹を括るしか無いと思うわ」
「マリアは本当に凄いな、確かにまだ来ると決まった訳じゃない、今からくよくよしても仕方ないな、そう言えばマリアは戦った事はあるのかい?」
「あるわよ! まぁ、この世界には勇者も賢者も居ないし剣聖は辞退して何故かそのジョブは私にあるから、多分この世界で一番強いのは私ね!」
「だったら、剣の鍛錬に付き合ってくれないか?」
「そうね、別に良いわよ、ただ今日はもう遅いから明日で良いかしら? 重病人が無ければだけどね」
「構わないよ」
「そう、そう言えば私って今迄誰にも負けた事が無かったわ」
「それなら、楽しみだな」
「ええ、私もよ」
夕飯をレストランで食べて診療所に戻ってきた。
「それじゃ、ガーラはそこの部屋のベットを使ってくれる」
「流石は診療所だね、部屋には困らないね」
「ええ、そうね」
よく考えたら、私はどんな怪我人も病人も呪文で簡単に直せるのよ。
入院施設なんて要らないのに、なんで作ったのかな?
まぁ良いわね、そのおかげで助かったから。
「おやすみマリア」
「おやすみなさい ガーラ」
二人は別れてそれぞれの部屋に入っていった。
71話 ロゼの最後
「そんな嘘よ、あのお姉さまの結界が崩れていくなんて…そんな」
ロゼは今迄に無い位にショックを受けていた。
それは、姉から任せられていた結界が崩れてきたからだ。
「聖女様、結界が次々と崩れてきています、何か手だてを考えないと」
「解ったわ、お姉ちゃんに伝えるとしても、状況を調べないと、私が行くわ」
「ロゼ様…」
「フリード様と騎士団と共に、あとおまけにジェイクをつれて行きます、馬車の用意をお願いします」
「はっ!」
王国が誇る、戦竜車を出した。
ロゼは馬車の用意をお願いいしたが、最近頑張りを見せた彼女の為に王国では《聖女》として扱う様になっていた。
そして、異変に関して万が一が起きても大丈夫な様に屈指の騎士に、戦竜車を出した。
竜が引く大型の車はまず討ち取られる事は無い。
竜が引き、薄いとはいえミスリルで固められた馬車は壊れることは無い。
だが、今回は相手が悪かった。
「何よ…何なのよこれは!」
空を埋め尽くす程の大きな何かが結界を壊している。
それにぶつかった場所からガラスが壊れるかの様に結界が欠けていっていった。
それと同時に、下は異形の者で溢れていた。
「これは、何だと思う、ロゼ」
「フリード、解らないわよ…こんなの、ジェイクは?」
「魔王..魔族だってこんなに禍々しくなかった..あそこにいる奴は魔王より怖いこわこわこわこわーーーーい」
仕方ない、どう見ても敵わない、こんな奴が相手じゃ…お姉ちゃんじゃなくちゃ無理だ。
「皆、撤退するわ、そして帝国に向って、マリア尊女様に対応を..えっ…ジェイク!」
「体が何とか動いた..だけど、仕方ないな俺が時間稼ぎするから、皆は逃げて」
「ジェイク、治ったの?」
「違うよ、ただ体動いた、此奴らは人類の敵だ、元四職だったから解る」
「それなら、私だって聖女逃げる訳にはいかない」
「彼奴の相手は、誰にも出来ない、例えマリアでも殺されるだけだ、お前達にか借りがある、少しは時間を…うわばぐげごはっ、何も出来ないだと…にえろ(にげろ)
ジェイクの体を何かが貫いた。
その貫いた何かはそのまま、ジェイクを体に取り込んでいき、体の一部にジェイクの顔が生えた。
「全軍、退避」
だが、その声に答える者は居ない、ロゼが振り向くと騎士団は全員死んでいた。
ある者は首が無くなり、ある者は真っ二つに切断されていた。
これほど沢山の騎士が死んだというのに声すら聞こえてこなかった。
フリードの居た方に振り向いたが、そこには同じ様に首が無くなっていた。
「嘘よ、嘘おおおおおよおおおおっ」
ロゼは慌てて竜車に駆け込んだ。
どうせもう死ぬしかない、だが、このままで終わる訳にはいかない。
偉大なる姉に近づくために身につけた奥義。
魔族をも滅ぼした《空絶結界》 もしこいつ等に通用するとすればこれしか考え付かない。
「王国の結界を解除…我が魔力全てと…引き換えに結界をはり、その穴から空気を抜くイメージをする、私なら出来る、私はマリアお姉ちゃんの妹なのだから..空絶結界」
ロゼは、空絶結界を見事に張ってみせた。
それはマリアには遠く及ばない物のしっかりとした結界だった。
だが…そらから、大きな禍々しい者が一体舞い降りてきた。
その足は竜車を只踏みつけた。
「何事..嘘、これでも一体も倒せないの..」
それだけで、竜車は竜ごと潰れてしまった。
それから王国に人が居なくなるまでに3日間とは掛からなかった。
だが、その様子を遠くから見ていた者がいた。
最終話(あれれ) 終わった世界と 我々の世界。
「あれが、ガーラが言っていた《空から来た者》?」
「ああっ、あれだよ」
見た瞬間からマリアには解った。
あれは人間がどうにか出来る様な存在じゃない。
あれに比べたら自分が倒した魔族や魔王なんて虫けらみたいなものだ。
「ガーラ、あれどうにかする手段はあるの?」
「無いな、ただ、俺は勇者なんだ、逃げることは出来ない」
「そうね、私も女神の愛し子なんて呼ばれているから逃げられないわね」
「しかし、女神もいい加減な者だな《勇者》《聖女》《賢者》がまた揃わないんだからな」
「本当にそうね、あんなのに私達が叶う訳は無いわ」
「全く」
二人はまるでデートにでも行くように《禍々しい者》に立ち向かっていった。
帝国で一番最初に死ぬのは自分達だ、まるでそう思っていたかのように。
「私は全てを拒絶する《空絶結界α》」
「我が放つは聖なる光の刃、これが勇者最大の奥義《光の翼》だ」
これが彼らの最後の意地だったのかも知れない。
彼らの力は《禍々しい者》に通用した。
無数の禍々しい者のうち三体が砕けて死んだ。
だが、それだけだった、2人に対して2体の禍々しい者が舞い降りると虫でも潰すかの様に二人は踏みつけられた。
咄嗟に結界をマリアがはり、その隙間からガーラが攻撃をしかける。
「もう結界も持たないわ」
「そうだな、マリアありがとう、君に出会えてよかった」
「奇遇ね、私もよ」
結界に罅が入り終わりが近づいてきた。
どちらからともなく、2人は抱きあい…そして結界が壊れるまで笑顔でいた、そして結界が壊れるとそのまま死んだ。
異世界の勇者が死に、尊女が死に人類は命懸けで戦ったが滅びるまで1年も掛からなかった。
こうして、人類はその幕を閉じた。
《天界》
天界は人類より先に滅ぼされていた。
首の無い女神の死体が転がっていて、杖の先には恨めしそうに下界を見つめる女神の首が刺さっている。
この世界はどうなったのか?
この禍々しい者は、いつの間にか居なくなっちゃたんだ。
そして、人類は滅んで居なかった。
君達が願い事を神に頼んで叶った事はあるかな?
もし、叶ったとしてもそれは神様は関係なく、ただ偶然が重なっただけだって。
勇者になりたい、異世界に行きたい、そんな願いを叶えて貰った人は居るのか。
少なくとも僕は叶えて貰ってないよ。
願っても無駄なのさ…だって女神は殺されてもう居ないんだから。
そう、マリア達が死んで、女神が殺された世界の未来が、今僕たちが暮らして居るこの世界《地球》なんだ。
神様や悪魔の伝承があるのに会えないのはこのせいなんだ。
だから、神様に願っても何も叶わないよ…
だってもう居ないんだから…
だが、運命は書き替えられる…何故なら聖女は諦めていなかった。
あとがき→第5章 逆襲のマリア篇スタート
最後まで読んで頂き有難うございます。
この作品は皆様に指示されて、何回もランキングで1位を頂きました。
闘病中の私には感想欄からの感想はまるでお見舞いを頂いたように楽しい気分になりました。
本当に楽しい時間を有難うございました。
また、違う作品で逢いましょう と終わらせたのですが…「まだ続きが読みたい」
「このままではあんまりだ」そう言う方が多くいました。
そこで…始まります。
完膚なきまで叩きのめされたマリアの反撃が今始まります。
73話 逆襲のマリア
ねぇマリアこれで終わりで良いの?
《勇者のガーラが死んで、この世界は滅んだの…終わりよ》
本当に良いの?
《誰も《禍々しい者》には勝てない…恐らく神でもね》
確かに貴方の世界の女神は滅んだわ、貴方のせいで。
《私のせい…? 私は頑張ったわ》
確かに頑張ったわね、だけど、貴方がしっかりしていれば
《私が悪いの?》
ええっ、貴方は沢山のミスをしたわ
《そんな事無い…》
ううん、ミスをしたの、《禍々しい者》と戦った時、貴方は《聖女》じゃなかった。
もし、貴方が《聖女》であれば、もう少し違ったかも知れない。
《確かにそうよ、だけど、それでもあれには勝てなかった》
そうね…だけど、貴方が《剣聖》を取り上げなければ、ロゼが頑張った以上の事を貴方がしていれば、あの場に剣聖ジェイクがいた。
《そうかも知れない》
そして何より、貴方は強い、確かに強いわ、だけど貴方は間違っていた。
《そんな訳無いわ》
貴方は聖女なのよ…何で信仰しないの? 女神を信仰しない聖女は居ない。
聖女の力は女神を信仰する事で強くなるのよ…
そして女神は聖女から信仰を貰う事で強く成れる…
二人で一つなのよ…
《貴方を信仰すれば良いの?》
そう、私の世界はもうない…私を信仰してくれれば力を貸せる。
《解ったわ、信仰するわ》
我が名は女神マイン、滅んだ世界の女神。
《女神マイン様、どうか、この世界をお救い下さい》
解りました、少しだけ時間を戻し、貴方達の体も別の場所に移します。
それが精一杯、そこからは貴方次第です。
光り輝き、私の意識は薄れていった。
【ロゼSIDE】
「そんな嘘よ、あのお姉さまの結界が崩れていくなんて…そんな」
ロゼは今迄に無い位にショックを受けていた。
それは、姉から任せられていた結界が崩れてきたからだ。
「聖女様、結界が次々と崩れてきています、何か手だてを考えないと」
「解ったわ、お姉ちゃんに伝えるとしても、状況を調べないと、私が行くわ」
「ロゼ様…」
「フリード様と騎士団と共に、あとおまけにジェイクをつれて行きます、馬車の用意をお願いします」
「はっ!」
王国が誇る、戦竜車を出した。
ロゼは馬車の用意をお願いいしたが、最近頑張りを見せた彼女の為に王国では《聖女》として扱う様になっていた。
そして、異変に関して万が一が起きても大丈夫な様に屈指の騎士に、戦竜車を出した。
竜が引く大型の車はまず討ち取られる事は無い。
竜が引き、薄いとはいえミスリルで固められた馬車は壊れることは無い。
だが、今回は相手が悪かった。
「何よ…何なのよこれは!」
空を埋め尽くす程の大きな何かが結界を壊している。
それにぶつかった場所からガラスが壊れるかの様に結界が欠けていっていった。
それと同時に、下は異形の者で溢れていた。
「これは、何だと思う、ロゼ」
「フリード、解らないわよ…こんなの、ジェイクは?」
「魔王..魔族だってこんなに禍々しくなかった..あそこにいる奴は魔王より怖いこわこわこわこわーーーーい」
仕方ない、どう見ても敵わない、こんな奴が相手じゃ…お姉ちゃんじゃなくちゃ無理だ。
「皆、撤退するわ、そして帝国に向って、マリア尊女様に対応を..えっ…ジェイク!」
「体が何とか動いた..だけど、仕方ないな俺が時間稼ぎするから、皆は逃げて」
「ジェイク、治ったの?」
「違うよ、ただ体動いた、此奴らは人類の敵だ、元四職だったから解る」
「それなら、私だって聖女逃げる訳にはいかない」
「彼奴の相手は、誰にも出来ない、例えマリアでも殺されるだけだ、お前達にか借りがある、少しは時間を…うわばぐげごはっ、何も出来ないだと…にえろ(にげろ)」
「此処は何処? 私は死んだ筈」
「お姉ちゃん!」
「ロゼ…危ない、ジェイク貴方も何しているの…パーフェクトヒール、 女神マイン様力をお貸しくださいホーリーエリア…これで良しと」
「お姉ちゃん、ありがとう、だけどこれ」
「平気、平気、お姉ちゃんに任せて、まずは、悪いけどロゼ、聖女の力返して貰うわよ、そうしないとこいつ等に勝てない」
「はい、お姉ちゃん」
「ありがとう、ジェイク逆に剣聖のジョブを返すわ、受取りなさい」
「ああっ」
「それじゃ、行くわよ、勇者ガーラに聖女マリア、そして剣聖ジェイク…あちゃ~賢者は居ないけど、3人揃ったわ此処から反撃よ」
女神マイン様ありがとう、貴方のお陰で…この世界を救えるかも知れません。
今、叩き潰された聖女の反撃が始まる。
74話 結局神頼み
時間が巻き戻った。
ガーラに話を聞いたけど、ガーラには時間が巻き戻る前の記憶が無い。
私の妄想な訳ないが、一応確認しておかないと。
「あれが、ガーラが言っていた《空から来た者》?」
「ああっ、あれだよ」
前と同じ様にガーラは答えた。
うん、同じだ。
やはり見れば見る程、禍々しい。
本当に嫌になる程、凄い。
あれに比べたら自分が倒した魔族や魔王なんて虫けらみたいなものだ。
そして、勇者であるガーラにもあれをどうこうする力は無いのは解っている。
「一応、念の為聞くけど、ガーラはあれをどうこうする手段はある」
「無いな、ただ、俺は勇者なんだ、逃げることは出来ない」
「そうね、なら考えないとね」
【マリアの記憶】
「もう結界も持たないわ」
「そうだな、マリアありがとう、君に出会えてよかった」
「奇遇ね、私もよ」
結界に罅が入り終わりが近づいてきた。
お互い抱きあい…結界が壊れるまで見つめ合った、そして結界が壊れるとそのまま一緒に死んだ。
駄目だから、何ニヤついているの私…これは死亡フラグなのよ、今はそんな事より助かる事を考えないと。
「お姉ちゃん、どうしたの急ににた~っとして、もしかして空の上のあいつ等をどうにかする手段を思いついたの」
「思いつかないわ、ただロゼ覚えておきなさい、聖女という者はピンチの時ほど不敵に笑う者なの」
「もう、私は関係ないよ、お姉ちゃん、さっき聖女の力返したから、もう只のロゼだもん」
「あはははっそうね、ロゼとフリードはまず教皇様の所に行って、事態を伝えて、そしてその後は有力者を集めて会議を開くように」
「お姉ちゃん達は?」
「私とガーラとジェイクは近くの教会に行くわ、女神様に祈り、対策を練るわ…悪いけど時間が惜しいの直ぐに行って」
ロゼとフリードは騎士団を伴い直ぐに出立した。
「マリア殿、今の俺でも役に立つのか? 魔王にすら恐怖した俺が」
「それでも貴方は《剣聖》なのよ、どんな者も恐れずに剣を振るう存在なの、もう逃げちゃ駄目よ…と言っても逃げ場は無いけどね、昔の様に《俺より強い奴はいない》とかほざいてよ」
「マリア殿や、そこに居る勇者殿の前でいえる訳ないだろうが、脳筋聖女」
「それで良いわ、でも流石は腐っても剣聖ね、勇者は解るのね」
「流石に解る、俺より強い気等、そんな奴じゃ無ければ持っていないだろう」
「俺の名前はガーラと言う、宜しく頼むよ」
「こちらこそ、ジェイクだ」
「これで、この世界の三大戦力、勇者、聖女、剣聖が揃ったけど…何か考えある」
「俺はどう頑張っても一体の相手をするのが精一杯だ」
「解っているわ、多分、私もガーラも同じ様なもんよ」
「所でマリア、この結界はどうしたんだ、いっちゃ悪いが前の結界は彼奴らには通用しなかった筈だ」
「そうね、私一人じゃ無理だったけど、女神様の力を借りてどうにかはった感じ、だけどこれも恐らく2週間は持たないわね」
「こいつ等に通用する結界をはれただけで凄いと思う、しかも二国全部にはったのだろう」
「そうね、逆を返せば二国以外は…恐らく」
「「全滅か」」
「解らないけどね、だけど多分対抗手段は無いと思うわ、しかし、今賢者が居ないのは凄く痛いわね」
「確かに、防御と回復が聖女なら 多数の敵を倒すのは賢者だ、勇者や剣聖は単独なら有利だが複数相手は賢者に劣る」
「兎も角、タイムリミットは2週間、その間に何か考えなければ終わりよ」
「それでマリアは何か考えがあるんだろう? だから教会に来たんだろう」
「そうよ、此処で女神様に問おうと思うの、何か倒すヒントが貰えるかも知れないでしょう」
「神頼みしか無いのか」
「ジェイク、私は聖女なのよ? 女神様に聞いてみて何が悪いの? 本来は頭脳労働は賢者の仕事…居ないんだから仕方ないじゃない」
「正に藁をもつかむ、そんな感じだな」
「仕方ないよガーラ、お祈りしている間の守りは任せたわ」
「「任せろ」」
もうこの世界の女神は居るかどうか解らない。
だから、私が祈るのは女神マイン様だ。
75話 神託
近くの教会の礼拝堂で一人にして貰った。
何だか、元から信仰がある女神でなく他の女神に祈るなんて、何だか背徳感が…あるわ。
さっき、私達を救ってくれた、女神マイン様に祈りを捧げた。
《早速、来たわね…今この世界の女神から私に権限は変わったわ》
権限が変わった?
《そうよ、さっき話したと思うけど、この世界に最早神は居ない》
神が居ない…どうして?
《この世界は平和だった、勇者も要らない位ね、だから本当の意味での信仰は薄れていたのよ、まぁ神からの独立、それはそれで神にとっては寂しく、それでいて嬉しい事でもあるのよ…まぁその説明は長くなるから割あいするわね》
平和だった?
《そうよ、実際に今回の様な敵に初めて遭遇したでしょう? 貴方な一人で敵は全滅出来たでしょう?》
確かに、そうなのかも知れない。
《本来は、魔王1人倒す為に国が手を貸して、勇者、聖女、賢者、剣聖で長い旅の末に平和を勝ち取るのよ…平和よね、まぁとんでもない奴も居たけど、所詮は1体だけしね》
それは解かったわ…だけど、私が知りたいのは、あいつ等の事よ。
《あれは、名前が決まってないわ、まぁ勇者ガーラの言う名前《空から来た者》といたしましょう》
そうね。
《あれの正体は、魔王や勇者、賢者、聖女、剣聖、そして邪神の成れの果てよ…》
予想外過ぎる、何それ意味が解らない。
《簡単に言うなら、悪い事をして、世界の間に捨てられた者達、これは転生の輪から外れ永遠に地獄を味わうある意味究極の罰ね》
それは、何処とも解らない空間に捨てられるという事?
《そうよ、光も一切ない、上も下も解らない、何も触れる物も存在しない暗黒空間に捨てられる最凶の刑…勇者だろうが邪神だろうが数日で頭が狂ってしまう、そんな恐ろしい刑》
それと、あれが何の関係があるの。
《そんな空間に捨てられた者…だが此処で神の誤算が起きた、空間に捨てられた邪神や勇者達は異形の者に姿を変え生き延びた、しかも絶望の気持ちが、更に恐ろしい力を身に着けた》
だけど、そんな空間なら帰って来れないんじゃないのでしょうか?
《本来なら帰って来れない筈だった、だが力をつけた彼らは、その空間と繋がるゲートを長い時間をかけ、遂には破壊して戻ってきた》
そんな…でも、それを行った神が居るでは無いですか?
《苦しい世界で生きて来た彼らは神にすら戦える能力が身についていた、私の世界の神々も死んだ者が多く、生き延びた者もちりじりバラバラになって逃げだしたわ》
そんな、私の世界の神々は、女神様もそうですが、その上には全知全能の創造神様もいた筈です。
《私はこの世界の神様の事は知らないわ…だけど、私がこの世界の神界に来た時にはもう、幾つかの神々の死体と惨殺の後しか無かった、恐らくは、生きている可能性は多分無いと思う…》
(この世界は女神様1人で治世していたのよ、その上の神々は女神様がこの世界を作る時に力を貸したという、女神様よりも遙かに神格が高い方と記されていたわ)
そんな、神々が勝てない存在、それと戦うの。
《いや、神々なら勝てる可能性は高い、実際に多くの世界で神々により撃退されていたのよ》
それなら、何でこの世界とマイン様の世界は勝てなかったのよ。
《私の世界は文明が発達して、この世界は貴方が原因で信仰が少なかったから、前にも言ったけど信仰=神の力だからね》
それなら、本当に私のせいでこの世界は…
《そうとも言えない…ガーラの世界も多分そうだけど、ある程度人間の生活が潤うと神は離れていくのよ、多分まだ数百年以上先だけど、そういう時期に入っていた、だから神も信仰に力を入れてなかった。最悪の時期、信仰も少なければ、文明も過渡期、そこを狙われた》
文明、過渡期…?
《信じられないかも知れないけど、文明が進んだ世界では、魔法を使わないで空を飛ぶ機械や大量破壊兵器があるのよ…信仰が無くなりつつあり、文明が発達前、今のこの世界の様な状態が一番弱いの》
それで、この世界を救うにはどうすれば良いのかしら、何か方法はあるの。
《聖女である、貴方の強化、そして賢者に変わる戦力の増強…そして世界を束ねての総力戦、どうやって戦うか、それは貴方達が考えなければならない…私はこの神世界の復活をさせながら、貴方達に力を貸す、それしか出来ない》
ならば、まずは私の強化、それはマイン様にお願いいして良いのよね、あっ可能なら賢者の力も私が使える位までなれたら…
《貴方は聖女を極める事よ、そこ迄が限界、何度言ったら解るのかしら、貴方はまず人を頼る事を覚えなさい》
だけど、そんな逸材は居ないわ。
《私だって女神、賢者のジョブは与えることは出来るわ》
それで誰にそのジョブを与えると言うのよ…
《マリア、貴方は見逃している、ちゃんと賢者になれそうな逸材は貴方の傍に居る》
私の傍に…
《ええっ、マリア…これから、貴方はよく考え、その逸材を連れて来なさい、そして世界を救うための試練に挑まなければならない》
解ったわ。
取り敢えず、私は、逸材について考えなければならない。
76話 姉妹の絆
「彼奴らの正体は、そんな恐ろしい奴だったのか、勇者の俺が歯が立たない筈だ」
「魔王すら怖がった俺がそんな者相手に戦わないとならないのか…」
2人とも凄く顔が青い、今の我々は首一枚繋がっているだけ…今の結界が壊れたら何時死んでも可笑しくない。
「ジェイク、今度ばかりは逃げられないよ、逃げた所で世界は滅びるからね」
「それは解っている」
ジェイクは反省しているのが解る、少なくとも剣聖の能力も無い状態で妹ロゼの為に命をはった。
もう壊れた状態では無いだろうな…まぁそれでも絶望は変わらないのよね。
可笑しいな、前は私一人で何でも解決できた。
ましてジェイクが居るなら、この世界のナンバー1.2揃い踏みで《どんな敵でも敵わない》そう言われただろう。
それが今は、私と同格以上の勇者ガーラが居ても、歯が立たない。
こんな無理な話は無い。
「それでマリア、賢者の宛はあるのかい」
私は悩んでいた。
昔はそうでも無かった、いや大嫌いだったんだよ…
だけど、最近凄く好きになってしまった。
お姉ちゃん、お姉ちゃんって言われるのも嫌じゃなくなった。
私にとって大事な家族になってしまった…
そんなあの子を巻き込みたくないし、出来るなら守ってあげたい。
だけど、私が今頼れるのはあの子しか居ない。
まだまだ未熟…だけどガーラ以外で背中を預けられるのは彼女しか居ない。
「一人だけ居るけど….」
「ロゼだろう?」
「ジェイクには解るのね」
「まぁな、今思えば、姉妹お前に似ている、怖がり逃げ出した俺が言えた義理では無いが、もしこの三人以外に戦える人間がいるとしたらロゼしか居ない…だが、お前は巻き込みたく無いんじゃないのか?」
「そうなのかい」
「そうよ…だけど仕方ないわ、他には居ないんだから」
「そうだな」
「悪いけど1人で話をさせて」
「「解った」」
私はポケットから通信水晶を取り出した。
これが凄く貴重だから滅多に使えない…妹のロゼも聖女だったから持っている。
私は記録水晶を握りしめる。
言いたくない、妹は頑張った、これからはただ笑顔で過ごして貰いたい。
わだかまりが無くなった妹は凄く可愛かった。
私一人じゃ無理なんだ…ごめんね..
「どうしたのお姉ちゃん..まだ気が早いよ、半分も来ていないよ」
「…」
「どうしたの! 何があったの! 答えてお姉ちゃん」
辛いな…随分立派になって…
「…あのね…手伝って…助けて」
「お姉ちゃん、解ったよ! 何を手伝えば良いの! どうしたら助けられるの!」
うん、強いなロゼは、うん本当に変わったよ…自慢の妹だよ。
だったら私もしょげられない、胸を張って頼もう。
「解った、ロゼお願い! これから戻ってきて! そして賢者になって! そしてお姉ちゃんと一緒に戦って!」
「….解ったよ、お姉ちゃん! 直ぐに戻る」
これからくる、私の自慢の妹が私と共に戦う為に、もう泣き言なんか言わない。
私は、あの子のお姉ちゃんなんだから!
【ロゼSIDE】
「フリード様、教皇様や国への報告お願い致します」
「ロゼ、君は行くのかい」
「はい、初めてあのお姉ちゃんが私を頼ってきたんだから、行かない訳にいかないわ」
「そうか…済まないな、何時も君ばかりに負担を掛けて、この剣に誓って君を守りたいだけど…私じゃどうしようも無い」
「良いんですよ、フリード様、私は守られるばかりの女の子じゃない、前は聖女、今度は賢者になるみたいですね、ちゃんと頑張りますから」
「本当にロゼはカッコよいな」
「そうですよ、フリード様のロゼはカッコいんですよ、貴方はしっかりと私を愛してくれれば良いんです、それだけで私は元気になれますから」
「ああ、ロゼ愛しているよ」
「私も愛しています、フリード様、教皇や国の事は任せましたよ」
「ああ、任せて」
《ロゼ済まない、君が怖いのに虚勢をはっているのは知っているよ、手が震えているんだから、だけどどんなに頑張っても私じゃ君の代わりは出来ない…本当に駄目な男でごめんよ、だけど一つだけ約束する、もし君が死ぬような事があったら死ぬ、何も出来ない私だけど、この命というチップは君に預けた、だからロゼ、死ぬなよ》
ロゼは勇ましく馬に乗り、姉の元へと向かった。
【閑話】 空から来た者
一体…何が起きた。
この世界は、信仰が薄く、女神や神の信仰が薄い。
この世界は、簡単に我らの物になる筈だった。
それなのに…強固な結界に守られ生き延びた国が2つもあるなんて…
可笑しい…
いつも我々と敵対する忌々しい神たちは先に滅ぼした。
何人かの神は逃げ出したが、概ねの神は死んだのだ…
しかも、その神のレベルもそんなに高くなかった。
神ですら、あっさり殺されるレベルの世界。
そんな世界の人間が我らを完全に拒む結界を張るなんて信じられない。
あんな世界1日で破壊尽くす筈だった。
あれは破壊するのに時間がかかる。
【先兵】
「あの、女は何者なのだ、こんな世界で我々を拒む等信じられぬ」
「よくも恥をかかせてくれた」
「我々は兵なのだ、新参者として手柄をあげなくては今後に関わる」
「士クラスが来る前に、どうにかしないと最悪死を持って償う事になるかも知れない」
今この世界に来ている《空から来た者》はまだ兵だった。
《空から来た者》には明確な階級がある。
兵…勇者や聖女以下で世界の間に捨てられて月日が浅い者、異形の姿を持ち体が大きい。
それでも世界の間の恐怖に耐え生き延びたゆえ、国相手に戦争を仕掛けても1体で簡単に滅ぼせる。
士…賢者、聖女、剣聖等、三職クラスが世界の間に捨てられ生き延びた者、魔族でいうなら四天王レベル、体は小さくなるが圧倒的な力を持つ。
元が英雄レベルなので《兵》とは比べられない程の力を持つ、個体によっては過去の技も使える。
尉…勇者.魔王クラスが世界の間に捨てられ生き延びた者、このクラスになると見た目は限りなく人に近い。
人智を越えた恐ろしい力を備えている。
一体で世界そのものが滅ぼされかねない。
将…邪神、女神クラスが世界の間に捨てられた者、元が神なので見た目美しく神と見分けがつかない。
このクラスが出て来たら、確実に世界は終わる
王…正体不明、全てを支配する謎の者
(これはマリアの住む世界から考えた戦力、住む世界によって脅威は上下する)
今の所、マリア達は一対一で、兵を一体倒せるのがやっとのレベル。
恐らく兵だけで千単位で居る。
【閑話】ある世界の滅亡
その世界は平和に暮らしていた。
少し前迄は魔王が存在し世界を苦しめていた物の、勇者ミヤビ、聖女ソアラ、賢者ミラン 剣聖ソランにより倒され、平和が訪れた。
女神マインを信仰し、女神マインは惜しみなくその恩恵を与えていた。
真の平和と発展が約束された世界。
もうこの世界は神の力を借りなくてもやっていけるだろう。
勇者ミヤビは、勇者というだけでなく指導者としても優れていた。
勇者ミヤビは美しい王女を妻に迎え、国王となり、当時の勇者パーティーのメンバー、聖女ソアラ、賢者ミラン 剣聖ソランはそれを支えた。
それから僅かな期間でその世界は発展していった。
世界は平和で満ち溢れ、強い者は優しく、人を労われる世界。
それを人が実現した….
女神マインは思った。
もうこの世界には《神》としての自分は要らない。
剣や魔法の世界では最早ない。
文明を発達させるには、魔法や神の奇跡は邪魔になる。
そろそろ、この世界に私は要らない。
だから、神託をおろした。
【王城にて】
《ミヤビ、久しいですね》
「その声は、女神マイン様」
《勇者として人の指導者としてよくぞここまで世界を発展させました…最早この世界には、神も魔法も不要です》
「そんな、まだ我々には女神様の力も魔法の力も必要です」
《良いですかミヤビ、神は親、魔法や聖なる力は歩けない子供を補助する道具なのです、見事に育ち成長した子供には不要な物なのです》
「それでも我々には、女神である、マイン様の力が必要です」
《良いですかミヤビ、これは祝福なのです、自分の足でしっかりと立ち成長した貴方達に最早私は必要ありません、私はまた未熟な世界を助けにいきます…私が去る事で更なる成長を…もう会う事はも無いでしょうが、貴方達は私の子も同然、何時までも忘れることはありません》
それから暫く《お別れの祭り》が続き、遂に女神マインはこの世界を離れた。
女神マインがこの世界から離れていってから数年。
この世界に未曽有の危機が訪れていた。
【女神マイン、去りし後】
「空が、空が、化け物に多いつくされている…終わりだこの世の終わりだ」
「世界の終わりだ」
「誰か、誰か助けてくれ」
その魔物達は、見下ろす様に人を見続けて、まだ降りて来なかった。
あの魔物達が降りて来た時こそ、この世界は終わる。
誰もが絶望に満ちた時、希望の光が舞い降りた。
かっての勇者パーティーのメンバー、剣聖ソランだ。
「ソラン、ソランが来てくれたぞ」
「ソラン、ソラン、ソラン…」
絶望が歓声に変わった。
「俺に任せろ…天歩」
天歩とは空中を自在に歩く剣聖ソランの技だ。
「行くぜ、絶牙」
物凄い風を纏い風の刃が無数に発生して空の魔物に襲い掛かる。
もし、この世界が昔の世界ならあるいは一体位は倒せたかも知れない…
女神が去り、魔法が失われつつある世界。
剣聖のジョブすら失われつつある世界では、絶世期の1/3の威力も出せないだろう。
その結果、何も通用しなかった。
「この世界の剣聖とはこの位か…死ね」
ソランは何も出来ず、ただ一体の魔物に握りつぶされ死んだ。
その様子を駆けつけてきた、元勇者メンバーは見ていた。
「これが勇者のみが仕える奥義光の剣だ」
「ホーリーサークル」
「滅亡の炎よ全て焼き尽くせ」
彼等は知っていた。
これが無駄な抵抗であった事をたった一体の魔物に剣聖が敵わなかった。
もし、絶世期の自分達が居ても…精々が一体を倒せるだけ…空には無数の魔物が居るのだ。
「勇者様に続くんだ、宮廷魔法部隊、集団壊滅呪文」
「騎士団は民衆の前にたて、剣構え」
結局、勇者パーティーは山の様に大きな魔物に踏みつぶされ簡単に死んだ。
それから、僅か1日でこの世界は滅んでしまった。
絶望の声が女神マインに届いてきた。
マインが気になり、戻った時に、その美しい世界は滅んでいた。
過去を見渡す目で女神マインが見た物は…無残に滅ぼされていく世界だった。
【女神マイン】
絶対に赦さない…
あの世界を希望に満ちた世界を壊した彼奴らを…
今の私は《世界を持っていない》
だが、絶対に作り上げる、彼奴らと戦える世界を…
私の子供達を殺した事を後悔しさせてやる。
77話 試練?
私とガーラとジェイクは今、神界に来ていた。
「随分と殺風景な世界なのね」
「この世界は彼奴らに滅ぼされた神の世界…本来は貴方達の神の住む世界だったのよ」
「へぇ~そうなんだ、それじゃぁまたあいつ等が来たら不味いんじゃないの?」
「私が再度結界を張り直したから、かなりの大物が来ない限り大丈夫よ…それよりマリア」
この場所に居るのはマリアだけじゃない。
実際にはガーラにジェイクも居る。
「何が言いたいの?」
「貴方、女神の私に普通に話しているわね…他の2人はあんなに委縮しているのに、あれが普通だからね」
「そうね、まぁ生まれの問題だから気にしないで頂戴」
「マリア、何言っているんだ、女神様だよ」
「ガーラ、私そう言うの気にしないのよ、私、聖女とか尊女とか愛し子と呼ばれていても気さくに話していたよね」
《流石に、相手は女神様なんだ…よく普通に話せるな》
《マリアらしいと言えばマリアらしいが女神様相手だろう》
「それなら仕方ないな」
「まぁマリアらしいと言えばマリアらしい」
「いちいち突っ込んでも仕方ないですね、これからこちらに来るロゼは別にして、貴方達には早速これから強化訓練をして貰うわ」
「「「強化訓練」」」
「そうよ、元々神の住むこの世界は時間の進み方はゆっくりだけど、更に私の力で時間の進み方を遅らせるわ….そうね、マリアが張った結界が崩れるまでの時間が此処での1年間位になる筈よ、そこ迄に、あいつ等への対策を手に入れるしかないわ」
「あのマイン様、彼奴らを倒す様な魔法とか加護とかくれるんじゃないんですか?」
「無いわ」
「あの、女神マイン様、例えば聖剣を下さるとかそういう事では無いのですか?」
「あっ私も剣聖ですから、剣が欲しいです」
「そんな者が欲しいなら、後でどうにかするけど、そんな物じゃ、この差は埋まらないわ」
「それじゃ、どうするんですか?」
「マリア、私の加護を完全に受ければ今より何倍も強くなる、だけど、その前に元の力の強化をすれば更に強くなるわ」
「そうね、確かにそうかも知れない」
「理屈は解る」
「ひぃーーーっまさか、まさか、マリアやロゼみたいな事しないですよね…女神様ですよね」
「女神様に文句言わない」
女神マインが手を横に振ると三人の首と胴体が離れた。
「フレイヤーーッ」
そして体の部分を、全部女神マインは焼き尽くしてしまった。
「ああっそういう訓練なのね…パーフェクトヒール」
「俺の、俺の体が」
「嫌だ嫌だ、死ぬのも痛いのもいやだーーーーっ」
「大丈夫よ二人とも、エリアパーフェクトヒール」
「ありがとうマリア」
「ありがとうーーーっマリア」
「むっ、そんな友情要らない」
再び、女神マインは手を横に振った。
同じ様に三人の首が宙に舞う。
「パーフェクト、うぐっうぐうううっ」
「マリア、それメンドクサイ」
三人とも首だけの状態で床に落ちた。
そして体は、同じ様に魔法で焼き尽くされた。
そして、首にだけになった三人を更に何処からか取り出した鉈で真っ二つにした。
最早、三人は何も喋らない。
「凄く痛いでしょう? 痛いよね? 痛い…さぁその痛みに耐えながら、体を再生していくの、最終的には一瞬でその状態から体を再生できるレベルになってね…相手は神すら殺す相手、この《再生》位覚えてくれないとどうしようもないわ」
頭が割れて脳味噌垂れ流しの中でジェイクは思った。
まだ、マリアやロゼってまだ優しかったんだと…
「私の作ったこの空間は死なないから安心してね! さぁ頑張ろうね」
「「「….」」」
「流石はマリアね、もう頭部が再生してきている、此処まで凄い聖女は居なかったわね」
「えっ」
ぐちゃぐちゃ…女神マインは直ぐに踏みつぶした。
「コツは覚えたようだけど、スピードが遅いのよ、あいつ等と戦うなら一瞬で体を再生しなくちゃ駄目よ」
そう言いながら、ガーラやジェイクの頭も踏みつけて再びバラバラにした。
「二人は全然まだまだね…まぁ回復専門の聖女とでは差があるのは当たり前だわね…あらっなかなかしぶといな」
「えっ気がつかれた」
また再生してきたマリアの頭を踏みつぶした。
マリアは思った《自分のやり方は間違ってなかった》だけど、まだ足りなかったのだと…
「お客様が来たみたいね」
そう言うと女神マインはゲートを開いてロゼを招いた。
首だけになり脳味噌を垂れ流した三人を見たロゼは…顔が真っ青になった。
78話 絶望に染まる世界
フリードはマリアの診療所目指して戦竜車を走らせていた。
だが、結界が張られているからとはいえ空には恐ろしい魔物が沢山いる。
それがまるで蛾が窓に張り付くように結界にへばりついて居る。
恐怖、その物でしかない。
本来は怯えない筈の竜も恐怖からか走るのが遅い。
この世界の為に自分は足手纏いだ。
俺だって、あそこで一緒に戦いたかった。
だが、俺はあそこに居られなかった。
愛するロゼが戦いに行くのに…
「チクショウ…」
手にはミスリルの剣がある。
父から貰った特別な剣…この剣を振るって盗賊を討伐した事もあった。
だが…そんなのは意味が無い。
どれだけ頑張っても、四職には何も届かない。
あの上に居る魔物はきっと魔王の様に強いのだろう。
今の俺は、一刻も早くマリアの診療所の隣の教会に行き、教皇様に話を通し、その足で各国を回り連携を組む事だ。
それしか俺には出来ることはない。
少しでも早く、あの敵についての報告をしなくてはならない…
「出来るだけ急いでくれ」
休みなく竜車を走らせた。
【教会側】
「いったい何が起きているのですか? そうだ、愛し子様は…」
可笑しな事に、黒い雨が降っているが、その雨を愛し子様の結界が弾いている。
そして、その結界の先には、無数の強大な魔物がはり付いていた。
「はっ、連絡があり愛し子様は今、あの魔物を倒す為に奔走中、詳しい事を説明する為にフリード様がこちらに向っているそうです」
「ご苦労さまポール、ローアン、直ぐに教会の大司教以上の者をこの教会に集めなさい、恐らくこれから大変なことが 起きると思います」
「あの空の黒い雨、愛し子様の結界を抜けて来ないと言う事は悪しき雨なのでしょう、そしてその上に居る魔物たち…」
「ええっ、これから起きることは聖魔戦争の様な事が起きるのかも知れません」
「神話の様な事がこれから起きると言う事でしょうね」
「教皇様、結界のあるこの国でこれなら、無い国は…」
「恐らく、最早この世界で残っている国は帝国と王国この二つだけかも知れません…そして今回ばかりは愛し子様も」
「まぁそれなら仕方ない事です、信仰の為にそんな事があったら、あの魔物の数体も道連れに死ぬのも良い物でしょう」
「お嬢ちゃんも、流石に今回ばかりは無駄だろうな…この世の終わりだ」
【王国SIDE】
「終わりだ、世界の終わりだーっ」
「フリードが今教皇様の所に向っている様だから、今暫く待ちましょう、貴方」
「結界があるから、持っているが、あの黒い雨、ナルンベルンの話のあれだ」
「恐らく、あの雨を直接浴びると人間が化け物になる、どういう基準で動いているかどうか解らないが、雨が降らないで、皆殺しにされた国もある」
「そんな、それじゃ、この国は雨…」
「そうだ、恐らく、あの結界が壊れた時には恐らく早かれ遅かれ、全員が化け物になる」
「そういえば、ナルンベルンの化け物になった人達は、まさか襲ってくるんじゃ」
「それは大丈夫だ、化け物は長く生きられず2週間もしないで死んだそうだ」
「それじゃ、貴方、我々は…そんな」
「結界が壊れたら、化け物になり死ぬという事だ…これからの教皇様の話しだいでは自決を考えている、ユーラシアン王家は6代、私でおしまいだ」
「そんな」
「今から考えて置いた方が良い、化け物になって2週間長生きするのか、人間として尊厳の中で死ぬのかをな」
【帝国シルベスタSIDE】
「他国からの話から考えると、我が国に黒い雨は降らなかった」
「その様ですな」
「つまり、あの結界が破られたら、残酷な死が待っている…そう言う事だ」
「帝王様…」
「今回ばかりは、あの女神の愛し子、マリア様でも駄目かも知れないな」
「そうでございますね」
「我がルドルフも三世で終わり、教皇様を交えた会議の結果によってはギロチン台の貸し出しもしようと思う」
「帝王様、それは」
「魔物に残虐に殺される位なら、楽に人間の尊厳を持って死ねる方が良い…俺はそうする、地獄を味わい、尊厳なく死ぬのならそうする」
「帝王様、どうにかならないのでしょうか?」
「多分、どうにもならない…だけど、どうしてだろうか、あの女神の愛し子マリア様ならどうにかするかもしれない、そんな希望もある事はある」
【ポートランド家」
「こんなのはあんまりだな」
「ええっ、何で娘ばかりこんな事になるのよ」
「甘すぎたロゼに、厳しく生きたマリア、最近ではロゼは姉に憧れ厳しく生きるようになった…それなのにこんな終わり方ってあんまりだ」
「そうですね、貴方、こんな化け物相手じゃ、人間がどんなに努力して無駄じゃないですか」
「折角、これから家族がお互いに赦し合い纏まった矢先にこれだ」
「それで、貴方はどうするんですか」
「私はこの命をチップとして娘2人に賭ける、もし二人が死ぬ事になったら死ぬつもりだ」
世界は絶望に染まっていった。
79話 ロゼ 賢者への道
【ロゼSIDE】
「よく来たわね、ロゼ」
「貴方様は女神様ですか」
「そうね、女神ではあるわ」
「ロゼ、それ、女神マイン様よ」
「マリア、まだ遅いわよ」
「痛っ痛いわ…」
何が起きているのかな? 今お姉ちゃんが首から肩まで再生してきたのに、また粉々にされたよ、ナニコレ
「女神マイン様、一体それは何をしているのですか?」
「これはね《再生》の訓練よ、敵は気を抜けば一瞬でマリア達を破壊できる位強いの、だからその破壊された状態から一瞬で復活しなくちゃいけないのよ」
これは本当に無いな..四職ってこんな訓練しなくちゃいけなかったんだ。
お姉ちゃんは凄く厳しいって思ってたけど、凄く優しかったんだな。
「それで、女神マイン様、私は一体何をすれば良いんでしょうか?」
「今、此処に居るのは、勇者、聖女、剣聖、賢者が居ないのよ」
「マイン様、この世界に賢者はおりませんよ」
「だから、作っちゃおうと思うのよ!」
「作っちゃおうって…そんな気楽にジョブなんて貰えるもんじゃ無いと思いますよ」
「そうね…だからさぁロゼ」
「何でしょう?」
「耐えてね!」
マイン様は何処からか杖を取り出すと、私の前で呪文を唱えた。
「あばばばばばばばーーーっ、苦しい」
体が焼けるように痛い…手足が自分の物で無いように硬直して反っていく。
硬直した手足が吊ったようになり、更に体の中の筋肉がブチブチと千切れていく。
「痛い、痛い痛いいたーーーーーーーーっい」
とんでもない激痛が走り、体から力が失われていく…もう尊厳なんて気に出来ない。
痛みと筋肉が弛緩したのか、股間から黄色い液体が盛大に発射された。
しかも固形物も…
「うえあおうえぇぇぇぇぇぇぇーーーーぁ」
盛大に胃の中の物を吐いた。
目からは勝手に大粒の涙がでて、遂には血迄流れだした。
「ごめん、耐えるしか無いのよ…頑張れ」
この糞女神は頑張れって言うけど、本当に頑張っている人にそんな事いっちゃいけないんだからね。
頭だけのお姉ちゃんがこっちを心配そうに見ている…私は動かない手を無理やり動かしてVサインを送った。
また、お姉ちゃん潰されちゃったけど..優しそうな目で笑ってくれた。
うん、お姉ちゃんは優しい、自分はもっと苦しい訓練をしているのに、笑ってくれるんだ。
頑張るよ、ロゼ頑張るから…
「いま糞女神って考えたわよね? 苦しいから仕方ないわね」
考えている事なら解るのね…なら…
私が賢者のジョブを持つとしても、魔法が使えるようになるまで時間がかかるんじゃないのかな?
そう考えた。
「偉いわね、その通りよ…だからねズルするの…これなんだ?」
??? 解る訳ない。
「これはね、私が治めていた世界の賢者の魂…勇者も聖女も剣聖もどうする事も出来なかったんだけど、この魂の欠片だけだ自力で私の元に戻って来たのよ…ミランっていうんだけどさぁ、よっぽど悔しかったのね、こんな欠片じゃ転生させてあげる事も出来ない…だから貴方の魂に練り込むわ」
「ハァハァ、しょんな(そんな)」
「うん、聖女だったんだから解ると思うけど、無理やり他の魂を取り込むんだから、痛さは格別、多分今のマリアより遙かに凄い激痛がはしるわ..」
やるしかない…それしか道が無いんだから。
「うあががががががっうぱうぱうあぱあああああーーーっ」
心臓から何かが取り出され、引っ張られる。
今迄とは非にならない…うんやっぱりお姉ちゃんは優しかったんだ。
お姉ちゃんに与えられた苦痛の数百倍の苦痛がはしる。
「痛いのはこれからよ…我慢してね」
何かが私の心に食い込んでくる…体の痛みは更に増して、今度は心にまで痛みが走った。
爪が全部割れて削げ落ち、歯も抜け始めた。
気を抜くと目玉が本当に飛び出しそうになる。
多分、オークやゴブリンにレイプされた方がまだ幸せな位激痛が走る。
体中の骨が多分折れた。
手も足も…明後日の方向をむき、首の向きも可笑しい…
嘘、目が、目が体から飛び出した、手で目を押さえようとしたが手は動かない。
激痛が続き、指から腕迄が全部曲がり、足は逆向いていた。
髪の毛は抜け去りまるで元から無いように坊主だ。
そして目は両方飛び出したのだろう…見えない。
肋骨は飛び出し、胸を突き刺し上に飛び出ている。
お姉ちゃん…パーフェクトヒール掛けて…
多分、このままじゃ…死んじゃうよ…
「パーフェクトヒール…よく頑張ったわね」
大好きなお姉ちゃんは、まだ首しかなかった…私に魔法を掛けてくれたのは、女神マイン様だ。
体は元に戻っていたが、精神的に疲れたのか、そのまま意識を手放した。
80話 スーパーロゼ???
私は目が覚めた。
周りには誰も居ない。
何、この物凄い感覚は…
今の私なら、何でも出来る気がする。
こんな充実感は全く感じたことはない。
勇者? 聖女? 剣聖…そんな者は越えたよ。
今の私は賢者、ううん、そんな者じゃない、そう1000の魔法を自由に使い、悪を滅ぼす存在。
賢者、何て超越した存在…古の伝説の賢者ミランの意思の継承者。
只のロゼなんかじゃない。
今の私は超越者、スーパーロゼだ。
お姉ちゃんに今こそ恩を返す時だ…
今の私は、確実にとんでもなく強い。
魔王すら仲間と倒し、己を限界まで鍛え上げた究極の魔法使い…ミラン。
それが今わたその中に居る。
今の私なら、あんな奴ら目じゃない。
私はミランの持っていた魔法を使い《空から来た者》の討伐に向った。
彼奴らも気の毒ね…確かに強いのかも知れないけど。
私のいるこの世界に来たのが間違いだわ…
飛び出そうとしているロゼを見つけたマインは慌ててその場所まで飛んできた。
「何考えているのかな~」
「女神マイン様、何って彼奴らの討伐をしようと思っただけよ…今の私なら簡単よ」
「今の貴方が行った所で簡単に殺されて終わりだわ」
「マイン様、私を侮っているの? 今の私は偉大なる賢者ミランを宿した者、魔王すら倒せる存在」
「だから」
「貴方は、とんでもない存在を生み出したのよ! 人を越えた存在、最早超越者、恐らく人類最強の存在、そうこのスーパーロゼをね」
「確かに、ミランは素晴らしい存在だったわ…だけどね リバイブメモリー」
マインは女神の力を使いミランの最後の記憶をロゼに見せた。
「嘘、これがミランの最後…」
「確かに、ミランは素晴らしい賢者だった、貴方の言う通りあの世界の魔王を仲間と倒し、世界を幸せに導いたわ…だけど、そんなミランでも彼奴らの前には通用しないで、散ったのよ」
「そんな、ミラン様でも通用しないなんて…」
「そうよ、ミランが通用しなかった相手に今の貴方が勝てると思いますか?」
「勝てないよ…こんな勇者も聖女も一瞬で殺す相手…」
「だったら、どうするの?」
「直ぐに強くなるわよ、私のなかには偉大なる聖女のお姉ちゃんと同じ天才の血が宿っているし、そして魂にはミラン様が宿っているんだから」
「そう、良い度胸だわ、だったら、早速こっちに加わりなさい」
「えっ」
ロゼの首が鮮やかに宙に舞った。
81話 歯が立たない
女神マインによる再生の訓練は終わった。
「全員が、死んだ状態から30秒以内で再生できる、此処からは精神の戦いです」
何だかんだ言って、この女神マインの根本的考えは《死なない存在と殺し合えば死なない》
そういう無茶苦茶な考えだった。
「確かにそうだわね、ええっ死なない相手に勝てる者は居ない…そういう事ね」
「そうよ」
確かに、死なない相手と戦って勝利を収めるのはむずかしい。
だけど、私がそんな者を相手にするならどうするか?
はっきり言って手はある。
力の差があるのだから、私ならミスリルの分厚い箱を作って閉じこめて海に沈める。
当番制にして10人掛かりで破壊しまくる、あれ程の人数だ、それこそ100日のうち1時間拘束すれば、半永久的にできるだろう。
元邪神が居るのだから、考える奴は絶対に居る。
「それで訓練はこれで終わり?」
「ええっ終わりよ、これから4人には私の加護を与えるわ、これにより恐らく能力は8倍以上に跳ね上がるわ」
「これは凄い、これなら彼奴らに対抗できる」
「ああっ、この剣であいつ等を貫くのが楽しみだ」
駄目だ、この話では破綻する。
確かにあの中で弱い者には通用するかも知れない…だがそこで終わり。
「待って、私の加護は一番最後にしてくれない」
「解ったわ」
私はこの空間を少しだけ散歩した。
実際には、散歩の振りをしてある物を探した。
思った通り、私が探していた者はそこにあった。
多分あると思った…これが多分本当の勝機だ。
「随分、遅かったわね、もう時間的にギリギリだわ、先に三人は向かったわ、貴方も向って」
「ごめんなさい…」
私は女神マインにニタリと笑った。
【人間界】
「やはり、結界に罅が入っている、もう数日で結界は崩れ去る」
「ギリギリ間に合った感じだな」
「それじゃ、やっちゃいましょう、皆」
結界から飛び出し、彼等は《空から来た者》に対峙した。
「ふぅ、我らを拒む結界を作った者の仲間か」
「どれ程の者かと思えばこの程度なのね…がっかり」
「そうかな、私は凄く強いよ? 来たれ獄炎の炎よ全てを燃やし尽くせ、インフェルノーーーッ」
獄炎の炎が《空から来た者》を襲う。
数体の個体は炎に包まれ焼けた。
「この程度か..ならば」
「ロゼ、俺たちも居るのを忘れるな…行くぞ、これが勇者の奥義、ライトニングフェニックスだーーーっ」
ガーラが剣を振るうと、剣から光り輝く不死鳥が飛び立った。
そして、その不死鳥は《空から来た者》達の間を通り抜けながら、翼の刃で斬りつけていった。
「今度は俺の番だな..行くぜ、煌めく閃光は避けられない、ジャスティスブレード」
光り輝く剣戟が《空から来た者》に襲い掛かる。
「痛いな、ちょっと怪我しちゃったじゃないか?」
「あーあ、私の顔に傷がついちゃったわね…どうしてくれるの?」
「忌々しい女神の犬なのね…あははははっこれから地獄が待っているよ」
「嘘だ、効いてないよこれ可笑しい」
「勇者の技が効かないなんて」
「おい、話が違うじゃないか?」
ガーラもロゼもジェイクも何が起きたか解らない。
実力が無くても四職、神界に行く前に見たこいつ等には賞賛があった。
だが、今の自分達の技が効かない…
「何故、これが通用しないんだ…可笑しい、前に見た時も、この前もこれなら…」
特にガーラは過去に見た事がある、その時の奴らなら通用するはずだった。
「成程な、お前は我らを見たのだな…だが勘違いしている、普通なら《兵》に任せて僕は来ない、僕の位は《尉》元勇者だ」
「確かに《兵》だったら死んでいたかもね? 私、私は《士》元聖女ね、まぁ兵で壊せない結界だって言うから見に来たのよ」
《嘘だろう、あんな強いと思った相手が…一番弱かったなんて…終わりだ、だが終われない》
「はぁーっこれで終われるか、まだまだ」
「終われないわ」
「やっぱり貧乏くじだ…やんなるな」
最後の意地で三人は挑んでいった。
「う~ん、メンドクサイな可哀想だから殺してやるよ」
「そうね、私は元聖女、楽にしてあげるわ」
彼等が軽く手を振るだけで…三人は胴体から真っ二つになった。
「案外あっけなかったな」
「でも兵なら倒せたわ、可哀想よ…あら生きている」
三人の体が治っていく様子を二人は見ていた。
「あらあら生き汚いわね」
「ああっこのパターンね…一番可哀想なパターンだ」
「君達みたいな戦い方をした、勇者達が居たんだよ…そいつ等どうなってると思う?」
「「「….」」」
「死にたい、死にたい、死にたい、死にたいって発狂したように叫んでいるのよ、可哀想だから《将》クラスの方が死なせてあげたんだ」
「うふふ、私は殺せないから暫くおもちゃになってね…ホワイトウエッジ」
白い楔と鎖が現れて彼らを絡めとり、十字架に張り付けられた。
「これで終わりだ」
【地上】
「そんな、剣聖ジェイク様が、聖女ロゼ様が負けるなんて」
「世界はもう終わりだ」
「帝王様…無念です」
「あれで無理なら全軍でも相手にならないだろう…自決して名誉ある死を選ぶ方が良いだろうな」
「最早これまで、私は先に逝くよ後は頼んだ」
「国王様…」
「化け物に殺される位なら潔い死を選ぶ、私は化け物に殺されたんじゃない自決したんだ」
「教皇様…終わりです」
「まだ、終わっていない、あそこにはマリア様がいない」
「ですがこの状況は如何に愛し子様でも」
「私が信仰する、あの方が負けない限り私は負けを認めない」
「ですが」
「今こそ、布教に行きましょう、愛し子様の事を…死ぬのはまだ早い」
「そうだ、あの嬢ちゃんが居る限り負けは無い」
「笑いながら、呼んだとか来てぶち殺すかもね」
「「「あははははっ」」」
知っていた、もう終わりだと誰もが…多分あの結界も直ぐ壊される、そしてその時に世界は終わる。
82話 空から来た者の最後
「不死人の戦い方はもう研究済みなんだよね」
「その戦い方は他の世界の女神が既にやっているのよ…まぁ面倒臭いけど」
そう言いながら見下ろされた三人は…
勇者ガーラは目を潰され、顔が削がれたのだろう、下には引きはがされた顔が幾つも落ちていた。
賢者ロゼの下には乳房が幾つも落ちていた、顔のパーツも無数に落ちている。
剣聖ジェイクの下も同じようなものだ。
しかし、彼等は苦痛に顔を歪めても言葉は一切話さない…ただただ、相手を睨めつけている。
「相変わらず、このタイプの戦い方する奴は話さないのな」
「本当に人形みたいでつまらない、この女、兵の奴らに輪姦でもさせれば反応するかしら」
「無理だと思うな、この技術は身に着ける過程でかなりの苦痛を味わっているからさ」
「それじゃ、見ていても詰まらないから《兵》の奴らに残虐ショーでもして貰うか…」
「あれ、気のせいかしら光がある気がするんだけど」
「どうしたんだ、後ろに随分隙間がある気がする」
グシャグシャ、バキバキバキ…何か大きな音がする。
まるで《将》や《王》が暴れまくって仲間が死んだ時の様な音だ。
《可笑しい、可笑しい、たかがこれ位じゃ動かな筈だ》
気がつくと手の様な物が無数出てきて、その手には牙の付いた口が付いていて、仲間が食べられている様だった。
「ななななっ、なんだあの化け物は」
「恐ろしい、あんな存在見たこと無い…まさか喰われたのか…逃げないと」
「今更遅いわよ、ほらもう貴方達2人しか居ないわ」
そこに居た者は72枚の羽を生やして、無数の口の生えた手を100本の手を持った女神にも邪神にも見える女だった。
「ななななっ、貴方様は何者ですか」
「どういう方なのですか…仕えましょうか」
一目見た瞬間からその禍々しさと神々しさは解る、あれは人の存在から離れた者なのだと…
「あの、私達の後ろには《将》とか《王》はどうされたのでしょうか?」
「ああっあれね、何だか偉そうにしていたけど…」
「「ゴクリッ」」
「食べちゃった」
「あれだけ全部を…そうだ、貴方様は一体どんな方なのですか?」
「あっ私…私はマリア、この世界で聖女と呼ばれていた者だわ…それじゃいいかしら? いただきます」
グシャッバキバキ
彼等が最後に見た者は、自分を食べようとする…存在だった。
(今度こそ、おおよそ後3話で終わります)
83話 神を越える者
「私、手っ取り早く強くなる方法を思いついちゃったのよ」
「マリア、何を言っているのですか? そんな方法はありません、それより加勢に」
「良いから聞いて」
マリアの迫力がなんだかおかしい…よく見ると服に血がついている。
「解ったわ、聞くわよ」
「あのね、マイン…神様を食べるのよ、そうすると簡単に強くなるわ」
マリアが一瞬何を言ったのか解らない。
《聞き間違いよね…》
「何を言っているの、聞き間違いよね」
「あのさぁ、気がついたのよ、マイン、貴方ロゼに賢者の魂を見たいな物を組み込んだじゃない? だったら女神や神の血肉も何か宿っているんじゃないかなってね」
《聞きたくない、聞きたくない、怖すぎる》
「それで」
「この世界の死んだ女神様や神様の肉を食べてみたら、結構力がついたわよ」
「それなら、直ぐに援軍に」
「私、マインより強くなったと思うんだけど、まだ足りないのよ」
「まさか、貴方、私を食べようと言うの…そんな事したら大変な事になるわ」
「知らない…頂きます」
床にはマインの首が転がっていた。
「貴方、女神や神を食べると同じ様に《神》になるのよ、神は人間に直接干渉できないわ」
首だけになったマインが話している。
「そうなのかも知れない…だけど、私が力をつけたら話は違うわ、そうね上級神が逆らえない位なら違うと思うな」
「何するの」
「この空間は貴方が支配しているから、貴方も直ぐに…ああっもう再生したのね、それでほら、彼奴らが滅ぼした神界に行けば、まだ沢山ありそうじゃない、神や女神の死体、無ければ、頭を下げて食べさせて貰うわ、他の神様に」
「それは禁忌も良い所だわ」
「あんな者を野放しにしている神よりまし」
《そう言うとマリアはこの世界を出て行った。そしてほんの僅かな時間でマリアは帰ってきた。》
「流石の貴方も気が咎めたのね」
「違うわ…数千年位、神を食べまくって今帰ってきたの?」
「そんな訳無いわ」
「貴方が時間を巻き戻せるのに、私が出来ない訳無いじゃない」
「嘘…」
「それじゃ、私の今の姿を見せてあげる…」
「マ、ママリア様…一体幾つの神や女神を食べたの?」
「えーと1000から先は数えてない」
「1000~って」
《何、あの姿、あの羽は天使から女神になった特徴だし、あの無数の手は異国の千手の仏の物、あの無数の口は悪食、見た感じでは沢山の神の特徴を持っている…多分神格は、創造神様に…嘘、あの腕は創造神様の特徴》
「沢山過ぎて解らないのよ…なかには死体でなく、あれをどうにかしてくれるならと、魂魄をくれたり、体を食べろって寄こす神も居たわ」
《あははっ それでこの神格なのね》
「えーとマリア様、それでは」
「今度こそ、あいつ等の討伐に行ってくるわ」
「いってらっしゃい」
もう《空から来た者》も終わりね…あれは正に、いうなればゴッドマリアだわ。
あんな者を敵に回したら…神だろうが何だろうが《食べられて終わり》
禁忌の到達点があれなのね…ゴッドイーターと言えば良いのか解らない…
だけど、あれに勝てる存在なんて恐らくこの世に居ないわ。
マインは復讐は終わったとばかりに…溜息をついた。
真の最終話 女神
「あははっマリア様お可哀想に」
あれから、全てを終わらせた後、私は「パーフェクトエリアヒール」を掛けて全ての命を復活させた。
だが、もうあの世界には私の居場所は無かった。
「神ですね神に成られたのですね…この教皇、信じていました」
「貴方は女神様です、私が帝王? あはははっ神から比べたら只の人です」
「そうですよ、王なんて只の人間ですからね」
最早、人間として扱ってくれない。
うっかり恋愛したいって言おう者なら…
「何処の誰ですか…欲しい人物がいるなら、この教皇が生贄、げふん、献上品として連れて来ましょう」
「我が国ですか、それなら喜んで…」
もう、こんなの最早恋愛も結婚も出来る訳ないじゃない…
ガーラは跪くし…ジェイクにはとうとう女神かと言われた。
そしてロゼには..
「流石、お姉ちゃん、私毎日、お姉ちゃんにお祈りするね」
とうとう身内にも《神》あつかい、もう何処にも言ってもだめだ…
ガーラ、好きだったんだけどな…勇者のせいか女神としてしかあの目には映ってないし…
前の時にはあんなにラブラブな死に方したのに….
「あはははっマリア様、神は人間とは種族が違うから恋愛は無理です…子供なんか賭けですよ」
「賭け?」
「そうです、この世の者とは思えない化け物が生まれる時もあるし、半神半人って不幸な人生も多いです」
「へぇー それじゃ私の伴侶は神から選ぶしかないのかな」
「それも無理ですね…そんな禍々しい神格の神、怖いですから」
「マイン、女神の力でどうにかして」
「あの、遙かに神格が上の神が何を言っているのでしょうか? 無理です」
結局、世界を救い続けて…女神になっても何も手に入らなかったな…
「マイン…つまらない」
「マリア様は禁忌が好きですよね…なら自分で作っちゃえば良いんじゃないですか?」
「作る?」
「はい、ルーテンという世界に私と同じ名前のマインという女神が理想の殿方をつくる研究をしていますよ」
「なら、そこに会いに行こうか」
「はい」
女神になってもマリアはマリアだった。
【FIN】
あとがき
1回終わった物語を再度続きを書いてみました。
最終的にはヒロインが死んで終わる形で書いたのですが、一部の方から不幸すぎるという感想を頂きました。
ですが、当時の私は不幸のどん底で、幸せな話が書けませんでした。
そして敵を強くしすぎて、対抗手段も思い浮かびませんでした。
ところが、夢でマリアの怒られ(変なゆめですね】
続きを書いたら、あれ続きが書けた…そんな感じです。
そして折角書くなら、本一冊分 13万文字まで書いてみました…
結局、マリアは…こんな感じで幸せにはなり切っていない終わりです。
ですが、最初よりは良くなったかなと思います。
最後まで有難うございました。