追放から始まる物語
パーティーリーダーであり勇者のジョブを持つリヒトが告げる。
「悪いが今日でクビだ」
「そうか、まぁ良いや」
リヒトとは幼なじみだ。
「今迄ずっと仲間で支え合いながらやっとここまで来た」俺がそう思っていると思っているのか?
そんな風に思っているのは、お前達の方だけなんだぜ。
剣聖のケイト
聖女のソニア
賢者のリタ
五人揃ってSランクパーティー『ブラックウイング』そう呼ばれていた。
やや中二病な名前だがまぁリヒトは勇者だし、剣聖や、聖女、賢者まで居るから可笑しくないな..
確かに最近の俺は取り残されていた。
ジョブの差で成長した3人に能力が追いついていないのは事実だし、仕方ない。
だから、別にクビになっても良いと思っていた。
いや、寧ろクビになりたい、そう思っていた。
腐ってもSランクパーティーのメンバーなんだぜ、俺も。
此処を出れば、幾らでも次がある。
こいつ等は確かに凄い、だけど俺だってSランクなんだからな、他に行くだけで幸せになれるんだよ。
一流と言われる位の価値はあるんだよ。
「ついて来れないのは分かっているだろセレス」
「そうだな、確かに魔法戦士の俺じゃ皆について行くのは…難しいな」
こう言っておいた方が無難だ。
此奴の狙いは解っている、ハーレムが欲しいのだ。
実は俺は欲しいとは思わない。
『少なくともこのメンバーは要らない』
あっ最初に言っておくけど、三人とも美少女だぞ。
「勇者とし大きく飛躍するには大きな手柄が必要なんだ。残念ながらお前とじゃ無理なんだ。なぁ分かってくれよ、パーティを抜けてもお前が親友なのは変わりないからな。」
リーダーが言うなら仕方ないだろうな…
まぁ、親友で居てくれるなら良い。
他の奴はどうなのだろうか?
俺はリタの目を見た、彼女ももう昔の優しい目をして居ないしリヒトの女になっているのも知っている。
結構可愛い子だったんだけどな。
「私もリヒトの意見に賛成だわ!貴方はもうこのパーティについていけないじゃない。きっと近いうちに死ぬか大怪我をするわ..さっさと辞めた方が良い…これは貴方の事を思って言っているのよ」
「リタ…そうだよな…ありがとう!」
まぁ、そう言うだろうな! リヒトといちゃつきたいんだろうからな。
ふと、リタの左手に目が行く。
薬指には見覚えのない指輪があった、これは多分リヒトが買い与えた物だろう。
俺を好きだと言って、買わせた指輪はもうしていない。
まぁ、『好き』の意味がリタと俺で違うから、これで良かったとも言える。
他の2人も同じ指輪をはめていた。
これでリヒトのハーレムにこのパーティはなった、そういう事だ。
勿論、ハーレムパーティーに俺は要らないな。
そう言う事だ、まぁ一応確認はしておくか?
「リタ…二人の関係は終わりで良いんだな」
「….」
「君の口から聴きたい」
「もう、貴方を愛していない」
正直、ホッとしている。
俺からは言いずらいからな、向こうから振ってくれて良かった。
「まぁ、リヒトは良い奴だ、幸せになれよ!」
「し..知っていたの?」
「仕方ない、仕方ない、リヒトは勇者だ…他の男なら決闘だが、リヒトなら諦めもつく」
「ごめんなさい!」
「気にするな」
この位の演出はした方が良い。
恋愛感情は無くても嫌われる訳にはいかないからな。
「大人しく村に帰って田舎冒険者にでもなるか、別の弱いパーティでも探すんだな」
「そうだな、俺は田舎に帰るとしよう」
こいつは俺とリタが付き合っているのを知っていて口説いた。
まぁいいさ…
親友でも恋愛は別、そんな奴だ。
リヒトは勝ち誇った顔で俺を見ている。
思いっきり、俺をあざ笑っている。
俺はお前が嫌いじゃない、だからそんな顔するな。
この顔だけが凄くムカつく。
何をしても優秀で、顔も良くて、強くて、おまけに勇者に選ばれた。
そんなお前が、俺にとっては自慢なんだぜ。
女癖が悪くても、親友だからな!
リタは確かにおれの恋人だったが、それもお前のパーティに居るから仕方なくなんだぞ…まぁ本音を言えば、お前に持っていかれて助かった。
お前がケイトとソニアを好きだから、可哀想だから俺が相手しただけだ。
お前がリタも好きなら、俺は相手にしなかった。
勇者パーティに居るならメンバー以外に選択肢が無いからな、ケイトとソニアをお前が好きだから、情にほだされただけだ。
本音で言えよ。
此処には俺の癒しは無い。
お前になら全員くれてやった。
「さようなら、セレス」
「さようなら」
「貴方より!リヒトの方がごめん…」
三人の幼なじみが一斉にお別れの言葉を言ってくる、恋愛感情は一切ない。
だけど、少し寂しく感じる。
「じゃぁな!」
「余り酷い事言うなよ リタ!セレスだって俺の親友なんだからな」
「そうね。私も言い過ぎたわ。ごめんねセレス」
「気にするな!今度会った時は笑って話そうな…世話になったな。四人とも幸せに暮らせよ!」
「それじゃ、パーティから抜けてくれるんだな!」
「ああ、お前達は世界を救えばいいんじゃない。じゃぁな、俺は田舎に帰って違う人生を探す」
一旦、此処でさようならだ…
前世を引き摺る転生者。
「セレス、相変わらず女気が無いな」
「放って置いてくれないかな?」
リヒト、お前が『俺を好きな女の子』を全部口説いていくから俺の周りに居ないのが原因なんだろうが。
「しかし、13歳になって女っ気が無いなんて大丈夫か?」
「知らんわ、大体、俺を好きそうな女の子が居ると全部お前が付き合うから、こうなっているんだろうが、お前、ソニアにケイトと付き合っているんだからもう充分じゃないのか? リタだって多分お前が好きなんじゃ無いか?」
「仕方ないだろう? 俺が声を掛けると、何故か皆が俺を好きになっちまうんだから、女は良いぞ、幾ら居ても」
「そうかい、そうかい、それじゃ仕方ないな、はいさようなら!」
確かにリヒトは男の俺から見てもカッコ良いし、女との付き合い方以外は欠点が無い。
頭は優秀、顔は美少年、そして勇者のジョブ。
うん、俺には勝てる要素は無いな。
こうやって『女癖が悪く、その事で俺にマウントかける以外は、良い奴なんだ』
◆◆◆
実は俺には誰にも伝えてない秘密がある。
それは転生者である事だ。
言っておくが、前世の俺は凄い人物じゃない。
簡単に言えば一流の大学を出て一流商社に勤めていたサラリーマン。
凄いだって?
違う、違う!
寝る間も惜しんで死ぬ程勉強して、なんとか一流と言われる国立には入った。
だが、そこでの成績は下の下、そして上場企業では頑張って課長止まりだった。
そして、この辺りの記憶は曖昧なんだが、多分40歳位で亡くなった。
生まれ変わって赤ん坊になっていた時は羞恥心で真っ赤だったぞ。
女性の乳に噛り付いて乳を吸って、うんちの始末迄してもらって、うん地獄だ。
ちなみに、この世界の人族の寿命は大体50歳~60歳位だそうだ。
この世界の俺は所轄、捨て子だった。
正確には、このジミナ村にたどり着いた冒険者らしい男性が、辿り着くとそのまま息絶えた。
その男性が抱いていたのが俺だった。
流石にこの辺りの記憶は曖昧だ。
そんな俺をジミナ村の人々は不憫に思い、皆で育ててくれた。
ジミナ村は裕福な村で、尚且つ子供は村の者という考えがあり『親のいない子は村で育てる』そういう風習がある。
そこがこの世界の俺のスタートだ。
この村には俺以外にも4人の子供が居た。
その4人が リヒト ソニア リタ ケイトだった。
まぁ、仲良く遊んでいたよ。
魚をとったり、虫をとったり、仕事の手伝いもしたな。
リヒトは凄くモテる奴で近くの村から沢山の女の子が見に来ていた。
まぁ、此奴にとって『女にモテる』のが凄く大切らしく、良く俺にマウントをとってくる。
それ以外は良い奴なんだが、それだけがうざい。
大人びた感じの美少女ソニア、活発で天真爛漫な美少女ケイト、そしてオドオドしがちなリタ、この村の同世代の美少女がリヒトを好きなのも解るな。
まぁ『女絡み』じゃなければいい奴だから、問題はない。
ちなみに俺はリタと一緒に遊ぶ事が多い。
別に俺がリタを好きな訳では無い。
ソニアとケイトはよくリヒトを取りあいながらも三人で遊んでいる。
そこからあぶれるのがリタだ。
だから、可哀想だから俺が遊んでやった。
それだけだ。
成人の儀式で 四人が勇者絡みのジョブを貰い、俺は魔法戦士だった。
四人は魔王討伐の旅に旅立たないといけない。
俺はどちらでも良かった。
だが、村長や彼らの親が心配そうだから『しっかり者』で通っていた俺が付き添った。
まぁ、リタが孤立したら可哀想だとか、幼馴染が困らないか心配だ、そんな事もあった訳だが。
こんな感じで、俺は幼馴染の勇者パーティーと行動を共にした訳だ。
まぁ結局は追放されてしまったが…気にならない。
俺は大人だからな。
◆◆◆
三人の幼馴染は凄く可愛い。
多分、俺が前世の中学生時代に告白されたら、感動しただろう。
此処からが俺の問題。
俺は前世で約40歳で亡くなっている訳だ。
そして今の俺の年齢は15歳。
前世を引き摺るな、そう言われそうだが、合わせると55歳位。
そして俺は前世の記憶があるんだ。
前世で結婚して、嫁も息子も娘もいた訳。
更に言うなら子煩悩でしっかり子育てしたんだ。
だから…リヒトや幼馴染は『子供』にしか見えんのよ。
いや、努力はしたんだ。
勇者パーティは、長い旅をするから、仲間からしか伴侶を選べない。
リタは孤立していて寂しそうだから、自然と相手は俺になる。
だからリヒトが選んであげないなら、俺がと考えなくてはならい。
だが、正直『娘』下手すれば『孫』にしか思えなかった。
キスだけはしたけど、正直『お父さんありがとう』のキスと同じに思えてしまった。
頭の中の前妻が『子供に手を出すの』と語りかけ、頭の中の娘からは『お父さん最低』の声が聞こえた気すらした。
だから、リヒトがリタも望んだ時に実はホッとしている。
リヒト達と居たのは父性だ。
同年代だが、息子や娘の様に思ってしまう。
勇者パーティは複数婚が認められているから三人とも将来娶るなら、それが良い。
俺は本当に田舎に帰るかどうかわからないが『子供を送り出した気分』で新しい人生を歩むとするよ。
地竜討伐
「自由だ~」
多分、リヒト達も同じ事を言っていると思う。
俺に隠れてイチャイチャしていたが、これからは自由だ。
可哀想だが、勇者パーティは一線は越えられない。
もし子供でも出来てしまったら、そこから暫くは、魔王討伐の旅は出来なくなる。
まぁ、それ以外は自由にできる。
今頃は邪魔者が居ない生活を満喫しているだろう。
リヒト達は、魔王と戦う運命から逃げられない。
だから、思う存分今を楽しんでもらいたい。
さて、久しぶりの1人。
これから先俺は自由に出来る。
どうしようか?
田舎に帰るか? それとも冒険者をするのか?
まぁ、少し稼いでから考えれば良いだろう。
◆◆◆
俺はというと冒険者ギルドへ来た。
確かにジョブの違いでリヒト達には敵わない。
だが、俺は勇者パーティのメンバーではあるんだ。
冒険者としてのランクはS。
これは1人でも下級の竜が狩れるという証でもある。
竜が狩れれば、高額なお金が手に入る。
「アリストン、冒険者ギルドへようこそ! 依頼を受けられるのですね」
「これをお願いしたい」
俺は壁に貼られていた依頼書を剥がして渡した。
「あの、これは地竜の討伐依頼書ですよ? 揶揄うのは止めてくれませんか? 貴方1人ですよね」
俺は冒険者証を渡した。
「こ、これは世界に9枚しかないオリハルコンのプレート、勇者パーティ、セレナ様でしたか、ご無礼をお許し下さい」
まぁこんなもんだ。
勇者パーティで通用しなくても冒険者のランクはS、世界で10本の指には入るんだ。
「良いよ、気にしないで、こんな見た目じゃ解らないよね」
「すいません」
「それで、この依頼受けても良いよね」
「勿論です、最早塩漬けに近かったので本当に助かります」
俺は地竜の討伐依頼を当座の金を稼ぐために受けた。
◆◆◆
地竜の狩りを選んだのには理由がある。
ワイバーンと違って空を飛んで逃げられない。
しかも、今回の依頼書には住んでいる場所が書いてある。
前世で言う所のサイに近い感じだが、俺ならその突進にも耐えられる。
正に俺に狩って下さい。
そう言わんばかりの依頼だ。
◆◆◆
地竜が住んでいるという平原にやってきた。
見渡す限りの平原。
問題の地竜はすぐに見つかった。
俺は鋼の剣を構える。
「ライトニングソード」
これは剣に雷の魔法を這わせて斬りつける、魔法剣士の特有の業だ。
「ブモオオオオオオオオッ」
地竜が突進してきた、普通の人間ならこれで終わりだ。
だが、俺はそれを躱して飛び上がり剣を頭に刺した。
これで、騎士団1個師団で対応が必要な地竜の討伐は終わった。
日給 金貨50枚
「流石に地竜はそう簡単にはいかなかったですか?」
俺は地竜を収納袋に入れている。
だから、気がつかないようだ。
「地竜なら狩って来た、それで何処に出せば良いんだ」
「えっ、狩って来られたのですか?それなら此処で出して貰って大丈夫ですよ」
「そうか、そう言うなら」
俺は収納袋から地竜を出した。
するとギルドの酒場迄はみ出す位ギルドが狭くなった。
「ち、違う、依頼書に書いていたのはこんな大きな個体じゃありません」
「地竜としか書いて無かったぞ、まさか依頼料を踏み倒したりしないよな?」
「し、しません、寧ろ申し訳ないのでギルマスに相談しますので、少しお待ちください」
髭もじゃの親父と一緒にさっきの受付嬢が来た。
「これが、地竜か? 情報の倍以上あるじゃないか? まさか、討伐したパーティに犠牲が出たのか?」
「それは大丈夫です」
「そうか、それなら、本来は金貨30枚の仕事だが、個体の情報に間違いがあったようだ、金貨50枚で話をつけてくれ」
「解りました」
「それで、どのパーティがこれを狩ってきたんだ」
「俺ですが」
「お前が、お前一人でこれを馬鹿言うな」
「ギルマス、シーシーッ」
「何だ? どうした?」
「ギルマス、話し方に気をつけて下さい、この方は、勇者パーティに所属して世界最高峰のSランク、セレス様ですよ」
「セレス様…ご無礼しました」
「いや良いよ、俺は勇者パーティをクビになった身だから、ただのSランク冒険者だ」
「いえいえ、Sランクと言うだけでも凄い事です。それに勇者パーティじゃなくても貴方は『英雄』だ、これからは此処ではなくラウンジの方で対応させて頂きます」
ラウンジとはランク上位者のみが使える受付で、お菓子や軽食が無料で食べれる。
「助かる」
「それでは、早速換金致します」
俺は金貨50枚(約500万円)を手にしてギルドを後にした。
なっ勇者パーティを抜けても全然困らないだろう?
奴隷商にて
金貨50枚(約500万円)のお金が簡単に稼げてしまった。
これで当座のお金には困らない。
勇者パーティ時代はこうはいかない。
基本的に勇者輩出国であるトリストニア国がお金を仕送りしてくれる代わりに『無料奉仕』もしくは『国にお金を持っていかれる』。
まぁ前世で言う所の公務員に近いのかも知れない。
『生活費は出してやる、だけどお前の物は俺(国)の物、俺(国)の物は俺(国)の物』
まるで何処かの歌の苦手なガキ大将みたいな感じだ。
実際に『女神の雫』という宝を手に入れたが、それは国の物になり、ボーナスとしてパーティ全員に金貨2枚のボーナスが出ただけだった。
もし売れば金貨5000枚は降らない秘宝なのにだ。
これで如何に勇者パーティが搾取されているか分かると思う。
◆◆◆
それは兎も角、俺は今金貨50枚も持っている。
リヒトは案外、女が絡まなければ良い奴で、しっかりと必要な装備や道具は俺にくれた。
正に『恋愛と友情は別』を地で行く奴だ。
まぁ俺からしたらガキになるがそれはまだ10代半ば仕方ないだろう。
俺は久々に奴隷商に奴隷を見に行く事にした。
「これは、これはセレナ様、私の店にようこそ、今日はどう言ったご用件でしょうか?」
勇者パーティに所属していたから、本来はそこそこ顔が売れている。
まぁ似顔絵が各種お店に出回っている。
冒険者ギルドは、多分冒険者証で確認が取れるから、顔を覚えてなかったのか?
知らないが。
勇者パーティは旅から旅、それに加え奴隷を買うなんて外聞が悪くて出来ない。
人の手が必要なら騎士や冒険者を無料で借りられるから縁がない店だ。
最も、『興味がある』からリヒトと一緒に覗いた事がある。
三人から白い目で見られ、リヒトは『俺に無理やり誘われた』そういって…
俺だけ責められた。 まぁ懐かしい思い出だ。
「今日は少し奴隷を見せて貰いたい」
「セレス様、勇者パーティなのに奴隷をお持ちになるのですか?」
「まぁな、恥ずかしい話しだが、勇者パーティは追放された、だから『女』の仲間が欲しいんだ」
「成程、『女』の仲間ですね」
何だか奴隷商の顔がにやりと笑った気がしたが、まぁ見間違いではないだろう。
「そうだ」
「ならば任せて下さい、当店は貴族令嬢やエルフ等高価な奴隷も揃えております、それで
どの様な女の奴隷が欲しいのでしょうか?」
「そうだな、年齢で言うなら20代半ば以上、後半でも30代でも構わない、黒髪、黒目でも問題無いし、銀髪赤目でも良い、素性は問わないが、元美人、元美少女は大歓迎、あくまで元だ」
「はい?」
奴隷商が驚いて変な顔をした。
俺が言っている事は『品質の良さを売りにしている高級店に敢えて、質の悪い者を欲しい』と言っているような物だ。
食い物で言うなら『国産牛で松坂牛を販売しているお店で、輸入牛』をくれと言っている』クレーマーに近いと思う。
この世界の寿命は人族なら50歳から60歳。
その為、女の奴隷としての価値は20代前半から急激に下がる。
23歳にもなれば、性処理奴隷としての価値は低い。
まぁ18歳で行き遅れと言われる、前世で言うなら貴族、武家の時代に近い。
「すみません、私とした事がすっかり勘違いしておりました『家事奴隷』が欲しい、そういう事でしたか?」
「基本はそれだが、勿論『恋愛対象』になる方が嬉しい」
「はい? 失礼ですが、セレナ様は、その14~16歳位ですよね? しかもS級で男の私から見ても美形に見えますが、それが、その言っては何ですが、そんな高齢の女奴隷をしかも寵愛の対象で選ぶのですか?」
リヒトは超美少年、まぁ前世で言う所なら芸能人クラスだ、それとは流石に比較にはならないが、俺もクラスで5本の指に入る位の容姿はしている。
前の世界ならこの年齢差は、ちょっとで済むがこの世界では異常になる。
まぁ、仕方ない誤魔化すしかないだろう。
「俺は、まぁ俗にいう孤児でな、少しは家族愛みたいな物を感じたいのだ、察してくれ」
「左様ですか。 言いにくい事を言わせてしまい申し訳ございませんでした、ですが当店は『高級店』ですので、その手の奴隷は店に入って来ても、すぐに鉱山や人手が必要な作業場に流してしまいます。 そうですね、予約頂ければ優先的にお声かけいたしますが、何時入ってくるか?…うん、あっそう言えば確か、隣町で『奴隷市場』が開かれるのが明後日でした、宜しければ参加してみませんか?」
「それは奴隷商人以外の者は入れないのではないかな」
確か市場には一般人は入れない筈だ。
「何を言います、セレス様Sランク冒険者で元勇者パーティ、何処にでも入れますし、私がビザを発行します、それにセレス様が一緒なら道中安全ですからな」
流石は商人だ、俺の事を考えながら、無料でSランク冒険者に護衛させようと言うのだな。
これなら特に恩を着る必要は無い。
「すまない、お願いする」
「それでは明日の昼までにもう一度商会に来て下さい」
「必ず行かせて貰う」
俺は明日もう一度此処に来る約束をして店を後にした。
奴隷市場へ
我ながら、前の世界に引き摺られ過ぎなのは解るが仕方ないだろう。
娘が居て、子育て経験した記憶がしっかりあるんだからな。
割と俺の娘は天真爛漫で結構な歳迄一緒に風呂に入っていた。
一緒に暮らして居れば、下着姿の娘や風呂上りの娘を見てしまう。
それに発情する親は居ないだろう?
娘は友達も家に連れてくるから『この年代はどうしても駄目だ』
これでも一応は努力したんだが無理だった。
生まれながらにして40歳分の記憶がある。
5歳になった時には、45歳なんだ。
リヒトやリタのお母さんすら子供の頃に既に年下に見えてしまうんだぞ。
この世界は普通に14歳から16歳で子供を産むからな。
18歳で結婚してないと行き遅れなんだって。
リタもソニアもケイトも美少女だ。
その母親は勿論、美形だ。
何が言いたいのかと言えばジミナ村での俺の恋愛対象は『幼馴染の母親達』下手すら『お婆ちゃん』だった。
最も15歳で子供を産んだのなら5歳の時に20歳だから母親でも若すぎる。
15歳になった今、30歳ちょいすぎだから今が正に俺からしたらストライクになる。
ちなみに、5歳の俺から見たお婆ちゃんは19歳から20歳位の母親の親だから35歳前後。
充分、精神年齢40歳越えからしたら恋愛対象になるが、この世界では半分老人扱いだ。
20歳以上の俺から見たら若い女性がもう既に女性を半分捨てていて、薄着で農作業していたり、川で野菜を洗っていたりする。
俺が眺めていたら
「こんなおばちゃん見ていて楽しいのかい」とか「なぁにおばちゃんの乳が見たいのかい、見る?」
とか言い出す。まぁ向こうからしたら俺が孤児なのを知っていて『母親恋しさから見ている』そう思っての行動だと思うが実に艶やかしい。
リヒトの前で『田舎に帰る』と言ったのも満更嘘ではない。
ジミナ村の男は冒険者が多く、未亡人も多い。
しかも、20代半ばから女扱いはされにくい世界だ。
もし旦那が居ても、その位の年齢の女性であれば真剣に話せば譲ってくれる可能性すらある。
その位この世界では、ある程度歳をとった女性の価値は、商人や貴族、王族を除けば低い。
『案外ジミナ村に帰る』それで幸せになれるかも知れない。
まぁ15歳で相手にしてくれればだがな。
◆◆◆
奴隷市場に行く日が来た。
まぁお金は掛からないと思うが昨日更に、水竜を狩って資金を金貨30枚追加した。
まぁ、俺が欲しい奴隷は凄く安いと思うが念の為だ。
「おはようございます」
「セレナ様、此方こそ宜しくお願い致します」
俺が護衛する立場の筈だが、何故か奴隷商の主と共に馬車に乗った。
「俺は外で護衛しなくて良いのか?」
「何をおっしゃいますか、通常の護衛はおりますからご安心下さい、セレス様は『もしも』の時だけお願いします」
「それで良いのか、すまないな、解った」
実質、隣町までだから問題等起きる事は無いだろう。
そして実際に何も問題が起きずに隣町についた。
競りにて
奴隷市場についた。
奴隷商の主は、俺に入場ビザをくれた。
それを持って一緒に入場した。
「セレス様此処で一旦お別れです、私は仕事で高額奴隷の方の入札会場に行きます、セレナ様とは別会場になります。商会からはマイクをつけますので困った事があったら何なりと聞いて下さい」
俺は奴隷商の主と別れて別会場に向った。
「マイクさん、入札ってどうやれば良いのでしょうか?」
「簡単ですよ、手を挙げて大きな声で金額を言うだけです、その後に誰もそれ以上の金額をつけなければそのまま落札となります。 他の方がそれ以上の金額をつけたら、競争になり最終的に一番高額の金額をつけた方の物となります。 奴隷商と違いオークションの主に落札金額の10%と奴隷紋の刻み賃銀貨8枚が別途必要になりますからご注意下さい。なお、現金決済のみで冒険者カードや商業ギルドカードは使えませんのでご注意下さい」
普通の競となんだ変わらないんだな。
「ありがとう」
「いえ、私の事はマイクとお呼びください、更に注意するなら、これからセレス様が行く会場の奴隷は難あり扱いになります、犯罪奴隷も含まれ、更に購入後すぐに死んでしまっても保証がないのでご注意下さい」
なんでも通常の奴隷であれば3か月の生体保証があるそうだ。
完治不可能な性病、死ぬ可能性のある病等、診断書つけてクレームをつければ返金して貰える。
だが、これから行く会場の奴隷にはこの生体保証がない。
極端な話、購入後すぐに死んでしまっても責任は無い。
そんな感じだ。
会場のテントは大きい物の、なんだか暗い感じがする。
一緒に競りをする席の他の人間も、肉体労働者が多い。
よく見ると犯罪者っぽい人間も多くいる。
「此処に来ている人間の多くは、力仕事に使える『男』狙いです。基本的にはライバルになる方は少ないと思います。あと女性の奴隷は少なそうですね」
「そうなのか?」
「そりゃそうでしょう、二束三文以下の存在はお金になりませんからね」
俺には嬉しい話だが、何だか辛いな。
「さぁ、一緒に下見に行きましょう」
「下見?」
「はい下見です」
なんでも、これから競りに掛かる奴隷の下見が出来るそうだ。
最も檻に入っていて奴隷もこちらも一切話す事は禁止されている。
マイクさんが俺の代わりに、この競りの会場の主催者に聞いてくれた。
「すみません、女の奴隷はどのあたりに居ますか?」
「会場を間違えていませんかね? 此処は訳ありの奴隷の競会場です、女狙いなら一般か高級奴隷の方の競りの方が良いでしょう」
「いえ、少し高齢な女奴隷狙いでして」
「成程、家事奴隷ですか? 今回の女奴隷は1人だけで家事も出来ないからほぼ鉱山奴隷しか使い道は無さそうです、まぁ誰も買わないでしょう、年齢も38歳のババアだから夜の方も使いたいとは思わないでしょうから」
「確かに訳ありの女奴隷は少ないですが、今回は何故こんなに少ないのでしょうか?」
「なんでも、訳ありの黒目、黒髪の27歳の女奴隷が、とんでもないジョブとスキルを手に入れて『戦メイド』と呼ばれるようになったとか言う小説が他国で流行っているんですよ」
「小説ですか?」
「はい、ストーンヤツサーンという作者の架空の物語だそうです、ですがそのせいで『訳あり女奴隷』が高く売れると言う事で他国の方に持っていく業者がここ暫く多いんですよ、まぁ訳あり女奴隷以外の女奴隷は普通にこっちも流通しています」
二人の話を聞く限り、今回の競はハズレみたいだ。
だが、折角だからその1人を見て見るか。
「マイクさん、折角だからその1人見せて貰おう」
「あっそれなら、あっちです」
檻の前に来て見た。
これは駄目だ…差別をしてはいけないが、38歳なのにまるで老婆に見える。とても買う気は起きない。
だが、何故だか気になる、まるで薄汚い老婆のような姿なのに、よく見るとぶれて、プラチナブランドの凄い美人が見える。
「セレス様、これは駄目だ、一般奴隷の方に行った方がまだ望みはあるかもしれません、一般奴隷で価値が低いなかにいるかもしれない、そちらに行きましょう」
俺はこっそりと鑑定(劣化版)を掛けてみた。
賢者のリタから教わったから、一応俺は鑑定も出来る。
まぁ、本物には及ばないあくまで劣化だが。
すると…
アイシャ
ジョブ:農民(虚偽:姫騎士)
年齢: 38歳(虚偽:27歳)
スキル:無し(隠蔽:剣技中 盾技中 防御魔法中)
ステータス異常
俺のレベルじゃ、これ位しか見れない。
だが、ぼやけて偶に見えるプラチナブランドの綺麗な姿こそが多分、この奴隷アイシャの本当の姿だ。
話掛けて聞きたいが奴隷は会話が出来ないように猿轡がされている。
これは買いだ。
簡単な呪いの類なら薬でどうにかなる。
無理なら、最悪勇者パーティを追っかけて、聖女のソニアを頼れば良い。
まぁリヒトにババコンとか馬鹿にされそうだが27歳じゃ彼奴の範疇から外れるから、手を出される事も無いだろう。
「マイクさん、俺こっちで頑張りたい」
「マジですか? 38歳、片足棺桶に突っ込んだうえ不細工なのに..」
「まぁ蓼食う虫も好き好きという事です」
「あはははっセレス様、あんた違う意味で勇者だ」
なんだか急にマイクさんが馴れ馴れしくなった気がする。
◆◆◆マイクSIDE◆◆◆
やはり、この方は『勇者パーティ』なんだろうな。
恐らく、この奴隷は犯罪奴隷、此処で落札されなければ死罪になるか、死ぬまで牢獄だろう。
慈悲深いな、死ぬ前に普通に生活させてやりたい、そんな所か?
Sランク冒険者だからとかでなく、普通に付き合ってみたくなったな。
◆◆◆
競りが開始された。
殆どが男の鉱山奴隷候補なのだろう。
訳ありと言う事で安く、大体が金貨1枚~2枚以下で競り落とされた。
そしてとうとうアイシャの番になった。
「女奴隷、農民、スキル無し、最低落札価格は銀貨2枚からです」
「銀貨2枚」
俺は大きく手をあげ入札した。
「銀貨2枚、銀貨2枚、他には居ないか?他には居ないか? おめでとうございます、此方の奴隷アイシャは、そちらの紳士に落札されました」
一応会場から拍手が起きた。
まぁどんな奴隷を落札しても拍手するのはマナーらしい。
俺もさっきから他の人が落札するたびに拍手している。
俺は、その後代金として落札代金の銀貨2枚に手数料の銅貨2枚、奴隷紋の刻み賃銀貨8枚、合計金貨1枚と銅貨2枚を払った。
その場で俺に指を傷つけるよう言われ、ナイフで指先を斬ると俺の指先の血を使いアイシャに奴隷紋を刻みこんだ。
「これで、この奴隷は貴方の者になり、もう逆らえません、その代わり貴方は奴隷の主としてこの女の面倒をみなくてはいけない…良かったのかな? 暫くしたら介護になりますよ、この不細工の」
「まぁ、色々ありまして、良いんですよ」
「まぁ、趣向は人それぞれ、自由です、流石に披露目服は要らないですよね?」
「それなんですか?」
なんでも、奴隷の服のままじゃ無くお金を払えば、シャワーで綺麗に洗い上げ、綺麗な平民服に着替えさせてくれるそうだ。
「それ幾らですか?」
「銀貨3枚です」
「お願いします」
「本当に? あっ、解りました、この女奴隷が、お客様の死んでしまったお婆さんに似てるとかですか」
「そんな所です」
「お客様は優しい人なのですね」
本当は俺にとって美人だからとは言えないな。
「流石は勇者パーティの『英雄』セレス様ですね」
「マイクさん、それ歯痒いから止めて下さい、魔法戦士なのに」
「これはジョブでなくセレス様の活躍からついた字だって事は知っています、ただ私も尊敬できるからこそ、そう呼ばせて頂いております」
「まぁ別に構わないが」
そんなやり取りの中。
俺は頭の中でこの女奴隷アイシャに何があったのか?
そればかり考えていた。
襲撃
奴隷商人は競りで20人近く競り落としていた。
気になった奴隷はほぼ全部競り落とせたらしくご機嫌だった。
俺が落札したアイシャも見てくれると言うので見て貰った。
「マイクお前がついていながら、こんな者を落札させたのか?」
「私は反対したのですが、セレス様がどうしてもとおっしゃりますので」
マイクさんが困った顔をしてこちらを見ている。
「私からどうしてもと入札したのです、怒らないであげて下さい」
「そういう事なら」
まぁ、アイシャは見た目凄く悪い。
奴隷商の主としての面子もあるのだろう。
「アイシャ」
「あーあーうー」
「もしかして喋れないのか?」
「あーあーあうあうあうあーーーっ」
まぁ良いや、意思の疎通が出来るなら、治す事は難しくないだろう。
「それじゃ、セレス様、此方へ」
嫌な予感がする。
誰かがこちらを見ているな。
「気のせいかも知れませんが、何か視線を感じます、俺は奴隷が乗っている馬車の方に乗ります」
「そうですか、助かります、宜しくお願い致します」
馬車に乗り街から出た場所。
そこに違和感を感じた。
絶対に何者かがこちらを伺っているのが解る。
何処だ、上か下か、人数は何人だ。
ようやく相手の所在が分かった、敵は木の上、1人だ。
但し、相手はかなりの凄腕だ。
勇者パーティでも、俺とリヒト、ケイトじゃ無ければ先手を奪われる。
まぁ、それだけだが『それが出来る技術を持つ者』は少ない。
来た。
「….」
無言でこの馬車に乗り込んできた。
奴隷はまだ気が付いていない。
そこ迄気配が消せる、プロだ此奴は。
狙っているのはアイシャだ。
俺はブラックウイングのブローチに手を掛けた。
そしてナイフを抜き斬りかかった。
何か訳ありだ、理由を聞きださなくてはならないから『殺せない』
だから、俺はナイフを腕のつけねを狙い刺した。
「うがぁぁぁぁぁぁーーーっ」
此奴は一流かもしれないが、俺は悪いが超一流だ。
俺の方が速い。
「貴様、何者だっ..あっ」
「お前は、蝙蝠」
「お前は『英雄セレス』か? もしかしてこの女を買ったのはお前なのか?」
「そうだ」
「チクショウ、お前が買ったのならこの依頼は失敗だ俺は降りる」
「そうか、なら背後関係を話せ」
「俺はこれでもプロだ、依頼主の事は話せない」
「そうか? それならば良い、お前は『蝙蝠のソルガ』裏社会で有名だ。だがな、俺は勇者パーティなんだぜ、これでも、そしてこの女は奴隷『俺の持ち物』だ。勇者保護法で裁かせるぞ」
【勇者保護法 第八条 勇者パーティの持ち物に手を出した者は、一族郎党皆殺しと処す】
少し大げさかも知れないが、勇者パーティの持ち物に【聖剣】【祝福の杖】【煉獄の杖】【アイスブレード】等二つと無い物がある。
大昔の勇者から【賢者の石】を盗んだ盗賊が居た。
その結果、勇者は魔王に敗北、それから5年間暗黒の時代が続いた。
そこから出来た法律である。
これは裏社会も含む。
世界が滅ぶような事態に裏も表も無い。
この法律は表だけでなく、裏社会にも通用する。
「セレス、そこ迄するのか? 解った、この黒幕は ルードル公爵だ」
ソルガは一流だ、本来なら死んでも口を割らない。
だが、家族や知り合い全部に罰が行くとなると別。
そして【勇者保護法】絡みのみ暗黒街において口を割っても良いというルールがある。
もしこの法律に逆らえば、その犯罪者のみならず、所属する組織も滅ぼされるからだ。
ソルガは話し始めた。
本来なら王家にのみ『姫騎士』のジョブは現れる。
だが、ルードル公爵の家に『姫騎士』のジョブを持つアイシャが産まれた。
そして肝心の王女には『姫騎士』のジョブが現れなかった。
ルードル公爵家は王家の遠縁であるから『姫騎士』のジョブを持つ者が生まれても可笑しくない。
だが、問題は王女には無かったと言う事だ。
その事が大きな問題になると思った先のルードル公爵はこっそり、アイシャを殺そうとしたが娘を手にかける事が出来なかった為、幽閉して育てる事にした。
だが、代替わりした兄、現ルードル公爵はアイシャを邪魔になり殺そうと考えたが
『姫騎士』というジョブは勇者や聖女程ではないが『魔法戦士』と同じ様に女神から祝福されたジョブ。
それゆえ直に手を掛ける事を恐れ、魔法によりジョブや能力を隠蔽して犯罪奴隷に混ぜて奴隷市場に売った。
本来なら、あの年齢であの容姿、誰も買うわけが無い。
そのまま購入されずに廃棄処刑される筈だった。
「それを俺が買ってしまったから、見届け役のお前が襲ってきた、そういう事か?」
「そういう事だ、これで全部だ」
「蝙蝠のソルガ、今暫くは何処かに身を隠してくれ、俺はお前が嫌いじゃない、この件は俺が預かる」
「そうか、解った『お前に気に入られた』その幸せに感謝する事にしよう」
奴隷たちは端で塊、怯えていた。
アイシャは流石は『姫騎士』こちらを普通に見ていた。
俺は再びブローチに手を掛け周りを見渡した。
気が付くと他の護衛や奴隷商にマイクがこちらを見ていた。
解呪
その後は特に襲撃も無く街につき、奴隷商と別れた。
奴隷商の主は俺にお礼を言いお金を渡そうとしてきたが受け取らなかった。
詳しい事情は話しにくいので話さなかったがソルガが襲ってきたのはアイシャだ。
実際は助けたのではなく『巻き込んだ』のだから、流石にこんなマッチポンプでお金は受け取れない。
◆◆◆
無事に宿につき、アイシャの様子を見た。
アイシャは意思を伝えようとしているのだが、上手くそれが出来ないように感じた。
最初に取りあえず、教会に連れて行くことにした。
俺が作った秘薬に聖女であるソニアが作った秘薬もあるが、こういった事は教会がプロだ、一度見て貰った方が良いだろう。
俺が教会に行くと俺を見た司祭が飛んできた。
「貴方様は『英雄セレナ』殿ではないですか?」
「そうですが、お願いがあってきました、この女性の様子を見て下さいませんか」
「これは、ある種の毒と呪いが使われていますな」
アイシャを一目見て、司祭はその原因を探り当てた。
「それで、治療は可能でしょうか?」
「貴方様は尊い方のお仲間『可能でしょうか?』などど聞かないで下さい。「必ず治せ」そう命令してくだされば良いのです」
「それではお願いします」
「このブルーニ、命に代えてもお治しさせて頂きます」
この世界の宗教は一神教だ。
そして勇者や聖女は女神が遣わした者と考えられている。
その為、教会は勇者や聖女には無茶苦茶優しい。
更に、その教会の派閥の中でも一部の教会は『勇者絶対主義』を唱えている。
この教会の教義の中には『勇者や聖女は尊い存在』なので一切逆らってはならないそう書かれている。
俺は勇者パーティだからか、勇者や聖女に仕える存在と思われているらしく、ほとんどの教会で顔が利く。
恐らく『命に代えても』なんて言い出すからには恐らく『勇者絶対主義者』に違いない。
待つこと1時間。
「この程度の呪いと毒は私たちに掛かれば簡単に治せます」
ブルーニ司祭は『私たち』と言っている。
つまり、この呪いと毒は1人では司祭でも治せなかった。
そういう事だ。
多分、俺が勇者パーティでなければ目が飛び出る位の金額を請求されたに違いない。
「ありがとうございます」
「良いのですよ、女神の御使いたる、勇者、聖女のお仲間、教会は何時でも貴方の味方です」
そう言うと素晴らしい笑顔を俺に向けてきた。
この教会の対応からして、俺の籍はまだ『勇者パーティ』に残っている。
そうでなければ不自然だ。
勇者リヒトも聖女ソニアも『色が絡まなければ良い奴』なんだ。
リヒトにとって
幼馴染>>俺>>他の女>>>>>他の人間
ソニアにとって
リヒト>>俺>>>>>他の人間
って感じで『友情より愛が優先』なだけ。
『親友』『幼馴染』では未だにあるという事だ。
そんな事を俺が考えていると司祭やシスターの後ろから、今まで見たことが無い位の美女が顔を出した。
プラチナブロンドのまるで透き通る様な髪にしなやかな体。
まるで綺麗なお姫様にしか見えない神々しさを持っている。
俺からしたらまるでワルキューレの様に美しく見える。
アイシャだ。
「美しい」俺が思わずそう口にしたら、何故かいきなり俺に殴りかかってきた。
「なんで?」
俺には理由が分からなかった。
アイシャ
何故かアイシャが暴れるので、簡単にブルーニ司祭達にお礼を言って立ち去った。
後ろから、
「英雄とも言われるセレス様に助けられたのにあの態度はなんだ」
「本当に年増女の分際で、なんで『英雄セレス様』の傍に居るのよ」
そんな声が聞こえてきた。
まぁ、教会にとって勇者関係者は、半分仕える存在だから仕方ない。
意外な事にいざ歩き出すとアイシャは暴れなくなった。
しかし、なんで俺は殴られたんだ。
◆◆◆
宿屋の部屋に着いた。
アイシャの顔を見ると明らかに『私怒ってます』そんな感じに不貞腐れているのがありありと解かった。
しかし、一応は俺は主の筈だが、何故殴れるんだろう。
まぁそれは良いや。
取り敢えず、話し合いでもするしかないだろう。
「アイシャ」
「何よ!」
やはり怒っている気がする。
俺は何か怒らせるような事をしたのか?
もしかして奴隷にされた事を怒っているのか?
駄目だ、何とか会話を続けないと…
「アイシャ、なんで怒っているんだ、俺は」
「年増で悪かったわね…」
なんだ、意味が解らない。
「おばさんで悪かったわね…」
「何それ、意味が解らない」
いや、俺からしたら27歳ってドストライクなんだが、なぜそうなる。
「あんたは、若くて、綺麗なお姫様が良かったんでしょう?本当にババアで悪かったわね、ババアなんだから仕方ないじゃない」
半泣きしながら、怒鳴るアイシャに俺は仕方なく話を聞く事にした。
話しを聞くうちにアイシャが何故こんな事を言っているのか解かった。
◆◆回想◆◆
「セレス様が呪われた方を連れてきたんだ、教会の面子に掛けて解呪するぞ」
「「「「「はい」」」」」
「セレス様は勇者様や聖女様の親友にして仲間だ、そんな方が我が教会を頼られた誇りに思うのだ」
「「「「「はい」」」」」
「お嬢さん、貴方は凄くついてますぞ! 貴方をお連れになったセレス様は『英雄』と呼ばれる尊い方なのです、貴方の不幸はもう終わりました、すぐに、元の姿にお戻しします」
私は本当に心から感謝して、ようやくこの不幸が終わると思ったのよ。
それが…
「これで、呪いも毒も完璧に解除できました」
「ありがとう、ありがとうございます…ようやく喋れるようになりました」
私はこれで不幸が終わる、本当に感謝しました。
それなのに…
「可笑しい、呪いも毒も解除したのに…まだ、何かあるのか?」
「可笑しいです、ちゃんと呪いは解けた筈なのに、僅かに若返っただけです」
「駄目なのか? 少し若返っただけで、老化が完璧には解除できないのか?」
「……」
「これではセレス様を落胆させてしまう」
「何とか、最悪教皇様に連絡してエルクシャーでも使わなくては」
「折角、此処まで治したのに、これ程『元は美しかった』のが解るのに、老化だけが完璧に解呪出来ないなんて」
「….あの、私は一体幾つに見えるの?」
「お嬢さん、すみません、私の力が及ばなく、貴方の姿は、言いにくいのですが20代後半に見えます」
「ごめんなさい、これ以上どうしても、若返られなくて」
「…合っています」
「今、何と?」
「私の年齢は27歳なので、その容姿で合っています」
「「「「「「えーっ」」」」」」
「そうですか? 27歳で合っているんですか? はぁ~、そんなセレス様が連れてきた方が『こんなババア』だなんて」
「司祭様、しかも…この人『セレス様の奴隷』になっているみたいですよ、こんな年増の癖に」
「おいたわしやセレス様、こんな行き遅れのような女じゃなくて、望んで頂けるなら、若くて綺麗で生娘のシスターを幾らでもお世話して差し上げるのに」
「多分、呪いに掛かっていたから、解呪さえすればきっと美少女になる、そう思われていたに違いありません」
「それが、こんな中古品みたいなババアになるなんて」
「私は、私は…中古品じゃない、生娘です」
恥ずかしいけど、主張しました。
「「「「「「えーっ」」」」」」
「27歳にもなって生娘なんですか? プッ…そうですか(笑)」
「どちらにしても、セレス様はきっと落胆なさいますね、多分こんなババアだとは思って無いでしょうから」
「元が綺麗だっただけ余計残念ですよね」
「ぷっ(笑)元が幾ら綺麗でも、27歳じゃね…普通で良いから15歳、せめて17歳位じゃないと女として終わっているわ、18歳だって行かず後家なのに」
「セレス様がっかりするでしょうね」
「「「「「「まさか、オバサンとは思わなかったな(わ)」」」」」」
◆◆回想終わり◆◆
「オバサンで悪かったわね、私だって好きで歳とったんじゃないわ! 人生の殆どを部屋の中で過ごしたのよ…ようやく部屋から出られたと思ったら、呪いを掛けられて、あと少しで殺される所だったのよ? 仕方ないじゃない! 過ごした歳はもう返ってこない…今の私は…もう仕方ないじゃないのよ…ヒク、ヒク…スン、スン」
「俺は別にそんな事は考えてない」
「嘘よ、貴方だって若くて綺麗な女の子の方が良いんでしょう? 呪いを解いたのが若い子じゃなくてオバサンで年増でガッカリしたんでしょう」
いや、そんな事は無い。
そうなら、多分俺はリヒトと女の取りあいをしている。
前世持ちの俺から見たらドストライクなんだが、此の世界ではそれは通用しない。
仕方ないな。
『また孤児だから』で推しとおそう。
「あのさぁ、言いにくいんだが、俺は『極端に年上好き』なんだ」
「何それ! わかんない!」
「俺はな、まぁアイシャ程じゃないが、結構孤独な感じで生活していた(ジミナ村の皆さんごめんなさい)。まぁ良い村だから生活には困らなかった。それでも、やはり心の中に家族に対する憧れはあったんだ」
「へえー、続けて」
少しアイシャの表情が和んだ気がした。
「だから、俺の好きなタイプは、年上で母性の強いようなタイプなんだ」
「年上が好きなのは解ったわ、それでご主人様は幾つな訳よ!」
「15歳だけど」
「あんた馬鹿なの? もう少し年上かと思ったわよ! 確かに私は部屋や屋敷から出た事は無いけど本を読んだり、メイドとかと話はしたわ、女は18歳でも行き遅れなんて言われているし、どう考えても、私と釣り合う歳じゃない! いやそれ所か27歳のおばさんが15歳と付き合うなんて犯罪よ!」
「俺は別に構わないが」
「本当に馬鹿ね! 歳の差12歳、早い人は14歳、15歳で母親になるんじゃない! そう考えたら、私は、もし貴方に母親が居たら、母親に近い歳なのよ? あーあっ今思い知ったわ、やはり私はオバサン、ババアなんだってね!」
「あのさぁ、俺はアイシャと一緒に居たいから、買ったし、教会にも連れて行って治療もした。他の人間は兎も角、俺にとってアイシャは『綺麗で美人』だ! まだ出会ったばかりだからお互いを知らない、これから少しずつ親交を深めれば良いんじゃないか?」
「そうね、私はセレスの奴隷だもん、一緒に居るのは当たり前だわ、本当に貴方が言う通り、『真性のババコン』だったら仕方ないから『好き』だって事認めてあげるわ」
「有難う」
可笑しいな? アイシャは俺の奴隷の筈なのに…奴隷紋ちゃんと仕事をしろよ。
【閑話】遅すぎた王子(勇者)様
「はぁ~」
溜息しか出ない。
私の王子様は『あまりにも遅れてきた』
本当にこれは無いわ。
なんでこんなタイミングなのよ。
◆◆◆
私が赤ちゃんの時の話だ。
お母さんから聞いた所、私がベッドで寝ていた時に天使が私の上に舞い降りたらしい。
その時は、お母さんもお父さんも大興奮。
通常のジョブは成人の儀の時に授かるが、稀に女神から成人の前に渡される事がある。
これを『女神のギフト』と言い先渡しされるジョブは、必ずと言って素晴らしいジョブ。
「まさかこの子が『女神のギフト』を受取るなんて」
「何のジョブだろう? 聖女、賢者当たりかな」
「案外、剣聖もあるかもね」
そんな風に楽しみにしていたそうだ。
だが、両親が教会に行き、私のジョブを見た途端驚いた。
「「姫騎士ですか」」
「いやぁ素晴らしい、女神のギフトを受取るなんてこの子はきっと運命の子に違いない」
「司祭様」
両親はお金を渡して『私がギフトを貰った事』を黙って貰った。
そして私は両親に殺されそうになった。
だが、両親の最後の良心で私は殺せなかったらしい。
その結果、私は『死んだ事にされ』塔に幽閉される事になった。
此処までは、少し大きくなった時に私の世話をしてくれたメイドから聞いた話だ。
◆◆◆
私の幽閉されている塔にはメイド以外誰も来ない。
お日様は当たるけどそれだけ、私にはお兄様がいるそうだけど、私には関係ない。
だって一度も会った事が無いから。
「此処から出たいわ」
「お嬢様、それは駄目です、此処からは一歩も出す事は出来ません」
幾ら望んでも、此処から出る事は基本叶わない。
偶に「公爵様から散歩の許しがでました」と庭を散歩させて貰えるだけだ。
私の唯一の趣味は『本を読む事』だ。
本だけは貴族の家だから沢山あるのだろう、幾らでも読ませて貰えた。
私のお気に入りは一冊の本。
『悪い魔法使いに捕まった王女様をカッコ良い王子様が助けてくれる話』
だが、何時まで待っても王子様は来ない。
そして生まれてから、殆ど会った事が無いお父様が死んだ。
まぁ、そんなの関係ない。
だが、甘かった。
はじめて会った兄が言った。
「お前がいる事がバレると、王家との間に亀裂が出来て困る事になる。この家は大変な事になるんだ」
知っているよ、だから私は此処から出られないんだ。
出なければ良いんでしょう?
私には王子様は来なかった。
幾ら待っても来なかった。
私は少女になり、大人になりオバサンになった。
悪い魔女に立ち向かってくれる王子様は私には居なかった。
そして私は醜い姿に変えられて奴隷として競りにかけられた。
こんな事するなら…いっそうの事、殺せば良いのに。
喋る事も出来ない。
こんな醜い女誰も買わない。
売れ残ったら殺されるそうだ…
なんで、こんな人生だったのかな?
村娘でも町娘でも構わなかった。
普通に生きたかったな…
檻の中に居ると男の子がこちらを見ていた。
綺麗でカッコ良い男の子だ。
王子様というより勇者様の方が似合うかも知れない。
だけど、駄目。
話しを聞いた感じ、買ってくれそうに無い。
もう死ぬしか無いのかな。
私の競が始まった。
私にとって死刑執行に思える。
きっと誰も買ってくれない、そして殺される。
もう覚悟は決まった。
嘘でしょう? 買ってくれるの?
こんな醜い私を、もしかしたら彼こそが私が待っていた王子様、いや『勇者様』なのかも知れない。
話したい、彼と話したい…だけど喋れない。
こんな醜い私になんでそんな顔を向けられるの?
優しい人なんだね。
馬車は、なんでかな? 私と同じ奴隷の乗る馬車に乗ってきた。
馬車に乗っていると見知らぬ男が襲ってきた。
私の勇者様は..凄い本物の勇者さまみたいだ。
凄いな…カッコ良い。
本の中の人、『物語の勇者様みたいだ』
凄いな、本当に凄いな~
私の勇者様は本当にカッコ良い。
若くて綺麗で素晴らしいな。
私の勇者様は、私を教会に連れてきてくれた。
話しを聞くと、私の呪いや毒を解除するみたいだ。
流石、私のセレス様…これで私の呪いが解ける。
これで、呪いが解けた私の物語は…ハッピーエンドの筈。
現実は違った。
セレス様は遅すぎたんだ…
私は27歳、セレス様は15歳。
あははははっまるで親子みたいじゃない。
12年遅かったんだよ。
だけど、12年前のセレス様は3歳。
散財、その事を教会から思い知らされた私は…ついセレス様を殴ってしまった。
出歩く
流石にアイシャは疲れて寝ている。
あれだけの事があったんだ、今日一日寝かせておいた方が良いだろう。
消化の良い食事を作ってきて、手紙を書いて、これで大丈夫だ。
俺は、今後どうするか考える為に今日は一日出歩く事にした。
◆◆◆
まずは奴隷商に来た。
前回お世話になったし、色々と聞きたい事もあった
「セレス様、今日はどうなさいました?」
「いや、この間お世話になったから挨拶にと思いまして」
「そうですか?生憎、主は所用で出かけています」
マイクさんも奴隷のプロだ。
話しを聞いて貰うのも良いかも知れない。
「ああっそういう事ですか? アイシャさんに刻んだ奴隷紋は緩いからですね」
「えっ奴隷紋にも色々あるんですか?」
「そうですね、強くすれば『逆らえば死ぬ』なんてレベルもあります、ですがセレスさんの場合は家族みたいな関係を望んでいましたので、そちらで調整しました、これだとある程度自由がきいて、スキンシップが出来ます。 基本『殺意を向ける』『明らかに危害を与える』この位で無いと発動しません、多少は主人にも逆らえます」
「成程」
「それに『英雄セレス様』に勝てるような存在はそうは居ないから、態々縛る事も無いでしょう」
まぁそうだな。
確かに、奴隷紋で縛った付き合いは本意じゃない。
マイクさんの判断は正しい。
「色々教えて頂きありがとうございました」
お礼を言って奴隷商から立ち去った。
◆◆◆
今度は冒険者ギルドに来た。
今の俺の立場がどうなっているか知る為だ。
結論から言うと完全には勇者パーティから抜けてはいなかった。
勇者パーティの別動隊扱いになっていた。
この状態なら『俺が新たに他のパーティに加入しなければ』勇者パーティの権利が行使できる。
俺がもし中心になってパーティを作るなら『別動隊』になる。
つまり、俺が他の誰かのパーティに入るまでは『勇者のパーティの特権』が使える。
俺の場合は少し特殊な立ち位置だった。
勇者→ 王国が支援
聖女→ 教会が支援
賢者→ アカデミーが支援
剣聖→ 商会が支援
こんな感じでそれぞれ『支援するバック』が存在する。
彼等はそこから支援金を貰い、勇者パーティのギルドカードにお金が振り込まれる。
何が言いたいのかと言えば俺には支援するバック、つまり後ろ盾がいない。
簡単に言えば、後ろ盾の居ない俺は、勇者パーティの使い走りみたいな感じで、必要なお金はパーティから貰っていた。
国から見れば『勇者達』は四職。
勇者、聖女、賢者、剣聖のみが勇者の仲間たち。
俺は国ではなく「ブラックウイング」の方の仲間だと言う事だ。
多分、俺が『勇者保護法』で保護されているのは…多分リヒトを含む勇者パーティが仲間だと主張してくれている事が大きいと思う。
追放されて無いのに依頼を受けたのは不味いかと思ったが、別動隊だし、何処からもお金を貰っていない俺だからこそ『自分の生活費は自分で稼ぐしかない』そういう理屈で問題が無いそうだ。
◆◆◆
教会の方はご丁寧にソニアが教皇を通し「姉弟みたいな存在」だからお願いしますね。
と通達がされているようだ。
最も、俺は勇者や聖女と仲が良く、更に平民に人気があるので本来は魔法戦士なのだが『英雄』と呼ばれている。
だからこそ、その人気を取り込む意味でも『勇者の仲間』と扱われているのかも知れない。
アカデミーも商会も教会程ではないがやはり『勇者の仲間』としての扱いを受けられている。
これなら問題が無い。
今の俺ならアイシャを守る力がある。
今の立ち位置が崩れる前に、行動を起こすべきだろう。
どうして良いか解らない
ともあれ、俺の立場は何時崩れても可笑しくない。
もし、リヒト達が魔王軍に負けて勇者の資格をはく奪されたら終わり。
何かの事情で『俺を正式にパーティから抜けさせたら』終わりだ。
しかも、相手は貴族だ。
やるなら、今しかない。
「アイシャ、2週間程出てくる」
「私は一緒に行かなくて良いの?」
「ああっ少し危ないからな」
「私は姫騎士」
「確かに、それは凄いジョブだが、実戦経験をまだ、アイシャは積んで無いからな」
「それじゃ、私はどうしたらよい?」
「まぁ出来るなら、この宿屋から出ないでくれたら助かる」
「あの、それはもしかしたら、私絡み?」
「さぁ」
「まぁ良いわ、此処から出ないで待っていればいいのね」
「そうだね、だけど、まだ大丈夫そうだから、普通に街に出ていても大丈夫か? 昼間なら自由に出ていて良いや、はいこれ」
「これ、何?」
「お金、生活費」
「あの、これ金貨が5枚もあるけど?」
「宿代は払っていくから、それで好きな物を食べたり、必要な物や欲しい物買って」
「あの、私って奴隷な筈じゃない?」
「そうだね、だけど気にしちゃ負け、行ってくる」
「行ってらっしゃい」
◆◆◆アイシャSIDE◆◆◆
可笑しい!
奴隷ってこんな生活…な訳無いわ。
こんな幸せなら誰もが奴隷になりたがるわよ。
『奴隷落ち』して檻に入っていて絶望的だった筈なんだけど。
何これ?
家事は全部セレスがやってくれる。
美味しい朝食に、夜は必ずなんだかしらのお土産を買って帰って来る。
私は…何もしていない。
最初は『お粥』ばかりだから、こんな物が奴隷の食事だと思っていたのよ。
だけど、ある時「そろそろ普通の物で良いかな」んあてセレスが言い出してね。
買って来たのは『マツザカミノタウルス』のお肉。
私は本で読んでいたから知っている。
これ、凄く高いのよ。
それだけじゃないのよ、流石に貴族の服では無いけど、新品の服や下着を買ってくるのよ?
普通は古着。
奴隷はその中でもボロボロの物だわ。
街で、這いつくばって床で食事したりしているのが奴隷。
余程の『愛玩奴隷』じゃない限りこんな待遇は無い筈よね。
とういうか、愛玩奴隷でもこんな扱いはされていない。
まるで『恋人』か『妻』みたいな扱いだと思うわ…まぁ本で知った知識の中ではだけど。
これは『本当に好き』そういう事なんだと思うわ。
どうすれば良いんだろう?
セレスは本当に私が好きなババコンだと言う事が解ってしまったわ。
今迄、誰かに好かれるなんて経験は無い。
だから解らない、私に親身になってくれたのは名乗らないメイドだけだった。
その何倍も…比べ物にならない位優しい。
なんでババコンなのよ!
勇者パーティの『英雄』、そして冒険者の最高峰のSランク。
シスターや司祭のいう事が解る。
誰もが憧れる『英雄セレス』
きっと、誰だって彼を好きになる。
司祭は言っていた、彼が望んで断るシスターは居ないと。
15歳のピチピチした美少年、そして『英雄』。
それに対して私は27歳のオバサンだ。
釣り合わない。
そんなのは解っている。
「だけど仕方ないじゃない! 私からじゃない! 私を好きになったのはセレスなんだから!」
ご主人様が居ないから部屋で叫んでみた。
今迄が不幸だったんだから、その分幸せになったって良いじゃない!
だけど、これから私は…どうしたら良いんだろう?
何をして返してあげれば良いんだろう?
どうしたらセレスは喜ぶのだろう?
何もかもが解らない。
アイシャの為に
ルードルは小国スベルランド国の公爵だ。
勿論、リヒトが所属する国に比べたら遙かに小さい国だ。
しかし、それでも公爵、国の重鎮だ。
普段なら決して相手には出来ない相手。
だが、今回ばかりは勝手が違う。
『俺は勇者パーティでその持ち物に手を掛けた』
この事を大事にする。
そこからスタートだ。
俺はスベルランド国王に話を持っていった。
◆◆◆
「これは、これは『英雄セレス』お噂は常々聞いております、この様な小国に何の御用でしょうか?」
此処で俺はこの話を大事にする。
「スベルランド国王様、この度の話は穏やかな話では無い、『勇者パーティ』の持ち物に手を付けた家臣がいるのでその事を報告しに来たのです」
敢えて『その物がアイシャ』とは言わない。
まずはこれで良い。
「すみません、その勇者パーティの持ち物に手を出した貴族とは誰の事でしょうか?」
「ルードル公爵です」
「馬鹿な、彼の家は代々王家に仕えてくれる家柄です。古くは我が王家の血筋に繋がります、にわかに信じられません」
「ですが、真実でございます」
「いかに貴方が『英雄セレス』でも信じられません、証拠は何かお持ちで言っているのでしょうな?」
掛かった。
もっと怒れ、俺は国王をあおった。
「証拠はありません、ですが『私がこの目で見ました』『しかも信頼がおける証人もおります』」
「それを私に信じろと?」
「ならば、ルードル公爵を呼んで頂ければ、全て解ります」
「それならルードルを呼んでやる、だがもし間違いであった場合は如何に『英雄』でも責任をとって貰う」
此処までくれば落ちたも同然だな。
「それでは、もしルードル公爵が『勇者パーティの持ち物』に手を出していた場合は如何にするつもりですか? 『勇者保護法では一族郎党死罪』になりますが、その対応で宜しいのですね」
「いや、法律どおりの対応をする、伯爵以上の貴族はその爵位と領地を手放す事で一度だけ、罪を免れる。もし英雄殿のいう事が正しければ、爵位を返上させ、領地も含み財産は没収する」
流石は王という事か…怒りで『殺して貰える』と思ったのにな。
「解りました、間違いなく『私のいう事が正しければ』言った通りの処置をして下さる、約束ですよ」
「王として約束しよう」
言質はとった。
此処には複数の大臣に法衣貴族とはいえ貴族も沢山いる。
この状況での発言、如何に王とて覆す事は出来ないだろう。
「それでは、ルードル公爵を呼んで下さい」
「解った、白黒つけさえて貰う」
◆◆◆
「お呼びでしょうか?」
ルードル公爵が来た。
今の俺の動きは知らない筈だ。
「よく来たと言いたいが、ルードルよ、お前には『勇者パーティの所有物』を奪った嫌疑が掛けられている、申し開きはあるか」
ルードル公爵は、寝耳に水で驚いている事だろう。
「勇者パーティの持ち物に手を出した? 私がですか?全く身に覚えは御座いません」
「セレス殿、ルードルはこう言っているが、如何かな」
さて、此処からが勝負だ。
「ソルガという人物は知っていませんか?」
さぁどうする?
「ソルガ? 確かに知ってはいますが、それがどうにかしたのですか?」
「それではアイシャという人物は知っていますか?」
「そそ、それは誰でしょうか?」
明かに動揺している。
「セレス殿、それと今回の事とはどういう関係があるのでしょうか?」
「そこ迄、シラをきるなら仕方ない」
俺は胸のブラックウイングのブローチを強く握った。
このブローチには貴重な記録水晶が嵌め込まれている。
俺とソルガのやり取りが目の前に画像として映し出された。
此処からは、五分五分の賭けだ。
ルードルがこれでどう申し開きするからだ。
「確かに私は、ソルガに人物の捕獲を頼みましたよ? ですがそれだけです」
掛かった。
事情を知らない今だからこそだ。
貴族なら『全部は否定しない』で問題を回避する、そういう人物が多い。
俺は『アイシャの奴隷契約書』を見せた。
「それが何か? 意味が解らない」
王はこう言うが、ルードル公爵は青ざめている。
「おや、ルードル公爵は解ったようですね、そうです襲われている奴隷の名前はアイシャ、私の所有物です、それを殺害しようとルードル公爵は命令しております。そして、今の発言で、それをお認めになった…そういう事でしょう?」
「それは」
「今自分で言いましたよね?『ソルガに人物の捕獲を頼みましたよ?』と、その人物が勇者パーティの所有物なのですよ」
「ちょっと待って下さい、セレス殿、手を掛けた持ち物とは聖剣や宝具ではなく、ただの奴隷ですか?」
「王よ、例え銅貨1枚でも勇者パーティから盗もうとしたら適応されます、それが法です」
「王よ、セレス殿、いったいどういう事でしょうか?」
「ああっアイシャは俺の奴隷だ、それをお前が奪おうとしたから『勇者保護法』で裁いて貰う、それだけです」
「セレス殿、それなら何か別の償いを…」
「王よ、王自らが家臣の前でした発言を取り消しなさると言う事ですか? ならば私はこの国を敵とみなします…勇者パーティとはたった数人で魔王城に攻め入る存在、私単独でもこの位の城なら落とせるかも知れませんね」
俺は剣の柄に手を掛けた。
「解った、いえ解りもうした、王として発言した言葉は取り消さない、約束だルードル公爵の領地、財産、爵位は没収し、たった今から平民に落とす、これで宜しいでしょうか」
「ちょっと待って下さい、王よそれは幾らなんでも可笑しい」
「お前が『勇者パーティの物に手をだした』これは事実だ、確かに勇者保護法通りなら、銅か1枚でも適用だ仕方が無い」
「公平な判断流石は王でございます」
俺はルードル公爵の大きな声を後にしながらその場を退室した。
◆◆◆
王の動きは速かった。
すぐに触書が周り、ルードル公爵の爵位返上の件が国中に知れ渡った。
後は….
俺は蝙蝠のソルガに連絡を取った。
伝えた内容はこうだ。
ルードルは平民に落とした…お前は自分を罠にかけ『勇者パーティの持ち物』を奪わせようとしたルードルを許すのか。
これだけだ。
これで、俺が何かしなくてもルードルは…終わりだ。
これで良かった筈だ
今回はこれで良かった筈だ。
頭の中でアイシャが『姫騎士』であると伝えた方が良かったのか凄く悩んだ。
確かにそうすれば、アイシャは表舞台に立てる。
だが、それと同時にアイシャがまたスベルランドと関わりを持つ事になる。
アイシャは確かに姫騎士だが、今迄一切の訓練をしていない。
それに『外の世界を知らない』
力も無く、世の中を知らないアイシャは政治的に利用される可能性が高い。
また『王家の姫』に姫騎士が居ないから、そこでも軋轢が起きそうだ。
ルードル元公爵は、爵位も財産も無くした。
多分だが『普通に処刑された』方が幸せだったかも知れない。
何処かに移り住めば済みそうだが、今回は違う。
『勇者パーティの持ち物に手を出した』からには、世界中のどの国からからも、つまはじきされる。
そして蝙蝠のソルガは『勇者パーティの持ち物』を騙されて盗まされそうになった。
きっと復讐に燃えるだろう。
多分、ルードルを殺さない限り、その経歴に大きな傷がつく。
一流の彼奴がそれに耐えられるわけが無い。
まぁ、これでこの件は全て終わりだ。
取り敢えず、帰ろう。
『お子様美少女』でなく本物の美女がいる生活が待っているんだからな。
※此処で一旦一区切りです。
次からは【勇者達】の視点の話を1話書いて日常的な話になります。
【リヒトSIDE】意味が分かると少しだけ怖い話
「しかし、リヒトあれで良かったの?」
「まぁ良いんじゃないか? 彼奴迄巻き込む事は無いと思うしな、ソニアだって内心は同じじゃないか?」
「そうね、まぁ幼馴染だしね、リヒトを除けば数少ない好きな人ではあるわ」
「ほらな、どうせケイトもリタも同じだろう?」
「まぁね」
「そりゃそうよ」
「だけど、リヒト、女には優しく、男にはトコトン冷たい貴方が何故かセレスには優しいじゃない? どうしてかな? 不思議だわ」
確かに、俺は女に優しく男に冷たい。
当たり前だろう?
女は可愛いし、気のせいか良いにおいもする、抱き心地も良い。男なんてむさくて臭いだけの存在だ。
だが、彼奴は少し違う。
中性的な顔立ちだし、まぁ身内みたいな者なのか、親父とか兄貴みたいに思える時がある。
たった1人の男友達であり、性格の悪い俺の傍に居てくれる唯一の男だ。
「そうだな、彼奴は…親父、もしくは歳の離れた兄貴みたいに感じるんだ、しかも彼奴には女絡みで結構酷い事した筈なのに、それでも傍に居てよ、この世界で唯一『友情』を感じるんだ。」
「まぁね、僕だって偶に、セレスの事を兄ちゃんみたいに思えた事があるよ?」
「ケイトもそうなの? 私はもろお父さんみたいに思えた事がある、あの『よしよしって頭を撫でるの』まさにそれだよね」
「あら? リタそれなら、貴方は『お父さん』と付き合っていた事になるわ」
「仕方ないじゃない、ソニア、私は小さい頃にお父さんを無くしたんだからさぁ」
「そうね、セレスって確かに優しくて『年上のお兄さん』って感じよね! リヒトは別格だけど、家族とセレスどっちかしか助けられないなら、セレスを助けるわ」
「ソニア、それは僕にも言えるかもしれない…僕が2番目に好きなのはセレスかも知れない」
「うん、私も同じ」
本当に不思議な奴だよな。
何故か歳は殆ど同じなのに『父親』や『兄』みたいに思える。
この齢になってからの恋愛は本物だが、昔彼奴の女友達にちょっかいだしたのは『親父』がとられてしまうのが嫌だったのかも知れない。
今思えば、彼奴から女が離れた瞬間に、その女に興味を無くして振っていたような気がする。
「まぁな、不思議な奴だ、だが身内や家族みたいに思える分『見られる』のが恥ずかしく感じる」
「そうね、父親か兄の前でイチャついている、感覚になるわね」
「ソニアもそうなんだ、僕も同じ」
「私は、そう悪く無いかも」
三人が少し驚いてリタを見た。
「まぁ、そんな訳で、死ななくて良い奴を態々、魔王討伐に巻き込む事無しいな、それに俺が傍に居ると、彼奴が霞んでしまって女が出来ないが、彼奴は俺とは比べ者にならないけど『そこそこ美形で有能』だからな、此処から居なくなるだけで幸せになれんじゃねーかって思って追い出したんだわ」
我ながらクズ発言だな。
「私はリヒトが好きだから、そんな事で何も変わらないけど、少しクズ発言ね」
「僕もそう思うな」
「あの、それなら『勇者パーティ』は複数婚が認められるので、このメンバー+セレスで婚姻したら…」
俺はリタが言った事を聞いて驚いた。
案外此奴の方がアブノーマルかも知れない。
「あのさぁ、僕幾ら『自慢のお兄ちゃん』でも流石に、それは考えらえないよ」
「私も同じ、近親相姦に思えるわよ」
「言ってみてなんですが、やっぱり考えられないですね」
「そうだろう? 俺だって兄貴か親父の間男が嫁なんて絶対に嫌だぞ」
とは言え、俺にとってこの三人の次に大切な人間は女でなくセレスになっているのは事実だ。
俺の中では『女』は大好きな存在、それは事実だ。
此処にいる幼馴染の三人には『愛』がる。
だが、恐ろしい事にセレスには『友情』がある。
三人いるんだから1人位譲れば良いじゃん。
そういう奴もいるだろうな。
恐ろしい事に『女大好き主義』の俺が一時期『1人、リタを譲っていた』
よく考えたらあり得ない話だ。
まぁ、結局は友情より愛が強くて取り返してしまったが…
態とリタを避けセレスの傍に行くように仕向けていた。
『友情』って怖えな。
愛している三人相手にも彼奴は割り込んでくる。
もし、彼奴が三人でなく、そうだな仮にこの三人以外で好きな、まぁ4番目に好きなルーって女をセレスが『ルーを好きになったから譲ってよ』なんて言って来たら…
やばいな「そんなに好きならくれてやる」そう言いそうだ。
「リヒトどうかしたの?」
「やばいな、俺、多分お前達の次に好きなのはセレスかもしんねー」
「そんなの当たり前じゃない、多分私もリヒトの次ならセレスよ」
「そうね、2番はセレス」
「僕も同じ」
「何だ、皆似たような物かよ、まぁ彼奴も幼馴染だから仕方ねーな」
「そうそう」
「幼馴染だから仕方ないよねー」
「そうだよ」
笑いながら話していたから見落としてしまった。
聞き流してしまった。
この中で、真面なのは意外にも『リヒト』だけだ。
【2番目に好きなのはセレス】
その言葉の意味を。
早くしないと腐っちゃうぞ!
愛され過ぎてどうして良いか解らないわ。
セレスはなんなの?
家の家事は完璧にこなすし、おはよう~お休みまで何時も何かしらしている、うん凄すぎるわ。
朝、私が起きるともう『ご飯が用意されているの』それだけじゃない。
掃除も綺麗にしてあるし、ピカピカ。
洋服は日に日に増えていく。
ただ、その洋服が少し、いや、かなりセクシーなのが唯一の悩みだわ。
下着はレースの高級品、服も高級品だし文句は言えないけどね、凄くスカートの丈が短いのよ。
何となく『これは違う』と思ったわ。
多分これは若い子が着る服だと思う。
街に行った時に、行きつけの喫茶店の最近知り合ったオバサン仲間に聞いてみたのよ。
「余り言いにくいけど、流石にそれは痛く見えるわよ、20代なんだから、もう少しね」
「そうですか」
「息子さんもいるんだしさぁ、もう男という年齢でも無いでしょう」
嘘でしょう。
姉弟でもなく、親子に見られていたなんて。
確かに年齢差からしたら、そう思われても仕方無いけど、実際に聞くとショックだわ。
◆◆◆
2週間セレスが居ない。
本当に何なのかしら?
きっと私の実家絡みだと思うの。
『危ないから』って理由で置いていかれた。
まぁ約束だから一人で家にいるけど。
寂しいな。
あれ、今私、寂しいって思ったの?
そうか、私セレスと会うまで『1人だったんだ』
今迄は、こんな感情は無かったわ。
1人が当たり前だったから。
どんなに寂しい気持ちが強くても、傍に誰も居なかったわ。
だけど、セレスに買われたからは『1人じゃなくなった』
何時も傍にセレスが居る。
それが当たり前の生活になった。
年下の癖に私を可愛いというセレス。
本当に馬鹿じゃないの。
15歳の少年が27歳のオバサンにいうセリフじゃないわよ。
せめて『綺麗』じゃないの?
『それが可愛いい』何てね。
可笑しいわよ、勝手に人の頭撫でて嬉しそうに『可愛いい』本当にもう…困るわ。
勇者パーティに所属して、Sランクの冒険者、それで美少年。
そんな15歳のパーフェクト美少年が好きな相手が『私』
27歳の完全行き遅れの『私』
最初は信じられなかったけど…ここ迄来たら、もう信じない訳にはいかない。
私は27歳だけど…人生経験が無いから、こういう時にどうして良いか解らない。
沢山、沢山の『嬉しい』を貰ったから返してあげたいけどわからない。
好きなら『手を出してくれれば良いのに』
大体、私は奴隷だから押し倒してくれれば良いのよ。
『拒む権利は無いんだから』…まぁ、こんなに好きなんだから、そういう意味抜きにして答えるわ。
他の人に聞いたけど、15歳ってそういう事やりたい歳じゃない。
なのに…私の下着姿を見て、顔を真っ赤にしたり、水浴びした後の私を見て俯いたり。
15歳にしても純情過ぎるわ。
私は27歳…早く手を出してくれないと腐っちゃうじゃない。
セレスが帰ってくる迄の2週間…
私は悶々して過ごした。
理想の彼女
これでアイシャ絡みは全部終わった。
これから、俺はどうすれば良いのだろうか?
勢いでアイシャを買ってしまったが。
俺はアイシャ程の美女は前世も併せて見たことが無い。
本物の女王とか王女に黙っていれば見えるし、女神と言ってもそうなのかと納得してしまう。
前世の俺は、金髪美女に憧れた時がある。
男なら映画を見たりして一度は憧れるだろう。
異世界は恐ろしい。
何故か前世よりも美女率、美少女率は高い。
アイシャに会うまで、俺が出会った中で一番、綺麗だと思った女性は『リヒトのお母さん』だった。
勇者パーティから追放(?)された時に『田舎に帰る』という選択があったのはその為だった。
だってジミナ村の男性は冒険者で女を大事にしない男や、死んじまった男が多いから、俺にとってドストライクの未亡人が沢山いる。
当時の俺は沢山、遊ぶ間も惜しんでお手伝いをした。
前世40年の記憶を抱えた俺には、同級生の女の子はガキにしか思えなかった。
なら、自分から見て綺麗なお姉さんのお手伝いをして、褒めて貰ったり、喜んで貰った方が余程良い。
まぁ偶に抱きしめてくれたりするし。
まさに『俺にとってはハーレムみたいだ』と思っていた。
正直言わせて貰えれば、リヒトを含む勇者パーティのメンバーに嫌われたくないのは『彼等、彼女の母親達』に嫌われたくないのが本音だった。
真っすぐ帰っていたら、案外リヒト達の義理のお義父さん。
なんて人生もあったかも知れない。
流石のリヒトも『実の母親』は口説かないだろうからな。
リヒト達がどんな驚いた顔をするか見物だな。
なんて実は少しだけ思っていた。
だけど、世界は広いわー。
これ程の美女がいるなんて、はっきり言わして貰えば、アイシャはハリウッドスターなんて比べ物にならない位の美人だ。
本当にアイシャは、まるで物語から飛び出してきたような美人。
それで『俺の奴隷』だから、その気になれば自由に出来る。
なんてゲスイ事を考えていたが…『理想の女』相手だと、何も出来ない。
まるで昔、俺が嘲笑っていた『貢くん』の状態に俺がなるなんて思わなかった。
心の中で『今日こそは押し倒そう』そう思ったけど出来なかった。
体は15歳のやりたい盛りだが、心は前世合わせて55歳位、その心が邪魔をする。
アイシャは色々と傷ついているだろう。
だから、時間を掛けてゆっくりと仲良くなって行けばよい。
時間もたっぷりあるし、お金も幾らでも稼げる。
明日には帰れる。
久々にアイシャに会える。
凄く楽しみだな。
真祖返り
「おかえりなさい…」
なんだか随分と不機嫌そうに見える。
なんでだ?
お小遣いは沢山置いていったよな。
「ただいま」
「あんた、何していたの?」
本当に何でだろう?
明かに怒っている。
まぁ、事情位話した方が良いだろう。
俺は自分が何をしていたのか、アイシャに話した。
「あのさぁ、なんでそこ迄してくれるの?」
「俺にとって、たいした事じゃないから?」
「あのさぁ、一国の国王と対峙して、公爵を平民に落とす、それがたいした事じゃないなら、一体セレスにとって『たいした事』ってどういう事をいうのかしらね?」
うううっ確かに無理があるな。
「そうだな、『魔王を倒す』とか『古の古代竜』を倒すとかかな」
ああ勇者パーティで良かった。
「確かにそうね…」
「だけど、アイシャだからした事だ、アイシャじゃ無かったらしなかったよ」
「そ、そうなんだ仕方ないな、まぁセレスはババコンで、あああたしが好きなんだから仕方ないよね」
「そうだね」
「まぁ、それなら良いわ、許してあげる」
◆◆◆
次の日俺とアイシャは一緒に少し離れた岩場に来ていた。
理由は簡単、オーガを狩る為だ。
アイシャに『留守番は嫌だからセレスと一緒に冒険者をしたい』と言われたので俺はアイシャと狩に出た。
最初からオーガにしたのには訳がある、アイシャは姫騎士だから、恐らくゴブリンやオークなら最初から楽に狩れてしまう可能性が高い。
だが、それだと討伐を舐めてしまい、先々良くない。
だからこそ、アイシャであっても強敵であるオーガにした。
「ふーん、あの大男みたいな奴を狩れば良いの?」
「まぁそうだな」
アイシャには此処に来る前に、鉄で出来た軽装鎧と鋼鉄の剣を買って渡した。
ほぼ、俺と同じ装備だ。
魔法戦士の俺と同じ装備だ。
普通に考えて重い筈なのに『セレスと同じのが良い』と聞かなかった。
ジョブの補正は恐ろしく、華奢なアイシャが鋼鉄の剣を普通に振れた。
まぁ、流石に実戦は無理だろう。
「それでセレスは、あの化け物はどの位で狩れるの?」
「まぁ俺くらいなら瞬殺だな!」
「そう!」
「ちょっと待てよ!」
俺の制止も聴かずにアイシャはオーガの群れに突っ込んでいった。
『痛い目』に遭うと良い。
これは決して意地悪でなく『慎重に行動しろ』という意味で、案外ベテラン冒険者の鍛え方では多い。
ちなみにリヒトとリタは…同じような事をして大怪我をしたが『痛みを知るのも必要』と引率の騎士に言われ、制止され、ソニアに回復魔法を暫く掛けて貰えなかった。
今回は危なくなれば俺が入るし、薬もバッチリ用意してある…
「ダンシングソード」
アイシャがそんな技を唱えた。
初陣で、何も知らない筈のアイシャが..スキル。
そうか、ただ言っただけだよな。
只のカッコつけの筈だ。
「…スキルが使えている」
産まれて初めて戦って何故、スキルが使えるんだ。
しかも、オーガ相手に、普通にいや余裕で戦っている。
こんな事、初めての戦いでリヒトにだって出来なかった。
当然、俺だって出来なかった。
リヒトは勇者だ。
そのリヒトに出来ない事を、アイシャは出来る。
何故だ。
「ファイヤーフェニックス!セレス、終わったわよ! あんまりたいした事無かったわよ」
「凄いな」
「何が~」
オーガ6匹の死体に囲まれ笑っているアイシャに俺は別の意味でも目を奪われた。
◆◆◆
「アイシャ、お前狩りは、今日初めてだよな?」
「そうだけど? 何か失敗した?」
失敗所か上出来だ。
だが、信じられない。
「なぁ、アイシャは何故、初めての戦いで、スキルが使えたんだ」
「あっ、それ? 前にメイドに聴いたんだけど、多分、私って『真祖返り』なのかも知れない」
真祖返り?話には聞いた事がある。
古の英雄の能力をそのまま、引き継いだ存在だ。
確かに昔から『真祖返り』の英雄の逸話は沢山ある。
だが、これはあくまで架空の話で実際には存在しないと言われている。
「凄いな、それでアイシャは一体、誰の真祖返りなんだ?」
「解らないよ、此処まではね、だけど、戦うそう決めただけで戦い方やスキルの使い方が頭に浮かぶのよ」
この位戦えるなら、パーティを組んでも大丈夫だろう。
「それは凄いな」
「ねぇ、これで良いよね」
「ああっ合格だ、これから冒険者ギルドに行って登録しよう」
「そう、ありがとう」
こうして俺はアイシャと正式にパーティを組んだ。
※此処から数話、主人公とアイシャと別の物語が入ります。
元 王妃の離婚と追放
「お前は用済みだ、離婚する」
「何でですの? 私は随分とこの国に尽くして参りましたわ! それをいきなり離婚だなんて..酷いですわね」
◆◆◆
私の名前はマリア。
先の英雄パーティで『聖女』をやっていました。
私の世代は魔王が復活する前のパーティで、最強と言われていたパーティでした。
勇者は存在せず『剣聖』『聖女』『賢者』の三職しかこの世代は現れませんでした。
そこに英雄と呼ばれたアランが加わり魔王ではなく、魔獣ゼルトンの討伐を行いましたのよ。
3年の長い旅の末、英雄アランを含むパーティの私以外の命と引き換えにゼルトンを打ち取り国に戻りました。
私が生き残ったのは他の三人より後方に位置していたからでしょう。
◆◆◆
帰ってから国王に報告して教会に戻りました。
『仲間の事を弔いながら生きていこう』
そう思っていましたが、そうはいきませんでしたわ。
『静かに生きていきたい』
そう思っている私に、毎日の様に縁談が来ます。
悲しんでいる間もない位です。
本来なら『勇者保護法』で聖女も守って貰えるのですが、生憎私の世代は『勇者が存在しない』その為、一部弱い面があります。
最も、これでも聖女ですから強くは誰も言ってきません。
ですが、司祭様のお話しで『無理強いは出来ませんが、結婚して余生を送るのも良いのではないですか?』
その勧めもあってお見合いをする事にしましたの。
その中で、結局、ルランス王国の第二王子のアレからの求婚がありました、蜘蛛の子を散らすように貴族を始めとするお見合い相手は辞退していき、結局、私はそのまま、王子と婚約を得て結婚。
その後は、私なりに王家に入り頑張っていたわ。
子供も1人出来て、アレ王子は王になった。
17歳で結婚して9年。
26歳になった、私に王になったアレが離婚を言い出したのよ。
◆◆◆
「一体、私の何が問題だったのかしら? 家族仲良くしていた筈ですのに」
「お前に利用価値が無くなったからだ、元からお前なんか好きじゃ無かったんだ、たださぁ、第二王子の俺が王になるのに、『聖女』という地位を持ったお前との結婚が必要だったんだ」
「そう、酷い話ね、私を利用して必要が無くなったらポイですか?」
「まぁ、お前は面だけは良かったけど、胸も無いしな、それに王になった俺には不要だ」
「そう、解ったわ、うふふふふ、それでカイは、どっちにつくのかな?」
「馬鹿じゃ無いの、あんたに着いていっても良い事なんて無いからお父様に着きますよ! BBAより王であるお父様に着いた方が得ですからね」
最早家族と思う必要はありませんよね。
「兎も角、お前は用済みだ、離婚する」
「何でですの? 私は随分とこの国に尽くして参りましたわ! それをいきなり離婚だなんて..酷いですわね」
「もうお前は用済みだ、齢をとった26歳の女なんて価値は無い、すでに14歳~15歳の女を中心にハーレムを作り始めた、俺は王なのだから、幾らでも若い女が手に入るからな、さっさと立ち去るが良い」
どうやら、夫だった人も、息子も私を家族と思っていないようです。
ならば、私も『家族』と思う必要はないでしょう。
「そうですか? 此処まで侮辱された私が黙って出ていくと思っていますか? くふふふふっ、さてと…私を本気で怒らせましたわね? 知っていますか? 『聖女』だった頃私は4人で魔獣ゼルトンを倒しましたのよ? この国の騎士が総出で勝てない相手にね…そうね、今から戦争をしましょう? 宣戦布告しますね」
馬鹿ですねーー。
私これでも英雄パーティの元聖女ですわよ?
さぁ、ケジメの時間ですわーーー。
「国に反逆するつもりか、そんな事して何になる」
馬鹿じゃ無いのかしらね?
「私の気が収まらないから『嫌いな人間』をぶちのめすだけですわ」
「えっ」
この人たちは『私が怒る』と思わないのかしら?
まぁ、今迄『元聖女』だから、怒らないで優しい人間っぽくはしていましたが、私だって怒りはあるのですわ。
基本的に、勇者パーティの人間以外は重婚はできませんわ。
それは王とて一緒。
他に女が欲しいのなら、愛人でも沢山作って遊んでいればいいのですわ。
子供さえ作らないのなら、私もギリギリ面子が保てますからね。
まぁ、この糞王の事ですから、きっと愛人に『王妃になりたい』とか唆されたのでしょうか?
もしかしたら、既に誰かに子供が出来たのかも知れません。
馬鹿な女『側室』までなら私も文句を言いませんのに。
※ 此の世界では『側室』=権利のある愛人という設定です。
「えっ、じゃありませんよ! カイ~っ、この糞豚王の囲っている女は何処に居るのかしら~」
「僕は知りません」
「お前は何を言っておるのだ」
顔が青いですわね。
「今なら怒りませんから、素直に言った方が良いわよ? カイ~っ! もう貴方を守る最強の盾『親子の絆』は自分から手放したのだから~、他人に容赦はしませんわ」
「お母さま、嘘ですよね! 僕を殺したりしませんよね…本気ですか!騎士、近衛騎士団、取り押さえろ~殺しても構わない、王子の名で許す」
「「「はっ」」」
我が子ながら本当の馬鹿ですね『こいつ等が束になっても倒せない魔獣』それをたったの4人で葬り去った、その1人が私ですね。
「あのさぁ、この中の誰とは言いませんが、死に掛けの妻を助けて欲しいと泣きついた馬鹿が居ましたよね? 腕が斬り落とされて泣いていたから繋げてあげた馬鹿もいましたね? 娘が流行り病に掛かって死に掛けていて治療中の馬鹿もいましたよね? 『一生恩に着る』そういう事を口にしたアンタら馬鹿が、私に剣を向けるのですか?」
「王子の命令には逆らえません」
「王子には..すみません」
「それとこれは別だ」
「そう、私が仕えるの王だ、形上は王妃ですが『敵なら仕方が無い』 容赦しません」
私は収納袋から、1本のポーションを取り出した。
「それじゃこれは要りませんわね…シルカちゃんも可哀想に、貴方のお父さんがいけないのよ、私の敵になるからね」
私はポーションを叩き割った。
「何をするのですかーーーーっ」
「何で、敵の娘を私が助けるの? 私しか助けられないのに、敵に回ったのですから、苦しみながら死ねば良いわ」
「ああーーっシルカーーっ」
自分を殺そうと剣を向けた人間の娘を誰が助けるものですかね。
騎士ってそんな事も解らないのかしらね。
本当に馬鹿ね。
「まぁ、今の勇者パーティの聖女なら同じ物を作れますが、依頼できるかしら? そもそも旅をしている勇者パーティを捕まえるまで娘の命が持つのかしらね? 娘の命を犠牲にしてまでの忠義、ご立派ですね!」
「うぬぬ…うわぁぁぁぁぁーーっ」
結局は乱心して掛かってきましたか。
「ホーリーサークル」
光の輪が複数、現れ騎士三人を捕縛した。
「あーらら、大変ね? 後ろのメイドに侍従は私の敵なのかしら?」
「私はメイドですから…」
「まだ王妃である、マリア様には逆らいません」
そう賢明ね。
私は邪魔が入らないようにドアを閉めカギを掛けた。
「なら良いわ、それで、カイ、この場に騎士は居ないわね、呼んでも無駄だわね、私なら簡単に殺せるものね、さぁこの糞豚王の愛人が誰なのか教えなさい」
「カイ、絶対に教えるな」
「父上~」
板挟み、板挟み。
大変ね。
「もう、良いわ、今良い事に気が付いちゃったから、もうカイは教える必要は無いわ」
「母上」
「母上言わない!」
そう言うと私はカイを思いっきり殴った。
『元聖女』だからって甘く見てはいけないのよ。
だって今の聖女のソニアさんを考えてみれば解るわ、たった数人で魔王城に乗り込もうって言うのよ? 聖女は確かに弱いわ、ただそれは『勇者』『剣聖』『賢者』に比べてって事ですわ。
「ああああっ、顔が、顔が痛いーーっ」
「うふふふっ、あらカイお顔が大変ね」
「母上、助けて、顔が」
そりゃ、顔の骨が崩れる位の力で殴ったんだから、このままなら死ぬわ。
まぁ私は優しいから殺さないわ。
我が子ですからね。
「ヒール、ヒール」
これで良いのよ。
パーフェクトヒールと違い、ヒールでは崩れた顔は治らない。
崩れた顔のままで生きていきなさい。
「母上」
「母上、言わない! その醜い顔で死ぬまで生きていく事ね! これで隣国との縁談も終わりね…次は、アレね」
ふふふっアレは焦っているわね。
「なっな何をしようと言うんだ」
「カイよりも醜くしようと思いますわ、ホーリーソード」
私は、アレに素早く近づくと両耳を削ぎ取り、鼻も削ぎ取った。
「ぎゃぁぁぁぁぁーーーっ」
そして、全部逆さまにつけた状態でヒールを掛けた。
「ああっああああああ、誰か、この女を殺せーーーっ」
正に、人間福笑い、まぁこんな物で良いかしら?
変な顔をした王様に、醜く潰れた顔の王子…権力で女を手に入れられても『心から愛してくれる女は現れないでしょうね』
「騎士全員で掛かって来なさい! ただし、それを行ったら、此処を出た後に騎士宿舎によって、貴方達の家族全員皆殺しにしちゃいますわよ!」
騎士達は道をあけた、そして黙っていた。
「そう、それが賢明ね」
その後私は宝物庫にいき、収納袋一杯に宝を詰めて、逃げ出した。
元聖女VS騎士
「うんぐっ、うううん」
「大丈夫よ殺したりはしないからね?…だけど、貴方達は殺されても仕方無いと思うのよ?」
何をしているのかって?
私は絶賛逃亡中なのですわ?
あの糞豚王に糞息子は私を指名手配したのですわ。
本当に馬鹿ですわね。
黙っていれば国から出て行ったのに。
それで、今の私が何をしているのかと言えば、家に押し入っていますの。
その人は何かしたのかって?
私の人相書きを見たらしく『通報しようとしていた』のですわ。
街中騎士やら兵士やらが沢山いるし、仕方なく此処に逃げ込んだのですわ。
この国の恩人を国に売り渡そうとしたから仕方ないと思いますわね。
「ううっううううーーー」
「ううっうううーー」
親子を縛り上げて立てこもっていますの。
「あのね、私が聖女だった頃、この街に大量の魔物が襲ってきた事がありましたわね? その時に助けてあげたのは私ですわ、それなのに、私が酷い目にあっていますのに、通報するってどうい了見ですの?」
「「うううっううううーーっ」」
「あのですね、聴いてますか? あの時に私が助けに入らなければこの街はかなり高い確率で滅んでましたわよ? わ.た.く.し.が助けたらから貴方達は生きていますのよ? ねぇ? そもそも、あの時にわ.た.く.しが助けなければ、貴方達は死んでいました。それなのに不義理するなら、殺しちゃっても良いのですわ」
「「ふんぐーーーーーっふんふん」」
「まぁ、良いですわよ、夜まで此処に居ますわ、その後、貴方達が通報しなければ、何も不幸は置きませんわ..良いですわね」
親子は首を縦に振った。
◆◆◆
夜になりましたわね。
本当に馬鹿ですわね。
私、この国も面子があるから、隠れて出て行こうと思いましたのよ。
それなのに、こんなに大事にする何て…馬鹿ですね。
夜なのに騎士やら兵士やらが駆け回っていますわ。
仕方ありませんわね…正面突破しかありませんわ。
私は、めんどうくさくなり、そのまま歩き出しました。
「待て、そこの女、マリア様だ、マリア様が居たぞー」
「私はもうこの国の敵ですわ! ですがマリア様と言った、その言葉に免じて見逃してあげますわよ! さっさと道をあけなさい」
「これも任務です、そういうわけにはいきません…マリア様が居たぞーっ此処にぐふっうえわーー」
大した事をしていませんわ。
ただ、鳩尾を殴っただけですわ。
私は多分歴代聖女の中ではか弱い方かも知れません。
ですが、素手でフルプレートを拉げる位のパンチは打てます。
「教会に行けば治りますよ? まぁ背骨が折れているから、暫くは歩けないでしょうが…それじゃ行きますわね」
だが、此の騎士が大きな声を出した事により、沢山の騎士が集まって来ましたわ。
もう、わ.た.く.し.国の面子なんて考えてあげませんわ。
「居たぞーマリア様だ」
「此処にいるぞ」
「生死を問わない、必ず捕らえよという命令だ」
「はぁ、仕方ないですね…ホーリーアロー」
無数の光の矢が周りの人々に振り注いだ。
本気で打ち込めば貫通して全員死ぬ、だがそれは不本意ですので手加減しましたわ。
まぁ皆、動けなさそうですからもう大丈夫でしょう。
そんな事を3回ほど繰り返しましたら、もう誰も追って来なくなりましたわ。
さぁ、後は門を通り、外に逃げれば終わりですわね。
まぁ、殺さないで去って行くのは私の優しさですわね。
私の後方で空間が歪んでいるのを感じましたわ。
これは空間転移魔法。
私と一緒に戦った『賢者』も出来ませんでした。
これが出来る存在はただ一人。
「待ちなよ! オバサン」
「態々ここ迄来たんだからね」
私はその顔に絶望した。
元聖女VS剣聖 ~そして競りへ~
私はその顔を知っていた。
何故此処に居るのかしら!
勇者パーティブラックウイングの剣聖ケイトに聖女のソニアが居る。
これは不味い、私は『元聖女』、現役の聖女に敵う筈が無い。
「見逃して貰えないかしら?」
「う~ん、そうしたいのは山々なんだけどね、僕も仕事できているからね」
「無理ね、ブラックウイングへの正式依頼ですから、しかも私達の所属の国へ依頼ですから」
駄目ね、『魔王が存在する時の勇者パーティは凄く強い』
私の時とは違う、勝てる道理が無い。
「そう、降参するわ」
私は油断を誘い、逃走しようとした。
だが、門から少し離れた所で…
「残念、僕には敵わないよ」
そう言う剣聖ケイトの声が聞こえた途端に私は頭に激痛が走り、意識を手放した。
◆◆◆
此処は何処?
あの時、私はブラックウイングの二人と戦って..あれ、それならお城の地下牢に行くはずなのに。
私は檻に入った状態で馬車に積まれていた。
手には鎖が掛けられ、猿轡がされている。
無詠唱が使えれば、良いのだけど、私には使えない。
私はどうなるのかしら?
「気が付いたね」
「気が付いたわね」
剣聖ケイトに聖女ソニアが私を覗き込んでいる。
「猿轡をしているし、その鎖はミスリル合金だから脱出は出来ないよ、ただね僕なりに同情はしたんだ、だから君はあの国には渡さない」
「まぁ話せないんだから、聞くだけ聞いておきなさい。 私も聖女だし同情はする、だからねあの国に貴方を渡す事は止めたの、まぁ門から出たから『領地以外での捕獲』そういう扱いにしたわ、このまま3つ先の国の街アリアスの街で国が主催する奴隷市場が開催されるわ、そこの国営の奴隷商に引き渡す事にしたわ」
この人たちは何を言っているのかしら?
この上、私を何処まで侮辱すれば気がすむのかしら。
「…….」
「僕の国が関わる団体が、そこが一番近いんだから諦めてね、本来は『僕たちは魔王討伐の旅』の途中なのに『お金は幾ら掛かっても構わない』なんて依頼だったんだから仕方なく引き受けたけど、すぐに合流しなくちゃいけないんだ。 ちなみにルランス王国なら気にしなくて良いよ? 勇者パーティ2人の招聘に凄く貴重な転移石4個、多分国の財政が傾くと思うから」
勇者パーティを無理やり呼んで、転移石2人往復分、確かに小国なら傾くわね。
まぁ、あの国に引き渡さないだけ親切だわね。
「それでね、引き渡したら、私達は居なくなるわ、恐らく貴方は国家反逆罪の犯罪奴隷として競りにかけられるわよ。まぁ『元聖女』だから死刑は無いし、無期の鉱山送りも無い。
だけど、あくまで元だから、恐らくはそうなるわ。 まぁ面倒くさいから、私とケイトで略式裁判で勝手に決めたのよ。 まぁ私達が居なくなったら『勝手に逃げて頂戴』」
※勇者パーティメンバーの特権です。
だけど、これで本当に良いのかしら?
「変な顔しているね? 僕たちは『捕獲』ではなく『どうにかして欲しい』という依頼で受けたんだよ、君が居なくなれば解決、戦利品は僕達の物だよね」
確かに、勇者パーティの二人が居なければ逃げ出すのは難しくないかも知れませんわね。
「そうね、どうせ国家反逆罪の奴隷は誰も買わないから、そのまま本当なら処分だけど、元聖女だから、永久監禁とかになるかしらね、まぁ解らないけど、逃げるチャンスは沢山あるんじゃない…あっこれ独り言ね」
勇者パーティ、随分と優しいですわね。
◆◆◆
こうして私は奴隷商に引き渡され、虎視眈々と逃げるチャンスを狙っていたのですが…
気が付いたら『競り』に掛けられていました。
まぁ、誰も買わないでこのまま終わるのですわね。
その後、監禁される前位がチャンスですわね。
「さて、次の出品は犯罪奴隷マリアーーっ! その罪は国家反逆罪、金額は銀貨1枚から~」
元聖女、回復魔法の天才とか言わないのですわね…売る気が無い証拠ですわ。
こんな紹介で売れる訳は無いですわ。
よく考えたら主催は『勇者パーティ』の所属国。
元聖女の私が邪魔なのかも知れませんわ。
今回の事は『元』とはいえ聖女のイメージマイナスになるかも知れませんからね。
まぁ良いわ、どうせ逃げるのだから。
「銀貨1枚、誰かいませんか、銀貨1枚からーーっ」
まぁ国家反逆罪の犯罪奴隷、誰も買うなんてしませんわね。
「銀貨1枚!」
えっ、手が上がりましたわ。
大罪人なのに買う方が居ましたの?
随分と奇特な方ですわ。
どんな方なのでしょうか?
結構な美少年ですわね…はぁうちの糞息子と大違いですわね。
一体、あんな美少年が、なんで私を買うのでしょうか?
暫く様子見で買われて見るのも悪くないかも知れませんわ。
上書きですわ。
「今日はマリアの歓迎会だ、どんどん食べてくれ、碌な物食べて無かったんだろう」
「セレス、私の時は歓迎会が無かったわ」
「いや、あの時は2人だったからな、そうだ、今日はアイシャの歓迎会を兼ねよう」
何が起きたのか解りませんわ。
私は『犯罪奴隷』として競りに掛けられたのですわ。
そんな女、若ければ場末の娼館送り、若く無ければそれこそ鉱山送りが相場な筈ですわ。
実際に私も王妃として、その様に対応していましたわ。
まして国家反逆罪の女の行く先など『地獄』しかない筈ですわね。
それが、これはなんでしょうか?
「兼ねる? なんだかついでみたいで不愉快よ」
「そんな事無いって、そう拗ねないでくれよ」
「別に拗ねてなんていないわ」
良くは解りませんが、この親子は、私を歓迎して下さるようですわ。
つい、驚いている間に奴隷紋も刻まれてしまいましたし、暫くは様子を見ようと思いますわ。
「あの、有難うございます、こんな私の為に歓迎会を開いて下さいまして、大奥様にご主人様」
「大奥様? 誰がよ?」
可笑しいですわ、何故大奥様はお怒りになっているんでしょうか?
此処は褒めて誤魔化すしかありませんわ。
「羨ましいですわ、そんな素敵な息子さんに育て上げるなんて、私は子育てに失敗しましたから、何かコツでもおありなのでしょうか?」
「あちゃ~ ごめん、アイシャは母親じゃないんだ」
「そうなのですか?」
私はご主人様とアイシャの関係について教えて貰った。
「失礼しました、お許し下さいご主人様」
「そんな堅苦しいのは止めて、家族みたいに接してくれると助かる」
「そうですか、それではセレス様とお呼びさせて頂きますわ」
「『様』も要らないからね」
本当に素晴らしいですわ。
糞息子とは大違い、凄い美少年ですわ。少し地味ですがそこが余計『自慢の息子』の様でプラスですわよ。肌なんか女の私より綺麗ですわね。
本物の息子でないのが少し悔しいですが、こんな子が居たら、本当に自慢の息子ですわね。
もう『逃亡は無し』ですわ。
セレスの母親代わりの人生は楽しそうですわね。
糞夫と糞息子が居なくなって、こんな素晴らしい息子が手に入るなら御の字ですわ。
「マリア、私には何か無いの?」
「アイシャさんは同じ奴隷ですわね? わたくし、目下の者に下げる頭はありませんわ」
「マリア、私貴方が嫌いよ」
「奇遇ですわね、私もですわ」
素晴らしいご主人様ですが、余計なのがついていますわね。
しかし、信じられませんわ、このお肉は『マツザカミノタウルスのA5』ですわね。
奴隷は勿論、貴族だってそうそう食べられませんわ。
しかも、この洋服、ドレスではありませんが古着じゃ無く、特注の新品ですわ。
確かに普通の服ですが高価な布を使ってますわね。
そう言えば、私、あの糞親子からプレゼントって貰った記憶はありませんわね。
「有難うございます」
「何が? 仲間なのだからこんなの当たり前だろう」
「仲間ですか?」
「そうだろう」
こんな不意打ち酷いですわ。
そう言えば昔は私にも居ましたわね『仲間』という人間が。
そうですか『仲間』ですか。
「仲間なのですわね、良いでしょうこの私『癒しのマリア』がどんな敵からでも守って見せますわ」
「あんた知らないの? 良い!セレスわぁー 『勇者パーティー、ブラックウイングの 英雄セレス』なのよ」
「はい?」
「まぁ、一応ね、だけど俺の所は楽しく暮らして行けばよいから、気にしないで」
気にしない訳無いですわ。
それなら私はいったい何をすれば良いのでしょうか?
自慢ではありませんが、私、家事は出来ませんわ。
◆◆◆
「あのアイシャさん、ちょっと良いかしら」
「私は眠いのよ、まぁ良いけど」
ご主人様のセレス様が眠ったのを確認してから、隣りで眠っているアイシャさんを起こしましたわ。
「ふぅ~こうして自由にまた生きられるとは、思いませんでしたわ」
「それは同感ね!」
そう言えば、アイシャさんも奴隷でしたわね。
「それで、セレスに対して母親としてどの様な感じで接すれば良いのかしら?」
家族みたいにという事は『母親みたいに』という事だと思いますわ。
ですが奴隷でもあるのですわ。
やはりそこには主従関係もある筈。
その境界を知りたいのですわ。
「あのさぁマリア、あんた馬鹿なの?」
「何でわ.た.く.し.が馬鹿なんですの?」
「ハァ~やっぱり解ってない! セレスは真正のババコンなのよ!」
この子、頭が可笑しいのですわ。
何処の世界に20代それも後半に差し掛かった女性を好きになる若い子が居るのでしょうか?
親子程齢が離れた相手ですわ。
「何馬鹿な事を言っていますの? 頭が可笑しいのですわ」
「あのね、セレスは本当に年上好きなのよ? 私27歳なの、まぁ半分監禁生活だから、子供っぽいわ、だけど真面目に母親じゃなくて恋人枠なのよ? 信じなくても良いけどね」
「それ、本当ですの? こんなわたくしでも、もう一花咲かせられるって事ですわね」
「はいはい、まぁ一番わ私だけどね」
「そうかしら? 犯罪奴隷なのに、買って頂けた私こそが一番ですわ! わたくし、歳さえ関係ないなら美形ですわ」
「はいはい、言ってれば良いわよ」
これは凄いチャンスですわね。
私はこれでも経産婦ですわ、だから夜のお相手もしっかり出来ましてよ。
糞豚王と違って『あんなに美形で若いセレス』なら幾らでもお相手出来ましてよ。
もしアイシャさんがいう事が本当なら…ここ暫くの嫌な人生が全部上書きできますわ。
三人目
「ふんふふふーん」
思わず、鼻歌が出てしまうのも解るだろう。
アイシャが仲間になった時も凄く嬉しかったけど、同じ位の美女が傍に居てくれるんだ。
これが嬉しくない訳無いよな。
ブラックウイングに居た時のお子様にしか見えない美少女じゃなくて、本当の美女だ。
やはり女はこの位の歳じゃ無いとな。
一応勇者パーティだからそこそこモテるが、この世界の成人は若いから『ノーロリータ、ノータッチ』という何処かで聞いたテロップ流れてきて駄目だった。
幾ら頑張っても子供にしか見えないんだから、仕方ない。
まぁ前世の俺はJKとかJCとか駄目だったからな…
此の世界ロリコンには天国だ、あっ俺にも天国だわ。
しかし、寿命が短いせいか、前の世界よりこの世界の女性の扱いは酷いな。
『三年子無きは去れ』『石女』は普通に似た様な言葉はある。
10代後半で結婚してないと『行き遅れ』
20代でもう年増、ババァ 扱い。
酷いな。
俺からしたら『女性らしく思えるのは20代半ばから』なんだが。
プラチナブロンドのアイシャにダークブロンドのマリア。
どちらも、本物のお姫様だし、絶世の美女だ。
本当にこの世界の男は見る目が無いな。
「アイシャ、マリア、ご飯が出来たぞ」
「ふわ~あ、おはようセレス」
「アイシャ、貴方何してますの?」
「ふぇ? 何してますのって?」
「私達は奴隷なのですわ、 ご主人様であるセレスより後に起きて、食事まで作らせるなんて言語道断ですわ」
「それじゃ、マリアはお料理できるの?」
「出来ませんわ、私は王妃でしたし、その前は聖女でしたので家事は不得手でして」
「なら、私の事言えないじゃない」
「心構えの問題でしてよ」
う~ん言い争う姿まで絵になるな。
まぁ止めた方が良いだろう。
「マリア、ありがとう、だけど気にしなくて良いぞ、俺は料理は嫌いじゃないし起きるのも苦手じゃないからな」
「セレスがそう言うなら構いませんわ、ですが大した物ですわね、これ全部セレスが作りましたの?」
「まぁな」
「これ凄く美味しいですわ」
「何時食べてもセレスのご飯は美味しいわね」
「そう言ってくれるなら作ったかいがあるよ」
こんな美味しいそうに食べてくれるなら、毎日作っても苦にならないな。
◆◆◆
「それじゃ行ってきます、午後からは一緒に出掛けるから午前中はゆっくりしてて良いよ」
「いってらっしゃ」
「お帰りお待ちしてますわ」
俺は1人奴隷商に来た。
マイクさんにお礼を言う為だ。
「マイクさん、この間は情報をありがとう、無事落札出来ました」
「セレス様、本当に落札したのですか?」
「はい、美人で回復魔法の使い手、最高の仲間です」
「あはははっ、本当にセレス様は年上がお好きなんですね、幾ら元が美人でも、女奴隷としては価値は無いですね、それに犯罪奴隷ですからね、回復魔法が使えても何時殺されるか考えたら…まぁセレス様じゃなくちゃ怖くて手元に置けませんよ」
そうは見えないけど、確かに普通はそう考えるな。
今の俺は凄くついている。
魔法剣士の俺に姫騎士のアイシャ、元聖女のマリア。
贅沢を言うなら、これに『賢者』並みの魔法使いに『剣聖』並みの剣の使い手が居れば、ほぼ俺が居た時の勇者パーティと同じ構成になる。
まぁ、魔法戦士の俺がこちらに居ると考えたら『剣聖』は抜きでも構わない。
「確かにそうかも知れないですね。ここ迄来たら、年上で魔法にたけた女性がパーティに居たら最高なんですがね」
「ハァ~また年上ですか、本当にセレス様は好きですね…魔法使いですか?」
まぁそんなに都合よく見つかる訳が無い。
此処までが奇跡みたいなものだ。
「普通なら難しいですが、セレス様なら手に入る可能性はありますね」
「そんな人材がいるのですか?」
「ええっいますよ、人類の敵と呼ばれた女」
本当に俺は知らない、そんな女性が居るなんて。
「誰ですか?」
「勇者殺しのマリ」
「勇者殺し? そんな物騒な人物なのですか?」
勇者を殺したのなら流石にどうする事も出来ないんじゃないかな。
「実際には勇者を殺した訳じゃ無いのですよ『勇者すら殺せる武器』を作ろうとしたらしいのですよ」
まぁ、それでも大罪だな。
誰も助けたりしないだろうな。
下手に助けると『勇者絶対主義者』が黙っていないだろう。
「あれっ、この話はセレス様の筝線には触れませんでした?」
「いや、そうじゃないが、俺は一応勇者パーティに籍があるからな」
「そうですね、まぁ、犯罪者の中でも桁が違いますからね」
だが、少し引っかかる事も実はある。
それは『マリ』という名前だ。
この世界では滅多にない名前だ。
もしかしたら、転生者もしくはその娘かも知れない。
「そう言えば、その犯罪者はどんな姿をしているのですか?」
「確か、黒髪に黒目ですね」
間違いない、日本人じゃないか。
「それで、その犯罪者はもしかしたら買えるのですか?」
「他の方には無理ですがセレス様なら購入可能かも知れません」
なんて事は無い。
なんでもマリの祖先が『賢者』だった。
と言っても相当前の話で当人も知らなかったらしい。
だが、その事が解ると揉めに揉めた。
『勇者を殺す様な武器を作ろうとした行為』『賢者の血をひいている』
そのせめぎあいで、今現在は投獄されているそうだ。
「それで、俺だと何で購入できるのですか?」
「危なっかしい人物ですが処刑がしずらいので『誰か責任が持てる人物』の所有物にして、責任をもって管理して貰えるのが理想だそうです…ですが..」
「もしかして、誰も手を挙げない、そういう事ですか?」
「そういう事です、まぁ年齢も28歳ですしね、これで若き絶世の美少女なら、まぁそれでも難しいでしょうね?」
「それで金額は?」
「もしかして買われますか? 買って頂けるなら無料で話をつけます」
同じ日本人(俺は前世)かも知れないから、買わないと目覚めが悪くなるからな。
だけど、なんで無料なんだ。
「何だか悪いな」
「いえ、実はこの『マリ』を引き取ると逆に仲介料を先方がくれるみたいですから、それが金貨..あっ」
「あはははっ気にしないで下さい、随分と助けて貰っていますから、俺が引き取りますから、是非話を進めて下さい」
「解りました」
こうして俺は本人にも会ってないのに三人目の奴隷を決めてしまった。
ホワイトウイング
マイクさんと話が終わった俺は、一旦宿屋に戻ってきた。
少し大きめの部屋を借りているが、流石に少し狭く感じる。
「お帰り~セレス」
「お帰りなさいませですわ、セレス」
マリアの『ですわ』という語尾を聞くと『うんお姫様だったのだな』と感じる。
午後から出掛ける約束をしているから、2人はしっかりと着替えている。
今日これから、出掛ける場所は冒険者ギルドだ。
パーティ登録に変わる物が無いか相談だ。
◆◆◆
「セレス様、今日は一体、どのようなお話しでしょうか?こみいった話なら 直ぐにサロンにご案内致します」
俺が依頼書を持っていないから、何かしらの話だろうと考えたんだな。
流石受付嬢、顔を覚えるのが早いな。
「流石、セレスS級ともなると応対が違うのね」
「何だか、私が聖女だった時より待遇が良さそうですわね」
そのまま、サロンに案内を受けていくと既にギルマスが待っていた。
「今日はどう言ったご用件ですかなセレス殿」
うん、最初の時とは全然違うな。
「パーティを組みたいと思うのですが、勇者パーティから抜けずに組む方法、もしくは似た様な方法は無いかと相談しに来ました」
「成程、それなら簡単だ、別動隊パーティとして登録すれば良い」
「別動隊パーティ?」
余り聞いた事が無いな。
「最近のパーティは大きなところが無いが、大昔はかなり大規模で100名規模のパーティもあった、まぁクラウンと呼んでいた時代もあったな。そういう時代には大きなパーティやクラウンがあり、そこに所属しているという形をとっていた、まぁ今じゃそんな大きなパーティは無いが、制度として生きている」
「なら、それで登録お願い致します」
「解った、リーダーはセレス殿、あとの二人をパーティ登録で良いか?」
「お願いする」
「それじゃ、ミランダ後は頼んだ」
「畏まりました」
「それじゃ、セレス殿、私は次の仕事があるので退席させて貰う」
「有難うございました」
◆◆◆
「それではこれで登録は終わりました、なお親パーティが『ブラックウイング』なのでそちらにも連絡がいきます、それでパーティ名はどうしますか?」
「二人とも何か良い名前は無いかな」
「私はそういうのは苦手だから任せる」
「ここはセレスのパーティなのですからセレスがつけると良いですわ」
名前か…
「それじゃニアゴッデス」
「「め女神?」」
「あの、女神関係の名前は避けるのが賢明ですよ」
「嬉しいけど恥ずかしいわ」
「そうね、凄く嬉しいですが恥ずかしいですわ」
「それじゃ、ホワイトウイングでお願いします」
「ホワイトウイング…はい登録しました」
こうして、俺達は『ホワイトウイング』の名前でパーティを組んだ。
民の為に死んでくれ
「そんな、態々、『剣聖』に『聖女』を呼んだのに、マリアを逃がしたのか?」
「正確には、外で捕まえたから、そのまま連行して奴隷として売り飛ばしたそうです」
「はんっ、勇者パーティもえげつない事するわい、態々逃がすとは、まぁ犯罪奴隷だ誰も買わないでそのまま処刑じゃろう」
「それが落札されたようです」
「嘘だろう、誰に落札されたんだ」
「英雄セレス様です」
「ふざけるな! まさか示し合わせて居たのか」
「アレ様…もう貴方には関係無い話しです」
「宰相、それはどういう事だ…うん、何故そこにカイが縛られておるんだ」
「王よ、いやアレ、貴方は『剣聖』『聖女』を呼ぶのに『お金に糸目をつけない』そう言った」
「言ったがどうした?」
「貴重な転移石を使わせ、魔王討伐の旅を中断させ、此処に呼び寄せた」
「宰相?」
「その金額がいかな金額か知らなかったのでしょうか?」
「どんな金額なのじゃ」
「勇者パーティの戦費調達の為にこの国は『聖教国』と『勇者輩出国』にて分割統治する事になりました」
「それはまさか…」
「はい、代金はこの国、その物という事で御座います」
「おい、幾らなんでも、そんな事はないだろう…おい」
「豚、口をきくな、お前は何をしたんだ? この国の為に尽くした『マリア様』を追放して、この国を他国が一目置くのは『元聖女』のマリア様の戦力があるからでした…それを自ら手放し、更に追い詰める為に勇者パーティを動かした、その結果がこれです。もう貴方は王じゃない。」
「王じゃない俺はどうなる」
「貴方は、もう王でない、貴族でもない、そして平民ですら無い」
「それでは…あっあああああーーーっ」
「この国を治める為に聖教国と勇者輩出国の人間が来ます、その前に我らの手で処刑します」
「待て、俺は王だ、この国に王に対する忠誠がある人間はおらぬのか」
「そんな者は『もうおりません』良いですか? マリア様は英雄セレス様のパーティに入られた、それは勇者パーティに所属した事を意味する…貴方は世界を敵に回したのだ、それでは…これでさようならです…この罪人を連れていけ」
王よ、すまぬな。
マリア様を失っただけならまだしも『勇者達に嫌われた』そんな人間を王のままにしていたらこの国は潰れる。
王や王子なら、この国の民の為に…死んでくれ。
勇者パーティSIDE 後悔
俺は今凄く後悔をしている。
『俺の唯一の親友の心を壊してしまった』
そう、思ったからだ。
他の仲間も少なからず、同じような思いの様だ。
「僕がいけなかったのかな…だけど、どうすれば、よかったの?二番目に好きな男には何もしてあげられないのかな?」
「まだ、ケイトは良いわよ、私は、一応付き合っていたのよ、どうしたら良いの…セレスがババコンに走るなんて」
「もし、そうだとしても仕方ないんじゃない? 思いつめる必要は無いわ だけどまだ決まった訳じゃないわ」
俺は、彼奴から余りに女を奪い過ぎたのだろうか?
それでパーティの仲間に、あんな母親の様な歳の女を選んだのか?
俺は確かに凄く我儘だ。
彼奴を好きになる女は全員俺の物にしてしまった。
確かに俺の女好きが原因だが、もう一つ別の原因がある。
それは『親友』のセレスが他の人間を好きになるのが何となく嫌だったからだ。
酷い奴なのは解っている。
自分は友情より愛が優先の癖に、セレスの中に俺以上の存在が生まれるのが嫌だったのだ。
彼奴は、俺にとって唯一の親友だからな。
彼奴が俺と馬鹿やるより、他の女とのデートを優先するのが、何となく許せなかった。
だから、彼奴を好きそうになりそうな女は全員口説いた。
だが、それが失敗だったのだ。
幼馴染の三人、ケイト、ソニア、そしてリタ。
その中からリタだけはやはり、彼奴にくれてやるべきだったんだ。
いや、幼馴染を誰1人渡したく無いなら、他の女をやはり世話するべきだった。
『彼奴はそこそこモテる』だからこのパーティから抜けただけで、女が寄って来るだろう。
そう考えた俺が悪いのか?
俺が居るから、彼奴が霞んでしまう。
俺から離れれば、彼奴にもきっと恋人が出来る。
彼奴も15歳、流石に恋人も必要だろう。
本来、彼奴はこのパーティには必要な人間だ。
料理は上手いし、細かい事にも手が届く。
彼奴が居ないとケイトが料理を担当する事になるが、肉や魚に塩を振った物ばかり。
それでも『セレス以外では一番真面だ』
だが、このパーティに居たら俺は彼奴の恋愛を邪魔してしまう。
それは、ケイト、ソニア、リタも同じだ。
彼奴らにとっては『俺が一番』『セレスが二番』。
そこは『二番』に対しても、すこしは気持ちはあるのだろう。
彼奴らも『セレスの恋愛』の邪魔をしまくっていた。
だから、外に出したんだ。
これで、セレスは幸せになれる。
彼奴はこれから自由に恋愛できる。
そう、皆で思っていたのだぞ。
それなのに、なんだ!これは?
折角自由にしてやったのに…なんでパーティメンバ―がオバサンなんよ。
家のかーちゃんに近いじゃないか。
「なぁ、俺はやっぱり、セレスに酷い事をしていたのだろうか」
「仕方ないよ、僕もリタも、ソニアも体は、一つしかないのだから」
「だからって…これは酷いわ、私のお母さんは29歳よ26歳と27歳なんて殆ど私のお母さんと同い年だよ」
「リタ、私のお母さんだって33歳だわ、だけど、パーティだから『そういう男女関係』とは限らないわ」
「まぁ、彼奴には親がいなかったからな、まさか母親離れが出来ていなかった、そういう事か? ソニア」
「その方が自然じゃない」
「そう言えば、子供の頃、よくお手伝いをしていたのはセレスだったよね?僕も良く『セレスくんを見習いなさい』ってお母さんに言われたな」
「案外、若い子をパーティに入れたら『またリヒトに取られる』そう思ったからだったりするんじゃないかな」
「俺は、もうそういう事はしないつもりだ」
「だけど、セレスはそんな事知らないんだからね。うん、僕の感は『リヒト対策』の様な気がする」
「そうね」
「その可能性が高そう」
「まぁ良い、この先時間が取れたら、彼奴に会いに行く、一応は親パーティのリーダーだからな俺は、会いに行っても可笑しくない。まぁ相当先だがな」
「その時まで、セレスの気持ちは解らないよね?」
俺は、彼奴をもしかしたら歪めてしまったのではないだろうか?
そう思うと、気が気じゃ無かった。
手放した報酬は大きすぎた。
「許して下さい、勘弁して下さい!」
今日も何時もの様にギルドに来たら、いきなり謝られてしまった。
ミランダさんが急に謝ってきた。
いきなり何を言っているのか解らないが、余程の事じゃ無ければ怒らないぞ。
「頭をあげて下さい、ミランダさん。 セレスは余程の事じゃ無ければ怒りませんわ」
「そうよ、頭をあげて」
「ちが、違います」
顔色が青いな一体どんなミスをしたっていうんだ?
「まぁ、良いや、何をやったのか知らないけど、許すよ。今日も沢山狩って来たから、査定宜しく」
「また、狩ってきたんですか…あああーーっ、許して下さい、勘弁してくださいーーっ」
ミランダさんが叫ぶから、ギルドの職員から冒険者がこちらを見ている。
~周りの様子~
「まさか、誰かが受付嬢に絡んでいるのか」
「いや、違うだろう、相手はセレス様だからな、そんなわけあるか」
「いい、こういう時は、目を合わせない事よ、巻き込まれたら大変だからね」
「それがマナーですよね、解ってます」
~
「ミランダさん、どうしたんですか?俺は何も怒ってませんから安心して下さい」
「違、違います、私もう2週間帰って無いんですよ。受付や査定で死体ばっかり見て、暇さえあれば解体まで手伝って、休みが欲しいんですよーーー帰りたいんです。」
「そうか、何だかごめん、それなら隣町のギルドに」
俺がそう話すやいなや直ぐにギルマスが走ってきた。
「ハァハァぜいぜい、ミランダふざけるなよ! セレス様、隣町になんて持って行かないで下さい。今日も貴重な素材なんですよね」
なんで『セレス殿』じゃなくて『セレス様』なんだ、確か、えーと。
「ワイバーンが40位に空竜が2体、他諸々ですね」
「ミランダーーーっ! お前は舐めているのか? こんな素晴らしい素材を他に持って行かせるなんて、このまま行けば、今期のギルドの成績が5番以内に入るチャンスなんだぞ」
何だかな。
「ですが、私もう2週間も帰っていないんですよ」
「そうか、ならば俺がお前に永遠の休みをやろう、良かったな! これで明日からお前は休めるぞ、永遠にな」
「そんな、嘘ですよね」
「それは嘘だ。だけど休めないのがそんなに嫌か?」
「それは…」
「まぁ良い、だったら簡単だ、セレス様の担当を他に者に変えよう…それが良い、おい誰かミランダの代わりに、セレス様の担当になりたい奴は居るか?」
「「「「「「「「「「はーい」」」」」」」」」」
「私、一か月でも二か月でも残業頑張ります!」
「セレス様の専属になれたら、家族が凄く喜ぶと思います、是非俺にして下さい」
「私だってそうですよ! ミランダが外れるならお願い致します」
「そうだな、1人を選ぶと不公平がでるから、暫くはミランダを除く持ち回りにしよう…ミランダ休みが欲しいなら4日間休みをやる悪かったな」
「あのギルマス…」
「お前さぁ、皆がお前を羨ましがっている事に気が付かなかったのか?」
「だけど、誰も手伝ってくれなくて大変だったんです」
「お前は馬鹿だな、担当になれば歩合が付くだろう? 偶々、最初に登録したからって自分達の数倍の収入が保証された奴なんて手伝う訳無いだろう? 死ぬ程忙しいかも知れんが1か月で安いアパートメンとがキャッシュで買える金が入るんだ、羨ましくて仕方ないぞ俺だって羨ましいぞ」
「あっ、歩合」
「今頃気が付いたか? 疲れていて真面に考えられなかったか? それじゃ明日から4日間ゆっくり休め。それじゃぁな。今日ももう帰って良いぞ」
「あのギルマス、やっぱり私」
「もう遅い、まずは今日の持ち回りはじゃんけんで決めてくれ、それではセレス様達は、倉庫の方で素材を収納袋から出して、サロンでまずは寛いで下さい、すぐに紅茶とお菓子、あっ食事が良いですかな、用意させて頂きます」
「何だかごめん」
「何を言うのですか? パーティランキング2位のホワイトウイングの為なら『死ぬ程頑張ります』セレス様は当ギルドの誇りですから、勿論、アイシャ様もマリア様も同じですから」
「ありがとう、それじゃお願いしますね」
「ありがとう」
「ありがとうですわ」
喜んでくれているみたいだし、これからも頑張ろう。
「そうだ、皆にもおすそ分けで、今日一日のギルド酒場の飲み食いは俺につけて下さい」
「それは皆が喜びます…おーいこれから明日迄の飲み食いはセレス様のおごりだーーっ」
「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「ありがとうございまぁーーーす」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」
「それじゃ、倉庫で出して寛がせてもらおうか? お腹もすいたから飯の方が良いよな」
「そうね」
「そうですわ」
「それじゃ、食事の用意をさせて頂きます、あと、支払いの方ですが」
「売れてから俺たちの共通口座に入れておいてくれれば良いですよ」
「助かる」
俺達は倉庫の方に向った。
「ギルマス…」
「何だ!ミランダ、まだ居たのか? 折角の休日だ、とっとと帰れ」
「あの、ギルマス、私やっぱり」
「もう遅いわーーーっ」
ギルマスの怒り声が聞こえてきたが、俺は知らない。
マリ
「私は作ってただけだもん。だから責任は無いもん。」
「お前はふざけているのか? その道具の名前がブレイブキラーだった時点で解かる筈だろうが」
「道具は道具だよ。剣だってそうでしょう? 使う人次第じゃないのよ! 盗賊が人を殺したって作った人の罪を問うなんて聞いた事ないもん」
私はただ『古の古代兵器』を作っていただけなのに、捕らえられて殺されそうになっている。
どう考えても可笑しい。
『殺される』なんて冗談じゃない。
「良い歳したババアが『もん』なんて気持ち悪いぞ、仕方ないだろう? お前の作っていた武器に古代語で『ブレイブキラー(勇者殺し)』と銘うっていたんだからな」
「だから、そんなの私知らないよ」
「そんな言い訳、無理があり過ぎるだろう、お前は『天才』と呼ばれているんだからな」
「だーかーらー古代語でも幾つか種類があって、知らない文字だって何回も言ったじゃない」
「信じられねーよ、それに俺みたいな下っ端に言った所で何も変わらないぞ」
「そうね、言うだけ無駄な事は解っているもん。だけど酷すぎるんだからどなりたくもなるじゃない」
こんな事しても無駄なのは解っているよ。
物を作っただけで殺されるなんて悔しいんだもん。
だけど、此処から出る方法は無いんだから、処刑を待つしかないのかな。
◆◆◆
「元気か?」
「元気な筈ないじゃない!ご飯は不味いし、もうすぐ殺されちゃうんだからー」
逃げたくてもこう厳重じゃ無理。
もう殺されちゃうんだから。
終わりよ。
「もしかした、処刑を免れるかも知れないぞ」
「本当?」
「お前が作ろうとしていた武器の元本が古の賢者様の物だと解かった」
「嘘、私のご先祖様が賢者だったの?」
「あの本が、お前の先祖の物だったと言う事ならそうだ、そこで今揉めているのだ」
「揉めている?」
もしかして私助かるかも知れないの。
「そうだ、『勇者を殺す武器を作ろうとした罪』『賢者の子孫』その二つでどうするかだな」
「だから、知らなかったんだもん。」
「まぁ数日中に、どうするか結論はでる」
「ちょっと、教えてよ」
「知らねーよ、俺は只の牢番だ、上の報告をただお前に伝えているだけだ」
「使えないわねーーっ」
「悪かったな」
ただ殺される運命よりはましだけど、どうなっちゃうのよ。
◆◆◆
「お前の運命が決まった」
「どうなるの?助かるの?」
「お前は物騒だから、誰かがお前の身元を引き受けるなら助かる。」
「意味が解らないよ」
「簡単に言うなら、身分が高くお前の責任をとれる様な人間に奴隷として宛がわれる『欲しがる人間が居れば奴隷として生きられる』
「奴隷として? そんな酷い! 女としての尊厳」
「お前馬鹿か? 28歳のババアに女としての価値は無いな、しかもお前は『世紀の犯罪者』誰が引き取るって言うんだ、しかも競りじゃないからお前の事なんか知らない」
ちょっと、それって不味いんじゃないの?
28歳の女? 『世紀の犯罪者』それで誰が欲しいって言うの?
完全に『ただ殺したんじゃない』という理由つけ、殺されるの確定だよ。
「確実に私処刑されるんじゃない」
「ああ、多分な」
「酷い、本当に酷いよーーっまだ死にたくない、やりたい事が沢山あるんだもん、助けて」
「まぁ無理だ諦めろ」
もう私の人生は終わった。
◆◆◆
「お前は本当についているな、お前の引き受けてが出たそうだ」
「誰なの」
「勇者パーティのセレス様だ、良いか? 勇者パーティの英雄様だ、迷惑を掛けるなよ」
セレス様? そんな方が何でわたしの事を引き受けてくれるの?
わからない、まぁ会ってから考えれば良いよね。
それから馬車に載せられて、わたしは買ってくれたセレス様の元へ送られた。
◆◆◆
「初めまして、マリちゃんです。武器を作っていただけで殺されかけていました。助けてくれてありがとう….本当に作っていただけ、なんです。信じて下さい」
しかし、地味だけど凄い美少年..じゅる…捕まって良かった。
女に産まれてよかった…しみじみ私は思いました。
機工師 マリ
「また一人仲間に加えようと思う」
「セレスも男の子ですね、やはり若い子が良いのですわね」
「あんた、散々私みたいな年上が好きなんて言っていた癖にそれなの」
マリアの目が生暖かい目で俺を見ている。
逆にアイシャの目は冷たい。
「最初に言っておくけど、新しい仲間は2人より年上だ、それと俺は年上が好みで、アイシャやマリアは…俺から見たら美人で好みだ」
アイシャはやれやれという様な顔をしていたが、マリアは目を丸くしている。
「セレス、それは私が、その恋愛対象で好きなタイプそういう事ですの?」
「マリア、貴方だけでなく私もよ!」
「そんな事今は関係ないですわ、アイシャから聞いてはおりましたのよ、ですがまさか本当だなんて…そういう事なら今夜から」
「マリア、今何をいおうとしているの?」
「いや、まぁ良いですわ、セレス様、また今度続きの話をいたしますわ」
冗談でもこういう事を言われるとつい本気にしてしまう。
まぁ多分揶揄っているんだろう。
「それで話は戻すけど、俺は魔法剣士 アイシャが姫騎士 マリアが元聖女、そう考えたらあと一人賢者に相当する仲間が居れば、パーティとして固まるから、話を聞いて仲間にしようと思ったんだ」
「そういう事だったんだ」
「それでどんな方ですの?」
「まだ会った事が無いけど、2人と同じだよ」
「それはどういう意味?」
「どういう意味ですの?」
「犯罪奴隷で名前はマリ、黒髪黒毛で『勇者を殺せるような武器』を作ろうとしたらしい」
「他にはないの」
「他には情報はありませんの?」
「それだけだな」
「それで本当に大丈夫?」
「大丈夫なのですか?」
「あとは思い出したけど、賢者の子孫らしい、まぁ、俺は凄く運が良いから大丈夫でしょう?」
「どうして?」
「どうしてそう思うのですか?」
「だってこんなに素晴らしい仲間が簡単に出きたからな」
「「うっ」」
◆◆◆
ようやく今日三人目の仲間がこの街に来る日だ。
午後に奴隷商に伺う約束をしていた。
いきなり三人で行くのもなんなので俺一人で行った。
マイクさんに挨拶をすると部屋に案内された。
俺が部屋に入ると彼女は席を立ち俺に挨拶してきた。
「初めまして、マリちゃんです。武器を作っていただけで殺されかけていました。助けてくれてありがとう….本当に作っていただけ、なんです。信じて下さい」
何処からどう見ても日本人にしか見えないな、黒髪、黒目だし。
髪の毛はしっとりヘアーの姫カット。
俗に言うカラス髪で凄く艶があって綺麗だ。
背が凄く小さく140?もないと思う。
そして28歳なのに童顔だ。
うーん一番近いのは秋葉系のアイドルで小柄で20代後半でもチェックのミニスカ穿いて若く見えて、童顔のアイドルって感じ。
アイシャやマリアと違って日本人ぽいからリアル感がある。
それで…なんで黒いゴスロリ風の服を着ているんだ。
『マリちゃん』と自分にちゃんとつけている事と関係があるのかな。
「ご丁寧に有難うございます、俺の名前はセレス、宜しくお願いいしますね!」
「知っています、勇者パーティの『英雄様』ですよね、本当に驚いた~ なんで引き取って貰えるのか、解らないんだもん…どうしてですか?」
「俺のパーティーは魔法剣士の俺、姫騎士のアイシャ、元聖女のマリアで構成されている、だから賢者の様な魔法のエキスパートが欲しかったんだ」
あれ、何だか顔が曇った様な気がする。
「私は嘘は言いたくないから、本当の事言うね。魔法は使えるけど、少しだけだよ…もしかして…要らないのかな?」
俺はマイクさんの方を見ると気まずそうな顔をしていた。
まぁマリは恐らく日本人だから、そんな事では見捨てたりしないが…それなら彼女は一体何が得意なんだろう。
「そんな事は無いけど、それじゃ一体マリちゃんのジョブは何かな?」
「私のジョブは『機工師(きこうし)凄く珍しいジョブなのよ』
「「機工師」」
俺は聞いた事が無い、多分驚いているからマイクさんも知らないジョブなのだろう。
「そう機工師! 道具を作ったりするのに優れたジョブよ!」
「それでどんな物を作ろうとしていたんだ」
「それがね、ご先祖様が残してくれた本の武器を再現しようとしてたの」
「見せて貰っても良いかな、その本」
「見たいの? 見せてあげるよ」
収納袋から本を取り出している。
だけど、良いのか、その本には『ブレーブキラー』の設計図があったりするんじゃないのか?
本を見せて貰った。
なんだこれ、飛行機や戦車、マシンガンじゃないか?
そして『ブレーブキラー』は強化服、しかも半分ロボットみたいな、何処ぞの宇宙刑事が着てそうな感じだ。
これ本当に出来るのか?
『著者 平賀源内』
本物じゃないだろう。
だが、こんなアホな名前を名乗るのは、転移者か転生者に間違いない。
「あのマリさん、いやマリちゃん、これ作れるの?」
「セレス様、流石に全部は作れないよ、これ多分冗談も沢山入っていると思う」
いや冗談じゃない、これは俺の前世で実際にあった物だ。
だが、やはり実現できないだろう。
「そりゃそうだよな、残念だな」
「だけど、ブレーブキラーの剣の部分は作れたよ?」
えーと、『高周波ブレード』って書いてある。
「なぁ、マリちゃん! プロフェッサーマリと呼ばれるのと博士と呼ばれるのどちらが良い?」
「えー教授か博士…凄く評価は嬉しいけど、私の事は『マリちゃん』と呼んで下さいね」
「それじゃ、マリちゃん、解った」
何だか凄く嬉しそうだな。
◆◆◆
「本当に申し訳ございません、魔法使いと間違えていました、今なら返品も受け付けます」
マイクさんが泣きそうな顔で謝ってきた。
「気にしないで下さい、多分彼女はうちに必要な人間です、寧ろ有難うございます」
「そうですか、そう言って貰えると助かります、それでは手違いがあったので奴隷紋はサービス致します、それで今回の奴隷契約ですが、かなり重い契約になります」
そんな、出来る事なら軽い方が良い。
「何とか軽い契約になりませんか」
「それは無理です、危ないと国が考えての事です」
「私構わないよ! 構わない、構わない」
「マリが言うなら、それで」
「解りました」
◆◆◆
本当に、あの本に書いてある物をマリが作れるなら。
大変な事になるかも知れない。
マリの能力
収納袋からマリが高周波ブレードを取り出し見せてくれた。
良かったのか?
取り上げないで。
「何で持っているんだ?」
「なんでもブレーブキラーって書いてあるのが問題で、剣その物はガラクタだからと返してよこしました。」
見た目にはどう見ても特撮ヒーローもしくはSFの世界の物に見える。
「使い方は解らないのかな」
「私は作るの専門、だから使い方はわからないよ! それ、欲しいなら引き取って貰えたからセレス様にあげるよ」
「そうか、ありがとう」
「どういたしまして」
柄にスイッチがあるが、押しても何も起きない。
やはり、駄目なのか? そう思ったら柄の下の部分に蓋があった。
蓋をあけたら、そこにはセンサーの様な物があった。
指でなぞってみたら…
【指紋認識終了…これより貴方を所持者として登録】
「何だこれ、音声、まさか..」
「何で、この剣喋るの?」
マリは解らないみたいだ。
【所持者 セレス…】
俺がさっきのスイッチを押したら剣がぶれている様に見えた。
「高周波ブレードーーッ」
何となくカッコつけながら岩を斬ってみたら…岩が斬れた。
砕けるのではなく斬れた、しかも岩を斬った感覚がハサミで紙を斬るより簡単だった。
「凄い、セレス様」
「いや違う…凄いのマリちゃんだから」
「ふぅ、そう私は天才! 孤高の天才マリちゃん、私にとってはこんな事は簡単だもん」
案外、調子に乗るタイプなのかも知れない。
これどうなんだろう?
高周波ブレードVS聖剣
実際に戦ったらどちらが勝つのかな
この剣で斬れない物等想像もつかない。
まぁ聖剣は聖なる力があるし、魔剣は魔力が籠っているから流石に無理だろうな。
「それで、物を使う能力は凄いのは解かったけど、魔法の方はどの位出来るの?」
「私、凄く苦手なんです」
「それじゃ、試しに何かやってみて」
「本当にやりますよ! やって良いんですよね?」
「勿論構わない」
「全てを焼き尽くす獄炎の炎よ全てを焼き尽くせ! 」
マリの杖に凄い力が集まっていく。
そして、炎が…竜巻の様に舞い上がり近くの森を焼き尽くした。
ヤバイ、このままじゃ山火事になりかねない。
そうなる前に木を。
「火を打ち払う、水よ全ての火をうち消せ」
今度は空に大きな滝が現れたかと思えば、燃えた木を消し尽くした。
「凄いじゃないか」
「あはははっ、もう立てません!」
「だが、もっと簡単な魔法で良かったのに、なんでこんな最上位魔法を使ったんだ」
「マリちゃんは、初級魔法も中級魔法も上級魔法も使えません」
「そんな可笑しいだろう? 魔法の訓練って初級からはじめるものなんじゃ無いのか?」
「マリちゃんのお父さんもお母さんも『大は小を兼ねる』からと初級も中級も上級も教えてくれませんでした」
どういう事だ?
そんな事出来るのか?
それに中級以上は兎も角、初球は出来ないと不便だろう。
焚火も出来ないじゃ無いか。
「不便じゃなかったのか?」
「結構不便でしたね、でもご先祖様の残してくれた財産があったので働かなくても生活出来ていたので、基本死ぬまで、お父さんもお母さんも遊んで暮らしてましたから、さほど問題になかったかな」
うわぁ、もしかして家族ニートか。
「それじゃ、マリちゃんも働かなかったのかな」
「私は働いてましたよ、だけど良くクビになるんですよね。アカデミーにも行きましたし、良く『天才』って言われてました…ですが1週間もすると『紙一重の方』とか言われて、そこから『何もしないで良い』になって最後は『頼むから辞めてくれ』と泣かれるんです」
何となく解かった気がする。
苦労をしょい込んだ気がする。
大きな家を買って、大きな部屋を用意してそこで研究していて貰おう。
それが良い。
「解かった、その天才と言われた頭脳を俺に貸してくれ」
「喜んで」
しかし、前世が日本人だったせいか、黒髪黒目は実際に見ると凄い破壊力だな。
此の世界では圧倒的に少なく、下手すれば生涯会わない人も居るかも知れない。
アイシャやマリアが物語の人、もしくはハリウッドスターなら、マリは、20代後半でも秋葉系アイドルのヒラヒラしたスカートを穿いているアイドル。
悪く言うなら20代で高校生役をやっている女優さん、もしくはAV嬢。
上手く言えないが、身近というか何と言うか『現実味』がある。
何となく、二人が美人なのに対して『可愛い』と言える感じ。
『イエスロリータ、ノータッチ』だけど、彼女は『ロリに見えても良く見ればロリ出ないのは解かるよね? 本当は成人していて20代後半なんだよ』という様な『可愛いい感じだ』
子役でデビューした背の低い子がそのまま28歳になった、そんな感じだ。
『美人独特のオーラが無い分』親しみやすい。
「そんなにマリちゃんを見てどうかした?」
「何でもない」
◆◆◆
「マリちゃんです。宜しく~」
「なんでそんな服着てますの?」
「暑くない?」
「暑いけど、こう言う服しかマリちゃん持ってないんだもん」
えーとゴスロリ服、好きで着ていたんじゃないのか?
「セレス、買ってあげなよ、可哀想だよ」
「流石に長袖は可哀想ですわ」
「えーと、それ好きで着ていたんじゃないんだ」
「お母さんの形見、なんだよ、まぁ勿体ないから着ているだけなんだよ」
「そうか気が付かなくてごめん、明日にでも買いにいこう」
「えーと、マリちゃんは奴隷の筈なんだけど、服買ってくれるの?」
「多分、此処の生活は驚くよ」
「セレスは物凄く大切にしてくれますわ」
「そうなんですか…わーい」
◆◆◆
「あの、なんでセレス様がご飯を作るの、奴隷が三人もいるのに、変だよ」
「なれた方が良いですわ」
「そうそう、何時もの光景だから」
これが異常なのはいくらマリちゃんでも解かる。
奴隷はボロ服を着て、それこそ床下に座らせられて居る様な存在だよ。
それが、ふっくらしたソファに座って、ご主人様のセレスが家事をしているよ。
しかも話しを聞くと『様』すらつけないで欲しいって言うんだから驚きだよね。
しかし、このご飯凄く美味しい。
「これ凄く美味しいよ」
「A5だからね」
「A5のマツザカですわ」
A5なんて最高級のお肉じゃない、こんなに歓迎してくれるなんて感激。
「あの、こんなに歓迎してくれるなんてマリちゃん感激です」
「これは何時もだよ」
「何時もマツザカのA5なのですわ」
「歓迎会はまた今度やるからな、今日は遅いからこんな感じで勘弁してくれ」
奴隷なのにこの待遇。
なんで謝られるか流石に解かんない。
『多分此処がマリちゃんの居場所なんだ』
いま、それが解かった。
だが、これで終わらないんだもん
「明日、マリちゃんの服と日常品を買いに行くよ、あと、結構アイシャにマリアが頑張ってくれたから、大きなパーティハウスを買おうと思うんだ、明日一緒に冒険者ギルドに付き合ってくれ」
「「解りました(わ)」」
信じられないよね。
パーティハウス
我がパーティ最大の弱点。
それは『三人が常識』を知らない事だな。
マリの洋服や日常品を買いそろえようと思ったんだ…だが、誰も真面に買い物が出来ない。
よく考えたら、王妃に監禁娘に、引き籠り研究者。
出来なくて当たり前だな。
この辺りも今後どうするか、考えないと不味い。
もし、俺が倒れでもしたら『真面に生活』が出来なくなる。
持ちながらギルドに行くのもなんなので、近くに居た顔見知りの子供冒険者にお金とチップを払い、宿に届けて貰うように頼んだ。
◆◆◆
さてと、俺達はギルドに来ている。
「セレス様、今日はまた、素材の買取りですか?それとも何かの依頼を受けられますか?本日は私ミゲルが担当させて頂きます」
「今日はパーティハウスを購入しに来たんだ、確か斡旋もしていたよな」
「勿論ですよ『この私ミゲルが責任をもってお世話させて頂きます』」
ミゲルさんの顔は凄い笑顔だ。
前世で言う所の『不動産取引』多分歩合も高いのだろう。
そのまま、サロンに通されて、何だこの茶菓子と紅茶は。
なんでケーキ迄あるんだ。
「凄いわね」
「流石、セレス様ですわ、待遇が全然違いますのね」
「美味しそう、これ食べて良いの!」
いや、確かに紅茶は良く出て来たけど…これは凄い。
「あの、これは一体」
「これですか? 普通こういうサロンのお菓子やお茶は、担当が用意するんですよ、S級はギルドに最高に貢献しているんだから当たり前です。今回は皆で考えて用意しましたが希望があれば、言って下さいね、軽食位なら普通に用意しますよ」
前世でいうVIPルームみたいな物か。
「それでは、すぐに資料を用意して来ますから待っていて下さいね」
そう言うとミゲルさんは出て行った。
◆◆◆
「本当に馬鹿ねミランダ、あれ程の存在を手放すなんて」
「暫く地獄かもしれないけどさぁ、半年我慢すれば一生分の収入が手に入ったのかも知れないのに」
「しかし、今日の担当のミゲルさん、討伐じゃないからついて無いな」
「いやそれでも、あのセレス様だぞ、絶対高額物件買うんじゃないのか?」
「そりゃそうだろう、確か個人の取り分が8%だから」
「金貨1000枚なら80枚(約800万)が一瞬で手に入る事になるんだから、とんでもないよな」
「ミランダ、君はもうセレス様の担当は持ち回りでも回さないから、安心して、そろそろ時間だから帰って良いよ」
「…解りました」
『一瞬の判断で全てを失う事がある』
その鉄則を忘れたから…私は一生に一度の大きなチャンスを見逃したのかも知れない。
◆◆◆
「セレス様、資料をご用意しました、さぁ早速条件を教えて下さい」
「まず、俺からは、部屋数最低5つ、お風呂にトイレ、キッチン付きでそれぞれが魔石が使える物で、あと大きな部屋か倉庫が欲しい、他は皆の希望を聞いて決めたい」
「す..凄いですねそれは..(この時点で、もう貴族の屋敷クラスだな)」
「それで充分よ」
「充分ですわね」
「あの~マリちゃんは研究室が欲しいし、他に大きな物置が必衰ですぅ~」
「ちょっとマリ、こういう時は奴隷は遠慮する物ですわ」
「そうよ!」
「だけど、マリちゃん、それが無いと本領はっきできないよ」
「そうだな、だから、さっきの要望に入っているんだけど、あれじゃ駄目か?」
「う~ん、そうですね『出来るだけ大きな』でお願い」
ミゲルさんはかなり困っているようだ。
「流石に無いですか?」
「あははははっ、ちゃんと探しますよ、ご安心下さい」
なんだか、前世の外商みたいで大変だな。
「あっ、ありました、これどうですか? 街の外れですが一応街のなかです、此処しかありません」
自信をもって言っているけど…これ。
「小城じゃないか?」
「城だね」
「城ですわね」
「この位あれば、マリちゃんも大満足です」
確かに、条件通りだけど流石に城は高くて手が出ないだろう…えっ何でこれが『金貨500枚』なんだ。
「なんで、小さいとはいえ城がこの金額なんですか?」
「はい、この国の貴族の多くは屋敷はもう持っています、先祖代々の物だから、移る気がありません、住んでいた方は貴族でしたから、内装も良いのですが、商人等が住むと生意気だと言われ商売がしにくくなります。あとは、住んでいた貴族が最後、跡取りなく非業の死を遂げたのでゴーストが出ると噂があるからですね」
「良し、決めた、これにしよう」
「セレス、ゴーストが出るかも知れないのよ」
「マリちゃんも少し怖いよ」
「あの、2人とも何を言っているんだ? こちらには元聖女のマリアが居るんだ! それが安い原因なら問題無い、一応俺たちは勇者パーティ絡みだから、貴族だって文句は言わない筈だよ」
「流石はセレスですわ、私が居ればどんなゴーストも浄化しましてよ」
こんなにお金を使っても、まだまだ余裕はある。
「それなら文句言は無いわ」
「安心だね」
こうして俺たちはパーティハウス兼城を手に入れた。
見ないで決めたのは若干自分でも驚きだが、まぁ勢いも必要だよな。
初恋の相手が…
パーティハウス、まぁほぼ小城を4人で見に来た。
此処からなら冒険者ギルドまで歩いて20分位、警備隊の詰め所迄10分。
悪くない。
まぁ貴族街も近いから、商人は敬遠するだろうな..
まぁ俺には良い場所だ。
先程、ハレス伯爵夫人が馬車で通った時に態々、馬車から降りて挨拶してくれた。
「英雄様が、近くに住んで頂けると心強いです」
そう言っていたから、貴族達からの嫌がらせは無いと思って良いな。
「しかし、凄いなこれ」
「お城ですわね」
「お城ね」
「これなら充分です」
一応はお城じゃない。
見た目がお城に見える凄い屋敷だ。
まぁ、こんな所に本物のお城を建てたら国王に文句を言われる。
これでも反感を買う可能性もあるかも知れない、だから売れなかったのか。
そんな感じだろうか?
カギを貰ったので中に入る、部屋数は12部屋に倉庫が3つ。
そのうちの1番大きな倉庫はそのまま外に繋がっていて馬車置き場を兼ねるようだ。
「好きな部屋をまずは1つずつ選んで良いよ」
「セレスは何処にするの?」
「何処にするのです!」
「あっ、俺は、女ばかりで危ないから1回の入り口に近い部屋にするつもりだ、皆は女性なんだから可能なら2階から選んでくれ」
「そうなんですの」
「そうなんだ」
「そうだね」
なんで3人とも顔が赤くなるんだ。
まぁ良いや。
「マリちゃんは部屋より倉庫の方が気になります」
「そうだな、一緒に見に行くか」
「はい」
マリと一緒に倉庫を見に行った。
「う~ん、これよ、これ、こう言うのが欲しかったの」
「良かったな」
「それでお願いなんですが、部屋は要りませんから、小さい倉庫をラボ兼自室に、大きい倉庫を開発室としてくれないかな?」
なんだか、マリと話していると此処が異世界なのを忘れてSF漫画の博士と話している気がしてくる。
「そうだな、マリえもんの好きにして良いよ?」
「まりえもん?」
「あはははっ忘れて、ちょっと頭から出てきただけだから」
危うく神よりも怖い存在を怒らせる所だった。
一通り、部屋を見て回ったが、家具はしっかりとありベッドも6つあった。
これなら、清掃をして貰って、寝具や食器、魔石を買えば生活が出来る。
清掃は冒険者ギルドがしっかりしてくれるから必要な物だけ買えば良いだろう。
◆◆◆
「しかし、本当に全部俺任せで良かったのか?」
「すみません、わたくしは王妃だったのでこういうのは解らないのですわ」
「私はほら外に出なかったから…解らないわ」
「マリちゃんも同じ」
確かにそうだけどさぁ。
寝具から食器…挙句は服に下着まで全部俺が選ぶとは思わなかった。
流石に下着を買うときは、少し恥ずかしいぞ。
まぁ、我がパーティは『家事が全滅なので』俺が下着まで洗っているんだが…
この世界の寝具はオーダーメードだから、完成まで2週間かかる。
うん、メード? メイド。
俺は馬鹿なのか? メイドを買うか雇えば良いじゃ無いか?
流石に宿屋ならまだしも『屋敷で女物の下着を洗う』のはカッコ悪すぎる。
「先に宿に帰っていてくれる? 俺はメイドの手配をしてくる」
「そう、また買うのね」
「家事ができないのですから仕方ありませんわね」
「家事は少し宛がありますから、1人で大丈夫ですよ」
二人の寒い視線とマリのなんだか自信がありそうなどや顔を見ながら俺は1人奴隷商に向った。
「セレス様、今日もまた奴隷の購入ですか?」
うん、本当に儲からない客なのに笑顔で迎えてくれるマイクさんが素晴らしい。
「儲からなくて申し訳ないが『家事奴隷』が欲しい」
「はいはい、また少し歳が上めが良いんですよね、心得ていますよ」
まぁ儲からないからか、もしかしてマイクさんを俺専用にしたのか主は顔を出してこない。
「その通りです」
「丁度、昨日他の奴隷商から購入した家事奴隷が数人いますから見て見ますか?」
「宜しくお願い致します」
何時見ても汚い奥のカーテンから先にお目当ての家事奴隷がいる。
高く売れる性処理奴隷は手前の部屋に格子がついた場所に居るのに対し、この辺りは臭く、衛生も良くない。
「此処に居るのが家事奴隷です、まぁ女性としては25歳以上で終わっています、経産婦が殆どで、村娘のジョブとかですから上級メイドにはなれないですね、掃除や洗濯にはもってこいですが、食事も田舎臭い物しか作れません」
まぁそれで充分だな。
「それで幾らですか?」
「訳ありでは無いので金貨3枚、あっ奥に蹲って座っているのは31歳なので金貨1枚で良いですよ、流石にセレス様でも…」
嘘だろう、なんで此処にいるんだよ。
「奥の奴隷を買う、買う買う買う…金貨1枚じゃ悪いから金貨2枚、いや3枚で買う、だから部屋を少し借りたい」
「どうしたのですか急に…あははっ私もプロだから金額以上では売れません1枚で結構、それじゃ、金貨1枚は高級奴隷様のお披露目服と清掃、奴隷紋代に使われては如何ですか? サロンはどんな奴隷を購入した人でも使えますから、無料です」
心臓が飛び出るかと思った。
なんでこんな場所に居るんだよ。
◆◆◆
「あのぉ、本当に私が売れたのですか? それになんでシャワーまで浴びれるのでしょうか?」
「あんたついているな、あんたが奥で顔見世もしないで蹲っていた時に、気に入られて買われたんだ、しかも余分にお金を出してオプションまでつけられた、まるで十代の性処理奴隷みたいな感じでだ」
「それでこれなのですね、新品の服を貰えるのは嬉しいですが、これ私みたいなオバサンに似合いますか」
「お前みたいなババアに似合う訳ないだろう? だけど服は高級奴隷のオーナー以外買わないからこういう服以外、無いんだからしゃーねだろう」
「そうですね…こんなオバサンにこんなの着せてどうしたいのかしら?」
「それはご主人様に聞く事だな」
「そうですね~」
◆◆◆
「さっきは驚いていたようですが、何かご事情でも」
「多分知り合い、そして恩人の可能性があったんだ」
「左様ですか、良かったですね」
「本当にそう思うよ…ありがとう…マイクさんには本当に世話になりっぱなしだよ」
「私は、お仕事をしているだけです…おや目当ての方が連れられてきたようです、私は席を一旦外させて頂きます」
そう言うとマイクさんは出て行った。
ドアが開いて『彼女』が入ってきた。
忘れる事は無い。
此の世界での俺の初恋の相手…マリベルさん。
「マリベルさん?」
「嘘、私を買ったのってセレ坊だったの?」
驚いた顔で目を見開いていた。
ジミナ村のマリベルさん、俺の初恋の相手、そして『勇者リヒト』の母親だ。
マリベルに何が起こったのか?
「マリベルさん!?」
「セレ坊?」
俺は驚きを隠せない。
国はリヒトが勇者に選ばれた後、勇者の支度金という名目で両親に金貨800枚(日本円で約8千万)支払った。
ソニアやリタ、ケイトの実家にもそこ迄では無いが支払っていた。
まぁ、俺は四職で無いし、身内も居ないから何も貰えなかったんだけどね。
金貨800枚と簡単に言うけど、ジミナ村はど田舎だ。
多分、質素に暮らせば生涯金貨300枚も使わないで家族が生活出来る。
まさか、ジミナ村に何か問題が起きたのか?
それなら『糞、すぐに田舎に帰るべきだった』俺なら盗賊だろうが倒せる。
「マリベルさん、まさかジミナ村で何か起きたのでしょうか?」
「えっ、ジミナ村! 普通に平和だけど?」
「それなら、何故マリベルさんが」
「それは..ほらうちのリヒトが勇者に選ばれたでしょう」
マリベルさんが悲しそうに話し始めた。
◆◆◆
「うちも含んで、四職に選ばれた家族には莫大なお金が支払われたじゃない?」
「金貨800枚ですよね?」
「そうよ、それがね、うちには間違いだったのよ…」
リタの家やソニアの家やケイトの家は、そのお金を使って家を直したり、田畑を増やしたり、貯金したりしたそうだ。
だが、リヒトの家は違っていた。
リヒトの親父リューズは、今思えば働かないで遊んでいる様な人だったな。
顔はムカつくがリヒトに似て2枚目だ。
働かないリューズの代わりに一生懸命働いていたのがマリベルさんだった。
俺には『仕事を出来ない駄目人間だが、家族には優しい人』に見えていたんだが、どうやら違ったようだ。
マリベルさんの収入無くして生活出来ないリューズは…言われて見れば寄生虫みたいな男だったようだ、『収入が無いから優しい人を演じていた』だけだったらしい。
リヒトが勇者になり『お金が手に入った』リューズは、すぐに本性を現し、すぐに街に遊びに行き賭け事をする様になった。
最初はそれでも街と家を行き来していたが、次第に家に帰って来なくなったそうだ。
様子を見に街に行って見つけたら…若い女と腕を組んで歩いているリューズの姿だった。
直ぐにマリベルさんが詰め寄ると
「今の俺はモテるんだ、今更ババアの出る幕じゃないぞ」
「そうそう、オバサン、リューズに寄生して生きているんでしょう? 財産目当ての糞ババアが何言っているの?」
そう罵倒され目の前が暗くなったそうだ。
多分、此処で離婚すれば、マリベルさんはまだ、幸せだったのかも知れない。
だが、放心状態のマリベルさんはそのまま村に戻った。
そして、目を覚ましてくれるかもしれないと思い、村で待っていた。
そんなマリベルさんの元に1か月ちょっとでリューズは帰ってきた。
その時にはもう、金貨5枚位しか持っていなかったらしい。
「マリベル、俺はようやく目が覚めた、これからはもう浮気はしない」
そう言ったそうだ。
その結果、マリベルさんは離婚で無く再構築を選んだ。
だが、これは大きな間違いだった。
「マリベル、今迄苦労を掛けたから、残り少なくなってしまったが、これで街で美味しい物を食べよう」
「そうね、ありがとう」
だが、街に行ってマリベルさんを待っていたのは『奴隷として売られる運命だった』
しかも、近隣の街だと素性を知られる可能性があるから、態々『流れの奴隷商』に売ったらしい。
金額は二足三文で。
リューズの目当てはマリベルさんを売ったお金でなく、マリベルさんが隠し持っているお金、金貨100枚だった。
貰った金貨800枚のうち100枚だけはマリベルさんが、何かあった時に使う為に隠していたらしい。
クズのリューズは『家探しすれば見つかる』だろうと、タガをくくり、マリベルさんを売り払った。
◆◆◆
「大変でしたね」
「あはははっ笑っておくれよ、一生懸命主人に尽くし、頑張った結果がこれさ」
本当に酷い話だが、前世とは全く違うのがこの世界だ。
街などの都心部では若干薄い物の『男尊女卑』が田舎では普通にある。
ジミナ村は豊かで良い村だが、あるか無いかと言えば男尊女卑はある。
俺は男だから関係ないが、もし女だったらきっと孤児の俺は酷い扱いだったかも知れない。
まぁ奴隷を買っている俺が言えた義理では無いが『普通に田舎では嫁を田んぼや牛や畑と交換』なんて風習もある。
若い子で、これなのだから、31歳のマリベルさんにはもっと酷い事が起きても可笑しくない。
だが、俺には凄く気になった事がある。
「なんでリヒトの名前を出さなかったんですか?」
「母親の私が子供に迷惑を掛ける訳にいかないだろう? それにあの子の性格じゃ父親につくかも知れないしね」
まぁ、リヒトは二枚目の親父を慕っていたな。
クズのリューズも自分に似ているリヒトに優しかったしな、よく小遣いをやっていた。
そのお金もマリベルさんが稼いでリューズにあげたお小遣いから何だが、リヒトには解らないだろう。
しかも、他の面は良い奴だがリヒトは「女にだけはだらしない」これはリューズ譲り。
女関係で小言を言うマリベルをリヒトは嫌っていた。
確か子供の頃に
「なぁセレス、お前の好みはどういう女なんだ」
「俺の理想はお前の母親だよ」
「俺の母ちゃん? 物好きだな!あんなので良ければ何時でも譲ってやるぜ!」
そんな会話をした思い出がある。
それから暫くして、リューズから
「お前、マリベルが好きなんだってな? お前が15歳になる事には彼奴はババアだぞ、だがな、それでも欲しいっていうなら、その時はよう、俺に言うんだ金貨5枚で譲ってやるぜ、まぁガキのお前が乳恋しさに言っているだけで直ぐにそんな気持ちなくなるだろうがな」
そんな事を言っていた。
確かに言っていた。
村社会だから、未亡人は『夜這い』の対象だし、20代前半から徐々に女性の価値はなくなる。
そうか、今思えば
『しかも、20代半ばから女扱いはされにくい世界だ。もし旦那が居ても、その位の年齢の女性であれば真剣に話せば譲ってくれる可能性すらある。』
これはリューズから聞いた事だ。
俺の中にあった『『案外ジミナ村に帰る』それで幸せになれるかも知れない。』これは村に帰れば、マリベルさんを譲って貰える。
そんな気持ちがあったからこそ、そう思っていたのかも知れない。
長い夜が始まる。
「それで、セレ坊、大切なお金、こんなオバサンに使って良かったのかい?」
「今の俺はそこそこ稼いでいるので全然大丈夫ですよ」
あの後、俺は代金を払って奴隷紋を刻んで貰って二人で散歩している。
『奴隷紋を刻まない』という選択も考えたが、リューズに会った時に相手が妻だと主張した場合、負ける可能性もあるので刻んで貰った。
本来は奴隷販売した時点で、特別な契約を結ばなければ自動的に『離婚』になる。
だが、奴隷商なら『買い付け契約書』があるが、俺にはそう言った書類が無いのでこうした方が無難だ。
しかし、久々に見た『初恋の相手』は未だに美貌は衰えていない。
前世で言うなら、ジーンズとTシャツが似合う、綺麗なお姉さんだ。
「何だいジロジロみて、そう言えばセレ坊は昔から、私をよく見ていたね」
「まぁ初恋だったしね(こっちの世界の)」
「あはははっ可笑しいね、セレ坊が5歳の時に私は21歳だよ? そんなオバサンが初恋だったの?」
「母親が居なかったからね」
「そうかい、そうかいだったらあんな亭主とっとと見切りつけてセレ坊の嫁さんになってやれば良かったよ」
そう言いながら、マリベルさんは悲しそうな顔をしていた。
旦那に奴隷にされて売り飛ばされた挙句、息子の友達に買われたら『元気な訳』ないな。
◆◆◆
「マリベルさん、今日は嫌な事忘れて、ぱぁっと買い物しちゃおう? なんなら、お酒も付き合っちゃうよ?」
「セレ坊、ありがとう..」
「セレ坊は止めて、ちゃんとセレスと呼んで」
「そうだね、大人になったんだから失礼だね、解った」
まず最初に寝具店に行った。
「セレス、こんな高い寝具で良いの?」
「他の仲間と一緒だから大丈夫、もうじきパーティハウスに移るから色々準備しているんだ」
「そう、それなら良いけど…」
最近金銭感覚がマヒしているけど、本当はこんな感じだよな。
ついでに服屋に行って、数着服の仕立てを頼んだ。
「マリベルさんに任せるから」
そう言うと、てきぱきと生地から選んでいた。
結構安そうな物ばかり選ぶから…
「こっちにしよう」
「えっ、だけど、それ高いじゃない? 私にはこっちで充分だって」
まぁ、本人が良いなら良いだろう。
しかし、意見を言いながら出来るショッピングは楽しいな。
あの三人もこうなってくれると嬉しいな。
そして、最後は古着屋にきた。
仕立てに数日掛るので、その間着る服を買った。
「セレス、本当に良いの? 私みたいなオバサンじゃなくてさぁ、若い子にお金を使うべきだよ」
「あっ、付き合っているって言えば、一応パーティメンバーが居て、そういう関係かも知れない」
「まぁセレスもそういう年頃だね、だったら、外で飲むんじゃなくて久々に料理するから家で飲まない? セレスのお付き合いしている人をオバサンが見てあげるよ?」
「そうだね、久々にマリベルさんの料理食べてみたいな」
「それじゃ決まりだね!」
食材とエールを買って帰った。
◆◆◆
「セレス、これはどういう事なの? 私に近い歳に見えるんだけど?」
長い夜が始まる
逃がして貰えなかった。
「この人が新しいメイドさん」
「まぁな、だがアイシャ、使用人扱いはしないでくれ、俺の小さい頃の母親代わりで『勇者の母親』だ」
「「「勇者の母親!」」」
「セレス、あんた、なんでこうも『厄介そうな人』を仲間にするの?」
「アイシャ、貴方も同じじゃない! お初にお目にかかります、私はマリアと申しますのよ、仲良くして下さいね」
「私はマリ、研究者をしているわ! 色々と宜しく、ぐふふふふっ」
マリの目が何となく怪しいけど気のせいだよな。
「セレス、これはどういう事なの?私に近い歳に見えるんだけど?」
うっ困ったな。
いつも何時もこの話しばかりだ、そうだ…丸投げしよう。
「あのさぁ、マリア申し訳無いけど、俺の恋愛観について、説明してくれないか?」
マリアは元王妃だから、人の話を聞くのがプロだ。
それに王に変わって色々指示を出していたから『多分大丈夫だ』
「そうですわね、確かに毎回セレスに話をさせるのは酷ですから、此処は正室になるであろう、私が話しますわ」
「ちょっと待って! ふざけないで! なんであんたが正室になるの? セレスと私が最初に出会ったのよ」
「アイシャじゃ、人は仕切れないんじゃなくて? だから今回も私に頼まれたんですのよ? 私はこれでも元王妃ですので、仕切りは得意なのですわ」
「はぁ~仕切りが出来ないとなんで正室になれないのよ!わけわかんない」
「ちょっと二人ともセレスが困っているよ! ちゃんと話そうよ」
ああっ、本当は一番可笑しなはずのマリが真面に見える。
美人同士の喧嘩は見ていて楽しいと思った事があるが、当事者は大変なんだな。
前世の、大学時代に『リア充死ね』とか『リア充爆発しろ』なんて言っていたけど、苦労はあるんだな。
今少しだけ解った。
「セレス、これは一体どういう事? オバサンによく解るように話してくれない」
マリベルさんが慌てだしている。
仕方なく俺は自分で話す事にした。
俺の話を聞くとマリベルさんは驚いていた。
まぁあとの三人はもう知っているから驚かない。
「えーと、セレスは何かい? 私みたいなオバサンが本当に好きってことなのかい?」
俺は前世で40年。転生して15年、一番年上のマリベルさんだって十分若い。
31歳の美女。
40歳のサラリーマンからしたら生唾物だと思う。
転生者、此の世界ではあまり聞かない。
マリの祖先は多分『転移者』の可能性が高いが、子孫のマリですらその事は言わない。
もしかしたら、案外知られていない可能性も高い。
だから…誤魔化す事にした。
リヒト、お前は親友だ。
女関係は最悪な奴だけど、親友だ…それは変わらない。
だが『女を片端から奪って独占した』それは事実だ。
偶には俺が『女関係で利用しても良いよな』
「まぁ、同世代の女の子は全員リヒトに夢中な子が多かったし…それに何故か俺を好きになる子がいると、リヒトが口説き落とすから、村では恋愛が出来なかったですからね」
まぁこれは事実だ。
「たしかに、そうだったね、私達、まぁオバサンに思われても仕方ないけど、私達からしたらセレ坊が一番人気だったんだけどね、まぁ若い子は本当に見る目が無いね、リヒトなんか本当に何処が良いんだか」
俺は『若い子』なんて興味無いから近所の主婦や未亡人のお手伝いを遊びそっちのけでしていたからな、人気はあるのかも知れない。
「リヒトのせいで周りに居るのはリヒトを好きな女の子ばかり、そして俺はリヒトにとっての親友だから、自然とリヒト+リヒトを好きな女の子(幼馴染含む)+俺で遊んでいましたから」
「まぁそれは見ていて解ったけどね、主人もリヒトも私のいう事なんて聞かないからすまなかったねぇ」
「いえ、謝る必要なんてないですよ! おかげで年上の女性の良さが良く解るようになりましたから」
そこから俺は年上の女性が如何に素晴らしいか語った。
若い女の子と違い包容力がある事。
優しさんに溢れ慈愛に満ちている事。
抱きしめられると凄く安心する事。
等、エトセトラ。
「やだねぇ、そんな事言われると照れちゃうね、そんな風に言われた事はないからね」
しかし、何故か三人は会話に加わって来ない。
何で、真剣に聞いているんだ?
「という訳で、嘘偽りなく『本当にマリベルさんを含んで全員好みなんです』、年上だけじゃなくて、全てが『好き』なんですよ!流石に恥ずかしいから俺はちょっと外に出てきます」
「ハァ~まさか5歳の時から、本当に私を好きだったなんてね~ごめんよ、流石に本気だとは取れなかったよ、オバサン」
「それじゃ」
俺は顔が真っ赤で恥ずかしさから体も熱いので、話を聞かずに出て行こうとしたが..
「待って下さいまし、今のはマリベルへの想いですわね? 私達への想いはどうなのか? しっかりと教えて貰えますわよね」
マリアに捕まり逃がして貰えなかった。
男として 経験
此処まで来たら、もう勢いだな。
「アイシャはプラチナブロンドの綺麗な髪で、そうだな、昔話に出てくる気が強そうな美人のお姫様みたいな感じかな。姫騎士のジョブが似合う、戦天使みたい感じだ。年齢の事は俺が年上が好きなのは解るだろう? どう見たって美人にしか見えない。見た瞬間から思わず目を奪われたよ」
「面と向かって言われると恥かしいわ…でもありがとう」
「マリアに到っては本物の王妃で元聖女だ。髪も綺麗だし、まるで絵本や劇の中から現れた様な美女だろう? アイシャが戦うタイプのお姫様なら理知的なお姫様、まぁマリアは本物なんだから当たり前か。どこに好きにならない要素があるんだよ」
「まぁ、私、そんな言葉を頂いたのは久しぶりですわ…有難うございます」
「マリは綺麗なカラス髪だし、背が低くて若く見える、それが本当に若いのではなく、独特な色香もある。他の人とちがって可愛いと思うよ? (流石に秋葉系アイドルとは言えないし)昔見た歌姫に似た様な可愛い子がいたよ」
「マリちゃん可愛いのですね、ありがとう」
「マリベルさんは、さっき言った通り、初恋の相手だし。最初は理想のお母さんだと思って見ていたけど、まぁいつの間にか、それから好きになったよ..ああっ本当に恥ずかしいから今度こそ出掛けてくる」
「なんだか、全ての元は私みたいだね、どうしたもんかね」
「今度こそ、少し出かけてくる」
「「「「いってらっしゃい」」」」
◆◆◆
「さてとセレスは出て行ってしまった訳だけど、どんなもんかね?」
「マリベルさん、それはどういう意味ですの?」
「マリアさん、夜の相手の事よ」
「そうですわね、セレスの年齢を考えたら一番興味のある年齢ですわ」
「それに、セレスはうちのリヒトのせいで不自由させていたみたいだし、私達が好みならお相手を考えていいんじゃない? まぁ奴隷だから押し倒しても良い筈だけどセレスは良い子だから出来ないと思うしね」
「まぁ、私は王妃でしたからそこそこの経験もあるし、マリベルさんも同じでしょうから、そうですわね、本気で好きだって解った事だし、此方からはしたないですが、押しかけませんか」
「ハァ~ 少し恥ずかしいけど、そうするしかないのかね」
「そうですわね」
「ちょっと、勝手に決めないでくれる、そういう事なら私も参加するわ…まぁ経験は無いけど良い歳なんだから」
「マリちゃんも仲間外れは嫌ですよ、見た目は別ですけど2番目に年上なのよ」
「それじゃ、今夜頑張って見る?」
「「「はい」」」
◆◆◆
「流石に暫く、こういう事はして無かったからね、ハァ~少し体形が崩れたような気がするわ、大丈夫かしら?」
「マリベルさん、そんな事言いだしたらキリがありませんわ、まぁそれも含んでセレスならきっと愛してくれますわよ」
「そうね、まぁ年上が好きという事はそういう事よね」
「ちょっと、マリベルさん、マリア、こんな恥ずかしい下着付けるの?」
「まぁ初めてで恥ずかしいかも知れないけど、夫婦になればもっと派手なのも身に着けるわよ、今日は初日だからこれでも抑え気味なのですわ、そうですわねマリベルさん」
「そうね、そういう方も居るわね、だけどマリアさん、私は村育ちだから、余りそう言うのは持っていなかったわよ」
「あの、マリちゃんはこれで良いの?」
「そうね、一人位『可愛い』感じの子が居た方が喜ぶんじゃないかしら」
「そうですわ、お似合いでしてよ」
「さてとこれで準備は出来ましたね、後は明かりを消して寝たふりをして、セレスが布団に入ったら…頑張りましょう」
「「「はーい」」」
4人は明かりを消して布団に潜り込んだ。
◆◆◆
良かった、明かりが消えている。
流石に告白を4人纏めてするのは俺だって恥ずかしい。
大体、全員が大人なんだから、告白してしまえば『次の話』になる。
マリベルさんが31歳リヒトが15歳。
そう考えたら16歳でマリベルさんは出産している事になる。
前の世界とは違いこの世界では『普通は当たり前』の事だ。
まぁリヒト達は妊娠なんかしたら大変だから、今はしっかり手は打っているだろうが経験は普通にあるだろう。
それはさて置き…彼女達の年齢を考えたら次はおのずと『そういう関係』になる。
「ハァ~どうすれば良いんだろう」
「セレ坊は、そういう事は悩まないで良いんだよ、さぁおいで」
「ちょっ…マリベルさんと皆」
マリベルさんはベージュ、マリアは紫、アイシャは赤、マリは白、一見清楚だが、よく見るとかなり薄い生地の下着だ。
「なに、ぼーっとしてますの? しっかり告白したのですから、次はこれですわよね? まさかこの年齢の女に告白して結婚を前提にしてないとか言いませんわよね?」
「ふん、またセレスは奴隷だからとか難しい事考えているんでしょう! 全く違うから早くきなさい!」
「マリちゃんも大丈夫だから、こっちへきて」
心の整理がつく前に、もう始まってしまった…この状態で拒むなんて選択は出来ないし。
もう腹を括るしかないな。
◆◆◆
「生きているって素晴らしい」
「全くセレスは、もう『本当の意味で大人になったんだから』それに大袈裟だね。こんなオバチャン達の体がそんなに良かったのかい、色々緩んでいただろうに」
俺とマリベルさん以外は疲れたのかまだ寝ている。
「そんな事無いよ、最高だった」
「私達としてはセレスの初めてがこんなオバサン達だって、すまない気もあるんだけどね、まぁセレスは私達が好きだって言うならその辺りは諦めて」
此の世界じゃそうなのかも知れない。
だが、こんな美女に囲まれた『初体験』は絶対に前世じゃ起きない事だ。
しかし、凄いな15歳の体は、幾らでも出来るんだから。
「そんな事は無いよ、皆、素晴らしかったよ、まるで夢みたいだった」
「そうかい、そんなに気に入ったなら『また今晩もする?』」
「そうだね…あははは」
「しかし、セレスは凄いね、本当に初めてだったのかい?」
「あはははっ、大好きな人に、自分がしたい事をしただけだよ」
「そうかい、良い子だね、私はこれから朝食を作るから、セレスはその子達ともう暫く寝ていなよ」
「それなら、俺が作るよ」
「約束しただろう? ご飯作るってね、とびっきり美味しいのつくるからね」
「そうだった」
「まぁ、休んで待っていてね、ちょっと恥ずかしいわね」
まだ寝ている3人にマリベルさんを見てつい頬が緩んでしまう。
食事が出来ても3人は疲れているのかまだ寝ている。
久々に食べた、マリベルさんのご飯は『凄く懐かしい』味がした。
よく考えたら『俺は既に胃袋』も掴まれていたんだな。
しみじみそう思った。
避妊紋と高周波ブレード
素晴らしい朝だ。
今日は何でも出来そうな気がする。
こういう経験って本当に凄い、まぁこれは気のせいなのは解っているけどね。
「おはよう」
「「「おはよう(ですわ)」」」
3人がようやく起きてきた。
三人とも顔が赤い。
まぁ昨日あれだけ乱れたんだから当たり前か。
「今日は4人ともゆっくりしていて、俺は少し外に出てくる」
「そうね、そうさせて貰うわね、ちょっとまだ痛いし」
「マリちゃんも同じ、そうだ、色々開発したいから少しお金を貰える?」
「解った、取り敢えずこれで良いかな?」
俺は金貨10枚渡した。
「充分、ありがとう」
「私も、久々でしたので、休ませて頂きますわ」
「私は、そうね昨日の今日だから休むかね、夕飯は作っておくからね」
「それじゃ、行ってきます…あと昨日はありがとう」
「「「「うっ」」」」
俺は宿を後にした。
まず最初に、俺は再び奴隷商に来た。
目当ては避妊紋を入れる為だ。
本来は性処理奴隷に入れる物だが、避妊目的に入れる事が多い。
今後も『ある』としたらしっかり避妊して置いた方が良いだろう
恥ずかしいが仕方ないからマイクさんにお願いいした。
「まぁ、セレス様は有名人ですからこういう対策も必要ですよね」
多分、理由は察してそうだな。
一応は勇者パーティと繋がっているんだから『妊娠』はやばいだろう。
ちなみにリヒトには避妊紋は刻めない。
勇者の体はこの魔法すら弾いてしまうからだ。
◆◆◆
そして俺は火竜山脈に来ている。
火竜。
竜の中では中級
だが中級の竜の中では最強に位置する、この上になると最早伝説になる位強くなる。
大体、火竜を一体倒すのにおおよそ騎士団1個中隊30人の騎士が必要と言われている。
本来なら、俺でも1体ずつしか相手できない。
ワイバーンや地竜とはけた違いに強い。
まぁ簡単に出会える竜の中では最強クラスという事だ。
「さて、マリ特製、高周波ブレード、此奴を試してみよう」
もし、これが竜の鱗すら無視して斬れるなら、伝説のドラゴンキラーすら超える武器になる。
沢山うごめいている火竜。
最初は離れている所にいる一体を探す。
居た。
俺は気配を隠して近づいて一気に斬りかかる。
スパッ。
これ凄いな、火竜が吠える間もなく首が摺り落ちた。
『火竜がまるで魚を斬る位簡単に斬れる』
これは本当にヤバイもんじゃないか?
絶対にドラゴンキラー超えだ。
此れなら、幾らでも狩れるな…
最早、気にする必要は無い…火竜の群れにそのまま飛び込んだ。
◆◆◆
「いらっしゃいませ、セレス様、今日は私、チルダがお相手させて頂きます、本日はなんでしょうか? 買取ですか? 買取ですよね?」
「あの、実は依頼を受ける前に実は火竜を討伐してしまいまして」
「まぁ素晴らしい、大丈夫ですよ? 竜種なんて狩るのはセレス様達位です。 かち合う事はありませんからね、気にしないで下さい」
「そう言って貰えると助かります」
「それじゃ、倉庫の方に行きましょうか、そこで素材を出して頂いた後はサロンで寛いで下さい」
「ありがとう」
倉庫の方にご案内しました
セレス様は、狩ってきた『火竜達』を出し始めました。
「ちょっと、セレス様一体じゃ無いんですか?」
「えーと、多分36体かな?」
「36体…1体辺りの買取値段が金貨600枚(6千万)の火竜が36…えーと金貨21600枚…あはははっ、セレス様、サロンにエルフの奴隷でも届けましょうか?」
「いや、そういうのは良いから、少し疲れたから、仮眠させてくれますか? お金も直ぐには難しいでしょうから、パーティ口座に売れたら入れておいて」
「解りました」
金貨21600枚(21億6千万)暫く帰れないけど…この歩合だけで一生分の収入になりますね。
死ぬ程頑張って、そのご褒美に小さなお家と美少年の奴隷でも買おうかな。
まぁ、その前に2か月位、死ぬ気で頑張りますか。
【勇者パーティSIDE】丸く収まったな。
「嘘だろう、母ちゃん、いや母さんが売り飛ばされたなんて」
途中立ち寄ったギルドでそんな報告書を貰った。
「リヒト、だったら一旦戻らないと」
「リタ気にしなくて良い、もう済んだ事だ、母さんは奴隷として売り飛ばされ、もう買われた」
「リヒト、幾ら母親が嫌いだとしても、これは動いた方が良いと思うよ、僕だって知り合いが奴隷になるなんて気分が良く無いよ」
「そうよ、リヒト」
「いや、行く必要は無いな、母さんはもう奴隷として売られた後だしな」
「それなら、買い戻さないと、しかしまさか売ったのは…」
「ああっ親父だな」
「リューズさんか、やっぱり僕は好きになれない、自分の家族を売るなんて信じられない」
「まぁ親父のやりそうな事だ、冗談だが彼奴、大昔にセレスに母さんを売ろうとしたんだぜ」
「嘘、最低ね」
「まぁ俺たちがガキの頃だから、只の冗談だな、5歳のガキには金なんてないからな…だがセレスの方は冗談とは思って居なかったのかもしれない、俺もセレスに「物好きだな!あんなので良ければ何時でも譲ってやるぜ!」と言ってたしな」
「それで、リヒトはそれで良いの? 自分の母親が見も知らない人間に売られたんだよ、幾ら父親の方が好きでもこれは流石にマリベルさんが可哀想だよ!」
「えっ、俺は母さんも嫌いだけど、親父はもっと嫌いだ」
「そうは見えなかったけど」
「僕もそう思っていたけど」
「違う、母さんは口うるさいし、女関係は凄く堅物だからなそりが合わないんだよ、親父はクズだけど理解があるし金をくれるから懐いた振りしていただけだ」
「それって」
「『親父に似てモテル』そういう息子を演じていれば金くれるからな、ソニアやリタ、ケイトとのデート代欲しさからだな、俺は両方共好きじゃない」
「だからって、幾ら何でも酷いよ、見損なったよ僕」
「私も少し引くわよ」
「最低だわ」
「いや、買ったのが見知らぬ相手だったら、俺だって動くよ? だけど運よく買ったのはセレスだ」
「「「セレス?」」」
「まぁ幾ら口うるさいババアでも、一応は身内だから不幸にはなって欲しくは無いさ、だがお前等も知っての通り、凄く口うるさいからな、一緒には居たくない、お前等だって俺と結婚したとして、母さんと同居したいか?」
「僕、同居は嫌だな」
「私も無理だわ」
「避けたいよね」
「そうだろう? それにセレスは俺からしたら身内みたいなもんだ、親父が捨てた母さんを兄貴、もしくはもう一人の親父が引き取ったようなもんだと思わないか?何か問題ある?」
「そうね、問題なさそうだよ」
「そうね問題無いわ、だけど、セレスって本当にお兄ちゃんとか父親に思える時があるよね」
「言えてる」
「あのさぁ、リヒト、僕思ったんだけど、セレスって孤児じゃない? だから母親みたいな家族が欲しかったんじゃない?子供の頃のセレスってよく大人の女性ばかり見ていた記憶があるよ! あとよくお手伝いしていたじゃない!」
「そう言えばそうね、そのせいで私、母さんに『セレス君を見ならいなさい』って怒られたわ」
「私もよ…」
「成程な、確かに彼奴は俺にも親父にも『本当に譲ってくれるのか』って言っていたな、母親が欲しい、案外それが今回のババアパーティの真相かも知れないな、だがそれなら好都合じゃないか? 幾ら俺が母さんが嫌いでもよ不幸にはなって貰いたくはねーよ。だがこの先同居はお前達も嫌だろう?」
「そうだね」
「私もいやだわ」
「いちゃつけないもんね」
「だったら、俺達が一番信頼できるセレスが『引き取ってくれたんだから万々歳だろう?』これで結局丸く収まる、彼奴も欲しかった『母親』を手に入れ喜んでいるだろうしな。一応言っておくが俺はそこ迄ゲスじゃないぞ、相手がセレスだからOKなんだ、違う奴なら直ぐに飛んでいく。彼奴は兄弟みたいなもんだ…母親を長男に渡した次男みたいなものだ」
「そうだね、僕は解っているよ」
「全員問題無いわね」
「最高の答えね」
「だが、親父、彼奴は許せねーな。セレスに身内の恥を晒しやがって、セレスに譲ったならいざ知らず。金だって俺の支度金で一生遊んで暮らせるんだから、金に困ってじゃねーのは確かだ」
「それでどうするのさ」
「まぁ、家族だから報復する訳にいかないが『理由書を添えて絶縁』しておくのが良いだろうな、ギルドと教会に正式に出そうと思う、教会の方はソニア頼めるかな」
「まぁね、聖女の私が言えば大丈夫だわ」
「それじゃ頼んだ」
リヒト達は知らなかった。
この『絶縁』は思った以上に厳しいと言う事を。
愚か者の末路
チクショウ、まだ見つからない。
こんな事なら、もう少し優しくして金貨のある場所を聞いてから売りとばすべきだった。
マリベルを売り払った後、家じゅうを探してみたが金が見つからなかった。
何処を探しても見つからない。
散々、探して見つかったのは『冒険者証』だった。
そうか、そういう事か?
彼奴、考えたな。
金で持っていると俺が取り上げる、そう考えて冒険者登録をして金を預けたんだ。
多分、これで合っている筈だ。
俺はマリベルの冒険者証を持って、街の冒険者ギルドに向った。
「この冒険者の口座を解約したいのだが」
「この冒険者証は女性の物で貴方の物ではありませんね? 冒険者の口座は当人、もしくはパーティメンバーしか引き出しは出来ません。マリベルさんはパーティに入って無く、個人の口座ですので当人しか無理ですね」
「何だって、俺は此奴の亭主だぞ! 金が必要なんだどうにかしてくれ」
「何かマリベルさんにあったのですか?」
「いや、旅先で病気になったらしく金を送金したいんだ」
「それなら考慮しますが、婚姻届けは教会ですか? 何処かのギルドですか?」
「婚姻届け?」
「はい、婚姻届けです」
※この世界には「教会婚」「ギルド婚」が一般的で、式を挙げると、登録がされる。
但し、農村部や田舎等では事実婚が多い、その場合は村単位で認めているが、公的証明が出ない。
「そんな物は無い」
「怪しいですね、この冒険者証はギルドで没収します、当人が来ましたら、何時でもお返ししますのでご安心下さい」
「返せ」
「はぁ~これはあくまで『冒険者ギルド』の身分証明書です。怪しい相手からは取り上げるのは当たり前です」
仕方ないな、こうなったらリヒトの名前を使わせて貰おう。
「俺は怪しくない『勇者リヒト』の父親リューズだ」
どうだ、ぐうの音も出まい。
「そうですか? 貴方があの『勇者様に絶縁された』クズですか。此処にクズが居ます、今直ぐ叩き出して下さい! 怪我しようが死んでしまっても構いません」
「解ったぜ、おっさん殺される前に立ち去った方が良いぞ、こう言われたら剣を使っても良いと言う事だ」
「俺は勇者の父親だ! こんな事したら、リヒトが黙って無いぞ」
「知らないようだから、教えてあげますよ、貴方、勇者様から『絶縁』されてますね、親子なのに何をしたんですかね? この場合は『勇者に嫌われた人間』扱いは普通には扱いません。」
「嘘だーーーっ」
「態々説明してあげたのに…さっさと叩きだして下さい」
結局、俺はマリベルの冒険者証を取り上げられて、叩き出されてしまった。
結構手荒に扱われたから、怪我していた。
「クソっ、あの受付と冒険者覚えていろよ」
痛くてたまらない俺は教会にポーションを購入しに来た。
「その顔はリューズですね? 貴方にはポーションもそうですが、教会は一切の治療をしません、勿論一切の祈りもさせません」
「何故だ、俺は..」
「聞く必要はありません、貴方は女神の使いである『勇者様から絶縁』されています、聖女様と連名で回状が回ってきました…お引き取りを」
「そんな神に仕えるなら慈悲を」
「あはははっ何をおっしゃる『貴方は勇者の敵』そこらへんの野良犬になら慈悲を与える事はありますが、誰しも『ゴブリンに慈悲は与えない』、女神の使い足る勇者に『絶縁』までされた貴方は女神も救わないでしょう…まぁ異国には異教を認める国もありますから、今からでもそこに向った方が良いと思いますよ? これを教えたことが私の最後の慈悲ですね」
駄目だ、もし他国に行ったら全てを失ってしまう。
村に戻れば、まだ、田んぼと畑がある。
それで俺は生きていくしかない。
◆◆◆
村に戻ってきた。
村長にはマリベルは行方不明になったと伝えているから大丈夫だ。
村の人間にかまをかけて見たが、マリベルについては誰も知らない。
しかし、俺がリヒトに絶縁された原因は時期からしてそれ以外は考えられない。
だが、彼奴もそんなにマリベルを好きではない筈だから、案外別の可能性もある。
あくまで今は考える事しか出来ない。
だが、それより…
畑って何をすれば良いんだ。
田んぼってどうすれば良いんだ。
俺は…駄目だ、どうして良いか思い出さない。
飯すら作れない。
◆◆◆2週間後◆◆◆
結局、俺は田んぼと畑を村で欲しいという人間に売り払った。
運よく、他の三職の親達がお金があったので買って貰えたが、それで手にしたお金は金貨50枚(約500万)だった。
これを元手に何かするしかない。
昔は冒険者をしていたが、ギルドに嫌われている感じだから、恐らく無理だろう。
「もう終わりだ..」
喉が渇いた、村を出て川を覗き込んだ。
『俺は…結構いけているじゃないか?』
俺はマリベルと結婚して、まぁヒモをしていたが、その前の俺はモテていた。
俺によく似たリヒトは相手に困らない。
なんだ、慌てる事は無い。
マリベルの時の様に『誰か女に養って貰えば良い』
『はぁ~ 探すのがメンドクサイな…』
とりあえず街に行こう、多分街には昔、俺の事が好きだった女も居るかもな。
快適で便利な、素敵な生活。
ようやく寝具や必要な物が届き、パーティハウスに移り住んだ。
結構、快適だと思ったら更にすごいことに…
「何だ!これ?」
「セレス、これがルンタッタ君1号から6号、メイドさんは1人で良いっていた理由だよ」
マリって何者なんだ?
目の前に走っている円盤状の物体。
これは前世ではおなじみの掃除機ロボットだ。
「凄いなこれ」
「でしょう? 本だとエレキで動くんだけど、そんな物作るの大変だから魔石で作ってみたの」
「ロボット掃除機、こんな物が作れるんだな」
「えっセレス、ロボット知っているの、私の周りには居なかったけど…偉い偉い」
マリが頭を撫でてくる。
この間の夜以降、皆がスキンシップをしてくれるようになった。
何だか心地よい。
この辺りは元からだが、此処は高いだけあって井戸でなく蛇口があり、そこから水が出る。
お風呂も魔石を使い沸かせる。
トイレは流石にボットン便所だが…何これ。
「マリ…トイレ」
「ばっちいから、少し改造したよ、水で流すようにしたの? 更に拭くのは汚いからお尻も洗うようにしたのよ」
温水洗浄便座に洋便。
ここは本当に異世界なのだろうか?
マリと一緒だと本当にそう思ってしまう。
「凄いな、これも本に書いてあったのか」
「うん、そうだよ、これから『洗濯用の渦巻きくん』『食材保存の冷え冷えくん』『部屋の温度調整が出来る快適くん』も作るよ、楽しみにしていてね」
「ああっ楽しみにしている」
昔読んだ小説に『チート』って言葉があるけど、正にマリの為にある言葉の様な気がする。
確かに此れならメイドは1人で充分だな。
◆◆◆
あの熱い夜から、セレ坊、いやセレスはますます良い男になった。
「行ってきます」
「「「「行ってらっしゃい(ですわ)」」」」
私を含み、軽くキスをしてセレスを送り出している。
こんなオバサン達のキスを凄く嬉しそうな顔で受けてくれる。
それは凄く幸せなんだけど…二人が困っているわ。
「マリは良いとして私はこれで良いのかしら?」
「本当にそう思いますわよね?貴方は姫騎士で私は元聖女、一緒のパーティの筈ですわ」
私は家事担当だから良いのだけど、本来一緒に戦う二人を家に置いていくようになったのよね。
二人が本当に困っていたから、間に入って聞いてあげたのよ。
「まぁ、こういう関係になった以上は、リヒトの旅が終わったら、結婚しようと思うんだ。俺が夫で皆が妻だとしたら、置いていくのは当たり前だと思う。俺がしっかり外で稼ぐから皆はしっかり家を守って欲しいな」
だってさぁ、一応、セレスは勇者パーティだから、リヒトの戦いが終わるまで、結婚は難しいのだろうね。
これを聞いて二人は顔を真っ赤にしていたよ。
話しを聞けば『姫騎士』に『元聖女様』に専業主婦になって欲しいって言っているんだからね、皆、良い歳なのに最後の最後で幸せを掴んだ様なものだね。
その後は『心配だから、外にいくときは全員で』だって。
いや、皆いい歳したオバサンだよ?
こんなの狙わないって、それにマリさんと私を除いたら物凄く強いのに。
まるで『新婚』みたいじゃないか?
まぁ、あながち間違っても居ないんだけどね。
それにセレスったら私もパーティ登録して全員に『カード』を持たすんだから
『いくら使っても良いからね』だって。
男と付き合うって相手次第でこんなに違うのかね。
「恋人がいるってこんなに素晴らしいのね」
「マリちゃんもそう思います」
「それは違いますわ! セレスが素晴らしいだけで、相手がクズだと辛いだけでしてよ」
「そうだよ、私も今思えば前の結婚の時は良い思い出はないわ、本当に相手次第で変わるわね」
「だけど、私何をすれば良いの? マリちゃんは、色々道具を作っているし、マリベルさんは料理をしているけど、私とマリアは何もしてないわ」
「そうですわね、私は元聖女ですから『癒し』が得意ですが、出番はないですわね、まさかここ迄大切にされると思っていませんでしたわ」
「私は料理しかしてないわね、前はこれに掃除に田畑の仕事に糞旦那の世話があったけど、今は無いからね…これが俗にいう『専業主婦』って奴だね」
「「「専業主婦」」」
「そう、専業主婦、働き者で優しい旦那と結婚した奥さんだけの特権、私には無縁だと思っていたのに、こんなオバサンになってなれるとは思わなかったね、まぁ理想の旦那に息子との生活なんて少し前まで考えられなかったね」
「だけど、何もしないと言うのはこれはこれで困りますわね、私だってセレスの役に立ちたいのですわ」
「そうよ、マリちゃんは今も倉庫で何か作っているのに何も私はしていないわ」
「マリアさんにアイシャさん、私も同じようなものだわ、そうね…とりあえずは」
「何かありますの」
「何かあるなら手伝うわ」
「あとでマリちゃんを誘って、セクシーな下着でも買いに行きませんか? オバサンなのに毎晩愛してくれるんだから、出来るだけの事はしてあげたいわ」
「そうね、今の私は、それ位しかセレスにしてあげられませんわね」
「それでセレスが喜ぶなら良いわね」
その日の午後四人は『勝負下着みたいな物』を買いに出かけた。
幸せな女に不幸せな男
4人で下着を買い終わったあと、冒険者ギルドに併設されている酒場で食事をしていた。
まだ実質結婚はしていないけど『稼ぎのある優しい旦那が居る』というのは本当に素晴らしいわ。
「マリベルさん、どうかしたの?」
「私の村では、結婚した村娘の憧れはこういった街でランチをする事だったのよ、仲の良い奥さんで集まってね、うちの元旦那は甲斐性無しだから一度も経験が無かったわね」
「私の場合は政略結婚でしたわ、まぁ私は知らないで『愛されていた』と勘違いしてましたわね、ですが、実際にその、肌を合わせてみたら別物でしたわ、本当にこう『愛されている』そう感じましたわ、はしたないですが」
「そうね、あれは全くの別物ね『本当の愛の営み』ってこういうのを言うのね、此の歳になって女の幸せを知るなんて思わなかったわ」
「そんなに違うの?」
「マリちゃんも愛されているんだな位は解ります。アイシャさん鈍感」
「私だって解るわ」
私達が話していると、ギルドの職員が話し掛けてきた。
「マリベル様、前の村でギルドに冒険者登録がありますね、二重登録になるので前の登録を抹消しておきますね、金貨100枚は、パーティ口座に移す感じでよいでしょうか?」
幸せ過ぎてすっかり忘れていたわ。
「そうね、それで良いわお願いいします」
「畏まりました」
幸せになったせいか金貨100枚なんてすっかり忘れていたわ。
◆◆◆
街に来た俺は宿屋を借りて、獲物を探した。
本当は若い女も良いが、俺も流石に歳だ。
この際、ヒモにしてくれるなら歳上でも構わない。
そう思っていたら、昔、俺が貢がせていた女が居た。
名前は確かサーヤだったな。
もう良い歳だが、この際此奴で手を打ってやろう。
声を掛けた。
「久しぶりサーヤ、良かったら俺とまた付き合わねーか?」
「あんた馬鹿にしているの? 何時までも女が貴方を好きでいるなんて思わないでね」
いきなり、俺の顔にビンタが飛んできた。
「痛てぇ、何するんだ!」
「あんた、私に何したか忘れたの? 散々貢がせて置いて、好きな女が出来たって行方くらましてさぁ…何様のつもり?」
「そんな、昔の事は忘れた…」
「そうね、もう大昔の事だもんね! だが私は忘れていない。今は結婚して幸せだけど、あんたの顔見たら不愉快になった、ぶん殴ってやる『現役冒険者、鉄拳のサーヤ』のパンチは痛いわよ」
「止めろ、そんな事したら訴えるぞ」
「すれば? あんたさぁ『息子の勇者に絶縁されたんだろう?』 そのせいで教会も冒険者ギルドもあんたは助けないって、勿論国もね、つまり殺しても問題が無いのよ!」
そう言うとサーヤはグーパンで俺を殴った。
「痛い、本当に止めてくれ」
「本当はボコるつもりだったけど、止めてあげるわ。情けない顔! まぁ大嫌いだけど、楽しかった思い出も本当に僅かにあるから教えてあげるわ…もう貴方には『聖教会』の勢力範囲では人権が無いわ『勇者に嫌われた』のだから当たり前の事よ…帝国に向って、その先なら『聖教会』の勢力が及ばない国ある、そこに行くしかないわ」
「そうなのか…すまないな」
「良いのよ《そんな所にたどり着く事は無いでしょうね、その前に野垂れ死ぬわ》」
此処にも俺の居場所が無い。
この街から、出て行くしかないな。
◆◆◆
その後のリューズを見た者は誰も居ない。
二つの手紙 絶望へ
「セレス様、手紙がきております」
ギルドに顔を出すと、手紙が二枚届いていた。
はぁ~どうせ嫌な内容に決まっている。
俺に手紙を出してくる人物は『仲の良い相手で勇者パーティ』が多い。
それ以外は、政治がらみ。
つまり、殆ど碌な内容で無いと言う事だ。
見た瞬間から、嫌な気分で仕方ない。
『百合のロウソクの封印』がしてある。
これは『ゼルド王からの直々の手紙だ』
このゼルド王というのが実に狸なのだ。
15歳の俺なら絡めとられる。
『正体に気がつかないと慈悲深い最高の王様』だが前世の記憶がある俺からしたら…
『狡猾な恐ろしい男』だと解る。
恐る恐る封を切る。
やっぱり、嫌な手紙だった。
【手紙】
偉大なる英雄セレス殿
リヒト殿のパーティから独立をし、新たなパーティを作られた事、余も心からお祝い申し上げる。
無論、リヒト殿の統括するパーティとして『勇者の仲間』として扱うように教皇様とも話し合いの末決めた。
黒き翼に続き、魔族に対抗する新たな白き翼の誕生は実に喜ばしい事だ。
だが、素晴らしいパーティが新たに現れたのに、ここ暫くは黒き翼の武勇も白き翼の武勇も余の元に届かぬ。
四職でもない貴公に頼むのは筋が違うのかも知れぬが、セレス殿の武を用いて『四天王』の一角を崩して貰えぬだろうか?
これは命令では無い、王としてのお願いである。
だが余は『英雄』とまで呼ばれる其方であれば出来ぬと思わぬ。
『英雄』が白き翼で羽ばたき魔を崩す事、心の底から期待しておる。
その時には其方にも『勇者』の資格を贈る気もあるのだ。
余も、国も世界もそなたの活躍を期待しておるぞ。
ゼルド
素晴らしい手紙に見えるが..
要は、ホワイトウイングを正式に勇者パーティの下部パーティとして教皇と話し合いの末決めたよ。
だから、今迄通りだ、良かったな。
いやぁ、魔族に対抗する手段が増えたのは嬉しいな。
最近、勇者パーティからもお前からも活躍が聞こえて来ないよ。
そこでさぁ、お前達で四天王の1人倒してくれよ。
お前ならきっと出来る、本当に期待しているからな。
最悪だろう?
俺は国から何も貰ってない。
まぁ『勇者支援法』を使わせて貰っているといえばそうだが、それだけだ。
その状態維持で…
俺は『四天王』を倒さなければならない事になった。
しかも、報償の事も書いてない。
つまり、倒した後どうなるかは王次第だ。
ほぼ生還不可能な依頼に報奨の確定無し。
前世なら退職届を叩きつけて、こんな会社辞めているよ、辞めれないので仕方ない。
◆◆◆
本当に上手いわ…
昔もそうだった、最初ゼルド王は、宴の席にリヒト達4人しか招かなった。
一応は俺もパーティメンバーに居るのに、無視したのだ。
所が、俺が実力を示してワイバーンを討伐した途端、手のひらを返した。
次回の宴の席に俺は呼ばれ、目の前で宰相が土下座をしていた。
俺はいきなり、ゼルド王に抱きしめられ
「すまなかった、余は知らなかったのだ、四職に匹敵する『英雄』が居たのに佞臣のせいで気が付かなかった、この通り諸悪の根源は罰したから許してくれ」
しかも泣いて見せた。
此処までなら素晴らしい話だろう?
だが、幾ら待とうが『俺に支援金が届く事は無かった』
リヒトが手違いだと思って聞いたら『四職以外には国はお金を払わない』そう言われたそうだ。
つまり『英雄』という呼び名だけ与えて俺は『タダ働き』だ。
今となっては『支援金を貰わないから』俺が稼いだものは全部俺の物、という理屈が成り立ち..逆に良かったが。
また何か言われると嫌だから『支援金を貰わない代わりに自分で稼いで暮らす』それを許す旨の手紙を送り、返事を貰った。
つまり俺はゼルド王から『英雄』という形だけの地位と『勇者パーティ在籍』この二つしか貰ってないのだ。
それなのに、四天王の討伐を押し付けられた。
しかも逃げられない…最悪だ。
本当に狸だ。
◆◆◆
もう一つの手紙を開いた。
嘘だろう、そこには騎士団長の名前で…
『勇者敗北』と書かれていた。
詳しく読むと、四天王の1人ドラムキングに負け行方不明と書かれていた。
今迄の幸せが一瞬で….崩れ落ちた様な気がして、目の前が真っ暗になった。
勇者パーティSIDE 敵は、竜王ドラムキング
「また来たの?」
「まぁな、そろそろ痺れを切らしてきたんだろうな? 魔物や雑魚を狩るんじゃなくて四天王の誰かを狩れだとよ!」
「まぁ仕方ないね、僕達は勇者パーティだからね、だけどそろそろ、誰かしら狩らないと立場が危うくなるんじゃない?」
「まぁな、正直言えば、魔王なんて倒さずにダラダラ旅を続けていた方が『俺達には都合が良い』だが、そうも言えなくなってきた、そういう事だ」
「そうよね、勇者だ聖女だ、チヤホヤされるのは『魔王』が居るからよね、倒してしまったら精々が爵位と小さな領地貰って終わり、今だからこそ教皇様すら私の声を聞くけど、終わったら教会側も、きっと、ただのシスターと同じ扱いだわ、まぁ何だかの名誉職はくれるけどね」
「それなら私もよ、きっとアカデミーに戻っても、良い席は無いわ」
「まだ、希望があるだけ良いじゃん? 剣聖なんて騎士団長とかむさくるしい所にいかされる可能性が高いんだよ、僕女なのに」
「まぁ、良いとりあえず、ここらで一発『四天王』の中で一番の雑魚を倒して、その後はまたダラダラすれば良いじゃねーか? 多分俺たちは『魔王』に勝てる確率は低いんだよな?」
「3割位だと思う…まぁその代わり四天王には誰でも勝てるわ」
「3割じゃやらねーよ、まぁ良いや、四天王の1人、仕方ねーから倒すぞ」
「そうね」
「やるしか無いか」
「倒せば、暫く何も言って来ないよね」
さて、どいつを倒すかだ。
『黒騎士 デュラン』
此奴は剣の使い手だ。
かなりの手練れと言う話しだ、恐らく倒す事は可能だが、その場合は必ず被害がでる。
俺かケイトが運が悪ければ死ぬ。
逆に万が一俺かケイトの隙をつかれたらソニアかリタが死ぬ。
討伐は可能だが、1人か2人犠牲の上での話だ。
『空の女王 ハービア』
高速で飛び回る此奴を相手にするなら『誰かが此奴の動きを止める』必要がある。
その役は自然と俺かケイトだ。
どちらかが犠牲になり此奴を止めた所に攻撃を掛ける。
その方法でうつしかない。
やはり犠牲が出る。
『死霊王 スカル』
此奴は最も不味い。
特に強くはないが、数の暴力で来る。
死霊1000体と戦ったら、流石にこちらも危うい。
沢山の部下に囲まれた此奴は、最早手を出せる相手じゃない。
『竜王 ドラムキング』
百の竜を従える竜の王。
見た目は只の老人に見える。
恐らく、此奴が『竜』だったとしても老いた竜だ。
竜の百体は脅威だが、4人なら何とかなる。
そして、その後にドラムキングを倒せば良い。
此奴が戦った所を見た事が無い。
恐らくは、戦えぬから他の竜に戦わせるのだろう。
『老いた竜』『術者』どちらの説もあるが、多分弱い。
もう、俺が誰と戦うかは誰でも解るだろう。
「敵は、竜王ドラムキング、俺達は此奴を狩るぞ!」
「リヒト、カッコつけているけど一番の雑魚よね」
「まぁ、四天王だから、強敵には違いないよ」
「ケイト…そうよね、強敵、強敵っと』
自分達の力を過信し、碌に調査もせず、相手を侮ったつけはすぐに自分達に返ってきた。
勇者パーティSIDE 勇者パーティ死す。
竜王ドラムキング。
その居場所はすぐに解った。
百もの竜を引き連れて移動しているのだ、目につかない理由はない。
「彼奴がドラムキングか?」
「本当の老人じゃない? 僕だけでもいけそうな気がするよ」
「あれなら私の魔法の一発で充分かもね」
「聖女の私でもいけそうだわ」
近くで見たドラムキングは背の低いボロキレを纏ったただの老人に見えた。
今迄の戦いでも竜を戦わせて自分は戦っていない。
騎士達の報告でも同じだった。
「やはり噂通りだったな、あれなら余裕だ」
「そうね、それじゃ私が火炎魔法を使って」
「僕とリヒトが斬り込む」
「私が他の竜との間に結界を張る、それで良いわね」
「それじゃ、ブラックウイング、GO」
勇者パーティはそれぞれが役目を果たし、踊り込んだ。
「ぐわぁぁぁぁぁーーっ」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁーー」
竜の悲鳴が響き渡る。
「むぅ、お前達は勇者パーティだな、確かに並みの竜やドラゴンでは敵わぬようだな…これ以上眷属が殺されるのは忍びない…儂が相手になろう」
「ほう、それなら話が早い」
「僕も雑魚を殺す時間が無い分助かるわ」
「そうか、そうか、それじゃWINWINじゃな」
「結界を掛けさせて貰うわ、これを掛けたら2時間誰にも壊せない、掛けた私も同じよ、逆に外の者にはこちらも手が出せないわ、これで良いかしら?」
「ふむ、感謝する…お礼に出来るだけ苦しまずに殺してやろう」
「うん、老いぼれがーーーっ、行くぞ奥義、これが光の翼だーーっ」
可笑しいぞ、なんで此奴は笑っているんだ。
「惜しいのう、その技はもう何回も見たぞ、初見なら傷を負ったかも知れぬが、何回も見た後じゃ児戯に等しい、しかも勇者セロの方がもっと速かったぞい…弱そうだからサービスタイムじゃ、10分間防御しかせんよ!」
そう言いながら、簡単に躱された。
「僕を舐めないでね、これでも剣聖なんだからーーっ」
「ふむ、嬢ちゃんは剣聖か? 女の剣聖とは珍しい、だがジェイクに比べれば遅いのう、それに剣聖は元の力がそのまま倍化される、男と女じゃ差があるのじゃ、今の女神はアホの様じゃ、なんでこのジョブを女にやるのじゃ、それにほれ、女は脂肪の塊を二つも胸に下げておる」
「きゃぁぁぁぁーーっ、痛いーーっ」
嘘だろう、ケイトの胸のプレートを握り潰しやがった。
「僕の胸、僕の胸…大丈夫」
「大丈夫、かなり真っ赤になっているだけだよ」
「ソニア..ああ僕胸を丸出しじゃない、くそ爺許してあげない殺す」
「はぁ~何を勘違いしているんじゃ、まぁ食ったら美味しいかも知れぬが、それだけじゃな」
「駄目だケイト突っ込むな」
「遅いわ」
「えっ…」
ケイトの剣が嘘だろう、なんで宙を舞っているんだ。
「あっ僕の魔剣が…」
「これは攻撃じゃないぞ、ただ防いだだけじゃよ」
「大丈夫、もう終わったわ、これを喰らいなさい!賢者の持つ、最高呪文の一つ灼熱地獄。」
「ほほう、これが灼熱? 儂が昔戦った賢者は灼熱と極寒を併せてぶつけてきたのじゃが、この程度しか出来ぬのか?」
「そんな…」
「これで、勇者、剣聖、賢者の技は受けた、そこのお嬢ちゃんは何もしないで良いのかのう。そろそろ8分、あと2分でサービスは終わりじゃよ!」
「ほざいていなさい! 聖女が使う結界は最強の結界! その応用ホーリーウォール、どうこれは見たこと無い筈だわ。」
いける、これならいける。
聖女が作る最強の結界の壁を狭めていき潰す。
これは俺も知らない、恐らくはソニアのオリジナル。
流石に見た事無い筈だ。
「凄いのぉー、それは魔獣と戦った時に、儂は見ておらんが確かマリアという聖女が使った技じゃ。だがなその技には一つ弱点があるのじゃ、それは下、流石のマリアも土の下にまで結界は張れなかったのじゃ、お前は、同じじゃな」
嘘だろう、地中に消えたかと思ったら…結界の外に出てきやがった。
「今のは少し驚いたのぉー、聖女が3流、他の者は4流が良い所じゃ、勇者パーティとしてはまぁ3流じゃな、さてと、サービスタイムは終わりじゃ」
「貴様、何者だ!」
「儂は『竜王』竜の頂点に立つ者が他の竜より弱い理由が無かろう?そして『勇者』を狩るのが趣味の爺じゃ…お前みたいな弱者が良く『勇者』を名乗った者だ…セロもゾロスもアーサーもそれはそれは命懸けで戦いを挑んできた『敵ながら殺したくない』戦いの中で友情さえ感じた..だがお前等にはそれを感じない、どんな弱い勇者でも持っていた『何かが無い』…つまらん、だが勇者だ、儂の本当の姿を見せてくれよう…そして死ね…竜化」
嘘だろう、俺の前で老人が竜になった。
それも大きな翼を持ち、小山の様に巨大な竜、いやこの姿は伝説のドラゴンに見える。
「嘘、まさか、古代竜、それも王竜」
「故に『竜王』なのじゃよ…死ね、ファイヤーバースト」
「駄目、ホーリーウォールが砕ける、そんな」
「何処かに逃げないと、ソニア、早くこの結界を解除して」
「無理よ、2時間は解けないんだから」
「ソニア、ふざけるな! どうにかしろ!」
「どうやっても出来ないのよ..ごめんねリヒト、皆..もう終わりよ、諦めて一緒に死のう」
「ふざけるな、ふざけるな」
「まだ死にたくない、僕はまだ死にたくない」
「嫌よ、まだ死にたくない」
ホーリーウォールが砕け、信じられない程の高熱の炎が勇者パーティを襲った。
炎が消えた後には…何も残っていなかった。
結界も消えていた。
「骨も残さず消えたか」
ドラムキングはガッカリした顔をするとその場から立ち去った。
◆◆◆
距離を置き、様子を見ていた騎士団は凍り付いた。
自分達が救援に入る間も無く『勇者が負けた』事を思い知った。
しかも、それは『死』という最大の敗北を持って。
◆◆◆
勇者の死は隠蔽された。
最大の希望『勇者』を失った事による、絶望を知られないように…
そして、王は『セレス』に目をつける。
この世の中で『勇者パーティ』の次に強い存在は『セレス』だから。
次の勇者が現れるまでの5年間をしのぐために。
※勇者が死んだ後、次の勇者が神託で現れるまで5年間の期間があります。
勇者パーティSIDE 自由
「ああっ助かった」
「彼奴自身がヒントをくれたのよ」
「僕が直ぐに穴を掘ったからね」
「そして私が最小の結界を張った」
俺達は地面に穴を掘り逃げたのだ。
ただ悔しい事に、敵であるドラムキングは恐らくこの事に気が付いている。
「糞、彼奴は絶対この事に気が付いていたよな」
「ええっ、恐らくはね、あれ程の敵が、私の結界の張替えに気がつかない訳が無いわ」
「僕が彼奴の気配を読み取れるんだから、ドラムキングが気がつかない訳は無いよ」
悔しいが、逆立ちしても勝てない。
事実、もしドラムキングが炎の向きをあと少し下に向けたら俺たちは死んでいた。
「リヒト、あれで四天王の最弱なんだよ…どうするの?」
「最弱では無い、恐らく最強だろう、だが、最早俺達では四天王にすら勝てないのが解かった」
「だから、どうするの? リヒトがリーダーなんだから決めてよ! 僕たちはどうすれば良いの?」
あの分だと、多分死んだと思われているんじゃないか…
『死んだ』と思われている?
何だ簡単じゃ無いか…『死んだ事』にすれば良い。
「ブラックウイングは解散。勇者リヒトは死に、素晴らし勇者パーティはたった今無くなった」
「リヒトが何を言っているのか僕理解できない」
「意味わかんないわよ」
「ねぇ、冗談は止めて」
「いや、死んだ事にこのまますれば、もう魔王と戦わないですむだろう? だから俺もソニアもケイトもリタも死んだ事にすれば良いんだ。家族だって雀の涙だが、国からお金が出て万々歳、俺達は晴れて魔王と戦わない人生が送れるんだぜ。」
「そうか、その手があったわね」
「これでもう僕たちは自由だね」
「そうね、うん、それが良いわ」
帝国から先の地に行けば、女神信仰が無い地域になる、そしてその先には…魔王とは無縁の国があると聞く、そこに行けばもう大丈夫だ。
俺とケイトはS級の剣士だ、一旦地位を捨ててもすぐにのし上がれる。
リタは攻撃魔法、ソニアは回復魔法、共にSランクの魔法使い….どうとでもなる。
「それじゃ、ずらかるぞ!」
「「「ずらかりましょう!」」」
こうして俺たちは、全てを捨てて逃げ出した。
これで『死』の運命から逃れられたのだ。
本当の自由に満ちた人生が今始まる。
王のお願い
四天王を倒すなんて冗談じゃない。
特に期日は書いてないからそのうち倒せば良いや。
そう思っていた。
昔の人は言いました『期日の書いてない約束』なんて放って置けば良いって。
まぁ、運が良ければマリが『ブレーブキラー』を作ってくれるし、何やら他にも何か作っているようだ。
この間はマリアとアイシャの髪の毛を採取していた。
他にも行為の後の液体をこっそり集めていたし、爪も集めていた。
多分、何かの研究なのだろうが、バレると二人が怒ると思うけど『マリが何かしでかすんじゃないか?』と面白そうなので見逃した。
恐らくマリは科学者に近い。
こんな事をしている人は前世なら兎も角、此方の世界では見たことが無い。
『マットサイエンティスト マリ』 そんな言葉すら浮かんでくる。
◆◆◆
そんな風に思っていたら、やはり駄目だった。
また手紙が届いた。
『英雄セレス、登城せよ!』
王から直々の手紙だ、最早逃げる事は出来ない。
◆◆◆
「行ってきます」
「セレス、私達はいかなくて宜しいんですの?」
今回の手紙は『俺』だけだから問題はないだろう。
あの狸の事だ、下手に関わると絡めとらせそうだ。
「今回は、特にパーティと書いて無いから大丈夫だ、皆は留守番していてくれ」
「解りましたわ」
「解った」
「うん、待っている」
「解ったわ」
そのまま旅だとうとしたがマリに引き留められた。
「ちょっと待って、まずはこれをつけて」
流星をかたどったバッジを胸につけてくれた。
「あと、これも持っていって」
そして、変な金属の卵の様な物を渡された。
結構、大きく人間位ある。
まぁ収納袋があるから、別に困らないが。
「マリちゃん、これは何?」
「う~ん、今は内緒、だけど、これは必ずセレスの為にはなるよ? だから、私を信じて持っていって」
まぁマリがそう言うなら持っていこう。
「解った、何か解らないけど持っていくよ」
「そうそう、セレスは良い子だね」
今度こそ、俺は王国へと旅立った。
◆◆◆
おおよそ3週間かけて城へとたどり着いた。
「英雄セレス様、よくぞ参られました、すぐに王に取り次ぎます」
やはり、可笑しい。
騎士団の俺に対する扱いが良すぎる。
騎士は騎士爵という貴族としては一番下だが爵位を持っている。
それに比べて勇者とはいえ、リヒトですら今は爵位を持っていない。
だが、リヒト達、四職は魔王討伐後はかなり高位の爵位を貰うから、今現在は下であっても今後を考え下に出ている。
それじゃ、俺は?
『恐らく自分より上になる事は無い』そう踏んでいるのか、騎士から貴族迄、俺はぞんざいに扱われていた。
それが『英雄セレス様?』気味が悪い。
城に入ると俺はすぐに謁見室に通された。
これも可笑しい。
普通なら王の威厳を見せる為に、焦らす様に待たされる。
それが、待つことなく通された。
ヤバイ、ヤバイ、ヤバイ…何で先にゼルド王が居るんだ。
しかも..重鎮は全員居る。
宰相に貴族達、まるで国の中心人物が全員集まっている。
「よくぞ参られたセレス殿」
そう言ってゼルド王が俺を抱きしめてきた。
跪かないだけでなく、王が玉座から降りて抱きしめる。
この状況で俺には王のお願いを断るのは難しいだろう。
これならどうだ。
「此処には口を割る様な者はいない、セレス殿由々しきことになった。ブラックウイング、勇者パーティは全滅した」
嘘だろう俺が見た手紙では『敗北』『行方不明』とだけしか書いて無かった。
『行方不明』と『全滅』では意味が違う。
「それではまさか..リヒト達は…」
「残酷な事を言う、だがこれは真実である、全員死んだ」
「嘘だ…嘘だ嘘だ嘘だーーーっ」
心は体に引きずられるのか、涙が止まらない。
確かに女癖は最悪だが、俺には唯一の親友だったリヒト。
そして幼馴染の三人。
友情から泣いたのではない、多分友を失った事への涙じゃない。
自分の子供、もしくは甥っ子、姪っ子を失ったような『身内を失った』涙だ。
俺が傍に居たら…いや無駄だ。
あの四人に俺が加わっても無駄だ。
一緒に殺されただけだ。
「悲しいのは解るが此処は王の御前である、取り乱されるな」
「良い、セレス殿の気持ちは解る、今は好きなようにさせて置け」
どれ位、俺は泣いたのだろうか?
自分でも解らない。
ようやく俺は正気を取り戻した。
目の前の状況は変わらない。
王はそばに立ち周りには宰相から貴族も居る。
「少しは落ち着いた様なので、話を続けさせて貰うぞ、済まないな?」
「お恥ずかしい所をお見せしました」
「親友に幼馴染、セレス殿にとっては勇者パーティが無くなった、それだけでは無い、気にする必要が無い…それでだ」
「何でしょう?」
悲しみを今は忘れろ、貴族や王は巧みに言い寄る。
そうしないと困る事になる。
冷静に聞け。
これだけの貴族、宰相、大臣の前で王だけが話す。
巧妙な罠が来る筈だ。
「勇者が死んだとなると『希望が無くなる』だから、深手を負って休養中と発表する事に決めた、これは教皇様も知っている事だ」
「リヒト達が生きている事にする…確かに必要な事かも知れません」
此処は問題無い。
だが、何故俺にそれを言う必要があるんだ。
「だが、居ない以上は『誰も魔王を討伐する存在が居ない』、だが勇者が表舞台に立たない以上、誰かが表舞台に立つ必要がある」
まさかな…
「王よ何を言っているのか解りません」
「簡単な事じゃよ! セレス殿、貴公を『準勇者』と国が余が認め、正式に『魔王討伐』を任ずる」
やはり、此奴は狸だ。
俺が心を痛めていた隙をついてきた。
これを受けたら確実に死ぬ。
「王よ何をおっしゃるのです! 私の剣は剣聖にとうてい及ばなく、魔法の腕は賢者に及ばない、そんな私に『魔王討伐』等無理に決まっています。この国には屈強な騎士団がおります、素晴らしい宮廷魔法術師もおります。そちらを中心に軍を組み対処するべきではありませんか?」
騎士団長と宮廷魔術師団長が俺を睨みつけてきた。
幾ら睨んでも『自分の命』や『仲間の命』にはかえられない。
俺は全力で逃げる。
「こう申しておるが、2人は何か言う事があるか?」
「御恐れながら、我が騎士団にはセレス殿を越える人物は私を含めおりません」
「宮廷魔術師団も同じでございます」
そんな訳は無いだろう。
駄目だ、完全に俺を嵌めに来ている。
糞…
「こう申しておる、しかもセレス殿は『英雄』と名高い、民に希望を与える役は他に適任はおらんよ」
駄目だ…
「確かに私は此処にいる誰よりも強いのかも知れません」
お前等が言ったんだろうが..何故騎士や魔術師が俺を睨むんだ。
「だが、命懸けなのは変わりない。いや戦いの末に俺には『死の運命』しかない、俺はおろさせて貰う」
「待って下されセレス殿」
「ローマ宰相様、私は勇者パーティに居ながら、この国から支援金を貰った事は無い。自分で冒険者として生活費を稼ぎながら、旅についていった。しいて言うならパーティメンバーからは小遣い銭位は貰ったがそれだけだ。『英雄』という字だけで、この国は俺に死を覚悟して戦えと言うのですか?」
「それは..」
ローマ宰相の言葉を遮りゼルド王はローマ宰相を殴りつけた。
「お前等はまたその様な事をしていたのか? 恥知らずめ」
「王よ!お許し下され」
茶番だ。
支援金を払わない様に指示したのはゼルド王だ。
勇者パーティ絡みの事を宰相に決定権があるとは思えない。
「セレス殿、これからは、余が責任をもって何でも欲しい物を与えよう、それで許してくれぬか」
王が頭を下げた。
これでもう普通は終わりだ。
だがこれで認めたら、俺は魔王軍と戦わないとならない。
これはどうしても避けたい。
ならばどうするか?
『相手にお前など要らん』そう言わせればよい。
「ほう、何でもですか? ならば国を譲って俺を王にしろ。そして『宝石姉妹』を俺にくれるなら考えよう」
「貴様無礼だろうがーーっ」
「宝石姉妹が誰か知っておるのかーーっ」
「たかが平民の癖に『宝石姉妹』が欲しいだと? それは王と貴族に対する侮辱だ…増長するでないわ」
「それを渡せば、セレス殿は戦う、そう申すのだな? 暫しバラドール公爵と話す、席を外して暫し客室を用意するから休むが良いぞ」
これで良い。
これで俺の評価は格段と下がる。
だが『宝石姉妹』は絶対に渡せないだろうから安心だ。
国と国王の座は普通に考えて渡せるわけが無い。
そして宝石姉妹も無理だろう。
『宝石姉妹』はこの国を代表する美人であった。
只の美人なら、王がどうにかするかも知れない。
だが宝石姉妹は無理だ。
姉は何を隠そう『この国の王妃』つまりゼルド王の妻だ。
そして妹はバラドール公爵の妻だ。
つまりは絶対に飲めない無理難題を吹っ掛けた。
不敬だと罵られるかもしれない。
だが、どれ程評価が下がろうが、命あってのものだねだ。
セレスは忠臣
これでどうにかなるだろう。
うろ覚えだが、あの時に前世で読んだ事のある『三国志』の『二喬』の話を思い出した。
確か、孫権と周瑜に嫁いでいた絶世の美女で、諸葛亮孔明がそれを差し出せば喜んで曹操は…という下りがあった。
前世の事なので自信はないが、確かそんな話だった。
結局、2人は差し出す事が出来ずに戦争になった。
これで大丈夫だ。
『宝石姉妹』は正にこの『二喬』と同じ。
ただの王妃と公爵夫人というだけでなく、ゼルド国王とバラドール公爵の結びつきでもある。
絶対に断るに決まっている。
更に国王にして、国を寄こせ。
これで大丈夫だ、最悪国と決別するかも知れないが、そうなった場合はこの国の領土を出て行けばよい、それだけだ。
◆◆◆
「バラドールよ、先程のセレス殿の発言どう思われる?」
騎士は下がらせたが、宰相に大臣も含み此処には上流貴族も多数いる。
「恐らくこちらの事情を知っていての助け舟なのかも知れませんな、これは褒美ではなく我々に大きな貸しを作る、そういう事かと思います」
「やはりそうであろうな、あの実直なセレス殿が『それ以外にあんな発言をするとは思えぬ』
「全く英雄とは良く言った物ですな、何処で知ったのか、私は個人的にも気にいってしまった、友人としての親交も視野にいれたく思います」
周りの宰相や大臣は全てがにこやかな顔で頷いている。
『宝石姉妹』が国王や公爵家にとって頭痛の種であった。
その事は男爵以上の貴族では有名な話だった。
◆◆◆
宝石姉妹。
姉の名前はジュリア
まるで本物のプラチナの様な髪を持ち、全てに愛されているかのような美貌の女性
妹の名前はルミナス
姉に対して全てを癒す様な瞳の持ち主でその瞳は宝石の様に見える。
元々、名前のせいもあって昔は『薔薇の乙女』と呼ばれていたが、彼女達を描いていた絵師が『薔薇なんかじゃない、彼女達は宝石だ』と言った事から、後に『宝石姉妹』と呼ばれる様になった。
この二人の名前はこの国だけでなく、この世界で知らない物は無いと言われ、エルフさえも二人の前では石ころに見えるとさえ称えられた美女。
実際に彼女達を手に入れる為に過去には『戦争になりかかった事もある』
その美女を手に入れる為にゼルド王は国の領地の1/8を手放したと言うのは有名な話だ。
だが、それはあくまで昔の話だ。
今現在、この国の王家、そしてバラドール公爵家は『跡取りが居ない』
その理由はこの『宝石姉妹』が原因の一つであった。
この二人はプライドが高く『側室』を一切認めなかった。
そのくせ『からだが崩れる』等理由をつけて『夜の営みは気が向いた時しかしない』
しかも、外見的に姉妹にとっては好みでは無いのか『王』や『バラドール公爵』は男としてかなり傷つけられていた。
内心『何時か捨ててやろう』そう思っていたが、彼女達の名前は広く伝わっているのでおいそれとは、それは出来ない。
それを今回、セレスは意図しないで解決しそうになっていた。
幾ら美貌の持ち主とはいえ、もう20代後半、此の世界では既にオバサン扱い。
名前ばかりで実質は10代の女性より価値は無い。
プライドを壊さない様に『側室』をとろうとしても邪魔をされ、最悪の場合は消されてしまう。
若い妻が欲しい国王と公爵。
この二人が居なくなれば、自分の娘や親類を王家、公爵家に嫁がせる事が可能になる貴族達。
正に目の上のたん瘤、それが『宝石姉妹』の今の現状だった。
◆◆◆
「実質は、子を産まぬ価値の無い妃じゃが、今迄はどうする事も出来なかった、名前が通り過ぎておるからな」
「セレス殿は気が利く人物と聞いております、恐らくは我々の世継ぎの事情を知っていたのかと」
周りの貴族も自分達に都合が良いせいか誰も口を挟んで来ないわい。
まぁ、これから自分達の娘の有力な嫁ぎ先があくのじゃ当たり前じゃな。
『王妃』『公爵夫人』の地位があくのじゃから。
「そうであろう『英雄の肩書き』一つでタダ働きしてくれていたお人好しだ、余の涙は聞いていたようじゃ、これからは『忠臣』として面倒をみてくれようぞ」
「それでは、2人は拝領妻としてこれから正式に手続きをするとしまして、国はどういたしますか?」
それなのだ、それは流石に無理難題だ、これも何か意図があるのだろうか?
「御恐れながら、私も意見を言わせて頂いても宜しいでしょうか?」
「おお、ローマか、先程は嫌われ役すまなかった、何か意見があるのであれば申せ」
「はい、セレス殿は『この国』とは申しておりません、恐らくはルランス王国の事ではないでしょうか?」
「おおう、我が国と聖教国で分割統治という名目で取り上げた小国じゃな」
「はい、あそこは我が国から遠方の為、余り価値はありません。それに聖教国からも距離があり、あまり積極的に動きたく無さそうです。」
「そうか、確かに魔王討伐の為の恩賞となれば『聖教国』も一枚かみたかろう? だがそれはセレス殿が知りうることであろうか?」
「私の調べた所、セレス殿の寵愛している奴隷の1人がその国の元王妃です」
「おおう、確か元聖女じゃったな、それなら知っていても可笑しくない、何処までもナイスな奴じゃ、余の涙一つで此処まで動く、本当に真の忠臣(笑)じゃ」
「これで、どうにかなりそうですな」
「この際だ、通信水晶を使い『聖教国』の教皇様と話しをして全て決めてしまおう、皆の者も意見を頼む」
「「「「「「「「「「「「「「「はっ」」」」」」」」」」」」」」」
話し合いの末セレスに下賜する物が決まった。
? 『宝石姉妹』2人を拝領妻として下賜する。
? ルランス王国を領地として与えそこの王として正式に認める。
? セレスが魔王軍と戦っている間は代官を置き、その税収はセレスの物とする、そのお金を持って、支援金とする。
? 我が国での地位は属国の王なので『自由伯爵』とする。
※自由伯爵の理由は属国とは他国の王であるから政治的発言は『提案』しか出来ない。
ただし、無税や地位は伯爵と同等の権利を有する。
? セレスのパーティのメンバーの過去の罪は女神の名の元に無かった事にする。
免罪符を教皇の名前に置いて発行する事により無かった事になる。
但し奴隷は解かない
? セレスの扱いを『準勇者』とする。
? マリアの扱いを『元聖女』から『準聖女』と扱う事にする。
※これにより教会の支援は全て無料となる。
「これでどうだろうか?」
「流石は王、素晴らしき英断です」
実質、要らない年増二人引き取ってくれて、要らない領地に名目だけの地位。
これで『命懸け』の戦いをしてくれる。
セレスは本当に良い忠臣じゃな。
◆◆◆
元は美しかったかも知れないが、今では価値の無くなった年増二人を差し出し。
統治が難しい土地を与え、名称だけの地位を与えて…勝てない戦に向わせる。
恐らく彼は死ぬだろう。
何て惨い仕打ちなのだろうか?
誰もがそれを知っていた。
だが、誰も異論は言わない。
『王に従う、それが貴族なのだから』
旅立ち
「セレス殿、其方の気持ちは全て解った、望み通りの報奨を差し上げよう」
何故だ?
『宝石姉妹』だぞ?
最愛の妻を差し出せと言っている男に対して何故、2人とも笑顔なんだ。
結局、この国だけは手に入らなかったけど、要求以上に通ってしまった。
しかも、バラドール公爵までもが笑顔なんて…訳が解らない。
俺が何も言えずにボーッとしていると。
「さぁ調印を…これで全てが其方の物だ『宝石姉妹』は護衛をつけて責任をもって其方のパーティハウスに送り届けよう」
気が付くと全てが終わっていた。
俺は心の中で『諸葛亮孔明』を呪った。
「さぁセレス殿、まずは勇者パーティを全滅させたドラムキングの討伐じゃ、さぁ行くが良い」
笑顔の王様に思わず殺意を抱いてしまった。
行くが良いって、そこで俺は死ぬんじゃないかな?
『宝石姉妹』に会わないで人生が終わってしまう気がする。
※かなり短いですが次の話との繋がりとリアルな仕事の都合で投稿させて頂きます。
無事でいられると思うな。
大変な事になった。
『竜王ドラムキング』と戦わなければならない。
騎士の話では勇者パーティ4名が成すすべもなく殺された。
俺がパーティの追放を受け入れたのは『俺が居なければ幼馴染の恋愛が上手くいく』『俺もそろそろ甥っ子や姪っ子みたいに思っている仲間から離れる頃だ』そういう思いがあった。
やがてリヒトと結婚する幼馴染の中に長くいるのも居心地が悪い。
これが一番の理由だが、それ以外にも俺が皆の能力についていけない。
それも重要な理由だ。
勇者リヒト
多分、地力なら俺の方が上だ。
だが、ジョブの差は大きい。
俺が毎日何時間もかけて修行して1か月かけて身に着けた技もリヒトなら1時間も掛からずにマスターする。
そしてジョブのせいで体力面も俺を大きく上回る。
結果、総合的な強さでリヒトに敵わない。
剣聖ケイト
ケイトがジョブを手に入れるまで、俺には体力では敵わなかった。
村で一番の力持ちは俺だった自信がある。
だが、ケイトが剣聖になっては全ての体力で敵わない。
死ぬ程努力した俺が、ようやく見切れる位だ。
賢者リタ 聖女ソニア
勿論、魔法で届くわけが無い。
それよりもショックなのは『戦闘職』でもないのに四職のせいか俺の剣を普通に受けられる。
本気で打ち込んだ剣を杖で片手で受けられた時は涙が止まらなかった。
俺の『魔法戦士』だって四職を除けば最上級だ。
騎士に産まれようが貴族に産まれようが、このジョブなら親はきっと喜ぶ。
だが…四職には及ばない。
たった1人に勝てない俺が、4人を簡単に倒した相手にどうしろというんだ?
パーティメンバーに応援は頼むのは止めよう。
姫騎士のアイシャが居ても、元聖女のマリアが居ても、負けるのは確定だ。
二人の上位互換、俺の上位互換が居ても負けたのだ。
無理だな。
どう考えても勝てる要素は無い。
だったら俺一人で良い。
何も死ぬ事は無い。
今回俺が引き受ける事で彼女達の罪は許された。
俺が死ねば、奴隷から外れる。
お金も残してあるし、皆は幸せに生きられるだろう。
正直言えば逃げたくて仕方ない。
『だが、逃げたら、皆がどうなるか解らない』
仲間か。
仲間が居なければ逃げられるのに…
あはははっ、だけど、パーティメンバーが居ない生活は『考えられない程面白くない』
前世なら、絶対に付き合う事が出来ない程の美女、アイシャにマリア。
少しネジが外れているけど、何処かのSF小説のヒロインみたいなマリ。
そして、初恋の相手マリベルさん。
そこにまだ見た事しかないけど、この世界で一番美しいと言われる『宝石姉妹』
あははははっ、命と釣り合ってしまった。
完全に俺の命以上じゃ無いか?
『捨ててなんて逃げられない』
だって、俺には自分の命以上に仲間が大切だと言う事が解ってしまった。
前世の嫁や娘、息子と同じだ。
それに、彼奴はおれの幼馴染を殺した。
性格の悪いリヒトとリタにケイトにソニア…家族の様に俺は思っていた。
勝てない、勝てないのは解る。
だが『何もしない』という事は考えられない。
せめて一太刀浴びせてやる。
多分俺は死ぬだろう。
だが、竜王ドラムキング…貴様も無事でいられると思うなよ。
ブレーブキラー
探す事3週間。
ドラムキングを見つけた。
百の竜の中心にいる老人。
あれが『竜王 ドラムキング』
事前情報が無ければ『侮るのが解る』
確かに老人に見える。
あの姿からなら一番頭に浮かぶのは術師。
なんだかの方法で竜を操る事が出来たような人間や魔族と思う事だろう。
百の竜…恐らくこれを倒すだけで騎士団など全滅だ。
そして、その中心に更に強い竜王が居る。
どう突破する?
俺は、1人だ。
ヤバイ、ドラムキングと目が合った。
口をパクパクしている。
あの口の動きは…『見えているぞ』だ。
この位置は相手から見える位置じゃない。
強い癖に..感覚迄研ぎ澄まされているのか?
『強いな』
どうするか…出て行くしかないな。
「いけねー見つかっちまったか」
俺はおどけてみせた。
俺に敵意は無い、そう見せかけて虚をつければ…
「ふははははっ、お主、殺気が抑えられておらんよ? 儂を殺す気満々じゃな? どうじゃ今戦うなら、一騎打ちとして受けてやろうぞ、他の竜には手を出させぬ…だが逃げるのであれば百の竜がお前を襲う」
これは願っても無いチャンスだ。
このチャンスを逃すのは馬鹿だ。
「ドラムキング、仲間の敵、今此処で打たせて貰う」
「ほう、敵とな? 沢山相手がいすぎて誰か解らぬが掛かって参れ」
「行くぞ」
俺はマリ特製『高周波ブレード』を構えて斬りかかる。
此の武器がブレーブキラー(勇者殺し)と言うならドラムキングにも通じるかも知れない。
「掛かって参れ」
俺は黙って剣を振りかぶる。
確立は1/2 避けるか受けるか。
もし受けてくれるなら、念願の一太刀を浴びせる事が出来る。
「ふん、こんな剣等儂には通じぬ」
(とんでも)科学VS異世界の竜…勝ったのは..科学だった。
「貴様、その剣は一体なんだーーっ聖剣でも無ければ儂を傷つける事など出来ぬわ」
「聖剣では無い、この剣は俺の仲間が作ってくれた剣だ」
「ほぉ~なかなかの業物と見た、良き友人を得た物だな、この腕を斬り落としたのは、勇者ロゼを含み3人しかおらぬ」
リヒトよリタ、ケイト、ソニア…やったぞ。
だが、此処からは期待するなよ。
「そうか、俺は勇者ですら無い、褒めて頂き有難う」
流石は竜の王という所か?
油断を誘い先手を取って切断した腕がもう生えている。
俺は懸命に斬りかかるしかない。
恐らくこの相手には『必殺技』など通じない。
それで勝てるなら…リヒトが勝っていた筈だ。
リヒトが使う『光の翼』それすら避けたと騎士が言っていた。
だから、俺は手数で勝負だ。
「成程、力を抜き自然な動きで素早く斬りかかる。人間の限界に近い、よくぞ鍛えたものだ」
「そりゃどうも」
嘘だろう、全くかすりもしない。
この方法なら、ケイトやリヒトにだって傷は負わせられる。
「だがな、その様な戦い方は、剣聖ジークも行った、残念だな人間、お前のそのスピードは剣聖ジークには遠く及ばぬ、何故お前は笑う!」
糞っ、高周波ブレードなら斬れるのに..かすりもしないなんて。
これが四天王のレベル。
勇者パーティで無ければ太刀打ちできない相手。
そして、その戦いの世界は魔法戦士には届かない。
「そうか、俺は四職ですらない、それが伝説の剣聖と比べられたんだ、嬉しくてたまらんよ」
あははっ笑ってしまう。
俺の事を利用するのではなく『認めてくれた最初の男』それが敵だとはな。
この俺が『伝説の剣聖』と比べられたんだ。
それ、俺にとっては最高評価だよ。
「お前は四職で無いだと? 小僧、お前は最高だ、ならば儂は手加減せぬ、ただの人間がそこ迄鍛え上げて挑んできたその事に対する礼だ..竜化!」
俺は本当に弱っちいんだ、老人の姿のお前にすら勝てないんだから、止めてくれ。
「どうだ、これが儂の本当の姿だ! この姿には敬意を示した者にしかならぬ、四職以外でこの姿で戦った人間はおらぬ…さぁ来るが良い」
「怖くて仕方ない、だがお前は俺の幼馴染を殺した、だからいく」
今迄の自分の最高の踏み込みで、最速のスピードで、更に最高の魔法を伴い斬りかかった。
俺が憧れた技…勇者しか出来ないという『光の翼』、それに似せたまがい物。
だが、そんなまがい物でも、俺なりの奥義だ『サンダーウィング』
竜王は避けもしなかった。
「見事である、只の人間が竜化した状態の竜王の儂を傷つけた」
何だよ、確かに斬った、だが巨大な体だから、人間で言うなら小さなひっかき傷を作っただけだ。
これは俺に対する哀れみか何かか。
「その栄誉を持って死ぬが良い、ファイヤーバースト」
炎に包まれ、俺は意識を手放した。
◆◆◆
「私って凄く貧相ね」
研究ばかりしていたから外見に気を付けていなかったわぁ~
私ってオバサンだし、胸も無いし女として終わっていそうな気がする。
良く、こんなチビのオバサンを愛してくれたもんね。
私はきっと多分、他の女性の様に愛せない。
もし、セレスが困っていてもアイシャやマリアの様に一緒に戦えない。
だから『マリちゃんはこの頭脳』をセレスに捧げるわ。
この頭脳でセレスを守ってあげる。
それがマリちゃんの愛だ。
私の本のブレーブキラーは『何でも斬れる剣』セレスいわく『高周波ブレード』だけじゃない。
昆虫からヒントを得たという外骨格の鎧がある。
『何でも斬れる剣』『どんな物からも守る鎧』この二つを持ってブレーブキラーとなる。
この鎧の方が剣より遙かに難しかったわ。
だって此の武器や防具は『魔王が勇者を殺す為』の武器なのよ。
そのままじゃ人間には使い勝手が悪いのよ。
これをセレスが使えるように設定するのにどれだけ大変だったか。
だけど、どうにか完成させたの、私だから出来る事だ。
この鎧を身に着けたら『等身大のキラービー(異世界のスズメバチ)並みの防御力』は手に入る、しかも羽の様に軽い。
小さくても固いのにそれの等身大なのよ、凄いわよ。
オリハルコンからミスリルまで混ぜて作った超合金その名もM、それで作った。この鎧がきっとセレスを守ってくれる。
だけど、これだけじゃマリちゃんは凄く心配。
ようやく旦那様が手に入ったのにマリちゃんは『未亡人』なんて絶対に嫌。
だから『ホルムニクス』を作ろうと思ったの。
マリアとアイシャのホルムニクスを作って守らせればいいんじゃない。
それでね、2人の髪の毛とか卵子とか涎から培養してみたけど、駄目。
化け物にしかならないの。
流石にセレスでも化け物を連れてあるくのは嫌だよね。
何か無いか考えていたら『寄生虫』にヒントがあったのよ。
『ある種の寄生虫は自分が死にたく無いから宿っている体を守るらしいの』
だから、マリアとアイシャのホルムニクスから必要な能力を形を変えてセレスに与える虫を作る研究をしたのよ。
勿論殖能力は無しです。
まぁ恐ろしくグロイけど仕方ない、仕方ない。
沢山の失敗を繰り返し出来たのは…
脊髄寄生型生物マリアちゃん
脊髄に針状の器官を刺して寄生。寄生している人間が危なくなるとエルクサーの様な分泌液を出し、主人の回復を図る。
脳下垂体寄生型生物 勇者くん
脳下垂体に寄生。
脳の指令の電気信号を操り通常の8倍のスピードで動けるようにする。
勇者しか使えない技も使えるように脳のリミッターを外す。(但し記憶は無いので技は自分で覚える必要がある)
ちなみにアイシャの細胞は駄目だったわ、四職でないからかな、セレスに入れても何も意味が無いの、だから死滅処分したの。
いやぁ、化学的には聖女と勇者が近い生物で『勇者くん』が出来たのは行幸だね。
しかも、剣聖と勇者はほぼ同じ様な物らしいのよ『勇者くん』は『剣聖』も兼ねるのよ。
ただね…『賢者』は駄目。
どうしてもマリアの細胞からじゃヒントすら解らなかった。
何処かに死んだ賢者さん居ないかな?
居たら作れるかも知れないのに…
これが私の『愛』なの…受け取ってねセレス。
※ マリのやっている事は『とんでも科学』なのでかなり可笑しな理論でも突っ込みは許して下さい。
◆◆◆
私のラボから音が響き渡る。
これはセレスが危ない目にあっている証拠。
私は通信水晶を除きました。
セレスに渡したバッジにも小さな通信水晶を取り付け、更にセレスの心拍に異常があるとこちらのラボに知らせが来るようにしていたから良かったわ。
「セレス、セレス、しっかりして」
「マリちゃんの声が聞こえる気がする」
意識はまだあるようだ。
「しっかりして!」
水晶が破損しているのか画像が見えないよ。
危ないのは確かね。
「良い、セレス、私を信じて!大きな声で『キラー発動』って言いなさい」
「…解った」
心配で仕方が無い。
だけど、バッジが壊れたのか、それからセレスと連絡がつかなくなった。
大丈夫ブレーブキラーが絶対にセレスを守ってくれる。
◆◆◆
マリの声が聞こえた。
多分今の俺の体は焼けているに違いない。
目も見えないし、体も動かない。
「お前は強かった、勇者でも剣聖でも無いお前だが、まるで昔戦った強敵の様な目で儂を見つめてきおったな…久々に熱い戦いであった。お前はまさしく強敵(とも)であった。
故に虫けらと違い、葬った。」
ドラムキングの声が聞こえる。
もう、俺は終わりなのだろうな…
だけど、なんで死の間際の声がマリなんだろうか?
皆でなく一人の声なのか…
こんなのは夢だ…だが必死な声に聞こえた。
ならば答えなくちゃな…「…キラー発動」
何だろう、背中から腰に掛けて痛みが走った。
頭にも痛みが走った。
動けないし、最早悲鳴も上げられないが体の火傷より遙かに痛く、何かが体の中を巡っているような気持ち悪さも感じた。
だが、その痛みは次の瞬間には無くなっていた。
そして、目が見える様になり、手が体が動く。
まるで、ソニアに掛けて貰った回復魔法、それを何倍、何十倍にして掛けて貰った様な気がする。
しかも、もう体が熱さを感じない。
何が起きたんだ!
自分の体を見た。
これは、まるで特撮ヒーロをより虫に近くして、ややグロくした感じの鎧を着ている。
某有名な特撮ヒーローで1作だけ大人向けに作られた物があった。
余りにリアルな虫に近くて子供に人気がなった。
正にそれの蜂版だ。
そうか。マリだ..完成していたんだな『ブレーブキラー』ありがとう、これで戦える。
「ドラムキング、俺を認めてくれてありがとう、今なら少しはましな戦いが出来そうだ」
「貴様、覚醒したのか…望む所だ、再戦だ」
俺はその声を聞き突っ込んでいった。
ブレーブキラーVS竜王
『覚醒』
此の世界では稀に勇者や聖女が居ない時代がある。
そんな時に一般人に後天的に『ジョブ』が現れる時がある。
それを覚醒と呼ぶ。
◆◆◆
遠くからセレス達の戦いを見る存在が居る。
王国騎士団情報伝達部隊だ。
彼等は街に居る時は見張っていないが、街から出た勇者の様子を伝える部隊だ。
その仕事は戦況報告から、勇者の保護迄多岐にわたる。
最も、勇者の危機に騎士なんて役に立たないから、ほぼ意味をなさない。
リヒトは『告げ口部隊』と嫌っていた。
今回セレスが『準勇者』になったので、今迄と違いセレスにもついていた。
「セレス様が…変わられた」
彼等は驚きを隠せない。
だからこそすぐに報告をした。
◆◆◆
凄い、これが勇者や剣聖の世界なのか?
今迄の動きが嘘の様に躱せる。
そして、幾らでも攻撃が出来る。
「それがお前の正体なのだな、凄いぞ、さぁ儂を楽しませてくれ」
「ああっいくぞ」
俺はただダイレクトに飛び蹴りをした。
ただそれだけの事で強大なドラゴンがふっとぶ。
こんなのは一般の人間がどんなに努力しても出来ない。
出来るわけが無い。
「この巨体を吹き飛ばすとはな、だが体格の理はこちらにあるのだ」
そう言いながらドラムキングは俺を踏みつぶしにきた。
走り避けようとしたが…思ったより速い。
かわし切れずに踏まれてしまった。
だが、この鎧は強大なドラゴンに踏まれてもビクともしない。
まるで地団駄を踏む様に俺を踏みつけるが、俺はビクともしない。
前世の子供の時に親に買ってもらった『超〇金のマ〇〇ガー〇』をうっかり踏んづけてしまった事がある、その時は俺の方が足の裏を怪我して、人形は無傷だった。
正に今がその状態だ。
だが、この状態ではそのままでいるしかない。
数倍の力に跳ねあがっている俺の力でも、この巨大なドラゴンの体を勢いをつけない状態では跳ねのけられない。
「そろそろ死んだか? いかにお前が凄かろうがこれが種族の差だ」
「確かに効いたがただそれだけだ、今なら出来るかもしれないな、これが奥義『光の翼』だーーっ」
誰もが憧れる『勇者の技の中でも美しく強い技』。
リヒトだけじゃない、物語の主人公が使っている技だ。
劣化版じゃない…これがオリジナルだ。
だが、これすらもドラムキングは受けて見せた。
「見事、まるで始まりの勇者のようなその技、素晴らしい」
何故、此奴は敵である俺を褒める。
戦えば戦う程、戦いが楽しく思えてくる。
これ程までに楽しい戦いを俺は知らない。
だが、お互いに決定打に欠ける。
俺の高周波ブレードはいとも簡単に竜王の鱗すら引き裂き斬る。
だが、サイズの差でそれだけだ終わる。
臓器迄届かない。
人間で言うなら薄皮一枚切られ続けているだけ。
激痛ではあるが死に至る様な事は無い。
逆に俺は踏むつけられたり飛ばされたり散々だが全く致命傷は貰ってない。
やがて月が出て朝日が昇ったが、戦いは終わらない。
可笑しな話だ。
これは戦いだと言うのに…息を併せてダンスを踊っているような物だ。
先に音を上げたのは俺だ。
スタミナがブレーブキラーの力を借りても、ドラゴンには及ばなかったようだ。
「駄目だ、もう立てない」
「ほう、ならばこの勝負は儂の勝ちだ..これは褒美じゃ食すが良い」
そう言うと竜王は自分の体を爪で切り裂くと臓器を取り出した。
俺は手加減されていたのか?
いや、多分あの爪でもブレーブキラーは耐えるだろう。
「それは?」
「竜王の肝だ、食べれば不老不死になれるのだろう?」
俺はブレーブキラーを解くとその肝を手にした。
そこに竜王の爪が飛んできて手前で止まった。
「甘い奴め、これで殺される事もあるのだぞ」
「お前はしないだろう」
俺はドラムキングの好意に甘え、肝を食べた。
「なんで、負けた俺を殺さない、そればかりか何故こんな物をくれる」
「儂はもうすぐ死ぬからのう、その前に夢を叶えてくれた駄賃じゃ」
「お前が死ぬのか? そんな元気なのに」
「古代竜として生まれて数千年生きてきた、不老不死と言うが本当に不老では無い、気が遠くなる程生きれる、それだけじゃ…自分の事は良く解っておる、儂の寿命は後50年も持たぬよ」
「人からしたら50年は下手したら一生だぞ」
「そうか、だが古代竜の儂にとっては一瞬だ、儂は死ぬ前にもう一度『真』の勇者ともう一度戦ってみたかったのじゃ、それで魔王軍に下り四天王になった」
「そうか」
「ああっ、だが誰もが大昔に戦った『勇者達』とは違った」
「だから殺したのか?」
「儂は殺さんよ! たかが虫けら殺すに値せぬ」
「それじゃ生きているのか?」
「多分な、その証拠にお主は聖剣を持っていないだろうが、あれは儂でも溶かせない、あの場に無かったのだから生きておる」
「ならば、俺は謝った方が良いか? 敵と言ってしまった」
「そのおかげで戦えたのだ良い、気にするな…名を聞こう」
「セレスだ」
「それでは『勇者セレス』もう儂は会う事も無い、戦いに満足した、竜の里にて静かに死ぬとしよう…さらばじゃ」
竜王ドラムキングは大きな翼を羽ばたかせ何処かに飛んでいった。
そして、俺は竜王を見送った後、その場に崩れ落ちた。
牢屋で目覚めて
ぴちゃーん。
ぴちゃーん。
水が滴る音がする…
此処は何処だ。
「ようやく目を覚まされましたな、魔族の手先め!」
此処は多分、王国の城の地下だ。
その証拠に騎士が王国の近衛騎士の物を纏っている。
「貴方が誰かは解らない、だが何故俺が地下牢に閉じ込められているんだ」
「ふん、白々しいお前は勇者と共に戦っていた英雄だと思っていたら、魔族だったのだな、あの様な醜い姿、魔族以外にありえんわ」
そうか、ブレーブキラーのあの姿か。
俺は前世で特撮ヒーローを知っているから、カッコ良く見えるが知らなければ、確かに蜂の化け物だ。
だが、こんな横暴は無い。
少なくとも四天王を退けたんだぞ俺は。
「俺は四天王を退けた、しかも今迄だって勇者リヒトと共に魔族と戦っていた、その俺が魔族だとふざけるな!」
「なら、あの醜い姿はなんだ」
「あれは鎧だ」
「あんな生き物みたいな気持ち悪い鎧があるか! 鎧とは我々が着ているような物を言うんだ、しかも鎧は消えたでは無いか? あの姿こそがお前の姿であろう」
確かに消えている。
理論はどんな物か解らない。
だが、あの鎧に高周波ブレードはどういう原理か俺の体の中にある。
恐らく『キラー発動』それを口にすればブレーブキラーに俺は何時でもなれるのだろう。
「そうか、お前は『今迄魔族と戦ってきた俺を魔族の手先』と言うんだな、お前のその言葉次第で俺は人類の敵に回るかも知れないぞ? なぁよく考えろ! ドラムキングと互角に戦った俺をこんな檻で防げると?」
「貴様、俺を脅すのか?」
俺は軽く檻を蹴飛ばした。
その瞬間檻が大きな音を立てて壊れた。
「脅しじゃねーよ! お前俺を舐めているの? お前等騎士が勝てないから、俺が戦ったんじゃねーのか! この城の騎士全部で掛かって来ても皆殺しにして王の首をとる。俺はそれが出来るんだぞ…さぁ話そうか? 俺はお前達の敵なのか? お前の言葉一つで王が死ぬかも知れない、さぁ言ってみろ?」
「私は、只の騎士です、そんな責任は持てない」
「そうか、だったら今なら『取り消し』を認めるぞ、謝罪をして取り消せ」
「それは」
「あのさぁ、俺はもう檻の外だ、俺が行動を起こした場合、真っ先に死ぬのはお前だよ、さぁどうする?」
「お許しください、セレス様」
「謝罪を受け入れた、それでは俺が魔族側の者だと言った人間の元へ連れていけ」
「はい」
騎士は青ざめている。
俺の言葉遣いは乱暴だが『これは此奴の為だ』
もし、俺の無罪が晴れてしまったら勇者支援法に則るなら此奴は死刑になる。
だからすぐに謝罪させた。
乱暴なのは…腹位立てても良いだろう?
命懸けで戦った結果が牢なのだからな。
◆◆◆
そのまま騎士の後についていった。
名前は敢えて聴かない。
その方が相手の為だからな。
「おい貴様、なんで罪人セレスを連れて歩いている」
「お前の方が此奴より位が上なのだな、言葉に気をつけろ、俺は『準勇者』だ、もし無罪だったら、お前は勇者支援法で裁かれる。 そしてこの法律についてはゼルド王でなく責任者は教皇様だ..お前の一言にこの国の運命は掛かっている、さぁ俺は罪人なのか? その言葉一つで『お前は家族郎党皆殺し、国王はかなり不味くなる、さぁどうする』
「撤回いたします」
「なら、俺を『罪人』として扱うようにした奴、いや面倒くさい、ゼルド王の元に連れて行け」
「それは出来ません」
本当に腹が立つ。
そうこうしているうちに騎士や衛兵が集まってきた。
「それなら良い、お前達が悪いんだ、俺はたった今からこの国に戦争を挑む『その責任は全てお前だ』」
「待ってください! 止めて下さい」
「俺が止められるかな? まぁ良いやまずは聴かせろ『罪人扱い』の俺はどうなるんだ?」
「それは..」
「言えよ、言わねば…」
「解りました、言います、その異端審問に掛けて黒だった場合は死刑です」
「あのさぁ、お前等手順間違ってないか? 異端審問で黒になってからじゃないのか?もし間違っていたら、俺を牢屋に入れる判断した人間全員が、下手したら首が飛ぶぞ? 解っているのか?」
騎士達の顔が青ざめる。
騎士である以上は勇者支援法について知らない筈が無い。
「だんまりか? まぁ戦争は止めてやる。こっちで良い、俺は他国の国王にしてこの国では『自由伯爵』それはどうなっている?こんな短期間で取り上げられて無いだろう? 言いたくない、俺は騎士を蔑ろにしたくない。戦場で一緒に戦う仲間だとも思っている…だから言わなかった。だが、こういう扱いをするなら、もういいや。 セレス伯爵の名で命令する。今直ぐ王にとりつげ」
「セレス伯爵様…解りました」
一番身分の高そうな騎士が動いた。
お互い頭に血が昇っていたのだろう。
俺の身分を忘れているぞ。
まぁ、俺すら『言葉で聞いた』だけだから今の今まで忘れていた。
◆◆◆
どの位、待っただろうか?
ようやく俺はゼルド国王の元に通された。
しかし、何だこれは、教皇ロマーニ六世にローアン枢機卿、それに聖騎士が沢山いる。
「どうしたと言うのだ!セレス殿? 其方には魔族の間者の疑いがあるから騎士に頼んで謹慎させた筈じゃ」
教皇様が居るから取り繕っているのか?
「疑いがあり謹慎ならまだ解る、だが俺は牢にぶち込まれて『罪人』と騎士から言われたのだが」
「それは余の間違いであった。直ぐに客室を用意するゆえ謹慎じゃ」
「ゼルド国王、貴方に『準勇者』の俺を監禁する権利はあるのか?」
「こざかしい、セレス、お前が魔族に変わったという報告を騎士から受けたのだ、しかも複数からな、だからこれから異端審問を行う、その結果しだいでは死刑だ。騎士が罪人扱いするのも仕方無かろう」
「待ちなさい、ゼルド王、貴方は疑わしいというだけで、勇者と共に戦っていた『元英雄』で準勇者のセレスを騎士が罪人扱いするのを許すのですか?」
「ですが、教皇ロマーニ様見た騎士の数は50名を超えるのですぞ、ほぼ確定でございます」
「ならば、もしセレス殿が無罪の場合は、その50名は死罪、解っておるのですね」
「枢機卿、解っておる、だが何代にも渡り仕えた騎士50名の発言決して嘘とは取れません」
俺は手を挙げた。
「セレス殿、何か言いたい事があるのかね」
教皇様から許しが出た。
「はい、私は四職で無いので、装備は自前です。勇者パーティは皆がミスリルを始め輝く装備ですが、私はそんな装備を用意できませんので『実を取っております』」
「それはどういう事なのでしよう?」
「ローアン様、私の将来を誓い合った者の1人が、私が死なない様にと用意してくれた装備が禍々しいのでございます」
「見せて頂いても?」
「はい」
俺は小さな声で『キラー発動』と唱えた。
すると外骨格の鎧に俺は身を包まれ、右手に高周波ブレードが現れた。
「やはり魔族ではないか…これで確定だ」
だが、俺はその状態で頭部だけ引っ込む様に念じた。
すると頭部がそのまま無くなった。
「違います、ゼルド王、これは鎧に御座います」
「その様に禍々しい鎧など知らぬ、しかもいきなり現れおったじゃないか?」
「これをどう思うローアン」
「確かに可笑しいですな、勇者様の装備なら聖なる力や何だかの力が宿り、不思議な力を持った物もありました。だがそれは勇者様以外では稀にしか御座いません」
「確かに勇者様の伝説で女神様から『虫の加護』を貰った少年勇者の剣は禍々しかったという話しを聞きましたが…セレス殿は勇者ではない、ならば可笑しい..」
「待って下さい、稀にはあるのでしょう」
「「…」」
「教皇様、ならば異端審問官の私が見れば済む事です。この『看破』のスキルを持つ私めミルダが見て見ましょう」
「そうですね、その様に頼みます」
「はい教皇様」
どうした、まさか俺は不味い事になっているのか?
俺を鑑定している『異端審問官』の様子が可笑しい。
青白くなり、急に怒り出した。
そのまま、ゼルド王の方に歩き出したぞ。
「お前~っ無礼者…無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者無礼者っ、死んでお詫びしろーっ」
杖でいきなりゼルド王を殴り始めた。
「貴様、王である余に何をするんだ、異端審問官とはいえぶはっ、誰か止めろ」
「「はっ」」
騎士が止めに入ろうとしたが止めない。
「今の私を止める者がいたら、その者は女神の名の元に地獄に落ちる、無礼者―――っ」
「ミルダ、何をしているんだ、相手は一国の国王だ、如何に其方でも問題だ」
「そうです、止めなさいミルダ」
「教皇様、枢機卿、この方に跪くのです」
「ミルダ、ちゃんと説明をしなさい」
「はぁ~解りました、教皇様、記録紙を下さい」
「記録紙は貴重品ですよ、枚数も」
「寄こしなさい、早くしないと後悔しますから」
「解りました、敬虔な貴方が言うのですから渡しましょう」
「セレス様、お許し下さい」
そう言うと目の前に記録紙を差し出した。
俺はその記録紙を触った。
記録紙には個人のデーターが印字される。
此の世界では凄く高価な物だ。
「教皇様、これでも私の行動は間違っているのでしょうか?」
「これは…ゼルド、貴方という人は良くも、良くも私に恥をかかせてくれましたね? 今迄生きてきてこれ程の屈辱は無い…聖騎士3名、セレス様を私に用意された客室にお連れしなさい、シスターも3人程つけて、最高のもてなしをするのですよ」
「「「はっ」」」
「後の事は私に任せて下さい、セレス様はただゆっくりとお寛ぎ下さい、全て終わらしてからお伝えしますから」
教皇が何故か優しく俺にいった。
理由は解らない、だが世界で一番の権力者がそう言うのだもう安心だ。
◆◆◆
「教皇様?何を言い出すのですか?」
「ローアンこれを見なさい」
「これはトリプル..『勇者』『聖人(聖女の男版)』『魔法戦士』これがセレス、いやセレス様なのですか?」
「私は今女神様に感謝しているのです『勇者リヒト』『聖女ソニア』が死んでもう5年間は『勇者様』に逢えない、そう思って心が痛かったのです。貴方も一緒にどれだけ女神に祈ったのか解りませんね」
「はい、我々にとっての勇者様や聖女様は女神様の代行者『この世で一番尊いお方』ですから」
「セレス殿は甲斐甲斐しく二人のお世話をなさっていました、時には二人の為にかなりの苦労も厭わないで、齢こそ若いがまるで親の様に接していました。いわば同志です。そのセレス様の善行がきっと女神様に届いたのです…本来は勇者様や聖女様が死んだら5年は現れない筈なのに、そのジョブがセレス様に現れたのですから。」
「はい、きっと教皇様の祈りが女神様に通じたのでしょう」
「いえ、私だけでなく同志の祈りが届き、最高の日になる筈でした『準勇者』それは見誤ったで許しても良い。ですが、我々が勇者様に会う輝かしい日を穢したのです。この男は、この国は『四天王を退けた勇者様』に冤罪を掛けて牢屋に放り込んだのです。許せますか?『勇者の凱旋』を潰した者を許せますか?」
「許せません、聖騎士達よ許せますか?」
全ての聖騎士が許せないと首を振った。
「ゼルド王、これを…」
「あっああああーーーーっ」
「セレス殿の冤罪は晴れた、しかも『準』等で無く、まごう事無き本物の『勇者』であった。まずは、冤罪を掛けた騎士50名の首を差し出せ、そして貴方にも相応の罪を償ってもらう」
「そうですな教皇様、良かったですね『異端審問官』もいますし、裁くのに丁度良いじゃないですか?」
「ローアン、そうですね、ミルダ頼みましたよ」
じたいを察した騎士達は誰も王の為に動けなかった。
裁き…なんだこれ。
全然意味が解らない。
最悪暴れようと思っていたのに、何が起きたんだ?
『ブレーブキラーが完成した』というと不味いから口を噤む必要があった。
そうすると、この剣や鎧の説明がつかない。
せめて宇宙警察関係のスタイルなら問題は無いが、これはどう見ても昆虫ヒーロー。
その中でも一番、グロイ奴に近い。
いや、見方によっては怪人にさえ見える。
俺に前世の記憶が無ければ『化け物になった』と騒ぐかも知れない。
「勇者様、紅茶のお代わりは如何ですか?」
「ありがとう」
確かにこの世界の人間にとって『化け物』にも見える。
そこは認めるべきじゃないかな?
此処には聖騎士にシスターが居る。
何故か勇者のジョブがあるから、化け物扱いはしないだろう。
「あの、君達に見て貰いたい物があるんだ」
「勇者様がですか?」
「何を見せて頂けるのでしょうか?」
此処には聖騎士1人にシスターが3人居る。
聖騎士2人は廊下にいるが別に呼ぶほどの事ではないな。
『キラー発動』
俺はブレーブキラーに変わって見せた。
「この姿は怖いよな、そう考えたら」
「凄い、ああっセレス様は『虫が好き』なのですね」
「昔話しに出てくる勇者セイル様は、虫を模した剣と虫の力を使って戦ったと聞きます。その再来の様です」
「私も子供の頃、その本を読んだ事があります、ドラゴンビィを捕まえようとして刺されて泣いた思い出があります」
「そうですね、ヒロインが普通の子と言うのも良かったですね」
「怖く無いの?」
「勇者様の鎧姿、凛々しく思っても怖いなど思いません」
「そうですよ? 神聖なるお姿を何故怖がる必要があるのですか?」
「そうですよ、多分子供にも人気が出ると思います」
「その御姿、どんな騎士よりも凛々しく思います」
信仰って凄いな、この姿でも怖がらないどころか憧れの目を向けて来るんだから。
「ありがとう」
そう伝えて俺はブレーブキラーを解いた。
この一言で嬉しそうな顔をするんだから、勇者って肩書は凄い。
しかし知らなかった『虫の勇者』なんて居たんだな。
ならこの姿も抵抗は無いかも知れない。
そういえば、ドラムキングが『リヒト達が生きている』そう言っていた。
この事は今回の件が済んだら話すべきだろう。
そんな事を考えていたらドアがノックされた。
「セレス様、全て片付きましたお越しください」
聖騎士団の団長らしき人物が俺を呼びに来た。
◆◆◆
王の謁見室に入ると誰1人椅子には座っていない。
その状態で50名の騎士達が手足を縛り転がされていた。
そして、その前に痣だらけのゼルド王が転がされていた。
「さぁ、セレス様、これからこの者達の処分を行います、騎士達は死刑、国王の処分はセレス様の手で行い下さい」
ロマーニ教皇が王や騎士を睨んでいる。
恐らく『此処で手向かえば家族を殺す』とでも言われたのだろう。
そこ迄、望んじゃいない。
「教皇様、騎士の処分も俺に任せて貰って良いですか?」
「様は要りませぬぞ、貴方は『勇者』何人にも敬意を払う必要はございません、騎士の処分もご随意にどうぞ」
教皇は『勇者絶対主義』だって聞いていたが、本当にそうなんだな。
『女神が遣わした勇者は人間で一番偉い、そして二番は聖女』
それがこの主義者の考えだ。
もしかしたら、支援国家とはいえ、オーガスト王国の王のゼルド王が勇者を下に扱うのが許せなかったのかも知れない。
だから、何かするつもりだったのか。
そうで無ければ、過剰な程の聖騎士を引き連れて来る事は常識的に考えてない。
「それでは『キラー発動』」
俺はブレーブキラーになった。
信仰は凄いな…聖騎士やシスター宗教者たちは『素晴らしい者を見る目』で見てくる。
逆にゼルド王と転がされている騎士達は恐怖で震えていた。
遠巻きに見ている、今回の事件に無関係な貴族や騎士すら震えている。
「さて、ゼルド王や君達騎士は何故俺を怖がり化け物扱いしたんだ?」
誰も話さないな。
「話さなくて良い、だが聞いてくれ!俺はあの時ドラムキングと戦い、何とか追い払ったんだよな! それにこの中には勇者パーティの時に一緒に戦った奴もいた筈だ、それが何で俺の弁護をしなかったんだ? 俺が誰かを傷つけたか? ただ、この容姿になっただけで何で色眼鏡で見たんだ! ただ懸命に戦っていただけだろうが…違うか?」
「セレス様、その申し上げにくいのですが魔法で喋れなくしてあります」
そうだったのか?喋らない訳だ。
「まぁ良い、だったらこのままお前達の処罰を決める。騎士のままで居たい奴はこのまま騎士のままで良い、だが俺を罪人扱いして気まずい奴は騎士を辞めろ、その場合はこのゼルド王が金貨20枚を無条件で払うから、それで出ていくが良い」
「セレス様、それは随分と甘く思いますが」
「ロマーニ、これで充分だ。残る奴は俺を罪人扱いした騎士として汚名を返上する為に死ぬ気で頑張るしかない。 辞める奴は騎士爵を返上して平民になるんだから、金貨20枚持って人生を平民から出直さなくちゃならない、この位で丁度良い」
前世で考えたら、例え総理大臣に暴言吐いても死刑にはならない、この位で充分だ。
「さて、文句があるなら聴こう、ロマーニ悪いが騎士達を喋れるようにしてくれないか?」
「解りました、聖騎士達よ、喋れるようにしてやれ」
さて文句を言う奴が居る筈だ。
「セレス様…慈悲を有難うございます、俺は…」
「言いたい事があれば聴く約束だ」
「俺は昔、貴方に助けられた、それなのに今回俺は何も出来なかった、だから…第三の道を行く」
「なぬ!」
何を言い出すんだ、俺は二択しか認めないぞ。
「俺は生涯の忠誠をセレス様に誓う! 皆どうだ!『勇者王 セレス様』こそが真に仕える存在だと思わぬか! 騎士団中隊長のオルガはそう決めたぞ」
何を勝手に決めているんだ。
「おい…」
「俺も決めた、生涯の忠誠を」
「「「「「「「「「「生涯の忠誠を勇者王セレス様に誓う」」」」」」」」」」
「はははっ流石はセレス様、敢えて許す事で騎士の心の掌握とは素晴らしいですな、ならばこのロマーニが預かりまして『聖騎士』の指導の元性根を鍛え直しましょうぞ、お前達、勇者様に感謝するのです。命を助けて貰った恩、忘れてはなりませんぞ」
騎士達は右手を大きく挙げた。
俺の意思じゃないのに、なんでこうなるんだよ。
まぁ良いや、そう言えば俺は小さな国持っていたんだっけ?
そこに連れて行って代官に引き渡して放置で良いだろう。
「さぁ、セレス様」
「それじゃ…頼むわ」
「「「「「「「「「「オー」」」」」」」」」」
◆◆◆
欲しくないのに。
騎士は欲しく無いのに…あれじゃ断れないだろう。
さぁどうしよう?
小さい国に50人の騎士…大丈夫か…財政も知らんのに。
「セレス様、お考えの所申し訳ありませんが、ゼルドの処分を、まぁ流石にこの男は死罪..」
「いや、待って欲しい」
考えて見れば、俺ゼルド王に無茶苦茶酷い事してないか?
『美人(宝石姉妹)の王妃』をとり上げたり、『国を寄こして国王にしろ』って言ったな。
俺が同じ立場だったら…きれる。
もし『仲間の1人を嫁に差し出せ』なんて言われたら、きれる。
無茶ぶりされたが、その分以上の報酬は貰ってしまった。
この状態で殺したら…俺悪人じゃないかな?
何か貰って終わりに…居た。
あれを頂こう。
「喋れるようにしてくれ」
「解りました」
「セレス殿、いやセレス様命だけは、命だけはお助け下さい」
「そうだね、ゼルド王と俺の仲だ、まず命は保証するから、安心して良いよ、その代わりそうだ、今回の件で1つの条件を飲んでくれたら、それでおしまいで良い」
俺はゼルド王に1つの条件を突きつけた。
「それで良いのですか?」
「ああっ構わない」
「それならば約束しましょう、必ずや守ります」
俺が付きつけた条件、それはローマ宰相を俺の家臣として差し出す事。
此の世界の王や貴族の仕組みは日本の武将と将軍に近い。
貴族が領地を持ち、そこを治め、その上に国王が君臨する。
まぁ法衣貴族もいるがな。
俺が貰った、ルランス王国は小さいから違う可能性もあるが、少なくともここオーガスト王国はそうだ。
その国王がゼルドだが…多分そんなに優秀じゃない。
本当に優秀なのは、ローマ宰相だ。
傍で見ても、この人が頑張っているから国が回るんだと言う事が解る。
まぁ簡単に言うなら『裏切らない明智光秀』みたいな感じだ。
この人間が居て『丸投げ』出来るなら、俺はきっと名にもしないで良い。
しかも実直だから安心だ。
確かに、今迄酷い事されたのかも知れないが…結局俺はゼルド王から最愛の妃を奪い、今度は腹心を奪ってしまった。
これは本当に本意じゃない。
恨まれたくないな…
「ゼルド王….」
「た助けてくれ、まさか気が変わったとか、余が余が悪かった」
俺はそっとゼルド王を抱きしめた。
「俺を『英雄』と呼んでくれてありがとう…あの一言で俺は救われた、だからこれで良い。これ以上の罰は望まない」
あの時の此奴の狸的な行動。
だが、あれが元で『英雄』と呼んで貰えて、リヒトに対するコンプレックスが薄まったのは事実だ。
これで良い。
「ありがとう、ありがとうセレス殿」
丸く収まった。
「セレス様、それは良いですが、貴方は勇者です…今回私は決断をしました。 やはり勇者は誰かに下に見られてはいけない…『貴方より偉い存在は居ない』これを教会で正式に世界に伝える事にします」
丸く収まって..ないな。
俺はただ静かに過ごしたいだけなんだ。
勇者パーティSIDE 失われた力と潮時
俺はロマーニ教皇とゼルド王にリヒト達が生きている事を伝えた。
「それがどうかされたのですか?」
「そうは言っても、セレス様にとっては友人ですから、教皇様」
何だか随分と反応が薄い。
勇者パーティが無事だった。
これは教皇にとっても朗報だと思うのだが。
「そうですね、元勇者が無事だったのですね、良かった」
「教皇様、セレス様にとっては親友が生きている可能性があると言う事ですよ」
「そうですね、心を痛められていたのですね、その心痛が薄れて良かったです、このロマーニ心から喜びますぞ」
何だか反応が凄く可笑しい。
◆◆◆
暫くするとロマーニが席を外した。
「本当に此処でお話をしていたいのですが、どうしても外せない様がありまして、スイマセン」
そう言うと残念そうに退席した。
教皇であるロマーニが席を外すとゼルド王が話しを進めた。
「セレス様、もう教皇様にとって『リヒト様達はどうでも良い人物』なのです」
なんで、そうなのか聞いた…その答えに俺は驚いた。
『勇者のジョブは1人しか持てない』
そうゼルド王は言いだした。
「本当にそうなのか? 俺とリヒト二人がジョブを持つ事はあり得ないのか?」
「絶対にあり得ません、2人の勇者が同時に現れたことは今までは無く、居たと言う話の多くは片側が偽物でした」
「それじゃ、リヒトは…」
「もし、セレス様のいう事が正しいのであれば『勇者の資格』を失い只の人として生きている可能性が高い筈です…聖剣は恐らく使えないでしょう」
「そんな」
「すみません、お気持ちは察しますが…真実でございます」
確かに言われて見れば、その可能性は無い。
勇者輩出国の国王が言うのだから、間違いは無いだろう。
何を俺は勘違いをしていたんだ。
『勇者が死んだ時から約5年経つと次の勇者が現れる』そういう話を聞いたじゃ無いか。
どうも、前世の記憶と混同する事がある。
何故、俺に『勇者』『聖女』のジョブが現れたのかは解らない。
だが、俺に現れたと言う事は、リヒト達が失った事を意味する。
何故こうなったか解らない、今度、帰ってからマリにでも聞いてみるしかないだろう。
途中で、通信が途絶えたから、きっとマリ達は心配しているに違いない。俺は皆に向けて手紙を書いた。
◆◆◆
俺の身に何が起きたんだ。
俺ことリヒトは仲間と一緒に王国と聖教国の権力の及ばない地に来ていた。
帝国を越えて、蛮族が住むと言われる地域だ。
此処まで来れば女神教だけでなく、色々な宗教が存在する。
女神教も幾つかある宗教の一つになる。
「リヒト、気のせいか僕、力が前程入らない気がする」
「そうだな、俺も何故か前程力が入らない、今戦ったらオーガ位ならどうにかなるが、ワイバーンに負けそうだ」
「私も何故か、ハイヒールが使えないわ、まぁヒールは使えるけど」
「私は今の所大丈夫、だけど皆どうしたの? まさかと思うけど…」
「何だ、リタ何か気が付いたのか?」
「いや、あくまで仮説だけど『聖女』『勇者』って聖なるジョブって言われているよね、それだともしかしたら、女神様への信仰を捨てたら不味いんじゃないの?」
「だけど『剣聖』の僕も弱体化しているんだけど」
「それは解らないわね、だけど『死んだ事になっている』から教会で鑑定して貰えないわ」
「ソニア、この際だ、お金はまだある、今のうちに記録紙を購入して使おう」
「金貨10枚は痛いけど仕方ないわ」
俺達は試しに『記録紙』を一枚買って使った。
話し合いの末、試すのは俺に決まった。
俺は記録紙を握りしめた。
可笑しい…記録紙に何も浮かび上がらない。
「この記録紙、まさか偽物を掴まされたのか? 何も浮かび上がらないぞ」
「そんな訳ないわ、ちょっと貸して」
そう言ってソニアも握りしめるが、何も文字が浮かび上がらない。
「教会で買ったのに..偽物は無い筈ですが、辺境だからでしょうか? 可笑しいです」
「ちょっと貸して…やっぱり普通に使えるじゃん! ほら」
可笑しい、リタには反応して『賢者』としっかりと浮かび上がった。
これでこの記録紙は終わり。
浮かび上がった以上はこれは偽物で無い筈。
ならば俺は..そうだ聖剣を握って見れば良い。
きっと白色に輝くはず…
「嘘だ…聖剣が輝かない」
「リヒト、それ所じゃないわ、聖剣が、聖剣が…嘘私の聖杖も…何でよ」
俺達の目の前から…かき消すように…消えていった。
「何でだよ」
「諦めるしかないわ、何が原因か知らないけど、聖に連なる物が消えたのよ、私とリヒトに記録紙が反応しなかったのは、ジョブが既にないからよ…ジョブを持って無ければ記録紙が反応しないのも頷ける」
「それじゃ僕も無くなるの?」
「解らないわ四職とはいえ『勇者』『聖女』と違い『賢者』『剣聖』は聖と違うわ、賢者なんて黒魔法まで使えるんだから」
「確かに『聖』と私はかけ離れている気がするよ…今回全く弱体化しないもの」
「僕はリヒトやソニア程じゃ無いけど、少し弱体化した気がする」
「どうすんだよこれ!」
「あのさぁ、余り気にしないで良いんじゃない」
「ソニア、それはどういう事だ」
「ジョブが無くなってもリヒトは『上級騎士』位の力はあるし、私だって『上級ヒーラー』位の力はある。リタはそのまま、ケイトは弱体しても『上級剣士』並みには強い。
「かなり弱っちいな」
これは本当に不味いな。
「まぁ、これで良いんじゃない? ある意味もう『魔族との戦い』から完璧に外れたわ」
「何を言い出すんだ?」
「いや、私の聖女のジョブがなくなって、リヒトの勇者のジョブが無くなれば、鑑定されても最早問題は無いじゃない? いまの実力で恐らくAランク位、恐らく4人なら、オーガやワイバーン位はギリギリ狩れるから月金貨50枚(約500万円)は固いわ。普通に楽しく暮らせるわ」
そうだな。
もう魔族と戦わないのなら『これで充分』だ。
だけど…多分俺一人でも月金貨10枚はいけそうだ。
「そうだな、充分だ、このまま楽しく暮らそう」
「そうね」
「そうだね」
「そうそう」
だけど、よく考えたら『こいつ等と離れる』そういう選択もあるんじゃないか。
昔にセレスと一緒に覗いた奴隷商には『エルフ』」や『ダークエルフ』が居た。
確かに3人とも可愛いが、あそこで見た高級奴隷はこの3人とは比べられない位綺麗だった。
『勇者』であればこの3人とは離れられない。
だから、セレスを追い出して独占したかった。
だが、今の俺は勇者じゃない。
お金で買える美女が居て『稼ぐ手段はある』。
そろそろ潮時かもな…
時期を見て…去る事にするか。
宝石姉妹
「お姉さま、お話しを聞きましたか?」
妹のルミナスが私の元に来ました。
恐らくは私達が外に出されるという話しでしょうね。
まぁ、当たり前と言えば当たり前です。
夜も拒み、子を作らず、形上の夫とはいえ貶してきましたからね。
ですが、好きでも無い男がお金にものを言わせて、無理やり私を手に入れたのですから…愛さないのは当たり前じゃないですか?
ずんぐりむっくりで不細工な男。
王と言う権力とお金が無ければ…つまらない男なのですから。
思う存分、財政が傾く位のお金を使って…徹底的な避妊。
けっして側室を許さない。
此処まですれば、まぁ少しは気分も晴れるという物です。
そろそろ、痺れを切らして『拝領妻』として外に出されるか『暗殺』されるか、その辺りを考えていましたら、殺す度胸が無かったのか『拝領妻』に決まったみたいですね。
この間も、金貨7万枚(約70億円)のネックレスを買いましたから、そろそろ我慢も限界に来ているでしょうから。
どちらにしても籠の鳥じゃなくなれるだけましですよ。
「拝領妻として出される件なら知っていますよっ! 私も貴方も同じ相手に嫁がされるのですよね? セレスとか言う話ですが…どうせ碌でもない人物に決まっています。まぁ同じ様に絞れるだけ絞りとりましょう」
どうせ『拝領妻』の行く先なんて、碌でもない相手に決まっています。
あの王の家臣ですからね、大きなクズ~小さなクズに渡されただけです。
笑いながら『こんな物も買えないのですか?』と罵ってあげれば身の程を知る筈です。
「ジュリアお姉さまは『セレス様』の事はご存知ないのですか? 『私のセレス様』にそんな事したら、お姉さまでも許しません…というかお姉さまは『セレス様』の事、絶対に忘れているでしょう」
私以上に殿方を見下す、ルミナスが『様』をつけているなんて信じられません。
一瞬自分の耳を疑った位です。
「セレス様って何をいっているの? ええっ知っているわ『英雄セレス』の事はね! 確かに、私達の嫁ぎ先がセレスとは聞きましたが、多分別人ですよ」
確かにセレスとは聞きましたよ。
確かに『英雄』と呼ばれる少年。 勇者パーティのメンバーにそういう人物が居るのは知っています。
本当にルミナスは何を勘違いしているのですかね?
15歳の、それもあんなに美しく、引く手あまたの少年が私達等欲しがるわけがないでしょうに…
だって望めば、姫ですら手が届く少年が、相手は王とはいえ『お手付きの女』を欲する訳がありません。
更に言うなら下手すれば母親の年齢に近い私達なのですから、幾ら美人と名高い『宝石姉妹』でも10年前ならいざ知らず、この年齢の女を妻に望む訳はありません。
「違います、本当にあの『英雄セレス』様だから、驚いて飛んできたのです! 信じられないでしょう? 最後の最後にとんでもない当り引くなんて」
妹のルミナスはどうあっても『英雄セレス』だって引きません。
セレスという名前は物語の主人公の名前でも有名です。
その為、それにあやかってつけた親がいるので、結構な数います。
流石に『英雄セレス』に私達を押し付けたら醜聞になります。
幾ら美人だといっても、私もいい歳して、年増と呼ばれる年齢を越えています。
更に言うなら『王妃』妹だって『公爵夫人』身分こそありますが『お手付き』なのはまる解りです。
勇者パーティの若き少年に押し付ける等、幾らクズ王でもしないでしょう?
「ルミナス、その様な夢のような話、馬鹿げているわ。何処の世界に20代後半の年増を望む15歳の美少年がいると言うのかしら? まして相手は『英雄』と呼ばれる素晴らしい方ですよ! 幾ら美人だからといって『お手付き』を望む訳がないでしょうに、恐らくはセレスと言う名前の貴族か商人だと思いますよ?」
「それが、望まれたからこうして驚いているのです! そんなに信じないなら、そうですね『ネックレス』でも賭けませんか? お姉さまは、この間購入したあのダイヤのネックレスを賭けて下さい。私はお姉さまの欲しがっていた『空のエメラルド、獅子の瞳』を賭けますから」
「あら、本当に良いの? 良いわよ?」
執事を呼んで詳しく聞きました。
賭けの結果は私の負け。
まんまと金貨7万枚のネックレスは妹に持っていかれました。
ですが…全然悔しくなんてありませんね。
負け惜しみでなく、こんなに損した賭けで『負けたことが嬉しい』なんて初めてです。
気が付けば顔が緩んでしまいます。
◆◆◆
「それで、詳しい経緯もルミナスは知っているのよね? 大切なネックレスを持っていったのですからお話し下さいな」
「ええっ解りましたわ、これは極秘事項も関わっていますので絶対に口外無用です」
「解ったわ」
話しを聞いてみた私は驚きを隠せません。
まさか勇者パーティが全滅。
その状態で『魔族の討伐を命じた』王に、その報酬として私達を望んだなんて…まるで物語みたい。
10年前ならいざ知らず、15歳のしかも美しい少年が私を望むなんて夢みたいな話です。
勇者すら敵わなかった『魔族達』その戦いをする事が条件なら、『15歳の少年の命』がその対価と言う事。
私は常々『私達に釣り合わない』そういっていたけど、今の私が『15歳の美しい少年に釣り合う』なんて思えない。
そんな価値なんて無い。
「凄いお話しね」
「そうでしょう。だから慌てているのよ。自分の命を対価に妻にする女性が『この程度』だなんて思われたく無いのよ、幾ら世界一美しいなんて言われても歳には敵わないもの。相手がそこら辺の相手ならいざ知らず『セレス様』なのよ? 15歳のあんな美少年の前にドレス姿ならいざ知らず、裸で立てる自信はありますか?」
確かに弱りましたね。
伴侶が『どうでも良い相手』でしたから自分磨きを怠っていましたわね。
私達がセレス様の屋敷に旅立つまで1週間位…宝物庫には秘薬や財宝が沢山ありますからね、それらを使って『自分磨き』をしますか。
「ルミナス、望んだのはセレス様なのですから、気にしても仕方ありませんよ。だけど『宝石姉妹』なのですから光り輝く様に自分を磨くのは義務です。歳には勝てませんがこの際だから、貴方もお城にこのまま残って一緒に『自分磨き』をしませんか?」
「そうですね『頑張る』それしかありませんね」
「幸い、時間は有りませんが、資金は幾らでもありますから頑張りましょう」
「はい」
私はセレス様を描いた事がると言う絵師にセレス様の肖像を頼みました。
一見地味に見えますが、何と言うか奥ゆかしくて温かみがあって素敵です。
勇者リヒトも美形ですがどうも私はああいうキラキラした感じよりこういう渋みがあって落ち着いた方が好みです。
まぁ妹も同じですね…
しかし、相手が変わると『義務』みたいに感じていた自分磨きも楽しくて仕方ないから不思議な物ですね。
◆◆◆
宝石姉妹の自分磨きには『世界に数本しかないエルクサー』そのうちの王国が所蔵している2本も使われ、たった1週間で実に宝物庫のお金の1/5が使われていた。
エルクサーが無くなってしまった事を教皇に相談した所..
※ 世界的な秘薬なので本数を教会に伝える義務があります。
「勇者様の気をひく為に使ったのですから、問題無いですな…まぁ事後報告は今回目を瞑りましょう」
と言われ…ゼルド王が泣きながら、寝込んだという話は、本当かどうか解らないが王宮に噂として流れた。
セレスは改造人間?
ふぅ~ようやく帰ってきた。
ドラムキングとの戦いの後、すぐに帰るつもりが、色々とゴタゴタしてこんなに掛かってしまった。
本音で言えば、もうかなりお金も溜まっている。
皆んなで遊んで暮らせるお金がある。
『働きたくない』それが本音だ。
美しい妻たちに囲まれて、少し贅沢しながら生活しても一生困らないお金。
前世なら、もうリタイヤして暮らせる環境なんだ。
だけど…何故か勇者になってしまったから戦いから逃げられない。
なんだか、リヒト達の気持ちが解かった気がした。
まぁ2か月位したら、また魔王軍との戦いに出なくちゃならないが…
今は帰って来られた喜びを噛みしめよう。
ようやく『宝石姉妹』にも会えるし、一休み出来る。
手紙を送ったから、待っていてくれるよな?
屋敷の前を見ると、マリが1人でたっていた。
えーと、なんでマリ1人なんだ。
「えーと、なんでマリちゃん1人なんだ?」
「皆は、寝てるだけだから、安心して、大丈夫!」
まだ昼前なんだけどな可笑しく無いか?
まぁ起きるまで待てばいいだろう。
「セレス、凄く心配したんだよ!」
マリが俺の胸に飛び込んできた。
確かに通信が途絶えて、すぐに手紙を送ったとはいえタイムラグがあるから..心配かけたよな。
小柄のマリから良い匂いがしてきて、そのまま抱きしめようとしたが…
『プスッ』
何が起きたんだ、腕に痛みを感じると、俺は意識が遠くなっていった。
最後に目にしたのは注射器を手に持ったマリの姿だった。
誰か私に何が起きたのか教えて下さい…それだけが…
なんて思わない。
だけど、本当に一体なにが起きたんだ。
◆◆◆
『セレスは改造人間である』
そんな感じのベッドに寝かされて縛り付けられている。
まぁ前世で言うなら手術台だ。
「流石セレス、ドラゴンですら眠らせる薬を100倍濃くしたのにもう起きるなんて」
「マリちゃん、これ何?」
「セレスが居ない間に改造したの、結構カッコ良いでしょう?」
悪の組織の秘密基地に見えてしまうのは俺だからか…
「マリちゃんは凄く心配しました。 いざと言う時の為の『ブレイブキラーマリちゃんスペシャル』これですらドラムキングに負けてしまうなんて…ショックでした」
「あの、相手は四天王ですよ? 寧ろよくやったと…」
「負けは負け、しかもドラムキングなんて四天王最弱…これが他の三人だったら死んでいたんだですよ! 反省して下さい」
マリが怖い。
だけど、心配させたのは本当だし、マリが居なかったら死んでいた。
素直に謝るしかない。
「ごめん」
「解ってくれたらいいよ、それでねセレス、もう負けない様にもっと強くしてあげる!」
そう言うと真理は凄くグロテスクな虫を持ってきた。
「マリちゃん、その肉腫みたいな何かの幼虫みたいな気持ち悪い虫なに」
「こっちの虫がね..マリちゃんの細胞から作った『寄生生物 賢者マリちゃん』 前の時には作れなかったし、ヒントも浮かばなかったんだけどね。なぜか、最近『マリちゃんって賢者の血をひいているよね?』そんな事が浮かび上がったの…そして頑張ったらつくれたの…そしてもう一つの虫が『剣聖くん』マリちゃん的には『勇者くん』だけで良いかなって思って兼ねさせていたの..だけど今回の事で懲りたから..勇者くんの補助役としてつける事にしたの」
「それどうする気なんだ? 凄く嫌な気がするんだが」
「勿論、セレスに寄生させるよ! これでマリちゃん比、元のセレスから考えて13倍位強くなるから安心、安心」
「止めろ~止めてくれ」
俺は叫んだ..しかもこの拘束具、解けない。
「無理だよ、その拘束ベッドは超合金Mなんだからぁ~ブレイブキラーの外骨格の余りから作ったんだからね…それに今更だと思うな~既にセレスには2匹既に寄生しているんだから2匹加わっても一緒、一緒」
そういうとマリは笑顔で俺の体の上に虫を置いた。
「うぐぐっ痛…くない」
虫は俺の体を食い破ると体の中に潜り込んだ。
虫が潜り込むと俺の体の傷がそのまま口を閉じた。
「あれれっ可笑しいな~ 幾ら何でもこんな一瞬で傷が閉じる訳ないんだけど~セレス、何か知らなかなぁ~」
俺の体にあんな寄生虫が居るなんて。
あれじゃエイリアンの方がまだマシに見える。
「セレスってば」
「何、マリちゃん?」
「だーかーらー、何か変な事してないかって聞いているの」
変な事…あっあれだ..
「竜王の肝を貰って食べた」
「そういう事はちゃんと言ってよ..もうそれじゃついでに検査もするよ」
そう言うとマリは俺の血液をとったり、細胞を取りながら色々調べていた。
「成程、成程、古代竜の肝を食べると筋肉と血液が変わるのね…あれれ可笑しいな、骨まで変わっている…マリちゃんの考えだと骨はこんな事じゃ変わらないんだけどな…しかもこの骨」
「マリちゃん…もう止めて」
痛くは無いけど高周波メスで斬られる感覚は気持ち悪い。
「嘘、この骨、なんで? 高周波メスで斬れない…まさか..」
「マリちゃん、聞いている」
「聖剣で使われる謎の金属だぁ~ 全部変わっているの? 凄い、凄いわ…はぁ素晴らしいよ」
「マリちゃんーーーーっ」
「あはははっごめん、凄くセレスが立派だからついね..ごめんもう終わるよ」
ようやく俺はマリの改造手術から解放された。
◆◆◆
俺はマリにジョブについて聞いてみた。
「うーん、それは科学者の分野じゃ無いから解らない」
とうとう、マリは機工師じゃなくて科学者と言いだした。
俺からしたら(とんでも)科学者だが、そこは突っ込まないでおこう。
「だけど、私なりの推測で良ければ答えるよ! 科学とは起きた現象を当てはめる学問でもあるからね」
「是非教えて下さい」
思わず、敬語になってしまったじゃないか。
「えーとね、今回マリちゃんが、作り出したのは虫位の大きさだけど純粋な『勇者』『聖女』『剣聖』『賢者』なのよ! 果たしてセレスの友人のリヒトさんの中の勇者の細胞とかどの位なのかな?」
マリがいう事にはスキルが入り込む細胞があるのでは無いかと言う事だった。
「細胞?」
「そう」
なんでも、俺の仲には4つの生命が宿っている。
それが『勇者くん』『マリアちゃん』『剣聖くん』『マリちゃん』まぁ四職をそのまま再現した寄生生物(寄生虫)らしい。
つまり、俺の仲には小さな四職が虫として住み着いている状態らしい。
あくまでマリが作った疑似生物な訳なんだが..
「だけど、もしねジョブに意思があって『よりそれらしい存在に宿る』としたらね、体の一部の細胞に勇者のスキルが入り込むリヒトさんより、小さいけど、ほぼすべての細胞が勇者細胞の寄生虫たちの方がより素晴らしい存在に感じたのかも知れない」
そんな事があるのだろうか?
まぁこれはマリがそう考えたというだけで真実は解らない。
「そんな事が本当に起きるのか」
「解らないよ、あくまでマリちゃんはそう思ったそれだけだよ…だけどね、あながち間違っていないと思うの、だってセレスの骨にね、聖剣とか聖杖の金属が混ざっていたから、案外、体の中の『勇者くん』と『マリアちゃん』がそれらを手にして、セレスが死なれると困るから組み込んだのかもしれない…」
「それって」
「簡単に言うと、セレスの体の中には寄生虫状態の四職が住み着いていて、それが常時セレスを守っている状態、そして骨格は聖剣と聖杖の能力を取り込み強固になった状態…そこにブレイブキラーが加わったなら…これなら流石のマリちゃんも安心だよ」
自分で言うのも何だが…今の俺は確実に強いと思う。
もし、今の俺の力が魔王に通じないなら、人類に対抗手段は無いな。
「マリ、一体何をしているんだ?」
「うん? ブレイブキラーの設計図を燃やしたの、私も忘れるからもう作れないよ…まぁ更にセレスの場合は運が加わって凄い事になってるけどね…私はもう満足、ご先祖様が残した最強のブレイブキラーが作れたんだから」
「それで良いのか?」
「良いの、今のセレスならもう、マリちゃんも安心だからこれで良い…これからは普通の機工師とセレスの奥さんとして頑張るよ」
「そうだな、マリがそう言うなら良い。 それでマリのご先祖様って何者なんだ」
「うん? 私も解らない、何でも凄く遠くから来て、不思議な物を沢山作ったみたい」
多分、転移者でチート持ちだった…そんな事か。
「そうなんだ」
「そうなの、残された本には沢山の道具が書いてあったけど、その殆どが誰もが作れなくて、後に『嘘つき呼ばわり』されたの…私はね、その本に書かかれた物を作って『ご先祖様は嘘つきじゃない』そう信じたかったのよ」
掃除ロボットに洗濯機…どれも俺は見たことがある。
ただ、それは前世で見た物。
此の世界には存在しない。
「多分、マリが作る様な物を作る人が沢山居て『魔法なんて必要ない』そんな世界が遙か遠くにあるんじゃないか?」
「セレスは信じてくれるの?」
「ああっ俺はブレイブキラーを貰ったし、実際に不思議な道具を見たからな…マリが作る道具を一からマリが考えたなら…天才どころじゃないからな」
こんな所で良い。
俺の前世の世界は『実在する事も』『何処にあるのか』も証明できないからな。
「セレス…」
「どうした?」
「真剣に話してくれて嬉しいな…マリって呼ばれるのはセレスなら嫌じゃ無いけど…やっぱり『マリちゃん』って呼んでくれた方が嬉しいよ」
「ああっ解ったよ」
やっぱり、そこはぶれないのな。
宝石姉妹と彼女達
【時は少し遡る】
セレス様の住まうというパーティハウスにようやく着きました。
「思ったより大きなお屋敷ですね」
「お姉さま、ですが、お城に比べたらかなり小さいですよ」
「ハァ~、ルミナス、貴方にはこのお屋敷とあの城の違いが解りませんか?」
「どう違うと言うのですか? 私にも解るように詳しく教えて下さい」
「良いですか? あのお城はただ貰った物にそのまま住んでいただけの物、この屋敷は、あのセレス様が、一生懸命働いて建てた物です、比べることなくこちらの方が素晴らしいでしょう」
「セレス様が努力して買われた家…確かに比べる事などできませんわね」
「その通りです、あと此処には既にセレスさまに囲われた方が住んでいます..此処からが勝負ですよ」
「たしか4人お住まいですね、相手は多分お若い方ばかりだと思いますが『大人の魅力』で頑張りましょうお姉さま」
「ええっルミナス、セレス様も多分、それをお望みでしょうから、頑張るしかないわ」
「それでは護衛は此処までで結構です、ご苦労様でした」
「「「「「はっ」」」」」
これから王妃でもない私の新しい人生が始まるのですね。
◆◆◆
「「「「お話は聞いております(わ)宝石姉妹様」」」」
「あの、貴方達がそのセレス様の?」
「驚きましたか?」
「はい、私はてっきりお若い方ばかりだと思っていたのですが、見た所私や妹と同じ位の歳に見えますが…」
「そうですわね、その通りだと思いますわ、お二人は有名人ですから知っていますが、お二人は私達を知りませんわね、自己紹介させて頂きますわ、私はマリアとお申します」
「私はアイシャ」
「私はマリベルと申します、まぁ見ての通り村人ですね」
「私は、マリ、マリちゃんと呼んでね」
「さてと、セレスについては私が説明した方が良いかしらね」
「マリベルさんが適任ですわね、お願い致しますわ」
マリベルさんに話を聞いた。
「その様な話しでしたのね、それじゃ本当にセレス様は…」
本当に驚く事ばかりでした。
理由を聞けば納得でした。
生まれながらに両親がいない。
しかも村にたどり着いた時には父親だけで、その方も直ぐに死んでしまった。
母親の愛情を感じたこと無いから『年上が好きなのですね』
それなら、私や妹を望んだ事は解る気がします。
私達は『年上』と言う事さえ除けば今でも『美女』だという自負はあります。
「セレスから手紙と委任状が届いていましたから、私の方で手続きしておいたわ」
そう言うとマリアさんが2枚のカードを差し出してきました。
「これは一体」
「お姉さまこれは冒険者証ですわ」
「はい、セレスはね、結構男気が強くて、余り女性に働かせたくないのよ、それで形ばかりのパーティを作って、皆にこのカードを渡しているのよ」
「それって」
「えーと」
「欲しい物があったらそこからお金を下ろして使って良いという事ですわ」
セレス様は自分で稼いだお金で家族の生活を賄っていますのね。
ですが、私からも一つ報告があります。
「有難うございます、これは大切に使わせて頂きます。 多分皆さまも知らない事があります。多分これから報告がセレス様からあると思いますが、小さな国ですがセレス様が国王になるという話がありました」
「お姉さま、それは本当ですか?」
「ルミナス、もう決まった事ですよ、ただこれから細かい事を決めていくみたい」
「「「「国王」」」」
「はい、詳しい事は私も良く知りませんが確定している事は間違いありません」
「「「「「凄い」」」」」
「『それでね、一応セレスが作ったルールなんですが、出掛ける時は全員一緒』これ以外は特に無いから安心して、食事や家事は私がやるんですが…あははっ何故かその殆どはこの機械がしてくれるから、余りやる事もないですね(笑)ゆっくり好きな事をして大丈夫です」
「「解りました」」
妹と一緒に答えましたが、訳のわからない機械が本当に掃除してますし、洗濯迄全自動でやる機械が何故かあります。
お風呂も24時間冷める事がないらしいですし、恥ずかしい話ですがトイレが水洗なのも凄いですが、お尻迄洗うなんて…まるで別世界です。
「これは..一体」
「マリちゃんが作りました…えへへ凄いでしょう?」
こんな物つくれる人、王宮にも居ませんでした。
妹も目が点になっています。
アイシャさんは姫騎士、マリアさんに到っては元聖女。
それなのに…最初だけで、一切働いて無いそうです。
「セレス様は本当に皆を愛してくれる方なのですね」
そう言うと何故か皆さん顔を赤らめました。
◆◆◆
その後、皆さんは街を案内して下さいました。
そして自分のお金を下ろす為に冒険者ギルドに来ました。
「いいですかルミナス、幾らセレス様でもそんなにはお金を持ってない筈です、ちゃんと考えておろすのよ」
「解ってますわ、お姉さま、相手は意中の殿方ですから、生活に困らない位で充分ですよ」
私だって女です。
相手が意中の方ならそんなに無駄使いはしません。
ちゃんと相手の事も考えます。
「金貨5枚位なら大丈夫…」
「遠慮しなくてよいよ、マリちゃんなんか開発費だけど金貨600枚(6千万円)使っちゃったから、だけどその位使っても増えていくんだから凄いよ~」
幾ら『英雄』でもそんな訳は…幾らお金があるか聞いてからおろす事に決めました。
「「…凄い」」
驚いた事に口座には信じられない位のお金がありました。
「ルミナス金貨20枚にしましょうか?」
「そうですね」
沢山お金があろうと関係ありません。
『相手が好きな人』なら無駄使いはしたくありませんからね。
ミノムシさんだよーん
マリの言う話だと、マリが睡眠薬を盛ったらしい。
それで皆はあと4時間以上目を覚めないそうだ。
マリ..『怖い子』なんて思わないが、マリは皆が起きた時に備えて準備をするんだとか。
それじゃ俺は早速、今の状態を試して見るよ。
「そう、それじゃ行ってらっしゃい」
マリはヒラヒラと手を振っていた。
会った時のマリは俺を不安そうに見ていた気がする。
だが、今のマリは、適当に手を振っていた。
恐らく、今の俺は『誰にも負けない位強く心配はない』そんな感じなのではないだろうか?
◆◆◆
此の体はブレイブキラーにならなくても、凄すぎる。
屋根から屋根にまるで飛ぶように跳ねまわり、考えもつかない程速く動ける。
此の世界でスピードに関しては速い、ワイバーンなんか比べ物にならない。
走るスピードは前世で言う所のリニアモーターカー、空を跳ねる時は恐らく音速に近いかも知れない。
この世界には速度を測定する方法が無いのが残念だ。
空が飛べないのは残念だが、前は半日掛かった火竜の岩場迄15分と掛からなかった。
『キラー発動』
早速、俺はブレイブキラーになった。
近くの石を思いっきり握ったら粉々に砕けた。
高周波ブレードが何処にも無いから焦ったが、原理は解らないが手に合成されてしまったようだ。
「高周波ブレード」俺がそう言うと指先から肘に掛けてが高周波の刃になった。
剣だった頃よりも切れ味が増し、軽く振っただけで岩が斬れた。
まるでバターでも斬るように滑らかに切断された。
前の時はぎこちなかった動きがスムーズに動く、それよりも威力が数段に上がっている。
岩を殴っても簡単に粉々になる。
蹴りも同じ…そして何より大きな岩も軽々放り投げられる。
本気で動こうとしただけで、周りが止まって見える、まるで加速装置でも組み込まれたようだ。
とてつもない力があるのは解った。
あとは『実践』あるのみだ。
火竜を見つけて戦おうとしたが…
駄目だった。
本来好戦的な火竜がまるで犬の様に跪いた。
まるで忠誠を誓うかのようにひれ伏している。
何となくだが、こんな状態だと火竜とはいえ狩れないな。
恐らくは俺が竜王の肝を食べたのが原因かも知れない。
竜種が狩れないとなると…実質力試しが出来ない。
仕方なく俺はそのままパーティハウスに引き上げた。
◆◆◆
「ミノムシさんだよーん」
マリが玄関先に吊るされていた。
「マリちゃん、何やっているの!」
「いやぁ~マリちゃん、皆に睡眠薬を飲ませたのがバレて吊るされちゃっているの? セレスおろして~」
マリと話しているといきなり透き通った声が聞こえてきた。
「ほほほ、宝石姉妹!」
「セレス様凱旋おめでとうございます! ですが『宝石姉妹』は無いでしょう? 私達これから夫婦になるのですからね」
「そうですよ、お姉さま共々お願い致しますね」
様子を見ているとすっかり溶け込んでいる様に見える。
少なくとも『ミノムシ』になっているマリを見て驚かない位だから上手くやっている証拠だな。
「そうですね、それでは何とお呼びすれば良いでしょうか?」
「私は名前でジュリアと呼んでください、あっお前とかでも構いませんよ」
「私もルミナスで構いません」
ハァ~まさか本当にこの二人が自分の所に来る、なんて思わなかったな。
よくもまぁ手放したもんだ。
だけど、2人とも悲しそうな顔をしてなくて良かった。
夫婦を無理やり引き裂いたんだから、そんな顔されたら良心の呵責に耐え切れなくなる。
「それじゃ『ジュリアさん』『ルミナスさん』と呼ばせて頂きます」
「セレス様『さん』は余計ですよ」
「そうですよ」
「解りました、それならジュリア、ルミナスと呼ばせて貰います、その代わり二人も『様』は止めて下さい」
「「解りました」」
「それで、スイマセン..巻き込んでしまいまして『俺みたいな人間』が貴方達みたいな方をその..」
俺が馬鹿な事を言ったために彼女達は地位を失い此処にいる。
顔には出してなくても『悲しい』『憎い』という気持ちもあるかも知れないな。
「気にしないで下さい、今が私にとって一番幸せですから《しかし見れば見る程、若くて良い男ですね…醜い肉の塊から離れて、こんなピチピチの15歳が私を求めてくれたなんて..信じられない》あなたほど素晴らしい殿方は居ませんし、そんな方に求められたなんて女冥利につきます。そうよねルミナス」
「はい、お姉さま《実際に見ると更に感慨深い物があります…本当に、たまりません、たまりませんわーーっ こんな美少年が私を求めてくれたなんて、最後の最後に運が回ってきたとしか思えません、こんな方なら夜のお勤めも苦痛所か..楽しいのかも知れませんね》セレス様は『英雄』と呼ばれる素晴らしい方ですから、寧ろ妻に望んで貰えた事を誇りに思います」
良かった、嫌々来たんじゃ無かったんだ。
「そういう訳で姉妹とも宜しくお願いいたしますね」
「此方こそ宜しくお願い致します」
「セレス…三人の世界に浸っている所悪いけど、私も首を長くして待ってましたのですわ(怒り)」
「何だか私を無視して面白そうね(ムカッ)」
「あらあら、玄関先で態々話さないでも、お茶位直ぐにいれますからね、応接室で話したらどうなの? セレ坊(怒)」
「そうします」
皆の後ろに般若が見えたのは気のせいか(汗)
俺は皆について応接室に向った
◆◆◆
「ちょっとマリちゃんを下ろしてよ! 流石に一人でこのままは嫌だなぁ~ 嘘、皆居なくなったりしないよね? 忘れたりしないよね?」
マリが吊るされたままなのに気が付いたのは1時間以上後だった。
幸せな日常と平和な未来へ
「セレス、お客様が来ましたよ」
「う~ん、もう少し」
「全く、もう何時までも寝てないで、こう言う所は案外昔のままだね」
マリベルさんに布団を剥がされてしまった。
俺の体は一つなんだから仕方ないと思う。
昨日久々に戻ってきたから『色々と盛り上がってしまった』
少しアルコールが入ったあと、色々と話が進み、初めて会ったのだからと『夜の権利』は宝石姉妹になった。
この世の者とは思えない二人に興奮しやる事をやって、2人も満足して、眠っていたんだが…そこに4人が乱入してきた。
マリアやアイシャ曰く『先は譲ったけど、今日一日貸し切りでは無いのですわ』と言う事で明け方まで頑張っていた。
凄いな、宝石姉妹にマリアのマリベルさんはもうしっかり起きて服をきて寛いでいる。
アイシャはまだ寝ているし、マリは着替えながらニマニマしている。
マリのニマニマの意味は解る。
『あれれーっセレスはブレイブキラーなのに疲れる訳ないじゃん』そういう意味でのニマニマだ。
今の俺の体は『疲れない』恐らくは1年以上一切の睡眠をとらなくても戦い続けられそうだ。
だからと言って嗜好は捨てたくない。
こう言う嗜好を捨てていった先には『人でない何か』が待っている気がするからな。
しかし、俺にお客? 誰だ。
慌ててシャワーを浴びて着替えて応接室に向った。
そこで待っていたのは…嘘だろう『竜王ドラムキング』だった。
なんでこの場所を知っているんだ。
◆◆◆
「久しいのう、セレス、息災でなによりじゃ」
なんで此処に居るのか解らない。
折角ゆっくりしようと思っていたのに。
「皆は部屋で休んでいて、ちょっと政治的な話があるから」
「その話は、恐らく私にも関係がありそうですから同席しますわ」
他の人間が去っていくなかマリアだけが残っていた。
「そうだ、セレス」
マリは慌てて戻ってくると親指を立てて笑って去っていた。
マリアとマリだけが老人が『ドラムキング』だと気が付いたようだ。
さてとどうするか?
まずは話を聞いてみよう。
「久しぶりですね竜王ドラムキング、それで今日はどういったご用件でしょうか?」
「硬いのう。死力を尽くして戦ったのだ、強敵(ともだち)じゃないか?」
「そうだな!」
まぁ今の俺なら、ドラムキング相手でも10分あれば倒せそうな気がする。
「まぁ良い! 今回お主と心いくまで戦ったからのう、四天王を引退する事にしたのじゃ、それでな、引退する理由を魔王や他の四天王に伝えたら、凄く怯えおって『向こう300年の休戦協定』を結びたいと言い出しおって、それでこうして儂が出向いてきたのじゃ、誰か人間側の地位のある人物を紹介してくれないかのぅ」
四天王、その中でも最弱と言われるドラムキング、そんな者と互角に戦った位で大袈裟だ。
何か罠があるんじゃないか。
「お主には本当の事を伝えよう、魔王軍最強は儂じゃよ、他の四天王なら分単位、魔王が相手でも時間は掛かるが倒せる」
「また、そんな…」
「はっきり言うとな、魔王ならセレスお主でも倒せるよ」
話しを聞くとかなり前に魔王と戦い僅差で勝ったそうだ。
だが、竜と言う種族は歳をとる程強くなり『死に掛けの今が一番ドラムキングは強い』らしい。
その証拠に幾多の勇者を倒したと聞いた。
矛盾が多い気もする。
ドラムキングは弱い勇者は見逃し、強い勇者はその戦いを称え殺していない。
『名誉等があり死を望む者』『弱すぎて手加減しても死んでしまった者』以外は殺して無いそうだ。
では、勇者が死んだ後…5年後に新たな勇者が現れる。
その話が可笑しくなる。
『始まりの勇者』とも戦ったのなら800年も前から戦っていた事になる。
そこから導かれる答えは…『死ななくても四職のジョブは失われ、他者に移動する事がある』『伝説に名を遺した勇者の中にはドラムキングに負けて、その事を隠して『魔王』を討伐した者が多い』そういう事だ。
近年は勝てない筈だ『魔王より強い四天王』と最初に戦うのだからな…
「そんな難しい顔をするな、取り敢えず、今の魔王も四天王もお前とは分が悪いから先送りにした。本来なら人間は歳をとるから100年で良いが、それだと『お前から逃げた』と解るから300年にした、そんな所だ、、実際にはデュランもハービアもスカル、そして魔王も『お前を怖がり戦いたくない』それが真実だ…口外するなよ」
ドラムキング…言わなくて良かったのか?
古代竜として歳をとり過ぎて耄碌しているの。
「ドラムキング…俺はお前から肝を貰ったから不老不死に近い位、生きるんじゃないか?」
「あっ! すっかり忘れておったわい…まぁこの仕事を最後に、もう魔王達に会う事も無いから問題はなかろう! 文句言ってきても『儂は知らん』で通せば良い…」
「そうか、ならば俺はこれから先『ドラムキングの肝を食べた事実』は忘れよう(マリと、今話を聞いているマリアしか知らないからな)」
「そうか、助かる…それでは人間側の責任者に会わせてくれ」
「解った」
◆◆◆
「セレスは凄いですわね」
急にマリアが話し出した。
ドラムキングから凄まじい気が流れ出ていて、喋る事も出来なかったそうだ。
「お主もなかなかの、たまじゃな。この場所に最後まで座っていたのだからな」
「流石は元聖女だな」
「元聖女だと! 成程良い目をしている、それでは、暫しセレスを借りるぞ」
「はい」
俺は教皇に対し『魔族側からの和平』の申し出がある旨の手紙を送った。
◆◆◆
【魔王の手紙】
人間の勇者よ、四天王の1人『竜王 ドラムキング』と互角に戦うとは誠に素晴らしい。
人類という弱き存在が竜の王と互角の戦いをした事に対して余は褒美を取らす事にした。
向こう300年、人類が敵対しない限り魔族からは攻撃を仕掛けない。
平和に過ごすのも偶には良いでは無いか。
これは余にとって『死期が近い古き友人ドラムキングの強き者と戦いたい』という夢を叶えた『勇者セレス』への余からの礼である。
300年の平和…それを望まぬのであれば、その時は残りの3人の四天王と余自らが戦うと言う栄誉を与えよう。
◆◆◆
ドラムキングには高級宿屋に俺の客として部屋をとった。
俺のパーティハウスでは…マリアがきっと眠る事が出来ない。
マリも何かしでかしかねないからな。
ロマーニ教皇はゼルド王を伴い、僅か3日間で此処まできた。
最初ロマーニはドラムキングを見て驚いていたが…そこは流石に教皇、和平の話になると、驚きも怯えもなく、淡々と話し続けた。
ゼルド王は…ただ頷くだけで使い者にならないな。
最終的には、この話を人類側も受け、これより300年…平和な時間が約束された。
平和な未来へ【本編完結】
国と国が遠いのと、お互いが行き来するまでの条約ではないので、記録水晶をお互いに送り、通信と署名での締結となった。
これで300年間お互いに不干渉となる。
この条約により、国の外で魔族と人間が会った場合は『まず話し合う』このルールが決まった。
これはこの期間とは別に締結された。
問答無用と言う事は無くなり、これはお互いに大きな第一歩となった。
ただ、この条約には「ゴブリン」等の知能の低い存在、人間からは「犯罪者」等が除外される。
判断については保留中だ。
この後に時間を掛けて決まって行くだろう。
政治は俺には解らないから、教皇や王に頑張って貰うしかない。
◆◆◆
これから、今回の和平の成立を祝ってお祭りが全国で開かれる。
3か月間位何処に行っても宴ばかりだ。
「それじゃ行こうか?」
「「「「「「はい」」」」」」
俺はというと貰った『ルランス王国』へと旅立った。
マリアが作ったどう見ても、ハマーにしか見えないマムーという車に乗って。
何だか俺よりもマリの方が遙かに凄く感じる。
300年後はどうなるか解らない。
だが、その時に生きているのは恐らく俺だけだ。
俺にとって大切な人はもう居ないだろう。
「国について落ち着いたら、式をあげようか?」
一瞬彼女達は驚いた顔をしていた。
「俺にとって皆は誰よりも大好きで愛している、だからこそしっかりとしたいんだ」
「そうですね、やはりこの齢でも結婚式は嬉しいですね」
「ええっお姉さま」
「私は再婚ですがそれでもときめいてしまいますわね」
「随分ここ迄掛かったわね」
「あはははっ、まさか自分の息子みたいに思っていたセレスとこんな事になるなんてね、5年前じゃ考えられないね」
「不束者ですがお願いします」
これから先は大好きな彼女達と面白可笑しく生きていこうと思う。
FIN
※ 本編は此処で終了します。
後は、『勇者の話』『あの親父の話』が数話続きます。
此処までの応援有難うございました。
勇者リヒトの旅立ち
結局、俺達四人は全員四職のジョブを失った。
これなら、もう鑑定されても問題は無い。
誰も俺を『勇者リヒト』とは思わない。
どうして失われたかは解らない..だがこれは都合が良い。
もし、俺に勇者のジョブがあれば、生涯教会と関わり合いが無い生活しか送れない。
今の俺は何故かジョブのランクが下がり『上級騎士』。
セレスの魔法戦士より更に1ランク下だが、充分に上級職だ。
これで良い。
勇者特権を手放すのは惜しいが『自由だ』
勇者は何でも手に入るかも知れない、だがその分窮屈だ。
長い時間を掛け魔王と戦い…束縛をされる。
確かに、ケイト、ソニア、リタは幼馴染で可愛い。
だがな、上には上が居るんだよ。
四職に一緒に選ばれたから長い時間、傍に居なくちゃならない。
だったら3人全部欲しくなるじゃ無いか?
だがな、『勇者』という称号が無くなれば、この3人なんて別に欲しくは無い。
俺はセレスと買えもしない奴隷商を見た時思った。
少なくともあそこに居た高額奴隷はこの3人より遙かに綺麗だった。
『勇者』の肩書が無ければ『買えるんだ』
親父が遊びで抱いた女にすらこいつ等と同等の女なら何人か居た。
勇者で無くなれば女を口説いても誰も文句は言わない。
俺は金なんて欲しくは無い。
本当に欲しいのは『極上の女』だ。
それを手に入れる為に『金』『地位』が必要なだけだ。
俺のお袋は親父が選んだ女だけあって美人だった。
まぁ今はババアだがな、多分この三人が歳をとった時にお袋を越えるか…超えねーな。
勇者の俺には此奴らが必要だった。
だが勇者でないなら『要らない』、冷静に考えたら、この程度の女ならセレスに全部くれてやっても良い位だ。
俺の取り分は金貨3枚だけで良い。
金貨70枚は此奴らに置いていこう。
金貨70枚、これだけあれば確かに、そこそこの奴隷は買える。
悪いが元村娘のケイト、ソニア、リタに女としてはそれ程の価値は無い。
だが『幼馴染』ではある…嫌われたくない、だからこれは置いていく。
セレスも同じだ…俺にとっては幼馴染。
大切な幼馴染4人…だが女の前には『幼馴染』『親友』も掠れてしまう。
俺にとっては自分の命の次に大切なこいつ等。
だがな『女、それも極上の女は俺の命と同じ』だ。
悪いな..
本当に悪い…
だが、これが俺なんだ。
こればかりはどうやっても治らない。
俺は手紙を残し宿屋を後にした。
俺は自由だ。
◆◆◆
【リヒトの手紙】
今の俺たちはもう四職では無い。
だが、俺は上級騎士 ソニアは上級ヒーラー リタは上級魔術師 ケイトは上級剣士だ。
それぞれが優秀である事に変わりない。
魔王と戦う運命が無くなった以上、最早一緒にいる必要は無いのではないか?
それぞれが夢があるだろう?
ソニアは回復師に、リタはアカデミー職員、ケイトは自由気ままに暮らす。
それが夢だった筈だ。
勿論、俺にだって夢はある。
勇者で無くなった今、俺は俺の夢を叶える為に残りの人生を使おうと思う。
だから、お前達も自由に暮らせ。
そのまま3人で冒険者パーティを続けるもよし。
昔の夢の為に解散してスタートするもよし。
セレスの元に行くのも良いかも知れんぞ。
お前達が寝ている間に俺は消える。
もう一度お前達を見たら気が変わるかも知れないからな。
リヒト
◆◆◆
こうしてリヒトは仲間を捨て一人旅立った。
三人国に帰る
朝起きるとリヒトが居なくなっていた。
まぁこんな事になるんじゃないかと僕ことケイトは思っていたけどね。
勇者のジョブを失った日、僕はどれ程リヒトが傷ついているか凄く心配だったんだ。
だけど、リヒトは笑っていた。
ショックでも何でもない様だった。
そして、それからは僕達に隠れて夜遊びしている様だった。
自分ではしっかり隠していたようだったけど、幼馴染なんだからまるわかりだよ。
そしてとうとう居なくなっちゃった。
「それで、リタ、ソニアどうしようか?」
「探しても見つからないんだから、諦めるしかないわね」
「そうだね…だけど大丈夫かな?」
「自分から出て行ったんだから、もう放って置けば良いんじゃない?」
「僕もそう思うよ」
リヒトが『勇者』で無くなった時から、僕達のリヒトへの想いは薄れていった。
『リヒトはカッコ良い』そこはぶれない。
勇者で無くなっても容姿は変わらない。
だけど、それ以外の駄目な面が凄く見える様になってきた。
一緒に冒険しているのに、家事等は一切しない。
料理をしても洗濯をしても『セレス』と比べられ嫌味を言われる。
『リヒトが好きだったから僕たちは、それでも良かった』
だが、リヒトが勇者で無くなった日から、そう言った想いが薄れてきた。
これは僕だけかと思い他の皆にも聞いてみたら。
「嘘ケイトもなの? 私もよ」
「私も何でかな? 少し前程の想いが無くなった気がする」
やはり僕だけじゃなかった。
多分、勇者だった頃のリヒトが居なくなったら『僕は暫く立ち直れない位泣きはらした筈だ』『もしかしたら死んじゃうかも知れない』
だけど…今はリヒトが居なくなってもこうしていられる。
一応、探しはしたけど、リヒトが居ないのにさほど悲しくない。
どうしちゃったんだろう?
『愛しい恋人が、ただの幼馴染になってしまった』この感覚が一番近いかも知れない。
僕が頭を抱えて悩んでいると、リタが言い出した。
「もしかして、リヒトへの想いが無くなってしまった事を悩んでいる!」
「まぁね」
「何となく理由は解る」
「ええっ絶対という自信はないけどね」
リタは賢者だ、こういう時は本当に頼りになる。
リタのいうには恐らく『魅了が解けたのだろう』という事だった。
「魅了(チャーム)の事? まさかリヒトの奴、そんな事して僕達を洗脳していたの? 殺して…」
「違う、違う違うから落ち着きなさい」
更にリタに聞くと『勇者は自分の意思』と関係なく『人間から嫌われなくなる』そんな能力がジョブにあるんだって。
確かに言われて見れば『そういう能力』でも無ければ毎回助力を仰ぐ時に困ってしまう。
だけど、それは『洗脳』ではなく、あくまで好まれる様になる止まりだという事だった。
その程度の事で…ここ迄冷めるものなのかな?
「それなら、そんな問題じゃない気がするよ」
「まぁね、例えば愛する夫や愛する恋人が居たなら、それを押しのけて好きになる事も無い。まぁ好きな人が居ない様な子だと『恋心』位は抱くかもしれないけど…だけど私達には大ありよ」
「何となく話が分かったわ」
「リタ、ソニア、僕にも解るように説明して」
リタが拾ってきた棒切れで地面に書いて説明してくれた。
「まぁ10点満点が夫婦レベルの愛だと考えてね」
リヒトが本来は70点 セレスが90点
そこに『勇者だから好かれる』というジョブの効果が30点加わっていた。
その為、リヒト100点 セレス90点だった。
だが、勇者の能力をリヒトが失った事でリヒトが70点セレスが90点の元に戻った、そういう事らしい。
「しかも、私の考えでは『勇者』になりそうな子は殺されちゃ困るから、多分ジョブを貰う前から多少はこの能力は発動されるのかも知れない…あくまでも私の仮説よ」
「待って、確かに教皇は『勇者とは聖女とは全ての人間に愛される存在』そんな事も言っていた気がするわ」
「ようやく、僕にも解ったよ、要するに本来はセレスが一番好きだったけど『勇者』の能力で、好きな順位が変わっていた…そういう事だよね?」
「そうね、だけどこれはワザとじゃないから責められないわ」
「自然発動じゃ責めちゃ可哀想ね」
「それなら、どうするの?」
話し合った末に僕たちは王国に帰る事にした。
蛮族の地は『野蛮だし治安が凄く悪い』幾ら能力があるとはいえ女三人じゃ物騒だしね。
それに、今の僕たちは何よりセレスに会いたい。
◆◆◆
「なにこれ…」
「『勇者セレスによる魔族戦争停戦記念祭』 嘘、セレスが勇者? 戦争が停戦?」
こんな小さな王国の端の街なのに祝いで湧いていた。
「そこのお嬢さん買わなきゃ損だよ『セレス饅頭』一つどう?」
「カッコ良い、セレス様人形『インセプトスペシャル』買わない?」
「あのおじさん、なんで虫の化け物がセレスなの?」
「お前さん潜りか田舎者なんだな…この姿こそがセレス様の変身した姿なんだ…カッコ良いだろう…『キラー発動』子供達にとっても凄い人気なんだぜ」
「へぇ、そうなんだ」
話しを聞くと凄い話だった。
僕達が敵わなかったドラムキングをセレスがこの姿に変身して撃退。
その結果300年の停戦期間が設けられたという事だ。
「死ぬ気で戦ったセレスに逃げたリヒト、ジョブに意思があるならセレスを選ぶのでしょうね」
真顔でソニアがそう言った。
確かに女神様の意思ならそうだね、僕も同感だった。
「セレスに会いたいな…」
ポツリとリタが言った。
「セレスの所に行こうか?」
「「うん」」
僕達はセレスに会いに行く事にした。
謝ろう、誠心誠意謝ろう。
土下座でも何でもして許してもらおう…そしてもし許して貰えるなら…セレスと。
きっとセレスの事だもん許してくれるよね。
そしたらもう絶対に離れないからね…
セレスが愛してくるって言ってくれた
セレスの居場所は簡単に解った。
S級冒険者なんだから当たり前かもしれない。
もうすぐ貰った国に旅立つらしいが、まだこの国に居るそうだ。
休みもしないで僕たちはセレスのパーティハウスに走った。
「此処にセレスが居るんだね」
「そうね、だけどどうやって謝るのよ」
「だけど、この家まるでお城みたい..どうしよう…」
いざ着て見るとどうして良いのか解らない。
なかなかノックする勇気も出ない。
暫くウロウロしていると…
「あっ、ドラ猫娘..」
「「「マリベルさん」」」
マリベルさんに見つかった。
◆◆◆
「この子達知り合いだから」…そう言って他のオバサン達に言うとマリベルさんはダイニングに僕達を連れて行った。
そして僕達三人はその場所に正座させられた。
「全く、リリアナもレイラもリサイヤもどんな教育したんだか、まぁうちのリヒトが一番悪いけどさぁ、良くもセレ坊に酷い事したもんだよ」
お母さん達の名前を出されると何も言えないよ。
僕のお母さんもリタやソニアのお母さんも皆セレスを可愛がっていたからね。
多分、僕のお母さんだったら…多分ほうきで殴られたかも知れない。
『ケイト、リヒトじゃなく絶対にセレスが良いよ..セレスなら今直ぐ婚約したって許しちゃうし、子供が出来ても怒らないから』
なんて言っていたけど…よく考えれば何時も『お手伝い』しているからセレスはお母さん達の人気は凄く高いんだよね…あれ僕達、ジミナ村に帰れないんじゃない。
「「「ごめんなさい」」」
「別に良いわ、反省しているならね、だけど貴方達が謝る相手は私じゃ無くて『セレ坊』だわ、そこは間違いないでね…それで今日は何の用? リヒトとの婚約の報告とか?」
僕はマリベルさんに今迄の経緯を話した。
「そう、リヒトがそんな事をこれはおばさんの育て方が悪かったのね、ごめんなさい、それで貴方達はなんの為に此処に来たの?」
僕達は三人共にセレスへ想いを話した。
「へぇーそうなの? 散々酷いことした相手が好きなんだーーっへぇー(ボソッ糞ガキ)」
なんだろうか?
さっき迄と違って後ろに鬼が見えるのは僕だけ..じゃないソニアもリタも震えている。
ドラムキングより怖く思えるのは何故だろう。
「まぁ、暫くしたらセレ坊、あっセレスも帰って来るわ..頑張って謝るのね、多分許してくれないんじゃないかなぁ? おばさん、そう思うな? だけど、会わさないのはフェアじゃ無いから会わせてはあげるわ」
そう言うとマリベルさんは出て行ってしまった。
あの正座止めても良いのかな?
足が死ぬ程痛いんだけど…
◆◆◆
暫くしてセレスが帰ってきた。
応接室で待っているというので痺れた足を摩りながら三人で歩いていった。
「これでセレスに会えるのね」
「ようやくだわ」
「一生懸命謝ろう」
ノックしてドアを開けると、傍にはマリベルさん以外にも4人のオバサンが立っていた。
『綺麗なおばさん』それが僕の印象だった。
良かった、あの年齢なら『恋人』や『嫁』じゃないよね。
「ごめんなさい、セレス」
「本当にごめん…」
「許してとは言えないよね」
僕達三人はすぐに土下座をしてセレスに謝った。
「別に謝る事無いよ! ほら可愛い顔が台無しだよ」
そう言うとセレスはハンカチで僕たちの顔をぬぐってくれた。
「本当に…僕あんな事言ったのに…」
「私も酷い事言った」
「私はセレスに…セレスに」
何故かマリベルさんや他のオバサンは怖い顔しているけど、今はセレスの方を優先したい。
「何で僕、酷い事したのに、許してくれるの?」
「私だって、酷い事沢山した」
「どうして、どうして許してくれるの?」
「皆を愛しているからな」
「…本当に」
「本当にこんな私でも愛してくれるの」
「ありがとう」
僕達は思わずセレスを抱きしめていた。
周りなんか気にしない..三人でセレスにキスの前をふらすようにキスした。
これで元通り..ううん、これまで以上に楽しい毎日が始まるんだ。
「やっぱり若い子が良いんだ…嘘つき」
「茶番だったのね」
「お姉さまあの態度どう思います?」
「酷いですわ」
オバサンが何か言っているけど気に何てならないよ。
『娘』
「セレス話があるわ」
「私を騙したのね」
「私は..本気で愛して下さると思っていたのに..違うのでしょうか?」
「返事次第ではお姉さまと一緒に此処を出て行かせて貰います」
「セレ坊..あれは無いよ」
三人がお風呂に入り寝た後、俺は皆に怒られていた。
こんなに怒った顔は見たことが無い。
勝手な事したんだ謝るしかないだろう。
「ごめんなさい」
俺は土下座した。
「謝ると言う事は認めた事ですわね…あの小娘を愛していると言うのですわね」
「許せないよ…」
「本気で好きになったのに…生まれて初めて本気に好きになりましたのに..あんな若い子に『愛している』なんて」
「お姉さまと同じ、本気でお慕いしましたのに..」
「セレ坊..」
「愛しているんだ..ごめん」
「「「「最低!」」」」
マリベルさん以外からビンタが飛んできた。
だが、幾ら大好きな彼女達にだって譲れない事がる。
俺は幼馴染を愛している。
悪いがそれは変わらない。
だけど、それを認められない皆の気持ちも解かる。
勝手に家族にしようとしたんだ…この位我慢する。
「仕方ないじゃないか? 幾ら言われたって『娘』のように思えるんだから見捨てられない」
「「「「「娘―っ」」」」」
「だってそうじゃ無いか? 幼馴染でリヒトの恋人だったんだぞ! 破局したみたいだけど、もしそのまま結婚したら、将来的に義理の娘だったんだから」
「セレ坊…」
「マリベルさんを嫁にするという事は、リヒトは俺の義理の息子になるんだよ? その位の覚悟はしたよ。それにほらマリベルさんも俺も三人の親とは仲が良いし、俺に到っては子供の頃乳迄貰っていた人もいるんだから..見捨てたら目覚めが悪いし。余り恥ずかしいから言いたく無いけど小さい頃の夢はマリベルさんやリリアナさん達の誰かと結婚するのが夢だったから、結婚したら此奴らの誰かが息子か娘になるのかなって子供の頃漠然と思っていたから…こじらしていつの間にか『息子』や『娘』と思う様になっちゃったんだ…ごめん」
「だから、そうね、言われて見たらセレ坊は何時もお兄さんの様に接していたわね、父親かぁ~ そうか言われてみたら、しっくりくるわ」
「「「「ごめんなさい(ですわ)」」」」
「良いよ、良いよ、これは俺とマリベルさんの問題だし、皆からしたら、知らない人間が娘のように入り込んでくるんだから怒られて当たり前だよ」
「セレ坊…ごめんセレスそこ迄考えてくれていたんだ、ありがとう」
「そうね、娘ね…普通に考えたらそうですわね、ソニアさんでしたよね、私も元聖女ですから、そうですね鍛えて差し上げますわ」
「それじゃマリちゃんはリタちゃんかな? まぁ色々出来る様にしてあげるよ」
「それじゃケイトは私?だけど姫騎士だけど実戦の乏しいから、一緒に頑張れば良いのかな?」
「私達は礼儀作法担当になりますか」
「ええっお姉さま」
「私は甘やかしそうだから、教育からは抜けた方が良さそうだね」
その後は皆で話し合い…『娘』として受け入れる事に皆が同意してくれた。
◆◆◆
私は誤解を解くために三人に本当の事を話す事にした。
まぁ、早いうちに誤解を解いた方が良いだろうしね。
「『と言う訳なのよ』近いうちに私を含む全員と国に帰ってから結婚するのよ」
「マリベルさんとセレスが…僕信じられない」
「そんな、あの愛は娘への愛だったなんて」
「そう言えば、いつもお兄ちゃんぶってたな…」
「あのね、オバサンから一言言わして貰うけど、好きなら諦める事は無いわ、そりゃ新婚から5年間くらいは独占するけど、その後なら全力で寝取りに来ても良いわよ」
あれから少し皆で話し合ったのよ。
多分、今の私達は母親にはなれない、自分でも信じられない位『セレスを愛しすぎている』
これはマリアさんも一緒。
『好きになるって怖いわ、セレス以外どうでもよくなっちゃうのよ』
実際に私はセレスと愛し合う様になって夫の事もリヒトの事考えない様になった。
それはマリアさんも一緒だし、他の女性も一緒。
『それは子供にとって最低の母親になる、母親に一番に愛されない子は不幸だと思う』
だから、皆で話し合って子供は作らない事に決めた。
皆、高齢だからこれから作るって子育てが終わる頃には40歳近いお婆さんだからね。
高齢出産の旦那なんて恥ずかしい思いをセレスにはさせたくない。
夜の相手も10年くらいしたら何処まで出来るか解らない。
いずれは私達の次が必要な時が来る…
「本当に良いの? そんな事言って僕知らないよ」
「私だってそうだわ」
「私も」
「そうねなら『娘』から『嫁』そう見て貰える様に頑張りなさいね、勿論私達も負けないわ」
多分、セレスは歳をとった私達でも愛してくれるかも知れない。
だけど、マリちゃん曰く相当長生きしそうだから..『次は必要』だもの。
◆◆◆
だが、1年後マリベル達の考えは意味が無くなる。
マリちゃんが『竜王のしっぽ欲しいなぁ~』とセレスに泣きつき…竜王ドラムキングが生えて来るからとセレスにくれた。
その結果…不老を手に入れてしまった。
彼女達の番が回ってくる迄30年近く待たされることになるとはこの時は誰も知らなかった。
※ これで三人娘の話は終わります。
リヒトと親父のエピソードを書いて本当の完結となります。
手に入らない者を追い続けた愚か者
俺は一人になり自由を手に入れた。
暫くは独り身は寂しいが金が溜まるまでの我慢だ。
此処は街だからだろうか?
昔に比べてモテている様な気はしない。
いや、女冒険者から『一緒にパーティ組まない』という誘いはあるが、そんな事したら『金』を分けてやらなくてはならない。
そうしたら、金が溜まるのが遅れる。
更に下手に手を出そうものなら、女冒険者と婚姻までまっしぐらだ。
だから俺は組まない。
そんな人生で良かったのなら『幼馴染』と一緒にいる。
女冒険者レベルなら、まだ彼奴らの方がましだ。
◆◆◆
俺は今日奴隷商に来ている。
俺が奴隷を見たのはセレスと一緒に行った一回だけだ…
相場何かが地方によって違うかも知れない。
「いらっしゃいませお客様、本日はどういった奴隷をお探しですか?」
「まだ今日は買えないが『最高の女奴隷』が欲しい」
「お客様、冷やかしじゃないでしょうね?」
確かに普通に考えてそう思われても仕方ない。
普通の剣士じゃ高級奴隷なんて普通は買えないからな。
だが、俺は上級剣士だ…手が届くんだ。
「冷やかしじゃない…これでも買う気持ちがあってなお金を貯めている」
俺は貯めたお金、金貨60枚を見せた。
「私が悪かった、金を貯めている最中か? なら幾ら貯めればお客様のいう『最高の奴隷』に手が届くか知りたい、理に適っています…本来は金貨300枚は持ってなければ見せる事も無いサロンの奴隷をお見せしましょう」
「サロンの奴隷?」
「はい、当店は高級店に御座います、故にお得意様には貴族や王族、豪商などもおられます、そう言った方の為にのみ存在する、最高の奴隷、それが『サロンの奴隷』です、ではどうぞ」
「この辺りにもエルフが居るじゃ無いか?」
「そうですな、この辺りなら金貨300枚もあれば買えます、まぁ一般的な奴隷商であれば最高レベルですな」
嘘だろう…どう見ても美少女にしか見えない。
此処までの存在は、今迄に見たのは1度だ。
「これで最高では無いのか?」
「まぁ好き好きは別れますがね、エルフとしては醜い方です」
「これが醜い?」
「人と比較しちゃいけません。この程度のエルフでは人より美しいレベルです、ですがエルフの中で美しいというレベルはまるで精霊や女神の様に美しいのです、更にエルフよりも美しい種族も沢山おります」
そう言って奴隷商が奥の扉を開けると…そこは別世界だった。
赤いじゅうたんを敷きつめられた王宮の部屋には8人の女奴隷が居た。
「どうです」
俺は目を奪われた、此処にいるどの奴隷も神々しく本当に女神の様に思える。
「素晴らしい..それで幾ら位で買えるんだ」
あの奴隷で金貨300枚(約3千万)ならば金貨1000枚(約1億円)位は覚悟しないといけないか。
「そうですな、一番安い者で金貨5000枚(約5億円)そして中央に座る彼女は金貨5万枚(約50億円)です」
俺は中央に座る奴隷に目を奪われた。
どうしても欲しい…勇者の時なら竜種を狩れば手が届く、だが今の俺じゃ死ぬ気で頑張って1日金貨5枚から10枚(100万円)が限界だ。
休まず働いて、1か月金貨300枚(3千万)1年で3600枚。
生活費は必要だから8年は掛かる。
「どう考えても8年は掛かるな」
「あのまさか中央の奴隷に目を奪われたのですか? 私は貴方なら2年頑張れば、端の奴隷なら手が届く、そう思って紹介したのです」
だが、あれを見た後には他の奴隷が霞んでしまう。
「だが、あれは…」
「あれはハイエルフ..です、王族ですら手が出ないレベルの奴隷です、私の祖父の代から此処に居ます。」
「そんなに居るのか?」
「はい、誰も買えませんので…この金額でも昔の半額なのです、更に言うならこのクラスの奴隷が欲しいなら大きな屋敷も必要ですよ」
◆◆◆
俺はどうしてもあの奴隷の事が頭から離れなかった。
かなり無茶をした。
自分が狩れる一番お金になるオーガを狩り続け..塩漬け依頼も可能な限り受けた。
幾ら稼いでもお金が足りない。
無茶な依頼を受け続けた俺はすぐに足を無くした。
だが魔性に捕まってしまった俺はもう引き返せなかった。
そんなある日親父に会った。
親父は完全にホームレスをしているのが良く解る。
「おっ、お前はリヒト、リヒトじゃ無いか?」
「人違いだ」
「そうか、まぁ良い、リヒトだとしても、あんな事があったんじゃもう名乗れないだろうな? 俺はクズだよ、本当にな自分の妻すら売り払って金にして生活していたな」
「それがどうした」
「あのな…いい事を一つ教えてやる『本当に良い女はお金じゃ買えない、本当に良い女は辛い時や苦しい時に傍に居てくれる女だ』」
「お前、何を言っているんだ..」
「お前は息子では無いんだろう? だがな、俺はこの齢までそんな簡単な事に気が付かなった。結局、俺の人生で『本当に良い女はマリベル、まぁお前に似た息子の母親だ』、本当に大切な者はお金じゃ買えない…奴隷として買えるかも知れないが、奴隷なんて所詮は人形だ…人形を普通の人間にするには『愛』が必要だ…それが無いなら、どんな綺麗な女も人形と変わらんよ」
「親父…」
良く見たら親父の服は血だらけだった。
恐らくは何かの病に侵されているのかも知れない。
「親父、病気なのか?」
「お前は俺の息子じゃねーんだろう…触るなよ…良いか..今の話は糞親父が親父なりに息子を心配した言葉だ…あんたは息子に似ているし、俺にも似ている..今の自分を見て見ろ..俺そっくりだ…お前は俺みたいな人生歩むんじゃねーよ」
糞親父…あんな奴死ねば良い..いや放って置いてもじきに死ぬだろう。
あんな奴どうなっても良い…だが、何故俺の目から涙が止まらないんだ。
◆◆◆
どれ程の年月が過ぎたか自分でも解らない。
だが、ようやく俺は『お金を貯める事』が出来た。
正確には、金貨5万枚だった奴隷は金貨1万枚(約10億円)に負けてくれた。
奴隷商曰くいつまでたっても売れないし、仕入れたのは先祖、だから熱心に通ってくれるお客様にならと、破格値にしてくれた。
そして、俺はようやく…俺にとっての最高の女を手に入れる事が出来た。
ただ、此処まで来るまでに思った以上に月日を費やした。
俺はかなりの高齢になっていた。
「ご主人様、私をお買い上げ頂き有難うございます」
最高の女を手に入れた
これから、楽しい日々が始まる、そう思っていた。
だが、違った….
最初の1週間は楽しく『やる事』もやった。
だが、所詮はそれだけだった。
これ以上ない美人…だが、その事に何の価値があったのか。
「ご主人様、どうかなさったのですか?」
「いや、何でもない」
こんな時、リタなら黙ってミルク酒を置いてくれる。
ソニアならポーションを用意してくれる。
ケイトなら教会に背負っていくな。
セレスは…まぁケイトと同じか薬草だな。
俺の顔色が悪いのが解かるなら…あいつ等なら何かしてくれる。
だが、此奴は..ただ聞くだけだ。
俺が命令しないと動かない。
『人形』親父が言った言葉が今なら解る。
幼馴染や親友は長い付き合いを通して『愛情』や『友情』が出来ている。
だが、此奴にはまだない。
奴隷紋で従うだけの人形…此奴が三人と同じ様になるには10年下手したら15年掛るかも知れない。
そこ迄使っても信頼や愛を感じてくれるか解らない。
年齢から考えて『多分もう無理だ』
『俺は馬鹿だ』
馬鹿な親父が言っていた事が解かった。
『親父にとって本当に大切な女が母さんだけだった』それがあの日伝えたかったのかも知れない。
そして俺にとっては幼馴染3人、いやセレスを入れて4人が『親父にとっての母さんだった』
容姿の良い奴隷は金を積めば買える。
だが『思い出』は買えない…幼馴染も買えない。 心も買えない。
大切な物を全部捨てて..俺が掴んだのは『俺を愛していない美しい人形の様な女』だった。
俺が死ぬ時此奴は泣いてくれるだろうか?
『心から愛している』そう言ってくれるだろうか…多分それは無いだろう。
だが全てを捨てて手に入れた女…それがこのターニャだった。
今の俺には此奴しか居ない。
「おはようターニャ」
「おはようございますご主人様」
俺はもう選んでしまったから…この生活を続けるしかない。
だがな…もしあの時三人と一緒に居続けていたら、4人で楽しく暮らしていた筈だ。
「リヒト魚が焼けたよ」
「大変な怪我ね、すぐに回復魔法かけるね」
「あはははっリヒトって凄いね」
もう取り返せない..
だけど…帰りたい。
結局リヒトはターニャの心を掴むことはできなった。
リヒトが死ぬ時もターニャは涙も流さず..ただ『大丈夫ですか』を繰り返すだけだった。
勇者だった男リヒトが最後に残した言葉は『帰りたい』だった。
それは故郷に帰りたい、あの日に帰りたい…どっちだったのかは誰も知らない。
あとがき
今回のお話しは如何でしたでしょうか?
実は今回一番書きたかったのは…『年上女性です』
私は結構な歳なのですが、もし自分が転生して少女を愛せるかです。
結論は出来ないでした。
若いまま転生する話し以外でも最近では会社員や年寄りが転生する話も多いです。
ですが..中年が転生して14歳位のヒロインと…
ちょっと難しいなと思いそこがスタートです。
そこから、書いてみました。
次のプロットはもう書いていまして、結構な長編を予定しています。
ですが、その前に 書籍化している作品を頑張って進める予定です。
最後までお付き合い頂き有難うございました。