第一話 婚約破棄 大丈夫? 元に戻しました
私の名前はマリア…この国のドレークの伯爵家の娘だ。
そして、ある理由が元で貴公子と名高いドリアーク伯爵家のフリード様の婚約者をしています。
ただ、私個人としていえば…これが恋愛なのかなぁ~と疑問を思っています。
実は私は【転生者】です。
別に転生者と言っても、聖女の能力がある訳でもありません。
もっとも、この世界その物に魔法はありませんし、魔王もいません。
ただ、前世の記憶を持ち越している、それだけにすぎません。
この日は、何故か呼び出され、妹の横に居るフリードからお叱りを受けています。
何で怒られるのか…本当に解らない、だって凄く忙しい毎日を送っているからフリードや妹に殆ど接していないし、余り社交界の事は興味ないからダンスパーティー等、遊びにもに出入りじたいして無いんだけどな…
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
ロゼへの嫌がらせ? 全く覚えは無いわ、本当に忙しいから構ってなんていられないし、ロゼともそんなに仲良く無いから余り話もしない。
時間が惜しくて仕方ない私は、そんな物に時間なんてとられたく無いもの。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
本当に身に覚えは無いわ、そもそも私はロゼに嫌われているせいか、廊下で会っても妹のロゼは挨拶も返して来ない。
最初はそれでも挨拶位はしていたけど、返さない相手に馬鹿馬鹿しいから私も挨拶をしなくなった、ロゼとは交流その物がない。
当然妹のロゼに何かをした記憶など全く無いし、婚約してから【結婚までに淑女として1人前にする】というお義母様の教育で忙しいからそんな事している暇なんて、全く無いわ。
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
本当に身に覚えが無いわ…教わる事が多くて、そんな事する暇なんて本当に私には無いもの。
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
周りは静まりかえり、二人の取り巻きたちは距離を置いて私を見ているわね。
誰もが、黙ってその様子を見ていた。
「待って、フリード、そんなに姉を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
何なのかな?この茶番…取り巻きなんて、私には一人も居ないわよ? 傍に居るのお母さまがつけた教育係と護衛だけ…まぁ無視は貴方が挨拶もしないから心当たりはある…それ位しか無い
だけど、ロゼは挨拶しても返してくれない相手なんだから、話かけないのはお互い様だわ。
フリードの言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出しているけど、これで、何で私が一方的に言われるのか、本当に解らない。
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
もしかして婚約破棄なのかしら…
まぁ別に構わないわ…
向こうから言い出したんだから、これは「私のせいじゃない」私から言い出してないから責任は全部フリードだ。
それなら【何も問題無い】 うん、私に落ち度はないから安心だ。
「では、フリードはどの様にしたいのですか!」
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
公衆の面前で馬鹿やって…本当に貴族なのでしょうか?
「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」
フリードは雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。
まるで舞台に立つ役者のよう。
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
えーと、私は別に構わない…だけど良いの?大きな問題に確実になるんだけどな。
「それは双方の両親、ひいては当主であるお父様達もご存じなのでしょうか?」
どう考えても知らない筈だわ、知っていたらこんな事を絶対にさせない。
「まだ、知らせていない..だが」
本当に頭がいたくなるわ…貴族として家の付き合いがあるのだから…先にそこを押さえてからでしょうに。
せめて、先にどちらかの両親の許可を得てからするのが筋でしょうが…
「まどろっこしいです…貴族として正式のお言葉か聞いております」
この様な問題行動を起こす様な人間、私としても【要らない】
もっとしっかりした人間だと思っていたのに残念だわ。
「マリア、元婚約者とは言え、無礼だぞ、だが…良かろう貴族として正式の言葉として伝えよう」
これだけの沢山の貴族の前での宣言だもう取り消しはきかないわよ。
私としては【こんな不良物件】掴まないで良かったわ。
婚約者としての愛情は少しはあった。
姉妹としても愛情は余りないけど…家族だとは思っていた。
此処まできたら…もう何も取り返しはつかないだろう。
どうもしてあげられない…なら【そこ迄して臨んだ】願いを聞いてあげるのが私の最後の愛情だ。
「謹んで、マリア.ドレーク婚約破棄をお受けします」
私は【これで良い】
本当に二人の事は【どうでも良い】
ロゼ、子供の頃からから、私の物をなんでも取り上げてきたわね。
正直言えば、少しはうざく思っていたけど…どうでも良かったわ。
だけど、嘘は流石に受け入れたくない。
まぁどうせすぐに、大変な事になると思うけど【二人が望んだ事】だから仕方ないわね。
まぁ【本当の愛】があるなら大丈夫でしょうね。
私が簡単に受け入れた事で留飲が下がったのかフリードは静かになった。
そして、少しだけだけど言葉を弱めた。
良いのよ、幾らでも聞くわ…多分…後で凄く後悔すると思うからね。
ロゼも…
「そうか…潔いのだな」
断罪でもしたつもり!小説なら泣き喚く、そういう場面ね…だけど、ここはそんな世界じゃ無いと思うよ。
「別に、罪は認めた訳ではありません…私はフリードは嫌いじゃ無かったですが…まだ、婚約して結納を貰った位の関係です、心は【愛】にまで育っては居ませんでした、それは本来長い時間を掛けて築く物ですからね、今の時点で妹が良いなら仕方ない、今後良好な関係は築けないでしょう…ロゼ、誓って下さい! 貴方はフリードを本当に愛しているのよね?」
自分に酔っているロゼならしっかりと答えるだろう…何時も私から物を取り上げた時の様に嫌な笑顔をしているから
「良いのよ、ロゼ、フリードは嫌いでは無いけど「まだ、愛を育んでいない」から、ロゼ貴方にあげるわ」
「私はフリードを心から愛していましす…この愛にに生きると誓います」
「偽りはありませんか?」
「偽りはありません」
それなら良し…本当に愛しあっているなら、うん本当に良かった。
「では、貴方に婚約者の地位をお譲りします」
無実の罪に2人して陥れたのだから良心の呵責があるでしょう?
だけど別にいいのよ…そんな事..うん、【どうでも良い】…
「マリア…」
「もう、何も言わないで良いですわ…妹は貴方にふさわしいわ…お幸せに」
「すまないな…」
「別にどうでも良い事です、それじゃ二人ともお幸せに」
私は…その後、不機嫌そうな顔をして壁の花になった。
今日は貴族の子供だけのパーティー。
大人の貴族は此処には居ない。
第二王子のアーサー様はいるが、家の事なので口を挟んではこない。
多分、王子は面倒事は嫌なのだろう、この話が終わると立ち去った。
「大変だね」
と私を労って。
第二話 マリア…そんなに嫌ってません
多分、他人から見たら【私は不憫な子で何でもロゼに取り上げられている】そう見えているが…当の私はそうは思っていない。
「お姉さま…このバッグ、私に頂戴? これはお姉さまより私みたいな可愛い子の方が似合いますわ」
「「お姉さまより」は余計だけど…欲しいならあげるわ」
「…そう頂きますわ」
欲しい物を手に入れたのに何時もロゼは不満そうな顔をしていました。
「お姉さま、この蝶々のブローチ綺麗ですわね…貰いますわね」
「そんな、それは私の大事な物…返して」
「いーえ、これは私の方が似合いますから貰いますわね」
大切な物を取り上げられた…そう思う?
【甘いわ】
これはそう見せているだけ、私は元々【物】への執着が無い。
だけど、人の物をとりあげた癖に嫌な顔されるのは腹が立つから《大切な物》をとりあげた。
そういう感じに小芝居を入れる。
そうするとロゼは、満足そうに厭らしい笑みを浮かべる。
まぁどうでも良いのです…そのまま【誰からも嫌われる嫌な人間】になれば良いと思うわ。
私はと言うと、実は本当に【物に執着しない】タイプ。
例えば、バックや指輪が欲しいとすると【実は手に入れるまでが楽しい】そう感じるタイプです。
そして手に入れるとその途端に【欲しくなくなります】
だから、前世で会社でOLをしている時も、友人に「このネックレスあげるわ」「このバック欲しいなら、ランチ奢ってくれたらあげるよ」と普通にあげちゃっていました。
ただ一つ妹を許せないのは「お姉ちゃんありがとう」が無い事だけ。
多分、その言葉があれば、私の持っている物の殆どあげても笑っていられます。
実はロゼと私は母親が違います。
ロゼは後妻の子で私にとっての継母は健在なのですが…
最初はロゼと一緒に私を虐めてきましたが、今では…「ロゼいい加減にしなさい! 貴方は沢山持っているでしょう」と最近はロゼを怒る様になりました。
まぁ、この継母にも欲しがる物を沢山あげましたし…自分やロゼの部屋に比べて私の部屋に何もないから良心の呵責に耐え切れなくなったのでしょう。
「ロザリー、それはマリアの母親の形見だ…何故マリアの物をお前が着ている」
「そんな、これはマリアがくれたんです…信じて下さい!」
そんな風な事件があり、継母は私に嵌められたと思ったみたいですが…
「ああ、それなら本当にお義母様に差し上げましたよ! 私にはまだ早いしドレスもお義母様が着た方が喜びますから」
「「マリア」」
何故、2人が涙ぐんでいるのか私には解りませんが…これ以降、継母もかなり優しくなりました。
まぁ要らないから【別にどうでも良い】から差し上げた物なんですけどね。
私は【思い出は心の中にある】派なので形見にも執着がありません。
その事をお父様とお義母様に言ったら…更に泣かれて困りました。
学生時代もOL時代もミニマリストでしたから、スマホとパソコンと着替え5枚位しか持っていませんでしたから…
今は寧ろ物があり過ぎです。
しかも、ロゼに取られても…そこは貴族の家、必要な物はお父様やお義母様が直ぐに買ってくれます。
だから取られた所で新品で買って貰えるから問題はありません。
寧ろ、新品になるから物によっては嬉しかったりしますよ。
だから、周りの人間は家族や使用人も含み、私がロゼを嫌っている様に思っているかも知れませんが。
実はそうは思っていません。
だからって好きかと言われれば、好きではありません…まぁ【どうでも良い】そんな人間です…
ですが【どうでも良い】とは言ってもそこは家族、あまり不幸な目に会って欲しいとは思っていませんよ。
第三話 まだ愛は始まっていません 二人が心配です。
事件の事を衛士が伝えたのか、いきなり宰相のユーラシアン様、それにお父様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達貴族がなだれ込むように入ってきたました。
だが、もう遅いです…既に終わってしまった後です
「婚約破棄とは何事だ?」
お父様とドリアーク伯爵様は大声をあげています。
「たった今、マリアとの婚約破棄をして新たな婚約者にロゼを指名しました」
恰好をつけてフリードは言っていますが…それがどれ程の意味を持つのか知らないのでしょうか?
「フリード…それは正式な言葉として発してしまったのですか?」
言葉は丁寧ですがドリアーク伯爵様の目は笑っていません。
「はい、貴族として正式な言葉として伝えましたが何か問題でも?」
ええっ確かにそう言いましたね…その意味すら知らないのでしょうね。
「マ、マリア嬢ははそれを受けたのですか..」
ドリアーク伯爵様は真っ青になりながら聞いて来られました。
「はい、しっかりと受けさせて頂きました…流石に【妹のロゼを新しい婚約者にする】とまで言われましたら受けざるを得ませんでした」
お父様を始め周りの人間は真っ青になり、誰も笑っていません。
特にドリアーク伯爵様は…死にそうな目をしています。
今日のパーティは貴族の子息女の為のパーティーでした。
その為【諫める大人の貴族】が居ませんでした…ですがまだ爵位が無いとはいえ貴族の家族の前での暴挙。
これから起きることは決して軽い事では無いでしょう。
私は…実はフリードの事を愛していませんでした。
何故、妹のロゼはこんな馬鹿な事をしたのでしょうか?
何時もの様に「お姉ちゃん、フリード様を好きになっちゃったから頂戴」
そう言えば良かったのに…
そうすれば、正式に婚約破棄をして、両家で話し合いからスタート出来ました。
まぁそれでも大変な事になりますが、今よりはマシな未来があった筈です。
それをこんな馬鹿な事したら…まぁ私には関係ありません。
後は、大人達の話し合いです。
原因は解っています。
私とフリードが愛しあっている、そう思い悪い癖で欲しくなったのでしょう。
素直に言えば良いのに…今なら普通に譲れましたよ。
同じ事を言いますが【まだ愛していません】
お見合いしたばかりの人間を心から愛している…そうは言えませんよね。
私は前世での恋愛スタイルは【馬鹿ップル】でした。
何時も一緒に居て、暇さえあればイチャイチャして、抱き合い人目も気にしないでキスして、お揃いの服着て…同棲迄していました。
これが愛だとつい、前世の記憶があるせいで思ってしまいます。
それに比べて貴族の恋愛は、贈り物を送ったり、偶にあってお茶する程度。
特にフリードの家は遠いから…基本、文通と贈り物ばかり…お茶も多分4回しかしていませんよ…
こんなのは前世で言うなら、小学生ならいざ知らず、大人なら恋愛と言えない気がします。
恋愛前の状態だと思います。
「他に好きな人が出来たんだ」
「そうか、仕方ないね」
そんな風に普通に別れられる状態ですね…まぁ精々がやけ酒飲んで忘れて、あくる日には仕事していますよ。
だから…今は自分の事より二人の事の方が心配ですよ。
第四話 義母ロザリーの後悔
私の名前はロザリー、ドレーク伯爵家に後妻として嫁いできました。
ドレーク家にはマリアという先妻の子が居て、私はこの子が凄く嫌いでした。
だが、それを顔に出す訳にはいきません。
貧乏子爵家に生まれて貴族と言う事は名ばかりで貧乏だった私には【マリアが凄く鼻についた】のです。
周りから、解らない様に【大切な物】を取り上げたり、お金も最低限しか渡しませんでした。
まぁ、使用人にはまるわかりですが、主人や他の貴族には解らないでしょう。
ですが…この子は何時も、そんな事には屈せずに、泣き言すら言いません。
泣きつく姿を見たくてしているのにですが…一向に泣きついてきません。
正直言うと、少し薄気味悪く思えます。
結婚して暫くすると私は子供を身籠りました。
これで生まれてくる子が男なら、もうドレーク家は【私のお腹の子が後継ぎです】
勝ったと思いました。
マリアの悔しい顔が見たく、て私はマリアを呼びつけました。
「マリア、貴方も終わりね、この子が男の子ならこの家は私達の物だわ…そうしたら貴方はこの家から叩き出してあげる」
「お義母様、お体に障りますよ!今はゆっくりとお休みください…それがお義母様の望みなら構いませんよ、規定通りに【貴族家から追い出した場合の手切れ金】を頂いて此処を私は去りますから…安心して下さい、今はそれより興奮なさらずに休養をして下さい、子供が流れてしまっては、それも出来なくなるんですから」
「私は…貴方を追い出す、そう言ったのよ?」
何で、そんな顔が出来るの…
「はい、構いません、追い出されたら…王都にでも行って王立図書館の司書にでもなりますよ? そうだ揉めないで去りますから、推薦状は下さいね」
「本気で言っているの?」
「はい、お義母様とお父様、そして生まれてくる子には【私は邪魔でしょうから】去りますから、ご安心下さいね」
「マリア」
心が痛んだ…心臓がチクチクする。
自分には此処には居場所が無い…そう言われた気がした。
だが、私は【自分の居場所とこれから生まれてくる子の為】この子を犠牲にしなくてはいけない。
だから同情なんかできない。
だけど…この子は、考えては駄目だ。
そうして赤ちゃんが生まれてきた。
残念な事に女の子だった。
綺麗な私に似た赤髪だったから、話しあって【ロゼ】と名前をつけた。
女の子だから本当は悔しがる筈だ。
なのに、私は…何故かホッとした。
【これならマリアを追い出せない】
それなのに…可笑しいわね。
勿論、当たり前のように自分の子ロゼを可愛がっていた。
自分が欲しい物は勿論、ロゼが欲しがった物は全部取り上げた。
主人は仕事が忙しく家の事は全部私任せだから、気がついていない。
使用人も私やロゼの味方だから…大丈夫だ。
だが、ある時、マリアから奪ったドレスを着ていた時だ…主人に気がつかれました。
「ロザリー、それはマリアの母親の形見だ…何故マリアの物をお前が着ている」
「そんな、これはマリアがくれたんです…信じて下さい!」
主人は未だに前妻を愛していた。
確かに、今着ている服はマリアが着るには大人っぽすぎる。
今迄黙って【差し出していた】のはこの為だったのね…流石にこれは言い逃れできないわ。
これで私は追い出されるかも知れない。
「ああ、それなら私がお義母様に差し上げましたよ! 私にはまだ早いしドレスもお義母様が着た方が喜びますから」
嘘よ…これは私が無理やり奪った物でしょう。
貴方がくれた物じゃ無いわ、お母様の形見だったのでしょう?
大切な物じゃない…
貴方が、私が脅して取り上げた、盗んだ…そう言うだけで私達は追い出されるかも知れないのに…
それでも庇う気なの。
自分とマリアを見比べたら….マリアはまるで昔の私だ。
貧乏だったから貴族なのに何も持って無かった私みたいだ。
それに対して…今の私はあの頃、私を馬鹿にしていた令嬢みたいだ。
私は…自分が【一番嫌いな人間】になってしまった。
この子は凄いな、多分私なんて、大嫌いな筈なのに【堪えて庇ってくれたんだ】
もう、この子に意地悪するのは止めよう…ちゃんと娘を扱う様にロゼを愛するようにマリアも愛してあげよう…そう思ったら。
涙が出て来た…この涙は、自分の不甲斐なさから来た物だと思う。
多分、横の主人の涙とは違う涙だと思うわ。
マリアの本当の母親になろうと決意した。
今思えば【私はあの子から奪ってばかりだった】そして部屋にはもう随分行ってない。
マリアが外出中にこっそりと見てみた。
なんなのこの部屋は…何も無い。
しいて言えば本はあるけど、あれはマリアの物でなくこの家の書物庫から持ってきた物だから【正確にはマリアの物】じゃない。
ベッドと机は流石に豪華だが、それを除けば…使用人の部屋にすら見える。
クローゼットをあけて見たら、ドレスは4着しか無かった、しかもどれもが凄く質素な物だった。
宝石箱も…うん? なんでこんな粗末な物になっているの?
確かマリアが持っていたのは、私が買い与えた宝石を散りばめたオルゴール付きの物だった筈だわ。
しかも開けたら…中にあったのは指輪1個にネックレスが1個…嘘でしょう。
こんなの貴族じゃない。
貧乏子爵の娘の私でも、此処まで酷く無かったわ。
私は此処までの事をしていない…これをやったのは【ロゼ】しか考えられない。
私はその足でロゼの部屋に向った。
「ロゼ?」
思わず目を疑った…なんなのこの部屋は、何から何まで揃っている。
「どうかされたのですかお母さま」
「これは一体どういうことなの…貴方何をやっているの?」
「ちょっと待って、お母さま何しているの」
私は無視して机を開けたら、豪華な万年筆や筆箱が幾つも出て来た。
中には同じ物が複数ある…
「良いから…黙りなさい」
そう言うと私はクローゼットから何から開いたら…マリアの宝石箱にネックレスに指輪出てくる出てくる。
しかも物によっては2つある物もある。
「お母さん、何をしているの? 勝手に私の物を出さないで」
「これは貴方の物じゃないでしょう? 半分以上がマリアの物じゃない」
「だって、マリアお姉ちゃんがくれたんだもん」
本当にくれたとしても…なんて意地汚い子なのかしら。
同じ物が幾つもあるじゃない?
中には主人や私が、2人に買い与えた物まで2つとも持っている…本当に意地汚い。
「あのね…流石に二つも同じ物は要らないでしょう? ドレスだってこんなには要らない筈よ」
「だけど、お姉ちゃんがくれたんだから関係ないでしょう」
「貴方が無理やり奪ったんじゃ無いの、知っているわ」
「お母さんだって同じことしていたじゃない」
確かに私もしていたわ…だからこれから返すつもりだ。
「確かにそうだったわ、だからお母さんは返すつもりよ」
「そうなんだ、マリアに返す位なら、私に頂戴」
「ロゼ、幾ら何でも怒るわよ、いい加減にしなさい」
「なんで怒られるのかロゼ解らない」
マリアに確認したら…本当にあげていた。
私がマリアに返しても、ロゼがきっと取り上げる。
その事を主人に相談したら…
「マリアだってあげた物をとり返すのは不本意だろう、マリアには生活費を余分に与えて新たに買いそろえよう」
という事になった。
私は本当に子育てに失敗したんだと思う。
今の私は、ロゼが昔見た嫌いな令嬢たちにしか見えなくなった。
この家には男の子がいない…だから、マリアと結婚した男性が婿に入り後を継ぐ。
そしてロゼは結婚してこの家を出て行く。
本当に良かった…マリアならきっと良い嫁になるだろう。
今となっては、実の娘以上に話してて楽しく感じる。
マリアの婚約が決まった。
相手はなかなかの好青年だ。
今の私に出来る事はなんだろうか?
マリアを結婚するまでの間に淑女にする事だ。
貴族の妻として充分な作法やマナーを自分が知る限り教えよう、それが私なりの恩返しだ。
そう思った矢先に…事件を知った。
私は目の前が暗くなった。
私は…殴りつけてもロゼを教育するべきだった。
あの場で、マリアから取り上げた物を返させ、ちゃんと謝らせるべきだった。
取り返しはもう…つかない。
第五話 両家の話し合い
「それで、今回の事はどの様にするのですかな? ドリアーク伯爵にドレーク伯爵…早々に結論を出して貰えないか?」
最初に口火を切ったのは宰相のユーラシアンだった。
その目は決して笑ってない。
この国アドマン王国では貴族の婚姻には王家の承認が居る。
特に次期当主が変わる場合は厳しい決まりがある。
例えば、侯爵家と公爵家辺りで婚姻により親戚になったら下手すれば勢力関係が変わってしまう。
実際に過去に公爵家同士が婚姻をし力をつけ旧王家を滅ぼし、今のアドマン王国になった。
その為子爵以上の家の者の婚姻は基本的に【王の許可が必要】だ。
最も、平和になった今現在は、婚姻の為の王印は基本、余程の事で無ければ簡単に確認して押される。
その為、王家が貴族の婚姻に反対する事は無い。
ただ今回の問題になるのは…既に今回の婚約は王家に伺いを立てており、王印を押された後の事と言う事だ。
つまり【王家が正式に認めた婚約】を勝手に反故にした…そういう事だ。
だからこそ事の重大さに気がついた宰相のユーラシアンは多忙にも拘らずこうして出向いてきている。
「解りました、ユーラシアン様には本当に我が愚息の事で迷惑をお掛けいたします、これからドレーク家と話し合いの元に必ず、結論を出しますので明日までお時間を頂けませんか?」
「良いでしょう? もうこんな時間ですから私もこちらに泊まらせて頂きます、明日の昼まで待ちましょう、ただどんな結論であっても王に持ち帰らなければなりません、必ず何だかの結論は出すように…あとスズラの森の開発にも罅が入らない様にお願いしますね」
「解りました、とりあえず、客室をご用意しましたのでお休みください」
「ええっ くれぐれも宜しくお願い致します」
既にフリードとロゼは部屋で軟禁状態。
マリアも部屋から出ないように言われ…此処ドレーク家で今後の話し合いがされようとしていた。
話の中心は、ドリアーク伯爵にドレーク伯爵 基本この二人で話し合いが行われるが、今回仲人役となったオルド―伯爵も席についていた。
「この度はうちの愚息が申し訳なかった」
直ぐにドリアーク伯爵は深く頭を下げた。
「頭をあげられよ…ドリアーク殿、それを言うならうちの愚娘も悪い…まずはどちらが悪いかではなく今後どうするかだ」
「そうだな」
「まずはうちのマリアとそちらのフリード殿の婚約だがこれはもう破棄するしかないな?」
「ああっ、それで構わない…納めた結納品や金品はそのままマリア嬢の慰謝料として受け取って貰いたい」
「良いのか、フリード殿が、このドレークを引き継ぐ予定だったからなかなりの大金を結納金として頂いている状態だ」
「愚息が馬鹿をしたのだ、それは致し方ない」
「だが、マリアと別れた時点でフリード殿は、もうこの家の当主にはなれんのだぞ! それも解っているのか?」
「解っておる、愚息がした事はとんでもない事だ、その位の事をしなければ釣り合いは取れない、無論それだけでなく今後のマリア嬢の婚姻についてはドリアークの名に懸けて愚息以上の相手を必ず探す事を約束しよう」
ドレーク伯爵家には男の跡取りが居ない。
故に長女であるマリアと結婚した男性が跡取りとなる。
つまり、爵位と領地はマリアに紐づいている。
フリードはドリアーク家の三男だったが、このままマリアと結婚すればドレークの跡取り、つまりは伯爵の地位が約束されていた。
つまり、家としては同じだが、爵位が貰えないフリードが【伯爵】になれるのだから、マリアとの婚姻は玉の輿とも言えた。
「解った、マリアについて謝罪はしっかり受け止めた、後程正式にフリード殿が謝罪と言う事で、今の条件で良い」
「そう言って貰えると助かる、それでスズラ森干拓の話はどうする?」
「謝罪も受けた、今迄通りで良いだろう」
「そう言って貰えて助かった、スズラ森の開発は両家、ひいては国の大きな事業だからな」
「その通りだ、本来は両家の親睦を深め、この大きな事業をやり遂げると言う意味での婚約の話ではあったが、婚約破棄だからと言って仲違いする訳にはいかない」
「そういう意味で、国王ハイド三世様も今回の婚約を楽しみにしていたのだえらい事をしてくれたもんだ…それで愚息とロゼ嬢の婚約だがどうする」
「本当に頭が痛いわ…貴族の何たるかも解らん、今になっては娘の教育を疎かにした自分が恨めしい」
「そんな事を言っている場合ではないぞ、まずは貴族籍をどうするかだな」
「そうだな…本当に頭が痛いわ」
フリードは三男なので、貴族籍を持っていない人間と結婚したら貴族で無くなる。
それはロゼも同じで相手の男性が貴族籍を持ってなければ、貴族で無くなる。
フリードの家は長男が継ぐからフリードに貴族籍は無い。
そしてロゼも家はマリアが継いでその夫が当主になるから貴族籍は貰えない。
つまり、フリードもロゼも婚姻相手が【爵位持ち】で無ければ貴族で無くなる。
「こうなった以上は彼らに温情を掛けるかどうか、俺としては愚息とは言えフリードは可愛い、だが貴族で居られる様にするには爵位を購入するしかない…あれだけの貴族の前で婚約を宣言した以上は…最早、他の者との縁談は無理だろう」
「アーサー様がその場にいたのだから、今更【婚約は間違いでした】とは言えないだろう、ロゼにも縁談の話が来ていたのだが、もう無理だな」
「申し訳ない」
「いや、此方はお互い様だ、姉の婚約者を受け入れた、もしくは誘惑したロゼも悪い…問題はどうするかだ!」
「貴族籍を買ってやり貴族で居させるか、平民に落とすかだな」
「ああっだが、この国は平和で豊かだ、今の世の中、貴族籍を売る様な者はまず居ない、恐らく買う事が出来ても精々が【騎士爵】、男爵以上など不可能だ」
「そうであった、更に言うなら今回みたいな馬鹿な事をした人間と付き合いたい人間がいるかだが、居ないだろう」
「その通りだ」
「そう考えたらロゼ嬢も愚息も貴族で居させるのは難しい…どうだろうか? 愚息のフリードとロゼ嬢にはドリアーク家から結納代わりに手切れ金を出そうと思う」
「ならば、ドレークからも同じ金額をフリード殿と娘のロゼに出すとしよう」
「貴族で無くなるが、当人が選んだ道だ仕方あるまい」
「そうだな」
結局、両家の出した結論は
?婚約は破棄になったが両家の仲は良好であり問題無い
?スズラ森の開発はこれまで通り、両家で責任を持ってやる。
?王家に承認を貰った婚約を破棄した責任としてスズラ森の開発で手に入った利益の20%を王家に向こう10年差し出す
?今回問題を犯した二人には貴族の資格は無いと判断し貴族籍等は与えず、市民に落とす
?仲人役のオルド―伯爵には顔を潰した償いとして金貨1000枚を支払う
それらが決まった。
「こんな所か?これで王家が許してくれると良いのだが」
「そうだな、オルドー伯爵、貴殿もこれでどうにか許して貰えぬか、この通りだ」
「本当に迷惑を掛けたすまない」
二人ともにオルド―伯爵に頭を下げた。
今迄、ただ聴いていたオルド―伯爵が初めて口を開く。
「私の方は、金貨1000枚は要りませんよ、私に使う位なら傷ついたマリア嬢に使ってあげて下さい、多分この条件なら王家も許して下さると思います、あとはユーラシアン様にもお詫びの品を用意した方が良いと思いますよ、宰相の仕事も忙しいのに駆けつけてくれたのですから」
「お気遣い頂きすまない、マリアの父としてお礼を言わせて貰う、ありがとう」
「お気になさらずに」
「愚息のせいで本当に申し訳ない」
「お二人とも、本当に気になさらないで結構ですから」
次の日、話し合いで決まった事を、宰相であるユーラシアンに伝えた。
勿論、謝礼金もこっそりと渡してある。
「この内容であれば、王も罰などとはおっしゃらないと思います…ただ事が事ですから【登城】の可能性もある、そう考えていてください」
「「解りました」」
宰相ユーラシアンは、ドレークの馬車に揺られながら帰っていった。
二人は此処にきてようやく胸をなでおろした。
第六話 私はこの程度じゃ傷つかない
ああっ、本当に気が重い。
これから、一番の被害者である、我が娘マリアへの報告がある。
あの子は、何時もなにも文句を言わなかった。
だからこそ、その埋め合わせとして【貴公子】と名高いフリードを選んだのに何たるざまだ。
「すまない、ドレーク伯爵」
顔に出ていたのか?
「気になさるな、今回の件はうちのロゼも絡んでいる、全部そちらが悪い訳でない」
「そう言って頂けると…本当に救われる、すまない」
あの、傲慢で意見を違えない男がこうも低姿勢だと困ってしまう。
いつも会議の席で私と怒鳴り合う姿に戻って欲しい物だ。
「ドリアーク伯爵、この話が終わったら、何処かのサロンで飲もうでは無いか? それで全部終わりにしよう、貴殿がその調子では俺もどうして良いか困ってしまうぞ」
「俺とて、間違いをすれば正しもするし、詫びる、今回は愚息の事で少々疲れただけだ」
そう言うドリアーク伯爵は10歳以上老けた様に思えた。
そうこうしている間にマリアの部屋にたどり着いた。
息を数回吐くと俺はマリアの部屋をノックした。
【マリアSIDE】
ドアのノックの音がした。
恐らくは、話し合いが終わって私に報告をしにお父様たちが来たのだろう。
「どうぞ」
私がそう伝えると、お父様とドリアーク伯爵、お義母様が入ってきた。
多分二人は後で来るのだろう。
顔色は凄く良く無く青白い。
しかも、その表情からは…【本当にすまない】そんな感じが漂ってくる。
私としては【そんな顔しないで良いのに】そんな思いで一杯だ。
前世の記憶がある私としては【そんな大事な事じゃないのに】とつい思ってしまう。
普通に女子高生をして短大に入りOLとなった経験を覚えている私にとっては本当に【どうでも良い】事だ。
異世界とは違い、前の世界では正に恋愛は戦いだ(一部の人にとって)
イケメンで優良株の男には女が群がり、水面下で泥沼の様な戦いをしていた。
実際に女子短大時代に出来た彼氏は【肉食派の自称、私の親友】に寝取られた。
既に同棲までしていた彼を取られた経験がある。
これよがしに、明かにラブホの中でキスする写真を送ってきた。
貴族という立場を考えたら、ロゼもフリードも、最後の一線はおろかキスすらしてない可能性が高い。
精々が手を握ったり、抱きしめ合う健全な関係だろう。
そう考えたらこれは【寝取り】ですら無い。
大体、余程の美少女で無ければ、小学生の時に好きな男子はクラスのマドンナみたいな子に夢中になり付き合えない。
中学でも高校でも人気のある男子は競争率が激しく、サッカー部のエースでイケメンとかなら他の女の子がひっきりなしに狙ってくる。
はっきり言ってしまえば…前の世界なら【良くある話】である。
確かに婚約者の相手を奪えば、前の世界でも慰謝料がとれるが…それは微々たるものだ。
本当に嫌な思いをして相手二人が不誠実でも300万とれたら良い方だ。
確かにフリードはイケメンで貴族、前の世界に直せば凄く優良物件だ。
そして、私の婚約者ではある。
婚約者ではあるが…前の世界で考えるなら【付き合っていない状態に等しい】
だって、顔合わせして、文を貰う事数回、お茶をした事数回….
前の世界だと、お見合いして文通して、喫茶店でお茶を飲んだだけの相手にしか過ぎないのよ。
それが幾ら一流企業のイケメンでも恨むまではいかないわ。
精々が「ロゼ子の奴、あたしの彼を奪ってムカつくわ」と友達に愚痴を言って酒飲んで、1週間で忘れるよ。
そう考えたら、フリードに執着心なんて、そんなに無いのよ。
そんな事で傷つくようなメンタルじゃ無いわ。
私のなかでは寧ろ【今でよかった】【相手がロゼで良かった】そんな思いすらある。
だって、もし正式に結婚した後にこんな事になったら、私は立場的にロゼを追求しなければならない。
場合によっては【国外追放】すら言い出さなければならなくなる。
昔なら解らないが、最近のお義母様は凄く優しく、まるで本当の母の様に私に接してくれている。
私も、お母様とは正直思えないが、年上の親友の様にお義母様を思っている。
そんなお義母さんの娘のロゼに酷い事はしたく無い。
またフリードが手を出したのが【ロゼ】で本当に良かった。
もし手を出した相手が使用人や平民なら、貴族として処罰しなくてはならない。
もし、他家の貴族の令嬢なら、恐らく遺恨を残し確執を生む。
貴族の中に敵が出来るのは好ましくない。
だから、これは【不幸中の幸い】だったんだと思う。
「マリアよ、ショックを受けているのは解るが、そこを通してはくれないか?」
「ごめんなさい、直ぐにお通し致します」
私はお父様たちに部屋に入って貰った。
第七話 私が言っても何も変わらない。
お父様たちから話を聞いた。
うん、妥当…いや、かなり重すぎるんじゃないかな。
話をしながら、お父様もドリアーク伯爵様も、お義母様も下を向いて悲しそうだが【そんなに悲しまないで欲しい】
私は何とも思ってないんだから。
「お前からしたら、腹の虫が収まらないと思うが、これで許してやって欲しい」
「私の娘が本当に酷い事したわ、本当にごめんなさい、私の躾が悪かったからこんな事になった、恨んでも恨み切れないでしょう…ですが私には謝る事しか出来ないの、ごめんなさい」
「愚息が本当に申し訳ない事をした…この償いは必ずする、許して等貰えないのは解っている、だが今はせめて謝罪をさせて欲しい」
確かに貴族としては大事だ。
だが、私としては【別にどうでも良い】のに。
だって本当にそこ迄の事では無いのよ…寧ろ二人から恨まれたくない気持ちの方が強いよ。
「お父様、身分の事ですがもう少しどうにかなりませんか?」
「そうだな、確かにしでかした事を考えたら市民じゃ駄目か? マリアが言うなら平民にまで落とそう」
「確かに此処までしたんだ、それも仕方ないだろう」
「マリアちゃん、あれでも娘なの…市民で許してあげて」
いや、私、市民じゃ無くて平民まで落とせなんて言わないよ?
そんな鬼みたいな事しないよ、貴族から市民だって辛いのに、流石に平民なんて言わない。
市民なら、貴族つきの仕事や、公共施設に勤める仕事につきやすい。
昔の生活で言うなら【公務員】や【警官】等の良い仕事に就ける、平民でも可能ではあるが余程優秀じゃ無いと就けない仕事が多くなる。
ちなみに、私がつきたかった王立図書館の司書は市民で無いとまずなれない。
「そんな事考えてませんよ、どうにか貴族のままでいられる様にしてあげれませんか?」
「マリア? お前それで本当に良いのか? あらぬ疑いを掛けられ婚約破棄されたんだぞ、ロゼに恨み位あるだろう?」
「我が愚息がした事だが、普通に考えて許せる事じゃないだろう、公衆の面前で恥をかかされたのだからな」
確かに貴族としてならそうなんだろうな。
前世で読んだライトノベルのヒロインなら泣き喚き…場合によっては復讐に走るわね。
だが、何度考えても、こんなのは前世なら幾らでもある。
恋人を寝取られたからと言って、それぞれの人生を壊すのはやりすぎだと思う。
少なくとも前世なら【振られたからって地位や財産迄根こそぎ奪う】のはやり過ぎだ。
まぁ、此処は貴族社会、完全にそう言ってしまっては不味い。
「確かに嫌な思いはしましたが、ロゼは可愛い妹、フリードは友人です、楽しい思い出も沢山あります、だから、余り酷い事はしたく無いのです、どうにか2人が貴族でいられるようにして頂けませんか?」
「マリア…貴方って子はなんて良い子なの、 それに比べてロゼはロゼはあああああーーっ本当にごめんなさい」
そんな気にしなくて良いのに、苦しいから、この手放してくれないかな?
お義母様、泣いていたら化粧も剥げてきて大変よ。
「マリア、お前の気持ちは良く解った、だがな、今現在はこの国は平和で豊かだ、誰も爵位なんて手放さない」
「もし売りに出されても騎士爵位しかまず無い、それも相当お金を積まないと買う事が出来ない」
確かにこの世界は剣と魔法の世界では無いわね。
どちらかと言えば、乙女ゲーに近い。
そう考えたら安定している世界だから、爵位を手放す者は少ないだろう。
「ならば、私への慰謝料を減額して、騎士爵を買い上げ二人を貴族の末席に残してあげる事は出来ないでしょうか?」
「愚息の未来を案じてくれた事は感謝する、だが、愚息は剣が苦手だ、更にもう宰相のユーラシアン様に伝えた後なのだ、今頃は王に伝わっておる無理だ」
「そうだな、マリアの気持ちは解ったがもう遅い」
そうだ…
「それならば、ロゼとフリード様が結婚するなら、私がドレーク家の家督を手放します、そうすれば、全て丸く収まります…私はそうね、ロゼとフリード様が貰う筈だったお金を貰って、王都で市民として暮らしますわ」
これで良い筈よね。
「マリア、それは母として認めません、私はロゼの母ですが、貴方の母でもあるつもりです、 悪い事した娘が良い人生を歩み、正しく生きる娘が不幸な人生を生きるなんて許せません、 家督は貴方の物。 それだけは、なにがあっても覆ってはいけないのです」
昔は私を追い出そうとしていたのに、今は凄く優しい。
だけど、私は別に良いんだけどね。
だって、追い出されたとはいえ、伯爵家だから恐らく金貨3000枚位はくれる筈。
金貨1枚、前世で言う10万円くらいだから3億円。
私からしたら、何の責任も無くこんなお金が貰えるなら、そっちの方が良い。
王立図書館の司書になって本に囲まれながら暮らして、生活に困らない。
うん、そこに私の幸せはあるんだけどなぁ。
「マリア、優しいのは良いが、貴族としてお人好しはいかんよ! 幾ら妹だからって甘やかしすぎは良くない、出て行くのはロゼだ」
「マリア嬢にそんな事させたら、もう責任の取り方が解らなくなる、婚約者の妹と不倫した挙句、家まで愚息が手に入れた、そんな事になるなら俺は彼奴を手に掛け引退する」
私は本当に良いのに…結局、当初の話通り、何も変わらなかった。
第八話 過去 目の曇った貴公子
俺は生まれて初めて父上に殴られた。
「お前みたいな奴は息子とは思いたくない、はっきり言えば顔も見たくない」
そこ迄いわれた。
俺の何処がいけなかったんだ。
最初に会った時はマリアは凄く物静かで大人しい子だと思っていた。
【この人こそが俺が守るべき存在なんだ】
本当にそう思った。
文を交わしても、お茶を一緒に飲んでも静かな時間が続く。
それは穏やかな掛け替えない時間だった。
だが、それは《間違った物》だとこの時は知らなかった。
まさか、あの、お淑やかで寡黙な彼女が、実の妹を虐め、虐待していたなんて俺は知らなかった。
いつの様にマリアと会話を楽しみ、家に帰る為に馬車に乗り込む時だった。
木の陰で震えている少女を見つけた。
貴族の男として声を掛けない訳にはいかない。
それ以外にも男としての保護欲が出た。
「どうしたんだい、何故泣いているんだい」
大きな声を出さないで出来るだけ穏やかな声で話掛けた。
怯えている者と話すにはこの方法が良い。
「フリード様、お見苦しい所を見られてしまいました」
彼女はマリアの妹のロゼだった、将来は俺の義妹になる存在。
ますます放って置く訳にはいかない。
「そんな所で泣いているなんて、何かあったのかい? 俺でよければ話を聞くよ」
彼女は左手を振るわせていた。
これはどう考えてもただ事じゃない。
「その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい」
彼女はそれだけ言うと走り去って行ってしまった。
誰にも言えない、だが彼女を泣かせる様な事が確実に起きている。
将来の義兄としては放って置けない。
俺は、ロゼに何があったのか自分で調べる事にした。
幸いな事に、俺はマリアと違い社交的だったから、ロゼの友人の貴族の令嬢とコンタクトがとれた。
【貴公子】そう呼ばれていた事が役に立ったのかも知れない。
このあだ名のお陰で信頼が得られて、無事ロゼの友人のお茶会に参加する事が出来た。
勿論、その日、都合が悪くロゼが参加できないのは確認済みだ。
【お茶会当日】
俺は王都でも有名なサンスマという店の高級砂糖菓子を持って参加した。
これなら女の子受けも良い筈だ。
お茶会で目にした物は、自分以外は全員女しかいないという光景だった。
男の俺がお茶会に参加するのが珍しいのか、沢山の女性に囲まれて質問攻めにあった。
他愛の無い会話をしながら、気づかれない様にロゼへの話に切り替えていく。
「そう言えば、婚約者の妹のロゼが元気が無いのだが、何か知っているかい?」
「「「「「「…」」」」」」
さっき迄、煩い位に話していたのに、急に押し黙った。
「なにか知っていそうだね」
明かに、何か知っていそうだ。
「あの…此処だけの話で、お怒りにならない、そういう約束であれば、お話ししたい事があります」
「ああっ約束しよう」
「それなら…」
聞くんじゃ無かった。
まさか、自分の婚約者のマリアがそんな酷い奴だったなんて知りたくもなかった。
「ロゼはマリア様に何時も古い物を押し付けられていました、宝石からドレスまで全部マリア様のおさがりばかりで、お可哀想に新しい物を身に着けて来た事は少ないです」
「その様な事が」
「はい、それに何時もマリア様の取り巻きに、怒られ、時には怒鳴られ本当に不憫に見えました」
「そうですわ、楽しくお茶会をしていても、『もう帰る時間だから』とマリア様の連れに無理やり家に連れ帰られる事もしばしありましたわ」
これで決まりだ…やはりマリアは黒だった。
「色々教えてくれてありがとう」
「「「「「「どう致しまして」」」」」」
【令嬢SIDE】
「あの、マリ―ネ、本当にこれで良かったのかな?」
「あら、シレ―ネ、さっきの私達の発言になにか問題でもありましたかしら? 別にわたくし、嘘は申してませんわよ」
「そうね…言われて見れば嘘は無いわ」
「でしょう? それをどうとるのかは彼方の自由、ロゼから送り物を貰っているから『多少の贔屓』はありますが、嘘をついていない以上責任なんてありませんわよ! おーほほほっ」
貴族って本当に怖いわ。
ロゼの身に着けている物は、家に代々伝わる様な高価な物ばかり、それに対してマリア様の身に着けている物は今も王都で普通に買える物ばかりです。
恐らくロゼの身に着けている宝石の1つもあれば、下手すればマリア様の持っている物全てが買えてしまうかも知れません。
マリア様の取り巻きは、恐らくロゼのお母様がつけた者でしょう。
確かに良く怒られていましたが、それはロゼがマナー違反をしたり、余りにもマリア様に対して理不尽な物言いをしたからです。
悪いのはロゼです。
それに『もう帰るじかんだから』と連れ去られたのは、その後に家で家庭教師がお待ちだったからですよ…
【白でも黒に自分の利益しだいでしてしまう】自分も含め貴族令嬢とは怖い者ですね。
だけど、幾らロゼが頑張ろうと私達が嘘の情報を流そうが、あの貴公子と名高いフリード様が騙される訳ないでしょうに。
私は…
「あのさぁ、マリ―ネ、嘘は言ってないにしても、誤解する様な事はいうべきでは無いと思う」
「そうね、私もそう思うわ」
もう一人は気がついたようですね…
「何よシレ―ネ、貴方はロゼの味方しない訳」
「しない、私は、どちらかと言えばロゼが悪いと思うもの、そう思わないマレル」
「そうね…マリーネ、私もシレ―ネの方が正しいと思うわ」
「本当にノリが悪いわ、まぁ良いわ、話していても面白くないから行くわ」
「そうね」
本当に馬鹿ね、私達は貴族令嬢なのよ、それも此処にいるのは子爵以下の家柄のね…【強い方について弱い者を叩き潰し、引き上げて貰う】それが私達よ!
確かにロゼは色々な物はくれるけど、所詮はただの金づるでしかない、それに対してマリア様はドレーク伯爵家の正当な後継者。
どちらにつくか決まっているわ。
「ロゼ」「マリア様」 何故「様」をつけて呼ばれているのか、あの方達は解らないのでしょうね。
そして上位貴族で伯爵家の後継者であるから、あちこちに目を光らせている人間がいる。
あそこの使用人は恐らく、ドレーク家の者だわ。
こういう積み重ねが将来、自分の為になるのに…本当に馬鹿が多いわ。
シレ―ネは知らなかった…フリードが自分が思っていた以上にボンクラだった事実を。
【フリードSIDE】
令嬢6人が言うのだからそこに嘘偽りはない筈だ。
ただのお茶会の場とはいえ、マリアの婚約者の俺にあの様なことは普通は言わない。
俺の顔を見て暗くなり「此処だけの話」と前置きして話した。
しかも、よく見たら体も少し震えている様に見えた。
恐らくは彼女達は、マリアがひいてはドレーク家が怖い筈だ。
それでも、ロゼの友人だったからだろう…体を震わせながらも真実を話してくれた。
ならば、俺はそれに答えたい。
彼女達の友人の俺がロゼを助ける事こそが、彼女達の信頼に答える唯一の方法だ。
こうして目の曇った貴公子の暴走が始まろうとしていた。
第九話 過去 暴走する貴公子の想い
俺はそれから注意深くロゼを見張る事にした。
確かに令嬢達の言う通り、ロゼは古い物を何時も身に着けていた。
それに対して、マリアは何時も新しい、王都で売られている最新の物を身につけている。
明かに二人には差があった。
見ていて痛々しい。
更に二人を見ていると挨拶すらしない、そこまで確執があるのか?
本当にそう思えた。
確かに、マリアは長女でロゼは次女だ。
貴族に産まれたからには差があるのは当たり前だ。
だが、此処まであからさまなのは、見たことが無い。
何故、此処まで酷い事をするのだろうか?
しかも残酷な事に産みの親までもが、ロゼではなくマリアの味方になっていた。
良く様子を見ていると「貴方って子は」とか「マリアに謝りなさい」という声が聞こえてきた。
可哀想だ。
ロゼにとって、味方は恐らく殆ど居ないのだろう。
多分、友人だけが彼女の唯一の味方だ。
俺は…そんな彼女を見ない振りして結婚をして良い物だろうか?
そんな妹を虐める様な女性を生涯の伴侶に選んで良いのだろうか?
目を瞑る訳にいかないな。
俺は皆に【貴公子】と呼ばれている。
その俺が、ロゼを見捨てて、この状況を見ない振りしてマリアと結婚など出来ない。
俺は…どうしたらよいのだろうか?
取り敢えず、俺は、ロゼを気にする様にした。
最初のうちはマリアに会うついでに、気をつけて様子を見る事にした。
俺が声を掛けると彼女は俯きながら挨拶を返してくれた。
「こんにちは」
「こんにちは、フリード様」
どことなく元気が無い。
俺は彼女の元気な顔が見たくなった。
それからは、マリアに会いに通うついでに、ロゼにも時間を使うようにした。
マリアと会った後に帰るまでの僅かな時間。
その時間が、2人の共有できる時間の全てだった。
どう見ても、使用人の様子からして可笑しい。
明かにマリアに対する様な優しい笑顔をロゼに向ける者は居ない。
【そこまでロゼは嫌われているのか】
本当にそう思える程、使用人の目つきが違う。
「いつも、こうなのかい?」
こんな状態に何時もいるなら、ロゼにとっては、この屋敷は針のむしろだろう。
「私は、次女ですし、お姉さまはドレーク家の長女だから仕方ない事です、それに私のお母様は後添いで、此処にいる使用人の多くの方はその前からの方ばかりですから…」
見ていて心が痛んだ。
やはり此処には彼女の味方は誰もいない。
俺だけ、俺だけは彼女の味方になりたい。
本当に…本当に心からそう思うようになった。
こんな俺に何が出来るだろうか?
真剣に悩んだ。
最初はもしかしたら同情だったかも知れない。
だが、このいたいけで可憐な少女を守ってあげたい。
その想いが…いつの間にか恋に変わっていった。
何時見ても、何処で会っても、周りの目は優しくない。
これがロゼの世界。
誰1人、屋敷の中に味方は居ない世界。
ロゼの味方は僅かな友人だけだ。
「ロゼ、辛くは無いのか?」
「仕方ありません…お父様もお母さまも、皆はお姉さまの事ばかり、きっと私なんて要らない子なんでしょう…次女や三女は良く長女のスペアと言われますが、私はきっとそれにさえにすらなれないのでしょう」
俺だって長男じゃない、長男とそれ以下の扱いの差は身に染みて知っている。
長男、長女は別格、それは貴族社会では当たり前だ。
だが、ドリアーク家では此処まで露骨では無い。
少なくとも、扱いの差はあるが、愛情においてはそんなに差が無く俺は育てられた。
それすら無かったとは不憫で仕方ない。
「そうか」
俺は何も言えなくなった。
誰からも愛されない…その辛さは想像を絶するに違いない。
ロゼの現状を知るにつれ、俺の心はマリアから離れていった。
マリアが命じてしているかどうかは解らない。
だが、姉妹なのだからこの現状を知らない訳が無い。
俺はマリアにカマを掛けてみた。
「妹のロゼですか? 余り接点が無いのですが、ロゼがどうかしたのですか?」
義理とはいえ、接点が無いだと。
マリアが今一瞬目を伏せたのを俺は見逃さなかった。
やはり、後ろめたい事があるのだな。
「いや、何でもない」
…この女狐。
此処まできて、ようやくマリアの性根が解った。
妹を苦しめ、迫害する様な女とは結婚などしたく無い。
俺はどうすれば良いのだろうか?
何とかマリアと婚約破棄をしてロゼを幸せにする方法は無いだろうか?
不幸な生活を送るロゼを救うこそが…貴公子たる俺の使命だ。
その為に俺は何でもするつもりだ。
更にフリードの勘違いは進んでいく。
第十話 過去 俺たちの戦いが今始まる
ロゼに自分の気持ちを告白した。
健気な彼女をもう放って置けなかった。
だが、問題なのは彼女が次女で俺が三男だと言う事だ。
つまり、俺も彼女も家の継承権が無い。
父上はしっかりした人物だ。
順序だてて説明すれば…駄目だな。
今回の婚姻は普通の婚姻じゃない。
ドリアーク家とドレーク家のスズラ森の開発に望む為の両家を結びつける意味が大きい。
その為、父上とて婚約を簡単に破棄など出来ないだろう。
…うん、待てよ。
スズラ森の開発はもう決まっている。
これは国王からの王命だから何があっても覆る事は無い。
つまり、ドリアーク家とドレーク家の結びつきは切れる事は無い。
兄たち二人は既に婚姻している以上、俺を変える事は不可能だ。
だが、ドレーク家はどうだ。
長女であるマリアとの婚姻を俺が蹴れば、この婚姻の話はロゼへと移るのでは無いか?
妹への数々の嫌がらせ、それがあれば、俺が婚姻を拒んでも「仕方ない」そうなるのではないか?
両家が結びつかなければならない以上はマリアとの婚姻を破棄してロゼとの婚姻になっても問題は無いともとれる。
多分、ドレーク伯爵は俺をかってくれている。
相手をマリアからロゼに変えても、問題が起きない可能性が高い。
俺をかってくれて、次期当主に望むと言う事は「ドレーク家の次期当主は俺で決まっている」筈だ。
ならば、俺の好きな相手に変えてしまっても、多少は揉めても最後には認めて貰えるような気がする。
その為には、周囲に如何にマリアが酷い人物か伝えなければならない。
そして、それを認めさせる実績を積み、最後には賛同を得るために告知すれば良い。
その場に王族がいれば、確実に正規の話となる。
その事をロゼに相談した。
最初、ロゼは顔を青くしていたが、話をするにつれ、その顔が赤くなっていった。
《俺は話して良かった》本当にそう思った。
今迄、いつも暗かった彼女に笑顔が戻ったからだ。
この笑顔が見れるなら、この大きな決断も、これから起きる戦いの火ぶたも怖くは無い。
これからは「俺たちの大きな戦い」が始まる。
ロゼが後ろにいるからには負けるわけにはいかない。
貴公子フリードの戦いが今始まった。
そして…それは「世紀の茶番」へと繋がり、やがてその愚かさを思い知らされる事になる。
第十一話 落ちた貴公子
私達は…目を疑いましたわ。
今迄、貴公子と名高いフリード様が、ただの馬鹿だとは思わなかったです。
何故かロゼが酷い目にあっていると、思い矢面に立っていますが…当たり前じゃないかな?
ロゼは貴族として最低限のマナーが出来ていません。
恐らくはかなり甘やかされて育ったのでしょう、それが出来ないなら、覚えるまでしつこく言われるのは当たり前の事です。
その程度の事でフリード様が口を出すから、ドレーク家の家臣はどうして良いか困っていますわ。
ドレーク伯爵様に、話がいくのは時間の問題でしょう。
フリード様は「何故マリアに優しくし、ロゼに冷たくするのだーーーっ」と良く騒ぎますが…
それは当たり前じゃないですか?
元の立場が違います。
ドレーク家の継承者なのですから、マリア様を優先するのは当たり前の事です。
それに、もし立場が逆転してても、誰もロゼなんかに靡く筈が無いわ。
あれ程、傲慢で酷い女は居ないんだから…
フリード様、貴方は婚約者なのに、なぜ気がつかないのかしら。
ロゼが身に着けている物の多くは【マリア様の物だった】のよ。
「マリア様ばかり新しい物を買ってばかりでロゼにはお古しか渡さない?」頭が可笑しいとしか思えないわ。
マリア様からロゼが奪って身に着けている物の多くは歴史的価値がある物ばかり、なかにはその宝石一つで平民が10年は遊んで暮らせる物もあるわ…男だからその価値が解らないのかしら。
それに比べて、マリア様の物の多くは新しいけど、そこ迄価値がある物は身に着けてないわよ。
さらに許せないのは【ロゼが身に着けている物のなかにマリア様のお母様の形見】もあるの。
マリア様は「別に気にしなくて良いわ」とおっしゃいますが…周りで見ている私達が凄く歯がゆいですよ。
多分、ドレスや宝石が無いからか、ロゼと違ってマリア様は余り社交界には顔を出しません。
私達はロゼでは無く、マリア様と仲良くしたいのに…余りお会いになれません。
滅多にお茶会にも来ませんが、顔を出す時には、必ず王都の有名な菓子店で購入されたお菓子や、珍しい茶葉を必ず持参して下さいます、時には本や宝石迄プレゼントして下さいます。
食い散らかして不平不満ばかりのロゼとは全く違います。
ロゼにも取り巻きはいますが、その殆どは恐らくはお金の繋がりでしょうね…先日も二人がロゼの行動に飽きれてうちの派閥にきましたわ。
使用人や家臣だって、しっかりと貴族として振舞えるマリア様と我儘なロゼ。
扱いが違うのは当たり前ですわ。
しかも《なんでもくれくれなロゼ》さぞ使用人からしても不愉快に目に映るに決まっています。
第一、婚約が決まっているのに、姉妹とはいえ、他の女といちゃついているのですから、家臣や使用人が白い目で見るのは当たり前の事です。
私達からして不愉快なのですから、家の者は更に不愉快でしょうに。
これの何処が貴公子なのでしょうか?
真実を見抜く事が出来ぬ節穴の様な目…幾ら美しく気高く見えても、もう駄目ですね。
既に評価は地に落ちたとしか言えません。
私達、貴族の女性は《基本、政治に口を出しません》だからこそ旦那様に求めるのは【社交性】と【政治力】です。
今現在この国は豊かで争いごともありません。
隣国の全ての国とも友好関係が結ばれ、戦争とは無縁の世界です。
だからこそ、前の二つが重要なのです。
社交性があれば、自分の領地が不味い事になった時に他の貴族に助けて貰えたり、借金が出来ます。
ですが、社交性がなければ、そう言った時に助けて貰えません。
あとは、内政が上手く出来なければ、領地は貧困になります。
今は、徴税官をはじめ、ある程度国がしてくれるので問題は起きにくいですが…
有能な事に越したことはありません。
ちなみに、此処で言う【社交性】はロゼの様に遊んでいる事ではありません。
お互いに貸し借りを作れるような間の事を言います。
嫌われ者のロゼじゃ…これは無理でしょう。
馬鹿な男です…最早、貴方を心から貴公子と呼ぶ者はいないでしょうね。
宝石を捨て、石ころを拾う様な無様な男は貴族の女にとって価値はありません。
貴族である以上は、領地にひいては家にマイナスな男は恋愛の対象にしたいとは思いません。
最早、幾ら美しく気高い男でも…彼を素敵だと思う女性は余り居ないでしょうね。
第十二話 貴公子の絶叫がこだまする。
俺は今、ドレーク家の客室で軟禁状態にある。
ロゼは大丈夫なのだろうか?
別々の部屋に引き離されて別々にされたが、酷い目にはあっていないだろう。
俺は特に酷い目にはあっていない、ただ、それは肉体的にであって、精神的にはボロボロだ。
「この部屋から出ないから、席は外して貰えないだろうか」
「それは出来ません、今の貴方はお客では無いのですからな」
客でない? それはどういう意味だ。
「俺がマリアからロゼに婚約相手を切り替えたからか? それでも俺には当主になる算段がある」
「それは、それは…もしフリード様がドレーク家の当主になられるのでしたら、このジョルジョ如何様にでもお詫びしましょうぞ、なんなら命を差し出しても構いませぬ、ですが、今の貴方様は客ですらありませんので、この部屋で見張らない訳にはいきませんな」
部屋の外に誰かがたち、見張るならまだ解る。
だが、部屋の中にまで人がいるのでは、まるで犯罪者の扱いではないか。
「そうか? お前はロゼではなくマリアの方につくのだな? ならば俺が当主になったらクビにしてやる」
「別に構いません、勘違いされては困りますから言わせて頂ければ、私はドレーク家に仕えております、マリア様やロゼに仕える訳ではございません」
なんだ此奴は…他の使用人達も皆…何時もと違う目で俺を見ている。
イラつく…
「そうか、まぁ良い」
俺はそれしか言えなくなった。
暫くすると、父上がこちらに入ってきた。
他の人間は居ない。
「お前みたいな奴は息子とは思いたくない、はっきり言えば顔も見たくない」
そこ迄いわれた後にいきなり殴られた。
俺は間違った事をした覚えはない。
「父上いきなり殴るとは…せめて理由位は聞くべきでは無いですか?」
「フリード、だったら聞こうではないか? 何の相談も無く、ここ迄愚かしい行動をとった訳をな!」
「父上…」
俺は見聞きした物、どういう思いで行動したのか、その全てを話した。
「そうか…実に愚かしく馬鹿な奴だ、お前は貴公子などと呼ばれて浮かれておったのだな…これが息子かと思うと頭が痛いわ」
どうしたと言うのだ…
「どういう事でしょうか?」
「もう、よい、最初に言っておく! マリア嬢との婚約破棄は確定した、そしてロゼとの婚約は成立だ良かったな息子よ」
何故此処まで不機嫌なんだ…しかも仮にも他の家の貴族の娘に対して【嬢】をつけないのは可笑しい。
「そうですか、ありがとうございます父上」
「ああっ、所でお前もロゼも貴族で無くなり、今後どうやって生きていくのだ? まぁ、もうどうなろうと知らぬが一応は聞いてやる」
貴族で無くなる? 俺もロゼも?
「その事で父上にお話しが御座います、長い間マリアがロゼに嫌がらせをしていました、私はその様な女と結婚はしたくないのです、だからロゼと」
「だから」
だからってなんだ。
「だからって、父上、ロゼがが酷い目にあっていたから俺が助けたんだ」
父上、その蔑む目はなんですか…そんな目をした父上を初めて見ましたよ。
「良かったじゃないか? 助けられて、よくやったおめでとう…話が全部終わったら、さぁ二人でハッピーエンドだ、何処にでも行くが良い」
「父上…父上は幼い頃から【正しい事を成せ】そう私に言って来たでは無いですか?」
「ならば、言わせて貰う…まず、ドレーク伯爵家の爵位はマリア嬢に紐づけられている、如何なる理由があろうとそれは揺るがない」
「ですが、マリアは…」
「例え、マリア嬢が人格破綻者であろうが、マリア嬢と結婚した者がドレーク伯爵家の正当後継者だ、お前は自分からその資格を捨てた」
「ですが、それではロゼが救えなかった」
「そうだな…だが、俺だったらドレーク伯爵の後を継いでから、ロゼの様子を見て、幸せになれる嫁ぎ先を探す、これが貴族らしい正しい道だ、お前が選んだ道は、貴族の責務を果たさない、ロゼと一緒に幸せになれない、誰1人幸せになれない、そんな道だ」
「それでも俺はロゼの傍に居て救ってやりたかったんだ」
《馬鹿な息子だ》
「そうか、もうお前は後戻りは出来ない、どっちみち、マリア嬢との婚約破棄、ロゼとの婚姻が決まった、貴族としての人生は終わった、だが、それだけでは無い…多分これから知る事実がお前にとって一番衝撃を受ける筈だ…ついてこい」
「一体どこに行くと言うのですか?」
「まずは、ついて参れ」
何処に行くと言うんだ…此処は…ロゼの部屋。
「フリード様、ご無事で何よりでした、ロゼはロゼは…」
「ロゼ、大丈夫か? 何か酷い事はされていないか」
「何時もの事です、もう慣れました」
《良いか、この部屋の様子を見ておけ》
「父上?」
「ロゼ、お前と息子の婚約は成立した」
「本当ですか? 嬉しい、ありがとう御座います!」
「礼などは要らぬ、後で両家で話し合いの結果を伝える、しばし待つが良い」
「はい」
ロゼ無事でよかった。
本当に良かった。
「それで父上、今度は何処に行くのですか?」
「今は他の部屋に行って貰っているが、本来の婚約者だったマリア嬢の部屋だ」
「マリアの部屋ですか?」
「そうだ…」
何故だ、さっきよりも父上の顔が怒っている様に思える。
「此処がそうだ..許可は貰っている、クローゼット以外であれば開けて良いと許可も貰った」
「これがマリアの部屋…ですか」
「そうだ」
嘘だろう、この部屋にはベッドと机以外、殆ど何も無いじゃ無いか?
使用人の部屋ですら、もう少し何かありそうな物だ。
「父上、これは私を騙そうとしているのですか? これが貴族の娘の部屋の訳が無い」
「マリア殿は質素を旨にして生きている、金品に執着は無く望むがままに欲しがった物はロゼにあげてしまったそうだ」
「そんな」
「見ての通りの部屋だが…どう考えてもお前の言い分とは違うな」
「これは…これは何かの間違いです」
「間違いではない」
「そんな..」
「ここからは私が説明させて頂きます」
「ロザリー様…これはどういう事でしょうか?」
「身内の、いえ娘の恥を晒すようで余り言いたくは無いですが、ロゼは何でも欲しがる卑しい子です」
「そんな、ですがマリアには新しい物を買い与え、ロゼが持つ物は古い物ばかりでは無いですか…」
「ロゼがマリアの物を何でも取り上げるから、マリアの物が無くなり買い与えていただけです…貴方も見たのでは無いですか? 豪華なロゼの部屋を、貴方が見た物が全てです」
「ですが、使用人からしてロゼに厳しくしている様に見えますが、これはどう説明しますか」
そうだ、全てが可笑しいのだ。
「マリアは貴族としての礼儀作法は殆ど完成しております、それに比べてロゼはまだ基本すら、うろ覚えです、教育を任された者が厳しくなるのは当たり前かと思いますが」
教育…あれが、そうなのか。
「だが、やり過ぎではないでしょうか」
「ロゼは人の言う事を聞きません、我儘で甘えて辛抱しません、その結果未だに、貴族として必要な教養が無い状態です、厳しくても仕方ないとは思いませんか」
「そんな…ならば俺は」
「自分の娘を悪く言いたくないですが…恐らくはマリアの婚約者だから、貴方が欲しくなったのでしょう、悪い癖です」
「それでは俺は…なんの罪もないマリアと婚約破棄をし、騙されてロゼを婚約者にしてしまった…そういう事ですか?」
「馬鹿な息子だ、伯爵の地位をお前にもたらし、質素を旨としている婚約者を捨て、我儘な妹を選ぶとはとんだ【貴公子】だな」
「お父上…私はマリアに、マリアになんて事をしてしまったのでしょうかーーっ、せめて謝りたい、いや謝らせて欲しい」
《本当に馬鹿な息子だ】
「お前は何を言っているんだ? マリア嬢はもうお前の婚約者では無い! お前の婚約者はロゼだ、貴族籍を持たぬな、そしてお前も貴族籍を持たない…これから先は市民として暮らすしかないだろう、我が家とドレーク伯爵家からは家を出た者として扱う事になるだろう」
「そんな、俺は…貴族で無くなるのか…ロゼも」
「そういう事だ」
「やりなおし…そうだまだやり直しが」
「出来る訳ないだろうが、王族が居る前で、婚約破棄宣言したんだ、もみ消しは効かないな」
「そんな」
「まぁ、そこ迄して選んだ相手なんだ、良かったじゃないか? 結納代わりに手切れ金を渡してやる、これが父として最後の情けだと思うんだな」
「そんな、俺は俺は俺はーーーーーーーっ」
フリードの絶望の声がこだました。
第十三話 過去 ブローチ一つで
私の名前はロゼ、ドレーク伯爵家の次女に生まれた。
私には少し年上の腹違いのお姉ちゃんがいる。
マリアという私と違い地味な女だ。
女として悪くはないのだけど、なんかパッとしない感じの人と言うのが一番近い感じかも知れない。
貴族と言うのは凄く残酷な世界だと思うよ。
だって、たった数年早く生まれただけで…何もかもが違うんだかさぁ。
更に言うなら、お姉ちゃんのお母さんは私のお母さんと違い裕福だから、持ち物が全部違うんだもん。
私の宝石箱は、ただの木の宝石箱だ。
それに比べて、お姉ちゃんの宝石箱は宝石を散りばめたオルゴール付きの綺麗な宝石箱。
こんなにも違う。
いいなぁ~ 凄く羨ましい。
他にも筆記用具にドレス、どれ一つとっても…私より良い物しかない。
本当にお姉ちゃんが羨ましい。
だけど…仕方ない。
だって私は次女だから、お姉ちゃんより良い物は手に入らない。
諦めるしかないんだ。
だけど、そんなある日…見てしまった。
お母さんがお姉ちゃんからネックレスを取り上げていた。
なんだ【私は持っていないんだからお姉ちゃんから貰えば良いんだ】
なんでこんな簡単な事に気が付かなかったのかな。
簡単じゃん。
最初の一言は凄く緊張したのを覚えている。
「お姉ちゃん、このブローチ頂戴」
お姉ちゃんは何だか考えていた。
怒られるんじゃないか…本当にそう思っていたけど、そのままお姉ちゃんはブローチをくれた。
本当は感謝の気持ちを伝えるのがマナーだ。
だけど、私はお姉ちゃんに比べて何も持っていない。
凄く不公平だ。
たった数年生まれるのが遅かっただけなのに…
その思いが、お礼を言おうと思う心を押しつぶした。
【私は何も持っていない…可哀そうな子なんだからこの位貰っても良いよね】
お礼なんて言わなくて良い。
お母さんだって言っているし、《私の事をマリアに比べて、可哀そう》そう皆が思っている。
お姉ちゃんに比べたら、私は何も持っていない。
だから、少しくらい貰っても良い筈だよね…お母さも貰っているんだから。
お姉ちゃんから貰ったブローチをつけてお茶会に行った。
このブローチは赤くて綺麗で何となくだけど、つけているだけで凄く嬉しかった。
「ロゼさん、凄いブローチをつけていますわね」
同じ伯爵家令嬢のケティさんが話掛けてきた。
いつもは話をまともにした事もないのに。
「これですか?」
「そうですわ、そのブローチは、本物なら【月女神の涙】と言われる物ですわ…それ一つで王族の馬車が馬ごと買えてしまいますわ」
嘘、お姉ちゃんから貰った..このブローチ、そんなに価値があるんだ。
知らなかったな。
「そうなんですか? これは姉から貰った物なんで価値なんて知りませんでした」
「まぁ、マリア様から頂いたのですね、それなら間違い無く本物ですわね、二つとない貴重な物です…良い物を見させて頂きましたわ」
そんなに貴重な物をお姉ちゃんは持っていたんだ。
しかも、これ一つじゃ無いなんて..やっぱりお姉ちゃんは狡いな。
「皆、凄いんですのよ、あの幻の【月女神の涙】をロゼさんが身に着けていますわ」
「嘘、まさかこんな所で見られるなんて…凄く素敵だわ」
「伝説の通りですね、まるで血の様に真っ赤なんですね、それでいて凄く輝いていて二つと無い…今なら解りますわ」
「これと対になる【太陽神の目】も見てみたいわ」
「ロゼさん、こんな物を身に着けられるなんて貴方が羨ましいわ」
「本当にそうだわ」
嘘、ブローチ一つ身に着けるだけで…こんなに違うの。
いつも端で静かにしていたけど、今日は皆から話しかけてくれる。
まるでお茶会の主役みたい。
今日は私が主役よ…このブローチを身に着けていれば、きっと私はこれからも主役になれるわ。
家に帰ってきた。
しかし、このブローチを身に着けるだけでこんなにも周りが変わるの?
まだ興奮が収まらない。
まるで魔法のブローチみたい。
ロゼは、自分の木箱の宝石箱に、ハンカチで大切にくるんでブローチをしまった。
第十四話 過去 お姉ちゃんがお姉さまになった日。
今迄、私は主役になんて、なれると思わなかった。
ただのブローチ一つでこんなにも世界が輝いて見える。
皆が私に注目してくれて、ダンスパーティーでもお茶会でも【私を見てくれる】
このブローチがあれば…今日もきっと私が主役の筈だ。
あれ…可笑しいな?
何時もなら、話し掛けてくれる皆が私の所に来ない。
何でだろう?
「これはまた凄い品ですわね」
「これはお父様が私の誕生日に王都の職人に作らせた逸品です、まぁ私の持っている唯一の宝物なんですけどね」
「だけど、本当にこの宝石箱凄く作り込まれていますわね」
「そこだけはお父様が拘っていましたからね」
宝石箱か…
「ロゼさん、見て下さい、この宝石箱凄く素敵ですわ」
確かに、凄く素敵ですが…お姉ちゃんの持っている宝石箱の方が素敵です。
「確かに素晴らしい宝石箱ですが、私はもっと素晴らしい物を知っていますよ」
「あの、ロゼさん、この宝石箱は王都の職人が時間を掛けて作った一点ものですよ? 幾らロゼさんでもこれ以上の物は持って無いんじゃない?」
《マリア様ならいざ知らず、幾ら伯爵家とはいえ、跡取りで無いのですから、そこ迄の物はお持ちで無い筈です》
《あの宝石でも驚きましたのに、あの宝石箱は将来嫁ぐリシナさんの為に子爵様が用意したものなのに、それを超える物をお持ちとは思えませんわ》
《態々、水を差す事もないでしょうに、人としてどうなのでしょうか?》
「本当にそれ以上の物を知っています」
「そうですか? 流石は伯爵家ですね、ロゼさんはこれ以上の宝石箱をお持ちなのですね! ならば次回のお茶会の時にはロゼさんの宝石箱をご拝見させて頂きましょう」
「そうね、そこ迄いうなら見せて頂きますか?」
「知って」
私は知っているって言ったのに…持ってなどいない、あれはお姉ちゃんの物だ。
「あら、嘘じゃありませんよね? まさかドレーク伯爵の令嬢ともあろう方が嘘等は言いませんわよね?」
「ええっ嘘じゃありませんよ、綺麗に宝石を散りばめた物です、次回のお茶会にお持ちしますわ」
「楽しみにしていますわね、皆」
「「「はい」」」
どうしよう…
お姉ちゃんの宝石箱…アレを用意しないと嘘つきになってしまう。
こうなったら、絶対にあのお姉ちゃんの宝石箱を【貰わなくちゃ】
【家:マリアの部屋ににて】
「お姉ちゃん、宝石箱を、私に頂戴」
「ロゼ、これはそう簡単にはあげられないわ、この宝石箱はお母さんの形見なのよ、しかもお母さんもお婆ちゃんから貰った物なのよ」
それが無いと本当に困るのよ。
私、嘘つきになっちゃうよ…
「お姉ちゃんは他にも沢山、宝石もドレスも持っているじゃない? もう一つ位私にくれても良いじゃない」
「だったら、他の物にしてくれないかな? ドレスでも宝石でも別の物なら構わないわ」
「それがどうしても良いのよ…」
「だから、他の物で我慢して」
「一体、何を話しているのですか? マリア、ロゼ」
「「お(義)母さま」」
「お母さま、お姉ちゃんが..」
「ロゼ、お姉さまでしょう…まぁ良いわ、それはそうと何を喧嘩しているのですか?」
「お母さま、お姉ちゃんが…」
私はお母さまにお姉ちゃんが宝石箱をくれない事を話した。
「マリア、貴方は伯爵家で生まれてから育ち、実の母親から沢山の物を引き継いでいます、それに対して私は貧乏子爵家出身だからロゼには大した物を与えていません」
「それならばお父様に言えば必要な物を用意して貰えます、いまはお義母さまが伯爵夫人なのですから、それにロゼにだってこれからは…」
「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」
《もう、何を言っても無駄な様ですね、なら【どうでも良いです】》
「解りました、ただこの間の宝石も、この宝石箱も【ドレーク家の資産目録】に記載されています。譲りますから、書面を交わさせて頂きます」
「そんな家族間で大袈裟よ」
「お義母さま、大袈裟では無いですよ? その宝石箱一つで山荘の一つ位買える価値があるのです、お義母さまがお持ちになられた宝石とは違うのです」
「そんな、家宝レベルの物…そういう事なの?」
「はい、国宝レベルでもあるのです…ロゼ、これは差し上げますわ、その代わり貴方の宝石箱を下さいな」
「良いのお姉ちゃん」
「いいわ、この間の宝石も返す気無さそうだし…正式にあげますよ、その代わり、これからは【お姉さま】と呼びなさい、子供じゃないんだから」
「解ったわ、お姉さま」
「そう…ジョルジュ良い所に来たわ、証人になって下さい、それとお父様へお渡しする書類を作って下さい」
《丁度良い所に執事長のジョルジュが通りましたわね》
「マリア様…本当に宜しいのでしょうか? そのオルゴールはお母さまの形見ではないのですか?」
「良いのよ、妹のロゼが使いたいと言うなら仕方ないわ」
「そうですか…マリア様がそういうなら、書類を用意しましょう」
ルビーのブローチ 月女神の涙
宝石箱 幸運の女神の笑顔
以上2点の所有権をマリアからロゼに移す。
この権利は、伯爵家の中でのみ有効。
「さぁ、ロゼこれにサインしなさい、これでブローチも宝石箱も貴方の物だわ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん…そう呼ばない約束よ? お姉さま…これからはそう呼ぶように、子供じゃないんだから」
「ちょっと待ってマリア、その宝石箱は貴方にとって大切な物じゃないの? 本当に良かったの?」
「あげろって言ったのはお義母さまですよ…お母さまの形見でしたが【もうどうでも良い】です、もう用は済んだでしょう? ジョルジュ、書類はお父様にお持ちして、ロゼ、私は宝石の入れ物がないわ、すぐに貴方の宝石箱を持ってきなさい」
「解ったわ、すぐにお姉さま、お持ちします」
「ええっ、直ぐに持ってきて」
「マリア…その、私は形見だなんて知らなかったの、今からでも返すように..」
「お義母さま【もうどうでも良い】 ロゼが大切に使ってくれるならそれで良いのです」
「お姉さま、私の宝石箱をお持ちしましたわ」
「そう、それじゃ頂戴…用事がすんだら出て行ってくれませんか? 本が読みたいので」
「解ったわお姉さま」
「マリア、私は」
「本が読みたいと言いましたよ? すみません出て行って貰えますか」
「それじゃぁね、お姉さま」
「はい、さようなら」
良かった、これで私は嘘つきにならないで済んだわ。
第十五話 過去 お姉ちゃんがお姉さまになった日。 マリアSIDE
「お姉ちゃん、宝石箱を、私に頂戴」
妹のロゼが急に言い出した。
私は前世の記憶があり、物に執着は無い。
それでも、手放したくない物はある。
その数少ない物の一つがこの宝石箱だ。
「ロゼ、これはそう簡単にはあげられないわ、この宝石箱はお母さんの形見なのよ、しかもお母さんもお婆ちゃんから貰った物なのよ」
「お姉ちゃんは他にも沢山、宝石もドレスも持っているじゃない? もう一つ位私にくれても良いじゃない」
この子は、言葉が解らないのかな?
これは私にとって大切な物だと言ったのよ。
「だったら、他の物にしてくれないかな? ドレスでも宝石でも別の物なら構わないわ」
私は物に執着は無い。
他の物だったら幾らでも良いよ…
「それがどうしても良いのよ…」
「だから、他の物で我慢して」
何故…こうも頑固なのかしら。
これ以外ならあげるって言っているのに。
「一体、何を話しているのですか? マリア、ロゼ」
「「お(義)母さま」」
「お母さま、お姉ちゃんが..」
「ロゼ、お姉さまでしょう…まぁ良いわ、それはそうと何を喧嘩しているのですか?」
「お母さま、お姉ちゃんが…」
「マリア、貴方は伯爵家で生まれて育ち、実の母親から沢山の物を引き継いでいます、それに対して私は貧乏子爵家出身だからロゼには大した物を与えていません」
確かに、元は貧乏なのかも知れない。
だけど、今はお義母さまは伯爵夫人だし、ロゼだって伯爵家の娘だ。
お金になんて困る事は無いし、これからは欲しい物はなんだって手に入る。
確かに、私の方が今は沢山の物を持っているけど…
直ぐに同じ位になる筈だ。
「それならばお父様に言えば必要な物を用意して貰えます、いまはお義母さまが伯爵夫人なのですから、それにロゼにだってこれからは…」
「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」
もう、何を言っても無駄な様ですね、なら【どうでも良いです】
私は、この宝石箱一つだけ【自分の手元に置きたかった】それだけなのに…
まぁ良いや、お母さまとの記憶は私のなかにある…これはただの物だ、そう思えば悲しくない。
私には価値は無い…それで良い。
「解りました、ただこの間の宝石も、この宝石箱も【ドレーク家の資産目録】に記載されています。譲りますから、書面を交わさせて頂きます」
「そんな家族間で大袈裟よ」
こういう貴重な物は『本当の意味で自分の物』にはならないんですよ。
だって、しっかりと家の資産なんだから『あくまで手元に置ける』そういう権利があるだけだ。
「お義母さま、大袈裟では無いですよ? その宝石箱一つで山荘の一つ位買える価値があるのです、お義母さまがお持ちになられた宝石とは違うのです」
『手元に置ける』と言う事は管理義務があると言う事。
綺麗に磨いたり、壊れない様に保管をしなくてはならないという義務が生じます。
それは思ったよりメンドクサイ事なのですが大丈夫かな。
「そんな、家宝レベルの物…そういう事なの?」
「はい、国宝レベルでもあるのです…ロゼ、これは差し上げますわ、その代わり貴方の宝石箱を下さいな」
これで別に構わない。
貴方が私にくれる、宝石箱は、ある意味本当に私の物だから。
大切に磨かなくても、無くしても誰からも咎められない本物の私の物だからね。
「良いのお姉ちゃん」
「いいわ、この間の宝石も返す気無さそうだし…正式にあげますよ、その代わり、これからは【お姉さま】と呼びなさい、子供じゃないんだから」
「解ったわ、お姉さま」
お姉ちゃんと呼んで貰って、凄く嬉しかったな。
だけどロゼ、貴方は私を多分、本当の意味で「お姉ちゃん」って思ってないよね?
本当の姉妹だったら『形見』を取ろうなんて思わないわよ。
此処まで言っても取ろうとするなら、それは本当の姉妹とは思えない。
だから…あなたのお姉ちゃんはもう死にました。
前世の他の家族の姉妹の様に仲良くなれたらそう思ったんだけどな。
だけど、そういかないみたいね。
だから、この世界の姉妹関係『お姉さま』で良い。
貴方は家族…だけど私はもう「お姉ちゃん」では無いよ。
「そう…ジョルジュ良い所に来たわ、証人になって下さい、それとお父様へお渡しする書類を作って下さい」
丁度良い所に執事長のジョルジュが通りましたわね。
「マリア様…本当に宜しいのでしょうか? そのオルゴールはお母さまの形見ではないですか?」
「良いのよ、妹のロゼが使いたいと言うなら仕方ないわ」
「そうですか…マリア様がそういうなら、書類を用意しましょう」
ルビーのブローチ 月女神の涙
宝石箱 幸運の女神の笑顔
以上2点の所有権をマリアからロゼに移す。
この権利は、伯爵家の中でのみ有効。
「さぁ、ロゼこれにサインしなさい、これでブローチも宝石箱も貴方の物だわ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん…そう呼ばない約束よ? お姉さま…これからはそう呼ぶように、子供じゃないんだから」
貴方にはもう『お姉ちゃん』と呼んで欲しくは無いわ。
「ちょっと待ってマリア、その宝石箱は貴方にとって大切な物じゃないの? 本当に良かったの?」
「あげろって言ったのはお義母さまですよ…お母さまの形見でしたが【もうどうでも良い】です、もう用は済んだでしょう? ジョルジュ、書類はお父様にお持ちして、ロゼ、私は宝石の入れ物がないわ、すぐに貴方の宝石箱を持ってきなさい」
「解ったわ、すぐにお姉さま、お持ちします」
「ええっ、直ぐに持ってきて」
「マリア…その、私は形見だなんて知らなかったの、今からでも返すように..」
「お義母さま【もうどうでも良い】 ロゼが大切に使ってくれるならそれで良いのです」
あげろっていったのはお義母さまよ…何を今更いうのかしらね。
「お姉さま、私の宝石箱をお持ちしましたわ」
「そう、それじゃ頂戴…用事がすんだら出て行ってくれませんか? 本が読みたいので」
「解ったわお姉さま」
「マリア、私は」
「本が読みたいと言いましたよ? すみません出て行って貰えますか」
「それじゃぁね、お姉さま」
「はい、さようなら」
貴族って皆、こんな感じなのかな?
お姉ちゃん、お姉ちゃんって言っていたロゼがどんどん嫌な人間になっていくし….
優しくて良い人だと思っていたロザリーはもう、なんだか最近家族と思えなくなってきた。
別に宝石も宝石箱も私には価値なんて無い。
あの宝石箱は『形見』だから手元に置いておきたかっただけ。
それ以外に私には価値は無いわ。
だって前世の私は、宝石に何の価値を感じてなかったもの。
それは今も一緒、宝石よりもノートパソコンかパッドの方が、手に入るなら欲しい。
こんな窮屈な服より、スエットでも着て寝ころびたいわよ。
まぁ持っていかれちゃったなら仕方ない。
だけどね…本当の意味で『自分の物』にならない物なんだけど良いのかな?
だって『家の物』だから、所有者ではあるけど、売る事もできない。
それ所か、価値を損なわない様にしっかりとした管理が求められる。
そして、国宝級の物は王族や貴族の見たいという要望があれば『お持ちしなければならない』
まぁもう書類を交わしたのだから…今後の責任は全部ロゼ。
しかも、あれらはあくまで『家』の物だから、ロゼが婚姻を結び出て行くときには置いていかなければならない。
私は欲しいと思わないしあげても良いとさえ思うけど…いつかは返さなければいけない物なんだけど…ロゼはそれでよいのかな。
第十六話 過去 宝石箱
使用人を呼びつけて話を聞いてみた。
やはり、マリアの宝石箱は親の形見だった。
これは幾らなんでもやり過ぎだと思った。
本当にマリアとロゼは持ち物に差があり過ぎる。
マリアは多くの物を母親から引き継いでいる。
その為、他の貴族の令嬢より遙かに物持ちだ。
だが、それは逆に言えば、幼くして母親を亡くしたという不幸があればこそだ。
私が生きている以上、私の持ち物はロゼにいく事は無い。
ただでさえ貧乏子爵の家出身の私は物が少ないのだからロゼが物を持っていないのは当たり前だ。
私は確かにマリアから物を取り上げたのかも知れない。
それは反省するしかないわ。
だけど、誰かが本当に大切な物は奪ってわいけない。
多分、マリアが持ち物の中で一番大切な物は…さっきロゼが奪った宝石箱だ。
本当は取り返して返すのが正しい。
だが…もう話がついてしまった。
マリアは書面にまでして、その権利を手放した、ロゼを説得して返しても受け取ってくれないと思う。
私は結局、怒らなければならないロゼに味方しマリアに悪い事をした。
自分が腹を痛めて産んだロゼ…可愛いに決まっている。
だが、マリアだって私の子供だ。
先妻の子で可愛く無いけど、私の子だ。
「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」
言ってしまった…マリアにこれを言った私がこのままで良い訳が無いわ。
『義理』とはいえ母親なのだから…
私は、シューベルト子爵が娘に綺麗な宝石箱をプレゼントした事を聞いた事がある。
今の私はマリアの言う通り伯爵夫人だ。
自由になるお金も沢山ある。
だけど…お金だけじゃ償いにはならないわね…仕方ないわ。
私は自分の机の上のオルゴールに手を伸ばした。
これは私の宝物だけど仕方ないわね。
貧乏子爵だった父が無理して私に買ってくれた宝物…これを手放す事で償いとさせて貰おう。
そして使用人に頼み、王都に向った。
【1ヵ月後】
「奥様、約束の物が完成しました、奥様のオルゴールから取り出した部品を使い、宝石箱を開けると音を奏でるようにしました」
確かに音楽は奏でる。
だけど、駄目だわ…王都で1番と言う割には、ロゼがマリアから取り上げた物より数段劣るわ。
「あの…もう少し細工を旨く出来ないかしら? 『幸運の女神の笑顔』に劣らない様な物が欲しいのよ」
「それは、今では誰も作れないでしょう…最早、その技術は消失しまして現存しません、作者は不明ですが似た様な物は世界に5つも存在しないし、1つは王立美術館にある位ですよ」
マリアが国宝、家宝って言ったのが今なら解る気がします。
仕方ないわね…
「マリア…今良いかしら?」
「どうしたのですかお義母さま…」
あんな事があった後ですから、私やロゼの顔なんて見るのも嫌でしょうね…
「マリア、貴方、あんなみすぼらしい宝石箱なんて使わないで頂戴」
「お義母さま、私、他には持ってなくて、それにあれで充分です」
私は本当に教育を間違えたわ…
「それでは私が困るのよ、ほら宝石箱を用意したからこれを使いなさい」
《えーと、なにこれ?》
「お義母さま、この宝石箱はいったい…」
「煩いわね、私が悪かったわ…だから王都に行って作らせたのよ、まぁそんなにいい物じゃないわ」
国宝級の物とは比べ物にならないわね…仕方ないじゃない。
「お義母さま、貴重なオルゴールがついています」
「それは、私がお母さまから貰ったオルゴールを使って貰ったのよ…貴方のと迄はいかないけどね」
「それじゃ…これはお義母さまが大切なオルゴールを部品にして作って下さったんですか」
「そうよ、貧乏子爵の娘なりの宝物だったんだけどね…気にくわないなら使わなくてよいわ」
「いえ、お義母さま、私このオルゴール大切に使わせて頂きます」
本当に馬鹿な子ね…国宝級の宝石箱を取り上げられて、こんな物で喜ぶなんて。
だけど…この子こんな笑顔もするのね。
※4話と14話の辻褄合わせで書きました、多少むりやり感がありますがお許し下さい。
第十七話 過去 宝石箱の価値。
私はお茶会にお姉さまから貰った宝石箱を持参した。
多分、この後になにか言って来る筈だ。
「ロゼさん、宝石箱は持ってきたのかしら?」
「リシナさんの宝石箱を馬鹿にした位なのですから、さぞかし自慢の一品なのでしょうね?」
「どんな品か見せて頂きたいですわ」
この前の経緯を知っていた為、他の貴族の令嬢も集まっていた。
「私の宝石箱は、これです…どうでしょうか?」
その集まった令嬢たちは三者三様の目でロゼと宝石箱をを見ていた。
好奇心から見ている者、怪訝そうに見ている者、そして明らかに侮蔑の目で見ている者まで様々だ。
「これは、本当に素晴らしいわ、私こんな凄い物初めてみましたわ」
「確かにこれは凄い物ですね…確かに此れと比べたら他の宝石箱は見劣りするでしょうね」
次々に感嘆の声が上がるなか、静かにその場を離れる者達と明らかに侮蔑の眼差しを向ける者達がいた。
1人の貴族の娘が声を掛けた。
「本当に素晴らしい物ですね…折角なのでその宝石箱の由来について持ち主のロゼさんから語って頂けないでしょうか?」
「イライザ様、これは姉から譲られた物なので、その私は詳しくはありません」
《なんて愚かな子なのでしょうか、聡明なマリアとは大違いですね、国宝級の物を持つと言う事は貴族として【その由来】も知らなくてはなりません、それなくしては価値は半減します》
「へぇー、国宝級とも言われ、王族由来の品を持ってきながら、その由来も説明が出来ないのですか? その宝石箱は見間違いで無ければ【幸運の女神の笑顔】と言われる品ですよ…そんな物持ち出されたら、公爵の娘である私でも勝てる物などお見せ出来ませんわ、何しろその宝石箱と同等の品はこの国では王妃様しか持っていないし、世界に5つしか存在しないと言われる最高作品ですからね」
「その、姉から譲られた物なので詳しくは知らなくて」
《そんな、大層な物譲る人なんて居ませんわね、大方ロゼの母親か当人が色仕掛けでも使って伯爵様をつかい奪い取ったに違いありませんわ》
「本当に譲られた物なのですか、少し昔ですが、私のお母様がその宝石箱を見たいとおっしゃった時にマリアさんが持参して下さり、由来についてお聞きしましたわ、その宝石箱には素晴らしい由来があるのです…ですが、貴方はその由来を知らないのですね?」
「すみません」
「ならば、言う事はありませんわ…私はこれで失礼します」
そう言うと、イライザは取り巻きを連れて、その場所から立ち去った。
「あの、イライザ様、私はイライザ様に何かしたのでしょうか?」
「別に何もしてないわ…ただ、私は、貴方が凄く嫌いになっただけよ?」
「そんな、何故…ですか?」
「嫌いになるのに理由はないわ!」
明かに怒った形相でイライザ達は立ち去った。
最初に居た令嬢たちは一部を残してロゼの周りから居なくなっていた。
ロゼはその理由を解らず…ただただ立ちすくんでいた。
第十八話 過去 宝石箱の価値【侮蔑の目で見る者】
「イライザ様、一体どうしたと言うのですか? さっきから凄く不機嫌そうですが」
「顔に出てしまっていましたか? 私は生まれて初めて、本当の意味で人が嫌いになりましたわ」
「それは、ロゼですか? ですが説明が出来ない位で、そこ迄お怒りになる事なのですか?」
「あの宝石箱は、私はマリアさん以外に持っていて欲しくないんですの、ましてロゼなんかには絶対に所有なんてして欲しくありませんわ」
イライザは何時も冷静にしていた。
かなり、ひにくを言ったり、上から目線で話すが、それ以上の事はしない。
それは自分が公爵家に生まれ、自分の一言で人の運命が変わることを小さい頃から知っていたから、嫌な事があっても我慢する癖がついていた。
その為イライザは凄く寛容だ。
勿論、その事は彼女の取り巻きの貴族は全員知っている。
そのイライザが珍しく怒っている。
しかも名指しでだ…こんな事は今迄、誰もが目にした事では無かった。
「あの宝石箱には、何か凄い由来があるのですか?」
「ええっ、私の家、更に王家まで関わる大きな由来があるのです」
イライザは宝石箱の由来について話し始めた。
マリアの祖母はイライザの祖母と親友であり、先代の王妃とはご学友同士だった。
その日は、親睦を深める為と三人で避暑地に行っていたのだが、運悪く王妃(この時は第一王女)を人質にとろうとする野盗に襲われた。
本来この避暑地は安全な為に護衛騎士の数も少なく、数で押してきた野党には歯が立たず、騎士は殺されあわや、捕らえられる寸前だった。
その時にマリアの祖母マリアーヌは一室に王妃とイライザの祖母を押し込み、その扉の前で、騎士の剣を拾い、振るい戦った。
そのマリアーヌが戦ってくれたお陰で、時間が稼げ、助けに来た別の騎士団により二人は無事に救援された。
だが、扉を背にして戦ったマリアーヌは只で済む訳は無く、片手を失う大怪我を負った。
その時のマリアーヌの忠義心と働きに感心した王が、この国で始まって以来最初で最後の【騎士の地位】(元からの爵位とは別)と共に贈られたのがあの宝石箱だった。
最も、美しく聡明なマリアーヌは片腕を失っても人気は落ちず、ドレーク伯爵家から縁談の話がきて嫁いだのだが。
「そのような事があったのですか…」
「そうなのですわ…祖母は今は無き親友を偲ぶ為に偶にマリアさんにあの宝石箱を借りる事がありますの」
「それじゃ、あの宝石箱は」
「マリアーヌ様からマリアさんのお母様に渡され、そしてマリアさんに引き継がれた筈の物ですわね」
「それをロゼさんが何で持っているのでしょうか?」
「理由は解りませんが…多分何らかの理由で取り上げたんでしょうね、そんな訳で私はロゼさんの顔も見たくもないのですわ」
「それなら、私もロゼさんとは親交を結ぶのは止めましょう」
「そんな人間と一緒に居ても楽しくありませんから、私もご免ですわ」
「私も」
「私も、そんな人間とは一緒に居たいと思いません」
「それなら、私達のお茶会や舞踏会に呼ぶのは止めましょう」
「「「「「「「「「「「「ええっ、そうしましょう」」」」」」」」」」
こうしてイライザの派閥が主催する行事にロゼが呼ばれる事は二度とは無かった。
第十九話 過去 宝石箱の価値 【怪訝そうに見ていた者もしくは立ち去った者】
「リシナさん、元気出しなよ? あんな家宝みたいな物持ち出されちゃ仕方ないって」
「別に気にして無いよ、この宝石箱は私の宝物には変わらないから」
「そうだよな、それはリシナさんの為にシューベルト子爵が無理して注文したもんだもんね」
「ルビィナさん、【無理して】は余計だわ」
「ごめん」
しかし、ロゼの奴は本当に腹が立つわ。
誰にだって一つ位自慢したい物があったって良いじゃない。
あの宝石箱はリシナのお父様のシューベルト子爵様が、次女であるリシナの嫁入り道具にと奮発して購入した物だ。
シューベルト子爵様は法衣貴族、地位はあるが領地は無い、国から貰うお金しか収入が無い。
まぁ騎士爵の親を持つ私が言えた義理は無いが…お金は余りお持ちでは無い方だ。
そんな人物が無理して娘に用意したんだ…黙っていれば良いじゃん。
あの場には公爵令嬢のイライザ様も居たし、ロゼだけじゃなく他にも伯爵令嬢も居た。
そんな方達なら、絶対にもっと良い物を持っているに決まっているじゃん。
だけど、そこは貴族だから、そうであっても【決して口にはしない】それは他人を辱める行為だからだ。
やっぱりロゼは様をつける様な相手じゃないな。
※ まだ彼女達は貴族の娘ではあるが爵位は持っていません、その為敬称をつけて呼ぶかどうかは多少自由があります。
態々喜んでいる、リシナの前にどう見ても家宝みたいな物持ち出す事無いんじゃ無いか?
「本当に気にしてないよ? だってこれはお父様が私の為に作ってくれた、たった一つの宝石箱だもん」
「リシナさん、まじ天使だな、私が男だったら嫁に貰ってやるのに」
「もう…そういう冗談は止めてよ」
「そうだな」
本当に大人気ないな、ロゼの奴。
「リシナさん、ルビィナ…話しを聞いて来たけど、あれやっぱり個人の物じゃなくて家宝だったみたい」
「だったらロゼのもんでも無いんじゃないか、そんな物まで持ち出して何がしたかったのかな?」
「本当に嫌味な事しますよね、下級貴族のささやかな自慢に、普通はあんな事しないわ」
「マリア様はあんなに奥ゆかしい方だったのに、なんであんな方が妹なのかしら?」
「ああいう自慢をするなら、伯爵家なんだから上級貴族と付き合えば良いと思うわ…私はもう、最低限しか付き合うのを止めようと思うわ」
「まぁ私達じゃ、家の差で全部付き合わない訳にはいかないわ…最低限のお付き合いだけにしますか?」
「そうしましょう」
「それじゃあ、これから、ロゼ…さんとは最低限しか付き合わない、それで良いよな」
「「「「「うん」」」」」
「あの皆さん、そこまでしなくても」
「リシナ、リシナだけの事じゃない、ああも思いやりが無い人物、私も付き合いたく無いんだよ」
「そうね、私もそう思うわ」
「私も同じ」
こうしてロゼはその行動のせいで、爵位の低い令嬢からも嫌われる事になった。
第二十話 過去 宝石箱の価値 【好奇心から見る者、摺り寄る者】?
「凄いですわね、流石はロゼさんですわ、まさか国宝級と言われる【幸運の女神の笑顔】をお持ちなんて思いませんでしたわ」
「あの…これそんなに凄い物なんですか?」
お姉さまの宝石箱がそこまで凄いなんて…
「世界で5つしかないと言われる品で、まぁ作者は一部のコレクターからはファントムと呼ばれていまして詳細不明ですわ、その5つの中でも傑作と呼ばれる3本の指に入る品です」
そんな、そんなにこれは凄い物だったの、お姉さま…こんな物もっていたなんて狡いわ。
「そんなに凄い物なのですね」
「ええっ、この国の王家に伝わる物は、銘は解りませんが、それよりも更に一段高い物だと聞いておりますよ」
これ、王家に伝わる物より上なの?
「その割には、皆さん、嫌な顔して居なくなってしまいましたが」
「悔しいからに決まっていますわ」
悔しい….
「悔しい…ですか?」
「だって、そんな物、出されたら公爵家のイライザ様ですら勝てませんもの、悔しいに決まっていますわ…その証拠に逃げ出すように居なくなりましたわね、きっと今頃悔し涙を流している事でしょう」
公爵家ですら悔しがらせる事が出来るの…凄いわ。
この宝石箱って本当に凄い。
《この方は本当に馬鹿ですわね…公爵家のイライザ様に下級とはいえ多くの貴族から嫌われるような行動をして…まぁ都合が良いですけどね》
「それでロゼさん、私と友達になってくれませんか?」
「えっ、私とですか? 今まで言葉で直接言って下さった方はいませんでした…私で良いのでしょうか?」
「はい、私はロゼさんと友達になりたいのですわ….今日は来ていませんが、私顔は広いんですのよ、私の友達もきっとロゼさんを気に入ると思いますわ」
「そうでしょうか? 私で良かったらお願いいたします」
「ありがとうございます、ロゼさん…それで一つお願いがありますの」
「なんでしょうか?」
「あの、ロゼさんの持っている、宝石箱の絵を描かせて貰えませんか?」
「絵ですか」
「はい、私には到底手に出来ない物ですから、せめて絵だけでも描かせて欲しいのです」
「絵ですか?」
そうね、お友達だし…その位で断ったら可哀そうだわ。
「別に良いですよ、その位、構いません」
「やった…ロゼさんって本当に心が広いんですね、それじゃ私の借りている部屋に行きましょう」
「ええっ、ですが、お茶会の時に部屋まで用意して頂けるなんてすごいですね」
「申し遅れましたわ、私はシャルロッテ、ジャルジュ伯爵家の長女ですわ…今回の主催者は知り合いでしたので部屋は特別に用意して頂きましたの、特別なお菓子とお茶も用意しますわ」
「ありがとうございます」
「それでは、行きましょう」
この出会いがロゼの運命を変えるような出会いになるとは、この時のロゼは思ってもいなかった。
第二十一話 過去 宝石箱の価値 【好奇心から見る者、摺り寄る者】? 裏
本当に馬鹿ですわね。
私は使用人に頼み、すぐにお抱え職人に連絡をとりましたわ。
国宝とか、家宝と言う物は滅多に見る事が出来ません。
その為、同じ物の再現が凄く難しいのです。
ですが、一流の職人であれば、完全に同じ物は作れなくてもじっくりと見させて頂き、触らせて頂ければ、かなり近い物を再現できます。
流石にファントムと全く同じには作れないでしょう…ですが、100点満点中70点の物なら、恐らく作ってくれる事でしょうね。
国宝級の【幸運の女神の笑顔】その品の7割の完成度の商品を作れれば、充分商売になりますわね。
普通なら絶対に見たり、触れたりしない物をこうも無防備で見せてくれるロゼさんは本当に、素晴らしい金のなる木だわ。
「ロゼさん、美味しい茶葉の紅茶とお菓子を用意しましたの…どうぞ召し上がって下さいな」
「シャルロッテさん、凄いですね、お茶会の招待なのに別部屋まで用意して貰えるなんて」
「そうでも無いですわ、国宝級の品を幾つもお持ちになっているロゼさんに比べたら大した事はありませんわ、私なんてたかが歴史のある貴族の末裔にすぎません…そうだ、ロゼさん私達の派閥に入りませんか? 入って頂ければ、今日みたいに何時でもお部屋を提供させて頂きますわ」
「私をお仲間に入れて頂けるのですか?」
「はい、何でしたら、そうですね…ロゼ様次第では、派閥の長になって貰う事も提案してみますわ」
「私が派閥の長ですか」
「はい、如何でしょうか?」
「考えてみます」
やっぱりチョロいですわね。
「おや、絵描きが来たみたいですわ、少し失礼しますね」
「はい」
《良い…これが有名な【幸運の女神の笑顔】よ、彫刻の仕様から、宝石の嵌め方、構造を絵を描きながら全部盗み取りなさい》
《解りました、国宝に触れられるチャンス、絶対にものにして見せます》
「それでは、すみません、ロゼさん、その宝石箱を貸して頂けますか?」
「はい」
本当に馬鹿な娘だわ、国宝をこうも簡単に貸してくれるなんて…こういう人は是非とも私の派閥に入って貰いたいものですわ。
そうですわね、仮初の派閥の長になって貰って、これからも【色々な物を貸して貰いましょう】
そうすれば、私達には莫大なお金が入ってきますわ。
「どう、凄くすばらしいですわね」
「はい、こんな素晴らしい物を目に出来るなんて凄く光栄です」
「流石はロゼさんだと思いません」
「はい、こんな素晴らしい物をお持ちだなんて、ロゼ様はさぞかし名門の方なのでしょうね」
「詳しくは言えないけど…やんごとなき御方ですよ、私はこんな素晴らしい物は持てないから絵で我慢しますわ、こっちでお茶を飲んでいるから、出来るだけ綺麗に素早く絵を描き上げて頂戴」
「はい、解りました」
「さぁ、ロゼさん、これからの事について此方でお茶でも飲んで語り合いませんか?」
「はい」
男は、まんまと宝石箱の絵を描きながら、宝石箱の構造図を書き上げた。
罠に嵌り…貴重な宝石箱の構造図を盗み書かれてしまった事に、ロゼは気がつかなかった。
第二十二話 過去 人は受けるより与える方が幸せなのである
私はお父様に呼び出されている。
そして、その横にはお義母さまがいた。
「マリア…お前の持ち物の所有権をロゼに移す、その様な書類を今見たのだが、これは本当か?」
「ええっ、本当ですよ、ロゼが欲しがり、お義母さまも渡した方が良い、その様なお話しでしたので、正式にお渡ししました」
「ちょっとマリア、私は…」
「大丈夫ですよ、お義母さまは、最後には反対してくれました、ただあの宝石箱はロゼがどうしても欲しそうでしたので進呈しました」
確かに【手元に置いておきたい】その反面、渡してあげても良いかな…そういう考えもありますからね。
「お前、あの宝石箱は、お前の祖母が先の王妃様を助けた際に頂いた品だ、本来はお前以外は所有は許されない品なんだぞ」
「はい…ですがロゼは妹です、しかもあの宝石箱は、私の物ですがドレーク家の大切な資産でもあります、その為あくまで【この家】の物です、ロゼが婚姻を結び出て行くときには返して貰えますから、大切な妹に今暫く預けても良いと思いました」
《本気でそんな事は言えないだろう…あれはマリアにとって一番大切な物の筈だ》
「そうか、随分大人なのだな! だが俺がお前の立場であれば、絶対にあれは渡さない、しかも【月女神の涙】まで渡したそうじゃないか?」
確かに貴族社会ならそれが当たり前でしょうね。
だけど、私は残念な事に美術品に一切価値を見出せないのよ。
前世の時でも、ブランド品を買う位なら新型のPCやスマホの方が欲しかった女。
彼氏にプレゼントに何が良いと聞かれた時に《カラーレーザープリンター》が欲しいと言う様な感じなのよ。
「私はお母さまから沢山の物を引き継いでいます、それに比べてロゼは余りにも物を持っていません、ならば、今ひと時、お渡ししても良いと思いました、それに私もお義母さまから素晴らしい物を頂きましたよ」
「ほうっ…ロザリーから一体何を貰ったと言うのだ!」
「一旦、部屋に戻って持ってきても構いませんか?」
「構わない」
《一体、何を貰ったと言うのだ…ロザリーがそこ迄の物を持っていると思えん》
「お父様、これです!」
「なんだ…その宝石箱は、どう見ても新しくて歴史があるようには見えないな」
《どう見ても、新しい品だ、王都に行けば普通に買えるような品に見えるが》
「すみません、そんな物を贈ってしまって…」
「お父さまにはこの宝石箱の価値が解らないのですね…この宝石箱の中には貴重なオルゴールが入っています、そして、そのオルゴールはお義母さまがこの家に嫁入りした時に持ってきた物なのですよ」
「それがどうした?」
「良いですか! この宝石箱は、お義母さまが大切にしていたオルゴールが使われているんですよ、私的には素晴らしい品だと思います」
「だが、あの宝石箱はお前の祖母からお前の母に引き継がれ、そしてお前へと引き継がれた大切な物ではないか」
「はい、ですが、あの宝石箱は【この家の物】でもあります、ロゼは器量良しですから直ぐに婚姻が決まるんじゃないでしょうか? それまで預けた、そう思えば良いだけです…ロゼだって馬鹿じゃないでしょうから、家宝や国宝を外に持ち出したりする訳はありません、精々部屋で眺めてオルゴールを奏でてて楽しむ位でしょう? なら私の部屋にあるかロゼの部屋にあるかの違いだけです」
「お前はそれで良いのか?」
「はい、実のお母様と二人目のお母様にこんな素晴らしい宝石箱を貰える私は凄く幸せですよ」
「マリアさん…そんな..ありがとう」
「ええっお義母さま、この宝石箱、大切に使わせていただきますね」
「だが、幾らなんでも国宝だぞ」
「『人は受けるより与える方が幸せなのである』これは私が読んだ書物に書いてあったことです、私はこの考えでいたいのです」
《なんでか解らないが、偶にマリアは子供の癖にやたらと大人みたいに話す時がある、この子が男なら、そのまま良き貴族になれる…親の贔屓目ではなく、子供でこんな考えや我慢がきく子は他にはいない》
「マリア…お前はもう、そんな難しい本を読んでいるのだな? 所で俺はお前が言う本を見て見たいのだが、なんていう本だ!」
「えーと《ヤバイ、これは多分前世に読んだ本だ》忘れました」
「そうか、今度タイトルが解ったら教えてくれ」
「はい」
《この子はもしかして『女神の愛し子』なんじゃないか? まぁあれは宗教上の伝説だから居る訳は無い…だがマリアと話していると、下手な部下より余程真面だ…神童、その言葉はマリアの為にあるのかもしれない…まぁ性格に問題はあるが》
これで良かったのかな?
多分、お父さまとお義母さまは私が思った以上に仲が良くない。
お義母さまは初婚で若い。
お父さまも若いが、初婚では無いし私という瘤つきだ。
若い頃に婚約者が決まる貴族社会では珍しい。
そこには色々な周りの思惑が絡んでいても可笑しくない。
多分、お義母さまに求められたのは男を産む事だ。
態々、私にあんな嫌味を言う位だからね。
だが、産まれたのはロゼ、女の子だ。
本来なら男子誕生に期待を込めて、2人目を望む筈が、その気配は無い。
しかも、私の伴侶がこの家を継ぐことになるなんて…少し可笑しな気がする。
そう考えると、お義母さんにはロゼの一回しかチャンスが無かったのかも知れない。
何故そうなっているのかは、子供の私に知らされる事は無いと思う。
まぁ、知る必要もないんだけどね。
「マリア…もう下がって良いぞ」
「はい」
物なんて…私には余り価値は無い。
どちらかと言えば、家族が揉めないでくれた方が…うん有難いな。
第二十三話 過去 私の欲しかった存在はお義母さま…かもしれない。
「ちょっと待ってマリア」
「お義母さま、どうしたんです?」
これから、私は部屋に引き籠り、読書をしようと思っていたのに…
「あの、さっきはありがとう…その庇ってくれたのよね」
「確かにそれもありますが、前にお義母さまに『貴方は伯爵家で生まれてから育ち、実の母親から沢山の物を引き継いでいます、それに対して私は貧乏子爵家出身だからロゼには大した物を与えていません』って言われたじゃ無いですか? よく考えたらそれは正しいな、と思い出しましてね、だからこれからは、色々な物をロゼや、勿論お義母さまにも分けようとおもいました」
《確かにそうは言いましたが…それらの物の多くはマリアにとっては半分遺産であり、形見の品です、あの時の私は短絡的で目が曇っていました》
「本当にごめんなさい、私は貴方に酷い事ばかり言っていました…確かに貴方は沢山の貴重な物を持っています、ですが、それは貴方にとって形見であり、遺産だった、あの言葉は間違いだった、訂正させて頂きます…本当にごめんなさい」
本物の令嬢なら、ひにくを言ったり文句を言うんだろうな…
ですが、私は心の中は令嬢ではありません。
「別に謝らなくても良いですよ、確かによくよく考えれば、私は沢山の物を持っています、これらの品は私の物である反面、家の物でもあります、そう考えたらお渡ししても良いと思いました…ただ、私からは言いにくいのでお義母さまからロゼに、家宝を手にした者の義務を教えておいて下さい」
「義務?」
「はい、例えば今回の宝石箱ですが、常に磨かないとくすんでしまいます、宝石は目の細かい特殊な布で常に拭いて、金やプラチナの部分は偶に専用のクリームで磨かないとなりません…まぁ執事やメイドでも上位の物なら知っていますが…家宝ですから渡す訳にいきませんのでそれらの品は、ご自分で手入れをするのがマナーです」
「そういう物なのね?」
「はい、お父さまも良く執務室に置いてある竜の置物を磨いているでは無いですか? あれと同じです」
「言われて見ればそうですね」
「はい、お義母さまも、何か欲しい物があったら、おっしゃって下さいな、正式な手続きを得てお渡ししますわ」
正直言えば手入れが凄くめんどくさいのよね…
時計なんて、常にゼンマイをまかないといけないし、可笑しいと思ったら王都の職人に直させなくちゃいけない。
貴金属は磨かないといけないし。
余り価値を感じない私には、結構な苦行だわ。
「良いのですか?」
「はい、その代わり、お義母さまが結婚した時に持ち込まれました本を読ませて頂きますか?」
「恋愛小説ばかりで…その貴方にはまだ早い気もしますが、そんな物で良いなら構いませんよ」
そんな物…
私には、余程価値がありますよ。
スマホがもし無ければ、前世の私はきっと部屋中本だらけです。
前世の私は、DLした小説が3万冊スマホにやノートPCに入っていました。
この世界にも小説はあるのですが、発行部数が少なく貴重品です。
だから、小説が読みたければ、新作を本屋で高いお金で買うか、持っている人から借りなくてはいけません。
お義母さまは結構な読書家で、結構な本を持っていましたから楽しみです。
「私は社交界に行くよりも、本を読むほうが好きです、それに本を読むのにはもう一つ楽しみがあります」
「楽しみですか?」
「はい、同じ本を読んで、お互いの感想や意見を言い会う事です…私にはそういう知り合いが居ませんから…そういう相手にお義母さまになって欲しいのです」
《マリアの年齢で、本をこんなに読む子供は居ないわね…大体が親に言われて仕方なく本を読む人ばかりだわ》
「本を読んで感想や意見を言い合う…凄く楽しそうですね、実は私の友人関係は読書家は多いのよ…そうね一回一緒にいってみますか?」
「はい、お義母さま…大好き」
「マリア、はしたないですよ」
「ごめんなさい」
《偶に年上と話している錯覚を起こしますが、こういう所は本当に子供ですね、社交界好きのロゼと違って、この子は本当に読書が好きみたい…なんだか昔の自分に近いのかも知れません、最も、私の場合は綺麗な宝石やドレスを余り持っていなかったから、貴族の家なら何処にでもある本に走っただけですけど》
「良いのよ、そうねとりあえず3日後のお茶会に一緒に行ってみましょう」
「本当にありがとうございます、お義母さま」
私が欲しい者…その一つはお義母さまだったりする。
自分に意地の悪い義母に何故? そう思うかも知れない。
『市民落ちしても良い』その様にお義母さまに言ったこともあるけど…この家の爵位と括られた今はもう無理。
そう考えたら…嫌でもお義母さまとは、どちらかが死ぬまで一緒に居る事になる。
ロゼは、婚約相手がみつかれば嫁いでいくから、そんなに長い付き合いじゃない。
だから、義母さまとは仲良くしないと本当に不味いわ…なんて思いながら見ていたんだけど。
見れば見る程…いいなぁこの人。
だって、私と同じで本が好きだし、持っている本も前世で私が好きなジャンルの本ばかりだ。
前世の私は紙の本は余り持っていなかったが、お金を使い結構な小説を課金してDLしていた。
そしてよく、その内容について友人や掲示板で語り合っていた。
腐女子…まではいかないけど、多分その素養はあったと思う。
だけど…お茶会に行っても、ダンスパーティーに行っても、【居ない】。
何処にもライトノベルやアニメにでてくる、地味で本が好きな人物なんて居ない。
多分、まだ齢が若いからか、本よりも、宝石やドレスの話題ばかり。
『恋ばな』なんて…本当の貴族はしないんだとショックも受けたわ。
そりゃあ…婚約者が割と早い時期から決まるんだから無理だわ。
その分、小説のなかでは、現実では無理なせいか『恋愛』のジャンルは多い。
結局の所、貴族の子供のお茶会は、『子供の見栄の張り合い』にしか思えない。
イライザ様は他の子よりは大人だけど…他は子供が頑張って見栄を張る場所にしか見えない。
本当に気を使う…権力を持った子供相手に【接待】している様な物だわ。
本当の子供なら良いんだけど、私は前世の記憶があるせいか、つい処世術がでてしまい、気が休まらないの。
だ.か.ら…本を語りあえるような存在は義母のロザリーしか周りに居そうにないわ。
どうにか、仲良くなれそうな兆しが見えてきたわ。
これでお茶会のお義母さまの友達が【私の思っている様な人達」だったら…
うん、凄く素敵だわ。
第二十四話 過去 義務
私は今お父さまに呼び出されている。
一体、何があったのかな。
「ロゼ、お前、マリアから色々と譲り受けたそうだな」
「はい」
まさかお姉さま…言いつけたの?
不味い事になったのかな?
「そんな青い顔しないで大丈夫よ? ちゃんとマリアさんが『譲った』と言ってくれたからね」
「お父さま、そうです、私、ちゃんとお姉さまから貰いました」
「その件なら聞いている、問題は無い、だが家宝や国宝を取り扱う者としての心構えを教えなくては、いけないと思ってな」
「そうよ、ロゼ、今迄そんな貴重な物を触った事はないでしょう」
「はい」
「良いか、ロゼ、家宝を持つ者には、義務がある、『保管の義務』安全に保管して質を落とさないで、手入れをしながらしっかりと保管しなさいと言う事、そこには盗難や技術の漏洩を防ぐという意味も含まれる、そういう事だ」
「そんな義務があるのですか? もし、それらを怠るとどうなるのでしょうか?」
「手入れを怠った者は、貴族としての信頼を失うことになる、例えば、今、お前の手元にある宝石箱だが、稀に他家から見せて欲しいと言う依頼が入る、その時にしっかりと管理出来ていなくてお見せ出来なければ、我が家が恥をかく、ましてあれは王家ゆかりの品、場合によっては首が飛ぶ事もある」
「それは、冗談ですよね」
「何をいっている…本当の事だ、実際にあれと同等の宝剣を失ったオーディン公爵は、許されたがそれを恥とし、自害なさった、まぁ今はもう大昔の事だ」
「本当なんですね」
「ああっ、なぁに気にする事は無い、うちの侍従やメイドは優秀だ、手入れの仕方は熟知している、彼等に聞いて手入れをして、家の中で眺めたり、音を聞いて慈しむ分には問題無い、屋敷の中は俺の管轄だ、問題が起きた時は俺の責任だ、だが外で起きた時は持ち出した者の責任となる…心する事だ」
嘘、こんなに責任が重いの…それならこんな物、貰うんじゃ無かったわ。
「そんなに大変な事なのですね」
「ああっ、貴族にとっての家宝とはそう言う物だ、特に由来のある品は命より重い物も多い…まぁ気をつける事だ」
「はい」
「お前が思ったより大変な物なのだ、もういって良いぞ」
嘘でしょう…もしあの宝石箱を、あの時に無くしたり落としたりしていたら、私罰されていたと言う事なの?
これからは、もう持ち出したりしない。
お姉さまの物を欲しがったりしない…わ。
だが、ロゼの想いとは裏腹にそれはもう出来なくなっていた。
もう…既に遅かった。
第二十五話 過去 キリがない
「ロゼさん、宝石箱を見せて頂きましたが、私達、まだ肝心の中身を見せて頂いてませんわ」
私はシャルロッテさん達とお茶を飲んでいた。
あの宝石箱のあと、シャルロッテさんは本当に私の派閥を作ってしまわれました。
公然と『ロゼ派』を名乗り、総勢10名の少数派閥だが、派閥は派閥だ。
「『余り、家宝や国宝を家から持ち出すのは良くない』とお父様から注意を受けましたので、余り持ち出せませんの」
「そうですか?ですが、派閥の長として、威厳を示さなければいけませんわ、長である以上、他の皆様より安いドレスや宝石を身につけては沽券に関わりますわ…身に着けていなくても、持っている、その凄さを示す必要があります、そうよねポリニャールさん!」
「そうですわ、ロゼ様、やはり私達の長なのですから…威厳を示す為にも必要な事ですわ」
「そうですね」
そうですねとしか、私には言えない。
派閥を作ってしまったから、最早私にはこの8名しか友達がいない。
元から友人は少なかったけど、この間の宝石箱の件から私の前から、沢山の方がいなくなりました。
話掛けてくる方は、私の派閥の8名のみ。
だから、彼女達を失う訳にはいかない。
「それなら、これからは他の茶会には参加しないで、このメンバーのそれぞれの家でお茶会を行うのは如何でしょう? そうすればイライザ様をはじめ、嫌な人間に会わなくてすみますよ」
「それに気ごころが知れた、友人の家なら、きっとロゼ様のお父様の伯爵様も安心しますわ…私のお父様は爵位は低く男爵ですが、王都警備隊の隊長をしていますのよ、家ならその関係で常に騎士がおりますから安心ですわ」
「それを言うなら、マリーネさんの家は確か、マリア様の婚約者のフリード様のドリアーク家とも遠縁でしたわね」
「はい、確かに…かなり縁は遠いですが親類ではありますね、そういうシレ―ネのお姉さまは確か、フリード様の家庭教師をしていた事もありますわよね」
「はい、そうですわ」
「あのロゼさん、私も含んで9名全員は、実はそれぞれ皆がロゼさんの家とは繋がりがありますの…だから家族の様に接して頂いた構いませんわ」
「そうなのですか? 姉の婚約者のフリード様とも親交があるのですね」
「そうですわ、私は何回か一緒にお茶した事もありますの」
確かに身元がしっかりしていますし、全員が貴族なのですから、行きと帰りだけしっかりしていれば問題は無い様な気がします。
まさか、貴族の家に泥棒が入るなんて考えられませんよね。
「それなら、安心ですね」
「安心も何も、此処の派閥のリーダーはロゼさんなのですよ? 派閥と言うのは、家族の次に信頼する仲間の事です、私達を信頼しないでどうするのですか?」
「確かにそうですわね、貴方達は私の派閥、そうでした、ごめんなさい」
「別に構いませんわ、まだロゼさんはリーダーになったばかり、お気になさらないで下さい」
「はい」
「とりあえず、次のお茶会には、あの宝石箱に相応しい様な目を見張る宝石が見たいですわね」
「そうですね~ あれ程の宝石箱、きっと素晴らしい物が沢山入っているのでしょうね」
「あと、ドレスもやっぱり、ロゼ派を導くの相応しいドレスをお召さないと不味いですよ」
嘘、これじゃ、用意しないと不味いじゃない。
お姉さまと私には、まだまだ差があります。
また、宝石やドレスを頂かないと…不味いです。
どうしよう…
この結果、ロゼは更なる泥沼に嵌っていく事になる。
第二十六話 【閑話】清貧王女の伝説
マリアを見て思ったのだが、あの子は本当に何者なのだろうか?
我が子ながら、考え方がしっかりし過ぎている。
ただ、それだけなら解るが…偶にまるで啓示でも受けた様な事を言い出す。
本で読んだと言うのだが、その様な本を俺は見たことが無い。
一体、あの子は何処で、その様な本を見たと言うのだろうか?
それよりも、あの子位の歳であんなに本が読める物でない。
暇さえあれば、本を読んでいて悦に浸っている。
本を好きな女性…これがロザリーの娘ならまだ解る。
ロザリーは読書家で有名だ。
あれはあれで他の貴族の娘にしては、贅沢を好まない。
そこが気に入りお見合いを受け、後添いにした。
まぁ、それ以外は特に取り柄のない、地味な女なのだが。
本を読み、僅かな贅沢しかしない…貴族の妻としては割と理想的だ。
それにしたって、あくまで貴族の範疇、実際にはあくまで他の者に比べてであり、宝石やドレスも普通に欲しがる。
だが、マリアは異常だ…
ロザリーとは違い『興味が薄い』のではなく『全く無い』
物に対する価値を見出さないという位に『物欲が無い』
あそこ迄、贅沢に関心が無い人間は、市民はおろか平民にも居ないだろう。
価値が少ない品とはいえ、使用人にも色々渡しているようだ。
物を与えれば、人は動く。
それがまして貴族が持つ様な物であったり、お金だったら使用人だって人の子、同じ様に扱わないだろう。
確かにそれは当たり前の事だ。
マリアに聞いたら「『お金がある者が人を使う時にはチップ払う』そういう事を本で読みましたの」と言ったが…
そんな話はこの国は無いし、近隣諸国にも無い。
書物に無いなら『自分で考えた』のかとも考えたが…そんな事は無いだろう。
そんな事を子供が考えられる物では無いだろう。
少なくとも、あんな考えを俺を含めあの齢では出来る者なんて知らない。
賢いと名高い【第二王子のアーサー様】ですらあそこ迄では無い筈だ。
これは別に親の欲目でも何でもない。
恐らく子供だが『今直ぐ王立アカデミーで通用するのでは?』とさえ思えてしまう。
これが男であるなら、王族のご学友として推挙したい位だ。
あの子には何かある…そう考える位に我が子ながら不思議な子だ。
この国や近隣諸国には『女神の愛し子』の伝説が残っている。
これは前世の記憶を持って生まれてきた子供の逸話だ。
女神に愛された子供は、そのギフトとして前世の記憶を持って生まれてくる…そんな話だ。
この国の王妃には【清貧王女】と呼ばれた幼少期を過ごした王妃が居る。
戦争で疲弊したこの国を立て直す為、自らが『物を持たない事』により貴族や市民にも節約を促した。
その政策は成功して『王女ですら贅沢しないのに』という話で貴族や市民は贅沢をしなくなった。
その王女の部屋にはベッドと机、筆記用具に本しか無かったという。
そして、その王女は暇さえあれば本を読んでいたという。
『本は沢山書庫にあるし無料で読めるのだから、読まない手は無いわ』
そう言っていたらしい。
マリアを見ていると、まるで生まれ変わりを見ているようだ。
多分、マリアが同じ状況で王女に産まれたなら…同じ事をするだろう。
清貧王女の話は、王族から貴族にまで美談として伝わっている。
平和になり裕福になった、今のこの国に、その様な生活をする人間は王族、貴族、平民を問わず居ないだろう。
だが、美談と語られる【清貧王女】の様な生活を送ろうとしているマリアを咎める事は親として出来ない。
自分が大切にしている形見の品…それすら手放すマリア。
まだ、2品だから解らない…だがもし、これからも同じ様に簡単に手放す様なら…【清貧王女】の生まれ変わりの『女神の愛し子』
その可能性も踏まえて…見させて貰おう。
まぁ、仮にそうだとしても干渉はしない…『女神の愛し子』は幸せをもたらす。
もし見つけても、知らない振りをする、そういう習わしだからな。
誰もが知らない所で糸は更に、こんがらがっていく。
第二十七話 過去 更にあげる
「お姉ちゃん、宝石箱を貰ったけど、肝心の中身が無いの…宝石も分けて下さい」
確かに言われてみればそうだ。
いかに良い物とはいえ、他にも必要だね。
「解ったわ、ジョルジュを呼んできて、今日は屋敷に居る筈だから、書類を作って別けてあげるわ、それとお姉ちゃんいわない、お姉さまと呼びなさい」
確かに【月女神の涙】は素晴らしい宝石だけど、それ一つじゃ確かに足りないのかも知れない。
普段使いの指輪やネックレスをあげても良いのかも知れない。
「解った、呼んでくる」
ロゼははしたない位、急いでジョルジュを呼びに行ってきた。
「マリア様、お呼びでしょうか?」
「また、ロゼに幾つか宝石を譲ろうと思って…そうだ、この機会にお義母さまにも譲ろうと思うわ、お義母さまも呼んできて下さらない」
「マリアお嬢様…宜しいのですか?」
「構わないわ、少しは妹にも普段使いの宝石やドレスを分けようと思うの」
「そうですか? 執事長としては反対でございますが、お館様より『好きなようにさせろ』と言われておりますので…ですが、それなら、確かに奥方様も呼ばれた方が宜しいでしょう」
「手数を掛けますが、お願いできるかしら?」
「畏まりました」
「お姉さま、お母さまに渡す位ならその分も私に頂戴」
「駄目よ! ロゼ、貴方は私に『自分だけズルい』常にそう言い続けた、それならお義母さまだって、別けてあげないとズルい事になるわ」
ジョルジュが目配せすると、メイドがすぐさま、ロザリーを呼びにいった。
「どうしたのですか? マリア…ロゼ、貴方まさか、また何か寄こせとマリアに言っているの? ちゃんと困らない程度には買い揃えたはずよ…旦那様が宝石商に言って幾つか宝石も買って貰ったのに…」
何だ、お父さまもお義母さまもちゃんと用意してあげていたのね。
まぁ、良いわ。
「ロゼ、それは初耳なんだけど、どういう事なのかな? それなら宝石も持っているわよね?」
「確かに持っているよ…だけど、私、自分の派閥を持ったのよ、お姉さまと違ってね、だから…あんな安物でなく皆に誇れる宝石が必要なのよ」
この子は…馬鹿だ。
お義母さまも顔が青ざめている。
「派閥を持つ事は、お父さまには許可を得たの? それにその仲間は貴方が命を掛けれる相手なの」
「ロゼ…貴方、正気なの? 冗談よね?」
「何をお義母さまとお姉さまは言っているの? ロゼ派を作りました…何を大袈裟な事を」
駄目だ…
仕方ない、説明位はしてあげないと不味いわ。
「ロゼ、良いかな? 貴族と言う者は産まれた時からしがらみだらけなのよ? それはドレーク家も同じ、例えば公爵家のイライザ」
「そんなの私の勝手じゃないの? お姉さまが派閥も持てないからって僻まないで頂戴…それにそれなら大丈夫よ、お姉さまの婚約者のフリード様の縁戚の方ばかりですから」
「本当にそうなのね? 信じて良いのね?」
「お義母さま、その件は、ロゼに直接お父さまと話し合って貰うしか仕方ありませんよ」
「そうね、それしか無いわね…それでマリア、さっきの話ではそれだけでは無いのでしょう?」
「ええっ…まぁ良いわ、ロゼが私の宝石を欲しがるので、今回ある程度分けてしまおうと思います、それでお義母さまにもお分けしようと思います」
《マリアの持ち物の多くは母親からの遺産の筈です、常にこの家にあるとはいえ手放したくはない筈です…それが何で》
「ロゼ、それは貴方や私が手を出してはいけない物ですよ…いい加減にしなさい」
「お母さま、私にはそれがどうしても必要なの! 邪魔しないでよ」
「私なら別に構いませんよ、この際、ある程度お分けしようと思っていましたので」
「マリア…貴方」
「私にはもう新しいお母さまが居ますから、必要な物だけで構いませんから」
「お姉さま、それなら早く宝石を頂戴」
家族だから…そう考える。
確かにロゼは家族、そして妹だ。
だけど、此奴は甘やかされた次女以下の妹。
長女から、何もかも取り上げる様な嫌な妹。
それがロゼ…『お姉ちゃんだから』それだけを理由に全て奪われる。
家族も『お姉ちゃんでしょう』って言って妹に味方する。
此処は前世とは違う…
姉とは…本当に悔しい。
妹なんて好きにはなれない。
だけど、嫌いにもなれない。
昔の親友…今となっては顔も思い出せない親友。
妹に何もかも取られて、それでも『妹』を捨てられなかった親友が思い出される。
まさか私が同じになるとは本当に思わなかったな。
「そうね、まずはこれはお義母さまに..」
「ちょっと待って、これは【太陽神の目】では無いですか? これは受け取れないわ」
「お姉さま、だったらそれ、私に頂戴」
「駄目! これはお義母さまにあげるのよ、貴方には【月女神の涙】をあげたわ」
「そんな、お姉さま!」
「お義母さま、貴方は私のお母様ですよね…私は本当にそう思っています、だから受取って下さい」
「そう言われたら受け取るしか無いわ…だけどこれはマリアから返還請求があったらいつでも返す…そう一筆付け加えて頂きます」
「解りました」
《ロゼが受け取ると言うのと私が受け取ると言うのは意味が違うわ、ロゼが受け取るなら嫁に出て行く時に全部返る、だけど私が受け取ると言うならマリアに返らない…だからせめても、この一筆は入れさせて貰わないと悪いわ》
結局、私は1/3を残し2/3をロゼとお義母さまに正式に渡した。
1/3は勿論、私が持っていないと不味い物や曰く付きの物ばかりだ。
普通の貴族の女なら悔しがるだろうが…
私には身軽になれた…そっちの感情の方が強い。
前世の金額で何十億の価値の物を持っていたら、小心者の私は、眠る事もままならない。
正直に言えば..残り1/3すら私には余り価値が無いんだけどね。
第二十八話 過去 お義母さまのお茶会、あるいは私の居たい場所。
今日はお義母さまのお茶会に参加させて貰った。
今回の主催はポルナック夫人。
同じ伯爵家で、元からお父様と親交のある家の方だ。
「あら、今日は随分と若い方がお越しですわね」
「本当に珍しいわ」
見た感じ皆さん、かなり年配に見えます。
私のお義母さまが若い方になる位…
「驚いたかしら? 貴方位で本を読むのが好きなんて凄く珍しいのよ…どちらかと言えばロゼみたいに宝石やドレス、社交界に夢中な子が大半よ」
前世とは違うから仕方ない。
この世界では『本は貴重品だから貴族階級じゃ無いと読まない』しかも『貴族階級ですら、読むのが嫌いな人間が多い』だから圧倒的に少数派…まぁ『掛け算』が出来れば、凄い、そんな世界観じゃそうなるのも仕方ない。
「お義母さまはどうでした?」
「私? そうね、私は…マリアに近いかも知れないわ」そう言ってにっこりと笑った。
やはり、この人は凄く良いな。
今の笑顔が今迄で見たなかで、最高の笑顔だ。
「ロザリーさん、その方はどなたかしら?」
「私の娘で、マリアと申します」
「若い子が、大丈夫かしら? 此処は『本好き』の集まりなのよ…退屈しないかしら」
「私もご本が好きだから大丈夫です」
「それは逞しいわね」
そうは言いながら、余り期待はされてそうに無いわね。
この世界じゃ、私くらいで本を読む人間は少ないから仕方ないわ。
私はお義母さまの横に座り、他の方のお話を聞く事に専念した。
う~ん…最高だわ。
これよ、これ!
私が欲しかった物はまさにこれだ。
「この本の結末どうでした」
「まさかのどんでん返しに驚いたわ、主人公とヒロインがくっつくと思っていたのが別れるなんて…本当に悲しかったわ」
その本は私も読んだわ。
あの展開は、読んでいて凄く悲しかった…愛し合う二人が別れるなんて。
「あら、どうしたのマリアさん、急に悲しい顔して」
「実は、私もあの本を読みまして、思い出して悲しくなってしまいました」
「マリアさん…あの本を読んだの? 凄いわね、子供が理解できそうな話ではないのですが、お伺いしても?」
「はい」
私は、本を読んだ自分なりの解釈と、出来るなら『こんな結末になれば良いな』と思った結末を話した。
『凄いわね…本当に読みこんでいるのね! 貴方はそうね同志よ、子供扱いして悪かったわ、ロザリーさん、マリアさんを正式な会員にしたいと思いますが良いでしょうか?」
「勿論です…マリア、貴方凄いわ、此処はね我々読書家にとっては憧れの場所なのよ、まさか簡単に仲間になるなんて思わなかったわ、おめでとう」
「ありがとうございます、ボルナックさまにお義母さま」
「此処ではね、基本略称は要らないは『夫人』もしくは『さん』で良いのよ! マリアさんと私も呼びますから」
「ありがとうございます」
「それで私はどうすれば良いのでしょうか?」
「そうね…此処には色々な方が居るわ、その人にとって読む本の趣味が違うから、色々と話し掛けて輪に入ると良いわよ、私はロザリーさんと此処で話しているから困ったら声を掛けてね」
「ありがとうございます」
此処は、本当にパラダイスだわ。
皆でお茶を飲みながら…小説について語り合う。
漫画が無いのが残念だけど、それ以外は前世で私が一番気が抜けて楽しかった場所に近い。
その後、色々な場所に入って、会話をさせて貰った。
今日は初めてだから、聞き役に徹した。
そうだ、私は昔を思い出して、また執筆をしてみようかな?
別に本を出版したわけじゃないし、小説サイトで精々100位にしか入ってないけど…
自分の読んで楽しかった本を元に書けば、似たような作品を書く存在が生まれるかもしれない。
「マリア、そろそろ帰るわよ」
「はい」
私はこうして楽しい場所を得る事が出来た。
私にって、此方の方が宝石よりも何よりも価値がある。
本当にそう思うよ。
第二十九話 過去 もう逃げられない
「ロゼさん、この宝石はなんですの?」
何故だろう? 前に見せた宝石と違って反応が薄いわ。
しかも、何だか目が怖く感じます…
「私の普段使いの宝石ですが、何か問題がありましたか?」
「ロゼ様…お可哀想に家ではかなりぞんざいに扱われているですね」
「ロゼさん…確かに宝石は多いですが、この宝石の多くは普段使いの物ばかりですわ」
「そうよ…普段、私が使っている物よ」
それじゃいけないの?
なにか不味い事したのかな?
「あのぉ~ロゼ様、言いにくいのですが、この位の宝石なら貴族であれば数は少なくとも持っています…これじゃ社交界の花にはなれないじゃないですか?」
「社交界の花ですか?」
社交界の花? 私が…
「イザベラ様は一部の方から『百合』に例えられていますわ…それと対になる様な方になって欲しいんですの」
「イザベラ様は公爵家の方です、しかも古くは王家に連なる血筋の方、私が対になるなんて無理です」
「ロゼさん、しっかりして下さいな、貴方はロゼ派のリーダーなんですよ…実際に負けてしまうのは仕方ないです…ですが勝とうとしないのは駄目ですわ」
「ロゼ様…イライザ様が百合なら、ロゼ様は薔薇にならなくちゃいけませんよ」
「そうよ、イライザ様が『白百合のイライザ』ならこちらは『赤薔薇のロゼ』と呼ばれる位にならなくてはいけません」
嘘でしょう…私がイライザ様相手に釣り合うレベルにならないといけないの?
そんな事したら、公爵家を敵に回すんじゃないの、大丈夫なの?
「そんな、そんな事をしたらイライザ様に嫌われてしまうじゃない?」
「何をいっているんですか? ロゼさんはロゼ派のリーダーなんですよ? 最早イライザ様は敵じゃないですか?」
「そうそう、私達9人が味方、それ以外はライバルや蹴落とす相手ですよ?公爵家だから『様』をつけますが心の中は『小娘』この位で良いのですよ?」
「そんな、私、そんな事思って…」
「何を言うんです? もう遅いですよ? しっかりと私たちロゼ派を名乗っていますからね」
「そんな、私はそんな事になるなんて思ってませんでした」
「そんな事言われるの? だったら派閥を解散しますか? ですが、他の貴族を敵に回して『唯一の味方』の私達が居なくなったらロゼさん、どうするんですか?」
「ロゼ様、私達…同じ派閥でなくなったら、何かあっても助けられません」
「同じ派閥じゃないって…事になったら、私はなにもしてあげられませんよ、折角友達になったのに友達じゃなくなるなんて..ロゼ様は、ロゼ様はたった1人でこれから過ごすんです、そんなの…可哀想です(涙)」
「ロゼさん…派閥と言うのは一心同体なのです…死ぬまで一緒に生きる仲間です、私達が要らないならもう解散しましょう…ロゼさんが言うんだから仕方ないわ」
「シャルロッテさん、待って」
「どうかしたのですか? ロゼさん」
「私頑張ります、ちゃんとリーダーとして頑張りますから」
「良かったわ、ロゼさん、マリーネさん、貴方の必死のお願いが届いたのね」
「はい、本当に良かったです、私、お父様にロゼさんの派閥に入ったって伝えた後でした」
「そうだったのね、マリーネ」
「はい良かった…本当に良かった」
「ロゼさん、貴方の下には9名の仲間がいるの…もう迂闊な事は止めてくださいね、もし本当に解散していいたら、マリーネさんが凄く困っていたわ」
「はい」
「ロゼさん…幾ら友達でも、仲間を悲しませる様な事をしたら、私許しませんわ」
「ごめんなさい、シャルロッテさん」
「わかれば良いのです…此処まで皆さんを悲しませたのですから…そうですわ、目が覚める位の秘宝とか見せて下さいませ」
「良いですね…あれ程の宝石箱を持っているロゼ様ですからね、さぞかし素晴らしい物をお持ちなんでしょう」
「私、凄く楽しみ」
「解りましたわ」
更なる泥沼にロゼは嵌っていった。
第三十話 過去 マリアの派閥
ロゼが派閥を作ってしまった。
その為、お父様とお義母さまは、ちょくちょく話し合っている。
私は『実際はまだ子供だから、その話に加わる事は無い』
私は体は子供頭脳は…この先は言えないが、考え方は大人だから、この事態が大変な事は解る。
貴族である以上『家どうしの付き合い』これは絶対に重要だ。
それをロゼが決めてしまった。
これから先、ロゼの派閥の親とも親交を持たなくてはならない、お父さまやお義母さまは気が気で無いだろう。
次女とはいえ『ロゼ派』を名乗り、そこに加わった令嬢がいる。
その令嬢の親とは親交を結ばなければならない。
しかも、1家を除き、他の令嬢は身分が低い者も多く、騎士爵や男爵も多い。
こういう事に疎い私でも解る。
ドレーク家の威光が欲しいのだろう。
とはいえ、大々的に派閥を作ってしまった以上は『子供の遊び』では済まない。
これからは『家のつきあい』もしない訳にはいかない。
多分、お父さまはかなり頭が痛いと思う。
本来なら、お父さまの事を考えると、イライザ様の派閥に入るのが正しい。
イライザ様の公爵家は、お父さまより目上であり….かなり薄いが遠い親戚でもある。
更にいうなら、公爵家なのだからイライザ様の嫁ぎ先は王家になる可能性も高い。
私としては、将来的にはイライザ様の派閥に入るつもりだった。
姉妹が別々の派閥に居る事は別に珍しくない。
なら、何故私が入っていないのか?
簡単な話だ、今はいるとイライザ様の派閥で自動的にナンバー2になってしまうからだ。
イライザ様の派閥に侯爵家の令嬢はいない。
伯爵家の令嬢はいるが…ドレーク家はその中では一番格が高い。
ナンバー2の悲惨さは前世で経験済みだ。
私の勤めていた会社は、社長がボンボンだった為、大川常務はいつも胃薬を飲んでいた。
だから、派閥が安定したら新参者として加わろうと思っていたけど…
実はもう入る気が無い。
今の私は、お義母さまの所属する派閥という名の読書クラブに入ろうと思っている。
あそこは天国だ。
普段から読んでいる本について意見を交換したり。
読みたい本があれば『これなんかどう』と勧めてくれたり…ネットが無い現状最高の環境だ。
この世界にはネットが無く、本の部数も少ないから、誰かから聞かないと『本の所在』すら解らない。
ようやく居場所を見つけた…そんな感じ。
イライザ様の所も良いけど、イライザ様は良い人だが…なんとなくお義母さまを嫌ってそうな気がする。
また、どう考えてもロゼとは水と油だから、いたたまれなくなりそうだ。
この間のお茶会で聞いた話ではあのメンバーは『ポルナック夫人の派閥』でもあるらしい。
聞いた話では『本が好きな方』それが入る条件らしい。
これなら、私にも入る資格は充分あるし、何よりお義母さまの立ち位置が副リーダーみたいな感じだから断られる事も無いと思う。
最早、私の入る派閥は此処一択だ。
流石にお試しで呼んで貰ったお茶会1回の後で派閥に入るとは言えない。
まぁ、お義母さまの派閥に、そのまま入るのだから、家としては問題無いと思う。
その前に母娘で同じ派閥に入る事に家として文句は言えないだろう。
私は貴族としてちゃんと道を踏まえて行動すれば良い。
メイドから話を聞くと、今日はお父さまとお義母さまが一緒に居ると言うので突入しようと思う。
ドアをノックした。
「入れ」
「失礼します」
「どうしたのだ、マリア、執務室にくるとは珍しいな」
「どうしたの、マリア?何かようなの?」
私は執務室に行った事は無い。
此処でのお父さまやお義母さまは仕事をしている事が多い。
此処にいる時は、私のなかでは『在宅で仕事している部屋』という感じに認識している。
だから此処にはいかない。
だが、今回は『派閥の希望』だから半分公務と同じだから、敢えてこの部屋に来た。
勿論、たった1回のお茶会で入りますとは言えない。
今回は『意思表明』だ。
つまり、『ボルナック夫人の派閥が気に入ったから入りたいのですが許して貰えますか』というお伺いを立てる事。
まだ、子供とはいえ貴族…その位慎重さが必要だよね。
「お父さま、お義母さま、実はこの間、お義母さまについてボルナック夫人のお茶会に行ったのですが、凄く居心地がよく、居られる方も素晴らしい人ばかりでした」
「そう、気に入ってくれたならお母さまも嬉しいわ」
「ただ、感謝を述べに来たのか? 他にも何か相談があるんじゃないのか?」
「はい、凄く居心地がよかったので、正式にポルナック夫人の派閥に入りたいと思いまして、今日はお父さまとお義母さまにお話しに来ました」
「そうか、お伺いをたてに来た、そういう事だな?」
「はい」
《我が娘ながら、これが本当に子供なのかそう思う事がある、確かに貴族として『伺いだて』は必要だ、だが、子供のマリアに『誰がそれを教えた』のか解らない、確かにこの様な礼儀を知る者は当家には多い、執事長のジョルジュ辺りかあるいは、メイド長辺りかも知れない…誰かに聞いたにしても、それが出来るマリアは、やはり評価せざる得ないだろう》
「そんなに気に入って貰えたの?」
「あそこで過ごしたお時間は、まるで夢の様な時間でした、この時間が永遠に続いたら、そう思える程でした」
「若い娘がいなくて、他からは面白みが無いと言われるサークルですよ? 派閥としても…その異端者扱いです、まぁ本が好きな者の集まりですから、マリアには合うかも知れませんが、良いのですか?」
「はい、希望します」
「そうね、それでは副リーダーとして許可します」
うん…私は今日はお伺いだけのつもりだったんだけど…良いの。
「マリア、お前は何でも、大人と同じ様にしっかりと行うが、まだ子供だ、多少の我儘は言っても良いのだ…まぁ、母親と同じ派閥に入るのは無難だ、俺も許可しよう」
《本来なら公爵様の派閥に入って貰いたかったが、正式に言われたら断れない、しかも、家族間のゴタゴタも大切な宝石箱を手放しておさめている、此処まで我慢させている状態で、更に我慢などさせる事は出来ぬ、そんな事したら『娘の宝物を取り上げて政略に使った貴族』そう言われても仕方ない、まして『ロゼは派閥迄勝手に作った』この現状でマリアから派閥を自由に選ばせないなんて出来ないな》
「ありがとうございます、お父さま、お義母さま」
「ああっ気にするな、母娘で同じ派閥に入る事は多い、貴族として正しい事だ」
「そうね、私も凄く嬉しいわ…早速、ボルナック夫人にお手紙も書くし、次のお茶会で正式に発表できるようにしましょう」
「ありがとうございます」
「良いのよ、これからは母娘以外でも同じ派閥としてお付きあいしましょう…本当に嬉しいわ」
「ありがとうございます、お義母さま」
「こちらこそ、ありがとうマリア」
《一時はどうなるかと思ったが、こうして見ると本当の母娘みたいじゃないか…あとはロゼをどうするかだな》
「すまないマリア、また仕事に俺とロザリーは戻らなくてはならない」
「ごめんなさい、マリア」
「いえ、お忙しい所時間を頂き有難うございました」
「親子なのだ気にするな」
「そうよ、私達、母娘でしょう? それに同好の士だし、派閥も同じなんだから気にしないで良いわ」
「ありがとうございます」
私は、お礼を言って部屋を後にした。
思わず私はガッツポーズをとりたかったが我慢した。
この世界にそんなポーズは無い。
ボルナック夫人の派閥には『ダンスパーティー』が無い。
社交界的な物は基本『お茶会』が多く食事会も、話す事が多いから立食パーティー式や食事をしながらの談話が多いらしい。
貴族らしからないから変な目で見られる事も多いらしいが…私には問題無い。
多分、お義母さまがこの派閥に入っていなかったら言いにくかったが、お義母さまが入っていたから言いやすかった。
王立図書館の司書には、貴族だからまず成れないけど、貴族としてなら、ある意味半分夢が叶ったとも言えるかも知れない。
うん、順風満帆だ。
第三十一話 過去 母娘…
「お母さま、私に【太陽神の目】を頂戴!」
この子は何を言っているのかしら、我が娘ながら本当に可笑しいわ。
「貴方は何を言っているの?、貴方には私と同じだけの宝石を、いえ私より多くの宝石やドレスも貰ったでしょう?」
この子は本当に何を考えているのかしら?
マリアは『自分の持ち物を三等分にした』と言う事は…元から持っていた分、私やロゼの方が持ち物は多い。
何時かは返ってくるとはいえ、今手元にある宝石やドレスはマリアが一番少ない。
その状態で、何故こんな馬鹿な事が言えるのかしら。
久々に会った娘の顔は…私が一番嫌いな人種の顔に見えた。
「だけど、お母さま、私は派閥の長になりましたの…だから皆さんに威厳を示さなければいけないのです」
この子は本当に馬鹿娘です。
その事で、私と旦那様がどれ程苦労しているか? 解っているのでしょうか?
大体、この娘はどうして困っているのか解っているのでしょうか?
『貴方はやがて嫁いでこの家を出て行く身なのよ』今は伯爵家の娘かも知れないけど…おのずと結婚後は地位が下がる。
良くて子爵、下手すれば男爵辺りが結婚相手…それで派閥が維持できるのか…考えたら頭が痛い。
しかも、その派閥の人間の多くは我が家には何一つプラスにならない人間ばかり。
確かに、ドリアーク家の縁戚の者もいますけど、血のつながりはあっても、ドリアーク家からは嫌われている者ばかり。
更に言うなら、どの家も裕福で無く、此方から下手すれば支援しなければならない様な相手ばかり。
唯一裕福なのは『伯爵家のシャルロッテ』『男爵家で王都警備隊の隊長をしているマリーネ』くらい。
だが、その二人も調べるときな臭い話が幾つも出てくる。
今後どうすれば良いのか…こちらが頭を悩めていると言うのにこの娘は…本当に…
「貴方の派閥はリーダーに居るのに宝石が必要なの? そんな話は聞いた事はありませんよ、それに貴方の派閥はシャルロッテさん以外は、そんなに地位の高い人物は居ないわ…多分、今の貴方より素晴らしい物など持っている人物は居ない筈よ」
正直言えば、貧乏貴族の集まり、それになんで宝石が必要なのか解らないわ?
「お母さま、私は派閥のリーダー、長なのですよ! 私はイライザさんと対になる様な存在にならないといけません、その為に必要なのです」
「貴方、何でイライザ様に『様』をつけないの? 相手は公爵家、旦那様ですら『嬢』をつける相手なのよ! それすら解らないの?」
「ちゃんと公式の場では『様』をつけて呼びますわよ? ただ派閥を引っ張る人間として、その位の心構えを..」
あ~あ、何でこんな娘になってしまったのでしょう?
マリアなら、こんな馬鹿な考えしないでしょう…偶に私の娘がマリアでロゼが先妻の子、そう思えてしまう時がある。
趣味もあるし、あの娘とお茶をしたり、本の話をすると『まるで長い時を過ごした友人』と過ごしている様な気がします。
言うしかありません。
「貴方はやがてこの家を出て嫁ぐ身です…そうしたら最早『伯爵家の娘』ですら無くなるのです、その状態でどうやって派閥を維持するのです? イライザ様は場合によっては王族、下がっても侯爵家と結婚する身、派閥の長だと言うのなら聞きますが、その時、貴方はどういう対応をするのかしら?」
「それは、その時に考えます」
本当に馬鹿な子です。
「答えなさい! 『子爵以下になった貴方が、最低でも、侯爵家、場合によっては王族になるかも知れないイライザ様相手にどうするのですか?』」
本当にこの娘は、何も考えずに…本当に情けない。
「そんなのはちゃんと考え済みです」
「なら、答えなさい」
「これは、私の派閥の問題…お母さまには関係ありません」
「そう、なら、私の宝石は要らないわね、私には関係ない話しなのでしょう?」
「お母さまみたいに、変な派閥に入っている人に言われたくありません」
此処まで、此処まで可笑しくなってしまったの?
娘で無いなら、顔も見たく無いわ。
「そう? それはロゼ派としての意見なのね? 今の一言は完全に私を敵に回したのよ? 派閥を馬鹿にすると言う事は私を含み友人まで全部馬鹿にしたそういう事なのよ! 私の友人に、私の派閥のボルナック夫人まで馬鹿にした…ならば、貴方は私の敵だわ、人生を賭けて貴方の人生を潰すわ…ロゼ派はボルナック派の敵…そうね最初に『貴方の結婚相手は爵位が低く若い女に目が無いお年寄りのサドマン辺りにしますか?』」
「お母さま、本当に私の人生を潰す気ですか!」
「貴方はロゼ派のリーダーなのでしょう? 私なんて怖く無いわよね? 今後貴方は私の敵です!」
「お母さま…許して下さい、そんな事されたら、ロゼはロゼは終わってしまいます」
馬鹿ね、幾らムカつく娘でも家族です、そんな事する訳がありません。
「馬鹿ね(笑) そんな事する訳無いでしょう? だけどね、貴方は派閥を持った…その瞬間から沢山の敵が出来た、そして『貴方が言った事は派閥の長としての言葉になる』その事を理解しなさい…私は貴方の母だから許します、ですがこれが赤の他人なら、派閥同士の争いになる…そして負けたら人生が終わる、今の貴方の言葉はそこ迄重い」
「お母さま…そんなムキにならないで」
「いいえ、ムキになんてなってませんよ? 貴方は派閥のリーダーになった、最早、子供扱いされない事も山ほど出てきます、これからは自分の言葉に責任を持ちなさい」
「はい」
「それではロゼ、再度聞きます、【太陽神の目】は必要ですか?」
《怖い、こんなに怒ったお母さまは初めてだわ》
「いえ、いりません」
「そう、それなら良かったわ…だったらこの部屋から出て行ってくれない」
「解りました」
《これじゃお母さまには絶対に頼れないわ…どうしよう?》
第三十二話 過去 お姉ちゃん…貰っても良いよね!
自分の部屋に帰り、自分の持ち物を見た。
前と違って沢山のドレスに宝石がある。
でも、此処の宝石は…価値が無い。
だって普段使いの品ばかり…これじゃまた皆をガッカリさせてしまう。
どうしたらいいのかな?
幾ら考えても駄目だ…
何処かに宝石がある場所はないかな…
宝物庫…
何かの間違いで空いている事は…『あるわけない』 それにあったとしても私が盗んだら管理している人間の首が飛ぶ。
結局、あてもなく屋敷の中を歩いていた。
仕方ない…どう考えても駄目だ。
気を紛らわす為に、庭に出た。
『どうしよう』 私はなんで派閥のリーダーになんてなっちゃったんだろう?
最初にしっかり断れば良かったな。
だけど、もう後戻りは出来ない。
あははははっ…色々考えたら悲しくなってきた…
うふふっ…思わず涙が出ちゃう…
もう、私はお姉さまに頼むしかない。
お姉さまに断られたら..駄目。
そんなこと考えちゃ駄目。
お姉さまから貰う、いや取り上げる方法を考えなくちゃ駄目。
だけど、お姉さまは完全に1/3を私にわけた…これ以上は多分くれないよね。
どうしよう?
気にもたれ掛かって泣いていた。
「どうしたんだい、何故泣いているんだい」
優しい声が聞こえてきた。
誰?
嘘、お姉さまの婚約者のフリード様じゃない?
いいなぁ~お姉さまは…よく考えたら、ドレスや宝石だけじゃない。
こんな素敵な婚約者、フリード様までいて。
やっぱり凄く狡いじゃない?
もし、私が先に生まれたら…フリード様の婚約者は私だった筈だよ。
なのに妹だから…私は何も無いんだから。
そうだ….その分貰っても良いよね。
だけど、今は…
「フリード様、お見苦しい所を見られてしまいました」
この場をどうにかやり過ごさないと…
泣いたからきっと目も腫れて見れたもんじゃない筈だ。
「そんな所で泣いているなんて、何かあったのかい? 俺でよければ話を聞くよ」
私は咄嗟に左手を振るわせてみた。
そして上目使いでフリード様を見た。
やっぱり『貴公子』と呼ばれるだけあって凄く綺麗。
風にそよぐ綺麗なプラチナブロンドに整った顔。
女の私よりも肌なんて綺麗だ。
なんで、この人が私の婚約者じゃ無いの?
お姉ちゃんには勿体ないよ。
なんでもかんでもお姉ちゃんばかり…
三等分..それは宝石や持ち物だけ…本当に平等なら…フリード様も分けてよ。
そうだ…お姉ちゃんはフリード様の前では猫被っていた気がする。
凄く優しそうに微笑んでいた。
あんなのお姉ちゃんじゃない?
本当のお姉ちゃんは社交の場に出ない、本を読んでいるだけの根暗じゃない!
それなのに…あれは嘘のお姉ちゃんだ。
騙されて『結婚』なんてフリード様が可哀想だ。
救ってあげなくちゃ。
私が、嘘つきの姉から救ってあげなくちゃ…
「その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい」
つい口をついて出ちゃった。
もう後戻りは…出来ない。
なら…お姉ちゃんから『貰わなくちゃ』 そうしないと私は全て無くしちゃう。
『貰っても良いよね』 だってお姉ちゃんは…宝石やドレス以外にも素敵な婚約者も含んで『他にも沢山持っているんだから』
第三十三話 過去 マリアは残酷な悪女…
「全く、あの馬鹿は本当に使えないわね」
「シャルロッテ様、余りそういう事は言わない方が…」
「そうね、まぁ当人の前では言わないわ」
「ですが、ロゼ様は伯爵家の方とはいえ次女ですよ? あの位持っているだけでも凄いと思いますが」
シャルロッテは少しイラつきながらシレ―ネの方をむきながら答えた。
「シレ―ネ、解っているわ…だからこそ、見るだけなのです、ドレーク伯爵は娘には甘い所がありますから、ロゼが言えば宝物であっても『貸す』と思います…その証拠に本来はマリア様の持ち物なのに、『幸運の女神の笑顔』をロゼが持っている位ですから」
恐らく、マリア様も妹には優しいのでしょう。
そうで無ければ、あの宝石箱をロゼが持っている訳が無い。
「シャルロッテ様、お聞きしても良いでしょうか?」
「どうしたのかしら? 改まって」
「あの、なんでマリア様でなくロゼさんなのでしょうか?」
「そうね、ロゼを除き全員が居ますから、伝えておいた方が良いわね」
【ロゼ派】
ロゼ=ドレーク (伯爵家)
シャルロッテ=ジャルジュ(伯爵家)
マリーネ=グラデウス(男爵家)父 王都警備隊 隊長 ※親友 シレ―ネ
シレ―ネ=フェルバン(男爵家)
ソフィ=マルゾーネ(準男爵家)
ケイト=アルトア(騎士爵家)
ティア=シャイン(騎士爵家)
シャルロン=ロワイエ(騎士爵家)
マレル=コーデニア(騎士爵家)
マーガレット=マンスリー(騎士爵家)
※ この世界の設定では『騎士爵=騎士』ではなく、一番下の正式な貴族が騎士爵です。
学者や、商家で実績をあげて騎士爵を貰い…剣も持った事も無い騎士爵も少数います。
ロゼ派の騎士爵の方の多くは…『殆どがこちら』です。
※ 長女、次女などについてはまだ考え中なので此処では書きません。
「私が何故、マリア様に手を出さないか? それは…マリア様は凄く怖い方だからよ…」
「シャルロッテ様が…怖いまた可笑しな事を言いますね」
《この方は、自分がのし上がる為なら何でもするし、王家すら恐れて無い様な人の筈ですが》
「マリア様が怖い? 何かの勘違いでは無いですか? お優しくて物静かな方ですよ」
「そうですよ…多分ビンタでもしたら、そのまま泣いてしまう様な方にしか思えませんよ?」
はぁ、あの怖さは直接、感じた人間にしか解らないわ。
まるで爬虫類みたいな感情の無い顔。
人を殺しても笑みを浮かべそうな破綻した性格。
そして、感情も無く人を殺せそうな、ガラス球みたいな目。
あれは、悪女…まるで黒薔薇を彷彿させる様な、悪魔の様な女。
あれは敵に回してはならない…恐ろしい女。
あの女が蛇の生まれ変わりだと言っても信じるわ。
「そうね、それじゃ私の仲間が私を裏切った場合、貴方達なら私はどうすると思う?」
「そうですね、私は絶対に裏切りませんが、家ごと潰されるか、場合によっては殺されるでしょうか?」
そこ迄しませんよ…そこ迄はね。
だが、マリア様は…それではすまない。
「正解…ではマリア様ならどうすると思う?」
「多分、笑って許してくれるのでは?」
「些細な事なら多分そう…だけど、本当に怒らせたら、恐らくは壮絶な拷問を与えて『殺して下さい』そう哀願する位死よりも残酷な事をすると思うわ」
「あはははっ、そんな冗談は止めて下さい! マリア様ですよ」
本当の怖さを知らないから、そう思うのね。
「そんな、生半可な人間をあの、イライザ様が派閥に望むと思う?」
「それは、なにか理由があるのでしょうか?」
「良いわ、話してあげる」
【さらに過去の話】
あの子は一体なんなのかしら?
大人ぶっていて、斜に構えているような気がする。
話掛ければ、話はしてくれるけど、それだけ。
観察してみていれば、良く解る。
人の輪に加わりたくない。
そう見えてくる。
自分が、伯爵家、それも私の家と違い古くからある家柄。
だから…『全てを見下している』多分、そう。
だが、それは私だから見破れた事。
他の人間には『地味で静かで気が弱い』完全にそう思わせている。
凄いわね…多分、それには誰も気がついていない。
イライザ様ですら…
だけど、私には解る。
あの子の凄さが。
公爵家の令嬢相手に普通に話、王族相手にも物怖じしないで話す。
そんな事が出来る人間が『地味で静かで気が弱い』わけ無いわ。
あれは、そうね、擬態だわ。
狼が犬に混じって生活するには…そうするしか無いわね。
さぞかし、この場も退屈で仕方ないのでしょうね。
私は彼女が気になって話しをしてみた。
「初めまして、マリアさん」
同じ伯爵家だ、これで良い筈よね。
「えーと、確かシャルロッテさんで良いのよね?」
「はい」
「どうかしたのかな?」
「いえ、退屈そうにしていましたので、お話しでもしませんか?」
「そうね、確かに暇ですから良いですよ」
やっぱり…違うじゃない。
本当に『地味で静かで気が弱い』そんな人間なら初見の人間相手にこんな普通に話せないわ。
そのまま普通に他愛のない会話を続けた。
そのまま続ければ良かったのだが、つい好奇心が起きてしまった。
だから、ついやってしまった。
「これは仮なんだけどさぁ…もし、爵位が上で気にくわない令嬢が居て引き摺り降ろしたいとしたらどうする? 」
《シャルロッテさんも、もしかして『読書家』なのかな? こういう時は、悪女物の本を参考に答えるのよね、多分》
「簡単ですわ、シャルロッテさん、そうですわね…相手に護衛が居ないなら、下賤な男に犯させれば、それで終わりです、恥ずかしくてもう表舞台には立てなくなります」
「あの、マリアさん」
「そうで無ければ、毒を顔に掛けて二目と見れない顔にしてしまうとか…」
「何をいっているの」
「後はどうにか誘拐して四肢切断のうえ死ぬまで拷問とか、王家への謀反の証拠をねつ造して国外追放…その上で盗賊に襲わせて奴隷落ちか、殺してしまうとかかな?この辺りが王道かもしれません」
「…凄い話ね」
「はい、私の知っている《本の中の》の令嬢ならこの位は当たり前の様にしていますよ~ …他には手足切断して樽の中で死ぬまで飼うとか」
「そんな人…いるの」
「はい」
怖い…貴族の中には昔は夫の代わりに拷問をしていた夫人が居ると聞いたけど…まさか『その家系』なの。
知っているって…私はそこ迄危ない人物は知らない。
マリア様は…危なすぎる。
※注意:あくまでマリアは『悪女物の小説』の話を勘違いして話しています。
【元に戻る】
「あの、それ多分マリア様の冗談ですよ…」
「あのね、もし今聞いたのなら、私もそう思うわ…だけど、この話は幼児の時に聞いた話なの、文字も読めない様な子供だったら、こんな話し見なければ出来ないわ…その証拠にあの時の私は、暫く夜は眠れなくなってしまったわ」
「あの…本当ですか?」
《言われてみれば…マリア様は何時もつまらなそうに皆を見ていた…そして今は》
「良く考えたら…マリア様は、確かに他の方と違うし…観察するように私を見ていた気がします」
「昔の貴族の婦人には『家族を暗殺から守る』そういう仕事もあったと聞いた事があります…確かにマリア様は古い家系で長女ですね…」
「いい、私達はあくまで『法律の中』その中で搾取するのよ…それなら多分マリア様は『裏の顔』をしないと思うから、良いわね、あくまで『法の中』でのみロゼから搾取するのよ…すり替えや物を奪う事は無しよ…良いわね」
「「「「「「「「解りました」」」」」」」」
《これがシャルロッテ様が、マリア様に『様』をつける訳なのね…確かに貧乏だからお金が欲しい、だけどお金の為に地獄の様な人生は嫌すぎる》
《マリア様に裏の顔がある…確かにしっくりくる、どう考えても子供の時から、まるで自分の母親と話している錯覚がした…これがその原因だったのね》
《本当にロゼさんにこんな事してて大丈夫なのかな…不味い事ならないかな、私は…平和に暮らしたい》
誤解は加速していった。
第三十四話 過去 『女神の愛し子』
私はシャルロッテ様が言っていた事が信じられなかった。
私がロゼ派にいるのは《シャルロッテ様》が居るからだ。
アルトア家は騎士爵、貴族の位では一番下だ。
だから、何処の派閥に入ってもこき使われ見下されるだけだ。
しかも私の父は法衣貴族、領地を持たずに国から出る年金(給料)で暮らしている。
私が婚姻を結ぶにしても碌な結納金も払えない。
だから、賭けに出るしか無かった。
ロゼ…様なんて分が悪いに決まっている。
私だって家が伯爵、せめて男爵家なら、イライザ様の派閥に入るよ。
騎士爵じゃ、入れて貰えない可能性もあるし、貧乏な私じゃ入れても惨めになるだけだ。
だから、脳味噌お花畑のロゼの派閥に入るしか無かった。
後悔はしていない。
ロゼは無能だけど、この派閥にはシャルロッテ様がいる。
この方は貴族なのに商才にたけ…素晴らしい才能の持ち主だ。
しかも…同世代の貴族の令嬢では恐らく私の目から見たら一番だと思う。
きっと裏からロゼを操って、本当は…
これは口には出さないが、ロゼ派は隠れ蓑で、本当はシャルロッテ派だ。
多分、皆もそう思っている。
その証拠にマリーネ様にシレ―ネ様がいる。
これなら、まず間違いは無いだろう。
この三人が居るからこそ、私達はロゼ派に入った。
その中心にいるシャルロッテ様が…マリア様を恐れている。
信じられなかった。
私の父は法衣貴族。
お金や領地は持ってないが、王宮で勤めているから色々な情報は早く入る。
だから、私は、お父様にマリア様について聞いてみる事にした。
「お父様、今お時間宜しいでしょうか?」
「別に構わないが、お前が私の所にくるなんて珍しいな」
私のお父様はいつも忙しそうにしているから、余り話す事は少ない。
だけど、私はどうしてもマリア様の事を聞きたかった。
「実は、マリア様についてもしかしたらお父様はご存じないかと思いまして」
「マリア様ってドレーク家のマリア様の事で良いのかな?」
「はい、そのマリア様で間違いないです」
「流石はケイトだな、多分お前達の世代で、頭が一つ飛び出ているのはイライザ様とマリア様だな…特にマリア様は…まぁこの辺りは言えないが特別だ」
今、お父様が何か言おうとして止められたわ…何かあるのかしら。
「お父様、なにかマリア様にはあるのでしょうか?」
「うむ、これは、あくまで俺の考えだ、かなり主観が入っているから、ケイトは自分の頭で考えるように」
「解りました」
「実は、噂話しだが、マリア様が幼い時にマヨネーズを作ったんだ」
「マヨネーズですか?」
「そうだ、それでマリア様が『今迄に無い画期的な調味料を作った』そう騒いでいたんだ、だから、他の大人の貴族が《それは『マヨネーズ』と言う物で昔に異国から伝わった調味料だよ》そう伝えたんだ」
「それがどうしたのでしょうか?」
「解らないのか?」
「はい」
お父様の話はこうだ。
確かにマヨネーズはかなり昔からある。
だが、その製法は一流の料理人のみが知っていて、その製法は『秘伝』にしていて一般的に伝えてない。
幾ら貴族だろうが、おいそれと自分達の秘伝を教えたりしない。
それに、もし教わったのなら『秘伝のマヨネーズを作った』そういう筈だ。
それに対して『今迄に無い画期的な調味料を作った』と言う事は、誰にも教わらずに作った事になる。
「つまり、マリア様は『自力でマヨネーズを開発した』と言う事だ、それに他にもある」
「他にも?」
「いま、私の掛けている眼鏡だが『つる』があるだろう?」
「確かに…」
「元は棒がついていて、手で持っていたのだが、こうして耳に掛ければ両手がつかえる…これを考えたのはマリア様らしい」
「ですが、それは単に思いついただけじゃないですか?」
「眼鏡も使った事が無い子供が初めてみて言ったんだ…まぁ偶然かも知れないが、凄いと思うぞ」
「確かに」
そこからのお父様の考えは実に馬鹿げていた。
お父様の話では稀に女神に祝福を受けた『女神の愛し子』が生まれてくる。
そういう昔話があるらしい。
そして『女神の愛し子』は前世の記憶や別世界の記憶を断片的に持っている事もあるらしい。
「マリア様はそれ以外にも、凄い面があってな、子供なのに偶にやたら凄く大人っぽく見える事もある」
「確かに、そういう話は聞いた事があります」
「それに、最近はポルナック夫人のお茶会に出席して、その派閥に入るなんて噂もある」
「噂ですか?」
「真相は解らないが、あそこには若い女性が居なくて博識のある人物しかいない…あそこで話すには、それ相応の知識が必要だ、本を読んで語り合う、そう考えたら『難しい本を読んで、独自の解釈を言える』それが最低出来なければならない、お前にそれはできるか?」
友人同士なら出来るけど…歳を召した貴族には言える自信は無いわ。
「マリア様はそれが出来るのですね」
「それだけじゃなく、6ケタの掛け算も完璧に出来る」
「凄い…」
「まぁ『女神の愛し子』じゃなくても神童には間違いない…こんな所だ」
拷問狂で、大人の貴族と対等に話せて…信じられない知識を持った人物。
駄目じゃないかな?
こんな人を怒らせたら…大変な事になる。
ならば…そのマリア様が愛している妹を害したら…不味いかも知れない。
シャルロッテ様は…本当に上手くやれるのだろうか?
もし、失敗して怒らせたら、そんなリスクまで犯してやる事じゃないと思う。
第三十五話 過去 物が無くなるのは別に辛くない
「お姉ちゃん、もっとドレスと宝石頂戴! 出来たら銘のある品を頂戴!」
この子は本当に…『アホ』なのではないか?
本当にそう思うよ?
腹が立つ通り越して、唖然となって…そして本気でそう思う様になった。
「お姉ちゃんって言わない! お姉さまって言いなさい」
こんなアホなのに憎めないのが、姉妹の怖さ。
これはこの世界で初めて経験するわね。
「それじゃ、お姉さま、く.だ.さ.い」
「あのさぁ、ロゼこの際だから言わして貰うけど!私の持ち物は三等分したわよね? 此処から更に求めるのは貴方が言っていた『ズルい』とは違うんじゃない? 私からしたらロゼがズルいになるわよ? 今現在は、お父さまやお義母さまに買って貰った分だけロゼの方が多いんだからね」
さて、今度はどういって駄々をこねるのかな?
此処まできたら…清々しいわね、さぁなんて言うのかな?
「確かにそうかも知れない…だけど、お姉ちゃんには宝石以外にも、フリード様やこの家だってあるじゃない…私にはそれは手に入らないわ」
見ていてイラつく。
欲しいなら、欲しいで努力すれば良いのに…
せめて、周りに意思表示すれば良い。
それすらしないで羨ましがるだけ…
私はこういう人間が、好きじゃない。
会社の後輩にも居たわ…禄に仕事もしないで周りの評価を気にして、給料が入れば後先考えないでブランド品を買い漁り、人の物を男でもブランド物でも欲しがる人。
大体、フリードが本当に好きで欲しかったのなら『今でなく、最初に話が来た時』その時に言うべきです。
婚約が確定する前なら、ロゼが食い下がれば私ではなくロゼが相手に選ばれた可能性もありました。
確かにフリードは美形ですが、好きかどうか聞かれたらまだ『好きではありません』
だって、お見合いをしたばかりで、何回か会ってお話ししてこれから『お互いに愛し合う関係になる』そういう段階です。
貴族なんてこんな物、私の昔読んだ本では主人公は『結婚前に会えただけ、お前は良いんだぞ』そう友人に言われていたキャラクターも居ました。
私は好きな男性が居たら..『いちゃつきたい』のです。
フーリードは、確かにカッコ良いですが、今の段階では『お茶を飲んで会話した』それだけの関係です。
まだ、『いちゃつく様な間にはなっていません』
少なくとも…キスもしてないし、手すら握って無い関係ですから…まだ譲れます。
「あのさぁロゼ、本当にフリードが好きなら、宝石や服の時みたいに『お姉ちゃん、フリード様を好きになったから頂戴』そこからでしょう?」
「お姉ちゃん?」
「それを言った後に、お義母さまやお父さまに『姉の婚約者のフリード様を好きになりましたから、お姉さまの婚約を破棄して、私にして下さい』そう言えば良い…そこ迄すれば、ちゃんと話を聞いてくれるわ」
私達は貴族だ…発言には責任を負わなければならない。
それが叶うかどうかは別だけど…欲しいなら欲しいと声を出さないといけない。
「そんな事出来ないよ…」
「あのね、それなら私に不満を言うのがまちがいなの! もし、本当にフリードが好きなら『ちゃんと言えば良い』その意向をお父さまやお義母さまに伝えて、そこからがスタート、場合によりペナルティはあるかも知れないけど、真摯には話しては貰えるわ、そもそも、この婚約の話が出た時には『私に限定されて居なかった』あなたが『私が』と言えば可能性はあった…まぁ先方は私を希望していたけど…そこから話し合いは出来た」
「そんなのは後出しじゃない…今はもうお姉ちゃんに決まった後じゃない」
「何もしないで、欲しがるばかり…それじゃ駄目じゃないのかな? せめて欲しいなら欲しいって言わないと駄目じゃない? 本当にこの家を継ぎたいなら『継ぎたい』と宣言して努力すれば良い…死ぬ程努力して『全てにおいて私を上回り、この家を発展させるのがロゼだ』そう思われる様に努力すれば良い」
「そんなの出来る訳ないじゃない…」
「派閥の長なのに? 貴方は今後、仲間を守る為に沢山の相手と戦わないとならないの…それでどうするの?」
「そんな」
《嘘…私、そんな事になるの?》
「それで、どうする…まず、フリードとこの家はどうするの?」
「私は要らないわ…」
「そう、それじゃ、今度は書面にするわ…ジョルジュを呼ぶわね」
「お呼びでございますか! マリア様」
ロゼ…貴方自分が屋敷の使用人にすら嫌われている事に気がつくべきだわ。
本来なら『お呼びでございます! マリア様、ロゼ様』そう言われるべきなのに…
「また、ロゼとの間に書面を作るから、立会人になって欲しいの、あと作った書類をお父さまに提出して欲しいの」
「解りました」
「それじゃ、ロゼ、貴方は、もうフリードとこの家の相続は放棄するそれで良いのね」
「マリア様、何を言っているでしょうか? 家督の相続と婚約は既に決まった事です…なのに、再度書類が必要なのですか?」
「まぁ、確約書みたいな物よ…本当に良いのよね! 違うと言うなら言って、多分これが最後だと思う…今ならまだ変更が可能かも知れない」
《怖くて、こんな反旗を翻すような事、言える訳無いじゃない》
「解ったわお姉ちゃん…それで良い」
「そう、解ったわ、それじゃこの事では二度と文句言わないでね」
正直言えば、これは家としての決まり事。
『その時』になって揉めるのは本当に困るのよ…揉めるなら今にして欲しい。
正直言えば、二つともロゼに渡しても構わない。
私にとっては《どーでも良い物》だ。
ただ、貴族に産まれたからはその運命からは逃げにくい。
『家族や他家を巻き込んでまで本当に欲しいなら譲っても良い…ううん是非譲りたい』
ただ、どっちつかずが一番困る。
「解った、約束するよ…それでねお姉ちゃん」
「お姉様!はぁ~解ったわ、宝石やドレスが欲しいのね…ならお義母さまから貰った宝石箱とその中に入っている物以外は持って行っていいわ….ドレスもこれらを除いて全部持っていってよいわ」
私はお義母さまから貰った宝石箱とその中身とドレス10枚を除きほぼ全部の物をロゼに譲る事にした。
「マリア様…本当に宜しいのですか? ロゼ様…使用人の私が言う立場では無いですが、本当にそれを望むのですか?」
「ジョルジュは黙っていて、これは私にとって必要な物なのよ!」
「そうですか…使用人である以上口を挟みませんが、ロゼ様、それを受取ると言う事は…大切な物を沢山失うのですよ、それをお考え下さい、マリア様が許可する以上はこれ以上は言いませんが…宜しいのですね」
「貴方に言われる筋合いはないわ」
「解りました、これ以上は言いません」
私はジョルジュに書類を作らせるとそのまま、お父さまの所に届けるように伝えた。
私は別に構わない。
私にとって宝石もビー玉もさして変わらない。
その位価値は無い。
それに、価値ある物はこの家に括りつけられているから…ある意味元から完全に自分の物ではない。
だが…これはきつい。
物が無くなるのがきつい訳じゃない。
ロゼが『妹と思えなくなった』それがきついのだ。
私の前世の友人に『妹に全て奪われた親友』が居た。
小さい頃から両親は妹を可愛がり、姉である彼女に見向きもしない。
彼女はテストで90点をとっても100点じゃないと怒られ。
逆に妹は70点でも褒められていた。
妹は何でも買い与えられ大学も、1人暮らしの家賃や生活費まで親が援助していたのに…
彼女は高校も大学も奨学金で通っていた。
いつもボロを着て、牛丼屋でバイトしながら大学に来ていた。
そんな中で出来た彼女の唯一の彼氏さえ、妹に取られた。
『彼女は地味で化粧さえしない』それに比べて妹は『いつも明るく綺麗』。
『妹はいつも会ってくれる』それに対して『お前は会ってくれない』。
当たり前だ、私の親友は『バイトしながら大学に通っていたのだから、時間が少ないのは当たり前だ』
結局彼女は『家族を捨てた』
此処までされたのだから…当たり前だ。
まぁ、この親友は仕事ができたから、後に私の上司になり…取引先の社長と結婚して幸せな人生を送っていたけどね。
彼女の口癖が『家族でもゴミはすぐに切り捨てる』だった。
今の私は…痛いほど彼女の気持ちが解る。
ロゼは多分『切り捨てなくてはならない』だが、この世界に生まれ変わり出来た、大切な『家族』だ。
物が無くなるのは『きつくない』
もし、私が平民に産まれていて、家が貧乏で妹が困っていたら、働いても、借金しても助ける。
だが、今のロゼは違う…虚栄心の為に平気で、人の大切な物すら奪いかねない毒妹だ。
馬鹿みたいに派閥の長になったから、引くに引けないのだろう…
『なら…いいや、私にとっては価値ないのだから、くれてやれば良い』
流石にこれ以上は望まないだろう。
「ロゼ…もうこれで良いでしょう? ただ、私は暫くは貴方の顔も見たく無いから、話し掛けないでね? 良いわね?」
「お姉ちゃん…」
「….それじゃジョルジュ、書類の提出頼んだわ」
「はい…ですが」
「良いのよ」
「あの、お姉ちゃん…」
「『お姉さま』でしょう?悪いけど顔も見たく無いから、目の前から消えてくれる、宝石は今持っていってね? ドレスはメイドに運ばせるから」
「お姉ちゃん」
「….」
私は黙って扉を指さした。
私の前世はミニマリストだから、物なんてどうでもよかった。
だけど『妹が意地汚く、私の事を姉とは思っていない』それが辛いのよ。
何処かの小説みたいに『恋人や家族をATM』としか見ない人間。
ロゼがそれに近いなんて…流石に思わなかったわ。
第三十六話 過去 お茶会にて
フリード様からお茶会に参加したいという申し出があった。
『貴公子』と呼ばれるフリード様からの申し出、本来なら喜ばしい事だけど…
フリード様はマリア様の婚約者。
そう考えたら、もう縁は無い。
今回はもしかしたらロゼ様の事を調べに来たのかも知れない。
駄目だ、どう考えても『それしか考えられない』
私の家、グラデウス家は男爵家…ドリアーク伯爵家と付き合いがあるとはいえ上下関係はある。
とてもフリード様の『お願い』を断る事は出来ない。
婚約者の居る男性が女ばかりのお茶会にまず来ない。
しかも、形上派閥のリーダーのロゼ様が居ない時と指定されました。
そう考えたら、何か思惑がある…そう考えた方が良いでしょう。
「私は当日、大切な用事があるので欠席しますわ」
シャルロッテ様は逃げてしまいました。
そうすると、自動的にこのお茶会は私とシレ―ネが仕切らないとなりません。
【お茶会当日】
フリード様は王都でも有名な砂糖菓子を持参されました。
流石は『貴公子』と呼ばれる事はあります。
ですが、明かに『お茶会を楽しむ』そんな顔はしていません。
女しか居ないお茶会に『婚約者が居る男性』が来る。
貴公子と呼ばれるフリード様がするでしょうか?
来られてしまった物は仕方ありません。
皆で、質問攻めにして、本題からはぐらすしかありません。
ですが、流石は『貴公子』いきなり本題を切出しました。
「そう言えば、婚約者の妹のロゼが元気が無いのだが、何か知っているかい?」
「「「「「「…」」」」」」
ロゼ様の話し…一瞬全員の声が止まってしまった。
不味い、失態だ。
「なにか知っていそうだね」
目が怖い…私がどうにかしないと。
まずは、私達の考えが他に洩れたら不味い…だから、この話は此処だけ、そう限定しなくてはなりません。
「あの…此処だけの話で、お怒りにならない、そういう約束であれば、お話ししたい事があります」
「ああっ約束しよう」
これで良い、仮にも『貴公子』と言われるフリード様、これで絶対に他言はしない筈。
此処からは画を書くように…有利な話をしなくては..
「それなら…」
どうしよう…私は頭の中が混乱していたのだと思います。
少しでもロゼ様が有利になる様に話していたら…自然とマリア様を悪役にしてしまった。
「ロゼはマリア様に何時も古い物を押し付けられていました、宝石からドレスまで全部マリア様のおさがりばかりで、お可哀想に新しい物を身に着けて来た事は少ないです」
駄目だ…もう方向転換は出来ない。
このまま、話を進めるしかないわ。
シレ―ネはオドオドして話に加わって来ない。
どうにか…無理ね。
「その様な事が」
「はい、それに何時もマリア様の取り巻きに、怒られ、時には怒鳴られ本当に不憫に見えました」
「そうですわ、楽しくお茶会をしていても、『もう帰る時間だから』とマリア様の連れに無理やり家に連れ帰られる事もしばしありましたわ」
ケイト、ティアは、私に同調している。
このまま行くしかないな、もう腹を括るしかない。
この派閥は形上はロゼ派なんだから、派閥の長であるロゼに有利に働かなくてはならない筈。
これで良い筈だ、引き返せないなら『これで行く』しかない。
「色々教えてくれてありがとう」
「「「「「「「「どう致しまして」」」」」」」」
もう賽は投げられた。
引き返せない。
【マリーネSIDE】
「あの、マリ―ネ、本当にこれで良かったのかな?」
「あら、シレ―ネ、さっきの私達の発言になにか問題でもありましたかしら? 別にわたくし、嘘は申してませんわよ」
「そうね…言われて見れば嘘は無いわ」
「でしょう? それをどうとるのかは彼方の自由、ロゼから送り物を貰っているから『多少の贔屓』はありますが、嘘をついていない以上責任なんてありませんわよ! おーほほほっ」
私達は『嘘は言っていない』
ロゼの身に着けている物は、家に代々伝わる様な高価な物ばかり、それに対してマリア様の身に着けている物は今も王都で普通に買える物ばかり。
恐らくロゼの身に着けている宝石の1つもあれば、下手すればマリア様の持っている物全てが買えてしまうかも知れません。
マリア様の取り巻きは、恐らくロゼ様のお母様がつけた者でしょう。
確かに良く怒られていましたが、それはロゼがマナー違反をしたり、余りにもマリア様に対して理不尽な物言いをしたからです。
悪いのはロゼです。
それに『もう帰るじかんだから』と連れ去られたのは、その後に家で家庭教師がお待ちだったからです…
これは貴族としてのやり取り、しかも『お茶会』の中の話…しかも『此処だけの話』そう約束した。
嘘をついていない以上咎められる事は無いでしょう。
『書面にすらしてないのですから』ね。
「あのさぁ、マリ―ネ、嘘は言ってないにしても、誤解する様な事はいうべきでは無いと思う」
「そうね、私もそう思うわ」
「何よシレ―ネ、貴方はロゼの味方しない訳?」
形上はロゼは派閥の長なのよ…それに今更、話の流れを変えもしなかった癖に、何を言うのよ。
「しない、私は、どちらかと言えばロゼが悪いと思うもの、そう思わないマレル」
「そうね…マリーネ、私もシレ―ネの方が正しいと思うわ」
「本当にノリが悪いわ、まぁ良いわ、話していても面白くないから行くわ」
確かに私の仕切りだけど、シレ―ネ貴方の仕切りでもあった。
何も出来ないでオドオドしていた癖に今更何を言うのかしら?
「そうね」
【シレーヌ.マレルSIDE】
本当に馬鹿ね、私達は貴族令嬢なのよ、それも此処にいるのは子爵以下の家柄のね…【強い方について弱い者を叩き潰し、引き上げて貰う】それが私達よ!
確かにロゼは色々な物はくれるけど、所詮はただの金づるでしかない、それに対してマリア様はドレーク伯爵家の正当な後継者。
どちらにつくか決まっているわ。
「ロゼ」「マリア様」 何故「様」をつけて呼ばれているのか、その意味を知らなくちゃ。
そして上位貴族で伯爵家の後継者であるから、あちこちに目を光らせている人間がいる。
あそこの使用人は恐らく、ドレーク家の者だわ。
こういう積み重ねが将来、自分の為になるのに…本当に馬鹿が多いわ。
『私達が嘘の情報を流そうが、あの貴公子と名高いフリード様が騙される訳ないでしょう』あの『貴公子』なら必ず真実にたどり着く筈よ。
その時に困らない為…私達はどっちに転んでも良い様に振舞う必要があるわ。
所詮利害関係で組んだ派閥、一枚岩ではない。
シレ―ネは『本来正しい」。
だが、シレ―ネは気がつかなかった…フリードが自分が思っていた以上にボンクラだった事実を。
第三十七話 過去 使用人の気持ち
ロゼ様、いやロゼはもう駄目だ。
あれはドレーク家を食い荒らす、害虫だ。
後妻のロザリーがこの家に嫁いできた時に我々は凄く警戒していた。
マリア様と上手くいくだろうか?
常に心配しながら見ていた。
この女も最低の女だった。
幼いマリア様に暴力こそ振るわない物の…心を傷つけていた。
だが、使用人として私達に出来る事は少ない。
仕方なく、暫く様子を見ていた。
何かあったら庇えるように必ずメイドか執事がマリア様の傍から離れない様にして…
どこで何をされるか解らないから旦那様に頼んで、何処に行くにもベテランの執事かメイドが同伴していた。
いつの頃かロザリー様はマリア様と打ち解け本当の親子の様に過ごすようになりようやく我々は胸をなでおろした物だ。
だが、問題は…ロゼ様…いや、あの人間に『様』なんてつける必要は無い。
あれは、まるで悪魔の生まれ変わりだ。
マリア様から全てを奪い取っていく。
特に、先代の奥様の形見の宝石箱を奪った時は…使用人全員が殺意を覚えた。
ローラは包丁を暫く眺めていた。
もしかしたら、頭の中で『ロゼを殺したい』そう思ったのかも知れない。
此処にいる使用人の多くはマリア様のお母様である先の奥様とそれなりの期間を過ごし、恩がある者も多い。
しかも奥様は『マリアを頼みましたよ』それが我々に対する最後の言葉だった。
そんな大切なマリア様から『大切な物を奪っていくロゼ』そんな者にだれが敬意を払えと言うのだ。
私だって実は短剣を握りしめた事も少なからずあった。
だが、我々はドレーク家の使用人、そこはプロ顔に出さない様にちゃんと給仕は行っている。
ただ、ロゼが見ていない所で舌打ちをしたり、陰口を叩くのは仕方ないだろう。
『心の底から嫌いなのだから』
幾らベテランの使用人であっても気持ち迄変える事は出来ない。
卑しく、マリア様の物を奪い続ける薄汚い娘。
そんな人間に誰が忠誠を誓えるというのだ。
『話したくもない』そんな人間相手に普通に接する、これ以上の事は…到底できない。
私は旦那様に『マリア様が色々と無くした』事を伝えた。
「ならば、生活に困らない様にしなくては」そう言われて我々はよく王都迄買いに行った。
だが、幾ら良い物を用意しても『新しく高級な物』は用意出来ても歴史的な価値がある物まで用意は出来ない。
幾ら言ってもあの娘は変わらない。
だから、せめて歯止めになればと、ロザリー様に頼んだ。
ロザリー様はその様子を見て、その都度小言を言ってはくれるが…自分が過去にした事もあり上手くいかない様だ。
マリア様は物が少ないし、ドレスも少ないからお茶会にはいくが、パーティーは欠席する事も多く、実に痛々しい。
私やメイドが気になり話しても『私は派手な所に行くより本を読んだり、お茶会で話すのが好きなのよ』と健気に振舞っている。
周りは全てマリア様を理解して味方してくれている。
これだけが救いだ。
そう長くないうちに、ロゼは結婚してこの家を出て行くだろう。
使用人に出来る事は少ない。
だが、その日まで我々は、仲間と共にマリア様がなるべき傷つかないように配慮する。
こんな事しか使用人には出来ない。
【フリード視点】
※第9話の視点です。
俺はそれから注意深くロゼを見張る事にした。
確かに令嬢達の言う通り、ロゼは古い物を何時も身に着けていた。
それに対して、マリアは何時も新しい、王都で売られている最新の物を身につけている。
明かに二人には差があった。
見ていて痛々しい。
更に二人を見ていると挨拶すらしない、そこまで確執があるのか?
本当にそう思えた。
確かに、マリアは長女でロゼは次女だ。
貴族に産まれたからには差があるのは当たり前だ。
だが、此処まであからさまなのは、見たことが無い。
何故、此処まで酷い事をするのだろうか?
しかも残酷な事に産みの親までもが、ロゼではなくマリアの味方になっていた。
良く様子を見ていると「貴方って子は」とか「マリアに謝りなさい」という声が聞こえてきた。
可哀想だ。
ロゼにとって、味方は恐らく殆ど居ないのだろう。
多分、友人だけが彼女の唯一の味方だ。
俺は…そんな彼女を見ない振りして結婚をして良い物だろうか?
そんな妹を虐める様な女性を生涯の伴侶に選んで良いのだろうか?
目を瞑る訳にいかないな。
俺は皆に【貴公子】と呼ばれている。
その俺が、ロゼを見捨てて、この状況を見ない振りしてマリアと結婚など出来ない。
俺は…どうしたらよいのだろうか?
第三十八話 過去 宝石箱の中身が…
「ロゼさん、歴史あるドレーク家とはいえ、貴重な物は余りお持ちで無いのね! やはり次女だからかしら?」
此処に来ても心が休まらない。
珍しい物や歴史的価値がある物を身につけるか見せないと馬鹿にされる傾向がある。
だが、その割には皆はそれ程の物は身に着けていない。
しかも、そんな中、シレ―ネさんとマレルさん、ケイトさんが派閥を抜けると正式に伝えてきた。
口頭だけでなく『家紋の入った便箋』で伝えてきたから本気なのが解かった。
私は派閥の長と言いながら、何かあげたり、恩恵を預けていないから、引き留める事が出来ない。
通常は『ならば、貴方のお父様が困る事に~』とか『今迄与えた宝石を全部返しなさい』等圧力を掛けれるが…私はなにもしてないから出来ない。
「「「今迄お世話になりました」」」と笑顔で伝えてくる3人が心底憎らしい。
特にシレ―ネさんはシャルロッテさんやマリーネさんと親しいらしくかなり揉めた。
「ちょっと、シレ―ネ、今更抜けるなんてどういう事かしら?」
「そうだよ、今迄3人で頑張って来たじゃない? 親友じゃ無いの?」
シレ―ネさんが、何故か私の方を見た気がした。
「ええっ親友よ! だけど家が絡んで来たのだから仕方ないわ」
《これは嘘…だけど、家を絡めて話せばシャルロッテ様だって文句は言えないわ》
「そう、家絡みなのね…なら仕方ないわ、今迄ご苦労様でした」
「そうか~なら仕方ないね」
マリーネ『ボソッ、後で詳しく教えて』
シレ―ネ『解ったわ』
こうして私のロゼ派は私を含み7名とより小さくなってしまった。
「ロゼさん、貴方が威厳を示さないからこうなったのよ」
シャルロッテさんに責められた。
だけど、今の私に何をしろと言うの….
もう大半の宝石は…うん? 違う。
お姉ちゃんは『綺麗な宝石箱』とその中の宝石は譲ってくれなかった。
あそこにある物がきっと名品や名のある宝石なんだ…
周りが此処まで言うのだから…うちには多分そう言った物が沢山ある筈だ。
お姉ちゃんは狡猾でズルい。
全部私に渡した振りをして本当に大切な物は…譲って無い。
あははははっ気がついちゃったよお姉ちゃん。
『本当に素晴らしい物』はそこにあったんだね。
騙したお姉ちゃんが悪いんだよ。
私を騙したんだから…『色々貰わなくちゃ』ね…
「そうね、確かにそうだわ、これからはもう少し良い物を身に着けるようにするわ」
「そうしてくれると助かるわ」
私は…ニコリと笑った。
あの宝石箱の中身が手に入れば…きっと問題無いわ。
第三十九話 過去 文句を言われる筋合いはないよね?
どうすれば、お姉ちゃんの宝箱が手に入るのかな。
言ってしまった以上はもう、後には引けない。
『ある場所は聞いた』あとはどうにかして手に入れなくちゃ。
だけど…形上は私の方が宝石もドレスも多い。
これでは…もうお姉ちゃんから『貰う』事は出来ない。
どうしよう?
最近、フリード様は、私の事を気にしてくれている。
『辛い事は無いか』『マリアに何かされていないか?』そういう風に聞いて来る。
確かにお姉ちゃんとは『フリード様を放棄する』そう約束はしたわ!
だけど、向こうから近づいてくるのは『私のせいじゃない』
しっかりとフリード様との仲を構築しないお姉ちゃんが悪い。
私からは近づかないよ…
だけど、フリード様から近寄ってくるんだから仕方ないよね。
フリード様は、何を勘違いしたのか、私が泣いている所に出くわして一生懸命慰めてくれた。
だから、お姉ちゃんと亀裂が入る様に『その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい』
こう言っただけです。
これなら、私が何かしたという証拠にはなりません。
この一言が問題視されるなら『騙されないで下さい…お姉ちゃんは本ばかり読んでいて貴族には向いてない性格なんです』
こう繋げれば、叱られる事はあっても…それで終わり。
それに『貴公子』と言われるフリード様の事、何か探るかも知れません。
散々、人に無茶ばかり言う『ロゼ派』なのですから…それとなく『私がフリード様に気があり、お姉ちゃんを疎ましく思っている』それだけ遠回しに伝えておきました。 形上私の派閥なのだから…私よりに証言するよね。
此処から何が起きるかは『私には責任無い』筈よ。
私が悪いとしたら『魅力があり過ぎるだけ』だもん。
これ以上は私はなにもしないよ。
これでフリード様が私に近寄ってきても私は知らない。
『私から仕掛けていない』のは誰が見ても解るもの。
私は元気が無いように振舞って…
「私は、次女ですし、お姉さまはドレーク家の長女だから仕方ない事です、それに私のお母様は後添いで、此処にいる使用人の多くの方はその前からの方ばかりですから…」
「仕方ありません…お父様もお母さまも、皆はお姉さまの事ばかり、きっと私なんて要らない子なんでしょう…次女や三女は良く長女のスペアと言われますが、私はきっとそれにさえにすらなれないのでしょう」
※9話より抜粋
悲劇の妹を演じてあげる。
これ位で何か変わるとは思えないわ。
こんな事でフリード様が私を見るなんて思わない。
だけど、此処までなら…文句を言われる筋合いはないよね…
第四十話 過去 ロゼ、愛され嫌われる。
フリード様から告白された。
自分でも何が起きたのか解らない。
フリード様はお姉ちゃんと結婚して当主になる方だ。
今現在、私には家の中に『味方は居ない』。
お父さまからはお小言をくらい、お母さまからは『マリアを見習いなさい』そんな事ばかり言われる。
私の本当のお母さまなのに、これじゃまるでお姉ちゃんがお母さまの子で、私が実の子じゃないみたいに虐められる。
本当に可笑しい。
まさかお姉ちゃんは魔法でも使っているのか…そう思う程に扱いが酷い。
使用人も元から居た、お姉ちゃんと私では扱いが違う。
最初は同じに扱ってくれていたように見えたけど、最近ではメッキが剥がれた様に私を雑に扱いだした。
もう、私には…味方がいない。
折角派閥の長になったのに、だれも応援してくれないから、上手くいかない。
だから、私はフリード様に媚びるしか無い。
これから、婿に入るけど、男だからお父さまに次いでこの家のナンバー2だ。
だから『問題が起きない程度』にお姉ちゃんの悪口を言って、同情するように仕向けた。
大袈裟に言ったけど…全部嘘じゃない。
※ そうロゼは思っています。
こんな事で結婚は崩れる筈はない。
なのに…なにこれ?
「ロゼ…俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
これは夢じゃないかな?
こんな奇跡…起きる訳が無い。
だけど…起きた…本当に夢の様な事が起きた。
「あの、私で良いんですか?」
そう答えるのが精一杯だった。
「俺はロゼが良いんだ」
凄く嬉しい….それと一緒に私は『お姉ちゃんに勝った』そう確信した。
この国では女は余程の事が無いと『当主になれない』
それはお姉ちゃんの母親にお父さんが婿に入ったのに当主がお父さんになった事でも解る。
女伯爵とその旦那ということには成らない。
だから、お母さんは是が非でも『男の子』が欲しかった。
だが、産まれて来たのは『私だった』
今の状況はどうだろう?
『お姉ちゃんは女』『後継ぎは男が必要』『事業の為に両家は揉める事は出来ない』 そして『婿はフリード様』
この状況からフリード様がお姉ちゃんでなく私を選んだのなら…自動的に『家に残るのは私』『そして嫁に出されるのはお姉ちゃんだ』
これは『私がした事』じゃない。
フリード様が勝手にした事だから…あんな約束は無効だよね。
私は告白をされてそれに答えただけ…これで文句なんて言われたら『言いがかり』だよね。
これで、あの宝石箱も中身事、私の物だよね?
だって、『この家から嫁いでいくのがお姉ちゃん』なら『家の物』でもあるあれは、残る私の物だ。
これで、私が欲しい物は全部手に入る。
良かった…本当に良かった。
「ありがとう、フリード様…本当にありがとう!」
私はとびっきりの笑顔でフリード様に答えた。
【館にて】
お姉ちゃんは滅多に宝石をつけない。
だったら、私が貰っても良い筈だ…
「お姉ちゃん、残りの宝石も頂戴!」
私はお姉ちゃんの部屋に突入した。
「どうしたのロゼ? 私、今は貴方の顔、見たくないんだけど?」
そうやって、澄まして居られるのも今のうちだわ…だって将来はお姉ちゃんは此処から出て行くんだもん。
「お姉ちゃん、ズルいわ、本当に価値がある物は自分の手元に残してクズばかり寄こしたのね」
「ロゼ、何を言っているの」
「だって貰った宝石は安物ばかりじゃない」
【マリアSIDE】
この子は馬鹿なんじゃないかな?
安物って言っても、あの中の安い宝石一つで市民の一か月の給料に相当するわよ…
国宝級の物3個も私が持っていたのは『お母さまの形見』だから、早くにお母さまが亡くなった私に特別に預けてくれただけ…
普通は貴族の娘だって持っていないわ…
「あのね…ロゼ、私そんな良い物持ってないわ」
「嘘ばっかり、お姉ちゃんが持ってない訳ないじゃない?」
馬鹿じゃないかな…本当に貴重な物はお父さまがしっかり宝物庫に鍵かけて持っているわ。
私が持っている訳無いじゃない。
「そう、そこ迄言うなら、この部屋から欲しい物全部持っていけば良いわ…その代りもう貴方とは口も聞きたくない」
「お姉ちゃん」
《私は取り返しのつかない事をしてしまったんじゃないかな》
「アリシアさん、ジョルジュを連れてきて…ほら、ロゼこのドレスも欲しいんでしょう? あげるわ…ほらっ」
私はクローゼットのドレスを片っ端から投げ捨てた。
「ちょっと、お姉ちゃん、止めてよ!」
「欲しいんでしょう? ほらあげるわよ! 4着残して全部あげる、ほらこれで満足でしょう?」
※4着は貴族として最低限必要な物…貴族でも何時もは普段着を着ている設定です。
「お姉ちゃん…」
「ハァハァ~ ジョルジュ来たわね、ロゼがね…まだ欲しいって言うのよ! 悪いけどまた書面にして!」
「マリア様、そんな事したら、もうこの部屋には何も無くなってしまうじゃないですか..ロゼ」
「良いわ、その先は言わないで」
「マリア様…解りました」
「わわたし…そんな、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、言わない! ほうらこの宝石箱の中身も欲しいのよね…拾えば良いわ…あっネックレスと指輪2個は残すわね、これはこの中で一番安い物三点だからね…お義母さまから貰った宝物の宝石箱もあげるわ…欲しいんでしょう?」
私は、宝石箱をひっくり返して全部床にぶちまけ、その中からネックレスと指輪2個を拾い上げた。
そして、前にロゼから貰った木箱の宝石箱に入れた。
「あああっ、あのお姉ちゃん」
「お姉ちゃん言わない! お姉ちゃん言わない! お姉ちゃん言わない!」
「ああっ、お姉さま」
「もう二度と『ズルい』なんて言わせないわ…それを拾って出ていきなさい、大変だけどジョルジュは書類を書いて頂戴」
「マリア様…」
「いいから!」
「….解りました」
【ロゼSIDE】
「あの、誰か拾って下さいませんか?」
「クソガキ、自分で拾えよ!」
「ジョルジュ?」
「すみません、つい口が滑りました、ですが今の貴方には私はお仕えしたくありません…それは貴方自身でお拾い下さい、今の暴言が気に入らないなら、旦那様にいいつけなさい、産まれて初めて仕えている方に暴言を吐きました…罰は承知の上です、では失礼します」
「あの、誰か、手伝って…」
廊下でアリシアをはじめ数名のメイドが見ていたので助けを求めた。
「あの、何か聞こえました?」
「誰かが手伝ってって言ってますね」
「それじゃ、手伝わなくちゃ」
「ありがとう…えっ」
メイドたちは一旦は拾ってくれたけど、廊下に出るとその場所にドレスや宝石を置いた。
「此処からは自分で運んだら如何ですか?」
「あの…」
「マリア様、このクズが部屋に居る方が困ると思いましたから外に出しました」
「ありがとう」
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん言わない!」
バタンと音を立ててドアが閉まった。
「誰か運んでよ!」
「あの、ロゼさま~…私達、貴方が大嫌いです! まぁプロですから、暫くしたらきちんと給仕します! でも流石に今の貴方は顔も見たくない、気にくわないならクビでも構いませんよ…それじゃ」
「私は前の奥様からマリア様を頼むと言われました、貴方は好きにはなれません」
「私も貴方は大嫌いです」
「そう解ったわ」
私は3回に分けてドレスや宝石を運んだ。
これで『全部私の物だ』見た感じ高級そうな宝石は無いが、見た目じゃ解らない、お姉ちゃんが最後に残した位だから、きっと素晴らしい物に違いないよね。
ドレスも全部質素だけど…多分歴史のある高額なドレスだと思うわ。
ムカつく執事にメイドもフリード様と私が結婚したら…追い出してやるわ。
待ってなさい。
【マリアSIDE】
あの後、ジョルジュにあまり大事にしない様にお父さまに伝えるようにいった。
流石にこの部屋にはもう、殆ど何も無いから突撃してこないだろうし…
しかし、よくぞ、ここ迄持っていったなぁ~
まぁぶつける様にドレスを投げて、宝石をぶちまけたのは私だけどさぁ~
あの宝石のどれもがロゼの手持ちより価値なんて無いのに、聞く耳持たないし。
何がしたかったのかな?
もしかしたら私が凄く嫌いで全部取り上げたかったのかな?
私は気にしないけど、これが他の貴族だったら『決闘騒ぎ』か『裏で殺されかねない』わよ。
まぁ私は断捨離してミニマムになった…それしか思わないけど…
だけど、此処までするなら『どうでも良い』『妹とは思わない』それだけよ。
だけど…姉妹ってズルいな。
さっき迄『大嫌い』だったロゼの事を心配してしまうんだから。
※多分、あと1話~2話あとようやく現代に戻ります。
過去篇にお付き合い頂き有難うございました。
第四十一話 過去 失った…
それから、お姉ちゃんは私と一切口をきかなくなった。
お母さまと一緒に居る事は多いが、その輪に私が加われなかった。
「私をお母さまは無視するのですか?」
そう思い切って聞いてみた。
「ロゼ、貴方には無理よ」
「そんな事はありません」
「そう、ならば一緒に話してみる?」
お姉ちゃんは私に話し掛けて来ない。
私から話し掛けると嫌そうな顔で答えてはくれる。
だけど…これは私には無理だった。
殆どが本の内容で、本を読んで無いと意味も解らない。
その本も一冊読めば良いなんて物じゃない。
物語から始まり、色々な話を読んでいないと会話すら出来ない。
最後にお母さまから言われた。
「これで解かったかしら? 貴方には無理よ…それにね、マリアは私の派閥なのよ? 貴方はロゼ派という別の派閥…派閥という繋がりは時として家族の絆を越えるのよ? 『ボルナック派の副リーダー』の私が同じ派閥のマリアと仲が良いのは当たり前じゃない…貴方だってそうでしょう? 実際に家族より派閥を優先しているんじゃないかしら? 違うかしら」
私の派閥はそんな楽しそうな物じゃない。
最近お母さまはお姉さまと一緒に紅茶を飲む事が多い。
そして茶菓子は、王都から取り寄せた高級菓子がある。
その御菓子は…私の口に入る事は無い。
「これは読書の際に食べる為にマリアと私が持ち回りにしているのよ! 食べたければ貴方もお金を出せば…ちゃんと渡すわ」
「それなら要りません」
話に加われない私が『そこに居ても』楽しくも何ともない。
そんな紅茶は要らない。
「私の為に馬車を出して茶菓子を買ってきなさい」
「何処のお店で何を購入してくれば良いのでしょうか? 馬車を出す事はご主人様はご存知ですか?」
「それは」
「なら致しかねます」
お父さまに頼んだら断られた。
お姉ちゃんやお母さんは『何かのついでに頼んで買ってきて貰うそうだ』
「ロゼ、少しは常識を覚えなさい、たかが菓子を買う為に数日かけて王都と往復する訳が無いだろう?」
「うっ、解りました」
私には何かのついで…それが解らない。
使用人と仲が良くないから、いつ馬車が出るか知らない….
此処には私の居場所が無い。
【お茶会にて】
「ロゼさん、それなんですの?」
「これが前にお話ししました、貴重な宝石です」
私はお姉ちゃんから貰った宝石を身に着けた。
ネックレスに指輪まで全部、あの宝石箱の中にあった物だ。
見た目は小振りな物ばかりだけど…これは全て貴重な物の筈だ。
「これが? へーえ、そうなのかしら? シャルロン、貴方のお父様は商会からの成り上がって貴族になったのよね?」
「はい、元は卑しい…」
「卑屈にならないで、貴方は私にとって大切なお友達なのよ! 私はそんな事思って無いし、私には無い素晴らしい目をお持ちだわ、その目の価値は誰にも負けない素晴らしい物よ…言い方が悪かったわ『お父様から教わった素晴らしい鑑定が出来るのよね』」
「はい、シャルロッテ様、物の目利きであれば『絶対の自信が御座います』特に宝石の鑑定はお父様の折り紙つきです」
「なら、ロゼさんの宝石を見て…正直に話してくれて良いわ」
「あの…」
「許しますわ、本当の事を言って良くてよ」
《余り言いたくありません、ロゼ様に恥をかかせてしまいます、ですがシャルロッテ様は商人から貴族になったお父様や私にも優しい方です、そして『私を素晴らしい』そう言ってくれた方です》
「すみません、鑑定と言う事であれば嘘はつけません…その宝石に価値はありません、その気になれば貴族でなく、少し裕福な市民でも手が出る品ばかりです、しかもみた感じ傷もあり、普段使い用の物です…その程度なら私の叔父の商会にすら普通に転がっています」
※シャルロンの父親は商人上りの貴族なので叔父は市民で市民、平民向けの商会です。
「そんな、これはお姉さまからもらった宝石なのですよ…そんな訳ありません」
「あるわ、貴方、上級貴族の宝石をシャルロンはしたのよ? もし間違ったら大変な処罰を喰らいます、その上で言った事を間違い! ロゼさん、あんた本当は目が腐っているんじゃなくて? 社交界の華になんてなれる器が無かったわね…私の目が曇っていたわ…皆さん、今日でロゼ派は解散ですわ…私が誘ったばかりに恥をかかせてごめんなさい、この通り頭を下げます」
「ちょっとシャルロッテさん、この派閥の長は私よ勝手な事しないで」
「たしかに…ですがロゼさん、たった1人になってどうやって派閥を維持するのですか?」
「皆さん…あっ」
全員が拒否するようにロゼから視線を逸らしてセンスで顔を隠している。
「これでお解り? 今迄ご苦労様でしたロゼさん、それじゃ私達失礼しますわね」
「「「「「失礼しますね」」」」」
嘘でしょう…私..もう一人じゃない。
ロゼ派はあっけなく解散してしまった。
※次に一話、過去から繋ぐ話を書いて現代に戻ります。
第四十二話 過去 ロゼ、最後に私に残った者
私にはもう何も無い。
お母さまはもうお姉ちゃんに取られた。
沢山の宝石があるけど、これらの物は二つ除けば価値が無いらしい。
ドレスは沢山あるけど『派閥を無くした』私には最早着ていく場所が無い。
『ロゼ派』を作ってしまったから、私を招待してくれる人は居ない。
お姉ちゃんが羨ましい。
色々な方から誘われているけど…私と違い断ってばかり。
お母さまの派閥に入ってからは『それを理由に断っている』がお母さまの派閥は緩いらしく偶に他の派閥の集いに出ている。
「うふふマリア、貴方が如何に舞踏会が嫌いでも、私が一緒じゃいかない訳にはいかないわね」
「そうですね、お義母さま」
今日も楽しそうに馬車で出かけた。
私は屋敷に1人ボッチだ。
お父さまは執務が忙しく、食事の時しか顔をあわさない。
しかも、最近は目が怖い。
使用人も全員、私に嫌な目を向ける。
だから、私は食事の時にお父さまに話かけた。
「あの、お父さま」
「ロゼ、何かようか?」
「あの…」
「用事が無いなら話し掛けるな、お前には仕事が山ほどある筈だが…」
「私は特に何もありません」
「そうか、沢山の宝石を抱え込んで『まだ手入れの仕方を誰からも教わってない』だろう? 早く学ぶべきだ」
「ですが、誰も私には話し掛けて来ません」
「ロゼ、確かにお前は私の娘だ、だが『人から物を教わる時は頭を下げるのだ』頭をさげ教えをこうむりなさい…特に家宝や国宝は傷つけたりしたら、お前でもそれなりに罰を下さないとならない」
「….解りました」
「義務を果たせ」
そう言うとお父さまは食事を終えて出て行ってしまった。
私には最早何も無い…何も…。
違う、フリード様が居る。
今の私は『何も持っていない』だけど、この間フリード様から『結婚を前提に付きあいたい』そう言われた。
フリード様と婚約すれば…全てが変わる。
『貴公子フリード』様が私の婚約者に正式になれば沢山の令嬢が悔しがるに違いない。
どんな宝石よりも輝く男性、それがフリード様。
噂では姫ですら目を奪われた事があるという。
綺麗な風になびく金髪に整ったマスク…お姉ちゃんが婚約者だからって諦めたけど…向こうから来たんだから仕方ない。
私が奪ったんじゃない。
お姉ちゃんが『優しくしないから、私の所に来たんだ』
私は悪くない…
フリード様が私と婚約したら『私は伯爵夫人』もはやシャルロッテなんかより上が確定。
イライザ様には敵わないけど…ロゼ派を名乗って裏切った連中は後悔すれば良いわ。
使用人もフリード様が正式に後を継いだら全員クビにしてあげるわ…
なんだ…私はなにも失っていないわ。
これから、全て手に入れるのよ。
フリード様から手紙が来た。
次のダンスパーティーで『お姉ちゃんを糾弾して私と婚約発表をしてくれるらしい』
お姉ちゃん、何をしたのかな?
フリード様の手紙では『王族の前で真実を明らかにする』と書いてあった。
よく考えたら…宝石の事と言い、お姉ちゃんには可笑しな事がある。
多分、使用人、場合によってはお母さままで巻き込んで何かしていたのかも知れない。
あはははっ…良いざまだわ…フリード様頑張って!
私は将来の夫に激励の手紙を返した。
※これで過去篇は終わります。
今迄読んで頂き有難うございました。
ようやく現代篇です。
第四十三話 【ここから現在です】 宝石箱事件顛末 前篇
『当家の家宝であり、今現在はロゼが管理している【幸運の女神の笑顔】に似た宝石箱が王都で販売されている』
今俺はその報告を聞いた、旧知の仲のビルマン男爵が見つけて購入して私に見せてくれた。
これはあくまで『似ている宝石箱』に過ぎない。
要所要所が違うから、同じとは言えない。
だが、どう考えても此処まで似せる事は『現物を見ないと出来ない』
「ビルマン男爵、その宝石箱を私に買い取らせて貰えないか?」
「いえ、これはドレーク伯爵様に現状を知らせる為に購入した物、そのままプレゼントさせて頂きます」
「すまないな」
「いえ、ですが数こそ少ないですが複数個流通しているそうです」
「教えてくれて助かった、この恩は必ず返させて貰うぞ」
「お気になさらずに」
ビルマン男爵を見送り、俺は執務室に戻った。
これは問題だ…今の管理者はロゼだ。
ロゼに聞く前に、使用人から証言を取らなくてはならない。
まずは執事長であるジョルジュに聞くしかない。
「【幸運の女神の笑顔】の宝石箱に酷似した物が出回っている、これがそうだが、何か知らないか?」
《心当たりはある、そのまま伝えるべきだ》
「恐らくはロゼ様とロゼ派の方が原因の可能性が御座います」
「どういう事だ…」
そこまで馬鹿だとは思わなかった。
国宝級の家宝を家から度々持ち出し、見せびらかした。
それなら、幾らでもデザインや工法を模写出来るでは無いか?
今回の件は『模写』を認めてくれるならまだ良い…認めない場合が最悪なのだ。
「それは本当なのか?」
「多数のメイドや執事から報告を受けております」
これで確定だ。
「ロゼを呼んできてくれるか?」
「畏まりました」
「お父さま、何の御用でしょうか?」
「お前、家宝の【幸運の女神の笑顔】を持ち出したって本当か?」
「ええっ、私の派閥の者が見たいと言うのでお見せしました」
「それで」
「素晴らしい物だから、絵に描きたいと言うので描かせましたが、それが何か問題でもありますか?」
やはり教育を間違えた。
『この位誰でも解る』それが解らないのだ。
これはロゼが悪いのではない…親である俺が悪いのだ。
執務が忙しいからと言って放って置いた俺の罪だ。
「そうか…お前はこれから先、真面になるまで社交界以外の外出は許さん」
「そんな、お父さまあんまりです」
「良いかロゼ、家宝は俺ですら滅多に家から持ち出さない…お前は勝手に持ち出して、面倒事を起こした」
「私が何をしたと言うのですか?」
「今…巷に【幸運の女神の笑顔】の模倣品が出回っている」
「そんな…ですが、その品の管理をしはじめたのは最近です、お姉さまのせいでは無いですか?」
馬鹿な、自分の罪をマリアに押し付ける気か。
「まだ、そんな事を言うのか? マリアはあの宝石箱を俺の許可なく家から持ち出した事はない、お前は、他の宝石も含み勝手に持ち出してお茶会で見せびらかしていたそうだな」
「ですが、全員、私の派閥の」
「もう解散したそうじゃないか? まぁ、まだ確定はしていない…ただ、家宝を持ち出して勝手に人に見せた、それだけでも非常識だ、その分の罰は受けて貰う」
結局、商会から調べあげていくとロゼのせいだった。
ロゼが絵を描くのを許可した結果、シャルロッテ嬢達がその絵を元に『新作』として宝石箱を制作して、知り合いの商会に作らせて販売した。
そう言う事だった。
これはかなりの大事だったので、元ロゼ派の家に事の経緯を報告した。
そうしたら、悪びれずジャルジュ家から手紙が帰ってきた。
手紙の大まかな内容は…
この度の商品は確かに【幸運の女神の笑顔】を参考にしているがあくまで参考であって『模倣』や『模写』では無い。
そう書かれていた。
しかも、ご丁寧に、手紙の他の添え状に『間違いない』と元ロゼ派の令嬢6名の家紋と令嬢の名前がサインしてあった。
そして、この宝石箱のデザインはシャルロッテ嬢とマリーネ嬢が参考に考えただけで決して『模倣』や『模写』では無い。
と強く書かれていた。
『特に図柄や宝石の位置はオリジナルで考えた』そう書いてあった。
シレ―ネ嬢 ケイト嬢 マレル嬢からは、個別に手紙が届き、ただ見ていただけで荷担はしてない、ただ止めなかった事を『深くお詫びしたい』そう謝罪文が届いた。
俺は《『模倣』や『模写』では無いなら仕方が無い》その旨を伝える手紙を送り…「本当にシャルロッテ嬢とマリーネ嬢が考えた物」か確認をした。
すると、文章は柔らかいが『言いがかりをつけるのか』それに近い内容の手紙が帰ってきた。
本当に仕方ない…今回の話は我が娘、ロゼが悪い。
その状況で、他の人間が地獄に落ちていくのは見たくはなかったが家を守る為だと割り切る事にした。
そして、ジョルジュ家の手紙と一緒に類似品のオルゴールを自ら王城に持参した。
【数日後、王城にて】
早馬を使い手紙を出し、急いで王都に出掛けた。
休む間もなく、王城に向うと手紙を読んだ王が直ぐに会ってくれた。
「此処に書いてある事が本当である事は、余の方でも確認済みだ」
「そうでございますか? ならば後の事は王にお任せします」
「馬鹿な奴らだ素直に『模倣』である、と認めれば、ただ叱りつけるだけで済ませられた、なのにこれを『自身のアイデアで作った』と言うなら重罪だ、余は大切な重臣を罰さねばならぬ」
「申し訳ございません」
「確かにロゼ嬢には非は無い…だが貴族の令嬢としては失格だ、親としてしっかり躾をする様に」
「本当に申し訳ございません、責任を持って躾けます」
「ならば良い…ドレーク伯もう下がって良いぞ」
「はっ」
貴族としての恥『王からお叱りを受ける』はめになった。
だが、ジョルジュ伯たちにこれから起きる事を考えたら…
確かに悪いのはシャルロッテ嬢やマリーネ嬢だ。
だがそれは『ロゼがしっかりしていれば防げた』
これから起こる事を考えたら…心が痛いのだ。
第四十四話 宝石箱事件顛末 後編
王宮から呼び出しが来た。
大体の話は解っている。
例の宝石箱の話だ。
確かにあれは【幸運の女神の笑顔】から作った物だ。
あれだけデザインを変えたのだ、問題はないオリジナルの筈だ。
だが【模倣】したと言われれば、そうともとれる。
しかし【模倣】を認めてしまえば、その元になったのだからとドレーク家に支払いが必要になる。
この宝石箱の収益は思ったより高かった。
そこにドレーク家を加えるのは馬鹿のすることだ。
だから、シャルロッテとマリーネが考えた物だと突っぱねた。
そこで…恐らくドレーク家が王家に何か吹き込んだに違いない。
どう見ても、元のデザインとは全くの別物…問題は無い筈だ。
だが、今回全ての関係者が呼ばれた事に…怖さを感じるが、問題はないだろう。
そう思いながら私は王宮に向かった。
【王宮にて】
王宮につくと既に今回の関係者のうちフェルバン家とコーデニア家とアルトア家が先に王と話し合いをしているそうだ。
他の者は応接室でくつろぎ茶をたしなんでいるそうだ。
私は、娘を伴い応接室にて合流して談話に加わることにした。
【謁見室にて シレーネSIDE】
「それでは、今回の宝石箱の件は三人とも関わり合いが無いと申すか?」
やはり、正しかった。
貴公子とも呼ばれるフリード様には見抜かれたようだ。
さっさと先に抜け出して良かった。
「はい、確かにマリーネや他の仲間が、宝石箱の画を描かせているのは見ました、何となくですが不味い気がしたのでさっさと派閥から抜けさせて頂きました」
「私もシレーネ様とお話した際に不審に思い、派閥から抜けさせて頂きました」
「私は、あの宝石箱はマリア様の物と噂で聞いたので、不思議に思い同じく抜け出させて頂きました」
フリード様がお茶会に来る等、普通はあり得ない。
やはり、あの時の直感は正しかった。
フリード様はお茶会で『ロゼについて詳しく聴いていた』恐らく、既にシャルロッテ様の計画を知っていたのかも知れない。
流石は貴公子、あの時の直感は正しかった。
あのまま、関わっていたら人生は終わったかもしれない。
しかし、ケイトは凄いわね『しっかりと私たちの様に抜け出していた』なんて侮れないわ。
「三家を代表して私が話させて頂きます、娘たちは、あの派閥に確信はないですが『不審』を抱いたそうです、ですがジャルジュ家は伯爵家、シャルロッテ嬢にその原因の追究は出来ない為、早々と抜けた、そういうお話です」
「確かに男爵家と騎士爵家の令嬢では諫めるなど出来ぬ相談だ、その責は問えない…解った、今回の事は不問にする…但し三人には今後このような事が起きたら、必ず親へ相談するように心がけよ、良いな」
「「「はい、必ずやそうさせて頂きます」」」
「ならば下がって良いぞ…但し、此処を出たら城門を出るまで何も喋らずに帰る様に厳命する」
「「「「「「はっ、畏まりました」」」」」」
フリードの能力とマリアを過大評価した結果、勘違いにより運よく三名三家は助かることになった。
【謁見室にて シャルロッテSIDE】
「【幸運の女神の笑顔】についてドレーク伯爵から話が出ているが何かあるか?」
王は優しく笑顔で聞いてきた。
「確かに、宝石箱を我が家、ジョルジュ家が制作販売をしておりますが、【幸運の女神の笑顔】を模倣などしておりません」
「それは本当か? 余にはこの宝石箱は『凄く似ているように見える』のだが」
「全くの別物でございます、確かにわが娘シャルロッテは【幸運の女神の笑顔】は拝見しましたが、その宝石箱は別物でございます、デザインや作りについてはわが娘とその友人達で考えた物でオリジナルの物にございます、まぁ過去にに見た物に似てしまうのは致し方無いと思いますが」
王は悲しそうな顔に少しなったが再び笑顔で話す。
「本当にここに居る令嬢たちで考え作った、そういう事で間違いはないのだな」
「はい、私とマリーネが主にデザインを考えましたわ…そしてそれについて全員の意見を聞き販売まで漕ぎつけた物でございます」
「そうですわ、間違いございません」
「そうか、皆は素晴らしい技術と才があるのだな、実に素晴らしい、他の令嬢たちもそれに間違いは無いのだな?」
「「「「はい、間違いはございません」」」」
「このジョルジュ伯爵の話しとシャルロッテ達の話は『家』として間違いないと言う事で良いのだな」
「「「「「「間違いはございません」」」」」」
王の顔から笑みが消え、目からは涙がこぼれていた。
「王よ何故、泣かれるのですか?」
ジャルジュ伯爵が口を開くと、王は泣きながらも懸命に答えた。
「これが【模倣】や【模写】そう認めて貰えば良かったのだ….それなら余の厳重注意で済ませられたのだ、それこそ、近衛騎士にお前たちの頬を殴らせ『暫く王宮への出入りは許さぬ』それで済んだ…だがこれを自分たちで考えて作ったというのなら、そんな軽い罪で済ませられぬ」
「王よ我々はどんな罪を犯したというのでしょうか?」
「王家の物を盗んだ罪だ」
「そのような事は致しておりません」
「【幸運の女神の笑顔】の由来については皆の者は知っておるのだな」
「有名な話ですので」
ジョルジュ伯爵が代表して答えた。
「そうか、ならば、お前たちが王家から盗んだ物を伝えよう『わが母のマリアーヌへの感謝の気持ちだ』それをお前たちは盗んだのだ、模倣なら許せた、だが自分たちで考えたというのなら立派な窃盗だ、法律に則り『王家の物を盗んだ罪により爵位、領地、役職のはく奪になる』」
「なんで、そうなるのでございます! 間違いなく自分たちで考えた宝石箱を作っただけでございます、それだけでございます」
「幾ら王とて横暴すぎますぞ」
「王様、幾らなんでもあんまりです、ただ頑張って宝石箱を作っただけで、何故全てを失わないといけないのでしょうか?」
この場には王と彼等だけが居るのではない、宰相や大臣もいる。
彼らは怒りを感じる者と『なぜ』と不思議そうな顔をする者と両方に分かれた。
「もう、お前たちの顔を見る事も無い…特別に余から教えてやろう【幸運の女神の笑顔】には余の母のマリアーヌへの思いが込められているのだ」
王は語り始める。
自分の母である先代王妃は自分と後の公爵夫人を守るために『自分の片腕を無くしたマリアーヌにただ事じゃない位に感謝していた』
嫁入り前の貴族の娘が自分達の為に『片腕を無くしてまで戦ったのだ』しかもそれが親友…どうして良いか解らない。
時の王は自分の娘を命懸けで守った恩賞に『この国で始まって以来最初で最後の【騎士の地位】』を送った。
これは爵位の騎士爵ではなく爵位とは別の物であり…この地位を持つ者は「王宮内で剣を携え歩くこと」「王族の前で跪く事無く会話をすること」が許されるという物だ。
王族の一番信頼できる者という意味の爵位とは全く別物の地位だ。
これは、北にあった他国の王族と騎士の話から考え与えられた物である。
騎士爵とは全く違う地位であり、マリアーヌ以外誰も許された者は居ない。
だが、これは時の王が送った物であり、先代王妃が送った物ではない。
先代王妃は自分を守ってくれた親友の為に【幸運の女神の笑顔】に一つ細工をした。
それは『オルゴールの音色』を変えた事。
マリアーヌへの感謝の気持ちを歌にして、曲に変えオルゴールの音にした。
つまり、このオルゴールの音色こそが『唯一無二』現王の母である先代王妃がマリアーヌに送った『この世に一つしか無い物』だった。
「マリアーヌ殿が居たから、母は婿をとり今の余が居る、そのマリアーヌ殿への母の気持ちを…盗んだのだ【模倣】ではなく、自分たちが作ったと言った以上は過失ではなく『盗み』である、本来は王家の物に手を付けたら死刑であるが、過去の功績を考え特別に市民落ちで許そう」
※男子が生まれなかったから第一王女が婿をとり、そして婿が王位についたそうお考え下さい。
「そんな…そんな…」
だが、この話を聞いて周りの顔色は変わった。
元から侮蔑の目を向けていた宰相や大臣以外も皆が蔑む目で見ていた。
最早、彼らの味方はいない。
「本来なら、市民としてであればこの国で暮らせる、『貴族籍を無くすことで罪が許される、貴族の特権である』だがこの状態ではそれも辛かろう、『国外追放とし、その代わり特別に金貨100枚迄と馬車を持ち出す事を許可しよう….今までこの国に余に仕えてくれた事感謝する、だが法は曲げられぬ、2週間のうちに立ち去れ」
それを伝えると王は背を向け目も合わせず退席した。
第四十五話 姉妹という名の呪い
ロゼが元気が無い。
確かにロゼは常識が無いと思う。
『ロゼ派が無くなり』その令嬢達が国外に追放となった。
ドレーク家は領地と王都での仕事が殆どだから、国外に行く事は殆ど無い。
だから、もう会う事は無いだろう。
私はロゼが『好きではないのだと思う』
『なんでも人の物を欲しがり奪っていく人間』
前世の私が最も嫌う人間の姿だ。
前世の私の親友に妹を持つ人間が居た。
記憶は朧気だが…凄く悲惨だった。
なんでも妹に『頂戴』と言ってとられ、子供の時には同じお小遣いを貰っていたのに、妹は駄菓子屋さんで自分のお菓子を食べ終わると『お姉ちゃん頂戴』と姉のお菓子を取り上げていた。
それが成長しても続き『お姉ちゃん頂戴』と文具やおもちゃまで取り上げられていた。
私が『両親に相談したら』とアドバイスしたら『「どうせ、お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」それで終わりよ』とあきらめ顔で目を伏せていた。
その『お姉ちゃん頂戴』はエスカレートしていき、彼女が頑張って良い大学に入っても『お姉ちゃんズルい』といっていた。
私から言わせたら…努力しないお前が悪い、チャンスは平等にあるんだから、そう言いたい。
そして決定打だったのは『姉の婚約者を妹が寝取った件』だ。
姉が上場企業の若手のホープと付き合い恋人となり、もうすぐ結婚。
そのタイミングで妹の妊娠が発覚した。
普通に考えたら、家族は妹を責める筈だ。
だが、家族は妹を責めなかった。
最初こそ、親は少しは同情していたが、途中からは『もう許してあげなさい』『過ぎたことは仕方ないだろう』と言い出した。
そして、最終的には元婚約者はそのまま妹と結婚して入り婿となった。
そんな環境で生活できる訳もなく…親友は家を出た。
「それで良かったの?」そう私が聞いた時に…
「あはははっ、娘は孫には勝てませんよ…あんなサルみたいな顔なのに両親の心を鷲掴みするんだからさぁ」
孫か、『孫可愛さ』それか…
だけど、不倫をして婚約破棄なのだから、頭にきたなら訴えて慰謝料でも取れば良いのに。
「そうですか? いっそう訴えちゃったらどうですか?」
「そうね…だけど姉妹だから、もう良いわ、まぁもう家族の縁は馬鹿らしいから切るけど、それでおしまい、貴方は姉妹が居ないから解らないと思うけどさぁ…姉妹ってだけで本当には憎めない物なのよ『どーでも良い』それ以下ににはならないのよ」
私だったら、もし同じ事をされたら『顔が解らなくなる位ぶん殴る気がする』
今の私には…少しだけど、名前も思い出せない前世の親友の気持ちが解る。
ロゼは馬鹿みたいにお父さまに『仲間の見送り』をしたい。
そう申し入れをした。
本当に馬鹿な子だ…自分を利用していただけの人間が追放されるからって『見送りにいきたい』だなんて。
大体『国外追放された人間を貴族が見送る』なんて醜聞しかない。
勿論、お父さまは断った。
そうしたら部屋に籠って泣いている。
本当に馬鹿だ…大体、相手にしたって憎みこそすれ友情なんて感じていないだろう。
下手したら殺されかねない。
ロゼのせいで『貴族籍』だけでなくほぼ全てを失ってしまったのだから、自業自得とはいえ恨んでいる筈だ。
ロゼは『悪人ではなく、ただの我儘な子供』なのだろう。
姉妹という名の呪いは本当に怖い。
此処までされたのに頭の中に『可哀想』という文字が浮かぶ。
今のロゼは軟禁状態で、お義母さまや使用人たちから監視され指導を受けながら生活している。
やった事は、完全に自業自得だ。
だが、私の頭の片隅に『可哀想』そういう文字が浮かぶ。
『顔も見たくない、話もしたく無いロゼ…それなのに可哀想』
可笑しな話だ。
本当に仕方ないな…一回私の方から話してみようかな…
今になり名前も思い出せない親友の気持ちが良く解った。
※多分前世の上司とはまた別な人物です。
第四十六話 ロゼの日々
最早、私には自由は無くなってしまった。
トイレ、お風呂、食事、それ以外の時間は部屋から出して貰えなくなった。
部屋に居る時間もお母さまや使用人達による『指導』という名の地獄が待っている。
今日は朝からジョルジュに貴金属の磨き方を教わっている。
「良いですか?ロゼ様…この貴金属磨きを、こちらのボロ布に付けて力を込めて一方向から磨くのです、石につくと傷がつきますのでご注意下さい」
※宝石には詳しくないので技術についてはかなり適当です、お赦し下さい。
「はい」
「ロゼ様、気をつけて下さい…万が一宝石に傷をつけたら、如何にロゼ様でも罰を受ける場合もありますから」
「解ったわ」
なんで私がこんな事をしないといけないのでしょうか?
こんな大量の貴金属を磨くなんて令嬢の仕事じゃ無いわ。
「今、宝石に貴金属磨きがつきましたよ、このまま磨くと傷がつきますから、一旦水で流して、もう一度…」
「ジョルジュいい加減にして、なんでこんな事私がしないといけないのよ? 貴方達がやれば良いじゃない!」
なんで溜息なんてつくのよ! その目はなに…
「良いですか、ロゼ様、此処の品物は、貴方自身がマリア様から取り上げた物じゃないですか? しかも書面上でも保管義務は貴方ですよ!自分の物を自分で責任管理するのは当たり前じゃ無いでしょうか?」
「そんな話は…」
「貴方のお母様であられる、ロザリー様も勿論、旦那様もしっかりと行っております、特にロザリー様は【太陽の神の目】は日に三度手に取り、少しの曇りもないように磨いています」
「そんな」
「良いですか? 素晴らしい物を手にするには責任と義務が生じます…特に国宝級の二つの品を万が一傷でもつけたら、流石のロゼ様でも大変な事になります」
ただの脅しよね…
「どうなると言うの?」
「その時にならないと解りませんが、ある家宝の皿を割ったメイドはその日のうちに手討にされました、貴族の令嬢でも片目を潰された話は聞いた事があります…旦那様はお優しいから、そんな事はしませんが、それでも鞭打ち位は覚悟しなくてはなりません」
「本当の事なの?…それは」
「はい、嘘は申しておりません」
「それじゃ、私は…そうよ家宝だけで良いのよね」
「ロゼ様…貴方の持ち物は、どれも高級な物です、全ての物に対して『手入れ』は必要です、しっかりと管理して下さい」
「そんな…それなら私は毎日、こんな事をしなくてはいけないじゃないの」
「自分から望んだ事でございます」
毎日、こんな事を2時間もやらされているのよ…ふざけているわ。
こんな手を汚すような仕事、私の仕事じゃ無いわ。
だから、お母さまに言いつけたら…
「それはロゼ、貴方の我儘よ! 貴重な品を持ったらきちんと手入れするのは当たり前じゃない…特に貴重な品の多くはその手入れを楽しむ物でもあるのよ…貴方もお父様が、パイプを磨いたり、剣を手入れしているのは見たことがある筈だわ」
確かに、見た事はある。
それより、お母さまの目は凄く冷たい様に見える。
どうして…どうしてそんな目で見るの。
それだけじゃない…今迄こんなに厳しくは無かった。
普通に笑顔で接してくれたお母さまが…
「ロゼ、そんな姿勢でなく、背筋を伸ばして歩きなさい」
「ロゼ、歩き方がなっていません」
「ロゼ、机に肘を乗せない」
何かある事に厳しく言ってくる。
何故、こんな事まで言われるのか解らない。
お父さまも会う度にお小言ばかりになった。
友達に二度と会えなくなるのに…会いにもいかせてくれない。
私は本当に悲しいのに、使用人に命じて、無理やり『勉強』をさせられた。
私にはもう会えなくなる友達を思う時間も貰えないの?
お姉ちゃんは何故か、最近優しく声を掛けてくれる。
散々『顔も見たくない』『声も聞きたくない』そんな事を言っていたのに…多分『見下したいんだ』ね。
派閥も無くなって、家族からの信頼も失った私を見て喜んでいるんだ。
なに、あの笑顔!
慈悲に満ちたような顔で私を見て来るけど、きっと裏で使用人と一緒に馬鹿にしているに違いないわ。
散々私を無視してきたんだから、私も無視する事にした。
あははははっ 悲しい顔をしているけど…『いい気味』だわ。
私は手紙を書いた『フリード様、助けて』と…
『早く助けてくれないと私は..私は駄目になってしまいそうです』
私にとってフリード様だけが唯一の希望なんだから…
【ロザリーSIDE】
結局ロゼ派は解散してしまったわ。
ロゼ以外が全て国外追放という最悪の状態で終わってしまった。
将来的に嫁いで『家の格』が下がる事を考えたら良かったと言えるけど。
だが、『終わり方が最悪』だわ。
せめて自然消滅でもしてくれれば良かったのだけど、犯罪者まで出した派閥のリーダー。
こんな傷物の娘…誰が貰ってくれるというのかしら。
国宝級の家宝を勝手に持ち出し、人に見せびらかしたこの醜聞はもう他の貴族に知れ渡っている。
幾つもの貴族の家が潰れたんだ、噂にならない訳が無いわね…
これで、今迄話が進んでいた『ロゼの婚約の話』は全部吹き飛んだわ。
今迄はドレーク家と縁を結びたい…そう考えている貴族達から引く手あまただった。
直接話をしてくる者、仲介をしてお見合いを勧めて来る者。
今迄は『こちらが選ぶ立場』だった。
だが、今は違う。
此処までの醜態を晒したロゼには…もう貴族での縁談は難しい。
流石に伯爵家の威光で無理やりというのはやりたくない。
だから話し合いの結果『一年みっちり、鍛え上げよう』そういう事になった。
社交界だけはしっかり出させて『見違えるようになった』そう言われるまでに育て上げなくてはならない。
その為には当人が嫌がっても、しっかり躾けなくてはならないわ。
私は初めてこの娘の為に心を鬼にする事に決めた。
【ドレーク伯爵SIDE】
どうにか、事態の収拾に漕ぎつけた。
殆どの仲間は『大変だったね』と表面では同情的だったが…裏では『娘の教育すら出来ない貴族』そういう烙印を押された筈だ。
貴族が醜態を晒すと言う事は、そういう事なのだ。
特に今回は『王』まで担ぎ出したのだ仕方は無い。
如何にドレーク家が被害者であっても『事件の解決も出来ない無能な貴族』その汚名は生涯残るかも知れない。
この汚名は『スズラの森の開発』を持って汚名をそそぐしか無いだろう。
それと同時に頭が痛いのは『ロゼの婚姻』だ。
今回の事件の後、今迄やたらとロゼとの婚約を望んでいた者達が手のひらを返してきた。
今の状況では『貴族との婚姻は絶望的』なので市民との婚姻も止む無しかも知れない。
だが、ロザリーとマリアが『『それはあんまりです』』と二人して言うから暫くチャンスを与える事にした。
ロザリーは『私が教育し直しますから』と言い。
マリアは『幾つかの宝石を手放し持参金を増やしましょう』『最悪、貴族との婚姻が難しいなら、私の宝石を手放しそのお金でロゼの為に爵位を買ってあげて下さい』そう提案してきた。
ロザリーは兎も角…マリアは子供だ、それなのにこんな提案をしてくる。
ロザリーに聞くと、マリアはこの齢で『大人の貴族顔負けの話が出来るのだ』と言う。
言われて見れば、ロザリーの入っている派閥は『マリア以外子供は居ないし、高齢な方も多い』。
そんな派閥に子供でありながら入っているのだ。
正直言えば『ロゼと足して2で割れないかな』そう思ってしまう。
今暫くはロザリーに任せ、最悪はマリアの言う通りにするしかないかも知れぬな。
いずれにしても頭が痛い。
【マリア、ジョルジュ他、使用人SIDE】
「今のロゼは、凄く落ち込んでいるわ、少し気に掛けてくれる」
「マリア様、貴方は優しすぎます」
「私は優しくないわ…『どうでも良い』そう思っている、だけどね姉妹は姉妹なのよ、だから落ち込んでいる姿は余り見たく無いのよ」
この方は何を言っているのだ…
普通はあそこ迄物を奪われたら憎む筈だ。
実際に他人である私もメイドですら見ていて気持ちよくない。
それを『どうでも良い』で片づけられる…そんなのは子供はおろか大人の貴族でも言えない。
「マリア様にとって人とは宝石とは何でしょうか?」
私は子供に何を言っているんだ…真面な答えなど返って来る訳が無い。
「そうね、宝石なんて人に比べたらガラス玉みたいな物かしら『みず知らずの他人と』と言われたら困るけど、貴方達に比べたら遙かに価値は無いわね、そうねジョルジュやメイドのアンの方が私のなかでは国宝以上に価値があるわ…上手く言えないけど『人に勝る宝石』なんてこの世に無いわ…これはお父さまやお義母さまには内緒ね」
使用人を国宝以上…こんな褒め方をする人物は貴族にいるのだろうか?
一部の人間がマリア様を『女神の愛し子』なんじゃないか、そう言うが…
女神は『人より価値がある物は無い』そう言ったという話がある。
確かにマリア様の考えに近いとも言える。
まぁこれは我々の贔屓目だろう。
だが、神童であることは間違いない。
宝石以上…そんな事を言われたら…やるしかないだろう。
「そうですな、旦那様にも言われていますから『気に掛ける』事にします、あとしっかりと教育しますのでご安心下さい」
「ありがとう」それだけ言うとマリアはその場を後にした。
「凄い方ですね」
「あの齢であの考え、出来る様な者に私は仕えた事は無い…だが宝石以上そう言われたら頑張るしかないだろう」
「そうですね、国宝以上のメイド、そんな言われ方したら頑張るしかあり得ません」
だが、事態は更に自分達の上をいくとはこの時は誰も思わなかった。
第四十七話 婚約破棄…こんなんで大丈夫なのかな?
毎日辛い日々が続きます。
時には死にたくなる位に辛い。
仲の良い友人は全員、国外追放になりました。
もう出会う事は無いでしょう。
残った三人は裏切者ですから顔も見たくありません。
あれ程仲の良かった、シャルロッテさんにマリーネさんにももう会えません。
家の中にも私には敵しか居ません。
お父さまも私に冷たく、会う度にお小言しか言いません。
使用人からも見下され、いつも雑用をさせられます。
※ 自分の宝石などを磨かされているだけです。
お母さまからは細かい事をチマチマ言われ、心が壊れてしまします。
※貴族としての考え作法を一から教わっているだけです。
お姉さまは私に優しい振りをして心で馬鹿にしています。
※腹をたてながらも『心配』しているだけです。
もう私には居場所が何処にも無いのです。
私にはもうフリード様しかいない。
この地獄の様な毎日から救い出してくれる、私の救世主様…
今の私にはフリード様から頂ける手紙だけが心の支えです。
ですが、最近、この手紙迄、家の者は訝し気に見ています。
このままではいつチェックされる様になるか解りません。
私は…自分の気持ちを手紙に書いてフリード様に伝えました。
するとフリード様から直ぐに手紙が届き、決行を早めて下さいました。
決行するのは1週間後のダンスパーティー、王族であるアーサー様の出席が決まっているそうです。
そしてお姉さまには『必ず出席するように』そう伝えたそうです。
あと一週間、あと一週間でこの地獄が終わるのです…
【婚約破棄決行日 マリアSIDE】
私は、いつもと違いフリード様から『必ず今日のダンスパーティーに来るように』そう言われました。
可笑しいのは、私がこういう場所を好まないので今回みたいに強く言われた事はありません。
確かに今日はアーサー王子が来るので『特別』なのかも知れません。
ですが…そんな重要な物なら、エスコートをしに来そうな物ですがフリード様は来ません。
仕方なく、私とロゼとで馬車を出して会場まで行く事にしました。
「お姉さま、私は少し用事があるのでこちらで失礼します」
「…解りました」
可笑しい、ロゼはもう派閥が無いし、友人は殆ど居ないと聞いています。
それなのに…『用事』
私は違和感を感じました。
フリード様が何処にも居ないので仕方なくエスコート無しで会場に入りました。
フリード様をなかなか見つかりません…廊下で探していると、使用人らしき男が『フリード様が呼んでいる』と言うのです。
思わず私は溜息が出てしまいました。
会場でエスコートもしないで、婚約者とはいえ同じ伯爵家の令嬢を使用人を使って呼びだすなんて、ある意味礼儀知らずです。
仕方なく、使用人の後についていくと…そこには フリード様が居て横にロゼがいました。
そして、いきなり私は公衆の面前でお叱りを受ける羽目になったのです。
【ロゼSIDE】
フリード様はお姉ちゃんに対して冷たいまなざしで見ています。
さぁ此処から始まるのです…私の幸せな日々が..
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
私は確かにお姉ちゃんに嫌がらせを受けています。
私を無視して見下す様な目で私を見ました。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
そうフリード様に言い返していました。
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
私がお姉ちゃんを嫌った、違うよお姉ちゃんが私を嫌ったんだよ。
そう思い、お姉ちゃんを睨みました。
言われて見れば、私お姉ちゃんとそんなに…過ごしていませんね…あれっ
まさか、これだけじゃ無いですよね?
他にちゃんとした『お姉ちゃんを失脚させる何かありますよね』
これは此処で打ち切ってと…
「待って、フリード、そんなに姉を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
まさかフリード様『それだけじゃ無い』ですよね。
お姉ちゃんが私を迫害していましたが…それだけじゃ大きな問題にならないような気がしますが…大丈夫なの。
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
これだけの材料で姉と婚約破棄出来るのでしょうか?
確かに私にお姉ちゃんや使用人は酷い事をしていましたが…証拠すら握って無いですよ…不味くないでしょうか?
その証拠にお姉ちゃんは強気で話しています。
「では、フリードはどの様にしたいのですか!」
待って…本当に此れだけしかないの?
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
これだけで本当に大丈夫なのでしょうか?
お姉ちゃんは別に困った顔になっていません..
ですがシャルロッテさんも『ただ絵を描いただけ』で国外追放…案外大丈夫なのかな?
「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」
フリード様は両手を広げて声を上げました。
まるで舞台に立つ役者のようにカッコ良いです。
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
流石、フリード様ですカッコ良い!
ですがお姉ちゃんが全然怯んでいないのが気になります。
「それは双方の両親、ひいては当主であるお父様達もご存じなのでしょうか?」
「まだ、知らせていない..だが」
えっ、まさか何も知らせていないのですか?
本当に大丈夫なのでしょうか?
「まどろっこしいです…貴族として正式のお言葉か聞いております」
お姉ちゃんの目が笑っていません。
この目は私も見た事がありません…心底怒っている、そんな気がします。
「マリア、元婚約者とは言え、無礼だぞ、だが…良かろう貴族として正式の言葉として伝えよう」
「謹んで、マリア.ドレーク婚約破棄をお受けします」
お姉ちゃんが婚約破棄を受け入れた。
多分、これで終わり。
私は勝ったんだ…これから私はきっと幸せになれる。
ようやく、ようやく不幸から解放されます。
ですが…まだ続きがあるのですか?
「そうか…潔いのだな」
何故、お姉ちゃんは泣きもしないで悲しんでいる様にも見えません。
婚約破棄が決まり、私の婚約が決まったのに…不気味です。
「別に、罪は認めた訳ではありません…私はフリードは嫌いじゃ無かったですが…まだ、婚約して結納を貰った位の関係です、心は【愛】にまで育っては居ませんでした、それは本来長い時間を掛けて築く物ですからね、今の時点で妹が良いなら仕方ない、今後良好な関係は築けないでしょう…ロゼ、誓って下さい! 貴方はフリードを本当に愛しているのよね?」
「良いのよ、ロゼ、フリードは嫌いでは無いけど「まだ、愛を育んでいない」から、ロゼ貴方にあげるわ」
私は…解らない、だけど此処まで来て違うとは言えない。
ただ、あの状態のお姉ちゃんとフリード様の付き合いが『愛』じゃないのなら…解らない。
だけど、もう私は後戻りできません。
「私はフリードを心から愛していましす…この愛にに生きると誓います」
「偽りはありませんか?」
どうして? お姉ちゃん…そんな真剣な顔をしているの?
「偽りはありません」
なんで呆れた顔をしているの?
「では、貴方に婚約者の地位をお譲りします」
「マリア…」
「もう、何も言わないで良いですわ…妹は貴方にふさわしいわ…お幸せに」
「すまないな…」
「別にどうでも良い事です、それじゃ二人ともお幸せに」
お姉ちゃんは…その後、不機嫌そうな顔をして壁の花になった。
だけど…その時のお姉ちゃんの目は今迄みたお姉ちゃんの目じゃ無かった。
まるでビー玉の様に『私を見ていない』
どんなに怒ってもあんな目なんてした事は無かった。
私はフリード様とダンスを踊っている。
なんで…今アーサー王子がお姉ちゃんに声を掛けた様に見えた..
まだ終わって無いの?
その後、私の思惑とは違い…いきなり宰相のユーラシアン様、それにお父様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達貴族がなだれ込むように入ってきました。
何が起きたの…頭の中がグルグルと周り私はなにも考えられなくなった。
第四十八話 全てが遅すぎた
ロゼがとうとう取り返しのつかない事をしてしまいました。
数日前にマリアとロゼの部屋を様子見した事があります。
その時、私が目にした物は、殆ど何も無いマリアの部屋でした。
貧乏貴族で生活していた私の部屋の方がまだ物がありました。
何故こうなっているか、想像はつきます。
マリアの物を取り上げる様な存在はこの屋敷にはロゼしか居ません。
『ロゼ、貴方は本当に私の子ですか』
ロゼの部屋で見たもの、それは持ち物に埋め尽くされた部屋でした。
しかも、大切な宝石も無造作に置かれています。
恐らく、マリアから無理矢理取り上げたのでしょう。
「ロゼ?」
この子は、自分の部屋とマリアの部屋を見比べて何とも思わないのでしょうか?
「どうかされたのですかお母さま」
「これは一体どういうことなの…貴方何をやっているの?」
「ちょっと待って、お母さま何しているの」
「良いから…黙りなさい」
マリアの宝石箱にネックレスに指輪、出てくる出てくる、しかも信じられない2つある物も沢山あるじゃない。
何を考えているの?
なんでもかんでも取り上げた訳ね…信じられないわ。
「お母さん、何をしているの? 勝手に私の物を出さないで」
此処まで、此処まで人の心を考えられない子になってしまったの…
「これは貴方の物じゃないでしょう? 半分以上がマリアの物じゃない」
1/3なんて物じゃない、あそこから更に取り上げるなんて信じられない。
目についたものだけで残されたマリアの宝石1/3の半分以上がある。
多分、他の所も見れば、更にある筈だわ。
「だって、マリアお姉ちゃんがくれたんだもん」
本当にくれたとしても…欲しがらなければ寄こす訳は無い、意地汚いにも程がある。
同じ物が幾つもあるじゃない?
中には主人や私が、2人に買い与えた物まで2つとも持っている…本当に意地汚い。
「あのね…流石に二つも同じ物は要らないでしょう? ドレスだってこんなには要らない筈よ」
「だけど、お姉ちゃんがくれたんだから関係ないでしょう」
「貴方が無理やり奪ったんじゃ無いの、知っているわ」
「お母さんだって同じことしていたじゃない」
確かに私もしていたわ…だからこれから返すつもりだ…そうしないと、この子の為に良くない。
「確かにそうだったわ、だからお母さんは返すつもりよ」
私が返せば、ロゼだって返さざる負えなくなる筈よね。
「そうなんだ、お姉ちゃんに返す位なら、私に頂戴」
「ロゼ、幾ら何でも怒るわよ、いい加減にしなさい」
この子が何を言っているのか解らない…まるで言葉が通じない誰かと話しているようです。
「なんで怒られるのかロゼ解らない」
逆になんで、この子は解らないの?
マリアに確認したら…本当にあげていた。
私がマリアに返しても、ロゼがきっと取り上げる。
その事を主人に相談したら…
「マリアだってあげた物をとり返すのは不本意だろう、マリアには生活費を余分に与えて新たに買いそろえよう」
という事になった。
私は教育を本当に間違えていた。
勝手に派閥を作り、家に迷惑を掛けた。
王迄巻き込んだ事件を起こしたのに反省が無い。
ようやく私も腹が決まったわ。
婚約者が居るからマリアには『マリアを結婚するまでの間に淑女にする事』
貴族の妻として充分な作法やマナーを自分が知る限り教えようと思う、それが私なりの恩返しだ。
だが、マリアは優秀だ、ただ教えるだけで簡単に覚えてしまう。
それに比べてロゼは…実の子ながら情けない。
あれ程の問題を起こして…それなのに『まだ前と同じままだ』
全然変わろうとしない。
皆がマリア以上に時間を割き、指導しているのに…
『自分からは何も変わろうとしない』
言葉で幾ら言っても解らない。
『ロゼは実の子だ、腹を痛めた子だ』
幾ら何でもそれはしたく無かった。
だが、此処まで腐ってしまったからには…もうこれしかない。
私は『鞭を手に取った』
あの子は…人の気持ちが解らない。
ならば、こうするしかない。
だが…こんな事はしたく無い。
私は思わず、躊躇してしまった。
今日は止めよう、明日にしよう。
それを繰り返していたら…
「貴方…今、なんて言ったの?」
「ロゼがまた問題を起こした、今度はマリアの婚約者フリードと共に『マリアの婚約破棄をして自分が婚約者にすげ替わる』宣言を王族の前でしたそうだ…これから行ってくる」
「私も行きます」
「今後どうなるか解らないが、恐らくこれから話し合いになる可能性が高い…そうなった時の為に、家の準備をしていてくれ」
「解りました」
私は目の前が暗くなった。
私は…殴りつけてもロゼを教育するべきだった。
さっさと『鞭を使った教育をするべきだった』
あの場で、マリアから取り上げた物を返させ、ちゃんと謝らせるべきだった。
私が躊躇した為に事件がまた起きてしまった。
そして、取り返しはもうつかない…
私は話し合いに備え使用人たちに準備をさせた。
それから暫くして、宰相のユーラシアン様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達とフリードが家族と共に帰ってきた。
夫の顔は凄く窶れていた。
衛兵に連れられた、フリードとロゼは両脇を抱えられていた。
「お母さま、助けて」
「私は神に誓って間違った事はしていない」
二人は喚き散らしていた。
その後ろでマリアは静かに下を向いていた。
私は…今度こそ間違えない。
「マリア、本当にごめんなさい…私の躾が悪かったばかりに、詫びは必ずさせて貰います、誰かマリアをすぐに部屋に、それからミルクティーとそうねお菓子を用意してあげて」
「お義母さま…私は大丈夫です、余り気になさらないで下さい」
「私も後で直ぐ伺います、今はゆっくりとお休みなさい」
「有難うございます」
なんでこんな大人の対応が出来るのよ『悲しいでしょう』『辛かったでしょう』それなのに…マリアは…
「悪いのは私、さぁお休みなさいな」
「はい」
私はマリアが部屋に行くのを確認した。
夫たちはそのやり取りを見ながら、応接室へと向かっていた。
此処で私に言葉がなく、ただ会釈で行くと言う事は本当に緊急な話だ。
私も同じ様に会釈で返した…本来は宰相のユーラシアン様がいるのだ。
だから、しっかりとした挨拶が必要な筈だが、今回はその時間すら惜しいのかも知れないわ。
「とりあえず、ロゼは自室にフリードは客室に軟禁しなさい、良い!トイレ以外は一歩外に出さない様に」
「お母さま、あんまりです、ロゼはロゼは悪くありません」
「ロザリー様、話を聞いて下さい、俺はロゼを不憫な思いをしているロゼを助けようとしただけなのです!」
此処に来てまだそんな事を言うのですか?
フリード、最早貴方には『殿』すらつける気にはなりません。
『貴公子?』こんな節穴しか持たない人間が『貴公子』よそ様の子ながら、ロゼと同じでどうしようもない人間です。
こんな人間『奇行子』で充分です。
「ロゼ…貴方、自分がどんな事をしたのか考えなさい、反省なさい」
「私は悪くありません」
パァーンッ、ロザリーはロゼの頬を叩いた。
「お母さま…なんで」
「馬鹿な子、反省も出来ないの…『人の物を盗っちゃいけない』そんな事は卑しい平民でも解る事です『大切な物を勝手に持ち出してはいけない』これも普通に平民の子だって解る事、貴方を人間だと思っていた私がいけなかった、これからは『獣に躾ける』つもりで対処します」
「お母さま…」
「まだ頬を打たれたいのかしら? とっとと行きなさい」
「解りました、お母さま」
もう私は貴方に何もしてあげれないかも知れません。
貴方達の処分は夫達の話し合いで決まりますが…貴族の婚約破棄は大事なのです。
きっと貴方達の思った以上の処分が下るでしょう..甘んじて受けて下さい。
「ロザリー様、なんでそこ迄、貴方はロゼを虐げるのです…貴方は母親じゃ無いですか?」
「私が虐げる、いえ…今迄私はロゼを甘やかしすぎていました」
「嘘だ、貴方も含み、使用人まで貴方達はロゼを..」
「黙りませんか!無礼者…マリアがロゼを虐げた? 貴方はマリアの婚約者の資格はありませんね、何処が『貴公子』なのかしら?その目は腐っているんですか? 節穴なんですか?」
「幾らロザリー様でも、そんな侮辱は許せない」
やはり、此奴はマリアに相応しくない。
「貴方こそ許せないわ、マリアはねぇ~確かに義理だけど娘なのよ? それだけじゃない私の派閥だから、私が庇う存在なのよ? それがロゼを虐げた? そんな濡れ衣着せられて黙っていられないわ」
「貴方はロゼの母親じゃないですか? 情が無いのですか」
「良いわ、今回の話は貴方のせいでとんでもない事になった、きっと後でしっかりと説明される筈、されなければ私がする…その上で判断なさい…自分が如何に愚かだったか、きっと気がつくわ…とっとと、この勘違い男を連れて行って」
「「はっ」」
「俺はロゼを…」
「見苦しい、早くつれて行きなさい」
あの『奇行子』真実を知ったらどうなるのでしょうか?
ロゼ、もう取り返しはつかないわ…今日の話し合いは長くなるでしょう…
そして決まった事はもうひっくりかえる事は無いでしょう…
最早、母として私は貴方に何もしてあげられないかも知れません。
そしてロザリーはマリアの部屋へと向かっていった。
※「奇行子」感想欄から頂き使わせて頂きました。
有難うございました。
第四十九話 姉と言う名の呪い
ロゼとフリードが大変な事をした。
あれ程、確認したのに…
さっき迄お義母さまが私に付き添ってくれて慰めてくれていた。
多分、こういう時、普通の子なら泣くんだと思う。
だが、私は涙が出ない。
これは前世の記憶が色濃くあるから。
一度、どの位迄の記憶があるのか自分なりに考えてみたらおおよそ40歳位までの記憶があった。
その後の記憶は無いからきっとその位で亡くなった可能性が高い。
「お義母さま、私は大丈夫です…ただ婚約者が裏切っただけですから」
「裏切っただけってマリア…」
「ですがロゼはこれから罰を受けると思います、これは私が『別に良い』そう言っても無理でしょう、恐らく心配で泣いているかも知れませんからお義母さまはロゼについてあげてください」
「マリア、貴方って子は本当に」
お義母さまは私を抱きしめると『ありがとう』と言い去っていった。
どんなに可笑しな子でも、ロゼは腹を痛めた実の子だ、お義母さまからしたら心配で仕方ない筈だ。
その証拠に私を慰めている時も手が震えていた。
ロゼについてはもうお義母さまも私もどうすることも出来ない。
家同士の話し合いで、まして宰相様まで一緒に話すのだ、女子供のもう出る幕じゃない。
ただ、先ほど聞いたジョルジュからの話で、事の顛末をお父さまが教えに来てくれる事と『私個人への償い』の話を予定している。
との事だ、話は長くなり今夜深夜まで及ぶから、私は眠っていても良いらしい。
おおよそ私の方の話し合いは午後になるとのこと。
正直言わせて貰えば『婚約破棄』なんてどうでも良い。
元から政略結婚だし、お見合いみたいに紹介されまだ数回お茶をしただけの男性だ。
勿論、この世界の常識で言うなら『婚約破棄、不倫』そういう扱いになる。
そして私の考えは可笑しいのは解る。
だけど、前世の記憶から考えると『婚約破棄』は兎も角『寝てもいない男』の事で不倫は無いと思う。
幾らイケメンエリートで上場企業に勤めるような超優良物件でも冷たいと思うかも知れないけど、そこまでの執着はないわ。
だって2時間、数回お話しした相手なのよ。
もし前世の世界だったら、婚約したから慰謝料は発生するけど、雀の涙貰えたら良い方だ。
本当にロゼが好きだと言うのなら…ちゃんと筋を通すなら『私は身を引いても良かった』
私が許せないのは…約束を破った事だ。
本当にフリードが好きなら『あの場できちんという』べきだった。
そしたら、そのままお父さまと話し合いになり…どう転ぶか解らないが、こんな大変な事にならなかった。
「ロゼみたいな馬鹿な妹…本当にどうでもいいわ」
…『本当にどうでもいい』…..どうでも良い?
『果たして本当にどうでも良い人間の事をこんなに考える物なのかしら』
ロゼなんて大嫌いだわ。
人の物なんでも欲しがって、奪っていく、最低な人間…『どうでも良い人間だわ』
私が一番嫌いなタイプの人間…『本当にどうでも良い、最低な人間』
可笑しい…ならどうして、私は腹がたったのだろう?
1/3の宝石やドレスを渡すのは確かに『ずるい』という言葉からわけたと取れる。
だけど…それ以上を渡す義理は無い。
それこそ『恥知らず』と罵り、ビンタでもしても普通の対応だ。
多分、それを咎める者は誰もいない。
だが、怒りながらも私は『渡した』…なんで怒ったの?
宝石を奪われたから…違う…私にとって宝石は価値なんて無い。
それじゃなんで…
『妹が私の気持ちを考えずに、取り上げようとする…その妹の気持ち』に腹がたったんだ。
今もそうだ『フリードを奪われた』そんな事じゃなく『約束を破った』ことに腹がたっている。
なにこれ。
あははははっそういう事なのね…
『宝石もドレスもどうでも良い』 だって私には価値が無いから…
『フリードもどうでも良い』だって数回会っただけの他人だから…
だけど…『ロゼはどうでも良くない』
馬鹿で、アホで腹が立つ…どうしようも無いクズ女。
『妹』でないなら多分、最も嫌いなタイプの女。
だけど…『妹』だから『どうでも良くない』
あははははっ気が付いてしまったわ。
『あんな妹が、私の中では『どうでも良くない』んだ』
少なくとも『どんな宝石やドレス』以上には大切なんだ。
前世の私には姉妹は居なかった。
前世の友人の顔がうっすらと思い浮かぶ。
【お姉ちゃんだから仕方ないんだよ】
そういった彼女の顔は確かに悲しそうだったけど…それだけじゃ無かった。
そこには『大切ななにかを慈しむ表情』もあった気がする。
良く思い出せば『口が笑っていた気がした』
今の私には、少しだけ解る気がする。
こんなの呪いじゃないか?
『妹だというだけで心底嫌いになれない』
『私にはどうでも良い事、だけど普通に考えればロゼのやっている事は悪魔だわ』
それが…許せてしまう。
私は『姉』というとんでもない呪いに掛かってしまっていたようだわ。
こんなのはそれ以外、何でもないわ。
第五十話 私にはどうする事も出来なかった。
お父さまたちが私の部屋に来られた。
お話では宰相のユーラシアン様とオルド―伯爵様はもう帰られたそうだ。
「それでな、マリア、今現在決まった事だが…」
お父さまは政治的な事で決まった事から話された。
具体的な内容は…
?婚約は破棄になったが両家の仲は良好であり問題無い
?スズラ森の開発はこれまで通り、両家で責任を持ってやる。
?王家に承認を貰った婚約を破棄した責任としてスズラ森の開発で手に入った利益の20%を王家に向こう10年差し出す
?今回問題を犯した二人には貴族の資格は無いと判断し貴族籍等は与えず、市民に落とす
?仲人役のオルド―伯爵には顔を潰した償いとして金貨1000枚を支払う筈だったがマリアに渡して欲しいと言われ辞退された、だがそういう訳にもいかないので半分の500枚を渡し半分をマリアに渡す事になった。
「此処までが政治的に決まった事だ、これからはお前についてだが、これはまだ提案だ、お前の意思を聞いてから決める事にする、あと事情の説明の為にドリアーク伯爵とフリードにお前の部屋を見て良いと許可を出した、事後報告になるが許して欲しい」
私の部屋になにかあるのかな…まぁ良いや。
「別に構いません」
私に関わる事は…
?私とフリードの婚約は破棄。
その際の経緯についてはフリードの有責である事を事細かに王に説明する。
勿論、私には一切の非は無く王が認めた婚約を破棄した責任はフリードとドリアーク伯爵が負う。
?婚約の際に納められた金品はフリードに非がある為に返却の義務はなく、全部私の物。
?ドリアーク伯爵が責任を持って『フリード以上』の婚姻相手を探す、勿論爵位の譲渡はマリアの夫に引き継がれる
?、フリード、ロゼに謝罪をさせる…その際はどんな暴言を吐いても責任はない
?フリードとロゼの婚約は有効…ただ貴族では無くなる、その際に金銭の援助を1回のみ認めて欲しい。
こんな内容だった。
いや、かなり重すぎるんじゃないかな。
話をしながら、お父様もドリアーク伯爵様も、お義母様も下を向いて悲しそうだが【そんなに悲しまないで欲しい】
私は何とも思ってないんだから。
「お前からしたら、腹の虫が収まらないと思うが、これで許してやって欲しい」
「私の娘が本当に酷い事したわ、本当にごめんなさい、私の躾が悪かったからこんな事になった、恨んでも恨み切れないでしょう…ですが私には謝る事しか出来ないの、ごめんなさい」
「愚息が本当に申し訳ない事をした…この償いは必ずする、許して等貰えないのは解っている、だが今はせめて謝罪をさせて欲しい」
そこ迄の事は私は望んで無い。
…寧ろ二人から恨まれたくない気持ちの方が強いよ。
「それで、マリアお前はどうしたい? 今回の件はお前は完全に被害者だして欲しい事があれば出来るだけ盛り込もう」
此処までしたら、後々家同士の関係に、亀裂が入入るんじゃないかな?
「そうですね、私と『フリード様の婚約の破棄』これは王族であるアーサー様の前で行われた事なのでこのまま破棄にするしか無いでしょうね…経緯をしっかり説明してくれるならそれで構いません」
「そうだな」
「お父様、身分の事ですがもう少しどうにかなりませんか?」
「そうだな、確かにしでかした事を考えたら市民じゃ駄目か? マリアが言うなら平民にまで落とそう」
「確かに此処までしたんだ、それも仕方ないだろう」
「マリアちゃん、あれでも娘なの…市民で許してあげて」
「そんな事考えてませんよ、どうにか貴族のままでいられる様にしてあげれませんか?」
「マリア? お前それで本当に良いのか? あらぬ疑いを掛けられ婚約破棄されたんだぞ、ロゼに恨み位あるだろう?」
「我が愚息がした事だが、普通に考えて許せる事じゃないだろう、公衆の面前で恥をかかされたのだからな」
確かに貴族としてならそうなんだろうな。
だけど、婚約者を取られたからと言って、それぞれの人生を壊すのはやりすぎだと思う。
少なくとも前世なら【振られたからって地位や財産迄根こそぎ奪われる事は無い】慰謝料を僅かに貰えるだけだ。
此処は貴族社会、完全にそう言ってしまっては不味いわね。
「確かに嫌な思いはしましたが、ロゼは可愛い妹だし、フリードは友人です、楽しい思い出も沢山あります、だから、余り酷い事はしたく無いのです、どうにか2人が貴族でいられるようにして頂けませんか?」
「マリア…貴方って子はなんて良い子なの、 それに比べてロゼはロゼはあああああーーっ本当にごめんなさい」
「マリア、お前の気持ちは良く解った、だがな、今現在はこの国は平和で豊かだ、誰も爵位なんて手放さない」
「もし売りに出されても騎士爵位しかまず無い、それも相当お金を積まないと買う事が出来ない」
確かにこの世界は剣と魔法の世界では無いわね。
どちらかと言えば、乙女ゲーに近い。
そう考えたら安定している世界だから、爵位を手放す者は少ないだろう。
だけど…何か見落としている様な気もする。
「それなら、私への慰謝料を減額して、騎士爵を買い上げ二人を貴族の末席に残してあげる事は出来ないでしょうか?」
「愚息の未来を案じてくれた事は感謝する、だが、愚息は剣が苦手だ、更にもう宰相のユーラシアン様に伝えた後なのだ、今頃は王に伝わっておる無理だ」
「そうだな、マリアの気持ちは解ったがもう遅い」
そうだ…
「それならば、ロゼとフリード様が結婚するなら、私がドレーク家の家督を手放します、そうすれば、全て丸く収まります…私はそうね、ロゼとフリード様が貰う筈だったお金を貰って、王都で市民として暮らしますわ」
これで良い筈よね。
「マリア、それは母として認めません、私はロゼの母ですが、貴方の母でもあるつもりです、 悪い事した娘が良い人生を歩み、正しく生きる娘が不幸な人生を生きるなんて許せません、 家督は貴方の物。 それだけは、なにがあっても覆ってはいけないのです」
昔は私を追い出そうとしていたのに、今は凄く優しい。
だけど、私は別に良いんだけどね。
だって、追い出されたとはいえ、伯爵家だから恐らく金貨3000枚位はくれる筈。
金貨1枚、前世で言う10万円くらいだから3億円。
私からしたら、何の責任も無くこんなお金が貰えるなら、そっちの方が良い。
王立図書館の司書になって本に囲まれながら暮らして、生活に困らない。
うん、そこに私の幸せはあるんだけどなぁ。
「マリア、優しいのは良いが、貴族としてお人好しはいかんよ! 幾ら妹だからって甘やかしすぎは良くない、出て行くのはロゼだ」
「マリア嬢にそんな事させたら、もう責任の取り方が解らなくなる、婚約者の妹と不倫した挙句、家まで愚息が手に入れた、そんな事になるなら俺は彼奴を手に掛け引退する」
私は本当に良いのに…結局、当初の話通り、何も変わらなかった。
※この話は前の物語にかなり重複していますが…この微妙な変化がエンディングの大きく関わってきます。
お見逃し下さい。
第五十一話 後悔
俺は今、ドレーク家の客室で軟禁状態にある。
ロゼとは別々の部屋に引き離された。
俺は特に酷い目にはあっていない、ただ、それは肉体的にであって、精神的にはボロボロだ。
「この部屋から出ないから、席は外して貰えないだろうか」
「それは出来ません、今の貴方はお客では無いのですからな」
こんな扱いは今迄受けた事は無い。
「俺がマリアからロゼに婚約相手を切り替えたからか? それでも俺には当主になる算段がある」
「それは、それは…もしフリード様がドレーク家の当主になられるのでしたら、このジョルジョ如何様にでもお詫びしましょうぞ、なんなら命を差し出しても構いませぬ、ですが、今の貴方様は客ですらありませんので、この部屋で見張らない訳にはいきませんな」
これでは、まるで犯罪者の扱いではないか。
「そうか? お前はロゼではなくマリアの方につくのだな? ならば俺が当主になったらクビにしてやる」
「別に構いません、勘違いされては困りますから言わせて頂ければ、私はドレーク家に仕えております、マリア様やロゼに仕える訳ではございません」
「そうか、まぁ良い」
俺はそれしか言えなくなった。
暫くすると、父上がこちらに入ってきた、他の人間は居ない。
「お前みたいな奴は息子とは思いたくない、はっきり言えば顔も見たくない」
そこ迄いわれた後にいきなり殴られた。
俺は間違った事をした覚えはない。
「父上いきなり殴るとは…せめて理由位は聞くべきでは無いですか?」
「フリード、だったら聞こうではないか? 何の相談も無く、ここ迄愚かしい行動をとった訳をな!」
「父上…」
俺は見聞きした物、どういう思いで行動したのか、その全てを話した。
「そうか…実に愚かしく馬鹿な奴だ、お前は貴公子などと呼ばれて浮かれておったのだな…これが息子かと思うと頭が痛いわ」
「どういう事でしょうか?」
「もう、よい、最初に言っておく! マリア嬢との婚約破棄は確定した、そしてロゼとの婚約は成立だ良かったな息子よ」
「そうですか、ありがとうございます父上」
「ああっ、所でお前もロゼも貴族で無くなり、今後どうやって生きていくのだ? まぁ、もうどうなろうと知らぬが一応は聞いてやる」
貴族で無くなる? 俺もロゼも?
「その事で父上にお話しが御座います、長い間マリアがロゼに嫌がらせをしていました、私はその様な女と結婚はしたくないのです、だからロゼと」
「だから」
「だからって、父上、ロゼがが酷い目にあっていたから俺が助けたんだ」
「良かったじゃないか? 助けられて、よくやったおめでとう…話が全部終わったら、さぁ二人でハッピーエンドだ、何処にでも行くが良い」
「父上…父上は幼い頃から【正しい事を成せ】そう私に言って来たでは無いですか?」
「ならば、言わせて貰う…まず、ドレーク伯爵家の爵位はマリア嬢に紐づけられている、如何なる理由があろうとそれは揺るがない」
「ですが、マリアは…」
「例え、マリア嬢が人格破綻者であろうが、マリア嬢と結婚した者がドレーク伯爵家の正当後継者だ、お前は自分からその資格を捨てた」
「ですが、それではロゼが救えなかった」
「そうだな…だが、俺だったらドレーク伯爵の後を継いでから、ロゼの様子を見て、幸せになれる嫁ぎ先を探す、これが貴族らしい正しい道だ、お前が選んだ道は、貴族の責務を果たさない、ロゼと一緒に幸せになれない、誰1人幸せになれない、そんな道だ」
「それでも俺はロゼの傍に居て救ってやりたかったんだ」
「そうか、もうお前は後戻りは出来ない、どっちみち、マリア嬢との婚約破棄、ロゼとの婚姻が決まった、貴族としての人生は終わった、だが、それだけでは無い…多分これから知る事実がお前にとって一番衝撃を受ける筈だ…ついてこい」
「一体どこに行くと言うのですか?」
「まずは、ついて参れ」
何処に行くと言うんだ…此処は…ロゼの部屋。
「フリード様、ご無事で何よりでした、ロゼはロゼは…」
「ロゼ、大丈夫か? 何か酷い事はされていないか」
「何時もの事です、もう慣れました」
《良いか、この部屋の様子を見ておけ》
「父上?」
「ロゼ、お前と息子の婚約は成立した」
「本当ですか? 嬉しい、ありがとう御座います!」
「礼などは要らぬ、後で両家で話し合いの結果を伝える、しばし待つが良い」
「はい」
ロゼ無事でよかった、本当に良かった、この時の俺は本当にそう思っていたんだ。
「それで父上、今度は何処に行くのですか?」
「今は他の部屋に行って貰っているが、本来の婚約者だったマリア嬢の部屋だ」
「マリアの部屋ですか?」
「そうだ…」
何故だ、さっきよりも父上の顔が怒っている様に思える。
「此処がそうだ..許可は貰っている、クローゼット以外であれば開けて良いと許可も貰った」
「これがマリアの部屋…ですか」
「そうだ」
嘘だろう、この部屋にはベッドと机以外、殆ど何も無いじゃ無いか?使用人の部屋ですら、もう少し何かありそうな物だ。
「父上、これは私を騙そうとしているのですか? これが貴族の娘の部屋の訳が無い」
「マリア殿は質素を旨にして生きている、金品に執着は無く望むがままに欲しがった物はロゼにあげてしまったそうだ」
「そんな」
「見ての通りの部屋だが…どう考えてもお前の言い分とは違うな」
「これは…これは何かの間違いです」
「間違いではない」
「そんな..」
「ここからは私が説明させて頂きます」
「ロザリー様…これはどういう事でしょうか?」
「身内の、いえ娘の恥を晒すようで余り言いたくは無いですが、ロゼは何でも欲しがる卑しい子です」
「そんな、ですがマリアには新しい物を買い与え、ロゼが持つ物は古い物ばかりでは無いですか…」
「ロゼがマリアの物を何でも取り上げるから、マリアの物が無くなり買い与えていただけです…貴方も見たのでは無いですか? 豪華なロゼの部屋を、貴方が見た物が全てです」
「ですが、使用人からしてロゼに厳しくしている様に見えますが、これはどう説明しますか」
「マリアは貴族としての礼儀作法は殆ど完成しております、それに比べてロゼはまだ基本すら、うろ覚えです、教育を任された者が厳しくなるのは当たり前かと思いますが」
教育…あれが、そうなのか。
「だが、やり過ぎではないでしょうか」
「ロゼは人の言う事を聞きません、我儘で甘えて辛抱しません、その結果未だに、貴族として必要な教養が無い状態です、厳しくても仕方ないとは思いませんか」
「そんな…ならば俺は」
「自分の娘を悪く言いたくないですが、恐らくはマリアの婚約者だから、貴方が欲しくなったのでしょう、悪い癖です」
「それでは俺は…なんの罪もないマリアと婚約破棄をし、騙されてロゼを婚約者にしてしまった…そういう事ですか?」
「馬鹿な息子だ、伯爵の地位をお前にもたらし、質素を旨としている婚約者を捨て、我儘な妹を選ぶとはとんだ【貴公子】だな」
「お父上…私はマリアに、マリアになんて事をしてしまったのでしょうかーーっ、せめて謝りたい、いや謝らせて欲しい」
《本当に馬鹿な息子だ】
「お前は何を言っているんだ? マリア嬢はもうお前の婚約者では無い! お前の婚約者はロゼだ、貴族籍を持たぬな、そしてお前も貴族籍を持たない…これから先は市民として暮らすしかないだろう、我が家とドレーク伯爵家からは家を出た者として扱う事になるだろうな」
「そんな、俺は…貴族で無くなるのか…ロゼも」
「そういう事だ」
「やりなおし…そうだまだやり直しが」
「出来る訳ないだろうが、王族が居る前で、婚約破棄宣言したんだ、もみ消しは効かないな」
「そんな」
「まぁ、そこ迄して選んだ相手なんだ、良かったじゃないか? 結納代わりに手切れ金を渡してやる、これが父として最後の情けだと思うんだな」
「そんな、俺は俺は俺はーーーーーーーっ」
俺は目の前が真っ暗になった。
ロゼに全て騙されていた…そうだ、ロゼとロゼの友達が俺を騙したんだ。
大切な婚約者のマリアへの想いを捻じ曲げられた。
許せない…
「お父上…私を謀った者が居ます、ロゼ以外にも、我が家と付き合いがありながら俺に嘘を…」
「その者達は、もう別の咎で『国外追放』されている、もうこの国の者ですら無い…それがどうした?」
「俺は騙されていたんだ!」
「だから、なんだ?」
「だから、騙されて…」
「貴公子なんて言われて浮かれていただけだろう? 何故筋を通さない! 調べるにしても何故、屋敷の者を使わない、うちの執事は全員優秀だ『相談』すれば的確なアドバイスもくれた筈だ…少なくともロゼの性格は社交界でも有名だった」
「ですが…」
「それに婚約破棄するなら『俺に相談する』のが筋だろう? お前は俺を飛び越え王が王印を押して認めた婚約を破棄できるくらい偉いのか…えっ貴公子」
「それは…そうだ、今からでもマリアに謝罪します、どんな事しても許して貰います」
「だから、それに何の意味がある? まぁ謝罪は後でしっかりして貰うが」
「何故ですか?、私はマリアに謝って…生涯かけて償うつもりです」
「お前は馬鹿か? お前が生涯かけて守るのは『ロゼ』であってマリア嬢じゃない…それにお前はなんでマリアと呼び捨てているんだ、もう貴族ではなくなるのだから『マリア様』と呼ぶように…お前はもう使用人以下になるんだ、今は許すが街であったら、当家の使用人や他の使用人にも『様』をつけるのだぞ」
※貴族の執事やメイドは市民の中では身分のある扱いになります。
「お父上…私はマリアに詫びたいんだ…あんな悪魔の様な女に騙されて俺は馬鹿な事をした」
「馬鹿野郎がーーーーっ お前の婚約者は『ロゼ」なんだ『ロゼーーーッ』マリア嬢じゃないーーーっ、お前が今後の人生で守る存在はロゼなんだよーーーーっ解ったか」
「ですが」
「ですがじゃない…もうマリア嬢は婚約者じゃない…いい加減にしろ」
「そうですよ、ロゼを宜しくおねがいしますわね」
「ロザリー様?」
「そうよ、貴方の婚約者はロゼ、マリアじゃもう無いわ、まぁ私はどっちみち母親ですが、貴族でなくなるのですから余り縁はないでしょうね」
そんな、俺は、俺はこれからの一生を『俺を騙した性悪女』と共に過ごさないといけないのか?
しかも、貴族でなくなってまで…そんな女と居なくちゃいけないのか?
『ロゼが悪でマリアが善』それが解かったのに…俺は全てを奪われ『悪』と共に人生を歩むのか…
「父上」
「暫くこの部屋で反省していろ…その後は謝罪だ」
俺の人生は…終わってしまったのか?
※これもこの後の展開に必要なので書きました。
この後、ロゼ視点が1話位入り、物語は終わりへと向かっていきます。
第五十二話 ロゼ
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
此処までは良かったのよ…
だけど、冷静に考えたら凄く不味いと思う。
だって『たかが意地悪をした位で私とお姉ちゃんの立場が変わる』なんて起こる訳ない。
他に何か切り札がある、普通はそう思うじゃない…だけど、何も無かった。
何かお姉ちゃんの重大な過失を知っている。
そう思っていたのに…何もなかった。
【↓ 時系列で言うと49話後51話と並列位です】
そしてその結果 結果、私は自分の部屋に軟禁されています。
此処に来る時はお父さまたちに『まるで犯罪者を見る様な目』で見られて横に衛兵迄いました。
しかも、フリード様や私の言い分は全く聞いてくれません。
そしてお母さまはお怒りになり、初めて頬をぶたれました。
その後もフリード様は一生懸命弁解していましたが、その結果お母さまは更にお怒りになりました。
これからどうなるのでしょうか?
宰相様まで来られたからには、多分とんでもない事になりそうな気がします。
凄く長い時間が過ぎた気もしますが。多分実際にはそんなにはたっていないと思います。
お母さまが来てくれた。
「あのお母さま…私、何かしてしまったのですか?」
「ええっ、もう取り返しはつかないわ…いま皆で貴方とフリードの処遇を考えている所よ!」
「どうして…そんな」
「貴族の婚約は事前に形上だけど、王に許可を得るのよ、その王が許可を出し王印を押した物を勝手に反故にした、しかも王子の前で、これは私にはもうどうにもならないのよ…」
「そんな、私はこんな事になるなんて知らなかった…」
「そう…馬鹿な子、だけど、もうどうしようも無いのよ」
そう言うとお母さまは私を抱きしめ泣き始めました。
これは、どうする事も最早出来ない気がします。
私は前に『大切なお友達』を無くした時も何も出来ませんでした。
そして今度もきっとそうです。
なんで私の大切な人は…どうしてこう、後先考えないのでしょうか…
その後、フリード様が顔を出しにきましたが…
「フリード様、ご無事で何よりでした、ロゼはロゼは…」
「ロゼ、大丈夫か? 何か酷い事はされていないか」
「何時もの事です、もう慣れました」
途中からフリード様を遮りドリアーク伯爵様が話し始めました。
「ロゼ、お前と息子の婚約は成立した」
「本当ですか? 嬉しい、ありがとう御座います!」
「礼などは要らぬ、後で両家で話し合いの結果を伝える、しばし待つが良い」
「はい」
フリード様と私が婚約したなら『義理のお父さま』になる筈です…ですが憎しみが籠った目で見られた気がします。
フリード様も何だか凄くお窶れになっています。
フリード様達と一緒にお母さまは出て行ってしまいました。
「ロゼ、出来るだけの事はするつもりです、ですが…あまり期待はしないで下さい」
そう言いながら、お母さまは泣いていました。
さっきから此処にいるメイドたちの目も凄く怖いのです。
「あの…1人になりたいのですが」
「駄目でございます」
「命令します、出て行きなさい」
「それは無理でございます、今のロゼ様の命令はきかないように旦那様から言われております」
「そんな」
「….」
明かに可笑しい、今迄も嫌な目で見られた事はあったけど…今日のはそれとも違う。
本当に心から嫌う様な目…私にはメイドたちの目がまるでガラス玉の様に見えます。
もう、私には…本当に何も無い…
部屋の中には豪華なドレスや宝石はあります…普通に考えたら信じられない位沢山あります。
ですが…見せる相手が居なくなっては、何の意味もありません。
もしかして必要以上に欲しがったのが悪かったのでしょうか?
お姉ちゃんの物を根こそぎ奪ったのが悪かったのかな…
だから『お姉ちゃんには嫌われても仕方ない』のかも知れません。
立場が逆で『私がお姉ちゃんに同じ様に奪われたら』
あははははっ許せるわけないですね。
だから、今ならお姉ちゃんに嫌われるのは解ります。
だけど…なんで、なんで他の人迄、私を嫌うのでしょうか?
ロゼ派の人には親切にした覚えしか無いし…使用人にだって冷たくした覚えはありません。
社交界でも『きちんとしていた筈』です。
確かに『多少の自慢はしましたが』こんなのは貴族の子女では当たり前の事です。
だからお姉ちゃん以外に私は酷い事をした覚えはありません。
お姉ちゃん?
お姉ちゃんは別に良いのです。
だってお姉ちゃんですから『お姉ちゃんは私のお姉ちゃんです』『お姉ちゃんだから良いのです』
だって『私のお姉ちゃんですよ』「お姉ちゃんは私の者だから』『私の家族なんだから』少し位迷惑掛けても良いじゃ無いですか?
だってお姉ちゃんは家族だし…身内だし…小さい頃から一緒だし、許してくれる筈です。
多分子供の頃の様に『仕方ないなぁ』って笑顔で許してくれるよねお姉ちゃん。
私はお姉ちゃん以外に迷惑を掛けた覚えはないのに..なんでこんな事になるんでしょう。
そんな事より今は『フリード様』です。
これから先の事は不安で一杯ですが『フリード様との婚約』は正式に決まりました。
なら、大丈夫な筈です…
きっと物凄く怒られるかも知れませんが…王様絡みだから仕方ありません。
ですが…フリード様との婚約が決まったなら、多分幸せになれる気がします。
【きっと大丈夫です】
まさか、そのフリードから憎しみの目を向けられるとはこの時のロゼは思ってもいなかった。
※ 少し感想欄から頂いたロゼの性格に寄せてみました。
時系列を加えてみました。
第五十三話 シャルロッテとマリーネ
わたしとマリーネは国境の街、ロストにいます。
ロストは本来は国の領内であるが、唯一『国外追放された者が居ても良い街』ですの。
その理由としては『国外追放された者でも国に用事が出来るだろう』と考えた昔の王が作った街で、国に入れない者でもここ迄の入国は許されます。
最も犯罪者以外という条件付きで…まぁ、『国に知り合いが居たりする人間は此処にきて手紙を書いて来て貰ったり、この国にしかない物は此処で買え』と言うことらしいです。
確かに商人なんかを罰した為に、実入りが少なくなる権力者もいるから、そういう事の為に作ったのだろうと思います。
国外追放の刑は執行されたので罪は償ったという事なのでしょう、此処にいる事は許されています。
まぁ此処から他の場所に行くなら他国に行くしかないですが『その路銀もありません』
何故、私とマリーネが此処に居るのか?
それは捨てられたからよ…ええっすっぱりと見捨てられたからですね。
今の私やマリーネはかっての令嬢の様な姿はしていません。
ボロボロのワンピースに木の靴…あはははっ最早完全に平民にしか見えません。
私達以外の他の家の者は皆去って行きましたわ。
勿論、その家族も一緒にね、元々商人上りや身分が低いのもあって逞しいわね。
この街に既に居ないのよ。
まぁ『妻がもと貴族』貴族ではなく、相手が商人であれば充分まだ価値があるし、王国からの追放だから帝国辺りだったら貴族との婚姻も可能性があるわね。
商人になって出直す者、元から付き合いのある他国の貴族に頼るもの様々です。
皆が新しい道を生きていく…
恐らく『私の友人たちは婚約者が変わっただけで』きっと、逞しく生きていくでしょう…私とマリーネ以外はね。
ジャルジュ家がとり潰されて国外追放になった時に『私はお父さまに勘当されました』
流石、お父さまですわ、全ての罪を私に擦り付けて自分は『馬鹿をやった娘の責任を逃げずに償った悲劇の人』そんな噂を流し、保身してから旅立っていきました。
ジョルジュ家は伯爵ですが、大昔は武器商人でした。
今でも、商売はしていましたので多分、他国に行って商売でもして生きていくでしょう。
ただ、その為には『王家由来の品』を販売した娘は邪魔者ですからね…捨てられたわけです。
そしてマリーネはというと、グラデウス男爵は王都警備隊の隊長ですから、商売なんて出来る訳は無く…
同じく醜聞の元のマリーネを捨てて仕官を求め帝国に旅立って行きましたわ。
と言う訳で、今は私、シャルロッテとマリーネだけで此処で暮らしています。
まぁ、私とマリーネを捨てたクズみたいな親達ですが…貴族としての誇りがあったのでしょう、奴隷として売られる事は無く少額のお金を残していきました。
身に着けていた物はとられなかったのでさっさと換金してこのボロ服と木の靴を買ったのです。
「シャルロッテ様…これからどうしましょうか?」
「私達の手元にあるのは全部で金貨3枚です…調べた感じでは、屋台の物品販売位の商いは出来そうです」
「それでは、直ぐにでも」
「ええっですが、失敗してしまった終わりです、悪名高い私達は誰も雇ってくれない、そのまま体でも売らなくちゃいけなくなります…だからこそ絶対に失敗をしない商売を選ばなければなりません」
「そうですね」
「だから今日は客足の流れをみましょう」
《シャルロッテ様は…本当に凄い、此処まで落ちぶれても上を目指しています、一切泣き言も言わずにすぐに次の手を探し出そうとしています、この思想こそが私が尊敬した理由です》
「マリーネ、ほらしっかりと見ていなさい」
「はい」
《本当に逞しいです…殿方で無いのが凄く残念でね》
【マリーネSIDE】
1日じゅう見た末にシャルロッテ様が考えた商売は『ジャム作り』でした。
貴族の食卓に並ぶジャムが、此処には売っていませんでした。
『ジャムみたいな高級品食べない』そんな話を聞きました。
ジャムなんて砂糖と果物があれば作れます。
しかも、果物は夕方近くなると『凄く安く販売されるのです』
「マリーネ、どう思う?」
「私は、正直商売は解りません」
「そう、なら今回は私が決める、だけど次からは自分でもしっかり考えなさいね」
「解りました」
こうして私達は此処ロストで『ジャム屋』を始める事になりました。
第五十四話 全てが終わるその前に
色々と私の考えを反映してくれるそうなので、ドリアーク伯爵、ロゼとフリードの謝罪は後日、公式の場でして貰う事にした。
ただ『公式の場』という条件に対し周りの人間は凄く驚いていた。
「確かにそれも止む無いな、公式の場で恥をかかせたのだからな」そういうドリアーク伯爵に対し、お父さまは「言えた義理では無いが少しは温情を掛けてやってくれぬか」そう言った。
「これは私なりの温情ですから」
そう言うとお父さまは「確かにそれだけの事をしたのだ仕方ない」そうい言い俯いた。
お義母さまは始終黙っていた。
ロゼは暫くの間、軟禁状態で部屋から出さないらしい。
そして、フリードは一旦ドリアーク伯爵家に連れ帰ると言う事だった。
お父さまとドリアーク伯爵が、ロゼとフリードの間に「少し時間をくれないか』そう私に聞いて来たので「どうぞ」と伝えた。
【ロゼ、フリードSIDE】
「フリード様、会いたかったです、ロゼは」
「…」
「フリード様、何故黙っているのですか?」
今此処で蒸し返してなんになる。
今更、怒った所で何かが変わる訳では無い。
騙されたとはいえ、マリアとの婚約を壊して犠牲にしてまで手に入れた婚約だ。
もう元には戻れない…
ならば…
「何でもない…暫く会えないのが寂しく思ってな」
「フリード様」
これで良い…これで良いんだ。
俺はそう心に言い聞かせた。
もうすぐ『貴族ですら無くなる』だがそれは今、言わなくても良いだろう。
【マリアSIDE】
怒涛の数日間が過ぎた…
私には『どうする事も出来ない』そう言って諦める事は簡単だ。
だが、私はまだ諦めない…
諦めてはいけない気がする…
謝罪は少しだけ先延ばしした。
そして私は…今王太后さまに会いに来ている。
私はおばあ様のお陰で、お父さまにすらない特権がある。
その一つに王族に気軽に会える権利がある。
私がこの事を知ったのは、【幸運の女神の笑顔】を受け継いだ時に一緒に受け継いだ権利によるものだ。
今回初めてこの権利を行使した。
「お初にお目に掛かります王太后さま」
「貴方がマリアなのね、どことなくマリアーヌに似ているわね」
「有難うございます」
「貴方が宝石箱を持って現れたと言う事は、頼みごとがある、そういう事ね」
幾ら私でも王族を目の前にしたら緊張する
「はい」
「緊張しなくて良いわ…【幸運の女神の笑顔】の音色を聞かせてくださいな、そうそう頼み事も言って下さいな」
私は宝石箱のオルゴールを奏でた。
音楽が流れる中、私は…
「実は、私にお譲り頂きたい物が幾つかあります、それから幾つかのお願いがございます」
私は譲って欲しい物とお願いについて王太后さまに伝えた。
「そうね、譲って欲しい物3つは無償であげるわ、但し王では無いので一番下になるわね、お願い3つも聞きましょう」
「有難うございます」
「良いのよ、ですがこれからはもう少し王宮にも顔を出して、貴方は親友の孫娘なのよ? プライベートではお婆ちゃんと思って貰っても良い位なのよ?」
「解りました、出来る限りその様にさせて頂きます」
「うん、本当に良い子ね」
私は暫く王太后さまと時間を過ごしてから『家』に帰ってきた。
それから暫くすると王宮から手紙が届いた。
王太后さまにお願いしていた一つのお願いを聞いてくれた内容だった。
そしてもう一つのお願いを聞いて貰える日時も書かれていた。
これで準備は整ったわ…後は『どうでも良かった自分』なりの決着を付けないとね。
マリアは手を握りしめた。
【シャルロッテ.マリーナSIDE】
「シャルロッテ様、どうにかなりましたね」
「まぁね、食べていくのがやっとだけど、どうにか生活は出来そうね」
二人はどうにかジャム屋を始めた。
市場で痛んだ果物を煮詰めて瓶に詰める、ただそれだけのジャムだったが、物珍しさで売れた。
砂糖やハチミツを加えたい、そう二人は思ったが高額で手が出なかった。
ちゃんとしたジャムを食べた人が食べたら『これはジャムじゃない』そう言われるレベルだが、市民や平民が毎日食べられる金額で手に入るのが受けたようだ。
「あの…シャルロッテ様、今日は私お風呂に行きたいです」
「そうね、今日は奮発して公衆浴場に行きましょう」
「やった~」
「どうにか生きてはいけますが、これじゃ再び貴族に返り咲くのは難しいわね」
「ですね、この国じゃ貴族にはなれそうもないから、帝国にでもいかないと無理ですもんね、先に路銀を貯めないといけませんね」
「考えると暗くなるわ…マリーネ、今日は公衆浴場に行って、一杯だけエールでも飲みますか」
「エールいいですね」
僅か数日で商売を始めて少額ながらお金を稼ぎ出す。
そのシャルロッテの姿にマリーネは心から尊敬の念を抱いていた。
浮かれ顔で、公衆浴場に入りエールを飲み安宿に戻る。
その最中、それは起きた。
「シャルロッテにマリーネだな」
不味い…まさか私の家に恨みを持つ者…不味いわ。
「シャルロッテ様、下がって」
マリーネがシャルロッテを下がらせたが…時遅く..
二人はあっさりと手刀で気絶させられた….
「おい、この二人、馬車に乗せてひん剥いちまいな」
二人は馬車に乗せられ気絶したまま裸にされ、何処かへ連れ攫われた。
※次回クライマックス予定ですが…その後かなり多くのエピローグを書く予定です。
第五十五話 マリアがオルゴールを奏でる時 《クライマックス》
【シャルロッテSIDE】
不味い、気がついたら服を脱がされていた。
マリーネはまだ気を失っている、どうにかしなくちゃ…貴族云々より女として終わってしまう。
だけど、怖い…既に私は下着一枚身に着けていない状態だわ。
しかもこの馬車はかなり高級な馬車だ。
貴族にしてもかなり高位の貴族の物、多分恨みを買っていた貴族に誘拐された。
もしくは、私かマリーネに横恋慕していた貴族が『貴族籍を剥奪された私達』をおもちゃにする為に攫った。
いずれにしても…もう終わりだ。
相手は貴族で馬車には数人いる。
もう慰め物になる覚悟はした方が良いかも知れない…何でもして命だけはとられないように…
マリーネ、今の私には貴方すら助けられない…ごめんなさい。
宝石箱の件…ごめんなさい。
貴方は最後までつきあってくれた。
最後まで私に『様』をつけてよんでくれたのに…こんな事に巻き込んでごめんなさい。
うん…違うわ、えーと、何が起きているのかな?
気絶して様子を見ていたら…裸の後体中を拭き始めたわ…なっ汚らしいから、その後…けがわらしい事を….
可笑しいな、服を着せ始めている、これドレスだわ、しかもよく見たらこれやっているの、全員女性だ。
何がなんだか解らないわ。
「おや、気がつかれましたか?」
笑顔で女性が私に話し掛けてきた。
【ドレーク伯爵SIDE】
「それではお父様、お義母さま、私は先に行ってお待ちしております、あとでロゼを連れてきて下さいね」
「ああ、解った」
「貴方」
「皆迄いうな、悪いのは我々だ」
まさか、マリアが此処まで怒っているとは思わなかった。
確かに、あそこ迄奪われ続け、そして最後には『婚約者』さえも奪われたマリアが恨んでない訳が無い。
あの内容から考えたら『婚約破棄成立』『二人の婚約は有効』『謝罪はさせる』
此処に何か償いはあるのか? 謝罪だけじゃないか?
『爵位を無くし市民にする』そんなのは当たり前の事だ…元々二人には爵位継承権は無い。
そこから考えた、『婚約の際に納めた品を貰える』それしかマリアは手にしていない。
それにしたって、マリア個人としては使わない物も多い。
『責任もって次の婚約者を探す』…これだって実行は難しい。
フリードはあれでも伯爵家、そして今となっては何故と思いたいが『貴公子』と呼ばれ美しい少年だ。
今現在公爵家にも侯爵家にも婚姻の決まって無い男子はいない。
冗談でイライザ嬢が『私が男でしたら喜んで貰いましたのに』と笑っていたらしい。
ドリアーク伯爵はこの約束を果たせない事になる。
つまり、真面な謝罪になって無かった、これでは謝罪とは言えない。
だから、マリアはきっと王の前で決着をつけようとこんな大事にした。
これには俺たちに責任がある。
マリアがしたい様に余程の事じゃ無ければさせる。
そう、ロザリーと話し合い決めた。
【ロゼSIDE】
今日初めて自分の立場を知った。
私はもう貴族でなくなるらしい…このドレスも宝石も、恐らくは『お姉ちゃんに返さなくちゃいけない』らしい。
その代り…フリード様との結婚は認められる。
解らない…なんで。
なんで…全部無くなるの…私はそんな酷い事したのかな?
『ただ、お姉ちゃんに甘えていただけだよ』それだけだよ。
フリード様…いえフリードがいけないんじゃないの?
酷い、酷い酷すぎるよ…しかもこれだでじゃない、これから王族の前でお姉ちゃんに裁かれる可能性が高いらしい。
多分、お姉ちゃんは私を恨んでるから….あはははっ終わりじゃない。
【マリアSIDE】
私は余り派手な事は好まない。
だけど、こうでもしないと『私の想い通りに出来ない』だからやるしかない。
最初のお願いは王族立ち合いの元に今回の話の決着を付ける事。
『やり過ぎもやらな過ぎも良くない』
政治的な事は『どうでも良い』私に絡んでいるぶんだけは『私が決める』
既に王様も王太后さまも来ている。
そして関係者も全員いる。
王様、王太后さまと目が合った。
すると王様は話し始めた。
「あー、今回の婚約破棄の件に関しては被害者であるマリアの意見が全て尊重される、今暫くの間は『マリアを王族扱い』とする良いな」
私はオルゴールのネジを巻き上げメロディを奏でた。
「ロゼ、貴方散々、欲しいなら欲しいと言えって言ったわよね」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「お姉ちゃん言わない」
私はロゼの胸倉を掴みビンタをした。
「お姉ちゃん痛いよ」
可笑しいな、前にも私、ロゼにビンタした記憶が沢山あるんだけど…多分勘違いだわね【聖女】じゃないし。
「痛いのは当たり前、私が黙っていたから貴方は馬鹿になったのよ、これからはきっちりするわ」
「お姉ちゃん」
「しつこいな、何故か私…なんでもない『お姉さま』と言いなさい」
「お姉さま…私どうなるの?」
「はぁ~ビンタしたからこれで良いわ、ただ今後はお父さまもお義母さまもきつく指導しますから覚悟なさいね、勿論私も」
「それだけ?」
「そうよ、貴方が軟禁状態になってから直ぐに大切な物は回収したからこれで良いわ」
「お姉ちゃん」
「はいはい、終わり、次はフリードね」
「マリア、すまなかった俺は」
「はいはい、別に良いわその謝罪受け入れます、その代わり婚約破棄の償いについて要望を出します」
「何でしょうか? 何でも言って下さい」
「ロゼと結婚したあとは死ぬまで別れる事は許しません」
「死ぬまで…」
「はい、私との婚約を破棄してまで望んだロゼですもの、当たり前です、更にプラスして浮気も死ぬまで許しませんよ? あっこれは王の前での宣誓ですから、違えたら駄目ですよ、さぁ宣誓して下さい」
「解った、俺は死ぬまで浮気をしない、そしてロゼを生涯愛すことを誓います」
「そう、それで良いわ、フリードの話もそれでおしまい」
ロゼもフリードも初々しいですね、顔を真っ赤にして。
前世の記憶のある私からみたら…ライトノベルみたいですよ!うふふふっ。
「本当にこれでよいのか? 俺はお前を罵倒した、そして無実なのに俺は」
「あのねぇ~、人ひとり死ぬまで愛すって大変な事なの、それを宣言したんだからそれで良いわ」
王族の前で宣言したんだから『もう何がなんでも別れられないし、浮気が出来ない、貴族なのに愛人も持てないのよ』解っているのかな?
最も正義の味方の『貴公子』だからするわけないのかな。
まぁ良いや。
「そうか解った」
「これから結婚する二人にお姉さまからプレゼントです、フリードに騎士爵を授けます」
「「「「「「えーっ」」」」」」
《幾ら何でも可笑しい、王でも無いのに爵位なんて与えられる訳が無い》
「母と話し合い、今回特別にマリアに、騎士爵3名の授与の権利を与えた…但し、その爵位には王家への忠誠の他にマリアの家を親家、与えられた者は子家としマリアの家への忠誠も含まれる、領地はない…そして法衣貴族の役職の保証は無い」
《それでも破格値だ…保証は無くとも努力で役職に就く事は出来る…そして貴族で居られる》
「フリードは跪かないのでしょうか?」
慌ててフリードは跪いた。
「はっ、このフリード謹んでお受け致します、この身は国にそして貴方に生涯の忠誠を誓います」
「今から貴方は正式に騎士爵を授かりました『貴公子』の名に恥じぬ様に生きて下さい」
「はっ」
フリードとロゼを下がらせた。
お父さまとお義母さまが口をポカーンと開けて驚いている。
ドリアーク伯爵は、なんで泣いているのかな?
「さて、今度はシャルロッテにマリーネ、お久しぶりですね」
「お久しぶりでございます、マリア様、所で今日はどういう事なのでしょうか?いきなり馬車に乗せられ此処に連れて来られました、もしロゼ様絡みの事であれば私が謝罪します、だからどうかマリーネだけは許して貰えないでしょうか?」
「そんな事ありません、一緒にした事です、私も一緒です」
この二人は凄く優秀なのよね。
特にシャルロッテさんは、同年代ならイライザ様につぐ位と評判があるのよ…だから欲しいのよ。
「ご家族や他の令嬢は噂の範囲では随分幸せに暮らしているそうですし、他国に行かれたのでもう無視しても良いでしょう、他国に行くと言う事はもうこの国には仕えていませんからね…でも貴方達は国境のロストにいました」
「国外追放でもロストには居て良い筈です」
「私もそう聞いています」
青い顔しなくても良いのに…
「私思ったのですよ…今回の件は直接償って貰うのが妥当じゃないかって」
「それはどういう事なのでしょうか?」
「簡単です、貴方達二人を騎士爵とし爵位を授けます、ですが爵位は女性はこの国では持てませんので仮の騎士爵です、その代わり貴方達二人が婚姻をし男子が生まれたら、その子は正式な騎士爵として継ぐ事が出来ます、条件はフリードと同じで、この爵位には王家への忠誠の他に私の家を親家、貴方達は子家とし私の家への忠誠も含まれます、勿論領地はありません、貴方達には将来私の片腕になって頂き、差し詰め一つの役職について頂きます」
「また貴族に戻れるのですか、有難うございますこのシャルロッテ生涯の忠誠を国に王家にそしてマリア様に誓います」
「私の身は国に王家にそしてマリア様に生涯捧げます」
「共に頑張りましょう」
「それで、最初の役職は何でございますか?」
「何でしょうか?」
「ロゼの教育係です…お願いしますね」
今一瞬嫌な顔をしたわね…まぁあの事件は『騙そうとした彼女達』『馬鹿なロゼ』それによって起きた事。
償いと言うなら『馬鹿なロゼを真面にする』それで償って貰えば良いわ…これで良い筈だわ。
「「精一杯頑張ります」」
オルゴールの音色が止まった。
「マリア、それで良いのか?」
「よいのね」
「はい、王様、王太后さま」
「以上のマリアの裁きは王と王太后の名の元、正式な物とする、以後不満は一切受け付けない物とす…以上だ」
こうして、私が絡む話は全て決めさせて頂いた。
これが悩んだ末、私が考えた結論だ。
周りは『何故私がこんな事が出来るのか』驚いている。
ちょっと気分が晴れた気がした。
※ 次回、マリアが何故こんな事が出来るのか、書くつもりです。
そして本編はそれで終わりますが…いくつかのエピローグや閑話、等数話書く予定です。
ここまでお付き合い有難うございました。
第五十六話 【幸運の女神の笑顔】の秘密
【幸運の女神の笑顔】という宝石箱にはもう一つの顔がある。
それは正当な所持者がこの宝石箱を持ちオルゴールを奏でる時に、オルゴールが鳴っている間『王族と同じ権利を持てる』
曲の長さは約7分、その間は『王族になれるのだ』
これは現王太后と王太后の父親である時の王の感謝の気持ちが込められている。
当時は他に王位継承権利者がいなかったことから解るかも知れないが…あの時マリアーヌが時間を稼がなければ『王家の血筋』は絶えていた。
その為『【騎士】の権限ですら足りない』そう考えた為に後からつけられた権利だ。
つまりこの宝石箱を使うには
マリアーヌの血筋を継ぐ者がこの宝石箱を使った時にのみ有効なのだ。
例え、国や教会の所有であっても『女神が与えた聖剣は勇者しか使えない』のに似ている。
この宝石箱の所有はドレーク伯爵家だが『マリアーヌの血を引くマリアしかこの宝石箱は使えない』
だが、この権利をマリアーヌや、その娘は今迄使った事は無い。
そしてこの秘密についてはマリアーヌからその娘、そしてマリアにのみ伝えられていて王族とその関係者しかそれは知らない。
今初めて、この権利は使われた。
自分の力ではどうすることも出来ないマリアは【この権利】に頼った。
そしてマリアは…今、王太后さまに会いに来ている。
【幸運の女神の笑顔】の正当所有者は【騎士】の権利も『所持している間は行使できる』その一つに王族に気軽に会える権利がある。
マリアがこの事を知ったのは、【幸運の女神の笑顔】を受け継いだ時に一緒に受け継いだ権利書によるものだ。
今回初めてこの権利をマリア行使した。
【回想】
「お初にお目に掛かります王太后さま」
「貴方がマリアなのね、どことなくマリアーヌに似ているわね」
「有難うございます」
「貴方が宝石箱を持って現れたと言う事は、頼みごとがある、そういう事ね」
「緊張しなくて良いわ…【幸運の女神の笑顔】の音色を聞かせてくださいな、そうそう頼み事も言って下さいな」
私は宝石箱のオルゴールを奏でた。
『この瞬間からマリアの扱いは貴族の娘から【王族】の扱いとなった』
「実は、私にお譲り頂きたい物が幾つかあります、それから幾つかのお願いがございます」
『【王族】になったからこそ一介の貴族が王太后に対してお願いが出来たのだ』
「そうね、譲って欲しい物3つは無償であげるわ、但し王では無いので一番下になるわね、お願い3つも聞きましょう」
『譲って欲しいとマリアの頼んだ物は『爵位』この国では王族であれば爵位は与える事は可能』
『但し、あくまで『王でなく王族』なので一番下の爵位に限定される…つまり騎士爵しか与える事は出来ないそれ以上は王族でも王の許可なくして与える事は出来ない。』
『願いについては』
一つ目は『自分の裁き』に王族に立ち会って貰う事
これは今回の件は普通では考えられない事なので王族の承認が必要とマリアは考えた。
二つ目は【幸運の女神の笑顔】に関わった者の行方についての調査…場合によってはその身柄の確保
三つ目は場合によっては『国外追放』の取り消し。
マリアとしては自分が望んだ結末にはこれだけ必要だと考えていた。
※ちなみに貰える爵位の数の3つは直前まで解らなかった、爵位が1つならフリードだけ、二つならフリードとシャルロッテにと考えていた。
他にも令嬢が多くいた場合は『シャルロッテ』を中心に迎え入れる様な事を考えたいたのかも知れない。
「有難うございます」
「良いのよ、ですがこれからはもう少し王宮にも顔を出して、貴方は親友の孫娘なのよ? プライベートではお婆ちゃんと思って貰っても良い位なのよ?」
「解りました、出来る限りその様にさせて頂きます」
「うん、本当に良い子ね」
私は暫く王太后さまと時間を過ごしてから『家』に帰ってきた。
それから暫くすると王宮から手紙が届いた。
王太后さまにお願いしていた一つのお願いを聞いてくれた内容だった。
『この内容は【幸運の女神の笑顔】に関わった者の行方についての調査…場合によってはその身柄の確保』
そしてもう一つのお願いを聞いて貰える日時も書かれていた。
『この内容は『自分の裁き』に王族に立ち会って貰う日時』
これで準備は整ったわ…後は『どうでも良かった自分』なりの決着を付けないとね。
マリアは手を握りしめた。
【王太后.王SIDE】
「母上、マリアはマリアーヌ様に似て良き子でしたね」
「そうね、まるで若き日のマリアーヌを見ている様だわ…貴方も王になったのですからおいそれと『様』をつけてはいけませんよ」
「何をおっしゃいます、あの方は私にとっては母も同然『様』をつけるのは当たり前の事です」
「まぁ、マリアーヌが居なければ、私も貴方も居なかった、そう考えれば『その通りですね』」
「はい母上」
「しかし、まさか【幸運の女神の笑顔】を使うなど思いませんでしたね」
「そうですな…あれは諸刃の剣、正しき心で使わないのなら『王』として殺さなければなりません」
「そうですね、それがマリアーヌがあの権利を貰った時に望んだ条件ですものね」
「あの齢で使うののには驚かせられました」
「正直いえば『正しく』使った事にホッとしているわ」
「そうで無ければ、例え恩人の孫娘とて殺さねばなりませんでした」
「まぁ良いわ、私はあの子を凄く気に入ったのよ、本当にマリアーヌそっくり」
「母上が気に入ったなら問題はありませんね」
「ええっ」
マリアーヌは【幸運の女神の笑顔】のこの特別な権利を最初受け取らなかった。
受取る条件として、この宝石箱を悪い事に使った場合は『願いを叶えた後殺す事』その条件を自ら望み、それで初めて受け取った。
【王族で居られる時間はオルゴールがメロディーを奏でている時間のみ】音が切れたら、その権利は消える。
つまり、願い事やその身を守れるのはメロディーが奏でられている間のみ…それを過ぎたら元に戻る。
メロディーが途切れてゼンマイを巻くまでの時間は、その権力は行使されない。
その時にもし悪事につかった者は…許される事は無い。
【アフターストーリー】私不安です ※リクエスト作品
私はロゼの教育を任せる前に少しシャルロッテさんとマリーネさんと話す事にしました。
「急ぐ物でも無いからそうね1週間位休んでからで良いわ」
話によれば平民に落とされてジャムを売りながら貧乏生活をしていたらしいから…少しは休んだ方が良いわ。
「本当に宜しいのですか? 私達は貴方の持っていた国宝級の物を写し取った人間です」
「そうですよ…許して頂けてその上爵位迄頂いて」
いや、あれはオルゴールが無ければ別物にしか見えない。
元はといえば『そんな物持ち出したロゼも悪い】
「別に良いわ…だけど完全に許した訳じゃ無いからね『貴方達はロゼを騙した』あの馬鹿妹は放って置いたらまた誰かに騙されるわ、だから『そうならないように教育して頂戴』 騙した人間を騙されないようにする事、それが貴方達の償いね…それ以外は何とも思ってないわ」
あのままフリード共々市民に落としたら『きっと騙されて体でも売る様な生活』になりかねない。
最近になって解ったわ、ロゼは良く言えば純真…悪く言えば子供で馬鹿だ。
フリードは…なんであれで『貴公子』なのか解らない、ロゼの暴走を一人で押さえる事は無理そうだ。
つまり、市民になったらなったで…真面に生きられない気がする。
「本当にそれだけで良いんですか?」
「それなら楽なもんです」
多分、本当のロゼを知らないのね?
お義母さまですら手こずっているし、私も匙を投げた。
「そう、なら妹は貴方達に任せたわよ…頑張って真面にして下さいね」
「何をいっているんですか? ロゼさんは真面ですよ」
「そうです、人が良いだけですよ」
やっぱり…ロゼがかなりのポンコツなのを知らないのね。
「そう、なら良かった、とりあえず任せるからお願いしますね」
「「はい」」
「話しは変わるけど、ジャムを作って商売してたらしいですね…凄いわ」
「はい、市場にジャムが売っていなくて、痛んだ果物が安く売られていたので考えました」
「流石はシャルロッテさんですね、商家から伯爵家に成りあがったジャルジュ家出身だけありますね」
「シャルロッテさんは凄いんです」
「そう、マリーネさんだって凄いって聞いているわよ」
「そんな…私なんてシャルロッテさんに比べたら、まだまだです」
私には少し心残りがあった。
それはシャルロッテさんは、オルゴール事件の時もそうだし今回の『ジャム』もそうだ。
凄く商才がある気がする。
もしかして『ジャム作り』を成功させて地盤をつくり商会をつくるような人物になり得たのではないか…
それなら、私は彼女の才能を潰してしまった事になる。
彼女はこの後…どんな展開を考えていたんだろうか?
『優秀』と噂されるシャルロッテさんの次の戦略はどうだったのだろうか?
凄く気になる。
「それでシャルロッテさん、ジャム作りをどう発展させるつもりだったんでしょうか?」
「発展ですか? まだそこ迄は考えてませんでした」
えーと…なんで。
「ジャム作りが駄目になった時の展開を知りたかったのですが」
「なんでマリア様はジャム作りが駄目になるなんて思うのですか?」
「だって、普通思うでしょう?」
私は自分が簡単に思いついた事を伝えた。
?誰でも簡単に出来る商売だと言う事。
?八百屋や果物屋が儲かると解かれば痛んだ果物や野菜を安く売らず自分でジャムを作る可能性がある事。
ちょっと考えただけで直ぐに2つも思いつく。
まぁシャルロッテさんなら、何かしら対策はあるでしょう。
「え~とそこ迄考えていませんでした、まぁ失敗したら次の商売を始めるだけですね」
シャルロッテさんは宝石箱の模倣を考えた程の方です。
自分の商売が模倣されるとは考えないのでしょうか?
「何か模倣されない工夫とかはしなかったのでしょうか? そうだ試しにジャムをお互いに作ってみませんか?」
「そうですね、ジャムを作るのも案外大変なんですよ….ただ砂糖は高価だから無しですからね、庶民に手が出なくなりますから」
「解ったわ」
シャルロッテ、マリーネ組と私でお互いにジャム作りをしてみた。
私は、イチゴに少しレモンを垂らして、そこに甘さを出す為にすりおろしたリンゴを加えた。
流石に砂糖やハチミツ等、全く使わない条件なら…これが精一杯だわ。
確かに結構難しい。
せめて黒砂糖位は無いと美味しく出来ないわね。
※このレシピは出鱈目です。
「こんな感じかしら」
「私達も出来ました」
見た感じ、ただ果物を煮たようにしか見えないんだけど、そうだきっと隠し味があるのね。
「それじゃ、お互いに食べて見ましょう」
えーと、何これ、これただのイチゴの煮物じゃない。
「マリア様、これ凄く美味しいです」
「マリア様は料理も上手なんですね」
私が罪悪感なんて感じる必要は無いわ…
「えーとね、なんで甘くしようと工夫をしようとしなかったの?」
「逆に聞きまが、どうしてマリア様のジャムは甘いのですか?」
「甘さを出す為にリンゴを使ったのよ、レモンを足すと風味がますのよ」
「そんな方法があったのですね」
これ多分暫くしたら破たんしたんじゃないかな?
「あのさぁ…白砂糖は高いけど黒砂糖やビビ砂糖(これは架空の砂糖です)みたいに安い砂糖もあるんだけど、なんで使わなかったの?」
「マリア様はジャムに詳しいんですね、シャルロッテ凄く感心しましたわ」
「私も驚きました」
うん、これなら確実に破たんしたわね。
多分、発見が遅れたら確実にスラム行きだったわね。
全く、罪悪感なんて感じる必要は無いわ…
だけど、どう考えても『平凡な普通の女の子』にしか見えない。
「あのシャルロッテさんにマリーネさん、あの宝石箱事件は2人が考えたのよね」
「確かに私が考えましたわ、ですが穴だらけなのでお父様がかなり修正しました」
「私はシャルロッテさんを手伝っただけです…ごめんなさい」
あはははっ普通に考えたら『あれだけの事を二人の少女』が主動でやれる訳ないわね。
だとしたら…少し賢いだけの普通の少女に…ロゼの教育係がつとまるのかな…大丈夫でしょうか?
凄く不安です。
【アフターストーリー】私失敗したのかな
「マリア様と呼んだ方が良いのか?」
「急に何を言い出すんですか? お父さま」
「いや、お前今【幸運の女神の笑顔】持っているからな」
「違います、お父さま私が【王族扱い】になるのはオルゴールを鳴らした時ですよ」
「そうだな、だが【ただ手で持っているだけ】で騎士になるのだろう」
「そうですね…ですから【幸運の女神の笑顔】をお父さまに預けに来ました」
これは私には分不相応、預けた方が良いわ。
「それじゃ預かろうとは…言えないな」
「何故ですか?お父さま」
《偶に俺より大人に感じるがやはり子供だな》
「お前は『王族の方々にこれからも会いに行かなくてはならない』だったらそれが必要じゃ無いか?」
「多分、あれは王太后様の冗談です」
流石に貴族の娘が気軽に会える訳ないじゃないですか…
「そうか…違ーーーう、本気なのだ…こうして俺にマリアを遊びに寄こせと王太后様から非公式の手紙が届いているんだ」
まさか…私はお婆ちゃんに似ているから、会いたい…そういう事かな。
「そうですか…」
「そうですかじゃないぞ! お前が行くと言う事は俺やロザリーも行く事になる…俺たちはお前みたいに心臓に毛が生えていない、あんな緊張した空間に長居はしたくない」
確かに…緊張するから好ましくはないわね。
「確かにそうですね」
「ついでに言っておきたい事がある…これどうするんだ?」
「なんの事でしょうか?」
「今、我が家には【騎士爵】【騎士爵代理】併せて3人の貴族がいる、実質的にはお前に仕える形でな、部屋は用意したが、今後どうするんだ? 使用人たちは戸惑っているぞ」
「良い事じゃないですか?『素晴らしい令嬢2人』はロゼの教育をお願いしていますが『貴公子フリード』は暇な筈ですから何か仕事を
与えてみては如何でしょうか?」
「出来ると思うか?」
「それは自己責任でお願い致します」
「そうだな…まぁ良い、此処からは本題だ」
「本題」
「お前には爵位を持った者が3人も仕えている、形上は家だが俺に仕えるのではなく【お前に仕えている】」
「そうなりますね」
「そうだ、つまり、あの三人の責任者はお前だ」
「えっ」
「えっでは無い、お前が王族に爵位を求め、普通ならあり得ない【爵位を授与する権利】を貰いあの三人に授けたんだ…だれもがそう思うだろう」
あーっ確かにそうだ。
「間違いなくそう…ですね」
フリードは兎も角、シャルロッテさんとマリーネさんは優秀な筈よね…なのに何で汗が止まらないの。
「まぁ頑張って面倒を見てやるんだな」
「はい」
「そうそう」
「まだ何かあるのですか?」
「王から俺宛に手紙が来てな、お前に仕える3つの家の家名と紋章はお前に決めて貰いたいそうだ…早目に決めてくれ」
「私がですか?」
「そうだ、これは王からの頼み事だ、頑張れよ..」
「はい」
もしかして私….『失敗したのかな』…
【アフターストーリー】マリアの剣
家名に家紋かぁ~ 前世の時の乙女小説に出ていた名前から考えてみようか。
そう思いましたが…物語は覚えているけど、名前までは覚えていません。
駄目だなこれ。
一から考えないと…
考え事しながら廊下を歩いていると、横の裏庭でフリードが木剣を振るっていた。
その横でロゼがその様子を見ていた。
私は気にしないが『婚約破棄』絡みなのだから余り会いたくはないだろうと少し距離を置いていました。
「剣の訓練ですか懐かしいですね」
「マリーネの腕はお父様仕込みでしたわね」
シャルロッテさんとマリーネさんがひょっこりと顔をだした。
「そうなの?」
「はい、マリーネの父は王都警備隊隊長ですから、剣の腕もそこそこはありますからね」
「あのシャルロッテさん、私はそこ迄は強くないですよ、ちょっと齧った程度です」
確かに王都警備隊隊長の娘なら剣を使えて当たり前な気がする。
ようやく、ようやく当たりを引いた、そんな気がする。
三人で話しているとフリードやロゼと目が合った。
この状態で無視もできないのでそのまま二人の方に向った。
「剣の稽古ですか?」
「はい、マリア様、此処の所色々ありましたから少し体を動かそうと思ったのです」
「そう言えば、フリードは剣が得意なのですか?」
「お姉ちゃん凄いのよ、フリード様は同世代の男性には負けた事が無いんですって」
「マリア様、ロゼにどう呼ばせましょうか? 私は実質貴方に仕える身分です、そう考えたら『マリア様』と呼ばせなければいけません、ですがマリア様の妹ぎみでもあります」
確かに困る所ね、しかしフリードはこういう所はしっかりしているのね。
もう諦めた。
なんでも取り上げるから悪意がある…そう思っていたけど。
ロゼの場合は、性格が少し可笑しい馬鹿なだけだ。
その可笑しさが少し異常だけど…
「そうね、日常は『お姉さま』で良いわ、ただ公式の場ではちゃんと『マリア様』と呼ばせて頂戴、シャルロッテさん達もお願いしますね」
「お姉ちゃん」
「「「お姉さま(です)(ですわ)(だ)」」」
うんうん、この調子ならそのうちこの口癖も治るわね。
「お姉さま」
「それで良いわ、話は戻るけどフリードは剣も出来るのね」
「嗜み程度ですが」
此処で私は確かめる事にしたシャルロッテさんはマリーネの剣を『そこそこ強い』そう言った、だがマリーネは『強くない』と言っていた。
だが、これはマリーネさんの謙遜が入っている気がする。
多分王都警備隊隊長の娘なんだから『強い』筈だ。
どの位か見てみたい、だけど剣はもってのほかだし木剣も危ない気がする。
「どうかされましたか? マリア様」
「いや、皆の剣の腕を見たかったのだけど木剣じゃ危ないかなと思って」
「いえ、真剣なら兎も角、木剣の稽古じゃ大した怪我はしませんよ」
「マリーネさん、そうなの?」
「はい、普通に小さい子でもやっていますから」
「そう、だったら大丈夫かな、それなら皆で少しやってみない?」
「お姉ちゃ…さま、私がそういう事が苦手なのは知っているよね?」
「そうだね、解ったわ」
「マリーネさんが特別なのです、私も剣なんて触った事はありません…すみません」
「それじゃ、シャルロッテさんは私と1回戦やろう、私もそんな強く無いから大丈夫」
「マリア様とですか?解りました…ですがマリア様は剣を使った事があるのですか?」
「多分、そんなに強く無いから大丈夫よ」
「お姉さま、本当に大丈夫? 本ばかり読んでて体を動かすところは見た事ないけど、平気ですか?」
「まぁ何とかなるでしょう」
結局、私とフリードとシャルロッテさん、マリーネさんでちょっとした模擬戦をする事になった。
私VSシャルロッテ
フリードVSマリーネ
そしてお互いに勝った者同士がやる。
まずは、私とシャルロッテさんが試合を始める。
「それでは、始め」
フリードの掛け声でスタートした。
「マリア様、お手柔らかにお願いします」
「大丈夫よ…行くわよ」
私は木剣を横から薙ぎ払った。
「きゃっ」
シャルロッテさんは剣をそのまま落とした。
「勝負あり、勝者マリア様」
「あの、マリア様は剣も使えるのですね」
「ほんの少しだけね」
ロゼとフリードは驚いた様な顔をして私を見ている。
確かに私が木剣なんて持った所は…想像できにくいよね。
次はフリードVSマリーネさんだ。
フリードは貴公子と呼ばれているが剣は得意じゃないと聞いた事がある。
ただ、それは『何でも出来る貴公子』としてはで、さっきのロゼの話では『そこそこ強い』のかも知れない。
事実上の決勝戦だと思う。
「それでは始め」
私が掛け声をかけた。
二人の戦いは一進一退だった。
ほぼ互角に見えた。
だが、マリーネさんのちょっとした隙をついてフリードの攻撃が始まった。
そうなると体力に劣るマリーネさんは防戦一方になった。
「参りました」
「マリーネさんも女性にしては強いね、同性だったらこの勝負は解らなかった」
「ありがとう」
そう言いながらマリーネさんの顔は悔しそうだった。
「それじゃ、今度は私とフリードね」
「マリア様、止めた方がよくありませんか? 私とマリーネさんの模擬戦を見たでしょう」
「そうね…だけどやる」
「解りました、手加減はします、だけど…」
「良いから始めましょう」
フリードはやれやれと肩をすくめた。
「それじゃいいですか? 始め」
マリーネさんの掛け声で二人で構える。
「マリア様、さぁ何処からでもどうぞ」
「それじゃ行きますよ…籠手ーーーっ」
すんなり木剣はフリードの手首を捕らえ..
「痛っ…」
『カランッ』と音を立ててフリードは木剣を手放した。
「マリア様…凄いですわ、まさか剣まで使えるなんて」
「まさか、私より剣が使える令嬢がいるなんて…あっそうでしたね、マリア様はマリアーヌ様の孫娘、剣術が出来ても可笑しくありませんね」
「マリア様、剣が使えるなんて俺は聞いた事が無いです…油断したとはいえ男の俺から一本とるとは流石です」
もしかしたらもう一回やっても私は勝てるような気がする。
だけど、そうしたらフリードのプライドを潰す様な物だ。
「連戦した後に油断するからこうなるのよ…油断しないフリードには勝てない気がしますから止めておきます…それじゃ皆でお茶でもしませんか?」
「「「「はい」」」」
そう言えば私…前世では剣道の有段者だったわね。
すっかり忘れていたし、素振りもしてなかったけど、案外覚えているものね。
マリアは軽く考えていたが…これも非常識な事だとこの時のマリアは気が付かなった。
【アフターストーリー】マリアーヌ流剣術
「マリア、お前、フリードを剣で倒したそうじゃないか?」
「偶然ですよ、偶然…」
「確かに偶然かもな、だが様子を見ていたメイドの話ではしっかりと構えていたそうではないか? 俺はお前が剣を振る所なんて見たことが無い、何処で身に着けたのかな」
《俺は少なくともマリアが剣を振った所など見たことが無い》
「それはですね…本を見て覚えました」
「ほう、また本だと?、俺も家にある本は結構読んでいたが、どうもお前の言う本が何処にも見当たらない、俺だけならいざ知らず読書家のロザリーですら前にマリアが読んだは知らないそうだ…件の剣術の本は何処で見たんだ?」
「何処で見たのか忘れました..」
「そうか? 確かにフリードは一人前では無い、真剣も持った事は無く恐らく兵士にもまだ勝てないだろう、だが、それでも男の貴族だ、毎日数時間は稽古をしていた筈だ、まぐれとはいえ、簡単には勝てない筈だ」
「勝つ方法はありますよ」
「嘘をいうな、そう簡単に勝てたら苦労はしない」
「だってフリードは『貴公子』ですから女性の顔には木剣とはいえ、打ち込めない筈です、あと胸などももしかしたら打てないでしょう?そう考えたらお腹だけ注意していれば良いです、それだって本気で打つとは思えません」
「なっ…マリアお前はそこ迄計算していたのか?」
「はい、マリーナさんと模擬戦をしている時に『やけに精彩が無い』位には思いました」
「ほぅ、だがそれなら、負けはしないが勝てないでは無いか?」
「何故かフリードは剣で手を攻撃して来ない癖がある事が解りました…だったら一番最初に間合いに入る手を狙って攻撃したのです」
「そうか、確かにそれなら勝てるな…あはははっよく思いついたな」
「私、本を読むのが好きですから知識だけはありますので」
「そうか解った下がって良いぞ」
「はい」
多分、これで大丈夫よね。
フリードは油断はしていたけど、あまり手加減はしていなかった。
私の時は兎も角マリーナさんには本気で掛かっていた気がする。
だけど、こうでも説明しなければ『可笑しく』思われるかも知れない。
これなら辻褄が合うから問題はない筈だわ。
【ドレーク伯爵SIDE】
確かに言った通りにすれば勝てるのかも知れない。
フリードはまだ少年で一人前では無い。
しかも貴公子と呼ばれフェミニストで有名だ。
だが、あんな考えを『ただの子供』が思いつく筈が無い。
確かに筋は通っているが….初めて木剣を持つ様な人間がそこ迄頭が回る筈はない。
第一貴族は王道を行く。
故に普通の戦いに置いて『手など狙わない』
重い剣でぶったたき再起不能にするのが剣の戦いだ。
一般的に習うのはこれに似た剣。
実際の剣はそれなりに重い。
マリアと同じ事をすれば、避けられたら前につんのめり、頭に一撃を受け殺される。
そう考えるなら『マリアのやった様な事』を伝える本などあり得ない筈だ。
マリアがやった事は『剣が軽い事』それが前提だ。
そんな非常識な戦い方がこの世の中に無い筈だ…そんな戦い方をしそうな存在…あれっ。
居たでは無いか…たった1人で野盗に立ち向かい王太后様を守り抜いた人物が『マリアーヌ様』だ。
マリアーヌ様がどの様に戦ったかは『今ではわからない』だが、考えられない程壮絶な戦いをした、とよく言われる。
その戦い方をマリアが行ったとしたら。
もしかしたら…マリアには宝石箱の他に、マリアーヌ様から我が前妻を通して受け継いだものがあるのかも知れない。
その中に『剣術』もあったのかも知れない。
この世で唯一マリアだけに伝えられた『マリアーヌ流剣術』今度俺も見させて貰おう。
勘違いは重なっていく。
【アフターストーリー】シャルロッテの恋
私事、シャルロッテは今、恋をしています。
お相手は誰かって?
それはですね…マリア様です。
女が女を好きになるのは可笑しいですかね?
だけど…あんなに凛々しい人は他には居ませんわ。
今迄、次の社交界を牛耳るのはイライザ様だと思っていましたが…違います。
本当の意味で裏から牛耳っているのは、マリア様かもしれません。
今の大人って意味ではなく、少年少女に限定した話ですけど。
今迄気が付きませんでしたが…私、あの目で見られるとドキドキが止まらなくなります。
地味に見えますが、よく見ると凄く美形でして..しかもその目の奥にはとんでもない野望が見えます。
まるで蛇の様な情熱の篭った目。
人を見る時に偶に凄く退屈そうな顔をしています。
マリア様にとっては『大人』との会話ですら退屈になる位の馬鹿話に思えるのでしょう。
まぁ、それも仕方ありません。
『王族の前で自らが裁きを行った位です』あんな事他の貴族で一体誰が出来るのでしょうか?
公爵だって『王族を背』にしてあんな風に話せないでしょう。
恐らく、宰相様だってあそこ迄堂々と振舞えるかと言ったら疑問です。
しかも、そんな凛々しい姿で『国外追放から私を救ってくれて爵位まで』これで靡かない女が居るのでしょうか?。
あっマリア様は女でしたね…ですがマリア様が男性だったら..はぁ~
それけじゃありません。
少し商売の話をすれば、数手先まで読み..木剣を持ったら…フリードより強いのです。
正に私の理想の人物が『目の前にいる』のです。
ですが…悲しい事に女の子です。
この恋は諦めないとなりませんわね。
諦めよう、そう思っていたのに見てしまったのです。
【マリアSIDE】
「あのね、この噂を広めて欲しいのよ」
あれは【触書屋】(※瓦版屋みたいな物と考えて下さい)
「えーと、『件のオルゴールの件はシャルロッテ嬢が首謀者でなく、その父ジャルジュ伯爵が首謀者であり、シャルロッテ嬢やマリーネ嬢はは巻き込まれただけ』…ですがあっしは嘘はつけません」
「嘘では無いわ」
「何か証拠でもあるのですか?」
「良い、シャルロッテやマリーネは位は低いですが爵位を再度貰い、私の下に居るのよ? それなのにジャルジュ伯爵は国外追放のまま、この状況が物語って無い」
「成程..」
「間違ったままにしていたら、私は貴方を『貴族を中傷した』と何かするかも知れませんよ」
「何かとは…」
「さぁ? お金を貰って真実を伝えるか? 一生伯爵家を含み複数の貴族を敵にして生きるか? 好きな方を選んで良いわよ」
「あっしは【触書屋】真実を伝えるのが仕事でさぁ…お金貰えて真実を伝えられる最高の仕事です」
「なら頼んだわ」
「へい」
二人は私の部下だもの、前の様子じゃ『絶対に首謀者にはなれない』濡れ衣は晴らさないとね。
私は【触書屋】にお金を払った。
【終わり】
あはははっ駄目じゃない?
こんな事までされちゃったらもう他の人なんか好きになれません。
ですがマリア様は女の子…どうして良いのかもう解りません。
※アフターストーリーは幾らでも書けそうですがキリが無いので後5話を上限に締めくくろうと思います。
【アフターストーリー】ジャルジュ伯爵の最後
ジャン=ジャルジュ(ジャルジュ伯爵です)
「あ~ジャン様、いやジャン、申し訳ないがとう商会は貴方達とは付き合えませんな」
俺はいま帝国迄来ている。
『ジャルジュ家は経済に強い』物流関係で富を築き、追放される前もその方面の仕事もしていた。
特に帝国の商人との間には太いパイプがあった筈だ。
確実に此処からなら再起を計れる筈だった。
現に今現在も『とある貴族』の屋敷に落ち付いている。
その際も受け入れの時歓迎された。
それがまるで手のひらを返したように冷たい。
「ジャン、悪いが此処を3日間のうちに出て行ってくれるか?」
「いきなり、それは無いだろう? 落ち着くまで居て良いと言ったでは無いか?」
「事情が変わったのだよジャン…それにお前嘘をついたでは無いか、お前こそが全ての元凶の癖に『娘に罪を擦り付ける』なんて事して恥ずかしく無いのかね」
俺は1枚の触書きを見せられた。
そこに件のオルゴールの件の罪は俺にあるとしっかりと書かれていた。
「何だ、これは嘘だ」
「ジャン…いい加減にした方が良いぞ…お前の娘のシャルロッテ嬢は罪を許され『爵位』を貰った、それに対してお前は国外追放のまま、誰が見たって娘が正しく、お前が間違っていた、そう思うだろう」
「そうか…だが此処を追い出されたら俺は行く宛がない」
「その前に帝国はもう無理だ、触書の事はこの国でも結構話題になっている『貴族になる事が難しい王国で(仮)とは言え爵位を女性が貰った』それが珍しいから帝王様までこの話は伝わっている…帝王様がな『娘に罪を着せた様な人間余は嫌いだ』そう言ったそうだ…他にいった方が良いぞ』
嘘だろう…この国は実力主義だ。
この国なら『お金を積む』『商売を成功させる』などして簡単に貴族になれる。
ある程度の実績を積んで『お金を払えば』貴族になれる。
だが、勿論貴族になるには『帝王への忠誠』を誓う為王に会う。
その帝王に嫌われたと言う事は『貴族になれない』
あの時、他の国外追放者たちは貴族への道を諦めた。
俺には流通ルートがあるから諦めなかった。
【これは俺の野望が終わった事になる】
王国にも帝国にも居られない。
勿論、他にも国はあるが、小さな国ばかりだ、恐らく王国や帝国に忖度するから『嫌われた俺は貴族になれない』
他に大きい国といえば『聖教国』があるが宗教国家なので『信仰が試される』 信仰心の無い俺が今から頑張ったって無理だ。
「今迄世話になった」
「すまないな」
【家族にて】
「貴方、私達はどうなるのですか?」
「父上、俺はどうしたら良い」
「もう終わりだ、俺とお前は離婚して、お前は絶縁だ…俺はお前達を愛している…だが俺の傍にいるだけでお前達は不幸になる」
「貴方…」
「父上」
「お金や手持ちの財産は全部やるよ、母子で一緒に暮らすなら暫くは困らないだろう、そのお金がある間に新しい生活に移りなさい」
妻は歳を食っているが綺麗で教養がある。
元貴族という響きは市民には高嶺の花という魅力がある。
特に帝国民は王国民の女を好むから…俺さえいなければ、困らないだろう。
「ジャルジュ家は解散だ…」
それだえ伝えるとジャンはふらふらと出て行ってしまった。
帝国を出たジャンは死の砂漠の方に歩いて行ったのを衛兵が見た。
それを最後にジャンを見た者は誰もいない。
【アフターストーリー】婚約相手?
ドリアーク伯爵は困っていた。
その理由は『フリード』より上の縁談をマリア嬢に約束してしまったからだ。
貴族として言ってしまった以上は『出来なかった』では済まされない。
公爵家にも侯爵家にも齢の近い男子で婚約者が居ない男子は居ない。
マリア嬢が『あのような立場』になってしまっては他国から婿を招き入れるのは難しい。
途方にくれた俺は…王に相談しに登城する事にした。
貴族とて王家の全てを把握している訳ではない。
もしかしたら、そう思っていたらあっさり解決した。
「そういう事なら、アーサーで良いだろう」
耳を疑った。
第二とはいえ王子だ。
確かにアーサー王子は何故か婚約者が居なかった。
これなら、約束を果たした事になる。
「あの、宜しいのでしょうか?」
「これは母も望んだ事、問題はないな…しかもマリア嬢はあの年齢で下に三家も従えてしまったし『マリアーヌの血筋』で一部王族の力を行使できる、ならば王家に連なる家系にした方が問題無い」
「王よアーサー王子が婿になるのなら家の方はその…」
「まぁ爵位も上げるしかない、まぁ今は気楽に『お見合い』から始めれば良い…ただこの話は余程の事が無い限り壊れる事は無い」
「それでは、その旨は私から伝えても宜しいでしょうか?」
「まぁマリア嬢の婚姻相手で難儀していると聞いた、これは貸しだ」
今の話では、元からそうする。
そう言う話では無いか…流石王したたかだ、本来は仲介役なのに『借り』を作ってしまった。
「有難うございます」
こうしてようやく俺はどうにか面子を保つ事ができた。
日常 (ある意味これがエンディング)
はぁ~困ったな。
アーサー様とのお見合いが決まってしまった。
シャルロッテさんやマリーネさんは優秀だけど一人前になるまで時間は掛かりそうだ。
ロゼは少しづつ真面になって来たが…まだ真面と言える状態になるまで時間が掛かると思う。
お義母さまにフリードにシャルロッテさんにマリーネさん…これだけの人数を使ってようやくなんだ。
此処までしなかったら『いつか大変な事をしでかしたかも知れない』
「お姉ちゃん助けて!」
最近は良く私の所に逃げてくる。
「今日は誰から逃げているのかな? それとお姉ちゃんじゃなくてお姉さまでしょうが」
「シャルロッテさんが厳しくて、あはははっ少し匿って」
私はドアを開けて叫んだ。
「シャルロッテさーーん、此処にロゼが居ますよーーっ」
「お姉ちゃん酷いっ」
「あのさぁ~ロゼ、お姉ちゃんロゼを貴族のまま居られるようにして、好きだって言うからフリードと婚約まで出来るようにしてさぁ~大切な友人と一緒に居られるようにしてあげたよね~…なのに酷いなんて言うのかなぁ~」
「だけど、お姉ちゃん、今度は王族と婚約」
「そうかぁ~ 今度は王族になりたいのね『なら頂戴』って言ってみれば? お姉ちゃんはまた」
「ううつ、もうそんな事は言わないよ…絶対に言わないから…それよりお姉ちゃん自分の事『お姉ちゃん』って呼んでいるよ」
「あんたがしつこく言うから…移っちゃったじゃない」
「ロゼさん、こんな所に居たのですか? マリア様有難うございます」
「シャルロッテさん、ロゼにはきつい位で丁度良いですからお願いしますね」
「畏まりました…それであの、私頑張りますから、その…ロゼさんの授業が終わりましたら、今度は私に経済について教えて下さい」
「別に構わないけど…私のは独学だから参考にしかならないわよ」
「それで構いません…あと週末の王都の話し」
「忘れてないわ」
「きゃっ、有難うございます」
最近、シャルロッテさんが妙に可愛らしい、まぁ少し大人になったのかも知れない。
「あっシャルロッテさん、ロゼさん此処にいたのですね、あとで剣の稽古付き合って下さい」
「剣の稽古ならフリードに頼めば良いんじゃないかな」
「私は『マリアーヌ流剣術』を学びたいのです」
「なにそれ?」
「ドレーク伯爵さまから聞きました、マリーネはマリア様に仕えていますので隠さないで大丈夫ですよ…さぁロゼさん行きましょう」
「お姉ちゃん助けて」
「頑張ってねロゼ」
「そんな、お姉ちゃん…」
「やっぱり気が変わったわ、今日は私も一緒に教えてあげる事にします」
「嘘、やっぱり良い…お姉ちゃん頑張るから」
「「マリア様宜しくお願い致します」」
うん、こんな生活も幸せかも知れない。
今迄、前世の記憶に引っ張られて生きて来たけど…私はまだ14歳。
読書が好きでお義母さまたちと語らうのが好き。
だけど、同年代の人と普通に過ごすのも悪くない。
予定と変わってしまったけど…これはこれで良いのかも知れない。
うん…私は幸せだ。
【FIN】
マリアの戯言
これで私の物語は終わりで良いのかな?
作者さんが多分終わらせるつもりだから終わりね。
だったら、此処でどうして『私が幸せ確定』だと思ったのか話した方が良いよね。
前世の記憶がかなり色濃くある私。
前世は書かれている通りOLをしていたのよ。
鬼の様な先輩と一緒に頑張った結果、女としては出世して管理職までなったけど。
気が付くと社畜みたいとまでは言わないけど…仕事ばかりの人生。
何故死んだかは想像に任せるけど…死んで転生した先は貴族のお嬢様。
まず、この社会で貴族に産まれたら、女は殆ど仕事をしないで良いのよ。
前世で言うなら『専業主婦…家事なし』凄く素敵でしょう。
まぁ色々習い事はしなくてはならないし、教養も必要だけど『お嬢様』だから仕方ないわ。
大きなお屋敷に住んで使用人が何でもやってくれる。
しかも結婚相手も本来はしっかりした人で高学歴で身分がある人。
ねぇOLから考えたら夢の様な生活でしょう。
此処まででも幸せなのに…犯罪を犯した場合は別だけど、家から出される場合はかなり高額の金額を家から貰えるの。
日本円にしたら億単位のお金。
つまり、万が一ロゼやフリードの策略が成功しても、たかが姉妹喧嘩だから、ちゃんとお金を貰って出ていける。
そして、此処をでても平民でなく市民だから良い仕事につける。
その仕事も市民が付くような仕事は…ホワイト。
朝は9時位に出社して4時には仕事が終わる様な生活。
億単位の資産があるんだからそれすら辛ければ辞めれば良い。
多分、お父さまの性格なら使用人もつけてくれるから悠々自適。
つまり最悪なシナリオでも私にとって『幸せは確定』でしょう。
それに私は宝石や美術品に価値を感じないから…全部ロゼにあげても良い位だし…
まぁ貴族だから最低限は必要だけど..
私は今でも小説が好きで良く読むし…
昔は沢山ライトノベルも読んだ気がする…
その私の考えた結論は『仕返し』なんてそんなに必要ない気がするのよ。
昔に居た日本じゃ婚約破棄なんて数百万円位しか慰謝料貰えないもの。
それだけ貰って、泣きながらお酒飲んで忘れていくだけだわ。
しかも姉妹で男をとりあう事もそんな珍しい事じゃない。
だから重要じゃない…
【仕事ばかりしていた私の幸せは、ゆとりある生活を送る事】
だから貴族の女に産まれたら犯罪を犯して追放にでもならない限り幸せは確定。
田園調布のお嬢様以上なんだから…幸せでしょう。
なのに…
「マリアよお前は三家を従える立場になった、皆が一人前になれるように指導するように」
何でこうなったのかな。
「お父さま…」
「三人ははお前の子家にあたる…だがまだ一人前では無い、ならば親家であるお前が指導するのは当たり前じゃ無いか?」
「あの指導係の使用人をつけるのは?」
「いや、そうも考えたのだがシャルロッテ嬢もマリーナ嬢もお前から学ばせて貰うと言われてな…もう人心掌握しているなんて相変わらずだな」
「そうですか?」
「この国で王族以外が爵位を授与し従えた…他の貴族も注目している、頑張れよ」
「はい」
「家名と家紋もしっかり考えるように…王が言っていた」
「はい」
あれっ…もしかして私、本当に失敗した。
そうだ、皆が一人前になれば、きっと楽が出来るよね。
それまで頑張らないと…あっ、私それまで【ゆとりないじゃん】
もしかして『幸せ確定』なのに自分から厄介事をしょい込んだのかな…
まぁいいや…これから14歳らしく楽しい人生でも送りますか。
あとがき
最後まで読んで頂き有難うございます。
実は、私は結構な年齢で、正に昔はコバル〇を読んでいた世代です。
今と違い、昔はネットも無く原稿用紙に書くのが主流でした。
何回か持ち込み、編集者の厳しい意見を聞き、心が折れた事数回。
そして、その後は友人に頼まれ『同人誌』にて執筆。
そんな感じを過ごし…やがて社会に出て忙しくなり、物を書くと言う事を忘れて行きました。
そして変わった仕事についたり、社畜の様に働いて月日がたちます。
本を読む事さえ忘れていた私がライトノベルに出会いました。
そして気軽に投稿出来る『小説〇〇〇〇う』で書いてみました。
そしたら、私が書いた作品が上位になり、感動しました。
ですが、それから暫くして凄く悩むようになりました。
日間1~20位 週間1位から20位 月間1位から20位。
そんなランクを維持していたのに、賞も取れず勿論書籍化の話もありません。
自分より順位の下の作品が次々書籍化していきコミック化していきアニメ化されていく…何でだろう。
そんな事を考えていました。
色々なアドバイスを頂き、此方の方が読者層があっている。
そう感想欄から、教えて頂きこちらに移ってきました。
最近の感想を書く方の多くは『まるで編集者みたいなかた』から『純粋な感想』を下さる方も居て凄く嬉しかったです。
私の作品の多くは『強烈な迄のざまぁ」です。
こういった作品は凄く人気が出る反面…「大嫌い」そういう読者も多く出てきます。
そこで、今回初めて『復讐心がない主人公』で『自分からざまぁ』しない主人公を書いてみました。
思ったより人気が出て凄く良かった反面、自分の未熟さを知った作品です。
そして、コミック化された作品やアニメ化された作品に比べ…私の作品は『面白いかも知れないけど感動』が少ないそう感じました。
また、私の中の作品で感動する作品は、特殊すぎて本には出来そうにない作品ばかりです。
感想欄から色々教えて頂き、ようやくこれに気が付きました。
暫くは唯一書籍化された作品『勇者に全部取られたけど幸せ確定の俺は「ざまぁ」なんてしない!』の更新を頑張り、次回こそは『感動させる作品』を目指し頑張ります。
最後まで有難うございました。
別作品はルール上書けないのを見落としてましてスミマセン。
加筆修正をして見た所、元の方が良かった。
そういう方からの感想が来ましたので
この作品の加筆修正を止めまして。
その下に新たに一話からスタートさせます。
別に書いたのですが…
ルールで『一つの作品を分割またはコピーして、別作品として投稿する行為』が禁止されていたのを見落としていました。
その為、こちらに統合して書いていきます
妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!【感情移入版(仮)】
この作品に、沢山の感想有難うございました。
?主人公の感情が薄い
?視点変更で読みずらい
というご指摘がありましたので、1話から全部書き直してみようとしたのですが…
いざ書いてみたら『元の方が良かった』という感想が直ぐにきました。
そこで、以上2点の修正をここから書いてみます。
見比べて見るのも面白いかも知れません。
第一話 婚約破棄 大丈夫?(加筆大幅修正)
私の名前はマリア…この国のドレークの伯爵家の娘だ。
そして、ある理由が元で貴公子と名高いドリアーク伯爵家のフリード様の婚約者をしています。
ただ、私個人としていえば…これが恋愛なのかなぁ~と疑問を思っています。
実は私は【転生者】です。
別に転生者と言っても、聖女の能力がある訳でもありません。
300年も弱い生物を倒してレベルMAXなんて事もありません!
私が転生してきたこの世界には、すご~く残念ですが、魔法はありませんし、魔王もいません。
ただ、前世の記憶を持ち越している、それだけにすぎません、しかも普通のOLの平凡な記憶だけです。
そのせいか、少し大人な考えがモテるだけで、チートでも何でもありませんね。
貴公子なんてイケメンと結婚出来るんだから幸せだろうって?
あはははっ馬鹿言っちゃいけません!
貴族の婚約って前世でいう所の『花嫁修業』なんて比べ物にならないのよ!
正直に言わせて貰えれば、この苦労を考えたらトントン、嫌、マイナスかも知れませんよ!
今日は、何時もの様にエチケット夫人(私命名、だって凄―く、マナーに煩いんだもん)にしごかれていた中、何故かフリード様に呼び出しを受けています。
何故なのでしょうか?
その横に笑顔の妹ロゼが居て、私を叱りつけて来るのです。
可笑しいな?
あれ~なんで私が叱られるのかな?
本当に解らないよ。
毎日のようにエチケット夫人をはじめ、色々な方のブラック企業顔負けの毎日。
フリードやロゼに会ったのは、あれれ~思い出せないないや。
顔はすれ違って見てはいるけど!
ちゃんと会話したのは何時だっけーーーうん!思い出せない。
それに、前世も含み私って文学少女だから、妹のロゼみたいに社交界には興味ないし、ダンスパーティーとかも好きじゃ無いから、ここ暫くの接点は全く無いんだけどなぁ~
うん、怒られる理由が全く解らん…わ。
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
ロゼへの嫌がらせ? 全く覚えは無いわ、本当に死ぬ程忙しいしーー、正直、構ってなんていられないわよ、ロゼに構う位なら、ひたすら寝たい、今の私、目の下隈が出来ているのよ? それにロゼは私の事が大嫌いみたいだから、余り話もしてないわ。
睡眠も真面にとれない私は、時間が惜しくて仕方ない、私を嫌っている妹なんかに時間なんてとられたく無いもの。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
本当に身に覚えは無いわ、そもそも私はロゼに嫌われているせいか、廊下で会っても妹は挨拶も返して来ない。
最初はそれでも挨拶位はしていたけどさぁ、返さない相手に馬鹿馬鹿しいから私も挨拶をしなくなった、ロゼとは交流その物がないわ。
「おはよう」「ごきげんよう」「さようなら」
家族なのにこれだけで充分会話が成り立つ位だわ。
私がロゼに何かをした? 全く記憶など無いし、婚約してから【結婚までに淑女として1人前にする】というお義母様の教育方針でエチケット夫人の指導で忙しいからそんな事している暇なんて、全く無いわよ。
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
本当に身に覚えが無いわよ…指導、指導、指導ばかりで、そんな事する暇なんて本当に私には無いわよ。
だが、一応は淑女教育を受けている私は…しっかりと貴族らしく答えます。
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
周りは静まりかえり、二人の取り巻きたちは距離を置いて私を見ているわね。
悲しい事に『孤高のボッチ』の私には味方なんて居ないのよね?
だけど、誰もが私の話が正しいのを知っているから、黙ってその様子を見ているわね。
「待って、フリード、そんなに姉を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
何なのかな?この茶番…まるで昔見た「ざまぁ系の小説の始まりみたい。取り巻きなんて、私には一人も居ないわよ? 傍に居るのお母さまがつけた教育係と護衛だけ…まぁ無視は貴方が挨拶もしないから心当たりはある…挨拶しない妹に挨拶しないのは問題になる訳ないよね?
挨拶しても返してくれない相手なんだから、話かけないのはお互い様だわ。
フリードの言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出しているけど、本当にこれで、何で私が一方的に言われるのか、本当に解らない。
あんたら前世のブラック企業の家長かよーーー!
貴族なんだから怒鳴らず冷静にはなそうか?
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
もしかして婚約破棄ですか?
こんなに辛い『花嫁修業』をしている私に…
そうですか?
まぁ別に構わないわ…
向こうから言い出したんだから、これは「私のせいじゃない」私から言い出してないからね? 一方的婚約破棄これは覆られないわ『責任は全部フリードだ』うん、いいんじゃないかな?
それなら【何も問題無い】 うん、私に落ち度は全くないから本当に安心だ。
さぁ貴族の淑女モードにならなくちゃね…私は猫を三匹被った。
「では、フリードはどの様にしたいのですか!」
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
フリードって馬鹿なのかな?
公衆の面前で馬鹿やって…本当に貴族なのかな?
世間話し位しかした事がなかったけど、此処まで酷いとは思わなかったわ。
なんで『貴公子』と呼ばれているのか疑問に思うわね。
私は更に追加で猫三匹被った。
「そうですか、ではどのようにしたいかフリード様がお決め下さい…」
フリードは雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。
まるで舞台に立つ役者のよう…おひねりでも投げた方が良いかな?(笑)
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
えーと、私は別に構わないよ…だけど良いの?大きな問題に確実になるんだけどな、平気?
「それは双方の両親、ひいては当主であるお父様達もご存じなのでしょうか?」
どう考えても知らない筈だわ、知っていたらこんな事を絶対にさせる訳ないもの。
「まだ、知らせていない..だが」
本当に頭がいたくなるわ…貴族として家の付き合いがあるのだから…先にそこを押さえてからでしょうに、親に許可も貰わないで婚約破棄…『貴公子』こんな奴がなんでそんな風に呼ばれているのかな
私は凄く疑問に思うわよ。
せめて、先にどちらかの両親の許可を得てからするのが筋でしょうが…
まぁ良いです、こんなに頑張ってきた私にその仕打ち、言質はとらせて貰います。
「まどろっこしいです…貴族として正式のお言葉か聞いております」
この様な問題行動を起こす様な人間、私としても【要らない】
危なっかしくて生涯なんて一緒に過ごせないわ。
もっとしっかりした人間だと思っていたのに凄く、残念だわ。
「マリア、元婚約者とは言え、無礼だぞ、だが…良かろう貴族として正式の言葉として伝えよう」
これだけの沢山の貴族の前での宣言だよ!もう取り消しはきかないわよ、本当に馬鹿ね。
私としては【こんな不良物件】掴まないで良かったわ。
婚約者としての愛情は少しはあったのよ、これでもね。
ロゼにだって、姉妹としても愛情は余りないけど…家族だとは思っていたのよ。
此処まできたら…もう取り返しはつかないだろう。
どうもしてあげられない…なら【そこ迄して臨んだ】願いを聞いてあげるのが私の最後の愛情だ。
「謹んで、マリア.ドレーク婚約破棄をお受けします」
私は【これで良い】、別に恨まないし、復讐なんてしない
本当に二人はもう【どうでも良い】存在なのだから。
ロゼ、貴方は本当に妹だからと言って、子供の頃からから、私の物をなんでも取り上げてきたわね。
正直言えば、少しはうざく思っていたのよ!…だけどもう、どうでも良くなったわ。
だけどね、流石に嘘までは受け入れられないわ。
まぁどうせすぐに、大変な事になると思うわ、だけど【二人が望んだ未来】だから仕方ないわね。
まぁ【真実の愛】があるなら大丈夫でしょうね。
私が簡単に婚約破棄を受け入れた事で留飲が下がったのかフリードは静かになった。
そして、少しだけだけど言葉を弱めた。
良いのよ、幾らでも聞くわよ!多分、後で凄く後悔すると思うからね。
ロゼもね…
「そうか…潔いのだな」
断罪でもしたつもり!小説なら泣き喚く、そういう場面ね…だけど、ここはそんな世界じゃ無いと思うわよ。
「別に、罪は認めた訳ではありませんよ?私はフリードは嫌いじゃ無かったですが、まだ、婚約して結納を貰った位の間柄です、心は【愛】にまで育っては居ませんわ、それは本来これから長い時間を掛けて築く物ですからね、今の時点で妹が良いなら仕方ない事ですわ、今更、良好な関係は築けないでしょう…ロゼ、誓いなさい! 貴方はフリードを本当に愛しているのよね?姉から奪ってまで欲しかったんでしょう?」
自分に酔っているロゼならしっかりと答えるだろう…何時も私から物を取り上げた時の様な、凄く嫌な笑顔をしますからね。
「黙らなくて良いのよ!ロゼ!フリードは嫌いでは無いけど「まだ、愛を育んでいない」から、ロゼ貴方にあげるわ!」
「私はフリードを心から愛していましす…この愛にに生きると誓います」
「偽りはありませんか?」
「偽りはありません」
本当に馬鹿な子ね、これから茨の道が待っているのに、だけど、本当に愛しているなら仕方ないわ、うん本当に良かった。
「では、貴方に婚約者の地位を正式にお譲りしますわ」
無実の罪に2人して陥れたのだから良心の呵責があるでしょう?
だけど別にいいのよ、そんな事、うん、【どうでも良いわ】
これで、貴方のお姉ちゃんは居なくなりました。
私はそう考えるわ。
そして貴方を支える未来の妻も居なくなりました。
それだけだわ。
「マリア…」
「もう、何も言わないで良いですわ、妹は(愚かな)貴方にふさわしいわ、お幸せに」
「すまないな…」
「別にどうでも良い事です、それじゃ二人ともお幸せに」
私は、その後、不機嫌そうな顔をして壁の花になった。
帰りたいのに、今日は王子が出席しているパーティーなので帰れない。
仕方ないわ、我慢よ私。
今日は貴族の子供だけのパーティー、大人の貴族は此処には居ないわ。
第二王子のアーサー様はいるが、家の事なので口を挟んではこない。
多分、王子は面倒事は嫌なんでしょうね、この話が終わると主催者なのに立ち去った。
「大変だね」
と私を労って…私だって本当は帰りたいのに、アーサー様が羨ましいわ。
第二話 ロゼの事は、実はそんなに嫌ってません!
時は少し遡ります。
多分、他人から見たら【私は不憫な子で何でもロゼに取り上げられている】そう見えている事でしょう…ですが私は全然不憫ではありません!
決して負け惜しみでは無いですよ?
「お姉ちゃん…このバッグ、私に頂戴? これはお姉ちゃんより私みたいな可愛い子の方が似合いますわ」
ちょっとムカって来ますがその程度です。
しいて言うなら『物がとられる事』よりこの言い方に腹が少したつだけですね。
「『お姉ちゃんよりの』下りは余計だけど…欲しいならあげるからとっと出て行ってくれないかな?」
「それじゃ貰っていくわね、お姉ちゃん」
欲しい物を手に入れたのに何時もロゼは不満そうな顔をしています。
その辺りの感覚が私には解りません。
「お姉ちゃん、この蝶々のブローチ綺麗ですわね…貰いますわね」
「そんな、それは私の大事な物…返して」
「いーえ、これは私の方が似合いますから貰いますわね」
大切な物を取り上げられた…そう思うよね?
【甘いわ】アルモンドのショコラパフェより甘い!
何故なら、本当の私は元々【物】への執着が全く無い女なのよ。
だけど、人の物をとりあげた癖に嫌な顔されるのは腹が立つから《大切な物》をとりあげた。
そう感じる様に小芝居を入れている訳。
そうするとロゼは、満足そうに厭らしい笑みを浮かべる。
満足そうに笑うの、私は『気にしてない』そういうそぶりだと不満そうななのよ。
まぁどうでも良いけど、人の大切な物を奪う最低な妹、それがロゼ…そのまま【誰からも嫌われる嫌な人間】になれば良いと思うわ。
私はと言うと、実は本当に【物に執着しない】タイプなのよ。
例えば、バックや指輪が欲しいとすると【実は手に入れるまでが楽しい】そう感じるタイプ。
そして手に入れるとその途端に【欲しくなくなります】
バックも宝石も欲しいから仕事を頑張る、まぁトロフィーみたいな物。
手に入れた途端にそれは色あせていく、そしてもういいやと最後にはなってしまう。
前世で会社でOLをしている時も、友人に「このネックレスあげるわ」「このバック欲しいなら、ランチ奢ってくれたらあげるよ」と普通にあげちゃっていましたよ。
ただ一つ妹を許せないのはロゼは「お姉ちゃんありがとう」とお礼の言葉が無い事だけ。
もし、笑顔で「お姉ちゃんありがとう、にぱー」なんて可愛らしく笑ってくれるなら、多分、私の持っている物の殆どあげても笑っていられるかも知れない。
まぁ…本は別だけどね。
ロゼと私は母親が違います。
ロゼは後妻の子で、私にとっての継母のロザリーは健在なのですが。
最初はお義母さまもロゼと一緒に私を虐めてきました。
ですが、今では…「ロゼいい加減にしなさい! 貴方は沢山持っているでしょう」とロゼを怒る様になってきました。
まぁ、このお義母さまにも欲しがる物を沢山あげましたし…自分やロゼの部屋に比べて私の部屋に何もないから良心の呵責に耐え切れなくなったのでしょうね。
お義母さまが変わったのにはこんなエピソードがありました。
「ロザリー、それはマリアの母親の形見だ…何故マリアの物をお前が着ている」
「そんな、これはマリアがくれたんです…信じて下さい!」
そんな風な事件があり、継母は私に嵌められたと思ったみたいです。
ここで断罪なんかしても何も良い事はありません。
この場でお義母さまがお父様に怒られても、後で何倍もの嫌味を言われるだけですからね。
「ああ、それなら本当にお義母様に差し上げましたよ! 私にはまだ早いしドレスもお義母様が着た方が喜びますから」
まぁ前世持ちの私だからの事なかれ処世術です。
ですが…
「「マリア」」
此処まで効果があるとは思いませんでした、こんな事で、何故、2人が涙ぐんでいるのか私には解りません…ですが、これ以降、お義母さまもかなり優しくなりました。
私はどうも、物には無頓着でして、このドレスも、要らないから差し上げても良い、そう思っていた物ですから。
私は【思い出は心の中にある】派なので個人の形見にも未練がありません。
楽しかった思い出は、物なんてなくとも目をつぶれば何時でも思い出せますもん。
その事をお父様とお義母様にその事を言ったら…更に泣かれて本当に困りました。
私は物を余り持ちたいと思いません。
前世の私は最初散らかし放題の汚部屋に住んでいました。
前世の親にも心配される位でしたが、ある時ミニマリストに目覚めて、その時から、スマホとパソコンと着替え5枚位しか持ったない生活を送っていました。
これでも、私的には寧ろ物があり過ぎです。
しかも、ロゼに取られても…そこは貴族の家、必要な物はお父様やお義母様が直ぐに買ってくれますから、別に困る事はありません。
取られた所で新品で買って貰えるから生活には問題はありません。
寧ろ、新品になるから物によっては嬉しかったりしますよ。
だから、周りの人間は家族や使用人も含み、私がロゼを嫌っている様に思っているかも知れませんが。
実は周りが思っている程は嫌ってないんですよ。
だからって好きかと言われれば、好きではありません…そりゃぁ、人から物を物を無理やり取り上げながら感謝一つしない人間。
好きになんて成れませんよね?
ですが、そこは家族、勿論、不幸な目に会って欲しいとは思っていませんよ。
【ロザリーSIDE】
私事、ロザリー、ドレーク伯爵家に後妻として嫁いできました。
ドレーク家にはマリアという先妻の子が居て、私はこの子が凄く嫌いで仕方がありません。
ですが、後妻という立場ではそれを顔に出す訳にはいきません。
貧乏子爵家に生まれて貴族と言うのは名ばかりで、貧乏だった私には【マリアが凄く鼻についた】のです。
周りから、解らない様に【大切な物】を取り上げたり、お金も最低限しか渡しませんでした。
まぁ、使用人にはまるわかりですが、主人や他の貴族には絶対に解らないでしょうね。
ですが…この子は何時も、そんな事には屈せずに、泣き言すら言いません。
泣きつく姿を見たくてしているのにですが…一向に泣きついてきません。
正直言うと、少し薄気味悪く思えます。
結婚して暫くすると私は子供を身籠りました。
これで生まれてくる子が男なら、もうドレーク家は【私のお腹の子が後継ぎです】
この瞬間『勝った』と思いました。
まぁ確率は1/2ですからまだ確実ではありません、女だとしてもどうにか出来る、そんな確信があったのです。
マリアの悔しい顔が見たくて私はマリアを呼びつけました。
流石のマリアもきっと泣き出すに違いありません。
意地悪い顔を作りながら言ってやりましたわ。
「マリア、貴方も終わりね、この子が男の子ならこの家は私達の物だわ…そうしたら貴方はこの家から叩き出してあげる」
「お義母様、お体に障りますよ!今はゆっくりとお休みください…それがお義母様の望みなら別に私は構いませんよ、規定通りに【貴族家から追い出した場合の手切れ金】を頂いて此処を私は去りますから、安心して下さい、今はそれより興奮なさらずに休養をして下さい、子供が流れてしまっては、それも出来なくなるんですからね」
この子が何を言っているのか解らない。
貴族にとって家を追い出される、それ以上の屈辱は無い筈なのに。
「私は…貴方を追い出す、そう言ったのよ?」
何で、そんな顔が出来るの? 私なら絶対に耐えられない。
「はい、構いませんよ!追い出されたら、そうですね、王都にでも行って王立図書館の司書にでもなりますよかね、 私は揉めないで去りますから、推薦状は下さいね」
なんででしょう、何故だか心がチクりと痛んだ気がします。
「本気で言っているの?」
「はい、お義母様とお父様、そして生まれてくる子には【私は邪魔でしょうから】去りますから、ご安心下さいね」
「マリア」
更に、心が痛んだ…心臓がチクチクする。
自分には此処には居場所が無いから…そう言われた気がした。
だが、私は【自分の居場所とこれから生まれてくる子の為】この子を犠牲にしなくてはいけない。
だから同情なんかしてはいけないわ。
だけど…この子は、駄目、マリアの事なんて考えては駄目だ。
それから暫くして、赤ちゃんが生まれてきた。
残念な事に女の子だった。
綺麗な私に似た赤髪だったから、主人と話しあって【ロゼ】と名前をつけたわ。
女の子だから本当は悔しがる筈なのに。
不思議な事に、私は…何故かホッとしていた。
【これならマリアを追い出せない】
それなのに…本当に可笑しいわね。
勿論、当たり前のように自分の子ロゼを優先して可愛がっていた。
自分が欲しい物は勿論、ロゼが欲しがった物は全部マリアから取り上げた。
主人は仕事が忙しく家の事は全部私任せだから、気がついていないと思うわ。
使用人も私やロゼの味方だから…大丈夫だ。
だが、ある時、マリアから奪ったお気に入りのドレスを着ていた時だ…主人に気がつかれました。
「ロザリー、それはマリアの母親の形見だ…何故マリアの物をお前が着ている」
嘘、このドレスはあの子の親の形見だったの?
あの子、そんなに悲しい顔なんてして無かったのに。
もう、完全に詰んだかも知れない。
貴族の夫人なんて立場は離婚されれば、それで終わりだわ。
例え見苦しくても、誤魔化せるなら誤魔化さないと。
「そんな、これはマリアがくれたんです…信じて下さい!」
主人は未だに前妻を愛していた。
これがあの子が考えていた罠なのかも知れない。
今迄黙って【差し出していた】のはこの為だったのね…流石にこれは言い逃れできないわ。
これで私は追い出されるわ、娘共々貧乏に逆戻りだわ。
だが、違った。
「ああ、それなら私がお義母様に差し上げましたよ! 私にはまだ早いしドレスもお義母様が着た方が喜びますから」
嘘よ…これは私が無理やり奪った物でしょう。
貴方がくれた物じゃ無いわ、お母様の形見だったのでしょう?
大切な物じゃない…
貴方が、私が脅して取り上げた、盗んだ…そう言うだけで私達は追い出されるかも知れないのに…
それでも庇うと言うの?
自分とマリアを見比べたら….マリアはまるで昔の私だ。
貧乏だったから貴族なのに何も持って無かった私みたいに見えた。
私が、ロゼが取り上げたから
それに対して…今の私はあの頃、私を馬鹿にしていた令嬢みたいな事をしている。
私は…自分が【一番嫌いな人間】になってしまっていたのね。
この子は凄いな、多分私なんて、大嫌いな筈なのに【堪えて庇ってくれたんだ】
もう、この子に意地悪するのは止めよう…ちゃんと娘を扱う様にロゼを愛するようにマリアも愛してあげよう…そう考えた。
涙が出て来た…この涙は、自分の不甲斐なさから来た物だと思う。
多分、横の主人の涙とは違う涙だと思う。
この時から私は、マリアの本当の母親になろうと決意しました。
第三話 まだ愛は始まっていません 二人が心配です。 加筆(性格面の追加)
事件の事を衛士が伝えたのか、いきなり宰相のユーラシアン様、それにお父様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達貴族がなだれ込むように入ってきました。
だが、もう遅いです…既に全てが終わってしまった後ですからね。
「婚約破棄とは何事だ?」
お父様とドリアーク伯爵様は大声をあげています、そりゃそうですよ、家所か家族の誰にも話さず勝手に婚約破棄したら怒られるのは当たり前ですよ~
「たった今、マリアとの婚約破棄をして新たな婚約者にロゼを指名しました」
恰好をつけてフリードは言っていますが…それがどれ程の意味を持つのか知らないのでしょうね、貴族同士の婚姻は、家同士の重要な繋がりなんだから、それを勝手に変えて問題だにならない訳は無いのに。
「フリード…それは正式な言葉として発してしまったのですか?」
言葉は丁寧ですがドリアーク伯爵様の目は笑っていません、腸が煮えくり返っているそんな所でしょうか?
「はい、父上貴族として正式な言葉として伝えましたが何か問題でも?」
ええっ確かにそう言いましたね…しかも王族である王子の前でですね。
「マ、マリア嬢ははそれを受けたのですか..」
ドリアーク伯爵様は真っ青になりながら聞いて来られました。
あそこ迄、他の貴族の前で言われたら、私だって面子はあります、受ける以外の選択肢はありませんよ。
「はい、しっかりと受けさせて頂きました…流石に【妹のロゼを新しい婚約者にする】とまで言われましたら受けざるを得ませんでした」
お父様を始め周りの人間は真っ青になり、誰も笑っていません。
そりゃそうですよね?
正式な婚約をああも見事に壊されたら家としてのメンツも無くなります。
特にドリアーク伯爵様は…死にそうな目をしています。
多分、これから賠償問題が起きるのでしょうから気が気じゃない、そんな所ですかね。
今日のパーティは貴族の子息女の為のパーティーでした。
その為【諫める大人の貴族】が居ませんでした…ですがまだ爵位が無いとはいえ貴族の家族の前での暴挙、どう考えても、これから起きることは決して軽い事では無いでしょうね。
私は…実はフリードの事をまだ、愛していませんでした。
これから時間を掛けて好きになる、そんな状態です。
貴族の婚約なんてそんな物です
だって、まだお話したり、一緒に散歩を数回したそれだけの仲です。
何故、妹のロゼはこんな馬鹿な事をしたのでしょうか?
何時もの様に「お姉ちゃん、フリード様を好きになっちゃったから頂戴」
そう言えば良かったのに…
そうすれば、かなり問題はありますが、本当に二人が愛し合っているなら、正式に婚約破棄をして、両家で話し合いからスタートそういう未来がありました。
それでも大変な事になりますが、今よりはマシな未来があった筈です。
それをこんな馬鹿な事したら…まぁ私には関係ありませんが、絶対に大事になりますよね。
後は、大人達の話し合いです、私達が口を挟んで良い問題では無いでしょう。
家同士の話し合いなのですから。
何故、ロゼはこんな馬鹿な事したのかな?
何となく、原因は解っています。
私とフリードが愛しあっている、そう思い悪い癖で欲しくなったのでしょう。
私が持っている物なら、何でも欲しがるのがロゼの悪い癖ですね。
素直に言えば良いのに…今なら私の気持ち的には、普通に譲れましたよ。
同じ事を言いますが【まだ愛してないのですからね】
お見合いしたばかりの人間を心から愛している…そうは言えませんよね。
これから時間を掛けてお互いが愛し合っていく、そんな時間です。
この状態はまだ私的には愛して無い状態です。
私は前世での恋愛スタイルは【馬鹿ップル】です。
何時も一緒に居て、暇さえあればイチャイチャして、抱き合い人目も気にしないでキスして、お揃いの服着て…同棲迄していました。
これこそが愛だとつい、前世の記憶があるせいで思ってしまいます。
これは貴族に転生してしまったからには諦めなければならないでしょうが、今の状態を心がまだ恋愛が始まっていない、そう言ってきます。
前世の恋愛に比べて貴族の恋愛は、贈り物を送ったり、偶にあってお茶する程度。
特にフリードの家は遠いから、文通と贈り物ばかり…お茶も多分4回しかしていませんよ、こんなのはやはり前世の記憶持ちの私には恋しているとは思えないのです。
こんなのは前世で言うなら、小学生ならいざ知らず、大人なら恋愛と言えない気がどうしてもしてしまいます。
恋愛が始まる前の状態だと思います。
「他に好きな人が出来たんだ」
「そうか、仕方ないね」
この程度の状態なら、こんな風に普通に別れられる状態ですよね…まぁOLなら、精々がやけ酒飲んで忘れて、あくる日には仕事していますよ。
会社は休めませんからね。
私は別に傷ついていません…そんな事より、今は自分の事より二人の事の方が遙かに心配です。
【義母ロザリーSIDE】
娘ロザリーとフリードが起こした事件の事を主人から聞いた。
「緊急事態だ、詳しい話は後だ」
そう言うと主人は、使用人に急ぎ馬車を出させた。
待っている間に普段、あんなに優しい主人が「まだ用意出来ぬのか!」と怒鳴りつけていた。
今起きている事を考えたら仕方ない。
私は本当に子育てに失敗したんだと思う。
今のロゼが昔見た嫌いな令嬢たちにしか見えなくなった。
この家には男の子がいない…だから、マリアと結婚した男性が婿に入り後を継ぐ。
これは当たり前の事なのに。
そしてロゼは結婚してこの家を出て行く、それは当たり前の事、それすらも解らなかったの?
本当に情けない。
『この我儘娘に、貴族の妻が勤まるのだろうか?』なんどそう思ったか解らない
『もう今更教育しても遅いかも知れない』いつもそう思っていた。
それでも『母親の私は諦める訳にはいかない』
そう思って教育してきたのに…
私の教育は間に合わなかった。
そう思うしかない。
まさかロゼがこんな馬鹿な事をするなんて、ここまで酷かったなんて想像もつかなっかった。
マリアの婚約が決まり、これからお返ししよう、そう思っていた。
相手はフリード『貴公子』のあだ名を持つ、なかなかの好青年。
今の私に恩返しとして出来る事は、マリアを結婚するまでの間に淑女にする事だ。
貴族の妻として充分な作法やマナーを自分が知る限り教えよう、それが私なりの恩返しそう考えた。
そう思った矢先に…こんな事件を起こすなんて。
私は目の前が暗くなった。
私は…殴りつけてもあの時ロゼを教育するべきだった。
あの場で、マリアから取り上げた物を返させ、ちゃんと謝らせるべきだった。
あの時の甘さが招いた事。
これは私のせいだわ。
幾ら後悔してもしきれない。
~『回想』~
今思えば『私はあの子から奪ってばかりだったわ』そして親子なのに部屋にはもう随分行ってないわね。
マリアが外出中にこっそりと見てみた、私やロゼが取り上げたからかなり物は無い筈だ。
不便のままにしたくない、返すなり、買い与えてあげないと。
だが、そこで見たマリアの部屋は想像を絶する物だった。
なんなのこの部屋は…本当に何も無い。
しいて言えば本はあるけど、あれはマリアの物でなくこの家の書物庫から持ってきた物だから『正確にはマリアの物』じゃない。
ベッドと机、寝具は元からあるから流石に豪華だが、それを除けば…使用人の部屋にすらこれ以下の部屋を探すのは難しいと思える程、本当に何もない。
クローゼットをあけて見たら、ドレスは4着しか無かった、しかもどれもが凄く質素な物ばかりだった。
宝石箱も…うん? なんでこんな粗末な物になっているの?
確かマリアが持っていたのは、私が買い与えた宝石を散りばめたオルゴール付きの物だった筈だわ。
しかも開けたら…中にあったのは指輪1個にネックレスが1個…嘘でしょう。
こんなの貴族の令嬢の持ち物じゃないわ。
貧乏子爵の娘の私でも、此処まで酷く無かったわよ。
私は此処までの事をしていない…これをやったのは1人しか考えられない『ロゼ』だ。
私はその足でロゼの部屋に向った。
「ロゼ?」
思わず目を疑った…なんなのこの部屋は、何から何まで揃っている。
いや、揃い過ぎている『豪華絢爛』とはまさにこんな状態の事を言うのだと実感したわ。
「どうかされたのですかお母さま」
「これは一体どういうことなの…貴方は一体何をやっているの?」
可笑しい、可愛い実の娘に対して『卑しい女』そんな事が頭に浮かんだ。
「ちょっと待って、お母さま何しているの」
私はロゼを無視して机を開けた。
可笑しな事に、豪華な万年筆や筆箱が幾つも出て来た。
どう考えてもこんなに持っている訳は無い。
同じ物が複数ある…
「良いから…黙りなさい」
そう言うと私はクローゼットから引き出しまで全部開いて中を確認した。
マリアの宝石箱にネックレスに指輪出てくる出てくる、本当にキリが無い位だ。
しかも物によっては同じ物が2つある物まである。
こんな事は思いたくない。
だが『卑しい』そんな一番嫌いな面を実の子が持っている。
そう思うと泣きたくなってきた。
「お母さん、何をしているの? 勝手に私の物を出さないで」
「これは貴方の物じゃないでしょう? 半分以上がマリアの物じゃない」
「だって、マリアお姉ちゃんがくれたんだもん」
本当にくれたとしても…なんて意地汚い子なのかしら、なんて卑しいの。
同じ物が幾つもある物まであるわ。
主人や私が、2人に買い与えた物まで2つとも持っている物が沢山ある…本当に意地汚い娘。
私は手をあげたくなるのを我慢して、静かに話した。
「あのね…流石に二つも同じ物は要らないでしょう? ドレスだってこんなには要らない筈よ」
「だけど、お姉ちゃんがくれたんだからお母さまは、関係ないでしょう」
「貴方が無理やり奪ったんじゃ無いの、知っているわ」
「お母さんだって前に同じことしていたじゃない」
確かに私も前にしていたわ、それを言われたらぐうの音も出ない。
だけど、それは悪い事だ、だからこれから返すつもりだ。
「確かにそうだったわ、だけど、それは悪い事なの!だからお母さんはこれから、返すつもりよ!」
「へぇーそうなんだ、マリアに返す位なら、私に頂戴よ!」
呆れて何も言えないわ。
「ロゼ、幾ら何でも怒るわよ、いい加減にしなさい」
「なんで怒られるのかロゼ解らない」
そうやって不貞腐れる顔はまるで、私が大嫌いな『あの令嬢達』そっくりだった。
一応、念の為、マリアに確認したら…本当にロゼあげていた。
マリアはどうしてなのか物欲が無い。
見ている私が歯痒くなる程に…
ある意味清貧、だけど子供らしくない。
私が、私が虐めたから、こうなってしまったの…
多分、私がマリアに返しても、ロゼがきっと取り上げる。
もう主人に相談するしかなかった。
「その話なら、マリアだってあげた物をとり返すのは不本意だろう、マリアには生活費を余分に与えて新たに買い揃えさせよう」
そういう話で決まった。
~『回想終わり』~
あの時、もっときつく処分するべきだった。
だが起きてしまった事はどうしようもない。
今の私には『マリアが傷ついてないように』そう祈る事しか出来ない。
第四話 両家の話し合い 加筆、感情追加
私の家、ドレーク伯爵家に場所を移して話し合いが行われるみたいだわ。
移動する時に、私は1人馬車に乗った。
ロゼとフリードは2人一緒の馬車に乗るようだが、横には使用人が囲む様に乗り込み、馬車に乗り込む二人の顔は、遠目にも青ざめている様に見えた。
家に着くなり、私は部屋から出ない様に言われ、2人は使用人に囲まれながら、連れていかれた。
多分、これから大人達本当の貴族の話し合いが行われるんだろうと思う。
これには私は勿論、ロゼもフリードも参加は出来ない。
前の人生に直すと『不始末をした結果、社長や取引先の社長が話し合い、懲罰が決まるのを待つ状態』に近いのかも知れないわ。
まぁ、私は完全に被害者だからただ待つだけで良いわね。
フリードやロゼはきっと気が気でないかも知れないけどね。
俺事、ドレーク伯爵は娘ロゼがやった不始末についてこれから、話し合いをしなくてはいけない。
事が事だけに、今迄のように子供がした事だからでは済ませられない。
それはドリアーク伯爵も同じで、あの冷静な男が頭を抱えている。
皆が沈黙のなか最初に口火を切ったのは宰相のユーラシアンだった。
「それで、今回の事はどの様にするのですかな? ドリアーク伯爵にドレーク伯爵…早々に結論を出して貰えないか?」
その目は決して笑ってない。
貴族間の婚約破棄に巻き込まれ、いきなり報告を受け、そのままとる物も取らず駆けつけたんだから当たり前の事だ。
この国アドマン王国では貴族の婚姻には王家の承認が居る。
特に次期当主が変わる場合は厳しい決まりがある。
例えば、侯爵家と公爵家辺りで婚姻により親戚になったら下手すれば勢力関係が変わってしまう。
実際に過去に公爵家同士が婚姻をし力をつけ旧王家を滅ぼし、今のアドマン王国になった。
その為子爵以上の家の者の婚姻は基本的に【王の許可が必要】とされる。
平和になった今現在は、婚姻の為の王印は基本、余程の事で無ければ簡単に確認して押される。
王家が貴族の婚姻に反対する事は実質無いに等しい。
だが、今の王の祖先が旧王家を滅ぼし王位についた。
その時代の決まりは生きており、貴族間の婚約には王が認めた王印が必要となる。
今回の事で問題となるのは…既に婚約は王に伺いを立てており、王が許可をして王印を押された後に起きたという事だ。
つまり【王が正式に認めた婚約】をまだ爵位を持たない貴族の子供が王にも親にもお伺いを立てずに、自分勝手に反故にした…そういう事だ。
貴族だからこそ、こんな事は許されない。
だからこそ事の重大さに気がついた宰相のユーラシアンは多忙にも拘らずこうして、急いで出向いてきている。
流石のドリアーク伯爵も動揺せざるおえない、だがそこは貴族頭を悩めさながらもしっかりと答える。
「解りました、ユーラシアン様には本当に我が愚息の事で迷惑をお掛けいたします、これからドレーク家と話し合いの元に必ず、結論を出しますので明日までお時間を頂けませんか?」
それを聞いたユーラシアンは少し緩やかな顔になった物の、相変わらず目は冷たい。
「良いでしょう! もうこんな時間ですから私もこちらに泊まらせて頂きます、明日の昼まで待ちましょう、ただどんな結論であっても王に持ち帰らなければなりません、必ず何だかの結論は出すように…あとスズラの森の開発にも罅が入らない様にお願いしますね」
これから、こんな大事について明日までに結論を出さなければならない。
スズラの森は二家で共同で行う大事業だ、これに問題が飛び火したら大変な事になる
子供達がした不始末は自分達で決着をつけないといけない。
俺には肯定以外の返事は許されない。
「解りました、とりあえず、客室をご用意しましたのでお休みください」
「ええっ くれぐれも宜しくお願い致します」
既にフリードとロゼは部屋で軟禁状態にした。
本当に困った事をしてくれたもんだ、我が娘もフリードも、何故俺にもドリアーク伯爵にも相談をしなかった。
マリアも部屋から出ないように伝えてある。
傷ついたマリアの手前、2人にはそれなりの処罰を与えないとならない。
話の中心は、ドリアーク伯爵に俺 基本この二人で話し合いが行われるが、今回仲人役を打診していたオルド―伯爵も席についていた。
「この度はうちの愚息が申し訳なかった」
直ぐにドリアーク伯爵は俺に対して、頭をこれでもかと深く下げた。
「頭をあげられよ…ドリアーク殿、それを言うならうちの愚娘も悪い…まずはどちらが悪いかではなく今後どうするかが大切だ」
「そうだな」
「まずはうちのマリアとそちらのフリード殿の婚約だがこれはもう破棄するしかない、宜しいかな?」
「ああっ、それで構わない…納めた結納品や金品はそのままマリア嬢への慰謝料として受け取って貰いたい」
「良いのか、フリード殿が、このドレークを引き継ぐ予定だったからなかなりの大金を結納金として頂いている状態なのだぞ」
伯爵でも本当に痛い、そこ迄の金額の結納を貰っていた。
ドリアーク伯爵らしい。
「愚息が馬鹿をしたのだ、それは致し方ない」
「だが、マリアと別れた時点でフリード殿は、もうこの家の当主にはなれんのだぞ! それも解っているのか?」
この男の事だしっかりと解って言っているのだろうな。
「解っておる、愚息がした事はとんでもない事だ、その位の事をしなければ釣り合いは取れない、無論それだけでなく今後のマリア嬢の婚姻についてはドリアークの名に懸けて愚息以上の相手を必ず探す事を約束しよう」
我が、ドレーク伯爵家には男の跡取りが居ない。
故に長女であるマリアと結婚した男性が跡取りとなる。
つまり、爵位と領地はマリアに紐づいている。
フリードはドリアーク家の三男だったが、このままマリアと結婚すれば我がドレークの跡取り、つまりは将来伯爵の地位が約束されていたのだ。
つまり、家としては同格だが、爵位が貰えないフリードが【伯爵】になれるのだから、マリアとの婚姻は玉の輿とも言えた。
それは二家の絆が血によって深まる、そういう意味も今回の婚姻には含まれている。
今は平和だから許されるが、戦乱中ならまず王は認めない、そこ迄の意味があった。
「解った、マリアについて謝罪はそれで良い、寧ろすまない、後程正式にフリード殿が謝罪と言う事で、これで終わりにしよう」
「そう言って貰えると助かる、それでスズラの森の干拓の話はどうする?」
「謝罪も受けた、今迄通りで良いだろう」
「そう言って貰えて助かった、スズラ森の開発は両家、ひいては国の大きな事業だからな」
「その通りだ、本来は両家の親睦を深め、この大きな事業をやり遂げると言う意味での婚約の話でもあったが、婚約破棄だからと言って仲違いする訳にはいかない」
「そういう意味で、国王ハイド三世様も今回の婚約を楽しみにしていたのだ、本当にえらい事をしてくれたもんだ…それで愚息とロゼ嬢の婚約だがどうする?」
「本当に頭が痛いわ…貴族の何たるかも解らん、今になっては娘の教育を疎かにした自分が恨めしい」
俺が甘やかしすぎたから、そのつけがこんな形で返ってきた。
マリアが手が掛からず、分別をわきまえているからと、つい教育を疎かにした結果がこれか?
もう少し俺やロザリーが気を付けていれば…今更だ。
「そんな事を言っている場合ではないぞ、まずは貴族籍をどうするかだな」
本当にそうだ。
「本当に頭が痛いわ」
フリード殿は三男なので、貴族籍を持っていない人間と結婚したら貴族で無くなる。
それはうちのロゼも同じで相手の男性が貴族籍を持ってなければ、貴族で無くなる。
フリードの家は長男が継ぐからフリードに貴族籍が行く事は無い
そしてロゼも家はマリアが継いでその夫が当主になるから貴族籍は与えられない。
フリードもロゼも婚姻相手が【爵位持ち】で無ければ貴族で無くなるのだ。
「こうなった以上は彼らに温情を掛けるかどうか疑問だが、俺としては愚息とは言えフリードは可愛い息子だ、だが貴族で居られる様にするには爵位を購入するしか方法はない…あれだけの貴族の前で婚約を宣言した以上は…最早、他の者との縁談は無理だろう」
「アーサー様がその場にいたのだから、今更【婚約は間違いでした】とは言えないだろう、ロゼにも縁談の話が来ていたのだが、もう無理だ」
「申し訳ない」
「いや、此方はお互い様だ、姉の婚約者を受け入れた、もしくは誘惑したロゼも悪い…問題はこれから、どうするかだ!」
「貴族籍を買ってやり貴族で居させるか、平民に落とすか…」
「ああっだが、この国は平和で豊かだ、今の世の中、貴族籍を売る様な者はまず居ない、恐らく買う事が出来ても精々が【騎士爵】、男爵以上などまず売りに出ない」
「そうであったな、更に言うなら今回みたいな馬鹿な事をした人間と付き合いたい貴族がいるかだが、居ないだろう」
「その通りだ」
「そこから考えたらロゼ嬢も愚息も貴族で居させるのは難しい…どうだろうか? 愚息のフリードとロゼ嬢にはドリアーク家から結納代わりに手切れ金を出そうと思うのだが、それで終わるしかないのではいか」
「ならば、ドレークからも同じ金額をフリード殿と娘のロゼに出し、それで終わりにするか」
「貴族で無くなるが、当人が選んだ道だ仕方あるまい」
「そうだな」
結局、両家の出した結論は
1.婚約は破棄になったが両家の仲は良好であり問題無い
2.スズラの森の開発はこれまで通り、両家で責任を持ってやる。
3.王家に承認を貰った婚約を破棄した責任としてスズラ森の開発で手に入った利益の20%を王家に向こう10年差し出す
4.今回問題を犯した二人には貴族の資格は無いと判断し貴族籍等は与えず、市民に落とす
5.仲人を打診していたオルド―伯爵には顔を潰した償いとして金貨1000枚を支払う
それで話し合いは終わった。
「こんな所か?これで王家が許してくれると良いのだが」
「そうだな、オルドー伯爵、貴殿もこれでどうにか許して貰えぬか、この通りだ」
「本当に迷惑を掛けたすまない」
俺とドリアーク伯爵はオルド―伯爵に深く頭を下げた。
今迄、ただ聴いていたオルド―伯爵が初めて口を開いた。
「私の方は、金貨1000枚は要りませんよ、私に使う位なら傷ついたマリア嬢に使ってあげて下さい、多分この条件なら王家も許して下さると思います、あとはユーラシアン様にもお詫びの品を用意した方が良いと思いますよ、宰相の仕事も忙しいのに駆けつけてくれたのですから」
これでオルド―伯爵に大きな借りを作ってしまった。
貴族が借りを作る、こんなに怖い事は無い。
これで俺もドリアーク伯爵もオルド―伯爵に暫くは頭が上がらない。
「お気遣い頂きすまない、マリアの父としてお礼を言わせて貰う、ありがとう」
「お気になさらずに」
「愚息のせいで本当に申し訳ない」
「お二人とも、本当に気になさらないで結構ですから」
次の日、話し合いで決まった事を、宰相であるユーラシアンに伝えた。
勿論、謝礼金もこっそりと裏で渡してある。
「この内容であれば、王も罰などとはおっしゃらないと思います…ただ事が事ですから【登城】の可能性もある、そう考えていてください」
「「解りました」」
宰相ユーラシアンは、ドレークの馬車に揺られながら帰っていった。
俺はは此処にきてようやく胸をなでおろした。
第五話 すこしだけモヤっとしますが、それだけです。
ああっ、本当に気が重い。
俺は本当に困っている。
これから、一番の被害者である、我が娘マリアへ報告をしなくてはならない。
あの子は、何時もなにも文句を言わない我慢強い子だ。
何時もマリアにはつい我慢をさせてしまっていた。
だからこそ、その埋め合わせにと、幸せになって貰いたく。【貴公子】と名高いフリードを婚約者に選んだのに何たるざまだ。
まさか…ロゼにかどわかされるようなボンクラだったとはな。
「すまない、ドレーク伯爵」
もしかして、顔に出ていたのか?
「気にする必要は無い、今回の件はうちのロゼも絡んでいる、全部そちらが悪い訳でない」
「そう言って頂けると…本当に救われる、すまない」
あの、傲慢で意見を違えない男がこうも低姿勢だと調子が狂ってしまう。
いつものように、会議の席で私と怒鳴り合う姿に戻って欲しい物だ。
「ドリアーク伯爵、この話が終わったら、何処かのサロンで飲もうでは無いか? それで全部終わりにしよう、貴殿がその調子では俺もどうして良いか困ってしまうぞ」
「俺とて、間違いをすれば正しもするし、詫びる、今回は愚息の事で少々疲れただけだ」
こう言うドリアーク伯爵は気のせいか10歳以上老けた様に見えた。
そうこうしている間にマリアの部屋にたどり着いてしまった。
息を数回吐くと俺は意を決してマリアの部屋をノックした。
本当に気が重い。
【マリアSIDE】
ドアのノックの音がした。
多分、話し合いが終わって私に報告をしにお父様たちが来たのだろう。
余り聞きたくはないわ。
付き合いが短いとは言え婚約者だったフリード、妹のロゼの処分が決まった筈だ。
それは決して軽い物ではない筈だ。
私一人が許した所で此処まできたら、何も変わらないわ。
「どうぞ」
私がそう伝えると、お父様とドリアーク伯爵、お義母様が雪崩れ込むように入ってきた。
多分、フリードとロゼは後で来るのだろう。
顔色は凄く悪くて全員が青白い。
しかも、その表情からは、すまなそうな気持が漂ってくる。
私としては申し訳ない気持ちで一杯だ。
前世の記憶がある私としてはこの位の事は全く問題無い。
こんな事で傷つく程私はやわじゃない。
私が前に居た世界では、こんな事は普通にある事だ。
女子高生をして短大に入りOLとなった経験を覚えている私にとっては自分を含み周りではこんな失恋は日常茶飯事だったわ。
異世界とは違い、前の世界では正に恋愛は戦いだったのよ!
イケメンで優良株の男には女が群がり、水面下で泥沼の様な戦いをしていたし、ロゼなんか比べ物にならないしたたかな女が正に弱肉強食の世界で奪い合っていた。
私自身も失恋したのはこれが初めてではない。
実際に短大時代に出来た彼氏は【肉食派の自称、私の親友】に寝取られた。
既に同棲までしていて、毎日バカップルの様にイチャついていた彼。
もしかしたらこのまま結婚するのかな、そう思っていたよ。
それが、あんな派手な女に寝取られるなんて、思わなかったわ。
ご丁寧に「私妊娠したの諦めてね~まだ婚約もしてないいでしょう」とかうざいメールしてくるし、これよがしに、明かにラブホの中でキスする写真を送ってくる。
挙句の果てに結婚式の招待状迄送ってきたわ。
あの二人に比べたら可愛いもんだわ。
2人とも、貴族という立場を考えたら、ロゼもフリードも、最後の一線はおろかキスすらしてない可能性が高い。
精々が手を握ったり、抱きしめ合う健全な関係だろう。
これは私の中では寝取りでは無いわ、そうこれは【寝取り】ですら無い。
だって『寝てない』んだから寝取りとは言えないよね~
前世の世界では、余程の美少女で無ければ、小学生の時に好きな男子はクラスのマドンナみたいな子に夢中になり付き合えない。
告白しても振られるだけ。
可哀想な子は「彼奴あんな顔で博に告白したんだぜ~」とトラウマになる位楽しくない生活を送る事になるのよ。
中学でも高校でも人気のある男子は競争率が激しく、サッカー部のエースでイケメンとかなら他の女の子がひっきりなしに狙ってくるから彼女になっても振られる危険性は山ほどあるわ。
本当に、こんなのはよくある話し、よくある話よ。
婚約者の相手を奪えば、前の世界でも慰謝料はとれるよ!
だけど、苦労して分捕る慰謝料も微々たるものだ。
本当に嫌な思いをして相手二人がこれでもかという程不誠実でも300万とれたら良い方なの。
そしてお酒や遊びに明け暮れて、失恋の傷をいやす。
それが私が前世で生きて来た世界。
確かにフリードはイケメンで貴族、前の世界に直せば『イケメンエリート』凄く優良物件だよね。
そして、私の婚約者では確かにあるよ。
今の私とフリードの関係って、婚約者ではあるわ…だけど『愛している』かと言えば疑問だわね。
だって、顔合わせして、文を貰う事数回、お茶をした事数回、昔ならまるで小学生の清い交際だもん。
大人だとしても、お見合いして文通して、喫茶店でお茶を飲んだだけの相手にしか過ぎないじゃない。
それが幾ら一流企業のイケメン御曹司でも寝取られたからって恨むまではいかないわ。
精々が「ロゼ子の奴、あたしの彼を奪ってムカつくわ」と友達に愚痴を言って酒飲んで、1週間で忘れちゃうわよ。
ねぇ、執着心なんて、そんなに無いの解るよね。
そんな事で傷つく程、やわじゃありません。
前世を併せれば、おばさんですからね。
私のなかでは寧ろ【今でよかった】【相手がロゼで良かった】そんな思いすらあるのよ。
だって、もし正式に結婚した後にこんな事になったら、私は立場的にロゼを追求しなければならないし、泥沼の愛憎劇になるわ。
場合によっては私自らロゼに【国外追放】すら言い出さなければならなくなるわ。
最近のお義母様は凄く優しく、まるで本当の母の様に私に接してくれている。
私も、お義母様とは正直思えないが、年上の親友の様にお義母様を思っている。
そんなお義母さんの娘のロゼに酷い事はしたいとは思わないわ。
またフリードが手を出したのが【ロゼ】で本当に良かった。
そう思う。
もし手を出した相手が使用人や平民なら、貴族として処罰しなくてはならない。
もし、他家の貴族の令嬢なら、恐らく遺恨を残し家同士の確執を生む。
貴族の中に敵が出来るのは多分お父様も好ましくない筈。
だから、これは【不幸中の幸い】だったんだと思う事も出来るわ。
腹が立つと言えば腹が立つけど。
「マリアよ、ショックを受けているのは解るが、そこを通してはくれないか?」
「ごめんなさい、直ぐにお通し致します」
考え事していたら固まってしまったわ。
何やっているのかな?
私はお父様たちに部屋に入って貰った。
あれっ、だけど私…ほんの少しだけど、頭に来ているのかな?
そんな事無い筈なんだけどな?
少しモヤっとしますね。
第六話 私が言っても何も変わらない。(感情追加 加筆)
お父様たちから話を聞いた。
正直に言わせて貰うなら、かなり重すぎる気がする。
話をしながら、お父様もドリアーク伯爵様も、お義母様も下を向いて悲しそうだわ。
そりゃ、そうだよね、血がつながった子供なんだから誰だって罰したいなんて思わない筈だよ。
貴族じゃ無ければ、こんな大事にはならない筈だし。
貴族じゃ無ければ、お父さまとお義母さま、ドリアーク様がビンタして正座させてお説教して、私に謝罪して終わる位の事だわ。
だけど、貴族だからこそ、それじゃ終わらない。
そんなに悲しい顔をしないで欲しい。
私は何とも思ってないんだから。
「お前からしたら、腹の虫が収まらないと思うが、これで許してやって欲しい」
許すも何も私はそんなに怒って無い。
少しはムカっとはするが、それは『ちゃんと筋を通さなかった』そぼ馬鹿さにだよ。
「私の娘が本当に酷い事したわ、本当にごめんなさい、私の躾が悪かったからこんな事になった、恨んでも恨み切れないでしょう…ですが私には謝る事しか出来ないの、ごめんなさい」
確かにムカっとはするけど、その程度の事なのに、なんだか申し訳ない。
「愚息が本当に申し訳ない事をした…この償いは必ずする、許して等貰えないのは解っている、だが今はせめて謝罪をさせて欲しい」
確かに貴族としては大事に違いない。
だけど、私個人としては『そこ迄の事じゃない』
心の底から好きになった人間なら、私だってオーガみたいになるかも知れないわ。
だけど、フリードとの付き合いはまだ浅いから『恋』や『愛』には届いてない。
それに、今回の事で『凄く幻滅』してしまったから、寧ろ今は結婚しなくて良かったとさえ思えるのよ。
あの怒鳴りつけるフリードを見て、後先考えない行動を見たら。
一生この人の傍に居たい、なんて気持ちも無くなったわ。
だから、私の気持ちは円満に婚約破棄でいいとさえ思っている。
此処は貴族社会、前世の日本とは違う、それは解っているけど、前世の日本という社会なら…
『慰謝料無しの財産分与無しで破棄』
そんなので充分な気持ちだわ。
家族の縁はそんなに軽くは無いから、寧ろ二人から恨まれたくない気持ちの方が強いわ。
「お父様、身分の事ですがもう少しどうにかなりませんか?」
「そうだな、確かにしでかした事を考えたら市民じゃ駄目か? マリアが言うなら平民にまで落とそう」
私はそんな事は望んで居ないわ。
重くじゃなくて、軽くして欲しいのよ。
「確かに此処までしたんだ、それも仕方ないだろう」
「マリアちゃん、あれでも娘なの…市民で許してあげて」
お義母さま、私はそんな事は言ってませんてば。
本当に、市民じゃ無くて平民まで落とせなんて言わないよ?
そんな鬼みたいな事しないよ、貴族から市民だって物凄くあの二人からしたら、辛いのに、流石に平民にしろ、なんて言わない。
市民なら、貴族つきの仕事や、公共施設に勤める仕事につきやすい。
昔の世界で言うなら【公務員】や【警官】等の良い仕事に就ける、平民でも可能ではあるが余程優秀じゃ無いとそんなに良い仕事に就けないし出世もまず無い。
ちなみに、私がつきたかった王立図書館の司書は市民で無いとまずなれない。
あの二人は今迄働いた事は無いんだよ、そんな温室育ちの二人じゃ、平民は元より市民でも生活出来ないと思うよ。
出来たら、貴族の末席にでも最低残してあげないと、多分大変な事になる様な気がする。
だから、私は、多分聞いては貰えない。
だけど、自分なりの意見は伝えさせて貰う事にした。
「そんな事考えてませんよ、どうにか貴族のままでいられる様にしてあげれませんか?」
「マリア? お前それで本当に良いのか? あらぬ疑いを掛けられ婚約破棄されたんだぞ、ロゼに恨み位あるだろう?」
お父さまが驚いた顔で私を見た。
恨み、確かにある。
それは手順を踏まずに馬鹿な事をした事。
大勢の前で恥をかいた事だ。
だけど、それとこれは別。
此処までの事をして欲しいとは私は思っていない。
「我が愚息がした事だが、普通に考えて許せる事じゃないだろう、公衆の面前で恥をかかされたのだからな」
確かに貴族としてならそうなんだろうね。
ムカっとは来たよ。
前世で読んだライトノベルのヒロインなら泣き喚き…場合によっては復讐に走るわね。
だけど、私は違う。
自分でも前世を引き摺りすぎだと思うけど。
こんな事、いやこれ以上悲惨な目に何回もあってきた。
その度に私は自分の心と向き合って乗り越えてきたんだ。
まぁ、結果本が好きになり、人とは趣味以外で最低限しかつきわないようになったけし、『ボッチの方が気が楽だな~』なんて思考になったけどね。
恋人を寝取られたからと言って、人の人生を全部壊すのはやりすぎだと思う。
少なくとも前の私なら、振られたからって地位や財産迄根こそぎ奪うような事はしない。
それを主張しんだけど、此処は貴族社会、だからそのままいう事は出来ないわね。
どう言えば良いのかな?
「確かに嫌な思いはしましたが、ロゼは可愛い妹、フリードは友人です、楽しい思い出も沢山あります、だから、余り酷い事はしたく無いのです、どうにか2人が貴族でいられるようにして頂けませんか?」
これでどうかな? 少しは罪が軽く出来たかな。
「マリア…貴方って子はなんて良い子なの、 それに比べてロゼはロゼはあああああーーっ本当にごめんなさい」
泣かないで良いのに、それより、苦しいから、この手放してくれないかな?
それに、お義母様、泣いていたら化粧も剥げてきて大変よ。
「マリア、お前の気持ちは良く解った、だがな、今現在はこの国は平和で豊かだ、誰も爵位なんて手放さない」
「もし売りに出されても騎士爵位しかまず無い、それも相当お金を積まないと買う事が出来ない」
確かにこの世界は剣と魔法の世界では無いから滅多に人は死なない。
どちらかと言えば、乙女ゲーの世界観に近く、安全な世界だ。
そんな安全な社会で貴族籍など、そうは手放したり売り出されたりしないわね。
何かないかな。
「あの、もし可能なら、私への慰謝料を減額して、騎士爵を買い上げ二人を貴族の末席に残してあげる事は出来ないでしょうか?」
「愚息の未来を案じてくれた事は感謝する、だが、愚息は剣が苦手だ、更にもう宰相のユーラシアン様に伝えた後なのだ、今頃は王に伝わっておる無理だ」
「そうだな、マリアの気持ちは解ったがもう遅い」
何か手は無いかな?
円満解決になる方法はないの?
考えろ、私。
「それならば、ロゼとフリードが結婚するなら、私がドレーク家の家督を手放します、そうすれば、全て丸く収まります…私はそうね、ロゼとフリードが貰う筈だったお金を貰って、王都で市民として暮らしますわ」
これで私は充分。
だって、正直言わせて貰えれば、ロゼとフリードが貰えるお金の金額は凄く魅力的に思える。
流石は貴族、質素に暮らせば、一生働かないで暮らせる金額なんだから驚きだ。
お父さまから推薦状を貰えるなら確実に図書館の司書にはなれるし、働いて嫌だったら困らないお金があるのだから辞めれば良いしね。
その前に、後ろ盾に伯爵がいるなら、誰も意地悪なんてしてこないから『嫌』とは無縁だと思う。
まぁ、実際にやって見なければ解らないけどね。
少なくと私にとっては素敵な未来だ。
だが、多分そうはいかないよね。
「マリア、それは母として認めません、私はロゼの母ですが、貴方の母でもあるつもりです、 悪い事した娘が良い人生を歩み、正しく生きる娘が不幸な人生を生きるなんて許せません、 家督は貴方の物。 それだけは、なにがあっても覆ってはいけないのです」
昔は私を追い出そうとしていたのに、今はお義母さまは、凄く優しい。
だけど、本当に私はそれで良いと思っている。
だって、追い出されたとはいえ、伯爵家だから恐らく金貨3000枚位はくれる筈。
金貨1枚、前世で言う10万円くらいだから3億円。
私からしたら、何の責任も無くこんなお金が貰えるなら、そっちの方が良い。
王立図書館の司書になって本に囲まれながら暮らして、生活に困らないし。
多少贅沢しながら、誰の顔色も見ないで暮らせる。
うん、決して不幸じゃないよね。
まぁ、フリードやロゼじゃ、そんな大金でも半年も持たずに使ってしまいそうだけどね。
「マリア、優しいのは良いが、貴族としてお人好しはいかんよ! 幾ら妹だからって甘やかしすぎは良くない、出て行くのはロゼで決まりだ」
「マリア嬢にそんな事させたら、もう責任の取り方が解らなくなる、婚約者の妹と不倫した挙句、家まで愚息が手に入れた、そんな事になるなら俺は彼奴を手に掛け引退する」
結局、私の意見は聞いて貰えず、決定は何も変わらなかった。
第七話 貴公子と呼ばれた男の絶叫がこだまする。
俺は今、ドレーク家の客室で軟禁状態にある。
原因は解っている。
俺がマリアとの婚約を破棄してロゼと婚約したからだ。
ロゼは大丈夫なのだろうか?
酷い事されていないだろうか?
それだけが気になる。
別々の部屋に引き裂かれるようにロゼは連れていかれた。
俺は特に酷い目にはあっていない、ただ、それは肉体的にであって、精神的にはボロボロだ。
「この部屋から出ないから、席は外して貰えないだろうか?」
「それは出来ません、今の貴方はお客では無いのですからな」
客でない? それはどういう意味だ。
「俺がマリアからロゼに婚約相手を切り替えたからか? それでも俺には当主になる算段がある」
「それは、それは…もしフリード様がドレーク家の当主になられるのでしたら、このジョルジョ如何様にでもお詫びしましょうぞ、なんなら命を差し出しても構いませぬ、ですが、今の貴方様は客ですらありませんので、この部屋で見張らない訳にはいきませんな」
部屋の外に誰かがたち、見張るならまだ解る。
だが、部屋の中にまで人がいるのでは、まるで犯罪者の扱いではないか。
「そうか? お前はロゼではなくマリアの方につくのだな? ならば俺が当主になったらクビにしてやる」
「別に構いません、勘違いされては困りますから言わせて頂ければ、私はドレーク家に仕えております、マリア様やロゼに仕える訳ではございません」
なんだ此奴は…他の使用人達も皆…何時もと違う目で俺を見ている。
イラつく…
「そうか、まぁ良い」
俺はそれしか言えなくなった。
暫くすると、父上がこちらに入ってきた。
他の人間は居ない。
「お前みたいな奴は息子とは思いたくない、はっきり言えば顔も見たくない」
そこ迄いわれた後にいきなり殴られた。
だが、俺ことフリードは間違った事などはしていない。
自分でしっかりと調べて考えた上でした事だ。
きっと、あの女狐の様なマリアに騙されているんだ。
どうやって、それを証明すれば良いんだろうか?
「父上いきなり殴るとは…せめて理由位は聞くべきでは無いですか?」
「フリード、だったら聞こうではないか? 何の相談も無く、ここ迄愚かしい行動をとった訳をな!」
「父上…」
俺は見聞きした事、どういう思いで行動したのか、その全てを話した。
「そうか…実に愚かしく馬鹿な奴だ、お前は貴公子などと呼ばれて浮かれておったのだな…これが息子かと思うと頭が痛いわ」
どうしたと言うのだ…
「どういう事でしょうか?」
「もう、よい、最初に言っておく! マリア嬢との婚約破棄は確定した、そしてロゼとの婚約は成立だ良かったな息子よ」
何故此処まで不機嫌なんだ…しかも仮にも他の家の貴族の娘に対して【嬢】をつけないのは可笑しい。
「そうですか、ありがとうございます父上」
「ああっ、所でお前もロゼも貴族で無くなり、今後どうやって生きていくのだ? まぁ、もうどうなろうと知らぬが一応は聞いてやる」
貴族で無くなる? 俺もロゼも?
「その事で父上にお話しが御座います、長い間マリアがロゼに嫌がらせをしていました、私はその様な女と結婚はしたくないのです、だからロゼと」
「だから」
だからってなんだ。
「だからって、父上、ロゼがが酷い目にあっていたから俺が助けたんだ」
父上、その蔑む目はなんですか…そんな目をした父上を初めて見ましたよ。
「良かったじゃないか? 助けられて、よくやったおめでとう…話が全部終わったら、さぁ二人でハッピーエンドだ、何処にでも行くが良い」
「父上…父上は幼い頃から【正しい事を成せ】そう私に言って来たでは無いですか?」
「ならば、言わせて貰う…まず、ドレーク伯爵家の爵位はマリア嬢に紐づけられている、如何なる理由があろうとそれは揺るがない」
「ですが、マリアは…」
「例え、マリア嬢が人格破綻者であろうが、マリア嬢と結婚した者がドレーク伯爵家の正当後継者だ、お前は自分からその資格を捨てた」
「ですが、それではロゼが救えなかった」
「そうだな…だが、俺だったらドレーク伯爵の後を継いでから、ロゼの様子を見て、幸せになれる嫁ぎ先を探す、これが貴族らしい正しい道だ、お前が選んだ道は、貴族の責務を果たさない、ロゼと一緒に幸せになれない、誰1人幸せになれない、そんな道だ」
「それでも俺はロゼの傍に居て救ってやりたかったんだ」
《馬鹿な息子だ》
「そうか、もうお前は後戻りは出来ない、どっちみち、マリア嬢との婚約破棄、ロゼとの婚姻が決まった、貴族としての人生は終わった、だが、それだけでは無い…多分これから知る事実がお前にとって一番衝撃を受ける筈だ…ついてこい」
「一体どこに行くと言うのですか?」
「まずは、ついて参れ」
何処に行くと言うんだ…此処は…ロゼの部屋。
「フリード様、ご無事で何よりでした、ロゼはロゼは…」
「ロゼ、大丈夫か? 何か酷い事はされていないか」
「何時もの事です、もう慣れました」
《良いか、この部屋の様子を見ておけ》
「父上?」
「ロゼ、お前と息子の婚約は成立した」
「本当ですか? 嬉しい、ありがとう御座います!」
「礼などは要らぬ、後で両家で話し合いの結果を伝える、しばし待つが良い」
「はい」
ロゼが無事でよかった。
本当に良かった。
「それで父上、今度は何処に行くのですか?」
「今は他の部屋に行って貰っているが、本来の婚約者だったマリア嬢の部屋だ」
「マリアの部屋ですか?」
「そうだ…」
何故だ、さっきよりも父上の顔が怒っている様に思える。
「此処がそうだ..許可は貰っている、クローゼット以外であれば開けて良いと許可も貰った」
「これがマリアの部屋…ですか」
「そうだ」
嘘だろう、この部屋にはベッドと机以外、殆ど何も無いじゃ無いか?
使用人の部屋ですら、もう少し何かありそうな物だ。
「父上、これは私を騙そうとしているのですか? これが貴族の娘の部屋の訳が無い」
「マリア殿は質素を旨にして生きている、金品に執着は無く望むがままに欲しがった物はロゼにあげてしまったそうだ」
「そんな」
「見ての通りの部屋だが…どう考えてもお前の言い分とは違うな」
「これは…これは何かの間違いです」
「間違いではない」
「そんな..」
「ここからは私が説明させて頂きます」
「ロザリー様…これはどういう事でしょうか?」
「身内の、いえ娘の恥を晒すようで余り言いたくは無いですが、ロゼは何でも欲しがる卑しい子です」
「そんな、ですがマリアには新しい物を買い与え、ロゼが持つ物は古い物ばかりでは無いですか…」
「ロゼがマリアの物を何でも取り上げるから、マリアの物が無くなり買い与えていただけです…貴方も見たのでは無いですか? 豪華なロゼの部屋を、貴方が見た物が全てです」
「ですが、使用人からしてロゼに厳しくしている様に見えますが、これはどう説明しますか」
そうだ、全てが可笑しいのだ。
「マリアは貴族としての礼儀作法は殆ど完成しております、それに比べてロゼはまだ基本すら、うろ覚えです、教育を任された者が厳しくなるのは当たり前かと思いますが」
教育…あれが、そうなのか。
「だが、やり過ぎではないでしょうか」
「ロゼは人の言う事を聞きません、我儘で甘えて辛抱しません、その結果未だに、貴族として必要な教養が無い状態です、厳しくても仕方ないとは思いませんか」
「そんな…ならば俺は」
「自分の娘を悪く言いたくないですが…恐らくはマリアの婚約者だから、貴方が欲しくなったのでしょう、悪い癖です」
「それでは俺は…なんの罪もないマリアと婚約破棄をし、騙されてロゼを婚約者にしてしまった…そういう事ですか?」
「馬鹿な息子だ、伯爵の地位をお前にもたらし、質素を旨としている婚約者を捨て、我儘な妹を選ぶとはとんだ【貴公子】だな」
「お父上…私はマリアに、マリアになんて事をしてしまったのでしょうかーーっ、せめて謝りたい、いや謝らせて欲しい」
《本当に馬鹿な息子だ】
「お前は何を言っているんだ? マリア嬢はもうお前の婚約者では無い! お前の婚約者はロゼだ、貴族籍を持たぬな、そしてお前も貴族籍を持たない…これから先は市民として暮らすしかないだろう、我が家とドレーク伯爵家からは家を出た者として扱う事になるだろう」
「そんな、俺は…貴族で無くなるのか…ロゼも」
「そういう事だ」
「やりなおし…そうだまだやり直しが」
「出来る訳ないだろうが、王族が居る前で、婚約破棄宣言したんだ、もみ消しは効かないな」
「そんな」
「まぁ、そこ迄して選んだ相手なんだ、良かったじゃないか? 結納代わりに手切れ金を渡してやる、これが父として最後の情けだと思うんだな」
「そんな、俺は俺は俺はーーーーーーーっ」
何の罪もないマリアを傷つけ加害者のロゼの味方をしていたのか…
「あははははっ俺はーーーっ俺はーーー」
貴公子と呼ばれた男の悲しみの声がこだまする。
第八話 貴公子と呼ばれたピエロ(フリード回想)
これはおろかな男の物語。
自分の力を過信した為に、大切な物を失ったピエロの物語。
笑ってくれて構わない。
此処からは…
俺ことフリードの過去の物語だ。
(回想)
最初に会った時マリアは凄く物静かで大人しい子に見えていた。
マリアは俺の婚約者だ『この人こそが俺が全てを捧げ、守るべき存在なんだ』
心底本当にそう思っていた。
実際に婚約が決まり、交際が始まった。
マリアは凄く大人しい人で、文を交換や、お茶会の様な質素な付き合いを望んだ。
そして、それは俺にとっても凄く、穏やかな掛け替えない時間だった。
だが、それが全部偽りだったなんて誰が思う?
まさか、物静かで寡黙なマリアが、実の妹を虐め、虐待する様な悪魔みたいな女とは誰が気付くだろうか?
その異変に気が付いたのは、いつもの様にマリアとお茶をしてドレーク伯爵家を後にしようとした時だった。
木の陰で震えている少女を見つけた。
男としての庇護欲に狩られた。
だから、泣いている原因を知りたくて俺は声を掛けたんだ。
「何故泣いている」
驚かせないように、大きな声を出さないで出来るだけ穏やかな声で話掛けた。
怯えている者と話すにはこの方法が一番良い。
「フリード様、お見苦しい所を見られてしまいました」
俺の名前を知っているのか?
彼女はマリアの妹のロゼだった、将来は俺の義妹になる存在。
ますます放って置く訳にはいかない。
「そんな所で泣いているなんて、何かあったのかい? 俺でよければ話を聞くよ」
彼女は左手を振るわせていた。
これはどう考えてもただ事じゃない。
「その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい」
彼女はそれだけ言うと走り去って行ってしまった。
誰にも言えない、だが彼女を泣かせる様な事が確実に起きている。
将来の義兄としては放って置けない。
俺は、ロゼに何があったのか自分で調べる事にした。
幸いな事に、俺はマリアと違い社交的だったから、ロゼの友人の貴族の令嬢とコンタクトが簡単とれた。
『貴公子』そう呼ばれていた事が役に立ったのかも知れない。
この名のお陰で信頼が得られて、無事ロゼの友人のお茶会に参加する事が出来た。
勿論、その日、都合が悪くロゼが参加できないのは既に確認済みだ。
お茶会当日、俺は王都でも有名なサンスマという店の高級砂糖菓子を持って参加した。
これなら女の子受けも良い筈だ。
お茶会で目にした物は、自分以外は全員女しかいないという光景だった。
男の俺がお茶会に参加するのが珍しいのか、沢山の女性に囲まれて質問攻めにあった。
他愛の無い会話をしながら、気づかれない様にロゼへの話に切り替えていく。
慎重に、そうしなければ真実にたどり着けない。
「そう言えば、婚約者の妹のロゼが元気が無いのだが、何か知っているかい?」
「「「「「「…」」」」」」
さっき迄、煩い位に話していたのに、急に押し黙った。
「なにか知っていそうだね」
明かに、何か知っていそうだ。
「あの…此処だけの話で、お怒りにならない、そういう約束であれば、お話ししたい事があります」
「ああっ約束しよう」
「それなら…」
聞くんじゃ無かった。
まさか、自分の婚約者のマリアが悪魔の様に酷い奴だったなんて、知りたくもなかった。
「ロゼはマリア様に何時も古い物を押し付けられていました、宝石からドレスまで全部マリア様のおさがりばかりで、お可哀想に新しい物を身に着けて来た事は少ないです」
「その様な事が」
「はい、それに何時もマリア様の取り巻きに、怒られ、時には怒鳴られ本当に不憫に見えました」
「そうですわ、楽しくお茶会をしていても、『もう帰る時間だから』とマリア様の連れに無理やり家に連れ帰られる事もしばしありましたわ」
沢山の令嬢の証言があるんだ、これで決まりだ、やはりマリアは黒だった。
「色々教えてくれてありがとう」
「「「「「「どう致しまして」」」」」」
この時の俺はきっとどうにかしていたんだと思う。
なんで初めてあった令嬢の話を鵜呑みにしたんだ。
少なくとも、マリアの友人の令嬢の話も聞くべきだった筈では無いか?
それじゃなくとも、マリアにもちゃんと話を聞くべきだった筈だ。
もっと沢山の人から話を聞けば、彼女達が平等でない事に気が付いた筈だ。
だが、この時の俺にはそこ迄の事は考え付かなった。
令嬢6人が言うのだからそこに嘘偽りはない筈だ。
ただのお茶会の場なのだから、マリアの婚約者の俺にあの様なことは普通は言わない筈だ。
俺の顔を見て暗くなり「此処だけの話」と前置きしてまでして話した。
よく見たら体も少し震えている者までいた。
恐らくは彼女達は、マリアがひいてはドレーク家が怖い筈だ。
それでも、ロゼの友人だったからだろう…体を震わせながらも真実を話してくれた。
ならば、俺はそれに答えたい。
彼女達の友人の俺がロゼを助ける事こそが、彼女達の信頼に答える唯一の方法だ。
この時の俺に、嘘を見破る力があれば、しっかりと考えられたら、今となってはそれが悔やまれる。
俺はそれから注意深くロゼを見張る事にした。
確かに令嬢達の言う通り、ロゼは古い物を何時も身に着けていた。
それに対して、マリアは何時も新しい、王都で売られている最新の物を身につけている。
明かに二人には俺の目から見ても差があった。
見ていて痛々しい。
更に二人を見ていると挨拶すらしない、そこまで確執があるのか?
本当にそう思えた。
確かに、マリアは長女でロゼは次女だ。
貴族に産まれたからには差があるのは当たり前だ。
だが、此処まであからさまなのは、見たことが無い。
何故、此処まで酷い事をするのだろうか?
しかも残酷な事に産みの親までもが、ロゼではなくマリアの味方になっていた。
良く様子を見ていると「貴方って子は」とか「マリアに謝りなさい」という声が聞こえてきた。
可哀想だ。
ロゼにとって、味方は恐らく殆ど居ないのだろう。
多分、友人だけが彼女の唯一の味方だ。
俺は…そんな彼女を見ない振りして結婚をして良い物だろうか?
そんな妹を虐める様な女性を生涯の伴侶に選んで良いのだろうか?
目を瞑る訳にいかないな。
俺は皆に『貴公子』と呼ばれている。
その俺が、ロゼを見捨てて、この状況を見ない振りしてマリアと結婚など出来ない。
俺は…どうしたらよいのだろうか?
取り敢えず、俺は、ロゼを気にしてみるようにした。
最初のうちはマリアに会うついでに、気をつけて様子を見る事にした。
俺が声を掛けると彼女は俯きながら挨拶を返してくれた。
「こんにちは」
「こんにちは、フリード様」
どことなく元気が無い。
俺は彼女の元気な顔が見たくなった。
それからは、マリアに会いに通うついでに、ロゼにも時間を使うようにした。
マリアと会った後に帰るまでの僅かな時間。
その時間が、2人の共有できる時間の全てだった。
どう見ても、使用人の様子からして可笑しい。
明かにマリアに対する様な優しい笑顔をロゼに向ける者は居ない。
【そこまでロゼは嫌われているのか】
本当にそう思える程、使用人の目つきが違う。
「いつも、こうなのかい?」
こんな状態に何時もいるなら、ロゼにとっては、この屋敷は針のむしろだろう。
「私は、次女ですし、お姉さまはドレーク家の長女だから仕方ない事です、それに私のお母様は後添いで、此処にいる使用人の多くの方はその前からの方ばかりですから…」
見ていて心が痛んだ。
やはり此処には彼女の味方は誰もいない。
俺だけ、俺だけは彼女の味方になりたい。
本当に…本当に心からそう思うようになった。
こんな俺に何が出来るだろうか?
真剣に悩んだ。
最初はもしかしたら同情だったかも知れない。
だが、このいたいけで可憐な少女を守ってあげたい。
その想いが…いつの間にか恋に変わっていった。
何時見ても、何処で会っても、周りの目は優しくない。
これがロゼの世界。
誰1人、屋敷の中に味方は居ない世界。
ロゼの味方は僅かな友人だけだ。
「ロゼ、辛くは無いのか?」
「仕方ありません…お父様もお母さまも、皆はお姉さまの事ばかり、きっと私なんて要らない子なんでしょう…次女や三女は良く長女のスペアと言われますが、私はきっとそれにさえにすらなれないのでしょう」
俺だって長男じゃない、長男とそれ以下の扱いの差は身に染みて知っている。
長男、長女は別格、それは貴族社会では当たり前だ。
だが、ドリアーク家では此処まで露骨では無い。
少なくとも、扱いの差はあるが、愛情においてはそんなに差が無く俺は育てられた。
それすら無かったとは不憫で仕方ない。
「そうか」
俺は何も言えなくなった。
誰からも愛されない…その辛さは想像を絶するに違いない。
ロゼの現状を知るにつれ、俺の心はマリアから離れていった。
マリアが命じてしているかどうかは解らない。
だが、姉妹なのだからこの現状を知らない訳が無い。
俺はマリアにカマを掛けてみた。
「妹のロゼですか? 余り接点が無いのですが、ロゼがどうかしたのですか?」
義理とはいえ、接点が無いだと。
マリアが今一瞬目を伏せたのを俺は見逃さなかった。
やはり、後ろめたい事があるのだな。
「いや、何でもない」
…この女狐。
此処まできて、ようやくマリアの性根が解った。
妹を苦しめ、迫害する様な女とは結婚などしたく無い。
俺はどうすれば良いのだろうか?
何とかマリアと婚約破棄をしてロゼを幸せにする方法は無いだろうか?
不幸な生活を送るロゼを救うこそが…貴公子たる俺の使命だ。
その為に俺は何でもするつもりだ。
俺はロゼに自分の気持ちを告白した。
健気な彼女をもう放って置けなかった。
だが、問題なのは彼女が次女で俺が三男だと言う事だ。
つまり、俺も彼女も家の継承権が無い。
父上はしっかりした人物だ。
順序だてて説明すれば…駄目だな。
今回の婚姻は普通の婚姻じゃない。
ドリアーク家とドレーク家のスズラの森の開発に望む為の両家を結びつける意味が大きい。
その為、父上とて婚約を簡単に破棄など出来ないだろう。
…うん、待てよ。
スズラ森の開発はもう決まっている。
これは国王からの王命だから何があっても覆る事は無い。
つまり、ドリアーク家とドレーク家の結びつきは切れる事は無い。
兄たち二人は既に婚姻している以上、俺を変える事は不可能だ。
だが、ドレーク家はどうだ。
長女であるマリアとの婚姻を俺が蹴れば、この婚姻の話はロゼへと移るのでは無いか?
妹への数々の嫌がらせ、それがあれば、俺が婚姻を拒んでも「仕方ない」そうなるのではないか?
両家が結びつかなければならない以上はマリアとの婚姻を破棄してロゼとの婚姻になっても問題は無いともとれる。
多分、ドレーク伯爵は俺をかってくれている。
相手をマリアからロゼに変えても、問題が起きない可能性が高い。
俺をかってくれて、次期当主に望むと言う事は「ドレーク家の次期当主は俺で決まっている」筈だ。
ならば、俺の好きな相手に変えてしまっても、多少は揉めても最後には認めて貰えるような気がする。
その為には、周囲に如何にマリアが酷い人物か伝えなければならない。
そして、それを認めさせる実績を積み、最後には賛同を得るために告知すれば良い。
その場に王族がいれば、確実に正規の話となる。
その事をロゼに相談した。
最初、ロゼは顔を青くしていたが、話をするにつれ、その顔が赤くなっていった。
《俺は話して良かった》本当にそう思った。
今迄、いつも暗かった彼女に笑顔が戻ったからだ。
この笑顔が見れるなら、この大きな決断も、これから起きる戦いの火ぶたも怖くは無い。
ロゼが後ろにいるからには負けるわけにはいかない。
この時俺は本気でそう思っていた。
この時、俺がもっと思慮深く動いていれば、誰かに相談していれば、こんな事にならなかったのかも知れない。
今の俺なら解る、感情で動いた結果のせいで、全てを失いかけている事を。
自分がまるでピエロの様に恥知らずだった事も解る。
愚かな事をした結果は決して取り戻せない。
幾ら後悔してももう遅いんだ。
第九話 まさかここ迄ポンコツだとは思いませんでした。(フリードの回想時の令嬢達)
「あの、マリ―ネ、本当にこれで良かったのかな?」
「あら、シレ―ネ、さっきの私達の発言になにか問題でもありましたかしら? 別にわたくし、嘘は申してませんわよ」
「そうね…言われて見れば嘘は無いわ」
「でしょう? それをどうとるのかは彼方の自由、ロゼから送り物を貰っているから『多少の贔屓』はありますが、嘘をついていない以上責任なんてありませんわよ! おーほほほっ」
貴族って本当に怖い、私事シレ―ネは本当にそう思います。
ロゼの身に着けている物は、家に代々伝わる様な高価な物ばかり、それに対してマリア様の身に着けている物は今も王都で普通に買える物ばかりです。
恐らくロゼの身に着けている宝石の1つもあれば、下手すればマリア様の持っている物全てが買えてしまうかも知れません。
マリア様の取り巻きは、恐らくロゼのお母様がつけた者でしょう。
確かに良く怒られていましたが、それはロゼがマナー違反をしたり、余りにもマリア様に対して理不尽な物言いをしたからです。
悪いのはロゼです。
それに『もう帰るじかんだから』と連れ去られたのは、その後に家で家庭教師がお待ちだったからですよ…
『白でも黒に自分の利益しだいでしてしまう』自分も含め貴族令嬢とは怖い者ですね。
だけど、幾らロゼが頑張ろうと私達が嘘の情報を流そうが、あの貴公子と名高いフリード様が騙される訳ないでしょうに。
私は…
「あのさぁ、マリ―ネ、嘘は言ってないにしても、誤解する様な事はいうべきでは無いと思うんだけど」
「そうね、私もそう思うわ」
一人は気がついたようですね…
「何よシレ―ネ、貴方はロゼの味方をしない訳?」
「しない、私は、どちらかと言えばロゼが悪いと思うもの、そう思わないマレル」
「そうね…マリーネ、私もシレ―ネの方が正しいと思うわ」
「本当にノリが悪いわ、まぁ良いわ、話していても面白くないから行くわ」
「そうね」
本当に馬鹿ね、私達は貴族令嬢なのよ、それも此処にいるのは子爵以下の家柄のね…『強い方について弱い者を叩き潰し、引き上げて貰う』それが私達よ!
確かにロゼは色々な物はくれるけど、所詮はただの金づるでしかない、それに対してマリア様はドレーク伯爵家の正当な後継者。
どちらにつくか決まっているわ。
「ロゼ」「マリア様」 何故マリア様だけに「様」をつけて呼ばれているのか、あの方達は解らないのでしょうね。
そして上位貴族で伯爵家の後継者であるから、あちこちに目を光らせている人間がいる事も。
あそこの使用人は恐らく、ドレーク家の者だわ。
こういう積み重ねが将来、自分の為になるのよ…本当に馬鹿が多いわ。
シレ―ネは頭が回った、だがそんなシレ―ネでも見破れなかった事があった。
それは、フリードが自分が思っていた以上にポンコツだった事だ。
【後日】
私は…目を疑いましたわ。
『嘘でしょう? あんな事見破れなかったの?』
私は、貴公子と名高いフリード様が、ただの馬鹿だとは思いませんでした。
何故かロゼが酷い目にあっていると、思い矢面に立っていますが…当たり前じゃないかな?
ロゼは貴族として最低限のマナーが出来ていません。
恐らくはかなり甘やかされて育ったのでしょう、それが出来ないなら、覚えるまでしつこく言われるのは当たり前の事です。
その程度の事でフリード様が口を出すから、ドレーク家の家臣はどうして良いか困っていますわ。
ドレーク伯爵様に、話がいくのは時間の問題でしょう。
フリード様は「何故マリアに優しくし、ロゼに冷たくするのだーーーっ」と良く騒ぎますが…
それは当たり前じゃないですか?
元の立場が違います。
ドレーク家の継承者なのですから、マリア様を優先するのは当たり前の事です。
それに、もし立場が逆転してても、誰もロゼなんかに靡く筈が無いわ。
あれ程、傲慢で酷い女は居ないんだから…
フリード様、貴方は婚約者なのに、なぜ気がつかないのかしら。
ロゼが身に着けている物の多くは【マリア様の物だった】のよ。
「マリア様ばかり新しい物を買ってばかりでロゼにはお古しか渡さない?」頭が可笑しいとしか思えないわ。
マリア様からロゼが奪って身に着けている物の多くは歴史的価値がある物ばかり、なかにはその宝石一つで平民が10年は遊んで暮らせる物もあるわ…男だからその価値が解らないのかしら。
それに比べて、マリア様の物の多くは新しいけど、そこ迄価値がある物は身に着けてないわよ。
さらに許せないのは【ロゼが身に着けている物のなかにマリア様のお母様の形見】もあるの。
マリア様は「別に気にしなくて良いわ」とおっしゃいますが…周りで見ている私達が凄く歯がゆいですよ。
多分、ドレスや宝石が無いからか、ロゼと違ってマリア様は余り社交界には顔を出しません。
私達はロゼでは無く、マリア様と仲良くしたいのに…余りお会いになれません。
滅多にお茶会にも来ませんが、顔を出す時には、必ず王都の有名な菓子店で購入されたお菓子や、珍しい茶葉を必ず持参して下さいます、時には本や宝石迄プレゼントして下さいます。
食い散らかして不平不満ばかりのロゼとは全く違います。
ロゼにも取り巻きはいますが、その殆どは恐らくはお金の繋がりでしょうね…先日も二人がロゼの行動に飽きれてうちの派閥にきましたわ。
使用人や家臣だって、しっかりと貴族として振舞えるマリア様と我儘なロゼ。
扱いが違うのは当たり前ですわ。
しかも《なんでもくれくれなロゼ》さぞ使用人からしても不愉快に目に映るに決まっています。
第一、婚約が決まっているのに、姉妹とはいえ、他の女といちゃついているのですから、家臣や使用人が白い目で見るのは当たり前の事です。
私達からして不愉快なのですから、家の者は更に不愉快でしょうに。
これの何処が貴公子なのでしょうか?
真実を見抜く事が出来ぬ節穴の様な目…幾ら美しく気高く見えても、もう駄目ですね。
既に評価は地に落ちたとしか言えません。
私達、貴族の女性は《基本、政治に口を出しません》だからこそ旦那様に求めるのは【社交性】と【政治力】です。
今現在この国は豊かで争いごともありません。
隣国の全ての国とも友好関係が結ばれ、戦争とは無縁の世界です。
だからこそ、前の二つが重要なのです。
社交性があれば、自分の領地が不味い事になった時に他の貴族に助けて貰えたり、借金が出来ます。
ですが、社交性がなければ、そう言った時に助けて貰えません。
あとは、内政が上手く出来なければ、領地は貧困になります。
今は、徴税官をはじめ、ある程度国がしてくれるので問題は起きにくいですが…
有能な事に越したことはありません。
ちなみに、此処で言う【社交性】はロゼの様に遊んでいる事ではありません。
お互いに貸し借りを作れるような間の事を言います。
嫌われ者のロゼじゃ…これは無理でしょう。
馬鹿な男です…最早、貴方を心から貴公子と呼ぶ者はいないでしょうね。
宝石を捨て、石ころを拾う様な無様な男は貴族の女にとって価値はありません。
貴族である以上は、領地にひいては家にマイナスな男は恋愛の対象にしたいとは思いません。
最早、幾ら美しく気高い男でも…彼を素敵だと思う女性は余り居ないでしょうね。
第十話 我儘娘が全てを失う時(ロゼ回想) あるいはその偽りの取り巻き達。
私の名前はロゼ、ドレーク伯爵家の次女に生まれた。
私には少し年上の腹違いのお姉ちゃんがいる。
マリアという私と違い地味な女の子だ。
女として悪くはないのだけど『なんかパッとしない感じの人』と言うのが一番近い感じかも知れない。
貴族と言うのは凄く残酷な世界だと思うよ。
だって、たった数年早く生まれただけで…何もかもが違うんもん。
それに、お姉ちゃんのお母さんは私のお母さんと違い裕福だったから、持ち物が全部違うんだもん。
私の宝石箱は、ただの木の宝石箱なのよ。
それに比べて、お姉ちゃんの宝石箱は宝石を散りばめたオルゴール付きの綺麗な宝石箱。
こんなにも違う。
いいなぁ~ 凄く羨ましい。
他にも筆記用具にドレス、どれ一つとっても、私より良い物しかない。
本当にお姉ちゃんが羨ましい。
だけど…仕方ない。
だって私は次女だから、お姉ちゃんより良い物は手に入らない。
諦めるしかないんだよ。
そんなある日…見てしまった。
お母さんがお姉ちゃんからネックレスを取り上げていた。
その時思ったの『私は持っていないんだからお姉ちゃんから貰えば良いんだ』って。
なんでこんな簡単な事に気が付かなかったのかな。
簡単じゃん。
最初の一言は凄く緊張したのを覚えているわ。
「お姉ちゃん、このブローチ頂戴」
お姉ちゃんは何だか首を傾げて考えていた。
怒られるんじゃないか…本当にそう思っていたけど、そのままお姉ちゃんはブローチをくれた。
本当は感謝の気持ちを伝えるのがマナーだと思う。
だけど、私はお姉ちゃんに比べて何も持っていない。
凄く不公平だと思ったんだよね。
たった数年生まれるのが遅かっただけなのに、こんなに世界が違うんだもん。
その思いが、お礼を言おうと思う心を止めてしまったの。
『私は何も持っていない…可哀そうな子なんだからこの位貰っても良いよね』
お礼なんて言わなくて良いよね。
お母さんだって言っているし『私の事をマリアに比べて、可哀そう』多分、皆がそう思っている。
お姉ちゃんに比べたら、私は何も持っていないんだもん。
だから、少しくらい貰っても良い筈だよね…お母さも貰っているんだから。
お姉ちゃんから貰ったブローチをつけてお茶会に行った。
このブローチは赤くて綺麗で何となくだけど、つけているだけで凄く嬉しかった。
「ロゼさん、凄いブローチをつけていますわね」
同じ伯爵家令嬢のケティさんが話かけてきた。
いつもは話すら、まともにした事もないのに。
「これですか?」
「そうですわ、そのブローチは、本物なら【月女神の涙】と言われる物ですわ…それ一つで王族の馬車が馬ごと買えてしまいますわ」
嘘、お姉ちゃんから貰った..このブローチ、そんなに価値があるんだ。
知らなかったな、凄い。
「そうなんですか? これは姉から貰った物なんで価値なんて知りませんでした」
「まぁ、マリア様から頂いたのですね、それなら間違い無く本物ですわね、二つとない貴重な物です…良い物を見させて頂きましたわ」
そんなに貴重な物をお姉ちゃんは持っていたんだ。
しかも、これ一つじゃ無いなんて..やっぱりお姉ちゃんは狡いな。
「皆、凄いんですのよ、あの幻の【月女神の涙】をロゼさんが身に着けていますわ」
「嘘、まさかこんな所で見られるなんて…凄く素敵だわ」
「伝説の通りですね、まるで血の様に真っ赤なんですね、それでいて凄く輝いていて二つと無い…これを見た、今なら解りますわ」
「これと対になる【太陽神の目】も見てみたいわ」
「ロゼさん、こんな物を身に着けられるなんて貴方が羨ましいわ」
「本当にそうですわね」
嘘、ブローチ一つ身に着けるだけで…こんなに違うの。
いつも端で静かにしていたけど、今日は皆から話しかけてくれる。
まるでお茶会の主役みたい。
今日は私が主役よ…このブローチを身に着けていれば、きっと私はこれからも主役になれる。
家に帰ってきたけど、興奮が収まらない。
このブローチを身に着けるだけでこんなにも周りが変わるの?
まるで魔法のブローチみたい。
私は、自分の木箱の宝石箱に、ハンカチで大切にくるんでブローチをしまった。
今迄、私は主役になんて、なれると思わなかった。
ただのブローチ一つでこんなにも世界が輝いて見える。
皆が私に注目してくれて、ダンスパーティーでもお茶会でも『私を見てくれる』筈だわ。
このブローチがあれば…今日も、明日もきっと私が主役の筈だ。
そう思い、今日もブローチをつけてお茶会に参加した。
あれ…可笑しいな?
この間と違って誰も私の所に来ない。
何でだろう?
「これはまた凄い品ですわね」
「これはお父様が私の誕生日に王都の職人に作らせた逸品です、まぁ私の持っている唯一の宝物なんですけどね」
「だけど、本当にこの宝石箱凄く作り込まれていますわね」
「そこだけはお父様が拘っていましたからね」
宝石箱か、お姉ちゃんのに比べたら大した事ないな…
「ロゼさん、見て下さい、この宝石箱凄く素敵ですわ」
確かに、凄く素敵ですが…お姉ちゃんの持っている宝石箱の方が遙かに上等だよ。
「確かに素晴らしい宝石箱ですが、私はもっと素晴らしい宝石箱を知っていますよ」
「あの、ロゼさん、この宝石箱は王都の職人が時間を掛けて作った一点ものですよ? 幾らロゼさんでもこれ以上の物は持って無いんじゃない?」
『マリア様ならいざ知らず、幾ら伯爵家とはいえ、跡取りで無いのですから、そこ迄の物はお持ちで無い筈です』
『あの宝石でも驚きましたのに、あの宝石箱は将来嫁ぐリシナさんの為に子爵様が用意したものなのに、それを超える物をお持ちとは思えませんわ』
『態々、水を差す事もないでしょうに、人としてどうなのでしょうか?』
嫌なひそひそ声が聞こえてきます。
本当に、それ以上の物を知っているのに。
「嘘じゃありません!本当にそれ以上の物を知っています」
「そうですか? 流石は伯爵家ですね、ロゼさんはこれ以上の宝石箱をお持ちなのですね! ならば次回のお茶会の時にはロゼさんの宝石箱をご拝見させて頂きましょう」
「そうね、そこ迄いうなら見せて頂きますか?」
「知って」
私は知っているって言ったのに…持ってなどいない、あれはお姉ちゃんの物だ。
「あら、嘘じゃありませんよね? まさかドレーク伯爵の令嬢ともあろう方が嘘等は言いませんわよね?」
「ええっ嘘じゃありませんよ、綺麗に宝石を散りばめた物です、次回のお茶会にお持ちしますわ」
「楽しみにしていますわね、皆」
「「「はい」」」
どうしよう…
お姉ちゃんの宝石箱…アレを用意しないと嘘つきになってしまう。
こうなったら、絶対にあのお姉ちゃんの宝石箱を『貰わなくちゃ』
「お姉ちゃん、宝石箱を、私に頂戴」
「ロゼ、これはそう簡単にはあげられないわ、この宝石箱はお母さんの形見なのよ、しかもお母さんもお婆ちゃんから貰った物なのよ」
それが無いと本当に困るのよ。
私、嘘つきになっちゃうよ…
「お姉ちゃんは他にも沢山、宝石もドレスも持っているじゃない? もう一つ位私にくれても良いじゃない」
「だったら、他の物にしてくれないかな? ドレスでも宝石でも別の物なら構わないわ」
「それがどうしても良いのよ」
「だから、他の物で我慢して」
「一体、何を話しているのですか? マリア、ロゼ」
「「お(義)母さま」」
「お母さま、お姉ちゃんが..」
「ロゼ、お姉さまでしょう…まぁ良いわ、それはそうと何を喧嘩しているのですか?」
「お母さま、お姉ちゃんが…」
私はお母さまにお姉ちゃんが宝石箱をくれない事を話した。
「マリア、貴方は伯爵家で生まれてから育ち、実の母親から沢山の物を引き継いでいます、それに対して私は貧乏子爵家出身だからロゼには大した物を与えていません」
「それならばお父様に言えば必要な物を用意して貰えます、いまはお義母さまが伯爵夫人なのですから、それにロゼにだってこれからは買ってくれる筈です」
「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」
「解りました、ただこの間の宝石も、この宝石箱も【ドレーク家の資産目録】に記載されています。譲りますから、書面を交わさせて頂きます」
「そんな家族間で大袈裟よ」
「お義母さま、大袈裟では無いですよ? その宝石箱一つで豪華な山荘を一つ位買える価値があるのです、お義母さまがお持ちになられた宝石とは違うのです」
「そんな、家宝、いえ国宝レベルの物、そういう事なの?」
「はい、国宝レベルです…ロゼ、これは差し上げますわ、その代わり貴方の宝石箱を下さいな」
「良いの、お姉ちゃん」
「いいわ、この間の宝石も返す気無さそうだし…正式にあげますよ、その代わり、これからは『お姉さま』と呼びなさい、子供じゃないんだから」
「解ったわ、お姉さま」
「そう…ジョルジュ良い所に来たわ、証人になって下さい、それとお父様へお渡しする書類を作って下さい」
「マリア様…本当に宜しいのでしょうか? そのオルゴールはお母さまの形見ではないのですか?」
「良いのよ、妹のロゼが使いたいと言うなら仕方ないわ」
「そうですか…マリア様がそういうなら、書類を用意しましょう」
なんで使用人の分際で私を睨むの?
私、何か貴方にした、してないよね。
『ルビーのブローチ 月女神の涙 、宝石箱 幸運の女神の笑顔、以上2点の所有権をマリアからロゼに移す。この権利は、伯爵家の中でのみ有効。』
書類にはそう書いてあった。
「さぁ、ロゼこれにサインしなさい、これでブローチも宝石箱も貴方の物だわ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
これで嘘つきにならないですんだ。
本当によかったよ~。
「お姉ちゃん…そう呼ばない約束よ? お姉さま…これからはそう呼ぶように、子供じゃないんだから」
なんでお姉ちゃん、そんなにむきになるの?
呼び方なんてどうでもいいじゃない。
「ちょっと待ってマリア、さっきの話だと、その宝石箱は貴方にとって大切な物じゃないの? 本当に良かったの?」
「あげろって言ったのはお義母さまですよ…お母さまの形見でしたが『もうどうでも良い』です、もう用は済んだでしょう? ジョルジュ、書類はお父様にお持ちして、ロゼ、私は宝石の入れ物がないわ、すぐに貴方の宝石箱を持ってきなさい」
「解ったわ、すぐにお姉さま、お持ちします」
私はお姉ちゃんの気が変わらないうちにと、部屋に飛んでいった。
「ええっ、直ぐに持ってきて」
「マリア、あのね、その、私は形見だなんて知らなかったの、今からでも返すように言うわ」
「お義母さま、そんな事『もうどうでも良い』ロゼが大切に使ってくれるならそれで良いのです」
「お姉さま、私の宝石箱をお持ちしましたわ」
これで交換が成立した、そういう事よね。
「そう、それじゃ頂戴…用事がすんだら出て行ってくれませんか? 本が読みたいので」
「解ったわお姉さま」
「マリア、私は」
私とお母さまはお姉ちゃんに押し出してきた。
「本が読みたいと言いましたよ? すみません出て行って貰えますか」
「ごめんなさい」
お母さまは何を謝っているのかな? 解らないな。
「何がですか? 謝る様な事したんですか? 良いから出て行って下さい」
お姉ちゃんに、私はお母さまと一緒に追い出された。
良かったこれで私は嘘つきにならないで済む。
だけど、何故か清々しい気持ちにはなれなかった。
◆◆◆
私事、マリアーヌはこの時初めて『してはいけない事をした事』に気が付いた。
全てを投げやりの様に話すマリア。
この子には母親が居ない。
しいて言えば義母なのだから、今は私が母親だわ。
本当の母親という意味ならもう既に他界していない。
さっきのやり取りの後から、マリアの顔から感情が消えた気がする。
『どうでも良い』これは全てを諦めたから言った言葉の様に思えた。
ロゼと私が取り上げたのは宝石箱じゃない。
マリアと母親の思い出を取り上げたのではないだろうか。
それは幾ら、マリアが恵まれているとはいえ決して取り上げてはいけない物だ。
心に少し痛みを覚えた。
泣きそうになりながら睨みつけて言われた『どうでも良い』が本当に心に突き刺さった。
近くに居た使用人を呼びつけて話を聞いてみた。
やはり、本当にマリアの宝石箱は母親の形見だった。
これは幾らなんでもやり過ぎだと思った。
本当にマリアとロゼは持ち物に差があり過ぎる。
マリアは多くの物を母親から引き継いでいる。
その為、他の貴族の令嬢より遙かに物持ちだ。
だが、それは逆に言えば、幼くして母親を亡くしたという不幸があったからだ、今それに気が付いた。
私が生きている以上、私の持ち物はロゼに今はいく事は無い。
ただでさえ貧乏子爵の家出身の私は物が少ないのだからロゼが物を持っていないのは当たり前だ。
私は確かにマリアから物を取り上げたのかも知れない。
それは持ち物が少ない、私の醜い嫉妬からから始まった。
マリアが決して悪い訳じゃない。
取り返しはつかないからからこそ、今の私は反省するしかない。
そんな私でも『誰かが本当に大切な物は奪ってはいけない』
その位は解る。
多分、マリアが持ち物の中で一番大切な物は…さっきロゼが奪った宝石箱の筈だ。
亡き母親との思い出の宝石箱。
本当は今からでも、取り返して返すのが正しい。
解っている。
だが…もう話がついてしまった。
マリアは書面にまでして、その権利を手放した、ロゼを説得して返しても受け取ってくれないだろう。
もう傷つけた心は戻らない。
私は結局、怒らなければならないロゼに味方しマリアを傷つけた。
自分がお腹を痛めて産んだロゼ…可愛いに決まっている。
だが、マリアだって今は、私の子供だ。
先妻の子で可愛く無いけど、私の子だ。
「マリア、貴方は義理とはいえ私の娘でロゼの姉でしょう? 少しは慈悲の気持ちは無いのですか?」
言ってしまった…慈悲が無いのは私だ。
知らなかったとはいえ『母親との思い出』を奪ってしまった。
私は、『義理』とはいえ母親なのだから、これで良いわけが無い。
私は、シューベルト子爵が娘に綺麗な宝石箱をプレゼントした事を思い出した。
今の私はマリアの言う通り伯爵夫人だ。
自由になるお金も沢山ある。
新しくて立派な宝石箱だってプレゼントは出来る。
だけど、お金だけじゃ償いにはならない。
私は自分の宝物のオルゴールの事を考えた。
これは私の宝物、貧乏子爵夫人の母親が無理して買ってくれた物だ。
私の『本当の意味での唯一の宝物』だ。
こんな物じゃ釣り合わない。
だけど、多分これを失う事で、私はマリアの気持ちが少しは解る事が出来る気がした。
~数週間後~
「奥様、約束の物が完成しました、奥様のオルゴールから取り出した部品を使い、宝石箱を開けると音を奏でるようにしました」
確かに音楽は奏でる、だけど聞き比べてみたら音色は明らかに違う。
本当に、駄目だわ…王都で1番と言う割には、ロゼがマリアから取り上げた物より彫刻だって、数段劣るわ。
「あの…もう少し細工を旨く出来ないかしら? 『幸運の女神の笑顔』に劣らない様な物が欲しいのよ、この際お金はいくらかかっても構わないわ」
「それは、今では誰も作れないでしょう…お金の問題じゃありません、最早、その技術は消失しまして現存しません、作者は不明ですが似た様な物は世界に5つも存在しないし、1つは王立美術館にある位ですよ」
マリアが国宝、家宝って言ったのが今なら解る気がします。
きっと、母親が大切にしていた物を受け継いで大切にしていたんだわ。
どうしよう?
だけど、作れない以上は仕方ないわね。
流石に王立美樹館からは私所か主人でも買えないわ。
「マリア…今良いかしら?」
「どうしたのですかお義母さま…」
あんな事があった後ですから、私やロゼの顔なんて見るのも嫌でしょうね。
こうして開けてくれるだけマリアは大人だわ。
いえ、全てに絶望しているから『どうでも良い』から開けてくれのかも知れないわ。
「マリア、貴方、あんなみすぼらしい宝石箱なんて使わないで頂戴」
駄目だわ、上手く謝罪が出来ない。
私はこういうのが本当に苦手だわね。
「お義母さま、私、他には持ってなくて、それにあれで充分です」
私は本当に教育を間違えたわ、誰が見てもマリアは良く出来た子だわ。
私が、ロゼの母親である事が恥ずかしい位に。
「それでは私が困るのよ、ほら宝石箱を用意したからこれを使いなさい」
私はマリアに宝石箱を無理やり渡した。
「お義母さま、この宝石箱はいったい…」
こんな物だけど許して頂戴。
そんな気持ちで渡したけど、なんでそんな嬉しそうに笑うのよ。
「煩いわね、私が悪かったわ…だから王都に行って職人に作らせたのよ、まぁそんなにいい物じゃないわ」
国宝級の物とは比べ物にならないのに、マリアは嬉しそうに笑うわね。
「お義母さま、貴重なオルゴールがついています」
「それは、私がお母さまから貰ったオルゴールを使って貰ったのよ…貴方のと迄はいかないけど、音はでるわ」
仕方ないじゃない、オルゴールは高級品で、しかもあんな音色再現できないらしいから。
「それじゃ…これはお義母さまが大切にしていたオルゴールを部品にして作って下さったんですか」
「そうよ、貧乏子爵の娘なりの宝物だったんだけどね…気にくわないなら使わなくてよいわ」
「いえ、お義母さま、私このオルゴール大切に使わせて頂きます」
本当に馬鹿な子ね…国宝級の宝石箱を取り上げられて、こんな物で喜ぶなんて。
だけど、マリアってこんな笑顔もするのね。
私は本当に情けないわ、実の娘はとんでもない我儘娘。
それなのに、先妻の娘はこんなにもよい娘だなんて…
◆◆◆
私は約束通り、お茶会にお姉さまから貰った宝石箱を持参した。
多分、この後になにか言って来る筈だ。
「ロゼさん、宝石箱は持ってきたのかしら?」
「リシナさんの宝石箱を馬鹿にした位なのですから、さぞかし自慢の一品なのでしょうね?」
「どんな品か見せて頂きたいですわ」
この前の経緯を知っていた為、他の貴族の令嬢も沢山集まっていた。
「私の宝石箱は、これです…どうでしょうか?」
その集まった令嬢たちは三者三様の目でロゼと宝石箱をを見ていた。
好奇心から見ている者、怪訝そうに見ている者、そして明らかに侮蔑の目で見ている者まで居た。
「これは、本当に素晴らしいわ、私こんな凄い物初めてみましたわ」
「確かにこれは凄い物ですね…確かに此れと比べたら他の宝石箱は見劣りするでしょうね」
次々に感嘆の声が上がるなか、静かにその場を離れる者達と明らかに侮蔑の眼差しを向ける者達がいた。
1人の貴族の娘、イライザ様が私に声を掛けてきた。
「本当に素晴らしい物ですね…折角なのでその宝石箱の由来について持ち主のロゼさんから語って頂けないでしょうか?」
「イライザ様、これは姉から譲られた物なので、その私は詳しくはありません」
『なんて愚かな子なのでしょうか、聡明なマリアとは大違いですね、国宝級の物を持つと言う事は貴族として【その由来】も知らなくてはなりません、それなくしては価値は半減します』
なんで私を見つめるの?
憐れんでいるように見えるのは私の気のせいかな。
「へぇー、国宝級とも言われ、王族由来の品を持ってきながら、その由来も説明が出来ないのですか? その宝石箱は見間違いで無ければ『幸運の女神の笑顔』と言われる品ですよ…そんな物持ち出されたら、公爵の娘である私でも勝てる物などお見せ出来ませんわ、何しろその宝石箱と同等の品はこの国では美術館に1つ、個人で持っている方は王妃様しか居ません、世界に5つしか存在しないと言われる最高作品ですからね」
「その、姉から譲られた物なので詳しくは知らなくて」
『そんな、大層な物譲る人なんて居ませんわね、大方ロゼの母親か当人が色仕掛けでも使って伯爵様をつかって、無理やり奪い取ったに違いありませんわ』
「本当に譲られた物なのですか、少し昔ですが、私のお母様がその宝石箱を見たいとおっしゃった時にマリアさんが持参して下さりました、由来についてお聞きしましたわ、その宝石箱には素晴らしい由来があるのです…ですが、貴方はその由来を知らないのですね?」
「すみません」
「ならば、言う事はありませんわ…私はこれで失礼します」
そう言うと、イライザは取り巻きを連れて、その場所から立ち去った。
「あの、イライザ様、私はイライザ様に何かしたのでしょうか?」
「別に何もしてないわ…ただ、私は、貴方が凄く嫌いになっただけよ?」
「そんな、何故…ですか?」
「嫌いになるのに理由はないわ!」
明かに怒った形相でイライザ達は立ち去った。
最初に居た令嬢たちは一部を残して私の周りから居なくなっていた。
私はその理由を解らず…ただただ立ちすくむしかありませんでした。
◆◆◆◆
私事、イライザは本当に腹立たしくて堪りません。
あの宝石箱をあの様な物が持つなんて絶対に許せない。
「イライザ様、一体どうしたと言うのですか? さっきから凄く不機嫌そうですが」
「顔に出てしまっていましたか? 私は生まれて初めて、本当の意味で人が嫌いになりましたわ」
「それは、ロゼの事ですか? ですが説明が出来ない位で、そこ迄お怒りになる事なのですか?」
「あの宝石箱は、私はマリアさん以外に持っていて欲しくないんですの、ましてロゼなんかには絶対に所有なんてして欲しくありませんわ」
私は何時も冷静にしていました。
かなり、皮肉を言ったり、上から目線で話すが、それ以上の事はしないと決めていました。
それは私が公爵家に生まれ、自分の一言で人の運命が変わることを小さい頃から知っている、嫌な事があっても我慢するようにそう教育を受けてきました。
出来るだけ寛容に振舞う。
そう決めていました。
勿論、その事は私の取り巻きの貴族なら全員知っている事です。
その私がどうしても我慢が出来なくてつい嫌味を言ってしまった。
しかも名指しでだ…こんな事は今迄、私はした事が無い。
私がイラついた顔で居ると、取り巻きの1人が聞いて来た。
「あの宝石箱には、何か凄い由来があるのですか?」
「ええっ、私の家、更に王家まで関わる大きな由来があるのです」
私は宝石箱の由来について皆に話す事にした。
マリアの祖母は私の祖母と親友であり、先代の王妃とはご学友同士だった。
その日は、親睦を深める為にと三人で避暑地に行っていたのだが、運悪く王妃(この時は第一王女)を人質にとろうとする野盗に襲われた。
本来この避暑地は安全な為に護衛騎士の数も少なく、数で押してきた野党には歯が立たず、騎士は殺されあわや、捕らえられる寸前だった。
その時にマリアの祖母マリアーヌは一室に王妃と私の祖母を押し込み、その扉の前で、騎士の剣を拾い、振るい戦った。
そのマリアーヌが戦ってくれたお陰で、時間が稼げ、助けに来た別の騎士団により二人は無事に救援された。
だが、扉を背にして戦ったマリアーヌは只で済む訳は無く、片手を失う大怪我を負った。
その時のマリアーヌの忠義心と働きに感心した王が、この国で始まって以来最初で最後の【騎士の地位】(元からの爵位とは別)と共に贈られたのがあの宝石箱だった。
最も、美しく聡明なマリアーヌは片腕を失っても人気は落ちず、ドレーク伯爵家から縁談の話がきて嫁いだのだが。
「そのような事があったのですか…」
「そうなのですわ…祖母は今は無き親友を偲ぶ為に偶にマリアさんにあの宝石箱を借りる事がありますの」
「それじゃ、あの宝石箱は」
「マリアーヌ様からマリアさんのお母様に渡され、そしてマリアさんに引き継がれた筈の物ですわね」
「それをロゼさんが何で持っているのでしょうか?」
「理由は解りませんが…多分何らかの理由で取り上げたんでしょうね、そんな訳で私はロゼさんの顔も見たくもないのですわ」
「それなら、私もロゼさんとは親交を結ぶのは止めましょう」
「そんな人間と一緒に居ても楽しくありませんから、私もご免ですわ」
「私も」
「私も、そんな人間とは一緒に居たいと思いません」
「それなら、私達のお茶会や舞踏会に呼ぶのは止めましょう」
「「「「「「「「「「「「ええっ、そうしましょう」」」」」」」」」」」
もう、絶対にロゼなんて私の茶会には呼びませんわ、絶対に。
◆◆◆
私事、ルビィナは親友のリシナを慰めていた。
あのロゼは絶対に許せない。
私達みたいな下級貴族は『高価な物』なんて滅多に買って貰えない。
伯爵家みたいに裕福じゃないのだ。
それを国宝まで持ち出して、こんな事するなんて大人気なさすぎでしょう。
「リシナさん、元気出しなよ? あんな国宝みたいな物持ち出されちゃ仕方ないって」
「別に気にして無いよ、この宝石箱は私の宝物には変わらないから」
「そうだよな、それはリシナさんの為にシューベルト子爵が無理して注文したもんだもんね」
「ルビィナさん、『無理して』は余計だわ」
「ごめん」
しかし、ロゼの奴は本当に腹が立つわ。
誰にだって一つ位自慢したい物があったって良いじゃない。
あの宝石箱はリシナのお父様のシューベルト子爵様が、次女であるリシナの嫁入り道具にと奮発して購入した物だ。
シューベルト子爵様は法衣貴族、地位はあるが領地は無い、国から貰うお金しか収入が無い。
まぁ騎士爵の親を持つ私が言えた義理では無いが…お金は余りお持ちでは無い方だ。
そんな人物が無理して娘に用意したんだ…黙っていれば良いじゃん。
あの場には公爵令嬢のイライザ様も居たし、ロゼだけじゃなく他にも伯爵令嬢も居た。
そんな方達なら、絶対にもっと良い物を持っているに決まっている。
だけど、そこは貴族だから、そうであっても『決して口にはしない』それは他人を辱める行為だからだ。
やっぱりロゼは様をつける様な相手じゃないな。
※ まだ彼女達は貴族の娘ではあるが爵位は持っていません、その為敬称をつけて呼ぶかどうかは多少自由があります。
態々喜んでいる、リシナの前にどう見ても国宝みたいな物を持ち出す事無いんじゃ無いかな?
「本当に気にしてないよ? だってこれはお父様が私の為に作ってくれた、たった一つの宝石箱だもん」
「リシナさん、まじ天使だな、私が男だったら嫁に貰ってやるのに」
「もう…そういう冗談は止めてよ」
「そうだな」
本当に大人気ないな、ロゼの奴。
「リシナさん、ルビィナさん…話しを聞いて来たけど、あれやっぱり個人の物じゃなくて家宝だったみたい」
「だったらロゼのもんでも無いんじゃないか、そんな物まで持ち出して何がしたかったのかな?」
「本当に嫌味な事しますよね、下級貴族のささやかな自慢に、普通はあんな事しないわ」
「マリア様はあんなに奥ゆかしい方だったのに、なんであんな方が妹なのかしら?」
「ああいう自慢をするなら、伯爵家なんだから上級貴族と付き合えば良いと思うわ…私はもう、最低限しか付き合うのを止めようと思うわ」
「まぁ私達じゃ、家の差で全部付き合わない訳にはいかないわ…最低限のお付き合いだけにしますか?」
「そうしましょう」
「それじゃあ、これから、ロゼ…さんとは最低限しか付き合わない、それで良いよな」
「「「「「うん」」」」」
「あの皆さん、そこまでしなくても」
「リシナ、リシナだけの事じゃない、ああも思いやりが無い人物、私も付き合いたく無いんだよ」
「そうね、私もそう思うわ」
「私も同じ」
こうしてロゼはその行動のせいで、爵位の低い令嬢からも嫌われる事になった。
◆◆◆
◆◆◆
私事、シャルロッテは今、歓喜しています。
それはですね~家宝、それも国宝を持ち出してくるような世間知らずの令嬢を見つけたからです。
早速、おだててお近づきにならなくちゃね。
「凄いですわね、流石はロゼさんですわ、まさか国宝級と言われる【幸運の女神の笑顔】をお持ちなんて思いませんでしたわ」
「あの…これそんなに凄い物なんですか?」
本当に価値が解らないなんてお馬鹿さんね。
「世界で5つしかないと言われる品で、まぁ作者は一部のコレクターからはファントムと呼ばれていまして詳細不明ですわ、その5つの中でも傑作と呼ばれる3本の指に入る品です」
物の価値が解らない、貴方はそんな事も解らないのね。
「そんなに凄い物なのですね」
「ええっ、この国の王家に伝わる物は、銘は解りませんが、それよりも更に一段低い物だと聞いておりますよ」
それ、王家に伝わる物より上なのよ、解らないのね?
「その割には、皆さん、嫌な顔して居なくなってしまいました」
「悔しいからに決まっていますわ」
「悔しい…ですか?」
「だって、そんな物、出されたら公爵家のイライザ様ですら勝てませんもの、悔しいに決まっていますわ…その証拠に逃げ出すように居なくなりましたわね、きっと今頃悔し涙を流している事でしょう」
こんなレベルの宝石箱は誰も持っていない。
本当に馬鹿ですわね…公爵家のイライザ様に多くの貴族から嫌われるような行動をして…まぁ都合が良いですけどね。
「それでロゼさん、話は変わりますが、私と友達になってくれませんか?」
「えっ、私とですか? 今まで言葉で直接言って下さった方はいませんでした…私で良いのでしょうか?」
「はい、私はロゼさんと友達になりたいのですわ….今日は来ていませんが、私顔は広いんですのよ、私の友達もきっとロゼさんを気に入ると思いますわ」
「そうでしょうか? 私で良かったらお願いいたします」
「ありがとうございます、ロゼさん…それで一つお願いがありますの」
「なんでしょうか?」
「あの、ロゼさんの持っている、宝石箱の絵を描かせて貰えませんか?」
「絵ですか」
「はい、私には到底手に出来ない物ですから、せめて絵だけでも描かせて欲しいのです」
そうね、お友達だし…その位で断ったら可哀そうだわ。
「別に良いですよ、その位、構いません」
「やった…ロゼさんって本当に心が広いんですね、それじゃ私の借りている部屋に行きましょう」
「ええっ、ですが、お茶会の時に部屋まで用意して頂けるなんてすごいですね」
「申し遅れましたわ、私はシャルロッテ、ジャルジュ伯爵家の長女ですわ…今回の主催者は知り合いでしたので部屋は特別に用意して頂きましたの、特別なお菓子とお茶も用意しますわ」
「ありがとうございます」
「それでは、行きましょう」
しかし、本当に純粋というか馬鹿というか?
この子は本当に『令嬢』という物を解っていませんわ。
私は使用人に頼み、すぐに知り合いの職人に連絡をとりましたわ。
国宝とか、家宝と言う物は滅多に見る事が出来ません。
その為、同じ物の再現が凄く難しいのです。
ですが、一流の職人であれば、完全に同じ物は作れなくてもじっくりと見させて頂き、触らせて頂ければ、かなり近い物を再現できます。
流石に全く同じには作れないでしょう…ですが、100点満点中70点の物なら、恐らく作ってくれる事でしょうね。
国宝級の【幸運の女神の笑顔】その品の7割の完成度の商品を作れれば、充分商売になりますわね。
普通なら絶対に見たり、触れたりしない物をこうも無防備で見せてくれるロゼさんは本当に、素晴らしい金のなる木だわ。
「ロゼさん、美味しい茶葉の紅茶とお菓子を用意しましたの…どうぞ召し上がって下さいな」
「シャルロッテさん、凄いですね、お茶会の招待なのに別部屋まで用意して貰えるなんて」
「そうでも無いですわ、国宝級の品を幾つもお持ちになっているロゼさんに比べたら大した事はありませんわ、私なんてたかが歴史のある貴族の末裔にすぎません…そうだ、ロゼさん私達の派閥に入りませんか? 入って頂ければ、今日みたいに何時でもお部屋を提供させて頂きますわ」
「私をお仲間に入れて頂けるのですか?」
「はい、何でしたら、そうですね…ロゼ様次第では、派閥の長になって貰う事も提案してみますわ」
「私が派閥の長ですか」
「はい、如何でしょうか?」
「考えてみます」
やっぱりチョロいですわね。
「おや、絵描きが来たみたいですわ、少し失礼しますね」
「はい」
『良い…これが有名な【幸運の女神の笑顔】よ、彫刻の仕様から、宝石の嵌め方、構造を絵を描きながら全部盗み取りなさい』
『解りました、国宝に触れられるチャンス、絶対にものにして見せます』
「それでは、すみません、ロゼさん、その宝石箱を貸して頂けますか?」
「はい」
本当に馬鹿な娘だわ、国宝をこうも簡単に貸してくれるなんて…こういう人は是非私の派閥に入って貰いたいものですわ。
そうですわね、仮初の派閥の長になって貰って、これからも『色々な物を貸して貰いましょう』
そうすれば、私達には莫大なお金が入ってきますわ。
「どう、凄くすばらしいですわね」
「はい、こんな素晴らしい物を目に出来るなんて凄く光栄です」
「流石はロゼさんだと思いません」
「はい、こんな素晴らしい物をお持ちだなんて、ロゼ様はさぞかし名門の方なのでしょうね」
「詳しくは言えないけど…やんごとなき御方ですよ、私はこんな素晴らしい物は持てないから絵で我慢しますわ、こっちでお茶を飲んでいるから、出来るだけ綺麗に素早く絵を描き上げて頂戴」
「はい、解りました」
「さぁ、ロゼさん、これからの事について此方でお茶でも飲んで語り合いませんか?」
「はい」
私の手配した職人はは、まんまと宝石箱の絵を描きながら、宝石箱の構造図を書き上げた。
罠に嵌り…貴重な宝石箱の構造図を盗み書かれてしまった事に気がつかないなんて危機管理力ゼロ、本当におまぬけさんですわ。
◆◆◆
私は今お父さまに呼び出されている。
一体、何があったのかな。
「ロゼ、お前、マリアから色々と譲り受けたそうだな」
「はい」
まさかお姉さま…言いつけたの?
不味い事になったのかな?
「そんな青い顔しないで大丈夫よ? ちゃんとマリアさんが『譲った』と言ってくれたからね」
「お父さま、そうです、私、ちゃんとお姉さまから貰いました」
「その件なら聞いている、問題は無い、だが家宝や国宝を取り扱う者としての心構えを教えなくては、いけないと思ってな」
「そうよ、ロゼ、今迄そんな貴重な物を触った事はないでしょう」
「はい」
「良いか、ロゼ、家宝を持つ者には、義務がある、『保管の義務』がな、安全に保管して質を落とさないで、手入れをしながらしっかりと保管しなさいと言う事だ、そこには盗難や技術の漏洩を防ぐという意味も含まれる」
「そんな義務があるのですか? もし、それらを怠るとどうなるのでしょうか?」
「手入れを怠った者は、貴族としての信頼を失うことになる、例えば、今、お前の手元にある宝石箱だが、稀に他家から見せて欲しいと言う依頼が入る、その時にしっかりと管理出来てなく、お見せ出来なければ、我が家が恥をかく、ましてあれは王家ゆかりの品、場合によっては首が飛ぶ事もある」
嘘、流石に冗談ですよね?
「流石に、それは、冗談ですよね」
「何をいっている…本当の事だ、実際にあれと同等の宝剣を失ったオーディン公爵は、許されたがそれを恥とし、自害なさった、まぁ今はもう大昔の事だが」
「本当なんですね」
「ああっ、なぁに気にする事は無い、うちの侍従やメイドは優秀だ、手入れの仕方は熟知している、彼等に聞いて手入れをして、家の中で眺めたり、音を聞いて慈しむ分には問題無い、屋敷の中は俺の管轄だ、問題が起きた時は俺の責任だ、だが外で起きた時は持ち出した者の責任となる、心する事だ」
嘘、こんなに責任が重いの?それならこんな物貰うんじゃ無かったわ。
「そんなに大変な事なのですね」
「ああっ、貴族にとっての家宝とはそう言う物だ、特に由来のある品は命より重い物も多い、まぁ気をつける事だ」
「はい」
「お前が思ったより大変な事なのだ、もういって良いぞ」
嘘でしょう…もしあの宝石箱を、あの時に無くしたり落としたりしていたら、私は罰されていたと言う事なの?
これからは、もう持ち出したりしない。
お姉さまの物を欲しがったりしないわ。
だけど、私の想いとは裏腹にそれはもう出来なくなっていた。
もう引き返せない所まで来ていた事に、私はまだ気が付いていなかった。
「ロゼさん、宝石箱を見せて頂きましたが、私達、まだ肝心の中身を見せて頂いてませんわ」
私はその日、シャルロッテさん達と共にお茶を飲んでいた。
あの宝石箱のあと、シャルロッテさんは本当に私の派閥を作ってくれました。
公然と『ロゼ派』を名乗り、総勢10名の少数派閥ですが、派閥は派閥です。
「『余り、家宝や国宝を家から持ち出すのは良くない』とお父様から注意を受けましたので、余り持ち出せませんの」
「そうですか?ですが、派閥の長として、威厳を示さなければいけませんわ、長である以上、他の皆様より安いドレスや宝石を身につけては沽券に関わりますわ…身に着けていなくても、持っている、その凄さを示す必要がありますの、そうよね皆さん!」
「そうですわ、ロゼ様、貴方は私達の長なのですから…威厳を示す為にも必要な事ですよ」
「そうですね」
そうですねとしか、私には言えない。
派閥を作ってしまったから、最早私にはこの9名しか友達がいない。
元から友人は少なかったけど、この間の宝石箱の件から私の前から、沢山の方がいなくなりました。
話掛けてくる方は、私の派閥の9名のみです。
だから、彼女達を失う訳にはいきません。
「それなら、これからは他の茶会には参加しないで、このメンバーのそれぞれの家でお茶会を行うのは如何でしょう? そうすればイライザ様をはじめ、嫌な人間に会わなくてすみますわよ」
「それに気ごころが知れた、友人の家なら、きっとロゼ様のお父様の伯爵様も安心しますわ、私のお父様は爵位は低く男爵ですが、王都警備隊の隊長をしていますのよ、家ならその関係で常に騎士がおりますから何かと安心ですわ」
「それを言うなら、マリーネさんの家は確か、マリア様の婚約者のフリード様のドリアーク家とも遠縁でしたわね」
「はい、確かに、かなり縁は遠いですが親類ではありますね、そういうシレ―ネのお姉さまは確か、フリード様の家庭教師をしていた事もありますわよね」
「そうですわ」
「あのロゼさん、私も含んで9名全員は、実はそれぞれ皆がロゼさんの家とは繋がりがありますの…だから家族の様に接して頂いた構いませんわ」
「そうなのですか? 姉の婚約者のフリード様とも親交があるのですね」
「そうですわ、私は何回か一緒にお茶した事もありますの」
確かに身元がしっかりしていますし、全員が貴族なのですから、行きと帰りだけしっかりしていれば問題は無い様な気がします。
まさか、貴族の家に泥棒が入るなんて考えられませんもの。
「それなら、安心ですね」
「安心も何も、此処の派閥のリーダーはロゼさんなのですよ? 派閥と言うのは、家族の次に信頼する仲間の事です、私達を信頼しないでどうするのですか?」
「確かにそうですわね、貴方達は私の派閥、そうでした、ごめんなさい」
「別に構いませんわ、まだロゼさんはリーダーになったばかり、お気になさらないで下さい」
「はい」
「とりあえず、次のお茶会には、あの宝石箱に相応しい様な目を見張る宝石が見たいですわね」
「そうですね~ あれ程の宝石箱、きっと素晴らしい物が沢山入っているのでしょうね」
「あと、ドレスもやっぱり、ロゼ派を導くの相応しいドレスをお召さないと不味いですよ」
嘘、これじゃ、用意しないと不味いじゃない。
また、宝石やドレスを頂かないといけませんわね。
どうしよう?
そんな馬鹿な事を考えたから、私は更なる泥沼に嵌っていく事になりました。
宝石をお姉ちゃんから取り上げて来たのに、それを見た皆の反応は薄い。
もうお母さままで挟んでキッチリ1/3を貰ったから、これ以上は
手に入らないかも知れない。
それなのに…
「ロゼさん、この宝石はなんですの?」
何故だろう? 前に見せた宝石と違って反応が薄いわ。
しかも、何だか目が怖く感じます…
「私の普段使いの宝石ですが、何か問題がありましたか?」
「ロゼ様、お可哀想に家ではかなりぞんざいに扱われているですね」
「ロゼさん、確かに宝石は多いですが、この宝石の多くは普段使いの物ばかりですわ」
「そうよ、普段、私が使っている物よ」
それじゃいけないの?
なにか不味い事したのかな?
「あのぉ~ロゼ様、言いにくいのですが、この位の宝石なら貴族であれば数は少なくとも持っています、これじゃ社交界の花にはなれないじゃないですか?」
「社交界の花ですか?」
社交界の花? 私がなれるの?
「イザベラ様は一部の方から『百合』に例えられていますわ、それと対になる様な方になって欲しいんですの」
「イザベラ様は公爵家の方です、しかも古くは王家に連なる血筋の方、私が対になるなんて無理ですよ」
何を言っているのか解りません、私がイザベラ様のようになるの?
「ロゼさん、しっかりして下さいな、貴方はロゼ派のリーダーなんですよ、実際に負けてしまうのは仕方ないです、ですが勝とうとしないのは間違ってますわ」
「ロゼ様、イライザ様が百合なら、ロゼ様は薔薇にならなくちゃいけませんよ」
「そうよ、イライザ様が『白百合のイライザ』ならこちらは『赤薔薇のロゼ』と呼ばれる位にならなくてはいけません」
嘘でしょう、私がイライザ様相手に釣り合うレベルにならないといけないの?
それは素晴らしい話です。
ですが、そんな事したら、公爵家を敵に回すんじゃないのでしょうか?、大丈夫なのでしょうか?
「ですが、そんな事をしたらイライザ様に嫌われてしまうじゃないでしょうか?」
「何をいっているんですか? ロゼさんはロゼ派のリーダーなんですよ? 最早イライザ様は敵じゃないですか?」
「そうそう、私達9人が味方、それ以外はライバルや蹴落とす相手ですよ?公爵家だから『様』をつけますが心の中は『小娘』この位で良いのですよ?」
「そんな、私、そんな事思っていません」
「何を言うのですか? もう遅いですよ? しっかりと私たちロゼ派を名乗っていますからね」
「そんな、私はそんな事になるなんて思っていませんでした」
「そんな事今更言われるの? だったら派閥を解散しますか? ですが、他の貴族を敵に回して『唯一の味方』の私達が居なくなったらロゼさん、どうするのですか?」
「ロゼ様、私達…同じ派閥でなくなったら、何かあっても助けられませんよ」
「同じ派閥じゃないって…事になったら、私はなにもしてあげられませんよ、折角友達になったのに友達じゃなくなるなんて..ロゼ様は、ロゼ様はたった1人でこれから過ごすんです、そんなの…可哀想です(涙)」
「ロゼさん…派閥と言うのは一心同体なのです…死ぬまで一緒に生きる仲間です、私達が要らないならもう解散しましょう…ロゼさんが言うのだから仕方ないわ」
「シャルロッテさん、待って」
「どうかしたのですか? ロゼさん」
「私頑張ります、ちゃんとリーダーとして頑張りますから」
「良かったわ、ロゼさん、マリーネさん、貴方の必死のお願いが届いたのね」
「はい、本当に良かったです、私、お父様にロゼさんの派閥に入ったって伝えた後でした」
「そうだったのね、マリーネ」
「はい良かった…本当に良かった」
「ロゼさん、貴方の下には9名の仲間がいるの、もう迂闊な事は止めてくださいね、もし本当に解散していいたら、マリーネさんが凄く困っていたわ」
「はい」
もう此処まで来たら引き返せないのね。
他にはもう友達も仲間もいないもの。
「ロゼさん、幾ら友達でも、仲間を悲しませる様な事をしたら、私許しませんわ」
「ごめんなさい、シャルロッテさん」
「わかれば良いのです、此処まで皆さんを悲しませたのですから、そうですわ、目が覚める位の秘宝とか見せて下さいませ」
「良いですね、あれ程の宝石箱を持っているロゼ様ですからね、さぞかし素晴らしい物をお持ちなのでしょう」
「私、凄く楽しみ」
「解りましたわ」
最早私には此処から抜け出す事なんて出来ない、そういう事ですね。
◆◆◆
私事、ロザリーは本当に教育を間違えていました。
その結果実の娘は本当に歪んでしまいました。
「お母さま、私に【太陽神の目】を頂戴!」
この子は何を言っているのかしら、我が娘ながら本当に卑しく感じます。
「貴方は何を言っているの?貴方には私と同じだけの宝石を、いえ私より多くの宝石やドレスをマリアから貰ったでしょう?」
この子は本当に何を考えているの?
マリアは『自分の持ち物を三等分にした』と言う事は…元から持っていた分、私やロゼの方が持ち物は多い。
何時かは返ってくるとはいえ、今手元にある宝石やドレスはマリアが一番少ない。
その状態で、何故こんな馬鹿な事が言えるのかしら。
久々に会った娘の顔は、私が一番嫌いな人種の顔に見えた。
「だけど、お母さま、私は派閥の長になりましたの、だから皆さんに威厳を示さなければいけないのです」
この子は本当に馬鹿娘です。
その事で、私と旦那様がどれ程苦労しているか? 解っているのでしょうか?
大体、この娘はどうして困っているのか解っているのでしょうか?
『貴方はやがて嫁いでこの家を出て行く身なのよ』今は伯爵家の娘かも知れないけど、おのずと結婚後は地位が下がる。
良くて子爵、下手すれば男爵辺りが結婚相手、それで派閥が維持できるのか、考えられないのでしょうか?…本当に頭が痛いわ。
しかも、その派閥の人間の多くは我が家には何一つプラスにならない人間ばかり。
確かに、ドリアーク家の縁戚の者もいますけど、血のつながりはあっても、ドリアーク家からは嫌われている者ばかり。
更に言うなら、どの家も裕福で無く、此方から下手すれば支援しなければならない様な相手ばかりです。
唯一裕福なのは『伯爵家のシャルロッテ』『男爵家で王都警備隊の隊長をしているマリーネ』くらい。
だが、その二人も調べるときな臭い話が幾つも出てくる。
今後どうすれば良いのか、こちらが頭を悩めていると言うのにこの娘は、本当に何を考えているの!
「貴方の派閥はリーダーに居るのに宝石が必要なの? そんな話は聞いた事はありませんよ、それに貴方の派閥はシャルロッテさん以外は、そんなに地位の高い人物は居ないわ、恐らく、今の貴方より素晴らしい物など持っている人物は居ない筈よ」
正直言えば、貧乏貴族の集まり、それになんで宝石が必要なのか解らない。
「お母さま、私は派閥のリーダー、長なのですよ! 私はイライザと対になる様な存在にならないといけません、その為に必要なのです」
「貴方、何でイライザ様に『様』をつけないの? 相手は公爵家、旦那様ですら『嬢』をつける相手なのよ! それすら解らないの?」
私は、本当に育て方を間違ってしまった。
「ちゃんと公式の場では『様』をつけて呼びますわよ? ただ派閥を引っ張る人間として、その位の心構えを」
あ~あ、何でこんな娘になってしまったのでしょう?
マリアなら、こんな馬鹿な考えしないでしょう、偶に私の娘がマリアでロゼが先妻の子、そう思えてしまう時がある。
趣味もあうし、あの娘とお茶をしたり、本の話をすると『まるで長い時を過ごした友人』と過ごしている様な気がします。
流石にこれは言うしかありません。
「貴方はやがてこの家を出て嫁ぐ身です…そうしたら最早『伯爵家の娘』ですら無くなるのです、その状態でどうやって派閥を維持するのです? イライザ様は場合によっては王族、下がっても侯爵家と結婚する身、派閥の長だと言うのなら聞きますが、その時、貴方はどういう対応をするのかしら?」
「それは、その時に考えます」
本当に馬鹿な子です。
「答えなさい! 『子爵以下になった貴方が、最低でも、侯爵家、場合によっては王族になるかも知れないイライザ様相手にどうするのですか?』」
本当にこの娘は、後先何も考えずに…本当に情けない。
「そんなのはちゃんと考え済みです」
「なら、答えなさい」
「これは、私の派閥の問題、お母さまには関係ありません」
答えられないのね。
「そう、なら、私の宝石は要らないわね、私には関係ない話しなのでしょう?」
「お母さまみたいに、変な派閥に入っている人に言われたくありません」
此処まで、此処まで可笑しくなってしまったの?
娘で無いなら、顔も見たく無いわ。
「そう? それはロゼ派としての意見なのね? 今の一言は完全に私を敵に回したのよ? 派閥を馬鹿にすると言う事は私を含み友人まで全部馬鹿にしたそういう事なのよ! 私の友人に、私の派閥のボルナック夫人まで馬鹿にした、ならば、貴方は私の敵だわ、人生を賭けて貴方の人生を潰すわ、ロゼ派はボルナック派の敵、そうね最初に『貴方の結婚相手は爵位が低く若い女に目が無いお年寄りのサドマン辺りにしますかね?』」
「お母さま、本当に私の人生を潰す気ですか!」
「貴方はロゼ派のリーダーなのでしょう? 私なんて怖く無いわよね? 今後貴方は私の敵です!」
「お母さま!許して下さい!そんな事されたら、ロゼはロゼは終わってしまいます」
馬鹿ね、幾らムカつく娘でも家族です、そんな事する訳がありません。
「馬鹿ね(笑) そんな事する訳無いでしょう? だけどね、貴方は派閥を持った…その瞬間から沢山の敵が出来た、そして『貴方が言った事は派閥の長としての言葉になる』その事を理解しなさい…私は貴方の母だから許します、ですがこれが赤の他人なら、派閥同士の争いになる…そして負けたら人生が終わる、今の貴方の言葉はそこ迄重い」
「お母さま、そんなムキにならないで」
「いいえ、ムキになんてなってませんよ? 貴方は派閥のリーダーになった、最早、子供扱いされない事も山ほど出てきます、これからは自分の言葉に責任を持ちなさい」
「はい」
「それではロゼ、再度聞きます、【太陽神の目】は必要ですか?」
「いえ、いりません」
「そう、それなら良かったわ…だったらこの部屋から出て行ってくれない」
「解りました」
実際に腹を痛めた娘なのに、会いたくないとさえ思ってしまう、私は薄情なのでしょうか?
◆◆◆
自分の部屋に帰り、自分の持ち物を見た。
前と違って沢山のドレスに宝石がある。
でも、此処の宝石は…価値が無い。
だって普段使いの品ばかり…これじゃまた皆をガッカリさせてしまう。
どうしたらいいのかな?
幾ら考えても駄目だ…
何処かに宝石がある場所はないかな…
宝物庫…
何かの間違いで空いている事は…『あるわけない』 それにあったとしても私が盗んだら管理している人間の首が飛ぶ。
結局、あてもなく屋敷の中を歩いていた。
仕方ない…どう考えても駄目だ。
気を紛らわす為に、庭に出た。
『どうしよう』 私はなんで派閥のリーダーになんて、なっちゃったんだろう?
最初にしっかり断れば良かったよ。
だけど、もう後戻りは出来ない。
あははははっ…色々考えたら悲しくなってきた…
うふふっ…思わず涙が出ちゃう…
もう、私はお姉さまに頼むしかない。
お姉さまに断られたら..駄目。
そんなこと考えちゃ駄目。
お姉さまから貰う、いや取り上げる方法を考えなくちゃ駄目。
だけど、お姉さまは完全に1/3を私にわけた…これ以上は多分くれないよね。
どうしよう?
木にもたれ掛かって泣いていた。
「どうしたんだい、何故泣いているんだい」
優しい声が聞こえてきた。
誰?
嘘、お姉さまの婚約者のフリード様じゃない?
いいなぁ~お姉さまは…よく考えたら、ドレスや宝石だけじゃない。
こんな素敵な婚約者、フリード様までいる。
やっぱり凄く狡いじゃない?
もし、私が先に生まれたら…フリード様の婚約者は私だった筈だよ。
なのに妹だから、私には何も無い。
そうだ….その分貰っても良いよね。
だけど、今は…
「フリード様、お見苦しい所を見られてしまいました」
この場をどうにかやり過ごさないと…
泣いたからきっと目も腫れて見れたもんじゃない筈だ。
「そんな所で泣いているなんて、何かあったのかい? 俺でよければ話を聞くよ」
私は咄嗟に左手を振るわせてみた。
そして上目使いでフリード様を見た。
やっぱり『貴公子』と呼ばれるだけあって凄く綺麗。
風にそよぐ綺麗なプラチナブロンドに整った顔。
女の私よりも肌なんて綺麗だ。
なんで、この人が私の婚約者じゃ無いの?
お姉ちゃんには勿体ないよ。
なんでもかんでもお姉ちゃんばかり、ズルいよ。
三等分、それは宝石や持ち物だけ、本当に平等なら…フリード様も分けてよ。
そうだ…お姉ちゃんはフリード様の前では猫被っていた気がする。
凄く優しそうに微笑んでいた。
あんなのお姉ちゃんじゃない?
本当のお姉ちゃんは社交の場に出ない、本を読んでいるだけの根暗じゃない!
それなのに、あれは嘘のお姉ちゃんだ。
騙されて『結婚』なんてフリード様が可哀想だ。
救ってあげなくちゃ。
私が、嘘つきのお姉ちゃんから救ってあげなくちゃ…
「その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい」
つい口をついて出てしまった。
もう後戻りは…出来ない。
なら…お姉ちゃんから沢山『貰わなくちゃ』 そうしないと私は全てを無くしちゃう。
『貰っても良いよね』 だってお姉ちゃんは…宝石やドレス以外にも素敵な婚約者も含み『沢山持っているんだから』
◆◆◆
しかし、本当にロゼは使えないわ。
その日私は凄く苛立っていました。
「全く、あの馬鹿は本当に使えないわね」
「シャルロッテ様、余りそういう事は言わない方が…」
「そうね、まぁ当人の前では言わないわ」
「ですが、ロゼ様は伯爵家の方とはいえ次女ですよ? あの位持っているだけでも凄いと思いますが」
シャルロッテは少しイラつきながらシレ―ネの方をむきながら答えた。
「シレ―ネ、解っているわ…だからこそ、見るだけなのです、ドレーク伯爵は娘には甘い所がありますから、ロゼが言えば宝物であっても『貸す』と思います…その証拠に本来はマリア様の持ち物なのに、『幸運の女神の笑顔』をロゼが持っている位ですから」
恐らく、マリア様も妹には優しいのでしょう。
そうで無ければ、あの宝石箱をロゼが持っている訳が無い。
「シャルロッテ様、お聞きしても良いでしょうか?」
「どうしたのかしら? 改まって」
「あの、なんでマリア様でなくロゼさんなのでしょうか?」
「そうね、ロゼを除き全員が居ますから、伝えておいた方が良いわね」
ロゼ派の仲間には教えておいた方が良いでしょう。
【ロゼ派】
ロゼ=ドレーク (伯爵家)
シャルロッテ=ジャルジュ(伯爵家)
マリーネ=グラデウス(男爵家)父 王都警備隊 隊長 ※親友 シレ―ネ
シレ―ネ=フェルバン(男爵家)
ソフィ=マルゾーネ(準男爵家)
ケイト=アルトア(騎士爵家)
ティア=シャイン(騎士爵家)
シャルロン=ロワイエ(騎士爵家)
マレル=コーデニア(騎士爵家)
マーガレット=マンスリー(騎士爵家)
※ この世界の設定では『騎士爵=騎士』ではなく、一番下の正式な貴族が騎士爵です。
学者や、商家で実績をあげて騎士爵を貰い、剣も持った事も無い騎士爵も少数います。
ロゼ派の騎士爵の方の多くは『殆どがこちら』です。
「私が何故、マリア様に手を出さないか? それは…マリア様は凄く怖い方だからよ…」
「シャルロッテ様が…怖いまた可笑しな事を言いますね」
『この方は、自分がのし上がる為なら何でもするし、王家すら恐れて無い様な人の筈です、それが何故ただの令嬢を恐れるのでしょうか?』
「マリア様が怖い? 何かの勘違いでは無いですか? お優しくて物静かな方ですよ」
「そうですよ、多分ビンタでもしたら、そのまま泣いてしまう様な方にしか思えませんよ?」
はぁ?あの怖さは直接、感じた人間にしか解らないわ。
まるで爬虫類みたいな感情の無い顔。
人を殺しても笑みを浮かべそうな破綻した性格。
そして、感情も無く人を殺せそうな、ガラス球みたいな目。
あれは、悪女…まるで黒薔薇を彷彿させる様な、悪魔の様な女。
あれは敵に回してはならない…恐ろしい女。
あの女が蛇の生まれ変わりだと言っても信じるし『伝説の拷問王妃黒薔薇の生まれ変わり』と言われても信じられる。
そこ迄怖い存在だわ。
「そうね、それじゃ私の仲間が私を裏切った場合、貴方達なら私はどうすると思う?」
「そうですね、私は絶対に裏切りませんが、家ごと潰されるか、場合によっては殺されるでしょうか?」
そこ迄はしませんよ…そこ迄はね。
だが、マリア様は…きっと、それではすまない。
「正解…ではマリア様ならどうすると思う?」
「多分、笑って許してくれるのでは?」
「些細な事なら多分そう…だけど、本当に怒らせたら、恐らくは壮絶な拷問を与えて『殺して下さい』そう哀願する位死よりも残酷な事をすると思うわ」
「あはははっ、そんな冗談は止めて下さい! マリア様ですよ」
本当の怖さを知らないから、そう思うのね。
「そんな、生半可な人間をあの、イライザ様が派閥に望むと思う?」
「それは、なにか理由があるのでしょうか?」
「良いわ、話してあげる! こんな事があったのよ」
あの子は一体なんなのかしら?
大人ぶっていて、斜に構えているような気がする。
話掛ければ、話はしてくれるけど、それだけ。
観察してみていれば、良く解る。
人の輪に加わりたくない。
そう見えてくる。
自分が、伯爵家、それも私の家と違い古くからある家柄。
だから、『全てを見下している』多分、そう。
だが、それは私だから見破れた事。
他の人間には『地味で静かで気が弱い』完全にそう思わせている。
凄いわね…多分、それには誰も気がついていない。
それに気が付いているのは多分、私とイライザ様だけです。
だけど、私には解る。
あの子の凄さが。
公爵家の令嬢相手に普通に話し、王族相手にも物怖じしないで話す。
そんな事が出来る人間が『地味で静かで気が弱い』わけ無いわ。
あれは、そうね、擬態だわ。
狼が犬に混じって生活するには…そうするしか無いわね。
さぞかし、この場も退屈で仕方ないのでしょうね。
私は彼女が気になって話しをしてみた。
「初めまして、マリアさん」
同じ伯爵家だ、これで良い筈だわ。
「えーと、確かシャルロッテさんで良いのよね?」
「はい」
「どうかしたのかな?」
「いえ、退屈そうにしていましたので、お話しでもしませんか?」
「そうね、確かに暇ですから良いですよ」
やっぱり、違うじゃない。
本当に『地味で静かで気が弱い』そんな人間なら初見の人間相手にこんな普通に話せないわ。
そのまま普通に他愛のない会話を続けた。
そのまま続ければ良かったのだが、つい私に好奇心が起きてしまった。
だから、ついやってしまった。
「これは仮なんだけどさぁ…もし、爵位が上で気にくわない令嬢が居て引き摺り降ろしたいとしたらどうしますか? 」
『シャルロッテさんも、もしかして『読書家』なのかな? こういう時は、悪女物の本を参考に答えるのよね、多分』
「簡単ですわ、シャルロッテさん、そうですわね…相手に護衛が居ないなら、下賤な男に犯させれば、それで終わりです、恥ずかしくてもう表舞台には立てなくなります」
「あの、マリアさん」
「そうで無ければ、毒を顔に掛けて二目と見れない顔にしてしまうとか…」
「何をいっているの」
「後はどうにか誘拐して四肢切断のうえ死ぬまで拷問とか、王家への謀反の証拠をねつ造して国外追放、その上で盗賊に襲わせて奴隷落ちか、殺してしまうとかかな?この辺りが王道かもしれません」
「凄い話ね」
「はい、私の知っている《本の中の》の令嬢ならこの位は当たり前の様にしていますよ~ …他には手足切断して樽の中で死ぬまで飼うとか」
「そんな人…いるの?」
「はい」
怖い…貴族の中には昔は夫の代わりに拷問をしていた夫人が居ると聞いたけど…まさか『その家系』なの。
知っているって、私はそこ迄危ない人物は知らない。
マリア様は、危なすぎる。
※注意:あくまでマリアは『悪女物の小説』の話を勘違いして話しています。
◆◆◆
私事、ケイトは今迄の話を聞いて愕然とした。
「あの、それ多分マリア様の冗談ですよ…」
「あのね、もし今聞いたのなら、私もそう思うわ…だけど、この話は幼児の時に聞いた話なの、文字も読めない様な子供だったら、こんな話し見なければ出来ないわ、その証拠にあの時の私は、暫く夜は眠れなくなってしまったわ」
「あの、それは本当ですか?」
言われてみれば…マリア様は何時もつまらなそうに皆を見ていた…そして今はどうだろうか?
「良く考えたら…マリア様は、確かに他の方と違うし…観察するように私を見ていた気がします」
「昔の貴族の婦人には『家族を暗殺から守る』そういう仕事もあったと聞いた事があります…確かにマリア様は古い家系の方かも知れません」
「いい、私達はあくまで『法律の中』その中で搾取するのよ…それなら多分マリア様は『裏の顔』をださないと思うから、良いわね、あくまで『法の中』でのみロゼから搾取するのよ…すり替えや物を奪う事は無しよ…良いわね」
「「「「「「「「解りました」」」」」」」」
これがシャルロッテ様が、マリア様に『様』をつける訳なのね、確かに貧乏だからお金が欲しい、だけどお金の為に地獄の様な人生は嫌すぎる。
マリア様に裏の顔がある…確かにしっくりくる、どう考えても子供の時から、まるで自分の母親と話している錯覚をした事がある…これがその原因だったのね。
本当にロゼにこんな事してて大丈夫なのかな…不味い事にならないかな、私は…平和に暮らしたい。
私はシャルロッテ様が言っていた事が信じられなかった。
私がロゼ派にいるのは《シャルロッテ様》が居るからだ。
アルトア家は騎士爵、貴族の位では一番下だ。
だから、何処の派閥に入ってもこき使われ見下されるだけだ。
しかも私の父は法衣貴族、領地を持たずに国から出る年金(給料)で暮らしている。
私が婚姻を結ぶにしても碌な結納金も払えない。
だから、賭けに出るしか無かった。
ロゼ…様なんて分が悪いに決まっている。
私だって家が伯爵、せめて男爵家なら、イライザ様の派閥に入るわ。
騎士爵じゃ、入れて貰えない可能性もあるし、貧乏な私じゃ入れても惨めになるだけだ。
だから、脳味噌お花畑のロゼの派閥に入るしか無かった。
後悔はしていない。
ロゼは無能だけど、この派閥にはシャルロッテ様がいる。
この方は貴族なのに商才にたけ…素晴らしい才能の持ち主だ。
しかも…同世代の貴族の令嬢では恐らく私の目から見たら一番だと思う。
きっと裏からロゼを操って、本当は…
これは口には出さないが、ロゼ派は隠れ蓑で、本当はシャルロッテ派だ。
多分、皆もそう思っている。
その証拠にマリーネ様にシレ―ネ様がいる。
これなら、まず間違いは無いだろう。
この三人が居るからこそ、私達はロゼ派に入った。
その中心にいるシャルロッテ様が…マリア様を恐れている。
信じられなかった。
私の父は法衣貴族。
お金や領地は持ってないが、王宮で勤めているから色々な情報は早く入る。
だから、私は、お父様にマリア様について聞いてみる事にした。
「お父様、今お時間宜しいでしょうか?」
「別に構わないが、お前が私の所にくるなんて珍しいな」
私のお父様はいつも忙しそうにしているから、余り話す事は少ない。
だけど、私はどうしてもマリア様の事を聞きたかった。
「実は、マリア様についてもしかしたらお父様はご存じないかと思いまして」
「マリア様ってドレーク家のマリア嬢の事で良いのかな?」
「はい、そのマリア様で間違いないです」
「流石はケイトだな、多分お前達の世代で、頭が一つ飛び出ているのはイライザ様とマリア様だな…特にマリア様は…まぁこの辺りは言えないが特別だ」
今、お父様が何か言おうとして止められたわ…何かあるのかしら。
「お父様、なにかマリア様にはあるのでしょうか?」
「うむ、これは、あくまで俺の考えだ、かなり主観が入っているから、ケイトは自分の頭で考えるように」
「解りました」
「実は、噂話しだが、マリア様が幼い時にマヨネーズを作ったんだ」
「マヨネーズですか?」
「そうだ、それでマリア様が『今迄に無い画期的な調味料を作った』そう騒いでいたんだ、だから、他の大人の貴族が「それは『マヨネーズ』と言う物で昔に異国から伝わった調味料だよ」そう伝えたんだ」
「それがどうしたのでしょうか?」
「解らないのか?」
「はい」
お父様の話はこうだ。
確かにマヨネーズはかなり昔からある。
だが、その製法は一流の料理人のみが知っていて、その製法は『秘伝』にしていて一般的に伝えられていない。
一流の料理人は幾ら貴族だろうが、おいそれと自分達の秘伝を教えたりしない。
それに、もし教わったのなら『秘伝のマヨネーズを作った』そういう筈だ。
それに対して『今迄に無い画期的な調味料を作った』と言う事は、誰にも教わらずに作った事になる。
「つまり、マリア様は『自力でマヨネーズを開発した』と言う事だ、それに他にもある」
「他にも?」
「いま、私の掛けている眼鏡だが『つる』があるだろう?」
「確かに…」
「元は棒がついていて、手で持っていたのだが、こうして耳に掛ければ両手がつかえる、これを考えたのはマリア様らしい」
「ですが、それは単に思いついただけじゃないですか?」
「眼鏡も使った事が無い子供が初めてみて言ったのだ、まぁ偶然かも知れないが、凄いと思わないか」
「確かに」
そこからのお父様の考えは実に馬鹿げていた。
お父様の話では稀に女神に祝福を受けた『女神の愛し子』が生まれてくる。
そういう昔話があるらしい。
そして『女神の愛し子』は前世の記憶や別世界の記憶を断片的に持っている事もあるらしい。
「マリア様はそれ以外にも、凄い面があってな、子供なのに偶にやたら凄く大人っぽく見える事もある」
「確かに、そういう話は聞いた事があります」
「それに、最近はポルナック夫人のお茶会に出席して、その派閥に入るなんて噂もある」
「噂ですか?」
「真相は解らないが、あそこには若い女性が居なくて博識のある人物しかいない…あそこで話すには、それ相応の知識が必要だ、本を読んで語り合う、そう考えたら『難しい本を読んで、独自の解釈を言える』それが最低出来なければならない、お前にそれはできるか?」
友人同士なら出来るけど、歳を召した貴族には言える自信は無いわ。
「マリア様はそれが出来るのですね」
「それだけじゃなく、6ケタの掛け算も完璧に出来る」
「凄い…」
「まぁ『女神の愛し子』じゃなくても神童には間違いない、こんな所だ」
拷問狂で、大人の貴族と対等に話せて…信じられない知識を持った人物。
駄目じゃないか。
こんな人を怒らせたら…大変な事になる。
ならば…そのマリア様が愛している妹を害したら…不味いかも知れない。
シャルロッテ様は…本当に上手くやれるのだろうか?
もし、失敗して怒らせたら破滅しかない。
そんなリスクまで犯してやる事じゃないと思う。
これは離脱する事も視野に入れて動かなければ大変な事になるかも知れない
◆◆◆
私はお姉ちゃんに家督とフリード様を諦める条件で、更にお姉ちゃんから追加で、宝石やドレスを貰った。
かなり、お姉ちゃんを怒らせた。
お姉ちゃんの部屋をみたらあたりまえかも知れない。
もう引き返す事は出来ないんだから仕方ない。
◆◆◆
私、マリーネにフリード様からお願いの手紙が来た。
その内容はフリード様がお茶会に出席したいという内容だった。
本来なら喜ばしい事だわ。
だけど、今回は違う気がする。
もしかしたらロゼ様の事を調べに来たのかも知れない。
駄目だ、どう考えても『それしか考えられない』
私の家、グラデウス家は男爵家…ドリアーク伯爵家と付き合いがあるとはいえ上下関係はある。
とてもフリード様の『お願い』を断る事は出来ない。
婚約者の居る男性が女ばかりのお茶会にまず来ない。
しかも、形上派閥のリーダーのロゼ様が居ない時と指定された。
そう考えたら、何か思惑がある…そう考えた方が良いでしょう。
「私は当日、大切な用事があるので欠席しますわ」
シャルロッテ様はそう言って逃げてしまいました。
そうすると、自動的にこのお茶会は私とシレ―ネが仕切らないとなりません。
本当に困った事になりましたわ。
お茶会当日、フリード様は王都でも有名な砂糖菓子を持参されました。
流石は『貴公子』と呼ばれる事はあります。
ですが、明かに『お茶会を楽しむ』そんな顔はしていません。
女しか居ないお茶会に『婚約者が居る男性』が来る。
貴公子と呼ばれるフリード様がするでしょうか?
来られてしまった物は仕方ありません。
皆で、質問攻めにして、本題からはぐらすしかありません。
ですが、流石は『貴公子』いきなり本題を切出しました。
「そう言えば、婚約者の妹のロゼが元気が無いのだが、何か知っているかい?」
「「「「「「…」」」」」」
ロゼ様の話し…一瞬全員の声が止まってしまった。
不味い、失態だ。
「なにか知っていそうだね」
目が怖い…私がどうにかしないと。
まずは、私達の考えが他に洩れたら不味い…だから、この話は此処だけ、そう限定しなくてはなりません。
「あの…此処だけの話で、お怒りにならない、そういう約束であれば、お話ししたい事があります」
「ああっ約束しよう」
これで良い、仮にも『貴公子』と言われるフリード様、これで絶対に他言はしない筈。
「それなら…」
どうしよう…私は頭の中が混乱していたのだと思います。
少しでもロゼが有利になる様に話していたら…暴走して自然とマリア様を悪役にしてしまった。
「ロゼはマリア様に何時も古い物を押し付けられていました、宝石からドレスまで全部マリア様のおさがりばかりで、お可哀想に新しい物を身に着けて来た事は少ないです」
駄目だ…もう方向転換は出来ない。
このまま、話を進めるしかないわ。
シレ―ネはオドオドして話に加わって来ない。
ケイト、ティアは、私に同調している。
このまま行くしかないな、もう腹を括るしかない。
この派閥は形上はロゼ派なんだから、派閥の長であるロゼに有利に働かなくてはならない筈。
これで良い筈だ、引き返せないなら『これで行く』しかない。
「色々教えてくれてありがとう」
「「「「「「「「どう致しまして」」」」」」」」
もう賽は投げられた。
引き返せない。
だけど、これはあくまでお茶会の戯言、幾ら何でも裏付けも取らない訳はありえませんわね。
後でフリード様に冗談は止めろって怒鳴られておしまいの筈です。
大丈夫な筈です。
ただの戯言の範疇ですから。
◆◆◆
◆◆◆
私はドレークの筆頭執事をしていますジョルジュです。
ロゼ様、いやロゼはもう駄目だ。
あれはドレーク家を食い荒らす、害虫だ。
後妻のロザリーがこの家に嫁いできた時に我々は凄く警戒していた。
マリア様と上手くいくだろうか?
常に心配しながら見ていた。
この女も最低の女だった。
幼いマリア様に暴力こそ振るわない物の…心を傷つけていた。
だが、使用人として私達に出来る事は少ない。
仕方なく、暫く様子を見ていた。
何かあったら庇えるように必ずメイドか執事がマリア様の傍から離れない様にして…
どこで何をされるか解らないから旦那様に頼んで、何処に行くにもベテランの執事かメイドが同伴していた。
いつの頃かロザリー様はマリア様と打ち解け本当の親子の様に過ごすようになりようやく我々は胸をなでおろした物だ。
だが、問題は…ロゼ様…いや、あの人間に『様』なんてつける必要は無い。
あれは、まるで悪魔の生まれ変わりだ。
マリア様から全てを奪い取っていく。
特に、先代の奥様の形見の宝石箱を奪った時は…使用人全員が殺意を覚えた。
ローラは包丁を暫く眺めていた。
もしかしたら、頭の中で『ロゼを殺したい』そう思ったのかも知れない。
此処にいる使用人の多くはマリア様のお母様である先の奥様とそれなりの期間を過ごし、恩がある者も多い。
しかも奥様は『マリアを頼みましたよ』それが我々に対する最後の言葉だった。
そんな大切なマリア様から『大切な物を奪っていくロゼ』そんな者にだれが敬意を払えと言うのだ。
私だって実は短剣を握りしめた事も少なからずあった。
だが、我々はドレーク家の使用人、そこはプロ顔に出さない様にちゃんと給仕は行っている。
ただ、ロゼが見ていない所で舌打ちをしたり、陰口を叩くのは仕方ないだろう。
『心の底から嫌いなのだから』
幾らベテランの使用人であっても気持ち迄変える事は出来ない。
卑しく、マリア様の物を奪い続ける薄汚い娘。
そんな人間に誰が忠誠を誓えるというのだ。
『話したくもない』そんな人間相手に普通に接する、これ以上の事は…到底できない。
私は旦那様に『マリア様が色々と無くした』事を伝えた。
「ならば、生活に困らない様にしなくては」そう言われて我々はよく王都迄買いに行った。
だが、幾ら良い物を用意しても『新しく高級な物』は用意出来ても歴史的な価値がある物まで用意は出来ない。
幾ら言ってもあの娘は変わらない。
だから、せめて歯止めになればと、ロザリー様に頼んだ。
ロザリー様はその様子を見て、その都度小言を言ってはくれるが…自分が過去にした事もあり上手くいかない様だ。
マリア様は物が少ないし、ドレスも少ないからお茶会にはいくが、パーティーは欠席する事も多く、実に痛々しい。
私やメイドが気になり話しても『私は派手な所に行くより本を読んだり、お茶会で話すのが好きなのよ』と健気に振舞っている。
周りは全てマリア様を理解して味方してくれている。
これだけが救いだ。
そう長くないうちに、ロゼは結婚してこの家を出て行くだろう。
使用人に出来る事は少ない。
だが、その日まで我々は、仲間と共にマリア様がなるべき傷つかないように配慮する。
こんな事しか使用人には出来ないのが歯痒くてなりません。
◆◆◆
「ロゼさん、歴史あるドレーク家とはいえ、貴重な物は余りお持ちで無いのね! やはり次女だからかしら?」
此処に来ても心が休まらない。
珍しい物や歴史的価値がある物を身につけるか見せないと馬鹿にされる傾向がある。
だが、その割には皆はそれ程の物は身に着けていない。
しかも、そんな中、シレ―ネさんとマレルさん、ケイトさんが派閥を抜けると正式に伝えてきた。
口頭だけでなく『家紋の入った便箋』で伝えてきたから本気なのが解かった。
私は派閥の長と言いながら、何かあげたり、恩恵を預けていないから、引き留める事が出来ない。
通常は『ならば、貴方のお父様が困る事に~』とか『今迄与えた宝石を全部返しなさい』等圧力を掛けれるが…私はなにもしてないから出来ない。
「「「今迄お世話になりました」」」と笑顔で伝えてくる3人が心底憎らしい。
特にシレ―ネさんはシャルロッテさんやマリーネさんと親しいらしくかなり揉めた。
「ちょっと、シレ―ネ、今更抜けるなんてどういう事かしら?」
「そうだよ、今迄3人で頑張って来たじゃない? 親友じゃ無いの?」
シレ―ネさんが、何故か私の方を見た気がした。
「ええっ親友よ! だけど家が絡んで来たのだから仕方ないわ」
『これは嘘…だけど、家を絡めて話せばシャルロッテ様だって文句は言えないわ』
「そう、家絡みなのね…なら仕方ないわ、今迄ご苦労様でした」
「そうか~なら仕方ないね」
マリーネ『ボソッ、後で詳しく教えて』
シレ―ネ『解ったわ』
こうして私のロゼ派は私を含み7名とより小さくなってしまった。
「ロゼさん、貴方が威厳を示さないからこうなったのよ」
シャルロッテさんに責められた。
だけど、今の私に何をしろと言うの….
もう大半の宝石は…うん? 違う。
お姉ちゃんは『綺麗な宝石箱』とその中の宝石は譲ってくれなかった。
あそこにある物がきっと名品や名のある宝石なんだ…
周りが此処まで言うのだから…うちには多分そう言った物が沢山ある筈だ。
お姉ちゃんは狡猾でズルい。
全部私に渡した振りをして本当に大切な物は…譲って無い。
あははははっ気がついちゃったよお姉ちゃん。
『本当に素晴らしい物』はそこにあったんだね。
騙したお姉ちゃんが悪いんだよ。
私を騙したんだから…『色々貰わなくちゃ』ね…
「そうね、確かにそうだわ、これからはもう少し良い物を身に着けるようにするわ」
「そうしてくれると助かるわ」
私は…ニコリと笑った。
あの宝石箱の中身が手に入れば…きっと問題無いわ。
どうすれば、お姉ちゃんの宝箱が手に入るのかな。
言ってしまった以上はもう、後には引けない。
『ある場所は聞いた』あとはどうにかして手に入れなくちゃ。
だけど…形上は私の方が宝石もドレスも多い。
これでは…もうお姉ちゃんから『貰う』事は出来ない。
どうしよう?
最近、フリード様は、私の事を気にしてくれている。
『辛い事は無いか』『マリアに何かされていないか?』そういう風に聞いて来る。
確かにお姉ちゃんとは『フリード様を放棄する』そう約束はしたわ!
だけど、向こうから近づいてくるのは『私のせいじゃない』
しっかりとフリード様との仲を構築しないお姉ちゃんが悪い。
私からは近づかないよ…
だけど、フリード様から近寄ってくるんだから仕方ないよね。
フリード様は、何を勘違いしたのか、私が泣いている所に出くわして一生懸命慰めてくれた。
だから、お姉ちゃんと亀裂が入る様に『その…フリード様に言える事ではありません…ですが騙されないで下さい』
こう言っただけです。
これなら、私が何かしたという証拠にはなりません。
この一言が問題視されるなら『騙されないで下さい…お姉ちゃんは本ばかり読んでいて貴族には向いてない性格なんです』
こう繋げれば、叱られる事はあっても…それで終わり。
それに『貴公子』と言われるフリード様の事、何か探るかも知れません。
散々、人に無茶ばかり言う『ロゼ派』なのですから…それとなく『私がフリード様に気があり、お姉ちゃんを疎ましく思っている』それだけ遠回しに伝えておきました。 形上私の派閥なのだから…私よりに証言するよね。
此処から何が起きるかは『私には責任無い』筈よ。
私が悪いとしたら『魅力があり過ぎるだけ』だもん。
これ以上は私はなにもしないよ。
これでフリード様が私に近寄ってきても私は知らない。
『私から仕掛けていない』のは誰が見ても解るもの。
私は元気が無いように振舞って…
これで良い、自分から動けないなら、せいぜい悲劇の妹を演じてあげる。
これ位で何か変わるとは思えないわ。
こんな事でフリード様が私を見るなんて思わない。
だけど、此処までなら…文句を言われる筋合いはないよね…お姉ちゃん。
だけど、まさかの奇跡が起きちゃったわ。
フリード様から告白された。
自分でも何が起きたのか解らない。
フリード様はお姉ちゃんと結婚して当主になる方だ。
今現在、私には家の中に『味方は居ない』。
お父さまからはお小言をくらい、お母さまからは『マリアを見習いなさい』そんな事ばかり言われる。
私の本当のお母さまなのに、これじゃまるでお姉ちゃんがお母さまの子で、私が実の子じゃないみたいに虐められる。
本当に可笑しい。
まさかお姉ちゃんは魔法でも使っているのか…そう思う程に扱いが酷い。
使用人も元から居た、お姉ちゃんと私では扱いが違う。
最初は同じに扱ってくれていたように見えたけど、最近ではメッキが剥がれた様に私を雑に扱いだした。
もう、私には…味方がいない。
折角派閥の長になったのに、だれも応援してくれないから、上手くいかない。
だから、私はフリード様に媚びるしか無い。
これから、婿に入るけど、男だからお父さまに次いでこの家のナンバー2だ。
だから『問題が起きない程度』にお姉ちゃんの悪口を言って、同情するように仕向けた。
大袈裟に言ったけど…全部嘘じゃない。
※ そうロゼは思っています。
こんな事で結婚は崩れる筈はない。
なのに…なにこれ?
「ロゼ…俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
これは夢じゃないかな?
こんな奇跡…起きる訳が無い。
だけど…起きた…本当に夢の様な事が起きた。
「あの、私で良いんですか?」
そう答えるのが精一杯だった。
「俺はロゼが良いんだ」
凄く嬉しい….それと一緒に私は『お姉ちゃんに勝った』そう確信した。
この国では女は余程の事が無いと『当主になれない』
それはお姉ちゃんの母親にお父さんが婿に入ったのに当主がお父さんになった事でも解る。
女伯爵とその旦那ということには成らない。
だから、お母さんは是が非でも『男の子』が欲しかった。
だが、産まれて来たのは『私だった』
今の状況はどうだろう?
『お姉ちゃんは女』『後継ぎは男が必要』『事業の為に両家は揉める事は出来ない』 そして『婿はフリード様』
この状況からフリード様がお姉ちゃんでなく私を選んだのなら…自動的に『家に残るのは私』『そして嫁に出されるのはお姉ちゃんだ』
これは『私がした事』じゃない。
フリード様が勝手にした事だから…あんな約束は無効だよね。
私は告白をされてそれに答えただけ…これで文句なんて言われたら『言いがかり』だよね。
これで、あの宝石箱も中身事、私の物だよね?
だって、『この家から嫁いでいくのがお姉ちゃん』なら『家の物』でもあるあれは、残る私の物だ。
これで、私が欲しい物は全部手に入る。
良かった…本当に良かった。
「ありがとう、フリード様…本当にありがとう!」
私はとびっきりの笑顔でフリード様に答えた。
お姉ちゃんは滅多に宝石をつけない。
だったら、私が貰っても良い筈だ…
「お姉ちゃん、残りの宝石も頂戴!」
私はお姉ちゃんの部屋に突入した。
「どうしたのロゼ? 私、今は貴方の顔、見たくないんだけど?」
そうやって、澄まして居られるのも今のうちだわ…だって将来はお姉ちゃんは此処から出て行くんだもん。
「お姉ちゃん、ズルいわ、本当に価値がある物は自分の手元に残してクズばかり寄こしたのね」
「ロゼ、何を言っているの」
「だって貰った宝石は安物ばかりじゃない」
お姉ちゃんが馬鹿にした顔で私を見たけど、気に何てならないわ。
私はまんまとお姉ちゃんの宝石やドレスを貰う事に成功した。
ただ、お姉ちゃんは放り投げるようにそれらの物をこちらに寄こした。
だけど..何が起きたの?
「あの、誰か拾って下さいませんか?」
「クソガキ、自分で拾えよ!」
「ジョルジュ?」
「すみません、つい口が滑りました、ですが今の貴方には私はお仕えしたくありません…それは貴方自身でお拾い下さい、今の暴言が気に入らないなら、旦那様にいいつけなさい、産まれて初めて仕えている方に暴言を吐きました…罰は承知の上です、では失礼します」
「あの、誰か、手伝って…」
廊下でアリシアをはじめ数名のメイドが見ていたので助けを求めた。
「あの、何か聞こえました?」
「誰かが手伝ってって言ってますね」
「それじゃ、手伝わなくちゃ」
「ありがとう…えっ」
メイドたちは一旦は拾ってくれたけど、廊下に出るとその場所にドレスや宝石を置いた。
「此処からは自分で運んだら如何ですか?」
「あの…」
「マリア様、このロゼ様が部屋に居る方が困ると思いましたから外に出しました」
「ありがとう」
「お姉ちゃん」
「お姉ちゃん言わない!」
バタンと音を立ててドアが閉まった。
「誰か運んでよ!」
「あの、ロゼさま~…私達、貴方が大嫌いです! まぁプロですから、暫くしたらきちんと給仕します! でも流石に今の貴方は顔も見たくない、気にくわないならクビでも構いませんよ…それじゃ」
「私は前の奥様からマリア様を頼むと言われました、貴方は好きにはなれません」
「私も貴方は大嫌いです」
「そう解ったわ」
私は3回に分けてドレスや宝石を運んだ。
これで『全部私の物だ』見た感じ高級そうな宝石は無いが、見た目じゃ解らない、お姉ちゃんが最後に残した位だから、きっと素晴らしい物に違いないよね。
ドレスも全部質素だけど…多分歴史のある高額なドレスだと思うわ。
ムカつく執事にメイドもフリード様と私が結婚したら…追い出してやるわ。
待ってなさい。
それから、お姉ちゃんは私と一切口をきかなくなった。
お母さまと一緒に居る事は多いが、その輪に私が加われなかった。
「私をお母さまは無視するのですか?」
そう思い切って聞いてみた。
「ロゼ、貴方には無理よ」
「そんな事はありません」
「そう、ならば一緒に話してみる?」
お姉ちゃんは私に話し掛けて来ない。
私から話し掛けると嫌そうな顔で答えてはくれる。
だけど…これは私には無理だった。
殆どが本の内容で、本を読んで無いと意味も解らない。
その本も一冊読めば良いなんて物じゃない。
物語から始まり、色々な話を読んでいないと会話すら出来ない。
最後にお母さまから言われた。
「これで解かったかしら? 貴方には無理よ…それにね、マリアは私の派閥なのよ? 貴方はロゼ派という別の派閥…派閥という繋がりは時として家族の絆を越えるのよ? 『ボルナック派の副リーダー』の私が同じ派閥のマリアと仲が良いのは当たり前じゃない…貴方だってそうでしょう? 実際に家族より派閥を優先しているんじゃないかしら? 違うかしら」
私の派閥はそんな楽しそうな物じゃない。
最近お母さまはお姉さまと一緒に紅茶を飲む事が多い。
そして茶菓子は、王都から取り寄せた高級菓子がある。
その御菓子は…私の口に入る事は無い。
「これは読書の際に食べる為にマリアと私が持ち回りにしているのよ! 食べたければ貴方もお金を出せば…ちゃんと渡すわ」
「それなら要りません」
話に加われない私が『そこに居ても』楽しくも何ともない。
そんな紅茶は要らない。
「私の為に馬車を出して茶菓子を買ってきなさい」
「何処のお店で何を購入してくれば良いのでしょうか? 馬車を出す事はご主人様はご存知ですか?」
「それは」
「なら致しかねます」
お父さまに頼んだら断られた。
お姉ちゃんやお母さんは『何かのついでに頼んで買ってきて貰うそうだ』
「ロゼ、少しは常識を覚えなさい、たかが菓子を買う為に数日かけて王都と往復する訳が無いだろう?」
「うっ、解りました」
私には何かのついで…それが解らない。
使用人と仲が良くないから、いつ馬車が出るか知らない….
此処には私の居場所が無い。
お茶会に出席した。
此処しか私の居場所は無いから。
「ロゼさん、それなんですの?」
「これが前にお話ししました、貴重な宝石です」
私はお姉ちゃんから貰った宝石を身に着けた。
ネックレスに指輪まで全部、あの宝石箱の中にあった物だ。
見た目は小振りな物ばかりだけど…これは全て貴重な物の筈だ。
「これが? へーえ、そうなのかしら? シャルロン、貴方のお父様は商会からの成り上がって貴族になったのよね?」
「はい、元は卑しい…」
「卑屈にならないで、貴方は私にとって大切なお友達なのよ! 私はそんな事思って無いし、私には無い素晴らしい目をお持ちだわ、その目の価値は誰にも負けない素晴らしい物よ…言い方が悪かったわ『お父様から教わった素晴らしい鑑定が出来るのよね』」
「はい、シャルロッテ様、物の目利きであれば『絶対の自信が御座います』特に宝石の鑑定はお父様の折り紙つきです」
「なら、ロゼさんの宝石を見て…正直に話してくれて良いわ」
「あの…」
「許しますわ、本当の事を言って良くてよ」
《余り言いたくありません、ロゼ様に恥をかかせてしまいます、ですがシャルロッテ様は商人から貴族になったお父様や私にも優しい方です、そして『私を素晴らしい』そう言ってくれた方ですからしない訳にいきません。》
「すみません、鑑定と言う事であれば嘘はつけません…その宝石に価値はありません、その気になれば貴族でなく、少し裕福な市民でも手が出る品ばかりです、しかもみた感じ傷もあり、普段使い用の物です…その程度なら私の叔父の商会にすら普通に転がっています」
※シャルロンの父親は商人上りの貴族なので叔父は市民で市民、平民向けの商会です。
「そんな、これはお姉さまからもらった宝石なのですよ…そんな訳ありません」
「あるわ、貴方、上級貴族の宝石の鑑定をシャルロンはしたのよ? もし間違ったら大変な処罰を喰らいます、その上で言った事を間違い! ロゼさん、あんた本当は目が腐っているんじゃなくて? 社交界の華になんてなれる器が無かったわね…私の目が曇っていたわ…皆さん、今日でロゼ派は解散ですわ…私が誘ったばかりに恥をかかせてごめんなさい、この通り頭を下げます」
「ちょっとシャルロッテさん、この派閥の長は私よ勝手な事しないで」
「たしかに…ですがロゼさん、たった1人になってどうやって派閥を維持するのですか?」
「皆さん…あっ」
全員が拒否するようにロゼから視線を逸らしてセンスで顔を隠している。
「これでお解り? 今迄ご苦労様でしたロゼさん、それじゃ私達失礼しますわね」
「「「「「失礼しますね」」」」」
嘘でしょう…私..もう一人じゃない。
ロゼ派はあっけなく解散してしまった。
私にはもう何も無い。
お母さまはもうお姉ちゃんに取られた。
沢山の宝石があるけど、これらの物は二つを除けば価値が無いらしい。
ドレスは沢山あるけど『派閥を無くした』私には最早着ていく場所が無い。
『ロゼ派』を作ってしまったから、私を招待してくれる人は居ない。
お姉ちゃんが羨ましい。
色々な方から誘われているけど…私と違い断ってばかり。
お母さまの派閥に入ってからは『それを理由に断っている』がお母さまの派閥は緩いらしく偶に他の派閥の集いに出ている。
「うふふマリア、貴方が、如何に舞踏会が嫌いでも、私が一緒じゃいかない訳にはいかないわね」
「そうですね、お義母さま」
今日も楽しそうに馬車で出かけた。
私は屋敷に1人ボッチだ。
お父さまは執務が忙しく、食事の時しか顔をあわさない。
しかも、最近は目が怖い。
使用人も全員、私に嫌な目を向ける。
だから、私は食事の時にお父さまに話かけた。
「あの、お父さま」
「ロゼ、何かようか?」
「あの…」
「用事が無いなら話し掛けるな、お前には仕事が山ほどある筈だが…」
「私は特に何もありません」
「そうか、沢山の宝石を抱え込んで『まだ手入れの仕方を誰からも教わってない』だろう? 早く学ぶべきだ」
「ですが、誰も私には話し掛けて来ません」
「ロゼ、確かにお前は私の娘だ、だが『人から物を教わる時は頭を下げるのだ』頭をさげ教えをこうむりなさい…特に家宝や国宝は傷つけたりしたら、お前でもそれなりに罰を下さないとならない」
「….解りました」
「義務を果たせ」
そう言うとお父さまは食事を終えて出て行ってしまった。
私には最早何も無い…何も…。
違う、フリード様が居る。
今の私は『何も持っていない』だけど、この間フリード様から『結婚を前提に付きあいたい』そう言われた。
フリード様と婚約すれば…全てが変わる。
『貴公子フリード』様が私の婚約者に正式になれば沢山の令嬢が悔しがるに違いない。
どんな宝石よりも輝く男性、それがフリード様。
噂では姫ですら目を奪われた事があるという。
綺麗な風になびく金髪に整ったマスク…お姉ちゃんが婚約者だからって諦めたけど…向こうから来たんだから仕方ない。
私が奪ったんじゃない。
お姉ちゃんが『優しくしないから、私の所に来たんだ』
私は悪くない…
フリード様が私と婚約したら『私は伯爵夫人』もはやシャルロッテなんかより上が確定。
イライザ様には敵わないけど…ロゼ派を名乗って裏切った連中は後悔すれば良いわ。
使用人もフリード様が正式に後を継いだら全員クビにしてあげるわ…
なんだ…私はなにも失っていないわ。
これから、全て手に入れるのよ。
フリード様から手紙が来た。
次のダンスパーティーで『お姉ちゃんを糾弾して私と婚約発表をしてくれるらしい』
お姉ちゃん、何をしたのかな?
フリード様の手紙では『王族の前で真実を明らかにする』と書いてあった。
よく考えたら…宝石の事と言い、お姉ちゃんには可笑しな事がある。
多分、使用人、場合によってはお母さままで巻き込んで何かしていたのかも知れない。
あはははっ…良いざまだわ…フリード様頑張って!
私は将来の夫に激励の手紙を返した。
希望だと思った、それが私を破滅に追い込むとは知らないで…
第十一話 物が無くなるのは辛くない(ロゼ回想)
貴族って皆、こんな感じなのかな?
私、マリアは本当にそう思う。
昔は、お姉ちゃん、お姉ちゃんって言っていた可愛らしい妹のロゼがどんどん嫌な人間になっていくし。
優しくて良い人だと思っていた義母のロザリーはもう、なんだか最近家族と思えなくなってきた。
前世を平凡なOLとして過ごしてきた? あれ平凡でも無かったかな?
それは、兎も角、私にとって、宝石も宝石箱も他の人が思っている程価値は無い。
あの宝石箱は『お母さまの形見』で、ちょっと特殊だから手元に置いておきたかっただけだ。
それ以外に私には何の価値もあるものじゃない。
前世でOLの時間を過ごした私は、当時から宝石に何の価値を感じてなかった。
それは今も一緒、宝石よりもノートパソコンかパッドの方が、手に入るなら欲しい。
それが手に入らないから、何が一番好きかと言えば『本』になるわ。
こんな窮屈な服より、スエットでも着て寝ころびたいのが本音よね。
宝石も、宝石箱も『まぁ持っていかれちゃったなら仕方ない』
私にとってはそんな物位しか価値は無いよ。
だけど…本当の意味で『自分の物』にならない物、なんだけど良いのかな?
普通に考えたら解ると思うのだけど。
家宝って言う位だから、あくまで『家の物』だから、所有者ではあるけど、売る事もできないし余り自由には出来ない。。
それ所か、価値を損なわない様にしっかりとした管理をしないと大変な事になる。
過去には国宝級の家宝を壊した為に死を選んだ貴族も居る位だよ。
凄く怖いよね。
更に、国宝級の物は王族や他の貴族から見たいという要望があれば『お持ちしなければならない』事もある。
私みたいな小心者は『手元に置きたくない』そんな気持ちの方が強いわ。
もう書類を交わしたし、無理やり持っていったのはロゼ…今後の責任は全部ロゼになる。
私的には少し気が楽になったわ。
しかも、あれらはあくまで『家』の物だから、ロゼが婚姻を結び出て行くときには置いていかなければならないんだけど、解っているのかしら?
私は、そんな持っているだけで、気が気で無い物、私は、欲しいと思わないし、あげても良いとさえ思う…それに貴方が嫁ぐ時には返さなければいけない物なのだけど…ロゼは本当に、それでよいのかな。
それから暫くして、私はお父様に呼び出されている。
部屋に入ると、お父さまの横にはお義母さまがいた。
「マリア…お前の貴重な持ち物の所有権をロゼに移す、その様な書類を今見たのだが、これは本当か?」
「ええっ、本当ですよ、ロゼが欲しがり、お義母さまも渡した方が良いって言われましたので、正式にお渡ししました」
「ちょっとマリア、私は…そんな」
「大丈夫ですよ、お義母さま! お義母さまは、最後には反対してくれました、ただあの宝石箱はロゼがどうしても欲しそうでしたのでお渡ししただけですわ」
確かにあの宝石箱は特殊だから『手元に置いておきたい』その反面、使う事も無いから、渡してあげても良いかな、そう考えました。
家宝でもありますから『嫁ぐとき』には返ってきますしね。
「お前、あの宝石箱は、お前の祖母が先の王妃様を助けた際に頂いた品だ、本来、お前以外の者には所有は許されない品だぞ!」
「確かにそうですが、ロゼは妹です、しかもあの宝石箱は、私の物ですがドレーク家の大切な資産でもあります、その為あくまで『この家』の物です、ロゼが婚姻を結び出て行くときには返して貰えますから、大切な妹に今暫く預けても良いと思いました」
『本気でそんな事は言えないだろう、あれはマリアにとって一番大切な宝物の筈だ』
「そうか、マリアは随分大人なのだな! だが俺がお前の立場であれば、絶対にあれは渡さない!しかも【月女神の涙】まで渡したそうじゃないか?」
確かに貴族社会ならそれが当たり前、私の行動は可笑しいのかも知れない。。
だけど、前世の生活を引き摺る私は、残念な事に美術品に一切価値を見出せないのよ。
前世の時でも、ブランド品を買う位なら新型のPCやスマホの方が欲しかった、それが私という女よ。
彼氏にプレゼントに何が良いと聞かれた時に『カラーレーザープリンター』をリクエストしたり『生ハムとワイン』をリクエストする位、宝石や美術品には興味が無いのよ。
「私はお母さまから沢山の物を引き継いでいます、私に比べ、ロゼは余りにも物を持っていません、ならば、今ひと時、お渡ししても良いと思いました。それに私もお義母さまから素晴らしい物を頂きましたよ」
「ほうっ…ロザリーからプレゼントを貰ったと言うのか? それは一体何を貰ったと言うのだ!」
「とても素晴らしい物なのですよ。一旦、部屋に戻って持ってきても構いませんか?」
「構わない」
『一体、何を貰ったと言うのだ…ロザリーがそこ迄の物を持っているとも渡せるとも思わない』
「お父様、これですわ!」
「なんだ…その宝石箱は、どう見ても新しくて歴史があるようには見えない、そんなに素晴らしい品には見えないぞ(どう見ても、新しい品だ、王都に行けば普通に買えるような品にしか見えない)」
「すみません、そんな物を贈ってしまって」
何故、お義母さまは悲しそうな顔をするのでしょう?
私には、本当に素晴らしい物としか思えませんわ。
「お父さまにはこの宝石箱の価値が解らないのですね…この宝石箱の中には貴重なオルゴールが入っています、そして、そのオルゴールはお義母さまがこの家に嫁入りした時に持ってきた物なのですよ」
「それがどうした?」
「良いですか! この宝石箱は、お義母さまが大切にしていたオルゴールが使われているのですよ、自分にとっての宝物から部品をとり、私の為に作られた、世界に1つの素晴らしい宝石箱だと思います」
「だが、あの宝石箱はお前の祖母からお前の母に引き継がれ、そしてお前へと引き継がれた大切な物ではないか?」
「はい、ですが、あの宝石箱は【この家の物】でもあります、ロゼは器量良しですから直ぐに婚姻が決まるのじゃないでしょうか? それまで預けた、そう思えば良いだけです…ロゼだって馬鹿じゃないでしょうから、家宝や国宝を外に持ち出したりする訳はありません、精々部屋で眺めてオルゴールを奏でて楽しむ位でしょう? なら私の部屋にあるかロゼの部屋にあるかの違いだけです」
「お前はそれで良いのか?」
「はい、実のお母様と二人目のお母様に、こんな素晴らしい宝石箱を貰える私は凄く幸せな娘ですよ」
「マリアさん、そんな、ありがとう」
私にとって、もし宝石や美術品に価値を見出すとするなら、それは『その品にどんな思いが込められているか』だと思う。
確かにあの宝石箱には無くなったお母さまの想いが込められています。
永遠に返って来ないなら勿論躊躇します。
ですが、そう遠くない日に返ってきます。
お母さまの思い出なら、今でも鮮明に思い出せます。
『一時貸すだけ』そう考えたら…そんな気に病む事はありません。
確かに貴重では無いかも知れませんが、『自分の大切な物』から作ったこの宝石箱も充分私にとって大切な物です。
「お義母さま、この宝石箱、大切に使わせていただきますね」
「そんなお礼なんて良いのよ、マリア」
「だが、幾らなんでも国宝だぞ」
「『人は貰うより与える方が幸せなのである』これは私が読んだ書物に書いてあったことです、私はこの考えでいたいのです」
「マリア…お前はもう、そんな難しい本を読んでいるのだな? 所で俺はお前が言う本を読んでみたいのだが、なんていう本だ!」
「えーと『ヤバイ、これは多分前世に読んだ本だ』忘れました」
「そうか、今度タイトルが解ったら教えてくれ」
「はい」
「お前はもしかして『女神の愛し子』なんじゃないか? まぁあれは宗教上の伝説だから居る訳は無いと思うが、マリア、お前と話していると、偶に大人と話している様な錯覚に思える」
「あはははっ、そんな訳ありません(女神の愛し子が転生者なら、そいうかも知れませんが)」
これで良かった筈だ。
多分、お父さまとお義母さまは私が思った以上に仲が良くない筈だ。
お義母さまは初婚で若い。
お父さまも若いが、初婚では無いし私という瘤つきだ。
若い頃に婚約者が決まる貴族社会では実に珍しい事だと思うわ。
そこには色々な周りの思惑が絡んでいても可笑しくない。
多分、お義母さまに求められたのは男を産む事だ。
態々、私にあんな嫌味を言う位だからまず間違いが無い。
だが、産まれたのはロゼ、女の子だった。
本来なら男子誕生に期待を込めて、2人目を望む筈が、その気配は何故か無い。
しかも、私の伴侶がこの家を継ぐことになるなんて、少し可笑しな気がする。
そう考えると、お義母さんにはロゼの一回しかチャンスが無かったのかも知れない。
何故そうなっているのかは、子供の私に知らされる事は絶対に無いだろう。
まぁ、知る必要もないのだけどね。
「マリア、もう下がって良いぞ」
これで話は終わり、良かったわ。
「はい」
物なんて…私には余り価値は無い。
どちらかと言えば、家族が揉めないでくれた方が、事なかれ主義の私には遙かに嬉しいよ。
◆◆◆
「ちょっと待ってマリア」
廊下に出ると追いかけてきたお義母さまに話し掛けられた。
「お義母さま、どうしたのですか?」
これから私は部屋に引き籠り、読書をしようと思っていたのに…
一旦お預けだわ。
「あの、さっきはありがとう…その庇ってくれたのよね」
「確かにそれもありますが、前に『貴方は伯爵家で生まれてから育ち、実の母親から沢山の物を引き継いでいます、それに対して私は貧乏子爵家出身だからロゼには大した物を与えていません』ってお義母さまは言われたじゃ無いですか? よく考えたらそれは正しい、と思い出しましたわ、だからこれからは、色々な物をロゼや、勿論お義母さまにも分けようとおもいました」
「そう言って貰えると助かるわ、ですが、私もあの後反省したのよ、確かにそうは言いましたが…それらの品の多くはマリアにとっては遺産であり、形見の品です、あの時の私は短絡的で目が曇っていたのだと思います。心から謝罪します。本当にごめんなさい、私は貴方に酷い事ばかり言っていました…確かに貴方は沢山の貴重な物を持っています、ですが、それは貴方にとって形見であり、遺産だった、あの言葉は間違いだった、訂正させて頂きます、本当にごめんなさい」
本物の令嬢なら、ひにくを言ったり文句を言うのでしょう。
ですが、私は心の中は令嬢ではありません。
「別に謝らなくても良いですよ、確かによくよく考えれば、私は沢山の物を持っています、これらの品は私の物である反面、家の物でもあります、そう考えたらお渡ししても良いと思いました…ただ、私からは言いにくいのでお義母さまからロゼに、家宝を手にした者の義務を教えておいて下さい」
「義務?」
「はい、例えば今回の宝石箱ですが、常に磨かないとくすんでしまいます、宝石は目の細かい特殊な布で常に拭いて、金やプラチナの部分は偶に専用のクリームで磨かないとなりません…まぁ執事やメイドでも上位の物なら知っていますが…家宝ですから使用人に渡す訳にいきませんので、それらの品は、ご自分で手入れをするのがマナーです」
「そういう物なのね?」
「はい、お父さまも良く執務室に置いてある竜の置物を磨いているでは無いですか? あれと同じです」
「言われて見ればそうですね」
「はい、お義母さまも、何か欲しい物があったら、おっしゃって下さいな、正式な手続きを得てお渡ししますわ」
本音で言えば手入れが凄くめんどくさいのよね…
時計なんて、常にゼンマイをまかないといけないし、可笑しいと思ったら王都の職人に修理の依頼を出さなければならないし『形上自分の物だから、その費用は基本自分』沢山のお金が掛かる時はお父様に理由を話して頂かないといけない。
それに、貴金属はかなり力を入れて磨かないといけないし。
余り価値を感じない私には、結構な苦行だわ。
「良いのですか?本当に」
「はい、その代わり、私はお義母さまが結婚した時に持ち込まれました、本を読ませて頂けませんか?」
「恋愛小説ばかりで、貴方にはまだ早い気もしますが、そんな物で良いなら構いません」
そんな物?
私には、宝石や美術品より、余程価値がありますよ。
スマホがもし無ければ、前世の私はきっと部屋中本だらけの筈です。
前世の私は、DLした小説が3万冊スマホやノートPCに入っていました。
この世界にも小説はあるのですが、発行部数が少なく貴重品です。
だから、小説が読みたければ、新作を本屋で高いお金で買うか、持っている人から借りなくてはいけません。
お義母さまは結構な読書家で、凄く沢山の本を持っていましたから楽しみです。
「私は社交界に行くよりも、本を読むほうが好きです、それに本を読むのにはもう一つ楽しみがあります」
「楽しみですか?」
「はい、同じ本を読んで、お互いの感想や意見を言いあう事です…私にはそういう知り合いが居ませんから、そういう相手にお義母さまになって欲しいのです」
「マリア、貴方の年齢で、本当にこんな本を読めるの? 私でも貴方の年齢じゃ、そんなに本を読んでいなかったわ」
「私は、本を読むのが何よりも好きなのです」
今の世界じゃこれ以上の趣味は私にはありません。
更に言うなら私の読書は悪食。
なんでも読んじゃいますよ。
「本を読んで感想や意見をお互いに言い合う…凄く楽しそうですね、実は私の友人関係は読書家が凄く多いのよ…そうね、一回一緒に、私の派閥のお茶会にいってみますか?」
「はい、お義母さま…大好き」
思わず、私はお義母さまに抱きついてしまいました。
だって、そういう仲間こそが私が欲しい友達なのです。
「マリア、はしたないですよ」
「ごめんなさい」
《偶に年上と話している錯覚を起こしますが、こういう所は本当に子供ですね、社交界好きのロゼと違って、この子は本当に読書が好きみたい…なんだか昔の自分に近い物を感じます、最も、私の場合は綺麗な宝石やドレスを余り持っていなかったから、貴族の家なら何処にでもある本に走っただけなのですけどね》
「良いのよ、そうねとりあえず3日後のお茶会に一緒に行ってみましょう」
「本当にありがとうございます、お義母さま」
私が欲しい者…その一つはお義母さまなのかも知れません。
自分に意地の悪い義母に何故? そう思うかも知れませんが。
私の考えでは読書好き、本好きに悪い人は居ません。
『市民落ちしても良い』その様にお義母さまに伝えた事がありますが…実際にはこの家の爵位に括られた私には無理な話です。
多分、嫁がない私は、嫌でもお義母さまとは、どちらかが死ぬまで一緒に居る事になる。
ロゼは、婚約相手が見つかれば嫁いでいくから、そんなに長い付き合いじゃない。
だけど、私とお義母さまはどちらかが死ぬまで一緒の可能性が高いのです。
だから、どうにかして、義母さまとは仲良くしないと不味い…なんて思いながら見ていたのですが。
見れば見る程…いいなぁこの人。
だって、私と同じで本が好きだし、持っている本も前世で私が好きなジャンルの本ばかりなんですよ。
前世の私は紙の本は余り持っていなかったけど、沢山のお金を使い結構な小説を課金してDLしていました。
そしてよく、その内容について友人や掲示板で語り合っていました。
本当に一晩中本の内容について友人と語り合った事もあります。
腐女子…とまではいかないけど、多分その素養は充分あったと思います。
だけど…お茶会に行っても、ダンスパーティーに行っても、そんな相手は居なかったのです。
。
何処にもライトノベルやアニメにでてくる、地味で本が好きな人物なんて居ませんでした。
多分、まだ齢が若いからか、周りの女の子は、本よりも、宝石やドレスの話題ばかりで、うんざりでした。
『恋ばな』なんて…本当の貴族はしないのだとショックも受けましたわ。
そりゃあ…婚約者が割と早い時期から決まるのだから無理だわね。
その分、小説のなかでは、現実では無理なせいか『恋愛』のジャンルは意外に多いのです。
結局の所、貴族の子供のお茶会は、『子供の見栄の張り合い』そういう場所なのかも知れません。
イライザ様は他の子よりは大人だけど…他の子供達は頑張って見栄を張っているようにしか見えません。
本当に気を使います、伯爵家だから少しは楽ですが実際は、権力を持った子供相手に『接待』している様な物なのです。
本当の子供なら良いんだけど、私は前世の記憶があるせいか、つい処世術がでてしまい、気が休まりません。
はぁ~ブラックだったOL時代をつい思い出してしまいます。
だ.か.ら…本について語りあえるような存在は、義母のロザリーしか周りに居そうにない、そんな状況なのです。
今迄は、嫌われていましたから難しかったですが、最近は、仲良くなれそうな兆しが見えてきましたわ。
これでお茶会のお義母さまの友達が『私の思っている様な人達』だったら…
それは、私が望んでも手に入らなかった『私の居る場所』なのです。
◆◆◆
俺は最近、よく考える事がある。
我が娘、マリア、あの子は本当に何者なのだろうか?
我が子ながら、考え方がしっかりし過ぎている。
ただ、それだけなら解るが…偶にまるで啓示でも受けた様な事を言い出す。
本で読んだと言うのだが、その様な本を俺は見たことが無い。
一体、あの子は何処で、その様な本を読んだと言うのだろうか?
それよりも、あの子位の歳であんなに本が読める物でない。
暇さえあれば、本を読んでいて悦に浸っている。
本を好きな女性の娘、これがロザリーの娘ならまだ解る。
ロザリーは読書家で有名だ。
あれは、あれで貴族の娘にしては、贅沢を好まない。
そこが気に入りお見合いを受け、後添いにした。
まぁ、それ以外は特に取り柄のない、地味な女なのだが。
本を読み、僅かな贅沢しかしない…貴族の妻としては割と理想的だ。
それにしたって、あくまで貴族の範疇、実際にはあくまで他の者に比べてであり、宝石やドレスも普通に欲しがる。
だが、マリアは異常だ…
ロザリーとは違い『興味が薄い』のではなく『全く無い』
物に対する価値を見出さないという位に『物欲が無い』
あそこ迄、贅沢に関心が無い人間は、市民はおろか平民にも居ないだろう。
価値が少ない品とはいえ、使用人にも色々渡しているようだ。
物を与えれば、人は動く。
それがまして貴族が持つ様な物であったり、お金だったら使用人だって人の子、同じ様に扱わないだろう。
確かにそれは当たり前の事だ。
マリアに聞いたら「お金がある者が人を使う時にはチップ払う』そういう事を本で読みましたの」と言ったのだが…
そんな話はこの国には無いし、近隣諸国にも無い。
書物に無いなら『自分で考えた』のかとも思ったが…そんな事は無いだろう。
そんな事を子供が考えられる筈は無い
少なくとも、あんな考えを俺を含めあの齢では出来る者なんて俺は知らない。
賢いと名高い『第二王子のアーサー様』ですらあそこ迄では無い筈だ。
これは別に親の欲目でも何でもない。
恐らく子供だが『今直ぐ王立アカデミーで通用するのでは?』とさえ思えてしまう。
これが男であるなら、王族のご学友として推挙したい位だ。
あの子には何かある…そう考える位に我が子ながら不思議な子だ。
この国や近隣諸国には『女神の愛し子』の伝説が残っている。
これは前世の記憶を持って生まれてきた子供達の逸話だ。
女神に愛された子供は、そのギフトとして前世の記憶を持って生まれてくる、そんな話だ。
この国の王妃には【清貧王女】と呼ばれた幼少期を過ごした王妃が居る。
戦争で疲弊したこの国を立て直す為、自らが『物を持たない事』により貴族や市民にも節約を促した。
その政策は成功して『王女ですら贅沢しないのに』という話で貴族や市民は贅沢をしなくなった。
その王女の部屋にはベッドと机、筆記用具に本しか無かったという。
そして、その王女は暇さえあれば本を読んでいたという。
『本は沢山書庫にあるし無料で読めるのだから、読まない手は無いわ』
そう言っていたらしい。
マリアを見ていると、まるで生まれ変わりを見ているようだ。
多分、マリアが同じ状況で王女に産まれたなら…同じ事をするだろう。
清貧王女の話は、王族から貴族にまで美談として伝わっている。
平和になり裕福になった、今のこの国に、その様な生活をする人間は王族、貴族、平民を問わず居ないだろう。
だが、美談と語られる【清貧王女】の様な生活を送ろうとしているマリアを咎める事は親として出来ない。
自分が大切にしている形見の品、それすら手放すマリア。
まだ、2品だから解らない…だがもし、これからも同じ様に簡単に手放す様なら、【清貧王女】の生まれ変わりの『女神の愛し子』
その可能性も踏まえて、見させて貰おう。
まぁ、仮にそうだとしても干渉はしない…『女神の愛し子』は幸せをもたらす。
もし見つけても、知らない振りをする、そういう習わしだからな。
◆◆◆
「お姉ちゃん、宝石箱を貰ったけど、肝心の中身が無いの…宝石も分けて下さい」
確かに言われてみればそうね、いかに良い物とはいえ、他にも必要だわね。
「解ったわ、ジョルジュを呼んできて、今日は屋敷に居る筈だから、書類を作って別けてあげるわ、それとお姉ちゃんっていわない!お姉さまと呼びなさい」
確かに【月女神の涙】は素晴らしい宝石だけど、それ一つじゃ確かに足りないのかも知れない、普段使いの指輪やネックレスをあげる必要はあるわね。
「解った、呼んでくる」
ロゼははしたない位、急いでジョルジュを呼びに行ってきた。
「マリア様、お呼びでしょうか?」
「また、ロゼに幾つか宝石を譲ろうと思いまして、そうだ、この機会にお義母さまにも譲ろうと思うわ、お義母さまも呼んできて下さらない」
「マリアお嬢様、本当に宜しいのですか?」
「構わないわ、少しは妹にも普段使いの宝石やドレスを分けてあげようと思うの」
「そうですか? 執事長としては反対でございますが、お館様より「好きなようにさせろ」と言われておりますので…ですが、それなら、確かに奥方様も呼ばれた方が宜しいでしょう」
「手数を掛けますが、お願いできるかしら?」
「畏まりました」
「お姉さま、お母さまに渡す位ならその分も私に頂戴」
「駄目よ! ロゼ、貴方は私に「自分だけズルい」常にそう言い続けた、それならお義母さまだって、別けてあげないとズルい事になるわ」
ジョルジュが目配せすると、メイドがすぐさま、ロザリーを呼びにいった。
「どうしたのですか? マリア?ロゼ、貴方まさか、また何か寄こせとマリアに言っているの? ちゃんと困らない程度には買い揃えたはずよ、旦那様が宝石商に言って幾つか宝石も買って貰ったのに」
何だ、お父さまもお義母さまもちゃんと用意してあげていたのね。
まぁ、良いわ。
「ロゼ、それは初耳なのだけど、どういう事なのかな? それなら宝石も持っているわよね?」
「確かに持っているよ、だけど、私、自分の派閥を持ったのよ、お姉さまと違ってね、だから、あんな安物でなく皆に誇れる宝石が必要なのよ」
ロゼ、この子は…馬鹿だ。
お義母さまも顔が青ざめている。
「派閥を持つ事は、お父さまには許可を得たの? それにその仲間は貴方が命を賭けられる相手と言えるの?」
「ロゼ、貴方、正気なの? 冗談よね?」
「何をお義母さまとお姉さまは言っているの? ロゼ派を作りました…何を大袈裟な事を」
駄目だ、その意味をロゼは解っていないわ
説明位はしてあげないと不味いわ。
「ロゼ、良いかな? 貴族と言う者は産まれた時からしがらみだらけなのよ? それはドレーク家も同じ、公爵家のイライザ様でも同じなのよ」
「そんなの私の勝手じゃないの? お姉さまが派閥も持てないからって僻まないで頂戴、それにそれなら大丈夫よ、お姉さまの婚約者のフリード様の縁戚の方ばかりですから」
「本当にそうなのね? 信じて良いのね?」
「お義母さま、その件は、ロゼに直接お父さまと話し合って貰うしかありませんよ」
「そうね、それしか無いわね、それでマリア、さっきの話ではそれだけでは無いのでしょう?」
「ええっ…まぁ、ロゼが私の宝石を欲しがるので、今回ある程度分けてしまおうと思います、それでお義母さまにもお分けしようと思いましたの」
「マリア、貴方の持ち物の多くは母親からの遺産の筈です、常にこの家にあるとはいえ手放したくはないのではないですか?ロゼが何か言ったのですか? ロゼ、それは貴方や私が手を出してはいけない物ですよ…いい加減にしなさい」
「お母さま、私にはそれがどうしても必要なの! 邪魔しないでよ」
「私なら別に構いませんよ、この際、ある程度お分けしようと元から思っていましたので」
「マリア…貴方」
「私にはもう新しいお母さまが居ますから、必要な物だけで構いませんから」
「お姉さま、それなら早く宝石を頂戴」
家族だから…私はそう考える。
確かにロゼは家族、そして妹だ。
だけど、此奴は甘やかされた最低の妹。
私から、何もかも取り上げる様な嫌な妹。
姉とは…本当に悔しい。
ロゼなんて好きにはなれない。
だけど、嫌いにもなれない。
昔の親友…今となっては顔も思い出せない前世の親友が思い出される。
妹に何もかも取られて、それでも『妹』を捨てられなかった親友。
まさか私が同じようになるとは本当に思わなかったな。
「そうね、まず、これはお義母さまに..」
「ちょっと待って、これは【太陽神の目】では無いですか? これは受け取れないわ」
「お姉さま、だったらそれ、私に頂戴!」
「駄目! これはお義母さまにあげるのよ、貴方には【月女神の涙】をあげたわ」
「そんな、お姉さま!」
「お義母さま、貴方は私のお義母様ですよね…私は本当にそう思っています、だから受取って下さい」
「そう言われたら受け取るしか無いわね、だけどこれはマリアから返還請求があったらいつでも返す…そう一筆付け加えて頂きます」
「解りました」
『ロゼが受け取ると言うのと私が受け取ると言うのは意味が違うわ、ロゼが受け取るなら嫁に出て行く時に全部返る、だけど私が受け取ると言うならマリアに返らない…だからせめても、この一筆は入れさせて貰わないと悪いわ』
結局、私は1/3を残し2/3をロゼとお義母さまに正式に渡した。
1/3は勿論、私が持っていないと不味い物や曰く付きの物ばかりだ。
普通の貴族の女なら悔しがるのだろう。
だけど、私には身軽になれた…そっちの感情の方が強い。
前世の金額で何十億の価値の物を持っていたら、小心者の私は、眠る事もままならないわ。
正直に言えば..残り1/3すら私には余り価値を見出せないんだけどね。
◆◆◆
今日はお義母さまのお茶会に参加させて貰った。
このお茶会の主催者はポルナック夫人。
同じ伯爵家で、元からお父様と親交のある家の方だ。
「あら、今日は随分と若い方がお越しですわね」
「本当に珍しいわ」
見た感じ皆さん、かなり年配に見えます。
私のお義母さまが若い方になる位の歳上のかたばかりです。
「驚いたかしら? 貴方位で本を読むのが好きなんて凄く珍しいのよ…どちらかと言えばロゼみたいに宝石やドレス、社交界に夢中な子が大半よ」
前世とは違うから仕方ない。
この世界では『本は貴重品だから貴族階級じゃ無いと読まない』しかも『貴族階級ですら、読むのが嫌いな人間が多い』だから圧倒的に少数派…まぁ『掛け算』が出来れば、凄い、そんな世界観じゃそうなるのも仕方ないわね。
「お義母さまはどうでした?」
「私? そうね、私はマリアに近いかも知れないわ」そう言ってにっこりと笑った。
やはり、お義母さまは凄く良いな。
今の笑顔がも今迄で見たお義母さまのなかで、最高の笑顔だ。
「ロザリーさん、その方はどなたかしら?」
「私の娘で、マリアと申します」
「若い子が、大丈夫かしら? 此処は『本好き』の集まりなのよ?退屈しないかしら?」
「私も、本が好きだから大丈夫です」
「それは逞しいわね」
そうは言いながら、余り期待はされていそうに無いわね。
この世界じゃ、私くらいで本を読む人間は少ないから仕方ないわ。
私はお義母さまの横に座り、他の方のお話を聞く事に専念した。
う~ん…これは最高だわ。
これよ、これ!
私が欲しかった物はまさにこの雰囲気だ。
「この本の結末どうでした」
「まさかのどんでん返しに驚いたわ、主人公とヒロインがくっつくと思っていたのが別れるなんて、本当に悲しかったわ」
その本は私も読んだわ。
あの展開は、読んでいて凄く悲しかった、愛し合う二人が別れるなんて。
「あら、どうしたのですか?マリアさん、急に悲しい顔して」
「実は、私もあの本を読みまして、思い出して悲しくなってしまいました」
「マリアさん、あの本を読んだの? 凄いわね、子供が理解できそうな話ではないのですが、お伺いしても?」
「はい」
私は、本を読んで考えた、自分なりの解釈と、出来るなら『こんな結末になれば良いな』と思った結末を話した。
『凄いわね、本当に読みこんでいるのね! 貴方はそうね、同志よ、子供扱いして悪かったわ、ロザリーさん、マリアさんを正式な会員にしたいと思いますが良いでしょうか?」
「勿論です、マリア、貴方凄いわ、此処はね我々読書家にとっては憧れの場所なのよ、まさか簡単に仲間になるなんて思わなかったわ、おめでとう!」
「ありがとうございます!ボルナック夫人にお義母さま」
「此処ではね、基本略称は要らないから『夫人』もしくは『さん』で良いのよ! マリアさんと私も呼びますからね」
「ありがとうございます、そのボルナックさん、それでこれから、私はどうすれば良いのでしょうか?」
「そうね、此処には色々な方が居るわ、その人にとって読む本の趣味が違うから、色々と話し掛けて輪に入ると良いわよ、私はロザリーさんと此処で話しているから、行ってきたらどうかしら?困った事があったらまた声を掛けてね」
「ありがとうございます」
此処は、本当にパラダイスだわ。
皆でお茶を飲みながら…本について語り合う。
漫画らライトノベルが無いのが残念だけど、それ以外は前世で私が一番気が抜けて、楽しかった場所に近い。
その後、色々な輪に加わって、沢山の会話をさせて貰った。
今日は初めてだから、聞き役に徹した。
そうだ、私は昔を思い出して、また執筆をしてみようかな?そう思った。
別に本を出版したわけじゃないし、小説サイトで精々100位にしか入ってない。
だけど、自分の読んで楽しかった本を元に書けば、似たような作品を書く、作家が生まれるかもしれない。
「マリア、そろそろ帰るわよ」
「はい」
私はこうして楽しい場所を得る事が出来た。
私にっとって、此方の方が宝石よりも美術品よりも価値がある。
本当にそう思うよ。
◆◆◆
ロゼが派閥を作ってしまった。
その為、お父様とお義母さまは、ちょくちょく話し合っている。
私はまだ子供だから、その話に加わる事は無い。
私は体は子供頭脳は大人…この先は言えないが、考え方は大人だから、この事態が大変な事は解る。
貴族である以上『家どうしの付き合い』これは絶対に重要だ。
それをロゼが勝手に決めてしまった。
これから先、ロゼの派閥の親とも親交を持たなくてはならない、お父さまやお義母さまは気が気で無いだろう。
次女とはいえ『ロゼ派』を名乗り、そこに加わった令嬢がいる。
その令嬢の親とは親交を結ばなければならない。
しかも、1家を除き、他の令嬢は身分が低い者も多く、騎士爵や男爵も多い。
こういう事に疎い私でも解る。
ドレーク家の威光が欲しいのだろう。
とはいえ、大々的に派閥を作ってしまった以上は『子供の遊び』では済まない。
これからは『家のつきあい』もしない訳にはいかないという事よね。
多分、お父さまはかなり頭が痛いと思う。
本来なら、お父さまの事を考えると、イライザ様の派閥に入るのが正しい。
イライザ様の公爵家は、お父さまより目上であり….かなり薄いが遠い親戚でもある。
更にいうなら、公爵家なのだからイライザ様の嫁ぎ先は王家になる可能性すらある。
私としては、将来的にはイライザ様の派閥に入るつもりだった。
姉妹が別々の派閥に居る事は別に珍しくない。
なら、何故私が入っていないのか?
簡単な話だ、今私が、はいるとイライザ様の派閥で自動的にナンバー2になってしまうからだ。
イライザ様の派閥に侯爵家の令嬢はいない。
伯爵家の令嬢はいるが…ドレーク家はその中では一番格が高い。
ナンバー2の悲惨さは前世で経験済みだ。
私の勤めていた会社は、社長がボンボンだった為、大川専務はいつも胃薬を飲んでいた。
だから、派閥が安定したら新参者として加わろうと思っていたのだけど。
実はもう入る気が無い。
今の私は、お義母さまの所属する派閥という名の読書クラブに入ろうと思っている。
あそこは天国だ。
普段から読んでいる本について意見を交換をしたり。
読みたい本があれば『これなんかどう』と勧めてくれたり、ネットが無い現状最高の環境だ。
この世界にはネットが無く、本の部数も少ないから、誰かから聞かないと『本の所在』すら解らない事も多い。
ようやく居場所を見つけた…そんな感じだわ。
イライザ様の所も良いけど、イライザ様は良い人だけど、なんとなくお義母さまを嫌ってそうな気がする。
また、どう考えてもロゼとは水と油だから、いたたまれなくなりそうだわ。
この間のお茶会で聞いた話ではあのメンバーは『ポルナック夫人の派閥』でもあるらしい。
聞いた話では『本が好きな方』それが入る条件らしい。
これなら、私にも入る資格は充分あるし、何よりお義母さまの立ち位置が副リーダーみたいな感じだから断られる事も無いと思う。
会員に成れた(会員=参加資格)のだから、多分大丈夫ね。
最早、私の入る派閥は此処一択だ。
流石にお試しで呼んで貰ったお茶会1回の後で派閥に入りたい、とは言えない。
まぁ、お義母さまの派閥に、そのまま入るのだから、家としては問題無いと思う。
その前に母娘で同じ派閥に入る事に家として文句は言えないだろう。
私は貴族としてちゃんと道を踏まえて行動すれば良い。
メイドから話を聞くと、今日はお父さまとお義母さまが一緒に居ると言うので突入しようと思う。
ドアをノックした。
「入れ」
「失礼します」
「どうしたのだ、マリア、執務室にくるとは珍しいな」
「どうしたの、マリア?何かようなの?」
私は執務室に特別な事が無い限り行く事は無い。
此処でのお父さまやお義母さまは仕事をしている事が多いからだ。
此処にいる時は、私のなかでは『在宅で仕事している部屋』という感じに認識している。
だから此処には極力いかない。
だが、今回は『派閥の希望』だから半分公務と同じだから、敢えてこの部屋に来ました。
勿論、たった1回のお茶会で入れて下さい、とは言えない。
今回は『意思表明』だ。
つまり、『ボルナック夫人の派閥が気に入ったから入りたいのですが許して貰えますか』というお伺いを立てる事。
まだ、子供とはいえ貴族…その位慎重さが必要なのよ。
「お父さま、お義母さま、実はこの間、お義母さまについてボルナック夫人のお茶会に行ったのですが、凄く居心地がよく、そこにいられる方も素晴らしい人ばかりでした」
「そう、気に入ってくれたなら私も嬉しいわ」
「ただ、感謝を述べに来たのか? 他にも何か相談があるのじゃないのか?」
「はい、凄く居心地がよかったので、正式にポルナック夫人の派閥に入りたいと思いまして、今日はお父さまとお義母さまにお話しに来ました」
「そうか、お伺いをたてに来た、そういう事だな?」
「はい」
『我が娘ながら、これが本当に子供なのかそう思う事がある、確かに貴族として『伺いだて』は必要だ、だが、子供のマリアに『誰がそれを教えた』のか解らない、確かにこの様な礼儀を知る者は当家には多い、執事長のジョルジュ辺りかあるいは、メイド長辺りかも知れない…誰かに聞いたにしても、それが出来るマリアは、やはり評価せざる得ないだろう』
「そんなに気に入って貰えたの?」
「あそこで過ごしたお時間は、まるで夢の様な時間でした、この時間が永遠に続いたら、そう思える程でした」
「若い娘がいなくて、他からは面白みが無いと言われるサークルですよ? 派閥としても、異端者扱いです、まぁ本が好きな者の集まりですから、マリアには合うかも知れませんが、良いのですか?」
「はい、希望します」
「そうね、それでは副リーダーとして許可します」
えっ…今日はお伺いだけのつもりだったのだけど…良いの。
「マリア、お前は何でも、大人と同じ様にしっかりと行うが、まだ子供だ、多少の我儘は言っても良いのだぞ…まぁ、母親と同じ派閥に入るのは無難だ、俺も許可しよう」
『本来なら公爵様の派閥に入って貰いたかったが、正式に言われたら断れない、しかも、家族間のゴタゴタも大切な宝石箱を手放しておさめている、此処まで我慢させている状態で、更に我慢などさせる事は出来ぬ、そんな事したら『娘の宝物を取り上げて政略に使った貴族』そう言われても仕方ない、まして『ロゼは派閥迄勝手に作った』この現状でマリアの派閥を自由に選ばせないなんて出来ないしな』
「ありがとうございます、お父さま、お義母さま」
「ああっ気にするな、母娘で同じ派閥に入る事は多い、貴族として正しい事だ」
「そうね、私も凄く嬉しいわ…早速、ボルナック夫人にお手紙も書くし、次のお茶会で正式に発表できるようにしましょう」
「ありがとうございます」
「良いのよ、これからは母娘以外でも同じ派閥としてお付きあいしましょう…本当に嬉しいわ」
「ありがとうございます、お義母さま」
「こちらこそ、ありがとうマリア」
『一時はどうなるかと思ったが、こうして見ると本当の母娘みたいじゃないか…あとはロゼをどうするかだな』
「すまないマリア、また仕事に俺とロザリーは戻らなくてはならない」
「ごめんなさい、マリア」
「いえ、お忙しい所時間を頂き有難うございました」
「親子なのだ気にするな」
「そうよ、私達、母娘でしょう? それに同好の士だし、派閥も同じなのだから気にしないで良いわ」
「ありがとうございます」
私は、お礼を言って部屋を後にした。
思わず私はガッツポーズをとりたかったが我慢した。
この世界にそんなポーズは無い。
ボルナック夫人の派閥には『ダンスパーティー』が殆ど無い。
社交界的な物は基本『お茶会』が多く食事会も、話す事が多いから立食パーティー式や食事をしながらの談話が多いらしい。
貴族らしからないから変な目で見られる事も多いらしいが…私には問題無い。
多分、お義母さまがこの派閥に入っていなかったら言いにくかったが、お義母さまが入っていたから言いやすかった。
王立図書館の司書には、貴族だからまず成れないけど、貴族としてなら、ある意味半分夢が叶ったとも言えるかも知れない。
うん、順風満帆だ。
◆◆◆
「お姉ちゃん、もっとドレスと宝石頂戴! 出来たら銘のある品を頂戴!」
この子は本当に…『アホ』なのではないか?
本当にそう思うよ?
腹が立つを通り越して、唖然となった…そして本気でそう思う様になった。
「お姉ちゃんって言わない! お姉さまって言いなさい」
相変わらず言葉使いも治らない。
こんなアホなのに憎めないのが、姉妹の怖さ。
これはこの世界で初めて経験するわね。
「それじゃ、お姉さま、く.だ.さ.い」
「あのね、ロゼ、この際だから言わして貰うけど!私の持ち物は三等分したわよね? 此処から更に求めるのは貴方が言っていた『ズルい』とは違うんじゃない? 私からしたらロゼがズルいわよ? 今現在は、お父さまやお義母さまに買って貰った分だけロゼの方が多いのだからね」
さて、今度はどういって駄々をこねるのかな?
此処まできたら、清々しいわね、さぁなんて言うのかな?
聞かせてくれる?
「確かにそうかも知れないよ…だけど、お姉ちゃんには宝石以外にも、フリード様やこの家だってあるじゃない…私にはそれは手に入らないわ」
そうきたか?
確かにその通りだけど、本当に、イラつく。
欲しいなら、欲しいで努力すれば良いのに。
せめて、周りに意思表示すれば良いのに。
それすらしないで羨ましがるだけ、自分では何もしないで羨ましがるだけ。
私はこういう人間が、好きじゃない。
会社の後輩にも居たわ、禄に仕事もしないで周りの評価を気にして、給料が入れば後先考えないでブランド品を買い漁り、人の物を男でもブランド物でも欲しがる女。
大体、フリードが本当に好きで欲しかったのなら『今でなく、最初に話が来た時』その時に言うべきだわ。
婚約が確定する前なら、ロゼが食い下がれば私ではなくロゼが相手に選ばれた可能性もあるのだからね。
少なくともその可能性はゼロではないわ。
確かにフリードは美形ですが、好きかどうか聞かれたら私はまだ『好きではありません』
だって、お見合いをしたばかりで、何回か会ってお話ししてこれから『お互いに愛し合う関係になる』まだ、そういう段階ですもん。
貴族なんてこんな物、私の昔読んだ本では主人公は『結婚前に会えただけ、お前は良いんだぞ』そう友人に言われていたキャラクターも居ましたね。
私は好きな男性が居たら..『いちゃつきたい』のです。
フリードは、確かにカッコ良いですが、今の段階では『お茶を飲んで会話した』それだけの関係です。
まだ、『いちゃつく様な間にはなっていません』
少なくとも、キスもしてないし、手すら握って無い関係ですから…まだ譲れます。
「あのね、ロゼ、本当にフリードが好きなら、宝石や服の時みたいに『お姉ちゃん、フリード様を好きになったから頂戴』そこからでしょう?」
「お姉ちゃん?」
「それを言った後に、お義母さまやお父さまに『姉の婚約者のフリード様を好きになりましたから、お姉さまの婚約を破棄して、私にして下さい』そう言えば良い、そこ迄すれば、ちゃんと話を聞いてくれるわ」
私達は貴族だ、発言には責任を負わなければならない。
それが叶うかどうかは別だけど、欲しいなら欲しいと声を出さないといけない。
「そんな事出来ないよ」
「それなら私に不満を言うのがまちがいなの! もし、本当にフリードが好きなら『ちゃんと言えば良い』その意向をお父さまやお義母さまに伝えて、そこからがスタート、場合によりペナルティはあるかも知れないけど、真摯には話しては貰えるわ、そもそも、この婚約の話が出た時にはまだ、『私に限定されて居なかった』あなたが『私が』と言えば可能性はあった…まぁ先方は私を希望していたけど…そこから話し合いは出来た」
「そんなのは後出しじゃない…今はもうお姉ちゃんに決まった後じゃない」
「何もしないで、欲しがるばかり…それじゃ駄目じゃないのかな? せめて欲しいなら欲しいって言わないと駄目じゃない? 本当にこの家を継ぎたいなら『継ぎたい』と宣言して努力すれば良い、死ぬ程努力して『全てにおいて私を上回り、この家を発展させるのがロゼだ』そう思われる様に努力すれば良い」
「そんな事、出来る訳ないじゃない…」
「派閥の長なのに? 貴方は今後、仲間を守る為に沢山の相手と戦わないとならないのよ!それでどうするの?」
「そんな、嘘…私、そんな事になるの?」
「それで、どうする…まず、フリードとこの家はどうするの?」
「私は要らないわ」
「そう、それじゃ、今度は書面にするわ、ジョルジュを呼ぶわね」
「お呼びでございますか! マリア様」
ロゼ、貴方自分が屋敷の使用人にすら嫌われている事に気がつくべきだわ。
本来なら『お呼びでございます! マリア様、ロゼ様』そう言われるべきなのに、呼ばれてないのよ?
「また、ロゼとの間に書面を作るから、立会人になって欲しいの、あと作った書類をお父さまに提出して欲しいの」
「解りました」
「それじゃ、ロゼ、貴方は、もうフリードとこの家の相続は放棄するそれで良いのね」
「マリア様、何を言っているでしょうか? 家督の相続と婚約は既に決まった事です、なのに、何故、再度書類が必要なのですか?」
「まぁ、確約書みたいな物よ、本当に良いのよね! 違うと言うなら言って、多分これが最後だと思う、今ならまだ変更が可能かも知れない」
『怖くて、こんな反旗を翻すような事、言える訳無いじゃない』
「解ったわお姉ちゃん…それで良い」
「そう、解ったわ、それじゃこの事は二度と文句言わないでね」
正直言えば、これは家としての決まり事。
『その時』になって揉めるのは本当に困るのよ、揉めるなら今にして欲しい。
正直言えば、二つともロゼに渡しても構わない。
私にとってはどちらも、どーでも良い物だ。
ただ、貴族に産まれたからはその運命からは逃げられない。
『家族や他家を巻き込んでまで本当に欲しいなら譲っても良い…ううん是非譲りたい』
ただ、どっちつかずが一番困るのよ。
「解った、約束するよ、それでねお姉ちゃん」
「お姉様!はぁ~解ったわ、宝石やドレスが欲しいのね、ならお義母さまから貰った宝石箱とその中に入っている物以外は持って行っていいわ….ドレスもこれらを除いて全部持っていってよいわ」
私はお義母さまから貰った宝石箱とその中身とドレス10枚を除きほぼ全部の物をロゼに譲る事にした。
「マリア様、本当に宜しいのですか? ロゼ様、使用人の私が言う立場では無いですが、本当にそれを望むのですか?」
「ジョルジュは黙っていて、これは私にとって必要な物なのよ!」
「そうですか、使用人である以上口を挟みませんが、ロゼ様、それを受取ると言う事は…大切な物を沢山失うのですよ、それをお考え下さい、マリア様が許可するからには、これ以上は言いませんが…宜しいのですね」
「貴方に言われる筋合いはないわ」
「解りました、これ以上は言いません」
私はジョルジュに書類を作らせるとそのまま、お父さまの所に届けるように伝えた。
私は別に構わない。
私にとって宝石もビー玉もさして変わらない。
その位価値は無い物だもの。
それに、価値ある物はこの家に括りつけられているから…ある意味、元から完全に自分の物ではない。
だが…これはきつい。
物が無くなるのがきつい訳じゃない。
ロゼが、更に嫌いになった、それがきついのよ。
私の前世の友人に『妹に全て奪われた親友』も居たわ。
小さい頃から両親は妹を可愛がり、姉である彼女に見向きもしない。
彼女はテストで90点をとっても100点じゃないと怒られ。
逆に妹は70点でも褒められていた。
妹は何でも買い与えられ大学も、1人暮らしの家賃や生活費まで親が援助していたのに…
彼女は高校も大学も奨学金で通っていた。
いつもボロを着て、牛丼屋でバイトしながら大学に来ていた。
そんな中で出来た彼女の唯一の彼氏さえ、妹に取られた。
『彼女は地味で化粧さえしない』それに比べて妹は『いつも明るく綺麗』。
『妹はいつも会ってくれる』それに対して『お前は会ってくれない』。
当たり前だ、私の親友は『バイトしながら大学に通っていたのだから、時間が少ないのは当たり前だ』
結局彼女は『家族を捨てた』
此処までされたのだから…当たり前だ。
まぁ、この親友は仕事ができたから、後に私の上司になり…取引先の社長と結婚して幸せな人生を送っていたけどね。
彼女の口癖が『家族でもゴミはすぐに切り捨てる』だった。
今の私は…痛いほど彼女の気持ちが解る。
ロゼは多分『切り捨てなくてはならない』だが、この世界に生まれ変わり出来た、大切な『家族』だし、妹だわ。
物が無くなるのは『きつくない』
もし、私が平民に産まれていて、家が貧乏で妹が困っていたら、働いても、借金しても助けるかも知れない。
だが、今のロゼは違う…虚栄心の為に平気で、人の大切な物すら奪いかねない毒妹だ。
馬鹿みたいに派閥の長になったから、引くに引けないのだろう…
『なら、いいや、私にとっては価値ないのだから、くれてやれば良い』
流石にこれ以上は望まないだろう。
「ロゼ…もうこれで良いでしょう? ただ、私は暫くの間は貴方の顔も見たく無いから、話し掛けないでね? 良いわね?」
「お姉ちゃん」
「それじゃジョルジュ、書類の提出頼んだわ」
「はい、ですが」
「良いのよ」
「あの、お姉ちゃん」
「『お姉さま』でしょう?悪いけど顔も見たく無いから、目の前から消えてくれる、宝石は今持っていってね? ドレスはメイドに運ばせるから」
「お姉ちゃん」
「….」
私は黙って扉を指さした。
私の前世はミニマリストだから、物なんてどうでもよかった。
だけど『妹が意地汚く、私の事を姉とは思っていない』それが辛い。
何処かの小説みたいに『恋人や家族をATM』としか見ない人間。
ロゼがそれに近いなんて流石に思わなかったわ。
◆◆◆
この子は馬鹿なんじゃないかな?
私が譲った宝石に不満ばかり言ってきた。
確かに国宝級ではないわ、『安いと言うのは貴族にとってなのよ』安物って言っても、あの中の安い宝石一つで市民の一か月の給料に相当するのに。
国宝級の物3個も私が持っていたのは『お母さまの形見』だからに過ぎないわ、早くにお母さまが亡くなった私に特別に預けてくれただけの事なの。
普通は貴族の娘だって、そんなには持っていないわ。
「あのね、ロゼ、私もう殆ど宝石は持ってないわ、私の持っているのは貴方の物の価値以下の物しか無いのよ」
「嘘ばっかり、お姉ちゃんが持ってない訳ないじゃない?」
馬鹿じゃないかな?本当に貴重な物はお父さまがしっかり宝物庫に鍵かけて持っているわ。
私が持っている訳無いじゃない。
この部屋を見て解らないの?
「そう、そこ迄言うなら、この部屋から欲しい物全部持っていけば良いわ、その代りもう貴方とは口も聞きたくない」
「お姉ちゃん」
《私は取り返しのつかない事をしてしまったの?》
「アリシアさん、ジョルジュを連れてきて…ほら、ロゼこのドレスも欲しいのでしょう? あげるわよ…ほらっ」
私はクローゼットのドレスを片っ端から投げ捨てた。
「ちょっと、お姉ちゃん、止めてよ!」
「欲しいのでしょう? ほらあげるわよ! 4着残して全部あげる、ほらこれで満足でしょう?」
※4着は貴族として最低限必要な物…貴族でも何時もは普段着を着ている設定です。
「お姉ちゃん…」
その涙はなに、知らないもう。
「ハァハァ~ ジョルジュ来たわね、ロゼがね、まだ欲しいって言うのよ! 悪いけどまた書面にして!」
「マリア様、そんなを事したら、もうこの部屋には何も無くなってしまうじゃないですか..ロゼ様いい加減にしま」
「良いわ、その先は言わないで」
「マリア様、解りました」
「わわたし…そんな、お姉ちゃん」
「お姉ちゃん、言わない! ほうらこの宝石箱の中身も欲しいのよね、拾えば良いわ…あっネックレスと指輪2個は残すわね、これはこの中で一番安い物三点だからね…お義母さまから貰った宝物の宝石箱もあげるわ…欲しいんでしょう?」
私は、宝石箱をひっくり返して全部床にぶちまけ、その中からネックレスと指輪2個を拾い上げた。
そして、前にロゼから貰った木箱の宝石箱に入れた。
「あああっ、あのお姉ちゃん」
「お姉ちゃん言わない! お姉ちゃん言わない! お姉ちゃん言わない!、あんたはもう私の妹じゃないんだから!」
「ああっ、お姉さま」
「もう二度と『ズルい』なんて言わせないわ…それを拾って出ていきなさい、大変だけどジョルジュは書類を書いて頂戴」
「マリア様」
「いいから!」
「解りました」
あの後、ジョルジュにあまり大事にしない様にお父さまに伝えるようにいった。
流石にこの部屋にはもう、殆ど何も無いから突撃してこないだろう。
しかし、よくぞ、ここ迄持っていったなぁ~
まぁぶつける様にドレスを投げて、宝石をぶちまけたのは私だけどね。
あの宝石のどれもがロゼの手持ちより価値なんて無いのに、聞く耳持たないし。
何がしたかったのかな?
もしかしたら私が凄く嫌いで全部取り上げたかったのかな?
私は気にしないけど、これが他の貴族だったら『決闘騒ぎ』か『裏で殺されかねない』わよ。
まぁ素の私はミニマリスト、断捨離してミニマムになった…それしか思わないけどね。
だけど、あの根性が許せないわ。
此処までするなら『どうでも良い』『妹とは思わない』それだけよ。
だけど…姉妹ってズルいな。
さっき迄『大嫌い』だったロゼの事を心配してしまうのだから。
まさか、此処まで全部持っていった上での約束を、将来ロゼが反故にするとは…この時の私には解らなかった。
第十二話 宝石箱事件顛末 ※婚約破棄の前です。
宝石箱事件顛末
『当家の家宝であり、今現在はロゼが管理している【幸運の女神の笑顔】に似た宝石箱が王都で販売されている』
今俺はその報告を聞いた。
旧知の仲のビルマン男爵が見つけて購入して私に見せてくれた。
これはあくまで『似ている宝石箱』に過ぎない。
要所、要所が違うから、同じとは言えない。
だが、どう考えても此処まで似せる事は『現物を見ないと出来ない』のは俺にも解る。
「ビルマン男爵、その宝石箱を私に買い取らせて貰えないか?」
「いえ、これはドレーク伯爵様に現状を知らせる為に購入した物、そのままプレゼントさせて頂きます」
「すまないな」
「いえ、ですが数こそ少ないですが複数、流通しているそうです」
「教えてくれて助かった、この恩は必ず返させて貰うぞ」
「お気になさらずに」
ビルマン男爵を見送り、俺は執務室に戻った。
これは問題だ…今の管理者はロゼだ。
ロゼに聞く前に、使用人から証言を取らなくてはならない。
まずは執事長であるジョルジュに聞くしかない。
「【幸運の女神の笑顔】の宝石箱に酷似した物が出回っている、これがそうだが、何か知らないか?」
『心当たりはある、そのまま伝えるべきだ』
「恐らくはロゼ様とロゼ派の方が原因の可能性が御座います」
「それは、どういう事だ」
我が娘ながら、そこまで馬鹿だとは思わなかった。
国宝級の家宝を家から度々持ち出し、見せびらかした。
それなら、幾らでもデザインや工法を模写出来るでは無いか?
今回の件は『模写』を認めてくれるならまだ良い、認めない場合が最悪の問題になるのだ。
「それは本当なのか?」
「多数のメイドや執事から報告を受けております」
これで確定だ。
「ロゼを呼んできてくれるか?」
「畏まりました」
「お父さま、何の御用でしょうか?」
「お前、家宝の【幸運の女神の笑顔】を持ち出したって本当か?」
「ええっ、私の派閥の者が見たいと言うのでお見せしました」
「それで」
「素晴らしい物だから、絵に描きたいと言うので描かせましたが、それが何か問題にでもなりますか?」
やはり教育を間違えた。
『この位誰でも解る』それが解らないのだ。
これはロゼが悪いのではない、親である俺が悪いのだ。
執務が忙しいからと言って放って置いた俺の罪だ。
「そうか、お前はこれから先、真面になるまで社交界以外の外出は許さん」
「そんな、お父さま何故でしょうか?あんまりです」
「良いかロゼ、家宝は俺ですら滅多に家から持ち出さない、お前は勝手に持ち出して、面倒事を起こした」
「私が何をしたと言うのですか?」
「今、巷に【幸運の女神の笑顔】の模倣品が出回っている」
「そんな、ですが、その品の管理をしはじめたのは最近です、お姉さまのせいでは無いですか?」
馬鹿な、自分の罪をマリアに押し付ける気か。
「まだ、そんな事を言うのか? マリアはあの宝石箱を俺の許可なく家から持ち出した事はない、お前は、他の宝石も含み勝手に持ち出してお茶会で見せびらかしていたそうだな」
「ですが、全員、私の派閥の方です」
「もう解散したそうじゃないか? まぁ、まだ確定はしていない、ただ、家宝を持ち出して勝手に人に見せた、それだけでも非常識だ、その分の罰は受けて貰う」
結局、商会から調べあげていくとロゼのせいだった。
ロゼが絵を描くのを許可した結果、シャルロッテ嬢達がその絵を元に『新作』として宝石箱を制作して、知り合いの商会に作らせて販売した。
そう言う事だった。
これはかなりの大事だったので、元ロゼ派の家に事の経緯を報告した。
そうしたら、悪びれずジャルジュ家から手紙が帰ってきた。
手紙の大まかな内容はこうだ。
この度の商品は確かに【幸運の女神の笑顔】を参考にしているがあくまで参考であって『模倣』や『模写』では無い。
そう書かれていた。
しかも、ご丁寧に、手紙についていた添え状に『間違いない』と元ロゼ派の令嬢6名の家紋と令嬢の名前がサインしてあった。
そして、この宝石箱のデザインはシャルロッテ嬢とマリーネ嬢が参考に考えただけで決して『模倣』や『模写』では無い。
と強く書かれていた。
『特に図柄や宝石の位置はオリジナルで考えた』そう書いてあった。
シレ―ネ嬢 ケイト嬢 マレル嬢からは、個別に手紙が届き、ただ見ていただけで荷担はしてない、止めなかった事を『深くお詫びしたい』そう謝罪文が届いた。
俺は《『模倣』や『模写』では無いなら仕方が無い》その旨を伝える手紙を送り『本当にシャルロッテ嬢とマリーネ嬢が考えた物』なのか再度確認をした。
すると、文章は柔らかいが『言いがかりをつけるのか』それに近い内容の手紙が帰ってきた。
本当に仕方ない、今回の話は我が娘、ロゼが悪い。
その状況で、他の人間が地獄に落ちていくのは見たくはなかったが、家を守る為だと割り切る事にした。
そして、ジョルジュ家の手紙と一緒に類似品のオルゴールを自ら王城に持参した。
◆◆◆
早馬を使い手紙を出し、急いで王都に出掛けた。
休む間もなく、王城に向うと手紙を読んだ王が直ぐに会ってくれた。
「此処に書いてある事が本当である事は、余の方でも確認済みだ」
「そうでございますか? ならば後の事は王にお任せします」
「馬鹿な奴らだ、素直に『模倣』である、と認めれば、ただ叱りつけるだけで済ませられた。なのにこれを『自身のアイデアで作った』と言うなら重罪だ、余は大切な重臣を罰さねばならぬ」
「申し訳ございません」
「確かにロゼ嬢には非は無い、だが貴族の令嬢としては余りに軽率で失格だ、親としてしっかり躾をする様に」
「本当に申し訳ございません、責任を持って躾けます」
「ならば良い、ドレーク伯もう下がって良いぞ」
「はっ」
貴族としての恥『王からお叱りを受ける』はめになった。
だが、ジョルジュ伯たちにこれから起きる事を考えたら、まだ良い。
確かに悪いのはシャルロッテ嬢やマリーネ嬢だ。
だがそれは『ロゼがしっかりしていれば防げた』
これから起こる事を考えたら同じ貴族として、心が痛いのだ。
◆◆◆
俺、ことジョルジュ伯爵に王宮から呼び出しが来た。
大体の話は解っている。
例の宝石箱の話だ。
確かにあれは【幸運の女神の笑顔】から作った物だ。
あれだけデザインを変えたのだ、問題はないオリジナルの筈だ。
だが【模倣】したと言われれば、そうともとれる。
しかし【模倣】を認めてしまえば、その元になったのだからとドレーク家に支払いが必要になる。
この宝石箱の収益は思ったより高かった。
そこにドレーク家を加えるのは馬鹿のすることだ。
だから、シャルロッテとマリーネが考えた物だと突っぱねた。
そのせいで、恐らくドレーク家が王家に何か吹き込んだに違いない。
どう見ても、元のデザインとは全くの別物、問題は無い筈だ。
だが、今回全ての関係者が呼ばれた事に怖さを感じるが、問題はないだろう。
そう思いながら俺は娘と共に王宮に向かった。
王宮につくと既に今回の関係者のうちフェルバン家とコーデニア家とアルトア家が先に王と話し合いをしていた。
他の者は応接室でくつろぎ茶をたしなんでいるそうだ。
私は、娘を伴い応接室にて合流して談話に加わることにした。
◆◆◆
私事、シレ―ネは宝石箱の件について王より、父共々、友人たちと一緒に、色々な事を聞かれた。
王と話す事なんて生れてはじめてだ。
正直言えば、怖くて仕方ない。
「それでは、今回の宝石箱の件は三人とも関わり合いが無いと申すか?」
やはり、正しかった。
貴公子とも呼ばれるフリードには全て見抜かれたようだ。
さっさと先に抜け出して良かった。
「はい、確かにマリーネや他の仲間が、宝石箱の画を描かせているのは見ました、何となくですが不味い気がしたのでさっさと派閥から抜けさせて頂きました」
「私もシレーネ様とお話した際に不審に思い、派閥から抜けさせて頂きました」
「私は、あの宝石箱はマリア様の物と噂で聞いたので、不思議に思い同じく抜け出させて頂きました」
フリードがお茶会に来る等、普通はあり得ない。
やはり、あの時の直感は正しかった。
フリードはお茶会で『ロゼについて詳しく聴いていた』恐らく、既にシャルロッテ様の計画を知っていたのかも知れない。
流石は貴公子、あの時の直感は正しかった。
あのまま、関わっていたら人生は終わったかもしれない。
しかし、ケイトは凄いわね『しっかりと私たちの様に抜け出していた』なんて侮れないわ。
「三家を代表して私が話させて頂きます、娘たちは、あの派閥に確信はないですが『不審』を抱いたそうです、ですがジャルジュ家は伯爵家、シャルロッテ嬢にその原因の追究は出来ない為、早々と抜けた、そういうお話です」
「確かに男爵家と騎士爵家の令嬢では諫めるなど出来ぬ相談だ、その責は問えない…解った、今回の事は不問にする、但し三人には今後このような事が起きたら、必ず親へ相談するように心がけよ、良いな」
「「「はい、必ずやそうさせて頂きます」」」
「ならば下がって良いぞ…但し、此処を出たら城門を出るまで何も喋らずに帰る様に厳命する」
「「「「「「はっ、畏まりました」」」」」」
フリードの能力とマリアを過大評価した結果、勘違いにより運よく三名三家は助かることにる。
◆◆◆
私、シャルロッテはいま父と一緒に王自ら取り調べを受けている。
実際には謁見なのだけど、そうとは思えない位、タダならぬ雰囲気です。
「【幸運の女神の笑顔】についてドレーク伯爵から話が出ているが何かあるか?」
王は優しく笑顔で聞いてきた。
「確かに、宝石箱を我が家、ジョルジュ家が制作販売をしておりますが、【幸運の女神の笑顔】を模倣などしておりません」
「それは本当か? 余にはこの宝石箱は『凄く似ているように見える』のだが」
「全くの別物でございます、確かにわが娘シャルロッテは【幸運の女神の笑顔】は拝見しましたが、その宝石箱は別物でございます、デザインや作りについてはわが娘とその友人達で考えた物でオリジナルの物にございます、まぁ過去にに見た物に似てしまうのは致し方無いと思いますが」
王は悲しそうな顔に少しなったが再び笑顔で話す。
「本当にここに居る令嬢たちで考え作った、そういう事で間違いはないのだな?」
「はい、私とマリーネが主にデザインを考えましたわ…そしてそれについて全員の意見を聞き販売まで漕ぎつけた物でございます」
「そうですわ、間違いございません」
「そうか、皆は素晴らしい技術と才があるのだな、実に素晴らしい、他の令嬢たちもそれに間違いは無いのだな?」
「「「「はい、間違いはございません」」」」
「このジョルジュ伯爵の話しとシャルロッテ達の話は『家』として間違いないと言う事で良いのだな」
「「「「「「間違いはございません」」」」」」
王の顔から笑みが消え、目からは涙がこぼれていた。
「王よ何故、泣かれるのですか?」
ジャルジュ伯爵が口を開くと、王は泣きながらも懸命に答えた。
「これが【模倣】や【模写】そう認めて貰えば良かったのだ….それなら余の厳重注意で済ませられたのだ、それこそ、近衛騎士にお前たちの頬を殴らせ『暫く王宮への出入りは許さぬ』それで済んだ…だがこれを自分たちで考えて作ったというのなら、そんな軽い罪で済ませられぬ」
「王よ我々はどんな罪を犯したというのでしょうか?」
「王家の物を盗んだ罪だ」
「そのような事は致しておりません」
「【幸運の女神の笑顔】の由来については皆の者は知っておるのだな」
「有名な話ですので」
ジョルジュ伯爵が代表して答えた。
「そうか、ならば、お前たちが王家から盗んだ物を伝えよう『わが母のマリアーヌへの感謝の気持ちだ』それをお前たちは盗んだのだ、模倣なら許せた、だが自分たちで考えたというのなら立派な窃盗だ、法律に則り『王家の物を盗んだ罪により爵位、領地、役職のはく奪になる』」
「なんで、そうなるのでございます! 間違いなく自分たちで考えた宝石箱を作っただけでございます、それだけでございます」
「幾ら王とて横暴すぎますぞ」
「王様、幾らなんでもあんまりです、ただ頑張って宝石箱を作っただけで、何故全てを失わないといけないのでしょうか?」
この場には王と彼等だけが居るのではない、宰相や大臣もいる。
彼らは怒りを感じる者と『なぜ』と不思議そうな顔をする者と両方に分かれた。
「もう、お前たちの顔を見る事も無い…特別に余から教えてやろう【幸運の女神の笑顔】には余の母のマリアーヌへの思いが込められているのだ」
王は語り始める。
自分の母である先代王妃は自分と後の公爵夫人を守るために『自分の片腕を無くしたマリアーヌにただ事じゃない位に感謝していた』
嫁入り前の貴族の娘が自分達の為に『片腕を無くしてまで戦ったのだ』しかもそれが親友…どうして良いか解らない。
時の王は自分の娘を命懸けで守った恩賞に『この国で始まって以来最初で最後の【騎士の地位】』を送った。
これは爵位の騎士爵ではなく爵位とは別の物であり…この地位を持つ者は「王宮内で剣を携え歩くこと」「王族の前で跪く事無く会話をすること」が許されるという物だ。
王族の一番信頼できる者という意味の爵位とは全く別物の地位だ。
これは、北にあった他国の王族と騎士の話から考え与えられた物である。
騎士爵とは全く違う地位であり、マリアーヌ以外誰も許された者は居ない。
だが、これは時の王が送った物であり、先代王妃が送った物ではない。
先代王妃は自分を守ってくれた親友の為に【幸運の女神の笑顔】に一つ細工をした。
それは『オルゴールの音色』を変えた事。
マリアーヌへの感謝の気持ちを歌にして、曲に変えオルゴールの音にした。
つまり、このオルゴールの音色こそが『唯一無二』現王の母である先代王妃がマリアーヌに送った『この世に一つしか無い物』だった。
「マリアーヌ殿が居たから、母は婿をとり今の余が居る、そのマリアーヌ殿への母の気持ちを…盗んだのだ【模倣】ではなく、自分たちが作ったと言った以上は過失ではなく『盗み』である、本来は王家の物に手を付けたら死刑であるが、過去の功績を考え特別に市民落ちで許そう」
※男子が生まれなかったから第一王女が婿をとり、そして婿が王位についたそうお考え下さい。
「そんな…そんな…」
だが、この話を聞いて周りの顔色は変わった。
元から侮蔑の目を向けていた宰相や大臣以外も皆が蔑む目で見ていた。
最早、彼らの味方はいない。
「本来なら、市民としてであればこの国で暮らせる、『貴族籍を無くすことで罪が許される、貴族の特権である』だがこの状態ではそれも辛かろう、『国外追放とし、その代わり特別に金貨100枚迄と馬車を持ち出す事を許可しよう….今までこの国に余に仕えてくれた事感謝する、だが法は曲げられぬ、2週間のうちに立ち去れ」
それを伝えると王は背を向け目も合わせず退席した。
◆◆◆
ロゼの元気が無い。
確かにロゼには常識が無いと思う。
『ロゼ派が無くなり』その令嬢達が国外に追放となった。
ドレーク家は領地と王都での仕事が殆どだから、国外に行く事は殆ど無い。
だから、もう会う事は無いだろう。
私はロゼが『好きではないのだと思う』
『なんでも人の物を欲しがり奪っていく人間』
前世の私が最も嫌う人間の姿だ。
前世の私の親友に妹を持つ人間が居た。
記憶は朧気だが…凄く悲惨だった。
なんでも妹に『頂戴』と言ってとられ、子供の時には同じお小遣いを貰っていたのに、妹は駄菓子屋さんで自分のお菓子を食べ終わると『お姉ちゃん頂戴』と姉のお菓子を取り上げていた。
それが成長しても続き『お姉ちゃん頂戴』と文具やおもちゃまで取り上げられていた。
私が『両親に相談したら』とアドバイスしたら『「どうせ、お姉ちゃんなんだから我慢しなさい」それで終わりよ』とあきらめ顔で目を伏せていた。
その『お姉ちゃん頂戴』はエスカレートしていき、彼女が頑張って良い大学に入っても『お姉ちゃんズルい』といっていた。
私から言わせたら…努力しないお前が悪い、チャンスは平等にあるんだから、そう言いたい。
そして決定打だったのは『姉の婚約者を妹が寝取った件』だ。
姉が上場企業の若手のホープと付き合い恋人となり、もうすぐ結婚。
そのタイミングで妹の妊娠が発覚した。
普通に考えたら、家族は妹を責める筈だ。
だが、家族は妹を責めなかった。
最初こそ、親は少しは同情していたが、途中からは『もう許してあげなさい』『過ぎたことは仕方ないだろう』と言い出した。
そして、最終的には元婚約者はそのまま妹と結婚して入り婿となった。
そんな環境で生活できる訳もなく…親友は家を出た。
「それで良かったの?」そう私が聞いた時に…
「あはははっ、娘は孫には勝てませんよ…あんなサルみたいな顔なのに両親の心を鷲掴みするんだからさぁ」
孫か、『孫可愛さ』それか…
だけど、不倫をして婚約破棄なのだから、頭にきたなら訴えて慰謝料でも取れば良いのに。
「そうですか? いっそう訴えちゃったらどうですか?」
「そうね…だけど姉妹だから、もう良いわ、まぁもう家族の縁は馬鹿らしいから切るけど、それでおしまい、貴方は姉妹が居ないから解らないと思うけどさぁ…姉妹ってだけで本当には憎めない物なのよ『どーでも良い』それ以下ににはならないのよ」
私だったら、もし同じ事をされたら『顔が解らなくなる位ぶん殴る気がする』
今の私には…少しだけど、名前も思い出せない前世の親友の気持ちが解る。
ロゼは馬鹿みたいにお父さまに『仲間の見送り』をしたい。
そう申し入れをした。
本当に馬鹿な子だ…自分を利用していただけの人間が追放されるからって『見送りにいきたい』だなんて。
大体『国外追放された人間を貴族が見送る』なんて醜聞しかない。
勿論、お父さまは断った。
そうしたら部屋に籠って泣いている。
本当に馬鹿だ…大体、相手にしたって憎みこそすれ友情なんて感じていないだろう。
下手したら殺されかねない。
ロゼのせいで『貴族籍』だけでなくほぼ全てを失ってしまったのだから、自業自得とはいえ恨んでいる筈だ。
ロゼは『悪人ではなく、ただの我儘な子供』なのだろう。
姉妹という名の呪いは本当に怖い。
此処までされたのに頭の中に『可哀想』という文字が浮かぶ。
今のロゼは軟禁状態で、お義母さまや使用人たちから監視され指導を受けながら生活している。
やった事は、完全に自業自得だ。
だが、私の頭の片隅に『可哀想』そういう文字が浮かぶ。
『顔も見たくない、話もしたく無いロゼ…それなのに可哀想』
可笑しな話だ。
本当に仕方ないな…一回私の方から話してみようかな…
今になり名前も思い出せない親友の気持ちが良く解った。
第十三話 ロゼ、助けてフリード様
最早、私には自由は無くなってしまった。
トイレ、お風呂、食事、それ以外の時間は部屋から出して貰えなくなった。
部屋に居る時間もお母さまや使用人達による『指導』という名の地獄が待っている。
今日は朝からジョルジュに貴金属の磨き方を教わっている。
「良いですか?ロゼ様…この貴金属磨きを、こちらのボロ布に付けて力を込めて一方向から磨くのです、石につくと傷がつきますのでご注意下さい」
※宝石には詳しくないので技術についてはかなり適当です、お赦し下さい。
「はい」
「ロゼ様、気をつけて下さい…万が一宝石に傷をつけたら、如何にロゼ様でも罰を受ける場合もありますから」
「解ったわ」
なんで私がこんな事をしないといけないのでしょうか?
こんな大量の貴金属を磨くなんて令嬢の仕事じゃ無いわ。
「今、宝石に貴金属磨きがつきましたよ、このまま磨くと傷がつきますから、一旦水で流して、もう一度…」
「ジョルジュいい加減にして、なんでこんな事私がしないといけないのよ? 貴方達がやれば良いじゃない!」
なんで溜息なんてつくのよ! その目はなに…
「良いですか、ロゼ様、此処の品物は、貴方自身がマリア様から取り上げた物じゃないですか? しかも書面上でも保管義務は貴方ですよ!自分の物を自分で責任管理するのは当たり前じゃ無いでしょうか?」
「そんな話は…」
「貴方のお母様であられる、ロザリー様も勿論、旦那様もしっかりと行っております、特にロザリー様は【太陽の神の目】は日に三度手に取り、少しの曇りもないように磨いています」
「そんな」
「良いですか? 素晴らしい物を手にするには責任と義務が生じます…特に国宝級の二つの品に万が一傷でもつけたら、流石のロゼ様でも大変な事になります」
ただの脅しよね…
「どうなると言うの?」
「その時にならないと解りませんが、ある家宝の皿を割ったメイドはその日のうちに手討にされました、貴族の令嬢でも片目を潰された話は聞いた事があります…旦那様はお優しいから、そんな事はしませんが、それでも鞭打ち位は覚悟しなくてはなりません」
「本当の事なの?…それは」
「はい、嘘は申しておりません」
「それじゃ、私は…そうよ家宝だけで良いのよね」
「ロゼ様…貴方の持ち物は、どれも高級な物です、全ての物に対して『手入れ』は必要です、しっかりと管理して下さい」
「そんな…それなら私は毎日、こんな事をしなくてはいけないじゃないの」
「自分から望んだ事でございます」
毎日、こんな事を2時間もやらされているのよ…ふざけているわ。
こんな手を汚すような仕事、私の仕事じゃ無いわ。
だから、お母さまに言いつけたら…
「それはロゼ、貴方の我儘よ! 貴重な品を持ったらきちんと手入れするのは当たり前じゃない…特に貴重な品の多くはその手入れを楽しむ物でもあるのよ…貴方もお父様が、パイプを磨いたり、剣を手入れしているのは見たことがある筈だわ」
確かに、見た事はある。
それより、お母さまの目は凄く冷たい様に見える。
どうして…どうしてそんな目で見るの。
それだけじゃない…今迄こんなに厳しくは無かった。
普通に笑顔で接してくれたお母さまが…
「ロゼ、そんな姿勢でなく、背筋を伸ばして歩きなさい」
「ロゼ、歩き方がなっていません」
「ロゼ、机に肘を乗せない」
何かある事に厳しく言ってくる。
何故、こんな事まで言われるのか解らない。
お父さまも会う度にお小言ばかりになった。
友達に二度と会えなくなるのに…会いにもいかせてくれない。
私は本当に悲しいのに、使用人に命じて、無理やり『勉強』をさせられた。
私にはもう会えなくなる友達を思う時間も貰えないの?
お姉ちゃんは何故か、最近優しく声を掛けてくれる。
散々『顔も見たくない』『声も聞きたくない』そんな事を言っていたのに…多分『見下したいんだ』ね。
派閥も無くなって、家族からの信頼も失った私を見て喜んでいるんだ。
なに、あの笑顔!
慈悲に満ちたような顔で私を見て来るけど、きっと裏で使用人と一緒に馬鹿にしているに違いないわ。
散々私を無視してきたんだから、私も無視する事にした。
あははははっ 悲しい顔をしているけど…『いい気味』だわ。
私は手紙を書いた『フリード様、助けて』と…
『早く助けてくれないと私は..私は駄目になってしまいそうです』
私にとってフリード様だけが唯一の希望なんだから…
第十四話 事件の後 三者三様
私、ロザリーは本当に娘の教育を間違えたのかも知れない。
結局ロゼ派は解散してしまったわ。
ロゼ以外が全て国外追放という最悪の状態で終わってしまった。
将来的に嫁いで『家の格』が下がる事を考えたら良かったと言えるけど。
だが、『終わり方が最悪』だわ。
せめて自然消滅でもしてくれれば良かったのだけど、犯罪者まで出した派閥のリーダー。
こんな傷物の娘…誰が貰ってくれるというのかしら。
国宝級の家宝を勝手に持ち出し、人に見せびらかしたこの醜聞はもう他の貴族に知れ渡っている。
幾つもの貴族の家が潰れたんだ、噂にならない訳が無いわね…
これで、今迄話が進んでいた『ロゼの婚約の話』は全部吹き飛んだわ。
今迄はドレーク家と縁を結びたい…そう考えている貴族達から引く手あまただった。
直接話をしてくる者、仲介をしてお見合いを勧めて来る者。
今迄は『こちらが選ぶ立場』だった。
だが、今は違う。
此処までの醜態を晒したロゼには…もう貴族での縁談は難しい。
流石に伯爵家の威光で無理やりというのはやりたくない。
だから話し合いの結果『一年みっちり、鍛え上げよう』そういう事になった。
社交界だけはしっかり出させて『見違えるようになった』そう言われるまでに育て上げなくてはならない。
その為には当人が嫌がっても、しっかり躾けなくてはならないわ。
私は初めてこの娘の為に心を鬼にする事に決めた。
◆◆◆
俺、ドレークはどうにか、事態の収拾に漕ぎつけた事にホッとしている。
殆どの仲間は『大変だったね』と表面では同情的だったが…裏では『娘の教育すら出来ない貴族』そういう烙印を押された筈だ。
貴族が醜態を晒すと言う事は、そういう事なのだ。
特に今回は『王』まで担ぎ出したのだ、仕方は無い。
如何にドレーク家が被害者であっても『事件の解決も出来ない無能な貴族』その汚名は生涯残るかも知れない。
この汚名は『スズラの森の開発』を持って汚名をそそぐしか無いだろう。
それと同時に頭が痛いのは『ロゼの婚姻』だ。
今回の事件の後、今迄やたらとロゼとの婚約を望んでいた者達が手のひらを返してきた。
今の状況では『貴族との婚姻は絶望的』なので市民との婚姻も止む無しかも知れない。
だが、ロザリーとマリアが『『それはあんまりです』』と二人して言うから暫くチャンスを与える事にした。
ロザリーは『私が教育し直しますから』と言い。
マリアは『幾つかの宝石を手放し持参金を増やしましょう』『最悪、貴族との婚姻が難しいなら、私の宝石を手放しそのお金でロゼの為に爵位を買ってあげて下さい』そう提案してきた。
ロザリーは兎も角…マリアは子供だ、それなのにこんな提案をしてくる。
ロザリーに聞くと、マリアはこの齢で『大人の貴族顔負けの話が出来るのだ』と言う。
言われて見れば、ロザリーの入っている派閥は『マリア以外子供は居ないし、高齢な方も多い』。
そんな派閥に子供でありながら入っているのだ。
正直言えば『ロゼと足して2で割れないかな』そう思ってしまう。
今暫くはロザリーに任せ、最悪はマリアの言う通りにするしかないかも知れぬな。
いずれにしても頭が痛い。
◆◆◆
「今のロゼは、凄く落ち込んでいるわ、少し気に掛けてくれる」
私はロゼの様子を見て貰う容易にジョルジュに頼んだ。
「マリア様、貴方は優しすぎます」
「私は優しくないわ…『どうでも良い』そう思っているだけ、だけどね姉妹は姉妹なのよ、だから落ち込んでいる姿は余り見たく無いのよ」
この方は何を言っているのだ…
普通はあそこ迄物を奪われたら憎む筈だ。
実際に他人である私もメイドですら見ていて気持ちよくない。
それを『どうでも良い』で片づけられる…そんな事は、子供はおろか大人の貴族でも言えない。
「マリア様にとって人とは宝石とは何でしょうか?」
私は子供に何を聞いているのだ…真面な答えなど返って来る訳が無い。
「そうね、宝石なんて人に比べたらガラス玉みたいな物かしら『みず知らずの他人と』と言われたら困るけど、貴方達に比べたら遙かに価値は無いわね、そうねジョルジュやメイドのアンの方が私のなかでは国宝以上に価値があるわ…上手く言えないけど『人に勝る宝石』なんてこの世に無いわ…これはお父さまやお義母さまには内緒にしてね」
使用人を国宝以上…こんな褒め方をする人物は貴族にいるのだろうか?
一部の人間がマリア様を『女神の愛し子』なんじゃないか、そう言うが…
女神は『人より価値がある物は無い』そう言ったという話がある。
確かにマリア様の考えに近いとも言える。
まぁこれは我々の贔屓目だろう。
だが、神童であることは間違いない。
宝石以上…そんな事を言われたら…やるしかないだろう。
「そうですな、旦那様にも言われていますから『気に掛ける』事にします、あとしっかりと教育しますのでご安心下さい」
「ありがとう」それだけ言うとマリアはその場を後にした。
「凄い方ですね」
「あの齢であの考えが出来る様な者に私は仕えた事は無い…だが宝石以上そう言われたら頑張るしかないだろう」
「そうですね、国宝以上のメイド、そんな言われ方したら頑張るしかあり得ません」
だが、事態は更に自分達の上をいくとはこの時は誰も思わなかった。
第十五話 ロゼ、一瞬の幸せと崩壊 ※婚約破棄と時系列が此処から重なります。
婚約破棄直前
毎日辛い日々が続きます。
時には死にたくなる位に辛い。
仲の良い友人は全員、国外追放になりました。
もう出会う事は無いでしょう。
残った三人は裏切者ですから顔も見たくありません。
あれ程仲の良かった、シャルロッテさんにマリーネさんにももう会えません。
家の中にも私には敵しか居ません。
お父さまも私に冷たく、会う度にお小言しか言いません。
使用人からも見下され、いつも雑用をさせられます。
※ 自分の宝石などを磨かされているだけです。
お母さまからは細かい事をチマチマ言われ、心が壊れてしまします。
※貴族としての考え作法を一から教わっているだけです。
お姉さまは私に優しい振りをして心で馬鹿にしています。
※腹をたてながらも『心配』しているだけです。
もう私には居場所が何処にも無いのです。
私にはもうフリード様しかいない。
この地獄の様な毎日から救い出してくれる、私の救世主様…
今の私にはフリード様から頂ける手紙だけが心の支えです。
ですが、最近、この手紙迄、家の者は訝し気に見ています。
このままではいつチェックされる様になるか解りません。
私は…自分の気持ちを手紙に書いてフリード様に伝えました。
するとフリード様から直ぐに手紙が届き、決行を早めて下さいました。
決行するのは1週間後のダンスパーティー、王族であるアーサー様の出席が決まっているそうです。
そこでお姉さまの婚約破棄と私の結婚を発表してくれるそうです。
あと一週間、あと一週間でこの地獄が終わるのです…
◆◆◆
何故か解りませんが、私マリアは、いつもと違いフリード様から『必ず今日のダンスパーティーに来るように』そう言われました。
可笑しいのは、私がこういう場所を好まないので今回みたいに強く言われた事はありません。
確かに今日はアーサー王子が来るので『特別』なのかも知れません。
ですが…そんな重要な物なら、エスコートをしに来そうな物ですがフリード様は来ません。
仕方なく、私とロゼとで馬車を出して会場まで行く事にしました。
「お姉さま、私は少し用事があるのでこちらで失礼します」
「…解りました」
可笑しい、ロゼはもう派閥が無いし、友人は殆ど居ないと聞いています。
それなのに…『用事』
私は違和感を感じました。
フリード様が何処にも居ないので仕方なくエスコート無しで会場に入りました。
フリード様をなかなか見つかりません…廊下で探していると、使用人らしき男が『フリード様が呼んでいる』と言うのです。
思わず私は溜息が出てしまいました。
会場でエスコートもしないで、婚約者とはいえ同じ伯爵家の令嬢を使用人を使って呼びだすなんて、ある意味礼儀知らずです。
仕方なく、使用人の後についていくと…そこには フリード様が居て横にロゼがいました。
そして、いきなり私は公衆の面前でお叱りを受ける羽目になったのです。
◆◆◆
ようやく、ようやくです。
これで私ロゼは不幸から解放されるのです。
フリード様はお姉ちゃんに対して冷たいまなざしで見ています。
さぁ此処から始まるのです…私の幸せな日々が..
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
私は確かにお姉ちゃんに嫌がらせを受けています。
私を無視して見下す様な目で私を見ました。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
そうフリード様に言い返していました。
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
私がお姉ちゃんを嫌った、違うよお姉ちゃんが私を嫌ったんだよ。
そう思い、お姉ちゃんを睨みました。
言われて見れば、私お姉ちゃんとそんなに…過ごしていませんね…あれっ
まさか、これだけじゃ無いですよね?
他にちゃんとした『お姉ちゃんを失脚させる何かありますよね』
これは此処で打ち切ってと…
「待って、フリード、そんなに姉を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
まさかフリード様『それだけじゃ無い』ですよね。
お姉ちゃんが私を迫害していましたが…それだけじゃ大きな問題にならないような気がしますが…大丈夫なの。
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
これだけの材料で姉と婚約破棄出来るのでしょうか?
確かに私にお姉ちゃんや使用人は酷い事をしていましたが…証拠すら握って無いですよ…不味くないでしょうか?
その証拠にお姉ちゃんは強気で話しています。
「では、フリードはどの様にしたいのですか!」
待って…本当に此れだけしかないの?
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
これだけで本当に大丈夫なのでしょうか?
お姉ちゃんは別に困った顔になっていません..
ですがシャルロッテさんも『ただ絵を描いただけ』で国外追放…案外大丈夫なのかな?
「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」
フリード様は両手を広げて声を上げました。
まるで舞台に立つ役者のようにカッコ良いです。
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
流石、フリード様ですカッコ良い!
ですがお姉ちゃんが全然怯んでいないのが気になります。
「それは双方の両親、ひいては当主であるお父様達もご存じなのでしょうか?」
「まだ、知らせていない..だが」
えっ、まさか何も知らせていないのですか?
本当に大丈夫なのでしょうか?
「まどろっこしいです…貴族として正式のお言葉か聞いております」
お姉ちゃんの目が笑っていません。
この目は私も見た事がありません…心底怒っている、そんな気がします。
「マリア、元婚約者とは言え、無礼だぞ、だが…良かろう貴族として正式の言葉として伝えよう」
「謹んで、マリア.ドレーク婚約破棄をお受けします」
お姉ちゃんが婚約破棄を受け入れた。
多分、これで終わり。
私は勝ったんだ…これから私はきっと幸せになれる。
ようやく、ようやく不幸から解放されます。
ですが…まだ続きがあるのですか?
「そうか…潔いのだな」
何故、お姉ちゃんは泣きもしないで悲しんでいる様にも見えません。
婚約破棄が決まり、私の婚約が決まったのに…不気味です。
「別に、罪は認めた訳ではありません…私はフリードは嫌いじゃ無かったですが…まだ、婚約して結納を貰った位の関係です、心は【愛】にまで育っては居ませんでした、それは本来長い時間を掛けて築く物ですからね、今の時点で妹が良いなら仕方ない、今後良好な関係は築けないでしょう…ロゼ、誓って下さい! 貴方はフリードを本当に愛しているのよね?」
「良いのよ、ロゼ、フリードは嫌いでは無いけど「まだ、愛を育んでいない」から、ロゼ貴方にあげるわ」
私は…解らない、だけど此処まで来て違うとは言えない。
ただ、あの状態のお姉ちゃんとフリード様の付き合いが『愛』じゃないのなら…解らない。
だけど、もう私は後戻りできません。
「私はフリードを心から愛していましす…この愛にに生きると誓います」
「偽りはありませんか?」
どうして? お姉ちゃん…そんな真剣な顔をしているの?
「偽りはありません」
なんで呆れた顔をしているの?
「では、貴方に婚約者の地位をお譲りします」
「マリア…」
「もう、何も言わないで良いですわ…妹は貴方にふさわしいわ…お幸せに」
「すまないな…」
「別にどうでも良い事です、それじゃ二人ともお幸せに」
お姉ちゃんは…その後、不機嫌そうな顔をして壁の花になった。
だけど…その時のお姉ちゃんの目は今迄みたお姉ちゃんの目じゃ無かった。
まるでビー玉の様に『私を見ていない』
どんなに怒ってもあんな目なんてした事は無かった。
私はフリード様とダンスを踊っている。
なんで…今アーサー王子がお姉ちゃんに声を掛けた様に見えた..
まだ終わって無いの?
その後、私の思惑とは違い…いきなり宰相のユーラシアン様、それにお父様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達貴族がなだれ込むように入ってきました。
何が起きたの…頭の中がグルグルと周り私はなにも考えられなくなった。
第十六話 私の教育は間に合わなかった。
第四十八話 全てが遅すぎた
ロゼがとうとう取り返しのつかない事をしてしまいました。
私、ロザリーの教育は間に合わなかったのです。
数日前にマリアとロゼの部屋を様子見した事があります。
その時、私が目にした物は、殆ど何も無いマリアの部屋でした。
貧乏貴族で生活していた私の部屋の方がまだ物がありました。
何故こうなっているか、想像はつきます。
マリアの物を取り上げる様な存在はこの屋敷にはロゼしか居ません。
『ロゼ、貴方は本当に私の子ですか』
ロゼの部屋で見たもの、それは持ち物に埋め尽くされた部屋でした。
しかも、大切な宝石も無造作に置かれています。
恐らく、マリアから無理矢理取り上げたのでしょう。
「ロゼ?」
この子は、自分の部屋とマリアの部屋を見比べて何とも思わないのでしょうか?
「どうかされたのですかお母さま」
「これは一体どういうことなの…貴方何をやっているの?」
「ちょっと待って、お母さま何しているの」
「良いから…黙りなさい」
マリアの宝石箱にネックレスに指輪、出てくる出てくる、しかも信じられない2つある物も沢山あるじゃない。
何を考えているの?
なんでもかんでも取り上げた訳ね…信じられないわ。
「お母さま、何をしているの? 勝手に私の物を出さないで」
此処まで、此処まで人の心を考えられない子になってしまったの…
「これは貴方の物じゃないでしょう? 半分以上がマリアの物じゃない」
1/3なんて物じゃない、あそこから更に取り上げるなんて信じられない。
目についたものだけで残されたマリアの宝石1/3の半分以上がある。
多分、他の所も見れば、更にある筈だわ。
「だって、マリアお姉ちゃんがくれたんだもん」
本当にくれたとしても…欲しがらなければ寄こす訳は無い、意地汚いにも程がある。
同じ物が幾つもあるじゃない?
中には主人や私が、2人に買い与えた物まで2つとも持っている…本当に意地汚い。
「あのね…流石に二つも同じ物は要らないでしょう? ドレスだってこんなには要らない筈よ」
「だけど、お姉ちゃんがくれたんだから関係ないでしょう」
「貴方が無理やり奪ったんじゃ無いの、知っているわ」
「お母さまだって同じことしていたじゃない」
確かに私もしていたわ…だからこれから返すつもりだ…そうしないと、この子の為に良くない。
「確かにそうだったわ、だからお母さんは返すつもりよ」
私が返せば、ロゼだって返さざる負えなくなる筈よね。
「そうなんだ、お姉ちゃんに返す位なら、私に頂戴」
「ロゼ、幾ら何でも怒るわよ、いい加減にしなさい」
この子が何を言っているのか解らない…まるで言葉が通じない誰かと話しているようです。
「なんで怒られるのかロゼ解らない」
逆になんで、この子は解らないの?
マリアに確認したら…本当にあげていた。
私がマリアに返しても、ロゼがきっと取り上げる。
その事を主人に相談したら…
「マリアだってあげた物をとり返すのは不本意だろう、マリアには生活費を余分に与えて新たに買いそろえよう」
という事になった。
私は教育を本当に間違えていた。
勝手に派閥を作り、家に迷惑を掛けた。
王迄巻き込んだ事件を起こしたのに反省が無い。
ようやく私も腹が決まったわ。
婚約者が居るからマリアには『マリアを結婚するまでの間に淑女にする事』
貴族の妻として充分な作法やマナーを自分が知る限り教えようと思う、それが私なりの恩返しだ。
だが、マリアは優秀だ、ただ教えるだけで簡単に覚えてしまう。
それに比べてロゼは…実の子ながら情けない。
あれ程の問題を起こして…それなのに『まだ前と同じままだ』
全然変わろうとしない。
皆がマリア以上に時間を割き、指導しているのに…
『自分からは何も変わろうとしない』
言葉で幾ら言っても解らない。
『ロゼは実の子だ、腹を痛めた子だ』
幾ら何でもそれはしたく無かった。
だが、此処まで腐ってしまったからには…もうこれしかない。
私は『鞭を手に取った』
あの子は…人の気持ちが解らない。
ならば、こうするしかない。
だが…こんな事はしたく無い。
私は思わず、躊躇してしまった。
今日は止めよう、明日にしよう。
それを繰り返していたら…
「貴方…今、なんて言ったの?」
「ロゼがまた問題を起こした、今度はマリアの婚約者フリードと共に『マリアの婚約破棄をして自分が婚約者にすげ替わる』宣言を王族の前でしたそうだ…これから行ってくる」
「私も行きます」
「今後どうなるか解らないが、恐らくこれから話し合いになる可能性が高い…そうなった時の為に、家の準備をしていてくれ」
「解りました」
私は目の前が暗くなった。
私は…殴りつけてもロゼを教育するべきだった。
さっさと『鞭を使った教育をするべきだった』
あの場で、マリアから取り上げた物を返させ、ちゃんと謝らせるべきだった。
私が躊躇した為に事件がまた起きてしまった。
そして、取り返しはもうつかない…
私は話し合いに備え使用人たちに準備をさせた。
それから暫くして、宰相のユーラシアン様、ドリアーク伯爵様にオルド―伯爵様達とフリードが家族と共に帰ってきた。
夫の顔は凄く窶れていた。
衛兵に連れられた、フリードとロゼは両脇を抱えられていた。
「お母さま、助けて」
「私は神に誓って間違った事はしていない」
二人は喚き散らしていた。
その後ろでマリアは静かに下を向いていた。
私は…今度こそ間違えない。
「マリア、本当にごめんなさい…私の躾が悪かったばかりに、詫びは必ずさせて貰います、誰かマリアをすぐに部屋に、それからミルクティーとそうねお菓子を用意してあげて」
「お義母さま…私は大丈夫です、余り気になさらないで下さい」
「私も後で直ぐ伺います、今はゆっくりとお休みなさい」
「有難うございます」
なんでこんな大人の対応が出来るのよ『悲しいでしょう』『辛かったでしょう』それなのに…マリアは…
「悪いのは私、さぁお休みなさいな」
「はい」
私はマリアが部屋に行くのを確認した。
夫たちはそのやり取りを見ながら、応接室へと向かっていた。
此処で私に言葉がなく、ただ会釈で行くと言う事は本当に緊急な話だ。
私も同じ様に会釈で返した…本来は宰相のユーラシアン様がいるのだ。
だから、しっかりとした挨拶が必要な筈だが、今回はその時間すら惜しいのかも知れないわ。
「とりあえず、ロゼは自室にフリードは客室に軟禁しなさい、良い!トイレ以外は一歩外に出さない様に」
「お母さま、あんまりです、ロゼはロゼは悪くありません」
「ロザリー様、話を聞いて下さい、俺はロゼを不憫な思いをしているロゼを助けようとしただけなのです!」
此処に来てまだそんな事を言うのですか?
フリード、最早貴方には『殿』すらつける気にはなりません。
『貴公子?』こんな節穴しか持たない人間が『貴公子』よそ様の子ながら、ロゼと同じでどうしようもない人間です。
こんな人間『奇行子』で充分です。
「ロゼ…貴方、自分がどんな事をしたのか考えなさい、反省なさい」
「私は悪くありません」
私ははロゼの頬を叩きました。
人に初めて手をあげました、それが娘になんて、本当に情けない。
「お母さま…なんで」
「馬鹿な子、反省も出来ないの…『人の物を盗っちゃいけない』そんな事は卑しい平民でも解る事です『大切な物を勝手に持ち出してはいけない』これも普通に平民の子だって解る事、貴方を人間だと思っていた私がいけなかった、これからは『獣に躾ける』つもりで対処します」
「お母さま…」
「まだ頬を打たれたいのかしら? とっとと行きなさい」
「解りました、お母さま」
もう私は貴方に何もしてあげれないかも知れません。
貴方達の処分は夫達の話し合いで決まりますが…貴族の婚約破棄は大事なのです。
きっと貴方達の思った以上の処分が下るでしょう..甘んじて受けて下さい。
「ロザリー様、なんでそこ迄、貴方はロゼを虐げるのです…貴方は母親じゃ無いですか?」
「私が虐げる、いえ…今迄私はロゼを甘やかしすぎていました」
「嘘だ、貴方も含み、使用人まで貴方達はロゼを..」
「黙りませんか!無礼者…マリアがロゼを虐げた? 貴方はマリアの婚約者の資格はありませんね、何処が『貴公子』なのかしら?その目は腐っているんですか? 節穴なんですか?」
「幾らロザリー様でも、そんな侮辱は許せない」
やはり、此奴はマリアに相応しくない。
「貴方こそ許せないわ、マリアはねぇ~確かに義理だけど娘なのよ? それだけじゃない私の派閥だから、私が庇う存在なのよ? それがロゼを虐げた? そんな濡れ衣着せられて黙っていられないわ」
「貴方はロゼの母親じゃないですか? 情が無いのですか」
「良いわ、今回の話は貴方のせいでとんでもない事になった、きっと後でしっかりと説明される筈、されなければ私がする…その上で判断なさい…自分が如何に愚かだったか、きっと気がつくわ…とっとと、この勘違い男を連れて行って」
「「はっ」」
「俺はロゼを…」
「見苦しい、早くつれて行きなさい」
あの『奇行子』真実を知ったらどうなるのでしょうか?
ロゼ、もう取り返しはつかないわ…今日の話し合いは長くなるでしょう…
そして決まった事はもうひっくりかえる事は無いでしょう…
最早、母として私は貴方に何もしてあげられないかも知れません。
そして私はマリアの部屋へと向かっていった。
第十七話 何も出来ない 後悔しても遅い
第四十九話 姉と言う名の呪い
ロゼとフリードが大変な事をした。
あれ程、確認したのに…
さっき迄お義母さまが私に付き添ってくれて慰めてくれていた。
多分、こういう時、普通の子なら泣くんだと思う。
だが、私は涙が出ない。
これは前世の記憶が色濃くあるから。
一度、どの位迄の記憶があるのか自分なりに考えてみたらおおよそ40歳位までの記憶があった。
その後の記憶は無いからきっとその位で亡くなった可能性が高い。
「お義母さま、私は大丈夫です…ただ婚約者が裏切っただけですから」
「裏切っただけってマリア…」
「ですがロゼはこれから罰を受けると思います、これは私が『別に良い』そう言っても無理でしょう、恐らく心配で泣いているかも知れませんからお義母さまはロゼについてあげてください」
「マリア、貴方って子は本当に」
お義母さまは私を抱きしめると『ありがとう』と言い去っていった。
どんなに可笑しな子でも、ロゼは腹を痛めた実の子だ、お義母さまからしたら心配で仕方ない筈だ。
その証拠に私を慰めている時も手が震えていた。
ロゼについてはもうお義母さまも私もどうすることも出来ない。
家同士の話し合いで、まして宰相様まで一緒に話すのだ、女子供のもう出る幕じゃない。
ただ、先ほど聞いたジョルジュからの話で、事の顛末をお父さまが教えに来てくれる事と『私個人への償い』の話を予定している。
との事だ、話は長くなり今夜深夜まで及ぶから、私は眠っていても良いらしい。
おおよそ私の方の話し合いは午後になるとのこと。
正直言わせて貰えば『婚約破棄』なんてどうでも良い。
元から政略結婚だし、お見合いみたいに紹介されまだ数回お茶をしただけの男性だ。
勿論、この世界の常識で言うなら『婚約破棄、不倫』そういう扱いになる。
そして私の考えは可笑しいのは解る。
だけど、前世の記憶から考えると『婚約破棄』は兎も角『寝てもいない男』の事で不倫は無いと思う。
幾らイケメンエリートで上場企業に勤めるような超優良物件でも冷たいと思うかも知れないけど、そこまでの執着はないわ。
だって2時間、数回お話しした相手なのよ。
もし前世の世界だったら、婚約したから慰謝料は発生するけど、雀の涙貰えたら良い方だ。
本当にロゼが好きだと言うのなら…ちゃんと筋を通すなら『私は身を引いても良かった』
私が許せないのは…約束を破った事だ。
本当にフリードが好きなら『あの場できちんという』べきだった。
そしたら、そのままお父さまと話し合いになり…どう転ぶか解らないが、こんな大変な事にならなかった。
「ロゼみたいな馬鹿な妹…本当にどうでもいいわ」
…『本当にどうでもいい』…..どうでも良い?
『果たして本当にどうでも良い人間の事をこんなに考える物なのかしら』
ロゼなんて大嫌いだわ。
人の物なんでも欲しがって、奪っていく、最低な人間…『どうでも良い人間だわ』
私が一番嫌いなタイプの人間…『本当にどうでも良い、最低な人間』
可笑しい…ならどうして、私は腹がたったのだろう?
1/3の宝石やドレスを渡すのは確かに『ずるい』という言葉からわけたと取れる。
だけど…それ以上を渡す義理は無い。
それこそ『恥知らず』と罵り、ビンタでもしても普通の対応だ。
多分、それを咎める者は誰もいない。
だが、怒りながらも私は『渡した』…なんで怒ったの?
宝石を奪われたから…違う…私にとって宝石は価値なんて無い。
それじゃなんで…
『妹が私の気持ちを考えずに、取り上げようとする…その妹の気持ち』に腹がたったんだ。
今もそうだ『フリードを奪われた』そんな事じゃなく『約束を破った』ことに腹がたっている。
なにこれ。
あははははっそういう事なのね…
『宝石もドレスもどうでも良い』 だって私には価値が無いから…
『フリードもどうでも良い』だって数回会っただけの他人だから…
だけど…『ロゼはどうでも良くない』
馬鹿で、アホで腹が立つ…どうしようも無いクズ女。
『妹』でないなら多分、最も嫌いなタイプの女。
だけど…『妹』だから『どうでも良くない』
あははははっ気が付いてしまったわ。
『あんな妹が、私の中では『どうでも良くない』んだ』
少なくとも『どんな宝石やドレス』以上には大切なんだ。
前世の私には姉妹は居なかった。
前世の友人の顔がうっすらと思い浮かぶ。
【お姉ちゃんだから仕方ないんだよ】
そういった彼女の顔は確かに悲しそうだったけど…それだけじゃ無かった。
そこには『大切ななにかを慈しむ表情』もあった気がする。
良く思い出せば『口が笑っていた気がした』
今の私には、少しだけ解る気がする。
こんなの呪いじゃないか?
『妹だというだけで心底嫌いになれない』
『私にはどうでも良い事、だけど普通に考えればロゼのやっている事は悪魔だわ』
それが…許せてしまう。
私は『姉』というとんでもない呪いに掛かってしまっていたようだわ。
こんなのはそれ以外、何でもないわ。
◆◆◆
お父さまたちがやってきた。
結構きつい罰が2人に下される話を聞いた。
私なりに彼女達を助けようとした。
待遇改善や、貴族籍を買ってあげて欲しい、なんなら、私が家をでる案まで出したが、何も変わらない。
『被害者』の筈の私の意見が何も通らない。
どうすれば良いのかな?
どうすれば二人を助けられるのだろうか?
◆◆◆
俺こと、フリードはドレーク家の客室で軟禁状態にある。
ロゼとは別々の部屋に引き離された。
俺は特に酷い目にはあっていない、ただ、それは肉体的にであって、精神的にはボロボロだ。
そこに、俺の親と一緒にドレーク伯爵にロザリー様が現れた。
そして、自分の未熟さを思い知ら去らされることになる。
全てが嘘だった。
マリアがロゼを虐げていたんじゃない。
ロゼがマリアを虐げていたなんて…
殆ど何も無いマリアの部屋、それに比べて、同じ物が重複してある部屋。
これをみたら認めるしかない。
俺は…大切な婚約者を嘘つき呼ばわりして、騙した妹を選んでしまった。
「それでは俺は…なんの罪もないマリアと婚約破棄をし、騙されてロゼを婚約者にしてしまった…そういう事ですか?」
「馬鹿な息子だ、伯爵の地位をお前にもたらし、質素を旨としている婚約者を捨て、我儘な妹を選ぶとはとんだ【貴公子】だな」
「お父上…私はマリアに、マリアになんて事をしてしまったのでしょうかーーっ、せめて謝りたい、いや謝らせて欲しい」
《本当に馬鹿な息子だ》
「お前は何を言っているんだ? マリア嬢はもうお前の婚約者では無い! お前の婚約者はロゼだ、貴族籍を持たぬな、そしてお前も貴族籍を持たない…これから先は市民として暮らすしかないだろう、我が家とドレーク伯爵家からは家を出た者として扱う事になるだろうな」
「そんな、俺は…貴族で無くなるのか…ロゼも」
「そういう事だ」
「やりなおし…そうだまだやり直しが」
「出来る訳ないだろうが、王族が居る前で、婚約破棄宣言したんだ、もみ消しは効かないな」
「そんな」
「まぁ、そこ迄して選んだ相手なんだ、良かったじゃないか? 結納代わりに手切れ金を渡してやる、これが父として最後の情けだと思うんだな」
「そんな、俺は俺は俺はーーーーーーーっ」
俺は目の前が真っ暗になった。
ロゼに全て騙されていた…そうだ、ロゼとロゼの友達が俺を騙したんだ。
大切な婚約者のマリアへの想いを捻じ曲げられた。
許せない…
「お父上…私を謀った者が居ます、ロゼ以外にも、我が家と付き合いがありながら俺に嘘を…」
「その者達は、もう別の咎で『国外追放』されている、もうこの国の者ですら無い…それがどうした?」
「俺は騙されていたんだ!」
「だから、なんだ?」
「だから、騙されて…」
「貴公子なんて言われて浮かれていただけだろう? 何故筋を通さない! 調べるにしても何故、屋敷の者を使わない、うちの執事は全員優秀だ『相談』すれば的確なアドバイスもくれた筈だ…少なくともロゼの性格は社交界でも有名だった」
「ですが…」
「それに婚約破棄するなら『俺に相談する』のが筋だろう? お前は俺を飛び越え王が王印を押して認めた婚約を破棄できるくらい偉いのか…えっ貴公子」
「それは…そうだ、今からでもマリアに謝罪します、どんな事しても許して貰います」
「だから、それに何の意味がある? まぁ謝罪は後でしっかりして貰うが」
「何故ですか?、私はマリアに謝って…生涯かけて償うつもりです」
「お前は馬鹿か? お前が生涯かけて守るのは『ロゼ』であってマリア嬢じゃない…それにお前はなんでマリアと呼び捨てているんだ、もう貴族ではなくなるのだから『マリア様』と呼ぶように…お前はもう使用人以下になるんだ、今は許すが街であったら、当家の使用人や他の使用人にも『様』をつけるのだぞ」
※貴族の執事やメイドは市民の中では身分のある扱いになります。
「お父上…私はマリアに詫びたいんだ…あんな悪魔の様な女に騙されて俺は馬鹿な事をした」
「馬鹿野郎がーーーーっ お前の婚約者は『ロゼ」なんだ『ロゼーーーッ』マリア嬢じゃないーーーっ、お前が今後の人生で守る存在はロゼなんだよーーーーっ解ったか」
「ですが」
「ですがじゃない…もうマリア嬢は婚約者じゃない…いい加減にしろ」
「そうですよ、ロゼを宜しくおねがいしますわね」
「ロザリー様?」
「そうよ、貴方の婚約者はロゼ、マリアじゃもう無いわ、まぁ私はどっちみち母親ですが、貴族でなくなるのですから余り縁はないでしょうね」
そんな、俺は、俺はこれからの一生を『俺を騙した性悪女』と共に過ごさないといけないのか?
しかも、貴族でなくなってまで…そんな女と居なくちゃいけないのか?
『ロゼが悪でマリアが善』それが解かったのに…俺は全てを奪われ『悪』と共に人生を歩むのか…
「父上」
「暫くこの部屋で反省していろ…その後は謝罪だ」
俺の人生は…終わってしまったのか?
第十八話 婚約の後に ロゼ
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。何か言う事はあるかな、マリア」
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは本当にありません!」
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながら君という女は良心が全く無いのか!」
「フリード…本当に何の事か解りません、言わせて頂ければ、私はロゼに嫌われているので、妹のロゼとは交流が殆どありません、しかも、花嫁教育が本当に忙しいから社交界にも余り来ません、そんな私が何でそんな事が出来るのでしょうか?」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
「今日この時より、フリード・ドリアークはマリア・ドレークとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼ・ドレークとの婚約を宣言する」
此処までは良かったのよ…
だけど、冷静に考えたら凄く不味いと思う。
だって『たかが意地悪をした位で私とお姉ちゃんの立場が変わる』なんて起こる訳ない。
他に何か切り札がある、普通はそう思うじゃない…だけど、何も無かった。
何かお姉ちゃんの重大な過失を知っている。
そう思っていたのに…何もなかった。
そしてその結果 結果、私は自分の部屋に軟禁されています。
此処に来る時はお父さまたちに『まるで犯罪者を見る様な目』で見られて横に衛兵迄いました。
しかも、フリード様や私の言い分は全く聞いてくれません。
そしてお母さまはお怒りになり、初めて頬をぶたれました。
その後もフリード様は一生懸命弁解していましたが、その結果お母さまは更にお怒りになりました。
これからどうなるのでしょうか?
宰相様まで来られたからには、多分とんでもない事になりそうな気がします。
凄く長い時間が過ぎた気もしますが。多分実際にはそんなにはたっていないと思います。
お母さまが来てくれた。
「あのお母さま…私、何かしてしまったのですか?」
「ええっ、もう取り返しはつかないわ…いま皆で貴方とフリードの処遇を考えている所よ!」
「どうして…そんな」
「貴族の婚約は事前に形上だけど、王に許可を得るのよ、その王が許可を出し王印を押した物を勝手に反故にした、しかも王子の前で、これは私にはもうどうにもならないのよ…」
「そんな、私はこんな事になるなんて知らなかった…」
「そう…馬鹿な子、だけど、もうどうしようも無いのよ」
そう言うとお母さまは私を抱きしめ泣き始めました。
これは、どうする事も最早出来ない気がします。
私は前に『大切なお友達』を無くした時も何も出来ませんでした。
そして今度もきっとそうです。
なんで私の大切な人は…どうしてこう、後先考えないのでしょうか…
その後、フリード様が顔を出しにきましたが…
「フリード様、ご無事で何よりでした、ロゼはロゼは…」
「ロゼ、大丈夫か? 何か酷い事はされていないか」
「何時もの事です、もう慣れました」
途中からフリード様を遮りドリアーク伯爵様が話し始めました。
「ロゼ、お前と息子の婚約は成立した」
「本当ですか? 嬉しい、ありがとう御座います!」
「礼などは要らぬ、後で両家で話し合いの結果を伝える、しばし待つが良い」
「はい」
フリード様と私が婚約したなら『義理のお父さま』になる筈です…ですが憎しみが籠った目で見られた気がします。
フリード様も何だか凄くお窶れになっています。
フリード様達と一緒にお母さまは出て行ってしまいました。
「ロゼ、出来るだけの事はするつもりです、ですが…あまり期待はしないで下さい」
そう言いながら、お母さまは泣いていました。
さっきから此処にいるメイドたちの目も凄く怖いのです。
「あの…1人になりたいのですが」
「駄目でございます」
「命令します、出て行きなさい」
「それは無理でございます、今のロゼ様の命令はきかないように旦那様から言われております」
「そんな」
「….」
明かに可笑しい、今迄も嫌な目で見られた事はあったけど…今日のはそれとも違う。
本当に心から嫌う様な目…私にはメイドたちの目がまるでガラス玉の様に見えます。
もう、私には…本当に何も無い…
部屋の中には豪華なドレスや宝石はあります…普通に考えたら信じられない位沢山あります。
ですが…見せる相手が居なくなっては、何の意味もありません。
もしかして必要以上に欲しがったのが悪かったのでしょうか?
お姉ちゃんの物を根こそぎ奪ったのが悪かったのかな…
だから『お姉ちゃんには嫌われても仕方ない』のかも知れません。
立場が逆で『私がお姉ちゃんに同じ様に奪われたら』
あははははっ許せるわけないですね。
だから、今ならお姉ちゃんに嫌われるのは解ります。
だけど…なんで、なんで他の人迄、私を嫌うのでしょうか?
ロゼ派の人には親切にした覚えしか無いし…使用人にだって冷たくした覚えはありません。
社交界でも『きちんとしていた筈』です。
確かに『多少の自慢はしましたが』こんなのは貴族の子女では当たり前の事です。
だからお姉ちゃん以外に私は酷い事をした覚えはありません。
お姉ちゃん?
お姉ちゃんは別に良いのです。
だってお姉ちゃんですから『お姉ちゃんは私のお姉ちゃんです』『お姉ちゃんだから良いのです』
だって『私のお姉ちゃんですよ』「お姉ちゃんは私の者だから』『私の家族なんだから』少し位迷惑掛けても良いじゃ無いですか?
だってお姉ちゃんは家族だし…身内だし…小さい頃から一緒だし、許してくれる筈です。
多分子供の頃の様に『仕方ないなぁ』って笑顔で許してくれるよねお姉ちゃん。
私はお姉ちゃん以外に迷惑を掛けた覚えはないのに..なんでこんな事になるんでしょう。
そんな事より今は『フリード様』です。
これから先の事は不安で一杯ですが『フリード様との婚約』は正式に決まりました。
なら、大丈夫な筈です…
きっと物凄く怒られるかも知れませんが…王様絡みだから仕方ありません。
ですが…フリード様との婚約が決まったなら、多分幸せになれる気がします。
【きっと大丈夫です】
まさか、そのフリードから憎しみの目を向けられるとはこの時の私は思ってもいませんでした。
第十九話 シャルロッテとマリーネ
わたしシャルロッテとマリーネは国境の街、ロストにいます。
ロストは本来は国の領内であるが、唯一『国外追放された者が居ても良い街』ですの。
その理由としては『国外追放された者でも国に用事が出来るだろう』と考えた昔の王が作った街で、国に入れない者でもここ迄の入国は許されます。
最も犯罪者以外という条件付きで…まぁ、『国に知り合いが居たりする人間は此処にきて手紙を書いて来て貰ったり、この国にしかない物は此処で買え』と言うことらしいです。
確かに商人なんかを罰した為に、実入りが少なくなる権力者もいるから、そういう事の為に作ったのだろうと思います。
国外追放の刑は執行されたので罪は償ったという事なのでしょう、此処にいる事は許されています。
まぁ此処から他の場所に行くなら他国に行くしかないですが『その路銀もありません』
何故、私とマリーネが此処に居るのか?
それは捨てられたからよ…ええっすっぱりと見捨てられたからですね。
今の私やマリーネはかっての令嬢の様な姿はしていません。
ボロボロのワンピースに木の靴…あはははっ最早完全に平民にしか見えません。
私達以外の他の家の者は皆去って行きましたわ。
勿論、その家族も一緒にね、元々商人上りや身分が低いのもあって逞しいわね。
この街に既に居ないのよ。
まぁ『妻がもと貴族』貴族ではなく、相手が商人であれば充分まだ価値があるし、王国からの追放だから帝国辺りだったら貴族との婚姻も可能性があるわね。
商人になって出直す者、元から付き合いのある他国の貴族に頼るもの様々です。
皆が新しい道を生きていく…
恐らく『私の友人たちは婚約者が変わっただけで』きっと、逞しく生きていくでしょう…私とマリーネ以外はね。
ジャルジュ家がとり潰されて国外追放になった時に『私はお父さまに勘当されました』
流石、お父さまですわ、全ての罪を私に擦り付けて自分は『馬鹿をやった娘の責任を逃げずに償った悲劇の人』そんな噂を流し、保身してから旅立っていきました。
ジョルジュ家は伯爵ですが、大昔は武器商人でした。
今でも、商売はしていましたので多分、他国に行って商売でもして生きていくでしょう。
ただ、その為には『王家由来の品』を販売した娘は邪魔者ですからね…捨てられたわけです。
そしてマリーネはというと、グラデウス男爵は王都警備隊の隊長ですから、商売なんて出来る訳は無く…
同じく醜聞の元のマリーネを捨てて仕官を求め帝国に旅立って行きましたわ。
と言う訳で、今は私、シャルロッテとマリーネだけで此処で暮らしています。
まぁ、私とマリーネを捨てたクズみたいな親達ですが…貴族としての誇りがあったのでしょう、奴隷として売られる事は無く少額のお金を残していきました。
身に着けていた物はとられなかったのでさっさと換金してこのボロ服と木の靴を買ったのです。
「シャルロッテ様…これからどうしましょうか?」
「私達の手元にあるのは全部で金貨3枚です…調べた感じでは、屋台の物品販売位の商いは出来そうです」
「それでは、直ぐにでも」
「ええっですが、失敗してしまった終わりです、悪名高い私達は誰も雇ってくれない、そのまま体でも売らなくちゃいけなくなります…だからこそ絶対に失敗をしない商売を選ばなければなりません」
「そうですね」
「だから今日は客足の流れをみましょう」
《シャルロッテ様は…本当に凄い、此処まで落ちぶれても上を目指しています、一切泣き言も言わずにすぐに次の手を探し出そうとしています、この思想こそが私が尊敬した理由です》
「マリーネ、ほらしっかりと見ていなさい」
「はい」
《本当に逞しいです…殿方で無いのが凄く残念でね》
◆◆◆
1日じゅう見た末にシャルロッテ様が考えた商売は『ジャム作り』でした。
貴族の食卓に並ぶジャムが、此処には売っていませんでした。
『ジャムみたいな高級品食べない』そんな話を聞きました。
ジャムなんて砂糖と果物があれば作れます。
しかも、果物は夕方近くなると『凄く安く販売されるのです』
「マリーネ、どう思う?」
「私は、正直商売は解りません」
「そう、なら今回は私が決める、だけど次からは自分でもしっかり考えなさいね」
「解りました」
こうして私達は此処ロストで『ジャム屋』を始める事になりました。
第二十話 全てが終わるその前に
色々と私の考えを反映してくれるそうなので、ドリアーク伯爵、ロゼとフリードの謝罪は後日、公式の場でして貰う事にした。
ただ『公式の場』という条件に対し周りの人間は凄く驚いていた。
「確かにそれも止む無いな、公式の場で恥をかかせたのだからな」そういうドリアーク伯爵に対し、お父さまは「言えた義理では無いが少しは温情を掛けてやってくれぬか」そう言った。
「これは私なりの温情ですから」
そう言うとお父さまは「確かにそれだけの事をしたのだ仕方ない」そうい言い俯いた。
お義母さまは始終黙っていた。
ロゼは暫くの間、軟禁状態で部屋から出さないらしい。
そして、フリードは一旦ドリアーク伯爵家に連れ帰ると言う事だった。
お父さまとドリアーク伯爵が、ロゼとフリードの間に「少し時間をくれないか』そう私に聞いて来たので「どうぞ」と伝えた。
◆◆◆
「フリード様、会いたかったです、ロゼは」
「…」
「フリード様、何故黙っているのですか?」
今此処で蒸し返してなんになる。
今更、怒った所で何かが変わる訳では無い。
騙されたとはいえ、マリアとの婚約を壊して犠牲にしてまで手に入れた婚約だ。
もう元には戻れない…
ならば…
「何でもない…暫く会えないのが寂しく思ってな」
「フリード様」
これで良い…これで良いんだ。
俺はそう心に言い聞かせた。
もうすぐ『貴族ですら無くなる』だがそれは今、言わなくても良いだろう。
◆◆◆
私、マリアにとって怒涛の数日間が過ぎた…
私には『どうする事も出来ない』そう言って諦める事は簡単だ。
だが、私はまだ諦めない…
諦めてはいけない気がする…
謝罪は少しだけ先延ばしした。
そして私は…今王太后さまに会いに来ている。
私はおばあ様のお陰で、お父さまにすらない特権がある。
その一つに王族に気軽に会える権利がある。
私がこの事を知ったのは、【幸運の女神の笑顔】を受け継いだ時に一緒に受け継いだ権利によるものだ。
今回初めてこの権利を行使した。
「お初にお目に掛かります王太后さま」
「貴方がマリアなのね、どことなくマリアーヌに似ているわね」
「有難うございます」
「貴方が宝石箱を持って現れたと言う事は、頼みごとがある、そういう事ね」
幾ら私でも王族を目の前にしたら緊張する
「はい」
「緊張しなくて良いわ…【幸運の女神の笑顔】の音色を聞かせてくださいな、そうそう頼み事も言って下さいな」
私は宝石箱のオルゴールを奏でた。
音楽が流れる中、私は…
「実は、私にお譲り頂きたい物が幾つかあります、それから幾つかのお願いがございます」
私は譲って欲しい物とお願いについて王太后さまに伝えた。
「そうね、譲って欲しい物3つは無償であげるわ、但し王では無いので一番下になるわね、お願い3つも聞きましょう」
「有難うございます」
「良いのよ、ですがこれからはもう少し王宮にも顔を出して、貴方は親友の孫娘なのよ? プライベートではお婆ちゃんと思って貰っても良い位なのよ?」
「解りました、出来る限りその様にさせて頂きます」
「うん、本当に良い子ね」
私は暫く王太后さまと時間を過ごしてから『家』に帰ってきた。
それから暫くすると王宮から手紙が届いた。
王太后さまにお願いしていた一つのお願いを聞いてくれた内容だった。
そしてもう一つのお願いを聞いて貰える日時も書かれていた。
これで準備は整ったわ…後は『どうでも良かった自分』なりの決着を付けないとね。
マリアは手を握りしめた。
◆◆◆
「シャルロッテ様、どうにかなりましたね」
「まぁね、食べていくのがやっとだけど、どうにか生活は出来そうね」
二人はどうにかジャム屋を始めた。
市場で痛んだ果物を煮詰めて瓶に詰める、ただそれだけのジャムだったが、物珍しさで売れた。
砂糖やハチミツを加えたい、そう二人は思ったが高額で手が出なかった。
ちゃんとしたジャムを食べた人が食べたら『これはジャムじゃない』そう言われるレベルだが、市民や平民が毎日食べられる金額で手に入るのが受けたようだ。
「あの…シャルロッテ様、今日は私お風呂に行きたいです」
「そうね、今日は奮発して公衆浴場に行きましょう」
「やった~」
「どうにか生きてはいけますが、これじゃ再び貴族に返り咲くのは難しいわね」
「ですね、この国じゃ貴族にはなれそうもないから、帝国にでもいかないと無理ですもんね、先に路銀を貯めないといけませんね」
「考えると暗くなるわ…マリーネ、今日は公衆浴場に行って、一杯だけエールでも飲みますか」
「エールいいですね」
僅か数日で商売を始めて少額ながらお金を稼ぎ出す。
そのシャルロッテの姿にマリーネは心から尊敬の念を抱いていた。
浮かれ顔で、公衆浴場に入りエールを飲み安宿に戻る。
その最中、それは起きた。
「シャルロッテにマリーネだな」
不味い…まさか私の家に恨みを持つ者…不味いわ。
「シャルロッテ様、下がって」
マリーネがシャルロッテを下がらせたが…時遅く..
二人はあっさりと手刀で気絶させられた….
「おい、この二人、馬車に乗せてひん剥いちまいな」
二人は馬車に乗せられ気絶したまま裸にされ、何処かへ連れ攫われた。
第二十一話 マリアがオルゴールを奏でる時 《クライマックス》
◆◆◆ シャルロッテ◆◆◆
不味い、気がついたら服を脱がされていた。
マリーネはまだ気を失っている、どうにかしなくちゃ…貴族云々より女として終わってしまう。
だけど、怖い…既に私は下着一枚身に着けていない状態だわ。
しかもこの馬車はかなり高級な馬車だ。
貴族にしてもかなり高位の貴族の物、多分恨みを買っていた貴族に誘拐された。
もしくは、私かマリーネに横恋慕していた貴族が『貴族籍を剥奪された私達』をおもちゃにする為に攫った。
いずれにしても…もう終わりだ。
相手は貴族で馬車には数人いる。
もう慰め物になる覚悟はした方が良いかも知れない…何でもして命だけはとられないように…
マリーネ、今の私には貴方すら助けられない…ごめんなさい。
宝石箱の件…ごめんなさい。
貴方は最後までつきあってくれた。
最後まで私に『様』をつけてよんでくれたのに…こんな事に巻き込んでごめんなさい。
うん…違うわ、えーと、何が起きているのかな?
気絶して様子を見ていたら…裸の後体中を拭き始めたわ…なっ汚らしいから、その後…けがわらしい事を….
可笑しいな、服を着せ始めている、これドレスだわ、しかもよく見たらこれやっているの、全員女性だ。
何がなんだか解らないわ。
「おや、気がつかれましたか?」
笑顔で女性が私に話し掛けてきた。
◆◆◆ドレーク伯爵◆◆◆
「それではお父様、お義母さま、私は先に行ってお待ちしております、あとでロゼを連れてきて下さいね」
「ああ、解った」
「貴方」
「皆迄いうな、悪いのは我々だ」
まさか、マリアが此処まで怒っているとは思わなかった。
確かに、あそこ迄奪われ続け、そして最後には『婚約者』さえも奪われたマリアが恨んでない訳が無い。
あの内容から考えたら『婚約破棄成立』『二人の婚約は有効』『謝罪はさせる』
此処に何か償いはあるのか? 謝罪だけじゃないか?
『爵位を無くし市民にする』そんなのは当たり前の事だ…元々二人には爵位継承権は無い。
そこから考えた、『婚約の際に納めた品を貰える』それしかマリアは手にしていない。
それにしたって、マリア個人としては使わない物も多い。
『責任もって次の婚約者を探す』…これだって実行は難しい。
フリードはあれでも伯爵家、そして今となっては何故と思いたいが『貴公子』と呼ばれ美しい少年だ。
今現在公爵家にも侯爵家にも婚姻の決まって無い男子はいない。
冗談でイライザ嬢が『私が男でしたら喜んで貰いましたのに』と笑っていたらしい。
ドリアーク伯爵はこの約束を果たせない事になる。
つまり、真面な謝罪になって無かった、これでは謝罪とは言えない。
だから、マリアはきっと王の前で決着をつけようとこんな大事にした。
これには俺たちに責任がある。
マリアがしたい様に余程の事じゃ無ければさせる。
そう、ロザリーと話し合い決めた。
◆◆◆ロゼ◆◆◆
今日初めて自分の立場を知った。
私はもう貴族でなくなるらしい…このドレスも宝石も、恐らくは『お姉ちゃんに返さなくちゃいけない』らしい。
その代り…フリード様との結婚は認められる。
解らない…なんで。
なんで…全部無くなるの…私はそんな酷い事したのかな?
『ただ、お姉ちゃんに甘えていただけだよ』それだけだよ。
フリード様…いえフリードがいけないんじゃないの?
酷い、酷い酷すぎるよ…しかもこれだでじゃない、これから王族の前でお姉ちゃんに裁かれる可能性が高いらしい。
多分、お姉ちゃんは私を恨んでるから….あはははっ終わりじゃない。
◆◆◆マリアSIDE◆◆◆
私マリアはは余り派手な事は好まない。
だけど、こうでもしないと『私の想い通りに出来ない』だからやるしかない。
最初のお願いは王族立ち合いの元に今回の話の決着を付ける事。
『やり過ぎもやらな過ぎも良くない』
政治的な事は『どうでも良い』私に絡んでいるぶんだけは『私が決める』
既に王様も王太后さまも来ている。
そして関係者も全員いる。
王様、王太后さまと目が合った。
すると王様は話し始めた。
「あー、今回の婚約破棄の件に関しては被害者であるマリアの意見が全て尊重される、今暫くの間は『マリアを王族扱い』とする良いな」
私はオルゴールのネジを巻き上げメロディを奏でた。
「ロゼ、貴方散々、欲しいなら欲しいと言えって言ったわよね」
「お姉ちゃん、ごめんなさい」
「お姉ちゃん言わない」
私はロゼの胸倉を掴みビンタをした。
「お姉ちゃん痛いよ」
可笑しいな、前にも私、ロゼにビンタした記憶が沢山あるんだけど…多分勘違いだわね【聖女】じゃないし。
「痛いのは当たり前、私が黙っていたから貴方は馬鹿になったのよ、これからはきっちりするわ」
「お姉ちゃん」
「しつこいな、何故か私…なんでもない『お姉さま』と言いなさい」
「お姉さま…私どうなるの?」
「はぁ~ビンタしたからこれで良いわ、ただ今後はお父さまもお義母さまもきつく指導しますから覚悟なさいね、勿論私も」
「それだけ?」
「そうよ、貴方が軟禁状態になってから直ぐに大切な物は回収したからこれで良いわ」
「お姉ちゃん」
「はいはい、終わり、次はフリードね」
「マリア、すまなかった俺は」
「はいはい、別に良いわその謝罪受け入れます、その代わり婚約破棄の償いについて要望を出します」
「何でしょうか? 何でも言って下さい」
「ロゼと結婚したあとは死ぬまで別れる事は許しません」
「死ぬまで…」
「はい、私との婚約を破棄してまで望んだロゼですもの、当たり前です、更にプラスして浮気も死ぬまで許しませんよ? あっこれは王の前での宣誓ですから、違えたら駄目ですよ、さぁ宣誓して下さい」
「解った、俺は死ぬまで浮気をしない、そしてロゼを生涯愛すことを誓います」
「そう、それで良いわ、フリードの話もそれでおしまい」
ロゼもフリードも初々しいですね、顔を真っ赤にして。
前世の記憶のある私からみたら…ライトノベルみたいですよ!うふふふっ。
「本当にこれでよいのか? 俺はお前を罵倒した、そして無実なのに俺は」
「あのねぇ~、人ひとり死ぬまで愛すって大変な事なの、それを宣言したんだからそれで良いわ」
王族の前で宣言したんだから『もう何がなんでも別れられないし、浮気が出来ない、貴族なのに愛人も持てないのよ』解っているのかな?
最も正義の味方の『貴公子』だからするわけないのかな。
まぁ良いや。
「そうか解った」
「これから結婚する二人にお姉さまからプレゼントです、フリードに騎士爵を授けます」
「「「「「「えーっ」」」」」」
《幾ら何でも可笑しい、王でも無いのに爵位なんて与えられる訳が無い》
「母と話し合い、今回特別にマリアに、騎士爵3名の授与の権利を与えた…但し、その爵位には王家への忠誠の他にマリアの家を親家、与えられた者は子家としマリアの家への忠誠も含まれる、領地はない…そして法衣貴族の役職の保証は無い」
《それでも破格値だ…保証は無くとも努力で役職に就く事は出来る…そして貴族で居られる》
「フリードは跪かないのでしょうか?」
慌ててフリードは跪いた。
「はっ、このフリード謹んでお受け致します、この身は国にそして貴方に生涯の忠誠を誓います」
「今から貴方は正式に騎士爵を授かりました『貴公子』の名に恥じぬ様に生きて下さい」
「はっ」
フリードとロゼを下がらせた。
お父さまとお義母さまが口をポカーンと開けて驚いている。
ドリアーク伯爵は、なんで泣いているのかな?
「さて、今度はシャルロッテにマリーネ、お久しぶりですね」
「お久しぶりでございます、マリア様、所で今日はどういう事なのでしょうか?いきなり馬車に乗せられ此処に連れて来られました、もしロゼ様絡みの事であれば私が謝罪します、だからどうかマリーネだけは許して貰えないでしょうか?」
「そんな事ありません、一緒にした事です、私も一緒です」
この二人は凄く優秀なのよね。
特にシャルロッテさんは、同年代ならイライザ様につぐ位と評判があるのよ…だから欲しいのよ。
「ご家族や他の令嬢は噂の範囲では随分幸せに暮らしているそうですし、他国に行かれたのでもう無視しても良いでしょう、他国に行くと言う事はもうこの国には仕えていませんからね…でも貴方達は国境のロストにいました」
「国外追放でもロストには居て良い筈です」
「私もそう聞いています」
青い顔しなくても良いのに…
「私思ったのですよ…今回の件は直接償って貰うのが妥当じゃないかって」
「それはどういう事なのでしょうか?」
「簡単です、貴方達二人を騎士爵とし爵位を授けます、ですが爵位は女性はこの国では持てませんので仮の騎士爵です、その代わり貴方達二人が婚姻をし男子が生まれたら、その子は正式な騎士爵として継ぐ事が出来ます、条件はフリードと同じで、この爵位には王家への忠誠の他に私の家を親家、貴方達は子家とし私の家への忠誠も含まれます、勿論領地はありません、貴方達には将来私の片腕になって頂き、差し詰め一つの役職について頂きます」
「また貴族に戻れるのですか、有難うございますこのシャルロッテ生涯の忠誠を国に王家にそしてマリア様に誓います」
「私の身は国に王家にそしてマリア様に生涯捧げます」
「共に頑張りましょう」
「それで、最初の役職は何でございますか?」
「何でしょうか?」
「ロゼの教育係です…お願いしますね」
今一瞬嫌な顔をしたわね…まぁあの事件は『騙そうとした彼女達』『馬鹿なロゼ』それによって起きた事。
償いと言うなら『馬鹿なロゼを真面にする』それで償って貰えば良いわ…これで良い筈だわ。
「「精一杯頑張ります」」
オルゴールの音色が止まった。
「マリア、それで良いのか?」
「よいのね」
「はい、王様、王太后さま」
「以上のマリアの裁きは王と王太后の名の元、正式な物とする、以後不満は一切受け付けない物とす…以上だ」
こうして、私が絡む話は全て決めさせて頂いた。
これが悩んだ末、私が考えた結論だ。
周りは『何故私がこんな事が出来るのか』驚いている。
ちょっと気分が晴れた気がした。
第二十二話 【幸運の女神の笑顔】の秘密
【幸運の女神の笑顔】という宝石箱にはもう一つの顔がある。
それは正当な所持者がこの宝石箱を持ちオルゴールを奏でる時に、オルゴールが鳴っている間『王族と同じ権利を持てる』
曲の長さは約7分、その間は『王族になれるのだ』
これは現王太后と王太后の父親である時の王の感謝の気持ちが込められている。
当時は他に王位継承権利者がいなかったことから解るかも知れないが…あの時マリアーヌが時間を稼がなければ『王家の血筋』は絶えていた。
その為『【騎士】の権限ですら足りない』そう考えた為に後からつけられた権利だ。
つまりこの宝石箱を使うには
マリアーヌの血筋を継ぐ者がこの宝石箱を使った時にのみ有効なのだ。
例え、国や教会の所有であっても『女神が与えた聖剣は勇者しか使えない』のに似ている。
この宝石箱の所有はドレーク伯爵家だが『マリアーヌの血を引くマリアしかこの宝石箱は使えない』
だが、この権利をマリアーヌや、その娘は今迄使った事は無い。
そしてこの秘密についてはマリアーヌからその娘、そしてマリアにのみ伝えられていて王族とその関係者しかそれは知らない。
今初めて、この権利は使われた。
自分の力ではどうすることも出来ないマリアは【この権利】に頼った。
そしてマリアは…今、王太后さまに会いに来ている。
【幸運の女神の笑顔】の正当所有者は【騎士】の権利も『所持している間は行使できる』その一つに王族に気軽に会える権利がある。
マリアがこの事を知ったのは、【幸運の女神の笑顔】を受け継いだ時に一緒に受け継いだ権利書によるものだ。
今回初めてこの権利をマリア行使した。
【回想】
「お初にお目に掛かります王太后さま」
「貴方がマリアなのね、どことなくマリアーヌに似ているわね」
「有難うございます」
「貴方が宝石箱を持って現れたと言う事は、頼みごとがある、そういう事ね」
「緊張しなくて良いわ…【幸運の女神の笑顔】の音色を聞かせてくださいな、そうそう頼み事も言って下さいな」
私は宝石箱のオルゴールを奏でた。
『この瞬間からマリアの扱いは貴族の娘から【王族】の扱いとなった』
「実は、私にお譲り頂きたい物が幾つかあります、それから幾つかのお願いがございます」
『【王族】になったからこそ一介の貴族が王太后に対してお願いが出来たのだ』
「そうね、譲って欲しい物3つは無償であげるわ、但し王では無いので一番下になるわね、お願い3つも聞きましょう」
『譲って欲しいとマリアの頼んだ物は『爵位』この国では王族であれば爵位は与える事は可能』
『但し、あくまで『王でなく王族』なので一番下の爵位に限定される…つまり騎士爵しか与える事は出来ないそれ以上は王族でも王の許可なくして与える事は出来ない。』
『願いについては』
一つ目は『自分の裁き』に王族に立ち会って貰う事
これは今回の件は普通では考えられない事なので王族の承認が必要とマリアは考えた。
二つ目は【幸運の女神の笑顔】に関わった者の行方についての調査…場合によってはその身柄の確保
三つ目は場合によっては『国外追放』の取り消し。
マリアとしては自分が望んだ結末にはこれだけ必要だと考えていた。
※ちなみに貰える爵位の数の3つは直前まで解らなかった、爵位が1つならフリードだけ、二つならフリードとシャルロッテにと考えていた。
他にも令嬢が多くいた場合は『シャルロッテ』を中心に迎え入れる様な事を考えたいたのかも知れない。
「有難うございます」
「良いのよ、ですがこれからはもう少し王宮にも顔を出して、貴方は親友の孫娘なのよ? プライベートではお婆ちゃんと思って貰っても良い位なのよ?」
「解りました、出来る限りその様にさせて頂きます」
「うん、本当に良い子ね」
私は暫く王太后さまと時間を過ごしてから『家』に帰ってきた。
それから暫くすると王宮から手紙が届いた。
王太后さまにお願いしていた一つのお願いを聞いてくれた内容だった。
『この内容は【幸運の女神の笑顔】に関わった者の行方についての調査…場合によってはその身柄の確保』
そしてもう一つのお願いを聞いて貰える日時も書かれていた。
『この内容は『自分の裁き』に王族に立ち会って貰う日時』
これで準備は整ったわ…後は『どうでも良かった自分』なりの決着を付けないとね。
マリアは手を握りしめた。
◆◆◆王太后.王SIDE◆◆◆
「母上、マリアはマリアーヌ様に似て良き子でしたね」
「そうね、まるで若き日のマリアーヌを見ている様だわ…貴方も王になったのですからおいそれと『様』をつけてはいけませんよ」
「何をおっしゃいます、あの方は私にとっては母も同然『様』をつけるのは当たり前の事です」
「まぁ、マリアーヌが居なければ、私も貴方も居なかった、そう考えれば『その通りですね』」
「はい母上」
「しかし、まさか【幸運の女神の笑顔】を使うなど思いませんでしたね」
「そうですな…あれは諸刃の剣、正しき心で使わないのなら『王』として殺さなければなりません」
「そうですね、それがマリアーヌがあの権利を貰った時に望んだ条件ですものね」
「あの齢で使うののには驚かせられました」
「正直いえば『正しく』使った事にホッとしているわ」
「そうで無ければ、例え恩人の孫娘とて殺さねばなりませんでした」
「まぁ良いわ、私はあの子を凄く気に入ったのよ、本当にマリアーヌそっくり」
「母上が気に入ったなら問題はありませんね」
「ええっ」
マリアーヌは【幸運の女神の笑顔】のこの特別な権利を最初受け取らなかった。
受取る条件として、この宝石箱を悪い事に使った場合は『願いを叶えた後殺す事』その条件を自ら望み、それで初めて受け取った。
【王族で居られる時間はオルゴールがメロディーを奏でている時間のみ】音が切れたら、その権利は消える。
つまり、願い事やその身を守れるのはメロディーが奏でられている間のみ…それを過ぎたら元に戻る。
メロディーが途切れてゼンマイを巻くまでの時間は、その権力は行使されない。
その時にもし悪事につかった者は…許される事は無い。
作者から…どうでしたか?
新しく書き直した『妹に全部取られたけど、幸せ確定の私は「ざまぁ」なんてしない!【感情移入版(仮)』は如何でしたでしょうか?
前の作品と内容は殆どというか、ほぼ一緒です。
ですが、感想欄や皆様のアドバイスの元、ご意見に近い形に仕上げてみました。
訂正した所は
主人公や周りのキャラの感情表現
主人公が淡々としてのめりこめない…そこを無くすため、そこを訂正。
時系列の整理と長文ですが、回想をそれぞれのキャラにし、他キャラに替わる時等は◆◆◆を使いました。
元がクルクル場面が変わる作品なので、この位が、今の私の限界ですが…
見比べてみた感じいかかでしょうか?
もし宜しければ、どちらが好みか感想下さい。
今後の参考にさせて頂きます。