王子の言う様な甘い事は「悪役令嬢」はしません!
王立学園での生活も残す事後3か月となり、学園主催のパーティーが開かれた。
なんだか知らんが…面白い見世物が始まった。
「数々のロゼへの陰湿な嫌がらせ。申し開きはあるか、マリア」
ロゼへの嫌がらせ等、マリアはしていない。
俺はマリアに興味を持っていたから知っている。
どちらかと言えば、婚約者のエスコートもせず、平民のロゼをエスコートする王子の方に問題はある。
さぁどう出る…マリア。
「ロゼへの嫌がらせ…身に覚えは無いのですが?」
「身に覚えが無いだと! あれ程、陰湿な事をしながらお前という女は良心が全く無いのか!」
やって居ないのは知っている。
マリアとロゼの一騎打ち…どうなるのだ、ワクワク。
「フリードさま…本当に何の事か解りません」
周りは静まりかえり、生徒たちは距離を置いて三人を見ている。
誰もが、黙ってその様子を見ていた。
「待って、フリード殿下そんなにマリア様を怒らないであげて下さい」
「ロゼ、もう庇わなくて良いんだ、無視や取り巻きを使っての嫌がらせの数々、そんな陰湿な事を繰り返すような女なんてな」
フリード殿下の言葉を聞いた周囲が、ひそひそと話し出す。
誰もがマリアはそんな事をしていない…そんなのは知っている。
「俺は貴様のような女の婚約者であったことが恥ずかしい」
馬鹿だな王子は…謀略も出来ない、頭がお花畑の女に貴族は務まらないだろう!
「では、フリード殿下はどの様にしたいのですか!」
「黙れ! 気安く俺の名前を呼ぶな!」
「そうですか、ではどのようにしたいかお決め下さい…」
殿下は雰囲気に酔っているのか、両手を広げて声を上げる。
まるで舞台に立つ役者のよう。
「今日この時より、フリード・ルーランはマリア・ポートランドとの婚約を破棄する!…そして、俺は、代わりにロゼとの婚約を宣言する」
「それは王や王妃様もご存じなのでしょうか?」
知っている訳無いだろうな…こんな馬鹿な話したら廃嫡されるよ。
「まだ、知らせていない..だが」
「まどろっこしいです…王家として正式のお言葉か聞いております」
此処で聞き返すのは当たり前だ。
「貴様、元婚約者とは言え、不敬だが…良かろう王家として正式の言葉として伝えよう」
此処まで王子が言うのなら僕がマリアの弁護をしよう。
まぁ…好みでは無いが、幼馴染で学友ではある
「フリード様…マリアは無実でございます!」
「いい加減な事言うな! 幾らハイドマン公爵家の息子でも嘘はゆるさんぞ!」
「ならば証明してみせます…まず、マリアは悪女ではありません…あと証明の際に多少の無礼はお許しください!」
「証明できるなら証明してみろ!」
「では、御免!」
僕は、持っていた小瓶の蓋をあけ…ロゼにぶっかけた!
「なっ、何! うわぁぁぁぁぁぁぁっ痛い、痛い..熱いわ痛い…助けて、助けて!」
ロゼは顔を押さえて蹲っている。
当たり前だ、僕がかけたのは硫酸なのだから。
「貴様! 何をロゼにした!」
「何って、硫酸をかけただけですが?」
「フリード…さ..ま..たすけて」
ロゼは顔をあげ、フリードの方に振り向いた。
「うっ」フリードは目を背けた。
周りの者も目を背ける…そこに居たのはまるで化け物のように顔が焼けただれたロゼなのだから。
「あーあ、フリード様にも見捨てられて可哀想に…殺してあげるよ!」
流石に可哀想になりナイフで胸をついて殺してあげた…
すぐそこに、元は愛らしい少女だったロゼが化け物の様な姿になって死んでいる。
ようやく、此処でフリードの頭が正常に戻った。
「貴様、ロイド、ハイドマン…最愛のロゼに何たる仕打ちを死刑にしてやる」
「お戯れをフリード様…私は幼馴染のマリアの無罪を晴らしただけでございます」
「これが何処が証明になると言うのだ!ただ目の前でロゼを殺しただけじゃないか?」
「それでは説明させて頂きます…王子は女性に夢を持ちすぎです! 更に言うなら貴族、とりわけ女貴族の残酷さを知らな過ぎです」
「お前は何が言いたいのだ! はっきり申せ!」
「いいですか? マリアは貴族の女でございます、本気でロゼが気にくわないなら、まずは人を雇って輪姦させます! その上で乳房を斬るなり、顔を斬るか、片目を潰して犯された女として周知に知れ渡る様にする筈です、人の手がついた女を王族は妻には出来ませんからね! もしくは今私がしたように硫酸を掛けて顔を二目と見れない顔にするか、手っ取り早く殺すか…いずれにしても王子が言っているような稚拙な嫌がらせ等はしません」
マリアは茫然として僕を見ている。
フリードは化け物を見るような目でマリアを見ていた。
「そんな馬鹿な話があるか…世迷言だ!」
「そう、思うなら王妃様に聞いて下さい! 恐らくは貴族の女として普通にある、そう答える筈です!」
「だが…その様な事は俺は知らない…」
「気がつかれずにするからこその貴族なのです! 良いですか? もしマリアが出来ないと言うのを主張するのであれば、幼馴染の私に命じぬ訳はありません! あの様な清らかな体で、顔も綺麗な状態であそこにロゼが居たのがマリアが虐め等していない証拠でございます!」
「お前の言い分は解った…だがロゼに此処までする必要は無かった筈だ」
「お戯れを!「証明の際に多少の無礼はお許しください!」と私は伝え許可を得ました! 平民1人の命なんて些細な事ですよ? しいて言えば「王子の目の前で殺した」これが無礼になると思い、先に許可を得ました」
「あああっ…お前らは血も涙もないのか?」
「それが貴族に御座います、平民の命など犬と同じでございます!」
王子が化け物を見るような目で周りを見ている。
「他の者も同じ考えなのか?」
公爵家を恐れて何も答えない…どっちに着いても良い事は無いから沈黙…貴族として当たり前だ。
「王子、今回の件で恐らくマリアとの婚約は無くなるやも知れませぬ…ですが貴族の女は皆、魔物、そういう考えもお持ち下さい!」
フリードは目から涙を流しながら、周りの者を化け物でも見るかのような目で見ながら体を震わせ立ち去った。
ポンコツは要らない…欲しいのは悪役令嬢だ!
「ロイド、一体お前は何をやらかしたんだ!」
態々、学園まで父上が来るとは思わなかったな…誤算だ。
「いえ、別に…幼馴染のマリアが危ない所だったので救ったまでの事です!此処に来ると言う事は父上もご存じのはずでは!」
「大体の事はもう知っておるわ…だが問題が多々起きたから態々ここ迄来たのだ!」
まぁ公爵なのだから知らない訳ないだろうな。
「お父上も大変ですね!」
「お前のせいだろうが…まぁ良い! それで良い知らせと悪い知らせどちらから聞きたい?」
はぁやっぱりな、正直メンドクサイ!
「まずは、お褒めの言葉だ! 王妃様とポートランド家から事態のお礼の手紙が届いていた」
「良かったではありませんか!」
「問題は悪い方だ! まず、今回の話でフリード殿下とマリア嬢の婚約が流れたのだ!」
あれで続けると言ったら、それはそれで面白いのに。
「まぁそうでしょうな!」
「問題はそこからだ、フリード殿下は自ら「廃嫡して残りの人生を聖職者として生きたい」そう王に言い出したそうだ」
「良いではありませんか! 第一王子じゃないんですから!」
「仮にも王族の一生を変えてしまって顔色一つ変えない、我が息子ながら恐ろし事を平気で言うな!」
「それだけでございますか?」
「それだけじゃないポートランド家からは「娘を助けてくれた事は感謝する! だがこれではもう貰い手が無いでは無いか!」と言う話を当主自らが文句を言いにきた」
「「国外追放になる所を助けてあげたのに恩知らず!」そうお伝えください!」
「それでな、マリア嬢をお前の婚約者にという話があるのだが…」
「お断り下さい! 私めの縁談は王妃様にお願いしております!」
「そう言うと思うから此方からお断りしたが、はぁ~何でお前は「悪女」を望むのだ…縁者にはその様な者は居ないと言うのに!」
「ならば父上に申し上げます! あの様な頭がお花畑では領地を、しいては国を守る事など出来ません…謀略の一つも出来ないようでは」
「ええい解ったわ…どこで覚えたのか、そのお花畑と言う言葉! だがな、今は平和なのだ! この国を脅かす様な者は何処にもおらんと言うのに必要無かろうが!」
「私には私の考えが御座います…これだけは父上でもお譲り出来ません」
「ええい、解ったわ! だが、我がハイドマン家で相手が決まって無いのはお前だけだ早々に相手を見つける様に!」
「心がけて置きます」
僕には誰も知らない秘密がある。
それは前世の記憶がある事だ。
その時までは普通に過ごしていたのだが、10歳の時に落馬をしてその時に前世の記憶が思い出された。
前世の記憶を思いだしたからと言って何かが変わる訳ではない前世が「剣聖」や「勇者」だった訳でなく、ただの学生なのだから。
ただ、そこで困った事が起きた。
それは「好みの女性」が変わってしまった事だ。
前世の僕は何処にでもいる普通の学生だった、だが変わった事が一つあった。
それは「ヒーロー」が嫌いな事だった。
大体のヒーローはリーダー格のレッドの人が熱血漢から馬鹿な事をやり冷静なブルーに迷惑を掛ける。
ヒーロ嫌いの僕がその中でも一番嫌いなのはこのレッド系のリーダーだ。
そして、時代劇を始め、殆どのヒーローは被害者に見合わない倒し方をして自己満足に浸る。
特に時代劇は酷い、妻が犯され挙句子供ともに殺されるのに、悪人は殺されるだけ。
大好きな旦那が無惨に殺され、子供殺され、そんな状態で殺しを依頼する為に自分は女郎に身売り。
そこまでの想いで作ったお金で依頼した相手はただ、あっさりと相手を殺すだけ。
「地獄を見た分の復讐はされていない」
そう考えるようになってからは「ヒーロー」が嫌いになった。
その影響なのかどうか解らないが…清純なヒロインも徐々に嫌いになった。
大体付き合っても居ない男に焼きもちを焼いて泣き喚く「頭がお花畑」の女を好きになる奴が解らない。
「甲子園に連れて行って」そんな無茶な願いをされて頑張って甲子園に連れていって…そこからは今度は「優勝して」…バーカって言いたい。
弱小野球部でエースで4番…それで一人の力で甲子園で優勝したら…プロが涎を垂らしてスカウトに来る。
そこまで行けば、もうアイドルだって付き合ってくれるだろうよ、しかも大体がイケメンなんだから。
キス一つ「愛してます」で済ますなよ。
「命を助けて下さい!」巨大組織に狙われるヒロイン。
そんなヒロインを命懸けで助けているのに、シャワールームを覗いただけでビンタ…ふざけ過ぎている!
負けたら恐らく確実に殺されるのだから、「夜の相手」位好きなだけしてやれよ!
そう思ってしまう…虚しい…妄想ではあるが。
そんな考えがいつの間にか凝り固まり…危ないヒロインに惹かれるようになり…
気がついたら「悪役令嬢」に惹かれるようになった。
それも中途半端な者じゃない。
ライトノベルや乙女ゲーム出てくるような者じゃない。
昔の少女漫画に出てくる様な残酷な人。
蛇の様な狡猾さに鋭い目。
残酷な事を平然とやるその行動力。
そして残虐性…そんな本物の悪役令嬢に僕は憧れる。
そして今僕が居る世界は中世の様な世界。
絶対に謀略に優れて残酷な令嬢が居る筈だ。
そんな、「悪役令嬢」に僕は憧れる。
大輪に咲き誇り…悪の華を咲かせるそんな乙女に憧れる。
それが僕の理想の女性だ。
王妃様との邂逅
可笑しな事もある物ですね。
ここトリアノンに人が来るなんて!
しかも、相手が可愛らしい男の子なんて、普通に考えてあり得ない筈ですが!
「ちょっと、そこの貴方! 此処は貴族の子供と言えど立ち入り禁止ですよ!」
「すみません!フルール様、申し訳ございません…すぐに立ち去ります」
この時、私は何故此処に彼が居るのかが気になりました。
だから、ついお茶に誘ってしまいました。
まぁ、間違いなく逃げ出すでしょうね…まぁ何時もの事です。
「良かったらお茶の相手をして下さいますか? 此処は退屈ですからね!」
「喜んで、お相手させて頂きます!」
あれっ可笑しいですわね…ここトリアノンには用が無い方はまず近づきません。
私を恐れてメイドや執事すら最低限しか居ませんのに..
「そうですか! それなら少し私のお話相手をして頂こうかしら?」
「はい、宜しくお願い致します!」
「まぁ…それじゃ、これから支度をしなくちゃね…執事を呼ばないと…ちょっとお待ちになって」
本当に私とお茶をするとは思いませんでしたわ…
私はこれでも王妃なのですから怖い者知らずですわね。
本来なら、ここトリアノンに入ってくる事自体が問題ですが…それは「恐怖のトリアノン」ですから誰も文句言わないでしょう…
王妃が殿方と二人と言うのも問題すが…今の私には取り巻きすら居ないし、それに相手は子供です、問題も無いでしょう。
「有難うございます!」
「しかし、貴方は何者ですか? 此処はトリアノンと言うのはご存知なのですか?」
「申し遅れて申し訳ございません…王妃様、私はロイド、ハイドマン、ハイドマン公爵家の三男に御座います」
「まぁ、ハイドマン家の方ですの? それでハイドマン公爵家の方が私に何かあるのかしら?」
博愛主義のハイドマン公爵家の子供が何の用なのかしら?
「すみません…どうしても王妃様を一目見たくて! 隠れていました」
ああっ子供同士の肝試しみたいな物ね…私を一目見て帰っていく、まぁ何かの罰ゲームでしょうか?
「私を? それはどういったおつもりで? 仮にも公爵家の者が問題になりますよ!」
まぁ、問題にはしませんが…所詮は子供のした事です。
「そのですね…王妃様が話で聞いた限り、私の理想の女性だったので一度お会いしたかっただけです!」
「まぁ、私がですか? それはどういう意味かしら?」
寄りによって私が理想?
そんな馬鹿な事はありませんわね…
「そうですか? 冷血王妃、拷問王妃…そう言われて王すら近づいて来ない私が理想ですか?…なら私の魅力を5つ答えなさい! それが出来たら褒美をとらせましょう! 出来なければ解りますね?」
「そうですね!」
外見なら、冷たそうな人を射るような目が素敵です。
流れるような黒髪も凄く綺麗です。
国を愛し、国の為に人生を捧げる生きざまが素敵です。
目的の為に手段を選ばず行動する姿は、まるで戦女神です。
拷問とは強い心が無いと出来ません、その心の強さが素敵です。
そして、その美しさと強さを持っているのに一人の殿方に生涯を捧げたその姿は..
「あはははっもう良いわ、5つと言ったのに6つめよ!」
この者が何か魂胆があって此処に来ている、そう読んだのだけど…違うわね。
目を見て話せば解るわ…本当にこの子は私を恐れていない。
しかも、手や体の動きに恐怖が微塵も無い。
頬を赤くして顔から汗迄かいていますね…こういう感情を私に向けたのは「私を知らない者」だけ。
此処まで私を知っていてこんな、好意的な目を向けるなんて驚きですわね。
「貴方の魅力を上げろと言うなら100でもあげられます」
「そうですわね…褒美を取らせる約束でしたわね、それじゃ此処トリアノンへの出入りを正式に許可しましょう! 後は貴方の希望を一つ聞きましょう? 叶えるかどうかは解りませんが」
「それでしたら、私はまだ婚約者が居ません、王妃様の方で、昔の王妃様の様な女性を紹介して頂けませんでしょうか?」
昔の? 冷酷! 残酷! 悪役令嬢、その者の私ですか…
「それは、外見だけの事ですよね…」
「さっき私は王妃様の美点をお褒めしましたよ! 勿論中身まで同じような方が理想です」
「そう…解りました、心がけておきましょう!」
本当に変わっていますね…彼が私の傍にいたらこんな孤独は味わなかったかも知れません。
しかし、私みたいな「悪役令嬢」ですか? こんなに平和な時代に居るのですかね?
弟子の様な者が居れば良かったのですが…まんまと逃げられましたし..
「有難うございます」
真に私を理解するのなら骨を折って見るのも悪くはありませんね。
ヒロイン登場
何でだ!
この明らかに乙女ゲーモドキの世界で「悪役令嬢」が何処にも居ないなんて!
一人位居るだろう…そう思って探したが居ない。
「ケビン…何処かに性格の悪い令嬢は居ないだろうか?」
「マリア様位しか思いつきません!」
「マリアが?」
「はい、何でも目的の為には相手に硫酸を掛ける様な性格だそうですよ!」
それは俺がやった事の風評であって真実ではない。
「他には誰か思い浮かばないか?」
「精々が、多少の意地が悪いだけで、ロイド様の言う様な者は知りません!」
どう考えても可笑しい。
貴族社会なのに、何処にも「それらしい令嬢」が居ない。
何で悪役令嬢が何処にも居ないんだろうか…可笑しすぎるだろう!
その頃、王妃フルールは悩んでいた。
昔なら兎も角、今は平和。
昔なら、謀略にたけた者で無ければいけなかった。
下手に吐出していれば「目に付けられる」貴族の家同士が爵位を上げる為、手柄を奪い合い、そして裏では暗殺もあった。
勿論、女の戦いもすさまじく、裏では足の引っ張り合いや場合によっては毒殺、暗殺なども多々あった。
だが、今はそんな者は居ない。
その理由は簡単だ、その戦いを制したのが私だからだ。
そう、今の王を王に付ける為に、毒殺、拷問、暗殺私の手は沢山の人の血で濡れている。
そんな私に対する…周りの人間の感情は「恐怖」だった。
王にしても、「血に濡れた妻」よりは側室を迎えて子供を作った。
まぁ、あの方の私を見る目は恐怖その物だから仕方ありませんが…
フリードなんかは、本当に父親にそっくりだわ…側室のマリアンヌが言わないから私が「普通にある事です! 私だって王を王にする為に何人殺したか解らない」と言ったら、部屋に引き籠って出て来なくなったわね。
多分、あの子はもう結婚が出来ない可能性があるわね。
さて、そんな私を「理想の女性」と呼んだロイドの婚約者候補ですが、ここトリアノン以外には何処にも居ませんでした。
此処になら私と共に「王の為に戦った仲間」が居ますが、流石にあの齢の子に30歳の女性を紹介する訳にはいきません。
流石に請け負ったからには「居ません」とは言いにくい…仕方ない彼女を紹介するしかありませんね。
「レミ、貴方ももう年頃ですから婚約者が居ても良いかも知れませんね!」
「王妃様、私に婚約者をご紹介頂けるという事は…私も王妃様の様に狂い咲いて良いのでしょうか?」
「ええ構わないわよ」
私の手足の様に働いて、暗殺や汚れ仕事をしていた「黒騎士」二人の娘。
貴族だろうと何者だろうと私の直轄で殺してきた「黒騎士」その中の2人。
平和な時代が来たから爵位でもあげて労おうとしたら、最後の最後に私に黙って王弟を殺してそのまま去っていった。
勿論、黒騎士がやった事だから証拠など何処にもない。
なのに、「自由が欲しい」と去っていってしまった。
そんな二人のうちの一人の彼女が病に侵され、最後に頼ってきたのはこの私だった。
「あの時の恩賞がまだ頂けるなら、この娘をお願いして宜しいでしょうか?」
流石の黒騎士も病には勝てなかった。
「アランはどうしたの?」
「先に病で死にました…恐らく私もそう長くはありません…」
この二人が私の下に居なければ、私は王妃になれたか解らない。
「良いわ、私が手元に置いて面倒見るわ」
「ありがとうございます…ご迷惑をお掛け致します」
そうして彼女は去っていった。
私は、この子の名前をレミに変えてこのトリアノンで育てた。
子供の居ない、私には丁度良い子供代わりだった。
だが、この子は…異常だった。
あんな幼い子供が「両親の生き方」をちゃんと知っていたのだ。
此処を去った後も二人は危ない仕事をしていたらしい。
子供が喜ぶ昔ばなしよりも、残酷な話や、私の過去の話を喜んで聞いた。
聴いた事は全部自分だったらどうするか? しっかり考えていたわ。
そして、レミは昔の私すら超える程の「悪役」になっていった。
最も、まだバージンだ。
此処で言うバージンは性的な事じゃ無く人を殺していない…そういう意味よ。
だけど、彼女は此処を出たら確実に人を殺すでしょうね…
私の様に「目的を持った悪役令嬢」じゃなくて「その方法を試したくて堪らない悪役」なのだから。
この部屋には猛毒を持った、ジャコウ蛇が飼育されている。
噛まれれば3分と待たずに死んでいく毒を持つ蛇。
その蛇を手に絡ませながら、可愛がる姿は正に人間でなく蛇だ。
どんなカラクリで蛇が噛みつかないのか聞いてみたら。
「蛇は仲間を噛みませんわ」答えた。
本当の所は解らないけど…私にはこの愛らしい笑顔のレミが…蛇の様に見える時がある。
偶に思うのよ…もしこの子が同じ世代だったらどうなったのかなってね。
殺し合うのか…それとも背中を預ける最高の仲間になるのかとね…
でもどちらでも構わないと思う…殺し合うなら最高の殺し合いが! 仲間なら最高の友情を育む事が出来たかも知れない。
猛毒を持つジャコウ蛇をまるでペットの様に可愛がる「悪役」それがレミ。
これ程の悪役を何故さっさと紹介しないのか?
ちゃんと訳はあるわ。
まず彼女は「悪役」であって「悪役令嬢」じゃない。
これは簡単、私は王妃なのだから、理屈をつけて彼女に爵位を貰えば良い。
彼女の親が「黒騎士」だった事を言えば、王ならくれる筈だ。
問題はもう一つ…ロイドはハイドマン公爵家の三男。
レミがたかが三男の嫁では収まる訳がない。
まず、長男、次男をどうにか排除して、ロイドを公爵家当主にする為に謀略するだろうし、場合によっては公爵も殺す。
それを解っていてロイドは私に「私の様な婚約者」を望んだのだろうか?
まぁ、望んだのだから、別に良いわ…よね。
顔合わせ
王妃フルールはレミに王から「準女男爵」の地位を貰い受け、自分が持っている領地のうち価値の無い物を与えて、貴族令嬢に仕立てた。
「なんだか貧乏くさい気がします」
「どうせ、貴方の事だから、直ぐに上がってくるでしょう」
「良くお解りですね!」
この子に与える物は最低で充分です。
何故なら、そこから上がって来る筈ですからね。
「それじゃ、お見合いを設定して宜しいかしら?」
「此処から出して貰えるならそれで良いわ! それに王妃様が私に紹介する位なのだから、私の好みでもあるでしょうからね?」
「そう、なら紹介するわ! 貴方が何処まで来れるか見ものね…楽しみにしているわ!」
「しかし、本当の変わり者ですね!ロイド様ですか? 私を娶ると言う事は家族が死んでいく、そういう事なのに大丈夫ですか?」
「さぁ? ですが、理想は昔の私らしいから、その位は覚悟をしているでしょうね! その言葉が嘘ならば殺して貰っても一向に構わないわ」
「ならば、安心ですね!」
初めての顔合わせは此処トリアノンで行われた。
初めて見たレミは正に令嬢そのものだった。
まるで太陽の様に美しく綺麗だ。
この娘が、本当は残酷な面を持っているなんて誰もが信じないと思う。
小説の世界なら、間違いなく悪役令嬢では無くヒロインだ!
だが、昔の「悪役令嬢」はこれなんだ!
誰が見ても悪役令嬢で無く、綺麗な美少女!
野に咲く様な花じゃない! 本当の悪という物は温室の中で綺麗に咲き誇る! 正に彼女こそがそれだ。
「どうかされましたか? ロイド様!」
「いや、正に理想の方だと見惚れていました!」
「この分なら、問題は無さそうね!」
「王妃様、理想の相手をご紹介頂き有難うございました!」
「それで、レミにとってはどうかしら?」
「私みたいなのを妻に望むなんて禄でも無い男かと思っていましたが、容姿も綺麗で私好みです…ロイド様が宜しければこの話を進めて下さい」
僕が断る訳が無い。
やっと見つけた本物の「悪役令嬢」僕にとっての本当のヒロインなのだから!
終わり
レミとの婚約はあっさりと決まった。
得体の知れない令嬢なので少し渋られたが紹介が王妃様である事もありつつが無く決まった。
今日の朝、兄であるアーノルドが落馬で亡くなった。
乗馬の達人でキツネ狩りを良く楽しんでいたアーノルドがこんな事で死ぬとは思えなかった。
何が原因なのか調べてみたが特に問題は起こらなかった。
そのまま事故として片づけられた。
それだけなら、只の事故かも知れないが…それから1週間もしないで今度はもう一人の兄ツオールが死んだ。
死因は蛇に噛まれた為だ。
庭を散歩中に毒蛇に噛まれて、それが原因で死んだ。
二人の兄には許嫁は居たが、まだ婚姻をしておらず、勿論子供も居ないから自然とハイドマン家の跡取りは僕になった。
それから暫くして父上が死に、母上が死に、そのまま僕がハイドマン公爵となった。
家族が亡くなり、部屋ががらーんとしてしまった為に、レミとの婚姻を急ぎ家族になって貰った。
何が起こったのか僕は知っている。
恐らく、レミが暗躍していたのだと思う。
だが、それを口にしてはいけない。
「どうかなさいましたか?」
「いや、レミは私の理想通りの女性だと思ってね」
「そんな事言われたら照れてしまいますわ」
家族に対して愛情が無いのか? そう思うかも知れないが….悪役令嬢が好きな方が勝った。
それなりに愛情があるが、その誘惑には勝てなかった。
そう考えると僕は頭が可笑しいのかも知れない。
家族の命より彼女を取ったのだから。
そしてそれから暫くして僕はトリアノンへの出入りを禁じられた。
「これからは貴方は敵側の人間ですからね」とフルール様が言っていた事から…次のレミのターゲットは王家なのだろう。
確かに我がハイドマン家は王家の庶子が始まりだ…かなりの人数が死ぬことになるが、可能性がゼロでは無い。
それから暫くして再びトリアノンへの出入りを許されるようになり…それから暫くして僕の王家への養子入りが決まった。
勿論、それまでに沢山の王族が死んだ。
だが、僕はその事を気にする必要は無い。
僕の愛すべき「悪役令嬢」がした事なのだ。
ただ、最近は困った事がある
それは
「ロイド、今日は高級なお茶が手に入ったのよ…皆でお茶にしましょう!」
「良いですね! 王妃様」
大好きな「悪役令嬢」二人が家族になった。
だが、この二人が僕の知らない所で戦っていないか…それが凄く心配だった。
大好きな「悪役令嬢」に囲まれた幸せな生活を今日も送り続ける。
あとがき
拙い文章を最後まで読んで頂き有難うございました。
残酷な悪役令嬢を旨く書きたかったのですが結局上手く書けませんでした。
また何時か実力着けて再度このテーマに挑んでみたいと思います。
有難うございました。
石のやっさん