静かにしていたのには訳がある。俺を愛さない女はいない。俺に勝てる存在は多分居ない。ただ人生に疲れていたのに異世界転移、溜息しか出ないな。

いつもの日常
俺ははいつもの様に授業を受けていた。

どこにでもある何時もの光景。

この学校は進学校ではない、かといって不良校でもない。

皆んなは、普通に授業を静かに受けている。

そして、授業が終わり昼休みがきた。

仲の良い者同士が集まって昼飯を食って、その後は仲の良い者同士で集まって楽しそうに話をしている。

俺はというと弁当を急いで食べると、教科書を枕に寝ていた。

別に虐めにあっている訳でもない。

仲間外れにあっている訳でも無い。

多分、おれは醜いから他の学校なら虐められても可笑しくない。

だが、このクラスの皆はそんな事しない。

皆は俺の事情を知っているので放って置いてくれているだけだ。

「なぁ、鏡が寝ているぜ、静かにしてやろうよ」

「鏡君、大変だもんね…あっちにいこうよ」

そう、あくまで俺の睡眠を妨げないようにしてくれているだけだ。

何故、そうしてくれているのか?

それは、俺が苦学生だからだ。

俺の両親は、子供の頃、交通事故で亡くなってしまった、対外的にそうなっている。

幸い父方の祖父母に、引き取って貰えたけど、このご時世、普通の老人は暮らすので精一杯だ。

二人は優しく僕に接してくれる…だがお金の余裕は無い。

「「お金の事は心配しなくて良いぞ(のよ)」」

そうは言ってくれるけど、家計が苦しいのは解りきった事だ。

年金暮らしできついのに高校に行かせてくれる。

そして、足りないお金を稼ぐためにバイトやパートをしている祖父母。

少しでもお金を稼いで楽をさせてあげたい。

だから、俺は高校に通いながら働く事にした。

俺は「高校を辞めて働く」と言ったが、祖父に怒られた。

そして「働くのは良いが、高校は卒業しなさい」そう祖母に言われ今に到る。

最初は皆が醜い俺に話し掛けてくれていたし、遊びにも誘ってくれていた。

だが、僕の事情が解ると、今の様になった。

みんなは俺に優しい。

俺が放課後、倉庫整理の夜勤で働いている事を知った結果、勝手に担任とクラス委員が話して、僕は放課後に残らなくてはならない日直は免除された。

同じく、放課後に残る掃除当番も免除だ。

そして、僕が少しでも休めるようにうちのクラスの人間の多くは、休み時間なのに騒がない。

正直済まない気分で一杯だ。

だが、そう思う反面《普通に接して欲しい》そう思う俺が居る。

多少体がきつくても義務である、日直や当番をしたかった。

義務を果たして普通の生活を送りたかった…出来る限り普通でいたい。

それが俺の望む事だ。

《皆んなから可哀想な子》そう思われているような気がして仕方が無い。

ただでさえ、俺は孤独だ、だがその行為で俺はより一層、孤独だと思うようになった。

転移
その日もいつものように教室で寝ていた。

昨日の倉庫整理は大物が多くて疲れた。

そのせいで熟睡していたようだ。

だがこの日はいつもと違っていた。

「鏡、起きろ」

「鏡くんで最後だから早く女神様の所にいって」

「えっ女神様? 何が…」

「鏡が寝ているときに異世界の召喚に呼ばれたんだ、そして今は異世界に行く前に女神様が異世界で生きる為のジョブとスキルをくれるって。」

「冗談は…」

僕は周りを見渡した。 白くて何もない空間のようだ。

嘘ではない、俺をだますためにこんな大掛かりな事はしないだろう。

「それじゃ、先に行くぞ、お前もジョブとスキルを貰ったら来いよ」

そういうと彼らは走っていってしまった。

どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に転移していくみたいだ。

俺は、女神様らしい女性のいる列に並んだ。

次々にジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後の俺の番がきた。

だが、ここで急に女神様がおかしな事を言いだした。

「あれっおかしいな、ちゃんと人数分ジョブとスキルは用意したはずなのに…なんで一人分足りないの?」

「あの、女神さま?」

「あっさっき寝ていた子だよね? ほかの子が「アイツ疲れているから寝かせておいてあげて」というから寝かせて置いたんだけど、事情は解らないよね?」

「はい」

この女神様大丈夫か?

「簡単に言うと、異世界で魔王が現れ困っている、そしてその国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとした…ここまでは解る?」

「何となく小説とかで読んだ話に似ています」

「うん、同じような小説が最近はあるよね! まさにそれ! それで私は女神イシュタリカって言うんだけど、そのまま行ってもただ死ぬだけだから、向こうで戦ったり暮らせるようにジョブとスキルをあげていたんだけど…」

「そうなんですか?」

「困った事に一人分足りないのよ…そうか解ったわ…担任の分が計算に入ってなかったんだ…失敗した」

「あの、女神様?」

「あのさぁ…ごめん、君の分のジョブとスキルが無い…どうしよう?」

「俺に聞かれても困ります」

「そうよね..困ったわ…このままだと君だけ何もない状態で行かなきゃならなくなる」

「元の世界に戻すのは?難しいですか」

「この魔法はあの場に居た全員に掛かっているから無理だわ…」

「そうですか…じゃぁ俺だけ何もない状態で行くしかないんですね」

《普通はこの状態だと泣き喚いたり、罵倒するんだけど何故、何も言わないの?》

「あの、ごめんなさい」

「良いですよ…俺が行かないと勇者が召喚できなくて国が困るんですよね? 俺が我慢すれば…それで助かるんでしょう?…行きますよ

《まぁ、良いや、何処に言っても構わない、祖父母が気になるけど、現状なら俺が居ない方が幸せだろう》

「あの、本当にごめんなさい..何かないかな..ごめん、何も無いわ」

「そうですか…仕方ないですね、ただ何も持ってない俺は役立たずだと思うので戦わないで良いですよね?」

「そうね、戦闘は多分無理ね、神託で貴方が非戦闘員なのは必ず伝えるわ…【翻訳】と【収納】はあるから生活はどうにかなります…本当にごめんなさい!」

「謝らなくても結構ですよ」

「何も渡せなくてごめんなさい、鏡鏡一、あなたのご武運を祈ります」

こうして、最後の僕は異世界へと転移した

召喚された先で
俺が目を覚ますとクラスのみんなは既に一か所に集まっていた。

その前に、明かに中世の騎士の様な恰好をした人物がいて、その先には綺麗な少女と多分王様なのだろう、偉そうな人物が椅子に座っていた。

「最後の一人が目覚めたようです」

騎士の報告を受け、王の前にいた美少女がこちらの方に歩いてきた。

「ようこそ、勇者の皆さん、私はこの国アレフロードの王女マリンと申します、後ろ座っているのが国王エルド六世です」

担任の緑川が代表で一歩前に出た。

「こちらの国の事情は女神様に聞きました。そして我々が戦わなくてはならない事も…だが私以外の者は生徒で子供だ..できるだけ安全なマージンで戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにして欲しい」

「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」

「解りました、それなら私からは何もいう事はありません、ほかのみんなはどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞くんだぞ」

同級生が色々な事を聞いていた。

どうやらここは魔法と剣の世界、僕の世界で言うゲームの様な世界だった。

クラスメイトの一人工藤君が質問していた。

「ですが、僕たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かにジョブとスキルを貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」

「大丈夫ですよ、ジョブとスキルもそうですが召喚された方々は召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」

「それなら安心です…有難うございました」

さてどうしようか?

取り敢えず、クラスの皆の雄姿、周りにいる騎士の雄姿も目に焼け付けておこう。

「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください…測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」

俺は測定が不安で仕方なかった。…何故なら俺だけ自分のスキルやジョブが無いからだ。

まぁどうにかなるだろう。

こんな物か?
その後すぐに水晶による能力測定の儀式が始まった。

これは異世界から召喚した者たちのスキルとジョブ、能力が見て取れるものだそうだ。

俺はいつもの定番で一番後ろに並んだ。

測定を終えた者はみんな、はしゃいでいた。

「僕は賢者だった、しかも聖魔法のジョブがあったんだこれアタリじゃないかな?」

「私も魔導士だった、最初から土魔法と火魔法が使えるみたい」

「いいなぁ私は魔法使いだって、どう見ても魔導士より下よね、魔法も火魔法しか無いんだもの」

《そうか、てっきりみんな自分のジョブやスキルは解っていると思っていたんだけど、何を貰ったのかここに来るまで解らなかったんだ…測定して初めて解るのか、そういう事なのか》

「気にする事はありませんよ! この世界では魔法使いになるには沢山の修行をして初めてなれるのです。魔法使いでも充分に凄い事です。」

「本当? 良かった!」

会話を聞く限り、魔法使いや騎士等が多いみたいだが、それでもハズレではなくこの世界で充分に凄いジョブらしい。

そしてアタリが恐らく、賢者や魔導士なのだろうか、そう考えると大当たりは勇者、聖女辺りの様な気がする。

実際には、聞き耳を立てて聞いている限りでは、凄いと思えるようなジョブは今の所「賢者」と「魔導士」位しかでて無さそうだった。

「やった、私、大魔道だってさ、魔法も最初から4つもあるよ..当たりかなこれは」

《どうやら魔法を使う、最高のジョブは大魔道かな、そうすると賢者や魔導士は中アタリだな、大アタリは 勇者、聖女、大魔道、大賢者当たりだろう。大魔道のジョブを引いた平城さんを見た時に担当の人が驚いた表情を見せていたから》

《大当たりがどの位凄いのか知りたい》

「水上さん、大魔道なんて凄いね…俺はこれからなんだけど、どれだけ凄いのか気になるから教えてくれないかな?」

「鏡君かー 良いよその代わり鏡君の測定が終わったら私にも見せてね」

「うん、わかった」

「はい」

水上 綾子
LV 1
HP 180
MP 1800
ジョブ 大魔道 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、闇魔法レベル1 火魔法レベル1 風魔法レベル1 水魔法レベル1

「比べる人がいないから解らないけど..何だか凄そうだね」

「うん、何でも五大ジョブらしいよ!だけど、まだ他のジョブ 勇者も聖女も大賢者、聖騎士も出ていないから鏡君にもチャンスはあると思う」

「そうだね」

まぁ、俺はそれは無いんだけどね…俺は水上さんを見つめていた。

「うん? 私の顔をみてどうしたの?」

「何でもない」

「これは凄い、勇者のジョブがでたぞ」

《やっぱり、勇者は大樹が引いたな、そう考えるとそれぞれの性格を考慮してジョブが決まっている気がする、そうすると聖騎士が大河、大賢者が聖人、聖女が塔子かな》

僕の読みは当たった。

そしてとうとう俺の番になった。

「なんだ、これは一般人以下じゃないか?」


LV 1
HP 17
MP 14
ジョブ:無し
スキル:翻訳.アイテム収納

まぁ、何も貰わなかったからこんな物か。

鏡が自由を手に入れた日
異世界に来て補正が無いとこんな物なのか?

幾ら何でも低すぎないか?


LV 1
HP 17
MP 14
ジョブ:無し
スキル:翻訳.アイテム収納

俺のステータスはこれだった。

これ以上困らすのもいけないと思い、俺の担当の人に自分にが解かったステータスを教えた。

「異世界人でこんな低いステータスは初めてです。 しかも、なんのジョブもスキルも無いなんて、きっと間違いです、調べてみますからご安心下さい」

「ちなみにこのステータスだとどの位でしょうか?」

「村民や商人でもまだマシですね…10才位の子供位でしょうか? だから多分間違いだと思います」

「流石にそれはないでしょう?」

「私もそう思います。 だから調べてみます、ご安心下さい」

多分正しいのかも知れない。

過去を思い出せば、昔の人間の方が体が丈夫だった気がする。

約束だ…水上さんには見せないといけない。

「水上さん、俺のステータスなんだけど…」

「あっ鏡君も終わったんだね、どれどれ えっ本当なのこれ!」

「何かの間違いかも知れないっていっていたけど..たぶんこれであっていると思う」

「可笑しいよ、流石に普通の人の十分の一以下何て無いと思うから」

「他の人のステータスもそんなに高いの?」

「そうだね、さっき騎士の工藤君と魔法使いの法子のステータスを見せて貰ったんだけど…こんな感じだったと思う」

工藤 祐一
LV 1
HP 200
MP 50
ジョブ 騎士 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、剣術レベル1  水魔法レベル1

坂本 典子
LV 1
HP 60
MP 190
ジョブ 魔法使い 異世界人
スキル:翻訳.アイテム収納、火魔法レベル1 水魔法レベル1 

「そうなんだ、だったら一桁間違っていても可笑しくないかもな?」

まぁ、ジョブも無いから正しい気がするが…

「1人だけこんなに低いのは、絶対間違いだと思うよ」

「まぁ戦うだけが人生じゃないしね」

「そうかー大変だね、あっゴメン呼ばれたから」

「うん、引き留めて悪かったね」

「じゃぁね」

此処まで低いなんて….本来なら摘みだが、俺には関係ない

もし、本当だったら俺は、真面に何も出来ないだろう

まぁ、俺には関係ない。

寧ろ、現代社会に比べれば、凄く都合が良い。

その日の夜には予定通りの宴が行われた。

普通に立食形式でバイキングに近い感じだった。

幾人かのクラスメイトは貴族の方や王族の方としゃべっていたが俺は元から話す気が無いので、ひたすら食べる方に没頭した。

俺の部屋も他の者達と同じ待遇の1人部屋だ。

良くあるライトノベルにあるような差別は一切なかった。

次の日から魔法の練習やら訓練が始まった。

座学については一生懸命学んだ。

俺は【この世界で】知らない事が多いからありがたい。

そして、訓練は一緒に行っていたが初日からもうついていけなかった。

元々の能力差があるのだ無理だろう。

体を鍛えるつもりで頑張れば良い。

余りに俺の能力が低いので、一日訓練を休んで、さらに細かい測定ができるアカデミーで検査を受けた。

実際にはこの前の測定で解ること以外に 体力や耐性、防御力等の数値もあるそうだ。

異世界から召喚された者は、それら能力は確実に高いので測定はしないのが通例らしい。

殆どの者が例外なく訓練さえすればこの国の騎士や宮廷魔術師を超える能力を手に入れるのだそうだ。

だけど、俺は

「測定の結果、この国の平均的な15才位の男の子と同じ位ですね」

だそうだ、簡単に言うならこの世界の普通の人間と何ら変わりない。

良くあるライトノベルならここで仲間に見放されて殺されたり、国から追放されるのだろう、だが、そうはならなかった。

「貴方は前の世界では平和に暮らしていた、それを攫うようにつれて来たのは我々だ…気にする必要は無い…君がこの世界で生きて行けるようにバックアップしよう」

どこまでもこの国は優しかった。

座学は一緒だけどもう訓練は別だった。

他のクラスメイトは普通に剣を振れるのに、俺だけは未だに振れない。

それなのに、クラスメイトは何も言わない。

ただただ俺を気遣うだけ。

そして、俺だけが別に訓練する事になった。

それでもちゃんと騎士が一人ついて色々と教えてくれた。

そして一か月がたった。

クラスメイトはもうこの城の騎士すら相手にならない位強くなりレベルも5~10位迄上がっているのに、俺はレベル1のまま、何も変わらなかった。

それでも待遇はあくまでも他のクラスメイトと同じだった。

そして、今日僕は王女マリンに呼び出された。

「鏡殿、今迄調べてみたのですが、貴方の状態については何も解りませんでした」

「そうですか(良かった)…もしかしたら俺は、追放されるのですか?」

「そんな野蛮な事しません…私もこの国もそんな恥知らずな事はしません。 ですが、今の貴方には戦うという事は出来ないでしょう?」

「確かにそうですね」

「鏡殿は何かやりたい事や夢はありますか?」

「特にはありません」

「そうですか、父と考えた事をそのままお伝えします。良いですか?」

「はい」

《やっぱり何か不味い事になるのか?》

「まずはここに残って文官を目指すのはどうでしょうか? 幸い、座学は優秀で特に数学は秀でています。頑張れば将来、徴税管になれるかもしれません。」

「他の皆んなは?」

「明後日から演習に行きます…そしてその後はそれぞれがパーティーを組んで魔族との戦いに行きます…誰かが魔王を倒すまで帰ってきません」

「そうですか…」

「担任の先生からも頼まれました、貴方が困らないようにお城で面倒を見てくれないかと」

「そうですか…」

《皆、良い人ばかりだな》

「あの、城を出る事は出来ませんか?」

「外の世界は危ないですよ…考え直した方が」

「それでも俺は…外に出たいと思います」

「解りました、出来るだけ鏡殿の意見を尊重します、ですがバックアップはしっかりさせて頂きます」

そしてついに他のクラスメイトが遠征に行く日が来た。

俺はクラスメイトを送った後、城を出た。

頼んで、クラスメイトには俺が城から出て行く事は内緒にして貰った。

城を出るのにこの国が用意してくれたのは…

王からの推薦状…これがあればどのギルドにも入れるし、やりたい仕事があった場合は見習いや弟子からなら確実に採用してくれるそうだ。

支度金として金貨4枚…贅沢しなければ1年位暮らせるお金らしい

服を含む日用品一式

鋼鉄のナイフ…本当は剣をくれるつもりだったが俺には持てなかった。そうしたら、態々騎士用の剣を一本折って作ってくれた。

2本くれとお願いしたら2本貰えた。

どこまでもこの国は優しかった。

これは本当は感謝しなきゃいけないのだろう。

実際に俺も感謝はしている…俺が普通の人間ならきっとこのまま城に居たかも知れない

だが、外に出ればもう俺を知る人間は居ない。

これで、俺は…【本当の意味で自由が手に入った】

鏡一族
俺こと鏡鏡一(かがみ きょういち)には誰にも言えない秘密がある。

それは俺が鏡一族の末裔で最後の1人という事だ。

驚いたのは、女神が居て、人を鑑定する能力があったと言う事だ。

俺の名前は鏡鏡一で正しい。

名前には拘りがあり、ある時から常に鏡鏡一を名乗っていた。

勝手に俺の名前が解る様なシステムがあった…これによって俺の種族や能力がバレるのが怖かった。

3000年の時を生きる俺は人間で良いのか疑問に思ったが、モンスター扱いにはならなかった。

そして、俺の能力は…スキルやジョブには反映されていない様だ良かった。

鏡一族、その能力は、一度見た相手の容姿から能力、思考迄全部【写し取る事が出来る】事だ。

そして何時でも再現できることだ。

一度、写し取れば、何時でもその人間になれると言う能力。

ある意味反則的な能力だと思う。

例えば、目の前に魔王という存在が居れば、そのまま写し取れば【魔王】その者になれる。

性別すら超えて、美少女でも、美少年でも一度見たことがあれば誰にでもなれるのだ。

この能力は我が一族に【繁栄】をもたらした反面【滅亡】をもたらした。

古くはどんな強い騎士や武将であっても【全く同じになれる】から負けない。

それ所か、強い武将や騎士になってしまえば無双すら出来る。

男に生まれたら…味方には最強の仲間、敵には最悪の存在となる。

姿を自由に変えて無双する、某国の皇帝は最後には、鏡一族を恐れ…【化け物】呼ばわりして一族は国を追われた。

そこからは分散しながら、社会に隠れ住み生き永らえてきたが…見つかると大変になる事が多かった。

鏡一族は【男女問わず愛される】それは当たり前だ、彼等は自分が見た、どんな美女でも美少年でも男女の垣根なく成れるのだから。

しかも、容姿だけでなく【考え方】まで変える事が出来る彼等…【1人手に入れたら究極のハーレム】を手に入れたのと同じだ。

鏡一族欲しさに戦争が起きたり、沢山の命が奪われた歴史がある。

だが、鏡一族は幸せだったのか?

幸せに過ごした者は少ない。

ある者は、結婚相手に頼まれ次々に変身を繰り返し…自分が愛されているのか解らなくなってノイローゼになり自殺した。

それ以外にも…鏡一族を手に入れた人間は、他の人間が愛せないから【別れる時には無惨に殺される】そういう事も多かった。

俺は三千年近く、死んだ人間と次々入れ替わり生きてきた。

出来るだけ、平凡な人間や不細工、引き籠りに近い人間に成り代わって…案外、事故死した人間は多く少し前は簡単だった。

だが、今は色々な技術が進み、バレそうになった事も暫しある。

そういう意味では…この転移は幸せとも言えた。

両親は死んだ…実際は俺にとっての本当の両親では無い。

事故で死んだ三人親子の子供の死体を隠し…生き残った振りして、成りすましただけだ。

本当の母親はそれこそ、二千年前位に某国の国王の愛人として監禁されていた。

俺と一緒に逃げ出そうとして殺された。

父親は物心つく時には居なかった。

前の世界は戸籍や住民票、SNSに科学鑑定と住みにくくなってきた、目立たない様に地味に生きるのに俺は疲れていた。

その反面、折角慣れた世界から違う世界に来させられるのは、【また一からスタートか】と思うと溜息がでる。

お礼位はするか
俺は、マリン王女に少し時間を貰う事にした。

この国は凄く優しかった。

だから、一つだけお礼をしてから出て行く事にした。

「マリン王女様、もしかして足の調子がお悪いのですか?」

俺は彼女が足を引き摺るのを何回か見た。

恐らく気がつかれない様にしているが、観察していた俺にはバレバレだ。

王女の身分なら最高の治療が受けられる筈だ…それでこれなら、この国の技術では治せないのだろう。

「わからないようにしていていたのですが、鏡様には気がつかれてしまいましたね、昔落馬した時に痛めてしまいました、どんな治療師も治せないと言われまして…まぁ命には別条有りませんが、傷は見るに堪えない位の状態です…まぁ傷物です、そのせいで王女ですがまだ婚約者も…すみません話過ぎました」

鏡一族の家訓に【恩には恩で返せ、仇には仇で返せ】という言葉がある。

他のクラスの皆はこれから【魔王と戦う】という形で恩を返すが俺はしない。

ならば、他の形で返すべきだ。

「これから行う事は、偶々です、時間、方位、環境全てが整っていたから起こせる…そして二度目はまず起こせない」

「鏡殿、何を言っているのですか?」

「跪きなさい…人間の姫よ、女神降臨(嘘だけど)」

俺はこの世界に来る前から考えていた。

俺の能力なら見さえすれば【神】ですら写せるのか?

流石に神は無理だろう…そう思っていたが、勝ったのは鏡一族の力、女神イシュタリカにすら成れた。

俺の姿が女神イシュタリカへと変わっていく…

「あっ貴方様は女神様」

「正解…今は鏡の体を借りて顕現しています、ただあまり長くは居られないから、鏡のお願いを聞いて去る事にします…パーフェクトヒール、これで貴方の足は治りました」

「女神様、ありがとうございます」

「ああっ、これは凄く依り代に負担を掛けるので、私はすぐに去らないといけません、では」

そして俺は元の姿に戻っていった。(そう見せかけた)

「どうでしたか?マリン王女、足は治して貰えましたか?」

驚いている、驚いている。

「はい…ですが鏡様、一体貴方は何をなさったのですか? 貴方が今女神様になってあの、その」

「俺の特殊な能力【神降ろし】です、俺の一族は大昔、神官をしていたので稀に神様にお願いをして顕現して貰う事が出来るのです」

「ならそうです、お父様にお願いして神官になれば良いです、こんな事が出来るなら【司祭】になれば良いと思います、私からもお願いしてみます」

「それは断らせて頂きます。 この能力は不安定で滅多に成功しません、私の一族は【神を呼べるなら呼んで見ろ】そう言われ、失敗した為に追放、追われる事になりました」

本当は、こんな能力じゃ無く【鏡一族】だから追われたそれだけだ。

「何故ですか?」

「この能力は気まぐれ、恐らくは【神側】が今ならという時しか降臨してくれません、その為、生涯に数度しか起きない奇跡なのです」

「そんな貴重な物を私に使って下さったのですか?」

「時間や場所を選べませんから、恐らくこの世界に俺を送った女神様だから、少し縁があったのかも知れません、願ったら降りて来て下さいました…使えるのに使わないのは勿体ないですから」

「それでも、私には感謝しかありません、どうして良いのか」

「この世界に来てから能力の無い俺に親切にしてくれた恩返しです…これでチャラですね、もう一度神を呼んでと言われても出来ませんので絶対に内緒にして下さい」

「解りました、お父様以外には決して口外しません…チャラですね」

「はい」

貰った物を整理してお城をでる準備をした。

明かに財布の袋が可笑しな位膨らんでいる。

見て見ると、金貨が204枚入っていた、一緒に手紙を見ると。

【手紙】

王族の体を安く見ないで下さい。

私の足は、全ての治療師が治せないと匙を投げた物です。

それを鏡様が治したのですから、あんな物でチャラにはなりません。

取り敢えず、金貨200を追加しておきました。

困った事がありましたら、必ずお城に来て下さい、まだ沢山借りはありますから。

マリン

本当にこの国の人間は義理固いな。

冒険者ギルドにて

俺は城を出るとその足で冒険者ギルドへと向かった。

異世界と言えば冒険者だろう。

俺の場合は推薦状があるから、もしやってみて無理そうなら他を探そう。

冒険者ギルドは直ぐに見つかった。

みた感じは酒場が併設されていて、いかにも荒くれ者が集う場所…そんな感じだ。

俺は意を決してカウンターへと向かって行った。

「初めて見る方ですね!今日はご依頼ですか?」

「登録を頼みたいのですが、お願い出来ますか」

「はい、登録ですね、こちらの用紙にご記入お願いします。文字は書けますか?」

「はい大丈夫です」

僕はありのままを記入した。

名前 かがみ
レベル 1
職業 無し
特技 剣術 身体強化

まぁ、剣術位は出来ないと不味いだろうから、これで良いだろう。

身体強化は変わった時に見た目も変るからその保険だ

「ご記入ありがとうございます..あれっ その歳でレベルが1なのですか? しかも特技が剣術に身体強化ですか?」

「これでは登録できないでしょうか?」

「構いませんよ、冒険者ギルドは来るものは拒まずです。 犯罪者で無い限りどなたでもOKです」

「ありがとうございます!」

「但し、自己責任の厳しい世界だという事は頭に置いて下さい」

「解りました」

「それではご説明させて頂きます」

説明内容は、
冒険者の階級は 上からオリハルコン級、ミスリル級、金級、銀級、銅級、鉄級、石級にわかれている。
そして、案外上に行くのは難しく、銀級まで上がれば一流と言われている。

殆どが、最高で銅級までだそうだ。

級を上げる方法は依頼をこなすか、大きな功績を上げるしか方法はない。

銀級以上になるとテストがあるそうだ。

ギルドは冒険者同士の揉め事には関わらない。

もし、揉めてしまったら自分で解決する事。

素材の買取はお金だけでなくポイントも付くので率先してやる方法が良いらしい。

死んでしまった冒険者のプレートを見つけて持ってくれば、そのプレートに応じたお金が貰える。

そんな感じだ。

「解りました」

「はい、これが石級冒険者のプレートです、再発行にはお金が掛かりますので大切にお持ちください」

「ありがとうございます、所でこちらではお金とかは預かって頂けますか?」

「はい、可能です」

僕は支度金として貰った金貨204枚を出して生活費として必要な銀貨1枚を貰う事にした。

「金貨203枚と銀貨9枚確かにお預かりしました。記帳しますのでプレートをお出し下さい」

俺はプレートを差し出した。

ちなみに金貨1枚元の世界に換算すると100万円位だから、とんでもない金額だ。

俺はここで推薦状は出さなかった。

もし、登録に必要なら出したかも知れない。

だけど、俺は自分の力で勝負したかった…勿論、出せば待遇が変わっただろう。

ただ、そうした場合は俺の正しい評価はされなくなるだろう。

とりあえず、今日は一日休み、明日は準備をして午後からは簡単な依頼を受ける、そんな所か。

「この辺りで安く泊まれる宿はありますか?」

「それなら、冒険者の寮に入られたら如何でしょうか? 1日2食付いて1日小銅貨3枚、これは初心者冒険者の支援だからかなりお得ですよ…但し最長で半年迄、冒険者を辞める時には出て行ってもらう条件です」

「お願いします」

僕は、最初に1月分銅貨9枚を払った。

「場所は冒険者ギルドのすぐ裏です。食事はここの酒場で冒険者カードを出せば貰えます。便利でしょう」

「本当に便利ですね」

「あくまで支援ですので」

「ありがとうございました」

俺は、酒場で早速、食事を貰った。

一番近い物は学校の給食だろうか?

パンにミルクの様な物、何かの焼肉、スープがついていた。

味は悪くもなく、良くもなく。

それを平らげると寮に行った。

あらかじめ部屋番を教わり、鍵を貰っていたのでスムーズだ、

部屋の広さは3畳位だろうか? ベットとテーブルがありベットには毛布がついている。

うん格安のビジネスホテルみたいなものだ。

これで当分の拠点と仕事は決まった。

今日は疲れた、明日から頑張ろう。

佐々木小次郎
さてと、昨日はよく寝た。

今日から働くとして、何からするかな?

定番と言えば薬草採取かゴブリンの討伐だ。

さてどうするか?

取り敢えず、この世界には写真すらない。

その為、姿を変えて活動しても問題無い。

最初に、俺が過去に見た存在になった時どうなるか?

確かめてみる必要がある。

取り敢えず、武器屋に行って長剣を買った。

「そんな長い剣どうするんだ」

「ちょっと変わった剣技を使うのに必要なんだ」

「まぁ良いがかなり使いにくいぞ」

「構わない」

その後に、自分のステータスが見る事が出来る記録紙を5枚程買った。

ギルドや教会なら水晶を通して銅貨1枚で見る事が出来るが、この紙は案外高いが仕方ない。

俺には必要だ。

そのまま、門を出て森に来た。

そして俺は…自分の能力が通用するのか試してみた。

《ミラーリング、佐々木小次郎》

俺は長い年月を生きる中で様々な人間に会い、その能力を写し取った。

その中には歴史に名前を残す様な人物もいる。

佐々木小次郎や宮本武蔵はその中の1人だ。

今迄、俺は目立たない様に地味に生きて来た。

その人生に俺は慣れていた反面、疲れていた。

折角異世界にきたんだから…少し位これからの人生を楽しんでも良いだろう。

ならば、見た目が美しく、剣の達人、佐々木小次郎はうってつけかも知れない。

姿形が醜い男から、美しい剣士【巌流、佐々木小次郎】に代わる。

早速、記録紙を使って見てみる。

佐々木小次郎
LV 42
HP 87000
MP 0
ジョブ 最上級剣士
スキル:翻訳.アイテム収納、剣技(巌流)魅了

俺の能力は写し取った存在になるだけだ、だから二人の能力を同時に使う事は出来ない。

つまり、1人にしかなれないと言う事だ…良かった。

翻訳とアイテム収納は無くなっていなかった。

前の世界の人間の力が全く通用しなかったら、また一からデーターを集めなければならないが、通用するなら、その力を使いながら、新しい強者の力を手に入れれば良い。

まずは小手調べにゴブリンが住むと言う森に向ってみた。

ゴブリンの森につくと少女が2人、ゴブリンに襲われていた。

周りにゴブリンの死体がある事から、少しは出来る様だ。

だが、どう見ても30は降らないゴブリン相手に多勢に無勢、息が上がっている。

多分、負けるのは時間の問題だ。

「ちょっと、そこの貴方まきぞいになるわよ、良いから逃げなさい」

「固まっている場合じゃないよ、早く逃げた方が良いよ」

自分が危ない状態なのに【逃げろ】だと。

こんな女性を見捨てて逃げる、そんな私ではない。

見ればかなり可愛い女性達だ。

「助太刀しよう」

「貴方みたいな優男じゃ無理よ」

「良いから逃げて」

「そんなに弱そうに見るのかい?これでも名の通った剣客なのだが…まぁ良い、巌流、佐々木小次郎参る」

長剣を愛剣、物干し竿の代わりに振るうと次々にゴブリンの首が宙にまった。

一振りで2つから4つの首が飛んでいく。

これこそが【飛んでいる燕すら斬った】と言われる【燕返し】の応用だ。

「嘘でしょう…あの剣技はなに、凄く綺麗」

「剣の腕も凄いけど、よく見ると色白で凄い美形じゃない…多分、二つ名のある様な騎士か冒険者じゃないかな」

最早彼女達の前から脅威は去った。

ゴブリンは数を減らしていき、もう彼女達を襲う余裕は無い。

ゴブリンを斬り続けていると、一際大きいゴブリンが出て来た。

「嘘、ホブゴブリン…」

だが、そんなのはお構い無しに斬っていた。

今の俺(佐々木小次郎)にとっては敵では無かった。

あっさり真っ二つにして終わった。

僅かな間に…その場にいたゴブリンは全て斬り捨てられていた。

「醜い化け物は綺麗に眠ったようだ…娘さん、大丈夫だったかい?」

「はい…おかげさまで助かりました」

「貴方は命の恩人です、本当にありがとうございました」

「それじゃ、私はこれで」

「待って下さい、このゴブリンどうするんですか? 耳を斬り落として持って行けば討伐報酬になるし、ランクの査定にもなりますよ」

「これだけあれば結構な金額になります」

「私は、困っていた可憐な花の様な貴方達を助けただけ…差し上げますよ、どうぞ」

「嘘、それじゃ余りにも悪すぎるぞ」

「助けて貰って、更に素材まで貰うなんて悪すぎます…」

やはり、佐々木小次郎の思考に引っ張られるな…

「そうですか? それならこの後お酒でも一献ご馳走して下さい…それで充分です」

「そんなので良いの?」

「それは寧ろご褒美です」

「美女にお酒…それ以上に価値のある物なんてないですから」

「美女…」

「私が」

2人とも顔が赤い…

彼女達が、素材になるゴブリンの耳を切り取るのを花を愛でながら見ていた。

「さて参ろうか」

「「はい」」

佐々木小次郎のまま流される様に二人を伴い街に戻っていった。

佐々木小次郎?

やってしまったな。

俺の横で二人の少女がスヤスヤと一糸纏わぬ裸で寝ている。

昨日、あれから帰って来てから、約束通りお酒を奢ってもらった。

そこからが…これだ。

佐々木小次郎は剣の使い手だけではなく【女にも滅法強い】

何しろ女郎がお金を払ってすら傍に居て欲しいと懇願するほどで、常に女を絶やした事が無い奴だった。

(※これは、宮本武蔵について書かれた劇画の設定を参考にしています)

色白でクールで女が憧れる強い二枚目、それが小次郎だった。

そんな小次郎だから…こうなるのは目に見えていた。

俺は鏡鏡一になってからは女とこんな事したことはない。

まぁ、今の体になってからは【童貞】だった。

地味で不細工だから仕方ない。

久々に抱いた女の体は温かみがあり、心が満たされた気がした。

だが…

俺は服を着ると若干のお金を置くと、気がつかれない様に部屋を後にした。

もし、俺が佐々木小次郎として生涯を生きるつもりなら、まぁ50年位生きるならそれで良い。

だが、今の俺にはそのつもりが無い。

鏡鏡一として生活する、スタンダートな容姿すら決めていない。

そんな俺が誰かと関わりを持つのはまだ早い。

【自分の容姿】【自分の生活する場所】この二つが確定してから友人や知り合いを作る。

そこからが、本当の意味のスタートだ。

それを又【一から構築しなくていけない】そう思うと本当に溜息しか出ない。

あれはあれで、50~60年位は過ごすつもりだったからな。

長く生きていると…人生に疲れて毎日、これで良い。

そう思う事がある。

今の俺は、異世界で楽しめるという考えがある反面…面倒くさくて溜息が出る反面もある。

可愛らしい彼女達を見ても【若い自分】と【3000年生きた自分】両方の自分が反発する。

愛より感謝の方が俺の心では強い。

まぁ、齢を食っている分、色々と考えてしまう。

「う~ん小次郎様…」

「好きです…愛しています」

凄く惜しいが、今は起きる前に立ち去った方が良いだろう。

荷物を持ち宿から出て…

【ミラーリング 鏡鏡一】

これで元の姿に戻った。

そして、俺は薬草やポーションを揃えてから冒険者ギルドへ顔を出した。

貼られている依頼書からオークの依頼書を剥がして受付に持って行った。

「あの…鏡様、護衛等の依頼でなく、失敗しても自己責任な依頼は確かに自由に受けられますが、オークですか?」

「はい、自己責任なのは解っています、まぁ死んでも文句は言いませんので受けさせて下さい」

「冒険者の命は自己責任…確かにそうです、ですがこれを私が受けたら、1頭は倒して持ってくる義務が生じます、良いんですね?」

「はい」

顔が笑ってない、受付の女の人は無視して無理やり依頼を受けた。

《彼奴、新人だろう…大丈夫なのか》

《まぁ、やってみて失敗するのも経験だな》

《オークは無理だろう》

まぁ、仕方ない俺は新人だからな。

俺が依頼の手続きが終わり、出て行こうとしたら入れ替わりに、さっきまで一緒に居た二人が入って来た。

思わず目を逸らしてしまったが…二人はキョロキョロと辺りを見回すと出て行ってしまった。

多分【小次郎】を探していたんだろうな。

さてと…早速、オークの討伐に行ってみますか。

オークの集落がある、森迄きた。

他にも沢山使える相手もいるが…此処はまた同じ佐々木小次郎で行く事にした。

いきなり複数を相手にするのも怖いので、まずは..おい。

やはり小次郎の意思に引っ張られるな。

「女人を傷物にして殺す魔物、全て小次郎が成敗してくれるーーーっ」

そのまま、俺は小次郎の意識のままオークの集落に突っ込んだ。

何も問題は無い。

あの時代を生きた小次郎にとって多対一は日常に近い。

しかも、骨を斬ってしまっては刀が悪くなる。

だから、楽に斬れるお腹を中心に斬りまくる。

斬って斬って斬りまくる。

お腹から腸をぶちまけながらオークは苦しそうに死んでいく。

「ぶごーーっ」

「ブゴブゴーーーーッ」

パワーはあるが、スピードで優る小次郎に追いつけないようで…気がつくとオークの集落は死体の山となった。

勿論、今回は依頼でもあるので、しっかりと討伐の証のオークの左耳を切り取る。

その数は27に昇る。

素材になる部分もしっかりと、切除して収納に放り込む。

案外、この収納のスキルだけでも便利だ。

全てが終わり、今度は家の中を捜索した。

売れそうな物を片っ端から収納に突っ込みながら、見て回ると一番大きな屋敷にそいつは居た。

「キサマ、ナニモノダ」

今迄のオークの中で一際大きい、恐らくはオークキング。

だが、怒りに燃えている小次郎の前では只の肉塊に過ぎない。

「下郎ーーっ貴様に名乗る名は無い…斬る」

俺が目にした物は、正に犯されている少女の姿だった。

一足飛びに斬り込むと一瞬でオークキングの首を跳ねた。

「大丈夫か?」

「はい…有難うございました」

周りを見ると他にも二人、裸の少女が転がっていた。

「大丈夫か?」

そう声を掛けると、赤い顔で二人の少女も返事が返ってきた。

「「だ、大丈夫です」」

三人の少女を連れ帰った俺は、街に変えると服を買った。

三人はただ黙ってついてきた。

そして、そのまま俺は別れ…

小次郎の意思気のせいだろう別れないで、そのまま宿屋に吸い込まれる様に三人を連れて入っていった。

美しいと言うのは凄いな。

そのまま、簡単に連れ込めている。

普通に考えたらオークの苗床みたいになっていたんだから、相当心が傷ついている筈だ。

それなのに、さっきから顔が赤い。

「そのままじゃ気持ち悪かろう、湯にでも浸かるが良い」

「「「はいっ」」」

結局、また、朝まで、やっていた。

これは俺じゃない、小次郎の心に引っ張られた結果だ。

まぁ、心を癒すような行為だから別に良いか。

「私みたいに、汚された存在を抱いてくれるなんて」と喜んでいたから問題が無い。

しかし、小次郎は凄いな、あんなボロボロで今にも自殺でもしそうな少女達が幸せそうに寝ている。

(この辺りは遊郭に通って女郎と酒を交わしていた描写のある話から考えました)

洋服1枚あげた位じゃ生活は出来ないだろう。

金貨6枚とメモを残した。

【素敵な一夜をありがとう】と余り関わろうと思わない…だが小次郎に引っ張られたといえ行為をしたんだ、当座の生活費位あげても良い筈だ。

そのまま、彼女達が起きる前に宿を後にした。

【ミラーリング 鏡鏡一】

元の姿に戻ると俺は冒険者ギルドに向った。

あの三人には【佐々木小次郎】の姿で狩っていたのを見られていたから3頭だけ倒した事にした。

テーブルの上に討伐証明と素材を出した。

「あの…本当に倒してきたんですか?」

「はい、若干怪我して個体があったのでそこを狙ってみました」

「それでも、3頭は凄いです…おめでとうございます、オークを単独討伐したので銅級に昇格です、報奨金は冒険者証に入れておきますから頑張って下さい」

お金は直ぐに貰える訳では無いのか。

まぁ良いや。

ギルドで聞いた話では【銅級】と言えば一人前の冒険者らしい。

一般的な冒険者は銀級止まりが多く、大体オーガを狩れるような冒険者はギルドでは上位。

そこから上の金級は、居ない事が多い。

しかも、魔法を実戦で使える様な冒険者は少なく、どちらかと言えば剣士や拳闘家等の方が多いそうだ。

これで充分【前の世界で写し取った】能力だけでもやっていけそうだ。

保険の為に同級生の能力も写し取っているから、両方使いながら効率の良い方法を探していく。

それが良い。

ある少女の…

ゴブリンの群れから助けて貰った。

しかも、討伐証明である耳まで全部くれた。

多分、高位冒険者かどこかの貴族のお抱え騎士なんだと思う。

ゴブリンの耳とはいえ、この数だから暫くは生活に困らない位のお金になる。

そして、何よりも【ホブゴブリン】の討伐証明まで手に入るんだから…これどう考えても2か月分の生活費にはなる。

こんな金額になる物をタダでくれるなんて普通じゃ考えられない。

体目当て? そんな訳は無いよね…これだけあれば、10回以上普通の娼館に通えるんだから普通にくれる訳は無い。

私達に惚れたとか?  無い無い、確かに可愛い方だと思うけど、所詮冒険者、街に帰れば幾らでももっと可愛い子が居る。

どうしてこんな事してくれるのか解らない。

普通にあの状況だったら。

【助けは居るのか確認】→ 【必要】 → 【報酬の約束】 助けに入る。

こんな感じの筈…ましてあの状況なら、幾らでも高く吹っ掛けられる。

それこそゴブリンの苗床になりそうな状況なんだから【俺の奴隷になるなら助ける】そんな交渉もあり得る。

私達が欲しいなら、そんな交渉をする筈なんだけどな…

何でかな?

本当に意味が解らないわ。

横の相棒のメララをみたが、駄目だこれは完全に惚れちゃっているよ。

さっき迄、ゴブリンの苗床一直線だったのが、助けられた、しかもその相手は【超】が付く程のイケメン。

本当に、役者のようにしか見えない優男だし。

こんな何も請求されないような助けが起きるのみ奇跡に近いのに..

小次郎さん程のイケメンが、討伐証明でお金になるゴブリンの耳を全部くれて…物凄く優しくしてくれる。

あり得ない、こんな話は聞いた事も無いわ。

だが、現実に起きている。

どう考えても可笑しすぎる。

だって、物語の騎士だって【人は助けても、その後困っても無い人間にお金迄はくれない】よ。

「私は、困っていた可憐な花の様な貴方達を助けただけ…差し上げますよ、どうぞ」

本当に口説かれているのかな?

だけど、これ程の美形が…私達なんて口説く必要があるのかな?

ただ酒場で飲んでいるだけで、女が普通に寄ってくると思うんだけどな?

えーとどうして良いのか解らない、顔が赤くなってしまう…どうしよう。

「そうですか? それならこの後お酒でも一献ご馳走して下さい…それで充分です」

お酒を奢るだけ…絶対にそんなんじゃ足りない筈なんだけどな。

「美女にお酒…それ以上に価値のある物なんてないですから」

美女…私が?。

小次郎様の顔顔をついチラチラ見てしまう…凄い美形だ。

女の私よりも色白で顔は目は切れ長でクールな感じ。

良く女冒険者で【男を買う】のに嵌っているお姉さんがいるが、解る気がする。

あれ程の美形なら….多分、私だって買うかもしれない。

メララなんてさっきから手を止めて見ているし。

その後は約束通り、お酒を奢った。

まぁ普通に冒険者が飲むようなお店だけど…凄いな、美形ってお酒を飲む姿まで絵になる。

「あの、小次郎さんは冒険者なんですか?」

「冒険者? 確かにそうだが、もっと近い職業を言うなら剣客だな」

「「剣客」」

「あーあ、これ一つで身を建てる」

「剣でですか?」

「それは騎士みたいな感じなんですか?」

「そうだな…剣一本で生きて行く…まぁそんな所だ」

「凄いですね」

「確かにあれ程凄い腕なら、出来ますね」

「まぁな…それより君達の事を教えてくれないか?」

本当はこの場所は私達がお礼をする場所なのに…美人だ、綺麗だと言われて。

思わず、有頂天になってしまいました。

本当に自分達が美女にでもなった気がします…いざお会計になると小次郎さんが払ってしまいました。

そして、そのまま宿屋へ。

私達は冒険者です。

その為他の職業と違い、貞操観念という意味ではかなり低いのです。

隣町のサンザスのギルマスは女なのですが、引退するまでに4ケタの男性と経験を持っています。

私達女冒険者にそのギルマスが良く言う事は「男って可愛いわよ? 抱かせてあげれば命懸けで戦ってくれるんだからさぁ」です。

「体の関係があるだけで優先して助けてくれるのよ?女って凄く得なのよ」そんな事を平然と言い張ります。

確かに…それは一理あります。

実際にサンザスのギルマスは、何回も死に掛ける様な依頼から生きて帰っています。

その生還の為に何人の男が死んだのか…恐らくは3ケタに昇ると言われています。

そう考えたら…命を助けてくれたのですから、相手が不細工でも一晩位は付き合うのはまぁ、妥当です。

まして相手は凄い美形なんですから、これがお礼になるとは思えません。

多分、美形と言われている男娼(男の娼婦)にも此処までの美形は居ません。

酒場のお金の兼を聞いて見たら

「【お礼は一緒にお酒を飲んで貰う事】だから代金は私が出すのが当たり前」だそうです。

はぁ~服を脱いだ小次郎様を見たら自己嫌悪です…本当に綺麗です。

これでは相手した所で、何か返した事になりませんね…だってこれ【綺麗な男性に抱いて貰った】だけですもの。

せめて、気持ち良くなって貰う為に頑張ろうとしたら…

「あああっあああああーーー」

「ハァハァ、凄すぎます~はぁぁぁぁぁ~ん」

駄目です、二人して蕩ける様な時間を過ごさせてもらいました。

私達は買いませんが、女冒険者では男娼を買う方も多いです。

ですが…多分こんな風に大切に扱って貰えることは無いと思います。

冒険者にとって男に望む事は【死なない事】【強い事】【お金が稼げること】この3つが重要なのです。

折角、結婚しても死んでしまったら意味が無い。

強く無ければ守って貰えない。

お金が無ければスラム暮らしになり、やがては奴隷落ちです。

この3つを満たして初めて他の要素が加わります。

小次郎さまは…

あれ程凄い剣技の持ち主ですから、強くて死なないでしょう。

そして、多分お金なんて幾らでも稼げるでしょう。

実際に私達は【守られて】【施されています】

それに加え、あの容姿。

それだけでも凄いのに..あの蕩ける様な、これははしたないですね。

この人の傍にいられたら、最高に幸せでしょう。

私だけでなくメララも一緒の様です。

何もかもが満たされていきます。

こんな幸せが、続くと良いな。

そう思っていたら…居なくなってしまいました。

朝起きたら小次郎さまが居ないのです。

「メララ」

「うん、居ないね」

二人して顔を見合わせました。

結局、小次郎さまは、私達に与えるだけ与えて消えてしまいました。

ですが…知ってしまったらもう駄目です。

一緒に居たいし、何よりあんな最高の男を逃がしたくありません。

私はメララと共に、小次郎様を探します。

何処までも….

ミルルは絶対に諦めません。

一夜の幸せ

私達は今迄、この世の地獄で生きてきました。

元々、私は新婚旅行を兼ねて村から王都に旦那と向かっていたのですが…

オークの集落と気がつかずに踏み込んでしまったのです。

旦那も私も商人です、オーク相手に戦える訳もなく…旦那はオークの怪力で手足が千切られ…

その横で私は犯されました。

人間って浅ましいですね…犯されている私を見ながら旦那はただ「助けて、助けて」しか言わないのです。

この助けては私でなく【自分を助けて】です。

事実、オークに囲まれた時は、私をオークに突き飛ばし、自分だけ逃げようとしていました。

あははははlち、これが「私を愛している」って言った男の行動ですか…

まぁ文句言おうにも、もう死んでいるんですけどね…

それからは毎日、豚の性処理です…本当に最低の毎日です。

豚みたいな男じゃなくて、豚の化け物オークに毎日犯される日々です。

ここの集落には私以外に女が2人ますが…同じ様に毎日犯されています。

犯されるか檻の中で寝ているか、それだけの毎日ですね…

そんな絶望的な毎日、地獄の中で、助けが来ました。

犯されながら…その人の顔を見た私は、悲しさと恥ずかしさが込み上げてきました。

まるで王子様の様な顔立ちの誰が見ても驚くような美貌。

そんな方にこの様な姿を見られるなんて…横に転がっている他の女性も同じです。

助けて貰ったのですが…今後の人生が心配です。

オークに犯された様な女…もう誰も相手にしないでしょう。

恐らく、奴隷として売られても余程の安値じゃなくちゃ売れないでしょう。

こう言う場所から救出された女の所有権は…助けた人間にあります。

多分穢わらしい存在です…多分奴隷になっても買い手もつかないでしょう。

鉱山奴隷として最低の生活しか待っていません。

ですが…この人は違いました。

私達に服を買い…そのまま宿屋へ…

嘘です…こんな汚らしい私達を抱いてくれるの?

オークに犯され続けた時間が嘘のように幸せな時間に上書きされて行きました。

ですが…朝起きると…居なくなってしまいました。

金貨と手紙を残して…

【素敵な一夜をありがとう】

素敵な一夜を貰ったのは私達…

私達は…彼を探し続けるつもりです。

こんな幸せな経験は今迄無かったのですから。

人間を捨てる事にした

俺は結局旅に出る事にした。

長い年月、俺は隠れる様に目立たない様にそうやって生きてきた。

俺だってやりたい事はあったし、長い年月1人で居たから、だれかと一緒に居たい…そういう気持ちもある。

だが、今回行動を起こして見た結果…どうして良いか解らなくなった。

俺は長い年月生きる事によって【どうでも良い】本当にそう思う様になったようだ。

俺は種族も越えて変わることも出来た。

だから【世界が滅んでもどうでも良い】魔族にでも変わって生活すれば良いだけだ。

つまり…俺はこの世界に来て解った事だが….人間で無くても別に構わないみたいだ。

人でも魔でも神でも成れる。

そんな俺はどうしたら良いのか考えた。

その結果行きついたのが…人間を捨てる事だった。

俺は既に3000年生きている。

多分、同じ様に生きるとしたら、この世界の人間の寿命は50年から60年…高位の魔法使いでも130年…ならば変わりながら生きて行かなくてはならない。

ならば、エルフになったらどうだ?

ハイエルフなら…1000年位は生きるそうだ。

竜種なら同じ様に1000年生きた者も居る。

魔族には俺と同じ様に長い年月生きた者も居ると聞いた。

ならば、人でいる意味は無い。

人間の姿に多少は未練があるから、竜種でなく、エルフか魔族辺りが良いかも知れない。

実際に生活してみて…楽しく無ければ人間に戻っても良いかも知れない。

こうして俺は人間を捨てる事にした。

俺じたいが…元から人間で無いのだから、それが良い。

【完】

あとがき
最後まで読んで頂き有難うございます。

何にでも成れる人間が居たら、そいつが最強なんじゃ無いかな…

実はこの考えは大昔に考えたアイデアで…30年近く前に同人誌で発表しました、まぁ500部も売れませんでしたが。

今回この場で設定を変えて書きましたが、思ったより話の展開が思いつきません。

実は私は小さい頃に体弱く、長い間入院生活をしていました。

その頃に書いたアイデアから作品にした物が多くあります。

そろそろ書きたい物は書き切ったので、この先新作の投稿は不定期になる様な気がします。

最後まで読んで頂き有難うございました。

また、アイデアが浮かびましたら、その時には宜しくお願い致します。