貴方の運命を変えます、守護霊.指導霊受け渡し人 弘崎 仁

ヒヨコ薬局 歌舞伎町店にて
俺の名前は 今泉 保。

新宿歌舞伎町にあるヒヨコ薬局の深夜番のアルバイトをしている。

俗にいう苦学生って奴だ。

大学にはどうにか通っているが、本当の所暫くしたら退学になると思う。

うちはちょっと変わった家で俺は長男なんだが家での立場が凄く弱い。

かなり古い家系なのだが、何でも先祖の男が馬鹿をやって莫大な財産を失った。

その結果《男にお金は任せられない》と言う事になり、ある時から長女が婿を取って後を継ぐという事になった。

完全な女系家族だ。

実際、長男に生まれた俺は親に「私立に行くなら、自分で行け」と言われ続けていた。

仕方なく公立に行こうとしたが、中学の時に柔道をしていたおかげで高校は私立だが推薦で入れた。

俺が進学した高校の推薦は幾つかあり、俺はB推薦、用は、入学金は免除、試験も免除、だが学費は払え。

そんな感じだった。

散々、母親に罵倒されたが「入学金が掛からないから公立より費用が安い」と説明して「それなら」と許可を貰った。

だが、これが良くなかった。

柔道推薦で入ったから頑張り、地区大会や都大会では活躍出来たが全国には届かない、そんな微妙な状態で頑張った結果、3年の時に足に大きな怪我を負い柔道人生が終わった。

幸い、3年だから退学にはならず、そのまま卒業できた。

だが、此処から凄く困った。

さっさと就職すれば良いのだが、どうしてもキャンパスライフをおくって見たかった。

親に相談するも「行きたければ国立に行け」と言われる。

だが、柔道ばかりしていたから、学力が無い。

その結果、自分で学費を稼ぎながら三流の私立大学に入った。

私には妹が2人いるのだが、2人は私立の中高大一貫教育のお嬢様学校に行っている。

勿論、学費は親持ち…しかもお小遣いとして月に5万円貰っている。

ちなみに俺の高校時代のお小遣いは昼食代金込で8000円。

到底お弁当なんて食べられず、菓子パン1つとパック牛乳しか食べられない。

バイトは推薦の為できず…ひもじい生活を送っていた。

話は戻るが、ヒヨコ薬局のバイトは最初は水道橋店の遅番として入っていたが、近くに大型店舗が出来、撤退。

その結果クビになりそうだったが、誰も行き手が無い歌舞伎町店の遅番に空きがあった。

時給が他より高く、時給で1300円、しかも閉める時間は最低0時までやれば後は自由。

明け方2時だろうと5時だろうと9時までやっても構わないという条件だったのでお金に困っていた俺はそこを希望した。

「歌舞伎町店の遅番を希望します」

「あそこで良いなら、良いですよ」

バイザーから速攻でクビは撤回された。

歌舞伎町店の店長は有賀さんという、見た瞬間凄く不潔そうな男だった。

しかも、死んだような目をして…「はいはいごくろうさん」とだけしか答えない。

奥に2畳くらいの倉庫の横の部屋で寝ている事が多かった。

こんな仕事しない男が店長なんてと思ったが…納得した。

早番も遅番も誰もきてが無いから、ほぼ一人でこなしていた。

確かに、この店は普通じゃない。

初日から驚きだった。

ある程度覚悟はしていたが…これは普通じゃない。

お客さんの殆どが、ヤクザ、ホスト、風俗嬢、キャバ嬢等、歌舞伎町の住民が多い。

凄い事に麻薬の売人まで居たりするから怖い。

「ポンプ(注射器)くれない」

「ガラス製のスポイト30本くれない」

明かに悪用する為の物だ。

「咳止めの液体の薬2本下さい」

(咳止めの薬を大量に飲むとハイになるらしい)

「客から毛シラミ移されちゃったから、薬頂戴」

そんな感じだのちょっと変わった物が良く売れる。

最初は怖かったが慣れてくると結構面白い。

薄着の綺麗なお姉さんにカッコ良いホスト…そしてヤクザさん。

他では解らないが《此処ではお客さん》で良い人だ。

最初に一回、ヤクザに絡まれたが、有賀さんが間に入り

「此奴、学生なんですが、本当にカッコよく思って言った事なんで許して下さい」

「何だ馬鹿にしたんじゃないのか? 兄ちゃん怖い思いさせて悪かったな」

で終わった。

大学が終わったらバイトに来る俺には友達は居ないし苦学生だから彼女も居ない。

嫌な話し、今だ童貞である。

そんな俺にこの店は…凄く良かった。

勿論、付き合ったり声を掛けれないが、着飾った可愛い子や凄くセクシーな女の子が見放題。

本当の姿は解らないが、男から見てもカッコ良い男も来る。

田舎者の俺には全てが輝いて見えて…目の保養になる。

店長の有賀さんとも凄く仲良くなった。

「悪いけどコンドームの配達行ってきてくれ」

「解りました」

「ドリンクの配達に行ってくるから店番頼む」

「はい」

本来、こんな仕事はしていない。

だが、小さなお店なのでこれで売り上げをあげているらしい。

最初冷たかったのは《この店は直ぐに辞める人ばかりだった》その為だ。

辞めない人間と解ると、凄く優しい店長に変わった。

挨拶程度だが、常連の綺麗なお姉さんとの話の輪に入れてくれた。

そんな日々の中、俺は自分の運命を変える様な人物に出会う事になる。

その人物こそが 弘崎仁だった。

出会い
今日も何時も様にバイトに薬局に向うと、アイちゃんがバックヤードでラーメンを食べていた。

白衣に着替える場所はそこしかないが、凄いミニスカートを履いているからパンツが見える。

しかもそれがスケスケの紫だから目のやり場に困る。

「別に減るもんじゃないし、今泉くん見たければ見れば? あっ触ったらお金取るよ?」

「もういい加減止めて下さい、揶揄うのは…もう」

アイちゃんは売れっ子のソープ嬢で凄く身長が低い、142?のAカップの一瞬、小学生に見える子だ。

このロリ容姿を売りにして、ソープランド熱帯魚のナンバー3になっている。

だが、本当の年齢は27歳、この事に触れたり、おばさん呼ばわりすると、マジ切れしてグーパンが飛んでくる。

「所で、今泉くんはもう童貞は卒業したのかな?」

「そのネタは止めて下さい、貧乏苦学生の俺には彼女も風俗も無理です」

「だったら私で卒業する? 入浴料はお店の分だから無理だけど、サービス料はこっそり、半分に負けてあげるよ」

「勘弁して下さいよ…アイちゃんの彼氏も顔見知りなんだから気まずいですって」

「そう、仁なら気にしないと思うよ? 私の商売知ってて付き合ってるし、それに今泉ちゃんが可哀想だから、無理そうなら奪ってやれって言っていたよ」

「本当に勘弁して下さい」

何でバックヤードにソープ嬢が居るのか?

それは、店長の有賀さんが許しているからだ。

本来、ヒヨコ薬局はチェーン店だからこんなのは許されない。

だが、歌舞伎町店は《だれもやり手が居ない》実質、有賀さんが辞めたら畳むしかない、だから本部も文句を言って来ない。

しかも売り上げも高いから「だったら辞めるよ」という言葉が怖いらしい。

「クビになったらどうするんですか?」そう有賀さんに聞いたら。

「そうしたら、薬種商の資格持っているから、畳んだこの跡地で薬店でもやるよ」

確かにこの店は調剤なんてしてないから、その方が有賀さんも儲かるだろうな…そう思う。

話は元に戻るが、何故ソープランドのアイちゃんが此処でラーメンを食べているのかと言うと、彼女の日課が出勤前に此処でラーメンを食べる事だからだ。

彼女の勤める、ソープランド熱帯魚は、コンドームにローション等をうちから仕入れてくれている。

しかもこのお店の女の子は、1本3000円クラスのドリンク剤も買ってくれるし、ビタミン剤も定期購入してくれる。

だから、お得意様なので有賀さんが融通を利かしている。

ちなみにアイちゃんが食べているラーメンは喜多方ラーメンで本来は配達はしない、だけど有賀さんがそこの店長と仲が良いから特別に持って来てくれる…但し器は取りに来てくれないので、俺が後で洗って返さないといけない…すこし理不尽だ。

アイちゃんは《お店が混んでいて食べれない時があった》と有賀さんに話していたらいつの間にかこうなっていた。

「所で、今泉ちゃん、私の彼氏が、今泉ちゃんにお礼をしたいからって言っていたよ、今度時間作って」

「あの、仁さん…お金大丈夫なんですか? 奢って貰うにしても、そのお金は」

「まぁね、仁は私のヒモだからお金は私が出すんだけど…気にしないで良いよ?」

「そうですか」

アイちゃんがソープで働いて得たお金から、仁さんに奢って貰うなんて凄く気が引けるんだよな。

「本当に気にしないで良いから…仁にはこれでも結構お世話になっているから」

流石、売れっ子風俗嬢、俺の気持ちなど簡単に読み取れる。

「そう言う事なら、お礼をして貰おうかな」

「その方が仁も喜ぶからね」

彼女が居て風俗で働いてお金も貢いで貰えるなんて…羨ましい。

そう俺は思っていた。

守護仏様を貰った代わりにお会計は俺だった。
仁さんはアイちゃんのヒモをしているのは凄く有名だ。

俺が勤める薬局の有賀さんは、女に寄生するような男を嫌う。

まぁ仕事としてホスト等をしている者は有賀さん的には別らしい。

だが、女に寄生して生活する様な人間は心底嫌っている筈の有賀さんが仁さんは嫌っていない。

普通に考えて《女に体を売らせてお金を取る》そんな人間はトコトン嫌う筈なのに。

仁さんが怪我している時に担いで家まで送っていった事がある。

今思えば、あの時に何で怪我をしていたか解らない。

それはさて置き、お礼とは多分あの時の事だろう。

だが、凄く気が引ける。

仁さんが奢ると言う事は、仁さんはヒモなのでそのお金はアイちゃんが出す事になる。

これがOLとかなら良いが、彼女はソープ嬢。

そのお金は体を売って作ったお金だ。

正直気が引けるが…まぁ仕方ない。

「今泉くん、こっち、こっち」

待ち合わせ場所はちょっと高級な居酒屋の個室だった。

先に仁さんはついて待っていた。

しかも横にアイちゃんが居る。

この居酒屋でお酒を奢ってくれる…そういう事なのだろうか?

「今泉くん、率直に言うけど、今迄の人生、凄くついて無かったんじゃないのかい?」

俺は自分の過去を思い出した。

確かに、ついてない人生なのかも知れない。

どんなに努力しても欲しい物には届かない。

しかも、今現在苦学生なのだから、運が良いとは言えないだろう。

「確かに運が良いとは言えないですね」

「そうだろうな…どう見ても、良い霊がついているとは思えない、だから私がちょっとしたプレゼントをしてあげようと思って」

「プレゼントですか…」

なんだか胡散臭い様な気がする。

霊…まさか霊感商法じゃないだろうな?

「そうだよ、最近ね素晴らしいものを見つけたんだ、不思議な事に交通事故で死んだ人間についていたんだよ、金剛薩た(こんごうさった)が」

何か胡散臭い話になってきたな。

「今泉ちゃん、仁が私のヒモだと思っているでしょう? それはね半分はあっているけど半分は違うのよ」

「それどういう事ですか?」

アイちゃんのヒモじゃ無いのか?

「実は、私は凄く運が悪くてさぁ…真面に生きていると周りを不幸にして、更に悲惨な死が待っているみたいなのよね」

まさか、洗脳でもされているのか、そんな素振りは無いのに。

「どういう事ですか?」

「アイちゃんは生まれつきとてつもなく運が悪いんだ、それは、そうだな22歳で死んでしまう位に」

「そうなんですか?」

不味いな、もろ霊感商法じゃないか。

「ああっそこで、運よく私が吉祥天を見つけたから話をしてついて貰ったんだけど、それでもまだ足りなくてね」

話を聞いたら、吉祥天という仏様を悪運から救う為に付けたけど、それでも悪運全部は祓い切れなくて、風俗で体を重ねて悪運を移しているという事だった。

「そうなのよ、だから私が風俗で働いているのは悪運を移す為なのよ」

本当の所は解らない、だけどアイちゃんはどんなお客にも嫌な顔しないで、凄いサービスをしていると聞いた事がある。

それはこの事があるからか…だけど、本当ならお客はお金を払って悪運を貰うって事だな。

本当なら詐欺だ…と言いたいが何故か、俺はこの話が嘘だとは思えなくなっていた。

「そうなんだ、まぁ今泉くんから見たらヒモにしか見えないかも知れないけどね」

そう言いながら仁さんは笑っていた。

更に話を聞くと、アイちゃんの悪運はもうかなり移し終わったという事で、近々ソープランドを辞めてカイロプラクティックの勉強をするそうだ。

「確かにそう思っていましたすみません」

だけど、そんな仏様を守護霊みたいに人に付ける事が出来るのだろうか?

それにそんな、神仏が人間についたら…悪運なんて一瞬で無くなるんじゃないかな…そう思ったから聞いてみた。

「それはね、その神仏がどれ程の者なのかは解らないんだ」

「それはどういう意味ですか?」

簡単に言うと、神仏に見えてもその眷属が沢山いて、その神仏がどの程度の神格かまでは解らないそうだ。

仏様に見えてもその力はまちまち、大きな存在は幾つかに別れて存在するらしい。

例えば不動明王が居たとしても、それが本体なのか、それとも爪1本分の力しかない眷属なのかまでは解らないそうだ。

ちなみにアイちゃんにつけた、吉祥天は眷属だったらしく、更に力は髪の毛一本分だそうだ。

「まぁ人間の霊と違って神仏の神格は解らないからね」

「成程…」

「それでね、この間の今泉くんへのお礼なんだけど、さっき言った様に金剛薩たの霊体がまぁ居たから連れて来たんだけど、渡せる人間が周りに居なくてね、見た感じ君とは相性が良さそうだから付けてあげようと思ってね…これが私からのお礼だよ」

まぁお金を取られそうな事は無さそうだし、有賀さんの部下の俺を騙したりしないだろうな…妄想なのかも知れないけど。

「有難うございます」

仁さんははや九字を切った。

「うんこれで大丈夫だ、少なくとも少しは運が良くなる筈だよ」

「仏様が付いたのにちょっとだけですか」

「うん、交通事故にあった人間についていたんだから、事故から守れなかった位だから確実に本体で無く眷属だね、しかもかなり弱い…と思う」

「そうですか…有難うございます」

仁さんとアイちゃんは笑顔で帰っていった。

お会計の8260円を残して…これは俺が払わないといけないのかな。

大学にて
仁さんから金剛薩たとかいう仏様を守護霊なのか指導霊なのか解らないが貰ってから何か変わったのかと思ったら。

何も変わらなかった。

そんな素晴らしい方がついてくれたのだから、人生が変わった…何て事はなかった。

宝くじを買ったが当たらないし、競馬も駄目。

まぁ、今迄苦学生だからやった事なかったけど試しにどちらも3000円使ってみたが大外れ。

なんだ、何も変わって無いじゃないか。

まぁ、よく言う通販で売っている《幸運のブレスレット》に比べればまだ安いと思って諦めよう。

ある日の事。

何時もの様に大学で学食を食べていた。

俺にとっては大学に居る時間が数少ない自由な時間だ。

まぁ薬局での時間も楽しいが一応は勤務時間、大学が終わったらもう朝方寝るまで自由は無い。

俺は実は《SF研究会》に入っている。

時間が自由になるなら柔道部でもサッカー部でも良かったが俺には時間が無い。

SF研究会は別に決まった活動が無い。

時間の空いた時に食堂兼ラウンジに集まってただ好きな事を語るだけだ。

SFと言いながら、実質、アニメ、バイク、旅行なども話しているからSFでは厳密ではない。

まぁ部室も部費も無いからこそ自由に出来る。

ただ、その分、凄く弱小だ。

いつもの様に皆で楽しく話していると、テニス部の奴がこっちを見ていた。

テニス部と言いながらも一生懸命テニスをしている訳では無い。

いわゆるお遊びサークルで、ただ男女遊んでいるだけだ。

だだ、何故か大学では幅を利かせている。

しかも、新歓コンパで女を酔わせてはホテルに連れ込んでいる。

女は女で遊び人が多く、男に貢がせたりあごで使う様な人間も多い。

ただ、男女とも美形は多い。

いわゆるリア充サークルではある。

そして、機嫌が悪いと良く弱小サークルに絡んでくる。

そして今日はうちに絡んできた。

「しかし、ヤダヤダ、なぁにあの地味な奴ら」

「そんな事言うなよ、苦学生で金に縁がないんだからさぁ」

「あんな青春送るなんて俺には耐えられない、俺なら死んじゃうよ」

「あれで同じ女なんて…信じられないブスはブスらしくしていれば良いのに」

「あれじゃ誰も相手にしないから処女で蜘蛛の巣はっているんじゃない」

「俺でもあれは無理だ」

特にその中でも女の中で、槍村しのぶは一番罵声を浴びせてくる。

確かにこの大学ではモテる女の中でも上位。

だが、その分男遊びも酷い。

聞いてて不愉快だが、無視するに限る。

「だけど、ヤリマンで便所みたいな女や、自分がモテると勘違いしている馬鹿よりはマシでしょ」

あれれっ? 俺は何言っているんだ?

「お前が言ったの? 何それ」

「いやぁさぁ~今、槍村先輩うちのサークルの女子が《誰も相手にしないから処女で蜘蛛の巣はっている》っていったじゃんか」

「言ったから何よ…」

「それなら、先輩は綺麗だから沢山の男性経験があるんでしょう?」

「そうよ、私みたいな美人は男に困らないのよ」

「そうですよね、何時も男をひっかえとっかいしているんですよね」

「そうよモテるんだから仕方ないでしょう」

馬鹿じゃないかな?

「ほら…便所じゃない、汚い言い方すれば沢山の男の性処理を今迄してきて、沢山の男に抱かれてきたって事じゃん? その口だって男の物を沢山しゃぶって満足させてきたんじゃないかな?」

「そんな事は」

「だって先輩さっき《男性経験豊富で男に困らない》自分で言いましたよ? つまりそういう事じゃない?」

「ななななっ」

「詰まり、槍村先輩は、流石に便所は可哀想だから、言い直すとヤリマン…そうだヤリマンのヤーリーで良いんじゃない? ヤーリーって響きが良いよね」

「お前ふざけるなよ…槍村に謝れよ」

「自分で《経験豊富》って言っているんだから嘘じゃないじゃん」

「黙れ」

「あんたもさぁ、そんな沢山の男の手垢が付いた女を数人相手した位でモテる様な話しない方が良いよ」

俺は何を言い出したんだ。

解らない…

「何だと、お前」

「それじゃまず正論からな…そうだな普通に考えて50人以上の男と関係を持った女なんて、真面な男は結婚なんてしたがらないと思わないか?」

「不細工な処女よりましだ」

「あのなぁ…お前がモテると言うなら《綺麗なもっと経験の少ない女》も作れるんじゃねーの」

「….」

「なぁ、お前がサークルで抱いた女は前の日には他の男に抱かれている様な女だよな…良く他の男が抱いた女翌日に抱けるよな…中古品も良い所だぞ…お金でもくれなくちゃ俺は抱きたく無いな」

「さっきから偉そうに、お前何様なんだ…そこまで言うならお前は女にさぞかしモテるんだろうな」

「俺はな…」

何だ、何で今一瞬1000人斬りなんて言おうとしたんだ、童貞の癖に。

「俺はたいした人物じゃねーよ、だけど仕事先が歌舞伎町だから ホストの健也くんや年間2億円稼ぐキャバクラの愛奈さんとか知っているよ、少なくとも本当にモテる奴は体を安売りしねーな」

「あんた覚えておきなさいよ…絶対許さない」

「お前只じゃ置かないからよ、ぜっていに半殺しだ」

「お前、今半殺しって言ったな、ちょっとこっち来い」

「謝るのかダセイッ」

「そうね、ここで土下座するなら、止めてあげるわ」

俺は自分の財布から名刺を出した。

「どの人と話してみたいのかな? 怖いから頼んで置かないと…何かあったら仕返しして貰う様に…まぁ半殺しにされても良いよ、その代わりお前は風俗堕ちで、お前はマグロ漁船な」

「五芒星の代紋…」

「本職じゃねーかーー若頭っ」

歌舞伎町でただドリンク買ってくれるお客さんで…正月飾りと毎月1万円みかじめ納めるだけだけどな。

(注意:昭和の時代から参照しています)

「それで半殺しにするんでしょう? 構わないけどどうする? 俺は怖がりだから、そっちが手を出したら直ぐに相談するよ? そしてお前等の住所と実家の住所教えちゃう」

(注意:昭和~平成設定 当時は簡単に名簿が手に入った)

「悪かったわ、私が調子に乗り過ぎた…ごめん」

「これからは口に気をつけます」

俺どうしたんだ…こんなに口がたつ筈が無いのに。

【ヒヨコ薬局にて】

相変わらず、アイちゃんはラーメンが好きだな。

まぁ喜多方ラーメン旨いけど。

俺は今日あった事をそのまま有賀さん達に話した。

「多分、それは仁のせいかも知れないわよ…他にも面白そうな指導霊に最適な霊もくっつけたらしいから、その影響かも知れないわ」

確かに、あの時の俺は何かにつかれた様な気がした。

「まぁ仁さんは、新宿では有名な…本物の霊能者だからな」

えっ…皆が本物って…本当にそうだったのか。

拉致からの脱出
仁さんは本物の霊能力者だったのか?

俺は幽霊の存在等、半信半疑だったが、実際に体験したのだから嘘とは思えない。

詳しい事は仁さんに聞いてみるしか知るすべはないだろう。

しかし、金剛薩た(こんごうさった)という仏様がついている事だけは解かった。

だが、昨日の話では他にも幾つかの霊がついている様だった。

アイちゃんの話では出張で3日間程、地方に行っているそうだ。

だから、仁さんに話を聞けるのは3日後になる。

それまでの3日間、何か問題が起きない事を祈るばかりだ。

何時もの様に大学に通うと…やっぱりトラブルに巻き込まれた。

大学の駐車場の近くを通るとスモークガラスのバンが止まっており、俺が近くを通るといきなり4人の男が俺を抑え込みバンに乗せられた。

「お前が今泉だな、テニス部に頼まれた、随分恥をかかせたそうじゃないか?」

「何がだ?俺は…うぐっ」

いきなり腹を殴られた。

「なに話そうとしているんだ? 俺が話しているんだろうが?」

本当にヤバイな…理屈が通じそうもない。

黙るしかない。

「お前さぁ、ガキの喧嘩にヤクザの名刺出したって? 不味いよガキの癖にそんな事しちゃ、あいつ等すっかり怯えていてね困るんだよ」

「一体何が…ごふっ」

「だーかーらー、今は俺が話しているんだ、黙れよ」

今度は鳩尾を殴りやがった。

車は走り出している、山奥に連れ去られるか、事務所に連れ去られるかどっちみち碌な事にならない。

柔道をしていたからどうにかなるって事はない。

柔道は一対一なら結構強い。

だが、複数相手では思った程通用しない。

車の中じゃまず使えないし、そうじゃなくても、4人位を相手したら、1人か2人投げている間に残りの人間に蹴りを入れられてボコられるだけだ。

不味い事になった。

多分相手は半グレかヤクザだ…これじゃ連絡が取れない。

それにもし連絡が取れても、新宿から此処に来る前に話は終わる。

地元なら地回りだから守って貰えるが、此処まで来てくれる事はないだろう。

奇跡的に来てくれたとしても、お金は相場では最低1本(100万円)俺には払えない。

「まぁお前がどんな組と繋がりがあっても連絡が取れなくちゃ終わりだ、しかも約束さえさせれば相手も手が出せないな…喋りたいなら話しても良いぞ」

ヤバイな、他の三人はニタニタ笑っている。

こういう時は…あれっまただ。

俺は横に座っている二人に肘打ちを入れた。

「痛えーな、この状況でこんな事しやがって、お前ただで済むと..おいっ」

「馬鹿、何をしようとしているんだ」

俺は運転席に手を伸ばしてハンドルを左側に思いっきり切った。

そのまま、車は左にふらつきガードレールにぶつかり、電柱にぶつかった。

エンジンが押されて足が挟まり血が出ている前側の2人は凄く痛がっていた。

何でこんな事が出来るのか解らない。

俺の両側の2人は…何処かに打ち付けたのか胸と首を押さえている。

もしかしたら、骨を折ったかも知れない。

その状態で後ろから前の椅子を蹴り上げた。

「痛ええええええええっーーーーややや止めてくれーーーーっ」

「痛い痛い痛い痛いーーーーっ」

多分俺を、山奥に連れて行こうとしたのだろう…周りは林道。

これなら人が来る事はないだろう。

「散々舐めた事してくれたな、腹が痛てーんだよ」

そう言いながら横の2人が庇っている部分を殴りつけた。

本当に骨でも折ったのか青い顔で痛がっている。

「痛てーーーっ、止めろ、骨が折れているんだ」

「だから何、今は俺が話す番だろうが…あああんっ」

暫く、前のシートを蹴りながら横の2人の男をどつき続けた。

「お前、只じゃ済まないぞ…俺たちが連絡したら組が」

「組の名前は出さない方が良い…組を巻き込んだら終わりだ、俺の知り合いの方が上だからこんなことしたんだろうがっ」

「痛っ…救急車を呼ばしてくれ、このままじゃ、俺一生歩けなくなる…ハァハァ」

「多分、無理なんじゃないか…その足どう見ても歩けるようにならないだろう」

見た感じ足は変な方向に曲がっていて骨が足を突き破っている。

「そんな..ハァハァ」

「さてと慰謝料を貰わなくちゃな…」

俺は何をしているんだ、俺は4人のポケットから財布とスマホを取った。

そして、財布から札を全部とりサイフはそのまま車内に投げた。

「お前、こんな事して只で済むと思うなよ…殺す、絶対に殺す」

「いてぇええーーーっ助けろ、医者を呼んでくれ」

「絶対に許さねーかんな」

「…….」

1人はもう話す事も出来ない。

「あのさぁーーっ、それは安全になってから言った方が良いんじゃねえか? このまま車に火をつけたらお前等死んじまうよな」

「まさか…そこ迄するのか? 熱くなるなよ…命まで賭ける事か…ハァハァ」

「殺さないでくれ、赦してくれ」

「待てよ..おい」

「….ハァハァ死にたく..無い」

「さっき財布の中を見たらさぁ、お前等のゲソは俺と同じところみたいだな、だからどうだ? 上にあげるんじゃなくてこれで終わりにしないか? 多分、上にあげたら、俺も困るがお前等も困る事になるんじゃねーか…これは無かった事にしようぜ…本条さんや上条さんと揉めるのは嫌だからな」

俺はそんな人は知らないぞ。

「嘘だろう…幹部じゃないか」

「知り合いなんですか…」

「余り仲は良くないが顔位は知っている」

何だ、いきなり顔が浮かんだ。

「…」

「この金は迷惑賃だが、全部は持って行かない、半分だけ返してやんよ!知り合い絡みだからな…それじゃよーーっこれはドライブ中の事故、それで良いよな? その代わりスマホも返してやるよ、何だったら救急車も呼んでやる」

「解りました…事故です」

「それなら、これで終わりだ、それで誰が依頼してきたんだ!」

「テニス部..ハァハァです」

「それは知っている、何でテニス部と繋がりがあるんだ」

「薬…」

麻薬に睡眠薬、こいつ等から買っていたんだな。

「麻薬は純度が高い物にして一生止められなくしてしまえ…そして睡眠薬は売るな」

「それは」

「あのよ~お前等選択できるんかよ!お前の組麻薬禁止だろう? 表向きはよーーーっ 本条辺りに言うかな」

「ハァハァ…いう通りにします」

「それじゃ…くれぐれも約束守れよ」

俺は一体どうしたんだ…

とんでもなく、ヤクザに詳しいし…躊躇なくあんな事が出来るなんて。

これも仁さんの言う霊の力か…

大学にて
バンから脱出した俺はタクシーを拾って駅まできた。

トラブルがあったとはいえバイトを休む事は出来ない。

歌舞伎町店はお客さんが特別だから、バイトは俺しか居ない。

俺が行かないと有賀店長が飯にも行けなくなる。

「すみません、少し遅れます」

そう連絡を入れて新宿に向った。

大学生なので遅れる事は多々ある。

それを許して貰えるからこそ、このバイトをしている。

何時もより一時間半遅れて店に到着した。

ベンケーシースタイルの白衣に直ぐに着替えて売り場にいった。

「遅れてすみません、どうぞ休憩して下さい」

「全然問題はないけど、何かあったのか?」

「実はちょっと揉めてしまいまして」

自分の身に何が起きたのか、有賀さんに話した。

勿論、事故を起こして相手に暴力を振るった事は説明していない。

「まぁ、表向きは大丈夫じゃないか? 組の名前出して、薬を扱っていたなら困るのは相手だしな、ただ裏で何かされるかは解らないが、これはもうどうする事も出来ないな」

「そうですよね…」

「これですっかり、今泉くんも歌舞伎町の住民だな、大学卒業したらヒヨコ薬局にそのまま入社すれば良いと思うよ、そうしたら歌舞伎町店の店長の後釜に推薦してやる」

「それは有賀さんが他の店に行きたいからですよね?」

「ああっ新宿3丁目店に行きたくてな」

「新宿からは離れないんですね」

「まぁな」

「だったら意味無いでしょう? ここのお客は有賀さん絡みだから他の店に行っても近くならそっちに行くんじゃないんのかな」

「だから、今泉くんなんだよ! 君が入ってくれれば半分は今泉くんの所に行くからね、ラブホテルのコンドーム納入も、ドリンクのお得意先も置いておくからね…どうかな?」

なんだか、これ本当にスカウトされている気がするな。

「そうですね、考えておきますね」

「ああっ、今泉くんが入社するなら、もう一通りできるから、新人研修の6か月は免除だし、最初の3か月の仮雇用無しで厚生年金付き…そして歌舞伎町店を希望するなら店長スタート、最高だろう?」

確かに此処は凄く面白いし、俺にとっては良い人ばかりだ。

まだ大学生活は3年以上ある。

ゆっくり考えれば良い。

そんな事より、これからどうするかだ…テニス部の裏についている奴をぶったおしたから問題も起きるかもしれないな。

【次の日 大学にて】

大学に行くと…ボロボロになったテニス部が居た。

男は見ると痣だらけ…女は流石に男程酷くはないが顔に痣位はある。

「今泉さん、生意気な事してすみませんでした」

「もう、今泉さんには関わらないですから、勘弁して下さい」

「赦して下さい、もう何もしません…嫌です、風俗で働くのは嫌です」

結局、昨日の4人がテニス部に関わっている人間で一番上の人間だった。

ヤクザには出入りしているが、組には入っていない。

まぁ、薬を扱っているのなら、あの組は関わっていないだろう。

そう、俺はあいつ等の名刺にあった組の上の組長を知っていた。

といっても、正月にお飾りを買う位だけだけど…

正月に、だいだい飾りを買うとあの組の場合は、組長と若頭が新年の挨拶にくる。

その時に面識があるだけ。

社交辞令で「困った事があれば」と名刺を貰っただけ。

勿論、こんな関係でも頼れば助けて貰える…但し多大な謝礼金を払って。

結局、この関係は御守りを持っているだけで…貧乏学生の俺には使えない。

「別に気にはしていないから良いよ…まぁ俺も酷い目にあったけど、そっち程じゃないし」

この辺りが落とし所だろう。

ちなみに、此奴らが100万も使ってヤクザを使ってくれば俺はボコられる。

1000万も使えば多分俺を殺す様な依頼も出来るかも知れない。

「そうか、助かった」

「有難う、本当にありがとう」

多分、此奴らは《他の意味で終わる》

女を眠らせて犯す様な事はさせない為、睡眠薬は売らない様に言った。

麻薬は純度の高い物を売る様に言った。

多分、此奴らの未来は《ジャブ漬け》か《多重債務者》だ。

最悪両方もありうる。

もう詰んでいる。

「良いよ、別にだからもう俺には関わらないでくれ」

「良かったらテニス部に入らない? 女なんて幾らでも世話するから」

「あっ、何だったら私が女になろうか?」

「俺は、仕事があるから無理だ」

「そんな事言わずに」

「俺は大学が終わったら、歌舞伎町で仕事しているから無理だ」

「歌舞伎町って….あははは、そう言う事」

勝手に危ない仕事と勘違いした様だ。

「そう…だから悪いな」

「そう言う事なら仕方ないな」

「それじゃ《仕事》があるから、じゃぁーな」

これでもう大学では安泰だな。

仁さんの話
ようやく仁さんが歌舞伎町に帰ってきた。

「今泉くん、久しぶりだね、どうだい調子の方は?」

俺は大学でおきた事をそのまま仁さんに話した。

「そうかい? それは良かった、今泉くんは歌舞伎町の人間だからね、この街では結構無念に死んでいった霊がいるんだ」

確かに歌舞伎町なら《そういう人間が沢山居ても可笑しくない》

「確かにこの街には居そうですね」

「そう、だから強い霊では無いけどね、今泉くんは学生だから色々学べると思って、ついでに付けておいたんだよ」

話によるといわゆる、指導霊みたいな霊を何人かつけてくれたらしい。

「あのその人達ってどういう人なんでしょうか?」

「さぁ、私にもそれは解らないな…ただ、私には良い霊は白く見えて、悪い霊は黒く見える、本当はちゃんと話してから憑けるんだけど、今泉くんは何故か歌舞伎町限定でこの辺りの霊から好かれているから、強い光の者を幾つか憑けたんだ」

「そうですか?」

しかし、こんな簡単に霊って扱って良い者なのだろうか?

「うん、だから私にも何がついているか解らない、だけど君と相性が良いんだから、ヤクザやホスト、スカウトとかじゃないのかな?」

「俺と相性が良いのが、ヤクザやホストにスカウト?」

「今泉くんには元からそういう人に好かれる才能があると思うよ?」

「俺がですか?」

「そうだけど自覚は無いのかい?」

いや、まったくそんな気はない、俺は普通の人間だと思うんだが。

「余り、ありません」

「君がバイトしている薬局だけど、普通の人じゃ勤まらないよ、あの店のバイトで此処まで長く続いているのは君だけだよ」

「確かに有賀さんもそう言っていた様な気がしますね」

「ああっ、あそこはオアシスというか何というか、変わった場所だよ、例えば、お客さんの中には、薬の売人もいれば、女を騙して風俗に売る様な人間、殺しの経験がある武闘派ヤクザも居るけど、皆普通にしているだろう」

確かに危ない人も多くいるな。

「確かに」

「普通の人間なら怯えや恐怖とかが出て、少しは可笑しな動きが出るもんだ」

「そういう物ですか」

「そうだよ…だけど今泉くんは普通に扱う」

「いや、商売ですから」

「風俗嬢がミニスカでラーメン食べているのに、今泉くんは《喜多方ラーメン美味しいですか》って言ったんだ」

「いや喜多方ラーメン旨いでしょう」

「あのさぁ…私が霊能者と知っても慌てない」

「本当にいたのかとしか思いませんでした」

「兎も角、今泉くんには有賀さんと同じ様に、歌舞伎町の住人に愛される才能がある…これは素晴らしい事だと思うよ」

「そんな才能が」

「話しは元に戻るけど、だからこそ、変わった指導霊が沢山つけれた、まぁ学生だから色々学んだ方が良い」

「はぁ、そうですね」

問題はなさそうだから良いか。

アヤちゃん
「今泉くんって童貞って本当?」

いつもの様にバイトしていると風俗嬢のアヤちゃんにそう言われた。

誰がバラしたんだ。

まぁ、男ならかなりの人数が知っているから知っていても可笑しくない。

だけど、面と向かって女の子にこんな事言われるなんてエロ漫画かエロゲーみたいだ。

嘘を言っても仕方ない。

「本当ですよ(笑)」

「あはははっ、本当だったんだね~ 今泉くんってそこそこルックスも良いのに、何でだろう? まぁお姉さんで卒業しちゃおうか?」

「…」

「あはははっ冗談だって」

一瞬想像してしまった。

アヤちゃんは高級ソープの人気嬢だ。

アヤちゃんとプレイする為には2時間で8万円以上は掛かる。

そんなお金は貧乏大学生には無い。

「そうですよね、アヤちゃんみたいな綺麗なお姉さんが俺の相手なんてしてくれる訳無いですよね…解ってます」

これは冗談への冗談返し…ここ歌舞伎町店が特殊な店だからこそのコミュニケーションだ。

まぁ、普通に考えたら店のバイトに童貞かどうか聞くなんて事はないだろう。

「あははっ、そう悲しい顔されるとお姉さん困っちゃうな、そうだプライベートで」

「アヤ、遅刻するよ」

「えっこんな時間、それじゃ今泉く~んまたね」

「アイちゃんありがとう」

「どういたしまして、今泉くん、アヤには気をつけてね」

「解ってますよ、綺麗で海千山千のアヤちゃんが俺に本気の誘いをしている訳ないじゃないですか?」

「そうかも知れない、だけど違うかも知れない、だけどアヤが本気になったらね、話したよね? まぁ部屋から出られないけど天国みたいな幸せを味わいたいなら別に良いけど…男のロマンとか言えるならいいけど」

まぁ間違ってもアヤちゃんが俺なんか好きになる筈はない。

アヤちゃんは元はAV嬢しかも某アイドルのそっくりさんで有名だ。

特殊な癖が無ければ、アイドルやグラビアでも成功して可笑しくない位美人だ。

しかも尽くすし、あっちも上手いし、家事も完璧。

そんなアヤちゃんの最大の欠点は束縛だ。

ヤキモチが桁違いに凄い。

噂では、元彼が犬を可愛がっていて《アヤちゃんが犬と私どっちが好き》と聞いたそうだ。

元彼は冗談で「犬のピーちゃんが好きだな」と答えたら、その犬を抱っこして窓から放り投げた。

そのマンションは5階建て…当然犬は死んだ。

他の元カレの話では、会社まで毎日迎えに行き、残業で遅れたら浮気を疑ったそうだ。

勿論、彼氏は浮気などして無かったが、ある日受付の子と彼氏が話していていたら…「浮気者」と叫びながら突入して受付の子をボコボコにした。

勿論、警備員に捕まりそのまま警察に捕まり刑務所に入らなかったものの、見事に前科がついた。

そして、他の元彼は監禁されていた。

アヤちゃんが留守の時に逃げ出したらしいが、裸の状態でアヤちゃんのマンションに閉じ込められていたらしい。

最もこちらは、与えられる食料はお寿司や高級弁当、性の相手から体拭きまで完璧。

しかも、相手は同棲に同意して引き籠りだったから立証が難しく僅かな慰謝料で済んだそうだ。

こんな痛いアヤちゃんだが、彼氏には凄く優しい面も多い。

例えば、彼氏がポルシェが欲しいと言えば、その日のうちに買いに行くし、タワマンに住みたいと言えば買ってくれるかも知れない。

しかも彼の為なら殆ど寝ないで尽くしてくれる。 朝5時に起きて普通に家事をこなす。

アヤちゃんが何故こんなお金を持っているか解らないが…正に完璧な女性…

但し、地雷系ではある。

前にホストの人に「何でアヤちゃんは狙わないのか」聞いた。

そうしたら…「いや、確かに太客になるけど、多分他のお客を殺しかねないし、ホストを辞めなければ何されるか解らない」そう言っていた。

俺からしたら…うんありだ。

家族愛に飢えた俺からしたら、そこ迄愛してくれるなら、嬉しいかも知れない。

だけど、幾ら痛いと言っても、歌舞伎町のソープ嬢、実質ナンバー1、地雷以外は完璧美女が俺みたいな貧乏学生を本気で相手する訳は無い。

そうタカを括っていたんだけど…

モテ&死

「アヤちゃん? それ不味いんじゃないのかな?」

久しぶりに仁さんに会った。

正直、仁さんが何でそこ迄、気にするのか解らない。

アヤちゃんは、良く風俗専門誌の表紙になる位の美人だ。

※昭和の時代は風俗専門誌が本屋で販売され本当にグラビア感覚で発売されていた。

一部では新宿で一番かわいい風俗嬢として書かれている。

確かに性格を考えたら問題はあるが、フードルっていうレベルの女の子と俺が付き合うなんて普通に考えたら《無い》

「あははっ仁さん、俺みたいなモテない男にアヤちゃんが付き合う訳無いですよ」

「あの、忘れてないかな、私が今泉くんに指導霊や守護霊をつけた事」

「確かにそうですが、それがどうかしました?」

「今泉くん、君は思ったより本当はモテる」

「そんな、嘘だ~まったく」

「いや、身長178?でモデル体型、顔だって似たような感じの芸能人がいる」

「確かにお客さんに〇〇に似ているって言われますがあくまでお世辞ですよ」

どう考えても俺がモテるなんて可笑しい。

「いや、それでいて人当たりが良いんだから、普通にそこそこモテる筈でしょう」

「自分では解りません」

そんな訳無いよな、今迄告白で成功した事なんて無いのに

「今迄、君は凄く運が悪かったんだ、そうだな君の高校時代打ち込んでいた柔道でいうなら」

「俺、ちゃんと大会で成績だしていましたよ」

「オリンピックに出ても可笑しくない練習をしていたのに県大会3位、充分運が悪いと思うよ」

「そうですか…」

「それで、今の今泉くんは、私が霊との間とりもって、くっけたから運気もあがり、しかもその霊の殆どは歌舞伎町関係だから」

「それって」

「そう、ホストやカリスマヤクザにキャッチ、ある意味無敵だね」

確かに、あの時千人斬りって言いそうになった。

「そうなんですね」

「そうだよ、だから今の君は、昔と違う、気をつけた方が良い、ちゃんと気をつけないと死ぬよ」

「死ぬ…何で」

「今泉くんについて居る、最強のモテ男は、昔新宿でナンバー1のホストだった、彼は本当に女に狂っていてホストでナンバー1の癖に枕営業までしていたんだ」

「枕営業?」

「まぁ、女を抱くって事だね…ただでさえモテて、イケメンのホストが夜の相手までしてくれる、本気にするよね」

「それでどうなったんですか?」

「嫉妬に狂った女に滅多刺しにされて殺され、バラバラにされて捨てられたんだ」

「マジで」

「そう、マジで…指導霊は良い事も指導するけど、そういうトラウマも持っているから、気をつけないと同じような事になる事も0じゃない」

「そんな、真面目に気をつけます」

「まぁ、童貞捨てたいのは普通に解るし、モテないのが辛かったのも解るけど、気をつけてね」

まさか、本当に自分に女難が襲い掛かるとは夢にも思わなかった。

狂愛

まさか、本当にアヤちゃんから告白を受けると思わなかった。

「あのね、泉くん私が童貞貰ってあげようか? それで勘違いすると困るんだけど、仕事じゃ無くてSEXするって事はね…本気で付き合うって事だからね」

これは事実上の告白で間違いないと思う。

「あの、それは冗談でなく本気?」

「私はこういう事で冗談は言わないよ?」

こうして、俺はアヤちゃんと付き合あう事になった。

確かに凄く嫉妬深く、怒らせると怖いが、それだけを除けば最高の女の子だ。

グラビアアイドル並みに可愛いし綺麗。

そして尽くしてくれる。

奇行だけ目をつぶれば、それだけで良いんだから別に困らない。

めくるめく様な素晴らしい初体験をした、童貞って事もあったが8時間もの間やりっぱなしだった。

一緒にお風呂に入ったり、ローションプレイから何まで全部、多分幾らやっても飽きない、そんな感じだ。

終わった後にアヤちゃんは笑いながら言った。

「これがねお客には絶対にしない本気のSEX、まぁ彼氏用って奴なんだよ」

確かにこんなのはお金払ってやって貰えるような事じゃないと思う。

時間も長いし、お店で頼んでも絶対にしては貰えない。

何より、ホテル代から何から全部アヤちゃん持ちだ。

薬局で仕事をしている時にホストの人から聞いた事がある。

「風俗嬢やキャバ嬢がが稼ぐ金は重みが違うからな、もし奢ってくれるとしたら、それは心を許している、そう言う事だ」

確かにそう思う。

アヤちゃんのお金は、体を売って得た金だから。

確かにアヤちゃんは性格は普通じゃ無いかも知れない。

だけど、それは俺と同じで寂しいだけかも知れない。

そう思う様になった。

アヤちゃんは束縛は凄いが、それだけ何だと思う。

そして愛情が深いだけの女の子なんだと思う。

好きな人の為なら何でもする、その代わり【こんなに愛しているんだから】と束縛が凄いそれだけだ。

気がつくと、俺はアヤちゃんと一緒に同棲する事になった。

何回か家に泊まりに来た時に「お風呂も無いの?可哀想」と言われ、そのままなし崩し的にアヤちゃんと暮らす事になった。

アヤちゃんの愛は物凄く深くて重い。

例えば、アヤちゃんと暮らすと爪は自分で切らせて貰えなくなる、手足共々アヤちゃんが切ってくれる。

ただ、切るだけじゃなく、全ての爪は爪切りで無く、アヤちゃんが口に咥え歯を使って切る…そして切った爪をハンカチに吐き出しそれは瓶に詰められアヤちゃんの宝物になる。

俺が噛んだガムも綺麗な小さな折り紙に包まれコレクションになる。

大学までの生き帰りは時間がある限り、ポルシェで送ってくれる。

オープンカーの白いポルシェで送られる物だから、大学では【泉、ヤクザ説】が流れた。

勝手に恐怖し、話し掛けてくるのはテニス部位…しかもおべっかばかりだ。

まぁ、前の事もあり、そう見られても仕方ない。

アヤちゃんは何でも買ってくれようとする。

「泉、時計買ってあげるよ」

「それじゃ、ガジオのCショックが良いや」

「あの、もっと高い物にしない?」

「これで充分だよ」

「解った」

こんな感じだ。

俺にとってはアヤちゃんが嫌な思いして稼いでいるお金で贅沢はしたくなかった。

だが、これがアヤちゃんの筝せんに触れたようだ。

「何で、何で泉ーーっ私の事嫌いになったの? 私と別れたいから奢らせてくれないんでしょうーーーっ」

物を投げられ、最後は置物が飛んできた。

頭から血が流れてきた…そしてアヤちゃんの手には包丁が握られていた。

「泉殺して、私も死ぬーーっ」

「それは嬉しいけど、俺はアヤちゃんともっと楽しく生きたいな…」

「何、それ私が嫌いになったんじゃないの?」

「違うよ…」

俺は自分の気持ちを伝えた。

好きだから大切なお金を使って欲しく無かった事。

そのお金の重みは凄く解るから…と。

するとアヤちゃんは急に泣き出した。

「泉、泉…ごめん、本当にごめんなさい、ひくっひくっうわぁぁぁぁぁぁん」

謝りながら傷をなめ続けていた。

ひとしきり泣き終わる頃には俺の傷口は涎でびしょびしょになっていた。

だけど、それで終わらなかった。

「だけど、それじゃ、私何をあげて良いか解らないよ….」

「俺はもう凄い物を貰っているから他には何も要らないよ」

「私…何もあげてない…安物ばかりだよ、本当に何か無いの?」

多分、要らないと言っても納得しないんだろうな…

「そうだな、それならアヤちゃんが欲しい」

「えっ、私、私なんだ…仕方ないな、泉が欲しいのが私なら仕方ない…うんあげるよ」

その日のアヤちゃんは凄かった。

まさか、お尻の穴まで舐められるとは思わなかった。

朝まで凄い勢いで腰を振り続けていて、最早止まらなかった。

気がつくと朝になっていて…アヤちゃんは居なかった。

朝食とカードが置いてあって、暫く留守にすると書いてあった。

3日間位アヤちゃんは居なかった。

「ただいま~寂しかった泉」

「寂しかったよ~」

こう答えないとアヤちゃんは目が泳ぎだす。

「それでね、私が欲しいっていうから、こうしてみたんだけどどうかな?」

そう言うとアヤちゃんはブラウスを脱いだ。

そして背中を向けると、そこには和彫りの刺青で、僕の名前が背中に大きく彫られていた。

「アヤちゃん、それ~」

「うん、泉が欲しいのが私だっていうから、名前を書いてきたの?どうかなぁ~」

「ありがとう」

「それでねぇ、泉にお願いがあるの、大学辞めてくれないかな? ほら、そうしたら沢山一緒に居れるよ」

「そうだね、それじゃ早目に」

「だ~め、明日辞めてきてくれるよね」

「うん、解ったよ」

「それとね、私泉と死ぬまで離れないし、絶対に面倒見るからさぁ、パイプカットもしてくれる?」

「何で、赤ちゃん欲しいとか思わないの?」

「色々考えたんだけど、泉の赤ちゃんは欲しいよ…だけど私きっと私より子供を泉が好きになったら…殺しちゃうと思うんだよね」

確かにアヤちゃんだったらやりかねない…なら仕方ないな。

「そうだね、解ったよ…だけど、刺青したらもうお仕事できないんじゃない」

「あははははっ、可笑しいの、泉が【私が欲しい】って言ったんじゃない? もう他の人に抱かれるつもりなんて無いから安心してね、お金なら大丈夫だよ…泉は本当にお金が掛からないから、一生所か人生2回分位の貯金はあるからね」

「なら、安心だね」

「残りの人生、ラブラブで一生いようね」

結局、この後の俺の人生は、ヒヨコ薬局にいる時間以外は【全てアヤちゃん】と過ごす事になった。

綺麗だし優しいし、家族が欲しかった俺は…うん幸せだ。

【仁さんや仲間と】

俺は一応話をする為に皆に会いに行こうと思った。

「泉、どこ行くの? まさか浮気?」

さらにアヤちゃんの拘束は強くなり…ゲームにすら嫉妬するようになった。

「私が居るから要らないよね? ゲームに浮気しないでね」だって。

RPGのゲームをするのも浮気になる、但し、双六の様なゲームは一緒にできるから浮気では無い。

まぁ良いや、アヤちゃん可愛いし。

「違うよ、アヤちゃんと付き合ったんだから、アイちゃんや仁さん、有賀さんに報告に行くんだよ」

「そうか…それなら仕方ないね? そうだそれなら私も一緒に行くよ、その方が良いよね」

「泉くん…貴方そんなに愛情に飢えていたの?…良かったね..うん」

「まぁ、責任とるなら俺は文句いわないな、ただお前もう此処の店長にならないと外出できないんじゃないか? まぁ幸せは人それぞれだな」

「そうかぁ、こういう人間だから【歌舞伎町の霊】に好かれたんだ…なるほどね…女難が幸せね…良かったね」

「それじゃ泉、皆が祝福してくれたから結婚しちゃおうか?」

「そうだね、それじゃ籍入れて指輪買おうか? 流石に指輪代は俺が出すよ…ただ俺は貧乏だから安い奴で我慢してね」

「泉が買ってくれるなら、オモチャでも良いよ、それで式はどうしよう?」

「ここの三人だけ招待すれば良いんじゃない?、そうだね」

アヤちゃんは席をちょっと外すと区役所から婚姻届けを貰ってきた。

有賀さんとアイちゃんが保証人になり…その後二人で出しにいった。

その後、何故か俺の事を皆して勇者って呼ぶんだけど、訳が解らない。

仁さんの死

仁さんが可笑しくなった。

最近、全く見ないから…皆で仁さんが住むマンションを訪ねた。

居るのは解っているのに出て来ない…

1回だけ電話したら…

「泉くん…祓えないんだ、幾ら帰れって言っても祓えないんだ…」

そう言っていた。

そしてそれから3日後、仁さんはマンションから飛び降り死んだ。

仁さんには身寄りがなくアイちゃんが部屋の始末をする事になった。

かたずけを手伝いにいって見た物は….凄く気持ち悪い部屋で、助けを求めるメッセージ無数に書かれていた。

ただ、それだけだ…

これでこの物語は終わる。

何故ならこれは本当の話だからだ…

偶に友人と霊の話しをする。

だけど、こんな経験をした俺は…否定が出来ない。

                                       【FIN】

あとがき
この話はハーフフィクション。

半分は本当の話です。

?仁さんという霊能者が居た事…そして最後はこの様な死に方をした事

?アヤさんのエピソード

?有賀さんの話

名前は違えど…元になる話を僕は直接目にしています。

この物語の世界に僕はモブとして存在していました。

結局長編には書けませんでしたが…真実の中にも小説みたいな話はあります。

それを少しだけ書いてみました。

有難うございました。