組織で2番目だった僕

プロローグ
僕の名前は黒木剣。
世界征服組織ブラックローズの副総統だ。

僕は雪の振る寒い日に捨て子として捨てられていた。
拾ってくれたのはブラックローズという所謂、悪の組織と言われる団体の前の総統だった。
寒い中、ずうっと放置されていた為、僕の手足は壊死をおこし切断せざる負えなかったそうだ。
更に心臓も止まりかかっていた。
そんな僕にブラックローズは新しい手足を与えてくれ高度な治療を施してくれた。
前総統の話では 此処じゃなかったら確実に死んでいたらしい。
僕の延命治療中に、今の総統の「私の弟にする」
その一声で僕はヒューマン型に改良が決まったそうだ。
僕としては不満もある。
例えば、蟹元帥の体は強じんな殻で覆われている。一説によればダイヤモンドより硬いそうだ。
ベアー将軍の体は文字通り熊の様な強力な力が出せる。
なのに僕はヒューマンタイプなので精々がが通常の人間の8倍くらいの力しか出せない。
総統の片腕を自負する副総統の僕がこの組織の中で戦闘員を除くと一番弱いかも知れない。
だが、総統である姉からしたら
「それでいい、お前は戦闘タイプと違うから」ととりあってくれなかった。
僕は作戦を追行してアジトに帰ると何か様子が違っていた。

姉と仲間を失った日

可笑しい、この基地への入り口が隠蔽されていない。

通常ならこの入口は見つからない様に周りに合わせてカモフラージュされている。

その入り口が開けっ放しになっている。

これはあり得ない筈だ。

こんな馬鹿な事は誰もする訳が無い。

中に入って見ると、見張り役の戦闘員が死んでいる。

嘘だろう、只の戦闘員と言っても銃器は持っているし、特殊部隊並みに強い。

それが死んでいる…

まさか、この基地を何者かが襲撃した、そういう事か?

馬鹿な、此処には総統である姉がいる。

そして何より蟹元帥を含む二人の幹部がいる…絶対に大丈夫なはずだ。

階段を急ぎ降りた。

そこには…ベアー将軍の死体があった。

声は出さない、遠目にも死んでいるのが解る。

よく見ると胸がえぐり取られている。

考えられない、ベアー将軍は熊の改造人間だ、本物の熊の約5倍の力が出せる。

そんな存在が殺されている…しかも相手側の死体が一つも無い。

その後も沢山の戦闘員の死体を越えてようやく作戦指令室に入った。

そこには、蟹将軍の死体があり…その近くには、嘘だろう…嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーっ!

総統 ブラックローズ事、姉の死体が転がっていた。

姉の死体に触ると入口の扉が閉まり…モニターに姉の姿が映し出された。

「ようやく帰還したか、我が弟ブラックソード…あはははっ 固苦しいのは抜きにするね」

目の前に死体があるのに…モニターの姉は笑っていた。

「どうやら、正義の味方って奴の存在お姉ちゃん侮っていたわ、前に一個皆殺しにして済んだと思っていたらさぁ、もっと強いのが居たのよね…あはははっ全然駄目、思ったより正義って奴も闇を抱えているのね、存在すら気づかせずにうちの改造人間が歯が立たないのよ」

僕はだんだんと涙でモニターが見えなくなってきた。

「それでね、私は総統だから、此処で死ななくちゃ示しがつかないのよ…そして他の幹部は皆、人間に見えないからね組織が無いと生きていけない…だけど貴方は、どう見ても人間にしか見えないから何処でも生きていけるわ」

《姉さん》

「だから、全部の支部から貴方のデーターを消させたのよ…あっ復讐とか考えちゃ駄目よ? 組織は支部まで一斉に攻撃を受けて全滅、蟹将軍が敵わない時点でどうあがいても無理だからね…そうね高校生として残りの人生を楽しく過ごしなさい」

《嘘だろう、この僕が高校生…組織に全てを掛けてきた僕が高校生…》

「それでは、ブラックソードよ最後の命令だよ…高校生として静かに暮らすのよ」

この映像が流れると、基地のサイレンが鳴り響いて来た。

それと同時に、脱出用ポッドが開いた。

恐らく、これに乗れという事なのだろう。

僕は脱出用ポッドに飛び乗ると扉が閉まり、そのまま地上へと輩出された。

そのまま、ポッドは森に落ち停止した。

ポッドから降りると元から基地があった場所が爆発していた。

この瞬間…僕は全てを失った事に気がついた。

「姉さん、姉さん姉さん…ねーーーーさーーんんんーーーっ」

今日くらい泣いても良いよね…明日からは泣かないからさぁ..

「うわぁぁぁぁぁん うわぁぁぁぁーーーーーーっ」

泣き声が森に鳴り響いた。

ホテルに泊まる

何時までもこんな所で泣いていても仕方ない。

僕は泣き止み、ポッドの中を見回した。

すると、大きな封筒があった。

その中には僕の戸籍やら通帳やら色々な物が入っていた。

多分、実社会で暮らせるように姉であるブラックローズが用意してくれた物だろう。

今の偽名、黒木剣(くろき つるぎ)で暮らせるようになっていた。

姉の事を思い出す。

生前姉は僕に良く、「良い! 目立つような生活をしちゃだめよ! あくまで裏の組織なんだからね」と言っていた。

姉や先代の総統から、経済を学び世界を飛び回っていた僕に、今更高校生活なんて必要なのかな?

まぁ、ブラックローズが言うのだから僕に必要な事かも知れない。

だが、今の僕には何かしようと言う気が起きない。

森を出て山を下りて久々に街に出た。

何でだろうか? 周りの人間が僕を見ている気がする。

「あの人…何かのコスプレなのかしら? 凄く変な格好しているわ」

「薄汚れていて気持ち悪いわね」

「見ちゃ駄目よ、多分可笑しな人だから」

何を言っているのか解らないが、気にしても仕方ない。

そのまま、ホテルに着いた。

「いらっしゃいませ、お客様、ご予約はされていますか?」

「していませんが…」

「そうですか? お部屋のご希望はありますか、本日は大変混んでいまして、ご案内できる部屋が1泊辺り38000円のスイートルームしか空いておりません」

「それで良い、それで申し訳ないのですが、1か月程滞在しても大丈夫ですか?」

「それは構いませんが、料金が先払いになりますが宜しいでしょうか?」

「構いませんよ」

僕は自分のカードを取り出した。

このクレジットカードは組織と関係なく僕自身が稼いだお金の口座に繋がっているから問題も無いだろう。

「それでは30泊分切らせて頂きます、総額114万円になりますが本当に宜しいのでしょうか?」

「はい、お願いします、あとこちらをどうぞ!」

僕は札束を二つついでにカウンターに置いた。

「黒木様、このお金は一体なんでしょうか?」

「本当はマナー的に良くないのは解りますが、僕は気がつかない人間なのでチップを先払いさせて頂きます、これを皆さんで分けて下さい」

「くく黒木様、こんな高額なチップ困ります」

「今日だけじゃありません、此処に滞在している期間のチップです、決して高額では無いと思いますよ?受け取って貰わないと僕も恰好が付きません、何処でもしている事なので気にせずお受け取り下さい」

「そう言われるなら一旦受け取りますが、支配人に相談させて頂きます」

「はい、宜しくお願い致します」

「黒木様、鞄をお持ち致します、お部屋にご案内致します」

ポーターらしき方が来て鞄を持ってくれた。

「お願いします」

これでようやく、落ち着ける。

部屋に入ると土で汚れた服を脱いでシャワーを浴びた。

体中が汚れていたんだ、変な目で見られる訳だ…汚い、汚い。

シャワーから出るとガウンを羽織り、そのまま布団にダイブした。

あははははっ、1人ってこういう事なんだ…

詰まらない、何もする気が起きない…仲間がいないと生きていくのが楽しくない。

此処には同じ目標の為に頑張る仲間は居ない。

本当に詰まらないな、なんだこれ…このまま死んでしまっても構わないや。

今は…疲れた、ただ寝たい。

僕はそのまま死んだように眠った。

【フロントと支配人】

さっきカードを見て解った。

あのカードはブラックカードだ、しかもあの審査が煩いと有名な会社のカードで《買えない物は無い》という限度額が無いカードだ。

確か飛行機でもクルーザーでも何でも買える。

そしてこのチップ、札束2つ200万円ある。

そこから考えるならVIPに違いない、それも日本という枠でなく世界と言う枠でのVIP。

そんな方で無ければ、今時チップを纏めて200万なんて渡すはずがない。

残念ながら、こんな凄いお客様はうち位じゃあまり来ない。

だからこそ支配人に連絡を取る必要がある。

「すみません、至急のお話があります」

「何かトラブルか?」

「実は…」

私は今あった事をそのまま話した。

「お金を返す事は当ホテルがそこ迄のもてなしが出来ないと認めた事になる、恐らくそのお客様は他国の高級ホテルと同等に扱ってくれたのだ」

「それではどうすれば良いのでしょうか?」

「そのチップは従業員全員で分けなさい、その代わり最高のサービスを心掛けるように」

「解りました」

組織で育った黒木は常識に欠けていた。

銀行に行った。
駄目だ、本当に何もする気が起きない。

もう此処に泊って10日間になるが何もしてないや。

お腹がすいたらルームサービスを頼んで他はただ寝ているだけ。

これで良い訳が無い、僕はブラックローズの最後の一人だ。

復讐も出来ないけど…せめて姉が言う通り《普通の高校生》をしなくちゃいけないよな。

何から手をつければ良いんだろうか?

正直言わせて貰えば、何も解らない。

よく考えて見たら、世界征服と金儲け、経済、それ以外は何もしていなかった。

才淡いこのホテルはWIFIもあるし、スマホとノートパソコンで調べてみた。

まず、僕に必要なのは《住む場所》だ。

そう考えたら、行く場所は決まった、不動産屋さんだ。

そこに行って部屋を借りなくては、そこが多分一番最初のスタートだ。

近隣の不動産屋に来た。

お金はあるとはいえ、余り贅沢はしない方が良いだろう。

月80万も出せば結構広い部屋も借りられるが此処はぐっと家賃を押さえて50万円以下の物件にしておこう。

店頭に貼っている物件で気に入ったのがあったから入店してみた。

「いらっしゃいませ、お部屋をお探しですか?」

「はい、店頭で気に入った物件があったので借りたいと思いまして」

なんだか嫌な目で見られている気がする。

こういう目をする人物はこちらを勘ぐっている人物だ。

「それでどの物件ですか?」

「はい、こちらの物件です」

「はぁ~これ1か月48万の家賃なんですが…見間違いとか言いませんよね」

「はい、それ位なら充分払えると思います」

「敷金とか礼金とか掛かりますよ? それにお客様は未成年じゃないですか?」

「はい…《確か》16歳です」

「親御さんは許可されたのですか?」

「両親はいません」

「…保証人は?」

「居ません」

「はぁ~貴方私をおちょくりに来たんですか? 両親も居ない? 保証人も居ない? そんな人間がこんな高級マンション借りれる訳が無いでしょうが」

「あの、お金なら12ケタ位ありますが…」

「ぷっ…12ケタ、1千億ですか…冗談は止めて下さいね、これ以上馬鹿言うなら摘まみだしますよ? ほら奥で怖い店長も睨んでいますよ、とっと出て行きなさい、金持ちゴッコは他でして下さいね」

困ったな…保証人が要るのか…

「解りました、ご迷惑をお掛け致しました」

お金に余裕があっても保証人がいないと何も出来ないのか?

何で姉は僕を高校生にしたかったんだ? どうせ戸籍を偽造するなら20歳にしてくれれば良いのに。

まぁ良いや、こういう時はとりあえず銀行に相談だ。

仕方なく僕は丸の内にある、ポリアル銀行 本店に行く事にした。

ここは組織の表の顔である会社のメインバンクだし、僕のお金も殆ど此処に預けてある。

《よく姉から困った事があったら銀行》

そう言われていた。

「すみません、松井頭取に会いたいのですが?」

「アポイントはおありですか?」

「有りませんが」

「頭取はアポイントが無い方にはお会いしません」

「急用で困っているのですが」

「無理でございます、お引き取りを」

「困っているんです」

「お引き取り下さい」

仕方ない、確かに約束をしなかった僕のミスだ。

姉は必ず連絡をしていた。

「それでは、連絡先の電話番号を教えて下さい」

「はぁ~ それを知らない人間に頭取が会う訳ないでしょうが…警備員呼びますよ」

「幾ら何でも、僕だってこの銀行に預金を預けているし、取引きしているんだそれは無いでしょう」

「仕方ありませんね、警備員を呼びます」

「そうですか」

何で此処までされなくちゃいけないんだ。

「とっとと出て行ってくれませんか」

「行かない」

「何をいっているんですか、仕方ない警備員を呼びます、覚悟して下さいね」

「何を揉めているんだ!」

「水島さん聞いて下さい、この変な男性が頭取と会わせろとしつこくて」

「君、しつこくしても…あれっ、貴方は黒木様の弟さんですか」

「良かった、知り合いに会えて、水島さん困っているんです、相談に乗って下さい」

「やはり、黒木様だ…野川くん、今、松井頭取はお忙しいのか?」

「会わせるんですか?」

「当たり前だろう…この方は元ローズカンパニーグループ総帥 黒木胡桃様の弟様ですよ」

「ローズカンパニーの総帥の弟様…失礼しました」

「それで、頭取の時間は取れそうか?」

「それが今、打ち合わせ中です」

「それじゃ木島常務の方に連絡を入れてくれ」

「はい」

受付が連絡を入れると、凄い勢いでエレベーターから走ってくる人物がいた。

「ハァハァ、いやぁ黒木様、お久しぶりでございます、大きくなりましたな」

「お久しぶりです松井頭取」

「はははっ本当に大きくなりましたな」

「木島常務まで、あの今は重要な打ち合わせ中だったのでは無いですか?」

「何を言っているんですか? この銀行には黒木様とのお付き合い以上に大切な用事なんてないよな、木島?」

「そうですよ、あんな社内会議放って置いても構いませんね」

「助かりました」

「解っております、胡桃様の癖がまた出たのですね、しっかりとフォローするように言われていますからねご安心を」

【頭取室にて】

「しかし、胡桃さんも忙しいですな、また何処かに行ってしまったのですか?」

姉である総統が何か言っていたのだろう…ここは話を合わせておくしかないな。

「はい」

「確かにビジネスになると直ぐに出かけてしまう、そう言う方ですから弟さんとしては大変ですね」

「そうですね、多分今度は結構長くなりそうです」

「だからですね、ローズカンパニーは畳んでしまって全部お金に変えてしまったのは」

「そんな事があったのですか?」

「話しを聞いていないんですか?」

「はい」

「会社を売ってしまわれて、そのお金は全部、貴方名義で当行が預かっています、詳しくは後で貸金庫に通帳から全部ありますので確認下さい、軽く13ケタはありますよ…これは贈与の税金を差し引いた金額になります。 すべての手続きは当行の弁護士と税理士がしますからご安心下さい」

「何から何まで有難うございます」

「それで、黒木様の後見人は胡桃様に頼まれて私がなりましたからご安心下さい….まぁ胡桃さんとは長い付き合いで半分娘の様に思っていましたからな」

「有難うございます、これで家を借りるなり買う事が出来る」

「そうですな、買うのであれば当社にも不動産部門がありますのでそこから良い物件を紹介させて頂きます」

「良かった、不動産屋に断られて困っていたんです」

「何処の不動産屋ですか?」

「ホテルから一番近い、何といったかな?」

「あそこかぁ~、まぁうちと付き合いもありますからクレームを入れて置きます」

「放って置いて構いませんよ」

「なら、そうしましょう」

暫くは姉、胡桃の話で華が咲いた。

どうやら此処では姉は死んだのでは無く、海外に新しいビジネスチャンスを求めて旅立った事になっている。

まだ、先代の総統がやっていた頃からの付き合いで、この銀行が資金繰りで困っていた時に先代が多額のお金を預けた。

そこからの付き合いだ。

裏で儲けたお金を姉の持っている会社に振り込む、その姉が持っている会社のメインバンクが此処だ。

銀行を助けた事から、家族の様に先代と姉は付き合っていたようだ。

言われて見れば、子供の時に頭取に遊園地に連れていって貰らった記憶もある。

「そう言えば高校に通うのでしたね、私としては通う必要は無いと思いますが、海外の大学を飛び級で卒業しているのに」

確かにそうなっている…まぁお金と裏の力でだけど、知識だけなら改造のせいかIQ1200の僕には必要ない。

「ですが、姉は僕には普通の高校生活を送って貰いたいみたいです」

「なら青倫館学園がお勧めです、名門と言えませんがそこそこ学力も高い、それに当行がお金を多額貸し付けているので融通も利きます」

「それじゃお願いして宜しいですか?」

「はい、任されました」

「後は住む所ですね」

「それなら、その学園から二つ先の駅近にタワーマンションがありますからそこを買っては如何ですか? 当行も一枚噛んでいますので」

「重ね重ね有難うございます」

「いえ、此方がいつもお世話になりっぱなしでしたからこれからはなんなりとご相談下さい」

久々に外に出て、姉の事を知っている人と話しをした僕は久々に笑った気がする。

ほんの少しだけ生きる希望が戻った気がした。

新たな始まり

見せてもらったタワーマンションは不動産屋で見たものより素晴らしい物だった。

「折角だから、最上階の部屋が良いんじゃないでしょうか?」

「3LDKで5億6千万ですか? これからは切りつめるとして家位は贅沢しても良いかな、お勧めならこれに決めようと思います」

「有難うございます、うちの不動産部門も喜びます」

「それなら良かった、あとは家具などを購入しにいって、必要な生活品を購入すればようやく1段落つけます」

「それなら、家具は 巧豊島で購入すると良いと思います、この部屋の間取り図をお渡ししますから、それでご相談されては如何でしょうか? 当行も付き合いが御座いますので、一本連絡入れて置きます、家電は、そうですね、エドバシカメラなら安くて良い物が手に入ると思います、こちらも電話入れておきましょうか?」

「姉と同じで、その辺りは詳しく無いので宜しくお願い致します」

「はい、それじゃ手配させて頂きます」

【不動産屋と銀行員の会話】

「水島さん、スイマセン…もう少し融資をお願い出来ませんか?」

「この返済プランじゃ、無理ですね、上にあげても通らないですよ…こんなザルじゃ」

「ですが、このままじゃ…」

「あのですね…言いたく無いですが、貴方は商売に向かないかも知れません」

「何故、そこ迄言うのですか?、私だって一生懸命にやって」

「あの言いにくいですが、折角のお客様を追い返してしまったようじゃないですか? 接客に問題ありとしか思えません」

「そんな事は無いと思います」

「この間、此処にタワマンを買いに来たお客様を追い返したでしょう? お金もあり一括で購入すると言っていたのに」

「あの、変な奴ですか?」

「貴方が今馬鹿にした方はローズカンパニーグループの元総帥の弟様です」

「ちょっと待って下さい! それじゃ本当にあの変じゃ無かった、あの方はマンションを買いに来ていたのですか」

「まぁうちょの銀行でもう購入されましたが、一応、億単位です」

「そんな、それじゃ」

「ちゃんとした接客をしていれば、次回の支払い分以上にはなったと思いますよ」

「….」

結局、次の日僕は言われた様に家具やと家電量販店で買い物をした。

これで大まかな下準備は終わった。

その数日後、家具や家電が家に届き、それと同時にホテルを引き払った。

「今迄お世話になりました」

「また何時でもご利用ください」

これでようやく新しい一歩を踏み出す事が出来る。

普通に暮らす…普通の学生とはどういう者か解らないけど…精一杯生きていくだけだ。

仲間とは…

青倫館学園への編入は簡単に終わってしまった。

面接も試験も多分完璧だろう。

仮にも大学卒業しているし、高校生くらいの勉強なら楽勝だ。

僕は改造人間、絶対記憶能力もある。

卑怯と言えば卑怯…IQも1200あるから楽勝だ。

だが、これは自慢出来るもんじゃない。

脳改造で手に入った物、努力もせずに手に入った物だから誇る気も無い。

面接ですら、沢山の記憶から適当に話していただけだ。

その結果…

「素晴らしい、全てのテストは満点、面接も素晴らしい受け答えでした、編入を認めます」

「有難うございます」

幾ら名門とはいえ、僕には簡単すぎる。

「あの…此処まで優秀な生徒は見たことが無いので特待生として入校を」

「それは要りませんよ、普通の高校生として生活したいので、一般の学生として入学させて下さい」

「宜しいのですか?」

「はい」

こうして僕はようやく高校生としてのスタートを始める事になった。

だが、始まってみた物の…正直、毎日何をやっているんだか解らない。

授業を聞いていても、意味が無い。

こんな物はとっくのとうに覚えているし、僕の頭脳はコンピューターよりも早く計算が可能。

だから、教室ではただ寝ている事が多い。

最初は教師が良く起こしたが、今では起こされる事は無い。

寝ていても、的確に質問に答え、テストはほぼ100点、学年1だから、構われなくなっている。

そんな僕の評価はクラスでは最悪だ。

「あのキモ眼鏡何様なの、ちょっと頭が良いからってさぁ何あの態度」

「本当にキモイよな、髪の毛はボサボサだし、あんな分厚い眼鏡かけて、勉強以外なにも無いんだろうな」

「多分、貧乏なんじゃないのかな、だから何時も制服で居るんだよ」

「本当に付き合い悪いよな」

僕の聴覚は凄く良いんだ…聞こえている。

まぁ低俗な奴らが何を言っていても気にはならない。

卒業したら、もう関係の無い人間だ…名前を覚える気にもならない。

こちらも付き合う気が無いからどうでも良い事だ。

だが、そんな僕にも気を使う奴がいる。

「余り、悪口は言わない方が良いよ? 本当に貧乏だったら仕方ないんじゃない? お金が無いから身だしなみにお金が掛けられない、お金の為にバイトしているから時間が無い、仕方ない事じゃないかな?」

「陽子…」

「同じクラスメイトなんだからさぁ…バイトと勉強で疲れているんだから気位つかってあげようよ」

「そう言われれば、そうだな」

「うちは裕福だから、そんなの解らなかったよ、苦学生なら仕方ないか」

「まぁ、だから、奨学生狙いでがり勉している、そう考えたら仕方ないな」

この女は《橘 陽子》根は良い奴なのかも知れないが、人の事を勝手に決めつけて、勝手にこんな噂に変えてしまった。

僕はお前達の親の何倍も金はあるよ、そう言いたくなるが、まぁそんな高校生は居ないだろうから《無視》で良い。

だが、勝手に《可哀想な子》にされるのは不愉快な事に変わりない。

不愉快ではあるが、今の僕はただの学生だ、こんなのは放置で良い。

ただ、面倒臭い事に、この橘 陽子は何かと僕に関わってくる。

「黒木くん、少しはクラスに馴染む様にした方が良いよ、このままじゃ卒業まで友達出来ないよ」

「そうだな」

別に友達なんて欲しくない、まぁ一緒に世界征服を目指す様な奴なら話は別…いや僕は平凡に生きなくちゃ駄目だ、それも要らない。

「何時も《そうだね》だけ少しは前向きに考えた方が良いよ」

「そうだな」

「だから、いい加減に少しは考えなよ」

「じゃぁ聞くけど? 橘さんには友達は居るの?」

「ええっ沢山居るわよ」

「嘘だ」

「嘘なんて言わないよ!」

「だったら、その友達は橘さんにもしもの事があったら代わりに死んでくれるのかな? 大きな困難にあった時に死に物狂いで助けてくれるのかな? お金に困ったら10億位、貸してくれるのかな?」

「…そんなの居る訳無いじゃない」

「だったら橘さんにも友達は居ないと思うよ」

「黒木くん、そうやって煙に巻くのは良く無いよ」

そう言って橘さんは立ち去った。

橘さんはクラス委員長だから、僕に関わって来るしかない。

先生に頼まれたから、そういう部分も大きいと思う。

しかも《クラスの人気者》そういう立場もあるからしているだけ《それだけだ》

僕にとっての友人とは組織の仲間しか知らない。

共に命を掛けた、大きな野望の為に戦う仲間。

お前達じゃ…勤まらないよ。

一方的に蹴られる

毎日が詰まらないな…

仕方なく学園には通っているが、姉の最後の願いの為に通っているだけだ。

「おや」

詰まらない授業を受けて一人帰っていると、冴えない中年オヤジが絡まれていた。

何時もなら見ても無視するが、今日は目に止まった。

なんだかな、あの親父、改造される前のカバ男に少し似ているな。

思わず、足を止めて見てしまった。

「君達、いい加減にしたまえ」

「何だと、このおっさんが煩いんだよ」

「君達が公園でたむろって居るから、子供や母親が怯えて遊べないじゃないか?」

外見が似ていると中身まで似て来るのか…

懐かしいな。

「おっさんには関係ないだろうが、文句がある奴がいるならそいつが直接言ってくれば良いだろうが」

「それは、お前達みたいな奴らに子供や女性が文句何て言えないだろうが」

「うっさいな、めんどくさいからからこのおっさんボコっちゃえ」

「あーあ、阿部ちゃん怒らすから悪いんだ、俺は知らないぞ」

「可哀想に、殴られた挙句、金目の物を盗られちゃうんだ」

「君達、そんな犯罪みたいな事は止めたまえ」

「もう煩ぇや、オラよ」

殴り始めたな…さぁ反撃だ。

何だ、この親父、まるで弱いじゃないか?

見た感じは筋肉質なのに…何故戦わない。

「お前、何見ているんだよ、ムカつくな、その目」

「僕はただ見ているだけだ、お構いなく」

「何だ、お前もムカつくから、一緒にボコってやんよ、おらっ」

何だ此奴、戦闘員より遙かに遅いじゃないか?

はぁ~これが一般人? 

僕は簡単に避けると軽くお腹を殴った。

殺さない様に殴るのが案外難しい…ちょっと強く殴ったら内臓破裂で死んでしまう。

「うげっうごごごうげぇぇぇぇぇぇぇーーーっ」

「貴方がいけないんですよ? 大した実力も無いのに掛かってくるから..」

「おい、健二、健二…大丈夫か? 貴様、健二をこんな目に遭わせやがって、絶対に許さねぇ」

「だったら、どうする」 《やばい、あれはうちの学園の制服じゃないか? しかも廊下ですれ違った事がある》

「こうするんだよ」

仕方ない、痛くも痒くないが、それらしく見せた方が良いだろうな。

改造人間の僕は人どころかワニに噛まれても、白熊に殴られても怪我しない。

いや、真面目な話、ゾウに踏まれても怪我はしない。

それだと対外的に不味いので、一応ある程度ダメージを受けると《怪我っぽく見える》ように調整されている。

だが、実際にはダメージは無い。

それこそヘビー級の世界チャンピオンのボクサーだって人類には不可能だ。

「グボっ」

まぁこういう感じにしないと不味いだろう。

それこそ《簡単に倒したら噂になって目立つ》

仕方ない、何時でも殺せる、そう考えたら悔しくない。

この後に下手に目立って生活が脅かされる事を考えたら…この方が良い。

僕は黙って蹲り、ひたすら蹴られ続けた。

「何だぁーー此奴、威勢が良かったのは最初だけじゃねーーーか」

「本当に弱いくせにしゃしゃり出てくるからこうなるんだよっ ガキが」

「あーあー馬鹿じゃないの? ガキがさぁ..オラオラオラ」

彼奴らはいたぶり満足すると、「おら見世物じゃねーぞ」と叫びながら去っていった。

「君、巻き込んでしまって済まなかったな…」

後に残ったのはカバ男に似た中年オヤジのすまなそうな顔だった。

橘家にて…奈々子アタック

「本当にすまなかったね…君、汚れているし怪我しているじゃないか? この後うちに来なさい」

「いえ、僕は大丈夫です」

「良いから来なさい、まぁ助けに入って貰ったお礼もしたいからね」

まぁ、特にやる事も無いし、良いが…

「解りました、それじゃお世話になります」

懐かしいカバ男に似た中年の男、話し相手になるのも良いかも知れない。

カバ男に似た中年の男についていった。

結構距離があるな。

近くの公園を抜けて近くの住宅街に歩いてきた。

二人して破けた服で怪我した姿で歩いているから目立って仕方がない。

周りの家とほとんど同じ家の前で立ち止まった。

表札を見ると…《橘》。

まさかな…

「此処が私の家なんだ、遠慮せずに上がってくれ」

「はぁ、解りました」

玄関に居るとパタパタと音が奥からしてきた。

三人だな。

「貴方、お帰りなさい、あらっお客様?」

「ああっ、ちょっとそこで絡まれてな、この子が助けに入ってくれたんでお礼でもしようと思ってな」

「そうですか、あら貴方もその子も怪我しているわね、救急箱を用意してくるわ」

「たした傷で無いのでお構いなく」

「駄目ですよ、しかも泥だらけ、先にお風呂に入った方が良さそうです」

「あの」

「お客様なんですから遠慮せずに…そうだ先にお入り下さいな」

なんだか、少し姉に似ている気がする。

こういうタイプは遠慮しても無駄だな。

「そうですね、お世話になります」

「はい」

「あの黒木くん、どうして家に?」

「えーと」

「ただいま、陽子、なんだ二人とも知り合いなのか、この少年にさっき絡まれている所を助けに入って貰ってな」

「嘘、黒木くんが助けに入ってくれたの?」

《そう無茶な事しそうに見えないのにな》

「まぁね、結局、こんなざまだけどね」

「だけど無茶するね黒木くんも」

「そうでもなかったぞ! 最初は結構カッコ良く躱していた位だ、まぁ多勢に無勢だから仕方ない」

「何だ、幾らいっても負けちゃったって事だよね」

「こら奈々子、お父さんが助けて貰ったんだからそれは無いでしょう…謝りなさい」

「大丈夫ですよ、本当の事だから」

《凄く綺麗な男の子の声が聞こえて来たから降りてきたのに、根暗眼鏡じゃない、何だかな、まったくもう》

「ほら、当人が良いって言っているんだから別に良いじゃない」

「全く、もうしわけ御座いませんね、この子ったら」

「そうだよ、幾ら本当の事でも言って良い事と悪い事があるよ」

「だって」

「あはは、良いですよ」

【風呂場にて】

しかし、この風呂狭いな。

まぁ折角貸してくれるって言うんだ、貸して貰おう。

眼鏡外して、こんな物か。

こういう時は生体改造で良かったって思うな。

多分、機械改造とかだとこういう湯につかる感動とかは無くなってしまうんだろうな。

「ふぃ~気持ち良いな」

「奈々子、黒木くんにこの着替えを持って行って」

「え~やだよ、お姉ちゃんに頼んでよ!」

「駄目よ、陽子には買い物に行って貰っているから」

「はぁ、仕方ない解ったよ~」

《イケメンならいざ知らず、何であんな冴えない相手に奈々子が持って行かなくちゃいけないのよ…大体お姉ちゃんの同級生でしょう》

「ほら、これ着替え…それじゃ、えっーー」

《何これっ 肌何て私より白くて綺麗、それに何なのあの目、凄く綺麗、髪だってよく見たら凄く艶々して綺麗な黒だし、あのボサボサ髪で隠れていたけど、とんでもなくイケメンじゃない…こんな綺麗な人芸能人にも居ないよ、よく見たら体だって鍛えぬいた凄い体、しかも凄く細い、細マッチョってこんな体なんだ、まるでそう、ゲームか少女漫画から出て来たそうとしか思えないよ…王子様? 宰相の息子?どれでもいける》

「これ貸してくれるんだ、有難う」

《ああああああっありがとうだって、気のせいか歯がきらりって光った気がするよ》

「どういたしましてーーーっ」

奈々子は凄い勢いでドアを閉めて階段を昇っていった。

【奈々子SIDE】

あれっ、黒木ってお姉ちゃんが言っていた、根暗そうな転校生だった筈だよね。

お姉ちゃん、あれに気がついて居ないのかな?

絶対に気がついて居ないよね? お姉ちゃんって私と同じ凄く面食いだもん、あれ見ていたら絶対に家でも陰口なんて言わないよね。

奈々子は凄く面食い…うん、それは認めるよ、うん。

だって周りの男の子なんて大したイケメンはいないし、クラスでううんっ中等部で一番人気のある智くんだって大した事無いし…点数でいうなら40点位。芸能人だって精々が60点、本当のイケメンなんて小説やゲームの世界にしか居ないと思っていたのに…なのになのに、きゃぁあれ何、あれは何なのかな…100点、ううんあれ以上の人なんて居ないと思う。

流れるような綺麗な黒髪に、輝く綺麗な瞳、あれは王子様…ううん、乙女ゲーの私の一推しのシュバルツ様が実際の世界に居たら、多分あんな感じなのだと思うな…

だったら、今がチャンスじゃないかな?

まだ、誰も、剣様の魅力に気がついて居ないんだから、奈々子しかしらないんだもん。

これでも奈々子は可愛いって言われるし、中等部だけど、歳にしたら2つしか違いが無いんだから大丈夫だよね。

うん、奈々子なら大丈夫。

さてと…《黒木お兄ちゃん》《剣お兄ちゃん》《黒木様》《剣様》どれが良いかな。

まずはお姉ちゃんをどうにかしないと。

【居間にて】

「剣お兄ちゃん、奈々子が手当してあげるからこっちに来て」

「そんな大丈夫だよ」

「駄目だよ、ほら擦りむいているよ? 消毒しなくちゃほらっ」

《可笑しい、あの奈々子は何?…男の子にあんなに優しい奈々子、生まれて初めてみたよ…男子からの告白も、うざいとか言うし、小学生の時は貰ったラブレターを黒板に貼りつけにするわ、私も多少はあるけど、あんな酷い事絶対にしない…ザニーズのアイドルさえ《大した事無い》なんて平気で言う奈々子が…なにあの態度》

「奈々子、どうしたの?」

「何言っているのかな? お姉ちゃん、奈々子は何時もの奈々子だよ」

「いや、奈々子、可笑しいし」

「可笑しく無いよ?お.ね.え.ちゃ.ん!」

「そうだね….あははっ」

《奈々子が凄く怖い…まさか本気で好きになったの? もしかして黒木くんってまさかチャームの魔法が使えるとか? まぁそれは解らないけど、理解できないわ、これっ》

「ほら、終わったよ、剣お兄ちゃん」

「ありがとう、奈々子ちゃん」

「どういたしまして、剣お兄ちゃん」

《ああっこれは本気だ、態々ミニスカートに着替えてきているよ。奈々子の自慢はあの凄く細くて綺麗な足だ。姉妹ながら本当に羨ましいと思う、だけど奈々子は滅多にミニスカートは履かない。前に理由を聞いて見たら《なんで自慢の足を下らない男になんて見せなくちゃならないの? もし奈々子から見て80点の男の子が居たら考えるかな》なんて言っていた…その奈々子がミニを履いているし着ている服も心なしか薄着だ…本気なの奈々子、それイケメン所か普通以下だよ》

「奈々子、お父さんの方も手当頼めるかな?」

「陽子お姉ちゃん、はいお願い」

「奈々子、何いっているの?」

「はぁ~お姉ちゃん何を言っているのかな? 奈々子は剣お兄ちゃんの手当てをしたんだよ? お父さんは陽子お姉ちゃんかお母さんがするのが正しいと思うな?」

「そうだね、お父さん私が手当してあげる」

《どうしちゃったの? 奈々子》

「剣お兄ちゃん、ご飯が出来るまで冷たい飲み物入れてあげるからあっちでゲームでもしない?」

「そうだね、ただ、ゲームってした事無いから教えてくれる?」

「うん、奈々子得意だから教えてあげる」

「だったら、お姉ちゃんも一緒に」

「えっお姉ちゃんもするの?」

「皆んなでした方が楽しいよ」

「剣お兄ちゃんが言うなら奈々子は良いよ」

久しぶりだな、こうやって誰かと一緒に居るのは。

以前は煩い位仲間に囲まれていたのに…今は一人だ。

案外、誰かと過ごすのは楽しかったんだな…

「どうかしたの? 剣お兄ちゃん、奈々子の顔を急に見つめてきて」

《この位近くで見れば今の状態でも凄いイケメンなのは解るじゃない? 皆節穴なのかな》

「いや、こういう風に誰かと一緒に居るのが久しぶりだなって思って」

「そう? 奈々子で良いなら何時でも一緒に居てあげるよ」

「そう…ありがとう」

「どういたしまして」

結局、その後、食事をご馳走になった。

「また遊びに来て下さいね」

「黒木くん、また明日」

「剣お兄ちゃん、また一緒に遊ぼうね?」

カバ男によく似た陽子さんのお父さんは疲れたのか途中から寝ていた。

「今度来る時は手土産でも持ってきます」

久々に誰かと過ごす時間は…案外楽しかった。

信じられない

たしかお姉ちゃんの情報ではこの辺りの筈ですが…このタワマンじゃないから、あの木造アパートかな。

あれは多分見られたく無いよね…だったらこの先の路地で待っていれば剣お兄ちゃんに会えるかな。

【時は少し遡る】

「あれっ奈々子は?」

「黒木君が 随分気に入ったみたいで一緒に登校するんだって早くにお弁当作って出て行ったわよ」

「奈々子が?」

嘘、信じられない。

奈々子は朝が凄く弱くていつも不機嫌な顔をしている。

時間ぎりぎりまで寝ていて、慌てて朝食抜きで登校するのが何時もの日課だ。

それが…もう学校に行った?

信じられない、今迄私より奈々子が先に起きた事なんてないのに…何で?

黒木くんはどう見てももっさりしている感じだ、正直言えばクラス委員でなければ、進んで話掛けたりしない。

奈々子は私よりも更に面食いだから、普通に考えたら相手にしないと思う。

青倫館学園は小中高一貫教育だから結構なマンモス校だ。

その中でも奈々子は《外見だけなら上位》に入る。

学園内にある美少女ランキングでは一桁台。

中等部では常に1~2位を争っている。

奈々子が常に1位にならない理由は、その性格にある。

自分の美貌に自信がある奈々子は《その事を良く鼻にかけている》

だけど、その分を加味しても凄く人気がある。

正直、私は奈々子には敵わない。

クラス委員をして愛想を振りまいて、それでようやくクラスの人気者。

《誰にでも優しい陽子ちゃん》それでようやくこの立場だ。

奈々子みたいに何も努力しないで全部持っている子とは違う。

私だって普通よりは可愛いと自分では思っているし、そうだと思う。

だけど、近くに奈々子が居るから…私を好きになる男の子は皆、奈々子の方を好きになる。

そして、残酷に奈々子に振られる。

奈々子はスーパー面食いだ。

だから、私から彼氏を盗る事などしない。

むしろ「お姉ちゃんの彼氏の癖に最低」「死んだ方が良いよ」と平気で言う。

絶対に付き合わない事が解っているのに…皆が奈々子にいく。

そんな奈々子は《シスコン気味》でもある。

あんなにツンツンしているくせに《お姉ちゃん》と何時も家ではすり寄ってくる。

まぁだからこそ許せるんだけどね。

まぁ話は元に戻すけど…奈々子は《超》が付く面食いだ。

それがどうして、黒木くんなのか解らない。

でも、奈々子に彼氏が出来れば、これからは私も恋愛が出来るから嬉しいけどね。

【戻る】

ここで待っていれば大丈夫よね?

剣お兄ちゃん、早く来ないかな…

「あれっ奈々子ちゃん、どうしたの? こんな早くから」

剣お兄ちゃん…しかし何でこんな、変装みたいな事しているのかな?

普通に眼鏡を外して髪型だけ治せば、凄くカッコ良いのに。

まぁ、そのお陰で《皆が気がつかない》から凄く良いんだけどね…

「えーと、近くまで来たんで、もしかしたら剣お兄ちゃん居るかなって思って」

「そう、だったら一緒に学園迄行こうか?」

「はい、剣お兄ちゃん」

しかし、凄いな~ しっかりと見ればこの距離なら素顔がしっかり見れるよ。

あの牛乳の便底みたいな眼鏡の横から見える、あの素顔…素敵すぎる。

髪だって、何故かボサボサにしているけど…風で流れるようにサラサラ。

私より絶対に綺麗…

あれっ

あれれっ

私、何で点をつけていたのかな?

不味いんじゃないかな?

剣お兄ちゃんが100点中120点….私は良い所80点じゃないかな?

今迄と逆じゃないこれ、私の方が頑張らないといけないんじゃ…

まぁ、剣お兄ちゃんの凄さが解る前が勝負だよね。

【周り】

「あれ、橘 奈々子じゃない? なんで、あんな冴えない男連れているの?」

「彼氏じゃないだろう、彼奴とんでもない面食いな筈だから」

「そうだよね、あれで良いなら、智くんや徹くんが玉砕するわけ無いし」

「しかし、あの男誰なんだ」

二人して暫く歩いていると学園にたどり着いた。

「それじゃ、奈々子ちゃん僕はこっちだから」

「そうだね、そうだ、奈々子お弁当作ってきたんだぁ~ お昼に行っても良い?」

「お弁当…くれるの? ありがとう」

「うん、それじゃ昼休みに行くから楽しみにしててね、つ.る.ぎ.お.に.い.ちゃ.ん」

【昼休み】

「あれっ、奈々子どうしたの?」

「あっ、剣お兄ちゃん、奈々子お弁当を持ってきました、一緒に食べよう!」

「あっ、ありがとう」

「どう致しまして、剣お兄ちゃん」

「奈々子、お姉ちゃんの分は?」

「え~無いよ、お姉ちゃんは何時も学食でしょう?」

「そんな、本当に無いの? 一緒に食べるんじゃないの?」

「無いよ」

《周り》

「嘘、橘 奈々子が剣にお弁当持ってきているのか」

「あり得ないだろう、顔は凄く可愛いけど、性格は…あり得ない」

「何でだ、信じられない」

「ここで食べるのも何だから、そうだ学食で一緒に食べようか?」

「奈々子は別に構いません」

何でお姉ちゃんが割り込んでくるのかな…はぁ~迷惑なんだけど。

「そうだね」

どうしちゃったの奈々子。

学食で陽子が見た物は…

本当にどうしちゃったの奈々子…

ご飯の上にハート形の卵焼き、しかも ILOVE TURUGIって何?

タコさんウィンナーに、どう見てもこれ好きな人に作るお弁当だよね。

「はい、剣お兄ちゃん、あーん」

「大丈夫だよ、自分で食べれるから」

「そんな事言わないで、一口で良いんです」

「解りました…はい、あーん」

何をしているの?

あの奈々子が…信じられない。

「お姉ちゃん、さっさと学食買ってくれば? お昼終わっちゃうよ」

「あっ、そうだ買ってくるね、あははははっ」

あれは本気にしか見えない…

だけど…信じられない。

あの奈々子が誰かを好きになるなんて。

姉妹の会話

「奈々子、あんた一体どうしちゃったの?」

私は、何があったのか信じられなかった。

まさか、あの奈々子が急に男の子を好きになるなんて信じられなかった。

だから、家に帰った後に聞いて見た。

「何?お姉ちゃん?」

「いや、あの黒木くんの事だけど…本気?」

「本気に決まっているじゃないお姉ちゃん、そうじゃ無ければ教室まで押しかけたりしないし」

一体何があったと言うのよ?

こんなの可笑しすぎるじゃない。

「あの黒木くんだよ! 奈々子の好みと違うじゃない…あれなら今迄言い寄ってきた男の子の方がまだましじゃない?」

「お姉ちゃん、男の子は顔だけじゃ無いよ? それに剣お兄ちゃんに失礼だよ…お父さんを助けようとしたり、優しくて凄く良い男の子じゃない」

嘘だ…奈々子は私より面食いな筈、そして絶対にこんな可愛い事言わない。

可笑しい、あんな酷い性格の奈々子が…まさか黒木くんに何かされたの?

脅される訳はない、奈々子が脅すなら解るけど、そんなたまでは無いのは知っている。

もしかして黒魔法でも黒木くんが使える…そんな訳ないし。

もし、このまま黒木くんと奈々子が付き合ってくれるなら、もう私の恋愛の邪魔に奈々子はならないと思う。

「奈々子が本気なら、いいや、それじゃお弁当の作り方とかお姉ちゃんが教えてあげるよ」

「うん、お姉ちゃんは料理だけは上手だから、本当に助かるよ…あと剣お兄ちゃんについて情報も頂戴」

「うん、解った」

「だけど、黒木くんは余り喋らないし、あんまり良く知らないんだよね」

「喋らないってお姉ちゃん嫌われているの?」

「違うわよ、奈々子、お姉ちゃんはクラスの人気者だよ…黒木くんが浮いているんだよ」

「えっ…そうなんだ」

《これは更にラッキーなんじゃないかな》

「うん、あんな感じで暗いからね」

《馬鹿だなお姉ちゃん、ああいうのは《影があって素敵》と言うんだよ》

「それじゃ、剣お兄ちゃんと仲の良い友達って居ないの~」

「うん、少なくとも私の知る限りは居ないと思う」

「そうなんだ~良かった、良かった」

これは完全にいかれちゃっている。

気のせいか、目がハートマークに見える。

はっきり言って奈々子は恋愛強者だ、我が妹ながらかなりの美少女。

振られる訳は無い…と思う。

しかし、野球部のキャプテン、中等部の生徒会長、サッカー部のレギュラー、全部振った奈々子が選んだのが黒木くん?

まぁいいけどさぁ…本当に何があったのかな。

戦いにすらならないという真実

相変わらず、僕は何時もと変わらない日常を過ごしていた。

一つ変わった事は、奈々子が良く構って来る事だ。

案外、彼女は人気者で周りから少しやっかまれる。

まぁ別に気にならないな…よく考えたら妹みたいな存在って居なかったからこれはこれで楽しい。

そして今日も何時もの様に途中まで一緒に帰っていた。

「奈々子ちゃん、僕に構ってて良いの?」

「勿論、構わないよ? 私剣お兄ちゃんが一番だから」

懐かれるって言うのも満更悪くないな…

「何だ此奴、女なんか連れて」

「へぇーガキだけど結構可愛いじゃん、俺に寄こせよ」

「また芋虫みたいに這いずり回りたく無ければ、その女置いて行けよ」

不味いな、確かに登下校の際に通る公園の出来事だった。

そう考えたらもう一度出くわす可能性があった。

奈々子のお父さん橘さんが絡めれていた、あのチンピラだ。

僕が黙っていると男が話し出す。

「此処はまず人は通らないな…助けは期待できないぞ」

「ああっ更に防犯カメラも無いからな、何をしてもバレない」

成程、凄く都合が良い。

「奈々子ちゃん、僕はこの人達と話しがあるから、先に行って、後問題は無いから助けは要らない」

「だけど」

「良いから」

「おっと、そう簡単には通さないぜ」

「お金の話しよう…ほら」

小声で話、僕は奈々子に見えない様に札束をチンピラに見せた。

「そう言う事なら、女は行かせてやる、おいガキ女、この事を誰かに話したらただじゃ置かない、家を探し出して輪姦してやるからな」

「剣お兄ちゃん」

「あははっ僕は大丈夫だから、先に行って、直ぐに追いかけるから」

「はい」

奈々子が走って行き見えなくなった。

「さぁ、これで女は見逃した、金の話だな、とりあえずその懐の金寄こせ」

「明日も持って来いよ」

「金が続く限りは何もしない」

相手は三人、しかも人通りも無いしカメラも無いなら遠慮は要らない。

更にマンホールが近くにある。

「君達はこれで2回目、赦す必要は無いな…悪人なら悪人のルールを守らなくちゃ」

「何だ、それ」

僕は1人に近づくと顔に手を掛けた、そのまま力を入れると…グチャリ、頭ごと潰した。

頭部の半分が無くなり、体が痙攣していた。

何が起こったのか解らず、他の2人はこちらを見ていた。

多分、視覚に頭部が入らず《何かされた位》にしか考えて無いのだろう。

二人して殴ってきたからそれを躱して1人の目を潰した…勿論ただ潰すのではなくそのまま指を押し込んだ、下から頭蓋骨を吹き飛ばす様に突き入れたから頭蓋骨の前側が割れて脳味噌が露出していた。

「うがううーーーーっうががが」

何だか解らない悲鳴を上げてそのまま動かなくなった。

良く特撮ヒーロで怪人相手に、普通人が少しは戦える様な描写があるが、あんなの間違いだ。

どこぞの首領が《人間の20倍》なんて言っていたが、そんな化け物がいたら、絶対にバイク屋の中年オヤジが一撃を防げるわけ無い。

人間は熊に勝てないしライオンに勝てない…そんな人間が改造人間の一撃など防げるわけもない。

あれはお子様向けの空想の世界…真実は虐殺しかない。

僕はうっかり力を入れて物を壊さない様に1年以上訓練をした。

此処でようやく、1人が仲間が殺されている事に気がついた。

「あっああああああーーーっ助けて助けて助けて」

「あのさぁ、さっきの女の子、僕の数少ない友達なんだよね? 手を出されたら困るよ?」

「しない、しませんから…殺さないで」

「いや、クズの言う事は信じられないから」

僕は軽く腹を蹴った。

多分、背骨が折れて内臓がぐちゃぐちゃだ。

これで三人が死んだ訳だが、幸い近くにマンホールがあるから、蓋を開けて中に放り投げた。

マンホールって結構便利なんだ。

さっきの動作は素早くやったから、手が汚れている位で服は汚れていない…周りに少し血やら変な液体があるが少量だ。

持っていた薬品を掛けたらまぁ解らない程度にはなった。

そのまま公園で薬品を使い手を洗った。

だが、これでは、ちゃんと調べられたらバレる…だから

清掃屋に電話した。

「お世話になります、○○公園の入り口近くのマンホールの中猿3匹の死体があるから処理を頼む、あとその周辺の隠蔽と公園の水飲み場の処理も」

「解りました、いつもの口座に何時もの報酬を入れて下さい」

「解った」

掃除屋といっても表の掃除屋では無い。

裏の掃除屋だ…報酬が高い代わりに確実に解らない様に処理してくれる、有難い会社だ。

あの手の人間は約束など守らないから殺すのが一番だ。

「奈々子ちゃん、お待たせ」

「剣お兄ちゃん、大丈夫だったの?」

「うん、ちゃんと説得したらもうしないって約束してくれたよ」

「良かった」

あれっ…まだ5分もたって無いよ、しかも私走って来たのに..まぁ剣お兄ちゃんが無事ならそれで良いか。

掃除屋の憂鬱

ブラックローズ関係から久々に仕事の依頼を貰った。

あの組織は自分達で基本、隠蔽工作を行うが、偶に仕事を回してくる事がある。

だが、その仕事が問題なのだ。

「ボス、ブラックローズの仕事ですか?」

「そうだ」

「あんな現場は行きたくない…死体の処理の仕事はいい、だがあの組織絡みの現場は汚すぎる」

「すみません、俺もパスしたいけど…駄目なんですよね」

「支払いが良いんだ、悪いけど行ってくれ」

幾ら人通りが無いとは人の生活圏内。

大きなバンと作業車で駆けつける。

三角ポールとバーでを立てて通行止めを作る。

偽物の作業許可看板を立てて準備は終わる。

「確かにマンホールに死体を隠すのは都会なら定番だけど」

「これは無いな…普通なら只刺された、只銃で撃たれた死体回収と処理で良いんだが」

これが一番、ブラックローズの処理が嫌われる理由。

まるで獣に襲われた様に、何時も死体が惨殺死体、幾ら仕事とはいえやりたいとは思わないだろう。

「うぷっ、やっぱりな、これを抱き抱えて車に載せないと行かないのか」

「うぐっーーーはぁはぁ、飯抜いてきて良かった、飯食ってきていたら吐いていたな」

三体の惨殺死体を車に載せて、マンホール周辺を薬品で綺麗に洗う。

これで警察の鑑識が出張ってきても、もう此処からは手掛かりは出ない。

「おい、1人、水飲み場の方も頼む」

「あっ俺行きます」

これで、完璧に三人の死んだ事の隠蔽はすんだ。

「昨日は、あの後大丈夫だった? 話し合いで済むとは思えないんだけど」

「絶対に大丈夫だから気にしないで良いよ? 知っている人の知り合いだから、もう二度と奈々子ちゃんに近寄らない様に言って置いたから」

「本当に? だけど奈々子凄く怖い」

もう殺したから大丈夫と言えたら、凄く楽なんだけどな。

確かに、普通の人間からしたら《あの脅し》は怖いのかも知れない。

「それじゃ、もし嫌じゃ無いなら暫く送り迎いしてあげようか?」

「本当に? 有難うございます」

別に何もやる事が無いからね。

女子陸上部と
しかし此処で僕は何を学べば良いんだろうか?

勉強って言うなら悪いけど、僕の方が教師より遙かに上だし。

運動って言うなら、本気を出せばオリンピックで殆どの競技で金メダルが取れる。

そんな僕に何をしろと言うのだろうか?

まぁ姉さんの考えは流石に僕には解らない。

そんな、考えでぼんやりしながら校庭を眺めていたら、1人の女の子と目が合った。

「ちょっと、何見ているのよ! 嫌らしい目をして」

「ただ、校庭を眺めていただけなんだが」

「しらじらしいわよ、絶対に変な目でこっちを見ていたでしょう?」

確かに誤解を受けても仕方が無い…校庭で陸上部の女の子達が水着の様に見えるユニフォームを着て走っていた。

まぁ、僕は本当に興味ないのだが…

「その気は無かったのだが、誤解されても仕方が無い、僕は」

「待ちなさい! 本当に困るのよ、こっちは一生懸命、頑張っているのにそんな目で見られて」

冤罪も甚だしい。

此処は校庭だし着替え室じゃない。

ちょっと頭に来た。

「一生懸命…あのお遊びが? 僕には見えないな」

別に貶めている訳じゃない。

だが、僕には《たかがあれが》が一生懸命には見えない。

僕にとって一生懸命と言うのは《命を賭ける事だ》

ただ、体力向上の為に走っていた所で、そんな物だ。

少なくとも彼女達は《走るのに負けた》位で死にはしない。

「何よ、馬鹿にしているの!」

「馬鹿にはしていないが、あれは一生懸命では無いよ…幾ら言われてもね」

「やっぱり馬鹿にしている、私はこれでもスポーツ特待生で入学しているの、しかも実績も出しているわ」

「そう、何だ、偉い偉い..行っていいかな?」

「やっぱり馬鹿にしている…私達のやっている事がお遊びだと言うなら勝負なさい」

「勝負?」

この僕が…馬鹿じゃないか。

「そうよ、勝負しなさい」

「何もメリットが無い」

「そうね、もし勝ったら、デートしてあげるわ」

「デート? 別に興味ないし」

「私はこれでも陸上小町って言われているのよ、それがデートしてあげるんだから良いでしょう?」

何だかしつこいな。

「仕方ない、それで何やれば良いの?」

「100メートル走で勝負よ」

「いや、無理でしょう、男子と女子じゃ1秒近い差があるし女子が勝てる道理が無い」

「逃げるの?」

「まぁ、いいや暇だから相手してあげるよ…ただやるからには本気出すよ」

「私に勝てるつもりなのね」

「まぁね」

確か、高校生の男子なら10秒台で走れば良いんだよな。

【校庭トラックにて」

「また水上先輩、男を連れ込んで…可愛そうに」

「そこ無駄口叩かない、しかも意味が違うでしょう」

「だけど、あれ負けたらお説教と正座と罵倒が待っているでしょう」

「可哀想だよね、陰キャラみたいだし泣いちゃうんじゃない」

「別に見ててもいいじゃん、これかなりセクシーだけど競技会でも着ているんだし」

「まぁこうなったら無理じゃない」

何だかな。

「それじゃ、勝負よ」

「解った」

仕方ないから、スタート位置についた。

「ちょっと待って制服のままで走る気」

「これで充分」

「あんた、私を舐めすぎ、着替えなさい」

仕方ないからジャージに着替え始めた。

「きゃーっ何でこんな所で…えっ」

《嘘、思ったより鍛えているんじゃない》

「彼、凄い体しているよ、細マッチョって奴じゃない」

「だけど、無理ね、水上裕子先輩は、女子高校生記録保持者だから」

成程、それじゃ11秒位だな、まぁ手加減して10秒位で走れば良いか。

「今度こそ良いよね、いい位置についてよーいドン!」

確かに速い…だが、改造人間の僕に敵う訳が無い。

本気を出せばバイク並みに速いし、チーターやシマウマでも追い抜ける。

「えっ嘘、裕子先輩が負けちゃった」

「しかも結構、差がひらいて無いかな?」

「ちょっと待って裕子先輩が11秒62…相手は嘘9秒86うーーーーっ」

「完全に計測ミスだよね」

「だけど、裕子先輩とのひらきから考えて、凄く速いのは間違いないわ」

「嘘っ負けちゃった…」

「それじゃ僕はこれで」

だが、肩をいきなり掴まれた。

「す.こ.し.わ.た.しとお話ししない!」

明かに断れない雰囲気で言われた。

仕方ない応じるしか無いだろう。

「成程ね、かなり体を鍛え込んでいたのね、だから私達の事を馬鹿にしていた訳ね」

何を言い出しているのか解らない。

勝手に決めつけられても困るんだけどな。

「いや、そう言う訳じゃ無くてね《一生懸命》という言葉が許せないだけだよ」

「何でそんな事言うのよ? ちゃんと努力して」

「あのさぁ、努力って何?」

「努力は努力よ」

「ハァ~ 良い、普通はね一生懸命当たり前、努力は当たり前なんだよ、社会にでたらさぁ、そうだな会社に入って営業になりました《売り上げは悪いけど努力してました》これ通用すると思う?」

「努力して売れなくちゃ仕方ないんじゃない」

「だけど、実際の社会ではそれは無能と呼ばれてクビになる」

「そうなのかも知れない、だけど..」

「それじゃ、君は努力していたのかも知れない、さっき聞いた感じだと《高校生記録保持者》だから、だけど他の子はただのお遊びだよね」

「そんな事ないわ、しっかり頑張って」

「だったら、他の子と同じ練習量で君はそこまで速くなれたのかな?」

「違うわ、他の子以上に頑張って練習して…あっ」

「解った? 《他の子以上》って言ったよね…そう考えたら君だけは一生懸命を使えるかも知れないけど、他の子は使えない、それに僕に負けた位だから、オリンピックの選手以下の練習しかしていないんじゃないかな?」

「だって…ごめん」

《この人には言う権利がある、さっきのタイムは10秒切っていた、私よりあんだけ速いんだから計測ミスがあっても10秒台は確実だ》

「ごめんなさい、間違っていたみたい」

《こんなタイム出せるなら、かなり本格的に練習をしていたのだろう…そんな人に一生懸命やっている…言っていい事じゃない》

「解れば良いよ、それじゃ」

まぁ大人気ないな、だけどブラックローズでは失敗=死、だから皆が元から死ぬ気で一生懸命だ。

だからつい言ってしまった、姉さんがいたら怒られるな…

「ちょっと待って、早速だけど、コーチとデートのお話ししようか?」

獲物を見つけた姉さんみたいな目で裕子に肩を掴まれた。

パワハラ、セクハラ
「良いよ、気にしないで、僕が勝ったんだからこれで良いよね?」

「本当にごめんなさい、私が悪かったわ、あれだけ速く走れるんだから、お遊びと言われても仕方ないわ」

何だか様子がおかしいな、どういった吹き回しだ。

「解ってくれれば良いんだよ、それじゃ」

「待ってよ、あなたオリンピックを目指しているんでしょう?本当に凄いわね」

そんな物は目指していない…

僕が出たら、確実に金メダル、そんなのは面白くも何ともない。

「そんな物は目指して無いよ、ただ誰よりも速く走りたい、そう思っていた時があっただけだよ」

そう、僕にもそんな時代はあった。

僕は改造人間ではあるが、生体改造系、特撮ヒーローの様なサイボーグでは無い。

しいて言うなら、ライオンや熊の様に人間より優れた体力がある、それが一番近いかも知れない。

だから、こそ体を鍛える必要はあった。

苦しかった…

猛獣と一緒に走ったり、最後は改造人間と一緒に走った。

どんなに止めてっていっても止めて貰えない地獄が続く。

「そんな、そんな理由で体を鍛えていたの?」

「名誉や勝つ事を考えるなんて不純じゃないか?、ただ誰よりも速く走りたい、それだけで充分だよ」

「そうか、そうなんだ」

《何時からだろうか、私は純粋に走る事をしなくなってたわ》

「それじゃ、僕は行くね」

「待って、それでお願いがあるの? 陸上部のコーチ、引き受けてくれないなかな?」

「それは出来ないよ」

「何でよ…教えてくれたって良いじゃない?」

「パワハラで、ブラックだからね」

「パワハラ、ブラック?」

「そう、例えばそうだな、食事は決まった物以外一切口にしない、決まったメニューは例え体を壊そうがやって貰う、全てに置いて絶対服従、自由な時間は一切なし、テレビもスマホを触る時間一切なし、体罰は当たりまえ」

「そんな事、強制させるの?…最低、それで良く訴えられなかったね…」

ブラックローズでは当たり前の事だ。

勿論、これが世間一般的な常識から外れている事は解る。

そのまま答えられないな…

「確かにパワハラで、ブラックだけど? たった1人それをしても許される人がいる」

「最低な事を黒木くんはしていたんだね、その被害者が可哀想だよ…」

「だけど、自分で自分自身に行う分には誰にも文句は言えないでしょう」

「自分自身?」

「そう自分自身…問題はないよね」

《確かに自分で自分にするなら、モラハラやパワハラは関係ない》

「そうだね」

「だから、僕が行った事を他の人に行えば、パワハラ、モラハラ、セクハラになるから指導は出来ない」

「そうなんだ、解ったわ」

「あと、デートは辞退で良いよ、ただ僕は校庭でぼーっとしているのが好きだから次回から文句言わないでくれれば良い」

「そう、解ったわ」

《彼がストイックなのは解った、だけど話してみて自分がどれだけ駄目なのか解った、多分長く話すと悔しくなる…デートを辞退してくれて良かったわ》

走る
暇だな…本当にやる事が無い。

何をやっても詰まらない。

今日も校庭でぼーっとしている。

あれから水上裕子は絡んで来ない。

「あれっ剣お兄ちゃん、こんな所で何しているの?」

《偶然を装い、好きな人に出会う、これがポイントなのよね》

「特にやる事無いからぼーっとしているだけかな」

「女子陸上部のあれ、見ている訳じゃないんだ」

「まぁ、そう思われて水上さんに陸上勝負挑まれたよ」

「それで、負けても此処に居座っているの?」

「えっ、一応勝ったよ? ここから見るお日様が凄く綺麗だから居るだけだから」

《勝ったの? 水上先輩って超高校生級って呼ばれているのに…》

「本当に?」

「勝って当たり前だよ、相手は女の子なんだから」

「あの、普通の女の子なら兎も角、水上先輩だよ」

《男子陸上部のキャプテンより速いって事はしらないんだよね…きっと》

「確かに女の子にしては速かったけど、その程度だよ」

黒木は努力という事について限度を知らない。

ブラックローズしか見たことが無いから、話で聞いてはいるが、命懸けで訓練する自分達と比べたら。

ただの遊びにしか見えなかった。

「そうなんだ、奈々子も剣お兄ちゃんのカッコ良い処見て見たいな」

《カッコ良いんだろうな、多分カモシカの様に優雅に速く走るんだろうな、だってあの体なんだから》

「そう、奈々子ちゃんも体験したい?」

「えーと見たいじゃ無くて体験?」

「うん」

そう言うと黒木は奈々子を抱き上げお姫様抱っこした。

「剣お兄ちゃん、嬉しいけどまだ早いよ」

「大丈夫だから」

《何が大丈夫なのか解らないけど、カッコいいな、人前は恥ずかしいけど、うん良いよ》

「剣お兄ちゃん…うん」

「それじゃ行くよ、僕の世界を見せてあげる」

そのまま黒木は奈々子を抱きしめ、走り出した。

「なにこれ」

「結構速くないかな、これが僕が走っている世界..」

《そうかぁ~ 見たいをそう捕らえたのかな、だけどお姫様抱っこは、うん凄くついているよ..って何この速さ》

「凄いね剣お兄ちゃん、凄く速い~っ」

「そう、それならもう少し頑張っちゃおうかな?」

《あれれっ、気のせいかな? まるで車に乗っているような気がする…》

【女子陸上部員】

「水上先輩、あれ」

「何やっているの? 女の子抱きながら走るなんて、彼女持ちかぁ~、ならやっぱり私の完全な勘違いだね、謝らないと」

「水上先輩ぼけていますか? 女の子抱きながら黒木さん、男子が100メートルの測定しているのを後ろから抜いていっていますよ」

「ちょっと、タイムとってみて」

「解りました」

「それで幾つ」

「あの…100メートル 2.7秒です」

「それは間違いだよ、そんな人間はいないからね…だけど異常な程速いね」

《あれが本来正しい姿なのかも知れない、常日頃から人を抱えて走れば、確かに筋力が付くのかも知れない》

「凄いね、あんな練習していたなら、遊びに見られても仕方ない、1周300メートルのトラックをもう7周走っている、これを他の人に無理強いしたら、うんパワハラだね」

「あの、先輩、こんな練習をしようなんて思ってないですよね」

「うん.むり.じい.はしないわ」

「先輩、可笑しくならないで下さいよ、あんなのしたら死んじゃいますよ」

「うん、無理強いはしないわ」

《此処まで頑張っていたのね、私達も負けていられないわ》

「先輩?」

「そうだ、黒木君を今から走って追い抜いて、1人でも抜いたら今日の練習は終わりで良いわ」

「いくら、何でももう疲れているわ、チャンス」

「今はまだ4時こんなチャンス無いわ」

後ろから女子陸上部員が追いかけていった。

【5分後】

「もう駄目~」

「何で2週も周回遅れになるのよ…」

「もう走れない、全力で走って、女の子抱っこした人に負けるの」

「あれは人じゃない、韋駄天よ韋駄天」

「剣お兄ちゃん、速い速い~」

「そろそろ満足してくれたかな?」

「うん」

奈々子は万遍の笑みで笑って居たが、女子陸上部は走りつかれて倒れていた。

勘違いした水上裕子は…

「いう資格がある、あそこ迄の荒行を課した練習をしているなら、遊びっていう資格がある」

そう言って目に炎を浮かべていた。

ヒロイン登場

「成程」

奈々子から話を聞いてなんで不味いか解った。

陸上部の女子が下着みたいな服着て走っているから、それを除いているように思われていたみたいだ。

だったら、そんな服で走るなと言いたいが、無意味だね。

僕が他に行けば良いだけだ。

しかし、僕は学生として何を頑張れば良いのだろうか?

スポーツはズルしている様な物だ、最も僕がやってはいけない物だ。

頭を使うのも同じだ…

これじゃ何をして良いか解らない。

とはいえ、少しは学生を楽しまないと、姉の意向に背く事になる。

仕方ないな何かやらないと。

放課後、何時もの場所をとられた僕は適当に歩いていた。

別に何するでなくあても無く歩いていると三人の女の子が目に入った。

その中の中心にいる女の子に目がいった。

何処が似ているという訳では無い。

ただ、つい口から声が出た。

「姉さん」

その女の子の姿形は全然違う。

だけど、その仕草は姉の胡桃を彷彿させた。

姉は背が低いし、目は垂れ目だし優しい感じだ。

目の前の女性は目が吊り上がっていて背が高い。

ややウエーブの掛かった髪をしていて大人っぽい。

どう見ても同じに感じる筈はない。

だが、何故だろうか? どうしても目が離せない。

そのまま見ていると目が合ってしまった。

彼女はこちらの方にツカツカと歩いて来た。

「貴方、何で私を見ていますの? 人をジロジロ見るなんて失礼じゃありませんか?」

横の2人も怖そうな顔をしてこちらを見ている。

素直に謝った方が良い。

「すみません、最近姉を亡くしまして、貴方の雰囲気が姉に似ていたのでつい見入ってしまいました」

横の2人が何か言いかけたが彼女が手で制した。

「貴方はもしかしてこの辺りにお住まいじゃないのですか?」

「今は近くですが、最近引っ越してきたばかりです」

「そうなの? それじゃ麗美の事を知っていて見てたわけじゃないんだ、なら良いや」

「そうなのか、なら問題はないな」

「そうでしたか、それなら問題はありませんわ、私が姉に似ているっていうならあまり時間が無くて申し訳ございませんが5分で宜しければお話ししても良いですわ」

何故か惹かれるものがある。

だから、その提案に乗る事にした。

奈々子と話しているのとは違う、しいて言うなら昔の組織の人間としている様な会話だ。

この手の会話に飢えていた僕は夢中になって話してしまった。

「話してくれて有難うございました、僕の名前は黒木剣と申します」

「そう、私は竜ケ崎麗美です、それじゃごきげんよう」

「私は北条小太刀だ」

「私はね三上亜美って言います、それじゃぁね」

初めて自分から友達になりたいと思った。

こんな感情初めてだ。

「あの、またお話しさせて頂いて良いでしょうか?」

「クスッ、そうね貴方が今度会った時も同じ様に話したいって思うなら良いですわ」

「まぁその度胸があればな」

「そうそう」

何を言っているのか解らない。

まぁ良いか。

「それじゃまた今度…」

彼女達は振り返らずにそのまま歩いていき黒塗りの車に乗って去っていった。

【竜ケ崎麗美SIDE】

「麗美にお姉さんが似ていたか? どんだけ怖いお姉さんだったのかな?」

「小太刀煩いですわよ、久々の楽しい気持ちが台無しですわ」

「まぁ普通に話してきた男の子は久しぶりだからね」

「なぁあの子、また話掛けてくるかな?」

「もう無いに決まってますわ」

「そんな度胸ある子居ないもんね」

「そうかな、私はあの子は特別な気がするな?」

「有りえませんわ絶対に」

「そうだね亜美もやはり話しかけて来ない方に1票」

「なら、そうだ、もしあの子が話しかけて来たら友達になるって事にしない?」

「まぁあり得ませんが、私達の事を知っても《姉》の様に思ってくれるなら良いですわよ」

「まぁあり得ないと思うけど、もしそうなら亜美も友達になってあげても良いよ」

「だけど」

「そうね」

「そうよ」

この辺りを治める広域指定暴力組織 竜ケ崎組、その組長と幹部の娘、それが彼女達だった。

脅される
次の日から僕に楽しみが出来た。

姉の雰囲気を持つ女性、竜ケ崎麗美

何となく、組織の幹部の雰囲気を持つ 北条小太刀

不思議な雰囲気の三上亜美

組織が無くなってから、何もかもが灰色だった世界から引き戻してくれた。

そんな感じがした。

不思議な事に彼女達は三人で何時もいた。

だが、不思議な事に彼女達の傍には他の人間は寄り付かない。

これは、多分、強者のオーラの様な物が出ているのかも知れない。

「竜ケ崎さん、北条さん、三上さん、こんにちわ」

「あらっ黒木さん、はい、こんにちは」

「こんにちわ黒木くん」

「黒木ちゃん、こんにちは~ それでどうしたの?」

「また、お話ししてくれるって言って頂けたので声を掛けました」

「あらっ本当に声を掛けて下さったのね」

「前に言った通り、竜ケ崎さんは僕の姉に似ていますからね、話してみたくて」

「随分とお姉さんが好きだったのね」

「はい、僕には本当の両親がいませんでしたからね、姉が育ててくれたような物です」

「ちょっと待ちなさい、貴方そのお姉さんが亡くなったと言いませんでしたか?」

「はい、つい最近、亡くしました」

「ちょっと待って剣くん、それはもしかして家族がいない、そういう事なの?」

「確かに、いませんね」

「黒木ちゃん、それじゃお金とかどうしているの?」

「普通に働いて生活しています」

「そうなんですの? 凄いですわね、働きながら学園に通うなんて」

「就労学生か、凄いな」

「黒木ちゃん、偉い偉い」

話し方は別だが、この子達は違う気がする。

他の生徒とはまるっきり違う。

仲間意識が強いと言うか、何といえば良いのか解らない。

だが、何より話していると落ち着く。

やはり、竜ケ崎さんは姉に似ている。

姿形じゃなくて、雰囲気、仕草が凄く似ている、多分、性格も似ているんじゃないかな?

笑い声なんか重なって見える事がある。

「本当に私がお姉さんに似てますの?」

「さっきから黒木くん、麗美の顔見っぱなしだぞ」

「うんうん、余程、お姉さんが好きだったんだね」

「まぁ、姉は僕の理想の女性でしたから」

「それって黒木ちゃん、麗美が黒木ちゃんの理想のタイプ、そう言っているように思えるんだけど」

「そうだな、私にもそう聞こえた」

「ちょっと待って、そういう事なのですの?」

やはり仕草がそっくりだ。

「そう言う事になりますね」

「だって麗美ちゃん」

「そう言う事だ、そうだ」

「ああっ、そうでもあるのですね…うん、有難うございますわ、黒木さん」

焦る仕草も可愛いと思うな。

「そうだ、黒木くん、全て知った上で、今と同じで居られるなら、本当の友達になろう」

「そうだね、うん、私もそれならOKかな」

「そうね、もし、全てを知った上で、まだ私がお姉さんみたいって思えるなら、良いですわよ」

「有難うございます、あっ、こんな時間、引き留めてすみませんでした」

「黒木くん、またな」

「黒木ちゃん、またね」

「黒木さん、それじゃまた明日」

僕は手を振り彼女達と別れた。

彼女達の傍に僕を舐め回すように見ていた奴がいた。

まぁ彼女達に危害を加えようとしている訳では無さそうだ。

【竜ケ崎SIDE】

「黒木ちゃん、凄く良い子だよね、孤児なのに一人で生きている何て凄い頑張り屋さんだね」

「ああっ、そんな環境なのに、健気だな」

「ええっ本当にそう思いますわね…あんな真っすぐな目で見つめられたのは初めてですわ」

「仕方ないよね、事情を知ったら不良ですら逃げ出しちゃうんですから」

「そうだな、まぁどんな奴も、事情を知ったら手のひら返し、不良は敬語になって卑屈になり、やがて話しかけて来ない」

「竜ケ崎組、組長の娘、本当に怖いですわね」

「「本当に怖い、怖い」」

「それで黒木ちゃん…どうかな?」

「流石の黒木くんでも、ヤクザに囲まれて怖い思いしたら」

「そうですわね、あんな綺麗な目で見つめてはくれないでしょうね?」

「全く、凄い迷惑、いい加減子離れして欲しいよね」

「そうだな」

「あんな子が痛い目に遭うのは流石に気が咎めますわ、きょうお父様に釘差しますわ」

【黒木SIDE】

三人と離れて人気のない道を歩いていると、人相の悪い男たちに囲まれた。

「はぁ~何なんだ」

「何なんだとは挨拶だな!」

「そうそう、態々安全な方に導く為の良い人間だよ俺は」

と言いながら、絶対に危ない奴だな。

まぁそれだけだけどな..

「それで、どう導てくれるんですかね?」

《此奴、俺らを恐れていない? まっぐに見返してきやがる》

「簡単に言えば、竜ケ崎麗美、まぁお嬢さんに近づくな…そう言う事だ」

「嫌だと言ったら」

顔色が変わった、さっきと違い凄みがある。

「まぁ聞けや! あの方は竜ケ崎組の組長の娘だ、これで解かったか、まぁ諦めな…」

「何故諦めないといけないんですか?」

ヤクザの娘だったんだ、道理で姉さんに重なる筈だ。

「話聞いて無かったのかよ! 組長の娘なんだぞ」

「それで嫌だと言ったら?」

「お前は、ヤクザの娘と知ってもお嬢と付き合いたい、そういう事か?」

「そうです、そんなの僕には関係ない!竜ケ崎さん、北条さん、三上さん、皆素晴らしい人ですからね」

「そうか、俺はお前をそんなに嫌いじゃない…だがな、悪い」

いきなり、蹴りをぶっこんで来たが、意味はない、僕なら簡単に躱せる。

相手はたった6人、こんなんじゃ僕の相手は不十分。

「成程なぁ、それなりに喧嘩した事がある、そういう事か…俺は気に入ったが悪いな、こっちはプロなんだ」

「あの、貴方達に勝ったら、お付き合いを認めて貰えるのかな」

「ああっ、と言いたいが、そう言う訳にはいかないんだよな」

「その前に勝てると思っているのか」

困ったな、竜ケ崎さんの関係者なら仕方ない、優しくかたずけてやろう。

「それじゃ何の意味もないんだ、仕方ない」

僕はそう言うと相手の言葉も聞かずに、手刀を繰り出した。

そして素早く1人に蹴りを入れた、このタイミングなら意識を簡単に刈り取れるだろう。

あと四人に対しても順次蹴りや手刀を打ち込み気絶させた。

ここだと邪魔なので植え込み近くに座らせて、その場を立ち去った。

【???】

「凄すぎる..そしてカッコ良い」

仕方ないな…やるしかないな。

変わらない彼
次の日も黒木さんは私達に話しかけてきた。

「おはよう御座います、竜ケ崎さんに北条さんに三上さん」

信じられなかった。

昨日、お父様に話をしたが既に《釘差し》は終わったと聞いていた。

若い衆が脅しを掛けたと聞いたわ。

ただ、若い衆は何故かお父様から目を逸らしたとも聞いたのだけど…

多分、逃げたのだと思いますわ。

ですが、黒木さんは《私がヤクザの娘》だと言う事は知った筈です。

それなのに、普通に挨拶してくれます。

「剣くん、おはよう!」

「剣ちゃんおはよう」

「黒木さん、おはようございます」

二人、今なんて呼びました…剣ってなに?

「それじゃ、僕先にいきますね、それじゃあ」

走って行ってしまいました。

背中から目を離せない、何でか解りません。

それは別にして二人とも何で《剣》なんですか?

下の名前で呼ぶ人間なんて二人には私達しか居ない筈ですわ。

「小太刀、なんで黒木さんを剣くんって呼んでいるのかしら?」

「カッコ良いじゃん! 外見は兎も角、脅しに屈しなかったんだぜ、はっきり言って凄い度胸だ、うん気に入った、あれなら私の親父は付き合うのを許可せざる負えないと思うな」

「あの小太刀は黒木さんの何を知っているの」

「あはははっ、ちょっと組で若い衆に聞いただけだよ」

「そう、なら亜美はなんで?」

「亜美は、脅しに屈しなかった事へのご褒美かな、今迄脅されて諦めなかった人なんて居なかったよね? 小太刀ちゃんみたいに流石に恋愛までは考えられないけど、両親も居ない子がヤクザの恐怖に打ち勝って、話しかけてきたんだよ? 剣ちゃんが自分から離れていかない限り《剣ちゃん》って呼んであげようと思ったんだ」

「剣くんが離れる、それは無いね!」

「小太刀貴方、何か知っているの?」

「別に…何も知らないよ」

「はぁ、そういう事ね、私達の親の事を知っても話し掛けてくる、そうね私も敬意を評した方が良いわね、良いですわ《剣さん》って呼ぶ事にしましょう、まぁお姉さんに似ていたらしいですから、そう言う風に振舞っても良いですわよね」

「別に麗美はそこまで気にしなくて良いんじゃない? ただお姉さんに似ているだけでしょう? まぁ剣くんが寂しいって言うなら私が埋めてあげるからさぁ~」

何でだろう、小太刀の様子がおかしいですわ。

亜美のは何となく解りますわ、あの子は見た目は凄く幼く見えますが、あれで母性が凄く強い子ですからね、まぁその代わり残酷性もありますけど。

ですが、小太刀のは明らかに可笑しいのですわ。

明かに恋愛感情がある気がしますわね。

そう言えば、この間《気になる事があるから先に帰ってくれ》なんて言った日がありましたが、調査でもしたのかしら?

「小太刀、その言い方は何かあるのかしら?」

「べつにぃ~何も無いよ」

こう言いだしたら梃でも話しませんわね。

「小太刀ちゃんも、麗美ちゃんもどうかしたのかな?何か怖いよ~」

「別に何でもないよ?」

「何でもありませんわ」

そうは言いましたが絶対に何かありますわね。

しかし剣さんは凄い人ですわ、昼休みも顔を出しにきましたのよ。

周りは、可笑しな者を見る目や可哀想な人を見る目でみていますのに。

しかし、小太刀はどうしちゃったんでしょう?

「剣くん、また来たんだね、お姉さんは嬉しいよ」

なんだか、頑張って作りましたって笑顔ですわ。

「小太刀ちゃんどうしたの、なんだか変だよ」

「別に何でもないよ、それで剣くんさぁ、何か武道やっているの? 結構鍛えた体しているよね?」

「えーと、まぁマーシャルアーツに似たような感じのを少し」

「あっ、だからこの胸板なんだ、凄いね、いやぁ小太刀騙されちゃったよ、案外着やせするタイプなんだね…あの良かったら家に来てくれない」

「「….!」」

「そうですね、やっぱり一度ご挨拶に伺った方が良いですよね」

「ちょっと小太刀、貴方何を考えているの?」

「小太刀ちゃん」

「剣くんは、私達の家がどんな所か知っていて、来てくれるのよね?」

「すいません、知っています…絡まれる位なら、ちゃんと筋を通した方が良いと思いますから」

何て人ですの…

「あのぉ、剣ちゃん、私達のお父さん、かなり怖いよ?」

《蟹将軍より怖くないと思うな、粛清といって流石に首チョンパしないでしょう?》

「多分、大丈夫だと思うよ?」

「流石は剣くんだ、多分うちの親父も気に入ると思うよ? それで何時が良いのかな?」

小太刀、何を言っていますの?

頭に蛆が湧いちゃいましたの?

竜ケ崎組舎弟頭 北条帯刀 武闘派で若い頃から鳴らした貴方のお父さんが《気に入る?》

私や亜美の父親と同じで重度の子離れ出来ないあの人が…

子供相手にドスを抜くような方が…その自信はどこから来ますのよ。

「小太刀、貴方、本気で言っていますの?」

「幾ら剣ちゃんでも無理だよ」

「剣く~んちょっと3分だけ席外してくれるかな?」

「それじゃ、あっちに行っていますね」

【三人で】

「あのさぁ、2人とも、親父たちが気に入らないと思っているんだよね?」

「小太刀ちゃん、お父さん達は重度の娘コンだよ! どんな人を連れて行っても無駄だと思うな」

「そうですわ、剣さんがドスでも突き付けられちゃ可哀想ですわ」

なんですか、その微笑は…

「そう、なら1本(100万円)握らない? 私達三人の父親が誰も気に入らなかったら私が2人に100万づつ払うよ、その代わり気に入られたら100万頂戴!」

「あら、良いですか? 私達は負けても100万円、貴方は亜美と私に100万ずつ払うのよ?」

「勿論、構わないよ」

「後で払えないとか言っても知らないよ?」

「言わないから安心して」

「そう、それならもうお父様に連絡しますわよ…良いですよね?」

「そうだね、やっぱり麗美から言った方が楽だね」

「そうそう組長の娘だからね」

「亜美、貴方ね」

「あっごめん」

【スマホにて】

「お父様、今度の日曜日に友達を連れてきても良い?」

「それは《家の事》を知っていて連れてくるって事で良いのか?」

「はい」

「そうか、良い友達が出来たんだな、お父さんも歓迎してあげよう」

「それで、どんな人なんだ?」

「とっても可愛らしい男の子ですのよ」

「……..そうか解った」

スマホ越しに大きな音が伝わってきた。

お父様、多分、テーブルまた壊しましたわね。

【再び4人で】

「剣さん、今週の日曜日に時間が決まってしまいましたけど大丈夫ですか?」

「僕の方は大丈夫です」

「それじゃ剣くん、私凄く楽しみにしているから」

「剣ちゃん、本当に大丈夫なの?」

「本当に平気ですの?」

「まぁ大丈夫ですから」

笑っている、剣と小太刀とは裏腹に麗美も亜美も心配でたまらなかった。

【閑話】麗美の初恋物語

「先生、良いですか? 組長はお嬢を凄く大切にしています、間違っても手を出さないで下さい」

「あはは、大丈夫ですよ、僕は大人ですよ!流石に11歳の子供に手を出す様な事はありません」

「そうですかい!」

「はい、僕には将来を誓った恋人もいます、間違ってもそんな事はありませんから」

「そうですかい、それなら安心ですね、くれぐれもお気を付けください」

家庭教師派遣事務所に《特殊な依頼》があった。

通常の倍の金額を払うという胡散臭いけど美味しい話だった。

詳しい事は《委細面談》という話だったが小遣い不足の学生の僕は直ぐに飛びついた。

話を聞いて見れば、大きなヤクザの組長の娘だった。

何でも他の組織と揉めてしまい学校に通えないから、その分の勉強を見て欲しいという話だった。

ヤクザの親って事以外は普通、確かに少し怖いが倍の金額を貰えるなら悪い話では無い。

「お嬢、入ります、家庭教師の先生を連れて来ました」

「政はもう良いわ! 貴方が先生ですね、私は竜ケ崎麗美です、宜しくお願いしますね、先生!」

言われた意味が解った。

彼女は確かに普通の子供じゃない。

確かに子供ではあるが、何とも言えない大人っぽさがある。

一番近い表現は、とびっきり綺麗な女性を小さくして少し幼くすればこうなる。

服装によっては高校生、大学生でも通る様な大人っぽさに少女の愛らしさを持つ、まさしく魔性の女、そんな感じかも知れない。

「先生どうかしましたの? 顔が赤いですわよ?」

「べ別に何でもありません、それじゃ..(ごくっ)どこから始めようか?」

「私、算数が苦手ですわ、良かったら算数を中心に教えて下さらない?」

「解りました、算数中心の授業を組めば良いのですね」

白いブラウスから胸が見える。

誘われているのかと誤解しそうだ。

「クスッ お願いしますね、先生」

授業をしていたある日、魔が差してしまった。

「先生、いつも私の胸や下着を見ようとしていたでしょう?」

「何を言うんですか…」

「いいのよ、気がついていましたわ、ですが私はまだ子供ですのよ」

「ですが、その好きになってしまって…」

「先生、恋人はどうします?」

「捨てる」

「本当に? 自分の行動に責任は持てますの?」

「…とる」

「そう、なら良いですわ」

彼女は腕を首に回してきた。

そのままベッドに押し倒した時に、ドアが開いた。

「音がしたから来てみれば、先生、何をしているんだ!」

「待って政、先生は責任をとるとおっしゃっていますわ、話をちゃんと話を聞いてあげて下さい」

「お嬢、これは俺じゃ判断できない、組長じゃなくちゃなぁ、先生きて貰うぞ」

「待て、僕はそんな気は無かった」

「どうでも良いんだよ! 弁解は組長の前でしろ、散々釘を刺して置いたのに、この馬鹿野郎がーーーっ」

【組長室】

「話しは聞いたぞ、先生よーーっどんなつもりでうちの娘に手を出したんだっ」

「すいません、そんなつもりじゃなかったんです、麗美さんが」

「うちの娘がどうかしったのかっーーーおいっ」

「待って下さい! 先生は、先生は、責任を取るとおっしゃいましたわ」

「麗美お前は黙っていろ!先生よー、話を聞かせてくれ! この責任どうとるって言うんだ、おい!」

「赦して下さい、勘弁して下さい!」

「だから、赦して下さいじゃねーーんだよ! どう責任とるかって聞いているんだ」

「そうだ、お金、お金を払います…あるだけ全部」

この時、お嬢は興味は失せたという感じに能面みたいな顔になっていた。

先生、何て事しやがるんだ、これで暫くお嬢の機嫌が悪くなり若い衆が当たり散らされるんだぜ。

「先生、馬鹿にしているんですかい、この組が金に困っているように思ってんですかい! ふざけんな、この口先だけの男が、政、けじめだ此奴の両腕と鼻を斬り落とせ! 麗美行くぞ」

そう言うと組長とお嬢は出て行ってしまった。

「麗美、待ってくれ、助けてくれ」

「責任一つとれないクズに名前を呼びうつけられたくありませんわ…さようならクズ」

この時のお嬢は多分涙ぐんでいた気がした。

「そんな、そんな助けてくれ、いや下さい!」

「おい」

「お前はこっちにこい」

「助けてくれーーーっ」

【政SIDE】

「助けてくれ、僕はただ彼女に抱き着かれただけなんだ」

「そうは見えなかったな、嘘つくんじゃねーよ」

「だけど、まだ僕は何もしていない」

「だからこれで済むんだろうがーーっ、もし手を出していたら東京湾で魚のエサだ」

「そんな、これだけで」

「だから俺は言ったじゃねーか、お嬢に手を出すなってよう」

「赦して下さい、助けて」

「無理だな、諦めな、まぁ、かわいそうだから、腕は肘から先にしてやる、これは俺のせめてもの情けだ、本当は肩からやるんだが、あんた素人だからな」

「そんな、何でこんな事になったんだ」

「お前がちゃんとしないからだろうが、お前には3つ選択肢があったんだぜ」

「3つ?」

「ああっ、一つは俺の言う事を聞いてお嬢に手を出さない事、もう一つは今の現状だ」

「もう1つは?」

「卑怯者のあんたにはもう関係ない事だ…警察とかに言うなよ? これはけじめだ、これでお前が何もしなければ全て終わり、だが、警察にいうとかしたら、お前の家族も酷い目に会うぞ…姉さんだっけ? 新婚なのに風俗で働く事にでもなったら可哀想だよな? 母親も殺されたくは無いだろう?」

「ああああっ、止めてくれーーっ」

「それじゃぁな、先生よぉーこれを加えてな、おい秀、先生を押さえていろ」

「ああっ、兄貴」

「うぐっうぐうううううううっうーーーんっ」

「先生、一本終わったぜ、あと一本と鼻で終わりだ」

「うぐうううううううっううううううん」

「暴れるな、手元が狂ったら大変だ、秀ちゃんと押さえていろよ」

「うがっうがあああああああっ」

「終わった…後は鼻だけだ」

口にくわえたタオルが落ちた。

「いやだーーーーっ顔は顔は」

「これで終わる、馬鹿野郎手が狂ったじゃないかーーっ」

鼻だけでなく上唇まで斬っちまったじゃないか。

「兄貴、これ」

「ああっ気を失ったようだ、おい闇医者に連絡してくれ、鼻と両腕は処分も頼め..絶対に接合はしないように伝えてな」

「解りました」

「チクショウが…これでお嬢が暫く機嫌が悪くなっちまうじゃないか、あたられる身にもなって見ろってんだ」

「兄貴…」

「耐えるしかねーんだ、仕方ないだろう」

先生よ、お前お嬢が好きなら簡単だったんだぜ。

お嬢はヤクザの家に生まれちまったから《自分に余り価値》を感じてないんだ。

だから《責任をとる》それだけで良かったんだぜ、この場合の責任は《結婚》な。

それだけ約束すれば、恐らくボコられた後、婚約して終わりだ。

まぁヤクザになるしかねーが、お嬢はあれで案外尽くす女だから、幸せになれたんじゃねーかな。

お嬢が16歳になったら結婚して乳くり会ってればいいんじゃねーか。

俺か? 俺はお嬢なんて御免だよ…親父は死ぬ程怖いし、お嬢だって怒らせたら凄く怖え。

少なくともこの組にはそんな命知らずはいねーな。

僕はただ一度の過ちで全てを失った…可笑しな事にこの事は《事故》という扱いになった。

両腕に鼻が刃物で明らかに斬られた様に見えるのに…鼻と腕を無くした僕は恋人に捨てられ、今は母さんに世話になって生きるしかない。

もう人生は摘んでしまった…あの子は天使なんかじゃない、悪魔だった。

もう絶対にあんな女に関わらない…

竜ケ崎家へ【前篇】
さてと、挨拶、挨拶。

誰かの為の物を買うなんて久しぶりだ。

僕は今日は学校を休んで三坂屋デパートに来ている。

一応、外商扱いになっているから良い物を選んでくれるだろう。

女性の物を選んだこと無かった…よく考えたら僕は貰うばかりで人にあげたことは無かったな。

プロにお任せが一番だ。

外商専用ラウンジで相談する事にした。

「黒木様、お久しぶりですね、女性への贈り物ですか?」

「大切な方に贈る様な物で何か良い物はありませんか? 出来たら貴金属以外でお願いします」

流石に、最初から貴金属は引かれてしまうかも知れないな。

「《メルエス パーキン》辺りを贈ればまず間違いが無いでしょう」

「それ、何ですか?」

「高級鞄で女性に凄く人気の物です、当デパートには直営店が入っておりまして大変人気の商品です」

価格を聞くと一番高いワニモデルが920万だったが、1つしか無かった。

その次の限定モデルで620万円の物も1つだった。

結局、250万円のモデルなら色違い物を含んで6個集まると言うのでこれにした。

この辺りが無難だと思う。

男性用にはローラックスの時計で250万前後のGMTモデルを用意した。

もっと高い物と考えたが女性と差が出てしまうと困るからこの位が妥当だと思う。

組織という物は繋がりがある。

そして、その手土産が後々の付き合いに繋がる。

それは解っているが、手配を他の者に頼んでいたのでこういう時に困ってしまう。

姉さんが何時もやっていたから、少し僕は苦手だ。

後は獅子屋の黒糖羊羹を20位持って行けば、他の方も楽しめる。

翌日には家に届けてくれるそうだから日曜日には間に合う。

これに後は花束を持っていけば、普通の人には失礼に当たらないだろう。

健全な方相手だとちょっと選ぶ物が難しい。

中南米とかのゲリラ組織だとマシンガンの100丁も送れば良いから実に簡単だ。

これで本当に大丈夫なのかちょっと心配だな。

次の日に学園に通うと奈々子がいた。

「あっ剣お兄ちゃん、おはよう、あの友達から聞いたんだけど、竜ケ崎先輩と仲が良いって本当ですか?」

「そうだね、竜ケ崎さんは僕の姉に凄く似ているからね、つい見てしまってそこから話し相手になって貰っているよ」

《剣お兄ちゃん、竜ケ崎先輩の正体を知らないんだね》

「剣お兄ちゃん、余り人の事悪く言いたくはないけど、竜ケ崎先輩の家はヤクザだよ…危ないよ」

「奈々子ちゃん気にしすぎだよ? 僕は人を見る時は、その背後関係は一切気にしないから、そうしないと個人の価値なんて解らないから」

「だけど、危ないよ」

「案外、僕の方が危ない人間かも知れないよ」

「あはははっ剣お兄ちゃんは絶対悪い人じゃないもん」

「そう、ありがとう…それじゃ授業の準備があるからいくね」

「うん、またね」

人を見る目が全くないな…僕が善人だと思っている。

まるで本当の兄の様に思ってくれているみたいだから。

気をつけて見てあげよう、そうしないと騙されそうだからね。

【当日】

人に会うのだから、それなりの恰好をしないと不味いだろう。

シャワーを浴びて、身なりを整える。

しっかり髪を切りそろえて手櫛で髪を整える。

アラマーニのブラックスーツに着替える。

ムスクの香水をつける。

靴は綺麗に磨いてある。

これで良い筈だ。

《剣ちゃんは無駄にカッコ良いから普段はしちゃ駄目》って言っていた反面《TPOは弁えろ》とも言っていたからこれで良いよね。

此処からは何時もより大人に振舞った方が良いだろう。

タクシーを呼び15分前につくように出発した。

なかなかな大きな日本邸宅だった。

これを攻略するならやはり上空からの爆撃が一番良いかも知れない。

そのまま門の前で止まって貰ったが運転手の顔が真っ青になっていた。

「すいません、荷物運ぶの手伝ってくれませんか?」

「はい」

なんだか顔が青いが気にしない。

「なんだ、お前此処が何処か知ってて目の前で降りるのか? あん」

この間襲って来た、6人組の一人だ。

「この間はお世話になりました、今日は招待頂き客として参りました、黒木剣です」

一瞬、目が合い驚いたようだが、直ぐに言葉遣いが変わった。

「黒木様ですね、お話は聞いております、どうぞお通り下さい」

「ご丁寧に、あと手土産等を持ってきたのですが、どうすれば良いですか?」

「それはご丁寧に、此方でお預かりいたします」

良く出来た手下だ。

上の者に迷惑を掛けない為に私怨を押し殺した。

「それじゃ、宜しくお願い致します」

花束だけ取ってそのまま行こうとしたら、

「すいません、それもあらためます」

本当に良く出来た手下だ。

「宜しく頼む」

そう言うと花束を見た後、返してよこした。

「客人、失礼しました、ご案内致します」

そう言うと中にあげてくれたが、直ぐにこちら迄走ってくる音が聞こえた。

「あれっ剣ちゃんの声が聞こえて来たんだけど..誰っ」

「三上さん今日はお招き頂き有難うございます」

「えっ、剣ちゃんなの?」

「はい、今日はお招き頂いたので少しだけ着飾ってまいりました、これをどうぞ!」

僕は花束をそのまま渡した。

《嘘みたい、まるで別人じゃない…凄くカッコ良い、私が好きな宇宙軍人物のアニメの将軍みたい》

「あああありがとう、剣ちゃん、此処からは私が案内するから」

「お願いします、三上先輩」

「うん、任せて」

どうしたんだろうか?三上さん凄く緊張しているけど。

「此処に、麗美ちゃんと小太刀ちゃんが居るから、準備が出来るまで暫く話していてってパパが…言っているから」

《上手く喋れないよ、まさか、まさか剣ちゃんがあんなカッコ良いなんて、知ってたらもっと、もう》

「そう?」

「剣…くん?」

「剣さん…?」

「どうかしましたか? 竜ケ崎先輩に北条先輩?」

「いや、剣さん見違えましたわよ、全く何時もと違うんですからね…」

「本当に驚いた剣くん、凄くカッコ良いね、見違えたよ」

《剣さん、此処に何も恐れずに来たのに驚きましたが、あれが本当の姿なんですの…綺麗としか言えませんわ、恋愛なんて真面に出来ないと思ってましたのに…信じられませんわね、あっそう言えば剣さんの好みはお姉さま、それに私が似ているって事は…顔が赤くなってしまいますわ》

《私は度胸がある男が好きだ、正直もう充分だったのに、何あれ、完璧すぎるよ、強いだけでなく度胸迄あるなんて、あれで私の親父が気に入らない訳は無いな…まぁ逆に亜美のお父さんには嫌われそうな気がする》

「いえ、今日は折角のお招きなので少し着飾ってきたんです、可笑しく無いですか?」

「全然可笑しく何てありませんわ、良く似合ってますわよ」

「うん、凄くカッコ良いよ剣くん」

「うん、凄く似合っていると…思う」

「良かった、三人とも始めて私服を見ましたが似合っていて凄く綺麗ですよ」

《しかし、凄いですわね、ヤクザの組の本家に上がっているのに何も恐れて無い様子ですわ》

《強くてカッコ良い、うん100点満点、多分親父も間違いなく気に入る、最高》

《私にとっては最高なんだけど、お父様は…ハァ~》

「「「ありがとう」」」

【政&その他SIDE】

「お前らが言っていた奴、あれか?」

「へい」

「あんなチャラチャラしたのに負けたのか?」

「見た目に惑わされちゃいけない、あれは相当強いですよ」

「あのなぁ、どう見ても優男にしか見えないぞ」

「まぁ良いや、俺たちは彼奴に6人で負けた、しかも無様に気絶させられたんだ、弱い訳ねーよ」

「それはお前らが弱いからじゃね?」

「だったら、お前、俺ら6人相手に喧嘩できるか?」

「6人何て卑怯じゃねーか」

「彼奴はそれをやったんだよ、しかもきっちりと勝ちやがった」

「お前等、楽しそうな話をしているな」

「「「「「「「「「「政さん」」」」」」」」」」

「お前達が釘さしで、負けた男ってお嬢の客人なのか?」

「そうです、彼奴全然、ヤクザに怯えなくて度胸がありますよ」

「そうかい、それは良かった」

「良かった?」

「お嬢ももう年頃だ、好きな男が出来れば、あの性格もおさまるだろうよ」

「そうですね、お嬢の癇癪も治ってくれれば万々歳だ」

「しかも、お前達の話じゃ、度胸も腕っぷしもあるようだな、更に良いじゃないか」

「ですが政さん、もし上手くいかなかったら? そして組長の逆鱗に触れたら」

「機嫌の悪い、組長、兄貴たち…それに機嫌の悪いお嬢たち…地獄じゃないですか?」

「….地獄だな」

「客人、ブラックスーツ着ていてお洒落でしたよ…組長が嫌うタイプじゃないですか? やばくないですか?」

「それは本当か?」

「ええっ」

不味い事になりませんように…

「これは終わったかも知れねーな…これから暫くは嵐だ、勘弁してくれ」

「「「「「「「「「「「政さん」」」」」」」」」」

「俺には大変な事にならないように祈る事しか出来ないな、まぁ流石に組長もガキには酷い事はしないだろう」

ハァ~もう素人に酷い事はしたくねーな。

(続く)

竜ケ崎家へ【中編】

「客人、準備が出来ました、組長がお会いになるそうです」

「政、ご苦労様、それじゃ剣さん行きましょうか?」

「有難うございます」

こういう時は案内人にも労いの言葉を掛けるのが常識だ。

事前に、三人から家族の情報は聞いていた。

竜ケ崎龍三

広域暴力団、竜ケ崎組組長。

麗美の父親、苗字にも名前にも竜の文字が入っているからWドラゴンと若い頃は言われていた。

昔気質のヤクザで堅物、義理人情に厚く子分からも慕われている。

その反面、敵には容赦ない性格をしていて一旦敵とみなしたら容赦ない。

娘の麗美が絡むと冷静さが無くなり、冷酷な一面が強くなる。

竜ケ崎辰子

龍三の妻、麗美の母

龍三が頭が上がらない唯一の人間。

龍三程の親ばかでは無い。

義理人情が好きで、奔放、曲がった事が嫌い。

物事を冷静に見ることができる反面、打算的でもある。

北条虎雄

広域暴力団 竜ケ崎組の若頭。

小太刀の父親。ある意味本当の極道、小さな組だった竜ケ崎組を武力によって上へ押し上げたコテコテの武闘派。

義理人情に厚いが、好戦的で、その強さに自信がある。常々小太刀に「男とは強さ」だと言っている。

その為、小太刀も自然とそういう男に惹かれるようになっていった。

「俺より強い奴じゃないと娘は渡さない」そういう親ばか。

三上鳳凰

広域暴力団 竜ケ崎組の舎弟頭。

亜美の父。竜ケ崎組の経済を担う経済ヤクザ。企業舎弟 鳳凰グループの社長も兼ねている。

世の中は金だ、そう思っている節がある。亜美に「男に必要なのは金と権力だ」そう伝えているが。

亜美は反発している。

多分、三人で一番親ばかで亜美からは少し嫌われている。

おおよそこんな感じだった。

まぁどうにかなるだろう。

襖があいて通された。

一番奥に4人が居てその左右に3つの座布団がある。

此処には竜ケ崎さんと北条さん三上さんが座るのだろう。

そしてその間に左右に組員が3名づつ居た。

多分、あの手前に座れと言う事か…座布団も無しに。

さぁ、どうしてやろうか?

これはどう考えても不作法だ。

僕は今回は《招待されてきた》

しかも、手土産まで用意してきた。

他の組員は《客人》と僕を呼んだ。

ならこれは向こうの落ち度だ。

そのまま、真っすぐ歩き、龍三の前まで歩いて行った。

組員が動こうとしたが鳳凰が手で制した。

「小僧、何のつもりだ」

「竜ケ崎組とは随分、失礼な組織のようですね? 招待したくせに座布団も無い、こっちは手土産まで用意したんだぜ」

睨みつけながら目を逸らさずに話した。

「組長相手に、ガキが無礼だろうが」

手前の組員が叫んだが気にしない。

僕はその組員の前に行き、手前にあったお茶を頭から掛けた。

ビシャビシャと音をたててお茶は組員を水浸しにした。

周りは驚いた顔をしていたが、なんだか麗美さんだけは笑っているような気がする。

「ガキただで済むと思うなよ!」

「あのさぁ、僕は客人として此処に来ているんだぜ、他の組員の方は《客人》と呼んだよ、竜ケ崎組では客人をガキと呼ぶのは無礼じゃないのかな」

顔を真っ赤にして立とうとしたが、隣の組員に抑えられた。

「確かに悪かった客人この通りだ」

組長に近い側の組員が頭を下げた。

「あのさぁ、竜ケ崎組じゃ解らないけど、広島のとある組では客人専用ソファに座った組員は腕を斬り落とされたそうだけど?」

「客人…」

許してくれって言えないよな?

あんたら男を売っているヤクザだもんな。

「いいよ、僕はヤクザじゃないから、ただ頭から茶を掛けられても仕方ない、そういう事をした、それは理解できるよな?」

「ああっ」

「なら良い」

そう言いながら僕は龍三の前まで歩いていき、ドカッと音をたてて足を崩して座った。

「小僧、そこに座るのか、しかも傍若無人にしやがって」

静かに睨んでくる、普通の人間だったら腰を抜かすかも知れない。

こういう時は目を反らしちゃいけない。

「僕は客人だよ、少なくとも使用人である組員よりは上座に座ると思うんだけど? 座布団も無いから勝手に場所を決めざる負えないんだ、仕方ないだろう」

「あはははっ、あんた凄い度胸あるね、こんな事やるガキ…あっゴメン客人は初めてだ、私は気に入ったよ!手土産もあんがとよ、娘を頼むわ、唄子さんも静流さんも喜んでいたわ、後で娘達と話し合って選ばせて貰うわ」

「気に入って貰えて良かったです、僕はセンスが全く無い」

「そんな事は無いよ、唄子さんは特に喜んでいたわよ…座布団なら私のを使うと良いわ、そっちの虎雄さんが話があるみたいだから、その前に敷くからそこへどうぞ」

「姉さん、家内がどうしたんですか」

「いやぁ~私はね、女を代表して見極めを頼まれたんだけど、この子はしっかりしているよ、この子に何かしたら許さない、そう唄子さんが言っていたよ」

「唄子がですか」

《あの気位が高く金遣いが荒い彼奴が…信じられない》

「まぁ、それだけの物を貰ったからね、それじゃ剣さん、私達は交際に賛成、夕飯の準備をするから後はお父さん達と話しておくれ」

「はい、有難うございます」

座布団を敷かれたのでそこに座る事にした。

目の前に強面の人が座っている。

北条さんのお父さんだろう。

「凄いなお前さんは、此処はヤクザの本家だぜ、よくもまぁこれだけ出来たもんだ」

「スミマセン」

「いや、怒ってない、寧ろその度胸を褒めているんだ、うちの小太刀がな剣くん、剣くんって凄く煩くてな、だが解る気がするよ」

「お父さん、ちょっと」

「だって言っていただろう? まぁこれだけの男前で腕っぷしがあって度胸がある…小太刀が言う通りだった、俺は交際を認めてやんよ」

「有難うございます」

「なぁ、龍三の親父~ぃこんな高校生いねーぞ、良いんじゃないか交際位」

「虎雄さん、度胸があっても腕っぷしが強くても意味ありませんよ、そんなの半グレと同じです」

「パパっちょっと待って、剣ちゃんはちゃんと働いてお金を稼いで生活しているよ、半グレなんかと違うよ」

「三上、お前は高校時代は度胸の欠片も無かったじゃないかなぁ~反対しなくても良いんじゃないか?」

「虎雄さんは黙っていて下さい、僕はこういう暴力だけの人間は嫌いなんだ」

「パパは何を知っているの? 剣ちゃんはちゃんと自活しているよ」

「ふんっ、どうせ貧乏フリーターかなんかだろうが?第一親も居ないような奴は碌なもんじゃないんだ」

正直凄く腹が立った。

「お金が無いのがそんなにいけないのですか?」

不味いな、頭の中で貧乏ヤクザ風情がと…つい考えてしまった。

「僕は貧乏じゃない」

「バイトで、稼いでいるから? その程度で偉そうに…」

「ハァ~ 手土産まで持参しているのに、その言い方、正直腹がたちますね、麗美さんでも小太刀さんでも亜美さんでも良いからお母さん呼んできてくれる?」

「解りました、母を呼んできますわ」

麗美さんが行ってくれた。

「それなりの手土産をお持ちしました。相手は竜ケ崎組、ちゃんとした組織、そこに呼ばれたからです」

「ふーん10万位は張り込んだの?まぁ良いや恥かくだけだよ」

「パパ、いい加減にして、剣ちゃんが折角お土産持ってきたんだから」

「そう?それが亜美や家内に釣り合う物なら謝るとしましょう、判断は僕で良いよね?」

「どうぞ」

「聞いたよ、あんた客人に貧乏って言ったんだってね?」

「姉さん、だけど本当の事じゃないですか?」

「はぁ~本当にあんた頭が切れるのかね…ちゃんと調べてからお言いよ、面倒くさいから唄子さんも静流さんも連れて来たわ」

「貴方、あまり亜美に恥かかせないで下さい、貴方が剣ちゃんね、亜美から話を良く聞くわ、可愛いって言ってたのだけど、違うわね、まぁ良いわ、バックありがとうね…」

「いえ、ご挨拶するのに手ぶらじゃ申し訳ないので、それなりの誠意を込めたつもりです、気になさらないで下さい」

「そうね、このバックは合格だわ、貴金属を選ばないのも偉いわね」

「有難うございます」

「おい、唄子」

「貴方は黙って、後でお説教しますから!」

「私は静流、小太刀の母親をしているわ、正直こういうのは疎いけど、これが高額なのは知っている、それをこれだけ揃えたんだから凄いもんだね、小太刀の話だと腕っぷしもあるんだってね、小太刀を宜しく頼むわ」

「おい、何を貰ったんだ」

「辰子姉さん、言ってもいいかい?」

「この際、言って置いた方が良いだろうね、客人のお土産の金額を言うのは良くないが仕方ないね」

「それじゃ、私から伝えますね、メルエスのパーキンのバックが6個、ネットで調べたら大体250万、それにローラックスの時計が大体300万のものが三つ、それに若い衆様に獅子屋の黒糖羊羹、多分1万円位のが20、大体大雑把にみて2400万位ですね…ねぇ鳳凰さん、娘のボーイフレンドの手土産のバックの方が、貴方のプレゼントのバックより高いわ、今度もっと高いの買って下さいね」

「ちゃんとした手土産持ってきたんだいい加減にしな、後で本気で説教するよ」

「それじゃあねー剣ちゃん、また後で」

「今日はすき焼きにするから食べていってね、それじゃ」

「ハァ~僕が悪かった、高校生がそんな金額使うなんて、確かに言うだけああるね、それは自分で稼いだの?」

「投資とかで頑張っています」

「それじゃ仮合格あげるよ、娘と付き合いたいなら僕とも友達になって貰うよ、そうだな君が本当に投資家として資質があったら本合格、僕は娘にお金の苦労はさせたくない、まぁ本合格したらお好きにどうぞ、言って置くけどかなり厳しいよ? そうだな本合格になったら、鳳凰グループで課長のポストも用意してあげるよ」

「お付き合いは嬉しいですが、会社の方は許して下さい、僕には自分の夢もありますから」

「それじゃ、その辺りも時間のある時に聞くよ」

「パパっ」

「まだ、仮だけど、合格かな、まぁ良い子を連れてきたね、うん」

だけど、問題は….麗美さんのお父さんだ。

まだ険しい顔をしている。

竜ケ崎家へ【後篇】
後ろで麗美が鬼の様な形相で龍三を見ている。

麗美からしてみれば、2人が実質交際を許して貰ったのに自分だけが許されない。

かなり怒りが溜まっていった。

龍三がそれを無視するように話だした。

「二人はそれで良いだろうな! 最悪、この社会から足を洗って別の世界で生きられる、だが麗美は違う」

「お父様」

「少し黙れ! 此奴と付き合うと言う事は、この世界で生きる事だ、そして此奴の気性は、ある意味魔性だ」

「魔性?」

「そうだ、魔性だ! 此奴には0か100しかない、此奴が付き合ったら多分お前が望む事は何でも答えるだろう、大人のの関係も含んでだ、だがその代わり裏切ったら躊躇なくお前を殺すかもしれない、もしかしたらお前を殺さなくても浮気相手の女は多分大変な事になる」

《裏切ったら殺す》《敵には容赦しない》当たり前の事だと思うが何を言っているんだろう。

「それは人として当たり前の事だと思いますが」

「お前は度胸もある、腕っぷしもある、頭も良い、だが本当の暴力を知らないだろう」

暴力、どのレベルだ、敵の組織の人間を銃殺した位で良いのか?

スパイの人間の顔を硫酸で焼くレベルで良いのか? 四肢切断?

その位なら、経験はあるが…

「本当の暴力? それがどのレベルか僕には解りません」

「此奴の気性は俺より荒い、ヤクザの組長の俺よりもな、だが、この世界に生きる此奴には必要な事、だから此奴と付き合いたいなら暴力に成れる事、そして、そんな暴力からも守れるような男じゃなくちゃいけない」

「それはどうすれば、証明できるのでしょうか?」

「俺が指定する奴と戦って男を見せろ、それで良い」

「それじゃ、俺か政が此奴とステゴロでもすれば親父は認めるんか」

「いや、虎雄や政じゃ手加減するといけ―ねー、彼奴を呼べ」

「彼奴ってまさか、文蔵ですか、あれはいけねー、ヤクザじゃない殺し屋じゃないですか?親父流石に、大人気ないぜ」

「お父様冗談は…」

「黙れ、これは男と男の話だ、どうだ? 受けるか? もし勝ったら娘はくれてやる」

くれてやる…麗美さんの意思は関係なしにこんな事する様な奴には遠慮はいらない。

「僕はそれで、良いけど、麗美さんはそれで良いの?」

「正直いえば逃げて欲しい反面 私の為に戦って欲しいそういう思いもあります、でも私の気持ちはもう剣さんの物です、此処までして下さった方はいませんから」

「なら受けます」

殺し屋の怖いのは何処からくるか解らない所だ。

真正面からくるなら全然恐れる必要は無い。

「組長さん、何か様かい?」

「文蔵悪いが、今からそこの男とちょっと戦ってくれないか?」

「俺は殺し専門、それしか受けねーよ」

「おい、報酬は払うから半殺しで止めてくれ」

「俺はアンタの子分じゃない、出所して暫く世話になっているだけだ、主義は変わらねーな、世話になっているから殺せと言うなら受けるぜ」

「メンドクサイ…それじゃ《僕を殺す》それで良いんじゃないかな? まぁ僕は可哀想だから手加減はしてあげる、それで死んだらごめんなさい」

「お前言っちゃいけない事を言ったな…もう止まんねーぜ」

「おい、俺はそこ迄は…」

文蔵はいきなり殴り掛かってきた。

駄目だろう、どう考えてもドスとか銃が得意な奴が。

これじゃ反撃してくれって言っている様な物だ。

可哀想だから、簡単に躱して鳩尾に軽くパンチをいれる。

この位なら大して怪我して無いだろう。

「うげえぇぇぇぇぇぇーーーーっ」

辺り一面に盛大に吐いた。

周りは唖然としているが当たり前じゃないかな?

冷静さを欠いて武器も使わない、多分舐めたんだろうが…

まぁ僕の腹筋は小口径の銃なら通じない位の強度はある。

一流ならナイフが当たって痛い位のダメージはある。

「プロなら手加減は辞めようか? 銃とナイフもしくはドスを使うんじゃないの?」

「おまえ絶対に素人じゃねーな…油断した今度は油断しねー」

此奴は馬鹿だ、本来ならあれで死んでいる。

まぁそれじゃ後で文句が出るから、ワザと仕留めずにこうした。

「さっさと準備してくれませんか?」

文蔵は奥に引っ込み銃とナイフを持ってきた。

「待たせたな、お前がプロでもこの状態の俺には敵わないぜ」

態々話なんて聞く必要は無い、だが此奴が優れた殺し屋なのは解った。

僕のスピードに僅かながら反応している。

だから足に蹴りを入れて転がしたあと片手に持った銃を指が折れるのも構わずとりあげた。

もう片方のナイフが横腹に迫っていた。

そのナイフを手首をつかみ落とさせた、多分手首の後ろの骨は折れている。

これで無効化できた筈…油断した、靴に武器を仕込んでいた、間一髪かわして足も折った。

「….凄いじゃない」

「あんたも一流だね、ナイフも靴の仕込みも危なかった」

「簡単に躱しておいてよく言うぜ…俺の負けだ2度も負けたから認めるしかねーな、命は良いんだよな」

「あんたは一流だよ、これだけしたのに痛がらない奴はいない」

「そうかい、ならあんたは超一流じゃねえーか…組長さん負けた、負けた、悪いが闇医者を頼んでくれ」

「ああっ」

文蔵は本当に一流だった。

僕が改造人間じゃ無ければ確実に殺される。

普通の人間じゃまず勝てない、恐らくは激痛で普通なら泣き叫ぶのに、普通に話している。

脂汗を流しながらだが…

「その怪我が治ったら、まぁ飯でも食べませんか?」

「飯か…良いね」

そう言うと文蔵は片足を引き摺りながら片手をヒラヒラしながら去っていった。

「これで認めて貰えるんですか?」

「み、認めよう」

「剣さん、凄いですわね、麗美も此処までとは思いませんでしたわ、もうこれで二人に障害はありませんわよ」

麗美さんが飛びついてきた。

「何で麗美が飛びつくのかな、私だって親父に許可貰ったんだぜ」

「わたしもだよ」

「あら亜美はまだ仮でしょう…不味いんじゃないの」

「ううっパパ…あっ居ない」

この後、すき焼きをご馳走になり帰った…

何だか凄く疲れた気がする。

※この作品は大昔に自分が書いた物を思い出しながら書いています。

その為、未熟な表現や可笑しなところがあるかも知れません、お許し下さい。

【閑話】麗美のセカンドラブストーリー

これは私が中学生の頃の話。

「麗美さん、付き合って下さい」

珍しい事に告白してきた男の子がいました。

私は家が家なのでこういう経験は滅多にありません。

自分でも器量の良いのは解ります、ですが事情を知っている方は例え不良でも告白なんてしませんわ。

「ありがとう、それは私の事情を全部知っての事ですの?」

「はい、家の事も全部知っています」

「そうね、それでも私と付き合いたい、そういう事ですのね?」

「はい、僕の気持ち変わりません」

「私と付き合うと言う事はね、危ない目にもあう可能性があるのよ? 解ってて言ってるの?」

解って言っているのかしらね?

「はい、僕が必ず守ります」

真っすぐな眼差し…これは受け入れてあげるしかないわね。

「そう、私は、貴方が思っている以上に直情的ですよ、0か100、そういう女です、本当にその言葉が本当なら帝愛ホテルに放課後いらっしゃい、全部差し上げますわ」

「ぜぜ全部」

「そう、貴方が思っている事全部受け入れて差し上げますわ」

「ああ、ありがとう」

「どういたしまして」

【少年SIDE】

勇気絞って告白して良かった。

転校してきて僕は凄い綺麗な女の子を見つけたんだ。

綺麗になびく少しウェーブの掛かった髪。

同じ中学生なのに大人に見える顔立ち、あんな綺麗な女性は芸能人にも居ない。

同級生に名前を聞いたら、竜ケ崎麗美さんだと教えて貰った。

しかも、あれだけ綺麗なのに彼氏はいないそうだ。

「麗美さん…絶対に居ないけど、止めた方が良いよ」

「麗美には関わるな、これは脅しているんじゃない! 親切心で言っているんだ」

クラスの皆はこぞって反対した。

理由を聞いたら、彼女のお父さんは暴力団の組長だそうだ。

だが、僕は諦めきれなかった。

だから、周りの反対を押し切って告白したんだ…

告白して良かった、まさか受け入れて貰えると思わなかった。

家に帰り身支度を整えてホテルに向った。

いきなりホテルって、考えただけでも顔が赤くなる。

全部って事は…駄目だ、つい想像してしまう。

ドキドキしながらホテルについた。

受付で話をしたら、直ぐに連絡をしてくれて《806号室》で待っているそうだ。

そのままエレベーターに乗って8階に。

心臓の音が煩い…

だが、そこで待っていたのは。

「お前がお嬢に告白した奴だな、こっちに来い」

騙された、まさかいきなりヤクザに脅されると思わなかった。

「そんな、騙されたんですか」

怖い、たった三人なのに…足ががくがく震えてくる。

「お嬢は騙してなんかいねーよ、上の階でシャワーを浴びて待っている、ちゃんと約束を守れば、このカギはお前の物だ」

「そうですか…良かった」

「そうか、それじゃこれな」

手にドスを渡された…何をさせられるんだ、まさか指..」

「これで男を示せ、男を示したらカギを渡す、いいな」

「解りました、これで何をしたら良いんですか」

怖さと《これさえ終われば》という変な感情で可笑しくなる。

何をさせられるのか怖くて仕方ない。

横の部屋から大きな犬が連れて来られた。

犬と言うより小柄なライオンに見える位に大きく獰猛そうな犬だった・

「これはお嬢のペットの矢倉錦、元闘犬で横綱だったのをお嬢が引き取った物だ、此奴と戦って貰う…頑張れよほら」

そういうと黒服のヤクザが犬をけしかけた。

「冗談ですよね」

「…」

「止めて下さい」

そう言いながら目の前でドスを振り回したが、矢倉錦という犬はそれを交わして飛び掛かってきた。

ドスを持った腕が噛まれた。

噛まれた瞬間激痛が走った。 普通に犬に噛まれたのとは違う、まるでナイフに刺されたような痛さが走った。

「痛ぁぁぁぁぁぁぁーーーいたぁぁぁぁぁぁぁい」

矢倉錦が首を振ると僕の腕はあっさりと千切れて明後日の方向に飛んで音を立てて落ちた。

「僕の腕があぁぁぁぁぁぁぁぁ無い」

「お前、値を上げるのが早いぞ《お前はお嬢を守る》って言ったんだぜ、お嬢は常に誘拐の危機に晒されている、守ると言う事は命がけと言う事だ」

「解り…解りました…助けて、助けて….たすけてくださいーーーーーーーっ」

「助けてくれる訳無いだろう? 相手はお嬢を攫おうとしたり、連れ去る相手だ、本当ならお前が頑張らなくちゃお嬢は酷い目にあうんだぜ」

「諦めます、諦めますから…」

この時、僕は解らなかった、助かりたい一心で言ってはいけない事を言ってしまった。

「お前今、何て言った?」

顔色が変わった…今迄も怖かったが、今はその何倍も怖い顔になった。

「もういい、終わりだ…けじめとして此奴の残った腕と両足切断だ、お嬢の顔見知りだから、闇医者に頼め、その後病院に放り込んでおけ」

何を聞いているのか解らない..両足?」

「何で、何で僕がそんな目に遭わないといけないんですかーーーーっただただ告白しただけなのに」

「お前なぁ~ 今、言っちゃいけない事言ったんだわ《諦める》とな、お前が諦めたらお嬢はどうなる? なぁ、下手すれば輪姦されて東京湾に浮かぶかもしれねーんだよ! そういう世界でお嬢は生きているんだぜ! お前が《守る》っていった人間はそういう人なんだ、その言葉の重みも解らねーのか? だからお前は負け」

「僕はただの学生..あああっ」

「そうだな、だから《気持ちだけ》で勝てた、本来なら助けなくちゃ意味はねー、だがお前にそこ迄求めていなかった、ただ腕一本無くしてもお嬢の為に立ち上がればそれで良かった」

「ううう腕を、ハァハァそんな」

「あれでお嬢は結構情が深い、多分値をあげなければ片腕のお前の面倒も生涯見ただろうな、まぁ婚約位直ぐにして貰えたんじゃないか?」

「…助けて」

「それを捨てやがった、馬鹿がよ…これでお嬢の機嫌が暫く悪くなるんだ、ふざけんなよ!」

腕を無くして苦しんでいる僕相手に、普通に怖い事を言って来る。

【麗美SIDE】

「結局《諦める》そう言ったのね…」

ハァ~人を見る目の無さが恨めしいですわ。

真っすぐに目をみたから、違うそう思ったのですが、クズでした。

私はベッドから抜け出しガウンから服に着替えて下の階に降りた。

「助けて、助けて、僕が悪かった、助けて下さい」

人を見捨てて諦めた人間に何で私が助けなくてはいけないんでしょう?

「貴方は私をその口で騙したのね? その口で《守る》って嘘をついたのね…政、ドス貸して」

「へい」

私はクズの口、歯と頬の間にドスを突っ込み思いっきり奥へ引いた。

「止め…ぎゃぁぁぁぁぁぁっ」

「もう片方ありますわね」

「嫌、嫌嫌いやあああああああああああああっ」

何で泣きますの? 泣きたいのは私ですわ..

「政、このゴミの処分は任せましたわ…それじゃクズ永遠にさようなら」

もう此奴はクズにしか見えないわ。

あの優しい顔も、守るという男らしさも全て嘘だったんですから…

顔も見たくない、そういう思いしか最早ありませんわね。

【少年SIDE】

僕はその後、小さな病院で残っている腕と足を切断された。

悪魔の様な男たちが「病院で斬って貰えるだけお前は運が良いんだ」と笑いながらいっていた。

そして、最後に「この事は言うな、事故に遭って詳しくは覚えてない」そう言う様に言われた。

しかも、もし言ったら母さんや妹も同じ目に合わせると脅された。

僕は…言うつもりは無い…言ったら本当にそうなる、確信したからだった。

気がつくと僕は大きな病院のベッドで寝ていた。

両手両足が無く、顔にも包帯が巻かれていた。

僕が気がついたのを見て両親が泣いていた。

結局僕の怪我はただの事故という事で片づけられた。

しかも、自殺に近いタイミングで車道に飛び出し車にはねられたそうだ。

手足の無くなった体で窓から外を見ると楽しそうに歩いている高校生がいた。

少し前まで僕はああいう生活をしていた…

だけど、もう僕は終わりだ…何処で間違ってしまったのか僕には解らない。

三者三様

【麗美SIDE】

私は今荷造りしています。

もう何も障害はありませんから。

やっと見つけた未来の旦那様、もうこの愛は止まりませんわ。

「あんた、何してんの?」

「お母さま、荷造りしてますのよ? 何時でも剣様の所に行けます様に」

こういう所は私に似たんだか、龍三さんに似たんだか、確かに恋も戦いも先手必勝。

早く動いた方が良い。

まして、あれだけの男だ、他にも狙っている女は多いだろうし、事実身内の中でも二人いる。

美形で頭が切れて度胸があり、腕っぷしは殺し屋並み。

簡単に言えば、龍三さんに虎雄に鳳凰の全部の才能がある、絶対に麗美の婿に欲しい。

「そうね、剣さんなら私も賛成だわ、お父さんには私も一緒に言ってあげるわ、さっさと既成事実でも作って物にしちゃいなさいな」

「そうですわ、私の全てはもう剣様の者ですから頑張って暖かい家族が作れるように頑張りますわ」

「頑張りなさい、私もあの子なら息子にするのに異存はありませんからね」

《この子の執念は龍三さん譲り、しつこさは私譲り、こうなったらもう誰にも止まらないでしょうね、麗美ならもう何もしなくても確実に何処までも追いかけていくでしょう》

【小太刀SIDE】

「ねぇ、私の言った通りだったでしょう?」

「馬鹿言うな、お前の言っていた、何倍も凄い男じゃ無いか…凄いな黒木くんか」

《彼奴はスゲー男だ、齢が近ければ俺が兄貴と呼びたい位だ、本家に涼し気に入ってきて委縮せずに話す、あんな奴は2人といねーよ、良く俺を任侠の男っていうが、彼奴の方が二枚も三枚も上だ》

「でしょう、本当に凄い男なんだよ、剣くんは」

「そうだな、俺も彼奴ならお前が付き合う相手に問題は無いな、母さんも気に入っていた、それでお前は何時行動するんだ」

「親父、何時って何だよ」

《男らしいと言うか何というか、恋愛とは無縁の生活を送っていたから解らないのか?まぁ、こんな育て方した、俺や母さんが悪いんだが…》

「あのよ、小太刀そこに座れ」

「解ったよ、それで」

「もう、俺もよ母さんも交際は許したんだぞ? これからどうしたいか、早く決めないといけないんだ、解らないのか?」

「それって」

「だから、さっさと行動起こせって事だ、普通に付き合うもよし、体使って物にするもよし、早く物にしちまえって事だ」

《本当に鈍い、静流が認めるような男で俺すら気にいるような男、他の女が放っておくわけ無いだろうが、此処にも麗美お嬢さん、というとんでもないライバルに亜美ちゃんも居るんだぜ、あの分じゃ親父も気に入ったみたいだから最悪、麗美お嬢さんの婿にしたいと言い出しかねない、解っているのか?》

「親父、まだそこ迄は早いって」

「そうか、だが麗美お嬢さんや亜美ちゃんはどうかな? 俺は急いだ方が良いと思うがな、まぁお前の恋愛だ好きにしろ、だが俺が気に入る様な奴がモテない訳がねぇ、それだけは忘れるなよ」

「解ったよ」

《ハァ~俺はどうしようか困るな、彼奴は出来過ぎだ、小太刀が気に入るのは解る、だが彼奴は《竜ケ崎》の跡取りにも申し分ない、そう考えたら麗美お嬢さんと結婚すればこの組は安泰だ、若頭として行動するか、小太刀の親父として行動するか…はぁ頭も痛いぞこりゃ》

【亜美SIDE】

「パパぁ、何時になったら私は剣ちゃんと付き合えるのよ、いい加減にして、麗美ちゃんにとられちゃうよ」

「うん、出来るだけ早目にパパが遊びに行ってくるから、その後ね」

《あの子は確かに凄い、度胸、腕力、知力本当にぴか一だ、だがあの狂気の目が気になる、野獣の様な目、あの目はと同じ人間は、組長と麗美お嬢様、そして姉さんみたいだ、あれは魔性だ、見た瞬間から魅了される。そして決して平穏ではいられない。 僕は腕力が無い、頭脳一つでのし上がった経済ヤクザだ、だからこそ人の強さに敏感だ、人を殺す時にもどうしたら殺せるのか綿密に考える。その僕の予想を上回り彼奴は勝った。彼奴の魔性は組長が狼だとしたらライオン位はある。 僕はそういう人間が好きだ、だがそれは個人として《彼奴の片腕に成りたい》若ければそう思ったかも知れない位魅力的だ…だが娘の相手となると歓迎できない》

「そんな事言っていたら、麗美ちゃんや小太刀ちゃんに取られちゃうよ?」

《仕方ない、嘘をつくしかないな》

「亜美ちゃん、聞いて欲しい、僕はあの子が結婚相手に相応しいかどうか見極めたいんだ、だから」

「貴方、何を言っているのかしら? 亜美も馬鹿なの?」

「唄子さん」

「ママ」

「剣ちゃんでしょう? あれは凄く良い男よ、さっさと股開いて子供でも作って既成事実をつくっちゃいなさい」

「唄子さん幾らなんでもそれは認められない」

「ママ、幾ら何でも直ぐにそんな関係は早すぎるよ」

「亜美、あんた馬鹿なの? メルエスのパーキン250万簡単にプレゼントする高校生なんて二人もいないわ、元銀座の最年少ママだった私が保証する、あの男は一流になるわ、貴方のパパ以上にね、まぁ既に一流かぁ凄いわね…本当」

「ママ本当?」

「唄子さん、そんな炊きつけないで」

「私の目を信じないの? しがない三流会社の課長だった貴方が、一流になると見抜いたのよ? 上場企業の御曹司を振って貴方を選んだの忘れた? 人を見る目だけは誰にも負けないわ、実際に貴方は鳳凰グループの社長に此処の幹部になったでしょう」

「そう言われると困るが、亜美はまだ高校生だ幾らなんでも早すぎる」

「ママ…幾ら何でもそんな急には、そりゃ考えなくも無いよ、カッコ良いし好きだもん、だけど普通にデートしてそこからだと思う」

「あのさぁ、亜美はママと男を取り合って勝てるかな? どう思う?」

「ママ、まさか剣ちゃんに手を出す気なの?」

「唄子さん、違うよね」

「あはははっ、家族がいなければそうするかもね? でも今の私は鳳凰さんも亜美も居るからしない、だけど考えてまだ高校生だけど、もし彼が銀座や六本木のクラブに行ったら、多分かなりの人数が惚れてしまうわ、そういうレベルの男よ?そう考えたら早期決戦しかないとママは思うな」

「早目に、頑張ってみるよ、ママありがとう」

《本当に馬鹿な子、残念ながらもう亜美、貴方には勝ち目は無いわ、麗美お嬢さんは多分あんたみたいに躊躇なんかしない、やっと見つけた理想の男、出会えない筈の理想の男に出会ってしまった麗美お嬢様、今迄妥協しても出会えなかった伴侶…それなのに自分の全てを満たす様な男に出会ってしまった…自分の全てを使って手にしようとするでしょうね、体も心も全部使って、悪いけどもう貴方には勝ち目は無い…この子本当に私の子なのかしら? 血が薄いとしか思えないわ…まぁ良い子なんだけど、私ならこんな一流の男を前にしたら直ぐ動くわよ》

「そう、頑張りなさい」

「はい、ママ」

三者三様に物語は動き出した。

恋愛は早い者勝ち

「お父様、それでは私行ってきます」

「麗美、何処に行くっていうんだ」

「何をおっしゃっておりますの?剣様の所に決まってますわ」

「おい、それは遊びに行くと言う事か? いきなり男の部屋に行くのは流石に許可出来ないぞ」

「お父様、何を言っていますのかしら? 一緒に暮らす為に出て行くんですのよ、頭おかしくなりました?」

我が父ながら、頭がおかしいのでしょうか?

自分が何を言ったのか忘れてますわね…あの場で父が言っていたのはどう考えても、友達として付き合うという条件じゃありませんでしたわ。

普通に考えて、婚約もしくは結婚の条件ですわね。

ええっ文句何て言わせませません。

「結婚前の娘が男と暮らすなんて恥知らず、俺が許すと思うのか?」

「結婚はしてませんが、殆ど婚約に近い状態だと思うのですが?」

「俺は交際は認めたが、そこ迄は認めていない」

「竜ケ崎組、組長ともあろう者が、お父様、自分の言葉に責任も取れないのですか?」

「俺は何も言っていない筈だ」

全く往生際が悪いですわね、私はスマホを取り出して

「二人はそれで良いだろうな! 最悪、この社会から足を洗って別の世界で生きられる、だが麗美は違う」

「そうだ、魔性だ! 此奴には0か100しかない、此奴が付き合ったら多分お前が望む事は何でも答えるだろう、大人のの関係も含んでだ、だがその代わり裏切ったら躊躇なくお前を殺すかもしれない、もしかしたらお前を殺さなくても浮気相手の女は多分大変な事になる」

「此奴の気性は俺より荒い、ヤクザの組長の俺よりもな、だが、この世界に生きる此奴には必要な事、だから此奴と付き合いたいなら暴力に成れる事、そして、そんな暴力からも守れるような男じゃなくちゃいけない」

「俺はアンタの子分じゃない、出所して暫く世話になっているだけだ、主義は変わらねーな、世話になっているから殺せと言うなら受けるぜ」

「み、認めよう」

「なななな、お前録音していたのか?」

「そんな事より、これよく考えて下さいます? ちゃんとした言葉に直すと《私はこの世界でしか生きれないから、ヤクザに成れ》《私は付き合うなら剣様の望む事に何でも答える、大人の関係も含んで》《私を守れるような人でないと許さない》その結果、文蔵という凄腕の殺し屋と戦い、それをに剣様が勝って交際を認めた、そういう事ですわ」

「麗美、上げ足ばかりとりやがって、録音するなんて卑怯だぞ」

「私、お父様の子供ですから? 1人の男性が命を賭けて戦ったのですよ? その重みも知らないお父様じゃないでしょう! これを反故にするなら私、多分傷つきますわよ? 八つ当たりで組員の方が怪我するかもしれないし、今度は死人が出るかも知れませんわね」

「お前、俺を脅すつもりか?」

「別に脅してなんていませんわ! 本当の事を言っているだけですわ」

《これが冗談で無いからたちが悪い…》

「解った、言ってしまったのは俺だ、好きにするが良い」

《他の男なら兎も角、黒木なら仕方ない、もし俺が原因で口説けないとかになったら発狂しかねない、折れるしかないな》

「有難うございます、お父様」

「ああっ、ただやるなら徹底的にやれ、負けるな」

「心得ておりますわ、お父様」

「頑張れよ」

「はい」

【龍三、辰子SIDE】

「嬉しそうな顔で行ってしまったな」

「ええ、これで良かったと思うわ」

「男の家に押しかける事がかぁー」

「ええ、私でも同じ立場ならそうする、政をつけて正解だわね」

「まぁな、幾ら強いと言っても高校生、不意を突かれる事もある護衛の一人位は必要だ」

「貴方…まだ麗美の事良く解ってない、あの子の暴走を防ぐ為という意味でいったんだよ、私は」

「麗美の暴走…」

「あの子は私や貴方以上に敵には容赦しない、そんな麗美が本気で恋をした、もし小太刀さんや亜美さんを邪魔に感じたとしたらどうなるかしら?」

「おいおい、親友だぞ」

「貴方も麗美が過去に何をしたか、忘れて無いでしょう?」

「おい」

「多分殺す事も躊躇なくするでしょうね…」

我が娘ながら失念していた。

彼奴は躊躇なくそういう事が出来る、そういう娘だった。

しかも《くん》が《様》になっていた、その本気度も解る。

「まぁ俺には関係ない、あの黒木ならどうにかするだろう…そうなったら、そうなったで隠蔽だけしてやれば良い」

「あんた、本気かい」

「仕方ないだろう、次期組長候補と娘、それに優る者は居ない、お前こそどうだ」

「わたしゃ、冷たく無いよ《そんな事が起きないように祈っているさぁ》」

何事も無いよう、よそ様の女の子に手を出さない様、俺には祈る事しか出来なかった。

【麗美SIDE】

此処が剣様のご自宅ですのね、最初は隣のアパートかと思いましたがよく考えたら、あれ程の手土産を持ってくる剣様がそんな訳ありませんわよね。

しかし、凄いマンションですわね、俗にいうタワマンという奴ですわ。

しかも、最上階なんて凄いですわ…

「政、もう結構ですわ、家におかえりなさいな」

「お嬢、そういう訳にはいきません、親父についているように言われてますから」

はぁ~これから甘い生活が始まるのに何で邪魔な此奴がついてくるのでしょうか?」

「政、迷惑ですわ、さっさとお帰りなさいな」

「お嬢、どうしても帰れません、今帰ったら俺がどういう目にあうか解るでしょう」

「そんなのは私に関係ありませんわ」

「お嬢…」

「本当に無粋ですわ、私と剣様の愛の巣に入り込もうなんて」

「俺にも立場があるんですよ、許して下さい」

「まぁ良いですわ、仕方ありませんわね」

しかし、いざ来てみたら緊張しますわ、ただインターホンを鳴らすだけでこんな緊張すると思いませんでしたわ。

スーハ―…さぁ

「お嬢、インターホン押さないですか、なら私が押しましょう」

なっなっ何で勝手に推しますのよ…

「どちらさま? あっ麗美さんに政さんですね、今開けます」

《ちゃんとしたセキュリティがあるマンション、理由をつけて退散…許してくれないだろうな》

「政、ほら行きますわよ」

「へい」

【部屋にて】

「いらっしゃい、麗美さんに政さん、今日はどうかされたのですか?」

「とりあえず、お茶を入れますから、寛いでいて下さい、来るとおっしゃってくれればおもてなしの準備して置いたのに、少々お待ちください」

「そんなお構いなく」

《お嬢、凄い部屋ですよ、調度品も家電も家具も凄いですぜ》

《余りキョロキョロしないで恥をかかせないで下さい》

「でも、お嬢…」

「どうかしましたか? 」

「随分変わったお茶ですのね?」

「ウーロン茶ですよ、凍頂烏龍茶って言うんですよ、一応、お客様用なので、頭等賞を受賞した物です、僕は拘りが余り無いから普段は安物を飲んでいます」

「色が随分、薄いんだな」

「一杯目は捨てるんですのね」

「姉がお茶には拘っていたので、つい癖で買ってしまいました、本格的な入れ方すると会話が楽しめないので略してますが…どうぞ!」

「美味しい、有難うございます」

「凄く美味しいですね」

姉さんは本格的なセットを使って重要なお客様には自ら入れていた。

だが、あれだと終わった後じゃないと会話が弾まないからこんな感じで良いと思う。

「良かった、気に入って貰えて、それで今日はどうかされたのですか?」

麗美さんが今迄家に訪ねて来る事は無かった。

交際を許可されたから遊びに来たのか。

「そそそそ、それはですね、あのですね」

「お嬢、落ち着いて」

「私は、剣様と一緒に暮らそうと思って此処に来ましたのよ、ほらお父様の話の内容だと、そういう話でしたから…」

確かに、小太刀さんや亜美さんと違って麗美さんとの交際はそういう内容に聞こえても可笑しくない。

「それで龍三さんや辰子さんは、その許可は頂いているのでしょうか?」

「ええっ問題無く、許可を頂いておりますわ」

「それなら、問題はありませんね、ただ女性を迎え入れる為にはまだ準備不足ですから、そうだ明後日からにしませんか? ちゃんと迎え入れる準備をしておきますから」

「そうですわね、流石にいきなり過ぎましたわ、そういう事ならお待ちしますわ」

《良かった、もしお嬢の勘違いだったら、血の雨が降る所だった、うんこれは良い、一旦帰してから受け入れる、しっかり筋も通る、全て丸く収まる》

「それじゃ、今日は送っていきますね、と言ってもタクシーですが、荷物はお預かりしておきます」

「あ、あ有難うございます」

その後、僕は麗美さんを家まで送っていった。

一緒に暮らすのであれば、親にも挨拶をした方が良いだろう、そう思い挨拶をしようと思ったが、龍三さんは居なかったので辰子さんにその旨を伝えた。

「それじゃ、明後日から宜しくお願い致します」

「ええっ楽しみにしておりますわ」

挨拶は終わったのでそのまま家に帰った。

色々と準備しなくちゃな…

ありませんわ
さて困ったな…

僕は女性と付き合った事が無い、麗美さんは凄く魅力的な女性だ。

話しているとつい《お姉ちゃん》を思い出す。

だからって直ぐに同棲して良い物なのだろうか?

お姉ちゃんは何ていっていた。

思い出さないと。

「良い、剣、貴方の容姿は誰でも虜になる位綺麗いだわ、まぁ私の理想の殿方を実現していますからね」

「そうなのでしょうか?」

「そうよ、だけど男に必要な物はそれだけじゃ無いの? お金、権力、優しさ、包容力、必要な物は山程あるわね」

「まだまだ足りない、そういう事ですね?」

「そうよ、もし、貴方が本当に好きな方が出来たらその時は、相手の事を考えて動きなさい」

「よく解りません」

「今はそれで良いわ」

確かこんな感じだと思う。

麗美さんは…僕の為に身一つで来てくれるた。

組織がなくなり、たった1人になった僕に寄り添おうなんて人は居なかった。

だけど、麗美さんは女の子だ、あれ程綺麗で姉の様な女の子がずうっと僕の傍に居てくれるものだろうか?

僕から去っていった時、男と同棲していたなんて話があればマイナスになる…と思う。

だけど、傍に居てくれる、その想いは凄く嬉しい。

答えたい…真剣にそう思う。

だったら僕はどうすれば良いのだろう?

うんこれでどうかな?

多分、悪くない筈だ。

僕は銀行に電話を掛けた。

【明後日】

「剣様、おはようございます、本当に待ちどうしくて朝から来てしまいましたわ」

「おはよう麗美さんいらっしゃい」

相変わらず、政さんも一緒だ。

まぁ準備しておいたから良かった。

多分、麗美さんは家が家だから用心坊みたいな人が必要なんだと思う。

僕は扉を開けて入ってきて貰った。

このタワーマンションの最上階のエレベーター前で麗美さんを待った。

「態々、出迎えて下さいましたの?」

「はい、これをどうぞ」

「鍵ですわね…これを私に凄く嬉しいですわ、ですが何で二つありますの?」

「はい、一つは僕の部屋の鍵でもう一つは麗美さんの部屋の鍵です」

「わ、わ私の部屋の鍵? それはどいう言う意味ですの?」

「これは政さんの部屋の鍵です」

「本当に悩んだんですよ、僕はお恥ずかしい話、恋愛はまるっきり解りません」

「そうなんですの?信じられませんが」

「あの、黒木さんどう考えてもモテるでしょう? そんな美形でその男っぷりで信じられません」

《こんな素晴らしい方がモテない何て信じられませんわ》

「それで考えたんです、僕には足りない物が多いから、好きな人が出来たら《相手の事》を考えなさいって」

「そうですか? それとこの鍵と何か関係がありますの?」

「その、ほら結婚前の男女がいきなり同棲すると色々と問題があるじゃ無いですか?」

「私は気になりませんわ」

「ですが、男の僕は兎も角、麗美さんは女の子です、悪い噂が立つといけない」

「私はそうなる覚悟を持って来ていますから気にしなくて良いんですのよ…政なに笑っていますのかしら?」

《お嬢はヤクザの娘、悪い噂ならもう山ほどですぜ》

「何でもありません」

「僕が凄く気になります、それにもし付き合って別れでもしたら同棲したなんて事は女の子には凄くマイナスになると思います」

「剣様、まさか私と別れる、そんな事を考えてますの?」

「そんな、考えていません、寧ろ僕が振られるのではと考えています」

「それはあり得ませんわ、私の身も心も全て剣様の物ですから」

「それは凄く嬉しいです、ですがまだ僕達は学生です、急がなくてもゆっくりで良いんじゃないですか?」

「それはまだ同棲しては下さらないと言う事でしょうか?」

《ヤバイ、お嬢が泣きそうな顔をしている、八つ当たりが怖え》

「同棲とは違いますが、その鍵の一つは僕の部屋の隣の部屋の鍵です、そこは麗美さんの部屋の鍵です」

「私の部屋の鍵ですの?」

《これは、私のお部屋が隣、そういう事でしょうか?》

「折角だから、一緒に見ませんか? 麗美さんに気に入られる様にしっかり選びましたから」

「はい」

《此処は凄く高いマンションの筈です、買うにしても借りるにしても相当な金額の筈ですわ》

「どうですか? 麗美さんをイメージして頑張って揃えてみたのですが、気に入って貰えましたか?」

「気に入るも何も、凄い家具ですわね、最新家電も揃っています…凄すぎますわ」

《これ、幾らしますの…唄子さんがやたら自慢していた生活以上の気がしますが》

「服とか靴とかはサイズが解らないので、今度休みの日に買いに行きましょう、流石に僕も休んでばかりなので少しは学園に通わないと不味いですから」

「えっ服まで買ってくださるのですか?」

「付き合うなら当たり前じゃないですか」

女の子の為に頑張るのが男、お姉ちゃんはそう言っていたよな。

「それって買い物デートのお誘いですわね、有難うございます」

「あっ確かにそうですね、どう致しまして」

「それで、もう一つの鍵はなんですの?」

「それは僕の部屋の鍵、何時でも入ってきてくれて構いませんから」

「本当に、本当に宜しいんですの?」

「はい麗美さんなら大歓迎です」

「それなら、そうですわ、私の部屋の鍵についているこのスペアをお渡ししますわ」

「それは」

「私だけ二つ持つのは平等じゃありませんわ、勿論、剣様ならいつ来て頂いても構いません」

「そうですか、そういう事なら受け取ります」

「ええ、そうして下さい」

《黒木さん…それで良いのか? 結局お互いが合い鍵持ってしまったら同棲しているのと変わらないじゃないか》

「麗美さん、僕は貴方から逃げるような事はありません、そして時間は沢山あります、ゆっくりで良いんじゃないでしょうか?」

「そうですわね」

「そうですよ、普通に映画を見に行ったり」

僕はそう言う事をした事が無い。

「良いですわね、私もそう言う事をした事はありませんわ」

「一緒にご飯を食べたり」

「楽しそうですわね」

《私は2人以外とそんな時間を過ごした事はありませんわ》

「ただ二人であてもなく散歩したり」

「それも剣様となら楽しそうですわ」

「とにかく、時間は沢山ありますから、ゆっくりと距離を縮めて行けば良いと思います」

「そうね、私かなり焦っていたみたいですわね、ゆっくりと縮めて行けば良いのですわね」

《ですが、これは同棲と全く同じですわ…いわゆる通い妻って事ですわね》

【麗美SIDE】

しかし、驚きましたわ、まさか政にまで部屋を用意していたなんて…政の部屋何て要りませんのに。

あの後、さり気なくこのマンションについて調べたら、全て分譲でしたわ、しかも一番安い部屋でも1億6千万。

最上階の部屋はどれも3億を超える部屋しかないみたいですわね。

全く剣様は…今迄は諦めてましたのに…

こんな家に生まれたから真面な恋愛なんて出来ない、そう思ってましたわ。

ですから、私の望む男性は、ただ《裏切らない》《守る》それだけ誓って実行できれば良かったのです。

だって私は疫病神みたいな者ですから…

私と付き合うなら将来はヤクザ確定、しかも命の危険もある。

そんな私が相手にそれ以上を望むなんて…出来ませんわよ。

だが、私の前には《裏切らない》《守る》それすら出来ないクズしか現れませんでした。

ですが、剣様は違いましたわ…

《裏切らない》《守る》だけじゃない、凄く優しくて、凄くカッコ良くて、凄く強くて…

あはははっ、凄いわね、まるで私の夢から出て来たような人ですわ。

しかも、私はその剣様が愛したお姉さんにそっくりなのですわ。

同じ部屋で暮らせないのは残念ですが、この部屋が、このベッドが家具が全部私への愛の証なのですわ…

そう思ったらこの部屋全てが愛おしく思います。

本当に困ってしまいますわ…此処まで愛を示されてしまっては、もう何を返してあげてよいか解りません。

もう、身も心も捧げておりますのに…何でもしてあげて、何でも受け入れてあげる。

それ以外もう……ありませんわね。

甘い生活
剣の朝は早い。

朝早くからトレーニングをしシャワーを浴びる。

剣の改造された方法は生体改造、ゆえに機械化改造と違いその維持にはトレーニングが必要。

そこからPCを叩き、自分で作り上げた、投資用プログラムに独自のデーターを加えて微調整を計る。

休みであれば15時まではPCに噛り付きたい、常にそう思っていたが《お姉ちゃん》がそれを許さなかったから、僅かな時間で投資が完璧に出来る様に仕方なく作り上げた。

此処から昔は《お姉ちゃん》の面倒を見てから組織の仕事をするのが日課だった。

だが、やる事を無くした剣はここ暫く、このお世話の時間が無くなっていた。

折角《お付き合い》が始まったのだからと、剣は姉にしてあげた様に麗美にもしようと思った。

スクランブルエッグにコーンポタージュは姉の拘りに合わせた、烏骨鶏の卵に北海道産のコーンを使った特殊な物。

有機野菜のサラダを加え、パンも自分で焼いた自家製パンに同じく自家製のソーセージ、それに高級茶葉で入れた紅茶。

それを用意した、政さんも含んで三人分。

そこ迄、用意した後に、鍵を使って麗美の部屋に入った。

無造作に散らばった衣類を洗濯機に入れてまわし、バスガウンを用意してお風呂を沸かした。

姉の時には下着まで用意したが、不味い気がしたからそれは辞めた。

スチームで掛けてあった制服の皺を伸ばした。

それが終わってから、麗美を起こしに掛かる。

幼い顔をしていた姉と見た目は正反対なのに、何故か剣からみた麗美は姉と重なって見える事がある。

多分、同じ様に姉を見ていたら、ジロジロ見るなと《お姉ちゃんパンチ》という鉄拳制裁が飛んでくる。

「麗美さん、朝ですよ起きて下さい」

「う~ん、剣様 あっ!おはようございます」

「お風呂の準備が出来ていますよ」

「あっ、有難うございます」

《ついにこの時が、来てしまいましたわ、お風呂も沸かしてガウンまで用意して下さっているんですから、そういう事ですわね、身も心も捧げていますから、問題はありませんが、朝からなんて少し恥ずかしいですわ…だけど、このお風呂バラの花びらまで散りばめてあって素敵ですわ》

《私がお風呂から上がると剣様が待っていた》

「剣様、その待ちきれなかったのですか?」

《そんな、いきなり何て恥ずかしすぎますわ..》

「風邪ひいちゃいますよ?」

《伏し目がちで、優しくガウンを掛けてくれますの…本当に素晴らしいですわね》

「髪乾かしますね」

「えーと剣様…」

《大きなバスタオルで髪を拭かれまして、ドライヤーでいきなりブローするなんて》

「こんな感じで良いかな?どうですか?」

「バッチリですわ、凄く器用なんですわね」

「折角、僕みたいな人間と付き合って頂けるのですから、この位はさせて頂こうと思いまして、あっ食事も出来ていますので着替えがすみましたら僕の部屋に来て下さい」

「はい、直ぐに準備しますわ」

《正直、少子抜けしてしまいました、ですが、これが普通のお付き合いなのでしょうか? 信じられない位の幸せを感じてしまいますわ、大好きな剣様にこんなに尽くされては当たり前ですね》

【麗美SIDE】

「黒木さん、これは一体なんですかい」

「折角なので、朝食もご用意しました、もし好みじゃ無かったら言って下さいね」

「これを剣様がお作りになられたのですか?」

「はい、僕こう見えて家事も得意なんですよ、ちなみにパンとソーセージは自家製で、ちょっと自信があります」

「凄いな、これまるでお店で注文したみたいだな」

「まぁ、姉に仕込まれたので、この位は出来ます…冷めないうちにどうぞ」

これ、どう見てもホテルの朝食並みに見えるのですが…しかも剣様は食事の仕草まで綺麗ですわ。

私はそういう物に余り興味はありませんが、食器までしっかりした物に見えますわ。

「凄く、美味しいですわ、有難うございます」

「凄く美味しかった」

「どう致しまして、こうやって誰かと食事するのは久しぶりですので、凄く楽しかったです、ありがとう御座います。もう少ししたら一緒に登校しましょう、それまで暫く寛いでいて下さい」

そう言うと剣様は食器をかたずけ初め、紅茶を入れ直して下さり、クッキーを用意してくれました。

「有難うございます」

「どういたしまして」

《お嬢、黒木さん女子力迄高すぎじゃないですか? これは想定外じゃないですか?》

《凄く不味いのですわ、まさか、家事迄此処まで出来るなんて思いませんでしたわ、しかもこんな愛され方想定外でしてよ》

今迄の男は誰しもが私を求めてばかりでしたわ。

よく考えてみれば《先に私を求めて》きました。

だから、その見返りを求めたら、そこで終わり…対価も払えないクズでした。

剣様は全く逆ですのね…

勇気を見せてくれて…

強さを見せてくれて…

資金力を見せてくれて…

そして、誠実さや愛を見せてくれる。

こんな凄いタワーマンションの部屋を私の為に惜しげもなく買ってくれて、たった一日で私が好みそうな家具や家電で埋め尽くされていましたわ。

お金があるから?

それだけじゃ無いのが良く解ります、よく考えたらしっかりとベッドメイキングまでされて、必要な物が全部手が届くようにありましたわ。

これは多分剣様が全部私が住みやすい様に整えてくれた証拠ですわ。

剣様の部屋に、ダンボールや包装が沢山ありましたからね。

あの朝食だってそう…きっと早起きして用意してくれたに違いありません。

この制服も皺が全くありません。

お風呂もバラの花びらを散らばせて凄い演出ですわ、凄く香しい臭いで素敵でした。

あのまま、抱かれても良い…いえ自分から抱きしめたくなった位なのに…

そのまま、タオル地のガウンを用意なんて凄く憎い演出ですわね。

大体、普通の男ならあの状態なら野獣の様になるでしょうに。

よく考えてみたら、目を伏し目がちにして私の体を見ないようにしていましたわね。

しかも、その後は私の髪をまるで慈しむ様に乾かしてくれましたのよ。

信じられません…私はどうして良いか解らなくなりました。

だって身も心も捧げるつもりが、逆に捧げられているんですから…

本当に困ってしまいましたわ。

「あの、剣様は私にして欲しい事はありませんの」

この言葉は、今迄と違います、負い目とかからでなく本当にこの人の為なら何でもしてあげたいそう思ったのですわ。

「麗美さんが傍に居てくれる、それだけで充分です」

こんな事言いますのよ…もう離れられなくなりますわ。

今迄も凄く好きでした…ですがこの瞬間からその《好き》が全く変わってしまいましたわ。

多分、この愛を邪魔する者が居たら、親友だろうと親だろうと殺してしまいそうな位、狂おしい位好きになってしまいました。

「剣様…これは一体」

「麗美さん、すいません16歳だから日本では400CC以下のバイクしか運転できないんですよ、だから窮屈ですみませんがこれで行きましょう」

そう言って彼が用意してくれた物はサイドカー付きのバイクです。

しかも、ヘルメットはお揃いです…何処まで彼はサプライズをしてくれるのでしょうか?

油断したら涙が出てしまう位嬉しくて仕方ありませんわ。

橘 姉妹
「それじゃ麗美さん、此処で」

「剣様は何処に行きますの?」

「近くに駐輪場を借りましたから、そちらに泊めに行ってきます、あとこれ」

「これは、まさかお弁当ですか?」

「はい、それじゃ、また」

そう言って剣様は校門の前まで送って下さいました。

ちなみに、バイクの後ろには車で政がついて来ていましたが、剣様がいる以上は護衛なんて必要ないと思いますわ。

お弁当…剣様は女子力迄高すぎますわ。

本来はこれは私がする筈の事ですわね。

【陽子.奈々子SIDE】

駐輪場は学園から歩いて5分の所に借りた。

駐輪場と言いながらサイドカーなので実質は駐車場。

此処まで離れた理由はシャッター付きの駐車場が此処まで来ないと無かったからだ。

ただ、面倒くさい事に居住者専用だったのでそこのマンションの1LDKの部屋も購入した。

まぁ学園も近いし何か利用手価値はあるだろう。

一応学園はバイク通学は認めているから違反ではない。

ただ、サイドカー付きだと実質車並みなので泊めるのは難しそうだ。

バックミラーで髪を整えた。

誰かと付き合うと言う事は身だしなみも整えなくてはならない。

少なくとも正式に付き合う人間が3人も出来たのだから恥をかかしてはいけない。

「まぁこんな物かな」

そのまま、車庫を後にして学園に向った。

そう言えば、学園ではどう麗美さんに接すれば良いのだろうか?

昼休みにでも顔を出して様子を見て見れば良いか。

暫く、歩いていると見知った顔があった。

橘姉妹だ。

「おはよう、奈々子ちゃんに陽子さん」

「おはようって…あの、誰ですか?」

「剣お兄ちゃん、おはようございます! 凄く素敵ですね」

「少しは身だしなみを整えようと思ってね、どうかな?」

「元から、剣お兄ちゃんはカッコ良かったけど、今の方が更に素敵です!」

「…」

「そう、ありがとう、それじゃ、先に行くね」

「あっ」

「…」

「奈々子…あれは何かな?」

「何かなって、剣お兄ちゃんだよ! 嫌だなぁ、お姉ちゃんの同級生で、私がもっかアタック中の剣お兄ちゃんだよ、しっかりしてよ!」

「奈々子、貴方、あれ知っていたんでしょう?」

《絶対に知っていたわね、それじゃなくちゃ…あの奈々子があれ程追いかける訳は無いわ》

「さぁね? 私はお姉ちゃんみたいに外見で人を判断なんてしないだけだよ? だって剣お兄ちゃんって運動神経も凄くて素敵なんだから」

《何時? そうだ、初めて会った時、私が買い物から帰ってきた時、奈々子は愛想を振りまきながら手当をしていた、多分あの時から気がついていたんだ《あれが本当の黒木くん》だって、じゃなければあんなしおらしい態度とる訳が無い、しかも暇さえあれば《剣お兄ちゃん》の事教えてって言っていた…》

「違うわね? 最初から知っていたんだよね? そう言えば黒木くん家でお風呂借りていたもん、その時にあの素顔を見たんだよね」

「うん、そうだね、だけどそれがお姉ちゃんに何か関係ある?」

「関係あるって、奈々子…知っていたなら教えてくれたって」

「あれっ、もうお姉ちゃんには関係ないと思うな?」

「何でよ?」

「だって奈々子、もうお父さんにもお母さんにも、剣お兄ちゃんが好きだっていってあるし、お姉ちゃんにも協力してね!って言ったよ?」

「だから、なに…あれなら私だって」

「だけど、良いのかな? もしお姉ちゃんが、剣お兄ちゃんと付き合うような事になったら、私お父さんとお母さんの前で泣いちゃうと思うな?《お姉ちゃんが大好きな剣お兄ちゃんを取った》って、だからもう、お姉ちゃんには剣お兄ちゃんが幾らカッコ良くて理想のタイプでも関係ないと思うんだけどなぁ~」

「奈々子、貴方私を嵌めたわね」

「そんな事言わないで、仲良し姉妹でしょう? だけど、恋愛は別当たり前じゃない? 彼氏、恋人は家族を越えて一番好きな人の事を言うのよ、知らないの?」

「そうね…だけどあれだけカッコ良いんだもん、まだ奈々子の物と決まった訳じゃないでしょう? 奈々子でも」

「そうかな、私剣お兄ちゃんにお姫様抱っこして貰ったよ、多分一番リードしている筈だと思うな」

「確かにそうかもね? だけど奈々子ってさぁ確かに可愛いけど、ナンバーズじゃ14位じゃない?」

※ナンバーズとはこの学校非公認の美少女ランキングの事です、新聞部が投票で決めています。

「だから、何かな? 私はこれからどんどん可愛くなるんだから…」

「そう? だけど、あんなにカッコ良いんだから、人気の高い《麗しの生徒会長》とか《美しすぎる女剣士》なんて人も狙ってくるんじゃない? まぁ解んないけどね」

「ううっ」

「ううじゃないの! 私にマウントとって喜んでいるけどさぁ、お姉ちゃんは確かに奈々子より綺麗じゃないし可愛く無いよ? 多分戦力外だわ…だけど元から私なんかより、もっと綺麗で可愛い人が学園にいるんだからさぁ、関係ないんじゃないの?」

「そうだったわ…頭から抜けていました、お姉ちゃんどうしよう?」

「お姉ちゃんは….しーらないっと」

【剣SIDE】

「あの子、凄く綺麗、転校生かな?」

「たまりません、たまりませんわ~まるで小説から抜け出て来たような王子様みたい」

「ぜにーずにだって居ないわ、あんな人、写真撮っちゃおうかな?」

外見だけでこんなに周りが変わるのか?

確かにこの姿は《お姉ちゃん》の理想に調整されているから多分美形だとは思う。

何しろ「剣ちゃんの外見にはお姉ちゃんと夢と希望を詰め込みました」とか言っていた、あの姉がそこ迄言うのだから間違いはない。

だけど、人間の価値はそんな者じゃない筈だ。

心や強い意思、それにプラスしてそれを貫き通す力、もしくは誰にも思いつかない発想じゃないか?

外見が欲しいなら、それこそ3億も貯めてハリウッドで全身整形でもすれば、誰しもが美しくなれる。

そんな物に価値は無い…

この学園に来て、侮れないと思った。

まさか、粗削りではあるけど僕にとっては凄い宝物の様な人間に会う事が出来た。

砂漠から砂金を探す様な物だけど、他にも居るかも知れない、案外探して見るのも良いかも知れない。

烏合の衆

「えっ、あの人誰、転校生なのかな?」

「あんた綺麗な人見たこと無い」

「堪らない、堪りませんわ」

外見一つで態度が変わる…こんな物に何の価値があるのか解らない。

火炎放射やマシンガンで撃たれたら、失われてしまう、そんな物だ。

そして失っても再生もできる。

外見がそんなに気になるなら整形で幾らでも手に入る。

確かに、僕は美しいのかも知れない…だが本当の僕は雪の降る日に捨てられた子供。

その時の僕は手足に壊死を起こして切断した。

つまり、この体の大半は作り物だ。

僕が蟹将軍みたいな調整を受けていたら?

ごく平凡な人間の容姿だったら…彼らはどうするのだろうか?

恐らく蟹将軍の様になっていたら、きっと逃げまどい石をぶつけるだろう。

僕の死んでしまった仲間は怪人や戦闘員が多い。

彼等が見たらおぞましく、怖い存在に見えるだろう。

僕が美しい姿なのは《姉》がそう望んだからに過ぎない。

僕としては、蟹将軍を上回る様な存在に成りたいという欲望はあった。

実際に途中で終わってしまったが、蟹よりも強い力を持つ蝦蛄の能力の取り込みや機械化人間の研究もあった。

僕が蝦蛄人間だったら、体が機械であったら…彼女達は僕の為には騒がないだろう。

だからこそ、彼女達とは交差する未来は無い。

「黒木くん、凄いねモデル見たいだね、うんその方がカッコ良いよ」

「そう、ありがとう、ちょっとイメージを変えてみたんだ」

「凄いなぁ、良かったらお話ししない?」

「クラスメイトなんだから何時でも話し掛けてくれてもいいよ」

「そう、そうだよね」

ニヤニヤしながらこっちを見ている人も居る。

「あの写真撮っても良い?」

「どうぞ」

まぁ、別に構ないな、この騒ぎも《姉のセンス》の良さを解って貰えた。

そう思えば良いだけだ…

※《姉》《お姉ちゃん》と呼び方が変わるのTPOに別けて剣が呼び分けていたなごりです。

侮っていた。
お付き合いをしているんだから、会いに行くのは構わないと思う。

だけど、相手にも都合はある筈だ。

だから、昼休みまで待った。

「麗美さん、良かったら一緒にご飯食べませんか?」

「遅いですわよ、折角お付きあいしているのに、何でお昼まで来ないんですの」

この場合は行った方が良かったのかな、姉さんと同じでこの辺りが凄く難しい。

「余りに顔を出したら迷惑かなと思ったんだけど」

「他の方なら兎も角、剣様なら、好きな時に会いにきて構いませんわ…それとも私からお伺いしましょうか?」

「そうだね、うんその方が良いかもしれないな、僕はそう言う事が不得手だから」

「あらっ、私も初めてですわ」

暫く話していると北条さんと三上さんがやってきた。

「そう言えば最近、麗美見かけないけど? 部活でも入ったの」

「剣ちゃん…その手に持っているの何? お弁当、麗美ちゃんと同じに見えるんだけど」

「剣様が作ってくれましたのよ…手作りですのよ」

麗美はさらっと話しているが、顔は少し赤い。

「それで剣くん、私のは無いのかな?」

「剣ちゃん、私のもあるよね」

良かった、一応は用意してきたんだ。

「勿論、あります…はい」

「えっ、何で、小太刀や亜美の分がありますの?」

麗美さんの顔色が変わった、なんだか怒っている気がする。

「一応、友達として付き合うのだから、これ位はしないと」

「流石、剣くん」

「流石、剣ちゃん」

「そうですわね、お友達ならお弁当位つくりますわよね」

何だろう、少し周りが冷たくなった気がする。

姉さんが起こると蟹将軍ですら体が震える、それに近いのかも知れない。

しかも、これが発されているのは、麗美さんからじゃない、北条さんや三上さんからだ。

「何か引っかかるな、何か言いたい事があるのか」

「さっきから麗美ちゃん、可笑しいよ? 何が言いたいのかな?」

案外この二人も麗美さんに近い物を持っているのかも知れない。

「お二人が手に入れたのはただの友達として付き合う、その権利、しかも亜美はまだ仮ですわ」

「麗美ちゃん、私に喧嘩売っているのかな?」

「何が言いたい! その奥歯に挟まった言い方止めてくれないか?」

凄いな、多分、僕が皆を好きになったのはこの目だ。

野望を持っている様な何とも言えない目…周りの誰しもが持ってない凄く綺麗な目だ。

「言ってしまえば、2人が持っているのは、友達になる権利、私が持っているのは男女交際、正式にお付き合いする権利ですのよ? 全く違う権利ですわ」

「それは違うよ、私が手に入れたのも男女交際の権利だ、ちゃんと親父と母さんから許可を得ている」

「私は確かにパパは保留だけど、ママはちゃんと許可をしてくれたもん」

「そうですか? でも手遅れね、恋は早い者勝ちなのよ? 私はもう剣様と一緒に暮らしてますのよ? 裸を見せる位親密な関係でしてよ、そこにお二人は入り込んでくるのかしら?」

「剣ちゃん…本当なのかな?」

「剣くん、違うよな」

まるで、姉さんみたいな目だ正直ゾクゾクする。

言っていることは嘘じゃないな…確かに裸を見ない様にしたけど《見たか》と言えば見た。

そして、確かに一緒に暮らしている。

上手いな、同棲って言えば違うが…これなら嘘じゃない。

「そうだね、昨日から一緒に暮らしているし、確かに裸もみたね」

その瞬間、麗美は顔を少し赤くして勝ち誇った表情をしていた。

「ほうら、もう完璧な男女交際ですわね? お子様の2人と違いますのよ?」

だが、亜美も負けていない。

「あのさぁ、麗美ちゃん、私はママの子だよ? そんなブラフに引っかからないよ? それじゃ剣ちゃんに聞くけど? 同棲しているのかな?、もうエッチはしたの?」

成程。

「確かに同棲じゃないな、エッチな事もしていない」

「やっぱりね」

「どういう事?」

「小太刀ちゃんには教えてあげない」

「ちょっと待って亜美、ちゃんと教えてよ」

《今の会話で解かったよ、ママが言った通りだった、早目なんて言ってちゃ駄目なんだ、これは1人しか横に居られないんだもん、負けたらもう終わり、此処は日本だから1人としか結婚出来ないんだよ…亜美は馬鹿だったよ、麗美ちゃんはもう既に【乗り込んでいるんだよ】今尾の話なら、もう同じ部屋で暮らしている、だが、まだ一線は越えてないよね…多分ラッキースケベ位しか無い…なら早く同じ立場にならないと…負けちゃうよ》

「ごめんね、私急用を思い出しちゃった…早退するよ」

そう言うと三上さんは凄い勢いでお弁当をかき込んだ。

「お弁当ありがとうね剣ちゃん」

そう言って顔を近づけると…小さな声で..「今日から亜美もお世話になるね」

僕にだけ聞こえる様に話した。

侮っていた…あの時姉さんの様に感じたのは麗美さんからだけじゃ無かった。

三上さんや北条さんからも同じ様な物を感じていた。

悪い顔をして直ぐに行動する…姉さんに似ている。

今日から来るならとびっきりのご馳走を用意しておこう。

今から楽しみだ。

「どうかなさいましたの?剣様」

「いや、何でもないよ…三上さんは帰っちゃったけど、何時もの様に話しよう」

「あらっ剣様は何か聞きたい事がありますの?」

「私は剣くんに聞きたい事がある…麗美と暮らしているの?」

「うん、暮らしているよ」

「そうか~そうなんだ…」

何だか暗そうだな。

ただ、三上さんみたいに行動を起こしそうに無い。

僕は今思えば、北条さんからも姉さんみたいな一面を見た気がする。

どんな一面をそう思ったのか…そのうち見せてくれるのか、楽しみだ。

ママを説得

私はママから相談しようと思う。

だけど、幾らママでも男と暮らしたいなんていったら反対されると思う。

だけど麗美ちゃんはクリアしたんだから私も頑張らないと。

「ママ、私も剣ちゃんと一緒に暮らしたい!」

「そう、頑張りな、てっ良いか遅いんだよ、あんたも私の娘なら麗美ちゃんに負けるんじゃないよ!遅い位だよ」

「ママ…」

「あのね亜美、黒木くんは超一流の男だとママは思うの? 恐らく麗美ちゃんだけじゃないわ、沢山の子を引き付ける魅力がある」

「うん」

「それにね、自分で大きなお金を稼げる力もあるし、器量だって抜群、そんな男性相手なのよ? 遠慮してたら確実に負けちゃうわ」

「本当にそうだよね、私が甘かったよ」

そう、恋愛と友情は別物。

麗美ちゃんが正しい。

「それが解ったなら、まだ挽回は効くわ、今から相当頑張らないとね」

「うん」

「それで一緒に暮らしてからどうするの?」

「…どうしよう?」

「どうしよう? じゃ無いわ…ハァ~良く言えば良い娘、悪く言えば、まぁ良いわ、亜美貴方は黒木くんが好きで誰にも負けたく無いのよね?」

「うん、絶対に剣ちゃんを盗られたくない」

「なら、そうね、出来るだけ早く肉体関係に持ち込んで、そうね、さっさと妊娠しちゃいなさい」

「ママ、流石にそれは早いと思う、私まだキスもしてないんだから」

「甘いわ、本当に甘い! 銀座臘月堂のクリームあんこシロップどら焼きより甘い! そんなんじゃ負けちゃうよ?」

「負ける…」

「当たり前じゃない! 男を手に入れたと言えるのは【結婚】して半分、そこから後も監視してないと、良い男は浮気するものよ」

「だけど、亜美にはそう言うのは早すぎると思う」

「はぁ~貴方馬鹿なの? 寧ろ遅すぎるわ…いい、もし麗美ちゃんがそういう関係になったら亜美の敗北が確定するのよ? 多分麗美ちゃんは妊娠は兎も角、そういう雰囲気になったら逃さないと思う! そうなったら貴方の負けが決まるの」

「だったら、肉体関係だけでも」

「本当にあんたは馬鹿ね! 麗美ちゃんが亜美がそこ迄いったら諦めると思う? 恐らく貴方の後からでも肉体関係になって先に妊娠して【子供がいるんです…この子の為にも引いて下さい】そう言うに決まっているわよ」

私は馬鹿だったのかも知れない。

さっき何を経験したんだっけ。

麗美ちゃんは既に同棲していて【そういう関係】に何時なっても可笑しくないんだ。

私が躊躇していたら、剣ちゃんが盗られちゃう。

「そうね、いける所まで行かないと勝った事にならない」

「解れば良いわ、貴方はそれじゃなくても、2人に比べて胸も小さければ、背も無いんだから…相当頑張らないとね」

「うん」

「そうね、まずは、その熊さん柄のパンツは止めて、このスケスケの赤い下着が良いわね」

「ママっ…そんなの履かないと駄目なの」

「駄目よ、ブラもこっちにして【あみ…剣お兄ちゃん大好き】こんな感じで迫れば良いわ」

「そのブラ、乳首の所に穴が空いているんだけど…それ着て、そんな事言わないと駄目なのかな?」

「だって、亜美は麗美ちゃんみたいにスタイルが良く無いし、小太刀ちゃんみたいな大きな胸も無いんだから、妹みたいに可愛い子で行くしか無いわよ! 普段から下着を見せる様にして、ギャップから狙うしか無いわ、まぁ黒木くんが、そっちのけがあるなら、熊さんパンツでせまって【亜美の初めて貰って下さい】とかでも良いわね…そういうけありそう?」

「多分、無いと思う、亡くなったお姉さんが好きそうだし」

「あちゃぁーーっ。年上好きなんだ、難しいなそれわ」

「あの、剣ちゃんは後輩だから、亜美の方がお姉さんだよ」

「そうですか?…まぁ頑張ってね」

「うん」

「パパには私から言って置くから頑張りなね」

「勿論頑張るよ」

ハァ~こりゃ大変だわ。

見方によっては小学生に見える亜美。

それなのに【年上好み】の黒木くん。

麗美さんに勝てるわけ無いわね。

動き出す 闇
今迄この隙を待っていた。

俺の仕事は「竜ケ崎組」に喧嘩を売る事だ。

その為に、俺は千の兵隊と武器を持ってきている。

しかもこの千の兵隊は長い時間を掛けて関東に潜らせてきた。

そして、今現在は、某県の岬の近くに作った要塞のような屋敷に集めてある。

俺の仕事は簡単だ。

竜ケ崎麗美と北条小太刀、三上亜美のうち1人以上を誘拐して此処に連れて来ることだ。

そして連れてきた後は人質を盾に、無理難題を吹っ掛ける事。

その内容は、到底飲めない内容になっている。

そして、飲まなかった事を理由に、人質を殺害する。

その際は勿論、惨たらしく弄んで、楽しんでから殺す。

そうすれば、向こうから乗り込んできて戦争となるだろう…

そう、俺は要求を通す為の交渉でなく、「戦争になる火種」を作るのが仕事だ。

あくまで、こちらからでなく、あちらから戦争を仕掛けた…そういう明文を作る為の工作員それが俺だ。

暫く、尾行をして様子を見ていたが、隙が全く無かった…

いつもボディガードが付いていて車で送り迎えされていた。

その為、簡単にはいきそうに無かった。

だが、今は違う。

男に現を抜かし、今迄に比べてガードが緩くなっている。

ボディガードは居る物の数は前とは違い数が少ない。

これなら、どうにかなるだろう。

《竜ケ崎麗美のボディーガード1名..運転手沈黙させました》

《同じく 三上亜美の護衛も沈黙させました》

《了解》

これで良い…これで車に連れ込めば完璧だ。

「随分、遅くなりましたわね」

「そうだね」

「しかし、なんで、貴方がこっちにきますのよ?」

「私だって、今日から剣ちゃんの家に住むんだもん」

「まだ許可貰ってないくせに偉そうですわね」

「剣ちゃんが許可しないと思う?」

「うっ…多分しますわね」

「そうだよね…しかし麗美ちゃんズルいよ」

「小太刀を仲間外れにした時点で同罪ですわ」

「そ..そうだよね」

「おい、きたぞ..」

「解かっている…車の前まで来るまで引きつけてからだ」

「あれ、可笑しいですわ..私が来たら直ぐにドアを開ける筈ですのに..不味い..亜美、直ぐに車から離れて..」

「おっと、もう遅い..」

「亜美!」

「お前もこっちに来い、素直についてくれば今は何もしない、逃げるならこの場でこの女を殺す」

「仕方ありませんわね..」

「素直な事は良い事だ」

不味いですわね、亜美だけでも逃がさないと。

私は、車の方に向って行き、男と亜美の間に入った瞬間、亜美を突き飛ばし、男に掴みかかろうとした。

パス、パス、パス…

「亜美ーーーーっ」

こんな簡単に人を撃つ物なの?

いきなり、頭に衝撃が走った。

くっ 苦しい..息が出来ない..はぁはぁはぁ..

せめて助けを呼ばなきゃ..このままじゃ亜美も連れて行かれちゃう…

「亜美ーっ」

「急所は外してある、直ぐに救急車を呼べば助かる..素直についてくるなら、救急車を呼んでやる..逃げるなら、此奴が死ぬことになる」

「卑怯者..仕方ありません、ついていきますわ…」

《駄目、麗美ちゃん..逃げて..早く》

「大丈夫ですわ..」

私が亜美を助ける為には..ついていくしか方法が無かった。

剣 死す

「あっ剣さん、大変申し訳ないですが今日は建て込んでおりますので後日来てください!」

「それで、竜ケ崎さんは何処に?」

「さぁ、解りません」

娘が誘拐されたんだ、それは大変な事になっているだろう。

追い返すのは僕を巻き込まない為..解かっている。

しかし、抜かった。

僕が甘かった…こんな平和な日常を送っていたから…

後手に回ってしまった。

「剣さん、今日は建て込んでいますし、お嬢様も居ませんので日を改めてお越し下さい」

「麗美さんが居ないのも事情もある程度解ります..その事でお話にきました」

「しばし、お待ちください…はい、はい…組長がお会いになるそうです..」

「解りました」

竜ケ崎組長他組員の多くがが揃っていた。

「剣ちゃん..麗美が、麗美が..」

辰子さんが泣きながらこっちに走ってきた。

「事情は、解っているつもりです..それで亜美さんは大丈夫ですか」

「剣くん、亜美なら大丈夫だ、銃で撃たれたが、今病院にいる、命に別状はないよ」

鳳凰の表情は暗い、今直ぐ亜美の所に行きたいのだろうが立場的にいけないのだろう。

大丈夫でない…僕の友達を銃で撃ったんだ…普通の人間が銃で撃たれて大丈夫な訳ないだろうが。

「それで相手はだれですか?」

「相手は解かっておる、目的もな..」

「辰夫さん、相手は誰ですか、目的は?」

「相手は関西連合煉獄会だ」

「目的は?」

「関東と戦争をする為の名目作りだ!」

「戦争?」

「ああっ、ヤクザという物は名目が必要..こちら側から攻めてきた、そういう名目が欲しいのだろう」

「人質を誘拐して置いて、それでも攻めてきた? そんな事が通用するのでしょうか?」

「それは事がすんだら、若い者が勝手にやった、組は関係ない、そういう事にでもするのだろうな..」

「それで、皆さんはどうするのですか?」

全員の顔が暗い..もう結論は出ているのだろう..

「何もしない..」

やっぱりな、龍三さんは組長、..娘1人の為にそれらを動かす訳にはいかない。

しかも、戦争をする位だから向こうは確実な勝算がある、そう考えて良いだろう…

こうなるのは解かっているさ。

実際にブラックローズでも同じ判断をするだろう。

つまりお姉ちゃんでも同じことをする。

「誰1人動かないか..仕方ない..麗美さんを捨てるんですか…いやはや立派な組もあったもんだ」

「お前いい加減にしねぇか! 組長の気もしらねぇで!」

「虎雄さん..どうせ、アンタも動かないんでしょう? だったら、何処に麗美さんが居るのか位教えて下さいよ!」

「あっあああっ」

知らないうちに僕の気が漏れているようだ、だが今は気にしない。

「教えてくれますよね..」

「解った…」

関東での拠点に麗美さんが監禁されている。

そして、解放の条件が組の解散と、鳳凰グループのゼネコン事業からの撤退…どう考えても出来ないのを解ってて言っている事。

それらについて教えてくれた。

「それでどうするんだ?..どうせ剣だって何も出来ないだろうが?」

「僕ですか? 皆んなが捨てるって言うなら、僕が貰います…麗美さんは凄く魅力的な女性ですから!」

もう聞く事は無い…僕は竜ケ崎組を後にした。

目的は解った、場所は解った…そして時間もない、なら僕のする事は一つだ。

そして、僕は麗美さんが監禁されている施設がある岬にいる..

どう見ても、要塞にしか見えない…後ろは断崖絶壁、しかも道は一本道で身を隠す事も出来ない。

正面から行くしか方法はないだろう。

考えても仕方ない、突き進むしかないのだ。

一本道を進むと直ぐに見つかった。

「お前は一体何者だ!」

誤魔化すしかないだろう..それとも

「黒木剣と申します、竜ケ崎組から龍三組長の代わりにお嬢様さんの安否確認に来ました」

こんなものだろう..

「何だと!」

「こちらは交渉に応じた、実はお嬢さんはもう殺されていたでは洒落にならない、だから僕が来た訳です」

「確かにな、お前一人か? ボディチェックはさせて貰うぞ?」

「勿論」

「安否確認に学生1人..武器は持っていない!  解った」

「ガキ、行って良いぞ、特別に確認させてくれるそうだ、まだ指一本触れちゃいない..まだな、ちゃんと伝えろよ..それと下手な真似するなよ、したらハチの巣だ」

「解りました…怖いからそんな事しません」

「それが賢明だ」

僕は館に向って歩き出した。

私は今地下室に閉じ込められています。

「うーうーうっ」

猿轡をされ床に転がされています。

「そんな目で俺を睨むんじゃねーよ」

足で頭を踏まれているが縛りあげられているので何も出来ませんわ。

あの時、私は判断を見誤りましたわ。

怪我した亜美を抱き抱え走るべきでした。

人質にするなら殺される訳が無いのです、そう考えたら強引に逃げ出すべきでしたわ。

「何だ、その目はよー、そんな顔してられるのも今のうちだけだぜ? お前の実家が条件を蹴ったら、お前は俺たちが自由にして良い事になっているんだ…まぁ到底飲める条件じゃねーからな..犯し放題にされるのも時間の問題だぜ..そして犯し終わって用済みになったら残酷に殺して首でも送りつけるかなぁ..」

馬鹿らしいですわ..そんな事は覚悟済みでしてよ..そうなる前に速やかに死にますから関係ありませんわね..精々私の死体でも犯して喜ぶ事ですわ…

まぁ、今の私は自分が死ぬことで精一杯ですわね..

「兄貴、そいつらの安否確認に人が来たみたいです..兄貴を呼んできてくれって四宮の兄貴が..」

「そうか、今行く」

誰が来たのかしら、虎雄さん辺りですわね..ですが..救出は無理ですわ。

死ぬとしたら見張りが居なくなった今がチャンスですわ…

私は唯一自由になる頭を床や壁に打ち付けた..猿轡を噛ませられているし足も手も縛りあげられていてはこれしか方法はありません。

がつーん、がつーん、がつっ..

頭は頑丈ですわ..血が出てきていますし、痛いのに..なかなか死ねません..

どうせ死ぬなら綺麗な体で死にたいですわ..私の体に触れて良いのは剣様だけ…

がつがつがつ…

頭は朦朧としてますのに..まだ死ねません..

暫くして無理な様なら「顔を潰す」方に切り替えた方が良いかも知れません..顔が潰れた醜い女なら抱きたく無くなるかも知れませんわ。

形振り構っていられません..早く死なないとなりませんから…

私が死ねば、お父様が必ず、皆殺しにして下さいます…地獄に落ちるが良い..ですわ…

しかし、詰まらない人生でしたわ…ヤクザの娘に産まれて碌に友達も出来ませんでした….

折角、好きな人が出来て、楽しいって思いましたのに..もう終わり..はぁはぁ..会いたいですわ..剣様..

がつがつがつがつ…がんがんがん..

まだ死ねませんの…剣様、剣様..剣様..死ぬ前に会いたいですわ…だけど..

「面会だ、3分時間をやる..お前何しているんだ..」

《嘘、剣様ですわ..最後に会えましたわ..これでもう思い残す事はありませんわ》

「約束が違います..無傷なハズではありませんか?」

麗美さん、流石..足手まといにならない為に死のうとしたんだ..

流石だな…

「これは、その女が勝手にやっていた事だ俺は知らねー」

頭はそうだ、だけど、それ以外にも明らかに怪我をしている..暴力を振るっていた証拠だ。

「嘘つきは嫌いですよ」

僕は手早く口を押えた、そのまま、反対側の手でチョキを作るとそのまま下から目に押し込んだ..これでこの男はもう生涯目が見えない。

そして胸にさしていたボールペンを飛び出している目の下から頭に届く様に押し込んだ..脳にボールペンが届いたのだろうか?

男は静かになった。

幸い、男はナイフを持っていた..これで麗美さんの縄をほどける。

「大丈夫? では無いですね、その頭..ごめんなさい..遅くなりました」

「剣様、来てくれるなんて思いませんでしたわ…これだけでもう思い残す事はありませんわ..さぁ」

《この人数相手では剣様でも無理ですわね..それなのに此処に来てくれた..そして此奴を殺したという事は..》

《私と死ぬために来てくれたのですわね..やはり剣様は他の男とは違う..》

「麗美さん、まだ死ぬのは早いよ..命がけで僕頑張るからさ..でもそれが届かない時は..」

「解かっていますわ」

《最後まで希望を捨てませんのね..ですが、それでも無理だった時は一緒に死んで欲しい、そういう事ですわね..ええっ喜んで死にますわ》

ざっと見た感じ、この屋敷には物凄い人数が居る..一点突破それ以外に方法はないだろう..

《僕に静かについてきて》

《解りましたわ》

幸い僕は「武器を持っていないガキ」そう思って油断している。

だから、まだ警戒されていない..

階段を上に上がるが見張りは2人しかいない…しかも片方はスマホで何やら遊んでいる。

静かに後ろから近づき口を押えそのまま持っていたナイフで首を掻き切った。

もう一人がこちらに気が付いたがもう遅い..そのままナイフを胸に突き刺した。

運良く二人とも銃を持っていた。

一つを麗美さんに渡し、一つを自分で持った。

「次に出くわす前に入口に急ごう?」

「はい..」

凄いですわ..惚れ惚れしちゃうわ..躊躇なく殺す姿..素敵ですわ。

《しかも、あれは私を傷つけた事に凄く怒っていますわ..その証拠に最初の男は残酷に殺しましたわ..こんなに思われているなんて凄く幸せですわ》

ここからは時間の勝負だ、小走りで入口を目指した。

「人質が逃げ出したぞ」

気づかれた..パン…額に一発で当て殺した。

銃声が響いたから、もう隠れながらは無理だ..

「麗美さん、全速力で走るよ!」

「はい」

麗美さんがついてこれるギリギリの速度で走った。

そして、顔を合わせる度に敵を殺して殺して殺しまくった。

パン、パン、パン、パンパン、パン6発の弾で6人殺した。

麗美さんから予備の拳銃を受取り更に殺す..

麗美さんは..うん、凄いと思う..僕は初めて人を殺した時は震えていた。

だが、震えもせずについてくる。

相手は銃を持っている者もいるが怖くない..麗美さんは殺す訳にいかないから避けて撃っているからよけやすい..

パン、パン、パン、パン、パン、パン 同じく6発の弾で6人殺した。

だが、殺した相手の一人が銃を持っていたのでさらに追加。

パン、パン、パン、パン これで弾は打ち止め、ここからはナイフで戦わないといけない。

「居たぞ、貴様殺してやる..」

そんな事言う位ならさっさと殺さないと..だから死ぬんだ

喉から首にかけてナイフで切り裂いた..

「男は殺して構わない」

今更か、遅い。

「はぁはぁはぁはぁ」

不味いな麗美さんがもう限界だ..だけど入口はすぐそこだ..

もうナイフも血糊で斬れない..

「入口が見えて来た..」

「ええっですが..」

十人以上が待ち構えている..

そんなのを無視して突っ込んだ、

後ろ側に麗美さんを庇いながら入口に近づく。

倒しても倒しても追加で人が出てくる。

ようやく入口にたどり着いた。

外には見張りは居ない可能性が高い…

ドアのカギは掛かっていなかった..ここから逃せば良い..

「ついたね、麗美さん、後を宜しく..」

「待って、剣様は、剣様はどうなさりますの?」

「ここで食い止めるから早く逃げて..」

「そんな、それでは剣様は..」

「バイバイ..僕がした事が無駄になるから..早く.早く行って」

ここで私が戸惑っていたら、剣様がしてくれた事が無駄になる..

「必ず、生きて帰って来て下さい!」

「うん」

僕は麗美さんを出すと内側から扉をしめた。

これで、此処を僕が守っていれば麗美さんを追いかける事は出来ない。

逆に僕は此処から動けない。

さぁ掛かって来い..

少しでも時間を稼がないと..

ドガガガガガガガガガがガガガガッ…

「最初からこうすれば良かったんだ..チクショウ..」

マシンガン..まだ終われない、今此処で倒れたら..追いつかれる..倒れる訳にいかない

「何だ此奴、化け物か? たった1人で何十人も殺しやがって..しかも人質まで逃がしやがった..」

「まだ…終われない…」

「何だ、此奴」

ガガガがガガガがガガガ

「まだ倒れないぞ、此奴、だけどもう反撃して来ないぞ..」

「だったら、誰が倒せるか勝負だ..」

パン、パン、パン、パン..

ズガガガガガガガ

「まだ、倒れねーーぜ、だけど此奴もう肉片みたいじゃん」

耳は千切れて手足も千切れていた。

王子様と言われた美しい顔は、穴が空いて、目が飛び出し、下に落ち、口の半分は裂けて歯がむき出しで見える。

「此処は..とお..さない..」

ガガがガガガガガガッ  パンパンパン..

頭の半分が吹き飛び..脳みそが下に落ちた。

「とお、さ..ない..」

「化け物..こっちにくるな..」

死んでいる筈だ、頭を吹き飛ばして死なない人間なんていない..だが此奴は喋っている..

怖さで入口に近づく気になれない..

「これ…で..大丈夫..」

剣だった物はそのまま倒れた..

そこには、ただ、ただ、黒木剣と呼ばれた者の肉塊が横たわっていた。

人にすら見えない程に壊されて。

「人質は失った、だがこれで戦争の口実は出来た..そう考えたら僥倖だ..ここまで殺されたんだ、口実は出来た、もう人質は必要ない..後は攻めるだけだ」

そして、守りきる事も出来ずに…

麗美の戦い

ようやく通りに出ましたわ。

だけど、まだ安心できません..ここは人通りが少ないですから…

「お嬢ーっ」

「政!」

「お前がどうして此処にいるのですか?」

「剣..さんが飛び出ていかれたからもしやと思いここに来ました」

パーンっ

「お嬢、いきなり..」

「遅い、遅い、遅いのですわ..剣様はもう…居ません」

「お嬢?」

「直ぐに車を出しなさい..良いから直ぐに」

「はい..」

お嬢の様子を見れば何があったか解る。

本当にやりやがったんだ..一人で..そして、「居ない」と言う事は死んだのだろう..

「男の中の男」って言うのはこう言う奴を言うんだろうな..

ヤクザの中では良く言う言葉だ…だがな、今はそんな奴いねーよ…

その証拠に、あれだけお嬢と慕いながらも結局、アンタしか動かなかったんだからな..

俺も歳をとったもんだ..結局、此処に来ることしか出来なかった。

アンタはスゲーよ….偏屈な組長が何時もアンタの事を話すと褒めていた。

お嬢も一緒..俺だってよ仲間と思って居たんだぜ….

だからよ、アンタの敵は俺が、取れねーな..だけど仕返し位はしてやるよ..それで勘弁してくれ。

「お嬢..ご無事で何よりで..」

「煩い、死ぬと良いのですわ」

「….」

「はい、お嬢様、行きましょう..」

「麗美ちゃん…それで翼ちゃんは居ないの?」

「麗美、良かった無事で何よりだ..父さんも心配したんだぞ..」

「無事じゃありませんわ…お父様の目は節穴ですの? ここに剣様が居ない事に気が付かないなんて..」

「「麗美..」」

「ええっ私は無事ですわ..ちょっと怪我した位で何でもありませんわ..ですが、剣様は剣様もうこの世に居ない..ええっ見捨てられた私を助けるために死んでしまいましたわ..」

「麗美..すまない..俺は」

「ええっ 良いんですのよ! お父様は組長ですもの、組と私を天秤に掛ければ、組を取るのは当たり前ですわ..でも、でも剣様は違いましたわ、自分の命を捨てて助けに来てくれましたの! あんた達みたいな安っぽい愛情で無く本当に愛してくれていた..そうですわ」

「お嬢言い過ぎです」

「政、貴方や他の組員も同じですわ..いつも、お嬢、お嬢って言って、何かあったら..何て言っていたくせに役立たずです..」

「すいやせん」

「そうだな、俺はどうしても組織を守らなくちゃならない..そう言われても仕方ないな..」

「それで、お父様はこれから何をするのですか?」

「それはこれから話し合ってだ..」

「皆殺しですわよね! 私を誘拐して剣様が殺されたんですもの…それ以外ありませんわよね!」

「麗美、落ち着け..今は」

「充分、落ち着いていますわよ? これ以上どう落ち着けって言うのですか?」

「これから組員全員集める…辛いだろうが詳しく話しをしてくれないか? それからだ..」

「幾らでも話しますわ..彼奴らを皆殺しにしてくれるなら」

組員全員が集まった。

「麗美、済まぬが、詳しい事を話してくれないか?」

「ええっ良いですわ」

麗美の顔は真っ青に青ざめていた..そして目には涙が溜まっている事は誰が見ても解かった。

それでも、麗美は話をしきった。

「私のせいだわ、私が泣きついたから..剣ちゃんが..」

「それは違う、彼は勇気ある少年だ、お前が言わなくても助けに行っただろう..」

「そうね、貴方達とは違いますからね..彼は..」

「辰子、お前!」

「それで、貴方達はどうしますか? 弔い合戦位しますわよね? 当然よね、その位してあげなくちゃ剣ちゃんが可哀想だわ…そう思わない?」

「唄子さん、頼む冷静になってくれ」

「あらっ私は冷静よ? 娘に鉛玉喰らわせて、その友達を誘拐、そして剣くんは殺された…もう皆殺ししか考えられないわ、そう思わない麗美ちゃん」

「全員皆殺しにしなくちゃ気が収まらないし..胸が張り裂けそうです..お願いします、剣様に恩がある、そう思うなら立ち上がって下さい」

此処からが私の戦い…唄子さんに先を越されたけど、戦争に持ち込み剣様の敵を取らせる..それが今の私の仕事だ…

それが終わるまで、私は死ねない…だけど、それが終わったら..剣様に会いたいから、会いに行きますわ…

正体 蝦蛄男

「しかし、此奴は化け物か? 死ぬまでにこんなに殺しやがってよ..」

「薬中か何かじゃねぇ..確か麻薬をやるとなかなか死ななくなるって聞いたぜ」

「だが、此奴は馬鹿だな、銃ぐらいならともかく、マシンガンに人間が敵うかってーの 蜂の巣になって死んで、気持ちわりぃ」

「本当なら、今夜あたり、あの女が犯し放題だったのによ、此奴のせいで死体処理じゃねぇか..マジムカつく」

「本当、ついてね」

「それで、これどうするよ? ほぼ肉の塊だぜ、俺は触るのは嫌だぞ」

「そうはいってもかたずけないと..兄貴たちが怖いぞ」

「本当に最後までムカつく奴だ」

指揮が下がるから言えない..だが此奴は..凄い奴じゃないか..俺達みたいに汚れ仕事じゃない..

恋人を助けきったじゃないか…

命と引き換えに救い出しやがった..無駄死にじゃねえよ..此奴は勝ったんだ..千人相手にな..

目的を果たしたんだ..此奴の勝ちだ..俺たちは負けたんだ。

剣を包む様にカプセルが現れた。

それはまるで卵の様に見えた。

そして、卵の中に…千切れていた肉片が這うように集まってくる。

崩れ落ちた脳みそまでが、まるで生き物のように卵の中に入り込んでいった。

何が起きたか解らない..だが不味い事が起きる、その事を本能で悟った組員が銃で撃った、だがその弾は卵によって弾かれた。

「誰かマシンガンを持って来い」

直ぐに2丁のマシンガンが持ってこられて弾が撃ち込まれた

ガガガガガガガガガガガガ

がガガガガガガガガガガガガッ

だが無数の弾丸が撃ち込まれるも全て卵に阻まれ一発とも刺さりもしない。

そして卵が割れ…そこから出て来た者は…蝦蛄の姿をした化け物だった。

ブラックローズのナンバー2が只の強化人間なだけでは無い。

仲間の粛清も含まれる…その為、剣には第二形態があった。

それは蝦蛄人間だった。

この姿になった剣なら…特撮ヒーロを連れてきても勝ち目は無いだろう。

「さぁ、第二ラウンド開始だ..」

周りの人間は恐ろしい者を見るような目で見ている..そりゃそうだ、肉片になった人間が再生して化け物として生き返ったんだ..そりゃ恐ろしいだろう。

「お前は何者なんだ..化け物..」

僕は何者なのだろうか? 一番近い答えは..

「僕は、ブラックローズ 副首領 ブラックソードだ! 」

僕は手加減などしない…さっき一回死んだ..、自分だけでなく大切な人すら死ぬ可能性があった。

「何のトリックだ? 中二病かお前?」

僕は軽く手を振るった..

「馬鹿か? そんな所で手を振ったって…えっ」

手の届く場所に居た、男5名は真っ二つになった。

当たり前だ、俺は蝦蛄の改造人間、人間など紙切れのように斬れる。

「ひっひっ..化け物が生き返りやがった..たたたた、たす」

「人殺しならプライド位持ちなよ? みっともない!」

人を殺す様な人間なら、自分が殺されても仕方ない…その位の覚悟が無いならやるべきじゃない

見逃すわけがない….軽く一振り..首が飛ぶ..

周りに居た者は全員奥へと逃げた。

都合が良い..僕は逆に外に向かった。

この要塞は岬に立っている..そして後ろは断崖絶壁だ。

なら、岬事叩ききれば、海に落下する…この高さから要塞事海に叩き込めば..生き残る事は無いだろう。

「しゃこーーーーっ」

思いっきり岬パンチに叩きつけた。

岬は簡単に罅が入り、そのまま要塞事海に落ちていった。

高さはどう見ても百メートル近くある..だれも生き残れないだろう..

「何が起きたんだ..地震か..」

「おい、要塞が落下して..逃げるぞ…」

逃げる場所も時間もない。

だが、その間もなく海に叩きつけられ..要塞は崩壊した..

これで、終わらせる訳には行かない..此奴らに命じた奴がいる..ならばそいつ等もどうにかしなければ..終わらない。

関西連合煉獄会、と話をつけなければ又同じ事が起きるかも知れない..

だからやるしか無い、だが皆殺しと言うわけには行かないだろう..そんな事をすればこの国が可笑しくなってしまうかも知れない。

そして、僕は関西に来た。

そして、関西連合煉獄会に公衆電話から電話をした。

「組長さん居ますか?」

「あん? お前誰だ?」

「竜ケ崎組のゆかりの 白木翼って言います、アンタたちが関東に送り込んだ1000人はもう死んでいます」

関西連合煉獄会でも情報は入っていた。

連絡がつかないので調べたら岬事無くなっていた..そういう情報の報告を受けていた。

「貴様、爆薬でも使ったのかよ、極道の風上にも」

「僕はテロリストなんで極道じゃありません、報酬次第で戦争を仕掛ける戦争屋ですよ..それで組長に変わって貰えませんか?」

途中、何人かを得て組長に変わった。

「戦争屋とか言ったな? お前お金次第じゃ、こっちに着くのか?」

「着きませんよ…ただ、これから起こる事を予告しに電話しただけですから..関西サンシャインタワービルを破壊します..これで今回の戦争は終わりにして下さい..これ以上来るなら皆殺しにしますからね..」

「待て、冗談は..」

これで良い、まだ、建設途中の関西サンシャインタワービルは地上85階でショッピングモールも併設した巨大なビルだ。

ここを作る出資は《関西連合煉獄会の後ろ盾の企業》..壊されたらかなり痛い筈だ..

幸い、今日は休日、余り人は居ないだろう…居たとしても関西連合煉獄会の関係者..心は痛まない。

工事現場に入り込み、鉄骨という鉄骨を片っ端から切り裂いていった。

僕は万が一あっても蝦蛄男になっているから大丈夫だろう。

途中、何人か人に会ったが軽く殴って、そとに放り出した、怪我位はしているが死にはしないだろう。

何本かの柱を斬った時にぐらつきを感じた..そろそろ良いだろう..僕はビルを後にした。

「何だ、組長が言うから見に来たが何も起きて無いじゃないか?」

「そりゃそうですよ、此処を爆破するなら、相当な爆薬必要ですよ..そんな量の爆薬はそう簡単に持ち込めません」

だが、可笑しな事にビルが揺らぎだした。

「気のせいか、ビルが揺れているような気が..」

「嘘だろう..ビルが、ビルが倒れてくる..本当に..本当に破壊されたのか」

土埃をあげて関西サンシャインタワービルは破壊された。

これで、手を引かないなら、今度は殺すしかなくなる..

そして、これが元でこの争いは収束していった。

結末
我が娘、麗美の怒りは凄かった。

ここまで来たら、もう戦争しかないだろう…俺は正直戦争はしたくない。

勝ったとしても沢山の人が死に…そればかりか沢山の懲役が出る。

だが、もう止まらない…普段は冷静な政からしてやる気なのだ..俺が止めた所で無理だ。

だが、戦争の準備をしている最中に電話が鳴った。

「組長、煉獄会から電話です」

「ああっ、よくも掛けて来られたもんだ..代われ..」

「へい」

「竜ケ崎、貴様には仁義ってもんはねえのかよ!」

何を言っておるんだ、此奴は、俺の娘を誘拐して、剣まで殺したくせに

「何を言っておるのか知らんが、汚い事に掛けてはそちらが仕掛けてきた事だろうが」

「それは認めよう..だが、物事には限度があるだろうが! 確かにこっちは卑怯な事をした、だがそれは極道の範疇だ」

「娘を人質にする事や、その思い人を殺すのが極道の範疇な訳無いだろうが、ボケ、殺すぞ」

「解った。俺が全部悪い、もういい辞めてくれ」

「辞めてくれだ!どの面下げて言うんだ、皆殺しにすんぞ!」

「いい加減辞めてくれ、降伏する、二度と関東には手を出さない..だから、なぁ終わりにしてくれないか..」

可笑しい、こんな弱気じゃない筈だ..

「俺が何かしたって言うのか?」

「しらばっくれるな…白木翼だ、あんな狂犬みたいなテロリスト送り込みやがって..こっちは組員1000人殺されて..後ろ盾の表企業はもう破産だ..もう良いだろう、この辺りで勘弁してくれ..何か条件があるなら譲歩する..終わりにしてくれ」

1000人殺した? 企業が破産した..訳が解らないが、そんな事が出来る人は1人しか知らん…白木翼…黒木剣

「あれはうちの娘が気に入っておるんじゃ..どうじゃ恐ろしいか?」

「あんな化け物、誰だって怖いに決まっている..なぁ..終わらせてくれ」

「そうじゃな、条件次第で考えよう」

「解った、それで条件は?」

「税金の掛らない金で30億….それで手打ちだ」

「そんな金..」

「出来なければ死ぬんだな」

「直ぐに用意する..それで終わりにしてくれるんだな」

何だ、あっさり30億払いやがった、一体何をしたんだ…

行かない訳には行かないよな…

気が進まないまま僕は竜ケ崎組に来ていた。

「剣様..剣様ではないですか..皆さん心配していたんですよ..さぁこちらにきて顔を見せてあげて下さい」

見つかってしまった..まだ心が定まっていないのに..

「剣ぃぁーあんた、あんた無事だったんだな..良かった、本当によかった」

いきなり政さんに抱き着かれた…心配してくれたんだ..いいなぁこういうの?

「政、私を差し置いて翼様に抱き着くなんて後で覚えてなさい..剣様、麗美は麗美は..信じていました、剣様は絶対に死なないって」

「うん、また会えたね..」

「本当に心配したんです」

「解かっているよ..もう大丈夫だから」

「大丈夫?」

「うん、全部終わったからね…安心して」

「終わったって…えっ終わりましたの?」

「うん」

「剣ちゃん、流石ね無傷で帰ってくるなんて、それに比べてまぁ良いわ…死んだんじゃないかと気が気でなかったのよ..無事で良かったわ」

「亜美さんは大丈夫でしたか?」

「亜美なら大丈夫、入院しているけど、命に問題は無いわ」

「そう、良かった..」

「それじゃ」

「剣様、何処に行くのですか?」

「亜美さんが心配していたから、お見舞いと状況を説明しなくちゃ」

あっ、剣様が死んだと思って気がどうてんしていましたわ..亜美の事を忘れていましたわ..不味いですわ、凄く気まずいですわ..

「待って下さい、剣様、私も参りますわ」

「だったら一緒に行こう」

「はい」

「待って下さい、今 組長と達が来ますから」

「すいません、また今度来ます」

「お父様には私から伝えますからって伝えて下さい」

「お嬢、お願いしますよ、俺怒られるの嫌ですからね」

「はい、安心して下さい」

「さっきからなんでイチャイチャしているのかな? 亜美お見舞いに来てくれたのに仲間外れにされている気がするのは何故なのかな?」

「そんなことありませんわ」

「大丈夫?」

「大丈夫じゃないよ…今も痛くて泣いちゃいそうだよ? 傍に剣ちゃんがいてくれたら元気になるかな..」

《亜美、それ、見られても良いのかな? それに自分臭いですわよ》

《嘘、そうだ..いや》

身動きがとれない亜美にはカテーテルが入っている…つまり点滴棒の下に尿袋がある。

それに気がついた亜美が顔を赤くした。

「亜美、もう元気ですわよね?」

「剣ちゃん心配しないで」

暫く雑談をしてから病院を後にした。

これで、また元の平和な日常が戻ってくる。

エピローグ
結局、僕はあの事件から暫くして麗美さんとの婚約が決まった。

というか強引に決められてしまった。

正直言えば少し…いやかなりズルい。

監禁されていた時に、頭を打ち付けていた麗美さんは、額に傷があった。

「こんな、傷物の顔ではお嫁さんにいけませんわ」

としきりに言っていた。

たいした傷では無いんだけどな..

「そんな傷、大した事無いよ」

「なら、剣さんが貰ってくれますか」

….って感じだ、嫌と言えないのでそのままなし崩し的に決まってしまった。

亜美や小太刀は恋人という土俵からは自分から降りた。

寂しくもあるけど、仕方ない。

あれから、姉さんから手紙が届いていた。

何でも今は南米を中心にした組織を作っているそうだ。

そして、僕はお払い箱となった。

「剣きゅんは好きな人生を好きにいきなさい」

手紙についていた動画の姉は幼女になっていた。

多分、昔言っていた永遠の若さを手に入れたのかも知れない。

まぁ…いいや、これからダラダラしながら、ゆっくりと生きていけばよい。

どうやら僕には世界征服等向いてない気がする。

さて、今日は何をしようかな…

剣の人生は今始まったばかりだ。

FIN

あとがき

多分、この作品が恐らく、前のサイトで最初か2番目に書いた作品です。

原稿が無い状態からのもう一度読みたい、そういうリクエストで今回書いてみました。

ですが、記憶まばらなので…あくまでおおよそになります。

随所の話が、後の「異世界からの転移..全てを失ったけど…幸せだ!」に生かされています。

昭和の頃に実は下書きを書いてるせいか、古臭さがあちこちあると思います。

最後まで読んでいただきありがとうございました。