死んでも忘れない。

死んでも忘れない…

死んでも忘れない。

小さい頃私は文学少年だった。

本を読むのが大好きで暇さえあれば本を読んでいた。

幼稚園で漢字が入った漫画が読めて、小学校低学年で「江戸川乱歩」「星新一」「吉川栄治」が普通に読めた。

そう考えたら自分でも凄い…そう思っていた。

何でそこ迄本を読んでいたのか?

それは体が弱く入院ばかりしてからだ。

その頃はライトノベルは余り存在してなく、本屋の片隅にひっそりとあるだけだった。

うちの親は教育熱心だったので、オモチャは買ってくれなかったが、本だけは幾らでも買って貰えた。

そして「本を読む事は良い事」だとジャンルを問わず買って貰えた。

高校生になって、私は変わった。

中学では凄く弱かった体は、ある名医との出会いで変わった。

村井先生という大学病院の凄い先生がどんな理由か解らないが左遷されて近所の病院の院長になっていた。

今迄、誰も治せない…体調の悪さにこの先生は「僕の言う事をしっかり聞けば治せる、そう言い切った」

内科の先生であるが私にとっては顔に傷のある外科医より上だった..あくまで私の主観だがそう思った。

実際に、中学では1年近く休んだ私が、高校では柔道部に入り二段をとって小さい大会で入賞出来る位までなれたんだから驚きだ。

高校を出た私は、大学に通いながら新宿の住民となった。

うちの親の方針は自分の学費や生活費は自分で稼げだったからだ。

本当に新宿に住むのではなく、夜の新宿で働く人間になったという事だ。

最初は深夜薬局で働いていたが…夜の世界の男も女も凄くカッコいい人間に見えた。

18歳の童貞には、買い物にくるキャバ嬢や風俗のお姉さんが凄く綺麗で可愛く見えた。

危ないヤクザ、にホストが凄く魅力的に見えた。

そこで一人の男に憧れた事で人生は変わってしまった。

皆川さんというダンディなホストに出会ってしまった。

何時も女を侍らせている…その人が当時の私には、本当のリア充に思えるようになった。

18歳の童貞少年には正にライトノベルで言う「ハーレム持ちに見えた」

「弟子にして下さい!」気がつけば私は土下座していた。

皆川さんは大きく笑いながら「住み込みなら良い」といきなり採用された。

実は後で解った事だが、ゴミ出しと部屋の掃除をしてくれてペットの犬の世話をする人間が欲しかったから…それだけだった。

勿論、偶に飯は奢ってくれるがお金は貰えないからバイトは続けていた。

その代り、大学には余り行かなくなった。

だが、皆川さんは案外誠実だった。

「泉くん(これは嘘の名前です)の女にモテルって言うのは良い女と毎日SEX出来たら良いのー」

そんな事ばかり良く聞いてきた。

「それは夢の様な生活ですね」

「本当は地獄なんだよね..」

「まさか」

皆川さんは有名ホストクラブのナンバー4だった。

「僕はねナンバー1には成れた事は無いからね…凄くはないんだよ」

そんな事言いながらも取り巻きのホストを良く連れてきて、一緒にモテルコツを伝授してくれた。

その代り、無料でお店の体験チラシの入ったテッシュを無料で配らされたけどね…

「泉ちゃんさぁ…泉ちゃんは自分がホテル代払ってもSEX出来れば良いんでしょう? 楽勝じゃん..俺らはホテル代出させて金を引っ張るんだよ、世界がちがうっしょ」

そんな会話ばかりだ。

彼らの中では私の知っているリア充は、リア充ではない「女にモテるのは当たり前..そこから幾ら貰えるかが彼らのレベルのリア充」

真面目に「フェラーリ買って貰った」「マンション貰った」そういう話が飛び交う。

「リア充って言うなら女に貢いで貰ってから言えって」そんな状態だ。

そこから皆川さんが言い出したのは…

「そろそろ泉ちゃんも…頑張ろうね」

ちなみに私はホストの才能は無い、だから、私に用意されたのはサパークラブ。

サパークラブって言うのは今でいうならガールズバーの男版。

固定給でノルマが無い。

それと出張ホスト…簡単に言うなら体を売る仕事だ…信じられるかな? 昔は本当に男を買う女がいたんだぜ。

ちなみに、私は可愛い女の子で若いという条件をつけていた。

こんな事すると紹介率が下がり収入は減る…これが失敗だった。

優しくない…若い男が風俗へ行くとやたら欲求が高いのと同じで、若い女が利用する場合は要求が酷い…やたらと長い前戯を要求されきつい思いをする。

地獄だった。

昼間は出張ホストをしながら、夜はサパーで働く様になった。

毎日の様に女漬けになったが…若い子と楽しくしているけど、可愛い子とは全くない。

だが、そこからもまた人生が変わっていく。

「はぁ~ 偶には可愛い子としたいな…」

これを皆川さんの仲間に言ってしまったのは不味かった。

「いーずみーちゃん! 可愛い子が欲しんだ! そのうちあげるよ..そうだ来月誕生日だよね、それまでにプレゼントするから」

「また、そんな冗談を!」

「僕が冗談を言うと思う? 絶対にあげる..その代り返品お断り」

冗談だと普通に思うよね! 本当なんだ….

「えへへ…どうだ泉ちゃん、凄く可愛く無い?」

確かに可愛い…アイドル並みに可愛い、何で付き合って貰えるのが確定なのか解らない。

「翔くん、この子まだ若いけど良いの? まぁこの子と同棲できるなら良いよ」

「じゃぁ..お幸せに、僕は居なくなるね」

女の子の名前はアイちゃんと言った。

本名は違うが、高級ソープランドのナンバー1だった。

「あの、同棲とか聞いたけど…何の事?」

「あれっ 翔から聞いてないの? 同棲してくれる位私を大切にしてくれる人を紹介してくれたら考えると言ったのよ!」

意味が解らない…可愛いから同棲位は良いが…金がない。

「別に一緒に暮らすのは良いけど…俺は金ないよ!」

「はぁ~ 何言っているのよ! お金は私が出すに決まっているじゃんか! お仕事している? やめちゃえばお小遣いもあげるからさぁ」

「マジ!」

「うん、私もお金が無いから10万位だけど…」

ナニコレ..養って貰って10万円貰える…悪く無い。

実際の年齢は28歳だったがどう見ても未成年にすら見える、身長が低く服がジュニアサイズだからだ。

後でこの話の真相が解った…翔くんはアイちゃんを捨てたかったんだ。

様はホストのお客として絞り尽くしたアイちゃんが邪魔になりどうにかしたかったが別れてくれない。

その結果、若い子で自分に尽くしてくれるような男の子を紹介してくれたら別れる、そういう話だった。

その相手に選ばれたのが私だった。

優しくて凄く可愛く尽くしてくれるし…あっちも凄い。

だが、そんなに長くは続かなかった。

焼肉を奢って貰った帰り道に他の女の子を見てしまったら..ビール瓶で思いっきり殴られた。

そのまま病院に入院する位の傷だった。

凄くやきもち焼きで危ない女性だと気がついていなかった。

向こうから謝ってきて別れを切り出したので別れた。

勿論、養って貰っていたから訴えたりしない。

皆川さんや翔くんに話したらゲラゲラ笑いされた。

結局、その後も仲間内で「汚物処理係」と呼ばれながら暫くつるんでいた。

汚物とは「もう金を搾り取れない女」を現す。

綺麗な女の子相手ならお金は欲しくない私には適した役だった。

どの位女を抱いたか解らない…2600人までは数えたがそこからは数えていない。

その頃には「SEXしないで付き合ってくれる女は居ないかな」本気でそう、ほざく人間になった。

そんな私は23歳にしてロリコンオタクになった。

ロリコンでオタクだからって私は悪い人間じゃないよ?

だって「SEXを含み性的な事が嫌いなんだから」ほら危なくないよね…

アニメと小説に嵌りながら、実生活は…小中学生とデートしていた。

デートと言っても本当に健全なハンバーガショップで話をしたり..遊園地で遊ぶ物。

だが…中学生位になると性欲があり、キスをせがまれたり、ホテルに誘われそうになり…女嫌いが爆裂して…

24歳から本当のオタクになった…見た目はホスト中身は完全オタク、それが泉くん、私だ。

最初はアニメを見ていたが、オタクでも拘りがありフィギュアやポスターには嵌らない、その代わりビデオ全巻揃いやマンガに嵌った。

そして、この頃は本屋さんに行くと文庫本サイズの本があり…まだライトノベルとは呼べないレベルのライトノベルがあった。

暇な時に書いて郵送していたら…出版社の人から会いたいと連絡がきた、担当はついたのだが…結局は最後までデビューは出来なかった。

その代り、同人に手を出して、小説やマンガの原作を書いたりしていた、とは言っても本にして20冊も出していない。

25歳からは一生懸命働く様になり…いつしかオタクもなりを潜めていたが…紫色の巨大な奴と無口な水色髪の少女のアニメが私をまたオタクの世界に引き戻した。

だが、それも一過性で終わる。

その後は普通に働き、普通に生活していた。

案外、破天荒な生活をしていても…終息するもんだ。

やがてサラリーマンに疲れて独立して小さな1人会社を作った。

そんなに儲かっても居ないが、貧乏もしない丁度良い会社だ

そんなある日…遂に我が人生最大の敵…病魔だ。

昔は病弱だった私だが高校生からは寧ろ健康だった。

体も実はモテル為に鍛えていたから細マッチョになっていた。

そんな私がいきなり腰痛を起こし起きれなくなった。

本来は外科なのだが、近くに無い為に行きつけの内科にいった。

念のため血液検査をした所、数値が異常だった。

そこから大型病院を紹介受け行った所…腰の他にも齋藤先生が注意深く見たら

恐ろしい病気が見つかった。

病名を書くと、凄く珍しい難病の為…私の環境が解ってしまうので病名は書かない。

最初、「癌じゃなくて良かった」と私や家族は思った。

だが、「癌の方がマシだった」そう言える病気だった。

どの位酷い病気かといえば…テレビのドラマで目力のある女医のドラマで同じ症例が取り上げられるレベルだ。

久々に泣いた…人生で死という物と直面した。

死んでしまうんではないか? そう思うと案外精神が不安になる。

入院中ライトノベルを読んだ。

そして心から女神を渇望した…

アホみたいに「チートも要らないから体を治して転移させて欲しい」と祈った。

窓から見える神社に祈った。

だがリアルは甘くない…私の前には 女神も、謎の博士も現れなかった。

暇はあるが、リアルが辛い。

入院中 スマホで ネット小説を読んだ、今迄は書かなかった感想欄から感想を書いたら返事がきた。

凄いな、本を出版している様な人でも返事が貰えるんだ。

暫く読み専で過ごして居たら、無性に小説が書きたくなった。

昔小説家を目指していた時に書いていたネタ帳があった事を思い出した。

紹介欄に「錆錆でごめんなさい」と注意書きを入れて投稿してみた。

内容が美醜逆転物だったから…感想が貰えた。

かなり辛辣な感想も多かったが面白いと言ってくれた人が居た。

私はついていた…自分が入院した病院にこの病気を治せる…スーパードクターが居たのだ。

そして、無事にこの病の手術が成功した。

だが、この病の怖いのは…進行が進むと手術が成功しても、その後の生活が制限されていて…余命になってしまう。

普通に余命1年とかなら…働くのを辞めてどう過ごすか考えれば良いし…働かない。

だが、私の場合は 5年後の生存率が50%というかなり特殊な物だ。

簡単に言うと「治った」とされながらも再発性が強く、薬の治療が必要になる。

更に言うならこの薬が結構高額だし…3か月ごとにMRIの検査や内視鏡検査が必要になる。

そして、リアルに体が辛い。

しかも、こうも変な余命だと働かないとならない…

私は働きながら闘病生活をして..小説をネットで書くようになった。

そしてある時気がついてしまった、小説を書く事や、感想欄から感想を貰う事が凄く楽しい時間だということに…

書いて書いて書き続けた…

私は、変な人生を歩んできたから..面白い事が書けるし…これでもプロまであと一歩だった筈だ…

だが、実際は…今は小説のレベルが上がってきて通用しなかった..だがそれが楽しい!

そしてある時から、出版とか気にしないで…自分の感想欄から応援してくれた人が好む作品を書く様になった。

自称「隙間小説家」を名乗る様になったのはそれからだ…他の人が書かないテンプレ崩し、それを書く。

なんてカッコつけて書いた。

沢山の作品を書いて…感想を貰い…そして闘病生活をしている。

お見舞いの言葉をありがとう…

感想をありがとう…

私は恐らく10年先には生きてない気がする。

だが、サイトが無くならない限り…私の書いた作品は読んで貰える。

だから死が訪れるその日まで…私は小説を書き続ける。

感想をくれたり、応援をくれた人に、こんな人が居たんだ、そう思いだして欲しいから。

そして、応援してくれた人の事は死んでも忘れないよ…